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「小僧、いい涙だぁ 三途の川にはそれが必要なんだよぉ」 【名前】 ナミアヤシ 【読み方】 なみあやし 【声】 戸部公爾 【登場作品】 侍戦隊シンケンジャー 【登場話】 第四幕「夜話情涙川(よはなさけなみだがわ)」 【所属】 外道衆 【分類】 アヤカシ 【得意武具】 青竹断割槍(あおだけだんかつそう) 【伝承のルーツ】 水虎 【モチーフ】 大波、トラ 【他のモチーフ】 岩場、竹 【名前の由来】 波+あやし 【詳細】 うねる大波のような、岩場のトラのような姿を持つアヤカシ。血祭ドウコク曰く「気色の悪い野郎」。薄皮太夫曰く「変態」。 卑怯な事を好み、古来より人々を惑わせては騙し続け、緩やかな甘言で人間の迷いをあやし、獰猛な虚言で人間の純粋さを喰らう。 長い槍「青竹断割槍」を振り回し、大喜びで吠えながら暴れ、槍は先端が鋭い笹の葉を模し、硬い鎧にも刺さるので注意が必要とされる。 「100人の涙より1人の涙が三途の川の増水に効率的」と骨のシタリに指示され、この世に侵攻する。 祖父を亡くした少年・良太を唆していたところにシンケンジャーが駆け付け、「お楽しみはこれからだ」と言い残したまま撤退。 「大切な物(野球)を捨てれば、もっと大切な物(亡くなった祖父)が戻ってくる」と信じた良太を高所から飛び降りさせる事で、怪我を負わせる。 更に「あれは嘘だ」の一言で泣かせて喜ぶが、卑怯なやり方にブルーとピンクの怒りを買い、右半身からのトラのエネルギーと左半身からの波のエネルギーを同時に放つ「虎津波」という必殺技で攻撃するが、「明鏡止水」と「迫力満天」の同時攻撃により倒される。 その直後、二の目となる。 シンケンオーと交戦、龍折神と亀折神の連携に怯むも、シンケンオーに噛み付く事でダイシンケンを手放させるが、龍昇り脚でジャンプしたシンケンオーから分離された亀折神が突撃する「亀天空拳」という技に怯み、最期は「ダイシンケン侍斬り」を受け爆散した。 現代の伝承で『水虎』という妖怪がいるとされている。 『水虎』は川に近付いた人間に害をなす化け物らしく、ナミアヤシが「虎津波」で戦う様子が『水虎』伝承のルーツになったと思われる。 【余談】 同アヤカシが使用する「虎津波」という必殺技でスタッフが合成カットに1番苦労したらしい。 デザイナー・篠原保氏によれば、「最初に描いたアヤカシでもあり、シルエットの奇抜さと2つのモチーフの混在を明確に見せる事を狙い、当初は身体の左右で色と質感を分けていく構想だったが、諸事情でNGとなり、登場も後回しとなった」らしい(DVDの映像特典の「外道衆絵巻」より)。
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チャグマ=ダプラ chagma-dapra 別名 チャグン(chagn) 軌道 衛星の数 2 個(プダージ、ヴェシパ) 公転周期 225日12時間42分28.546560 秒(恒星年) 物理的性質 半径 3522.00 km 宇宙速度 - km/s 表面積 1億5587万4746 km2(推定値) 水面積 - km2 自転周期 21時間49分31.566720 秒(恒星年) 赤道傾斜角 - ° 年齢 約31億 年 大気の性質 大気圧 125.35 kPa 平均気温 13 ℃ 大気の組成 窒素 69.38 % 酸素 19.87 % アルゴン 4.16 % ネオン 2.93 % 二酸化炭素 0.11 % 統計 種別 母惑星 人口 54億4274万5074 人 人口密度 34.9174 人/km2 惑星チャグマ=ダプラ(檀語:chagma-dapra)とはチャグマ=ダプラ星系の第3惑星である。ニーネン=シャプチの領有する居住星であり、イェシュート(ニーネン人類)発祥の惑星(母星)でもある。同文明によって栄えた惑星であることから、チャグマ=ダプラでは歴史的な建造物が数多く保存されており、当時の工法で新しい家屋が建てられているなど伝統的景観を重要視している。 ハビタブルゾーン内のやや外側に位置しているが、温室効果ガスの濃度が高いため気温はさほど低くなく、気候はやや寒冷。一つの巨大な大陸が広がり、大草原と砂漠、湿地が特徴的な平坦な地形になっている。一部の島嶼を除いて熱帯性気候は見られない。 一つの巨大な大陸で文明が栄えたため、陸続きで、古来より戦乱が絶えなかった。 ニーネン=シャプチのガールン暦はチャグマ=ダプラの軌道を元に作成されたものである。 目次 概要 構造核 マントル 地殻 大気圏 地理 気候 衛星 歴史 関連項目 概要 チャグマ=ダプラという名称は「惑星(居住星)」を意味するダン=ラ=ハン語のchagnとダン=ラ=ハン帝国の皇族であるdan-sha-dapra(ダン=シャ=ダプラ)のdapraを合わせた合成語である。 通常、チャグマ=ダプラ出身者同士の間でチャグマ=ダプラのことを言う時、「居住星」という意味の「チャグン(chagn)」を用いることがある。また、ダン=ラ=ハン帝国時代にはチャグマ=ダプラのことをダプラ(dapra)と言う短縮名称があったが、ダプラはダン=ラ=ハン皇族のことを言うので、ニーネン=シャプチ成立以降は使われなくなった。 チャグマ=ダプラは生物の生息する惑星にしては小さく、赤道全周長が約7044kmほどしかない(参考までに、アース連邦の地球の赤道全周長は12756.274kmである)。しかしこの小ささの割には内部の密度が高く、核は鉄やニッケルだけでなく鉛や錫などの重金属で構成されているため重力は地球とほぼ変わらない。 構造 地球と同じように大気圏、地殻、マントル、核がある。 核 鉄、ニッケル、鉛、錫などの金属で構成された非常に高温の部位。 マントル 鉄、ニッケル、アルミニウム、ケイ酸塩などを主成分とする。核の熱を受けて非常に複雑に対流し、地殻変動の原動力となっている。 地殻 地殻変動により大陸が移動する。また地震も発生する。 大気圏 概ね500kmほどの層を持つ。大気圏下層では対流が起きており、雲の発生で天候が変化する。 地理 チャグマ=ダプラは地球よりも水面積率が低く、中央に大きな大陸を一つ持つ他は北極大陸等を除き島嶼になっている。これは、大陸を取り囲むプレートが赤道に向かって押し縮めているからであり、大陸周辺には海底火山群が多く見られる。また、大陸を十字に走るプレートが互いに押し合っており、十字に山脈が形成されている。十字の中心点に位置するマトゥカート山は標高10029mのチャグマ=ダプラ最高峰である。また、北半球と南半球の陸地面積の偏りが少ない。 気候 チャグマ=ダプラはチャグマ=ダプラ星系のハビタブルゾーンのほぼ外縁に位置しており、地球と比べて太陽光が弱いが、大気中のオゾン層の薄さと二酸化炭素濃度の高さから同距離の居住星よりも温暖である。また、一年を通しての気温の変化も小さく、比較的冷涼ながら過ごしやすい気候の地域の面積が大きい。 衛星 第一衛星ヴェシパと第二衛星プダージがある。ヴェシパは1ガールン暦年に約0.3cm、プダージは1ガールン暦年に約4cmほどチャグマ=ダプラに近づいている。ヴェシパの公転周期はかなり早く、強い遠心力を持っているが、プダージはそれほど早くない。 チャグマ=ダプラの二つの衛星は公転周期も自転周期も異なるため、海洋の朝夕は複雑である。 歴史 詳細はチャグマ=ダプラ/歴史を参照 古来よりイェシュート(ニーネン人類)が定住していた惑星として知られている。 イェシュートはセストナウ・アイユヴァン付近のノーアウ・ダスランヴァウ(ドウクツザルの一種)という高等霊長類から進化したとされているが、完全に立証する証拠に欠ける。一方、一部の神学者、進化生物学者らによって、古代ラフィル人の末裔または彼らの先進的技術による人工培養によって定着した可能性を挙げている。実際のところ、イェシュートの体内時計は1日(マフト)の約22時間49分ではなく、それより半途(デュワイ)ほど長い約25時間ほどであると言われており、これは惑星外生命体であるからという一種の根拠にもなっている。しかし、他居住星に植民する時のデータで約半数の被験者が2ガールン年のうちにその居住星の自転周期に合わせて体内時計の何らかの適応が起こっているというデータがあるため、一概に正しいとは言えない。 イェシュートはチャグマ=ダプラで比較的長い間(8500地球年またはそれ以上)、小康状態と戦争状態を繰り返した戦争の多い惑星であるとも言える。その一因として文明の多くが巨大なパンゲア大陸で生まれたものであるからということが挙げられる。 しかし、文化人類学的に横に広がった大陸は文明の発達を早くさせるものという学説があることから、それに比べて「チャグマ=ダプラは文明の発達があまりにも遅い」という問題点がある。そのため、過去に火山の噴火などの全球規模で文明が衰退する危機が発生していると考えられている。 また、イェシュートはチャグマ=ダプラの比較的小さい陸地面積ゆえに惑星規模での国家の統一が歴史上何度か起こっている点においても注目である。遊牧民族や海洋帝国など支配者の姿は様々であったが、その度に民族と言語の多様性に影響を与えたことが知られている。 関連項目 ニーネン=シャプチ ニーネン=シャプチの領有居住星一覧 チャグマ=ダプラの歴史 ニーネン=シャプチの記事一覧
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日本の政治検定○× 日本の政治検定四択 日本の政治検定連想 日本の政治検定画面タッチ 日本の政治検定並べ替え 日本の政治検定文字パネル 日本の政治検定スロット 日本の政治検定タイピング 日本の政治検定キューブ 日本の政治検定エフェクト 日本の政治検定線結び 日本の政治検定一問多答 日本の政治検定順番当て 日本の政治検定グループ分け
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-ゆたか「ねぇ、私達が来る前に弾いていた曲って何、今度聞いてみたいな……」 みなみ「いつでも来て、弾いてあげる」 ゆたか「ありがとう、今度聴きにいくから」 今頃に成ってそんなのを聞くなんて。 でも、もう完全に仲直りしたみたいだ。もっとも喧嘩と言うよりは意見の相違からくる意地の張り合いだったのかもしれない。それでお互い気まずくなってしまっていたに違いない。 ひより「さて、すっかり日も落ちたし、この辺りでお開きにしましょうか」 『ファ~~』 チェリーちゃんが大きな欠伸をし、前足を前に出して背伸びをした。公園を出るのを察知したみたい。 私達は辺りを見回し話しに夢中になっていたのに気が付いた。公園の街灯が点灯している。 みなみ「ゆたか、ひより、頑張って」 私とゆーちゃんは頷いた。みなみちゃんはチェリーちゃんを連れて公園を出た。私とゆーちゃんも公園を出て駅に向かう。 ゆーちゃんの決意が分った。みなみちゃんの想いも分った……いや、分っていない。みなみちゃんは私に何を忠告したかったのだろう。聞きそびれてしまった。 それにしてもつかさ先輩に憧れるなんて……私にはそれを完全に理解は出来なかった。 一人で旅をして、家を出て、全く新しい環境で、全く新しい人々の中でレストランを切り盛りしている。そこで出会った人達と共に……強さ、たくましさを感じる。 その辺りに憧れのだろうか。それとも……いや、今はまなぶとまつりさんの事を考えないと…… う~ん。頭がいっぱいになった。 帰って、お風呂に入りながら頭を整理しよう。 その日曜日が来た。頭を整理どころか何の対策も思い浮かばないまま時間がすぎてしまった。 ゆたか「おはよ~」 待ち合わせの駅前に既にゆーちゃんは居た。私を見つけるとにっこり挨拶をした。 ひより「おはよ~」 挨拶を返した。 ゆたか「コンちゃん来るかな」 心配そうに駅の改札口を見るゆーちゃんだった。 ひより「どうかな、あの時の感じからするとどっちとも言えない」 ゆたか「私、いろいろ考えたのだけど、何も思い浮かばなくて」 ひより「それはこっちも同じだよ、ただ言えるのは小手先の作戦じゃダメだね、かと言ってあまり深く掘りすぎてもダメかも」 ゆたか「それじゃ何も出来ないよ」 ひより「そうだね、何もできない……でも、それが一番良いのかもしれない、自然の流れに合わすしかないよ」 無策の策と言うのだろうか。我ながら情けない。 約束の時間を過ぎてもまなぶが現れる気配はなかった。 このまま待っていても仕方がない。 ひより「さて、行こうか」 ゆたか「え、待っていなくて良いの?」 私は頷いた。しかしゆーちゃんは納得出来ない様子だった。 ひより「まつりさんと会って、またまなぶさんが狐に戻った所を見られたらそれこそお仕舞いだよ、」 ゆたか「そうだよね、それだけは避けないとね」 ひより「だから来ないのも正解なのかもしれない」 ゆたか「それじゃ、私達だけで行こう……あ、あれ?」 ゆーちゃんは不意に建物の陰の方を向いた。 ひより「何?」 ゆたか「あれ、犬……うんん、狐だよ……さっき影が横切ったのが見えた」 私もゆーちゃんと同じ方向を見た。 ひより「何は見えないけど……」 ゆーちゃんはまた別の所に顔を向けた。 ゆたか「あ、まただ、きっとコンちゃんだよ」 ひより「どこ、どこ?」 私はキョロキョロと周りを見渡したが何も見つける事はできなった。 ゆーちゃんはゆっくりと歩き始めた。 ゆたか「今度はこっちだよ、私達を誘導しているのかも」 ひより「ゴメン、私にはさっぱり……」 私はゆーちゃんの後に付いていった。ゆーちゃんは影を追いながら歩いて行った。 ひより・ゆたか「ここは……」 影に導かれて来た所は、神社の奥にある倉庫。それは私達が最初にコンを連れてきた場所だった。 まなぶ「ごめん、街中で、人前で話したくなかったから此処に連れてきた、人気の無いここなら話が出来る」 私達の後ろからまなぶの声がする。私達は振り返った。 ひより「まなぶ……さん」 ゆたか「え、この人が?」 そうか、ゆーちゃんは人間になったコンを見ていないのか。まなぶは私達に歩いてきた。 まなぶ「結論から先に言う、今日は柊家に行かない」 ゆたか「ど、どうしてですか、正体さえ知られなければ大丈夫ですよ」 まなぶ「その正体が問題なんだ、私はまだ1日も人間で居られない、そんな不安定な状態でまつりさんと会うなんて出来ない」 ゆたか「で、でも」 まなぶ「せめてすすむと同じくらい、一週間は人間で居られるようにする、そらからだよ……一ヵ月後か、一年後か」 ゆたか「それならコンちゃんの姿で……」 まなぶは首を横に振った。 まなぶ「やっぱり犬じゃだめなんだ、人間として彼女と会いたい、そう思うようになった、それがどう言う意味かもね、私は彼女、柊まつりが好きだってこと」 ひより「す……き」 その言葉を聞いた瞬間なんとも言えない感情が込み上げてきた。 ゆたか「そうなんだ、それじゃしかがないね、ちゃんと変身できるようになってからでも遅くないかも、その時になったら手伝いを……」 まなぶ「いや、もういいよ、田村さんはもう充分に協力してくれた、あとは私だけでしたい」 そうだった。これ以上私の出る幕はない。 ひより「その通り、もう私の出来る事はここまで、後は二人の問題だよ」 ゆたか「ひよりちゃん、そんな中途半端でいいの?」 私は頷いた。 ひより「中途半端どころか、目的はそれだよ、これ以上の介入はそれこそ余計なお節介になるからね」 ゆたか「う~ん……」 ゆーちゃんは納得のいかないような表情をした。 まなぶ「それより、すすむが変な事を言い出して困っている」 ゆたか「変な事?」 まなぶ「ああ、整体院を閉めて遠くに引っ越すなんて言いだした」 私とゆーちゃんは顔を見合わせた。 ゆたか「どうして、いのりさんは諦めちゃうの」 まなぶは両手を広げてお手上げのポーズをした。 まなぶ「それは私も言った、だけどダンマリだったね、その代わりに、仕事をしすぎた様だって言っていた、そろそろ攻撃されるって……意味が分らん 人間の君達なら何か分るのではないか?」 私とゆーちゃんはまた顔を見合わせた。分るはずもない。 まなぶ「すすむは大勢の人間を治してあげているのになぜ攻撃されなければならない、小早川さんなんか初診の時とは見違えるほど元気になったじゃないか」 その言葉にピンと来た。 ひより「それは、同業者とか、他の団体から圧力がかかるのかな、整体で出来る範囲を超えて治しちゃうと怪しまれるのかも、正当な治療をしなかった…違法な 事をしたんじゃないかとか……」 まなぶ「それは、妬み、嫉妬って言いたいのか」 ひより「まぁ、そうとも言うね……」 まなぶ「人間って嫉妬深い生き物なんだな」 人間以外の人から言われると身につまされるような思いに駆りたたられる。何も言い返せなかった。 まなぶはメモ帳を取り出し書こうとしたけど止めた。 まなぶ「書き留める必要はないか、我々もまた嫉妬深いのかもしれないからな」 まなぶはメモ量を仕舞った。 まなぶ「さて、私は帰る、すすむには思い留まるよう説得してみるつもりだ、時間があったら君達も頼むよ、予定では二ヵ月後に引越しみたい」 ひより・ゆたか「はい」 まなぶは後ろを向くと狐の姿になった。そしてそのまま草むらに消えていった。狐に戻っても気を失わなくなっている。思ったよりも早くまつりさんの再会ができそうだ。 ひより「さて、私達も行きましょうか」 ゆたか「行くって、何処に?」 ひより「柊家だよ、約束しているしね」 私が歩き出してもゆーちゃんはその場に留まったままだった。 ゆたか「でも、コンちゃん、宮本さんは居ないし……」 肩を落とし落胆している様子が私にも分る。 ひより「かがみ先輩の様子もみないといけないから、泉先輩のミッション……あ」 しまった。これは内緒の話しだった。 ゆたか「……ひよりちゃん、この状況で別の依頼まで出来るの……私はそんなに頭が回らない、いのりさんと佐々木さん……私じゃ力不足だった」 ゆーちゃんは佐々木さんが引っ越すのを気にしているのか。そのおかげでミッションはスルーだ。良かった。 ひより「いや、優先順位を見誤っただけだよ、まつりさんはコンの時に基本的なコミュニケーションが取れていたからまなぶさんになっても手を掛ける必要は無かった、 私なんか必要ない位だよ、問題なのはいのりさんと佐々木さん、人間同士だけの付き合いだから手を焼く必要があった、それだけだよ、ゆーちゃんのせいじゃない」 それでもゆーちゃんは動こうとしなかった。 ゆたか「ひよりちゃんは凄いね、そんな分析まで直ぐにできるなんて、なんでそんなに切り替えが早いの……まるで図書館でいくつもの小説を代わる代わる読んでいるような、 週刊誌の漫画を好きな順番で観ているような……楽しんでいる、そんな感じにさえ見える……これも他人事だからできるの?」 ひより「え、えっと、それは~」 私ってそんなに気移りするように見えるのかな。私はまつりさんもいのりさんもかがみさんも別の物語だとは思っていない。 ひより「別の漫画とか小説とか、そんなんじゃないよ、この物語は一つ、全てはつかさ先輩の一人旅から始まった一つの物語、こう考えられない?」 ゆーちゃんは目を閉じて暫く考えた。そして目を開けて首を何度も横に振った。 ゆたか「だめ、ダメだよ、まつりさんはまつりさん、いのりさんはいのりさんだよ、それぞれ別だよ……ごめんなさい、少し考えたいの……ごめんなさい」 ゆーちゃんは走って倉庫を出て行ってしまった。そして私一人が残った。 私ってあまりに客観的に考えすぎるのだろうか。ネタを探すときとかは主観的に考えると詰まる場合が多い、だから一歩も二歩も引いて考える。 時には自分でさえも他人として考える……ゲームのプレーヤーとキャラクターと同じ関係、キャラクターを画面から操作しているからキャラクターがいくら危険な目に遭っても 悲しい出来事があっても進んでいける……泉先輩もそれに似ているように思っていたけど……従姉妹のゆーちゃんがあの反応じゃ違うのかな、やっぱり私は普通じゃないのかな……。 腕時計を見た。もう行かないと約束の時間に間に合わない。一回深呼吸をした。 それでも私は行くしかない。柊家に。 柊家の玄関の前、ゆーちゃんは見当たらない。きっと帰ってしまったのだろう。気を取り直して私は呼び鈴を押した。出てきたのはかがみ先輩だった。 かがみ「いらっしゃい」 かがみ先輩は私を見てから周りを見渡した。 かがみ「ゆたかちゃんと宮本さんは、一緒だって聞いていたけど?」 ひより「はぁ、実は諸事情がありまして……」 かがみ先輩は溜め息をついた。 かがみ「そっちも大変ね、まつり姉さんも居なくてね、急に仕事が入ったとか言って出て行ったわ……連絡する時間もなくて、ごめんなさい」 これで私の目的は泉先輩のミッションだけになってしまった。これは今までの出来事に比べればお遊びみたいなもの。かがみ先輩は彼氏とうまく行っているいみたいだし、 私の出る幕はなさそうだ。ゆーちゃんも心配だし…… ひより「そうですか、それでは今日は無しと言う事で、お手数を掛けました」 私は会釈をして帰ろうとした。 かがみ「待って、興味があるわ諸事情に、良かったら聞かせて」 かがみ先輩はドアを開けた。かがみ先輩は笑顔で私を迎えた。 ひより「……お邪魔します……」 吸い込まれるように私は泉家に入った。そしてかがみ先輩の部屋に案内された。 かがみ「宮本さんがまつり姉さんを好きだって?」 〇ッキーを食べながら驚くかがみ先輩だった。私は今までの出来事をかがみ先輩に話した。 ひより「はい」 かがみ「まぁ、分らないではないわね、宮本さんの正体がコンならばね……人間としてか……彼は本気みたいね、私はその気持ちを大事にしたい、問題はまつり姉さんが どう思っているか、それだけだわ、私から見た感じではまんざらでも無さそうよ、他に彼氏もいなさそうだし」 ひより「本当ですか!?」 私は少し声を高くして聞き返した。かがみ先輩は食べかけた〇ッキーをお皿に置いた。 かがみ「あくまで私が見た感じよ、本人に直接聞いたわけじゃない、確証はないわ」 ひより「そ、そうでした、軽率でした」 かがみ「それより、いのり姉さんと佐々木さんが心配ね」 ひより「あの、佐々木さんが整体院を辞めて、引越しするのは……」 かがみ「そうね、これも本人聞かないと真意は分らないけど、大筋、田村さんの推理で合っていると思う、確かにあの整体院は評判が良すぎたかもしれない、 そこに利害が出てきて、いろいろな事を考える族(やから)が出てくるのも確かよ……考えてみれば私達人間の方もややこしいわね……」 かがみ先輩はまたお皿に盛った〇ッキーを食べだした。 かがみ「田村さんも遠慮なく食べなさいよ、お茶も入れたし」 かがみ先輩はお菓子の盛られたお皿を私に差し出した。私はお皿を掴んだ……あれ、かがみ先輩はお皿を放そうとしない。私は少し力を入れた。しかしかがみ先輩は放そうとしない。 ひより「いゃ~、かがみ先輩、全部食べたいならそう言って下さいよ……」 かがみ先輩は何も言わなかった。しまった。禁句(タブー)を言ってしまったか。私は慌ててお皿を放した…… ひより「か、かがみ先輩?」 私の問い掛けにまったく反応しない。まるで人形の様に固まっている。 ひより「かがみ先輩、冗談はよしてください……」 全く反応がない。もっともかがみ先輩はこういった冗談はしないタイプだ。私はかがみ先輩の目の前で手を振った。反応なし。この時、事の重大さに気付いた。 ひより「かがみ先輩!!!」 ありったけの大声、そしてかがみ先輩の両肩を掴んで前後左右に激しく揺さぶった。かがみ先輩の全身が激しく揺れる。 ひより「しっかり、しっかりするっス、だめ、死んだらダメ、つかさ先輩が、ご両親が……私だって……私だって……」 なんだろう。目の前のかがみ先輩が歪んで見える。目頭が熱くなってきた。 こんな時は救急車を呼ぶのが先だっけ…… 頭はそう思っていても手ははかがみ先輩から放れなかった。 泉先輩との漫才。時には怒って、時には笑って……そんな光景が頭の中を過ぎっていく。 冷静に。 早くかがみ先輩から離れて電話を…… 別の私が私に語りかけてくる。私は我に返ってかがみ先輩を放した。そして携帯電話を取り出し119番に掛けようとした。 かがみ「ちょっと、お菓子が全部床に落ちちゃったじゃない……」 電話をする動作を止めてかがみ先輩の方を見た。かがみ先輩は何事も無かった様に床に落ちたお菓子を拾ってお皿に戻していた。 ひより「かがみ……先輩?」 かがみ先輩は私の方を見た。私の顔を見て驚いた。私の目から涙が出ていたのに気付いたのだろう。 かがみ「な、なによ、お菓子が落ちたくらいでそんな、泣くなんて……」 ひより「え、たった今、何が起きたのか分らなかったっスか?」 かがみ「何って、お皿からお菓子が落ちて……」 ひより「その前っス、よく思い出して下さい、かがみ先輩は人形みたいに動かなかった」 かがみ「あ、あぁ、そ、そうだったかしら、最近論文を書いていて徹夜続きだったから、疲れが出たのかも……」 思いついたような言い訳だった。私には嘘だと直ぐに分った。 ひより「そんな在り来りなもんじゃなかったっス、あれはどう見ても意識が飛んでいました」 かがみ先輩は残りのお菓子を全て拾うとお皿を机の上に置いた。 かがみ「田村さんには隠せないわ……最近、意識が飛ぶことがあってね……この前もゼミ途中で抗議の意味が分らなくなった……」 ひより「それは尋常じゃないっス、早くお医者さんに診てもらわないと……」 かがみ「大丈夫よ、高校受験の時もそんな事があったから、田村さん、もしかして心配して泣いてくれたの、嬉しいじゃない」 笑顔ではいるけど、いつもの笑顔とは違った。作っている。 ひより「以前、呪いにかかったって言っていましたけど、その後遺症とかじゃないっスか?」 かがみ「……そんなの、分るわけないじゃない、呪いの知識なんて全くないのよ」 やっと本音が出た。見栄っ張りもここまでくると頑固者って感じだ。皆に心配を掛けまいとしているのだろうか。 ひより「それは私も同じです」 かがみ「この事は、皆には内緒にして……」 力ない声だった。 やっぱりそう言う事だったのか。このまますんなり内緒にして良いのだろうか。呪いならお医者さんに診せても分らないだろう。仮に何かの病気だったら皆に分かってしまう。 皆に知られないように確認する方法……ある。あるじゃないか。 ひより「佐々木さんならそれが分かるかも、治療法も知っているいるかも」 かがみ「だから大丈夫だって、この話は止めましょう」 ここは折れてはだめだ。 ひより「他人の私ですら涙がでてしまった、これがつかさ先輩、ご家族、泉先輩、高良先輩だったらどうだっか想像できます?」 かがみ「つかさ……お母さん……こなた……」 さぁ、かがみ先輩、ここで想像力を使って下さい。かがみ先輩が亡くなったらどれだけの人が悲しむのか…… ひより「かがみ先輩の恋人はどうですか」 ここでダメ押しだ。 かがみ「わ、分かったわよ、白黒付けようじゃない、でも佐々木さんの所は休診中じゃないの」 やった。診てもらう気になってくれた。 ひより「それは問題ないっス」 私は携帯電話を取り出した。 かがみ「ま、まさか、今から?」 ひより「善は急げ、っス」 佐々木さんは快く引き受けてくれた。 私達はかがみ先輩の用意した車に乗って佐々木整体院に向かった。 すすむ「診て欲しいのは田村さんではないのか?」 ひより「はい、かがみ先輩です」 私は頷いた。かがみ先輩は私の後ろでやや緊張気味な様子だった。 すすむ「とりあえず診療室へ」 私達は診療室に案内された。佐々木さんは椅子を二つ用意し、私とかがみ先輩はその椅子に座った。そして佐々木さんも向かい合う形で椅子に座った。 すすむ「それで、彼女の何を診て欲しいと言うのだ?」 ひより「呪いの後遺症が無いかどうかです」 すすむ「な、なんだと?」 佐々木さんはかがみ先輩の方を見た。 ひより「時々意識が飛ぶ事があるそうです、ついさっき、一時間くらい前にも……」 佐々木さんは腕を組んで険しい顔になった。 すすむ「私は呪術に関しては専門ではない、詳しくは判らん、見た所呪いは完全に解かれているみたいだが……良いだろう、私の分かる範囲で調べてみよう」 ひより「ありがとう」 かがみ「お願いします……」 佐々木さんは立ちありかがみ先輩の目の前に立った。 すすむ「いや、そのまま、座ったままで良い、リラックスして」 かがみ先輩は目を軽く閉じた。佐々木さんはかがみ先輩の額に触れるか触れないかくらいまで手を近づけてかざした。そして佐々木さんも目を静かに閉じた。 3、4分くらい経っただろうか。自分にはちょっと長く感じた時間だった。佐々木さんは静かに目を開けた。 すすむ「……呪いは完全に消えている、問題ない」 かがみ先輩は立ち上がり得意満面の態度で私を見た。 かがみ「ふふ、だから言ったじゃない、ひより!!」 ひより「そ、そうですね、でも、良かったじゃないですか」 ひより、かがみ先輩は私をそう呼んだ。泉先輩や高良先輩を呼ぶように名前で呼んだ…… かがみ「当たり前じゃない、こんな時に病気なんかしてられない」 すすむ「ただし疲労が溜まっているのは確かだ、どうだ、私の整体を受けるが良い、休診中だから御代はいらない」 ひより「良いんじゃないですか、これを期に受けてみたら?」 かがみ「ちょっと、痛いのは……」 すすむ「私の整体はそんなものじゃない」 かがみ「それじゃ、お言葉に甘えまして……」 私は立ち上がり診療室を出て受付室でかがみ先輩を待つことにした。 かがみ先輩……泉先輩、高良先輩の親友、つかさ先輩の双子の姉、いのりさん、まつりさん、二人の姉がいる。努力家で高校時代には高良先輩に匹敵する成績までになっている。 抜け目ない性格と思いきや、泉先輩によくいじられたりするし、つかさ先輩みないなボケもたまにしたりする。裏表がはっきりした性格だ。 それゆえ、ツンデレといわれているのかも知らない。 初めて会ったのは泉先輩の紹介だった。『先輩』だったからか私とかがみ先輩は泉先輩を通してしか交流がなかった。今回だって泉先輩のミッションがなければ頻繁に会うなんてなかった。 私は何でかがみ先輩の分析をしているの。それは高校時代に既にしている。昔のネタノートを見れば書いてあるじゃない。 私は一呼吸を置いて考えた。 『ひより』なんてそんなに親しくなったのだろうか。どうして。頻繁に会っているから。それだけなら日下部先輩はかがみ先輩と私以上に会っているのに名前で呼んでいない。 何故……私を……? それとも私の考えすぎだろうか…… かがみ「ありがとうございました」 診療室からかがみ先輩の声がした。整体が終わったみたいだった。あれこれ考えているうちに時間がすぎてしまったようだ。診療室からかがみ先輩が入ってきた。 かがみ先輩を見て驚いた。肌が艶々しているように見える。顔色も良いし、表情も温泉でも入っていたみたいにスッキリしていた。 かがみ「何だろう、体が軽くなったよう……ひよりもしてみたら、体の中か洗われた様よ」 笑顔で私に整体を勧めるかがみ先輩。 ひより「休診中なのに二人もしてもらったら佐々木さんに悪いような気が……」 診療室から佐々木さんも入ってきた。 すすむ「私は一向に構わない、田村さんも疲れが溜まっているぞ」 かがみ「ほらはら、遠慮しない、受けてきなさい」 私の手を取って引くかがみ先輩。あまり乗る気はしなかった。 まてよ、佐々木さんと話せるチャンスかもしれない。 ひより「それじゃ……お願いします……」 かがみ「終わるまで待っているから」 ひより「い、いえそんな、誘ったのは私なので待っていなくても良いです……」 かがみ「車だし、家まで送るわよ」 ひより「そこまでしてくれなくとも……」 すすむ「それなら私が送ろう、この後も特に用事はない、それに見たところかがみさんより疲れが酷い、時間が掛かる」 かがみ先輩は暫く考えている。 かがみ「分かりました、佐々木さん、済みませんが後をよろしくお願いします、今日はありがとうございました」 かがみ先輩は深々と頭を下げた。 かがみ「それじゃひより、またね」 私に手を振るとかがみ先輩は外へ出て行った。この前と違ってあっさりした感じがした。引越しの件で一言二言あるのかと思ったがそれはなかった。 でもそれはそれで良いのかもしれない。質問をする人が代わっただけ。それだけの話しだ。 すすむ「それでは田村さん、診療室へ……」 佐々木さんは診療室に体を向けた。 ひより「その前に一つ聞きたい事があります」 すすむ「何かね?」 佐々木さんは立ち止まり振り返った。 ひより「コン……いや、まなぶさんから聞きました、引越しされるようですね」 すすむ「あいつ……余計な事を……」 佐々木さんは私から目を逸らした。 ひより「この整体院は街にもやっと定着しようとしているのに、どうしてですか、評判を妬む人が居るからですか?」 佐々木さんは目を逸らしたまま黙っている。 ひより「いのりさんは……好きではなかったのですか、別れてもいいのですか?」 佐々木さんは何も言わない。そんな中途半端な態度に少し苛立ちを覚えた。 ひより「何故です、それだったら何故私をまなぶの講師役なんかさせたの、直ぐに引っ越しするなら最初から真奈美さん達の仲間と一緒に行動すればよかったじゃないですか」 私は少し声を荒げた。 すすむ「何も知らない小娘が、知った風に……好き嫌いで全てが決まるわけじゃない、もう良い、帰ってくれ」 ひより「だったら教えてください、それまで帰りません」 小娘だなんて、確かに彼等の十分の一も生きていないかもしらないけど。私はもう小娘じゃない。そんな言われ方をすれば怒りもする。 すすむ「全くどいつも、こいつも柊かがみのように強情なやつばかりだ」 かがみ先輩が強情ってどうゆう事? ひより「何故かがみ先輩の名前をこんな場面でだすの、それに強情ってなんですか、佐々木さんはそんなにかがみ先輩と面識はないでしょ?」 すすむ「この前会った時、いろいろ言われたものでな……」 あの時は佐々木さんに意見を言っただけで強情とは違う。嘘を言っている。佐々木さんは何かを隠している。まさか。 ひより「まさか、かがみ先輩に何かあったの?」 そのとき佐々木さんの身体が少し揺れたように見えた。 ひより「診療室でかがみ先輩と何を話したの、私には会話が聞こえなかった、何を話話したの、呪いが完全に解けていなかったとか……」 佐々木さんは暫くしてからゆっくり私の方に向いた。 すすむ「さすが私達の正体を見破っただけのことはある、感情に任せて言った失言からそこまで分かるとは」 ひより「呪いは解けていなかった……」 すすむ「呪いならまだましだ、彼女の脳に悪性新生物がある……」 ひより「あくせいしんせいぶつ……まさかそれって」 すすむ「そう、脳腫瘍だ、それもかなりの悪性だろう、場所もおそらく外科的には取り除けまい」 目の前が急に真っ白になった。 ひより「そ、それで、さっきの整体で綺麗スッキリ治しちゃったのでしょ?」 佐々木さんは首を横に振った。 すすむ「私の整体は今まで人間から得た知識や技術を私なりに統合、改良をしたものだ、残念ながら悪性新生物には対応していない」 ひより「で、でも、かがみ先輩、あんなに肌艶も綺麗になって、健康その物だった」 佐々木さんはまた首を横に振った。 すすむ「免疫を強めるようにしたが気休めだ、進行を遅らすくらいしかできない……あともって半年くら……」 ひより「やめてー!!!」 私は両耳を手で押さえて叫んだ。この先は聞きたくなかった。 ひより「何故です、何故、かがみ先輩がそんな病気にならないといけない、呪い……呪いのセイでしょ、」 すすむ「あの呪いは脳に直接働きかけるもの、全く影響がなかったとは言えない、しかし呪われなくとも何れは発病しただろう」 身体が熱い、怒りが込み上げてきた。 ひより「だったら責任を取って、かがみ先輩がお稲荷さんに何をした、何もしていないでしょ、勝手に呪って、かがみ先輩を病気にして」 佐々木さんには何も責任は無い。それは分かっていた。だけどこう言うしかなかった。 佐々木さんは私の顔をじっと見た。 すすむ「目から水が出ているな……泣いているのか、残念ながら私達は泣くと言う心理状況を理解していない、人間になっても頭の中までは変わらないのでね、 大事な物を失った時、得た時に泣くと聞いたが……柊かがみは田村さんにとってそう言う存在なのか、親でも姉妹でもない赤の他人ではないか」 ひより「……そんな事はどうでもいいから、早く治して……」 すすむ「……治す方法はある、だが人類の技術では合成できない物質がいくつかあって……無理だ……」 ひより「もういい、何処にでも引っ越して、二度と私達の前に現れないで」 私は立ち上がった。 すすむ「彼女は自分でも分かっていたのだろう、病気の事を言ってもあまり驚かなかった、只、内緒にしてくれと言っていた……私は約束を破ってしまったな、すまない」 私はそのまま診療室を出た。 別れの言葉も何も言わない。 所詮人間とお稲荷さんはそんな関係。分かり合えるはずも無い。 何もする気がしない。気が重くなるばかりだった。大学に行っても上の空。家に帰ってもボーとしているだけ。 ときよりかがみ先輩の事を思い出しては涙を流すだけだった。 佐々木さんと別れてから一週間、そんな事の繰り返し。 自分の部屋で机に向かってペンを取っても何も描けなかった。 『ピピピーピー』 私の携帯電話に着信が入った。泉先輩からだ。いつもはメールのやりとりだけだったのに。珍しい。携帯電話を手に取った。 ひより「もしもし……」 こなた『やふ~ひよりん』 まだ半年も経っていないのにとても懐かしい声に思えた。 ひより「先輩、久しぶりっス、どうしました」 こなた『いや~最近めっきり報告が途絶えちゃっているからどうしたのかなと思ってね、かがみんのミッションは行き詰まったかな?』 そういえば最近になって何も報告していなかった。そうだ。こんなミッションなんか関係ない。もっと大事な事を言わなければ。 ひより「そんな事よりもっと大事な話があります」 こなた『なんだい改まって……』 ひより「かがみ先輩は……」 『内緒にして』 かがみ先輩の声が私の頭の中に響いた。 ひより「かがみ先輩は……」 こなた『かがみがどうしたの?』 ひより「かがみ先輩には彼氏がいるっス」 病気なんて言えない……何故、いつもの私なら話しているのに…… こなた『お、おお、その断定的な言葉、それ、それだよ、それを待っていたんだ、まぁ、だいたい想像はしていたけど、これは面白く成ってきたぞ』 声が弾んでいる。楽しんでいるようだ。 こなた『しかし、どこでその情報を仕入れたの、かがみ自らそんなのは言わないはず』 ひより「実はかがみ先輩から「ひより」って呼ばれているっス」 こなた『なるほどねぇ~かがみの信頼を得たってことか、ひよりんもやるじゃん』 ひより「い、いえ、それほどでも……」 こなた『そうそう、かがみは親しくなると呼び捨てになるんだよね、高校時代初めて会った時なんかね……』 かがみ先輩の出会いの話しを長々話す泉先輩……ゲームの話しをしている時よりも活き活きとしていた。かがみ先輩が病気と分かったらどうなるのだろうか。 私と同じようになるのかな。いや、もっと悲しむかもしれない。つかさ先輩はどうなのだろう……ますます言えなくなってしまう。 やばい。また涙が出てきてしまった。これが電話でよかった…… こなた『ちょっと、ひよりん、聞いているの?』 やばい、上の空だった。 ひより「は、はい、聞いてるっス……それよりそっちの状況はどうなんですか、つかさ先輩達と上手くいっています、例の店長さんとは?」 こなた『ふ、ふ、ふ、聞いておどろけ、私はホール長になったのだよ』 ひより「え、それは凄いっすね、おめでとうございます」 こなた『声が棒読みだよ……まぁいいや、つかさとはシフト制になってからあまり会えなくてね、同じ部屋を借りているのにおかしいよね』 なぜか素直に喜びを表現できなかった。 こなた『最近松本店長とつかさが私達スタッフに内緒で何かしているみたいだけど、まぁ、つかさの腕も上がっているからもしかしたら副店長になる打ち合わせかもね』 ひより「二人揃って凄いですね、応援しています」 こなた『ありがとう……』 『ただいま~』 携帯からつかさ先輩の声が聞こえたとても小さい声、遠くからのようだ。 こなた『お、つかさが帰ってきた、やばい、今日は私が夕食当番だった、それじゃまた連絡よろしくね』 ひより『は、はい……』 二人は私が思っていた以上に成功している。すごいな。 携帯電話を切って机に置いた。結局話せなかった…… 私は気が付いた。今までゆーちゃんに言っていたのは間違えだった。親しくなった人に対して 他人事なんて言えるはず無い。かがみ先輩の病気でそれが分かった。私はゆーちゃんの喜怒哀楽を観て弄んでいただけだった。 そう言われても反論できない。今までゆーちゃんに言ってどれほど傷ついたのだろう。バカ……私のバカ……コミケ事件からまったく私は変わっていない。 それから間もなく私は風邪をこじらせて寝込んでしまった。 もう私は何も出来ない…… 『ピンポーン』 熱はは引いた。でもまだ体はダルイ。ここ数日大学にも行けなかった。たとえ私の風邪が治ってもかがみ先輩の病気は治らない。これからどうして良いかも分からない。 普段の私なら皆に事情を話してこれからどうするか決める。だけど……それすらも出来なくなってしまったなんて。 『コンコン』 ノックの音がした。お母さんかな…… ひより「は~い」 ドアが開くとそこにはゆーちゃんが居た。私と目が合うとにっこり微笑んだ。さっきの呼び鈴はゆーちゃんだったのか。 ゆたか「おはよ~風邪をこじらせたんだって?」 ひより「まぁね……それよりいいの、大学に行かなくて」 ゆたか「ふふ、今日は日曜日だよ」 そうか日曜日なのか。曜日の感覚がなくなってしまった。あの日以来時間がとってもゆっくりに進んでいるように感じる。 ゆたか「座ってもいい?」 ひより「良いけど、風邪……うつるかもよ?」 私の警告をよそにして私の寝ているベッドの横に腰を下ろした。そして私を優しく見下ろしてじっと見つめた。 ひより「な、何……私の顔に何か付いてる?」 ゆたか「うんん、昔からお見舞いをされてばっかりだったから、こうして誰かをお見舞いをしてみたいと思っていた、ひよりちゃんが初めてになったね」 もう少しすればもう一人お見舞いに行かなければならない人が居る……そして一度入院をすれば退院することはない。 ひより「それで、その初めてのお見舞いはどう?」 私をじっと見るゆーちゃん ゆたか「ん~どうかな、分からない、もっと時間が経てば分かるかも」 ひより「そう……」 私はそれ以上聞かなかった。それ以降私は何も話さなかった。ゆーちゃんも自分から話そうとはしなかった。 朝日が窓から入ってきて部屋の温度が上がった。心地よい温度だ。このまま眠ってもいいくらいだった。そんな私の心境を知ってか知らずか、ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。 ゆたか「長居すると悪いから帰るね」 ひより「うん……お構いもしませんで、ごめんね」 ゆたか「うんん、お大事にね……」 ゆーちゃんは私に後ろを向いてドアの所まで移動して止まった。 ゆたか「ひよりちゃん、話してくれないの?」 話してくれない……何のことかな…… ひより「話すって……あぁ、お見舞いされた気分だね……なんだか上から覗かれて、恥かしいような……」 ゆたか「違うよ、もっと大事な事、何故黙っているの……かがみ先輩の事」 ま、まさか、どうしてゆーちゃんが知っている。そんな筈はない、かがみ先輩は内緒にするって言っていた。 ひより「な、なんの話しか分からない……」 ゆーちゃんはゆっくり振り返った。 ゆたか「取材の途中でひよりちゃんと別れて思った、ひよりちゃんは一人で柊家に行ったのに私は逃げてしまったって、だから、もう一度佐々木さんの所にに行ってみようと、 そう思って、行ったの……佐々木さんの整体院に、そこに佐々木さんは居なかった、でも、コンちゃん……宮本さんがいてね……全て話してくれた」 まなぶが話したのか。余計な事を……もう一人悲しむ人が増えるだけなのに。 ひより「全て聞いたのなら私から話す必要はないよ……もう私に出来る事は何もない」 ゆたか「ひよりちゃんらしくない、こんな時は、私に、みなみちゃんに、場合によっては高良先輩や泉先輩にだって話して相談するでしょ?」 ひより「だって……だって、かがみ先輩は内緒にしろって言うし、先輩の気持ちにを考えるともう何も出来ない」 また涙が出てきた。ゆーちゃんに見られないように布団で顔を隠した。足音が私に近づいてきた。 ゆたか「ひよりちゃん、溺れちゃったね……そう思ったから此処に来たの、ひよりちゃんが私を救ってくれたように」 ひより「溺れる、私が?」 ゆたか「他人事じゃないと人は救えない、そう言ったのは誰だっけ?」 私は布団を取り上半身を起こした。 ひより「救う、どうやって、お稲荷さんにだって治せない病だよ、何も出来ないよ……」 ゆたか「そうかな、私はそうは思わない、だって他人事だもん、なんでも出来る」 ゆーちゃんはにっこり微笑んだ。 ひより「え……」 ゆたか「やれるだけやって、それでダメなら……悲しいけど諦めるよ、でも、それまでは……諦めない、他人事ってこうゆう事ででしょ、ひ・よ・り」 ゆーちゃんは人差し指で私の額を突いた。 ゆたか「一人だけ、ありふれた物で化学物質を合成できるお稲荷さんが居るらしいの、今ね、コンちゃんとみなみちゃんでそのお稲荷さんを探してもらっている」 ひより「ゆ、ゆーちゃん……」 ゆたか「溺れるのはまだ早いよ、ひよりちゃん、かがみ先輩が亡くなるまではね、うんん、絶対に死なせない、そうだよね?」 ひより「そんな事言ったって……」 ゆたか「コンちゃんもみなみちゃんもひよりちゃんのおかげで手伝ってくれていると思ってる、私たちに任せて風邪を治すのに専念して……それから、 かがみ先輩の病気も治るように祈っていて……奇跡は滅多に起きないけどね、祈りや願いがないと起きないって誰かが言っていた、私もそう思う」 ゆーちゃんは腕時計をみた。 ゆたか「あっ、いけない、もう約束の時間、それじゃ、ひよりちゃんお大事に」 ひより「待ってゆーちゃん、わたし、私……佐々木さんと喧嘩してしまった……引越しを止められなかった」 ゆたか「しょうがないよ、あの状態じゃ私も同じ事をしてたかも、でもね、別れても生きてさえいれば何とかなるよ、今はかがみ先輩が優先だね」 ゆーちゃんはにっこり微笑むと部屋を出て行った。 教えたゆーちゃんに教えられるなんて……それに私がするはずだった事を先にするなんて。 ひより「ふふふ……ははは」 なぜか笑った。そしてさっきよりも大粒の涙が出てきた。この涙は大事な物を得たのか失ったのか…… 私は涙を拭かずそのまま床に就いた。何故か涙を拭きたくなった。 熱っぽいせいか頭が回らない。考えるのを止めた。 今はただかがみ先輩の回復を祈った。 私はゆーちゃんと待ち合わせをしていた。東京都内のとある駅前。 こんな所で待ち合わせは初めてだ。私もこの駅を降りるのは初めてだった。 風邪が治り私もかがみ先輩を救うために皆の手伝いに参加している。あれから何週間か経つけど目的のお稲荷さんは見つかっていない。まなぶは 以前住処だったつかさ先輩と泉先輩が住む町の神社に行ったがもぬけの殻だったと言う。お稲荷さん達は全員何処かに引っ越してしまったみたいだ。 そういえばつかさ先輩の彼氏もお稲荷さん。二人は別れたと聞いたがそれと関係あるのだろうか。 「おまたせ」 後ろから男性の声。まなぶの声。私は振り向いた。 ひより「まなぶさん……」 まなぶ「なんだい、私ではいけないような顔をして」 ひより「い、いや、ゆーちゃんと会う約束をしたものだから、意外だった」 まなぶ「小早川さんは岩崎さんと一緒に別行動してもっている、彼女達は彼の自宅に向かっている、私達は彼の仕事場に向かう、どちらかに居るはずだ」 ひより「彼って誰?」 まなぶ「もちろん私の仲間の……」 ひより「ほ、本当に、早く行こう……何処!?」 私はまなぶの手を掴み歩き出した。早くかがみ先輩の病気を治してもらいたった。逸る気持ちを抑えられなかった。 ひより「……法律事務所……」 まなぶ「そうだ、そこに私の仲間が居る、そこに居なければ小早川さんが向かっている自宅に居る」 私が思っていたのとはかけ離れた所に案内された。病院かどこかの研究所かと思っていた。 待てよ……法律事務所……って。確かかがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いていたって言っていた。 ひより「ちょっと、かがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いているって聞いたけど、これって偶然なのかな」 まなぶは法律事務所の玄関を見ながら答えた。 まなぶ「偶然もなにもない、かがみさんの彼氏だよ」 ひより「え……も、もしかして、かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……」 まなぶ「その様だな、すすむが彼女を呪いの診断をした時に微かに仲間を感じたそうだ」 かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……かがみ先輩はそれを知っているのだろうか。ややこしいとか言っている所から察するに知らないと考えた方がいいかもしれない。 まなぶ「かがみさんには悪いが尾行させてもらった、それでこの法律事務所と自宅を突き止めた」 まてよ、何故だ。何故そんなまどろっこしい事をする。 ひより「こんなコソコソしていないで直接頼めば済むでしょ、かがみ先輩の恋人なら直ぐにでも病気を治すはず」 まなぶ「いや、彼では病気は治せない、恐らく彼なら仲間の居場所を知っていると思ってね、かがみさんと一緒に居ない所を見計らって彼と会う作戦だ、 事務所から出てきたら聞くつもりだから、しばらく張り込みをしよう」 ひより「え、あ、はい……分った」 そんなにうまい話はなかったか。 それにしても、つかさ先輩、かがみ先輩、いのりさんにまつりさん。ものの見事に四姉妹がお稲荷さんと関係している。良い意味でも、悪い意味でも。 偶然かもしれない。だけどそれだけでは片付けられない運命的な何かを感じてならい。 その運命の一端に参加している私、これもまた運命なのだろうか。 そもそも私は漫画のネタ探しから始まったのが切欠だ。それだったら……つかさ先輩にしても一人旅が切欠。どちらも世間一般に珍しいものじゃない。 不思議だな……私はまなぶを見ながら考えていた。 まなぶ「……私の顔に何か付いているのか?」 まなぶは事務所の出入り口を見ながら話した。私の目線に気付いたようだ。この状況なら聞けるかもしれない。前から聞きたい質問があった。 ひより「ちょっと二つ質問いいかな?」 まなぶ「なんだい?」 彼は事務所から目を離さなかった。 ひより「何故まなぶさんは真奈美さん達ではなく佐々木さんと住むのを選んだの」 まなぶ「……人間に興味があったから……と言っておこうかな、詳しく知るには人間と暮らすしかない……人間と共に暮らしている仲間は三人いるけど、すすむが一番 一般の人間と接している人数が多いと聞いて、それで決めた、答えになったかな?」 私は頷いた。 ひより「うん……それで人間に接した感想はどうだった?」 その答えを聞くのが少し恐かった。 まなぶ「まだ調べ足りないけど……よく似ているよ私達に」 ひより「そ、そうなんだ……」 似ている……これはまた微妙な答えだな。そう言えば前にも同じような事を言っていた。 まなぶ「……それで、もう一つの質問って?」 ひより「え、ああ、まなぶさんは何故私達の手伝いをしてくれているの、嬉しいけど、そんなにかがみ先輩と親しかった訳じゃないのでは?」 まなぶ「好きな人の妹が死に瀕している……助けたいと思うのは当然じゃないのか?」 ひより「それは、そうだけど、それだけじゃないと思って」 好きな人……またこの言葉を聞くとは思わなかった。なぜかその言葉はあまり聞きたくなかった。 まなぶ「記憶を失って、コンとして飼われていた頃だった、まつりさんが仕事で散歩に行けない時などはかがみさんが代わりに散歩に連れて行ってくれた、 私を擬人化してよく愚痴を言って面白かった、それにまつりさんとは違う道を行ってくれてね、飽きさせなかった、とても他人事じゃいられないよ」 かがみ先輩の愚痴の内容も聞きたかったけど、今はそんな雰囲気ではなかった。 まなぶ「それじゃ私から質問、何故君はかがみさんを助けようとする」 ひより「へ?」 まなぶ「見るからに私よりも動機は薄いような気がするが、出身高校が同じと言うだけで血縁関係もない」 ひより「う~ん」 そう言われると……なんて表現していいのだろうか。 まなぶ「なんだ、答えられないのか、好きだからじゃないのか」 わ、え、どう言う事…… ひより「す、好きって……わ、私もかがみ先輩も同姓だし……そ、そんな百合的な展開はな……」 まなぶ「ふ、ふふ……はははは」 まなぶは事務所の方を見たまま笑った。 まなぶ「君は自分の事になると何も答えられないみたいだな、分かったよ、多分田村さんも私と同じ理由だな」 彼はは百合って意味を知っているのかな。そんなのを確認なんかできっこない。 『ピピピ』 まなぶはポケットからスマホを取り出し操作しだ。 まなぶ「君の友人からメールだ、自宅は留守なのでこっちに向かうそうだ、合流しよう……すまない、事務所の入り口を見張っていて欲しい」 ひより「はい……」 まなぶがスマホを操作している間、私が事務所の入り口を見た。 時がゆっくりと流れているように思えた。 まなぶ「彼の名は小林ひとし、彼との交渉は全て私に任せて欲しい、かがみさんの意思を尊重して病状は伏せることになった」 ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんもそれで良いのなら……」 まなぶ「もう既に打ち合わせ済」 私が風邪をひいている間に話しは進んでいたようだ。 確かにお稲荷さんとの交渉はお稲荷さんに任せた方が良いのかもしれない。 それに最初はあんなに反対していたみなみちゃんも手伝ってくれている。なによりあのゆーちゃんがあれほど積極的になるとは思わなかった。 その時、事務所の近くをゆーちゃんとみなみちゃんが通りかかった。私は携帯電話で二人を呼んだ。 みなみ「ここで張っていたの?」 私とまなぶは頷いた。 ゆたか「自宅は留守だったから多分この事務所だよ」 まなぶ「そろそろお昼だ、出てくると思う」 ゆたか「小林さん、コンちゃんは会ったことあるの?」 まなぶ「いや、会った事はない、向こうの仲間は真奈美さん以外殆ど知らない」 ゆーちゃんはまなぶをまだコンと呼んでいるのか。最初に狐の彼を見つけたのはゆーちゃんだった。あの時のイメージが強かったのか。 それにまなぶも否定していない。人間のときくらいは みなみ「何人か事務所を出入りしているけど見逃したりしない?」 まなぶ「人間になっていようが、狐になっていようが、他のに化けて居ようが、仲間ならすぐに分かる……ん?」 まなぶの目が鋭く光った。 まなぶ「彼だ!!」 私達は学ぶの目線を追った。事務所の玄関を出てきた男性。その人だろうか?? まなぶ「私と彼が会っている時は出てこないように」 そう言い残すと小走りに彼の元に走っていった。私達はその場に留まりまなぶと男性の動向を見守った。 まなぶが話しかけると彼は立ち止まりしばらく何かを話してから二人は歩き出した。私達は彼等の後を気が付かれないように追いかけた。 ひより「こっち、こっち」 小声で二人を呼んだ。 ゆたか「で、でもこれ以上近づいたら……」 ゆーちゃんは更に小さな声で答える。 ひより「大丈夫だって、それに近づかないと会話が聞こえない」 まなぶと小林さんは近くの公園の隅で立ち止まった。私達はぎりぎりまで近づいて物陰から様子を覗う。 ひとし「まさかこんな所で仲間に会えるとは思わなかった……しかし君には一度も会った覚えが無い……」 まなぶ「私は宮本なまぶ」 ひとし「あぁ、思い出した、最近生まれた子じゃないか……大きくなったものだ」 二人の会話がよく聞こえる。小林さんはまなぶを知っているのか…… まなぶ「私より若い仲間は居ないと聞いた」 ひとし「そんな事より用事とはなんだ」 まなぶ「人を探している、化学物質を合成できる人」 ひとし「回りくどい言い方だな……たかしの事を言っているのか、呪術と錬金術で彼の右に出る者は……真奈美くらいだ」 たかし、たかしと言うお稲荷さんが薬を作れるみたいだ。 まなぶ「今何処に居る?」 ひとし「……会ってどうする?」 まなぶ「合成して欲しい物がある」 ひとし「……合成して欲しい物、我々にそんな物は必要ない筈だ、何に使う、人間に復讐でもするのか、武器や毒と言うのなら止めておけ……」 まなぶ「いや……薬を作ってもらおうと……」 ひとし「薬だと……」 まなぶ「治したい病気が……」 ひとし「病気……我々は病気にはならない筈だ」 まなぶ「助けたい……人間が居る」 不味いな、このままだと薬を誰に使うのか分かっていまうかもしれない。 ひとし「そうか……助けたい人間が居るのか、それは君にとって大事な人なのか」 まなぶ「そうだ」 小林さんは暫くまなぶを見て首を振った。 ひとし「彼にそれを頼むのは難しいだろう、彼の人間嫌いは仲間の中でも一、二を争う」 まなぶ「それでもしなければ、何処にいます?」 ひとし「住み慣れた地を離れしまったらしくてね、私でも彼等の住処は分からない……残念だが力にはなれない、それでは失礼させてもらうよ」 小林さんはまなぶに会釈をすると公園を出ようとした。 ゆたか「待ってください!!」 ゆーちゃんが飛び出した。その声に反応して小林さんが振り向いた。 まなぶ「ば、バカ……来たらダメって……」 ひより「まずい、みなみちゃん、ゆーちゃんを止めないと……」 あれ……みなみちゃんの反応がなかった。私は後ろを振り向いた……でも彼女の姿は見えなかった。 再びゆーちゃんに目線を戻すと……あろうことかゆーちゃんの隣にみなみちゃんも立っていた。 ひとし「な、なんだ君達は……何処かで見た顔だな……」 ゆたか「お願いです、どうしても助けたい人が居るの、居場所だけでも教えて頂けませんか」 ゆーちゃんが頭を下げるとみなみちゃんも頭を下げた。こうなったら自棄だ。私も物陰から出て二人の横に並び頭を下げた。 小林さんは私達を見ていた。 ひとし「この人間達はおまえの仲間なのか」 まなぶ「……そうです」 小林さんは私達に向かって話しだした。 ひとし「その様子から見ると私達の正体を知っているみたいだな……さっきも言ったように仲間は住処を離れてしまった、随時移動しているみたいで私でも 把握しきれないのだよ……それに、本来人間を救うのは人間で行うべきだ、私達が介入する問題ではない」 その言葉は冷たく私達を貫いた。 まなぶ「それを承知で頼んでいるのが分からないのか……」 ひとし「悪いが時間がない」 小林さんは公園の出口に向かって歩き出した。ゆーちゃんは小走りで小林さんを追い抜き公園の出口に立ち塞がった。 ひとし「すまないがそこを退いてくれ……」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「……本当に……本当に助ける気はないの……貴方の愛ってそんなものなの?」 ひとし「藪から棒に何を言っている……」 ゆたか「私達が誰を助けたいのか知りたくないですか、知っても同じ事が言えますか……」 まさかゆーちゃんはかがみ先輩の名前を言うつもりなのか。 みなみ「ゆたか……」 みなみちゃんはゆーちゃんを見て首を横に振った。ゆーちゃんはみなみちゃんを見て躊躇したようだ。その後の言葉が出てこなかった。 ひとし「……助けたい人とは私の知っている人なのか……」 小林さんはゆーちゃんを見た後、振り返り私とみなみちゃんを見た。 ひとし「……君達は……私の知人と一緒に居た時があるな……まさか……」 ゆーちゃんの言葉で分かってしまったようだ。もう秘密にしている意味はない。 ひより「私達は、かがみ先輩、柊かがみの友人です」 ひとし「かがみ……かがみの何を助けようとしている、彼女に何があった、なぜ我々の力を必要とする……」 小林さんが急に動揺しだした。私はある意味これで少しホッとした気分になった。同じ態度であったならかがみ先輩の恋は終わっていたのかもしれない。 小林さんは辺りを見回した。 ひとし「話しを詳しく聞きたい、ここでは落ち着かないだろう、事務所に戻ろう……来てくれ」 まなぶ、小林さんとみなみちゃん達は公園を出た。 ひより「ゆーちゃん、小林さんにかがみ先輩の話しは内緒にするんじゃなかったの?」 私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。 ゆたか「うん……そう決めたし、かがみ先輩もそれを望んでいた」 ひより「でもそれを破った、どうして?」 ゆたか「かがみ先輩を助けたかったから……それだけしか頭になかった……それで助かるならかがみ先輩に怒られても良い、皆から責められても構わない……」 ひより「かがみ先輩は怒るかもしれないけど、私は責めたりはしないよ、みなみちゃんもね」 ゆたか「えっ?」 ひより「さて、行きますか、皆、先に行っちゃったよ、たかしってお稲荷さんに頼まないといけないからね、まだまだ困難はこれからだよ」 ゆたか「う、うん」 私とゆーちゃんは皆に追いつくために走った。 小林さんの勤める法律事務所の会議室に通された。そこで私達は今まで経緯を小林さんに話した。 まなぶとの出会い、佐々木さんとの出会い、柊家との関係……そしてかがみ先輩の病気の事…… ひとし「脳腫瘍だと……」 私は頷いた。 ひとし「ば、ばかな、そんな気配は微塵も感じなかった」 ひより「秘密にしていたようです、多分家族や親友には知られたくなかったと思います、もちろん恋人の貴方にも……」 ひとし「彼女の心を読めなかったと言うのか、それは在り得ない」 まなぶ「かがみさんは以前呪われている、その時に呪術者と何度も接触しているはずだ、そうこうしているうちに心を読まれない術を身につけたのかもしれないな」 小林さんは何も言わず考え込んでしまった。 ゆたか「そんな事より公園で話していたたかしってお稲荷さんを探さないと、かがみ先輩の病気を治す薬を作れるのでしょ?」 小林さんは目を閉じて腕を組んた。 ゆたか「どこに居るのですか、協力して下さい……」 ひとし「……まなぶはたかしを知らないのか……」 まなぶ「初めて聞く名前……すすむも何も言わなかった……極度の人間嫌いだって言っていたね……」 小林さんは目を開け腕組みを解いた。 ひとし「幼かったまなぶでは覚えていなかったか……人間嫌いだけならまだ希望もあるがな……」 まなぶ「何が言いたい、こっちは急いでいる、こうしている間にも……」 小林さんはもったいぶった様に少し間を空けてから話した。 ひとし「かがみに禁呪をしたのが……そのたかしだ……」 まなぶは何も言い返せなかった。私たち三人は顔を見合わせて驚いた。 私達はかがみ先輩に呪いを掛けたおいなりさんにかがみ先輩の病気を治してもらわなければならない……気が遠くなるような事だった。 でも諦められない。諦めたらかがみ先輩はあと半年後には亡くなってしまう。 ひより「そのたかしってお稲荷さんは何故かがみ先輩に呪いをかけたのです?」 それならばたかしってお稲荷さんの情報をなるべく詳しく知る必要がある。 ひとし「私も直接彼から聞いたわけじゃないから真意はわからん……真奈美が亡くなったのをかがみの妹が原因と思っているらしい、 その妹に彼と同じ境遇を味合わせてやりと思ったのだろう」 違う……確かにつかさ先輩が関係しているかもしれないけど、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいじゃない。誤解だ。 ひより「たかしって真奈美さんを好きだったのですか?」 ひとし「好きもなにも婚約者だった……」 ひより「こ、婚約者……」 好きな人……愛する人が亡くなれば何かのせいにしたくもなる。それはなんとなく理解できる。 ゆたか「でも、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいではありません」 珍しく断定的に言うゆーちゃんだった。それも私が思っていたのと同じ内容だった。 ひとし「……そうだな、そうの通り、真奈美が死んだのはむしろ我々側の問題だ……族に言う逆恨みと言うやつだろう」 ゆたか「お願いです、なんとかたかしさんを探し出せませんか……」 祈るように手を合わせて懇願するゆーちゃんだった。 ひとし「君達に頼まれるまでもない、私が直接彼に頼む……いや助けさせる、それが彼の責任だ」 小林さんは席を立ち上がった。そして会議室を出ようとした。 みなみ「何処に行くの?」 小林さんは立ち止まった。会議室に入って初めてみなみちゃんが口を開いた。 ひとし「たかしの所に会いに行く……」 みなみ「会う……何処に居るのか知っている?」 ひとし「草の根分けてでも探し出すまでだ……」 みなみ「会ってたかしさんが拒んだらどうする?」 ひとし「拒むだと、そんな事をすれば彼の命はない、悪いが急いでいる話はこれまでだ」 また小林さんは部屋を出ようとした。 みなみ「……かがみ先輩を第二の真奈美さんにしたいの?」 ドアのノブに手を掛けた所で小林さんは止まった。 ひとし「第二の真奈美……どう言う意味だ」 みなみ「怒りで話しかければ怒りで返ってくるだけ、誰も助からない、誰も救えない……」 小林さんは暫くノブを持ったまま動かなかった。そしてノブから手を放してから大きく深呼吸をした。 ひとし「……そうだな、その通りだ、岩崎さんと言ったな、私は危うく同じ過ちを仕出かすところだった」 小林さんはさっき座っていた椅子に戻り座った。 ひとし「私がたかしに会うとお互いに感情的になってしまう……どうしたものか……」 みなみ「たかしさんとの交渉は私達がします、だから彼を探し出して欲しい……」 そんな話は聞いていない。私には荷が重過ぎる。 ひより「ちょっと……」 ゆーちゃんと目が合った。そしてゆーちゃんは頷いた。その決意に私はその先の言葉を言えなかった。 ひとし「そうか……やってみるが良い、そのくらいの時間はまだある、しかし君達が失敗したら私が直接出向く、それで良いな?」 ゆたか・みなみ「はい!!」 ひより「は、はい……」 急に振って湧いたミッション。自信なんかない。でもやるしかないのか…… さっきからゆーちゃんはモジモジして何かを言いたそうにしていた。少し間があったので決心がついたの小林さんに向かって話しだした。 ゆたか「あ、あの~、質問いいですか?」 ひとし「何か?」 ゆたか「かがみ先輩とはどうして知り合ったのですか、かがみ先輩は小林さんの正体を知っているの?」 ひとし「彼女に私からは話していない、多分私の正体は知らないだろう……彼女とどうして出会ったか……それは、 たかしが再び彼女を呪うのを監視してくれ……そう友人に頼まれてね、それが切欠だ」 頼まれた……同じだ。私が泉先輩からかがみ先輩の様子を見てくれって言われたのと同じじゃないか。 ゆたか「その友人もお稲荷さんなんですね……」 小林さんは頷いた。 ひとし「……結局たかしは一度もかがみの前に現れていない、しばらくして友人がたかしを保護したと連絡があった、それで私の仕事は終わるはずだった」 ゆたか「筈だった?」 ひとし「たかしは何時現れるか分からない、彼女の監視は四六時中続いた……そういえば君達三人も何度かかがみと会っていたな…… 監視していて、そのうちに、一度くらい直接会ってみたくなってね……声を掛けた……」 ひより「それでかがみ先輩を好きになった……ですか?」 小林さんは何も言わず、何も反応しなかった。でもそれが答えだった。 ひとし「さて、身の上話しはここまでだ、約束通り彼を、たかしを探しに行かないとな」 小林さんは立ち上がった。 ひとし「この事務所は好きなように使うと良い、所長には私から言っておく」 そう言うと小林さんは会議室を出て行った。 私は溜め息を一回つくとみなみちゃんに向かって話した。 ひより「たかしと交渉ね……そんな無茶振りをアドリブでしちゃうなんて……失敗は許されないよ……私、自信なんかない……」 みなみ「ご、ごめん……」 みなみちゃんは俯いてしまった。 ゆたか「で、でも、あの時みなみちゃんが小林さんを止めなかったら大変な事になっていたよ、私なんかあの時どうして良いか分からなかった……」 それは私も同じか。小林さんが出て行こうとした時、ただの傍観者になっていたのは事実だった。 ひより「こうなるのは必然だったのかな……それはそうとみなみちゃんは何故急に私達を手伝うようになったの」 みなみ「それは、みゆきさんがお稲荷さんを許したから……お稲荷さんの知識を知りたいって……」 ひより「みなみちゃんが説得したんだね、それは良かった」 みなみちゃんは首を横に振った。 ひより「え、それじゃどうして高良先輩はお稲荷さんを許したの?」 私はゆーちゃんの方を向いた。ゆーちゃんは慌てて首を横に振った。 みなみ「つかさ先輩は人間とお稲荷さんが一緒に暮らせるように何かしている、それに賛同するようになったと聞いた……」 ここでもつかさ先輩が出てきた。私の知らない所で、しらないうちに……何故……私の一歩も二歩も先に行っているような気がする。 ゆたか「流石だね……」 当然の事の様に言うゆーちゃん。つかさ先輩はそんな人だったのか。高校時代のつかさ先輩はもっと……もっとボーとしていて、いつも皆の後に付いている様な…… まなぶ「ところで、たかしとの交渉はどうするつもりなんだ?」 まなぶの声に一気に現実に戻された。私達は顔を見合わせるだけだった。 まなぶ「一度はかがみさんを呪った人だ、そんな人にかがみさんの病気を治す薬を作ってもらうように頼むなんて……出来るのか?」 ゆたか「出来る出来ないじゃない、しないとダメだよ……」 まなぶ「どうやって、行き当たりバッタリが通用する相手とも思えないが」 ゆーちゃんは言葉に詰まった。私もみなみちゃんも何も言えない。 ゆたか「頼むしかないよ、頼んで頼んで命乞いするの」 みなみ「私も頼む……」 ひより「それしかない……」 まなぶ「無策の策か、それも良いだろう」 まなぶは席を立った。 まなぶ「ひとし一人より二人で探したほうが早い、手伝ってくる」 まなぶは会議室を出て行った。 ゆーちゃんはまなぶの出たドアを見ていた。 ゆたか「コンちゃん……少し変わったかな」 ひより「変わった?」 ゆたか「うん、なんか少し頼もしくなった、それに人間になっているのに苦しそうじゃなくなってる」 ひより「人間としてまつりさんに会いたいって言ってからね……」 ゆかた「そ、そうだった、もうコンちゃんなんて言えないね……」 みなみちゃんは立ち上がった。 みなみ「こうして居ても仕方がない帰ろう、それで、それぞれがたかしに何を言うのか考えよう、宮本さんが言うように今の私達は無策、 このままだとたかしはかがみ先輩を救ってくれない……」 ゆたか「そうだね……今はそれしか出来ないよね、帰ろう」 ゆーちゃんも立ち上がった。そして私も立ち上がった。 事務所を出るとき、所長さんに私達の携帯電話の番号と家の電話番号を小林さんに伝えて貰うように頼んでから帰宅した。 帰宅して椅子に座る。 普段ならネタをまとめる作業をしている所。でもネタ帳もボイスレコーダーも最近は使っていない。かがみ先輩の病気の事で頭がいっぱいだ。私が悩んだ所で 先輩の病気が良くなる訳じゃない。そんなのは分かっている。分かっているけど悩まずには居られなかった。 たかしと会って何を言う。 『かがみ先輩を助けて下さい』 これじゃ何の捻りもない。 『貴方の呪ったかがみ先輩が死にそう、だから病気を治して……』 これじゃ当て付けがましい。 『お願いです……』 違う、違う……どんな言葉を繋げたって彼が人間を憎んでいる限りかがみ先輩を助けるなんて在り得ない。まずは彼の人間に対する憎しみを解くのが先……どうやって。 何千年も溜まりに溜まった恨みや憎しみをどうやって。それこそかがみ先輩の病気を治してもらうより難しいかもしれない。 そういえばつかさ先輩は真奈美さんと友達になった……とうやって。 一緒に泊まって一緒に話しただけ……たったそれだけ……それだけで……分からない。今更ながら分からない。つかさ先輩は何をしたのかな…… それならいっそのことつかさ先輩に頼んでしまおうか。かがみ先輩の一大事だから真っ先に駆けつけてくれる……つかさ先輩ならたかしの恨みも解いてくれるかも…… 『内緒にして……』 また頭の中にかがみ先輩の声が響いた。 家族には教えたくないだろうな……特につかさ先輩には…… 結局何も解決策は出てこなかった。 ふと携帯電話を見る。もしかしたら小林さん達がたかしを探したのかもしれない。 なんだ……何もないか……あれ、着信履歴がある。 履歴にかがみ先輩の携帯電話番号が載っていた。ここ数時間前の時間だ。なんの用だろう? 時計を見ると午後十時、電話をするにもそんなに迷惑のかかる時間ではなかった。私はそのままボタンを押して電話をかけた。 かがみ『もしもしひより?』 ひより「こ、こんばんは~」 そうだ。かがみ先輩に許可をとればなんの問題もない。 ひより「かがみ先輩、実ははつかさ先輩に……」 しまった。私はまだかがみ先輩の病気を知らない事になっている。佐々木さんとの口喧嘩で思わず佐々木さんが言ってしまったので分かった。 今ここで言ってしまったら佐々木さんが秘密を破ったのを教えるようなもの。言えない…… かがみ『つかさ、つかさがどうかしたのよ?』 ひより「い、いや、何でもないっス……」 かがみ『それより、佐々木さんといのり姉さんはどうなったのよ?』 ひより「それは……」 今は何も出来ない。その余裕がない。 かがみ『実ね、いのり姉さん、最近元気が無くて……整体院が休みになっているのと関係があると思って電話した、何か心当たりはないかしら?』 ひより「あるような、ないような……」 かがみ『何だ、その中途半端な回答は!!』 本当にかがみ先輩は病気なの。そう疑ってしまう程元気な声だった。 かがみ『電話じゃ埒が明かないわね、明日、時間空いていない、よければ相談に乗って欲しい』 後回しにするはずだった問題をかがみ先輩から依頼されるとは思わなかった。でも、断る理由は無いか…… ひより「空いていますけど……ゆーちゃんやみなみちゃんも呼びましょうか、人数が多い方がいろいろな意見が聞けますよ」 かがみ『いや、ひよりだけで来て』 ひより「は、はい……」 かがみ『時間は午後からなら何時でも良いわ』 ひより「わかりました……おやすみなさい」 かがみ『おやすみ』 電話を切った。 私一人で……何だろう?……。 ひより「ふわ~」 欠伸が出た。元気なかがみ先輩の声を聞いたせいなのか。急に眠くなった。今は眠るしかない。気が紛れる。少なくとも眠っている間は…… 次の日、私は午後一番でかがみ先輩の家に行った。 かがみ「いらっしゃい、待ってたわ、入って」 家に入り私は辺りを見回した。 かがみ「今日は私以外誰も居ないわよ、まつり姉さんは仕事、いのり姉さんはお父さんと地鎮祭、お母さんは遠くにお買い物……」 ひより「そ、そうですか……」 かがみ「何心配そうな顔してるのよ、別に襲ったりねじ伏せたりなんかしなから安心しなさい」 ひより「え、あ、心配な訳では……」 かがみ「ふふ、ささ、居間にぞうぞ」 かがみ先輩があんな冗談を言うのを初めて見た。普段と違うと対応に苦慮するもの。 居間に行くと既に飲み物とお菓子が用意されていた。 ひより「こんなにしてくれなくても」 かがみ「いいから、いいから」 私の背中を押して居間の中央まで進みかがみ先輩は腰を落とした。私も席に座った。 ひより「相変わらずお菓子が好きっスね」 かがみ「まぁね、否定はしない……さて、早速いのり姉さんについて話しましょ……」 ひより「……その前に一つ聞きたい事があります」 そう、双子の姉なら分かるかもしれない。それがヒントになるかもしれない。そして、この質問なら私がかがみ先輩の病気を知っているの悟らせない。 かがみ「聞きたい事……何よ改まって……」 お菓子をつまみながら私の質問を待つかがみ先輩だった。 ひより「つかさ先輩はどうやって真奈美さんと仲良くなったのかなって、お稲荷さんと人間の因縁を断ち切るなんてそう簡単に出来るとは思えない、 つかさ先輩の話を聞いただけでは分からなくて……是非かがみ先輩の意見を聞きたいっス、佐々木さんといのりさんの今後の対応にも参考になるかな……」 かがみ先輩はお菓子を食べるのを止めてしばらく私の後ろ上の方をじっと見つめながら考えていた。 かがみ「真奈美さんね……彼女とは一度会ってみたかった……」 またしばらくかがみ先輩は私の後ろ上を見ながら考えた。 かがみ「真奈美さんが亡くなった今、当事者から話を聞けない、ただ言えるのはつかさの何かに真奈美さんは魅かれた」 ひより「そ、そうですか……」 かがみさん、貴女もそのお稲荷さんを魅了させる何かをもっている。心の中でそう突っ込みを入れた。 かがみ「その何かに一緒に暮らしていて気付かないなんて、私も相当鈍いわ……」 ひより「そうですね」 かがみ「そうそう、私は鈍い……ってこんな時だけ納得するな!」 私は笑った。少し遅れてかがみ先輩も笑った。へぇ、かがみさんってこんなノリツッコミもするのか…… その何かが分かれば全てが解決できるような気がする。 かがみ「ただ一ついえる事は、佐々木さんにしろコン、宮本さんにしろ真奈美さん達みたいに深い憎しみは人間に対して持っていない」 それは私も思っていた。彼らは人間と一体になって暮らしている。それは小林さんも同じなのかもしれない。 かがみ「最近、整体院が休診しているみたいだけど、何か心当たりはないの?」 ひより「引越しをするって言っていました……」 かがみ「なっ!! そう言うのは早く言いなさい」 どうも調子が狂う。普段通りに対応できない。かがみさんを怒らせてばかりいる。 ひより「す、すみません……お稲荷さんは百年に一回、自分の正体を隠すために引越しするって言っていましたけど……」 かがみ「あの整体院は百年も経っていないわよ、それが理由ではない……わね……」 かがみさんは腕組みをして考え込んだ。本来なら私もここでいろいろ考えるところ、でもそこまで深く考えられない。 かがみ「一度、いのり姉さんと佐々木さんを会わす必要があるわね……」 ひより「……はい……」 かがみさんは私をじっと見た。 かがみ「どうしたの、さっきから、いつもなら色々な意見を言うのに……らしくないわよ」 そんな、かがみさんを目の前にして普段通りにしろって言うのは無理があり過ぎる。 ひより「……はぁ、まぁ、頑張ります……」 かがみさんは立ち上がった。 かがみ「人と話すときは目を見るもの、あんた何か隠しているわね」 やばい、こんな時に限ってかがみさんの勘が冴えるなんて。やっぱり来るべきじゃ無かったか。私は慌ててかがみさんの目を見た。 ひより「何も隠してなんかいませんよ……」 かがみ「そうかしら」 かがみさんが私に一歩近づいた時、急にかがみさんの体がふらついて私に向かって倒れかかってきた。私は中腰になり慌ててかがみさんを支えた。 ひより「だ、大丈夫っスか?」 かがみ「……大丈夫よ……ありがとう……」 またかがみさんが固まってしまったあの時の状況が頭に浮かんだ。かがみさんは姿勢を戻した。私は手を放すと自分の席に戻った。 ひより「また調子が悪くなったのですか?」 こんな質問しか出来ないなんて…… かがみ「大丈夫、なんて言えないわね」 ひより「言えない?」 これはもしかしたら病気を告白するかもしれない。私はグッとお腹に力を入れて聞く準備をした。 かがみ「そう、私……妊娠しているから……これはお母さんしか知らない……」 ひより「それはおめでたいですね……えぇっ?!!!」 私は慌ててかがみさんのお腹を見た。全然膨らんでいない。って事はまだ三ヶ月を越えていないと考えるのが…… まてまて、かがみさんの命は後半年……確か妊娠期間は……間に合わない……かがみさんは赤ちゃんが生まれる前に……すると赤ちゃんも…… かがみ「頭の中で計算しているわね、ひより……」 その言葉に私の思考は止まった。そのままかがみさんの目を見た。 かがみ「あんたの計算は正しいわよ、私は出産する前に亡くなる……」 かがみさんの顔は思いのほか冷静だった。むしろ微笑んで見えるくらいだった。 ひより「……な、何故です、どうして……」 かがみさんは俯いた。 かがみ「そうよね、ひよりもそう思うわね、余命幾許もない私が赤ちゃんなんて……一時の快楽の為に命を弄ぶと思って……」 私は立ち上がった。そして両手で強く机を叩いた。 ひより「違う、そんなんじゃない、何故そんな話を私にするの、他にもっと言わなきゃならない人が居るでしょ、泉先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩……私よりも 親しい人が居るでしょ……何故私なの、そんな……そんな話をいきなり聞かされて……私にどうしろと……」 かがみ「……峰岸は名前、変っているわよ……」 こんな時に突っ込みを入れるなんて……興奮している私とは対照に冷静すぎるかがみさんだった。私は返事をせずそのままかがみさんを見た。 かがみ「ごめん……ごめんなさい……話を聞いてもらいたかった……それだけ、理由はそれだけ」 「ごめんなさい」初めてかがみさんから聞いた言葉だった。泉先輩と喧嘩をした時でも自分からは謝らない人なのに。気持ちが冷静になっていくのを感じた。 私はゆっくり座った。 ひより「私がかがみさんの病気を知っているの、分かっていたのですね……」 かがみ「……ひよりには話しておきたかった、だから呼んだ……一方的なのは百も承知、それでも聞いて欲しかった……気に障るならこのまま帰っても良いわよ」 別に追い出す感じではなかった。口調は穏やか、私が感情任せに怒鳴ったのに反応していない。さっき怒鳴った私が恥かしくなった。 ひより「……さっきは怒鳴ってすみません……あまりにショッキングだったもので……先輩に対して失礼でした」 かがみ「先輩、後輩なんて関係ない……ありがとう、取り敢えず座って」 かがみさんはにっこり微笑んだ ひより「はい」 私は座った。 ひより「でも……どうして……私なんか……」 かがみ「もう知っていると思った……あんた泣いてくれたじゃない、それともあの涙は嘘だったの?」 泣いた……かがみさんが固まってしまった時の事を言っているのか。 ひより「い、いいえ、嘘泣き出来る程器用でないです……」 かがみさんはまた微笑んだ。 かがみ「安心したわ……嬉しかった、嘘泣きだったとしても嬉しかった」 ひより「泉先輩達だって泣きますよ、私でなくても……」 かがみ「こなた、みさおがねぇ……あいつらが泣くかしら、みゆきくらいしか想像できない」 ひより「そうかなぁ~私なんか大泣きする泉先輩の姿が頭に浮かびますよ」 かがみさんは私の後ろを見ながら答えた。 かがみ「だから内緒にしてって言った」 ひより「どう言う事です?」 かがみ「私があと半年で死ぬなんて分かったらあいつら絶対に普段通りじゃなくなる」 それはそうだ普通で居られるはずは無い。 ひより「そうですよ、親しければあたりまえじゃないっスか」 かがみ「……私は普段通りのあいつらが良いのよ……急に優しくされたり、泣かれたりしてもそれは本当のあいつらじゃない……それは家族にしても同じ、 普段通り、話して、笑って、喧嘩して……」 普段通り……か。私にはよく分らない。 ひより「病気が悪くなれば何れバレますよ?」 かがみ「その時までで良いわよ……」 それなら…… ひより「実は、ゆーちゃん、みなみちゃんも知っていますよ」 かがみさんは私の目を見た。 ひより「い、いや、私でなくて……まなぶさんが教えてしまったらしいっス」 かがみ「……別に怒ってなんかいないわよ、知られてしまったのはしょうがないわよ……ひよりも佐々木さんが口を滑らせてしまったって聞いたわよ……」 そうか、かがみさんは佐々木さんの所に行って整体治療をしてもらっているのか。だから私の事も知っているのか。 かがみ「記憶を消す事だって出来るのに、佐々木さんはしなかった、技術に頼らないのは評価に値する」 ひより「みなみちゃん……高良先輩に教えるんじゃないかって少し心配なんです」 かがみ「いまの所それは無いわね、みゆきはつかさの手伝いに夢中だし、かえって良かったわよ」 なんか少し肩の荷が下りた感じだ。でも小林さんが病気を知ってしまったのはかがみさんに教える気にはなれなかった。なぜなら小林さんの正体も知ってしまうから。 ひより「あの、妊娠の件なんですが……御相手は?」 かがみ「そう、この前言っていた彼、恋人、小林ひとしさん……」 すんなりだった。顔を赤らめる事もなくはっきりと言った。小林ひとし、初めて聞く名前ではない。もう既に会っている。 ひより「どうして……」 かがみ「私は彼が好き……だから彼を受け入れた、それだけよ、他に何か必要なの?」 そう正々堂々と言われると言い返せない。もうこの二人は恋人じゃない、愛し合っている。夫婦といってもいいくらい。あの時の小林さんの態度を見ても明らかだ。 ひより「い、いや、それだけで充分だと思います、だけど……」 かがみ「……だけど私には時間がない、私のした事は間違っている……そう言いたそうね」 いちいち私の先回りをするかがみさん。いや、まだ時間がないと決まった訳ではない。 ひより「私達はまなぶさんの協力を得てかがみさんの病気を治す方法を探しています、まだ諦めないで……」 かがみ「お稲荷さんの秘術、それとも知識を使うと言うの……嬉しいじゃない……その気持ちだけでおなか一杯」 ひより「絶対に成功させますから……」 かがみ先輩は目を閉じた。 かがみ「ひよりは後何年生きる、十年、二十年、五十年……もっとかしら、私は後何年生きる、半年、一年……もう少しかしら……期間の違いはあるけど必ず私達は 死ぬのよ、どんな技術か秘術かしらなけれど、命を救うなんてそう簡単には出来ないわ、絶対なんて言わない方がいい」 かがみさんはもう諦めている……そんな気がしてきた。 ひより「そんな悲観的な……」 かがみ「ふふ、ひより達がしようとしている計画が失敗しても私は怒ったりしないわよ、てか、死んだら怒りようがないわね」 ひより「こんな時になにを冗談なんか……」 かがみ「私は何も特別な事を望んでなんかいない、只、普段通りにしたいだけ……食べて、飲んで、笑って、怒ってそして愛するだけ、一つ心残りなのは私が死ねばお腹の 赤ちゃんも亡くなる……これくらいね」 私ににっこり微笑みかける。私は何も言えずにた。そしてかがみさんは目を開けた。 かがみ「私のつまらない話しを聞いてくれてありがとう、さて、これからいのり姉さんと佐々木さんをくっ付ける計画を話しましょ……」 ひより「は、はい……」 かがみ「私ね、いのり姉さんはささきさんの事が好きなのは確かだと思うの……それでね」 …… …… かがみさんの話はいつもと同じ口調、ときより冗談を交えながら話していた。 かがみさんは諦めている。そう、もう自分は助からないと覚悟を決めている。だけど……何故だろう。そこからは悲しみや怒りとかは出てこない。 そして希望や絶望も感じさせない。 かがみさんを呪ったお稲荷さん、たかしは憎くないのだろうか。友達や家族と別れるのは辛くないのだろうか。 死ぬ前になにか遣り残した事はないのだろうか。何か欲しい物は…… 幾らでも出てくる未練や無念……でもかがみさんからはそんなのは感じない。それでいて自分が死ぬと言う事実から逃避しようとしている訳でもない。 そう、まるで私達が普段何気なく暮らしている日々と一緒にの様な…… 普段……かがみさんはそう言った。 そうか、かがみさん病気が治るのを諦めているけど生きるのは諦めていない。だから冗談を言ってふざけもするし、恋愛だってする。赤ちゃんだってその中の過程に過ぎない…… 周りの人がかがみさんを気遣いするのは返ってかがみさんにとっては鬱陶しいだけ……だから内緒にする……そう言う事なのか。 …… …… かがみ「それでね、ひよりには佐々木さんの引越しを止めてもらいたい、いや、思い滞めさせるだけでも良いわ……方法は任せる、お稲荷さんの扱いはひよりの方が慣れているでしょ」 いやいや、かがみさん、貴女はそのお稲荷さんを恋人……いや、夫にしていますよ。心の中でそう呟いた。 もしかしたら、彼がお稲荷さんでも人間でもどちらでも関係ないのかもしれない。もう私が二人に関して何かする事はもうない。二人で解決するに違いない。 ひより「はい、任せて下さい」 かがみ「お、いつものひよりに戻ったわね」 ひより「私は何時でも私ですよ、かがみさんと同じです」 私はウィンクをして笑った。そして家族が誰も居ない日に私を呼んだ意味も分かった。 かがみ「……ひより、分かってくれた……うぅ」 かがみさんの目から光るものが零れ落ちた。 ひより「どうして泣くのですか、私はかがみさんを理解しましたよ」 かがみ「ひよりが大声で怒鳴った時、正直もうダメだって思った、理解者が一人も居なかったら私……もう……」 その場に泣き崩れてしまった。この時私も一緒に泣くところ。でもまだ泣けない。ゆーちゃんが言ったようにまだ助かる可能性があるのなら私はまだ諦めない…… 私はかがみさんが泣き止むまで席を立たなかった。 かがみ「今日はありがとう、最後に醜態を見せてしまったわ」 ひより「いいえ、私もいろいろ至らぬ点もあったと思います……」 私達は両手でしっかりと握手をした。 かがみ「つかさとみゆきがしようとしている事が成功すれば私達人間の世界観や価値観を根底から変えてしまうような大きな事、羨ましい、私もその一員に入りたかった、 だけど私には時間がない、せめて……いのり姉さんの手伝いくらいはしてやりたい……」 ひより「それは普段からしているじゃないですか」 かがみ「そうかしら」 ひより「はい」 私は微笑んだ。 かがみ「……それじゃまたね」 ひより「また……」 別れ際のかがみさんがとても淋しそうに見えた。 かがみさん無理しちゃって…… 帰り道心の中でそう呟いた。 でも、死期が近い身でありながら普段通りなんて誰でも出来る事じゃない。私だったらどうなんだろう……その時になってみないと分からないかな…… それにしてもかがみさんと小林さん……二人は愛し合っている……私もあんな恋愛をしてみたい…これが……憧れ……か。 ゆーちゃんがつかさ先輩なら私はかがみさんに憧れる。あんな生き様を見せ付けられたら…… 「田村さん?」 後ろから声がした。私は振り向いた。 いのり「やっぱり田村さんだ、すれ違ったの気付かなかった?」 そこには巫女服姿のいのりさんが立っていた。その横に神主姿のおじさんも居た。 ひより「あ、こんにちは、す、すみません、気付きませんでした」 私は二人に向かって会釈した。 いのり「この姿で気付かなかったなんて、よっぽどな考え事をしていたみたいね」 確かに二人は巫女と神主姿、普通なら直ぐに目に付く。そう、よっぽどな考え事だったかもしれない。でもこの二人には話す訳にはいかない。 いのり「かがみと会っていたのかな、その帰り道ね」 ひより「はい……」 いのり「あ、丁度良かった、これから神社に持って行く物があるから手伝ってくれる?」 ひより「あ、良いですよ」 いのりさんはおじさんの方を向いた。 いのり「お父さん、神社にお払いもって行くから先に帰って」 だたお「だめじゃないか、かがみのお友達を利用するなんて失礼だろう」 私の顔を見て申し訳なさそうに礼をした。 ひより「いいえ、お構いなく、ここで会ったのも何かの縁ですよ、喜んで手伝わせていただきます」 なんだろう、ここでいのりさんに会うのは何か偶然では片付けられない何かを感じる。 ただお「すまないね、それじゃよろしく頼むよ」 おじさんはいのりさんにお払いを渡した。 いのり「それじゃ、行こうか」 私はおじさんに礼をするといのりさんと神社に向かった。 いのり「これでよしっと!!」 神社奥の倉庫、その中にいのりさんは恭しくお払いを納めた。いのりさんを巫女さんなんだなって思った瞬間だった。いのりさんは倉庫の鍵を閉めた。 いのり「ありがとう」 ひより「あの~私、何もしていませんが……」 私は何も渡させていなかった。持ち物は全ていのりさんが持っていた。私と一緒に行く必要は全く無い。そんな私を見ながらいのりさんは咳払いを一回すると真剣な顔になった。 いのり「私達に気付かないような考え事、それはかがみに関係することかしら、かがみと家で何を話したの?」 す、鋭い、流石は柊家の長女、私の表情で只事ではない何かを感じたのか。それでわざわざこんな所まで連れてきたのか。 どうする。「なんでもありません」で帰してくれるほど簡単ではなさそうだ。私が返答に困っていると透かさず話してきた。 いのり「話したくない、話せない……どっちにしても気になる、最近かがみの様子がおかしいから、何か知っていたら話して欲しい」 なんてこった。かがみさんと別れてすぐに秘密を暴かれる危機がくるなんて。安請け合いなんかするんじゃなかった。どうする。中途半端な嘘は通用しないしすぐにバレる。 いのり「田村さんが話せないならかがみに直接聞くか、ごめんなさい、こんな所まで連れてきて」 ま、まずい、直接なんて聞かれたらかがみさんは本当の事を言うしかなくなる。ここでなんとかしないと。考えろ、考えるんだ、ひより!! ひより「此処、覚えています?」 いのり「え?」 いのりさんは周りを見回した。 いのり「覚えてるって……何?」 いのりさんは首を傾げた。 ひより「ここにコンを連れてきましたよね」 いのり「……あ、あぁ、そう、そうだった、最初は私が見つけたのにまつりに取られてしまった」 本当はゆーちゃんが最初に見つけたのだけどね。あ、そんな事考えている暇はなかった…… ひより「あの犬、狐にすごく似ていませんでしたか?」 いのり「似ている、私が狐に間違えるくらいだった、鳴き声も狐そっくり、だからコンって名付けた」 いいぞいいぞ、こっちの方に話題を掏り替える。 ひより「私、思ったのですよ、つかさ先輩の一人旅の出来事に似ているなって」 いのり「似ている……?」 いのりさんはまた首を傾げた。 ひより「実はつかさ先輩も旅先で狐に会っているのですよ」 暫く考え込んでいたいのりさんだが、急に手を叩いた。 いのり「あ、そういえば思い出した、つかさは夕食の度に度の話しをしていた、狐が、お稲荷さんがどうのこうのって……あんなの話し、作っているだけの絵空事だと思っていたから かがみ以外は聞き流していた……そ、それがどうかしたの?」 やっぱりつかさ先輩は家族に話していた。あまりに現実離れしているから普通なら聞き流してしまうのは当たり前。 ひより「つかさ先輩が今まで嘘を付いたり、作り話をしたりした事ってあります?」 いのり「……な、ない……」 ひより「でしょ」 私は微笑んだ。 いのり「つかさが嘘をつかないとしたら……あの話は……ちょっと、田村さん、詳しく教えて!!」 食いついた……このままやり過ごせるかもしれない。真実を話して核心を隠す……また使うとは思わなかった。 私はつかさ先輩の一人旅で起きた出来事を話した。 いのり「ま、真奈美さん……」 話が終わるといのりさんは袖で目を隠した。涙を拭っているように見えた。 ひより「もし、コンが真奈美さんの一族だとしたら……って考えいたらいのりさん達とすれ違った……」 いのり「かがみとそんな話しをしていた訳ね……ちょっと待って、もし、もしコンがお稲荷さんだとしたらその飼い主である佐々木さんはどうなの……」 私は両手を広げてお手上げのポーズをした。話すのはここまで。 ひより「そうなんです、想像だけが膨らむのですよ……」 いのり「……分かった、ごめんなさいね、変な疑惑をしてしまって」 ひより「いいえ、それでは帰らせてもらいますね、さようなら」 私は歩き始めた。 いのり「ちょっと待って」 ギクリとした。まだ何かあるのだろうか。私は振り向いた。 いのり「この話はあまり他言すべきでないと思う、つかさは喋り捲っているみたいだけど……大丈夫かしら?」 ひより「つかさ先輩もその辺りは分かっているみたいですよ、気の許した人にしか話していないみたいですから……」 私は内心ホッと胸を撫で下ろした。 いのり「そうね、私も話さないようにする……」 いのりさんは少し心配そうな顔をしていた。 ひより「いのりさん……佐々木さん、気になりますか?」 しまった。何を言っているのだ。さっさと帰ればいいものを。 いのり「……気にならない、なんて言えない、彼の整体院が連日休診しているから……」 もし、本当にいのりさんが佐々木さんを好きならばいつかは通る道。でもそれは私ではどうする事もできない。 ひより「私……まだ異性を本気に好きになった事がないから分からない、でも特別な人で無い限り誰もが一度は誰かを好きになるものでしょ?」 いのり「……まぁ、そうね……」 ひより「生まれて、成長して、誰かを好きになって、次に命を繋ぐ……そして亡くなる……生きているなら当たり前、生命が生まれてからずっと続いてきた営み…… こんな当たり前な事なのに何故祝ったり悔やんだりするのが不思議に思っていました」 いのり「冠婚葬祭ね、私も巫女をやっていると何度もそう言う場面に出あうわね」 ひより「でも実は、当たり前の様でどれもが奇跡に近い出来事だったって……」 いのり「そうね、そうかもしれない……なぜそんな話しを?」 かがみさんを見てそう思った。何て言えない…… ひより「いえ、そう思っただけです……」 私は会釈をしてその場を離れた。いのりさんはこれ以上私を引き止めなかった。 神社の入り口に差し掛かるとかがみさんが走って向かって来た。いのりさんの帰宅が遅いので心配になったのだろうか。かがみさんは私に気が付いて駆け寄ってきた。 かがみ「はぁ、はぁ、いのり姉さんは一緒じゃなかった?」 息が切れている。全速力だったみたい。 ひより「さっきまで一緒でした、まだ倉庫に居るかもしれません、それよりそんなに走って大丈夫なのですか?」 かがみ「ま、まさかひより、私の事を言ってしまったんじゃないでしょうね?」 私は首を横に振った。かがみさんがホッとした表情で中腰になった。 ひより「でも、いのりさんはかがみさんの異変に気付いていますよ、誤魔化すためにつかさ先輩の一人旅の話しをしました……ですから、まなぶさんや佐々木さんを お稲荷さんかもしれないと思っているかもしれません」 かがみ「私の異変に気付いているだって、そうか、それじゃ私はこのまま戻った方がよさそう……」 ひより「行ってあげて下さい、いのろさんも悩んでいるみたいだし……佐々木さんの事で」 かがみ「私が行っても姉さんの悩みなんか解決できっこないわよ」 ひより「それでも良いじゃないっスか、二人で話す機会なんてそうそう無いですよ」 かがみさんは暫く神社の奥を見ていた。 かがみ「……そうね、そうするわ」 ひより「それでは、私は帰ります」 かがみ「あんた、急に変わったわね……いつも外から覗き込んでいて介入なんかしない感じだった、こなたと一緒にいても行動するのはこなたの方だったでしょ、 でも、今のひよりは……まぁ、良いわ、また会いましょ」 かがみさんは私の肩をポンと叩くと早歩きで神社の奥に入っていった。 二人は倉庫で何を話すのかな……お稲荷さん、佐々木さん、コン……それとも自分の病気を明かすのか……それはないか……戻ってみるのも良いけど二人の邪魔はしない方がいい。 ここは私、ひより流の想像で済ますとするか。 私は家路に向かった。 私はかがみさんの言うように佐々木さんの整体院に行き引越しを止めてもらうように頼んだ。だけど答えはノーだった。 それでも私は時間があれば佐々木さんの所に行き続けた。佐々木さんの答えは変わらなかったけど私が来るのは拒まなかった。そして。 かがみさんが生きている間は整体の治療をしなければならないので居てくれると約束してくれた。また、私とかがみさんにゆーちゃんと同じ呼吸法を教えてくれると言った。 ゆーちゃんやみなみちゃん、まなぶの協力があったのは言うまでもない。それで、ここまで漕ぎ付けたのに一ヶ月近く掛かってしまった それから間もなくだった。小林さんから連絡があったのは…… ひより「ワールドホテル本社……」 東京の一等地に聳えるビル。高級ホテルだ。私はビルを見上げた。 ひより「このビルにたかしが来るって……間違いないの?」 まなぶ「そうひとしは言った、私も仲間の気配を感じる……もうこのビルに居る」 ひより「間違いはない……だけど……どうしてこんな東京のど真ん中で……このビルなんだろう?」 私達三人とまなぶは小林さんの言った通りの日と場所に待ち合わせをして合流をした。小林さんはたかしがこのビルに用事があるのと分かったので私達に教えてくれた。 これが彼の行方を知る数少ないチャンスと言う事だ。 みなみ「ワールドホテル……会長は柊けいこ、ホテル以外に幾つも工場も経営している、しかも特許申請が数千に及びその全てを会長が申請したと……」 ひより「柊……」 何だろうこれは偶然なのかな…… ゆたか「……こなたお姉ちゃんから聞いたのだけど、レストランかえでがこのホテルの傘下に入るって聞いたの……なんか偶然にしては出来すぎているような……」 ひより「……そうだね、その通り出来すぎている……」 まなぶ「いや、偶然じゃない、もう一人仲間の気配を感じる……きっとこのホテルの関係者の中に我々の仲間が居る」 ここにもつかさ先輩が関係していると言うのだろうか? ひより「それって、佐々木さんや小林さんみたいに人間と一緒に暮らしているお稲荷って事だよね、あと何人いるの?」 まなぶ「……それは分からない、すすむはそんなに詳しくは教えてくれない、只、その一人がこのホテルに居るのは確かだな」 ゆたか「小林さんも来れば良かったのに……」 ひより「それはダメだよ、私達がたかしと交渉しないといけないから……」 ゆたか「そ、そうだったね……」 まなぶ「たかしは真奈美さんの婚約者だった、だとすれば幼い頃の私を知っているかもしれない、最初に私が彼を呼び止める、その後は君達に任せるよ」 ゆーちゃんは俯いてしまった。 ゆたか「今日までに彼にどんな交渉をするか……皆、考えて来たの……私、何も思いつかなかった……ごめんなさい……」 みなみ「一ヶ月もあったのに、何故……真剣に考えたの?」 ゆたか「一ヶ月なんて短すぎる……そう言うみなみちゃんはどうなの」 みなみ「私は……」 みなみちゃんはおどおどし始めた。 ゆたか「みなみちゃんだって同じでしょ、自分が言い出したのだからもうとっくに案が出ていると思った」 まなぶ「おいおい……この期に及んで喧嘩かよ……もう計画は実行されている、後戻りは出来ない……それだけは忘れるな」 ゆたか・みなみ「あ、う、ごめんなさい……」 まなぶの一活で二人は静かになった。でも、二人の喧嘩はそれだけたかしとの交渉が難しい事を物語っている。はっきり言って私も二人同様になにか決め手を持っているわけじゃない。 だけど私はかがみさんと会った。話した……それだけはゆーちゃんとみなみちゃんと違う…… ひより「この東京のど真ん中、人間の住む世界の首都と呼ばれている場所にたかしが来た、これは私達に少しは都合がいいかもしれない」 ゆたか「何故?」 ひより「たかしは人間が嫌い、そんな人がわざわざこんな所に来るってことは彼の人間に対する考え方が変わったのかなって思う、だから話せば分かってくれるような気がする」 その考え方を変えたのは何だろうか。自然に変わるとは思えない。でも、今それを考えている余裕はない。 ゆたか・みなみ「それで……どうすれば……」 ひより「下手な芝居や、感情的に訴えるのは逆効果……単刀直入に私達の想いを伝える……」 ゆたか「それだと、私が最初に言った方法とそんなに変わらないよ……」 ひより「え、ははは……そうだね」 私は苦笑いをした。まさかゆーちゃんに突っ込まれるとは…… まなぶ「しかしそれが一番シンプルで良いのでは、それならたかしがどう出てきても柔軟に対応が取れる」 まなぶは私達三人を見回した。 まなぶ「三人一斉に出て来られると相手も警戒する、ここは一番冷静なひよりに担当してもらってはどうだ?」 うげ、まなぶは何を宣わっていらっしゃるのですか、いきなりそんな大役を…… 私が断ろうとすると、ゆーちゃんとみなみちゃんは目を輝かせて私の手を取った。 ゆたか「そうだよ、ひよりちゃん、お願いします」 みなみ「私では多分何も言えないと思う、ひよりなら……」 皆は私を買い被り過ぎている。私だって何も出来ない…… ひより「私……そんなに自信ないよ、失敗するかもしれない、それでも良いの?」 ゆたか「そうかな、佐々木さんを取り敢えずでも留まらせたのはひよりちゃんだよ、大丈夫だよ」 みなみ「私をここまで連れて来たのはひより、大丈夫」 ひより「で、でも、人の命が懸かっているし……」 まなぶ「誰もひよりを責めたりはしない」 皆が私を励ましている……それにかがみさんも言っていたっけ、助けたいと思ってくれるだけで嬉しいって……それならば…… 私は手の平に人の字を三度書いて飲んだ…… ひより「結果はどうなってもそれを受け止める、それで良いなら」 三人は頷いた。そしてこの言葉は自分自身にも言い聞かせた。 まなぶ「さて、彼を何処に呼ぶかが問題だ。飲食店だと騒がしくて話しに集中できない」 みなみ「皇居外苑の公園はどう、ここから歩いて行ける距離……」 まなぶ「分かった……彼が動いた……ひより達は公園に向かってくれ、私が彼を連れて行く」 ゆたか「私はここに残る、ひよりちゃん達と合流できるようにしないと」 まなぶ「そうしてくれ」 まなぶはワールドホテルの入り口に向かった。ゆーちゃんは此処に留まり、私とみなみちゃんは公園に向かった。 いよいよ本番だ…… 公園の一角に私達とみなみちゃんは場所を確保した。人通りが少なく思いのほか静かだったからだ。 ひより「此処なら問題なさそう」 みなみ「ごめん……私、ひよりに全部押し付けてしまった……」 みなみちゃんは私に深く頭を下げた。 ひより「ふふ、今更そんな事言われてもね……でも、今ならまだ代われるよ、代わってくれるなら喜んで代わるよ」 みなみちゃんは慌てて頭を上げ、驚いた表情をした。 ひより「ははは、じょうだん、冗談だってば」 みなみ「……こんな時に冗談が言えるなんて、やっぱりひよりが適任……」 みなみちゃんは驚いた表情のまま答えた。 ひより「冗談でも言わなきゃこんな事出来ないよ、かがみさんは覚悟を決めているみたいだけど、やっぱりそれでも生きたいと思っているに違いない、 一人の体じゃないからね……」 みなみ「……ひより、今、何て……」 みなみちゃんの携帯電話が鳴った。私を見ながら携帯電話を手に持った。 みなみ「……そう、橋を抜けて暫く歩くと私達がいる……」 みなみちゃんは私に向かって頷いた。合図だ。彼が、たかしが来る……みなみちゃんは携帯体電話を耳に当てながら私から離れて迎えに行った。 私一人広い公園に立っている。 みなみちゃんにかがみさんの赤ちゃんの話しをするのは少しフライングだったかな。結果がどうであれたかしと会った後にみんなに話すつもりだった。 空を見上げると夏の青空が広がっている。さて、覚悟を決めるか……私の覚悟なんてかがみさんに比べたら取るに足らないものかもしれないけど…… みなみちゃんは随分遠くに迎えに行った。小さく見える。どんどんみなみちゃんが近づいてくるのが分かった。そのすぐ後ろにゆーちゃん。またその後ろにまなぶが居た。 まなぶの後ろに男性が付いて来ている。彼がたかしだろうか。人間と距離を置いて住んでいるお稲荷さんの一人。はたして彼はどんなお稲荷さんなのだろう。 まなぶや佐々木さん以外のお稲荷さんは話しに聞いた真奈美さんしか知らない。緊張とプレッシャーが私を襲う。 彼はまなぶと一緒にどんどん私に近づいてきた。ゆーちゃんとみなみちゃんは途中で止まり私を見ている。 男「……彼女か、俺に用があると言う人間は」 ぶっきらぼうな話し方、ここに来るのが余り良く思っていないみたい。 まなぶ「そうだ」 男「あまり時間がない、手短に頼む……俺はたかしだ」 まなぶは私達から離れてゆーちゃん達の所に移動した。自己紹介か。それなら私も。ただの自己紹介じゃ私が誰か分からない。 ひより「わ、私は田村ひより、柊かがみの友人と言えば分かってもらえるでしょうか……」 たかしは少し驚いた顔になった。 たかし「柊かがみの友人、それで、その友人が俺に何の用だ?」 ここからが勝負、お願い。うまく行って…… ひより「い、今、柊かがみは不治の病に侵されています……残念ながら私達人間の力では彼女を治す事ができません、はるか彼方の惑星の、進んだ文明の知識を貸していただけませんか、 私にとって彼女は掛け替えのない友人です……お願いです」 私は深々と頭を下げた。たかしは暫く私を見て大きく息を吐いた。 たかし「……まなぶが居たとは言え、よく俺を探し当てたな……俺が彼女、柊かがみにした事を知っていて、それでも俺に救えと頼むのか……」 ひより「はい、救えるお稲荷さんは貴方しかいないと伺っています……」 たかし「彼女の病名は何だ」 ひより「悪性脳腫瘍……」 たかし「そうか、それは残念だ……その病気を治す薬に必要な物質はトカゲの尻尾……野草……更に二年の発酵期間が必要だ……」 ひより「に、二年……」 私の頭の中が真っ白になった。 ひより「かがみさんの余命はあと半年……間に合いません、ど、どうすれば良いですか、何でもします、お願いです……なんとかなりませんか……」 私の目から涙が出てきた。わたしはたかしの目を見ながら懇願した。たかしは私の目をじっとみていた。 たかし「不思議だな、ホテルの会議室で君と同じように頼んだ人間が二人いた……」 ひより「えっ?」 たかし「ふ、ふふふ、はははは、これは傑作だはははは……田村ひより、遅い、遅すぎるぞ……」 急に笑い出した……何故、それに私と同じって……誰……理解出来ない…… たかしは笑い終わると真面目な顔になった。 たかし「二年前……柊つかさと言う人間が既に薬を作っている……昨夜、もう柊かがみに飲ませた、もうその話は終わっている」 ひより「へ、あれ……ど、ど、どう言う事ですか……」 まさに狐につままれるとはこの事なのか。何がなんだか分からない。 たかし「二年前、俺は人間の銃に撃たれた、その時通りかかった柊つかさに助けられた……彼女は俺を恋人のひろしと勘違いしていたがな……俺は彼女を試した、 彼女は寸分狂わず俺の指示通り薬を調合した、薬を俺に使いたいが為に……俺がたかしと分かっていても彼女は同じ事をした、違うか、田村ひより」 ひより「あ、は、はい……つかさ先輩ならしたと思います」 たかしは微笑んだ。 たかし「俺はもう必要ないだろう、帰るぞ……」 ひより「待ってください、ホテルに居た二人って、柊つかさと高良みゆきですか?」 たかし「……そんな名前だったか」 ひより「あ、ありがとうございます」 たかし「何故礼を言う、薬を作ったのも飲ませたのも柊つかさだ、礼は彼女に言え……」 ひより「でも、その方法を教えたのは……」 たかし「教えさせたのも柊つかさだ……」 たかしは私に背を向けてきた道を戻って行った。 ゆーちゃん達が私に駆け寄ってきた。 ゆたか「いまのたかしさんの言った事本当かな……」 みなみ「もし嘘を言っていたらどうする、もう彼を探せなくなるかもしれない」 ひより「いや、嘘は言っていない、近くで話した感じでは嘘は言っていない」 まなぶ「私も態度や仕草からは嘘を感じなかった……」 そう、つかさ先輩を語るときのたかしの表情に嘘はない。ゆーちゃんは携帯電話を取り出してボタンを操作し始めた。 ゆたか「話していても何も分からない、確かめよう……こなたお姉ちゃんに……」 ゆーちゃんは携帯電話を耳に当てた。 ゆかた「もしもしお姉ちゃん……え今何処なの……え……そ、それでどうしたの……」 始めは驚いた表情だった。だけど次第に笑顔になってくゆーちゃんだった。内容は分からないけど結果はだいたい理解できた。 ゆーちゃんは満面の笑みで携帯電話をしまった。 ゆたか「昨日……かがみ先輩が倒れて緊急入院したって……それで、お姉ちゃんとつかさ先輩が病院に駆けつけると、柊家の家族がいて……病気がみんなにわかってしまった、 今日、精密検査のはずだった、だけど……」 ひより・みなみ・まなぶ「だけど?」 思わず復唱した。ゆーちゃんは笑いながら言った。 ゆたか「何も無かった、誤診として退院したって!!!」 ひより・ゆたか・みなみ・まなぶ「やったー!!!!!」 私達は手を取り合って喜んだ。 つかさ先輩。柊つかさ。ゆーちゃんが憧れている先輩。高校時代ではいつもかがみさんと一緒に居て目立たない存在だった。自分から積極的に何かするような人ではなかった。 ただ、いつも笑顔でその場を和やかにしていただけの存在……そう思っていた。ゆーちゃんの過大評価だと思っていた。コミケ事件のつかさ先輩を見ても憧れの対象にはならなかった。 でもそれは私の過小評価だった。私や、ゆーちゃん、みなみちゃん、お稲荷さんのまなぶまでも動員しても出来なかった事をつかさ先輩はたった一人でしてしまった…… 数値では表現できないって……この事なのかな……憧れのの対象がまた一人私の心に刻まれた。 お稲荷さんと人間と共存か……つかさ先輩なら出来るかもしれない。 ひより「これでお腹の赤ちゃんも安心だ……」 みなみ「それはどう言う意味、たかしさんが来る前にも言っていた」 皆が私に注目した。 ひより「じ、実ね、かがみさんには子供が……」 みなみちゃんは驚いた。 ゆたか「あっ、その事なんだけど……おばさん、みきさんの勘違いだって、病院で検査したけど妊娠はしていなかったって……」 ひより「へ、うそ……私はそれで……それで……」 それで何度泣いた事か。勘違いじゃ済まないよ……でも、さすがかがみさん、つかさ先輩のお母さんだ、勘違いもスケールが大きい。 まなぶ「妊娠はありえない、我々は変身しても卵巣、精巣とも変わる事はない、人間の子供ができるわけがない……完全に人間になれば別だ、ひとしは人間になっていない」 ひより「ふ~ん、避妊の必要がないわけだ……生でし放題だね……」 ゆたか「ひ、ひよりちゃんのエッチ!!」 みなみ「ひより、下品すぎる……」 まなぶ「私はそんな意味で言ってはいない……」 ぬぇ、みんな全否定ですか。 ひより「そんな、私はこの場を和やかにしようと……」 一瞬周りが凍りついたと思った。 ゆたか・みなみ・まなぶ「ぷっ、は、ははは、うははは」 三人は爆笑し始めた。私が浮いてしまった形になってしまった。三人の笑い顔を見て私も笑った。いままで圧し掛かった岩のような重いものが取れたような瞬間だった。 まなぶ「私は帰るとしよう、すすむが結果を気にしている……」 みなみ「私も帰る、みゆきさんに今までの事を話すつもり、ひより、ゆたか、構わないでしょ?」 私とゆーちゃんは頷いた。 ひより「さて、あとはまつりさんといのりさんだけだな……あっ、そういえば忘れていた、まつりさん、わたしとまなぶさんが付き合っていると思ったままだった……」 まなぶ「そんな誤解はすぐに解けるさ……もう私は自分の力でで解決する、いのりさんとすすむに集中してくれ」 ひより「う、うんそうだったね……」 誤解か……そうだ、誤解だった…… ゆたか「それじゃ、ここで解散だね」 ひより「そうしようか……お疲れ様」 みなみちゃんとまなぶは東京駅の方に歩いて行った。さて、私も帰るとするかな。 ゆたか「ひよりちゃん……」 後ろから私を呼ぶ声がした。私は振り向いた。 ひより「ゆーちゃん、そういえば帰り道が同じだったね、一緒に帰る?」 ゆたか「ひよりちゃん、宮本さんの事どう思っているの?」 ひより「どう思っている……彼はお稲荷さんで、私の弟子……みたいなものだけどそれがどうかしたの」 ゆたか「……さっき宮本さんが「誤解」って言った時、ひよりちゃんすごく淋しそうな顔になった」 私が淋しそうな顔に……まさか。 ひより「え……そうかな、そんな事無いよ」 ゆたか「宮本さんと一緒にいる時、ひよりちゃん凄く楽しそうだった、名前も下の方で呼んでいるし、いのりさんやかがみ先輩が誤解するのも分かるようなきがするの、 ひよりちゃんの気持ちは、好きじゃないの?」 ゆーちゃんの目が真剣だ。お稲荷さんはもともと苗字なんかないから名前で呼んでいるだけなんだけだけど…… ひより「彼はお稲荷さんだし、彼はまつさんが好きだから……」 ゆたか「違う、宮本さんやまつりさんは関係ない、ひよりちゃんの気持ちを聞いているの」 ひより「彼は友達でそれ以上でもそれ以下でもないよ……」 ゆーちゃんはガッカリしたような顔になり溜め息をついた。 ゆたか「そうなんだ……そうなんだね」 ひより「そうだよ、それがどうかしたの?」 ゆたか「あ、うん、何でもない、何でもないよ、ちょっと気になったから聞いただけ……なんでもない、一緒に帰ろう……」 ゆーちゃんは小走りに走っていった……ゆーちゃん何を知りたかったのだろう? 私は首を傾げた。 少し遅れてゆーちゃんの後を追った。 ゆたか「ねぇ、せっかく東京まで出てきたのだし、皆を呼び戻して食事でも食べていかない、かがみ先輩に会いたいけど、お姉ちゃん達が先に会っているから押し掛けるのも悪いし」 ひより「私は別に良いけど、みなみちゃんとまんぶさんは……」 ゆたか「私、みなみちゃんに連絡するね」 ゆーちゃんは携帯電話を取り出した。私も携帯電話を取り出した。当然のように携帯電話のメモリからまなぶの携帯電話の番号を選ぶ……そういえば 男性の携帯番号を登録しているなんて……友達なら当然だ。ゆーちゃんが変な事を言いだすものだから変に意識してしまう。 二人はまだ東京駅に居たので呼び戻すのはそんなに時間は掛からなかった。 ワールドホテルのレストランで私達四人は食事をした。そこで私達はかがみさんの無事を祝った…… 精神を集中させて……ゆっくりと、慌てず時間を忘れて、ゆっくりと……吸って……吐いて……静かな海の波のように…… ひより「ゴホ、ゴホ……」 すすむ「はい、止め……どうした、この前はうまくいったのに、今日は全然ダメだな」 ひより「……すみません、なんか調子が乗らなくて」 かがみ「確かにその呼吸法は難しいわね、私もこの前出来るようになったばかりよ、ゆたかちゃんがわずか一週間で一通りできるようになったのは驚きだわ」 かがみさんの病気が治って一週間を越えた頃、私は整体院でゆーちゃんと同じ呼吸法を学んでいた。ゆーちゃんが出来るくらいだから直ぐに物になると思ったがそれは大きな間違えだった。 一ヶ月以上経っても基本が出来ていないと言われる始末。 それでも呼吸法が成功すると身体が軽くなったような感じになり、頭もスッキリする、疲れも取れて何日でも徹夜で漫画を描けるような気になる位調子が良くなる。 ひより「でもこの呼吸法凄いですね、流石はお稲荷さんの秘術、知識ですね」 すすむ「いいや、前にも言ったかもしれないがこれは我々の物ではない、人間が独自に見つけ出したものだ」 ひより「そ、そうですか……こんな凄いのに……どうして広まらなかったのかな」 すすむ「確かに悪性新生物や感染症には効果が無いがそれ以外には絶大な効果を発揮する……物には適材適所があるものだ、そうした人間の捨てた技術や知識を私は 拾って歩いた……その技術だけでも今の医術に引けを取らない、人間はこうした物を平気で捨てていく……」 なんか重い話しになってしまった。私はそこまで深く考えなんかいないのに。 かがみ「平気で捨てるのは進歩するからよ、貴方達の故郷でも同じ様にして来たんじゃないの、それが文明と言うものよ、それが良いか悪いかなんて今は分からない、 失って初めてその価値に気付く、いや、捨てた事すら気付かない、違うかしら」 すすむ「……そうかもしれないな……」 ぬぅ、話しに入っていけない。あんな話しに突っ込むなんて。泉先輩の時の突っ込みとは大違いだ。かがみさんって人に合わせる事が出来るみたい。 かがみ「私の病気がこんなに容易く治るなんて、何故たかしと言うお稲荷さんにしか調合が出来ないのよ」 すすむ「我々はは母星での知識は全て共有で出来るようになっている、しかし、この地球に来てからの知識や技術は各々独自に身につけていて共有できないのだよ、 たかしはこの地球の物から我々が使用する物を作れないかと日夜研究していた……」 かがみ「……それでトカゲの尻尾を使うのは納得がいかない、つかさのやつ、そんなのを平気で飲ませるのよ、まったく頭に来るわ」 すすむ「トカゲの尻尾……そんな物を使うのか、初めて聞いた」 佐々木さんは笑いながら答えた。 ひより「彼がそう言っていましたから……でも治ったから良かったじゃないですか、私達は何も出来ませんでしたけど」 やっぱり言わない方が良かったかな……でも、そう言うのも面白いでしょ、かがみさん。 かがみ「うんん、そんなこと無いわよ、あんた達が動いたからこそつかさの薬が成功したのよ……まだお礼を言っていなかったね、ありがとう」 ひより「そう言ってもらえると嬉しいっス」 かがみさんは真面目な顔になって佐々木さんの方を向いた。 かがみ「ところで、佐々木さん、いつまでこの整体院を休むつもりなの、引越しもいいけどせめてその時までは再開してもいんじゃない、 男性の家に未婚の女性が何度も出入りすると何かと悪い噂が出るわよ」 すすむ「……またその話しか……」 うんざりする佐々木さん。 かがみ「いのり姉さんと会うのがそんなに辛いの、何がそうさせるの、私達に話せないの?」 ひより「微力ながら手伝いますよ」 すすむ「そう言ってくれるのは嬉しいが……もうその話は止してくれ……」 かがみさんは溜め息を付いた。 『ドンドンドン』 居間の入り口の扉から叩く音がした。 ひより「私が行くっス」 私は扉を開いた。あれ、誰も居ないと思って下を向くと狐の姿になったまなぶが立っていた。こんな状況にも全く驚かなくなった私……慣れすぎちゃっているな…… ひより「まなぶさん……そんな姿で何か用?」 まなぶ「フン、フン、フン!!」 興奮している息づかい。だけど彼が何を言いたいの理解出来ない。 ひより「どうしたの、人間にならないと分からないよ……」 すすむ「居間に来て欲しいと言っている……田村さん、かがみさんも……」 かがみ「私も……ですか」 私達は居間に移動した。 次のページへ
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決勝前SS 「フフフ そろそろおひろめといくか おまえたちが決勝を争う絶好の舞台のな!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ ガシャーン 「「こ……これは!?」」 「な…なんじゃーっ このリングのまわりにしきつめられたものはーっ!?」 「こ……これは板に剣を打ちつけたものだ……」 「も、もしやあれは……」 平和島左近がわなわなと震えながら呟く 「し、知っているのか、左近!?」 「ウム……あれは古来より伝わる決闘方法……ま、まさかあの決闘方法を知っている者が居るとは……あの決闘方こそ――――――――」 「名づけて、ソード(剣板)・デスマッチじゃ!!」 「なにーっ!?」 「皓鳥よ ソード・デスマッチなんて知っておるか?」 「ウーム よくは知らないが見た感じで推理するならば……脱出不可能という点でランバージャック・デスマッチと同じだが、むこうは人の壁が場外へ逃げようとするものを押し返すだけに対し、こっちは場外へ落ちれば大ケガ……まさにリング上も地獄ならリング下も地獄というところか!」 「ひえ~~っ」 「どうじゃ気に入ってもらえたかな?この試合方法は完全決着の方法として古代魔人時代に頻繁におこなわれてきたそうじゃが……近代になってあまりに残虐な試合方法のため一切おこなわれなくなったとか!!」 「そもそもこの残虐な試合方法を考え付いた男こそ そこにいる男。最強の男と呼ばれた平和島左近だ!!」 全員の視線が左近に集まる。 「ま、まさかオレの考えたデスマッチを利用してくるとは……」 動揺を隠し切れない場において、ゆっくりとリングに上がる一人の男が居た。 「ソード(剣板)・デスマッチか 委員長もおもしろいことを考えやがる」 口舌院言論。太古の時代より蘇りし魔人である。 「フフフ 面白い 乗ったぜ!!どうするね?週刊少年ルフトよ」 その声に反応し、折笠ネルもテキーラを片手にリング上に上りだす。 準決勝で受けた顔面の傷はすでに整形手術をし、傷跡は完全に消えていた。 「受けなければお前たちに優勝の座を持っていかれるからな」 週刊少年ルフトもリングインする。 『さあリング上、決勝を争う2チームが揃ったところで剣板が敷き詰められていきます!!』 『これでもう場外には逃げられません!戦線離脱した場合、剣が刺さって死亡します!(ゲーム処理上には全く影響ありません)』 『また、場外の剣板を武器として使用することも可能です!!(ゲーム処理上には全く影響ありません)』
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注意点 ・この物語は「つかさの一人旅」の続編にあたります。 ・つかさの旅、つかさの旅の終わり、の内容が含まれて居ますのでそちらを先に読んだ方がいいかもしれません。 ゆたか「田村さん、物語ってどうやって作るの」 ひより「へ、どうやって言われても……」 突然だった。昼休みの時間、昼食を食べ終えて少したった頃だった。突然降って湧いたように聞かれた質問。私は漫画を描いていてネタに困ったりしたりしているけど。 こう率直に聞かれると返答に困る。 ゆたか「起承転結……登場人物、物語の進めかた……難しいよね」 ひより「ん~その言い方、もしかして、小早川さんも何か物語を考えているの?」 ゆたか「出来たらいいな~なんてね」 はにかみながら笑う小早川さん。そういえば何度か同じような質問をされた事を思い出した。まともな答えをしていなかったっけ。 とは言え、どうやって答えるかな…… ひより「起承転結とか、構成なんか考えると余計難しくなるから……私なんかはキャラからイメージを考える」 ゆたか「キャラクター?」 私は頷いた。私は目を閉じながら話した。 ひより「少女を思い浮かべよう、背は小さいけど運動は得意……その割にはインドア派、いつも冗談や悪戯ばかりして周りを怒らせたり、楽しませたり…… でも、どこが物悲しげな雰囲気が微かに漂う青い髪の女性」 ゆたか「あ、それは……こなたお姉ちゃん……みたい」 ひより「当たり……キャラクターを決めちゃえば勝手に頭の中で動いてくれるよ」 ゆたか「そんな物なのかな……」 考え込んでいる小早川さんだった。 ひより「料理が大好き、いつも笑顔で……」 ゆたか「いつも笑顔で周りを和やかにしてくれる……つかさ先輩?」 私は頷いた。 ひより「彼女はとっても良いネタ……は!!」 ゆたか「ねた?」 ひより「い、いや、なんでもない、なんでもない」 まずい、まずい、皆をネタになんて……泉先輩と描いている漫画の事がバレでもしたら。 ひより「と、兎に角、これはほんの一例だから、キャラから入っていくのもアリって事」 ゆたか「ありがとう……ところでその、つかさ先輩なんだけど、専門学校を卒業して、就職したって聞いた?」 話題が変わった……あり難い。 ひより「うん、何でも近くのレストランに決まったって……」 ゆたか「専門学校だと目的がはっきりしているから……いいな~」 ひより「その私達も……大学生だよ」 ゆたか「そうだね」 ひより「それより岩崎さんは……」 教室の周りを見渡しても居なかった。 ゆたか「みなみちゃんは音楽室に行っているよ……」 泉先輩達がこの陸桜学園を卒業して二年、私達も卒業間近となった。皆が卒業しても頻繁に会っているので在学中とそんなに変わらない日々が続いた。 つかさ先輩が就職すれば今まで通りに会うことは出来なくなりそう。でもそれは直ぐに現実になってしまった。 私達が卒業してから、つかさ先輩だけ、極端に合う機会が減ってしまった。個人的にはいろいろネタ的なものを提供してくれてはいたので残念と言うしかない。 こなた「つかさねぇ……先週会ったよ」 ひより「ほんとっスか?」 こなた「嘘付いてもしょうがないじゃん」 ひより「そ、それはそうですけど……それで、どんな感じっスか?」 私は泉先輩の家に居た。卒業前からの極秘ミッションを完成させる為に。 こなた「どんな感じって言われてもね、普段通りのつかさだよ」 ひより「そうですか……」 こなた「あ、そういえばね」 何かを思い出したように左手を握り左手を広げてポンと叩いた。 こなた「何でも二十歳になったから一人旅をしたいなんて言っていたね、まぁ、地図すら読めないつかさの事だから、迷子になって泣いちゃうのが落ちだろうけどね……」 ひより「一人旅……っスか……」 つかさ先輩が背伸びをするなんて……職場で何かあったのだろうか。 こなた「それは、それとして……ひよりん、ミッションの方はどうなっているの」 ひより「……完成しました」 こなた「ほんとに、見せて、見せて」 身を乗り出して私に迫ってきた。そんな先輩を尻目にゆっくりと鞄を開けて焦らせた。 ひより「構想から二年……永かったっスね……」 鞄から本を取り出すと先輩はひったくる様に本を私の手から奪った。そして本を開いて見た。 こなた「……お、お、これは……さすがひよりん、やっぱり凄いや」 ページを捲るたびに目を輝かせていた。 ひより「でも、これで本当いいのかな……」 小さく呟いたつもりだった。先輩の動きが止まった。聞こえてしまった。 こなた「ひよりん、もうミッションは動いているのだよ……今更止める訳にはいかないよ」 ひより「い、いえ、反対しているのではなくて……これを極秘にしている……気が引けるっス、せめて……私達以外の誰かに見せてからでも……」 そう、この本は私と先輩で描いた漫画……登場人物が私や先輩の友人をパロディにしたもの。 見る人が見れば誰だか特定できそうな内容だった。面白半分にミッションに乗ったものの、現実に完成してみると何かしてはいけない事をしてしまったような罪悪感が 芽生え始めていた。最終的には夏コミに出すとか出さないとか……困ったな…… こなた「見せる……見せるねぇ~誰に見せる、かがみがいいかな」 ひより「げっ!! そ、それだけはご勘弁を……」 こなた「ゆーちゃん?」 ひより「これを見せるにはまだ早いかと……」 こなた「みなみちゃん?」 ひより「……きっと人格を否定される……」 先輩は溜め息をついた。 こなた「だから極秘にしてきたのでしょ、あともう少しでミッションは終わるだから、迷いは禁物!!」 それは先輩自信が自分に言い聞かせているようにも見えた。 ひより「は、はい……」 私は頷いた。 こなた「それで、ひよりんのサークルは参加出来るの?」 ひより「当選したっス」 こなた「よしよし……それで、この本を何冊刷るかなんだけどね」 嗚呼……話がどんどん具体的になってきた。 ひより「まったくオリジナルなのでどの位売れるかは未知数ですね……100……50冊でも多いかも……」 と言いつつ、私も話しに乗ってしまうのだった。 夏コミ三日前だった。突然私は泉先輩に呼び出された。それは泉先輩の家ではなく柊家だった。理由を聞いても先輩は答えてくれない。 何かとっても悪い予感がした。だけど断ることは出来なさそうだ。 私は柊家の玄関の前に立っていた。呼び鈴を押す手が重い。 『ピンポーン』 ドアが開くとかがみ先輩が出てきた。 かがみ「居間に行ってくれる」 冷たい声だった。いつもなら笑顔で迎えてくれるはず。それなのに…… 後ろから刺すようなかがみ先輩の視線を感じながら居間に向かった。居間の入り口の扉を開くと…… つかさ先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩が奥の方に並んで座っていた。そして、その対面に、みなみちゃん、ゆーちゃんが並んでいる。 二つの列に挟まれるように泉先輩が座っていた。なにかに怯えるように肩を竦めていた。 ひより「こ、こんにちは~」 みさお「おっス、こりゃ驚いた、久しぶりじゃないか、全員集合なんて」 日下部せんぱいはいつも通り……ここに呼ばれた理由を聞いていないみたい。私は泉先輩の隣に座った。 少し遅れてかがみ先輩が入ってきて居間の上座に座った…… みさお「ところで柊、なんで呼び出したんだ?」 かがみ先輩は手に持っていた本を人数分皆に渡した。 かがみ「これと同じ物が30冊……こなたの部屋から発見された」 皆は本を手に取り開き始めた。あの本は……ま、まさか…… 発見した……誰が? その時、鋭い視線を感じた。恐る恐るその方見ると……ゆーちゃん……私と泉先輩を軽蔑する様な眼で私を睨んでいた。本を手に取っていない。 まさかゆーちゃんは既に見ているのか……本を発見したって……ゆーちゃんが…… 私の顔が青ざめていくのが分った。やはり、印刷は私がすべきだった…… 顔が赤くなったつかさ先輩、目つきが恐くなった日下部先輩……無表情な高良先輩とみなみちゃん、峰岸さん…… みさお「……これって、私達だよな……こんな事をするような奴は……」 日下部先輩が私達に向くと皆が一斉に私達の方を向いた。 かがみ「これから泉こなたの弾劾裁判を施行する!」 さながら裁判官か検事の風貌を漂わせたかがみ先輩。 こなた「あの、ひよりんは……」 かがみ「被告人は黙っていなさい」 かがみ先輩の目つきが豹変した。 こなた「ひ、ひぃ……」 かがみ「この本を見てもらって分るように罪状は明らかよ、これは悪戯の域を超えたもの、ここまで私達を侮辱されたのは始めてだ」 日下部先輩とゆーちゃんは頷いた。 かがみ「同じ物を30冊も、どうするつもりだった」 かがみ先輩は泉先輩を睨んだ。泉先輩は方をつぼめたまま話そうとはしない。 かがみ「この期に及んで黙秘権か……見損なったわよ、田村さん、答えてくれるわね……」 かがみ先輩の目が和らいだ、私はその目に吸い込まれそうになった。 ひより「あ、あの……夏コミ……コミックマーケットに出品を……」 こなた「ば、バカ、そんな事を言ったら……」 『バン!!!』 かがみ先輩は手に持っていた本を泉先輩に向かって叩き付けた。本は泉先輩の顔に当たった。いすみ先輩の鼻から血が少し出てきた。 かがみ「いい加減にしろ、まだ隠そうとするのか、バカ!!」 この時分った、かがみ先輩は本気で怒っている。皆もそれを見て少し怯んだように見えた。かがみ先輩は泉先輩に近づいて腕を上げた。殴るつもりだ…… 私は目を閉じて顔を背けた……あれ、叩いた音がしない。私はゆっくり目を開けた。かがみ先輩は腕を上げたままだった。泉先輩の前につかさ先輩が立っていた。 かがみ「つかさ、何のつもり、そこをどきなさい」 つかさ先輩は首を横に振った。 かがみ「奴を庇うつもり、何故よ、つかさも本を見たでしょ、こなたには鉄槌が必要だ!!!」 つかさ「殴っても何も変わらないよ……見てよ、こなちゃん怪我しちゃったよ」 かがみ先輩はつかさ先輩を睨んだ。つかさ先輩はそんなかがみ先輩を尻目にポケットからハンカチを出すとかがみ先輩を背にして泉先輩の鼻血を拭い始めた。 つかさ「大丈夫、痛かった?」 優しい声だった……何だろう、今までのつかさ先輩と違う……かがみ先輩が怒っている時、私の知っているつかさ先輩はおどおどしているだけだったのに。 かがみ先輩の怒りに動じていない。それどころか泉先輩を気遣っているなんて…… かがみ「あんたはこなたが憎くないの、つかさがこの本でどう扱われているのか分って言っているのか」 つかさ「お姉ちゃんがこなちゃんを殴ったら、もう二度とこなちゃんはお姉ちゃんと会えなくなるよ……それでもいいの」 かがみ「別に殺すわけじゃない……」 つかさ「お姉ちゃんは友達としてもう会えなくなるよって意味だよ……」 こなた「……ゴメン……なさい」 泉先輩はつかさ先輩のハンカチを取るとそのまま目に当てた……泣いている? こなた「皆……ごめんなさい」 声が少しかすれている。泉先輩は泣いている。 かがみ「あ、謝って済むと思っているの……」 珍しくかがみ先輩が動揺している。 つかさ「私は……許すよ、もうあの本は出さないよね」 こなた「う、うん……」 泉先輩が謝った……それも驚いたけど、もっと驚いたのはつかさ先輩の言動だった。何かを守ろうとしている。それが伝わってきた。 泉先輩が泣いたのもそれが分ったからじゃないかな。私も何か心が動かされた。 ひより「済みませんでした……最初に原案を提案したのは私です……私も同罪」 かがみ「た、田村さん……」 かがみ先輩が一歩下がった。 みさお「……私も許す……ちびっ子、つかさに感謝するんだな」 みゆき「もう充分だと思います、弾劾は終わりました……」 ゆたか「……も、もう、良いよ、お姉ちゃん、田村さん……」 かがみ「……みんな甘い、甘すぎるわ……」 かがみ先輩の上げていた腕は下ろされた……その時のつかさ先輩の笑顔が印象に残った。 それから私と泉先輩だけ残り皆は帰った。その後、かがみ先輩の部屋に移り、私達二人はみっちりお説教を受けたのだった。 30冊の本は柊家の中庭にてかがみ先輩の立会いの下で燃やされた。 私が柊家の玄関を出るとゆーちゃんが立っていた。 ゆたか「あの本……燃やしたの、庭から煙が見えたから……」 私は頷いた。 ゆたか「私……そこまでするつもりは……」 ひより「うんん、自業自得だったよ……」 私達は並んで歩き始めた。 ゆたか「それにしても……つかさ先輩、かっこ良かった……憧れちゃうかも」 ひより「専門学校を卒業してから会っていなかったけど……一回り大きく見えた」 ゆたか「つかさ先輩、かがみ先輩の目を見ながら必死にお姉ちゃんを庇っていた、多分、叩かれるのも覚悟の上だったかもしれないね」 ひより「……社会人になるとこうも違うのかな……凄いね」 ゆたか「う~ん」 ゆーちゃんは立ち止まった。 ひより「どうしたの?」 ゆたか「社会人になるのとはあまり関係かないかも、ゆいお姉ちゃんは学生時代とあまり変わらなかったような……」 ひより「……成実さんは変わらないと言うよりは……最初から変わっているよ……い、いや、良い意味で言っているから」 ゆたか「ふふ、別にそのくらいじゃ怒らないから大丈夫だよ……」 よかった。笑ってくれた…… ひより「みなみちゃん、何も言っていなかったけど……もしかして、私、嫌われちゃったかな……」 ゆたか「うんん、それは大丈夫だよ、怒るよりも本の出来が良かったって感心していた」 ひより「かがみ先輩と随分違う反応だな……むしろ軽蔑されるかと思ったけど」 ゆたか「そうだね……やっぱりこうゆう物を作る時は、手順を踏まないと理解してもらえないよ」 それはかがみ先輩が何度も言っていた。秘密にするのが一番いけない事……そうだね。 私達は駅に向かった。 『キキー!!!』 大通りに出る少し前だった。凄いブレーキ音、それ共に猛スピードでトラックが近づいてきた。私達の少し前で止まると、エンジンを空吹かしして走り去った。 ひより「乱暴な運転だね~」 ゆたか「ふぅ~少し驚いちゃった……」 少し歩くと道端に丸い茶色の塊が見えた。ゆーちゃんは直ぐにそれが何か分ったみたいだった。その丸い物に走り寄ってしゃがんだ。私も直ぐ後を追いかけた。 ひより「何、何なの?」 ゆたか「犬だよ……酷い……さっきのトラックの急ブレーキはこの犬が来たから……」 これは犬だろうか。確かに柴犬みたいな毛、大きさもそのくらいだけど……首輪をしていない…… ひより「柴犬ってもっとコロコロしていない?」 ゆたか「うんん、それは冬の毛、今は夏毛だから細く見えるって」 ゆーちゃんは優しく犬の背中を擦った。ピクリともしなかった。 ひより「もしかして……死んでいる?」 ゆたか「うんん、背中から鼓動が伝わってくるよ……」 ゆーちゃんは犬の身体を細かく見だした。 ゆたか「怪我はしていないみたい……」 しかし、犬は動かないままだった。 「どうかしましたか?」 後ろから声がした。私達は声のする方を向いた。 「あら……小早川さん……えっと、田村さんでしたっけ?」 私達を知っている。でも私は知らない……あれ、会ったことあるかな……思い出せない。 ひより「あ、あの~どちら様で?」 ゆたか「田村さん、知らないの、何度も会っているでしょ、柊いのりさん……」 そう言われてみると目がかがみ先輩に似ているような気がする……巫女姿……もっと直ぐに思い出すべきだった。 いのり「かがみ……つかさ、どちらの友達だったかしら……」 ゆたか「どちらの友達でもありますけど……」 いのり「今後とも二人をよろしく……っと、挨拶は置いておいて……こんな道端でどうしたの?」 ゆたか「実は……犬が車に……」 私達は倒れている犬の方向いた。いのりさんも私達と同じ方を向いた。いのりさんはそっと犬を抱きかかえた。 いのり「大丈夫かな……」 いのりさんの顔が緩んでいる。犬が好きなのは直ぐに分った。 いのり「……この子、犬じゃないね……狐じゃない?」 ひより・ゆたか「きつね、野生の?」 いのりさんは頷いた。 ひより「い、いくらなんでもこの街に狐だなんて……狸なら居るかもしれないけど……ねぇ」 私はゆーちゃんに同意を求めた。 ゆたか「狐にしろ、犬にしろ、このままじゃ可愛そうだよ……」 ゆーちゃんの顔が悲しげになってきた。 ひより「う~ん、家はもう犬を飼っているから引き取れない、ゆーちゃんだって居候の身だから同じでしょ」 ゆたか「そ、そうだけど……実家も犬を飼っているし……」 いのり「家も両親、四姉妹の大所帯だから……」 重い空気が立ち込めてきた……八方塞って所か。 沈黙が暫く続いた。 いのり「神社の境内にある掃除用具倉庫……そこがいいかな」 いのりさんが呟くように話しだした。いのりさんは犬……じゃなかった、狐をゆーちゃんに手渡した。 いのり「神社の入り口で待っていてくれる、いろいろ持ってくるから」 ひより・ゆたか「は、はい」 私達は来た道を戻り神社に向かった。 狐はゆーちゃんの腕の中で静かに眠っている。神社に着いて10分くらいした頃、いのりさんがダンボールを抱えて走ってやってきた。服は着替えていない。巫女服のままだった。 いのり「ごめん、待たせてしまった」 私はダンボールを受け取り、ゆーちゃんは狐をいのりさんに渡した。 いのり「付いて来て」 いのりさんに言われるまま、私達は神社の奥へと進んでいった。 いのり「家に行ったら、泉さんが居てね……話が弾んでいたみたいだから何も言わないで来てしまった」 私とゆーちゃんは顔を見合わせた。 ゆたか「ふふ、仲直りしたみたいだね」 ひより「そうだね」 いのり「仲直り……なにかあったの?」 私達は今までの経緯を話した。 神社の奥にある倉庫。その裏にいのりさんは私達を案内した。倉庫の裏にダンボールを置き、タオルを敷いて狐をそっと寝かせた。 いのり「そんな事があったの……つかさがね……確かに今までつかさじゃそんな事はしない……きっと一人旅をしたせいかしら」 ゆたか「つかさ先輩、一人旅をしたのですか……どうだったのかな」 いのり「……かがみには話したみたいだけどね、私やまつりにはさっぱり……でも、悪い体験じゃなさそうだから私も敢て聞こうとは思わない」 寝ている狐を優しい目で見ているいのりさん。そんな目で妹達を見ていたと思う。今までそんなに話した事なかったけど、やっぱり長女だなと思った。 ゆたか「ところで、いのりさんのその巫女服はどうしたの?」 いのり「あ、ああ、これね、これは近所の地鎮祭の帰りだったから……着替えるの忘れていた……」 私達は笑った。 『ガサ・ガサ』 ダンボールの方から音がした。狐の意識が戻ったみたいだった。狐は私達をじっと見ている。 ゆたか「あ、気が付いた、大丈夫、狐さん」 ゆーちゃんが狐に手を伸ばそうとした時だった。 いのり「止めなさい、野生の動物だから危険、触ったら噛まれるかもしれない」 ゆーちゃんは直ぐに手を引っ込めた。 狐は私達を恐れるわけでもなく、甘えるわけでもなく、じっと観察しているみたいに見えた。 ゆたか「気が付いて良かった……でも、これからどうしよう……」 いのり「ここなら雨風は防げるし、野犬の心配もない、あとは元気になるまでの食料をどうするか」 ゆたか「私とひよりちゃんは夏休みだから交代で餌をあげられます、ねぇ、そうだよね、ひよりちゃん」 ひより「え、ええ、そうだね、出来る……でも、コミケが終わってからでないと……」 いのり「それなら、当分行事がないから私も手伝うよ」 ゆたか「ありがとう、いのりさんが手伝ってくれるなら百人力です」 な、なんだ……私は自分の目を疑った。いのりさんとゆーちゃんは気が付かないみたいだけど。私ははっきりと見た。この狐は何かおかしい。 ゆーちゃんといのりさんの会話を聞いている。ゆーちゃんが話して、いのりさんが話し出す前に顔をいのりさんに向けている……これは会話を理解していないと出来ない。 そもそも野生の狐がここに居る事自体がおかしい……何だろう、この違和感は…… 私は狐をじっと見た。狐はそれに気付き目線を逸らした……そんな……ますます怪しい……そんな仕草は家の犬もチェリーちゃんでさえしない。 ゆたか「田村さん、田村さん、どうしたの?」 私はハッと我に返った。こんなのは確証も何も無いし、話したってバカにされるだけ。それに私の病気、妄想が出てきただけかもしれない。忘れよう。 ひより「え、あ、いや、何だろうね」 ゆたか・いのり「何だろうね?」 ひより「あ、ああ、そうでなくて、えっと、そうだ、狐さんも気が付いた事だし、何か餌をあげないと……」 いのり「餌ね……そこまで頭が回らなかった……あ、そういえば地鎮祭で頂いた稲荷ずしがあった」 いのりさんは袖の下から袋を取り出した。狐は起き上がり前足をダンボールの淵に乗せた。 いのり「あらあら、食べたいの、稲荷ずしだけど食べるかしら……」 狐の口からポタポタと唾液が落ち始めた……まさかとは思うけど……中身が稲荷ずしって分っている……訳ない……う~ん。 いのりさんが袋から稲荷ずしを取り出すとゆっくり狐の口元に差し出した。狐は稲荷ずしをパクっと食べ始めた。 ゆたか「美味しそうに食べているね……狐って昔話みたいにやっぱり油揚げの料理が好きみたいだね」 いやいや……それは違う、普通の狐はネズミや小動物が餌のはず……それに人間から餌を貰うなんて…… いのり「人間にも馴れているみたいだし、きっとどこかで飼われていたのかもしれない」 ひより「それだ!!」 思わず叫んだ。二人はポカンと私を見ていた。 ひより「ですよね~そうですよ、狐がこんな所に居るはずない、きっと誰かが飼っていたにちがいないですよ、珍しいから飼い主も見つかるかもしれない」 なんだ、そうだよ。それしか考えられない、私ったら……なにボケているのだろう。 いのり「明日は私が来るから、元気になるまでここに居て良いからね」 狐はいのりさんをじっと見つめていた。 ひより「それよりこのままだと逃げ出したりしないかな……繋げないと……」 ゆたか「あ、今、狐さん嫌がったみたい、大丈夫だよこのまま大人しく元気になるまで居てくれるよ……」 狐はダンボールの中で丸くなった……いのりさんはホッとした表情を見せた。 いのり「それじゃ、帰ろうか」 ひより・ゆたか「はい」 やっぱりおかしい……二人はスルーしたけど、私が狐を繋ぐ話しをしたら嫌なポーズをした……それはゆーちゃんもそう言ったから間違えない。 人間の言葉を理解出来る動物……それは躾や、訓練のレベルじゃないような気がする。私はあの狐に妙な興味を抱くようになった。 でも、目前にコミケが……コミケが無ければ……私の痛い性がこれ以上の詮索を許さなかった。 コミケが終わり、私の餌当番が来た時には狐は居なかった。いろいろ試してみたい事があったと言うのに。いったいあの狐は何だったのだろうか? もう一つ不思議なことがあった。ダンボールとタオルが綺麗なままだった。どうやって? 今となってはどうする事も出来ない。 つかさ先輩にお礼を言いたい。そう思っていた。しかし程なく彼女は一人で遠地に引っ越す事になった。なんでも一人旅で出会った人に スカウトされてそこの店で働く事になったらしい。つかさ先輩の料理の腕は高校時代だからは知っていたけど、スカウトされる程だったとは思わなかった。 そこで私はお礼と、新天地での就職の祝いを兼ねてゆーちゃんとみなみちゃんを誘ってつかさ先輩の働く店を訪ねる事になった。 ゆたか「……レストランかえで……そう言っていたよね?」 みなみ「神社がある……少し行き過ぎたみたい」 地図を持っているみなみちゃんは反対方向を指差した。 ひより「それじゃ戻るかな……しかし、まだ泉先輩達が店に行っていない……私達の方が早いなんて、ちょっと順番が逆のような気がするね」 ゆたか「そうだね、なかなか時間が合わないみたい」 みなみ「私達が行けばきっと喜んでくれそう……」 新しい店なので地図には載っていない。温泉宿を目標に私達は歩いた。 ひより「レストランかえで……これだ!!」 新しい店……そう聞いていた。だけど古い温泉宿の一部を改装したようだ。目新しさはまったく感じられなかった。 ひより「う~ん、これってどうなんだろう、見た目はたいした事ないような……」 ゆたか「田村さん、失礼だよ、何をしに来たのか分っているの!!」 ひより「あ、失礼、失言でした……」 ゆーちゃんが怒るのも無理はない。私はお礼と祝いに来たのだった。インネンを付けにきたのではない。 みなみちゃんが店の扉に近づいた。みなみちゃんがドアに触れる前にドアは開いた。 「いらっしゃいませ」 店内から女性が出てきた。どうやら店員らしい……だけどなんとなく堂々として威厳があるような…… みなみ「予約しました田村ひより他2名ですけど」 「……伺っております……貴方達が高校時代の後輩のお客様ね、私は店長の松本かえでです」 みなみ「私は、つかささんの後輩、岩崎みなみです……」 ゆたか「私は、小早川ゆたか……」 ひより「田村ひよりっス……」 かえで「遠路はるばるお疲れ様でした、お待ちしておりました、どうぞ……」 松本さんは手を広げてお辞儀をして店内に招いた。松本さんに案内された席に着いた。 かえで「少々お待ち下さい」 すると松本さんは私達の席の近くに寄り、小声で話した。 かえで「つかさは何度も貴方達の話しをするのよ……よっぽど嬉しいみたい……今日は楽しんで行ってね」 松本さんはウィンクをすると厨房に向かって行った。 みなみ「松本さん……厳しい人だと聞いていた」 ゆたか「うん、そう聞いていたけど……仕事以外の話しをするのは、それだけつかさ先輩が信頼している証拠だと思うよ」 店内を見回した。概観とは打って変わってなんとも落ち着いた佇まい。椅子、テーブル、窓、カーテン、電灯……店長、松本さんのセンスなのだろうか。 この雰囲気……デッサンしたくなる。ゆーちゃんとみなみちゃんが楽しそうに話している。 さすがにこの状況でスケッチブックは出し難いね…… つかさ「いらっしゃいませ」 声の方を向いた……あれ……これがつかさ先輩……学生服と私服した見たこと無かった。白い調理用の制服……短い髪が清潔感をかもし出している。 大人っぽい……これが社会人ってやつなのか……かがみ先輩や高良先輩とは違った魅力を感じる。 ゆたか「うわ~かっこいいですね、すっごく似合っています」 少し照れて顔を赤くする所はまだ高校時代のままだ。だけど高校時代にそんな色っぽくはなかった。この表情もスケッチして取っておきたい…… みなみ「今まで来られなくてすみませんでした……」 つかさ「うんん、まだまだひよっ子だから……出来ればもう少し落ちてから来てもらいたかった……でも、ありがとう、今日の献立は私に任せて」 ゆたか・みなみ「はい、お任せします」 ゆたか「ひよりちゃん……ひよりちゃん」 ひより「……良い……」 ゆたか「いい、いいって何?」 私は我に帰った。 ひより「え、あ、な、何でもない」 相変わらず妄想が激しいな……自重しないと…… ゆたか「料理は任せてって」 ひより「うん」 前菜から始まり、スープ、肉料理、サラダ、そしてデザート……フルコースだった。 田舎で素材が良いのもあるのかもしれない。だけど、松本さんの作る料理は確かに違う……ゆーちゃんもみなみちゃんも会話を忘れて食べるのに夢中になっている。 確かつかさ先輩と同じ専門学校だって言っていたっけ。旅で出会った。こんな人と出会えるなんて。つかさ先輩もなかなかの強運なのかもしれない。 つかさ「いかがでしたか?」 厨房からつかささんが来た。 ゆたか「とっても美味しかった……全部食べたの、はじめてかも」 確かに、食の細いゆーちゃんがあんなに食べるのを見るのは初めてだ。 みなみ「言葉には表せません……」 つかさ「ありがとう……えっと、最後のデザートなんだけど、私が作ったのだけど……どうだった?」 私達は空になった器をつかさ先輩に見せた。つかさ先輩は満面の笑みを見せた。 つかさ「ありがとう」 そのまま松本さんの居るホールに駆け寄って何か話している。松本さんも私達の方を向いて喜んでいる……何だろう。二人が姉妹みたいに見えてきた。 ……なるほどね、つかさ先輩にとって、松本さんはかがみ先輩の代わりなのかもしれない。この店は繁盛する。そう確信した。 暫くするとつかさ先輩がまたこっちの方に来た。 つかさ「今夜はここの温泉宿に泊まるって聞いたけど?」 私達は頷いた。 つかさ「仕事が終わったらお邪魔しても良いかな……」 私達は顔を見合わせた。 ゆたか「ぜんぜん、構わないです」 つかさ「それじゃ、温泉でも入って待ってて、ここの温泉はとっても良いからね」 つかさ先輩は厨房に向かって行った。 みなみ「……つかさ先輩、はつらつとしていて良かった」 ゆたか「元気いっぱいって感じ、それに料理も……高校時代に食べたクッキーなんか比べ物にならない」 ひより「そんな時代と比べたら可愛そうだよ」 私達は笑った。 ひより「ふぁ~」 欠伸が出た。私とゆーちゃんは一足先に温泉に入ってきた。つかさ先輩が言うようにとてもいい湯だった。移動してきた疲れも取れた。 ゆたか「とっても良い湯だからみなみちゃんもどうぞ」 みなみちゃんは準備をし始めた。 みなみ「つかさ先輩……遅い、もうお店も終わる時間だと言うのに……」 ひより「これが社会人ってもの、後片付けや、明日の準備、打ち合わせなんかすればあっという間に時間は過ぎる」 ゆたか「大変なんだね……私……自信なくしちゃうな……身体も弱いし……」 ひより「高校を卒業してから随分元気になったと思うよ、ね」 私はみなみちゃんの方を向いた。 みなみ「熱が出なくなった、乗り物酔いも無くなった……」 ひより「ほらほら、元保健委員のみなみちゃんが言ってるのだから」 みなみちゃんは立ち上がり部屋を出ようとした。 『コンコン』 ドアがノックされた。ドアに一番近いみなみちゃんがドアを開けた。 つかさ「遅くなってごめ~ん」 直ぐ隣の建屋からの移動、ぎりぎりまで店で仕事をしていたに違いない。みなみちゃんは温泉に行くのを止めて部屋の中央に戻った ゆたか「お疲れ様でした」 つかさ「明日の準備に手間取っちゃった……かえでさん、連れて来ようとしたけど……今日は無理だって」 なるほどね、つかさ先輩は松本さんを下の名前で呼んでいる。でもまぁ、今更驚くことじゃないか。お昼の二人を見れば分る。 松本かえで……もう少しどんな人か知りたかったな。残念。 ゆたか「松本さんってどんな人なの」 ゆーちゃんはお茶の準備をしながら質問をした。 つかさ「怒ると恐いけど……とっても優しくて、いろいろ教えてくれる人……」 ゆたか「恐くて優しい……なんか複雑で難しい表現ですね」 ひより「そうでもない、身近な人で似ている人が居るよ」 つかさ・ゆたか・みなみ「誰?」 うわ、つかさ先輩まで聞いてくるとは思わなかった。これは本来つかさ先輩が言うべき事なんだろうけど、つかさ先輩のこう言うキャラがいい味をだすのよね。お昼の時とは違う、私の知っているつかさ先輩。でも、しったかぶらない所は見習わないといけないのかもしらない。 ひより「それは、かがみ先輩」 ゆたか「あ……そう言われてみると……」 みなみちゃんも納得した表情をした。つかさ先輩は少し考え込んだ……納得していないようだった。かがみ先輩はつかさ先輩から見ると「恐い」が抜けて見えてしまっているから 松本さんを似ていると認識出来ない。そう私は理解した。もっともかがみ先輩がつかさ先輩を直接怒った所は一度も見たことはないけどね。 みなみ「お仕事、大変層ですね……」 みなみちゃんが話題を変えた。 つかさ「そうだね、まだ店が独立したからそんなに経っていないから、落ち着くまでは忙しいってかえでさんが言っていた」 みなみ「すみません、そんな状態でお邪魔してしまって」 つかさ「うんん、来てくれて嬉しかった……あぁ、そうそう、みなみちゃん達、未成年でしょ、お姉ちゃんから連絡があって、私が引率しなさいって言うから、 泊まらせてもらうね、私、お邪魔しちゃって良い?」 かがみ先輩……硬いことを…… みなみ「重ね重ね、すみません……」 かがみ先輩のおかげなのだろうか。専門学校を卒業してから殆ど話す機会のなかったつかさ先輩と話す時間が出来た。私達は時間を忘れてお喋りを楽しんだ。 ゆたか「あの、つかさ先輩は何故、松本さんの誘いを受けたのですか……」 その時、つかさ先輩は私には一度も見せなかった悲しい顔になった。何故だろう。ゆーちゃんもつかささんの表情に気が付いたみたいだった。 ゆたか「あっ、ごめんなさい、言い難い事でしたら結構です……」 つかさ先輩は直ぐに笑顔になった。 つかさ「うんん、話しても良いけど……信じてくれるかな」 ゆたか「どう言う事ですか……?」 信じてくれるかどうか。この言葉にものすごく興味を抱いた。どんな話しなのか、つかさ先輩に何があったのか。何故一人でこんな田舎に引っ越したのか。 何か衝撃的な何かなければ無ければこんな事はしない。これは聞かないわけにはいかない。 ひより「是非、聞かせてください」 ゆたか・みなみ「おねがいします」 つかさ先輩は静かに目を閉じた。話すのを躊躇っている……違う、どう話すのか自分の頭の中を整理している様に見えた。 つかさ先輩はポケットから財布を出すと中から一万円札を出した。 つかさ「これ、何に見える?」 ゆたか「いち……一万円札にしか見えませんが……」 私とみなみちゃんも頷いた。 つかさ「これね……触れてから半日経つと、葉っぱに見える……うんん、元の葉っぱに戻るだけなんだどね……」 私達は顔を見合わせた。 ゆたか「言っている意味が分らないのですが……」 つかさ先輩は一万円札を財布にしまった。 つかさ「話すよ、私が何故、ここに移り住んだ訳を……」 つかさ先輩は静かに話しだした。 『ひよりの旅』 つかさ先輩が話しを終えると辺りは静まり返った。 いつもポーカーフェイスのみなみちゃんがハンカチで目を押さえていた。こんな姿を見たのは、はじめてだった。 つかさ「ご、ごめんなさい……私そんなつもりで話した訳じゃないけど……」 つかさ先輩も目が潤んでいた。思い出してしまったに違いない。 つかさ「わ、私、温泉に入ってくるね、まだ入っていない人、一緒にどうぞ……」 慌てて準備をして部屋を出て行くつかさ先輩。後を追うようにみなみちゃんも部屋を出て行った。 つかさ先輩の一人旅……真奈美さん、松本さんとの出会い。松本さんの友人の辻さん…… とても感慨深い話だった。このまま私が漫画のネタにしてしまいたいくらいだった。 つかさ先輩が泉先輩を庇った理由もこれで納得がいく。それに、つかさ先輩が妙に大人っぽく見えたのもこれが原因だった。 私もその場で涙を流してしまいそうだった。でも涙はでなかった。涙を出すのを止めてしまった出来事を思い出してしまったから。 それは、つかさ先輩の出会った真奈美さん。お稲荷さんと言っていた……そのお稲荷さんとゆーちゃんの見付けた狐が私の頭の中で一致してしまったからだ。 あの狐はどう考えても野生の動物ではない。私はゆーちゃんの方を見た。ゆーちゃんは乾かしていたタオルを取り、温泉に行こうと部屋を出ようとしていた。 ひより「ゆーちゃん?」 私は呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まり私の方を向いた。ゆーちゃんも目が潤んでいる。 ゆたか「私……もう一度温泉に入ってくるね」 そう言うとドアに手を掛けた。 ひより「つかさ先輩の言っていたお稲荷さんなんだけどね、あれってこの前、車に轢かれそうになった狐と同じだとは思わない?」 ゆーちゃんの動きが止まった。 ひより「やっぱり、ゆーちゃんもそう思うよね」 ゆたか「あの子は狐じゃなかった、いのりさんが調べてくれた、柴犬の雑種だったみたいだよ、だから狐に見えたって……」 ひより「い、いや、そうじゃなくて、私は見たよ、あの行動は犬や狐じゃ説明できるものじゃ……」 ゆたか「私……行ってくる……」 ゆーちゃんの目から涙が零れているのが見えた。ゆーちゃんはそのまま部屋を出て行った。 あの時私の見たのは何だったのだろう。狐でなく犬だったとしても…… 静まり返った部屋に私一人……その時私は気が付いた。 ひより「ふぅ」 溜め息を一回。 空気が読めないって私の事だった。今はつかさ先輩の話しで皆は頭がいっぱいだった。 それに、もう何処に行ったか分らない犬の話しをしても意味はない。それより素直につかさ先輩の話しに浸った方が良い。 私も温泉に行く準備をして部屋を出た。 一番髪の長いせいなのか、更衣室に私一人、ドライヤーで髪を乾かしていた。皆はもう部屋に戻ったみたいだった。 温泉での話しで妙に私だけが浮いているのが分った。 涙を流さなかったのは私一人、狐の一件が無ければ……本当にそうなのかな。私はつかさ先輩の話しをネタの一つにしか思っていなかった。だから心から感動しなかった。 いつも第三者的な目の私……何時からこんなになったのだろう。 ふと鏡を見てみた。そこには髪をドライヤーで乾かしている私が映っていた。 ひより「ふふ」 笑うと鏡に映っている私も笑う…… 何時からって、それは私が生まれた時から……私は私。 髪は乾いたみたい。ドライヤーを止めて席を立った。さて、部屋に戻ろう。 更衣室を出ようとした。椅子にゆーちゃんが座っていた。どうしたのだろう。私を待っていてくれたのだろうか。ゆーちゃんに声をかけようとした。けど、止めた。 ゆーちゃんは目を閉じて静かに座っている。何だろう。瞑想でもしているかのような雰囲気だった。全身の力をぬいて一定の間隔で呼吸をしている。 ゆたか「ふぅ~」 最後に大きく息を吐くとゆっくり目を開けた。そして私の方を向いた。 ゆたか「あ、あれ、ひよりちゃん……」 私が居たのを今、気付いたみたいだった。 ひより「……何をしていたの……神秘的な感じだった」 ゆたか「えっと、健康呼吸法って言ってね、先生に教えてもらったのをしていたのだけど……」 ひより「先生?」 ゆたか「うん、高校を卒業するくらいの頃ね、近所に整体がオープンしたから、そこで教えてもらった」 ひより「整体……」 私の頭の中にいけない何かを思い浮かべようとしている。 ゆたか「どうしたの?」 ひより「え、何でもない……ゆーちゃんが最近元気なのも、そのおかげかもしれないね」 ゆたか「大学になってから一度も休まなくなったから……そのおかげかな……」 ゆーちゃんは席を立った。 ひより「部屋に戻ろう」 私は更衣室を出ようとした。 ゆたか「ちょっと待って……」 ひより「何?」 私を呼び止めた。振り向くとゆーちゃんは何か言いたげな感じだった。ためらっているのか、少し話しだすのに時間がかかった。 ゆたか「……さっきの話しなんだけど……ひよりちゃんもあの犬をお稲荷さんだと思うの?」 「も」……ゆーちゃんはそう言った。やっぱりつかさ先輩の話しを聞いてゆーちゃんも私と同じ事を考えていた。 ひより「そうだけど、もうそれを確かめる事も出来ないし……私の話しは忘れて」 ゆたか「……うんん、確かめられるよ……あの子ね、まだ神社から出ていないから……」 ひより「出ていないって、どう言う事なの?」 ゆーちゃんはまた暫く話そうとはしなかった。 ゆたか「……週に二回、いのりさんの稲荷寿司を食べに神社に来るようになった、私と交代で世話をしているの……」 ひより「ちょっと待って、あれから二ヶ月も経っているよ……私もあの時一緒に居たのに、」 ゆたか「……ごめんなさい……いのりさんが秘密にしようって言うから……言いそびれちゃった」 ゆーちゃんは申し訳なさそうに肩を落としていた。今まで黙っていたのはいのりさんと約束のせいだったのか。 ひより「それで、何で今、話す気になったの?」 ゆたか「私もあの犬はちょっと不思議な感じがするなって思っていた、それに、さっきのつかささんの話しを聞いて、それからひよりちゃんがさっき言うものだから…… 秘密に出来なかった……本当に、ごめんなさい」 深々と頭を下げるゆーちゃん。 ひより「このままずっとって訳にはいかないと思うよ、犬の放し飼いは違法だし、下手すると保健所に捕まって……処分室に……」 ゆーちゃんは両手で耳を押さえた。 ゆたか「止めて、その話は……分っている、分っているけど……どうにもならない」 話しは思った以上に深刻だった…… ひより「柊家では飼えないの?」 ゆたか「いのりさんは家族に言ったみたいだけど……かがみ先輩は反対、まつりさんは猫の方が良いって、ご両親は皆がよければって……」 するとかがみ先輩とまつりさん次第って訳か。 ひより「私も協力したいけど良いかな?」 ゆたか「本当に……ありがとう」 ゆーちゃんは私の手を両手で握って喜んだ。 ひより「私も当事者みたいなものだしね……」 それもあるけど、なにより犬の正体を確かめたい。その好奇心の方が強かった。 ゆたか「早速だけど、明後日の夕方、私の当番なんだけど一緒に来てくれないかな?」 ひより「うん」 つかさ「大丈夫?」 ひより・ゆたか「うわー!!」 突然つかさ先輩が入ってきた。話しに夢中で近づいてくるのが分らなかった。 ゆたか「だ、大丈夫です」 つかさ「のぼせたのかと思って心配しちゃった、部屋に戻ったらお話ししようね」 ひより・ゆたか「はい」 つかさ先輩は部屋に戻って行った。 ゆたか「ひよりちゃん……この話しは皆に……」 ひより「分っている、内緒でしょ……みなみちゃんにも内緒にするの?」 ゆーちゃんは頷いた。まさかみなみちゃんにも内緒にしているとは思わなかった。もっともみなみちゃんも犬を飼っているから話し難いのは分るような気がする。 あの時、現場に居合わせた偶然に感謝するばかり。 ゆたか「部屋に戻ろう」 ひより「うん」 部屋に戻って私達は夜遅くまでお喋りをして過ごした。 話しは私達が陸桜を卒業するまでの話しや、大学の話が主になった。つかさ先輩も松本さんや、店の話しをしてくれてとても楽しかった。 次の日、つかさ先輩との別れは卒業の日よりも悲しく思えたのが印象的だった。 神社の入り口の前で私はゆーちゃんを待っていた。 ゆたか「ごめーん、待った?」 駆け足で来たゆーちゃん。息が切れていた。 ひより「うんん、時間通りだし」 ゆーちゃんは鞄から袋を出し私に渡した。 ひより「これは?」 ゆたか「今日、あの子にあげる餌、稲荷寿司」 私は袋を受け取った。 ひより「あの子って、名前、付けていないの?」 ゆたか「う、うん、飼い主が居るかもしれないから、また付けていない……いのりさんを呼んで来るから先に行ってて」 ゆーちゃんはまた走り出して柊家の方に向かった。 稲荷寿司か……私は袋をじっと見た。毎週のように稲荷寿司を食べに来る犬って、そんなに寿司が好きなのか。それとも他に目的があるのだろうか。 ここで考えていても分らないか。とりあえず向かうか。 神社の境内。狭いとばかり思っていたが、思いのほか広かった。二ヶ月ぶりの場所、しかも一回しか行った事がなかったので迷ってしまった。 確か掃除倉庫って言っていた。 迷った挙げ句に倉庫に着いた。既にゆーちゃんといのりさんは到着していた。例の犬も姿を見せていた。 ゆたか「ひよりちゃん、どうしたの?」 ひより「いやいや、迷ってしまって……」 ゆーちゃんといのりさんは顔を見合わせると笑った。 いのり「ふふ、協力してくれるって聞いた、ありがとう」 ひより「微力ながら……反対されている様ですが……」 いのりさんは溜め息を付いた。 いのり「つかさが居なくなったから良い機会だとは思ったのが間違えね、まつりは猫だったら良いって言い出すし、かがみは話しにならい……困ったもの」 ゆたか「それより、ひよりちゃん、餌をあげて」 気付くと犬はじっと私の持っている袋を見ていた。 ひより「あ、ごめん、ごめん」 袋から稲荷寿司を出すといのりさんは小皿を取り出した。私は不思議に思い動作を止めた。 いのり「地面に置くと食べないから、お皿に置いて」 私はいのりさんの持っている小皿に稲荷寿司を置いた。そして、犬の目の前に小皿を置いた。犬はいのりさんの目をじっとみている。 いのり「おあがり」 その言葉を聞くと同時に犬は稲荷寿司を食べ始めた。 ひより「お預けをするなんて、よく躾けましたね」 ゆたか「うんん、躾けてなんかいないよ、自然にできたよ」 やはり、この犬は捨て犬じゃない。どこかで飼われていた犬だ。 いのり「さて、これからどうしよう、里親を探すしかないかしら」 ゆーちゃんはすごく悲しそうな顔をした。 ひより「どうでしょう、かがみ先輩とまつりさんに来てもらってこの犬を見てもらうのは、実際に見ると可愛くて気にってくれるかもしれませんよ、 この子は人見知りもしないみたいですし」 いのり「……それは良いかもしれない」 いのりさんは携帯電話を取り出し電話をかけ始めた。 ゆたか「すごい、今まで考えもしなかったのに、ありがとう」 そういわれると照れてしまう。その時だった、犬は稲荷寿司を食べ終わり私達から離れようとしていた。 ゆたか「待って!」 その言葉に犬は立ち止まった。 ゆたか「合わせたい人が居るからもう少し居て、いのりさん達に飼われてみたくない?」 暫くそのまま動かなかったが、私達の所に戻ってきた。 ひより「まるで言葉が分っているみたい……って言うより理解しているよ、これは……」 ゆたか「う、うん、実はね、私もそう思う事が何度かあって……まさか今回も戻って来てくれるとは思わなかった……でも、「待って」って言う声に反応しただけかもしれないし」 私達二人は犬をじっと見た。するといのりさんの陰に隠れるように移動した。 いのりさんは携帯電話をしまった。 いのり「かがみは今来る……まつりがまだ帰ってきていない、直接聞いてみたら明後日なら都合がいいみたい」 ゆーちゃんは喜んだ。いのりさんは犬を抱き上げた。 いのり「さて、どうなるかしらね、あとは君しだいだいだから、しっかりね」 犬はいのりさんを見ている。ゆーちゃんの言うようにこれだけではあの犬がお稲荷さんとは言えない。 もっといろいろ試してみたかったけど、 かがみ先輩とまつりさんが来るとなると直接試せない。かがみ先輩が来て犬がどんな反応をするのか、それで見極めるしかない。 暫くするとかがみ先輩が来た。 かがみ「貴女達は……小早川さん、田村さんまで……何故こんな所に……」 驚きの眼だった。私達は笑顔で答える。 ゆたか「一人……一匹の命が懸かっています、どうか助けてください」 かがみ先輩はいのりさんの方を見た。 かがみ「成るほどね……そう言うこと、いのり姉さんも考えたものね、感情に訴えて私を落とすつもりね……」 いのり「そんなつもりは……」 犬はかがみさんの近くに歩いて行った。そして尾っぽを振っている。かがみ先輩と犬の目が合った。 かがみ「……ちょっと、これ……本当に犬なの……これはどうみても……きつ……」 ゆーちゃんは慌ててかがみ先輩の口に割り込みを入れた。 ゆたか「犬、ですよね」 ゆーちゃんはいのりさんを見た。 いのり「犬でしょ」 ゆーちゃんといのりさんは私を見た。 ひより「お、尾っぽを振っていますね……犬以外考えられません……」 かがみ先輩は腰を下ろした。 かがみ「お手……」 かがみ先輩が手を出すと前足をかがみ先輩の手の上に乗せた。 かがみ「伏せ……」 何度かかがみ先輩の言う命令を難なくこなしていく犬だった。 驚いた。初めて会う人間にこれだけ忠実に命令を聞くなんて……私の心の中では既にこの犬の正体はお稲荷さんだと確信付けている。 かがみ先輩は犬の頭を優しく撫ぜた。 かがみ「……大人しくて、賢い犬ね……何か特殊な訓練でもしているのかしら……」 かがみ先輩は立ち上がった。 かがみ「……家でも吠えるような事も無さそうだし……私が反対する理由は無い……」 いのり「これで決まりね……」 私とゆーちゃんもほっと一息する間もなく、かがみ先輩は話しだした。 かがみ「……いや、まだよ、飼うには二つの条件があるわ、一つはまつり姉さんをどうにかする事、もう一つは、これだけ賢い犬をおいそれと捨てる飼い主は居ないはずよ、 探しているかもしれないわ、飼い主が居ないのを確認できれば文句は言わない」 いのり「……かがみらしい条件ね……わかった、まつりは明後日決着が付く、飼い主の件は……」 いのりさんは考え込んでしまった。 ゆたか「写真を撮って、町中に貼ればいいと思います……」 いのり「それは良い考え、町内の掲示板に貼り付ける、貼り付けの期限が丁度一週間だから、それまでに飼い主が名乗りでなければ……良いわね」 かがみ先輩は頷いた。私は携帯電話を取り出しレンズを犬に向けた。犬は私の方を向いて……ポーズを取っている様に見える…… 『パシャ』 かがみ「それじゃ私は帰るわ……田村さん、小早川さん、姉さんをよろしく」 かがみ先輩は帰って行った。 いのり「ふぅ、厄介な注文をつけるな、かがみは……」 溜め息をつくいのりさん。 ひより「はたしてそうでしょうか、かがみ先輩は言いました、この犬をおいそれと捨てる人は居ないって、逆に言えばこの犬は最初から飼い主が居ない確率の方が高いかも しれません……条件の一つはほぼ成立したと同じじゃないでしょうか、かがみ先輩もこの犬を飼いたくなったのでは、私はそう思いますけど」 いのり「……始め反対したからすぐには態度を翻せないって訳ね、素直じゃないね……」 そう、それがかがみ先輩。犬を見た時のかがみ先輩の目はもう「飼いたい」って訴えたように見えた。 ゆたか「飼い主探しのチラシ……私が作っても良いかな?」 ボソっと小さな声だった。 いのり「作ってくれるなら嬉しい」 ひより「撮った写真はゆーちゃんのメールに送っておくよ」 ゆたか「ありがとう」 いのり「ところで、明後日なんだけど……まつりはある意味かがみよりも厄介な相手、気まぐれで私にもどうなるか読めないところがある」 ゆたか「及ばずながら、立ち合わせて頂きます」 ひより「同じく」 いのり「二人が居てくれれば心強いな、成功したら何か御礼をしないとね」 ゆたか「あ、犬の名前決めておかないと、いつまでも犬じゃ可愛そう」 犬はお座りをしながら首を後ろ足で掻いていた。この辺りは犬そのものに見える。 ひより「……ポチ、チビ、が一般的なのかな……」 『フン!!』 犬が咳払いのような声を出した。 ゆたか「……そんな名前じゃ嫌みたい……」 いのり「名前は飼い主が現れなかったからでもいいじゃない、それからでも遅くない」 う~ん、この犬がお稲荷さんだとすと、必ず人間に化ける時が来るはず、そこを押さえれば正体を明かす事ができそうだ。 ゆたか「あと一週間、こんな状態が続く、また交通事故に遭うかもしれないし……」 いのり「……君、あと一週間、この倉庫を寝床にしてくれないかな、ここなら安全だよ」 いのりさんが犬に語りかけた。これは決定的な瞬間を見られるかもしれない。私は息を呑んで犬の次の行動を観察した。 犬は立ち上がると草むらの中に走って消えてしまった。これは……私が正体を暴こうとしているのを察知したのか。それとも今までが偶然だったのか…… ゆたか「行っちゃった……明後日、来てくれるかな……」 いのり「……さぁ、でも、今日来てくれたのだから、きっと来てくれるでしょ、でなきゃまつりの約束は無意味、飼う事も出来なくなる……」 いのりさんと別れて私達は駅に向かって歩いていた。 ゆたか「ひよりちゃん、どうだった、あの犬、お稲荷さんだと思う?」 ひより「……五分五分ってところかな……妙な所で犬みたいな行動するし……つかさ先輩が言うみたいに人間になる所を見ないとね……」 ゆたか「……私……あまり詮索しない方がいいと思うのだけど……」 ひより「どうして、分かったって何が変わる訳でもないよ」 ゆーちゃんは立ち止まった。 ゆたか「お稲荷さんは人間に正体を知られないようにしている、だから今まで表に出てこないと私は思うの、正体を知ったら……私達、消されちゃうかもしれない、 つかさ先輩も殺されかけたでしょ……中途半端な好奇心は危ないよ」 心配そうに私を見るゆーちゃん。 ひより「あの犬……狐が私達を殺すような仕草をしたかな」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ひより「私は結構意識してあの犬を見て、うんん、観察しているから向こうもそれに気付いているはず、でも、全く向こうは私に敵対してこない……そればかりか 正体を明かすヒントを出しているようにも見える、だから少なくともあの犬は私達を敵とは思っていない、これが私の見解」 ゆたか「で、でも……」 ひより「もう今更止められないよ、それに、あれの犬は本当に「ただの犬」かもしれないしね」 ゆーちゃんはゆっくり歩き始めた。 ゆたか「敵対していないのは分るとして、何で毎週のように神社に来て餌を食べにくるのかな……」 ひより「もしかしたら、ゆーちゃんかいのりさんを好きになっちゃたりして……」 ゆたか「えっ!?」 ゆーちゃんの顔が急に赤くなった。冗談で言ったつもりなのに。 ゆたか「そんなのは無いよ……」 ゆーちゃんの歩く速度が速くなった。私はニヤニヤしながら後を追った。 お稲荷さんと人間。確かにつかさ先輩の話しからすると何か良くない因縁を感じる。彼らもそう簡単には正体を見せてくれない。 いっその事直接聞いてみるのも良いかもしれない。その時、本性をあらわにして私の命を狙ってくるかも……好奇心は猫をも殺すって諺があるけど…… うんん、そんなの恐れていては何もできない。これはきっと良いネタになるに違いない。 それにしてもゆーちゃんは何故あの犬にこれほどまでに親身になっているのだろう。それともいのりさんの為なのだろうか…… いのりさんもあの犬には特別の想いでもあるのだろうか。私がコミケに参加していた間に何かがあったのかな…… 今日はもういのりさん、ゆーちゃんと別れてしまったから聞けない。分らないから想像する。だから楽しい。 それぞれの思惑が交錯して新たな物語が生まれる……これは面白くなってきた。 そして、三日後…… 少し早かったか。一本早い電車で来てしまった。神社で少し待つようになるけど……まぁそれはそれで良いか。 神社への道を歩いていた……何だろう、何か騒がしい。子供が騒いでいるみたいだ。もう夕方に近いからか。歩いていくと子供達の声が次第に大きく聞こえてきた。 近づいている。ふと声のする方を見てみた。数人の小学生くらいの子供達が集まって何かをしている。このご時勢に外で遊ぶ子供もいるな…んて……あれ? 子供の足の間から茶色い物が見えた。私は立ち止まって良く見てみた。犬、あの犬だ。子供に追い詰められてうずくまっている。 子供達は犬を囲うようにして棒で突いていた。俗に言ういじめってやつか…… 私が注意してはたして止めてくれるだろうか。子供と言っても数人ともなれば女の力で抑え付けられるかな……あまり自信はない。 棒で犬を突く。もう犬は怯えきって壁を背に丸まってしまった。子供は笑いながら更に棒で犬を突いていた。どんどんエスカレートしていく。見るに耐えない。 一人の子供がバットを持ち出して来た。これはまずい。私は子供達の所に駆け寄ろうとした時だった。 「こら、やめなさい!!」 私の後ろから怒鳴り声が聞こえた。子供達は私の方を向いた。私は後ろを振り向いた。女性だった。あれ……この女性は……見た事ある……思い出せない。 「そんな事をして楽しいの、放してあげなさい」 子供はその場を動こうとしなかった。女性は子供達の所に歩いて向かった。私を通り越し、子供の直ぐ近くに近寄った。子供達は黙って女性を見ていた。 女性は子供達を睨むと子供から棒を取り上げた。 「なにするんだよ!!」 子供が女性につかみかかろうとした。 『バシ!!』 女性は激しく奪った棒で地面を叩いた。鋭い眼光で子供達を睨んだ。その音で子供達は驚いて怯んだ。 「犬と同じ目に遭いたい子は出てきなさい」 一人の子供が逃げるように駆け出した。その子供を追うように他の子供達も走り出して逃げて行った。 「まったく最近の子供は……」 女性は棒を捨てるとうずくまっている犬に近づきそっと抱き上げた。犬はブルブルと震えていた。 「恐かったね、もう大丈夫だから」 優しい声……目も優しくなった。この目、誰かに似ている……つかさ先輩にそっくりだ。 あ、思い出した。この女性はまつりさんだ。やっと思い出した。 私は彼女に近づいた。 ひより「あ、あの~」 まつりさんは私の方を向いた。 まつり「あら……えっと、確か、かがみかつかさの友達だったね、どっちだっけ?」 ……いのりさんと同じ質問をしてくるなんて。やっぱり姉妹なんだな……。 ひより「二人とも友達ですけど……田村ひよりです」 まつり「田村さん……なんか凄い所を見せてしまったかな」 まつりさんは苦笑いをした。 ひより「子供とはいえ……なかなか出来る事ではないと思います」 まつり「ちょっとムキになり過ぎたか……」 まつりさんは犬を抱いたまま立ち上がった。 まつり「かがみは家には居ないけど何か用事でも?」 ひより「いえ、かがみ先輩ではなく、いのりさんに用事がありまして……」 まつり「姉さんに?」 まつりさんは首を傾げた。 ひより「まつりさんもいのりさんと約束していませんか?」 まつり「そうだった、これから神社に行って姉さんと会う約束をしていたっけ……それで何故田村さん姉さんに用事って」 ひより「犬をまつりさんに飼ってもらいたくて……」 まつり「かがみが急に犬を飼いたいなんて言い出すから、びっくりしたよ、つかさが居なくなってやっぱり寂しいのかね」 そう言うまつりさんも顔が寂しそうに見えた。 ひより「この前、つかさ先輩の働くお店に行きました」 まつり「え、本当に、で、どうだった、ちゃんとやってる?」 私に向かって身を乗り出してきた。なんだかんだ言ってまつりさんもつかさ先輩が心配なのか。 ひより「え、ええ、店長とも馬が合っているみたいで、楽しそうでした」 まつりさんは嬉しそうにも、悲しそうにも見える表情をした。そして抱いている犬を撫でながら話した。 まつり「姉妹の中でかがみが最初に家を出ると思っていたのに、つかさが出るとは思わなかった、つかさが居なくなって家が変わった、何かが物足りない、何が足りない、 分らない、つかさは家に居ても特に何をするって訳じゃなかったけど……」 甘えてくる妹が居なくなったからから。かがみ先輩は甘えるって柄じゃないよね。だから猫の方を飼いたいなんて言っているのかもしれない。 まつりさん。いつもかがみ先輩と喧嘩ばかりしているイメージだったけど、こうして会って話しをするとまた違った側面が見えてくる。 まつり「そろそろ行かないと待ち合わせの時間ね」 ひより「はい」 まつりさんは抱いていた犬をそっと地面に下ろした。 まつり「さぁ、行きなさい、今度は捕まるなよ」 犬はまつりさんを見上げたまま動こうとはしなかった。 まつり「どうした、早く行きなさい……」 犬はまつりさんの足元にぴったりと付いて離れなかった。まつりさんは溜め息をついた。 まつり「さて、どうしたものか」 ひより「あの、その犬が飼ってもらいたい犬です……」 まつり「え?」 まつりさんは驚いて私を見た。 ひより「その犬も待ち合わせの場所に行こうとしていたのかもしれません」 まつりさんは犬を暫く見るとまた抱き上げた。 まつり「しょうがない、連れて行こう」 ひより「はい」 私は神社の待ち合わせの場所に行くまでにこの犬と出会ってからの経緯をまつりさんに説明した。まつりさんは熱心に私の話しを聞いていた。 もちろんお稲荷さんの話しは話さない。ゆーちゃんと約束したから。 待ち合わせ場所に着くと既にゆーちゃんといのりさんが居た。あ、あれ、もう一人居る。男性だ。見たことも会ったこともない人だ。誰だろう。歳は三十くらいだろうか? まつり「おまたせ~」 私とまつりさんは男性を見た。男性は軽く会釈をした。それに合わせて私達も会釈をした。 まつり「だれ?」 ゆたか「こちらは、私がお世話になっている整体の先生で佐々木すすむさんと言います、そしてこちらが柊まつりさん、私の友達の田村ひよりさんです」 ゆーちゃんが通っている整体の先生だって。通りで知らないはず。でも何故そんな先生がこんな所に来るのか。私はゆーちゃんの顔をじっと見た。 ゆたか「迷子の犬のポスターを貼ってもらおうと先生にお願いにしましたら、先生がその犬の飼い主だと分りましたので……引取りに来ました」 すすむ「うちの子が迷惑をかけてすみませんでした……」 佐々木さんは深々と頭を下げた。ゆーちゃんはまつりさんの抱いている犬に気が付いた。 ゆたか「コンちゃん……まつりさんが何故抱いているの」 まつりさんの抱いている犬を見てそう言った。 コン……コンってこの犬の名前だろうか。コン。この名前はどうしたって狐を連想させる。 いのり「狐によく似ているからそう名付けたそうよ、出来れば私達で飼いたかったけど、飼い主が現れたとなれば返すしかない……で、何故まつりがその犬を?」 まつり「近所の子供達にいじめられているのを田村さんと助けた」 私と助けたって、そんな事はない……私は何もしていない。まつりさんが居なかったらはたして私はコンを助けていただろうか。 すすむ「重ね重ねすみませんでした」 まつり「どうして犬を放すような事をしたの、可愛そうに、さっきまで恐怖で震えていたよ」 まつりさんは佐々木さんを見て少し怒り気味だった。その気持ちは私も分る。佐々木さんはただ頭を下げるだけだった。 いのり「散歩中に雷雨があって、その雷鳴に驚いて逃げ出してしまった、もうその位にしなさい、まつり」 まつり「だって、姉さん……」 まつりさんのトーンが下がった。そして少し悲しい顔になった。 いのり「今度はしっかり放さないようにしてください……さぁ、まつり、コンを……」 まつりさんはコンをギュっと力強く抱きしめたように見えた。そうか、怒ったのは佐々木さんがコンを放したからじゃない。飼い主が現れて、コンを飼えなくなったから。 そんな風に理解した。 まつりさんはためらう様にコンを地面に置いた。 まつり「飼い主の所に行きなさい……」 コンはまつりさんをじっと見ていた。佐々木さんは散歩用のリードを取り出した。首輪に付けるタイプじゃないのか。前足を襷の様に固定するタイプ。犬の首に負担がかからない から最近ではこれが主流。佐々木さんはコンに近づいた。コンもそれに気が付いた。コンは素早くまつりさんの後ろに廻り込んでしまった。 すすむ「どうしたかな、このリードを見るといつも喜んでいたのに……コン、帰るぞ、さあ、おいで……」 佐々木さんの声にコンは何の反応も示さなかった。おかしいな。あんなに賢い犬なのにどうして……あれじゃ佐々木さんが飼い主じゃないみたい……まさか ひより「もしかして、この前の車に轢かれそうになった時のショックで記憶喪失になったかもしれない……」 皆は私に注目した。 ひより「こんなに賢い犬なら、一度はぐれても家に戻ると思います、現にこの倉庫に何度も来ていますし、それに飼い主を見ても喜ばない犬なんて聞いたことないです」 いのり「そうね、かがみも何故帰らないのを不思議がっていた、田村さんの推理も結構合っているかもしれない」 まつり「この犬、本当にコンなの、間違えじゃないでしょうね」 いやいや、それはない。こんなに特徴のある犬を見間違いするはずもない。 すすむ「間違えはないです、間違いなくコン」 私は聞き逃さなかった。佐々木さんがその直後「まなぶ」とコンを見ながら小声で言った。私はピンと感じた。この犬の名前はコンではない。 「まなぶ」と言うのが本当の名前。佐々木さんはコンが飼い犬であるかのような振る舞いをしている。すると自ずと結果は導き出される。 コンはつかさ先輩が出会った真奈美さんと同じお稲荷さん。そして、佐々木さんはコンがお稲荷さんだと知っている人……いや、まて、 佐々木さんもお稲荷さんって可能性もある。ゆーちゃんを呼吸法だけで元気にした人。いくら整体の先生でもそんな方法を知っているなんて考えられない。 考えれば考えるほど怪しい…… ゆたか「ひよりちゃん」 絶対に真実を突き止めてみせる。 ゆたか「ひよちちゃん、聞いている?」 ゆーちゃんの声に私は我に返った。 ひより「はぃ、何でしょうか?」 ゆーちゃんは頬を膨らませて怒り気味だった。 ゆたか「これからどうしようって話しをしているのに、真面目に聞いて」 皆を見ると腕組みをして考え込んでいた。 ひより「す、済みません、何も聞いていませんでした」 いのり「コンが佐々木さんの言う事を聞いてくれない、無理に連れて行くのもどうかと思う、でも、このままだとまた子供達に悪戯されるか、 交通事故に遭ってしまう事だって考えられる、」 私が妄想に耽っている間に話しは進んでしまったみたい。 ゆたか「私は連れて帰ってもらいたい、住んでいる家、町並みを見ればきっと記憶が戻ると思う」 強行するは無理があるかもしれない。 ひより「記憶が戻らなかったら、またこの倉庫に戻って来ちゃうかも?」 ゆーちゃんは溜め息をついて肩を落とした。 まつり「それなら、私がコンを記憶が戻るまで預かります、それなら悪戯や事故は回避できるでしょ、それに、佐々木さんも私の家にくればコンと何時でも 会えるから安心できる……どう、この考、姉さん」 いのり「えっ、あ、わ、私は別に構わないけど、佐々木さんはどうです?」 あれ、いのりさんが動揺しているように見える。どうしたのだろう。 佐々木さんは暫く考え込んでいた。 すすむ「ご迷惑ではないですか、コンはこう見えてもわがままで……贅沢をさせてしまったせいかもしれませんが」 いのり「コンの好物は知っています、わがままなのは一人家にも居ますから問題ないと思います」 まつり「ちょっと、姉さん……その一人って誰よ」 佐々木さんは笑った。そしてリードをいのりさんに渡した。 すすむ「それではお言葉に甘えさせて頂きます、コンをよろしくお願いします」 佐々木さんは深々と頭を下げた。まつりさんはコンを抱き上げた。 まつり「さて、これからよろしくね、コン」 まつりさんとコンは見つめ合っている。なるほどね。条件があるけど。これでコンを柊家で飼えるのか…… いのりさんの方を見てみると…… いのり「あの……覚えていますか、地鎮祭の時、私居たのですが……」 すすむ「地鎮祭……はて、確かにそれはしましたが……あ、その時来ていた巫女様が……」 いのりさんは頷いた。 すすむ「いやいや、服が違うと全然分らないですね……」 照れ笑いする佐々木さん。この二人、会うのは初めてじゃないのか。それにしても良い雰囲気。歳もそんなに離れていないみたいだし…… 後ろからツンツンと背中を突かれた。振り向くとゆーちゃんだった。 ひより「なに、どうしたの」 ゆたか「もう私達の役目は終わったね、帰ろう」 ひより「役目って……ゆーちゃん、まだコンの記憶が戻っていないし、正体だって」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「まだそんな事言って……どう見てもコンは犬、間違えようがないよ」 ひより「い、いや、私の推理だとコンは……」 ゆーちゃんは私を振り切るように話しだした。 ゆたか「私達は帰ります、コンちゃんの記憶が戻ると良いですね」 いのり「ありがとう、小早川さん、田村さん」 まつり「後は私に任せておいて、しっかりやっておくから」 佐々木さんは私達に頭を下げた。ゆーちゃんは会釈すると神社の出口に向かって歩き出した。私はここに居る理由が無くなってしまった。 私も会釈するとゆーちゃんの後を追った。 神社を出て駅に続く道に差し掛かった頃だった。私はゆーちゃんに声をかけた。 ひより「ゆーちゃん、私はただ真実が知りたいだけだったのに……あんな別れ方したら……」 ゆたか「真実を知ってどうするの、仮に、コンちゃんがお稲荷さんだったとしたら、ひよりちゃん、どうするの」 ひより「どうするって……そう言われると……」 ゆーちゃんは立ち止まった。私もその場に止まった。 ゆたか「コンちゃんが何かしたの、誰にも迷惑かけていないのに……そっとしてあげようよ……」 ゆーちゃんの目が潤み始めた……私のしている事はそんなに酷いことなのかな。 ひより「お稲荷さんの全てが悪いなんて言っていない、真奈美さんは違ったでしょ、だから……」 ゆたか「ひよりちゃんの分からず屋!」 甲高い声で怒鳴った。ゆーちゃんが怒る姿を見たのは……二度目かな。でも直接怒らせたのは初めてか…… ゆーちゃんはそのまま駅の方に走り去って行った。 このまま歩いても駅でゆーちゃんに会ってしまう。電車を一本遅らせるかな…… 家に戻り自分の部屋に着いた。携帯電話を充電しようとしたら。メールの着信があるのに気が付いた。ゆーちゃんからだった。 『さっきはごめんさい』 メールにはそう一言書いてあった。ゴメン、ゆーちゃん。 一度点いた好奇心の火はそう簡単に消えない。許して…… 佐々木整体院……ここだ。 私は佐々木さんの経営している整体院の目の前にいた。見た所ごく普通の整体院…… 休院日は毎週土日……今日は日曜日だからお休み。それをわざわざ選んで来た。ゆーちゃんの言うように私達が陸桜を卒業した頃から創業をしている。 評判は上々。遠くからも客が見えるほどの繁盛ぶり。きっとゆーちゃんもそんな好評からこの整体に通うようになったに違いない。 もっとも泉家からさほど離れていない所もゆーちゃんの条件に合ったのかも知れない。 もちろん佐々木すすむさんについても調べてみた。 柔道、空手、合気道……一通りの武道の有段者、私の見た限りではそんな武道をやっているような筋肉質な体には見えなかった。 月に数度、近所の道場で指導をしているらしい。しかし、そこまでの人なのに一度も大会に出場していない。出場していなから記録も残っていない。 私の調べられる所はそこまで。出身地、卒業した学校などは分らなかった。 もし私の推理が正しければ佐々木さんもお稲荷さん。何か証拠があれば。そんな期待をしながらここにやってきた。 こうして整体院の前に突っ立っているだけじゃ何も分らない。私は性退院の周りをゆっくりと一周してみた。別段変わった様子はない。 それは当たり前。どうやって調べよう。まさか黙って入る訳にもいかない。 呼び鈴を押して取材だって言えば入れてくれるかな。全く知らない人じゃないし。よし、この作戦で行こう。 整体院のすぐ隣に佐々木家の玄関があった。私は呼び鈴を押そうとした時だった。何かが私の横を横切った様な気配を感じた。呼び鈴を押すのを止めて 気配のする方に歩いて行った。整体院の裏の方に気配は動いていったような気がした。ゆっくりと近づく。そこに居たのは狐だった。 コンなのかな、いや、コンより少し大きいようなきがする。狐は辺りをキョロキョロと警戒している。私は息を潜めた。安心したのか、狐は警戒を解いたみたい。 そのまま動かなくなった。そして、次の瞬間。狐の体の周りから淡い光が出たかと思うと見る見る大きくなって……人の形に……そして……佐々木さんになった。 やっぱり私の勘は正しかった。佐々木さんはお稲荷さんだった。もう用は済んだ。帰ろう……ゆっくりと後ろを振り向いた。 私の目の前に佐々木さんが立っていた。そんな筈はない。さっきまで整体院の裏にいたのに。 すすむ「見てしまったね」 静かな口調だったけどとても重みを感じる。私は言い訳を考えていた。とりあえず何か言わないと……あ、あれ……声が、出ない。そして、身動きも取れなかった。 私は佐々木さんの目を見ていただけだった。まさか、これがつかさ先輩の言っていた金縛りの術ってやつなのか。今更気が付いても遅い…… すすむ「見てしまったのなら仕方が無い、可愛そうだが……口封じをさせてもらうよ」 佐々木さんの手の爪が伸びていく。私はこのままあの爪で切り裂かれるのか。好奇心は死を招くって……恐い、怖いよ……助けて、ゆーちゃん、みなみちゃん……つかさ先輩。 すすむ「大丈夫、急所を一突きだから、一瞬だよ」 声が出ない。呼吸がヒューヒューとするだけだった。目も閉じられない。佐々木さんの目を見ているだけだった。彼の手が高く上がった。そして振り下ろされた。 『ギャー』 ひより「はぁ、はぁ、はぁ」 ここは私の部屋……そしてベッド……冷や汗でパジャマがグッショリ濡れていた。夢だった…… もうこの夢は三回目だった。見る度に恐怖が私を襲う。時計を見ると午前5時……起きるには早いけど、寝るものも中途半端な時間。いや、もう眠ることなんか出来ない。 シャワーでも浴びよう…… 佐々木さんの家に取材に行こう。そう決めた前日からこの夢を見るようになった。とてもリアリティがある夢で私が殺されかけようとする所で目が覚める。 この夢は私の好奇心への警告なのか。それともただの悪夢なのなか。ゆーちゃんの言うように私は触れてはいけない物を調べているのかな。 「知ってどうするの」 ゆーちゃんはそう言った。漫画のネタにするには重過ぎるし、私の趣味にも合わない。 好奇心。言ってみればそれだけ。動機がない……命を懸けてまで調べるものではないのかも。好奇心が薄らいでいく自分を感じていた。 この夢を見てから私は神社にも柊家にも行っていない。コンの状態はゆーちゃんから聞くしかなかった。 話では二ヶ月ほどしたら散歩用のリードを見て記憶が戻ったらしく佐々木さんが引き取りに来たって言っていた。佐々木さんを見るなり喜んで飛びついたそうな。 コンとの別れの時、まつりさんの悲しみ方はゆーちゃんにも伝わってくる程だったらしい。それから先の話しはしていない。いや、しなくなった。 時が経つに連れて悪夢も見なくなっていった。 これで狐の一件は全て終わった…… ひより「泉先輩がつかさ先輩に誘われた?」 頷くゆーちゃん。 今日は久しぶりに三人が集まり、食事をしながら近況の話しをしていた。 みなみ「泉先輩の卒業後の就職先は?」 ゆたか「決まっていない……と言うか、全く就職活動してなかった、おじさんも心配になって居た所に……つかさ先輩からの誘いが来た」 ひより「それで泉先輩は返事したの?」 ゆたか「明日返事をするって言っていたけど……」 ゆーちゃんはその先を言わなかった。 みなみ「就職先がないのなら断る理由はないと思う、お店の経営も順調と聞いている、泉先輩も飲食店で働いた経験があるから問題ないと思う」 飲食店ね……少し違うけど、経験があるのは確か。どうもゆーちゃんは浮かない顔をしている。 ひより「どうしたの、さっきから元気ないよ」 ゆたか「う、うん……」 俯いてしまった。 ひより「もしかして、泉先輩と別れるのが嫌なの?」 ゆたか「えっ、そ、そんなんじゃないよ……」 みなみ「行く、行かないは泉先輩が決めること、雑音を出すと泉先輩が迷ってしまう」 ゆたか「そうだね……」 泉先輩とは陸桜を卒業してからも交流してきた。その友達である、柊姉妹、高良先輩、日下部……あやの先輩は結婚したのだった。 それにしても泉先輩が誘われているなんて初めて聞いた。ほんの数日前にも会ったばかりなのに教えてくれないなんて。 泉先輩とつかさ先輩が同じ職場で働くなんて想像もしていない。まだ決まっていない話しだけど、むしろ泉先輩はかがみ先輩の方が親しいと思っていたけど 意外だったな…… もっとも仕事とプライベートは違う、親しすぎるとかえって仕事がうまく行かないって聞いたことがある。 ひより「そういえば高良先輩も大学院に進学って聞いたけど」 みなみちゃんは頷いた。 ひより「私達も二年後には卒業だよ」 みなみ「ひよりは漫画家になるって言っていた」 ひより「ははは、それは夢であって現実的にそれで食べていけるとは思っていないよ」 みなみ「夢は出来ないと思った時点で覚めてしまう物、漫画なら別の仕事をしていても描ける、腕さえ使えれば歳をとっても描ける」 何時になく真面目な顔で答えるみなみちゃんだった。これでは私もふざけた対応はできなくなってしまった。 ひより「そう言ってくれるのは嬉しいけど……才能がね……」 みなみ「かがみ先輩に焼かれた本……私達が題材になっていた、だから皆が怒った、それを除けばとても良い作品だった、続きが見たい」 ゆたか「私……そこまで詳しく内容までは見ていなかった……」 みなみちゃんが私を褒めるなんて初めてだ。それはそれで嬉しいけど……もうあの漫画は無い。 それに、ゆーちゃんもあまりこの件に関しては話したくなさそうだし、話しを元に戻そう。 ひより「ところで泉先輩がつかさ先輩の所に行くとなると見送りをしないとね」 ゆたか「まだ決まっていないよ」 なるほどね、ゆーちゃんは泉先輩が家を出て行くのが寂しいのか。寂しげな答え方がそれを物語っている。いや、決まっていないなんて言い方は家を出るのを反対しているのでは。 確かめても良いけど、みなみちゃんの前では素直に答えてくれそうもない。 ひより「そうだね、私も泉先輩が居なくなるのは寂しいな」 ゆーちゃんはその後、何も言わなくなってしまった。 私とみなみちゃんで楽しい話題してみたが効果はなかった。 それから一週間もしないうちに泉先輩はつかさ先輩の所へ引っ越すことになった。 引越しの当日、皆が見送りに来る前の早朝に泉家を訪れた。泉先輩に呼ばれたからだ。 ひより「しかし、おじさんもよく承知しましたね、反対しなかったっスか、大事な一人娘を結婚もしないうちに外に出すなんて」 こなた「ん~確かにね、ゆーちゃんとゆい姉さんが居なかったら実現しなかったかもね」 あれ、一週間前とは様子が違う。ゆーちゃんは反対しなかった。それとも何か心境の変化でもあったのだろうか。 こなた「実ね、これはつかさには内緒なんだけど、峰岸さんからも誘いが来ていたのだよ」 ひより「先輩、あやの先輩は結婚したっス」 こなた「あっと、そうだった、そうだった」 笑ってはぐらかす泉先輩。 あやの先輩は日下部先輩のお兄さんと大学を卒業すると同時に結婚をした。泉先輩も式に出席したはずなのに。 そういえばあやの先輩はホテルの喫茶店に就職したって聞いたけど。 ひより「それで、何故つかさ先輩の所に、あやの先輩の店なら実家から通勤も可能だったのでは?」 泉先輩は立ち上がり部屋の窓を開けて外の景色を見だした。 こなた「つかさは変わったよ、これも一人旅をしたせいかな、ふふ、帰って来てかがみに抱きついて大泣きしたってさ、私の思った通りにはなったけど、 でもそれはもっと違った意味の涙だった……ところでひよりん、つかさからお稲荷さんの話しは聞いているかい?」 私は頷いた。 こなた「つかさはお喋りだから話すとは思った、それなら話しは早い、私もつかさの旅に同行したいと思った……それが理由だよ」 ひより「確かにコミケ事件ではつかさ先輩に助けられたっス、卒業して一番変わったのがつかさ先輩かも」 泉先輩は笑った。 こなた「ふふ、相変わらず天然は治っていないけどね」 つかさ先輩の旅と同行か、私もそんな旅をしてみたいものだ。 ひより「ところで先輩、私を朝早くから呼んだのは何故ですか」 泉先輩は窓を閉めて私の目の前に座った。 こなた「呼んだのはね、ひよりんにミッションを頼もうと思ってね」 ミッション、懐かしい響きだ。高校を卒業してから先輩からその言葉を聞くのは初めてかもしれない。コミケ事件でかがみ先輩からこってり扱かれてからは私も 先輩も取材をしなくなった。 ひより「ミッションっスか、して、何を?」 こなた「かがみを少し見張っていて欲しくてね」 ひより「かがみ先輩をですか、でも、泉先輩と言うジャンクションがあったからかがみ先輩と会えましたけど、それが無くなると、なかなか機会がないっス」 こなた「最近のかがみは少し変わった、呪いのせいかもしれない」 ひより「のろい?」 泉先輩は激しく動揺しているように見えた。 こなた「い、いや、こっちの話し」 私は腕を組んで考えた。かがみ先輩とどうやって会うのかを。 こなた「そんなに考え込む必要はないよ、普段通り玄関のベルを鳴らして会えばいいじゃん、かがみもお喋りは嫌いじゃないから付き合ってくれるって」 ひより「まぁ、やってみます、それにしても何故かがみ先輩を、先ほどの呪いがどうの言っていましたけど」 こなた「二年前、レストランかえでに三人で行った時に真奈美の弟が現れてね……ひと悶着あったのさ、よりによってつかさがその人を好きになっちゃってね……」 泉線はその後の話しにブレーキをかけるようにして止めた。 ひより「真奈美ってお稲荷さんの事ですよね、面白そうな話っス」 こなた「い、いや、ごめんこれ以上は話せない」 私は何度か泉先輩の話しを引き出そうと促したが効果はなかった。ここまで頑なに話そうとしない泉先輩は初めてだった。 つかさ先輩の話しはあれで終わりじゃないみたい。それは泉先輩を見て解った。 『ピンポーン』 こなた「あ、もうこんな時間じゃないか、かがみ達が来ちゃったよ、とりあえずミッションの件はよろしくね」 泉先輩は呼び鈴を聞くと慌しく部屋を出て行った。私もその後を一呼吸置いて追った。 部屋を出た頃、泉先輩は既に玄関を出ていた。廊下を歩いて玄関に向かうと丁度ゆーちゃんも玄関に向かっていて鉢合わせになった。 ゆたか「お姉ちゃんと話しは終わったみたいだね」 声は寂しげだった。だけど表情は何か吹っ切れたような爽やかさを感じる。一週間前とは大違いだ。 ひより「うん」 私が頷くとゆーちゃんは靴を履きドアを握った。 ゆたか「行こう、送ってあげないと」 ひより「うん」 それでもやっぱりゆーちゃんは悲しそうな顔だった。辛いのを必死に堪えているようだった。 玄関を出ると目に前に車が停まっていた。新車だ。運転席側のドアに泉先輩がいる。どうやら泉先輩の車のようだ。その泉先輩を囲んで成実さん、かがみ先輩、高良先輩、 みさお先輩が居る。辺りを見回すとおじさんの姿が見えなかった。そういえば家の中にも居なかったような気がする。それにあやの先輩の姿も見えない。 ひより「おじさんは?」 ゆたか「昨日、お別れをしたから良いって……」 そう言うとゆーちゃんは泉先輩の元に駆け寄って行った。何となく昨日の風景が想像できた。泣きじゃくる姿は他人には見せたくないのかな…… ゆたか「こなたお姉ちゃん、いってらっしゃい!!」 力の籠もった元気な声だった。今までのゆーちゃんの表情を知っている私から見れば余計に悲しく見えてしまう。そんなゆーちゃんの心境を知ってか知らずか、 泉先輩は皆に愛嬌をふりまいていた。 みさお「これはちびっ子の車のなのか」 頷く泉先輩。 こなた「そうだよ、餞にお父さんが買ってくれたんだ、田舎だと車が足になるからね」 みさお「まぁ、頑張ってこい、つかさによろしくな、たまには帰ってこいって」 高良先輩が包装された箱を泉先輩に渡した。きっと餞別だろう。 みゆき「暫く合えませんね、頑張ってきて下さい」 泉先輩は物欲しそうにかがみ先輩の顔を見た。 かがみ「何もないわよ、こうして来ただけでもあり難く思いなさい」 冷たくあしらうかがみ先輩。 こなた「これから妹の所に手伝いに行くというのに、なんて態度なのかな~」 かがみ「そのつかさと同居するのでしょ、引越しの荷物はもう送ったのか」 首を横に振る泉先輩。 こなた「車に積んであるよ、ディスクトップパソコン、ノートパソコン、ゲーム機一式に着替え一式……以上」 かがみ「おいおい、それだけなのか、つかさの物を使う気満々だな、パラサイトかよ、」 こなた「食器や照明はあるって言っていたしお風呂は天然温泉……制服は支給、それに家賃、光熱費、食費はちゃんと半分払うことになっているから大丈夫だよ」 かがみ「何を得意げに言っているのよ、それは最低限の事でしょうが!!」 相変わらずの二人の受け答え。当分これが見られなくなるのも少し寂しい。 かがみ先輩は変わったって泉先輩が言っていたけど、こうして見ていると何も変わった様子はない。いったい泉先輩はかがみ先輩の何が変わったと思っているのだろうか。 私が知らない間に泉先輩達はレストランに行ったみたいだけど。その時に起きた出来事と関係しているのだろうか。泉先輩は途中で話すのを止めてしまった。 ミッションを頼むならもっとちゃんと話して欲しかった。 ん、まてよ、かがみ先輩や高良先輩に聞くのも良いかもしれない。もっとも泉先輩が話すのを止めるくらいだから聞き出すのは至難の業かもしれない。 あれこれ考えているうちに泉先輩は車に乗り込み出発体勢になった。エンジンをかけるとウィンドーを開けて皆に笑顔を振り撒く泉先輩だった。 ゆーちゃんは目に涙を一杯溜めていた。やはり別れって辛いものかな。 ゆたか「お姉ちゃん」 ゆい「こなた……」 ゆーちゃんと成実さんが窓に、泉先輩の近くに駆け寄る。 こなた「それじゃ、行って来るよ」 二人とは対照的に無表情な泉先輩。泉先輩は寂しくないのかなと思った時だった。ウィンドーを閉める瞬間、泉先輩の目にも光るものを見たような気がした。 車はゆっくりと動き出し徐々に速度を増しながら私達から離れていった。そして、車は私達の視界から見えなくなった。 かがみ「こなたの奴、どうなるか心配だわ」 溜め息をするかがみ先輩。 みさお「つかさがやってこられたのだから大丈夫じゃないの」 かがみ「つかさは好きな仕事をしているのだから問題ない、こなたはつかさに誘われて行った、だから心配なのよ、あの松本店長との相性もあるしね」 松本さんとの相性は問題ないと私は思った。 みゆき「それは大丈夫だと思います、かがみさんが一番分っていると思いましたが」 かがみ先輩は何も言わず目を閉じてしまった。松本さんとかがみ先輩に何かあったのだろうか。 みゆき「今は見守るだけですね……私はこれで失礼します」 会釈をすると高良先輩は駅の方に向かって歩き出した。そして、みさお先輩も後を追うように帰って行った。 ゆーちゃんがうな垂れて肩を震わせていた。耐え切れなくて泣いてしまったのだろうか。成実さんが側に居て慰めている。私も何か言ってあげようと二人の所に向かおうとした。 後ろから肩を軽く叩かれた。振り向くとかがみ先輩だった。かがみ先輩は首を横に振った。 かがみ「そっとして置きましょう」 ゆーちゃん達に聞こえないようにしたのだろうか、小声だった。 ひより「は、はい」 私もそれに合わせように小声で答えた。かがみ先輩は駅の方向を指差した。私達は二人に気が付かれない様に駅の方に歩き出した。 かがみ先輩と二人きりで帰るなんて高校時代でもなかった。必ず泉先輩かつかさ先輩もしくは高良先輩が一緒に居た。こんな時どんな事を話せばいいだろう。 ひより「あ、あの、松本さんと何かあったのですか」 駅まで中ほどまで歩いた頃、私はかがみ先輩に質問をした。かがみ先輩は立ち止まった。やばい、気分を損ねてしまったかも。もっと気の利いた話をすればよかった。 かがみ「さっきみゆきが言っていた事を聞いているの?」 ひより「はい」 意外だった。かがみ先輩はその場で話し始めた。 かがみ「ふふ、私は彼女に喧嘩を売ったのよ、二年くらい前になるかしら」 ひより「喧嘩を……ですか、どうしてです、松本さんと馬が合わなかったとか……」 かがみ「つかさを守るため、そう、それが大義名分だわ、でもね、それはあくまで表向き、本当は悔しかった……つかさとあれほどうまくやって行けるなんて、 つかさを知っているのは私意外に居ないと思っていた、思い上がりだったわね……これが嫉妬ってやつだった、 その想いを思いっきり彼女にぶつけた、でもね、彼女は冷静だった、逆にコテンパンにされたわ…… 私より二枚も三枚も上手だわ、くやしいけどこなたの言動には手を焼いていた事もあった、松本さんならそんなこなたをうまく指導してくれるかもしれない」 あれ、かがみ先輩って自分の弱みとか失敗なんかを人には話さないって誰かに聞いたな。見栄っ張りだって。それは高校時代から分かっていた。 泉先輩に突っ込むのも、つかさ先輩の世話を焼くのも、失敗すると必至に弁解するのもそれがあったからだと思っていた。 でも、今そこにいるかがみ先輩は違う、なんの躊躇いもなくそれを私に話している。昔のかがみ先輩ならこんな話は自分からしない。確かに泉先輩の言うようにかがみ先輩は 変わった。 かがみ「変な話をしたかしら」 ひより「い、いえ、そんな事はないっス」 人が大きく変わる時ってどんな時だろう、死ぬような思いをした時、感動した時……恋をした時……まさか。でもそれは有り得る。 かがみ先輩ともう少し話をしたい。どうやって。考えろ、田村ひより!! ひより「か、かがみ先輩」 かがみ「何かしら?」 私が妙に改まってしまったのでかがみ先輩はすこし身構えたように見えた。 ひより「えっと、コンを預かってから佐々木さんの所へ戻るまでの経緯を聞きたいのですが」 しまった。私は何を聞いている。もう少しマシな話は無かったのか。 かがみ「コン、佐々木さん……あぁ、記憶喪失だった犬の話ね……コンはまつり姉さんが餌から散歩まで殆ど世話をしていたから、詳細は分からないわ…… 何故今頃になってそんな話を?」 ひより「今度描く漫画の題材にしようかと……」 漫画の題材。そんな漫画なんか描いていない。咄嗟に出た嘘だった。 かがみ「……面白そうね、こなたが介入しないなら協力するわよ」 かがみ先輩が引っ掛かってくれた。もうこのまま流れで行くしかない。 ひより「泉先輩は先ほど引っ越してしまいました」 かがみ先輩は笑った。 かがみ「それもそうだ、取材なら家に来てまつり姉さんと話すと良いわ、私が取り合うから田村さんの都合のよい日時を教えて……」 トントン拍子に話は進んで行った。これで私は柊家に行く正当な理由が出来た。まつりさんに会うと言う事は必然的にかがみ先輩にも会える。 ミッションもその時に履行すれば良い。 駅の改札でかがみ先輩と別れる事になった。 かがみ「それじゃ取り敢えずまつり姉さんに伝えておくわ、連絡がなければ予定通りでね」 ひより「はい」 私は会釈をしてホームに向かおうとした。 かがみ「ちょっと待って」 私は立ち止まりかがみ先輩の方に向いた。 かがみ「余計なことかもしれないけど、みなみちゃんが見えなかったけど何かあったの?」 そういえば気が付かなかった。 かがみ「今のゆたかちゃんに一番必要な人物だと思ったけど、喧嘩でもしていないわよね」 ひより「それは無いと思います」 かがみ「そうよね、そうだったらみゆきが何かしているわよね、やっぱり余計な事だった」 かがみ先輩は手を振ると私とは別のホームに向かって行った。 みなみちゃんが来なかったのはゆーちゃんと何かがあったから? そんなはずはない。この前だって普通に接していたし。それでは何故来なかったのか。 みなみちゃんと泉先輩は高校時代からそんなに親しくなかったかな…… 高良先輩がもし泉先輩と同じように引っ越したら、私は見送りに行かないかもしれない。そんな感じかな…… さて、そんなのはどうでもいいや。忙しくなる。帰ったら取材の準備だ。 家に帰ると直ぐに自分の部屋に入った。そして押入れの奥から鞄を引っ張り出した。 コミケ事件から封印した取材用の鞄。取材用といってもノートと筆記用具くらいしか入っていない。昔はよく持ち歩いてネタが閃いたら即この鞄からノートを出して メモをしたものだ。ちょっと懐かしいな。鞄を開けて中身を取り出そうとした。 『ゴトン!!』 何かが鞄から落ちた。足元に小さな黒い塊……よく見るとボイスレコーダーだった。私はそれを拾い上げた。何故こんなものが中に。誰のだろう。 泉先輩……いや、泉先輩はこんな物は使わない。こうちゃん先輩……借りた覚えはない。こんなに時間が経っているのだから『返せ』って言われているはず。 まったく分からない。 『カチ』 あ、ボタンを押してしまった。 『○○年○月、ついに私はレコーダーを買った、これでノートを開く間にネタを忘れてしまう事は無くなるだろう、レコーダーの性能に期待する』 この声は……私。 再生ボタンを押したみたいだった。 私はレコーダーを買った。いくら安くなったとは言っても学生である私が忘れるような値段じゃない。それに言っていた年は二年前…… 私は二年前にボイスレコーダーを買った……まったく覚えていない…… 『○○年○月○日正午、私は佐々木整体医院の目の前に立っている、見たところどこにでもありそうな整体医院、調べた所によると今日は休院日、調査には絶好の日だ』 再生は続いていた……佐々木整体医院……ま、まさか、そんなはずはない……夢の中の出来事だったはず。 『もう少し調べたい、家の裏に廻ろう……ガサ・ガサ……』 何か音がしている。何だろう。私は息を呑んで次の音を待った。 『見てしまったね……』 思わずレコーダーのスイッチを切った。 これは夢で見た出来事じゃないか……い、いや、あれは夢ではなかった。最後の声は佐々木さんの声だった。間違いない。 私は二年前、夢と同じように佐々木さんの家に行って調べていた…… でも夢とは違うところが一つだけある。私は生きている…… 何故…… ボイスレコーダーが意味するもの。佐々木さんの正体はお稲荷さん。おそらくコンもお稲荷さんに違いない。秘密を知ってしまった者は消されてしまう。 それは昔話からでも想像できる。でも私はこうして生きている。それも記憶を消されて。そして夢は警告なのか。 今度また調べるような事をすれば夢のようになるぞ…… いや待て、それならば記憶を消す必要はない。夢で脅せばそれで済むのでは…… まつりさんの所に取材に行く前に確かめなければならい。そうでないと私がコンの事を調べていると知られたらまつりさんも大変な事になってしまう。 私の心の中に再び湧き出した好奇心。それは恐怖では消えない。何故なら目的が出来たから。 次の日、大学の帰りに佐々木整体院に寄った。時間は診療時間が終わる時間。時計を見て確認した。 佐々木整体院。夢で見た建物と全く同じ造り。私の推理が正しいのを裏付けている。整体院の玄関から最後の客が出て行く。もう、後戻りは出来ない。 私は大きく深呼吸した。そして整体院の玄関ではなく、住居側の玄関の前に立った。 もうコソコソはしない。正々堂々とする。隠れる必要なんかない。 呼び鈴を押した。 『ピンポーン』 家の中にチャイム音が響いた。暫くすると扉が開いた。 すすむ「すみませんね、もう診療時間は……」 佐々木さんは私の顔を見るなり固まってしまった。そして数秒間私をじっと見ていた。 すすむ「……来てしまったか、このまま帰りなさい、それが貴女の為だ」 私はその場を離れる気は無い。首を横に振った。 佐々木さんは玄関を出て扉を全開にした。 すすむ「入りなさい……」 私は家の中に入った。 私は居間に案内され待つように言われた。適当な椅子を見つけてそこに座った。辺りを見回した。特に変わった所は見受けられない。 何処にでもあるような家具が並んでいる。テレビやオーディオなんかも置いてある。照明器具も…… 奥から佐々木さんが入ってきた。そして私の目の前にお茶を置くと佐々木さんは私の正面の椅子に座った。 すすむ「ここに来ないようにしたつもりだったが、君には通じなかったようだね」 私は鞄からボイスレコーダーを取り出し、机の上に置いた。 ひより「私は何も知りません、だから来ました、佐々木さんはお稲荷さんなのですか」 佐々木さんはボイスレコーダーを見て苦笑いをした。 すすむ「ふっ……そんな物を持っていたのか、そこまでは気が付かなかったよ……」 佐々木さんは少し下を向いて何か躊躇っているような気がした。 すすむ「単刀直入な質問だな……君達の言うお稲荷さんと違うが、かつてそう呼ばれた事がある……」 ひより「それではつかさ先輩と出会った真奈美ってお稲荷さんと同じですか」 佐々木さんは頷いた。 やっぱり、私の思った通りだった。もやもやしていた物が一気に晴れたような気がした。 すすむ「今度は私からの質問だ、何故ここに来た、君には「恐怖」を植込んだはずだ、普通の人間なら来られるはずはない」 ひより「どうしても知りたいから……」 すすむ「知りたい、好奇心だけでここに来たと言うのか、死は恐くないのか」 佐々木さんは驚いた様子で私を見ていた。 ひより「死は恐いです、でも、もし佐々木さんが私を殺す気なら二年前、とっくに殺していると思いまして……最初から殺す気なんか無かったのではないかと」 すすむ「……鋭い推理だな……その推理の裏付けが恐怖を克服したか……」 ひより「そ、そんな大袈裟な事ではないです……」 まさか褒められるとは思わなかった。でも、良かった私を殺す気は無かった。もし佐々木さんがそのつもりなら私はこの場で死んでいた…… 私は出されたお茶を手に取り飲んだ。 すすむ「出された物を口にすると言うのは、相手を信頼した、そう思っていいのだな」 微笑みながらそう言った。私はティーカップをテーブルに置いた。 ひより「私は何故記憶を消されたのですか、真実を言ってくだされば他言は致しません、それに、つかさ先輩は記憶を消されていませんでした」 すすむ「柊つかさからどこまで私達の話しを聞いていたか知らないが、私達は狐に戻った時が一番弱い、それを悟られない為に昔は見てしまった人間の記憶を奪っていた、 その癖がまだなおっていなかった……すまない、奪った記憶を元に戻すことは出来ない」 佐々木さんは頭を深々と下げた。 ひより「もう過ぎてしまった事を言ってもしょうがないです、ただ、佐々木さんの方から言って欲しかった、私が来なければずっと黙っているつもりでしたか?」 すすむ「そ、そんな事はない……時がくれば話すつもりだった」 何だろう、玄関を開けた時とは少し雰囲気が違う。だけど嘘をついている様にも見えない……疑っても意味が無い、その言葉を信じるしかなさそうだ。 ひより「あの、聞いても良いですか、貴方達はいったい何者なのですか、狐に化けたり、記憶を消したり、人間業とは思えませんが」 話してくれるとは思わなかった。しかし今度は躊躇う様子も見せずに話し始めた。 すすむ「未だ、君達人類が文明すら無かった遥か昔、私達はこの太陽系の調査のために来た調査隊やその末裔……」 ひより「それって、いわゆる宇宙人って事で?」 佐々木さんは頷いた。 すすむ「……この地球を調査しようとした時、宇宙船にトラブルが発生してしまって不時着をした……乗組員は全員無事だったが宇宙船は修理不能までに壊れてしまって 助けも呼べずこの地球に取り残されてしまった」 凄く悔しそうに話す佐々木さんだった。テーブルの上に乗せていた両手を力強く握り締めているのが分る。 ひより「救助は来なかったのですか?」 すすむ「木星の衛星に中継基地を作ってそこに待機しているメンバーも居たはずなのに……帰ってしまった……未だそれが分らない」 ひより「宇宙戦争でも起きたのではないでしょうか?」 すすむさんは笑った。 すすむ「ふっ、君は想像力が逞しいな、しかしそれは無い」 ひより「何故です、何処かに凶暴な帝国を築いた星があっても不思議じゃないですよ」 すすむ「そんな星があっても星間航行を可能にするレベル達する前に自滅してしまう、そういう星を何度も見てきた」 ひより「たまたまバッタリ出会って戦争なんて事も考えられますよ」 すすむ「そんな奇跡が起きたならむしろお互いに歓喜するだろう、宇宙は君達が想像するよりも過酷で厳しい所、戦争なんかする余裕すら無い、 資源はこの宇宙に幾らでもある、わざわざ文明のある星に出向く必要はない、それに文明を持つ星はこの地球のように大きく重力も強い、 争って奪うより月、火星、木星や土星の衛星で開発した方が良いのだよ」 ひより「なんか説得力がありますね……映画や漫画のような世界は在り得ないみたい、でも、貴方達はつかさ先輩を殺そうとしましたね」 すすむ「……この地球に降りてから私達は二つに別れた、一方は人類の中で生きるもの、一方は外で生きるもの、どちらもこの地球で生きる為に 取った行動だ、どちらも辛く、苦しいのは変わらない、我々も文明と取ってしまえば地球の生命とさほど変わらない、感情や生理現象も然り」 ひより「それじゃ私達も、佐々木さん達と同じようにいつかはこの宇宙を行き来出来るようになるわけですね」 すすむ「それは君達次第だ」 なんかスケールが大きい話しになってしまった。これはネタには使えそうにないかな…… 私の趣味にも合わないし…… 佐々木さんは立ち上がった。 すすむ「その人から離れて生きている方から一人の若者が来て同居するようになった」 ひより「それって、もしかしてコンの事ですか?」 佐々木さんは驚いた顔で私を見下ろした。 すすむ「コンが私達と同じと気付いたのは何時からだ」 ひより「……ゆーちゃんが見つけた時からかな……私達の会話を追って行くのが解りました、これは普通の犬じゃないって、名前はまなぶって言うのでは?」 すすむ「ど、どうして分った?」 動揺しているのが分る、佐々木さんはまた椅子に座った。 ひより「コンを引き取りに来た時ですよ、佐々木さんの唇が動くのを見てそう思いました」 すすむ「大した洞察力だな」 ひより「腐っても漫画家志望なので昔から人の表情とかを観察したりしていましたから……そのコンちゃんは何処にいるのですか?」 すすむ「最近やっと人間になるのを覚えて街に出かけている……まだ早いと言ったのだがな」 佐々木さんは溜め息を付いた。 私は笑った。そんな私を佐々木さんはじっと見ていた。 すすむ「田村さん、どうだろうか、コン……まなぶの教育係になってくれないか」 ひより「へ?」 寝耳に水だった。 ひより「私がですが?」 佐々木さんは頷いた。 ひより「教育って何を教えるのですか、私なんか何も教えるような物はないですよ、佐々木さんの方が私よりもずっと生きているのですから……」 すすむ「私はこうして仕事を持っている、彼に付き合う時間がない、それに何年生きようと所詮人間の真似事にすぎない、やはり人間の事は人間に学ぶのが一番だよ」 ひより「う~ん~」 すすむ「それに私達の正体を知っても動じないその精神も高く買っている、どうだろう」 ここまで見込まれては断るわけにもいかない。でも、その前に私も言わなければならない事がある。 ひより「私は友人からかがみ先輩を調べるように頼まれました、その際、コンについても調べる事になっています、今後どうなるか分りませんが、佐々木さんについても 調べるかもしれません、そしてこの一連の出来事を記録しても良いですか」 すすむ「ノンフィクションとして残すと言うのか」 佐々木さんの声が少し低くなった。 ひより「はい、でも、私なりに少しは着色しますけど」 すすむ「記録するなり、発表するなり好きにするが良い」 即答だった。おかしい、それなら私の記憶を消す必要なんか最初から無かったのでは…… 私はそんな疑問を持ちつつ机の上のボイスレコーダーを鞄にしまった。 ひより「何か?」 佐々木さんの視線を感じた。 すすむ「い、いや、それでまなぶの件についての返事を聞いていないのだが」 ひより「良いですよ、まなぶさんが良ければ」 すすむ「ありがとう、まなぶに聞いてから返事をしよう」 私は佐々木さんに携帯電話の番号を教えた。 佐々木さんの家を出ると外はすっかり暗くなっていた。思わず空を見上げた。満天に星がいっぱい瞬いている。その中のどれかがお稲荷さんの故郷があるのだろうか。 佐々木さんとの会話で心に残った……宇宙戦争はない、出来ないって言っていた。宇宙は過酷で厳しい……か、意味深長な言葉。 私達はお稲荷さんのように宇宙を旅することが出来るのかな…… 『ゴン!!』 ひより「フンギュ!!」 顎に激痛が走った。電信柱に当たってしまった。歩きながら空を見上げるのは無理があったか……幸い眼鏡に傷はない。 普段考えもしないことをするとヘマをする…… ネタ帳に書いておこう…… 顎を擦りながら私は帰宅した。 かがみ先輩と約束の日が来た。 約束の時間に柊家を訪れるとかがみ先輩は居間に通してくれた。 かがみ「少し待っていてくれる、まつり姉さん呼んでくるから」 ひより「はい」 暫くするとまつりさんが居間に入ってきた。 ひより「こんにちは、お久しぶりっス」 まつり「ほんと、久しぶりね」 まつりさんは私の正面に座った。 まつり「さて、なにから話せばいいかな?」 まつりさんから先に質問をされてしまった。どうしよう。いったい何から聞けばいいのだろう。 ひより「最近、コンとは会っているのですか?」 昔の話しより最近の方が思い出し易いはず。 まつり「姉さんが整体に良く行くようになったから、便乗してちょくちょく行っている」 ひより「いのりさんっスか?」 確認の為に聞き直した。まつりさんは頷いた。そしてにやけた顔になった。 まつり「姉さんは整体が目的じゃない、あれば絶対に佐々木さんが目当てだね、姉さんは隠しているみたいだけど、私には解る」 あぁ、そういえばコンを飼うと決まった時、いのりさんと佐々木さんが親しげに話していたのを思い出した……あれから二年、二人の仲が進展したのかな? おっと、今はコンの話しをしている。その話にも興味はあるけど今は止めておこう。 ひより「コンの世話を殆どしていたと伺っていますが」 まつりさんはいのりさんと佐々木さんの話しを続けたがっていたようにも見えたが、思い出すように少し考え込んだ。 まつり「……何でだろう、そう聞かれると……なんて言うのかな、放って置けないって言うのか……そうそう、コンってね、結構ドジでね、散歩中に溝に落ちるし、 四足なのに岩に躓いて転んだり、川に飛び込んで溺れたり……」 な、何だ、お稲荷さんの神々しいイメージとはちがってダメダメ犬だ、演技なのか、素なのか……記憶が無いのなら普段の力を発揮出来ないって事も考えられる。 それに、まつりさんは話しをしている間微笑んでいた。ドジっ子が好きなのかな…… まつり「それに、コンは私の言っている事を解っているような気がする、かがみが言うように利口な面もあって、世話をしていても飽きなかった」 気がするじゃなくて本当に解っている。犬として見ればこれほど面白い犬は居ないかもしれない。 かがみ「失礼します」 かがみさんが飲み物を乗せたお盆を持って入ってきた。そして私達の目の前にグラスを置いた。 ひより「お構いなく」 まつり「それでね、コンって恥かしがりやでね、」 かがみ先輩が居るのが気付かないのか夢中で話している。 まつり「自分からは絶対に舐めてこない、だから私からたまに抱きしめてね」 ひより「えー!!!? だ、抱きしめるっスか!!」 まつり「ん?」 思わず身を乗り出してしまった。なんて大胆な……あ、そうだった、コンはまつりさんから見れば犬。そのくらいは普通。私もチェリーちゃんや家の犬でもよくやる光景。 人間に化けられるお稲荷さんと分ると、その行為は少し意味合いが違ってくる。もっともまつりさんはそれを意識していないし、コンの正体も知らない。 ひより「い、いえ、何でもありません、失礼しました……」 まつり「かがみ、いつから居る、盗み聞きは良くないよ」 まつりさんはかがみ先輩に気が付いた。 かがみ「いつからって、さっきからよ、堂々と入って来ているのに盗み聞きも何もないわよ、ねぇ、田村さん」 ひより「は、はい……」 ここはかがみ先輩に合わすべきか。まつりさんは少しきつい目でかがみ先輩を見ていた。 かがみ「そんな事より、コンの記憶が戻ったのをどうやって知ったのよ、私はそれが不思議だった、佐々木さんから預かったリードが切欠としか聞いていない」 この質問は私が一番したかった。先にかがみ先輩がするとは思わなかった。でも、これで回り道をしなくて済みそうだ。 まつり「そう、あれは朝の散歩の用意をしている時だった、いつも仕舞っているはずの場所にリードが置いてなかった、探しているとね、 玄関の前にコンがリードを咥えて座っていた、私を見るとね、私の足元にリードを置いた……そして玄関の扉を前足で押した、もちろん開けあれるはずもない、 これで分った、佐々木さんの家に帰りたがっているのをね、それで直ぐに佐々木さんに連絡をして……」 まつりさんの目がどんどん潤んでくるのが分った。かがみ先輩は黙って静かに居間を出て行った。 ひより「……今日はここまでにしましょうか」 まつり「え、あ、ご、ごめん、私ったら……このままコンが記憶喪失のままだったらずっと飼っていられた、なんてね……わぁ、もうこんな時間だ 丁度良い時間ね、私もこの後出かけないといけないから」 ひより「ありがとうございました」 まつりさんは慌てて居間を出て行った。さてと、私も帰って話しを纏めないと。身の周りを整理して居間を出た。 かがみ「田村さん」 かがみ先輩が玄関に立っていた。 ひより「今日は有難うございました」 かがみ「少し、時間あるかしら」 ひより「今日は特に用事もありませんし、何でしょうか」 かがみ先輩は階段の方に歩き出した。何だろう。かがみ先輩の後に付いて行った。かがみ先輩は自分の部屋に入った。私も部屋に入ると扉を閉めた。 ひより「あの、御用はなんでしょうか」 かがみ「悪いわね、まつり姉さんがまだ家にいるから」 まつりさんに聞かれては困る事なのか。かがみ先輩はしばらく扉の向こうに聞き耳を立てている。そしてまつりさんが出掛けたのを確認したてから話しだした。 かがみ「もう良いわね……話しは他でもないコンの事、田村さんはもう気が付いているでしょ?」 かがみさんは私に何を話してもらいたいのだろう。なんとなく察しがつくけど安易にお稲荷さんの話しはしない方がいいのかもしれない。 ひより「まつりさん、コンとの別れの時、寂しかったみたいですね」 かがみ先輩は首を横に振った。 かがみ「犬はね、どんなに訓練しても喜怒哀楽は伝えられても自分の意思を伝えるなんて出来ない、そんな事ができるのは人間以外では類人猿や鯨だけよ、でもコンはそれをした」 流石かがみ先輩、コンの正体を解ってしまったのかもしれない。それなら無理に隠しても意味はない。 ひより「はい、かがみ先輩のお察しの通りです、コンはお稲荷さんです」 かがみ「やっぱり……」 かがみ先輩は腕を組み納得するように頷いた。 ひより「ちなみに……佐々木さんも……」 かがみ「なっ?!」 かがみ先輩は驚いたが私が想像していたよりも冷静だった。もしかしたらそっちもかがみさんの推測の範囲の中だったのかもしれない。侮れない……かがみ先輩。 かがみ「田村さんはこの話しに詳しそうね、良かったら話してくれないかしら」 かがみ先輩もお稲荷さんに興味があるのか。いや、私とは違ってつかさ先輩も関係しているし私より事情は深刻かも。 ひより「わかりました」 私は今までの経緯を話した。 次のページへ
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中国の政治 ◆ ■ 8つの派閥カテゴリー ■ 扠(さて)、胡錦濤は共産党中央軍事委員会主席の座を維持できるかな 「東京kittyアンテナ(2012.10.2)」より 中国共産党中央委員会の第7回全体会議が11月1日に、そして党第18回全国代表大会が11月8日に開催される(@w荒 胡錦濤国家主席が党中央軍事委員会主席の地位を維持するか否かがポイントだな。中国において政府は党の決定を実施するだけの存在。人民解放軍は政府の軍ではなく、共産党の軍だ。そのため共産党中央軍事委員会主席が中国の最高実力者の地位だ(@w荒 党大会の1ヶ月前に起きた中国の尖閣暴動も、現在権力の座にある胡錦濤の共産主義青年団派に対する習近平をトップとする上海閥と太子党による権力闘争の一場面と観るべきだね(@w荒 参考1 以前にヲレが得た情報では共産主義青年団派の胡錦濤は妻が死んで精神的にヘナヘナになり、現在占めている党中央軍事委員会主席の地位も習近平に譲るのではとかいうのがあったが、どうも最近の情報を見るに以前上海閥+太子党の習近平との権力闘争は激化している様だ(@w荒 胡錦濤が共産党中央軍事委員会主席となり最高実力者の地位を維持、党中央組織部長の李源潮が共産党トップとなり、習近平は国家主席という実力的にはゼロのお飾りになるとかいう情報も流れている。こういったことは香港とかの広東語サイトを読めないとわからないがな(@wぷ 【日中関係】 ■ 北京政府の尖閣諸島への対日強硬策は、日本民族に憲法改正と「富国強兵策」(秦始皇帝が源流)推進を促す 「教育カウンセラーの独り言(2012.9.15)」より 胡錦濤国家主席は、北京派閥と上海派閥が激突して、中国共産党1党独裁の北京政府が壊滅しかねない状況に陥りそうななかで、体制維持に懸命である。 表向きは、日本固有の尖閣諸島をめぐり、北京政府が弱腰であることに中国人民の怒りが爆発しているというように伝えられているけれど、これは真っ赤なウソである。 北京派閥と上海派閥が激突の本質は、胡錦濤国家主席の後任人事をめぐる権力闘争なのである。この秋の共産党大会で、次期国家主席と首相を決めるのだが、これまでに内定している人事をめぐって、異論が噴出してきた。 すなわち、次期国家主席には、習近平副主席、首相には、李克強副首相ということが内定していたはずにもかかわらず、これに反対する動きが、武力を伴って顕在化してきた。 【日中関係】 ■ 今回、反日運動の先頭に立っているのは共産主義青年団で、この反日闘争が一種の文革的な動きに繋がるのではと思っているし、その原動力は共青団であり軍だ。 「株式日記と経済展望(2012.9.15)」より 中国では連日トップでテレビや新聞で報じていますが、在留邦人がラーメンかけられたり18日には反日デモが計画されていますが、第二の文化大革命になる気配もある。その中心になるのが共産党青年団であり軍になる。共産党青年団が紅衛兵のようになるか分かりませんが、習金平(※ 習近平の誤?)の上海派は改革開放政策の推進者として批判されるかもしれない。 ● コメント欄より Unknown (mm) 2012-09-15 17 21 41 今回、反日運動の先頭に立っているのは共産主義青年団で、 引用:第二の文化大革命になる気配もある。その中心になるのが共産党青年団であり軍になる。共産党青年団が紅衛兵のようになるか分かりませんが、習金平の上海派は改革開放政策の推進者として批判されるかもしれない。 反日デモや日中対立の謀略事件を扇動してるのは、上海閥でしょ。北京、共産党青年団はむしろ、沈静化させたがっている。↓ http //sankei.jp.msn.com/world/news/120820/chn12082010250001-n1.htmから 20日付の中国紙「中国青年報」は「日本製自動車の破壊は愛国行為ではない」と強調する記事を掲載し、19日に中国各地で起きた反日デモで一部の参加者が暴徒化したことを批判し、国民に冷静な態度を取るよう呼び掛けた。 中国青年報は、胡錦濤国家主席の出身母体である共産主義青年団(共青団)の機関紙。共産党内で胡主席が率いるグループの対日姿勢は比較的穏健とされている。このため同記事が、「日中間の国民感情がさらに悪化することを避けたい」とする胡主席周辺者の意向を反映している可能性もある。 上海閥による組織的デモ動員? ↓ http //sankei.jp.msn.com/world/news/120819/chn12081922480006-n1.htmから 胡錦濤国家主席ら共産主義青年団(共青団)グループが優勢になりつつある中で、江沢民前国家主席ら上海閥と、習近平国家副主席ら党幹部を親族に持つ太子党の2つの勢力が、胡政権の対日政策を「弱腰」と批判するとともに、各地の反日デモを操って圧力をかけているとの見方もある。 上海の日本総領事館前で19日に抗議活動を行った中国人の一人は、浙江省でデモ隊が組織されて同日朝にバスで運ばれてきた、と証言した。党大会まで「反日デモ」が繰り返し利用される恐れもある。 中国のメディアを北京は統制し尽せていなる訳ではない。上海系メディアが日本の挑発や、政権の弱腰批判を煽るのでは。ネット、デモ、メディアで当局が抑えたい反日が増大できるのは、上海閥の支えがあるからだろう。 結局、石原が、先に仕掛けて、上海が連動して今回の緊張が作られている。石原が何を言おうが、石原の言動は、日本の右翼知事が挑発という役割、効果なんだ。 ↓ http //sankei.jp.msn.com/world/news/120826/chn12082603130001-n1.htmから 上海の経営コンサルタント、TNCソリューションズの呉明憲代表は、「(尖閣諸島の)東京都による購入や国有化、日本人の常駐開始など、今後起こりうる事態のたびに“節目の日”となってデモが発生し、翌年以降も毎年、その日にデモが続く懸念がある」と警戒する。日本側の対応策を中国の大衆が“柳条湖事件並み”と誇大解釈し、反日デモを繰り返す口実にもしかねないというのだ。 21日には共産党中央宣伝部が中国国内メディアに反日デモの独自取材を禁じ、新華社電を使用するように通達していたと香港紙に報じられたが、これが真実なら、共産党の不安感を裏付けることになる。最高指導部のトップ人事が決まる5年に1度の共産党大会を秋に控え、治安維持は最優先の政治課題だ。過激な行為こそ徹底して取り締まりたいはずだ。 習近平は上海閥だけど、もうすぐ、体制側、国の為政者になる者なので、今回の反日扇動に加わっているかは、微妙なんじゃないかな。 ■ 中国の太子党は、政治的な派閥グループなの? 「COME ON ギモン〔読売新聞〕」より 現在の中国共産党内の権力闘争を語るとき、権力者たちそれぞれの出自から、胡錦濤・国家主席や第5世代の李克強副首相を「中国共産主義青年団(共青団)」グループ、第5世代による次期指導者層のうち、トップの座に就くと目される習近平・国家副主席(習仲勲・元副首相の息子)を「太子党」グループのリーダー格と位置づけ、2派の対立構図としてとらえる見方が多いようです。党内は、故・トウ小平氏の唱えた改革・開放路線堅持で一致しており、「共青団」グループ、「太子党」グループそれぞれで政策的に大きな違いがあるわけではありません。 ★ 中国反日デモ 権力闘争の影 上海閥と太子党、胡政権に圧力 「Yafoo!ニュース〔産経新聞〕(2012.8.20)」より / 魚拓 胡錦濤国家主席ら共産主義青年団(共青団)グループが優勢になりつつある中で、江沢民前国家主席ら上海閥と、習近平国家副主席ら党幹部を親族に持つ太子党の2つの勢力が、胡政権の対日政策を「弱腰」と批判するとともに、各地の反日デモを操って圧力をかけているとの見方もある。 ★ 「太子党は中国経済を独占している」=米紙 「大紀元(2012.5.23)」より / 魚拓 重慶市元トップの薄熙来氏の失脚で再び注目が集まった、深刻化する高級幹部とその家族による汚職。米紙ニューヨークタイムズはこのほど、太子党と呼ばれる中国共産党の高級幹部の子弟が権力と人脈を利用して、中国経済を牛耳っているとの分析記事を発表した。 ■ 【中国斜め読み】太子党、団派、江派……中国政局を読むための8大派閥(ujc) 「KINBRICKS NOW(2011.10.30)」より ■ 8つの派閥カテゴリー (1)太子党 説明不要のボンボン派閥。次期国家主席の習近平を筆頭に、薄煕来、俞正声など中央政治局から軍(劉源)・国営企業(胡錦濤の息子胡海峰、ムービースタアの息子温雲松など)・金融系(江沢民の息子江綿恒)まで幅広く活躍中。 (2)団派 これまた説明不要の大勢力・ユース組織たる「共産主義青年団」出身の政治家たち。胡錦濤を筆頭に李克強、李源潮、汪洋など。現在では団派が地方のトップのうち1/3を占めているという見方も。 (3)江派(上海閥) 前国家主席江沢民の影響を強く受けている利権集団。現在は呉邦国、賈慶林、李長春、賀国強、周永康と中央常務委員でも大多数を占めているものの、18大では大幅に数を減らすことが確実視されている。大ボスがいつまで表舞台に立っていられるかが勝負の分かれ目。 (4)地方実力者 地方勤めを歴任しながら出世してきた実力派。次期18大では薄煕来や汪洋、俞正声などが常務委員昇格確実な情勢ですが、他にも 郭金龍・北京市長(四川→チベット→安徽→北京) 王岷・遼寧省党書記(江蘇→吉林→遼寧) 栗戦書・貴州省党書記(河北→陝西→黒龍江→貴州) などがこれに該当。地方を廻っているうちに歳をとるのが問題点。郭金竜なんかあと2~3年早くチベットのトップに立っていれば……。てくらいな人物と聞いていたんですが。 (5)エリート 次期トップの習近平(法学博士号)、そして李克強(経済学博士号)がともに博士号を取得しているように、領導たちの高学歴エリート化が顕著に進んでいる。他にも高い専門性をもって国営企業のトップクラスから地方の領導へと転身する人物(例:張春賢・張慶偉・郭声琨など)や海外の大学を卒業した海亀族(楊潔チ外交部長)などが該当。天下の名門・金日成総合大学を卒業された張徳江副総理を海亀派のエリートと判断するかは、みなさんのお好きにしてください。 (6)中央官僚 党や国務院での各中央弁公室勤めが長く、そこを出世の足がかりとした人々。天安門事件の時に泣きながら趙紫陽総書記に傘をさしていたムービースタアなんかが典型ですな。一昔前の「テクノクラート」と同類の概念ですが、なかでも「秘書派」という秘書経歴のある人物が上司の覚えめでたく出世を駆け上るパターンが多く、国務院の各部門トップは秘書経験者が大半を占めているとのこと。 (7)清華・北大閥 文字通り、中国の双璧・清華大学と北京大学出身者。胡錦濤・呉邦国・習近平が清華大学出身者で、李克強・薄煕来・李源潮が北京大学出身。ちなみに文系理系の別も面白く、常務委員は理系出身者が多数を占めるのに対し、中央政治局委員になるとほぼ半々、地方のトップになると文系の方が多くなるという逆転現象が発生しています。 (8)職業役人 元々は三農(農民が貧しく、農村が立ち遅れ、農業が発展しない)問題の対応策の一つとして、95年ごろから大学生卒業生を農村の幹部として派遣してきた制度がきっかけ。企業や役所勤めを経験することなく幹部役人「村官」を経験することから職業役人と呼称されています。現在では約20万人の「村官」がいると言われており、未来の中央政治を担う人材を輩出するだろうと言われています。 .
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「若く、美しい娘達を用意していただきましょう」 【名前】 西洋妖怪ドラキュラ 【読み方】 せいようようかいどらきゅら 【声/俳優】 伊丸岡篤/堀本能礼 【登場作品】 手裏剣戦隊ニンニンジャー 【登場話】 忍びの24「夏だ!西洋妖怪ぞくぞく来日!」忍びの25「夏だ!ドラキュラにご用心」 【所属】 牙鬼軍団 【分類】 妖怪/西洋妖怪 【好きな物】 美女 【好きな場所】 洋館 【攻撃力】 星3 【不思議な技】 星3 【きゅういん】 星5 【恐れの収集法】 生命エネルギーの収集 【妖怪モチーフ】 ドラキュラ(吸血鬼) 【詳細】 古来より存在する「ドラキュラ」が長い歴史にあわせて進化、異国より来訪した「モンスター」と呼ばれる個体。 西洋三大妖怪の1体。自称「西洋妖怪のキング」、窮地に立つと「恐るべし!」と言う癖がある。 人間の首筋に鋭い牙で噛み付き、生命エネルギーを吸い取り、永遠に眠らせながら悪夢を見せて苦しめる能力を有する。 無数のコウモリに瞬時に変化してから相手の背後に回り、暗黒針「フェンシリング」で華麗に戦闘する事を得意としている。 決め技の壁ドンで女性を追い詰める妖怪プレイボーイで、かつては最大の弱点だった太陽の光を克服しているが、ニンニクだけは苦手。 伊賀崎風花が参加したオーディションでアイドル・SILVERと共にいたプロデューサー・サトウを監禁した上で成りすまし、生命エネルギーを吸う女性達を集める。 生命エネルギーを吸われた八雲、凪、霞を除くニンニンジャー3人と交戦、弱点のニンニクで怯んでしまい、3人に追い詰められ、シロニンジャー、スターニンジャーの「スターライトニンレツザン」、アカニンジャー超絶の「チョウゼツシュリケンザン」の連続攻撃により倒される(その際は「これがニンポウ?、敗者は美しく散るのみ!」と発言している。)。 その直後、小槌が放つ邪気の力によって「肥大蕃息」し、巨大化する(その際は「蘇った上に、巨大化とは流石日本のギジュツだ!」と発言。)。 ライオンハオーと交戦、ライオンハオーのエネルギーを吸収する事で身動きを封じるが、駆け付けたドラゴマル、ビュンマルの攻撃に怯み、ダンプマルの「忍忍ニンニクの術」による大量のニンニクの匂いを嫌がり、最期はライオンハオーの「大シュリケンクラッシュ」を受け爆散した(その際は「フジヤマ!ゲイシャ!日本のニンジャ! 恐るべし~!」と発言。)。 【余談】 忍びの25ではアイドル・SILVER役としてSHIN氏がゲスト出演。 声を演じる伊丸岡篤氏はスーパー戦隊シリーズで何度か怪人の声を演じている。
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【名前】 ロールブック『獣の街』 【概要】 ある日ギルドに依頼が舞い込んだ。 ロールブックに挑戦し、この物語を解決してほしい。ありふれた依頼であるが、地方のロアールに持ち込まれたにしては妙な点が幾つかあった。 まず、ロールブック内で手に入れた物は全て譲るという事。依頼主が求めるのはクリアのみ、上手い条件であるが、依頼主にメリットがあるように思えない。 そして、このロールブックの中で何かあっても口外してはならないという条件である。厄介事の匂いを嗅ぎつけた人々は、破格の条件を前にしても中々参加したがらない。 が、報酬は破格。……様々な理由はあるだろうが、いずれ、このクエストが始まる事だろう。 【参加にあたっての注意】 特にないです。ボスが少し強めなので注意してくださいというくらいです。 【支給品】 火炎瓶 投げると割れて中の油に引火するという原始的な武器。 古来より炎は知恵のある者が使う武器であり、獣はそれを酷く恐れると信じられていた。 聖水 穢れた者どもにとって劇薬となる、祝福された水。 霊魂や悪魔などを祓う力があるというが、効果の高い聖水は希少である。 獣狩りの槍 獣に対して効果的な祝福を施された槍。 神官が祝福を施した銀の槍であり、その一突きは並の獣であれば死に追いやると言われる。しかし、一度傷を負わせるとそれ以降はただの槍である。 人々に仇なす獣は、神にも排斥される存在なのだろうか。 【報酬一覧】 怒る獣の皮 売価 銀貨5枚 個数 4 憤怒に満ちた獣の皮。持ち主の呪詛が滲んでおり、返り血を浴びるたびに昏い歓びを感じるという。 強靭な表皮は並みの刃物では易々と切り裂けず、その体毛は水を弾き、血を吸う。 レクス、リリンが取得 血に狂った瞳 売価 銀1枚 個数 2 赤く濁った獣の瞳。怨念に満ちたそれは宝石に近い材質となり、武器にはめ込む事で効果を発揮するだろう。 攻撃をする毎に武器は威力を増す。しかし徐々に冷静さを失うという欠点もあり、獣になりたくなければ、自らが血に対する欲に取り憑かれぬ様に戒めるべきだろう。 レクス、セレネが取得 復讐の獣爪 売価 銀貨10枚 個数 4 刃のように鋭い獣の爪。人の肉も、骨すらも、この爪の前ではあまりにも頼りない。 大きなそれは恐ろしく優秀な素材であるが、加工は難しく、爪という形を変えることは難しいだろう。その爪はどこか仄かに紅い。 セレネが取得 獣狩りの槍 売価 金貨1枚 個数 1 獣狩りの祝福を施された槍。獣の街の為政者が狂った際に用いられる、処刑用の槍。 その槍はしかし、本来の用途とは異なる使い方をされた。あるいは武器にとって、血に狂った獣を狩る事が定めだったのだろうか。 今はその力が失われているが、装飾が施されたそれはかなりの価値があり、また素材が良い為、槍としても優秀である。 レクスが取得 略奪者の指輪 売価 金貨1枚 個数 1枚 略奪者の街、その為政者であるフィリアノールが付けていた指輪。人ならざる存在に対して、攻撃の威力を高める。また、足音を消す効果も併せ持つ。 大規模な盗賊団を形成していたフィリアノールは、やがてとある街を見つける。外壁を持っていたその街を奪い取るのに、そう時間はかからなかったという。 リリンが取得 古い金貨 売価 金貨2枚 個数 1人5枚 月が描かれた金貨。今から数百年程前、とある街で独自に使われていたという金貨である。 当時にしては高度な技術を持っていたその街は、しかし海からやってきた外敵により滅びたとされている。奪う者は、やがて全てを奪われるのだろうか。 セレネ、リリン、レクス、ロッシェが取得