約 2,051,608 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7417.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 「ルイズおねえちゃんを、離せ!!」 声を、一際高くあげる。 そうでもしないと、体に伝わるしびれに負けてしまいそうになるからだ。 「――よく分かったな?」 あのエルフは、ルイズおねえちゃんを人質にとっている。 ルイズおねえちゃんの細い首をすぐにも握りつぶせそうにつかんで。 さっきまでの『部屋の中央にいた』エルフでは無く、『見えなかった』エルフだ。 顔は同じだけど、まとっている空気は別のものだった。 さっきまで戦っていたエルフが魔力の壁、と言うとするなら、 今このエルフは魔力に溶け込んでいる空気そのものだ。 実体がつかめないほど、たゆたっている存在。 無駄をそぎ落としたような、実体のある幽霊って感じだ。 「……ギーシュの攻撃、少しだけかすったから」 身体の痛みを引きずるように、言葉を口から出していく。 頭がまだ冷静さを保てているかどうかを試すように、ゆっくりと。 「ほう?だが、それだけで……」 「物理攻撃も跳ね返してたのに、『グラビデ』で引かれた小石は跳ね返して無かった。 だから、意識しないと物理攻撃は跳ね返せない……そうでしょ?」 このエルフは、物理攻撃を跳ね返した。 それも全部じゃなくて、致命的なものだけを。 違和感は、そこだったんだ。 「それで?」 ルイズおねえちゃんの首を抑えたまま、エルフが問う。 少しだけ、楽しげな様子に見える。腹立たしく、なるほどに。 「そうなると、『意識した攻撃』って、普通『目に見える攻撃』だよね? だけど、死角から攻撃したものを跳ね返したのに、ギーシュの隙だらけの真正面からの攻撃がかすったのはおかしいから……」 ボク達の世界の『リフレク』とは違う魔法。 その理屈を、起こった結果から逆の順番で考えていったんだ。 隙だらけの攻撃を跳ね返さずに、死角からの攻撃を跳ね返した。 ということは、死角が死角じゃなかったってことを意味するんじゃないかと思ったんだ。 ……だから、答えは『目に見える物だけが敵ではない』…… ボクがいた世界にも、『バニシュ』って姿を消す術を使ったモンスターがいたから分かったんだ。 ギーシュとクジャに助けられる結果になってしまったなぁと思う。 「『他所よりの観測の存在』というわけか。 やるな、少年」 『よくできました』とでも言いたそうな軽い言い方。 痛みを堪える頭に、嫌な感じで響いてくる。 「さぁ、ルイズおねえちゃんを離してっ!!」 もう一度、声を高く上げた。 身体がバラバラになりそうになるのに、顔をちょっとだけ歪むのを感じながら。 ゼロの黒魔道士 ~第五十五幕~ 死闘 ― Fight To The Death ― 「だが、勘違いが1つ」 エルフは、微動だにしなかった。 それどころか、眼すらつぶっていた。 「ぐわっ!?」 「ギーシュ!?」 ギーシュがエルフの背後から弾けて転んだ。 死角から攻撃しようとしたらしいけど、どうして? 「私自身が使う『反射(カウンター)』は精霊の力を最大限に借りるため、『意識する』という工程は必要ない。 先ほどの土人形にまとわせた物とは違って、な」 このエルフが使っているのは『リフレク』と同じ効果を物理攻撃にも当てはめてしまっているらしい。 つまり、このエルフを狙った攻撃は全部跳ね返される…… 「うっへ、流石先住……チートもいいとこだわ」 クラクラしてくる頭で、デルフに同意してしまう。 これって、ズルいどころじゃない。 でも、こんな強さなら、どうして…… 「――何故?と問うか?最初から私自身が姿を現すべきであったと?これも、約束のためだ」 エルフが、ボクの心を読んだように答える。 「約束って、何よ!さっきから……」 ルイズおねえちゃんが、首を握られたまま苦しそうに反発した。 「指輪と、『始祖の祈祷書』。渡してもらおうか」 「なっ!?」 「え!?」 ルイズおねえちゃんから、うめき声が漏れ出た。 「どうした?お前が所持しているのだろう?」 「な、何であんたがそんなものをっ!」 それ以上に、なんでエルフが指輪と祈祷書のことを知っているんだろう? なんで、エルフが『虚無』にまつわるアイテムのことを? 「何度も言わせないで欲しい。約束だ。果たさない限り、私は何でもしなければならない」 「くっ……」 「ルイズおねえちゃん……」 その言葉を裏付けるように、ルイズおねえちゃんの首をしめる力が強くなるのが、見て分かる。 どうにかしたい、でも、一歩が踏み出せない。 ルイズおねえちゃんんを助ける方法を、必死で考えながら、エルフをにらみつけるしかなかった。 「――渡せば、他の人は傷つけないのね?」 「少なくとも、私はそのつもりだ」 ルイズおねえちゃんのうめき声に、エルフの静かな声が答える。 ルイズおねえちゃんは、渡す気だ。『虚無』の大切なアイテムを。 「ルイズ、渡しちゃいなさいよ、早く!」 キュルケおねえちゃんもそれを後押しする。 確かに、ルイズおねえちゃんの身を守るためにはそれしか方法は…… それで、助かるというなら、それが正解だと思うんだけど…… 何かが、何かがおかしい気がした。 「――仕方ないわ……」 苦しそうな顔をしながら、ルイズおねえちゃんがローブの隙間から『始祖の祈祷書』を取りだして渡そうとする…… 「ふむ――むぉっ!?」 瞬間、エルフの身体がぐらついた。 よろけた拍子に、ルイズおねえちゃんが投げだされるような形で床に落ちていく。 「ルイズおねえちゃん!」 床に頭をぶつける一瞬前に、ボクの身体をすべりこませる。 ルイズおねえちゃんは、ケホケホと苦しそうな咳をしたけれど、無事そうだった。 「ちょ、ギーシュっ!?」 キュルケおねえちゃんの鋭い叫び声に振り替えると、 エルフの真下の床が、ボロボロに崩れていた。 「あ、足元がお留守だったでしたのでっ!?」 ギーシュが、バラをまっすぐと崩れた床に向けている。 『錬金』。 床をもろい土くれにでも変えてしまったのだろう。 でも、なんでこんな危険なことを? 「小癪な真似をする……ほう、今のは、お前か?」 今度は、崩れた床がドロドロの沼のように溶けだしている。 モンモランシーおねえちゃんが、ギーシュの後ろで杖を震える手で構えていた。 「み、みみみみみずみず水の使い道は治療だけではなくってよ!!」 溶けた床に、くるぶしまで埋まって、エルフの身動きは簡単に取れそうにない。 水魔法にこんな使い方があるって素直に感心してしまった。 「蛮人共の小賢しき知恵か」 エルフの周囲の空気がぐらりと歪んだ。 いや、そう錯覚するほどに、魔力が満ちているのが分かる。 壁や本や石畳が、その魔力に合わせて鳴き声を上げる。 まるで、パイプオルガンの全部のキーを押したみたいな唸り声だ…… 「だが、正解だな。 私は諸君を傷つけるつもりは無いが――」 何重奏にもなって共鳴する魔力の中、エルフの透き通る声だけがその空間を貫いて、聞こえてくる。 「――諸君らの『再起不能』も約束の内だ」 ギーシュ、すごい。そう、素直に思った。 エルフの足場を崩す『錬金』が無ければ、ルイズおねえちゃんも、ボク達の命ももう無かっただろう。 ……逃げ場、無し。 状況は、最初と変わらない。 だから。 「とんでもない約束もあったものねぇ……」 諦めたように髪をかきあげ、つぶやくキュルケおねえちゃんも、 「――ほんっと、冗談じゃないわ!タバサを助けてさっさと帰るつもりだったのに!」 『始祖の祈祷書』を大事に抱えてエルフをにらみつける、ルイズおねえちゃんも、 「どの道帰すつもりねぇってことかよ。さぁて、相棒、どう戦う?」 相変わらずあっけらかんとした声で、ボクを支えてくれるデルフも、 「……デルフ、防御は任せていい?」 ギーシュも、モンモランシーおねえちゃんも、 ……そしてもちろん、タバサおねえちゃんも。 シルフィードをこれ以上、待たせるわけに行かないものね! 「ケケ、『神の盾』の盾ってか?あいよっ、メイン盾になってやろうじゃねぇのっ!」 「……行くよっ!」 このエルフを倒して、タバサおねえちゃんを助ける。 ボクがやるべきことは、それだけだ! 「無駄なことを」 空間に漂う魔力を、石畳や本、あらゆる物に纏わせて、踊るように、それらが降り注ぐ。 纏った魔力が、あらゆる物を重く、鋭く、大砲の弾のように変化させている。 激流や嵐の中の中にいるみたいだ。 それを、避ける。防ぐ。いなす。弾く。斬る。 デルフがボクを躍らせる。 波に逆らわずに漂う羽のように、足が勝手に運ばれる。 その動きを心地よくさえ感じながら、ボクは、呪文を唱えることに集中できたんだ。 「大気に集いし溢るる涙よ、 集いて固まり満ちるがいい! ウォータ!」 唱えられた大粒の水球、魔力の大波にもまれて球の形を保てないでいる。 そのまま、嵐に揺れてエルフの足元で弾けて消えた。 「どこを狙っている?」 エルフは、涼しそうな顔でそれを見ていた。 少し、鼻で笑いながら。 「ビビちゃんが外したっ?」 「し、しっかりしなさいよビビ――きゃっ!?」 全部は、防げない。キュルケおねえちゃんの炎や、ギーシュの剣でも。 石畳が、本によって砕かれて、それがまた新たな弾となって襲いかかる。 「これで……後は……」 息が、切れそうになる。 後少し、後少しなんだ。 「あぶねっ!相棒よぉ、そろそろなんとかしてくんねぇとこちとら燃料不足だ!」 デルフ、もう少しだから、と言いたくなるけど、呪文の詠唱を急ぐ。 デルフどころか、ボクも燃料切れだな、って思いながら。 「天空を満たす光、一条に集いて……」 「わちゃっ!?……そうか、ビビ君!」 ギーシュの声が、うっすらとだけ聞こえる。何か、気づいたみたいだ。 「も、もももういやぁーっ!な、何何なんなのよっ!!」 モンモラシーおねえちゃんの問い返す声も、少しだけ。 「エルフさえ狙わなければ、跳ね返されないってことさ!」 ギーシュ、大正解。 物理攻撃を跳ね返す、とんでもない魔法。 でも、その基準は結局は『リフレク』と同じ、と思ったんだ。 ギーシュやモンモランシーおねえちゃんの魔法……エルフの足元への攻撃がそれの証拠だ。 『リフレク』は、魔法の対象となった場合に、それを感知して跳ね返すという鏡のような魔法だ。 だから、“魔法の対象”にさえし無ければ跳ね返らない。 つまり…… 「 神の裁きとなれ! サンダガ!」 足元にばらまいた、水。 これに攻撃しても、跳ね返されないんだ!! 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 ギーシュが崩した土と、モンモランシーおねえちゃんの水がうまく混ざっているから、さらに効いた。 骨も見えそうなぐらい雷の直撃を食らったら、流石のエルフだってひとたまりもない、よね? 「……や、やった?」 魔力の嵐が止んで、少しだけ息をつく。 ……なんか、息の仕方まで忘れちゃった感じがする。それぐらい疲れていた。 「ビビちゃん、やっるぅ~!」 「――あー、やったにゃやったが……こりゃ、ヤベぇかな」 デルフの、嫌な予感。 当たらなければいいなぁって、何度思ったんだろう…… 「――なかなかに、効いた……もう、容赦せんっっっっ!!!」 黒こげになりながら、エルフの目がギランっと光った。 ぶり返した魔力の嵐は、ビリビリとしびれるような感じがした。 ボクの雷を吸い取って、そのまま吐き出すかのような、そんな空気。 それが何か所かにまとまってより濃密になっていって、床に浸みこんでいって…… それは、信じたくない光景だった。 「ふ、増えたっ!?」 「やめてやめてやめて!?悪夢よ嘘よ冗談よ何かの間違いよっ!?」 モンモランシーおねえちゃんの泣き叫ぶ声が共鳴する。 「風の遍在ってわけでも無さそうねぇ……」 キュルケおねえちゃんがつぶやく横で、ルイズおねえちゃんがあんぐりと口を開けている。 「ゴーレムかっ!?」 ギーシュが、ゴーレムと呼んだそれらは…… エルフと全く同じ姿をしていた。 「万の精霊よ、我は古き盟約に基づき対価を支払う!我が写し身を成して全てを滅ぼせ!」 速い。 一瞬の内に、間合いを詰められて、ボク達は分断されてしまった。 それぞれのエルフの姿が、仲間の姿を覆い隠すように動いて、全く様子が分からない。 「相棒、策は?」 全く、無い。 「……デルフは?」 「――お互い、万策窮すってぇわけか」 だからって、諦めるわけには、いかない。 「とにかく……防ぐしかないっ!」 「それしかねぇわなぁ……あぁ、ちきしょ!これなら7万の兵隊相手にした方が楽だぜっ!」 デルフがそううそぶいて、ボクを勇気づけようとする。 槍のように研ぎ澄まされたエルフの近接魔法の中、あぁ、これが『死闘』って言うんだなって、そんなことを考えていた。 でも、『死闘』は、『死にに行く闘い』なんじゃない。 『死に抗う闘い』なんだ。 だって、そうだよね? ボクには、ボク達には…… 帰る場所が、あるんだから。 「はぁぁああああ!!!!」 そしてボクは、嵐の中へと飛び込んだ。 ピコン ATE ~英雄~ 「厄介なことになったなぁ……!」 一撃を避けようとすると二撃を喰らう。 二撃を正面で受け止めると、連撃が背後から襲う。 エルフというヤツは、辺境の地にいるためか遠距離からこちらを狙ってくるというイメージばかりあったが、 こうも中から近距離での攻撃が得意であったかと、ギーシュは舌を巻いていた。 突いたかと思えば離れ、離れたかと思えば急襲し、全く捕え所が無い。 「もうイヤッ!イヤよ!こんなのあり得ない!耐えられない!」 背後には、顔中が洪水のように崩れた恋人の姿。 「モンモン、しっかり僕の後ろに……」 わずかに訪れた攻撃の合間を縫って愛しき人へと声をかける。 「ギーシュ!あ、あああ貴方、平気なの!?ここここんなピンチが危険だってのに!?」 恋人は、混乱していた。 当たり前だ。ハルケギニアで最強と言われる存在が、いきなり増えたのだ。 おまけに、モンモランシーは戦うように作られていない。 キュルケや、ギーシュといった軍閥とでも言うべき家の子息でも無ければ、 ルイズのような名家の娘でも無い。 ほんの小役人にすぎない、小じんまりとした家系に生まれた、 平々凡々である娘なのだ。 「……平気なわけないさ」 だが、ギーシュはそんな彼女を、一切卑しむことも、憐れむこともせず、優しく声をかけ続けた。 「でででででしょ!?ななななな、ならににに逃げましょ――」 「だけど、それはできない」 まるでそれが、最期の言葉になるかもしれない、と言うようにだ。 「はぁぁぁっ!?あ、ああああんた、さっき頭ぶつけたの!? エルフよ!?それも十数体も!?ふざけてるの!?バカなの!?死ぬの!?」 彼女の中で、エルフの数が明らかに増えているのにため息をつきつつ、 ギーシュは、ニヤリと、せいぜい強がって笑って見せた。 「ライバルが、戦っている。それに……」 「何!何だって言うのよ!!!」 「この世で一番大切な人の前で、かっこ悪い所を見せるなんて男じゃない!」 「……え」 『男なら、誰かのために強くなれ』 ギーシュが師と仰ぐ平民の女騎士が、そう教えてくれた。 『歯を食いしばって、思いっきり守り抜け』 そう、迷うことは無い。それが、今、自分にできる、最大の『カッコいいこと』なのだ。 「 『錬金』っ!!装着っ 魔導アーマー! 」 男なのだ。 男なのだから、『カッコいい』ことは当然だろ? そう言わんばかりに、ギーシュは錬金でできた鎧をさらに強化し、 英雄たらんと、その青銅の剣を振りかざした。 「ば、バカよアホよマヌケよ……あぁ、私もバカっ!!」 モンモランシーは、悪態をつきながら、ギーシュの回復の準備をする。 バカな恋人を持つと、バカさ加減が似てきてしまうのかと思いながら。 『逃げたい』から、『守られたい』へ。 さらに、そこから『助けたい』へ。 彼女もまた、小さいながら英雄の資質を持っていた。 ピコン ATE ~光~ 「な、何か何か何か何か……」 せわしなく、ページの上を指が行き来する。 細く頼りない、重い物を持ち上げたことの少ない、貴族の娘の指だった。 「ちょっと、ルイズ!このバカ!何やってんのよ!しっかり私の後ろに隠れてなさいっ!」 その頼りない娘の姿を、もう1人の娘が咎めた。 先ほどから炎の弾のバーゲンセールである。 どれもこれも、散り散りに弾かれたり跳ね返されたりと、相対するエルフには届かない。 それでも、炎を繰り続けることしか、彼女にはできなかった。 さもなければ、憎まれ口ばかり叩きあってきた、背後の頼りなさげな少女と共に命を落としてしまうだろう。 ましてや、友情を誓い合った青い髪の少女の命すら…… だから、彼女は、炎を紡ぎ続けた。 それしかできぬ自分に、歯噛みしながら。 「わ、私だって、私だって何かできるのよっ!」 「それは分かってるわよっ!でも、まっ白けな本広げる以外にあるはずでしょっ!?くっ……」 一撃を、食らう。歪んだ空気をそのまま押しあてられたかのような、鋭い刺撃。 彼女が知るどんな風魔法よりも鋭いそれは、彼女の左肩に鮮血の花弁を撒き散らしながら軽々とえぐった。 「――お願い、答えてよっ!始祖っ!答えなさいよっ!」 「ルイズ?」 ルイズの、妙な様子にキュルケが気づく。 後ろを見る余裕など無いはずだが、少しだけ、視線をそちらに振り向けた。 「こう何度も色んな背中に守られてねっ、耐えられるほど私は強く無いのよっ!私だって、私だって!」 その目は、死んじゃいなかった。 最初に出会ったときと同じ、理想に燃えていた、幼い少女のまんまだった。 「ルイズ……もう!こいつ、しつこいっっ!エルフって女日照りなのかしらっ!!!」 その姿に、キュルケは少しだけ余裕が出、安心したのか、軽口を叩いてみる。 憎まれ口を叩き合った仲だ。ここで怯えた姿でもしていたら、やる気も何もそがれていたかもしれない。 こうでなくては。キュルケは、激戦の中に少しだけ笑ってみた。 「答えてよっ!」 一方のルイズはというと、焦っていた。 乱戦。 それこそが、最大の焦りの種であった。 『エクスプロージョン』は、対象が大きく多数あるような場所でこそ効果を発揮する。 その事実は、最初に呪文を唱えたときに既に理解していた。 だが、このような乱戦では。 的も小さく、敵味方の入り乱れる乱戦では。 爆発の魔法は危険極まりない牙となり、自分はおろか、大切な友人達の命すらも飲み込んでしまうだろう。 だからこそ、彼女は焦っていた。 ページをめくる手は止まらない。 彼女は求めていた。 「このままじゃ……このままじゃ……私、みんなを守りたいっ!!」 その、答えを。 それは、純粋な願いであった。 だからこそ、であったのかもしれない。 「え?」 「な、何?この光……」 『始祖の祈祷書』が放つ光は、どこまでも透き通るような、暖かい色をしていた。 その光に包まれるは、『虚無の担い手』である少女。 どこまでも純粋に、友を守ることを祈った少女は、その呪文を理解する。 瞬きをした目が見開かれた時には、為すべきことが分かっていた。 「……キュルケっ!」 少女らしく輝くような笑み。 その眩しさは、キュルケがルイズを知ってから、1度も見たことが無いものだった。 「な、何よっ」 「あと30数えるだけ耐えて!」 「は!?」 「お願い!あんたを信頼してるからっ!」 「あぁ……炎は守るのに不向きだっていうのに!」 そう文句を言うものの、キュルケは嬉しそうに正面を向いた。 エルフが何だと言うのだ? こっちはハルケギニア最強の、女同士の友情だ! 「ウル・スリーサズ・アンスール・ケン……」 朗々と謳いあげられる不可思議な呪文に、キュルケは一種の充足感を感じていた。 「……歌?」 それは、どう聞いても歌だった。 この魔力の嵐の中、誰かが、歌っている? 「相棒っ!? うぉっ!! よそ見、 どぅわっ!? すんじゃねぇよ!!」 デルフに動かされるように踊りながら、ボクは確かに、その歌を聞いた。 「これって……」 メロディーは、違う。 でも、この暖かさを、ボクは確かに知っていた。 「ビビ!デルフを構えて!」 「……うん!」 飛び交う石畳や魔力の応酬の中、聞こえるはずの無い声が聞こえる。 そして、安心するんだ。 ルイズおねえちゃんが、無事であることに! 「『解除(ディスペル)』!!」 歌そのものが、鮮やかな小さな光となって散らばったように感じたんだ。 それが部屋の中を満たすように渦巻いて、魔力も何も優しく優しく包み込むように、飛んでいく。 「何……!?」 「え、エルフが消えた……っ!?」 光のシャワーの向こうに、ギーシュも、モンモランシーおねえちゃんも、キュルケおねえちゃんも、 そしてもちろん、ルイズおねえちゃんの姿もあった。 そして、残るエルフは、あと1人。 「あー!やっと攻撃できるわね!」 「はぁぁぁぁぁ!!」 「 『ギーシュローゼン……』」 何故か、みんな理解できたみたいなんだ。 『あの光が、エルフの魔法を全部消し去った』って。 だから、みんな一斉に攻撃できたんだと思う。 「食らいなさい!!」 「せぇいっ!」 「『大凶斬り』!!」 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」 二降りの剣撃と、炎の塊が、エルフを貫いた。 前ページ次ページゼロの黒魔道士
https://w.atwiki.jp/retroadventure/pages/48.html
トランシルバニア 1983年発売 (スタークラフト/ペンギン・ソフトウェア) ストーリー トランシルバニアの王女サブリナ姫は、吸血鬼ドラキュラ伯爵の求婚に自ら「仮死の毒」を飲んで永遠の眠りについた。 ところが「仮死の毒」は「魔法の水薬」がないと生き返らないばかりか、薬を飲んで1年が経ったら効力を失って本当に死んでしまうのだ。 姫の命も今夜限り、サブリナ姫を救えるのは貴方だけです。 コウモリが飛び交い、狼男がつきまとう、このトランシルバニアの深い森の中で、あなたの勇気は襲いかかる恐怖の連続にはたして耐えられるでしょうか・・・。 操作方法 コマンド入力式(日本語) コマンドには回数制限、所持品には制限数がある。 作品解説 原作の "Transylvania" は、Penguin Software から、1982年に発売された 。 マイコンBASICマガジン 1984年10月号(SUPER SOFT MAGAZINE)に掲載。 チャレンジ!!パソコンアドベンチャー・ゲーム 第一巻に収録。 関連項目 外部リンク 関連項目 ザ・クエスト リングクエスト トランシルバニアⅡ 照魔鏡の伝説 外部リンク 作品レビュー Kirry's Annex(懐かしのADV) 攻略サイト 懐かしいアドベンチャーゲームをやろうよ! --- 攻略テキストあり
https://w.atwiki.jp/dokuometsubou/pages/75.html
┗╋━━━━━━━━━━ ┃Name:フランシス・ドレイク【人間】┏╋━━━━━━━━━━ 生命値(Lc). : □/3 ◇/1 心魂値(Mc) : □×/5 傾向. :【嵐を越える者】┏ ┳ ┳ ┳ ┓┃ 魅力:?? 人望:?? 情報:?? 話術:?? ┃┗ ┻ ┻ ┻ ┛┏ ┳ ┳ ┳ ┓┃ 近接:?? 射撃:05 智謀:03 魔導:06 ┃┗ ┻ ┻ ┻ ┛▽ Trend ▽━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【嵐を越える者】 [酔狂者] [探求心] [姉御肌]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 困難への超越者。だが己は気づかない、自身も嵐である事を。自身の戦闘不能がシーン中一人目の戦闘不能の場合、外付け生命値+1。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━▽ Skill ▽━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【多角空間視野】 P [【射撃】+10%] [障害物ペナルティをある程度無視できる]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 障害物による跳弾、風による影響、あらゆる状況に適応した射撃が可能である。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【狩猟者の嬲り】 P [【射撃】] [判定成功時:20%] [ダメージ分/3点全ステータスダウン(切捨)] [シーン一回]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 相手を嬲る狩猟者の銃撃。射撃判定成功後、確率で相手の全ステータスをシーン中一回下げる。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【魔導障壁】 N Mc-4 [魔導6以上] [障壁:5] [戦闘開始時]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 自身を守る障壁を出現させる。魔導が強力と呼ばれる所以の防壁。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【我が身に加護を】 N Mc-3 [【魔導】] [被ダメージ-1(最低値:1)] [全判定+8%] [確定成功] [重複不可]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - その身に加護を宿す魔導。成功失敗に関わらずダメージを減少させるエンチャント。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【翼よ折れ、地に落ちよ】 N Mc-2 [魔導4以上] [【魔導】] [同行者可] [確定成功] [相手の次R全判定-30%]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 相手の能力を引き下げ、弱め、貶める魔導。次のRの間、相手の行動を全て制限する。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━▽ Item ▽━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【亜銃:キャリバー】 射撃 [片手武器] [基本火力:2] [攻撃回数:2] [判定+10%] [最大心魂値-1:3発]- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 魔力を消費して銃弾を放つ特殊な量産型魔導具。所有者の最大Mcを常時-1し、戦闘開始時に常に弾丸補充。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
https://w.atwiki.jp/digimon_world/pages/137.html
Ver.0 データ 性質 第1 第2 第3 必殺技 氷水 - 自然 無限ビンタ 91 耐性 火 格 大 自 氷 機 汚 50 35 30 30 35 30 22 使用技 火炎 塔 陽 吐 獄 爆 熱 永 溶 格闘 震 蓄 鬨 打 蹴 返 重 豪 大気 天 旋 雲 閃 静 刃 惑 嵐 自然 粉 虫 茂 災 香 爪 刺 蔦 氷水 凍 像 寒 針 弾 奇 極 雫 機械 腕 全 放 線 除 界 改 反 汚物 臭 速 巨 巨 糞 速 汚 究 進化先 ホエーモンシェルモンガルルモンユキダルモンモジャモン 進化条件 進化元 ツノモン 育成ミス 0回以上※ ボーナス条件 現在種族がツノモン※ 体重 15G 必要能力 全ステータス中・最大MPの1/10・防御力・賢さのどれかが一番高い ※常に満たしている 進化先の進化条件 種族名 体重 育成ミス 必要能力値 ボーナス条件 ボーナス条件&全ステータス100以上 ホエーモン 40G 5回以下 HP1000かしこさ100 しつけ60以上技数28以上 かしこさ>HP≧MP 防御力 すばやさ かしこさ シェルモン 40G 5回以上 HP1000防御力100 種族がベタモン技数35以上 防御力>HP≧MP すばやさ かしこさ ガルルモン 30G 1回以下 MP1000すばやさ100 しつけ90以上技数28以上 MP すばやさ>防御力>HP かしこさ ユキダルモン 30G 5回以下 MP1000かしこさ100 ごきげん75以上技数28以上 体重35~45G以外・育成ミス4回以下:MP>かしこさ>すばやさ>HP体重25~34G・育成ミス6回以上:MP かしこさ>HP 防御力 モジャモン 20G 5回以上 HP1000 戦闘勝利数5以下技数28以上 体重25~35G以外・育成ミス6回以上:HP>防御力
https://w.atwiki.jp/gods/pages/127162.html
フランシャノン(フラン・シャノン) アイルランド上王の一。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/973.html
「何考えてんのよ、あいつは!」 ルイズが廊下を走っている。 「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」 いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。 「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」 剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。 そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。 「ボロ剣!あんたの出番よ!!」 勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。 「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」 しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。 「実家ってどこよ!?」 「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」 「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」 「じゃ俺帰るわ」 「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」 デルフリンガーを掴んで走り出す。 「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」 「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」 学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、 いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。 「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ! 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!? しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」 今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを 決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。 「む、誰じゃ?」 「オールド・オスマン、私です!」 「ふむ、入ってきたまえ」 立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。 「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます! 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」 「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」 「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君… いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」 「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」 「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の 使用許可を求めおりますが…」 「ふむ…」 鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。 「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」 「はい…」 不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。 「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」 「は、はい!」 その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。 「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」 「すいません、急いでいるもので…」 入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。 「何かあったのですか?」 「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」 「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」 チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。 「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」 「なななな何ですと!?」 実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。 「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」 うんうんと一人で納得するオスマン氏。 「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」 「というと?」 「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」 「コルベールです…」 「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう… ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」 「そ、そうでしょうか?」 「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね! 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン! ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる! あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」 「おい、ジジイ」 そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは 「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ! 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」 あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。 「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」 「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」 先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる! 「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」 コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。 「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」 「それは部屋に置いてあるはず!?」 「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ! しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」 キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。 「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に 刻まれていた物とまったく同じだったのです! つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」 机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。 「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」 「コルベールです!まあ、それはそうですが…」 「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」 「は?」 オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が 映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。 「彼は!?」 「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」 はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。 「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」 「諸君!決闘だ!」 ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。 「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」 隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で ギーシュを見つめている。 「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」 薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。 ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、 もちろんそんな態度はおくびにも出さない。 「………」 対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。 彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか 触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。 危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。 しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。 「では始めようか…ワルキューレ!!」 ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、 戦乙女の姿に変化した。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ! 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」 ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。 しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。 ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。 自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は 止まっているに等しい。 「なかなかやるじゃないか、あの平民」 「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」 「はっはっはっ、まかせたまえ!」 周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、 育郎を襲わせる。 ひょっとしてこれはまずいんじゃないか? ギーシュは少しだけ焦っていた。 4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。 モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。 勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は 嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。 逆に考えるんだ、避けられると言うのなら… 「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」 育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。 「突撃だ!!」 その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。 これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、 完全に避けられる事は無いだろう。 対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。 「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」 確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。 もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。 一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。 そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。 「うわわわわわ!!」 ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、 自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。 「わ、ワルキューレ!」 振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、 槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。 しかし、その槍は受け止められた。 並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない 育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。 この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。 育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。 この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。 これで終わり、そう安堵していた。 しかしそれは油断だった。 ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。 故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。 ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を 持っているという事だった。 「ぐぅ…ッ!?」 育郎の腹部から槍が突き出ていた。 彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。 育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように 杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、 実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。 それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を まともに受ける事となった。 「ああ……」 呆然とするギーシュ。 いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。 しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。 「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「平民相手に情けないぞ!」 周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。 モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。 「そんな!?」 ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が 槍に貫かれている姿だった。 こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった 何としてでもあの時止めるべきだったのだ これは自分のせいなんだ… 涙で視界がぼやけてくる。 やっぱり自分はゼロなんだ 使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ あの傷じゃ死んでしまうかもしれない 自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう… 「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」 手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。 「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」 「しゃーねーな……相棒を見てみな」 「………え?」 『変化』がおきていた 「なななななな何だこれは!?」 ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。 育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。 『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始! 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、 彼の肉体を完全に支配した!』 渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。 『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ……… 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』 育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。 蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。 『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』 そこに立っていたのは人間ではなかった 金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ! こ れ が ッ ! こ れ が ッ !! バルバルバルバルバル!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! そいつに触れることは死を意味するッ! アームド・フェノメノン 武 装 現 象 ッ ! ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3820.html
前ページ次ページもう一人の『左手』 <フリッグの舞踏会から7時間30分前> 途端に客席がざわめく。 なに、あいつ? 一体何をする気なんだ? ってか、あいつ平民だろ? 自分が王族に口を利ける身分と思ってるのか? そういう声が会場に溢れる。 見ると、ギトーやシュヴルーズが、いや、アンリエッタの近侍らしい金髪の女性も、真っ青になって舞台へ向かっている。 無断の闖入者である才人をつまみ出す気らしい。 しかし、才人はまったく動じない。 傍らに突き立てた剣を振り返ると、 「そして、こいつがおれの相方。インテリジェンス・ソードのデルフ君です。――デルフ君、挨拶」 「どっ、どうも、インテリのデルフリンガーです。……って、本当にやる気かよ相棒?」 デルフの声が震えている。 どうやら、才人に比べて、剣の方はまだ覚悟が決まっていないようだ。 しかし才人は、そんなデルフの戸惑いに付き合う気は、皆無なようだった。 「インテリのって何やねん? キミ、そんなに頭よさげに見えへんで?」 「そっ、そんなこたぁねえぜ! これでもオレぁ6000歳よ!!」 「ほぉ、そらすごいなぁ。でもキミ、剣やんか。どっちがアタマやねん」 「ええっ!? ――いや、まあ、多分……柄?」 「って、なんで疑問文やねん!」 くっ……。 アンリエッタがうつむいた。 ギトーもシュヴルーズも、そしてアニエスも動きを止めた。 オスマンも、コルベールも、――いや、この場にいた全ての人間が、アンリエッタを凝視した。 彼女は、依然として苦しげに、小さな肩を震わせている。 そして、その震えは、徐々にだが、確実に大きくなっていった。 「殿下……?」 彼女の隣に素早く戻ったアニエスが、この空間のすべての者を代弁して、王女の様子をうかがう。 ――が、その心配は、結果から言うと、杞憂だった。 「くっくっくっくっ……!!」 笑っている……!! アンリエッタ姫殿下が、あのナメた漫才に、笑っていらっしゃる!! 観客席も来賓席も、彼女の意外なばかりの反応に、驚愕していた。 無論、才人は、来賓席で行われている、そんな珍妙なドラマは知らない。 彼は、客席すら意識せず、傍らの“相方”とのやりとりに必死だったからだ。 そして、その頃になると、デルフも雰囲気に慣れたのか――あるいは、やぶれかぶれになっただけかも知れないが――台詞を噛むことも無くなり、やりとりも滑らかになっていった。 「でも、相棒、おめえもちょっと考えろよ。いくら何でもおかしいと思わねえのか?」 「何がいな?」 「普通は剣を一本ぶら下げて、舞台に出てきたら、やる事は決まってるだろ? 剣舞とか試し斬りとかよ」 「剣舞?」 「ってか、――普通、漫才はねえだろ、漫才は!!」 「そないに怒りなやデルフ君。――ほな、キミが言うところの剣舞とか、挑んでみよか?」 「おう、まずこう、曲に合わせて……って、何やってんだい相棒?」 「いや、ほんならまず、キミが唄ってくれへんかったら、始められへんしやな」 「って、オレ担当かい!!」 くふっ、くっくっくっくっくっ……くふふふふふっっ……!! いまやアンリエッタは、笑いをこらえてはいなかった。 いや、それでも本人は、必死になってガマンしているつもりなのかも知れないが、それでも、来賓席に突っ伏して、腹をよじるようにして笑い続けるプリンセスに、周囲の人間も、どうしていいか分からなくなっていた。 ――だって、コレ、面白いか……? それが、まさしくアンリエッタ以外の、この場に存在する全ての人間の統一見解であったろう。 しかし、こう言っては何だが……彼らに、アンリエッタの気持ちは分からないのは、ある意味当然と言えた。 退屈極まりない“芸”を延々と見せられ続け、それ以上に、一観客として舞台に集中できない事情を抱えた、いまのアンリエッタにとって、生半可な“芸”は、あくびを噛み殺す労力を生み出すだけの、無意味なものに過ぎない。 人間と剣との漫才という、これ以上は無いくらい意味不明なシュール芸。にもかかわらず、必死になればなるほど空回りを続けるスベリ芸。そして、そんな彼らに反応しているのが自分だけで、周りは果てしなく戸惑うだけという、死の温度差。 つまり彼女は、漫才が面白くて笑っているわけではない。 むしろ、彼らのスベリっぷりと、周囲の戸惑いこそが、絶妙な笑いのツボにはまってしまったのだ。 「でも、デルフ君、おれ、めっちゃ音痴やで?」 「構いませんから! 歌って、剣が唄うもんじゃないですから!! 人間が唄うもんですから!!」 「でも、おれ、あんまり曲とか知らへんし」 「ああ! ぐだぐだ言わんと、早く唄いなっ!!」 「ええっと……、みっちゃん、みちみちウンコ垂れて。紙が無いから手で拭いて――」 「ゴラァッ!! やめんかバカタレぇっ!!」 ――結局、こんな調子で3分間、剣と少年はやり尽くした。 「もう、キミとはやってられへんわ」 「ええ加減にしなさい」 「――ありがとうございましたぁっ!!」 舞台上から一礼すると、そのまま才人は、剣を掴んで背を見せ、舞台袖に引っ込み、そして……観客席は騒然となった。 「……ええ、あの、それでは――とりあえず、閉会の挨拶を……」 オスマンが、汗を拭きつつ、しどろもどろになりながらも、先程中断された閉会の挨拶をしようとしている。……だが、そんなものを聞いている者は、もはやこの場には、誰一人としていなかった。 <フリッグの舞踏会から7時間前> 「いぬぅぅっっ!!」 ルイズは、自分の部屋のドアを蹴り開けた。 そこには、誰もいない。 どこ!? あいつは一体どこにいるの!? 廊下に飛び出す。 耳を澄ます。――声が……聞こえる? それも、男女が忍びやかに笑う声が。 「そこかぁっ!!」 ルイズは、声の聞こえた隣室……キュルケの部屋の扉を爆破し、室内に踏み込んだ。 「ちょっ、ちょっと、……なに? 一体なんの真似なのルイズ!?」 そこには、ベビードール一枚になったキュルケが、ルイズの知らない少年と、ベッドの上で固まっていた。……その幼い顔立ちからして、彼はどうやら一年生のようだ。 そういえば、品評会に参加できる使い魔を、いまだ召喚していない新入生は、品評会の鑑賞は、自由だったような……まあ、どっちでもいい。 才人がいない以上、こんな部屋に用は無い。 「キュルケ、あんた、あのバカ犬見なかった?」 「バカイヌ?」 「サイトよ! 決まっているでしょう!!」 「知らないわよ。あたしは、自分の順番が終わったら、とっとと部屋に帰って来ちゃったから。で、――サイトがどうかしたの?」 「知らなきゃ……まあ、いいわよ」 ルイズが唇を噛みしめながら、きびすを返す。が、ドアを出たところでくるりと振り返ると、 「あのバカ見かけたら言っといて!! わたしがメチャクチャに怒ってたって!!」 「あの、ミス・ツェルプストー?」 「なぁに?」 「あの……いったい何がどうなってるんです?」 「分からないわよ、そんなこと。……まあ、サイトが何かしたんでしょうけど」 「じゃあ、その……何で服を着ていらっしゃるんです?」 「何でって……決まってるでしょ?」 「あたしは、自分の修羅場も嫌いじゃないけど、他人の修羅場はもっと好きなのよ」 そう言い切ると、キュルケは制服の上からマントを羽織り、 「じゃ、お名残惜しいけど、今日はここまでにしましょ? 楽しかったわ」 束の間の恋を楽しませてもらった、年下の坊やに、キュルケは艶然と微笑んだ。 (いたぁ~~~っ!!) ルイズが捜し求めた標的を発見したのは、それから間もなくだった。 『アルヴィーズの食堂』近くの塔の壁に、何人かが集まっているのが見えたのだ。 そこにいたメイドは一言二言何かを言うと、そのまま食堂の方へ走り去ってしまったが、その時、ルイズには見えた。壁にもたれて座り込んだ、見覚えのあるパーカーが。 ギーシュとモンモランシーと、メイドという謎な組み合わせが気にはなったが、ルイズは取り敢えず、そこから先の理性的思考はしない事にし、乗馬鞭を振り上げて、彼らの中に割って入るが……。 果たせるかな、才人は確かにそこにいた。 しかし、……壁にもたれ、深くうずくまったその姿は、もう一歩も動けなさそうに見えた。 「サイト……?」 どう贔屓目に見ても、普通の状態ではない。 顔面は真っ赤に紅潮し、目線はうつろに定まらず、滝のような汗を流しているくせに、がたがたとマラリアのように震えている。 その瞬間、ルイズは思い出した。 この少年は、舞台上でこそ元気溌剌に見えたが、――その実、とてもそんな体調ではなかった事を。 「この……このバカっ!! 何であんたはいつもいつも、そんなムチャばかりするのよっ!!」 そう叫びながら、肩を貸そうと、才人の隣に腰を下ろすが、 「よせっ、貴族の娘っ子!!」 「~~~~~~~~っっ!!」 ルイズが、その手を彼に触れさせた瞬間、才人は口から泡を吹き出さんばかりの悲鳴をあげ、その場に倒れ込んでしまった。 「サイト……サイトォッ!!?」 「やめろ娘っ子、相棒に触るなっ!!」 その時初めて、ルイズは自分に制止の声をかけているのが、傍らに立てかけられた一本の剣だと気付いた。たしか、昨日自分が買ってきた、インテリジェンスソードの……。 「全身の傷が、化膿しちまってるんだ。傷を負っていない箇所に触れても、結果として皮膚を引っ張っちまうから、どこを触られても、コイツは痛みしか感じねえ」 少女は呆然とした。 「ここに倒れてたんだよ。多分、医務室に戻ろうとしてたんじゃないかな……」 ギーシュが口を開く。 「寮に帰る前に紅茶でも飲もうかって、ここまで来て、そこで、その剣が騒いでいるのを聞いたんだ。それで、近くを通りかかったメイドを呼んで……」 その後を、モンモランシーが引き継ぐ。 「びっくりしたわよホント。ついさっきまで、一人で舞台を独占して、やりたい放題だったのに、――まさか、こんな状態だったなんて……!!」 そう呟くように話す彼女に、以前の決闘騒ぎの時の酷薄さは感じられない。 「――あ、あの皆さん、どいてください! 水をお持ちしました!!」 メイドが走って現れ、その水差しを才人の口元に差し出そうとするが、ルイズはその手を遮った。 「ありがとう。でも、――コイツはわたしの使い魔なの。だから、わたしにやらせて」 「……は、はい」 穏やかではあるが、有無を言わさぬ口調でそう言うと、ルイズは水差しを受け取り、地べたに横たわった少年の口元に、それを差し出した。 「さあ、サイト、飲みなさい。――冷たくておいしいわよ」 一口、二口、……。 才人の喉が鳴り、僅かだが、瞳に力が戻る。 「――よう、ルイズ……」 「……っ!! この、ばかっ! バカ犬っ! ムチャするなって、あれほど言ってあったのに! それもあんな――あんな下らないマンザイのためなんかに!!」 「ひでえな……。これでもアタマひねったんだぜ。極力キズに負担をかけず、それでいて、人間にしか出来ねえ“芸”は無えかってな……」 才人は、苦痛をこらえるように苦笑いすると、デルフに手を伸ばし、それを杖代わりに無理やり体を起こし、先程までの壁にもたれて座った姿勢に戻る 「だっ、ダメよサイトっ!! 無理しちゃ、また火傷が――」 「平気さ。コイツを握ると……なんでか痛みが薄れるんだ」 見ると、左手のルーンが不気味な光を放っている。コルベールから詳細は聞いていないが、たしかに風見が、この“ガンダールヴのルーン”には、そんな力があると言っていた。 「でも、だからって……」 「ルイズ」 「なによ!?」 「迷惑、だったか……?」 彼女は、こらえた。 涙を。震えを。歓喜を。憤怒を。慟哭を。――その他もろもろの、あらゆる感情が入り混じった、巨大な内なるエネルギーのカタマリを。 そして、懸命に、その内なるカタマリを黙らせると、ぽつりと言った。 「――最高の、ステージだったわよ……この、ばか……!!」 才人は、それを聞くと、誇らしげに笑い、――そのまま目を閉じた。 「やべえ、どうやらオチやがった。――おい、しっかりしろ相棒っ!!」 「大丈夫、どうやら命に別状は無いみたいだから、いまのうちに医務室に運べば何とかなるわ!!」 そう言いながら、いつの間にか現れたキュルケが、『レビテーション』で才人を浮かべる。 「メイド! あんたは一足先に医務室に行って、先生にありったけの秘薬を準備させて! がたがた言われたら――」 そこでキュルケは、ちらりとルイズに悪戯っぽい視線を送ると、 「支払いは全額ヴァリエール公爵家が持つって言いなさい! それで先生の顔色も変わるわ!」 「はっ、はいっ!!」 「モンモランシー、あんたはこっちに付き合って! “水”のメイジが一人でも必要なの。“火”のあたしじゃ役に立たないのよ!」 「えっ、……ええ!」 キュルケの勢いに飲まれ、思わずモンモランシーがうなづく。 「ギーシュ! あんたはあたしについて来て! 興味本位で道を塞ぐバカがいたら、構わないから“ワルキューレ”でブッ飛ばしなさい!!」 「おう!」 「それから、――ルイズ!!」 「なっ、なによっ」 キュルケはにやりと笑うと、言った。 「ここ最近であんた、随分といい女になったじゃない。さっきのやりとりなんか鳥肌モンだったわ」 我がツェルプストー家の宿敵は、やっぱり、それくらいホネがないとね。 そう言わんばかりの満足げな笑みを残し、彼女たちは行ってしまった。 「なんなのよ、あのコ……?」 いつの間にか現れ、勝手に場を仕切り、まさしく嵐のように去っていったキュルケに、モンモランシーは呟いた。 いや、この場に残ったのはモンモランシーだけではない。 ルイズも、行かなかった。 いや、正確には、動けなかった。 いま一歩でも動けば、たちまちの内に泣き崩れてしまいそうだったから。 だから、拳を握りこみ、唇を噛みしめ、深く目を閉ざし、大地に足を踏ん張った。 でも、それでも、……次から次へと止めどなく流れ出す涙は、やみそうも無かった。 モンモランシーが、懐からハンカチを取り出し、乳母のようにルイズの涙を拭う。 「モンモ、ランシー……?」 「ねえルイズ、――わたしの謝罪、受け取ってくれる?」 「――え?」 「わたし、随分ひどい事言ったわ。あなたにも、あの平民にも」 「……」 「だからと言っちゃ何だけど……謝罪させてもらっていい? これまでのこと」 モンモランシーは、瞠目しているルイズに、照れたような笑顔を向けると、 「だってさ、見直しちゃったんだもの。――あなたも、あの平民も」 彼女はそのまま、悪戯っぽく、こう言った。 「メイジとして認めたくないけど、――今回のサモン・サーヴァントで、一番のアタリを引いたのは、多分、いや確実に、あなたよ」 「サイト」 「え?」 「彼の名前。――サイトって、呼んであげて」 そう言いながら、ルイズは微笑んだ。 その端整な美貌がはじめて見せた、険のない、神々しいまでに美しい笑み。 (ルイズって、……こんな笑顔の出来る子だったの……!?) モンモランシーは、その、完成された一個の芸術品のごとき笑顔に、一瞬、目を奪われてしまう。 ――そして、そんな自分を振り払うように、ルイズから目を逸らすと、 「とっ、とにかく、そういう事だから! じゃあ、わたし、医務室だっけ? うん、医務室行ってくるから! あなたも早く行ってあげなさいね!!」 そう言って、駆け出して行った。 <フリッグの舞踏会終了から30分後> 舞踏会の会場は、着々と撤収が進んでいる。 つい三十分前まで、あれほどホールをにぎわしていた音楽も、参列者たちの会話も、給仕たちが新たに運ぶ食器の音も、もう何も聞こえない。 あるのは、撤収作業を進める職人たちの、怒声のような指示や合図であり、巨大なテーブルや雛壇を動かす音であったりする。 ルイズは、その喧騒の中で一人、ぽつんと壁にもたれていた。 宴は終わったのだ。 同級生たちは、もはや誰もいない。 周囲を圧する可憐な美貌も、清楚にして瀟洒なドレスも、いまや何の意味も持たない。 才人は、……とうとう現れなかった。 そんなことは分かっている。当然だ。最初から承知しているはずだった。 いくら彼でも、あんな身体で、日に二度も三度も無理が出来るわけは無い。 今頃は、医務室のベッドの上で、うんうん唸っているのだろうか。それともぐっすり眠っているのだろうか。 それでも、……彼に義理を立てて、誰とも踊らなかった事を、ルイズは全然後悔していなかった。 口に出すのも、いや、胸の内に思うだけでも何か癪なので、素直に認める予定は永遠に未定だが。 でも、それでもやはり、鬱屈したものを感じざるを得ない。 才人は来ない。 そう、理性で分かってはいても、それでも――、 『アイツなら、あるいは来てくれるかも知れない』と、そう願う心を止められない。 でも、結局あいつはこなかった。 仕方が無い。 それはもう、仕方が無い事なのだ。 だからもう、いつまでもクヨクヨするのは、よそう。 綺麗なドレスを着飾った、今の自分を見てもらいたかったし、そんな自分が才人と踊るのを、他の連中に見せ付けたい。――そう思ったのは事実だが、しかしそんな事は、これから先、いつだって出来る。 取り敢えず、医務室に見舞いに行ってやろう。 もし、起きているようなら、この綺麗なドレスを見せ付けてやろう。そして、こんな可愛い御主人様と踊り損ねた哀れな男に、くやしかったら、一秒でも早く元気になりなさいと言ってやろう。 そうだ。それがいい。 手ぶらで行くのも、なんかアレだから、手付かずで残っている料理を少し、包んでもらおう。 そう思った。 頼んでから気がついたが、そのメイドは、品評会の後、校庭で倒れていた才人に、水差しを持ってきてくれた少女であった。シエスタと名乗った彼女は、快く承知して、まだ湯気の出ているパイとチキンを包んでくれた。 パーティ会場から医務室のある塔までは、若干遠い。 ルイズは急ごうと思った。 もし仮に、たったいま才人が起きていたとしても、彼女が医務室に到着するまでの、わずかな時間内に、再び眠ってしまわないとも限らないのだから。 ルイズは、肌寒い校庭を、薄衣のようなドレス一枚で横断するべく、駆け出そうとした。 その時だった。 「なんだ。……行き違いにならなくてラッキーだったな」 最初、彼女は自分が寝惚けているのかと思った。 何故なら、ルイズの網膜は、ここにいるはずの無い人物の影を捉えていたからだ。 引きつった笑顔を浮かべながら、剣を杖代わりにホール内に現れた、一人の少年。 「サイト――なんでここにいるのよっ!? ちゃんと寝てなきゃダメでしょうっ!!」 「仕方ねえだろ。火傷が火照って、眠れないんでな」 そう言うと、才人はぶら下げたデルフリンガーをすらりと抜き放ち、地面に突き立てると、 「散歩ついでに、――どうだ? 一曲」 そう言って、彼女に手を差し出した。 何という、作法もクソもない誘い方だろう。 やっぱり、このバカはわたしがいないと、ダンス一つまともに誘えない。 仕方ない。本当に仕方のないやつだわ。だってコイツ、わたしがいないと何もできないんだもの。 そう思ったルイズは、――しかし彼女は、自分の顔が緩みきっている事を自覚していない。 「照明は?」 「月がある」 「音楽は?」 「デルフが担当してくれる」 え――マジ? 剣がそう言ったように聞こえたが、ルイズは聞き流した。 「タキシードは?」 「油田でも掘り当てたらな」 「キズは?」 「痛えよ。でも正直、昼間に比べりゃ大分マシになった」 「じゃあ、最後に――ジェントルマンのかっこいいキメ台詞は?」 才人はそこで、言わなきゃダメ? とばかりに顔をしかめたが、ルイズに一睨みされると、こほんと咳払いし、 「美しいレディ。どうかこのおれと、ダンスを一曲、お付き合い願えませんか?」 ルイズはにっこり笑うと、そこで初めて少年の手を取った。 「ええいもう、しょうがねえな、もう!!」 デルフがいやいやながらも空気を読み、歌声を上げ始めた。 意外な事に、低音の利いたその節回しは、それほど聴けないものではなかった。 彼らは、今この瞬間に、姫殿下アンリエッタがルイズの部屋で待っている事実を知らない。 また、その王女の訪問が、彼らの身を、のっぴきならない死地と苦難に招き入れることになるのだが、それも予想だにしていない。 彼らの頭にあったのは、ただ、誰にも邪魔をされずにこのまま、踊っていたい。――ただ、その想いだけだった。 月下に、少年と少女の、二人だけの舞踏会が始まっていた。 <フリッグの舞踏会終了から2時間後> 「わたしに自殺願望はありませんが、しかし、わたしを殺す事は、貴方にとって多大なる損失をもたらすことになります。それでも構いませんか?」 「……損失?」 「はい。こちらとしても、貴方のご助力を願うからには、まさかタダで、とは申しません。それなりの報酬の用意があると、お思い下さい」 (ほう……) おもしろいな。――平田はそう思った。 自分の“気”を、こんな涼しい顔で流せる男。受け流しながらもなお、次に何を言い出すのかが、全く読めない男。 平田は、目の前に座る青年に、初めて興味が湧き出すのを感じた。 「いいだろう。話を聞かせろ」 「はい」 青年は、自分のグラスをあおり、口を開いた。 「貴方が、サモン・サーヴァントにより、この世ならざる世から召喚された方だという事は存じております。しかし、その貴方を、元いた世界にお送りする方法があるといえば、どうです?」 平田は、この貴族が吐いた言葉の衝撃で、しばらく何も言えなかった。 しかし、青年は、なおも話を止めない。 「この世ならざる世と、ハルケギニアを繋ぐ唯一の門。それが“聖地”にあるとロマリアの伝承は伝えています。そして我らは、その“聖地”をエルフから、我らが手に取り戻さんと願い、集う者たち」 (……帰れるってのか……) 平田の目は、すでにまじまじと見開かれていた。 「――それが我ら、レコン・キスタです」 前ページ次ページもう一人の『左手』
https://w.atwiki.jp/bbtecnich/pages/19.html
◆スカービ渓谷 (A) スカービ渓谷 ~戦線突破~ (B) スカービ渓谷 ~砂上の激突~ 【ボーダーブレイク】懲りずに強Gでグレランシュート@渓谷B ◆旧ブロア市街地 (A) 旧ブロア市街地 ~熱戦の河畔~ 【ボーダーブレイク】強化Gランで3ptシュートしてみた@市街地A (B) 旧ブロア市街地 ~激戦の丘~ 市街地Bでのベース外コア攻撃まとめ ⇒グレラン以外にも解説があるが、仕様変更の可能性アリ。 (C) 旧ブロア市街地 ~街路制圧戦~ 【ボーダーブレイク】 市街地C グレラン3ptシュート動画@DICE 【3/10】 ◆第3採掘島 (A) 第3採掘島 ~臨海決戦~ (B) 第3採掘島 ~夕暮れの戦火~ 【ボーダーブレイク】 採掘島B グレラン3ptシュート動画@DICE 【3/16】 (C) 第3採掘島 ~塔上の攻防~ 【ボーダーブレイク】強化Gランで再三3ptシュートしてみた@採掘島C ◆トラザ山岳基地 (A) トラザ山岳基地 ~砂塵の死線~ 【ボーダーブレイク】 グレランシュート in トラザ山岳基地@DICE 【4/12】 【ボーダーブレイク】また強化Gランで3ptシュートしてみた@山岳A (B) トラザ山岳基地 ~夜間渡河~ (C) トラザ山岳基地 ~地下進撃~ (D) トラザ山岳基地 ~月下の砲煙~ ◆ダリーヤ遺跡群 (A) ダリーヤ遺跡群 ~廃都行軍~ 【ボーダーブレイク】新マップだし強Gでグレランシュート@遺跡A【俺得】 【ボーダーブレイク】 グレランシュート in ダリーヤ遺跡A @ DICE 【5/27】 (B) ダリーヤ遺跡群 ~乾期烈戦~ ボーダーブレイク ダリーヤBグレランシュート検証 (C) ダリーヤ遺跡群 ~橋上の戦線~ (D) ダリーヤ遺跡群 ~河底の弾雨~ ◆放棄区画D51 (A) 放棄区画D51 ~冷厳なる轟声~ (B) 放棄区画D51 ~白銀死都~ ◆ウーハイ産業港 (A) ウーハイ産業港 ~要衝襲撃~ (B) ウーハイ産業港 ~暁の威容~ ◆城塞都市バレリオ (A) 城塞都市バレリオ ~強攻水路~
https://w.atwiki.jp/magoriatcg/pages/357.html
ヴィルフランシュ ヴィルフランシュ EXスキルカード 使用条件:黄黄 味方キャラ全てにHP+200する。 ターン終了時まで、味方キャラが受ける、バトルダメージ以外のダメージを0にする。 「いらっしゃいませ!ラウンジ・ヴィルフランシュにようこそ!」 カード番号 Ver3.0/EX0024 レアリティ K/サイン コメント コメントの入力。必須ではない。
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/2481.html
ヴィルフランシュ(Villefranche)はフランスの都市。一般名詞としての ville franche は「自由都市」の意味で(*1)、同名の都市は各地にある。 ノストラダムス関連 ノストラダムスの詩百篇集でこの都市名に言及しているのは、以下の2篇だけである。 詩百篇第10巻41番 詩百篇第11巻97番 このうち、第10巻41番は南仏のコサドとともに出ていることから、ヴィルフランシュ=ド=ルエルグほか、南仏のいずれかのヴィルフランシュのことと考えられる。 第11巻97番は、ソーヌ川流域のマコン、シャロン(シャロン=シュル=ソーヌ)とともに出ていることから、ヴィルフランシュ=シュル=ソーヌを指している可能性が高い。 このほか、詩百篇第8巻86番にはヴィル・フランク Ville franque という似た地名が出ているが、これは文脈から言っても、スペインのビジャフランカの可能性が高い。 ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。