約 851 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3455.html
三面鏡の少女 75 むせ返るような、甘ったるいアルコール臭 ワインでずぶ濡れになったニーナは、ふらふらと戦闘の現場を離れていた もっとも、ずぶ濡れの服から滴り落ちたり、ぎっちぎっちと水分を踏む嫌な感触のする靴から溢れたりするワインが、道標のように地面を塗らしているのだが ともあれ激しい運動の直後、気化したアルコールが全身から立ち込める状況の中、着実に酔いが回ってきている 体温は上昇し、視界はぐるぐる回り、経験した事の無い酩酊感が全身を駆け巡る 「……あふぅ」 歩くどころか立っているのも辛くなり、電柱にすがり付いてそのままへたり込んでしまう そんな彼女の元へ、ふらりと現れる黒服の少年、手塚星 何か空から降ってきたかのように現れたが、酩酊状態のニーナにはよくわからない 「何やってんだよ、まったく」 全身ずぶ濡れのニーナを躊躇無く抱き上げると、立ち込めるワインの香りに眉を顰める 「ちょっとした事で力使うと、また怒られるしな。とりあえず帰って風呂にでも放り込むか……酒臭い程度なら誤魔化しようが」 「うぷ」 「ん?」 所謂お姫様抱っこ状態のニーナが、星の黒スーツの襟元にしがみつくように身体を寄せて 「おえー」 吐いた 「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」 手塚星 まだそう長くはない人生だが、ほぼ初めてのマジツッコミだった ――― 「……うーん、ここは何処デスか?」 記憶が曖昧な中、ニーナは見慣れぬ光景に首を傾げていた 「あんな格好じゃ帰れないから、手近にあったとこに入ったんだけどな」 ざばざばとスーツにシャワーでお湯を掛けて汚れを落としている星と、まだぼんやりとした様子のニーナ 「とりあえず、酔いっ放しじゃしょうがないから大雑把にシャワーで流したけど。後はちゃんと自分で洗えよな」 スーツの染みを気にしながらも、ニーナに背を向けたままお湯が出っ放しになったシャワーのノズルを手渡す 「とりあえず着替えを調達してくるから、風呂は済ませておけよ」 「うー……よくあの有様で入れる宿泊施設があったデスね」 「受付が自動販売機みたいで無人だったからな」 濡れた裸足でぺたぺたと浴室を出ていく星 その姿がニーナからも良く見える というか浴室とベッドルームの仕切りがガラス張りだった 「変な作りデス。緊急時の様子が判る介護用の施設なんでしょうか」 「受付も受付だし、訳有りの人間が使うんじゃないのか? 護送中の人間を監視しなきゃいけないとか」 星がマニュアルを見ながら壁に据え付けられたパネルを操作すると、浴室の仕切りが一瞬で曇りガラスになる 「覗いたりしないから、ちゃんと頭とか耳とか洗えよ。随分流したとはいえ、まだ酒臭いからな」 部屋の鍵をポケットに捻じ込んで、上着を脱いだワイシャツ姿で部屋を出る星 「それにしても……『ニーナは危険には出会わない』ように仕込んだはずなんだけどな。俺の能力が甘かったか、それを簡単にぶち抜ける強い相手だったのか。単にワインぶっかける通り魔みたいなのは危険と認識されなかったのか」 事情を知らないままだが、ニーナを問い質しても大した事でなければ話さないだろうし、危険な事であれば巻き込まないようにと尚更話さないだろう 「まー無理矢理聞き出しても仕方ないし。そのうち巻き込まれりゃ嫌でも解るか」 普段の巡回は控えて、出来るだけ彼女と一緒に居よう 「そういやいつもシスターみたいな服ばっかりだし。変なのに狙われてるなら変装の意味合いも含めて、ちょっと可愛いのでも選んでみるかな」 そんな事を考えながら、『ご宿泊』で部屋を取ったラブホテルを出て、服の調達に向かう星であった 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2564.html
三面鏡の少女 48 春先の季節の変わり目は、生活も大きく変化する季節 そんな時期に『病は気から』の契約者の能力もあり、あちこちで体調を崩す者が続発した だがそんな事とは全く関係無く学校を休んでしまっている者が若干一名存在していた ――― 布団を頭まですっぽりと被り、もぞもぞと丸まったり転がったり落ち着き無く動き回っている佳奈美 先日、色々と仕事上のお付き合いであった黒服Hこと広瀬宏也に告白し、お互いの気持ちを確かめ合ったのだが 彼女には、どうしてそういう流れになったかの記憶が一切合財残っていないのだ 「あたしってば、なんでいきなり路上で告白してるかな!? 宏也さんすっごい追い詰められてたっぽいけど何したのあたし!?」 幼馴染であり彼女に好意を寄せていた手塚星が、都市伝説化した己に関する記憶と記録をこの世から消し去ってしまったため、告白までの経過がすっ飛んでしまっているのだ 「しかも告白した後にぶっ倒れるとかどんだけ……あたしって重たい? 粘着? あああああ」 抱え込んだ枕をきゅうきゅうと締め上げながら、ひたすら自問自答を繰り返す佳奈美 そんな彼女の元に、暢気な母親の声が聞こえてくる 「佳奈美ー、ずる休みしてるなら晩に使うお野菜買ってきてー」 「娘をこれっぽっちも信用してないよ!? いやまあ実際そうだからしょうがないけど」 佳奈美はげんなりしながらも、のそのそとベッドから這い出てクローゼットに向かうのだった ――― 「長ねぎ、白菜、人参……白滝に豆腐に鶏肉って野菜だけじゃないよ!?」 メモ用紙を見ながらスーパーへの道をのたのたと歩いていく佳奈美 「八百屋さんだけで済ませようとしないで良かったよ、あーもー」 布団の中でごろごろとしていた身体をほぐすように、ぐーっと伸びをしたその時 視線の先に現れた、見慣れた黒い服の男の姿 「ん、こんな時間にどうした。学校は休みか?」 黒服Hこと広瀬宏也の存在を視認した瞬間、佳奈美の身体が凍りついた 「あ、え、ぅ」 視線はあちこちを彷徨い焦点が合わなくなり 肌はじわじわと赤みを増して、すぐに湯気が出そうなほどに熱くなる 数日悩み考え混乱し続け答えが全く出てない事が、頭の中を高速で駆け巡り 「にゃ――――――――――っ!!!」 よく判らないままにその場から全力で逃げ出していた 宏也と一緒に歩いていた辰也が、その奇行の一部始終を眺めた後にぼそりと呟く 「お前、何やった?」 「何って言われてもなぁ」 ――― ぜいぜいと荒い息を吐きながら、精神錯乱と急激な運動でばかすか動く心臓を宥める 「な……なんでっ……逃げっ……かなっ……」 それだけ『好き』という感情と、それに纏わる記憶の混乱が大きいという事に気付くのは、もう少し時間が経ってからの事だった 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2122.html
三面鏡の少女 33 冬休みも明けたある日の事 いつも通り騒がしい教室の隅の席で、静かに本を読んでる三面鏡の少女 中学から付き合いがある友人は学校内に何人かいるが、高校に入ってから積極的に友達を作ってはいない 都市伝説同士は引かれ合う 事実、それまで全く縁の無かった都市伝説事件が、自らが契約者となってからはそれなりの頻度で起こるようになったからだ 彼女自身が巻き込まれた場合は、黒服Hが裏で立ち回り知らぬ間に解決している事も多いのだが 深くもなくかといって疎遠という程でもない、友人という間柄が目も手も届かなく一番危険だと思うようになっていた だから彼女は、都市伝説に関わりの無い友人を作りたがらないのだ そんな事を知ってか知らずか、彼女の担当である黒服Hは彼女を都市伝説契約者に積極的に関わらせようとしなかった 元より何かに長けた能力があるわけではないので、無闇に関わらせても危険があるだけなので当然の判断ではあるのだが 「逢瀬、ちょっといいか?」 「ふぇ!? ご、ごごご獄門寺くん!?」 少女はその声に聞き覚えがあった あらかさまに動揺し、机に膝をぶつけ本を落としそれを拾おうとして椅子から転げ落ちそうになる 「いや、そういう反応をされても困るんだが」 「あ、あはは、そうだよね? うん、き、気を付ける」 「それより、ちょっといいか? 話したい事があるんだが」 「あ、うん。何かな」 「正月の時の件なんだが」 少女はごしゃんと音を立てて、椅子ごと転がった 「大丈夫か?」 「あ、あはは、うん、大丈夫大丈夫」 打ち付けた額を赤くしながら、転げた椅子を起こし立ち上がる少女 「教室で話すのも難な内容だし、ちょっと場所を変えていいか?」 「うん、できればあたしもそうして貰った方が助かるかも」 じんわりと頬を赤らめ、声を抑えて周囲の様子を窺いながらこくこくと頷き 二人は休み時間の喧騒の中、教室を出て行った 二人の気配が遠ざかっていったのを確認して、それまで無関心を装っていた5~6の男子連中がざざっと一箇所に集まってくる 「おい、獄門寺って委員長と仲良くなかったっけ?」 「妹も可愛いんだよなあいつ」 「小学生ぐらいの子とよく一緒にいるのを見掛けるぞ」 「中学生の子じゃなくてか?」 「それが妹だろ?」 「小鳥遊とも最近親しげだな」 「それでいて逢瀬にも手を出すつもりか」 「しかも何か満更でもなさそうなあのリアクションは何だ」 「あんな逢瀬、初めて見たぞ俺」 「……ちょっと待て。小鳥遊って確か男だろあいつ」 「バカだなお前、あんな可愛い子が女の子のはずないだろ」 「それもそうか」 「待て、お前ら色々と待て。ツッコんでいいところかそこは」 「ああ、かなりツッコミたいな」 「むしろツッコまれてもいいな」 「よしお前ら心の病院行ってこい。脳の病院でもいいぞ」 「そうだぞ、男はもっと筋肉質であるべきだ。そういえばこないだ公園で実に良い男と出会ってだな」 「お前も病院行ってこい」 ――― 「あの、お正月の時の話って……えーと、アレ自体は色々と誤解があると思うんだけど」 「いや、趣味は人それぞれだしそれは問題じゃないんだが」 「問題だよ!? 誤解されっ放しなの!? あの時も目一杯説明したよね!?」 「あの時は特殊なプレイ中だったわけじゃないって言い訳が中心で、事情は説明されてなかったからな」 「いや、その……えーと……」 「あの時は気のせいか、あの黒服のせいだと思ってたんだが」 ひょこりと獄門寺の陰から顔を出す、小さな女の子――花子さん 「みー、やっぱり蛇さんなのですよ。『トイレから出てくる下水蛇』に似てるのです」 「にゃ? その子って……たまに教室に入ってきてたりしたけど」 「花子さんに気が付いてるって事は、都市伝説絡みだと確定か」 困ったような、呆れたようなそんな口調 「花子さんって……獄門寺くん、もしかして都市伝説とか詳しい?」 「そう聞いてくるという事は、都市伝説について説明はいらないな。俺は……詳しいというか、この花子さんと契約してる」 「けーやくしゃなのです」 にぱーと笑う花子さんに、思わず微笑み返しをする少女 「それはともかくとしてだ。正月に一体何があったんだ? もしかしてあの時の黒服のせいか」 「うーん、話せば長くなりそうなんだけど……」 ちらりと視線を腕時計に落とす少女に、つられて獄門寺も時計を見る 「休み時間終わりそう」 「それじゃ続きは放課後だな。用事とかはあるか?」 「ううん、別にこれといっては無いけど……獄門寺くんはいいの?」 「構わない。周りにある面倒事は、ややこしい事になる前に解決しておきたい性分なんだ」 「ん、わかった。でも経緯はめんどくさいけど、そんな大事じゃないからね?」 暗に心配しないでと言っているとすぐに理解し、とりあえず頷いて返しておく 「それじゃ、教室戻ろっか。花子さん、またねー」 笑顔で手を振る少女と、嬉しそうに手を振り返す花子さん 「……大人しい奴だと思ってたけど、結構テンション高い方なんだな、逢瀬」 「そ、そんなにテンション高いかな!? 騒がしかったらごめんね!?」 「普段が普段だから、まあ少し驚いたな」 「うう、誤解が解ければこんなノリにならなくて済むのにー」 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2124.html
三面鏡の少女 35 世はまさにバレンタインデー 女が男にチョコレートを贈るという製菓会社の陰謀も、昨今では既に絶対防衛線を割り込んで男から女に贈る事すらあるという 便乗する商店には数々では特設コーナーが設けられ、そこを訪れる多くの女性と幾許かの男性の淡い恋心や濃い打算が渦を巻いてた 「みんな凄いなー、本命でも義理でもあれだけあげる人がいるんだ」 レジに並ぶ人々の買い物カゴの様々なチョコレートの数々に、三面鏡の少女こと逢瀬佳奈美は溜息を吐いた 「あたしはあげる人もあんまりいないしなー。お父さん以外は……お世話になってる人だと、やっぱりHさんだよね。相談に乗ってもらった獄門寺くんとか」 財布の中身とにらめっこしながら、可愛らしい造形のチョコレートを一つ二つ三つとカゴに入れる 「Hさんは歌手のおねーさんがいるし、獄門寺くんは委員長とか白蛇引き取ってくれたおねーさんとか怪しいよね。あと花子さんとか」 まあ人の恋路の事を気にしても仕方ない 感謝の気持ちを贈る事に専念しよう 少女は念のためいくつか余分にチョコレートをカゴに放り込む 渡す事が無ければ自分で食べてしまおうと考えながら ラッピングされたチョコレートの入った紙袋を提げて、寒空の下を身体を竦めて歩いている少女 いつも帰り道に前を通る公園では、いつもの如く元気に遊ぶ子供達がおり 「やっほー、お姉ちゃーん!」 いつものように元気に駆け寄ってくる、『ファンタゴールデンアップル』の契約者、手塚星 「星くん!?」 即座にスカートをガードする佳奈美 「今日はスカートめくんないから安心してよお姉ちゃん」 「今日は!? 今日限定の優しさなの!?」 「それよりさ、バレンタインデー近いじゃん。最近は逆チョコもあるから、俺もお姉ちゃんにあげようと思って用意してたんだ!」 嬉しそうに鞄を探り、チョコレートのパッケージを取り出す 「ほら、チョコレートあげるから、あーんってして!」 「ふぇ?」 「ほら、早く! 食べさせてあげるからしゃがんでしゃがんで!」 「あ、うん。それじゃ14日に会えるかわかんないし、お姉ちゃんからもチョコをあげよう」 屈んだついでに紙袋からチョコレートを取り出し、まずは少年からチョコを受け取ろうと口を開けたところで 少女の口に差し出しかけたアーモンドチョコを、少年はぱくんと口に放り込んで少女の首に手を回し 「ふ、んむ?」 重ねられた唇と、舌で運ばれ押し込まれる甘いチョコレート 「んー」 「んむ――――――――!?」 唇を食むように愛撫しながら舌を絡めてきたところで、突き飛ばしはしないものの肩を掴んで少年を引き剥がす 「こらー!? そういう事をどこで覚えてくるの!?」 「今時普通じゃない?」 ぺろりと唇を舐めて、無邪気に微笑む少年 「俺は本気だっていっつも言ってるじゃん」 「だだだだだからってねー!?」 「俺だっていつまでも遠慮しないかんなー」 「星くんにはまだ早いっ!」 ぺし、と可愛いラッピングをされたチョコレートの箱で、少年の頭を叩く少女 「もっと人生経験を積んで、色んな人と接して、それでもお姉ちゃんがいいならその時に改めて来なさいっ」 「それまでにお姉ちゃんが他の男に取られたらどーすんだよー」 「あたしみたいなちんちくりんを好きだなんて物好き、星くんぐらいだってば」 少年にチョコレートを押し付けるように渡すと、耳まで真っ赤になりながら少女は立ち上がる 「赤いのは寒いからだかんね!?」 「まだ何も言ってないって。かわいーな、お姉ちゃんは」 ――― 「ドクターはバレンタインのチョコレートとか贈らないんですか?」 「どうした、藪から棒に。ボクの愛が欲しくなったのならそう言ってくれれば、チョコレートと言わずにだな」 「今の俺は女なんで貰う側じゃないです」 「君が女でなければ誘いはせんよ」 「どこまでが本気ですか」 「どこまでも本気だが」 ドクターはそう言って、お茶請けに出されたチョコレートをはむと頬張る 「まあこの通り、ボクは大体貰う側だがな」 受付で微笑んでいるメアリーとミツキ ちなみに茶飲みに現れるご近所のご老人方にもチョコレートは振舞われている 「そういえば君にわざわざ配送でチョコレートが届いてるぞ。学生時代のご縁かね?」 「マジですか。あいつらも律儀だな」 メッセージカードに添えられた名前は、ドイツの大学にいた頃の学友達だ 手作りの食品を海外から輸送するのは衛生上問題ありという事で、わざわざ日本に旅行にきた折に作ったとの事だった 「随分と慕われてるではないか、ん?」 「力仕事とかよく引き受けてた程度の間柄ですよ。知ってるでしょ、あっちにいた時は彼女いたって」 ふとよく見ると、団体名義の大きな箱の横に小さな箱が二つ 「こっちは何なんですか?」 「匂いではチョコレートだと判断するが」 「密封されてるっぽいのによく判りますね」 ドクターの言葉に箱を一つ手に取り――即座に床に叩き付けるバイトちゃん ラッピングに挟まれたメッセージカードには、マッドガッサー事件で女体化された旧友の名が刻まれていたからだ 《一応今は女だしイベントに乗っかってみた。愛だの恋だのは死んでもありえねぇので安心して食え》 「バカやってんじゃねぇよこいつは!?」 「食べ物に罪は無いぞ。食べないならボクにくれ、何か入っていても効かないしな」 「叩き付ける前に言って下さい……もう一つは差出人不明か」 「怪しいならボクがだな」 「ドクターそんなに甘いもの好きでしたっけ? 一応食べますよ、こっちは」 差出人は不明だが、なんとなく大丈夫な気がした バイトちゃんはお茶を啜りながら、箱を開けて手作りらしい歪なチョコを口に放り込んだ ――― 「やあ同僚、折角だから義理チョコをあげよう」 「手ぇ火傷だらけにして何やってんだお前。くれるんなら貰うが」 アメリカの黒服女が小さな包みをぽんと放り、同僚の黒服男が片手でキャッチする 「いやー、失敗しまくると思って材料山ほど用意したのに思いのほか上手くいっちゃって。しょうがないからあちこちで配ってるのよ」 「お前、もしかして日本の元彼に送ったのか」 「そりゃまあね、今でも好きだし。会ったら殺すけど、仕事上」 「難儀な関係だな」 「まったくだわ」 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2666.html
三面鏡の少女 50 「おとーさーん、ごめんなさいってばー」 寝室のドアを叩きながら、困り果てた声を上げる佳奈美 しばらくの間登校拒否に陥っていた佳奈美が元気になったという事で、両親にその事で少し話をしたのだが 原因を訊ねられた折に、言葉を濁しながらも彼氏ができた事を漏らしてしまったのだ 別に反対された訳でも、問いただされた訳でもない 「相談しなかったのは、頼りないからとかそういう事じゃないんだってばー。機嫌直してよー」 異性との関係で悩んでいた事を相談されなかったのが、自分が頼りない存在だったのかとか、妻にばかり愛情を注いでいて娘には足りなかったのかとがっくり落ち込んでしまったのだ 「佳奈美、どう?」 様子を身に来た母に、佳奈美は首を振って応える 「中学の時以来ね、ここまで拗ねちゃったの」 「あの時ほどショッキングじゃないと思うんだけどなぁ」 中学の三年間ほぼ丸々といじめを受けていたという事実を隠していたのが発覚した折に、佳奈美の父はこんな風に自分を責めて引き篭もってしまった事があった 「お父さん、自分の事は平気なのに他人事だと打たれ弱いのよねぇ。佳奈美のお父さんなだけあるわね、ホント」 「おかーさん、言う事キツイ」 げんなりした顔の佳奈美に、母は微笑を浮かべる 「しょうがないわねぇ、晩御飯作ってくるからもう少しお話してみててくれる?」 「うーん、お母さんがお話した方が良くないかな?」 「原因はあなたなんだから、ちゃんと納得させないとダメよ? それに晩御飯の支度、佳奈美一人じゃできないでしょ」 「あぅ」 言葉に詰まる佳奈美を置いて、ぱたぱたとキッチンに戻っていく母 困った顔でドアの傍らに座り込む佳奈美 「おとーさん、内緒にしてたわけじゃなくてね? あたしも何を相談していいのかわかんないぐらいだったんだってばー」 結局、顔を合わせて話をして落ち着くまでには相当な時間を要する事になる そして――近いうちに彼氏を紹介する、そんな約束を母に取り付けられたりして佳奈美が頭を抱えたりもしていた これが、外で黒服Hと共に戦っている手塚星の『佳奈美と、佳奈美の家族が、この騒動の間家から出ない』という状況を望んだ結果という事は、星本人以外は全く知る由も無かったのであった ――― 「うん、ネタバレしたら怒られそうだから絶対言わないでおこう」 「何か言ったか?」 「ううん、別にー?」 『コーク・ロア』の被害者をまた一人組み伏せ、その力で無力化しながら 星は共に戦う男に、内心でこっそり頭を下げていた 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2126.html
三面鏡の少女 37 寒い 寒い とても寒い いくら厚着をしても部屋を暖めても、まるで素肌の上に真冬の冷気が張り付いているかのように 熱い 熱い とても熱い いつもはセクハラ被害で恥ずかしいだけなのに、そういう事をしないで抱き締められているだけで心臓の鼓動が激しくなる 「え、ええ、Hさん、大丈夫だだよ、ああああたし、まままだが我慢できるから」 嘘だ、まともに喋る事すら出来ていないじゃないか そう言うかのように、抱き締める腕に力を込める 「つつ冷たい、でしょ、あたし、えHさんまで冷えちゃうよ」 「心配すんな、身体の鍛え方が違う」 文字通りの意味でな、と内心自嘲し それでも震えが収まらず虚ろな目をしている佳奈美に、Hは最後の手段を取る事にした 「素肌の上に冷気を纏ってるような状態だとしたら、こうやっていてもダメだ。直接肌を合わせて温める」 「あ、あはは、ダメだよ、Hさん、こんな時……まで、せくはら……だ……っ……てば」 一瞬意識が遠のいたのか、かくんと頭が揺れ声が消え入りかける 「生きるか死ぬかが賭かってる時にセクハラも何もあるか」 髪を手櫛でかき上げられ、その手が触れた首筋がほんの少しだけ温かい 「ふぁ……」 吹雪の雪山で暖かいカイロにでも触れたような 安堵にも似た快感に思わず声が漏れ、身体を預けてしまう 「セクハラは元気になってから改めてする。今は身体を温める以外には絶対何もしないから安心しろ」 「あとででも……するなー……」 真っ青な顔でする精一杯の突っ込みを合意と取り、Hの髪の毛が優しく服の下に潜り込む 抱き締めている状態にも関わらず、丁寧にトレーナーを脱がしブラウスのボタンを外して傍らに置いていく 露わになった素肌に触れてみると、凍てつくほどの冷気に晒されて氷のように冷たかった 「あー、Hさんのて……あったかい……」 「触れ合う面積を少しでも確保したい。全部脱がすぞ」 「い、いちいち確認されると余計恥ずかしいよ!?」 「よし、少し元気が出てきたな」 「うにゅぅ……」 正直なところこれで済めば良いと思っていたが、血流を考えれば首、脇、内股、心臓近くは暖める必要がある スカート、タイツを脱がせ、そして 「んっ……ぅ……」 出来るだけ敏感な部位には触れないようにしつつ、下着もするりと取り払う そして直接肌を合わせるために、自分もまた同じように服を脱ぎ 「温めるだけだ。今回ばかりは絶対に嫌がる事はしない」 脇の下をくぐるように両腕を回し、片手は首筋に片手は背中に 胸をぴったりと押し当てて、足を絡めるようにして少女の身体を抱きすくめる 「少しでも寒気は収まってるか?」 「うん……あったかい……でもHさんは大丈夫?」 「ああ、大丈夫だ」 嘘だ 少女の身体に触れている場所が冷たさを通り越して痛い程だ だがそれは少女が感じている冷たさでもある 「……何でHさんはここまでしてあたしを守ってくれるの?」 「担当だからな」 約束だからだ それは決して口には出さない 「Hさん……いつまでこうしていられるのかな」 「そうだな、この町で敵に回したくない奴のツートップが解決に動いてるらしいから、それほど時間は掛からないとみたが」 少女の言い回しに、Hは気付かなかったのか気付かないふりをしたのか 「体温と意識の確保のために、適当に喋りながら時間でも潰すか」 「んー、そう言われても何を話していいのかなー」 それからしばらくの後 元凶が倒され体温が戻ってもしばらく少女は解放されずに大騒ぎとなったのは言うまでもない 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2957.html
三面鏡の少女 56 ペットショップ『ゲルマニア』裏手にある家屋 現在は『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の能力が発動しているため、皆が集まっているダイニングキッチン以外の部屋は風来坊でも探索困難な大迷宮と化している 思い思いに時間を過ごす者達の中で、兎耳を生やした佳奈美は所在なさげに座り込んでいた 今の彼女は守られる立場であり、特にこれといってやれる事が無いのである 「戦って宏也さんの助けになれる能力があればなー」 ぽつりと呟いたその言葉は、たまたま傍にいたマッドガッサーの耳に入る 「戦える彼女ってのも、どこで怪我したりするかわからんし、とにかく心配だけどな」 「なんや、ウチの話? そないな事言うたかてしゃーないやん」 マッドガッサーの背後から、じゃれつくように抱きつく葵 「何かあった時に足手纏いになりたくない、できれば横に並んで一緒に戦いたいって思うのは仕方ないやろ?」 「そう言って、こないだみたいに腕折って帰ってきちゃ世話ないだろうが」 「鍛えてたからそんなもんで済んだんやと思うけどなー」 そこまで言ってから、マッドガッサーはふと首を傾げる 「……お前、何で腕折ってきたんだっけ?」 「……へ? あー、何やったっけ?」 その葵の負傷は、原因である手塚星が己に関する記憶をこの世から抹消したせいで、原因存在について思い出せなくなっている 「なんか野良の都市伝説に絡まれたんやっけ? どっちにせよ、戦えるに越した事は無いと思うけどなぁ」 「男ってのは格好つけたがりだからな。自分の女を傷付けたくないし、手を汚させたくもない。ついでに自分のみっともないとこなんか、絶対見せたかないもんさ」 「ウチはマッドはんなら何を見られてもええけどなー」 「そうは言うが、こないだ原稿で一週間徹夜した後の姿を見たら、ハリセン持って追いかけてきただろ」 「ものには限度っちゅーもんがあるやろ!?」 意地悪そうに笑うマッドガッサーの頬を、真っ赤になりながらむにむにと引っ張る葵 「まあ結局のところは適材適所だ。安心して帰ってこれる場所があるってのも、もの凄く大事だとは思うぞ?」 神妙な顔で話を聞いていた佳奈美の頭を撫でるように、その手がそっと触れた瞬間 「ふぁ、んぅっ!」 やけに色っぽい声を出して身悶えする佳奈美 「マッドはん、何してん?」 咎めるでもなく興味津々といった様子で身を乗り出す葵 「いや、頭を撫でただけなんだが……もしかしてこの兎耳か?」 「さ、触っちゃダメ、ひゃふっ!?」 「ロレーナ、この耳って何でこんなに敏感なんだ? 性的な意味で」 「んん? 別にそんな効果は付けた覚えは無いんだがねぇ……慣れない感触に敏感になってるだけじゃないかねぇ?」 そちらを見てみると、犬の耳と尻尾を付けた金髪の少女が、鏡を見ながら自分の耳をもふもふと触っている 「じゃあ単にこの子がエロいって事で」 「にゃー!?」 戦闘から守るために隔離された空間とはいえ、余りにも暢気な空気であったとさ 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1361.html
三面鏡の少女 20 「ハロウィン小ネタ」 「トリック・オア・トリート!」 寒風吹き荒ぶ寒空の下、公園で元気に跳ね回る子供達の姿 その中の一人――見た目は小学校高学年ぐらいだろうか、毛皮のマントに狼の頭を模したフードを被った少年が少女の元に駆け寄ってくる 「こんにちはー、そういえば今日はハロウィンだっけ」 「そうそう、だからお菓子をくれないと悪戯をするぞー!」 「ごめんねー、図書館行くところでお菓子とか持ってないのよ。また今度……」 「それじゃあ悪戯だー!」 すぱっと振り上げられる少年の両手 舞い上がるは少女のスカート 子供達の視線に晒される青と白の三角地帯 「んにゃー!?」 「縞パンだー、でもお姉ちゃん相変わらずあんまり色気ないなー」 「色気とか子供が気にする事じゃないでしょ!? というか女の子のスカートめくったりしないの!」 「いいじゃん、俺は将来姉ちゃんと結婚するんだから。先払いって事で」 そう言って、楽しそうに笑いながらあっという間に逃げ出してしまう少年 「そんなの通用しないわよー!? 待ちなさーい!」 スカートの裾を正しながら、少女は真っ赤な顔で少年を追い掛ける 「結婚するんだから大目に見てよー。というか、むしろ俺が色々見るけどさ」 「見せないっ! 今日という今日はちゃんとおしおきー!」 公園の遊具を駆使した障害物競走状態に、少女は少年に全く追いつけない そして数分後――息が上がりバテきった少女と、涼しい顔の少年の姿がそこにはあった 「お姉ちゃんまだまだ鈍臭いなー。でもそういうとこも好きだぜー」 余裕綽々で手にした缶ジュースに口をつける少年 そのジュースは――ファンタ・ゴールデンアップル かつてその存在は都市伝説として語り継がれたもので、いつしか話題性のためか本当に発売される事となった清涼飲料水 少年の契約したその都市伝説の能力は『語り続けた事は真実となる』である 今はまだその力は小さく、長い時間を掛けなければ小さな事象すら発動しない、ある種の願掛け程度の能力しか無い 本当にこの力を使いこなす事ができれば、少年は世界を自由に改変できる事になるのだが――そんな事は全く思い浮かばないのは子供である故か 「俺、ちゃんと勉強して良い仕事に就いて、きっとお姉ちゃんを幸せにしてやるからさー」 「立派な大人になる頃には、あたしなんかきっとおばさんだってば」 「俺が10歳でお姉ちゃんが16歳だろ? 俺が大学出て22歳になってもまだ28歳、いけるいける」 「そんな年齢まで独り身だと思うなー!?」 果たして少女を射止めるのはこの少年なのか、はたまた別の誰かなのか ……もしかしたら一生独身だったりという選択肢も無くはないのだが 終われー 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3847.html
三面鏡の少女 81 濃い茶色の毛並と立派な巻き角 二足歩行の山羊といった風体を手乗りサイズの二頭身にまで押し縮めたその悪魔は、空き地に積まれた土管の中で溜息を吐いた 「いやまあそりゃあ俺は悪魔だがね? 過去の所業や同族のネームバリューだけでその身が危険に晒されるのってマジどうよ?」 学校町のあちこちに点在する都市伝説『漫画みたいな空き地』にて 過去に手塚星に憑いていた『悪魔の囁き』はカリカリと固形のペットフードを齧りながら語る 「お前も大変だったんだな……まあ食え、そして飲め」 試供品サイズのペットフードの袋を開けて皿にざらざらと盛り足し、栄養ドリンクの瓶に入ったマタタビ酒をペットボトルの蓋に注ぐ猫 エメラルドグリーンの瞳をした銀色の長い毛並をしたペルシャ猫の一種で、毛色からチンチラと呼ばれる種である 「価値観の相違ってのは恐ぇもんだなオイ……やっぱり人間にロクな奴は居ねぇ」 南アメリカ原産の齧歯類、やはりこちらもチンチラが、知った顔でうんうんと頷く 「待てやコラ、人間で一括りにすんじゃねぇよ。うちのご主人は見てて行く末が心配になるぐらい人が良いんだぞコラ」 「うちのご主人が居なけりゃ、どうなってるかわかったもんじゃねぇ危なっかしさだからな、確かに」 小馬鹿にしたように笑う齧歯類に、ペルシャ猫が毛並の下にビキリと血管を浮かせる 「おいコラ、ご主人を馬鹿にするって事ぁ俺を馬鹿にするのも同然だって判ってんのか、あぁ?」 「ペットは飼い主に似るって言うからなぁ?」 「あぁん? じゃあ手前ぇは乳好きか? うちのご主人の乳ばっかり見てる飼い主に似て」 「待てやコラ!? いつうちのご主人が手前ぇのご主人の貧相な乳なんぞ見てたっつーんだよ!」 「言うに事欠いて貧相だぁ!? いっぺん抱かれてみやがれってんだ! そもそも具体的なサイズはだな」 「はいそこまで」 土管を覗き込んでいた女性、猫の飼い主が服が汚れる事など気にせずにずりずりと土管の中を這い進んできた 「げ、ご主人!?」 「あんまり表で変な話しちゃダメでしょ?」 「まあなんつーか、売り言葉に買い言葉っつーかな?」 ばつが悪そうに誤魔化すペルシャ猫を、両腕でわしわしと撫で回す飼い主の女性 「ネズミさんはいつもの子だけど、そっちの子は……ヤギさん?」 「家に恐ぇ奴が居て帰れないんだとよ」 「そうなんだ、それじゃあうちに来るといいよ。まだまだ寒いもん」 言うが早いか三匹纏めて両手で抱え、土管の外へとずりずりと這い出していく 土管の外に置いてあったバッグを拾い、両手で猫、ネズミ、山羊の三匹を胸元を開けたコートの中に抱え込む 「んー、もふもふ。やわらかーい、あったかーい」 「……貧相ってぇのは訂正だ。どんだけ着痩せしてんだこれ」 「おう、恐れ入ったか。お前のご主人が見惚れるのも納得だろうよ」 「うちのご主人が見てんのは顔だ、顔。目ぇ見て話す主義なんだよコラ」 相変わらず険悪な二匹と、ついでに温かく柔らかい感触に挟まれて、『悪魔の囁き』は安堵の溜息を漏らす 「ああ、話す相手が居るって良いなぁ……囁く相手が居ないのマジ辛かった」 かくしてニーナと顔を合わせるとまずいという理由で星の元から逃げ隠れた『悪魔の囁き』は、仮住まいを確保したのであったとさ 前ページ次ページ連載 - 三面鏡の少女
https://w.atwiki.jp/olgn/pages/431.html
リチュアの三面鏡 儀式魔法 手札の「リチュア」と名のついた同じレベルの儀式モンスター2体を選び、自分の手札・フィールド上から、それらのモンスターと同じレベルになるようにモンスターをリリースする。その後、選んだ儀式モンスター2体を特殊召喚する。 また、自分のメインフェイズ時に墓地のこのカード及び「リチュア」と名のついた儀式モンスター2体をデッキに戻す事で、「リチュア」と名のついた儀式モンスター1体を手札から特殊召喚できる。 【リチュア】(おにやなぎ)