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インモラル(いんもらる) 詳細 ASINが有効ではありません。 作者 メラメラジェラシー ジャンル ロリ属性 中出し属性 レイプ属性 出版社 茜新社 (2003/6/23) ISBN-13 978-4871825856 価格 本体895円+税 内容 ホントはいくつ? 少女・男 出会い系サイトでデートをセッティングした男。 やってきたのはどうみても小中学生の女の子で……。 笑顔 同級生(女)・同級生(男) 憧れていた同級生の女の子が嫌いな教師とセックスしていて……。 彼女の本当の顔を知ってしまった男の子。口止めにフェラチオ→中出し。 くさり 少女・中年男性 仲間たちに強制されて援交する少女。中年男性と。 妊娠するまで帰さない 少女・男 誘拐監禁された女の子。鎖で繋がれて犯される。 「妊娠するまで帰さない」と言われて……。 みせて▼ 同級生(女)・同級生(男) ちょっと天然気味の女の子。同級生におち○ちん見せてと言い出して……。 お互い見せ合っているうちに我慢できなくなった男の子が襲いかかる。 暗い部屋 少女・中年男性 父親の借金という弱みを握られ、中年男性の言いなりになる少女。 縄で縛られて調教を受ける。 暗い未来 少女二人・中年男性 暗い部屋続編。 学校を休んだ少女が心配で家を訪ねてきた友達の女の子。 睡眠薬を飲ませられてレイプされる。 ペット自慢 少女・男複数 幼い女の子が男たちに輪姦(まわ)される。8ページ。 真夜中の病室 少女・中年男性 入院患者の少女は同じく患者の男性にいたずらされて……。 レイプされて中出し。 ただいま勉強中▼ 少女・青年 懐いている少女にいたずらする青年。 少女は拒まず……。相思相愛でラブラブ。 秘密のえっち告白掲示板 少女・青年 懐いている少女にいたずらする青年その2。 (続き物ではありません) お酒を飲ませてレイプ。性奴隷にする。 この本の感想をお聞かせください。 名前 コメント 膨らみかけの胸、細い腰、ロリの旬といえる12歳くらいの女の子たちが男たちにレイプされて中出しされます。和姦もありますが、基本的に犯罪率が高めです。(もともと未成年とはしちゃだめですけど)おまけにスクール水着で犯される少女のイラスト+テキストページがあります。ロリレイプものとして押さえておきたい一冊。オススメです。-- 管理人 (2007-04-05 19 48 52) この本は気に入りましたか? 選択肢 投票 はい (3) いいえ (0)
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ルイーズドビュド(ルイーズ・ド・ビュド) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: アンリイッセイドモンモランシー (アンリ1世・ド・モンモランシー、夫) シャルロットマルグリットドモンモランシー (シャルロット=マルグリット・ド・モンモランシー、娘) アンリニセイドモンモランシー (アンリ2世・ド・モンモランシー、息子)
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インモラリスト いんもらりすと【登録タグ:たかはしごう アニメ ドラゴンクライシス! 堀江由衣 曲 曲い 曲いん 清竜人】 曲情報 作詞:清竜人? 作曲:清竜人? 編曲:たかはしごう? 唄:堀江由衣 ジャンル・作品:アニメ ドラゴンクライシス! カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり コメント 名前 コメント
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな朝の日差しが照らすアルヴィーズの食堂。 生徒達が朝食を取りながら談笑する、何時もと変わらぬ風景がそこに広がっている――かと思えば違った。 食堂には三つの長いテーブルが並んでおり、正面入り口から向かって左の方から順に三年生、二年生、一年生が座る。 その一年生の席の一角に凄まじい人だかりが出来ているのだ。中心には一人の少女。 流れるような美しい金色の髪に白い肌をした彼女はティファニアだった。 アルビオンからトリステインへと彼女が連れて来られてから二ヶ月ちょっと。 魔法学院の春の始業式並びに入学式から一週間程度遅れ、アンリエッタの取り計らいから彼女はここに編入して来た。 入国手続き、トリステイン王家の方々へのお目通りなど、もろもろな事情も編入に時間が掛かった理由だが、 もっとも大きい物は彼女自身の事だ。 特にそれまで親代わりを勤めていた子供達との別れは、彼女にとってもっとも辛い事だった。 子供達は修道院に預けられる事となったのだが、別れの際には互いに泣いてしまった。 だが、子供達も何時までも甘えてばかりいられない事を十分理解していたらしく、 「村に戻ろうか?」と言った彼女に「自分達は大丈夫」と笑顔で答えた。 そんな子供達の心遣いにティファニアも心の中の不安を拭う事ができ、こうして魔法学院の生徒として生活を送っている。 さてさて、そんなこんなで魔法学院の一員となった彼女だが、心労は絶えなかったりする。 その理由は大きく分けて二つ。 一つは環境の違い。 閉鎖された空間とも言うべきウエストウッドの森と違い、魔法学院はあまりにも交流が多い。 村に殆ど閉じ篭る様にして生活していた彼女にとって、大勢の生徒は見るだけでインパクトがあった。 それに加えて授業の内容や森とはまた違った生活も目新しく、彼女は目が回る思いだったのだ。 そして、もう一つは彼女の容姿がもたらした結果。 彼女はエルフの血を隠す為、尖った耳を覆ってしまうほどの大きな帽子を、入学の時から常に被っていた。 無論、本来ならばそのような格好で授業を受けたりするなど、学校生活を送る事は許されない。 だが、彼女の場合『肌が日光に極端に弱い』と言う表向きの理由で許可されている。 アンリエッタの要請で後見人となったオスマン氏が、教師や生徒に入学式の時にそう説明した。 普通ならば誰もが嘘と解る事だが、彼女の場合は事情が違う。 彼女の肌の白さは雪のようで、日焼けをしていない女子生徒の中でも群を抜いており、 見れば誰しも”この子は日光を浴びれば火傷を負う”と考えてしまうだろう。 そんな彼女の儚い印象や今は無きアルビオン王家とエルフの血がブレンドされた麗しい容姿、 アルビオンからの訳有りな転入などの要素により、彼女は一日で学院中の男子生徒の興味を学年を問わず図らずも独占。 毎日毎日蟻に集られる飴玉の如く、彼女に奉仕をしようと集まる大勢の男子生徒に囲まれる事は、 静かな学院生活を送りたかった彼女には想定外の事態だった。 しかし、悪意の無い彼らを無下に突き放す事など彼女に出来るはずも無く、結果として彼らの対応に苦労する羽目になった。 ――そして、今日も彼女は目の色を変えた男子生徒に囲まれている。 「いやはや、それにしても彼女の人気は凄い物だな」 男子生徒に囲まれるティファニアを見つめながら、ギーシュは唐突にそんな事を呟いた。 隣に座っていたジャンガは興味無さそうに大欠伸をする。 そんな彼らの周りには数人の男子生徒が集まっていた。 彼等は近衛隊”水精霊騎士隊”<オンディーヌ>のメンバーだ。 千年以上昔に創設された伝説の近衛隊――その名が冠されたこの近衛隊はアンリエッタが新たに創設した物だ。 最初アンリエッタは、隊長には”シュヴァリエ”の称号を送る事にしたジャンガに勤めてもらおうと考えていた。 だが現在の所、隊長はギーシュが勤めている。 理由は至って簡単……ジャンガが”シュヴァリエ”の称号授与と共に断ったからだ。曰く『部下になるなんざまっぴら御免』との事。 無論アンリエッタもこうなる事は重々承知していたらしく、無理に進めるような事はしなかった。 この新たな近衛隊の創立には”急な用件にも柔軟な対応が出来るように”と言う意味もある。 故にジャンガが隊長でなくともさしたる問題は無い。称号授与と共にアンリエッタの彼に対する純粋な感謝の意の示しである。 加えて騎士団の創立は既に決定事項としてふれを出していたので、今更取り消す事は出来ないのだった。 そんな訳で、隊長にはある程度の家柄や戦果の有るギーシュが選ばれたのである。 ジャンガにしてみれば別に有っても無くてもいい物なので、近衛隊が作られてもさして興味は無かった。 「あれは人気者と言うレベルを超えている。まるで崇拝だ」 水精霊騎士隊の実務担当をするつもりの少年レイナールがメガネを直しながら言う。 彼の言う事ももっともだった。ティファニアの周りに集う男子生徒は彼女の一挙一動にすぐさま反応を示すのだ。 紅茶のお代わりを注ぎ、肉を代わりに切り分けるなど、彼女のしようとした行動を率先して行うのだ。 それだけならばお姫様と召使の関係だが、零れた紅茶を自らのハンカチやマントで拭き取ったり、 埃が掛からないように壁となったりするのは少々行き過ぎだろう。 ガタンッ、と音がした。 ジャンガが目を向けると、ティファニアがその場を走り去って行くのが見えた。 男子生徒が手に手に帽子を持っているのを見て、ああそう言う事か、とジャンガは納得する。 おそらくは帽子をプレゼントされ、被らねばならない状況になりそうだから逃げ出したのだろう。 帽子の下には尖った耳…、エルフの特徴が隠れている。 もっとも彼女はハーフエルフなのだが、そんな事は些細な問題だろう。 「案外苦労してるみたいじゃねェか、アイツもよ…」 そう呟き、ジャンガは再度大欠伸をした。 そんな感じで今日も一日が過ぎる――かに思われたのだが……。 夕暮れ時、ジャンガはヴェストリの広場でベンチを占拠し、鼾を掻いていた。 殆ど人が寄り付かず、静かなここもまた本塔の屋根の上同様、昼寝には絶好の場所なのだ。 無論、一日中誰も近づかないなどありえない事だが、生徒達はジャンガが眠っている間は寄り付こうとしない。 以前にジャンガの傍で騒ぎ立て、彼を起こしてしまった生徒が筆舌にし難い仕打ちを受けた事があるからだ。 そんな訳で今日も彼は静かなこの場所で、思う存分惰眠を貪っていた。…そんな彼の耳に届く雑音。 何処かで誰かが騒いでいるのは解った、それが女生徒なのも解った。――解りはするが…正直うるさい。 まさか、今更騒ぎ立てて自分を起こそうとする命知らずがいるなどジャンガは思ってもいなかったのだ。 ジャンガはイライラしながら目を開けると身体を起こし、雑音のする方へと顔を向ける。 見れば帽子を押さえながらおずおずと後退っているティファニアの姿が見えた。 すると、学院の方から褐色、黄土、緑の髪をした三人組みの女生徒が姿を現す。 何れもマントは紫色をしているから一年生だろう。 紫は三年の色だったが、新しく入った学年は卒業した学年の色が使われるらしい。 なるほど…、新しく入った一年生ならば事情を知らなくても不思議では無いだろう。 それにしても目付きが悪い…、如何にも性格が悪そうだ。 すると、三人の後ろからまた一人一年生の女生徒が姿を見せる。 金髪をツインテールにした少女だ。 こちらもまた性格が悪そうな目付きをしてる。…しかも物凄くガキっぽい。 ジャンガは耳を傾けると話の内容が耳に入って来る。 …どうやらティファニアがツインテールの少女に挨拶をしなかった事を怒っているようだ。 ”無礼者”だとか”謝罪しろ”などティファニアに向かって非難轟々だ。 金髪の少女も冷たい視線をティファニアに投げかけている。 それらを見ていてジャンガは腸が煮えくり返りそうな感覚に囚われていた。 別にティファニアが苛められているのを気の毒に思ったからではない…、幼少の頃に受けていた苛めを思い出したのだ。 指の代わりに爪が生えた手が気持ち悪いと言われ、化け物と罵られる。 当時は小心者な性格だった彼にはそれは物凄い恐怖だった。 小さい頃に受けたそれはトラウマとなり、大抵の奴は黙らせられるようになった今でもふと思い出される悩みの種。 例え自分に関係の無い事でも、これだけはジャンガも克服しきれない。 自分で苛めるならまだしも(最早ありえないが)自分が苛められたり、他人が苛められているのを見るのは我慢が行かない。 「許して、お願い」 ティファニアの声にジャンガの思考は現実に戻る。 考え込んでいる間に話はエスカレートしたらしく、苛めっ子グループが帽子を掴んで引っ張ってる。 ティファニアも必死に抵抗しているが多勢に無勢…、帽子が取られるのは時間の問題の様だ。 そんな彼女が昔の自分とダブり、ジャンガは音がするほど強く歯を噛み締めた。 不意に帽子を掴んでいた手が離され、ティファニアは後ろによろめいた。 どうしたのか、と思って顔を上げると彼女達は呆然と広場の方に顔を向けている。 ティファニアもそちらに顔を向けると、そこには彼女の知っている亜人が立っていた。 「ジャンガさん?」 亜人――ジャンガは答えず、女生徒達を睨んだ。 冷たい刺す様な視線に女生徒達は震え上がる。 「あ、あなた…誰よ?」 ツインテールの少女が震える声で言った。 「ギャーギャー、ギャーギャー、ウルセェんだよ…ガキが」 吐き捨てる様に呟くジャンガ。 その言葉に褐色の髪の少女が声を荒げる。 「無礼者! 誰の使い魔か知らないけれど、この方を何方と心得ているの!?」 「ガキはガキだろうが。なんなら他の呼び方にするゼ? 小娘、クソガキ、なんちゃって貴族、…リクエストが在るなら聞いてやるゼ?」 褐色の女が噛み付くような勢いで詰め寄ろうとして、ツインテールの少女に止められる。 少女はジャンガを睨み返す。だが、その目には恐怖の色が見て取れた。 「ンだ?」 「…あなた、わたしを誰だとお思い?」 「生意気なクソガキ…、それ以外の何だってんだ?」 少女は怒りに顔を歪ませる。 「ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフよ! トリステインと縁深き独立国クルデンホルフ大公国の姫殿下!」 その説明にジャンガは、ああ、と納得したように頷く。 「なるほど…そう言う事か」 ――世間知らずの無礼な亜人かと思えば、クルデンホルフの事は知っていたか。 ベアトリスはしめたとばかりに言葉を続ける。 「そうよ、わたしはアンリエッタ女王陛下とも縁は深いの。解ったなら、今の無礼を謝罪しなさい!」 指を突きつけ、謝罪を迫るベアトリス。 だが、ジャンガはそんな彼女を見下ろすのみ。その目はまるで汚物でも見るかのようだ。 その視線に不愉快になり、ベアトリスは声を荒げる。 「謝罪をしなさいとわたしは言っているのよ!?」 「…ドブネズミ風情に何で謝らなきゃならねェんだよ?」 ジャンガの言葉に女生徒達は絶句した。 ベアトリスは見て解る位に顔を怒りで真っ赤に染める。 「あ、あなた…誰に向かってそんな口を叩いているか解ってるの!?」 「テメェこそ、外から来た分際で偉そうにしてんじゃネェよ…」 ジャンガは静かに呟く。 その言葉に何か危険な物を感じ、ベアトリスは震えた。 細められた両目は獲物を狙う肉食獣のそれと変わり無い。 「…人の縄張りで好き勝手すんじゃネェよ」 ジャンガの腕がゆっくりと振り上げられ―― 「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」 ――腕が振り下ろされる寸前、ギーシュが叫び声を上げながらワルキューレと共にジャンガに飛び蹴りをした。 完全に不意を突かれた形になったジャンガは、もんどりうって地面を転がる。 ギーシュは荒く呼吸を繰り返しながらそれを見届け、ベアトリスへと向き直る。 「ハァ、ハァ、おお、これはこれは、クルデンホルフ姫殿下ではございませんか!?」 いつもの態度は何処へやら…妙に畏まった態度でギーシュはベアトリスに挨拶をする。 「あ、あら…ミスタ・グラモンじゃない。コホン、お久しぶりですわね」 ベアトリスは目の前の相手が自分の実家がお金を貸している相手だと解るや、先程までの調子を取り戻す。 すると、彼に付いて来たのであろうモンモランシーがベアトリスの身体を見ている。 「お、お怪我とかはございませんか?」 モンモランシーは心配そうな表情で尋ねた。 「別に」 ベアトリスはあくまでも平静を装ってそう言った。 モンモランシーはその答えを聞くや、安堵の息を漏らす。 当然だろう。独立国の姫に怪我を負わせよう物ならば事は国際問題に発展する可能性が高い。 例えジャンガの性格は解っていようとも、それだけは避けなければならない事態なのだ。 ギーシュが広場で倒れるジャンガを指差す。 「あいつはジャンガと言いまして、アンリエッタ女王陛下のシュヴァリエの称号授与も断る位の無礼者なんです。 ですから、姫殿下とあろう方があのような奴と立ち話をするのは高貴さが損なわれてしまうかと…」 「でも、あの亜人が先に…」 尚も食い下がろうとするベアトリスの耳に口を近づけ、ギーシュは小声で言う。 「少しの無礼を許容出来る、出来ないで大人のレディは変わりますよ? 今此処で許容出来れば姫殿下は大人のレディとして大きく成長されるでしょう」 そのギーシュの言葉にベアトリスも満更ではなかったのだろう。 僅かに頬を染めると”この場はこれで終わり”とあっさりと引き上げた。 …去り際、ティファニアに対して「次からは帽子を取れ」と言い残して。 ――当然と言えば当然だが、ベアトリスが去った後でギーシュはジャンガに責められる事となった。 胸倉を掴み上げられ、ギーシュは苦しむ。 そんな彼にジャンガはそれだけで人も殺せそうな視線で睨み付ける。 こんな風にされるのは随分と久しぶりな感じがするが、懐かしむ必要も無ければ懐かしむ余裕も無い。 ギーシュはジャンガを落ち着かせるべく言葉を選ぶ。 「ジャ、ジャンガ…落ち着いてくれ」 「ホゥ? 派手にぶっ飛ばしておきながらその言い草か。…舐めんじゃネェぞ、気障ガキ?」 胸倉を掴む爪に力が籠もる。 首が絞まって息が苦しくなり、ギーシュはもがく。 モンモランシーが慌ててジャンガの腕を掴んだ。 「確かに説明も無しにいきなり吹き飛ばしたのは悪かったと思うわよ! でもね、事情が事情なのよ!」 必死に説得するモンモランシー。 ジャンガはそんなモンモランシーとギーシュを暫く見比べる。 やがて忌々しそうに舌打をし、ギーシュを乱暴に地面へと放り出した。 背中から叩き付けられ、ギーシュは苦痛に顔を歪ませる。 「あ、あ痛たたたた…」 「ちょっと、大丈夫?」 「な、何とか…」 心配そうな表情で安否を気遣うモンモランシーに、ギーシュは何とか笑顔を返す。 そんな二人を見下ろすジャンガ。 「…どんな事情が在るってんだ? 下らないのだったら容赦しないゼ?」 「全然下らなくなんか無い! 寧ろ重大だ!」 ギーシュは深呼吸をし、口を開く。 「彼女は小国とは言え独立国の姫だ。そこらの貴族とは格が違うんだよ、格が」 「ンなもんテメェらだって同じ穴のムジナだろうが」 ジャンガの言葉にギーシュは苦笑いを浮かべる。 「その言葉は嬉しくないが、言いたい事は解る。確かにぼくのグラモン家は代々王家に使えてきている。 格の上では大公国と同格と言っても差し支えは無い」 「モンモランシ家もそうね」 「…じゃ何であんなに頭が低いんだよテメェら?」 「現実は歴史に勝る」 「あン?」 「グラモン家は名門だが、領地の経営に疎い。過去にお金を使い過ぎた所為でね…財政難なんだ」 その言葉にジャンガは事の次第を理解し…、同時に呆れ返った。 「…金を借りてるって事か」 ギーシュは乾いた笑いを上げる。 モンモランシーもまた恥ずかしそうに顔を染めた。 「モンモランシ家も似たような物ね。以前に領地の開拓に失敗してるから…」 「まぁ、君も仲良くするに越した事は…」 「すると思うか?」 思わないさ、とギーシュは首を振って答える。 「他所から俺の縄張りに勝手に紛れ込んで、好き勝手するドブネズミとどうして仲良くしなきゃならねェ? ”始末”する方が楽だ」 そう言ったジャンガにギーシュは必死な表情で詰め寄る。 「いや、だからそれはダメだ! 彼女は一国の姫! その彼女に手を上げるのは確実に国家間の問題に発展する! しかもだ、彼女には自前の親衛隊がついている。彼らとの争いは正直御免だ」 ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。 「親衛隊…ってのは何の話だ?」 「知らないのかい?」 尋ねてくるギーシュにジャンガは頷いて見せた。 ギーシュはジャンガとティファニア、モンモランシーを正門の前まで引っ張っていった。 「見たまえ」 そう言ってギーシュは草原を指差す。 ジャンガは僅かに眉間に皺を寄せる。 魔法学院の周辺に広がる広大な草原…、そこに何時の間に作ったのか、幾つもの天幕が設けられていた。 天幕の上には空を目指す黄色の紋章が描かれ、周囲には大きな甲冑を着けた風竜が何匹もたむろしている。 「…ンだ、ありゃ?」 「あれがクルデンホルフ大公国親衛隊、その名も”空中装甲騎士団”<ルフトパンツァーリッター>だ」 ふぅん、と詰まらない物でも見るかのような目でジャンガは騎士団を見渡す。 ギーシュの説明が続く。 「クルデンホルフ大公国は、あの騎士団を「虎の子だ」と言う理由で先だってのアルビオン戦役には参加させなかった。 だから今も健在。アルビオンの竜騎士団が壊滅した今となってはハルケギニア最強の竜騎士…とまで言われているんだよ」 「最強ね……ふ~ん」 ギーシュの説明にもジャンガは生返事を返すだけ。 「その虎の子の騎士団を留学した娘一人の警護につけるとはな…どんな親バカだよ?」 呆れたような声で言う彼にギーシュは顎に手を沿えて答える。 「金持ちと言うのは見栄を張りたがる者だからな…」 「テメェが言えた義理かよ…気障ガキ?」 「ぼくはカッコつけたいだけだ。それに、今では無意味なアプローチは極力控えるようにしている」 「ああそうかよ…」 そう言ってジャンガは踵を返す。 「何処へ行くんだい?」 「…寝直すんだよ」 そう言ってジャンガはその場から消えた。 「いいかい!!? 絶対に彼女には手を出さないでくれよ!!!?」 ギーシュは既に姿を消したジャンガの耳に届くように、精一杯声を張り上げて叫んだ。 それを見ていたティファニアは申し訳無さそうにポツリと呟く。 「すみません、色々とご迷惑を掛けたみたいで…」 「え? ああ、別にあなたは気にしなくていいわよ。あいつはいつもの事だし」 「でも、迷惑をおかけしたのには変わりません…。わたしがシッカリしていればこんな事にはならなかったし…」 そんな彼女の様子を見かねたのか、ギーシュが口を開く。 「まぁ…その、なんだ。君もそんなに落ち込まない方が良い。折角の美貌が台無しだよ?」 「ギーシュ…」 モンモランシーが目を細めて見ている事に気が付き、ギーシュは取り繕う。 「別に卑しい意味で言ったわけじゃないさ。純粋に彼女を元気付けたくて言っただけさ」 「…それは解ってるわよ。ちょっとばかり気になっただけよ」 そう言い、モンモランシーは小さく咳払いをする。 「ま、ギーシュの言う事ももっともね。あなたも元気出しなさい。そりゃ、大公国の姫に目を付けられれば困るでしょうけど…」 モンモランシーの気遣いの言葉にティファニアは首を振る。 「お気遣いありがとうございます。わたしは本当に大丈夫ですから…、では失礼します」 ぺこりと二人にお辞儀をし、ティファニアは帽子を押さえながら学院へと戻って行った。 そんな彼女の後姿を見送りながら、残った二人は顔を見合わせた。 「大丈夫かしら?」 「何とも言えないな…」 「ジャンガもそうだけど…、ベアトリス姫殿下にも困ったわね。幾ら姫殿下でも我侭が過ぎと思うわ」 「それは同感だが、だからと言って僕達に出来る事は無い。…彼女が上手く対応するのを願おう」 「もう一つ願う事は在るんじゃない?」 モンモランシーがそう言い、ああ、とギーシュは頷く。 「ジャンガが問題を起こさない事か…。…願うだけ無駄な気もするがね」 ギーシュはため息を吐く。 同感、とモンモランシーもため息混じりに呟いた。 翌日…ジャンガは昨日と変わらずヴェストリの広場のベンチで昼寝をしていた。 あれだけ脅したのだから、もう二度と問題は起こさないだろうと、考えていたジャンガは再度此処を昼寝の場所に選んだのだ。 今日は最後まで寝れるだろうと考えながら。 しかし、万事思い通りに進まないのが世の常であり…。 大勢の学生の悲鳴が耳に届き、ジャンガは歯を噛み締める。 授業中だというのに何故このように叫ぶのだろうか? しかし、ジャンガには理由など関係無い。ただ喧しいだけだ。 帽子を深く被り、騒音を掻き消そうとする。 すると、今度は突風が吹き、何かの唸り声が聞こえた。 ガチャーーーンッ! 立て続けに派手に窓ガラスが破られる音が響き、生徒の物ではない男達の声が聞こえてきた。 「ルセェ…」 更に帽子を深く被り、極力騒音を排除しようとする。 だが、騒音は耳に届き続け、ジャンガは次第にイライラを募らせていく。 そして、トドメとばかりに猛烈な突風が吹き、ベンチごとジャンガを吹き飛ばした。 吹き飛ばされたジャンガは背中から塔の壁に叩きつけられた。 遂に我慢が限界を超え、ジャンガは目を開ける。 飛び去る無数の甲冑を着けた風竜の背中が見えた。それは昨日ギーシュに見せられた騎士団の連中のだ。 風竜の背中には竜騎士の姿が勿論在ったが、それ以上にジャンガを苛立たせる姿が目に入った。 一匹の風竜の足に掴まれた尖った耳をした金髪の少女、 そしてその風竜の背に竜騎士と共に乗った金髪をツインテールにした少女だ。 それを見ながらジャンガは亀裂の様な笑みを浮かべた。 魔法学院の正門前、そこの草原に設けられた空中装甲騎士の天幕の前の地面にティファニアは乱暴に転がされた。 痛みを堪えながら身体を起こし周囲を見回す。 甲冑を着けた表情すら伺えない騎士達が自分の周囲を取り囲んでおり、 その輪の外では更に恐ろしい風竜達が唸り声を上げて威嚇している。 現状逃げる術は無いに等しい。 これだけ大勢の人間が居る場所で”忘却”の魔法は使えない。 先程、人間の父を”悪魔に魂を売った者”とベアトリスに言われて反論した時も、すぐさま周囲の騎士達が駆けつけて来た。 そんな騎士達に囲まれている今の状況で魔法を唱える素振りなど見せようものなら、周囲から魔法で蜂の巣にされてしまう。 かと言って二重に囲まれている為、退路など在るはずもなし。 やはり正体を明かすべきではなかった…、とティファニアは後悔する。 自分の事を受け入れてくれた人が居たからと言って、全てのハルケギニアの人がそうだと言えるはずもない。 大体、自分を従妹だと言って受け入れてくれたアンリエッタですら、最初は自分を見て驚いていたではないか? それほどまでにエルフとハルケギニアの人間の間の溝は深い…。少し話をした位で解りあえるような物ではない。 周囲を取り囲む騎士達が、エルフの母の命を奪った騎士達の姿とダブって見える。 怯えるティファニアの下にベアトリスがやって来た。 勝ち誇ったような表情で彼女を見下しながら宣言する。 「今から異端審問を執り行うわ。わたし司教の肩書きを持っているの」 騒ぎを聞きつけて集まった周囲の生徒達がざわめいた。 生徒達の反応に満足したのか、ベアトリスは嬉しそうな表情でティファニアを見る。 「先程も言ったけど、わたしたちと仲良くしたいと言うなら同じ神を信じると言う事を証明してもらわないとね」 「どうしろって言うの?」 「あれに入るのよ」 ベアトリスは顎で示すので、ティファニアは自分の背後を振り返る。 大釜がそこに置かれていた。大釜の中の水は強力な炎の魔法で既にグラグラと沸騰している。 「あの湯の中に一分間浸かるの。大丈夫よ、始祖ブリミルを信じている者なら丁度良い湯加減に感じるから。 でも、あなたの”信仰”が本物で無い……つまり”異教徒”なら、あっと言う間に茹で肉になってしまうでしょうね」 楽しそうな顔でベアトリスは言う。 勿論、彼女の言葉は嘘だ。信じていようといまいと熱湯は熱湯でしかなく、浸かれば命は無い。 要するに、異端審問とは名前を変えた処刑に他ならないのだ。 何も知らないティファニアは呆然と大釜を見つめる。 そんな彼女にベアトリスは言った。 「できない? なら今直ぐ田舎に帰りなさい。そうすれば今までの事は無かった事にしてあげる」 暫しの沈黙が漂う。大釜の中の湯が沸騰する音と、燃える薪が立てるパチパチと言う音のみが辺りに響く。 その場に集まった生徒の中にはギーシュを初めとした水精霊騎士隊の面々にルイズやタバサも居た。 「ああ…やっぱりこういう事になったか…」 ギーシュがため息混じりに呟く。 「でも、あの子がエルフだったなんて驚いたわ?」 モンモランシーは信じられない物でも見るかのような表情でティファニアを見た。 まぁ、エルフはメイジの魔法を軽く凌駕する先住魔法の使い手である恐ろしい砂漠の悪魔…と呼ばれている。 それが目の前の少女だとは思えないのも致し方ない。 「ねぇ…、あなた達は知っていたの、あの子がエルフだって事?」 キュルケがルイズとタバサに尋ねる。 ルイズとタバサは頷いて見せた。 「正確にはハーフエルフなんだけどね」 ルイズのその言葉にキュルケは興味深げな声を上げる。 「へぇ…純粋なエルフじゃないの。でも、こうして見てる限りでも、恐ろしいって感じは全然しないわね…?」 キュルケもまたモンモランシーと似たような感想を抱いていたのだ。 さて、ルイズとタバサはアンリエッタからティファニアの事を任されている。 もっともなるべく問題は彼女自身に向き合ってもらいたいと言うのがルイズの本音だったりする。 ティファニアはハーフエルフであり、更には”虚無”の担い手である。 そもそも普通の貴族としては暮らしていけない身の上なのだ。 そんな彼女が魔法学院に来れば、どんな事態が起きても可笑しくはないのである。 それで一々助けていては此方が大変なばかりか、彼女自身にとってもためにならない。 本当にどうしようもなく、どうしても助けが必要な場合、その時にだけ手を差し伸べようとルイズは心に誓ったのだ。 そしてその旨はアンリエッタもタバサも、後見人となったオスマン氏も承知してくれた。 そんなルイズはそろそろ口を出すべき時だろうかどうか悩んでいた。 どんな事態が起きても可笑しくは無いと思っていたが、これは些か事が大きすぎる。 まさかこの魔法学院で異端審問を執り行う者が出てこようと流石に思わなかったのだ。 だが、非常に怪し過ぎる。あの一年生は司教の肩書きを持つと言ってはいるが、肝心の免状や審問認可状が見当たらないのだ。 何より目が悪戯をしている子供と大差ないのだ。 それらの事から、おそらくは嘘だろう、とルイズは当たりをつけていた。 では直ぐに口を出すべきだと思ったが、ティファニアの目からは怯えが消えていたのだ。 まだ何か言う事があるのだろう、とルイズはもう暫く様子を見る事にした。 「いや。絶対にいや」 その時、ティファニアの声が静かに響いた。全員の視線がティファニアに集中する。 ベアトリスは一瞬呆気に取られた。 「わたし、外の世界を見てみたいって願っていたの。それをジャンガさんやアンリエッタさんが叶えてくれたの。 ここで帰ったら、願いを叶えてくれた人達だけじゃない…、笑顔でわたしを送り出してくれた子供達にも合わせる顔が無い。 だから、絶対に帰らない」 ベアトリスは歯噛みする。これだけ脅してやれば帰るだろう、と思っていたのに相手は「帰らない」と言ってきたのだ。 どうして命を落とすかもしれないこの状況で、あんな言葉が言えるのだろうか? と悩む。 それだけの覚悟がティファニアには有るのだが、理解出来ないベアトリスは苛立つだけだった。 幼少期からちやほやされて育った彼女は未だに精神年齢が未熟なままなのだ。 「わたしが帰れと言ったら帰るの! それに、何よ今の!? わたしの生まれであるクルデンホルフ大公家と、現トリステイン女王陛下であらせられるアンリエッタさまは縁が深いの! それを言うに事欠いて”アンリエッタさん”ですって? 無礼にも程があるわ! やはりあなたは異教徒ね! わたしやアンリエッタさまへの礼儀もなっていないあなたは即刻ここから出て行きなさい!」 ベアトリスはヒステリックに喚き散らす。 しかし、ティファニアは全く動じなかった。寧ろ、ベアトリスを哀れみの目で見つめている。 「な、何よ? 何なのよ、その目は!?」 ティファニアはポツリと呟く。 「可哀想…、子供なのね」 「なっ!?」 ベアトリスは呆然とする。 そんな彼女を見つめながらティファニアは続ける。 「ずっと大勢の子供達の世話をしてきたから解るわ。…あなたは全てが思い通りに行かないと気がすまない子供。 きっと、家に居た時は何でも他の人がやってくれたのね…。どんな我侭でも全て聞いてもらって、欲しい物は何でも貰う。 そんな甘やかされた生活が続けば子供のままで当然よね…。だから、あなたにはああ言う人しか集まってこない…」 ティファニアはそう言って離れた所で見ている三人組の女生徒を見た。 彼女の真っ直ぐな目で見つめられ、三人は動揺する。 そのままティファニアはベアトリスに視線を戻す。 「もっと…叱る時には叱ってくれる、ちゃんとした親の所に生まれていればこうはならなかったと思うわ。 可哀想に…。わたし…あなたがとても気の毒だわ」 直後、乾いた音が響き、ティファニアは地面に倒れた。 苛立ちが頂点を越えたベアトリスの平手打ちが飛んだのだ。 顔を真っ赤にさせながらベアトリスは叫ぶ。 「この者を釜に入れて! 今直ぐに!」 後ろに控えていた空中装甲騎士の二人がティファニアへと手を伸ばす。 ルイズは頃合と見て、止めるべく声を上げようとした…その時だ。 「ガアッッッ!!!?」 突然悲鳴が上がり、悲鳴の方に視線が集中する。 騎士の一人が杖を放し、ビクビクと身体を痙攣させている。 やがて、騎士は両膝を付き、ドサリと前のめりに倒れ込んだ。 その背中には三本の切り裂かれた傷跡が付いている。 悲鳴が上がったが、倒れた騎士の背後に立つ者の姿を見るや、それは直ぐに治まった 「ジャンガ…」 ルイズは呆然と呟く。 タバサは彼の姿を見るや目を細める。 立ち尽くすジャンガの身体からはどす黒い殺気が放たれている。 生徒達はそれを肌で感じ取ったのか、ジャンガから逃げるようにして離れていく。 それは風竜達も同様で、身体を小刻みに震わせながらその場に蹲る。 そんな周囲の事はジャンガは目にも入っていない様子。 その鋭く血走った視線はベアトリスだけを見つめている。 ベアトリスは身体が反射的に震えるのを感じた。 昨日の事が思い起こされたのだ。 ジャンガはゆっくりとベアトリスへと歩み寄る。 その動きに空中装甲騎士団が動く。 「止まれ! それ以上殿下に近寄るな!」 一斉に杖を突きつける。 だが、ジャンガは立ち止まらない。 騎士達は更に声を荒げて叫んだ。 「止まれと――」 瞬間、無数の血の花が咲き、騎士達が宙を舞った。 重い音を響かせながら、次々と騎士達が地面に落ちていく。 全ての騎士が空に打ち上げられ、落下するまでそれほどの時間は掛からなかっただろう。 だが、その場に居た全員には随分と長く感じられた。 それを見ながらベアトリスは呆然と立ち尽くしている。 あの亜人が歩いて来たのを見て空中装甲騎士が自分の前に壁を作った。 だが、その壁は次の瞬間には無かったのだ。そして間を空けずに降り注ぐ騎士達。 一様に真っ赤な血を滴らせて地面を赤く染めている。 何が起こったのか…まるで解らなかった。 呆然と立ち尽くすベアトリスの前にジャンガが立った。 有無を言わせず胸倉を掴み上げるや、そのままベアトリスを連れて大釜の方へと歩いていく。 何をするつもりなのか…その場の全員が理解し、息を呑んだ。 「ね、ねぇ…流石にあれは不味いんじゃないの?」 キュルケが冷や汗を垂らしながらルイズとタバサを見る。 傍らではギーシュやモンモランシーも不安な表情を浮かべている。 「ああ、そうだよな…万が一にもそんな事は無いと思ったけど、そうなるよな…。 あ~あ…トリステインはどうなるのかね?」 「それよりも姫殿下の命が危ういわよ…。ジャンガのあの目…殺す気満々の目よ」 「じゃあモンモランシー…、聞くけど…君はああなった彼を止められるかい?」 ギーシュの問いにモンモランシーは首を振る。 そんな風に慌てる彼らだが、意外とルイズとタバサの二人は落ち着いていた。 「ねぇ…あなた達はどうしてそんなに落ち着いていられるの?」 タバサは騎士達を指し示しながら呟く。 「派手に出血しているけど、命に別状は無い」 キュルケ達は倒れた騎士の方を見た。 なるほど…、確かに騎士達は派手な出血と怪我を負ってはいるが、絶命してはいない。 その証拠に騎士達の何れもが苦しそうな呻き声を発し、手足を僅かながら動かしている。 「どう言う事?」 キュルケの言葉にルイズは大袈裟なほど大きなため息を吐く。 「わざとやってるのよ…」 「そう、わざと」 ルイズは呆れた様子で、タバサは全く動じずにそう言う。 「要するに怖がらせたいだけなのよ。性格の悪いあいつの事だからね」 「だが、それならば……こう言っては何だが、どうして止めを刺さないんだ? 彼ならばそうしても可笑しくないと思うんだが?」 ギーシュの問いにタバサが答える。 「単純に死人が出たら面倒なだけ」 「あっ、そう…」 ギーシュは諦めとも呆れともつかない声で呟く。 「ま、本当に危なくなったらわたしとタバサで止めるわよ」 ジャンガは跳び上がると、大釜の縁に降り立った。 立ち上る水蒸気だけでも熱い。中の熱湯がどれだけの温度なのか容易に想像は付いた。 その熱湯の真上にベアトリスを持って行く。 ベアトリスは恐怖に顔を歪ませる。 真下には例の大釜…、その中には煮え滾る熱湯…。 落ちれば命が無い…。ベアトリスはジャンガの腕を掴んだ。 「あ、あなた…、こ、こんな事をして…、た、ただで済むと思ってるの!?」 精一杯の虚勢を張り、ベアトリスはジャンガに向かって叫ぶ。 ジャンガはベアトリスを引き寄せ、真正面から睨み付けた。 「ただじゃ済まない? キキキ…どうするってんだよ?」 「そ、それは…」 ジャンガは後方で倒れる空中装甲騎士の面々を肩越しに見る。 「あの連中…今の所、ハルケギニア最強の竜騎士とか言われてるんだってな?」 再びベアトリスに視線を戻す。 「そんな連中がああじゃ…俺をどうにかできる奴なんかいないと思わネェか?」 ベアトリスは言葉に詰まった。 確かに空中装甲騎士は現状、クルデンホルフ大公国が有する最強の騎士団であり、 ハルケギニアに現存する最強の竜騎士団である。 それが破られたと言う事は、殆どのメイジが太刀打ち出来ないという事に他ならない。 落ち込むベアトリスに対し、ジャンガはニヤリと嫌みったらしい笑みを浮かべる。 「まァ、湯にでも浸かれば気も落ち着くだろ? ちょうど良い感じにここには”風呂”も在るしよ」 ベアトリスは驚愕する。 目の前の亜人はやはり自分を釜に放り込む気なのだ。 必死でベアトリスは暴れる。 「や、止めて! し、死んじゃうわよ!!?」 ジャンガは首を傾げる。 「何で死ぬんだ…、”ブリミル教徒には良い湯加減”なんだろ?」 その言葉にベアトリスは更に言葉に詰まった。 確かに自分はそう言ったが、そんな物は嘘である。異端審問ではこのような虚言は日常茶飯事。 潔白を証明する為の方法も、相手を異教徒として認めさせる為だけの拷問なのだ。 無論、ジャンガはそんな事は百も承知であり、承知した上で言っていた。 羽目を外しすぎたガキを甚振るには十分すぎる理由だ。 「異教徒とかじゃねェんだったら問題は無ェよな? だったら遠慮無く湯に浸かりな、キキキ」 ベアトリスは必死でジャンガの腕を掴んだ。 「粘るんじゃネェよ…ガキが」 そう言って、反対の腕の爪をベアトリスの首筋にチクリと刺す。 軽い痛みを感じた直後、ベアトリスは身体から力が抜けるのを感じた。 ジャンガの腕を掴んでいた腕が、足がダラリと下がる。 だが、ベアトリスは生きていた。意識もハッキリとしている。 ただ、身体が動かないのだ。 「な、何よこれ?」 「キキキ、ちょいとお前の身体を動かなくしただけだ。なァ~に、暫くすりゃ動けるようになるゼ」 ジャンガは不適な笑みを浮かべながらベアトリスを見つめる。 「…それまでゆっくりと湯に浸かってな」 胸倉を掴んだ爪の一本が外れた。 ガクンと体が傾きベアトリスは、ヒッ、と悲鳴を漏らす。 更に一本が外れ、更に体が傾いた。 ベアトリスは恐怖に身体を震わせる。ガチガチと歯が小刻みに噛み合わさって音を立てる。 そんなベアトリスを満足げに見つめながら、ジャンガは最後の一本を外そうと動かす。 「ご……、ごめんなさーーーーーーいっっっ!!!」 突然のベアトリスの叫びにティファニアや生徒達、飛び出そうとしたルイズとタバサも目を見開く。 ジャンガは怪訝な表情でベアトリスを見る。 「あン? ごめんてなんだよ?」 「わ、わたし、本当は司教の肩書きなんて持ってない! 異端審問なんて行えないの! ぜ、全部……全部嘘なの!!!」 ベアトリスは必死になって真実を語る。 「わ、わたし…あのハーフエルフが羨ましかったの…。何もしていないのに、色んな人に囲まれているあの子が…。 大公家の娘だからって…最初はわたしが注目されていたのに、あの子が全部人気を持っていっちゃうから…。 それだけじゃない…あの子はわたしに注目していた人だけじゃなく、もっと大勢の人から注目されていた…。 それが羨ましかった…、どうしようもなく悔しかった…。 大公家でも無いのに…特別な家柄でも無いのに…人気者なあの子が羨ましかったの…。 わたしだって…わたしだって…友達が欲しいかったの…。 大公家の娘だから持ち上げる相手だけじゃなく…本当の友達が欲しいかったの!」 取り巻きの三組みが気まずそうな表情を浮かべながら顔を見合わせる。 「…だから……あの子がハーフエルフだと解って、つい…異端審問なんて言っちゃったの…。 …ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……。わたしが悪かった……ごめんなさい…」 涙ながらに謝罪を繰り返すベアトリス。そこには最早、先程までの高慢な悪ガキの姿は欠片も無かった。 「ベアトリスさん…」 ティファニアは何とか立ち上がる。 と、ジャンガが高らかに笑った。 「キーーーッ、キキキキッッ!!! なるほどなァ~? そいつはまた可哀想だゼ。いやいや、俺も似たようなもんだしよ」 そう言ってジャンガは腕を振り上げ、ベアトリスを地面に叩き付けた。 「痛ッ!?」 身体が動かない為に受身も取れず、無防備に地面に叩きつけられたベアトリスは痛みに悲鳴を上げる。 ジャンガは地面に降り立ち、大釜に足を付ける。ちょっとでも力を込めれば簡単に大釜は倒れるだろう。 その先には…。 「な、何をする気…?」 怯えるベアトリスにジャンガは冷たい笑みを浮かべて見せる。 「そりゃ勿論、お前に向かってこれを押し倒すのさ」 「なっ!?」 「テメェがこんな事した理由は解った…。だがな、俺としてはこのまま済ませる訳には行かねェんだよ。 この先、他にも出ないとも限らないしな…。何より、俺の面子って物が在る。 だから、罰は受けてもらうゼ。なァ~に、安心しな。この大釜の湯をぶっ掛けるだけだ。 何時間も湯に浸かるよりはいいだろ。ほんの一瞬だけ耐えれば良いんだからよ~?」 簡単そうに言うが、如何考えても楽ではない。ゆっくり浸かろうと、一瞬だけ浴びようと熱湯は熱湯。 あれ程の温度の物をあれだけ大量に浴びせられれば勿論命は無い。 「待ってください、ジャンガさん?」 そう言って止めたのはティファニアだった。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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ディアーヌドフランス(ディアーヌ・ド・フランス) フランス王の系譜に登場する人物。 アングレーム女公。 関連: アンリニセイ(2) (アンリ2世、父) フィリッパドゥーチ (フィリッパ・ドゥーチ、母) オラーツィオファルネーゼ (オラーツィオ・ファルネーゼ、夫) フランソワドモンモランシー (フランソワ・ド・モンモランシー、夫)
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サンドイッチを貪るルイズ。話が決闘のことに移り、期待でキラキラした目で決闘のことを訊ねるシエスタ。 メイド服の少女に、尊敬の目で見られ満更でもないアヴドゥル。 どこか幸せそうな三人は置いておいて、時間をアヴドゥルが広場から去った直後に戻す。 ケティの消失。モンモランシーの憂鬱。ギーシュの分裂。コルベールの驚愕。オスマンの動揺。キュルケの暴走。 ……裏側の物語が始まる -ケティの(淡い恋の)消失 ギーシュは決闘後、笑ったまま動かない。 周りの友人達は助け起こそうと近づいたが、『ギシュ茶』に気付き… 「うわッ!ギーシュ漏らしてやがる!?」 「まじまじ!?」 「あ~ホンとだ」 「……ギーシュ様!」 ビンタをし走り去ったが、決闘と聞き心配し見にきたケティ。 彼女は『ギシュ茶』を確認すると心の中であっさりギーシュを棄てた。 言っておくが、ケティは別に非情な女ではない。ギーシュのことも本気だった。 モンモランシーと二股を掛けられていたが、それでもギーシュへの憧れの気持ちに変わりは無かった。 ……だが。平民に負け、命乞いするように蹲り、『ギシュ茶』まで漏らされると百年の恋も冷めるというもの。 こうしてケティの淡い初恋は『ギシュ茶』の独特の臭いと共に、終わりを告げた。 「私の初恋…ギーシュ様……アリーヴェデルチ!」 一つ大人になった少女-ケティは敬礼し、まだ笑い続けるギーシュと決別した。 -モンモランシーの(深い愛ゆえの)憂鬱 「はあ~」 薄暗い保健室でモンモランシーは何度目かの溜息を付く。先生には外してもらっている。 目の前には、錯乱したまま戻らないため強制的に眠らされたギーシュ-ズボンとパンツを脱がされ下はタオル一丁。 モンモランシーはギーシュに恋…いや愛していた。 その愛は深く。口にはしないが、いつか結婚してもいいかな~と考えていたほどだ。 だから…二股掛けられようが、平民に決闘で負けようが、『お茶』を漏らそうがモンモランシーの思いに変わりは無い。 健気なモンモランシー。 確かに、二股を掛けられ頭にき、絶交宣言したが本気で言った訳じゃない。 そういう男と理解した上で、モンモランシーはギーシュと交際している。 (こいつを相手できるのは私くらいよね) そんなことを、少し誇らしげに思ってもいた。まあ…ギーシュの浮気性を止めさせようとも思っていたが。 なのでむしろ怒りは、ケティを悲しましたことの方が大きい。 (あの子…悲しんでないかしら) 自分に良く懐いてきた可愛い後輩-ケティ。 この前、自分にもようやく素敵な彼氏ができたと嬉しそうに言い。紹介したいから今度連れて来ると言っていた。 (このバカ!よりにもよってケティに手を出して) アホ面-モンモランシー視点で眠るギーシュを睨む。ここで叩き起こさないのがモンモランシーの優しさである。 某『ゼロ』のお嬢さんにも見習って欲しい。 しばらく、顔を見ていると…ギーシュが目を覚ました。 「……ん」 「ギーシュ!?大丈夫?何とも無い?」 「…ここは?」 「保健室よ。あなた錯乱して大変だったんだから」 「…錯乱?」 「そうよ。……覚えてないの?」 「僕は…どうしたんだ?」 「決闘よ決闘。ルイズの使い魔との「うわわァァーーー!!!」キャッ!」 モンモランシーが決闘のことを口にすると、突然大声を出すギーシュ。 そのまま、自分の肩を抱くようにし丸くなる。 「ギーシュ!?」 行き成りの行動にどうすればいいか解らず、とりあえず名前を呼ぶモンモランシー。 ……ここで、先生を呼びに行っていれば二人の未来は変わっただろう。 だが、モンモランシーはギーシュを一人にできず部屋に残った。 それが、二人の関係に終わりを告げるともしらず…… -ギーシュの(精神の)分裂 眠りから覚めたギーシュにとって解らないことだらけだった。 なぜ保健室で寝ているのか? なぜモンモランシーが必死な顔でこっちを見るのか? なぜ下半身がスースーするのか? なぜ起きたばかりなのに尿意がないのか? だが、それらの疑問はモンモランシーの一言。 『ルイズの使い魔との決闘』で吹き飛んだ。 「うわわァァーーー!!」 自分の叫び声とモンモランシーの心配気な声がやけに遠くに感じる。頭に甦ってくるさっきのこと…… 二股。決闘。勝利を確信した自分。炎。驚愕。恐れ。友人からの嘲笑の声。平民からの侮蔑の視線。 そして、今向けられている。モンモランシーからの自分を…ギーシュ・ド・グラモンを哀れむ視線。 全て-ほとんど被害妄想から来たモノを理解したギーシュ。 ギーシュは女好きだ。二股なんかいつものことだ。それが原因で同学年の女子からはほとんど相手されない。 それでもギーシュは構わなかった。一番愛している大事な人-モンモランシーが居てくれたからだ。 だが今、そのモンモランシーに棄てられようとしている。それはギーシュに人生最大の焦りを生んだ。 平民に決闘で負け、見っとも無くうろたえ、『ギシュ茶』まで漏らした。 客観的に見て、これで嫌悪感を抱かない女性はいない。ギーシュはどうにかして取り直そうとする。 (モンモランシーにこのままでは棄てられる!) 「ギーシュしっかりし「モンモランシー聞いてくれ!?」 心配し何度も声を掛けていたモンモランシーに言い寄る。 「えッ、ええ」 「あの決闘はわざと負けたんだ」 「……え」 「前もってあの使い魔君と相談していてね。八百長ということさ」 「ちょっとギーシュ!?」 「向こうが打ち合わせ通りにしないものだから、少し慌てて「待って!」 起きて早々。叫びを上げたらと思ったら、訳の分からないことを言い出すギーシュの手を掴みモンモランシーは落ち着かせようとする。 「ギーシュ落ち着いて。あなたまだ錯乱してるのよ」 「ぼ、僕は錯乱などしていない!」 被害妄想が甦り、情緒不安定になるギーシュはモンモランシーにキツク言う。 「君まで僕をバカにするのか!?」 「バカになんてしてないわ」 「違わない!」 ギーシュはさっきまでのモンモランシーへの思いを忘れ、掴まれている手を払いのける。 「あのメイドだってそうだ…わざわざ僕に恥をかかす気で瓶を拾って」 メイドを罵倒しだすギーシュにモンモランシーは驚く。 「それは違うでしょ!?ギーシュ!あなた反省してないの!?」 「反省?反省ってなんだい、モンモランシー。あれはメイドが「そうじゃない!」 「二股よ!あなたが二股掛けたのがそもそもの原因でしょ?」 「二股?」 ギーシュは不思議そうに濁った目で反復する。 「おお、モンモランシー。君は勘違いしているんだ」 「……勘違い?」 「ああそうとも。彼女-ケティとは馬の遠乗りをいっしょしただけさ」 「そうなの?」 ケティから聞いていたことと食い違い、アレッと思うモンモランシー。 「僕がモンモランシー以外に目を向けるはずないのに。それを何を勘違いしたのか、勝手に舞い上がって全く迷惑だよ」 ギーシュが言葉を続けようとし、モンモランシーはそれがとても『不吉』に思えやめようとする。 ……しかし、ギーシュは続ける。 -ギーシュの名誉のために言うが、彼は普段女性にかなり気を使う紳士モドキだ。 今回のことは一重に錯乱しているため、口走っただけで心からのモノではない…と思う。 「顔を叩いて、痣が残ったらどうするんだあの『バカ女』は」 プツッ 「『頭が弱い』のかね彼女は」 プツッ 「遠乗りしただけで恋人になったと思うなんて『妄想癖』でもあるんだね」 プツッ 数回、細かく頭の中で何かが切れる音を聞くモンモランシー。 震えのあまり声を出すことが出来ない彼女は思う。 (ギーシュ……こんなことを言う人だったの) 多少女性にだらしなかったが紳士であろうとしていたギーシュ。 そんな彼を好ましく思っていたモンモランシーの心に失望感が芽生える。 徐々に増す失望感にモンモランシーは考えるのを放棄した。 (私が思うたしかなことはねギーシュ。次ケティを貶された瞬間。私はたぶんプッツンするだろうということだけ) モンモランシーは自分に笑いかけ話してくるギーシュを見ながら冷静に思う。 そして…最後の言葉が紡がれた。 「馴れ馴れしく近寄って来て。あの『淫売』は、恥を知らないだね」 プッツーーーーーン ギーシュのソノ発言で、モンモランシーは頭の中の大切な何かが切れた音を聞いた。 それはギーシュへの思い-愛だったのかもしれない。 「『淫売』なんて誰も相手しnバキィ! ギーシュがこれ以上話すのが耐えられず、鉄拳で黙らせるモンモランシー。 呆然とモンモランシーを見上げるギーシュに零れる涙と共に言い捨てる。 「あなたがこんな人だとは思わなかった」 涙を拭い。もう二度と感じることのない思いに別れを告げる。 ギーシュは殴られた頬を押さえ呆然と見送った。 「さよなら…ギーシュ。愛しかった人」
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ドモラン
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(1) たぶん細身の体と童顔のくせにきつ目な瞳に惹かれただけだったのだと才人は後悔していた。だが、茫然とする才人の態度を受容と受け取ったのか、後輩社員の明梨は唾液に濡れた唇を舐めると再びサイトの唇をついばもうとした。 けれど才人は彼女を突き飛ばした。ごめん、と呟くようにサイトは謝罪する。目の前で侮辱に頬を紅潮させる明梨と、遠く会えない桃色の髪の娘に。 明梨の平手打ちを甘んじて受けた後、サイトは近所のコンビニで赤ワインを買って家に着いた。ただいま、と誰もいない部屋に声を掛ける。冷えきった部屋に体を震わせながらワインのコルクを抜く。ふと先ほどの明梨の熱い唇を思い出し、だがぴくりともしない自分の下半身に苦笑した。 「ルイズ……」 涙が零れ落ちる。会いたくても外国より遠いハルケギニア世界。サイトは遂に直接ボトルに口をつけてワインを呷った。 「サイトゥ」 テレビから声が聞えた。飛び跳ねて画面に目を向ける。だがそれは今流行の女優が叫んでいる場面だった。 「サイトウかよ」 俺も遂にアル中かと苦笑し、再びサイトは瓶に口を付けた。と、今度はテレビの画面がブロックノイズで埋め尽くされる。 「サイト、サイトッ!」 今度こそ、絶対に聞き間違えるはずのない声がスピーカーから響いていた。サイトは叫んだ。 「ルイズ!」 途端、テレビ画面が白く発光した。 (2) 笑顔のルイズと久々の握手を交わしながら、モンモランシーは内心舌打ちしていた。 (シエスタの言ったとおり、重症ね) 昔からルイズを知り、さらに魔法薬に深い造詣のある人間でない限りは見破れないだろう。たとえ知識はあったとしても、貧乏貴族で現場を知っているモンモランシーならともかく、王宮の奥で執務をしているアンリエッタが気づかぬのも無理のない話だった。 メイドから王宮の事務方に抜擢され、10倍になった給金を使う暇すらないはずのシエスタが、無理に暇を作ってモンモランシーを訪ねてきたのは昨晩のことだ。人払いさせたシエスタの言った内容は恐ろしいものだった。 「サイトが帰って以来、ルイズは淫薬に溺れているから助けてあげて欲しい」 馬鹿な話だと思ったが、シエスタの話にモンモランシーも気になる点があったのだ。何より、シエスタの言った「ルイズの友達で魔法薬に知識があり、その上王政府に隠してくれそうな人物」と自分を頼ってきたシエスタの瞳には、間違いなく濁りはなかったと確信している。 食事が終わり思い出話を一通りした後、モンモランシーは疲れたと言ってルイズにあてがわれた部屋に引っ込んだ。 しばらくしてモンモランシーはルイズの寝室に向かった。扉の前に立つとモンモランシーは持ってきた水差しの水を扉の前に流した。呪文を唱えて蒸気に変え、次いで慣れない呪文を唱える。途端にドアは透き通り、暗いはずの室内が昼間のように覗けた。 ギーシュの浮気を捕まえるため、王宮の監査官を勤めるマリコルヌから習った珍しい呪文だ。水の力を借りるため湯気がないと使えない点は不便だが効果は物凄い。ふと監査官にこの魔法が本当に必要なのか妙に引っ掛かったが、今はルイズが先だ。 ルイズはベッドに腰掛けていた。ベッド脇の香炉からは青い煙が立ち上っている。ルイズは煙を吸い、左手で胸をまさぐり、右手を股間に潜らせていた。瞳は泥のように光を失い、だらしなく涎を垂らしながら何事かを呟いている。時折ベッドに投げた雑巾に顔を埋めて恍惚とした表情を浮かべている。くんくん、と時折獣のように鼻を鳴らす様は明らかに常軌を逸していた。 モンモランシーは涙を溜め、だが歯を食い縛って扉を蹴り破った。 ルイズが恐怖の表情で顔を上げる。ベッドは淫液でぐっしょりと濡れていた。モンモランシーはいきなり平手でルイズの頬を打った。次いで香炉を消し、コルベールから貰った「すっきり噴霧くん3号」で淫薬中和剤を室内に噴霧する。 次第にルイズの瞳に光が戻る。そしてルイズは自身の卑猥な姿とモンモランシーを見比べて嗚咽した。 「ゼロのルイズじゃなくてマイナスのルイズね」 ルイズは力なく首を振る。モンモランシーは溜息をついてルイズの手をひいた。 「とりあえず、部屋変えよ?このベッドじゃ、さ」 むん、と牝の匂いが漂うシーツにモンモランシーは耐えられなかったのだ。ルイズがうなずくのを確認してモンモランシーはルイズの握り締めた雑巾を捨てようとした。 「それはダメ!」 急にルイズがモンモランシーをはねのけた。次いでルイズは虚無の呪文を唱え始める。 「落ち着いて!持っていていいから!」 ルイズは呪文を中断してモンモランシーを見つめる。モンモランシーは出来うる限りの優しい笑みを浮かべる。やっとルイズはこくり、とうなずいてモンモランシーと部屋を出た。 モンモランシーは部屋に着くと雑巾について尋ねた。ルイズは薬が抜けたのか、少ししっかりした声で答えた。 「サイトが残した服の、切れ端」 モンモランシーは息を呑んだ。5年前の服にまだ恋人のぬくもりを求めていたのか。そういえば、先程の淫薬も戦争で夫を失った妻たちがはまりやすいと聞いたことがある。 モンモランシーはルイズを抱き締めた。その体は20代も半ばだというのに、少女の頃の折れそうな細さのままだった。 薬を止めさせるのは簡単だ。幸いこの薬の依存性は煙草以下だ。だが薬を止めたところでルイズの心は壊れゆくだけだ。迷いながら見回すと、壁には一振りの懐かしい剣が飾られていた。モンモランシーが抜くと、デルフはやけっぱちの声で叫んだ。 「こういうときゃ飲むに限るぜ、嬢ちゃんたち」 もう「嬢ちゃん」と言われる歳はとうに過ぎていると苦笑しつつ、モンモランシーは自分の荷物を思い出した。お土産に持ってきた東方産のライスワインと緑茶、そして元気づけにと持参したカクテル道具一式。 モンモランシーは手早く茶を煎れ、カクテルグラスをリキュールでリンスする。次いでライスワインと緑茶をシェイクしてグラスに注いだ。 「私のオリジナル」 言われてルイズはグラスに口を付ける。喉がこくりと動き、ルイズは大きく目を見開いた。 「サイトの国もお米でワインを造るって言ってた。東方の味……サイトゥ」 ルイズの涙がグラスに落ちる。モンモランシーは唇を噛み締めたまま、何も声を掛けられなかった。ルイズの涙が緑色のカクテルに幾つも透明な波紋を形作る。 突然ルイズが肩を震わせた。そして狂ったように叫ぶ。 「サイト、サイト!」 モンモランシーは焦ってルイズの肩を掴み、バッグの中の強力な鎮静剤に手を伸ばしかけた。するとルイズは明るい顔でグラスを差し出して叫ぶ。 「モンモランシー、サイトよ!」 幻覚症状まで来たか、とモンモランシーは陰鬱な顔でグラスの中を覗き込む。と、モンモランシーは息を呑んだ。 グラスの中に、若い男の姿が映っている。見たことのないつくりの部屋で、椅子にだらしなくもたれた男がワインの瓶に直接口をつけて呷っている。年の頃はそう、自分たちとおなじぐらいで、黒髪の。 自分たちの知っている頃よりは当然老けてはいるものの、ルイズはもちろん、モンモランシーも間違うはずのない顔。奇妙な布を首から下げ、窮屈そうな服に身を包んでいる。 「サイト、サイトッ!」 再びルイズが叫んだ。男は顔を上げてこちらに目を向け、そして叫んだ。 「ルイズ!」 カクテルグラスが白く発光した。 (3) 光が止んだとき、モンモランシーの目の前ではサイトとルイズが茫然と向かい合って立っていた。 「サイ、ト?」 「ル、イズ……」 ルイズの手からぼろ布が滑り落ちる。ルイズの指がサイトの頬、首筋を撫で、次いで唇に到達する。 「サイト!」「ルイズ!」 二人はぶつかるように抱き合い、そして互いの唇を貪るように口付けあった。モンモランシーはへたりとその場に座り込み、手近にあったルイズのグラスを呷る。 「しょっぱい」 顔をしかめるモンモランシーに、デルフリンガーは愉快そうに声を掛けた。 「虚無の涙で、ずいぶんとソルティなカクテルが出来たようだな」
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アンヌポ(アンヌ・ポ) フランスのモンモランシー公の系譜に登場する人物。 関連: ギヨームドモンモランシー (ギヨーム・ド・モンモランシー、夫) アンヌドモンモランシー (アンヌ・ド・モンモランシー、息子)
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前ページ次ページ虚無の王 恋と虚礼とが立ち去り、ホールには明かりだけが落ちていた。 飲み止しのグラスがテーブルの縁に肩を並べ、深皿の半ばには冷め切った料理とソースとがこびり付いていた。 甘みと酸味ではち切れんばかりの果実は、盛られたそのままの姿で取り残されている。 一人の使用人が、鋏を手に悠々と現れた。 頭上で燃えるシャンデリアが床まで降ろされた。芳しい香りと暈光を放つ蜜蝋が、一本一本断ち切られて眠りに就く。 ホールの四隅で、魔法灯の頼りない光だけが揺れていた。 談笑の声はアウストリの広場へと渉っていた。 少年少女達が太陽の下、その快活さを発散して来た東向きの庭園は、半年間の思い出と、会う事の叶わない二ヶ月間を大袈裟に嘆いて見せる、新たな恋人達の秘めやかな語らいの場と化していた。 二つの月と、絢爛たる星々の投げ降ろす光は優しかった。 芝生にくつろぐ少年少女達が、時として、ブリミル教徒の堅持すべき廉正を踏み外したとしても、それを暴き立てる事はしなかった。 乾いた空気が心地よい。夏を迎え、夜もその冷淡を忘れていた。 二組のヒールが、煉瓦敷きの舗道を叩いた。 純白のパーティドレスを身に纏ったルイズ。 歩を並べるモンモランシーのドレスは水の精霊を想わせた。 「嫌になるわね。全く」 声と足音が、噴水に吸い込まれた。 ギーシュと空。二人の決闘を気に止める者は居なかった。 昼の若い退屈な時間と違い、この夜は特別だ。 誰も彼もが、恋人の瞳に世界の全てを覗こうと夢中でいる。 「なのに、あいつはこの私では無く、平民の男と向き合っているんだわ。信じられない」 ホールの窓から、鈍い光が漏れていた。 同じ様にして捨て置かれたルイズは、同じ様にして怒る気にはなれなかった。 ギーシュの姿が脳裏に浮かぶ。青ざめ、強張った顔。 壊れたアルヴィー人形だって、もう少しは暖かみの有る顔を見せるだろう。 「ルイズ。貴女、憶えている?」 こんもりとした植え込みと、薔薇のアーチとが織りなす緑の小部屋に、小さなテーブルとベンチが覗いていた。 入学直後。まだ、“ゼロ”の悪名を頂く以前だ。 知り合った女生徒同士、編み物がてらに語らった場所だった。 「恋愛には手練手管が必要だわ」 セックスアピールに乏しいモンモランシーだが、トリステイン女性の例に漏れず、極めてプライドが高い。 実経験も手伝って、紳士達が如何に不純で、移り気で、忠実な愛を捧げるに足りない存在であるかを熱弁する。 自分はそんな彼等の鼻面を引き摺り回し、とことんまで奉仕させ、振り回してやるのだ、と。 「とにかく、こちらを手に入れた、なんて殿方を思い上がらせては駄目ね。御世辞を言いたい放題に言わせておいた所に、不意打ちを食らわせて上げるの。そうすれば、こっちの物よ。 なんと言っても、私達に必要なのは口やかましくて、嫉妬深くて、そのくせ恋の勝者を気取った自惚れ屋じゃない。いつでも恐れおののき、恋いこがれている、従順な恋人なんですから」 うら若い少女達は、友人の勇ましい演説に喝采を上げる。 そこで抗弁したのが、ルイズだった。 「きっと恋と言うのは、あんた達の思惑や手管よりも、ずっとずっと強い物だわ。紳士淑女が恋に夢中になるのは、本当に愛し愛されていると感じている時だけで、それは始祖も理解して下さる事に違いないもの」 自分が恋する姿さえ想像出来ずにいた、由緒正しきヴァリエールの末っ娘は、大真面目に至誠の愛を訴えた。 前王朝時代の遺物を前に、女生徒達は揃って眼を丸くした。 「それが貴女の手管なのね!」 からかったモンモランシーも、からかわれたルイズも、はっきり憶えている。 「あの時、思ったわ。あなたとは絶対、友達になれない、て」 「私だってそうだわ」 植え込みの向こうで、影が動いた。 人目を避ける、絶好の場を見付けた先客には、周りが見えていなかった。 熱烈に愛を交歓する少年少女。恋に恋する二人の乙女は、まずは凝視し、続いて目を見合わせ、物音を立てぬ様、慎重に慎重を重ねた足取りでその場を立ち去った。 寮塔の窓にぽつぽつと灯が点った。 それは、寮監の目を盗んだ幸運な二人と、一夜の青春に諦めを抱いた不幸な一人の数に等しかった。 庭園の中央では、噴水が陽気に踊っている。 夜の闇が、火照った頬と項から熱を攫って行った。 「そう言えば……――――」 「ええ」 あの日、二人は互いそっぽを向いて茂みを出た。 噴水は恋の宮廷と化していた。 寄り集まった紳士達は、誰もが母親や後見人、僧侶には到底見せられない、自由奔放な言葉と仕草を以て、一人の女神に崇拝と信仰とを捧げていた。 縁石に座しているのは、同じ一年生だった。 情熱的な肢体に、燃える唇は、手練手管を弄する事とも、心に依り所を求める事とも無縁だった。 赤毛の少女は自然のままに、あらゆる男達を傅かせる、無繆の王権を手にしていた。 二人の姿を認めて、少女は微笑を投げ落とした。 三女のルイズはよく知っている笑みだった。初めて魔法に挑み、失敗した時、姉エレオノールが見せた笑みだ。 それ以来、キュルケ・アウグスタ・フレデリカは不倶戴天の敵となった。 最後にフォン・ツェルプストーが付こうが付くまいが関係無い。 それはモンモランシーも同様だった。 「本当。世の中、判らないわね」 「全くね。その通りだわ」 噴水には誰も居ない。 一つの夜が終わろうとしていた。 アウストリの広場は、毎日がそうであった様に、暗闇と退屈との中に沈もうとしていた。 「同病相憐れむ」 声は頭上からだった。 二つの月の間で、小さな影が一転した。 スカートを抑える仕草に、少女の慎みが見て取れた。 黒いドレスが、羽根の軽さで地に舞い降りる。 “牙の玉璽〈レガリア〉”の脆弱なサスは、何とか着地の衝撃を吸収した。 「ちょっと!……あなた、何が言いたいのよっ」 「あんたには言われたくないわよっ」 ドレス姿の可憐な少女達。 三人は、揃って発育と無縁だった。 揃って恋の夜を孤独に過ごしていた。 「わ、わたしは偶々よ!」 モンモランシーにはギーシュと言う恋人が居る。 確かに、浮気性で、目移りが酷くて、気配りが無くて、思慮にも欠ける少年だ。 それでも、彼を選んだ事に後悔はない。 ルイズは沈黙を守った。 至純の愛を理想に描いた乙女も、今では自分が思っていたよりも素直になれない性格である事を知っていた。 何より、相手を疑う事を知っていた。 真実を語れない時は、口を閉ざしておいた方がいい。 タバサもまた、何時もながらに表情を見せない。 過去、言い寄って来た上級生に教師は、揃って嫌な目をしていた。 数年後には、悪質な犯罪に及んで家門を潰すだろう。 今はそんな事よりも、言うべき事が有る。 「彼はどこ?」 「空の事?ギーシュが連れて行ったわ」 ギーシュは舞踏会の最中、ホールの真ん中で空に決闘を申し込んだ。 あの場に居たのなら、知っている筈だ。 「どこへ?」 「知らないわよ。いつもの通り、ヴェストリの広場じゃないの?」 「どうかしら?最近、あいつと学生の決闘には、学院も神経尖らせてたじゃない」 もっと別の、目立たない所かも知れない。 モンモランシーはそう主張する。 「いつもの事よ。私はもう慣れたわ。あの二人なら、心配要らないでしょう」 「今夜は心配」 「どうして?」 「様子が変」 「どう変だ、て言うの?」 「判らない。でも、嫌な予感がする」 「予感、て……!」 モンモランシーは失笑した。 某かの根拠を得ているのかと思いきや、予感と来た。 全く、いい加減な事を言い出すタバサと言い、真に受けた様子のルイズと言い、どうかしている。 「ねえ。あなた、どうしてあいつの事を、そんなに気にするの?」 「その質問には答えられない」 「何よ。人には言えない秘密でも有るの?」 「そう。秘密」 「秘密の関係、て事ね!」 恣意的な誤解に、タバサは頑なな沈黙で答えた。何時もの事だ。 ルイズの様子が何時もと違った。 短気と強情とを薄い胸一杯に溜め込んだトリステインの乙女は、この夜に限って、深読みと先走りより、不安と懸念を選んでいた。 「もう、うんざりだわ!」 モンモランシーは天を仰いだ。 「気の利かない男達の事なんて、忘れましょうよ。そうだ。私の部屋にいらっしゃい。取って置きのタルブワインがあるの。今日、この夜を私達だけで、特別な物にしましょう。なんと言っても、私達は一人なんですからね」 教区寺院での説法よりも退屈な提案だった。 女だけで飲み明かす無惨な夜は、一生に一度もあればいい。 ルイズも、タバサも、生命を司る水メイジが考えているよりは、長く生きるつもりでいる。 「あら。お集まりね」 煉瓦道に、ぱっと炎が上がった。 一人の夜と訣を分かって久しい赤毛の女は、今夜に限って、日替わりの従僕を連れていなかった。 目がチカチカした。 身を包むよりも、効果的に晒す事を狙った際どいドレスに弾ける褐色の肌。 官能的とさえ言えるその姿は、慎みと言う言葉の対極に有りながら、決して品位を失ってはいなかった。 「ねえ、貴女達。ダーリンを見なかった?」 「あんたも、あの男なの?呆れた」 「今夜の所は、諦めるつもりだったんだけどね。舞踏会では結局、踊れず終いだし。こんな夜くらいは、ルイズを安心させて上げていいでしょう」 「空に何か用なの?」 「だから別に。ただ、タバサが心配しているみたいだから、一緒に探していたのよ」 生憎、誰も空の行方は知らなかった。 「気にする事なんてないわよ。用が有るなら、明日でいいじゃない。大体、嫌な予感も何も、ギーシュがあいつに勝てる筈無いんだから」 「違う。そうじゃない」 「じゃあ、なんだって言うの?」 「まあまあ」 キュルケの声が割って入った。 確証が無いから、予感と言うのだ。 何も無ければ、それはそれで良いではないか。 「手分けして探すしか無いのかしら」 「馬鹿馬鹿しい。放っておきなさいよ」 「私も行く!」 モンモランシーの楽観論に、ルイズはどんな感銘も覚えなかった。 彼女は空と感覚を共有出来ない。 見える筈の物を見る事が出来ない人間が、どうして暢気に構えていられるだろう。 「じゃあ、私はこの辺りをもう一度、探して見るわ。ルイズは南側をお願い。タバサにはヴェストリの広場をお願い出来る?反対側だけど、貴女なら一っ跳びでしょう」 「ヴェストリの広場?止めておきなさいよ」 指名の当人よりも先に、モンモランシーが反応した。 「あそこ、昼でも真っ暗じゃない。この時間じゃ、何も見えないわ」 「……何を隠してる?」 不意に、タバサが言った。 幼い外見に似合わず、幾多の修羅場を潜って来た騎士だ。こうした人間は、自分の勘に絶対の信頼を置いている。 一度、何かを嗅ぎつければ、その正体が判らずとも躊躇はしない。 「な、何言い出すのよ!別に何も隠してなんかいないわ!言いがかりは止して!」 モンモランシーはそれと正反対の人間だった。 良識有る人々と、善意を交換しながら生きて来た令嬢には、どんな場合でも相手に善意を期待する癖がついていた。 確証を与えなければ大丈夫――――相手の行動に根拠と整合性とを求めてしまうのは、お上品な人間がしばしば陥る陥穽だ。 キュルケの目が左右した。 その情熱故に、却って退屈を持て余した女は、人をよく見ていた。 「そんな事より、今はダーリンを探しましょうよ。タバサは辺りを一走りして。ルイズはヴェストリの広場を見て来なさい」 さり気なく、役割が交換されていた。 ルイズは異を唱えなかった。 何と言っても、今、問題となっているのは、自分の使い魔だ。 「ちょっと。待ちなさいよ、ルイズ!」 ルイズの行く手に、モンモランシーの声と体が割り入った。 「ゲルマニア女に好きな様に命令されてどうするのよ!第一、危ないわ。あんな所」 返答は視線の砲列だった。 三組の異なる瞳が、同じ色に染まり、揃って同じ要求を突きつけた。 「な、何よ……」 「ねえ。貴女、ルイズとは何時頃から一緒に居たの?」 「ヴェストリの広場には人を近付けたくない。取り分け、彼女は」 「モンモランシー。どう言う事なの?」 三人の声が、鉛の重さでモンモランシーにのしかかった。 実の所、良心を自責の泥沼へ引きずり込む重石の半分は、彼女自身の罪悪感で出来ていた。 由緒正しきモンモランシ家の令嬢とは言え、未だ学生の身。嘘や隠し事を突き通すだけの胆力が備わるには、もう少し時間が必要だった。 「判ったわよ!」 モンモランシーは観念した。 始祖ブリミルの手に接吻をしつつ、もう片手でサハラの悪魔の手を取る方法を、この年頃の貴族が知っている訳が無い。 「ギーシュよ!あいつに頼まれたの!決闘の間、ルイズを近寄らせない様にして欲しい、て!」 それは言葉の吐瀉だった。口にした方は、これですっきり出来ると考えたかも知れない。 聞いた者が納得するかは、また別だ。 「あのギーシュが?」 「気が利かない。気が回らない。思慮が足りない――――全て、あなたが言っている事」 「モンモランシー!本当の事を言って!」 一つの嘘を吐けば、それを隠す為、さらなる嘘を強いられる。世の常だ。 そして、一つを明かしたその時、残りの嘘を隠し通せる人間も多くは無い。 ヴェストリの広場にルイズを近付けるな。出来れば他の者も。 そう、ギーシュの口から頼まれたのは事実だった。 「それを言わせたのは?」 その質問に、モンモランシーは抵抗しなかった。 「オールド・オスマン」 * * * ギーシュ・ド・グラモンは分かり易い少年だ。 鍵盤を撫で回し、画板に向かい、或いはぶ厚い書物を凝視する事に日を費やす手合いなら、彼を軽蔑するのかも知れない。 公平と平等の区別も付けられない類の連中なら、旧き良き貴族の少年に憎悪を抱くのかも知れない。 そうした人々が、沈鬱と孤独の中に、有りもしない真実を探している間、この少年は冒険に挑み、乙女と語らい、酒と音楽とに浸り、人生を謳歌するのだ。 ヴェストリの広場は陰鬱な場所だ。 昼の間に積み重なった陰が自重で潰れ、夜には重たい闇へと姿を変える。 空気はタールの粘度であちらこちらにこびり付き、どこにも行けずに喘いでいる。 今夜はフリッグの舞踏会だ。特別な夜だ。 広場は陰気者なりに、幾つもの小さな灯で着飾っている。 だが、その光はいかにも弱々しく、今にも凍死してしまいそうだった。 青ざめた顔が、ぼんやりとした灯に浮かんだ。 何時でも分かり易い少年の表情は、今日、この日に限って、不可解に満ちていた。 「どこまで行く気や?」 駆動輪が泥土をかき混ぜた。自在輪には土と草とが幾重にも絡みついていた。 ここ何日もの間、雨は降っていない筈だった。 蝋人形の顔をした少年は、それでもしっかりとした足取りで、奥へ奥へと進んでいた。 見えない糸が、闇苅へと続いていた。 その先端が誰の手に握られているのか、洞察するのは容易い。 それよりも、人形にどこまで自覚が有るかの方が気になった。 そこは、風の塔のすぐ傍だった。 本塔から続く石造りの渡り廊下が、夜と蔦と時間とに埋もれていた。 屋根を支える円柱と円柱の間には、アーチ状の装飾が見てとれた。 「では、決闘だ」 造花の薔薇が、短剣の勢いで抜き放たれた。 「ええけど。理由くらいは聞かせて貰えるんやろな」 決闘と言うからには、理由が有る筈だ。 毎週の様に繰り返していた、パーツ・ウォウとは訳が違う。 今夜は最も決闘に相応しからぬ夜で、なにより、薔薇を自任する少年が、何よりも大切にする筈の夜だった。 「最近、我が王国各地で暴動が相次いでいる事は、あなたも御存知かと思う」 予め用意した科白を、読み上げる口調だった。 辿々しさでは、タニアリージュ・ロワイヤル座の大根役者と同程度だったが、深刻の度合いでは天地の開きが有った。 「ワイの所為やと?」 「オールド・オスマンはそう考えている」 「お前は?」 「貴方がしばしば貴族を打ち破り、それが暴民に要らぬ過信を与えているのは事実だ」 「決闘でワイに勝てば、収まる筈や、て?」 「発端は僕が貴方に敗れた事だ。ならばこの件は、僕の責任に於いて解決しなければならない」 「トリステイン貴族の誇り、ちゅう奴かい?」 「違う!そうじゃないっ!」 蝋人形の頬に、初めて朱が差した。 「オールド・オスマンは、貴方を亡き者にしようとしているんだ!」 トリステインの貴族にとっては、死刑宣告に等しい一言だった。 異朝の王にとっては、単に想像の範疇と言うだけだ。 ヴァリエール家の威光が末娘の使い魔に細々とながら及んだとしても、それは金で買える範囲を出ないだろう。 単純なる隠蔽体質にしろ、王政府との緊張関係による物にしろ、魔法学院の学院長が、学院内の叛乱分子を、学院内で片付けようとするのは、極自然な事だった。 「で、お前はその先兵、ちゅう訳か?」 「言った筈だ、ミスタ。僕の責任に於いて解決する、と」 「オスマンの爺さんを出し抜いて、ワイの首を奪る?」 「平民は決して貴族には勝てない。その事実が再確認されれば、そんな必要は無い」 ギーシュは空と擦れ違い、背を見せずして距離を取った。 ストームライダーの俊速を前に、距離は意味を成さない。 それは純然、礼式に則る為でもあり、拒否を許さない為でもあった。 「さあ、ミスタ・空。勝負の方法を」 薔薇が震えた。若い瞳が、どこまでも真っ直ぐに空の眼を射抜いた。 空は元の世界を思い出した。 自分の翼の下に集った“塵芥”は、風に乗っている時こそ、仲間面をした。 追い風を御しきれず、壁に激突すると、忽ち仇敵に変貌した。 対し、ギーシュは追い風よりも、向かい風こそを求めていた。 「……ボーズ。お前、ええ奴やな」 お定まりのパターンだった。 他者との関係を打算で計る人間は、誰かに背を向けた時、初めてその相手が友人たり得た事に気付く。 その時には、自分でその資格をドブに捨てている。 「ホンマ、ええ奴過ぎるわ」 “空”が焼けた。 広場に敷き詰められた闇は、ズタズタに引き裂かれて火にくべられた。 四方に点る小さな灯が、瞬く間に夜を飲み込み、巨大な火球へと成長した。 ギーシュは愕然とした。 広場を照らしていた灯の正体。それは、発射を待つ杖先の“火球”だった。 本塔の、風の塔の中屋根に、杖を手にしたメイジ達が座していた。 紫のマントを纏う者が在り、黒いマントが居た。 社交家の少年は、全員の顔を知っていた。魔法学院に通うのは、上流貴族の子弟ばかり。 特別に付き合いが悪く無い限り、学生同士が互いを知らない事など無い物だ。 過半は成績優秀者として知られていた。 極一握りは性酷薄な、避くべき人物だった。 全員が一様に、卸し立ての制服を身に着けていた。 そして、渡り廊下の屋根に数人の教師と、オールド・オスマンその人の姿を目にした時、ギーシュは自分が嵌められた事を知った。 減少傾向に有るとは言え、尚武の精神を忘れる事の無い貴族は、訓練としての狩猟を怠らない。 教師、学生、併せて50人を超えるであろう、貴族達が見せる沈黙と緊張は、ギーシュのよく知っている物だった。 猟犬を、使い魔を放ち、従者を使い、獲物を追い立てさせている時の顔だ。 既に呪文の詠唱を終え、撃発の一瞬を待つ時に見せる眼だ。 「ギーシュ・ド・グラモン――――」 オスマンの口が、岩の重みで開いた。 ギーシュは入学以来、初めて、この老人に相応しい声を聞いた。 「君は二つの道を選ぶ事が出来る。黙って、この場を立ち去るか。それとも、我々と杖を共にするか」 「待って下さい!オールド・オスマン!」 ギーシュは叫んだ。 「この男は僕が倒します!最初に敗れ、貴族としての名誉を傷付けられたのは、この僕です!どうか、挽回の機会を与えて下さい!」 「そんな選択肢は与えていない」 声にも増して重厚な視線が、その懇願を拒絶した。 齡300。その噂が本当なら、ギーシュは老人の一割も生きていない。 その容貌に、頭脳に、何より心魂に刻まれた年輪が、十重二十重の鉄壁と化して、少年にそれ以上踏み込む事を許さなかった。 二桁に登る火球が折り重なり、空の姿を眩く照らし出した。 二つの月に変わって、二つの太陽が登れば、この様に見えるのかも知れない。 車椅子越しの大きな背中が、嫌に遠く映った。 オスマンが合図の一つも出せば最後。その姿は、永遠に手の届かない所に消えてしまうだろう。 目を貫く炎が、ギーシュに決断を迫った。 背を向けて、この場を立ち去るのか。 あくまで学院のメイジとして、空との戦い――――否、抹殺に荷担するのか。 それとも…… 「ミスタ……」 指先まで響く拍動の中から、声が零れ落ちた。 オスマンは土のスクウェア・メイジと聞いている。 教師達は揃ってトライアングル。学生達とてライン以上が殆どだ。 この布陣を前にしては、あの恐ろしいエルフとて、逃れる術が有るとは思えない。 息苦しさに、視界が歪んだ。 燃えさかる火球が、広場の空気を軒並み焼いてしまったかの様だった。 分かり易い少年は、生まれて初めて、決断を忘れた。 自分が決断しないと決断してしまった事には、とうとう気付かなかった。 「ギーシュ。頼みが有る」 空の声が、薄い空気に喘ぐ脳を引っぱたいた。 「ルイズをここに、近寄せんといてくれ」 ギーシュは逡巡した。 空の背中が、巌の様に聳えるオスマンの姿が、交互に映った。 今、この場を離れる事を、少年の部分が忌避していた。 「頼むわ……」 この時、自分がどんな顔をしているのか、ギーシュには判らなかった。 鏡が有ったら、目を背けたかも知れない。 ギーシュは振り向かずに駆けた。 結局、自ら決断する事を止めた以上、他人に従うより無かった。 二つの目線が、その背中を見送った。 残る目は、たった一体の獲物に注がれていた。 舞踏会の為に誂えたであろう、目が痛くなるほど鮮やかなドレスが見えなくなった時、二人は改めて視線を交換した。 巨大な火球に炙られた風が、右で、左で、のたうっていた。 淀んだ空気は不可視の力で圧縮され、引き千切られ、研ぎ澄まされて、凶器にその姿を変えていた。 これ程歪んだ“空”は初めてだ。 「残念だよ。ミスタ・武内」 どこかで聞いた様な呼び方だった。 「ワイもやで。ホンマ、オスマンの爺さんは意地悪いわ。今までやって来た事、半分パアやん」 集まった顔触れの過半は、決闘で下した相手だった。 教師はどちらかと言うと、記憶に残らない顔が並んでいた。 「知っとる事、最初に全部話しといてくれたらなあ。もう少し、穏便に動いたんやけどなあ」 「そして、静かに、だが確実に我が国を……否、この世界を浸食する、か。なるほど。沈黙は金とは、よく言うた物じゃ」 正直は必ずしも美徳では無い。思慮の無い正直を馬鹿正直と言う。 悪友に親しむ者は、共に悪名を免れず。 より良い人生を望むなら、信じる相手は選んだ方がいい。 「だが、それを許しておくほど、我々は甘くは無いぞ。異界の王よ。何を企んどったかは判らんが、お主の野望など、所詮は空虚な妄想に過ぎんかったと言う事じゃ。残りの半分も、もう気にする必要など無い」 「ルイズはどうなる?」 「この期に及んで、使い魔の“フリ”かね」 嘲笑と言うには、態とらしい言い方だった。 「相手をもっと選ぶべきじゃったな。なるほど、“成り済ます”なら出来る限り権力に近く、魔法に疎い者が便利じゃろう。じゃがな、どんな魔法も使えない娘が、召喚と契約だけは成功させた。これは、あまりにも御都合主義が過ぎる。ワシとしても、疑念を抱かざるをえん」 下手な言い訳だ。 だが、この際、作り話の巧拙などどうでも良い。 自分の件で、ルイズを問責しない。 それは、始祖の教えにも拘わらず、誓いを立てる事が大好きな貴族達の総意と見て良さそうだった。 王国随一の大貴族であるヴァリエール家が、離反に傾かざる得ない様な状況を避ける為にも、適切な判断だ。 「学生思いやな。爺さん」 「なればこそ、彼等が生きる未来を蹂躙する事は許しておけん。ここで幕引きじゃ。風の王」 オスマンの動きに呼応して、火球が一際眩く燃え上がった。 軽妙俊速、直接決戦を本分とする風メイジ達が、広場に次々と飛び降りる。 間接戦力の土メイジ達は、塔の窓から憎むべき貴族と王権の敵を見据えている。 その後には、水メイジ達が控えている。 駆動輪を撫でると、重い感触が返って来た。 鬱々とした沈黙を守っていた広場は、散々に掘り返され、擽られ、湿った溜息をついていた。 空気が凝結した。 土も水も風も火も、そして時さえも、広場の全てがオスマンの支配下にあった。 系統魔法は意志力により世の理を曲げる。 その杖が振るわれた瞬間、50余の殺意は一つに束ねられ、この世界に必要の無い存在を消去する筈だった。 駆動輪から手すりに手が移された。空は車椅子型エアトレックの神速を放棄した。 今や、そんな物は何の意味も持たなかった。 翼のシンボルを持つスニーカーが、ステップからずれた。 オスマンは瞠目した。 小さな動揺が、貴族達の間に波紋となって広がった。 勝利の女神〈NIKE〉を散々踏みつけにしていた足が、暴君の傲慢でハルケギニアの大地を蹂躙した。 車椅子のサスが軋む。 長く薄い影が、四方八方に伸びた。車椅子に頼っていた男が、傲然、立ち上がった。 刹那。火炎の怒濤が迫った。 火線が束と走り、大地が割れ、雷の雲が天を埋め、風の刃が不可視の檻を為す。 奔湍、押し包む魔力がエネルギーの渦と化して、世界を小さく小さく握り潰す。 灼熱の狭間に、長身の影が揺れる。 NIKEのシンボルマークが弾け飛んだ。 ――――To be continued 前ページ次ページ虚無の王