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涼宮ハルヒの日記 今日は、日曜日。 どうせみんな暇だろうと思って電話してみたけど古泉君は、 『すみません、今日はどうしても外せないようじがありましてそれではまた明日学校で、では失礼します』 なんというか古泉君らしい丁寧な口調で電話をきった。 で、みくるちゃんは『あっ、涼宮さんどうしたんですか?』と言ったので今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は、…ごめんなさいお買い物に行くから…ごめんなさい今日は行けません・・・』 みくるちゃんらしい言い方で電話をきった。明日学校でバニーの服を着せて門の所に立たせてやる「SOS団をよろしく~」とでも言わせながらあたしも一緒に 有希にかけたら『・・・・・・・・・』無言だし今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は無理』理由を聞いたら『今日は、お買い物』といって無言になった『そう、じゃ明日学校で会いましょ』そういって電話をきった 残るのは 『あっキョン今からいつものとここれる?』 『これるっていったいなにをする気だ?』 『いいからこれるの?これないの?』 『行けるかどうかと言われれば行けるが・・・』 『そ、じゃ2時に集合ね、遅れたら罰金だんねっ!』 『はいはい』 キョンは、予定も無く空いていた、そうと決まればさっそく着替えてしたくしていつもの所にいかなきゃ。 なんたって今日は、今日は、 キョンとデートなんだもん! 会ったらなにから話そう…いっそのこと告白でもしてしまおうか。 いや、SOS団の今後のことや夏休みのことでも話そうか。 なんだろう、話したいことがいっぱいありすぎてわかんないや とりあえず今日は、キョンとデートなんだし時間もある。 いそがないとキョンが先に着いてるかもしれない そう考えながらいつもの『所』に急いだ。 キョンの日記 さて今の状況から説明せにゃならんことに代わりないので説明するが、 えーただいまハルヒとデート中である。 集合場所に着くなり 「今日の予定変更」 「おいまて予定変更っていったいなにをするつもりだ?」 「なにって・・・・デ・・デー・・・」 「言いたいことがあるなら頭の中で整理してからいえ」 「じゃあ一回しか言わないからよく聞きなさいよ」 なぜかハルヒは大きく深呼吸してから三文字の単語を発した。 「だからデ・・・デートしようってぃって・・・」 「最後何言ったかよく聞こえなかったがなんていった?」 「だからデートしようって・・・いってんでしょ!」 一瞬、いやかなりの時間がたったか、今ハルヒはなんて言った?デート?あのハルヒがか? 「恋愛感情なんて一種の精神病の一種なのよあんなもんに時間を費やす理由を教えて欲しいもんだわ」 なーんていっていたハルヒがデート?ホワイ?なぜ? 「何よ・・・もしかして嫌?」 「いーやべつにかまわんが」 「じゃあきまりねっ!」 ハルヒは、100ワットはありそうなとびきりの笑顔を俺にむけ何処にいくかをいつもの溜まり場である北口前の近くにある喫茶店、とわ言っても毎回財布が軽くなっていくのが悲しい。 「遊園地?水族館?それとも…」 「おまえは何処にいきたいんだ?」 「遊園地!」 そうしていそいそ電車に乗りちょうど眠たくなってくる30分間を何とかのりきり隣町、とわ言っても乗り換えを二回もして2、30分ばかし歩いていかにゃならんとーい所にあるでっかい遊園地だ(隣町じゃなくて他県にある遊園地だ、クソなんで市内に造らなかったんだいまいましー) 「ほら、キョン早く早く!」 「待てよっ!」 券を買って中に入るととんでもない数の人がうごめいていた。 「これだけ混んでると進みにくいわね…」 ふと後を見てみると「最後尾」とかかれたプレカードを掲げている人をよく見ると 古泉がそこにいた。 「あっ古泉君じゃない?こーいずーみくーん」 「おや、どうなされたんですか?涼宮さんそれと…」 そのにやけた顔をこっちに向けるな。 「それより古泉君何してんの?」 「バイトですよ」 「バイト?」 胡散臭い事ぬかすな何かある絶対に何かある。 「ふーんじゃバイトがんばってね」 ハルヒが歩きだしたので着いて行こうとしたら 「涼宮さんと何かあったんですか?」 「どうもこうもいきなり呼び出されたかと思ったらこの通りだ」 「デート・・・ですかまぁ涼宮さんらしい誘い方じゃないですか」 「どこがだ」 「つまり涼宮さんはあなたとデートをしたっかたとよめますね、ですがそのままデートの誘いをする訳にもいかないと思ったんでしょうあなたが今日誘われた理由わなんですか?」 「いきなりこれるかどうかを問われたが」 「涼宮さんもあなたに断られるのが怖かったんでしょうだからいけるかどうかだけを聞いてきたそして希望通りの回答が帰ってきた…まあこんなとこでしょう」 「すなおにデートならデートっいえばokしていただろうに俺だって反対ばっかしてるワケじゃないってのによ」 「そこに乙女心が作用したんでしょう」 「こらっーキョン早く行くわよ!」 「それでわどうぞデートの続きをおたのしみください」 「そのまえに一つきいておく、今回は『機関』とやらは関係ないんだな?」 「ええまったくかんけいないですよ」 「じゃバイトせいぜいがんばれじゃな」 「・・・・こちら古泉ターゲットがそちらにいきました」 『了解。引き続きターゲットの動きに注意せよ』 「はい、わかりました、」 「キョン!早くしなさい!観覧車はすぐに混んじゃうだからね!」 「もう混んでるぞ」 「え…もうっキョンご早く来ないから混んじゃったじゃない!」 「古泉と話ていた時間は五分もかかってないぞ」
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第二章 七月に入りやはりハルヒは憂鬱になっていた。今回憂鬱な理由は俺にはわかる。 きっと4年前のことを思い出しているに違いない。 4年前に何があったかというと俺は朝比奈さんに4年前に連れて行かれ幼いハルヒに声をかけ話をした、 それだけならまだしも俺は校庭でハルヒの落書きの手伝いをしたのだ、というか俺が全部やった。今考えると映画作りやらホームページ作りやら何も変わってないじゃないか。 そしてハルヒには正体を黙りジョンスミスと名乗った、そして幼かったハルヒに向かって「世界を大いに盛り上げるジョンスミスをよろしく」と叫んだ。 恐らくはこれが原因で世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、通称SOS団なんて名称にしてしまったんだろう。 大体、世界を大いに盛り上げる~なんてのは誰が最初に考えたのだろうか。 時系列的に言えば俺がハルヒに「世界を大いに盛り上げるジョンスミスをよろしく」と言ったのが原因だがそれを教えてくれたのは朝比奈さん(大)で、 恐らく俺は未来に朝比奈さん(小)にそのことを言ったのだろう、じゃ無ければ朝比奈さん(大)がそれを知っているわけが無いからだ。 そして朝比奈さん(大)が俺に教えて… そうなれば考えた人間を辿って行くと延々ループするので頭が痛くなる。 話がそれた、ハルヒはこの事を思い出して憂鬱になるのだ。 やはり元気を出して欲しいとこだがこればかりはどうしようも無い。 ここは早々に七夕がすぎるのを待つしかない。そんなことを考えていた。 しかし古泉曰くハルヒを暇にしてはいけないので何か考えなければならない。 そしてこの時期に憂鬱を晴らす方法があるとしたら一つしかない。 涼宮ハルヒとジョンスミスを接触させる…簡単なようで全く不可能な話である。 無理だ、あきらめよう。 またなんか考えてやるからそれまで我慢してくれよな、ハルヒ。 ふと何で俺は古泉みたいなことを考えてるのかと思った。 まあいいか楽しいし、今なら孤島での殺人事件の芝居も許せるかもしれない。 などと考えていた。 7月5日のことである。 ハルヒはこう言った。「明日七夕の短冊を書くから何を書くか考えてきてよね!」 俺は何故明日なのだ?七夕は明後日で平日のはずだ。と思ったがあえて口には出さなかった。きっと何か考えがあるのだろう。そう考えることにした、ほかのみんなもそう思ったのか同じ反応を取った。 翌日ハルヒは去年と同じような竹を持ってきた。 「さあみんな!思う存分願い事を書きなさい!!!」そういってハルヒはふっといペンに堂々とした字で何かを書き出した。 なになに?明…日…あ…の…人…に…会えますように? なんだって?これは予想外だ、何てこと書きやがる。 当然何も知らない朝比奈さんは「あの人って誰なんですか?」とハルヒに聞いた、古泉も興味津々である。 ハルヒは遠いところを見るような面持ちでこう答えた。 「私…昔の七夕でね、学校に忍び込んで校庭に宇宙人へのメッセージを書こうとしてね…一人の不思議な男と出会ったのよ。 名前しか知らないんだけどね、会えたのはそれっきり。いろいろ探してみたけど見つからない。私はもう一度会ってみたいの。」 朝比奈さん答える。「会えるといいですね…その人に…。」 朝比奈さんの目が輝いていた。 結局短冊に何を書いたのか、見せたのはハルヒだけであった。 ハルヒは俺の書いた短冊を見せろと襲ってきたが何とか短冊を死守した。 そして俺は書いた短冊を誰にも見られないようにかばんの中に入れて隠した、こんなもの見られたら俺は自殺してしまう。長門や朝比奈さんや古泉も誰にも見せずに持って帰ったようで結局飾ってあるのはハルヒの短冊だけであった。 朝比奈さんや長門がなんと書いたか少し気になるのだが。 そんなこんなで今日の活動は終了し解散した。 自宅に戻った俺は一度投げ出した問題について考えていた、 結局思いついたはというと、、、 ①今の俺だとすぐにばれるので3年後の俺を今に連れてこさせハルヒに会わせる ②長門のインチキマジック ③古泉を変装させジョンスミスと名乗らせる ここまで考えた時点であきらめた、不可能を可能にするのは不可能だ。まあ何とかなるだろう。 俺はいつもより少し早く床に着いた。 第三章
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……………… ………… …… 俺は流れているのかも、止まっているのかもわからない気色の悪い浮遊感に身をゆだねていた。 この感覚がタイムスリップって奴なんだろうか? しかし、目の前が真っ暗、というより光を認識できないので 何も見えず何も感じられない。 『このままあなたの意識情報をあなたの有機生体に戻す』 長門の声に、孤独感が解消されたのを感じつつ、俺の置かれている状況が何となく理解できた。 俺の意識だけがどこかにとばされているらしい。幽体離脱って言うのはこういう感覚なのか。まだ三途の川は渡りたくないんだが。 しばらくこの状態が続くのか? 『長くはない。じきに移送が完了する』 そうか。ならちょうどいい。いい加減何が何だかさっぱりだから解説の一つもしてくれないか? このままだとまたパニックになっちまいそうだ。 『わかった』 長門の了承を確認した俺は、聞きたいことを整理しつつ、質問を始める。 一番聞きたいのはハルヒを襲ったあいつらについてだ。俺たちを襲い、陥れようとしている連中。 『詳細な情報は不明。わかっていることは、涼宮ハルヒに影響を受けた有機生命体であることだけ』 影響か。古泉みたいなものか? 『そう。ただ、古泉一樹と明確に異なる点は、涼宮ハルヒによって特定の能力を与えられた者ではないということ。 少なくてもイレギュラーな形での能力発現の可能性が高い』 そんな奴がいるのか? 『あなたはその例である者と認識しているし、接触したことがある。わたしも同じ』 接触? そんな奴いた憶えが…… 俺ははっと気が付いた。自覚がないが、ハルヒによって何らかの能力を与えられていて、そのせいで情報統合思念体の存在を 認識してしまった人間。あのラグビー野郎の中河だ。 『彼は涼宮ハルヒの影響下にあった。その後、危険と判断しそれを抹消した。不確定な問題を発生させる恐れがあったから』 ってことは、俺を事故らせて、ハルヒを襲ったあいつらは中河と同じような連中なのか。 しかし、何で突然ハルヒを狙ってきたんだ? 『その点については、少なからず情報統合思念体の失策に責任がある』 ……どういうことだ? 『順を追って話す。情報統合思念体があなたの友人の存在を認識したとき、放置すれば弊害が顕著化すると判断した。 そして、その問題を排除するべく行動をとった。具体的には、同様の状態を維持している有機生命体の調査と認識、 発見次第それを解消すること』 他にもいたって事だな。 『その数は想像を超えるものだった。涼宮ハルヒの影響は情報統合思念体の予測を上回り、数多くの有機生命体に及んでいる。 それを一つ一つ消去していく作業を開始した。だが、その時点で【彼ら】の中にもわたしたちの動きを察知する者が現れた』 まあ、大々的に動けば気が付く奴もいるだろ。中には自覚している奴もいたかも知れない。 それ自体は失策と言うよりも想定される状況だと思うんだが。 『そこで情報統合思念体はその動きを捉えられなかった。【彼ら】はこちらの動きを探りつつ、次第に情報統合思念体というものを 理解し始めた。それに同調するように、【彼ら】は結集を始める。互いの能力を理解し合い、こちらから情報をかすめ取り その存在意義は大きくなっていった。そして、ついに【彼ら】は涼宮ハルヒの存在にたどり着く』 消去して回る長門たちに対抗して組織化し、身を隠しつつ情報を得ていたのか。やっかいな連中だ。 『【彼ら】は情報創造を行える涼宮ハルヒ存在を、自分たちの利益にとって有効な存在と認識した。 そして、彼女を確保すべく行動を開始する。それがあなたを襲った事故の原因』 ちっ。話し合おうともせず、いきなり俺を謀殺しようとしたのか。短絡的にもほどがある。 『あなたを意識喪失状態に陥らせ、涼宮ハルヒの精神状態を不安定にさせる。同時に、それに乗じて涼宮ハルヒに接近し、 その能力の確保を行おうとした。これについてはわたしにも責任がある。彼らの行動に一定の不審を感じたが、 結論には至らなかった。【彼ら】の自己の偽装能力はわたしの予測を上回っていたから』 自分を責めるなよ。向こうの方が一枚上手だったってことだ。誰もお前を責めやしないさ。 だが、ハルヒの能力を確保ってそんなことが可能なのか? 『あの能力を身体から引き離し、別の存在へ譲渡する可能性は無いとは言えないが、危険すぎる。彼らの取った方法は 涼宮ハルヒの精神を奪い、彼らの命令を全て受け入れる状態にすること』 ふざけやがって。ハルヒを操り人形にするつもりだったんだな。 『だが、涼宮ハルヒも無自覚ながら対抗していた。文芸部室に立てこもった。あそこは様々な次元が交錯し、 【彼ら】が立ち入れば、自らの能力が何らかの反応を示し、情報統合思念体に察知される可能性があった。 だから、あの部室だけには立ち入ることができなかった』 古泉も同じ事を言っていたのを思い出す。俺が平然とボードゲームに興じている部室も、奴らにとっては、 毒の沼地に足を突っ込むのと同じくらいに危険な代物だったんだろう。 『そのため【彼ら】は部室の位相異常状態を除去する必要があった。まずは涼宮ハルヒのみ部室内に閉じこめ、 その効果が薄れることを待った。そのために、情報統合思念体への不正アクセスを多用したことが後の検証で判明している。 彼らの中に、情報統合思念体の認知を越えて利用できるレベルの者までいたことは、きわめて重大な事実として捉えられている』 ……そして、ついに奴らは動いた。 『部室の空間レベルが通常に近づいた時点で彼らは仕掛けた。部室内に侵入し、涼宮ハルヒの確保の実行を試みる。 わたしが【彼ら】の動きを理解したときには、もう遅かった。しかし、予定外に【彼ら】の行動を遅延させた存在があった。 それがあなた』 わざとやった訳じゃないけどな。 『感謝している。【彼ら】をわずかでも食い止めてくれたおかげで、涼宮ハルヒの精神は完全制圧状態にならず、 多くの自我を確保することができた。そして、【彼ら】にも次なる問題が発生していた』 神人か。だが、わからねえ。あそこまでやらかすようなストレスっていったい何だ? 『【彼ら】は一部ながら涼宮ハルヒの得たとき、その情報創造能力に圧倒されてしまった。そして、狂った。 今まで同調して行動していた【彼ら】はばらばらに自らの願望を叶えようと、涼宮ハルヒの能力を使おうと試みた。 だが、できなかった』 なぜだ? 俺の問いかけに長門はしばらく沈黙を続ける。そして、おもむろに 『通俗的な言い方をするならば』 ――一拍置いて、 『全ての願望を叶えられる神は一人だからこそ成り立つ。複数人……それも大多数では成り立たない』 俺はその意味を直感的に悟ることができた。 例えば、二人の人間がお互いに死ねと望んでみよう。いや、これだと二人とも死んで終わりか。なら、自分は生きていたいが、 相手には死んでくれと互いに望んだ場合はどうなる? この場合、二人とも死ななければならないが、 一方で二人とも生きなければならない。れっきとした矛盾って奴だ。連中はその矛盾の壁に阻まれて何もできなかった。 目の前に、何でも願いを叶えられるはずのツールが存在し、それを使えるにもかかわらず、実行できない。 その理由は、自分の願いに相反する願いをする誰かがいるから。 ……互いに憎み合ったんだ。あの罵声の嵐はその時の言い争いのものなのだろう。 一方でそんなに簡単に人間って奴は狂ってしまうものなのかという疑問も生まれる。 それまで奴らはそれぞれの目的も異なりながらも、一致団結して動いていた。なぜ突然仲間割れを始めた? 銀行強盗とかもいざ金が手に入ると、仲間割れを起こしたりするのが王道だが、いくら何でもあっさりすぎる…… いや、違う。よく思い出せ。あの中河の恥ずかしいなんていう表現ではできないような妄言の数々だ。 普通の人間ならあそこまで言わないだろうし、長門に能力を抹消されたあとのアイツの態度を見ても、 いくらなんでも異様すぎる。それほどまでに情報統合思念体の認知って言うのは人を狂わせるものだってことだ。 ハルヒを襲った連中は情報統合思念体を認識できている奴もいたようだったが、それでも狂わなかった。 中河と唯一にして最大の違いは、それは敵だと認識していたからかもしれない。中河を狂わせた叡知って奴も それが襲ってくるとわかれば、恋愛感情と誤認するはずもなく、その目には強大な敵として映ったはずだ。 だからこそ、それを退けられるハルヒの存在を欲した。だが、今度はそれを手に入れたとたん、それに魅了された。 今までハルヒをそんな対象としてみたこと無かったし、実感も無かった俺だが、確かに「何でも叶えられる」なんていう もしもボックスを手に入れたと自覚してみろ。正直、何をしでかすかわからん。 『情報統合思念体の存在同様、【彼ら】にとっても涼宮ハルヒの能力は過ぎた代物だった。有機生命体が持つ「欲」という感情を 暴走させるには十分すぎる。そして、それを使えないという矛盾した状態に彼らの精神的圧迫は飛躍的に向上し、 感情を爆発させた。もはや、止めることなど不可能な状態に陥ってしまっていた』 結果があの神人大暴走か。それでもあの程度の被害ですんだのは……やはりハルヒのおかげか? 『涼宮ハルヒは無意識ながら閉鎖空間を発生させて、神人の活動を閉じこめようとしたが、完全とはいかず、 被害の拡大は止められなかった。ただ、それでも【彼ら】を閉鎖空間内にとどめるように外部から切り離した状態にし、 【彼ら】の矛先を彼女のみに絞らせようとした。その結果、【彼ら】の目的が再び集約される。 それは、自分一人が涼宮ハルヒの全能力を確保し、他の競合する有機生命体を全排除すること。可能かどうかは不明だが、 そうすればいいと【彼ら】は信じている』 なんてこった。連中はまだハルヒをしつこく狙っているか。ん、じゃあ、もしかして俺が目覚めて北高に向かっているのも 奴らの目的の一つなのか? 『そう。【彼ら】の中の一人はあなたの存在を察知した。そこで、あなたを涼宮ハルヒの元に導き、利用しようとしたと思われる』 長門の話を聞いたおかげで、今までの奴らの目的が大体わかってきた。最初の朝倉襲撃は単純に俺の確保だったかもしれないが、 偽の情報を俺に与えて、古泉たちを手にかけるようにし向けたのは、俺にとってのハルヒの存在を 連中と同じ認識にすることだったんだろうな。あの時、朝倉に化けた奴は、ハルヒの能力を使えば、 俺の過ちは全て無かったことになるみたいなことを言ってやがった。現に俺は、危うくそれを受け入れそうになってしまった。 やれやれ、危ないところだったぜ。 『わたしが認識しているのはここまで。あとはあなたの目で見て判断して』 わかったよ、長門。色々教えてくれてありがとな。ああ、一つだけ確認したいんだが、今回の一件についてお前のパトロンは 何をやっているんだ? 『情報統合思念体は各派共通で閉鎖空間発生前の状態に回帰することを望んでいる。ただ、大規模介入は避けて、 あくまでも消極的介入のみ。また、万一涼宮ハルヒの全能力が【彼ら】によって奪われた場合は、強制除去を実行することでも 一致している』 強制除去って何だ……と聞こうと思ったが止めた。言葉からしてろくでもないことに決まっている。 『わたしはそれを決して望まない。しかし、今のわたしにできることは限定的。だから――』 何となく真っ暗闇で何も見えないのに、長門の顔が見えたような気がした。それは無表情だが、どこか決意に満ちた顔つき。 『あなたに賭ける』 ……以前にも同じ事を言われたな。仕方がない。もう一度世界の命運を背負ってみるかね。 俺みたいな凡人に賭けられるようじゃ、世界ってのはもっと精進が必要だぞ。 『もうじき、あなたの移送転換が完了する』 おっとその前にちょっと頼みがあるんだが。 長門に頼み事をすると、幸いなことに受け入れてくれたらしく、俺の目の前が明るくなり、脳天気に歩く馬鹿たれの姿が 目に飛び込んできた。俺はそいつの頭の真上に拳を振り下ろした ――目を覚ませ! この大バカ野郎が!―― 怒鳴り声もおまけで付けてやった。確かこんな事を言っていたはずだからな。これを忘れると、俺が偽朝倉の後ろにホイホイと ついていっちまう。 ほどなくして、また視界が闇に落ちた。ま、色々それから大変だが、がんばってここまでたどり着いてくれ。 『あと数秒であなたは元に戻る。あと、涼宮ハルヒの方である程度の問題が発生した模様。 ここから先はあなたの意思で動いて』 わかった。またあとで会おうぜ、長門。 ――そして、俺の目に膨大な光が飛び込んできた。 ◇◇◇◇ 「やあ、ようやくお目覚めですか」 俺の目に飛び込んできたのは、こっちに手をさしのべている古泉の姿だった。一回やっちまったという自覚があるせいか、 罪悪感と歓喜が入り交じった妙な感覚に陥る。しかしここはできるだけ平静を取り繕っておこう。 こいつに向かって間違っても涙を流したりしたら、周りに変な誤解を与えかねないからな。 まあ、それでもさすがにさしのべられた手を握らないほど、俺は落ちぶれちゃいないから、素直に古泉の手を借りて立ち上がる。 全身を伸ばすと、まるでさび付いていたかのように身体がきりきりと悲鳴を上げた。 一体、俺はどうなっていたんだ? 「12時間ほどですか、ずっとあなたは意識を失っていたんですよ」 その古泉の言葉を聞きつつ、辺りを見回すとちょうど国木田ノートを発見したときに休憩していた場所だった。 あのノートを開いたときから、俺は奴らの謀略に飲み込まれていたのか。 「わりい。また俺が遅延させちまったみたいだな」 「気にしないでください。この程度で済んだことに皆ほっとしているくらいですから」 辺りを見回せば、口を開く古泉の他、機関メンバーと谷口がこっちを笑顔で見つめていた。やれやれ、ボンクラすぎる俺を こんな笑顔で迎えてくれる人たちだったのに、奴らの思惑に乗せられて一度でも疑っちまった自分が恥ずかしいぜ。 「しかし、よく一旦引き返そうとか思わなかったな。ここにとどまっている方が危険だっただろうし」 「ええ、その通りですが、長門さんが僕たちの前に現れましてね。あなたは必ず帰ってくるから信じてと」 にこやかなスマイルで話す古泉。長門、いくらなんでも俺を過大評価しすぎ何じゃないか? 信じてくれるのは嬉しいけどな。 と、ここで森さんが凛とした声で叫ぶ。 「では、障害は解決されたと判断し、これから閉鎖空間の中心部へ移動します。ここから先は何が起きるかわからないから 確認警戒を怠らずに」 『了解!』 全員の元気のいい声がこだまする。待っていろよ、ハルヒ、長門、朝比奈さん。絶対に助けてやるからな。 ◇◇◇◇ 俺たちはついに連絡橋を越えて、閉鎖空間の中心部に突入した。ここからは誰も戻ったことがない生還率0%の世界。 何が起きても不思議ではない。が、 「なんてこった……!」 突きつけられた現実に俺は唖然とするばかりだ。 現在、俺たちは北高から10キロ程度離れた山の上にいた。特に敵に遭遇もせずにここまでたどり着いたわけだが、 それもそのはず、ハルヒを乗っ取ろうとしている連中は俺たちの相手をしている暇がないらしい。 双眼鏡で北高周辺の様子を見ると、あの光り輝く神人が辺りを破壊し尽くす勢いで暴れていた。 それなら何度かみかけた光景ではあるんだが、その神人に向けて猛烈な勢いで光弾が浴びせられている。 子供のころにみた湾岸戦争で空に撃ち上げられる大量の対空砲火みたいな状態だ。 「まるで戦争じゃねーか! 何がどうなっているんだよ!」 谷口がでかい声でわめく。発砲音らしき音がそこら中に響いて、大声でしゃべらないと相手の声を聞き取れないのだ。 古泉は森さんと何やら話し込んでいたが、やがて俺の元に近づき、 「事情はよくわかりませんが、あまりこのままにしておいて良さそうな状況ではありませんね。 ここは僕が出て神人を片づけることにします」 「だがよ、それでどうこうなる事態か? ――っ!」 すぐ目の前の市街地からまた多数の光弾が撃ち上げられ始め、轟音が鼓膜どころか地面を揺るがす。 古泉は片耳をふさぎつつ、俺の耳元で、 「涼宮さんはあの神人が暴れている付近にいると想像できます。それにあれだけの火力ですからね。 何かの拍子でこちらに向けられれば、あっという間に全滅ですよ」 確かにその通りだ。少なくとも連中がこっちに注意を向けてない間にケリを付けた方がいいかもしれねえ。 この状況が長門の言う仲間割れの一環なら漁夫の利を狙うべきか。 「その通りです。しかし、僕一人ではいきません。あなたも一緒です。最終的にはあなたが必要になるでしょうから」 いや待て。お前みたいに俺は空を飛んだりはできないぞ。ってまさか…… 古泉は自分の背中を指さすと、 「僕の上に乗ってください。そうすれば、一緒に涼宮さんの元にたどり着けますから」 にこやかに言ってくる古泉とは対照的に、俺は泣きたくなってしまった ◇◇◇◇ 俺は古泉の背中に覆い被さるように立つ。やれやれ、まさかこの年になって他人の背中に乗ることになろうとは。 しかも、相手がうらやむような美形野郎で俺と同い年と来ている。マジで勘弁してくれ。 「しばらくの我慢、我慢です。そうすれば、何もかも終わりますから」 「へいへい」 そう言って俺は古泉の肩に手を置く。と、森さんが俺たちの前に立ち、 「恐らくこれが最後の任務となるでしょう。ですが、特に作戦などは決めません。あなた達二人に全て任せます。 思うようにやっていいわ」 その顔は上官と言うよりも、信頼していると顔に書いてあるような優しげな笑みを浮かべていた。 そして、俺たちに背を向けて他のメンバーを見回すと、 「これより、最後の任務を果たします! 古泉たちは目標である涼宮さんたちの確保、わたしたちはこの場所を死守し、 古泉たちの帰還できる場所をします!」 ――ここで肩を上げるような深呼吸をしてから―― 「古泉、わたしたちはあなたに背中を預けます。信じた道を進みなさい。代わりにあなたたちはわたしたちに背中を預けて。 絶対にここを動かず、あなたたちの帰りを待ち続けるわ」 この言葉に古泉はヘルメットを少し深くかぶり、 「わかりました……!」 その返事とともに、俺たちの周りを赤い球状のフィールドが展開される。そして、そのまま遙か上空へと飛び上がった。 ◇◇◇◇ 灰色の空の元、俺は見慣れた待ちを真上から見下ろしていた。いやはや、まさか飛行機にも乗らずに上空から 自分の街を見ることになるとは考えもしなかったね。 北高周辺では相変わらず神人が暴れに暴れて、辺りを廃墟に変えていた。マンションに向けて振り下ろされる腕、 民家を踏みつぶす足。それらが繰り返されるたびに轟音が鳴り響き、ミサイルが着弾したような砂煙が空高く舞い上げられる。 神人を目撃したことはあまりなかったが、こうやって注視してみるとかなり恐ろしい破壊力を持った存在だ。 古泉はずっとあんなものを相手に戦っていたのか。 「さすがに慣れましたよ。神人の動きは複雑ではありませんからね。初めて遭遇したときは あまりの恐ろしさに立つこともできませんでしたが」 「あんなのを見て平然としている方がどうかしているさ」 古泉の言葉に、俺は感心と畏怖を込めて答えてやる。何だかんだで大した奴だよ、お前は。 神人に向けて一直線に飛ぶ俺たち。神人の周囲からは相変わらず砲撃か銃撃のような攻撃が続いている。 しかし、そんなものを浴びせられ続けても神人の暴走は止まりそうにない。 「一旦、近くの建物に降ります。そこで状況を再確認しましょう」 そう言って古泉は高度を下げて、手近にあったビルの屋上に降りた。北高まであと数キロ。距離が近くなったせいか、 神人の破壊行動に伴う衝撃が、身体に直にぶつけられてくることを感じる。 俺たちは持っていた双眼鏡で神人の様子を眺め始めた。暴れている場所は北高の校庭付近のようだった。 古泉は双眼鏡から一旦目を離すと、真剣な表情で額に指を当て、 「神人は一体だけのようですね。他に発生は確認できません。それならば僕一人でも対処はできますが、 やっかいなのはあの周りから浴びせられている攻撃の数々です。あれをかいくぐりながら、神人を倒すのは 結構至難の業になりそうですから」 「目的はハルヒたちの奪還だろ? 無理に倒す必要なんて無いじゃないか。そもそもハルヒが発生させたかどうかもわからねえ。 いっそ放っておいて、北高に突入してハルヒたちを探した方がいいと思うぞ」 俺の提案に、古泉は珍しく驚嘆の表情を浮かべて、 「ナイスアイデアです。神人退治が専門だったせいか、少々倒すことに固執してしまっていたようですね。 それでいきましょうか」 そう言って古泉が立ち上がろうとしたときだった。突然、鉄がきしむ音が俺の耳に届く。振り返ってみれば、 屋上から階下に通じる出入り口の扉が開き、そこから―― 「――なんだこいつら!?」 そこから出てきたものを見て、俺は悲鳴を上げてしまった。全身タールで覆われたような真っ黒な身体、口避け女の如く 大きく開かれた口、そして、周囲の光を反射して爛々と輝いている不自然に大きな目。そんな妖怪変化な物体が3つほど、 こちらを見ていた。 俺が唖然としていると、次の瞬間、俺たちに向かって銃弾が数発放たれた。運良くこちらには当たらず、 屋上の手すりに辺り火花が飛び散る。気が付けば、そいつらの手には短銃のようなものが握られていた。 こっちに殺意を向けているのは確実だ。 俺と古泉は背負っていた自動小銃をすぐさま握ると、そいつらめがけて一斉に撃ちまくった。 こっちの反撃を予測していなかったのか、その3つの物体はあっけなく全弾を全身に浴び、ばたばたと床に倒れ込む。 「今のはなんだ……?」 「さ、さあ……」 さすがの古泉も今のが何だったのか理解できないようだった。俺はその正体を確認すべく、 警戒しながら動かなくなったそれらに近づき、銃口で突っついてみる。 「……人間……か?」 それらは形だけ見れば、人間のように見えた。だが、とても正常な状態には見えない。病気ってわけでもなさそうだ。 と、古泉が双眼鏡で神人とは別の方向を眺めている事に気が付く。そして、見てくださいとその方角を指さしたので、 俺もそれに続いた。 その先には別の3階立てのビルがあった。その上にはさっきここに現れた奴らと全く同じ容貌の人間もどきが 群れをなして神人を見つめていた。指を指したり、何やらでかい口で周りとしゃべりながら、まるで観戦気分といった感じで、 神人の暴れっぷりを眺めている。 「ひょっとしたら、あれがあなたの言っていた【彼ら】なのではないでしょうか? とても人間の姿には見えませんが、 この閉鎖空間の中心部分にいるということは、他に考えられません」 「だが、俺が以前見かけたのは普通の人間の形をしていたぞ。あんな妖怪人間モードじゃなかった」 俺の反論に、古泉はあごに手を当てて、 「これは推測に過ぎませんが、彼らの姿を見てください。まるで欲を丸出しにしているように見えませんか? 長門さんは、【彼ら】は自らの欲望を暴走させていると言っていましたから」 俺にはただの化け物にしか見えないが……。だが、それが本当だとしたら、あんな姿になってまでハルヒを――ハルヒの能力を 求めるなんて狂っているとしか思えねえ。ますますあんな連中にハルヒを渡すわけにはいかないな。 ふと、何かのエンジン音のようなものが聞こえ、屋上から真下を走る道路の様子を見渡す。 そこには装甲車のようなごつい車輌が走っていき、その後ろを数十人のあの黒い化け物たちが追いかけている。 何だかもう訳がわからん。カオスな状態だな。 「そろそろ行きましょう。彼らの一部と遭遇した以上、僕たちの存在を捉えられた可能性もあります。 ぐずぐずしている時間はないと考えるべきです」 俺もそれに同意して頷くと、再び古泉の背中に手を置き、そのまま上空へと浮かび上がる。 さて、ここからが本番だ。まず神人に接近して北高の様子を探る。可能ならそのまま北高に突入してハルヒたちを探す。 これでいいよな、古泉。 ………… ………… ……古泉? 「え、ああ。すみません。周りに集中していてあなたの声に気が付きませんでした。何ですか?」 「おいおいしっかりしてくれよ。とりあえず、神人に接近してくれ。可能ならそのまま北高の屋上に降りて欲しい。 あとは校舎内を片っ端から調べてハルヒたちを探すんだ。それでいいか?」 「わかりました」 古泉は俺の言葉を了承すると、一直線に神人に向けて飛行を開始した――が、突然身を曲げて急上昇を始める。 俺にかけられた重力で身体がひん曲がりそうになり、思わず抗議の声を上げようとしたが…… すぐにその行動の意味がわかった。俺たちのすぐ真下を光弾数発がかすめていったからだ。 「おい古泉! 今のもしかして俺たちに向けられた攻撃か!?」 「どうやらそのようですね! また来ますよ! さっきとは比べものにならないほどの量が!」 振り返ってみれば、背後から雨あられの如く光弾が俺たちに向けて飛んできている。冗談じゃない。 あんな猛スピードで飛んでくる物体が当たれば、身体が木っ端みじんに粉砕されちまう。 奴ら、俺たちの存在に気が付いて排除しにかかったな。以前と違って確保ではなく、抹殺に動いているのは、 攻撃してきている連中が俺たちなんて必要と判断していないのか、そもそも俺たちのことなんか知らないのか。 どっちでもかまわんがね。 「速度を上げて、もっと上空に上がります! しっかりしがみついていて下さい!」 「お前に任せた! 好きにやってくれ!」 俺の返答とともに、古泉は今までよりも遙かに速いスピードで飛び始めた。そして、高度を上げて光弾をかわしていく。 だが、かなりの砲火をこっちに向けたらしい。そこら中の地上から、俺たちめがけて光弾が次々と撃ち上げられてきた。 そんな猛攻の中でも古泉の動きは見事だった。急上昇、急降下を繰り返し、または螺旋状に回転したり、急激なターンで 光弾を撃ち上げている連中の目測を狂わせたりと、全てきれいにかわしていく。よく知らんがバレルロールとかブレイクとか そんなものか? しかし、しがみつくだけで精一杯な俺にはそんなことをいちいち確認している余裕はない。 ようやく古泉の飛行状態が安定し、俺は目を開けて辺りを見回す。見れば、もう神人は目の前に迫っていた。 よし、まずは―― そこで俺は2つのことに気が付いた。神人の胸元辺りに人影のようなものが見える。 この距離ではぼんやりと人の形をしているぐらいしかわからないが。 もう一つが非常にまずいものだった。神人からそれなりに離れたところから、2つの物体が撃ち上げられ、 そいつらが煙を吐き出しながら俺たちめがけて飛んできている。 俺は古泉のヘルメットをつかんで、その存在を知らせる。 「おい古泉! 何かこっちに飛んできているぞ!」 「――あれは対空ミサイルでしょう。さっきから無誘導で飛んできているものとは違ってあれを対処するのは少々面倒ですね」 「脳天気なことを行っている場合か! どうするんだ!?」 古泉はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように、 「神人との距離が近すぎます。二つを同時に相手はできませんから、一旦距離をとってから対処しましょう!」 そう言って、速度を上げて神人から離れ始めた。ちくしょうめ。せっかく目の前まで来れたってのに! 俺たちは上空1000メートルぐらいまで上昇し、他の光弾の射程外にする。さて、これでこっちに向かってすっ飛んでくる ミサイルに集中できるってもんだ。 古泉の飛行速度はかなり速いが、さすがにミサイル以上ではない。背中に迫ってくるその姿は次第に 細部まではっきりと見えるくらいに接近してきていた。 とりあえず、無駄かも知れないが、俺は古泉の背中に乗りながら自動小銃を構えて、その二つのミサイル向けて撃ちまくる。 運良く当たって爆発でもしてくれないかと思ったが、この高速飛行中でしかも片手は古泉の肩をつかんでおかないと 振り落ちてしまうような不安定な姿勢で撃ちまくっても当たるわけがなかった。じりじりとこちらとの距離を詰めてくる。 「まずいな! ここからじゃ当たりそうにねえ! もっと近づいてきたらそこを狙って――!」 「無理です。あの手のものは目標に接近したら自爆しますので、近づかれた時点でこちらは終わりでしょう」 古泉の冷静な解説はありがたいんだか、対応策がないんじゃこのまま直撃コースだぞ。どうすりゃいいんだ。 そうだ、古泉の超能力なら破壊できるんじゃないか? カマドウマを吹っ飛ばすぐらいの威力はあるんだから。 「確かに、僕の超能力ならミサイルを破壊できるでしょうが、あなたを背負ったままではそれも満足にできません」 ちっ……俺がお荷物状態か。あんなものがすっ飛んでくるってわかっていたら、途中で降りておけば良かったな。 だが、今は後悔している時間も惜しい。だったら! 「わかった、古泉。俺はここで一回下車させてもらうぞ。ミサイルの方はお前に任せるから、破壊後に俺をキャッチしてくれ!」 「本気ですか!? 危険すぎます! 大体、僕が破壊に失敗したら、あなたはそのまま地上に激突しますよ!」 「えらく本気だ! どのみち、このままだと二人ともおだぶつだからな! ってなわけであとよろしく!」 俺はとおっとかけ声を上げて、古泉の背中から空中に身を投げ出した。ふと、ここでミサイルが俺めがけて 飛んできたらどうしようと不安がよぎるが、幸いなことにこ2発とも古泉を追いかけていってくれた。 あとは少しでも落下の速度を抑えるべく、テレビでやっていたスカイダイビングを思い出し、できるだけ空気を全身に ぶつけるようなポーズを取る。 程なくして、上空で大きな爆発が2つほど起こった。頼むぞ、古泉。ここで投身自殺みたいな終わり方はしたくないからな。 そのまま数十秒ほど落下が続いたが、やがて赤い球体に包まれた古泉がこちらに向かってきた。 そのまま俺を抱きかかえるようにキャッチして、また背中に背負わせる。 「全く無茶しますね、あなたも。涼宮さん並ですよ」 あきれ顔の古泉。全く俺もすっかりハルヒウィルスに犯されてしまっているんだろうな。 と、ここで古泉が数回頭から何かを振り払うような動作をした。 「おい、古泉どうかしたのか?」 「いや――大丈夫です。何でもありません。ええ、大丈夫です」 大丈夫と連呼する古泉だったが、どうみても様子がおかしい。いつの間にか、あのインチキスマイルがすっかり消え失せ、 何かの苦痛に耐えているような苦悶の表情に変化している。だが、それも無理ないだろう。 さっきからあれだけの攻撃を浴びせられつつけ、それを紙一重でかわし続けているんだ。 精神・肉体ともに疲弊してきて当然といえる。これ以上長引かせるのはまずいな。 「よし古泉。とっととケリを付けるぞ。また神人の前に行ってくれ。そういや、あの化け物の胸の辺りに人がいたように見えた。 そいつを確認しておきたい。できるか?」 「わかりました……!」 ここでまた頭を振るう古泉。もう少しだ、すまんががんばってくれ古泉。 古泉は身をかがめると、スキーの直滑降の如く、急降下を始めた。この高度から一気に降りれば、奴らもすぐに対応できないから 周囲からの攻撃も最小限に押さえられるはずだ。 次第に神人の頭の部分が近づく。と、こっちの動きに気が付いたのか、目なのか何なのかわからないものが俺たちに向けられた。 『来るなっ!』 俺の頭に飛び込んできたのは、聞き覚えのない青年の声だった。同時にその巨大な腕を俺たちめがけて振り回し始める。 『なんでだよっ! どうして邪魔するんだよ! そっとしておいてくれよ!』 訳のわからんわめき声が脳内にこだまするが、俺は徹底的に無視することにした。お前らの事情なんてあとで聞いてやる。 まずハルヒを返してもらうぞ、話はそれからだ! 古泉は器用に神人の腕をかいくぐり、目標である神人の胸元前を通過した。速度が速かったため一瞬しか見えなかったが、 そこにいた人間の姿は俺の脳裏に完全に焼き付いた。 「キョンっ! 古泉くん!」 あの聞き慣れて決して忘れる事なんて絶対に無いと断言できる声。間違えるわけがねえ、ハルヒだ。そしてその隣にいるのが 朝比奈さん。二人とも俺が知っているあの日のままの姿だった。北高のセーラー服姿も変わっていない。 あの二人が神人の胸元に取り込まれた状態になっている。 『さっきまでいいって言ったのに、どうして約束を破るんだ! この嘘つき女!』 『うるさい! よくも騙してくれたわね! 絶対――絶対にあんたのいうことなんて聞いてやらないんだから!』 再び脳内に響いてきたのは、さっきの青年の声とハルヒの言い争いだ。 ……この野郎。ハルヒに何かしようとしやがったな。おまけにあんなところに埋め込んで、 光弾の直撃でも受けたら二人が無事で済まねえぞ。 あと、長門はどうしたんだ? 姿が見えないが、別のところに捕らえられているのか? 俺は長門の姿を確認するべく、古泉に神人の周りを飛ぶように指示しようとするが、先ほどからとは比べものにならない 砲火がこちらに向けられ、たまらずに神人のそばから離脱する。せっかく近づけたのに、また距離が離されちまったか。 だが、俺は何となく現状を理解することができた。手段はわからないが、連中の一人がハルヒに取り入ろうとしたのだろう。 そして、うまい具合に近づくことができたものの、ハルヒの持ち前の勘の鋭さでその謀略を見破り、拒絶したんだろうな。 んで、それにぶち切れた野郎が神人を発生させて大暴れ。周りにの連中は抜け駆けしたとでも思ったんだろうか、 それを阻止すべく攻撃を仕掛けているってところか。全くしっちゃかめっちゃかだ。組織だっていないってのは、 強大な組織を相手にするよりやっかいだぜ。やることなすことバラバラだからな。 また、俺たちは神人からの数キロメートルのところまで後退する。次こそ、ハルヒたちを取り返してやる。 すまんが姿が確認できていない長門は後回しだ。ハルヒたちを取り戻せれば居場所もわかるかもしれないしな。 「古泉! もう一度、神人の胸元に行ってくれ! 次こそ、ハルヒたちを――おい古泉? 聞いてんのか!?」 俺の呼びかけに古泉は反応しなかった。代わりに耳を押さえ始めて激しく頭を振り始める。 様子がおかしい。さっきからどこか違和感を憶えていたが、てっきり疲労によるものだと思っていた。だが、何か変だ 「違う……僕は!」 古泉は苦悩に満ちた表情で、突然叫んだ。それが向けられたのは俺じゃないのは明白だった。 誰としゃべってやがるんだ? 「おいしっかりしろ! どうした何があった!」 身体を揺すって聞き出そうとするが、また砲火が激しくなる。ふらふらと単調な動きをしているためか、 かなり至近距離をかすめる光弾が増えてきた。このままだといずれ直撃は必至だ。 俺は何とか古泉の状態を把握しようと、もう一度呼びかけようとするが、 『邪魔をするな』 低く悪意のこもった声が俺の耳に飛び込んできた。誰だ……? この働きかけのやり方は連中と同じものだ。となると…… 『おまえは黙ってみていろ。今この男は事実を知ろうとしているのだから』 訳のわからんこといいやがって。事実だと? それはハルヒをお前らがどうこうしようとしているっていうことだけだ。 だから、俺たちはそれを取り戻す。それ以外の何でもないね。 『ほう。この男を信用できるのか? こいつは機関という組織から送り込まれたエージェントだぞ。 涼宮ハルヒを中心としたお前らの枠組みなど、組織への忠誠の前では無に等しい。いざとなれば、この男はすぐに裏切る』 そんなわけがないな。今までずっと付き合ってきたが、出会った当初はさておき、今ではすっかりSOS団の一員さ。 今更ハルヒたちを投げ捨てて裏切るようなマネは絶対にできない。こいつはそういう奴だからな。 『なぜそうと言いきれる? 全てこの男の演技かも知れない。何の確証がある?おまえらを裏切らないという確証がどこにある?』 証拠だと? ははっ。そんなものは無いね。 『哀れだな。それはお前の思いこみに過ぎない。いつか裏切られる。必ず』 ああ、そうかもしれないな。俺は古泉の全てを知っているわけでもないし、細かい事情とかはっきり言って知らん。 知ろうとも思わないな。だが、はっきり言えることがある。 俺は数回古泉の背中を叩くと、 「もうこいつなしのSOS団なんて考えられないんだよ。誰か一人がかけてもダメだ。いけ好かない点や胡散臭さ満載だが、 それでも俺にとって古泉はSOS団の一員さ。だから、俺は信じるよ。こいつがSOS団を裏切るわけがないってな。 例え裏切るような事態になったら、二、三発ぶん殴って目を覚まさせてやる。それで十分だ」 不思議とこんな状況でも俺の心は動揺しなかった。疑いのかけらも全く頭に浮かばずに自然と口から信頼の言葉が出る。 俺に対する語りかけは無駄だと悟ったのか、声の主はしばらく沈黙を続けた。 だが、次に放たれた言葉は衝撃的だった。 『おまえがそう思っていても、この男は違うようだな』 「……なんだと?」 この時古泉の顔は青ざめ、すっかり精気を失ってしまっていた。唇をかみしめ、冷や汗が首筋を流れていき、 目は大きく見開いたまま瞬きすらしない。 こいつ……古泉に何をしやがった!? 『事実を伝えたに過ぎない。この男はお前の求める枠組みに取って必要ない存在だと言うことをな』 そんなわけがねえとさっき言ったばかりだ。古泉だってそれをわかっているはず。 『この男にはすでに帰るべき場所が存在している。涼宮ハルヒを中心とした枠組みが崩壊したとき、この男は酷く絶望した。 無力な自分に腹を立て、何もできない現実に憤った。しかし、それでも元には戻らない。そんなこの男を周りの人たちは 手厚く守った。時に優しく、時に厳しく、時に暖かく』 ……森さんたちか。こいつも普段はひょうひょうとしていたが、やっぱり俺が昏睡状態になった上、 ハルヒたちまでいなくなったことがたまらなく辛いことだったんだ。だが、それに何の問題がある? いい人たちに囲まれて古泉は幸せだっただろう。 『だが、この男はそんな人たちの優しさを無視して、それでも涼宮ハルヒの枠組みに戻ろうとしていた。 世話になった人たちの気持ちを全て裏切って』 バカ言え! それは絶対に違うと断言できる。森さんたちは古泉を支えたが、SOS団のことを忘れさせようとした 訳じゃないはずだ。そんなことをする理由もない。 『この男には帰るべき場所がすでにある。そこは涼宮ハルヒの元ではなく、2年間ずっとこの男を支えてくれた人たちのところだ。 あくまでも涼宮ハルヒの元に行こうとするなら、その人たちへの明確な裏切り行為と言っていい。 そして、おまえは涼宮ハルヒの元へ戻るために、この男の力を利用するどころか、支えた人たちへの裏切り行為を助長させている』 ふざけた意見だ。曲解にもほどがある。どれだけそんなことを言われようが、森さんたちに話を聞くまで、 俺は絶対に受け入れねえ。 『おまえはそうかもしれない。だが、この男はどうかな?』 「くっ……」 俺は唾棄するように、苦渋のうめきを吐き捨てた。古泉の奴、こんなふざけた戯れ言に惑わされているってのか。 いい加減目を覚ませ! 屁理屈の応酬はお前の得意分野だろ? こんなやりとりをしている間に、砲火はますます激しさを増していく。さらに、前方の市街地から小さな煙を吐く物体2発が 撃ち上げられたことに気が付いた。さっきよりも小型のものだが、あれも対空ミサイルだな。 『余計なこと……!』 さっきまで無機質だった声のトーンが変わり、激怒の色合いに変化する。チャンスなのか、ピンチなのかわからんが。 とにかく古泉の目を覚まさせないとならねえ。 「おい古泉! しっかりしろ! こんなばかげた話なんて聞くんじゃねえ! とにかく今は――そうだ上昇しろ! 前方からまたミサイルがすっ飛んできているんだ! このまま直撃すると二人ともやられちまうぞ!」 そう言ってまるで操縦桿を操る如く古泉の頭を引き上げると、きれいに上昇を始めた。 すまん古泉。こんなもの扱いなんて俺だってしたくないが、今は緊急時だ。帰ったらコーヒーをおごってやるから勘弁してくれ。 だが、背後を追いかけてくるミサイルはやはり小型ながら速度はこちらよりも上だ。じりじりと距離を詰めてきている。 「僕は……裏切った……?」 「違う! そんなことは裏切りでも何でもないんだよ!」 古泉の独白みたいな言葉に、俺は無我夢中で反論するがやはり古泉の耳には届いていない。 どうする――どうする!? 俺は手持ちの荷物に何か使えるものはないかと、ドラえもんが道具を探すようにあれこれ片っ端から掘り返し始めた。 すると、一つの手榴弾が手元に残る。 ……できるのか? そもそも可能なのか? だが、悩んでいる時間なんて無い。もうミサイル二発はすぐ背後まで迫っているんだ。 古泉の頭をさらに引き上げ、上昇角度を高くする。できるだけミサイル2発を下にあるようにしなけりゃならんからな。 あとは、この手榴弾にかけるしかない。 俺は覚悟を決めて手榴弾からピンを引き抜いた。そして、爆発寸前まで手で握りしめ、タイミングを見計らって 背後にミサイルに投げつける。 「……っ!」 激しい閃光と衝撃に、俺は意識を失ってしまった―― ◇◇◇◇ ――俺ははっと自分が気絶していることに気が付き、あわてて目を開けた。 視界に入ってきたのは、逆さまになった世界。そして、俺はその地面に向かって一直線に落下を続けている。 やばい、このままだと洒落にならないぞ。 俺はすぐに古泉の姿を確認しようと辺りを見回した。すると運のいいことにすぐそばに、俺と同じように自由落下を 続けている古泉がいた。ただ、俺とは違い意識はあるようで、しきりに口を動かして何かをしゃべっている。 すぐに泳ぐように俺は古泉の方へ移動して、落下を続けているこいつの身体にしがみついた。 「大丈夫か、古泉!」 「…………」 俺の呼びかけに古泉は冷めた視線だけを俺に向けてきた。そして、小声でぼそぼそとつぶやき始める。 「僕は……帰ります」 「何言ってんだよ。もう目の前にハルヒたちがいるじゃねえか」 「涼宮さんたちのところではありません。森さん、新川さん、多丸さんたちのところにです……」 「ああ、そうだな。だが、それはハルヒたちを助けてからだ」 「もういいんです……僕が勘違いしただけでした。SOS団に僕なんて必要ないんですから」 「…………」 「勝手にそう思っていただけでした。必要とされているし、だからこそ僕もSOS団副団長でありたいと思っていました。 だけど、それはただの思いこみだったんです」 「……何ふざけたことを言ってやがる!」 「あまつさえ、森さんたちの善意を僕は踏みにじろうとしてしまった。僕をあれだけ大切にしてくれた人たちを無視して、 僕なんてどうでも言いSOS団に拘っていたんです。バカとしか言いようがありませんよね……」 「そんなわけがあるか! お前は騙されているんだよ! あいつらの常套手段だ! 大体何の根拠があって、 SOS団に自分が必要ないなんて思っているんだ!?」 「さっき神人に接近したときに、涼宮さんはあなたの名前しか呼ばなかった。僕のこと何滴にもかけていない証拠です。 涼宮さんにとってあなたさえいればいいんですよ……」 古泉の言葉に、俺は記憶の糸をほじくり返し始めた。あの時、ハルヒはなんて言った? 確か、俺の名前と――ああそうだ。 古泉の名前もしっかりと呼んでいた。 「いいか古泉! あの時ハルヒはお前の名前もきちんと呼んでいたんだよ! かなりの大声だったからお前にも聞こえたはずだ!」 「嘘だ。僕には聞こえなかった。涼宮さんはあなたさえいればいいんだ……」 「それは捏造だ! おまえに語りかけている奴が何か細工しただけだ。俺が保証してやる。ハルヒにとってお前は必要なんだよ」 だが、古泉は全く俺に言葉に聞く耳を持たない。それどころは、少し強い目つきで俺を睨みつけると、 「あなたもあなただ。あなたも涼宮さんだけいれば良いんでしょう? そのために僕を利用しているに過ぎないんだ。 もういい、疲れた。僕は森さんたちの元に帰る。あの人たちは僕を受け入れてくれる。あなた達なんかと違う――」 ……いい加減ぶち切れたぞ、古泉! あまりの言いようじゃねえか! ああ、お前が理解していないってなら教えてやるまでだ! 俺は激怒に身を任せ、古泉の胸ぐらをつかみ上げる。そして、それこそ、鼻息がかかるほどまで顔を近づけて、 「――ふざけんなっ!」 自分のあごが外れるかと思うほどの怒声をぶつけてやる。さすがにこれには驚いたのか、古泉が目を見開き、 きょとんした表情を浮かべた。俺はそのまま続ける。 「いいかよく聞け! 確かにハルヒがお前のことをどう思っているのか、確実なことをは何も言えねえ。 俺はハルヒじゃないからな。そんなこと聞きたきゃ、本人にあって直に言えばいい。 だから、ここは俺の素直な気持ちを言うことにするぞ」 ――一旦深呼吸をすると―― 「まず最初に謝っておく。俺の意識がどこかに飛ばされている間に、はめられたとは言えおまえに疑いを持ったあげく、 殺しちまったんだからな。だが、お前を失ったときに俺がどれだけ絶望したかわかるか!? もう元のSOS団には戻れない。古泉がいなければ、SOS団は成立しない――もうあんな気持ちは二度とご免なんだよ!」 「…………」 古泉は黙ったままじっとまじめな面で俺を見つめている。 「俺にとってもうSOS団ってのは、誰一人かけてはいけないんだ。ハルヒも長門も朝比奈さんも、当然古泉、お前もだ。 俺にとってお前は絶対に必要なんだ。ああ、だからといってお前を支えてくれた森さんたちを否定するつもりは毛頭ねえ。 いいことじゃないか、それだけ信頼できる仲間がいるなんてうらやましい限りだぜ。だけどな、だからいって どちらかを選ばなければならないなんて事はないはずだ。お前は森さんたちの仲間であると当時に、 SOS団の副団長なんだ――それでいいんだ! だから、俺たちの元に――」 この時、俺は自分が今どのくらいまで落下しているんだろうとか、全く気にならなかった。頭にあるのはたった一つの言葉。 「帰ってこい! 古泉一樹!」 俺の渾身の台詞に、古泉の顔がまるで急速充電されたかのように、みるみると精気と取り戻していく。 そして、すぐさま俺の身体を引き寄せると背中に乗せて、また超能力飛行を再開した。 「すいません! がらにもなくバッドトリップしてしまっていたようです!」 「いや……正気を取り戻してくれるならそれでいいさ」 何だが、とんでもない事を言っていたような気がしてきたおかげで、古泉の目を見ることすらできやしねえ。 しかも気が付かないうちに、古泉の背中にあぐらをかいて座っているし。なにやってんだ、俺は。 すっかり忘れていたが、俺たちはいつの間にやら地上数十メートルの辺りまで落下してたらしい。あぶないあぶない。 もうちょっとで床に落ちたトマト状態だった。 と、古泉は何やら肩を振るわして笑っているようだった。嫌な予感がするが、念のため聞いてやる。何がおかしいんだ? 古泉は、空を飛んで背中に俺を乗せているにも関わらず、器用に肩をすくめると、 「いやはや、驚きましたね。まさか、あなたからあんな言葉が聞ける日が来るとは」 「……何の話だ?」 すっとぼける俺に古泉は嫌がらせをする子供みたいな笑顔を浮かべると、 「おや、お忘れですか? 僕の顔の真正面で『俺にはお前が必要だ!』なんて――」 「あーうるさいうるさいうるさい! 聞こえねえぞ、砲撃の音がうるさくて何にも聞こえねー! あーあーあーあーあー! これ以上お前の背中に乗っているのが、いい加減ウザくなってきただけの話だ!」 ああちくしょう。何であんなこっぱずかしい事を言ってしまったんだ。しかも、俺の顔が紅潮して、耳まで赤くなっていることが わかるのがなおさら恥ずかしい上に、むかついてくる。 しばらく古泉は神人の周りを移動しながら苦笑していたが、 「……いいでしょう! あなたの意見に同調しておきます。そろそろ決めてしまいましょうか!」 「ああ、これ以上時間を費やしても仕方がないからな!」 そう言って俺たちは神人に迫った。今度は低高度から、急上昇してハルヒたちのところに向かう。 ハルヒたちの位置はつかんでいるから、問答無用に神人を解体してやるつもりだ。 『来るなぁっ!』 神人を動かしている野郎が絶叫して、俺たちめがけて光る腕を振り下ろしてきた。だが、古泉が華麗な手さばきで腕を振るうと 大根がきれいに切られたように、その腕が切り落とされた。 「このまま一気に神人を崩壊させます。その時、涼宮さんたちをあなたがキャッチしてください」 「了解した! お前は存分に暴れてこい!」 俺たちは急上昇を続け、次第にハルヒと朝比奈さんの姿を視界に捕らえ始める。 「古泉くん! キョン!」 ハルヒの声。ほれ見ろ、古泉。お前の名前もちゃんと呼んでいるだろ? 「ええ……そうですね! 今回は僕の耳にもはっきりと聞こえましたよ!」 やたらと嬉しそうな声を上げる古泉。ま、ハルヒだってお前がいなくなって良いなんて思っていないさ。 あいつにとってもSOS団はなくてはならない存在だろうからな。 俺たちが迫るにつれて、神人の暴れはさらに激化した。 『来るな来るな! 何で邪魔するんだよ! せっかく手に入ったのに! 何で奪おうとするんだ!』 身勝手なことばかり言いやがって! お前らが俺たちSOS団を奪って、あまつさえ世界をめちゃくちゃにしたんだぞ! そんなふざけた連中にハルヒを渡せるか! 返してもらうからな! 俺は古泉の背中から、ハルヒめがけて思いっきり飛んだ。急上昇の加速と併せてまるで空を飛ぶようにハルヒに近づく。 一方で古泉はここぞとばかりに全力を出したのか、赤い球状に完全変形するとUFOが動き回るような異様な速度で 神人を切り裂き始めた。そして、神人が完膚無きまでバラバラに解体される。 ハルヒと朝比奈さんは拘束状態から脱し、そのまま落下を始めた。俺は二人に向かって必至に手を伸ばす。 ハルヒも同じだ。だが、届くか届かないかかなり微妙な距離になってしまっている。 くそ――肩とか手首とは言わない! せめて指一本だけでも握らせてくれ! それで十分だ―― 俺の願いをハルヒは読み取ったのか、すぐに指を俺の方に突き出してきた。 すぐにその指をとっさにつかむ。そして、少し引き寄せると、次に手首、肘と次第に引き寄せていって、 最後には二人の腰を両腕で抱きしめた。俺は二人の感触を味わうかのように、強く強く抱きしめる。 二人をキャッチした辺りで、俺たちはゆっくりと落下を始めた。早いところ、古泉に拾ってもらわないと、 3人とも地面に激突してしまうが、あまりの歓喜の感情に全身が高揚してしまい、全く気にならなかった。 よく言う。失ったときにその価値が初めてわかると。 だが、俺にはその続きがあると今理解した。一番、実感できるのは取り戻したときだ。この身体がまるで浮いていくような 爽快感と感激。 ――もう離さねえ! 絶対に離さねえっ!! しばらくそのまま落下が続いたが、やがてハルヒが俺を思いっきり睨みつけてきて、 「バカバカバカバカバカバカ! この大バカキョン! 二年も団長を放って一体何やってたのよ!」 「……無茶言うなよ。俺だってついこないだようやく目を覚ましたばかりの病み上がりなんだ」 と弁明してみるが、案の定ハルヒはこっちの話を全く聞かずに、俺に朝比奈さんの顔を突きつけると、 「ほら見なさいよ、みくるちゃんの可愛い顔がこんなにやつれちゃって……あんたのせいだからね!」 言いがかりにもほどがあると思うが、確かに朝比奈さんに負担をかけてしまったのは、断じて許せん話だ。 すいません、朝比奈さん。ようやくお迎えに上がりましたよ。 「キョンくん……」 朝比奈さんはすっと俺の肩に額を押しつけてくる。 ふと、長門の存在を思い出し、 「そうだ長門! ハルヒ、朝比奈さん! 長門は知りませんか?」 「ここにいる」 そう無感情な長門口調で口を開いたのは、朝比奈さんだった。って、なんだどういうことだ? 「わたしのインターフェースは一時破棄した。その方が【彼ら】に察知されずに動きやすかったため」 「長門さん、それ以降あたしの頭の中に住み着いちゃって……」 長門モードから朝比奈さんモードへ戻る。何だよ、ちゃっかり全員そろっていたのか。しかし、長門よ。 お前はそれでいいのか? また朝比奈さんモードから長門モードに変わると、 「問題ない。わたしという記憶を含んだ情報が存在していればいい。インターフェースはいくらでも再構築できる。 それにこの身体はわたしには合っていないと思っている。身体のバランスが悪い、それに歩くだけでなぜかエラーの蓄積される」 それを聞いたとたん、俺は思わず苦笑してしまう。朝比奈さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 まあ、それならいいけどな。 ここでようやく俺の襟首が掴まれ、落下速度が緩やかになる。見上げれば、古泉が俺をつかみ上げていた。 「古泉くん! 久しぶりっ!」 「ええ、お久しぶりです、涼宮さん」 二人は笑顔で挨拶を交わした。ま、何はともあれ、これでSOS団は復活ってわけだ。 「このまま、森さんたちのいるところまで移動します。少々辛い姿勢が続きますが、我慢してください」 そう言って古泉はのろのろと移動を始めた。どういう訳だか、さっきまで猛烈に撃ち上げられていた砲火がぴたと収まっている。 そんな中、ハルヒはオホンとわざとらしく咳をつくと、 「ま、まあ、いろいろあったけどさ。ここは団長からキョンの全快を祝って、挨拶ぐらいしておかないとね」 その言うと、初めて俺に見せるような優しげな笑顔になり、 「お帰りさない……キョン」 ――ああ、ただいまだ。ハルヒ、SOS団のみんな。 ◇◇◇◇ 森さんたちのいるところに近づいてきた辺りで気が付く。閉鎖空間の果てが明るくなりつつあること。 ずっと灰色の世界だったが、まるで夜明けのように光が差し込みつつあった。そして、もう一つがすすり泣くような嗚咽の声。 それも恐ろしくたくさんの人間が発しているものだ。ホラー映画のワンシーンみたいで、俺の全身に鳥肌が立っていく。 それを確認した朝比奈さん(長門モード)は、 「【彼ら】が泣いている」 「……何でだ?」 最初は疑問符を浮かべる俺だったが、すぐに理解できた。 ……連中にとっても、もうハルヒ以外には何もないのかも知れない。 「これは簡単には閉鎖空間から出してはくれなさそうですね。もう一波乱あるかも知れません」 古泉の言葉に、俺はやれやれ勘弁してくれとため息を吐くことしかできなかった。 ~~その6へ~~
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涼宮ハルヒの糖影 起 涼宮ハルヒの糖影 承 涼宮ハルヒの糖影 転 涼宮ハルヒの糖影 結
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涼宮ハルヒの遭遇Ⅳ ――キョンくん…… 誰かの俺を呼ぶ声が聞こえる。 ――起きて…… まだ目覚ましは鳴ってないぞ…… ――お願い……目を覚まして…… って、ちょっと待て! このシチュエーションは―― 俺の意識は一気に覚醒した。 場所は北高校舎の玄関前。ふと視線を向けるとそこには記憶の通り北高制服姿の涼宮ハルヒが俺を見つめていた。 そして記憶と違うのはその涼宮ハルヒがポニーテールであることだ。 つまり、ここにいる涼宮ハルヒは俺の知っている涼宮ハルヒではなく、金曜日にパラレルワールドから迷い込んだ涼宮ハルヒである。 俺は半身だけ起こし、空を見上げた。 その空は灰色の夜に包まれている。 閉鎖空間…… 悟ると同時に俺は再び、ポニーハルヒへと視線を向ける。 もちろん、俺もブレザー姿だ。 「ここ……どこだか分かる……? 確かに部長の部屋で寝させてもらった覚えがあるのに気がついたらこんなところにいたんだけど……」 ポニーハルヒの今にも泣き出しそうな不安げな瞳。 はたして俺は何と答えてやればいいのだろう。 「あと……部長も一緒に……」 なんだと!? 即座に俺はポニーハルヒのいるところからは逆の方を振り向いた。 確かに無表情のままではあったが、俺に何かを言いたげな色彩を込めた瞳の、いつも通りのカーディガンを羽織ったセーラー服姿の長門有希がしゃがんで俺と視線を合わせる形でそこにいた。 「……」 しかし今は沈黙の置物と化している。ただ、困惑はしておらず今、自分が置かれた状況がどういったことではあるかは理解しているようではあった。 という訳で、 「なあハルヒ、ここにいるのは俺たちだけか? 古泉を見なかったか?」 「分からない……あたしは気がついたら部長が傍にいて、キョンくんが横になってたので起してあげただけだから……まだこの場所から動いてないの……」 なるほどな。 「あの……どうして古泉さんのことを……?」 「何でもない。とりあえず――」 呟き俺は立ち上がる。つられて長門もポニーハルヒも。 ……おそらく校舎の外に出るのもどこかと連絡を取るのも無駄だな。なら―― 「二手に分かれよう。ハルヒと長門で向こう側を見てきてくれ。俺はこっち側を見てくる。んで三十分後に文芸部室で落ち合おう」 「分かった」「キョ、キョンくん……?」 長門の肯定とポニーハルヒの戸惑いの声が交錯するが、長門は即座にポニーハルヒの手を取って引きずるように校舎の向こう側へと消えていった。 すまんハルヒ。後からいくらでも文句を聞いてやるから今はちょっと一人にさせてくれ。 と心の中でポニーハルヒに謝罪を終えると同時に、そいつは予想通り現れた。 むろん、長門には気づかれていただろうが、ポニーハルヒには気づかれなかったそいつは茂みの物陰から、あたかも蛍の光のように小さな赤い玉で俺の方へと漂って来る。 そして俺の目の前で赤いヒト型へと姿を変えた。 「やあどうも」 「今回は早かったな。あと昼の休眠くらいじゃ疲れは抜けきらなかったみたいだが……」 「どうやらお見通しのようですね……」 「まあな」 気さくに挨拶してきた赤いヒト型と化した古泉が俺の予想を聞いて苦笑を浮かべていることが一目瞭然で想像できる声で切り出してきた。 「で、何だってまたハルヒは俺と長門とポニーハルヒをこの世界に閉じ込めたんだ? この世界からパラレルワールドに繋がるのか?」 さらに俺は自分の予想を口にした。ややヤケクソ気味ではあったがな。 が、古泉は妙に深刻な声で俺の考察を否定した。 「いいえ。あなたと長門さんをこの世界に閉じ込めたのは僕たちの世界の涼宮さんではありません。ここにおられる向こうの世界の涼宮さんです」 はい? しばしの時間停止があって、俺の生返事と供に古泉が語り出す。 「はて? てっきり僕はあなたも察しているものだと思っていたのですが見込み違いでしょうか?」 「どういうことだ?」 「そのままの意味です。この閉鎖空間は向こうの世界の涼宮さんが創り出したものだということです」 「なんだと!?」 思わず声を荒げる俺。 「いやまあ……僕も昨夜は、《神人》のあまりの暴れっぷりに完全に失念していましたからあなたのことは言えないのですが、今、はっきり認識しました。 間違いありません。あの涼宮さんも閉鎖空間を創り出すことができます。本人ですから当然と言えば当然ですけどね」 俺は古泉の苦笑っぽい説明を聞いてしばし呆然自失した。 あまりの焦りにそんな俺に構うことすらできないのか、俺が聞いているかどうかも分からないまま続けてくる。 「どうやら昨日の《神人》二体の内の一体は我々の知る涼宮さんが生み出したもので間違いないのですが、もう一体はあちらの涼宮さんが発生させたもののようです。 よく思い出してみましたら、どちらも暴走機関車状態だったことは確かなのですが、片方は行き場がなくて右往左往して走りまわっていたような感じがしましたからね。あちらの涼宮さんの心理状態とも一致します」 ということは何だ。ポニーハルヒも世界を改変できる力があるってことになるのか? しかし、ポニーハルヒは朝比奈さんはともかく、古泉のことを知らなかったのは何故だ? お前はハルヒの精神安定剤(トランキライザー)じゃなかったのか? 「それ(トランキライザー)はあなたもなのですが……まあ今は置いておきましょう。 ちなみにあの涼宮さんが僕のことを知らなかったことについては簡単な理屈が成り立ちます。まず、こちらの世界でどうやって僕と朝比奈さんが涼宮さんと行動を供にするようになったかを思い出していただけますとご理解いただけるのではないかと」 何言ってやがる。今は心境に変化があったかもしれんが、元々はお前、長門、朝比奈さんはハルヒを監視するために近づいたんじゃなかったか? あのポニーハルヒがこっちのハルヒと同じようなものなら向こうの世界の長門、古泉、朝比奈さんもポニーハルヒに近づくはずだ」 「その通りです。ですが長門さんと僕たちにはSOS団入団に大きな違いがあったことをお忘れではありませんよね?」 ――!! そうだった……朝比奈さんと古泉はハルヒが連れてきたんだ……けど長門は違う……おそらく偶然ではないだろうが元々、文芸部室にいたんだ…… 「まさか!」 「今、あなたが想像した通りです。おそらく向こうの世界にも僕と朝比奈さんは存在することでしょう。ですが、向こうの涼宮さんの性格を思えば向こうの世界の僕たちが出会う可能性は限りなくゼロです。おそらく、学校内ですれ違うことくらいしか接点はないことでしょう。まさか、あなたも学校内でたまたますれ違った生徒たちの一人一人の顔と名前を覚えてはいないでしょ? 理屈はそれと同じです。おそらく向こうの僕はあの涼宮さんが知らないところで閉鎖空間の粛清に勤しんでいることと思われます」 なんてこった…… 「そしてもう一つ、僕たちにとって、大変好ましくない状況に陥ってしまっていることをお伝えしなければなりません」 「……俺と長門がここにいる理由か……?」 「察しておられましたか。では話が早いですね」 赤いヒト型の古泉がいつもの肩をすくめるポージング。もし表情が見えていたなら苦笑していること間違いなしだ。 「そうです。あなたと長門さんはあの涼宮さんに選ばれたんですよ。こちらの世界からたった二人だけ、あの涼宮さんが一緒に居たいと願ったのがあなたと長門さんです。 おそらくあの涼宮さんは元の世界に戻れないと絶望したのでしょう。元の世界に戻れないということは向こうの世界にいる彼女が誰よりも頼りにし、また一緒に居たいと願うあなたと長門さんにもう二度と会えないと考えたものと思われます。ですから、せめて別人ではありますが本人でもありますあなたと長門さんを連れ込んだのです」 やっぱりか…… だがな、むろん、あのポニーハルヒがそんなことをやるとは思えん。本人も間違いなく否定するだろうぜ。 てことは、おそらく深層心理でそう願ったんだ。 んで、これは相当ヤバいぜ……なんたって去年の五月にハルヒとこの世界から元の世界に帰還した方法が使えないってことと同義語なんだからな。 何故かって? それはポニーハルヒが本当に望んでいるのは俺じゃなくて向こうの世界の俺だからだ。無理にあの時と同じことをやろうものなら逆にポニーハルヒを傷つけるだけだ。ますます自分の殻に閉じ籠ってしまうことになるかもしれんし、今度はこの世界に俺と長門を残して一人別世界を創造するかもしれん。 俺が呻吟している表情が目に入ったのか、古泉が切り出してきた。 「そして危機はあなた方だけではありません。僕たちの世界も、そして、あの涼宮さんがいた元の世界も崩壊の危機に陥っていることを意味します。なぜなら、あなたがあの涼宮さんと供にこの世界に行ってしまえば、残されたこっちの涼宮さんがどうなるかを想像いただければこっちの世界がどうなるかを想像するのは容易いでしょうし、向こうの世界はこの世界の誕生で前に僕たちの世界が直面した危機とまったく同じ理屈が成り立ちます」 はははははは……随分と飛躍した壮大な話だな、おい…… 「む.……どうやら僕も限界のようです……」 確かに古泉の言うとおり、赤いヒト型が徐々に細く小さくなっていく。で、今回はどんな理屈でお前の力が消滅するんだ? 「いえ、僕の力が消滅していくのではありません。単に限界が来ただけです。精神不安定からくる人の内面を表した閉鎖空間と違って、この閉鎖空間は時空に生まれた新しい現実世界ですからね。そこに入り込もうとすれば、通常の閉鎖空間以上の力が必要となる訳でして、そうなれば力の消耗度も格段に違うということです」 なるほどな。 もうすでに古泉は最初に登場した時のような小さな赤玉だけになって漂っていた。 「今回は何も伝言を預かっておりませんが、僕はあなたと長門さんを信じております。何とかこちらの世界への帰還を――では――」 そう言い残して古泉は消滅した。 俺は一度深いため息を吐く。 やれやれ、今度はいったいどうすりゃいいんだ? 心の中で嘆息しつつ、俺は文芸部室へと足を向けた。 言うまでもなく長門とポニーハルヒは先に文芸部室に来ていた。 長門はいつものポジションに腰をかけ、しかしその視線はハードカバーではなく、窓の外を眺めているポニーハルヒを見つめていた。 「キョンくん……」 「どうした?」 「どうなってるの……? 何なの……さっぱり分かんない……ここはどこで……どうしてあたしはこんな場所に来ているの……?」 去年のこっちのハルヒと異口同音でほとんど同じセリフを窓の外に視線を向けたまま、しかし、その声から今にも泣き喚きそうなポニーハルヒの背中が震えているのを見てとれて、俺はなんと言葉をかけてやればいいのか―― 「昨日……気がついたら突然、違う世界に飛ばされたのに……また違う世界に飛ばされて……あたしは……元の世界に戻れないの……?」 「戻れるさ」 俺はあえて言った。 「君が元の世界に戻りたいと心から思えば必ずな」 俺のセリフは気休めでも慰めでもない。この世界から元の世界に戻る方法はたった一つしかなく、それはハルヒが元の世界に戻りたいと思うしかないのである。 現に俺とハルヒはそうやって元の世界に戻ったんだ。それに何の特殊能力を持たない俺でさえ、去年の十二月にいくつかのヒントや何人かの協力があったおかげとは言え、変えられた世界を元に戻すことができたんだ。 その時、俺が願ったのはたった一つだ。世界を元の姿に戻したい、というたった一つの思いで突っ走って結果、元に戻せたんだ。 だったら、ポニーハルヒだって一心に願えば戻れるさ。 ここでポニーハルヒが俺に肩越しに視線を向けた。 その表情にはちょっと無理はしているし瞳に涙を溜めていたが笑みが浮かんでいた。 「ありがと……こっちのキョンくんも優しいね……」 「そうかい」 言って俺は苦笑を浮かべるしかできないけどな。 なぜかって? 仕方ないだろ。何度も言っていることだがポニーハルヒが本当にその胸で泣きたい相手は俺じゃなくて向こうの世界の俺なんだ。 んでポニーハルヒもそれが解っている。だから俺の苦笑の意味も解ってるさ。 そんなどこか今置かれた立場を忘れてしまいそうな場の雰囲気。 しかしやっぱり安穏とした空気が続くほど甘くはないよな。ついでにのんびり打開策を考えさせてくれるゆとりも与えてくれないらしい。 前にハルヒに使った手はご法度で古泉はいない。 にも関わらずだ。 当然予想はしていたさ。前にも同じことがあったからな。 それでもだな。 いきなり外から照射された青白い光が部屋を覆いつくしてしまったらいったいどうすりゃいいんだ? 一番恐れていた事態が俺たちに降りかかってしまった―― どうする? 俺は呻吟しながら駆けていた。もちろんポニーハルヒの手を掴んで。 そのポニーハルヒは思いっきりおろおろしながら俺と青白い巨人を交互に見つめながらそれでも俺に離されないよう、手に力をこめて握り返して付いてくる。 ちなみに長門は俺の前を走っている。 そのまま三人で走ることしばし。 んで、校舎の中庭に出たところで、 「ね、ねえキョンくん!」 声をかけてきたのはポニーハルヒだ。 「あの巨人さ! たぶん悪い人じゃないわ! あたしには解るの! だからそんなに慌てなくても……」 走り疲れてきたのかそれとも俺の握る手が思った以上に痛いからなのか。 まあ両方なんだろうぜ。 「分かってるさ。君がそう言うならそうなんだろうぜ。けどな、仮にあの巨人が俺たちに襲いかからなくても俺たちに気付かないで校舎を破壊する可能性はあるんだ。 だったら安全圏まで行かないとマズイだろ?」 「あ。」 どうやら俺と長門があの巨人から逃げているんじゃなくてあの巨人の破壊範囲外へ避難していることを悟ってくれたらしい。 「疲労?」「うわ」 え? いきなりポニーハルヒの傍から声が聞こえてきたわけだがその声の主はついさっきまで俺たちの前を走っていた長門なものだから俺もびっくりした。 一体いつの間に? てな訳で少し足を止める俺たち。 もちろん悠長な真似はできないので、 「背負う」「はい?」 再びポニーハルヒのおっかなびっくりの声が届くと同時に、彼女の返事を待つことなく長門が無理矢理ポニーハルヒを背負い俺に視線を向けてきた。 その瞳はいつもどおり無色に近いものがあるのだがそれでもはっきりと認識できる。なんたって俺以上に長門の言いたいことが分かっている奴なんて居やしないからな。 んで、その俺が認識するところ、長門は『走れ』と言っている。 むろん即座に従うだけだ。 駆け出すと同時に長門が俺の横に並んだ。 もし長門に変な裏設定がなければ結構グサッとくるものがあるぜ。なんせ俺とタメの小柄な女子高生が人ひとり背負って同じスピードで走っているんだ。 なんか情けない気持ちでいっぱいになるな。 しかし今はそんなことに構ってなんていられない。 俺たちは何の会話も交わさずグランドまで走り続けた。 そして、 「あなたに先に言っておくことがある」 俺と長門とポニーハルヒが校舎の破壊活動に勤しむ青白い巨人を眺めながら、突然、長門が切り出した。 「わたしにあの巨人を抹消することはできない」 ――!! 「なぜならアレは物理的存在ではない。本来、あれほどの大きさであれば自身の重力で身動きできなくなるにも関わらず、あれは重力を感じずに動き回っている。それがあの巨人が物理的存在でない理由。物理的な存在でないものを情報操作することは不可能」 だろうと思っていたよ。ただ改めてはっきり言われると相当ヤバいことを実感させられるな。 「対処はまったく無しか?」 「無いことはない」 長門が肩越しにポニーハルヒへと視線を向ける。つられて俺も。ポニーハルヒは少し戸惑った表情を浮かべるのだが。 しかし長門は何も言わなかった。 何か言いたそうではあったが何も言わなかった。 「あ、あの部長……?」 ポニーハルヒの声にも何も答えない。 ……そうか……そういうことか…… 俺にも悟れた。このあたりは長門の言いたいことが解ってしまう自分をちょっと呪ってしまったが。 そう。 この場合、打開策は二つに一つ。 ポニーハルヒに能力を自覚させて何とかしてもらうか、この世界の創造主であるポニーハルヒを抹消して世界を消滅させるか。 前に俺が元の世界のハルヒに使った手段が使えない以上、その二つしか方法はない。 もっとも後者を選んだ場合は正直言って俺と長門がどうなるか分かったもんじゃないし、前者を選んだとしても問題の解決にはならないだけでなくもしかしたら古泉の危惧が現実になるかもしれん。 ……元の世界のハルヒもそうなんだが、このポニーハルヒの究極の選択もどっちを選んでもあんまり芳しい結果が待っていない気がするのはなぜなんだ? それともこれが涼宮ハルヒの涼宮ハルヒたる所以ってやつか? ならどうする。三つ目の選択肢を見つけるか。 三つ目の選択肢だと? そんなものがあるのか? あるとすればそれは何だ。 言っておくがヒントはどこにもない。長門はここにいるし何もヒントらしいものは持っていない。もし持っているならとっくに俺に言っている。ポニーハルヒには悟られないよう、回りくどくではあったろうけどな。 んで古泉は朝比奈さんから何も聞いていなかった。 いちばん何とかなる気がするご都合主義は俺たちの世界の涼宮ハルヒの世界を都合よく変革する力だが、むろん、そんな展開はありはしない。なんたって今、ハルヒが俺と長門の置かれた状況を知っているはずがないからだ。 くそ…… 数がどんどん増えていく青白い巨人を眺めながら俺は一人、歯ぎしりをしてコブシを握りしめながら佇むしかできなかった。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅴ
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涼宮ハルヒの中秋 第1章 涼宮ハルヒの中秋 第2章 涼宮ハルヒの中秋 第3章 涼宮ハルヒの中秋 第4章
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涼宮ハルヒの憂鬱IV(2006年放送版第10話、構成第04話・DVD版第05話/2009年放送版・時系列第04話) スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石立太一 演出:石立太一 作画監督:西屋太志 原作収録巻 第1巻長編『涼宮ハルヒの憂鬱』より第5章174Pから最後までと第6章の最初からP217まで。計43ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第2巻』に収録。 解説など 原作では教室に入ってきたときには朝倉がハルヒに話しかけたり、キョンたちの会話に参加しようとは試みないが、アニメでは積極的に関わろうとしているオリジナルシーンが挿入されている(ハルヒには無視されているが)。 この回はハルヒが憂鬱なせいか、OPカットで『超監督涼宮ハルヒ』のクレジットの超が少し小さいフォントになっている。 時系列ではこの回から展開が大きく動く回。放送順では、シリーズ演出曰くこの回以降、作画的に『ホームラン攻勢』が続く』らしい。放送順では、この回と射手座の日でのハルヒにギャップを覚えるかもしれない。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『ファイティンねこマン』。(DVD第05巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの激奏』DVDに収録): ハルヒ:次回!涼宮ハルヒの憂鬱第13話。 キョン:異議あり。次回涼宮ハルヒの憂鬱第11話『射手座の日』。それでは、みなさんお待ちかね!涼宮ハルヒ、レディー! ハルヒ:ゴォー!! DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 V』。見て。 放送版とDVD版との違い 四角錐の「団長」の文字が座っているハルヒ側に向いていたのが修正されている。(確認求む) 谷口が、教室に入ってくるシーンで追加カットあり。 みくる(大)の左腕のブレスレットがなかったカットが修正されている。(確認求む) パロディ・小ネタ 愛し合う3年の彼氏と彼女→女子が一方的に男にビンタ 走り去る マジでくたばる5秒前=MK5=マジで恋する5秒前 WAWAWA→後にさまざまな場面でネタに。原作では「忘れ物~♪」としか記されておらず、完全に白石稔のアドリブである(白石本人もインタビューなどで明言している)。後にこのフレーズを元に白石本人が作詞・作曲した楽曲が「らき☆すた」13話のエンディングでワンコーラス使用され、さらに白石稔のアルバムCD「白石みのる・男のララバイ」(ランティス)ではフルコーラス・フルオーケストラにて「俺の忘れ物」のタイトルで収録された。白石稔ブレイクのきっかけとなったアドリブである。 長門や朝倉が喋っている高速言語(呪文はSQL言語が使われている) 次回予告は『機動武道伝Gガンダム』のパロディ。『射手座の日』はフルメタスタッフが数多く参加した通称フルメタ回。キョンとハルヒのこのやりとりは、キョン役の杉田の事務所の先輩であり、フルメタの主役とGガンダムの主役の両方を演じた声優、関智一ネタであると考えられる。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 古泉一樹:小野大輔 2段目 朝倉涼子:桑谷夏子 谷口:白石稔 岡部先生:柳沢栄治 スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石立太一 演出:石立太一 作画監督:西屋太志 動画検査:村山健治 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:竹田明代 原画 浦田芳憲 高雄統子 小松麻美 山田尚子 安部篤子 伊東優一 瀬崎利恵 西屋太志 石立太一 第二原画 紅林誉子 樫原教子 冨田亜沙子 羽根邦広 動画 清原美枝 木透富子 冨田亜沙子 羽根邦広 仕上げ 津田幸恵 瀬波里梨 小浦千代美 宿谷葉子 背景 鵜ノ口穣二 細川直生 篠原睦雄 袈裟丸絵美 加藤夏美 川内淑子 松浦真治 伊藤豊 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年6月4日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年6月4日25時30分-26時00分 tvk:2006年6月5日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年6月5日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年6月5日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年6月6日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年6月6日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年6月7日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年6月7日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年6月10日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年6月10日26時40分-27時10分 2009年 テレ玉:2009年4月23日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月23日25時45分-26時15分 サンテレビ:2009年4月23日26時05分-26時35分(本来は24時40分-25時10分だが野球中継のため1時間25分繰り下げ) 東京MXテレビ:2009年4月24日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月24日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月25日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月26日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月27日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月28日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月28日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月28日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月28日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月28日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月28日27時55分-28時25分 Youtube:2009年4月29日22時00分-2009年5月5日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年11月8日25時50分-26時20分 DVDチャプター アバン(0:00~2:45) Aパート開始(2:46~5:05)※題名無しみくるちゃん悩殺写真館(5:06~6:04) 待ち合わせの相手(6:05~8:13) うん、それ無理❤(8:14~9:29) じゃあ、死んで❤(9:30~9:47) Bパート開始(9:48~10:37)※題名無し朝倉VS長門(10:38~12:02) 朝倉敗れる!(12:03~13:42) メガネ、忘れた・・・(13:43~15:39) 出会い、そして別れ(15:40~18:00) 2人のみくる!?(18:01~20:29) みくるの時間(20:30~21:44) SOS団、自主休日!!(21:45~22:50) 使用サントラ 0 00~0 34 SE 0 35~2 18『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 2 19~2 31 SE 2 32~2 43 OPイントロ 2 44~4 09 SE 4 10~5 07『激烈で華麗なる日々』サントラ05収録 5 08~5 28 SE 5 29~5 53『小さくても素敵な幸せ』サントラ08収録 5 54~7 39 SE 7 40~9 34『朝倉涼子の真実』サントラ03収録 9 35~9 48 SE 9 49~13 07『長門VS朝倉』サントラ03収録 13 08~14 15 SE 14 16~14 54『長門の告白』サントラ03収録 14 55~15 42 SE 15 43~16 27『何かがおかしい』サントラ02収録 16 28~18 02 SE 18 03~19 40『非日常への誘い』サントラ08収録 19 41~19 45 SE 19 46~20 32『みくるのこころ』サントラ03収録 20 33~21 55 SE 21 56~22 50『おいおい』サントラ02収録 22 50~23 54 ED 23 55~24 10『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
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涼宮ハルヒの憂鬱Ⅰ(2006年放送版第02話、構成第01話・DVD版第02話/2009年放送版・時系列第01話) スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 原作収録巻 第1巻:長編『涼宮ハルヒの憂鬱』よりプロローグから第2章の66Pまで。61ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第1巻』に収録。 紹介 放送順では第2話、時系列では第1話。ここから全ての話が始まるが、原作に登場し、後になると気付く重要な伏線とアニメで解決する伏線が登場するのもこの話。 OPは冒険でしょでしょ?で、番組全体のスタッフが表示。EDは2006年放送版1話でスタッフクレジットがスクロールでダンスの画面も縮小だったが、この話からフル画面・固定に。 この回は監督演出回、キャラクターデザイン総作画監督が作画監督を担当、原画マンも各話の演出家や作画監督が多く参加しており、相当力を入れていることが伺われる。 この回の作画クオリティは2006年放送版全14話中最高クオリティとも言われている(放送終了当時のログより)。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『女学生ねこマン』。(DVD第02巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの憂鬱』第1巻に収録): ハルヒ:次回、涼宮ハルヒの憂鬱第2話! キョン:違う!!次回、涼宮ハルヒの憂鬱第3話『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。少しは人の話、聞きなさい!!お楽しみに。 DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。見て。 放送版とDVD版との違い 放送では1話の次回予告にあった生徒手帳を眺めるシーンやキョン、谷口、国木田と話すシーン・カットがいくつか追加されている。(東中の校庭落書き事件など) パロディ・小ネタ ハルヒが一つの萌え要素として持ち出したのは、雑誌コンプティークと雑誌コンプエース。(石原監督によるとプロデューサーからの推薦だとか) 中学時代のハルヒをデートに誘って5分で断られたのは本人は違うと言っているが、谷口と見られている。(担当声優の白石稔は新らっきー☆ちゃんねる第12回のクイズコーナーで認めている。)デートに誘った場所のモデルは神戸市のハーバーランドのモザイクガーデンとのこと。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 2段目 谷口:白石稔 国木田:松元恵 朝倉涼子:桑谷夏子 岡部先生:柳沢栄治 スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 動画検査:中野恵美 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:石田奈央美 制作マネージャー:富井涼子 原画 北之原孝将 高橋博行 米田光良 浦田芳憲 坂本一也 西屋太志 紫藤晃由 大藤佐恵子 堀口悠紀子 高雄統子 山田尚子 小松麻美 松尾祐輔 動画 中峰ちとせ 黒田久美 栗田智代 大川由美 仕上げ 宮田佳奈 宇野静香 川合靖美 相沢朝子 背景 鵜ノ口穣二 細川直生 篠原睦雄 袈裟丸絵美 加藤夏美 丸川智子 川内淑子 松浦真治 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年4月9日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年4月9日25時30分-26時00分 tvk:2006年4月10日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年4月10日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年4月10日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年4月11日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年4月11日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年4月12日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年4月12日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年4月15日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年4月15日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月2日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月2日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月2日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年4月3日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月3日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月4日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月5日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月6日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月7日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月7日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月7日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月14日27時25分-27時55分 (1,2話連続放送) Youtube:2009年4月15日22時00分-2009年4月22日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年10月18日25時50分-26時20分 DVDチャプター 使用サントラ 0 00~1 37 『いつもの風景』サントラ02収録 1 37~1 55 SE 1 56~2 30 『激烈で華麗なる日々』サントラ05収録 2 30~4 00 OP 4 01~4 40 『ザ・ミステリアス』サントラ02収録 4 40~4 52 SE 4 53~6 35『何かがおかしい』サントラ02収録 6 36~7 11 SE 7 12~8 43『コミカルハッスル』サントラ06収録 8 44~10 46 SE 10 47~12 03『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 12 04~13 36 SE 13 37~15 20『うんざりだ』サントラ03収録 15 21~15 27 SE 15 28~16 07『ザ・強引』サントラ05収録 16 08~17 16 SE 17 17~18 44『好調好調』サントラ03収録 18 45~19 45 SE 19 46~20 55『悲劇のヒロイン』サントラ03収録 20 56~21 07 SE 21 08~22 18『おいおい』サントラ02収録 22 19~22 52 SE 22 53~23 36『SOS団始動!』サントラ05収録 23 37~24 40 ED 24 41~24 57『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
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涼宮ハルヒの異界Ⅱ さて、俺がハルヒから教えてもらった、この異世界人の名前は蒼葉(あおば)さん、と言うことだった。 俺たちとはまた違う別の世界からやってきた、その世界のとある機関のエージェントということらしい。 もっともこれ以上、詳しい説明は目の前の彼女もハルヒからもしてもらえなかった。 ハルヒは何でも知りたがる小学生に上がったばかりの子供のように詳しく聞いていたが蒼葉さんははぐらかすのみである。 「この厄介事が片付いたらもう会えることは0に限りなく近い確率でほとんどなくなるから知る必要もないわよ」 これが蒼葉さんの答えだった。 なるほど確かに理にかなっている。 異世界に行くにはどうすればいいか。 それはもう空間を越えるしかなくて、また異世界の数も天文学的な数であるから、万が一、他の異世界とやらに行けたとしても、そこが蒼葉さんの住む世界とは限らないのである。 なぜなら異世界に通じる扉というものは存在しない。つまり奇跡に近い偶然を通り抜ける必要がある訳で、それにプラス異世界の数を思えば確かに蒼葉さんの言うとおり、俺たちが再会する可能性は限りなく0に等しいものとなる。 いくらハルヒに確率論が通用しないと言っても天文学的数字の天文学的数字乗をひっくり返すなんて無茶なことはさすがにできないことだろう。 だから彼女のことを詳しく知る必要もないし、また蒼葉さんも俺たちについては何も聞いてこないのである。 「そう言えば、蒼葉さんはどうしてこの世界に?」 ハルヒのパパラッチ並のしつこい尋問を冷静な表情で涼やかにさらりと流し続けていた蒼葉さんに俺は尋ねた。 彼女の視線がこちらを向く。 「私たちの世界を救うために来た」 笑顔の彼女の答えは簡潔だったがその瞳には決意めいた固い意志の光が灯っていた。 「世界を救うため?」 「そうよ。んまあこれは話してもいいわね。今、私たちの世界は存続の危機に立たされたの」 何でまた? 「時空にこの新しい世界が生まれつつあるからよ。それが今回はたまたま私たちの世界と隣接してた。んで.、この世界が誕生すると私たちの世界はその余波で吹っ飛んでしまうってわけね。正直危なかった。もう少し遅れてたらアウトだったわ」 「この世界が生まれる? この世界はまだ誕生してないってこと?」 ハルヒが尋ねる。 「そうよ。この世界にはまだ『壁』があったからね。半径およそ2キロメートル。ちょうどこの建物が経っている敷地全体を覆ってるって感じね。それさえ破壊されない限りはまだ時間は残されてる」 なるほど、あの見えない壁のことか。ハルヒの精神状態不安定から来る閉鎖空間は半径5キロとか古泉は言っていたが、新しい現実世界の誕生は半分以下くらいに縮まるのだろうか。そう言えば前にハルヒがいた時も学校の敷地に沿って見えない壁があったか。 ん? ちょっと待て。あれは誰が壊せるんだ? 「さっきいた、あの青白い巨人が壊せるのよ。あんたたちの世界だとあいつらのことを何て言うか知らないけど、私たちの世界の言葉で言えば『境界を破壊する者』かな?」 ……んなマンガみたいなカタストロフネタがあるもんなんだな……まあこの世界に来ている時点で俺の常識論も通用しないのだろうか。思わず蒼葉さんの言葉に納得してしまったね。 そう言えば、どうして俺たちにあなたの言葉を理解できるんです? まさかあなたが日本語を知っているとは思えないのですが。 「ニホンゴというのが何の言語を指しているのか分かんないけど、まあお互いの言葉が分かることに関して言えば大した理由はないわ。補正ってやつよ。確か何かの娯楽読み物(ペーパーバック)で、別の国の人同士の会話で通じてるの見たことあったし、それと同じなんでしょ」 ……納得できないけど納得するしかないのだろうか? 気がつけば、俺たちは再び校庭に辿り着いた。 「ねね、蒼葉さん! これからどうするの?」 蒼葉さんに嬉々として問いかけるハルヒ。 そう言えば、あの《神人》たちは消し飛ばしたわけだが、それでもこの世界が消えたわけじゃない。 つまり、蒼葉さんの住む世界の危機が過ぎ去ったわけじゃないということと同意語なんだよな。 いや待てよ? あの《神人》たちが消え去ったら、この世界の閉鎖は解かれて通常に戻るんじゃなかったか? マジで古泉か長門が説明しに来てほしいのだが…… 長門……か…… 俺は何気なく校舎を見上げる。思い出すのは去年の5月のこと。あの向こうの世界とこっちの世界でのチャットである。 新校舎の方は半分以上が破壊されているので、ここからでも旧館がよく見える。もちろん、その一角に位置する明かりの灯った文芸部室の窓もだ。 そう言えば電気を付けっ放しで来たな。 「そうね。まずはこの世界の『創造主』を見つけたいところね」 「創造主?」 蒼葉さんとハルヒが話し合いをしている姿を横目に捉えて―― しかし、俺の方も旧館・文芸部室に行く訳には行かなかった。 こんな場所で単独行動をハルヒは勿論、雰囲気から察するに百戦錬磨っぽい蒼葉さんが許してくれるとは思えない。 「そ。人どころか生命体が何一ついなくても、創造主は必ずこの世界にいるはずなのよ。でないと世界ができるわけがない。だから創造主を見つけて、出来れば話し合いで解決したいところね。この世界の誕生は勘弁してください、って」 「なるほど。でも話し合いで解決しないときは――って、考えるまでもないですね」 「を? 分かるの?」 「そりゃまあ力づくしかありませんから」 「まあね。穏便に済ませたいけど、そうもいかないときは――ね。その創造主がどんな姿してるか分かんないけど、どんな姿かたちだろうと躊躇する気はないわ。さすがに創造主がいなくなればこの世界は消失してくれるからね。この世界にまだ息吹は感じないから罪悪感も湧かないし」 蒼葉さんの殺意さえ漂わせた真剣は眼差しは俺の背中に冷たい汗を浮かばせるには充分だった。 い、今……さらっととんでもないことを言ったよな……本気か……? むろん怖くて聞けないが。 「だったらさ!」 ハルヒが勢い込んで蒼葉さんに言い寄り、 「あたしたちも手伝います! 何かの役に立てるかもしれないじゃないですか!」 「……遊びじゃないのよ?」 「もちろん解ってますって! その『創造主』とやらを探すだけです! 見つけたら即座に蒼葉さんを呼びます! 危ないことはしません!」 おいおい。んな好奇心いっぱいの今からどこか楽しいところに遊びに行くような笑顔で提案したって蒼葉さんがげんなりした視線を向けるだけだろが。もっと深刻そうな雰囲気で言えよ! などと心の中でツッコミを入れる俺なのだが。 「……そうね……私も背に腹は変えらんないし……」 って、承諾ですか!? しかもハルヒはご丁寧に『あたしたち』と言ったのである。当然、俺も協力せざる得ない。 しかしまあ、正直なところハルヒを蒼葉さんに付き出すだけでいいのだが…… いかんせん、それが正しいことなのかどうかが分からん。 なんせ、それを蒼葉さんに言うということは、ハルヒに自身の不思議パワーを自覚させることでもあるんだからな。 ましてや蒼葉さんは相当物騒なことを言った。 仮に自分の能力を自覚してもハルヒがこの世界を消す方法を知ることができるとは限らん。もしこの世界の消失方法をハルヒが思い浮かばなかったときは蒼葉さんはまず間違いなく躊躇わない。 異世界のまったく知らん一人の命より、自分の世界すべての命を取ることだろう。もしハルヒが蒼葉さんの命を救った恩人ならともかく、さっきの対《神人》戦のときは俺たちは何の役にも立っていないし、蒼葉さんは、ハルヒ曰く《神人》全てを殲滅させたのち、ハルヒに声をかけられてやっと俺たちに気付いたほどだったらしいからな。 「じゃ、これをそれぞれ持ってくれる?」 蒼葉さんはハルヒと俺にそれぞれ何か小石くらいの大きさのしかし滑らかで厳かな光を放つ宝石のような水晶を手渡してくれた。 「それを肌身離さず持っててね。何か見つければその魔石――石に念波を送って頂戴。それで私は感知できる。すぐそっちにテレポートするから」 きゃっ! すご! そんなアイテムがあるんですか!? ていうか、これ貰ってもいいの!? と、ハルヒが満面の笑みでそんなことを口走るんじゃないかと思ったがどうやらそれは杞憂に終わったらしい。 「分かりました。何か見つけたら必ず蒼葉さんに知らせます」 随分と真面目な声で返している。もっともその表情には好戦的な笑みが浮かんではいたが。 「キョン、あんたもいいわね?」 「あ、ああ」 いきなり俺に振るハルヒに、少しどもって首肯する俺。 そんな俺たちの様子に蒼葉さんはどこか微笑ましいものを見る笑顔を浮かべていた。 む……なんか恥ずいぞ…… しかし即座に蒼葉さんは気を取り直し、 「んじゃあ、あなたたちはそこの建物の中をまずは探してみて。あのボーダーラインがこの建物を中心に半径2キロくらいであるし、核ってものは力場のほぼ中心にあるものなの。おそらくこの建物の近くに創造主がいるはずよ」 「はい! よしキョン! あんたは旧館を探しなさい! あたしはまずこっちの新館を見て回るから。んでこっちに何にもなかった時は、一度中庭で合流! んで今度はあたしが旧館で、キョンが新館をくまなく探す! それの繰り返しよ! いいわね!」 それでいい。 というかハルヒにしては珍しく理にかなった合理的な考え方だ。人によって視点が違う訳だから二つの視点で探せば、同じ場所だろうと一方が見落としたことでももう一方が見つけられるかもしれんからな。しかも二手に分かれて俺はまず旧館なんだ。これは願ったり叶ったりというやつだ。 言うと同時にハルヒは半壊状態の新館へと駆け出した。 つられて俺も旧館へ向かおうとするが―― 「そう言えば、蒼葉さんはどうするんです?」 肩越しに振り返り問う俺に、しかし蒼葉さんは背中を向けたまま校舎の反対側。グランドの方を見つめて、 「私は――こいつらの相手をする――」 ――!! 緊張感あふれる声で答えてくれた蒼葉さんの眼前では、再び、二体の青白く輝く《神人》がせりあがってきたのであった。 ハルヒがこの世界にいる限り、あの《神人》は意地でも世界を誕生させようと破壊工作に勤しむのかもしれん。 だからまた出てきたのだろう。 まあ、蒼葉さんの強さはハルヒの話からすれば古泉が集団でかからないと歯が立たないアレをたった一人で七体一度に消滅させるほどだから心配はいらないだろうが。 それよりも俺はやらなきゃいけないことがある。 向かう先は旧館三階・正式名称・文芸部室にしてSOS団の寄生部屋だ。そこのパソコンに用がある。 ほどなく到着。即座に電源スイッチオン。 ジジジ……と静かな音が流れフェーズアウトした画面に見つけた! 懐かしいこのメッセージ YUKI.N>みえてる? 予想通りだったぜ。長門なら必ず連絡を入れてくれると思っていたよ。ただ古泉が現れたなかったことが少々気になるところなのだが、今はとりあえず置いておこう。 『ああ』 俺はあの時と同じやり取りを始める。 YUKI.N>今回はこっちの世界とそっちの世界の連結が断たれる気配はない。おそらく涼宮ハルヒは二つの世界の誕生と存続を望んだ。 『なんだそりゃ?』 YUKI.N>今日、あなたも感じたはず。涼宮ハルヒの精神状態は最高レベルで維持されていたことを。ゆえに新世界を形成した。 『待て待て待て待て待て。てことは何か? ハルヒは「もう一つこういう楽しい世界がほしい」とか思って、こっちの世界を創り出したってことか?』 YUKI.N>その認識は正しい。そしてそっちの世界が誕生と同時にこっちの世界と連結される。世界が面積ではなく概念量質的に広がることを意味する。これが古泉一樹がそっちの世界に現れない理由。彼――正確には彼の所属する機関が「今回は世界崩壊の危機ではない」と判断しているため、古泉一樹はそっちの世界に行くことへの協力を拒まれている。涼宮ハルヒがこっちの世界から消える意思がない以上、情報統合思念体も気にしていない。むしろ観察対象である涼宮ハルヒの新しい情報奔流能力を見るいい機会ということで注視しているほど。 『この世界を消失させるにはどうすればいい? こっちにはそっちの世界とはまた別の世界から来た人がいる。この世界の誕生で、その世界が滅ぶと教えられた』 YUKI.N>どうにもならない。世界誕生は涼宮ハルヒの意志。涼宮ハルヒが望まない限り、その世界が消失することはない。ゆえに青白い巨人は涼宮ハルヒがそっちにいる限り無限に生まれる。 『それでも何とかしようとするには?』 YUKI.N>涼宮ハルヒをそっちの世界から消失させること。手段は問わない。 ……やっぱり、そういう結論なのか…… 俺はそれ以上、カーソルを進めることなく、がっくりと椅子の背もたれに背中を預けた。 さらにしばらく時間を置いてから、俺は中庭に降りて行った。 そこにはすでにハルヒが腕を組み、仁王立ちで俺を出迎えてくれていた。 「首尾は?」 「何も」 「なら次はあんたが新館。あたしが旧館よ」 言ってハルヒが旧館に向かおうとした矢先、 天地がひっくり返ったかと思うほどの突き上げるような地響きが俺たちを襲ったのであった。 まあ無理もない。ふと横を見てみれば、これまた突然わいてきたとしか思えない《神人》が一体、新館を後ろから破壊し始めたのである。 って、おい! こんなところまで発生してるってことは…… いやな予感を胸に、俺は新館ではなく校庭へと駆け出した! 「ちょっとキョン!」 ハルヒも付いてくる。 そして新館脇を抜け、いきなり青白い光が視界いっぱいに開けたと思った時、俺は信じられない光景を目にすることとなった。 いったいどれだけ長門とやり取りしていたかは分からない。 それほど長い時間でもなかったと思っていたのだが―― 校庭では、打ち倒された《神人》たちが校庭を埋め尽くすほど累々と横たわり、その全てが透明感をさらに薄くさせて消滅しかかっていたのである。 が、そんなものは大したことじゃない。いや、大したことではあるのだがすでに倒された分は本当に大したことじゃない! さらにその向こうにまだ数体いるのである! 「蒼葉さんは!?」 ハルヒの声で俺は周囲を見渡す。しかし彼女の姿はどこにもない! どこだ? まさか押しつぶされたとか言うんじゃないだろうな? 悲観的な想像がわき起こったりもしたのだが、 「キョン! 上よ!」 叫ぶハルヒが両手で俺を無理やり上に向かせる! んな!? そこに蒼葉さんが飛んでいた! 宙に浮いているのだ! 初めて見たが、これが魔法!? マジで使えるのか!? 信じられないのも無理ないってもんだぜ。 確かにハルヒは蒼葉さんが超能力=(表現はされていなかったが)蒼葉さんの言葉を借りるなら『魔法』を行使すると言っていたが今、目の当たりにしてもまだ信じられん! まるで漫画かゲームの世界にいるみたいだ! 「ライツオブグローリー!」 そんな俺の心の葛藤を余所に、蒼葉さんの右手から放たれた眩いばかりの光の――もうレーザー砲と言っていいだろう! とにかく光の巨大な光線が新館と旧館の間に現れた、俺とハルヒが見たあの《神人》を呑みこむ! 立て続けざまに宙に浮いたまま振り返り、 「ダイヤモンドダストスパイラル!」 ロッドを振り降ろし、放たれたのは雪の結晶が竜巻に撒き散らされている、見た目で判断させてもらうが、吹雪以上の凍てつく暴風! 《神人》数体の緩慢な動きがさらに緩慢になっていき――やがて完全に凍りつく。 そこへもう一発! 「ブレイズトルネード!」 もう一度、勢いよく振りかざしたマジックロッドから、今度は業火を渦巻く竜巻が《神人》の氷彫刻を破壊した! 再び、世界に闇と静寂が訪れて、蒼葉さんが着地する。 もうすでに校庭に倒された《神人》の屍は消滅していた。 あまりの奇想天外な出来事に俺は半ば茫然としていて、蒼葉さんの首筋に汗が滴っていることに気づきもできなかったのだが―― !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! どうやら世界の沈黙は一瞬だったらしい…… 再び、校庭の向こう側に《神人》が一体、浮腫み上がってきたのである。 涼宮ハルヒの異界Ⅲ
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~涼宮ハルヒの恋人~ 「ねぇ、キョン?」 とある秋の一日。 4限目の授業が中盤に差し掛り、俺が睡魔と空腹という二匹の魔物を相手に何とか互角に渡り合っていた最中である。 俺の後ろの席の女子生徒、つまり我らがSOS団団長・涼宮ハルヒが、 いつもの様に俺の背中をシャーペンで突いてきた。 団長様はまたトンデモ計画をお考えになったらしい。 (やれやれ…)といつもの様に思いながら 「なんだ?ハルヒ」 そう言っていつもの様に振り返る。 だがそこから先はいつもとは違った。 俺が身を捩り、ハルヒの方を向いたその刹那、 「ガタッ」という椅子の動く音と共に、ハルヒの顔が急接近してくる。 「なッ――」 俺が驚き声を出そうとしたその時、ハルヒは俺に―― …キスしていた。まうすとぅまうすだ。 そこ、早くも「アマァイ」とか言わないでくれ。 さて…人間が緊急事態に対処するにはどうすればいいんだっけか。 そうだ、まずは落ち着くことが大切だったな。 そしてもちつくには杵と臼と…もち米が必要だな。…いや待て違う。違うぞ俺。 落ち着くには…まずは状況整理だ。 1.ハルヒ俺を突く 2.俺振り返る 順番に箇条書きしてみました。 3.ハルヒ俺にキス なんだコレ?…ハルヒが俺にキス?幻覚だろ? しかし俺は幻覚を見てしまうようなアブナイ物には手を出してない。誓ってだ。 とか考えていると、ハルヒが上目遣いで顔を真っ赤に染めながら 「好き…」とか言ってきやがったな。 ここで俺はやっと事態を認識し、はっとクラスに目を向ける。 教師を含めクラス全員がこっちを向いて口を半開きにしている。 谷口に至っては上も下も全開じゃないか。 「その…付き合って」後ろから声。 俺はまたはっとなり、いつもよりか弱くなった声の主へと顔を向けた。 そこには俯いて真っ赤な顔をしたハルヒの姿がある。 「ハルヒ…?俺をおちょくってんのか…?」 訊ねた途端、目の前の完璧な美少女(性格除)はムッと不機嫌顔になり、 「そんな訳ないでしょ!さぁ、返事を聞かせなさい!10秒以内!」 と言い放った。さっきまでのか弱さが嘘のようだ。 というか告白早々ご機嫌斜めってどうなんだ、ハルヒよ。 「10…9…8…」 カウントが始まった。 しかし、本気でハルヒは俺をそんな風に思ってくれているのか? …俺はどうなんだ? 確かに今となっちゃハルヒの居ない日々は退屈で、考えられないモノなのかも知れない。 でもそれは恋愛感情とは別だろう…だが。 「5…4…3…」 あの日、閉鎖空間での出来事。 あれが何を意味するのかなんて知った事じゃないが、あの時確かに俺の中には妙な感覚があった。 その感覚が日に日に増していくのも感じたが。 それは兎も角、またあんな空間へ連れ込まれちゃたまらない。ここはちゃんとした返事をするべきだな。 「2…1…」 「あぁ、俺も好きだ」 やけにサラリと言えた。 「…本当に?…まぁいいわ、決定ね。つ、付き合いましょう」 誰か俺を世界を救う勇者だと崇めてくれ。今の俺ならりゅ○おうも楽勝で倒せただろう。ゾ○マはちょっとキツイが。 なんたって授業中の急な告白にその場で応えたんだからな…って、授業中? 俺は再びクラスの方を見た。 そこにはさっきよりも美しい表情でこっちを見つめる連中の顔が並んでいた。 しかし女子は…何やら少し視線が冷たい。 …というか、怖いから。絵的に。 そんな連中を見てもハルヒは全くお構いなしで、薄い赤に染まった笑顔をこちらに向けていた。 「やれやれ…」 キーン…コーン…カーン…コーン そうして、何だか半信半疑な状態のまま4限目の授業が幕を閉じた。 (ハルヒは本気なんだろうか…?) 俺は未だに状況を把握し切れないまま、空腹という名の魔物を退ける準備に入る。 だが、これから襲ってくるであろう空腹以上の敵が何なのかを俺が予想するのは簡単だった。 そう。俺はこの昼休み、クラスメートの鮮やかなまでの冷やかしに耐えなければならないのだ。 というか既に絶頂だ。 さて、予想通りだが谷口がニヤニヤしながら弁当を持って俺の席に近づいてくるのが見える。しかしそこは谷口。 「キョン、やるなお前!!見損なったぞ!」 お前にそっとして置いて欲しいなんて事を望んだ俺が間違いだった。 タイミングの悪さ、あからさまな日本語ミス。すべて完璧だ。 こいつは天才かも知れん。勿論分野は不明だ。 「チキンなキョンなら応えられないと思ってたんだけどなぁ」 そう言って国木田までもが笑顔で俺の席に着く。 最近こいつにも毒がある気がするな…。 「やれやれ…」 俺は今日何度目になったか分からないその言葉を呟きながら、机にかけてある鞄から弁当を取り出す。 「キョン…」 …この世に神なんて居ないな。うん。 後ろから俺を呼ぶハルヒの声。いつに無くしおらしい声だった。 今俺とハルヒが話すと会場の冷やかしムードが全盛期を迎えるだろうに。 「どうした?」 振り向くと、頬を赤らめたまま上目遣いなハルヒ。 (いつもこうしてりゃ反則的な可愛さなんだがな…) ちなみに、視界の端で谷口が思いっきりニヤニヤしている。 古泉とはまた別の意味で気持ち悪い。やめろ、やめてくれベストフレンド。 「お…お弁当作ってきてあげたから。の、残さず食べなさいよ!」 ハルヒはそう言って俺の目の前に異常なデカさの弁当箱を突きつけた。 告白直後に手作り弁当。幾らなんでも準備が良すぎだろう。いや、嬉しいが。 団長様の突然のご好意に戸惑ったのか、俺はこんなことを口走っていた。 「ちょ…お前これ量多すぎじゃないか?」 …しまった。言った後後悔した。 スマン古泉。バイトが増えるかもしれん。 何で今日に限って頭の回転が悪いんだ、俺。 それを聞いてハルヒはいつもの不機嫌顔になる。 「な、何よ…!折角あたしがキョンの為にたくさん作ってきてあげたのに…」 横で谷口が「何てことを!」という表情で口(勿論上下だ。もう注意する気にもならん)を空けたまま俺を見ていた。 国木田も「何やってんの…」という目で俺を否定している。 流石に謝るべきかもしれない。 …というか、何故クラスの皆は一方的にハルヒの肩持ちをするんだ。しかも皆心なしか俺を睨んでいる。 俺は何か妙な事やっちまったか…? 「あー…ハルヒ」 「…何よ」 ハルヒはいつもの様に俺を睨んだつもりらしいが、その表情にはどこか寂しさが見え隠れした。 「その…すまなかった」 「………」 ハルヒはまだ俺を睨んでいる。なんとその眼にはうっすら涙が溜まっていた。 あぁ、ハルヒ。お前にはそんな表情は似合わんぞ。ということで… 「弁当、貰っていいか?」と生死を分かつ大勝負に出る。 「……当たり前でしょ…米一粒でも残したら死刑だからね!」 どうやらあのままだと俺は本当に死んでいたらしい。 ハルヒは俺に死刑宣告を放ったあと、そっぽを向いてしまった。 俺がクラスメートの放つ含みの有る視線を全身で受け止めたのは言うまでもない。 ハルヒの弁当を受け取り、「やれやれ…」と、谷口と国木田の方を向く。…居ない。 二人のベストフレンドは非常に爽やかな笑顔で俺の席を遠くで眺めていた。 …なんだ?これはつまりアレか…? できればそういう気遣いはして欲しくないんだが…。 まぁこうなると半ば覚悟してしまっていた俺は、ハルヒの方に向き直る。 「…!…何よ。まだ何か用?」 いや待てハルヒ、それが数分前にできた恋人に言う台詞か? まぁ十分有り得るが。 「よかったら弁当…い、一緒に食わないか?」少し緊張してしまう。 「…ほんと?」 「え?…あぁ」 ハルヒは急に太陽の様に輝く笑顔になった。 なんだ?コイツはこれを言って貰えなくて拗ねてたのか? 「どう?あたしなりに上手くできたとは思うけど」 だろうな。普通に美味い。性格以外完璧なだけはある。口が裂けてもこんな事は言えないが。 「美味いよ。ありがとな」 「…そ」 お、照れてるなw かくいう俺も相当恥ずかしいんだが。 「じゃあこれから毎日作ってきてあげるわ。感謝しなさいよね…」 「あ、あぁ…すまんな」 「いちいち気にしなくていいわよ…馬鹿」 不機嫌な声を装いつつも、その表情は微笑んでいるように見えた。 そんなこんなで、端から見ればまさにカップルな雰囲気のまま昼食を食べ終え、今担任の岡部によるホームルームが始まったところだ。 (そういえば今日は個人懇談で四限だけだったか…) この際昼休みの存在などにツッコむのはマナー違反だ。誰にでもミスはある。居直りだ。 心なしかHR中もクラスの連中がこっちをチラチラと見ている。恥ずかしいったらないな。 しかし冷やかしも幾分大人しくなり、安堵と共に再び眠気との激闘が幕を開ける。 「ねぇ、キョン…?」 えーと………デジャヴ? 確か数分前に聞いた事があるような気がする。 まぁ正体が何なのかは分かっている。 「なんだ…ハルヒ…?」 眠気を押し退けつつ訊ね返す。 「…キスして」 どうやら俺はおかしな夢を見ているらしいな。 一応空模様を確認した――青い。閉鎖空間ではないみたいだな。一安心だ。 「すまん寝ぼけてた。もう一回言ってくれ」 「バカキョン!キスしてって言ったの!今すぐ!」 クラスの動きが止まり、教室は静寂の空間に変わる。 ハルヒが何やら叫びやがったな…内容は…あー… ―――!!! 「な、なな何言ってんだハルふぃ!」 噛み噛みだちくしょう。 「…嫌?」 …急に大人しくなりやがった。台詞だけ見た奴は長門と勘違いするかも知れない。 ハルヒは再び反則技:上目遣いで俺に挑んできたが、流石に恥ずかしすぎる。 ここは男らしく華麗にサラリと受け流す作戦で行こう。 「大概にしろ!…今はHR中だろ」 少しキツかったかもしれない、しかし現状打破にはこれしか無いんだ。スマン古泉。 (お詫び次第では許してあげない事も無いですね) 何か幻聴が聞こえたがこれも勿論無視だ。…というかどういう意味だ。 「…じゃ、放課後ならいいのね!!?」 どうやら俺の作戦は全て裏目に出てしまったらしい。 今やハルヒは調子を取り戻し、恥ずかしいことを平気で大声に出している。 脅すような裏のあるニッコリが俺を捕らえて離さない。 「…まぁとにかく、その話は後だ」 辛うじて返した言葉がこれだ。しっかりしろ俺。 「…先に帰ったら殺すわよ。バカキョン」 あのー涼宮ハルヒさん?脅してまで唇を奪う…もとい奪わせるのはどうなんでしょう? 「お前ら、イチャつくのは構わないが、大声を出すのは感心しないな」 笑い声が起こる。岡部にまで冷やかされてしまった。 明日からの授業を想像しただけで恐ろしいが、今更どうしようもない。やれやれ…。 放課後、俺はハルヒが掃除当番を終えるのを教室の外で待っている。 (今日は無茶苦茶だったな…) 今更だが自分の頬をつねってみる。 痛ぇ。やっぱりアレも夢じゃないんだよな…。 そうこうしている内に、ハルヒが教室から出てきた。 「お待たせ!じゃ部室に行きましょう」 「あぁ…」 「何よ、元気ないわね!…ほ…とに…あた…こと…きなの?」 「え?」 「………何でもないわよ!」 言ってハルヒは俯いてしまった。 何て言ったのか訊き返そうとも思ったが、ハルヒが急に不機嫌になっていたので遠慮した。 『それでは、準備が出来次第『…2人が来る』』 ガチャ… ハルヒらしくない元気の無い扉の開け方。 部室には他のSOS団が全員揃っていた。 「………」 「え…あっ、涼宮さん!遅かったですね」 いつもの三点リーダと癒しのオーラが俺とハルヒを迎えてくれた。 「うん。掃除当番。それよりみくるちゃん何話してたの?」 「ふぇ!?…な、な何でもないですよぉ~」 「そ…」 ハルヒにしては素っ気無い対話。 それにしても朝比奈さんは何をあんなに焦ってらっしゃるんだ。 さっきのアレは密談か何かだろうか。 しかしそんな妄想も一瞬で振り払われた。 古泉が、普段見せないような、冷ややかな笑みを浮かべ、俺を見つめていたのである。 「キョン君。トイレに行きませんか…?」 表情をいつもの柔和な笑みに戻し、古泉が言う。 「あ、あぁ…」 何だってんだ。今日は。 そうして俺は古泉によってトイレに拉致され、面と向かう形になり、古泉が話を切り出した。 「…あなた、涼宮さんに何をされたんです…?」 何を言い出しやがったコイツは。まさか知られてないだろうな…。 「…どういうことだ?」 「彼女のあの落ち込みよう…あなたが関わっているとしか思えないのですがね。何たって恋人な訳ですし」 知ってやがった。 一瞬、俺は銀河系の神秘を垣間見た気がした。 「…ちょっと待て古泉。お前何故それを知ってる?」 「フフフ…風のたy「嘘はいいっての」」 「そうですね。では単刀直入に申しましょう。あなたは今日、涼宮さんと恋人になったにも関わらず、 彼女の好意を素直に受けず、すこし厳しく当たってしまわれたのではないですか?例えば…」 「何言ってんだ古泉…?」 言葉とは裏腹に、一気に焦りと不安が俺を襲った。 ハルヒの不機嫌の原因は俺の行動だったのか。 というか、本当は気づいてたんじゃないか?俺。 「おやおや、あなたは真性の鈍感男ですか?…分かっているはずですね?」 …しかしここまでストレートだとはな。たった三行で。しかも俺も小学生並みの反論しかできんなんて笑い話にもならんな。 というか、一緒に弁当食ったのは不機嫌解消のネタにはならんのか。やれやれ… 「あぁ…そうだな」 「では、あなたのやるべき事ももうお分かりですね」 「あぁ…分かってる」 覚悟を決めた。 「やけに素直になりましたね。一つ僕とも愛を「断る」」 やはりHRの時に聞いた幻聴は幻聴じゃなかったのかもしれないな。 「そうですか…残念です」 本気で残念がるな、気持ち悪い。 「実は、皆さんにはもう作戦を提案してあります。僕自身はバイトで帰る、ということで」 「あぁ、すまんな」 「お礼ならk「断る」」 「そうですか…」 とりあえず嫌な予感がしたから断っといたが、「k」の先がが何なのかは考えたくもないな。 話が決まったところで俺たちはトイレから出て、今も不機嫌モードであろう我らが団長、 涼宮ハルヒの居る部室へと向かった。 作戦について小声で話し合いながら、俺たちは部室に戻った。 それと同時に古泉は何やらハルヒにだけ見えないタイミングで全員にウィンクを送った。 多分これが開始の合図なんだろう。…何故か緊張してきた。 「………」 長門は顔を上げ5mm頷く。果たして今日こいつは喋るのだろうか? 「…喋る」 喋った。 「…何、有希?」 あ、ちなみにこの台詞はハルヒの台詞だ。 最早長門と全く区別が付かんな。 「…何でも無い」 そういうと長門は読んでいた本を閉じる。 「あ、ぇと…涼宮さん!」 相変わらずの慌てっぷり。癒されます。 「何?みくるちゃん」 「今日は私と長門さんで買い物に行くので、その…ここで帰らせて頂いても…」 「…わかったわ」 朝比奈さんも相当な罰を覚悟していたのだろう。 安堵の息を漏らすのを俺は聞き逃さなかった。毎度お疲れ様です。 「じゃ、帰りますね」 「………」 「じゃあね。また明日」 ハルヒの言葉に見送られ、長門と朝比奈さんは部室を後にした。 「さて、涼宮さn「古泉君も帰るなんて言い出すの?」」 ハルヒの強い口調に古泉は少しタジったが、すぐいつもの胡散臭い笑顔を作り、 「はい…何分急なバイトが入りまして」 「…わかったわ。また明日」 「はい。では」 部室を出る時、古泉が俺にアイコンタクトで 『本当にバイトが入らなければ良いですが…』 と言っている気がした。って何で俺は古泉と眼だけで会話してんだ、気持ち悪い。 『愛・コンタクトですね!』 背筋が凍る…勘弁してくれ…。まぁ、今回は借りがあるから水に流してやるか。 さて、問題はこれからだな…。 ハルヒは相変わらず不機嫌オーラを振りまいている。 こいつの機嫌を何とかしないと、古泉に借りができてしまうな。 それどころか世界の危機に発展するかも知れない… いや、それとこれとは違う。 俺はハルヒにそんな力が無かったとして、告白を断っただろうか。 俺は「世界の為」に告白を受け入れたのか? …答えは分かりきっていた。 俺はやっぱり… 部室に戻って10分が経った。 しかし、俺自身の本当の気持ちを理解してしまってからたった数分の間で、 ハルヒはやけに遠い存在になってしまっていた。 ――恐怖。 それそのものだった。 告白は嘘だったんじゃないかと思うくらい、ハルヒの眼は死んでしまっていた。 話しかけても眼を合わせてくれない。やれやれ…甘々の予定だったのにな。 それでもここで退くわけにも行かない。 「――なぁ、ハルヒ…」 「何?」 暗く、温かみの無い返事。 入学当初のハルヒを見ているようで、俺の胸はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。 「その、一緒に帰らないか…?」 断られるかも知れない。それならこの場ででもいい。 場所なんてどこでもいいさ。兎に角2人で話をつけなきゃならない。 「………別に。構わないわよ」 奇跡的にもOKを貰えた。言ってみるものだ。 …まだ眼は合わせてくれなかったが。 俺とハルヒは互いに無言のまま、部室を片付けて足早に校門を出た。 気まずい空気だが、一緒に帰る許可を貰ったからか、もう焦りは無かった。 しかし、どう切り出したものかね…。 打ち明ける方法を必死で考えている内に、ハルヒと分かれる分岐点が近づいてきた。 …もう、いい加減にしろ俺。覚悟なんてあの時トイレで決めてたはずじゃ無かったのか? 「ハルヒ…」 「………」 返事が無い。 まぁ帰りに誘っといて一言も喋らないんじゃ、嫌われたってしょうがないよな…。 正直に申し上げて、今俺は泣きそうだ。 ハルヒが俺にとってどれほど大事な存在なのかを痛感した気がする。 「ハルヒ…俺の眼を見てくれ」 「………嫌」 その声は儚く、寂しげな涙声だった。 「頼む。少しだけでいい。お前に言わなきゃいけないことがある」 「うるさい!!」 俺はショックを受けた。目の前で俺を睨んで立つ少女は、殆ど裏声でそう叫んだのだ。 「何が『言いたいことがある』よ!!あたしが色々言ってもろくに反応もしなかったくせに!!」 「その事だ…本当にスマン。ハルヒ」 「うるさいうるさい!!本当はあたしのこと好きでも何でもないんでしょ!!」 「そんな事ない!!」 「嘘ね!!」 「嘘じゃない!!」 いつしか2人の間で叫び声が飛び交っていた。 「嘘に決まってるわ!!毎日毎日アゴで使われて、休みの日も朝から呼び出された挙句奢らされて… ………嫌いになるに…き、決まってるよね…ヒクッ…ぇう…」 「…?…ハルヒ…?」 お前はそんな事――― 「も、もうあたし、ヒクッ…帰るね…」 そう言ってハルヒは俺にまた背を向け、そのまま走り去ろうとした。 「待て、ハルヒ」 そういって俺は、その少女の細くて華奢な腕を掴んだ。 「…は、離してよ…!ぅうっ」 「そうもいかない。勘違いされたまま帰られたら俺が困るんでな」 「………」 「ハルヒ、聞け」 もしお前が居なかったら、俺は退屈な毎日に絶望してただろう。 お前が居るから、毎日が楽しい。 その為なら少しくらいの苦労は耐えられる。 それにな、ハルヒ――― ―――俺には、お前に何されても毎日笑ってられる理由があるんだぜ――― 「お前が、好きだ」 世界の為とか、そんなものはどうでもいい。昼間のとは恐らく違う、心から出た言葉。 ただ、俺は今目の前に居るお前に心底惚れちまったんだ。きっとな。 「………本当に?」 あぁ。 「本当に本当に本当なの?」 あぁ、誓ってだ。 「………キョンの馬鹿!馬鹿ばかバカ!!!」 そう言って俺の胸に顔を埋め、肩を連打しながら大声をあげて泣く少女。 涙を通して人間らしい温かみが伝わってくる。 なんだ、考えてみればハルヒだって普通の女じゃないか…。 「あたしが…ヒクッ…どんだけ寂しい思いしたと…ぇぐっ…思ってるのよ!」 「遅くなって、すまなかったな」 しばらくして、ハルヒは顔を上げた。 まだ涙をボロボロこぼしながら、それでも今までで一番の、輝く様な笑顔でこう言った。 「そうよ!遅刻した罰として、これから先ず――っと、日曜日はあたしに一日服従よ!!」 やれやれ…いよいよ俺に休暇ってもんは許されないのか…。 まぁ、それもそれでいいだろう。 やっぱり恋人になってもこいつには敵わない。 「あと…やっぱ恋人になったんだし…ね?」 ハルヒはそう言って甘えた眼で俺を見た後、猫の様に俺の腕に抱きついてきた。 笑顔のハルヒの頬ずりが、心地良かった。 それと―――SOS団の皆には大きな借りができちまったらしい…土曜日はまた俺の奢りかな。 fin