約 640,499 件
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/379.html
罪と罰 【投稿日 2006/08/26】 カテゴリー-笹荻 「これは罰です。」 「全部忘れて浮かれてた私への これは罰です。」 もうあれから5年以上ががたとうとしている。 私は何か変わったろうか? 服装や髪型や言葉使いや、周りの環境のことを言ってるんじゃない。 私の中にある「核」のようなもの、本質の話だ。 何も変わっていない。 今でもオタクで。あんな事したのに、身近な人でやおい妄想をする癖が抜けなくて。身近にいる人をひどく傷つけたことを今でも忘れられなくて、心がいつも不安定で。 忘れない、と誓ったのに時折忘れて浮かれるようなおめでたい人間で。 オタクやめる、って何度も何度も何度も誓ったのにやめられない嘘つきで。 …これでも私は冷静に自分を見れてるつもりだ。 そうやって一人で自分を罵って、自分を貶めることに酔ってない?ともう一人の自分が囁く。そんなことはない。 これでも私は冷静に自分を見れてるつもりだ。 思考のベクトルが降下しはじめたら止まらなくなる心の中に拭いがたい嫌な感覚がいつまでたっても消えない …でも逆に、そんな思いなど忘れて、つい笑ったり喜んだりしてしまうことがあるのだ。 ……己の罪を忘れて。 笹原さんはどうして私なんか好きになったんだろう? こんなに変わり者で、根暗な私を。 私はことあるごとに笹原さんに聞く。笹原さんは、ただ照れくさそうに笑う。 好きって気持ちをうまく言葉で言い表すことなんかできない、と、また別の私が囁く。 好きになったから、好きだ、としか言えない。 ……わかってるでねか。聞くことじゃないんでねが。自分だってそうなくせに。 好きで、相手も自分を好きで、それだけで体があったかくなって心が軽くなって、この人のために何かしようと思って、 何ができる?と考えて、少しでも笹原さんの好意に応えよう、と思って後ろ向きで攻撃的な自分がなりをひそめる。 うまくいってるときは、本当に穏やかな気持ちで過ごすことができる。 ……己の罪を忘れて。 どんどん気持ちが降下していくのがわかる。笹原さんには、本当には理解してはもらえないだろう理由で落ち込んで、困らせる。 そんな自分が嫌いだ。 どうしたら私は変われるだろうか?…自分を好きになることができるのだろうか? 『無理だ。変われない。だって今まで変われなかったんだから。』 『いや、変われるよ。だって現にもう変化が起きてるじゃない。』 …え?変化って何。 『だって今までは、「どうしたら自分を好きになれるか」なんて考え方はしなかったはずだから。』 ……それって変化なのかな。 『そうだよ。』 私が一人で色々考えている間、笹原さんは黙って私の後ろで、ウチにあった漫画(BLではない)を読んでいました。 ふと笹原さんのほうを振り向くと、笹原さんもこっちに気がついて笑いかけてくれました。 私は…どんな顔で笹原さんを見ていたのでしょう?自分でもよく分かりません。 「…あ、あのさ」 笹原さんはいつもと変わらない困ったような笑顔で私に話しかけました。 「コミフェス落ちたのは残念だけど…。また他にも、今から参加申し込みできるイベント探してさ、そこで本出したらどうかな? コミフェスはホラ、また来年もあるし、夏もあるし!ね?」 「………………」 「すごく残念なのはわかるけどさ…、ねえ?」 笹原さんにそう言われて、ようやく私は、サークル参加できなかったことが残念でこんなに思考が暗くなっていたのだ、と言う事に今さら気づいたのでした。 そうか。わたすはそんなにがっかりしてたのか。 我ながらオーバーなくらいの落ち込みっぷりだと思いました。 というか、何かあるごとに私は、あの出来事を持ち出してこんな風に思考が暗くなるんだなと思いました。 …これが罰なのかも知れません。自分をいつまでも縛り付ける罰。 わかっています。こんな風に後悔したからといって、巻田君や私が傷つけた、壊した、色々なものはもう元には戻らないんです。ただの自己満足です。 そのことを思うと、自分には笑う資格がないんじゃないかとか、楽しむ資格がないんじゃないかとか、悪いほうへ考えてしまうんです。 …だから笹原さんには申し訳ないことをしてると思います。 そうやって私が沈んで、意味不明の言葉を吐き出すのを聞いてなきゃいけないんですから。 私が「これは罰だ」と思って一人落ち込むのは私の勝手。 でも笹原さんまで巻き込むのはどうなんでしょうか。 ……また私が思考を急降下させていると、笹原さんはまた私に話しかけてくれる。 「…漫画、もう描かないなんて言わないでよ。」 「え?」 私がびっくりして笹原さんの顔を改めて見ると、笹原さんは口元に笑みを浮かべたまま、真剣な目で言いました。 「俺、荻上さんの漫画好きだから。」 「………………………」 その言葉一つで、私は暗い思考から一気に開放されるのでした。 胸がどきどきして、嬉しくて、うまく言葉にできません。 「…やおい漫画をですか。」 でも私はまた、いつものようにきつい言葉を投げかけてしまうんです。 言った直後にいつも後悔するんです。後悔するくらいなら言わなきゃいいのに。 「…はは。」 笹原さんは困ったように笑います。本当は困らせたくないのに。 「いや、ね?やおいっていうか、なんていうか…荻上さんが漫画描いてること自体が好き、って言ったらいいのかな。」 「…ええ?」 「荻上さんが夢中で漫画描いたり、絵を描いたりしてるのが好きといいうか…。 俺は自分が絵が下手なもんだからさ、尊敬…っていうのもあるのかな?」 「えっ、や、ちょっと、やめて下さいよ!」 私は焦って笹原さんの言葉を遮りました。尊敬?こんな私を? ……人を傷つけたことのある、この趣味を? 混乱していると、笹原さんはもっと優しい顔で私に笑いかける。 「…だからさ、漫画描かないなんて言わないでよ。」 ……どうしてこの人は、私が一番楽になる方法を知ってるのでしょうか。 描きたいです。描きたいに決まってるじゃないですか。 だって、あんな事があってさえ、やめられなかったんですよ。 何度自分を詰っても、気持ちを抑え切れなかったんですよ。 「…アリガトウゴザイマス。」 ようやくそれだけ言えました。 「…じゃ、またイベント情報とか集めなきゃね。」 「そうですね。落ちたからって、落ち込んでるワケにはいかないですね。」 「…荻上さん…、それギャグ?」 「はい?」 「落ちて落ち込むって………」 「……は?」 私は呆れ顔で笹原さんを見ました。笹原さんはちょっと焦りながら私にこう言いました。 「いやー、ギャグだったらどんな風につっこもうか色々考えちゃったよ~。」 「…何言ってんスか」 「だってさ、つっこみたくても、最近斑目さんがなんだか覇気がなくてさあ…。」 「ああ、この前のくじvアンの対談ですか。『他にやるヤツいなかったんか』って、最後まで文句言ってましたねあの人。」 「そうそう、元気ないように見えて皮肉るトコはきっちり皮肉ってるし。んでまぁ、俺としても色々つっこんでみたけどさ」 「…笹原さんはツッコミがきびしすぎますよ(汗)」 「そうかなーーー?」 「せめて敬語使いましょうよ。タメ口でつっこんだときはちょっとヒヤッとしましたよ。でも、斑目さんも指摘する元気もなかったようですけどね…」 「せっかくつっこんだのにスルーされたね。スルーは駄目だよね。」 「…もういいです。」 「でも何であんなに元気ないんだろう?」 「ああ、それは、もうすぐかすか…………っっ」 私は言いかけた名前を慌てて飲み込んだ。 「え?今何て言ったの??」 「…いっ、いや!何でもねっす!!」 (わ、わたすの口から言うのはちょっと悪いっすよね、こういうのは…(汗)) 「ええ~~気になるなあ」 「あ、え~~~と…覇気のない斑目さんも流され受けらしくていいかな、と」 「はは、そうなんだ?…う~~~ん、やっぱ眼鏡のほうが…」 「いやですから、斑目さんのやおい絵はあくまでキャラとしてなんで」 「いや、俺も眼鏡かけてみようかな、なんて」 「は?…でも笹原さん目悪くないでしょ?」 「う~~んでも、このごろゲームやりすぎて目がちょっと………」 「…なんのゲームですか」 「え?え?いや、えっと(汗)」 「…別にいいですけどね」 「いやそういうゲームばっかしてるわけじゃないよ?まぁ、してないワケでもないけど…」 「………………」 「…やっぱイヤ?俺がそういうゲームしてるの」 「別にいいですって。前にもそう言ったでねすか。」 「あ、ならいいんだけどね。」 笹原さんはちょっと照れくさそうに笑う。 私のすぐそばで。 ……………………… 荻上さんが横で寝息をたてている。 この人をみるたびに思う。いつも体を硬くして自分を守っているけど、中身はもろくて、ちょっとたよりなげで不安定で、でもけっこう芯の強い人だ。 荻上さんはよく深刻な顔をして考え込んでいる。そんなときは、後で何故か「スミマセン」と謝られる。 何でだろう?そんなに気を遣うことないのに。というか、そんなに気を張ってたら疲れるだろうと思うのに。 荻上さんはよく不機嫌になる。そんなときは、何で不機嫌かよく分からなくてドギマギしてしまう。 俺が鈍感だからいけないのかもしれない。言ってくれなきゃわからないからかもしれない。 でもそんなとき、荻上さんが照れながら、ツンツンしながら言ってくれる本音が好きだったりする。 『押し付けデートじゃなくて、笹原さんが考えて笹原さんに誘ってほしかったからです!』 …あの言葉に反省したけど、嬉しかったなぁ。 今日のデート楽しかったなあ。荻上さんの貴重な笑顔が見れたし。 …たとえいつもツンツンしてたって、荻上さんはいつもそんな感じだから気にしてないのに。 ……いやむしろ、普段そっけないから、デレになったときや、不意打ちの言葉や表情がすごく嬉しいのに。 深刻に考え込んでるときは、心配にはなるけど、何ていうか…。それも含めて、荻上さんなのに。 荻上さんは口元に少しだけ笑みを浮かべた顔で、寝息をたてている。 俺のすぐそばで。 END
https://w.atwiki.jp/kskani/pages/488.html
罪と罰 ◆5xPP7aGpCE 空気というものはここまで変わるものなのか。 何故人はこうも容易く苛立ちや暴力的衝動に流されるのか。 (それはヒトの宿命、陳腐かつ永遠の課題) 今回のケースも同様だ。 ほんの数十分前、和気藹々とピザを囲んでいた雰囲気は既に無い。 顔ぶれも変わった、二匹の消失とその後の軋轢は大きな負の遺産を生み出した。 きっかけは放送、しかし始まりが何であれ分裂という最悪の結果を選択したのは紛れも無く彼ら自身であった。 先程の結束は砂のお城だったのか、仮初めの形だけの存在だったのか。 だとすれば崩れるのは当然の成り行き、やがては跡形も無く平らに戻る。 しかし時には固く締まりそのまま岩と化す事も起こりえる。 ただ見守ろう、崩れた城の行く末を。 ―――残骸は、まだ辛うじて形を保っていた 『第一幕:燻る不安』 重厚な博物館の奥の院、そこにあるのは島を繋ぐ端末の一つ。 残された者はただ黙って画面の動画を眺めていた。 深町晶と雨蜘蛛、生まれも育ちも正逆の二人は先程から一言も言葉を交わしてない。 特に晶は雨蜘蛛の方を見ようともしない、時折肩を震わせるのは尚も感情を抑えきれない為か。 対する雨蜘蛛は静かだった、まるで柳のように向けられる感情を受け流している。 今再生されているのは『森のリング』の記録だった。 されど続くのは森に開けた芝生の光景、時々聞こえてくるのは小鳥のさえずり。 まるで環境ビデオを思わせる癒しの世界、肝心のイベントはまだ先らしい。 早送りするか、と雨蜘蛛がマウスに手を伸ばす。 だがポインタを合わせて後はクリックという状態でその動きが止まる。 代わりに空いている掌が画面の前で上げ下げされた。 ―――コイツ、全然前を見てやがらねえな 腕を払いのけも抗議も発しないガイバーの反応に雨蜘蛛は確信する。 これから見るシーンに晶の知識が必要にならないとも限らない、世話を焼かせるなと苛立ちつつマウスから手を離す。 いつまで女みたいにウジウジしてやがんだ、と怒鳴りかけたその瞬間、 「……便利過ぎるんです」 いきなり晶が声を発した。 搾り出されたのは彼の中をずっと駆け巡っていた疑問。 ”スエゾーは何故テレポートが出来たのか?” 主催者への苛立ちも含まれていた、もしテレポートが完全禁止されていたのならばスエゾーが死地に向かう事も無かったのだ。 ガイバーの制限に悩み、一方で仲間の能力を制限しろとは何とも虫のいい話だが不満を感じずにはいられない。 「俺のガイバーは空を飛んだり壁を砕いたりと強力に見えますが……本来よりかなり力が抑えられてます。 理由はいろいろ考えられますが、反逆を抑える目的があるだろうって事ぐらいは俺にだって判ります!」 晶は勢いのまま喋り続ける。 この怒りや訳のわからない現象をどうしても胸に溜めておけなかったのだ。 何故か雨蜘蛛は黙ったままだ、好きに吐かせて落ち着かせた方がやり易いという考えだろうか。 「それがさっき喚いてた制限って奴か? 俺にはそんな縛り感じられないがな~」 いや、雨蜘蛛も何の気まぐれか口を挟む。 一見独り言だが問い掛けに近い、話を早く進める撒き餌だと晶は察した。 問いの答えは想像できる、恐らくは雨蜘蛛も判っていて言わせようとしているのだろう。 「全員に同じ縛りがあるとは考えられません……ガイバーや恐らくギュオーのように強過ぎる道具、人物に限って制限されているんじゃないでしょうか」 「ま、それなら納得だわな。てぇ事は何だ? スエゾーの奴がテレポート出来たのはおかしいんじゃねえかって思ってんのかよ?」 晶は無言で頷いた、わだかまりは残っているが他の感情がそれを上回る程に強いのだ。 ここにきて雨蜘蛛も晶の焦りを理解する。制限の存在とテレポートへの影響、面白い話じゃねぇかと男は考える。 映像に未だ人影は現れない、視線だけは前を見ながら男達の話は続く。 「確かにね~、居所のわからない連中の元へ行き来できるような能力が使えるなんざ不自然だわな」 スエゾーや小トトロの生死など雨蜘蛛にとってはどうでも良い、しかし主催者がそのような抜け道を許すかどうかについては関心がある。 晶のガス抜きも兼ねて男は更なる撒き餌を投下する。 「考えられるケースは二つ……狙い通り主催者の元へ飛べたか、失敗してそれ以外の場所に行ってしまったかです」 「前者なら成功だがまず帰ってこれねえわな、後者なら何処まで飛んだのかって問題だわな~。禁止エリアなんつー可能性もあるんだよな~」 心から心配そうに語る晶に雨蜘蛛は茶化す。 晶は雨蜘蛛がそんな人間だと知ってる以上突っかかる気にもなれない、心配の余りギュッと拳を握り締める。 「閑話休題だ。こっちもようやくお出ましだぜ~、見れば懐かしい顔じゃねえか」 ここにきて画面にも変化が訪れた、初めて見る蛇の怪物と二人にも見覚えのある0号ガイバーが現れたのだ。 その指が揃っているのを見て雨蜘蛛は一人ほくそ笑む。 (空を飛び指まで再生しちまう、全くガイバーって奴はとんでもなく便利な代物だわな~) ならば制限されているというのも無理も無い、関東大砂漠に有れば所有権を巡る戦争が起こっても驚かない。 残念なのは引き剥がす方法が解らない事だ、ここで晶に聞いても警戒を招くだけだろう。 (まぁ、晶も使い出があるしそっちは後回しだ。今はコイツを見るのが先決だからな~) 蛇の化け物の名はナーガという事もすぐに解った、キョンが様付けで呼ぶところからして彼らは仲間というより主従関係らしい。 晶も少し落ち着いたのかちゃんと画面を見ているようだ、因縁有る相手の出現に身を乗り出している。 「このナーガって人は放送で名前を呼ばれてました……これから一体何が起こるんでしょうか?」 「不意打ちってのが可能性高いが、俺から見てもキョンの小僧に裏切るような気概は見られねぇしなあ、やっぱ相手は違うんじゃねぇのか~?」 真っ先に考えられるのは仲間割れ、だがどう見てもキョンはヘコヘコするだけでナーガも相手にしていない。 では、この後リングが出現するとしてナーガは何が原因で命を落とすのか? 暫く様子を見る事として話の続きが行われる。 「ま、普通に考えりゃ連中がよっぽどのマヌケでも無い限り懐に入り込むのを許す筈が無いよなぁ。今頃はどっかで悔しがってるんじゃねぇのか~」 「……むしろその方が良いです、少しでもスエゾー達が無事でいられる可能性が有るのなら」 雨蜘蛛の言う通りだ、贔屓目に見てもスエゾーが本当に敵の本拠地に飛び込めた可能性は低いだろうと晶も思う。 それがどれ程無念だろうが生きててさえくれればきっとチャンスは来る、そう信じている。 ―――だとすればスエゾーは何処に行ってしまったのか? それが解れば苦労はしない。 部屋で座ってなどおらず全力で駆け出しているだろう。 腕を組んで晶は悩む、せめて手掛かりでもあれば別だがスエゾーからは何も能力の事を聞いていない。 「全くお前は頭を使う事を知らねぇ奴だな~、ヒントはてめえのガイバーにあるだろうが。 テレポートの制限がわからねぇってんならまずそいつの例を挙げてみろ」 「……あ! やってみます!!」 思考のループに陥りかけた晶に助け舟を出したのは雨蜘蛛だった。 既知の例があるなら比較すればいい、考えるまでも無い事だ。 すぐに晶はガイバーに掛かっているそれを思い出す。 「攻撃手段の威力制限、傷の回復速度、消耗具合の悪化は身をもって経験してます。 それにガイバー同士はテレパシーって言う無線機みたいにお互い通信できるんですがそれも全く使えません」 「随分とガチガチじゃねえか。テレポートに当て嵌めりゃあ、どうなる?} ガイバーの弱みを自然な流れで聞けたとは雨蜘蛛はおくびにも出さない。 一発で死ぬようなウィークポイントで無ければ意味が無い。 男の内心を知らずに晶は難問を解いた生徒のように夢中で喋る。 「移動距離の制限に 疲労が酷くなるだろう事、最後は……居場所の解らない相手にはワープ出来ないって事になりますね!」 「ピンポンピンポ~ン♪ で、その距離が問題って訳だ。当然端から端までってのは贔屓過ぎるよな~?」 画面では地面が割れ、地響きと共に四角いリングがせり上がっていた。 だが主と従者はそれを見て会話してるだけで未だ戦いが始まる様子は無い。 「ええ、直線距離で数エリア……いや一エリアに抑えられていたとしても厳しすぎる事は無いと思います」 「それでも連続で使用したら意味が無い、そんな便利な能力なら暫く動けなくてもおかしかねえ」 確かにその通りだと晶も思う、上手く使えばずっと殺し合いを避けて逃げ回る事も可能なのだ。 例えテレボート能力者が好戦的な人物だったとしても場合でもゲームバランスを崩しかねないと当然厳しい縛りがあるだろう。 「ならスエゾーは案外近い場所に居るって事じゃ!? 長距離のテレポートが出来ないなら禁止エリアにも引っ掛からないですし!」 「……てめえ本当にそんな能天気な事思ってんのか?」 希望を見出した晶に対し冷や水のような言葉が浴びせられた。 ちったあ考えろと晶を見もせずに雨蜘蛛は自らも加わった推理を全否定する。 「それでも厄介な能力なんだよ、テレポートつー奴は。少なくとも対抗手段が存在しなきゃあ許される筈がねえ!」 ここで考えられる対抗手段とはワープしても相手を見失わないサーチ能力か当たりをつけて一斉に広範囲を焼き払うような攻撃手段。 前者はデバイス、後者はゼクトールという例が存在するが雨蜘蛛は彼らの能力までは知らない。 だが実際は両者とも大幅に制限されており結果を見れば間違ってはいない。 例え一エリアであろうが回数制限があろうがテレポートを使える者はあまりにも突出し過ぎる、男にはその脅威が解るのだ。 「砂漠みたいな見通しのいい場所ならわからなくもねぇ。けどここは隠れる場所だらけだ、お前が言った通り便利過ぎる!」 「じゃ、じゃあスエゾーは一体!? 未知の制限がかかっていて何か問題が!? まさが本当に連中の元へテレポートを……」 言われて不安が急速に膨れ上がる。 心配のタネは晶自身気付いていた、スエゾーのテレポートに賭ける気合を見てしまったからだ。 万が一制限の枠を超えたのだとしたら考察など何の意味も成さない。 そう考えるとまた居ても立ってもいられない気持ちになってきた、これでは堂々巡りではないか。 「……静かにしろ晶」 その焦りを遮ったのはまたしても地獄の取立て人であった。 突然冷たい声と共に雨蜘蛛が晶の腕を掴む。 まるで氷に触れたように冷え冷えとした感触、感情さえも削ぎ落とされるような――― 意地を張っていたのも忘れ雨蜘蛛に顔を向けてしまう、臨戦態勢の男がそこに居た。 一体何に気付いたというのか? 雨蜘蛛は銃を抜き扉に射抜くような視線を向いていた。 だが今も流れる動画は一時停止もボリュームを絞る事も行われない、相手に気付いた事を知らせない為だという事は晶にも判る。 晶もすぐ扉に向き直り警戒した、背後の音声が空しく二人の間を通り抜ける。 ―――スエゾーが帰ってきたのか? その可能性が真っ先に浮かんだ。 しかしそれなら一声ぐらい有ってもいいはず、落胆してるとしてもオレやぐらいは言うだろう。 だとすれば―――敵が入り込んだか。 もはや二人に動画の事など頭に無い。 雨蜘蛛は銃を、晶はヘッドビームを何時でも撃てるように構えながら無言で入り口を注視する。 (スエゾー……でしょうか雨蜘蛛さん) (俺に聞くな、ツラを拝めばすぐにわかる) とん、と僅かに扉が揺れた。 間を置いてもう一度揺れる、先程より力が強くボールがぶつかったような音がした。 ―――間違いなくその向こうには何かがいる。 しかし数分経過しても扉は開かない。 襲撃ならとっくに終わっている筈、さすがに雨蜘蛛も不審に思う。 一つの可能性に気付いて晶が動く。 (もしかして誰かが助けを求めに来たのかもしれません、俺が行って開けてみます) (声も出せない程重傷って訳か~? まあお前さんの好きにしな) 都合良く自ら先鋒を買って出た晶の背後に雨蜘蛛が続く。 扉の両側にそれぞれが立ち、晶がドアノブに手を掛けて一気に開け放つ。 ―――次の瞬間、世界から時が消えた。 またしても空気が変わる。 鉛の様に重かった空気は凍えるように凍りつく。 誰も見ていない映像は尚も空しく流れ続けていた――― 『第二幕:罪と罰』 おお、何故我らはこれ程苦しまねばならぬのだろう。 因果はあるのか、我らが一体何をしたというのか、神は死んでしまったのか――― 晶の予感は当たっていた。 扉の向こうに居たものは確かに助けを求めていた。 『彼』が声を出さなかったのは、やはり出せなかった為なのだ。 だが何故晶は『彼』を励ましたり手当てしようともしないのか? 逆に何故これ程までに驚き、畏れ、立ち竦んでいるのか? 何が、晶と雨蜘蛛の元へやって来たのか? それは、来訪者を知っていたからこその反応。 それは、あまりにも予想だにしない展開だったからこその驚き。 それは、仲間の死がもたらした覚悟と熱意の結果があまりにも不遇であった為の沈黙。 時には残酷さは人の想像を上回る。 静寂が―――暫くの間続いた。 扉が開け放たれた途端、ゴロリと室内に転がり込んできた毛むくじゃらの存在。 蛍光灯の真下に晒された生き物の姿に晶のみならず銃口を突きつけた雨蜘蛛ですら絶句した。 ボールに似た球形の『彼』がずりずりと床を這う。 蝸牛より少し早い程度の鈍足で、それでもやがて硬直したガイバーの脚まで辿り着く。 それが何なのか、障害物か敵か味方かを確かめるように弱弱しく肌を擦り付けてくる。 恐らくそれで理解できたのだろう、『彼』が上向くと白内障を思わせる混濁した単眼が晶を見上げた。 「ス……エゾー……? お前、なのか?」 震える手でその肌に触れる、斑に生えた毛の感触が感じられる。 そうであって欲しい、欲しくないとの相反する願いが晶の胸中で交錯する。 ”スエゾーであって欲しい、また会えて良かった” ”スエゾーの筈が無い、こんな事ってあんまりだ” 彼もどう受け止めていいのかわからないのだ、あまりにも―――救いの無い結末に。 スエゾーがこんな姿をしている筈が無い、だって小トトロみたいな白い毛なんて生えてなかったじゃないか。 第一スエゾーは一つ目なんだ、確かに正面の眼は大きいけど脇に豆粒ぐらいの目玉が有る。 ほら、手だって付いている。変な位置に脚だって生えている。あいつはしっぽみたいな足しか無かった。 口だってこんな口唇裂みたいに裂けてないし…… そんな思いもプルプルと弱弱しい震えが伝わるとたちまちの内に瓦解した。 理屈でなく直感で理解する、『彼』は間違いなくスエゾーだと。 スエゾーと小トトロはやはり主催者の元へ飛べなかった、失敗して戻ってきた。 ―――ひとつの身体に解け合って 晶は昔見た映画を思い出す。 『ザ・フライ』というタイトルのそれは科学者とハエがテレポーテレションの実験に失敗し、融合して蝿男になるという話だった。 人間の姿を失い、文字通りの化け物と化していくそれを見た時は悲劇に襲われた科学者を面白いとしか思わなかった。 だが、現実に起こったこれは面白さなど一片も存在しない。 晶自身まだ腕が震えている、あまりの辛さにスエゾーを直視すらできない。 それでも―――見なければならなかった。 眼と眼が遭う、まるで視線を感じない。 充血して濁り切ったそれは既に視力が失われていた、脇の小さな眼は本来小トトロのものだったのだろう。 晶や小トトロを気遣って元気付けてくれた口からは意味のある言葉一つ聞こえない。 いくら語りかけても返ってくるのはうーうーといううなり声のみだ、声帯も駄目になっている。 融合で多くの器官が正常に機能を果たせなくなったのだろう、恐らく内臓にも重篤な疾患を抱えている。 時々苦しそうに身体を震わせるのがその証拠だ。 遺伝子が損傷した場合、多くの生物は短時間で死に至る。 それが胎児なら畸形として生まれてくる、今のスエゾーのように。 そして、生まれた直後に死んでしまう。 機能しない肉体は生命を維持出来ないのだ。 異なる遺伝子が交じり合い、キメラと化したスエゾーの異変はそれだけではない。 ある細胞は遺伝子の損傷で癌化、また別の細胞は増殖すらできず次々に壊死して腐ってゆく。 これが禁じられた力を使った報い、スエゾーに与えられた罰。 「あう……うううううううっ、あう……」 晶の腕の中で変わり果てたスエゾーが泣いている、あの唾を飛ばして怒鳴っていた覇気は微塵にも無い。 見えない巨眼から血交じりの涙を零し、先走った己の愚かさを悔いている。 自分の我が侭で小トトロをはじめ全員に迷惑を掛けたと今の彼にも解るのだろう。 ―――あんまりだ 晶には掛ける言葉が無かった、何を言っていいのか解らなかった。 ただガイバーの腕の中で抱きしめてやるぐらいしか出来なかった。 スエゾーの感覚が何処まで残っているのか解らないがガイバーの体温は伝わるのだろう。 より涙の量が増す、ただこの温もりだけが救いであるというように。 何時までそうしていたのだろう、気が付けば雨蜘蛛が晶にリボルバーを差し出していた。 「楽にしてやりな、晶。それがこの場合情けってものだぜ」 「……ッ!!」 込み上げた怒りのままリボルバーを振り払う。 だが寸前で雨蜘蛛が腕を引いた為に空振りに終わった。 「スエゾーは、スエゾーと小トトロはこんな所で死なせません! 俺が必ず助けます!」 今度こそ譲るつもりは無かった。 何が出来るか解らないが絶対にスエゾーを救うと晶は決意する。 雨蜘蛛に恩知らずと罵られようが構わない。 「てめぇはまだわからねえのか? 当ても無いのに生かしたってそいつの苦しみを長引かせるだけだぜ~?」 「……だとしても殺すなんて俺は嫌です! 探せばスエゾーを治せる人だって居るかもしれません!!」 晶に引く様子が無い事を見て取った雨蜘蛛は自ら銃を向けた。 これ以上足を引っ張られたくない、さっさと片付けるとばかりに引き金を引きかけるが出来なかった。 ガイバーがビームを放ったのだ。 額の金属球から放たれたそれは雨蜘蛛の真横を掠めて壁を穿った。 それは威嚇、だが次は本気で撃つという警告。 一気にその場が緊張する。 このまま決裂に至ると思われたその時、またしても予想外の事態が起こる。 雨蜘蛛、スエゾーを抱えた晶と三角形を描く位置に一人の少女が出現した。 それは灰色の髪にセーラー服、その上にガーディガンを纏った小柄な少女。 ガイバーと砂漠スーツ、それに見るもおぞましい畸形体に比べあまりにも場違いな存在の姿。 名を長門有希、れっきとした主催者の一人がそこに居た。 時系列順で読む Back Grazie mio sorella. Next 冬の訪れ、そして春の目覚め 投下順で読む Back Grazie mio sorella. Next 冬の訪れ、そして春の目覚め 彼等彼女等の行動 (08) 深町晶 冬の訪れ、そして春の目覚め 雨蜘蛛 彼等彼女等の行動 (05~07) スエゾー 第三回放送 長門有紀
https://w.atwiki.jp/mekameka/pages/498.html
罪と罰 地球(ほし)の後継者 任天堂 2000年11月21日 N64 近未来の地球で戦うACT・STG 続編 罪と罰 宇宙の後継者
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/10573.html
罪と罰・神風(つみとばつ・じんぷう) 概要 罪と罰・神風とは敵の罪に相応の罰を与える魔鏡技のこと。 初出はレイズのレイヴン。 登場作品 + 目次 レイズ 関連リンク派生技 関連技 ネタ レイズ 習得者 レイヴン 敵の罪に相応の罰を与える魔鏡技 分類 通常魔鏡 属性 風 HIT数 11 消費MG 100 基礎威力 1300 増加MR 15%→25% 習得条件 魔鏡「生還とケジメ」を入手 発動条件 MG満タンの状態で発動 強化1 ミラージュレシオが追加で5%加算 強化2 自身のHPが10%回復する 強化3 敵ののけぞり時間+0.1秒 強化4 自身のHPが10%回復する 強化5 ミラージュレシオが追加で5%加算 回転しながらのジャンプで敵に近づいて斬りつけてから斬り上げ、十字の斬撃を見舞い、十字の交点に敵を固定した後、態勢を変えて力を溜めた矢を放ち、最後に横から突風を発生させる。 カットインはレーヴユナイティアのものを使用。 台詞 判決いっとくぅ?罪と罰・神風!! + 魔鏡イラスト 「命が惜しかったわけじゃないはずなのになんでかこうなっちまった」 ▲ 関連リンク 派生技 ▲ 関連技 罪と罰・罪 罪と罰・罰 ▲ ネタ ▲
https://w.atwiki.jp/gamekoryaku/pages/306.html
罪と罰 宇宙の後継者の攻略 罪と罰 宇宙の後継者の攻略ゲーム 攻略本・サウンドトラックなど 攻略サイト その他 ゲーム パッケージ メーカー公式HP 価格 発売日 備考 任天堂 公式HP Wii ¥ 6,800 2009年10月29日 攻略本・サウンドトラックなど 表紙 タイトル 出版 価格 発売日 備考 攻略サイト サイト名をクリックで攻略サイトへ移動します。 サイト名 感想 攻略:GAYM その他 【荒廃した地球(ほし)を舞台とした、3Dアクションシューティング。】 《ストーリー》 人類が滅び、荒廃した惑星。主人公はある任務のために、その地球に向かった。 しかし、そこで記憶のない謎の少女と出会い、任務を無視して逃亡する。 追われる身となった2人はその地球から脱出をはかるのだが・・・・・・。 『 多彩な展開を見せるステージを疾走する 』 都市を駆け抜けながらの市街戦や、宙を飛び回っての空中戦など、ステージはめまぐるしく展開。 巨大なボスも待ち受けます。 『 移動と照準を使い分ける戦闘 』 キャラクターと照準を別々に移動させることで、敵の弾を自在にかわしながら攻撃することができます。 ◇Wiiリモコン(ヌンチャク・スタイル) Wiiリモコンのポインターで照準、ヌンチャクのコントロールスティックでキャラクターを操作します。 ◇クラシックコントローラーPRO Rスティックで照準の位置を、Lスティックでキャラクターを操作します。 ※クラシックコントローラ、Wiiザッパー、ゲームキューブコントローラでも操作できます。 『 敵の猛攻をかわし、ハイスコアを目指す 』 ダメージを受けずに敵を倒し続ければ、獲得スコアの倍率が上昇。より高い特典が狙えます。 ニンテンドーWi-Fiコネクションで、他のプレイヤーとスコアを競うことも。 『 遠近2種類の攻撃アクション 』 遠距離の敵にはショット、近距離の敵にはソードと、2つの攻撃スタイルを駆使して戦います。 遠 〉〉 ショット 無制限に連射。強力なチャージショットも使用可能。 近 〉〉 ソード 敵のミサイルをはね返し、大ダメージを与えることも。 『 性能が異なる2人のキャラクター 』 選んだキャラクターによって、チャージショットの性能など特徴が異なります。 主人公 イサ・ジョ 周囲の敵にもダメージを与える、パワフルな攻撃が特徴 謎の少女 カチ 最大8箇所にロックオンができる精密な狙撃が可能。 ※本作は2000年11月に発売されたニンテンドウ64専用ソフト『罪と罰 ~地球の継承者~』の続編です。 2人協力プレイで初心者の方は上級者にサポートしてもらうことも可能です。 戻る
https://w.atwiki.jp/multiple/pages/335.html
罪と罰(中編)◆tt2ShxkcFQ 「伊波さんっ!駄目だっ!!」 その声は、伊波へと届き、その体を固まらせる。 ヴァッシュへとトドメを射そうとした伊波の心の中に、戸惑いが走った。 『コノ声ハ……誰?』 『男だ、お前が憎んでいる、男の一人だ』 心の問いかけに、低い男の声が返る 「俺ですよ伊波さん、小鳥遊です。分かりますか?」 再び響くその声に、伊波の心の中には安堵が生まれる。 『タカナシ……タカナシ君、私ノ大切ナ人』 『それは違う、奴も憎むべき男の一人だ』 その気持ちを嘲笑うかのように、再び声が響いた。 『ヤメテ……違ウヨ、彼ハソンナ人ジャナイ』 『何を言っている、お前がどう思おうと、奴は我とお前にとっての敵だ』 『チガウ……ダッテ彼ハ、ワタシニ優シクシテクレタ……。 私ノヘアピンヲ、褒メテクレタ。 オ父サンヲ、叱ッテクレタ』 伊波は過去を思い出し、小鳥遊を思い出す。 彼は殺したくない、その想いが、ジャバウォックの動きを鈍らせる。 『何を言っている、お前は見たはずだ』 しかし、そんな伊波の迷いを打ち消すかのように、その低い声は笑い声を上げた。 『……違ウ、アレハ何カノ間違イダヨ』 伊波は拒絶するかのように、そう答えた。 『戯言を、本当はおまえ自身が、一番分かってるはずだ』 『ヤメテ……何モ言ワナイデ!!』 『伊波まひる、お前が小鳥遊宗太を助けようとあの人間を殴り*したとき、お前は見たはずだ』 『イヤッ、何モ聞キキタクナイ!』 『小鳥遊宗太は、*されそうになって居たわけではない』 『嫌ダ……』 『お前を*そうとした水銀燈という人形を……』 『小鳥遊クン……』 『守っていただけだ』 その言葉が、伊波の心に芽生えていた抵抗を無残にも消し去る。 生まれる感情は悲しみ、怒り、嫉妬……そして、憎悪。 小鳥遊クンハ……私ヨリモ、小サナ人形ノ方ガイインダ…… 私ヲ殺ソウトシタ、アノ人形ノ方ガイインダ 嫌イ……嫌イ。 大ッ嫌イダ! 男ナンテ ゾロ……ヴァッシュ……新庄……小鳥遊クン…… ミンナミンナ、消エテシマエバイイ!! 伊波の心を、憎しみが染めていく。 心を怨嗟の炎が、侵食していく。 そんな光景を見ながら、ジャバウォックは一人、禍々しい笑みを浮かべていた。 ◇ ◇ ◇ 「セツ……マヒルは?」 「大丈夫だから、動かないで」 新庄はヴァッシュの黒髪を掻き分けて、傷の具合を確認する。 頭皮は裂け、大きなコブが出来ているが、既に出血は止まっていた。 「あれ……」 予想外の軽症に、思わず新庄は声を上げる。 「ははっ、僕は頑丈だからね」 その戸惑いを察したのか、ヴァッシュは笑いながら答えた。 今だ脳震盪は治まっていないのだろう、笑顔もぎこちない。 「いやっ、その……ごめんなさい。 伊波さんの事は佐山君たちに任せて、今はもう少し休んでてください」 ヴァッシュはごめん、と一言呟くと、瞳を閉じて体の力を抜いた。 一秒でも早くまた動けるようになるために、 伊波と再び、向き合うために。 そして新庄は佐山へと視線を向ける。 ヴァッシュを伊波の側から引き上げてきた佐山だが、 今は微動だにせずに伊波を見つめている。 額には汗が。小鳥遊の身を心配しているのかもしれない。 「新庄君」 「なっ、何?」 不意の問いかけに、新庄は声を上ずらせながら答えた。 「君はここに残って、ゾロ君とヴァッシュ君を守ってやってくれ」 「……佐山君は?」 「そろそろ小鳥遊君も限界だ、私も伊波嬢の元へと行こう」 「ボ、ボクだってサポートを……!」 「それならばここに居る二人は、誰が守るというのかね?」 「うっ……」 「忘れてはならないよ、ここには未だ水銀燈がいる。 他の参加者の介入も考えられるだろう」 「でも……その手袋の力は本当なの?もし効かなかったら」 「私のこの左腕が、手袋が有効な証拠だよ」 そう言って、佐山はその左腕を新庄の前へと晒す。 「体を取り外せるというのは魅力だね。 これで新庄君のまロい尻をいつでも━━」 「佐山君!」 佐山の言葉を新庄が遮る。 「……新庄君、君はあの腕を何だと考えるかね?」 「えっ……何かの支給品、武器かな?」 「それは違うよ新庄君。 兵器は意思を持たない……兵器に罪は無い。 もしその兵器によって殺人が行われたとしても、それは使用した者の罪だ。 だとしたら……今、伊波嬢が使用しているものは兵器ではない」 「じゃあ……」 「私は、あれをウイルスの様なものだと考えている」 「えっ……?」 「宿主の細胞を利用し、自己を複製する事が出来る……。 伊波嬢で言うならばあの右腕は、もう彼女のものではない」 「伊波さんはそれに感染して、ああなったって事?」 「あくまで説の1つだがね」 「まさか……伝染する?」 「それは無いだろう。 主催はそんな事をする意味が無い、勿論100%ではないが……。 ケガを負わされたゾロ君に何も異常が無い事からも、心配はいらないね」 「そう……」 「心して聞いて欲しい、新庄君」 「えっ?」 「最悪のケースの場合、恐らくはあの右腕、取り除いても━━」 ◇ ◇ ◇ 鋭い右腕が、小鳥遊へと振り下ろされる。 辺りに響くのは鋭い金属音。 火花を散らしながら、小鳥遊の雷光丸がその爪を遠ざける。 後ろに飛びのき、再び距離をとった小鳥遊は、乱れた呼吸を整えるように相手を見る。 「伊波さん、お願いですからやめて下さいっ」 汗を拭う余裕もなく、小鳥遊は必死に叫んだ。 相変わらず反応は返ってこない。 だがしかし、希望が無いわけでもなかった。 最初に比べ、明らかに動きが散漫になっているジャバウォック。 原因は分からないが、伊波が抗っているのかもしれない。 そう思いながら、小鳥遊は視線の端で佐山を探す。 ……先程まで居館の前で新庄と共に居たはずだが、その姿が見えない。 そして再びジャバウォックが、小鳥遊目掛けて地面を蹴った。 幾度も繰り返される命がけの防御。 精神的にも、肉体的にもそろそろ限界が近い事を小鳥遊は理解していた。 「佐山君……何をやってるんだよっ」 そう呟き、小鳥遊は再び雷光丸を構え、振り回しながら後方へと飛ぶ。 しかし、伊波のその右腕は、小鳥遊を狙って物ではなかった。 それは小鳥遊の手前、地面を狙った、豪腕のストレート。 辺りに何かが爆発するような、そんな音が響いて地面を抉った。 そして弾き飛ばされた石が、砂が、ショットガンのように小鳥遊を襲う。 雷光丸は致命傷になりそうな石を、そのレーダーで感知して弾き飛ばす。 そうして動きを限定させた雷光丸を、ジャバウォックの右腕は掴み上げた。 ベキバキ 小鳥遊の耳に金属が砕ける音が届く。 それは一瞬の出来事だった。 金属片が地面に落ちて、甲高い音を立てる。 雷光丸は、ジャバウォックの握力によって呆気なく砕かれたのだ。 伊波と小鳥遊は、今や手を伸ばせば届くような至近距離で目を合わせている。 砕け、柄の部分しか残ってない雷光丸を握りながら、小鳥遊は達観したように伊波を見つめた。 涙を流しながら、禍々しい笑みを浮かべた伊波の顔。 あぁ……もう殺される。 そう思った瞬間、伊波の後ろ、至近距離に佐山の姿を見た。 まるで豹のように、気配を消し、敵意を消し、伊波へと迫る。 そして手袋を嵌めたその右腕を、伊波へと伸ばそうとしていた。 佐山は伊波の動きを観察し、その隙を探した。 そして見極める、伊波はその腕を振るい殴りつけた後、一瞬だがその動きを止めている。 考えてみれば当然なのかもしれない、その右腕以外は生身の体なのだ。 重量、推進力、どれを考えても伊波のその体で使いこなせるとは思えない。 だからこそ、動きのどこかに綻びが現れる。 佐山がそれを狙い、音もなく伊波へと迫った。 後数歩で伊波の下へとたどり着く。 1秒もかからない、小鳥遊を殺す隙も与えない。 そう思い、身を低くして加速する。 だがしかし、そこで佐山の不安要素のひとつが顔を出す事になる。 佐山の体に似合わぬ大きさ、重量のその左腕。 何時もと勝手が違うそのバランス感覚が、佐山の足音を、気配を消す事を阻害した。 ジャリ 土を踏みしめるその小さな音を、佐山は耳にする。 伊波は恐らく気が付いただろう、続行か、退避か。 考えるまでもない、ここで退けば小鳥遊は死ぬ事になる。 佐山とて、幼い頃から叩き込まれた格闘術がある。 よって身体能力や戦闘力は、常人のそれを凌駕する。 少し手を合わせた相手ならば、歩法だって使えるだろう。 負ける要素は無い。 そう判断して踏み込んだ佐山は、伊波が身を翻してその右腕を振るうのを見た。 遠心力を利用し、殺傷能力をもった裏拳。 その裏拳を、佐山は立ち止まり、射程範囲ギリギリでかわす。 鼻先を拳がかするのが分かった。 腕を伸ばしての裏拳をも警戒し、頭を庇うように上げていた両手をそのままに、佐山は奇妙な光景を目にする。 何故か自分の顔の前で静止している相手の拳。 その根元、手首部部には巨大な穴が穿たれていて…… それが何なのかを察した佐山は、背筋が凍りつくのを感じた。 バシュ 次の瞬間、辺りに響くのは何かが打ち出されるような軽い音。 そして小鳥遊が、新庄が絶叫する事になる。 佐山は何かに打ち出されたかのように上体を吹き飛ばされた。 まるでゴム鞠のように、地面を何度もバウンドし、転げまわる。 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」 「佐山君っ!?」 辺りに悲痛な叫びが響いた。 ジャバウォックにとって、切り札の1つ。 その掌で握った物を、加工して弾とする。 そしてそれを、空気圧縮を用いて手首の砲身部分から発射したのだ。 ジャバウォックは地面を殴りつけたとき、同時に岩や石を弾として加工していた。 佐山がその直後に襲撃したのはただの偶然……だがしかし、運が悪くもそれが悪手になってしまった。 次の瞬間、伊波は小鳥遊へと向き直り、その拳を振りかぶる。 「何ボーっとしてんのよっ!」 間髪を居れず、鋭い声が小鳥遊の耳に入る。 そして、無数の黒い羽根が辺りを埋め尽くし、伊波の顔を襲った。 それはゾロやヴァッシュのそれとは違い、遠慮の無い、致命傷を狙った攻撃。 思わず右腕で顔を庇いながら、伊波は数歩後ずさる。 次の瞬間、小鳥遊は右手を掴まれ、後ろへと引きずられた。 「き、君はっ……」 「本当にあなた馬鹿じゃないの?!」 そこに居るのは隻腕の人形、水銀燈。 彼女は伊波から小鳥遊を引き離すと、乱暴に手を解いた。 「どうして俺を……助けたのさ」 「はぁ?勘違いするんじゃないわよ。 貴方達の戦力がこれ以上落ちると私が困るから、それ以上でも以下でもないわ。 それに私は、いつまでも貴方みたいなのに貸しを作ったままにしておくのは嫌なの」 ……そんな事よりも、この人間を如何するつもりなのよ」 水銀燈は顔を顰めながら、伊波を見つめて呟いた。 「そ、それは……」 佐山の倒れている方向を見つめ、言葉に詰まる小鳥遊。 彼は倒れたままピクリとも動かない、近くには新庄が駆け寄ってしゃがみ込んでいるが。 先程の衝撃を見た限りでは、最悪の場合…… 黒い羽根を振り払った伊波は、咆哮を上げると再び小鳥遊と水銀燈を睨みつける。 「ちょっと、何も手が無いっていうの? ……いいわ、ならば私が始末してあげる」 「なっ!もう殺すなって言っただろ!」 「ならば代案を考えなさい、お馬鹿さん」 そう言うと水銀燈は、残った左羽をぎこちなく広げる。 それに答えるように、伊波は姿勢を低くして此方へと敵意をむき出しにする。 「駄目だって言ってるだろ!」 そう言って小鳥遊が水銀燈の肩を掴んだ瞬間、乾いた音が辺りに響いた。 そして伊波の体が僅かに揺れ、右腕へと鉛がめり込む。 にらみ合っていた3者は、その音源の方向へと視線を向けた。 そこには黒いコートの男……ヴァッシュが、頭を血で染めながら立っていた。 「聞くんだタカナシ!サヤマが君を呼んでいる。 ここは僕に任せて、君はサヤマの元へっ!!」 ヴァッシュの叫びを聞き、小鳥遊は状況を理解して咄嗟に駆け出した。 そして同時に、ヴァッシュは伊波へと向かって駆け出す。 「マヒル、ごめんよ……僕は君を撃つ。 助けるために……サヤマの、最後の作戦の為に」 再び手元の銃が火を吹いた。 銃弾は真っ直ぐに右腕へと吸い込まれ、その体を揺さぶる。 そして伊波が怒りに刈られて地を蹴ろうとした次の瞬間、黒い羽が伊波へと襲い掛かる。 「要するに、時間を稼げばいいのでしょう?」 妖艶な笑みを浮かべながら、水銀燈はヴァッシュの目の前に舞い降りる。 「水銀燈。君も下がるんだ!」 「はぁ?何故私が貴方の言う事を聞かなければいけないのかしら」 「うっ……でも、君はケガを」 「私を気遣う余裕があるのなら、前を見なさい」 羽を乱暴に振り払うと、伊波は二人目掛けて地を蹴った。 それを迎え撃つかのように、二人は身構える。 ◇ ◇ ◇ 「すまないね、小鳥遊君」 「何言ってるんだよ……」 小鳥遊が見た佐山は、想像していたよりもずっと悲惨だった。 佐山が取り付けた、ラズロの左腕。 その左腕の肘から先が吹き飛んでいる。 全身は傷だらけで、頭からは血を流していた。 「あの大砲が弾を打ち出す寸前に、この腕を盾にしたおかげだ。 何とか弾の軌道を逸らして、致命傷を避ける事ができたよ。 筋肉は鎧になると聞いたことはあったが、あながち嘘ではないようだね」 そう言って佐山は口元を緩める。 そしてとある違和感に小鳥遊は顔を顰めた。 千切れ、吹き飛んだはずの左腕の血は既に止まっている。 それどころか、細く白い煙を一筋立てながら、傷が徐々に……。 「ラズロはどうやらトカゲの親戚だったようだね……つっ!」 そう言って、体を起こそうとした佐山の口から声が漏れる。 「駄目だよ佐山君っ!動かないで!」 新庄は、涙目になりながらも佐山の右腕に包帯を巻いている。 その右腕は、丸太のように赤黒く腫れ上がっていた。 「佐山君、右腕も……」 「安心したまえ、折れてはいないよ。 ……だがしかし、皹はいっているかもしれない。 その上頭を打ってしまったようでね、今は立ち上がることさえ出来ない」 「佐山君……」 「大丈夫だよ小鳥遊君、佐山君が持っている荷物に治療符があったの」 新庄は空元気な声を出し、一枚の札の様な物を取り出して包帯の上に貼り付けた。 「治療符……?」 「心配は要らないということだよ。 それよりも新庄君……」 佐山にそう促された新庄は、頷いて立ち上がった。 そして自分の右手に、つけかえ手袋を通す。 「佐山君?」 小鳥遊は目を見開きながら、佐山を見つめた。 「私の代わりは、新庄君が勤めてくれる……。 新庄君も戦闘訓練を受けている、必ず伊波嬢を救ってくれるだろう」 「これはボクが申し出たんだ……必ず、やり遂げるから」 佐山の顔には不安と、悔やみの念が浮かび上がっている。 「君は下がって、ゾロ君を見ていてやってくれ……」 そして佐山がそう言ったのを合図にするかのように、新庄は立ち上がった。 「……何言ってんだよ」 小鳥遊は、小さい子でそう呟く。 「何?」 「俺がやる」 小鳥遊は立ち上がり、新庄の前へと立ちはだかる。 「思い上がらないで貰いたいね。 電光丸を失った君が伊波嬢の前にいくのは自殺行為だ」 「伊波さんは俺を殴る前、少しだけど動かなくなるんだ。 さっき佐山君がやられた時だってそうだろ? 電光丸を握りつぶしたあと、動かなかった。 すぐ佐山君が来たといえ、殴る動作に入るくらいの時間はあったのに」 「自分の言ってる事の意味が、分かってるのかね」 「……うん」 「はっきりといおう、君は死ぬ。 そして小鳥遊君を殺した伊波嬢はもう諦めるしかないだろう。 たとえ救うことが出来ても、知人をこの手で殺したという事実で彼女は押しつぶされる」 「そんな事はさせない」 辺りを、張り詰めた空気が漂う。 「……最後に聞こう、本気かね?」 「伊波さんは、俺が助ける」 そう言って、小鳥遊は佐山を睨みつける。 佐山はそんな小鳥遊をみて、不敵な笑みを浮かべた。 「Tes. と言っておこうか」 「えっ……」 「新庄君、小鳥遊君のサポートを頼む」 「……Tes.」 そう言って、新庄は手袋を外すと小鳥遊へと手渡した。 そしてデイバックの中からシングルショット・ピストル。コンテンダー・カスタムを取り出す。 「問題は小鳥遊君を伊波嬢の至近距離へと近づける方法だが……。 さすがは聡明だね新庄君」 新庄は口元を緩めながら頷く。 そんな新庄の手、銃ともう1つ、ある物を握っている。 「ボクが、小鳥遊君を伊波さんの近くまで導いてみせるから……。 だからっ!伊波さんを、お願い」 新庄はそう言うと、その物を小鳥遊へと手渡した。 「これは……?」 最初はきょとんとしながら、小鳥遊は新庄を見つめる。 「ボクが……それを撃ち抜くから、小鳥遊君はそれを伊波さんに向かって投げて」 「撃ち抜く……?」 そう呟いた瞬間、小鳥遊は言っている事の意味を理解した。 急いで右手に手袋をつけ、新庄からそれを受け取った。 互いに視線を合わせて、力強く頷く。 あたりは闇に包まれ、徐々に視界を奪っていく。 そしてその闇にまぎれるかのように、小鳥遊と新庄は伊波の方へと駆け出した。 ◇ ◇ ◇ ヴァッシュの鼻先を、ジャバウォックの爪がかする。 ━━速い。 そう呟き、身をひねって次撃をかわした。 この短時間で、伊波の動きは見違えるほどに変わっていた。 それはジャバウォックが戦闘を学習した事によって起きた変化。 もうヴァッシュにとっても、余裕がある相手とは言えなくなってきている。 黒い羽が、伊波の視界を遮るように辺りへと舞い踊る。 ヴァッシュはそれにまぎれるように、後方へ下がって距離をとった。 「きりが無いわ」 そう呟き、水銀燈はヴァッシュの後ろへとつく。 「サヤマが策があるって言ってたんだ……もう少し」 「そんな事を言っている余裕が、貴方にあるわけ?」 「……あるよ」 「嘘ね……」 そう言って、水銀燈はため息をつく。 「このままじゃ貴方は殺されるわね。 それでも言い続けるつもり?誰も殺さないと」 「あぁ」 間髪居れず、ヴァッシュは答える。 負っている怪我は決して軽症ではないはずだ。 だがしかし、ヴァッシュの瞳から光が失われる事は無い。 「……本当に馬鹿ばかりね」 水銀燈はそう言って伊波へと視線を向ける。 この戦闘のみを見ても分かる。 伊波の猛攻を、全て紙一重でかわし続けるヴァッシュ。 たとえ自分が全快でも、ヴァッシュには敵わないだろう。 それを知らしめるだけの実力が、ヴァッシュにはあった。 「貴方なら……ゼロにだって」 そう呟いた次の瞬間。 伊波の背後から小鳥遊が駆けてくるのが見えた。 「タカナシ……?」 「あの馬鹿、死にたいって言うのっ」 此方へと気を逸らすため、水銀燈は再び羽を伊波へと放つ。 だがしかし、伊波はそれを容易く避けると小鳥遊の方へと振り向いた。 足音、ましてや気配を消す事も無く全力で駆ける小鳥遊。 そんな小鳥遊を、伊波が見逃すはずは無い。 水銀燈が舌打ちをして、伊波へと向かおうとしたその時。 水銀燈の目の前へヴァッシュが手をかざした。 「何よっ」 「大丈夫」 水銀燈はヴァッシュの顔を睨みつける。 ヴァッシュは額に汗をにじませながら、伊波を見つめている。 「始まったんだ、サヤマの作戦が」 ◇ ◇ ◇ 「うあぁぁぁぁぁぁ!」 叫び声を上げながら、小鳥遊は走る。 距離はまだある、小鳥遊が警戒するべきは、伊波の先制攻撃。 攻撃前の一瞬のためらいを狙っているとはいえ、距離があっては意味は無い。 そして伊波は、小鳥遊を迎え撃つべく地を蹴った。 その瞬間、狙ったように小鳥遊は手に持った物を投げ飛ばす。 遠心力を用いて、右手を千切れんばかりに振り回した。 放物線を描き、真っ赤なタンク状の物体━━消火器が空中を舞う。 しかし、重量がある消火器は予想以上に投げにくく。 すぐに地面への自由落下を開始する。 ……余りにも短い滞空時間、これでは新庄が打ち抜けないのではないのか。 そう思った瞬間、乾いた発砲音が辺りに響いた。 耳元を、何かが通過するのを感じる。 そして目の前の消火器が、大きな音をたてて爆ぜた。 思わず足を止め、両手で顔を覆う。 視界一杯に舞うのは、白とピンクの粉。 この煙幕こそ、伊波に近づくための最後のチャンス。 小鳥遊は息を止め、伊波が居た方向へと走り出す。 そしてそれは、あっけなく見つけることが出来た。 相当近くまで近づいていたのだろう、頭から消火器の粉を浴び、頭を振っている伊波がうっすらと見える。 チャンスだ。 そう思い、思い切り駆け寄った。 細く開いた伊波の瞳が此方を見るのが分かる。 次の瞬間、目の前を泳ぐのは伊波の右腕。 煙幕によって距離感覚を失ったその腕が、空を切る。 小鳥遊は、そのまま右手を振り抜いて止まっている伊波へと突進する。 これで終わりだ、そう思い右手を伸ばした瞬間、頬に力強い衝撃を感じた。 えっ? 頭に浮かんだその言葉と共に、小鳥遊の体は中へ浮き。 後方へと倒れこんだ。 小鳥遊の目に入ったのは……左腕。 伊波の、生身の左腕だ。 今まで何度と無く殴られ続けてきた小鳥遊には分かった。 その拳にこめられた感情を 怒りを。 伊波さんが、怒ってる? そう思って相手の顔を見上げる。 辺りの煙は風に乗り、晴れていく。 白い粉に塗れた伊波の顔は、相変わらず怒気を湛えた恐ろしいもの。 ……だがしかし、小鳥遊にはそれが、とても悲しそうに見えた。 小鳥遊は、記憶の中をたどってみる。 まだ短い付き合いだが、それでも浅い付き合いだとは思わない。 主に殴られ、殴られて、それから殴られて……。 泣いたり、照れたり、笑ったり、怒られて落ち込んだり、叱られて反省したり。 色々な表情を見てきたと思う。 しかし、それでも小鳥遊ははじめてみたのだ。 伊波が、怒りという感情を露にするのを。 ……思い当る節は、1つだけある。 それは小鳥遊にとっても、罪悪感を感じていること。 伊波よりも、水銀燈を選んだ事。 伊波が死の淵に立たされていると聞いても、 小鳥遊は小さい物の命の危機を見過ごせなかった。 それはもはや、小鳥遊にとっては本能だったのかもしれない。 小さい物を愛でるという、病的なまでのその思考。 ……それはある程度自覚しているが、同時に制御できるものでもなかったのだ。 もし、あの時伊波がそれを理解し、傷ついているとしたら。 「伊波さん……」 地面に横たえて、相手を見上げながら、小鳥遊はそう呟いた。 今更謝っても滑稽だろう、許してもらえる訳がないだろう。 だがしかし、このまま殺されるなら……そう思い、小鳥遊は口を開く。 「すみませんでした」 伊波は一歩、こちらへと足を踏み込む。 「でも、それでも俺は、小さいものが好きだから。 ……きっとまた、同じ道を選んでしまうと思うんです」 伊波は小鳥遊にまたがるように立ち止まり、こちらを見つめる。 「それでも、伊波さんを傷つけたというのなら、俺は最低ですね……本当に、すみませんでした」 そして静かに、伊波は腕を振り上げる。 言いたい事を言った小鳥遊は、少し微笑んだ。 もう自分は終わる…… そう理解した小鳥遊の目に、ある物が目に入る。 「伊波さん、俺のプレゼントしたヘアピン……付けてくれていたんですね。 ……可愛いですよ。 あぁ……伊波さんがあと、5歳若ければなぁ」 小鳥遊は何も考えず、頭に浮かんだその言葉を口にする。 次の瞬間、大きな腕が振り下ろされて、辺りに鈍い音が響いた。 小鳥遊は自分の顔に、生暖かいものが触れるのを感じる……。 え?感じる? そう思い、小鳥遊は恐怖で閉じた瞳をひらいた。 「無理だよ……私には、小鳥遊君を殺すなんて出来ない」 目の前にあるのは、涙を湛え、真っ直ぐに此方を見つめる瞳。 何時もの、見慣れた顔がそこにはあった。 「い……伊波さん?」 小鳥遊の顔にかかったのは伊波の血……振り下ろす異形の右腕へ、伊波の左拳が食い込んでいた。 左拳の皮はズル剥けて、そこから小鳥遊へと血が飛び散っている。 「最初から、分かってたはずなのにね……。 小鳥遊君が小さい物が大好きな変人だって、そこに入り込むのは難しいって。でも……」 「伊波さん、今俺は馬鹿にされてますか?」 ムッとした小鳥遊を前に、伊波の口元は緩む。 伊波は知っていた、小鳥遊が小さい物意外に『可愛い』という言葉を使う事は滅多になく、 12歳以上を年増と評する小鳥遊が、年上の自分に対して使ったその言葉の意味を……。 次の瞬間、うごめくように右腕が暴れだす。 驚いた伊波は押さえつけようと左腕で掴み上げるが、力では敵いそうにない。 「小鳥遊君っ……逃げて!!」 次の瞬間、小鳥遊は伊波へと抱きついた。 「ちょっ……小鳥遊君っ!」 「動かないで下さいっ!」 そのまま首へ右手を巻きつけ、背中を通して右肩を掴む。 「お前……ふざけるなよっ! 勝手に暴れやがって……伊波さんから、出ていけぇ!!」 そう叫ぶと同時に、小鳥遊は右手を思い切り引き抜いた。 ズブリ 辺りに特徴的な音を響かせて、それに地面からの落下音が続く。 「えっ……?」 伊波は思わずその音源へと視線を向ける。 そこには、先程まで自分の右肩についていた、異形の右腕。 まるで電源が切れた機械のように、ダラリと落ちている。 「付け替え手袋っていうんです……もう、大丈夫ですよ」 そう言うと、小鳥遊は伊波から離れる。 その顔白い粉でまみれていたが、その顔には安堵と、少しの達成感が浮かんでいた。 「あ……」 そして次の瞬間、小鳥遊は悪寒が走るのを感じる。 目の前に伊波は顔を真っ赤にしたまま、プルプルと震える。 「もしかして、もしかしますか?」 「……うん、もしかしなくても、もしかするかも」 「か、簡便してくだs」 「いやーーーっ!!男ーーー!!」 伊波の左ストレートが右頬へと入り、小鳥遊は空を舞った。 時系列順で読む Back 罪と罰(前編) Next 罪と罰(後編) 投下順で読む Back 罪と罰(前編) Next 罪と罰(後編) Back Next 罪と罰(前編) 小鳥遊宗太 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 佐山・御言 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 伊波まひる 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) ヴァッシュ・ザ・スタンピード 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 水銀燈 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) ロロノア・ゾロ 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 新庄・運切 罪と罰(後編)
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/189.html
歌名五十音順 な ナイアガラシュート 泣いてキス 泣いて泣いて泣きやんで 泣いてもいいかな ナイトウォーカー ナイトの正夢 ナイトメア☆パーティーナイト ナイト・キャップ ナイト&シガレット ナイフ 泣かないあなたの守り方 仲直りしよう 長い片想い 長月黄昏 ナガレボシ 哭声 泣キ虫カレシ 泣き虫と花束 泣き虫のテレジア 泣き虫ピエロ ナキムシピッポ ナケナシノチカラ 梨本ういが僕を殺す ナスが好き ナゾカケ ナゾトキ ナゾノタネ ナタリーブルー ナタリー 夏音夜 夏音夜―廻― 夏風 夏風メモリー 夏合宿告白前夜 夏蜘蛛 夏透明電気信号オモイデ 夏と陽光と散歩道 夏と廊下と花畑 夏に終わる季節 夏に去りし君を想フ 夏のアヲに僕は問ふ。 夏の面影 夏の風と、キミと私と麦わら帽子。 夏の幻想 夏の氷と君の影 夏のはじまり 夏の半券 夏の日と、幽霊と、かみさま 夏の迷路 夏ノ夜幻想曲-ナツノヨファンタジア- 夏は短し恋せよ男子 夏ひまわり、線香花火 喚魂祭(なつまつり)の夜に ナツモヨウ 七色世界 ナナイロノ蝶 七色フォーカス 七転び八起き千年の旅 七転び八起きない ナナシシ 七つの鐘 七つの罪と罰 ナナナナ ナナメ・ワールド 七夜月の少女 何も、無い。 何よりも大切なもの 名前のない星 ナミダ ナミダクラゲ 涙双月 涙の証明 ナミダバラージ 名も無き囚人 名も無き賛歌 名もなき花の種 那由他の彼方まで 奈落と唄 ナンカイレンアイ 何時何分何秒地球が何回回ったころ? 南条あやになれなくて ナンセンス文学 南中コメット なんて淫らなシーケンサーだ fullver. なんで? なんでもいいとは言ってない 何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン なんということでしょう なんとかなんじゃね? なんなのさって ナーバス ナツノコタエ 名もない君と名もない町 夏が零れてゆく 夏のメロウ 夏の空と君の傘下で 夏崩レ片想ヒ 流れ星の島 涙のレシピ 涙目笑颜 に 兄さんがオリジナル曲を歌ってくれました ニイヤン ニカソピテキ ニクキュウの嵐 ニコニコ運営ヒドスw ニコニコ・ラプソディー ニコラテスラの確執 錦の舞 西へ行く 虹/ムスカP 虹/つるつるP 虹/whoo 虹 虹色/ベルP 虹色アフタヌーン 虹色団地の神隠し 虹色トワイライト にじいろのへび 二次元セカイ解放宣言 二次元ドリームフィーバー 虹の貝殻 虹橋トワイライト 滲む原色 21世紀の夜明け前 虹ヶ原ホログラフ 虹-hand in hand- ニセモノ注意報 偽物の唄 偽物のユートピア ニセモノプログラム 弐零壱零 二息歩行 日常鎖飯事 にちよう 日曜日 ニナ 鈍色空に花吹雪 ニビイロドロウレ 鈍色の街 日本橋高架下R計画 ニュース39 ニラ ニラを持ってるからなんだっていうの 人形 人形愛憎ガール 人形と左目 人形は電気ギターの夢を見るか? 人魚と銀月夜 人魚姫 人間失格 人間失格—なぎさ 人間なんか大嫌い 人間方程式 人間レコード ニンジンだいすきのうた 忍法ヒトメボレノ術 ニートと灰色社会 ニールの弾丸 ぬ ぬいぐるみのうた ぬかしおる 脱げばいいってモンじゃない! ぬすみはげどう? ぬるいコーラといかれた時計 ね ねぇねぇ今どんな気持ち? ねぇ、ひとりにしないで ねえ 願い/傘村トータ 願い/みさくらP 願い ねがい 願い歌 願い事 ねがいごと 願い花 ネガノレガ ネガポジサイクル ネギライス ネクストエクスペリエンス ネクストネスト 猫かぶっちゃいらんない ねこに教わる脱力法 ネコネコ☆スーパーフィーバーナイト ねこのバス ネコミミアーカイブ ねこみみスイッチ ネジと歯車とプライド ネジボルトアリガト ネジマキ解放戦線 ねじれたこうてい○ 捻れた対覚線 熱情詩 -Flame Heart- 熱造サレタ夜 ネトゲ廃人シュプレヒコール ネハンシカ 涅槃で待ってて 眠らせ姫からの贈り物 ネムラネーゼ ねむり ねむりたいのに! ネムリヒメ 眠り姫 眠れない夜に ねむれない夜は 眠れぬ少女の絶対理論 眠れぬ森の美女の侍女 眠れる森にて ネメシスの銃口 ネリネ ネリネ/猫虫P ネリの星空 粘着系男子の15年ネチネチ ね・ぎ・ら・う・よっ! ネオネオン 猫の水曜日 の ノイズキャンセラー ノイローゼ 脳内革命ガール 脳內雑居 ノーブラなのに気づいてくれない ノクターン ノコギリとペンデュラム 残される貴方へ ノコノコ踏んで恋をして ノスタルジア ノスタルジア/Junky ノスタルジックドリームガール ノスタルジック・ノストラダムス ノスタルジック・レガート のどが渇く のぼり棒 のめ 野良犬疾走日和 ノラネコ 野良猫は踊らない ノルア・ドルア・エー ノルア・ドルア・ビー 呪いのススメ のろいめか゛ね ノンストップ ノンデ・パナシーア のーたりん・ふらつき編 ノーマライズ ノスタルジア/フェイP
https://w.atwiki.jp/mekameka/pages/499.html
罪と罰 宇宙(そら)の後継者 任天堂 2009.10.29 Wii 3DのACT・STG 罪と罰 地球の後継者の続編
https://w.atwiki.jp/bemani2dp/pages/2485.html
GENRE TITLE ARTIST bpm notes CLEAR RATE HYPER J-POP 罪と罰 Xceon feat.Mayumi Morinaga 144 n%(yyyy/mm/dd) 攻略・コメント ホームポジションがどれだけ守れるかが分かる曲。面白い譜面だと思う -- 名無しさん (2013-11-19 00 38 04) 難は☆9と考えて差し支えないと思う -- 名無しさん (2013-11-21 15 56 36) 16分黒鍵螺旋の混フレが楽しい -- 名無しさん (2013-12-11 21 54 15) この曲は灰だけでは無く全譜面やや詐称気味。 -- 名無しさん (2013-12-13 00 45 04) 正規は右手薬指の独立性が求められるので、押しにくいなら右鏡推奨 -- 名無しさん (2014-07-21 20 55 56) DPは確かに難しいかな。個人的にDPは☆7/9/10でいいかと。 -- 名無しさん (2016-06-27 17 40 56) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/bemanidbr/pages/319.html
VERSION GENRE TITLE ARTIST bpm notes 属性 21 SPADA HYPER J-POP 罪と罰 Xceon feat.Mayumi Morinaga 144 2114 乱打、微トリル 攻略・コメント ゴミ付き乱打の練習に良い。中盤の長い2重トリルが危険。削りの合間にしっかりと回復を挟めるのでお得。 -- 名無しさん (2016-08-04 15 34 13) 名前 コメント