約 454,602 件
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/90.html
タイトル「貴方のためなら優しくなれる」 作者:66-108 ある日の午後。海鳴にあるとある公園は、家族連れやカップルなど、多くの人で賑わっていた。 その中に、一際目立つカップルがいた。ショートカットの女性が、ハニーブロンドの髪を持った女性と見紛うような男性を膝枕しているので ある。周りの人々は、その様子を微笑ましく思ったり、羨ましく思っていたりしたが、当の本人……男性は眠っているので女性……は、実は 少々困っていた。 (な……何でこんな事になっちゃったのかしら……?) 内心でそう呟きながら、その女性……アリサ・バニングスは、自分の膝枕ですやすやと気持ち良さそうに寝ている男性……ユーノ・スクライア の寝顔を見ながら、軽く溜息をついた。 切欠は、すずかと一緒にユーノと逢う事であった。他の幼馴染達、なのは・フェイト・はやてとアリサ・すずかはちょくちょく一緒に遊んで いたが、それとは別に、ユーノとも親交を深めていた。五人娘にとってみれば、彼も大切な幼馴染なのである。なのは達は仕事等で彼と逢う 事が出来たが、アリサ達はもちろんそんな事は出来なかった。だから、ユーノとまめに連絡をとり、休日が合った時には彼を海鳴に呼んで、 一緒に過ごす事が良くあった。ただ、主に連絡を取るのはすずかで、アリサはしぶしぶといった感じで(少なくとも表面上は)二人にくっつい ている感じであった。 ところがある日の事であった。いつも通りに三人で逢う約束をしており、喫茶店でユーノとすずかを待っていたアリサの元にすずかから連絡が入った。 「? すずかから? 何かあったのかしら?」 そう呟きながら携帯に届いたメールを読んだアリサは、顔を強張らせた。 『アリサちゃんごめん、急な用事が入って、今日はそっちにいけないみたい。ユーノ君によろしくね? 折角二人っきりなんだし、たまには ユーノ君に素直に甘えてみたらどうかな?』 (ちょ……ちょっと! ユ、ユーノと二人っきりで逢うなんて、そんな急に言われても……!!) これにはアリサも慌てた。ユーノと逢う時にはいつもすずかや他の誰かが一緒であったために、ユーノと二人きりで逢う事は無かった。 いつもユーノと逢うのを楽しみにしているすずかが来ない事に、何の疑問も抱かない程にテンパるアリサ。そこに、ちょうどと言うべきか、 タイミング悪くと言うべきか……ユーノがやってきたのである。 「ごめん、アリサ、遅れちゃって! 仕事が長引いちゃってね。……ところですずかは?」 すずかが来ない事に加えて丁度ユーノが来てしまった事に軽くパニックを起こしそうになったアリサであったが、何とか踏みとどまると、 すずかが来ない事をユーノに説明した。 「何だか急な用事があって来れなくなっちゃったみたい。……っていうかアンタ来るのが遅いわよ!! あたしを待たせるなんていい度胸 してるじゃない!!」 「だからそれは来た時に真っ先にあやまったじゃない! ……でもそうか、すずかは来れないんだ。ちょっと残念だな……。」 そう言うユーノを見ながら、アリサはふと、とある事に気付いた。ユーノが見慣れない服装をしていたのである。 彼はいつも服装には無頓着で、皆と一緒にその事を注意した事もある。だが、今日の服装はそれまでのものと違った。彼の特徴であるハニー ブロンドの髪を引き立てるようにコーディネートされた服は、彼に良く似合っていた。 「それにしてもあんた、今日はいつもに比べて大分ましな格好してるじゃない。やっと私達の忠告を聞いたって訳?」 そのアリサの言葉に、ユーノは苦笑しつつ答えた。 「いや。実はね、この間の休みの時に、なのはやフェイト、はやて達に買い物に付き合わされてね。その時に、皆に見立ててもらったんだ。 僕はいいって言ったんだけど、皆聞かなくってね。でも実際自分でも良く似合っていると思うし、なのは達にはちょっと感謝してるんだ。」 「ふーん。なのは達に……。」 そう呟いたアリサは、自分の胸に、何かもやもやとする想いが渦巻いたのを感じた。どういう理屈かは分からないが、自分は何か面白くないと 感じているようだ。 その想いが何であるのか、アリサは薄々と感づいてはいたが、それを振り払うかのように立ち上がるとユーノの腕を取った。 「ア、アリサ? どうしたの?」 幼馴染の突然の行動に驚くユーノ。そんな彼を真っ直ぐ見据えてアリサは言った。 「決まってんじゃない。これから私もあんたの服を見立ててやろうってのよ。感謝しなさいよ?」 「え、でも、もうなのは達に見立ててもらった服が……。」 「でもそれ一着でしょ? あんたの事だから、それ以外に大した服を持ってないんでしょ。あんたも考古学関係で公演をしたり人前に立つ事が 多いんだから、それなりの服を持ってないとね。」 「で、でも……。」 今一つ煮え切らない態度のユーノ。そんな彼を不機嫌そうに見た後、アリサは一喝した。 「いいから来なさいッ!! 私が選んであげるって言ってるのに、何か不満がある訳!? それとも何、なのはやフェイトやはやてには選んで もらう癖に、私に選んでもらうのは厭って言うんじゃないでしょうね!? ええッ!?」 その迫力に、ユーノも思わず反射的に頷いてしまう。 「め、滅相もございませんッ!! アリサさんに服を選んでもらえるだなんて、光栄ですッ!!」 「よーし、分かればいいのよこのエロフェレット!! さあ、そうと決まれば早速行くわよ!!」 「分かったよアリサ! で、でもその呼び名、いい加減勘弁してよー!!」 「うるさいうるさいうるさーい!! あんたに責任とってもらうまで、この呼び名はやめてやらないんだから!!」 「うう……ひどい……。もう子供の頃の話なのに……。」 がっくりと項垂れるユーノを引きずってずんずんと歩くアリサ。だが口調とは裏腹に、その顔はとても嬉しそうで、楽しそうであった。 一通りの買い物を終え、商品をアリサの家に送る手筈を整えた二人は公園へとやってきた。ユーノは芝生に腰をどかりと落とすと、溜息混じりに 言った。 「は、はぁ~、疲れた……。」 「情けないわねぇ。あれくらいで根を上げるだなんて。」 「そ、そうは言っても……。」 あの後、ユーノはアリサに散々色々な店に連れて行かれた。普段着から、フォーマルな席でも使用できる服までそれはもう色々である。 (なのは達に見立ててもらった時も思ったけど……女の子はどうして買い物が長いんだろう……。) そんな事を思いつつも、しかしユーノは満足していた。確かに疲れはしたが、アリサと二人で過ごせたのは楽しかった。何より、アリサが とても楽しそうであった事が、彼にとっても嬉しかった。 そんな気持ちを抱きながらアリサを優しくユーノは見つめていたが、ふと、彼女と目が合った。 「な、何よ! 私の顔に何かついてる!?」 ちょっと怒ったように言うアリサに笑って首を振ると、ユーノは言った。 「ありがとう、アリサ。今日は楽しかったよ。……いや、今日だけじゃないね。いつもありがとう、アリサ。」 「な、何よ急にそんな……。」 いきなり面と向かって礼を言われて戸惑うアリサ。そんな彼女を見て一つ笑みを浮かべると、ユーノは続けた。 「いつも思ってたんだ。僕は君達に、いつも助けられてるなぁって。仕事で色んな事があって、落ち込んだり辛い時は結構あるけれど、不思議と そういう時に、君達が気晴らしに誘ってくれる。今日だって……そうさ。だから……お礼が言いたかった……んだ……。」 「べ、別にそんなの……いいわよ。そ、それに……わ、私達だって……私だって……あ、あんたと逢えて……ってな、何っ!?」 アリサは心臓が止まるかと思うほどに驚いた。何故ならば、ユーノがいきなり自分に寄りかかってきたからであった。 あまりの出来事に硬直したアリサに構うことなく、ユーノはそのままずるずるともたれかかってきて、最終的に頭をアリサの膝の上にこてんと 移動させた。 「ちょ、ちょっとユーノ! ……って、え……寝てる……?」 そう、ユーノは眠ってしまっていた。実は彼は、海鳴に来る寸前まで仕事をしていたのである。しかも徹夜でだ。何とか今までは頑張っていたが、 アリサに連れ回された事が、精神的には良かった事でも体力的には少しきつかった事、アリサに礼を言った事で気が緩んだ事が原因でこうなって しまったのである。 「ど、どうしよう……。無理に起こす訳にもいかないわよね……。」 衆人環視の状況で膝枕など、アリサにとってはかなり恥ずかしい事ではあったが、疲れきった幼馴染を無下に扱う訳にもいかない。 仕方なくアリサは彼の頭を自分の膝の上に上手く乗っかるように体勢を入れ替えた。 だが、ここでまたしてもアリサにとって予想外の事が起きた。それは……。 「うう……ん……。」 ユーノが寝返りを打った事であった。いや、それだけなら良いのだが、寝返りを打った後の彼の姿勢が問題であった。仰向けになっていた ユーノは、寝返りを打った後、うつぶせになっていた。つまり、アリサの足の付け根……女の子にとって非常にデリケートな部分に顔を埋める 格好になってしまっていたのである。 これにはアリサも思わず頭に血が上ってしまった。 「こ、こここここここここここのバカエロフェレット───────ッッッ!! あんた何してくれてんのよ──────ッッッ!!」 手を振り上げるアリサ。だが、少し見えた彼の安らかそうな寝顔が、彼女にブレーキをかけた。彼女は振り上げた手を暫くぷるぷると震わせて いたが、やがて溜息を一つつくと、その手を下ろし、ユーノを起こさないようにそっと彼の姿勢を仰向けに戻すと、アリサはユーノの髪を優しく 梳き始めた。 「こんなになるまで疲れてたんなら、ちゃんとそう言いなさいよ……バカ……。」 そのまま彼の髪を梳きながらアリサは思った。ユーノは、誰にも頼らない。全て自分一人で抱え込もうとする。かつての自分達もそうであったが、 自分達はお互いのお陰で、それを少しづつでも解消出来た。だからこそアリサは、そしてなのは達も、ユーノを放っておく事など出来なかった。 自分達がお互いを助け、助けられる関係になれたように、ユーノにもそうなって欲しかったのである。 「だけど……少しはあんたの力に、なれていたのかな……? 私達……ううん、私は……。」 先程の言葉と、自分の膝枕で無防備に眠る今の姿。これらは、ユーノが自分達を頼ってくれている証ではないだろうか。 かつて全てを自分一人で抱え込んでいた少年が、今は自分を信頼し、無防備な姿を晒してくれている。自分の膝枕で安らいでくれている。 その事が泣きたくなるほど嬉しくて、アリサはユーノの髪を撫でながら呟いた。 「いつもきつい事ばかり言ってごめんね……? でも私は……あんたの事、大切に想ってるから。あんたのためなら私……もっと優しくなれる から……。」 そう言ったアリサの顔は、その言葉どおり、とても優しく、とても綺麗であった。 「う……ん……。あれ……僕は……?」 目を醒ましたユーノは、まず己の頭の下にある、とても柔らかく、かつ暖かい感触に気づいた。久しぶりに安心して熟睡出来たが、それはこの枕の おかげかなぁなどとまだ覚醒しきらない頭でそんな事を考えていると、上から声が降ってきた。 「やっと起きたわねこのエロフェレット。私の膝枕で熟睡だなんて、本当に良い御身分よねぇ?」 その言葉を聞いた瞬間、ユーノは一気に覚醒した。飛び起きて周りを確認すると、見事な夕焼けが見えた。この公園についたのが昼食をとってから すぐであったから、かれこれ数時間はアリサの膝枕で熟睡していた事になる。 「ご、ごめんアリサ!! 折角の休みだったのに台無しにしちゃって……!! お詫びに何でもするから!!」 平身低頭、必死に謝るユーノ。それを見ていたアリサはくすっと笑うとユーノに言った。 「そうねぇ。ま、今回はあんたも仕事で疲れていたみたいだから大目に見てあげるわよ。その代わり……。」 そうアリサが前置きしてから言った「命令」にユーノは心底驚き、顔を赤らめたが、男に二言は無いとばかりにその「命令」を実行に移した。 「……とは言ってもねぇ。やっぱりちょっと恥ずかしいなアリサ……。」 「うるさいうるさいうるさい! 私だって恥ずかしいんだから我慢しなさいよ! 第一歩けないんだからしょうがないでしょ!」 燃えるような夕焼けの中、そんなやり取りをしながら二人は歩いていた。正確に言うと、歩いているのはユーノだけで、アリサはその背に乗っかっている。 分かりやすくいうなら、ユーノがアリサをおんぶして歩いているのである。 アリサがユーノに言った命令とは、自分をおぶって家まで連れて行く事であった。長時間ユーノに膝枕をしていた所為で、アリサの足は痺れきって しまっていたのである。 (それにしても……ユーノの背中って意外とおっきくて暖かいなぁ……。) 夕焼けのお陰で顔が赤いのを誤魔化せる事に安堵しながらアリサはそんな事を思った。彼の温もりを一杯に感じ、幸せに浸っていた彼女であった が、ふと、その視界に前に垂らしたユーノの髪を束ねているリボンが目に入った。 (あ……これ……なのはの……。) そう思った彼女の胸に、またもやもやが広がっていく。 今では彼女は、この感情が親友達に対する嫉妬だと認めていた。今までは強がって、それらを無視していたが、今は少し違っていた。 (私も……少し、素直になってみよう。そして、この気持ちを誤魔化さないでいこう。だって、やっぱり私……こいつの事……。) そう思ったアリサは、ユーノに声をかけた。 「ねぇ、ユーノ。もう一つ、命令を追加するわね?」 「えぇ? もう一つ? ……お手柔らかに頼むよ……。」 ユーノの情けない声にくすりと笑ったアリサは、彼の首に回していた腕に僅かに力を込めると言った。 「次にこっちに来る時には……今日買った服を着てきなさいよね? そしたら今度はあんたの……リ、リボンを選んであげるから……。」 「え? リボン? ……僕の?」 「そ、そうよっ! ……そ、それともリボンは……なのはにもらった物があれば……いい?」 なるべく平静を装おうとするが、どうしても声に不安が滲み出てしまう。ユーノが返事をするまでの僅かな間は、アリサにとっては数時間にも 等しく感じられた。 「……そんな事はないさ。折角だから、アリサにも選んでもらおうかな。」 そのユーノの返事を聞いた瞬間、アリサの胸には喜びが広がっていった。 「ま、まぁそうよね! この私が選んであげるんだから、有難く思いなさいよね!!」 「そうだね。この間はフェイトとはやてにも選んでもらったし。後はすずかにも選んでもらおうかなぁ。」 だがそのユーノの言葉を聞いた瞬間、アリサのこめかみに「ぴき」と血管が浮いた。 「……ユーノ? 今何て言ったの?」 「あれ、言ってなかったっけ? この服を選んでもらった時、フェイトとはやてがリボンも一緒に選んでくれてね。君とすずかにも選んでもらえれば 嬉しいなぁって思ってさ。……そういえばあの時のなのは、妙に不機嫌そうだったなぁ。何でだったんだろ?」 首を捻るユーノに、アリサは拳をわなわなと震わせると、ユーノの頭をぽかぽか叩き始めた。 「な、何するのさアリサ! 痛いよ!!」 「黙りなさいよこの鈍感フェレット!! あーもう、何で私はこんなのに……ッ!!」 「ど、鈍感って何さ! というか背中で暴れないでよ危ないから! こんなに元気ならもう歩けるんじゃないの!?」 「うるさいうるさいうるさーいッ!! もう決めたわ!! あんた、あたしがリボンを買ってあげたら以後それしか使わないように!! 決定だからね!!」 「そんな横暴な!! 何怒ってるのさアリサ!!」 そんなやり取りをしながらも二人はどこか、幸せで楽しそうであった。 それから数日後。アリサとすずかは翠屋にてお茶を飲んでいた。 「全く、あんたがいなかったからこっちは散々だったわよ……。」 そう言いながらケーキを食べるアリサ。それを見てくすくす笑いながらすずかは言った。 「そう? でもユーノ君を膝枕してるアリサちゃん、とっても優しそうな顔をしてたよ? 私から見てもとっても魅力的だったよ。」 それを聞いた瞬間、アリサは「ごほぉっ!」と盛大にむせた。紅茶を飲んでひとごこちつくと、猛然とすずかに噛み付いた。 「あ、あんた何でそれを知ってるのよッ!? って、あんたまさか……。」 そう言いながら一つの可能性に思い至ったアリサは目の前の幼馴染を見つめた。 すずかはにこにこと笑いながら、両手を目の前で合わせると言った。 「ごめんねアリサちゃん。あの日予定が入ったというのは嘘なの。本当はずっと、二人を見守ってたんだ♪ あ、ちなみに鮫島さんも一緒にね?」 それを聞いたアリサはショックのあまりに思いっきり脱力した。それを見たすずかが後を続けた。 「だってアリサちゃん、全然素直にならないんだもの。やっぱり自分の気持ちには素直にならなくっちゃ。」 そう言われたアリサはきっとすずかを睨むと彼女に言った。 「あんたは随分余裕ねぇ。……言っておくけど、なのはやフェイトやはやてもかなり動いているのよ?」 「うん、知ってるよ。でもそれで良いと思うよ。変な遠慮なんかしちゃ駄目だよ。想いは精一杯ぶつけないと……ね?」 そう言って笑みを浮かべたすずかを眩しそうに見たアリサは笑みを浮かべて紅茶を飲みながら言った。 「本当、あんたには敵わないわね。……でも、ユーノは渡さないわよ?」 「うーん、というか私はね? みんなユーノ君に面倒みてもらえば良いと思うんだけどなぁ。」 その爆弾発言を聞いたアリサは、盛大に紅茶を噴き出した。 「あ、あんたねぇっ!? い、いくらなんでもそんな……。」 「だって良い考えだと思うよ? みんながお互いの想いをぶつけあった後なら、これで丸く収まると思うんだけどなぁ。」 にこやかにそう言うすずかを見て、アリサは溜息混じりに言った。 「本当、あんたには敵わないわ……。」 ちなみにこの後、結局五人ともユーノとお付き合いする事になったが誰が正妻になるかでまた揉めたりしたのだが、それはまた別のお話。 アリサ ユノアリ ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/321.html
やまなしシャマルさん 1レスもの 作者:I+KPkYfk 「ああ、もう、ちゃんと聞いているんですか? ユーノさん?」 「聞いているよ、シャマルさん。 前よりは睡眠もちゃんと取っているし、あ、でも昨日はシャマルさんが来たからいつもよりも、ムグゥ!」 シャマルが投げた枕代わりのクッションがユーノの顔面に直撃した。 「そんなことを言ってるんじゃありません! ユーノさんの体を心配して言っているんです!」 最近ほとんどユーノの専属医と化しているシャマル。 以前は効果のあった彼女のお小言も最近ユーノには効かなくなってきているようだ。 「シャマル、君が僕の健康管理に気を遣ってくれているのはよくわかるけどね。 まあ、まだ君の手料理が食べられないのはとても残念だけど」 「料理音痴で悪うございましたねー!」 ユーノに料理下手なことを指摘されてプスッとむくれるシャマル。 ユーノは彼女に普段の見かけの割に意外とこんな子供っぽいところがあることを最近たくさん知るようになった。 「どうでもいいけど、早番の人たちが来る前にちゃんと着替えておいてね。 さすがにその格好を他の司書達に見せるのもどうもね」 「キャッ!」 素肌の上に寝間着代わりのユーノのシャツを羽織っただけの姿のシャマル。 既に着替えが終わっているユーノと彼女は執務室の奥にある仮眠用のベッドの中から体を起こした姿のままで、 会話を交わしていたのだった。 その後、着替えを終えたシャマルは非番のために暇を持て余して、はやての執務室へと顔を出していた。 「なんだ、シャマル、もうケンカ別れか? 実家に帰って来るにしては早すぎるぞ」 休憩時間にはやての執務室の応接セットで煎餅をぼりぼりと囓っていたシグナムは入ってきたシャマルの姿を見てそんなふうにからかった。 「違いますよ。今日、私は非番です。 どうせユーノさん、忙しくて今晩も家には帰らず、仮眠室に泊まるつもりでしょうから。 それに実家ってなんですか? ちゃんと家に帰ってきてるじゃないですか? ……たまには」 「いや~、しっかし正直言うて、まさかシャマルに先を越されるとは思わんかったわ」 どっこらしょ、といいながらシグナムの隣に座るはやて。 「別に先を越すも何もユーノさんとは……一緒に暮らしてるって訳じゃないんですから」 「でも時間の問題やろ?」 ――私のような存在がユーノさんと一緒になってしまってよいのでしょうか? 主のはやてを困らせたくはないのでその言葉は口に出せはしなかったが。 「そういう主はやては昨晩はどちらへ? ずいぶんと帰りが遅かったようで」 「あははは、人のプライバシーに首突っ込むとはシグナムもいけずやね☆」 「言い換えましょう、朝帰りとはいいご身分で……、お二人とも忙しいとはいえ、せっかくですから今日くらい 有休をお取りになって泊まりがけでもよろしかったのでは?」 「そんな、こっちかて休みとれる時やなかったし、ロッサかて今はいろいろとあるんやし……」 「別にお相手がヴァロッサ・アコース殿だなどとは一言も申し上げておりませんが?」 「引っかけや! 誘導尋問や! おとり捜査や!」 じゃれ合う二人を無視するかのようにため息混じりにつぶやいた。 「私って、ユーノさんのお役に立っているのでしょうか? ただのうざい女とか思われてないでしょうか?」 「大丈夫やよ、シャマルは私の自慢の湖の騎士さんなんやから、もうちょい自信を持たなあかんよ」 「第一あのスクライア司書長がお前のことを役立たずとかうざいとか顔も見たくないと言ったのか?」 「いいえ。『健康管理に気遣ってくれてる』とか『いつもきれいだ』とかはいってくださいますけど」 自覚症状のないシャマルの惚気にあきれる二人。 「せいぜい言っても料理下手とか、“やおい”女とか、いい歳をしてカワイ娘ぶるなとかそれくらいであろう。 その程度なら全て事実なのだから問題はなかろう?」 「シグナム、あなた、それどういう意味?」 「シグナムもそのへんにしとき。事実は時として人を怒らせることもあるんよ」 「はやてちゃんまで、……全然フォローになってません!」 「さてと、……我らは仕事中なのでな、愚痴はまた今度は家の方でゆっくり聞こう」 煎餅の屑をはたいてからシグナムは立ち上がった。 その後、執務室を出て行くシャマルの背中にシグナムは声をかけた。 「主はやても言っておられたがお前はもっと自信を持った方がよいぞ。 自分を貶めるということはひいては高町なのはやフェイト・ハラオウン、それから……そしてお前を選んだ ユーノ・スクライアを貶めることになる。 ……今、お前が悩んでいることはお前だけではなくユーノと二人で考えてみろ」 40スレ シグナム シャマル ユーノ×シャマル ユーノ・スクライア 八神はやて
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/127.html
スバルと過ごす、クリスマス・イブ 作者:ID pbRGsAHn 鳴海市 12月24日の日没から2時間後、クリスマス・イブのその日、 切りつけてくるような風が一人佇むユーノ・スクライアの頬を撫でていた。 遠くからブォンブォンという音が響く。手を大きく横に振りながらスバル・ナカジマがユーノに駆け寄った。 「ユーノせんせぇー!遅れてごめんなさーい!」 「いや、そんなに待ってなかったアッー!」 勢いあまってずぬりっとスバルの頭がユーノの腹部に吸い込まれる。ユーノは悶絶し、スバルはそれを見ておろおろしていた。 「ああっ、先生大丈夫ですか!?」 「ぐ、あははは、なのはの砲撃に比べたらなんてことないよ」 ユーノ先生ユーノ先生とキラキラと輝く目を向けられては どうも憎めないなぁとユーノはお腹をさすりながら苦笑してしまう。 「今日はあたしから頼んだことなのに遅れてすみません! 遅れて迷惑をかけまいと思ってマッハキャリバーで飛ばしていこうとしたらギン姉に叱られちゃって……」 「そ、それは……怪我がなくて幸いだよ。ホントに……。 でもスバル。いつも言ってることだけど、迷惑ならかけてもいい。でも、心配はかけさせないでよね」 「うう、重ね重ね迷惑をかけてしまって、ホントにすみません……」 「それに、今日は僕の息抜きも兼ねてるんだから、もとから迷惑なんかじゃないんだよ」 スバルの頭を撫ぜる。怯えた子犬のようにしゅんと萎むスバルの様子を目の当たりにしては、 こっちが悪いことをしてしまった様に感じられてならないのだから不思議だとユーノは笑みを漏らした。 「だから、そんなに謝らないで欲しいな 僕も、今日のこの日を楽しみにしてたからね」 スバルの顔がぱあっと明るくなっていく。素直な子だなと改めて感じられた。 「はい!今日はあたしのわがままに付き合ってもらってありがとうございます!」 「うん、それでよし」 きっと尻尾があったらブンブンと振っているのだろう。見ているだけで人を和ませるのは稀有な才能だとユーノは思う。 「じゃあ、とりあえず歩いて回ろうか」 「はいっ!」 二つの人影は人込みに融けてゆく。 「これがクリスマスなんですねー」 ユーノ先生から話には聞いてましたけど人が多いですね、興奮したように言うスバル。 電飾やネオンがキラキラ眩しいです、と続ける。 賑やかな海鳴市の中心部を二人で散策する。 きょろきょろと物珍しそうに辺りに笑顔を振りまくスバルをユーノは傍らから微笑ましそうに見守っていた。 恋人というよりはお転婆娘と、その手綱をさばく父親といった印象だっが、 その調和の取れた二人の様子は否応なしに人目を引いていた。 一瞬厳しい視線を感じたような気がしてユーノの背中に悪寒が走ったが、 露店の香具師や道行くカップルからの温かい視線がこそばゆい気持ちにかき変えてくれた。 「ユーノせんせっ!これなんですか?」 ユーノが少し目を離すとスバルは雑貨店のショーウィンドの中を指差し手を招いていた。 リードを放すと興味のまま自由奔放に駆け回る子犬のようなスバルを見て、 将来この子と付き合う人はきっと大変だろうなあと他人事のように思ってしまう。 「ああ、これは……クリスマスツリーの飾りみたいだね」 「これは?」 「電飾だね。これもツリーの飾りだよ」 当日にこんなに売ってどうするんですかと無粋、ある意味純粋な質問に苦笑い。 「せんせ、これは?」 興味を一向に失わないで矢継ぎ早に質問を放つスバルに、ユーノは提案した。 「外は寒いから、ちょっと中覗いてみようか」 「うわー」 赤と緑のクリスマスカラーと電飾に彩られた店内をぐるりと見渡す。 「あ、これかわいー」 スバルは手近な小物を取り上げてうっとりと悦に浸った。 つい忘れがちになってしまうが、こういった光景を目にするとスバルが一人の女の子であるのを再確認させられる。 「雑貨店は見てて飽きないですね」 「そうだね。こうもいろんなものがあると、発掘者魂が奮われるよ」 うんうんと鼻息荒くユーノが返すと、なんですかそれとスバルに笑われてしまった。 検索魔法を使えば商品目録なんてすぐに作れるのだが、やはり気に入った一品を直接探し出す喜びは大きいもので、 そういえば無限書庫の書物をまともに読んだことなんてあったっけな、と思考が脱線しそうになったが、それはそれ。 今はスバルを案内するのが僕の最優先すべき仕事だ、とユーノは自分に言い聞かせた。 ゆっくりと雑貨を物色していると、ユーノの視界に珍しいものが留まり、ふと足を止めた。 「ん?これは……」 「先生、この知恵の輪みたいな鎖がどうかしたんですか?」 ユーノが目を向けた先には、八つの銀色の細い輪っかが一つに纏まったものが鎮座していた。 「お、お兄さんお目が高いね」 温和そうな店の主人が奥から声をかけてくる。ユーノは生業でしたから、と答えそうになり口を噤む。 「これは、パズルリングですね。でも……」 「おお、若いのによくしってるなぁお兄さん。でも、その指輪はどうも造りが特殊でね。 仕入れた時はちゃんとしてたんだけど、一旦崩れてしまって戻せなくなったんだよ」 「む、ちょっと弄ってみていいですか?」 「もちろん」 かちゃかちゃと細い指で器用に輪を組んだり取ったりするが、ユーノの顔はどんどん険しくなってゆく。 「ん、これなら……あ、駄目だ」 「ははは、そんな簡単には解けないよ」 「いや、ここをこうすれば……」 「おお、新しいやり方だね」 盛り上がる二人の漢にすっかり置いてけぼりになったスバルは人知れず頬を膨らませるのであった。 「そりゃあ、今日はあたしの案内じゃなくて先生の息抜きの日ですもんねー」 「す、スバル……本当に悪かったって」 数十分格闘しても結局解けなかったパズルリングは、絶対に組み立ててやると珍しく躍起になったユーノが買い取った。 一方その間ほったらかしにされていたスバルは、クリスマス案内依頼が自分の我侭であった事実をもってしても、当然面白くない。 店から退却したのも、パズルリングからやっと目を離したユーノがこれまでにないスバルの不機嫌な顔に気付いたからだった。 すたすたとユーノの一歩半前を歩いてゆくスバルを、ユーノは必死に宥めようとしていた。 「いえいえ全然気にしてないからいいんですよー。そのパズルリングの方が大事ですもんねー」 「う、いや、スバルだって僕の大事な教え子だって!」 「でも、そのパズルリングよりは大事じゃないんですよねー」 朴念仁ユーノの殺し文句もあっさりかわされる。 別にそれと意識して言った言葉ではなかったが、ユーノは本能的にこれ以上の説得は難しいと感じた。 「翠屋のケーキセット」 ぴくりとスバルの足が止まる。 「更にクリスマス150皿限定販売のケーキ」 ふるふると体が震える。 「予約しておいたんだ」 その一言にやっとスバルは恨めしそうなぶすっとした顔でユーノに振り向いた。 「あたしって、そんなに食い意地張ってるようにみえますか?」 リイン曹長と同等に扱ってませんかと恥ずかしげに半眼で睨むスバルに、ついユーノは怯んでしまった。 流石に拙かったかと真面目に凹むユーノに、スバルは続ける。 「アイスケーキも、ありますよね?」 噴出したユーノをスバルは顔を赤くして追いかけた。 * * 「ふ、ふふふふ、去年約束をすっぽかしておいて、女の子引き連れてるなんて、なかなかいい度胸してんじゃない。ぶち殺すわ」 「あ、アリサちゃん!落ち着いて!明日こってり絞ればいいんだから!!」 クリスマスパーティーの為に買出しをしていたアリサとすずかの二人がユーノとスバルを視認、翌日ユーノは地獄を見る。 * * クリスマス・イブから数日後、機動六課内 「あれ、スバル、そんな指輪してたっけ?」 「え、あー、これ?えへへ、クリスマスプレゼントにユーノ先生から貰ったんだー」 「……ねぇ、フェイトちゃん、はやてちゃん。私たち、何か貰ったっけ?」 「……ううん」 「……なーんも」 三人の無限書庫乱入まで、後5分のことだった。 13スレ SS スバル スバル・ナカジマ ユノスバ ユーノ ユーノ×スバル ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/231.html
続・クビになった司書長 作者:/2uYOvk7 ■残された人達■ 「ユーノが管理局を辞めた!?」 任務を終え本局へと帰還した次元航行船クラウディア艦長、クロノ・ハラオウン提督は 半月ぶりに会う母親リンディ・ハラオウン総務総括官から開口一番に ユーノ・スクライア司書長解任に関する一連の事態を聞かされた。 管理局上層部の頭の固さに憤るクロノであったが、 ふと現在の管理局の実質上のトップがかの三提督であった事を思い出しそれについて尋ねるが、 母親は無念そうに首を振るだけであった。 どうやら管理局上層部でユーノの働きを評価していたのは今は亡き最高評議会のみで、 あとは三提督すら大した評価をしていないらしい。 どうも現場主義で現在の地位まで駆け上がった三提督は元々後方を軽視する傾向にあり、 先のJS事件においてのユーノの働きは評価にすら値してないらしい。 「それで、無限書庫は今どうなっているのです?」 予想外の三提督の人となりに衝撃を受けるクロノだが、どうにか気持ちを落ち着け書庫の現状を尋ねる。 クロノが現在の地位にあるのは自身の実力であるが、 無限書庫からの情報は決して無視できるものではなかった。 であるからユーノ不在の無限書庫がどうなっているのかが気になるのも道理である。 「ユーノくんが辞めた後、ハルミトン副司書長以下29名の民間司書は全員管理局を辞任。 ホスロー司書長補佐が新たに司書長に就任、穴埋めに事務員が20人ほど追加されたぐらいね」 穴埋めになってねー! と頭を抱えるクロノと対照的にリンディはユーノが辞めた事を残念がってはいたが、書庫の現状を困ってはいなかった。 「はい、クロノ。これがユーノくんがここを辞めた理由」 そう言って彼女は本型デバイスを息子に差し出す。 「これは?」 「ユーノくんの11年間の成果、 無限書庫と連動しあらゆる情報の閲覧と資料の製作を可能とした現在のロストロギア、 デバイス『百科事典』。もう書庫の司書は魔導士なら誰でもできる職業なの」 母親の言葉が自身の脳内に浸透すると共に、クロノは『百科事典』起動させる。 「実際、無限書庫の司書の給与が高騰していたのは事実だわ。 書庫への予算が艦隊維持費の3割近くもあったから、 書庫の区画整備の完了とコレの完成はユーノくんや他の司書たちのような特殊技能保有者を、 上層部は必要としなくなった」 母親の独白を聞きながらクロノはこのデバイスの機能を次々とチェックしていく。 たしかに、これなら最早管理局はユーノ達のような高給取りを必要としないだろう。しかし、 「ココを辞める事は無いじゃないか、ユーノ……」 ここ半年以上も顔をあわせていない親友に、言いようも無い寂しさを感じるクロノであった。 「……ねえ、クロノ。あなたユーノくんと最近仕事以外で顔をあわせたことあったかしら?」 「? いえ、ここ半年ほど直接会うこと事態皆無でしたが」 クロノの答えに、やはりと表情を暗くさせるリンディ。 「それが、何か?」 「ええ、実はユーノくんへの第8資料室室長補佐の辞令が出た際に、 こっちで今度再編される機動6課への編入手続きをとったのだけど、固辞されてしまったわ」 この言葉に驚くクロノ。 しかし母親がそういった根回しをしていてくれたことは安心できたが、 ユーノの態度は理解しがたいものがあった。 閑職しか行き場がなくて辞めるのならわかるが、 なのはら旧知の人間のいる職場があるのに何故辞めるのか、と。 「その時初めて気が付いたのだけど、ユーノくん、私のことをハラオウン総括官と呼んでいたわ。 レティもロウラン提督って」 むかしはリンディ提督と言っていた気がする。 そしてクロノも気付く、ユーノが自分をなんと言っていたか。 『ああ、またかハラオウン艦長』『良く飽きないね、毎回毎回これだけの資料請求してさ、ハラオウン提督』 確か数年前から名前で呼ばれていない気がする。 多大な資料請求をする自分への嫌味でそう言っているのだと思っていたが、 良く良く思い返せば何度か仕事以外であった時も名前ではなく性を呼んでいた。 自分は数少ない信頼できる親友だと思っていた。 だが、それは自分の一方的な勘違いではなかったか? 依頼を終えても言葉一つ、局内でのフォローも無く、 知己もコネも無い彼に一体自分がどれほどのことをしていただろう。 「その顔だと、あなたもね。私たちはこれっぽっちも気付いていなかったけど、 いつからかユーノくんから見た私たちとの関係は仕事上以外の何ものでもなかったのね……」 先日、ユーノが管理局を離れる際に無限書庫では盛大に壮行会が行われたと聞いている。 11年前、家族同様の交友をしていた少年はいつの間にか遥か遠い場所に立っていた。 そこでの仕事仲間は数年、 されど毎日のように侵食を共にした少年にとって家族のようなものになっていたのだろう。 リンディ自身、ユーノへの付き合いが無かったとは思わない。 しかし彼女らへの手の入れ方と比べると、やはりそれは薄っぺらいものではなかったか? そうも思えるのだ。 だからこそ、ユーノは無限書庫での仕事が終わると共に管理局を辞めたのではないか? 傍らの息子の落ち込みっぷりを見ると、 このことを彼女達に告げるのはつらい仕事になりそうだと溜息をつく。 しかし、それこそが年長者たる自分達の仕事だと理解していた。 「でもあの子達、それなりにユーノくんへ好意を持っていたと思ってたけど、 そんなに会っていなかったのかしら?」 19スレ SS クロノ・ハラオウン リンディ・ハラオウン 追放系
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/352.html
ミッドチルダの白い魔王とベルカの白い魔王 作者:◆kd.2f.1cKc それは、機動6課が解散して2ヶ月ほどが経った時の事だった。 無限書庫司書長、ユーノ・スクライアが失踪した。 司書長室の机の上に『退職願』の封書だけを残して、忽然とその姿を消した。 無限書庫は10年前まで、長年放擲されてきた。管理局の人事システムの致命的かつ構造 的な欠陥から、優秀な文系魔導師が輩出されないことが原因だった。その再稼動が可能に なったのは、外部からその適性を持って参加した彼のおかげと言って過言ではない。 最初、無限書庫の司書たちを含めた、彼に極近しい者だけが大騒ぎをし、時空管理局の 大勢は一部門の管理職──しかも、雇用形態上は民間協力者(嘱託)──の失踪、程度に考 えていた。 しかし──である。その為に無限書庫の資料検索速度は、再稼動後の最盛期の30%にま で落ち込み、しかもいまだ未整理の資料区画の新規検索は完全にストップしてしまった。 これにより時空管理局の業務効率は著しく下がり、また局員の生命リスクは極端に上が った。 こうなると上へ下への大混乱である。 原因追求を始める、彼に近しかった人物達。 まず槍玉に挙げられたのが、無限書庫に1人でその4割に達するとも言われる大量の検索 依頼を出す、某提督・巡航艦『クラウディア』艦長。 彼1人のおかげで無限書庫の労働環境はきわめて劣悪となり、ユーノ以下司書全員が有 休も代休も溜め込んでいる状況が続いていた。 公式には要因のひとつでしかないとされたのだが、結果彼はつるし上げを食らった。ク ラナガンを歩けば突然桜色の砲撃を受けたり金色の砲撃を受けたり、S2Uにウィルスを仕 込まれたり、クラウディアの艦長席が木製のベンチに換えられたり、非番で家へ帰れば3 食カップめん(しかもノーブランド3個入り108円)という悲惨な有様に置かれた。 だが──確かに、彼の行動もその要因の一旦ではあったが、根本は別の所にあった。 「ユーノ君……寂しいよぉ、早く帰ってきてよぉ……」 「ユーノ……心配だよ、早く元気な顔を見たい……」 ユーノに極近しい──と言われていた彼女たちは、日毎口癖のように、そう繰り返して いたが、その彼女たちも、原因の根本は解らずに居た────。 ユーノ・スクライアは、久々に自由を満喫していた。 第197管理外世界、クライシール恒星系第4惑星コルドバ。 惑星環境的にも、文明進化度も地球とほとんど同じこの星は、しかし、人口が惑星全体 で5億人ほどしかおらず、自然が多く残されていた。 地球の西欧寄りの文明スタイルのこの星だが、実はもうひとつ、地球と決定的に異なる 点があった。 科学中心の文明ながら、魔法技術が完全には廃れていない点である。 しかもその魔法形態は、驚くべき事に古代ベルカ式であった。 おそらくは古代のベルカから、この地に技術が流出したのだろう。 もっとも受け継がれているのは技術と言うより理念のようなもので、ある種の信仰のよ うなものらしい。 その為、この世界は管理外のままだった。 その時ユーノは、管理局入り前のデフォルトだったスクライア民族系の旅衣装──ズボ ンは長ズボンになっていたが──の姿で、広がる草原に寝転がり、風を楽しんでいた。 と、言っても小ぢんまりとした街の郊外であり、辺りに獰猛な大形肉食獣の存在はない。 本音を言えば管理世界の遺跡探索をしたかったユーノだが、それをやればたちどころに 管理局に居場所が割れてしまう。 その為、管理外世界を転々としてきたのだが、このコルドバには1ヶ月近く滞在してい た。 古代ベルカ式がこの地に伝えられた頃の遺跡が点在していて、それがユーノの探究心に 触れたからである。 ────本格的に発掘調査したいなぁ コルドバにおいて、丁度日本とほぼ同緯度にあるこの地の、春にあたるのだろうか、う ららかな陽気とさわやかな風の中で、半分まどろみながら、ユーノは思う。 ────でも、管理世界へ行って、ATMを使うわけにも行かないしなぁ 笑顔が苦笑気味になる。 司書長時代にはほとんどプライベートでお金を使う事もなく、銀行の口座には大量の額 が残っている。 だが、キャッシュカードやクレジットカードを使えば、これまたいっぺんで足がつく。 できるだけ管理局や、その周囲とのしがらみを断ち切って、しばらくは過ごしたいユー ノだった。 そもそもユーノは、時空管理局と言う組織にそれほど執着があったわけではない。 それに無限書庫にも、言ってしまえば知的欲求以上の執着はなかった。 だから正規雇用ではなく、民間人扱いの嘱託として勤めていたのである。 では、なぜそもそも無限書庫に勤めだしたのか。 単純に知的欲求もあったが、何より、管理局員であるなのはや、フェイト、はやて達を 後方から支援する、ということが最大の目的だった。 特になのはには、レイジングハートを与え、魔法とは無縁の生活を送っていた彼女を、 ジュエルシード探索と言う危険に晒す事になった時、『どんなお礼でもする』と約束して いた。 それに、あの頃から長年にわたって、ユーノはなのはへ恋心を抱いていた。 闇の書事件の頃の幼かった恋心は、ユーノが青年へと近づくにつれてより深い思慕へと 変っていった。 だが、それと負の比例の直線を描いて、ユーノとなのはの、実際の関係は疎遠になって いく。 なのはにはユーノの知らない仲間ができ、また逆も同じだった。 それでもしばらくは、精神的にはつながっていると思っていた。 だから、ユーノ自身はプラトニックを貫いていた。 だが、それとは対照的に、なのははフェイトとの関係を深めていた。 なのはとフェイトは同性のはずである。しかし、その関係はただの友情と言うには度を 過ぎていた。 管理局の対外宣伝の意図もあって、芸能人とほとんど同じノリでアイドル化されている 2人だが、故に百合カップル説が流れるのも当然の状況だった。 しかも、2人はそれを否定していない。 ユーノ自身、少ない暇を見つけて、なのはと顔をあわせた際に、「こんな話が流れて、 大変だね」と、その時は純粋に心配して声をかけたのだが、その時のなのはの答えは「そ んなことないよ」。なのはのことだが、ユーノに心配をかけまいとしようとしたのかもし れないが、それにしては、その笑顔は妙に楽しそうだった。 自分1人が蚊帳の外に置かれている。そんな気持ちも頭をもたげ始めていた。 それを決定的にしたのが、JS事件だ。 この事件において、無限書庫は『ゆりかご』の構造や能力などを含めた、多量の資料を 提供、その解決に多大な貢献をした。と、ユーノは思っていた。 第三者の立場から客観的に見ればそれに間違いと言って良いだろう。 だが、実際に管理局が行ったのは、“奇跡の部隊”として機動6課の功績を大々的に称 えるものだった。 ユーノの名前など、ついぞ出てこない。いや、そもそも裏方の仕事だ、対外的にはそれ でも構わない。 だが、管理局内部でも、決定打のひとつを出したはずの無限書庫の評価は、前と比べれ ば多少は上がったか、という程度でしかなかった。 司書の増員と、ユーノの臨時昇給が行われたが、どちらも雀の涙も良いところだった。 しかも前者は、ユーノが無限書庫司書長となる以前から、繰り返し要求していたものであ る。しかも、実際に増員された司書の数と、魔導師としての能力では、焼け石に水にすら ならない程度のものだった。 もし、ユーノが、無限書庫と言う職場に強い執着を持つ人間であったのなら、司書たち と共謀してストライキでも何でも強硬手段に訴えていただろう。 だが、実際にはまったく逆だった。 『自分の行っている仕事とその能力は、これだけの事件でも非常に低い評価しか受けない』 『つまり、自分はここにいてもなのはの役にはたっていない』 と、ユーノはそう、自分を評価してしまったのである。 極めつけは、ヴィヴィオを預けられた事である。 確かにユーノは内勤だ。だが遊びで管理局にいるわけではない。 にもかかわらず、なのはがユーノにヴィヴィオを預けるという事は、それだけ無限書庫 はたいした仕事をしていない部署だと、つまりはなのは自身もそう思っている──と、ユ ーノは感じた。 それを裏付けるかのように、なのははユーノに、自分は忙しいからとヴィヴィオの授業 参観を押し付けたりした。 ただ、ただ最後に、ヴィヴィオがユーノの事を“ユーノパパ”と呼び始めたので、それ に一縷の望みが繋がったと思った。 だが、なのはは、本人達の前でその言葉を聞いても、少し困ったような苦笑で『ヴィヴ ィオはユーノ君によく懐いてるね』と言うだけで、結局それ以上の進展はなかった。 いっそなのはへの恋愛感情を吹っ切ろうと、ただ過去のしがらみの付き合い同士になれ ば楽になれるだろうと、無限書庫有志の合同コンパに無理を言って参加した。 そこでは、少し民間企業の、年下の小柄な女の子と話が合った。だが、それ以上の進展 は特になかった。 コンパから3日後、本局内官舎の自宅に戻ったら、待ち構えていたなのはにいきなり問 答無用でディバィンバスターを撃ち込まれた。 ユーノ自身は、例えブラスター3のSLBでも2発ぐらいまでなら凌いでみせる自信がある が、室内の方はメチャクチャだ。ない暇見つけて収集した史料や書き溜めた論文は文字通 りの灰燼に帰した。 ユーノの中で、何かが一線を越えた。 確かにユーノはなのはを魔法の世界に引きずり込んだ張本人だ。そのお礼と言うか、償 いはどんな事でもすると言った。だが人格否定までされるほどの事だろうか。そもそもそ の後も魔法と付き合っていくことを決めたのはなのは自身じゃないのか? 本来ユーノの 所有物だったはずのレイジングハートも完全になのはの私物にされたような気がする。そ の上で更に、自由に恋愛する権利すら与えられないのか。趣味を持つことも許されないと 言うのか。 そしてそんななのはを重用する管理局に、ユーノは軽視されている。 もう限界だ。 こんな所にはいられない。 ユーノは管理局での身分を捨てて自由になる事を決めた。 その日のうちに無限書庫に戻ると、退職願をしたためてそれを机の上に残し、管理外世 界を放浪する旅に出た。 「この世界は空気が合いそうだなぁ……」 ユーノは、まだしばし、惑星コルドバの風を愉しんでいた。 すると。 「うわっ、すげーっ」 という、子供──日本の小学生ぐらい──の、声が聞こえてきた。 ユーノは、その声に気になって、身体を起こし、声のした方を向いた。 すると、何人かの同年代か、それより年下の少年少女が集まっていて、そのうちの1人 の少女が、周囲に請われて何かをやって見せている。 「じゃ、じゃあ次、これ斬って見せてくれよ」 そう言って、声の主の少年が取り出したのは、缶詰食品の空き缶だった。 「うん……やってみる」 少女は言う。その手に持っているのは、農業用の支柱を短く切り落としたような、細い まっすぐな棒だった。 少年は確かに、缶を斬って見せてくれ、と言った。だが、あれでは斬るどころか、叩い て変形させる事すら不可能だろう。 ユーノが、どうするのだろうとそれを見ていると、少女が口元で、何かを呟いた。 キィン 「!」 少女が棒を握っている手元に、刀のつばの様に、桜色の光で、正三角形の頂点に円が描 かれるベルカ式の魔法陣が現れた。そして、棒全体が魔力を帯びて桜色に光る。 「いくよ」 少年が、缶を片手で握りつつ、合図する。 「良いよ」 少女は頷いて、そう答える。 「そらっ」 少年が軽く缶を放る。 カツンっ 棒が缶を捉えて振りぬかれ、缶は上下に真っ二つになった。 「彼女は……」 僅かの間、それに見とれてしまっていたユーノだが、はっと気がついたように、立ち上 がって、少年達のグループに近づいていった。 「ごめん……ちょっと、良いかな?」 ユーノは、少女の傍に近づき、彼女たちに声をかけた。 「お姉さん、誰?」 缶を持っていた少年が、先ほどとは一転、醒めた表情で、ユーノにそう、訊ねてくる。 ユーノは、精神に986ポイントのダメージを受けた。 「お兄さんだよ、僕は……」 苦笑しつつそう言ってから、缶を両断した少女に顔を向ける。 「君、今使ったのは、魔法……だよね?」 「え、そうですけど?」 どちらかと言うと、なにを当然のことを言ってるんだ、と言うように、小首をかしげな がら、聞き返してくる。 髪は、女の子にしてはばっさりと思い切り短くし、男性のスポーツ刈りとまでは行かな いものの、後ろ髪は大胆に刈り上げている。 そして、集団を作っていた他の少年達も、少女と同じような顔をしていた。 「魔法以外で、どうやってこんなコトができるって言うんだよ」 缶を持っていた少年が、呆れたように言う。 「そ、そうだね……」 ユーノは、少し引きつった笑みで決まり悪そうに言ってから、 「でも、君もさっき、この子の魔法、凄いって言ってたじゃないか」 と、あくまでやんわりと優しく、反論する。 「そりゃ、俺たちぐらいの歳で、こんなことできればすげぇに決まってるじゃん。しかも、 ツールも使わないんだぜ?」 少年は、まるで自分のことのように、自慢げにそう言った。 「ツール?」 「なんだぁ、お兄さん、大人なのに、そんなこともしらねぇのかよ」 「魔法を使うための道具だよ。剣型とか槍型とか、杖型とかあるの」 缶を持っていた少年が呆れたように言い、別の、より幼い少女が、そう説明した。 「ああ、デバイスの事か……」 と、ユーノは、彼らに聞かれないよう、小声で呟いた。 ベルカの伝播はこの世界では数百年以上昔のこと、どこかで言い方が変ったのだろう。 「じゃあ、君は魔導師になるつもりなのかな。あ、ベルカ式だから、騎士かな」 ユーノは、笑顔に戻って、少女を聞く。 「いえ……その……」 だが、そうすると、目の前の少女は、顔を伏せがちに、言葉を濁す。 周りの少年達も、気まずそうな表情をした。 「魔法の勉強をするには、聖魔騎士系の学校に通わなきゃならねーんだけどよー」 「聖魔騎士団にたくさんお金を寄付しないと、入れないんだよ」 そう、説明する声が聞こえてくる。 聖魔騎士団──騎士団と名乗ってはいるが、実際には、この世界で儀式化したベルカ式 魔法の管理を行っている国際団体だ。と言っても管理局のように強権を伴っているわけで はなく、規格の維持と騎士同士の交流会・互助会のようなものに過ぎない。 とは言え、団体あるところに利権あり、というのは変らない。ここにお墨付きを貰って 高度な教育を受けるのは、多額の金銭を要求されるのだろう。 「フツーの家の子供には、無理だよなー」 「ミレイおねーちゃん、魔法たくさん使えそうなのにね」 「……なるほど」 ユーノは、呆れ混じりの口調で上を見つつ、そう言ってから、 「それじゃあ……提案なんだけど」 と、にこり、と優しげな笑顔を満面に浮かべて、言う。 「はい、なんでしょう?」 ミレイと呼ばれた、その少女は、キョトン、としてユーノの顔を見て、小首をかしげる 仕種をする。 「少しの間……僕が、君に魔法を教えてあげようか。それに、デバイス……ツールって言 うのも、簡単なものなら、用意できるよ」 「えっ、えっ?」 ユーノの提案に、ミレイは目を真ん円くした。 「お兄さん、魔法使えんのかよ!?」 少年が、驚いたように聞いてくる。 「もちろん」 そう言うと、ユーノは、右手を天にかざし、その足元に、エメラルドグリーンの光の、 ミッドチルダ式の魔法陣を出現させ、空駆動させた。 「君達のベルカ式とは、少し違うんだけどね。でも、ベルカ式の知識も、たくさん持って る。ここの学校に行くより、高度なことも教えられるよ」 少年達は、ユーノが出現させた魔法陣に、一様に目を円くして、「おおっ」とか、「スゲ ー!」とか言い始めた。 そして、ミレイも同じように、目を円くしていたが、やがて、ユーノに向かって、1歩 近づき、身を乗り出すようにしてくる。 「あっ、あの! お願いします!」 と、声を上げる。 「私、この力で、人の役に立てるようになりたいんです! お願いします、お礼は何でもし ますから!」 「!」 ユーノは、ミレイの情熱的な態度に、既視感を覚えた。 その瞳に湛える、強い意思と、秘めたる強大な魔力。 容姿こそ、どんぐり眼だがやや釣り目がちの目尻に、髪は、女の子にしてはばっさりと 思い切り短くし、男性のスポーツ刈りとまでは行かないものの、後ろ髪は大胆に刈り上げ て、と、イメージがかなり違う。しかし、思い起こさせるのは、確かにユーノと出会った 頃のなのはの姿。 「…………解ったよ」 ユーノは、僅かに苦笑混じりに笑って、そう言った。 おこがましいのは解っている。だがこの子を、ミレイを導かなければならないような気 がした。 「じゃあ、しばらくの間、ミレイの先生になってあげるね。いつまでいるかはわからない けど、教えられる事は、全部教えるよ。……僕は、ユーノ・スクライア。よろしく」 ユーノは、握手を求めるように、ミレイに向かって右手を差し出した。 「私は、ミレイ・FSC・ジムニーと言います。よろしくお願いします、先生!」 これが、ユーノ・スクライアと、魔法少女・ミレイとの出会いであった。 ミッドチルダの白い魔王とベルカの白い魔法 PHASE-01:魔王製造機(邂逅編) 42スレ SS アンチは念のため アンチ・ヘイト オリキャラ ユーノ・スクライア 魔王製造機
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/349.html
カエサルの物はカエサルに(仮) 作者:ID l5q3X/zB 無限書庫はデータベースである。 納められているのが書籍の形式であったりその名称から、たまに忘れそうになることであるが。 依頼され検索されたデータは発見された時点で等級化され、 情報ランクが高くなればアナログ形式・所謂書類の形で出力され直接手渡しとなる。 そんな訳で、無限書庫司書長の肩書きを持つ若き考古学者ユーノ・スクライアは 依頼されたデータを持ってクラナガンにある機動六課のオフィスへとやって来た。 ここの部署はトップから中核を構成するメンバーの大半が顔見知りなので、 彼にとっては久しぶりに友人に会うことも兼ねていた。 「はい、これが頼まれてた資料ね」 ユーノは脇に抱えていたブリーフケースから依頼の品を取り出した。 どん、という音を立て部隊長である八神はやての執務机に十数センチはあろう紙の束が積まれる。 「…お、おおきにな」 そのあまりの量に、珍しくはやての顔が半分ひきつっていた。 確かに依頼したのは自分とはいえ、この量を定時の直前に見せられれば気も滅入る。 (うぁ、今晩は徹夜かなぁ) 心でため息。 「さて、と」 ちらりと時計を見たユーノは机に背を向けた。 「ん、ユーノくんもう戻るんか?」 「あ、せっかくだからなのはとフェイトに挨拶はしていくよ」 はやての問いに、ユーノは当たり前だと言わんばかりで答えた。 「あ、ならここで待っときや。そろそろ報告やなんやで丁度二人とも顔見せる頃やし」 「あ、そうなんだ」 それであっさりとソファーにとって返すユーノ。 それから五分ほど経過しただろうか。 はやては渡された書類に軽く目を通しながらも、他愛ない会話をユーノと続けていた。 仕事のそれではなく、気兼ねない友人のそれ。 そこを、軽くドアをノックする音が遮る。 「お、噂をすれば」 はやてとの形式通りのやりとりの後、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが課長室へと入ってくる。 「あ、ユーノくん!」 「お疲れさま、ユーノ」 その二人はユーノの顔を見ると、どことなく嬉しそうにやって来る。 「うん、二人とも元気そうでなにより」 久しぶりに友人に会ったからか、ユーノも嬉しそうに小さく笑う。 「今日はどうしたの?」 「頼まれてたものを届けに」 「でも本局からはいつも大変でしょ?」 「う~ん、確かに手間だけど、セキュリティ面からすれば当然の処置だからね。でも…」 「「「? でも?」」」 途中を思いもよらぬ言葉で切ったユーノに、彼女たち三人の追求はつい重なった。 彼は軽くその三人を見渡して続ける。 「でもこうやってみんなに会えるんだから、僕としてはむしろ嬉しいよ」 「「「っ!?(////)」」」 裏のない穏やかで爽やかな笑顔と共に繰り出されるのは、シンプルかつ絶大な破壊力を秘めた殺し文句。 それなりに(むしろ高い?)好意を抱く相手に正面からそう言われ、 なのはもフェイトもはやても思わず頬を赤く染めてしまう。 「? どうしたの皆?」 急に黙り込んでしまった友人たちを不思議に思ったのか、ユーノは少し顔を傾げて問い掛ける。 それは実に何気無い仕草ではあったが、 今の三人には追い討ちに等しい。 「ななな、なんでもないよっ、なのっ!!」 「そ、そううんそう、なんでもないよなんでもないのゆうの!」 「ゆゆゆうのくんはわ、きにせんといてやっ!」 誰がどう見ても挙動不審であったが、 「…うん、わかったよ」 ユーノはとにかくそれ以上は聞かないことにした。 ただの小さな気遣いではあるが、どう見ても好感度アップです。本当に(ry 「うん、とりあえず二人にも挨拶したからそろそろ…」 逆においとましようと彼はソファーから腰を上げた。 「え、ユーノくんもう戻っちゃうの?」 「やっぱりまだ忙しいんだ…」 早めに会っていた分、多少弾んだ会話を交わしたはやてとは異なり、 今来たばかりのなのはとフェイトは残念そうで寂しそうな声と顔を彼に向ける。 「ん? いや僕は今日はこの時間にクラナガンへ行くってことで、シフトは直帰だから」 今は特に忙しいってことはないよ、と返すユーノ。 「そうなんだ!」 彼の返事を聞き、なのはの顔にはばぁっと笑みが咲いた。 「じゃあ今から一緒に夕ごはんにしよう?」 そう言ってユーノの隣へと小走りに駆け寄る。 「え、なのはたちがそれで大丈夫なら僕は構わないけど…」 「大丈夫だよ!」 なのはより先に彼の問いに答えたのはフェイトだった。 言葉の次にはもうユーノの隣、なのはの反対側まで詰めている。 「え、ええと、それじゃあお言葉に甘えて」 「うん!」 「じゃ、行こう!」 了承の意を返した途端、そのまま両脇の二人に急かされるように背中を押され、ユーノは部隊長室から吐き出される。 「……」 友人二人のあまりの早業に反応出来ず、取り残されたはやて。 ややあって自我を取り戻すと、次に彼女が視線を向けたのは己の机にうず高く積まれた書類の山。 「…こないな量、1日のエネルギー使いきった後で捌けるわけあらへんわ!!」 …それから数秒後、部隊長室に人影はもう一つもなかった。 「それでね――」 「へえ――」 「あ、後ね――」 食堂へ続く廊下を、三人で談笑しながら歩んでいると―― 「私だけ仲間ハズレなんてズルいでっ!!」 「うわっ!?」 大きな声と背中に共に襲ってきた衝撃で思わず体勢を崩し前のめりにかけたユーノだが、 幾ら内勤といえどそこまで呆けても鈍ってもいない。 もともと発掘作業はフィールドワークであり体は使うし体力勝負なのだ。 甘いマスクに加え細身の体で内勤ということで語弊を招きやすいが、 決して体力的に劣っているわけではないのだ。 特に現在の職場である無限書庫は無重力ブロックが大半ゆえに、 筋力低下を防ぐためのトレーニングは職務の一部なのである。 「…ちょ、いきなりなにするのさはやて!」 今しがた自分を襲った衝撃の結果振り向くことが出来なくなったユーノは、 声だけで自分の後方に居る人物に問う。言葉をさらに加えるなら呆れた口調で。 「そんなん私一人置いてこうとした罰や。このまま食堂まで乗せてってもらうで~」 ユーノの背中に飛びついたはやては楽チンそして役得とばかりにそこの乗車権を主張。 「は、はやてちゃん何してるの!? すぐに降りてっ!!」 事態をようやく頭が理解したのか、なのはがはやての肩を揺する。 「いやや~。私この後もまだ仕事あるんやからコレくらいええやん」 「ダメ~!! ていうかそれは仕事とまったく関係ないの!?」 さらに力を込めてはやてを引き離そうとするなのはだったが―― 「あー、このままだと落ちてまうー」 逆によい口実を得たとばかりに白々しいだけの言葉を残して、はやてはさらにユーノへと密着する。 「ちょ、はやて!?」 「!!!?」 女顔というか中性的と表現すべきか、そんなユーノではあるが性別は間違いなく男性。 加えて色々と聡い彼は、今この状態で何がどうなっているかが判らないはずもない。 ―すなわち、自分には決して存在しない二つの膨らみが思い切り背中に押し付けられていることをー 今ここにいるなのはやフェイトと比べてしまえば小ぶりと言わざるを得ないが、 それでも耐性のないユーノに対しては立派な武器になる。 「むー! なら食堂まで全力全開なのっ!!」 頬を(可愛らしく)膨らましたなのはは、そのままユーノの右腕を取って引っ張り前に出る。 「な、なのはっ!?」 今度は前方へと引っ張られるユーノ、そのままなし崩しになのはのペースに合わせて歩かざるを得なくなってしまう。 (こ、こっちもぉ!?) なのはに掴まれている右腕から伝わる感覚が、更なる熱をユーノの顔に伝える。 ユーノの右腕を抱えて早足のなのは、彼女が腕に抱えた彼の腕は思いっきり胸に密接しているのだから。 「ま、待ってよみんな!」 短時間に色々ありすぎたのか、今度はフェイトが出遅れた。 慌てて手を伸ばし、ユーノのスーツの裾をしっかりと掴んだ。 自分が出遅れて居る分、ユーノの重みが強く伝わってくる。 「…えへへ」 ―それだけなのに、どうしてこんなに嬉しいのかな。 答えの出ない問いに何故か満足しながら、フェイトは歩くペースを彼のソレに合わせるのだった。 END おまけ 以下、そんな光景を偶然見てしまった機動六課名無し職員の皆さんの会話。 A「おい、誰だあの眼鏡のインテリ系美人!? あんな人六課に居たか?」 B「バカ! あれ本局のスクライア司書長だろうが!」 A「というかあの部隊長がおっぱい揉まないだとっ!? 明日は晴れ時々ミストルティン?」 C「オマイはアホか!? スクライア司書長は男性だっ!!」 B「…確かにそう見えないって言われると否定できない気持ちは判るがさすがに失礼だぞ?」 C「何だかんだ言ってもあの人お偉いさんだしなぁ…」 A「…そっか、そうだよなぁ」 B「判ってくれたか…」 C「だがこんな会話が下手に耳に入らないうちに離れた方がいいかもな」 A「そうだよなぁ…あんな可愛い子が女の(ry」 BC「「 そ っ ち か Y O ! ! ! ! ! ! ? 」」 46スレ SS フェイト・テスタロッサ・ハラオウン ユーノ・スクライア 八神はやて 高町なのは
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/348.html
サクランボ 作者:ID QQgDGuTa ユーノ・スクライアとスバル・ナカジマは司書長室で仲良くサクランボを食べていた。 ミッドチルダのサクランボは地球のアメリカンチェリーに良く似ており、 真っ赤な色と固めの果肉が特長的である。 甘酸っぱいサクランボを食べていたスバルは、唐突にこんな話題を持ち出した。 「せんせーはサクランボのへたを口の中で結べますか?」 サクランボのへたを口の中で結べる人とか結構いるものなのだが、 これがなかなか難しいものなのである。 うまく舌を使わないとへたは口の中で結べないから、 『サクランボのへたを口の中で結べる人はキスが上手』などと言われている。 ユーノはサクランボ自体あんまり食べない人間だから、へたは口で結べない方だった。 「僕はそれ、出来ないんだよね。」 「私は出来るんですよ。」 スバルは言うやいなや、 サクランボのへたを口の中に入れてしばらくモゴモゴしてから口から取り出すと、 そこには綺麗に結ばれたサクランボのへたがあった。 へたを口に入れてから取り出すまで、二十秒と掛かっていない。 見事な舌使いである。 「へぇ、凄い!」 感心したユーノは自分もやってみようと、口でサクランボのへたを結ぼうとする。 しかし、なかなかうまくいかずに四苦八苦しているユーノを見て、スバルはニヤニヤしていた。 「せんせー、下手ですね。」 「だって難しいんだもん!」 「舌の使い方が悪いんですよ。」 「そんなこと言ったってうまく出来ないよ!」 むきになって口の中のサクランボのへたと格闘しているユーノを見ていたスバルは、 悪戯を思いついた子供のような顔をすると、ユーノの方に身を乗り出してきた。 「手伝ってあげますよ?」 「へ?でもどうやって・・・」 ユーノが疑問を言い終わる前に、スバルはユーノの口をキスで塞いでいた。 「ふぇ!?ちょっ・・・スバル、あむぅ!?」 突然のことに慌てふためくユーノを無視して、スバルはユーノの口の中に舌を入れてくる。 スバルの舌は逃げようとするユーノの舌をあっさりと絡めとると、好き勝手に蹂躙する。 「ん、ふぁ・・・あむ、やぁ・・・だめ・・・スバル!」 「あむ、くちゅ・・・せんせー、逃げちゃ駄目ですよ。」 ユーノの口の中ではスバルの舌が歯茎をなぞり、舌を嬲り、口内を陵辱していた。 舌が絡まる感触にゾクゾクしてしまい、ユーノの体から力が抜けてくると、 スバルはユーノを押し倒して上着を脱がせていく。 スバルの手でユーノの上着とシャツのボタンを外し終わると、ようやく口が開放された。 「ほら、せんせー。結べたでしょう?」 「ふぇ?」 ユーノは何のことかと思いながら呆けた顔で口の中を調べてみると、 そこにはしっかりと結ばれたサクランボのへたがあった。 どうやら今のキスの最中に結んだようである。なんという舌技。 しかし、何故かユーノは未だに押し倒されたままだった。 「あの、スバル?どうして僕を押し倒してるの?」 「いや、何と言いますか・・・今度はせんせーを食べたくなりまして・・・」 「は、はぁ!?」 スバルの発言に身の危険を感じたユーノは逃げようともがくが、力比べでスバルに敵う筈もなく・・・ 「せんせーのサクランボも美味しそうですね。」 「やぁん!?ちょ、スバル・・・そこはサクランボなんかじゃ、ひゃあ!」 「キスだけでこんなにしちゃって・・・せんせーって本当に淫乱ですね。」 「ふぁ、んくぅ!やぁ・・・僕は淫乱なんかじゃ、あぁん!!」 「そう言っても体は正直ですよ?」 「ふぁん!やだ・・・やだぁぁぁぁ!!」 そうしてユーノはスバルに美味しく食べられてしまいました。 なお、その後、某教導官や執務官や部隊長が司書長室に襲撃に来ましたが、多分有害です。 59スレ SS スバル・ナカジマ ユーノ×スバル ユーノ・スクライア 電波
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/78.html
タイトル「初めての男の子」 作者:オレオレ☆詐欺 氏 本文 思えば、小等部入学当初は引っ込み思案だった月村すずかにとって、親しい交流を持った異性といえばユーノ・スクライアが初めてとなる。八神はやて同様、本好きの縁故でその少年と当たり前に親しくなり、当たり前に友達になった。 ◆ 「どうぞ、ユーノ君」 「ありがとうすずか」 線の細い少年の柔らかい笑顔が、すずかに謝意を示す。あの可愛く賢いフェレットがよもやこんな少年とは。魔法の実態を聞かされて二ヶ月近く経つ今なお、慣れない実感である。 陽光の暖かい月村家の一室で、すずかとユーノは向かい合っていた。 本局は無限書庫という職場で働く勤労少年に時間をとってもらう事がどれほどの幸運か、まだ理解できるほどの想像力は当時のすずかにはない。 ともあれ、ユーノにとっての初めてのバレンタインデー、この2月14日に最初にユーノにチョコレートを渡したのは彼女ということになる。 「なんていうか、くすぐったいな。女の子からのプレゼントって、申し訳ないというか」 「ふふ。ユーノ君だって何度も、面白い本を貸してくれるでしょう」 面と向かって言葉を交わしたのは昨年12月の末だった。そのころの戸惑いも影を潜め、こうしてバレンタインのスケジュールを作って貰うまでには仲良くなっていたが、さすがにそれだけではまだ距離があった。 互いに踏み込んでいい距離を測っている、そんなよそよそしさがある。 せっかく初めてできた男友達なのだ。もっと仲良くなりたい。それが優しいユーノならなおのこと。このバレンタインデーが、そのよい切っ掛けとなってくれればいいと、すずかも思っていたのだが。 「ともかくありがとう。時間を作ってくれて、こんな上等なお菓子まで」 「味は保証するよ。後は甘さの程がユーノ君に合っててくれればいいんだけど」 豪奢な装丁の箱を開ければ、甘美な香りが鼻腔をくすぐる。小学生が贈る物にしては高価に過ぎる物ではあるが、それを不自然にも嫌味にも感じさせない生来の気品が、すずかという少女にはあった。ふと、ユーノは手渡されたすずかの指の違和感に気づく。 「すずか」 「なあに、わ」 「ごめん、じっとしてて」 有無を言わせず、なお乱暴にならない程度に、ユーノはすずかの手をとる。指に包帯の巻かれた、すずかの手を。 「……えーと、そのね、ユーノ君」 「火傷と、切り傷も少しか」 言うや、すずかの手を翠の光が包んだ。 「――ユーノ、君」 「じっとして」 じくじくと痛んでいた手が、治癒魔法――フィジカルヒールの光に癒されていく。暖かな光が消えるまでの少しの合間に、すずかを苛んでいた疼痛は嘘のように消えていた。 「よし。どう、痛みとかない?」 「大、丈夫。――凄い。魔法って、こんなこともできるんだ。ユーノ君、凄い」 「そう大げさな話でもないけど」 包帯を解いて、握り開いて手の調子を確かめる。ない。水ぶくれも切り傷も。まさしく『魔法』である。 「ありがとう。ごめん、ユーノ君は平気?魔法って、疲れない?」 「大丈夫。――すずか」 「はい」 いつになく真剣な表情で、ユーノがこちらを見つめてくる。普段あまり感じさせない『男性』を感じて、すずかは思わず返事を固くした。 「すずか。僕はその、すずかの友達のつもり、なんだ」 「――うん、私だって」 何を言うべきか、考えながら喋っているようだった。だが、ユーノはすずかから視線を逸らさない。 「その、こんなことぐらいなら、僕にもできるから。嫌じゃないなら、頼ってくれれば、嬉しいよ」 「――――」 怪我の理由は訪ねなかった。他人の踏み込む領域ではないと弁えているのだろう。少年は何も聞かずに、善意を示してくれる。ユーノ・スクライアは気遣いの人なのだと、改めてすずかは理解した。 「……うん、ユーノ君」 初めての男友達に対する誠意は、未熟なすずかには叶えられなかった。両手を傷だらけにしておきながら、素材をまるっきり無駄にした失敗作の手作りチョコレートなどという自己満足は、やはりユーノには相応しくない。 「待っててね」 「え」 こうなれば、意地でもこの気持ちを形に現さなければ。今年の失態は、必ず挽回してみせる。差し当たっての心当たりは、やはり喫茶翠屋店主たる親友の母君か。 「来年、待っててね、ユーノ君」 「――はい」 少女の決意に気付かない少年は、そうやって初めてのバレンタインデーを過ごした。 ◆ その少年と当たり前に親しくなり、当たり前に友達になった。 そしてすずかは、当たり前に恋をした。 以上。 即興の短編で恐縮です。大人のすずかさんは何と言うか未成年お断りの領域に踏み込んでしまいそうなので自重させていただきました。 エッチなのはいけないと思います! 他に書いてるネタはどうやってまとめよう…。 すずか ユノすず ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/245.html
* jCJZx7xu 三箇日の海鳴、私の家。 ヴィータは老人会の集まりに、シグナムはかつて剣を教えていた剣道場に顔を出しに家を出た。 シャマルは本屋に、リインは犬形態のザフィーラに包まれて居間でお昼寝。 ザフィーラも最初は寄り掛かってきて穏やかに寝ているリインを起こさないように 手持ちぶさたにしてたけど、そのうちリインと暖かい日差しにつられて一緒に寝てしまっていた。 そんな中で、私は私室で本を呼んでいた。 それも、なんと、ユーノ君と二人っきりで! 私たちは背中合わせになって床に腰掛けていた。 ユーノ君の背中は意外と広くて、背中越しにユーノ君の温かさがじんわりと伝わってくるのが分かった。 そんな状況に胸が高鳴るのが自分でも分かって、ユーノ君にこの鼓動が伝わってないか不安になった。 自分でも似合わないのはわかっとるよ! それでも私は概ね、心休まるというか、穏やかな気持ちでユーノ君に体を任せながら本を読んでいた。 「うきゃ」 突然背中の支えを失って、私はころんと床に転がり込んだ。 ユーノ君が本棚へ本を交換しようと立ち上がったからだ。 「もう、一声かけてくれてもええのに」 「ごめんごめん」 さかさまの視界の中でユーノ君が笑うのが見えた。 「はやても正月なのに引きこもりなんて、なかなかどうして、意外と陰気なんだね」 「その台詞、ユーノ君にだけは言われたくないわー」 本棚を物色するユーノ君の姿を最後に視界の端に捉えた後、腹筋に力を入れて体を起こそうとした。 しかし力足らずに失敗。 「まぁ、こんなときじゃないといつも忙しくて本も読めへんからなぁ」 寝転がったまま脇に山積みになっている本に目をやって苦笑した。 ミッドチルダや海鳴の書店で面白そうだと思ってついつい買ってきた本だけど、 結局読み切れずに溜め込んでしまったものだ。 「いつもお疲れ様、はやて」 「その台詞、ユーノ君にだけは言われたくないわー」 そっくりそのまま返す。ユーノ君がそれを言ったら嫌味にしかならないのに。 悔しいからお疲れ様とは返してあげない。 再び腹筋に力を入れて体を起こそうとする。 今度は成功した。 「でもさ、せっかくの正月なんだから本ばっかりにかまけてないで」 ユーノ君の声に顔を上げる。いつの間にかユーノ君は私の正面に回っていた。 ユーノ君は片膝を着いて目線を合わせてくる。 「少しは僕の相手もしてもらいたいんだけどね」 そっと髪を撫でてくる。髪留めをゆっくりと外された。 「ゆ、ユーノ君……」 手はそのまま下ろされて、触れるか触れないかの距離で耳の外殻を撫でられた。 こそばゆい感触に襲われて身を捩ってしまう。艶っぽく恥かしい声が自然と漏れ出した。 「ねえ、はやて?」 ユーノ君はずるい。 いつも無限書庫に掛かりっきりで全然私に構ってくれないくせに! 私が抵抗できないってわかってるくせに、わざわざ問いかけてくるなんて。 右の頬を撫でられる。上気した頬に当たるひんやりとした手が心地よかった。 頭が蕩け、吐息が熱を帯びるのが自分でも分かった。 「あ、あかんよ、リインたちが起きてまう……」 目を伏せて辛うじて抗弁する。でもそこに私の意思は入っていない。 滑るように、ユーノ君の白い手が私の顎にかけられるのが見えた。 「あ……」 顎を引かれるのと一緒に目線が上がる。 ユーノ君の翡翠色の瞳には、潤んだ私の瞳が写っていた―――― 「――――という夢やったんや」 正月二日の朝の高町家の居間には、いつもつるんでいる私たち五人娘が集まっていた。 ふふんと鼻息を漏らしてぐるりと回りを見渡す。 赤い顔で固まるなのはちゃんとフェイトちゃん。 にこにことした笑みを崩さないすずかちゃんと、 げんなりとした顔を隠さないアリサちゃん。 ついさっき見たどこぞの三文小説のような夢を思い出して、話してみた反応がこの有様だ。 四発二中。初猥談の打率は五割。中々順調な滑り出し。 「はやてちゃん。そ、その後は、ど、どうなったの?」 「な、なのは」 気丈にもなのはちゃんが問いかけてくる。フェイトちゃんはそれを諫めるが、 赤い顔でちらちらとこちらを窺っているところをみると興味はあるようだ。 昔は二人とも顔を赤くして俯くだけだったのに、最近はこういう話にも 興味を持つようになって嬉しいやら悲しいやら。 胸も膨らんできてるし、これはあれか、思春期というやつか。 「その先はとてもとても、私の口からは……」 自分で自分の身を抱いてと身を捩ると、なのはちゃんとフェイトちゃんは何を妄想したのか 更に赤くさせた顔を伏せてしまった。ふふふ、まだまだ初々しいのう。 「……で、オチは?」 「ただの夢にオチもなにもあるかい」 投げやりにアリサちゃんが聞いてきた。ちぃ、これだからムッツリスケベは困る。 「えー。関西人のくせに」 「なにその差別!?」 「まぁまぁふたりとも落ち着いて」 すずかちゃんが仲介したので仕方がなく口を噤んだ。 「でも、それって初夢だよね?」 「え」 すずかちゃんのいきなりな発言に時が止まる。え?初夢って? 「は、初夢って元旦の夢じゃないの?」 なのはちゃんが何故か焦ったようにみんなの気持ちを代弁する。 「うん。昔の日本の人は大晦日の夜は徹夜してたの。 年越しの夜のことを、夜を除くと書いて除夜って言うでしょ? だから、初夢は元日から一月二日にかけての夜に見た夢のことを言うんだって」 「そ、そんなぁ。ユーノくーん……」 「あ、で、でも二日から三日の夜もぎりぎりセーフらしいから!」 うなだれるなのはちゃんをすずかちゃんが慌ててフォローする。 除夜によっぽど良い夢でも見たのだろうか。 しかし、初夢か。そうかそうか……。 「ちょっとユーノ君起こしてくるわ」 席を立つ。不審に思ったなのはちゃんたちも一拍置いて席を立つが、追い付くにはちと遅い。 とりあえず、ユーノ君には夢のなかでめちゃくちゃにしてくれた責任をとってもらわな! 躍る心を押さえて、私は未だに高町家客室に眠るユーノ君の下に駆け出した。廊下を走る、走る! いひひ、今年はいい年になりそうや! 「ズッル!ドカッ!」わたしは転んだ。ハヤーテ(笑) 18スレ SS アリサ・バニングス フェイト・テスタロッサ ユノはや ユーノ・スクライア 八神はやて 初夢 夢オチ 月村すずか 高町なのは
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/587.html
悪魔将軍に対する成す術が無いまま…二人はしばらく沈黙したままだった…。 が、突然なのはが全身の力が抜けてしまったかのようにユーノに寄りかかって来て これにはユーノも思わず顔を赤くさせて硬直してしまった。 「ねぇユーノ君…。」 「な! 何だいなのは!?」 なのはの方からこんな事をしてくるとは夢にも思わないユーノは何故か緊張してしまう。 しかし、なのはは目を閉じてユーノに寄りかかったまま言った。 「本当に…私達二人しか残って無いんだよね…。」 「た…多分ね…。」 「もしこれで…仮に悪魔将軍を倒す事が出来ても皆が元に戻らなかったら… 本当の本当に私達がミッドチルダに残された最後の二人って事になっちゃうね…。」 「ミッドチルダ…ではね…。」 「あのね…ユーノ君…。私の世界の神話の中にアダムとイブって言うのがあるの…。」 「アダムとイブ?」 なのははゆっくりと頷いた。 「神様が創った最初の一組の男女…それがアダムとイブって言うの…。 で、そのアダムとイブの子孫が今生きてる人達って神話…。」 「も…もしかして今の僕となのはがアダムとイブとか言うんじゃ…。」 その時のユーノは思わず顔が真っ赤になってしまっていた…。しかし、なのはは黙って頷いた。 「だってそうでしょ? もし仮に将軍を倒せてもフェイトちゃん達が元に戻らなかったら… 結局ユーノ君と私がミッドチルダに残された最後の二人って事になるじゃない…。 もうアダムとイブに例えるしか無いよ…。ユーノ君…。」 「う…うん…。」 なのはに寄りかかられた状態でこの様な事を言われてしまうのだから、ユーノは気が気で いられなかった。むしろこのまま二人きりでも良いんじゃ…とか…いっそ押し倒して (ピー!!)とか(ズギャンドギャン!!)とかやっても良いんじゃ…とか考えそうになったが、 それも束の間、ユーノは凄く大切な事を思い出した。 「で…でもさなのは…。どっちかって言うと…僕達二人が悪魔将軍に殺されるか、 取り込まれる可能性の方が遥かに高かったりするんじゃないかな~なんて…。」 そう発言したユーノに対し、なのはは頬を膨らませていた。 「せっかくムード出てたのに雰囲気読んでよユーノ君…。」 「ごめんなのは…。」 「でも…ユーノ君が言った事は間違ってないと思うよ。悪魔将軍と戦う事はつまり… 私とユーノ君の二人でフェイトちゃんやはやてちゃん達全員を相手にするも同義だし…。」 「この無限書庫もいつかは悪魔将軍に見付かってしまうだろうし…。 他の世界に逃げ込んでも無駄だろうな…。悪魔将軍がミッドチルダ制圧だけで 満足するはずがない。きっと他の世界にも侵攻するはず…。」 「つまり…私達には逃げ場が無いのね…。」 ユーノは軽く頷くが…その時だった。突然なのはが抱き付いて来たでは無いか! 「嫌ぁぁぁぁぁぁ!! 死にたくないよぉぉぉぉぉ!!」 「なのは!?」 いきなり泣き付いて来たなのはにユーノは焦った。しかし、この絶望的な状況で 恐れおののき泣き出さない方がむしろ異常なのかもしれない…。エース・オブ・エースの 称号で呼ばれるなのはもやはり人の子なのだ…。とにかくユーノはなのはに泣きつかれるまま 何とか慰めようとするしか出来なかった。 「ユーノ君…私…分かった気がする…。」 「何が分かったんだい?」 「今まで私を悪魔と呼び恐れた人達の気持ちが…。」 「…。」 これが普段ならユーノも少々気まずくなっていただろうが…今はそんな気にならなかった。 なのはも本当に真面目であったし、ユーノも真面目に話を聞いていた。 「やっぱり人間って無力だよね…。私もエース・オブ・エースなんて呼ばれて チヤホヤされてたけど…いざ相手が本物の悪魔だったらこのザマ…。格好悪いよね…。」 「なのは…本物の悪魔を相手に恐れない人の方が僕は異常だと思うよ…。 だから…元気出してよ…。怖いのはなのはだけじゃない。僕だって怖いんだ…。」 ユーノはなのはの頭に手を置き、優しく撫でた。その時…なのはがかすかに微笑んだ気がした。 「何故だろう…ユーノ君といるだけでこんなに安心してしまうなんて…。 悪魔将軍が迫ってるって言うのに…こんなにも気が安らいじゃう…。」 ユーノはもうこのままでも良いんじゃないかと本当に思うようになっていた。 どうせこの様な事は二度と無いのだろうから…と、それも束の間… 「あ! そういえばユーノ君! そもそも何故ミッドチルダに悪魔将軍が出て来たの!?」 「え…? ああ…実に言い難いんだけど…何でも管理局が悪魔将軍の封印されていた ジェネラルストーンってロストロギアを回収した後、その封印作業に失敗して 悪魔将軍が解き放たれた…みたい…。」 「え…それってもしかして悪いのは管理局?」 なのはもユーノも思わず苦笑いしていた。 「それにね…実はほんのちょっと前に…なのは…君の世界で悪魔将軍が復活しかけた事が あったらしくてね…でも現在活躍中の新世代正義超人の活躍で未然に阻止されたらしいんだ…。」 「…………。」 なのはもユーノもやはり苦笑いしてグウの音も出なくなってしまった。 つまり…今回の騒動は時空管理局の不手際による物なんだと…分かってしまったからだ。 「つまりあれですか!? 私達が休暇を楽しんでいた間に管理局が勝手にミスッて 悪魔将軍を復活させてしまいましたって事ですかアラエッサッサー!!」 「偉いこっちゃ偉いこっちゃヨイヨイヨイヨイ!!」 この様な極限状態に精神が耐えられなくなったのか、はたまた単純にヤケクソになってしまったのかは 分からないが、突然なのはとユーノの二人はフォークダンスと盆踊りを足して2で割った様な 珍妙な踊りを踊り始めてしまった。しかし、その珍妙な踊りが逆に落ちかけてしまっていた 二人のテンションを再び高める効果に繋がっていた。 「もうこうなったらどんな手を使ってでも生き残ってみせるの!!」 「でも正攻法じゃどうあがいても将軍には敵わない!! と言う事で僕は もっと別の方法で挑んだ方が良いと思ってハイこの本!!」 二人ともさっきまで沈降気味のテンションからは考えられない程ハイテンションだったが、 ユーノはなのはに一冊の本を渡した。 「フェレットでも分かるゲリラ戦入門? 何かタイトルからして胡散臭い本ね~。って言うか、 著者も著者で環境利用闘法師範ガイアってこれまた胡散臭さ全力全開だし~。」 「でも…このガイアって人はなのは…君の世界におけるゲリラ戦の世界的権威なんだよ。 とにかく少ない戦力で大きな敵を打ち破るにはこの本に書いてあるゲリラ戦法で挑むしかない。 なのはだって言ったじゃないか! どんな手を使っても生き残るって!」 「うん! どんな手を使っても生き残ってみせる! フェイトちゃん達の犠牲を無駄にしない為にも…。」 「いや…まだ彼女等は死んだと決まったワケじゃないんだけどね…逆に助かる保障も無いけど…。」 それはともかくとして、悪魔将軍への対抗手段が決まり、早速二人は実行に移した。 前へ 目次へ 次へ