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「ぷくー!」 れいむは頬を膨らませていた。 威嚇である。 邪魔してはいけない。 頬は通常の倍ほどの大きさにまで膨れ上がっている。 これだけぷくーすれば皮は伸びに伸びて、れいむは痛みの余り頬が本当に張り裂けるのではないかと不安に思った。 それでもこのぷくーをやめるわけにはいかない。 目の前にはゆっくりまりさがれいむと同様にぷくーして威嚇をしていた。 まりさは悪しき人間の手先であった。 理由はわからない、まりさは一言も喋らずにただ人間につき従っていた。 まりさのぷくーは恐ろしいほど威圧的なものだった。 全身は愚か帽子までもが均等に膨れ上がりその全体の体積を二倍三倍にまで膨れ上がっているというのに 未だにより膨れることをやめない。 その威圧感は対峙するだけで餡子が強張りかなちーちーが股間からだくだくと漏れ出すほどである。 だがいまれいむはかなちーちーする訳にはいかない。 かなちーちーすればそれだけ体積が減って威嚇効果がなくなってしまう。 何故これほどのまりさが人間に従っているのか。 れいむには理解出来ない。 守るべきもののためか、恐怖で支配されているのか、さもなくば欲のためか。 だがれいむには関係のないことだった。 絶対にこのぷくー勝負で負ける訳にはいかないのだ。 「おかーしゃんがんばっちぇ!」 「がんばっちぇ!」 何故なられいむには家族が居た。 かわいいかわいい子れいむが二匹。 お歌がうまくて優しくてお母さん思いで れいむにとって目に入れても痛くないほどかわいかった。 今、自分がぷくーをやめればまりさは瞬く間にれいむに襲い掛かり かわいい子れいむ達も惨たらしい目にあわされることだろう。 れいむは絶対に退かず媚びず省みずの強靭な精神でもって限界を超えつつあるにもかかわらずぷくーをし続けた。 既に息を出来なくなって久しい。 呼吸困難で既に顔は真っ青だ。 それでもぷくーをやめまいと噛み締めた唇からは餡子がにじみ出て顎に伝っていた。 目も閉じてしまおうと思ったが、それでは威嚇にならない。 閉じるまいと生理現象を拒否し続けた瞳は逆に飛び出して赤く血走り涙が流れ続けているにも関らず乾ききっていた。 だが、限界を超えたれいむのぷくーは、れいむからその意識を一瞬で奪い去った。 眼球がぐるんと上へ動き白目を剥いた。 意識が消える。 そしてれいむのぷくーもそこで終わりを迎える、はずだった。 「おかあしゃーん!」 「もうちょっちょだょ!もうまりしゃはげんかいだょ!」 子どもたちの声がれいむを現実へと引き戻した。 「ぷっくっくー!!」 れいむは最後の力を振り絞りぷくーをしなおした。 しかしもう5秒ともたないだろう その終焉は間近だった。 4 3 2 …1 パァン。 れいむ達は自分の目を疑った。 限界を超えてぷくーし続けたまりさが、破裂したのだ。 れいむは呆気にとられて思わずぷくーをやめた。 「ちぇっ、俺たちの負けか」 「お前が空気入れすぎるから」 「帰ろうぜ」 悪しき人間達は、まりさに繋いでいた道具を片付けるとそそくさと引き上げた。 後には、小さくしぼんで小指より小さくなったまりさの皮だけが残っていた。 不思議なことに中身はどこにもなかった。 残ったものは皮ばかり その皮も、ためしに伸ばしてみるとゆっくりのものとは思えないほど伸縮自在。 そして何故か少し苦い味がした。 れいむは身震いした。 「おかーしゃんやったね!」 「おかーしゃんちゅごい!」 その時は、子れいむ達の言葉が全てを忘れさせてくれた。 だがれいむは心の底で、これがぷくーをし続けた者の末路かと恐れたのだ。 それから数日後、今度は流れ者のゲスまりさがれいむの巣へと略奪をしかけた。 もちろんれいむはぷくーでまりさを威嚇し、まりさも負けじとぷくーで威嚇し返した。 「ぷくー!」 「ぷ、ぷくー!」 まりさのぷくーは貧相で、れいむに負ける要素は見当たらなかった。 まりさは既に負け戦を悟り顔面蒼白で油汗を垂らしている。 れいむはぷくーしながら心の中でニヤリと笑う。 「おかーしゃんちゅよい!」 「しょんなまりしゃやっちゅけちゃっちぇね!」 もう一踏ん張りして追い払おうと顔に力をいれようとして 視界の隅にまだ片付けていなかったこの前のまりさの残骸が入った。 それはちょうどまりさの目が付いている部分だった。 あの時のまりさが脳裏を過ぎる。 このまま力をいれたら、れいむも、あのまりさみたいに 「ぷふー、!?」 れいむのその迷いが、力を入れるべきところで逆に力を抜かせてしまった。 自分でも信じられない思いでれいむは慌ててぷくーしなおそうとした。 「!ちゃんすだぜ!」 だがまりさはその隙を逃さない。 まりさはさらにぷくーしてれいむを威嚇し、ぷくーしてないれいむは思わず竦みあがってしまった。 「ゆっ」 「いまなのぜ!」 そしてまりさに隙だらけのところを体当たりされて、後はもう悲惨の一言だった。 散々乗っかられて押しつぶされて、泣き喚く子れいむ達の前でたっぷりと時間をかけてれいぷされた。 そしてれいむが足腰立たない状態のまま、今度は子れいむ達が巣の中で犯された。 れいむは何も出来ずにその光景を見るしかなかった。 胸が張り裂けそうになった。 目から餡涙がにじみ流れ出た。 叫び声はただただ掠れきっていた。 そしてまりさが犯すのに飽きた時、子れいむ達は殺された。 れいむは憎悪の余りそのまま憤死しかけた。 その時風が吹いた。 ふわりとれいむの目の前にひらひらとしたものが舞い込んだ。 あの時の、破裂したまでぷくーしたまりさの皮にはりついた絵みたいに薄く薄くなった瞳と目が合う。 れいむは最後の瞬間その瞳に尋ねた。 まりさはだれのためにぷくーしてたの? このSSに感想をつける
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『伝わらない声』 俺は一匹のゆっくりれいむを飼っている。 元々野生のれいむで仕事の帰りに森の近くで出会った。 人懐っこい性格で見知らぬ俺に遊んで欲しそうにするので気まぐれに付き合ってあげた。 遊びといっても適当に指と追いかけっこさせたり高い高いしてあげただけだが、それでも十分楽しんでくれていた。 それからしばらく仕事帰りにそのれいむと戯れる日が続いた。 しかしあるとき、俺が家に帰ろうとすると寂しそうにするものだからついついお持ち帰りしたわけだ。 今では我が家のペットだ。 独り身の寂しさを紛らわしてくれる癒し系。 部屋に柵で囲った場所を作り、そこをれいむの部屋にしてある。 自由に家の中を動かれると色々と危険があるので俺が家にいないときはその中に居てもらっている。 朝、俺が仕事に出かける前にれいむを起こし、朝と昼の食事を柵の中に入れる。 「れいむ朝だぞー」 「ゆっ…ゆっくりしていってね!!!」 れいむは割と遅起きだ。俺が声をかけるまで眠っている。 そのくせ早寝だったりするので一匹だったら一日の半分は寝て過ごしていそうだ。 「朝ごはんだぞ。こっちはお昼だから後で食べろよ」 「ゆ!」 俺に向かって一言鳴くと朝ごはん用のお皿に近づいて食事を始める。 ゆっくりは「ゆっくりしていってね」以外はほとんど人間語で喋らない。 後は「ゆっくり」とか「ゆ~」「ゆっ」といった鳴き声だ。 ああ、ちなみに断末魔は「ゆっくりしたけっかがこれだよ」と言うらしい。聞いたことはないが。 「ゆっくり! ゆっ! ゆっくりー!!」 食事を終えた後のれいむは俺に向かって激しく鳴いてくる。 きっと朝一の運動を兼ねて遊びたいのだろう。 しかし俺も仕事があるのでそういうわけにもいかない。 「ごめんなれいむ。また俺が帰ってきてから遊ぼうな」 「ゆ、ゆっくりぃぃぃ!!!」 残念そうを通り越して悲しそうにれいむは鳴いた。随分と懐かれたものだ。 れいむの頭を少し撫でまわすと俺は仕事に出かけた。 れいむはおうちに帰りたかった。 ある日出会った優しいお兄さんはれいむと遊んでくれた。 もっと遊びたいと言ったらこのおうちに招待してお兄さんは美味しい食べ物を御馳走してくれた。 ご馳走の後は見たことのない物で遊んでくれた。 気付いたら外は真っ暗だったけどお兄さんはお泊まりさせてくれたし、フカフカの寝床を用意してくれた。 噂には聞いていたけど人間さんのおうちはすごくゆっくり出来た。 でもれいむはここでずっと暮らすつもりはなかった。 れいむには家族がいる。お母さんとお姉ちゃん、妹もいる。 それに友達だってたくさんいる。 だかられいむは何度も「そろそろおうちかえるね!!」とお兄さんに伝えた。 なのにお兄さんは「ああ、ゆっくりしていってね」と返事するだけ。 何日経ってもこのおうちから出してくれなかった。 れいむは事あるごとにお兄さんに外に出してと頼んだけどいつも話をそらされる。 いつもお兄さんとの会話は成り立っていなかった。 だがそれは当然だった。 そもそも人間にはゆっくりの言葉が分からない。 ゆっくりは人間の言葉を喋っているつもりだが、実際は喋れていない。 「そろそろおうちかえるね!!」と声に出したつもりが「ゆっくりしていってね!!!」と声に出していたわけだ。 ゆっくりは人間の言葉を理解できる。 さらにゆっくり同士の会話は人間語に翻訳されて聞こえる。 だからこそゆっくりは自分もちゃんと話せていると思い込んでいた。 れいむも当然そのように考えていた。 でも少なくともお兄さんには言葉が通じていない。 通じると言えば「ゆっくりしていってね」ぐらいのものだ。 しかしそれだけ伝わってもれいむはおうちに帰れない。 家族にも友達にも会えやしない。 「おにーさん! おかあさんにあいたいよ! もうおうちにかえして!!」 さっきの朝ごはんの後にもそう叫んだのにそれは伝わらなかった。 それどころか何を聞き間違えたのか、 「ごめんなれいむ。また俺が帰ってきてから遊ぼうな」 なんて言ってれいむの頭を撫でるだけだった。 「おうぢにがえじでええええ!!!」 れいむは泣き叫んだが、お兄さんはおうちの外へ行ってしまった。 お兄さんは外に出かけると日が暮れるまで帰って来ない。 れいむの一番嫌いな孤独な時間が始まる。 お兄さんは言葉が通じない人だけど一緒に遊んでくれる。 遊んでいればおうちに帰りたい気持ちも紛らわすことができる。 でも狭い柵の中、一人で出来ることなんて限られていた。 お兄さんが布と綿で作ってくれたボールで遊ぶのには飽きた。 柵の中を駆け回っても風景が変わるわけでもないのでつまらない。 だからこの時間が嫌いだった。 それにやることがないと楽しかった記憶が自然に頭に浮かんでくる。 お母さんにお歌を教えてもらって家族みんなで歌ったこと。 お姉ちゃんまりさの帽子に乗って川を渡ったこと。 妹の前で虫を捕まえて「おねーちゃんすごいよ!」と褒められたこと。 友達と一緒に広い野原を跳ねまわったこと。 そのどれもが懐かしい。 れいむは気付けば涙を流していた。 実に一週間、家族と会っていない。 それどころか同じゆっくりとも会っていない。 寂しくなって当然だった。 「みんなにあいたいよぉ…」 れいむの細い声は誰もいない部屋に響く。 それがますますれいむを寂しくさせた。 美味しい食べ物、フカフカの寝床、安全なおうち。 野生に生きてきたゆっくりからすればかなりの好条件が揃ったおうち。 なのにまるでゆっくり出来なかった。 れいむは自分より二回りぐらい小さなボールに頬を擦りつける。 仲間じゃないと分かっていても丸っこく柔らかい物に身を寄せたかった。 「いっしょにゆっくりしようね」 ボールに話しかけるが返事はあるわけもない。 空しくなったれいむはボールを向こうへと転がす。 「ひとりじゃゆっくりできないよ…」 れいむは天井を見上げる。 その様子はさながら囚人のようであった。 昼。 お腹が空いてきたのでお兄さんの用意してくれたお昼のご飯を食べる。 飼いゆっくり用のご飯らしく、甘くて美味しい。 むしゃむしゃ… 黙って食べる。 幸せじゃないので「しあわせー」なんて言えなかった。 舌がとろけるほど美味しいご飯なのにどこか味気なく感じる。 「みんなといっしょにしあわせーしたいよ」 そういえば友達と冒険したときに食べた木の実は美味しかった。 味は今思えば微妙だったけど満たされるものがあった。 楽しくないと美味しい食べ物も美味しく感じられないと、れいむは子供ながらにして悟った。 午後。 食事を終えるとますますやることがない。 れいむはただボーッとするだけ。部屋は静寂に包まれる。 音と言えば自身の出す音と、たまに聞こえる鳥の声ぐらいのもの。 世界に自分しかいないような感覚がれいむを襲う。 「ゆー、ゆっゆっゆ…ゆゆ~」 怖くなったれいむは歌い出す。 しかしそれも疲れるので長くは続かない。 みんなで歌った時はこんなすぐに疲れなかったのに。 実際のところ、みんなで歌ってれば途中で適度に休めるから疲れにくいだけだったりする。 でもこの場合は楽しくないのが一番の疲れる原因だった。 後の時間は柵の中を転がったりボールで遊んだりといつもの遊びで過ごす。 いい加減飽きているので楽しくは無いが、寂しさをちょっとでも紛らわせる。 ただそれだけの行為。 れいむはそうして一日のほとんどを抜け殻のようにして過ごす。 暗くなる頃にようやく飼い主が帰ってくる。 「ただいま。帰ったぞれいむー」 「ゆっくりしていってね!!!」 れいむは元気に帰ってきたお兄さんにおかえりの挨拶をする。 寂しかっただけにお兄さんが帰ってくるのは素直に嬉しかった。 「お腹は減ってるか? すぐに作ってやるからな」 「ゆっくりまつよ!!」 お兄さんにおうちに帰してとお願いするのはご飯を食べてからだ。 なのでお兄さんが料理を作ってる間は大人しく待つことにした。 「ほら、出来たぞ。卵焼きだ」 「ゆゆっ、おいしそうだよ! ありがとうおにーさん!!」 お礼を言うが人間には「ゆゆ~ん! ゆっくりー!!」ぐらいにしか聞こえていない。 それでもれいむが喜んでいることはちゃんと分かるようだ。 「ははは、砂糖を入れたから甘くておいしいぞー」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 やっぱり誰かと食べるご飯は美味しかった。 ちなみにれいむはお兄さんの事が嫌いというわけではない。むしろ好きだ。 後は話を聞いてくれさえすればもっと好きになれるのに。 夕食後はお兄さんと遊ぶ時間だ。 柵から出してもらってお兄さんと向き合う。 れいむにとっては貴重なお願いの時間だ。 「おにーさん! れいむをおうちにかえしてね!! ゆっくりみんなにあいたいよ!!」 「はいはい、今日はこれで遊ぼうな」 「ゆゆー! ゆっくりちがうよ!!」 「お前これ好きだもんな。ほれほれ」 「れいむのはなしをゆっくりきいてってー!!」 お兄さんに向って何度もお願いするが、お兄さんは猫じゃらしをれいむの目の前で揺らしてくる。 れいむはそれを追いかけながらもお兄さんにお願いする。 でも聞いてくれない。 だったら遊ばないで体で示せばいいのにと思うかもしれないが、 目の前で猫じゃらしをチラつかせられるとついつい遊んでしまうのだ。 「ゆーっ! あしたになったらそとにだしてね!」 「ああ、次はボールで遊ぼうか」 「ゆっくりちがうよぉ!!」 結局こうしてれいむのお願いはお兄さんに通じなかった。 しばらく遊んだあと柵の中に戻されておやすみの時間になる。 「あしたはおうちにかえしてね」 「おやすみれいむ」 しばらくして部屋の灯りが消えた。 暗闇で何も見えなくなると急激に眠くなる。 いつか分かってくれるといいな。 そう考えながられいむは眠りについた。 れいむが人間のペットにされてからまだ一週間。 これから数ヶ月の時をここで過ごすことになるとはまだ思っていなかった。 れいむを飼ってから約半年。 最近、いや二か月ほど前からどうもれいむに元気がない。 「れいむ遊ぼうな。今日は俺の上に登るか?」 お兄さん登りと名付けた遊びで、れいむに俺の体を登らせるのだ。 これが案外楽しいらしい。 足から肩に飛び乗ったり、頭の上に乗ったりと大はしゃぎだった。 でも最近は乗り気じゃないようで俺が手を差し出すなどしない限りは飛び乗ってこなかった。 それだけではなく料理を食べても嬉しそうに「ゆーん、ゆーん、ゆゆゆー!!」なんて鳴かなくなった。 今はもそもそと黙って食べる。 行儀がいいとも言えるけどむしゃむしゃ元気に食べてくれた方が飼い主としては嬉しい。 (老化でもしたのか? でもそんなの聞いたことないぞ) れいむは最初は子供サイズだったが、今は大人のゆっくりに成長している。 見たことは無いが、ゆっくりは育てればもっと大きく育つらしい。 噂によると2mぐらい、さらには10mサイズもいるとか。 だとすると老化は考えにくい。 体は綺麗でハリもある。病気とも思えない。 精神的なものなのだろうか。 「森に帰してみるか…?」 「ゆゆっ!!」 ふと何気なしに呟いた言葉にれいむは激しく反応した。 「ゆっくりー! ゆゆゆっ!!! ゆーっ!!」 目をキラキラさせて胡坐をかいた俺の足に体を擦りつけてくる。 それから俺を見上げて激しく鳴いてくる。 もしやビンゴだったか? というかよくよく考えればこいつは野生のゆっくりだった。 だとすると当然家族や知り合いもいただろう。 「ああ、なんてこった」 半年の間そんな大事なことに気付かなかったとは。馬鹿だ俺は。 仲間がいなくて寂しい思いをさせてしまっていたんだ。 俺はれいむの頭に手をポンと乗せる。 「ゆーん! ゆーん!」 「ごめんな。れいむごめん」 「ゆっくりしていってね!!!」 謝る俺に「きにしないでね!」とでも言うように笑顔を向けて鳴いてくる。 優しいやつだ。本当はもっと飼っていたい。 でもこれ以上俺の我が侭で飼い続けるわけにはいかない。 やっぱり同じゆっくり同士が一番なんだから。 「明日、森に帰ろうな。今日はもう暗いし」 「ゆっ!!」 その夜俺とれいむはいつもより長く遊んだ。 寝る時も俺はれいむが寝るまで傍にいた。 翌朝。 お兄さんの声でれいむは目を覚ました。 「ゆっくりしていってね!!!」 れいむは元気に朝の挨拶をする。 こんなに気持ちのよい挨拶は久しぶりだった。 それもそのはず、昨夜お兄さんがとうとうれいむのお願いに気付いてくれたのだから。 そして今日、れいむは森のおうちに帰れる。 「よし、それじゃあ行こうか」 お兄さんの用意してくれたバスケットにれいむは収まる。 森まではお兄さんが運んでくれると言うので好意に甘えることにした。 懐かしい森への道をバスケットに乗って移動する。 お兄さんの話に相槌を打ちながられいむは久しぶりの故郷を思い返す。 優しいお母さんは元気かな。 お姉ちゃんはもう結婚したかな。 妹はそろそろ大人かな。甘え癖は抜けたかな。 友達はみんなゆっくりしているかな。 帰ったらまずは家族とあってスリスリしていっぱいお話ししよう。 明日は友達と会ってみんなで遊びに出かけよう。 そうだ。優しいお兄さんと人間のおうちのお話をしよう。 みんな羨ましがるかな。 でもれいむはみんなといるのが一番幸せだよって言っちゃおうかな。 だって本当にそう思ってるもん。 「着いた。ここでお別れだな」 「ゆっ!!」 森の入口、れいむとお兄さんが出会った場所に着いた。 懐かしい匂いがする。 れいむはバスケットから飛び降りるとお兄さんに振り替える。 「おにいさんありがとう!! いやなこともあったけどれいむたのしかったよ!!!」 「本当にごめんな。さ、仲間の所に戻って元気な姿を見せてやるんだ」 「ゆっくりわかったよ!! おにいさん、またあったらいっしょにあそぼうね!!」 お兄さんが手を振っている。 れいむはちょっと泣きそうになったけど堪えて森の中へと駆けていった。 おうちの場所は覚えている。 ずっと帰りたいと夢に思い描いていた場所だ。忘れようはずがない。 倒れた大木に出来た大きな空洞。そこがれいむ家族のおうちだ。 「ゆっくりかえったよ!!!」 おうちに入ると開口一番そう叫ぶ。 しかし中にいたゆっくり達の反応はれいむの期待とは違った。 「ゆ…? だれなの?」 「ここはまりさたちのおうちだよ!!」 「おうちをまちがえたの? でもここのゆっくりじゃないよね?」 「ゆ? ゆゆ、ゆ??」 れいむのおうちにいたのはれいむ種とまりさ種の家族。 でも見たことのないゆっくりだった。 「ゆっくりたってないででてってね!!」 「そうだよ! しつれいなれいむはゆっくりでてってね!!」 「ゆ、ごめんね! ゆっくりごめんね!」 訳も分からず責められ、れいむは取りあえずおうちから外に出た。 もしかして本当に家を間違えた? でもこの辺に倒れた大木なんて他にはない。 それに枝の形や入口の穴の形も記憶のそれと同じだ。 「ゆーん…」 れいむは友達のおうちを見に行くことにした。 しかし友達は誰一人見つからなかった。 それどころか知ってるゆっくりが一人もいなかった。 もしかして引っ越したのかと思ったけどこんなゆっくりプレイスから引っ越すなど考えづらい。 れいむは考える。 しばらくして一つの結論に至った。 「みんな、あのゆっくりにおいだされたんだね」 あの見知らぬゆっくりの群れがれいむの群れを追い出してここに居座った。 追い出されただけならまだいい。でも最悪殺されたのかも知れない。 そう考えると今ここにいるゆっくり達が憎くなった。 ようやく会えると思った家族、友達。 温厚でのんびり屋のれいむだったが大事なもの全てを奪ったゆっくり達を憎まずにはいられなかった。 れいむは自分のおうちに向かう。 ちょうどおうちの入口付近でおうちを奪った家族が集まって遊んでいた。 みんな幸せそうに笑顔を振りまいている。 泥棒のくせに。 「ゆゆ~!」 「ゆー、まってよ~!!」 追いかけっこする子ゆっくり。 れいむはその子ゆっくりの前に立ちはだかる。 「ゆっ、おねーちゃんもあそぶ?」 「ゆっくりあそぼうね!!」 さっきは巣の奥に居てれいむを見てなかったのだろう。 初めて見るゆっくりであるれいむに無邪気に遊ぼうと誘ってくる。 れいむは一緒に遊びたくなってしまう。 でも今はそんな呑気な事していられない。 「みんなはいつからこのおうちにいたの?」 「うまれたときからだよ!」 「このおうちはね! むかしからまりさたちのおうちだってきいたよ!!」 「そうなんだ」 昔から住んでるなんて酷い嘘だ。 この子たちはきっと親に騙されてるんだ。可哀想に。 「ゆっ、さっきのしらないれいむだね!」 「れいむたちのこどもになんのようなの!!」 れいむの元にその子供達の親がやってきた。 明らかにれいむを怪しんでいた。 でもちょうど良かった。この親に本当のことを聞けばいい。 「このおうちはいつうばったの?」 「なにいってるの! うばってなんかないよ! ここはずっとまえかられいむたちのおうちだよ!!」 「そうだよ! へんなれいむだね!!」 親まで嘘を言う。 本気でここに昔から住んでいると思い込んでいるのかもしれないが。 「ここはれいむのおうちだよ! おかあさんとおねえちゃんといもうとをどうしたの!!」 でも本気でそう思い込んでいるとしても元からいたれいむの家族は知ってるはずだ。 忘れたんだとしたら、もう許せない。 「しらないよ! わけのわからないこというね! ゆっくりできてないよ!!」 「そうだよ! まりさたちはここでずっとくらしてたんだよ!!」 「ゆっくり、しんでね」 「ゆ?」 「なにをいって…ゆぶっ!?」 「ゆっくりしんでね!!!」 れいむは怒りに身を任せて親まりさに体当たりした。 不意を突かれた親まりさは軽く吹き飛んで仰向けに倒れた。 「いだいいぃぃぃ!!!」 「まりさになにするの!! ひどいよあやまってね!!」 「あやまるのはそっちのほうだよ!! れいむのかぞくとおうちをかえして!!」 「だからなにいっでるのおおおお!!!」 れいむは続いて親れいむに飛びかかる。 親れいむもまたれいむの体当たりで吹き飛んでおうちの中に転がっていった。 れいむはそれを追いかける。 それに気付いた親まりさはおうちの入口近くにいる子供達に向かって叫ぶ。 「おちびちゃんにげてえええええ!!!」 その親の言葉に突然のことで固まっていた子供達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げた。 何も考えないで逃げるので親れいむを追うれいむに吹き飛ばされる子供もいた。 れいむは吹き飛んだ子供に構わずおうちの中に侵入した。 そして起き上がろうとする親れいむに圧し掛かった。 「ゆ、ぐ…ぐるじいよ。い"だいよ"」 「しつもんにこたえてね!! ここにいたみんなはどうしたの!?」 「じらないよ"っ! ここにはれいむだぢがむがじがらいだよぉぉ!!」 「うそいわないでね!! だったらなんでれいむのかぞくもともだちもいないの!!」 「じらないよぉぉぉ!!!」 まだ白を切るつもりのようだ。 れいむは何度と飛び跳ねて親れいむを何度もプレスする。 「ぎゅっ、ぐっ、ぎゃべっ!! やべ、でぇっ!!」 親れいむは潰されるたびに苦しそうな声をあげる。 十数回潰した所で餡子を吐き始めた。 でもれいむは止まらない。 「いたいのがいやならはやくいってね!!」 「ゆ"、ぶ、ぶ、ぶぶぺっ……」 「ゆ?」 親れいむはそれから声を出さなくなった。 れいむがちょっと退けて親れいむを見ると死んでいた。 餡子を吐きだし、目も片方地面に転がっている。 家族について聞く前に死んでしまった。 「ゆっくりいわないからだよ」 悪いのは自分じゃない。 この親れいむが嘘をついたり、大事なことを忘れてるからいけないんだ。 情報を聞き出す前に死んだのは残念だけどまだ親まりさが残ってる。 れいむはおうちの外に出て親まりさの姿を探す。 でも見つからなかった。 その代わり、たくさんのゆっくりがおうちの周りに集まっていた。 「でてきたよ!!」 「ゆっくりできないれいむがでてきたよ!!」 「れいむは、れいむはどうしたの!! なんでおまえがでてくるの!!」 「むきゅ、かえりちでよごれてるわ。もしかすると…」 「ゆうううう!! れいむをがえじでえええ!!」 泣き叫ぶ親まりさ。 でもこれは自業自得というもの。 れいむの心が痛むことは無かった。 それよりも群れを奪ったゆっくり達に囲まれたこの状況はゆっくり出来ない。 きっとあのまりさの家族が助けを呼んだのだろう。 「ゆっくりごろしはゆっくりできないよ!!」 「へいわにくらしてただけなのに! あのれいむはゆっくりしてないね!!」 「あんなれいむゆっくりさせるわけにはいかないね!!」 「ゆっ! みんなでいしをなげるよ!!」 『ゆーっ!!!』 れいむを囲うゆっくり達が一斉に石を飛ばしてきた。 大人のゆっくりも子供も、赤ちゃんまでも石を飛ばしてくる。 れいむはそれを必死に避けようと駆ける。 群れのみんなもこうやって攻撃されて追い出されたんだと考えると逃げるのは何だか悔しかった。 でもこの状況ではそうも言ってられないしどうすることも出来ない。 「ゆっくりやめてね! れいむはわるいれいむじゃないよ!!」 「ばかいわないでね!! まりさのれいむをころしたくせに!!」 「ゆっ! ひとのおうちをうばおうとしたわるいれいむはしんでね!!」 「ひどいげすれいむだね!!」 れいむは石だけでなく罵声も飛ばされる。 体も心も傷付けられる。 すでにれいむの体には何度も石をぶつけられて傷が出来ている。 体の動きも徐々に鈍くなっている。 このまま倒れてしまえばゆっくり出来なくなる。 この包囲から抜け出さないと…! 「ゆっくりどいてね!!」 れいむはようやくれいむを囲うゆっくり達の元まで辿りついた。 その勢いで体当たりして道を切り開こうとする。 だが―― 「させないよ!!」 「ゆぎっ」 だが、れいむは逆に跳ね返された。 数匹の大人ゆっくりによる体当たりで弾き返されたのだ。 「みんな! いまだよ!!」 「ゆー!!」 「ゆっくりしねぇ!!!」 「ゆっ、ゆぐっ、ゆ、やめ、やめで!!! いだい!!!」 怯んだれいむにゆっくり達が次々と体当たりを仕掛ける。 体勢を立て直す前に次のゆっくりが攻撃してくるのでれいむは逃げることが出来ない。 動くこともままならないままれいむはボロボロにされていく。 もう逃げ切ることは出来そうになかった。 れいむは涙を流しながら憎きゆっくり達にリンチされた。 「ゆ"、ゆ"…ゆ"ふ"」 「ゆっくりはんせいしてね!!」 「おばかなれいむはそのまましんでね!!」 たった数分でれいむはボロ雑巾のようにされ、地面に這いつくばっていた。 もう自力では動けそうにない。 片目はどっかに転がって行ってしまった。 大事なリボンは破られて目の前に散らばっている。 そして… 「まりさのれいむをかえしてね!!」 「……」 あの親まりさが近づいてきた。 でもれいむは反応しない。出来ない。 「おまえがあらわれなかったらゆっくりくらせたのに。 おまえのせいでまりさのこどもたちはおかあさんをなくしたんだよ」 「……」 親まりさの声が遠のく。 れいむはそのまま静かに死を迎えようとしていた。 悪いのは群れを追い出したこいつらなのに。 どうしてれいむが悪者にされてるの。 この世の理不尽をれいむは呪う。 なんでお兄さんの元に残らなかったのかな。 こうなるって分かってればお兄さんとずっとゆっくり暮したと思うのに。 なんで? どうして? ぐちゃ 直後、れいむの意識は闇へと消えた。 れいむの上には涙を流すまりさ。 理不尽に妻を奪われた可哀想なまりさだ。 れいむの不幸は長く群れを離れたことだった。 人間に飼われていた半年という時間は長すぎた。 半年といえば野生に生きるゆっくりが3~5回は世代交代するほどの時間なのだ。 大抵のゆっくりは1~2ヶ月で何らかの理由によって死亡する。 外敵に襲われたり、子を作って黒ずんで死んだり、変な物を食べて死んだりと様々だ。 れいむは外敵もなく、食事も安全で美味しいものを食べてきたからこそ長生きした。 だけど家族も友達も何らかの理由でとっくに死んでいた。 そしてれいむの群れにいた見知らぬゆっくりの群れはその子孫だった。 れいむが殺したれいむはれいむの妹のひ孫。 れいむを殺したまりさはれいむの友達のひ孫の子だった。 哀れなれいむはそれに知らずに群れの仲間を奪われたと誤解して群れの仲間を殺した。 そして罪のない仲間を殺された恨みにより、群れの仲間に殺された。 せめてゆっくりの言葉が人間に通じさえすればこんな事にならなかった。 家族とも友達とも会えたし、お兄さんと再び遊ぶことも出来た。 早死にしたとしてもれいむは幸せだったのかも知れない。 でもそんなifは存在しない。 その結果が今の無残に潰れた姿。 れいむは家族と再会することなく命を散らせた。 終 by 赤福 このSSに感想を付ける
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シナリオ部門決まったことを。 とりあえず、決まったことのメモ リーダー:言い出しっぺ ◆qbNb6Ma0MY テーマ:恋愛 ワンポイント:和(舞台などを桜が咲く町にしたり、季節を春にしたり、和風のイメージ) シナリオシステム:下段ウィンドウ形式 マップでのキャラ選択 ゲーム画面:800×600
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『とっても餡子脳』 9KB 愛で ギャグ 飼いゆ 失礼します チートあきです。 とある晴れた日の午前中。 どこにでもあるようなアパートに住む、一人の男と一人のれいむ。 「おにいさん、きょうもとってもいいおてんきだよ。だから、れいむをさんぽさんにつれ ていってね! おさんぽさんはゆっくりできるよ!」 元気に部屋を跳ねながら、れいむは窓の外を見た。天気は晴れ。気温も心地よい。散歩 するには絶好の日和である。 ぴょんぴょん跳ねるれいむを眺め、男は口を開いた。 「ところでれいむ」 「なに、おにいさん?」 男の元へと跳ねてくるれいむ。 男はれいむの前に腰を下ろし、 「お前の足ってどなってるんだ? いつもぴょんぴょん跳んでるけど」 れいむの足を見る。足と言っても、動物のようなものではなく、平らな底面。歩くのに およそ向いていないこの脚で、地面を這ったり跳ねたりしている。 「ゆん? れいむのあんよさんはこうなってるんだよ」 その場でくるんと身体の上下を入れ換え、れいむは男に自分の脚を見せた。 「ほー」 男は感心の声を出しながら、両手でれいむの脚を撫でる。他の部分の皮よりも厚く、弾 力もあった。中で餡子が動いているらしく、もこもことした感触が手に返ってくる。 「ゆー。くすぐったいよー」 「おおー。これは気持ちいいなぁ」 もこもこもこもこ。 「ゆひゃひゃひゃひゃひゃ!」 笑い出すれいむ。人間で言うなら、足の裏をくすぐられているようなものだ。 男も笑顔でれいむの脚を撫でている。 「癖になるなー。この感触」 「あははははは。ゆっはははははははは!」 部屋にれいむの笑い声が響いていた。 七時間後。 男は夕方色に染まり始めた空に気付いた。 「あ。もうこんな時間か。大丈夫か、れいむ?」 「ゆー……」 れいむの口から漏れるか細い声。瞳から光が消え、虚空を見つめている。表情も消え、 口の端から頭に向かって涎が垂れていた。 れいむの脚の感触に我を忘れ、男はれいむの脚を撫でていた。トイレも昼食も忘れるほ どの熱中。くすぐりは拷問の一種でもある。七時間も休まず脚をくすぐられ続け、れいむ の精神は壊れてしまっていた。 「あらら」 しかし、男は慌てることなく床から立ち上がり台所に移動。冷蔵庫を開けてオレンジジ ュースのパックを取り出し、れいむの元へと戻ってくる。 「れいむ、オレンジジュースだぞー」 だばー。 れいむの口の中へとオレンジジュースを注ぎ込んだ。 れいむはごくりとジュースを飲み込み。 その場に跳ね起きた。 「ゆっくりしていってね!」 「うん。ゆっくりしていってねー」 あっさり完全復活したれいむに、男は朗らかに声をかけた。 「おかえり、れいむ」 「くすぐられすぎはゆっくりできないよー。おにいさん、きをつけてね!」 ちょっと頬を膨らませながら、れいむは男を見上げる。 「分かった分かった」 笑いながら、男は答えた。 このれいむは友人の飼いれみりゃの生き餌の残り物だった。 何となく男が引き取り、育てている。 別の日の夕食の時間。 卓袱台に向かい、皿の上の料理を口に運ぶ男。 近くでゆっくりフードを食べていたれいむ。餌皿から一度口を放し、男を見上げた。 「おにいさん。なにたべてるの?」 「グリーンカレーだ」 そう答えて、男はれいむを掴んで持ち上げる。 白い皿に御飯が盛られ、緑色のカレーがたっぷりと掛けられていた。辺りに広がる美味 しそうな匂い。具材は鶏肉やタケノコ、ピーマンや香草、そして青唐辛子。 「みどりいろのカレーさんはめずらしいね。だいこんさんみたいだね!」 れいむは時々大根の葉を食べさせて貰っているので、そう感じたのだろう。 「それはたしかに」 苦笑いしてから、男はれいむを床に下ろした。 れいむは瞳をきらきら輝かせて、卓袱台の上を見ている。 「れいむにもちょっとたべさせてね?」 あまあま系のゆっくりにとって、辛いものは毒である。当然、れいむがカレーを食べた ら無事では済まない。しかも、グリーンカレーはかなり辛い。日本人向けに改良された一 般カレーとは一段違う辛さだ。 「いいぞ」 男はあっさり頷き、カレーをスプーンですくった。ご丁寧に青唐辛子まで乗っている。 それを迎え入れるように、れいむは上を向いて大きく口を開ける。 「あーん」 「ほい」 グリーンカレーが青唐辛子と一緒にれいむの口に落ちた。 れいむは口を閉じ、 「むーしゃむーし――ねぎぃ!」 死んだ。 白目を剥き、大きく口を開け、舌を突きだしている。 「あらら。さすがにちょっと無理だったかなー?」 男は近くに用意してあったオレンジジュースのパックを開けると、中身をれいむの口に 注ぎ込んだ。死んだはずのれいむの口が動き、オレンジジュースを呑み込む。 そして、何事も無かったかのように起き上がった。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってねー」 復活したれいむに、暢気な笑顔を向ける。 れいむは満足げな顔で頷いていた。 「みどりいろのカレーさんは、ものすごくからいからいなんだね。れいむ、ひとつかしこ くなったよ! つぎからは、たべないようにしようね!」 「よかったなー」 男は褒めるようにれいむの頭を撫でてやった。 日曜日の午後。 河川敷の土手の上で、男とれいむが遊んでいた。 両手で抱えたれいむを真上に放り投げる。 「おそらをとんでるみたーい」 もみあげをぱたぱたさせながら落ちてきた。 地面を這ったり跳ねたりしかできないゆっくりだが、空を飛びたいという本能に近い欲 求がある。ゆっくりを真上に放り投げて受け止める遊び。自分では絶対に飛べない高さま で行けることは、ゆっくりにとって至福の時間だった。 れいむの身体を、男は両手で受け止めた。 「もう一回行くぞー」 「ゆっくりがんばってね!」 「そいや!」 男がれいむを真上に放り投げる。 「おそらをとんでるみたーい」 目をきらきらと輝かせながら、もみあげをぱたぱたと動かす。しかし、それで飛べるわ けではなく、重力に引っ張られて落ちていく。 男はれいむを受け止めた。 「今度は思いっきり行くぞー!」 右足を持ち上げ、その足の甲にれいむを乗せる。 ググッ……。 左足から始まる筋肉の伸縮。足に存在する筋肉と関節をきれいに連動させ、さらに上半 身の動きも加えて、爆発的な瞬発を生み出す。 「空軍〈アルメドレール〉餡子シュートッ!」 身体を縦に一回転させ、男はれいむを空へと舞い上げた。 「ゆううううううっ!」 青い空へとれいむの姿が吸い込まれる。土手の上の道路から、二十メートルほどの高さ まで。捕食種のれみりゃでも、その高さまで飛ぶことは珍しい。れいむは今、ゆっくりの 外の世界へと飛び出していた。 「れいむはおそらをとんでるよー!」 そして、重力に引かれて落ちる。 ぐちゃあ! れいむは土手の横の道路に激突し、餡子をぶちまけた。 男は近くの階段を下り、れいむの落下地点まで走っていく。しかし、その動きに焦りや 危機感は見られない。ちょっと驚いている程度だ。 「おーい、れいむ、大丈夫か?」 「ゆ……っ……」 見事に潰れたれいむ。とりあえず、れいむっぽい形は残っているが、餡子は大半が周囲 に飛び散り、皮もズタズタに裂けていた。餡子の半分以上を消失した重傷である。 男は水筒の蓋を開け、 だばぁ。 中身のオレンジジュースをれいむに掛けた。 途端、れいむの回りの餡子が集まっていく。遠くまで飛んだ餡子は反応が無いが、れい むと一応繋がっていた範囲の餡子は、蠢きながられいむの身体に吸い込まれていった。裂 けていた皮が繋がり、れいむは見る間に健康体まで回復する。 「ゆっくりしていってね!」 「おー。ゆっくりゆっくり」 水筒に蓋をして、男は笑顔で応じた。 れいむは楽しそうにのーびのーびしながら、 「おそらはすごかったよー! れいむはとりさんになっておそらをとんだよー! ありが とう、おにいさん! とってもゆっくりできたよ!」 「何か一回り小さくなってるけど、大丈夫かな?」 「ゆ――?」 れいむは自分の身体を見下ろす。 中身を派手にぶちまけたおかげで、れいむの身体は一回り小さくなっていた。 「だいじょうぶだよ。れいむはげんきだよ!」 「なら大丈夫か」 れいむの返事にあっさりと頷く。 「晩ご飯の買い物あるから、帰ろうか」 それから、アパートに向かって一緒に歩き出した。 ある雨の日の夜。 「腹減ったなー」 男はお腹を撫でていた。冷蔵庫を開けたら空っぽだった。カップ麺の類も無い。何か買 いに行くべきなのだが、雨が降っているので外出したくない。しかし、何か買ってこない と空腹で辛い。 「おにいさん、おなかがすいたんだね?」 そんな男にれいむが声を掛けた。 「甘いものが食べたい気分だ」 仕事の疲れのたまった身体。疲労回復には甘いものが効果がある。 れいむは一度頷くと、元気に言った。 「なら、れいむをたべてね! さあ、おたべなさい!」 ぱか。 と、れいむはふたつに分かれた。 男はれいむの右側を持ち上げ。 「いただきます」 もぐもぐもぐ。 食べ始める。おたべなさいしたゆっくりは夕食に食べるものではないが、量があって甘 いものという男が食べたかったものの条件とは一致している。 「れいむは美味しいなー」 頬をほころばせながら、れいむの半分を食べていく男。 おたべなさいを自殺に使うゆっくりは多い。そのゆっくりの味は大した事ない。だが、 相手を思い相手のために本当に自分を食べさせるお食べなさいをしたゆっくりは、非常に 美味しい饅頭になる。普通のあまあまとは次元の違う美味。 男はれいむの右半分を全て食べ終えた。 「でも、さすがに半分でお腹いっぱいだ……」 大きく息を吐き、冷蔵庫からオレンジジュースを持ってくる。 だぱー。 オレンジジュースをかけられたれいむの左半身が、もごもごと動きながら右半身を再生 させていく。餡子も皮も、髪や目もリボンも全てきれいに再生。しかし、左半身を再生に 使ったため、全体が縮んでいく。 数秒後、そこには小さくなったれいむが佇んでいた。 「ゆっきゅりちていっちぇね!」 「ゆっくりしていってね」 男は笑顔で返事をして、れいむの頭を優しく撫でた。 「美味しかったぞー、れいむ。お兄さんもうお腹いっぱいだ」 「おなきゃいっぱいはゆっきゅりできりゅね!」 れいむは胸を張ってそう答える。空腹で困っていた飼い主を満腹にしてゆっくりさせら れた。れいむはその結果に十分満足していた。 「でも、お前小さくなっちゃったなー」 先日身体の中身半分ぶちまけて小さくなり、今日さらに小さくなっていた。元々普通の 成体サイズだったのに、今ではすっかり子ゆっくりだ。 「ゆっくちこまっちゃね?」 首を傾げるれいむ。しかし、困っているようには見えない。 男は自分の顎に手を添え、いくから考えてから、 「ご飯の量増やしてやるから、早く大きくなるんだぞー」 「ゆっくちわかっちゃよ!」 れいむは元気に答えた。 過去SS anko4051 どMとどS anko4047 便秘だったちぇん anko4046 超天才外科医の休日 anko4038 ゆっくり・ボール・ラン anko4008 ゆか PIECE anko4005 燃える、お兄さん anko4003 続・愛の超伝道師 anko3994 愛の超伝道師 anko3894 続・えどてんせいっ! anko3878 えどてんせいっ! anko3874 禁断の口付け anko3862 人工ドススパーク
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※れいむを多少愛でますが、それ以上に無意識に虐待します。 ゆっくり童話シリーズ 第一回 「赤い靴」 あるところにれいむという名の若くてかわいいゆっくりがいました。 れいむは、すっきりー!しすぎて腰を痛めたおかあさんありすのためにまいにち食べ物を探しにいきます。 ですが、若いゆっくりに2匹分の食料を集めることは出来ません。 しかたがないので自分の分を巣の外で食べ、残ったほんの少しの食べかすをおかあさんありすに持って帰ります。 おかあさんありすは栄養が足りなくて日に日に弱っていきます。 痛めた腰も直りません。退屈紛れに泥団子で作ったまりさとすっきりーしようとするせいです。 ある日、れいむはおかあさんありすに言いました。 「れいむもおおきくなったから、ごはんがたりなくなってきたよ。 れいむはあたらしいおうちをさがしにいくけど、うごけないおかあさんはここでゆっくりしていってね!」 「どう゛じでぞんなごどい゛う゛の゛おおお!!!!いっじょにすっぎりじょうよおおおおおお!!!!」 おかあさんありすは別れを惜しみますが、れいむの足を止めることはできません。 無理をして飛び跳ねたので、着地したときに腰が破けて中のカスタードクリームが勢いよく飛び出します。 「ゆぎゃああああああああ!!!ずっぎりじずぎだげっががごれだよ!」 その言葉を最後におかあさんありすは動かなくなりました。ですが、れいむはもう巣から出て行った後でした。 巣を出たれいむはもっと食べ物があるという人間の町に行くつもりでした。 それはおとうさんれいむが生きていたころにお話してくれたとてもゆっくりできる場所です。 途中で出会った子まりさや子ありすをおやつにして、れいむはようやく町にたどり着きました。 地面が土から大きめの石になっていましたが、若くてぴちぴちなれいむのお肌はその上でもゆっくりできます。 「むーしゃ、むーしゃ。しあわせー♪ゆっ!ゆっくりしてたらまちについたよ!さすがれいむ♪とってもゆっくりしてるね☆」 もう夕暮れ時なので、見える範囲には殆ど人間は居ません。 れいむは町に着いたらおうちと食べ物がすぐ見つかると思っていたので、自然と喜びの声が出てしまいます。 「ゆ~ん、ゆ~ん。かわいいーれいむの、おうちとごはん♪ま~ってーてねー。」 気持ちよく歌いながら歩いていると、近くの窓から頭と骨だけになった生魚が飛んできました。 べちっ「ゆぶふっ!?」 れいむはその勢いで路地へと転がります。ころころ。 「れいむにぶつかったわるいこはおしおきだからね!いますぐあやまってね!」 魚はなにも答えません。死んだ魚の目でれいむをみつめるだけです。 「ゆ!はんせいしないなられいむにもかんがえがあるよ!・・・むーしゃむーしゃ・・・い゛だいいいいいい」 謝らなかった悪い魚はれいむにたべられてしまいました。 ですが、そのするどい骨はれいむの口の中に深く突き刺さってれいむをくるしめます。 舌より奥の餡子に入ればすぐに骨は餡子になるのですが、刺さっているので飲み込むこともできません。 しばらく路地でぎゃあぎゃあと醜い悲鳴を上げていると、れいむに声をかける人間が居ました。 「あらあら、たいへん。あなたどうなさったの?」 それは丸い老眼鏡をかけた白髪のおばあさんでした。 助けが来たとれいむは喜んでおばあさんのほうへ駆け寄ります。 「ゆぎゃあああああああ!!!」 口の中に刺さった骨は飛び跳ねることによってより深く刺さり、れいむの餡子へものすごい痛みを伝えます。 大きく口を開けて叫ぶので、おばあさんも鷹の目(ホーク・アイ)で魚の骨を見つけました。 「すぐにとってあげますからね。ほら、大丈夫ですよー。」 やさしくれいむを抱きかかえるおばあさん。 れいむはようやく痛みから解放されると思って脱力しました。 おばあさんは裁縫が得意なので、刺さった魚の骨を抜かずに押し込んで背中から取り出します。縫い針みたいですね。 全部抜き終わるころにはれいむは静かになっていました。口から泡を吹いて安らかな顔で眠っています。 このままここに置いていくのもかわいそうだと思ったおばあさんは、れいむを家につれて帰ることにしました。 次の日、目を覚ましたれいむはとてもゆっくりしていました。 なぜなら、れいむが寝ていたのはとてもやわらかいクッションで、かわいい人形がいっぱいの部屋だったからです。 部屋の真ん中にはお皿が置いてあり、中にはクッキーが入っていました。 昨日はとても疲れたような気がしたのでれいむはそのクッキーを一息に食べます。 「むーしゃむーしゃ。しあわせー♪あまあま、おいしー☆おとうさんのいったとおり、まちはとってもゆっくりだね。くすくす。」 幸せそうな笑顔を浮かべるれいむを昨日のおばあさんが見つめています。 おばあさんは家族が居なかったので、クッキーをおいしそうに食べてくれるれいむを飼ってもいいな。と思いました。 れいむがおばあさんと暮らし始めて最初の日曜日、おばあさんはれいむに贈り物をしました。 それはとても綺麗な赤い布でできた靴でした。 町は石畳なので、全裸のれいむが飛び跳ねるには少々危険なのです。 靴を装着してもらったれいむは鏡をみて驚きました。 そこにいたのはれいむの赤いリボンとおそろいの模様が付いた靴のとてもかわいいれいむ。 ”とーたるこーでぃねーと”とでも言いましょうか。 ゆっくりの丸い体の下半分を覆うその靴はすぐにれいむの宝物になりました。 「おばあさんありがとう!ちょっとそとのゆっくりにかわいいれいむのくつをじまんしてくるよ!」 言うが早いか、れいむは一人で飛び出します。 おばあさんの家は猫用のドアが扉に付いているのでゆっくりでも自由に出入りができるのです。 でていくれいむをおばあさんはゆっくりと見つめていました。 「あの子、一人で戻ってこれるかしら・・・まあ猫みたいなものだし、大丈夫よね。」 外に出たれいむは改めてみる人間の町の美しさに見とれてしまいます。 硬くてゴツゴツしているけれど跳ねやすい道。おばあさんの赤い靴のおかげで全く痛くありません。 いたるところに植えられた色とりどりの花。れいむのためにおやつとしていっぱい用意してあるのでしょう。 町の中心には大きな噴水がありました。れいむはそこでお水を飲みながら、靴を自慢するため他のゆっくりを探します。 「ゆぅ~ん。れいむのきれーなくつをみせたら、どんなかわいいゆっくりだってれいむにめろめろだよねー。」 一人で身をよじらせてクネクネしている様を人間がくすくすと笑いながら見ていますがれいむは気づきません。 夕方近くになって、ようやく路地裏からみすぼらしい姿のありすが噴水までやってきました。 れいむはおなかもすいてきたのでそろそろ帰ろうと思っていましたが、待ってましたとばかりに言いました。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりすっきりしていってね!」 ありすは発情ありすでした。ものすごい勢いで噴水まで駆け寄ると、噴水の淵に乗っていたれいむの所まで一跳びで上りました。 れいむはかわいいだけでなくかしこいれいむなので、ありすはおかあさんありすと同じようにすっきり中毒だと見抜きました。 ですが、ゆっくりそんな分析をしていてはありすからは逃げられません。 「はぅーん、あかいくつをはいたれいむはとてもとかいはだから、きれいなありすのおよめさんにしてあげるねえええ!」 「ゆ゛う゛う゛っ!みにくいありすはかわいいれいむとはつりあわないよ! かってにれいむにさわらないでね!ばかだね!どろにんぎょうとでもすっきりしたらいいよ!」 かしこいれいむもゆっくりなので自分が先程言った言葉も忘れています。 一方、ありすはきれいに着飾ったれいむにめろめろで辛抱たまらん!といった様子で強くれいむを押さえつけます。 ゆっくりが一匹乗るだけの幅しかない噴水の淵ではれいむはありすを振りほどくことができません。 間違って噴水に落ちればゆっくりできなくなってしまうのですから。 れいむはもぞもぞと抵抗にもならない力でありすを押し返しますが、それはありすを興奮させるだけです。 「まぁ!れいむはありすのためにじぶんでうごいてごほうししてくれるのね?いじらしいわああああああ!!!」 ありすは嫌がるれいむをお構い無しに責め立て、すっきりへの快感をむさぼっていきます。 れいむはなすすべも無く蹂躙される屈辱に、涙を流しながら耐えるしかありませんでした。 「んほおおおおおおおおおおお・・・・すっきりー!」 「・・・すっきりー・・・」 激しい野外プレイもようやく終わりを告げ、ありすは去っていきました。 自分さえすっきりできれば別に誰でもよかったようです。 取り残されたれいむは自分がすっきりー!させられたことによって子供ができてしまうことを悲しみました。 まだ若くてかわいいれいむなのに子持ちになったら自由などありません。 それどころか、できる子供の数によっては栄養を吸い尽くされてれいむは干からびてしまうかもしれません。 きれいな噴水に沈んだらゆっくりできるかなーと思って水面を覗き込んだときにれいむは気づきます。 水に映るれいむの頭には蔓は生えていません。おばあさんの赤い靴がありすの邪悪なすっきりー!から身を守ったのです。 むりやりすっきりー!させられた悔しさは残りましたが、れいむはまだゆっくりできるのです。 こんなすばらしい靴をつくってくれたおばあさんに、れいむはごほうびをあげたいと思い、いそいでお家に帰ります。 れいむは最初に町に来た日以来、ずっとおばあさんの家でゆっくりしていたのでどこがおばあさんの家かわかりません。 いつの間にか日が暮れて真っ暗になってしまいました。おばあさんもきっと心配してれいむをさがしているでしょう。 真夜中になってもれいむはおばあさんの家を見つけることができません。おばあさんは探しにも来ません。 人間の家は全部同じに見えるので、体当たりすれば中に入れる不思議なドアだと思って、れいむは何度も硬い扉にぶつかりました。 れいむはその度に、来客を確認しに開かれたドアによって顔面を強打しました。 もはやれいむの顔は凹凸がなく、絶壁といってもいいくらいに平らになりました。 「ゆぐぅ、こんなゆっくりできないおうちにはようはないよ・・・」 おなかもすいて、心身共にボロボロになったれいむは、ふらふらと町をさまよいます。 とりあえずゆっくりできるところを探して、ついにゆっくりできそうな丁度いい大きさの穴が、レンガの家の壁にあいていました。 しかもその穴からはとてもおいしそうな香りが漂ってきています。 その穴の横にはイスとテーブルがあり、それに登れば穴の前の足場までいけそうです。 「・・・あそこなられいむがひとりでゆっくりできるよ。さがしにこない、いじわるばばあもはいってこれないね・・・」 れいむは痛む体を早く休ませたい一心でイスを、テーブルをよじ登り、壁の穴へ飛び移ります。 べちゃん! かわいそうなれいむは足を滑らせ、石畳へ落ちてしまいました。足の皮が破れ、そこから餡子がもれ始めます。 ですが、なんということでしょう!おばあさんの赤い靴は、れいむの足をきれいに包んでいるので餡子は殆ど漏れ出しません。 もはや悲鳴を上げるのも疲れてしまったれいむですが、硬い石の路上で眠れるほど田舎者のゆっくりではありません。 二度、三度と同じことを繰り返して、ようやく壁の穴までたどり着きました。 「もう、つかれたよ。かわいいれいむはこのおうちでゆーっくりしていってね。」 一人でゆっくりしていってねを言うと、れいむはおいしそうな香りの中で深い眠りに落ちていきました。 翌朝目が覚めると、れいむの足の傷はふさがっていました。おばあさんの赤い靴はれいむの命を何度もつなぎました。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ。さっすがー」 喜びの声を上げるれいむ。と、同時におなかがなります。先日の昼食以来、水しか飲んでいません。 れいむは思い出したようにあたりを見回します。おいしそうな香りの出所を探しているのでしょう。 入り口は狭い穴でしたが、中は以外に広々としている一部屋の石造りになっています。 れいむはその穴の片隅に、平べったく焼けた物を見つけました。 「むーしゃ、むーしゃ。うっめ、まじうっめ、これちょwwwぱねぇwww」 はしたない声を上げてれいむはそれを食べます。食べます。食べます。 「ゆふーん。しあわせー!」 平べったいものを全部食べつくしたれいむはそのままとてもゆっくりして、二度寝を始めてしまいました。 余程疲れが溜まっていたのでしょう、その寝顔はだらしなく伸びきって、時々いびきのような音が漏れます。 熱い。れいむは足元から来るあまりの熱さに飛び起きました。 飛び起きたつもりですが、れいむは飛び上がることはできません。 なぜなら、れいむの足は既にこんがりと焼かれ、固まってしまっていたのです。 れいむの周りには、寝る前に食べた丸くて平べったいものが一杯置いてあります。 そう、そこは伝統のピッツァ窯の中。れいむはそんなものは全く知りませんが。 「ゆぎゃあああああ!ゆっくりしないでここをでるよ!!」 跳ねようと足に力を込めるれいむ。足はぴくりとも動きません。 (熱い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたいいたいいたいいたいいたいいたい・・・・) 深い眠りによって、れいむは起きるのが遅くなってしまいましたが、おばあさんの赤い靴はまだれいむを守ります。 熱く焼かれた石のオーブンの上で、れいむの足の皮が石に張り付いていないのは赤い靴のおかげです。 ただし、動くことができなくなったれいむにとって、それは何もありがたいことではありませんでしたが。 「どぼぢでれ゛い゛む゛のあじうごがな゛い゛のおおおおおおお」 れいむは泣き叫びますが、誰もその声には気付きません。そうしているうちにも、どんどんれいむは焼かれていきます。 足の皮が火ぶくれを起こし、爆ぜ割れました。 そこから、れいむの餡子が飛び出します。 けれど、おばあさんの赤い靴はれいむの命の餡子を外へ逃したりはしません。 ぱちん、ぱちん、ぱちん・・・・・ 「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・・」 餡子が沸騰して、皮が破れ、普通のゆっくりならばとうに原型をとどめていないでしょう。 赤い靴はとてもいい布でできているので、そう簡単には燃えたり、破れたりはしません。 おかげでれいむは全身がぐつぐつと煮えたぎっているにもかかわらず、まだ生きているのです! ついにれいむの頭の皮が破れました。長い苦しみももう終わり。 しかし、赤い靴は形を変えません。熱によって固まった靴は、今や鍋のようです。 口も溶け、目も、髪も、リボンも餡子のスープに沈みました。 ですがれいむの苦しみは続きます。餡子はまだ一滴もこぼれていないのですから。 全身を、生きながらに焼き尽くされても死ねない事に、れいむは恐怖しました。 判るのは、窯の奥で固まっていた物のように、れいむはこれから毎日焼かれ続けるだろうということだけです。 参考文献:世界名作アニメ絵本14 赤いくつ 書いてるのがドン詰まりしたので気分転換です。カーレンタソの可愛さは異常。 シリーズとか書いてますが、続くわけが無いと思っている。 あと、この町はお年寄りばかりなので積極的にゆっくりを虐める人はいません。しかもズボラ。 羊の羽 このSSに感想を付ける
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「ゆっ! ここはなかなかゆっくりできるところだね!!」 「かぜさんもはいってこないし、ぽかぽかさんだよ~!」 「ここならえっとうっ! もらくしょうだね! れいむ!!」 「ゆゆっ!! そうだねまりさ!! ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!!!!」 冬の直前にれいむとまりさの番が見つけたのは、 積み上げた石で囲まれた穴だった。それは冷たい風をさえぎり、中の気温を上げる。 石は固まってるようで、れいむとまりさがぶつかってもびくともしなかった。 おまけに床は藁や枯れ草、枯れ木、落ち葉などが敷き詰められている。 少し暗いけど、出入り口をけっかいっ! で覆えばえっとうっ! には困らない。 「ゆゆ~ん!! さいっこうっ! のゆっくりぷれいすだよ!!!」 「れ、れいむ!! まりさはもう……もうっ!!!」 あたらしいおうちを手に入れた喜びのあまり、まりさは興奮し、 れいむとすっきりー! し始めた。れいむはまんざらでもなく受け入れる。 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 「んほっ!! んほぉぉっ!!! すっきりーっ!!」 光悦の表情を浮かべるれいむとまりさ。 れいむの額からは蔦が伸び、そこに赤ゆっくりが1、2、3、4、5、6…… ……張り切りすぎたようだ。 「ゆゆ~んっ!! かわいいおちびちゃんだよっ!!!」 「ゆへへ!! まりさはさっそくえささんをとってくるんだぜ!!!」 ・ 「……? あれ?中に何かいるぞ」 「ほんとだ! ゆっくりじゃねーか!!」 まりさが最後の狩りに行ってる間、お昼のすーやすーやタイム中、 外から聞こえた声にれいむたちは目を覚ました。 「ゆ~っ!!!! だれだかしらないけど!!! かわいいれいむのすーぱーすーやすーやたいむをじゃまするなぁぁぁぁ!!!!」 「しょうじゃしょうじゃ!!!!! ぷきゅぅぅぅぅぅ!!!!」 「ぷきゅー!!」 目が覚めたれいむと、先立って生まれた2匹の子、赤れいむはにんげんを見るや否や ぷくーを始める。このれいむたちは人間の脅威を知らないらしい。 あるいは知っていたが、「こんなにゆっくりしたおうちうをもっているれいむたちに にんげんがかてるわけない!!!!」と思っているのか。 「まずいなぁ……おーい、はやくでてこい」 「おいおい、そんなやつら放っとけよ」 「ほっとけんよ。一応生きてんだろ、こいつらも」 中をのぞいていた青年は手招きしてれいむたちに外に先導する。 その後ろにいる青年は呆れた顔だ。 「ゆぅぅぅぅぅ!!! れいむのゆっくりぷれいすをうばうきだね!!!!!! くずなにんげんはゆっくりしないでしぬといいよ!!! でもそのまえにあまあまもってきてね!!!!! たっくさんでいいよ!!!!!!!」 「れいみゅわきゃっちゃよっ!!! にんげんしゃんは、れいみゅたちに『しっと』 しちぇるんでしょ!!? おおあわりぇあわりぇ!!!! ぎぇらぎぇらぎぇら!!!」 「ゆーんなんてかしこいおちびちゃんなんだろうね!!! さすがれいむのおちびちゃん!!!! そこにきづくなんてやっぱりてんさいだねぇぇぇぇ!!!!」 「おねーちゃんしゅぎょい!!! たいしたゆっきゅりじゃねぇぇぇ!!!」 「最後褒めてんのか、それ?」 出てくるどころか体をねじらせてすーりすーりぺーろぺーろし始めたれいむを見て、 青年たちは息をついた。 「無駄だな。こりゃ」 「だから言ったろ」 「自分で選んだんだ、しゃあねぇか」 青年はその場を後にした。 それすなわち、れいむのかちである!!!(れいむの脳内で) 「ゆっ!!! かったよ!!! かわいいれいむがにんげんにかったよ!!!!」 「しゃしゅがおきゃあしゃんだね!!! ゆっきゅりー!!!」 うれちーちーをしながら尊敬の目で母を見る子れいむ。 帰ってきたまりさのごちそう「らむねさん」を、そのことを肴にしながらたべ、 家族は深い眠りに就いた。 ・ 「ゆっ? なんだかさわがしいよ?」 れいむは目を覚ました。外が騒がしい。 けっかいっ! の隙間から外を見る。そこには何人もの人間がいた。 「ゆぷぷ……れいむにかてないからって、おおぜいひきつれてきたんだね。 そこまでしょうねがくさったにんげんははじめてだよ。おおあわれあわれ……」 れいむはわらう。追い払ってやってもいいが、眠気が強い。 「れいむがほんきになればくずにんげんなんてけちょんけちょんにできるけど、 めんどくさいからみのがしてあげるよ! かわいいれいむにゆっくりかんしゃしてねっ!!! そういうとベッドに戻ろうとして―――― ぼっ! 「ゆっ?」 何かが投げ入れられ、れいむはふりかえった。 視線の先ではけっかいっ! を突き破って、火のついた棒が床に落ちていた。 「ゆっ!!!! あついよ!!! れいむをゆっくりさせないめらめらさんは ゆっくりできないよ!!!!! ゆっくりしないでどっかにいってね!!!!!」 れいむは床に広がる落ち葉や枯れ木をもみ上げできれいに巻き上げ、 火に向かって投げ入れた。消そうと思ったのだろう。しかし 「どぉしてめらめらさんひろがるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!?」 火は空中で見事に引火し、それが地面に落ちて床に敷き詰めた落ち葉や 枯れ木に燃え移る。あっという間に出入り口は火の海になった。けっかいっ! などもう燃え尽きている。 「ゆっくり!! ゆっくりしていってね!!! ぺ~ろぺ~ゆぎゃぁぁぁ!!! あ゛づい゛ぃぃぃぃ!!!!!!」 火付きの床をぺ~ろぺ~ろで消そうとして、れいむの舌先が焼け落ちた。 それだけではなく、しゃがんだことで実ゆっくりに引火した。 「ゆがああああああああ!!!!! れいむのあがぢゃんがぁぁぁぁぁ!!!!!!」 言葉も発せぬまま炎に包まれる実ゆっくりたち。 れいむは火を消そうと振り回し、そして。 すぽーん! 「ゆっ!!?」 実ゆっくりは蔦ごと引っこ抜け、炎の中に消えた。 「あがぢゃあああああああああん!!!!!!!!!!!!! ゆぐっ!!!? ゆぐえっ!!!!!!」 れいむがあんこを吐きながらも叫ぶと、実ゆっくりが突っ込んだところから ぱぁんと返事が聞こえた。実ゆっくりと蔦の中の空気が熱で膨張して破裂した音だ。 「ゆはっ!!!! そうだぁぁぁ!!!! までぃざぁぁぁ!!!! おぎろぉぉぉぉ!!!!! れいむをだずげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」 眠っていたまりさを思い出し、渾身の力で体当たりをかます。 しかし、まりさは起きない。子れいむも赤まりさも同様。ラムネのせいだ。 「ゆっ!!! てんじょうさんがあいてるよ!!!! でいぶだずがるよぼぉぉぉぉ!!!!」 ふと煙が上に逃げていくのに気づき、れいむは今までふさがっていた天井が ぽっかり空いていることに気づく。 炎が燃え移っても一向に起きないまりさと子れいむ赤れいむはすでに諦めた。 (まりさやおちびちゃんなんて、どうでもいいよ!!! でもれいむは世界でただいっぴきっ!!!! にんげんにもかてるとくべつなゆっくりなんだよ!!!) 言うや否やまりさを踏み台にし、飛び跳ねようと試みるれいむ。 熱で溶けやすくなっていたまりさの皮がはがれおちる。 さすがの激痛に、まりさは目を覚ました。 「ゆっ? なんなんだぜ……!? なんなんだぜぇぇぇぇ!!!!!? こればぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!?」 「ゆっ! いまごろきづくなんてどんかんなまりさだね!! そんなぐずまりさは れいむにふさわしくないよ!!!!! りこんのいしゃりょうさんにれいむだけたすけて まりさはさっさとしんでね!!!!!!!!」 「ど……うじでぞん……なご……どいぶ……の…………!!!!!!」 れいむはまりさを見下し、げらげら笑うととんだ。 その衝撃でまりさは潰れ、永遠にゆっくりした。子れいむ赤れいむはすでに火の球で 何やら暴れていた。 「よいしょっと!」 「ゆっ!!!!? なにしてるのぉぉぉぉぉ!!」 れいむがもうすぐ外に出ようとした時、大量の火付き棒がれいむに ――正確にいえば穴の中に――向かって落とされた。 れいむは落石事故にあったように棒に正面衝突し、火の海と化した “おうち”にたたき落とされた。 「ゆぎゃぁぁ!! なんでぇぇぇ!!!! めらめらさんはゆっくりできないぃぃぃぃ!!!!」 煙と火のせいで叫ぶこともままならない。それでもれいむは叫んだ。 「もう……や……だ……おう……ちか……え……りゅ!!」 れいむはそのまま燃え尽きた。 ・ 「うおーっさいこーっ!! れいむの断末魔でメシがうまうま!」 外の人間たちは自作の釜の上で作ったおもちを食べていた。 そのおもちは何もつけずとも不思議と甘く、一段とおいしかったそうな。おしまいおしまい。 ――――ハッピー・エンド! …………あれ? Q、描写薄いよなにやってんの!? A、息抜き ゆっくりを燃やして作るモチってすげー甘くてうまそう 今まで書いたモン anko1000 ゆ anko1298 ゆっくりにかけるかね
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注・続き物です。 洞窟に侵入してどれ程が経っただろうか。 群れの周辺の地理に詳しいまりさは、勿論の事この洞窟の事も知っており大体の作りも覚えていた。 ゆっくりの脳では普通そこまでの情報を記憶する事など出来ないのだが、 狩りの経験が豊富で群れを率いる責任感が強かったまりさはそういった普通のゆっくりには無いものを兼ね備えていた。 出来るならここをゆっくりの集会場か何かにしようと前々から考えていたのだ。 なので、れいむが居るであろう場所も大体の目星は付いていた。 出来るだけ敵のゆっくりに会わずにまりさはその場所へと向かう。 随分と進むと、最初に出会ったみょんと同じ様にゆっくりの見張りが居る。 れいむ種、しかも群れに昔から居た元同胞だ。 「ゆぅ…ゆぅ……」 どうやらうたた寝でもしているのか。 まりさの元にまで寝息が聞こえてくる。 出来るなら戦いたくなど無い。 まりさはそう考え、うとうとと頭を揺らすれいむに気付かれないように、ゆっくりとその脇を通過しようとする。 「そろーり、そろーり」 優秀なゆっくりであるまりさであるが、生物としての本能にも近い癖は抜け切らないのか。 こんな場面にも拘らず、自らの口で出さなくても言い音を出してすりすりと動き出す。 「そろーり、そろーり」 れいむの横から奥への通路へと差掛かろうとした時、突然れいむの「すや…すや……」という寝息が止まったかと思うと、 「ゆっ、そこにだれかいるの?」 と言う声が聞こえてきた。 まりさは心臓が飛び出すような感覚に陥り、その場で少し跳ね上がったりもしたが、 その洞窟の余りの暗さ故に、れいむはそれが元群れの長であったまりさだと気付いてはいないようだった。 「ゆゆ、じつはまりさは……はくれいむさまにたのまれて、このおくのれいむにようがあるんだよ」 「ゆぅ、そうなの。なんだかわからないけどたいへんね。ゆっくりがんばってね。」 「うん、ゆっくりがんばるよ。れいむもゆっくりしていってね」 「れいむはここでゆっくりするよ…すやすや……」 見張りである筈のれいむであるが、そこまで思考能力も高くないゆっくりな上、 寝起きであった事も合わさり全くまりさを疑う事も無く再び眠りに付く。 まりさの心中にはその場をやり切れた安心感と合わせて、そんな暢気なれいむに対して幾ばくかの怒りを感じていた。 自分があれだけ苦心して群れの皆を守ってきたと思ったのに、反乱を起こした者の部下としてこんなにゆっくりしているなんて。 妻であるれいむは敵に捕らわれ、どれ程酷い目に合わされているか。 そう思うと、眼の前のれいむをゆっくり出来なくさせてやりたい衝動に駆られた。 だが、このれいむにも家族は居るのであろう。 はくれいむの戦力に成す術も無くやられてしまった自分にも落ち度が有ったかも知れない。 まりさはそう思うことにして怒りを抑えて、先へと進む事にした。 更に暫く進むと其処には柵のようなものが掛かっており、まりさは其処にれいむが居ると確信した。 居ても経ってもいられなくなり、すぐさま駆け出す。 幸いな事に見張りなども無く、その柵の前まで辿り着くとまりさは中を覗き込む事が出来た。 人間の使う炎。 それをはくれいむは松明というものに移らせて扱う事が出来るらしい。 丁度、その柵の前にも一つ掲げられていたので、まりさは薄ぼんやりでは有るが中を確認することが出来た。 中にはれいむと思しき丸い球体が一つ存在している。 「ゆっ、そこにいるのはだれなの?まりさのいばしょならきくだけむだだよ、ゆっくりどこかにいってね」 「ちがうよれいむ。まりさだよ、ゆっくりたすけにきたんだよ」 「ゆっ、まり……さ!?」 そんなやり取りを交わした後、れいむはまりさの近くへと跳ね寄る。 まりさはれいむが正面を向かずに少し右斜めを向いて立っているのに若干の違和感を覚えたが、 松明の照らす明かりの中ではっきりとその顔を確認した後、顔に笑顔を浮かばせる。 すると次第に、嬉しい筈にも関わらずその目尻から涙が溢れ出す。 「ま……ま"り"ざぁぁぁぁぁ」 「でい"ぶぅぅぅぅ」 溢れ出る感情のまま大声で喜び合いたい二匹であったが、ここは未だ危険な場所であるのを理解して努めて小声でお互いの名前を呼び合った。 頬をすりすりとしようと更にれいむが近寄るが、二匹を隔てる柵に阻まれてそれは出来ない。 少し悲しそうな顔をしたれいむに、まりさは「だいじょうぶだよ」というと、外側からついたてになっている棒を外し、その柵の扉を開ける。 ゆっくりの作り出す牢屋だけに鍵などは無く、そういった手間が省けたのはこの二匹にとって幸いであろう。 「まりさぁ、まりさだ……たすけにきてくれたんだねぇ」 「あたりまえだよ、れいむ。あいするれいむを、まりさがみすてるはずないんだぜ」 そう言ってれいむがすりすりと頬擦りをし、まりさもそれに応える。 ふと、まりさは不思議な感触に顔をしかめる。 以前のれいむだったらもっともちもちして弾力のある肌をしていた筈なのに、この感触はざらざらとして湿気を感じさせない。 それに先ほどから、れいむの動きもどこかぎこちなかった。 まりさは数秒頬を合わせた後、薄暗い中でそのれいむの姿を眼を凝らして眺めてみる。 「ゆうぅ!!?」 音を立ててはいけないと思いつつも、まりさは思わず短い悲鳴をあげてしまう。 そのれいむの姿――以前は群れ一番と言っても過言でなかった美ゆっくりの姿は其処には無く。 髪は半分焼け縮れてボサボサとなり、頭に付いているリボンとにしても、もうほとんど原型を留めずに申し訳程度に頭の上に乗っているといった具合だ。 全身には暴行の後がはっきりと見て取れたし、今この時も頭の後ろには二、三本が痛々しく突き刺さったままだ。 何よりその顔の所々は焦げというのも遥かに超え、黒々と炭のようになっている部分がある。 特に右頬に至っては大部分が炭化し、れいむの笑顔もぎこちなく引き攣っている。 まりさが最初に顔を見せた時、れいむが正面を向かなかったのはこのせいだろう。 無意識の内に、夫であるまりさにその醜くなった部分を見せまいと振舞っていたのだ。 「ごめんね、まりさ…こんなになっちゃった……」 れいむの眼から、ポロリと大粒の涙が零れる。 「まりさ、れいむのこときらいになっちゃったよね?こんなゆっくりできないすがたになっちゃったんだもの」 そう呟くと、れいむは更に涙を零して眼を伏せる。 まりさが助けに来てくれたのは嬉しいが、もうこんな姿になってしまっては一緒にゆっくり出来ない。 そう考えると、れいむの心は哀しみで一杯になった。 すると、そんなれいむにまりさは静かに歩み寄ると、再びその頬に自らの頬をすり合わせる。 「そんなわけないぜ。まりさはれいむだからすきになったんだ。どんなすがたになってもそれはかわらないよ」 「でも、まりさ。まりさだったら、いくらでもれいむとはべつのゆっくりできることいっしょになれるよ?」 「れいむ……それいじょういったらまりさもおこるんだぜ。」 「ゆぅぅ…ぅ!?」 まりさに怒ると言われて少し怯えた表情をしたれいむは、一転して驚愕の表情に変わる。 自分の唇にまりさが唇を重ねてきたのだ。 れいむは一瞬焦ったが、直ぐにとろんとした顔へとなり、まりさにその身を委ねる。 数秒か数十秒か判らないが、れいむとまりさにとって至福の時間が暫く流れた。 時折、「んふっぅ」や「ゆふぅぁ」などという艶めかしい嬌声が聞こえるのは、お互いの舌を絡め合わせての「でぃぃぷちゅっちゅ」を行い、 すっきりとは別の、だがそれに近い快感を感じているからであろう。 先に後ろに引いたのはまりさの方であった。 二匹の間に唾液で出来た糸が出来る。 れいむは物足りないといった顔でまりさを見詰めたが、此処から脱出しなければいけないという状況を思い出し、それを口にする事は無かった。 「わかっただろ、れいむ。まりさはれいむとだけゆっくりしたいんだよ」 「……うん」 それ以上の言葉など要らなかった。 すぐにまりさは元来た道の説明をすると、身体を痛めているれいむに「だいじょうぶ?」と心配そうな顔をしながら寄り添って進もうとした。 するとれいむはまりさから離れ、 「れいむはだいじょうぶだよ。まりさのあしでまといになりたくないから、じぶんひとりであるくね」 と言い、笑顔を見せて前へと進み始めた。 その後頭部には未だに人間の手首ほどの太さの棒が突き刺さっていたが、それを抜こうとは考えなかった。 それを安易に抜いてしまえば、中の餡子が漏れ出て、直ぐに治療出来ない環境ではれいむが死んでしまうと考えたからだ。 まりさは前を行くれいむのその姿を見て、更にその身体の中から憎しみの炎が燃え上がってくるのを感じた。 脱出するのは想像していた以上に簡単であった。 途中の見張りはあの眠っていたれいむだけであったし、潜入直後に殺したみょんの死体も未だに片付けられていなかった。 あのはくれいむにしては無防備過ぎると感じたが、自分達がそうであるように向こうも完全なゆっくりで無いのだろうと考え先へと進んだ。 そのまままりさが入り込んできた穴まで進むと、二匹はすぐさまそこから脱出しようとした。 しかし―― 「どうしたのれいむ?ここから、ゆっくりでればおそとにでられるんだよ」 まりさに先に穴に入るよう言われたれいむであったが、穴に一度入ろうとして再び戻ってきたのである。 「もういちどがんばってみるね!!」 「からだがいたいだろうけど、ゆっくりいこうね」 そう言って、れいむを励ますまりさ。 それに対して笑顔で応え、再び前に進もうとしたれいむであったが、結果は同じであった。 「ゆあッ!!れいむのあたまのぼうさんがひっかかってまえにすすめないよぉ!!」 れいむが涙声でまりさに訴える。 頭に刺さった棒の一つ、頭から斜め上に生えるように伸びているそれが穴の入り口に引っ掛かって前へと進む事が出来ないのだ。 そんなれいむの状態に、まりさも顔をしかめて状況の打開策を考える。 「ねぇまりさ、まりさがれいむのあたまのぼうさんをぬきとってくれれば……」 「ゆっ!?だめだよれいむ、そんなことしたられいむのなかのあんこがもれてしんじゃうよ」 「ゆぅ、でも……」 脱出まであと少しというこんな所で足止めを喰ってしまうとは。 しかも、まりさの足手まといにならないと言ったにも関わらず、自らのせいで先に進めないという状況に陥り、 れいむの顔に影が差す。 暫く考えた後、まりさが覚悟を決めたように、 「こうなったら、しょうめんのどうくつのでぐちからだっしゅつするよ」 と言い出す。 それにはれいむもすぐに反対した。 この洞窟の奥であったからこそ警備が薄いのである。 正面から出て行っては到底逃げ切れるものではない。 自分だけが危険な目に会うだけならまだしも、助けに来てくれたまりさまで危険な目に会わせる事は出来ない。 「だったらどうすればいいのぉ!?」 「ごめんね、まりさ。せめてまりさだけでもここからおそとにでてね」 「どぼじでぞんなこというにょぉぉ!!れいむだけをおいてなんていけないよぅ!!」 れいむのその言葉に、まりさは顔をくしゃくしゃにして否定する。 互いが互いを気遣う為に、脱出への策は全くの平行線を辿るばかりであった。 そんなやり取りをしながら、時間だけが無情にも流れる。 二匹にも焦りの色は隠せない、そんな中。 「まりさ、おねがいがあるよ!!」 「おねがい?」 意を決したようにれいむがまりさに言う。 「れいむのあたまにあるぼうさんを、まりさがなかにおしこんでね!!」 「おし……こむ…!?」 れいむの思いも寄らぬ発言に、まりさは眼を丸くした。 有ろう事か、れいむの中に木の棒という異物を自分に押し込めというのだ。 それには流石のまりさも頭を左右に振って、「そんなことはできないよ!!」と涙声で拒絶するばかりであった。 「でも、それしかほうほうはないんだよ。ゆっくりりかいしてね!!」 「いやだよ、まりさはれいむにそんなことしたくないよ!!」 「まりさにしかできないんだよ!!」 「まりさはれいむをこれいじょうきずつけたくないよ!!れいむこそゆっくりりかいしてね!!」 「ゆぅ、このわからずや!!」 一向に進まぬ事に業を煮やしてか、れいむはまりさにドスンと体当たりをする。 だが、それは全く威力も無く、まりさはすこしよろけて後ろに下がるだけであった。 それでもまりさは突然のれいむの攻撃に非難の言葉を投げ掛けようと口を開こうとした。 「なにするんだよ、れい……む?」 まりさが正面を向くと、れいむはエグエグと泣き出していた。 「れいむだって……でいむだっていたいのはいやだよ。でも、まりざのあじでまどいになんでなりだぐないから……」 「ぞれにまりざのぞんななざげないずがだなんでみだぐないよ!!まりざはいづだっでがっごうよいまりざでいでほじいよ」 「れ、れいむ……」 れいむの涙ながらの訴えであった。 それに対し、まりさは少し眼を伏た後、キッと眼に力を入れれいむに近付き、 その後ろへと回り込む。 「わかったよ、れいむ。まりさがゆっくりなかへおしこむね!!」 「うん、わかってくれたんだね。ゆっくりおねがいね」 そう言って、れいむは来るであろう激痛を予想しながら、まりさに心配を掛けまいと明るい声で応えた。 まりさは「ゆーふー」と一回だけ深呼吸をすると、 れいむの中へ棒を真っ直ぐ差し込むべく一歩後ろへと下がり、空中へと飛び上がる。 そのまま前方へと飛び上がると、棒の頭をその足の下に捕らえ体重を込めて押し込んだ。 餡子の中に棒を差し入れる鈍い感触がまりさの足元へと伝わり、れいむの中へと少しだけ押し込まれて行く。 「ゆぎぃぃぃ!!!」 出来るだけ平常を保って我慢しようと思っていたれいむであったが、思わず呻き声が漏れる。 その後、棒を押し込み倒れ込むように地面へと落ちたまりさがすぐさまれいむへと駆け寄る。 れいむは激痛に身を悶えながら地面を転がっていた。 「ゆがっ、ゆぐぐぐぐぅ!!」 「ゆあぁぁ!!でいむ、でいぶぅ!!ごめんね、まりさがもっとゆっくりおしこめたらこんなにいたいおもいしなかったのに!!」 「ぎぎぎ、ゆ…ぅ……だいじょう、ぶだよ。でいぶ、ごんなのぜんぜんいだぐなんでないがら」 心配するまりさにれいむは、口から餡子が流れ出るのも構わずに笑顔を見せる。 そんな気丈なれいむの姿に、このれいむは本当に強くてゆっくり出来る最愛のゆっくりだと改めて確信し、 必ず守り抜いていこうと心に誓った。 「ゆ…ぐぅ、ま、まりざ……ここから、ゆっぐりおぞどにでようね」 「うん、ゆっくりでようね!!かぞくのもとにかえろうね!!」 よろよろと横穴に近寄るれいむにまりさは力強く応えた。 その横穴は普通でも大人のゆっくりであれば窮屈で身体を岩肌に擦り付け、 全身に切り傷が出来てしまう程の狭さである。 それを頭の棒を中に押し込んだからといって、相当な深手を負っているれいむには厳しいものがあった。 途中何度も岩肌に肌を擦り付ける痛みに耐えられずれいむの動きが止まり、 酷い時には「ゆぎっ!!ゆぐぅ!!」と呻きながらビクビクと痙攣し出すときもあった。 そんな時何度も、まりさは後ろから「がんばってね!!もうすこしだよ!!」や「うごきをとめないでね、れいむ!!まりさをおいてゆっくりしないでね!!」 と、後ろかられいむを励まし続けた。 まりさが進入した時より遥かに時間が掛かった。 そんな正にゆっくりとした脱出であったが、とうとう眼の前に外の月明かりであろう光が見え始めた。 「れいむ、もうすこしだよ!!もうすこしでおそとでゆっくりできるよ!!」 「ゆっ、ゆっ、ゆっぐじぃぃぃ!!」 まりさの掛け声と共に、朦朧とした視界の中へと外の光が飛び込んでくる。 「ゆっぐりい”、まりざとゆっぐりずるよぉぉぉ!!」 「そうだよれいむ、まりさとゆっくりしようね!!」 死力を尽くして、れいむは身体を地面へと擦り付けながら前へと進む。 後ろを続くまりさの眼には、地面に広がる餡子の跡が眼に写る。 何処かの傷口が開いたのだろうか? それとも、苦しさの余り餡子を吐き出してしまっているのだろうか? それでも前へと進むれいむの姿に、まりさは流れ出る涙を抑える事が出来なかった。 その後更に10分ほどで、れいむは横穴を抜け外へと這い出る。 遅れてまりさが飛び出した時には、れいむは横穴の傍で身体を萎ませて休んでいた。 「ゆっ……れれ、れいむ、だいじょうぶ!?ゆっくりしてね!?」 眼を瞑って全く動かなくなったれいむの様子に、最悪の結末を浮かべてまりさは急いで駆け寄る。 「れいむ、でいぶぅ!!ゆっくりへんじしてね!!」 「……ゅぅ、だいじょうぶだよ、まりさ」 「ゆあぁ、よかったよれいむ!!おそとにでられたんだよ!!」 「ぅ…ん、ここですこしゆっくりしたら…おちびちゃんたちのところへ……」 「うん、うん!!みんなでゆっくりしようね!!れいむとまりさとおちびちゃんたちでゆっくりしようね!!」 そう呟いてれいむは眼を瞑った。 まりさは慌てて肌を寄せる――大丈夫、息をしている。 全くいびきもしない、まるで子供の様な深い眠りであった。 ここも未だ安全とは言い切れないが、れいむのこの状態では今の隠れ家まで移動するのは無理である。 幸い洞窟の裏手は群れの方角とは反対で、はくれいむの住処から実質山一つ分越えた辺りに位置する。 はくれいむの部下がこちらの方向に探しに来る可能性は限り無く低いだろう。 そう考え、今晩はここでゆっくりと身体を休めようとまりさはれいむにぴったりと身体を寄せた。 そうやってれいむの体温を感じておかないと、今にもれいむがいなくなってしまうような感覚に陥ってしまうからだ。 「れいむぅ……やっぱりれいむはあたたかいよ」 「ゅぅ……ゅぅ……」 「ゆっくりおやすみ、あしたもゆっくりしようね」 翌朝、眼を覚ますとまりさのその隣にはれいむの姿は無かった。 又もや最悪の状況を想像し、まりさはれいむの名前を叫ぶ。 すると近くの茂みから、 「ゆっくりしていってね!!」 という声と共に、れいむが姿を現した。 「ゆっくりしていってね……じゃないよ!!れいむのすがたがみえないから、まりさはおどろいたんだよ!!」 「ごめんねごめんね。れいむはちかくのおはなさんをゆっくりとつみにいっていたんだよ!!」 そう言ってれいむは頬袋に溜めた色とりどりの花を吐き出す。 ただ量はかなり少なかった。 炭化して硬質化した右頬のせいで多くの量を詰め込む事など出来なかったのだろう。 「すごいよれいむ!!こんなにたくさんのおはなさんをあつめられるなんて、やっぱりれいむはてんさいだね!!」 「ゆっへん、それほどでもないよ!!」 そんな事はまりさは一切気にせず、れいむが精一杯集めてくれた食事を素直に喜んだ。 れいむの状態にしても昨日から比べれば相当良くなっている。 この調子なら今日中に皆の所まで帰る事が出来るだろう。 「じゃあ、れいむ。これをゆっくりたべたらみんなのところにかえろうか」 「うん、ゆっくりたべて、ゆっくりみんなのところにかえろうね」 そう言った後、二匹は食事を始めた。 れいむは捕囚暮らしであった事は元より、愛するゆっくりと共に食事出来る事で代わり映えしない植物でもれいむは何倍にも美味しく感じた。 それはまりさも同様であった。 二匹はその味と幸せを噛み締めながら同時に「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~♪」と高らかな声をあげる。 そして食事後少しゆっくりした後、まりさとれいむは皆の待つ隠れ家へと進む事とした。 時間にして三時間程であろうか。 二匹は時折休憩を挟みながらも、それでもゆっくりしないで道中を急いだ。 「ゆっ、れいむ!!あとすこしだよ!!ゆっくりいこうね!!」 「いやだよ、まりさ!!きょうだけは、れいむはゆっくりしないでいそぐよ!!」 「ゆぅ、だったらまりさもまけてられないね!!」 二匹はそんな会話を楽しみながらピョンピョンと跳ね続ける。 もうここまで来れば追っ手が来る事は無いだろうとは思ったが、家族の事を思えば自然にその足は進むのだろう。 会話の内容にも、幾分か余裕が出てきた。 すると、そんな二匹の進む道の横にある茂みが急にガサガサと揺れ出す。 れいむはそれにビクリと身を怯ませて、すぐさままりさの後ろへと回り込む。 だが、まりさは怯える様子も無くれいむに語り掛けた。 「だいじょうぶだぜ。きっとなかまのみんながむかえにきてくれたんだ」 「ゆっ、そうなの?」 まりさのその言葉に、れいむの顔も安心の色が窺える。 二匹はそのまま、その茂みの方へと向き直ると「ゆっくりしていってね!!」と呼び掛けた。 予想通りにそこからは「ゆっくりしていってね!!」という声が返ってくる。 しかし――そこから現われたゆっくりは予想外の者達であった。 「ゆへへ、ことばどおりにゆっくりしてやるんだぜ!!」 「わかるよー♪みょんのかたきなんだねー♪ゆっくりなぶるよー♪」 この二匹は――。 「ゆぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」 まりさの後ろでれいむが叫び声をあげる。 突然の事にまりさは驚いて後ろを振り向くと、其処にはこの世のものとは思えない恐怖に引き攣ったれいむの顔があった。 囚われの身になっていた間に受けた拷問の数々を、れいむの餡子にはしっかりと刻まれていたのだろう。 その刻まれた恐怖がフラッシュバックとなって頭を駆け巡る。 「ゆじいぃぃぃ!!いやだ、いやだよぉ!!」 「れいむ、れいむ!!おちついて!!」 それに合わせたように、ぞろぞろと他のゆっくり達も出てくる。 総勢で10は居るだろうか。 どちらにしても、こんな状況のれいむを庇って戦える筈も無い。 まりさの顔にはっきりと見て判る程に焦りの色が浮かぶ。 「こんなやつが、このまりささまよりつよいまりさなんだぜ?とてもそうはみえないんだぜ?」 口元を吊り上げ勝ち誇ったような笑みを浮かべて、はくれいむの部下であるまりさが呟く。 周りの部下達も「そうだねー」などと同意する。 「ゆあぁぁぁ、こわいよぉぉぉ!!」 「だいじょうぶだよ、れいむ!!れいむはまりさがまもるよ!!」 「まりざ、まりざぁ!!」 恐慌状態のれいむの前でまりさがプクーと頬を膨らませて相手を威嚇する。 これには敵のゆっくりも失笑を隠せない。 一対一ならまだしも、10対2。 いや、れいむのあの状態を考えれば10対2どころか10対1――足手まといと考えればそれ以上。 最早大勢は決しているのだ。 何を恐れる必要があるだろうか。 「やめでえぇぇぇぇぇ!!ごっぢごないでぇ!!」 れいむが声をあげるが、相手はそれに応える気配すら無い。 精一杯膨らむまりさを囲むように、はくれいむの部下達はにじり寄ると「ゆっくりしね!!」と叫んで一匹がまりさに飛び掛った。 このSSに感想を付ける
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その5より 「おおおにいさん!! きょきょきょうは、れれれいむをぎゃくたいしてね!!!」 翌日、れいむは男の足音が聞こえてくるや、男の言葉を待たずして、精一杯の声でそう叫んだ。 そうでもしないと、奮い起した勇気がいつ萎んでしまうか分からないからだ。 現に、今のれいむは朝から一度も震えが止まらなかった。 しかし、言ってしまった以上、後戻りはできない。する気もない。 自分の存在意義がかかっているのだから。 「ほう、ようやくお前の出番が来たか。待ちくたびれたよ」 男はさも嬉しそうに、扉越しに声をかける。 対して、まりさとありすは、何を馬鹿な事を!! と言わんような口調で、れいむに詰め寄ってくる。 「れいむ!! なにをいってるの!! ゆっくりばかなことはいわないでね!!」 「そうよ、れいむ!! れいむがぎゃくたいされることはないわ!! ここは、まりさととかいはのありすに、まかせておけばいいのよ!!」 まりさもありすも、予想通り、れいむを止めにかかる。 しかし、ここで虐待を止められるわけにはいかないのだ。 まりさと対等になるためにも。 ありすより先に、まりさにプロポーズするためにも。 「まりさ、ありす、ゆっくりありがとう!! でもれいむはへいきだよ!! きょうは、ゆっくりしていってね!!」 「ゆぅぅ!! うそつかないでね、れいむ!! こえがふるえてたよ!! れいむがいじめられることなんてないんだよ!! きょうはまりさにまかせてね!!」 「もうきめたんだよ、まりさ!! それに、いつまでもまりさとありすにたよってばっかりじゃいられないよ!! ゆっくりりかいしてね!!」 「れいむこそゆっくりりかいしてね!! れいむがいじめられること、ないんだってば!!」 「なんといわれても、れいむのかんがえはかわらないよ!! おにいさん!! ゆっくりはやく、れいむをつれていってね!!」 埒が明かないと感じたれいむは、さっさと男に連れて行けと要求する。 いつまでもまりさやありすと話をしていると、せっかく奮い立たせた勇気が萎えてしまいそうになるのだ。 そのため、多少強引ではあったが、れいむは二匹との会話を切り上げた。 「ふふ、久しぶりに、れいむを苛め倒すことが出来るよ。楽しみで仕方がないぜ」 男はれいむの部屋の鍵を開けると、扉を開けた。 その手には、一月ぶりに見る、恒例の箱が収められている。 この部屋と虐待部屋を行き来するのに、かつて男が使っていたものだ。 れいむはそれを見るや、体が委縮してしまう。これから虐待をされるのだと、否応なしに思い知らされるのである。 「さあ、れいむ。この箱の中に入れ」 男が木箱の蓋を開けて、命令してくる。 両壁からは、突然まりさとありすの声が聞こえなくなった。 何を言っても無駄だと気づいたのだろうか? それはそれで好都合だが、いざ声が聞こえてこないと不安になってくるのも事実だ。 生物(?)の心理とは、本当に不思議なものである。 れいむが完全に入ったことを確認した男は、木箱の蓋を閉める。 そして、れいむに一言言葉をかけた。 「お前だけは、利口なゆっくりだと思っていたのに、どうやら俺の見込み違いだったようだな」 利口なゆっくり。 この場合、頭がいいという意味ではなく、卑怯・狡猾という意味であろう。 二匹に虐待を任せ、一匹気楽に過ごしていたれいむに対する皮肉であろうか? 何とでも言うがいいと、れいむは心の中で反発した。 男は知らない。 虐待されることこそが、れいむの望みであることを。 これこそが、自分がこれから生き残る上での最善の方法であることを。 虐待されることは、すなわち将来への布石なのだといういことを。 自分が勝者だとおもっているであろう男は、れいむから見たら自分に従って動くピエロのようなものであった。 男の規則正しい足音が聞こえ始めた。移動を開始したのだろう。 これから一か月ぶりに、れいむは虐待を受ける。 れいむは、再度耐えしのぐ決意を固めた。 およそ一月ぶりに受けた虐待は、予想通り、死んだ方がマシといえるほど苦しいものであった。 それでもれいむは必死に歯を食いしばり、男の責苦に耐え続けた。 悪魔の拷問ような一時間が過ぎた時、れいむはあまりの激痛に意識を手放してしまった。 それでも男はきっちり時間どおり終えて、部屋に戻してくれた。 れいむが目を覚ましたのは、翌日の朝方であった。 虐待を受けてから、丸々20時間近く眠っていたことになる。 昔は虐待を受けても、ここまで長く休息を取ったことはなかった。 やはり、久しぶりの虐待に、体が付いてこなかったのだろう。 れいむは起き上がると、未だ痛みの引かない体を引きずりながら、ドッグフードと水の置かれている部屋の隅に向かい、もそもそと食べ始めた。 まりさとありすはまだ寝ているのか、物音一つ聞こえなかった。 少し残念ではあるが、れいむももうひと眠りしたいので、好都合でもあった。 何しろ、れいむは今日も男の虐待を受けるつもりなのだから!! まりさやありすに言えば、絶対に反対されるだろう。昨日の様子を見て入れば、考えるまでもない。 しかし、虐待を一回受けた程度でまりさと対等になったなどというおこがましいことは、さすがにれいむも考えていなかった。 まりさの受けた回数と同じとまではいかなくとも、少なくとも一週間分くらいは虐待を受けなくては、まりさと同じ位置に並べない。 だからと言って、ありすがいつまりさに告白するか分からない以上、三匹で順番に虐待されるなんて、悠長なことは言っていられない。 ほんの一月前までは、毎日のように虐待をされ続けてきたのだ。 それでも、れいむは生きている。悔しいが男の加減は、それだけ正確なのだろう。 これで障害が残ったりするなら考え物だが、そんなこともない以上、れいむは今日も明日も明後日も虐待してもらわなければならない。 そのためには、まず体力を回復させることが、何をおいても重要である。 れいむは食べ終わると、再び男がやってくるまで、眠りについた。 「れいむ!! いいかげんにやすんでよ!!」 「そうよ、れいむ!! これいじょうむりはやめてね!!」 れいむが虐待される決意をしてから、一週間が経過した。 まりさとありすは、2〜3日はれいむを説得し続けたが、れいむが以前のありすのように意志を曲げないと分かると、次第にれいむの心意気をくんでくれるようになった。 しかし、それでいて二匹のこのセリフ。れいむを行かせまいと必死で止めている。 納得したというのに、二匹がれいむを止める理由。 それは、れいむがこれで一週間連続で虐待をされ続けているためである。 どんなに止められようと、れいむは虐待され続けた。 男もそんなれいむの狂気じみた様子に、何か思うところがあったのだろうか? れいむの言い分を聞いて、毎日虐待をし続けてくれた。 しかし、虐待を受けているというのに、れいむは嬉しかった。 自分の思い通りに事が運んでいることに満足していた。 れいむにどんなにやる気があろうと、目下最大の懸念は、男がれいむを指名してくれるかというものであった。 如何に自分から名乗り出ようと、れいむを心配するまりさとありすも必ず名乗りを上げてくる。 心配してくれるのは嬉しいのだが、この時ばかりは、二匹のお節介も鬱陶しいと思わざるを得なかった。 気分屋の男だ、その日の気分次第ではれいむを虐待してくれないかもしれない。まりさやありすを選ぶかもしれない。 しかし、れいむには時間がないのだ。最短でまりさと対等にならなければならないのだ。 それを男は見据えているかのように、れいむを虐待してくれる。 れいむは、すんなりと事が運ぶことに満足し、今日も虐待の痛みに必死で耐えた。 虐待が終わり、れいむは部屋に戻された。 いつもなら食事をしてすぐに寝付くのだが、今日のれいむは中々寝られなかった。 嬉しかったのだ。 れいむの目安としていた一週間が終わったのだ。 これでやっとまりさとありすに、負い目を感じることはなくなる。 まりさと同じ高さに立てる。 そう考えると、ついついニヤケ面になってしまい、体の痛みも忘れてしまいそうになる。 そんなれいむに、両隣から声が掛って来た。 「れいむ!! だいじょうぶなの!?」 ありすの声である。 余程心配だったのだろう。 れいむの企みを知らぬありすは、必死にれいむの名を呼び続けてくる。 「れいむ!! あしたはぜったいにまりさがぎゃくたいされるからね!! これいじょう、れいむがいくんだったら、ぜっこうだよ!!」 まりさの言葉。 絶交とは、温和なまりさがよく口にしてきたものである。 危なかった。ノルマが達成した後で助かったものだ。 まりさと一緒になるために頑張っていたのに、そのまりさに嫌われてしまっては、本末転倒である。 「ゆっ……わかったよ、まりさ……あしたは……まりさにまかせる…ね……」 「ゆっ!?」 今まで頑として、まりさの言葉に耳を傾けなかったれいむが、いきなり素直になったのを受け、まりさは言葉を詰まらせた。 しかし、れいむの言葉はまりさにとっても、嬉しかったのだろう。 久しぶりに、まりさの声が落ち着きを取り戻した。 「ゆうぅ!! やっとれいむが、まりさのいうことをきいてくれたよ!!」 「ごめんね……まりさ………しんぱいばっかり……かけて」 「まったくだよ!! ゆっくりはんせいしてね!!」 「ゆっくり……はんせいするよ……」 「れいむ!! あしたはまりさだけど、そのつぎはありすがいくからね!!」 「ゆっ……ゆっくり…りかいしたよ……ありす……がんばってね……」 「まったく、しょうがないわね!! あとはとかいはにまかせなさい!!」 「おねがいね、ありす……でも……そのつぎは………またれいむがいく……からね」 「なにいってるの、れいむ!! れいむはしばらくおやすみよ!!」 「そうだよ、れいむ!! あとは、まりさとありすにまかせてね!!」 「だめだよ……れいむだって……まりさとありすの……やくにたちたいよ……ゆっくりなかまはずれは……やめてね」 「ゆぅぅ……やっぱりれいむはいじっぱりだよ!!」 まりさは最後に困ったような言葉を吐きながらも、最終的にはそれを認めてくれた。 元々、れいむが虐待をされることに反対だったわけではなく、れいむの行き過ぎる行いに対して苦言を呈していたのである。 れいむがしっかりと順番を守ってくれるのなら、まりさはれいむの意志を尊重してくれるつもりなのだ。 やはり、まりさは最高のゆっくりである。 この一週間、地獄の苦しみに耐えたかいがあったというものだ。 これで、準備は整った。 後はありすより先に、まりさに告白をするだけ。 しかし、物事にはタイミングというものがある。 少しでも確率を上げるためにも、その時に告白するのがベストだろう。 あの呑気でお人よしのれいむは、この時もうすでに存在していなかった。 世の物事すべてを損得の計算で考えられるように変わってしまったのである。変わらざるを得なかったのである。 それだけこの異常な空間が、れいむを変えてしまったのである。 しかし、れいむは自分が変わってしまったことに気付きもしない。いや、例え気づいていても、どうも思わないだろう。 すでに賽は投げられたのだ。 もう振り直しは出来ない。どの目が出ようと、突き進無以外道はない。 れいむは、そのまま少しの間二匹とお喋りをし、その後すぐに意識は深い深い海の底に落ちていった。 自分の成功を信じながら。 れいむの無茶苦茶な一週間が終わり、まりさとありすを含めて、三匹でサイクルを組んで虐待される日々が始まった。 すでにまりさ→ありす→れいむと一回り虐待は終了しており、今日はサイクルが始まってから、れいむが二回目の虐待を受ける日であった。 それと同時に、れいむが例の作戦を実行に移し出すと決意した日でもあった。 今日、男の虐待から戻ってきたら、まりさに告白しよう。 れいむはそう決めていた。 そのタイミングを選んだ理由はいくつかある。 一つ目は、虐待帰りだということである。 普通に告白をするより、虐待を受け心身ともに疲れている方が、まりさの気を買えるだろうという、れいむなりの考えである。 それなら、虐待一週間を終えたすぐの方がいいのではと思うかも知れないが、これについても、れいむなりに思うところがあった。 あの場で告白してしまったら、れいむの考えを見透かされる可能性があったからである。 見透かされるとは、虐待を受け続けた理由が、まりさに告白するためだとバレテしまうことを意味する。 そんなことを知られては、計算高いゆっくりだと、逆に引かれてしまいかねない。 しかし、数日置けば、さすがにそこに結びつけることはなくなるだろう。 二つ目は、あまり悠長に構えている時間もないということである。 作戦はただ告白するだけでなく、ありすより先にするというのが根幹の部分にある。 れいむも出来ることなら、もっと時間を置きたいのだ。 虐待のノルマを達成したといっても、それは所詮れいむだけが考えていることである。 まりさからすれば、れいむなんてまだまだ苦しんでないよと感じられるかもしれない。 だからこそ、今後もっと虐待を受け続けていけば、それだけまりさに近づくことが出来るのである。 しかし、悠長に構えていてありすに先を越されてはたまらない。 そういった様々な要素を考えまとめ、れいむは今日まりさに告白することを決意したのである。 男に虐待部屋に連れてこられ、今日も虐待が始まった。 その日れいむに怯えはなかった。 いざ告白を決意しても、ちゃんとまりさに伝えることが出来るか不安でいっぱいなのだ。 それに、ちゃんと告白できたとしても、まりさがれいむの告白を受けてくれるかどうかも分からない。 その気持ちが、虐待の不安を押し退けてしまったのである。 体が虐待に慣れてきたことや、虐待内容が以前行われた事の繰り返しであるということも、れいむにあまり不安を与えない要因となったのだろう。 れいむは、虐待の痛さに必死で耐えながらも、頭の中では今後のことばかりを考えていた。 虐待は終了し、れいむは部屋に帰された。 いよいよ告白の開始である。 痛さと疲れはあるものの、ゆっくりのくせにアドレナリンでも出ているのか、れいむはそれをほとんど感じなかった。 ゆっくりは思い込みの生物であるという学説がある。 思考のすべてを今後のプロポーズに費やしたれいむは、自分が痛いということを忘れてしまい、それが体にも影響しているのかもしれない。 ある意味羨ましい体である。 と、れいむがどういうふうに切り出すか悩んでいると、当のまりさの方かられいむに声をかけてきた。 「れいむ!! ゆっくりだいじょうぶだった?」 「ゆぅ!! ゆっくりだいじょうぶだよ!! ぜんぜんへっちゃらだよ!!」 いつも通りのやり取りであるが、れいむは言葉にしてからしまったと思った。 虐待後を狙ったのは、苦しみながらも告白することで、まりさの気を最大限引き寄せる効果を狙ってのつもりだったのに、うっかりと普通に話をしてしまった。 考えに夢中で痛さを感じないのも良しあしである。 こうなったら作戦実行日を変えるか? いや、やはりそれは出来ない。 ありすがいつ告白してくるか分からないのだ。あまり時間はかけたくない。 それに、せっかく今日に計画を合わせてきたのだ。 れいむは気持ちの面でも最高潮に達している。今なら、れいむの有りっ丈の気持ちをまりさに伝えきることが出来る。 れいむは、無駄な事を考えることは止めた。 最初から出鼻を挫かれたのだ。もう怖いものなどありはしない。当たって砕けろ!! いや、砕けたくはないけど、そんな意気込みで言え!! 本心をまりさにぶつけることにした。 「まりさっ!!」 「ゆっ!? なあに、れいむ?」 「れいむは、まりさがだいすきだよ!! まりさのことを、ゆっくりあいしているよ!! れいむといつまでもゆっくりしていってね!!!!」 「!!!」 言った!! 言ってしまった!!! もう後には引けない。賽は投げられた。 れいむの愛の告白に、まりさは何も返事を返してくれなかった。 しかし、一瞬、言葉に詰まった様子を見せた。相当驚いているのだろう。 こんな場合だというのに、告白なんてしてくるんだ。無理もない。 れいむは緊張で、喉(?)が乾いて仕方がなかった。 一刻も早く、水を飲みたい。 しかし、まりさの返事を聞くまでは、なんとか我慢するつもりだった。 壁越しの告白のため、姿は見えないのだが、水を飲んでしまったらまりさに振られる気がしたのだ。 様は願掛け、気分の問題である。 30秒が過ぎ、一分が経過しても、まりさは一向に口を開かなかった。 さすがにれいむも焦りだした。 やはり、まりさはれいむのことを好きじゃないのか? れいむじゃ、まりさには釣り合わないのか? 様々な感情が去来する。 しかし、ようやくまりさが口を開いて来た。 考えが纏まったのだろう。 「れいむ……れいむのきもちはうれしいよ」 「ゆっ……」 「まりさもれいむがだいすきだよ……」 「ゆゆっ!!」 「……」 そう言って、まりさは再び沈黙してしまう。 大好きだよ。 愛の告白をして大好きを言われたのだから、普通に考えれば、れいむの気持ちを受け止めたと考えていいのかもしれないが…… その後の間が嫌な気分にさせる。 なんとか傷つけないように断る手段を考えているような気分を感じさせる。 れいむは、やはり自分ではダメだったのかと弱気になった。 しかし、次の瞬間…… 「だから!! だから、まりさといっしょに、いつまでもゆっくりしていってね!!!」 …… ……… ………… れいむは唖然としてしまった。 もう十中八九、玉砕を覚悟していた。 それなのに、まりさはれいむの気持ちをしっかりと受け止めてくれた。 れいむは、ただただ感情を整理できず、言葉を詰まらせた。 「れいむ、どうしたの?」 何も話してこないれいむが気になったのだろう。言葉をはさんでくる そんなれいむの心情に気付かないのが、まりさらしいと言えばまりさらしい。 れいむは、とにかく何か話さなければ、言葉を掛けなければと、考えを纏め上げようとしたが…… 「ゆ……ゆゆ………ゆゆ……」 「ゆっ?」 「ゆ……ゆあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁ――――――――――――んんんんんん!!!!!!!」 「れ、れいむ!! どうしたの!!」 一気に感情が爆発してしまった。 爆発は涙となって、れいむの目から止めどなく溢れてくる。 嬉しかった。まりさが自分を選んでくれたのが。 嬉しかった。あの虐待された日々が、無駄ではなかったことが。 嬉しかった。れいむにはっきりと居場所が出来たことが。 れいむは、今までの自分の行動を振り返り、延々と泣き続けた。 「れいむ、なきすぎだよ!!」 「ゆぅ……ゆっくりごめんね、まりさ!! でも、れいむ、すごくうれしかったんだよ!!」 「まりさもうれしかったよ!! れいむがすきといってくれて!!」 「まりさ!!」 「れいむ!!」 ようやくれいむは泣きやんだ。泣きやむまで、実に10分もの時間を費やしてしまった。 れいむは水が飲みたかったことも忘れ、まりさとの話に興じ始める。 「れいむ!! いまはできないけど、けっこんしきはここをでられたらゆっくりしようね!!」 「ゆぅ!! そうしようね!!」 「それから、れいむはまりさのおうちにゆっくりくるといいよ!!」 「ゆゆっ!? いいの!!」 「あたりまえだよ!! れいむのおうちはまだできていないんでしょ? それに、れいむはまりさのおよめさんだもん!! いっしょにくらすのは、ゆっくりあたりまえだよ!!」 「ありがとう、まりさ!!」 「まりさのおうちはおっきいよ!! にんげんさんのおうちみたいにおっきいから、ゆっくりたのしみにまっててね!!」 「ゆっ!! ゆっくりたのしみだよ!! ゆっくりはやく、まりさのおうちにいきたいよ!!」 「あと、おちついたら、はねゆーんにもいこうね!!」 「ゆっくりたのしみにしてるよ!!」 人間のお家と同じくらい大きいとは、まりさも大げさに出たものだ。 まあ、所謂物の例えだろう。 しかし、れいむは「うそつかないでね!!」なんて、無粋なセリフを吐くつもりはない。 まりさは、れいむを喜ばせるために言っているのだろう。れいむだって、そのくらい分かるつもりだ。 こんな幸せなひと時を、自分から壊す必要はない。 自分の居場所が出来たばかりか、出会ったときからずっと好きであったまりさと、これからは永遠にゆっくりすることが出来るのだ。 れいむの頭の中は、まりさとの会話でいっぱい幸せいっぱいで、何にも考えられなかった。 しかし、次にまりさが言った言葉が、れいむに重要なことを思い出させた。 「ありす!! ありすも、まりさとれいむを、ゆっくりしゅくふくしてね!!」 「!!!」 そう、作戦が完璧なほどに決まったことで浮かれまくってしまい、すっかりありすのことを忘れていたのである。 れいむはなんと言葉をかければいいか分からなかった。 そもそも勝者であるれいむが、敗者であるありすにかける言葉なんて、どれも陳腐に聞こえるだろう。 裏切ったれいむの言葉なんて、都合のいい言葉としか感じないだろう。 事実、れいむの心の中は、ありすへの優越感で満たされている。 何とか考えずにいようとしても、すぐに思考の中に入り込んできてしまう。 とても甘美な麻薬のようなものだ。 れいむの口から出る言葉も、自然とありすを見下すものになってしまうだろう。 しかし、ありすへの背信行為をしておきながらも、ありすとは親友でいたい。嫌われたくない。 これもまたれいむの本音だった。 それは、勝者だからこそ持ち得ることが出来る、自分に甘く都合のいい考えである。 ありすのことを全く考えてない、自己中心的な思考である。 しかし、例えそれが分かっていようと、れいむはありすとの友情も諦めきれなかった。 それだけありすのことが好きだったのだ。 ありすは、まりさの言葉に、なかなか返事を返さない。 一体、どんな心中でいるのだろう。 自分を裏切り、まりさを手に入れたれいむに、仕返しでも考えているのだろうか? それとも、まりを諦めきれず、虎視眈々とまりさを奪う算段でも整えているのだろうか? 何とかありすに言葉を掛けなければならない。 親友でいてもらうためにも。 れいむが、なんて声をかければいいのだろうと、頭を悩ませていると、ようやく当の本人から反応が返ってきた。 「おめでとう!! れいむ!! まりさ!!」 その言葉に、特に棘があったようには聞こえなかった。 いつものやさしさに満ちたありすの声に聞こえたきがする。 心から祝福しているような気がする。 「ゆっ!! ありがとう、ありす!!」 まりさが祝福を受け、感謝の意を示す。 「けっこんしきには、ぜったいにありすをよんでね!!」 「あたりまえだよ!! ゆっくりかならず、ありすをよぶよ!!」 「ゆっくりれいむをたいせつにしてね!!」 「ゆっくりやくそくするよ!! れいむをいつまでもかわいがるよ!!」 その後、まりさとのやり取りを終えると、ありすはれいむにも声をかけてきた。 「れいむ、おめでとう!! まりさとゆっくりしてね!!」 「ゆっ……ありがとう、ありす……」 「けっこんしても、ありすとはしんゆうでいてね!!」 「ゆぅぅ……」 ありすはれいむを祝福してくれた。 そればかりか、れいむに対して、親友でいてくれとまで言ってくる。 れいむは自分でありすを裏切っておきながら、ありすの寛大な態度に居たたまれなくなった。 それと同時に不審に思った。 ありすは悔しくないのだろうか? 悲しくないのだろうか? れいむがありすの立場なら、決して自分を許さないだろう。 なのに、ありすは祝福してくる。れいむが最も望んでいた言葉をかけてくる。 腑に落ちなかった。自分に都合がよすぎる。 昔のれいむなら、その言葉に何ら疑問を抱かなかっただろう。 しかし、今のれいむは、物事を計算で見るようになってしまっている。 ありすの言い分は、そんなれいむを納得させるには、あまりにも納得の出来ない言葉だった。 折角想いに想っていたまりさと一緒になることが出来たのだ。 なのに、つまらないことで将来への希望を壊されるようなことは、絶対にあってはならない。 本当にありすは自分たちを祝福してくれているのか? 何か不穏当な考えを持っているのではないか? もしありすが何らかの手で自分を陥れようとしているのなら、何が何でも防がなくてはならない。 例え、今後ありすとの友情が壊れようと。 れいむは、ありすの真意を測ることにした。 一夜明けた翌日、今日はまりさが虐待される日である。 男はまりさを虐待部屋へと連れていった。 今がありすと話す絶好の機会である。 れいむは、ありすのいる壁際の方に行くと、真意を質すべく、核心をぶつけた。 「ありす、おきてる?」 「ええ、ゆっくりおきてるわ!!」 「ありす!! れいむ、ききたいことがあるよ!!」 「なにかしら?」 「きのうのことだよ!! ありすは、れいむにまりさがとられて、かなしくないの?」 「……」 「まりさがすきじゃなかったの?」 「……」 「れいむをうらんでいないの?」 「……」 「ねえ、どうなの、ありす!!」 れいむの問いに、ありすは中々反応を示さない。 れいむはゆっくりとありすが言葉を出すまで待ち続けた。 ようやくありすが口を開いて来たのは、一分後であった。 「……くやしいわよ!! かなしかったわよ!! ありすはまりさがすきだったんだもの!!」 ありすは、自分の隠していた感情のすべてをぶつけるかのように、大きな声で叫んできた。 これには、さすがのれいむも、少なからず動揺した。 ありすがこうまで生の感情を出してくるとは思わなかったのだ。 「それじゃあ、どうして……」 「……だって、しょうがないじゃない!! これはこいのかけひきなんだもの!!」 「ゆっ?」 「れいむは、じぶんのことをどうおもってるの? ありすのことをうらぎったとおもってる?」 「ゆぅぅ……それは……」 「さいしょはありすもそうおもったわ!! れいむにうらぎられたって!! でも、じっさいはそうじゃない!! まりさはだれのものでもないんだもの!! まりさにこくはくするのは、れいむのじゆう!! それをうけるのもまりさのじゆう!! そこのありすのはいるよちはないわ!!」 「……」 「ありすがまりさにさっさとこくはくしなかったのもいけなかったしね!! まりさのあいてが、れいむならなっとくだわ!! それに、まりさはれいむのことがすきだったみたいだから、こくはくしてもたぶんふられていたけどね!!」 「ありす……」 「だからありすはあきらめたの!! かこをふりむかないことも、とかいはのたしなみよ!! だから、れいむがきにすることはないわ!! これからもありすのしんゆうでいてね!!」 「……ありす!! ありがとう!! ありがとう!!」 「かんしゃすることなんてないわよ!! ここからでられたら、まりさいじょうにすてきなゆっくりをみつけてやるんだから!!」 「ありすならきっとみつけられるよ!!」 「ありがとう、れいむ!!」 れいむはここに来て以来、三回目の衝撃を受けた。 自分はなんて小さいのだろう。ありすと言葉を交わし、嫌というほど思い知らされた。 自分は決してそんな風に考えられない。 ありすの立場なら、絶対に嫉妬をせずにはいられない。 しかし、ありすはどこまでいってもありすだった。 優しく他人を思いやれるゆっくりだった。 本当に心の底から、れいむとまりさを祝福してくれていたのだ。 れいむは、ありすを疑ったことを悔いた。 そして、同時に感謝した。 こんな最高のゆっくりと知り合えたことを。 ありすと親友になれたことを。 「ありす!! れいむとありすはいつまでもしんゆうだよ!!」 「もちろんよ!!」 れいむは、今最高に幸せだった。 隣には愛するまりさと、親友のありす。 例え姿は見えなくても、スリスリ出来なくても、心が繋がっている。 それが感じられるだけで満足だった。 しかし、今日の幸せはそれだけに留まらなかった。 まりさが虐待を終えて帰ってきた。 それと同時に、壁越しに男からとんでもない一言が飛び出してくる。 「お前たち。今日でお前らの虐待は終了する」 「!!!」 突然の男の発言に、れいむは驚きのあまり、餡子を吐いてしまいそうになった。 何とか飲み込んで、事なきを得たが。 「ゆっ!!! ほ、ほんとうなの!?」 「ああ。飽きてきたしな。明日、部屋から出してやるよ!!」 「ゆうううぅぅぅぅぅぅぅ―――――――!!!!!」 れいむが雄たけびを上げる。 まさか、婚約した翌日に、この辛く苦しい虐待まで終わることになるとは!! 人間でいえば、盆と正月とクリスマスがいっぺんに来たようなものである。 「やったああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!」 遂に、遂にここから出られるのだ。 まりさとありすに会えるのだ。 スリスリ出来るのだ!! 隣では、二匹とも感無量なのか、一言も言葉を発しなかった。 「それじゃあな」 そう言って、男の足跡は遠ざかっていく。 れいむは、すぐさま二匹に声をかける。 「まりさ、ありす!! でられるんだよ!! やっとここからでられるんだよ!!」 「ゆう!! ながかったよ!!」 「やっと、ここからでられるのね!!」 「まりさ!! あしたはいっぱいすりすりしようね!!」 「ゆっ!! そうだね。れいむ!!」 「あしたがたのしみね!!」 「ゆっくりたのしみだよ!!」 れいむの頭の中には、男が嘘を付いているという考えは一切ない。 別に昔の純粋なれいむに戻ったという訳ではなく、単に嬉しすぎて頭が回らないのだ。 もっとも、男はちゃんと出してやるつもりなので、考えたところで、れいむの杞憂に終わるのだが。 早く明日が来ないだろうか? れいむは浮かれて、なかなか寝付けなかった。 その7へ
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「おねえちゃん、おやさいがおちてるよ!」 「きょうからここをれいむたちのゆっくりプレイスにするよ!」 畑仕事がひと段落つき、干草に寝っ転がっていると近くからなんとも自分勝手な主張が聞こえてくる。 また出やがったな、害獣ゆっくり。幻想郷の作物を食い荒らす迷惑な生き物だ。俺は鍬を手に取り、ゆっくり共の背後に忍び寄った。 実は俺、虐待お兄さんである。だが、飲まず食わずでも平気な妖怪虐待お兄さんと違い、人間の俺は食べなければ餓死する。 しかたなく、オヤジから継いだ畑で農家をやっているのだ。 本当は加工場に勤めたかったんだが、志望動機に『ゆっくりをいじめることなら誰にも負けません』と書いたら 『加工場はゆっくりを虐待する場所ではありません。貴方は何か勘違いをしているようですね。』 と言われてしまった。なので、農作業の合間に畑に現れたゆっくりを潰すのがせめてもの息抜きなのだ。 荒い息を抑え、ゆっくりの背後の木の陰に隠れる。どっちから先に潰そうか…。よし、れいむの姉妹のようだし姉のほうから潰そう。 んで、妹が「お゛ね゛えぢゃん゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」とか喚くところを蹴り飛ばしても良いし、畑に生き埋めってのもいい。 自力じゃ降りられない木の上に放置っていうのもいいな。 そんなことを考えていると、ふと思いついた。ゆっくりの中でも母性や家族愛が強いれいむ種。そんなヤツラの絆(笑)を引き裂くのはどんなに楽しいだろうか! 一瞬にして幾通りものパターンが頭の中でシミュレートされる。口端が釣り上がるのを押さえられない。ひゃあ!虐待だぁ! 「やあ、ゆっくりしてるかい?」 ゆっくり姉妹に声をかける。 「ゆっ!おじさん、ここはれいむたちのおうちだよ!!ゆっくりでていってね!!」 「おねえちゃん、にんげんだよ!にんげんにあったらすぐににげろっておかあさんもいってたよ!」 「だいじょうぶだよ!れいむのことはおねえちゃんがまもるよ!!」 なんて美しい姉妹愛。ああ、空気を吸って身体を膨らませている姉れいむを叩き潰したら、妹れいむはどんな声で鳴いてくれるのか…!!! だが、ここで欲望に負けるわけにはいかない。目先の快楽に捕われては、真の虐待お兄さんとは言えないのさ。 「大丈夫だよ、実はお兄さんは君達にもっとゆっくりできる場所を教えてあげようと思ってきたんだ。」 「ゆゆ、ほんとう?」 俺は農具小屋に向かって歩き出す。饅頭どもは半信半疑についてくるが、小屋の扉を開けてやると 「ゆっくりできそうだよ!」 「きょうからここをれいむたちのおうちにするよ!」 と早速お家宣言だ。跳ね回るゆっくりたちに屑野菜を放ってやり、俺は小屋の扉を閉めた。 ここならゆっくりがぶつかったところで壊れるものなど無い。さあ、後はアイツを待つだけだ。 二日ほど経った。ゆっくり共は納屋に監禁したままだ。時折中を覗くと、二匹仲良く跳ね回って遊んでいる。エサは屑野菜や生ゴミを投げ込んでやっている。 実はこの農具小屋、まだ俺が虐待お兄さんだった頃にゆっくりを監禁する場所にしていた。 攫ってきたゆっくりが、いざ虐待の際に弱りきっていてはつまらないので、ゆっくり用の遊具を置いて元気でいられるようにしてあるのだ。 そして、畑のほうには待ち望んでいたアイツ。特別ゲストの登場だ。 「きょうからここをまりさのおうちにするんだぜ!!」 「やあ、ゆっくりしてるかい?」 「ゆっ!おじさん、ここはまりさのおうちだぜ!!ゆっくりでていってね!!」 「大丈夫だよ、実はお兄さんは君達にもっとゆっくりできる場所を教えてあげようと思ってきたんだ。」 俺はまりさを小屋まで案内してやる。 「「ゆっくりしていってね!!」」 出迎えるのはれいむ姉妹だ。 「やあ、れいむ達!今日からまりさもここでゆっくりさせてあげてね!」 「ゆっ!!まりさがいるよ!」 「ゆっくりしていってね!」 「ゆ…ゆっくりしていくぜ!!」 準備完了。早速三匹は俺の作ったゆっくり用滑り台で遊んでいる。俺は小屋の戸を閉め、農作業に戻った。 その日の夜。寝る前に小屋に入り込むと、中では三匹が思い思いの場所で寝息を立てている。俺はまりさの頭を掴み、小刻みに振動を与えた。 「ゅ…?ゆぅうぅう…!」 途中で目を覚ますまりさ。しかしその目はトロンとしている。これでは体が火照って眠れまい。見ていると、まりさは手近なれいむに夜這いを掛け始めた。 「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆーっ!!!」 れいむのほうは身体は反応しているが、起きてはいないようだ。まりさが体を揺らすたび、泡立った粘液が二匹の身体を伝う。 「んほおおおおおおっ!!すっきりー!!」 やがて、まりさがすっきりする。夜這いを掛けられたれいむの方も、心なしか顔がすっきりー!の顔になっている。 しばらく待つと、れいむの頭から小さな目が出てきた。交合成功だ。さてまりさ、お前はもう用済みだ。死ぬ前にいい思いが出来てよかったな。 翌日、れいむ姉妹はまりさがいなくなっている事にショックを受けたようだが、それ以上に新たな命を授かったことが嬉しいようだ。 妹れいむの頭の上には蔓が伸び、八つほどの実が生っている。まだ爪の先ほどの大きさだが、いずれ拳大の大きさの赤れいむとなる。 その日はお祝いということで、いつもの屑野菜と一緒に餡子を投げ込んでやった。 ゆっくり一匹分、昨日迷い込んできたまりさの大きさと同じくらいの量の餡子だが、 「うっめ!めっちゃうっめ!」 「まじぱねえ!」 と意地汚く食べていた。 さらに三日ほど経った。小屋からは饅頭共の跳ね回る音は聞こえなくなり、代わりに 「ゆ~♪ゆ~♪ゆ~っくり~♪して~♪いってね~♪」 だの下手糞な歌が聞こえてくるようになった。 エサをやりにいくついでに様子を見ると、実の大きさもビー玉くらいになり、早いものは髪や目や口が形成され、時折ぷるぷる震えている。 れいむ達はそれを見ては顔をほころばせている。そろそろ頃合だな。 その日の夜、俺は再び小屋に忍び込んだ。みると、姉妹は寄り添って眠っている。妹れいむが姉れいむに寄りかかっている状態だ。 なるほど、妹が体勢を崩さないようにしているんだな。 月の明りを頼りに懐からキリを取り出し、先端をライターで炙る。そして、蔓から生えている一番大きな赤れいむに焼けた針を数回突き刺した。 「み゛ゅ゛っ!」 小さな目をカッと見開いて、赤れいむは生涯を閉じる。通常のゆっくりではこんなもので殺せないだろうが、体の小さな赤ゆっくりはそうもいかない。 おお、目と口から煙を噴き出していて笑える。その調子で合計七つの実を焼き殺した。残ったのはやっと目、口が出来始めた実が一つ。 これなら何が起きたか気付くまい。そのまま小屋を出、俺は眠りに就いた。 翌朝、農作業に使う鋤を取りに小屋に入ると、れいむ姉妹は白目を剥いて気絶していた。起きたら赤れいむがほぼ全滅していたのが相当ショックだったようだ。 とりあえず頬をひっぱたいて起こしてやる。 「おい、大丈夫かれいむ?」 「ゆっ…おに゛い゛ざん゛!!れ゛いむ゛のあがぢゃん゛があ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「いも゛う゛どのあ゛がぢゃん゛がしん゛じゃっだよ゛お゛お゛ぉ゛!!」 取り乱して涙やら涎やらを撒き散らしている。おお、きもいきもい。 「まあ落ち着けお前ら。まだ一匹残っているじゃないか。」 「ゆ゛っ゛!れ゛いむ゛のあがぢゃん゛!!!!」 どうやら気付いたようだ。しかし七匹も死んだという事実はこたえているらしい。涙をボロボロと流して、 「どうじでごんな゛ごどに゛い゛い゛ぃ゛!!」 と叫んでいる。さて、ここからが俺の演技力の見せ所だ。まあ、ゆっくり相手なら誰だって騙せるんだろうが。 「これは栄養失調だな!妹れいむの栄養が足りなかったんだ、このままでは残りの赤ちゃんも死んでしまうぞ!」 「ゆ゛ーっ゛!?え゛い゛よ゛う゛しっぢょう゛!!!?」 「ごめ゛ん゛ね゛え゛、おがあ゛ざんがえ゛い゛よ゛う゛しっぢょう゛のぜいで、ごめ゛ん゛ね゛え゛ぇ゛!!!」 あっさり騙された。というかそんなもち肌で何が栄養失調だ。こいつらには屑野菜や生ゴミしか与えていないが、それでも雑草や虫よりは栄養価が高い。 お前らで栄養失調なら野生のゆっくりなんてみんな干からびてるっての。それは置いておいて、演技続行だ。 「残った赤れいむを救う方法は一つしかない。お前達、やれるか?」 「ゆ゛っ゛!!おね゛がいじまず、れ゛い゛む゛のあがぢゃんだずげでぐだざい゛!!」 「いも゛う゛どのあ゛がぢゃん゛を゛だずげであげでえ゛え゛!!」 よし来た。俺は小刀を取り出し、姉れいむの頭頂部を突き刺して一捻りする。すぐに頭頂部には穴が開き、餡子を覗かせた。 「ゆ゛ーーっ゛!!!おね゛え゛ぢゃん゛にな゛に゛ずるの゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛っ゛!!!」 妹のほうが叫んでいる。一方姉のほうは白目を剥いて痙攣している。そう慌てるな妹よ、次はお前の番なんだから。 今度は妹れいむの蔓を掴み、根元付近を小刀で一周させたあと、少し力を込める。すると、蔓は根ごとすっぽ抜けた。もちろん妹れいむはショックで気絶している。 すぐさま姉れいむの傷口に根の部分を突っ込み、接合部に小麦粉を振りかけてやる。妹れいむの頭も小麦粉で塞ぐのは忘れない。 気付けにオレンジジュースを二匹にぶっ掛けてやれば作業終了だ。 妹れいむは目覚めるなり頭上の蔓がなくなっていることに気付き、 「れ゛い゛む゛のあがぢゃん゛ん゛ん゛!!」 と怒鳴っている。まあ落ち着け。落ち着いてお前の姉貴の頭を見てみろ。 「ゆっ?れいむのあかちゃんがおねえちゃんのあたまにいるよ!?」 「おにいさん、いもうとのあかちゃんになにしたの!ゆっくりせつめいしてね!!」 詰め寄るゆっくり共。うざい、潰したい。いや、我慢我慢。 「妹れいむは栄養失調だからな。健康な姉れいむだったら、赤ちゃんを死なせないで産んであげられるから、差し替えた。これで赤ちゃんは助かるぞ!」 「「ゆーっ!!!!おにいさんありがとう!!!!」」 まあ気にするな。赤ゆっくりを殺したのは俺なんだから。 翌日。他の赤ゆっくりを間引いた結果、残った一匹は栄養を独り占めして破格の成長を遂げた。 通常ならあと三日はかかるところを、すでに目、口、髪、リボンが形成され、 「ゆー、ゆー」 と声を上げることも出来る。生き残ったのはれいむ種だったか。 「ゆっきゅいしちぇいっちぇね!」と喋れるようになるのもすぐだろう。明日には蔓から離れるかもしれない。 妹れいむは姉れいむの頭上を見上げ、 「ゆ~♪れいむがおかあさんだよ!ゆっくりしてね!」 「はやくおかあさんといっしょにゆ~っくりしようね~♪」 と声をかける。一方、姉れいむのほうは微妙な表情を浮かべている。この表情…おそらく俺の企ては成功している。だが、確証が欲しかった。 「おーい、妹れいむ!もうすぐ赤ちゃんが生まれそうだから、お祝いにドアのところにお菓子を置いてあるよ!お姉ちゃんれいむにゆっくりとってあげてね!」 「ゆっ!?お菓子!?取ってくるよ!!」 妹れいむはドアのほうに駆け、散らばったクッキーを舌で掻き集めている。そのとき、俺は確かに無く耳にした。 姉れいむが頭上の蔓…蔓に実った赤れいむを見つめながら 「れいむがあかちゃんのおかあさんだよ…」 と、妹れいむに聞こえないよう呟くところを。 あああああああああ、ニヤニヤが止まらない!!姉れいむのほうは、たった一日蔓を頭に生やしただけで、母性を持ってしまったようだ。 もう、口の両端が目に届きそうなくらいに笑顔が止まらない。 その日、俺一度も休みを取ることなく、全力で農作業を進めた。明日は、あのれいむ姉妹に付き合ってやらなきゃいけないからな…! 翌朝、小屋に入ると赤れいむが生まれる寸前だった。 姉れいむの蔓の上で、トマトほどの大きさに育った赤れいむは身体をブランコのように揺らし、妹れいむはをそれを見て 「がんばってね!がんばってね!!」 と声をかけている。そして赤れいむが一際大きく揺れると蔓から頭がちぎれ、ぽてりと地面に落ち… 「ゆっきゅいしちぇいっちぇね!」 鳴いた。妹れいむは感動のあまり目を潤めている。だが、次の瞬間。 「おかあしゃん!おなかしゅいた!!」 赤れいむは。姉れいむに向かって。「お母さん」と言ったのだ。戸惑いながらも、嬉しそうな顔をする姉れいむ。しかし妹れいむは黙っていられない。 「どお゛じでぞんな゛ごどい゛う゛のお゛お゛お゛!!れ゛いむ゛があがぢゃんの゛お゛があざんでしょ゛お゛お゛お゛お゛っ゛!!!」 姉れいむのほうも、悲しそうな顔をして赤れいむから目を逸らす。よく分かっていないのは赤れいむだ。 「ゅ?れいみゅのおかあしゃんはこっちだよ?」 言いながら姉れいむのほうに飛び寄る。妹れいむは半狂乱になって 「ちがうの゛お゛お゛お゛っ!!れ゛い゛む゛があがぢゃん゛の゛お゛があざん゛な゛ん゛だよ゛お゛お゛っ!!!」 と訴える。まあそうなるだろうな、赤れいむは物心ついたときには姉れいむの頭の上だったんだから。 こうなると、気になるのは姉れいむの反応だ。姉れいむは悲しそうな顔をして 「ゆう、あかちゃんのおかあさんは、あっちのれいむだよ。あっちのれいむをおかあさんってよんであげてね…。」 おお、母性愛よりも妹を気遣う家族愛が勝ったか。てっきり妹に向かって「このこはれいむのあかちゃんだよ!」ぐらい言うかと思ったが。 そんな姉の気遣いにも気付かず、妹れいむは赤れいむと姉れいむの間に割って入り、 「おねえちゃんはゆっくりむこうにいってね!!」 と威嚇する。あー、本当笑える、こいつ等。 それからも修羅場は続いた。赤れいむが滑り台の着地に失敗したとき、「おかあしゃーん!」と泣きながら見るのは妹れいむに気を使い、離れている姉れいむのほ うだ。 妹れいむが(俺の用意した)昼飯を持ってきた時も、姉れいむのほうを見て「おかあしゃんもいっちょにたべよ?」といった後、慌てて「ゆっきゅりまちがえちゃ った!」だと。 そのたびに姉れいむは悲しそうな、済まなそうな顔をし、妹れいむは「れいむがおかあさんだよ!!」声を荒げる。そんな光景が昼間中続いた。 夕方になった。赤れいむも学習能力が出てきたのか、ここ三時間ちかく姉れいむを「おかあしゃん」と呼んでいない。今は歌を歌っている最中だ。姉れいむは少し はなれたところでそれを聞いている。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆっくりしていってね~♪」 「しちぇいっちぇね~♪」 俺には不快な音波にしか聞こえないが、ゆっくり共にはそうでもないんだろう。目を閉じて聞き入っている。だがそのとき、赤れいむの悪い癖が起きた。 「ゆ~、おかあしゃんもいっちょにうたお?」 うっかり姉れいむに「お母さん」と呼びかけてしまったのだ。妹れいむの頬が膨れていく。アレはキレてる。相当キレてる。 「なんで!わからないの!れいむが!おかあさんだよ!!」 赤れいむのすぐ近くで地団太を踏むようにジャンプする。赤れいむのほうは本気で怒られて涙目だ。 「もういいよ!!そんなにおねえちゃんがすきなら、おねえちゃんのあかちゃんになればいいんだよ!!」 言いながら、妹れいむは赤れいむに体当たりした。人間で言えば思わず手が出てしまったというところか。 しかしゆっくりだと手が出てしまったでは済まない。その体格差には赤れいむは一メートルほどポヨポヨと跳ね、泣き出してしまう。 瞬間。 妹れいむは。 猛スピードで体当たりしてきた姉れいむに弾き飛ばされた。 一メートルなんてものではない。ノーバウンドで跳ね飛ばされた妹れいむは壁で跳ね返り、赤れいむから少し離れた場所でやっと起き上がる。 その赤れいむまでの距離を遮るように、姉れいむが立っていた。 「れいむのあかちゃんになにするの!!!いもうとでもゆるさないよ!!!!」 ここで母性愛が勝ったー!一瞬睨み合った後、お互いに飛び掛って喧嘩を始める姉妹。 いや、これは喧嘩なんてものではない。転げ周り、お互いの身体に食いつき、跳ね飛ばし、踏みつける。 まさに殺し合いだ。傍目からはネコの喧嘩に見えるが。 俺は赤れいむが巻き添えを食わないよう手の上に乗せてやった。赤れいむは涙を流しながらその光景を見つめている。 やがて、体格差を生かした姉れいむが妹れいむに噛み付いたままのしかかる。 姉れいむが妹れいむに「れいむのことはおねえちゃんがまもるよ!!」って言ってたのは一週間前だっけ? とにかくこのままでは死んじまうな。俺は二匹を引っぺがした。 「おにいさんなにするの!!」 「じゃましないでね!!」 で、二匹揃って俺の手の上の赤ゆっくりに気付く。 「「れいむのあかちゃんをはなしてね!!!」」 お互いにその発言が気に入らなかったのか、すぐさま戦闘態勢に入る二匹。 「まあ、待て二匹とも。」 二匹は互いを警戒しあいながら俺のほうを見る。ああ、俺はこの一言を言いたかったんだ。この一言のために、今まで準備をしてきたんだ。 今までの準備が走馬灯のように頭をよぎる。ああ、やっと報われる。このために、潰したい饅頭を潰さずにがまんしてきたんだ。 ようし、言うぞ?言っちゃうぞ? 「そんなに自分の子供って言うなら、この赤れいむをお互いに引っ張って、勝ったほうが母親ってことにすりゃいいじゃん。」 言って、赤れいむを二匹の合間に放り投げる。二匹は一瞬間をおいた後。 「いぢゃい゛い゛い゛いっ!!!お゛があじゃん゛、い゛だいよお゛お゛お!!!!はなじでええ゛え゛え゛え!!!」 「あかひゃんがひたがってうよ!!!!ゆっくいはなふぇええええ!!!」 「そっちがはなへええええええ!!!!」 おお、醜い醜い。姉れいむは赤れいむの髪を、妹れいむは赤れいむの顎を噛み、それぞれの方向に引っ張る。 赤れいむのほうはかわいそうに、二倍近く伸びてしまって口から餡子を吹き出している。 「あかひゃんのあんこがでひゃってるよおおお!!!」 「おねえひゃんがはなへばあああ!!!?」 「おまえがはなふぇええええ!!!!」 一方赤れいむは、体の真ん中から裂け始めている。 「もっちょ…ゆっきゅり…しちゃか…」 でた、断末魔宣言だ。言い終わったと同時に、二匹は吹っ飛んだ。赤れいむが千切れた反動だ。 「ゆ、あかちゃん…は…?」 「れいむの…あか…ちゃん…」 …。 ……。 ………。 「「むーしゃむーしゃ、しあわせ~♪」」 食うのかよ!!!しばらくたち、二匹とも口の中のものを咀嚼し終わった時点で、ようやく口の中に広がった甘味の原因に気付いたようだ。 「れいむの…あかちゃんが…いもうとに…」 「おねえちゃんが…れいむのあかちゃんをたべちゃった…」 「よくも…!!!」 「れいむのあかちゃんを…!!!」 「「ゆっくりしね!!!!!」」 再び始まる大乱闘。今度は止める理由も無い。俺は小屋の戸を閉め、家に戻った。あー、井戸水で冷やしておいた西瓜うめぇ。 完全に日は落ちた。小屋のほうからは物音一つ聞こえない。西瓜を食べ終わった俺は、小屋のドアを開けた。 みると、そこら中に散らばった餡子。小屋の真ん中では、千切れたリボンの近くで荒い息を吐く傷だらけのれいむが一匹。 辺りにはゆっくりの表皮や目玉が散らばっている。 コイツ、妹れいむか?姉れいむか?今までは体の大小で判断つけてたんだが、比較対象がなくなっちまってわからない。 れいむのほうは、俺のほうを見ようともせずにふーふー唸っている。さて、どうやって声をかけるかな。 「あーあ。死んじゃったな、二匹とも。」 びくっと震えるれいむ。しかし、その顔はこちらを向かない。 「俺にはよくわからないけどさ。」 言葉を続ける。れいむは動かない。 「あの赤れいむにとっては、どっちも本当のお母さんだったんじゃないかな。」 「ゆ………。」 ゆっくりと出口に這っていくれいむ。そして。 「おにいさん、いままでありがとう…れいむはここからでていくね…」 餡子を片付けた後、小屋の周りを一周してみたが、れいむの姿は無かった。 うん、昔はゆっくりを肉体的にいじめていたが、こういう精神攻めも案外面白いな。 次の獲物はどうやって虐めてくれようか…。よし、今夜は虐待お兄さん復活祭りだ!農家なんてどうでもいいぜ!っひゃあ、虐待だあ!! 数日後、一匹のれいむがドスまりさに討伐された。最近群れに迷い込んできたれいむは、にんっしんっ!しているゆっくりの蔓を片っ端から噛み千切ったのだとい う。 そのれいむは「あかちゃん…やっとあえるね…」と呟き、事切れたそうだ。 /**** 書くのに丸一日かかった。 本当はゆっくりが食虫植物に食われるのを書いていたんだ!でも、 行き詰る→新しいネタ思いつく→メモっておく→もう一度書き始める→行き詰る→新しいネタの続き思いつく→メモっておく→以下ループ。 by町長 /****今までに書いたもの fuku2120.txt 満員電車とゆっくり このSSに感想を付ける
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「ほらっ、もうおうち宣言なんてするなよ」 とある民家からまるでゴミのように丸い物体が三つ投げ捨てられた。 それはゆっくりの一家だった。投げ捨てられたのは成体れいむとまりさの両親と、一匹の子れいむ。 つい数十分前までどこにでも在るありふれた存在であったが、今は違う。 それはゆっくり達の状態。 なんと面妖か。まず親まりさには顔がなかった。当然生まれつきではない。先ほどおうち宣言をした民家の主によって改造されたのだ。 目も口もくりぬかれた上で餡子と小麦粉の皮で補修され、のっぺらぼうのようになってしまったのだ。このまりさはもう何も見ることは出来ぬし、食べることも喋ることも出来ない。 更には底部も火傷を負っていた。二度と動けぬほど炭にはなっていないが、僅かに這うことしか出来ずに自然治癒も不可能なまでには焼かれていた。 そして子れいむもまりさと同じような状態だった 目も口もなくのっぺらぼう、更にはまりさと違って髪もリボンも無い。ただ幸いだったのは底部には何もされておらず自力で動ける点か。 そしてこの中で一番まともな状態だったのは親れいむだった。 民家の主によって全身に打撲を負ってはいるが、それも生きる上には何も支障はなく、ゆっくりの自然治癒能力で治る程度だ。 「ゆぐっ……えぐっ、ばりざぁ……」 れいむは全身を殴られた痛みをこらえながらも、ずりずりとのっぺらぼう状態のまりさにすり寄った。 れいむはまりさがこんな状態にさせられた地獄を目の前で見てしまった。生きたまま目をくりぬかれて、面影もないほど顔を改造されるというこの世のものとは思えぬ光景を見たれいむは激しい恐怖を覚えた。 その上で恐怖だけでなく、れいむを散々痛めつけた人間から少しでも逃げるようにと、れいむはまりさを連れて逃げようとした。 まりさはもう自力では歩けない。だから自分が連れていくしかない。 髪を引っ張ってずーりずーり。まりさも子れいむも音を聞くことは出来る。だかられいむがかけた「ゆっくりかえろう」という声も聞こえていたはずだ。 子れいむはれいむがそう声をかけた瞬間、何かから逃げるように(いや、実際に人間から逃げている)全力で、あさっての方向に跳ねはじめたので、慌ててれいむが捕まえて親まりさの帽子の中に入れた。 しばらくそこでゆっくりしててね、と言ったら傍らに親まりさのぬくもりを感じて安心したのかおとなしくなった。 今やまりさも子れいむも、かつての姿は似ても似つかない。身内以外が、いや身内でも改造される場面を見てなければ個の判別がつかないだろう。 しかし、それでもれいむにとってはかけがえの無い家族なのだ。れいむは自身の体力を振り絞って、今や二度と治らぬケガを負った家族を、かつての巣へと引っ張っていった。 そして、治らぬケガを負っていたのはまりさと子れいむだけでは無かった。れいむもまた、心の傷という治らぬものを負っていた。 翌朝。おうち宣言する前の、子供が生まれて手狭に感じるようになった巣でれいむは目覚めた。 そこは木の根のあたりに出来た、地面の穴だった。れいむはもぞもぞもと起きて、「ゆっくりおきるよ」と小さく呟いた。 そして、家族へと視線を移す。そこにあったモノを見て、昨日のことは夢では無かったのだと今再び再確認し、落ち込んだ。 傍らにいるのは、もはや起きているのか寝ているのかも分からない、表情を浮かべることも、何かを美味しく食べることも、優しい言葉も発することが出来なくなった、最愛の伴侶の最愛の我が子の姿。 れいむは嗚咽をこらえながらも、静かに涙を零した。れいむは、自分一人で家族を支えなければならない。もはや何かを聞くことしか出来ず、何をすることも何かも伝えることも出来なくなった家族を。 こんな存在、当然野生ではお荷物以外の何物でもない。 しかしながら、れいむにとってまりさと子れいむは、お荷物だからといって切り捨てることが出来る存在ではなかった。 「まりさ、おちびちゃん、ゆっくりまっててね」 れいむはそう二匹にそう囁くと、巣を飛び出た。エサを探しに行ったのだ。 れいむが身ごもってからは毎日まりさがやっていた仕事。それを今日からはれいむがしなければならない。 出来る、出来るはずだ。れいむはそう言い聞かせて、森の中を駆けまわって朝食を集めた。 だがれいむは、あまりにも現実感のない事だから忘れていた。 もう、まりさと子れいむに食事は必要無いのだと。 「ゆ゛ぅ……」 れいむは困惑した。嘆いた。再び泣いた。 もう二度と「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~」が出来ぬまりさと子れいむ。そしてその現実を再び目の当たりにしてしまった。 子れいむは動けるはずだが、危ないからとれいむが再三に渡って動かぬように言っておいた。だから、子れいむは動かぬ。自身もまた、何も見えない恐怖に苛まれているのだから。 れいむはのっぺらぼうの伴侶と我が子の前で食事をした。二匹は食事が出来ぬとも、れいむはしなければならないからだ。 れいむは昨日暴行によって負ったケガと、体力を回復させるために、久しぶりに自分が集めた食事を口に運ぶ。余分に集めてしまった、家族の分も。 「む~しゃ、む~しゃ……」 その口から「しあわせ~」が出ることなど、二度とない。 そのまた次の日。れいむの生活サイクルは昨日の時点で確立された。 れいむが巣の外へ出るのは一日三回のエサ集め。それも一匹分のみ。 あとはずっと、巣にこもってまりさと子れいむの相手。まりさも子れいむも、当然ろくな反応も示さない。 だがれいむは、相手に伝わってるはずと思い、す~りす~りをしたり、歌を歌ったりした。 そんなれいむに、子れいむは光がない恐怖から少しだけ小さく跳ねて、まりさはろくに動かせない体を身じろぎさせて反応してくれた。 れいむは、それだけで嬉しかった。 そんな二日目。れいむが昼食を食べ終えた後の、まりさと子れいむへのお歌タイムをしている時だった。 「やぁ、れいむちゃん元気かな?」 この一家を、こんな地獄へと叩き落した張本人が、巣に現れた。 れいむは絶叫した。絶叫し、泣き叫び、狭い巣の奥へと引っ込んだ。 そのれいむの叫び声に混乱し、それまで動かなかった子れいむがにわかに跳ね始めた。顔も髪もなく、ただの饅頭と化したそれは、方向もわからず逃げようとした。 それは偶然出口へと向かっており、人間に巣の中へと殴り返されて、その後ぐったりとして動かなくなった。 その間もずっとれいむは、半狂乱に陥ったまま巣の奥に逃げていた。それ以上奥にはいけないというのに、更に奥に、より遠くへ逃げようと。 「ゆ゛ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! だずげで、だれがだづげぇぇぇぇぇ!!! ゆっぐりでぎないおにいざんがいるよ゛ぉぉぉぉぉぉ!!! いやだっ、でいぶゆっぐじじだい゛ぃぃぃぃぃぃ!!! だじゅげでぇぇぇぇぇぇ!!! いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 その叫び声を、まりさも聞いていたはずだった。 だが、まりさにはどうすることも出来ない。れいむを慰めることも、人間に立ち向かうことも、逃げることも涙することも。 ただぷるぷるとわずかに震えるのみの饅頭として、そこにあることしか出来なかった。 しかし、しかしだ。それでもまりさは愛するれいむの泣き声を聞いて、ずりずりとみっともなく這って、人間の声を頼りに立ち向かおうとした。 そんなまりさを、人間は殴り飛ばした。殴って、殴って、殴って、なおもずりずりと這ってくるまりさを喜々として殴り飛ばした。 その後もれいむは、人間が立ち去ってれいむに見つからなず巣を観察出来るポイントに行くまでずっと泣き喚いたままだった。 そして一度泣きやんだ後、巣の中で横田たわるボロボロのまりさと倒れている子れいむを見てまた泣いたのだった。 ある日れいむが巣に帰ると、そこにはボロボロになったまりさと子れいむがいた。 人間によって虐待された傷ではない。明らかにそれ以外の者による傷だった。 のっぺらぼうのただの饅頭が二個、巣の中に転がっていた。至る所ケガだらけ。餡子もわずかに漏れていた。 まりさは自身で起き上がることも出来ない。子れいむは起き上がっていてもただの髪も顔もないので、分からない。 「ばりざぁぁぁぁぁぁ!!! おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁん!!! どぼじだのぉぉぉぉぉぉ!!!」 れいむは泣いて二個に駆け寄った。涙をボロボロと流して、すりすりと頬をすり合わせる。 目も見えない二匹でも、これなられいむが傍にいることが分かるだろう。もっとも、二匹がそれを伝える術は殆どないのだが。 かろじて、子れいむが拙い動きですりすりを返したぐらいだった。 それだけだったが、れいむは泣いて喜んだ。光を失ってからピンチの時以外ろくに動こうとしなかった子れいむが、動いてれいむにすりすりを返してくれたのだから。 傷ついた体にも関わらず。それで、嬉しくないはずがない。 ちなみに、二匹をこんな目にあわせたのはとある野良まりさだった。 一人立ちして自分の巣を探していた野良まりさは、ちょうどよくのっぺらぼう饅頭が留守番していた巣を見つけた。 当然そこでおうち宣言をしようとしたが、そこにいたのは気味の悪い饅頭だった。 その饅頭を野良まりさはゆっくり出来ないものとして暴行をくわえた。 散々体当たりをしたり踏みつけたりした挙句、ここはゆっくり出来ないといって巣を立ち去って行ったのだ。 なお、その野良まりさは現在、虐待を行った一家のその後を観察している人間に捕まって玩具兼おやつになっていた。 頭をくりぬかれて中の餡子を攪拌されて、小刻みに痙攣している。 人間は野良まりさの餡子を一割ほど食べたところで、「飽きた」と言って放り捨てた。 命である餡子を削り取られ、頭を切り取られた野良まりさはその場でずっと痙攣したまま動かず、そのままアリのエサとなった。 日に日にまりさと子れいむは衰弱していった。当然だ。何も食べることが出来ないのだから、餓死するしかない。 生命維持のための餡子が消費され、体が小さくなっていく。皮も薄くなって、中の餡子が透けて見える。 一日、一日と、刻一刻と死へと近づいていく日々。かつては少しは跳ねたり身じろぎして反応を返してくれたまりさも子れいむも、やがてはそんな反応も示さなくなった。 そして、ある日を境に二匹は微動だにしなくなった。 顔が無いため一見しては分からなかったが、二匹とも死んだのだった。 れいむは大声をあげて泣いた。涙が枯れるほど泣いた。流した涙で体が溶けて流れるのではないかというほど泣いた。 泣いて、泣いて、悲しんで、ゆっくり出来ていた日々と人間に合された地獄、とそのあとの苦しい生活を思い返した。 そんな、そんな不幸のどん底にいるれいむに、またあの人間が現れた。 人間は狂乱に陥ったれいむを捕まえると、しかと目を見開かせ、その状態でまりさと子れいむの死骸を踏みつぶした。 顔がなくても、まだ原形を、カタチを保っていた家族の体が跡形もなくつぶれる様を見て、れいむの精神は壊れた。 しかし、人間の手によってまた再生された。 れいむが正気を取り戻したのは、人間の家だった。ゆっくりは、精神崩壊を起こしても中の餡子をかき回せば正気を取り戻すのだ。 そしてれいむは、正気を取り戻して、恐怖の記憶を呼び起こして、もはや言葉ですらない声をあげて人間の家の中、人間から逃げ惑った。 しかしそれは徒労に終わり、地獄を見た。 それでもれいむは生還した。 ただし、まりさや子れいむと同じく、のっぺらぼうの状態で。 のっぺらぼうれいむは人間の家の表通りに捨てられた。底部は無事だから、自分で動ける。 しかし、れいむには我が家に帰還する術は残っておらず、助けてくれる者もいなかった。 のっぺらぼうれいむは、その無表情の顔のまま、あさっての方向へと跳ねていった。 その後のっぺらぼうれいむがどうなったのかは、誰も知らない。 END