約 851 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3038.html
三面鏡の少女 62 真樹をスルーして教室を出た龍一、委員長、繰の三人 「彼、ちょっとウザいけど嫌われるほどじゃないわよね? 何で10人にも頼んで断られてんの?」 「えっと、何て言うか……悪い人じゃないんだけど、間が悪いというか」 「待ってくれって! 折角なんだから男二人女二人の方が良いだろうし、俺が宮定と並べば委員長も獄門寺とカップr」 即座に振り返った委員長が、すぱんと平手を打ちつけるように真樹の口を塞ぎ 何を言っていたのか聞き損ねた龍一と繰は、何があったのかと首を傾げる 「な、何でもないよ? あんまり大きい声で騒ぐと皆に迷惑だからね?」 口を塞いだ手で顔をぎりぎりと締め上げられて、と言っても委員長の力だから別段痛いわけではないが、ここまでやられれば流石に多少なりとも察するのだろう 真樹は把握したという意思を込めて、口を押さえる手をとんとんと叩く 訝しげな視線を向けたまま、そろりと手を離す委員長 「つまり委員長が龍一の事を好きってのは黙ってれb」 再度、すぱんと口を塞がれる真樹 真剣な眼差しで、状況が判らない二人に気付かれないように「何も言わないで」という意味を込めて首を振り、真樹も改めて理解したと頷く 「騒がないし大人しくしてるから。頼む、一生のお願い」 「うっさい、ついてくるな」 狼狽した委員長に助け船を出すように、繰が即座にばっさり斬って捨てる 「学園祭に寂しい思い出を残したくないんだよ。何だったらディラン先生も呼んでk」 先程の委員長と同じように、即座に手のひらで真樹の口を塞ぐ繰 ただ違うのはその握力で、ぎりぎりと頬に指をめり込ませ顎を締め上げる 「どこからその話を聞いたのかなぁ、手前ぇは?」 「女子が話してたのをたまたま通り掛かりに聞いただけなんだけど。あとすっげぇ痛い痛い痛いギブギブギブ」 こめかみに青筋を浮かべて、完全にヤンキー状態で睨みつけてくる繰に、全く動じた様子も無く普通にギブアップを宣言する真樹 「つまり男の話とか抜きで普通にしてれば、俺一緒に行ってもいいよね?」 後の接客の事を考えて、ギリギリ痕が残らない程度に締め上げていた指を離し、繰は溜息を吐く 置いていくより目の届く範囲に居た方がまだマシだ 「二人ずつの方が良いっていうのは不本意ながら同意しとくわ。こいつは大人しくしてるように私が見張りながら歩くから、委員長は獄門寺とペアでお願い」 「連れて行ってくれるのは嬉しいんだけどヘッドロックが地味に痛いというかでも胸が当たって結構嬉しいだだだだだだだだっ!?」 察しの良い人間が聞いていれば、即座に把握できた人間模様だが 朴念仁の龍一、奥手の委員長、恋愛オンチの繰という面子では、空気を読めない真樹の力でも進展させるのは難しいのであったとさ 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3846.html
三面鏡の少女 80 「今年はどうだった?」 「俺はゼロ」 「俺も俺も」 「当然俺も」 ベッドに転がって漫画を読んでいた金田 PSPの画面に視線を向けたままの銀河と銅島 「モテねぇな、俺ら」 「モテる努力をしてないからな」 「というかモテたいんだな、お前ら」 溜息を吐く金田と銀河に、今気付いたと言わんばかりに意外そうな声を上げる銅島 「そりゃあ男としては女の子とイチャイチャしたい」 至極真面目な顔でそう呟く金田 「入学早々おもっくそ女子に嫌われたからな。今は割と地位は回復したが」 銀河が一段落したゲームを止めて、PSPの電源を切る 「大人しいから押せ押せでいけると思って、逢瀬に手を出したのがまずかった」 同じようにPSPを床に置いて、懐かしむように遠い目をする銅島 「三人まとめて宮定にボコられたな」 「挙句に言いふらされたからな」 「今思うとあの頃の、女子達の汚物を見るような目はたまらなかったな」 「「いや、そう思ってるのはお前だけだから」」 銅島の台詞に、綺麗にハモる金田と銀河 「まあクラスの女子達はさほどキツくないし、暴力的でもないし、殺意も無いからな」 「お前もうダメだわ……そういやPSPの充電するからケーブル借りるぞ」 「おうよー」 諦めた顔付きでごちゃごちゃとした机の上を探る銀河 掃き溜めとしか言いようがない机の上に、一つだけ異彩を放つ小さな箱 可愛らしい包装紙とリボンでラッピングされたそれは、季節柄過剰に反応せざるを得ない存在感を放っていた 「銅島……友達に嘘を吐くとは、変態的に堕ち切った事とは別に堕ちたもんだな」 「え、何? 何か俺嘘言った? 充電ケーブル無かった?」 わなわなと震える銀河が、その箱を手にして銅島の目の前に突き付ける 「今年の戦果はゼロと答えたはずだな? ならばこれは何だ」 「あ、それ妹から」 「妹からでもチョコはチョコだろうが」 「いや……家族からはノーカンというか、むしろ逆に寂しくないか?」 「あれだけ可愛い妹と一つ屋根の下で、チョコまで貰ってその言い草か」 首でも絞めてきそうな勢いで迫る銀河に、全く理解できないといった顔で首を傾げる銅島 「可愛いって言っても妹だぞ?」 「何でお前はそんなとこだけ常識人なんだよ」 「怒られるところなのかそれ」 「当たり前だ。世に存在する全ての妹萌えを敵に回す愚か者め。お前がいらないなら俺に寄越せ、お義兄さんと呼んでやるから」 「それは御免被る」 ぎゃいぎゃいと喚き合う二人をよそに、読んでいた漫画を本棚に戻して次の巻を手に取る金田 「高校生活はラスト一年。今年のうちに彼女作りてぇなぁ」 「いやお前、受験とかが先じゃなくてか」 「今更じたばたしててもどうにもなんねぇって。それより彼女できた方がモチベーション上がるだろうし」 「本当にどうしようも無いなお前」 「銅島、お前だけには言われたくないぞ」 男三人のどうでもいい日常はこうしてぐだぐだ過ぎていくのであったとさ 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1047.html
三面鏡の少女 10 「ダメだ」 首塚の宴会当日 待ち合わせに一番適している事と、運転手が送迎を務めてくれるという事から診療所で待ち合わせをしたのだが 「ダメって何がですか?」 「パーティーに行くんだろう? いささかラフ過ぎやしないかね」 そう言われた三面鏡の少女の格好は、ふわりとしたシフォンブラウスにタイトジーンズ、細いシルバーのブレスレットとワンポイントのネックレス 可愛らしくはあるが割と普段着的な格好だ 「だ、ダメですか? 宴会って言うぐらいだしそんなに気張らない方がいいと思ったんですけど?」 「もっと華やかな方がボクが楽しい」 「ドクターの趣味の話じゃないですか!? というかドクターもいつもの格好で白衣のままじゃないですか!」 「ボクは『第三帝国』という組織の一員としてありのままの姿を見せる必要があるからな」 ふふんとボリューム満点の胸を張るドクターに、通り掛かったバイト青年が呆れた声をかける 「ありのまま過ぎますよ。襟と胸元のボタン、ちゃんと閉じてその上でネクタイ締めてって下さいよ」 「仕方なかろう。日本で買ったシャツはどれもサイズが合わないのだから」 「むぅ……」 その言葉に、思わず少女は自分の胸に視線を落とす 「バイトくん、君が余計な事を言うから少女が気にしてしまったではないか」 「俺のせいですか!?」 「別にバイトさんのせいじゃないですよ!? というか話がズレてますよ!」 「そういえばそうだったな。宜しい、本題である君の服装に戻ろうではないか」 そう言ってドクターがぱちんと指を鳴らすと、奥に控えていたメアリーとミツキがいそいそと大きめの箱を運んでくる 「ボクは君のちゃんとした浴衣姿を拝んでいないので、その代替案だと思ってくれればいい」 箱から取り出されたのは、浴衣と同じ淡い空色をしたホルターネックのワンピースドレスだった 膝下ほどまでの裾に合わせて、色の合うストッキングやパンプスなども用意されていた 「単純にボクが見たいというのもあるが、君に似合うと思ってな」 「えーと……サイズは」 「女性の身体なら服の上からでもミリ単位で判別可能だよボクは」 「凄いけどちょっと怖い!?」 晴れやかな笑顔でドレスを広げ、少女の身体にあてがうドクター 確かに色合いもデザインも少女の趣味でありとても似合うものではある 「折角用意したんだ、今日だけでもいいから着てみてくれないかね?」 「その言葉、私達からもドクターに差し上げます」 「ふむ?」 少女のドレス姿を思い浮かべ楽しそうにしていたドクターに、メアリーとミツキが同じような箱を手渡す 「折角の晴れ舞台ですもの。私達も魅力的なドクターの姿を世間にお披露目したいですわ」 「彼女のドレスと一緒に、私達が選んで注文しておいたんですよ?」 すらりと取り出されたのは、ボディラインを強調したワインレッドのチャイナ風ドレス 「いや待て。ボクは組織の一員として挨拶に向かう上でだな? あと保護者兼医師として」 「それでもやっぱり正装した方が先方には失礼はないですよね?」 「ドクターってばいつも白衣にワイシャツにスラックスですし。折角のパーティーですから」 ドレスを手にしてじりじりとにじり寄る二人に、ドクターは珍しく冷や汗を流しながら後退る 「いやボクは女性が大好きで男性が嫌いという男性的な精神構造であり似合う似合わないで言えば割と似合わない方だと思うんだほら髪もいつも短くしてるしあとドレスとか着方もよくわからないからね?」 そんなドクターの言葉を、いつもドクターが浮かべてるような満面の笑顔でスルーする二人の都市伝説女性 そして始まる脱がしたり着せたりのドタバタに、少女は呆気に取られていたが 「済まんが、折角だし着てやってくれないか? ドクターもあの二人も、割と本気で選んでたんだ」 バイト青年はそう言うと、ドタバタの中心を見ないようにして静かに部屋から出て行った 「……ん、それじゃ折角だし」 「それじゃあ着付けは私が手伝ってあげますね。メアリー、そちらは任せます」 「任されたわ、ミツキ。さあドクター、暴れてると私達の捧げた愛がダメになってしまいます。大人しく着ちゃって下さい♪」 「待て落ち着け話せばわかる、むしろ触れ合ってる時点でわかろう。ボクにも苦手な分野というものが大なり小なり」 「ドクターもいつも言ってるじゃないですか、可愛いは正義って」 「いやいやボクはもう可愛いとかいう年齢でもないからね!?」 絡み合うドクターとメアリー 「ごめんなさいね、ドクターの我侭に付き合ってもらって。仕返しにドクターには私達の我侭に付き合ってもらうから」 そう言って微笑むミツキ 口裂け女というその個性からは随分と似つかわしくない、優しい笑顔 「いえ、あたしも楽しいですよ。あと……ドレス、選んでくれてありがとうございます」 それに釣られるように、笑顔を浮かべる少女 着付けとドタバタが終わるのは、同行者である呪われた歌の契約者が現れる数分前の事だったという 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1872.html
三面鏡の少女 29 お前は誰だ 私は鏡に問い掛ける お前は誰だ 私は鏡に問い掛ける お前は誰だ おまえはだれだ オマエハダレダ 繰り返し繰り返し問い掛ける 主のいない静かな部屋で、鏡に向かってただ問い掛ける オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ オマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダオマエハダレダ 学校のロッカーや机には物は置いて帰らない 無くなってしまうか、使えなくなってしまうからだ 学校に持ってきた物からはできるだけ目を離さない 無くなってしまうか、使えなくなってしまうからだ 学校では教師以外とは誰とも話さない 敵が増えるか、被害者が増えるからだ 差し伸べられた手は払い除ける 敵は増えても、被害者は増えないからだ 辛い素振りは決して見せない 同情を買えば手が差し伸べられ 結果として敵か被害者を増やす羽目になるからだ 個性を見せてはいけない 自己主張をしてはいけない 目立ってはいけない 敵が自分から興味を無くすように 弱音を吐いてはいけない 笑顔を絶やしてはいけない 心配を掛けてはいけない 教師や家族が事を荒立てて事態が長引いてしまわないように だから毎日言い聞かせる 鏡に向かって自分に言い聞かせる お前は誰だ、と 自分というものを認識から外せば、自分に起きている事を鏡に映る向こう側の出来事のように思えるから だから毎日言い聞かせる 鏡に向かって自分に言い聞かせる お前は誰だ おまえはだれだ オ マ エ ハ ダ レ ダ 「あたしはあたしに決まってんでしょ、ばっかじゃないの?」 鏡にそう返された あまりにも突然の出来事に とうとう自分の頭がおかしくなったのかと それとも自分を認識から外して他人として見れるようになったのかと 「違う違う、ほらそれ。三面鏡で合わせ鏡になってるでしょ?」 静かな部屋が好きだった祖母が入院して以来、家族に気付かれにくいという理由で使っていたこの部屋の三面鏡 確かに左右に開いた鏡によって、合わせ鏡が出来ていた 「合わせ鏡は悪魔を呼んだり異世界に通じたり知らない事を映し出したりするんだけどね」 鏡の中の自分は、長年待ち望んでいた玩具をやっと手に入れた子供のように笑顔を浮かべる 「あたしは、知らない事を映し出す……というか映し出された結果。『合わせ鏡の中に自分の死に顔が見える』っていう話、聞いた事はある?」 そんは話は知らない 興味も無い 「つまんないわねー、あなた本当にあたし? そんなんだから電車に飛び込んだり学校の屋上から飛び降りたり虐めっ子の家の前でガソリン被って火ぃ付けたり、自殺の顔ばっかりやたらとあるのよ」 自分はそこまで追い詰められるつもりは無い 「でも打開できないと引き摺っちゃうのよね、高校まで。同じ町内の高校に進学するのに、あの人格破綻者どもと縁切れると思ってんの?」 それはそうだが、自分に何かできるとは思えない いくつも死に方を知っているようだけど、他人に迷惑を掛けない死に方を知ってるなら教えて欲しい 「後ろ向きねぇ、あたしの癖に」 そう言うと鏡の中の自分は、ぱっと右手を上げる 鏡に映っているのだから実際は左手なのだろうか 「第一回、あたし会議ー」 その言葉に呼応して、合わせ鏡の中に映った自分達が一斉にこちらを向く 「さて……これからの人生、もっと自分らしく生きるためにだ。この『合わせ鏡の中に自分の死に顔が見える』って都市伝説と契約してみない? ぶっちゃけると今の契約者が近々お亡くなりになりそうなんで、新しい契約者を用意しときたかったんだけどさ」 契約? 「あたしは他人に迷惑掛けたくないんでしょ? だったらあたしに迷惑掛けりゃいいじゃない」 随分と長い間見た事の無い、自分の笑顔 「ま、契約してもあたし達を使いこなせなきゃ話し相手ぐらいにしかなれないけどね?」 別にどうでもいい これ以上どうという事のない人生が、多少狂ったところで構わない 「それじゃま、とりあえず虐めっ子でもどうにかしてみる? まああたしとしては単に脅かしてやりたいだけなんだけど。ムカつくでしょあいつら」 別に 気にしてたらきりが無いから 「ていうか、その態度がある意味で虐めを助長してるって何で気付かないかなぁ」 「それより契約契約」 「何か面白そうな事するんでしょ?」 「あー、あいつら? 陰険だけど頭悪いし楽勝じゃない?」 「あいつらターゲットを女子トイレに連れ込むじゃない。あそこなら鏡あるし、あたし達も仕掛けれない?」 「だーかーらー、契約ー」 「ちょっと仕掛けして鏡増やしておけば良いんじゃない?」 「洗面台の鏡大きいから、あれこれ弄らなくてもいけるでしょ。あいつら、ああ見えてビビリだから」 「えー、あたし知らないー」 「ていうか、放課後に忘れ物取りに帰った時。物音立てたあたしに勝手にビビって虐めスタートしたんだし」 「うわ何それ馬鹿みたい」 「ていうか馬鹿よね」 「うん馬鹿」 「けーいーやーくー」 一気に騒がしくなる三面鏡を前に なんだか無性におかしくなって 何年ぶりかに笑ったような気がしたけれど 鏡に映った自分は全部好き勝手に話していたせいで、その顔は自分では見る事が出来なかった ――― 昼休み、教室を出てトイレに入る 案の定ついてきた三人組の女子が、にやにやしながら取り囲むように立ちはだかる 「ちょっとー、逢瀬さーん」 「最近あたしらの事無視してない?」 「虐めのつもりー? 超傷付くんですけどー」 にやにやしている三人のうち、一人の表情が僅かに強張る 「……え? あ、何?」 明らかに狼狽の混じった声に、残る二人も異常を察知する 何事かとその視線の先を見ると 「ひぃっ!?」 「何よこれ!?」 洗面台の前に貼り付けられた鏡に反対側の鏡が映りこんでいて 密度はそれほどでもないものの、合わせ鏡を作り出していた そこに映る少女の顔 鏡に背を向けているはずなのに、鏡に映る少女はこちらを向いている そして合わせ鏡の向こうに映っている少女もまた、ゆっくりとこちらを向いて 一人、また一人と三人に視線を合わせ 「「「「「「「「「「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」」」」」」」」」」 鏡に映る全員が三人を見据えながら 笑う 笑う笑う 笑う笑う笑う笑う笑う笑う笑う笑う笑う 「ひっ、な、こ、え!?」 「ちょ、待っ、置いてかないで!」 「あわわわわわわわわ」 転がるように逃げていく三人の姿を見て、鏡の中の面々は更に大爆笑 「いやーダメよねー、人虐めるならもう少し根性無いと」 「まあ所詮この程度? いやー万が一あれの中に都市伝説契約者とか混じってたらと思うと冷や冷やだったね!」 「まーそれで死ぬあたしはいなかったわけだからやったんだけどね」 「逆襲とかあったらどうすんの?」 「そんな根性無いっしょ?」 「まあまた来たら脅かす?」 「今回みたいな笑い声上げてやれば、あたし達がいなくてもビビって逃げるんじゃない?」 口々に好き勝手喋る鏡の中の自分達を、少女は苦笑混じりに制する 「なんか吹っ切れたかも。後は自分でやってみる。脅かすとかじゃなくて、話し合いをね」 「んんー、大丈夫かにゃー?」 「まあ今までのノリだとあたし達としても弄り甲斐が無いし」 「成長も見込めないだろうしねー」 「まあとりあえずは」 「コンゴトモヨロシク、みたいなー?」 ――― それから少女は変わっていった 無限の自分に手を引かれ 一つに狭めていた道を、無限の手によってあちこちに引き摺り回されるように 下だけ向いて道なりに進んでいた人生から、野原に駆け出すように 平坦だが何も無い安全な道を外れ、無限の死が待つ世界へと歩み出し 数多の経験と成長の可能性と、数多の絶望と破滅の可能性を手に入れた そして少女の知らないところで、祖母に想いを託された黒服と出会い 少女は最も『組織』の仕事から縁遠い『組織』の一員となったのだった そして少女は今日も生きている 前を向いて生きている 「そんな写真どっから持ち出したのー!?」 「いやいや身辺警護の折にちょっとばかり」 「かーえーしーてー!? それは割と洒落になんないー!」 「大丈夫、この現物以外は俺の心のメモリーと携帯と私的に使ってるデジカメとPCにしか残ってないから」 「充分過ぎるー!」 「さて、俺はそろそろ仕事に戻らないとなぁ」 「せめて写真だけでも置いてけー! 置いてけー!」 「ははは、置いてけ堀じゃあるまいし。それじゃあまたな」 「こーらー!?」 ※ 虐めっ子三人組 主犯 志望校を町内から県外の高校に変えて進学 引越しの折に車の後部座席で震えながら「帽子の女が」と呟いた直後に心臓麻痺で死亡 共犯A 逃げるように親戚の住む田舎に引越し転校 夏のある日に田んぼの真ん中で泥まみれで笑っているところを保護されて以来、病院から出てきていない 共犯B 虐めていた少女に対して一人だけ謝罪 それなりの友達付き合いをしていたが三年生の冬休みに海外旅行先の衣料品店で行方不明に ――なりかけるが見知らぬ誰かに助けられたらしいが本人は旅行自体の記憶を無くしている 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3850.html
三面鏡の少女 83 宮定怜吏(みやさだ・れいり)という男がいる やや鋭い目付きの神経質そうな顔付きで、背は高いがやや痩せており貧弱そうなイメージを漂わせている 宮定繰の父親であるこの男は、学校町の出身ではあるが都市伝説というものに遭遇した事が無い にも関わらず、だ 「奴には近寄るな、絶対にだ。だが監視は怠るな」 過去、彼の存在を知った『アメリカ政府の陰謀論』ジョン・スミスは、苛立たしげに煙草を灰皿に押し付けながらそう部下に通達していた 『第三帝国』の『総統』達同様の措置を取り、『MI6』でも歴代長官に伝達事項として引き継がれている だが小規模な組織の構成員や、大組織故に命令が行き届かない末端の構成員も存在する 様々な組織が危険視しながらも手を出さない存在 好奇心、腕試し、嫌がらせ、様々な理由から彼に接触を図ったり、攻撃を仕掛けたりした者は現在までに多数存在した だが、その結果を知るものはほとんど居ない ――― 「そんな強そうには見えないし、都市伝説と契約してるわけでもないんでしょ? なーんでそんなに恐がるかなぁ」 何処の組織に所属しているのか、黒いスーツとサングラスという典型的な『メン・イン・ブラック』の女 目標のいる建物すら視認できない距離で、女は小さなデリンジャーを懐から抜き出して 引き金を引くと同時に響いた小さな破裂音 雲一つ無い晴れ渡った空に向かって撃ち出された銃弾は、女の頭上でぴたりと静止する 「撃ち抜け、『魔弾』」 その言葉と同時に、命令を受けた猟犬のように弾丸が疾る 一切の物理法則を無視して空気を切り裂き飛翔する弾丸は、ビルを避け、樹木の枝葉の間をすり抜け、更に更に加速していく 音も衝撃も残さずに瞬殺無音で迫る弾丸が、ターゲットである怜吏の眉間に狙いを定め 距離にして22kmを駆け抜けた弾丸は加速を続け、銃声すらとうに置いてきぼりにしてターゲットに命中した 命中は、したのだ だがその弾丸は跡形も無く消え去っていた 怜吏の体に触れた瞬間、その質量も、衝撃も、一切合財が初めから存在しなかったかのように 「……へ?」 その結果は、攻撃を行使した黒服の女にも伝わってくる そして 「え、な、何っ!?」 弾丸が通った軌跡を正確になぞるように 『弾丸が通ったという事実が消滅していく』 「ひっ、ぃっ!?」 弾丸が疾り抜けた速さで迫り来るその事実に、黒服の女は悲鳴を上げた 銃を捨て、足を縺れさせながら転がるようにその場から逃げ出すが、それは無意味だった 弾丸が通ったという事実が消滅し 弾丸が発射されたという事実が消滅し 銃そのものが消滅し 銃を投げ捨てたという事実が消滅し 銃を投げ捨てた者も消滅した 跡形も何も残らない そこには初めから何も存在しなかった ――― 「都市伝説?」 「ええ、先生は学校町の出身でしょう? 何かそういう話とか聞いた事とか無いんですか?」 狙撃をされた直後、何事も無かったかのように いや、何事も無くなって 隣を歩いていた教え子の女子大生の問いに応える怜吏 「馬鹿か君は。そんなものは存在しない」 「でも学校町って行方不明者とか原因不明の死傷者が多いって話も聞きますよ」 「妙な噂が多いから、精神的に不安定になった折にそういった妄想に囚われやすくなるだけだ。一度そんな関連付けが発生すれば、連鎖的に感染拡大する。あんなものはただの精神疾患、集団ヒステリーだ」 「でも実際に起きてる事件とかはどうなるんですか? 未解決事件の数、凄く多いそうじゃないですか」 「日本中、世界中で未解決事件など山のようにある。あとは、あの町の警察組織が殊更無能なだけだろう」 「先生って夢が無いんですね」 「そんなものは現実には必要無い」 「ええー、それじゃあ……」 楽しそうに纏わりついてくる女子大生を淡々とあしらいながら 強固かつ絶対の精神力と意思力、そして知識と理論により都市伝説の一切合財を否定する男は、次の講義のために教室へと向かう 彼に近付く都市伝説はいない 彼に近付ける都市伝説はいない それ故に彼の意思は、理論は、より強固にされていくのだった 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/7322.html
悪夢の三面鏡(アニメ) 通常罠 相手がモンスターを特殊召喚した時に発動する事ができる。 自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。 相手が特殊召喚したモンスターの数だけ、選択したモンスターと同じ カード名・種族・属性・レベル・攻撃力・守備力を持つトークンを特殊召喚する。 このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。 トークン生成 罠
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3029.html
三面鏡の少女 57 「お帰り下さいませご主人様」 こめかみに青筋を浮かべながら、引き攣った笑顔で辛うじて絞り出した声に本音が混じる クラスメイトの男子達の来店に、丁度手近に居た為に挨拶を強いられた宮定繰は、ただ湧き上がる破壊衝動を押さえるのに必死だった 「いやいや、友達の晴れ舞台を見に来ただけだから」 「仕事っぷりを一度見ておきたいじゃん」 「あと折角ツーショット撮影券も貰ったし」 「まー宮定が居なくても多分来てたけど」 口々に勝手な事を言うクラスメイト達に、怒りゲージがふつふつと上昇していくものの 「宮定さーん、ちゃんと席にご案内してー」 通り掛った別のメイドに注意され、怒りも毒もぐっと飲み込んでギリギリの作り笑いを浮かべる 「あ、うちのクラスの連中は交代で来るからよろしくな」 一度持ち堪えた堪忍袋の緒を足に括り付け、豪快にバンジージャンプ 全身全霊の落下の全衝撃が堪忍袋の緒を引き千切らんとしたその瞬間 「あ、繰のクラスの人? いらっしゃ……じゃないや、お帰りなさいませ」 満面の笑顔で繰の隣へ顔を出す、逢瀬佳奈美 「繰ってば可愛いでしょ……って、準備の時に見たんだっけ。ごめんね、うちのクラスの我侭で人手借りちゃって」 堪忍袋の緒でのバンジージャンプは、佳奈美パラシュートが開いて軟着陸 「こっちもサービス券貰っちゃったしね」 「うちのクラスもメイドとか執事が来たらサービスするように言ってあるから」 「まあ素人占いだけどねー」 和気藹々とした雰囲気に、溜めた怒りのぶつけ場所が見つからずにいるうちに 「それではお席にご案内しますね、どうぞゆっくり楽しんでいって下さい」 ぺこりと頭を下げる佳奈美につられて繰もついつい頭を下げてしまい、堪忍袋の口は緩んで中身はぐでぐでと漏れて無くなってしまった ように思えたが 「ここのメイド喫茶のレベルがすげぇって話でさ」 「ツーショットでの写真撮影サービスとかあるらしいぜ?」 「そういえばこのクラス、女子も男子も妙にレベル高いよな」 そんな声を聞きつけた繰の表情から、すぅっと色が消えていく 「……佳奈美、そいつらの案内任せていい?」 「ん、次のお客さん来たの? それじゃお席にご案内しまーす」 繰のクラスメイト達を開いている席へと連れて行く佳奈美 それを確認し、店内からは微妙に見えない廊下側へと飛び出す繰 そして、突然飛び出してきたゴスロリメイドに一瞬呆気に取られ、その足を止めた三人組の男子生徒 「………………」 腕を組んで仁王立ちしたその姿は、メイドというよりは死の宣告にやってきた死神のようで 「………………」 「………………」 「………………」 学園祭準備中に、ディランをパシリに使っていた金田、銀河、銅島の三人は、その身体が凍て付いたかのように動かなくなっていた 「どのツラ下げていらっしゃりやがった、ご主人様どもめ」 「え、あれ? 宮定ってこのクラスだっけ? あれ、でも逢瀬とクラス違うよな?」 「いや、俺は金田が一人で行くのが嫌だっていうからしょうがなく」 「待てコラ銀河!? またお前は裏切るのか!」 「踏んで下さい!」 「土下座に加えて何か変な方向に進化してないか銅島っ!?」 にわかに騒がしくなりかけたところを、その首根っこを掴んで引き寄せ 「お前らがタチの悪い悪戯をしようとした佳奈美も、こないだパシリに使いやがった英語講師も今日は楽しんでやってんだ……邪魔ぁしやがったら明日は来ねぇぞ?」 「いや邪魔とかそういうのじゃなくて純粋に客として来たわけだから!」 「その付き合いだから!」 「もっと罵って下さい!」 必死に無害を主張する金田と、それに同調する銀河と、もうわからない領域に行ってしまった銅島 これ以上面倒な客が来ませんように 繰はそう願わざるを得ないのであった 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3622.html
三面鏡の少女 77 「早速病院に行ってきたら、三ヶ月ですって♪」 母、千春の言葉に、佳奈美は手にしていた箸をぽろりと落とした 「弟か妹ができるわよ、佳奈美。これでお父さんもお母さんも寂しくないから、さっさと彼氏を紹介して嫁に行って孫を見せて頂戴?」 「ちょ、えっと……三ヶ月前っていうと……結婚記念日の旅行の時!?」 流石に遠慮も余裕も無くなった佳奈美のツッコミに、父、乗次がげふんげふんと咳払いをする 「高齢出産とかの心配はいらないわよ? お母さんまだまだ若いから」 「若いって、それでももうよんじゅう……」 「ぶぶー」 さも楽しそうに笑顔を浮かべて佳奈美の声を遮る千春と、びくりと身を竦ませる乗次 「お母さん、まだ三十代前半でーす。若い母親だと佳奈美が気にするかなーと思って今まで誤魔化してました。あ、保険証見る?」 「ちょっ、お母さん!? 今あたしが高校二年で17歳だよ!? 前半って、あたし生んだのが……というか十ヶ月割り引く計算だと」 「ご馳走様、お父さんは仕事があるから」 そそくさと席を立つ乗次の腕を、びしりと千春が掴む 「背中を見せたらばっさり斬られるけど、正面から受ければ致命傷は免れるわよ?」 とびきりの笑顔で告げられて、乗次は諦めたように今一度食卓の椅子にすとんと腰を下ろす 「というわけで。お母さんが佳奈美を仕込んだのは16歳の時です。ちなみに誕生日前なので割とギリギリアウト」 「そこまで詳らか言わなくてもね!?」 ちょっと涙声の乗次をスルーして、千春は口元を手で隠しながら笑う 「でも、告白したのも先に手を出したのもお母さんからだから。お父さんがロリコンだったとか、そういうのじゃないわよ?」 「……佳奈美を産んでからズ太くなったよね、千春さん」 「母は強しって言うでしょ?」 にっこりと微笑み、千春は佳奈美に告げる 「お母さんも二年ぐらい学校通いながら佳奈美育ててたから。お義母様も協力してくれたし」 「小さい頃に朝から出掛けてたのって学校行ってたの!? というかあたしは高校卒業するまでは清いお付き合いだからね!?」 「あらあらうふふ……若い子がどこまで持つかしらねぇ」 「お母さん、なんか悪役状態だよ!?」 「僕もそうだけどね、佳奈美を任せる人をきちんと見てみたいっていうのがまず先にあるんだよ」 苦笑交じりに耳打ちする乗次に、佳奈美は複雑な表情を浮かべる 「というか、僕がずっと気にしてるからああして催促してるんだと思うよ。ごめんね、情けない父さんで」 「お父さんの事もあるけど、私だって気になってるの。佳奈美を逃がさず捕まえておけるのって相当なものよ?」 「お母さん、それどういう意味!?」 「あなた、男の子に告白されたら自信無くて逃げるでしょ、きっと」 「うぐ」 「という訳で、早いところ退路を断っておきたいのよね、折角捕まえてもらったんだし」 そして、笑顔のままで千春の雰囲気がずしりと重いものに変わる 「勿論、佳奈美を任せられないなーと思ったら……お母さん、容赦しないから」 「千春さん、そういう事を言うとまたプレッシャーになるから。佳奈美も気にしないで自分のペースで、ね?」 乗次が佳奈美を庇うようにそう言うが、千春のプレッシャーにはかなり押されている雰囲気だった 長引かせるのはまずいかも そんな事を考えながら、佳奈美は三が日明けの夜を過ごすのであったとさ 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3449.html
三面鏡の少女 73 「ありあたっしたー」 やる気の無い店員の声と共に、コンビニから出てくる星 そんな星に首の後ろ、首が絞まらないように襟より少し下の部分を掴まれて、ぷらぷらと揺れながら連れ出されるニーナ 「募金は週に一回、買い物のお釣りだけ。必要以上にお釣りが出ないように考えて支払いもする事」 「ですがですがしかし! あの寄付で世界中の恵まれない子供達の生活が僅かにでも改善されるのなら!」 呆れ顔の星に、くわっとテンションを上げて叫ぶニーナ 「その心構えは立派だけどな。それで俺達が飢えて死んだら寄付はそれで終わりだろ」 「む」 「今苦しんでいる子供達だけを助けて終わり? 後々で生まれてくる子供達はどうでもいいの?」 「うぐ」 「例えば、医者が身体を壊すほどに働いて患者を助けるのは立派だけど、それで結果として医者が死んでしまったら誰が患者を助けるんだ?」 「はうっ」 「ここ一番に奮発するのは大事だけど、もっとそれ以外に自分ができる事、やらなきゃいけない事を考えなきゃ駄目だろ」 手塚星、これでも中身は小学生である 元々両親が共働きなせいで大人びた思考をしていたのだが、『組織』に所属してからは周囲にいる駄目な大人を色々と見てきたせいもある 「この町で何か探してるんだろ? 俺と出会った時みたいに腹減ってふらふらしてたら、それもできないだろ」 「そっ、それは、その……神が与えたもうた試練で」 「空腹を我慢するのは試練かもしれないけど、空腹になった原因は違うだろ、さっきのを見てたら。自分の失敗を神様のせいにするのは駄目だろ」 「うぅ……」 流石に少々打ちのめされて、しょんぼりとしてしまうニーナ 「まあ、良い事をしようとしてたのは神様も見てくれてるさ。今日からもっと上手くやればいいんだって」 子供をあやすように、ニーナのきゅっと抱き締めて頭を優しく撫でてやる星 「ニーナが色々話してくれた人達だって、お前が倒れたりしちゃったら心配するだろ。お前が幸せになるのも、誰かの幸せに繋がるんだぜ?」 「そ、そうデスね! 『教会』の皆に心配を掛けるわけにはいきません!」 「おう、その意気だ」 抱き締めたまま背中を軽くぽんぽんと叩き 「んじゃ、いつもの公園でお昼にするか。その後はまた町の見回りだ」 身を離すついでに、ニーナの髪の毛をくしゃくしゃと掻き回してやる 「ああもうっ、身嗜みの乱れは風紀の乱れなんですよ!」 乱れた髪を手櫛で直しながら、頬を膨らませて抗議するニーナ 「ははっ、ごめんごめん。つい、な」 昔、よく落ち込んでいた佳奈美を元気付けるために、わざと子供っぽい悪戯で怒らせていた それはいつしか、彼女の気を引くための手段に変わっていたのだが 「なあ、ニーナ」 「はい、なんデスか?」 「頑張れよ」 「勿論デス!」 本当に「頑張るぞ」という気持ちが満ち満ちて溢れ出さんばかりの顔で、ぐっと答えるニーナを見ていると 何やら妹でも出来たような気分になって、しっかり面倒を見てやらなければと思ってしまう ニーナが探す悪魔 ニーナを探すオカマ どちらが厄介な存在にしても、ニーナの傍にいればいずれ遭遇するはずである 「さて、一体どんなのが出てくる事やら」 意気揚揚と歩くニーナの背中を眺めながら、星は軽く溜息を吐きながらも 微かな笑顔を浮かべていた 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3621.html
三面鏡の少女 76 ほかほかと湯気を立てる小振りの丸焼きのチキンを中心とした様々な料理 砂糖菓子とチョコレート、マジパンで彩られた可愛らしい苺ショートのケーキ ワイングラスの横に置かれた瓶は、ワインでもシャンパンでもなくアルコール成分の入っていない子供用のシャンメリーである テーブルの傍らにはちかちかとささやかな電飾を瞬かせるイミテーションのツリーも立てられていた 「買出しの時から思ってましたが、日本のクリスマスはおかしいデス」 「そう? 俺にとっては子供の頃からこんな感じだからなぁ」 くくっと喉を鳴らせて笑う星と、何か居心地悪そうにテーブルの上を見ているニーナ 「ま、日本人って宗教観あんまり無いから。こうしてキリストの生誕を祝った後、一週間もしないうちに寺の鐘の音を聞いて、神社に初詣に行くんだぜ?」 「その昔、この国を訪れた宣教師が挫折したのも頷けマス」 ニーナは、はふうと盛大な溜息を吐いて項垂れる 「まー祝うだけならまだしも、日本のクリスマスはすっかりカップルが仲睦まじく過ごす日だからね」 「そうなのデスか?」 「割とそうなの。プレゼントやパーティーにかこつけないと、何もできない根性無しが多いから」 もっとも、星がよく知っているカップルはそんなものにかこつけなくとも、日頃からイチャイチャし通しなのだが ――― 「へくちっ」 「どうした佳奈美、風邪か?」 「んん? 誰か噂とかしてるのかなぁ」 「それはいかん。佳奈美の事を語る輩が居るのはよろしくない。佳奈美が俺のものだともっと世に知らしめないとな」 「風邪! 風邪ひいた、今さっき急に!」 「そうか、じゃあ温かくして汗をかかないとな」 「なんか結果どっちも同じ!?」 ――― 「……なんか、ムカついてきた」 「急にどうしたのデスか、黙ったと思ったら不機嫌になって」 「クリスマスにイチャイチャしてるカップルが多いと思ったらさ、なんとなく。俺さぁ、ずっと好きだった人に春先に振られたばっかでさ」 ややむくれながら、テーブルの上のシャンメリーの瓶を手に取り、きゅっと栓を捻ってポンと軽快な音と共に飛ばす 壁にぶつかった栓が床に落ち、ころころと転がっていたところをニーナが拾い上げてテーブルの隅に置いた 「片付けるのは後でいいのに」 「忘れてて、踏んだりしたら危ないデス」 「真面目だなぁ、ニーナは」 「家事を任せられている身デス。家の安全を考えるのは当たり前デス」 「ニーナが居てくれて良かったな、ホントに色々助かった」 「そんなに家事とかが苦手なのデスか?」 「それもあるけどさ」 並べたグラスにシャンメリーを注ぎながら、星は苦笑する 「一人のクリスマスって超寂しいぜ? 職場の人とか誘おうにも、クリスマスも休めない人ばっかだから気が引けるし」 家族は そう聞こうとして、ニーナは思い留まる 星が今まで家族の話題を口にした事は無いからだ 「どうしたんだ、変な顔して」 「変な顔とは何デスか! それより折角のお料理が冷めてしまいマス!」 誤魔化すように怒ったふりをして、手近な話題に移し 「ん、そっか。それじゃあメリークリスマス」 「今夜はイブデスよ」 「固い事言わない、日本式だから」 「むう」 やや納得がいかなかったニーナだが、そのせいか食事中の話題は世界各国のクリスマス談義となり、彼女の就寝時間となるまで話の種は尽きる事は無かったのだった 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女