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「万物理論」グレッグ・イーガン 帯にはハードSFと書かれているが、もちろんそんな代物ではない。 統一場理論の先をいく「万物理論」の発表者が、なんと創造主になるというオカルト宗教小説!! 一神教の信者にしか思いつかないビックバン理論のSF版? 「とんでも本」の有力候補だろう。 これはアマゾンに書いた短評。 ハードSFではないこと。 オカルト宗教小説であること。 「とんでも本」の愛好者にはこたえられない本かもしれないこと。 これらを簡潔に指示している。----かも?
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ダル、キッド2chでさらし者中!!恥曝しの馬鹿コレクションをご堪能くださいませ -- (名無しさん) 2014-02-21 10 39 41
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保有戦力 旗艦カーゴシップ プレヒティヒ・レーブェ コンバットリーチェG スプリガン ワールウィンド・アヴォルタ(予備) クロスデイ オルガニウス
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最後の部分を少し訂正。 アスラン 貸出先 (11) フラウクス小隊長と、ハーニャの二人が、馬で追跡を始めて、もう二刻が過ぎている。 日は西空へ傾いて、アル・ダキアの森へと落ちかかろうとしている。明るい日差しはアスランと、片膝を付いて待つ三機の黒の二を照らしている。 二人と、随伴の騎兵が踏み込んでいった森は、もう真っ暗な影に閉ざされている。もちろん黒騎士小隊は馬など対岸に連れてきていないから、騎兵分隊から借り出して乗っていった。機体に魔力は残っていない。だからと言って放ってはおけず、アスランが一人で番をすることになった。 黒の二は動かせない。魔力を移そうにも、魔力を込めた魔晶石をこちらに持ってくることもできないからだ。今の渡河部隊指揮官の権限では、許可された以上の部隊を渡河させられない。魔力を蓄えた魔晶石を積んで、渡河できる輜重車は兵站輸卒しか持っていない。それを使って渡河するには、南方軍司令の許可がいる。独断専行には直接の釈明がいる。だが、それを行うべきと、渡河部隊指揮官を確信させるには至らなかった。 敵は、間違いなく森族だが、その森族が空の魔導相を用いた、というのでは。 そう、敵は空の魔導相を用いていた。アスランにもわかった。あの、奴の大矢が放たれたときだ。アスランも術を成すために、光と空の観相を行っていた。だから気づいたのだ。 はっきりそれを思い出したのは、機を降りてからだった。まさかと思い、ハーニャに問いただした。しかしハーニャは魔導に覚醒していない。それはわからない。わからないのはフラウクス小隊長も同じだ。けれどアスランは魔導兵であり、魔導兵の観相所感は報告として扱われる。 報告として扱われるのだが、それが渡河部隊指揮官に通じるとは限らない。二人の黒騎士と、一人の魔導兵が血相変えて報告してきたことの意を読み取れずに困惑を隠さなかったくらいだ。 「つまり、どういうことなんだ」 渡河部隊指揮官は言った。 「森族が、それを使ったということが、それほど帝國の安全を脅かすものなのか」 そういうことから解かねばならぬのか、とアスランは絶句もした。森族は巧みに魔術を使う。彼らの術は四元魔道と呼ばれ、民草にもよく知られているし、おまじないから帝都の水道の清め、あるいは機装甲のための鉄材作りのためにも使われている。しかも森族は、四元魔道のあらゆる相を巧みに扱うため、すべての魔術を扱えるものだと思われている。 それに比べて人族は、一人が扱える四元魔道はその魔道相の一つだ。火、水、風、土のいずれか一つ。森族は一人で四つの相を使いこなす。人族と森族が魔術で争えば、森族が圧倒的に上になる。先の戦いのときのように。 だが、森族に扱えず、人族ならば扱える魔術もある。それが八相魔導の術だ。空虚、光闇、有無、物霊の四対八相の観相をもって事物を観、そして操る。古代魔導帝國は、この術を極めつくし、神龍が現れるまで、栄華を誇っていた。 機神もこの術あって初めて作られたものだ 渡河部隊指揮官は唸り、参謀長に助けを向けるように目を向けるが、参謀長も戸惑うばかりのようだった。 「・・・・・・ではどうすればいい。この部隊状況では、黒騎士小隊は動かせん。だからと言って騎兵の機装甲を呼び、黒騎士小隊に自由行動を認めることも、俺の権限では行えん」 追撃する戦力はそもそもない。そもそもここに無いの。南方軍司令が許したのは、最小限の偵察越境だ。それ以上のことは許していない。しかし南方軍司令に説明しようにも、このような複雑なことを、燈明信号で送るわけにもゆかない。あとは伝令だが、それが達するまでに数日はかかってしまう。 「降機前進偵察の許可を」 フラウクス小隊長はそう言った。黒騎士小隊の判断は、森族は何らかの異能を戦力化しようとし、その実験部隊をここに投入したと考えていること。しかし敵も魔力を消耗しているはずであること。敵も支援部隊と合流を急いでいるだろうこと。今後の情勢は、その支援部隊の質と量が握っていること。 支援部隊が脆弱ならば、黒騎士が近接戦闘をもって襲撃する。不可能なら後退し、敵情を報告し、次の行動の準備を要請する。 偵察。それはこの越境部隊の本分であり、そのための行動と、ある程度の拡張は許されている。黒騎士小隊からの降機前進偵察は、黒騎士小隊の任務として行われてもいる。 「・・・・・・」 渡河部隊指揮官は考え込む。軽々に許せることではない。だが黒騎士小隊長からの提言は、これまで常に重く扱われていた。それだけの見識と力を満たしていると考えられてもいた。 「わかった」 そう、渡河指揮官は言った。 「降機前進偵察を許可する。ただし期限を設ける。二昼夜だ。渡河三日が部隊の行動目安だ。その期間、渡河堡を維持し、また南方軍本部に直接報告を送る。返信は燈明信号をもって得られるだろう。それまでに後備兵力の配置も期待できる。だが行動が許可されるとは限らない」 「了解しました」 「くれぐれもいうが、この渡河の戦略的意図を霧消させるようなことはするな。帝國の 安堵 がかかっていても、我々に行えることには限りがある。それもまた、帝國の 安堵 がかかっている。俺の首では済まぬ」 この渡河越境の地、アル・ダキアとの和平は、皇帝陛下の名において成され、皇帝陛下の名において守らねばならない。 「承知しております」 フラウクス小隊長は、かかとを合わせて応じる。珍しくハーニャまでそうしていた。 そうして、二人は騎兵分隊から馬を借り出した。 騎兵分隊から伝令と称する兵員も付けられた。伝令というにはあからさまに多い。だが、アスランだけは許されなかった。アスランの馬すらなかった。アスランが命じられたのは機側待機だ。 「どうしてですか。俺では力不足ですか」 「いや、ちがう」 フラウクス小隊長は装具を鞍に載せながら、背を向けたままそう答えた。それ以上は答えてくれなかった。 「小隊長!」 「言っただろ。俺たちは斬り込みをやる。奴らも魔力を使い切っている。奴も機を降りているはずだ。今ならやれる公算がある」 「だからこそ、俺を」 奴が魔導を使うなら、これと戦える者が要るはずだ。誰かを残すべきだとしても、残るのはアスランなのはおかしい。言いかけたところに、フラウクス小隊長は言った。 「だからさ、俺たちがしくじって、お前が捕らえられたら拙い」 「俺は捕虜にはなりません」 「自決しても、それを確認するまで、だれも退けなくなる」 その言葉に、思わず言葉を飲み込んだ。己が自決する、などということは考えててもいなかった。己が捕虜になるような、間抜けなことはしない、というつもりだった。構わず小隊長は続ける。 「渡河指揮官が言っただろう。この渡河の戦略的意図を霧消させるなって」 剣を鞍に括り付けてから、フラウクス小隊長は振り返る。 「そういうことだ」 「でも、それは、小隊長たちだって・・・・・・」 「そりゃ、俺たちが行方を断ったって、帝國は探してくれるさ。皇帝陛下の赤子だからな。だが皇帝陛下を護持する騎士となると、また別のものがかかわってきちまう。それはお前だってわかってるだろう?」 そして小隊長はにやりと笑みを見せて続ける。 「それがわからん奴には、黒騎士は任ぜられない。これから先もだ」 それによー、と小隊長は続ける。 「俺は船を買って 島を買って 釣り三昧の余生を送るまで 死ねないからな」 「死ぬなら勝手に死んでよね 私は戻らなきゃいけないところがあるんだから」 ああ、はいはい、と小隊長は振り向く。その先ではハーニャが馬の鞍に上がったところだった。 「お前には可愛い嫁さんと子供がいるもんな」 「お子さん、いたんですか」 驚いてアスランは問う。 「そうよ悪い」 「いや悪くはないですけれど」 「見たらびっくりするんだから。すっごい可愛くて」 一番聞いちゃ駄目なことを聞くな、と小隊長はささやく。 「なにが言った」 「何でもない。黒騎士小隊長、および先任はこれより偵察に出発する。アスランは機側待機。事後の判断は任せる。先任従士長、たのむぞ。以上、出立!」 まだ何かぶつぶつつぶやくハーニャと、騎兵らを引き連れて、森へと駆け出してゆく。アスランは、そのあとを、ずっと見つめていた。 そんなことをしている暇はない、残った機体で戦術行動ができるように、手入れをしなければ、と思い直すまでは。 小隊固有の人員、各機の機付や人員は、渡河許可の一部だ。中隊になれば、これにもっと大きな段列が付属して、自前で魔晶石を輸送もできた。今更言っても仕方ない。黒騎士小隊がいたこと自体が幸運だったのだ。 魔力が最も残っているのは、ハーニャの機体で、動かすならそれになる。ハーニャの機だけでなく、それぞれの機の機付はすでに作業を始めている。吊三脚の脚をそれぞれ立て、滑車を吊るし、綱を通し、それを引いてで甲を開く。開いた甲が閉じないように、支え柱を立てて、ようやく手入れを行える。本当は乗り手がそれを指図し、行わねばならないのだけれど、そんな建前とは別に、黒騎士部隊の機付きは仕事を進めてゆく。傾きゆく日差しが木々を明るく照らし、森から長くこちらに影を投げかけてくる。黒の二の長い影、寄り添って手入れを続ける機付らの小さな影も帝國量へ向けて長く伸びてゆく。 機付長報告。各機異常なし。魔力残量はわずかなれど稼働に問題なし。戦闘可能状態。これで翌朝までの規定上の稼働条件が満たされたことになる。朝には朝の、稼働前手入れが求められる。機装甲にはそんな手間が欠かせない。 やがて空は闇色を深め、日差しは西に溶けるように落ちてゆく。援護の歩兵らが野営陣を敷き、アスランも携帯天幕を張る。 燈明は許されず、魔力で湯を沸かし、携帯糧食をかじりながら、お茶を飲んだ。従卒たちは対岸に置いてきたままだ。こんなことは久しぶりだなとも思う。しかも、信じられないことに、黒騎士小隊の、後備機側待機としてここにいる。事後の判断は任せる、という言葉はその通りのものだ。指示命令として、アスランが行わねばならないことだ。それは、他の黒騎士と同じこと。部隊指揮官への提言も含む。 どうすればいいんだよ、と漏らしても、応えてくれる人はいない。 アスラン一人でどうにかしなければならないとき、それはたぶん、小隊長たちだけではどうにもならない時で。それこそ、そんなときにどうすればいいかなど、わかるはずもなかった。こんな時、近衛騎士団の小隊長たちならどうしただろうと思った。出来るだけ戦術原則を満たしーしかし今のアスランはそうしたくても、一人で機側待機、動かせるのは一機しかない。動かさねばならないときは、魔力の残っているハーニャの機体を借りる。それ以前に、どうしても動かねばならない時を除いて、機体を守るのがアスランの役目であるのだけれど。いや、だから、そのどうしても動かねばならない時ってのが問題じゃないか。例えば攻撃されながらの撤退を援護するとき、たとえば期日になっても帰還せずその捜索収容に向かうとき。ただその時は恐らく単独ではなく後備部隊とともになるだろう。 結局、思いついたのは、とにかく休むしかないということだった 簡易天幕の中に 折りたたみ新台を広げ 横になって毛布にくるまる。眠れやしないだろう、と思っていたのにいつのまにか眠っていたらしい。眠っていたと気づいたとき、あたりは妙にざわめいていた。 起き出して携帯天目を抜け出すと、歩兵の伝令が駆けてゆく音が聞こえた。見ると遠く、夜の一角が仄かに赤く明るい。闇の中に沈む森の向こうだ。五哩か十哩か、夜の中で良くわからないけれど、森の一角があれほど広く明るくなるのは普通じゃない。火事だ。 森の火事。東方生まれのアスランは、森火事の恐ろしさをよく知っていた。その炎が恐ろしいだけじゃない。風次第でどこまでも押し寄せてゆく。火は風を呼び寄せ、呼び寄せた風は落ち葉や木切れや、そういった燃えるあらゆるものを巻き上げ、吹き付けながら思うままに動いてゆく。煙もそうだ。あれに巻かれたら、しかも夜に巻かれたら、どちらを向いているかもわからなくなる。 歩兵たちももう気づいているようだった。だがまだ遠い。五哩か十哩か、夜の中では判然としないけれど、何をするにも遠すぎる。歩兵たちにとっては。今のアスランにとっても遠い。 あの森火事が偶然とは思えない。魔術戦で起きたものなら、それは小隊長やハーニャのやったものじゃない。二人の四元魔道相は水と風だ。火はアスラン、あるいは火をも使える森族。 「機体、動かしますか」 同じ考えに至ったらしい、機付長が駆けよってくる。 「・・・・・・いや、いい」 まだ遠すぎるし、単機進出したところで何ができるわけでもない。あの森火事が敵の仕業なら、いやそうでなくても、小隊長たちはもう退くほかないのだから。ここで、待ち続けるしかない。 「待機継続。休息も今のまま」 アスランも休むしかない。眠れないだろうな、と思っていたけれど、気づけば朝になっていた。 「こっちは夜通し森の中だったってのに、呑気に寝てたわけ」 「待機自体、命令ですから」 起き上がりながら、アスランは顔を上げる。朝日を背に、ハーニャが立っている。疲れた様子で、腰に手をあて、朝日に髪がきらめく。 「敵は」 「逃げられた。あいつ、稲妻で待機段列まで焼いていった。おかげでひどい目にあった。夜じゅう煙にいぶされて、もう喉ががらがら」 「小隊長は」 「本部へ報告。あたしは寝る」 ひらひらと手を振り、ハーニャは己の機へと向かってゆく。アスランは起き上がって追いかける。 「じゃあ、敵は」 「言ったでしょう。奴が自分で焼いた。あれ、絶対に初めから決めてた。帰るのは己と機体だけのつもり。前進段列の後ろに、さらに支援があるのかもしれないけど」 なるほど、とアスランも思う。魔導に適合した機体を、森族が作るのは難しいだろう、そればかりは捨ててゆけないのだ、と。 「だとしたら、奴らには大きなはかりごとがあった、ってわけね」 悔しい、とハーニャは続ける。そういうのを、取り逃がしたなんて、と。 それはアスランも同じだった。あの時、奴の機を倒せていたら、と思う。いや、奴はだからこそ初めから逃げを打っていたんだ。奴だけは初めから戦う気はなかった。敵も味方も、なぶりものにしただけだ。 何の思惑なのだろう。 「あとはフラウクスに聞いて。あたし、寝る。起こしたら、殺す」 ハーニャは己の機の物入を開く。がらがらと乱雑に物が落ちてくる。そのなかから乱暴に毛布を引きずり出し、それにくるまったハーニャは、そのまま草はらにごろりと横になった。すぐに寝息が聞こえてくる。 ハーニャの眠りは、それほど長く続かなかった。 昼前には、撤退の命令が来たからだ。南方辺境候要請、南方軍司令による命令だった。思っていたよりも、一日早い命令だった。歩兵の従卒らが高札を立てていた。帝國が騒擾を確認した故に、アル・ダキアとの約定を守りつつ、約定の下で越境し、約定を守って撤退した、と告げる高札だ。 アスランが、不機嫌なハーニャと、ハーニャ以上に疲れた顔のフラウクス小隊長とともに対岸に撤退したときの驚きは、言いようもない。 あの陣地に、機神の姿があったからだ。背に大きな鳥のような形を背負った姿、右の腕そのものに見える長い騎馬鑓をもち、左の扁桃のような盾をもつ。その間には、本来の機神のものではない小さな馬車のようなもの携えている。アスランはその姿をよく知っていた。鑓の機神だ。機神の携えるものも見知っていた。ほんの一人二人だけれど、急ぎ人を運ぶときに使われる。鑓の機神の傍らには乗り手の姿もあった。アスランへ向けて軽く手を振って招いている。 「久しいな、アスラン」 「お久しぶりです。レオニダス卿。今日は、他に何かあるんですか」 マルクス・ケイロニウス・レオニダス近衛騎士にはいくつもの肩書と役目がある。帝國軍の参謀であったり、近衛騎士団本部に呼び出されていたり、その姿を見ただけでは何をしに来たのかわからない。彼は応じる。 「今日でお前の仕事は終わり。俺の仕事は終わらない。近衛騎士団長よりの命令を達する!」 驚きよりも先に、体が応じていた。背を伸ばし、踵を合わせる。なんだろう、と思ったときには、レオニダスは隠しより命令書を取り出した。 曰く、アスラン・シリヤスクス・アトレイデス近衛騎士卿への、黒騎士大隊への教育派遣を終了する。同近衛騎士卿は、ただちに原隊に復帰する。その命令書には近衛騎士団長の署名が確かに入っていた。 「と、いうわけだ。俺はお前を連れて帝都に戻らなきゃならない」 「ただちに、ですか」 ああ、と彼は応じ、アスランの背後へと目をやる。そこにはフラウクス小隊長とハーニャ、それに小隊の従士たちがいる。ただちに、という命令は、ただちに行われねばならない。派遣を停止されてしまえば、機体を動かす権限もなくなってしまう。それは機体をここに置いてでも、ということになる。 「すこしだけ、待ってください」 答えも聞かず、アスランは背を向けて、彼らへ、黒騎士小隊へと駆ける。何が起きているのか彼らにもアスランにもわかるはずはない。でも、どうなるのかはわかっている。 「すみません、小隊長」 「気にするな。こんなことは稀に良くある」 フラウクス小隊長はいつもと変わらない。アスランは応える。 「また、いつか」 「その時はいくさ場さ。お前たちがよくやってくれれば、俺たちが助かる。がんばれよ」 最後も、フラウクス小隊長らしい言いようだった。励ましてくれているのに、そう聞こえないように言う。いつも通りだ。ハーニャもあまり変わらない。つんと顎をそらして言う。思ったよりもよくやったわ。思ったより世話をかけなかったし。だから帝都に帰ったらアモニスに言っておいて、と。 「良くやったから、世話はしてない。でも貸しは貸し。あたしが帝都に行ったときには返しなさい」
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ワザワザ見ニ来タノォ?フフ、歓迎スルワァ・・・。 気付イタラコンナワケノワカラナイ所ニ居タ・・・。 艦娘ト慣レ合ウ気ナンテサラサラ無イノニネェ・・・? ・・・紙装甲?誰ガ?私ィ? コッチノ世界ジャ関係無イ話ヨッッ!!
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カロン (2) 王が帰城すれば、城詰め役目の者ら、ことごとく集まり、城内にも触れ出されるものである。 立ち並ぶ柱の間を響く、国王陛下御帰城、の触れ声とともに、カロン王は歩く。 その近習頭のアル・マリガスは律義者なのだ。その声に、城内諸役、あるいは女官どもが罷り出て深く頭を垂れる。この大仰さは、王宮につきもので、嫌っても厭うても仕方ない。しかしカロン王は、己の先行きの決め事を、城中に触れて回ることはしない。城中の者らがあわただしく動き回ることを楽しんでいるわけではないが、そのあわただしさを減らしてやろうとも思わない。 居室へ至れば、その入り口の警衛の近衛が背を正す。鷹揚にうなずき返し、王は居室へと進む。近習頭が扉を開く。居室にすでに一人がいるのは、わかっていた。その姿が、居室の長椅子より立ち上がり、背を正す。金の髪に緑の瞳、背格好もカロン王によく似ている。だが、王でも王の血筋でもない。首には首帯が着けられている。 「イル・ギムノス、何か変わったことはあったか」 「いいえ、陛下。何事も変わりなく」 応じる声も、カロン王によく似ている。違うのは、癖ある彼の金髪は、渦巻くようにしながら背にかかるほどあることと、彼が双性者であることだ。そして並人より長く若く生きる双性者の彼は、今のカロン王より若々しくも見える。今では、兄と弟と言う風に。だが本当は、イル・ギムノスの方が五つ六つ、年上のはずだ。 「宮廷官僚が来たならば、待たせておけ」 「はい、陛下」 王の居室が一間のはずもない。イル・ギムノスが在った部屋は、前室、というより王が職務で諸官を呼ぶところでしかない。その奥には、王が日々に過ごす、つまり王の職務の間があり、さらに奥には王の休むための間がある。アル・マリガス近習頭が女官らを呼び、王の着替えを行うようにと命じる。 初めてイル・ギムノスが訪れた時、カロンは王子で十二かそこら、イル・ギムノスはずっと大人びて、背も高かった。そのイル・ギムノスを、カロン王子はつまらないやつだと思っていた。良く似ているが、イル・ギムノスのほうが、何か言いようのない艶やかさを持っていた。それが双性者というものなのだが、子供であったカロン王子には気にくわぬことだった。そのときイル・ギムノスはすでに神殿で躾けを受けており、カロン王子のいう事に、決して逆らわず、また男の子らしい遊びを共にすることもなかった。 彼が見いだされたのは、ただの偶然だと、カロン王は聞いていた。貴人に双性者の護りを付けることはよくあり、父王は見出したイル・ギムノスを、神殿より借り受け、カロンの護りとした。似ているならば、悪霊などがそちらに移る、などという迷信もある。父王がどれほど本気だったのか、今ではわからない。父王シオンには、そういった浮世離れしたところがあった。 カロン王子が長じるにつれ、イル・ギムノスとますます似るようになっていった。父王が、カロン王子とイル・ギムノスを見間違えたり、あるいはカロン王子がイル・ギムノスを身代わりにして、城を抜け出すようなことが起きて、すこし風向きが変わってきた。似すぎていることは、かえって災いではないか、と。古くには、王家の者に似すぎているものの顔を焼きつぶす、などということがあったらしい。しかし、父王はそれを選ばなかった。イル・ギムノスに合わせて、仮面を作らせ、それを常に着けるように、イル・ギムノスに命じた。カロン王子が十五の頃だ。そしてあの簒奪が起きた。イル・ギムノスがいなければ、カロン王は今このように王としていなかったやもしれぬ。 着替えを終わり、女官らは一礼をして退く。王は再び前室へと戻る。 「イル・ギムノス」 「はい、陛下」 「ギムバ・アル・ラアルは冬の末に死んだそうだ」 カロン王を見返したイル・ギムノスは、緑の瞳をわずかに見開き、いつもの瞬きよりわずかに長く瞳を閉じていた。再び目を開いたとき、イル・ギムノスは常と変わらず見えた。 「そうですか。御老には、お世話いただきました」 あの日、父王が倒れた日、父王が、カロン王子と、宰相であった男とを共に寝台脇に呼び寄せた日、宰相であった男に後事を託した日、すなわち、あの男とあの一族による簒奪が始まった日も、イル・ギムノスはカロン王子の元へ戻ってきた。 王城の外壁伝いに、王家の家族がひととき幽閉された部屋へ。数刻遅れていたら、はるかに逃げようのない所へ追いやられていたはずだ。母は置き去りにせざるを得なかった。いや、母は覚悟をしていた。幼い妹だけは、くれぐれも頼むと言った。毒を仰いだと聞いたのはずっと後だ。その妹を伴って逃げ延びられたのは、イル・ギムノスの双性者ならではの体力があったからだ。 閉じ込められた部屋から、遮幕を繋げて降りるのに、その背に妹を負う、などということは、イル・ギムノス、双性者の体力でなければできなかった。降りたところで逃げ場もなく、妹と、イル・ギムノスと三人で飼葉の中に隠れて、彼らを探し回る声に震えもした。 その時に現れたのが、ギムバ・アル・ラアルだった。サーンの者として、初めて王宮付き武官となった男、彼は騎兵隊長だった。そして今のサーンの長、ラムバ・アル・ラアルの父でもある。あの時、ラムバもすでに成人として、王城にあった。 常とは違うかたちで王城は騒がしく、しかしサーンの民であるアル・ラアルの親子は、何一つ知らされることなく、近衛の馬屋にあった。もちろん、そのときには、カロン王子らには、彼らが敵でないことなど、知りようも無かった。 確かめるためには、彼らの前に立つしかない。そして立ったのだ。イル・ギムノスが、自ら仮面をはずし、王子のふりをして。 それにどれほどの苦悶があったのか、カロン王子には察しようもなかった。神殿のしつけがどのようなものであり、双性者に何を禁じているのかも、その時には知らなかった。アル・ラアル親子が、敵でないと報せに戻ってきたイル・ギムノスは、夜目にも判るほど汗をかき、憔悴もしていた。カロン王は忘れない。 ギムバ・アル・ラアルが味方であることを確かめられ、その助けがあったからこそ、カロン王子と妹、イル・ギムノスの三人は王宮を抜け出せた。サーンの民の中に逃げ込むことができ、王城帰還の策を練るいとまを得られたのだ。あの時のままであるのは、イル・ギムノスだけだ。ギムバ・アル・ラアルは老いて、病を得て、この冬が明ける前に死んだ。息子は長を継ぎ、カロン王子は王となった。妹も遠く嫁いだ。すべては音も無く流れ去ってゆく。 カロンが王位について、最初にイル・ギムノスに命じたことは、もはや仮面は無用である、ということだった。彼は、はい、陛下と応じ、仮面をはずした。ただそれだけだった。それよりもう二十年であろうか。イル・ギムノスはその後一度も仮面をつけていない。 イル・ギムノスにカロン王は、さらなる任を与えていた。アル・ファロス領邦はおろか、アル・レクサでも、他の南方王国でも、そのような行いをしている王はいないはずだ。 機神の護りだ。機神を異界に封じ、また呼び出す神具と、機神に乗りその胎内で操るための仮面、その双方を、イル・ギムノスは守っている。カロン王に何かあった時は、機神に乗るようにと、カロン王は命じてある。それは、神殿が禁じていることだが。 「尚書を呼べ」 王はアル・マリガス近習頭に命じる。彼が退いた後、つづけてイル・ギムノスへと目をやる。 「仕事をせねば王位があやうい」 「陛下の御身はわたくしがお守りいたします」 きわどい冗談にも、イル・ギムノスは特に変わらない。やがて尚書役が現れる。宮廷役人の服を身に着けているが、尚書役は女だった。ナナリア・エル・ミゲルという。 「尚書エル・ミゲル、ただいま参りました」 このような高位を女官に与える王国は少ない。カロン王を良く言えば御奇特な、直截には変わった、と言われる王であったし、ゆえんはいくらでもあるが、尚書エル・ミゲルもその一つではある。もっとも、エル・ミゲルはアル・フレイアナス王宮の新旧諸役いずれをしても、尚書なら任せても構わぬと、認めざるを得ないくらいの働きはしていた。 今もナナリアは、カロン王に伝えられるべきことの覚書諸々と、日々事諸々とをとりまとめ、携えてきていた。カロン王は譜代の文官武官問わずに粛清を行った。粛清の行いすぎで、女官を使わねばならぬのだ、と陰口もあるが、構うカロン王でもなかった。強い王権とは、つまるところ王に寄るか、それとも王を支える者に寄るかに過ぎない。役人を変えるだけでなく、役職を変えるだけでなく、それまでその役職についていたもの、それらと繋がっていたものまで、まとめて粛清もしていた。そのための武官も置き、近衛とは別に、王城に常に備えさせている。 また粛清を行い、そのままにしておくほどカロン王は愚かではない。尚書に指図させ、過去帳を調べ上げながら、カロン王は己の思うままの宮廷を作り上げていた。エル・ミゲルはそれを通して見出したのだ。カロン王の求める宮廷は、唯々諾々と従う宮廷ではない。王の許したことについては、むしろ王へと献策するそんな宮廷だ。 もっとも、そのようなことを盛んに行ったのは、十年も前の事だ。今は違う。いまさら政務に励んでどうなる、という思いも無いではない。今のこの行いも、カロン王にとっては遊戯と大差は無い。 カロン王が愛し、ともに生きようとした女は、すでにこの世に亡いのだから。 「・・・・・・」 ナナリア・エル・ミゲルがわずかに退く。アル・マリガスが滑るように寄る気配がある。彼は王の耳にささやく。 「陛下、宰相閣下がお連れを伴い、いらっしゃられるようです」 「入れろ」 近習は退き、王は署名を入れた書類を、ナナリア・エル・ミゲルへと向ける。 「宰相がやっと来る。先触役など出さずそのまま来い、というのにな」 「宰相閣下は律儀なお方でいらっしゃいますので」 ナナリアは署名に墨吸いの砂を軽く振りかけ、羽根の小箒により落としつつ応じる。それから、カロン王の背後に控える。 「宰相閣下、御来室されます」 部屋の扉が開かれる。臣下の礼をもって、宰相の姿が現れる。フォロス・アル・ブレクス宰相。豊かな金髪だが、そろそろ額が広がりつつあり、それに抗うように彼はその髪を鏝によって盛り上げている。その背後には、一人の男が控えている。もちろんカロン王はその男のことも知っていた。ヘルケス・アル・ベッケス。海事総裁とした男だ。 「宰相、近くへ」 「陛下の御機嫌麗しく」 「良い気晴らしになった」 フォロス・アル・ブレクス宰相はやや頭を上げ、そしてヘルケス・アル・ベッケスを制し己のみ、カロン王の執務机へと歩み寄る。 「御身に障るようなことは、どうかご容赦を」 意外と耳が早いのが、この男の良いところだ。春祭りでの荒馬乗りのことをすでに聞いているのだろう。その時には、お前を准王にでもするさ、とカロン王は戯言を口にしかけ、留まった。この手の戯言は、余人の耳に入れるものではない。うむ、と鷹揚にうなずき、カロン王はもう一人を見る。 「ご苦労だった。アル・ベッケス海事総裁」 アル・ベッケスは、アル・ブレクス宰相よりも十五は若い。しかし額はさらに広い。海の日差しに良く日焼けし、海の男らしくもみあげからあごひげまでを生やし、そして律儀に整えている男だった。 「・・・・・・」 彼は、常とは違い、寡黙に首を垂れる。アル・ベッケスは本来は海の男らしく、陽気な男であることをカロン王は知っていたが、今は顔色もすぐれぬ。あの男をして、この様子となれば、任せていた仕事が、かなり良くないということなのだろう。カロン王は言った。 「多島海か」 アル・ブレクス宰相はうなずき返す。 「いかにも。陛下に直にご相談の要がございました」 「イル・ギムノス、扉を封じよ」 「はい、陛下」 閉じられた居室の扉へイル・ギムノスは向かい、それを背に封じて立つ。 「つまり、先の報告より悪くなったのだな。直裁に話せ。ヘルケス」 「御意」 頭を垂れてヘルケス・アル・ベッケスは応じ、顔を上げて携えていた書類を差し出す。 「取りまとめが遅くなりました。まことに申し訳ございません」 「ことは虎列刺と承知している。仕方あるまい」 虎列刺、腹を下し、水のような便と、肌の乾き、皺を成し老人のような皺枯れた顔貌となること、体は冷え切り、やがて弱って死んでゆく病。うなずくカロン王を受けて、ナナリアが書類を受け取り、王へと示す。アル・ヘルケスは言う。 「記しました通り、南洋諸島開拓諸地において発生いたしましたる疫病虎列刺、これ猖獗を極め、開拓地全体で見ても、開拓民三の内一人はこれに倒れ、また倒れた三の内一人は命を落とすありさま。激しきところでは、さらに酸鼻を極めるとお考えになっていただきたく」 「十に一人も、か」 「はい、陛下。今のところ、流行りは止まっておりますが、病人が絶える気配はなく、いつまた広がるとも知れぬありさまでございます。申し訳ございませぬ」 「馬鹿を言うな、ヘルケス。この疫病は帥の責めではない」 書類には、虎列刺の起きた地、罹った人数、死者の数が記されている。すべてではないけれど、虎列刺の起きていないところは数えるほどだ。ゼニアの植民都市は、いずれも小さく込み入った作りになっている。港としては大きく作っていても、それに応じて人も増える為、大きさに関わらず、どこも似たような込み具合になる。そして込み入った街では、疫病が広がりやすい。街で起きた虎列刺は、近隣の農園にも広がりやすい。それら農園にもアル・フレイアナス王国民が送りだされ、働いていた。 農園でも虎列刺が猖獗を極めたのは、そこでのアル・フレイアナス王国民の扱いにも由縁があった。良くはなかったが、そこに夏の嵐がやってきたのだ。建物が多く流され、居留地が水に浸かってしまった。再建は遅れ、そこに虎列刺が襲ってきた。 「いかがいたしましょう、陛下」 「人を増やすしかあるまい」 宰相の問いに、カロン王は間髪おかずに応じる。しかしアル・ブレクス宰相も、アル・ベッケス海事総裁も、驚いたように息を呑む。 カロン王は説いてみせねばならない。なぜわからぬのか、そう思いながらも。 「虎列刺流行りは、先の夏の嵐で、家屋などが流された故だろう。それらを再建し、次の嵐を凌げるようにせねば、来夏もまた嵐を受け、また虎列刺が蔓延しよう」 「しかし人を増やし、送り込んだだけでは、虎列刺も前にもまして蔓延いたします」 夏が来る前に立て直さなければ、農園が失われる。アル・フレイアナス王国に関わらなければ、知ったことではない。だが、今ではゼニアとアル・フレイアナスとは、同じ船に乗っているのだ。文字通り、多島海で。そしてゼニアには、人の数そのものが足りない。しかも帝國との諍いに備えて、多島海での勢力を落とさずに、人を引き抜こうとしている。 代わって送り込まれているのがアル・フレイアナス臣民だ。しかし、それだけではならなかったのだ。ゼニアは、人の数を上手く使う算段をしていなかった。それがこの為体だ。ならばアル・フレイアナス王国が、その数を使って見せねばならない。 「魔術師を送り込み、水を清め、病を癒さしめよ。さらに機卒を送り込み、嵐に備えせしめよ」 「そのようにしていただければ、虎列刺により失われる頭数はずいぶん押さえられようかと」 アル・ブレクス宰相はうなずき、けれど案じ顔で続ける。 「しかし、機卒の持ち込み数については、ゼニアとの約定がございます。ゼニアの同意なくば、諍いとなりましょう」 「これほど我が臣民を死に至らしめて、そのまま捨て置き、諍いにならぬと侮っているとしたら、ゼニアなど盟友には値せぬな」 「御意にございます」 「ゼニア公使を呼べ」 「すぐに、でございますか」 「その通りだ」 「御意」 カロン王は、アル・ベッケス海事総裁に王令を授ける。権限を大きくし過ぎず、小さくし過ぎず、もちろんエル・ミゲル尚書によって正副二部が作られ、その双方にカロン王の署名を行う。二つの王令が一つ同じ刻に作られたと示すために、割り印も行う。 アル・ベッケスは上手くやり遂げるだろう。彼は退き、フォロス・アル・ブレクス宰相は残る。 「まだ何かあるな。フォロス。直截に話せ」 「では陛下、御献策申し上げます。送り出す者らについてですが、王都に流民どもが増えております。これをあててはいかがかと」 アル・ブレクス宰相は、物事の取りまとめが得意な男だった。譜代の家臣で、しかし簒奪には加わらず、その時の地位では身動きも出来ずにいた。それが文官というものだ。やむを得ない。文官と武官を一つの家より出してはならない、それを迂闊に破ったのが父王の失策の一つだった。 「余は逆のことを考えていた」 アル・ブレクス宰相は、カロン王にとって良く出来た宰相だった。賢いが賢過ぎず、策は堅実でもある。ゆえにカロン王は、それを飛び越えたことを考えればよい、ということでもある。王は言う。 「諸郷軍役名付から引いて構わぬ」 アル・ブレクス宰相は、ふたたび驚きを見せる。それは、カロン王が臣民に課す軍役のための名付、つまり軍役に適した臣民の名を集めたものだ。 「それは、よろしゅうございますか」 諸郷軍役名付にある名は、ただの名ではない。ただの兵を連ねているわけでもない。諸郷でとりまとめを行うべきものの名も並んでいる。しかしそこから引いて臣民を出さしめる、ということは、諸郷にとって重い負担になる。しかも虎列刺の蔓延する多島海に送りだすのだ。 「多島海の島々、我らの思うよりも厳しいのであろう。ゆえに病になる。ならば強健の者を送り出すしかあるまい。また、烏合の衆を送り込んだとて、死者に変えるだけだ。加えて築造師を伴わせよ」 「・・・・・・御意」 そして、アル・ブレクス宰相は、決して鈍い男ではない。これまでのカロン王の指図は、ことごとくゼニアとの約定を越えたものだ。ゼニアは、機卒の持ち込みを限り、軍と兵との送り込みを嫌がっていた。魔術師も同じくである。多島海のゼニアの地を、アル・フレイアナスに奪われては元も子も無いからだ。カロン王は続ける。 「先の流民の件だが。人狩りを行って構わぬ。狩り集めて国内で使役に廻してよい」 「しかし陛下、流民を駆り集めても、道中で逃げられ、雲散霧消してしまうのが常でありました」 「サーン人に同道させよ」 「・・・・・・サーン、でございますか」 サーンの民は、遊牧の民である。人よりもはるかに逃げやすい家畜の群れを操っている。カロン王は言う。 「フォロスは、余がサーンを重用しすぎる、と思うのだろう」 「差し出がましいようですが、そのように思う時もございます」 カロン王はファロス・アル・ブレクス宰相を見る。 「今までとは違う金が、王国に流れている。それに与れなかった者らは、夫賃を求めて街へと彷徨おう。流民にも、サーンにも、諸郷にも金を回さねばならぬ。街に流民を留めるわけにも行かぬ。さらに諸郷から壮丁を引き抜く。諸郷に障りなきようにせねばならぬ」 「そこまでお考えであられたとは、差し出がましい申し出をいたしました。陛下の御心のままに」 アル・ブレクス宰相は深く頭を垂れる。カロン王もうなずき返す。 王が今も王として振る舞っているのは、おそらくこのようにして、物事を動かすことを愛しているのだ。 だが、カロンの愛する人は、すでにこの世にはない。 ナナリア・アル・ミゲル=ナナイ・ミゲル アル・マリガス=マリガン少尉 ファロス・アル・ブレクス宰相=ブレックス・フォーラ准将、准王の冗句はここから。 ヘルケス・アル・ベッケス海事総裁=ヘンケン・ベッケナー したがって彼が多島海に連れて行く魔術師は、水の魔術師エル・エマ。そして惚れこむのだろう。 繰り返しになるが、ああくまでプレゼンなんで、これはこれで。 如才ないゼニアが、アル・フレイアナスをしゃぶりつくそうとし、アル・フレイアナスも逆の策を打ったりしている。
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ある教区 (2) どかん!と扉を蹴り明けて、ヴォルトゥス修道僧はずかずかとその部屋へ踏み込んでゆく。 中から、いやー、とか、うわー、とか、訳の分からない叫びが上がっている。 「・・・・・・」 それはそうだよねえ、と思いながらカエキリアは、開きっぱなしの扉からそっと覗きこんだ。初めから訳が分からない。 カエキリアにとってのことの始まりは、もっとずっと静かなもので、教会衛士詰所にいたときに、ヴォルトゥス修道僧が不意にやってきて、手伝えということになった。なぜとか、何とかカエキリアが問うても、ヴォルトゥス修道僧はろくに答えもせぬまま、この集住棟にやってきた。 住めと命じられているわけではないが、教会信徒の古人も、集って住むものが多い。それで軋轢が起きないなら、それでいいじゃないかとカエキリアは思う方で、神殿が、古人なら着けるべしと決めている首帯もあまり嫌じゃない。もちろん嫌だと思い、好きにしたいと思う古人らもいて、今、ヴォルトゥス修道僧が蹴り開けた部屋の主もそういう一人だった。集住棟だからといって、古人だけが住んでいるわけでもない。教会を頼る者らが住むところでもある。 修道士は奥にある寝台のところまでずかずかと歩み行く。寝台では同じシーツにくるまって二人の姿がある。叫びの仕草やら、右往左往やら、手足をかくかくさせてやらしている、二人のうちの一方の首を、ヴォルトゥス修道僧はむんず横抱きに締め付けるように抱きかかえる。そのままずるずると引きずり出してくるのだ。 「やあ、お騒がせしたねえ、お嬢さん」 などと残った一人には言う。途中で、訳の分からない叫びを止めさせるために、ものすごい勢いで殴って黙らせる。それから死んでるみたいにくったりした全裸のその姿を引きずってくる。カエキリアも知っていた。全裸を知っていたんじゃなくて、誰だかを知っていた。 カエキリアと同じ古人の、アキュロウルだった。ヴォルトゥス修道僧は全裸のままのアキュロウルをずるずると、おもてまで引きずってゆくと、さらにそのまま道を行く。道と言っても建物と建物の間の狭いところだ。そして共用水場に置かせた大盥の中にアキュロウルを放り込んだ。その大盥に水を汲んだのはカエキリアなのだけれど。 だぽん、と音を立てて上がる水しぶきの中から、アキュロウルが顔を上げる。 「何するんですかっ!」 「おお、目覚めたか」 にこにこと笑みを見せながらヴォルトゥス修道僧が言う。 「エウヘニア様がお呼びだ。まずは体を洗うがいい」 どこから取り出したのかヴォルトゥスは、カエキリアへ向かって、床磨きをするような刷子を押しつける。思わず受け取ってしまい、受け取ってからヴォルトゥス修道僧を見返す。 「・・・・・・あたし、ですか?」 修道僧は、きらきらとした笑みでうなずき、答える。 「・・・・・・」 けれどアルキュロウルは、そんなもん近づけたらぶっころす、みたいなものすごい顔でカエキリアを見返している。 「・・・・・・」 アルキュロウルは双性者で、今、ぶっころす、みたいなことを言わずに引き締める唇は、ふっくらとして可愛らしい。南方人らしく少し浅黒い。髪はカエキリアと同じように砂色がかった金髪で、男のように短めにしている。いつもは「帝國」の街セレニアの商人が持ってきた黒眼鏡をかけているのだけれど、今はもちろんないから、いつもは見せない緑の瞳に、さわったらころす、その刷子で触ったら確実に殺す、ぶっしろす、と言いたげな光をたたえている。 「・・・・・・」 あたふたして、カエキリアはヴォルトゥス修道士を見返す。 「・・・・・・」 もちろんヴォルトゥス修道士の底知れない笑みの向こうには、従わなかったら殺す、が隠れてるのを知っている。進むも死、退くも死、逃げるも死、あるのはその確からしさだけだ。 「ご、ごめんなさいっ!」 カエキリアは刷子を振るった。 「!」 何だかわからない叫び声の中には、殺すとか死ねとかまじっていたけれど、カエキリアは聞かないふりをした。 ヴォルトゥス修道僧が良いというまで。ごしごしとアルキュロウルをこする。 で。 着替えを終えて、修道院長室に連れてなお、アルキュロウルの御機嫌はすこぶる付きで悪く、ぎりぎりぎちぎちと奥歯を噛み鳴らしながら、その隙間からはころすぶっころしぜったいころすしなすなどなどと漏れ出てくる。 カエキリアは首をすくめて逃げるように大股に歩くのだけれど、絶対逃がさないとばかりにアルキュロウルはついてくる。けれどヴォルトゥス修道僧は少しも慌てずいつも通りなのだ。 白髪交じりの灰色の髪の修道僧は、いつも少しも揺るがない。今の若い修道院長にして、警護騎士団長エウヘニア様の以前、先代様のころにはすでにここにいるらしい。カエキリアはものごころついたころに、この修道院に連れてこられた。そのころにはもう、ヴォルトゥス修道僧は今のようにいた。 カエキリアは父のことを覚えていない。母のことはいつも寝台に横になった悲しげな人としてしか覚えていない。共に死んでしまった。神殿の国々では双性者は生きづらい。神殿に従い、押し込め街区、つまりゲットーに暮さねばならない。神殿の国々の人はそう思っているから、教会の信徒も同じようにすべきという。双性者は常人に交じって生きてはいけない。見てわかるようにせねばならない。印に首帯をつけたり、それと判る格好をしなければならない。神殿に仕える以上、その体も神のものであり、神聖娼婦として抱かれもする。 「・・・・・・」 そういうことが、どういうことなのか、カエキリアにはまだよくわからない。教会では、双性者と言えどもそういうことはしない。常人と同じように暮らさせてくれる。カエキリアもこの修道院で字を習い、算術を習った。その成績が良ければ、修道院は「帝國」のセレニアの街の学校というところに推挙してくれる。「帝國」では双性者はとても暮らしやすく、重んじてもらえるのだという。皇帝も双性者だし、貴族にも沢山の双性者がいるのだとも聞いた。 ただ、神殿の国から帝國へ、双性者を送り出すようなことは、裏切りだと見なされる。だから修道院も、送り出す双性者を年にほんの一人か二人に限っている。居ない年もある。カエキリアはその中に入れてもらえるほどではない。もし入れてもらえるとしても、断って他の人にしてもらっただろう。なんというか、その方がいいと思うのだ。 ヴォルトゥス修道士はいつものように、エウヘニア修道院長の部屋へと二人を招き入れる。部屋には葉巻煙草の匂いがする。エウヘニア修道院長の匂いでもある。 「そこでしばらく待っていなさい」 「ふたりでですか?」 カエキリアが問い返すと、ヴォルトゥス修道士はきらきらするほどの笑みでうなずき応じる。アルキュロウルは今もぎりぎりぎちぎちしてるのに。 アルキュロウルもまた双性だった。カエキリアよりずっと好きなように暮らしている。女の人の恋人がいて、ほとんどいつものようにあの部屋で一緒にいる。服もまた、好きなように着ている。今も修道僧に似たものだ。とはいえあれほど質素にする気もないらしく、黒づくめの何やらわからない怪しげな格好になっている。いちおう、僧籍を得るつもりらしいが、まだ堅信礼の先に行ったとは聞いていない。 「・・・・・・」 ちらりと横目に見ると、まだやはり機嫌悪いらしい。同じ部屋の、同じ寝台に、裸でいたということは、交わる営みをしていたということで、それはまだカエキリアの知らないことだった。今日のことは、あんまりその営みにふけるアルキュロウルへのお叱りなのだとカエキリアは思っていた。僧籍を得ようとすれば、たとえ聖職者に結婚を認めている清教会だって、あれほどは許してくれないだろうと思う。そういえば「帝國」の「帝都」に合ってすべての教会を統べる教皇聖下も双性者だったはずだ。そのすべての教会の中には、この修道会も含まれている。 「・・・・・・」 足音がする。すぐにわかった。エウヘニア修道院長だ。部屋の扉が開く 「おまえたちの志願を求める」 扉を開いて歩きながらエウヘニア修道院長は言う。そのままカエキリアとアルキュロウルの脇を通り抜けて、正面の卓へと向かってゆく。ヴォルトゥス修道僧はいつも通り、その隣に立つ。 「・・・・・・志願、ですか?」 知っている言葉だけれど、あまり聞きなれない言葉だった。自ら望んで進み出て、役目を引き受ける、という言葉だった。 「わかりました」 カエキリアは一歩、進み出た。 「修道会のみんなのためになることなら、私は志願します」 「ありがとう、カエキリア」 エウヘニア修道院長は、カエキリアをまっすぐに見返して言う。それだけのことなのに、うれしくて、誇らしくて、背中がぞくぞくする。 「何に対する志願でありましょうか」 進み出もせず、隣でアルキュロウルが言う。卓のエウヘニア修道院長はうむ、とうなずき、眼鏡と長い金髪の向こうから透かすようにアルキュロウルを見返す。 「国王陛下と王妃陛下をお守りする近衛騎士団へだ」 「はあ?」 言ったのはアルキュロウルではなく、カエキリアだった。慌てて口を押さえる。そんな話は聞いていない。というか、そんな大きな話だとは思っていなかった。 「ここから話すことは他言無用だ。志願を求める以上、説明は行わなければならない。だが宮廷の中の話を、外に漏らすことはまかりならぬ。したがってこれを聞く以上、おまえたちは宮廷のものにならねばならぬ」 「それは志願じゃないですよ」 「そうだ」 アルキュロウルの言い分に、エウヘニア修道院長は応じる。 「この世に不義が在ろうとも、我らは義を行う警護騎士団にして修道会だ。義を見てせざる勇無きものを養っていたつもりはない。それを行えぬなら去れ」 「・・・・・・」 それは静かだけれど、確かな言葉だった。それは、今の都合のために放たれた言葉ではない。それはエウヘニアの一族、フェルディナンドゥス一族が、体現してきた言葉でもあった。 アルキュロウルは傍目で見てわかるほど背をただす。 「・・・・・・自分はそこまで不義のものであったつもりはありません」 「では志願するか」 「・・・・・・」 アルキュロウルは少し迷うようだった。けれど、柔らかい線を描く唇を結び合わせ、一歩踏みでる 「志願いたします」 「ありがとう。アルキュロウル」 「・・・・・・」 恋人のことはどうするのだろうとカエキリアは思った。アルキュロウルの横顔からは何もうかがえない。エウヘニア修道院長は言う。 「では、聞かせよう。ヴォルトゥス、二人のために椅子を」 「はい、エウヘニア様」 ヴォルトゥス修道僧はいつものように頭を垂れて応じる。
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ある教区 (3) カエキリアは恐れ多いばかりで、生きた心地もしなかった。 式典の間、カエキリアはからだもろくに動かないような、がちがちのままでいたのだけれど、儀式そのものは滞りなく、エウヘニア様と、アルキュロウルとカエキリアの三人が、近衛騎士団に叙任された。 国王陛下は王座に悠々と座られていた。カエキリアが本当に驚いたのは「帝國」から輿入れされた王妃陛下のお姿で、もうお腹も大きくなられていたけれど、きれいなひとはいるものだなあ、とカエキリアは心から思った。 何段か高く作られた二つの玉座の前にそれぞれ近衛騎士が立つ。国王陛下を護るように立つのは、この王国の累代の近衛騎士だと聞かされた。王妃陛下を護って立つのは、王妃陛下が帝國から伴ってきた騎士だという。騎士と言っても将軍くらいの貫録はある。中でも一人は大柄で、顔も傷だらけでそして冷たくカエキリアたち、そして任命の呼び出しと共に立ち上がり、踏み出すエウヘニア様を見つめている。 実際のところ、踏み出して剣の誓いを行ったのはエウヘニア様のみで、アルキュロウルもカエキリアも以下略であったのだけれど。ただの双性者でしかないアルキュロウルとカエキリアが近衛騎士団に任ぜられたのは、王宮礼拝所司祭のヘンドリクス先生が推挙したからだ。だとしてもこの儀式までのことが、どれほど大変なことだったのかとカエキリアは思う。エウヘニア様は日に日にやつれてゆくようだったし、儀典の場でも妙に気がぴりぴりと張りつめていて、居心地悪いどころか戻してしまいそうなほどだった。 国王陛下も、王妃陛下も、特にお言葉は下されず、拍子抜けというよりほっとしたくらいだ。それで叙任の儀式は終わりだった。 終わりだけれど、もう修道院にも集住棟にも帰らない。カエキリアとアルキュロウルは、二人ともエウヘニア様に似たお仕着せを頂いた。かつてあった教区騎士団の栄えある姿そのままなのだという。教区騎士団のお仕着せを着るけれど、もう修道院には戻らない。これから先、たぶん、ずっと宮廷にあることになる。 志願してしまったのは間違いだろうか。エウヘニア様とアルキュロウルと共に王宮の廊下を控室へと歩きながら思う。いまさら思っても仕方ないのだけれど。アルキュロウルと言えば物珍しげに首をめぐらせてあたりを見回している。 近衛騎士団なるものが、何をするところなのか、カエキリアはまだよくわからない。でも神聖騎士団のことは聞いていた。 「・・・・・・」 まだ修道院にいたころ、カエキリアはエウヘニア様にそれとなく聞いてみた。近衛騎士団とは、神聖騎士のようなことをするのでしょうか、と。 「そんなことはさせない」 エウヘニア様はにやりと笑って言い切った。 「そんなことをさせたければ、まず奴がケツを掘らせるべきだろう」と。 アルキュロウルはげらげら笑っていたけれど、カエキリアは困るばかりだった。エウヘニア様と、ヘンドリクス先生と、それから近衛騎士団との間でどんな話になっているのか、今でもよくわからない。 王宮礼拝所司祭のヘンドリクス先生のことは、名前や顔は知っていたけれど、ちゃんと顔を合わせたのは、カエキリアたちの近衛騎士叙任が本決まりになってからだ。ヘンドリクス先生は、王妃陛下がお輿入れなさるときに「帝國」から一緒に来られた人だ。そのヘンドリクス先生、先生は神父と呼ぶように、とおっしゃったのだけれど、恐そうな人だとカエキリアは思っていた。銀灰色の髪で、うなじの後ろで束ねていて、その瞳は紫の色が差している。顔はにこやかな笑顔なのに、その目だけは笑っていない、そんな人だった。エウヘニア様とはたいそう仲が悪いようだったけれど、二人は表だって言い合いをしたりはしなかった。 教会はいくつか教えの解き方が違う、宗派というものがある。アル・カルナイ王都教区の宗派は、清教会というもので、ヘンドリクス司祭や王妃陛下の正教会とは少し違うものであるらしい。どう違うのかはカエキリアには良くわからないのだけれど、主教と司祭とか、先生と神父とか、そういう呼び名は、教えの解き方に遡ったものから定められているらしい。「帝國」の「帝都」に教皇庁ができて、教皇聖下がおわすまで、その教えの解き方をめぐっていくさのようなこともあったという。 けれどヘンドリクス先生は言った。先生ではなく神父と呼びなさい、と言った後で。 「これはアル・カルナイにおいての教会の大いなる躍進の一つである」と。 「これまで異教徒の神聖騎士団なるものが、陛下のおそばに侍り、国の行く末にすら口出しをしてきた。だがそれは正しくない、全く正しくない、すこぶる正しくない、世の理に背くほどだ」と。 カエキリアはそんなことより、王国の中で相争うほうが大変なんじゃないかと思ったりしたのだけれど、エウヘニア様は聞いていないふうだったし、アルキュロウルのほうは何の考えもない風で、とはいえその目元は、黒眼鏡に隠していてよくうかがえない。とにかくヘンドリクス神父はあーだこーだと言葉をこねくり回したあと、カエキリアとアルキュロウルに努力を望む云々、ということになった。 「そういえば、ヘンドリクス先生はいなかったですよね」 カエキリアはエウヘニア様に問うてみる。エウヘニア様は長椅子に腰掛け、足を組んで、ややいらいらしている風だった。そう言えば王宮に来てからこちら、いつもの葉巻煙草を見かけない。 「王宮礼拝所と近衛騎士とはかかわりが無い」 エウヘニア様は言う。カエキリアはさらに問う。 「でも、このお話はヘンドリクス先生からだと思ってました」 「カエキリア、アルキュロウル、近くへ」 部屋の調度を物珍しげに眺めていたアルキュロウルも振り返る。彼女はもう修道院には帰らないことをどう思っているのだろう。恋人がいたはずなのだけれど、どうするのだろうと思う。思うけれど聞けずにいる。彼女の瞳は、いつもかけている帝國産の黒眼鏡の向こうで、胸のうちはうかがえない。儀式のときにはその黒眼鏡もさすがに外していたことに、今気づいたりもする。 「見習い騎士の注意、ってやつですね」 アルキュロウルはエウヘニア様の間近に歩み寄り、それから絨毯の床にしゃがみこむ。 「そうだ」 エウヘニア様は言う。 「この話はひどく込み入っている。一つは、帝國での双性者の不足だ」 不足、足りない。帝國は双性者と常人が分けられることなく暮らす国だと聞いていたけど、そう言われても良くわからない。エウヘニア様は続ける。 「帝國は様々な役目に双性者を着ける。いくらいても足りないというありさまらしい。南方諸国からの双性者を受け入れているのもそれが故だ。だが神殿はそれを神を裏切る振る舞いだとしている」 「王国から連れ出したい、ってことですか?」 アルキュロウルが問う。エウヘニア様は応じる。 「その意向は無いではないらしい。だが、進めたいというほどでもないらしい。それは王妃陛下の御内意であって、王国としての動きではないという」 「・・・・・・」 まだ話が遠くてよくわからない。エウヘニア様は続ける。 「とはいえこれは、帝國の話だ。王国に直の関わりは無い。王国の内輪のことの方が大きい。つまり、王妃陛下に伴われてきたヘンドリクスが糸を引いている」 「それはわかってます」 アルキュロウルがしゃがんだまま言う。エウヘニア様はさらに続ける。 「ヘンドリクスは、宮廷から神殿の力を削ぎたい。だが神殿は神聖騎士を国王陛下にに献上することで宮廷に深く根を下ろしている。だが王妃陛下が騎士を伴って輿入れされた」 「・・・・・・」 聞いた話では、国王陛下はたいそう王妃陛下を御寵愛なされて、王妃陛下がいなければ夜も昼も無いともいう。 「王妃陛下の騎士は辣腕を振るい、新旧あわせて近衛騎士全体として力を見せるようになった。だが、神殿もそのままでいはいない。巻き返そうと神聖騎士を増そうとしているらしい。ひとりでも大きな事だ。そこでヘンドリクスが動き始めた」 「私たちですか」 「そうだ」 アルキュロウルにエウヘニア様はうなずく。 「一挙に二人、しかもそれまで宮廷とのかかわりの薄かった在地教会からの志願だ。しかも受け皿として近衛騎士団がある。今まではありえなかったが、帝國からの騎士ならば、双性者を扱える、ということだ」 「・・・・・・ずいぶんな言われ様だ」 ぶちぶちとアルキュロウルはつぶやく。エウヘニア様は続ける。 「お前たちを人身御供にするつもりはない、そこは安心しろ。そのための私自身の叙任でもある。しかし主教でもある私の叙任は、教会の僧兵全廃の方針もあって、修道会全体を左右するものでもある」 「つまり、ヘンドリクス先生は、修道院にも何かするつもり、なんですか?」 カエキリアは問う。エウヘニア様は、うん、とうなずく。 「王宮礼拝所と、この国にいくつかある布教修道会とを一体のものにするつもりなのだろう。そうなると、私自身が動けなくなることもあり得る」 「・・・・・・」 「そんな顔をするな、カエキリア。近衛騎士団とは話をつけた。先にも見ただろう。ひときわ大柄な騎士卿だ。ガリウス将軍という。お前たち二人は、ガリウス将軍が指図する」 「・・・・・・あの、傷だらけの?」 「はっきり言って白大猿みたいな?」 「・・・・・・」 エウヘニア様は少し笑う。 「白大猿はひどいな。耳に入るようなところで、そんなことは言うなよ?ガリウス閣下は厳しい方と聞いている。帝國の内戦でも、力を振るわれたそうだ。私がお会いしてみたところでは、生粋の武人というところだ。ヘンドリクスの動きも良くは思っておられぬらしい」 「それで、私たちは何をすれば?」 「帝國式の教練を受ける」 「・・・・・・」 思わず黙り込んだ。 良く考えてみれば、カエキリアもアルキュロウルも騎士としての教練など受けたこともなかった。 「話ができすぎていると思った」 アルキュロウルがぼやく。エウヘニア様は応じる。 「お前たちは二人は、帝國式の教練を受け、また王国軍は双性者の志願を受け入れる制度を作る。読み書き算術なども教える場もな」 「修道会みたいにですか」 カエキリアの言葉に、エウヘニア様はうなずく。 「そうだ。ヘンドリクスの動きを、王妃陛下がお止にならないのはそれがゆえんであるらしい。そしてゆくゆくは、王都に学問所のようなところを作られるつもりのようだ」 「・・・・・・」 話が大きくなりすぎていて、よくわからなくなっている。カエキリアは問うた。 「じゃあ、私たちはどうすればいいんですか?」 「未来を切り開く」 エウヘニア様はそう言って、少しの笑みを浮かべた。 というわけで、┣¨暴走なんで、これはこれ、で。 ゲットーの話が出てから、こういう動きはあるんだろうと思っていたんだ。