約 1,950,776 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/191.html
「メ・・・ッセージ・・・で・・・す・・・これが・・・せい・・・いっぱい・・・ですジョースター・・・さん 受け取って・・・ください・・・つたわって・・・ください・・・」 あのとき僕は死んだ。僕は確かにエジプトでDIOに殺されたのだ。 なのになぜ、僕はこんなところにいるのだ! 法皇は使い魔~プロローグ~
https://w.atwiki.jp/ouranos/pages/140.html
《リーチェの使い魔》(リーチェのつかいま) 星2/光属性/悪魔族 ATK/1000・DEF/0 手札からこのカードを捨てて発動する。 自分のデッキから「聖女結界」1枚を手札に加える。 自分フィールド上に存在する「聖女結界」が相手のカードの効果によってフィールド上を離れる場合、代わりに自分の墓地に存在するこのカードをデッキに戻す事ができる。 使い魔「リーチェ、一人で結界の魔法使えないもんね〜♪」 ―関連項目 《聖王女 リーチェ》 《聖女結界》 【聖王女】
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5653.html
前ページ次ページお前の使い魔 あれから、気絶したダネットを医務室に運び、傷の手当をした後、わたしはすやすやと眠るダネットの横でその寝顔を見ていた。 横には神妙な顔でダネットの左手に浮かんだルーンをスケッチをしているミスタ・コルベールがいる。 本当は一人でダネットを見ておくつもりだったのだが、危険かもしれないというミスタ・コルベールの意見に押され、仕方なく同席という事になったのだ。 スケッチが終わったのか、手を休めたミスタ・コルベールが呟く。 「珍しいルーンですね……」 確かにダネットの手に浮かんだルーンは、わたしが図書館の本で見たどのルーンとも当てはまらないものだった。 だが、一生徒のわたしが知らないというのと、教師であるミスタ・コルベールが知らないというのでは大違いだ。 なのでわたしが少し首を傾げると、ミスタ・コルベールはダネットの左手を指差しながらこう言った。 「彼女に浮かんだ使い魔のルーンは、私が今まで見てきたどのルーンとも違います。そして、今まで使い魔召喚の儀で、彼女のような亜人を召喚したという記録はありません。これがどういう事かわかりますか? ミス・ヴァリエール」 その問いの意味をわたしは考え、一つの答えを出した。 「前例が無い……つまり、ダネットを召喚し、契約を行ったことで何が起きるかわからない……そういう事ですか?」 ミスタ・コルベールはその答えに頷き、こう言った。 「ミス・ヴァリエール。この件は学院長に相談してみようと思います。ですので、彼女が起きた後、しばらくは共に行動しないよう――」 「できません」 ミスタ・コルベールの言葉を途中で遮り、わたしはハッキリと自分の意思を伝えた。 「ですがミス・ヴァリエール……」 なおも説得を試みようとするミスタ・コルベールの方をしっかりと見たわたしは、言葉を続ける。 「メイジと使い魔は一心同体。違いますか?」 反論の言葉を考えているのか、ミスタ・コルベールは「むぅ……」とうなった後、反論の言葉が無かったのか、諦めた様子でわたしを見て「何かあったら、すぐに知らせるようにして下さい」とだけ言った。 わたしは、短く「わかりました」とだけ答えダネットに向き直ると、今だすやすやと眠るダネットの横顔を見て、きゅっと唇をかみ締めた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 私は湖の上の小さな小船に乗っていた。 「なんですかここは?」 見覚えの無い、ゆらゆらと揺れる小船から湖の向こうの景色を眺めると、やはり見覚えの無いお城のような屋敷と綺麗な庭が見える。 「はて? これは一体」 首を傾げ、どうしてこんなところにいるのか考え込む。 五秒で頭からプスプスと煙が出るような感覚に襲われ「ま、まあ大丈夫です。うん。」と、取り合えず納得した時、小船の上にいる誰かの存在に気付いた。 それは、ほのかに桃色のような輝きを持つ金髪の少女。 少女は泣いていた。 泣いている理由は私にはわからなかったけれど、そのまま少女を放置できないと思い、優しく少女の肩に触れ、ゆっくりと抱きしめる。 最初、突然触られた事に少女はビクリとしたが、私の手に安心したのか、その身体を預け、彼女の胸で嗚咽を漏らす。 そんな風に泣いている少女の髪を優しく撫でた後、私は出来るだけ優しく話しかけてみた。 「なぜ泣いているのですか?」 すると、ピクンと少女の肩は震え、嗚咽混じりの声で途切れ途切れに答えた。 「わたしは……ひっぐ……わたしは貴族なのに魔法が使えないの……」 私はその答えに首を傾げると、疑問を投げかけてみる。 「きぞくって何ですか? それ、ホタポタより美味しいんですか?」 その疑問に、少女は呆けた顔を上げ、私の方を見つめた。 む。何だか馬鹿にされているような気がします。 「あなた、貴族を知らないの?」 きぞく……き族? 木? 木族? 水棲族みたいなものでしょうか? そんな事を考え、頭の中で木を纏う種族を想像してみるが、やはり自分の記憶にはそんな種族はいない。 でもまあ、自分が知らないだけで、そういう種族もいるのだろうと考え直し、精一杯の虚勢を張ってみる。 「し、知ってます! 馬鹿にしないで下さい! 私は馬鹿じゃないのです! 知ってますよ? 木族ですよね? こう……もしゃーっと木を生やしてる奴です!」 私がそうやって身振り手振りで頭から木が生えてる様子を表現すると、唖然とした表情でそれを聞いていた少女は突然笑い出した。 「な……なんですか! やっぱり私を馬鹿にしてますね!? こう見えても私は頭が良いのです! ……まあ、人の名前を覚えるのは苦手ですけど……でも、最近は少しずつ覚えられるようになったのです!」 私がぷりぷり怒りながらそう言うと、少女は耐え切れなくなったのか、クスクスという笑いから、お腹を押さえて大笑いしだす。 それを見た私は、自分が知ったかぶりをしてしまったのがばれてしまったのだと思い、顔を真っ赤にしながら「ほんとは知っているのです!」と言ってみたが、それは少女の笑いを大きくすることしかできなかった。 「はー……笑ったわ」 少女はそう言って、悲しみではなく、楽しさから出た涙を袖で拭った。 「あれ? お前、でっかくなってませんか?」 いつの間にやら、小さな少女は成長し(それでもちっちゃかったが)意思の強そうな鳶色の瞳を私に向ける。 その少女は見覚えがあった。確か、ここに来る直前に会った奴だ。 しかし、どうにも記憶がハッキリしない。何だかやたら長い名前だったような気がする。 「お前は……確か……ルイなんとか!!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「誰がルイナントカよ!!」 わたしが叫ぶと、隣に居たミスタ・コルベールがビクっとしてこちらを見た。 「み、ミス・ヴァリエール?」 額に汗を垂らしながらそう言ったミスタ・コルベールを「へ?」等と間抜けな声を出して見る。 段々と記憶がはっきりしだす。 どうやらわたしは、ダネットの様子を見ている内に、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。 何だか、やたら面白くて失敬な夢を見た気もするが、多分気のせいだろう。 わたしがそんな事を考えていると、ずっと目を覚まさなかったダネットが「ううん……」と言って、ゆっくりと目を開けた。 「ここは……」 どうやらダネットは寝ぼけているらしく、半分閉じている目でキョロキョロと周りを見渡す。 その目がわたしを見ると、ハッキリとした口調でわたしに話しかけてきた。 「ルイなんとか、お腹が空きました」 「ふぉれふぇふぁわふぁふぃふぉふふぁいふぁのふぇーひゃふふぉふぁふゅーふぉふぉふぃふゃんふぇ?」 「食べるか喋るかどっちかにしなさいよあんた」 目の前で口いっぱいに食べ物を含んだダネットを叱りつつ、わたしは優雅にスープを口にした。 あれから、ダネットが目を覚ました後、メイドに食事を医務室に持ってこさせ、わたし達は少し早めの(とは言っても、外は徐々に薄暗くなり始める時間だったが)食事を始めていた。 ダネットは、始祖ブリミルに食前の感謝の祈りを捧げるわたしを珍しそうに見た後、それはもう凄い勢いで食事を始めた。それを見て「マナーが悪い!」と叱りつけながら食事を取るわたし。 そんな光景を見て安心したのか、ミスタ・コルベールは今は席を外している。 先ほど、また叱られたダネットは少し顔を赤くすると、必死に口をもごもご動かし、口の中の食べ物を飲み込むと、もう一度わたしに話しかけた。 「それでは、私と使い魔の契約? とかいうのをしたのですね?」 その言葉を聞き、わたしはコクンと頷く。 それを見たダネットは、自分の左手を持ち上げ、複雑な表情で使い魔のルーンを見つめた。 「あんたが気絶してた時に、勝手に契約しちゃった事は悪いと思ってる。でも、あの場ではああしないと……」 「私は殺されていたかもしれない?」 わたしの言葉を遮って発したダネットの言葉に少し表情を硬くし、わたしはまたコクンと一つ頷いた。 すると、ダネットはわたしに微笑みかけ、優しくこう言った。 「ありがとうございます」 まさか感謝されるとは思っていなかったわたしは「へ?」と言ってダネットを見る。 あれ程、契約を拒み続けたにもかかわらず、勝手に契約をしたとなれば、怒りの言葉の一つでも言い出すかもしれない。 そう考えて、反撃の言葉を用意していたのに。 そんなわたしを見て、ダネットは少し頬を膨らませ、こう言った。 「何ですか? 私がお礼を言ったら変だとでも言うのですか?」 それを聞いたわたしが「まさか感謝されるなんて思ってなかったから」と答えると、ダネットは僅かに眉を上げ「まあ、勝手に使い魔にしたというのは納得いきませんが」と言った後、優しく微笑み、続けてこう言った。 「お前は、私を守ってくれた。だからお礼を言った。当然の事です。」 その言葉を聞いたわたしは、赤くなる顔を見られるのが恥ずかしかったので、プイと顔を背けた後、まくし立てるようにダネットに言う。 「あ、あんたがどう思おうが勝手だけど、これであんたはわたしの使い魔なんだからね!」 それを聞いたダネットは、自分の指を頬に当て、頭を傾げながら尋ねた。 「えっと……その使い魔? なんですが、一体何をすればいいのですか?こんな風に一緒にご飯を食べていればいいのですか?」 「んな訳ないでしょうが!!」 それからわたしは、ダネットに使い魔というものを一つづつ話して聞かせる。 「まず、感覚の共有ね。あんたが見たものをわたしが見て、わたしが見たものをあんたが見る。」 「お前が見てるもの見えませんよ?」 「う……、わたしも見えないから、あんたとじゃ駄目なのかも……じゃ、じゃあ次に、秘薬の材料集め! 硫黄とか薬草とかを見つけて、それをわたしの所に持ってくるの!」 「いおう……? 何ですかそれ? おいしいのですか? 薬草って食べられる草とかでいいですか?」 「良くない! じゃあ雑用!! 部屋の掃除とか洗濯とか!!」 「どれぐらい壊したり破いたりしていいですか?」 「いい訳ないでしょうがああああっ!!!!!!」 駄目だこいつ。ダメダメだ。ダメットだ。 でも、使い魔の役目はまだある。 とても大事な役目。それは。 「じゃあ最後……わたしを……わたしを守りなさい。」 そう言ってわたしは顔を伏せた。 拒絶の表情を浮かべるかもしれないダネットの顔を見るのが怖かったのだ。 確かに、ダネットは感謝の言葉を言ったにせよ、勝手に使い魔にされた事は納得していないと言った。そんな相手を守る?守る訳が無い。 でも別にいい。どうせ今まで一人だったから。 使い魔は召喚でき、契約も出来た。だから進級は出来る。馬鹿にされるかもしれないが、それも今まで通り。 だから大丈夫。わたしは大丈夫。 そう考えた私は、今にもこぼれそうな涙を堪えるため、きゅっと唇を咬んだ。そんなわたしの耳に、ダネットの返事が聞こえる。 「そのつもりでしたし、別にいいですよ?」 その返事を聞いたわたしは、バッと顔を上げた。 そこに拒絶の表情は無く、あるのは優しい微笑み。 「お前は私を守ってくれました。だから私はお前を守ります。当然の事なのです。」 ダネットはそう言って、食事の続きを始めた。 それを聞いたわたしは、思わずこぼれてしまった涙を袖でごしごしと拭き、また赤くなってしまった顔を背けながら小さな声で「そう」とだけ返した。 何となく二人とも無言になり、静かに食事を終えた。 そして、ふぅと息を付いたわたしは、どうしても言わなくてはいけない事を彼女に伝える為、彼女に話しかける。 「あのね……えと、ダネット……」 初めて自分の名前を呼ばれたダネットは、目をぱちくりさせながらわたしを見つめた。 「あんたが言ってた、世界を救ったって話……」 それを聞いたダネットは、それまでの穏やかな表情を硬く変え、じっと言葉の続きを待つ。 「やっぱり……信じられない」 はっきりと伝える。 それを聞いたダネットは、少し悲しそうな表情をし、俯く。 そんなダネットにわたしは言葉を続ける。 「だけど、もし……もしあんたの話が本当だとわかったら、わたしは心からあんたに謝ろうと思う。」 それを聞いて顔を上げたダネットに、最後の言葉を投げかけた。 「それじゃ……駄目かしら?」 医務室で食事を終えたわたし達は、食器をメイドに片付けさせた後、わたしの部屋へと向かった。 結局、ダネットは最後のわたしの言葉に返事をする事無く、今は無言でわたしの部屋の窓から夜空を見上げていた。 喋らないダネットにどんな言葉をかけていいかわからず、手持ち無沙汰なわたしは寝巻きへと着替える。 本当はダネットにやらせるつもりだったのだが、まあそれは明日からでもいいだろう。 そう考え、脱いだ衣服を適当にまとめていたわたしの耳に、夜空を見上げたままのダネットの言葉が聞こえた。 「月が二つあります」 「月が二つあるのは当然でしょ? 何言ってるの?」 意味がわからず、そう答えてダネットの方を見ると、彼女は夜空を見上げたままこう返した。 「私が今までいた所には、月は一つしかありませんでした」 ますます持って意味がわからない。 月が一つ? 土地によってそう見える所でもあるのだろうか? しかし、スヴェルの夜以外で月が一つに見えるなど聞いたことが無い。 「少なくとも、この辺じゃそんな場所聞いたことがないわ。」 それを聞いたダネットは「そうですか……」と答え、また空を見上げる。 「ま、まあ、わたしが今度、あんたがいた場所とか調べてあげるわよ。だから……元気だしなさい!」 わたしが顔を赤くしながら言った言葉を聞いたダネットは、きょとんとした顔でこちらを見た後、この部屋に来て最初の笑顔をようやく見せた。 ますます顔が赤くなるのを感じたわたしは、ばふっと毛布を被りながらダネットに言う。 「と、ともかく、今日はもう寝るわよ! ほら、あんたも寝なさい!」 それを聞いたダネットが呟く。 「私はどこで寝るんですか?」 しまった、全く考えていなかった。 一瞬、脳裏に床で寝せようかという考えがよぎるが、異性ならまだしも同性の、しかもそれなりに気に入ってしまった相手を床に寝せるのは気が引けてしまう。 しばらく思案した後、わたしは顔を毛布から出し、少しだけ身体をずらした後、そっぽを向きながら言った。 「きょ……今日はわたしのベッドで一緒に寝る事を許可するわ! あ……ありがたく思いなさいよね!」 こうして、わたしとダネットの一日は終わるのだった……で、済めば良かったのだが。 「お前!! もうちょっと横にいきなさい!!」 「ちょっと!! 何でご主人様が使い魔より狭いスペースで寝なきゃいけないのよ!!」 「ご主人? 誰がご主人だっていうんですか!」 「わたしよ!!」 「なっ……!! 私はお前を守ってやるとは言いましたが、使い魔になったつもりはないのです!!」 「はあ!? ふざけんじゃないわよ!! つうかあんた! お前お前って、いつになったら名前で呼ぶのよ!」 「お前はお前です!! お前の名前は長くて難しいのです!!」 「じゃあルイズ様って呼びなさいよ!! 五文字よ! ほら! さっさと言いなさい!!」 「お前なんてルイなんとかで充分なのです!!」 「増えてんじゃないのよ!! 六文字になってんじゃないのよ!!」 「ルイなんとかが嫌なら、お前です!! もう決めました!! お前ーお前ーお前ー!!」 「こ……この馬鹿亜人!! ダメ使い魔!! ダメット!!」 「セプー族です!! それに私はダネットです!! ダメじゃないのです!!」 「ダメットダメットダメットー!!!!」 「お前お前お前ー!!!!」 その怒鳴りあいは、夜遅くまで続いたのだった。 前ページ次ページお前の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1296.html
私には関係の無いイベントだと思っていた《フリッグの舞踏会》――― あいつとは如何するんだろうか。 あまり騒ぐタイプではないのは間違いないけど。 仕方が無い。私が踊ってあげるしかないわね。 宵闇の使い魔 第捌話:万媚 学院長室で事の顛末を聞いたオスマンは、フーケ自身を捕えられなかった事を惜しみながらも、 「まぁ、なんにせよ――良く《破壊の杖》を取り戻してくれた」 といって、一人一人の頭を撫でた。 勿論、虎蔵は別だが。 ルイズは「もう使えなくなってしまいましたけど――」と申し訳無さそうにしていたのだが、コルベールが彼女をフォローした。 「もしこれがフーケに使われでもしていたら、魔法学院の面子が潰れる所ではなく、大変な責任問題になっていたでしょう。フーケに使われなかっただけでも十分な結果です」 「たしかに、アレが一発あればちょっとしたフネ程度なら落ちかねませんものね」 その威力を間近で見たキュルケが肩を竦める。 オスマンはそれに頷くと、 「君たちの《シュヴァリエ》の爵位申請を出しておいた。ミス・タバサには《精霊勲章》を。フーケは取り逃がしてしまったのは事実であるから、確実に受理されるとは限らんが――その場合でも学院からの褒美は保障しよう」 と告げる。 それを聞いたルイズとキュルケは顔を輝かせた。 ――完全に隠蔽すると思ったがな―― 虎蔵はそんなことを重いながら、オスマンの言葉を聴きく。 まぁ、あそこまで派手に盗まれてしまったのだから、潔く認めた上で奪還した功績をアピールするのが得策といったところだろうが。 「あッ――あの、オールド・オスマン―――トラゾウには何もないのですか?」 ルイズが相変わらず壁際に突っ立って、退屈そうにしている虎蔵をちらりと見る。 ゴーレムの拳から逃れられたのも、《破壊の杖》を使うことが出来たのも彼のお陰なのだ。 オスマンもこれまでの話から彼の功績が一番であるということは理解していたが―― 「残念ながら、彼は貴族ではないからのう」 と、立派な白髭を撫でながら言う。 それにはルイズだけでなくキュルケやタバサも残念そうな顔をするが、 「金くれ、金。危険手当みたいなもんだ。金ならそう面倒な記録も残らんのだろ?ついでに秘書のねーちゃんにも出したれや」 虎蔵自身はあっけらかんと言ってのけた。 彼にしてみれば、称号など貰った所で厠の紙程度の役にも立たないのだから、その方がよっぽどありがたい。 地獄の沙汰も何とやらと言うくらいなのだ。 「ふむ。それくらいなら、ま、良いじゃろう。ミス・ロングビル、君もそれで良いかね?」 「私は特に何もしてないのですけど――」 オスマンが鷹揚に頷き、ロングビルにも問う。 彼女は少し困ったように頷いた。 オスマンはそれに「では近いうちに用意させよう」と答えると、パンパンと手を打つ。 「さて、今宵は《フリッグの舞踏会》じゃ。この通り《破壊の杖》も戻ってきたことであるし、予定通り執り行うぞ。今日の主役は君たちじゃからな。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのだぞ」 オスマンに言われれば、三人は丁寧に礼をしてドアに向かった。 だが、虎蔵は壁際に立ったままだ。 ルイズがそれに気付き振り返るが、彼は「先に行ってな」と手を振った。 オスマンと話でもあるようだ。 恐らくは彼の故郷の武器であるらしい《破壊の杖》についてだろう。 「ふむ――で、何か話でもあるのかね?ミス・ヴァリエールの使い魔よ」 「あるにはあるが――そっちからで構わんぜ」 オスマンはドアが閉まるのを確認すると虎蔵を促すが、虎蔵は肩を竦めて答える。 「どうせその方が話が早い。違うか?」 と、互いを牽制するように睨み合う二人だったが――― 「ふぅ、まあその通りであろうな―――では、ミス・ロングビル。君は――」 オスマンがため息をついて頷いた。 そしてロングビルに退室を促そうとするが、 「秘書のねーちゃんも居て良いと思うぜ。ルイズ達にだって後で話すことだからな」 「ふむ。まぁ、学院側にも事情を知ったものが数人は必要か――では此処に居たまえ」 虎蔵に言われて考え直すと、ロングビルにも同席を許可した。 「さて、まぁ――お主の事だ。聞かれることは解っているとは思うのでな。端的に問う」 そういって一度黙り、重厚な机に肘を突いて目を閉じる。 次に目を開いたときには、その年に似合わぬ迫力、威圧感を宿している。 ロングビルとコルベールはそれに息を呑んだ。 「お主、何者じゃ」 「見慣れぬ服装、異常な身体能力、魔法も使わずに何も無い所から武器を取りだす業――そして何より、《破壊の杖》の使用方法を知っているということ」 オスマン以外の二人も小さく頷いた。 そう、ただの平民ではないことは勿論、仮にメイジだったとしても何から何まで―― 「異質なのだ。本音を言えば、私は《土くれ》などよりよっぽど君の事を警戒していたのだよ」 そういってため息をつくと、ゆっくりと椅子の背凭れに身体を戻した。 虎蔵はそれを聞くと「随分と正直なこったな」と笑う。 「あんた、異世界って信じるか?」 「異世界――じゃと?」 「そのまんま、此処とは違う世界って事だがね。俺は其処の人間で、その《破壊の杖》もその世界ではかなり量産されている。パンツァーファウスト言うてな」 虎蔵の説明を聞くと、オスマンはふむと声を漏らして白髭を撫でながら考え込み、ロングビルとコルベールは話の壮大さ――というよりも、荒唐無稽さに顔を見合わせている。 暫くするとオスマンはため息をつき、ゆっくりと話し始めた。 「《破壊の杖》以外にも我々の知る歴史の中で作られたとは考えにくい物が、世界には幾つかあってな。なるほど、異世界から漂着した物であると言うのならば頷ける」 「ほう――」 虎蔵は何か思う所でもあったのか、僅かに目を細めて頷く。 「それに、《破壊の杖》も――そう、30年も昔の事になるか。森の中を散策していた私は、ワイバーンに教われてな。そこを助けてくれた人物の持ち物じゃった」 「そいつは?」 「死んでしまったよ。その時既に重症でな――今際の際に「帰りたい、帰りたい」と言っていたのはそういう事だったのか――」 遠い目をして語るオスマンに、誰も声をかけずに静かに時が流れる。 暫くすると、オスマンはため息をついて、 「まぁ、その時使った《破壊の杖》の一本を彼の墓に、そしてもう一本は形見として宝物庫に――という事じゃ。年寄りの長話をしてしまったが、なに、お主が異世界から呼ばれたと言うことは信じよう」 と告げる。 「しかし、その世界ではお主のような実力が普通なのかのう?」 「いや、大抵はこっちの平民と似たようなもんだ。極稀に突き抜けちまってのが居るって位だな」 もっとも、その突き抜け具合が半端無いのだが――そこはまだ告げる必要は無いだろう。 「なるほど――確かに彼は、持っていた物以外は普通の人間じゃったな――まぁ、私が聞きたいのはこのくらいだが、おぬしからも何かあるのじゃろ?」 「ああ、そだ。これだよ、これ」 虎蔵はすっかり忘れていた、といった様子で彼らに左手を見せる。 使い魔のルーンだ。 「なにやらこれが付けられてから、随分と身体の調子が良くてな。困ることでもないんだが、気になるといえば気になるんでね」 「ガンダールヴの印――ありとあらゆる《武器》を使いこなしたという伝説の使い魔の印です」 その疑問には、最初にそのルーンに気付いた人物であるコルベールが答えた。 恐らく、今まで使ったことのない武器でも扱えるようになっているとの事だが、それ確かめる機会はあまり無さそうだ。 だが、調子の良さはこのルーンによる物だろう。 もしかしたら、デルフの言っていた《使い手》というのも関係がある可能性はある。 ――気が向いたら聞いてみるか―― 「なるほど―――しっかし、なんで俺がそんなご大層な物になってんだかなあ」 「残念ながらなんとも―――異世界から来たということと関連がある可能性はありますが」 ぷらぷらと左手を振る虎蔵にコルベールが答えると、 「自分の理解の及ばん所で色々起こるってのは、なんともシャキッとせんね」 彼はそういって肩を竦めるのだった。 「ところで―――帰る方法はあるのですか?」 それまで黙って話を聞くに留めていたロングビルが口を挟むが、その問いにはオスマンもコルベールもすぐには答えられなかった。 「一度呼び出した使い魔を送喚した事はないし、するという事態は想定されて居ない」 「そもそも人間を召喚したことが初めてですからな」 二人がそう答えれば、ロングビルは「そうですか――」とだけ答えたのだが、 彼女に何度かアピールを試みているコルベールには少し違って見えでもしたのか、 「あーいえ、しかしですね。召喚が出来て、送喚が出来ないということは無いと思うのですよ。私は。ですから時間をかけて研究すれば―――そもそも召喚のプロセスというのは―――」 と自らの薀蓄を語りだしたのだが、 「あー、そいつは――帰り方については気にせんでええよ。知り合いに、あんたらとは毛色の違う魔法使いが居てね。そのうち向こうから呼び戻されんだろうから」 と虎蔵に遮られてしまう。 しかし、その内容はロングビルに自分の知識をアピールできなかった事よりも衝撃的だったようで、オスマン共々驚きをあらわにした。 「自ら狙って異世界からの召喚が可能な者までおるのか!?」 「なんとも恐ろしい世界ですな――」 実際のところ、虎蔵にはその魔法使い――麻倉美津里にそれが可能であるか、可能であったとしてするかどうかはわからないのだが――― 「そうならなかったとしても、ま、別にたいして問題はないしな。どうしても帰らにゃならん理由も無い」 と肩を竦める。 それを聞いたオスマンはははっと楽しげに笑って、 「なるほどなるほど。確かに、それも悪くは無いじゃろう。住めば都というしな。なんなら嫁さんも探してやるぞ?」 と言ってくる。 虎蔵は「そいつは結構」と肩を竦めて、割と本気で拒否したのだった。 数時間後。 《アルヴィーズの食堂》の上にあるホールは大いに賑わいを見せていた。 着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。 虎蔵はバルコニーの枠にもたれては、のんびりとウイスキーを味わっていた。 何処から《破壊の杖》奪還に虎蔵が大いに貢献したことを聞きつけたマルトーが持ってきた最高級の物だ。 「ま、娯楽が少ねえもんなあ――」 虎蔵の視線の先で、誰も彼もが今宵を謳歌している。 キュルケは何人もの男子生徒からのダンスの誘いを捌くのに手一杯になっている。 タバサはあの小さい体の何処に入っているのかという勢いで只管に料理を食べている。 そのテーブルに何往復もして料理を運んでいるメイドはシエスタのようだ。大変そうだが、生き生きとした表情をしている。 モンモランシーがギーシュの腕をがっちりと掴んでは、他の女を口説きに行かないようにキープしているのも見えた。 他にも名前も知らない生徒が、教師がこの《フリッグの舞踏会》を楽しんでいた。 此処で一緒に踊ったカップルは結ばれるという逸話だか噂だかがあるらしく、各所で恋の華が咲いたり散ったりしている。 だがそこで、ホールの一部がざわついた。 グラスにウイスキーを注ぎながらちらりと視線を向ける。 そこには、幾人もの教師の誘いを断りながら――中にはコルベールもいたようだが――こちらへと向かってくるロングビルがいた。 黒を貴重としたシンプルなドレスだが、深めのスリットに大胆に開いた背中から覗く素肌が艶かしい。 ドレスの生地を押し上げる双丘も十分すぎる程に男の視線をひきつける。 総じて"良い女"、であった。 更に数人の生徒や教師からの誘いを断って、ロングビルはようやくバルコニーにたどり着いた。 流石に彼女が虎蔵の前で足を止めてしまえば、誘いの言葉が聞こえてくることは無くなった。 「もてもてやな」 虎蔵がからかうように笑うと、彼女は近くには誰も居ないことを確認した上で、 「こまったものよ。馬鹿ばっかりでね。誰も彼もだまされて――」 とロングビルとフーケの間くらいの調子で答える。 「またぶっちゃけたな―――諦めたのか?」 「諦めるも何も、無くなってしまったものは盗めないわよ」 虎蔵が僅かに呆れたように言うと、彼女も肩を竦める仕草をして見せた。 バルコニーには誰もやってこない。 二人の雰囲気――色っぽい物でもなければ深刻そうなものでもない、独特の雰囲気に気後れするのかもしれない。 ロングビルは彼と同じように枠を背にして「何時から?」とだけ問いかける。 「夜に会ったときかね―――それに翌朝のもタイミングが良すぎるし、パッと見だと解らんが、ただの秘書がんなに引き締まった身体してるのも変だしな」 「――最後のは兎も角、もっとじっくりとやるべきだったか―――」 虎蔵の言葉を聞くと、はぁっと深いため息をついた。 もっとも、ルイズの魔法による皹が修復される前に実行したかったのだから、仕方が無い所もあるのだが。 「それで、如何するんだい?」 「つーと?」 「惚けないでほしいもんだね―――」 「怒んなよ―――しかしまぁ、どうしたもんかな」 ロングビルにすれば最も警戒していたことをどうでも良さそうに答えられて、ムッとした表情を見せる。 虎蔵はその表情を見るとニヤニヤと笑って、 「いやいや、実際本当にどうでも良いんだよ。貴族でも学院生徒でもなけりゃ、この世界のもんでもないんだからな」 「―――そう言う割には、最後には随分と煽られた気がするけど」 「面白かったもんでな」 と言い切った。嘘をついている様子は無い。 ロングビルは僅かに頬を引きつらせながら、ぐっと手を握る。 殴りたくて仕方が無い。 だがそれすらも虎蔵はニヤニヤと笑って眺める。 ―――なんて性質の悪い!――― ロングビルは思わず口に出しかけるが、ぐっと堪えた。 オスマンのセクハラもだが、この男と正面から向き合うのも胃を悪くしそうだ。 ふぅ、と大きくため息をついて気を取り直すと、 「まぁ、その辺りは良いんだけどね―――私としては余計な借りを作っておきたく無いんだよ」 「貸しを作ったつもりは無いが、まぁその気は分からんではないな」 「じゃあ何とかしておくれよ」 そう言って虎蔵の手からグラスを奪い、一口。 虎蔵が腕を組んで「うーむ」と考えていると、先程学院長室で《破壊の杖》――パンツァーファウストの来歴を聞いたときに僅かに気になったことを思い出した。 そう、この世界に来ているのが自分だけではない可能性である。 別に重火器やらなんやらが来る分には一向に構わないが――― 「そうだな―――ちょいと頼みがあるんだが、今此処で話す事でもないんでね。後で話しに行くわ。部屋は?」 虎蔵がそういうと、ロングビルは自室の場所を伝えて「―――一応、人に見られるのはよしておくれよ。変な噂が立っても困るからね」と言ってグラスを空けた。 その時、ホールの中からおぉと歓声が聞こえた。 視線を向ければ、ホワイトのパーティードレスに身を包んだルイズが注目されている。 胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていて、隣のロングビルとは見事に対照的だった。 ロングビルはそれを見ると、「お姫様が来たみたいだね―――それじゃまた」と言って去っていった。 ロングビル同様、やはり幾つもの誘いを断りながら虎蔵の前へとやってきたルイズは、ややムッとした様子でロングビルの後姿を眺めてから彼へ声をかけた。 「お楽しみみたいね。邪魔しちゃったかしら」 刺々しい。 虎蔵は軽く肩を竦めて「別に。ちょっとした世間話だ」と答える。 そして「そういうお前こそ、随分と誘われてたじゃないか」と言ってからかおうとするのだが、 ルイズはその言葉を「五月蝿いわね。別にどうだって良いのよ、あんなの」とバッサリ斬って捨てると、彼に向けてすっと手を差し伸べた。 「でも、折角だから―――踊ってあげても、よくってよ」 目をそらして、僅かに浮かぶ照れを何とか隠そうとしながら言う。 虎蔵は思わずニヤニヤ笑いを浮かべてしまいながら「へいへい、お供するさ」と言って手を取った。 二人がバルコニーからホール入ってくるとすで楽師達によって音楽が奏でられていた。 ルイズは虎蔵の手を引いてフロアに飛び込み、音楽にあわせて優雅にステップを踏み始める。 虎蔵も見よう見まねでそれにあわせる。 「今日は色々と助けられたわね―――その、ありがとう」 ルイズは踊りながら、視線を合わせないようにしながらぼそぼそと感謝の言葉をつげた。 虎蔵は――なんとも素直になれん奴だな――と思ったのだが、 「それが使い魔の仕事なんだろ?」 といって笑うのだった。 しかし、後にこの虎蔵の言葉が、彼女の心に深く突き刺さってくることになる――――
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6087.html
前ページ次ページ日本一の使い魔 ここはトリステイン魔法学院内女子寮にあるルイズの部屋。 他の生徒達は授業中なのだが、ルイズの場合は平民とは言え人間を召喚し、 使い魔にしてしまったと言う事で特別に授業を免除された。 「あんた、どこから来たの?それに…ずばっかーだっけ何なのあれ?マジックアイテム?」 自分の疑問を解決しようと質問で捲くし立てる。 「そう慌てなさんな。ズカッカーは元は宇宙探検用に開発された車でね。 マジックアイテムってのは良く判らんが、恐らくルイズの言っている物とは違うだろう。」 「それと、どこから来たかって?俺はさすらいの私立探偵だから・・・日本って国から来と でも言えばいいのかな。」 知らない単語にどんどんルイズの機嫌が悪くなる。 「さすらいって難民みたいなもんなの?さっきも言ってたけど、私立探偵って何よ? それに宇宙ってどこの国?トリステインでは聞いたことないから、ガリア?ゲルマニア?」 「おいおい宇宙も知らないのかい。それに・・・」 かつて宇宙犯罪組織とも戦い、宇宙一の男とも言われた早川ですら聞いた事も無いような 国名に、先程自分で口にした異世界という単語が冗談では無かったのかと考えてしまう。 「(魔法…)」 「なあルイズ?さっきトリステイン魔法学院って言ってたが、まさかここは 魔法使いの学校なのか?」 「メイジよ!メ・イ・ジ!あんたもしかしてメイジも知らないの?」 ルイズは自分の呼び出した使い魔が、メイジすら知らぬ田舎物だと思いハルケギニアに おいて一般常識とも言える事を教える。 早川の順応性・理解力も日本一である事を知らないルイズは、意外に 自分の使い魔の健は素直なのかと思い得意げに説明を続ける。 後に判る自分の魔法とツッコミの才能はこの早川がきっかけで知らされる事とは知らずに。 そうこうしている間に時間は過ぎ、メイドが持ってきた夕食を食べながら早川は自分の 冗談が本当の事だと知らされる。 「月が二つ…飛鳥・・・本当に異世界に来ちまったみたいだ。」 赤い夕日に~ 燃え上がる 君と誓った 地平線~♪ 「うるさい!夜中になに大声で歌ってるの?早く寝なさい!あんたはそこ!」 着替えながら怒鳴るルイズが指差した先はただの床。 「ヒュー。男の前で恥じらいも無く着替えるなんて、レディのする事じゃないね。 チッチッチ。おいらはこっちで寝させてもらいますぜ。ご・主・人・様。」 早川は椅子に座るとテーブルに足を置き、テンガロンハットを顔に乗せ、 子供の戯言に付き合いきれないとばかりにそのまま寝ようとする。 「何よ!使い魔に見られて何か思うわけ無いでしょ!」 自分の優位性を示そうとしたが当てが外れ、自分の立場の方が上と言わんばかりに 「それ洗っておきなさいよ!」 早川は手をヒラヒラさせ見向きもしない。 翌朝、早川は昨日言いつけられた洗濯物を済せるためギター片手に校舎内を歩いていた。 「(困ったな。でも妹と暮らしていればこんな感じなのだろな。)」 早川は夜桜組との一件で出会った妹と母の事を思い出していた。 自分を捨てた母との別れ、そして再会。新しい生活を壊したくない母は… そして妹との出会い。そして別れ…さらば瞼の母よ。 「(ガラにも無いや。さてと手の掛かるご主人様の言いつけこなしますか。)」 早川が洗濯場を探して曲がり角に差し掛かった時、 「キャッ!?」 「おっと!危ない!お嬢さん怪我はないかい?」 とっさにぶつかった女性を抱き止める。 「あ、私は・・・申し訳ございません。大丈夫ですか?」 「こっちこそ考え事をしていて悪かったね。」 メイド服を着た女性を起こし荷物を拾っている早川にメイドは 「あの?もしかしてミス・ヴァリエールが召喚したって噂の平民ってあなたですか? あっ拾ってもらってありがとうございます。」 「そうみたいだね。俺は早川健、こっちじゃケン・ハヤカワって言う私立探偵さ。よろしく。ところでお嬢さんは?」 「よろしくお願いしますね。私はこの学院でメイドをしているシエスタといいます。」 自己紹介をし合うと、共に同じ目的と判り洗濯場へと二人で向かう。 是非にというシエスタに洗濯物を頼み、朝食の時間と言う事でルイズを起こしに部屋へと 帰る事にする。 行きは戸惑ったが早川である。帰りは迷うはずも無く部屋と向かう。 そこで、 「あら?あなたは昨日ヴァリエールに。昨日は大変みたいだったわね?」 そこには赤毛で褐色の肌にスケスケのネグリジェを着た女性がこっちを向いていた。 「(ルイズとは…)」 「ああ、ケン・ハヤカワ。よろしく。子供のお守りってのは大変なもんさ。 それより、朝から素敵な女性に会えるなんて今日はツイいてるね。」 「あらお上手ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。 呼ぶ時はキュルケって呼んでね。それにしても子守って、ハハハ。」 バタンと音がするとそこには地獄竜が、いやルイズがいた。 「ちょっと!子守ってどういう事?それよりも素敵な女性ってなによ!? 私にはお嬢さんって!しかもツェルプストーと仲良く話しているなんて!」 「あらケンは正直者じゃない?正直者の使い魔でよかったじゃない。目もいいみたいね。」 地獄竜が首領Lになった。 「キィィィィィィ!!行くわよケン!早く来なさい!」 やれやれと早川はテンガロンハットのつばを下げる。 部屋に帰る様子をキュルケは、 「ケン後愁傷様。それよりも、また退屈しないで済みそうね。」 と見ていた。 前ページ次ページ日本一の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1040.html
食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。 「ご精が出るのう、お嬢さん」 トンペティに声をかけられたメイドは、 「ありがとうございます」 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。 「どうでした、老師」 「ふむ……」 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。 「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」 「面白い、とは?」 「うむ。パイプ、いいかね?」 「どうぞ」 深く吸い、吐く。鼻から、口から。 「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」 「それは興味深いですね」 「その通り」 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。 「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」 「多重人格のようなものですか?」 「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」 「使い魔ですか」 「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」 「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。 「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。 「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」 「別の男女のためかな?」 「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。 「ちょっといいですか」 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。 「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」 「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。 「いいえ。もう少し切実なことですよ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2207.html
バスタード!よりダイ・アモン伯爵を召喚 美的センスゼロの使い魔-1 美的センスゼロの使い魔-2
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/653.html
「ヤミと帽子と本の旅人」のコゲが召喚される話 ゼロと帽子と本の使い魔01 ゼロと帽子と本の使い魔02
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3113.html
前ページ次ページ斬魔の使い魔 ヴェストリ広場の決闘から一晩が過ぎた。 九郎とルイズは未だに目覚めない。 治療を担当したメイジの話では、二人は極度の疲労状態になっていたらしく、そのせいで目覚めないのではないかということだった。 とりあえず他に異常はないということで、授業は正常通りに行われた。 その間、シエスタが二人の世話をする。 タオルをきつく絞り、九郎の額にかけるシエスタ。 九郎の表情は穏やかなまま、ただ静かに胸が上下していた。 ――ろう……くろう…… 誰かが自分の名を呼んでいる。 ――くろう……九郎―― とても聞き覚えのある、この声は…… 「――おい、九郎!」 「どわあああああっっ!! ――って、アル!?」 声と共にいきなり目の前に現れた翡翠色の瞳の少女。 大十字九郎の最愛のパートナー、アル・アジフだ。 何でいきなり目の前に居るのか? そもそもここは何処なのか? ルイズ達はどうしたのか? 色々な思考が連続して出てきてパニック寸前になったが、とりあえず本能と言うべきか、身体が先に動いていた。 それは思いっきり抱きしめること。 「――にゃ、にゃにゃにゃにゃ!? にゃにをするー!?」 顔を真っ赤にして暴れまわるアル。 だが、離すつもりはない。 この柔らかい身体。芳しい香り。間違いなくアルだ。 アル、アルアルアルアル……アル―――― 「――~~、いい加減にせんか! この発情魔が!!」 巨大な魔力の爆発により、このまま押し倒そうとした九郎の企みは阻止された。 「夢の中? ここが?」 「そうだ」 あれからすぐ。黙って聞け、という殺る気マンマンの目を向けられながら聞いた話しは、九郎の想像を超えるものだった。 ここは九郎の夢の中。 九郎が気絶した後、ルイズと額がぶつかりあい、その瞬間、ホンの僅かな思念を送ることが出来たらしい。 「と、待てよ。やっぱりお前はルイズの中に?」 「ああ、この世界に召喚されたとき、この小娘と激突した。そのときに入ってしまったのだろう」 「……出られないのか?」 「分からん。そもそも人間の中に入るということ自体が初めて、というより本来ならありえないのだ。外道の知識を内に入れるなど、人の身で耐えられるものではない」 確かにそうだ。 魔導書は外道の知識の集大成。その力は、人の身体も魂も容易に犯し侵し冒しつくす。 かのウィルバー・ウェイトリイのように。 「そういえば、デモンベインはどうしたんだろうな? こっちの世界に来ているはずだけど」 「うーむ、何処かにいるという感じはするのだが、今の妾ではでは正確には分からん。だが、力を感じるということは無事なのだろう。心配するほどではない」 この世界にデモンベインをどうこうできる存在などいないだろう。 アルさえ無事なら召喚呪文で呼び出すという手もあるのだか、この状態ではそれは無理だ。 その時、アルの姿が薄く透けてきた。 「ぬ、どうやらあの一瞬での思念ではそろそろ限界のようだ。とりあえず九郎よ。妾は小娘の身体から脱出する方法を模索する。汝も何とかデモンベインと元の世界に戻る手立てを探してくれ」 「ああ、分かった。任せろ」 「――後、だ」 アルは声の質を変えた。何処となく不機嫌そうで顔も赤い。 「いいか、妾もそこまで独占欲が強いわけではない。仕方のないことだということも分かっておる」 「……あの、アル……さん?」 「この小娘に従うことも、ましてやその、く、く、く、くくく口付けなどをするのも、契約上仕方のないことであろう。妾もしておったしな」 「――お、おい!?」 「だがな! 勘違いするなよ! 赦すのはそれだけだ! それ以上の段階に進んだり、ましてや、他の女子とイチャイチャしようもなのなら……!!」 自身の顔の側で両手を握り締めながら、地の底から聞こえてくるような声で囁く。 「岩を抱かせた後、悪魔の暗礁に沈めて、イハ・ントレイの”深きものども”の餌にするからな」 後に九郎は語る。 『どんよりと黄色く光ったアルの目は本気でした』と。 そうこうしている内に、アルの姿は完全に向こう側が透けて見えるほどに消えかかった。 「あー、他にも色々と重要な話があったが、もう時間がないようだ」 誰のせいだ。 九郎は声には出さなかった。 「最後にこれだけは伝えなければならぬ」 「何だ? ひょっとして色っぽいことか?」 「たわけ! そんなことではない! 妾の断片だ!」 「ああ、断片ね…………って、ええ!? ま、まさか!」 「うむ、また喪失した。大変だな」 「他人事みたいに言うなー!」 「喪失したのは、アトラック・ナチャ、ニトクリスの鏡、あと、クトゥグア、イタクァだ。それらも探し出してくれ」 それだけ言うと、本格的にその身体は見えなくなった。 もはや僅かに輪郭が見えるのみだが、それすらも消えていく。 「いや、おい! マギウス・スタイルにもなれないのに無茶言うな!」 慌てて手を出すが、もはやその手は空を切るのみ。 それからすぐに、アルの姿は完全に消え去った。 最後に何かを言おうと口を動かしていた気がするが、もはや聞くことは出来ない。 九郎は大きく息をついた。そして、力が抜けたように腰を下ろす。 「……はあぁぁぁ……ふう…………また会おうぜ、アル」 その瞬間、視界が暗転。 一瞬で闇に包まれた次の瞬間、光が射し込んできた。 まず視界に飛び込んできたのは石造りの天井。 「知らない天井だ……」 何処がで聞いた台詞を呟く。 そのときになってようやく自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。 白い布団と白いシーツが目に映る。 そのまま、何となく顔を横に傾けると、そこには少し離れたベッドで自分と同じように横になっているルイズがいた。 一瞬、その姿がアルの姿とダブって見えたが、すぐに元に戻った。 「……そうだな、アルはアル。ルイズはルイズだ」 誰に聞かせるまでもなく呟くと、そのまま上体を起こした。 どれぐらい寝ていたのか、バキバキとなる背中を伸ばす。 トントンとドアがノックされた。 入ってきたのはシエスタだ。水の入ったコップとタオルが乗ったトレイを持っている。 こちらの姿に気付くとにっこりと微笑んだ。 「お目覚めですか? 使い魔さん」 「ああ、ええとシエスタ……だっけ?」 「はい、そうです。あの後、なかなか目覚めないから皆で心配していました」 「皆?」 「はい、厨房の皆さんに、後、使い魔さんと決闘をしたグラモン家の方も」 「グラモン家……ああ、あのギーシュとかいう奴か。へー、あいつがねえ」 変なところで感心していたとき、突然、シエスタが俯いた。 「あの、すいません、決闘のとき勝手に逃げ出してしまって」 「いやいや、別に気にしなくてもいいさ」 「でも――」 「本当に気にしなくていいから」 シエスタの眼を見つめ、微笑みながら続ける。 「誰だって怖いことはあるさ。本当に怖くて怖くて仕方がない、そんな時に逃げ出すのは、別に悪いことじゃない」 「使い魔さん……」 「九郎」 「――え?」 「俺の名前。大十字九郎。九郎って呼んでくれ」 「……あ、はい、九郎さん」 にっこりと微笑む。 先ほどの微笑とは違う。本当の笑みだ。 釣られるように九郎も笑う。 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの笑い声が響いた。 「随分と楽しそうねえ」 『――!?』 怖気を振るうような声がすぐ側で響いた。 どうしてここに来るまで気付かなかったのか。 二人のすぐ傍に、ピンクの悪魔が仁王立ちしていた。 「人が寝ている最中にラブコメなんて、随分と出世したものねえ犬」 「あ、あのぉ……ご主人様?」 「み、ミス・ヴァリエール、お気を確かに!」 「問答……無用―っ!!」 朝日が射し込む空間に、九郎とシエスタの悲鳴が響いた。 九郎の夢。 消えゆく中、アルの残留思念が最後に呟いた言葉は、 「再び出会うまで、さらばだ」 前ページ次ページ斬魔の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6542.html
前ページ次ページ残り滓の使い魔 目の前に真っ黒な自分がいる。薄っぺらいような、水面に映る影のような、真っ黒な自分が。 (これは、夢だ) すぐに理解し、思い出した。 一度だけ見た、真っ黒な自分が目前にいる夢。 今度は、何も声を発しない。確認のような、詰問のような、どちらともとれない問いはなかった。 ──ふいに、影が揺れる。 自身に接するほど近くに在ったはずの影は、手を伸ばしても届かない距離までに離れていた。 引き止めることは、しない。影も、縋るようなことは、決してしてこない。 影が自分から離れていっているのか、それとも小さくなっているだけなのか、判断は出来ない。 そして、ついに見えなくなってしまった。 悠二がただ一つ直感的にわかることは、ここにいる間はもう現れることはないということだった。 「…………ユージ……」 「シャナッ!?」 シャナに呼ばれたと思い、飛び起きた悠二だったが、そこは悠二にとって見慣れた場所ではなかった。 (そういえば、昨日召喚されたんだったな) 異世界に召喚されていたことを思い出し、暗鬱な気持ちになった。 (さっきのは、ルイズの寝言か) ベッドを見ると、自分をこちらに呼び出した元凶であるルイズが気持ちよさそうに寝ていた。 (やっぱり、シャナの声と瓜二つだよな) 目の前で寝ている少女と、フレイムヘイズの少女を思い、考える。 (なんか性格も似てるっぽいし。素直じゃなさそうなところとか) 苦笑をもらし、立ち上がると大きく伸びをした。 床に寝ていたにもかかわらず体は全く痛くなかった。それでも伸びをしたのは、気分の問題だった。 そして、悠二はもう一度ルイズを見てから、既に習慣になっている早朝の鍛錬をするために部屋の外に出た。 悠二は、考え事をしながら廊下を歩いていた。 (そういえば、なんで何事もなく使い魔のルーンが刻まれたんだろう) 悠二は、身の内に宝具『零時迷子』を宿している“ミステス”である。 過去、“紅世の徒”との戦いでは『零時迷子』にかけられている自在法『戒禁』によって、『零時迷子』に触れた“徒”はその“存在の力”を悠二に吸収されていた。 (魔法が例外なのか、『零時迷子』自体に関係がなかったから『戒禁』が発動しなかったのかな) そこまで考察し、[仮装舞踏会]の巫女“頂の座”ヘカテーに『戒禁』の奥に刻まれた刻印を見た。 この刻印によって[仮装舞踏会]は常に『零時迷子』の位置をわかるはずであった。 (今日見た夢のせいか、確信を持てる。[仮装舞踏会]ですら僕の居場所はわからない) 根拠のない自信であったが、悠二はそれを信じて疑わなかった。 (居場所がわからないから、皆心配してるんだろうな。特に母さんは身重だから心配だな) 自分がいなくなって混乱の極地であろう御崎市を思い、知らないうちにため息をついていた。 そうこうしていると、朝もやに包まれた外が見えてきた。 (気分転換ってわけじゃないけど、今日は『吸血鬼』を使って鍛錬しようかな) 寮塔の外の広場に立つと、悠二はそう思い至って、封絶を展開した。 銀色の炎が悠二を中心にドーム状に広がる。 悠二がポケットから一枚栞を取り出すと、それは瞬時に大剣『吸血鬼』に変化した。 剣を握ると、悠二は驚きに眼を見開く。左手のルーンが輝き、自身の“存在の力”が増したように感じた。 一瞬“存在の力”の増加にあっけに取られたが、すぐに冷静になると再び驚愕することになる。 “存在の力”が増加したと思ったが、それは勘違いだった。 (これは“存在の力”の増加というよりは、『洗練』って感じかな?) その『洗練』は身体能力の向上として現れ、いつもより体が軽くなったように感じる。 しかし、それは長くは続かなかった。なぜなら、悠二が『吸血鬼』を再び栞に戻したからだった。 (ルイズから使い魔のルーンには付与効果があるとは聞いてたけど) 悠二はルーンの効果について検証したかったが、もしそれに対する代償、デメリットが有った場合のことを考え、とりあえず見送ることにした。 (そういえば、昨日コルベールっていう先生がルーンをスケッチしてたから、何か知ってるかもしれないな) 今日中にコルベールのもとを訪ねることを決め、封絶を解いた。 近くの森に行き、落ちていた適度な長さの木の枝を拾った。 このときはルーンが反応しなかったので、いつもと同じように木の枝を使った鍛錬をすることにした。 シャナの剣を振る姿をイメージしながら、悠二は枝を振り続けた。 学院のほうでメイドさん達が働き始めるのが見えると、枝を振るのを止め、悠二は部屋に戻るために歩き出した。 悠二が部屋に戻ると真っ先にルイズの下着が目に入り、思わず赤面した。 (とりあえずルイズを起こして、それから洗濯をしにいこう) 悠二はベッドに近づき、いまだに寝ているルイズの肩を揺すった。 「んにゅ」 「ルイズ、そろそろ起きたほうがいいと思うよ」 「はぁ~~~。今起きる」 ルイズが寝ぼけ眼で上半身を起こし、大きくあくびをした。 「服」 …………何も反応がなかった。 ルイズが目をこすり部屋の中を見回すが、既に使い魔の姿はなかった。 そこでやっと、寝ぼけていたルイズは一瞬にして覚醒した。 「え? 使い魔は?」 今起こしてくれた使い魔がいなくなっていることに呆然としたが、すぐに怒りに取って代わった。 「あああ、あんの使い魔。ご主人様の世話をしないなんてどういうことかしら……」 静かに怒りのオーラを発散しているルイズをよそに、悠二はのんきに洗濯をしに行っていた。 悠二が洗濯を終え部屋に戻ってくると、制服姿のルイズが仁王立ちで睨みつけてきた。 「ああ、あんた。ごごごご主人様の身の回りの世話をしないでどこに行ってたのかしら?」 「え? 洗濯をしに行ってただけなんだけど……」 なんか怒られるようなことした? という言葉を呑み込み悠二はルイズの様子を探る。 こと戦闘になると、歴戦のフレイムヘイズでさえ目を見張る鋭い冴えを見せるが、それはあくまで戦闘時であって、普段の生活、特に女心(この場合女心かは疑問であるが)には殊更鈍感だった。 「私言ったわよね。使い魔の仕事は身の回りの世話をすることだって」 「それで、洗濯に行ってきたんだけど」 「ご主人様を起こしてすぐにいなくなる奴がどこにいんのよ!」 「えーと、それはごめんなさい?」 ルイズは荒い息をついていたが、数回深呼吸をした。 「まあいいわ。次からは気をつけなさい」 とりあえずルイズの怒りは収まったようで、悠二はルイズに見えないようにため息をついた。 食堂に向かうためにルイズと悠二が部屋を出ると、同時に赤い髪の女生徒が廊下に出てきた。 「おはようルイズ」 「おはようキュルケ」 ルイズが嫌そうに返事をすると、キュルケと呼ばれた生徒は悠二を指差し言った。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 キュルケと呼ばれた生徒はあからさまにルイズと悠二を馬鹿にしていたが、悠二はほとんど聞いてなかった。 自分を『それ』と言われた事に懐かしさを感じていたからだった。 (シャナも最初のころは僕のことを物扱いしてたんだよな) と回想していたが、急に現実に引き戻された。 「熱っ! って真っ赤な何か!」 いきなり現れた真っ赤な生物に熱気に悠二は驚いた。 「あはは! 大丈夫よ。これが私の使い魔のフレイム。火竜山脈のサラマンダーよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「あんた『火』属性だからお似合いね」 得意げに使い魔自慢をするキュルケに、ルイズが実に憎憎しげにつぶやく。 「ええ。この『微熱』のキュルケにぴったりよ。そこの平民も『ゼロ』のあなたにはぴったりよ、ルイズ」 「ふん! 早く食堂に行くわよ!」 ルイズは憤怒の形相で悠二を引っ張るが、後ろから声をかけられる。 「ところで、使い魔さんのお名前は?」 「坂井悠二です」 「そ、よろしくね」 ルイズに力の限り引かれながら悠二は答え、そのまま食堂に向かった。 ルイズは食堂に向かいながら、いまだに怒っていた。 「キィー! なによ、あいつ! 自分がサラマンダー召喚したからって!」 独り言を言って話しかけにくかったが、悠二は先ほどの会話で気になったことを聞いてみた。 「あのさ、『微熱』とか『ゼロ』とかってあだ名のようなものでしょ? 『微熱』っていうのはわかったけど『ゼロ』って何?」 「あんたには関係ないでしょ!」 ルイズはそう言って誤魔化そうとしたが、悠二は気づいた。 (ひょっとしてひょっとすると、身体的な特徴のことなのかも) 横目でルイズの『ゼロ』と思わしきところを見ていると、ルイズから右ストレートが飛んできた。 「痛っ! なにするんだよ!」 ルイズがジト目で悠二を見据える。 「あ、あああんた、今ご主人様のことを失礼な目で見たでしょ」 「え? な、なんのことかわからないなあ。あははは……」 図星をつかれた悠二は、冷や汗をかきつつも笑って誤魔化した。 (少なくとも、シャナよりはあるんじゃないかな?) そんな失礼なことを考えて。 そうこうしているうちに二人は食堂に着いた。 ルイズは悠二に色々と説明した。 メイジの大半が貴族であること、貴族としての作法なども学ぶこと、平民は本来入れないことなど。 実際、食堂の装飾や料理の豪華さに悠二は圧倒されていた。 (トーチはいないみたいだな。ここだけなのか、この世界全体なのかはまだわからないけど) 「あんたの食事はそれだから」 そうやって差し出されたのは、床に置かれたスープと硬そうなパン二切れだった。 「……これだけ?」 「普通だと使い魔は外、あんたは私の特別な計らいでここにいるの。まだなんか文句あるわけ?」 (文句はあるけど、言ったら怒るんだろうな) これ以上の面倒ごとを避けたい悠二は文句を心の中にしまった。 「あのさ、ちょっと質問があるんだけど」 「あによ、文句あるって言うの?」 ルイズがサラダを食べながら悠二を一瞥する。 「文句じゃないんだけど、コルベール先生っているよね。で、先生は普段どこにいるのかなと思ってさ」 「ミスタ・コルベールなら、本塔と火の塔の間にある研究室じゃなかったかしら。で、なんであんたがミスタ・コルベールのいる場所を聞くわけ?」 「別に、ちょっと気になっただけだよ」 本当は、ルーンのことについて聞きに行こうと思っていたのだが、ルイズに言うのはまずい気がして、顔を背けながら下手なごまかし方をした。 しかし、ルイズは自分の使い魔が何を考えているのかなど、別段気にならないようで、また食事を始めた。 前ページ次ページ残り滓の使い魔