約 2,051,471 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2692.html
前ページ次ページZERONATORオーガン 第三話「約束のオーガンランサー」 爆発騒ぎのせいで授業は中止となり、生徒たちとその使い魔たちは教室を出ていた。 オーガンが代わりの教卓を取りに行ったので、教室にはルイズとシュヴルーズの二人だけが残っていた。 壊れた教卓を屋外へ放り出した直後、ルイズはうなだれていた。 「どうして…、サモン・サーヴァントは一回で成功したのに…、爆発しなかったのに…、オーガンを召喚できたのに」 そんなルイズを、シュヴルーズは見守る事しか出来なかった。 そこへ、新しい教卓を抱えたオーガンが戻ってきた。 「教卓を持ってきました。……御主人様」 ルイズに声をかけようとしたオーガンは、途中でシュヴルーズに止められた。 「ミス・シュヴルーズ、何を!?」 「もう少しそっとしてあげなさいな」 二分ほどして、ルイズはオーガンたちのほうを向いた。 目の周りが少しはれていた。 「どうしてかな…、昨日は成功したのに…、今日もうまくいくと思ったのに…」 オーガンは、ルイズをそっと抱きしめた。 「オーガン!?」 「御主人様、こうすれば、泣いている顔を見られる心配はありません」 ルイズは抱きしめられた状態で泣いた。 シュヴルーズはその光景を見て、そっと教室を後にした。 ルイズが泣き止んだのは、それから数分後であった。 時間は過ぎて、お昼時。 オーガンは再び人間の姿に化け(オーガンは人間に化けないと飲み食いが出来ない)、厨房で昼食にありついていた。 (メイジが魔法を失敗するところは何度も見たが、主のように爆発が起きた事は無かった。こんな時、フレッシュ・オスマンがいてくれたら…) マルトー親方の料理に舌鼓を打ちつつも、悩むオーガンであった。 そんなオーガンの悩みをよそに、シエスタがオーガンに話しかけた。 「オーガンさん、お味はどうですか?」 「今朝同様とても美味しいよ。中でも「テンドン」は格別だ。親方さんの腕には感服するよ」 人間に化ける能力を習得してから、色々なものを食べてきたオーガンだったが、あいにく「天丼」にはお目にかかっていなかった。 「あらら…」 「まいったなぁ…」 オーガンの正直な感想に、シエスタとマルトー親方は困ったような笑顔を見せた。 「? シエスタに…、親方さん?」 「その、実はな、お前さんに出したメシの中で、テンドンだけは半分以上シエスタに手伝ってもらったんだ」 マルトー親方のその一言で、オーガンは見事に固まった。 「おーい、どうしたー!」 しかし、マルトー親方の必死の呼びかけですぐに正気に戻った。 「はっ!」 「おお、元に戻ったかぁ!」 「すまない、必要以上に驚いてしまった」 「まぁ、気にするな」 「それにしても、親方さんの腕でも難しいものなのか、テンドンは…」 「難しいどうこう以前だな。ダルフ村の名物料理の中でも、作り方が特殊なことで有名な「ドンブリモノ」の代表格でな、まだコツを掴みきれていないんだ。特に「ベイハン」と「コロモ」は未だに一人じゃろくなモノが作れねぇし。自信失くすぜ…」 普通に落ち込むマルトー親方に、オーガンもシエスタもどう声をかけていいのか分からなかった。 「えーっと、ごちそうさまでした。そうだ、親方さん、シエスタ、何か手伝う事は無いか?」 オーガンのその言葉が、場に流れる気まずい空気から退散するためのものだと瞬時に理解したシエスタは即答した。 「それでは、デザート運びを手伝ってください」 マルトー親方と他の面子を残し、オーガンとシエスタはデザート配りのためにアルヴィーズの食堂へと向かった(逃げたとも言う)。 その途中、シエスタは今朝から気になっていた事を口にした。 「オーガンさんって、ずいぶん変なジャケットを着ているんですね」 「変なジャケット? これが?」 自分が着ている「ボマージャケット」の襟を指差すオーガンに、シエスタはきっぱりと答えた。 「そうですよ」 「どこが?」 「ポケットがいっぱい付いているところが、です」 ちなみに、(人間に化けている)オーガンの服装は執事服にボマージャケットという、まさかの組み合わせである。 そんな会話を終わらせ、二人は食堂の中に入り、デザートを配り始めた。 地味にテキパキと配っているシエスタとは対照的に、踊るように軽やかなステップで手早く配るオーガンの姿は、生徒たちの視線を釘付けにした。 その光景を、ルイズとキュルケは呆然と見ていた。 そんな光景を他所に、デザートを食べ終えたギーシュ・ド・グラモンは友人たちと談笑していた。 「ギーシュ、いったい誰と付き合っているんだ?」 「そうだそうだ、教えろよ」 「おいおい、そんなことできるわけ無いだろ。第一、僕は大勢の女性を楽しませる薔薇だ。故に、特定する事は出来ないなぁ」 友人たちの質問をのらりくらりとかわすギーシュ。 そんな彼のポケットから紫色の液体が入った小瓶が落ちたが、当のギーシュ本人はそのことに気付いているのに、気付いていないフリをした。 さらに、その一部始終を見てしまったシエスタは小瓶を拾ってギーシュに声をかけた。 「あの、落としましたよ」 聞こえないフリをするギーシュだったが、友人たちの言葉であっさり無駄なあがきに終わった。 「その紫色の液体、モンモランシーの特製香水じゃないか」 「本当だ。ということは、ギーシュ、お前モンモランシーと…」 はやし立てる友人たち、あせるギーシュ。 そして一人の少女が近づいてきた。 どこで調達したのか、堅そうな棒切れを手に持っていた。 「やぁ……ケティ…」 ギーシュの呼びかけにも答えず、ケティ・ド・ロッタは棒切れをギーシュ目掛けて振り下ろした。 「さよなら」 ケティがそういって去った頃には、ギーシュは顔面をアザだらけにして倒れていた。 何とか立ち上がった直後、今度はモンモランシーがギーシュに近づいた。 何故か両手にメリケンサックを装着して。 「や、やぁ、麗しのモンモランシー…」 「ギーシュ、今の子はだぁれ?」 そう言い終った直後には、ギーシュの鳩尾に鉄拳を叩き込み始めたモンモランシーであった。 数十発の鉄拳を叩き込まれたギーシュは、再び倒れた。 「この……浮気者ォッ!!」 そう叫んだ直後に、倒れているギーシュの顔面を蹴ったモンモランシーはそのまま食堂を後にした。 数分後、気合で起き上がったギーシュは、自分を心配そうに見るシエスタに食って掛かった。 「き、君は…ゴホッ、自分が何をしたのか分かっているのかい!? 君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか! ……ゴホゴホッ!」 どう見ても八つ当たりである。 シエスタの方は思わず涙目になっている。 「も、申し訳ありません!」 「謝ったぐらいで……、な!?」 シエスタを庇うように、オーガンは彼女とギーシュの間に割って入った。 「やめたまえ。君のしていることは完全な八つ当たりだ」 「何だと!」 「事実を言ったまでだ。見っとも無い真似をする暇があるなら、さっきの二人に謝るべきだ」 「君は貴族への礼儀がなっていない様だな…」 「礼儀どうこうは関係ないだろう」 「うるさい! 決闘だ! 決闘を申し込む!」 もはや半狂乱状態のギーシュの絶叫にオーガンは即答した。 「いいだろう」 「では場所を変えよう。ついてきたまえ!」 トリステイン魔法学院、学院長、オールド・オスマンはボーっとしていた。 秘書のミス・ロングビルは公用で外出中である。 「暇じゃのう…。あいつらが生きておった頃は毎日が騒がしくてよかったがのう…。オーガンを向こう側に戻してから散り散りになって、一人ずつあの世に逝ってしもうて…。いまや『バンビーナ団』で生きておるのはわし一人。ハァ…」 昔を懐かしむオスマンだったが、急に学院長室のドアが開けられたことで現実に引き戻された。 「失礼します、オールド・オスマン!」 「コルベールか、ノックしてから入らんかい。まったく、人が昔を思い出している時に…」 「昔を懐かしんでいる場合ではありません。これを見てください!」 そういってコルベールが出した、二冊の本に目を通したオスマンは即座にこういった。 「何じゃ、『バンビーナ団戦記』と『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。これがどうかしたのか?」 このページを見てください。 そういってコルベールは二冊の本をめくり、あるページを見せた。 それは、それぞれ「ショコルナの使い魔」と「始祖の使い魔のルーン」のページであった。 「昨日ミス・ヴァリエールが召喚したゴーレムのような生物と、彼のルーンの事が気になったので調べてみたのです。まずはバンビーナ団戦記のこの記述を見てください」 それには、ショコルナの使い魔の特徴が記されていた。 ゴーレムのような外観と体躯、内部に蠢く肉の塊、そして「オーガン」という名前。 「この本の表紙や押絵のそれとはかなり姿が違いましたが、それ以外は殆どこの本の書かれている特徴と一致し、名前まで同じです。この事を踏まえると、ミス・ヴァリエールの使い魔は「デトネイター・オーガン」としか考えられません」 コルベールの説明を聞くうちに、オスマンの表情は見る間に変わっていった。 「それと、始祖ブリミルの使い魔たちのこの記述も見てください」 そういって、コルベールはあるルーンの模様を指さした。 「これは、ガンダールヴのルーンではないか」 「そうです。彼のルーンの模様は、ガンダールヴのそれと見事に一致していました」 「何と…」 そんなやり取りの途中で、激しくドアがノックされた。 「入れ」 「失礼します!」 オスマンがそう言った直後、年配の教師が慌てて入ってきた。 「何じゃ、騒々しい」 「実は…」 年配の教師は、食堂で起きた騒動と、これから起きる決闘のことをオスマンに説明し、「眠りの鐘」の使用許可を求めた。 「バカバカしい、ほっとけ」 その一言で一蹴し、オスマンは鏡に向かって杖をふった。 それと同時に、鏡にヴェストリア広場の様子が映し出された。 「見物といくかの」 一方、ヴェストリア広場。 「諸君、決闘だ!」 ギーシュの声に、周囲が歓声を上げる。 当のギーシュの眼前には、他の生徒に両脇をガッチリと固められたオーガンがいた。 そして、両脇を固めた生徒が手を離し、後退すると同時に決闘が始まった。 「僕の二つ名は「青銅」だ。それ故、僕はこれで戦わせてもらう」 そう言いながら、ギーシュは薔薇の花を模した杖から花びらを一枚とって、錬成魔法をかけて青銅のゴーレムに変貌させた。 「行け、ワルキューレ!」 オーガンは、ワルキューレの攻撃をのらりくらりとかわしながらギーシュを直接攻撃するチャンスを窺っていた。 しかし、ギーシュはそれに気付いたようだ。 「隙を見て僕自身を攻撃するつもりか。させるか!」 その言葉と同時に、ギーシュは六枚の花びらをとって、全てワルキューレに変貌させた。 一気に激しくなった攻撃を避けるのが精一杯で、オーガンは攻勢に出れなくなった。 そんな光景を見ていたルイズは思わず怒鳴った。 「何やってんの! 元の姿に戻ればすぐにカタがつくでしょ!!」 その指摘を受けたオーガンは、すぐに元の姿に戻る事にした。 薄い影がオーガンの周りに集まって重なり、消えるのと同時にオーガンは元の―ゴーレムの如き―姿に戻った。 「なっ、何だとおぉぉっ!?」 ギーシュの絶叫に続いて、周囲の生徒たちも叫んだ。 『ゼロのルイズの使い魔だったのぉっ!?』 そんな周囲の状況などどこ吹く風らしく、オーガンは気にせずにオーガンランサーを取り出した。 ワルキューレの内の一体を切り刻むオーガンの姿を見たギーシュは、恐れおののくのと同時にあることを思い出した。 「ゴーレムの如き姿、オーガンという名前、そして…剣のような双頭槍……。まさか、『バンビーナ団』のデトネイター・オーガン!??」 ギーシュの言葉を聞いた周囲は更に騒然となる。 そしてオーガンはギーシュの疑問に答えた。 「君の言うとおり、私はかつて『バンビーナ団』のデトネイター・オーガンだった」 「だった? どういう意味だ?」 「既に私はデトネイター・オーガンにしてデトネイター・オーガンにあらず。君や他の生徒たちが「ゼロのルイズ」と呼ぶ少女の使い魔。故に、わが主に付けられたあだ名への怒りからこう名乗らせてもらう」 オーガンはランサーを前に突き出し、叫んだ。 「私はゼロネイター・・・、ゼロネイター・オーガン!!」 その直後、残りのワルキューレたちも瞬く間に切り刻まれた。 「ひいいぃぃっ!!!」 オーガンのあまりの強さに恐怖したギーシュは、「参った」と言おうとしたが、言う前に杖を取り上げられてしまった。 「負けた…」 あまりの早業ぶりに、ギーシュはそう言うしかなかった。 「当たり前じゃ、おぬし如きがかなう相手ではないワイ」 「オ、オールド・オスマン!」 いつの間にかオスマンがそこにいたので、周りのどよめきが激しくなった。 「ホッホッホ、まさか、また会えるとは思わなかったぞい」 オーガンを見ながら、オスマンは言葉を続けた。 「コルベールの言ったとおりじゃの。ショコルナと死に別れ、おぬしを元いた世界に返してからニ百と数十年。本当にお互い変わり果ててしまったモンじゃ」 目の前にいるオスマンが何者かである事をオーガンはすぐに気付いた。 その声、その眼の色、あの時と変わらない声を聞き、その瞳を見たから。 「オスマン……、フレッシュ・オスマン!!」 「ホッホッホッホ。ブリミルに感謝すべきか」 オスマンはそう言いながら、嬉し泣きしていた。 前ページ次ページZERONATORオーガン
https://w.atwiki.jp/c-atelier/pages/1301.html
登場 Recipe 109 続きが見たい物語2 備考 |] レシピNo.791 トランシーバ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄[属性:無]┏──────────┓ 《材料》∥ ∥ ・ 通信のクリスタル x 0.5∥ ∥ ・ (金属) x 1.0∥ ∥ ・ マイナスねじ x 2.0∥ ∥ ・∥ ! ∥ 《器具》∥ [ ] ∥ ・ 鍛冶道具∥ ∥ ・ 歯車印の機械工具箱┗──────────┛【効果】 遠方のトランシーバを持っている人物と通信可能【価値】 6000マニー─────────────────────────────────遺跡から出土された古代文明の通信機と思しき機械を模倣したもの。─────────────────────────────────『No.340 暴打フォン』等他の通信機器に比べて構造が簡単。─────────────────────────────────比較的安く手に入る。─────────────────────────────────しかし機能は通信のみ、聞き取りにくく、持ち運びがやや不便というデメリットも───────────────────────────────── → 使用参考書: 『世界の通信 旧機種カタログ』
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2138.html
サイトはうめき声を上げながら起き上がると、今いるのが病室であることを確認した。 目をこすると段々意識がはっきりしてきた。 ここまで運んでくれたのは誰だろう。 「よう、目が覚めたみてえだな」 「え、ヘイズ?」 予想外の声に驚く。 自分を看病してくれたのはヘイズだろうか。ならお礼を言わねば。 「ありがとう、ヘイズ。ヘイズなんだろ? 俺を看病してくれたの」 それにヘイズは苦虫を潰したような顔になって、 「いや、看病したのはシエスタとルイズだ。感謝しとけよ。お前の高い薬代は全部ルイズのポケットマネーなんだからな。オレはお前の容態が落ち着いてからこってり絞られる役だったよ」 「それはそれはひどい有様でしたよ。私はヘイズがあれ以上の悲鳴をあげるところを聞いたことがありません」 ハリーが混ぜっ返した。 こんなに強そうなヘイズに、そこまでの悲鳴を上げさせるとは一体…… そういえば、そのルイズはどこだろう。サイトが辺りをぐるりと見回すが、病室にはサイトとヘイズしかいない。 「話したいことがあって、あいつらには席を外してもらった。単刀直入に言う。お前もこの世界の住人じゃねえな?」 「も? ……ってことはヘイズもなのか?」 「そうだ。オレはアメリカ大陸でちょいと調査中に、事故で鏡みたいなものに吸い込まれた」 「嘘はいけませんよヘイズ。あれは誰が見ても自分から入ったのが正しいかと。ところでサイト様はどのようにして?」 俺、この世界で様付けで呼ばれたのって始めてかも、と感動に打ち震えながらサイトは答えた。 「俺の場合は、東京の秋葉原を歩いてたら、鏡みたいなのがあって、それに入って気づいたらこの世界だった」 「なるほど……鏡がキーだったようだな。……ところで、秋葉原って言ったな。それってシティ・東京跡地近辺のプラントの名前か?」 「東京跡地!? 何言ってるんだよ! 東京は潰れてなんかいねえぞ! そりゃ東京大空襲で焼かれたけど、ちゃんと今では大都会が築かれてる!」 「随分古い出来事が出てきたな。何世紀前の話だよ」 「何世紀って……まだ百年も経ってないじゃないか」 そこまで言って、二人ははたと気づく。 「「違う時代から来てる?」」 異口同音に言って、顔を見合わせる。 それから二人は情報を交換し合った。 ヘイズの世界はサイトのいた世界にはないはずの、遮光性の雲で覆われ、極寒のせかいになっていること。 サイトの世界にシティだのプラントだのは存在していない。そしてヘイズの世界には六つのシティが存在している。 ヘイズの世界には情報制御技術という学問があり、ヘイズはその力を行使する魔法士という存在であること。 それほど差異があるのに、二人の世界のおおまかな地名や歴史は同じ。 つまりそれは二人が同じ世界の、異なる時代から来ていることを如実に示していた。 決闘に勝ってからというもの、微妙に周囲のサイトを見る目が変化した。 相変わらずルイズはげしげし蹴ってくるものの、以前と比べて怒声に違う感情が混じっているような…… そして一番変わったものといえば、 「きたな『我らの銃』!」 そう呼んで歓迎するのは、コック長のマルトー親父。 彼は魔法学院のコック長の癖に、貴族もメイジも毛嫌いしている。 そんな彼は、シエスタを助ける為に成り行き上とはいえ貴族と決闘をし、そしてまさに満身創痍になってまで倒したサイトを『我らの銃』などと呼び、ほとんど王様みたいな待遇で接してくれるのだった。 「お、もう怪我の具合もよくなったみてえだな」 一足先に席に着いているヘイズはもうすっかり、厨房の仕込み手伝いが板についているらしい。 決闘騒ぎで銃を貸してもらったこともあり、すっかりヘイズとは打ち解けている。 同じかまで飯を食った仲、というわけでもないがすでに一種の連帯感が生まれていた。 そんなこんなで厨房はサイトのオアシス的存在なのだった。 もはやサイト専用席と化した席――ちなみに隣はヘイズ専用席――に腰掛けると、シエスタが即座にパンとシチューを持ってきてくれる。 「うまい! いつも食ってる汁だけスープとは比べ物にならない」 「そりゃそうだ、そいつは普段貴族に食わせてるシチューだからな」 「「マジか! あいつらこんな美味いもの毎日食ってやがるのか!」」 サイトとヘイズの声がハモった。 二人の言葉に、マルトー親父は得意げに胸を張る。 「おおよ! それなのに、あいつらときたら、なに、確かに魔法はできるだろう。土から鍋を作れる。炎の弾は出せる。 しまいにはドラゴンにだって乗る。だが、こうやって、絶妙な味の料理をこさえるのも立派な魔法だろうが!」 サイトとヘイズは同時に頷く。 「「確かにそのとおりだ」」 「いい奴だな! お前ら本当にいい奴だ!」 ヘイズも立場上はメイジなのだが、平民な上に厨房の者にはすでに魔法がろくに使えないことがばれているため、マルトー親父に嫌われていない。 鍋を新調したいんだ、と言えば、「買いに行くから、金を渡してくれ」とのたまう。 一気に皮むきをしてくれと言えば、「よっしゃ任せろ」と本当に凄い勢いで皮を包丁で剥いた。 火力が欲しいんだと言えば、「薪を取ってくる」と言い残して薪を取りに行く。 極めつけに、お前さんメイジじゃないのかと言うと、「俺は普通の魔法が使えねえんだよ」と来た。 そんなやりとりがあって、魔法が使えないメイジなのに、それを気にした風もなく気さくでよく手伝ってくれるいい人、という認識が厨房内で出来上がっていた。 その後、マルトーが二人に抱きつこうとして、コックやメイドに止められたり、 ほぼ同時にシチューを食べつくした二人が、同時におかわりを言ってシエスタを苦笑させたりしたのは、また別の話。 タバサはその日、量の自室にこもって、朝からずっと書物に向かっていた。 うるさい騒動もなく――というかサイレントをかけているのだが――、面倒な仕事もない。 虚無の曜日ということで、自分の世界に好きなだけ浸れるこのひとときを、タバサは確かに満喫していた。 読んでいるのは、ヘイズの船にあった伝説集。 子供の頃はイーヴァルディの勇者の本を読んでいたタバサにとって、ヘイズの世界の物語というものには少し興味があった。 しかし肝心の文字が読めない。どうすればいい? とヘイズに訊ねると、数日のうちにトリステイン語・英語の翻訳機能を持った眼鏡を作ってくれた。 「自分もこの世界の文字が読めないのは不便だしな」、と言っていたけれど、 後からハリーに「徹夜をしてまでタバサ様のためにつくったのですよ。手伝いに重労働をさせられた私はいい迷惑です」と言っていた。 始めて見るハリーの姿にどきりとしたけれど、「そう」とだけ呟いた。 ヘイズは使い魔だから、ハリーに聞かなくても何をしているか見えるから知っていたのだけれど、それは秘密にしておいた。 なんとなく嬉しかった。 心の中の雪風をほんの少しかき消してくれた気がして、それを言ってしまうとこのうれしさも消えてしまう気がしたから。 ヘイズには小さな声で「ありがとう」とだけ言った。 タバサはなぜか自分の意思とは関係なく、すぐに駆け出してしまったので、返事はまだ聞いていない。 タバサにとって他人とは彼女の世界への無粋な闖入者であり、それは数少ない例外であってもよほどのことがない限り、うっとうしいものだった。 とはいえいつまでもそれが続くとは限らないのが現実である。 急に扉が開いたかと思うと、どたどたと――聞こえないが――侵入者がやってきた。 そしてタバサから本を取り上げると、肩をつかんでがっくんがっくん、と揺らす。 誰かと思い顔を上げると、友人のキュルケだった。 なにやら凄い勢いでしゃべっているのを見て取り、しかたなくサイレントを解除。 解除したと同時に、堰を切ったように、大声が室内に響き渡る。 「タバサ! あなたの使い魔、たしか船持ってたでしょ! あれを貸して欲しいの!」 「虚無の曜日」 それだけ言って、キュルケから本を取り返そうとするが、 「あのルイズがダーリンといっしょに買い物に行ったのよ! きっと何かプレゼントをして気を引こうっていう魂胆よ。 ツェルプストーの女として、あのヴァリエールの女には負けてられない! ね? だから船を貸して」 と懇願するものだから、タバサはふうとため息一つ。 他ならぬ友人の頼みだ。数少ない例外の一人を無下にするつもりはない。 タバサはゆっくりと立ち上がり、もうひとりの例外の元へ向かった。 Hunter Pigeonの操縦室は今や一種のたまり場となっていた。 キュルケとタバサが来ると、なぜかギーシュとモンモランシーがいて、ヘイズのとなりには三本線で描かれた顔が浮いている。 いろいろな有象無象を無視して、キュルケが用件を伝えると、 「そりゃ、無理だ」 とりつくしまもなく、一言でばっさりと切り捨てるヘイズ。 「な、なんで? こんなに立派な船なのにどうして飛ばないの? まさか風石が切れてるからとか?」 「こいつは風石なんて使わねえよ。ただ演算機関……じゃねえメイン動力の調子が悪くてな。調整が終わるまでは飛べねえ」 必死に嘆願するキュルケに、「船は飛べません」という動かざる現状を伝えた。 「しっかし、こうなれば本格的になんとかしねえとな……」 「ヘイズ。演算機関の調整は急務となんども申し上げたはずですが」 「ああ。……明日から取り掛かる」 「それに近い言葉は今まで何度も聞きました」 その光景を眺めていたギーシュがぽつりと呟く。 「随分と息の合った使い魔なのだね、君たちは」 その発言にキュルケが、今気づいたという風に、 「そういえば、なんであんたたちここにいるのよ。あんたたちヘイズになんの用件があるのよ?」 と訊ねると、ヘイズは仏頂面で、 「ギーシュはオレに、サイトの力を見抜いた戦術眼がどうたらこうたら。モンモランシーは浮気を繰り返す元彼がどうたらこうたら。オレの船はお悩み相談の駆け込み寺じゃねえぞ」 と文句たらたらにぼやくが、 「こう言っていますが、ヘイズは頼まれると断れない性格でして。今もギーシュ様にもモンモランシー様にも親身に相談していたところでございます」 などとハリーがいうものだから、ヘイズはくちをへのじにして黙り込んでしまった。 「ふーん。なるほどねえ」 などと話を聞いたキュルケは顔をにやけさせる。 それを見て苦虫を噛み潰したような顔になったヘイズは、 「聞いたぞ。お前サイトを自分の部屋に連れ込んだそうじゃねえか」 と無理やり話題をそらせようとする。 「な!? 君はそんな大胆なことをしているのかね!? 僕でさえ、まだモンモランシを自分の部屋に招き入れたことはないというのに!」 まだって何だ、まだって! と言いながらモンモランシーに鳩尾に拳をめりこまされ崩れ落ちるギーシュ。 「なあに? もしかしてヘイズはサイトに嫉妬してるのかしら?」 「いや、部屋の中からいつ出られるか分からないサイトよりも、ほぼ確実にここにいるオレのほうが呼びやすいんじゃないかと思ったんだが」 「あら。私は誰かの一番は取らないことにしてるの。特にタバサの大事にしている使い魔とかね」 それを聞いたタバサの顔が少し緩んだ気がするのはヘイズの気のせいだろうか。 「それにしても君たちはどうしてそんなに仲がいいのだね? 始業式があってすぐに、決闘騒ぎがあったと聞くが」 ようやく、苦悶のうめきを乗り越えたギーシュが、疑問を口にした。 「あ、それは私も聞きたいわね」 「ほう、そいつは気になるな」 「私もぜひ聞いてみたいものです」 と次々に同意の声が上がる。 キュルケはタバサのほうを見て、 「タバサも言っていいって言ってるから、教えるわね。あたしたちがどうやって、今のようになったか」 そして訥々とキュルケは、語り始めた。
https://w.atwiki.jp/mh3g_gunlance/pages/46.html
名称 攻撃力 砲撃 属性 斬れ味斬れ味+1 会心 スロット ロスカアヴァランシ 552 通常4 氷500 lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll -5% O-- 氷山を切り出したかのような、冷気を放つ銃槍。凍てつく穂先は触れた獲物を氷像と化す。 特徴 ボルボロス亜種素材から作られる氷属性ガンランス。 強化前のロスカトルメンタから矛先と盾に鋭い氷の棘が装着される。 作成時期の割には微妙な斬れ味ゲージだが、平均的な攻撃力と高めの属性値は悪くない。またスロットも1つ付いている。 一級品には一歩及ばないが、相手を選べば問題なく使える。ただ斬れ味レベル+1や心眼等でのカバーがほぼ必須である。 また今作の氷属性ガンランスはこれとウルクスラヴィーネしかないため必然的にこれ一択となる。 これで紫ゲージか長い白ゲージがあれば文句なしだったのだが…(今回氷ガンランスは不遇である) 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/getsukoo/pages/28.html
白金によって創造された自動人形。フランシーヌの髪の毛を持ち、唯一生命の水を体液としている。そのため、もっとも高貴な人形と見なされているが感情を持たず、絶望した白金に首を絞められて捨てられる。その後は造物主たる金を探すべく最古の四人を率いて真夜中のサーカスを結成。世界中を回りゾナハ病を散布するがそれでも笑うことは出来なかった。 疲れ果てたフランシーヌ人形は偽フランシーヌ人形を作り、自身は真夜中のサーカスから才賀正二の元へ旅立つ。黒賀村にて才賀アンジェリーナのエレオノール出産に立ち会う中で人間的感情を抱くようになり、ディーン・メーストルの策略によって放たれた自動人形の軍勢からエレオノールを守り、井戸に転落する。エレオノールの体内にあった柔らかい石によって井戸水が生命の水へと変化、身体を溶かしていく中、必死にエレオノールをあやし、最後に微笑んで生命の水に溶けていった。 黒賀村を襲った自動人形がフランシーヌ人形への忠誠を示さないのはディーンによって創造されたからである。 フランシーヌ人形は正二によって運動機能を人間以下にしてもらったが、それでも自動人形の群れからは逃げ通すことが出来た。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/126879.html
フランシス(7) 連合王国貴族のロッテスリーの準男爵の系譜に登場する人物。 関連: サージョンロッテスリー (サー・ジョン・ロッテスリー、父) フランシスグレイ (フランシス・グレイ、母) ハイアムベンディッシュ (ハイアム・ベンディッシュ、夫)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7417.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 「ルイズおねえちゃんを、離せ!!」 声を、一際高くあげる。 そうでもしないと、体に伝わるしびれに負けてしまいそうになるからだ。 「――よく分かったな?」 あのエルフは、ルイズおねえちゃんを人質にとっている。 ルイズおねえちゃんの細い首をすぐにも握りつぶせそうにつかんで。 さっきまでの『部屋の中央にいた』エルフでは無く、『見えなかった』エルフだ。 顔は同じだけど、まとっている空気は別のものだった。 さっきまで戦っていたエルフが魔力の壁、と言うとするなら、 今このエルフは魔力に溶け込んでいる空気そのものだ。 実体がつかめないほど、たゆたっている存在。 無駄をそぎ落としたような、実体のある幽霊って感じだ。 「……ギーシュの攻撃、少しだけかすったから」 身体の痛みを引きずるように、言葉を口から出していく。 頭がまだ冷静さを保てているかどうかを試すように、ゆっくりと。 「ほう?だが、それだけで……」 「物理攻撃も跳ね返してたのに、『グラビデ』で引かれた小石は跳ね返して無かった。 だから、意識しないと物理攻撃は跳ね返せない……そうでしょ?」 このエルフは、物理攻撃を跳ね返した。 それも全部じゃなくて、致命的なものだけを。 違和感は、そこだったんだ。 「それで?」 ルイズおねえちゃんの首を抑えたまま、エルフが問う。 少しだけ、楽しげな様子に見える。腹立たしく、なるほどに。 「そうなると、『意識した攻撃』って、普通『目に見える攻撃』だよね? だけど、死角から攻撃したものを跳ね返したのに、ギーシュの隙だらけの真正面からの攻撃がかすったのはおかしいから……」 ボク達の世界の『リフレク』とは違う魔法。 その理屈を、起こった結果から逆の順番で考えていったんだ。 隙だらけの攻撃を跳ね返さずに、死角からの攻撃を跳ね返した。 ということは、死角が死角じゃなかったってことを意味するんじゃないかと思ったんだ。 ……だから、答えは『目に見える物だけが敵ではない』…… ボクがいた世界にも、『バニシュ』って姿を消す術を使ったモンスターがいたから分かったんだ。 ギーシュとクジャに助けられる結果になってしまったなぁと思う。 「『他所よりの観測の存在』というわけか。 やるな、少年」 『よくできました』とでも言いたそうな軽い言い方。 痛みを堪える頭に、嫌な感じで響いてくる。 「さぁ、ルイズおねえちゃんを離してっ!!」 もう一度、声を高く上げた。 身体がバラバラになりそうになるのに、顔をちょっとだけ歪むのを感じながら。 ゼロの黒魔道士 ~第五十五幕~ 死闘 ― Fight To The Death ― 「だが、勘違いが1つ」 エルフは、微動だにしなかった。 それどころか、眼すらつぶっていた。 「ぐわっ!?」 「ギーシュ!?」 ギーシュがエルフの背後から弾けて転んだ。 死角から攻撃しようとしたらしいけど、どうして? 「私自身が使う『反射(カウンター)』は精霊の力を最大限に借りるため、『意識する』という工程は必要ない。 先ほどの土人形にまとわせた物とは違って、な」 このエルフが使っているのは『リフレク』と同じ効果を物理攻撃にも当てはめてしまっているらしい。 つまり、このエルフを狙った攻撃は全部跳ね返される…… 「うっへ、流石先住……チートもいいとこだわ」 クラクラしてくる頭で、デルフに同意してしまう。 これって、ズルいどころじゃない。 でも、こんな強さなら、どうして…… 「――何故?と問うか?最初から私自身が姿を現すべきであったと?これも、約束のためだ」 エルフが、ボクの心を読んだように答える。 「約束って、何よ!さっきから……」 ルイズおねえちゃんが、首を握られたまま苦しそうに反発した。 「指輪と、『始祖の祈祷書』。渡してもらおうか」 「なっ!?」 「え!?」 ルイズおねえちゃんから、うめき声が漏れ出た。 「どうした?お前が所持しているのだろう?」 「な、何であんたがそんなものをっ!」 それ以上に、なんでエルフが指輪と祈祷書のことを知っているんだろう? なんで、エルフが『虚無』にまつわるアイテムのことを? 「何度も言わせないで欲しい。約束だ。果たさない限り、私は何でもしなければならない」 「くっ……」 「ルイズおねえちゃん……」 その言葉を裏付けるように、ルイズおねえちゃんの首をしめる力が強くなるのが、見て分かる。 どうにかしたい、でも、一歩が踏み出せない。 ルイズおねえちゃんんを助ける方法を、必死で考えながら、エルフをにらみつけるしかなかった。 「――渡せば、他の人は傷つけないのね?」 「少なくとも、私はそのつもりだ」 ルイズおねえちゃんのうめき声に、エルフの静かな声が答える。 ルイズおねえちゃんは、渡す気だ。『虚無』の大切なアイテムを。 「ルイズ、渡しちゃいなさいよ、早く!」 キュルケおねえちゃんもそれを後押しする。 確かに、ルイズおねえちゃんの身を守るためにはそれしか方法は…… それで、助かるというなら、それが正解だと思うんだけど…… 何かが、何かがおかしい気がした。 「――仕方ないわ……」 苦しそうな顔をしながら、ルイズおねえちゃんがローブの隙間から『始祖の祈祷書』を取りだして渡そうとする…… 「ふむ――むぉっ!?」 瞬間、エルフの身体がぐらついた。 よろけた拍子に、ルイズおねえちゃんが投げだされるような形で床に落ちていく。 「ルイズおねえちゃん!」 床に頭をぶつける一瞬前に、ボクの身体をすべりこませる。 ルイズおねえちゃんは、ケホケホと苦しそうな咳をしたけれど、無事そうだった。 「ちょ、ギーシュっ!?」 キュルケおねえちゃんの鋭い叫び声に振り替えると、 エルフの真下の床が、ボロボロに崩れていた。 「あ、足元がお留守だったでしたのでっ!?」 ギーシュが、バラをまっすぐと崩れた床に向けている。 『錬金』。 床をもろい土くれにでも変えてしまったのだろう。 でも、なんでこんな危険なことを? 「小癪な真似をする……ほう、今のは、お前か?」 今度は、崩れた床がドロドロの沼のように溶けだしている。 モンモランシーおねえちゃんが、ギーシュの後ろで杖を震える手で構えていた。 「み、みみみみみずみず水の使い道は治療だけではなくってよ!!」 溶けた床に、くるぶしまで埋まって、エルフの身動きは簡単に取れそうにない。 水魔法にこんな使い方があるって素直に感心してしまった。 「蛮人共の小賢しき知恵か」 エルフの周囲の空気がぐらりと歪んだ。 いや、そう錯覚するほどに、魔力が満ちているのが分かる。 壁や本や石畳が、その魔力に合わせて鳴き声を上げる。 まるで、パイプオルガンの全部のキーを押したみたいな唸り声だ…… 「だが、正解だな。 私は諸君を傷つけるつもりは無いが――」 何重奏にもなって共鳴する魔力の中、エルフの透き通る声だけがその空間を貫いて、聞こえてくる。 「――諸君らの『再起不能』も約束の内だ」 ギーシュ、すごい。そう、素直に思った。 エルフの足場を崩す『錬金』が無ければ、ルイズおねえちゃんも、ボク達の命ももう無かっただろう。 ……逃げ場、無し。 状況は、最初と変わらない。 だから。 「とんでもない約束もあったものねぇ……」 諦めたように髪をかきあげ、つぶやくキュルケおねえちゃんも、 「――ほんっと、冗談じゃないわ!タバサを助けてさっさと帰るつもりだったのに!」 『始祖の祈祷書』を大事に抱えてエルフをにらみつける、ルイズおねえちゃんも、 「どの道帰すつもりねぇってことかよ。さぁて、相棒、どう戦う?」 相変わらずあっけらかんとした声で、ボクを支えてくれるデルフも、 「……デルフ、防御は任せていい?」 ギーシュも、モンモランシーおねえちゃんも、 ……そしてもちろん、タバサおねえちゃんも。 シルフィードをこれ以上、待たせるわけに行かないものね! 「ケケ、『神の盾』の盾ってか?あいよっ、メイン盾になってやろうじゃねぇのっ!」 「……行くよっ!」 このエルフを倒して、タバサおねえちゃんを助ける。 ボクがやるべきことは、それだけだ! 「無駄なことを」 空間に漂う魔力を、石畳や本、あらゆる物に纏わせて、踊るように、それらが降り注ぐ。 纏った魔力が、あらゆる物を重く、鋭く、大砲の弾のように変化させている。 激流や嵐の中の中にいるみたいだ。 それを、避ける。防ぐ。いなす。弾く。斬る。 デルフがボクを躍らせる。 波に逆らわずに漂う羽のように、足が勝手に運ばれる。 その動きを心地よくさえ感じながら、ボクは、呪文を唱えることに集中できたんだ。 「大気に集いし溢るる涙よ、 集いて固まり満ちるがいい! ウォータ!」 唱えられた大粒の水球、魔力の大波にもまれて球の形を保てないでいる。 そのまま、嵐に揺れてエルフの足元で弾けて消えた。 「どこを狙っている?」 エルフは、涼しそうな顔でそれを見ていた。 少し、鼻で笑いながら。 「ビビちゃんが外したっ?」 「し、しっかりしなさいよビビ――きゃっ!?」 全部は、防げない。キュルケおねえちゃんの炎や、ギーシュの剣でも。 石畳が、本によって砕かれて、それがまた新たな弾となって襲いかかる。 「これで……後は……」 息が、切れそうになる。 後少し、後少しなんだ。 「あぶねっ!相棒よぉ、そろそろなんとかしてくんねぇとこちとら燃料不足だ!」 デルフ、もう少しだから、と言いたくなるけど、呪文の詠唱を急ぐ。 デルフどころか、ボクも燃料切れだな、って思いながら。 「天空を満たす光、一条に集いて……」 「わちゃっ!?……そうか、ビビ君!」 ギーシュの声が、うっすらとだけ聞こえる。何か、気づいたみたいだ。 「も、もももういやぁーっ!な、何何なんなのよっ!!」 モンモラシーおねえちゃんの問い返す声も、少しだけ。 「エルフさえ狙わなければ、跳ね返されないってことさ!」 ギーシュ、大正解。 物理攻撃を跳ね返す、とんでもない魔法。 でも、その基準は結局は『リフレク』と同じ、と思ったんだ。 ギーシュやモンモランシーおねえちゃんの魔法……エルフの足元への攻撃がそれの証拠だ。 『リフレク』は、魔法の対象となった場合に、それを感知して跳ね返すという鏡のような魔法だ。 だから、“魔法の対象”にさえし無ければ跳ね返らない。 つまり…… 「 神の裁きとなれ! サンダガ!」 足元にばらまいた、水。 これに攻撃しても、跳ね返されないんだ!! 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 ギーシュが崩した土と、モンモランシーおねえちゃんの水がうまく混ざっているから、さらに効いた。 骨も見えそうなぐらい雷の直撃を食らったら、流石のエルフだってひとたまりもない、よね? 「……や、やった?」 魔力の嵐が止んで、少しだけ息をつく。 ……なんか、息の仕方まで忘れちゃった感じがする。それぐらい疲れていた。 「ビビちゃん、やっるぅ~!」 「――あー、やったにゃやったが……こりゃ、ヤベぇかな」 デルフの、嫌な予感。 当たらなければいいなぁって、何度思ったんだろう…… 「――なかなかに、効いた……もう、容赦せんっっっっ!!!」 黒こげになりながら、エルフの目がギランっと光った。 ぶり返した魔力の嵐は、ビリビリとしびれるような感じがした。 ボクの雷を吸い取って、そのまま吐き出すかのような、そんな空気。 それが何か所かにまとまってより濃密になっていって、床に浸みこんでいって…… それは、信じたくない光景だった。 「ふ、増えたっ!?」 「やめてやめてやめて!?悪夢よ嘘よ冗談よ何かの間違いよっ!?」 モンモランシーおねえちゃんの泣き叫ぶ声が共鳴する。 「風の遍在ってわけでも無さそうねぇ……」 キュルケおねえちゃんがつぶやく横で、ルイズおねえちゃんがあんぐりと口を開けている。 「ゴーレムかっ!?」 ギーシュが、ゴーレムと呼んだそれらは…… エルフと全く同じ姿をしていた。 「万の精霊よ、我は古き盟約に基づき対価を支払う!我が写し身を成して全てを滅ぼせ!」 速い。 一瞬の内に、間合いを詰められて、ボク達は分断されてしまった。 それぞれのエルフの姿が、仲間の姿を覆い隠すように動いて、全く様子が分からない。 「相棒、策は?」 全く、無い。 「……デルフは?」 「――お互い、万策窮すってぇわけか」 だからって、諦めるわけには、いかない。 「とにかく……防ぐしかないっ!」 「それしかねぇわなぁ……あぁ、ちきしょ!これなら7万の兵隊相手にした方が楽だぜっ!」 デルフがそううそぶいて、ボクを勇気づけようとする。 槍のように研ぎ澄まされたエルフの近接魔法の中、あぁ、これが『死闘』って言うんだなって、そんなことを考えていた。 でも、『死闘』は、『死にに行く闘い』なんじゃない。 『死に抗う闘い』なんだ。 だって、そうだよね? ボクには、ボク達には…… 帰る場所が、あるんだから。 「はぁぁああああ!!!!」 そしてボクは、嵐の中へと飛び込んだ。 ピコン ATE ~英雄~ 「厄介なことになったなぁ……!」 一撃を避けようとすると二撃を喰らう。 二撃を正面で受け止めると、連撃が背後から襲う。 エルフというヤツは、辺境の地にいるためか遠距離からこちらを狙ってくるというイメージばかりあったが、 こうも中から近距離での攻撃が得意であったかと、ギーシュは舌を巻いていた。 突いたかと思えば離れ、離れたかと思えば急襲し、全く捕え所が無い。 「もうイヤッ!イヤよ!こんなのあり得ない!耐えられない!」 背後には、顔中が洪水のように崩れた恋人の姿。 「モンモン、しっかり僕の後ろに……」 わずかに訪れた攻撃の合間を縫って愛しき人へと声をかける。 「ギーシュ!あ、あああ貴方、平気なの!?ここここんなピンチが危険だってのに!?」 恋人は、混乱していた。 当たり前だ。ハルケギニアで最強と言われる存在が、いきなり増えたのだ。 おまけに、モンモランシーは戦うように作られていない。 キュルケや、ギーシュといった軍閥とでも言うべき家の子息でも無ければ、 ルイズのような名家の娘でも無い。 ほんの小役人にすぎない、小じんまりとした家系に生まれた、 平々凡々である娘なのだ。 「……平気なわけないさ」 だが、ギーシュはそんな彼女を、一切卑しむことも、憐れむこともせず、優しく声をかけ続けた。 「でででででしょ!?ななななな、ならににに逃げましょ――」 「だけど、それはできない」 まるでそれが、最期の言葉になるかもしれない、と言うようにだ。 「はぁぁぁっ!?あ、ああああんた、さっき頭ぶつけたの!? エルフよ!?それも十数体も!?ふざけてるの!?バカなの!?死ぬの!?」 彼女の中で、エルフの数が明らかに増えているのにため息をつきつつ、 ギーシュは、ニヤリと、せいぜい強がって笑って見せた。 「ライバルが、戦っている。それに……」 「何!何だって言うのよ!!!」 「この世で一番大切な人の前で、かっこ悪い所を見せるなんて男じゃない!」 「……え」 『男なら、誰かのために強くなれ』 ギーシュが師と仰ぐ平民の女騎士が、そう教えてくれた。 『歯を食いしばって、思いっきり守り抜け』 そう、迷うことは無い。それが、今、自分にできる、最大の『カッコいいこと』なのだ。 「 『錬金』っ!!装着っ 魔導アーマー! 」 男なのだ。 男なのだから、『カッコいい』ことは当然だろ? そう言わんばかりに、ギーシュは錬金でできた鎧をさらに強化し、 英雄たらんと、その青銅の剣を振りかざした。 「ば、バカよアホよマヌケよ……あぁ、私もバカっ!!」 モンモランシーは、悪態をつきながら、ギーシュの回復の準備をする。 バカな恋人を持つと、バカさ加減が似てきてしまうのかと思いながら。 『逃げたい』から、『守られたい』へ。 さらに、そこから『助けたい』へ。 彼女もまた、小さいながら英雄の資質を持っていた。 ピコン ATE ~光~ 「な、何か何か何か何か……」 せわしなく、ページの上を指が行き来する。 細く頼りない、重い物を持ち上げたことの少ない、貴族の娘の指だった。 「ちょっと、ルイズ!このバカ!何やってんのよ!しっかり私の後ろに隠れてなさいっ!」 その頼りない娘の姿を、もう1人の娘が咎めた。 先ほどから炎の弾のバーゲンセールである。 どれもこれも、散り散りに弾かれたり跳ね返されたりと、相対するエルフには届かない。 それでも、炎を繰り続けることしか、彼女にはできなかった。 さもなければ、憎まれ口ばかり叩きあってきた、背後の頼りなさげな少女と共に命を落としてしまうだろう。 ましてや、友情を誓い合った青い髪の少女の命すら…… だから、彼女は、炎を紡ぎ続けた。 それしかできぬ自分に、歯噛みしながら。 「わ、私だって、私だって何かできるのよっ!」 「それは分かってるわよっ!でも、まっ白けな本広げる以外にあるはずでしょっ!?くっ……」 一撃を、食らう。歪んだ空気をそのまま押しあてられたかのような、鋭い刺撃。 彼女が知るどんな風魔法よりも鋭いそれは、彼女の左肩に鮮血の花弁を撒き散らしながら軽々とえぐった。 「――お願い、答えてよっ!始祖っ!答えなさいよっ!」 「ルイズ?」 ルイズの、妙な様子にキュルケが気づく。 後ろを見る余裕など無いはずだが、少しだけ、視線をそちらに振り向けた。 「こう何度も色んな背中に守られてねっ、耐えられるほど私は強く無いのよっ!私だって、私だって!」 その目は、死んじゃいなかった。 最初に出会ったときと同じ、理想に燃えていた、幼い少女のまんまだった。 「ルイズ……もう!こいつ、しつこいっっ!エルフって女日照りなのかしらっ!!!」 その姿に、キュルケは少しだけ余裕が出、安心したのか、軽口を叩いてみる。 憎まれ口を叩き合った仲だ。ここで怯えた姿でもしていたら、やる気も何もそがれていたかもしれない。 こうでなくては。キュルケは、激戦の中に少しだけ笑ってみた。 「答えてよっ!」 一方のルイズはというと、焦っていた。 乱戦。 それこそが、最大の焦りの種であった。 『エクスプロージョン』は、対象が大きく多数あるような場所でこそ効果を発揮する。 その事実は、最初に呪文を唱えたときに既に理解していた。 だが、このような乱戦では。 的も小さく、敵味方の入り乱れる乱戦では。 爆発の魔法は危険極まりない牙となり、自分はおろか、大切な友人達の命すらも飲み込んでしまうだろう。 だからこそ、彼女は焦っていた。 ページをめくる手は止まらない。 彼女は求めていた。 「このままじゃ……このままじゃ……私、みんなを守りたいっ!!」 その、答えを。 それは、純粋な願いであった。 だからこそ、であったのかもしれない。 「え?」 「な、何?この光……」 『始祖の祈祷書』が放つ光は、どこまでも透き通るような、暖かい色をしていた。 その光に包まれるは、『虚無の担い手』である少女。 どこまでも純粋に、友を守ることを祈った少女は、その呪文を理解する。 瞬きをした目が見開かれた時には、為すべきことが分かっていた。 「……キュルケっ!」 少女らしく輝くような笑み。 その眩しさは、キュルケがルイズを知ってから、1度も見たことが無いものだった。 「な、何よっ」 「あと30数えるだけ耐えて!」 「は!?」 「お願い!あんたを信頼してるからっ!」 「あぁ……炎は守るのに不向きだっていうのに!」 そう文句を言うものの、キュルケは嬉しそうに正面を向いた。 エルフが何だと言うのだ? こっちはハルケギニア最強の、女同士の友情だ! 「ウル・スリーサズ・アンスール・ケン……」 朗々と謳いあげられる不可思議な呪文に、キュルケは一種の充足感を感じていた。 「……歌?」 それは、どう聞いても歌だった。 この魔力の嵐の中、誰かが、歌っている? 「相棒っ!? うぉっ!! よそ見、 どぅわっ!? すんじゃねぇよ!!」 デルフに動かされるように踊りながら、ボクは確かに、その歌を聞いた。 「これって……」 メロディーは、違う。 でも、この暖かさを、ボクは確かに知っていた。 「ビビ!デルフを構えて!」 「……うん!」 飛び交う石畳や魔力の応酬の中、聞こえるはずの無い声が聞こえる。 そして、安心するんだ。 ルイズおねえちゃんが、無事であることに! 「『解除(ディスペル)』!!」 歌そのものが、鮮やかな小さな光となって散らばったように感じたんだ。 それが部屋の中を満たすように渦巻いて、魔力も何も優しく優しく包み込むように、飛んでいく。 「何……!?」 「え、エルフが消えた……っ!?」 光のシャワーの向こうに、ギーシュも、モンモランシーおねえちゃんも、キュルケおねえちゃんも、 そしてもちろん、ルイズおねえちゃんの姿もあった。 そして、残るエルフは、あと1人。 「あー!やっと攻撃できるわね!」 「はぁぁぁぁぁ!!」 「 『ギーシュローゼン……』」 何故か、みんな理解できたみたいなんだ。 『あの光が、エルフの魔法を全部消し去った』って。 だから、みんな一斉に攻撃できたんだと思う。 「食らいなさい!!」 「せぇいっ!」 「『大凶斬り』!!」 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」 二降りの剣撃と、炎の塊が、エルフを貫いた。 前ページ次ページゼロの黒魔道士
https://w.atwiki.jp/retroadventure/pages/48.html
トランシルバニア 1983年発売 (スタークラフト/ペンギン・ソフトウェア) ストーリー トランシルバニアの王女サブリナ姫は、吸血鬼ドラキュラ伯爵の求婚に自ら「仮死の毒」を飲んで永遠の眠りについた。 ところが「仮死の毒」は「魔法の水薬」がないと生き返らないばかりか、薬を飲んで1年が経ったら効力を失って本当に死んでしまうのだ。 姫の命も今夜限り、サブリナ姫を救えるのは貴方だけです。 コウモリが飛び交い、狼男がつきまとう、このトランシルバニアの深い森の中で、あなたの勇気は襲いかかる恐怖の連続にはたして耐えられるでしょうか・・・。 操作方法 コマンド入力式(日本語) コマンドには回数制限、所持品には制限数がある。 作品解説 原作の "Transylvania" は、Penguin Software から、1982年に発売された 。 マイコンBASICマガジン 1984年10月号(SUPER SOFT MAGAZINE)に掲載。 チャレンジ!!パソコンアドベンチャー・ゲーム 第一巻に収録。 関連項目 外部リンク 関連項目 ザ・クエスト リングクエスト トランシルバニアⅡ 照魔鏡の伝説 外部リンク 作品レビュー Kirry's Annex(懐かしのADV) 攻略サイト 懐かしいアドベンチャーゲームをやろうよ! --- 攻略テキストあり
https://w.atwiki.jp/gods/pages/127162.html
フランシャノン(フラン・シャノン) アイルランド上王の一。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6575.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 「――……」 音の無い世界って、こんな感じなのかもしれないなって思ったんだ。 「――……」 いや、むしろこの部屋だけが、どっか遠い世界にポツンと、 切り離された状態であるって方がしっくりくるかもしれない。 「――……」 遠くで、誰かの声がする。なのに、この部屋では衣擦れと呼吸の音がわずかにするだけ。 今なら、カエルがまばたきする音すら聞こえるかもしれない。 「――つかぬことを、聞いて良いか?」 「……う、うん、どうぞ……?」 アニエス先生に解毒剤を飲んでもらった後、何ともいえない沈黙がボク達を支配していたんだ。 アニエス先生は、天井を見上げてから、眉間に痕が残りそうなぐらい皺をよせて、 ずーっとその状態で床の1点を見つめ続けていたんだ。 「――そこの戸だが――明らかに周囲と違うな?まさか、誰かが壊した――ということはあったか? その――例えば、まさかとは思うのだが、わたしがとか?」 きっと、惚れ薬のせいで記憶があやふやだから確かめたいってことなんだと思って、 ボクは正直に答えちゃったんだ。 「うん……アニエス先生が、思いっきり壊しました……」 アニエス先生の眉間の皺が一層深くなる。 「――ま、まさかだが――わたしは、何事か、叫んでやいまいな? そ、その、本当にまさかだぞ?うん、いやわたしの思い違いならいいのだが――」 眉間の皺にそえたアニエス先生の指先に力がこもるのが分かる。 「えっとー……叫んでた、かな?」 「な、何を!?何と叫んでいた!?」 「……『今さら疑うものか!私はそなたを信じる!!』……とか?」 信頼されてるなって思って、うれしい言葉だったのは間違いないんだけど。 それを聞いたアニエス先生は、天を大きく仰いだんだ。 そして、大きく、世界から音を取り戻すかのように、大きく、叫んだんだ。 「――ぎにゃぁぁぁぁ!!」 ゼロの黒魔道士 ~第三十五幕~ 乙女のピンチ 「――ウボァー……」 「え~と~……」 アニエス先生は、叫んだ後、変な踊りみたいなものを踊って (なんか、頭を抱えたままクルクル回って)、 その後壁に頭をグリグリと押し込んで、変な声を出して固まってしまったんだ。 「――ウボァー……」 「あ、アニエス先生、大丈夫……?」 心配になったから、アニエス先生の肩をそっとゆすろうとすると、ギーシュがそれを止めたんだ。 「――ビビ君、残酷だからもうやめておこう。今は、壁とでも話すのが一番だ」 「え、ど、どういうこと……?」 ルイズおねえちゃんたちも、悲しそうな顔をして部屋を出て行こうとする。 「――記憶はそのままなんてねぇ……モンモランシー、あんた、とんでもないもん作ったのね」 キュルケおねえちゃんがため息をつく。 記憶があるってことが、そこまで酷いことなのかなぁ……? 「こ、ここまで酷いとは思わなかったわよ!――今はものすごく反省してるわ」 「反省してもらわなきゃ困るわよ。私の部屋なのよ?」 ……えっと、アニエス先生、どうなっちゃったの? 「相棒、鎧の姉ちゃんは“ブレイヴ・ブレイク”しちまったってことよ」 「“ブレイヴ・ブレイク”?な、何なの、それ?酷い病気なの?」 ……だとすると、とんでもないなぁって思うんだけど。 「まぁ、怪我みてぇなもんだな。誇りの崩壊ってぇことよ。体にゃ異常はねぇけど、今なら小石1つで死ぬ状態だわな」 そ、それってとっても酷い状態じゃない? 「あ、アニエス先生、大丈夫!?」 「相棒っ!だからそっとしといてやりなって!今はそれしかねぇ。なぁに、誇りなんざ時間が立てば戻る――はずだがな」 ……ボクに、何もできそうにないのが、歯がゆかった。 「あ、アニエス先生……お大事にね?」 「――ウボァー……」 地獄の底から舞い戻ってきたみたいな声を出しつづけるアニエス先生。 ……早く、元気になって欲しいな…… ・ ・ ・ ルイズおねえちゃんのお部屋にはいれないから、 授業の無い午後、ボク達は図書室にいたんだ。 ルイズおねえちゃん達は、みんなそれぞれ調べ物があるみたい。 ちなみに、ボクはこの世界の文字が読めないみたいだから (絵つきのところはなんとなく分かるけど、文字がちょっとずつ違うみたいなんだ)、 絵本を適当に選んでもらって、言葉の勉強をすることにしたんだ。 『イーヴァルディの勇者』っていうタイトルで、お城の前に戦士がたたずんでいる絵からはじまっている。 その本を、ときどきルイズおねちゃんの邪魔にならないように意味を聞きながら、ゆっくりと読んでいったんだ。 「――そう、それは『探求』って読むの。だから、ここは『そして探求の旅は始まった』ね」 「……あ、こっちは『旅』なんだ」 絵の中には、おっきな橋とお城が幻想的に建っている。 なんか、ここから物語がはじまるんだって感じで、すっごくワクワクする。 「――うぅむ、やはり関節が重要か……」 ギーシュは『アダマン鎧の歴史』って本を読んでいる。 一昨日の晩の戦闘でもうちょっと鎧について研究しようとしているらしい。 「――まったく、とんだ災難だったわ。しかも部屋には帰れないし……」 ルイズおねえちゃんが読んでいるのは『吟遊詩人の心得』って本。 さっきは「しずかに やさしく」って部分が使えないかって吟味していた。 「も、もういいじゃない!終わったんだから!」 モンモランシーおねえちゃんは『ゾディアックレシピ』という本で新しい調合を見ているみたい。 みんな、勉強熱心だなぁと思うんだ。 「本当に終わったのかしらねぇ?あんたとギーシュのことだから、ひょっとして――」 そう言って、からかっているのはキュルケおねえちゃん。 キュルケおねえちゃんは、他の人とはちょっと違う物を読んで、っていうか、見ていたんだ。 「う、うっさいわね!二度とするわけないでしょ!!」 「――ところで、さっきから気になってたんだが……なんで、『地図』を?」 ギーシュが聞いた通り、キュルケおねえちゃんが広げていたのは、 『地図』だったんだ。それも、大きさも、詳しさもバラバラのをいくつも…… 「ん?ちょっと調べ物よ。タバサをちょっとアテにしてたけど、あの子、あれで結構忙しいからねぇ――」 タバサおねえちゃんは、「お仕事の報告」ってことで、 奨学金を払ってくれている人のところに行ってるんだって。 奨学金をもらうって、大変なんだなぁ…… 「……ん?……これも、図書室にあった地図なの?」 キュルケおねえちゃんが机に広げている地図の中に、1枚だけ、妙に古ぼけてて汚いのがあったんだ。 あちこち黄ばんで、ボロボロで、穴あきチーズを思い出させた。 「あら、ビビちゃん、気づいちゃった?も~、目ざといのね~」 キュルケおねえちゃんが嬉しそうにそれに反応する。 地図って言っても、色んな色の線が細かく入り乱れていて、どれがどういう意味かさっぱりだった。 例えば、青色の線は、海岸線のようにも見えるし、河の流れかもしれない。 「ちょっとね、掘り出し物で見つけたのよ。それがどこの地図かなぁって思ってね」 「掘り出し物、ねぇ?何の地図だっての?」 ルイズおねえちゃんが、詩を作るのに行き詰っちゃったのか、興味をしめしてきた。 「えぇ~、ルイズ、あんたまで興味あるの~?ビビちゃんにだけこっそり教えようと思ったのにぃ~」 キュルケおねえちゃんが冗談っぽく言いながら、またボクに抱きつく。 「な、なんでビビだけなのよっ!?」 「だって~、折角のお宝探しを邪魔されたくないもの!」 ……お宝探し? 「――え、何かい?じゃぁこれは宝の地図だっていうのかい?」 ギーシュが『お宝』って部分に食いついたみたいだ。 「あ、バレた?バレちゃ~しょうがないわね!」 ……なんか、むしろバラす気満々だったような気も…… 「――なんか、すっごく胡散臭いんだけど、どうしたの、これ?」 モンモランシーおねえちゃんが『ゾディアックレシピ』をわきによけながら地図に注目する。 「ん?買ったのよ。知り合いの古物商から!ちょっと良い値がしたけど、これは本物よ~!」 ……なんか、ちょっとどころじゃなく、すっごく胡散臭い気がするんだ。 「――ちなみに、いくらだったわけ?」 「えっと~、5枚セットで――ゴニョゴニョ」 ……お宝の地図が5枚セット?……騙されている感じがするのはどうしてなのかなぁ? 「――は!?ば、バッカじゃないの!?こんなチリ紙にそんな値段をつけるって何!?」 詳しい値段は聞きとれなかったけど、それなりの値段だったらしい。 ルイズおねえちゃんの声があまりにも大きかったから…… 「ちょっと!!あなたたち!さっきから私語がうるさいですわよっ!!出てお行きなさいっ!!!」 ……図書室の人に追い出されちゃったんだ。 ・ ・ ・ 「――で、結局これって何処の地図なのよ?バッテン印がどこを示しているかさっぱりじゃない?」 ボク達は、ヴェストリの広場でさっきの地図を広げていたんだ。 『地図帳』っていう、ハルケギニア中の地図を何枚も集めた本も図書室から借りてきて、一緒に広げている。 「それなのよね~……1つ仮説を解決しようとすると、2つ疑問が出てきちゃって……」 「――騙されて無いかい?やっぱり」 「そんなわけないじゃない!見てよ、この紙の古さ、それに上等さ! この上質な紙がこんなに古ぼけるからには、何らかのいわくがあってしかるべきでしょ!」 確かに、その『お宝の地図』は、羊皮紙なんかよりもずっとつやつやの紙でできていて、 それがボロボロになるぐらい古いってことは、やっぱり価値があるってことなのかなぁ? 「――でも、結局描いてある内容が分からなければクズ紙も同然じゃない?」 モンモランシーおねえちゃんの指摘って、現実的で問題の真中をぴったり言ってしまってると思う。 「と、いうわけで!あんた達の知恵を借りたいのよ!タバサがいないのは不満だけど、 一応、あんた達、学科の成績はトップクラスじゃない?ギーシュは除くけど」 なるほど。だから、わざわざあんな風にして、この地図の興味を引いたんだ…… キュルケおねえちゃん、頭いいなって思う。 「――ま、まぁいいわよ?詔も進んでないし、いい気分転換ね」 ルイズおねえちゃんは、『トップクラス』って言葉にちょっと照れてるみたいだ。 「私はパス。そんな胡散臭い話に――」 「――『惚れ薬』の噂話、殿方とピロートークでするにはぴったりかもね?」 モンモランシーおねえちゃんの台詞に、キュルケおねえちゃんの言葉がかぶさる。 「ぐっ……」 モンモランシーおねえちゃんが言葉に詰まる。 惚れ薬の話をあんまり広められたくないってことなんだと思うけど…… 「……ぴろぉとぉくって、何……?」 「――ビビ君、君はまだ知らなくていいよ」 何故か、ギーシュの顔が少し赤くなっている。 ……なんなんだろ?ぴろぉとぉくって……地名、かなぁ……? 「わ、分かったわよ!協力するわよ、協力!お、脅しに屈したわけじゃないからね!」 「まぁ、いいでしょ。これでチャラ、ね。――今のところは」 なんか、キュルケおねえちゃんがフフフと笑うところに暗闇の雲みたいなのがうごめいてる気がしたんだ。 「ところで、僕もそこまで学科試験の成績が悪いわけでは……いやトップクラスではないけども――」 「だって、ギーシュ、想像力が無いもの」 「空気読めないところもあるし」 「し、失礼なこと言わないでよ、2人とも! ――そ、そりゃぁギーシュもちょっと頭の回転が遅いところもあるけれど!」 ……ギーシュ、最後のモンモランシーおねえちゃんの言葉が一番堪えたみたいで、 その後、ボクとデルフがしばらく慰めることになっちゃったんだ…… ・ ・ ・ お日さまが傾いて、ボクの影が自分の身長を追い越すぐらいになっても、 全然地図探しはうまくいかなかったんだ。 線がアルビオンの軌道という仮説も、潮の満ち引きの痕っていう仮説もダメだったんだ。 「――な、なかなか手こずらせるわねぇ!ま、まぁお宝が簡単に見つかったらつまらないけれども!!」 キュルケおねえちゃんは、それでもしぶとく、 地図に新しい穴が空いちゃうじゃないかってぐらい、じっと地図を見つめていた。 「――と、いうか、これってそもそも地図なのかい?」 ギーシュは、確かにあんまり頭は使っていないと思うときはあるけれど、 ときどき、妙なところに注目して、みんながハッとすることを言うなって思う。 「ち、地図よ!そう言って売られてたんだから、地図に決まってるでしょ!」 キュルケおねえちゃんがすごく必死だ。 ……安くなかったから、かなぁ?地図って信じたくていっぱいって感じがする。 「――あら、それって――」 「……あ、シエスタ、もう洗濯物の取り込みの時間?」 いろんな荷物を持ったまま、シエスタが通りがかって寄ってきたんだ。 「あ、いえ、洗濯物はまだですけど――その紙って……」 「キュルケが騙されて買った地図もどきよ」 「騙されて無いってば!!」 ルイズおねえちゃんの指摘に、キュルケおねえちゃんが必死で否定するけど、 シエスタの視線は地図の釘付けになっていたんだ。 「――間違いないです。これ、タルブのです」 「……え!」 ……本当に、地図だったの? 「タルブってどこだっけ?」 「えぇと、確か、ラ・ロシェール近郊の村だったかしら、ワインで有名な」 「……シエスタの、実家があるんだよね?弟さんとかがいっぱいいるって……」 前に、洗濯をしながら聞いたことがあったんだ。 弟さんたちを大切に思っていて、失敗談とか、自慢話とか、たくさん聞いたんだ。 「えぇ、間違いなく、これってタルブのですわ……」 「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!!そ、それ本当に!?ホントに本当に!?」 キュルケおねえちゃんの目が爛々と輝いている。 さっきまで、偽物かもって思ってた分、喜びもひとしおみたいだ。 「き、貴族様に嘘はつきませんわよ……」 少しだけ、その剣幕にシエスタが引いている。 それぐらい、すごい迫力と勢いだった。 「案内!貴女の村なんでしょ!?案内して!」 キュルケおねえちゃんは今すぐ馬車を借りて来ようっていう勢いだった。 「……す、すいませんっ!それはちょっと……」 シエスタの表情が、悲しそうに曇った。 「あ!ごめんなさいね、私としたことが!もちろん、貴女のために学院に許可は取るわ! 報酬だってきちんと払うし、そんな長くはかからないでしょうし……」 キュルケおねえちゃんはもうワクワクが止まらないって感じだった。 「ち、ちがうんです……じ、実は……」 シエスタの目から、大粒の涙がポツリと落ちた。 「私、私……実は……」 そこから、ポツポツとシエスタが事情を話しはじめたんだ。 ・ ・ ・ 「モット伯、ね……あんまりいい噂は聞かないわねぇ」 シエスタは、モットおじさん、この間会った、カールしたお髭の貴族の家に雇われることになったらしい。 ……そんなに、悪いこと、なのかなぁ? 「え、そんなに悪い噂が?父の知り合いで、僕も見知っているが……」 ギーシュも疑問に思ったらしい。 この間、会った限りでは、気のいいおじさんって感じだったんだけどなぁ? 「はぁ?ゲルマニアの私ですら知ってるのに、これだからトリステインの男は……」 キュルケおねえちゃんがあきれ顔だ。 「政治家としては優秀だけど、女と見れば見境なく……って聞くわ。 平民の女を次々に毒牙にかけて食いものにする、非劣な男ってね……」 毒牙?食いもの?え、ま、まさか…… 「……ど、毒で弱らせて食べちゃうの!?」 「相棒~、違ぇよ!ぜんっぜん違ぇよ!いいか、食うってぇのは、男が女を……」 「わーわーわーわー!!!」 ギーシュが、大声をあげながらデルフの鍔の部分をマントで覆い隠したから、 その意味を知ることはできなかったんだ…… 結局、食いものにするって、何なんだろ……? 「ビビ、あんたはまだ知らなくていいわ」 ルイズおねえちゃんがため息をつく。……気になるなぁ。 「しかも今夜から、なのね。それで、その荷物を……」 ともかく、シエスタは、自分の部屋から荷物を運びだして、モットおじさんの所へ行く準備中だったんだって。 ……気が進まないのに、行かなきゃいけないってことだから、悲しんでいるっていうのは、なんとか理解できた。 「わ、私、断れなくてっ……す、すいません、こんなことを貴族の皆様に言うのは……」 シエスタの涙が、地面に小さな水たまりを作っていた。 なんとか、してあげたいなぁ…… 「よし、分かったわ!私達がなんとかするっ!!」 「キュルケ!?」 キュルケおねえちゃんが、勇ましく立ち上がったんだ。 「み、ミス・ツェルプストー!?」 シエスタの潤んだ瞳が上にあげられた。 お日さまの光をキラキラとあちこちに撒いている。 「その代わり、貴女の村を後で案内してもらうわよ?」 にっこりと笑うキュルケおねえちゃんが、すっごく男前に見えたんだ。 女の人なのに…… 「ふむ、確かに、乙女の危機とあれば、なんとかしたいが……何か、方法はあるのかい、キュルケ君」 ギーシュも、ちょっと乗り気だった。 ラグドリアン湖で何もできなかったから、なのかなぁ? 「そうよねー、アポイントを取らないと、会ってもくれないでしょうし……」 ルイズおねえちゃんが考えこむ。 「大体、会ってどうする気よ?噂を基に『返してくれ』って言う気?」 モンモランシーおねえちゃんの指摘はいつも鋭い。 ただ、会うだけじゃダメなんだ。 それに、完全に悪い人ってわけじゃないから、モットおじさんを倒すってわけにもいかないし…… ……何か、方法は無いかなぁ…… 「あ」 キュルケおねえちゃんが、突然、何かを思いついたのか、手を叩いた。 「ねぇ、ルイズ、こういうのって、アリかしら……」 ルイズおねえちゃんの耳に両手をあてて、ひそひそ話をはじめちゃった。 「何よ、どうせくだらない……え?いやちょっとそれは!?……うん、あ、それはアリかも……え、ギーシュが!?」 ……?ギーシュが、何かやれば、シエスタが助かるのかな? 話の流れが全然つかめなかった。 「――って作戦、どう?」 キュルケおねえちゃんがニッと白い歯を見せて笑った。 「い、いいんじゃない?うん、おもしろいわ!」 ルイズおねえちゃんも親指を上げる。 どうやら、とってもいい作戦みたいだけど……おもしろいって、何? 「おいおい、何をやらかすつもりだい?」 ギーシュも、自分の名前が出たから、気が気じゃないみたい。 そんなギーシュに、キュルケおねえちゃんは、咳払いをしてから、 大真面目な顔になってこう言ったんだ。 「ギーシュ、あんた覚悟、ある?」 前ページ次ページゼロの黒魔道士