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アルラツ メソポタミア神話の破壊の女神。 エレシュキガルの代わりにネルガルの妻とされることがある。 別名: アルラタ アルラトゥ
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【私立ラグハル軍事学校】 ラグハルカンパニーが設立した軍人を育成する総合軍事教育機関。本作の生徒(オリキャラ)が通う軍事学校。 見た目はごくごく普通の学校だが、ラグハルカンパニーの全面的な援助で設備は軍事基地並みに揃っており、設備は他校よりも充実している。 また装備、支給品についても世界各国の武器が取り揃えてあったり、軍でも配備が遅れている「ジプァース」が生徒の人数分確保できるほど。 校則により校内での武装が義務付けられている。制服は男女共に特殊繊維を使用した戦闘服兼用の「軍服風防備制服」である。 ↓その他参照 学年・クラス・階級 制服 軍事教育 [[]] [[]]
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4 章 朝、職場のドアを開けようとしたらカギがかかったままだった。いつでも出社一番乗りのはずのハルヒはまだ来ていないらしい。俺は自分の合鍵でドアを開けた。 「誰かハルヒ見なかったか」 昼近くになっても部屋が静かなので聞いてみたのだが、三人とも顔をブンブンと横に振った。あいつが遅刻するなんてめずらしい。ヘンなもん食って腹でも壊したかな。 「おっはよう!今日も気分爽快!」 そうかい、なんてくだらないダジャレはやめておくとして、我が社長様は午後五時を過ぎてやっと顔を見せた。 「やっと来たか。連絡くらい入れろよ」 「したわよ。これでも仕事してたんだから」 ハルヒの机の上にある内線兼留守電は留守番モードになったままだった。忘れていた。 「今日打ち合わせとかあったっけ」 「特許庁よ。弁護士雇って特許庁に行ってたの」 ハルヒは鼻を高々と上げてフフンと俺を眺めた。なんだその人を小ばかにしたような態度、俺だって特許庁くらい知ってるさ。早口言葉にもあるくらいだしな。 「待て、特許庁って東京だろ。そんなとこまで何しに行ったんだ」 「決まってるでしょ、タイムマシンを特許申請してきたのよ」 「ってまだ実験段階なのに気が早すぎんだろ」 「なにいってんのよ。特許申請なんてものはねえ、実現の見込みさえあればどうでもいいのよ」 それは言いすぎだろう。特許庁のお役人が聞いたら顔真っ赤にして怒るぞ。 「ともかく、特許は先に取ったモン勝ちなのよ。タイムトラベルだけで十二件も公開されてるんだから。自分で調べてみなさい」ハルヒはパソコンのモニタをペンペンと叩いた。 「まじかオイ」 「そのうちの数件には実際に物理学会で発表された理論も含まれてるわ」 世の中には俺たち以外にも酔狂なやつがいるもんだな。 「仮によ?この理論が実用化したらこの特許権を持ってる人は技術独占状態にできるわけよ」 いつになく現実的なハルヒに俺は少しだけ感心した。 俺はハルヒの机から申請書類の控えを取って読んだ。ゼニガメを利用した時間移動技術なんて、こんな無茶苦茶な理論が審査通るはずが……、 「おいハルヒ、発明の名称が間違ってるぞ。time planeじゃなくてtime membraneだ」 朝比奈さんがハッとしたような顔をしていた。既定事項がひとつ成立したようだな。 「あら、そうだっけ?まあいいじゃない似たようなもんだし。取ってしまえばそれまでよ」 プレーンとブレーンじゃ月とスッポンくらいの意味の開きがある気がするが。結局訂正するのを忘れていて、TPDDとして特許公開されてしまうのはもっと先の話である。 コーヒーに垂らした銀河をスプーンでぐるぐるとかき混ぜる規模の長門の試算とやらが終わり、俺もかなり記憶が混乱しているところだが、タイムマシンを作る方向性というか安全対策というか長門のパトロンがしぶしぶOKを出した方法で進めることになったようだ。ハルヒの訳分からん願望とやらに付き合わされる思念体もご苦労なことだ。 ゼニガメがタイムトラベルという芸当を見せてから、ハルヒはソフトウェアの営業もろくにしないで研究室にこもっていた。 「くーっ!いったいいつになったら成功するのかしらね」 このところ機嫌が悪い。それもそのはず、失敗が続いた実験が通算で一万回を超えたのだ。そのうち成功したのがたった二回。0.02パーセントの確率かよ、ぷっ。 「まあそう簡単には無理だろ。俺たちが簡単に作れるならNASAやらCIAやらが黙っちゃいないって」 「それはそうだけど。一万回よ一万回。あんた、どれだけ経費かかってるか知ってる?試したゼニガメは五百匹、水槽が五十個、スッポンの養殖してるわけじゃないのようちは」 そうそう。わが社の歴史に残る珍イベントで取締役から社員共に総出でゼニガメ買い出しに行かされた。近隣のペットショップやらホームセンターだけでは飽き足らず、鶴屋さんちの庭の亀まで総動員されたのだ。どんどん納入される亀と水槽の数に会議室だけではスペースが足りず、たまたま空室になったお隣さんを借りて亀専用ルームにあてた。実験の結果タイムトラベラー失格の烙印を押されたかわいそうな亀たちは、スペース節約のため近所の小学校やら近隣の動物園やら水族館やら、水のある施設には手当たり次第に寄贈として養子に出されている。 爬虫類に少なからず親近感のある俺は、亀に番号をふってその後の成長を記録していけばいい生物学的統計が取れるんじゃないかと言ったのだが、そんなことタイムマシンができたら簡単にやれるわよと言われてがっくりと肩を落とした。 「世紀の大発明なんだ。いくらかかっても十分すぎるくらいの見返りはあるだろうさ」 まあ会社の経費で払っている月々のエサ代と、室温を維持するために二十四時間フル稼働させてるエアコンの電気代は半端じゃなかったが。 「もう、早いとこタイムマシン作って時間旅行したいのにぃ」 ハルヒは唸り声を上げて机に突っ伏した。そう簡単に完成なんかされたら俺も朝比奈さんも困ったことになるのだが、いったいいつの時代に行きたいんだろう。 古泉の携帯が鳴った。長門が宙を見つめた。 「すいませんが、顧客と打ち合わせに行って来ます」 「おう、気をつけてな。直帰でもいいぞ」 古泉があたふたと出て行った。たぶん閉鎖空間の始末だろう、ご苦労だなまったく。 それに加えて、ハカセくんがそろそろ試験前なので実験は二ヶ月間中止することになった。併せてハルヒのダウナー度も増した。 「もう、タイムマシン作るのやめようかしら……。ハカセくんもいつまでも付き合えないだろうし」 こんなことを言い出すのはハルヒらしくない。今までずっとこいつは、目標に向かって全速力で突っ走るイノシシみたいなやつだったからな。 「ここでやめちまったら、出資してくれた鶴屋さんに申し訳ないだろう」 「今ならまだふつーの事業をやる会社に戻れるわ」 「それが嫌だから自分で起業したんじゃなかったのか?」 「まあ……そうだけど」 「俺は別にやめてもかまわんが、お前がやめちまったらたぶん人類は時間移動技術で数世紀遅れてしまうことになるだろうな」 そう。こういうとき、俺の出番なのだ。ハルヒが道に迷ったり、暴走して崖から落ちそうになったり、疲れて道端に座り込んだりしたとき、フォローにまわるのは俺なのだ。 「あんた、ほんとにタイムトラベルなんかできると思ってんの?」 「おうよ。だからお前に付き合ってこんなわけ分からん会社やってるんじゃないか」 「ホーキング博士が言ったわ。タイムトラベルが不可能であるという根拠は、未来からの観光客が未だに現れないからだ、って」 「UFOは未来人が乗ったタイムマシンなんじゃないかって説もあるぜ。オーパーツは未来から送られてきたんじゃないかって説も」 それを聞いてハルヒは、うーんと唸った。 「そうだ、思いついたわ」 またか……。そのフレーズはいい気分で飛ばしていた車のルームミラーに突然映った白バイ並みに、俺の寿命を縮めてる気がするぞ。 「今度はなんなんだ?」 「タイムマシンはなくてもタイムトラベルはできるわ」 「どうやってだ」 「タイムカプセルよ」 なるほど。超低速時間移動か。俺も長門のマンションでやったことがある。三年間、いわばカチンカチンに凍ったまま時間を超えたのだ。 「未来のあたしに手紙を書くわ。これなら確実に届くでしょ」 「ま、まあ、昔からやる手だがな。なにを書くんだ?」 「タイムマシンが完成したらすぐ迎えに来なさい、または手紙をよこしなさい、よ」 分かった。ハルヒは今すぐタイムマシンを手に入れたいのだ。開発までの道のりがいかに長くても、完成してしまえば一足飛びに自分のところに来れるはず。そう考えたのだろう。まるで漫画のネタみたいな、今から貯金をはじめてタイムマシンで未来に行き、貯まった金を自分から奪うような話だ。そんなことをしなくても朝比奈さんに頼めばメッセージくらい簡単に届けてくれそうだがな。 まあハルヒがやるというんで黙ってやらせることにしよう。タイムカプセルなら放っておいても勝手に届いてくれるだろう。 「みんな、ちょっと聞いて。我が社はタイムマシン開発の予備段階として、タイムカプセルを作ることにするわ。開封条件はタイムマシンが完成したときね。みんな、自分宛てになにかメッセージを書きなさい」 まるで七夕の願い事を書くようなノリである。そんないつになるか分からん未来になにを伝えろってんだ。 「ちゃんと封をするのよ」 用意のいいことに封緘紙まで持ってきた。 ── 俺へ。犬が洗えるくらいの庭付きの一戸建てを買ったか?長門とはうまくやっているか?さっさとハルヒを誰かに押し付けてしまえ。 さして願い事もない俺が書いたのはそれだけだった。いつかの七夕にも似たようなことを書いた気がするが。 ハルヒは台所用品のシュリンクパックに手紙を突っ込み、空気を抜いて真空にした。A4用紙に開封条件を書いてるようだが、開けちゃだめと金庫の中に書いてあったらどうやってそれを知るんだ?やたら安易な気もするが、まあハルヒのやることだ。ほかに開けるやつもいないだろうし。 「タイムカプセルってどうやって作るんだ?」 「核攻撃下でも耐えるファインセラミックスで固めて地中深くに埋めたいところだけど。もしかしたら数年後かもしれないから、簡単でいいわ」 「金庫にでもしまっとくか」 「それじゃ味気ないわね。大理石の板で作りましょう」 「そんなもん、どこで手に入れるんだ」 「墓石屋にいけばあるでしょ」 墓石は大理石じゃなくて御影石だが。機関が墓石を扱ってるとか言ってたんで古泉に頼もう。 「僕そんなこと言いましたか?」 「言った言った。ゆりかごから棺おけまで何でも揃うと」 「すいません。あれは言葉のアヤです」 口からでまかせだったのかよ。古泉は照れて額をペンと叩いた。しょうがないので二人でホームセンターを探しまわり、墓石屋にもなく建材店でやっと見つけた。歩道や公共施設なんかで見かける敷石らしい。一辺が六十センチの正方形で、厚さ五センチの大理石を手に入れた。 会社に戻ると部屋の奥からガンガンとやかましい音がしていた。なにやってんだろうと覗いてみるとハルヒがタガとカナヅチで壁を削っている。壁紙がひっぺがされてセメントが剥き出しになっていた。 「おい、会議室でなにやってんだ」 「見て分からないの。穴を掘ってるのよ」 「ビルのオーナーに怒られるぞ」 「タイムカプセルを埋め込むためよ。バレなきゃいいの」 ハルヒが壁を叩くとセメントのくずがボロボロとこぼれてきた。意外にもろいのな。ここが刑務所なら爪切りで削ってでも脱走できそうだ。もしここで監禁されたら脱走する方法として覚えておこう。 「おい、先に帰るぞ」 退社時間になってもガンガンと工事の音が続いていた。ハルヒの足元に、朝比奈さんがおにぎりを、長門がポカリスエットとカロリーメイトを置いていた。古泉はサロンパスを置いた。 「あら、ありがと。もうそんな時間?先に帰っていいわ」 セメントの粉をかぶってホコリまみれになったハルヒがいた。一日かけて大理石の板と同じサイズの凹みができたようだ。 ハルヒはさらに二日掘りつづけて、それより縦横が十センチほど狭い奥行きのある凹みを作った。もっと深く掘ろうとしてたようなのだが、途中でビルの骨組みのようなH型の鉄骨が現れ、そこで断念したらしい。 「できたわ!」 安全第一のヘルメットを被り、ヘッドライトをつけたハルヒが叫んだ。どうやら徹夜だったらしい。額の汗をこすった跡が汚れて青函トンネルの二十年の穴掘りから帰ってきたような顔をしていた。こういう作業だけはまめにやるんだなこいつは。長門に頼めばレーザーかなんかでさくっと掘ってくれそうなのに。 掘った穴のでこぼこを石膏で塗り固め、平らにならした。赤いビロードの布を貼り、ちょっと豪華な埋め込み式の金庫が出来上がった。 「さあ、未来にメッセージを託すわよ」 古泉、長門、朝比奈さんも付き合って手紙を納めた。長門の手紙の内容を聞いてなかったな。あとで尋ねてみよう。 その上から買ってきた大理石をはめ込み、溝をパテで埋めた。手紙を取り出すときはハンマーかツルハシでぶっ壊すしかないだろうな。未来へのメッセージは無事封印され、ハルヒはなにを勘違いしたか、かしわ手を打っていた。神棚じゃないっての。 昼飯の弁当を食っていると、突然カメラのストロボを十台くらい光らせたような閃光が走った。 「キタワー!!」いつもより二オクターブくらい高いハルヒの声が響いた。 「なにがだ」 「手紙よ手紙。たった今、あたしの机の上に現れたのよ」 俺を含めた四人は何が起こったのかピンと来ず、とくに驚いた様子も見せなかった。 「なによあんたたち、もっと驚きなさいよ」 「それで、誰からなんだ?」 「もちろん、未来のあたしからよ」 「お前のことだから突っ返してきたんじゃないか?」 「違うわよ。真新しい封筒よ」 まじで返事が来たのか。俺は朝比奈さんと長門の顔を見た。二人ともかわいい目をまん丸にして、唖然としている。 「なにが書いてあるんだ?」 「これから読むわ。古泉くん、カメラの用意をお願いね。今日は我が社にとって、いえ、人類にとって記念すべき日よ」 「かしこまりました」 古泉が機材ロッカーを開けてゴソゴソとビデオカメラとライトを取り出した。しょうがない、俺が照明をやってやる。 「撮影スタンバイオーケーです」 「カメラ回して」 カメラの液晶モニタに赤いRECのマークが入った。 「えー、あたしは株式会社SOS団の社屋にいます。予てより、我が社はタイムマシンを開発中である。昨日、未来に向けてタイムカプセルを送った。そして今、未来から返事が来たのであります。読み上げる」 微妙に語尾が混在したセリフを吐きながら、ハルヒが封筒の封を切って手紙を取り出した。 ── 前略、あたしへ。あんたの手紙は読んだわ。おめでとう、あたしたちはタイムマシンの開発に成功しました。でもまだ、質量の小さいものしか送れません。成功率もなかなか低くて、まともに送れるのは二十回に一回ってところね。成功率が八十パーセントを超えたら、ハカセくんが論文を書いて世界に向けて発表するわ。 ── タイムパラドックスの危険があるから、今のあんたから見て何年後かは言えないけど。まあ、気長に待ちなさいね。ハカセくんの話では、人を送れるようになるまでにはあと十数年くらいはかかりそうってことよ。 ハルヒはそこで深呼吸をして文末を読み上げた。 「株式会社SOS団代表取締役社長、涼宮ハルヒ」 「すごいわ涼宮さん。とうとうやったのね」 朝比奈さんが拍手した。なんかすごくデジャヴを感じているのだが俺だけか。 「あ、待って。まだあるわ。追伸、このメッセージは十秒後に消滅す……」 ハルヒの手にあった手紙は、まるで急に発火点に達したあぶり出しのように燃え広がった。 「おわーっ!!火事よ火事、あたしの手が火事!」 「キョンくん、消火器!消火器!」 「はいっ」 よほど慌てていたのか、俺は粉末消火器のホースをハルヒに向けてぶっぱなした。十五秒間、わき目もふらず一心不乱に消化剤を撒いた。あまりの壮絶さに誰も止めなかった。 部屋に充満する甘酸っぱい匂いのする消化剤を吸い込んで、全員咳き込んだ。ハンカチを口に当てた長門が慌てて窓を開けた。 「バカキョン!もう、なに考えてんのよあんた」 「す、すまん。大火事にならないかと心配で」 ゆっくりと霧が晴れるように部屋の中が見えてきた。真っ白な髪に全面おしろいを塗りたくったかのような四人が立っていた。 モウモウと立ち込める真っ白な煙の中から、これまた真っ白なゾンビのようなハルヒが現れた。昭和アニメ風に言うなら、そしてハルヒは真っ白な灰になった、とでも表現しようか。俺たちは互いの顔を見た。一瞬の後、大爆笑に見舞われた。全員がパンダみたいに目だけを残してミイラになっちまってる。 鼻の穴まで真っ白になったハルヒは涙を流して笑いながら怒鳴った。 「バカキョンにアホキョン、まったくもう!腹立つわ。あたしったら何考えてんのよ。消滅するなら最初に書いときなさいよね」 これぞひとり突っ込みだな。 片付けは当然俺がやらされた。ちなみに、ハルヒの手の上で燃え広がるシーンまでの映像はちゃんと撮れており、公式社史に残されている。 雑巾でせっせと部屋を掃除するというサービス残業をしていると、ハルヒが壁に大きな額縁を飾っていた。四つ切くらいの額の中央に、紙のきれっぱしのようなゴミが貼り付けてある。 「ハルヒ、なんだそれ?シュールレアリズムかなんかか?」 「さっきの手紙に決まってるじゃないの。我が社の記念すべき書類よ」 ハルヒは不機嫌極まりない様子で叫んだ。そういえば、なんとなくだが書類の燃えカスっぽいな。ところどころ粉っぽいのは消化剤か。封筒は全部燃えてしまったらしく、“ルヒ”と、ちょうど手紙の右下の署名の文字部分だけが残っている。 それから数日してのこと。こないだ頼んだ石材店から、もう一枚同じ大理石が届いていた。頼んだ覚えはないんだが、なにかの間違いだろうと電話をかけようとしたところ、ハルヒが土木作業員のような格好で現れた。家を壊せそうな、でかいハンマーを背負っている。黄色い安全第一ヘルメット、ランニングシャツ、腹巻、ニッカポッカに地下足袋をはいていた。その様子があまりに似合いすぎていて、口の周りに丸く黒ヒゲでも描いてやろうかと思ったほどだ。 「労働者ごくろう。だがあんまり腹が立ったんでビルを壊すとかいうなよ」 「そんなことしないわよ。手紙を追加するだけよ。あんないたずらされて黙っちゃいられないわ」 自動発火装置付きメッセージが相当頭に来たらしい。 「古泉くん、カメラお願い。この情報化時代に手書きの文字なんか古すぎるわ。映像を直接送るの」 「未来に再生装置がなかったら読めないだろ」 「あんた知らないの?どんな未来でも骨董品屋があって、古い電子機器が売られてるのよ」 そりゃ映画の話だろう。ガソリン車だったのがバナナの皮と飲み残しの缶ビールで走る核融合エンジンになったんだったか。かわいい十六ビットパソコンが出てたな。 「カメラ、スタンバイオッケーです」 「いくわよ」 ハルヒはお触れを読み上げるお役人のようにA4レポート用紙を広げた。 「これは未来へのメッセージである。開封条件は一通目の手紙を読み終えること、タイムマシンが完成すること」 ハルヒは読むのを止めて、カメラに向かって指さした。 「あんたの自動消滅する手紙ではひどい目にあったわよ!いたずらもほどほどにしなさいよね」 白ゾンビを思い出したのだろう、古泉が笑いをこらえていた。 「未来に対し、以下の四点を要求する。 ひとつ、そのへんで撮った写真を送りなさい。 ふたつ、あんたの髪の毛を送りなさい。本物かどうかDNA鑑定するわ。 みっつ、一週間分の新聞を送りなさい。 よっつ、タイムマシンの設計図を送りなさい。以上。 追伸、もしこれらの要求が受け入れられない場合は、時限発火装置を送るからそう思いなさい」 なに物騒なこと言い出すんだ。相手は自分だぞ。 「カメラ止めていいわ」 「この映像、どうやって送るんだ?」 「編集してDVDに焼いてちょうだい」 「それはかまわんが、DVD-RはふつーのDVDビデオと違って寿命が短いらしいぞ」 「そうなの?じゃあビデオテープでもいいわ」 「磁気テープもあんまり長くはもたんだろう」 「じゃあどうすんのよ」 「半導体メモリとかのほうがよさそうだ」 「携帯とかデジカメとかに入ってるあれ?なんでもいいわ。送れるようにしといて」 メモリといえば俺が朝比奈さんに言われて花壇で拾い、知らない誰かに送ったあれもそうだったが、なにか関係あるんだろうか?朝比奈さんに疑問符を投げてみるが、にっこり笑っただけだった。禁則事項らしい。 ハルヒはハンマーを抱えてのっしのっしと部屋の奥に歩いていった。 「おい、なにするんだ」 「二通目を入れるから大理石を壊すのよ」 ビルが倒壊するんじゃないかと思うような音がげしげしと聞こえてきた。その場にいた全員が耳を塞いだ。ハンマーを大きく振りかぶって大理石をぶっ壊している。まったく激しいやつだな。 俺はビデオカメラをパソコンに繋いで、映像を抜き出した。こないだの自動発火装置付きメッセージのシーンを再生して何度も笑わせてもらった。 「あれっ、ないわ」 ハルヒの声が響いた。なにごとかと奥の部屋へ行ってみると、足元には大理石の板が粉々に砕け、タイムカプセルの穴に顔を突っ込んでわめいている。 「どこにもないわ、キョン!手紙どっかにやったでしょ」 「知るかよ、最後に石を封印したのはお前だろう」 「そうだけど……」 覗き込んでみるが空っぽだった。長門を見てみるが首を横に振っていた。朝比奈さんは、こめかみに指を当てて考え込んでいる。 「向こうで手紙を受け取ったのだから、なくなったのでしょう」古泉が口を挟んだ。 トンネルじゃあるまいし、そんなはずがあるか。手紙がないってことはこの時間でタイムマシンが完成したってことじゃないか。……って、え? 「それもそうね。まあいいわ、次の手紙を入れるから。キョン、今日中に編集しといて」 ハルヒは、手紙が消えても何の不思議もないかのような顔をしている。そんなんで納得していいのか。 「じゃ、ちょっと早いけどお昼にしましょ。あたしは健康ランド行ってくるわ。いい汗かいたし」 ハルヒはSOS団建設とでも名称変更できそうな勢いで、すがすがしいんだかよくわからない労働の汗をタオルでごしごしと拭きながら出て行った。 ここで緊急会議である。四人は顔を突き合わせてあれやこれやと意見を出し始めた。 「これはミステリーですね。密室にあったはずの手紙はどこへ消えたのか?」 推理好きな古泉が安っぽいサスペンスドラマっぽく仕立て始めた。 「壁の向こう側から盗まれたんじゃないかしら?」 朝比奈さんが穴の奥の壁を探っていた。 「向こう側は廊下ですよ。それに穴は鉄骨で止まってますから」 「……」 長門だけはじっと考え込んでいた。 「どうした?」 「……この穴の内壁」 穴の内側をなぞっている。指先に、微妙に光を反射する粉がついていた。でこぼこを埋めたときの石膏かと思ったが、そうでもないようだ。 「……微量だが、エキゾチック物質が残っている」 「なんですって」 「どういうことだ?」 「……ワームホールが発生した形跡がある」 「ということは、手紙はほんとにタイムトラベルして向こうの時間に行ったんですか」 「……そう、推測する」 まさか、ありえないだろ。今日はエイプリルフールか。お前ら、俺をかついでんだよな。 「どうやったらそれが可能なんですか?」古泉が興味津々だ。 「……時間移動の方法はいくつかある」 前にもそんなことを言ってたな。 「原始的な方法として、エキゾチック物質で粒子-反粒子間のトンネルを押し広げ、質量のある物体を移動させるやり方がある。今回の現象は、それに該当する」 「それはかなり不安定だと聞いていますが」 「……涼宮ハルヒが、それを成功させた」 「これもまた涼宮さんの能力ですか……」古泉が考え込んだ。 「俺にはなにを言ってるのかよく分からんのだが」 俺が割り込んでも、古泉は説明もしない。 「長門、俺にも分かるように説明してくれ」 「……うまく言語化できるか分からない」 長門はホワイトボードに、蜘蛛の巣を二つ、その中心を貼り合わせたような図を描き始めた。俺は何度も何度も小学生のような質問を繰り返し、ようやく飲み込めたところでは次のような説明だった。 ── 宇宙を作っている素粒子、原子よりずっと小さい物質の大元みたいな小さな粒は、二つのペアになっている。粒子がプラスで反粒子はマイナスだと考えればいい。その二つのペアの間は不思議な力で繋がっていて、それがワームホールになる。そのトンネルを大きく広げてやれば、人でも猫でも、宇宙船でも通り抜けられるという理屈だ。 さらに、反粒子は時間を逆行して存在してるらしいので、ワームホールを抜けると時間を超えることもできる、らしい。ただし穴の壁は壊れやすく不安定なので、エキゾチック物質という負のエネルギーを持つ物質で内側を支えてやらないといけない。 なんだか前にも似たような話を聞いたような覚えがなくもないが。 「それをハルヒが無意識にやっちまったってのか」 「……それ以外、妥当な答えがない」 なるほど。ほんとかどうかは知らんが、やっぱ物理学は俺の頭じゃ無理だわ。 「あの……」 いちばん時間移動に詳しい朝比奈さんが、やっと口を開いた。 「これは歴史の転換点かもしれません。わたしの知る歴史とはまったく違う時間移動技術の発明過程です」 「これって朝比奈さんの所属する時間移動の組織と関わりがあるんですか」 「もう違う流れに変わってしまったので話しますけど、この会社は時間移動技術研究所の前身なんです。その、はずなんです」 「SOS団がタイムトラベルを管理?」 「いえ、涼宮さんがはじめて、もっと後の世代でやっと実用化した技術なんです。ここは、ほんの始まりに過ぎないの」 「ハルヒが開発を前倒ししたってことですか」 「まだ正確なところはなんとも言えないです。こんなのははじめてで……」 朝比奈さんは長門に尋ねた。 「長門さん、ひとつだけ分からないことがあるんです。涼宮さんはどうやって時間を指定したんですか?」 「粒子の存在する時空、つまり、目的の時間の粒子ペアを持つ反粒子を使った」 「その粒子を見つけられる確率は?」 「……見つけたのではない。涼宮ハルヒは自ら反粒子を作り出した」 長門は両手をパンパンと打ち合わせた。 「あの、かしわ手?」 「……そう」 まさかあの仕草にそんな意味があったんだとは。 ハルヒの命令で俺は、動画を編集するために昼休みを潰すはめになった。メモリカードを渡すと、うやうやしくアルミホイルで包んで小箱に入れ、ラッピングしてご丁寧にリボンまで付けてタイムカプセルに収めた。こないだと同じ手順で重たい大理石の蓋をし、隙間をパテで埋めてかしわ手を打った。ついでに祝詞でも唱えりゃ効果倍増するんじゃないのか。 二通目の返事は同じメモリカードで来た。部屋が一瞬閃光に包まれ、封筒がハルヒの机の上にぽとりと落ちた。続けて、赤い筒型の何か、それより細いスプレー缶みたいなもの、黒いレバーらしきもの、最後にホースが落ちてきた。赤い筒だと思ったのは消火器のようだった。中身が空で、部品ごとにバラバラに送られてきた。組み立てろってことらしい。未来のハルヒはここのハルヒより一枚上手なようだ。 ハルヒは突然目の前に降って沸いたガラクタに眉毛をひそめ、机をドンと叩いて怒鳴った。 「まったくもう!ムカつくわね。しょうもないイタズラしてないで大人になりなさいよ」 ハルヒは自虐的な突込みをいれつつ、メモリカードをパソコンに挿して動画を再生した。 『あたりまえだけど、若いわね。感動しちゃったわ』 広告の使用前使用後みたいで、見ていた四人がオオッと声を上げた。この映像のハルヒを見る限り、向こうはだいたい十年くらい未来ってことだな。もしかしたらずっと未来で、メイクか若返り治療の効果かもしれんが。 『あんたも欲張りね。駅前の写真を何枚か入れといたわ。なにも変わってないわよ。髪の毛は何本か入れといたから、勝手に分析でもしなさい。言っとくけど、今じゃDNAなんていくらでもごまかせるんだから。新聞はねぇ、未来の情報を過去に送るのは有希に止められてるの。分かるわよね。あんたが下手に情報を使ったりしたら、未来が変わっちゃうもの。同じ理由で設計図もダメ』 「チッ。サッカーくじで大儲けしようと思ってたのにぃ」ハルヒは舌打ちした。 お前そんなせこいこと考えてたのか。俺もだ。 『お詫びに消火器も送っといたから、そっちで組み立てなさいね。これ重いから、分けて送るのたいへんなんだからね』 ハルヒを見ると怒りに打ち震えているのか、プルプルと震えていた。頭にやかんが乗っていたらシュンシュンと音を立てていただろう。 「ちょっと古泉くん、相談があるんだけど」 「なんでしょうか」 「メモリカードくらいの小さい爆弾作れる知り合い、いる?」 「す、涼宮さんそれだけは」 機関なら爆弾職人くらいいるだろう。冗談なのか本気なのかハルヒは古泉ににじり寄った。いっそのこと紹介してやれ。 5章へ
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エピローグ 朝起きれば何故だかハルヒの声がして、その理由が掴めぬまま独りもだえた後に学校へ行く支度をした。あー、眠いねえ。 いつも通りえっちらおっちら坂道を登っていき、朝っぱらから元気な谷口と合流。とるに足らない会話をした。しょうもない内容でも話していれば坂道の苦も幾分か忘れることが出来、気づけば教室前に着いていた。無意識ってのも凄いもんだな。 「キョン、客だぞ」 「ん? 俺にか?」 ドアに手をかけた所で谷口からそう言われた。俺に用なんて、誰だよ。古泉ぐらいしか思い浮かばん。 だがそれは以外にも長門だった。 「どうした、長門」 「‥‥‥昼休み」 それだけ言って立ち去っていく。なんだなんだ。なんかまたハルヒが起こそうとしてるのか? 「おいキョン」 「なんだよ」 「昼休みに、あの長門有希と何する気だよ」 「さあな‥‥‥」 わき腹を小突かれ、顔見ればニヤニヤしている。変態め。 そして俺はようやく長門にこの話を聞かされたのだ。涼宮ハルヒの分身。にわかにも信じがたい話だった。長門の創作じゃないだろうな。 「‥‥今のは本当なのか?」 「全て実際にあった出来事。世界を改変した際に、全員が違和感をもたないように私が自主的に記憶を作り替えた。今回ばかりは涼宮ハルヒ個体のみの記憶の改変を施すにはかえって時間がかかるため、あなたも含めた全員の記憶を統一したキーワードに沿った記憶となっている」 「そのキーワードってなんだ‥‥?」 ウインナーを取り上げながら聞いた。長門も食うか? 「‥‥‥日常」 長門はそう言った後、フルフルとわずかに首を横に振った。そうか、いらないか。 「にしても、じゃあなんで俺たちはその閉鎖空間に最初からいたんだろうな。その、もう一人のハルヒっていうのは俺たちを特に歓迎してたわけでもないんだろ?」 「涼宮ハルヒが深層心理の中で、団内のメンバーと離れることに拒絶に近い反応があったためと思われる」 なるほど。古泉や朝比奈さん、長門との結びつきもしっかり強くなってたんだな。一緒に映画まで作った中だし。 「ちなみにそれはこっちのハルヒのことか?」 一呼吸置いてから 「両方」 とだけ長門は短く呟いた。 ハルヒはハルヒに違いないということ、か。 長門から急にされた話ではあったが、そんな話も放課後になるまでの間に特に疑いもしなくなっていた。自分が体験していない出来事を語られるのは何だか歯がゆい気がしたが、まあなんだ。過去の俺は頑張ってたというわけだ。 「‥‥キョン!」 「なんだ」 「なんだじゃないわよ! あんた一冊も本を呼んでないってどういうことよ!!」 読書大会のことなんてすっかり忘れたんだよ。確か一週間かそこらか前に言われた気がしなくもないが、まあ曖昧だ。長門が作ったからだろう。 「何有希をチラチラ見てるのよ! あんたが本を読まなかったのは他でもないあんたのせいでしょ!」 古泉は相変わらず微笑んでいるだけだし、朝比奈さんはメイドさんの格好したまま古泉と同じく笑っている。読書の達人長門は‥‥‥まあ言わずとも分かるだろう。 「罰よ! 古の時代から悪しきものにはペナルティーを与えるのが規律なんだから!」 最初からこうなる展開になることを予期していたかのように、ハルヒはポッケから折りたたんであるルーズリーフを取り出し、それを広げた。裏からでも分かるぐらい、罰ゲームがびっしりと書かれている。やれやれ。 「さぁーて、どれにしようかしら。みくるちゃん、古泉君、有希達も選ぶのよ!キョンの罰ゲーム」 な、4つもやるのか!? 「当たり前でしょ! みんな10冊以上読んでるんだから!!」 朝比奈さんは顔からして、あんまりキツくないものを選ぼうとしながらも、鬼畜極まりないものしかないらしく悩んでいた。古泉は 「恥ずかしいセリフ10連発なんて良さそうですね」 などと言って、助けてくれそうにない。長門は黙々と何かを選び、本の世界に舞い戻った。しれっとしてはいるが、校庭の真ん中でヒゲダンスとか選んでいそうで一番怖い。 ハルヒは何だろうか。まあ俺のインスピレーション的に、おそらくは‥‥‥ 「あたし達全員が笑うまで一発芸よ!!」 ‥‥ほらな。こういう奴なんだこいつは。大人しく哲学書読んでる方がマシにさえ思える。 俺は一週間の猶予が与えられ、それまでに 古泉の選択した恥ずかしいセリフ十個、 長門の選択した校庭のど真ん中で百だか千だかの風になってを丸々一曲熱唱、 朝比奈さんの選択した誰にも言えないほど恥ずかしい過去を語る、 ハルヒの全員が笑うまで一発芸をし続ける の準備する羽目となった。これはひどい。人生経験上地獄の一週間となりそうだった。 ‥‥‥‥ 「おそらく、私はまたあなたの記憶を消すかもしれない」 「何故だ」 「あなたに‘涼宮ハルヒ’の能力を応用出来るという事実をまた知らせてしまったから。未来の私は今話した内容ごと忘れさせると思われる」 「‥‥‥どうして忘れさせる内容を話した? どうしてハルヒの能力を使えることを俺が知っていると困るんだ?」 「‥‥‥‥‥‥」 ‥‥‥‥ 知ったこっちゃねーや。長門は何か抵抗しているようにも見えたし、それが言えないならば、俺はいつ言われても受け入られる状況にしておくまでさ。長門が記憶を消そうと、何をしようともな。 でも長門、 どうせ消すんだったら‥‥その、なんだ。 皆の考えた罰ゲームの分も含めちまって この一週間以内に、頼むぜ? 完 消失へ続く
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バルラ王国の港 火竜の棲む森 ドルリッジ大橋 パルーニの街 凱旋広場 占拠された農村(シークレット) バルラ王族別邸 花咲く庭園 西のコロシアム 忘れられた山道(シークレット) 崩落の五合目(シークレット) 封竜の峰(シークレット) 城下町への街道 廃墟の町 亡霊の洋館(シークレット) 隠された洞窟 城下町バルラン バルラ王家の遺跡(シークレット) バルラ城 バルラ王家の森(シークレット)
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涼宮ハルヒの出会い プロローグ 涼宮ハルヒの出会い 第1章
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4から 「は?」 と俺は聞き返す。 「なに言ってんだ、おまえ?」 受話器越しにハルヒは答えた。 「なにって……、修学旅行とかで、ほら、男子が女子の部屋に遊びに来たりするじゃない? いわば、ああいう奴よ。深い意味はないわ」 「悪いがハルヒ」 「な、なによ?」 「お前の方に深い意味がなくてもな」と俺は言った「俺にはある」 「ななな、い、意味ってなによ?」 「俺はおまえでなきゃ嫌だ」 「……」 ハルヒは黙った。それもいいだろう。どうせ全部言わなきゃ俺だって止まりそうにない。 「目の前にどえらい美人がいたとする。俺だって健康な男子高校生だし、抱きしめたいし、キスしたいし、押し倒したくなくないけどな、今はお前でないと嫌だ」 「い、今って?」 「お前に出会っちまって、お前を個体識別して、お前とお互いに話して、お互いに思ってることをぶつけあって、こうして一緒にいる今、ってことだ」 再び沈黙。波と波がぶつかり合う音が、えらく近く聞こえる。受話器から鳴っているみたいだ。 「わかったわ」 ハルヒは言った。 「あんたは、どうあってもこっちには来ないということね」 「ハルヒ、お前、いったい何を聞いて……」 「あたしがそっちへ行く。これで文句ないでしょ?」 二つのドアが同時に開く。そこにいるはずの相手を見つめ合う。 先に動いたのはハルヒだった。 さっと、俺の横をすり抜けたと思ったが、ハルヒは俺に左手首をしっかり捕まえていた。 ハルヒに引きずられ、ベランダから外へ、俺たちは夜の浜辺に駆け出た。 コテージの非常灯を除けば、辺りには明かりになるものは何もなかった。 他に明かりがないと、月の光はこんなにも青く明るいのか。 ハルヒに手を引かれて、コテージからの緩やかな坂を、夜の砂の上を走る。 波打ち際まであと数メートルというところに来て、ハルヒは止まって、俺の手首を離して、俺の方を見た。 「とりゃー!」 不意をつかれて、倒される。砂の上に上半身から落ちる。あごを砂にぶつける。痛い。 (辞書の意味で)砂を吐きながら、一応抗議してみる。 「ぺっ、ぺっ! 何すんだよ、ハルヒ!」 「カニばさみ。まずはあたしの一勝ね」 一勝? 勝負? ホワイ? えーい、こいつの思考回路はトレースし切れん。今わかるのは、「おほほ、つかまえてごらんなさい」的な展開はあり得ないってことだけだ。月の光よ、我に武運を! 「もういっちょ、いくわよ。どりゃー!!」 「のあ! いきなりか!」 「一瞬の隙は、戦場では死を意味するわ」 死かよ! そして戦場かよ! 言っててなさけないが、スピード、技の種類にキレ、それに知略(?)に上回るハルヒの絶対的優位が続いたが、ちぎっては投げちぎっては投げしているうちに(つまり俺が繰り返し砂の上に転がる度に)、未曾有にみえたハルヒの体力もいささかの陰りを見せた。やっぱり言ってて情けないが、勝ち続けるには、負け続けることを数倍する体力が必要なのだ。 言い換えれば、ハルヒの目的が「俺との当面の戦いを制すること」であるのに対し、俺の目標は「このもーよーわからん大相撲的シシフォスの労働を終わらせること」だった。つまりは、ハルヒは勝ち続けなければならず、俺はただの一回、こいつにもはっきりわかる形で勝てばいいのだ。それがものすごく難しいのだが。 「へっ、さすがに息があがってるじゃないか、ハルヒ?」 「膝に両手ついてるあんたに……言われたかはないわ」 ないなら作ってでも隙を突くしか、俺に勝ち目はないだろう。 「次で決めるぞ、ハルヒ!!」 「勝手に言ってなさい、キョン!!」 足をめがけてタックルする。むろんフェイクだ。 「ハルヒ、好きだ!!」 ちなみに言葉はフェイクじゃないぞ。 「こ、このバカキョン!!」 俺のタックルを読んでいたハルヒは、軽々と俺の上を飛び越えていく。ただし視野の端に写ったハルヒの顔は真っ赤なトマトだ。 着地するや否や、ハルヒは叫ぶ。 「卑怯者!あんた、そんな言葉まで使って!そうまでして勝ちたいの!?」 「真剣勝負で、自分に一番気合いが入る言葉を叫ぶのは当たり前だろ!」 俺にそんな難しい作戦が思いつける訳もなければ実行できる訳もない。だが、勝算は五分と見た。いくぞ、ハルヒ。 「愛してるわ、キョン!!」 怒声とともに張り手が飛ぶ。顔がよじれる、膝が崩れる。 「言われてみてわかった。すごい諸刃の剣だ」 愛の言葉って。 それを受けて、あの動きか。すごいな、ハルヒ。 「やっぱりバカだったのね、あんた。それに先に倒せば問題なし!」 「その言葉、もらっとくぞ」 「なっ、わ、わ」 膝をついた足も、足首を立てて、死んでいなかった。片膝立ての体勢から、もう一度ハルヒの腰に至近距離からアタック。腕を回して、抱え上げる。渾身の力で。 「こ、こら、離せ、アホキョン! エロキョン!」 「無理だとわかってるが一瞬だけ大人しくしろ。もうちょっとの力しか残ってないんだ。ハルヒ!」 「は、はい!」 「愛してるぞ! 絶対、離さないからな!!」 誓いは、たった2秒で膝から崩れた。体力の限界。緊張の中断。深手の影響。その他諸々。 それでもハルヒをなんとか砂の上に転がし、自分は少し離れたところに放り出した。 砂の上に並んで寝転ぶ二人。 「キョン……生きてるよね? あんなこと言って、死んだらひどいからね」 「……い、生きては……いる」 本当の意味で、砂を吐いたけど。 「……よかった……」 「はあはあ、一応聞いとくが、ハルヒ?」 「はあはあ、なによ?」 「煩悶とした青春はスポーツで昇華! なんて体育会的オチじゃあるまいな」 「バカじゃないの? そっちはもちろん別腹よ」 もちろんかよ! そして別腹かよ! ハルヒは寝転んだまま、右手をずいっと上に、夜空に向かって突き出した。その手の先には、ものすごい数の星の光。 「どう? これであんたとあたしは『ひとつ屋根の下』よ」 「やれやれ……そうだな」 二人はくすくすと笑った。ハルヒの、あまりにハルヒらしい自信たっぷりの言い方を、「いや、それだったら、ここまでしなくても」といった俺のかき消された愚痴のなさけなさを、いや多分その両方を、心のどこかで指差しながら。 相手の手は、すぐ届くところにあった。 指先がまず触れ、互いに絡み合う。手が重なる 腕が互いを引きつけ合う。身を起こす。 二人の顔が近づく。 「待って。キョン、一回つねらせなさい」 「いてて。もう、あちこち痛い! ……何すんだよ?」 「ふん。夢じゃないようね」 「そういうことはな、自分ので確かめろ」 「キスなんかで夢オチでした、なんてたまったもんじゃないわ」 「おい……」 だまってなさいと、ハルヒの口が、口をふさいだ。 「……なあ、母さん」 「なんですか、お父さん?」 「今度は人の多いところに宿とろうな。あいつらが、あまり自然に帰らんように」 その6へつづく
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(これでも三訂版) ・サイレントヒルとのクロスオーバー。グロ描写注意。 「これ、返す」 「おう、やったのか」 有希がキョンに何かのゲームソフトを渡すのが見えた。有希もゲームをするのね、ちょっと意外。どんなのかしら。 「それ、何?」 「ああ、零だよ」 キョンがソフトをこちらに見せた。いかにもなパッケージをしているところからするとホラーゲームみたい。あたしが好きなジャンルではないみたい。 「お前はこういうのが好きじゃないみたいだな」 キョンがそう言ったのでびっくりした。 「な、なんで分かったのよ」 「期待して損した、みたいな表情をしてたからな」 そんな表情してたのかしら……。こいつ時々鋭いから困ったものだわ。 「で、有希、それをやってみてどうだった?」 「人間の想像力は……恐ろしい」 いつもより小さな声でそういうと俯いてしまった。 「どうしたのよ有希。まさか、怖かったの?」 「違う」 即答だった。必死さを感じたのは気のせいかしら。 「そんなことはない。決してトイレに行くことが出来なくなったり、布団に潜ったまま翌朝まで身動き出来なくなった訳ではない」 有希……全部言ってどうするの……。 「貸しておいて何だが……スマン」 「いい」 やがて古泉君やみくるちゃんがやってきた。古泉君がそのソフトの箱を見るなり言った。 「まさか貴方がそのような分野のを持っているとは思いませんでした」 「興味本位でな。あの怖いCMがちょっときになってな」 すぐにどんなのか判ったってことは古泉君もやったことあるのかしら。ちょっと内容が気になるけど……怖いのよね。 「そんなの怖くてできないです……」 そう呟いたみくるちゃんに同意せざるを得ないわ。 「キョンってどんなジャンルのゲームをするの? まさかそんなのしかないとか言わないでしょうね」 「さすがにそれはねーよ。妹もいるんだしな、パーティゲームとか大衆向けのももそれなりにあるぞ」 「ふーん、じゃあ週末はキョンの家でゲーム大会ね」 「え、ん、まあいいが」 「じゃ決定ね。ということだからみんなよろしく!」 その後、有希は読者を再開していたし、古泉君はキョンとチェスを始め、みくるちゃんは紅茶を選んでいた。 あたしは特に何をするということもなく、適当に検索して開いたページ眺めてた。 さっきの零とかいうソフトについて調べないのかって? 冗談じゃないわ、あんなアブノーマルなのあたしには向いてないもの。 「あ、あれ……?」 気が付くと、あたしは真っ暗な駅のホームに立っていた。 何で? さっきまで部室にいた筈なのに。 慌てて辺りを見回すけれど、ホームどころか駅の周辺からも人の気配が全然しない。 「どうなってるのかしら」 ホ-ムを改めて見回してみる。見たくなかったけれど。 蛍光灯だけが照らしている構内は随分と汚くて、柱なんて赤錆でボロボロになっている。地面のコンクリートが赤いのもそのせいよ。 そのせいよね……。 ここはどこの駅なのかしら。全く見覚えがない。外に明かりはなく、この駅以外は永遠に続きそうな真っ暗闇しかない。 一体何が起こったのかさっぱり分からない。あたしは一歩も動けずに 「いやああああああああああああああああああああ!!!」 その突然の叫び声にあまりに驚いたあたしは、一瞬呼吸を忘れてしまった。 「何!? 何なの!? さっきの悲鳴は何なのよ!?」 パニック寸前のあたしは一刻も早くここから出ようと、改札口へ走った。自分の荒い息遣いと壁に反響した足音だけが聞こえる。 周りを見ている余裕なんてなかった。後で思うと、見なくて正解だったかもね。 恐怖からの逃避を図ったその先で、あたしは地獄を見た。心臓が縮み上がった。全身から血の気が引く音がした。 改札口の辺りは血痕だらけになっていた。床も壁も天井も……、一体何をすればこんなに飛び散るのだろう……。 そして改札機のそばには何かが 「……みくるちゃん!?」 どうして? どうしてこんなことになってるの!? 血まみれになって倒れているみくるちゃんはあたしの声に気付いてこっちを見た。 「みくるちゃん! 何があったの!? しっかりして!」 「涼宮さん…………逃げて下さい…………。この世界は…………もう…………」 「何言ってるの!? みくるちゃん! 」 「……じ………く…………」 「 !」 「………………………」 もうみくるちゃんが何を言ったか聞き取れなかったし、自分が何を言ったかさえ覚えていなかった。 「 !」 「」 「」 「」 「」 「 「 「 「おい、ハルヒ? ハルヒ?」 あたしは気付くと、机に突っ伏して寝ていたみたいだった。額は汗でびっしょりになっていた。 ゆ、夢? そうよね、あんなこと現実にはあり得ないもの…………。 「どんな夢を見てたんだ? 随分と苦しそうだったが、大丈夫か?」 キョンはまだ呼吸の整っていないあたしを心配しているみたい。 視線を移すと、心配そうにこちらを覗くみくるちゃんが見えた。ちゃんとメイド服を来てるし、勿論血なんてついてない。 あたしは立ち上がると、何か話しているキョンを無視してふらふらとした足取りでみくるちゃんに近付いた。みくるちゃんは少し驚いた表情をしていたけどね。そんなのどうだっていいわ、さっきのが夢だっていう証拠が欲しかったから。 「みくるちゃん、何も起こってない……よね……?」 「え? は、はい、いつも通りですよ」 あたしはみくるちゃんに抱きついて泣いていた。 「す、涼宮さん?」 「ちょっと……怖い夢を見ちゃったから……。うん、大丈夫よ……」 みくるちゃんは、優しくあたしを撫でてくれた。ちょっと恥ずかしかったから、悪夢を見たのをキョンのせいにして解散した。 家に帰ってからは、一晩中なんだか怖かった。それはもうキョンから借りたゲームの所為で動けなくなった有希といい勝負だったかもしれない。 けど、何も起こらなかったし、あの夢も見なかった。 でも、翌朝にそれは起こった。 あの悪夢はただの夢だったことにほっとして、何時ものように学校に向かっていたあたしは、突然目眩に襲われて倒れた。 気がつくと、ほほにアスファルトの感触がある。その場に倒れたままだった。 「ったく……誰も助けてくれないなんて薄情な……」 ここは一通りの多い通学路なのに、人の気配が一切なかった。 そして辺りは真っ白な霧で覆われていて、5メートル先も見えない状態だった。 「え? なに……これ……」 何より不安を誘うのが、全くと言っていいほどに音が無いことだった。 音がしないなんて雪が降った日みたいだけど、今は凄く不気味に感じる。 無響室に入れられた人は不安感を抱くとかいう実験について聞いたことがあるけど、今のあたしはそれに近い環境下におかれているのかもしれない。 ここは毎日通る道なのに、どう進めばいいか分からない。電柱とか、特徴がある家とか、そういった目印を探しつつ学校へ向かった。もう家を出てしまった以上、学校に行った方が安全だと思ったから。 そうして何とか進んでいた時、私は不意に足を止めた。 白い霧の中に、ぼんやりと影が見える。その形からして、路上に誰か倒れているようにしか見えなかった。 あの時のよく似た状況の記憶が頭を埋め尽くす。 嫌、見たくない…………。 それでも、あたしには前に進むしかなかった。 重い足取りでも、確実にそれに近づいていた。 やがて霧の中から見えてきたのは、血溜まりに倒れているキョンだった。 「……え…?」 今回は夢じゃない。体を流れる血が冷たく感じた。 「嘘……でしょ……?」 キョンを揺さぶっても、全然反応しない。手も首も、だらんと重力に負けたまま……。 「嘘って……、言ってよ……ねえ!」 あたしの両手が真っ赤になっていた。キョンはおびただしい量の血を流して、温かさを失っていた。 「どうすればいいの……!」 救急車を呼ぼうと思い立って、慌てて震える手で携帯を取り出した。 「……どうして?」 圏外という赤い二文字が画面に表示されていた。助けは来ない、あたしにも助けられない。 キョンは死んでしまった? これはみくるちゃんの時と同じ「夢」……よね……? でも、このべっとりとした嫌な感触や、鉄の臭いは…… ………… ………… あたしは狂ったように泣き叫んだ。声が裏返り、しわがれても構わずに叫び続けた。 「…………!」 あたしは泣くのをやめた。 足音が聞こえた。しかもそれが段々と近づいていた。 「だ、誰……誰なの!?」 あたしは虚空に向かって叫んだ。虚勢でも張っていないとおかしくなってしまいそうだった。 すると、返事が聞こえた。 「涼宮さん!?」 あの声は、古泉君! 良かった……。 霧の中から姿を現したのは間違いなく古泉君だった。 「涼宮さ…………」 古泉君はキョンの亡骸を見て言葉を失った。 「これは……」 「あたしが来た時には、もう……」 「朝比奈さんに続いてまさか彼が……」 その言葉にはっとした。 「みくるちゃんも!? どういうことなの?」 「朝比奈さんは、先日、駅の改札口で」 「何ですって!?」 古泉君の話していた内容は、あの時の夢と全く同じだった。 あたしは頭を抱えた。ひどく混乱していた。信じたくないことばかりがぐちゃぐちゃになって頭の中を掻きまわしていた。 どういうことなの? あれは夢じゃなかったの? 「このままでは、この世界は……終わってしまいます」 それは、みくるちゃんと同じ台詞だった。 『この世界は…………もう…………』 「古泉君、この世界って何なの? 何でみんな殺されたの? この世界はどうなっちゃうの!?」 あたしが古泉君に掴みかかっていたその時、後ろから声がした。 「あら、揃ったのね」 振り向いたけど霧しか見えない。 「誰よ!」 「あら、名前なんて言わなくても分かるでしょ?」 霧の中から、うっすらと影が見えてきた。 「彼を殺したのはあたしよ。話を面白くするには良い演出でしょ?」 笑っているような口調だった。 「ふざけるな!」 あたしはそいつに向かって怒鳴った。 「ふざけてはないったら。彼もあの子も必要な犠牲なんだから」 まさか、みくるちゃんもこいつが……。そう判断した瞬間、自分自身でも驚く程の激しい憎しみという感情を抱いていた。 「良いわねぇ……、良いわその表情……。あたしを殺したいの? 出来るかしら?」 あたしは呼吸が荒くなっているのが分かっていたけれど、それを抑えることはしなかった。 「悔しいのなら、学校で待ってるからいらっしゃい。面白いものを見せてあげるから」 そう言って、そいつは霧の中に消えた。 キョン…… そいつが消えた頃にあたしはようやく落ち着いた。古泉君が霧で真っ白の世界を見回しながら呟いた。 「僕自身も、裏世界にいるのは初めてなんですが……。この霧の世界……、まさにサイレントヒルですね」 「それって……あたし達はホラーゲームの世界に放り込まれたってこと? 冗談じゃないわ!」 本当に冗談じゃなかった。ホラーの世界が現実になったら……とてもじゃないけど、主人公みたいに生き残れる自信なんて……。 「しかし、このままでは何も進展しません。ここで敵の襲撃を受ければ助かる見込みはありません」 あたしは決意した。キョンの仇を取らなきゃ。 「……分かったわ、あたし達が主人公になってやろうじゃないの。主人公は不死身なんだからね」 あたしは別の世界の涼宮ハルヒだと説明すると、古泉君はあっさりと理解してくれた。 なんで不思議に思わないのだろう……。 古泉君によると、この世界のあたしは数日前に失踪してしまっている。それ以来、裏世界と呼ばれるおぞましい空間が発生し、そこで殺人事件が起こっているらしい。 その犠牲者はキョンやみくるちゃんを含めて20人を超え……。 そして、今いるのがその裏世界。惨劇の舞台に、あたし達はいる。 「つまり、狙われてるってこと?」 そう思いたくなかったけど、そう思わざるを得なかった。 あたし達はあの女のいる学校へ向かうことにした。 何かが襲ってこないか不安だったけども、静寂を破るようなことは起こらなかった。 どれくらいの時間が掛ったのだろう、霧の中を歩いて、ようやく学校に着いた。 でも、古泉君は入るのを躊躇っていた。 「どうしたの?」 「裏世界の詳細をご存知ですか?」 「どんな世界なの?」 「その世界の建物の内部はとても凄惨なことになっています。最もおぞましいと言われる程だそうです。覚悟をしないと、精神的に参ってしまいます」 あたしは頷いて学校へと入った。 覚悟はしていたつもりだった。 でも、古泉君が言っていた通り、入った瞬間に食道がケイレンを起こした。 「ぅ…………」 あの時の駅より酷い、酷過ぎる。 「大丈夫ですか?」 何もかもが赤錆と血飛沫でどす黒い赤色になっていた。血の臭いがする……。この学校のあらゆる場所で殺し合いがあったような状態だった。 「ええ。なんとかね……」 蛍光灯は全部割れていて、外の霧が唯一の明かりになっていた。 「かなりの邪念を感じますが……、とりあえず、進みましょう」 「ええ、そうするしかないわね……」 昇降口 まず、自分の上靴の場所を調べる。 履き替えるつもりなんて勿論無い。血でこんなに汚いんだから、土足でも構わないだろうし。 二度と触りたくないくらいに汚い上履き以外は、変わった物は入っていなかった。 「おや、これは心強いですね」 古泉君が見つけたのは、ショットガンだった。弾も幾つか見つけたみたいだった。 古泉君は、弾をポケットに入れると、その一つを装填して構えた。手慣れたように見えたのはどうしてだろう。 「頼れる武器があると、やはり落ち着きます」 こんな物騒なものを手にして落ち着くなんておかしいけど、今は命の危険に晒されているのだから、古泉君が正しいと思う。 「この世界がゲームと同じなら、武器はいろいろと見つかる筈ですね」 なるほど、だから学校にそんなものが置いてあるのね。 あたしも何か役に立ちそうなアイテムはないかと見回すと、傘立てに傘に混じって何かが立ててあった。 手に取ると、日本刀だった。鞘に紐がついていたので、それを腰に巻いて結んだ。 「いいものを見つけたみたいですね」 ショットガンを持った古泉君が言った。 「僕も近接武器が欲しいですね。ショットガンには弾に限りがありますから。銃身で殴るには少々重たいですし」 ズズッ…… その時何かの音がした。 「おやおや、歓迎でも来たようですね」 勿論そのままの意味でないことは知ってる。敵でしょ。 廊下で何かが動いていた。 それが這ってこちらに来ている。だんだんとその姿がはっきりと見えてきた。 ゾンビというのかは分からないけど、人の形をした血まみれの気持ち悪い生き物が近付いていた。 「涼宮さん、下がって下さい」 「いえ、その必要はないわ……」 あたしは刀を鞘から引き抜いて、銀色に輝く刃を見つめた。 決心したんだもの、あたしはキョンの仇を討つまでは……いえ、討っても死ねない! 「弾はもしもの時の為にとっときなさい!」 あたしは目の前の敵に向かって走った。 あたしの姿を認めるとそいつは何やら呻いていたけれど、そんなの気にせずに素早く背後に周りこんで、これでもかという位に斬りつけた。 背中から血を噴き出してもがいていたけど、蹴りを一発お見舞いしたら動かなくなった。 「す、凄いですね涼宮さん」 古泉君の視線で、あたしは大量の返り血を浴びていた事に気付いた。それを見たから、古泉君は少し驚いたのだろう。 「この調子ならノーダメージでいけそうね」 「では、行きましょうか」 1F 薄暗い廊下を歩いて行く。目的地は分からないけど、学校のどこかにアイツはいるから順番に回っていけばいつか見つかるだろうし。 古泉君が腕を組んで壁とにらめっこをしていた。 「これは……困りました。ここには手洗い場があったはずなんですが」 確かに、ここにはトイレがあった筈なのに、真っ赤で気味の悪い壁しかない。 「どういうこと……?」 「特に仕掛けもないようですし、配置が変えられていると考えるのが一番かと」 配置が変えられているだけじゃなかった。とても学校とは思えないくらいに廊下が入り組んでいた。 「なによこれ、迷子になっちゃいそう」 迷宮のような廊下を真っ直ぐ進んで行くと、机と椅子が山のように重なっていて行く手を阻んでいた。 「」 「これはどかしようがありません。仕方ありませんので、引き返しま……」 振り返った時に、あたし達は硬直した。 おぞましい生き物が天井からぶら下がってこちらを見ていた。 さっきのとは形が少し違う。天井から人間の上半身が生えているようだった。 あたしは思わず叫んだ。そして、 「よくも脅かしてくれたわね……!!」 冷静さを失っていた。 刀でこれでもかと言う程に斬りつけた。 「涼宮さん……落ち着いて下さい!」 古泉君があたしを止めた時には、その生き物は原形を止めない程になっていた。 説明してほしい? 簡単にいえば乱切りよ。それ以上は言いたくないから。 あたしは肩で息をしていた。なんでこんなにムキになっていたのだろう。 「冷静になることも必要ですよ。体力も消耗しますし」 古泉君は少し怯えた表情であたしを見ていた。自分の言動で逆上されることを恐れているようだった。 なんだか腫れ物に触るような扱いに感じて悲しくなった。 行き止まりから引き返す途中、あたしのクラスの教室を見つけた。 「何で気付かなかったのかしら」 ちょっと期待してたけど、中に入るとあたしの席もキョンの席も、やっぱり血がべっとりとついていた。 キョンの机の中から何かがはみ出ていた。出してみると箱があり、その中に拳銃と幾つかの弾倉が入っていた。 「何でわざわざ箱に入れてあるのかしら」 疑問に思いながらも拳銃をポケットにしまった。 「おや、これはこれは」 「どうしたの?」 古泉君が掃除用具入れから鉄パイプを見つけていた。 「手頃な武器が見つかりました」 感触を確かめるようにパイプを振っていた。 「ねぇ、おかしいと思わない?」 古泉君は表情を引き締めた。 「ええ、確かに招き入れた割に大した罠もなく、かつこれだけ武器が用意してあるというのは少々不自然です」 「だとすると、この世界にあたし達の味方がいるのかしら」 「そうとも考えられます。しかし過度の期待は禁物です。このように武器を提供するので精一杯なのかもしれませんから」 2F 階段を上ったところでいきなり現れた巨大化したゴキブリみたいな虫の大群に対し、古泉君の鉄パイプが早速活躍した。 古泉君が何とかしてくれていなかったら、あたしは卒倒してたかもしれない。想像してごらんなさい、でっかいゴキブリが顔めがけて飛んできてかじりつこうとしてくるのよ。生きた心地がしないわ。 虫の大群はいまや抜け殻の山となっていた。それを蹴散らして廊下を進み、部屋を確認していく。 「……あった!」 こんな所に部室があった。SOS団と書かれた紙に希望が膨らむ。 でも、扉をあけて中に入るとやはり酷い有り様だった。 「うわ……」 本が棚から崩れ落ちたままの状態で埃をかぶり、みくるちゃんの衣装までもが血で染まっていた。 だけどそんな中で唯一、パソコンだけが血を浴びずに綺麗なままだった。 それには二人ともほぼ同時に気付いた。 「古泉君、あのパソコン」 「何かヒントがありそうですね」 「やっぱり味方がいるって考えで正解みたい。よかった」 スイッチを押すと、黒い画面に文章が現れた。 『このメッセージは条件を満たすと表示されるものであり。そちらとの疎通は出来ない』 あらかじめ用意されたプログラムってことかしら。 『裏世界と呼ばれるその空間は現実から隔離されている別の世界』 これは古泉君から聞いたから知っている、でも、その後に表示された一文にあたし達は首をかしげた。 『しかし、神がその世界を支配すれば、その世界が現実となる』 ……つまり、この気持ち悪い世界が現実と入れ替わるってこと? 冗談じゃないわ。 それより、気になる単語があった。 「神とは何のことでしょうか……」 「少なくとも、良い神じゃなさそうね」 パソコンは神ついて詳細を述べることは無かった。でも、そいつにこの空間を支配されたらおしまいってのは分かった。 『クリーチャーは貴方達の憎悪や恐怖が実体化したもの。冷静さを保てば遭遇する頻度は下がると予測される』 つまり、あたしがもっと冷静になれば厄介な敵は現れなくなるってこと? 「ごめんね古泉君、こっからはもっと落ち着いて行動できるように気をつけるわ」 「いえいえ、謝らなくて結構ですよ」 *** 朝学校に来ると、ハルヒがいなかった。珍しく遅刻をしているようだ。 あくびをしながらその空席を見ながら座った時だった。 喜緑さんが教室にやって来た。そして真っすぐに俺のところに歩いてくる。喜緑さんが俺に用があるということは何かでっかい事件があったということだろうか。 「涼宮さんが登校途中で倒れて病院に運ばれました。これは緊急事態です」 いきなりのことに、俺は仰天した。 「なんだって……?」 俺は机上に置いたばかりのカバンを再び持つと、喜緑さんと一緒に教室を出た。授業? サボりというやつだな。 外で朝比奈さんが待っていた。 「キョン君……涼宮さんが……」 「喜緑さんから聞きました。早く病院に行きましょう」 「こちらに来てください」 喜緑さんに手招きされて近づいた瞬間、世界が一変した。 「へ?」 「ん?」 いつの間にか病院の前に立っていた。空間移動をしたらしい。 って古泉はいないが置いて来たとかそういうことはないですよね。 「既に病室にいます。詳しい話は皆さんが揃ってからに」 病室に入ると、ベッドでハルヒが眠っていた。その傍で古泉が待っていた。 「待ってましたよ」 「ハルヒは一体どうしたんだ」 「目撃者の話では、歩いていて突然全身の力が抜けたように倒れたそうです。その原因は……」 「それは私が説明します」 喜緑さんが割って入った。そんなに難しく深刻な話なのだろうか。心配になってきた。 「現在、涼宮さんの精神は抜き取られて別の世界に閉じ込められているようです」 別の世界って……。 「その空間に干渉しているところですが、情報改変が殆ど出来ていません。彼女にヒントや武器を与えることが精一杯です」 武器? どういうことだ、そんなに危険な世界なのか。 「簡単に言うと、サイレントヒルの裏世界、という表現が貴方がたには一番分かりやすいと思います」 「ぇぇっ?」 隣で朝比奈さんが俺以上に驚愕していた。朝比奈さんも知ってるんですか? 「はい、ホラーゲームの初期作の一つとして有名ですから……。でも、あんなゲームの世界に閉じ込められるなんて……」 そこで朝比奈さんがハッとした表情を見せた。 「もしかして昨日の……!」 「昨日ハルヒがうなされてた悪夢のことですか?」 「はい、それが何なの予兆だったのかもしれないです」 「そんなことがあったのですか。やはり狙われていたようですね」 喜緑さんの言う『狙われていた』というのはどういうことなのだろうか。 「閉じ込められている目的は何なのですか」 喜緑さんは古泉の質問に一切のタイムラグなく回答した。 「彼女を閉じ込めた相手はあくまで本気のようで、ゲームの様に楽しませる積もりは毛頭ないようです。相手の目的は、彼女を生け贄にして神を生み出し、その力で裏世界を現実と入れ替えることと推測されます」 生け贄……? おいおいまてよ。 それって、つまり……。 このままじゃハルヒが殺されるのか!? 「なんとかして助けられないんですか!?」 「何度も裏世界の改変を試みましたが成功していません。また相手の正体は不明で、神がどのような力を持つかも推測に過ぎません」 「そういえば、長門さんはどうしたんですか?」 朝比奈さんの一言で思い出した、長門がいない。なんでこんな時にいないんだ。 「長門さんは……隣の病室にいます」 なんだって? 「彼女は裏世界への侵入を試み、現在涼宮さんを捜索中です」 *** 涼宮ハルヒの精神が隔離された空間への侵入を試みたところ、突然「目眩」という症状を起こし、気付くと学校にいた。 しかしそれは全く似て非なるものであった。配置が著しく変えられた校舎内はどこも血痕だらけで、とても禍々しい光景だった。 ここに涼宮ハルヒがいる。 ……おかしい、統合思念体との連絡がとれないので現在の状況すら把握出来ず、おまけに情報操作が全く行えない。 有機生命体の五感を頼る他ないようだ。 前方に何かがいた。 *** 3F 階段を登り終えたときから古泉君の様子がおかしい。 さっきから落ち着きがないし、まるで風邪を引いたみたいに震えて呼吸も荒い。 「古泉君、大丈……」 思わず後ずさりしてしまった。 古泉君の腕が、ところどころカビのように黒くなっているのが見えた。 「こ、古泉君?」 もう、古泉君は古泉君ではなくなっていた。 「亜阿あああぁ唖あああああああああ!!」 古泉君は意味不明な言葉を叫ぶと持っていた鉄パイプであたしを殴りにかかった。 あたしはなんとか避けたけど、古泉君はまだあたしを狙っていた。 走って逃げたけど、向こうも走ってくる、逃げるのは無理みたい。 振りかぶった隙に鉄パイプを奪い取ることには成功したけど、古泉君は素手での攻撃を止めない。何度も何度も掴み掛ろうとする。 「ちょっと…………やめ……て……」 「ぁぁぁぁぁぁぁ………………あはははははは……!」 古泉君があたしの首を締めようとしてくる。あたしはポケットから拳銃を取り出した。古泉君を突き飛ばしてその隙に距離をおき、構えた。 「ごめんなさい!」 拳銃の弾は、古泉君の頭を貫いた。糸が切れた操り人形のように倒れ、もう動かなかった。 「古泉君……何で……?」 なんでさっきまで味方だったのに突然こうなったの? しばらくして落ち着きを取り戻してから、古泉君の服のポケットからショットガンの弾を取り出す。 その時、何かが光っているのが見えた。古泉君の首に紐に通された鍵がかかっていた。 鍵には「体育館」と書いてある小さな紙が貼ってあった。 *** 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 理解不能、私にはそのような「感情」など……。 では、どうして呼吸が乱れている? どうして過度に背後を警戒する? どうして前進を躊躇う? どうして? それらの自問に答える事が出来なかった。 幾度となく殲滅させた筈のクリーチャーが再び現れた。彼らは執拗に私を喰らおうとやってくる。 それに対して、箒を分解して金属製のパイプのみにしたものを応急的な武器としているが、簡単に折れてしまいもう箒の残りは少ない。持久戦になればこちらの劣勢は明らか。 早急に新たな戦法を練らなければならない、そう思った時だった。 机の上に、いつの間にか機関銃が置いてあるのが視界に入った。 それを手に取った瞬間、メッセージを受信した。 『私達に出来るのはこれ位だけど、これで思いっきりやっちゃいなさい!』 「朝倉涼子……」 統合思念体の干渉はこれが精一杯のようだ。しかし……、 「充分」 私はその機関銃を手にすると、向かってくるクリ―チャ―を飛び越えて走った。 この裏世界はゲームではない。 たとえチートと言われようと構わない。 あらゆる手段を尽くして、この世界を終わらせる。 *** しばらく目を閉じていた喜緑さんが目を開けた。 「裏世界の観測が可能になりました」 待ちに待った知らせだった。ここに来て数時間ずっと気になっていたことをぶつける。 「ハルヒは、長門はどうなってるんですか!?」 「現在は二人共に大丈夫のようです。しかし、裏世界ではキョンさん、古泉さん、朝比奈さんは死んでいます」 「なんだって……?」 「あくまでもあの空間は仮想のものであり、そっくりにコピーしたものです。しかし、世界が入れ替わった場合はそれが現実となり、その時にはあなた方は消えてしまいます」 俺達三人は固まってしまった。 十数秒たってから、その静寂を破るように、朝比奈さんが消えそうな声で言った。 「消えちゃうんですか……」 「……くぅっ……」 ハルヒがまた苦しそうな声をを漏らした。 自分に何もしてやれないことに腹が立つ。俺達はハルヒに触れることすら許されない。接触すると相手に何かされる懸念があると言う。 目の前で苦しそうに顔を歪めながら眠っているハルヒを見てやることしか出来ない。 頼む、頼むから、無事に目覚めてくれ……。 俺達には祈ることしか出来なかった。 *** 体育館 「やっと来たのね」 古泉君の持っていた鍵で扉をあけると、体育館で待っていたのは予想通りアイツだった。 ここも照明は機能してないけど、霧がわずかな明かりとなってアイツの顔を照らしていた。 ここに来るまでに、アイツの正体はなんとなく分かっていた。 アイツの声は聞いたことがなかった。何故なら、それが自分の声だったから。 「アンタがこの世界のあたしなの?」 「そう、だったら何?」 「何でこんな事をしたの」 「この世界は唯のコピー、いつかは消される運命にある。それが気に入らないの。だから神の力でこの世界と貴方の世界を入れ替えてこの世界を本物にするの。みんな、神を生み出すのに必要な犠牲だったのよ」 神……? 「紹介するね、これがこの世界の神よ」 暗くて気付かなかったけど、アイツの隣に巨大な化け物がいた。 あたしが想像する神は、宗教とかそんなの抜きでももっと綺麗なものだった。 けど、目の前に現れた神は、とても神とは呼べないものだった。 5メートルはあろう神だという生物は、人の形はしているがひどく痩せていて、やはり血まみれだった。 「神は絶対的な存在よ、全てを支配するの。だから、人間は神にはなれないの」 アイツが話を区切る度に静まり返る体育館。「神」がこちらを見ている。その視線を受けたあたしは一歩も動くことが出来なかった。 「この神はまだまだ未熟だから、憎悪という感情が足りないの、だから貴方が神に必要な生け贄に選ばれた。そんな貴方がちょっとでも強力になってもらう為にあの男を殺したの」 あたしの怒りを増すためだけにキョンを殺したなんて……。 でもあたしは何も言えなかった。それに対して怒れば相手の思うつぼだし、こんな魔物の生け贄に選ばれたことがショックだった。 「神に逆らうことは許さない。例えあたしでもね」 突然、「神」はアイツを手にとり、じっくりと舐めるように眺めていた。 「あら、神は貴方よりあたしを先に欲しいみたいね」 「な、何言ってるの? アンタも殺されるのよ」 「いいえ、光栄なことよ。神のヴィクティムになるのだから……」 神は我慢できなくなったのか、突然そいつをまるでスナック菓子のように喰らいついた。 アイツの身体が噛み切られて……。これ以上言わせないで。 「う……わ……………………」 あたしはとっさに目を瞑り、耳を押さえた。それでも骨の砕けるような嫌な音が響いていた。 しばらくして音がなくなった。 どうやら食事が終わったらしいので目を開けるた。「神」は血をぼたぼたと垂らしながらあたしを見ている。 次に喰われるのはあたし。 アイツへの復讐は出来なかった。でも、この「神」とやらをなんとかしないと、この世界は終わらない。あたしは、ショットガンを構えた。 「くたばりなさい!!」 引金を引いた瞬間、強い衝撃で肩に痛みが走った。 あたしのような体格では、反動の大きなショットガンは身体に負担がかかることは百も承知。 でも、これは遠距離からでもダメージを与えられる数少ない武器だから、それくらいは我慢。 肩の痛みを堪え、次々と弾をこめては頭を狙って撃ち続けた。 ダメージがあったのか、「神」は呻き声を上げている。 「やったかしら」 油断してしまった。次の瞬間、その長い腕でなぎ払ってきた。 避けようとすることすらできなかったあたしの身体は宙に浮き、十数メートル飛ばされて叩きつけられた。 何とかして立ち上がったけれど、全身が打撲で痛い。ショットガンもどこかに飛んでいってしまった。こんなに暗い中ではすぐには見つからないから諦めるしかない。 「いっ……たいじゃない………………!」 あたしはふらつきながらも再び「神」と向き合い、拳銃を撃ちながらショットガンを探した。 でも「神」は怯むことなく迫ってきて、またその腕に弾き飛ばされた。 「ぅう……」 床に叩きつけられたときに頭を強く打ってしまい、立ち上がることが出来なくなっていた。 拳銃も暗闇の中に消えてしまった。 近づいてくる「神」から逃げようと痛む四肢を必死に動かして床を這ったけど、すぐに追いつかれてしまった。 あたしはとうとう「神」の手で押さえ付けられてしまった。腰には日本刀があるけど、激しい痛みで手が動かなくなっていた。 血でべとべとの「神」の手に圧縮される気分は最悪だった。 苦しい、息が出来ない。こんな化物に食べられるなんて……。 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 叫んでもここには誰もいないから無駄なことは知ってる。けども、最後までこいつに抗っていたかった。 その時、「神」の荒い呼吸に混じって、誰かの足音が聞こえてきた。 「させない」 ……有希!? 銃声が絶え間なく響いていた。「神」はたまらず悲鳴を上げてのけぞり、あたしはなんとか手から解放されたた。 視界が開けて、音のする方向を見ると有希がマシンガンを撃ち続けているのが見えた。 何十発撃っただろう、「神」は遂に倒れた。それでも有希は「神」が完全に動かなくなるまで攻撃をやめなかった。 マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 窓から眩しい光が射している。霧が晴れて、青空が見えた。 外に出ると、校舎は相変わらずだったけど、空気はよどみがなく透き通っていた。 太陽が眩しい。あたしと有希は、その光に包まれていった。 *** 涼宮さんが目を覚ましたようです。 状況説明が困難な為、長門さんが隣の病室にいることは涼宮さんには内緒になっています。 「…………」 涼宮さんと同時に目覚めた長門さんは、ぼんやりと自分の手を見つめていました。 「どうしました?」 「大量のエラーが発生している。身体の制御すら上手く出来ない」 彼女の手は震えていました。 「もう大丈夫ですよ」 私はそっと彼女を抱き締めました。彼女は私に顔を埋めていました。おそらく、泣いていたのだと思います。あくまでも推測ですよ。 数分間そのままでいましたが、長門さんが離れました。 「エラーの削除が完了した」 「では、そろそろ涼宮さんの所へ行きましょう。貴方は涼宮さんにプリンを買いに行ったことになっています」 「……分かった」 「では、情報操作を始めますね」 その時、彼女が小さな声でありがとうと言いました。少し恥ずかしそうでしたね。 情報操作により、私以外は今回の事件についての記憶を失い、長門さんは涼宮さんの見舞いに来たことになりました。これは、トラウマと呼ばれる精神状態に陥らない為の救済措置です。 さあ、私はこの病院にはもう用はないので学校に戻りますね。 それでは失礼します。 inspired SILENT HILL 3 おまけ 長門有希がビビりプレーヤーだったら 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 それらのエラーを言語化するならば……、 「帰りたい……」 いっつも助けてくれるパパ(統合思念体)との連絡がとれないから、一人でなんとかするしかない。 でも、この間キョン君に借りたゲームをしたばっかりだから怖さ倍増なの……。 どうしよう、有希泣きそうだよ……。 「こわいよパパ……」 あー来る、こういう所絶対何か来る。ドッキリ要素というものが絶対ある。 こういう時は……、歌を歌おう。 「ある~はれ~たひ~のこt」 ガッシャーン! 突然ドアを突き破ってクリーチャー登場。 「POOOOOOOOOOO! ふっざけんにゃよ! もーやだ! 無理! 終了! 終了!」 私は走りながら思い切り泣いた。いいもん、誰も見てないから……。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんパパァァァァァァァァ~~!!」 MISSION FAILED... おまけ 2 あのEnd マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 突然、窓から眩しい光が射した。 「なにあれ!?」 空中に浮かぶ複数の円盤、それは……、 ま さ に U F O 「有希! UFOよUFO! これは調査しなきゃSOS団の名が廃るわ! あたし達の活動を全世界に広められるチャンスよ!」 あたし達は外に出た。グラウンドに着地していたUFOは合計三機。中から出てきたのは、期待通りの宇宙人! 「ユ、ユニーク(タコさんウインナー……)」 「ねえあなたたち! どこから来たの?」 「 %*#\$@=-@!」 「な、何言ってるのかサッパリね……」 「意思疎通は困難と思われる(おいしそう……)」 「+ |\ ; *// #!」 宇宙人が取り出したのは、光線銃? ビビビビビビビビビ いきなり有希が撃たれて倒れた。有希は痺れて動けない様子だった。 「………………ユニー……ク…………(一口だけでもかじってみたかった……)」 「有希ー! 有希ー! ユニークとか言ってる場合じゃないわよ! アンタ達! 何するのよ!」 「 *#/(^^) $/-!」 すると今度はあたしに光線銃を向けた。 「な、何よ! やめなさ……いやあああああああああああああ!!」 そして動けなくなったあたし達はUFOに乗せられて…… ユニーク(笑)
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涼宮ハルヒのOCG④ (2008/11~ ぐらいの時期だという前提でお願いします) 「えーっとね、潜水艦でキョンくんに攻撃して・・・カードを一枚伏せてわたしの番は終わりだよ。」 「違うわよ妹ちゃん、ターンエンドの前にこのカードを伏せとくの。そうすればキョンが何か出してきても一発で除外・・・」 今俺の目の前にはなぜかカードを握る我が妹と、その後ろからあーだこーだと口出ししてるハルヒがいる。長門はというと後ろの方で俺の本棚をあさっている、マンガぐらいしかないから面白くないと思うぞ長門。そして場所は俺の部屋だ。さて、何でこんな状況になったんだろうな。少し時間を遡って話していくか・・・。 朝倉との奇妙な再会の翌日、やはり朝倉は北高に転入してきた。俺のクラスではなく長門のクラスだったので大した騒ぎにはならなかったのだが、我らが団長がそんなニュースを聞き逃すわけも無く、放課後部室で朝比奈さんのお茶を飲みながら一緒にデュエルをしている(ディアボリックガイを制限解除したのは絶対にミスだ)と、ハルヒがドアを蹴っ飛ばして、 「突然転校して突然転入した、うちのクラスの元委員長にして今は有希の友達、朝倉涼子よ!今日からSOS団の一員ね!」 と、一気に朝倉の自己紹介をした。俺たちの中で一番長かったんじゃないか?まあ、俺と長門はされたことすらないような気もするが。ともあれこんな感じで朝倉も放課後の部室に姿を現わすようになり、デュエルができることが分かると、 「すごいじゃない涼子!パーミッションなんてデッキ今まで見たことなかったわ、あたしと勝負よ!勝負!」 と当然のようにデュエルを始め、俺は朝比奈さんや長門、古泉と交替で勝負したり、ウィキでカードの裁定を調べたり(ライラのカード破壊効果、対象は相手の伏せてある天罰。ライラの効果にチェーンして天罰を使用して、天罰に魔宮の賄賂をチェーンしたとき、逆順処理後ライラは守備になるか)と、だんだん日常化しつつある放課後を過ごし、金曜の放課後をむかえると 「明日は全員で駅前に集合ね!遅れたら罰金よ!」 いつもの団長の命令で解散となった。 そして不思議探索の日、俺は罰金を免れた。前代未聞のことだが、理由は朝倉と長門が二人そろって遅れてきたためだ。どうやら朝倉が長門の服を選ぶのに時間をとられたらしい。 「長門さん、せっかくのお出かけなのに制服で行こうとするから、私の服と長門さんの服をいろいろ合わせてたの、そしたら・・・」 とのことである。珍しいこともあるものだ。まあ長門の私服姿は新鮮だったし、何より俺がおごりを免れたので万々歳だ。そして午前中のクジ分けだが・・・ 「あたしは無印」 「僕は印入りですね」 「無印」 「印入りです」 となって俺の手には無印の爪楊枝があり、朝倉の手には印入りの爪楊枝があった。つまり俺・ハルヒ・長門と、朝比奈さん・古泉・朝倉となったわけだ。各々の会計を済ませ(割り勘ってのはいいね)分かれて歩き出すと、 「ねえ、今日はキョンの家行ってみない?」 とかハルヒが言い出した。こいつの発言が突発的なのはいつものことだが、なんでまた俺の家なんだ。 「なんか冬以来妹ちゃんに会ってなかったし、シャミセンも見てみたくなったから」 なんとも適当な理由だな。確か今日は両親とも妹の学級懇談会かなんかで午前中不在だったし、妹も一人での留守番を寂しがってた気もする。まあこの二人を連れてけば妹も喜ぶだろうし、あちこち連れまわされるよりはマシだが・・・ 「長門、お前はどうしたい?」 一応、見慣れない私服姿の宇宙人娘の意見も聞かなくてはならな・・ 「賛成、私も彼の自宅を訪問する。」 「決まりね」 というわけで先ほど出たばかりの俺の家へ舞い戻り、 「キョンの部屋がいいわ」 「賛成」 「わたしも~」 賛成3棄権1により俺の部屋へと入り、長門とハルヒがデュエルを始め(というかデッキ持ってきてたのか)、興味をもった妹が友達にもらったというカードを自分の部屋から持ってきて、3人で新しいデッキを構築。ルールを覚えつつの模擬戦ってことで今俺と妹+ハルヒがデュエルしていて・・・冒頭に戻るわけだ。 「裏守をリリースして邪帝召喚、効果でサブマリンロイドを除外、ダイレクトアタックで俺の勝ちだ妹よ。」 「うーキョン君つよーい。ハルにゃんくやしいよ。」 「そうよキョン、すこしは手加減しなさい!邪帝なんて壊れカード使っちゃダメよ」 ガイザレス使ってるお前に言われる筋合いはないぞ。ハルヒの教え方がいいのか、妹はルールの飲み込みが速い。カード名はまだ全然覚えてないようだが。 「一度あなたとあなたの妹だけで闘うべき」 いつのまにか後ろにいた長門が言った。そうだな、試しに一回ハルヒ抜きでやってみないか? 「そうね。一回やってみましょ。妹ちゃん、ちょっとこっちに来て、作戦会議よ!」 なにやら部屋の隅でごそごそやり始めたハルヒと妹を一瞥して、俺のベッドの上に腰掛けて珍しそうにマンガを読んでる長門を見た。 「面白いか?」 「・・・ユニーク。ただ、ラーの翼神竜は裁きの龍の完全下位に思える。」 まあそりゃそうだな。読みたきゃ借りていってもいいぞ? 「そう。」 ハルヒ達の方は終わったらしい、よし、いくぞ妹よ。 「うん。えへへ今度こそ負けないよキョンくん。」 「キョン、先攻は妹ちゃんにあげなさいよ」 ああわかってる。おれだってそのくらいのハンデはやるさ。 「じゃあわたしからね、どろー。モンスターカードを一枚セットして、カードを3枚伏せて、終わりだよ。」 3伏せとは気になるな・・・。まあいい、ドロー、俺はハーピイ・クイーンを召喚し・・ 「えーっとキョンくん、キョンくんがモンスターを召喚したときにね、この伏せたカードを発動したいの」 ・ ・・奈落の落とし穴、か。さらば俺のハーピイ。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「キョンくんの番がおわったときに、サイクロンを使って伏せたカードなくしちゃうね。やったーキョンくんのとこにカードなんにもなくなった!」 げ・・・。エンドサイクなんてできたのか妹よ。しかも神宣とかおいしいのを破壊するとは・・ 「いいわよ妹ちゃん!」 ハルヒが後ろでエールを送っている。くそ、忌々しいがいかんともしがたい。 「わたしの番だね、どろー。もぐらをだして、キョンくんにこーげき!カードを一枚伏せて終わりだよ。」 もぐらといってもグランモールではない。ドリルロイドである。よって俺のライフは残り6400というわけだ。俺のターン、ドロー。霊滅術師カイクウを召喚、ドリルロイドに攻撃だ。んでカードを2枚伏せてターンエンドだ。 「どろー、潜水艦をだして・・・」 おっとそうはいかん、召喚したときに激流葬を発動だ。フィールド上のモンスターを全部破壊するぜ。 「えーーつ、キョンくんずるーい。」 「キョン少しは遠慮しなさいよ。」 そうはいわれてもな、それに除外されないだけマシだと思うぞ。妹よ、ターンエンドか? 「あ、うん。」 俺のターン、ミストバレーの戦士を召喚、プレイヤーにダイレクトアタックだ。そしてカードを一枚伏せてターンエンドだ。 「うわーライフが6100になっちゃった。ハルにゃんー、大丈夫かな?」 「平気よ平気、ライフが0にならなきゃ全然問題ないわ。」 全然問題なくも無いがな、ハルヒ。800きるかきらないかってのはけっこう微妙なラインだぞ。洗脳的な意味で。 「えと、わたしの番だね、どろー。裏側でモンスターを出して、カードをもう一枚伏せておわりだよ。」 裏守か・・・。おそらくトラックロイドか何かだろうが伏せも気になるしここは普通に攻撃といこう。ミストバレーの戦士で裏守に攻撃だ。 「ひっくりかえって召喚。ひっくりかえったからメタモ・・メタモルポッドの効果をつかうね。キョンくん手札捨てて5枚引いてー。」 なんてこった。今までのデュエルであんなカードは出てきてないぜ。さてはハルヒの差し金か。仕方ない、カードを5枚ドローだ。そしてメイン2、霊滅術師カイクウを召喚。8シンクロでダークエンドドラゴンを特殊召喚。一枚伏せてターンエンドだ。 「わたしのターン。カードをひいて、伏せてあったカードを使うね。チェーン・マテリアル!手札・デッキ・墓地からトラックと新幹線ともぐらさんと戦闘機をフィールドの外に置いて、手札から線路が3本伸びてるカードを発・・・」 そうはいかん。ビークロイド・コネクション・ゾーンにチェーンして神の宣告だ。 「えーっと、キョンくんの神の宣告にね、わたしもカードを使うの、神の宣告!」 ふっ・・・それも読んでたぜ。さらにチェーンしてもう1枚神の宣告を発動だ。悪いな妹よ。そう簡単にやられはしないぜ。 「キョンくんのカードに・・チェーンして・・・魔宮の・・・・ハルにゃん、これなんて読むんだっけ??」 「わいろよ妹ちゃん!」 「そうだった。魔宮の賄賂を発動するね。」 ちょっと待て、なんで魔宮の賄賂なんていう高額カードが妹のデッキに入ってるんだ?うちにそんなカードはないぞ。というかあったら俺がデッキに入れてる。ふと視線をずらすとハルヒがニヤニヤしながらこっちを見てる。なるほど、これもハルヒの差し金か・・。 「甘いわよキョン!あたしたちがさっきの作戦会議でなんにもしてないと思ったの??」 一杯くわされたな。まあ仕方ない。逆順処理でビークロイド・コネクション・ゾーンは有効。ライフは妹が1525、俺は1600.んで、何を召喚するんだ? 「ロボット!」 スーパービークロイド・ステルスユニオンね、了解だ。だがチェーンマテリアルを使ったターンは攻撃できない。俺のターンだ、ドロー! 破壊耐性はあっても墓地へおくる効果への耐性はないぜ!ダークエンドの効果を使い・・ 「読んでたよ!てへっ! 天罰をはつどう!」 なんだって、なんか朝倉の時以上にカウンターばっかりされてるな・・・。裏側守備でモンスターをセット、ターンエンドだ。裏守なら吸収はされない、なんとか次のターンまで・・・ 「わたしのターン、ドロー。もぐら・・じゃなくてドリルロイドをしょうかん!ドリルロイドでキョンくんの裏側モンスターを攻撃!そしてステルスユニオンでキョンくんにダイレクトアタック! やったーキョンくんに初めて勝った!ハルにゃんやったよー」 「すごいわ妹ちゃん、えらいえらい。」 ハルヒと妹は手を取りあって小躍りしてる。負けた・・・なんだか普通に負けた。あんなにカウンターされるとは思ってもいなかった。正直いおう、ショックだ。 「勝負は時の運」 長門が呟くように言った。そうだな、まあこういうこともあるよな。 「そう。この漫画を借りたい。」 ん?○戯王か? 構わんが今日はこれから午後もあるのにもって歩くのは邪魔じゃないか? 「大丈夫。情報操作は得意。私の家まで転送する。」 そうか。まあそれならいいんだが。長門、最近情報操作能力の使いどころがおかしくないか? 「気のせい」 気のせいではないと思うんだが・・・まあいいか。 「おっと、もうこんな時間ね。キョン、有希、午前の部は終わりだからそろそろ出かけるわよ!」 妹とはしゃいでいたハルヒが時間に気づいていいだした。今度は俺もデッキを持っていけとのことらしい。午後もどっかでデュエルするのか? 「お邪魔しましたー。妹ちゃん、またね!」 「うん、ハルにゃん、有希ちゃん、楽しかったよ~。」 妹と別れて家をでた俺たちは(結局デュエルするためだけに俺の家に来たんだな)再集合場所の駅前へ向かった。なんか今日は一日が長いぞ。まだ半分も終わってないとか信じられん。だが・・・久々に妹があんなに喜んでいるのを見たような気がする。これもハルヒのおかげか。ありがとうな、ハルヒ。 「な、何よ急に・・・」 「なんか妹が喜んでたからさ、その礼さ。」 「ふ、ふん。あんたが普段かまってあげないからでしょ! でも・・・・・・・・・どういたしまして。」 最後の方は消え入るような声で言ったハルヒはプイと前を向いてしまった。やれやれ、午後のクジ分けはどうなるかな、少し楽しみだ。 ハルヒ+長門+妹という奇妙な組み合わせで午前中を過ごした俺達は(といってもただ決闘していただけだが……)駅前で再集合してファーストフード店で昼食をとったあと、午後の部のクジ分けをした。 「いつも爪楊枝じゃ面白くないわ!たまには変わったクジ分けをしましょ!」 というハルヒの鶴の一声によりハルヒのデッキの中から罠とモンスターを各三枚ずつ選んでテーブルの中央に置き、それぞれ引くことになった。爪楊枝と根本的には何も変わらないような気がするのは気のせいだ、多分。 「俺は剣闘獣の戦車」 「あたしはダリウスね」 「僕は剣闘獣ムルミロです」 「………次元幽閉」 「えと…魔宮の賄賂です」 「私は剣闘獣ベストロウリィね」 という結果になり(見れば見るほど剣闘獣だ。やれやれ)午後は俺・長門・朝比奈さん、ハルヒ・朝倉・古泉になった。あれ、また長門が一緒か……まあこういう日もあるだろう。 「今日中に最低1つは○ナミの不思議裁定を見つけるわよ!各自分かれて探索開始っ!」 そう宣言するや否やハルヒは朝倉の手をとってあっという間に行ってしまった。そのあとを古泉が小走りで追いかけている、ごくろうなこった。というか不思議裁定を見つけるならわざわざ街をぶらつく必要もない気もするが、ここは敢えてツッコまないでおこう、ハルヒのことだ、代わりに何を言いだすかわからん。それに今の状況は両手に花、しかも未来がらみも宇宙がらみもないときてる。この状況に文句を言ったらバチがあたるぜ。 「あのぅ………キョン君?」 俺がよからぬ妄想に入りかけたとき、朝比奈さんが声をかけてきた。なんでしょう? 「えーと、今日このあと行きたいところとか、予定とかありますかぁ?」 いえ、とくにはないですが……長門はどうだ?図書館とか行きたいか? 「今日はそれほど行きたいわけでもない。」 長門にしては曖昧な表現だ。まあ何か予定があれば合わせると考えて問題ないだろう。 「二人とも何もないのなら……鶴屋さんの家に行きませんか?」 鶴屋さんの家に行くのはバレンタイン以来か。あのときは全く大変だったな。今回は「みちる」さんも連れていく必要もなさそうだしあちこち歩き回るよりはゆっくりできそうだ。長門、どうだ? 「構わない」 ということで朝比奈さん、俺も長門も賛成です。 「よかったぁ…。じゃあ、案内しますね!」 朝比奈さんは可愛らしくうなずくと前にでて駆けていった。俺も何回か付近まで行ってるから道は知ってるんだがな。まあそこをつっこむのは野暮ってものさ。 「やあやあみくるにキョン君に有希っ子、よく来たねっ!さあさあ中へ入った入った!」 鶴屋さんの家である和風の邸宅(相変わらず広いな)の入り口につくと、朝比奈さんが連絡したらしく、ハイテンションの鶴屋さんが迎えてくれた。どうやら今日の午後は朝比奈さんと鶴屋さんは遊ぶ約束をしていたらしく、もし不思議探索があったとしてもそのメンバーも連れてくることになってたらしい。ハルヒとペアが一緒になってたらどうしたんだろうな、いやでも鶴屋さんの誘いならハルヒも応じたかもしれん。 「さぁさぁみんなこっちにょろ」 鶴屋さんが案内した先は1つの部屋だった。この屋敷は和風で統一されているのだが、この部屋は最近作ったらしく半洋風半和風といった感じだ。 「今日はここで思いっきり遊ぶっさ!」 鶴屋さんがその部屋の戸を開くと、 「うわぁ………」 「すげぇ……」 「……………驚愕」 そこには○ナミのカードゲームセンターを彷彿させるような光景が広がっていた。壁にはガラスケースに飾られた大量のカード(なんとサモプリもプリズマーもある)、部屋の中央には長テーブルと椅子、テーブルの上には印刷されたデュエルフィールド、さらにライフカウンターまでおいてある。やっぱ鶴屋さんって金持ちだったんだな……。というか親御さんはなんていってるんですか? 「なんか元々うちは○ナミの大株主だったらしくてさっ、わたしが興味もったっていったらいい機会だからって会社の人が作ってくれたんだよっ。今度ここで公認大会もやるらしいっさ!まぁカードゲームセンター鶴屋店ってとこだねっ!」 鶴屋さんはアハハと快活に笑った。ん?鶴屋さんは確か「興味をもった」っていってたな。ということは興味をもつきっかけがあったはずだ。鶴屋さんと仲のいい友達といえば……… 「鶴屋さん、こないだ遊んだときに家でデュエルやったらすごく面白がって、それからたまに一緒にやるようになったんですよ」 俺が答えに辿り着くよりも先に、朝比奈さんが答えてくれた。ううむ……たったそれだけでこんな部屋まで作ってしまうとは、ハルヒといい長門といいデュエルには何か人をひきつける魅力があるのだろうか?まぁ俺も今となっちゃ面白いが、初体験でここまでいれこんだかどうかは正直わからんな。 「キョン君、私と一緒にやらないかい?」 デッキを片手に(緑色のスリーブだ)鶴屋さんは言った。つまりデュエルやらないかい?ってことだろう。いいですよ、じゃあその奥のテーブルで…………ってちょっと待て、いつのまにか俺と鶴屋さんの間に人が割り込んでいた。ライトロード使いの宇宙人である。 「午後は私が」 とデッキ(スリーブは白だった)を片手に瞬間移動としか思えないスピードで俺と鶴屋さんの間に移動した長門は言った。あー、なんだつまり午前中はデュエルしなかったから午後はやりたいと、そういうわけか? 「そう」 といいつつ長門は首だけをこちらにむけた。 「わはは、面白いね有希っ子は!わたしはどっちでもいいにょろ?」 鶴屋さんは快活に笑って俺の判断を待っている。うーむどうしたものか。 「だめ?」 長門が数ミリ首をかしげた。その仕草は反則だぜ。分かった、先に鶴屋さんとやっててくれ。後で代われよ? 「わかった」 長門はわずかにうなずくと鶴屋さんとテーブルに向かいあって座ってデッキをきりはじめた。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「ライトロード・パラディン ジェインを通常召喚。ターンエンド。エンドフェイズ、ライトロード・パラディン ジェインの誘発効果 デッキからカードを二枚墓地へ送る。」 うげ…、ライロぶんまわりだな全く。というか長門、そんなにモンスター名を正確に言わなくても大丈夫だぞ、大会じゃないんだしな。いや大会でもライロのモンスター名を毎回一字一句違わずに読むやつなんてそうそういない気がする。 「そう」 長門は僅かに首肯した。 「有希っ子らしいといえばらしいんだけどねっ!私のターンっさ!ドロー。サイバードラゴンを特殊召喚。ライオウを通常召喚。サイドラでジェインに攻撃にょろ。」 「ダメージステップ、ダメージ計算時」 あーオネストか。あそこまでポーカーフェイスでいられるとなんかすごいプレッシャーだな。 「でも鶴屋さんにはあんまり効果がないような気がします」 と朝比奈さん。まぁたしかにあの年中ハイテンションの鶴屋さんにはプレッシャーを感じることなどなさそうだ。 「とくになし。ジェインは破壊。」 ……ってブラフだったのか!長門が心理作戦を使うとは驚きだ。いったい誰から習ったんだ? 「朝倉涼子に聞いた」 納得。あいつは毎回重要どころでオネストを使ってきやがる。おかげでアルテミス攻撃表示でも迂闊に攻撃できやしない。やれやれ。 「ライオウで攻撃にょろ」 「攻撃をうける」 「カードを三枚伏せてターンエンドっさ!」 鶴屋さんのデッキはまだよくわからない。場にでてるカードだけだと朝倉のパーミッションとあんまり変わらんな。 「私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。手札よりおろかな埋葬を発動。ウォルフを墓地に送って誘発効果発動、特殊召喚する」 「特殊召喚にチェーン!奈落の落とし穴にょろ」 「ウォルフは除外。ルミナスを通常召喚、優先権行使、手札からガロスを捨てて墓地のウォルフを特殊召喚する。」 「スルーするっさ!」 「バトルフェイズ、ウォルフでライオウに攻撃する。」 「ターンエンド。ルミナスの誘発効果発動。デッキから三枚墓地へ送る。」 うーむ、奈落にライオウにサイドラか…。鶴屋さんのデッキはメタビートか?いかんせん汎用性が高すぎるカードばかりで全然分からん。朝比奈さんは鶴屋さんとやったことあるんですよね? 「はい何回もやりましたし、実はあのデッキもわたしがアドバイスして組んだんですよ?」 なんだってー、そういや朝比奈さんはSOS団の中で唯一の古参だったんだっけ。ん?なら朝比奈さんなら鶴屋さんのデッキを知ってるはずだ。 「朝比奈さ……」 「禁則事項です☆デュエルの勝敗が出てからの方が面白いですよ。」 うっ…朝比奈さんに考えを読まれるとは………普段はドジっ娘メイドでも、時々朝比奈さん(大)の片鱗が伺えるぜ。俺としてはいつまでも可愛らしくいてほしいのだが………いやそれはそれで将来が不安か。というか将来は既定事項か。あーもうわけがわからん。 「私のターンっ、ドロー!エアーマンを召喚っ!誘発効果でデッキからアナザーネオスをサーチっさ。バトルフェイズ!エアーマンでルミナスに攻撃っさ!」 「破壊される」 「カードを二枚伏せてターンエンドにょろ」 俺と朝比奈さんが話している間にもデュエルは進んでいた。そういやハルヒ達はどこいったんだろうな?午前はただ俺の家に来て妹と遊びつつデュエルしただけで終わったんだが、午後も似たり寄ったりか?それとも○ーガやアメ○リとかのカード屋を巡ったりとか、まあそんなとこだろう。黙ってれば普通に可愛いハルヒと谷口的美的ランクAA+の朝倉、悔しいが顔はいい古泉が店内に入ってきたら客はどんな反応をするのかね。 「私のターン、スタンバイ、メイン。ウォルフをリリースしてケルビムをアドヴァンス召喚。誘発効果、コストで墓地に4枚送る。対象はサイバードラゴンと伏せカード1枚。チェーンは?」 「あるにょろーん。効果にチェーンしてスキルドレインを発動。コストでライフを1000払うっさ!」 「バトルフェイズ、エアーマンに攻撃する」 「受けるよー」 「カードを1枚セットしてターンエンド」 「私のターンっ!手札から神獣王バルバロスを通常召喚さっ!バトルフェイズっ、ケルビムに攻撃っ」 ……鶴屋さんのデッキはスキドレバロスだったらしい。やれやれなんつう高額デッキだ。 「攻撃宣言時、罠カード光の召集を発動する。」 「あちゃ~これはやばそうにょろ」 スキドレ発動下でも何故か発動できるオネスト。長門や朝倉には悪いがやっぱやっかいだと思うのは俺だけだろうか。OCG化でこんなにも強力になったカードも他にはないだろうな。というかなんでいつも闇と光が優遇されるんだ!風属性のオネストを出せ、風属性を。 「オネストを手札より捨てて効果発動。ケルビムの攻撃力を3000上昇させる。バルバロスは破壊。」 「やられたにょろ~。ターンエンド!」 デッキ的には鶴屋さんのもオネストがいてもおかしくないんだが、どうやらいなかったようだ。 「…私のターン、ドロー。裁きの龍を特殊召喚。ジェインを通常召喚。バトルフェイズ、裁きでサイバードラゴンに攻撃。」 「攻撃宣言時に次元幽閉を発動っ!」 「裁きの龍は除外。ケルビムでサイバードラゴンに攻撃。」 「破壊にょろ。ジェインの攻撃も受けるっさ。」 「ターンエンド」 うーむ。鶴屋さんの状況はかなり厳しいな…。手札にはエアーマンでサーチしたアナザーネオスがあることはわかってるんだが、長門の場にはケルビムとジェインがいる。幽閉か聖バリ、ライボルをひけばなんとかなるってとこだろう。 「私のターン!ドロー!アナザーネオスを召喚っ!ジェインに攻撃!」 「ジェインは破壊。」 「カードを一枚伏せてターンエンドっ」 お、鶴屋さんカウンター罠をひいたのか? 「ブラフかもしれないですけどね…。一応アナザーネオスは光属性だし…オネストも警戒させられますね」 え?朝比奈さん、やっぱあのデッキにオネスト入ってるんですか? 「え?えーっと………禁則事項です☆」 ………多分入ってるんだろう。やれやれ。長門は攻撃してくるかな? 私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。バトルフェイズ…………………………………」 あれ、珍しく長門が長考している。一枚の伏せとアナザーネオスが光属性であることが攻撃を躊躇わせているのだろうか。まあ確かにこの攻撃の後ケルビムが除去されれば、スキルドレイン発動下ではかなり危険だ。バルバロスか死者蘇生で次のターン負けることもあり得るしな。 「……………ケルビムでアナザーネオスに攻撃する。宣言時何か?」 「ないよっ!」 「ダメージステップのダメージ計算時、優先権を放棄」 「こっちからはなんにもなしっさ!」 「アナザーネオスを撃破。ターンエンド。」 「鶴屋さんなんにもなかったみたいですね……」 朝比奈さんが俺の隣で呟いた。うーむこれはいったいどうなんだろうな。 「私のターン、ドローっ!私の負けにょろ。サレンダーっさ!」 「………了承する。」 サレンダーと共に鶴屋さんが手札と伏せを公開した。伏せはサイクロン。今ひいた手札は魔宮の賄賂、持っていたのはスキルドレインのようだ。やれやれ、伏せも全部ブラフだったってことか。 「なかなか楽しかったっさ!真剣勝負は面白いにょろ。」 鶴屋さんは負けたというのに相変わらずのハイテンションだ。鶴屋さんにとっては勝敗よりもデュエルすること自体が楽しいんだろうな。 「じゃあキョンくん。お待たせっさ!私と決闘!」 そういえば最初は俺とやるはずだったな。すっかり忘れてたぜ。 「………先にやらせてくれたことを感謝する」 席を変わろうとしたとき、長門が小さく言った。そんな大したことじゃないぜ。 「…………そう」 長門は僅かに頷くとカードが展示されているガラスケースの方へ向かった。 「こっちはいつでもいいよっ!」 見ると、鶴屋さんがデッキをディールして待っていた。よし、じゃあやりましょうか。じゃんけん、ほい。俺の先攻、ドロー! ………その後もしばらく鶴屋さんの家で遊んでいると、ハルヒの再集合の電話がかかってきたので(なんか機嫌が良さそうだった、なんでだろうな)俺と長門と朝比奈さんはいつもの駅前に向かった。ちなみに鶴屋さんとの決闘は俺の3勝2敗だった。ダルシムとデスカリが結構効いた。2敗のときはバルバロスとスキルドレインでこてんぱんにやられたけどな。 傾きかけた夕日に彩られた駅前にはハルヒと朝倉と古泉が既に待っていた。古泉があまり疲れた表情をしてないところを見るとそんなにあちこち振り回されたわけでもなさそうだな。よう古泉、そっちはどうだったんだ? 「フリー対戦会に参加しましてね。流石は涼宮さん、11勝4敗という素晴らしい成績でしたよ」 まあ剣闘獣だからそう簡単には負けんだろうな。ちなみに4敗のうち1つは朝倉らしい。パーミッション恐るべしだぜ。当のハルヒは朝倉や朝比奈さん、長門と談笑していたが、どうやら終わったらしい。 「本日のSOS団の活動はここまで!解散よ!」 腰に手をあてていつもの如く宣言し、俺達はそれぞれの帰路についた。長門は朝倉と、古泉と朝比奈さんは1人で、そして俺は……………ハルヒと二人でだ。たまたま駅前からの帰り道が一緒というだけなのだが、不思議探索の後ハルヒが上機嫌の時はいつもこうして帰っている。不機嫌の時はどうかって?触らぬ神に祟りなし、というか勝手にハルヒが帰ってしまうから必然的に別行動になる。ともあれ今日はフリー対戦会でボロ勝ちしたせいかえらく上機嫌だ。 「今日の大会楽しかったわよ」 ハルヒが言った。古泉から聞いたぜ、ボロ勝ちだったらしいな。 「あたしの剣闘獣がそう簡単に負ける分けないじゃない!……涼子には負けたけど」 らしいな。ちなみに朝倉や古泉の戦績はどうだったんだ? 「涼子は7勝5敗だったわ。『大寒波それ無理。』とか言ってたわね。古泉くんはボロボロだったけど、3勝はしてたわ。しかも商品で王宮の弾圧あてたのよ!すごいわよねー」 ハルヒは嬉々として言った。随分面白そうだったんだな。今度は俺も参加してみたいものだ。 「あったりまえじゃない!6人全員で参加してSOS団の名を天下に轟かすのよ!」 そんなこんなでハルヒと俺は帰り道を話ながら帰っていった。鶴屋さんが決闘できること、デッキはスキドレバロスであること、古泉だけなんであんなにデッキ構築が滅茶苦茶なのか、とかな。 ……ちなみに新パックはSOS団で箱買いが決定した。ダークダイブボンバーが当たることを期待するぜ。 END
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こんにちは、涼宮ハルヒです! ……って言うよりは、涼宮ハルヒの中にある、4年前になくなった、現実的で、乙女チックな心があたしなの。 あたしはご主人様が幸せになったら消えちゃうんだけど、それがあたしの喜びだからいいわ。 だからね、あたしの役目は一つ! いつも素直になれないご主人様の背中を押してあげること! いっつも、いっつもご主人様の心はキョンくんでいっぱいなんだけどね、それが態度に出ないみたいなの。 むしろ、気が無いみたいな態度を取っちゃってる。 それをあたしが応援して、ご主人様を幸せにしてあげるの! ……あ、言ってるそばからキョンくんが登校してきたみたい。 「よう、ハルヒ。今日はなんだか機嫌が良さそうだな。顔がニヤついてるぞ」 ふふふ、いつもと違うご主人様を演出することで、キョンくんに興味をひかせちゃった。 あたしは《涼宮ハルヒ》の一部だから、体や表情や言葉も思い通りなの。 ま、ご主人様はあたしに気付かないけど。 「う、うるさい! ニヤけてなんかないわよ!」 あちゃ~、ここから世間話にでも発展すると思ったのに……。 ご主人様は意地っ張りだなぁ、もう。 「む……そんなに厳しくするなよ。ちょっと話をしようかなって思っただけだ。嫌なら黙っとく」 ありゃ、キョンくん拗ねちゃったよ。……ご主人様、ガッカリしてる場合じゃないよ、キョンくんと話すチャンスだよ。頑張って! 「あ、え……キョ、キョン! あたしは暇だから相手してあげるわ! 光栄に思いなさいっ!」 よく頑張った! ご主人様、偉い! 「じゃあ、いろいろ話すか。今日、妹がな……」 よかった……キョンくんと喋れてご主人様、とっても幸せそうだ。心臓の鼓動も早いしね。 しばらくはご主人様一人でもだいじょぶそうだね。じゃあ、あたしはしばらく休憩しよっと……。 「じゃーな、ハルヒ」 「あ、うん……」 どうしたのかな、ご主人様の元気がないような気がする。 何か悩みごとかなぁ……。ご主人様がいつもの日記を付ける時に調べちゃおう。 「はぁ……どうしよ。嫌だなぁ……」 ご主人様、どうしたのかな? 「このあたしが本気で好きになっちゃうなんて思わなかったわ……はぁ」 ありゃ、やっと気付いたんだなぁ。キョンくんが好きだってことに。 ほんとはずっと前から惹かれてたくせに、ご主人様は認めないんだもん。 「うじうじするのはあたしらしくないし……告白しちゃおっかなぁ……」 そうだよ、ご主人様! 頑張って! 「でも、面と向かってキョンにフラれちゃったら悔しいし……話せなくなりそうだし……はぁ」 ご主人様は『キョン』と名前をつけたぬいぐるみを持ち上げた。 「ねぇ、『キョン』。どうしたらいいか教えなさいよ」 ダメだよ。ぬいぐるみに聞いても答えてくれるわけないから! ……もう、しょうがないなぁ。ご主人様の思考に少しだけ働きかけて背中を押してあげようっと。 「……あ、そうよ! 面と向かって言えないなら手紙があるじゃない! 我ながらナイスアイデアね!」 あたしのアイデアだけどね。……まぁ、あたしも《涼宮ハルヒ》だけどさ。 ご主人様の筆は止まることなく進んでいた。 言いたいことはたくさんあったんだ、あたしが手伝う必要無いよね。……え? そこまで、5分程動き続けた手は止まり、ご主人様は机に突っ伏してしまった。 「あたし、キョンに『普通は大事なことは面と向かって伝えろ』って言ってたわよね……、だいぶ昔に」 そういえば、そんなこともあったなぁ……。 「でも、やっぱり恥ずかしいし……」 もう…あとちょっとだから頑張ってよ! 『好きです』って書けばいいじゃない! 「……すぅ……すぅ」 うわぁ……寝ちゃってるよ。まったく、ご主人様ったら……。 あたしが全部書いちゃおうかな。いいよね、ご主人様の気持ちは全部わかっちゃってるし。 体、寝てる間に借りちゃいま~す。じゃあ、始め! 《キョンへ あたしね、実はあんたが……中略……だからね、あたしと付き合いなさいっ!》 よし、出来た! ご主人様の気持ちを詰め込んだ、《涼宮ハルヒ》らしい文になってるはず! あ~あ、あたしも疲れちゃったなぁ。ちょっと眠って、ご主人様と同じ時間に起きて反応見ようっと。 うん……と、朝かぁ。体が起きてるし、ご主人様の方が早かったんだなぁ。 「あれ? あたしちゃんと書いてから寝たのかしら……。まぁいいわ、けっこう良い文に仕上がってるし」 よかったよかった。ご主人様も満足してるし、あとは結果が楽しみだなぁ。 学校に一番に行って、キョンくんの引き出しの中に手紙を押し込んだご主人様は、とっても不安そうだった。 こういう時があたしの出番だよね。 ――大丈夫、必ず成功するから―― と、心の中に直接話しかけてあげた。 「……うん、大丈夫。キョンなら優しく対応してくれるわ」 ほら、落ち着いた。……あれ、キョンくん? 今日は早いなぁ……。 「よう、ハルヒ。珍しく朝早くに起きちまってな」 「あ、あら、そうなの。あたしも早く起きちゃったのよ、奇遇ね」 うわ、すっごいドキドキしてるみたい。音が今までにないくらいに大きいよ。 キョンくんが椅子に座って、引き出しに手を入れた。手紙に気付いた……って、えぇっ! ご主人様、逃げちゃダメだよおぉぉぉ! ……あ~あ、屋上まで来ちゃった。意気地なしなんだから。 「はぁ……教室、戻り辛いな。サボっちゃおうかな」 ダメだよ、ちゃんと返事聞かなくちゃ! 「でも、結局キョンとは会っちゃうのよね……戻ろう」 すると、いきなり屋上のドアが音を立てて開いた。 「ハルヒ! 探したぞ!」 「キョ……キョン!?」 追っかけて来てくれたんだ。たぶん、手紙も読んでくれたんだよね。 「お前の気持ち、すごくうれしかったんだけどな。……なんで逃げたんだよ」 「それは……こ、怖かったのよ。フラれたり、あんたと今まで通り出来なくなるのが……」 が、頑張れとしか言えない! ご主人様、もう一回『好き』って言いなさい! 「でも……好き!」 「俺も、ハルヒのこと好きだぞ。自分でも気付かないくらい前からな」 よかったぁ……これでご主人様は幸せだね。 ……あたしも消えよう。 これからはキョンくんがご主人様に乙女チックな心や、現実的な心を教えてくれるだろうし。 「キス……していいか?」 「……うん」 ありゃりゃ、キスシーンはあたしには刺激が強いから退散しちゃお。バイバイ、ご主人様! 「ありがと、あたしの中のあたし」 ご主人様は胸に手を当ててそう言った。気付かれてた? そんなわけ無いよね。 あたしは足から消えはじめた。ご主人様の中に完全に溶け込むから。 ギリギリ、キスする所が見えちゃうなぁ。 ……お幸せに。 おわり