約 4,475,789 件
https://w.atwiki.jp/imasss/pages/978.html
響「プロデューサーはさ、自分のこと好き?」 執筆開始日時 2012/08/07 元スレURL http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1344345099/ 概要 P「いきなりどうした? そんなこと言い出すなんて、珍しいな」 響「いーからいーから、答えてよっ! 自分のこと、好き?」 P「そうだなあ……」 響「うんうん!」 P「……」 タグ ^我那覇響 まとめサイト あいえす-アイマスのSS- えすえす SSウィーバー SSだもんげ! SSちゃんねる SS保存場所 プロデューサーさんっ!SSですよ、SS!
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/544.html
【破】 2章 秋葉原中央病院 AM6:00 意識が深い深い海の中からゆっくりとと浮上していく。 カーテンの隙間から漏れてくる朝日の光が、細い線となり顔に差し込む。 ……あれ、ここ ? 先程までの夢と見慣れぬ景色のせいで、意識がまだぼんやりとしている。 寝ぼけ眼のままベッドの方へ視線を動かすと、静かに寝息をたてて眠っている京介が映る。 どうやら京介の手をずっと握ったまま、朝まで眠ってしまったらしい。 ふと、先程見た夢の内容が驚くほど鮮明に思い出される。 京介がどこか遠くに、私の手が届かないところまで行ってしまう夢。 自分の息が途端に速くなり、まるで胸を万力で締め付けられるような寂寥感に苛まれる。 「……京介が居なくなるなんてイヤ。」 先程の夢を追い払おうと小さく呟き、眠り続ける京介の手を強く強く握り締める。 繋いだ掌から京介の温もりが私の中に広がり、 夢で感じた焦燥感が少しだけ剥がれ落ちてくれた。 それでも全ては拭い切れず、自然と私の瞳からは涙が溢れ出す。 「ぅっ…ぐ…京介ぇ。」 そして改めて認識する 。 私にとって、京介がどれだけ大切な存在かを。 私は京介のことが好きなんだということを。 今まで様々な言い訳を並べ立てて、逃げて、誤魔化してきたけれど、 好きという気持ちを自覚すると、先程までの不安がすうっとどこかに霧散していく。 「側に…いてよ……。」 そのたった1つの言葉に様々な感情をのせて、京介の手を両手でぎゅっと包み込む。 …………ピクっ ――――!! 握った手に、京介の指が本当にわずかだが、動く気配があった。 指が動いたことで、予感と確信を抱いて京介の顔を凝視する 。 「ん…んん ……。」 小さくうめき声をあげ、京介の瞼がゆっくりと開かれていく。 「っ… う…。」 嬉しさや愛しさといった感情で心の中が一杯になり、 瞳に溜まっていた涙がポロポロと零れ落ちる 「よかった…京介…京介ぇ………!!」 涙で顔がくしゃくしゃになるのも気にせず、 私は京介の胸に飛び付き、顔を埋めて涙を流した。 「少し眩しいですが我慢してくださいね。」 先生が、目にライトを当てたり頭の傷を触診したりと、 京介の状態を1つ1つ確認している。 あの後、私は京介に抱きついたまま、 お父さんとお母さんが荷物を持ってきてくれるまでずっと泣き続けた。 お母さんも京介が目を覚ましたことに感極まって涙を流し、 すぐに先生に伝えてくれたのはお父さんだった。 そして今、私達は不安な面持ちで、先生の診察を見守っている。 「京介さん、ここがどこかわかりますか ?」 患者に不安を与えないためだろう。 丸めがねをかけた先生は殊更柔らかい口調で京介に確認をとる。 「えっと……病院?」 京介はまだ頭がはっきりしないのか、先生の質問に単語だけで答える 。 「そうです。京介さんは昨日事故にあってここに運び込まれたんですよ。 どこか体に違和感はありませんか?」 「……頭がなんだかはっきりしません。 」 「京介、あんた本当に大丈夫なの? どこか痛くない!? 」 京介は頭に手を置きながら、わからないとだけ答える。 その重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、お母さんが京介に声をかける。 「…えっと……?」 お母さんに声をかけられただけなのに、何故か困ったような顔をする京介。 そして、先生に訝しげに尋ねる。 「先生。あの、すいません…。この方達は……?」 ―――――――!!! その言葉に、私は頭を金槌で殴られたような強い衝撃をうける。 いま、京介はなんて言った…!? 「き、きょうす…け?」 「…………?」 途絶えがちになりながらも、なんとか私はか細い声を絞り出して京介に問い掛ける。 しかし、まるで赤の他人を見るかのような京介の目に射抜かれてしまう。 「あっ……う。」 その冷たい視線は、私の心を一瞬で凍りつかせるのに十分だった。 二の句が継げられず、足に力が入らなくなって倒れそうになる。 「高坂さん。桐乃さんをお願いします。」 先生が途端に険しい表情になり、私をお父さんの方へ押しやりつつ京介に問い掛ける。 「京介さん、ご自分のお名前はわかりますか? 」 「……高坂京介。 」 「では、あなたのご両親のお名前は?」 「…………… っ。」 先生の質問に答えようとするが、答えが出てこないことに気づき、 京介は絶句する。 「すいません、高坂さん、桐乃さん。 少し京介さんの状態を確認をしますので、 部屋の外でお待ちいただけますか?」 「…………。」 「……はい 。」 まだ衝撃が抜けきらず、先生の声に全く反応できない私を、 お母さんが優しく、しかし有無を言わさぬ強さで外に連れ出す。 私達が外にでるのと入れ違いに看護婦さんがバタバタと病室に入っていく。 京介が目を覚まし喜んだ直後だったこともあって、 反動は大きく、頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していく。 『なんで…なんで……?』 廊下で呆然と立ち尽くす私の中では、 同じ言葉が何度も何度も繰り返されている。 私のことを、まるで他人のように見る眼。 両親の名前がわからずに口ごもる。 このことから考えられることはただ1つだろう。 けど、信じられない。信じたくないっ! 私は自分の中で急速に膨れ上がる恐怖から、お母さんの腕にすがりつく。 しかし、お母さんの腕も小刻みに震えており、更に重苦しい空気に包まれてしまう。 私達が廊下に出てどれほどの時間がたっただろうか。 実際は5分もたっていないだろうが、 まるで何時間も待ち続けたように私の気持ちは沈んでいた。 静かに病室のドアが開かれ、先生が廊下に顔を出す。 「先生っ…京介は? 京介は大丈夫なんでしょうか!? 」 「お母さん、どうか落ち着いて下さい。 事情をご説明しますので、あちらの部屋へ。」 先生に促され、私たちは少し離れた場所にある診察室に案内される。 そこで、私達にパイプ椅子を勧めて全員が腰を落としてから、 先生は口を開いて、ゆっくりと語り出した。 「京介さんのことですが……。 高坂さんもある程度予想されていると思いますので、 単刀直入に申し上げます。」 先生はそこで一息の溜めを作り、私達が覚悟を決めるための少しの猶予を作る。 「……京介さんは記憶障害の可能性があります。」 ―――――!! ある程度覚悟をしていたとはいえ、 改めて先生から事実を告げられて大きく息を飲む。 「先程のテストで、京介さんはペンを持ったり箸を使うといった、 基本的な動作については問題ありませんでした。 ですが、過去の記憶、特に家族や友人といった、人間関係の記憶が非常に希薄な状態です。 自身のことも、名前が京介だということ以外は、性格や学校生活といった 個人に関する記憶も非常に曖昧で思い出せないようでした。」 私はあまりの衝撃的な事実に絶句し、 手で口を抑え、漏れ出そうになる悲鳴をなんとか留めることしかできない。 「大きな事故に遭い、記憶が断片的に失われるケースはよく知られています。 ですが、今回の京介さんのケースでは、ほぼ全ての記憶が失われています。 恐らく、事故の時に頭部を強打したことが原因だと思われますが、 詳しいところは精密検査を受けて頂かなければ何とも申し上げられません……。」 「そ、そんなっ! うちの京介の記憶は元に戻るんでしょうかっ!?」 先生は淡々と京介の置かれている状況を説明していくが、 お母さんがその内容のあまりの重たさに、話を遮って京介の記憶が戻るかを質問する。 「……申し訳ありません。 今、私の口からは正確なお答えをすることはできません。」 「そんなっ―――!?」 その言葉は私にとって死刑宣告のようなものだった。 ズンッととてつもなく重いもので心と体が押し潰されるような錯覚に陥る。 記憶が一生戻らない可能性を考えると、 その責任の重さで、思わず椅子から崩れ落ちそうになる。 「不安になるお気持ちはよくわかります。 ですが、どうか落ち着いてくださいっ。 今、誰よりも不安を感じているのは京介さんなんです。 加えて、京介さんの記憶を戻すためには、ご家族の方の強い協力が必要不可欠なんです。 どうか京介さんを支えるためにも、気持ちを強くもってくださいっ。」 私達の落ち込む姿を見て、先生はやや語気を強めて檄を飛ばす。 その言葉に、私達全員がハッとする。 そう、記憶を失ってしまった京介を支えることは私達にしかできないのだ。 その私達が不安にかられていたら、京介の不安を取り除くことなんてできなくなってしまう。 「「「…………。」」」 私達は顔を合わせ、それぞれの決意を胸に頷きあう。 「わかりました。 先生、本当にありがとうございます。 うちの京介共々、どうかよろしくお願いします。」 お父さんが私達を代表して、先生に深々と頭を下げながらお礼を言う。 「いえ、私も出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした。 こちらもできうる限りバックアップはさせてもらいますので、 京介さんのために頑張りましょうっ。 それでは……。」 私達の心に決意の火が灯ったことを確信した先生は、 再び優しい声色に戻り、今後の予定を説明していく。 この後はまず、京介と私達の顔合わせを済ませてから、精密検査を行い結果を見ることになった。 検査で体の方に大きな問題が無ければ、昼までには退院ができるだろうという言葉に、 お父さんとお母さんはにわかに活気づく。 怪我をした息子が遠く離れた病院にいるという状況は、 やはり2人にとっても辛いものだったのだろう。 そして私も、これから京介を支えていくことにかける意気込みを新たにして、 色が白く変わるほど強く両手を握りこむ。 だって、京介を支えられるのは〝私だけ〟なのだから………。 【破】 2章 完
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1631.html
211 :Monolith兵:2013/04/01(月) 19 45 23 ※このSSにはTS要素が含まれています。ご注意ください。 ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない!」 没ネタ その3の初期案。 『俺の曾孫はこんなに可愛…』 あの夜、京介は桐乃の提案を受け入れた。それは日本の未来のためであったし、前世の自分が行ってきたことの延長でもあったからだ。 しかし、本音を言えばそんな建前を立てたとしても女の子を一人犠牲にするのは気が引けた。しかも、その女の子は前世での自分の曾孫に当たるのだ。 そのような葛藤を持ちつつも、桐乃の協力で京介と新垣あやせとの接点は増えていった。そんな中妹は表の顔であやせと京介に付き合っていたが、中の人を知る彼は気が気ではなかった。何背あの”魔王”なのだから。 そうして京介とあやせは友人といってもおかしくない程度には仲がよくなっていた。そんなある日のこと、京介はあやせにメールで近くの公園へと呼び出された。 「おまたせ。」 「いえ、私が呼び出したのですから。」 彼女は既に公園で待っていたので謝罪をした。外見は平凡な高校生であるが、中身はいい年をした爺なのだ。酸いも甘いも多く経験している。 それはともかく、なぜ彼女が呼び出してきたのかを彼は尋ねた。その答えはいつの日かの妹と同じものだった。 「実は、お兄さんに人生相談があるんです。」 それを聞いて京介は顔を引きつらせた。何せ以前妹と思っていたら中身が辻正信だったという悪夢があったのだから。しかもその悪夢は現在も絶賛継続中である。 「桐乃にお兄さんが頼りになるという話を何度も聞いています。だから、お兄さんに相談したいことがあるんです。」 そして一度言葉をきって再び話し始めた。 「実は、少し前から桐乃の様子がおかしいんです。以前はしなかったお兄さんの話を浴するようになるし、その話をしている時も何かにやけていますし。あんな桐乃見たことありません。でも、私には何が原因なのかお兄さんに聞くしかないんです。お兄さん。桐乃に何を、いえ、何をしたんですか!?」 あまりの言葉に京介は頭を抱えた。何であの桐乃(=辻正信)が学校ではブラコン娘になっているのか。そして何故それが原因で自分が妹に手を出して変態鬼畜シスコン男になってしまっているのか。あまりな展開に京介の頭は現実についていけなくなっていた。 「本当のことを教えてください!」 あやせは一歩踏み出して回答を促した。京介が顔を上げると、手には何かを持っていた。 「俺はあいつに何もしていない!ただあいつの相談に乗って今まで悪かった兄妹仲が改善されただけだ!」 京介は妹の趣味のことを伏せて真実を話した。しかし、あやせも親友のことなので一歩も引き下がらない。 「その相談というのが何なんですか!如何わしい事をしたんじゃないんですか!」 「妹にそんなことをする兄がどこにいる!というか俺もあいつもそんな感情は一切持ってない!!というか鳥肌立ってきた。」 あの妹とそんな関係になるということを考えただけで、京介は寒気に襲われた。中身が爺同士でそんなことをするなど、現状以上の悪夢、いや地獄だ。 「だったら何で桐乃はあんなににやついてるんですか!それにお兄さんが桐乃に手を出さないって言う確証も、手を出していないって言う証拠もないじゃないですか!」 あまりな内容の応酬に彼の頭は沸騰寸前だった。だから、ついあんなことを言ってしまったのだった。 「俺が、俺が大好きなのはお前だ!」 この言葉は実は嘘ではない。あやせは京介の前世の曾孫である。彼は前世で最後を看取ってくれた孫娘を愛していたし、その娘であるあやせも愛していた。大切だった。しかし、それを口に出して言うことはできない。彼にできるのは桐乃に協力してもらいあやせの様子を教えてもらうことくらいであったのだ。そして、曾孫に対する愛情は確かに大きくなっていた。 それに対するあやせの反応は口を手で覆って絶句していた。心なしか頬も赤い。それを見て、京介は(やっちまった…)と思い少し落ち込んだ。だが、これで彼女の誤解も解ける、かはともかくこの場は誤魔化すことができそうだと思い直した。 しかし、その考えはすぐさまひっくり返されるのだった。 「…あのな、女の子に告白するんならもっとムードを考えろよ。それに、お前は実の妹だけでなく曾孫にまで手を出す変態野郎だったのか。見損なったぞ嶋田!ん?俺が誰だって?この姿じゃわからないだろうな。俺だ、山本だよ、嶋田。」 その言葉を数秒かけて理解した京介は、あの日の悪夢のことを思い出し、胃の辺りを押さえつつゆっくりと倒れこんだ。そして、鉄の味と臭いがするのを憶えながら彼は意識を放棄した。 あやせ√BADEND
https://w.atwiki.jp/keroro00innovator/pages/1131.html
大好きなのに 大好きなのに アーティスト Kylee 発売日 2013年2月13日 レーベル DefSTAR RECORDS デイリー最高順位 6位(2013年2月16日) 週間最高順位 14位(2013年2月19日) 月間最高順位 34位(2013年2月) 年間最高順位 352位(2013年) 初動売上 1642 累計売上 3533 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 大好きなのに 絶園のテンペスト OP 2 Anywhere ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 2/19 14 新 1642 1642 2 2/26 ↓ 710 2352 3 3/5 534 2886 2013年2月 34 新 2886 2886 4 3/12 370 3256 5 3/19 277 3533 絶園のテンペスト OP 前作 次作 Spirit InspirationNothing s CarvedIn Stone 大好きなのに 関連CD 僕たちの歌
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/520.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/275-303 はぐれちまった――その事実を噛み締めた次の瞬間には、 俺は携帯のメモリからあやせの連絡先を呼び出し、通話ボタンを押していた。 無機質な電子音が反復し、 「もしもし、あやせか?」 「お兄さん?今どこにいるんですか?」 「俺はあやせとはぐれた場所から動いてない。 あやせの方こそどこにいるんだ?」 「分かりません。周りに見えるものも、似たような露店ばかりで、特徴がなくて……」 か細い声を聞きながらも、俺は安堵していた。 携帯で情報を共有しながら探せばすぐに発見できると、高をくくっていたのだ。 「とりあえず、何でもいいから目に着いたものを、」 「お兄さん?何を言ってるんですか?」 脈絡の無い遮り方から、最悪の事態を予想するのに、そう時間はかからなかった。 まさか――。 「俺の声が聞こえてないのか?」 「お兄さん、わたし、携帯の充電が……」 「あやせ、とりあえずそこから動くな。 両方が好き勝手動いたら、入れ違いになることがあるかもしれない」 ふつりと通話の線が途切れる。 俺の言葉が届いたかどうかは分からず終いで、 どちらかと言えば聞こえていなかった公算が大きい。 ああ、クソ。 俺を置いて勝手に歩調を早めたあやせに、 折悪しく二人の間に割って入った御神輿に、 そしてあやせとはぐれる可能性に思い至らず、暢気に携帯を弄っていた自分に腹が立つ。 俺は地理に暗い頭をフル回転させて、 おそらくはあやせが『俺とはぐれたことに気づいた場所』に赴き、 「朝顔模様の黒い浴衣を見た、俺と同い歳くらいの女の子を見ませんでしたか」 と聞き込み作業を開始した。 が、色好い反応は梨の礫、誰もが迷惑そうな顔をして、首を振るか、無視するか。 人波は休みなく流れ、時々刻々とあやせの目撃情報は失われていく。 巡回中の警官にあやせの人相と俺の電話番号を伝え、 見つけたら連絡してもらうようにお願いしたが、 往来にあふれかえる浴衣姿の女の数を考えると、とても期待できそうにない。 どうして、はぐれた時のために待ち合わせ場所を設定しておかなかった。 どうして、無理矢理にでも手を繋いでおかなかった。 後悔の濁流が逆を巻く。 俺の主観を抜きにしてもあやせは美人だ。 そんなあやせが一人、不安げな顔をして彷徨っていたら、悪漢の良い標的である。 「絶対見つけてやるからな」 独りごち、駆けだした。 焦燥と熱気で既に全身は汗みずく、顎先から汗が滴り落ちたが、今は拭っている時間も惜しい。 唯一の救いは進路を邪魔するヤツが誰もいないことだった。 ハッ、女児向けアニメのヒロインを脇に抱えた汗まみれの男が全力疾走してきたら、そりゃあ誰でも道を譲るわな。 涼やかな眉宇。玉石のように濡れ光る両の瞳。 高い鼻梁。薄紅色の唇。処女雪の如き白い肌。 あやせの顔を脳裏に描きながら、大通りを何度も往復する。 ……いない。 御輿の通り道になっている、脇道も探してみた。 喧噪を嫌う家族連れや老人と、寂れた屋台しか目に着かなかった。 どこか、見落としている場所でもあるのか。 まさか、あやせはもう……。 最悪の可能性が脳裏を過ぎり、背筋を冷たいものが滑り落ちた。 その時だった。 「イヤですっ!」 「そうは言ってもよぉ、嬢ちゃん。 いい加減に折れてくれねえと、俺たちも困るんだわ」 「な、ちいっとばかし、車に乗るだけだからよ」 高く澄んだ拒絶の声と、低く野太い猫なで声。 視線を向ければ、路傍に小さな人集りが出来ていた。 屈強な男たちが人壁を造り、その近くには黒塗りのライトバンがアイドリング状態で停止している。 思考が働くよりも先に、足が動いていた。 顔を見るよりも前に、名前を呼んでいた。 「あやせっ!」 ラッセルの要領で人壁をかき分け、輪の中心に躍り出る。 いた。やっと見つけた。 「お兄さんっ!」 憂いを帯びていた表情に、ぱっと大輪の花が咲く。 矩形の御影石に腰掛けていたあやせが、立ち上がりかけ、姿勢を崩す。 俺は駆け寄り、体を支えてやりながら、 「大丈夫か?何もされてないか?」 あやせはふるふると首を横に動かし、 「でも、転んで、足を挫いてしまったんです。 お兄さんを探して走っているときに、下駄の鼻緒が切れてしまって……」 浴衣の裾から覗いた右足首は、確かに、少し腫れているように見えた。 怪我を庇いながら歩くことはできても、走って逃げることは難しそうだ。 しゃーねえ、ここは一丁腹を括るか。 俺はあやせを一人で立たせ、居並ぶ悪漢どもをギロリと見据えた。 どいつもこいつも鋳型で作ったみたいに、豪腕、巨体、極道面の三拍子揃ってやがる。 土下座して見逃してくださいと懇願しても、たぶん、一顧だにしてくれないだろう。 無論、そんな情けねえマネをする気は端からないがな。 だって、あやせが見てるんだぜ? それにさ、マンガの主人公みてえなセリフ、一度言ってみたかったんだよな。 『逃げろあやせ、こいつらの相手は俺がする!』ってな感じのセリフをよ。 俺は見よう見まねのファイティングポーズを取り、 「逃げろあやせ、こいつらの相手は――」 「遅かったじゃねえか兄ちゃん、こっちはアンタのことずっと待ってたんだぜ」 「へ?」 朗らかな笑みを浮かべた男どもに、べしべしと肩を叩かれる。 痛い、あの、マジ痛いっす、いやホントマジ痛いんで勘弁してください。 クスクス笑いに気づいて振り返れば、 おいおい、俺の決死の呼びかけが聞こえなかったのか? あやせはその場から微動だにしちゃいなかった。 「ふふっ、おかしい」 おかしいって何が? 「お兄さんは勘違いをしています。 その人たちは、お祭りの運営をしている方々ですよ?」 ……マジで? 「襲われてたんじゃなかったのか?」 「まさか。逆です。 わたしが足を挫いて動けなくなっているところを、助けて頂いたんです」 愕然としたね。 人聞きの悪いこと言うでねえ、と呵々大笑する男たち。 年配の方が言った。 「足は見た感じ大事なさそうだが、こんなところでジッとしてるよりは、 応急医のいる休憩所で、看てもらったほうがいいと思ってなあ。 歩かせるのも酷だと思うて、車を手配したんじゃが、 嬢ちゃん、絶対あんたが迎えに来てくれる言うて、テコでも動かなかったんじゃ」 手配した車とは、あのライトバンのことだろう。 冷静になって見返せば、男たちは全員、同じ町章入りのシャツを着ていた。 拉致寸前の状況は、完全な俺の脳内妄想だったらしい。 安堵と同時に、顔から火が出そうなほどの羞恥に見舞われた。 身を隠せる穴はどこにもなく、掘ろうにも悲しいかな、アスファルトの固さは如何ともし難い。 「さて嬢ちゃん、いい加減、休憩所に行かねえか。 望みどおり兄ちゃんと合流できたんだ、一緒に乗りゃあいい」 「いえ、本当にお気遣いなく。 ゆっくり歩く分には問題ありませんし、 何より、休憩所で時間を潰していたら、 せっかくお祭りに来た意味がなくなっちゃいますから」 「……そうか。 それじゃあ俺たちは見回りに戻るからの、後は任せたぞ、兄ちゃん」 「う、ういっす……痛てて」 最後に馬鹿力で俺の肩を叩き、男衆は散っていった。 はぁ、と深い溜息を吐いて、御影石に座り込む。 傍らにはブルーハワイのかき氷があった。 誰のだ、と尋ねると、 「さっきの方たちが、わざわざ買ってきてくれたんです」 至れり尽くせりだなオイ。 「これ、ちょっと食べてもいいか」 「か、構いませんけど……」 返事を訊くや、俺は一気にかき氷をかきこんだ。 うめー。冷てー。喉の裏側の痛みがたまんねー。 走り通しで疲弊しきった体に、水気と甘味の染みること染みること。 あやせは唖然たる面持ちで俺の食べっぷりを眺めていたが、やがて切なげに目を細めると、 「……すみませんでした」 「なんでお前が謝る?」 「あのとき、わたしがお兄さんから離れなければ、こんなことにはなっていなかったでしょう?」 「そもそも俺が余計なことを言ってなけりゃ、お前が俺から離れようともしてなかったはずだぜ」 「それを言うなら、お兄さんのセクハラ発言を軽く聞き流せなかったわたしに原因があります」 「いいや、調子に乗りすぎた俺が悪かった」 「いいえ、悪いのはお兄さんを調子づかせたわたしです」 「あやせに責任はねえよ。聞いて驚け。 俺はお前が近くにいるだけで自然にテンションが上がってくる、特異体質の持ち主なんだ」 議論は果てなく平行線を描くかに思えた。 が、あやせの一言が終止符を打った。 「じゃあ、言い方を変えます。 迎えに来てくれて……ありがとうございました」 「お、おう」 謝罪の言葉は受け取れなくても、感謝の言葉なら受け取れる。 あやせはそっぽを向きつつ、 「一人になってからも、鼻緒が切れて身動きが取れなくなってからも、わたしは心細くありませんでした。 お兄さんなら絶対にわたしを見つけてくれるって、信じてましたから」 「あやせ……」 「だって、前に言ってたじゃないですか? わたしの匂いなら1キロ先からでも分かる、とか。 神経を研ぎ澄ませればわたしの心が読める、とか……」 わ、我ながらキモイな。 けど、そこまで言ったことあったっけ? セクハラの限度は弁えてるつもりだが、ハッキリと否定できないのが俺が俺たる由縁である。 「まぁ、真面目な話……お前が危ない目に遭ってなくてよかったよ」 「お兄さんは、わたしがあの人たちに連れ去られかけていると思っていたんですよね?」 「恥ずかしながらな」 「もし本当にお兄さんの想像どおりだったら、どうしていたんですか?」 「どうしていたも何も、そりゃあ、お前を助けようと頑張ってたんじゃねえの。 つーか、あの輪の中に飛び込んだ時点で、逃げ場はどこにも無かったんだ。 最初から覚悟は出来てたさ」 「お兄さんには勝てる自信が?」 「いいや、からっきし。 俺の親父は警官で、しかも柔道の有段者でさ。 ガキの頃に基礎だけしっかり叩き込まれたんだが、今じゃ全然思い出せねえ。 喧嘩に関しちゃ、俺は素人だよ」 「じゃあ覚悟というのは、ぼこぼこにされる覚悟……?」 「多勢に無勢でも、時間稼ぎくらいできるだろ。 その間にお前が逃げられたらいいな……って、そんなのは今だから言えることだよな。 あの時は何も考えちゃいなかった。無心の行動ってヤツだ」 「はぁ。お兄さんって、本当に馬鹿ですね」 お前な、ここは普通「お兄さんカッコイイ!素敵!」って言う場面じゃねえの? 「いいえ、馬鹿です。 相手が相手なら、大怪我を負わされていたかもしれないんですよ? 周りの誰かに応援を求めないで、一人で突っ込んでくるなんて……。 ふふっ、大馬鹿以外の何者でもありません」 バカバカうるせぇな。 しかし辛辣な言葉とは裏腹に、あやせは妙にご機嫌である。 俺を罵倒できるのがそんなに嬉しいのかね。 お兄さんちょっと複雑な気分だわ。 というわけで(?)、俺はついさっき気づいた衝撃の事実に、 いささかセンセーショナルな脚色を加えて披露することにした 「ところでこのかき氷、あやせの食べ残しだよな?」 「急に何を言い出すんですか?」 「食べ残しだよな?」 「そうですけど、それが何か?」 それが何か?それが何か、だと? 俺があやせの食べ残しを食べている。 それが意味するところは一つ。 「……間接キスだ」 ふははは。今まで失念していたのだろう。 ついうっかり、俺にかき氷を食べる権利を与えてしまったのだろう。 が、後悔しても時既に遅し! 「そうですね。お兄さんの言うとおりです」 「え?」 「それで、間接キスだから、どうかしたんですか?」 オー、ジーザス。俺は夢を見ているのか? でなければ現代に起こった奇跡を目の当たりにしているか、だ。 あやせが俺との間接キスを認めている? まさか。いやいや、有り得ない。 怒りで顔を真っ赤にしたあやせに、「変態!」「死ね!」とエッジの効いた暴言と暴力で虐げられるのが、 俺の描いていた未来予想図(的中率97%)だったというのに……いったい何がどうなってやがる? 「少しは、多めに見ることにしたんです」 あやせは顔を怒りで真っ赤にする代わりに、ほんのりと頬を桃色に染めて、 「金魚すくいのコツを教わったり、お化け屋敷に付き合ってもらったり、 はぐれて身動きの取れないわたしを探しにきてもらったり……。 今日一日で、お兄さんにはたくさん借りが出来てしまいました。 ですから、少々の変態的行為には目を瞑ろうかと。 あくまで今日一日だけ、ですけど」 あーハイハイ、そういうことね。 つーか、何でもないことのように言っておきながら、 やっぱりあやせの中では、間接キスは変態的行為に属してるのな。 俺はかき氷の空容器を近場のゴミ箱に放りつつ立ち上がり、 「どこまでセーフで、どこからアウトなんだ?」 「そうですね……」 あやせは人差し指を唇に添えて思案のポーズになり、 「お兄さんからわたしに触れるのはNGで、わたしからお兄さんに触れるのはOKです」 なんだそりゃ。 意味を理解できないでいると、早速あやせは宣言を実行に移してきた。 右腕が手繰り寄せられる。 お化け屋敷の終盤、暗闇の中でしていたように、 しかしあの時よりも締める力は優しく、あやせは俺と腕を組んだ。 「か、勘違いしないで下さいね」 「挫いた足首に負担をかけないようにするため、だろ?」 「……物わかりが良くて助かります」 正鵠を得ていたにも関わらず、あやせの唇はツンと尖っている。 やはり詮無い理由があるとはいえ、俺の腕を借りることには、忸怩たる思いがあるんだろう。 柔らかな感触に諸手を挙げて大喜びしたいところだが、 今は余計な刺激を控え、寡黙な杖役に徹するのが得策か。 可惜身命、触らぬ神に祟りなし。 「……ところで、足首はどのくらい痛むんだ?」 「ほんの少しです。お兄さんを支えにしていれば、ほとんど痛みは感じません」 「それでも、痛みは歴とした体の危険サインだぜ。 当て所なく練り歩くのは、やめといた方がよさげだな」 ぬいぐるみの位置を整え、腕時計を見る。 九時三十分前、か。 ちょいと気が早いかもしれないが、 「花火が見える場所に移動しないか?」 早く行けば見晴らしの良い場所が取れるかもしれないし、 あやせが座って休めるようなベンチが見つかるかもしれないぜ。 「……実は、さっきの方々が教えてくれたんですけど……」 とあやせは耳許に囁いてきた。 「な、なんだ?」 耳たぶに触れる吐息がこそばゆい。 「地元の方も知らない、秘密の見晴台があるそうです。 お兄さんを待っている間に、地図を書いて頂きました」 あやせはハンドバッグから半紙を取り出し、見せてくれた。 限りなく抽象化された街の縮図を読み解く。 「ここから、そう遠くないみたいだな」 街路の混雑、あやせに配慮した徒歩を加味しても、20分ぐらいで着けそうだ。 しっかし……本当にそんな場所があるのかね。 「あの人たちは、嘘を吐くような人たちじゃありません」 「嘘だとは思っちゃいねえが、ただ、なんとなくイメージが出来なくてな」 「何でも、一見すると入るのを遠慮したくなるような建物らしいですよ」 どんな建物だよ。魔窟か? あやせはクスリと笑んで言った。 「とりあえず行ってみませんか。一件は百聞に如かずとも言いますし」 さて、そんなこんなで歩くことしばらく、 人気のすっかり希薄な脇道をさらに逸れ、 街灯の明かりさえ乏しい小径を突き進み、 野良猫の寝床と化した隘路をそろりそろりと通り抜けた俺たちの目前に現れたのは、 想像していた魔窟よりもずっと現実的かつ退廃的な建物であった。 「廃ビル、ですね」 「廃ビル、だな」 かれこれ十数年は放置されている感じだな、この廃れ具合は。 入り口は当然のことながら閉鎖されていて、 駄目元で裏手に回ると、搬入口の扉の鍵が開いていた。 中は暗く、埃っぽかった。 採光窓から差し込む月明かりが、唯一の光源だった。 「どうする?」 「どうするって、ここまで来たのに引き返すんですか?」 「や、お前が心配で聞いてんだよ。あやせは怖くねえのか? 雰囲気的に、マジモンのお化けが出てもおかしくないような場所だぜ、ここ」 「ふふっ、わたし、気づいちゃったんです。 どんなに怖いお化けでも、触れられるなら、暴力でなんとかなるってことに」 「お前はもう二度とお化け屋敷に入るな」 調度の類が何もない一階を見回る。 当然のことながらエレベータの電源は落ちていてた。 「屋上に出るには、階段を使うしかなさそうですね」 「でも、それじゃあお前の足がもたないだろ」 平素の徒歩と階段の上り下りじゃ、かかる負担も段違いだ。 「どうしましょうか」 俺の腕を掴むあやせの手に、力が籠もる。 「方法はふたつある」 「ふ、ふたつもあるんですか?」 「まあな。知りたいか?」 「知りたいです。それで本当に、屋上に上がれるなら」 俺はもったい付けて言ってやった。 「あやせ、俺にお姫様だっこされるのと、おんぶされるのと、どっちが良い?」 「どっちもイヤ」――予想していた返事はいつまでも聞こえずに、 「……おんぶの方が、まだマシです」 声の震えから、相当、苦渋の決断であったことが伺える。 俺は組んだ腕を解き、あやせの前に進み出て、身を屈めた。 「言っとくけど、下心はねえからな」 「嘘つき」 見破られるの早ッ! 見破られるの早ッ! 取り繕っても仕方ないと判断し、開き直ることにする。 「……ああ、嘘だ。 けどな、女の子を心の底から荷物扱いできる野郎なんていねえっての」 相手がお前なら、なおさらな。 「ほら、さっさと乗れ。花火が始まっちまうぞ」 刻限を知らせたことが上手く作用したのだろうか、 あやせは怖々といった様子で俺の肩に触れ、徐々に体を預けてきた。 後ろに手を回し、薄い浴衣の生地に包まれた太股を支える。 豊満な果実が二つ、背中で潰れるような感覚があった。 あやせは何も言わなかった。 俺も何も言わなかった。 実際に階段を昇り始めると、あやせの感触を味わう余裕が無きに等しかった、というのもある。 とにかく一歩一歩が辛い。苦しい。 おっと、別にあやせの体重にケチを付けているわけじゃねえぞ。 俺は自分の体力不足を嘆いているだけだ。 「……大きいですね、お兄さんの背中」 と不意にあやせが言った。 「そりゃあ、女のお前と比べると大きいだろうよ」 「そういう意味で言ったんじゃありません」 じゃあどういう意味で言ったんだ、と尋ねようとしたとき、強烈な既視感が脳裏を掠めた。 この状況、この会話。 全てに共通する出来事があったはずだ……。 「ああ」 思い出した。 「桐乃だ」 「桐乃がどうかしたんですか?」 「昔々に、家族で祭りに出かけたことがあったんだ。 どこの祭りかは忘れちまったが……とにかくすごい混雑で、 気づけば、隣にいるはずの親父とお袋がいなくなってた。 手を繋いでたおかげで、俺と桐乃ははぐれずにすんだ」 「それから、お兄さんと桐乃は?」 「必死に親父たちを探したよ。 けど、あの頃の俺はガキで、桐乃はまだ小学生にもなってなくてな、 死ぬほど心細くて、俺が泣きそうになったとき……桐乃に先を越された。 道ばたに座り込んで、わんわん泣いてたっけ、あいつ。 それを見てたら、『俺がなんとかしねえと』って気持ちが沸いてきてさ、 俺は桐乃をおぶって、迷子センターを目指したんだ」 道中、桐乃は言った。 『お兄ちゃんのせなか、おおきいねぇ』 俺はこう答えた。 『桐乃の背中にくらべたら、大きいに決まってるだろ』 すると桐乃は、俺の背中をぽかぽかと叩いてこう言った。 『そういうイミで言ったんじゃないもん。 お兄ちゃんにおんぶしてもらったら、あんしんするってイミだもんっ』 言葉の意図が同じだとすると、もしかしてあやせも、 あの時の桐乃と同じ感想を懐いてくれているのだろうか。 はは、まさかな。 そいつは希望的観測が過ぎるぜ、京介。 「……羨ましい」 「何か言ったか?」 「じ、時間が惜しい、と言ったんですっ。 お兄さんは階段を昇ることに専念してください」 ほらな。 やっぱりあやせは、一刻も早いおんぶからの解放を望んでいるんだよ。 俺は気合いを入れ直すべく、あやせを抱え直した。 「きゃっ……」 艶やかな声が漏れた。 俺の手は計らずとも、あやせの水蜜桃の如きお尻をわしづかみにしていた。 いや、マジでわざとじゃないって。 揉みしだきたい欲求と格闘すること数秒、 「お兄さん?」 冷えた声が耳朶を刺す。 ああ、分かってる。聞き苦しい言い訳をする気はねえよ。 疑わしきは被告の"不利"なり。 情状酌量の余地はなし。 新垣大法廷の判決は、今日も今日とて事もなし。 「……本当に展望台みたい」 「……最高の見晴らしだな」 屋上に通ずる扉を開くと、二人して思わず息が漏れた。 痛む後頭部を撫でさすりつつ(原因が何かは言わずもがな)錆びた鉄柵に歩み寄れば、 眼下には祭りの賑わいが、彼方には夜空を写し取ったかのような、河川の暗い輝きが見えた。 高さ、距離ともに、望楼としては申し分ない。 それから、夜風を浴びて待つこと数分、 「あっ」 と傍らのあやせが喉を鳴らした。 黒洞々とした満天に、色鮮やかな花が咲く。 遠雷のように低い音が、わずかに遅れて鳴り響く。 綺麗だな、と感心する一方で、桐乃も見たかっただろうな、と家で寝込んでいる妹のことを思った。 眺めている間は腕組みをする必要がないと思ったのか、あやせの腕から力が抜ける。 一抹の寂しさが去来し、次の瞬間には、戸惑いが胸中を占拠していた。 手の甲に触れるあやせの手。 反射的に握ると、ややあって、あやせも握りかえしてくる。 「わたしは――ときどき分からなくなるんです。 お兄さんが、悪いお兄さんなのか、良いお兄さんなのか」 「今のところ、俺はあやせにどう思われてるんだ?」 「教えません。教えたら、お兄さん、きっと調子に乗っちゃいますから」 その言い方だと、答えを言ってるも同じだぜ。 まあ、ちっとは見直してくれたってことか。 あやせは言った。 「お兄さんはどうして……最初に会った頃のお兄さんを演じ続けなかったんですか?」 「最初に会った頃のお兄さん?」 「ですから、その……常識的な妹想いで、気持ち悪いことを言わない……普通のお兄さんです」 裏を返せば、今の俺は倒錯的なシスコンで、 口を開けばセクハラ発現をする変態兄貴だと思われている、ということだ。 所詮は自分で蒔いた種、望み通りの結果だがな。 俺は言った。 「良い部分と悪い部分、全部ひっくるめて俺なんだよ」 「悪い部分を、わたしの前で隠すことはできるじゃないですか。 そうすればわたしも……わたしだって……」 「あやせは誰かに嘘を吐かれるのが、何よりもイヤなんじゃなかったのかよ」 「それは、そうですけど」 「俺が常に良いお兄さんでありつづけるのは、俺がお前に嘘を吐き続けるのと同じだぜ」 「…………」 黙りこくるあやせ。 俺はこれからも、妹と愛の証を収集する変態として、臆面もなくセクハラ発言する畜生として生きていく。 桐乃とあやせの関係を繋ぐための、必要不可欠な人柱として。 数秒の沈黙をおいて、あやせは花火の音圧に潰されそうなほど、小さな声で呟いた。 「……ひとつ、お兄さんにお願いがあります」 「なんだ?」 「今から花火が終わるまでの記憶を……後で必ず忘れると、約束してもらえますか」 そいつは無理な相談だな、と思いつつも、 切実な眼差しを向けられて、俺は首を縦に振ってしまう。 双眸に目もあやな夜空の光を浮かべながら、あやせは言った。 「……わたしは、お兄さんみたいなお兄さんが欲しかった。 困っているときに、いつも助けてくれる……そんなお兄さんがいる桐乃が、羨ましかった」 冗談はよせよ、俺なんかを兄に持てば、度の過ぎた愛情を注がれた挙げ句、 近親相姦モノの薄い本を一緒に集めるハメになるんだぜ――そう言いかけて、改める。 「お前が桐乃の親友でいてくれる限りは、お前も俺の妹みたいなモンだ」 「それだけ、ですか?」 「どういう意味だ?」 「お兄さんにとってわたしは、それだけの存在でしかないんですか?」 おかしいな。 俺の自惚れじゃなけりゃ、あやせがそれ以上の関係を望んでいるように聞こえるんだが。 「わたしのことを愛してる、とか……わたしと結婚したい、とか……全て、冗談だったんですか?」 「そ、それはだな……」 「桐乃を性的な目で見ているお兄さんが本当のお兄さんなら、 その言葉も本心から出たもの、ということになりますよね」 「う……」 痛いところを突いてきやがる。 一方の命題を真と言えば、他方の命題もまた同様に真と認めることになる。 自分が言った嘘に、自分自身が縛られる……まるっきり狼少年の末路じゃねえか。 答えに窮する俺に、あやせは静かに言葉を重ねた。 「わたしは嘘が嫌いです。大嫌いです。 でも、自分のために吐く嘘じゃなくて、誰かのために吐く優しい嘘になら……騙されても構いません」 あやせは暗にこう言っていた。 二つの命題のうち、一つは確実な偽であることを知っています、と。 何の因果か俺は今、妹を性的な目で見ているという体面を保ったまま、 あやせに告白してオーケーをもらえるかもしれない状況に立っていた。 なのに。 「…………」 好きだ、の一言が出てこない。 馬鹿野郎、さっさと言え。 愛している、結婚しよう、と軽々しく求愛していたのはどこのどいつだ。 不意に空気の震えが止まり、痛いほどの静寂が辺りを満たす。 時間切れ、か? 「……お兄さんの意気地なし」 落ち着いた非難の声が、胸に深く突き刺さる。 俺は恐る恐る隣を見て……次の瞬間に、かつん、と前歯に何かがぶつかる音を聞いていた。 ふっくらとした感触と、湿った体温を俺の唇に残して、あやせはそっと体を離す。 俺が嘘つきなら、お前は天の邪鬼だ。 華やぐ笑みで「死ね」と言い、蔑みながらキスをする。 「……っ……はぁ……」 「おま……花火はとっくに終わって……」 「いいえ……まだ、終わってません……」 ひゅるるるる、と甲高い音が空を裂き、あやせの言葉を証明する。 無数の火花が描いたのは、祭りの終わりを締めくくる『Fin』の文字。 あやせは半ば惚けた表情で言った。 「……約束、守ってくださいね」 記憶を任意に消去できるほど、人間の脳味噌は便利に出来ちゃいない。 「もし桐乃に話したりしたら……」 きらり、とあやせの目が光る。 俺は慌てて言った。 「言わねえっての。 言ったらお前よりも先に、桐乃本人から殺されそうだ」 全ては、真夏の夜の白昼夢。 それを否定する材料は、今や唇に残った感触のみで、それさえも時間が経てば消えてしまう。 その前に、と俺は言った。 「好きだぞ、あやせ」 今更ですか、とあやせは答えた。 「知ってますよ、お兄さん」 機を逸した愛の言葉は、至極あっさりと聞き流された。 それでも、その時あやせが浮かべた笑顔を――俺は一生、忘れないだろう。 さて、この話にはオチがある。 それから俺たちは睦言を語り合い、 口づけを交わす間に生まれたままの姿になり、屋上の一角で情事に耽る……こともなく、 風上から運ばれてきた、火薬の臭いに追われるようにして、屋上を離れた。 あやせに腕を貸しつつ駅に辿り着き、 家からの最寄り駅で、迎えの車にあやせを預け、 自転車を漕ぎ漕ぎ自宅に到着、シャワーで汗を流して今に至る。 コンコン。 「……誰?」 「俺だ。さっき帰ってきた」 「いいよ、入って」 許可を得て部屋に入ると、 桐乃は俺が出かけた時と同じように、ベッドで横になっていた。 「お祭り、楽しかった?……てか、後ろに持ってるの、何?」 俺は最初の質問には答えず、桐乃へのお土産を披露する。 「ウソ……メルルの縫いぐるみじゃん……しかも超おっきいし……どこで手に入れたのっ!?」 「体に障るから興奮すんな。 あやせがクジ屋で当てたんだ。お前へのプレゼントに、だってよ。 今度会ったらお礼言っとけ」 「うん、分かった。分かったから、早く貸して!」 病人とは思えねえ喜びぶりだな、オイ。 病は気から、って言葉もあるし、メルルが特効薬になれば言うことはないんだが……。 「…………」 どうした、いきなり黙り込んで。 桐乃は何を思ったか、メルルの股間に顔を押しつけると、俺とメルルを交互に見比べ、 「なんで兄貴の……」 と言いかけ、慌てて 「この子、超臭いんですケド」 と言い直した。 ああ、それにはちゃんとした訳がある。 「歩いてる間はずっとそいつを肩車してたからな」 「じゃあこの子に染みついてるのは、兄貴の汗ってコト?」 肯くと、桐乃は思い切り顔をしかめて、 「しっ、信じらんない! なんで袋に入れるとか、どこかに預けとくとか考えなかったワケ!?」 「うるせーな、洗えば済む話だろうが。 こっちに寄越せ、潔癖症。 明日、お袋が出かけてる間にでも洗っておいてやるからよ」 「いい」 はぁ? 「洗ったりしたら、この子の形が崩れちゃうかもしれないじゃん」 「じゃあ、クリーニング屋に持って行ってやる。 洗濯のプロなら上手く洗ってくれるだろ」 「じ、自分で持ってく」 「外出できないくらい熱があるくせに、何言ってんだ。 俺が持って行ってやる。 お前が寝てる間に、メルルは綺麗になって戻ってくる、それでいいだろ」 「うっ、うるさい!もうあんたは出てって!」 八重歯を剥いて威嚇する桐乃。 さっきまで臭いと言っていたぬいぐるみを、今は俺から守るようにして抱いている。 やはり高熱で譫妄状態にあるのかもしれん。 ここは大人しく退散したほうが良さそうだ。 「じゃあな。ゆっくり休めよ」 「うん……」 俺は最後に額を合わせて熱を測り、以前よりも温度が上がっていることを確認して、部屋を出た。 このまま熱が引かなければ、朝一で病院に連れて行くことも考えないとな。 自室に戻り、ベッドに横になったところで、電話がかかってくる。 発信者の名前を見てから、通話ボタンを押した。 「赤城か?どうした?」 「おう高坂、今お化け屋敷のバイトが終わったところだ」 「そっか、そいつはご苦労さん」 で? 「で、じゃねえだろ。 お前俺のメール読んでなかったのか?」 ああ、そういや俺とあやせの関係を問い質すメールが届いていたっけな。 「あんな可愛い子と、どこで知り合ったんだ?」 「妹の友達だ。初めて会ったのは、一年くらい前だな」 「お前の妹って、確か瀬菜ちゃんの一つ下だろ? あの顔と体で中三って……お前の妹といい、その子といい、後輩の子といい、 どうしてお前の周りにだけ反則級の美人が集まってくるんだ? あ、いや、もちろん田村さんも含めてな」 知るか。あと麻奈実をとってつけたように扱うんじゃねえ。 赤城は急に真面目な声になって訊いてきた。 「お前とその子は、いつから付き合ってるんだ?結構長いのか?」 「なあ、赤城」 「なんだよ。もったい付けるなって」 「俺はあやせ――その子の名前な――とは付き合ってない。 今日は妹とあやせと俺の三人で祭りに行くつもりだったんだけどな、 妹が熱出して行けなくなったから、二人で行くことになった、それだけだ」 「なんだよ、高坂に先越されたかとビビっちまったじゃねえか」と赤城は安堵の笑いを響かせることもなく、 「おい水臭ぇぞ、高坂。 俺とお前は、秋葉のエロショップを一緒に巡った仲なんじゃなかったのかよ?」 「は?何言ってんだお前」 「しらばっくれても無駄だぜ。いいから本当のことを言えよ」 「いや、付き合ってねえものは付き合ってねえし」 「残念だ、高坂。 お前のことは、何でも話せる、気のおけねえ親友だと思ってたんだがな……」 ふつりと通話が途絶える。 最後の方が涙声になっていたのは気のせいか? ふつりと通話が途絶える。 最後の方が涙声になっていたのは気のせいか? 腑に落ちない点はあるものの、考えても仕方ないと思い、ベッドに横になる。 目を瞑ると、廃ビルの屋上での記憶が再生された。 あやせとキスをした今となっても、あやせと付き合うことは、上手く想像できない。 あやせは俺に好意を懐いてくれていて、一方で桐乃を脅かす存在として敵意を懐いている。 しかし俺が桐乃を性的な目で見ているというのは、 あやせと桐乃の仲を取り持つための、いわば自分を犠牲にする嘘であり、 あやせはその嘘を看破していることを、言外に臭わせていた。 つまり、何が言いたいかと言うとだな。 桐乃がオタク趣味から足を洗うか、 あやせが桐乃のオタク趣味を完全に認めるまで、 俺が嫌われ役、あやせが桐乃の守護者役のスタンスは崩れない、ということである。 あやせの俺への好意が、桐乃との友情より優先されるほど、強いものかどうかも分からないしな。 例外があるとすれば――屋上であやせが設けたような、『記憶に残さない秘密の時間』くらいだろうよ。 次の再会を夢見ながら、いつしか俺は、本当の眠りに落ちていた。 あやせに腕を貸しながら駅に戻る道中を、 お化け屋敷を片付け中の赤城に、イベント帰りに花火だけ見に来た加奈子とブリジット、 普通に祭りを楽しみに来たゲー研一同および黒猫三姉妹および田村一家に、仕事の息抜きに来た御鏡と藤真社長、 果ては出会いを求めて彷徨っていたフェイトさんに目撃されていたことを、当然、知る由もなく……。 おしまい!
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/483.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1303394673/533-544 ユラユラと体が揺られる。フワフワとした浮遊感。それにこの温かいぬくもりはなんだろう。 「ああ~、くそ。上りにくいな。桐乃目覚まさないだろうな? 今目を覚まされて暴れられたらたまらねえぞ」 すごく近い場所から声が聞こえる。それはあたしが求めてやまない、あいつの声だ。 「桐乃が、軽かったのがっ、せめてもの救い、かっ!……ぃしょっと!うし、後は部屋まで運ぶだけだな」 うっすらと開く目から見えるのは思ったとおり、京介の顔だ。 あたしは今一体どういう状況なんだろうか。もしかして、京介に抱きかかえられてる? でも、たしか京介は……ああ、そっか。これは夢か。ずっとあたしが見続けていた夢。 ちょっと考えればわかりそうなことだ。あたしの妄想の産物の京介が、こうしていること自体が既に夢だって言ってるようなもんだよね。 あはは。なんて、都合がいいんだろう。 でも、夢ならもう何も遠慮も隠す必要も、ないかな。意地を張らなくてもいいのかな? あたしが求めるままに京介を求めても、いいのかな? 「ふう。こうして大人しくしてれば可愛いのによ。普段の憎たらしさが嘘みてえだよ。ホント」 あんたあたしのことそんな風に思ってたんだ。……わからなくもないケド。 憎たらしいってことぐらい……自覚してる。素直になれない自分。 でも、それは京介も悪いんだから。 この数年間、ずっとあたしを放っておいたくせに。 いっつもフラフラと他の女とイチャイチャして。なのにあたしにはそっけなくて。 そのくせ、いざという時は助けてくれて……そんなの、あんたにどう接していいかわかんなくなるに決まってんじゃん。 ガチャリ、と扉が開く音がする。 それからユラユラとした感覚が少しした後、ボフンとやわらかいものの上に置かれた。 かぎ慣れた匂い。これは……あたしのベッドかな。多分そう。どうせなら京介のベッドがよかったのに。 ベッドに横にされたあたしに布団が掛けられる。 狭い視界の中、あたしに「おやすみ」と言って振り返る京介の姿が見えた。多分部屋に戻るんだろう。 ――嫌だ。行かないで。もう、あたしを一人にしないで。傍にいてよ。 そんな想いがあたしの心を埋め尽くす。そのせいだろうか。あたしは京介の袖の裾を無意識のうちに掴んでいた。 「桐乃?」 「兄貴……」 振り向いた京介の目と視線が交わる。 京介があたしを見てくれる。掴んでいる手が、今京介がここにいることを教えてくれる。ただそれだけの事実が嬉しい。 「わりぃ。起こすつもりはなかったんだけどよ」 「……ううん。…………わざわざ運んでくれたんだ?」 「ん、お、おう。いや、一応起こそうと思ったんだぜ? でも声かけてもゆすっても起きねえし。このままリビングで寝かしとくのもまずいかなって……」 しどろもどろになりながら言い訳をする京介。そんな京介が可愛く見えて内心クスリと笑った。 でも、少し前までの京介ならそこであたしを部屋まで運ぼうなんて思わなかったはず。せいぜい、寝ているあたしに毛布をかけるのが関の山なはずだ。 「毛布、掛けてくれればよかったんじゃないの?」 「いや、なんか麻奈実から連絡があってよ。 お前の様子がおかしかったから早く家に帰ってやれって言われて……そんで帰ったら、なんかお前がうなされてるみたいだったし……」 『麻奈実』。その名前を聞いた瞬間、さっきまで嬉しいという想いに染められていた心にドロリとしたものが流れ込んだ。 黒い『それ』はあたしの心を一瞬にして侵食していく。 『それ』が何なのかなんて、自分じゃわかりきってる。どこまでも醜い、そんな感情。ギリッっと歯を食いしばった。 ――あんたの口からあいつの名前なんて聞きたくない! 黒い『それ』は『嫉妬』という明確な形を持ってあたしを支配する。 京介の腕を力いっぱい握り締めてグイッと自分のほうへと引っ張り込んだ。突然のことに京介は対処できなくてこっちに倒れこんでくる。 あたしは京介を引っ張った勢いを利用して、寝起きとは思えないような機敏な動きで京介と体を入れ替えて馬乗りになった。 ぐつぐつと煮え返る心とは裏腹に、頭はいやに冷静だ。 もう随分昔のことのように思える最初の人生相談。そのときと同じ構図になる。違うのは、ここがあたしの部屋か京介の部屋かってことぐらい。 「お、おい。なんのつもりだ!? 」 「うっさい。黙って」 俯いてるあたしの顔は京介には見えてないはずだ。でも、あたしの雰囲気が普通じゃないことに京介も気付いたみたいだった。 「黙ってって……やっぱりお前何かおかしいぞ。麻奈実が言ってた通り、やっぱり何かあったんじゃ……」 「黙れって言ってんでしょ!!」 「!!?」 これ以上その名前を聞きたくない。あたしは京介の口を塞いだ。自らの口を使って。 これがあたしのファーストキス。ムードも何もあったもんじゃない。本当に泣きたくなった。 「んん!? ん、んうぅぅぅう!!?」 「ん、んふっ、 ん…んん! んっんっ、んぅぅう!」 目を見開いて暴れる京介を、無理矢理押さえつけながらキスを続ける。 本当はこんなことしたくなかった。 あたしだって女の子だ。初めてのキスは、夜景の綺麗な場所で好きな人と、って思ったこともある。大好きなエロゲに出てくる妹達みたいに、両思いの相手といつまでも思い出に残るようなキスをしたかった。 だけど、結果はこれ。嫉妬に駆られて、どうしようもない自分の想いをおさえきれずに、無理矢理押し付けるようなキス。こんなの……あんまりだ。でも――京介とキスしている。そんな今に歓喜をあげている自分も確かに存在した。 素直になれなくて、周りの目を気にして、京介の態度にやきもきして、ずっとくすぶり続けた想い。それが今、キスを切欠にあふれ出して止まらなくなってる。 愛情と嫉妬、歓喜と失望、これが現実であってほしいという希望と夢であるという諦め。色んなものが混ざり合ってあたしの理性を狂わせていく。 もう―――止まれない。止まるもんか。 「んん~~っ、ぷはっ! ハァ、ハァ…… お、お、お、お前何のつもりだ!? 流石にこれは冗談じゃすまねえぞ!?」 「……冗談なんかじゃないし」 「なんだって?」 京介の言葉を聞かずにあたしはその場で膝立ちになった。 そのまま服に手をかけて、スルッと一気に脱いだ。今日着ていたのはワンピースタイプの服だったから、一枚脱げばあたしが身に着けているのは下着だけだ。 こんな姿を京介に見られてると思うとすごくドキドキする。心臓の鼓動とまらない。 「ちょ!? ば、バカ! いきなり服脱ぎだすなんてお前何考えてやがる!? 服着ろ! 服!それと俺の上からどけ!」 「ねえ、あたし綺麗かな?」 「人の話を聞けよ!い、今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」 「何で?」 「何でって……」 真っ赤な顔で狼狽する京介の手をとって、あたしは自分の胸へと押し当てた。 大きな手。胸の大きさには少しだけ自身があるけど、京介の手にはスッポリとおさまってしまう。 「んっ――ほら、あたしこんなにドキドキしてる。わかる?」 「あ……う……」 「冗談、なんかじゃないから。あたしは、ずっとあんたとこうなりたかった」 本心からの言葉だった。 白状してしまうけど、あたしは今までに何度も京介を想って自分を慰めたことがある。 アメリカへ発つ前まではそんなことは一度もなかった。でも、京介が迎えに来てくれて、自分を必要としてくれるんだと思って、 そして家でエロゲをしていたら、あたしはいつの間にか自分を慰めていた。京介に、触られるのを想像して。 それはきっと、自分の中にある気持ちを誤魔化すことができなくなったから。京介のことを、男として好きだということが。 それからというもの、あたしは自分を抑えることが出来なくなった。エロゲに自分達を重ねて慰めたこともあったし、 自分で想像してスることもあった。壁一枚向こうで、京介が寝ているのをわかっててベッドでしたこともあった。 「で、でもお前、俺のことキモいとかウザいとか言ってたじゃねえか」 「あれは……んっ…た、確かに言ってたケド、別にあんたのこと嫌いなんて…ぁん!言ったこと、ないし……」 「で、でもだな……お、俺達は兄妹だぞ。こ、これは、まずいだろ!?は、早く手を離せ!」 「んんっ…そんなこと、言ってるけどさ兄貴…んぅっ!さっきからあんたの手、あたしの胸揉んでるじゃん」 そう、こいつは口ではそんなことを言っておきながら、あたしの胸をさっきかずっと揉んでいるのだ。 さっきから途中途中で言葉が切れるのもそれが原因。……この変態スケベシスコン兄貴め。 「こ、これはっ――!」 「いいよ、兄貴なら。だってあたし、あんたのこと―――好きだし」 「!?」 すっごい驚いてる。それも仕方ないか。これはあたしが今まで素直になれなかったせいなんだから。 「す、好きって、マ、マジで言ってんの?お前」 「うん。あたしはあんたが好き。ていうかここまでやってそこに行き着かないあんたもどうかと思うけどね。 ……もう逃げない。誤魔化しもしない。あんたがどう思おうと、あたしの気持ちは変わらない」 「そ、それって兄貴として好き……とかっていうことは……」 「しつこい。あたしはあんたが、一人の男として好き。誰にも渡したくない。だから――あんたの初めて、あたしが貰うから」 「! まっ――!?」 体を少し横手にずらしながら、さわっと京介のズボンを押し上げる『それ』をなで上げる。 あはは、今ビクってした。あたしが気付いてないとでも思ってた? 気付かないわけないじゃん。こんなにおっきくしちゃってさー。 やっぱりこいつ、あたしで興奮してる。もっともっと、あたしだけで頭が一杯になればいい。あんな女のことなんか忘れるぐらいに。 「ほら、口じゃそんなこと言ってるくせにこれはなんなの? 妹の体で興奮するとか……もうシスコン否定できないよね。あんた」 「や、やめろ。桐乃」 「いーや」 そう言ってあたしは京介にもう一度キスをした。 「はん、んちゅ……ん、ん、んぅぅ」 「んぁ! ん、ん、んンっ!、んっんん!」 キスしながらピクッピクッって時折震える京介がヤバイくらい可愛い。まあ、あたしがキスしながら京介のものを撫でてるせいなんだケド。 京介の抵抗が弱まったのをいいことにあたしは京介の口に舌を差し込んだ。京介は一瞬目を見開いたけど、もう抵抗するのを諦めたのかそれ以上の抵抗はなかった。 「んふっ……んく、んふぅ……ん、んっ……んちゅ」 あたしの舌が京介の歯を、舌をなめあげるたびにくちゅくちゅといやらしい音がする。そんな音が耳を震わせるたびに体が熱を持ってあたしを興奮させる。 すごい、これ……気持ちいい。こんなの気持ちよすぎてやめらんない。こんなに京介とキスするのが気持ちいいなんて思いもしなかった。 「あん、ん、んっ……んちゅる、んは!ぁんん……! んふ……んちゅ、ちゅ、ちゅる……」 もっと、もっと、もっと……。 今まで我慢してきたものを吐き出すようにキスを続けているうちに、熱を帯びる自分の体の奥から湧き上がってくるものを感じた。 え? うそ……あ、あたし……キスだけで、イっちゃう――!? 「んちゅっ、ん、ん、…んふぅ!?」 あ、あ、クる、クる……! きちゃうよぅ――! そんな風に思っていたときに、あたしが一方的に絡めていた京介の舌がいきなりあたしを絡めとる様に動き出した。 お互いの舌が絡み合うことで不意打ちのように倍増した快感に、あたしは一気に上りつめていく。 「ん、んむぅっ、んく、んはぁ……んちゅる、ちゅるる……ん!ん!……っ!…っ!」 絶頂を寸前にした体はピクピクとした震えをあたしに伝えた。 だ、だめ……もう、我慢できない。あたし……京介と、京介とキスしながら――イっちゃう! イく、と思ったその瞬間、あたしは京介にぎゅうっと抱きしめられた。 「んん~~~~~~!!!!」 頭がホワイトアウトするように真っ白になる。ビクビクと快感に襲われて痙攣する体は、京介に抱きしめられていて身動きが取れない。チカチカとする視界に、自分がイったんだって自覚した。 「んぷはぁ……ハァ……ハァ…」 「き、桐乃? だ、大丈夫か?」 「ば、ばか……ハァ…ハァ…あんたがいきなり抱きしめるから、イっちゃったじゃん……」 「す、すまん」 「あやまんなくていいっての。……すっごく、気持ちよかった……」 「そ、そうか?」 「うん」 京介に抱きしめられて、その温かさを感じながら余韻に浸る。 すごく幸せな時間。でも、こいつはどういうつもりなんだろうか。さっきまであたしを拒否してたのに……どうでもいいか。どうせこれは――――夢なんだから。 「なぁ、桐乃。俺……」 「ところでさあ」 「…っ、な、なんだよ」 「『これ』、さっきより大きくなってない?」 「!」 京介に抱きしめられてるせいで位置的にあたしのお腹辺りにある『それ』は、さっき以上に大きくなっているような気がする。ズボンの上からでも熱いのがわかった。 「こんなにパンパンにしちゃって……今楽にしたげる」 「ちょ、ま!?」 ジ~~~~~。 京介に起き上がられても面倒だから、あたしは器用に京介に体重を預けながら下半身を浮かせてズボンのジッパーを下ろす。 山になってるせいで上手くいかないかと思ったけど、案外すんなりとジッパーは降りた。 そのままテントを張っている下着に手を伸ばし――一気に『それ』を剥き出した。 それを見たあたしは―― 「……キモッ!」 「てめ、人の勝手に出しといてなんだよそれは!」 だって仕方ないじゃん。エロゲじゃモザイクかかってて形なんてよくわかんないし…… じたばたと暴れる京介を押さえながらそんなことを考える。もう、そんなに暴れないでよ。押さえるのも大変なんだから。 「んぁ!?」 「うっ!?」 バタバタ暴れる京介のチ○ポがずりゅっとあたしの股間をこすった。その時にピリッとした感覚が体を走って声をあげてしまう。 落ち着いたと思っていた体はまだまだ熱を持っていて、それを切欠にまたスイッチが入ったようにしてあたしの興奮を高めていく。 くちゅり そっと自分の股間に手を伸ばしてみれば、一度イってしまったせいか、そこはもうびしょびしょに濡れていた。 下着が意味を持たないぐらいに濡れているのは、自分の興奮の度合いを示してるともいえた。 くちゅくちゅと自分のをいじりながらあたしは自分の上半身を起こして京介の顔を見下ろす。 「ん!…兄貴、見える?…んくっ。あんたとキスしてて、あたしのここ、こんなになっちゃった…」 「く、桐乃、それは……! んおっ!」 チ○ポの裏筋に自分の股間をあてつけるようにしながら自分でもそこをいじっていく。くちゅくちゅと音を立ててこすれる感じがたまらない。あたしの股間とこすれる刺激が強いのか、京介も苦しいような、気持ちいいような顔をしている。 あたし、京介に見られながら、京介でオナニーしてる……! 「んくっ、兄貴の、エッチ…んっ! なに、妹のシてるところ凝視してんの? キモいっての……んんん! ハァ…ぁふっ…そんなに見たいなら…あんたも手伝ってよね…んぅっ!」 「くそ。桐乃…っは、お前、今度は何を…?」 あたしは自分のブラのフロント部分に手をかけて――プチンとそれをはずした。 ハラリと落ちるあたしのブラ。今、あたしの胸が京介の前に、さらされてる。何もつけてない、そのままの形で。 京介にはどう見えてるんだろ。あたしの胸は、京介の好みかな……そういえばこいつ、巨乳好きだったっけ。 「っ、…見える? あんたの好きなお、おっぱい。こんなに乳首もビンビンになってる……!」 ヤバ、なんかおっぱいって言ってて超恥かしいんだケド。でも、なんか余計に興奮してきたかも。 「…………ぞ」 「え?」 「もう……止まれないからな!」 「あんっ」 ぐわしって音が聞こえるような勢いであたしの胸が京介の手に掴まれた。そのままぐにゅっぐにゅっともみしだかれる。 「ちょ、ちょっと、んんっ! あ、あんた勝手にひとのんぁあ!? ふぅ…んくっ! 胸を……っ!」 「お前が…手伝えって、いったんだろうが…っ!」 「そ、だけど…ぅふん! はっ、んあっ、んく、…んきゅぅ!? あっ…んは! ちく、び…んくっ…やだぁ…!」 あたしのおっぱいが、おっぱいが京介にもまれちゃってる。それに、乳首が手の平に転がされて……刺激がつよすぎちゃうよぉ! 「桐乃、気持ちいいのか?」 「ば、ばかじゃん……うぅんっ、あ、あんたの手なんか、んくっ、きもちいいわけ……」 「そういいながら、ここはさっきよりも……」 「んぁぁあっ!」 きゅっと乳首をつかまれたせいでのけぞりながら悲鳴じみた声をあげた。 そんなあたしの反応を見た京介は、そのまま乳首を離さずにコリコリ、キュッキュッとあたしの乳首をいじめる。 だめ、ダメだってきょうすけぇ。そんなにされたら、あたしがまんできなくなっちゃう! 「あぁん! あ、にき…っ! そんなに、乳首んぁっ、ばっかりぃ……あはぁっ」 「だってお前すっげえ気持ちよさそうな顔してる」 「ば、ばかぁ、 みるなぁあ!」 恥ずかしくて両手で顔を隠すけど、京介の手は動くのをやめなくてどんどん気持ちよくなってくる。 そのせいか、気付かないうちに自分で腰を擦り付けるように動かしていた。ぐちゅぐちゅと聞こえる音もさっきより大きい、気がする。 や、ヤバイって。これ以上ちょっと、がまんむり。京介の手が気持ちよすぎて、あたまへんになるっ。 「ほら、桐乃。もっと……」 「だ、だめ!」 「うお!?」 はぁはぁと肩で息をつきながら何とか京介の手をあたしの胸から離すことができた。 さっきまで触られてた胸がジンジンと熱い。まだ感触が残ってるみたい。 股間に手を伸ばす。そこはもう準備なんて必要がないぐらいに濡れてる。今からここに、京介のを… 「兄貴。あたし、もう我慢できないから……いいよね?」 自分の下着をずらして京介のをそこにあてがう。くちゅり、と音を立ててキスをしたそこから熱さが伝わってくる。 手の平なんか比べ物にならないぐらい熱い、それ。 その様子をまるで呆けたように見つめる京介は、何を考えてるんだろうか。 「いくよ……?」 「――! まっ」 京介が入ってくる。十分以上に濡れていたあたしのそこは、思っていたよりもスムーズに京介を飲み込んで行く。ズズズとある程度は入ったところで、覚悟を決めた。 ツプ、ズブブブ、グチュン! ――――――…………っ 「ふぅぅううんっ!! …っ、ハァ、ハァ、…………うっ、ぐ……」 「くお、あつ……! 桐乃、お前泣いて……」 あたしの顔を見て京介が焦ったように声をあげる。京介が言ったように、あたしは泣いていた。 痛かったわけじゃない。痛かったから泣いたんじゃない。むしろ、痛みで泣けていたらよかった。 今、これが夢なんだと思ってても、どこかで期待してた。痛みがあれば、これは夢なんかじゃないのにって。現実なのにって。 京介を確かに膣内に感じるのに、でも、そこに至るまでに痛みがなかった。あたしは、処女なのに。 それだけで十分だった。 これは夢だ。どこまでも夢なんだ。最後には全部消えてしまう、ひと時の夢。 だったらもう遠慮することなんてない。あたしの全部をぶつけよう。 「桐乃、痛いなら無理は……」 「大丈夫。痛くなんかないから。それよりも、動くから……勝手にあんただけでイかないでよ?」 京介の胸に手を置いてゆっくりと腰を上下させる。 じゅぷ、じゅぶぶ、ずぷ、じゅぷん…… 「は、あふっ……んん! 兄貴、気持ちいいよ。ああぁ……んくっ!」 「く……俺も……すっげえ気持ちいい。ぬるぬるなのに、締まって……!」 「んんん……ホント? じゃあ、もっと……あ、は……はやく、するからね」 じゅぷっ、じゅぽっ、じゅっ、じゅっ、じゅぶ、じゅぷっ。 動きが速くなった分、勢いがついて京介がコツコツとあたしの奥を叩く。そのつど頭の先まで突き抜けるような快感があたしを追い詰めていく。 「ああぁ、あんっ、ん、ん、んぁあっ! 兄、貴……! すごい、すごいよ……んんん! うぁ、あっ! あんたのが、コツコツって、あたしの奥まで届いてる!」 「くぅ!桐乃……っ」 体の中でどんどん大きくなっていく快感に、力が入れられなくなってきた。そのうちに手をつく体勢を維持できなくなって、京介の体の上に倒れこむ。 「ん……兄貴、あにきぃ……んちゅる、ちゅ、ちゅる、んん…っ!は、んむぅ…っ……っ」 「ちゅび、はむぅ……き、りの…んちゅ、ちゅ、んん」 「んんん……はぁっ、はっ……あにき…好きって、好きって言って……」 「桐乃…?」 「お願い。あたしの、こと……好きっていって……!」 夢の中だけでもいい。京介から好きって言ってほしい。 「桐乃……好きだ」 「……!」 「好きだ……好きだ、桐乃!」 「ああ……あにき……っ、きょう、すけ……京介!」 一番聞きたかった言葉。怖いぐらいの幸福感があたしを包んでいく。 「んちゅ、好き、好き、はぁんん! ……きょうすけ、すきなの……ちゅ、ちゅく……もう、どこにもいかないで……」 「んぷはっ。ああ、俺も桐乃が好きだ。ずっとお前の傍にいる。もう離さねえ」 「ぜったい? ぜったいだよ? もう、どこにもいかないでね?」 「どこにもいかねえよ。絶対だ」 「……うん!」 じわっと涙が溢れる。これは夢。だからそれは果たされない約束。でも、それでもよかった。 京介からそれが聞けただけで、あたしはもう十分だ。 倒れこんでしまった時に止めてしまった動きを再開する。 ぐちゅん、ぐちゅう、じゅぶっ、じゅぽっ、じゅぽっ お互いが求めるように、合わせるように動くことでさっきとは比べ物にならない速度で何かが駆け上がっていく。 「んあっ、あん、あ、……あふ! ああぁあん! んふあ、あっ、あああっ!きょう、すけ……あたし、もう……っ!」 「ぅく……ああ、俺も、もう――!」 「ん、うん……いいよ……ああ……そのまま、あたしのなかで……んんんっ!」 「で、でもそれは」 「い、いいから!……そのまま――!あ、あ、あ」 パンパンパンと肉のぶつかる音が響く。だんだんと何も考えられなくなって、京介を感じることしかできなくなってくる。 だめ、もうげんかい。クる。さっきよりもぜんぜんおっきいのがクる! 「くぅ!? 桐乃、もう、出る!」 「あたしも、いく、いく、いっちゃう……っ!……っ!」 そして 「ぐ――、でる!」 どびゅる!びゅるるる!! びゅるる、びゅるるるる! 「!? 熱っ……あああっ、ああぁぁああっ!? んふあ、ああっ、あああん! いく、いくぅううあああ―――!!」 あたしは自分の一番奥に京介の熱い迸りを受けて 「んあ……あ……ふ……ん……」 「はぁ、はぁ……ん、おい、桐乃? 桐乃?」 眠るように気を失った。 目を開けたその眼前に、京介がいた。どうやら眠っているようでスースーと寝息が聞こえる…ってそうじゃなくって――!? へ? あ、え、うえ? な、なんでこいつがいるの? 兄貴はいないはずで、現実じゃなくて――!? 混乱する頭は正確な答えが出せなくて、よけいに混乱に拍車がかかっていく。 と、とりあえず一回起きなきゃ! そう思って体を起こした時にはらりとかかっていた布団がまくれた。その下のあたしは、パンツ一枚しか着ていなかった 「き、きゃああああああーーーーーーっ!!」 「うおぉお!? 何だ? なにごとだ? 何があった!?」 あたしの叫び声に隣で寝ていた京介も目を覚ましてしまった。 何事かと辺りを見回していた京介と目が合う。 「き、桐乃!? お前、一体何があっt「こっちみんなバカ! エッチ! シスコンのド変態!! あっち向いてろ!!」ぶへぇ!?」 バッチーン!と痛快な音を立て京介の顔をはたいたあたしは布団を手繰り寄せる。 ちょ、な、な、なんであたし下着一枚なわけ?それになんでこいつと一緒に寝てなんて―― とそこまで考えて、思い出した。 も、も、もしかして、あの夢だと思ってたのは――!? 「いちちちち……。おい、ひでえじゃねえか! 俺が何したっていうんだ!」 「う、ううう、うっさい! それよりこれの説明しなさいよ! あ、あんた一体あたしに何したわけ!?」 「いや、何って、言われてもな……」 「ちょ、ちょっと、そこで顔赤くして黙んないでよ! ま、ま、まさか――!」 「まさかって……お、お前が誘ってきたんだろうが! 俺がお前をここまで運んでやったらお前がいきなり――!」 「わかった! もういい! もういいからそれ以上いわないで! お願いだから!」 ま、マジなの!?あ、あたし、こいつと、その、一線越えちゃった!? あれ、でもそれだったらなんで……ああもう! 考えるの後にしよう。今は一回状況を整理しないと。 「と、とりあえず着替えるから一回でてってよ。今、あたしちょっと混乱してるから……。そしたらリビングに集合。わかった?」 「わかった……また後でな」 そう言って京介は部屋から出て行った。 はあ、とにかく一回着替えよう……うわ、なんかベトベトする。股の間になんか挟まってる感じがするし……一回シャワー浴びよう。それぐらいの時間ぐらい大丈夫でしょ。 あたしは一度シャワーを浴びたあと、布団のシーツを処分した後にリビングへと向かった。 これは後で知ったことだけど、処女でも行為の際にまったく痛みがないこともあるそうだ。 赤い染みのついたシーツの言い訳なんて、思いつくわけがないししかたがなかった。 「……つまり、俺は桐乃の妄想の産物で?実際にはいないもんだと思い込んでいたと」 「……うん」 リビングに集まったあたしたちは、昨日のことについて一通りのことを話した。 何であたしがあんなことをしたか。というのが大部分だったけど。 「お前、実はバカなのか?」 「な――!?もとはといえばあんたが悪いんでしょ!? 一昨日、 あんたなんで帰ってこなかったわけ? あたしはそのせいで色々と勘違いしちゃったんですケド!」 そう、全部は一昨日こいつが帰ってこなかったのが悪い。その説明はしっかりしてもらわないと! 「ああ、それか……てかお前携帯は?昨日なんでか繋がらなかったんだが」 「う……こ、壊れた」 「壊れた?」 「う、うん。一昨日階段で落とした拍子に踏みつけちゃって、こわれちゃった」 「そういうことか……まあ、一昨日は連絡しなくて悪かったよ。こっちも色々あってな……」 「色々って?」 「……酒で酔いつぶれた」 「はあ?」 こいつ、今なんて言った? 酒で酔いつぶれたとか聞こえたんですケド 「いや、久々に赤城と遊んでてだな、あいつの家に行ったわけなんだが、 赤城のやつがそこで酒を出してきてな。明日は休みだし少しぐらいいいだろって話になって……」 「…………」 「お、俺は帰ろうと思ってたんだぞ!? 自分でも酔いつぶれるなんて思ってなかったんだよ!まさかコップ一杯で潰れるとか思わねえだろ!?」 「ふぅん……それで妹一人残して泊まってきたわけ」 「た、確かに桐乃を一人にしたのは悪かったと思ってるけどよ……でも連絡はしてたはずだぞ。俺じゃなくて瀬菜が、だけど」 「……え?」 「後で聞いたんだが酔いつぶれた俺達を見て瀬菜がこっちに連絡入れたらしい。 家電にかけたけど誰も出なかったから留守電に入れといたって言ってたぞ」 留守電……あはは、そういえばまったくそっちは頭になかった……かも。 そろ~っと電話機のほうを見てみれば留守電のランプがチカチカと光っているのが見える。 「……聞いてなかったのか?」 「……うん」 「なるほどな。もしかして黒猫がお前の様子がおかしいって言ってたのも……」 「黒いの、そんなこと言ってたの?」 「ああ。「いつもなら軽く流してしまうような冗談なのに、随分と動揺していたわ」とか言ってたぞ」 「うう……」 まさか京介がいなくて情緒不安定だったなんて黒猫には絶対に言えない。言えばからかわれるのが目にみえてる。 「じゃ、じゃあ、あの表札は何よ!? 何でいつもかかってる表札がなかったわけ!?」 「あれはただぶら下げてた画秒が折れただけだぞ。表札自体は部屋に置いてある」 「……マジ?」 「おう」 なに、つまり、あの時あたしがこいつの部屋に入って、それを確かめておけばこんな勘違いしなかったってこと? ズーンと自分に嫌気がさして顔を俯かせる。 全部、あたしの空回りだったってわけ? それはあんまりなんじゃない? 「麻奈実も心配してたぞ。あやせには何でか「ぶち殺します!」とかって追いかけられたが。あれは怖かった…」 「……なによ、あいつ。あたしがあんなこと言ったのに心配? お人よし過ぎるでしょ。そういうところがムカつくのよ」 「桐乃?」 「……なんでもない。あやせに関してはあたしもよくわかんない (むしろ何であんなこと言ったのかあたしが聞きたいぐらいなんだケド)」 「そうか……桐乃」 「何よ?」 俯いた顔を上げて、京介の顔を見ればいつになく真剣な顔でこっちを見つめていた。 普段見せない凛々しい顔にドキッと胸が高鳴る。 「まあ、昨日までに何があったかはわかった。じゃあ……昨日のことは、全部、嘘か?」 「そ、れは……」 嘘は、ない。昨日あたしが京介にしたことは、全部、自分が望んでいたことだ。そこに嘘は一つもない。 「……ううん。あれは全部本当のこと。あたしの気持ちも、ずっとあんたを想ってきたってのも、全部本当のことだよ」 「……そっか」 「あんたは? あの時言ってくれたのは……勢いだけ? それとも……」 正直、これを聞くのは怖い。でも多分聞けるのは今をおいてないと自分の中の何かが訴えている。 きっと、今ならどんな返事でも受け止めることが出来ると思う。 「……桐乃」 「何?」 「俺はさ、お前のことがずっと大嫌いだった。お前は俺をまるでさもいないように無視してやがったし、 いざこうやって話せるようになったかと思えばお前の口から出るのは文句や罵倒ばっかりだ。」 「……うん」 言われてみればその通りだ。いくら素直になれなかったとはいえ、思い返せば随分ひどいことをしてきたように思う。 「でもな」 「……?」 「そんなお前が留学して、いなくなって、すごく寂しいっての自覚して、お前を迎えにいって、顔を見れたときに思ったよ。漸く会えた、ってな」 「……」 「お前がこっちに帰ってきてからも色々考えてみたんだよ。俺は何でお前なんかのためにこんなに頑張ってんだろうって」 「……なんかは余計だっての」 「うるせえよ。……どうしても妹ってだけじゃ処理しきれない感情があるのはわかってたさ。 それでも無理矢理そういうのに理由をこじつけて、自分を誤魔化してた。それが、漸くわかったんだよ。昨日な」 「それって……」 それは、そういう意味で受け取ってもいいの? 「昨日も言ったけどな。改めて言うぞ。俺は桐乃、お前が好きだ」 「うん」 「確かにお前は妹だけど、それだけじゃなく、女の子としてお前が好きだ。お前にはもうどこにもいってほしくないんだ」 「うん……うん!」 」 涙が頬を伝う。それは昨日流したような悲しい涙なんかじゃなくて、嬉しくて、嬉しくて自然にもれていく涙だ。 「この先いろんな問題もあると思うけどさ、俺はそれでもお前と一緒にいたい。桐乃は、どうだ?」 「あたしも……あたしも、あんたと一緒にいたい! ずっと、ずっと一緒にいたい!」 「だったら、ずっと一緒だ。もう絶対に離さないからな」 「あたしだって、あんたのこと、絶対に離さないからね」 「おう」 「……今日からあんたのこと、二人きりのときは京介って呼ぶからね」 「なんだか照れくさいな」 「いーじゃん。そのほうがそれっぽいでしょ?」 「それもそーだな」 ふたりで見詰め合って笑いあう。そんなひと時に幸せを感じる 「だから、さ」 「ん?」 「あんたはこれからあたしの兄貴じゃなくって」 これから先、いつまでもこのときを守っていきたいと思う。 あたしたちなら、それが出来ると思うから。だから―― 「あたしだけの、京介だからね!」 これからも、ずっとずっと、よろしくね。 END-
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/303.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1290468634/26-29 「私と付き合ってください」 黒猫から告白を受けた後、その場での返事をしなかった俺は、家に帰り一人部屋の中で考えていた。 「まさか、あいつが本当に俺のことを好きだったなんて」 黒猫とは1年くらいの付き合いになる。あいつも初めて会った時とは大分印象が変わり、今までのいろんなやりとりから、 親密になっていきもしかしたらという想いはあったんだが、いざ本当に告白されてみると嬉しい気持ちで舞い上がる半面、 さてどうしたもんかと考えざるを得なかった。 そんな夜だった。桐乃に呼び出されたのは。 ドアがガチャンと開く音と同時に、桐乃が顔をのぞかせてきた。クイックイッっと、妹に指で呼びつけられる。 「ノックもしないで、なんだよお前は」 「・・・・・・・・・・・・・・」 あれ?なんか怒っていらっしゃる? 何もしゃべらない妹に対して、さからってはいけないと身の危険を感じた俺は、 妹のなすがままに妹の部屋へ誘導され、妹のベットの前の床に正座させられた。 そこで、ようやく妹がその重い口を開いたのであった。 「あんた、あの黒いのことをどう思っているの。今日、あいつから告白されたんでしょ」 あれ? 何で知っているんですか桐乃さん? 黒猫? もしかしてあいつが言ったのかな。 「いや、どうって言われても。」 それを今考えているところなんだよ。 俺は妹からの突然の問いかけに対して、動揺を隠すことができなかった。 「はあーーーー。あんたがそんなこと言ってどうすんの。あいつは本気だよ。本当に本当に、あんたのことが好きなのよ。 こんなに真剣になっているあいつを今までに見たことがないくらいに」 そう言って、桐乃は俺の襟首をつかみ、顔を近づけてきた。 「あんなやつのことなんて、どうだっていい。いや、どっちかってゆうと、むしろ失恋でもしてくれたら大笑いして やるんだけどね。だけど・・・・・・・・。だけどね。 ・・・・・・あんたは、あんたはね。あいつに対してしっかりと 考えて答えをださなきゃいけないの。 それが・・・・・・それが・・・・・・。たとえ、どんな答えだったとしても・・・・・・」 何も答えることができなかった。こいつ、本当に黒猫のことを心配しているんだな。昨日のこともあるんだから、 ほんとだったら俺なんかとは口も聞きたくないはずなのに。 だけど。そうだな。そろそろ決着をつけなきゃならないな。そういって俺は立ち上がり、妹の頭にそっと手を差し伸べた。 安心しろ、桐乃。俺は重度のシスコンなんだ。俺はお前のそんな顔なんか見たくない。はん、笑いたければ笑うがいいさ。 俺は妹の笑顔を見るためだったら、何だってやってやるさ。 「黒猫と付き合う。それがお前の望みなんだろ」 「えっ・・・」 その瞬間、桐乃は目を見開いて、とても悲しくて寂しそうな表情になった。 そして・・・・ バンツ! と、顔面をぶっとばされた。桐乃がクッションを拾い上げて、両手で俺の顔面に叩き付けてきたのだった。 「ゲボツ・・・・・」さほど痛くないが、一瞬息ができなくなる。立ち直る暇さえなく、今度は下腹部に衝撃が走った。 ずどんという音がするほど、強烈な前蹴りだ。 「ちょ・・・・・・待・・・・・・痛・・・・・」 「うるさいっ!」 バンツ!!「あたしが・・・・・・・・っ! あたしがどんな気持ちでこんな話をしていると思っているの!」 バンツ!!「あたしが・・・・・・・・っ! あたしがあの時のあんたの言葉でどんだけ傷ついたと思っているの!」 バンツ!!「あたしが・・・・・・・・っ! あたしが、いったいどれだけあんたのことを考えていると思っているの!」 バンツ! バンツ! バンツ! バンツ! 何度も、何度も、あふれる感情のごと、叩き付けてくる。泣きじゃくりながら俺をブッ叩き続けている。 「何怒ってんだ?お前、俺を黒猫と付き合ってほしいんじゃなかったのかよ!」 「な! 違う。 ・・・あたしは・・・・あたしは・・・・・」 「あたしは。あたしはそんなことを望んでいない。本当は・・・・・本当は・・・・・・」 ようやく攻撃を止めた後、桐乃はそう言って顔をゆがめて、とても苦しそうな表情で俺を見つめてきた。 数分後 「嫌だ・・・・・・・・・・・・・・・」 「嫌だ。嫌だ。嫌だ。兄貴が誰かと付き合うなんて絶対に嫌だ。あんたは、あんたは、あたしだけ見ていてよ!」 そう言って、桐乃は俺に抱きついてきた。 それは、信じがたい光景であった。桐乃が・・・あの桐乃がだぜ。最近でこそ、そこそこ仲よくなっていて、偽装デート とかもしていたのだが。まさか、本当にまさかなんだが、俺は今まで大きな誤解をしていたんじゃないだろうか。 「おま・・・! いったい何言ってるんだ!」 「本当は、本当は、あんたのことがずっと前から気になっていたのよ!」 「あんたがあたしにいままで色々してくれたこと、すっごい感謝しているから。嬉しかったから。あんたがいなかったら、 あたしはとっくにあの趣味をやめさせられていたし、あやせとだって絶好していたかもしれない。アメリカに行って苦しん でいた時も、あんたが助けにきてくれてほんとに嬉しかった。いつだって あんたは、あたしが本当に苦しんでいる時に 助けてくれた」 「あたり前だろ。俺はお前の兄貴なんだから」 「だけど・・・だけど・・いつの間にかあたしは、あんたがいないと何もできなくなってきたの。あんたが心のささえに なっていたの。・・・・・・・。表面上は、なんでも完璧にこなしてきたつもりだった。 だけど、だけど、あんたがいないと・・・・・。あんたが見てくれていないとあたしは・・・・・あたしは・・・・・」 「好き・・・・・お兄ちゃん・・・・・・」 「・・・・・バカ野郎」 よくわかった。ようするにこいつは、俺が思い描いていた姿とはまったく正反対であり、とても弱い人間だったのだ。 すべてを完璧にこなしているかのように見える桐乃は、精神的に、決して強いやつじゃない。むしろ、本質は、未熟で脆い。 辛いことがあれば、普通に凹む。だけど、それをなんとかこなしてきたのは、責任感と決意でありなにがなんでもやってやる という気迫だと思っていたのだが、それは俺の大きな勘違いであった。 俺が、こんな何も取り柄もないような俺が、桐乃にとってのパワーの源であり、心の支えになっていたのだ。 俺は、いつかリアに言われた言葉を思い出していた。 「だって、キリノがボロボロになっていたのは、超好きなおにいさんに会えなかったからで、キリノがいきなり早くなったのは、 おにいさんがロスに来たからじゃん」 人一倍、鈍いといわれる俺であったが、さすがにここに至っては、すべてが間違いであったことにようやく気がついたのであった。 たった二人きりの兄弟だっていうのに、どうしてこんなに気持ちがすれ違うんだろうな。 すべてを言い切ったのか、桐乃は、はあはあと息を荒げて、俺の顔を至近距離で睨みつけてきた。力をすべて使い果たしたのか、 今にも気を失ってしまいそうな顔をしている。 「・・・・・桐乃。・・・・・済まなかった。」 こうして、俺と妹の人生最後?の大喧嘩いやカミングアウトは終わった。 決めなければいけない。今度こそ本当に。 その時、頭の中に出てきたのは、もちろん黒猫。 だけではなかった。 我が人生に見てきた人の中で最もかわいいと思っている愛しのラブリーマイエンジェルあやせちゃん。そして、俺の幼馴染であり 俺に最も安らぎを与えてくれる麻奈美。 黒猫だけでなくこの2人との関係もはっきりさせなければならないな。 その時の俺は、本当に真剣だった。 まずは、あやせからだな。 そして、俺は、携帯を手に持ち、ラブリーマイエンジェルあやせちゃんへ、俺の最後のメールを出した。
https://w.atwiki.jp/yariba/pages/269.html
本当に好きなのは【ほんとうにすきなのは】 望、甜歌 「っあー!この人かっこいー!」 俺の隣では、毎日こんな大きい独り言が聞こえます。 「ねーねーのんちゃん見てっ、かっこよくない?」 「うんうん、そうだねえ」 雑誌を数冊乱雑に開いて並べると、それの一つ一つを指差す。 そしていちいち気に入った男を俺に知らせる。 しかも、俺の部屋で。 そんな一見自分勝手極まり無いのが、俺のちょっと気になってる人。 甜ちゃん。 「のんちゃんってば適当すぎ」 軽く俺を睨みながらばしっと腕を叩く。 これが、結構痛い。 「甜ちゃんさあ、普通に好きな人居ないの?」 何とも無しにそう聞くと、甜ちゃんは目を丸くした。 そのまま数秒、ぶはっと噴き出す声が聞こえる。 「やっだー、居る訳ないよ、ないないー」 明らかに"いますよ"って感じの返事だった。 ちょっと気になってるって程度でも、やっぱり傷付いちゃったりとかして。 そっか、と頷くしか出来なかった。 そんな俺を見て甜ちゃんは、「変なの」と呟いた。 俺からすれば、甜ちゃんの方が変だ。ミーハーだ。 「またあ?」 懲りずに甜ちゃんはやって来る。 ただ違うのは、今度持って来たのは雑誌じゃなくて、何らかの切り抜きだ。 その中には公輝や卓也や、俺も映っていた。 「よーっく見るとかっこいい人いっぱいいるけどー…」 甜ちゃんは写真を床に置いてぺたんと座る。 「甜歌が一番かっこいーって思うのは、この人かなっ」 そう言って、俺を指差した。 恐る恐る顔を上げると、にっこりと笑った。 それからも甜ちゃんは、俺の家で雑誌を開いた。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/2762.html
澪「律って背中きれいって言われない?」(フキフキ) 律「でへへ~♪実は私の自慢なんだぞ~澪は特別に拭いて良いよ~」 澪「はいはい…」(キュッキュ) 律「ふ~極楽極楽~」 律「背中はもう良いから次は前~」(フワフワ) 澪「ま…前!?そっちは自分でやれって!」 律「えぇなんで?なんで?」 澪「なんでって!考えればわかるだろ!」 律「わかりません!」 澪「なんでそうなる!つまりだな…後ろにはついてないものがついてるわけで…その…」 律「後ろについてなくて前に着いてるもの…オッパイかぁ!」(ヘラヘラ) 澪「ばっ…はっきりいうな!」 律「大丈夫だよ~澪ちゃん♪私の小さいから♪」 澪「大きさの問題じゃないだろ!」 律「良いじゃん~♪ダメ?」 澪「だ、ダメ!」 律「じゃあ唯よんでやってもらう!」 澪「ぐ…それは………」 澪「やります!私がやります!」 律「わ~い!じゃあ早速!」(ゴロン) 澪「!!」 澪「なんで仰向けになるんだ!?」 律「そっちのほうがやりやすいんじゃないかなって」 澪「少しは恥じらえ!」 律「いいじゃん♪小さいとき一緒に流しっこしたんだしなにも恥ずかしいことないよん」 澪「私は恥ずかしいの!」 澪「もお!ちゃっちゃとふくからな」 律「はーい♪」 澪「まったく…」(フキフキ) 律「ふーサッパリする~」 澪「それはよかった」(フキフキ…フニ…フニ…フキフキ…フニフニ…) 律「ん………はぁ…んっ……つあっ……ハァハァ…」 澪「(なんだこの声は?酔ってるからだよな?酔ってるからだ!酔ってるからに違いない!)」(フキフキ…フニュフニュ…フニ…フキフキ…) 律「はぁ……ん……あぁ…ハッ…ハッ…」(ウルウル) 澪「……」 澪「(酔ってるからだよな?ち、違うのかな…?違うとしたらなんで?いや…酔ってるからだって…うん!酔ってるから…)」 律「澪ちゃん…手が止まってる…もっとして…?」(ウルウル) 澪「あっ!あぁ…はいはい…」(フキフキ…フニフニ…フニュフニュ…) 律「はぁぁん……ん…あん……良ぃ………」(モゾモゾ) 澪「(もうなんだって良いや…)」 澪「はいバンザイしてー!」 律「バンザ~イ」 澪「腋の下拭きますよ」(フキフキ) 律「クスクス…」 澪「……」(ピタリ) 律「あ…」 澪「…」(フキフキ) 律「う…クスクス……ウププ」 (フルフル) 澪「(弱点発見!)」 (フキフキフキフキフキフキフキフキ) 律「う…くふ…あははははははきゃはははくすぐったい!やめて!やめてー!」 澪「…」(ピタリ) 律「ハァハァ…ゼェハァ…」 澪「(おもろい…)」 澪「はいっ!もうあらかた拭いたから下は自分で拭きなさい!」 律「え~なんで?澪がやってよ!」 澪「な、なに言ってるんだお前は?それだとイロイロ意味合いがかわってくるだろ!」 律「意味合いって?」 澪「そ、それは…とにかくダメ!」 律「やだ!」 澪「や、やだって…なんでお前が…」 律「やだ!」 澪「だ、だからなんでお前が…」 律「やだ!」 澪「だって…下は……」 律「やだ!」 澪「だ、大事なところだから自分でやったほうが…」 律「じゃあムギに頼む!」 澪「え…?」 律「ケータイケータイ…あった」 ピポパ 澪「ねえ律……」 律「あっ!もしもし?うん、今澪の家でお酒のんじゃって~えへへ~」 澪「ね…ねえ…律…?」 律「澪が体拭いてくれないんだよー、うん、うん、そうそう!だからムギに拭いてもらおっかなーって」 澪「ねぇ……ねぇねぇ……律…律…」 律「えっ?来てくれるの?わーい!じゃあ待ってるから!」ピッ 澪「む、ムギに…頼んだの…?律…?」 律「頼んだ!」 澪「ううぅ……裏切りもの……もう死にたい……」 律「なんでそんなにへこんでるの?」 澪「律がムギと仲良くするから……」 律「実は電話は嘘でした♪」 澪「へ?」 澪「な…この馬鹿律!も、もう絶対やってやらないからな!」 律「と、言うのは嘘でホントに電話しました♪」 澪「え………?」(シュン) 律「というのも嘘で電話してません♪」 澪「うぐぐぐぐ…どっちだ!?」 律「さぁどちらでしょ~?ホントは澪ちゃんやりたいんでしょ~?」 澪「う…や、やりたくない…」 律「ホントは?」 澪「…」 律「本当はぁ?」 澪「やりたい………です」 律「じゃあやって!あっ!ムギには電話してないよん♪」 澪「くぅぅ…負けた…」 律「はやくっはやくっ!」(パタパタ) 澪「拭くだけだぞ!拭くだけだからな!」(フキフキ) 律「オゥ…イェース…」 澪「…」 澪「(はやく終われはやく終われ!)」(フキフキ…フニュ…フキフキ) 律「オーゥ…グッド…オゥイエース…」 澪「…」 澪「お前わざと変な声出してるだろ?」 律「…」 澪「静かにしてなさい」(フキフキ) 律「…」 澪「…」(フキフキ) 律「…」 澪「…」(フキフキ…クニュ…フキフキ…) 律「…」 澪「ねぇ?」 律「ん?」 澪「静かすぎて不安なんだけど…」 律「澪はしょうがないなー」 澪「はい!終わり!」 律「えー?もう?」 澪「全身くまなく洗ったんだ!良いだろ!」 律「む~…まだ愛が足りない…」 澪「愛ってなんだ?目的が変わってるぞ!」 澪「はいっ、もうちゃっちゃと服着る!貸してあげるから適当に選んで!」 律「ぷー!」(ゴソゴソ) 律「これ借りるから!」(キガエキガエ) 澪「はいはい」 律「ふ~サイズ大きいな~」 澪「ちょ…律!タンクトップ……ダボダボだし…見えちゃいけないとこ見えてるし…」 律「はぁ~酒が抜けない…」(フラフラッ 澪「私律を拭いてたら汗かいちゃったからお風呂入って来るからね」 律「は~い」 澪「おとなしくしてろよ」(テクテク) 律「ほ~い」 澪「まったく世話がやけるな」 ~脱衣所~ 澪「はぁなんか疲れた…」(ヌギヌギ) 澪「風呂は命の洗濯って誰か言ってたっけ…」 チャポン 澪「ふぅ…極楽極楽…」 律「気持ち良い?」 澪「うん~」 律「んじゃ私も♪」 澪「って!えぇ!?なんでお前がここにいるんだ!」 澪「なんでお前がここにいるんだ!?」 律「大丈夫だって~♪服はしっかり脱いだから~♪」 澪「そういう問題じゃないだろ!」 律「いいからいいから♪私も入ろっと!」(フラフラ) 澪「あー!ダメダメ!お酒飲んでお風呂入ると心臓に悪いんだって!うちのお父さん倒れて救急車で運ばれたのしってるだろ!?」 律「じゃぁ見てる」 澪「それなら…まぁ…」 澪「って!違うだろ!何を見る気だ!?」 律「澪ひゃんの入浴…その他モロモロ~」(ニヤニヤ) 澪「エロオヤジかお前は!?」 律「頭と背中くらいなら洗ってあげるよ♪」(ヘラヘラ) 澪「…………!」 澪「……………」 澪「少し待ってて…」 バシャバシャ 澪「お願いします…」 律「なんか暗いな~?もっと明るく言わなきゃやらな~い」 澪「な…ううぅ…」 澪「お願いしま~す☆♪」(ニコッ) 律「あっ!今ちょっとドキッとしたかも…//」 澪「馬鹿言ってないで洗って」 律「いやいや本当に!」 澪「そこ推して来ないで良いから!恥ずかしい//」 律「じゃあ頭洗いま~す」(カジカジ) 澪「お~!人に洗ってもらうと気持ち良い」 律「本当に?じゃあもっと密着しなきゃね♪」(スリスリピトッ) 澪「…」 律「~♪」(カジカジカジカジ) 澪「おぉ~//(まぁ良いか…) 律「は~いながちまちゅね~」(ジャージャー) 澪「は~い♪」 澪「(…はっ!いつの間にか律のペースに嵌まってる!)」 律「次はトリートメントしましょうね~」 澪「よろしく」 律「………澪また暗いよ?明るくって言ったじゃん?一度言われたことすぐ忘れちゃダメだろ~?」 澪「お前にだけは言われたくない!!」 律「もう一回!は~いトリートメントしますよ~」 澪「は~い♪りっちゃ~ん♪」 律「あっ!今不意打ちで『りっちゃん』って呼ばれたのドキッとした//」 澪「はいはいわかったから」 律「ほ、ホントだぞ!ホントにドキッとした!」 澪「だからそれは推さないで良いから!」 律「おっとトリートメントだったっけ…」(ヌリヌリ) 澪「…」 澪「ねぇ?律?」 律「なぁに?」 澪「なんで自分の胸にトリートメント塗り付けてるんだ?」 律「えぇっ?」 律「澪まさか知らないのか…!?」(ヌチュヌチ) 澪「何を?」 律「胸トリートメント!」 澪「そんなもの知るか!」 律「マジ…?胸でトリートメントすると洗われてる人も気持ち良いし洗ってるほうも楽しいって有名だぞ?」 澪「ど、どこで?」 律「だから!私のオッパイで澪のトリートメントをするの!」 澪「どうすればそんな異常行為思い付くんだ?」 律「異常じゃないって!憂ちゃんに教えてもらったんだから間違いない!」 澪「憂ちゃんに?なんで憂ちゃんがそんな猥褻なことしってるんだ!」 律「唯にしてあげてるって言ってたな」 澪「なんで姉妹でそんなことしてるんだあいつらは…」 律「まぁ~よくはわからないけどやってみよう!」 澪「えぇっ!?それは…」 律「嫌なの?澪もホントはしてほしいんでしょ」 澪「そ、それは…」 律「二人でいるときくらい素直になってよ…」(ウルウル) 澪「ドキッ…//」 律「澪はいつもホントのこと言わないから時々わからなくなるんだよぉ…」 澪「…」 澪「ごめん、律にしてほしいな…その…胸トリートメント?だっけ?」 律「澪…//」 澪「お願い」 律「じゃあ頑張ってやるね!」(ニュチヌチュヌチ) 澪「おぉ~!なんか初めての感覚…//でもこれホントにトリートメント出来てるの?」 律「ハッハッ…らいじょうぶれひょ…ハァッハァッ…んっ…」 (ヌチュヌチュ) 澪「なんか律へんじゃない?」 律「あんっ……へ、変じゃないし…んん…ハッハッ…」 (ヌチュヌチュ) 澪「なら良いけど…結構気持ち良いし」 律「ぅあっ……ハァハァ…ハァハァ…ハァ…」 澪「終わり?」 律「ふぅ…次はお体洗いましょうね~。タオルか身体どっちで洗ってほしいでちゅか~?」 澪「へ?身体『で』って?」 律「いや、胸トリートメントの要領で身体で身体を洗うの♪」 澪「…(エロッ!)」 澪「じゃ…じゃあ身体で…」 律「は~い♪全身に石鹸塗らなきゃ♪」(ヌリヌリ) 澪「うわっ!テカテカ光ってすごくエッチ…」 律「さぁ洗いましょうねまずは背中から~」(ヌルヌル…ピチャ…ニュチ…) 澪「ん…はぁ…なんか…気持ち良くなる…」 律「えいっえいっ!」(ニュチ…ヌルヌル…) 澪「律の胸…柔らかい…上下してるのがわかるよ…」 律「ていっ」(ギュッ…) 澪「うわっ!」 律「あ~あったかい…」 澪「うんあったかい…」 律「ねぇ澪?」 澪「なに律?」 律「もう私我慢しないで良い?」 澪「へ…?」 律「なんかさ…女の子同士~とかイロイロあるじゃん…」 澪「あ、あぁそういうことか…良いよ…律がしたいようにしてくれて…」 律「じゃあ遠慮なく…えい!」(モミッ) 澪「きゃっ…!」 律「うむむ…この手にあまる感じ…スバリ3cmアップだな?」 澪「なっ…大きくなんてなってないもん!」 律「はいはい嘘言わな~い♪」(モミモミ) 澪「は…んぅぅ…はぁん…ずるいぞ…」 戻る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/2951.html
-梓 ファーストインプレッションは、もったいない先輩…でした。 出るところは出ていて、顔のパーツも整っていて、筆舌しがたいほど綺麗な髪で--。 それなのに太い眉毛のせいで、ちょっと野暮ったい。 他の先輩たちとのやり取りから、優しくて丁寧な人だとは感じていましたが、その程度で。 特に良い印象も悪い印象もありませんでした。 そんなムギ先輩のイメージが変わったのは、軽音部に入ってしばらくしてからのこと。 ある昼休みのことです。 お昼ごはんを済ませた私は、中庭にいました。 憂が唯先輩のところは行ってしまい、手持無沙汰だったし、学校を探索することにしたのです。 花壇に目をやりながら歩いていると、ふと金髪の後ろ姿が目に入りました。 ひと目でわかりました。ムギ先輩です。 ムギ先輩は座りこんで何かしているようでした。 何をしているか気になり近づくと、先輩はこちらに気づきました。 「あれ…中野さん」 「こんにちは。琴吹先輩……あ、その子」 「ええ、迷いこんだみたいなの」 「猫さん…」 「ふふふっ」 「?」 「猫さんだなんて、随分かわいらしい言い方だなって」 「う…」 「気にしないで、褒めてるんだから」 なんだか出鼻を挫かれた気分です。 先輩はそんな私のことなど気に留める様子もなく、猫を撫でています。 喉元を撫でられたその子は、気持ちよさそうに、ニャァと…。 「私も撫でていいですか?」 「ええ、もちろんよ!」 「おいでー」 猫は素直に近寄ってきて、顔を差し出しました。 まるで撫でてくれと言わんばかりに。 「ふふ、素直な猫さんねぇ…」 「はいです」 「そういえば中野さんはどうしてこんなところに?」 「ちょっと学校探索です」 「ふぅん…この学校広いからわかりにくいでしょう?」 「はい。でも、最近はだいぶ慣れてきました」 「そっか。ねぇ、よかったら私が案内しよう…」 「ん?」 「…探索は自分でやるから楽しいんだよね。ごめん、忘れて」 探索は自分でやるから楽しい、というムギ先輩の発想は面白く感じました。 私は何度か校内探索に出ていましたが、それは所詮暇つぶしで。 面白いかどうかなんて考えたこともなかったのです。 でも振り返ってみれば、結構探索を楽しんでいたかも…。 「あの、琴吹先輩」 「なぁに?」 「やっぱり案内をお願いできませんか? 1人での探索ならいつでもできるので」 「ふふ、そっか。 じゃあ、この子とはお別れね。バイバイ」 猫は名残惜しそうにムギ先輩が離れていくのを見ていました。 「さて、どこか案内して欲しいところはある?」 「えっと…」 「特にないんだ?」 「ごめんなさい…」 「中野さんが謝ることないわ。順に見て回りましょう」 中庭、特別教室、部室練、会議室…特にあてもなく、私達は歩きました。 ムギ先輩は施設が見えるたび熱心に説明してくれたので、軽い気持ちで案内を頼んだのが申し訳なく思えました。 「…と、これくらいかしら。もういい時間だし」 「そうですね」 「じゃあ、またね」 「あの…」 「どうしたの?」 「今日はありがとうございました。 それから…ごめんなさい!」 「どうして中野さんが謝るの?」 猫と戯れている先輩を邪魔してしまったこと。 軽い気持ちで案内を頼んでしまったこと。 私の中では「申し訳ない」ことなのだけど、うまく説明できそうにありませんでした。 「…中野さん」 「…はい」 「ふふ、唯ちゃんが中野さんに抱きつく理由がわかったかも」 「え…」 先輩は戸惑っている私に近づき、そっと頭を撫でてくれました。 「先輩が、先輩風を吹かせるのに理由なんていらないのよ 少しでも後輩の役に立ちたくて、先輩は必死なんだから」 語りながら、優しく髪を撫でてくれる。 「ふふ、中野さんの髪はさらさらね」 「先輩の髪だって…」 「触ってみる?」 「いいんですか?」 「もちろん」 ☆ 私は恐る恐る、手を伸ばした。 …あの時のことは、今でも覚えている。 ただ先輩の髪を触るというだけなのに。 ほんの数十センチ手を伸ばすだけなのに。 それがひどく特別なことに思えて。 どうしようもなく、心臓がざわついて。 あぁ、これが「ときめく」ってことなんだと---- ☆ ムギ先輩の髪はさらさらで。それから-- --とてもいい匂いがした。 私が「もったいない先輩」を好きになったきっかけは、その一件なのだけれども。 そのきっかけが「好き」という言葉に昇華されるまでには時間がかかった。 他の先輩に気づかれないようにこっそり目で追って。 ムギ先輩と目が合うとサッと逸らして。 そんなとりとめのない、それなりに楽しい時間を過ごしてきた。 そんな私の変化に他の先輩たちもムギ先輩も気づいていない…と思っていた。 でも、それは大きな間違いでした。 とある夏の日。 澪先輩が夏風邪気味なため、部活はお休みだというメールが来た日。 私は部室に行きました。 特に理由はありません。 強いて言うなら、誰もいない部室を探索してみたかったから…かもしれません。 部室にはムギ先輩がいました。 「あら、梓ちゃん」 「ムギ先輩? 今日部室は休みだって」 「あー…そうなんだけど。ちょっと氷を処分したかったから」 「氷…あ、お茶のですか?」 「うん。部活で出すお茶に入れてる氷なんだけど」 部活が突然休みになることはしばしばある。 その度にムギ先輩はこの作業をしているのだろう…。 「梓ちゃん?」 「?」 「何か考えこんでたみたいだけど」 「な、なんでもないです。 あ、そうだ! 良かったら、ちょっとお話しませんか?」 「ふふ、名案ね! 氷さんもそのほうが浮かばれるでしょうし」 氷さん。 その響きがおかしくて笑いを堪えていると、あっという間にアイスティーが出てきた。 冷たいお茶を飲みながら、部室でしばし談笑。 話したのは、休日の過ごし方、友達のこと、律先輩のオデコのこと。 ふと、話題が途切れる。 ムギ先輩はグラスに口をつけ、コクコクとアイスティーを飲みはじめた。 ふたりきりだったからか。それとも夏の日だったからか。 私はムギ先輩の唇から目が離せなくなってしまった。 アイスティーを飲み終えた先輩は、こちらを向くと、悪戯っ子みたいに笑った。 それから私の方へ歩いてきて、唇を重ねた。 そっと触れる程度のキスの後、すぐ唇を離した先輩は「勘違いじゃないよね」と呟いた。 「勘違いなわけないです」と返すと、舌で私の唇を抉じ開けた。 突然のことで頭が真っ白になった私のことなどお構いなしで、ムギ先輩は私を愛しはじめた。 舌は生き物のように私の口内で暴れまわり、涎が2人の口から滴り落ちる。 キスを続けたまま、先輩は器用に私の服を脱がせて、胸を愛撫しはじめた。 トクン トクン 突然だったけど-- 突然過ぎたけど-- ムギ先輩と愛し合うんだって実感が湧いてくる。 私も懸命に舌を絡めて、快楽を貪った。 ムギ先輩は乳首を暫く攻めた後、私の大事なところを攻め立てた。 私が十分に濡れたのを見計らい、先輩は唇を離した。 2人の息は荒い。 十分な酸素を補給した後、今度は私のほうからキスをした。 再び舌を絡めながら、ムギ先輩の指で…私は達した。 「ムギ先輩」 「なぁに」 「ファースト・キスですか?」 「ええ」 「どんな味がしました?」 「えっと…」 「ムギ先輩も?」 「うん…」 「衝撃的すぎて、味わう余裕なんてありませんでした」 「私も。アイスティーの味なんだろうけど、その直後に梓ちゃんの味を知ってしまったから」 「…」 「どうしたの?」 徐ろにキスをして、舌を入れた。 「ムギ先輩の味を覚えておきたくて」 「ふふふ」 愛の告白も、高校生らしい葛藤もないまま、私とムギ先輩の関係がはじまった。 と言っても、特に何か変わったわけではない。 たまに2人で遊びに行くようになった程度である。 学校生活でも、部活でも、身の振り方を変えるようなことはしなかった。 ただ、それでも先輩たちは2人の変化に気づいたみたいだ。 その上で何も言わないでくれたのは、とても有り難かった。 一番変わったことは…定期的に愛し合うようになったことだ。 私はあの日から…正確に言うとあの日以前から、ムギ先輩を性的な目で見てきた。 あの日以降、私はムギ先輩を見ると、どうしようもなく発情してしまうようのだ。 男子高校生なんて猿みたいなものだなんて言うけど、女子高校生は猿以下かもしれない。 そう思えるくらい、どうしようもなくムギ先輩を求めてしまう。 部室で、ラブホテルで、先輩の家で。 何度も何度も愛しあった。 2人でインターネットを見ながら研究もした。 その成果もあり、二人同時に達することもできるようになった。 爛れた日々。 でも幸せな日々。 そんな日々が永遠…とまではいかずとも、しばらくは続くと思っていた。 けれども、私は気づいてしまったのだ。 一緒にいるうちに、どんどん先輩について理解していった。 ムギ先輩は、誰かを助けることに喜びを感じる。 それは例えばお茶を入れることだったり。 あるいは唯先輩の面倒を見ることだったり。 とにかく、誰かを助けて喜んでもらうことに、最上の喜びを感じる。 もちろんムギ先輩自身の願望(例えば食欲)もあるけれど、 それ以上に、ムギ先輩の根っこに「奉仕による喜び」がある。 最初は小さな違和感に過ぎなかった。 ムギ先輩の「赤い顔」を見たことがない、という小さな違和感。 でも、ムギ先輩について知っていくうちに、 ムギ先輩について理解していくうちに、 違和感は疑念へと変わっていきました。 もしかしたら、ムギ先輩は---- ある日。 私達はホテルにいた。 お互いに下着姿になった後、私はムギ先輩を押し倒した。 先輩はニコニコしている。 いつもはムギ先輩が終始リードしてくれる。 きっと先輩は「今日は梓ちゃんがリードしてくれるのかしら」とでも思っているのだろう。 私はムギ先輩の目を覗き込む。 ムギ先輩は目を逸らさない。 覚悟を決めて、私はその問を発した-- 「ムギ先輩は私のこと好きですか?」 言ってから、少し後悔した。 2