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前ページ次ページゼロの赤ずきん 買い物を終えた、ルイズ達は、学院の女子寮の自室に戻っていた。日はすでに暮れている。 「ホントに今日は疲れたわ……。まあ今日に限った話じゃないけど」 肩を落とし、そう言ったルイズは、ベッドに腰をかけていた。 一方、バレッタは自分が街で買ってきたものを整理している。 細巻やら、ナイフやらがずらりと並べられていた。 その様子をぼんやりと見つめながらルイズは言った。 「そういえば……。あの喋る剣はどこかしら?ちょっと私に貸してくれない?」 バレッタに対する愚痴をデルフリンガーに聞いてもらおうと思っていたルイズであった。 それで少しは気が晴れるものだと、そして自分のよき理解者になりうるとまで考えている。 バレッタは実に朗らかに答えた。 「埋めた♪」 「……そう。埋めるってアレよね、土を掘り返して、出来た穴に対象物を放り込んで、その上に土をかぶせるっていう……。 ……はぁあ!?えっ!?埋めたっ!!??なんでっ!!!?いつのまに!?一体どうしてよ!?」 バレッタは不自然とも言えるほどの笑顔をルイズに向けたまま何も言葉を返さない。 その様子でルイズはバレッタの意図が、予想できた。いや、確信のようなものが浮かび上がった。 「あ、あんたまさか。最初からそのつもりで……。埋めるつもりで私にあの剣を買わせたんじゃないでしょうね」 バレッタは何も言わない。 額に手のひらを置き、困り果てた表情を浮かべた。 「ちょっと勘弁してよ……」 巨大な二つの月が、五階に宝物庫がある魔法学園の本当の外壁を照らしている。 二つの月の光が、壁に垂直に立った人影を浮かび上がらせていた。 『土くれの』二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊、 土くれのフーケであった。 フーケは、宝があると聞けば、どこへでも馳せ参じ、自身のメイジとしての能力を遺憾なく発揮し、 貴族達相手に盗みを働く、神出鬼没の大怪盗。 今宵も、お目当ての宝を手にせんがため出向いていた。目標は、フーケが好んで狙う、 強力な魔法が付与された高名な宝、所謂マジックアイテムのひとつであった。 フーケは足から伝わってくる、壁の感触に舌打ちをした。 「さすが、魔法学院本塔の壁ね……。私の『錬金』が効かないのは実証済みだったけど、 ッチ……コルベールは『物理衝撃が弱点』とか言ってたってのに、 こんなに厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!私のゴーレムも通用するかどうか……」 足の裏で、壁の厚さを測っている。『土』系統のエキスパートであるフーケにとって、そんなことはぞうさもないのであった。 「確かに、『固定化』の魔法意外はかかってないみたいだけど……。どうしたもんかねぇ……」 フーケは、腕を組んで悩んだ。 「やっとここまで来たってのに……。かといって、『破壊の杖』をあきらめるわけにゃあ、いかないね……」 フーケが本塔の壁に足をつけて悩んでいると、誰かが近づく気配を感じた。 軽やかな動作で、壁を蹴り、すぐに飛び降りる。地面にぶつかる瞬間、小さく『レビテーション』を唱え、 回転して勢いを殺し、羽毛のように着地する。それからすぐに、中庭の植え込みへ身を隠した。 「おや、あれは確か……」 そこに現れたのはルイズとバレッタであった。 「こっちでいいワケね?ちゃんと、あの剣が埋まってるところに案内しなさいよ!絶対、掘り返すんだから!」 「うんっ、うんっ、わかってるよ。ちゃんと案内するから、安心してっ」 そこで、ルイズはピタリと歩を止めた。 先を歩いていたバレッタはそれに気づくと、ヒラリと身を翻して、不思議そうな顔をしてルイズへ向いた。 「どぉーしたのっ?ルイズおねぇちゃん?」 ルイズは実に難しい顔をしていた。疑いの色が満面に広がっている。 「いや……あのね。なんか納得できないって言うか。そうね……、こんな利もないめんどくさいだけのことに、 バレッタが変に素直に従ってるから違和感を感じてるのかしら、私」 ルイズは自分の中で思考を巡らす。そうすると合点がいく答えが出た。 「……もしかして、剣を掘り返そうとすると爆発するとかそんなんじゃないでしょうね?」 しばらくの沈黙が辺りを包んだ。 「……」 「……」 「ルイズおねぇちゃん発想が物騒ぅーっ♪」 「それはっ!!!あんたでしょっ!!!なんてことしてくれようとしてんのよっ!」 ルイズは地団駄を踏んで、叫ぶ。 バレッタが、表向き感心したように言った。 「ルイズおねぇちゃんね、最初の頃と比べると、大分勘が良くなったと思うのよ」 顔を真っ赤にさせ、ルイズは、さらに叫ぶ。 「当たり前でしょ!!全部あんたのせいだからね!!あんたと一緒にいると目の前に死線が出ちゃ消え出ちゃ消えしてんのよ! ……そりゃ用心深くもなるわよ、わかる!?ハト時計のハトより頻繁に出てくんのよ?死線が!!!」 首をかしげてバレッタは尋ねた。 「寝てる時は?」 「あんた夢にも出てくるじゃない!!ナイフと銃を携えて!!!」 「もう、いいのよぉ……ルイズおねぇちゃん……つかれたでしょ?」 「なにそれっ!?まるで戦場で落命寸前の同胞に向けるような憐憫のまなざしで見ないでよ!!あんた、それ……ゴホッゴホッ!」 「ルイズおねぇちゃん。天使ってどんな姿してるのっ?……バレッタに教えてくれない?」 「……お迎えなんて来てないわよ!!!むせただけよ!!!くっ……!」 そこまで言うとルイズは、俯き押し黙った。握り締めた拳が、小刻みに震えている。 すると誰かが近づいてきた。 「さっきから、いやに騒がしいわねぇ。いったいどうしたっていうのよ、ルイズ」 ルイズ達の前に現れたのは、キュルケと、タバサであった。 「まったくもう……。町に行ったはいいけど、探せど探せど、一向に見つかりゃしないんだもの、あなた達。 とんだ、骨折り損だったわ。付き合わせちゃってゴメンなさいね、タバサ」 「別にかまわない」 いつもと変わらぬ、感情が表にでないタバサはそう答えた。 そこで、キュルケがルイズの異変に気がついた。授業でも癇癪を起こすことが多いのを知っていたが、 明らかに今のルイズの様子はそれと異なっていた。 怒りが頂点に達したルイズは、せきを切ったように、今までにないほど声を張り上げ怒鳴り始めた。 その叫びには悲痛さがふんだんに混ぜ込まれていた。 「……もう、我慢できない……!!限界よっ!!もうたくさんよっ!私がいったい何をしたっていうの!? なのに!なのに!なんで私だけが、こんな酷い目ばかり遭わなきゃいけないのっ!!!ふざけないでよっ!」 あまりの剣幕にキュルケは目を見張った。 ルイズが懐に手を入れ自分の杖を取り出した。 真っ先に警戒したのはバレッタであった。明らかに臨戦態勢をとっている。 バレッタその様子を見て、不味いと判断したキュルケは、バレッタを制した。 なんとか取り繕わねばルイズが殺されかねない。 「バレッタ、大丈夫よ。あの子が魔法使えないのは知ってるでしょ? 失敗の爆発だって狙い通りにはならないんだから。ま、まあ見てなさいって」 一瞬キュルケを睨むが、バレッタは臨戦態勢を解いた。 「それもそーねぇ、ルイズおねぇちゃんだし」 それの言葉を皮切りにルイズが動いた。杖を高々と振り上げ呪文を唱える。 怒りのあまり、ルイズ自身もなんの呪文を唱えたのかわからなかった。 「もう許さないんだからっ!!!あんたなんかだいっきらい!!」 ルイズは、力一杯杖を振り下ろした。自分の使い魔を懲らしめるために。 そして当然として起こる爆発。しかし、ルイズが思い描いたような結果にはならなかった。 爆発は、はるか遠く、本塔の壁で起きた。 本塔の壁は爆発により、ヒビが入っている。 「わたしを狙ったんだろうけど、まぁー、スッゲえコントロールっ」 失敗した。魔法をではない、抗うことをである。 それすら満足できない自分。 ルイズの目から光が失せた。そしてこの上なく落胆し、肩を落とした。 自分は貴族でありながら魔法も使えない、それを周囲の者から非難されバカにされている。 加えて、苦心の末呼び出した使い魔は、全くいうことを聞かないどころか、自分を落としいれようとすらしている。 そしてそれに対して何も出来ない自分。 恥じて、情けなくなり、消え入りたい気持ちになった。 「私はっ!私は……!……うっ、うっ!」 ルイズは大粒の涙を流した。柔らかな頬を涙がつたい、地面に落ちる。 キュルケはこれ以上居たたまれないものはないと感じた。 しかし、だからといって、かけてやる言葉は何も思いつかない。果たしてそんな言葉はあるのかすらわからない。 「ルイズ……」 そんな段になっても、バレッタは平然とした顔をしていた。自分に原因の一端があるのを理解しながら。 フーケは中庭の植え込みの中から、一部始終を見守っていた。 ルイズの魔法で、宝物庫のがある辺りの外壁にヒビが入っているのを見届ける。 いったい、あの魔法はなんなのだろう?あんな爆発を起こす魔法なんて、今まで聞いたこともなければ見たこともない。 それに、あの宝物庫の壁にヒビまでいれてしまうとは、いったいどういうわけか。 フーケは頭を振った。この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。 フーケは、呪文を詠唱し始めた。長い詠唱だった。 詠唱が完成すると地面に向けて杖を振る。 すると地面が音を立て盛り上がる。 土くれのフーケが、その本領を発揮したのだ。 盛り上がった土は、ゴーレムを形成した。その身の丈、実に三十メイル。 攻城戦に使えば絶大な効力を生み出すに違いない、巨大さと力強さであった。 フーケはこれまでにも、この巨大なゴーレムを使い、集まった魔法衛士達を蹴散らし、 白昼堂々とお宝を盗み出したことがある。それほど、このゴーレムに対して自負があった。 フーケは作り上げたゴーレムの肩に乗った。 突然現れ、聳え立つゴーレムに最初に気づいたのはキュルケとタバサであった。 我が目を疑ったが、巨大な土のゴーレムがこちらに歩いてくるのだから、何もしないわけにはいけない。 「な、なにこれ!いくらなんでも大きすぎよ!ルイズ!タバサ!バレッタ!皆逃げるわよ!」 「退却」 二人は逃げるために駆けた。 キュルケとタバサはルイズも当然として逃げているものと思った。 しかし、ルイズは逃げていなかった。 その場から動かず、ぼんやりとゴーレムの動向を見守っている。 土のゴーレムは本塔の前まで来ると、その拳を打ち下ろした。 フーケは、インパクトの瞬間ゴーレムの拳を鉄に変える。 壁に拳がめり込み、鈍い音がする。すると壁に大きな穴が出来ていた。 その穴から、フーケは宝物庫の中に入り込み、お目当ての品を見つけると、 それを担ぎ上げて、入ってきた穴から脱出し、ゴーレムの肩に再び乗った。 ルイズは手際の良い、その一連の行動を見て、判断した。 あそこは確か宝物庫。そこに侵入したということは、賊に違いない、と。 ルイズは再び杖を強く握り締めた。 このおさまらない怒りをぶつけるため、そして周囲の者を見返すため。 自分の誇りを守り貫き示すため、 ルイズはゴーレムに立ち向かう決意を固めた。 このときのルイズの心情は自棄に限りなく近い。しかし今は誰も止めるものがいなかった。 その場を去ろうとしているゴーレムに向かってルイズは呪文を唱えた。 ゴーレムの胸辺りに爆発が起きるが、表面が爆ぜただけで、なんら効果はなかった。 しかしフーケはルイズの存在に気づいた。 ルイズに目をやると、まだ魔法を唱えようとしていた。 そして再び起こる爆発。 これもゴーレムに対しなにか影響を及ぼすようなものではなかったが、フーケは考えた。 あの強固な宝物庫にヒビを入れたのはあのメイジ。わたしのゴーレムだけだったら、絶対に破れなかったに違いない。 だとしたら、可能性を考えると、この爆発、わたしの与り知らない効果があるのだろうか。ならば危険極まりない。 いっそ今殺してしまおうか。後顧の憂いを断つ意味でも、それがいいさね あの小娘まではゴーレムで三歩……いや、二歩半ってとこかい。行きがけの駄賃としては丁度いいね。 ゴーレムは進行方向をルイズに定め、動き始めた。 ルイズはそれでも、その場に居続けた。そして再び杖を振り幾度となく繰り返し魔法を唱えた。 キュルケとタバサは風竜に拾われ空中に逃れていた、そして様子を伺うようにゴーレムの頭上を旋回している。 「ち、ちょっと待ってルイズ逃げてないじゃない!何やってんのよ!逃げなさいっ!!」 限界まで声を張り上げルイズに呼びかけるが、無意味であった。声は届かない。 「タバサっ!シルフィードで、どうにかルイズを拾えないかしら!?」 タバサは地上を観察した。そこでは、ゆっくりとした動作でありながら、歩を進めるのことを緩めないゴーレムと、 ルイズが抵抗するために何度も唱えた呪文の爆発によって起こった、爆煙が辺りを包んでいるのが見てとれた。 「粉塵で地上の様子がはっきりと見えない、行ったらこっちも危険」 「そんなっ!!」 ゴーレムはルイズまで後一歩のところまで迫った。 ルイズ目を細めて睨むようにゴーレムを見上げた。 「……来なさいよ。来ればいいじゃない。倒す、倒すわ、絶対倒してみせるんだから……!使い魔なんて必要ないんだから!!」 前ページ次ページゼロの赤ずきん
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前ページ次ページゼロの赤ずきん 日が暮れ、ラ・ロシェールの家々の窓から生活の明かりが漏れている。 ルイズとバレッタは、宿の自室のバルコニーに居た。 ルイズは柵に手をかけ、どこか憂いに満ちた表情をして夜空に浮かんだ月を眺めている。 柵の上に腰をかけているバレッタは、ルイズに背を向け紫煙を空に噴いていた。 バレッタの手にある細巻の火だけが辺りをぼんやりと照らす。 ふとルイズがバレッタに言葉をかけた。 「ねぇ。なんで今日一日中私にべったりひっついてるわけ? なんか気分が落ち着かないんだけど」 「しょーがないよぉっ。敵がどこにいるかわからないだもの。 ってゆーか。ルイズおねぇちゃん、自分が敵に捕らわれたら終わりっていうの自覚してるっ?」 その言葉を聞いて、ルイズはギクっとした。 今も所詮守られる側の人間なのだと、思い知らされる。 視線を下に落とし、どこか気まずそうにルイズは言った。 「だからって、任務のためだとしても、トイレとかまでにもついて来るのは、やり過ぎっていってんのよ」 「そーかしらっ。どっかの髭を蓄えた変態が、襲って来るかもよ?」 「……あっそう……そのことはもういいわ。それより、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」 「なーにっ?まぁー聞くだけならしてあげるけどっ」 柵に座っているバレッタは足をプラプラとばたつかせている。 ルイズは、腕を組んで難しそうな顔して言った。 「……ねぇ。私がワルドと結婚するって言ったらあんたどうする?」 バレッタは目をパチクリとさせて、ルイズを見つめて言う。 「ルイズおねぇちゃん昨日の晩、ワルドさまの告白断ってたじゃない。何言ってんのぉ?」 「例えばの話よ。それともまったく興味ない?」 「……そーねぇ。結婚はやめといた方がいいんじゃない? あーゆー、一見誠実そうなヤツってのは結婚して生活が始まった瞬間、豹変するタイプよ。 ドメスティックバイオレンスに苦しむルイズおねぇちゃん! そして嫌味な姑との板挟みに悩むルイズおねぇちゃんっ!!あぁ!カワイソーっ♪」 「……」 「どーしたの?いきなり黙って、ルイズおねぇちゃん」 「……バレッタ、もうひとつ聞きたいことが……って何あれ!?」 言い終える前に、突然ルイズが驚きの声を上げた。 バルコニーに立つ二人が向けるその目線の先には、巨大なゴーレムが月を背負って立っていた。 いつの間に現れたのかわからない。何故こんなところに。 ルイズの頭の中で、疑問が錯綜する。 ゴーレムの肩に立っている人影が見て取れた。 緑の髪を風にたなびかせ、ルイズたちを見下ろしているメイジ。 これほどの巨大なゴーレムを操る人物にルイズは心当たりがあった。 「もしかして『土くれ』フーケ!?どうしてこんなところにいるのよっ!?」 ルイズに、ずばり言い当てられたフーケは嬉しそうな声を漏らした。 「あら、感激だわ。そんなに面識なかったのに覚えててくれたのね、カワイソーなお嬢さん。 私がここにいるのわね、そこの赤ずきんの嬢ちゃんに仕返しするためさ! よくも恥をかかせてくれたねっ!ゴーレムの拳でそのバルコニーごとぶっ潰してあげるわよ!」 これはフーケがバレッタに対して向けた、 『バルコニーを攻撃するから避けろ』というメッセージであった。 操り主であるメイジの杖の動きと連動し、 ゴーレムは、その巨大な拳を、天を突くが如く高々と振り上げた。 フーケは表面上快活に喋っていたが、心臓はバクバクと激しい音をたてている。 演技。これは演技。ちゃんとバレッタも理解してくれる。 ゴーレムに肩に乗ったフーケを、バレッタは余裕の表情で見上げて言った。 「あららぁー?わたしがせっかく学院でとっ捕まえたのに脱走したフーケおねえちゃんじゃない? 仕返し?逆恨みじゃない、ふざけんじゃないわよ。まだ懲りてないの?」 これも演技。ちゃんとわかってるはず。 バレッタは狂気に酔った殺人鬼のような歪んだ笑みを浮かべて、ドスを利かせた声で言った。 「その振り上げた拳をわたしに向って振り下ろすってことがどーゆーことかわかってんでしょーねっ?ねぇ?」 フーケはバレッタの言葉を耳にすると、逡巡した。 「……ぐっ!」 バレッタは殺気をふんだんに含んだ面相で、地面を這う蟻を足でにじり潰すかのような無慈悲さ、 それでいて威圧的な言葉をフーケに投げかけた。 「そんなことしたら今度は殺すよっ。もれなく、間違いなく、必ず、絶対に。 どこに逃げよーと、誰を味方につけよーと……地平線の彼方まで追いかけて、追い詰めて……、 ……ぶっ殺すわよ。それでもいーなら攻撃しなさいっ」 少女の闇に浮かぶ双眼が放つ不気味な光が、フーケの心を恐怖のどん底に突き落とす。 ゴクリと喉を鳴らす。頬を汗がつたい流れ、背中にも冷たいものを感じる。 演技……!これも演技!多分……いや絶対に……! いやでもこのずきんならもしかして……! ルイズにフーケである自分がバレッタとワルドを協力していることが、バレてはならない。 つまり、フーケは自分が紛れもなく敵対関係あることを示し、ルイズを騙し抜かなければならないのだ。 だからこその、この芝居であるし演技である。 何の打ち合わせもなかったが、この程度即興で出来て当然という暗黙の了解ようなものが、二人の間に存在した。 だが、フーケには迷いが生じていた。 演技であるはずのバレッタの言動が、あまりにも迫力がありすぎたからだ。 しかしフーケはやらなければならない、時間的な猶予もない。 ここで攻撃をしなければ、それこそバレッタの意向に反することになり、さっき言ったような標的になりかねない。 フーケは自分が葛藤して苦しんでる様を、 バレッタは見て楽しんでいるのではないかと、勘ぐっていた。 事実は本人にしかわからなかった。 フーケは意を決した。 迷いを振り払うかのように腹の底から声を出し、まるで叫ぶかのように言った。 「上等だよ!!!やれるもんならやってみな!!!」 フーケが叫ぶと同時に、ゴーレムは拳を振りおろした。 岩で出来たゴレームの拳は、いともたやすくバルコニーを粉砕した。 以前学院の宝物庫を襲ったとき作った土のゴーレムより、破壊力が増しているようだった。 バレッタはルイズを脇に抱え、粉砕するバルコニーから部屋の奥に向って飛ぶように跳躍し逃れた。 フーケは、バレッタの期待に応えたのだ。 しかしバレッタはワルドに対する憤りを、フーケを使って憂さ晴らしをしたのだった。 抱えたルイズを床におろすと、バレッタはどこか嬉しげに言った。 「じょーとーじゃないっ。さぁーってと、どう料理してあげよーかしらっ?……でもー、ここで戦うのは分が悪いかな? ま、とりあえず、一階の酒場まで行ってキュルケおねえちゃんたちと合流しよーよ。ルイズおねぇちゃんっ」 「……え、ええ。そうね。行くわよ、バレッタ」 ルイズとバレッタは共に駆けだし、部屋を抜けて、一階への階段に向かった。 フーケの耳に、二人が遠ざかる足音が届いた。傷が疼く方の肩を押さえ、安堵の溜息をついた。 「ふぅ……行ったわよね?……あとは宿正面に行ってしばらく待機、そして様子見。 それにしても心臓に悪いったらありゃしない!確実に寿命が縮まったわ」 背に担がれたデルフリンガーが心配そうな声で言った。 「大丈夫かよ?まだ完全に肩の傷治ってねぇんだろ?無理すんな」 「大丈夫よデルフ。あぁ!それにしてもたちが悪い!平然と嘘吐きまくるってわかってるのに、 どこかに本意が混じってんじゃないかって考えさせられるっていうか……いや本当にたちが悪いわ」 「まあ、それは違いねえな!」 カタカタと音をたてながら、愉快そうな声でデルフリンガーはそう言った。 ルイズとバレッタが階下に降り、訪れた先も修羅場であった。 いきなり玄関から現れた傭兵の一団が、一階の酒場で飲んでいたワルドたちを襲ったらしい。 ギーシュ、キュルケ、タバサにワルドは、傭兵たちに対して魔法で応戦している。 だが、多勢に無勢、思うような効果は上げられていないようであった。先ほどから膠着状態が続いている。 キュルケたちは、床に倒したテーブルの天板を盾にして身を隠し、傭兵たちと応戦していた。 傭兵たちは、魔法の射程外から矢を放ち、キュルケたちの行動を制限し、 魔法を唱えるための精神が消耗しきったところを、 一気に突撃をかけ、白兵戦に挑むといった作戦をもってして、戦いに臨んでいるようであった。 テーブルから少しでも顔を出そうものなら、矢が雨のように飛んでくる。 テーブルの天板に矢が突き刺さる音が、雨音のように響く。 キュルケたちは、完全に身動きが取れなくなっていた。 加えて、いつのまにか巨大ゴーレムの足が、吹きさらしの向こうに見えていた。 テーブルの陰に隠れているキュルケたちに、ルイズとバレッタも駆け寄って合流した。 ルイズがキュルケ達に向って喋りかける。 「こっちも、大変なことになってるわね」 「ええそうねルイズ。ここまで団体さんで来るとは思ってなかったわ、 それに加えて……えーと?あのゴーレムってフーケでしょ?……それまでいるし、お手上げよ」 ワルドが眉を曲げて言った。 「参ったね」 「そーねぇ、見張りをサボった奴がいて参っちゃうわねっ♪」 「……」 ワルドは目を閉じ、深呼吸した。眉間には皺が刻まれている。 バレッタに対する憤怒の感情を押し殺し、冷静を装った態度でワルドは言った。 「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどりつけば、成功とされる」 こんな時でも落ち着き払った態度で本を広げていたタバサが、本を閉じてワルドの方を向いた。 「……二班に分けて、一方が囮?」 「その通りだ」 場に合わない、爽快な口調でバレッタが言った。 「じゃ!キュルケおねえちゃんにタバサちゃん、ギーシュおにいちゃん。 精々目だって、敵を引きつけてねっ♪」 「ということだ、すまないが今すぐにでも行動に移した方がいい。裏口にまわるぞ」 「え??え?ええ!!?」 急転する事態にルイズはついていけてなかった。 ワルドはやさしく声をかけた。 「ルイズ、僕らは裏口から出て桟橋に向かう。彼らには申し訳ないが、これが最善策なのだよ」 「で、でも……」 キュルケが、燃えているかのような赤髪をかきあげて、笑みを浮かべて言った。 「行って来なさいなルイズ。あたしたち、 あなたたちが何しにアルビオンに行くのかすら知らないんだもんね。いいってことよ」 薔薇の造花に目を落とし花弁をいじりながらギーシュが呟く。 「うむむ……ぼくは知ってるんだけどな……。 でも女性だけを、こんなところに残すわけにもいかないし、これが一番か……」 タバサはルイズたちに向って頷いた。 「行って」 ルイズはキュルケたちに向って無言でぺこりと頭を下げたあと、 何かを振り払うかのように裏口に向って駆けた。 バレッタとワルドもそれに続いた。 酒場の厨房を抜け、ルイズ達は通用口にたどり着くと、 傭兵と思われる男たちの悲鳴が酒場の方角から聞こえた。 「……始まったみたいね」 ワルドは外に誰もいないことを確認すると、勢いよくドアを開きルイズたちを招いた。 「今のうちに行くぞ。桟橋はこっちだ」 ワルドを先頭にルイズが続く。そしてルイズに密着するようにバレッタがその後ろに続いた。 三人は闇の中へ溶けて消えて行った。 裏口へルイズたちが向かったことを確かめると、キュルケはギーシュに命令した。 「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ? あなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」 「お安い御用だ」 ギーシュはテーブルの陰で薔薇の造花をふった。花弁が舞ったかと思うと、 青銅の戦乙女、ゴーレム『ワルキューレ』がその姿を現した。 ワルキューレは主人であるギーシュの命令を受けると、厨房に走った。 しばらくすると、矢を何本も体を貫かれながらも、テーブルの影まで油の鍋を運んでくることに成功した。 「それを入口に向って投げてちょうだい」 キュルケはギーシュに対してそう言った。 だがギーシュは承服しかねる、といった表情をしている。 「ほら、早くしなさいよ、その油と私の炎の魔法を組み合わせて、大炎上を巻き起こしてあげるんだから。 歌劇の始まりよ。さあ舞台の幕開けはあなたにまかせるって言ってるのよ?早くしなさい」 「ちょっと待ってほしい、確かにそれで傭兵は退けることができるだろうけど、フーケはどうするんだい?」 キュルケは目をパチクリとさせ、ギーシュを見つめた。 テーブルの陰から、外の様子を観察しているタバサが呟いた。 「ゴーレムが攻撃してこないのは、傭兵がいるから。追い払ったらゴーレムの攻撃が来る」 タバサの言う通りであった。あれほど巨大なゴーレムに攻撃を仕掛けられたら宿ごと破壊されてしまう。 そのことをギーシュは危惧していたのだ。 だが三人同時に同じ疑問が頭に浮かんだ。 何故、最初からゴーレムで攻撃してこなかったのか?と。 ゴーレムの攻撃ならば、不意打ちで宿ごと押しつぶしルイズ達を含め全員殺せる可能性があったはずだ。 だが、今そのことについて考えるのは不毛であった。 キュルケたちが今考えなければならないのは、傭兵を追い払った後、フーケのゴーレムを倒す方法。 「まずあたしが、傭兵を追い払うとして……っていうかギーシュ」 キュルケは、どこか気難しそうな顔をしてギーシュに声をかけた。 「あなたこの状況で随分と冷静ね?もうちょっと慌てふためいたり、怖がったりするもんかと思ってたけど」 キュルケの言葉を聞くと、ギーシュは顎を撫でて神妙な面持ちで言った。 「いや、今も怖いよ。もしかしたら死ぬんじゃないかと考えてる。 怖い、確かに怖い。心底恐ろしい……でも」 ギーシュは一度言葉を切って、含みを持たせて続けた。 「ぼくは、もっと恐ろしいものを知っている、だからこの程度なんともないさ」 キュルケとタバサは。不自然なほどまでの説得力を持つギーシュの発言を真摯な態度で聞いていた。 『もっと恐ろしいもの』 それについてわざわざ言及するような野暮なことはしなかった。わかりきったことであったから。 キュルケは頭をかきながら、どこかイラついた調子で言った。 「まったく……あのコはわかってるのかしら。自分が周りの人間にどれだけ影響を及ぼしてるのか」 「わかっていない、無意識」 「ルイズもなんだかんだ言っても、よく物事を見られるようになったし、 ……あたしも、宿敵ヴァリエール家の娘が相手だっていうのに、 どーにも肩を持ちたくなっちゃってるし。なんなのかしらね、あのコは……」 「はっはっは!確かに得体がしれないな! しかし、今囮の役目を果たさないと、彼女に恐ろしいめにあわされることは確かだね!」 「……それは嫌」 歓談のように、バレッタについて話していると、 その空気を断ち切るかのように、矢の雨が激しさを増した。 「……っと、今はこんなこと話してる場合でもなさそうね。とりあえずどうにかしないと。 誰か、フーケのゴーレムをどうにかする策はないかしら?」 キュルケは、そう言ったものの、この現状を打開するような策が、 すぐに思い浮かぶはずがないと思っていた。 だが、ギーシュが顎に手を当てて何かぶつぶつと呟いていた。 「元々、地形を利用して使うつもりで練習していたが、もしかしたらこの場合でも……うーん」 「何かあるの?ギーシュ?」 「いやなに、バレッタ君が土系統の魔法に興味が強いのにちょっと考えるところがあってね、 昨日の晩、色々魔法を試してたのだよ。 バレッタ君は何やら錬金で簡易しょうい弾がどうとかと言っていたが、よくわからなくてね。 ぼくは、ぼくなりにぼくの魔法の新しい使い道を考えていたんだ」 「……で。それが、この状況でどうだって言うのよ?」 ギーシュは、遊びの一切ない真剣な表情で言ってのけた。 「ぼくに一つ作戦がある。二人とも協力してくれないかい?」 「え?」 ギーシュの作戦が、キュルケとタバサに伝えられた。 前ページ次ページゼロの赤ずきん
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2000の技を持つ使い魔 EPISODE02 疾走 膝をつきつつ、自分の左手の甲に刻まれたクウガの印をしげしげと見ていた雄介のそばにコルベールと呼ばれた男が近づくと、雄介と一緒になってしげしげとクウガの印を詳しく見始めた。 「ふむ…… これはルーンなのか? 見たこともない」 そう呟くと、今度は帳面を取り出してクウガの印を詳細にスケッチし始めるコルベール。 「……とにかくおめでとう、ミス・ヴァリエール。 コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 雄介の印をスケッチし終わると、コルベールはルイズに向かってにこやかに言う。 「あ、はい!」 サモン・サーヴァントは何十回となく失敗したが、コントラクト・サーヴァントはなんと一発で成功した。 これが偶然なのか、それとも必然性があったのかはともかく、今のルイズにはコントラクト・サーヴァントが一発で決まったことに満足感を感じていた。 「でもさー、あれ平民だからできたんじゃねーの?」 「あり得るねー、ルイズなら」 「そいつが高位の幻獣とかなら、契約すらできなかっただろーぜ」 そんな小さな満足感をぶちこわすように生徒の内の何人かがはやし立てるのを、ルイズは聞き逃さなかった。 「馬鹿にしないで! 私だってたまには上手くいくわよ!」 ルイズが彼らにかみついたところで、コルベールが待ったを掛けるように割って入ってきた。 「皆そこまで! 兎に角今日はこれにて解散。教室に戻ろう」 コルベールが手をパンパンと叩きながら、生徒たちを教室へと戻るよう促す。 さすがに教師に促されては従わざるを得ないのか、生徒達はそれぞれに呪文を詠唱すると、次々と空へ舞い上がっていく。 中には飛べないルイズに嘲笑と罵声を浴びせる生徒生徒もいたが、ルイズはそれをガン無視。雄介は「人が空を飛ぶ」というあり得ない事を見せつけられて、口をぱくぱくさせながら、あたりをきょろきょろと見渡していた。 もちろん、雄介の視界の中に、トランポリンもワイヤーもクレーン車もない。 「うっそ…… 飛んでっちゃったよ」 コルベールをはじめとした生徒達は、空を浮遊しつつ遠くにある城のような石造りの建物へと飛んでいった。 「……行くわよ、付いて来なさい」 空を飛ぶ生徒たちを見つめ、悔しそうに唇をかみ締めていたルイズが雄介に言うと、一人だけカツカツと道なき草原の中を歩きはじめるの見て、雄介が待ったをかける。 「ちょ、ちょっと、えーと…… ルイズちゃんでいいのかな? 行くってどこに?」 そんな雄介の言葉に、ルイズは心底がっくり来たのか、ジト目で雄介のことを見ながら肩を落としつつ雄介に向かって大声で怒鳴り始めた。 「ご主人様をちゃん付けするなあああああ!! あーもお、何だってっこんなのがあたしの使い魔になるんだろ.もう気分へにゃへにゃよ!」 ルイズにしてみれば、ペガサスだのユニコーンだのワイヴァーンのような美しくて強力な使い魔が召喚されることを望んでいたにもかかわらず、呼び出されて出てきたものといえば、どこか呆けたような感じのする若い平民男子と来た日には、夢も希望も無残に打ち砕かれてへこみたくもなるものだ。 さらに、何でこの目の前の使い魔は、未だにのほほんとご主人様の事を主人とも認識していないのだろうか。 「あー、あのさ。俺、冒険の最中なんだけど…… イヤもうスッゴイ物見せてもらいましたホント。魔法なんてモノがホントにあるなんて知らなかったなもう」 あまつさえ、「冒険の途中にいいもの見せてもらいました」等と抜かしやがりますかこの平民? と今度は怒りがふつふつとルイズの腹の底から湧き起こる。 だが、そんなことを思うご主人様をさておき、使い魔となった雄介は未だに無口なルイズを見やり、致命的な一言を言ってしまった。 「……もう行ってもいいかな?」 ぶちっ、とルイズの頭のどこかで、スイッチがオンになったような、もしくは何かのキレるような音がした。 「だからっ、あんたは、わたしがっ、召喚した使い魔なのっ! あたしの使い魔だから、あたしと一緒に学校に戻るの! 判った!?」 全身でぜいぜいと息を切らして声を張り上げるルイズの言葉が、雄介の脳内に十分浸透して驚愕の声を上げるまでに、たっぷり2呼吸は必要だった。 「……えええええええええ!?」 使い魔になったいきさつを知らない雄介に、ルイズがかいつまんで状況を説明してやると、しばらく困った顔をしていた雄介だったが、すぐ吹っ切れたのか「まいっか」の一言で開き直ってしまった。 その暢気さに呆れたルイズが、踵を返してそのまま徒歩で帰ろうとするのを引き止めたのは雄介だった。 「ちょっとまって。あの城みたいなところに行くって言うなら。歩くよりもこれに乗っていくほうがいい」 「何よ? ホントにそんな物が速いって言うの? その、車輪が二つついた銀色の馬みたいなものが?」 呼び止められたルイズが胡散臭げに雄介のバイク「ビートチェイサー2000」を見ながら言うのを、雄介は気にも止めずにビートチェイサーのハンドルにあるスターターを押して、その心臓である無公害イオンエンジン「プレスト」を始動させる。 すると、パルンッ! と軽く甲高い爆発音と共に、プレストに息吹が吹き返る。 「わあっ!? 何? 何なの今の爆発音?」 雄介にとっては心強く感じるプレストのエンジン音も、バイクを見るのも乗るのもまったく初めてのルイズにとっては、銀色の恐怖の塊でしかない。 そんなルイズを笑顔で手招きする雄介。右手のアクセルを軽く煽って、エンジンを操っているのは雄介である事を証明しながら、ビートチェイサーにくくりつけていたザックの口をあけて、中からもう一つ小ぶりなハーフヘルメットを取り出してルイズに言う。 「大丈夫。噛み付いたりなんかしないから」 雄介に大丈夫と言われて半信半疑だったルイズだったが、雄介がアクセルを煽る事でエンジン音が変わることに気がつくと、雄介が操っているんだという事に気がつく。 バルン、バルルンと雄介がアクセルを吹き鳴らすたびに、初めて聞くエンジンの音と離れていても感じてくる力強さを体で感じ取っていた。 「ホント? これ、何で動いているの? 魔法?」 わずかながらにルイズの中で好奇心が沸き起こる。どう考えても、魔法で動かしてるとしか思えなかったが。 「魔法じゃないよ。ウーン、なんて説明すればいいのかな」 しばらく考えていた雄介が、ぽんと手を打って言う。 「まいっか。それもそのうち、おいおいね。これなら獣よりも速く、空を飛ぶくらいに早く何処にでも行けるよ」 軽く言う雄介の言葉に、ルイズは疑いのまなざしを向けるが、気にせずビートチェイサーに跨った雄介がルイズに言う。 「じゃあ、行こうか。あ、そのヘルメットかぶって、紐は顎の下でしめてね」 言われたルイズがヘルメットをかぶったはいいが、顎紐をしめる事が判らないルイズがおたおたするのを見て、見かねた雄介がビートチェイサーを降りると、自らの手で、ルイズの顎紐をしめてやる。 「こんなもの、かぶった事なんかないからしょうがないか」 顎紐を金具に通して、遊びがないようにしっかりとしめる雄介。紐を締めながら遊びがないかを確認し、ルイズも嫌がったり痛がったりしている様子でもないのを認めると、雄介はサムズアップしながら、またビートチェイサー跨りなおす。 「ん、これでいいの?」 顎紐を締めたルイズが、雄介に訊く。 「うん、それじゃシートの後ろのほうに跨って……… 手をしっかり俺の腰に回して」 ルイズは雄介の言うがままに、ビートチェイサーのシートに横座りして、前に座る雄介の腰のあたりに両手を回す。 「じゃ、いくよ? 手は離さないでね」 雄介はルイズが腰に手を回していることを確認すると、ゆっくりとビートチェイサーを走らせ始めた。 それまで馬しか走った事のない草原を、二つの輪を持った銀色の鉄の馬のような乗り物「ビートチェイサー2000」に跨って、ルイズと雄介は疾走する。 「こ、これ、すごい。馬よりも早い! 何でこんなに速く走れるの!?」 雄介とは違う形の小さな兜を頭にかぶったルイズが、風切り音に負けないように大声出して雄介に聞く。 「うーん、詳しく説明すると長くなるから。それよりまっすぐで良いんだよね?」 雄介はあえてルイズの質問には答えず、ビートチェイサーの行き先が間違えていないか聞き返すと、ルイズはこくこくと頷いた。 雄介にとっては軽く流している程度の速度でも、ルイズにとってはそれまでとはまったく違う視点と感じる風は、驚き以上のものを感じていた。 こんな異形なものが、獣が大地を疾走するよりも速く、空を飛ぶ鳥のように早くこの大地をも疾走できるという雄介の話も、嘘ではなく本当の事なんだと直感的に理解していた。 「すごぉ~い! すごいすごい! フライの呪文よりも速いっ!!」 ルイズの視線の先には、先に飛んでいった生徒達の殿を目で見る事が出来たのだから。 「もっと早く進めないの!?」 ルイズの言葉に、雄介は一瞬躊躇して聞き返す。 「進めるけど、二人乗りじゃそんなに速度は出せないよ!?」 雄介の大声に負けないくらいの勢いで、ルイズは言ってのけた。 「かまわないからぶっ飛ばして!」 そして、この使い魔がすごい事をみんなに見せ付けてやるんだ。ルイズはそう思っていた。 「じゃあ、手をしっかり俺の腰に回して。しがみつくように!」 雄介が叫ぶと、ルイズが雄介の腰に両腕を回してしっかりと掴んだのを確認して、アクセルを吹かしてギアをもう1段上げる。 「うひゃあああああ!??」 たちまちのうちに、スピードを上げて草原の上を疾駆する弾丸と化すビートチェイサー。 ルイズは、しっかりと両腕を掴んでいなければ放されてしまいそうなスピードで、まだゆっくりと空を飛んでいく生徒たちを追い越し、学園へと向かうのであった。
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前ページ次ページアクマがこんにちわ 翌日。 ルイズが授業を受けている頃、人修羅はコルベールの研究室にいた。 人修羅が小型の黒板に図を書き、コルベールがそれを元に練金していく…… 昼頃になると、投げやすい形のナイフが十数個、親指の先端ほどのくず鉄が両手に収まらぬほど出来上がった。 「やはり、焼きを入れた鋼で弓矢を作るのは無理でしたなあ」 コルベールが呟く、見ると、足下やテーブルの上には失敗作と見られる鉄くずが幾つも転がっていた。 「すみません、無理を言ってしまって。でもこれだけ武器があればだいぶ楽になります」 「いや、君の意見は斬新でとても興味深い、見聞を広める意味でもこういった機会が得られたのは嬉しいのだよ。しかし、手加減のために武器が必要だとは、何ともまあ…」 人修羅は苦笑いすると、投げナイフを手に取り、バランスを確かめていく。 武器を持つと、左手の甲に浮かんだルーンが輝き始める…同時に、今までの戦いでは得られなかった『極めて精密な力加減』が人修羅の体へと浸透していった。 人修羅は、研究室の壁に立てかけられた木の板に向けて、ナイフを投げた。 絶妙な力加減で投げられたナイフは、的に見立てた節の部分に命中した。 「このルーンは凄いな。投げナイフなんて扱ったこともないのに、力加減が解る」 コルベールはその様子を見て、顎に手を当て頷いた。 「伝説とされていたルーンですからな。まったく素晴らしいものです。ですが武器だけというのは、些か残念でなりません」 「ああ、コルベール先生もそう思います?」 「戦争と武器だけでは、生活は豊かになりませんから」 コルベールはそう言って笑った、が、それはどこか寂しそうな笑みだった。 人修羅はそれを察したのか、そのことについて追求すべきでないと考え、何も言わなかった。 ◆◆◆◆◆◆ そしてその日の夜……。 人修羅は簡易ベッドの上に座り込み、革製のベルトや、道具を入れるポケットを確認していた。 慣れぬ手つきで、革製の袋に針と糸を通し、ベルトに下げられるよう加工していく。 今度シエスタに裁縫を習おうかなぁ、と思いつつ、ちらりとルイズの方を見つめる。 なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった、立ち上がったと思ったら、再びベッドに腰かけ、枕を抱いてぼんやりとしている。 姫様が来るからだろうか、授業が終わって部屋にこもるなり、ルイズはずっと落ち着きがない。 「焦っても仕方ないぞ」 人修羅が言った、しかしルイズは枕を抱きしめて、じっと黙っている。 ずいぶんと緊張しているんだろうなあ…と考えていると、ドアがノックされた。 規則正しく扉が叩かれる、初めに長く二回、それから短く三回……。 ルイズの顔がはっとした顔になった。 急いで枕をベッドに置くと、身だしなみを整えて、立ち上がりドアに手をかける。 ゆっくりとドアを開くと…そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった、少女だった。 辺りの様子を伺うと、そそくさと部屋に入り、後ろ手に扉を閉めた。 「……あ」 ルイズは何かを呟こうかと、声を上げたが、頭巾をかぶった少女が口元に指を立て、しーっと沈黙のジェスチャーをした。 そしてすぐ、頭巾と同じ黒いマントの隙間から杖を見せると、ルーンを詠唱して振りかざした。 光の粉が、部屋に舞う。 「あっ、ディティクトマジックは!」 ルイズが慌てたが、頭巾の少女はなんのこともなく、ただ頷いた。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 少女はディティクトマジックで、部屋の中に聞き耳を立てる魔法の耳や、どこかに通じる覗き穴がないことを確かめたらしい。 頭巾を取り顔を見せる…現れたのは、アンリエッタ王女だった。 ルイズは慌てて跪き、王女の顔色をうかがった。 「姫殿下!あの、おかげんは…気持ち悪いとかそういったことはございませんか」 アンリエッタは首をかしげつつも、心地よい声で言った。 「おかしなことを聞くのね、私は元気に…いいえいつもより元気よ、貴方に会えるのを楽しみにしていたのですから。ルイズ・フランソワーズ」 ルイズはほっと安堵のため息をついた。 ディティクト・マジックで人修羅を調べたミス・ロングビルは、とんでもないモノが見えて卒倒してしまったのだから、姫様も同じように気絶する恐れがあった。 ちらりと後ろを見て、人修羅の様子を確認する…、そこには開け放たれた窓のみがあった。 どうやら人修羅は、窓から逃げ出したらしい。 ◆◆◆◆◆◆ 「うわあっ!?」 どすん!と音を立てて中庭に着地すると、隣から誰かの声が聞こえた。 「あ、悪い。驚かせた」 人修羅は軽い調子で謝ったが、その誰かは驚いて腰を抜かしたのか、杖と花束を地面に落とし、しりもちをついたまま人修羅を見上げている。 「……き、君はなんだね!?ミス・ツェルプストーの部屋から飛び出てくるなんて!」 「へ?いや、俺はルイズさんの部屋から出てきたんだけど」 「なんだと…」 男は、魔法学院の生徒らしかった、杖を拾い上げると寮塔を見上げ、二つ並んだ窓を見つめる。 「では、向かって右側がツェルプストーで、向かって左側がゼロのルイズか。危なかった、勘違いして覚えていたようだ」 こんな時間に女性の部屋を訪ねるとは、夜ばいだろうか? しかし、よく見ると男は花束を持っている、夜のおつきあいか、紳士的な夜ばいという所だろう。 「ルイズさんの部屋は見ないでくれよ」 「ふん。ゼロのルイズには用はないさ、このベリッソンは灼熱の美女に用があるのだからね!」 そう言うと、ベリッソンと名乗る貴族は、レビテーションを唱えてゆっくりと上昇していく。 ツェルプストーの部屋から炎が飛び出すのは、その二十秒後であった。 ◆◆◆◆◆◆ そのころ、ルイズの部屋では… アンリエッタ王女が、感極まった表情を浮かべて、ルイズを抱きしめていた。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけませんわ。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」 「ああ!ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはおともだち!おともだちじゃないの!」 <<中略>> まるで歌劇のように、抱きしめて、離れて、くるくると回って再会を喜んだ二人。 しばらくして落ち着いたのか、二人はベッドに並んで座っていた。 王女アンリエッタが愁いを帯びた表情で呟く。 「ごめんなさいね……、あなたに話せるようなことじゃないのに……、でも、貴方にだけは、私の秘密を共有できるおともだちにだけは、聞いて欲しかったの……」 ルイズはアンリエッタに向き直ると、静かな口調で…しかし力強く言い放つ。 「おっしゃってください。幼い頃から明るかった姫様が、そんなため息をつくのには、姫様だけの苦悩がおありなのでしょう?私をお友達と呼んでくださるなら、私は姫様の…いいえ、アンのおともだちとして話を聞くわ」 「…わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」 アンリエッタは決心したように頷くと、語り始めた。 アルビオンの王室が、貴族派に追いつめられていること。 貴族派は、エルフからの生地奪還を掲げる『レコン・キスタ』という組織を形成していること……。 アルビオンが陥落したら、次は間違いなくトリステインが狙われるはず…迫り来るアルビオンに対抗するためゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと……。 そのため、アンリエッタはゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったこと……。 「ゲルマニア!あんな野蛮な国に……そうだったのですか……」 ルイズは沈んだ声で言った。アンリエッタの悲しげな口調からも、結婚を望んでいないのが明らかだったからだ。 「いいのよ。ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、夢の中でしか許されないのですわ」 「姫さま……」 そうして、アンリエッタは、ゲルマニアとトリステインの同盟を妨害する、ある手紙の存在を話し出した。 それは、アルビオンの皇太子、ウェールズ・テューダーに当てた手紙であった。 内容は話せぬとしておきながらも、アンリエッタがウェールズを思い、目に涙を溜める姿は、その手紙が恋文であると思わせるに十分だった。 しかもその手紙は、今にも倒れそうな王室の、皇太子が所有しているという。 「ああ!破滅です!ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ!そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう!そうなったら破滅です!同盟ならずして、トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなるのです!」 ルイズは息をのみ、アンリエッタの顔を見つめた。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」 「無理よ!無理よルイズ!ああ…わたくしったら、なんて事を言ってしまったのでしょう!貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば何処にでも向かいます!姫さまと、トリステインの危機を、ラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、決して見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズアンリエッタの前み立つと、ゆっくりと跪き、恭く頭を垂れた。 「このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」 アンリエッタは目に涙を浮かべると、ルイズの手を取った。 「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ!」 「もちろんですわ! 姫さま!」 二人が見つめ合い、お互いに感激に目を輝かせていると、突然部屋の扉が開かれた。 ◆◆◆◆◆◆ 「何やってるんだお前ら」 「うわ!」「し、静かにっ」 そろそろ良い頃かと思い、ルイズの部屋へと戻った人修羅は、扉にべったりとくっついて聞き耳を立てている二人の生徒を発見した。 すかさず右腕で丸っこい生徒…マリコルヌの頭を抱える。 左腕では、バラの造花を持った生徒…ギーシュの首に腕を回し、ゆっくりと締め上げた。 「 そ れ が 貴 族 の や る こ と か? ああん?」 「~~~~っ!!!!!」「痛ったったったたたっ!」 ギーシュは声も出せず、苦悶の表情を浮かべ、マリコルヌは頭を締め付けられ悶絶した。 「マリコルヌ、お前、誰にも言うなって言ったよな」 「か、勝手に付いてきたんだ、ボクは悪くない!」 「悪いわ!」 人修羅はギーシュに顔を向ける。 「おい、中でなんの話をしているか、聞いたのか?」 「当然だ、こんな夜更けに姫様を見つけたら、気になるに決ま……ぐぇっ」 人修羅は、はぁーと盛大にため息をつく。 そして、行儀が悪いと思いつつも足で扉を開けた。 「立ち聞きしていた不審者をお連れしました」 「まあ!」 「人修羅?そっちはギーシュと…マリコルヌ?」 ルイズは慌てて立ち上がると、人修羅が連れてきた二人を見下ろした、マリコルヌは完全に気絶しているが、ギーシュは人修羅の腕を外そうともがいている。 「外に捨ててきて」ルイズが冷たく言い放つ。 「いや、そういう訳にもいかないだろう」 人修羅は気絶したマリコルヌを床に下ろすと、ギーシュを抱える腕から力を抜いた。 するとギーシュは、ルイズの様子など気にもせず、姫様に向かってまくしたてる。 「薔薇のように見目麗しい姫さまのあとをつけてきてみればこんな所へ……、どうか姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 「え? あなたは……グラモン? あの、グラモン元帥の?」 アンリエッタが、きょとんとした顔でギーシュを見つめる。 「息子でございます。姫殿下」 ギーシュは立ち上がると、恭しく一礼した。微妙に声が苦しそうなのは気のせいではない。 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑む。 「ありがとう。お父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! トリステインの薔薇の微笑みの君が!このぼくに微笑んでくださった!」 ギーシュは感動のあまり、後ろにのけぞって失神した。 「首を絞めるまでもなかったなあ…大丈夫かコイツ」 人修羅はギーシュの頭をつつくと、マリコルヌの隣に引きずって、並べた。 「ところで、貴方は…話からするとルイズの知り合いのようですが」 「姫さま、ええと……人修羅といって、東方よりはるか遠くからきた、私の使い魔…です」 ルイズは少し言いにくそうに、人修羅を紹介した。 「使い魔?」 アンリエッタはきょとんとした面持ちで人修羅を見つめた。 「人にしか見えませんが……あら、不思議な模様が見えますのね、それは貴方の国の装飾なのかしら」 「一応、人です。姫さま」 「装飾じゃないんですが…ルイズさんの紹介の通り、人修羅と言います」 人修羅は床に正座して、アンリエッタに一礼した。 「ふふ……ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね。人を使い魔にするなんて聞いたことがないわ」 「私も驚いてます…」 アンリエッタは人修羅に向き直ると、笑顔を見せる。 「使い魔さん」 「はい?」 「わたくしの大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」 そう呟いて、すっと左手を差し出した。 手の甲を上に向けている…これはいったいなんのジェスチャーだろうか? ルイズが驚いた声で言った。 「ひひひ姫さま!使い魔にお手を許すなんて!」 「いいのですよ。使い魔とメイジは一心同体、この方もわたくしのために働いてくださるのです、忠誠には、報いるところがなければなりません」 人修羅は後頭部を掻いて、申し訳なさそうに視線を下げた。 「すまないが…お手を許すって、どういう意味なのか解らない。ルイズさんから教わっているが、まだハルケギニアに来て間もないので」 ルイズは人修羅の隣に移ると、小声で囁く。 「ええと、お手を許すってことは、キスしていいってことよ。砕けた言い方をするならね」 「キス!?……ああ、手にか、手だよな? びっくりした」 「あんた何想像してるのよ!」 人修羅はルイズに頭を叩かれ、いてっ、と声を漏らした。 その様子がおかしかったのか、アンリエッタはにっこりと笑っていた。それは民衆に見せるような…いわゆる営業スマイルとは違っていたかもしれない。 ◆◆◆◆◆◆ 人修羅が『風習の違い』という事で、手の甲へのキスを遠慮すると、ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直った。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなたがたの目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 二人の会話を聞いていると、人修羅はテレビで見た皇室の様子を連想する。 よくもまあ、尊敬語とか謙譲語とかで、すらすら会話ができるもんだ… アンリエッタは机に座り、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためていく…。 人修羅はその間、気絶したマリコルヌとギーシュをどうしようか考えていたが、いつの間にかルイズとアンリエッタの会話は終わっており…アンリエッタを見送るついでに、二人を部屋に放り込んでおくことにした。 ◆◆◆◆◆◆ 朝もやの中で、人修羅は季節はずれなコートを身に纏って、ルイズとギーシュが馬に鞍をつけるのを見ていた。 人修羅のコートはオールド・オスマンが用立ててくれたモノで、中にはいくつものポケットや留め具があり、武器や道具を仕舞っておくことができる。 マリコルヌは、早朝にたたき起こし、誰にも喋らないようしっかりと注意しておいた。 まあ、下手をすると戦場を突っ切るかもしれないと理解していたので、マリコルヌはこの任務に付いてこない気だった。 今頃は部屋で二度寝しているだろう。 『それにしてもアルビオンか、相棒、やりすぎて地面を割るなよ』 背かからデルフリンガーが声をかけてきた。 「そこまでしないよ。…たぶん。…おそらく」 人修羅は自信なさげに答えた。 試したことはないが『地母の晩餐』を全力で放てば、大陸ぐらいは崩壊するのではないだろうか。 もし浮遊する大陸で大技を使ったら、どれだけの命が巻き添えになるか想像もできない。 ちなみに人修羅は、馬を借りず、自分で走る予定だ。 そんなとき、ギーシュが、困ったように人修羅へと言った。 「お願いがあるんだが……ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」 「ヴェルダンデか? 確か、ジャイアントモールだよな…地面を掘って付いてくる気かよ」 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」 ルイズがそう呟くと、地面がもこもこと盛り上がり、巨大なモグラが姿を現した。 大きさは小さいクマほどである。 「そうさ!ああ、ヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 嬉しそうにヴェルダンデが鼻をひくつかせる、するとギーシュは頬を寄せて頭を撫でた。 「そうか! そりゃよかった!」 そんな様子のギーシュに、ルイズは呆れたように呟く。 「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」 「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」 「いくら早く掘り進めても駄目よ、わたしたち、馬で行移動するし、目的地はアルビオンなのよ」 ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をつき、ヴェルダンデと見つめ合う。 「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」 そのとき、ヴェルダンデは鼻をひくつかせ、臭いを辿るようにしてルイズに擦り寄る。 「な、なによこのモグラ…ちょ、ちょっと!」 巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐり始めた。 「や! ちょっとどこ触ってるのよ!」 ルイズは体をモグラの鼻でつつきまわされたが、すぐに人修羅がヴェルダンデを引きはがした。 「こらこら、何をするんだ、いきなり。 …なに?良いにおいがした?」 ギーシュはそれを聞いて、納得し頷いた。 「なるほど、ミス・ヴァリエールの指輪に惹かれたんだろう。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」 「解ったから、今度は押し倒す前に止めような! ルイズさん大丈夫か」 「だ、大丈夫よ。ちょっとビックリしたけど。ギーシュ!あんた使い魔のしつけはちゃんとしなさいよね」 「はははごめんごめん。ヴェルダンデは愛らしくて、つい叱るのを忘れてしまうんだ」 うー、と犬のように唸るルイズ。 嫌みのない笑みでヴェルダンデを撫でるギーシュ。 人修羅はそんな二人組みを見て、呟いた。 「大丈夫かこのメンバーで」 バサッ 「ん?」 離れたところから聞こえる羽音に気が付き、人修羅が辺りを見回す、すると、グリフォンに乗った貴族がこちらへ近づいてきていた。 「ルイズさん、ギーシュ、誰か来たぞ」 ギーシュは驚いて杖を抜き、グリフォンを見た。 ルイズも驚いていたが…その様子はギーシュとは違っていた。 グリフォンをルイズ達の手前に下ろすと、その貴族は帽子を取って声を発した。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 灰色の頭髪、蓄えられた髭、長身……非の打ち所のない貴族であった。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 口を開きかけたギーシュは、相手が格上の存在だと知って、慌てて頭を下げた。 魔法衛士隊は王族の親衛隊でもあり、トリステイン全貴族の憧とも言える存在であった、それはギーシュにとっても例外でない。 「ワルドさま……」 ルイズが、震える声で言った。 「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」 人修羅はぽかーんと口を開けて、ワルドと名乗る男の台詞を聞いた。 僕のルイズ!という台詞はなんか犯罪的だ。 ワルドは人なつっこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、軽々と抱え上げた。 「お久しぶりでございます」 ルイズは、頬をピンク色に染め、ワルドに抱きかかえられている。 「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」 「……お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深に被った。 ルイズは緊張しながら、ギーシュと人修羅の二人を紹介する。 「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな。ぼくの婚約者がお世話になっているよ」 ワルドは気さくな感じで人修羅にに近寄った。 「あ、どうも…って、婚約者でしたか。」 人修羅は苦笑いを浮かべた、ワルドはその様子を見るとにっこり笑い、ぽんぽんと肩を叩いた。 「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? なあに! 何も怖いことなんかあるもんか。この僕がついているさ」 そう言って、ワルドは笑う。 そんな様子を見て……人修羅は、心の中の叫びを口に出さぬよう、必死で我慢し続けていた。 僕のルイズ? 婚約者? つまり… ロ リ コ ン だ ー ! 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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名前 カルイの契約書 抽選で★4以上のキャラクター1体を仲間にできる 抽選内容 【★5キャラクター】 ティア、シルエラ、ライオ、ミリア、ジゼル、チェルシー、リーナ、 ヴィスコ、プラチナ、ユイ、クレイ、アリエット、カレン、ロア、アキラ、 メイコ、サーシャ、エーディン、トルナド、ブロンゾ、ラファル、ピピン、 ステラ、ハッカ、バステト、アリス 【★4キャラクター】 クラウディア、ミケ、ビーノ、イムベル、バーロ、イルミナ、バーバラ、 アイゼン、プルイーナ、ペルル、ルリア、シャル、イリュメ、アイラ
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前ページときめき☆ぜろのけ女学園 (タバサに人間だって知られちゃったわ。このままじゃ他の妖怪にもバレて、襲われちゃうかもしれない。食べられちゃうかもしれない) そんな事を考えつつ、ルイズは布団に包まっている猫耳の少女を見据えていた。 (そんなの絶対に嫌!! そんな事になるくらいなら、私は、キリと同じ猫股になるわ!) 決意を込めて布団をめくり上げるルイズ。 そこでは、キリと同じ猫股だが別の少女が静かな寝息を立てていた。 (ま、間違えたああ!) ルイズは頭を抱え心中で絶叫する。 その時、背後で襖が開く音がした。 「ひ……っ(誰か来たっ!!)」 慌ててキリの掛け布団に潜り込む。 「……ル、ルイズ?」 文字通り「頭隠して尻隠さず」という状態になっている何者かの正体を匂いで看(?)破し、キリはそう声をかけた。 「……キリ」 「ルイズ! そんなかっこで何してんの!?」 「これは~、その~」 キリに尋ねられたルイズがしどろもどろになっていると、 「ううん……、うるさいな……」 もう1人の猫股が寝ぼけ眼で体を起こした。 「キリ? どうかした?」 ルイズはそれより一瞬早くキリの布団に潜り込み、キリは何事も無いように装って答える。 「あ……、暑くて水飲んできた。ごめん……、起こしちゃった?」 「あ……、そ」 猫股はそう答えると即座に眠りについた。 安堵の溜め息を吐いたキリは、 「ルイズ、今のうちに部屋戻ろう」 と布団の上から声をかけるもルイズの反応は無い。 代わりに自分の下半身に奇妙な違和感を覚え始めたため、布団をめくる。 「ちょ……、ルイズっ、何してるの!?」 「し……、下のお口っ!」 そこではルイズがキリのスパッツを下着ごと脱がそうと引っ張っていた。 「は!? ええっ!? ええええええ?」 「下のお口……、下のお口ってどれ? どこ? どうしたらいいの!?」 「ルイズっ、どうしちゃったの? 落ち着いて!!」 ルイズの突然の行動に混乱しつつも何とか落ち着かせようとするキリ。 しかしそんな彼女にルイズは、 「私、猫股になるって決めたの……!!」 と自分の決意を告白した。 「え?」 呆気に取られたキリ。そこに、 「むにゃ……、うるさいな……」 先程の猫股が目を擦りつつ再度体を起こした。 2人は即座に布団を頭まで被って狸寝入りを決め込む。 「……あれ?」 周囲を見回した猫股が三度眠りにつくと、 「………」 「………」 しばらく息を潜めてからルイズ・キリは会話を再開した。 「ねえルイズ、自分の言ってる事わかってる?」 キリからの問いかけにルイズは赤面しつつ頷く。 「猫股になったら、もう人間には戻れないんだよ? それでもルイズは本当に猫股になりたいの?」 (他の妖怪に襲われるくらいなら、猫股の方がいいに決まってる) 心中でルイズはそう呟き、キリからの再度の問いかけに再び決意を口にする。 「キリ……、私を猫股にして」 その言葉にキリはルイズをそっと抱きしめる。 「ありがとう、ルイズ。私凄く嬉しいよ」 「キ……、キリ」 そして2人はそっと口づけ合う。 (だから……、だから……、これでいいのよね……) キリが優しく胸を揉む感触に耐えられず、ルイズの口から声が漏れる。 「ふ……っ、うん、キ……、キリ、どうして胸を触るの? 下のお口……でしょ?」 「だって気持ちいいでしょ。ほら……、下のお口も気持ちいいって言ってる」 「やんっ!」 嬌声を上げたルイズの口を自分の口で塞ぐキリ。 「ふっ、んっ、やあ」 「ルイズ、声出したら駄目」 「んん」 キリはそっとルイズの下半身に手を伸ばしていく。 (何これ何これ、こんなの初めてよーっ!! き……、気持ちいいよ~!) さらにキリの口がルイズの胸を攻める。 「はっ、キリ……、駄目、もう駄目。あ、お願い、早く猫股にしてっ!」 「ルイズ、可愛いな。無理なら今日はもうここまでにしよ?」 「だ……、駄目っ。だって……、だって、タバサに人間だって知られちゃったから、私早く猫股にならなきゃ!」 「……タバサに……、だからそれで突然……」 そう呟いたキリはそっとルイズから離れ起き上がる。 「キリ……?」 「ルイズ、駄目だよ。そんなの駄目だよ」 「キリ……、駄目って……、どうして!? だって私猫股にならなきゃ他の妖怪に……っ」 「タバサには私から話をつけてくるから大丈夫」 「でも……」 「だからそんな理由で妖怪になるなんて言わないで!!」 キリが荒げた声にまたも隣で寝ていた猫股が体を動かす。 「キリ……、声大きいよ……。うううん……」 その声に一瞬沈黙した2人だったが、ルイズの方から声をかける。 「……何か怒ってる?」 「………」 しかしキリはそれに答えず布団に潜り込んだ。 「もう寝よう。今日はここに泊まっていっていいから」 「キリ……」 ルイズも仕方なく布団に潜り込む。 (タバサに知られちゃった事も、キリの様子がおかしかった事も心配なのに――) しかしルイズの頭の中は先程のキリとの事でいっぱいになっていた。 (あんなに気持ちいいなんて……。どうしよう、もっとしたい!) その夜、ルイズは一睡もできなかった。 前ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 《その日 私の人生は終わりを告げた――》 「ねぇ、ルイズ。私が召喚したこのコ、とっても可愛いわよ」 モンモランシーが、ルイズに手の平に乗せた蛙を見せびらかす。 「きゃ、そんなもの、見せないでくれる!『洪水』のモンモランシー」 ルイズは軽く悲鳴を上げて、嫌がりながら言う。 「誰が『洪水』ですって!わたしは『香水』のモンモランシーよ!」 「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いのよ」 ルイズは同じ歳の学友に軽口を叩く。 《直前まで―― そんな気配も なかったのだ》 「ルイズ。まだあなた、召喚が出来ていないの?」 キュルケがこれみよがしに大きな火トカゲの頭を撫でながら、ルイズを冷やかす。 「あんたなんかに負けない位、立派な使い魔を召喚してやるんだから、待ってなさい!」 ルイズは宿敵に負けじと、声を張って言い放ち、鼻をフンッと鳴らす。 《貴族の子弟が集うこのトリステイン魔法学院で―― どうにかやってきたのだ》 「ミス・ヴァリエール、あなたで召喚の儀式は最後です。心して使い魔を呼び出すのですよ」 監督役の教師であるコルベールは、穏やかにそれでいて厳しく、ルイズに召喚を行う様に促す。 《なのに 春の使い魔召喚の儀式―― その日》 ルイズは何度目かの召喚呪文を唱え、杖を振るう。 「宇宙の果ての何処にいる私の下僕よ。神聖で美しく強力な使い魔よ。私は心より求め訴えるわ。我が導きに答えなさい!」 《多くを望んでなどいなかったというのに》 杖を振るった時、空の一点が瞬き、そこから何かが物凄いスピードで落ちて来たのを、その場にいた面々で気付く者は少なかった。 ルイズの目の前に、これまでを超える大きな音と土煙が広がる。 その中心に、子供の様な人影とその後ろに控える大きな影が見えた。 土煙が晴れると、そこにはコップを持った年端のいかない『鎖が繋がった首輪を付けた』少女が立っていた。 《突然に その少女は やってきたのだ》 「お水を…ください…」 「な、に?」 ルイズは、自分が召喚したものと、それの発した言葉に惑乱する。 ・・ 「ぼくは――”力”、あなたが望む全てを手に入れられる”力”。だから、ぼくとひきかえに水を…いっぱい…」 その少女は、真っ赤な大きな布で体を包み、右肩でその布の端を結び、腰や脚に沢山のベルトを巻き付けた、身窄しい格好をしていた。 背や体型からして、12歳位だろう。茶を帯びた金髪のショートヘアで、顔には、手入れされていない太めの眉毛と、明るい緑色の大きな瞳が目立つ。 「なん、ですっ…て?」 《そして私は混沌と とまどいの中で…》 《その日コップ一杯の水と その中に映る”全て”とを交換したのだ》 「うわっ、なんだ?あの娘?」「ルイズが召喚したの?」 周りで見ている生徒達から次々に疑問の声が上がる。 「”主(マスター)”が…傷ついています…。お願いです…水を」 少女が手に持ったコップを差し出しながら、心細い声を発した。 「その娘の後ろ!何かいる」 誰かがそう叫ぶ。 布を覆われた大きなものが呻き声を上げ、躯を引き擦りながら少女に近寄っている。 生徒達は驚懼の声を出して、ルイズが召喚したものから離れていく。 それは布を被った、躯が甲殻で形作られた、首の長いドラゴンだった。 布の下から見える脚や複眼、光沢を持つ青黒色の甲殻が昆虫を思わせる。 「きゃあぁ!怪物っ!」「生きてる?ドラゴンだぁ」 離れた生徒達から悲鳴が上がり、最も近くにいたルイズも後退る。 「待ってください。お願いっ…”主(マスター)”は…、もう命の火が消えかけています!じきに…死んでしまう!最後の願いなんです。ぼくに何かしてあげられる最後の機会なの。」 少女は叫び、瞳に涙を溜めて嘆願する。 (なぜ…その時、そんな気になったのかは…自分でもよくわからないけれど、その娘の瞳と、息苦しそうなそのドラゴンの姿をみていると…) 「……水?ね」 ルイズの言葉に少女は深く首肯する。 そして、ルイズは少女からコップを受け取った。 「ねぇ、モンモランシー。水を作ってくれるかしら?」 ルイズは生徒達の方を向き、知り合いの水メイジに水の初歩的な魔法を使う様に頼む。 「お願い、貴女が頼りなの。『香水』のモンモランシー」 「判ったわ、ルイズ。水メイジの魔法を見てなさい」 モンモランシーは、他人にそうそう頼る事のないルイズの願いに答え、杖を振るう。 宙空に水の塊が生じ、コップの中に注がれていく。 それをルイズは少女に渡そうとした瞬間、横からルイズ達の手を噛み付かん勢いで、息苦しそうにしていたドラゴンがコップを咥える。 ルイズは手を噛み付かれそうになり、恐怖から尻餅を突いてしまう。 ドラゴンはその長い首を高々とのけ反らせ、喉を鳴らして水を飲み、空のコップを口で投げ捨てる。 「うまい…水であった」 ドラゴンは躯が軋む音を立てながら、湧き出る泉の様にこつこつと喋り出す。 ルイズ達はそのドラゴンが喋る事に驚いていた。 魔法成功確率0%のルイズが、伝説的な幻獣の韻竜を召喚したからだ。 その場に居たもの全てが、韻竜の弱々しい声を聴き漏らさんと、耳を傾ける。 「かつて、千の星をめぐり、千億の命を殺めた…。その名を轟かせ、銀河そのものをも手にせんとしたわれが、最後に手にせしものが…、たった一杯の水だったとはな…」 しかし、その韻竜の口から漏れ出る言葉は、狂人の譫言より理解しがたい話であった。 ルイズを含め耳を傾けていた多くの生徒達は、『ルイズ(自分)』が何処の芝居小屋から『連れて来(召喚し)』た、物乞い役の少女と張りぼてのドラゴンだと思った。 「だが…それは今われが望みし、全てのもの…。裏切りと謀略の人生にあって…、手に入れた唯一の真実」 『龍』は、少女を突き飛ばし、腰が抜けたルイズにその少女を寄越す。 「受け取れ!全てには全てをもって応えよう。”黄金の下僕”ミュズ…、わが手に残る最高傑作!銀河最強を誇る”黄金の船”ネクシート号の”舵輪(ヘルム)”にして、”黄金の地図”ネクストシートそのもの!」 抱き留めたルイズと受け止められたミュズは、『龍』の言葉と、見知らぬ人と抱き合っている状態に、お互い困惑の表情を浮かべている。 「宇宙の…全ての神秘と真実を手に入れる。そのチャンスと力をおまえは今…、手に入れた。おまえのような奴にやっても無駄だろうがな! ハハハ! くだらない! 意味がない! おもしろい…」 『龍』の躯は、ジュウウジュウウと音を立て、濁った泥の様な煙を吹かし、甲殻の隙間からドロドロとした液体を垂らしている。 「だが…、われを裏切った者どもにだけは…くれてやらぬ…のだ。ハ ハ ハ あとは…好きにしろ…」 『龍』の硬そうな甲殻がボロボロに崩れ、ドロドロとした液体が滝の様に流れ出す。 「きゃあっ、とっ とける」 ルイズは『龍』の様子に驚き、悲鳴を上げる。 「ファ…”一枚目の地図(ファーストシート)”に気をつけろっ」 『龍』は不可解な言葉を残して事切れ、グッシャアァと音を立て、その躯が自重から地面に叩き付けられた。 コルベールや幾人かの生徒がルイズに近寄ってくる。 「ルイズ!」 「あ…とけちゃった、完全に。ううう」 ルイズは緊張の糸が解け、今更になって恐ろしくなりブルブルと震える。 「ミス・ヴァリエール、ケガはありませんか?」 コルベールに名を呼ばれ、ルイズは混乱した頭が現実に引き戻されて、ミュズをぎゅっと抱き締めている事に気付く。 ミュズは眼を潤ませ、ぼんやりと虚空を見つめていた。 「きっと、ヒトはこれを悲しいというのでしょうね…」 ミュズはルイズの視線を感じ、まるで自分が『ヒト』では無い様な口振りで呟き、手の甲で目尻を拭う。 「こんなヒトでも、ぼくの親だったから。でも、ぼくは…生まれたてだから、まだよくわからない…や……」 「生まれたて え?」 ミュズは愛想の良い顔をして、不思議な事を言いながら、ゆっくりと立ち上がる。 ミュズのその不思議な言葉から、既に立っていたルイズの頭に疑問符が浮かぶ。 「ありがとう、願いをきいてくれて。これでぼくはあなたのものになりました。さあ!どこへなりとも」 「ちょちょちょっと待って!まだ話がさっぱりみえないわ」 ルイズは、上目使いで緩く握った右手を胸に当てた異国の礼儀の様な振る舞いをするミュズの、隷従発言に当惑する。 ミュズと呼ばれる少女、ドロドロに溶けた張りぼてのドラゴン、その一人と一頭の不可解な言葉。 何が事実で何が偽りか、ルイズは冷静にこの事態を考えれば考えるほど、納得のいく話が思い浮かばない。 「きゃー。何を言っているの、あの娘」「そーだ!ずるいぞ、ルイズ!」 「ちゃんと説明し「そんなのゆるさないぞ」「ひとりじめはいかん!みんなでわけるのだ」」 「うるさい!外野は黙ってなさいっ!」 周りの生徒達、特に男子の一部が騒ぎ立てるので、ルイズは腹を立て怒鳴り声を上げる。 ミュズに待つように告げると、ルイズは状況を静観しているコルベールの方に詰め寄って行く。 「ミスタ・コルベール!」 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「あの!もう一回召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず、彼女を使い魔にするしかない」 「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!それに私が呼び出したのは、溶けてしまったあのドラゴンかも知れません!」 ルイズは自分が偽物だと思っている事を棚に上げ、『ドラゴンを召喚した』と主張する。 「何を言っているのかね、ミス・ヴァリエール。彼女は『ぼくはあなたのものになりました。』と言ったではありませんか?これこそ、彼女が使い魔として召喚に応じた証拠ですぞ」 「そんな……」 ルイズは、コルベールの強引な理屈に押し込まれ、がっくりと肩を落とした。 「さて。では、儀式を続けなさい」 「えー、彼女と?」 「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は儀式にどれだけ時間をかけたと思ってるのだね?いいから早く契約したまえ」 そうだそうだ、と外野から野次が飛ぶ。 ルイズはミュズの顔を困ったように見つめ、諦めた様に目をつむる。 手に持った小さな杖をミュズの目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と呪文を唱え、すっと、杖をミュズの額に置いた。 そして、ゆっくりと顔を近付けていく。 「何をするんですか?」 「いいからじっとしてなさい」 戸惑うミュズに怒り声で、ルイズは叱り付け様に言った。 ルイズはミュズの頭を左手でがっと掴み、唇を合わせる。 「終わりました」 ルイズが唇を離すと、恥ずかしそうに言い放つ。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできましたね」 コルベールが嬉しそうに言った。 「相手が只の平民だから、『契約』できたんだよ」「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんてできないって」 何人かの生徒が笑いながら言っている。 ミュズは、ルイズが野次っていた生徒達を睨みつけ怒鳴っている光景を、未知の現象が起きたかの様に珍しそうに見つめていた。 その時、不意にミュズは自らの頭を抱える様にうずくまる。 「あ、ああ…。『データ』が流入する…!『プログラム』が書き加えられる…」 ミュズは途切れ途切れに弱々しい声を漏らすと、ずるりと地面に横たわった。 その様子を見ていたコルベールは慌ててミュズに近寄る。 ルイズもコルベールに続くと、倒れているミュズに心配そうな顔をする。 「ふむ……。『使い魔のルーン』が刻まれた痛みで、気を失ってしまった様ですね」 片膝を付いたコルベールはミュズの口元に手を近付け、呼吸をしている事を確認した。 「ふむ……。珍しいルーンだな」 コルベールは、気を失っているミュズの左手の甲をしげしげと確かめる。 そうすると、素早く立ち上がり踵を返し、生徒達に号令を掛ける。 「さて。じゃあ、皆さんは教室に戻りますよ」 多くの生徒達は宙に浮かび、トリステイン魔法学院に向かって飛んでいく。 「ミス・ヴァリエール。この娘は私が医務室に運んでおきますから、貴女も教室に戻りなさい」 コルベールは杖を振るい、ミュズを宙に浮かべると、ルイズ次の授業に参加する様に促す。 やむを得ず、ルイズはコルベールの言葉に頷くと、とぼとぼとトリステイン魔法学院へ戻って行った。 おまけ リプリム … ルイズ エイブ … 才人 スソクホウ … シエスタ ゲン … ギーシュ リム(一人二役) … ケティ 星見 … モンモランシー リプミラ … キュルケ シアン … タバサ 息子たち … ギーシュの悪友 ゲン「なんだこりゃ?」 エイブ「ああ、新しい寸劇のキャスティングですよ。地球のファンタジーを題材にしてみたんです」 リプミラ「私の衣裳の露出、少ないな」 リム「主役はいいんだけど、ややこしい役ね」 星見「私の役、出番少なくない?」 ゲン「俺はこんな浮気者じゃない!」 (全員の意見を無視して)エイブ「問題がありまして、話が長くなりそうなんですよ」 ゲン「それは『指輪物語』より長いのか?」 エイブ「小説が文庫で15冊、漫画が単行本で5巻、アニメで3期38話」 ゲン「ミョーに具体的だな…」 ちゃんちゃん 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
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前ページ次ページPersona 0 「――私は、私ィィィィィ!」 下から響いてきた絶叫にキュルケは慌ててレビテーションを解いた。 頭から真っ逆さまに地面へと落ちていく、その途中に異様なものを見てキュルケは思わず再度レビテーションを唱えるのを忘れそうになった。 「あは、あはは、あははははぁぁぁ」 それは船だった、どこにでもあるような小さな小さな木製の船だ。 そこから冗談のように太い樹が天に向かって生え聳えている。 太い根を船中にのたくらせた樹は血のように赤い葉をを思うままに茂らせている。 もっともその樹が茂らせているのはそれだけではない。 「あはは、キュルケェェェ!」 小さな船を苗床に育ったその樹は、首を吊った桃色の髪の少女と言う実をつけた。 「――!? ヴァリエール」 船が揺れるたびにガサガサと葉がこすれる音が響き、それに伴って少女の体も右に左にと不安定に揺れる。 その揺れの狭間にわずかに垣間見えるのは、船の中に倒れ伏した桃色の髪の少女。 ――ヴァリエールが二人? 「あんたも私のこと馬鹿にしてるんでほぉぉぉぉぉ」 「きゃ!?」 考え事のせいでレビテーションの操作がおろそかになったところに撃ち込まれる見えない力、その強烈な威力にキュルケは吹き飛ばされ床の上に投げ出された。 「なにすんのよぉ」 「うるさいうるさいうるさい、私のことを馬鹿にするやつはみんな死になさい!」 ――メギド! 聞いたことの詠唱に、聞いたことのない効果。 一見して魔法と分かるのにどんな攻撃をされているのか皆目見当が付かない。 「あぐっ!?」 体を抉られるような痛みにキュルケは呻き、その場に膝を折った。 「あははは、当たった。当たったわぁ、もう一発!」 「くっ、フライ!」 笑いながら詠唱を唱えるルイズの姿に本能的な危機感を覚え、キュルケは反射的にフライを唱えた。 次の瞬間キュルケが居た空間に閃光が火花と散る。 「どうせあんたもわたしなんか死ねって思ってるんでしょう、生まれてこなかったほうがいいって思ってるんでしょう!」 首を括ったルイズは目から血の涙を流しながら、高々と高々と吠える。 「いいわ死んであげようじゃない、後腐れなく死んであげようじゃない!」 まるでこれまでの鬱屈すべてを吐きだそうとしていみたいに、キュルケにはその姿はとても晴れ晴れとして見えた。 「でも一人は嫌、だから一緒に死にましょう? いいわよね?散々バカにしたんだから」 「いい加減にしなさいよヴァリエール!」 だがその姿は到底キュルケには受け入れられるものではなかった。 ルイズが彼女の好敵手足りえたのはひとえにどれほどの嘲笑にも負けずルイズが意地を張り続けた故。 今は魔法は使えずとも、いずれは必ずヴァリエールの名に恥じないメイジになると言う愚直なまでにまっすぐな生き方に、フォン・ツェルプストーの敵として相応しいと思った故に。 だからルイズの姿でルイズの声で、普段のルイズとは似ても似つかない言葉を囀る目の前の相手は到底許せるものではなかった。 「こんのぉぉおぉぉ、フレイムボール!」 全力を込めたフライを解除する目標はルイズの姿をした化け物、回避などしない。フライの慣性を使って全速力で吹き飛びながらキュルケは呪文を完成させた。 杖の先に燈る紅蓮の焔、自らの皮膚や肺すら焦がすその熱を抱えたまま。 「ルイズゥゥゥゥゥ!」 キュルケは笑い声をあげるルイズへと向かって突っ込んだ。 「げふっ、げっふ……」 一瞬黒く吹き飛んだ意識は次の瞬間猛烈な痛みによって引き戻された。 どうやら激しく地面に叩きつけられたようで呼吸ができない、咳きこんだ息には血が混ざり左手は変な方向へと曲がっている。 「っぐ」 それでもキュルケは立ち上がった、ぼろぼろの体でよたよたと不格好に。 まず最初にしたのは自分の傷がどれほどの対価を生み出したのかと言うこと。 「いたい、いたい、いたいい、いたいいぃぃぃぃ」 骨の一本や二本折った甲斐はあったとキュルケは笑った。 半ばほどから折れたキュルケの杖は首を吊ったルイズの胸に突き刺さりその周囲を炭に変えている、樹から生えた腕のような形の枝がその傷を庇うように押さえている。 その傷口からしてもやはり人間のものではない、痛みのなかに一体こいつはなんなのかと言う疑念が湧きあがり、次に本当のルイズはどうなったのか? とキュルケは視線を巡らせる。 見れば先ほどの特攻で船のなかから放り出されたのか、すぐ近くには桃色の髪の少女が安らかな寝息を立てていた。 一見して大きな傷はなく、多少髪や皮膚が焦げ跡や火傷が残る程度このくらいなら水の秘薬で綺麗に治るだろうとキュルケは胸を撫で下ろす。 「痛いじゃないの!」 それが油断となったのか、もう一つのルイズの声に振り向いた瞬間強烈な張り手が来た。 「あんたうるさいのよ人のこと“ゼロ”、“ゼロ”って、うるさい、うるさい! だからお返ししてあげるわ!」 ――マカラカーン! お返しすると言った割にはもう一人のルイズは動かない、それを訝しく思いながら霞む視界でキュルケは折れた杖を構え。 「いい、加減に、黙りなさい、よ……」 最後の力を振り絞り呪文を唱えようとしてそのまま気を失った。 「あ、あは、あはは、あはははは!」 もう一人のルイズはそれをあざ笑う、滑稽だ、馬鹿みたいだと嘲笑する。 一頻り笑った後で気が済んだのか、ユラユラと揺れる船底に足を生やしのしのしと歩きだした。 キュルケは無視して、目指すのは勿論本当の自分。 「さぁて、“ゼロ”の人生もこれでおしまい」 細い細い指で桃色の頭を掴んで吊り上げ、その愛らしい寝顔にこれでもかと言うほどの悪罵の礫を投げつける。 「さようならルイズ、生きる価値のないルイズ、だぁれにも愛されていない“ゼロ”のルイズ」 そしてルイズはゆっくりとその指に力を込めて行く。 「あなたが死んでもきっとだぁれも泣いてくれないわね」 そう言ってルイズはわずかに儚げにくすりと笑い。 「さようなら、さようなら、大っきらいなルイズ」 そして血の花が咲いた。 はたり、はたり地面に黒い滴が零れる。 「あ、れ……?」 ルイズはそう呟くと背後を見た。 その瞬間におもちゃのような樹の細腕がもげる。 「何よ、あんた?」 ルイズは根本から取れた樹の根本を見ると、次に背後に立つ影を見た。 金色に光る二つの眼をしたそいつは形こそいびつに歪んでいるが人の形をしているように見える。 もっとも背丈が巨大な樹木の二倍以上もある人間など居るわけがない。 ソイツの正体もまた、ルイズと同じシャドウだった。 では一体誰の? これほどの大きな影を持つ人物をルイズは知らない。 「ズゥゥゥ、ズゥオオオオオオオオオ!」 ソイツは高々と一声吠えると固く固く拳を握った。 その拳の先には影に覆われた長い棒のようなものを持っている。 だが体中を覆う黒い靄のような影に覆われて、その輪郭すら確かではなかった。 「なんなのよ!あんた!」 夢から醒めたようにそう言うと、影のルイズは魔法を唱える。 ――メギド! 炸裂する万能、だがソイツは全く痛痒など感じないとばかりに船の舳先をその足で踏みつぶした。 その事実がさらにルイズを激昂させる、癇癪のままに激情のままに何度も魔法を解き放つ。 ――メギド、メギド!! メギド!!! それもすべて無駄だった。 だからもう一人のルイズは己のすべてを注ぎ込んで、可能な限り強力な魔法を唱えた。 偽りの体が崩れていくが、それすら一切構わなかった。 「あんたは一体、なんなのよぉぉぉ!」 ――メギドラオン! 一際大きい激情が力を引き出し巨大な力となって爆心地にクレーターを作る。 だがソイツはまるで何事もなかったかのようにその黄金に光る二つの眼を輝かせると、紙でも引き裂くようにルイズの影を真っ二つにした。 「しっかりするクマ、傷は浅いぞ、がんばれー」 ぺちぺちと頬をはたかれ、キュルケはゆっくりと目を覚ました。 体中に残る鈍痛、それでも先ほどの気が狂うほどの激痛はない。 目の前にはクマがいる? 「ううん、此処は……」 「お、目を覚ましたクマね」 目の前の謎の物体は安心したように笑うと、ゆっくりとキュルケに近寄ってきた。 「いやぁよかったクマ、君たちが倒れているのを見た時はクマどうしようクマかと」 「あんた――何?」 「クマは、クマクマ!」 どうやらこの子が自分たちを運んで来て、おまけに応急処置までしてくれたのだろう。 ならばよくはわからないが貴族として礼は言わないといけない。 「ありがと、よくわからないけど助かったわ、えっとクマちゃん?」 「気にすることないクマ、こんな可愛い女の子二人ならクマ大歓迎」 もう一人と言われて咄嗟にキュルケは悲鳴じみた声をあげる。 「そうだルイズは!?」 「ルイズってもう一人の女の子クマか?」 「そうよ! 桃色のブロンドの……」 「それならそこにいるクマ」 「え?」 言われて振り返ると、そこには好敵手と認めた相手が体育座りでベソを掻いていた。 「いやぁ驚いたクマよ、いきなり霧が晴れる日でもないのにシャドウが暴れだしたと思ったら、2体のシャドウが同士討ちしてるんだもん。クマ怖くなって君たち浚って逃げてきたクマ」 聞きなれない言葉にキュルケはクマに向かって聞き返す。 「シャドウって、やっぱりさっきの」 「そうクマ、このコのシャドウもすっごく大きかったけどもう一匹のシャドウはクマが見たことないくらい強い奴で、もうクマおしっこちびっちゃいそう」 あーおっかないおっかないクマクマと五月蠅いクマに向かってキュルケはもう一度問いかける。 >シャドウって何 「シャドウ? シャドウは人の押さえつけた心から生まれてくるクマ」 「押さえつけた心?」 「そうクマよ、シャドウはもともと人の心の一部なのクマよ。けどそれを認めてあげないとただ暴れることしか出来なくなってやがて宿主すら殺してしまうクマよ」 「それって、つまりは……」 あの巨大な化け物はルイズの心の一部なのだろうか? 普段顔を突き合わせている相手の以外な一面に驚きつつ、キュルケはルイズに声を掛けた。 「ヴァリエール……」 「う゛、うるざいわねぇ、ほう゛って、おいで、よぅ」 ルイズはぽろぽろと涙を流す、しょうがない発破をかけてやろうと立ち上がったキュルケは。 「――!?」 クマの影に隠れていた、ルイズに向かい合って座るもう一人のルイズの姿を見た。 キュルケは慌てて杖を構えようとするが、しかし杖がないことに気づいてたじろぐ、どうしようと歯が未してどうしようもないことに気がついた。 もう一度暴れられたら今度こそもう止められない。 「安心するクマ、ルイズちゃんの影は落ち着いてる」 そう言いながらクマはぺったんぺったんとルイズの隣に歩いて行く。 「ねぇ、ルイズちゃん」 「らによぉ、あんたは!」 「クマはクマよ、ルイズちゃんこの子を許してやって欲しいクマ」 そう言ってクマはもう一人のルイズを指さした。 「暴走しちゃったけどこの子もルイズちゃんの一部なのクマよ、だから……」 「違うもん、こんなの私じゃないもん」 涙声でルイズは拒否するが、その声には力がない。 その代わりにまるでルイズの内面を代弁するように影がさらに激しく涙を零す。 「ルイズちゃん……」 「私は立派なメイジになるんだもん、いつか必ず魔法を使えるようになって、胸を張ってヴァリエール家に帰るんだ、もん」 それはどうしようもなく虚勢だった、それはルイズ自身にもわかっていた――はずである。 「だからこんなところで挫けちゃ駄目なんだもん」 『でもやっぱり怖いだもん』 ルイズの言葉を継いだのはもう一人のルイズ。 『いつまで経ってもコモンマジックすらろくに使えなくてみんなに“ゼロ”だ“ゼロ”だって言われて、だんだん本当に自分でも“ゼロ”なんじゃないかと思えてきて……』 ぽつりぽつりと吐き出されるその言葉にルイズははっと息を飲んだ。 「あなた……」 『本当に“ゼロ”なら、そんな私なんていらないって思ってた』 キュルケもまた二人のルイズを前にして息を呑んだ、あれだけの意地と虚勢の下にはこれほどの苦悩があったのか。 『私なんて、産まれてこなければよかったって思ってた』 もう一人のルイズはゆっくりと顔をあげると虚ろな目でまっすぐにルイズを見つめる。 『最初からこの世界に居なかったことになってしまえばいいと思ってた』 ルイズはなにか言おうとして、しかし何も言えずに口を噤んだ。 「ほら、しっかりなさいなルイズ」 そんな背中をとんと押してキュルケはルイズに笑いかけた。 その笑顔はまるで炎のよう、凍てついたルイズの心を温め、燃やし、無理やりにでも前に進む活力を注ぎこむ。 そのおかげだろうか、やっとルイズはまっすぐにもう一人の自分を見ることができた。 長い桃色の金髪と吊りあがり気味の瞼、普段はきつく結んだ口元は今は薄く閉じられておりこうして見れば随分と可愛らしく見える。 ルイズをじっと見つめるその姿は、まるで雨に濡れて震える捨てられた子犬のようだった。 「――分かってた、あなたは私のなかにいたんだって」 「ルイズちゃん!」 「弱虫で泣き虫で、ずっと諦めたがってた。どうせ“ゼロ”なんだって認めて楽になりたいと思ってた、私」 そう言ってルイズは自嘲するように笑った。 「でもごめんね、まだ私は諦められないの。だって魔法を使える立派な貴族になるのは私の夢だから、魔法が使えるようになってちぃ姉さまのご病気治して差し上げたいから」 だからもうちょっとだけ一緒に頑張ってくれないかしら? ルイズのか細い言葉に、もう一人のルイズは同意するようにこくりと頷いた。 「ふふ、一番大切なものはやっぱり私と一緒なんだ……」 そうしてルイズはくすりと笑う。 「あなたは、私ね」 >自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる… >ルイズはもう一人の自分。 >困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“イドゥン”を手に入れた。 「これが……」 そのまま意識が遠くなっていく。 手に黄金の林檎を持った桃色の髪の仮面の乙女、そんなもう一人の自分の姿を目に焼き付けながらルイズは意識を失った。 ~二日後~ 「あなたの、テレビに、時価ネットたなか~」 「ルイズー、ちょっといい?」 「あ、うん。分かった」 テレビのスイッチをぷつんと切ってルイズは立ち上がった。 黒い画面に映る自分の顔を見ながらしみじみと考える。 魔法の力など少しも使っていないただの箱なのに、ボタンを押すだけでいろいろな映像を見ることができるなんてとんでもないアイテムである。 クマの話によるとこの箱は“テレビ”と言うらしい、本来は電源と電波と言うものが必要らしいのだが問題なく動いているのはやはり…… 「この使い魔のルーンのせいなのかしらね……」 テレビの側面には珍しい形の使い魔のルーンが今も光を放っている、なぜ珍しいかと言えば半日ほど図書館の本をひっくり返しても該当するルーンは結局見つからなかったからだ。 「ルイズー、聞いてるのー?」 「あーごめん、今出るわ」 音を立てて扉を開けるとそこには最近親しくなった赤毛の友人の顔。 「もぉ遅いわよぉルイズ」 「勝手に人の部屋に上がりこんでおいて遅いもなにもないじゃない」 「そんなことは後々、早くしないと夏のソナタ始まっちゃうわよ」 はいはい、と言いながらルイズは指で消したばかりのテレビを弄る。 ぷつんと言う音と共に画面に光が満ち、まるで遠見の鏡のように番組を映し出す。 『オールハンドゥガンパレード、全軍抜刀、全軍突撃、男と女が一人ずつ生き残れば我々の…』 ぷつん 『嘘だッ!』 ぷつん 『空ーと君との間にはー、今日も冷たい雨がふ…』 ぷつん 『ぱれろちゅちゅ、ぱれろちゅちゅ…』 ぷつん 「ああ、これよこれ」 何度かのチャンネル変更を経てテレビにはハルケギニアでは見慣れない服装で抱き合う男と女の姿が映し出されていた。 それを見るともなしに見ながら、ルイズはついとキュルケに話を振ってみる。 「なんなのかしらね、これ」 「これって、どっち?」 ルイズは己の手とテレビを見比べながら、拗ねたように「両方」と言った。 「夢じゃ、ないわよね」 「夢だったら良かったわね」 そう言ってキュルケは未だ生傷の残る左腕をかざして見せた。 水の秘薬で粗方は直したが、もともと何故こんな大怪我をしたのか公に出来ないこともあって、キュルケが手配した分の秘薬では細かい擦り傷や切り傷まで完治させるには到底足りなかったのだ。 「ペルソナって言ったっけ? 良かったじゃない、魔法が使えるようになって」 「ありがと、けど全然良くないわよ。私自身の力じゃないし……」 ルイズはそう言って自分の胸を貫くように生い茂る半透明な樹木の枝と、その先端から伸びる若い娘の姿を見た。 左手に持った籠には黄金の林檎、顔を覆う仮面は硝子のような白い球面、たなびく髪の先には桃色の花が満開に花開いている。 イドゥン、それがもう一人のルイズが姿を変えた“ペルソナ”の名前。 「それにこんな魔法じゃ、下手したら異端扱いよ」 「まぁ、それもそうね」 そう言うとキュルケは唇に指を当て、 「けれど一人や二人は喜んでくれる人がいるでしょう?」 「そんなこと……」 そう言ってルイズの頭に浮かんだのは優しい二番目の姉と厳しい両親、そして子供頃からずっと憧れている一人の青年の姿。 「それに私もその一人だしね」 ついと横を向いたキュルケの姿がどこかおかしく、ルイズは笑った。 すっごく嬉しかったけどそれを悟られるのが同じくらい恥ずかしく思えて、ルイズもまた反対方向に向けてそっぽを向く。 一つの部屋に素直じゃない少女が二人、部屋の中にはテレビのBGMだけが響いている。 窓の外は、雨。 午前零時。 ルイズが寝静まった部屋のなかで電源の切れたテレビにひどく鮮明な映像が映った。 人のような、獣のような黒い影が、もはや肉塊となった物体を引きずりながら画面に近づいてくる。 「オオオオオォォォ――ズゥゥゥゥ、オォォォォ、ィズゥゥゥゥ」 深い呼気のようなその遠吠えは高く高く、テレビのなかの世界に響き渡る。 異なる理に支配された異なる世界、だと言うのにマヨナカのテレビは不吉なものを映し出す。 前ページ次ページPersona 0
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朝~授業 ルイズは夢を見ていた。 昨日行われたばかりの、コントラクト・サーヴァントの景色の情景。 ルイズの呼び声に応えてこの地に現れたのは、見たこともない服装の、黒髪の少年だった。年の頃はルイズと変わらない。 使い魔として平民を召喚してしまったことに落胆しながらも、ミスタ・コルベールにうながされ、 はやし立てる同級生たちを意図的に無視して唇を彼に近づける。 そうしながらルイズは奇妙に高揚した予感に胸を満たされた。 気に入らない。全然気に入らないんだけど、あるいはこの少年となら…。 そして、二人の唇が触れるか触れないかの刹那―― 「コーホー」 それまでスヤスヤと寝息を立てていた少年の口から漏れた呼吸音に、ルイズは唐突に 現実に引き戻された。 「起きたか」 悪夢の続きのような声だ。寝起きから最悪の気分のルイズが頭を巡らすと、ベイダー卿は 窓から外を見ていた。 例のごとく、腕組み仁王立ちの傲岸なポーズで。 マスクから響く威圧的な呼吸音にはなかなか慣れそうもない。 声をかけながら、彼はルイズの方を見ようともしなかった。 振り返りもせずにルイズが目を覚ましたことを感じ取っていた辺り、やはり不気味だ。 「は、早起きね…」 沈黙に耐え切れずに先に口を開いたのはルイズだった。 だがベイダー卿は応えない。 「あ、あんたも悪い夢でも見たの?」 「僕は夢を見ない。そう訓練されてきた」 「そ、そう…」 取り付く島もない。だが、畳み掛けるようなベイダーの口ぶりにはほんの少し違和感があった。 何かを思い出しているのだろうか。 「太陽は一つなんだな」 またいきなりだった。 「……? 当たり前でしょ」 「それがいい。二つ以上は余計だ」 「……?」 発言の真意は汲み取れないものの、とりあえず朝食の時間が迫っている。 昨日交わした約束に則り、内心の怯えを隠しながらルイズは命じた。 「ふ、服」 「自分で取った方がいい」 「い、いいから!」 貴族の自負と怖れの板ばさみ。今回は前者が上回ったようだ。 ベイダーが窓の外を向いたまま無言で手首を軽く振ると、椅子にかかっていた制服が ベッドの上のルイズの手元まで動いた。 「し、下着」 再びベイダー卿の手振りに従い、クローゼットの一番下の引き出しが開いて下着が 飛んできた。 魔法さえ成功すれば自分もできるはずのことを、杖も持っていないベイダーにさも当然の ごとくされるのはちょっと腹立たしい。 それ以上に、それを振り向きせずにこなしてしまうベイダーが底知れない。後ろに目でも ついているんだろうか。 さすがに服を着せてとは言えなかった。ルイズはネグリジェを脱ぐと自分で制服を身に着けた。 「じゃ、じゃあ朝ご飯に行ってくるから」 マントを羽織り、ドアを開けながらルイズは遠慮がちに言う。ベイダーは物が食べられないので 同席はしないそうだ。 ルイズが戸口をくぐろうとしたところで、ベイダーは半身を巡らせ、ルイズを直視した。 「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー、マイ・マスター」 それに何と応じたらいいのかわからず、ルイズは軽く手を挙げて部屋を出た。 一人残されたベイダー卿は再び腕を組み、窓の外を見る。 たとえベイダー卿が単身でこの星を脱出する手段がないとしても、皇帝が必ずこの惑星を 感知するはずだ。 こんな星があることは今まで知られていなかったし、あるいは既知の銀河系の範囲外なのかも しれない。だが皇帝は彼を超えるダークサイドの熟達者だ。その点に心配はない。 もっとも、多少時間はかかるかもしれないが。未知の航路をハイパースペース・ドライブで 移動するには厳密な計算も必要だ。 場合によっては戦争になるかもしれないが、昨晩ルイズと話し合って把握できた範囲で 推測すれば、この星の文化レベルでは一方的な虐殺になるだろう。 しかし、それよりも気がかりなのは… 組んだ腕を解き、ベイダー卿は自分の左手の甲を見た。 見たこともない文字がそこに刻まれていた。 「一体僕の身に何が起こった…」 くぐもったその呟きは、分厚い石造りの壁に吸い込まれた。 気絶したベイダー卿はひどく重く、レビテーションで運ぶにしても途中で一度交代が 必要だった。 ちなみに、ルイズの代わりにギーシュとタバサが運んでくれた。 コントラクト・サーヴァントの結果、その左手の甲には見たこともないルーンが刻まれていた。 勉強熱心なルイズの知識にもないルーンだが、そもそもこんな生物が召喚されてくるのも 前代未聞なので、とりあえず気にとめないことにした。問題は山積みだ。 ただ変人のコルベール先生だけは興味を引かれたようで、そのルーンのスケッチを取っていた。 ベイダーはルイズの部屋に運び込まれ、とりあえず床に放置された。 召喚直後の暴挙はともかく、契約が終わった後なら主人に危害を加えることはあるまいと 判断されてのことだ。 ベイダーが目を覚ましたのは夜だった。 というか、顔がマスクに覆われているため本当のところいつ目を覚ましたのかよくわからない。 第一声はまた「パドメ」。一体誰だろう。 それから二人の間に持たれた話し合いはそれ程長くはかからなかった。 ベイダーの態度は今度はだいぶ紳士的だった。 ベイダーはどこか別の星から来たとか何とか言っていたが、ルイズに理解されないのが わかるとすっかり諦めたようだ。 「銀河帝国」、「ハイパースペース」、そして「フォース」……彼が力説していた未知の用語の数々。 「ねえ、ベイダー」 「“卿”か“ダース”を付けろと言ったはずだ」 「だーすって何よ?」 「シスの暗黒卿に対する敬称だ」 「あんたの二つ名だっけ?それはともかく、あんたって友達少ないでしょ」 「……」 結局、超空間航法どころか宇宙に出る手段さえないことがわかると、ベイダーは珍しく 落胆した様子だった。 結果としてベイダーが帰還するための方途を見つけられるまで、ルイズは生活の糧と この土地の知識を提供し、一方のベイダーはルイズに対して従者の礼を取るという約束が 両者の間で取り交わされた。 ルイズが貴族であるという事実が、少しばかり功を奏したらしい。 「僕は貴婦人の扱いには慣れてるんだ」 笑えないジョークだった。 夜も更けた。 寝床としてルイズが用意した藁束をにべもなく拒絶し、ベイダー卿は書き物机の前の 椅子に座った。どうやらそこで眠るつもりらしい。 ネグリジェに着替えたルイズは、消灯する直前になって、ふと昼間のルーンのことを 思い出した。 「そう言えばあんたの手の甲のルーン、コルベール先生が興味津々だったみたいだけど、 ちょっと見せてくれる?」 「ルーン?これのことか」 ベイダー卿が左手を裏返して甲を示した。 「うーん、やっぱ見たこともない形ね。一応わたしも写しをとっておこうかな。もっかい見せて」 「ちょっと待て」 ベイダー卿はルーンが刻まれた手を少しいじると、もどかしそうにその表皮を脱ぎ捨てた。 「ちょっ……」 「ただのグローブだ。気にしなくていい」 その下から現れた金属製の義手をカチャカチャ動かしながら、こともなげに彼は言った。 ルーンが着脱可能な使い魔 ♪ありえないことだよね 教室は一種異様な雰囲気に包まれていた。 コントラクト・サーヴァントの儀式の翌日。クラスメートに向かっての新しい使い魔の お披露目的な様相を呈する朝一番の授業。 さながら多種多様な珍獣たちが織り成すショータイムだった。 だがそこに、明らかに周囲から浮いた存在感を放つ人影が鎮座していた。 言わずと知れたベイダー卿である。 使い魔を教室に連れてくるか否かは主人次第であるが、ベイダー自身が出席を強く 希望したのである。 だが… 「コーホー、コーホー」 「ミス・ヴァリエール、あなたの使い魔はもう少しなんとかなりませんか?」 使い魔たちがみな静かにしているとは限らないのだが、ベイダー卿の呼吸音はやけに 規則正しいだけにどこか威圧的で、生徒たちの集中をかき乱すことこの上ない。 授業を担当するミス・シュヴルーズがとうとう耐えかねて注意した途端、教室に妙な 解放感が漂った。 「はい、ええと…」 ルイズが隣の席に巨体を収めたベイダーの方をちらっと見る。 しかしベイダーは腕組みしたまま意に介したそぶりもない。 当然ながら眉一つ動かさない。 「気にせずに授業を続けるがいい」 貴族に対する口の聞き方もなっていない。 「でも迷惑なのです。あなたのその呼吸音。コーホー、コーホーって」 ベイダー卿が種族としては人間であり、しかもメイジではないことは彼自身から 言質がとれていた。つまり、この世界での身分でいえば平民であるということだ。 興味津々といった風情の同級生たちに、既にルイズは朝食の席で彼女が理解できた 範囲でベイダーとの話し合いの内容を語って聞かせていた。 平民の使い魔というのもなんだけど、余計な恐怖心を抱かれる方がもっと心配だった。 結果、一部の生徒は昨日ベイダー卿が見せた力への警戒を緩めることはなかったが、 大部分は貴族としてのプライドの方を優先し、あからさまにベイダーとルイズを見下し 始めていたのだ。 ベイダーの呼吸音はそんな生徒たちの神経を逆なでしていたものの、自分が率先して 注意する筋合いでもないので我慢していたのである。 ミス・シュヴルーズが注意してくれた時、そんな生徒たちがいっせいに清涼感を味わって いた。 「教室から出て行ってはもらえませんか?」 温厚な中年女性であるシュヴルーズだが、貴族としてのプライドが虚勢を後押しし、 一見丁寧なその言葉の中にも有無を言わさぬ迫力が込められていた。 「あの、ミス…」 どうにかして弁解しようとするルイズを片手で制してから、ベイダー卿はさらに不遜な 態度で声を発した。 「僕はこの教室にいてもいい」 すると… 「あなたはこの教室にいてもかまいません」 一瞬呆けたような表情を浮かべ、ミス・シュヴルーズは復唱した。 「お前は気にせずに授業を続ける」 「わたしは気にせずに授業を続けます」 「代わりにあの生徒が廊下に立つ。」 ベイダーが一人の少年を指差した。 「ミスタ・グラモン、廊下に立ってなさい」 「ええっ!?」 「さっきのあれ、どうやったの?」 ルイズがベイダー卿に尋ねたのは、二人だけで授業の後始末をしてる最中だった。 「フォースの基本だ。心の弱い人間ほど簡単に動かすことができる」 「心が弱いって、相手はれっきとした貴族でメイジなのよ?」 「フォースの前では何というほどのこともない」 言いつつベイダー卿が軽く手をかざすと、砕けた花瓶の破片が集まってくずかごに 飛び込んでいった。 一方のルイズはススだらけになった床の拭き掃除をしていた。 「ねぇ、ベイダー」 「卿を付けろと言ったはずだ、マスター」 「……あんたさっきから突っ立ってるだけじゃない。なんでわたしがこんな肉体労働を …ブツブツ……」 「そんなことを言うのはどの口だ。二度と声を出せなくするぞ」 ギーシュが去った教室ではその後順調に授業が進んでいったものの、『錬金』の実演を 求められたルイズが石ころに向かって杖を振り下ろした途端に爆発が起こり、何もかもが 台無しになった。 「ちょっと失敗したみたいね」 そう言ってボロボロの姿のルイズがスス交じりの黒い煙を吐き出した時には、ミス・シュヴルーズは 爆発のあおりを受けてひっくり返り、あらかじめ机の下に避難していた生徒たちにも被害が 及んでいた。 教室の中はさながら阿鼻叫喚の地獄だった。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 そんな怒号が響き渡る教室の外では―― 「きっ、君はいつの間にここに?」 「フォースの導きだ」 唯一被害を免れたのは、廊下に立たされていたギーシュと、爆発の直前に誰にも 感知されないスピードで教室を出ていたベイダー卿だけだった。 ミス・シュヴルーズはその後2時間息を吹き返さず、ルイズは教室を可能な限り掃除して おくことを命じられた。 罰として魔法を使うことは禁じられていたものの、ルイズは元々ほとんど魔法が使えない。 そしてベイダー卿の力は禁じられていない。 主従が逆転したかのような有様だったが、思っていたより早く掃除は終わった。 「なんで授業に出ようだなんて思ったの?」 昼休みまで少し時間がある。誰も居ない教室で、手持ち無沙汰のルイズは思い切って 尋ねてみた。 「この星の魔法と呼ばれる技術体系は、僕の手持ちのフォースの知識だけでは説明が つかない。この魔法とやらを研究し、知識を持ち帰れば皇帝もお喜びになるだろう。 そして――」 (パドメを救う助けになるかもしれない) 「そして? …まあいいけど。わたしからすれば、あんたの力の方が謎だけどね」 「それよりもマスター、気になるのは君の魔法の腕だ」 知識を習得するため集中して授業を聞いていたベイダーには、ルイズの使った魔法が その体系から逸脱したものであったことがわかった。 「皇帝が聞いたらさぞかし失望するだろう。皇帝は僕ほど寛大ではない」 「あんた昨日逆のこと言ってなかった? て、ていうか放っといてよ」 「ゼロのルイズ、か。なるほどな。もっと幼ければ僕が鍛えてやるのだが、残念だ」 (ろ、ロリコン…?) 前のページへ / 次のページへ
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back / next 十二話 『それよりそっちのミカンくれよ』 ルイズは夢を思い出していた。 かつての故郷、魔法が使えないとさげずまれ一人湖上の舟で泣いていた思い出。 自己嫌悪で泣きべそをかいていたルイズに、男の影が覆いかぶさる。 「やっぱりここにいたね。泣いているのかい? 僕のかわいいルイズ」 「ワルド様……」 そこにいたのは己の婚約者、十歳以上年の離れた、それでも愛しい相手。 「さ、僕からお父様にとりなしてあげよう」 そういって差し出された手が空を切る。 「え?」 波紋が起きたのかゆっくりと小島から離れていく舟、だがワルドは気づかないのか自分ではない誰かと話している。 「ワルド様、ワルド様?」 かつての夢はこんなだったろうか? そう思って湖の中ごろで止まった舟の上で、ルイズは必死に呼びかける。 『いつまで甘えるつもりなんだか』 呆れたような声が彼女の背後から聞こえた。 慌てて振り返るがそこには誰もいない。 『違う違う、後方ではなく“君自身の後ろ”にこそ俺はいる』 湖上に移ったその影は、まるで燃え尽きる炎のように鮮明な光だった。 いや、炎ではない。それはまるで消え行く閃光、爆発の光のような姿。 なんと言う生き物か、と問われれば『悪魔』としか答えられないような異形が、ルイズの背後に浮かんでいた。 『ようやく気づいたか。いつまでもお子様だな』 「誰よあんた」 『ほっ、俺が誰かもわからんか? やれやれ、こりゃ外れかね』 「私があなたを知ってると?」 『さあ? 少なくとも俺は知ってるねぇ。で、どうすんだい、あのお兄さんを呼ぶかい?』 「……いいわよもう」 杖を取り出し舟を動かそうとするも、水面で爆発が起こるだけで舟は揺れてもあまり移動しない。 『……やれやれ、何でできないことをするかね』 「うるさいわね! 私はメイジなの!」 『貴族なの! ならわかるけどよ、お前さん魔法使えないじゃねえか』 「うるさい!」 杖を悪魔に向けて一閃、大きな爆発が起こる。 だが悪魔にはまるでダメージはなく、それどころか輝きが増していた。 『ほらみろ、少なくとも今は何かを爆破することしかできんくせに』 「うるさいわね! そんなことわかってるわよ!」 『ならどうしてその爆発をしっかり活用せんね? めそめそしてたって何かが変わるわけもなし』 「私は貴族なのよ!だから、だから!」 『貴族だろうが平民だろうが子猫ちゃんだろうが関係なかろうよ。人には一つや二つ苦手なことがあるもんさ』 「だって、だって!」 ボロボロ涙をこぼすルイズに、悪魔はいやらしく語りかける。 『自分の本質は何か、それは難しい問題でね。お前さんは四大のメイジじゃあないってことだろ』 「私は、私は……」 『あきらめろあきらめろ。大体何を召喚したよ? お前さんの本質は爆発、そういうことじゃねえの?』 「……」 『ないものねだりはやめな。お前さんの言ってるのは平民が魔法を使いたいって言ってるのと同じだぜ?』 「私はヒック、誇り高きヒック、ヴァリエールの」 『出来損ない、だろ?』 ルイズは大声を上げて泣いた。 『さてここで問題だ、何故あのお兄さんはそんな出来損ないを構うのでしょう?』 「うるさいうるさいうるさい!」 『ヴァリエールって名前はこの国では価値が高かろうな』 「ワルド様はそんな人じゃない!」 振り切るように声を張り上げる。 『かもな。だが悲しいかなここはお前の夢の世界、あれはお前が想像する答えの一つさ』 「うそ、うそよ、そんなこと」 『さて、そろそろ時間だぜ。お前さんはどっちがいいのかね? あのお兄さんが来るまで待つか? それともこのオールを手にとって漕ぐか?』 「あんたが連れて行けばいいでしょ!」 『おっ、俺が何か認識したのか? だが残念ながら俺が提供できるのは能力だけでね』 やれやれとばかりに悪魔は肩をすくめる。 『最終的にそれをどうするかはお前さん次第さ』 悪魔はゆっくりと、その姿を薄れさせていく。 『さあ契約者よ、俺たちは能力をくれてやる代わりに“海を渡る力”を奪う。お前は炎の悪魔や砂の悪魔のように濡れると使えなくなるのが欠点さ』 「私は……」 『さあオールを取れ契約者。己の細腕で世界をつかむか、それともただ与えられる恩恵を意味なく享受するか、選ぶのはお前だ』 「……」 『次にどんな答えをよこすのか、楽しみにしてるぜ』 悪魔はうっすらと消え、ついには見えなくなった。 馬車の中、ルイズははっと目を覚ました。 向かいでワルドがおかしな表情をしている。 「どうかしたかい?」 「ええい。妙な夢を見ただけですわ。あまりはっきりと憶えてませんけど」 「なら大した夢じゃなかったんだろう。さ、ラ・ロシェールまではまだ少しかかる、ゆっくり休んでいるといい」 「ええ、そうさせていただきますわ」 パカラパカラと音を立てて、馬車は道を行く。 マザリーニは頭を抱えていた。 グリフォン隊のワルド子爵がいきなり居なくなったからである。 王女に問いただしたところ、なにやら密命の手伝いに言ったらしいという話に、マザリーニは頭痛薬を一気飲みした。 側近にワルドの部屋の調査を命じ、彼は深く深くため息をつく。 ワルドが自分に何も告げずに出て行ったという事実が、彼の心をさいなんだ。 「ワルドめ、やつめがレコン・キスタの間者であったか……」 仮にも王国の三大騎士団のひとつの責任者が自分に何も告げずに出て行くという事実、それはワルドがそれを必要と感じなかったということ。 標準以上の責任感を持つが故グリフォン隊を纏め上げることができていた彼が“ついうっかり忘れた”などということは考えられなかった。 マザリーニはただただ嘆息する、命じられて出向したという王女の友人の命を、そしてアルビオン王家の者の命を。 そして何よりも、己の主たる王女のうかつさを。 明らかに許容量を超える頭と胃の薬を水で流し込み、彼は顔と思考を孫に苦労する老人のものから枢機卿ものに切り替えた。 己は所詮鳥の骨、何をしようが受け入れられず、国民にとっては何の価値も無き鶏肋にすぎぬ。 なればこそ悪に徹しよう、この愛すべき祖国のために。 祖国のためであるのなら、たとえ主とて殺して見せよう。 ルイズは道すがらワルドの話に耳を傾けていた。 耳に聞こえのいいきれいな言葉と口説き文句、その美丈夫とも言うべき容姿ともあいまってその言葉はいかなる女性もとりこにしうるだろう威力を持っていた。 だが笑みを浮かべる横で、ルイズは己で驚くほどさめた思考で考えていた。 何故彼は自分にこだわるのだろうか? 子爵とはいえグリフォン隊の隊長、実力は確かで容姿は特上、間違いなく出世頭だ。 己の持つ価値において彼とつりあうのは家名である“ヴァリエール”のみ。 やはり彼もヴァリエールの名が欲しいから自分に愛をささやくのだろうか? 少し陰鬱な気分になりながらもルイズは感じていた、家名以上の何かを求める彼の暗いまなざしを。 ロングビルは目の前の男にあせりを浮かべるほか無かった。 いきなり現れて協力しろと脅してくる男、仮面をかぶっての交渉なんて、何と言う怪しさだろうか。 それでもマチルダ・オブ・サウスゴータという名前で呼ばれ、土くれのフーケは顔をしかめた。 「気に入らないねぇ。あんたみたいなやつにあたしは立場を追われたっけ」 「……協力するのかと聞いているのだが」 「あんたのそれは脅迫って言うのさ。結構な身分だろうにそんなことも知らないのかい?」 「貴様……」 「やれやれ、はっきり言ったらどうなんだい? 『お前の過去を調べて知っている。死にたくなければ協力しろ』ってさあ!」 「……最後だ。協力するか、死ぬか、選べ」 フーケはここ数日の自分を考えていた。 貴族をからかうためにターゲットを絞っていた盗賊家業、いらないから好きにしろと丸投げされたモット伯の隠し財産を換金して以来情報集め以外の目的で働いたことは無かった。 ルイズたちとする作業の何と楽しいことか、故郷の妹分を思い出させてくれた。 だから目の前の男に何の思いも抱くことはできない。 王家を打倒する? 新しい世界? 聖地を取り戻す? 寝言は寝てから言え。 自分を非難した貴族の同類じゃないか。 単に頭がすげ変わるだけでしかない彼の発言に、彼女は価値を見出せなかった。 出立前のルイズに渡された小瓶のふたを取り、少しだけ息を吐く。 「どうした? 答えろ!」 「……お断りだよ、外道の同類が」 フーケはぐっと、小瓶をあおった。 急速に増大する精神力、それが全身に流れ出す。 自分のものと同じ、しかし自分のものとは性質のまったく違う力が全身を駆け巡ったとき、彼女は脳裏の片隅で砂でできた悪魔の笑い声を聞いた。 「そうか、では残念だが貴様には死んでもらおう」 「はっ! ママに習わなかったのかい? 初対面の人間に貴様とか言っちゃいけませんって」 「貴様あ!」 「あっはっは! 女性には優しくって習わなかった? 今のあんた図星をつかれてあせってるお子様みたいだよ!」 「盗賊ごときが! 死ねえ!」 視認も難しいほどの速度で迫った風をまとった杖が、フーケの胸を貫いた。 「がっ」 小さく声を上げてフーケは崩れ落ちる。 「ふん、おとなしく従っていればいいものを」 遍在だったのか、仮面の男はゆらりと風に薄れて消えた。 パラパラと傷口から砂をこぼしながら、フーケは身を起こす。 「やれやれ、確認もしない間抜けで助かったねこれは」 地面に積もる砂に意識を集中すると、ザラザラと傷口に集まり何も無かったかのように元に戻る。 少し意識を集中して右手に向けると、ひじから先が砂に変わる。 砂は固まって刃物の形を取る。それに左手の杖で錬金をかけるも変化はせず。 またバラけて砂になり、再度右腕に戻った。 「こりゃ便利だねぇ。自分の体を錬金できるようになるとは思わなかったよ」 注意書きの最後にあった一文を思い出しながら、フーケは右手を見つめてにやついていた。 『水に触れると砂に変化できなくなる。注意せよ』 「水のメイジにゃ気をつけないとね」 突然飛来した火矢に驚きつつも、ルイズは難を逃れるために岩の後ろに隠れる。 横を見るとシエスタがデルフを少し抜いてこちらへ視線、ルイズは首を横に振るとワルドを見上げた。 お忍びだからとワルドにはグリフォンを降りさせ衣服も変えさせた。 髪の色を町で変える必要があるだろうな、と考えていた矢先の出来事、あまりに胡散臭い襲撃にルイズは思わず苦笑をもらしかけた。 出待ちのごときあまりにも良すぎるタイミング、さらには今自分たちがいる通りを誰かの馬車が通った後。 つまり襲撃者はピンポイントで自分たちだけを狙ってきたということ。 「(どこから漏れたのかしら?)」 武装生成の準備をしながら、シエスタに目配せをしようとしたとき、明らかに自然ではない風を感じた。 上を見上げるとドラゴンの姿。 「シルフィード?」 「知り合いかい?」 「ええ、友人ですわ。でも何故ここに?」 「あんがい出るところを見られたのかもしれないね」 「まあ毎日会ってましたから。いなくなったから探しに来たのかも」 シルフィードの背から放たれたフレイム・ボールが襲撃者を吹き飛ばし、地面から生えた青銅の輪が拘束していく。 「全員いるの?」 「楽しそうだったんだもの」 「まあ僕としては女性だけに負担をかけるのは、ね」 「……心配」 その騒がしい様にルイズは柔らかな笑みを浮かべた。 「ありがとう、と言いたいけどこれ密命なの。だから派手な行動は駄目ね」 「あらつまんない」 「後ギーシュ、そういうわけだからモンモランシーへの言い訳は自分で考えてね」 「……げ」 その声を受けてかタバサがシルフィードを何処かへ飛び立たせている。 「ああルイズ、何とかならないかい? このままじゃまたモンモランシーにフルボッコだよ」 「あきらめなさい」 「軽薄なのが悪いのでは?」 「あの、君たち、急ぐんだからそろそろ、ねえ?」 ああ哀れ、ワルド放置プレイ。 back / next