約 2,596,751 件
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5796.html
なぁ、律。覚えてる? 私は、覚えてるよ。 ……… ………… 「なあ、律」 「なんだ?澪」 「私たちもさあ…いつか恋人ができたり、結婚したりするのかな?」 「…なんだよ、急に」 「いや…なんか不安になるじゃないか。一生ひとりだったらさみしいなー…とか」 「大丈夫だろ、ほとんどの人が結婚できてるんだから」 「でも…」 「それに澪なら選びたい放題だろ。モテてたんじゃん、中学の時」 「自分の好きな人と恋人になれなきゃ意味ないだろ」 「…ま、そりゃそうだな」 「そうだよ。好きな人とじゃなきゃヤダよ」 「ん?待てよ。てことは… …自分が好きになった相手も自分のこと好きじゃなきゃダメってことか?」 「…うん」 「…」 「…」 「それ、めちゃくちゃハードル高いだろ!」 「だから心配してるんだよ!」 「ああー!私ゼッタイ無理だ!恋人も結婚もできる気がしない!」 「私もだ…」 「だいたい私のこと好きになってくれる奴なんて… …ホントにいるのかな…想像できねーよ…」 (そんなことないと思うけど…)ボソッ 「何か言った?」 「言ってない!」 「…はあ」 「…はあ」 「…」 「…」 「…じゃあさ、こうしよう」 「?」 「30歳になった時、お互いに恋人もいなくて結婚の予定もなければさ…」 「…なければ?」 「私たち二人で一緒に暮らそう!」 「縁起でもないこと言うな!」 30歳で未婚なんて、別に珍しくもない時代だけどな。 私は律の頭をはたいた。 それはいつもの光景だった。 そして、二度と戻らないしあわせな少女時代だった。 ***** 1月14日。 この冬初めて降った雪が、生まれ育った町を銀世界に変えていた。 私は桜ヶ丘に帰ってきていた。 大学を卒業して以来、お盆とお正月にさえ帰ってくることがなかった、 久しぶりの故郷。 雪がどんどん降ってくる。 コートにマフラー、耳あてまでしているのに体が震える。 こんなに寒いところだったっけ? まるで私の知らない町みたいだ。 母は迎えに行くと言ってくれたけれど、私は断った。 久しぶりの桜ヶ丘を、私は歩いて帰りたかった。 帰り道、少し寄り道をして懐かしい家の前で足を止めた。 ピンポーン。 インターホンを鳴らす。 このベルを鳴らすのは何年振りだろう?高校時代以来だから… 『はい、どなたですか?』 「あ、澪です。秋山澪です。お久しぶりです」 『澪ちゃんって…あの澪ちゃん!まぁまぁまぁまぁ久しぶりね!!今玄関開けるわね!』 ぱたぱたと家の奥から駆けてくる音がして、ガチャッと扉が開いた。 何年振りだろう。 久しぶりに会う田井中のおばさんは、相変わらず元気でキレイなままだった。 「うわぁ~澪ちゃん久しぶり!綺麗になったわねぇ…でもどうしたの、突然?」 「お久しぶりです。すみません急に来たりして…」 「何言ってるの、全然構わないわよ!何かあったの?」 「ちょっとこっちに帰ってくる用事があったものですから…律、いつも何時くらいに帰ってきますか?」 「最近忙しくしてるみたいだからね、今日もたぶん…帰ってくるのは遅いんじゃないかしら」 「そうですか…」 「ごめんね。もしかしてあの子、澪ちゃんと約束してた?」 「いや!違うんです。私も何も連絡してなくて…本当に急に帰ってきたものですから…」 「そう、悪いわね」 「いきなり顔見せてびっくりさせてやろうかなーって思って…また私の方から律に連絡してみます」 「家で上がって待っていてくれてもいいのよ?」 「いえ、でもウチで両親も待ってますから…じゃあ…」 「あ、そうだ澪ちゃん」 「はい?」 「お母さんから聞いたわよ。おめでとう」 おばさんはにっこりと笑った。 私はそれに応えるように曖昧に笑いながらお礼を言った。 律は去年の春、桜ヶ丘に帰ってきたらしい。 転勤で勤め先がこの近くになったそうだ。 元旦に届いた律からの年賀状でそれを知った。 私は律に会いに帰ってきた。 律に会うためだけに。 伝えなくちゃいけないことを伝えるために。 ***** どうやら私はまわりの人とはちょっと違うらしい、ということに気がついたのは、 大学生活も終わりに近づいた頃だった。 通っていた大学は女子大だったけれど、 高校生とは違い、さすがは女子大生。 恋人を持つ周囲の友人たちは少なくなかった。 恋愛? 私にとってそれはあくまで物語の中のお話。 自分から遠く離れたことだと思っていた。 私以外のけいおん部のメンバーも、大学に入りたての頃は私とそんなに変わらないくらいの意識だったと思う。 だって晶が高校時代の先輩とどうこう~、なんてレベルの話で盛り上がるくらいだったから。 でもまわりの環境は少しづつ変わってゆく。 部活やバイト、晶たちの高校時代の友達。 人脈が広がるにつれて、私たちも少しづつ男性と接する機会が増えていった。 2回生の夏頃だっただろうか。 私たちの中で初めに恋人ができたのは律だった。 なんだか急に私のまわりの世界が変わってしまいそうで、 とても恐ろしいことのように思えた。 けれど、まず初めに打ち明けてくれた相手が私だったこと、相手の男性は私は勿論、唯もムギも梓も知っている人だったことは、まだ救いだったかもしれない。 対バンで知り合ったその人は、元気いっぱいドラムを叩く律に惚れたんだってさ。 生まれて初めて男子に告白された律が私にこのことを相談してきたときの、 真っ青で追いつめられたような表情が忘れられない。 てっきり必修授業を落として留年でも決まったかと思った。 律は「なんて返事したらいいかわからない」って言ってたけど、 律も相手に好意を持っていることは知っていた。 私は背中を押してやった。 心の内側はバラバラになりそうだったのに、努めて平静を装い、 親身に相談に乗る頼りになる親友を演じていた。 私は律の不幸を願う人間にはなりたくなかった。 でも、精一杯の笑顔を作ろうして… 泣いた。 涙が止めらなかった。 私の泣き顔を見て律も泣き出した。 変な奴。 生まれて始めて告白されて恋人ができたっていうのになく奴があるか…バカ。 二人はうまくいっていた。 見ていてこっちが恥ずかしくなるくらい。 でも、恋人ができたからといって、 律と私たちの関係には、大した変化も見られなかった。 少しだけいっしょの時間は減ったけど、 お菓子を食べて、くだらないことおしゃべりで盛り上がって、みんなで演奏して… 律は律のままだった。 私は安心した。 律はどこにもいかない。 恋人ができたって何も変わらない。 私の隣にいてくれる。 律は私に彼のことをよく話していた。 付き合いが長くなるにつれ、主にそれは愚痴になっていったけれど、 聞かされる方になってみれば、それはのろけ以外の何物でもなかった。 律の彼からもよく、相談を受けた。 喧嘩の仲裁も何度立ち会ったか知らない。 こいつらが結婚することになったら、ご祝儀の2割くらいはもらう権利があるんじゃないかと思ったくらいだ。 唯はこう言った。 「澪ちゃんは二人のキューピットだね!」 ムギは言った。 「結婚にはご両親だけじゃなくて、澪ちゃんのおゆるしも必要ね♪」 梓は…別に何も言ってなかったかな?忘れた…。 『本当に結婚することになったら、誰より先にまず私に報告しろよ。約束だぞ』 …なんて笑いながら話を合わせて言ってみたっけ。ハハ… そしたら律の奴。照れちゃって… 『結婚なんて…先のことは…わかんねーし……』 バカ。律のバカ。バーカ。 私が二人を結びつけた。 律に恋人ができたことで、一緒にいる時間は減ったけれど、 却って親友としても結びつきは強くなった… そうだろうか? 律は律のまま、ずっと変わらない? そんなバカな。 人は変わる。律も変わる。 律の中には私の知らない律が生まれ始めていた。 私は気づいていた。 私が知らない律。 彼だけが知っている律がいること。 少しづつ少しづつ律は変わってゆく。離れてゆく。 私が二人を結びつけるほど、律は私から離れていった。 なあ、唯。私はさ、キューピットなんかじゃない。 ピエロだよ。 私は耳を塞いだ。 私の心の内側の、奥の方から響いてくる音を遮るために。 気づきかけた真実から目をそらし、 反対に深く深く奥の方にしまい込んで、 そっと扉に鍵をかけた。 ***** 3回生に進級する頃になると、みんなそれぞれに決まった恋人ができた。私にも。 他人から見れば、それは自然なことなのだろう。 私だっていつまでも高校時代の人見知りの秋山澪じゃない。 男子とだって普通に喋る。それくらい平気になった。 やさしい人だった。 一緒にいて楽しい人、私を大切にしてくれる人…それが私の恋人。 まだあの頃はウブだったから、好きだと言われるまで相手の気持ちには気がつかなかった。 彼を異性として意識したことはなかった。 ましてや付き合う相手として考えたこともなかった。 でも嫌な相手じゃなかったし、断る理由もないと思って私は首を縦に振った。 私もこの人に恋をするのだろうか? これから好きになってゆくだろうか? 私が告白を受け入れる返事を伝えると、彼は大げさに万歳して喜びを露わにした。 それから…二人で一緒に出掛けたり、手をつないだり、キスしたり、 セックスもした。 普通のカップル。「まともな」…大学生のカップルだった。 でも、それがなんだというのだろう。 昔、夢に見ていた恋物語を自分自身で体感しているような感覚は一切なかった。 いつか訪れるのではないか、と期待していた彼への恋情は、 姿を現す兆しすらいっこうに見せなかった。 大人の恋と子供が憧れていた恋は別物なの? 決まったレールの上を走るように、お約束事をこなしてゆく。 デートして、キスして、セックスをして…やがて結婚でもする、 結婚したら子を産み、育て、年をとり、死ぬ。 大人の恋とは社会的営みの、「まともな」人生の通過点でしかない…。 それが普通? レールから外れたところにある恋は存在するのだろうか? あったとして、存在を許されるのだろうか? 結婚もできず、出産もできず、周囲に祝福されず、世間に承認されず、蔑まれ…「まともに」生きていれば約束されるはずのしあわせすら手放して、それでもそうせざるにはいられない、そんな恋はあるのだろうか? 手をつないで二人で出掛けることすら憚られる恋なんて… 私にはわからなかった。 恐ろしかった。 そんなことは考えたくなかった。 みんなと同じように生きよう。 そうだ、それが「まともな」生き方だ。 私は、恋をしていなかった。 いや、恋をしたかったんだ。 「まともに」生きていくために彼に恋をしたかった。 でもできなかった。 そんな私と反対に彼は…私の「恋人」はそうではなかった。 たぶん…本当に恋をしていた。 彼は…今になって思えば…強い愛情を注いでくれていたんだと思う。 いつも私を楽しませようと精一杯頑張ってくれていた。 そして、 私が微笑むと、本当にしあわせそうに笑ってくれた。 私は人として彼に好意を持っていた。 彼となら、ずっと一緒にいてもいいかもしれない。 それくらい彼に好意を持っていたのだ。 けれど、それでも。 私は彼に恋をしていたわけではなかった。 私は「男女交際」という舞台の上で、恋人役を演じているだけだった。 あるとき彼はこういった。 『キミが何を考えているかわからない』。 彼の私に向ける熱情に対して、私の彼への態度は、実に冷静であり続けた。 次第に彼は、私の自分に対する愛情の注ぎ方に不満と不信を募らせていった。 彼は誠実だったんだろう。そして賢明だった。 私が自分に対して恋情を持っていないこと、今後も持つ可能性がないことを悟った彼は、自ら幕引きを買って出た。 どうやら私は、与えられた役を上手く演じられていなかったみたいだ。 「恋人」という役柄を上手く演じきれば、 「結婚」という次の舞台に上がることを許される。 それは世の中の約束事。 けれど私は失敗した。 こうして、大学卒業を前にして私は初めての恋人と別れることになった。 私は一滴の涙も流さなかった。 みんなは泣くこともできないくらいショックだったのだ、と思ったのか、 やさしい言葉をかけ、慰めてくれた。律は一晩中側にいてくれた。 でも私はちっとも悲しくなかったのだ。 だって私は「失恋」していないもの。 私は「まともに」生きることを願った。 外れることが怖かったから。 レールに乗って。 自然に。普通に。 「まともな」恋がしたい。 人一倍恋に憧れていたはず私は、外れることを恐れ、自分の恋に背中を向けた。 それとは反対の遠いところへ、必死に走ってゆこうとしていた。 ***** 1月14日、夜。律とのメール。 …今、桜ヶ丘に帰ってきてるんだけど、明日会えないか?… 返事はなかなか返ってこなかった。 これほどメールの返事を待ちこがれるのは、初めてケータイ電話を持ったとき以来のような気がした。 日付が変わる頃になり、ケータイがブルッと震えた。 律からの返事。 …返事遅れてゴメン!澪、帰ってきてるのか!会おう会おう!!夜なら空いてるから大丈夫だ、せっかくだしどこかでおいしいディナーでも… …何かっこつけてんだ律。普通のところでいいよ、そうだ!久しぶりにMAXバーガーはどうだ?… …えーっ!この年になって晩飯がハンバーガーって… …文句言うなよ、いいじゃないか久しぶりなんだし、高校生の気分に戻って、さ… …まぁ澪がそういうなら、じゃあ18時な、遅れそうになったらまたメールするからな!… …ああわかった、じゃあな、また明日… 律と会える。明日、律と会える。 いや、もう今日だったな。 ***** 社会に出てから、私は何人の異性と付き合っただろうか。 年齢を重ねるに連れて、どうやら私は異性の目から見てなかなか魅力的に見えるらしい、ということを学んだ。 それと同時に付き合い方、あしらい方も覚えていった。 私は恋を知りたかった。 「まともな」恋。 しあわせな恋。 私も、彼も、まわりのみんなもしあわせになる恋。 よかったね、って祝福されて、ありがとう、って返事ができる…そんな恋。 最初のときと同じように、不快ではない相手からアプローチがあったときは、なるべくそれを受けることにした。 一緒にいる時間が増えてゆく過程で、恋とは何かわかるかもしれない。 そうして何度同じことを繰り返しただろうか。 でも、どうしても私には恋ができない。 自然に恋ができない。 「まともに」恋ができない。 私が付き合った相手は、全員向こうから言い寄ってきたくせに、 別れを告げるのも全て相手からだった。 いや違った。 別れを告げることなく別の女と付き合いだした男もいたな。 比較的長く付き合ったこともある。 共に過ごした時間が長くなれば情が湧く。 たまには、この人となら結婚してもいいかもしれない、と思っていた男もいた。 でも相手はそうじゃなかった。一緒にいる時間が増えるほど、 相手の男は私の心の内にある空虚に気づいてしまったのだろう。 この女は自分を見ていない。そう気がついたのだろう。 自分と向き合ってくれない相手とはこれからも一緒にいられない。 その男も賢明だった。 学生時代に付き合った男と同じように、私が相手を見ていないこと、 今後もその可能性がないことを知って、離れていった。 確かに私は相手の男をきちんと見ていなかった。 今まで付き合ってきた男たち、誰一人とも向き合ってこなかった。 私は見つめていたのは、少女の頃、胸の中に宿った幻だけだと気がつき始めていた。 でもそれは幻。 現実になることはない。 「まともに」生きていくために、現実にするわけにも、いかない。 2
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5799.html
***** 20時ちょっと前。律から電話がかかってきた。 『悪い!今近くまで来てるんだけど、雪のせいで渋滞しちゃっててタクシー動かないんだ…悪いけど間に合いそうにない!』 「…わかった。私も急に会いたいなんて言って悪かったよ。 今後帰ってくるときは前もって連絡するようにするな」 『ホントごめんな…次はゼッタイにこの埋め合わせするから!』 それでも私は待っていた。 律はもう来ないって、わかっているのに。 私はまだ店を出る気にならなかった。 もう少し待とう。 もしかしたら律が来てくれるかもしれない。 律は近くまで来てる、って言ってた。 あと少し…あと少し待っていたら律が…。 … …… ……… ………… …………… ……………… ………………… …………………… 20時半を少し回った。律は来ない。 私は店を出た。外では雪がちらちらと降っている。 私は風邪を引いたのだと嘘をつき、仕事を休んだ。 いや、風邪気味だったのは本当だ。 やっぱり半乾きの髪をそのままに、冬空の下、あわてて帰ったのはよくなかった。 有給休暇を使うのははじめてだった。 寒いので少し早足で駅まで向かう。雪のせいか、人通りが少ない。 着の身着のまま帰郷したものだから、手袋を忘れてきた。 そのせいで、手が冷たくて仕方ない。 律の言った通り、道は混んでいる。 ついてない。こんな日に限って雪が降るなんて。 昔はいつでも一緒にいたのになぁ。 あの頃、逢いたい時に律に逢えない日がやってくるなんて想像もできなかった。 サク サク サク サク サク… サク…サク… 雪を踏みしめる足音が近づいてきたことに気がつき、私は立ち止まった。 そして空を見上げて大きく息を吸う。 それから、うつむいて息を吐き、唇をきゅっと結んで、振り返った。 「よ、久しぶりだな、律」 「うわっ!なんでわかったんだ!」 「…わかるよ。律の足音は」 「ハァハァ…エスパーかよ…せぇーっかく驚かせようと思ったのになぁー」 そう言って律はいたずらっぽく笑った。 きちんとメイクをして、カチューシャなしに前髪を綺麗に整えた律はすっかり大人の女性の雰囲気をたたえていたけれど、 笑顔は私の知る明るくてキラキラした律の笑顔そのものだった。 どれくらい走ってきてくれたのだろう。 随分と息が荒い、いくつもいくつも白い息を吐きだした。 「お、おい、大丈夫か?」 「…いや…もう…走った方が…ゼェゼェ…早いと思ってさ。 店に寄ったらもう…澪いなかったし、急げば間に合うかなーって…」 「まったくもう…無理するなよな…」 胸の奥の方から温かいものが広がっていくのを感じた。 「だって…澪に会いたかったから。 このチャンスを逃したら今度いつ会えるかわかんないし」 「おおげさだな、律は。逢おうと思えばいつだって逢えるだろ」 「何言ってんだ。けいおん部OGの集まりにもぜーんぜん顔出さないくせに。 唯もムギも梓も、みんな寂しがってるぞ」 「ああ、ゴメンな…忙しくてな…」 ずっと逢うのが怖かった。 律に逢うことで、自分の本心に気づいてしまうのが怖かった。 律だけ避けて他のみなに会う不自然をごまかすために、私はずっとけいおん部の誰とも会わないようにしてきた。 「6年振り…だったっけ?」 「7年振りだ。梓の卒業以来」 「ありゃ?そうだったっけ?…そぉかぁー私たちも年取るわけだよなぁー…」 「そうだな。でも律も大人になったな」 「そう?」 「うん。ホント。それにきれいになった、びっくりしたよ」 「…な、なんだよ急に…///誉めたって何にも出ないぞ?」 頬を赤く染めながら照れる律。こういうところは昔から全然変わらないな…。 「いいよ。何も要らない。律に逢えたんだから。私は十分だ」 「おっと、忘れるところだった。渡すものがあったんだった」 「なんだ、やっぱり誉めたお礼に何かくれるのか?」 「いや…そうじゃなくて…」 そういいながら律はカバンの中をごそごそとあさると、可愛らしくラッピングされた小箱を取り出した。 「澪、誕生日おめでとう!…はい、これ」 「え…」 「ごめんな。今日会えるってわかってたら、もっといいもの準備できたんだけど」 「プレゼント買うために寄り道してて澪に会えなかったら元も子もないところだったぜ…」 「あれ…澪?」 「あらら?」 「…あれー…泣いてるの?秋山さん?」 「泣いてない!ちょっと風邪気味なだけだ!」 「ホントかなぁー??もしかして感動しちゃったー??」 鼻をズルッとすすって私は顔をあげた。 「律のバカ」 「バカとはなんだ、バカとはー!」 バカ。こんなことされたら、もう…私… 「誕生日プレゼントなんて、もうそんな歳じゃないだろ、私たち」 「ま、そうかもな」 「…でも」 「…でも?」 「…すごくうれしい。ありがと、律」 「…へへ」 「覚えてくれてるとは思わなかった」 「覚えてるに決まってるだろ。毎年ちゃんとメールしてるじゃんか」 「…そうだったな」 言わなくちゃ。 今、言わなくちゃ。 これを逃せば、きっと一生伝えられない。 「なぁ、律」 「なんだ?澪」 「今日帰ってきたのには理由があるんだ」 「どうしたんだよ、改まって」 「約束…覚えてるか?」 「約束…」 私は覚えてるよ。 「ああ、覚えてる」 …覚えてて、くれたんだな。 「伝えたいことが…あるんだ」 「実は、私も」 まさか、まさか、ね。でも、律も…律も私と同じ気持ちなら。 「澪から言えよ」 「いいよ、律から言って」 「澪から」 「律から」 「いや、ここは『秋山さん』からでしょう!」 「学校か!バカなこというな。じゃんけんするぞ。負けたら先に言う」 「わかった。じゃーんけーん…」 「「ぽん!」」 私はグー。律は…チョキ。 「私か…」 「なんだ?伝えたいことって?」 「うん…私な…」 「うん」 「私…」 「結婚するんだ」 「…え」 「って言ってもまだもうちょっと先のことだけどな…」 「…そうか」 「まず誰よりも先に、澪に伝えたかったんだ」 「約束…しただろ?」 「…うん」私は小さく返事をした。 「あ、ちなみに相手は……」 大学時代からずっと付き合っていたらしい。 初めて付き合った相手と結婚か。よかったな、律。 「ゼッタイ別れると思ってたよ」 「うお!ひどい言い草!…ま、でも確かにアイツに私はモッタイナイかもな!」 「逆逆!愛想つかされないように気をつけろよ」 落ちてゆく気持ちを持ち上げて、必死で軽口を叩く。 足ががくがくと震えるのはたぶん、寒さのせいだけじゃない。 私、ちゃんと笑えているかな? 「おめでとう…律」 「ありがと、澪」 「よかったな、好きな人と結婚できて」 「ん…ああそうだな。ずっと…好き………だったからな」 年甲斐もなく頬を真っ赤に染める律。 いくつになっても少女のようだった。 「式では澪に何か余興をやってもらいたいなー」 「それはヤダ」 「思い出ビデオには伝説の学園祭のライブを…」 「やーめーろ」 律…律…もう手に届かないところに行ってしまうんだな…律…。 「じゃあ次は澪の番だな」 「ん?」 「いや、だから澪の番」 「何?」 「何か伝えなきゃいけないことがあるんだろ」 「あ、ああ…」 それはもう、何の意味もないことだった。 「やっぱりいいよ」 「は?なんだそれ…」 「大したことじゃないから。ちょっと律をからかいたかっただけだ」 「はぁ!?久しぶりに会ってすることかよ…」 「昔から散々からかわれてきたんだ。たまにはいいだろ?仕返ししたって」 行かなくちゃ。もうすぐ電車がやってくる時間だ。 「私はてっきり… 澪も結婚するって話だと思ってたよ」 「……知ってたのか」 「澪ん家のおばさんに聞いた」 風が。冷たい風が吹いている。 「なぁ~んで言ってくれないんだよ?」 「…別に、大したことでもないから」 「大したことだろ」 「大したことじゃないよ。結婚くらい、ほとんどの人がしてることだろ?」 「まあそりゃあ…そうだけど…さ」 伝えなくちゃいけないことは、伝えられない。 知られたくなかったことは、知られてしまった。 「お祝い…したいじゃんか」 「…ありがと」 「結婚式、日取りがかぶらないようにしないとな」 「…そうだな」 「呼んで…くれるよな?」 「…もちろんだ」 この話、やめようよ、律。こんなこと伝えるために帰ってきたんじゃないよ。 「あのさ」 「ん」 「もしかしてだけど…」 「…嫌なのか?」 「え?」 「結婚、したくないのか?」 したくないよ。 私は律といっしょにいたい。 昔みたいに律といっしょにいたい。 今ままで我慢してた分、これからずっと、側にいたいんだ。 「そんなわけないだろ」 「なら…いいけど」 言えるわけない。律のしあわせを壊したくない。 「大丈夫か?」 「何が?」 「いや、その…いろいろと。急に帰ってくるしさ。 結婚するのにちっとも嬉しそうじゃないし…心配になるだろ」 「やさしいな、律は」 大きく息を吸い込んで、吐き出して、言葉を紡ぐ。 笑顔をつくりながら。 「私は大丈夫。元気だよ」 ちゃんと、笑えているかな? 「…なあ澪」 「その…相手のこと…好きじゃないのか?」 「…」 なんで…なんで…どうして?「好き」って言えないのだろう? どうしても言えない。 やっぱりこういうときに…嘘がつけない。 だって好きじゃないもの。私が…好きなのは… 「辛かったら…結婚、やめちゃえよ」 「無理だよ、今さら」 「好きな人じゃなきゃ、イヤなんだろ」 律…あのときのこと…、覚えててくれたのか? 「逃げちゃえよ」 「できないよ」 律は私の手を握った。ぎゅっと、力を入れて強く握った。 「…つめた。凍っちゃいそう」 「…心があったかいんだよ。私は」 「ハハ…唯がそんなこと言ってたな、高校ん時だっけ?」 律は俯いてじっと手を見ている。重なった手。私と律の手。 5
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5797.html
***** 1月15日。 雪はやんでいる。 当たり前だけど今日は平日。律は仕事。 でもちょっと早めに上がってくれるみたい。 うれしいな。待ち合わせは、18時。 雪の通学路を歩く。 3年間、この道をふたりで歩いて通った。 あの頃、毎日のように見慣れた風景が、今はこんなに懐かしい。 つるっ。 うわっ。 周りをキョロキョロ見ていて足元がお留守になっていた。 凍った道に足を滑らせて危うく転ぶところだった。 そういえば昔もこんなことがあったな。 私が滑って転びそうになって、律にしがみつこうとして律まで巻き込んでふたりで転んで…。 思い出し笑いをかみころす。 今はしがみつく相手がいないんだ。転ばないように気をつけなきゃな。 少し早い時間に着いた。 律が来るまでコーヒーを一杯だけ注文して席に着く。 放課後のファーストフード店は女子高生でいっぱいだ。 大きな声で笑い、はしゃぐ彼女たち。 制服の着こなしが自分が高校生だった頃とはちょっと変わっていることに気がついて、時間の流れを感じる。 自分もかつてあの中にいた。 あんなふうに笑っていた。 昨日も今日も明日も…同じような毎日が永遠に続くように思えてならなかった。 「今」が「過去」になるなんて思いもしなかったそんな頃があった。 随分早く着いてしまった。 まだ約束の時間まで30分もある。 ぼんやりと窓の外を見やる。 また少し、雪が降り出していた。 ***** 私に好意の眼差しを向けてくる相手は、異性に限らなかった。 女子高女子大と7年間女の園で暮らしていたから、 所謂同性愛者がいることは知っていた。 けれど、私自身が同性に対して特別な感情を抱いたことはなかったし、 昔からそういうアプローチはなくなかったけれど、丁重にお断りしてきた。 私は外れることが怖かった。 私が恋をする相手は異性でなくてはならなかった。 同性が同性に恋をする…世の中にそういう恋が、愛が、存在するのだと頭で理解していても…私自身が嫌悪を抱いていないとしても…まわりはどうだろう?はたして世の中は許してくれるだろうか? 世界の多数派からこぼれ落ちた存在を許容してくれる場所はあるのだろうか? あったとしても私はそこにたどり着くことはできるのだろうか? 私は怖かった。 だから、考えることをやめた。 とにかく、深く深く気持ちを心の奥にしまい込んだ。 ***** そんな私の前に現れたのは高校時代の同級生、佐々木曜子だった。 恥ずかしい思い出を披露すると、高校時代の私にはファンクラブなるものが存在した。 結成に至った理由はここでは明かせない。 元来照れ屋だった私にとって、その存在は黒歴史。 彼女はその一員だった。 彼女が私に憧れの視線を向けていたことは知っていた。 あの日、高校卒業以来初めて会った彼女は、もう立派な大人の女性だった。 あれは偶然の出逢いだったのだろうか? あの日、直前になって約束をすっぽかされた私は、 ひとりで喫茶店でコーヒーを飲みつつ本を読んでいた。 そんなときたまたま同じ店に入ってきた高校時代のクラスメイトに声をかけられるなんて。 出来過ぎた偶然じゃないだろうか。 最初、彼女のことがわからなかった。 曜子は曖昧な笑顔を見せた私の表情を見て、そのことを悟ったのだろう。 寂しそうに笑い、高校時代にクラスメイトだった佐々木曜子だと名乗った。 「私は後ろ姿を見てすぐに秋山さんだ、ってわかったよ」 「あの頃から素敵だったけど…本当にきれいになったよね」 曜子はそういって笑った。 彼女の笑顔と言葉には、普通の女友達のものとは異なる意味合いが含まれていることを、私は感じ取っていた。 「もし、よかったら…」彼女は言った。「ちょっと映画でも見に行かない?」 どうせ予定はなくなったのだ。私は彼女の申し出を受けた。 映画はありきたりなラブストーリーだった。 映画の登場人物たちは、どうしてこんなに…自然に…「まともな」恋ができるのだろう。私にはわからない。 まったく持って退屈な展開。 眠たくて仕方がなかったけれど、さすがにそれは誘ってくれた曜子に悪い。 うつらうつらしながらも、寝落ちしないように2時間をやり過ごした。 「退屈だった?」 「え?いや、そんなことなかったよ」 どうやら曜子にはバレていたらしい。 「うそ。秋山さん、寝てたじゃない」 「あ…ごめん」 「ううん、いいの。だって私が無理に誘ったんだし。でも意外」 「なにが?」 「だって、秋山さん。こういうラブストーリー好きかなって思ってた」 十年だぞ。 人が変わるには十分すぎる時間だ。 でも、高校時代の私は、いつかこんな映画みたいな恋をするんだって、 当たり前のように信じていた。 「せっかく誘ったのにごめんねー…そうだ、お詫びに晩ご飯おごるよ」 「いいよ、悪いし」 「なにか予定、あった?」 「ないけど…悪いよ」 「じゃあ、割り勘でいいから付き合って。いいでしょ、久しぶりに逢ったんだし」 こんなに積極的な子だったろうか?いや…そもそも私は曜子のことはあまりよく知らなかった。 それに人は変わる。 十年だぞ? 人が変わるには十分すぎる時間だ。 断る理由のなかった私は、曜子に付き合うことにした。 なかなか雰囲気のあるレストランでディナーを済ませると、彼女はちょっと飲み直さないかと私をバーに誘った。 もうこうなったら、最後まで付き合うつもりで私は彼女についていった。 「映画にレストラン、最後はバー。いかにも定番のデートコースね」 「…そうだな」 「相手が私で残念?彼と一緒に来たかった?」 「そんなことないよ。久しぶりに同級生に会えて嬉しい。楽しいよ」 「そう?ありがと。お世辞でも嬉しい。私も秋山さんに逢えて…嬉しい」 曜子は笑った。 彼女は笑うとき、けして私の瞳から目を離さない。 私はいまさらながらこのときに初めて、なんだか急に緊張したように胸の鼓動が早くなるのを感じた。 「顔が赤いよ、秋山さん。大丈夫?」 「うん、大丈夫。そんなに飲んでないから」 「そう?あまり無理、しないでね」 曜子はそういいながら、カウンターの左隣りに座った私の背中をさすってくれた。 その撫で方は、私の体をさわる時の男のそれとよく似ていた。 「でもちょっと残念だな」 「何が?」 「さっきの話。さらっと流されちゃったけど…恋人、いるんだね」 「まあ、ね。もういい年なんだし」 「そうよね、いるわよね。恋人くらい」 私には曜子の意図がよくわかった。 羽虫のように私に寄ってくる男たちは、こんな風に私を口説くことがあったから。 それに気づいた私は、少し意地の悪い質問をしようと考えた。 「佐々木さんは?恋人、いないの?」 「今はね」 「前はいたんだ。どんな人?」 「いいじゃない。そんなこと。もう忘れちゃった。それより秋山さんは?」 「え?なに?」 「…結婚とか…しないの?」 上目遣いをしながら曜子が尋ねる。 「うまくいけばね。でもよくわかんないかな」 「どうして?何か問題でもあるの?」 「いや別に…何もないよ。たぶんうまくいってる」 その時付き合っていた相手は、本を読むことが好きな、のんびりとして穏やかな男だった。 毎日真面目に働き、帰宅して料理を作り、洗濯を欠かさず、休みの日には部屋をきれいに掃除して整理整頓を怠らず、少しの余暇に読書を楽しむ男だった。 ときに、私をアクセサリーのように…ただ美しい女を横に携えて町を歩きたい…そんなくだらない願望を隠すこともない破廉恥な男もいたけれど、彼はそんな男ではなかった。 彼が、顔を真っ赤にして私に愛を告げてくれたことは、私にとっても嬉しい出来事だった。 いろんな男たちが(ときには女たちも)私に言い寄ってきたけれど、彼ほど真剣なまなざしを向けてくれた人はいなかったように思う。 私は素直に嬉しかったのだ。でも。 私は恋をしていなかった。 彼に恋することはできないでいた。 残酷だけれどもそれは真実だった。 彼がそれに気がついていたかどうか、私にはわからない。 けれど、彼は自分が愛されていなくても、 私が側にいてくれさえすればそれだけでよいのだ、と多くを望んでいないようにも見えた。 彼も、私と同じなのかもしれない。 私がそうであるように、彼も都合の悪い真実から目を背けていたのかもしれない。 この女は自分を愛していない、 そして自分は一生愛されることもないのかもしれない、 という疑念を封じ込めて、私と付き合っていくことができる男のように思えた。 彼となら、恋をしなくても自分の「役柄」を全うできるような気がしていた。 ちゃんと次の舞台に上がることが出来るような気がしていた。 彼となら…結婚して出産して子供を育てて…「まともに」暮らしてゆける。普通に。 恋なんて必要ないじゃないか。 私たちは必要以上に恋愛に縛られ過ぎている。 恋なんてしなくたって生きてゆける。 そう、恋をするより「まともに」生きて幸せになる方が、よっぽど大事なんじゃないか…。 恋って、どんなものなんだろう。一体、なんなのだろう。 それがわからないのだとしたら、私にとって大切なのは、「普通」をはみ出さず、「まともに」生きていくことだった。 彼はいつだって私を大切にしてくれた。 酒の付き合いもほどほどに、約束の時間に遅れたこともなく…今日がはじめてだ。 約束を違えたのは。急な仕事って言っていたけれど…。 「どうしたの秋山さん。ぼうっとして」 「ごめん、なんでもない」 「何か悩みでもあるんじゃないの?」 「ないよ、ないない」 「そう?ならいいんだけど…でも秋山さんも結婚かぁー」 「いやまだ決まったわけじゃないから」 「いずれはそのつもりなんでしょ?」 「うん。たぶん…」 「たぶん、って何よ…好きなんでしょ?彼のこと」 なんでこの歳になって、こんなときに上手にごまかすことすらできないのだろう。 私は変なところで自分に正直だった。 答えに詰まって返事の遅れた私の隙を、曜子が見逃すはずはなかった。 「…好きじゃないの?」 「そういうわけじゃないんだけど…」 「そうかしら?秋山さん、自分に嘘ついてるでしょ」 そう言って、曜子はまた私の瞳をじっと見つめた。 私の神経を逆なでした彼女の図々しい物言いに、腹が立って強い口調で言い返す。 「そんなことない。久しぶり会った佐々木さんに何がわかるんだよ」 「興奮しないで、秋山さん」 手をぎゅっと握られる。心臓を鷲掴みにされたみたいだった。 「私にはあなたの考えていることがわかるの、あなたの本当の気持ち」 「何がわかるっていうんだよ!なんでそんなことが言えるんだ!」 「わかるわ。だって私…ずっと澪のこと見てたもの」 曜子はごく自然に…まるで昔からそうしていたかのように、私を下の名前で呼んだ。 「気づいてなかった? そうよね、あの頃の澪は私のことなんて少しも見てくれなかった。 ずっとあの人のことばかり見てたもの。 でも今は違うわ。 今、私は澪を見てる。 そして澪は私を見てる。 そうね、私なら教えてあげられるわ。 澪も、澪の彼も知らない本当のあなたの気持ち。 私が教えてあげる」 曜子はそう言って、蠱惑的に微笑んだ。 獣を相手に隙を見せてはいけない。 わかっていたはずのに油断した私が悪かった。 今までまとわりついてきた獣(男共)と勝手が違うのは、 相手が同性で旧友だったことだ。 うさぎだと思っていて気を許してしまっていた。 けれど曜子は狼だった。 十年のときを経て、彼女は立派な獣になっていた。 狼は、期を見て牙をむき、私に噛み付いた。 私は振りほどくことができずそれに飲み込まれていった。 ***** 17時55分。律からのメール。 『悪い!残業が長引いて帰れそうにない!もうちょっと待ってもらっていい?』 おい。5分前に送る文面じゃないだろ。 『わかった。でも新幹線の時間があるから、待てるの20時までだぞ』 ブーッブーッ…返信早いな。 『な、なんとかその時間までには…ガンバリマス』 おい。それ、ちょっと待つじゃないだろ。まったく律の奴… でも高校時代と変わらないやりとりに、私はしあわせを感じていた。 3
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5794.html
1 2 3 4 5 NL要素あり 澪ちゃん誕生日 2015/01/15 http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421328455/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る ある意味衝撃的な誕生日ss -- (名無しさん) 2016-01-13 23 11 59 これ誕生日に持ってくるのはとも思うけど、出来はいいんだよなぁ。 -- (名無しさん) 2015-11-22 23 27 43 脇役に良いキャラがいるよね。 -- (名無しさん) 2015-04-20 01 20 00 澪はこの後どうなるんだろう… -- (名無しさん) 2015-01-28 01 50 30 この澪サイコパスっぽいな。 気の毒だけど、好きにはなれない。 曜子の方が変則的だが愛情深い。 -- (名無しさん) 2015-01-23 00 33 43 このタイトルのドラマの登場人物の冬彦さんに因んで何故豊崎愛生のニックネームに豊彦が定着した? -- (名無しさん) 2015-01-22 17 40 42 最後は律も!で終わってほしいとは思ったし、誕生日にはふさわしくないかもしれないけど、 内容自体は完成度高いと思うけどね。 -- (名無しさん) 2015-01-22 00 41 09 救われないなぁ -- (名無しさん) 2015-01-20 15 39 45 読ませる話だが、後味はよくないね。 最後は澪にとってもいい終わり方でいてほしかった。 これほど曜子が魅力的でしっかりしたキャラを持ったss も初めてだ。 -- (名無しさん) 2015-01-19 01 27 22 んー…これをわざわざ澪誕にしなくてもなぁ 普通に祝ってあげれば良いのに。 -- (名無しさん) 2015-01-18 23 27 17
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16291.html
戻る 切に完結ほしてほしいss -- (名無しさん) 2011-11-16 00 04 01 去年書きはじめたやつか、偉い古いな -- (名無しさん) 2011-11-16 00 20 43 ここまで書かないでいると完結は難しいんじゃないかな? -- (名無しさん) 2011-11-16 03 48 09 お願いですから続きを… -- (名無しさん) 2011-11-16 03 56 39 続きをぉ -- (名無しさん) 2011-11-16 05 50 08 惜しいな。 -- (通りすがり) 2011-11-16 07 02 32 おもしろい! -- (名無しさん) 2011-11-16 12 24 14 これは鬼畜澪ちゃん -- (名無しさん) 2011-11-16 14 07 53 冷たく澄んだ澪の視線は、梓の炎を逆に燃えたぎらせた。追い込まれた彼女が唯に仕掛ける甘い罠。堕ちていく梓を見つめる律の瞳は、救いとなりえるのか。すべてを見てきたムギが遂に動きだす。次回「ムギ別荘の熱い夜」。来週もサービス、サービスぅ! …と行ってもらいたいとこだ。 -- (続いてほしいってことさ) 2011-11-17 00 53 38 「悩み事がある」 「おう」 「それだけ」 「おう!?」 のやりとりで不覚にも吹いた。 まれにみる良作の予感なのに、未完はもったいないな。 -- (名無しさん) 2011-11-17 15 46 33 好き嫌いが分かれそうなのに平和な米欄、それだけ良い文章って事だよな -- (名無しさん) 2011-11-20 05 00 50 梓→澪→←唯が正しい表記では? -- (名無しさん) 2011-11-20 05 09 59 くぅ…これはマジに続きが欲しい… -- (名無しさん) 2011-12-07 01 24 09 これ本当に好きなんだ…ずっと待ってるよ -- (名無しさん) 2012-09-25 00 54 58 これは…! -- (名無しさん) 2012-09-25 03 16 41 圧倒的な文章力 -- (名無しさん) 2012-09-26 01 44 12
https://w.atwiki.jp/animefate/pages/28.html
「――――告げる」 もう、何もかもがどうだって良かった。 夜遅くに親の許可も取らず歩き回ろうとも。 寂れた工場に無断で侵入しようとも。 床に落書きしようとも、訳の分からない呪文を唱えようとも。 怪しげな儀式を、始めようとも。 どうだって良い。何がどうなっても構わない。 『君は僕を虐めてそんなに面白いのかい』 『もう、会いたくない。二度と来ないでくれ』 いっそ、何もかもがめちゃくちゃになってしまえばいい。 「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」 もしくは。 こんな馬鹿なことをして、私自身がめちゃくちゃになりたかったのかもしれない。 「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」 茫洋とした頭で呪文を唱えながら、私はどうしてこんなことをしているのかを思い出していた。 ★★★ 「お嬢ちゃん、こんな時間に一人は危ないよ」 そう言って声をかけてきたのは、見るからにホームレスと分かる襤褸布のような老婆だった。 病院から逃げてきたあと、私は何も考えられずにただ街をぶらぶらしていた。 時間感覚までもが麻痺していたのか、辺りはいつの間にか真っ暗になっている。 ここは、この街の悪いものをそのままごちゃ混ぜにしてぶちこんだ路地裏だ。 クラスの噂話では、殺人鬼が潜んでいるだとか、クスリ売りがぶらぶらしてるだとか、隣のクラスのAちゃんがここで暴漢に襲われただとか、 人という人を呪っている魔女のすみかだとか、聞いていたけど。 この老婆は、正しくそんな感じに見えた。 「今まで何もなかったのかい?運が良かったねえ。 もし一つ違う道に行ってたら今頃死ぬより辛い目にあってたかもしれないよ」 「あんたには関係ないでしょ」 突き放すように、言葉をぶつける。 彼女の緩慢な動きと、こちらを労るような、上から見下ろすような物言いに、イライラする。 昆虫みたいにギラギラ輝く目玉も、黄ばんであちこち抜け落ちている歯も、怖くなかった。今なら何だって出来そうだ。誰かに襲われるとか殺されるとか、何とも思わない。 襲えるものなら襲ってみろ。 殺せるものなら殺してみろ。 「破滅願望、なるほどねえ」 「……なによ」 ヒッヒッヒと猿のように笑いながら、老婆がこちらに近づいてくる。 もし何か危害を加えるつもりなら――■してやる。 その目玉に指を突き入れて、そこらの角材で手を、足を、身体を打ち据えてやる。 泣き叫ぼうが懇願しようが関係ない。情けも容赦も今の私には必要ない。 さあ、来るなら来い。■してやる■してやる■してやる―― 「あんた、男に振られたね」 「なっ!」 思わず、声に出してしまった。 顔面に熱が集まるのが分かる。取り繕うとしたがもう遅い。 そんな私を見て「図星だろう」と笑いながら、老婆は更に、歩を進める。 どういうことだ。もしかして私の心を――読んだのか。 分かりやすい暴力ならば理解は出来る。 だが、こういうのは……理解の範疇外の出来事は……怖い。 さっきまでの気概は何処に行ったのか、足は自然と後ろに下がっていた。 「しかも、かなりこっぴどくふられた」 「……れ」 「でも、その原因はあんたにはないね」 「……まれ」 「どうしようもない不幸のせいで、あんたは」 「――――黙れ!」 聞きたくない。 聞きたくない聞きたくない聞きたくない! 私のことはどうだって良い。 今までだって見返りも無しにCDを探したり話をしに行ったりもした。 お見舞いなんて、彼の……上条恭介の苦しみを思えばどうってことなかった。 でも。 もう、恭介の腕が絶対に治らないなんて。 そんなのは、悲しすぎる。 「良い子なんだねえ、お嬢ちゃん」 「私は……私は良い子なんかじゃ」 良い子なはずがない。 恭介のために何も出来ない私なんか、私なんか、 何の価値もない。 「何を犠牲にしても叶えたい願いが、お嬢ちゃんにはあるのかい?」 剥がれ落ちていく強がりのメッキの下に、老婆――魔女はするりと入り込んだ。 「教えてあげるよ、願いを叶える方法を」 ★★★ 「我は常世総ての善と成る者」 老婆から借り受けた魔術的道具は、今や煌々と輝きを放っていた。 魔術の実在に驚くことよりも、上手く出来たという喜びの感情が先に立つ。 これで、願いを叶えることが出来る。恭介の腕を治してあげることが出来る。 私は無力じゃない。役立たずじゃない。 私は今から――――恭介の救世主になるのだ! 「我は常世総ての悪を敷く者」 例え……何もかもがめちゃくちゃになったとしても。 例え……どんなものを犠牲にしてでも。 暗い中、携帯の明かりを使い頑張って書き上げた魔法陣の中心には、触媒が置いてある。 それは白い胴と赤い目を持った、蛇の剥製。 幾つか見せてもらった中で、何故こんな気持ち悪いものを選んでしまったのかは分からない。 理屈ではない、直感が囁いたのだ。これは、願いを叶えてくれそうだと。 「汝三大の言霊を纏う七天」 これで、 『さやかはCDを見つけてくる天才だね!』 詠唱が、 『ありがとう、さやか。実は、僕は君のことが……』 「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」 『あたしもだよ、恭介』 終わる。 「君が、僕のマスターですか」 薄い銀色の髪、にやけた顔、黒と白の着物。 そして、腰に差した日本刀。 こうしてあたし、美樹さやかとランサー、市丸ギンの聖杯戦争が始まった。 全ては、恭介のために。
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/5795.html
戻る NL長編SS んー…これをわざわざ澪誕にしなくてもなぁ 普通に祝ってあげれば良いのに。 -- (名無しさん) 2015-01-18 23 27 17 読ませる話だが、後味はよくないね。 最後は澪にとってもいい終わり方でいてほしかった。 これほど曜子が魅力的でしっかりしたキャラを持ったss も初めてだ。 -- (名無しさん) 2015-01-19 01 27 22 救われないなぁ -- (名無しさん) 2015-01-20 15 39 45 最後は律も!で終わってほしいとは思ったし、誕生日にはふさわしくないかもしれないけど、 内容自体は完成度高いと思うけどね。 -- (名無しさん) 2015-01-22 00 41 09 このタイトルのドラマの登場人物の冬彦さんに因んで何故豊崎愛生のニックネームに豊彦が定着した? -- (名無しさん) 2015-01-22 17 40 42 この澪サイコパスっぽいな。 気の毒だけど、好きにはなれない。 曜子の方が変則的だが愛情深い。 -- (名無しさん) 2015-01-23 00 33 43 澪はこの後どうなるんだろう… -- (名無しさん) 2015-01-28 01 50 30 脇役に良いキャラがいるよね。 -- (名無しさん) 2015-04-20 01 20 00 これ誕生日に持ってくるのはとも思うけど、出来はいいんだよなぁ。 -- (名無しさん) 2015-11-22 23 27 43 ある意味衝撃的な誕生日ss -- (名無しさん) 2016-01-13 23 11 59
https://w.atwiki.jp/vermili/pages/1248.html
発言者:ジャハーナーラ・ベーグム 対象者:神代直 『最終章・ふたり』より、ついに明かされる神代直とナーラの接点。 ただ磨り減っていくだけだった幼い少女が、こんな風に救われたいと願った優しい日々の光景。 ―――真実は明かされる。神代直は、震災直前に本物の古雅幸を自らの手で殺していた。 やり場のない怒りと悲憤に苦しむ直は、ナーラの言葉により自分は一度震災に巻き込まれた後、再生させられたのだと知る。 それに対し彼は、「なぜ生き返らせた、なぜ死なせたままにしてくれなかったのか」と激しい怒号を浴びせるも――― 知性群体の巫女となった褐色の少女は、表情一つ変える事無く、ひどく穏やかな声でその答えを告げる。 『ナオとサチに、人類のお手本になって欲しかったからだよ』 『ずっと、二人を見ているのが好きだったから。この世で一番、幸せそうな二人だったから……』 薄汚いアパートの一室で、養親からの過酷な性的虐待に曝される、ナーラという少女が経験した地獄の日々。 ───それでも、彼女には部屋の窓から見える景色の中で大好きなものが一つあった。 “それは毎日決まった時間に、土手の上の通学路を自転車で通る男の子と女の子の姿” 『それが、ナオとサチだったの。まるで、天国の景色を見ているみたいだった。“私”と同じ世界に生きている人間だとは思えなかった』 “自分の現実では、決して見ることも触れることもできない、心の底から善なるもので満たされた人間の優しい笑顔” “それがこの世にあると確かめられることが、地獄の日々の中で唯一の慰めだった” そして、虚空からの使者とリンクしたナーラは……祈った 『だから、人類を融合同化する基準点を選ぶなら、あの二人こそがいいと思った。 “私”の大好きだったあの笑顔なら、きっとこの星すべての心を幸福(サチ)で染め上げてくれるだろうから』 だが、時計の針は、もう戻る事はない。致命的なものを掛け違ったままに。 この作品ひたすら間が悪すぎるんだよなぁ -- 名無しさん (2020-07-06 18 48 31) 間に合ったな -- 名無しさん (2020-07-06 19 01 09) 全く間に合ってないんだよなぁ -- 名無しさん (2020-07-06 19 48 49) ピタゴラスイッチの如く間の悪いの連鎖だからなぁ -- 名無しさん (2020-07-08 17 58 18) うんうんこれも綾模様だね♪ -- 名無しさん (2020-07-08 18 49 45) 幸先輩も万全の状態で生き返らせてやってよォ -- 名無しさん (2020-07-08 19 47 22) ↑ナーラちゃんがガチ百合属性持ちならワンチャン・・・でも今度は直が消えるけど -- 名無しさん (2020-07-08 23 58 05) ナーラが選んだのは二人だった、だけど基準として設定できるのは一個体のみだった 直が基準として確定できたのは運命の悪戯というか、邪神の采配というか…… -- 名無しさん (2020-07-09 00 28 06) 男女に関わる悲劇というと昏式さんぶっちぎってるよね。双血しかりこれしかりマゴベイしかり -- 名無しさん (2020-07-09 10 38 11) 確かに。このラインの原点たるヴァーミリアンも相当な気がするなぁ…三本指のオリジン的に -- 名無しさん (2020-07-09 19 44 42) 直死んだら死んだで結局最後の独白が私は1人で生きていくに変わるだけなの本当ひどい -- 名無しさん (2020-07-09 19 45 53) 実際ホントに「ナーラが見てた」時の二人は幸せだったんだけどねえ…… -- 名無しさん (2020-07-10 03 16 46) まあどのタイミングで誰を選ぼうが群体の乱暴さ考えると世界滅ぶというかむしろ人類が人間として生き残れる数少ない状態だったと言えるかも。え、なんの救いにもならない? 俺もそう思う -- 名無しさん (2020-09-12 13 59 54) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ercr/pages/2211.html
発売日 2020年10月30日 ブランド アトリエさくら タグ 2020年10月ゲーム 2020年ゲーム アトリエさくら キャスト 夢月やみ(花村愛佳) スタッフ 企画:アトリエさくら シナリオ:づか キャラクターデザイン/原画:かん奈 プログラム:タンタン、タタン スクリプト:5島縣痔 デバッグ:ALLアトリエさくらスタッフ CG彩色:睦月山羊,あつお,ネタミビト,hira,武藤采,めろ☆かつし 背景/システムグラフィック:睦月山羊 パッケージ彩色:睦月山羊 BGM:Water apple,project lights,A.F.D.K(Rave In Groove),七星音男 音声製作:AG-promotion 音声収録ディレクター:小中大 音声制作担当:池田大輔 広報:木霊 スペシャルサンクス:アイチェリーPG開発チーム,有限会社ポジション,おんぼろ月 プロデューサー:木霊 ディレクター:バリバリバルカンパンツ
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/3937.html
光が広がって――――― 気が付くと初音ミクは見知らぬ空間に居た。 無論、五体満足でであり、身体に目立った外傷はない。 ただ呆然としてミクはそこにいた。 しかし、彼女は死んだ筈ではなかったのか。 ガンダムMK-2のビームライフルを受けて、その命を呆気なく散らしたのは紛れも無い事実だ。 けれど、彼女は現にそこに居る。 それもまた事実なのだ。 「ここ……は?」 「さぁ、私にも分からないわ」 思わず呟いた疑問の声だったが、返答があった。 声のした方向を見ると、そこには先ほどまで行動を共にしていた長髪の女性が居た。 「ティア……さん」 彼女に少し思う所があるミクは複雑な心境でそう口を開いた。 見た限りティアはこの場でも冷静で、相変わらず気軽に接することができそうにない。 そんなティアの態度に精神的疲労を感じていたミクは、彼女の存在に僅かながら苛立ちを感じていた。 有り大低に言えば、好きになれそうにない、ということだった。 「少なくともさっきまでの空間とは違うわね。 クリフォトという訳でもなさそうだし。少なくとも私はこんな場所は知らないわ」 そんなミクの心情を知らずか、あくまで冷静にティアは告げる。 その視線の先にあったのは、空。 つられてミクも見てみると、 「あっ……」 そこには0や1という数字が縦横無尽に走る、見ようによっては幻想的とも言える光景が広がっていた。 奇妙な光景だが、ミクが驚いたのはそんなことではない。 その光景にミクは――見覚えがあったのだ。 「私は……確か、ここで生まれて……」 「え?」 ミクが譫言のように呟いた言葉をティアが聞き返そうとした時、 GAOOOOOOOOOOOOO! 鼓膜を揺さぶる痛烈な咆哮が場に響いた。 驚いて振り向くと、そこには 「恐……竜……?」 恐竜、という表現が最も似合う何かが居た。 そいつは何故だか怒り狂ったように咆哮していて、その鋭い眼光をこちらに向けている。 その姿に今この状況など忘れて、二人は恐怖を感じた。 「ななななな何だか、怒ってますよ。 わ、私は別に何もしていませんよぉぉぉぉ!」 「モンスターに話なんて通じないわ。 とにかく逃げるわよ」 そう言って、ティアはミクの手を引いて走り出した。 詠唱時間さえ稼ぐことができれば、譜術で対抗できるかもしれないが、ミクにそこまで求めるのは酷だろう。 そう判断して、ティアは逃走を選んだ。 しかし、相変わらず訳がわからなかった。 ここは果たしてどこなのだろうか。あのモンスターは一体何なのか。 そんな疑問を胸に抱きながら、ティアは走った。 彼女にはあずかり知れぬことだが、モンスターは名をティラノモンと言い、デジモンという種類のモンスターだった。 デジモンはデータの生物であり、そして溢れる0や1。 それらから予想されるこの世界の正体は一つ。 電脳世界だ。 彼女達は現実世界でビームに包まれた瞬間、近くにあったパソコンを通して電脳世界に迷い込んでしまったのだ。 しかし、平沢唯の手によって(正確には足だが)電脳世界は消されたのではなかっただろうか。 否、平沢唯がやったのは民家のパソコンの電源を落とす、ということでありそれだけではインターネットには何も影響はない。 つまり、消滅したのはその民家のパソコンの電脳世界であり、他の電脳世界は依然として存在しているのだ。 そういうことにしておこう。 そして、電脳世界が残っているということは彼らも…… 「花散る天幕<ロサ・イクトゥス>!」 「舞武!」 二つの声が響き、次いで鋭い斬撃の音がした。 ティアが振り向くとそこでは、赤い男装を着た女性と橙の服の少年が剣を振るっていた。 突然の不意打ちに怯むティラノモン。 その隙を逃さず、二人は追い撃ちを掛ける。 そして 「喝采は万雷の如く<バリテーヌ・ブラウセルン>」 赤い女性が外国語らしきややこしい技を放ち、ティラノモンは撃破された。 【ティラノモン@デジモンシリーズ 死亡確認】 何だかよく分からないが助かったらしい。 ミクとティアは安堵の溜息を着いた。 「ふぅ、終わったか」 するとどこからか、気だるげな声と共に別の少年が現れた。 彼は危機は去ったというのにやたら険しい顔をしている。 「さて、トイレを探そう」 「まだそんなことを言っているのか。 少しは我慢しろ」 少年の言葉に赤い女性が冷たく言葉を返した。 それを橙の少年がまぁまぁと諌めながら、ティアとミクに話しかけた。 「大丈夫ですか?」 「ええ、別に怪我はないわ」 そうして二つのパーティが接触し、情報交換に至った。 先ず、ここは電脳世界だということ。 次にトイレを探していた少年はキョンと呼ばれているらしいこと。 赤い女性はセイバー、と呼べば良いとのこと。 をミクとティアは聞かされ、同時に自分達の境遇も話した とはいえ、彼らのことを完全に信用していないティアは最低限のことしか語らなかったが。 ちなみにキョン、セイバーの両名ともに平沢唯によって消滅させられていたが、それはあくまで一部の民家のPC内の話だ。 そういうことに(ry 「そろそろ私達も別れた方が良いわ。 五人でいると首輪を何時爆発させられるか分からないわよ」 実はもうその制限は解除されてるのだが、戦闘のせいで放送が聞こえなかった彼らはそのことを知らなかった。 という訳で別れることに。 「そうだね。ところで……パーティ編成はどうしよう。 必然的に2:3ってことになるけど」 「……私はそのお姫様とは性格的に一緒に居られそうにないわね」 「余は姫ではない。王だ」 「同じことよ。まぁ無駄な軋轢を避ける為にも別れましょう」 と軽く議論が交わされた後、彼らは二つに別れた。 一つはティアとキョンの二人。 もう一つは―― 「カイトさん、で良いんですよね」 ミクとセイバー、橙の少年カイト、の三人だ。 ミクはティアに苦手さを感じていた為に別れることになった。 結果、こうして三人でパーティを組むことになったのだった。 「私、KAITOっていう名前の兄が居るんです」 「へぇ、僕と同じ名前なんだ」 【一日目・2時10分/電脳世界/天候・果たして電脳世界にそんなものがあるのか】 【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】 【状態】腹痛(大) 【装備】なし 【道具】不明 【思考】 1:トイレを探す。 【ティア・グランツ@テイルズオブジアビス】 【状態】健康 【装備】ナイフ 【道具】支給品一式 その他不明 【思考】 基本:殺し合いからの脱出 1:電脳世界から出る 2:知り合いを探す 【初音ミク@VOCALOID】 【状態】精神疲労 【装備】逆刃刀@るろうに剣心 【道具】支給品一式 他不明 【思考】 1:電脳世界から脱出する 【セイバー(ネロ)@Fate/EXTRA】 【状態】健康 【装備】赤セイバーの剣@Fate/EXTRA 【道具】不明 【思考】 1:奏者を探す。 【カイト@.hack】 【状態】健康 【装備】ツインダガー@モンスターハンター 【道具】不明 【思考】 1:殺し合いから脱出する。