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現在 交通手段がバスのみという南高原市・榛原町・黄瀬原郡の東方都南東部の交通手段の充実と共に関東地方進出を視野に入れた新線が計画された ルートはこの三つが計画された ①海田から南下、榛原町・皆川県を縦断し、群馬県水上・高崎を経由して八高線に沿い寄居から下北鉄道に直接乗り入れる ②紅魔中央付近から南東に下り南高原市を横断、榛原町の南を通り皆川県の北部から福島県に入り峠経由で福島もしくは会津経由で郡山まで直通する そこから南下し栃木県宇都宮・小山まで乗り入れる ③白玉線佐倉ヶ原から南下 先述の3地区すべてを通り皆川県の西側を通る その後群馬県に入り高崎線(もしくは上越新幹線)に沿いながら大宮まで直通する 発表されたのは10月だが7月から極秘に会議が重ねられて 結果②が選出された その後少しルート変更を行っている 東方高速鉄道皆川本線(仮称) 駅予定表(もちろん乗換駅以外は仮称です) 紅魔中央(本線の紅魔中央駅とは別に作られる予定) ↓ 西紅魔 にしこうま ↓ 関西加嶋 かんせいかしま(乗り換え 東方都交通局永遠亭環状線) ↓ 瀬田原 せたはら ↓ 大崎 おおさき ↓ 印朴 いんぼく ↓ 夏野 なつの ↓ 大泉西 おおいずみにし ↓ 南高原 みなみたかはら ↓ 加西 かさい ↓ 井戸屋 いどや ↓ 萱戸 かやど ↓ 数寄折 すきおり ↓ 四十物 あいもの(乗り換え 寄居線 この付近で京東鉄道多勢川線本線とアンダークロス) ↓ 根本 ねもと ↓ 愛生 あいおい ↓ 磐藤沖津 ばんどうおきつ ↓ 追分 おいわけ ↓ 闇傘 やみかさ ↓ 小岩渓谷 こいわけいこく ↓(福島県突入) 稲荷峠 いなりとうげ ↓ 熱塩温泉 あつしおおんせん ↓ 桧原湖 ひばらこ ↓ 吾妻小富士登山口 あづまこふじとざんぐち ↓ 高湯温泉 たかゆおんせん ↓ 庭坂 にわさか(乗り換え JR奥羽本線) ↓ 薬師堂 やくしどう ↓ 福島 ふくしま(乗り換え JR東北・山形新幹線 JR奥羽本線・東北本線 福島交通) ↓ 弁天山 べんてんやま ↓ 黒岩 くろいわ ↓ 一本松 いっぽんまつ ↓ 福島大学前 ふくしまだいがくまえ ↓ 南金谷川 みなみかなやがわ ↓ 福島松川 ふくしままつがわ ↓ 岩代三原 いわしろみはら ↓ 北二本松 きたにほんまつ ↓ 二本松 にほんまつ(乗り換え JR東北本線) ↓ 舟形石山 ふなかたいしやま ↓ 坂下 さかした ↓ 本宮運動公園 もとみやうんどうこうえん ↓ 東五百川 ひがしいおかわ ↓ 日和田 ひわだ(乗り換え JR東北本線) ↓ 北郡山 きたこおりやま ↓ 郡山 こおりやま(乗り換え JR東北新幹線 東北本線・磐越西線) ↓(ここからは高速(160km/h)対応軌道) 陸羽街道 りくうかいどう ↓ 安積 あづみ ↓ 須賀川 すかがわ(東北本線の須賀川駅とは離れている) ↓ 泉崎 いずみざき(東北本線の泉崎駅とは離れている) ↓ 高速白河 こうそくしらかわ ↓ 白河関 しらかわせき ↓ 那須唐木田 なすからきだ ↓ 黒磯 くろいそ(乗り換え JR東北本線) ↓ 那須塩原 なすしおばら(乗り換え JR東北新幹線・東北本線) ↓ 大田原 おおたわら ↓ 那須大沢 なすおおさわ ↓ 喜連川 きつれがわ ↓ さくら市 さくらし(東北本線氏家駅が隣接) ↓ 宝積寺 ほうしゃくじ(乗り換え JR東北本線・烏山線) ↓ 新鬼怒川 しんきぬがわ ↓ 宇都宮 うつのみや(乗り換え JR東北新幹線・宇都宮線・日光線) ↓ 西川田 にしかわだ(乗り換え 東武宇都宮線) ↓ 壬生 みぶ(東武宇都宮線の壬生駅とはかなり離れている 近いのはおもちゃのまち駅) ↓ 下野国分寺 しもつけこくぶんじ ↓ 小山 おやま(乗り換え JR東北新幹線・宇都宮線・水戸線・両毛線) 一応予定ではここまで ただし山梨本線(仮称)と同様 都心に延伸する可能性は大である 寄居方面は①を復活させて新たに別の本線を作ることが決定した 詳しいルートは寄居線にて 着工は11月頃 開業時期は来年夏頃(福島まで) 全線開通は再来年頃を予定
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ある教区 なんつーか、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい>< 徹頭徹尾これはこれ、で ヘンドリクス司祭≒マクスウェル エウヘニア≒インテグラ ヴォルトゥス≒ウォルター アル・カルナイ王国王都の外れにその修道院はある。 南方風で天蓋は穹窿となっている。乾いて暑いこの王都の、石と干し煉瓦の街は、神殿の国であり、街である。その王都に修道院に、一台の馬車が向かって行った。 四頭立ての馬車は、太守もかくやというものであり、王宮礼拝所を示す印すらつけられている。 もっとも、民草が知るとすれば、王家関わりであろうということのみだろう。馬は乾いた道を踏み、砂塵を踏み、野かぬもの在ったとするなら、構わず踏み越える勢いで進んでゆく。やがて修道院の正面に横付けして、馬車は止まる。先に馬車を降りた御者補は、教会の下男がつけるお仕着せ姿だった。下男は台を置き、うやうやしき馬車の扉を開く。 中よりゆっくりと姿を見せるのは、教会の正装をした、灰色の髪の男だった。強い日差しの下で、にこやかな笑みを顔に張り付けて、ゆっくり台を踏み、馬車を降りる。正装の男に先んじて、下男は小走りに修道院の扉を引きあける。 そして正装の男は中へとゆっくりと踏み込んで行った。 高い天井と天窓を抜ける風で、教会の中は涼しいとすら言える。教会らしく長椅子が並べられているが、人影は一心に何事か祈る老婆一人のみだ。正装の男は、それら長椅子の後ろを、今まで通りのゆっくりした歩みで進み、修道院の奥へと向かっていった。南方らしく修道院には中庭があり、果実の木々が植えられていて、強い日差しに木陰を投げかけている。正装の男は中庭をめぐる回廊を進んだ。中庭の木々の向こう、中庭を囲う建屋の向こうにもまだ屋根が見える。教会に隣接して立てられている、いわゆる押し込め街区、ゲットーなどとも言われているが、その屋根が見えるのだ。 ゲットーの屋根を見やりながら、正装の男の面には、それまで貼り付けていた笑顔とは違うものが現れていた。憎しみと蔑みを丹念に混ぜ合わせ、長い時を寝かせて熟させたもののような。 「・・・・・・」 正装の男は足を止める。回廊の奥に一人の修道僧の姿があったからだ。白髪交じりの灰色と言っていい髪のその修道僧はうやうやしく首を垂れる。 「ヘンドリクス先生、ようこそいらっしゃいました」 そう呼ばれた正装の男は、ひくひくと目元をひそめる。 「神父、と呼びたまえ。私は正教会帝都首座にて任じられている」 「これは失礼いたしました」 修道僧は頭を垂れたまま応じる。 「正教会の先生」 そして言うのだ。 「アル・カルナイ王都主教フェルディナンドゥシア先生はすでにおまちになっておられます」と。 修道僧はヘンドリクスと呼ばれた正装の男を導き、歩く。その先に部屋はあった。その扉を叩き、修道僧はうやうやしく言うのだ。ヘンドリクス司教をお連れいたしました、と。 ただ入れ、とだけ応じる声は、女のものだった。修道僧が扉を開き、ヘンドリクス司教を導きいれても、その声の主にしてその部屋の主は立ち上がることもしなかった。 奥の机の向こうに座る姿は、聖職者の服をまとい、南方のものにしては珍しい金の髪を長くのばしていた。その瞳の色も南方人には珍しい翠のもので、さらに南方人には珍しい眼鏡をかけている。そして部屋には葉巻煙草の香りがした。 頭を垂れて修道僧は言う。 「ヘンドリクス司祭をお連れしました。エウヘニア様」 「ご苦労だった。ヴォルトゥス」 正装のヘンドリクス司祭は、先と違って何物も面に示さぬまま、エウヘニアの卓まで進み来る。 「座るところの一つもないのか」 「だ、そうだ。ヴォルトゥス」 「ただ今お持ちいたしましょう」 修道僧が頭を垂れるところに、ヘンドリクス司祭はさらに言う。 「水も出さないのか」 「水だそうだ」 「承知しました。エウヘニア様」 再び頭を垂れ、さらに求めるところがないと知ると、修道僧は部屋より退く。 少しの静けさが降り、やがて正装のヘンドリクス司祭は言った。 「この私を立たせたままにしておくとは良い度胸だ。フェルディナンドゥシア司教。女にしておくのはもったいない。清教徒にしておくのも、もったいない。異教徒ならば許しはしなかった」 エウヘニア・エル・フェルディナンドゥシア主教は立ち上がりもせず、ヘンドリクス司祭を見上げる。 「このアル・カルナイでそんな馬鹿な言葉を聞くとは思わなかったぞ、ヘンドリクス神父」 「・・・・・・」 ヘンドリクス司祭は、応えず笑みを浮かべただけだった。目の前にいるものを心から蔑む笑みを。エウヘニアは応じる。 「神父はこの教区に、トイトブルグのような混乱を呼びたいのか。『帝都』より来て何年過ごしたのだ」 「それが布教が進まないことの言い訳かね?」 「我らはこの国での、信徒の守護者としてあった。その我らを愚弄することは許さん」 静かに、けれど確かに、エウヘニアの声に怒気が混じる。 「・・・・・・」 にらみ合うまま数瞬が過ぎたとき、扉の開く音がした。 脇の扉から姿を現したのは、先の修道僧だった。薄汚れた背もたれすらない椅子を携えている。 「大変お待たせいたしました。ただ今椅子をお持ちいたしました。すぐに水を持ってまいります」 ヴォルトゥス修道僧は、うやうやしくぼろ椅子を持ち、そしてヘンドリクス司祭の背後へと置いた。ヘンドリクスは構わず座る。ぎしぎしと軋る椅子に。 「・・・・・・まあいい」 ヘンドリクス司祭はあざけりの顔のままに、足を組む。 「それでは本題に移ろう。私は、聖職者として、アル・カルナイ王都礼拝所司祭として、教区の双性者のありようは極めて不健全であると考える。これはもはや、教皇庁に報告せざるを得ない問題だ」 「・・・・・・」 エウヘニアは両の手を組み、顎の前あたりに寄せて、その話を聞いているのみだ。ヘンドリクス司祭は続ける。 「教会を、汚らわしいゲットーの代わりにすべきではない。教会に接して、教会がゲットーを作るなど異教徒の誤った考えを教会が是認していることと同じだ。すべての被造物に上下は無い。ゆえに双性者もゲットーに押し込めることは間違っている」 「・・・・・・」 「不正義を是正する気が無いのなら、私は聖職者として教皇庁に報告せざるを得ない」 「・・・・・・」 双方が黙り、風のように静かに時が流れる。 「・・・・・・」 「承知した」 無言のエウヘニアを前に、ヘンドリクス司祭は言う。 「すべての教会を統べる教皇庁に、私は異端の罪でアル・カルナイ王都修道会を告発せざるを得ない」 初めてエウヘニアは応じる。 「ゲットーを是認しているつもりはない」 「ではあれは何かね」 「アル・カルナイ王国そのものは、神殿の統べる国だ。帝國の者らは帝國のものとして扱いを受けられるが、アル・カルナイ王国で生まれたものは、王国の定めに従わざるを得ない。そうでなければ、信徒安堵は保てない」 「まず異端。続いて怠慢の告白と解して良いのだな」 「王国生まれの信徒を守るために、信徒の集住を行わざるを得ない。これは認められていることだ。私はゲットーを認めていない。ゆえに集住区は男女双性の区別なく利用できるようにされている」 「信徒を集めて、何をするつもりか。布教には怠慢でありながら」 「・・・・・・」 「僧兵かね?」 「ちがう」 「信徒が身を守るために戦うことは許されているが、常の僧兵を養うことは禁じられている。なぜなら、それは異端の擁護にも使われるからだ」 「断じて違う」 「このアル・カルナイ王国には、すでにアルトリア陛下が降嫁され、国王陛下よりも異教争闘禁止令が出ている。にもかかわらず、古人を集め、ゲットーに住まわせ、何をしているのか。申し開きができるのか」 「・・・・・・」 エウヘニアは組み合わせた手の向こうで、きり、と歯を軋らせる。 「・・・・・・住居の自由は認めている」 「では僧兵集合の疑惑については?」 「そんなものはない。行っているのは、教区安堵のための見回りのみだ」 「ものは言いようだだな、フェルディナンドゥシア主教」 にやにやとヘンドリクス司祭は続ける。 「私は教皇庁と王妃陛下にどのように申し上げればいいのか」 言ってヘンドリクス司祭は芝居がかった仕草で肩をすくめてみせる。 「さあ、如何にご説明される」 「・・・・・・何を求める」 「修道会の古人には自由があり、認められており、僧兵集合などではない、という証拠を」 すなわち、とヘンドリクス司祭は続ける。 「戦いを厭わぬ古人あらば、国王陛下に忠誠の発露を自ら示されるべき」 「・・・・・・」 沈黙の後に、エウヘニアは言った。 「ならば僧兵集合ではない証拠に、私自身をもって国王陛下に忠誠の発露をお見せしよう」 「では古人は?」 「・・・・・・ありていに言えばいい。何を求めている」 「何人、だ」 平然とヘンドリクス司祭は応じる。その顔にあざけりの笑みを浮かべながら。 「答えを」 「・・・・・・それは王妃陛下が古人を求められていると言う事か」 エウヘニアの問いに、ヘンドリクス司祭はにやにやと応じる。 「アルトリア陛下は帝國最強の騎士の一人でもあられた。その陛下にはすでに近衛騎士が傅き、神殿もまた、神聖騎士をもって国王陛下に傅いている。教会がそれに参画しないということが、どういう事か理解できよう?」 「・・・・・・」 エウヘニアは顔を上げる。ヘンドリクス司祭を睨みつけ、今、何か言おうとしたときだった。 「おまたせいたしました」 不意の声と共に脇の扉が開く。先の修道僧ヴォルトゥスが盆に水の器を携えて立っていた。 「お暑い中を御足労でした、ヘンドリクス先生」 「神父と呼びたまえ」 「失礼いたしました、ヘンドリクス正教会の先生」 飄々と言いつつ、歩み寄るヴォルトゥス修道僧は、ヘンドリクス司祭へ盆を捧げて見せる。 「この修道院の水は特別でございましてな。泉の発見は奇跡として、先年、教皇庁にも認定を頂いたものです」 「・・・・・・」 疑わしげにヘンドリクス司祭は水の器を手に取る。軽くにおいを嗅ぎ、しかし一息にあおって見せる。そのヘンドリクス司祭に、ヴォルトゥス修道僧は続ける。 「かつて、この丘に追い上げられた教会の信徒たちが、飢えと乾きに苦しみ、もはやこれまでと覚悟したとき、祈りの導く先に見つけたのがこの水の泉でございます。信徒たちにとって、神殿のものらとの諍いは、心より避けたいものなのです。古人が捨てられるように預けられるのも、そのためとご理解いただければ」 「・・・・・・」 ヴォルトゥス修道僧の言葉に続いて、エウヘニアは組み合わせた両の手の中に息をつく。それから顔を上げる。 「近衛騎士団の件、御召でないとするならば、それは志願。それは帝國の考え方。この国に広く知られざるものを、道理として求めてもそうは応じられぬ。当然であろう」 「それで、どうする」 ヘンドリクス神父の問いに、エウヘニアは応じる。 「志願は自由あってのもの。今、わたしの口より何の約束ができようか。それらを説いて聞かせ、どう応じるか確かめねばならない」 「確かめるなら、早い方がいいぞ」 にやにやと笑いながら、ヘンドリクス司祭は手の中で器をもてあそび、そしてそれをヴォルトゥスへと押し返す。それからぼろ椅子を立ち上がる。最後まであざけりの笑みを消さず、ヘンドリクス司祭はくるりと背を向けた。そして足音も高く扉の際まで歩いてゆく。 「扉だ」 背を向けたまま、ヘンドリクス司祭は傲慢に言い放つ。 「客に扉を開けさせるつもりか」 「これは失礼をいたしました」 ヴォルトゥス修道僧がゆっくりと歩いてゆく。一礼をして扉を開き、足音も高く進む彼と共に部屋を出ると、ふたたび礼をして扉を閉じる。 「・・・・・・」 静けさが部屋に満ちる。 エウヘニアは、顔の前に組み合わせていた両の手をようやく解いた。その指をそれぞれに、強く握り、固める。だがエウヘニアはその拳で、机も、他の何かも、打つことはなかった。震えるほど力を込めながら、やがてゆっくりと拳を開く。そして静かに卓の引き出しを開き、葉巻煙草を取り出した。小刀で先を切り落とし、続いて魔術の火種にその先を寄せる。橙色の灯りが浮き上がり、接する葉巻の先にやがて赤く移る。エウヘニアはそのさまを静かに見つめ、立ち上る紫煙にも構わずただそうしていた。扉を叩く音が今再び起きるまで。 「入れ」 それは戻り来たヴォルトゥス修道僧だった。 「帰ったか」 「はい。あの小僧、意気揚々と」 「狙っていたのだろう。まんまと隙を突かれた」 応じながらエウヘニアは葉巻を口にする。ヴォルトゥス修道士は歩み寄り、うなずく。 「帝國の手のものらが古人を集めているという噂はありました」 「その筋の話か」 「いえ、あの小僧は宮廷政治の遊びに勝ちたいのでしょう」 そしてヴォルトゥスは問う。 「いかがされますか、エウヘニア様」と。 「あの馬鹿者に宮廷での教会の立場を貶められてはたまらん。参内する」 「承知いたしました」 「アキュロウルとカエキリアを呼べ」 続いて言うエウヘニアに、ヴォルトゥスは静かに顔を上げる。 「では二人を差しだされるのですか」 「私と教会を頼るものを差しだすわけには行かない」 「では、ガリウス将軍に?」 「頼らざるを得ないだろう。だが間違いなく、あの馬鹿者はその手は読んでいるはずだ」 紫煙の中に瞳を落とすエウヘニアへ、ヴォルトゥスは言う。 「いいえ、構わないでしょう。ガリウス将軍は、近衛騎士団の若手を厳しく鍛え、それによってむしろ若手の心酔を受けているとのこと。若手らの力も増して、近衛騎士団の古株の声に拮抗しているとも聞きます。アキュロウルとカエキリアの二人も、かくのごとくなって構わぬでしょう」 「・・・・・・」 「また帝國では、古人と常人を同じ場で鍛え、古人は古人であるがゆえにさらなる力を求めるとも聞いています。ガリウス将軍の手下は帝國以来の古強者ばかり。古人の一人や二人、いまさら驚かぬでしょう」 「しかしそれを知らぬヘンドリクスではあるまい」 「何事か仕掛けていると考えるべきでしょう。しかし、時にはあるがままに進むしかないこともあります。カエキリアはともかく、アキュロウルは今のまま教会に取り込めていれば、腐りかねません」 「・・・・・・」 エウヘニアは息をつき、葉巻の煙を長く噴き出す。 「あやつはどこに行っている」 「ご存じないままのほうがよろしいかと」 「・・・・・・何とかしておいてくれ。私は参内してくる」 「はい、エウヘニア様」 顔に柔らかい笑みを浮かべて、ヴォルトゥス修道士は首を垂れる。 さて 古人ゲットーの話が出てから、こういうことがどっかであるんじゃないかと思っていた。 というわけで、アル・カルナイにアルトリウスが降嫁してからの話。 降嫁後数年以内だろう。 アル・カルナイには東方辺境の戦勝権益がある。戦勝権益はレイヒルフトの手下がだいたい押さえているはずなんだけど、宗教に限っては、在地にせざるを得ないだろうと考えている。 その辺はトイトブルグでの検討概念をそのまま使ってるんだけど、 永年の通商によって、在地教会信徒グループがいる。ただ西方中原と南方とでは権力構造が違うから、在地信徒グループの力は強くないはず。というわけで、非常に立場の弱かったはずの彼らをピックアップして、宗教権益として保護下にしてるんだろう、と。 ただ、神殿信徒との現地での軋轢を避けるために、古人ゲットーは公的には否定しているけれど、実質的には集住させざるをえない状況にある、と。とはいえセレニアや東方辺境に逃れず、在地でありつづけようとする古人は少ないわけで、ゲットーと言ってもたかが知れてる。 彼らは清教徒。 一方、アルトリウスは正教徒だったと思われる(そこから勝手かよ) で、王妃の権利の一部として、自分のための宗教者を伴っている。それがエンリコ・マクスウェル。なぜ彼みたいな基地外を伴ったか、と言えば、おとなしいときの彼は、儀典に精通し、従軍の経験があり、従軍司祭として活動してただろうからw 彼は解散した?13課のもので、情報網の構築の専門家でもあろうから。教会の後ろ暗い部分から生まれてきた彼を、中央からパージする意図があったかもw で、キャラ的に面白いんだけど、なんでこいつ?ってとこがアレでアレだったのでw ごめんなさいっ! 我様的には神殿も教会もなにするものぞで、彼の権威に歯向かうものは許さないだけなんだろう。その我様に対して、在地神殿はより古人を捧げて関係を深めようとしているはず。我様的には神殿の一山いくらの古人より、アルトリアのほうが面白いだろうから、だいたいスルー。 とはいえ、数の上では神殿古人の数が上回っているので、ここにエンリコはカウンターをかけようとしている。とはいえ、手持ちの古人などいないので、地元信徒から供出させて支配下にしようとしている。 エウヘニアらは、要するにヘルシング機関。その目的は在地信徒の保護。まさに国教騎士団。先代の死去の後に一騒ぎあって、まだ若かったエウヘニアが団長の座を継承し、そののちに主教位を帝都の教皇庁に認められた形。 ただし在地信徒はローカライズが進んでるので、エンリコの目からすると、突っ込みどころ多数だった。そこを突っ込んで、古人を供出させようとした。 ガリウス将軍はもちろんドズル。
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所在地大阪府大阪市淀川区西中島3丁目 開業日1921/4/1 接続路線阪急京都本線 隣接駅十三(阪急京都本線:十三方面) 崇禅寺(阪急京都本線:河原町方面) 訪問日 戻る
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金床衆が装飾作りに用いる珍しい素材。 烏筒屋が都の大店を通じて南国から仕入れた。 入手方法 烏筒屋で購入※ 魚取衆の仕事 ※自分の湊で売ってない場合は「来訪者の湊」で買える場合がある。 湊を訪れる「来訪者の獣狩」の依頼をクリアすると行くことができる。
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一方は背が高く金髪で、ヴェルヌス・クレチュムスと名乗った。 もう一人は黒髪で細い目の男で、笑みらしきものを浮かべながらイタリクスと名乗った。 クレチュムス官吏のほうが明らかに上級で、鋭い目つきをしている。イタリクス官吏の方が若い。見た目はあまり似た二人組ではないけれど、良く似ているようにも思える。 「いくつか確認しておきたいことがあります」 ヴェルヌス・クレチュムス官吏は言う。 「レオニダス騎士卿、南方新領土、街ゼクステクスにおいて、領主ゼクステクス公に対して、近衛騎士ならびに帝國軍上級騎士隊長の官職にもとづく影響力を用いて、行動された件がありますね」 やはり来たかと思った。主導権の取り合いはあるだろうと思っていたし、それがかなり広く行われるだろうと思っていた。そして思っていた中でも、真っ向からの斬り込みだった。 「その件については報告書を上げている。参照していただきたい」 忘れようもない。フェーリアにずいぶん負担を掛けた、帝國士官傷害事件とその裁判の一件だ。ヴェルヌス・クレチュムス官吏は続けて言う。 「報告書にお書きにならなかった部分があるのではないか、我々はそう考えています」 「もちろん、報告書にかかれなかった部分はある」 「我々が疑問を抱いたのは、いわゆる事件と処理の部分ではありません」 官吏の面は変わらない。つまり彼の思惑通りなのだ。ごくそっけなく続ける。 「パラウ事件は、そののち、それほど間をおかずに発生した」 「私が事件にかかわったのは、その最後の部分だ。私が鑓の機神とともに到着した時、魔族は離脱した」 「その件について、特段の聴取の必要性は感じていません」 「では何だ」 「ここに捜査過程の部外秘資料があります。特別な措置を以てお示ししたうえで、これについて、レオニダス騎士卿の見解をお聞きしたい」 それは、事情聴取報告だった。 マルクスが踏み出すと、入れ違いになるように、黒髪のイタリクスが扉へ向けて歩き、そして扉を背に封じるように立つ。 「・・・・・・」 事情聴取報告書には一桁の発行部数と、その第何部であるかが印で押されていた。取扱い格が捺され、外部閲覧適格者に対する制限つきの閲覧を認める旨が捺されている。もっともそれらはこけおどしにすぎない。さらに、つい先日の日付と、聴取場所、そして聴取対象者の名のほうだった。事情聴取対象者は、ゼクステクスの両替商だった。名前に見覚えはない。あるはずもない。聴取対象区分は迂遠に語られるべきことであるとわかる。つまり、拷問を含む、と。 「・・・・・・」 報告を読むうち、思わず声が漏れていた。この両替商は、魔族を相手に取引をしていた。 報告書には一問一答があった。両替商も、相手が魔族かもしれないと思っていたらしい。相手は仮面をつけており、確信は持てなかったという。そのうち疑惑を抱くことが悪に思え、仮面の奥の姿が何者であるのか、気にならなくなっていったと申し立てていた。魔族は奇妙な銀面で顔を隠していた。はじめはそれが気になっていたのだが、僅かのうちに銀面をおかしいとは思わなくなっていた、と。 観察されているのはわかっていた。けれど動揺せずにはいられなかった。 「魔族の細胞が、ゼクステクスの街にあった、と?」 これが正しければ、オルドリアの身が危うい。あらゆる意味で。パラウという根城を失った魔族が、河沿いの街に細胞組織を養っていたなら、かならず狙う。 「・・・・・・」 迂闊だった。様々なことを考え合わせていたつもりだったが、魔族細胞までは考えていなかった。それ以外のあらゆることについても考え合わせていた。戦後の世相でなら、犯罪組織がはびこることもありえたし、何者かがオルドリアに取り入ろうとすることも予期はしていた。しかし、魔族までは考えていなかった。上級魔族がその気になればできないことを探す方が難しい。 ゼクステクスに細胞があれば、潜むことなど容易い。それどころか、オルドリアの身辺に手を伸ばすこともたやすいはずだ。 「・・・・・・」 急ぎ、手を打たねばならない。 そして、ふいにマルクスは気付いた。 「まさか、ゼクステクス公を囮に使うつもりか」 「まさか」 ヴェルヌス・クレチュムス官吏は静かに退ける。しかし続けるのだ。 「なぜ、囮になる、などと考えられたのですか」と。 マルクスは、その地の権力者を掌中にしようとすることはあり得る、と言い返しかけ、さらに気付いた。 「内務省は、私が故意にゼクステクスに帝國官憲を入れぬ手を打ったと考えているのか。そのために、ゼクステクスでの士官傷害事件にかかわったとでも、言うつもりなのか」 「いいえ、その判断は私の分を越えます。しかし結果としてゼクステクスでの帝國の権限は弱まりました」 それはマルクスが、ゼクステクスの街で行った「始末」についてのことだ。帝國軍相手に起きた傷害事件について、帝國の警察力を、制御された形でゼクステクスに呼び、その働きを帝國国内法に準じた裁判起訴という前例にまでした、一件についてだ。マルクスは声を上げた。 「馬鹿なことを言うな!もし魔族の浸透を予期していたら、あのような処理など行わない。帝國軍を導入するよう説得した。魔族に従属するものらを放置して隠匿するなど、危険すぎる!」 「近衛騎士卿の判断根拠について、特段の疑義を述べているわけではありません」 それに、とクレチュムスは静かに言葉を続ける。 「内務省はゼクステクスを含めた南方新領土に、情報網を構築しています。その中で、ゼクステクスは空白と言っていい。魔族細胞を許したのは、現状のゼクステクスの体制に由来すると言わざるをえません」 そしてクレチュムスは言った。 「必要があれば、ゼクステクス公の側に人材を配置しても構いません」と。 それを受け入れ掛け、けれどマルクスは踏みとどまった。 「・・・・・・」 ゼクステクスが空白だと?と。 空白であったのは事実だ。だが、ゼクステクスだけが空白であったのなら、なぜ内務省の官吏がここにいる。 魔族の存在を知っていたなら、内務省は、このようなところで、事件の後始末などしなくていいはずだ。 「・・・・・・」 危うく、罠にはまるところだった。 マルクスは息をついた。手近の会議椅子を引いて、そこに腰かける。身内のかかわりに、思わず気を取られてしまった。オルドリアが、レオニダス太宗公爵のお気に入りであることは、内務省も知っているのだろう。その身辺に魔族細胞の手が伸びうると示せば、マルクスも、レオニダス太宗公爵も、身辺に内務省の手の物を入れることを許し得る。 まったく、なんて悪党だと、八つ当たり気味にマルクスは思う。クレチュムスのことではない。切れ者だが、この全てを描けるほどではない。この枠組みを作ったのは、副帝以外の何物でもない。 扉を封じるようにして立つイタリクスは、細い目をそのままに、どこか楽しげにマルクスを見ている。判っているのだろうか。近衛騎士と内務省官吏を一つの部屋に入れて、事後策を練れ、ということの意味が。 この部屋は反省部屋なのだ。彼らも、こちらもおなじ身空なのだ。その力が足りなかったことについての始末を求められている。クレチュムスは、少なくともわかっているらしい。マルクスにも判る。内務省は魔族の行方を知らない。 全くつかめていない。尋問された憐れな両替商は、魔族の行き方を知らないのだ。あたりまえだろう。帝國が占領する南方新領土に、一人潜入して、自分のための組織を作り上げるような奴だ。逃げねばならぬときに、馴染の人間を使うはずがない。そもそも内務省が、哀れな両替商に目を付けたのも、魔族と両替商の間のつながりが知られていたからだ。 彼らがもっていないのは手がかりだけでもない。マルクスは言った。 「軍の黒の六は、国境と、アル・カルナイに展開している」 クレチュムスの面の色は変わらない。しかしイタリクスはわずかに眉をひそめる。マルクスにも察せられていた。内務省も事後報告を提出しているのだろう。その時、内務省自体には、このような劇的な案件に具体的に対処する能力は無い、としたのだろう。実際、魔族太夫の乗る邪神鎧と正面切って戦えるものなどそういない。 軍ならば、黒騎士大隊の黒の六。ようやくその数を増やし始めた新機だ。その力がどれほどの物か、マルクスも良く知っている。実地にそれを確かめたのだから。 「内務省は邪神鎧に応じる装備を持っていない。また、情報を開示して、軍の協力を仰ぐこともできなかった」 それが今の帝國のやむなく置かれた状況だった。帝國は次の戦争に備えている。魔族らとのいくさを。その時、上級魔族らと、太夫らと、戦い、勝たねばならぬのは黒騎士らだった。少なくともかれらはそう自認しているはずだ。そして黒騎士それそのものは、いくさの鉄火でなければ鍛えられない。南方戦役までの間、黒騎士大隊を悩ませていたのは、内戦後の錬度の低下だった。同じ轍を踏むまいと、黒騎士は己を研ぐ場を求めている。彼ら黒騎士がいかにして己を研ぐのかも知っている。マルクスは続ける。 「なぜなら内務省も情報を持っていなかったからだ」 だから、13連隊ら帝國軍部隊は、独自の判断で、つまり現場で把握する治安動向に基づいて、行動したのだ。そして軍も内務省も予期していなかったものを釣り上げた。 クレチュムスは初めて、口元をゆるませ、かすかな笑みを浮かべて見せた。 「・・・・・・」 同業者、というより共犯者を見るような目はやめろと、マルクスは思った。それにちょっと気を焦ったかなとも思っていた。馬鹿のふりをしている方が本当は良いのだが、どうにも馬鹿が許せない。そうして愚かなふるまいをしてしまうものこそ、馬鹿なのかもしれない。副帝陛下は、ここでのやり取りをどう予期されたのだろうか。 「・・・・・・」 マルクスはすこしげんなりしていた。 間違いなくレイヒルフト陛下は、シルディール近衛騎士団長と、つまりは陛下の姉上と、なにごとかを賭けたはずだ。 知らない方が良い何かを。 というわけで、やっとミニマムオーダークリアの気持ち。 何年かかってるんだ、とw 内務省のコントローラーとして、クレチュムスが、マルクスと同格で担当。 イタリクスは僕らの保安部伊藤さんw ユリーシャがいないから射殺されないw 保安部伊藤は滋賀出身らしいので、ペネロポセス海近くの南方人決定。 伊藤さんのほうが、マル子について歩く。というのも、クレチュムスは抜本的に強化された諜報態勢を構築しようとしてるから、マル子に邪魔されたくない。できれば、単なる用心棒役になってほしい。 そこで「これまでの任務はそのまま」というおねいちゃんの命令が効いてくる。 マル子はマル子で、軍の情報を収集し、評価しなければならない。魔族事案を処理するだけでなく、処理過程でもフィードバックしろ、とw GRUとかは知らないw ホントにw
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ミオ・キュエリエ連隊長 アレシアのゴーラの女というフレーズに胸きゅん(死語) それがこっちに玉突きするのは、どういうことだろうw まあ、いいじゃないですかw ゴーラの女の話じゃなくなっちゃったけどw 日差しは強く天幕を透かしてもまだ感じるほどだ。風は暑く、流れる砂塵も頬に感じる。 だが砂塵は軍人の馴染みでもある。 ミオ・キュエリエ連隊長は、砂交じりの風の中で、天幕の影に入った。従兵はすでに折り畳みの机と椅子を備えており、冷えてはいないがお茶と、それから濡らした小さな手拭いが絞られた形で乗せられている。 ミオ・キュエリエ連隊長は少しの笑みを浮かべて、従兵を見る。 「ありがとう」 それから席につき、手拭いを取り上げて、右の目元を拭いた。 それから、左目を覆っている眼帯を押し上げて、左の目元も拭く。眼帯を使ってはいるが、左の目こそが残った目だった。右の目こそ、かつて失った目であり、今は義眼を入れてある。モリヤで作られた魔法の義眼だ。実戦部隊勤務を期に、ぜひ入れるようにと勧められたのだ。 「・・・・・・」 目元をぬぐいながら、思い出し笑いをしてしまう。 勧めたのはミーナで、それから、二人しかいなかったのにもかかわらず、ミオにそっと額を寄せて、怒らないでね、とも言った。 『もし、足りなければ、わたしからもすこし貸してあげるから』と。 ミーナのその申し出を、ミオは受けた。ミーナの気持ちがうれしかった。それにミーナの手助けが、今も身のうちにあると思うと、少しだけ心強かった。気持ちにすぎないけれど、物事は最後は気力だ。 今もミーナとともにある気がする。今は北方と南方と遠く隔てられているけれど。 その魔法の義眼で最初に見たものの一つが、心配げなミーナの顔だった。もとの瞳の色と寸分たがわぬように作られたそれは、入れてしまうとほとんど違いがわからない。見ようと思う方へ意を向けると、義眼の瞳もそちらへ向かい、そして本当に見える。 実際、義眼だけに目の飛び出るような値で、何事もなければこれほどの義眼を入れることもなかっただろう。 実のところ、ミオの残った左目は、少しずつ悪くなっていた。一方の目を失うと、もう一方の目を酷使しなければならなくなる。残された目も疲れ弱まり、悪くなってゆくのだと軍医には言われていた。疲れ目にも悩まされるようになっていた。 両目が駄目になったら、教官としてもやってゆけないだろう。それが退役のころあいだなとも思い始めていた。今の義眼のよりも、もっと安いものでよいのなら、光や人のありかが判るくらいのものならば、手に入らないことはない。 今の義眼は、素晴らしく良いものだった。入れてからすっかり変わった。残った目の疲れ目すらなくなっていた。 ミオは目のことなどすっかり忘れて精勤し、それが南方に来て変わった。 残った方の目から、目やにが出るようになった。疲れるようにもなった。訳はなんとなく判っていた。日差しが強すぎる。 残った方の目は、ミオの思っている以上に弱っていたらしい。南方の強い日差しと、地面からの照り返しの中で、目を開けていられないこともしばしばだった。 そして今では、残った方の目に眼帯をしている。そんなことをしていれば、残った目のほうがますます弱るのだろうけれそ。 「・・・・・・」 南方は暑い。うんざりするくらいだ。暑さと強い日差しで、慣れぬものは倒れたりする。 帝國は広い。帝國中央から何日もかけて河を下り、そしてこの集結地へやってきた。ミオの、そう、自分の連隊とともに。 『!』 地を踏む重い響きがある。鉄の兵の足音だ。彼女の連隊の機装甲が歩む。 今はまだすべての機ではない。4個中隊、百機を越える白の三が、移送されたまますぐに動けるわけもない。 今は、小隊ごとの受領点検を行っている。 「・・・・・・」 指揮官は待たねばならぬ時もある。 求められていることは急ぐことではない。魔法の力をもって敵を打ち砕く力だ。それは魔道機白の三が、どれだけ動けるかにかかっている。魔道機は数で戦う部隊ではない。行動も連隊すべてがともに行くことはまず無い。中隊ですらなく、小隊ごとの行動も多い。小隊や中隊で、機甲連隊を支援する、そんな任務の方が多い。そんなときには、持ちゆく機がどれだけ動けるのかが大事になる。 そこで求められるのは、連隊段列の力であり、連隊工部の力となる。 今は急がせず、機体を仕上げさせる方がいい。 「・・・・・・」 帝國軍は、南方諸王国への戦争を行う。 この集結地にある帝國軍のすべてが、そのためにある。もちろんミオの連隊もだ。 そしてミオの連隊にも、絶えることなく部品部材が送られ続けており、またその機体に注がれるべき魔力も膨大だった。 その魔力が、どこからどのように集められているのか、ミオは知らない。魔力は帝國の文明を支える根幹の力にも関わらず。 ゆえにそれが秘されるのもやむを得ないことだとはわかっている。 「・・・・・・」 かつて古代魔導帝國は、収奪するように魔力を集め、湯水のように使っていたという。神龍戦争も、真の源はそれにあったのではないかともささやかれていた。 今の帝國が、古代魔導帝國のような行いをしているのならば、ふたたび神龍戦争が起きるかもしれない。 起きないかもしれない。 なぜに神龍が現れたのかなど、結局は判らないままなのだから。 「シャリア・カストレイウス・イルキス上級騎士、報告します」 声にミオは振り返る。天幕の影の外に不動の姿勢を取って、その姿はある。ミオは椅子のまま振り返り、応じる。 「中へ。楽にしていい」 シャリアは天幕の影の下へと踏み出す。背の高い、そして色白のシャリアのことは良く知っていた。ミオたちの教官組が担当した魔道騎士であったし、彼女はミオ自身が選んで連隊へ迎えたのだから。シャリアは言う。 「報告します。連隊装備全機の可動状態を確認しました。全機は整備下行動可能状況にあります。現在の稼働数は七十四機であります」 帝國軍としては、高くもなく低くもない。機装甲は様々な故で稼働不適とされる。転んだだけで乗り手を殺しかねない危ういものでもあるからだ。ミオは応じる。 「了解した。工部並びに段列は、作業を続けよ。以上」 けれどシャリアは引き下がらなかった。 「あの、連隊長。御相談があります」 「言ってみろ」 もちろんミオは言われずとも判っていた。その通りのことをシャリアは言った。 「自分を、段列ではなく部隊に廻してはいただけないでしょうか」 そして定めていた通りにミオは応じる。 「駄目だ」 似たやり取りは何度か行われている。 部隊を小分けにして、支援に出さねばならない魔道機連隊には稼働率の維持が何より重要であるし、兵科士官でありながら、それに寄与できるものは少ない。ごく少ない。 でも、とシャリアは抗う。 「過去には一つの小隊に二人の古人を配置して、両方とも戦闘に投入したと聞きました」 もちろんそれは知っている。今の連隊は他の連隊よりも、ずっと多くの古人を配置されているが、多くは幹部としての配置だった。戦闘員として二重配置するほどの余裕は無い。 「過去のことについては知らない。お前の希望も判っている。だが連隊にとって必要なのは・・・・・・」 ミオは言葉を途中で切った。それから卓の上の手拭いをとる。 「・・・・・・」 目元をぬぐい、それから再びシャリアへと向き直る。シャリアは言う。声を潜めて、慎重に。 「お加減が、悪いのですか?」 「お前に心配されるほどじゃない」 ミオは応じる。 「南国の日差しが合わないんだよ」 「それはまあ・・・・・・」 シャリアはあたりを見回す。 「確かに日差しも強いですし」 それから、シャリアは、あ、と声を上げた。豊かな胸元のポケットから何かを抜き出す。 「これ」 黒い眼鏡だった。眼鏡のつるがではなくて、眼鏡の硝子そのものが黒い。 「差し上げます」 その眼鏡を受け取り、ミオはつるを広げた。黒の硝子は真っ黒ではなく、透かして見ると向こうが見える。シャリアの方へ目を向けると、楽しげな笑みを浮かべて、掛けてみてくださいと言った。 「・・・・・・」 掛けると、眼鏡は少し大きかった。シャリアは古人らしく背も高くて、ミオより一回り位大柄なのだから仕方ない。 「暗く見える」 「うちの職人が作ったんですよ」 シャリアは言う。鉄を扱う職人は、炎の色を見、赤く焼けた鉄の色を見るのだと。それは熱くまぶしく、多くの職人が目を傷めるのだと。だから、光を弱める黒眼鏡が作られたと。 「でも、結局は鉄の色を見るんで、あんまり使われないんですけどね」 その黒眼鏡の色を薄めて作られたのがこの眼鏡だという。 「お日様を直に見ないでくださいね」 「わかった。しかし、いいのか?」 「いいですよ。もう一個持ってるし、壊れたら送らせますし」 「済まないな。借りておく。シャリア」 「はい」 ミオが声を改めると、シャリアもまた口調を改め、姿勢を正す。ミオは続けた。 「騎士としてのお前にも、もちろん期待している。そうでなければお前を呼ばない」 「ありがとうございます」 「お前は切り札なんだ。それは判っておけ」 「・・・・・・」 シャリアは収まった風ではない。語って聞かせるかどうか、少し迷う。 帝國軍は、北方のような戦いは行わないだろう。 あんな戦いになったら、人がもたない。もたない人が弱いのではなく、苛烈すぎる状況の中で耐えきれなくなるまで耐えるだけだ。耐えきれなくなれば死ぬ。 百万もの屍を積み上げてでも行う戦いは、求められていない。 「まだ見ぬ未来のために行ういくさだ」 ミオは言った。 「一度や二度の決戦で決着がつくはずはない。長い闘いになる。途中でやめたら何一つ得られないままで終わる。戦い続け、勝たねばならない」 「・・・・・・はい」 応じるシャリアへ、黒眼鏡のまま目を向ける。 「それを見据えたとき、今、戦列で戦うものと、後列にいるものとの区別など小さなものだ。お前も必ず戦闘に使うことになる」 「・・・・・・はい」 シャリアは応じ、それから上目使いに、こわごわとミオを見かえす。 「どうした?」 「連隊長殿、その眼鏡をかけていると、なんだかすごく、どすが効いて見えます」 「・・・・・・」 ミオは黒眼鏡のつるをつまんで少し引き下ろす。 シャリアはほっとしたように笑みを浮かべる。 それがおかしくて、ミオも笑った。
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ヴェルナー・クレッチマー大佐:エリヌス戒厳令 時系列的には、ベアル太夫の話の中。 これまでに書いてた、ベアル太夫が楽しい仲間を集める話と、 バルナージの話の中間にあたるころ。 パラウとは、「船長」が船を隠していた湿地。 パラウ事件とは、バルナージを捕獲するに至った事件のこと。 ルキアニスは13Rで中隊長実務をやっていて、事件に遭遇したんだろうと思ってる。 近衛騎士としてのマルクスの役目とは小さなもので、実際のところ、鑓の機神を公務に使う方便のようなところがある。 自分が、近衛騎士団のお役御免になるときは、クルル・カリルが今以上の力を備えた時だろうと思っていた。鑓の機神など不要となるほどの力を備えたものを、帝國が自ら得たとき。その帝國は、人を双性とし、古代魔導帝國の精髄たる機神を越えるものを作りだし、魔族すらともがらとなす。その帝國が、どのようなものか、どのようなものになるのか、古い者の常の思い、恐れに似た危惧と、それよりずっと大きな思い、希望なのかもしれない、あるいは身勝手な期待かもしれない、それがともに胸の内にある。 だが、無事にそれを見ることが出来るだろうか。危惧とは別に、不安なしではない。思いは遠く、だが今のマルクスには、それらよりずっと身近な家族と、古い家とがある。 マルクスは、近衛騎士団本舎の廊下を、近衛騎士団長公室へと向かっていた。先のパラウ事件にかかわるものだと判っていた。 南方新領土、ゼクステクスの街近くににある廃砦、パラウと呼ばれていたところに、魔族が邪神鎧とともに現れた。ただ現れたのではない。パラウを根城にする盗賊討伐のための帝國軍の治安作戦に対して、姿を見せたのだ。それ自体は帝國軍の作戦が、上手く行ったことを示している。行動を秘匿し、盗賊団の諜報網に引っかからずにパラウを包囲し、討伐を開始した。が、同時にそれ故に、魔族は姿を見せた。 魔族は狡猾だった。魔族は、一般の魔道機による、瞬殺を偽装しようとした。かつて黒の二が、西方の傭兵に一個小隊三機まるごと屠られた事件が、もう一度起きたかのように。実際、魔族は自らの邪神鎧だけでなく、旧王国の魔道機を伴っていた。その乗り手は、旧王国軍に参画した古人であったという。 もしあの場にルキアニスがいなければ、ルキアニスは討伐部隊の13連隊に中隊長実務教育のために派遣されていたのだが、魔族は、相対するもの多くを内倒し、悠々と姿を消しただろう。ルキアニス一人では勝ちようも無かったし、そこに鑓の機神とマルクスが加わっても、倒すには至らない。取り逃がした醜態は、近衛騎士なら咎められる前に自裁してもしてもそれほどおかしくはない。マルクスは、といえば、戦った当事者そのものとは言えないが、取り逃がした当事者そのものでもある。何が出来たかと言われても、それはかなりのところむつかしい。 ともあれ本物の、つまり帝國に醇化したエドキナ大公領の魔族ではない、魔族が現れ、しかもルキアニスとマルクスの二人がかりでも、倒すには至らず、逃走を許してしまった。 機神に近しい力を持つ邪神鎧と共に、魔族が南方新領土に今もまだ潜んでいる。南方新領土は、河川を使い、あるいは陸路の介して、帝國本土に直接つながっている。魔族は邪神鎧を伴って、帝國のどこにでも現れうるということだった。たとえば帝都の宮城にでも。かろうじて手がかりは残っている。魔族が身代わりにしようとした古人の乗り手だ。 「・・・・・・」 そして近衛騎士団長公室へ呼び出されるというのは、さすがに何らかの沙汰があると考えるべきだ。 しかしシルディール近衛騎士団長は、いつもと変わらず、しかしいつもに倍すると思われる資料を積み上げた、執務卓の向こうから、いつもと変わらぬ夜のような深い瞳でマルクスを見返す。マルクスの敬礼に対する答礼もいつもと変わりない。並の相手なら、その方が却って怖い。なにしろ近衛騎士団長の執務卓に積み増しされた資料の少なからずが、魔族を取り逃がした対処体制関連のものだろうからだ。シルディール近衛騎士団長は言う。 「早急に対処しなければなりません。アモニス近衛騎士からは、追跡にかかわる具体的な計画を示されています」 話はわかる。しかしルキアニスに限って言えば、今でもそれを意外と感じる気持ちが心の隅にある。ルキアニスもいつまでも士学のころのようではないと判っているのに。ルキアニスの計画、というのも察しがついた。魔族が囮に使おうとした、魔道機の乗り手だろう。その乗り手を手掛かりに、魔族そのものを追いかけるつもりなのだろう。乗り手とルキアニスとを、報告のために本部まで空輸したのもマルクスであった。マルクスもまた別に報告書を書き、まちがいなくそれは積み上がったものの中にあるはずだ。その向こうのシルディール騎士団長は続ける。 「同時に、内務省より情報が寄せられてもいます」 内務省、という言葉にマルクスは本当に驚いた。内務省が自ら情報を示すだろうか、と。そしてそれが起きうるのは、そのようにせよと命じられたときだけであることをに刹那に気付き、気付けばそれができるのは一人であることも自明だった。パラウの一件が、副帝陛下の耳に入らないはずがない。 「レオニダス近衛騎士卿、本来の任務に加えて、内務省と協力し、問題を処理することを命じます」 「自分は、これまでの任務を解除されない、ということですか」 「当然です」 シルディール近衛騎士団長は、深い紫の瞳にマルクスを映して言う。 「軍の命令は軍より達せられるはずです。わたしは軍から通達するよう要請されていません。また帝國からも、何らかの処置を行うように求められてもいません」 シルディール近衛騎士団長は、マルクスを見つめている。仏頂面でいてくれるほうがやりやすいと思う。心は伺わせないが、しかし拒むわけでも退けるわけでもない。然るべき問いかけには、必ず答えがある。 「あなたには、帝國に果たすべき役割がある。換えになる人間は無いはずです」 換えになる者がたとえば居たら、変えただろうかと不意に思った。たとえば積み上がったこの資料の山の中に、代替人材についての調査がありえただろうか、と。いや、そんなことは考えるまでもなく、シルディール近衛騎士団長なら、換えを検討したならそう言うだろう。換えを検討したが、比較の結果、任務を継続させるべき、というように。 「・・・・・・」 あるいは、いまの言いようは、シルディール近衛騎士団長にとっては冗談に似た何かなのかもしれない。いつかそういうことを言ったことがある。もちろん近衛騎士団長も覚えているだろう。 「了解しました」 マルクスは真顔を保って応じる。近衛騎士団長は続ける。 「内務省の担当者はすでに別室に控えています。必要なことを打ち合わせ、決定するように。すべてを明らかにし、処理するように。報告は絶やさないように。以上」 「了解しました」 敬礼に、答礼を受ける。回れ右をしながら、首の皮一枚でつながったな、と思っていた。 帝國は冷徹だが、冷酷ではないと言ったのは誰だったか。死を以て責めを負うように求めるわけではない。まあ見ようによっては、失策の当事者に新たな枠を与えて、死ぬなら解決してからか、解決にも失敗してからにせよ、かもしれない。冷徹すぎるが冷酷ではない。しかし内務省とは、さすがに予期の外だった。 手がかかるだろうかとは今から判っていた。内務省は内務省に都合の良いように、事を運ぼうとするだろう。近衛騎士がそれに従属してしまうことは許されない。皇帝陛下の旗本が、皇帝陛下の官吏にしたがうようでは、近衛騎士の役は果たせない。近衛騎士は、陛下の旗本として、容易に示さざる帝國の統治者としての皇帝の権威と権力を守らねばならない。 そもそも内務省の官吏を、近衛騎士団へと呼び寄せた事自体が、その格の違いを示している。すなわちはじめの枠組みは過不足なく作られたということであり、もしその枠が、作られた意を違えることがあるとすれば、それはマルクスの責めということになる。そちらの方が、おそらく魔族を取り逃がすよりも、大きな失策となるだろう。 全く持って冷徹であるが、冷酷ではない そして別室で待っていた内務省の官吏は、内務省と言われて思い浮かべるものをいくつも身に備えている男たちだった。 掲示板では、橙子さんと旅団長のほのぼの話みたいなのを貼ったが、 実際、魔族を取り逃がす大失態があんな甘いことで済むはずがない、と思ってたんでw wikiじゃなくて、掲示板でした。 近衛騎士が負けたからって、自決が迫られることは無いのは判ってる。 ただ、その結果、上級魔族を取り逃がしたらどうだろう。 とりあえず組織としては、いちいちそんなことされたらたまらない、だろうけど。 自律的に自発的に対処行動を始めるなら、まさに天元突破。 まあ、この辺の時期のことは、そこを目指すつもりだったし。
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これはこれ、の領域をはるかに超越して、もはやキャラと国とのプレゼンである。 実際、そのように見ていただく方が良いかと思われる。 これはこれ、を越えた酷い話ではあるが、誠に申し訳ない。 カロン 「!」 いななきを上げて馬が竿立つ。蹄で激しく宙を掻くかと思えば、それらを地に打ちつけるようにして、後ろ足を振り上げる。蹄が宙を蹴る。激しく跳ね、その背に乗るものを振り落とそうとする。 「!」 そのたびに、人垣より声があがる。荒馬を遠巻きに囲む人の群れは、その馬にも劣らぬ昂ぶりとともに、荒馬と、それを乗りこなそうとする乗り手に見入っている。激しい動きに、けれど背の乗り手も譲らない。跳ねる背で巧みに手綱を捌き、馬の気ままは許さない。 馬の赤毛も、乗り手の金髪も、ともに汗にまみれ、日差しにかがやく。地を蹴る蹄が、砂埃を舞い上げる。その勢いも、次第に、小さく、跳ねる高さも低く変わってゆく。 激しい吐息は、馬と、乗り手とその双方から漏れる。やがて、馬は跳ねるのを止め、動きを止めた。激しくかぶりを振り、たてがみも揺れる。乗り手は、その首筋をたたいてやる。馬は、抗わなかった。 「!」 人垣から更なる歓声が上がるけれど、馬はもはや暴れる力も無いらしい。落ち着かなげに前足を踏みかえるばかりだ。 「王様!」 人垣から、声を上げて一人の姿が駆け出してくる。外套の裾をひらめかせ、頭巾が落ちるのも、面布がとれるのも、まったく構わぬげに、頭の両脇にそれぞれ結った髪を見せて、馬と乗り手へとへ駆けてゆく。 「待て!イル・エア!」 追うようにもう一人の外套姿が駆ける。こちらは、頭巾がずれぬようにと、手袋の手で押さえている。その姿が、馬と乗り手とのころに駆けつけるころには、先に駆けたもの、イル・エアが跳ねるように、乗り手の足に抱きつくところだった。イル・エアは乗り手を見上げる。 「王様すごい!この馬、ずっと誰も乗せなかったのに!あたしの事もだよ!」 「王様相手だから、こいつも遠慮したのさ、イル・エア」 彼は馬上から手を伸ばし、イル・エアの外れたままの頭巾を引き上げ、掛け直してやる。それから、彼は馬の背よりひらりと地へ降り立つ。そのころになって、二人目の頭巾姿と、さらに人垣の者らとが、王を囲むように駆け寄ってくる。イル・エアは王を放すまい、とその腕を抱き寄せて放さなかったのだけれど。口ぐちの賞賛に、王は片手を軽く上げつつ答える。 「アル・ラアル、約束通りにこの馬は余のものだ」 呼びかけられたそのアル・ラアル、小柄だが部族で最も有力な氏族長は、大きくうなずいて応える。人垣は大きく声を上げる。サーンの民は、潔く男っぷりの良いことを称える、剽悍な騎馬民族だ。 「だが、アル・ラアル。お前のもっともよい馬を、乗っただけでものにするというのは気が引ける。これを、氏族のために使ってやれ」 言って王は、懐の隠しより、皮袋の財布を投げ渡す。片手で受け止めたアル・ラアルはその重さにいささか驚いたようであったけれど、ふたたび大きくうなずき返す。 「カロン陛下よりのおごりだ!クランプ!羊をもう一匹屠れ!酒も持ってこい!」 おお!と人垣はさらに沸き、皮袋の財布を高く掲げたアル・ラアルたちは、その羊の元へと向かってゆく。人垣からは、王を称える声がひっきりなしに続くのだが、皆の気持ちは、羊と酒とに向かっている。その素朴さも、このサーンの民らしい。 王は、カロン王は、構わず彼らに背を向け、歩きはじめる。まずイル・エアが、つづいて後ろから、二人目の頭巾姿が追う。 「陛下、こちらを」 差し出す拭い布を、王は、うん、とうなずいて手にとろうとしたとき、イル・エアがそれをひったくるように取る。 「もう、グラーブは、ほんとに気が利かないんだから。あたしが拭いてあげる、王様」 「駄目だ!イル・エア!余計な事をするな!」 「なによう!」 「サーンどもは・・・・・・」 「イル・グラーブ、その辺にしておけ」 王は、言葉を続けさせぬようさえぎった。イル・グラーブとて馬鹿ではない。サーンの民に関わる罵倒など、本来は決して口にしない。だが、サーンのこの双性者、イル・エアの奔放な振る舞いには我慢できぬのだ。それは王にも判っている。 「イル・エア。イル・グラーブの言うことは、余の国の定めによる。イル・グラーブの言うとおりにせよ」 でも、と抗いかけるイル・エアの声を、王は軽く手を上げて制する。イル・エアの手より拭い布を取った二人目の頭巾姿、イル・グラーブはそれを再び王の手へと渡すのだった。王は、自らの首筋をそれで拭いながら、二つの姿を従えて、ざわめき止まぬ中を歩く。 今は祭り、春の祭り。 アル・フレイアナス王国にまだわずかだけ残る放牧民が、冬を越え、春を迎えて、産まれる初仔を大地母神に捧げる祭りだ。彼ら放牧民は、サーンという。サーンの民は、もとはといえば、山脈を越えた西、ハ・サール王国であるところに由来があるという。民の伝承では、王位争いに敗れ、郎党もろとも逃れなければならなくなったというが、今のサーンの民の中に、その王位を争ったものの血筋は残っているかどうか、定かではない。 アル・フレイアレス王国では、サーンは穏やかならざる民であった。剽悍で、馬を操ることに長け、馬羊とともに流浪して暮らす。飢えればそれらを売り、売れなければそれらに乗って村を襲った。天界神と大地母神を深く信仰しているものの、かならずしも神殿の教えと一ではない。実際、イル・エアのように、神殿へ捧げられず、神殿の教えに馴染めぬ双性者もいる。ハ・サールとて、これほど奔放ではあるまい。流浪の民の捨て鉢さと、野にあって頼れるものは己らのみという厳しさが、この奔放さを逆に残していたのだろう。それは、サーンの中に踏み入れ、受け入れられてしまえば、揺るぎない忠義と、友誼へも変わるのだ。 そして、そのサーンの忠義によって、アル・フレイアナス王国は、簒奪を逃れ、このカロン・アル・フレイアナス王の代を迎えることができた。父王シオン・アル・フレイアナスの死とその後の王国の混乱は、王国を覆しかねないものだった。まだ若かったカロンが、王として復権できたのは、父王の代になって初めて宮廷付となったサーンの騎兵隊長の献身あってのことだ。妹姫、そしてすでにあった双性者の護りとともに、サーンの中に逃れ、そして、サーンとともに敵を討ち破った。 純朴なサーンの民は、これを王への貸しなどとはひとつも考えていない。彼らにとっては、伝説にしか知らぬ彼らの出自に起きたことが、今一度起きようとしており、それを矜持と友誼にかけて打ち払っただけなのだ。 今も、カロン・アル・フレイアナス王がサーンの民を訪れれば、サーンの民は諸手を上げて迎え入れ、サーンの長たちの、さらに上座に王を座らせ、双性者を侍らせるのだ。いや、イル・エアのばあいは、侍らせるというより、困り果てて王の助けを求めたのだが。 イル・エアはそんな部族の長らの思いも知らぬ下だ。ただ王の苦言だけは気にしているのか、肩を落とし、王を窺うようについてくる。サーンは、神殿の教えを、必ずしも重く扱わない。しかし時と運命の神、大地母神、天界神、冥界神、いずれをも信仰しており、信仰の禁忌には触れようとしない。信仰のしかたは、例えば塚を築き、これに生贄をーもちろん家畜をだがー捧げる事であったり、天界神と大地母神を特に篤く信仰し、冥界神は添え物のようにしかせぬ、という遊牧らしいやりかただ。神殿の考えとはかなり違っている。 アル・フレイアナス王国神殿本社にあっても、サーンの民の信仰を放置しえぬとは考えている。だがサーンの民は、慰撫には応じるが、教化は拒み、強めれば反発して、蜂起もする。アル・フレイアナス王国への馴化が目に見えるようになったのも、この数代からだ。教えを改めさせるのは、簡単なことではない。また教化問題は、アル・フレイアナス王にとっても、座視しえぬ、難しいものだった。アル・ファロス六王家の一角である、アル・フレイアナス王家は、アル・ファロス大社、というより公儀アル・ファロス王に対して、信仰問題について負うものがある。 ここでカロン・アル・フレイアナス王は、サーンの祭りに介入することとした。神殿の譲れない所で、かつ神殿の目につくことについては、カロン王の名によって儀式を正しく行わせる。たとえばカロン・アル・フレイアナス王の名によって、冥界神への供物を、神殿の定めるやり方で行なう。 しかし神殿が真に望んでいる、双性者の神殿献上と収容は、思うようには進んでいない。子を奪う、として、サーンの民はそれを大変嫌っているのだ。嫌うのはサーンの民のみでなく、神殿信徒の多くもそうであるのだが、教義の行き渡った臣民らと、サーンのような流浪の民とでは、受け止め方が違う。 王がサーンの信仰をけっして軽んじず、神殿との橋渡しになっていることを、サーンの長らは十分に知っている。王が友誼をもってサーンに相対すならば、サーンもまた王に対する義を果たさねばならぬ。そう考える、素朴な民でもある。ゆえにサーンからなる騎兵は、王にとって使えるものであった。 もっとも、サーンごとき小さな民、壮丁ことごとくを出しても、騎兵にして五千。騎兵としては、十分に大きな数だが、もって王国を左右できるほどでもない。サーンの双性者も同じだ。王国全体の双性者の数から考えれば、サーンから出でる双性者の数など、たかが知れている。赤子の数すら、毎年千に満たぬのだ。百人に一人、一千人に一人とも言われる。双性者の数もほんの数人。それを奪ったと考えぬように、王が引き取ればよいことではある。そうして、出来るだけ早いうちに、王の何よって引き取る。引き取りの時には、王が遅らせた、神殿神官が考えるよりも、美しく刺繍させた外套を纏わせる。 それでも、イル・エアのようなものが出てします。家族と長くともにあり、長じてから初めて双性と知られ、もてあまされるように王へと供されるのだ。イル・エアは祖父の手によって隠されるように育てられていた。古い気質のものは、街育ちの神官など信じぬのだ。 イル・エアは祖父の死とともに双性であることが知られた。氏族の長は、大変に困惑し、また王に対して大変に恐縮して見せもした。そして、先のアル・ラアルとともに王の前に罷り出て、イル・エアの去就について力添えを求めてきたのだ。 もって、イル・エアは王が預かることとした。今から神殿に入れても、心がもたぬであろう。街のゲットーに入れることも、サーンの民の子としては耐え難いに違いない。ならば王がものとなるしかない。双性者の一人や二人、飼えぬものは王ではない。神聖騎士という名目も、無いではないし、神聖騎士団には騎士団付の神官も在る。 カロン王は、王のために供される天幕へと入る。天幕と、それを支える柱と綱、それに王のために織られた絨毯を敷き詰めただけの、東屋のようなところだ。その上座に、遊牧の民のように腰を下ろす。斜め後ろにはイル・グラーブが、そして王のすぐ横には、イル・エアが座ろうとする。 「・・・・・・」 そのイル・エアへ、イル・グラーブが何事か言う。イル・エアは不承不承という様子で、イル・グラーブの隣に座る。侍る、ということの意味が並人と双性者とでは違う、ということが、イル・エアにはどうしてもわからぬのだ。外套頭巾も、面布も、イル・エアには面倒でしかない。ただ、イル・エアには神聖騎士になりうる気性と、天性と言っていい魔術の才があった。祖父に伴われ、馬で羊を追って得た、独特の武眼もあった。神聖騎士として使えるのであれば、イル・エアは長くサーンの民に知られることにもなろう。悪くはなかろう、誰にとっても。 祭りは続く。 王の天幕に、アル・ラアルが戻ってくる。彼はさほど背が高くはないが、がっちりした体躯を持ち、相撲を取らせれば彼に伍するものは少ない。馬も上手く、銃も上手い。その彼が身につけているのは、アル・フレイアナス近衛の制服であり、その上にサーンならではの騎乗短外套を羽織っている。さらにその背後には、アル・ラアルより背の高い女が付き従っている。金の髪を結い上げて、さらに背が高く見える。アル・ラアルの妻、カーリア・エル・ラアルだ。かつては王城付女官だった。アル・ラアルの父が、サーンのものとして初めて近衛として務めた時、息子として従った彼が、見染めたのだ。 「さすがは陛下にございます」 天幕に入り、アル・ラアルは一つ下手の席を占める。細君はその背後だ。カロン王は世辞は聞かぬぞ、と笑い返す。アル・ラアルは、王とそれぞれの氏族長との橋渡しの役も担っている。王への挨拶のためにやってくる氏族長らを、王へと紹介するのだ。氏族長らは王へと平伏し、忠義を新たにする。王はそれを受け、褒美を下す。サーンの氏族の長らは、シリヤスクスの絹よりも銃のほうを尊んできた。それは力なのだ。サーンの女たちは、きらびやかな飾り細工を好む。男は強く、女は美しく、そうあれることは強さと豊かさだ。 サーンに渡される褒美が豊かになるのは、王国が豊かさを増しているからだ。王国の富がいかにやってきているか、サーンの者らは知らない。彼らは純朴な平原の民なのだ。 王国は、海よりの富を受けつつある。 アル・フレイアナス王国は、アル・ファロス王国領邦の中でも、決して格は低くはない。アル・ファロス六王家と称えられる王家の一つではあった。しかし今は、六王家の中でも、決して豊かとは言えぬようになった。今、アル・ファロス領邦に豊かさをもたらしているのは、海からの河の道筋だ。アル・フレイアナス王領は、その筋よりいささか外れている。王領はアル・ファロス領邦の中でも西側にあり、南カフカス山脈を遠く望む。隣国らとの諍いも絶えない。 それでも六王国の一角らしい豊かさをもっていたのは、絹の道が王土を南北に走っているからだ。遥か北西の森の王国、いまでは帝國東方辺境と呼ばれるところから、アル・カルナイへの陸路を経て、次いで河を使ってやってくる、絹のための道だ。今、その河と陸路との交易路は、かつてほどの盛んさを持たない。帝國が内戦を終えて五年、わずか五年の間に、帝國との交易は一変した。 今、最も盛んなのはアル・ファロスの中央を通る河の交易路だ。ここを通じ、すぐ北のアル・レクサを抜けて、ペネロポセス内海を通り、帝國南方辺境へと至る道だ。この交易路がは年を追うごとに太ってゆき、旧の路、アル・フレイアナスを通る道は細ってゆく。アル・カルナイを通る道は陸路であるからだ。船に比べて、金も時もかかる。また、アル・カルナイと、アル・レクサの軋轢もぬぐいがたくある。これより先も、旧の路は細り行くだろう。 またアル・フレイアナス王土がここにある限り、新たな路の交易には、関わることができぬ。流れる富を、指をくわえて見ているしかない。再び富に手を伸ばすには、新たな路に加わらねばならない。それは、アル・ファロスの他の領邦を犯すものではならない。アル・フレイアナスの路は、海にあった。アル・ファロス領邦の南にある多島海だ。 しかし、王国とカロン王とのみでは行えなかった。海には、船が無ければ出でることすらできない。船には港が無ければ、憩う事も出来ない。多島海は、すでに多くの国の思惑の入り乱れる海だ。そこに単身乗り出し、すべての国の思惑にまで翻弄されては意味が無い。しかし、アル・フレイアナスに手を差し伸べる思惑もあった。 ゼニアと、ゼニアへとつながりをもつエル・コルキス。一方は中原、関税同盟の雄、もう一方は南方諸国の中で唯一の森族の国。二つの国は、いずれも、北の大国「帝國」と角逐している。「帝國」はこの十五年、果てしも無い内戦に明け暮れていた。諸国は、帝國の没落を確信し、四分五裂を待つばかりかと思われた。しかし、帝國は割れなかった。首魁たるレイヒルフトは、己の擁立したリランディア帝を傀儡に帝國を掌握し、そして再建の道を邁進し始めた。アル・ファロス領邦に訪れる富は、アル・ファロス領邦の求める物のみならず、アル・レクサ王国を通り、帝國にまでもたらされるものより成っている。内戦が終わり、帝國はその富をもって、南の多島海、さらにその向こうの獣人大陸、あるいは西方をめぐってやってくる財物を受け入れるようになっていたのだ。 同時にそれは、西方中原と帝國との角逐の始まりだった。内戦の終わりと相前後して、帝國は西方衛星国を勘定し、さらに北方での国境勘定を続けている。いずれ北方の大国ゴーラ、あるいは中原北方の連合王国とも戦いも始めるだろう。 外に広がらんとする野心あふれる帝國は、いずれ、南へ、ペネロポセス海を越えてやってくるだろう。備えなければならない。備えるには、金が要る。つまりそういうことだ。 ペネロポセス海の南岸のエル・コルキスは、すでに帝國と戦っているも同然という。中原に帝國の手がのばされることについては、ゼニアなどの関税同盟が神経を尖らせている。そのゼニアが、アル・フレイアナス王国の手を取った。 ゼニアは、多くの富を持ってはいるが、国としては大きくはない。多くの船と船員を制することで船の主として、海の道をほしいままにしている。とはいえ、船には港が要り、港の護りはゼニアの軍勢に寄らざるを得ない。しかし帝國と言う大国と戦うならば、それら護りに軍勢を置き続けることはできない。 アル・フレイアナス王国は、二つの面でそれを代替しているのだ。ひとつは、ゼニアの傭兵として。もう一つは、開拓団として。そう、開拓団。ゼニアは小さな国だ。すぐれた者を輩出しているが、人の数だけは、どうしても満たせない。 大きな港ならば、港を守るための砦や、城壁を作り、修繕する。あるいは、ゼニアがそこで行う農園での仕事、あるいは農園そのものを広げるために森を切り開く役目。 アル・フレイアナス王国から、人を売り飛ばしている、だけではない。ゼニアの領域を守り、また育てている。ゼニアの力のみでは行えないことを行わせ、またゼニアは多島海に貼りつけざるを得なかった兵を引き上げ、中原に備えることができるようになった。加えて、アル・フレイアナス王国の船が、ゼニアの商船に交じってそれらゼニアの港を使うようになっている。アル・フレイアナスのわずかな船では、多島海で大したことはできない。しかしゼニアがアル・ファロス領邦へ向ける船の一部を肩代わりするとなると話は違ってくる。またアル・フレイアナス王の手形をもって入港する船から、他の領邦の役人が税を取ることも無い。 その策を、カロン王に示したのは、エル・コルキスよりの使者だった。エル・コルキスもまた、帝國と角逐している。ペネポネソス海でじかに相対しているだけに、エル・コルキスはすでに帝國と戦っているも同然だという。わずかでも味方が欲しいのだろうか。その後、エル・コルキスからのつなぎは無い。半森族の女王が、いかなるはかりごとを巡らせているのか、わからない。 しかしアル・フレイアナス王国には確かに、海からの富が寄せるようになった。そういった流れを知る者は、この祭りの中には居らぬだろう。王の天幕に訪れ、平伏して忠誠を誓い、目録だけでなく銃や剣や飾り物を与えられ、喜び退くサーンの氏族長たちは。 カロン王は、左の背後のイル・エアへと目をやった。頭巾をかぶり、面布の紗の向こうで、彼女は船を漕いでいるようだ。隣のイル・グラーブはそのイル・エアをつつき起こそうとそわそわしている。 イル・グラーブは、神殿で躾けられた神聖騎士だ。もとからきちんきちんと物事を片付けることが好きである気質なのだろう。ややもすると堅苦しすぎるところはある。しかし負けず嫌いの、良い気質の騎士でもある。炎の術にも長けている。イル・エアに教えられたなら、二人して大きな力となるだろう。 その二人もまた海からの富のことは知らぬのだ。双性者は、常人を越えた気力、体力を持つ。また常人よりも長く若く生きる。人の法と、律とに取りこめねば、いつしか帝國のレイヒルフトのような者を生み出すかもしれぬ。むしろ、そういったものに拮抗させる方が良いかもしれぬ。 拮抗のために何かを生み出し、その末に、乗っ取られることもあろうがな。それは、帝國東方辺境に彗星のように現れ、魔族大公の一角を打ち破って見せたレイヒルフトが、いつしか帝國をのっとったようなことかもしれない。 カロン王はそんなことを思っていた。 イル・エア=クェス・エア クェスの初期名称から イル・グラーブ=グラーブ・ガス←ギュネイの初期名称なのだが、ギュネイそのままや、ギュネイ女体化程度にぴんと来なかったので、グラーブ→グラーフと言う事で一つ。要するにキャラのついていないうるさがたタイプの女だ。 ギュネイについては、王宮付きの監査武官として在る。 サーンの民 これは完全な身勝手設定。しかし、亡国の王がハ・サールに単身亡命するのはちょっと考えづらかったので、こうしてみた。 要するに、ジンバ・ラル、ランバ・ラルを部族に展開したもの。 その人口は部族全体でも10万には届いていないだろう。動員率5%なら騎兵5千。 出生率は0.2~0.4%程度。したがって年間500人程度しか生まれず、古人も数人、ということになる。 アル・フレイアナス王国は、仮に、南カフカス山脈よりと考えてみた。ここはかつては、シリヤスクスの絹の道の終着点近くであったはずだけれど、帝國南方辺境への直通が盛んになるにつれて、交通量が低下したのではと考えてみた。 カロンは、あくまでカシューなのだが、カシューはぶっちゃけ内心の無い、TRPG用ガジェットなので、大量にシャアから転用することとした。王に高い権威が要るらしい南方で、完全な傭兵王を実現するのは難しいと考えた。六王国は機神の主でもあるし、機神を失えば回復がむつかしい。 そこでシャアのように、父王の死によって簒奪されそうになるシーケンスを利用することとした。シャアと違うのはラル父子=サーンの助けによって、カウンタークーデターを行い、王位を取り戻したこと。 傭兵王にはなれなかったが、南方王的な権威とは違う背景を持たせて代替することとした。 カロンとゼニアとの関係性は、既述のように考えている。ゼニアにとっての問題は、王冠盟邦との多島海覇権争いから、対帝國に移りつつあると考えている。この時、王冠盟邦に多島海覇権を奪われることなく、大陸での対帝國戦に共和国親衛隊、あるいは熟練の傭兵を当てることができるようにする策として、アル・ファロスからの勢力を引き込んだと、いうもの。 アル・ファロスの貿易相手はゼニアだけでなく、王冠盟邦もあるはずで、アル・ファロス主流派は双方を天秤にかけているだろう。ゼニアはアル・フレイアナスに権益を与えることで、非主流派に排他的な影響力を発揮しようとも考えている、としてみた。 エル・コルキスにとっては、ゼニアのフリーハンドが大きくなり、かつアル・ファロス内に反帝國に同調する勢力を作り出す、という目的をもって、カロン王に近づいている。しかも、エル・コルキスとしては一円も出さずに。 このあたり、まったくのところプレゼンに過ぎないので、本当にこれはこれで、で。
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北方の少年と南方の娘 ◆jC6t70h.xo 僕――ゲイナー・サンガが気付いた時、大勢いた人々は消え去り、寂れたプラットホームに 一人で立っていたんだ。薄明かりの下、何本ものレールが東西に伸びてると言うのに列車は 影も形もない。24時間ギリギリのダイヤで走り回るシベ鉄じゃ、廃駅でもなければありえない。 とするとここは何処なのだろう? かなり暑いし、遠くには樹木らしき物が何本も見える。 もしかしてあれが本で読んだ本物の『森』ってやつなんだろうか? ここはヤーパンなん だろうか? とりあえず考えるのは後回しにして、僕は近くの機械(自販機)の影に隠れた。 これが現実なのか夢なのかは良く分からないけど、殺し合いっていうんだから用心に越した 事はない。ぼんやり立ってて撃たれました、じゃ洒落にならないし。 「ったく、自分の手を汚さない事しか考えのないのかよ。大人って奴は! 大体……」 さらに続けようとして止めた。文句を言ってイジケるだけでは何も出来ないと散々身を 持って学んだじゃないか。今するべき事は現状確認と安全確保だ。一人で憤る事じゃない。 機械の薄灯りの下、デイパックの中を探り支給品を取り出す。地図、名簿、食料等色々。 武器はサブマシンガンと弾薬が入っていた。見た事のない形式だけど何とか扱えそうだ。 オーバーマンを除けば間違いなく最良の武器だ。これが刀剣類だったら目も当てられない。 他にも酒瓶が何本か入っていたけど、そっちは後回し。今のうちに地図と名簿を頭に入れて おかないと。憶えるだけならゲームの攻略よりは楽だけどさ。 「周りの大きな建物がコレとコレだとするとココはE-6にある『イイロク駅』ってとこか。 まいったな、微妙な初期位置だぞ」 ゲームのバトルロイヤルなら何度も経験がある。それこそ負けた事なんてない。現実でも そのセオリーが通用するかどうかは別として、マップ中央付近で障害物が多いとなれば 激戦区になると容易に予想が着く。白兵戦を得意としない、と言うか苦手な僕としては 出来れば戦闘は避けたい。殺すのも殺されるのも御免だ。それ強制されるのはもっと御免だ。 ではどうするのか、他の人達とどう接するのか? そんな時に、あの女性に襲われたんだ。 「ったく、犬っころじゃねぇんだぞ。首輪なんぞ着けやがって。大体よ……」 この”二挺拳銃”レヴィ様に金も払わずに殺しをさせようってのかよ。こちとら慈善事業 やってんじゃねぇんだ。あの%※#野郎、舐めやがって。 「んで、ここはどこなんだ?」 気が付くとアタシは線路の上を歩いていた。頭に血が上ってたせいか、どうやって来たか 憶えてない。さっきまで大勢いたはずなんだが……飲みすぎたか? いや、そんな筈ない。 その証拠にアタシの手はソードカトラスの代わりに小汚ねぇデイパックを持っているからだ。 糞っ。そいつをひっくり返しても銃一挺、弾一つも出てこねぇ。地図に名簿、それに変な 懐中電灯とロープの付いた手錠だ。説明書に『ぬけ穴ライト』って書いてっけどよ? 『これの壁や床・地面などを照らすと抜け穴が出来ます。壁など以外には効果ありません。 数十分で元に戻り、中の物は外へ押し出されますので注意してください。』 ちょいと試してみるとアラ不思議、照らした地面に穴が開きやがった。こいつがありゃ 金庫破りもチョイチョイってもんだな。あの%※#野郎の道具だって事がムカツクがよ。 そうこうしている内に駅に着いたらしい。さっきレールごと地面に穴開けちまったけど 大丈夫だよな? 「ん……あれは?」 プラットホームの片隅、自販機の影にガキがいやがる。さっき喚いていたメガネの奴か? それにしちゃ服装が違うか。まったく日本人は区別つきゃしねぇぜ。身を低くして隠れている つもりなんだろうが、ホーム下から見ればバカ丸出しだ。生意気にも自動小銃なんぞもって やがる。さーて、どうやってブン盗ってやろうかね? そんな危険な女性が近くにいるとは知らずに、僕はつまらない考察をしていたんだ。 今思えば、あの時周囲に気を張っておけば、別の出会い方があったかもしれない。 (殺し合いをさせようというのだから、ある程度の戦闘経験のある者を集めたはずだ。 あのメガネの子供でさえ『殺してやる』と言っていた。オーバーマンや古代兵器の 使い手に年齢は関係ない。シンシアの例を考えれば幼いほど強くて残酷な可能性も……) 考えている途中で何か首筋がチクチクするような気配を感じた。何も物音はしないが 近く何かいる。多分。例えるなら、気配を殺したアデット先生が夕飯のオカズを奪いに 来ている。そんな感じだ。 (風が変わった?!) 感じるが早いか、僕は思いっきり横へ跳んだ。一人相撲になったって構いはしない。どうせ 誰も見てはしない。杞憂に終わればそれが一番なんだ。でも現実はそれを許さなかった。 跳びながら見ると僕の頭上、駅の屋根にポッカリと丸い穴が開いていて、そこから風と一人の 女性が飛び込んできたんだ。さっきまで確かに屋根があったはずなのに。 「気付きやがったかよ!」 「うわわわっ!!」 間一髪で奇襲を避けた僕に対して、休む事無く女性はデイパックを投げつけて間合いを 詰め込んできたんだ。僕は夢中で引き金を引いた。だけど女性に当たる事はなかった。 急に足元が穴が開いて転びかけたんだ。何が起こったのか分からなかった。でもそのせいで 銃弾が当たらなかった事は確かなんだ。逸れた銃弾は機械に当たって破片を撒き散らしていた。 「子供の玩具じゃねぇんだ、そいつを寄こしなぁ!」 体勢を崩した僕は女性の体当たりをもろに受けてしまった。だけど両手はシッカリとマシン ガンを握り締め決して放さなかった。自慢じゃないが白兵戦に自信はない。子供が相手でも 危ないかもしれない。だから絶対に放す訳にはいかなかった。以前に武器を奪われた時、 命があったのはタダ運が良かっただけだから。今、武器を放す事は死ぬ事に等しいからだ。 僕は引っ繰り返ったまま、それでも銃口だけは女性を捉え続けた。 「この糞ガキがッ!」 「動かないで! この距離ならガキが撃ったって当たりますよ!」 「当ててみなぁ!」 ゴンッ! 弾が銃口から出る事はなかった。叫ぶのと同時に女性の頭へ『屋根に着いていた電灯』が 落下したんだ。どういう理屈かは知らないけど屋根には無数の穴が開いていた。さっき見た 時、穴は一つしかなかったのに。この女性の仕業なんだろうか? ともかくこの隙に僕は 体勢を直すことが出来たんだ。 「動かないで! 今度はシッカリ狙いがついてますからね」 「っっっっってぇ~! このガキがぁぁ!!」 「自業自得って言葉を知ってますか? 動かないでって言ってるでしょ?」 「うるせぇ糞ガキ!」 文句を言いつつも頭を抑えた女性は動きを止めた。頭から出血はないようだけど少し涙目、 痛みを必死に堪えているのかもしれない。よく見れば女性の格好はまるで下着同然の薄着だ。 とても外出する格好とは思えない。頭が弱いんだろうか? シベリアならあっという間に凍え 死んでしまう。それともやはりヤーパン人なのだろうか? いずれにしろアデット先生並みの 危険人物には間違いない。もっと別のまともな大人に出会いたかった。 「その手に持った物も足元に置いてコッチへ。静かに、ゆっくりと!」 「チッ。ガキがポリみてぇなこと言いやがって」 「そう思うならあなたも暴漢みたいな真似はしないでください。殺したくはないんですから」 しぶしぶアタシは糞ガキの指示にしたがって、手にしていた『ぬけ穴ライト』を足元へ置くと ガキの方へと蹴り飛ばした。それを何に使うのか分からないと言った感じで首を傾げてやがる。 そうだ、妙な道具のせいで大恥かいちまった。ロアナプラの連中に見られてたら、恥ずかしくて 明日から街を歩けねぇとこだったぜ。やっぱりギガゾンビとかいう%※#野郎は許せねぇ。 ガキもいい気になってんなよ。 「くっ、頭が……」 アタシはさっき打った頭を抱えてしゃがみ込んだ。あまりの激痛に身が震える、って感じの 迫真の演技だってのにガキは乗ってこねぇ。それどころか警戒を強めやがった。近寄ってきたら 一発KOしてやろうと思ったのによ。 「頭の具合が悪いんですか? 自慢じゃありませんが、その手は一通り経験済みです」 「そうかい糞ガキ、次はどうすんだ? 素っ裸にして身体検査でもするかい、チェリーボーイ」 「ガキじゃありません。ゲイナー・サンガです。オバサンの裸には興味ありませんのでご安心を」 「軽いジョークで受け返せねぇようだからガキだって言うんだよ」 「僕はゲイナー・サンガです。名前、覚えられないんですか? ご自分の名前は言えますか?」 アタシを挑発してくるとは恐れ入ったね。命知らずにも程がある。多少は自覚もあるのか シッカリと照準を合わせて警戒は緩めない。少しは修羅場を潜ってるのか、あるいは痛い目を 見てきたのか。あの分厚い服は防弾か? ま、殺せる時に殺さない程度じゃまだまだだな。 「アタシはエダだよ。エダ」 「そんな名前は名簿にありませんでしたよ。ご自分の名前、忘れちゃいました?」 「レヴィだ! 糞ッタレ!」 エダの名前で適当に誤魔化そうと思ったのに100人近い名前を覚てやがったのか。そんな芸当 ロックでも……いやアイツなら出来るか。あんな数行読んだら眠くなっちまうもんをよ。 このガキ、少しは役に立つか? ロックも最初はどうしようもなかったもんだしな。そういや 殺せるくせに殺さない甘ちゃんだ。今は生かしといても、どうとでもできるか。 「ではレヴィさん。ご自分の荷物を持ったら前を歩いてください。ゆっくりですよ」 没収した荷物を本人に持たせるか普通? 武器がねぇから安心してんのか? ただの馬鹿か? なんか拍子抜けしたぜ。ロープで縛り上げられなかっただけ儲けもんだ。今に見てやがれ。 自分がどんなに馬鹿な事をしたかってタップリと教育してやるからよ。 「暗い内に中心部から離れますよ。聞こえてますかレヴィさん?」 「へいへいっと」 【E-6の駅・1日目 深夜】 【ゲイナー・サンガ@キングゲイナー】 [状態]:健康 [装備]:イングラムM10サブマシンガン、防寒服 [道具]:支給品一式、予備弾薬、バカルディ(ラム酒)3本 [思考・状況] 1:レヴィの警戒は解かない(今後どうするか考えあぐねている) 2:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可) 3:駅周辺部から離れる 4:さっさと帰りたい [備考]名簿と地図は暗記しました。 【レヴィ@BLACK LAGOON】 [状態] 健康(頭に大きなタンコブ) [装備] ぬけ穴ライト@ドラえもん [道具]:支給品一式、ロープ付き手錠@ルパン三世 [思考・状況] 1:ゲイナーと立場を逆転させたい 2:ロックの捜索 3:気に入らない奴はブッ殺す [備考]まともに名簿も地図も見ていません。 ロベルタの参加は確認しておらず、双子の名前は知りません。 ※レヴィがぬけ穴ライトで開けた穴は数十分で修復しますが、 落ちた電灯と銃撃を受けた自販機はそのままです。 時系列順で読む Back 守護者 Next 失われた時を求めて 投下順で読む Back 守護者 Next 奥様は6インチの魔法少女! ゲイナー・サンガ 76 「夢を見ていました」 レヴィ 76 「夢を見ていました」