約 2,128,958 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/103667.html
シャルロットアンヌフランソワーズ(シャルロット・アンヌ・フランソワーズ) フランスのモンモランシー公の一。 モンモランシー女公。 関連: アンヌニセイレオン (アンヌ2世レオン、夫)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3997.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 二〇三 石の雨が降るなか、君は頭を覆い、この異変を引き起こしているであろう怪物の姿を探して駆け回るが、無駄に終わる。 呪われた怪物は安全な岩陰にでも潜み、君の様子を見てほくそ笑んでいるに違いない! サイコロ一個を振れ。 出目に一を足した数が、石が当たって君が失う体力点数だ。 敵を探し出すことをあきらめた君は、まずはギーシュたちを安全な場所まで逃がすことに決める。 彼らのほうに眼をやると、ギーシュは思いのほか機転のきいたやりかたでモンモランシーをかばっている――武器のかわりに大楯を構えた青銅ゴーレムを二体作り出し、 石の雨から自身と少女を護っているのだ。 それでも、すべての石をかわすことはできなかったらしく、ギーシュの額は切れて血がにじんでいる。 「モンモランシー、立って! 早くここから離れるんだ!」 ギーシュは腰を抜かしてへたり込むモンモランシーに肩を貸し、なんとか立たせようとする。 「さあ、ぼくに掴まって!」 「なに? いったいなんなの、これは!? どうなってるのよ!」 アルビオンでの経験が、彼を多少なりとも成長させたのだろうか、意外なほど冷静に動くギーシュとは対照的に、モンモランシーはうろたえ、おびえきってしまい、悲鳴をあげるばかりだ。 揺れと足の下に転がり込む石のせいでよろめきながらも、どうにかふたりと合流した君は、彼らを伴って坂道を駆け下りる。 石の雨こそ止んだが、危険はおさまるどころか、かえって悪化しているのだ。 地面のいたるところに亀裂が走り、そこから高熱の蒸気が噴き出す。 別の場所では、前触れもなく地面が陥没し、掘りたての墓穴めいた奈落が生まれる。 君はどうする? ギーシュとモンモランシーに先に行くよう告げ、ひとりでこの怪異に立ち向かうか(五一へ)、三人で固まったまま逃げるか(一五三へ)? それとも、ふたりを見捨てて全力で逃げ去るか(八六へ)? 一五三 君たち三人はギーシュの青銅ゴーレム二体とともに、岩だらけのごつごつした坂道を駆け下りる。 「アリシャンカの名において、止まれ、アナランドびと! 止まれ、小僧ども!」 唐突に低く不気味な声――君にとっては聞き覚えのあるものだ――で呼び止められ、君たちは驚いて顔を見合わせ、脚を止めてしまう。 それと同時に、足下の地面が裂け、新たな亀裂が現れる。 運だめしをせよ。 吉と出たら、四六へ。 凶と出たら、二九四へ。 四六 君とギーシュは素早く跳び退くことに成功するが、モンモランシーは裂け目に片方の足を踏み外し、小さく悲鳴を上げその場に尻餅をつく。 とたん亀裂がわずかに閉じかけ、彼女の足を挟んでしまう! 無我夢中で駆け寄ったギーシュが彼女に手を貸すが、万力のようにきつく挟まれており、びくともしない。 「そ、そうだ……≪錬金≫で!」 ギーシュは手にした薔薇の造花を、モンモランシーの足を挟んだ岩に向け、短く呪文をつぶやくが、なにも起こらない! 「そんな! ど、どうして!?」 驚愕の表情を浮かべたギーシュは二度三度と≪錬金≫の術を使うのだが、モンモランシーの足を捉えた岩にはなんの変化も現れない。 やがて、亀裂を中心とした君たちの立つ地面が、次第に熱を帯びだす。 シューッという音とともに裂け目から蒸気が噴き出し、足を焼かれたモンモランシーは苦悶の悲鳴を上げる。 「モンモランシー!」 ギーシュが叫ぶ。 「いったい、なんなんだこれは!? ≪土≫の≪スクウェア≫にだって、こんな真似はできないはずなのに!」 このままでは、動けぬモンモランシーは蒸し焼きにされてしまう。 「いや……助けて……熱い……」 モンモランシーが怯えきった声を出す。 「助けて……お願い……」と。 「ま、待っていてくれ、モンモランシー! すぐに、すぐに助けるから!」 ギーシュはそう叫ぶと、青銅ゴーレムを操って地面を掘り崩そうとするが、不自然なほどに頑丈な岩は青銅の拳をもってしてもほとんど削れない。 君も、デルフリンガーの切っ先を突き立て手伝おうとするが、わずかに石粉が舞うだけだ。 焦燥と、周囲に立ち込める痛いほどの熱気によって、今や君たち三人は全身が汗にまみれている。 指先が焼けるのもかまわず、亀裂を拡げようと悪戦苦闘するギーシュの額には汗の玉が結び、それを見つめるモンモランシーの青い瞳は涙を湛える。 「ギーシュ、わたしのことはいいから早く逃げて! このままじゃ、あなたまで死んじゃう!」 「モンモランシー、ぼくは……ぼくは、きみの騎士だ! そう誓ったじゃないか。命を懸けてきみを護る、と」 モンモランシーは大粒の涙をこぼしながら、 「そんなの……そんなの、何年も前の子供同士の約束じゃない! 今はそんな誓いに縛られている場合じゃないわ!」と叫ぶが、 ギーシュはあくまでその場を離れようとはしない。 もはや残された手段は術を使うか(一二五へ)、ギーシュとモンモランシーを見捨てて逃げ出すかだ(八六へ)。 一二五 どの術を使う? 素早く、しかし慎重に選ばねば、モンモランシーの命が危ない。 HOW・四九七へ ZAP・四〇〇へ KIL・四六八へ YOB・三四九へ RAN・四一六へ 四九七 体力点二を失う。 術をかけ、モンモランシーを救うための最善の方法の示唆を待つ。 やがて妙な感覚に襲われる―― 一刻も早くこの場を離れ山を下りるよう、眼に見えぬ何者かが君の袖を引くような錯覚に陥ったのだ。 最初はなにかの間違いだと考えるが、すぐに、術は正しく作用していることに気づく。 この術は、術者が危険から逃れるよう導いてはくれるが、他者を助ける方法までは教えてくれぬのだ! 一二五へ戻り、選びなおせ。 三四九 体力点一を失う。 巨人の歯は持っているか? なければこの術は使えぬので、一二五へ戻り選びなおせ。 巨人の歯があるなら、地面に投げて術をかけ、身の丈十五フィートに達する巨人を作り出せ。 突如出現した巨人を眼にしたギーシュとモンモランシーは、口を揃えて 「ト……トロール鬼!?」と驚きと恐怖の声を上げるが、 君は心配ないと告げ、巨人に命令を下す。 少女の足元の岩を砕いて自由にしてやれ、と。 指先や足が焼けるように熱いにもかかわらず、巨人はモンモランシーの足下の岩をつかむと両腕に力瘤を盛り上がらせ、大きな岩の塊をもぎ取る。 ようやく解放されたモンモランシーをギーシュが抱き抱える。 役目を終えた巨人は跡形もなく消えうせる。一五へ。 一五 モンモランシーを救い出した君たちだが、彼女に怪我の具合を尋ねる暇もあらばこそ、新たな脅威が出現する。 数ヤード先の地面を突き破って現れたのは、焦茶の鱗と巨大な翼をもつ大蛇だ! 「くそっ、今度はなんだっていうんだ!?」 ギーシュは新たに四体の青銅ゴーレムを作り出し、身構える。 「もう、いや……どうなってるのよ、この山は……」 モンモランシーが声を震わせる。 「こんな化け物が居るなんて……信じられない……」 七大蛇の一匹である土大蛇は翼を拡げ、鎌首をもたげると、シューッと憎々しげな吐息を漏らす。 君は、この恐るべき怪物相手にどう闘う? デルフリンガーで打ちかかるか(九七へ)、それとも術を使うか? DOZ・四二一へ DUM・三五九へ SIP・三八九へ ZAP・四四六へ BAG・四九〇へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7452.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな朝の日差しが照らすアルヴィーズの食堂。 生徒達が朝食を取りながら談笑する、何時もと変わらぬ風景がそこに広がっている――かと思えば違った。 食堂には三つの長いテーブルが並んでおり、正面入り口から向かって左の方から順に三年生、二年生、一年生が座る。 その一年生の席の一角に凄まじい人だかりが出来ているのだ。中心には一人の少女。 流れるような美しい金色の髪に白い肌をした彼女はティファニアだった。 アルビオンからトリステインへと彼女が連れて来られてから二ヶ月ちょっと。 魔法学院の春の始業式並びに入学式から一週間程度遅れ、アンリエッタの取り計らいから彼女はここに編入して来た。 入国手続き、トリステイン王家の方々へのお目通りなど、もろもろな事情も編入に時間が掛かった理由だが、 もっとも大きい物は彼女自身の事だ。 特にそれまで親代わりを勤めていた子供達との別れは、彼女にとってもっとも辛い事だった。 子供達は修道院に預けられる事となったのだが、別れの際には互いに泣いてしまった。 だが、子供達も何時までも甘えてばかりいられない事を十分理解していたらしく、 「村に戻ろうか?」と言った彼女に「自分達は大丈夫」と笑顔で答えた。 そんな子供達の心遣いにティファニアも心の中の不安を拭う事ができ、こうして魔法学院の生徒として生活を送っている。 さてさて、そんなこんなで魔法学院の一員となった彼女だが、心労は絶えなかったりする。 その理由は大きく分けて二つ。 一つは環境の違い。 閉鎖された空間とも言うべきウエストウッドの森と違い、魔法学院はあまりにも交流が多い。 村に殆ど閉じ篭る様にして生活していた彼女にとって、大勢の生徒は見るだけでインパクトがあった。 それに加えて授業の内容や森とはまた違った生活も目新しく、彼女は目が回る思いだったのだ。 そして、もう一つは彼女の容姿がもたらした結果。 彼女はエルフの血を隠す為、尖った耳を覆ってしまうほどの大きな帽子を、入学の時から常に被っていた。 無論、本来ならばそのような格好で授業を受けたりするなど、学校生活を送る事は許されない。 だが、彼女の場合『肌が日光に極端に弱い』と言う表向きの理由で許可されている。 アンリエッタの要請で後見人となったオスマン氏が、教師や生徒に入学式の時にそう説明した。 普通ならば誰もが嘘と解る事だが、彼女の場合は事情が違う。 彼女の肌の白さは雪のようで、日焼けをしていない女子生徒の中でも群を抜いており、 見れば誰しも”この子は日光を浴びれば火傷を負う”と考えてしまうだろう。 そんな彼女の儚い印象や今は無きアルビオン王家とエルフの血がブレンドされた麗しい容姿、 アルビオンからの訳有りな転入などの要素により、彼女は一日で学院中の男子生徒の興味を学年を問わず図らずも独占。 毎日毎日蟻に集られる飴玉の如く、彼女に奉仕をしようと集まる大勢の男子生徒に囲まれる事は、 静かな学院生活を送りたかった彼女には想定外の事態だった。 しかし、悪意の無い彼らを無下に突き放す事など彼女に出来るはずも無く、結果として彼らの対応に苦労する羽目になった。 ――そして、今日も彼女は目の色を変えた男子生徒に囲まれている。 「いやはや、それにしても彼女の人気は凄い物だな」 男子生徒に囲まれるティファニアを見つめながら、ギーシュは唐突にそんな事を呟いた。 隣に座っていたジャンガは興味無さそうに大欠伸をする。 そんな彼らの周りには数人の男子生徒が集まっていた。 彼等は近衛隊”水精霊騎士隊”<オンディーヌ>のメンバーだ。 千年以上昔に創設された伝説の近衛隊――その名が冠されたこの近衛隊はアンリエッタが新たに創設した物だ。 最初アンリエッタは、隊長には”シュヴァリエ”の称号を送る事にしたジャンガに勤めてもらおうと考えていた。 だが現在の所、隊長はギーシュが勤めている。 理由は至って簡単……ジャンガが”シュヴァリエ”の称号授与と共に断ったからだ。曰く『部下になるなんざまっぴら御免』との事。 無論アンリエッタもこうなる事は重々承知していたらしく、無理に進めるような事はしなかった。 この新たな近衛隊の創立には”急な用件にも柔軟な対応が出来るように”と言う意味もある。 故にジャンガが隊長でなくともさしたる問題は無い。称号授与と共にアンリエッタの彼に対する純粋な感謝の意の示しである。 加えて騎士団の創立は既に決定事項としてふれを出していたので、今更取り消す事は出来ないのだった。 そんな訳で、隊長にはある程度の家柄や戦果の有るギーシュが選ばれたのである。 ジャンガにしてみれば別に有っても無くてもいい物なので、近衛隊が作られてもさして興味は無かった。 「あれは人気者と言うレベルを超えている。まるで崇拝だ」 水精霊騎士隊の実務担当をするつもりの少年レイナールがメガネを直しながら言う。 彼の言う事ももっともだった。ティファニアの周りに集う男子生徒は彼女の一挙一動にすぐさま反応を示すのだ。 紅茶のお代わりを注ぎ、肉を代わりに切り分けるなど、彼女のしようとした行動を率先して行うのだ。 それだけならばお姫様と召使の関係だが、零れた紅茶を自らのハンカチやマントで拭き取ったり、 埃が掛からないように壁となったりするのは少々行き過ぎだろう。 ガタンッ、と音がした。 ジャンガが目を向けると、ティファニアがその場を走り去って行くのが見えた。 男子生徒が手に手に帽子を持っているのを見て、ああそう言う事か、とジャンガは納得する。 おそらくは帽子をプレゼントされ、被らねばならない状況になりそうだから逃げ出したのだろう。 帽子の下には尖った耳…、エルフの特徴が隠れている。 もっとも彼女はハーフエルフなのだが、そんな事は些細な問題だろう。 「案外苦労してるみたいじゃねェか、アイツもよ…」 そう呟き、ジャンガは再度大欠伸をした。 そんな感じで今日も一日が過ぎる――かに思われたのだが……。 夕暮れ時、ジャンガはヴェストリの広場でベンチを占拠し、鼾を掻いていた。 殆ど人が寄り付かず、静かなここもまた本塔の屋根の上同様、昼寝には絶好の場所なのだ。 無論、一日中誰も近づかないなどありえない事だが、生徒達はジャンガが眠っている間は寄り付こうとしない。 以前にジャンガの傍で騒ぎ立て、彼を起こしてしまった生徒が筆舌にし難い仕打ちを受けた事があるからだ。 そんな訳で今日も彼は静かなこの場所で、思う存分惰眠を貪っていた。…そんな彼の耳に届く雑音。 何処かで誰かが騒いでいるのは解った、それが女生徒なのも解った。――解りはするが…正直うるさい。 まさか、今更騒ぎ立てて自分を起こそうとする命知らずがいるなどジャンガは思ってもいなかったのだ。 ジャンガはイライラしながら目を開けると身体を起こし、雑音のする方へと顔を向ける。 見れば帽子を押さえながらおずおずと後退っているティファニアの姿が見えた。 すると、学院の方から褐色、黄土、緑の髪をした三人組みの女生徒が姿を現す。 何れもマントは紫色をしているから一年生だろう。 紫は三年の色だったが、新しく入った学年は卒業した学年の色が使われるらしい。 なるほど…、新しく入った一年生ならば事情を知らなくても不思議では無いだろう。 それにしても目付きが悪い…、如何にも性格が悪そうだ。 すると、三人の後ろからまた一人一年生の女生徒が姿を見せる。 金髪をツインテールにした少女だ。 こちらもまた性格が悪そうな目付きをしてる。…しかも物凄くガキっぽい。 ジャンガは耳を傾けると話の内容が耳に入って来る。 …どうやらティファニアがツインテールの少女に挨拶をしなかった事を怒っているようだ。 ”無礼者”だとか”謝罪しろ”などティファニアに向かって非難轟々だ。 金髪の少女も冷たい視線をティファニアに投げかけている。 それらを見ていてジャンガは腸が煮えくり返りそうな感覚に囚われていた。 別にティファニアが苛められているのを気の毒に思ったからではない…、幼少の頃に受けていた苛めを思い出したのだ。 指の代わりに爪が生えた手が気持ち悪いと言われ、化け物と罵られる。 当時は小心者な性格だった彼にはそれは物凄い恐怖だった。 小さい頃に受けたそれはトラウマとなり、大抵の奴は黙らせられるようになった今でもふと思い出される悩みの種。 例え自分に関係の無い事でも、これだけはジャンガも克服しきれない。 自分で苛めるならまだしも(最早ありえないが)自分が苛められたり、他人が苛められているのを見るのは我慢が行かない。 「許して、お願い」 ティファニアの声にジャンガの思考は現実に戻る。 考え込んでいる間に話はエスカレートしたらしく、苛めっ子グループが帽子を掴んで引っ張ってる。 ティファニアも必死に抵抗しているが多勢に無勢…、帽子が取られるのは時間の問題の様だ。 そんな彼女が昔の自分とダブり、ジャンガは音がするほど強く歯を噛み締めた。 不意に帽子を掴んでいた手が離され、ティファニアは後ろによろめいた。 どうしたのか、と思って顔を上げると彼女達は呆然と広場の方に顔を向けている。 ティファニアもそちらに顔を向けると、そこには彼女の知っている亜人が立っていた。 「ジャンガさん?」 亜人――ジャンガは答えず、女生徒達を睨んだ。 冷たい刺す様な視線に女生徒達は震え上がる。 「あ、あなた…誰よ?」 ツインテールの少女が震える声で言った。 「ギャーギャー、ギャーギャー、ウルセェんだよ…ガキが」 吐き捨てる様に呟くジャンガ。 その言葉に褐色の髪の少女が声を荒げる。 「無礼者! 誰の使い魔か知らないけれど、この方を何方と心得ているの!?」 「ガキはガキだろうが。なんなら他の呼び方にするゼ? 小娘、クソガキ、なんちゃって貴族、…リクエストが在るなら聞いてやるゼ?」 褐色の女が噛み付くような勢いで詰め寄ろうとして、ツインテールの少女に止められる。 少女はジャンガを睨み返す。だが、その目には恐怖の色が見て取れた。 「ンだ?」 「…あなた、わたしを誰だとお思い?」 「生意気なクソガキ…、それ以外の何だってんだ?」 少女は怒りに顔を歪ませる。 「ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフよ! トリステインと縁深き独立国クルデンホルフ大公国の姫殿下!」 その説明にジャンガは、ああ、と納得したように頷く。 「なるほど…そう言う事か」 ――世間知らずの無礼な亜人かと思えば、クルデンホルフの事は知っていたか。 ベアトリスはしめたとばかりに言葉を続ける。 「そうよ、わたしはアンリエッタ女王陛下とも縁は深いの。解ったなら、今の無礼を謝罪しなさい!」 指を突きつけ、謝罪を迫るベアトリス。 だが、ジャンガはそんな彼女を見下ろすのみ。その目はまるで汚物でも見るかのようだ。 その視線に不愉快になり、ベアトリスは声を荒げる。 「謝罪をしなさいとわたしは言っているのよ!?」 「…ドブネズミ風情に何で謝らなきゃならねェんだよ?」 ジャンガの言葉に女生徒達は絶句した。 ベアトリスは見て解る位に顔を怒りで真っ赤に染める。 「あ、あなた…誰に向かってそんな口を叩いているか解ってるの!?」 「テメェこそ、外から来た分際で偉そうにしてんじゃネェよ…」 ジャンガは静かに呟く。 その言葉に何か危険な物を感じ、ベアトリスは震えた。 細められた両目は獲物を狙う肉食獣のそれと変わり無い。 「…人の縄張りで好き勝手すんじゃネェよ」 ジャンガの腕がゆっくりと振り上げられ―― 「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」 ――腕が振り下ろされる寸前、ギーシュが叫び声を上げながらワルキューレと共にジャンガに飛び蹴りをした。 完全に不意を突かれた形になったジャンガは、もんどりうって地面を転がる。 ギーシュは荒く呼吸を繰り返しながらそれを見届け、ベアトリスへと向き直る。 「ハァ、ハァ、おお、これはこれは、クルデンホルフ姫殿下ではございませんか!?」 いつもの態度は何処へやら…妙に畏まった態度でギーシュはベアトリスに挨拶をする。 「あ、あら…ミスタ・グラモンじゃない。コホン、お久しぶりですわね」 ベアトリスは目の前の相手が自分の実家がお金を貸している相手だと解るや、先程までの調子を取り戻す。 すると、彼に付いて来たのであろうモンモランシーがベアトリスの身体を見ている。 「お、お怪我とかはございませんか?」 モンモランシーは心配そうな表情で尋ねた。 「別に」 ベアトリスはあくまでも平静を装ってそう言った。 モンモランシーはその答えを聞くや、安堵の息を漏らす。 当然だろう。独立国の姫に怪我を負わせよう物ならば事は国際問題に発展する可能性が高い。 例えジャンガの性格は解っていようとも、それだけは避けなければならない事態なのだ。 ギーシュが広場で倒れるジャンガを指差す。 「あいつはジャンガと言いまして、アンリエッタ女王陛下のシュヴァリエの称号授与も断る位の無礼者なんです。 ですから、姫殿下とあろう方があのような奴と立ち話をするのは高貴さが損なわれてしまうかと…」 「でも、あの亜人が先に…」 尚も食い下がろうとするベアトリスの耳に口を近づけ、ギーシュは小声で言う。 「少しの無礼を許容出来る、出来ないで大人のレディは変わりますよ? 今此処で許容出来れば姫殿下は大人のレディとして大きく成長されるでしょう」 そのギーシュの言葉にベアトリスも満更ではなかったのだろう。 僅かに頬を染めると”この場はこれで終わり”とあっさりと引き上げた。 …去り際、ティファニアに対して「次からは帽子を取れ」と言い残して。 ――当然と言えば当然だが、ベアトリスが去った後でギーシュはジャンガに責められる事となった。 胸倉を掴み上げられ、ギーシュは苦しむ。 そんな彼にジャンガはそれだけで人も殺せそうな視線で睨み付ける。 こんな風にされるのは随分と久しぶりな感じがするが、懐かしむ必要も無ければ懐かしむ余裕も無い。 ギーシュはジャンガを落ち着かせるべく言葉を選ぶ。 「ジャ、ジャンガ…落ち着いてくれ」 「ホゥ? 派手にぶっ飛ばしておきながらその言い草か。…舐めんじゃネェぞ、気障ガキ?」 胸倉を掴む爪に力が籠もる。 首が絞まって息が苦しくなり、ギーシュはもがく。 モンモランシーが慌ててジャンガの腕を掴んだ。 「確かに説明も無しにいきなり吹き飛ばしたのは悪かったと思うわよ! でもね、事情が事情なのよ!」 必死に説得するモンモランシー。 ジャンガはそんなモンモランシーとギーシュを暫く見比べる。 やがて忌々しそうに舌打をし、ギーシュを乱暴に地面へと放り出した。 背中から叩き付けられ、ギーシュは苦痛に顔を歪ませる。 「あ、あ痛たたたた…」 「ちょっと、大丈夫?」 「な、何とか…」 心配そうな表情で安否を気遣うモンモランシーに、ギーシュは何とか笑顔を返す。 そんな二人を見下ろすジャンガ。 「…どんな事情が在るってんだ? 下らないのだったら容赦しないゼ?」 「全然下らなくなんか無い! 寧ろ重大だ!」 ギーシュは深呼吸をし、口を開く。 「彼女は小国とは言え独立国の姫だ。そこらの貴族とは格が違うんだよ、格が」 「ンなもんテメェらだって同じ穴のムジナだろうが」 ジャンガの言葉にギーシュは苦笑いを浮かべる。 「その言葉は嬉しくないが、言いたい事は解る。確かにぼくのグラモン家は代々王家に使えてきている。 格の上では大公国と同格と言っても差し支えは無い」 「モンモランシ家もそうね」 「…じゃ何であんなに頭が低いんだよテメェら?」 「現実は歴史に勝る」 「あン?」 「グラモン家は名門だが、領地の経営に疎い。過去にお金を使い過ぎた所為でね…財政難なんだ」 その言葉にジャンガは事の次第を理解し…、同時に呆れ返った。 「…金を借りてるって事か」 ギーシュは乾いた笑いを上げる。 モンモランシーもまた恥ずかしそうに顔を染めた。 「モンモランシ家も似たような物ね。以前に領地の開拓に失敗してるから…」 「まぁ、君も仲良くするに越した事は…」 「すると思うか?」 思わないさ、とギーシュは首を振って答える。 「他所から俺の縄張りに勝手に紛れ込んで、好き勝手するドブネズミとどうして仲良くしなきゃならねェ? ”始末”する方が楽だ」 そう言ったジャンガにギーシュは必死な表情で詰め寄る。 「いや、だからそれはダメだ! 彼女は一国の姫! その彼女に手を上げるのは確実に国家間の問題に発展する! しかもだ、彼女には自前の親衛隊がついている。彼らとの争いは正直御免だ」 ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。 「親衛隊…ってのは何の話だ?」 「知らないのかい?」 尋ねてくるギーシュにジャンガは頷いて見せた。 ギーシュはジャンガとティファニア、モンモランシーを正門の前まで引っ張っていった。 「見たまえ」 そう言ってギーシュは草原を指差す。 ジャンガは僅かに眉間に皺を寄せる。 魔法学院の周辺に広がる広大な草原…、そこに何時の間に作ったのか、幾つもの天幕が設けられていた。 天幕の上には空を目指す黄色の紋章が描かれ、周囲には大きな甲冑を着けた風竜が何匹もたむろしている。 「…ンだ、ありゃ?」 「あれがクルデンホルフ大公国親衛隊、その名も”空中装甲騎士団”<ルフトパンツァーリッター>だ」 ふぅん、と詰まらない物でも見るかのような目でジャンガは騎士団を見渡す。 ギーシュの説明が続く。 「クルデンホルフ大公国は、あの騎士団を「虎の子だ」と言う理由で先だってのアルビオン戦役には参加させなかった。 だから今も健在。アルビオンの竜騎士団が壊滅した今となってはハルケギニア最強の竜騎士…とまで言われているんだよ」 「最強ね……ふ~ん」 ギーシュの説明にもジャンガは生返事を返すだけ。 「その虎の子の騎士団を留学した娘一人の警護につけるとはな…どんな親バカだよ?」 呆れたような声で言う彼にギーシュは顎に手を沿えて答える。 「金持ちと言うのは見栄を張りたがる者だからな…」 「テメェが言えた義理かよ…気障ガキ?」 「ぼくはカッコつけたいだけだ。それに、今では無意味なアプローチは極力控えるようにしている」 「ああそうかよ…」 そう言ってジャンガは踵を返す。 「何処へ行くんだい?」 「…寝直すんだよ」 そう言ってジャンガはその場から消えた。 「いいかい!!? 絶対に彼女には手を出さないでくれよ!!!?」 ギーシュは既に姿を消したジャンガの耳に届くように、精一杯声を張り上げて叫んだ。 それを見ていたティファニアは申し訳無さそうにポツリと呟く。 「すみません、色々とご迷惑を掛けたみたいで…」 「え? ああ、別にあなたは気にしなくていいわよ。あいつはいつもの事だし」 「でも、迷惑をおかけしたのには変わりません…。わたしがシッカリしていればこんな事にはならなかったし…」 そんな彼女の様子を見かねたのか、ギーシュが口を開く。 「まぁ…その、なんだ。君もそんなに落ち込まない方が良い。折角の美貌が台無しだよ?」 「ギーシュ…」 モンモランシーが目を細めて見ている事に気が付き、ギーシュは取り繕う。 「別に卑しい意味で言ったわけじゃないさ。純粋に彼女を元気付けたくて言っただけさ」 「…それは解ってるわよ。ちょっとばかり気になっただけよ」 そう言い、モンモランシーは小さく咳払いをする。 「ま、ギーシュの言う事ももっともね。あなたも元気出しなさい。そりゃ、大公国の姫に目を付けられれば困るでしょうけど…」 モンモランシーの気遣いの言葉にティファニアは首を振る。 「お気遣いありがとうございます。わたしは本当に大丈夫ですから…、では失礼します」 ぺこりと二人にお辞儀をし、ティファニアは帽子を押さえながら学院へと戻って行った。 そんな彼女の後姿を見送りながら、残った二人は顔を見合わせた。 「大丈夫かしら?」 「何とも言えないな…」 「ジャンガもそうだけど…、ベアトリス姫殿下にも困ったわね。幾ら姫殿下でも我侭が過ぎと思うわ」 「それは同感だが、だからと言って僕達に出来る事は無い。…彼女が上手く対応するのを願おう」 「もう一つ願う事は在るんじゃない?」 モンモランシーがそう言い、ああ、とギーシュは頷く。 「ジャンガが問題を起こさない事か…。…願うだけ無駄な気もするがね」 ギーシュはため息を吐く。 同感、とモンモランシーもため息混じりに呟いた。 翌日…ジャンガは昨日と変わらずヴェストリの広場のベンチで昼寝をしていた。 あれだけ脅したのだから、もう二度と問題は起こさないだろうと、考えていたジャンガは再度此処を昼寝の場所に選んだのだ。 今日は最後まで寝れるだろうと考えながら。 しかし、万事思い通りに進まないのが世の常であり…。 大勢の学生の悲鳴が耳に届き、ジャンガは歯を噛み締める。 授業中だというのに何故このように叫ぶのだろうか? しかし、ジャンガには理由など関係無い。ただ喧しいだけだ。 帽子を深く被り、騒音を掻き消そうとする。 すると、今度は突風が吹き、何かの唸り声が聞こえた。 ガチャーーーンッ! 立て続けに派手に窓ガラスが破られる音が響き、生徒の物ではない男達の声が聞こえてきた。 「ルセェ…」 更に帽子を深く被り、極力騒音を排除しようとする。 だが、騒音は耳に届き続け、ジャンガは次第にイライラを募らせていく。 そして、トドメとばかりに猛烈な突風が吹き、ベンチごとジャンガを吹き飛ばした。 吹き飛ばされたジャンガは背中から塔の壁に叩きつけられた。 遂に我慢が限界を超え、ジャンガは目を開ける。 飛び去る無数の甲冑を着けた風竜の背中が見えた。それは昨日ギーシュに見せられた騎士団の連中のだ。 風竜の背中には竜騎士の姿が勿論在ったが、それ以上にジャンガを苛立たせる姿が目に入った。 一匹の風竜の足に掴まれた尖った耳をした金髪の少女、 そしてその風竜の背に竜騎士と共に乗った金髪をツインテールにした少女だ。 それを見ながらジャンガは亀裂の様な笑みを浮かべた。 魔法学院の正門前、そこの草原に設けられた空中装甲騎士の天幕の前の地面にティファニアは乱暴に転がされた。 痛みを堪えながら身体を起こし周囲を見回す。 甲冑を着けた表情すら伺えない騎士達が自分の周囲を取り囲んでおり、 その輪の外では更に恐ろしい風竜達が唸り声を上げて威嚇している。 現状逃げる術は無いに等しい。 これだけ大勢の人間が居る場所で”忘却”の魔法は使えない。 先程、人間の父を”悪魔に魂を売った者”とベアトリスに言われて反論した時も、すぐさま周囲の騎士達が駆けつけて来た。 そんな騎士達に囲まれている今の状況で魔法を唱える素振りなど見せようものなら、周囲から魔法で蜂の巣にされてしまう。 かと言って二重に囲まれている為、退路など在るはずもなし。 やはり正体を明かすべきではなかった…、とティファニアは後悔する。 自分の事を受け入れてくれた人が居たからと言って、全てのハルケギニアの人がそうだと言えるはずもない。 大体、自分を従妹だと言って受け入れてくれたアンリエッタですら、最初は自分を見て驚いていたではないか? それほどまでにエルフとハルケギニアの人間の間の溝は深い…。少し話をした位で解りあえるような物ではない。 周囲を取り囲む騎士達が、エルフの母の命を奪った騎士達の姿とダブって見える。 怯えるティファニアの下にベアトリスがやって来た。 勝ち誇ったような表情で彼女を見下しながら宣言する。 「今から異端審問を執り行うわ。わたし司教の肩書きを持っているの」 騒ぎを聞きつけて集まった周囲の生徒達がざわめいた。 生徒達の反応に満足したのか、ベアトリスは嬉しそうな表情でティファニアを見る。 「先程も言ったけど、わたしたちと仲良くしたいと言うなら同じ神を信じると言う事を証明してもらわないとね」 「どうしろって言うの?」 「あれに入るのよ」 ベアトリスは顎で示すので、ティファニアは自分の背後を振り返る。 大釜がそこに置かれていた。大釜の中の水は強力な炎の魔法で既にグラグラと沸騰している。 「あの湯の中に一分間浸かるの。大丈夫よ、始祖ブリミルを信じている者なら丁度良い湯加減に感じるから。 でも、あなたの”信仰”が本物で無い……つまり”異教徒”なら、あっと言う間に茹で肉になってしまうでしょうね」 楽しそうな顔でベアトリスは言う。 勿論、彼女の言葉は嘘だ。信じていようといまいと熱湯は熱湯でしかなく、浸かれば命は無い。 要するに、異端審問とは名前を変えた処刑に他ならないのだ。 何も知らないティファニアは呆然と大釜を見つめる。 そんな彼女にベアトリスは言った。 「できない? なら今直ぐ田舎に帰りなさい。そうすれば今までの事は無かった事にしてあげる」 暫しの沈黙が漂う。大釜の中の湯が沸騰する音と、燃える薪が立てるパチパチと言う音のみが辺りに響く。 その場に集まった生徒の中にはギーシュを初めとした水精霊騎士隊の面々にルイズやタバサも居た。 「ああ…やっぱりこういう事になったか…」 ギーシュがため息混じりに呟く。 「でも、あの子がエルフだったなんて驚いたわ?」 モンモランシーは信じられない物でも見るかのような表情でティファニアを見た。 まぁ、エルフはメイジの魔法を軽く凌駕する先住魔法の使い手である恐ろしい砂漠の悪魔…と呼ばれている。 それが目の前の少女だとは思えないのも致し方ない。 「ねぇ…、あなた達は知っていたの、あの子がエルフだって事?」 キュルケがルイズとタバサに尋ねる。 ルイズとタバサは頷いて見せた。 「正確にはハーフエルフなんだけどね」 ルイズのその言葉にキュルケは興味深げな声を上げる。 「へぇ…純粋なエルフじゃないの。でも、こうして見てる限りでも、恐ろしいって感じは全然しないわね…?」 キュルケもまたモンモランシーと似たような感想を抱いていたのだ。 さて、ルイズとタバサはアンリエッタからティファニアの事を任されている。 もっともなるべく問題は彼女自身に向き合ってもらいたいと言うのがルイズの本音だったりする。 ティファニアはハーフエルフであり、更には”虚無”の担い手である。 そもそも普通の貴族としては暮らしていけない身の上なのだ。 そんな彼女が魔法学院に来れば、どんな事態が起きても可笑しくはないのである。 それで一々助けていては此方が大変なばかりか、彼女自身にとってもためにならない。 本当にどうしようもなく、どうしても助けが必要な場合、その時にだけ手を差し伸べようとルイズは心に誓ったのだ。 そしてその旨はアンリエッタもタバサも、後見人となったオスマン氏も承知してくれた。 そんなルイズはそろそろ口を出すべき時だろうかどうか悩んでいた。 どんな事態が起きても可笑しくは無いと思っていたが、これは些か事が大きすぎる。 まさかこの魔法学院で異端審問を執り行う者が出てこようと流石に思わなかったのだ。 だが、非常に怪し過ぎる。あの一年生は司教の肩書きを持つと言ってはいるが、肝心の免状や審問認可状が見当たらないのだ。 何より目が悪戯をしている子供と大差ないのだ。 それらの事から、おそらくは嘘だろう、とルイズは当たりをつけていた。 では直ぐに口を出すべきだと思ったが、ティファニアの目からは怯えが消えていたのだ。 まだ何か言う事があるのだろう、とルイズはもう暫く様子を見る事にした。 「いや。絶対にいや」 その時、ティファニアの声が静かに響いた。全員の視線がティファニアに集中する。 ベアトリスは一瞬呆気に取られた。 「わたし、外の世界を見てみたいって願っていたの。それをジャンガさんやアンリエッタさんが叶えてくれたの。 ここで帰ったら、願いを叶えてくれた人達だけじゃない…、笑顔でわたしを送り出してくれた子供達にも合わせる顔が無い。 だから、絶対に帰らない」 ベアトリスは歯噛みする。これだけ脅してやれば帰るだろう、と思っていたのに相手は「帰らない」と言ってきたのだ。 どうして命を落とすかもしれないこの状況で、あんな言葉が言えるのだろうか? と悩む。 それだけの覚悟がティファニアには有るのだが、理解出来ないベアトリスは苛立つだけだった。 幼少期からちやほやされて育った彼女は未だに精神年齢が未熟なままなのだ。 「わたしが帰れと言ったら帰るの! それに、何よ今の!? わたしの生まれであるクルデンホルフ大公家と、現トリステイン女王陛下であらせられるアンリエッタさまは縁が深いの! それを言うに事欠いて”アンリエッタさん”ですって? 無礼にも程があるわ! やはりあなたは異教徒ね! わたしやアンリエッタさまへの礼儀もなっていないあなたは即刻ここから出て行きなさい!」 ベアトリスはヒステリックに喚き散らす。 しかし、ティファニアは全く動じなかった。寧ろ、ベアトリスを哀れみの目で見つめている。 「な、何よ? 何なのよ、その目は!?」 ティファニアはポツリと呟く。 「可哀想…、子供なのね」 「なっ!?」 ベアトリスは呆然とする。 そんな彼女を見つめながらティファニアは続ける。 「ずっと大勢の子供達の世話をしてきたから解るわ。…あなたは全てが思い通りに行かないと気がすまない子供。 きっと、家に居た時は何でも他の人がやってくれたのね…。どんな我侭でも全て聞いてもらって、欲しい物は何でも貰う。 そんな甘やかされた生活が続けば子供のままで当然よね…。だから、あなたにはああ言う人しか集まってこない…」 ティファニアはそう言って離れた所で見ている三人組の女生徒を見た。 彼女の真っ直ぐな目で見つめられ、三人は動揺する。 そのままティファニアはベアトリスに視線を戻す。 「もっと…叱る時には叱ってくれる、ちゃんとした親の所に生まれていればこうはならなかったと思うわ。 可哀想に…。わたし…あなたがとても気の毒だわ」 直後、乾いた音が響き、ティファニアは地面に倒れた。 苛立ちが頂点を越えたベアトリスの平手打ちが飛んだのだ。 顔を真っ赤にさせながらベアトリスは叫ぶ。 「この者を釜に入れて! 今直ぐに!」 後ろに控えていた空中装甲騎士の二人がティファニアへと手を伸ばす。 ルイズは頃合と見て、止めるべく声を上げようとした…その時だ。 「ガアッッッ!!!?」 突然悲鳴が上がり、悲鳴の方に視線が集中する。 騎士の一人が杖を放し、ビクビクと身体を痙攣させている。 やがて、騎士は両膝を付き、ドサリと前のめりに倒れ込んだ。 その背中には三本の切り裂かれた傷跡が付いている。 悲鳴が上がったが、倒れた騎士の背後に立つ者の姿を見るや、それは直ぐに治まった 「ジャンガ…」 ルイズは呆然と呟く。 タバサは彼の姿を見るや目を細める。 立ち尽くすジャンガの身体からはどす黒い殺気が放たれている。 生徒達はそれを肌で感じ取ったのか、ジャンガから逃げるようにして離れていく。 それは風竜達も同様で、身体を小刻みに震わせながらその場に蹲る。 そんな周囲の事はジャンガは目にも入っていない様子。 その鋭く血走った視線はベアトリスだけを見つめている。 ベアトリスは身体が反射的に震えるのを感じた。 昨日の事が思い起こされたのだ。 ジャンガはゆっくりとベアトリスへと歩み寄る。 その動きに空中装甲騎士団が動く。 「止まれ! それ以上殿下に近寄るな!」 一斉に杖を突きつける。 だが、ジャンガは立ち止まらない。 騎士達は更に声を荒げて叫んだ。 「止まれと――」 瞬間、無数の血の花が咲き、騎士達が宙を舞った。 重い音を響かせながら、次々と騎士達が地面に落ちていく。 全ての騎士が空に打ち上げられ、落下するまでそれほどの時間は掛からなかっただろう。 だが、その場に居た全員には随分と長く感じられた。 それを見ながらベアトリスは呆然と立ち尽くしている。 あの亜人が歩いて来たのを見て空中装甲騎士が自分の前に壁を作った。 だが、その壁は次の瞬間には無かったのだ。そして間を空けずに降り注ぐ騎士達。 一様に真っ赤な血を滴らせて地面を赤く染めている。 何が起こったのか…まるで解らなかった。 呆然と立ち尽くすベアトリスの前にジャンガが立った。 有無を言わせず胸倉を掴み上げるや、そのままベアトリスを連れて大釜の方へと歩いていく。 何をするつもりなのか…その場の全員が理解し、息を呑んだ。 「ね、ねぇ…流石にあれは不味いんじゃないの?」 キュルケが冷や汗を垂らしながらルイズとタバサを見る。 傍らではギーシュやモンモランシーも不安な表情を浮かべている。 「ああ、そうだよな…万が一にもそんな事は無いと思ったけど、そうなるよな…。 あ~あ…トリステインはどうなるのかね?」 「それよりも姫殿下の命が危ういわよ…。ジャンガのあの目…殺す気満々の目よ」 「じゃあモンモランシー…、聞くけど…君はああなった彼を止められるかい?」 ギーシュの問いにモンモランシーは首を振る。 そんな風に慌てる彼らだが、意外とルイズとタバサの二人は落ち着いていた。 「ねぇ…あなた達はどうしてそんなに落ち着いていられるの?」 タバサは騎士達を指し示しながら呟く。 「派手に出血しているけど、命に別状は無い」 キュルケ達は倒れた騎士の方を見た。 なるほど…、確かに騎士達は派手な出血と怪我を負ってはいるが、絶命してはいない。 その証拠に騎士達の何れもが苦しそうな呻き声を発し、手足を僅かながら動かしている。 「どう言う事?」 キュルケの言葉にルイズは大袈裟なほど大きなため息を吐く。 「わざとやってるのよ…」 「そう、わざと」 ルイズは呆れた様子で、タバサは全く動じずにそう言う。 「要するに怖がらせたいだけなのよ。性格の悪いあいつの事だからね」 「だが、それならば……こう言っては何だが、どうして止めを刺さないんだ? 彼ならばそうしても可笑しくないと思うんだが?」 ギーシュの問いにタバサが答える。 「単純に死人が出たら面倒なだけ」 「あっ、そう…」 ギーシュは諦めとも呆れともつかない声で呟く。 「ま、本当に危なくなったらわたしとタバサで止めるわよ」 ジャンガは跳び上がると、大釜の縁に降り立った。 立ち上る水蒸気だけでも熱い。中の熱湯がどれだけの温度なのか容易に想像は付いた。 その熱湯の真上にベアトリスを持って行く。 ベアトリスは恐怖に顔を歪ませる。 真下には例の大釜…、その中には煮え滾る熱湯…。 落ちれば命が無い…。ベアトリスはジャンガの腕を掴んだ。 「あ、あなた…、こ、こんな事をして…、た、ただで済むと思ってるの!?」 精一杯の虚勢を張り、ベアトリスはジャンガに向かって叫ぶ。 ジャンガはベアトリスを引き寄せ、真正面から睨み付けた。 「ただじゃ済まない? キキキ…どうするってんだよ?」 「そ、それは…」 ジャンガは後方で倒れる空中装甲騎士の面々を肩越しに見る。 「あの連中…今の所、ハルケギニア最強の竜騎士とか言われてるんだってな?」 再びベアトリスに視線を戻す。 「そんな連中がああじゃ…俺をどうにかできる奴なんかいないと思わネェか?」 ベアトリスは言葉に詰まった。 確かに空中装甲騎士は現状、クルデンホルフ大公国が有する最強の騎士団であり、 ハルケギニアに現存する最強の竜騎士団である。 それが破られたと言う事は、殆どのメイジが太刀打ち出来ないという事に他ならない。 落ち込むベアトリスに対し、ジャンガはニヤリと嫌みったらしい笑みを浮かべる。 「まァ、湯にでも浸かれば気も落ち着くだろ? ちょうど良い感じにここには”風呂”も在るしよ」 ベアトリスは驚愕する。 目の前の亜人はやはり自分を釜に放り込む気なのだ。 必死でベアトリスは暴れる。 「や、止めて! し、死んじゃうわよ!!?」 ジャンガは首を傾げる。 「何で死ぬんだ…、”ブリミル教徒には良い湯加減”なんだろ?」 その言葉にベアトリスは更に言葉に詰まった。 確かに自分はそう言ったが、そんな物は嘘である。異端審問ではこのような虚言は日常茶飯事。 潔白を証明する為の方法も、相手を異教徒として認めさせる為だけの拷問なのだ。 無論、ジャンガはそんな事は百も承知であり、承知した上で言っていた。 羽目を外しすぎたガキを甚振るには十分すぎる理由だ。 「異教徒とかじゃねェんだったら問題は無ェよな? だったら遠慮無く湯に浸かりな、キキキ」 ベアトリスは必死でジャンガの腕を掴んだ。 「粘るんじゃネェよ…ガキが」 そう言って、反対の腕の爪をベアトリスの首筋にチクリと刺す。 軽い痛みを感じた直後、ベアトリスは身体から力が抜けるのを感じた。 ジャンガの腕を掴んでいた腕が、足がダラリと下がる。 だが、ベアトリスは生きていた。意識もハッキリとしている。 ただ、身体が動かないのだ。 「な、何よこれ?」 「キキキ、ちょいとお前の身体を動かなくしただけだ。なァ~に、暫くすりゃ動けるようになるゼ」 ジャンガは不適な笑みを浮かべながらベアトリスを見つめる。 「…それまでゆっくりと湯に浸かってな」 胸倉を掴んだ爪の一本が外れた。 ガクンと体が傾きベアトリスは、ヒッ、と悲鳴を漏らす。 更に一本が外れ、更に体が傾いた。 ベアトリスは恐怖に身体を震わせる。ガチガチと歯が小刻みに噛み合わさって音を立てる。 そんなベアトリスを満足げに見つめながら、ジャンガは最後の一本を外そうと動かす。 「ご……、ごめんなさーーーーーーいっっっ!!!」 突然のベアトリスの叫びにティファニアや生徒達、飛び出そうとしたルイズとタバサも目を見開く。 ジャンガは怪訝な表情でベアトリスを見る。 「あン? ごめんてなんだよ?」 「わ、わたし、本当は司教の肩書きなんて持ってない! 異端審問なんて行えないの! ぜ、全部……全部嘘なの!!!」 ベアトリスは必死になって真実を語る。 「わ、わたし…あのハーフエルフが羨ましかったの…。何もしていないのに、色んな人に囲まれているあの子が…。 大公家の娘だからって…最初はわたしが注目されていたのに、あの子が全部人気を持っていっちゃうから…。 それだけじゃない…あの子はわたしに注目していた人だけじゃなく、もっと大勢の人から注目されていた…。 それが羨ましかった…、どうしようもなく悔しかった…。 大公家でも無いのに…特別な家柄でも無いのに…人気者なあの子が羨ましかったの…。 わたしだって…わたしだって…友達が欲しいかったの…。 大公家の娘だから持ち上げる相手だけじゃなく…本当の友達が欲しいかったの!」 取り巻きの三組みが気まずそうな表情を浮かべながら顔を見合わせる。 「…だから……あの子がハーフエルフだと解って、つい…異端審問なんて言っちゃったの…。 …ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……。わたしが悪かった……ごめんなさい…」 涙ながらに謝罪を繰り返すベアトリス。そこには最早、先程までの高慢な悪ガキの姿は欠片も無かった。 「ベアトリスさん…」 ティファニアは何とか立ち上がる。 と、ジャンガが高らかに笑った。 「キーーーッ、キキキキッッ!!! なるほどなァ~? そいつはまた可哀想だゼ。いやいや、俺も似たようなもんだしよ」 そう言ってジャンガは腕を振り上げ、ベアトリスを地面に叩き付けた。 「痛ッ!?」 身体が動かない為に受身も取れず、無防備に地面に叩きつけられたベアトリスは痛みに悲鳴を上げる。 ジャンガは地面に降り立ち、大釜に足を付ける。ちょっとでも力を込めれば簡単に大釜は倒れるだろう。 その先には…。 「な、何をする気…?」 怯えるベアトリスにジャンガは冷たい笑みを浮かべて見せる。 「そりゃ勿論、お前に向かってこれを押し倒すのさ」 「なっ!?」 「テメェがこんな事した理由は解った…。だがな、俺としてはこのまま済ませる訳には行かねェんだよ。 この先、他にも出ないとも限らないしな…。何より、俺の面子って物が在る。 だから、罰は受けてもらうゼ。なァ~に、安心しな。この大釜の湯をぶっ掛けるだけだ。 何時間も湯に浸かるよりはいいだろ。ほんの一瞬だけ耐えれば良いんだからよ~?」 簡単そうに言うが、如何考えても楽ではない。ゆっくり浸かろうと、一瞬だけ浴びようと熱湯は熱湯。 あれ程の温度の物をあれだけ大量に浴びせられれば勿論命は無い。 「待ってください、ジャンガさん?」 そう言って止めたのはティファニアだった。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/gods/pages/103658.html
アントワネットドラマルク(アントワネット・ド・ラ・マルク) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: ロベールヨンセイドラマルク (ロベール4世・ド・ラ・マルク、父) フランソワーズドブレゼ (フランソワーズ・ド・ブレゼ、母) アンリイッセイドモンモランシー (アンリ1世・ド・モンモランシー、夫) シャルロットドモンモランシー (シャルロット・ド・モンモランシー、娘) マルグリット(44) (娘)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3613.html
前ページ次ページ虚無の王 恋と虚礼とが立ち去り、ホールには明かりだけが落ちていた。 飲み止しのグラスがテーブルの縁に肩を並べ、深皿の半ばには冷め切った料理とソースとがこびり付いていた。 甘みと酸味ではち切れんばかりの果実は、盛られたそのままの姿で取り残されている。 一人の使用人が、鋏を手に悠々と現れた。 頭上で燃えるシャンデリアが床まで降ろされた。芳しい香りと暈光を放つ蜜蝋が、一本一本断ち切られて眠りに就く。 ホールの四隅で、魔法灯の頼りない光だけが揺れていた。 談笑の声はアウストリの広場へと渉っていた。 少年少女達が太陽の下、その快活さを発散して来た東向きの庭園は、半年間の思い出と、会う事の叶わない二ヶ月間を大袈裟に嘆いて見せる、新たな恋人達の秘めやかな語らいの場と化していた。 二つの月と、絢爛たる星々の投げ降ろす光は優しかった。 芝生にくつろぐ少年少女達が、時として、ブリミル教徒の堅持すべき廉正を踏み外したとしても、それを暴き立てる事はしなかった。 乾いた空気が心地よい。夏を迎え、夜もその冷淡を忘れていた。 二組のヒールが、煉瓦敷きの舗道を叩いた。 純白のパーティドレスを身に纏ったルイズ。 歩を並べるモンモランシーのドレスは水の精霊を想わせた。 「嫌になるわね。全く」 声と足音が、噴水に吸い込まれた。 ギーシュと空。二人の決闘を気に止める者は居なかった。 昼の若い退屈な時間と違い、この夜は特別だ。 誰も彼もが、恋人の瞳に世界の全てを覗こうと夢中でいる。 「なのに、あいつはこの私では無く、平民の男と向き合っているんだわ。信じられない」 ホールの窓から、鈍い光が漏れていた。 同じ様にして捨て置かれたルイズは、同じ様にして怒る気にはなれなかった。 ギーシュの姿が脳裏に浮かぶ。青ざめ、強張った顔。 壊れたアルヴィー人形だって、もう少しは暖かみの有る顔を見せるだろう。 「ルイズ。貴女、憶えている?」 こんもりとした植え込みと、薔薇のアーチとが織りなす緑の小部屋に、小さなテーブルとベンチが覗いていた。 入学直後。まだ、“ゼロ”の悪名を頂く以前だ。 知り合った女生徒同士、編み物がてらに語らった場所だった。 「恋愛には手練手管が必要だわ」 セックスアピールに乏しいモンモランシーだが、トリステイン女性の例に漏れず、極めてプライドが高い。 実経験も手伝って、紳士達が如何に不純で、移り気で、忠実な愛を捧げるに足りない存在であるかを熱弁する。 自分はそんな彼等の鼻面を引き摺り回し、とことんまで奉仕させ、振り回してやるのだ、と。 「とにかく、こちらを手に入れた、なんて殿方を思い上がらせては駄目ね。御世辞を言いたい放題に言わせておいた所に、不意打ちを食らわせて上げるの。そうすれば、こっちの物よ。 なんと言っても、私達に必要なのは口やかましくて、嫉妬深くて、そのくせ恋の勝者を気取った自惚れ屋じゃない。いつでも恐れおののき、恋いこがれている、従順な恋人なんですから」 うら若い少女達は、友人の勇ましい演説に喝采を上げる。 そこで抗弁したのが、ルイズだった。 「きっと恋と言うのは、あんた達の思惑や手管よりも、ずっとずっと強い物だわ。紳士淑女が恋に夢中になるのは、本当に愛し愛されていると感じている時だけで、それは始祖も理解して下さる事に違いないもの」 自分が恋する姿さえ想像出来ずにいた、由緒正しきヴァリエールの末っ娘は、大真面目に至誠の愛を訴えた。 前王朝時代の遺物を前に、女生徒達は揃って眼を丸くした。 「それが貴女の手管なのね!」 からかったモンモランシーも、からかわれたルイズも、はっきり憶えている。 「あの時、思ったわ。あなたとは絶対、友達になれない、て」 「私だってそうだわ」 植え込みの向こうで、影が動いた。 人目を避ける、絶好の場を見付けた先客には、周りが見えていなかった。 熱烈に愛を交歓する少年少女。恋に恋する二人の乙女は、まずは凝視し、続いて目を見合わせ、物音を立てぬ様、慎重に慎重を重ねた足取りでその場を立ち去った。 寮塔の窓にぽつぽつと灯が点った。 それは、寮監の目を盗んだ幸運な二人と、一夜の青春に諦めを抱いた不幸な一人の数に等しかった。 庭園の中央では、噴水が陽気に踊っている。 夜の闇が、火照った頬と項から熱を攫って行った。 「そう言えば……――――」 「ええ」 あの日、二人は互いそっぽを向いて茂みを出た。 噴水は恋の宮廷と化していた。 寄り集まった紳士達は、誰もが母親や後見人、僧侶には到底見せられない、自由奔放な言葉と仕草を以て、一人の女神に崇拝と信仰とを捧げていた。 縁石に座しているのは、同じ一年生だった。 情熱的な肢体に、燃える唇は、手練手管を弄する事とも、心に依り所を求める事とも無縁だった。 赤毛の少女は自然のままに、あらゆる男達を傅かせる、無繆の王権を手にしていた。 二人の姿を認めて、少女は微笑を投げ落とした。 三女のルイズはよく知っている笑みだった。初めて魔法に挑み、失敗した時、姉エレオノールが見せた笑みだ。 それ以来、キュルケ・アウグスタ・フレデリカは不倶戴天の敵となった。 最後にフォン・ツェルプストーが付こうが付くまいが関係無い。 それはモンモランシーも同様だった。 「本当。世の中、判らないわね」 「全くね。その通りだわ」 噴水には誰も居ない。 一つの夜が終わろうとしていた。 アウストリの広場は、毎日がそうであった様に、暗闇と退屈との中に沈もうとしていた。 「同病相憐れむ」 声は頭上からだった。 二つの月の間で、小さな影が一転した。 スカートを抑える仕草に、少女の慎みが見て取れた。 黒いドレスが、羽根の軽さで地に舞い降りる。 “牙の玉璽〈レガリア〉”の脆弱なサスは、何とか着地の衝撃を吸収した。 「ちょっと!……あなた、何が言いたいのよっ」 「あんたには言われたくないわよっ」 ドレス姿の可憐な少女達。 三人は、揃って発育と無縁だった。 揃って恋の夜を孤独に過ごしていた。 「わ、わたしは偶々よ!」 モンモランシーにはギーシュと言う恋人が居る。 確かに、浮気性で、目移りが酷くて、気配りが無くて、思慮にも欠ける少年だ。 それでも、彼を選んだ事に後悔はない。 ルイズは沈黙を守った。 至純の愛を理想に描いた乙女も、今では自分が思っていたよりも素直になれない性格である事を知っていた。 何より、相手を疑う事を知っていた。 真実を語れない時は、口を閉ざしておいた方がいい。 タバサもまた、何時もながらに表情を見せない。 過去、言い寄って来た上級生に教師は、揃って嫌な目をしていた。 数年後には、悪質な犯罪に及んで家門を潰すだろう。 今はそんな事よりも、言うべき事が有る。 「彼はどこ?」 「空の事?ギーシュが連れて行ったわ」 ギーシュは舞踏会の最中、ホールの真ん中で空に決闘を申し込んだ。 あの場に居たのなら、知っている筈だ。 「どこへ?」 「知らないわよ。いつもの通り、ヴェストリの広場じゃないの?」 「どうかしら?最近、あいつと学生の決闘には、学院も神経尖らせてたじゃない」 もっと別の、目立たない所かも知れない。 モンモランシーはそう主張する。 「いつもの事よ。私はもう慣れたわ。あの二人なら、心配要らないでしょう」 「今夜は心配」 「どうして?」 「様子が変」 「どう変だ、て言うの?」 「判らない。でも、嫌な予感がする」 「予感、て……!」 モンモランシーは失笑した。 某かの根拠を得ているのかと思いきや、予感と来た。 全く、いい加減な事を言い出すタバサと言い、真に受けた様子のルイズと言い、どうかしている。 「ねえ。あなた、どうしてあいつの事を、そんなに気にするの?」 「その質問には答えられない」 「何よ。人には言えない秘密でも有るの?」 「そう。秘密」 「秘密の関係、て事ね!」 恣意的な誤解に、タバサは頑なな沈黙で答えた。何時もの事だ。 ルイズの様子が何時もと違った。 短気と強情とを薄い胸一杯に溜め込んだトリステインの乙女は、この夜に限って、深読みと先走りより、不安と懸念を選んでいた。 「もう、うんざりだわ!」 モンモランシーは天を仰いだ。 「気の利かない男達の事なんて、忘れましょうよ。そうだ。私の部屋にいらっしゃい。取って置きのタルブワインがあるの。今日、この夜を私達だけで、特別な物にしましょう。なんと言っても、私達は一人なんですからね」 教区寺院での説法よりも退屈な提案だった。 女だけで飲み明かす無惨な夜は、一生に一度もあればいい。 ルイズも、タバサも、生命を司る水メイジが考えているよりは、長く生きるつもりでいる。 「あら。お集まりね」 煉瓦道に、ぱっと炎が上がった。 一人の夜と訣を分かって久しい赤毛の女は、今夜に限って、日替わりの従僕を連れていなかった。 目がチカチカした。 身を包むよりも、効果的に晒す事を狙った際どいドレスに弾ける褐色の肌。 官能的とさえ言えるその姿は、慎みと言う言葉の対極に有りながら、決して品位を失ってはいなかった。 「ねえ、貴女達。ダーリンを見なかった?」 「あんたも、あの男なの?呆れた」 「今夜の所は、諦めるつもりだったんだけどね。舞踏会では結局、踊れず終いだし。こんな夜くらいは、ルイズを安心させて上げていいでしょう」 「空に何か用なの?」 「だから別に。ただ、タバサが心配しているみたいだから、一緒に探していたのよ」 生憎、誰も空の行方は知らなかった。 「気にする事なんてないわよ。用が有るなら、明日でいいじゃない。大体、嫌な予感も何も、ギーシュがあいつに勝てる筈無いんだから」 「違う。そうじゃない」 「じゃあ、なんだって言うの?」 「まあまあ」 キュルケの声が割って入った。 確証が無いから、予感と言うのだ。 何も無ければ、それはそれで良いではないか。 「手分けして探すしか無いのかしら」 「馬鹿馬鹿しい。放っておきなさいよ」 「私も行く!」 モンモランシーの楽観論に、ルイズはどんな感銘も覚えなかった。 彼女は空と感覚を共有出来ない。 見える筈の物を見る事が出来ない人間が、どうして暢気に構えていられるだろう。 「じゃあ、私はこの辺りをもう一度、探して見るわ。ルイズは南側をお願い。タバサにはヴェストリの広場をお願い出来る?反対側だけど、貴女なら一っ跳びでしょう」 「ヴェストリの広場?止めておきなさいよ」 指名の当人よりも先に、モンモランシーが反応した。 「あそこ、昼でも真っ暗じゃない。この時間じゃ、何も見えないわ」 「……何を隠してる?」 不意に、タバサが言った。 幼い外見に似合わず、幾多の修羅場を潜って来た騎士だ。こうした人間は、自分の勘に絶対の信頼を置いている。 一度、何かを嗅ぎつければ、その正体が判らずとも躊躇はしない。 「な、何言い出すのよ!別に何も隠してなんかいないわ!言いがかりは止して!」 モンモランシーはそれと正反対の人間だった。 良識有る人々と、善意を交換しながら生きて来た令嬢には、どんな場合でも相手に善意を期待する癖がついていた。 確証を与えなければ大丈夫――――相手の行動に根拠と整合性とを求めてしまうのは、お上品な人間がしばしば陥る陥穽だ。 キュルケの目が左右した。 その情熱故に、却って退屈を持て余した女は、人をよく見ていた。 「そんな事より、今はダーリンを探しましょうよ。タバサは辺りを一走りして。ルイズはヴェストリの広場を見て来なさい」 さり気なく、役割が交換されていた。 ルイズは異を唱えなかった。 何と言っても、今、問題となっているのは、自分の使い魔だ。 「ちょっと。待ちなさいよ、ルイズ!」 ルイズの行く手に、モンモランシーの声と体が割り入った。 「ゲルマニア女に好きな様に命令されてどうするのよ!第一、危ないわ。あんな所」 返答は視線の砲列だった。 三組の異なる瞳が、同じ色に染まり、揃って同じ要求を突きつけた。 「な、何よ……」 「ねえ。貴女、ルイズとは何時頃から一緒に居たの?」 「ヴェストリの広場には人を近付けたくない。取り分け、彼女は」 「モンモランシー。どう言う事なの?」 三人の声が、鉛の重さでモンモランシーにのしかかった。 実の所、良心を自責の泥沼へ引きずり込む重石の半分は、彼女自身の罪悪感で出来ていた。 由緒正しきモンモランシ家の令嬢とは言え、未だ学生の身。嘘や隠し事を突き通すだけの胆力が備わるには、もう少し時間が必要だった。 「判ったわよ!」 モンモランシーは観念した。 始祖ブリミルの手に接吻をしつつ、もう片手でサハラの悪魔の手を取る方法を、この年頃の貴族が知っている訳が無い。 「ギーシュよ!あいつに頼まれたの!決闘の間、ルイズを近寄らせない様にして欲しい、て!」 それは言葉の吐瀉だった。口にした方は、これですっきり出来ると考えたかも知れない。 聞いた者が納得するかは、また別だ。 「あのギーシュが?」 「気が利かない。気が回らない。思慮が足りない――――全て、あなたが言っている事」 「モンモランシー!本当の事を言って!」 一つの嘘を吐けば、それを隠す為、さらなる嘘を強いられる。世の常だ。 そして、一つを明かしたその時、残りの嘘を隠し通せる人間も多くは無い。 ヴェストリの広場にルイズを近付けるな。出来れば他の者も。 そう、ギーシュの口から頼まれたのは事実だった。 「それを言わせたのは?」 その質問に、モンモランシーは抵抗しなかった。 「オールド・オスマン」 * * * ギーシュ・ド・グラモンは分かり易い少年だ。 鍵盤を撫で回し、画板に向かい、或いはぶ厚い書物を凝視する事に日を費やす手合いなら、彼を軽蔑するのかも知れない。 公平と平等の区別も付けられない類の連中なら、旧き良き貴族の少年に憎悪を抱くのかも知れない。 そうした人々が、沈鬱と孤独の中に、有りもしない真実を探している間、この少年は冒険に挑み、乙女と語らい、酒と音楽とに浸り、人生を謳歌するのだ。 ヴェストリの広場は陰鬱な場所だ。 昼の間に積み重なった陰が自重で潰れ、夜には重たい闇へと姿を変える。 空気はタールの粘度であちらこちらにこびり付き、どこにも行けずに喘いでいる。 今夜はフリッグの舞踏会だ。特別な夜だ。 広場は陰気者なりに、幾つもの小さな灯で着飾っている。 だが、その光はいかにも弱々しく、今にも凍死してしまいそうだった。 青ざめた顔が、ぼんやりとした灯に浮かんだ。 何時でも分かり易い少年の表情は、今日、この日に限って、不可解に満ちていた。 「どこまで行く気や?」 駆動輪が泥土をかき混ぜた。自在輪には土と草とが幾重にも絡みついていた。 ここ何日もの間、雨は降っていない筈だった。 蝋人形の顔をした少年は、それでもしっかりとした足取りで、奥へ奥へと進んでいた。 見えない糸が、闇苅へと続いていた。 その先端が誰の手に握られているのか、洞察するのは容易い。 それよりも、人形にどこまで自覚が有るかの方が気になった。 そこは、風の塔のすぐ傍だった。 本塔から続く石造りの渡り廊下が、夜と蔦と時間とに埋もれていた。 屋根を支える円柱と円柱の間には、アーチ状の装飾が見てとれた。 「では、決闘だ」 造花の薔薇が、短剣の勢いで抜き放たれた。 「ええけど。理由くらいは聞かせて貰えるんやろな」 決闘と言うからには、理由が有る筈だ。 毎週の様に繰り返していた、パーツ・ウォウとは訳が違う。 今夜は最も決闘に相応しからぬ夜で、なにより、薔薇を自任する少年が、何よりも大切にする筈の夜だった。 「最近、我が王国各地で暴動が相次いでいる事は、あなたも御存知かと思う」 予め用意した科白を、読み上げる口調だった。 辿々しさでは、タニアリージュ・ロワイヤル座の大根役者と同程度だったが、深刻の度合いでは天地の開きが有った。 「ワイの所為やと?」 「オールド・オスマンはそう考えている」 「お前は?」 「貴方がしばしば貴族を打ち破り、それが暴民に要らぬ過信を与えているのは事実だ」 「決闘でワイに勝てば、収まる筈や、て?」 「発端は僕が貴方に敗れた事だ。ならばこの件は、僕の責任に於いて解決しなければならない」 「トリステイン貴族の誇り、ちゅう奴かい?」 「違う!そうじゃないっ!」 蝋人形の頬に、初めて朱が差した。 「オールド・オスマンは、貴方を亡き者にしようとしているんだ!」 トリステインの貴族にとっては、死刑宣告に等しい一言だった。 異朝の王にとっては、単に想像の範疇と言うだけだ。 ヴァリエール家の威光が末娘の使い魔に細々とながら及んだとしても、それは金で買える範囲を出ないだろう。 単純なる隠蔽体質にしろ、王政府との緊張関係による物にしろ、魔法学院の学院長が、学院内の叛乱分子を、学院内で片付けようとするのは、極自然な事だった。 「で、お前はその先兵、ちゅう訳か?」 「言った筈だ、ミスタ。僕の責任に於いて解決する、と」 「オスマンの爺さんを出し抜いて、ワイの首を奪る?」 「平民は決して貴族には勝てない。その事実が再確認されれば、そんな必要は無い」 ギーシュは空と擦れ違い、背を見せずして距離を取った。 ストームライダーの俊速を前に、距離は意味を成さない。 それは純然、礼式に則る為でもあり、拒否を許さない為でもあった。 「さあ、ミスタ・空。勝負の方法を」 薔薇が震えた。若い瞳が、どこまでも真っ直ぐに空の眼を射抜いた。 空は元の世界を思い出した。 自分の翼の下に集った“塵芥”は、風に乗っている時こそ、仲間面をした。 追い風を御しきれず、壁に激突すると、忽ち仇敵に変貌した。 対し、ギーシュは追い風よりも、向かい風こそを求めていた。 「……ボーズ。お前、ええ奴やな」 お定まりのパターンだった。 他者との関係を打算で計る人間は、誰かに背を向けた時、初めてその相手が友人たり得た事に気付く。 その時には、自分でその資格をドブに捨てている。 「ホンマ、ええ奴過ぎるわ」 “空”が焼けた。 広場に敷き詰められた闇は、ズタズタに引き裂かれて火にくべられた。 四方に点る小さな灯が、瞬く間に夜を飲み込み、巨大な火球へと成長した。 ギーシュは愕然とした。 広場を照らしていた灯の正体。それは、発射を待つ杖先の“火球”だった。 本塔の、風の塔の中屋根に、杖を手にしたメイジ達が座していた。 紫のマントを纏う者が在り、黒いマントが居た。 社交家の少年は、全員の顔を知っていた。魔法学院に通うのは、上流貴族の子弟ばかり。 特別に付き合いが悪く無い限り、学生同士が互いを知らない事など無い物だ。 過半は成績優秀者として知られていた。 極一握りは性酷薄な、避くべき人物だった。 全員が一様に、卸し立ての制服を身に着けていた。 そして、渡り廊下の屋根に数人の教師と、オールド・オスマンその人の姿を目にした時、ギーシュは自分が嵌められた事を知った。 減少傾向に有るとは言え、尚武の精神を忘れる事の無い貴族は、訓練としての狩猟を怠らない。 教師、学生、併せて50人を超えるであろう、貴族達が見せる沈黙と緊張は、ギーシュのよく知っている物だった。 猟犬を、使い魔を放ち、従者を使い、獲物を追い立てさせている時の顔だ。 既に呪文の詠唱を終え、撃発の一瞬を待つ時に見せる眼だ。 「ギーシュ・ド・グラモン――――」 オスマンの口が、岩の重みで開いた。 ギーシュは入学以来、初めて、この老人に相応しい声を聞いた。 「君は二つの道を選ぶ事が出来る。黙って、この場を立ち去るか。それとも、我々と杖を共にするか」 「待って下さい!オールド・オスマン!」 ギーシュは叫んだ。 「この男は僕が倒します!最初に敗れ、貴族としての名誉を傷付けられたのは、この僕です!どうか、挽回の機会を与えて下さい!」 「そんな選択肢は与えていない」 声にも増して重厚な視線が、その懇願を拒絶した。 齡300。その噂が本当なら、ギーシュは老人の一割も生きていない。 その容貌に、頭脳に、何より心魂に刻まれた年輪が、十重二十重の鉄壁と化して、少年にそれ以上踏み込む事を許さなかった。 二桁に登る火球が折り重なり、空の姿を眩く照らし出した。 二つの月に変わって、二つの太陽が登れば、この様に見えるのかも知れない。 車椅子越しの大きな背中が、嫌に遠く映った。 オスマンが合図の一つも出せば最後。その姿は、永遠に手の届かない所に消えてしまうだろう。 目を貫く炎が、ギーシュに決断を迫った。 背を向けて、この場を立ち去るのか。 あくまで学院のメイジとして、空との戦い――――否、抹殺に荷担するのか。 それとも…… 「ミスタ……」 指先まで響く拍動の中から、声が零れ落ちた。 オスマンは土のスクウェア・メイジと聞いている。 教師達は揃ってトライアングル。学生達とてライン以上が殆どだ。 この布陣を前にしては、あの恐ろしいエルフとて、逃れる術が有るとは思えない。 息苦しさに、視界が歪んだ。 燃えさかる火球が、広場の空気を軒並み焼いてしまったかの様だった。 分かり易い少年は、生まれて初めて、決断を忘れた。 自分が決断しないと決断してしまった事には、とうとう気付かなかった。 「ギーシュ。頼みが有る」 空の声が、薄い空気に喘ぐ脳を引っぱたいた。 「ルイズをここに、近寄せんといてくれ」 ギーシュは逡巡した。 空の背中が、巌の様に聳えるオスマンの姿が、交互に映った。 今、この場を離れる事を、少年の部分が忌避していた。 「頼むわ……」 この時、自分がどんな顔をしているのか、ギーシュには判らなかった。 鏡が有ったら、目を背けたかも知れない。 ギーシュは振り向かずに駆けた。 結局、自ら決断する事を止めた以上、他人に従うより無かった。 二つの目線が、その背中を見送った。 残る目は、たった一体の獲物に注がれていた。 舞踏会の為に誂えたであろう、目が痛くなるほど鮮やかなドレスが見えなくなった時、二人は改めて視線を交換した。 巨大な火球に炙られた風が、右で、左で、のたうっていた。 淀んだ空気は不可視の力で圧縮され、引き千切られ、研ぎ澄まされて、凶器にその姿を変えていた。 これ程歪んだ“空”は初めてだ。 「残念だよ。ミスタ・武内」 どこかで聞いた様な呼び方だった。 「ワイもやで。ホンマ、オスマンの爺さんは意地悪いわ。今までやって来た事、半分パアやん」 集まった顔触れの過半は、決闘で下した相手だった。 教師はどちらかと言うと、記憶に残らない顔が並んでいた。 「知っとる事、最初に全部話しといてくれたらなあ。もう少し、穏便に動いたんやけどなあ」 「そして、静かに、だが確実に我が国を……否、この世界を浸食する、か。なるほど。沈黙は金とは、よく言うた物じゃ」 正直は必ずしも美徳では無い。思慮の無い正直を馬鹿正直と言う。 悪友に親しむ者は、共に悪名を免れず。 より良い人生を望むなら、信じる相手は選んだ方がいい。 「だが、それを許しておくほど、我々は甘くは無いぞ。異界の王よ。何を企んどったかは判らんが、お主の野望など、所詮は空虚な妄想に過ぎんかったと言う事じゃ。残りの半分も、もう気にする必要など無い」 「ルイズはどうなる?」 「この期に及んで、使い魔の“フリ”かね」 嘲笑と言うには、態とらしい言い方だった。 「相手をもっと選ぶべきじゃったな。なるほど、“成り済ます”なら出来る限り権力に近く、魔法に疎い者が便利じゃろう。じゃがな、どんな魔法も使えない娘が、召喚と契約だけは成功させた。これは、あまりにも御都合主義が過ぎる。ワシとしても、疑念を抱かざるをえん」 下手な言い訳だ。 だが、この際、作り話の巧拙などどうでも良い。 自分の件で、ルイズを問責しない。 それは、始祖の教えにも拘わらず、誓いを立てる事が大好きな貴族達の総意と見て良さそうだった。 王国随一の大貴族であるヴァリエール家が、離反に傾かざる得ない様な状況を避ける為にも、適切な判断だ。 「学生思いやな。爺さん」 「なればこそ、彼等が生きる未来を蹂躙する事は許しておけん。ここで幕引きじゃ。風の王」 オスマンの動きに呼応して、火球が一際眩く燃え上がった。 軽妙俊速、直接決戦を本分とする風メイジ達が、広場に次々と飛び降りる。 間接戦力の土メイジ達は、塔の窓から憎むべき貴族と王権の敵を見据えている。 その後には、水メイジ達が控えている。 駆動輪を撫でると、重い感触が返って来た。 鬱々とした沈黙を守っていた広場は、散々に掘り返され、擽られ、湿った溜息をついていた。 空気が凝結した。 土も水も風も火も、そして時さえも、広場の全てがオスマンの支配下にあった。 系統魔法は意志力により世の理を曲げる。 その杖が振るわれた瞬間、50余の殺意は一つに束ねられ、この世界に必要の無い存在を消去する筈だった。 駆動輪から手すりに手が移された。空は車椅子型エアトレックの神速を放棄した。 今や、そんな物は何の意味も持たなかった。 翼のシンボルを持つスニーカーが、ステップからずれた。 オスマンは瞠目した。 小さな動揺が、貴族達の間に波紋となって広がった。 勝利の女神〈NIKE〉を散々踏みつけにしていた足が、暴君の傲慢でハルケギニアの大地を蹂躙した。 車椅子のサスが軋む。 長く薄い影が、四方八方に伸びた。車椅子に頼っていた男が、傲然、立ち上がった。 刹那。火炎の怒濤が迫った。 火線が束と走り、大地が割れ、雷の雲が天を埋め、風の刃が不可視の檻を為す。 奔湍、押し包む魔力がエネルギーの渦と化して、世界を小さく小さく握り潰す。 灼熱の狭間に、長身の影が揺れる。 NIKEのシンボルマークが弾け飛んだ。 ――――To be continued 前ページ次ページ虚無の王
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/768.html
前回の被害状況 シュヴルーズ―――爆風をもろに受け、重傷。医務室にて集中治療中。 キュルケ、マリコルヌ、その他生徒三名―――頭に謎の攻撃を受け、軽傷。医務室送り。 教室―――爆発により半壊。 ルイズ―――罰として掃除を言いつけられた。 帽子―――モーマンタイ。 『変な帽子みたいな使い魔』 「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・、疲れた・・・」 なんとか罰を終わらせたルイズはヨロヨロと自分の部屋に戻ってきた。 教室中に飛び散った小石を掃き、ススだらけの教室をすみずみまで雑巾がけしたのだ。 流石に教室修復のための資材を運ぶのは免除されたが、ルイズは完全に参っていた。 (それもこれも・・・) キッと頭の上を睨む。そこにはいつも通り、変な帽子がふわふわ漂っていた。 (御主人様のわたしがあくせく働いていたのに、こいつときたら~~!) まあ、帽子に肉体労働を期待するほうが間違っているが。 「こ・の・役立たず――――!!」 腕をブンブーンと振り回し帽子を殴ろうとするが、いつも通りヒラリヒラリとかわされ続けた。 ぐー 「はあ、ご飯食べよう」 おなかが鳴り、いい加減腕が疲れたので、ルイズは(無駄ァな)攻撃をやめ、 爆発でボロボロになった服を着替え、顔を洗った。 (あとでお風呂に行かないと) 埃っぽい身体を気にしつつ、ルイズは食堂に急いだ。 そのうしろを、帽子がいつも通りふわふわとついていった。 すでに食堂では食事が始まっていた。 ルイズも席につき、『祈りの言葉』を唱え、食事を開始する。 重労働でおなかが空いていたのと、午後の授業の前にお風呂に入っておきたいので、 ルイズは下品にならない程度に急いで食べていた。 ぽふ そんなルイズの頭に再び帽子が乗っかってきた。しかし、 (こんな役立たずの帽子、無視よ無視!ふん!) ルイズは黙々と食事を続けた。 そのとき帽子を乗せたルイズを見つめる、妖しい視線があった・・・ 「ハア・・・ハア・・・なにあれ・・・カワイイ・・・」 厨房付きのメイド、シエスタであった。 「ごちそうさま」 ルイズは食事を終えて、立ち上がった。 本当はこのあとデザートが残っているが、これ以上食事を続けては風呂に入る時間がなくなる。 デザートを配られている生徒達を横目に部屋に戻ろうとする途中、 「ギーシュ!今は誰とつきあっているんだよ!」 「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」 「HAHAHA、ぼくにはそのような特定の女性はいないのだよ。 薔薇はより多くの人を楽しませるために咲くのだからね!」 という気障な台詞がルイズの耳に入ってきた。 ルイズのクラスメイトのギーシュ・ド・グラモンだ。『青銅』の二つ名をもつドットメイジである。 さっきの発言の通り、気障な女ったらしである。少なくともルイズはそう思っている。 (自分を薔薇に例えるなんて、バッカじゃないの?) 構わず行こうとしたとき、 こつん (?なにこれ?・・・小瓶?) ルイズのつま先に当たったそれを拾い上げる。中には液体が入っているようだ。 (誰かの落し物かしら?) しかし今のルイズはそんなことをしている時間的余裕はない。 一刻も早く身体中のジャリジャリ感をとってしまいたかった。 ルイズはその小瓶をポイッと後ろにほうった。 キィン! メギョオッ! 「うごわッ!?」 ルイズがほうった小瓶は、なぜかギーシュの顔にめり込んだ。 「大丈夫か!?ギーシュ!これはいったい!?」 「こ・・・これは!モンモランシーの香水じゃあないか!!」 それを聞いたギーシュは慌てふためいた。 「モ、モンモランシー!?ち、違うんだ!ケティとはちょっと馬で遠乗りしただけで! 決してそんな関係じゃあないんだ!!ほんのお遊びなんだ!!」 「・・・ギーシュ様・・・」 「!」 ギーシュがあわてて振り向くと茶色のマント(一年生だ)の少女がいた。 いまギーシュが口走ったケティその人である。 「ギーシュ様・・・わたしとはお遊びだったのですね・・・」 「ケ、ケティ、違うんだ・・・」 スパーンッ! 「さようなら!!」 ケティはギーシュに平手打ちをくらわせ、涙ながら走り去っていった。 呆然とするギーシュ・・・しかし、彼の不幸はまだこれからだッ! 「・・・ギーシュ・・・」 背後から暗黒の闘気を感じ、ギーシュはぎぎぎぎぎと振り向いた。 そこにいたのは、髪を縦ロールにした金髪の少女、 「モ・・・モンモランシー・・・」 ギーシュはいやな汗をかきまくりながら、口を開いた。 「・・・えっと、だからね、彼女とは・・・そんな君が思っているようなことは一切ないんだよね。 だからね、そんなにね・・・怖い顔をしないでね・・・落ち着いてね、 ぼくの言ってること、わかってくれるよね・・・ね?ね?ね?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ 「モ、モンモランシー・・・?」 「自分を知れ。そんなおいしい話が、あると思うのか・・・?・・・ 貴 様 の よ う な 人 間 に ! ! !」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、 無駄ァァァ――――ッ!」 「ヤッダアァァァバァァァ――――ッ!!」 ド―――――z______ン! 今回の被害状況 ギーシュ―――全身複雑骨折、内臓破裂。治療したメイジのコメント『ギーシュじゃなかったら死んでいた』 ルイズ―――騒ぎに気づかず、お風呂に入った。 帽子―――ルイズと一緒に、お風呂に入った。 第四話『ギーシュ決闘イベントは省略されました。 続きを読みたい方は「モンモンLOVE」と書き込んでください』完ッ! バ―――――z______ン! To Be Continued → 目次
https://w.atwiki.jp/gods/pages/98362.html
マチューニセイ(マチュー2世) フランスのソワソン伯の系譜に登場する人物。 モンモランシー領主。 関連: ブシャールゴセイ (ブシャール5世、父) ローレット (母) ジェルトリュードドソワソン (ジェルトリュード・ド・ソワソン、妻) ジェルトリュード (娘) ブシャールロクセイ(2) (ブシャール6世、息子) マチュードモンモランシー (マチュー・ド・モンモランシー、息子) エマドラヴァル (エマ・ド・ラヴァル、妻) ギーナナセイドラヴァル (ギー7世・ド・ラヴァル、息子) アヴォワーズ(3) (娘) ジャンヌ(34) (子) アリックス(10) (娘) 別名: マチューニセイドモンモランシー (マチュー2世・ド・モンモランシー)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8857.html
前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十七話 『特製ワインは恋の味』 トリステインに置ける戦勝ムードに落ち着きが見え初めてきた頃、ルイズとミントもまた魔法学園にて、いつもと変わらぬ平穏を取り戻していた。 しかし、それは『取り敢えず』であって何もかもが以前のままとは行く訳が無い。 ルイズは『虚無』の力に覚醒した。それは夢の中で出会ったミントの世界の魔法使いファンシーメルがルイズへと向けたかつての予言道理に… とにもかくにもタルブ戦役の祝勝パレードとアンリエッタの女王就任式の後、当然の如くミントとルイズはアンリエッタから城へと招かれ、直々に感謝の言葉を向けられた。そしてその場で幾つかの案件が決定される事になる。 艦隊を消し飛ばしたルイズの虚無、それと単身一騎当千の力を振るったミント、特にマザリーニの士気を呷る為の出任せのせいで一気にその存在を神格化されたヘクサゴンの存在の隠匿。 これらは公に明かせばその奇跡を後押しとしたアンリエッタが女王の座についたばかりのトリステインを恐らく大きく揺るがす事になる。 又、それはトリステインに身を置く限り、二人のこれからに対してしがらみとなるであろう事は容易に想定できた。ともすればロマリア法王庁に保護という名目の元、その身柄を拘束されるかも知れない。 今回の戦乱一番の功労者二人に対し、アンリエッタとしても心苦しいが此度の決断はそれ故の判断であった。 そしてもう一つ、ルイズはその場で己の目覚めた虚無の力を王女アンリエッタに捧げる事を誓い、『王女陛下付き女官』という肩書きを負う事となった。以降ルイズはアンリエッタから勅命の任務を受ける事となる。 ミントもアンリエッタに友情を覚えないでも無いが、結局は打算を持って全てを決めるミントにはそのルイズの決心に対して理解は出来なかった。だが、ルイズの決めた事をとやかく言う事理由も特に無いので何も言わなかった。 ただ「面倒な任務に巻き込まれるのはごめんよ。」という一言以外は… ___ 魔法学園 「久しぶりね…あなたとこうしてゆっくりするなんて…」 金髪ロールの少女モンモランシーは憂いを秘めた儚げな表情を浮かべ、そんな台詞を穏やかな口調で学園の中庭にあるガーデンテーブルの向かいに座る少年、ギーシュへと向けた。 「あぁ、そうだねモンモランシー。君とこんな素敵な時間を過ごせて僕は幸せさ、今宵はあんなにも月が綺麗だ…無論、君の美しさには遠く及ばないがね。」 淀みなく繰り出されるギーシュの歯の浮くような台詞にモンモランシーは思わず頬を朱に染めそうになるが浮つきそうな心を何とか静め、ここは努めて平静を保つ。 「あら、ありがとう。でもその台詞、私以外にも言ってるんじゃ無いの?ここ最近の貴方ったら私よりもあのルイズの使い魔と一緒にいる時間の方が長い位だわ。アルビオンから帰ってからはキュルケともタバサとも仲良くしちゃって…」 「そ、そ…そんなことは無いよモンモランシー。僕の心には君以外は住んではいないさ。」 少しだけ、だが確実にギーシュに動揺が現れた事にモンモランシーは眉をひそめる。本来ならここで平手打ちでも入れて尋問してやりたい所だが今は我慢する。 そう、計画の為に… 「まぁ良いわ。それよりもワイン飲みましょう。これ貴方が私にくれたタルブのお土産のワインよ。(そういえばあのタルブの田舎メイドにもこの前声をかけてたわねこいつ…)」 まこと恐ろしいのは女の嫉妬…それを知らぬは男ばかりである… 「あぁ、そうだね。」 言ってモンモランシーは持参したワインの栓を抜いて用意しておいたグラスに慣れた手つきでワインを注ぎ入れた… そしてその最中、ギーシュのグラスには袖元に潜ませている小瓶の中身をほんの数滴混入させる事に成功する。無論ギーシュは気が付いていない。 「それじゃあ、乾杯といこうか。」 「えぇ、乾杯。」 二人はロマンチックにも月を赤い水面に映すグラスを軽く触れさせ、心地よい鈴の音の様な韻を奏でるとそれぞれの口へとグラスを運ぶ… そしてそのままギーシュがグラスを空にしたのを見てモンモランシーは己の計画がこれまで全て順調に上手くいっている事に内心でほくそ笑んだ… 後は薬の効果が現れ、ギーシュが自分を見つめれば全ては終わる。 と、そこへモンモランシーの予想だにしない…否、恐れていた事態が起きた。 「おーい、ギーシュ~。」 お客さんだ。 このモンモランシーにとって最悪とも呼べるタイミングでギーシュの名を呼んだのは誰あろうとミントであった… 自分を呼ぶ声に気が付いたギーシュの視線の先、つまりはモンモランシーの背後から何食わぬ顔で軽く手を振りながらミントは二人の元へと歩いてくる。 「ギーシュ、あんたの注文通りヘクサゴン、ナイトフライト用に準備しといたわ。コルベール先生の研究所の広場に出してるから好きに使いなさい。全く、このあたしを小間使い扱いするなんてあんた良い度胸してるわ。」 「あぁ、すまないとは思ってるこの埋め合わせは必ずするよ。でも、ありがとう感謝するよミント君。」 「ま、あんたにはそこそこには世話になってるからね…それにしてもモンモランシーと夜空のデートがしたいだなんてあんたも良い所あるじゃ無い。」 ミントは軽い不満を溢す様に言いながらも仲睦まじげな二人を見て満足そうに笑う。 「へ?それじゃあ最近ミントとギーシュが一緒にいる事が多かったのって…」 話が見えないのはモンモランシーだ。 実はここ数日ギーシュは何度も何度も、ミントへとヘクサゴンを一晩だけ貸して貰えないかとそれはもう何度も何度も…頭を下げて頼み込んでいたのである。 ミントがアンリエッタの要請を受けてヘクサゴンを封印する前にと。全ては最近構ってあげられなかったモンモランシーの為に… 「そういう事よ、モンモランシー。それじゃあ精々楽しみなさい。おやすみ~。」 それだけを言い残してミントは二人のテーブルの上のベリーパイを掠め取るとその場を去ろうとする。その姿をモンモランシーは半ば呆然と見つめ、ギーシュも感謝と共にその背中を見送る。 だが、これが不味かった… 「待ちたまえっ…ミント君!!」 突如、ギーシュが大きな声でミントを呼び止める。それはいつかの決闘騒動の時の様に堂々とした呼び止めッぷりであった。 モンモランシーはそのギーシュの突然の行動にハッとなる…全身から血の気が引くような感覚を覚えるもそれはもう遅い!! 無論、呼び止められたミントは多少訝しみながらも何の気なしに振り返る… 「何よ?」 「ギーシュッ、駄目ぇっ!!!」 「好きだっ!!愛してる!!君の事が何よりも!誰よりも!!僕と、このギーシュ・ド・グラモンと結婚して下さい、ミント王女殿下!!」 「は?」 モンモランシーの制止の声も虚しく、ギーシュの熱烈な愛の告白にミントの世界が停止する… もしかしたら今ミントはベルが『年増』呼ばわりされた時と同じ様な表情だったのかも知れない。 「アハハ……………終わったわ…何もかも…」 モンモランシーはその広めの愛らしい額を手で押さえて力無く笑うと唯一言呟いた…もはやそれが限界だった… ____ 魔法学園 モンモランシーの部屋 「で…きっちり説明しなさい…」 ミントは底冷えするような冷たい口調でモンモランシーに問う… 「ギーシュが最近また浮気しているんじゃ無いかと思って惚れ薬を作って飲ませたのよ。そうしたら悪いタイミングで貴方が来て…ギーシュが貴女に惚れちゃったのよ…」 消え入りそうなボソボソ声でそう端的に返答したモンモランシー、彼女は今石畳の上で正座状態である。 「…………呆れてものも言えないわ…で、どうするのよ『コレ』。」 ミントの視線の先にはこれでもかと言う程にミントにボコボコにされ、十二分に地獄巡りを楽しんだ挙げ句に猿ぐつわを口にはめられ簀巻き状態にされて冷たい床に転がされている気を失ったギーシュが居た。 ギーシュはあの後、事もあろうに固まったままのミントに飛びかかり、その唇に自分の唇を寄せた…無論、一瞬の内に叩き伏せられたギーシュは地面と口づけする事となったが… 無論、愛するミント様からの愛の鞭というご褒美に気を失っているギーシュは今恍惚の表情である事は語るまでも無い。 モンモランシーはギーシュの可哀想な姿に思わず唾を飲む…もしここで返答を間違えれば次は本格的に自分なのかも知れないと…(既に一度逃走を図って修正済み。) 「げ、解毒剤は作れるわ…材料が揃えば多分一晩で出来ると思う…」 「そう、なら急ぎなさい…ギーシュに又言い寄られるだなんて考えるだけで寒気がするわ。」 ミントが震える身体を抱くようにそうキッパリとモンモランシーに言い放つとモンモランシーは今度は非常に何か言葉を言い淀んだ様子を見せた後、意を決した様子で衝撃の事実をミントへ告げる… 「無いのよ…材料が…」 「しょうが無いわねぇ、なら明日、朝一で城下町まで買いに行きなさい。それ位は待ってあげる。」 「それがもう売ってないのよ…『精霊の涙』は品切れでしかも今後の入荷も未定なのよ。」 「……嘘…でしょう?」 ミントは目の前が途端に真っ暗になるのを感じた…気が付けば目の前の全ての元凶モンモランシーもへたり込んだまま溢れ出る涙を袖で拭い続けている… そのまましばらく二人の間に呆然とした時間が流れたがここでようやくミントは一つの苦渋の決断を決める… 「はぁ…分かったわ…こうなったらあたしが精霊の涙を手に入れる…」 「はぁ!?何言ってるの、無理よ!水の精霊に会うには由緒ある交渉役の水のメイジの力が要るし。第一、運良く出会えたとして精霊の涙下さいと言って貰えるような物じゃあ無いのよ…万一水の精霊の怒りに触れでもしたらそれこそ…」 モンモランシーは勢いよくそう言うとミントに呆れた様に伏し目で首を横に振るう… 「下さいだなんて言わないわ。精霊の涙ってのは水の精霊の涙なんでしょう?だったら話は早いわ、このミント様の魔法で水の精霊をボッコボコにして泣かせてゲットすれば良いのよ。」 不敵にミントはハルケギニアの常識で考えればとんでもない事を言う。 モンモランシーは当然そんなミントに抗議の声を上げる。 「バカを言わないでよ!!あんた精霊に喧嘩を挑む気!?正気じゃないわ!!」 モンモランシーの主張は常識で考えれば当然だ、だがミントで無くとも今回の騒動の根本であるモンモランシーにそんな事を言う資格があるとは思わないだろう。 当然ミントはキレる… 「っ…勝手な事言うなーーー!!!!こっちはあんたのせいでどれだけ迷惑してると思ってんのよ!!」 「ひっ!?」 怒りの叫びと共に、モンモランシーの部屋の石畳を踏み抜かんばかりの勢いで地団駄を踏んだミントにモンモランシーは小さく悲鳴をあげると頭を押さえて身をすくませる… 「言っとくけどモンモランシー、交渉役はあんたよ。何があろうと絶対連れて行くからね…」 「ちょっ…何であたしが!?」 ミントの死刑宣告にも似た言葉にモンモランシーは当然抗議の声をあげたがジト目で睨み付けてくるミントの視線は冷たい。それはそれ以上のモンモランシーの言葉を許さなかった。 「明日、朝一で出るわよ、このミント様から逃げられるだ何て絶対に思わない事ね。いいわねっ!?」 そうとだけ言い残してミントは部屋を出ると勢いよく扉を蹴って閉める。その際、蝶番が衝撃に耐えきれず変形したせいで以降モンモランシーの部屋は非常に扉の立て付けが悪くなるのだがそれは些末事… 「そ…そんな~…」 その場にへたり込み、ただ己の不幸を呪うモンモランシー…心底逃げ出したかったが確かにギーシュがこのままなのも不味いしそもそも惚れ薬は禁薬である。 事が大きくなって表沙汰にでもなればどうなるか…そして何より怒り狂ったミントが怖い… そうして今夜、魔法学園の女子寮塔でそれはもう盛大な溜息が二つ零れたのだった。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
https://w.atwiki.jp/senohtoki/pages/248.html
マップ名称・モンスター名称をクリックすると各詳細がみれます。 プランシス村A(右ポータル) マップ モンスター モンスター モンスター モンスター プランシス海岸 青プマ 黄ペリーズ 青ペリーズ スラッグG 珊瑚の海岸Ⅰ 黄ペリーズ 青ペリーズ ペペロンチーノ 珊瑚の海岸Ⅱ 青プマ 黄ペリーズ 青ペリーズ クラッケン スラッグG スラッグR 珊瑚の海岸Ⅲ クラッケン タートルネストⅠ イエローグール タートルネストⅡ イエローグール ブルーグール タートルネストⅢ イエローグール ブルーグール タートルネストⅣ イエローグール ブルーグール ジャイアントポーションⅠ アークマーメイド デュロン スーパーデシュロン ジャイアントポーションⅡ アークマーメイド デュロン スーパーデシュロン ジャイアントポーションⅢ アークマーメイド デュロン スーパーデシュロン パームビーチⅠ ペペロンチーノ パームビーチⅡ ペペロンチーノ 黄ペリーズ 青ペリーズ クラブ パームビーチⅢ クラブ プランシス村A(左下ポータル) マップ モンスター モンスター モンスター モンスター プランシス漁場Ⅰ スラッグR チャビー プランシス漁場Ⅱ スラッグR チャビー プランシス漁場Ⅲ チャビー キャビー プランシス漁場Ⅳ チャビー キャビー キャビーの巣 キャビー クジラの墓Ⅰ スラッグR マーメイド クジラの墓Ⅱ オクトパス クラッケンイーツ スコーピオンモラー 難破船 黄ペリーズ 青ペリーズ クラッケンイーツ カリス ロストビーチⅠ ボーンパピー スキニークルー ロストビーチⅡ ボーンパピー スキニークルー スキニーバーマン ロストビーチⅢ ボーンパピー スキニークルー スキニーバーマン スキニーカトラス 研究所への道Ⅰ 石モグラ 研究所への道Ⅱ 石モグラ カリス カルス ノース研究所入口 石モグラ カリス カルス プランシス村B(左ポータル) マップ モンスター モンスター モンスター モンスター キノコの丘Ⅰ グリーンローパ ワーム キノコの丘Ⅱ グリーンローパ ワーム ブラッドワーム 狂気の淑女 キノコの丘Ⅲ ワーム ブラッドワーム 狂気の淑女 神殿への道Ⅰ ストーンヘッド 神殿への道Ⅱ ストーンヘッド ノース研究所 マップ モンスター モンスター モンスター モンスター ノース研究所1階 マーメイドスカル ノース研究所2階 マーメイドスカル ノース研究所3階 クラグリー ノース研究所4階 クラグリー ノース研究所5階 モンスターなし ノース研究所6階 テオドール ボーンチャップス ノース研究所7階 ボーンチャップス デスポーション サイプロプス ノース研究所8階 ボーンチャップス サイプロプス ノース研究所9階 モンスターなし ノース研究所10階 デスポーション サイプロプス ノース研究所11階 サイプロプス シャークテイル ノース研究所12階 デスポーション シャークテイル ノース研究所13階 シャークテイル ノース研究所14階 モンスターなし ノースキメラ研究所 デスポーション メロウト サーフェニット ノース研究所ガス室 スメーラ ライダー ノース秘密通路 メロウト アベドラス神殿 マップ モンスター モンスター モンスター モンスター 神殿1階 レッドペーパリオン 神殿2階 レッドペーパリオン 神殿3階 レッドペーパリオン ブルーペーパリオン ストーンゴーレム 神殿4階 ストーンゴーレム 神殿5階 レッドペーパリオン ブルーペーパリオン ストーンゴーレム 神殿6階 ストックキャンドル ストーンゴーレム 神殿7階 ストックキャンドル 神殿8階 ストックキャンドル ペーパースト 神殿9階 ペーパースト ゴストリード 神殿10階 ストックキャンドル ペーパースト ゴストリード 神殿11階 ストーンゴーレムR 神殿12階 ストーンゴーレムR 神殿13階 ゴールドペーパリオン 神殿14階 ゴールドペーパリオン 神殿15階 ゴールドペーパリオン 盗掘団♀ 神殿16階 盗掘団♀ 盗掘団♂ 神殿17階 盗掘団♀ 盗掘団♂ 神殿18階 ストーンゴーレム 神殿19階 盗掘団♀ 盗掘団♂
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1411.html
トリステイン魔法学院女子寮の一室。机の上に並べられた様々な花や青色の液体が満たされた壜などを 一つ一つ選別して慎重な手つきでフラスコに詰めると呪文を唱え杖を振る。 様々な材料が溶け合いフラスコから仄かな香りが漂い始め、その抽出された液体を小さな壜に移し変えると 手で風を送り、香水の出来を確かめる。 作り出された香りに眉を顰め、壜ごとそれを廃棄してからモンモランシーは溜息を吐いた。 『香水』の二つ名を持つ彼女は日課である香水作りを行っていたのだが、失敗続きに頭を悩ませていた。 何故失敗するのか?その原因を彼女は既に知っている。昨日召喚された使い魔の所為だ。 あの使い魔の仕草や表情を見ると心が弾む。幾ら追い出そうと思ってもあの顔が頭から離れない。 視線を横にずらすとガラスの水槽の向こう側から、一匹の小さなカエルが彼女を覗き込んでいた。 鮮やかな黄色に彩られ、黒い斑点が幾つも散った使い魔のカエルに視線を同調させる。 ロビンと名付けた使い魔の眼には、頬が上気し物思いに耽る一人の少女が映し出されていた。 恋人であるギーシュをの事を思っても、ゲルマニアの女の様にこんなはしたない表情は出さない。 ギーシュの事は好き。浮気性だがそれはポーズであってモテる自分に酔っているに過ぎない。 たとえ相手がアンリエッタ王女であっても必ず自分の下に帰ってくる。そんなギーシュの事が好きだ。 だけど、この気持ちは何なのだろう?召喚の儀式で呼び出されたあの平民を見たとき心臓が高鳴った。 ギーシュの呼びかけにも気付かないくらい夢中になって見てしまった。 人を好きになった事は何度もある。だけどこんな事は初めてで、そんな自分の事が判らなくなった。 『お嬢さん。君は恋をしているね』 「誰?誰か居るの?!」 頭の中に突然響いた声に驚き周りを見渡すも、部屋の中には自分以外には誰も居ない。 とうとう幻聴が聞こえてきたかとモンモランシーは額を押さえて溜息を吐く。 『こっちだよお嬢さん。机の上を見てごらん』 また声が響いた。モンモランシーは言われた通りに机の上を見ると、使い魔のロビンが水槽から出て フラスコに背を預け、器用に腕を組んでこちらを見つめていた。 「あ、あなた喋れたの?!」 『喋る機会がなかったものでね』 ロビンはそう言って肩を竦め、カエルとは思えない態度でモンモランシーの問い掛けに答えた。 気味の悪い色をしたカエルでハズレを引いたと思っていたモンモランシーは素直に驚いた。 知性を持ったカエルなんて聞いた事がない。ロビンが何処から来たのか興味をそそられ聞いてみると、 更に驚くべき事が解った。 「本当にウチの領地に住んでたの!?」 『知らないのも無理はない』 突然変異で知恵を身につけたロビンは、生まれた池を飛び出して見聞を広める為に世界中を旅していた。 そして最後に辿り着いたのがモンモランシー家の領地だった。そこで何年かを過ごし、また旅に出ようとしたときに 目の前に鏡の様な物が現れた。魔法についても学んでいたロビンはそれの正体がメイジが使い魔を召喚する為に 使う魔法と解り、更なる知識を得る為のチャンスと思ってゲートに飛び込んだのだった。 『さて、私の事はこれ位でいいだろう。先程の話しに戻ろうか』 「な、何のことかしら?」 惚けるモンモランシーにロビンは人間の様な仕草でチッチッと指を振って見せる。 『あの人間の事さ。私が思うに一目惚れと言ったところかな?』 「な、なんで私が平民なんて好きにならなきゃいけないのよ!」 『私は一言も平民なんて言ってはいないが?』 ハッと口を噤むがもう遅い。ロビンを見ると手を顎に当て、興味深そうに赤面したモンモランシーを見つめていた。 「別に私が誰を好きになろうとあなたには関係ないでしょ!」 しかし、その言葉にロビンは首を振る。 『私は人間の恋愛感情に興味があってね。多くの動物はより良い種を残す為に優れた特徴を持つ者と交配する。 そう本能で決められている。だが、人間は違う。優秀な者が自分より遥かに劣っている者を選ぶ事が多々ある。 今の君のようにね。何故そうなるのか、私はその理由を知りたいんだ』 モンモランシーは何故か自分の考えを語ったロビンが苦悩している様に思えた。カエルの表情なんて解らないのに。 『それでは行くとするか』 ロビンは机から降りるとピョコピョコと跳ねて部屋の扉まで移動する。 「行くってどこに?」 『決まってるだろう。君の思い人のところだ』 「なな、なにを言ってるの!どうして行かなきゃならないのよ!?」 『ここで悩んでいても仕方がないだろう。どんな男なのか私も見たいしな』 「ひょっとして知らないで言ってたの?!」 『そうだ。そもそも私は今日ここから一歩も外に出てないじゃないか』 カエルは乾燥に弱いと思ったモンモランシーは、昨日の騒ぎで授業もなかったのでロビンを水槽に入れたままに していたことを思い出した。その後、行かないと一点張りだったモンモランシーは上手くロビンに言い包められて、 カエルの癖にと呟きながら渋々といった感じで部屋の外に出たのであった。 ロビンに乗せられたモンモランシーは件の相手の部屋の前で立ち尽くしていた。 ここに来るまでにどうやって話しを切り出そうかと考えを廻らしたのだが、それが拙かった。 考えれば考えるほど心が相手の事で埋め尽くされていく。 そもそもこの気持ちを伝えてどうなると言うのだ。相手と顔を会わせたのは今日が初めてだ。 なのに自分の思いを伝えたら、奇異の眼で見られるか、嫌われる。 嫌われる事だけは避けたい。なんとしても。 いや、どうして思いを伝えようとしているんだ?部屋を出るときは自分の気持ちを確かめるだけの筈だったのに。 自分の心が暴走しているのが判る。落ち着かなければならない。 だけど余り時間を掛けられない。部屋の主とは大して親しくも無いのに、こんな所でウロウロしているのを 他の誰かに見られては大変な事になる。ギーシュを悲しませてしまうかもしれない。 なまじ頭が良いだけに、モンモランシーは思考の泥沼に嵌り身動きが取れなくなっていた。 『お嬢さん入らないのか?まさかここまで来て帰るなんて言わないだろうな』 (判ってるわよ!……ちょっと気持ちを落ち着かせてただけ) ロビンに催促されて意を決し扉をノックする。暫く待ってみたが誰かが出てくる気配はない。 ノブに手を掛けて回してみるとスンナリと回った。悪いと思いつつ扉を開けて部屋を覗いてみると誰もいない。 『留守のようだな』 (そう見たいね) モンモランシーは相手が居なくてホッとすると同時に、顔が見れなくて少し残念な気持ちにもなった。 『仕方ない。出直すとしよう』 (何であなたが仕切ってるのよ。私が御主人様なんだからね、それを忘れちゃダメよ。 それから、私の事はお嬢さんじゃなくてご主人様って呼びなさい。いいわね?) 『判っているさ御主人様』 おどけた感じで答えるロビンに少し腹が立ったが、怒る様なことでもないと自分に言い聞かせ部屋を後にした。 自分の部屋に戻りロビンを水槽に戻した後、モンモランシーは気分を落ち着かせる為に風呂にでも入ろうと 窓の外を眺めながら廊下を歩いていると、中庭に何人かの人影が眼に写った。 「あれってマリコルヌ?それに…」 良く眼を凝らして見てみると、マリコルヌ、トリッシュ、サイトの三人が隠れながら何処かへと向かっていた。 その先にあるのは学院の馬を繋ぎとめている厩舎だ。 気になったモンモランシーは先回りをして厩舎に辿り着き、茂みに身を隠し息を潜めて三人を待ち受けた。 暫く待っていると思った通り三人が現れ、マリコルヌに教えてもらいながら馬に鞍を付け始めた。 (こんな夜更けにどこにいくのかしら?) 馬を使うという事は遠出をするのだろうか?それならどうして見つからない様にするんだろ? それにルイズの使い魔も一緒ってどういうこと? モンモランシーの脳裡に様々な疑問が渦巻くが、一番気になったのは親密そうな二人だった。 「私、馬に乗った事ないんだけど。サイトはある?」 「オレもねえよ」 (なにベタベタしてるのよ!) 元々嫉妬深いモンモランシーは、トリッシュとサイトが仲良さげに話しているのを見て飛び出したくなる衝動に 駆られたが、辛うじてそれを抑えて推移を見守る。 「こうやって鐙に脚を乗せて…」 「クソッ!動くんじゃねえよ!」 「シッ!静かにしなさいよ。見つかるじゃあないの」 トリッシュが嗜められたサイトが馬の乗った彼女を見上げると、腰の辺りにまで入ったスリットから覗く脚に 眼を奪われ鼻の下を伸ばす。その顔を見てモンモランシーの我慢がとうとう限界に達した。 「なに覗いてるのよ!いやらしいわね!!」 声を荒げて茂みから飛び出したモンモランシーに三人の視線が集中する。 「モンモランシー?!どうして君がここに?」 「べっ別に良いじゃない!私がどこに居ようと関係ないでしょ!」 「大アリよ。どうしてこんな所にいるのかしら?」 馬から下りたトリッシュが気モンモランシーの肩を掴み、恩人直伝の嘘を見破る方法を試そうと顔を近づける。 モンモランシーは平静を装いながらも気まずそうに顔を逸らす。 「え…とね。あなた達が隠れながらどこかに行こうとしてたから…ちょっと気なって」 「嘘は吐いてないわね。でも…」 「え?ひゃうっ……あ…」 トリッシュはモンモランシーの汗を見て嘘を吐いていないと確信するが、念の為に味も見ておこうと 頬を伝う汗を舐め取り、その感触にモンモランシーは腰が砕けて尻餅をつき呆然とトリッシュを見上げる。 その頬の色は赤を通り越して紅へと変わっていた。 「この事は誰にも言わないで貰えないかな」 問い掛けに反応せず、呆けた表情でトリッシュを見上げるモンモランシーをマリコルヌは訝む。 そして赤みが差した顔を見てある結論に達したが、その考えを有り得ないと否定する。 「行こうぜ。あんまり時間もないしな」 いつの間にか馬に跨っていたサイトの声でモンモランシーが我に返り、三人を問い詰めた。 最初はみんな口を噤んでいたが、ルイズに知らせると言うとサイトがとうとう口を割った。 「メイドの為に貴族の屋敷に乗り込むって…正気なの?!」 医務室で寝ていたモット伯の看病をしていたシエスタが、彼に見初められて屋敷に連れて行かれた事を マリコルヌから聞いたサイトとトリッシュが連れ戻すと言い出し、止めても聞かないトリッシュを心配して 仕方なくマリコルヌも着いて行くことになった事を、トリッシュの口から聞いたモンモランシーは言葉を失った。 そんな事をしたら平民のサイトとトリッシュは縛り首、貴族のマリコルヌも牢に入れられてしまう。 気を取り直し、モンモランシーがそれを精一杯伝えるが、トリッシュは被りを振る。 「そうね。その通りだと思うわ。けど…やらなくっちゃあいけないのよ」 「自分が何をしようとしているのか解ってるの?!捕まったら死んじゃうのよっ!」 「モット伯が医務室に行ったのは僕たちの責任だからさ」 マリコルヌとトリッシュがモット伯に怪我を負わせなければ、シエスタと出会わなかったと言うのだ。 それはその通りかもしれない。だったら責任は自分にもある。 「判った。用意してくるからちょっと待ってて。私も一緒に行くわ」 そう答え、マリコルヌ達の声を背中に受けながらモンモランシーは部屋に向けて走り出した。 『おやお嬢さん。慌ててどうした?』 ロビンの問い掛けを無視して、モンモランシーは秘薬屋に売る予定だった薬品を鞄に詰め込み 鍵も掛けずに部屋を飛び出した。 (モット伯にもっと強い薬を飲ませておけば、こんな事には成らなかったのに) ある薬を作ろうとしていて偶然できた、短時間だが飲ませればどんな命令でも聞かせることが出来る薬を、 眠るモット伯に飲ませて暴行事件を揉み消したのだが、それがこんな結果に成るなんて考えても見なかった。 「おま…た…せ…」 置いて行かれないか心配だったが、みんなが待っていてくれた事に安堵して厩舎に向かう。 しかし、厩舎には馬が一頭も残っていなかった。 「ど…どうしていないの?」 「それが…さっきオールド・オスマンが最後の馬に乗ってどこかに行ってしまってね」 「そんな…」 「それなら、私と一緒に乗れば良いんじゃあないの?」 トリッシュは手招きして呼び寄せるが、モンモランシーは固まって動こうとしない。 「どうしたの?…ああ、私じゃあ不安なのね」 自分の後ろに乗るのが不安なのだと合点したトリッシュは、馬を下りてモンモランシーに乗る様に促す。 「え、ええ!わたしがまえにのったほうがいいわよね!」 「大丈夫?何だか顔が赤いけど」 「だ、だいじょうぶよ!」 そう言ってモンモランシーは石像の様にギクシャク歩きながら、それでもなんとか馬に跨り、そして、背中に当たる トリッシュの胸の感触にドキドキしながら門に向かって馬を歩かせる。 (まさかな。お嬢さんの思い人が女性だったとは…これは実に!実に面白い!) こっそりとモンモランシーの鞄に忍び込んだロビンは、主人に気付かれない様にひっそりと哄笑した。