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ヒロシ 【ゆーくりパニック 調教ダイアリー】【Rolling Star(同人)】(2008-04-18) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart12 450 名前:名無したちの午後 :2008/05/16(金) 21 18 45 ID 4xuK2R8/0 ※以下、簡易報告(全て同人) 【ゆーくりパニック 調教ダイアリー】 [Rolling Star] 主人公 浩史(ひろし) 島田京子(CV:日向野はな) 「浩史さん」 島田蝶子(CV:渡会ななせ) 「浩史」 全国の「コウサク」さん&「リョウヘイ」さん&「ヒロシ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【かんなび -神奈備-】【SUNLITE】(2007-10-19) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart11 466 名前:名無したちの午後 :2007/12/09(日) 23 25 04 ID Y+iEGGCj0 んじゃ、俺も複数主人公のゲームを報告。 【Sunlite】 【かんなび-神奈備-】 智也編主人公 八州 智也(やしま ともなり) メイ (CV:榊原 ゆい) 「智也」「ともたん」 初瀬小夜子(CV:かわしま りの) 「智くん」 八州千鶴 (CV:草柳 順子) 「お兄ちゃん」 角谷巌雄 (CV:滝沢アツヤ) 「智也君」 秋山博史 (CV:真田雪人) 「智兄」 八州守興 (CV:馬並 硬太) 「智也」 巌雄編主人公 角谷 巌雄(すみたに いわお) メイ (CV:榊原 ゆい) 「巌雄」「いわたん」 初瀬小夜子(CV:かわしま りの)「角谷さん」 八州千鶴 (CV:草柳 順子) 「角谷さん」 八州智也 (CV:竹田彬夫) 「角谷さん」 秋山博史 (CV:真田雪人) 「師匠」 八州守興 (CV:馬並 硬太) 「角谷」「巌雄」 柳田冴子 (CV:南見ちはる) 「角谷さん」 初瀬瑞穂 (CV:山内花梨) 「角谷くん」 初瀬彰 (CV:小次郎) 「角谷」 博史編主人公 秋山 博史(あきやま ひろし) メイ (CV:榊原 ゆい) 「ひろたん」 初瀬小夜子(CV:かわしま りの)「ひろくん」 八州智也 (CV:竹田彬夫) 「博史」 角谷巌雄 (CV:滝沢アツヤ) 「博史君」 智也編が実質本編。Hシーンは、智也編 メイ4つ・小夜子8つ。 巌雄編 メイ・小夜子・千鶴・冴子で各1つずつ。博史編 小夜子5つ(妄想)。 全国の「トモナリ」さん&「スミタニ」さん&「イワオ」さん&「ヒロシ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【でふこん☆わん】【あんでる】(2005-11-18) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart6 849 名前:名無したちの午後 :2006/02/09(木) 03 04 48 ID y/6VURXp0 【でふこん☆わん】【あんでる】 主人公 加藤 弘(カトウ ヒロシ) 変更不可 風鈴寺空 「大佐」 (他に「大佐どの」「加藤どの」「加藤弘どの」「弘どの(二回)」) 鋼島鉄子 「加藤君」 (後日談で「アナタ」「弘さん(一回)」、他に「加藤弘」「加藤弘君」) 火ノ上かがり 「加藤」 土屋 圭 「加藤様」→「弘さん」 (教師の時は「加藤君」、他に「加藤弘」「加藤弘様」) 水龍寺七海 「弘」 (稀に「加藤弘」「弘さん」「弘くん」) 全国の「カトウ」さん&「ヒロシ」さん、オメデトンヽ(´ー`)ノ 【人妻ネットオークション】【H+】(2005-06-24) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart5 666 名前:名無したちの午後 :2005/07/19(火) 02 34 04 ID ch98i8AJ 【人妻ネットオークション】 【H+】 主人公 井上浩史(イノウエ ヒロシ) … 変更不可 新宮まひろ (CV:西田こむぎ) 「浩史さん」 「あなた」 「旦那様」 「ご主人様」 清水沙織 (CV:吉川華生) 「あなた」 井上マコト (CV:榎津まお) 「お兄ちゃん」 若野有紀 (CV:榎津まお) 「あなた」 「亮(リョウ)」←主人公じゃないけど 井上紅葉 (CV:かわしまりの) 「浩史さん」 「あなた」 南紀美沙 (CV:歌織) 「あなた」 「井上くん」(1回?) 白浜葵 (CV:桜川未央) 「先輩」 マリア (CV:桜川未央) 「浩史サマ」 「ご主人サマ」 真神さや (CV:西田こむぎ) なし 真神あや (CV:吉川華生) なし 亮君は有紀さんの息子さんです。 全国の「ヒロシ」さん&ちょこっと「リョウ」さん おめで㌧ヽ(´ー`)ノ 670 名前:666 :2005/07/19(火) 23 42 32 ID ch98i8AJ すいません。一番大切な”義理の”いう言葉が抜けていました。 亮君は前の奥さんとの子供で有紀さんとは血は繋がっていません。 主人公との3Pで出てきます。 ↓ここに詳しいことがありますんで ttp //www.hplus.jp/product/auction/chara.html あと亮君の声は、かわしまりのさんです。 【いもほり~お兄ちゃんの奮闘記!~】【TAKE OUT】(2004-03-26) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart4 422 名前:名無したちの午後 :04/10/28 21 31 08 ID 3UbW86jd 【いもほり ~お兄ちゃんの奮闘記!~】 【TAKE OUT】 主人公 平良 浩志(タイラ ヒロシ) 名前変更不可 米倉奈美 (CV:彩世ゆう) 「浩志」「あなた」「お兄ちゃん」「浩志さん(一回)」 米倉静瑠 (CV:三咲里奈) 「お兄さま」「お兄ちゃん」「お兄さん」「あなた」 米倉恵瑠香 (CV:萌木唯) 「お兄さん」「お兄ちゃん」 米倉瑠璃 (CV:楠鈴音) 「お兄ちゃん」 米倉聡美 (CV:福元コヒロ) 「お兄ちゃん」「あなた」 ・下の名前で呼ばれる回数はあまり多くない、名字の方は皆無 ・ゲームメニューの「スキップ時に音声を読み込まない」はOFF推奨 音声つきの台詞が連続した時、2つめ以降の台詞を再生しなくなった 全国の「ヒロシ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【アネもネ】【PINE】(2003-05-02) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart2 529 名前:名無したちの午後 :03/05/17 21 47 ID Mfcua0sU 【アネもネ】(PINE) 主人公の名前:神宮寺 弘士(じんぐうじ ひろし) 登場人物/呼ばれ方 ひとみ (長女)cv.朝霞 紫 ・・・ひろちゃん ふたば (次女)cv.榊原 ゆい ・・・ひろし みつき (三女)cv.新出 千晶 ・・・ひろちゃん しの (四女)cv.大花 どん ・・・ひろし いおな (五女)cv.秋月 まい ・・・ひろちゃん Pちゃん(六女)cv.三咲 ゆうか・・・ひろちゃん (但し、場面によって違う呼び方をされる事有り) 全国の「ヒロシ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ ・・・実は自分の本名が「ひろし」(字は違う)で、時々「ひろちゃん」とか呼ばれてるから、 プレイ中なんとなく小っ恥ずかしかったりする(w 【世界ノ全テ】【たまソフト】(2002-04-26) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せ 29 名前:ヒロシ :02/08/04 23 11 ID dcNZ9Cs5 「真・瑠璃色の雪」と「世界ノ全テ」で名前呼ばれまくり (;´Д`)ハァハァしますた。 ヒロシとしてはこの2本は外せないね。 【Once More Again】【アイル】(2000-08-11) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart5 433 名前:名無したちの午後 :2005/06/01(水) 02 16 18 ID JY/3kwJr 【Once more Again】 【アイル】 主人公 水沢 正幸(ミズサワ マサユキ) 名前変更可 あすか 「お客さん」 「神村君(一回)」 るり 「博士様」 水沢 奈未 「お兄ちゃん」 悠木 柚 「アンタ」 「コイツ」 「正幸」 「ソチ(一回)」 「正幸クン(一回)」 「正幸ちゃあ~ん」 悠木 いよか 「正幸ちゃん」 肥山 晶 「正幸」 「アンタ」 「お父さん(一回)」 「あなた(一回)」 宮下 ひかる 「マウザー」 「正幸」 「あなた」 「あなた達」 「猿」 「彼(一回)」 澤之木 優羽 「先輩」 「先輩様(一回)」 「あなた(一回)」 優子 「お兄ちゃん」 大槻 純子 「貴方」 「あなた」 「正幸君」 斎藤 部長「貴方(一回)」 園長先生 「正幸ちゃん」 あすかやるりに神村君や博士様と呼ばれるわけは、主人公が冒頭で風俗にいくためです。 それからこのゲームはデフォルトで名前変更しないで始めたときのみ、正幸と呼ばれます。 全国の「マサユキ」さん、ちょっとだけ「カミムラ」さん、「ヒロシ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【真・瑠璃色の雪 ~ふりむけば隣に~】【アイル】(2000-04-14) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せ 29 名前:ヒロシ :02/08/04 23 11 ID dcNZ9Cs5 「真・瑠璃色の雪」と「世界ノ全テ」で名前呼ばれまくり (;´Д`)ハァハァしますた。 ヒロシとしてはこの2本は外せないね。 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart2 490 名前:名無したちの午後 :03/05/02 00 41 ID 5UBwEuPd ふつうの報告 真・瑠璃色の雪 園村双葉からマナベさんと呼ばれます。 【月光】【URAN】(1999-10-02) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せ 656 名前:名無したちの午後 :02/10/29 21 43 ID qjzzS4ld ttp //www.uran.co.jp/gekkou.htm 月光 ウラン 主人公:宏(ヒロシ) 由希子→宏 泉実→宏 非攻略キャラから男キャラまだえ呼び捨て。 かなり前にやったので間違ってたらごめん。 ゲームの出来は… 980円ぐらいで売ってるんだし…
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Ⅲ 寂しい灯りが照らす下、朝比奈さんと俺はお互いベンチに座っていた。何か話した方がいいかと思うのだが、朝比奈さんから呼び出されたのに俺が関係ない話をグダグダ話すのもいかがなものかと思い、今の膠着状態に至るわけだ。制服姿のままの朝比奈さんは、膝の上に乗せた自分の手の甲を眺めたまま動かない。そんな深刻そうにされると、一体どんな話が飛び込んでくるのかと俺は不安倍増になる。これがもし俺と朝比奈さんが向かい合っていたのなら、伝説の木の下ならぬいつものベンチ横で告白されるのではないかと思わず妄想を繰り広げてしまうのだが、今現在の事情が事情だけにそれはないな。さて、何が朝比奈さんの口から飛び出してくるか。鬼か?蛇か? 「キョン君は‥‥」 ようやく、ハムスターが精一杯に振り絞って出たかのような言葉は、何やらいやぁな予感しかさせなかった。結果的に、今すぐ告白しろみたいな話になるんじゃないか?この出だしは。 「今の涼宮さんをどう思いますか‥‥?」 「今のハルヒですか‥‥」 ……なんと答えればいいのやら。少し、いやかなり変わった気がするが、口では具体的にどう変わったのか言えないこともあり、これは言えそうにない。しかしいつも通りだと思いますよ、なんて本心と真逆なことをあの朝比奈さんの目の前で言うわけにもいかん。こうして呼んでくれたからには、ちゃんと理由があってのことだからに違いないからな。例え話の終結点が告白しろでも、嘘はいけない。嘘はいけないと、ふしだらな俺でも小学生の時に習ったことを覚えている。 「朝比奈さんはどう思いますか?」 しかし結局俺は、会話では禁じ手に値する質問を質問で返すという暴挙に出た。すまん、朝比奈さん。ハルヒが変わったのではなく、俺がハルヒを見る目が変わったかもしれないという点を無視したかったのさ。だって認めたくないだろ? 「‥‥私は古泉君の話を聞きました」 そう朝比奈さんは一呼吸おいて、小鹿のような瞳に決意を露に浮かべてから俺の目を直視して言葉を顔面にぶつけてきた。 「わたし、古泉君の言葉が間違っているような気がするんです」 俺は思わず目を見開いたね。ということは、告白云々は関係ないということだからだ。 「古泉くんの話はとても的を得ているし、話にもズレがないことは分かっているんです。でもわたしは、それでも本当のことはそうではないと思います」 「というと‥‥?」 「今の涼宮さん自身が、読書大会を開く前の涼宮さんと何か違う気がするんです‥‥‥」 なんと! 朝比奈さんも同じことを考えていたとは。しかもわざわざここに呼び出してまで言うからには、何か根拠があると思っても良いんですね、朝比奈さん。 しかし朝比奈さんは、わたしは話ベタだし、どうしてそう思うのか具体的には言えないのだけれどと前置きを重ねて言葉を区切っていた。変に思うかもしれない、とまで言っていたが、貴方のことを変だと思ったのは自分が未来人ですと告白された時以来はありませんよ。 「ただ涼宮さんが部室でしばらく寝て起きた時、ちょっとした時空震を感じました。おそらく長門さんも気付いたと思います」 「古泉は気が付かなかったのでしょうか?」 「‥‥そこ、なんです。キョンくんはどう思いますか? 気が付いたかと思いますか?」 たしか夏休み、ハルヒの勝手な行動で俺らは野球に参加させられるはめになった。その時クジで俺が4番に選ばれたんだが、野球経験も乏しく相手が相手ということもありエースのような活躍が出来なかったことにハルヒは理不尽な苛立ちを溜め、閉鎖空間を発生させた。あの時専門分野である古泉は除いても、朝比奈さんと長門は2人とも気づいたようだったな。長門はなんでも出来そうだが、朝比奈さんは未来人であるのだからそういったものには感知できないものかと勝手に思考していたが、そうではないようだ。ということは、朝比奈さんの専門分野である時空の揺れを古泉が感知出来てもまぁ不思議ではない。 無論俺にはさっぱり分からない。 「わたしは、具体的にはないにしろ、古泉くんも何か感じ取ったかなと思いました。なので、ここからする話は古泉くんが感知したということを前提に話していきますね」 「古泉くんは、あの日涼宮さんに何か異変があったと察知した。でも、貴方には涼宮さんにこ、告白をするように言っていますよね?」 「ええ」 「わたし思うんです。古泉くんがそう貴方に迫るのは涼宮さん自身がそう望んでいるからじゃないかな、って」 「‥‥え」 つまり朝比奈さんが言うには、古泉が俺にああ言うのは古泉自身の意思ではないということになる。またしてもハルヒの能力。いよいよ神らしくなってきたなハルヒ。 「あの噂‥‥わたしが誰かから聞いたわけじゃありません。朝起きて目が覚めた時にはもう、ああそうなんだって勝手に思ってたんです。鶴屋さんもキョンくんと涼宮さんのこと話していました。一緒に話してて、鶴屋さんに 「みくるも気づいてたのかい?」 と聞かれて、その時に初めて疑問に思いました。そういえば、なんでキョンくんと涼宮さんは一緒に帰ってるんだろう‥‥って」 なんということだ。噂を植え付ける? 洗脳の間違いじゃないか。事情を知ってる朝比奈さんでさえ記憶を曖昧にしてしまうとは、ハルヒの能力もさなぎから成虫になるみたいに羽化してるということか。 「わたし、長門さんが本を閉じて着替えのために貴方たちが一旦外へ出た時ようやく気付いたんです。2人で読書を進めるために残ってるんだったって‥‥」 朝比奈さんはうるんだ瞳をこちらに向け、まさにこのことを言いたかったのだと言わんばかりに声を上げた。 「キョンくんを今日呼び出すつもりになったのは、あの部室で思い起こしたんです。それまで、わたしもキョンくんが涼宮さんに告白するように勧めるつもりでした。でも、それはわたしの意思じゃなかったの。 どうしてかは分からない。告白するようにキョンくんに言うことがわたしの意思じゃないと証明は出来ないけれど、でも信じて。わたしは涼宮さんが、能」 「ちぃーすキョン‥‥‥って、うおっ!?」 ええい、どうしてこのタイミングでお前は出てくるんだ。朝比奈さんが何を言わんとしてるのが、やっとその一言で分かりそうだったのによ。 「あさ、あさ、朝比奈先輩じゃないですかあ! おいキョン。お前新月の夜にマジで気をつけとけよ。じゃないと」 「あっキョンくん‥‥この話はまた今度にしましょ」 「えっ!」 そう言うと朝比奈さんはスクッと立ち上がり、小走りで夜の闇に溶けていった。まだ一番大事なこと聞いてないですよ! 「朝比奈先輩、送りますよ!」 と谷口が追いかけていきそうになったが、こいつがついて行ったら間違いなくストーカーになる。だから俺は無理矢理谷口を止め、もう二度と邪魔するなと釘を打っておいた。 しかし朝比奈さんもあんな中途半端なところで帰らなくてもいいのに。 ‥‥‥。 しかし気になることばかりが残った。結局朝比奈さんは何が言いたかったんだろうか。 古泉はハルヒの方に何らかの異常が発生したのを感知した。それで奴はどう考えたんだ。ハルヒが今までと違う変化があるかを機関の力頼りに調べてみたが、何も発見出来ず、強いて言うならば閉鎖空間の規模が大きくなってきていること。そこでこれまでの読書の経緯を考慮し、ハルヒは俺の告白を待っていると解釈した。 じゃあハルヒを中心に起きた時空震はなんだ。古泉は考えた。ハルヒが夢か何かを見て、俺のことが好きになったスイッチだったのではないかと。 そして朝比奈さんはこう言う。古泉はハルヒの異変をキャッチした。変だな変だなと思いながらも何の変化は分からずじまい。そして、その時偶然か意図的なのかは分からないがハルヒが古泉を通じて、俺がハルヒに告白するよう仕向けることを願った。 古泉はハルヒがまさか自分に能力を使ってるとは思わず、自分の推理を考えてハルヒが告白を待っているという結論に達する。そして俺に迫る。ハルヒの異変のことを疑問に思いながらも‥‥‥。 つまりどっちの解釈でも、ハルヒは告白を待ってるということにならないかこれ。 考えれば考えるほど俺の頭の中は混乱状態に陥って行き、結局その日は明日当てられるかもしれない英語のリーダーの問題も解かずに眠ることを選択した。これ以上人間の持つ素晴らしき能力、思考というものを続けると、俺の頭は銃弾が直撃したタイヤよろしくパンクしそうだ。朝比奈さんの言わんことをまだ最後まで聞いたわけじゃないこともあってか、無心になることは無理そうだった。がそこは強引になんとかするしかない。 ……だが眠れない。 「はぁ‥‥」 なんで俺がこんな目にあうのだろうかね? 地球滅亡まであと6日。 ゲームならこんな感じにテロップが現れるかもしれない朝、俺は妹が来てシャミの歌を歌いながら起こすのに応じ、素直に一発で起きた。もちろん快眠故の起床ではない。眠れなかったのだ。 親が作ったトーストをゴムかなんだかを食ってるような感じを嫌とういうほど口の中で味わったあと俺は学校へゆっくりとした歩調で向かった。ハルヒの顔をまともに見れるような気がしない。 どんよりとした雰囲気を半径50㎝に漂わせながらのろりのろりと坂を上っていると、後ろから聞きなれた声音が後ろから聞こえてきた。なんだ、お前か。 「なんだとはなんだキョン。お前最近なんか見る度にやつれててるよな。また涼宮に振り回されてるのか?」 「いろいろとな。それより谷口、昨日はよく邪魔をしてくれたな」 「邪魔ぁ? 俺はお前と涼宮とのことで邪魔したことはないぞ」 涼宮との間は、か。確かに。でもな、 「せっかく朝比奈さんと話してたのに何も妨害することないだろう。友達なら黙って見ておくまでに留めておいて、その後は静かにいさぎよく立ち去るもんじゃないか?」 はぁ、とあからさまに溜息を吐いてやったところ、谷口の反応は俺の予想の斜め上をいくようなものだった。 「何言ってんだ? お前と朝比奈さんなんて昨日見てないぞ」 俺はあまりの谷口の素の反応に思わず目を丸くしたが、それは一体どういうことだ。 「それよりキョン。お前朝比奈さんと何だって? 話してたって? 2人きりで。おいキョン。マジで新月の夜に気を付けとけよ。俺はともかく朝比奈さんのファンでなおかつ上級生の人達からはとんでもな‥‥‥」 「待て谷口。お前は昨日夕方、公園にあるベンチ前通ったろ?」 しかし谷口はいよいよ俺を憐れむを見るような目で見て 「そうかキョン。お前もとうとう涼宮の毒牙にかかっちまったか。あいつの毒はハブをも上回るからな、まぁヘンテコな団を作った時にはもう既に毒は体内に回っていたんだと思うが‥‥‥。涼宮のように好き勝手やるのもアレだが、俺にクローン説をもちかけるなんてもっとアレだぞ」 谷口はいぶかしむような目でこちらを見ているが、もちろん俺がクローン説を本気でテスト平均点以下仲間に説こうとしているのではないのは明白だ。そして谷口のこの顔を見る限り、本当に俺と朝比奈さんが話していたのを知らないようだ。 ‥‥もう、本当に何が起こってるんだ。俺の寝不足が精神にまで影響を及ぼし始めたとか言わないでくれよ、頼むから。 ともかく、何かいやぁな予感しかしない。谷口にクローン説が当てはまらないならば、未来から谷口が来てわざわざ俺と朝比奈さんの秘密のカンバセーションを邪魔しに来たか、あるいは俺にも想像出来ない異常事態が発生しているかということだ。ハルヒのハルヒによるハルヒの身勝手さのための地球滅亡の前兆として、現れてはいけない時間軸が4次元と共に生まれてしまったか、谷口の記憶を半強制的にいじったか、あるいは谷口がボケたかかもしれない。俺としては谷口がボケているという可能性を是非推薦したい。というよりそうであって欲しい。 しかし念のために朝比奈さんの確認も取っておかなければ。昨日の話のクライマックスもまだ耳に入れてないこともあるから、俺は今長門よりも朝比奈さんに会いたかった。ハルヒになんとか不審に思われないよういつも通りの自分を全力で演じ、放課後になるや否や俺は文芸部室に駆け込んだ。 だがこういう日に限って誰もいなかったりする。癖になっているノックを2回して、返事がない時点で脱力感が襲ってきたがまあ仕方ないだろう。少し急ぎ過ぎたようだ。 俺の直感では真っ先に長門が来て、その後続いて朝比奈さん、3位にニヤケハンサム面の古泉、ラストにハルヒ。 しかし俺の期待を見事裏切るか如く、次に文芸部室のドアを開けたのは古泉だった。古泉の微笑もいつもに比べてどことなくぎこちなく、よく見れば目の下にはクマがある。 「それはお互い様と言ったところでしょう。貴方もいろいろと悩みを抱えておられているようですね。もし良かったら、僕がその悩みの相談に乗りましょうか?」 さも俺が何に悩んでいるのか知らないといった雰囲気でそう聞いてきやがる。原因はお前があんなことを言い出すからなんだがな。 「貴方も朝目覚めたら世界中が閉鎖空間に飲み込まれていたら嫌だろうと思ったので、僕なりの配慮と受け取ってください。本当はそのようなことを貴方に言うのは心苦しかったのです。閉鎖空間については、僕たちの専門ですからね」 地球が滅亡してたら起きるなんてこと出来ねーよ。少なくとも何の悔やみも迷いも生じずに消えていたさ。 古泉はいつもの微笑をフフと自然に作り上げたあと、ニヤケスマイルを崩してまるで近所のお兄さんがガキに向けるような朗らかな笑みを作った。 「でも、良かった」 「貴方がもし今回の涼宮さんの件について、それこそクマも作りもせずに軽率に行動をしていたらそれこそ僕は疑問視してしまうところです。世界がかかっているとはいえ、この問題については1週間ギリギリまで悩んでもらっても僕は構いません。少なくとも、僕が苦労してる分と同等ぐらいまでの苦労は‥‥‥してもらった方がいいかと」 結局自分も苦労してるんだから俺も苦労しろってことかよ。まあ喜べ。俺は巣の入り口が角砂糖で塞がれたアリぐらい苦しんでいるぞ。 「というより、いつの間にか話の流れが告白するみたいになってるがな、俺はそんなことする気サラサラないぞ」 「目の下にクマがある人が言うことではないですね。1週間後、また貴方とはさみ将棋が出来ることを期待しておきます」 古泉がそこまで言うと、ハルヒ達がまるでタイミングを見計らったか如く扉を勢いよく開けた。まさか聞いてなかっただろうな。 「さあ、今日もガンガン活動するわよ!! みくるちゃんお茶ね」 朝比奈さんの着替えのため俺らは一旦部屋から出て、メイド服に早々と衣装チェンジをした朝比奈さんのお茶を渋い音を立てながら各々の行動に戻った。 古泉は1人詰め将棋、俺は無論読書だ。 朝比奈さんになんとか話を聞こうと隙をあれこれと伺ってみるものの、どういうわけだかハルヒが相手チームのキャプテンをマークするバスケット選手並みのディフェンスを朝比奈さんに張り巡らしているような気がしたので声をかけることが出来なかった。仕方ない。今日の夜に電話をして話を聞いておこう。ついでに谷口のことについても。 まぁ、それも‥‥ 「さあキョン、残り4冊よ!」 「では、お先に失礼します」 「‥‥‥」 「あ‥‥キョン君、頑張ってね」 ‥‥この俺とハルヒオンリーな空間を1時間耐えきれたらの話だがな。耐えるって何を? 何だろうね。 睡眠不足プラスアルファ神経を約半日張り詰めていたこともあってか、6冊目の哲学書の表紙が嫌に重く感じる。タイトルから察するに、人間の言葉の意味についてボヤボヤと語り継がれているようだ。 「‥‥ねえ」 俺の頭がボヤボヤとして来始めた頃、不意にハルヒが声をかけてきた。なんだ。 「最近、アンタ何かあったの?」 何かってなんだ。 「何かよ!」 そう訳も分からず叫ばれても困る。しかしハルヒは俺の目をまっすぐ見つめ、俺が一体何を考えているのかを見通そうとしているようだった。ということは勿論、俺もハルヒの顔を見つめていることになり、ハルヒの瞳に反射して映る俺の間の抜けた顔はハルヒが何故こんなことを言い出したのかを思惑しているものだった。 その原因は分からないが、どうやら怒っているのではないらしい。ハルヒは俺から顔を背け、自分の目の前にある本へと強引に視線を変えた。机の上には長門が好みそうなハードカバーのSFが置いてあったが、おそらく今のハルヒの目には何も写っていないだろう。 「今日だってそうよ。徹夜でもしたみたいなクマがあるのに無理に元気出してるし、あたしが後ろからシャーペンでつっついても気づかないし、それに‥‥‥」 ハルヒがハルヒらしからぬことを言い出したので俺はこの上なく戸惑っていた。いや、マジで混乱していた。一体何故こんなことに。 ハルヒが一瞬空気を置いてから、またこちらに視線を翻し俺に向かってツバがかかる勢いでこう言った。 「なんであたしにそんなに気を使ってるのよ!!!」 ‥‥へ?Ⅲ と思わず呟いてしまうところだった。気を使っているだと。俺が? ハルヒに? 「あたしに対する態度がなんかよそよそしいわよ! あんた何か隠してるでしょ!?」 ハルヒはそう言い、俺のうろたえた表情を見るなり我が意を得たと確信したらしく、対ハブ戦で主導権を握ったマングースの如くニヤリと笑った。パイプ椅子から立ち上がるなり俺の胸ぐらをひっ掴み、「言いなさい」と下僕にカツアゲする姿は女王陛下そのものと言ってもいい。なんてめんどくさいことになってしまったんだ。 俺がハルヒに気を使ってるなんて天地がひっくり返って人間が空に落ちるような事態が発生したとしても常識的に考えてありえないだろ。俺はハルヒに気など使っていない。 ‥‥‥ってのは嘘ぴょんで、 正直に言うならば確かに神経を張り詰めさせている。そりゃそうだ。俺がハルヒに告白しないと地球が滅ぶ。まさに天地がひっくり返る状況の真っ只中にいるというのに気を使わん奴がいるというのか。いるなら手を上げてくれ。最優秀脳天気賞を俺が直々にくれてやるよ。別に嬉しくないだろうがな。 「ハ、ハルヒ。とりあえず手をどけてくれ」 苦しくなってきた、と言うより先にハルヒは「駄目よ」と返事した。目が爛々と輝いていやがる。さっきまでの物鬱げな表情はどこいった。NASAのロケットと共に宇宙の彼方へと消えたか? 「あんたが何を隠しているのか言うまでも絶対離さないわ」 ハルヒに隠し事だと。Oh no! 隠し事しかないぞ。 俺はどうにかして状況を打開しようと立ち上がってみたが、首は苦しいままだった。この脚本を書いたの誰だ。もし俺が主人公ならここで死んじまうぜ。何故なら選択肢が告白するか、今ここで現世に別れを告げるかの2つに1つしかないからな。 だがそんなシナリオに従うほど俺はまだ自分の運命に悲観していない。運命よ、そこをどけ。俺が通る。 「あー‥‥あー、実はだなハルヒ」 「いっとくけど、あたしに誤魔化しは通用しないわよ」 通用しないわよと言われて、はいそうですかと本当のことをベラベラ喋るわけにはいかないことぐらい俺にでも分かる。ここは俺の天性のアドリブ能力でなんとか場をしのぐしかない。 と思案していた矢先だ。 「分かってるわよ‥‥みくるちゃんのことでしょ!?」 「は?」 何故ここで朝比奈さんが出てくる。 「最近妙に仲良いわねと思ってたのよ。そして昨日確信したわ。あんたが公園でみくるちゃんと密会してるの見たんだから!」 なんと! あの場にまさかハルヒがいただと!? しかも密会なんて誤解されるような表現を使いやがって。俺たちは何もいかがわしいことしてないぞ。 「というよりなんでお前が公園に‥‥」 「誰だって別れた後に小走りでどこか向かっていたら気になるでしょ!?」 別に気にならん。俺なら急いで家に帰ったんだなとしか思わないぞ。 というよりも尾行されていたとは。我ながら迂闊だったか。 「ハルヒ。尾行なんてあまり好ましくない行動だぞ。そんなことやっていいのは本物の探偵かドラマの警察だけだ。一般人がやってしまうとストーカーに‥‥」 「そうやって話を逸らそうなんてことさせないわよ! あんたとみくるちゃんがあんなとこで一体何を話してたのか言いなさい!!」 尾行したという話をし始めたのはお前なんだがな、ハルヒ。 しかしなんとか話を騙し騙し変更しようと思ったのがバレたみたいだ。これは思いの他厄介なことになった。 「そう‥‥何も言わないのね。いいわ、言ってあげる。あんたみくるちゃんを恋愛対象として見てるでしょ!?」 ハルヒの表情はひくひくと痙攣しながらも無理矢理笑顔を浮かべており、こういうときどういう顔をしていいか分からないようだった。にしても俺が朝比奈さんを恋人対象として見るねえ‥‥。確かに朝比奈さんは小柄で可憐かつ庇護欲をそそるような素晴らしい体型と性格の持ち主で、その上禁則事項まみれではあるが未来から来たというオプション付き。そりゃ付き合えたら俺の学園生活もそこら辺に生えてる名も知らない雑草からバラ色のそれへと移り変わるだろうが、しかしなぁ‥‥。 そんなことを脳が酸素不足になりながらも考えていると、ふっと窒息感が和らいだ。ハルヒが力を抜いたらしく、顔を俯かせながらも手だけは俺の胸ぐらを弱々しく掴んでいた。 「‥‥そうよね」 静かにそう、確かに呟いた。 「女のあたしも思うわ‥‥みくるちゃんは可愛いってね。彼女に出来るものならしてみたいわ」 「俺もそう思うぞ」と言えるような状況ではなかった。さっきまであんなに勢いがあったハルヒが急にしおれてしまい、このなんとも言えぬまるで恋する乙女のような情緒不安定さがハルヒにもあったということは、とても筆舌しつくしがたい困惑を俺の中で渦を巻かせている。 「‥‥なあハルヒ。仮にそうだとしよう。だとしてもなんで俺がハルヒに気を使わなくちゃならないんだ?」 「やっぱりみくるちゃんが好きなのね‥‥」 「仮の話だ」 「だって‥‥あんた忘れたの? 団内の恋愛は禁止じゃない」 知らなかった。そうだったか? 「そうよ‥‥」 ハルヒは俺から手を離し、相変わらず俯いたまま重い足取りで窓へと歩みよった。外から室内へと夕暮れの光が差し込んでいたが、ハルヒの窓の向こうを見る様はまるで雨を眺めているかのようだ。そして窓に反射して見えるハルヒの顔は切なさが垣間見えた。 「いいわよ、別に。特別に許可してあげる。他の誰が何と言おうとあたしが許してあげるわ‥‥」 ‥‥と、ハルヒは言ったきりこちらに振り返りもせず黙ったまま景色を眺めていた。おい、こんな展開になるなんて誰も考えちゃいなかったぞ。何故二言三言の会話の間に俺が朝比奈さんを好きということになっている。そりゃまあ好きに違いないが、そう、俗に言うラブではなくライクというやつだ。それに例えラブでもお前が認めたところで朝比奈さんが認めないだろうよ。なんつったて未来人だしな。まあ他にも要因はあるが。 「一体お前が何の勘違いをしてるかは分からないが、俺は別に朝比奈さんにそういった感情を持ち合わせてないぞ」 「嘘よ。あんたいつもみくるちゃんからお茶貰う時デレデレするじゃない」 あんな校内一と言っていいほど可愛い人からお茶貰ってニヤけない奴はいないだろうよ。 「それに! 現に昨日もあってたじゃない! あれは何よ!!」 まるで浮気現場を目撃した新妻との会話みたいになっているのは気のせいか? 「ごちゃごちゃ言わずにその理由を言いなさいよ!!」 「あれはだな‥‥そう。朝比奈さんから相談を受けたんだよ。最近ハルヒの元気が無いような気がする、とか言ってたぞ。俺はそんなことないと否定しといたが、朝比奈さんは自分の出したお茶がまずいんじゃないかと杞憂しておられた。だから色々と話してたわけだ」 「なんであんたに相談するのよ!? 有希や古泉君がいるじゃない!!」 ハルヒはずかずかとこちらに歩を進め、俺は思わず後退りしているうちにいつの間にか背が壁と触れ合っていた。こいつも怒ったような表情したり捨てられたら子犬のような寂しげな表情したりと忙しい奴だ。ガムを噛んだ息でも嗅いで「いいじゃない!」と言って笑ってればいいものを。 「長門は‥‥えー、ほら、あいつ文芸部に所属してるぐらい本が好きだろ? 部室内でもひたすら本読んでるし、あんまり他のことに関心を向けてない‥‥かもしれない! って朝比奈さんは思ったのかもな」 「有希はそんな薄情な子じゃないわよ!」 分かってるさ。多分長門が一番皆の状態を把握してる。 「古泉は単純に‥‥家が遠かったんじゃないか?」 「‥‥‥‥」 けれどこれだと、それだったら3人が一緒に帰ってる時に話せば良かったじゃない! と突っ込まれたら終わりだ。言ってから気づいたが、トゥーレイト。 「要は、ハルヒ本人に知られなきゃ誰でも良かったのさ。朝比奈さんは陰ながらハルヒに元気を出してもらおうと頑張ってたというわけだ」 「そうだったのね‥‥全く。みくるちゃんったら、そんなこと気にしてたのかしら! 団長本人に聞かなかった罰よ。今度お返しに新しい衣装着せるんだから‥‥」 しかしハルヒが肝心なところで単純なのは助かった。それにしても朝比奈さんに新しい衣装か。そろそろ冬になるんだし、サンタの衣装にして欲しい。朝比奈さんがサンタコスチュームを身に纏えば、本物サンタクロースでさえ恐れ多いことだ。有無を言わず退散するだろう。ただしプレゼントは置いていってくれよな。 そうやって、漸く俺が一難去った喜びを朝比奈サンタを想像して噛み締めていると、ハルヒが第二の核爆弾を追加直撃をさせてきた。 「じゃあ、あんたは何であたしに気を使うの?」 しまった、っという言葉を寸でのところで飲み込んだのは我ながら勲章ものだ。誰でもいいから俺に賞をくれ。 「ねえ、なんでよ‥‥?」 だが賞は誰からも授かることはなかった。俺の耳に届いた言葉は授与式の司会者の声ではなく、不安そうなハルヒの声。 まるで、自分が俺に何か気に障るようなことをしたか気にかけるような、そんな声音だった。 「あの、そのだな‥‥‥」 ‥‥ここで少し考えてみてほしい。放課後、それも下校間際の時間帯だ。部活や居残りさせられていた生徒達はようやく帰宅時間かと安堵やら残念な思いをしながら長い長い坂道を下る頃であろう時間。そんな学校には誰もいない時間帯。強いて言うなら残っているのがほとんど教師しかいないような時に、ただでさえ人気のない旧館の2階でそれなりに‥‥というよりも黙っていさえいれば朝比奈さんと双璧をなすほど容姿を持つ、お偉く気の強い団長様が1人の一般男子生徒を壁へ追い詰め、こんな不安そうな触れたらその繊細なガラス細工が壊れるような表情をしていてだ。君は何も感じないか? 夕暮れの明かりも消えかけて、残るはそろそろ取り替えた方が無難な電灯の心許ない明かりがあるだけで、状況だけで言うならばこれほどドキドキする場面はそうそうないような事態で何も思わない奴がいるのか? だとしたら、そいつは鈍感ってレベルじゃねーぞ。 まるで今までのハルヒとの会話はこの時のためにあったんじゃなかろうか。今がそうなのか。今が言うべき時か? これほど、誰かがお膳立てでもしたんじゃないかと疑うようなベストコンディションはもう残り6日間の内には必ずといっていいほど無いだろう。 今、逃したらもう言うチャンスがきっとない。地球が滅ぶか滅ばないかは今まさにこの瞬間にかかっている。俺の手のひらの中にある。 ゴクリ、と唾を飲む。 言うしかない。いいか、俺。逃げはなしだ。ここで「俺はお前に気なんか使ってないぞ」なんてのは御法度だぞ、OK? 地球がどうにかなるかならないかの瀬戸際なんだ。地球が太陽系の惑星から消えるなんて嫌だろ、どっかの星みたいに。さあ言え。言えったら。 言え!! 「‥‥‥‥」 「‥‥キョン?」 問いに答えない俺を見て、ハルヒは首を傾げながら俺の顔を覗きこんだ。可愛い仕草も出来るんだな、ハルヒ。 ってのはどうでもいい。俺は骨の髄までチキンらしい。しかしこの際チキンでも構わない。俺の中である疑問が生まれたのだ。俺は今、猛烈に自分自身が告白するようにせがんでいる。何故だ? 地球が滅びるからか? でもそれって本当か? 本当に地球のためを思って告白云々を考えていたのか? 我ながら自分の思想さえコントロール出来ないのかと世間の人から罵詈雑言が飛んできそうだが、まさにそうかもしれない。 つまりだ。 俺の思想さえもをハルヒが操っていたとしたら、どうする? わけ分からんことを言うな。まさにその通りだ。そんな哲学書みたいな思想、俺なら5秒で飽きる。しかし今回ばかりは匙を投げっぱなしというわけにはいかない。そうだ。 『古泉君の考えは、涼宮さんの意志によるもの‥‥』 『涼宮さんは能‥‥』 朝比奈さんの言葉が途切れ途切れに思い出される。ハルヒが能力を使い、他人の思考さえも我が手の物に出来るかもしれないという可能性があるのだ。今切に告白したがっているのは俺の意志ではなく、ハルヒがそう命じているから‥‥‥? ‥‥‥あほらし。哲学書を読み過ぎたか。 俺の意志にしろハルヒが告白されたがっているにしろ、どちらにせよ閉鎖空間を抑えるための方法はただ一つ。言うしかないのだ。 言った後の結果が怖いとか、今までの関係が良いとかそういう深層心理から生み出された逃げだろ。その点については安心しろ。ハルヒは告白されて断った試しがないらしい。もしかしたら5分後に振られたという最高記録を抜かして5秒で振られるという最新記録を生み出すかもしれないが、何はともあれ言わなきゃ始まらない。 ‥‥‥言うぞ。どうせならカッコ良く言えよ。 「ハルヒ」 「‥‥何よ?」 人生経験上、女性と付き合った試しがない。強いて言うならば妹の友達と映画を見に行ったが、あれは別だ。ともかく、告白の時に一体どんな前振りをすればいいか分からない。古泉ならそういうのがホイホイと出てくるだろうが、生憎今だけはあいつには頼りたくない。というより誰にも知られたくない。 俺はハルヒがまるで逃げないようにするがために肩を掴み、じっとハルヒの視線を捉えた。ハルヒも今が一体どういう空気なのか読んだ‥‥かは知らんが、何も言わず俺の眼を見つめ返す。5月の俺すげーな。よくあの唇にキスしたもんだ。 ‥‥‥他の言葉はいらない。なんで気を使ってるのか聞かれて告白するというデタラメな順序もこの際無視だ。胸が高鳴ってくる。意志では抑えれそうにない。だが、たったその一言で、この不可解な動きをする鼓動も地球も処方箋いらずで助かるというのなら、‥‥‥ 「ハルヒ、」 もう一度呼んだ。 返事はない。構わん。 「」 気のせいだろうか。声が聞こえた。もちろん俺のではないし、ハルヒのうろたえた声でもなかった。 ふと隣を見るといつの間にかドアが開いており、まるで最初からそこにいたと言わんばかりにそいつは立ったままこちらを見ていた。 見覚えのある瞳だ。無機質と無感動を貫いた闇色に染まる確かな水晶体。 「長門‥‥‥」 そう、そこには長門がいた。 「忘れ物をした」 言い訳を言うかのようにそう付け加えると、長門は足音もなしに定位置へと進んでいった。いつも長門が座っているパイプ椅子の上には分厚いハードカバーの本が置いてある。さっきまでそんなものあったか? 長門がもう一度こちらを見つめ、今し方の光景が何を意味するか観察兼分析しているように見えた。まあ長門なら最初から分かっていそうだが。 それでも人間ってのは不思議なもので、そんなに見つめられるとつい条件反射でお互い体を離し距離を置く。恥ずかしくてあまりハルヒの方が見れないが、ちらっとだけ見ると肩のところにシワが寄っていた。どうやら相当強く掴んでいたようだ。 「下校時刻」 そうポツリと呟くと、俺たちの視線を促すよう長門は時計を見つめた。 「あ‥‥ああ。そうだな‥‥‥」 ‥‥‥‥何故、邪魔をしたんだ長門。 これまでの経験から分かる。長門は意味のないことなどしない。確かに、夏の合宿で部屋に入る入らないの際に意味なし問答を繰り広げたさ。だがあれは長門なりのジョークともとれないことはない。 じゃあ、聞くが。今回は何故だ。なんで長門は邪魔をした。地球が消えるか消えないか、俺が死ぬような思いで悩んできてようやく決心が出た答えを何故×にした。何故なんだ。教えてくれ長門。 「そ、そうよ!! もう下校時刻じゃない!? キョン、有希。帰るわよ!!」 ハルヒはそう言い、自分の鞄をひっ掴むとまるで俺から離れるように先に部室を出た。その行動は何故だか分からないが意味もなく俺を傷つけた。 そんな感傷に浸るか浸らないかの刹那だ。長門が瞬間的に俺のブレザーポケットの中に何かを突っ込ませた。一瞬だけ見えたが、あれはしおり‥‥? 「ほら、有希もキョンも。早く帰るわよ!!」 ハルヒがひょこっと顔を覗かせ、俺たちにそう呼びかける。長門は何も答えず部室を出て行き、俺は長門の背を追いながらもポケットの中の物の感覚を弄っていた。 意味があるんだな、長門。信じてるぜ。 俺も鞄を背負った後、明かりを消して部屋の外へと足を進めた。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅳへ
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はじめに ・文字サイズ小でうまく表示されると思います ・設定は消失の後くらい ・佐々木さんとか詳しく知らないので名前も出てきません ・異常に長文なので暇な人だけ読んで欲しいです ・投下時は涼宮ハルヒの告白というタイトルで投下しましたが、すでに使われていたので変えています ・誰時ってのは黄昏の旧漢字……らしいです 多分 では、のんびりとどうぞ 学校行事に書き込まれていたテスト週間も無駄な努力と時間の経過によって無事終了し、晴れ晴れとした寂しさだけが残った週末。 テスト期間にあった祝日をむりやり土日に繋げてできた取って作った様な連休に、テストの結果に期待しようも無い俺は心の安息を求めていた。 この不自然な形の休日に教師といえども人間であり、生徒同様たまにはまともな休みが欲しかったなんていう裏事情には気づかない振りをするのが 日本人らしくて好ましいね。 しかし、テストが帰ってきて偏差値などという価値基準が俺に付与されれば、日本経済の実質成長率の如く一向に上がる気配を見せない俺の成績に 母親は表情を暗くするのは想像に難しくない。 でもまぁ、今は人事を尽くした者として大人しく天命を待てばいい。 休むべく作られた休日ってのを謳歌してな。 放課後の帰り道、ハルヒによって明日の休日初日から呼び出されているという事を踏まえても俺はずいぶんのんびりとしていた。 それは長門の一件が解決したばかりだったという事もあるが、最近のハルヒはあまり無茶をしなくなっていたってのもある。 ……そんな俺の考えは煮詰めた練乳並みに甘かった事を、俺は数日後に思い知る事になり今に至るというかなんと言うべきかね。 ともかくだ、天命って奴は人事を尽くしたくらいじゃ変えられないらしいぞ。 涼宮ハルヒの誰時 「急に呼び出したりしてすみません」 そう言って軽く頭を下げた古泉の顔には、驚いた事にいつもの営業スマイルがなかった。 そもそも目的地があるのか無いのか、もしくは現在考え中なのかすらも定かではない黒塗りタクシーは俺と古泉を後部座席に乗せて軽快に夜の街を走っていく。 この車に乗るのも古泉に呼び出されるのも久しぶりの事だ。 最近はハルヒも落ち着いてきたと思ってたんだが、また何かあったのか? 一応はそこそこに一般常識があるはずの古泉の事だ、俺を深夜に呼び出す理由なんてハルヒ絡み以外には想像つかない。 「当たらずも遠からずって所ですね……これからお話する事は確定した事実ではなく、あくまで仮定に過ぎないという前提で聞いてください」 随分もったいぶるじゃないか。わかった、仮定の話だと思って聞くよ。それで? 「僕が以前お話しした、涼宮さんに望まれたがゆえに僕達の様な超能力者が生まれたという話は覚えていますか?」 ああ。残念ながらなんとなくは覚えている。 あの夢物語の事だよな、この間妹が見せにきた絵日記に似たような内容があって焦ったぞ。 「あれから我々も世界の破滅を防ぐ為にと色んな勢力と情報交換を繰り返してきました、その結果一つの結論に辿り付いたんです」 結論ねぇ。聞こうじゃないか。 俺のリアクションに期待でもしていたのだろうか?古泉は次の言葉をやけに芝居がかった感じで言い切った。 「あなたです」 は? 「あなたが全ての始まりであり終わり。それが機関の暫定的な結論です」 ……古泉。 「はい」 そんな冗談を言う為に俺をわざわざこんな深夜に呼んだのか? 俺はこれから、明日の休日にハルヒが無茶をするのに備えてぐっすりと寝ってやる所だったんだぞ。 「冗談です、と言いたい所ですが機関は本当にそう考えているんです。僕としてはまだ半信半疑といった所ですが、信頼すべき部分もあると」 やれやれ、俺はただの一般人だって保障したのは確かお前じゃなかったか? 「あの時点では確かにそうでした、しかしその後の貴方の行動によって過去に新たな確定事項が出来た事により、事情は変わってしまったんです」 何を馬鹿な……まて、過去が何だって? 「はい。貴方は朝比奈みくると過去へ行き、過去の涼宮さんと出会った……そうですね」 あれ、お前にその事を言ったか?……まあいい、確かにそうだ。 「その出会いそのものは問題ではありません。問題なのは、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんです」 古泉、日本語で頼む。 「僕も詳しい事はわかりませんが、推論で言えば貴方が過去へ行った事で涼宮さんは誕生した。つまり、涼宮さんは貴方が創り出したという事になりますね」 営業スマイルを何処かに置き忘れたらしい古泉は、真面目な顔でそう言い切る。 ……お前、正気か? 「僕はいつでも、そこそこに正気のつもりです」 だったらよけいに性質が悪い。 長門でもハルヒでもない俺が、人間なんて作れると思ってるのかよ。 「確かに最後の部分は僕の推測です。ですが、機関が接触している長門さんとは別の統合思念体の組織によって、涼宮さんがあの日校門の前で 貴方に出会うより前の時間に存在していない事は確認されているんです。さらに言えば、我々機関の人間がこの超常の力を手に入れたのも 貴方が涼宮さんと過去で出会った日と同じ日。今となっては確認する方法はありませんが、貴方が涼宮さんに北高であったあの日まで、 涼宮さんはどこにも存在していなかったのかもしれませんね」 これ、笑う所か?そう思いたいのだが、残念ながら古泉の顔は至極真面目ときてやがった。 わかったわかった、お前のその意味不明な話が全部正しいとするさ。それで、何故そんな話を俺にする?論理ゲームなら長門とやってろよ。 お前は以前、ハルヒには何事も無い人生を送って欲しかったと言ったじゃないか。 最近はあいつも大人しくなってきたのに、俺におかしなロジックを吹き込んでまでわざわざ不確定事項を探してどうするんだよ。 「……確かにそうですね、僕が話している事は自分でもとても危険な事だと思います。ですが、その先に待つもっと大きな危険を回避する為に 貴方にはどうしても話しておかなければならない。このまま、僕の話を最後まで聞いてもらえればその事についてもご理解頂けると思います」 その先に待つ危険ねぇ……。 俺は明日、ハルヒが何を言い出すか考えるだけで手いっぱいなんだがな。 「統合思念体によれば、数年後のこの世界に朝比奈みくるは居ません」 ……それは……寂しいが仕方ないんじゃないのか?忘れがちだけどあの人は未来人なんだ。 っていうかそれは秘密にしておいて欲しかった。 でもまあ数年後って事は、高校に居る間は一緒に居られるって事か……そういえば朝比奈さんは俺達よりも先に卒業する事になるが、進学するんだろうか? 俺のお気楽な考えをよそに、古泉は深刻そうな口調で続ける。 「それだけではありません、長門さんも僕も、涼宮さんも居ないんです」 は? って、今日2回目か。 「SOS団のメンバーで最初に涼宮さんと出会ったのは貴方。SOS団が発足するきっかけになったのも貴方。数年後のこの世界に残っているのも貴方だけ。 ここまでくれば疑う余地もなく全ての原因は貴方である。以上が機関の結論です」 ちょっと待て、今話してる事は本当なのか? 「…………」 古泉。 俺の問いかけに、何故か古泉は苦しそうな顔で視線を外した。 「僕からこれ以上お話しても貴方は理解も納得できないと思います。ここから先は長門さんに聞いてみてください」 長門? なんでここで長門の名前が出るんだ? 「我々の掴んだ情報通りならば、長門さんにも未来の自分と同期する事ができるはずです。それを使えば、何年先まで自分が存在しているかがわかるはず」 ……そこまで知ってるのか。 久しぶりに嫌な予感がする。何かが起こりそうだが、結局俺には何もできないで終わる事になりだというなんとも疲れる予感だ。 「混乱させてしまってすみません、僕も正直心の整理ができそうにありません。ですが、このまま何もしないで破滅の時を迎えるよりは、 とにかく行動したほうがいいと思ったんです」 まるで朝倉みたいな事を言うんだな。 「え?」 いや、こっちの話だ。気にするな。 会話が途切れるのと同時、まるで事前に何度もリハーサルをしたかのようなタイミングでタクシーは長門のマンションの前に止まった。 深夜のマンションの廊下は当然ながらまるで人の気配がしない。 もしも巡回中の警備員に出くわして、何をしているのかと聞かれたらなんて答えればいいんだろうね? 超能力者の予言による世界崩壊の危機を回避するための助言を宇宙人に聞きに来たんです。とでも言えばいいのか? まったく、間違いなく救急車を手配してもらえるだろうよ。 以前長門から聞いた暗証番号を使ってマンションに入ることができた俺は、そのまままっすぐ長門の部屋へと向かった。 冷たいインターホンを押すと、呼び出し音の後には無音の静寂が続く。 その無音の中に長門の気配を感じて、俺はマイクに向かって話しかけてみた。 俺だ、夜遅くにすまないがちょっと話をさせて欲しい。 もしかして寝てるか?普通なら誰だって寝てる時間だしな。 数秒後、インターホンには何の返事も無いままで部屋のロックは小さな音を立てて外れた。 扉の向こうに居た長門は深夜だというのに何故か制服をきたままだった。……なんでだ? まあいい、深夜だし古泉ならともかく長門に迷惑をかけるのは気が引ける。 部屋にあがらせてもらった俺はさっそく、さっき古泉から聞いたとんでも話をそのまま長門に伝えた。 と、いう事なんだが……。古泉が疲れてるだけだよな? 個人的には「妄想、精神的疲労による軽度の錯乱状態」って返答を期待したいんだがどうだろうか? しばらくの沈黙の後、 「……古泉一樹の所属する機関は、確かに私以外の統合思念体の端末ともコンタクトしている。統合思念体の中には未来の情報を伝える事で、 自立進化に関わる不利益を回避しようとする派閥が存在する」 そんな事ができるっていうか、許されるのか? お前の上司ってのがそこまで無茶苦茶な連中だとは思ってなかったぞ。 「許されない。未来への干渉は、結果的に得られるはずだった自立進化の可能性を消失してしまう可能性がある」 何にしろ自分中心って事か 「そう。本当に統合思念体が未来の情報を漏らしたとしたら、それは自にとっての危機的状況を回避する為に他ならない」 ……統合思念体の危機?そうか、以前長門は。 「以前私がそうしたように、統合思念体の存在が何者かに消去されその状態が回復される事がない未来を見つけたのかもしれない」 ……それってつまり、自分が消されそうになるならその歴史を改竄する事もありえるって事なんだろうか? それならあの時の長門も何かされてもおかしくなかったって事じゃ。 あ、それとも結果的に自分が元通りになるってわかってたから何もしなかった……駄目だわからん。今はとにかく現状の事だけ考えよう。 長門、古泉が言った未来との同期ってのをしてみてくれないか? 「……」 肯定も否定でもない、無機質な視線が俺を見つめている。 あいつは数年後の未来にお前も朝比奈さんも、古泉もハルヒも居ないって言った。つまり十年以上先の未来のお前と同期できたら、あいつの言ってた事は 全部思い過ごしって事だろ? 「……申請してみる」 すっと長門の視線が天井の特に何もないはずの部分に固定され、俺はしゃみせんが時々そうしているのを思い出していた。 あれって何を見てるんだ?もしかして、猫はみんな情報思念体とアクセスできる……なわけねーか。いや、どうだろう。 数十秒程の沈黙の後。 「だめ」 その返事は俺を安心させる物ではなかったが、とりあえず不安にさせるものでもなかった。 しかし、問題はこの後に続く言葉だった。 「一年後の未来に同期すべき私は存在しない。更新できたのは、3日後の自分まで」 古泉のとんでも話より、もっととんでもない話が俺を待っていたらしい。 「私の存在は3日後の21時57分に消失する。その時刻には、朝比奈みくる、古泉一樹、涼宮ハルヒの3人もこの世界に存在していない」 3日後って……数年先じゃなくて今週のか? 「そう。貴方だけが残る」 ……まてよ、そんな事になったら未来の朝比奈さんはどうなるんだ?3日後に今の朝比奈さんが消えてしまったら……あ、そうか。 3日以内に未来に帰ってしまうだけって事だよな。 朝比奈さんが生まれるのがもっと先の未来なら、数年後の世界に朝比奈さんが居なくても不思議じゃない。 「違う。朝比奈みくるの存在その物が消える」 存在その物が消えるって…… 「この時間軸に存在する朝比奈みくるも、異時間同位体の朝比奈みくるも確定した未来の存在ではない。このまま時間が続けば、存在する事になったはずの 暫定的な存在」 待ってくれ、俺にはさっぱり理解できん。 ……そうだ長門! お前は自分が消える直前までに起きる事をみんな知ってるんだな? 俺の言葉に長門は頷く。 ルール違反を指摘したばかりだとか言ってる場合じゃない、これが非常事態じゃないなら何が非常時だっていうんだ! だったらそれを教えてくれ!それさえ分かれば危機が回避できるから、未来の情報を流したりするんだろ? 「できない」 できないって……。 「貴方が異時間の情報を古泉一樹から聞いた時点で、歴史に差異が生まれた。21:57に消失する未来も予測される未来で確率が高いと思われる一つであり 確定された物ではない。これから先に起きる出来事は、もう誰にもわからない」 ……なんとなく、居るんじゃないかと思ってましたよ。 「キョン君」 教えてください、知っている事を全部。 「はい、私に話せる全てをお話します。これが、キョン君と会う最後なんだから」 長門のマンションの外で俺を待っていたのは、寂しそうな顔をした大人の朝比奈さんだった。 何も言わない朝比奈さんについていくと、やがていつも俺達が集まる時に使っている駅前の小さな広場に辿り着く。 駅前は深夜だという事を考えても不思議なくらい人影もなく、町は俺達以外に誰もいなくなってしまったのではないかと思う程に静まり返っていた。 「明日の朝、ここにみんなが揃って涼宮さんがSOS団の解散を宣言します」 は? 今日は何回驚かされればいいんだ?……そろそろ勘弁してくれ。 朝比奈さん……それってマジなんですか。 俺の言葉に、朝比奈さん(大)は何故か微笑む。 「はい、大マジです。そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの」 は? 思わずまた大きな声が出てしまった俺を見て、朝比奈さん(大)は嬉しそうに……って今なんて言いました? 「……ショックだったな。なんて、今更ですけど」 や、やだなぁ。こんな時に冗談言わないで下さいよ。 動揺する俺を前に、朝比奈さんは淡々と話し続けた。 「涼宮さんの告白のセリフもキョン君の答えも全部知ってます。知ってるのに、私は存在しなくなるなんて不思議な感じ」 不思議な程、朝比奈さん(大)の言葉は落ち着いていて、それとは反対に俺は状況把握に必死だった。 えっと、みんなが数年後に消えてしまうと思ったらそれは実は3日後で、それはよくわからない宇宙理論で回避できないらしくて、SOS団が明日解散して ハルヒが俺に告白する? どこから突っ込めばいいんですか、これ。 「そして3日後、2人は初めて結ばれて……みんな消えるの」 追い打ちかけないでくださいよ! と叫びたかった。 言葉ってのは凄いな、この時の俺はハルヒに襟首を引っ張られて机に頭を叩きつけられた時よりも動揺していた自信がある。 何で、何でそんな事になるんですか?意味がわかりませんよ。 「それは……私には言えないの。ごめんなさい」 自分が消えるかもしれなくても言えない事ってなんですか?なんて言える空気じゃない。 寂しそうな声で謝る朝比奈さん(大)にそれ以上何を聞いていいのか、俺にはわからなかった。 ――どちらからともなく木製のベンチに座った俺達は、暫くの間無言だった。 でもまあ悪くない沈黙だったと思う。 俺は少しでも頭の整理がしたかったし、朝比奈さん(大)も何か考えているようだった。 ベンチの冷たい感触が無くなってきた頃、 「……キョン君、子供の頃の思いって純粋だと思わない?」 急にどうしたんですか? 優しい声で話す朝比奈さん(大)は星も見えない夜空を見上げたまま、話し続けていく。 「架空の存在ですら心から信じられる、子供ってそんな純粋な心を持ってる。キョン君も信じてたのよね?宇宙人に未来人、正義の味方に超能力者。 年を重ねて現実を知るにつれてそれを信じなくなってしまったけれど」 ……あ、あれ?俺、そんな事話しましたっけ?やだなぁ、忘れてください。 孤島で飲んだ時にもで言ったのか?喋った覚えはないんだけど。 「そんな存在居るわけがない……でも少しは居て欲しい。子供の頃の貴方では想像できなかった現実的な部分まで想像できるように成長した貴方は、 北高校に入学したあの日もそう願っていた。超常的な存在の近くで色んな出来事に巻き込まれながらも見守る、そんな一般市民になりたい、と」 違う、そんな事まで俺が朝比奈さんに言うはずがない。俺だって今、言われるまで忘れてた事だ。 なんで、それを……。 「キョン君、貴方は心から願ってしまった。そんな超常的な存在……もうわかっちゃったよね?涼宮さんみたいな人に出会いたいって。心当たりは あったと思うの。神様みたいな力を持っている涼宮さんが、貴方の後ろの席に居たのは偶然?あの席順でなければ、キョン君はきっと涼宮さんに話し かける事はなかった」 それは、たまたま50音順で座ったからじゃ。 「たまたま同じ学校に進んで、たまたま同じクラスになって、たまたま50音順で後ろの席になった女の子がキョン君の望んでいた神様みたいな女の子。 しかもその子にたまたま選ばれた……これはもう偶然とは言えないですよね。どこかに必然が混じってるんです」 ……もしかして、ハルヒが俺を前の席にしたって事じゃ? 「涼宮さんが探していたのは北高の制服を着ていたジョン・スミス。中学校の時に高校生のジョン・スミスを見て同じクラスになれると思うはずがないし、 万一矛盾を無視してそれを望んだとしても、その名前を本当に信じていたならスミスさんでは並びで言うと涼宮さんの後ろに居るはず。でも実際に 後ろの席に居たのは谷口君でした。そして貴方もずっと感じていた疑問、何故宇宙人でも未来人でも超能力者でもない普通の高校生のキョン君を 涼宮さんは選んだのか?さっき話した、たまたまの中にある必然……その答えは、貴方を選んだのが涼宮さんだったのではなく涼宮さんを選んだのが……」 待ってください! 思わず立ち上がった俺はとにかく何かを言おうとした、このまま説明を聞いていたら何かとんでもない事になってしまうんじゃないか? そんな不安が俺をとにかく焦らせていた。 えっと、今この世界に居るもう1人の朝比奈さんは、未来人だって話を打ち明けてくれた時に数年前のある日よりも以前の時代に戻れなくなったって 言いました。そうなんですよね? 「はい、そうです」 でしょう?って事はやっぱりハルヒが全ての原因なんじゃないですか? 「キョン君が私を背負って涼宮さんとグランドで出会ったあの日、あの日よりも過去に戻れないんです」 黒塗りタクシーの中で聞かされた、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんですという古泉の言葉が思い出される。 ……古泉が言っていたのは……じゃあ。 俺の思考の中で纏まらなかった考えが、望まない形に固まっていくのが止められなかった。 「時間変動が観測されたあの日、涼宮さんがこの世に誕生した。まるで今の年代から逆算したかのような年齢で唐突に。そして関係する全ての人間の記憶に 彼女の存在が書き込まれた。そして涼宮さんによって未来人の存在が産まれた、……そう考えればあの日よりも前に戻れないのに説明がつくんです」 それで理解できるのだろうか、朝比奈さん(大)は小さく息をついて口を閉じてしまった。 すみません、さっぱりわからないんですが……。 俺にわかるのは大量に浮かび上がった問題だけです。それも長門でも解けないであろう超難問がいくつもね。 溜息といっしょに再びベンチに座る、しばらくは立ち上がれそうにない。 じりじりとした感覚だけが続く無言の時間の中、俺は何を考えればいいのかわからず、朝比奈さん(大)は今何を考えているのだろうか?と考えてみた。 これで会うのは最後だと言いきったのはこれがはじめてだけど、それは何故なのか? 未来が変わってしまうのなら、何故朝比奈さんは今ここに居られるのか? ……どうすればいいか教えてくれないのは、もうどうしようもないって事なのか……。 結局考えは形になる事はなく、いつしか悩んでうつむく俺を朝比奈さん(大)は優しく見つめていた。 「キョン君……もう、お別れの時間になってしまいました」 静かに立ち上がった朝比奈さん(大)が言い出した時、俺はそれを引き留めても無駄なんだろうなという事はわかった。 ベンチに座ったままの俺を見下ろす女神は、俺を沈黙させるなど容易いほどに綺麗で、今は大きなその眼に涙を浮かべている。 「この時代に来た私は幸せでした。色々恥ずかしい思いもしたけど、楽しい思い出もいっぱいできたもの。それに……」 すっと近寄ってくる朝比奈さん(大)の体が俺に重なり、動けないままでいる俺を抱きしめた腕に力が込められる。 その体は小さく震えていて、それに気づいても俺にはどうしていいかわからなかったのが悔しかった。 「もう1人の私は何も知らないまま消えてしまうけど……忘れないでね……私が居た事、過ごした思い出を」 俺の耳が涙に震えるその言葉を捉えたのを最後に、ふっと俺の意識は途絶えた。 ――居るわけないか。 再び俺の意識が戻った時ベンチに寝ていたのは俺一人で、やはりというか朝比奈さん(大)の姿はどこにもなかった。 俺の服にしみ込んだ水滴の跡だけが彼女の残した痕跡だ。 ……ハルヒは俺の思い込みの産物で、実は俺が神様だって?冗談だよな。いくらなんでも。 このままここに居ても風邪をひくだけだ。気だるい体を起こし、俺は日付が変わろうとしている静かな町を足早に歩いて行った。 SOS団が解散?確かに明日は市内散策の日で、俺達はここに集合する事になってる。だからってハルヒがそんな事を言い出すなんてありえない。 そうさ、あいつは未来永劫にSOS団は不滅だって言ったんだ。 だから俺は、翌日駅前に集合した時にハルヒが珍しい事に遅刻してきた上にポニーテールだったのにも驚いたんだが。 それより何より、全員が揃った所でいきなりハルヒがSOS団の解散を宣言した時は本当に時間が止まったと思った。 むしろ、止まって欲しかったぜ。 一日目 ただでさえ大きな可愛い瞳をさらに見開いて固まっている朝比奈さん。 多少やつれた顔で、それでも笑顔らしい表情を浮かべている古泉。 こんな時でも無表情の長門。その無表情が今は何故か、悲しく感じる。 俺は……俺はどんな顔をしてたんだろうな?自分ではわからないが、きっと間抜けな顔をしてたんだろうよ。 誰も何も言えないでいる中、ハルヒが口を開く。 「急にこんな事を言ってごめん。SOS団はあたしが言い出した事なのに自分でも勝手だって思ってる」 お前が勝手なのはいつもの事だが……。ハルヒ、お前本気なのか? 思わず本音が混じっていた俺の言葉に怒りもせず、何故かハルヒは顔を暗くして視線を外す。 「うん」 うんだと?俺の聞き間違いか? 谷口、国木田。隠れてるなら今すぐプラカード片手に出てきてくれ。鶴谷さんでも部長氏でも誰でもいい! みんなで揃って俺を担いでるんだろ?そうでなきゃおかしいじゃないか? 悪いことはみんな夢だなんて思うわけじゃないが、これはないだろ? 俯いたハルヒの周りに立つ誰もが口を開けない中、再び沈黙を破ったのはハルヒだった。 「じゃあ、これで解散。みんな……今までありがとう」 その言葉は、信じられない事に涙で掠れていたんだ。 今でも信じられないぜ。 やがて、小さく会釈して古泉が去り。 不思議な事に、長門は顔を上げられないでいるハルヒの手を軽く握ってから去っていった。 最後に残った朝比奈さんはハルヒ以上に涙目というか号泣で、俺とハルヒを交互に見ながら状況の説明を目で求めていた。 かといって俺に言える事なんて何もないわけで、無言の時間を過ごしていると……。 「キョン」 俺の名を呼ぶハルヒの声は、いつもの無意味なまでの力強さは無かったけれど、もう涙声ではなかった。 ただ、ずっと俺とは視線を合わせないままで視線は下を向いたままだったが。 「あたしね、SOS団のみんなが好き。もう解散してしまったけど、きっと一生忘れない」 ……俺もさ。 これだけ楽しい時間を過ごした仲間を忘れるような奴が居たら、そいつは健忘症の末期症状か情報の改竄でも受けたに違いない。 ただ、ここで終わりにするのは何故なんだよ? イベントが尽きたなんて言わせないぜ?なんとなくすっきりしないから、なんてふざけた理由でエンドレス夏休みをやったお前なんだからな。 「……宇宙人、未来人、超能力者。そんな普通じゃない何かと過ごせればきっと楽しいってずっと思ってた。ううん、今でもそれは楽しいんだろうって思ってる」 お前には言えないが、経験者から言わせて貰えばそれは楽しいぞ。 平凡な日常って奴が恋しくなるくらいにな。 「でもね、今はそれよりもっと楽しい事があるの」 そう言ってから、ハルヒはようやく俺に視線を向けた。 紅潮した頬と潤んだ視線に、俺は思わず息を飲む。 『そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの』 大人の朝比奈さんの言葉が蘇り、俺の体に緊張が走った。 まさか……本当にハルヒが? 動揺する俺に落ち着く時間なんて与えてくれるはずもない、そんな所だけはいつものハルヒだったな。 こんな状況で、そんな落ち着いた考えが浮かんだのは何故だろうね? 突然顔を近づけてきたハルヒに唇を奪われた俺は、その柔らかな感触をじっと感じる事ができる程度の余裕があった。 キスしたまま、まるで動こうとしないハルヒ。 ここが日中の街中で人目が無ければ俺もしばらくこうしていた……ってここにはまだ朝比奈さんが! 眼球の動きだけで視線を動かすと、俺達を見つめる天使は口元を両手で隠しながら涙眼のまま微笑を浮かべている。その表情に驚きが無い気がするんだが……。 どれ程そうしていただろうか。 ようやく唇を離したハルヒの第一声は。 「バカ」 だった。 なんていうか……お前らしいな。 「う、うるさい」 ハルヒはいつものペースを取り戻した様な気もするが、その顔は真っ赤なままで見ているとこっちまで赤くなりそうだ。 離れるまで気がつかなかったが、どうやらハルヒはキスしている間ずっと背伸びしていたらしい。 今は恥ずかしそうに視線を泳がせているハルヒのポニーテールが、俺の目の前に見えている。 えっと、今のは……つまり。 なんて聞いたら怒りそうだが、聞くしかないよな?でもなんて言えばいいんだ? 「みんなと居る時も楽しいけど、あんたと2人で居る時の方が楽しいの。でもみんなが嫌いって事じゃなくて大好きなんだけど、あんたは……その、 特別っていうか。2人でずっと一緒に居たいって思って……その。あ、あんたも何か言いなさいよ!」 言ってるお前も恥ずかしいだろうが、聞いてる俺も恥ずかしいぞ。ついでに言えば朝比奈さんはもっとだろうさ。 ハルヒ。 「な、何」 俺の言葉に身を震わせるハルヒは、いつもと同じ強気な暴君の様に胸を張ってはいたが。その手は震えていて、俺を見返す瞳には脅えが浮かんでいた。 未来の朝比奈さん、あなたが聞いたセリフってのは俺が今から言う言葉と同じですか? すっと今の朝比奈さんへ視線をずらすと、ハルヒの顔が一気にこわばる。 俺の視線を受けた朝比奈さんは戸惑って何か言おうとしているが、俺はそれを片手で制した。 さあ、ジョン・スミス?お姫様がお待ちだ。さっさと言っちまえ! ハルヒへと視線を戻した俺は口を開き……。 何で俺なんだ? ハルヒと付き合いだした俺が最初に思ったのはそれだ。 面白さって事なら我ながら特に特徴の無い俺を、魏の唯才令曹が如く人外の逸材を求めていたハルヒが必要とする要因なんて何一つないだろう。 外見?自慢じゃないが、俺がモテるようなルックスじゃない事くらい自覚してるさ。 じゃあ何だ? そんな質問をハルヒが嫌うって事だけは知っている俺は、1人になるたびに答えの出ない自問自答に耽っていた。 まあ、あまりに自分を否定する材料しか出なくて途中で止めたけどな。 「お待たせ」 トイレから戻ってきたハルヒが自然に腕を絡ませてくる。それを恥ずかしいとは思うのだが、ハルヒがやけに嬉しそうなんだから恥ずかしいくらいは 我慢するとしよう。 「あ、カラオケ!入ろう?」 ああ。 本日SOS団でする予定だった市内散策は、そのままデートに形を変えて実行されていた。 もちろんここにいるのは俺とハルヒだけ。 告白の場に居た朝比奈さんの姿はいつの間にか消えていて、俺は彼女が未来へ帰ってしまったのではと狼狽した。 しかし、俺の携帯にいつの間にか届いていたメールを見てほっと胸を撫で下ろす事になる。 『実は、少し前から涼宮さんから好きな男の子が居るって相談されてたんです。涼宮さんの事を大事にしてあげてくださいね』 返信はまだしていない。何て打てばいいのかわからないしな。 かつてお前に、こんなおかしな事は止めて彼氏でも作って一緒にデートでもすればいいと言った事はあったが……まさか俺が彼氏になろうとはね。 人生何が起きるかわからないよな、ただの高校生でしかない俺が時間旅行に閉鎖空間を経験するとか、今時小説にもならない設定だぜ。 何より、お前と俺が付き合うなんてのは、これこそ事実は小説よりも奇なりって奴だろう。 カラオケはまだ日中という事もあって大部屋も含め殆どの部屋は空いてはいたのだが、俺達は2人だったので受付から案内された部屋は3人も入れば 手狭に感じるような小部屋だった。 店員の説明も終わり、扉が閉まって2人っきりになった途端。 「キョン」 呼びかけに振り向いた俺の唇を、再びハルヒの柔らかなそれが塞いだ。 今度は学習していた俺は、少し屈んでそれを受け止める事に成功する。 姿勢が楽だったせいか、さっきよりも長めのキスを終えたハルヒはまた顔を紅潮させていた。 沈黙に耐えられず、とりあえず座ろうとする俺の背後から問い詰めるような声がする。 「前に」 ん? 「前に市内散策した時。有希と、その。何もなかった?みくるちゃんとも!……べ、別に何かあっても今は無いならいいんだけど……」 ……ああ、あの図書館と公園に行った時か。何か懐かしい気がするな。 恥ずかしそうに口を曲げるハルヒはいったいどんな想像をしてるんだ?俺がそんなにもてそうに見えるのかよ。 まあ、あの2人に関して言えば恋愛以前の問題だったんだがな。 あのなあ。あれはみんな出会ったばかりの頃だろうが、そんなすぐに人を好きになったりすると思うか? 「あたしは!」 抗議するように声をあげてハルヒが詰め寄ってくると、座ったばかりのソファーの端に俺はおいやられた。 体勢を崩した俺を押し倒すようにして、ハルヒが俺の胸の辺りを見下ろしている。 「あたしは……ずっと。自己紹介の時に振り向いたあんたを見てから、ずっと気になってて……好きだったんだもん」 そこまで言い切った直後、ソファーに置かれたクッションが俺の顔目掛けて次々と飛んできた。 俺も顔が真っ赤だったはずだからそれはありがたかったんだが……。今のは本気か?その割には俺に対して常に攻撃的だったと思うぞ。 クッションの壁をようやく切り崩した時、ハルヒは何事も無かった様な顔でリモコン片手に曲を入れていた。 まだ顔が真っ赤だったのは見逃しておこう。 ハルヒ。 「ひゃっ?!」 俺に呼びかけられてハルヒが変な声を出して振り向く。 飲み物、何か飲むか? 内線を持つ俺に向かって、またクッションが飛んできたのは言うまでもないだろうね。 それから数時間の間、延々と2人カラオケが繰り広げられる事となった。 ハルヒは文化祭の時同様に素人とは思えない歌唱力を発揮して、俺はもっぱらお笑い担当だったのは適材適所って奴だろうよ。 異様なテンションの高さに飲酒を疑われるような2人だったのだが、俺は心のどこかでここに長門や古泉、朝比奈さんが居ない事に違和感を感じていた。 「キョン」 ん? 不思議なもんだ。 俺がそうやってハルヒ以外の事を考えていると、必ずハルヒはそれを察知したかのようにキスをねだってきた。というか奪いに来る。 短い時間のキスが終わると、決まってハルヒは寂しそうな顔をした。 今思えば俺はなんであんなにのんびりとしていられたんだろうな。 ハルヒが彼女になったのにって話じゃない、このままだともうすぐ4人が消えてしまう日が来るかもしれないって話さ。 夢見たいな事が現実になっちまったせいか知らないが、ともかく俺はハルヒとの時間を過ごす事に文字通り夢中だったんだ。 二日目 「ふ~ん……これがキョンの部屋なんだ」 あれ、夏休みに来た事あったじゃないか。 「あの時はみんなも居たじゃない。今日は、なんだか違う部屋みたい」 本来の主である俺よりもずいぶん軽いであろう体重を支えているベットは、それだけで他人の物みたいに見える。 今日もハルヒはポニーテールだ。 昨日も思ったが髪の長さが足りないせいでぴこぴこと跳ねるそれは、見ていて飽きることがない。 きょろきょろと落ち着き無く部屋中を見回すハルヒは、それなりに緊張しているようだな。俺もだが。 俺はそんなハルヒを椅子に座って眺めていた。 昨日、ハルヒとこれでもかと言う程に遊び倒してから別れた後『明日はキョンの家に行っていい?』とメールが来てからの数時間、俺は自室の掃除に 大慌てだった。 突然の行動に変な所でカンのいい妹は「キョン君!彼女?ねえ彼女が来るの?誰?有希ちゃん?」と騒ぎたて、それを聞きつけた母親も部屋を覗きに 来ようとするのを阻止しながら、何とか恥ずかしくない程度に掃除が終わったのは日付が変わった頃だった。 やれやれ、今は寝不足が続いていいような平時じゃないと知ってるのは俺だけってのはいくらなんでも不公平じゃないか? あ、古泉と長門も知ってるんだったな。 最後の最後まで抵抗を続けた妹は正午を過ぎた今もなお熟睡中で、母親は変な気を利かせてか外出中。 物音一つしない俺の部屋の中で、それまでイージス艦よろしく何かを探していたハルヒの視線がようやく止まった。 「あ、それってアルバム?」 そう言ってハルヒは本棚を指差してこっちを見てきた。緊張していた顔にようやく楽しそうな表情が浮かんでいる。 俺が頷くと、ハルヒはそれを見てもいいと解釈したらしくさっそくアルバムを取り出して膝の上に広げた。 「ふ~ん……。知らない顔ばっかりね」 学校が違うからな。 ハルヒが見つけたアルバムは中学の卒業アルバムで、当然俺の写真なんてクラスの紹介以外には殆ど無い。 行事で活動的に動くような生徒でもなかったし、部活動でも目立ってた事も無い。 そんなのんびりとした生徒をわざわざ写そうとする奇特な教師が居るわけも無く、見つけられた俺の写真の全てが小さな集合写真だったのは当然だろう。 どうやらハルヒはそれが不満なのか、小さな写真まで細かく調べていった。 まあ、気が済むまで見てればいいと思っていたのだが。 「あ、あのさ。中学の時にキョンは誰かと付き合ったりしてなかったの?」 アルバムに視線を落としたまま、ハルヒが呟く。 思わず一人懐かしい顔が思い浮かんだ……が。 してなかったぞ。 嘘をつくまでもなくこれは事実だ。 「そっか」 あっさりと告げた俺の言葉に満足したのだろうか、ハルヒはそれ以上追及する事無くアルバムを閉じて本棚の元の位置に戻した。 そしてそのままの姿勢で固まっている。 「これってもしかして有希の本?」 タイトルだけでよくわかったな。 まあ内容も見た目も軽い本が並んだ棚の中で、その本だけが分厚くて目立つのはわかる。 ハルヒの視線の先には、以前長門に借りたあの本があった。返さなくていいと言われて持ってはいるが、俺が何度も読むとは思えないし返した方が いいんじゃないだろうか。 借り物だけど読んでみるか?お前が気に入りそうな内容だったぞ。 「う、うん。また今度ね」 ……さっきから、というよりもこの部屋に部屋に入ってから変だな、こいつ。それとも俺が変なのか? 「あのさ」 ん? 「急に2人になると何か照れるよね」 そうだな。 平然としてるつもりだが、正直緊張しているぞ。 「でも、みんなが居る時はこんなにキョンと二人っきりで居られないし……。その、キョンは楽しい?……あたしと二人で居て」 緊張した顔で見つめてくるハルヒは、なんというかここで間違いが起きても仕方ないような可愛さだった。 椅子の背もたれに跨っておいてよかったぜ。すぐには馬鹿げた事をしないですむ。 一緒に居たくなかったら、部屋に入れたりしないだろ? 「……そっか、うん」 嬉しそうに俯くハルヒの仕草に、自然に手が伸びていた。 これくらいならいいよな?そう自分に言い訳しながら、ハルヒのポニーテールをそっと撫でてみる。 「ぃひゃ?!な、なに?」 今の俺とハルヒの間には閉鎖空間みたいな見えない壁がある気がする。 それは今まで一緒に過ごしてきた友達という関係で、その一線を越えちまったら今までの様には接する事ができなくなる。そんな壁だ。 自分からその壁を壊しにきたハルヒでさえ、今以上の関係になる事には躊躇いがあるのを感じる。 ……そうだよな、みんなで過ごしてきた時間はそんな簡単に手放せるような物じゃないもんな。 もしかしたら、俺達が恋人同士になってもSOS団を存続させる道はあるのかもしれないが、ハルヒは自分が一番望む事でなければ笑ったりしないだろう。 それがわかっているから解散したんだもんな。 でも今なら、まだ引き返せるかもしれない。 恋人ではなくSOS団の仲間に。 ハルヒは……いや、俺はいったいどちらの関係を望むんだろうか? とまあ俺達の関係もどうすればいいかわからないが、長門達が言うように本当に4人は消えてしまうかもしれないって問題のほうはさらに手詰まりに なっている。 いつもの様に誰かに相談する事もできない、かといって時間が進むのは止められない。 ――答えの出ない疑問を抱えたまま、最後の日がやってきた。 三日目 四日目 放課後の部室棟、誰も居ないであろう文芸部の部室の前で俺は立ち尽くしていた。 ここはもう元文芸部ではない。 廊下には文芸部と書かれたプレートがあるだけで、SOS団と書かれた紙はもうない。つまり本当に文芸部だって事だ。 もしろ最初からそんな紙は無かった事になっているんだろうよ。 触ってみてはいないが、プレートの上にセロテープが貼ってあった痕跡も無く、代わりにそれなりの年月で降り積もった埃が乗っているはずだ。 現状は、俺が長門の力によってハルヒの居ない世界に迷い込んだあの時よりも状況は悪い。 なんせ誰も居ないんだもんな。 頼るべき相手どころか相談相手も居ない。……そして俺には特別な力なんて無いんだ。 ドアノブに手をかけてみたが回す気になれず、俺は手を離してその場を後にした。 家に帰る気にもなれず、教室に戻った俺は机にその身を委ねてこのまま机の一部になろうとしていた。 俺の席は窓際の後ろから……一番目。 後ろの席になるべき場所に机はなく、そこは空間が広がっているだけ。 朝、教室に入った時にその状況を見ても俺は驚かなかった。 こうなってるだろうって予想はできてたからな、変わりに朝倉が居ないってだけいいのかもしれん。 ……いや、本当は朝倉でもいいから居て欲しかったな。 「お、まだいたのか」 声に続いて聞こえてきた足音は二つ、多分谷口と国木田だろう。 その音に振り向くだけの行為も面倒くさく、俺は夕焼けに染まろうとしている空を視線だけで見つめ続ける。 「なんだよキョン、世界の終わりみたいな顔して?」 言いえて妙って奴だな。 「はぁ?」 ある意味、主が居なくなったこの世界は終わってしまってるんだろう。 みんな居なくなってしまった。寡黙な宇宙人も、天使の様な未来人も、ゲームの弱い超能力者も……そしてあいつも。 1人残された俺にはのんびりとした平凡な日常が待っているはずだ、それは俺が望んだからなのか?望んでないとは言えないけどな。 「何意味不明な事言ってんだ?」 ……谷口。 「あ?」 俺が今から聞くことは無駄な事だ、自分でもそれは分かってる。 どうにも力が入らない体をなんとか起こし、奇跡って奴がもう一度起きないか願ってみた。 お前、涼宮ハルヒを知ってるか? 「すずみや……知らねぇな。どんな字を書くんだ?」 国木田はどうだ?長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹。聞いた事のある名前は無いか? 「ん~……聞き覚えのない名前だけど。新しい芸能人か何か?」 そうだよな、初めから何も無かった事になってるんだもんな。 ここは長門が作ったようなIFの世界でもハルヒが無意識に作ってた閉鎖空間でもない、ただの現実。それはわかってるんだ。 「休み明けからお前変だぞ?何があったかしらねえが元気出せって」 ありがとよ。 でもな、俺が何もする気にならないのは仕方ない事じゃないか? 魔法以上の愉快が、限りなく降り注いでいた日常が終わってしまったんだ。何事も無い日常って奴に慣れようにも時間が要る。 再び机との同化作業に戻った俺を残して、二人の足音は遠ざかっていった。 時間の経過に合わせて空はその姿を変えていき、沈んでいく太陽が教室内を赤く染めていく……。 圧力を感じるような光の中、俺はふと背後に気配を感じて振り向いてみた。 しかしやはりそこにはハルヒの机はなく、不自然に広い空間が広がっているだけ。 終わり……か。 今日という一日が終わって過去になり、明日が来る。その繰り返しの中で古い記憶は薄れていき、いずれは消える。それは避けられない事なんだよな。 そうやって理屈を並べて自分を理性的に納得させようとする感情と、それを否定する感情が心の中で戦っているのがわかる。 否定するそれは、ただ単純にあの頃……つまりは数日前に戻りたいと叫んでいた。 俺だってそうしたいさ、朝比奈さんや長門や古泉ともう一度会いたい。ハルヒとも……。 「見ないで」 悲しそうなハルヒの顔が一瞬浮かんで、消える。 あいつ、もう俺とは会いたくないと思ってるかもな。 それまで低かったはずの体温が急に上がるのを感じる、心臓が勢いよく鼓動しだしてまるで今から全力で走り出そうとしているみたいだ。 だらりと垂れ下がったままの腕に力が入り、掌もじっと汗ばんでくる。 あいつが会いたくなくても、俺は会いたい。 ……それだけでもいいよな? 俺は殆ど体温と同じくらいまで温まっていた机から身を起こし、真っ赤に染まった教室を出て行った。 まずはどこだ?いや、考えるまでも無い全部だ! 俺の足は、昨日カマドウマ以下であると確定した俺の頭が動き出す前にすでに走り出していた。 最初に向かったのは屋上の扉前、ハルヒに部活を作る手伝いをしろと脅された場所だ。 夕方の校舎はすでに照明も落ちていて薄暗かったが、探す場所も無いほどにそこには何もない。 ……次は、部室だな。 俺は階段を登ってきた勢いそのままに階段を駆け下りていく。 元文芸部であり元SOS団部室でもあった現文芸部の中には、やはり見覚えのある物は何もなかった。 長門の時に一回経験してるからな、ここまでは予想範囲内さ。 しかし、あの時と違うのは旧式のパソコンもすらもここには無いって事だ。 正直失望もあった。だが、諦めるのはまだ早い。 壁際に置かれた本棚に向かうと、さっそく端から順に調べていく。 今回も栞があるとは限らない、小さなヒントも見逃さないように丁寧にページをめくっていく……。 無いか。 本棚の本を全部調べ終えた時、思わず独り言が出てしまった。 薄暗かった部室は今は照明をつけているので明るいが、外はすでに日が落ちていてグランドにも人影は無い。 探し物をしている間に用務員が一度部室を訪れたが、必死に調べ物をしている俺の姿を見て勉強の為とでも勘違いしたのかあっさりと引き上げてくれた。 次はなんだ? あいつは俺に部活を作る規則を調べさせて、自分は部室とメンバーを準備したんだったな。その後どうなった? ……最初、ここに長門が居た。 あいつがいつも居た窓際に、今はパイプ椅子は置かれていない。 そして、朝比奈さんが拉致されてきた。 ハルヒの興味が向くままに集められていった朝比奈さんの衣装がかかったハンガーは、その姿を消している。 最後に、転校してきたばかりの古泉が連れてこられた。 弱いくせに次々と持ち込んできたあいつのゲームは、部室のどこを探しても見つからない。 SOS団に関わるものは何もかも無くなっている、そんなのはわかってるさ。 とりあえず座ろうと思い、部屋の隅にあったパイプ椅子を広げて置いた時、俺の脳裏に僅かに熱をもった視線で見上げるあの宇宙人の顔が浮かんだ。 「なんだい君は。入部希望者かい?」 無駄にエアコンが効いた部室に入ってきた俺を迎えてくれたのは、奇異の目で見上げる部長氏の顔。 そしてモニターから視線を上げようともしない部員達だった。 どうみても初対面って感じだな。俺達は面識すら無いって事になってるらしい。 入部希望じゃないんですが、コンピ研に興味があって来たんです。 「はぁ?……もしかして、文化祭で我々のゲームをプレイしたのかい?」 部長氏のその言葉に俺は思わず息を飲む。 思い出されるのはSOS団に挑戦状を持ってきた部長氏、先手必勝と蹴り飛ばすハルヒ、宇宙空間を彷徨う朝比奈さん、のりのりな超能力者。 ……そして僅かに目を輝かせた宇宙人。 頼むぜ、何か手掛かりがあってくれよ? 俺はなるべく専門家っぽい表情を浮かべて部長氏のパソコンを覗き込んだ。 どこかで見たことがあるモニターだとは思ったが、これはハルヒが強奪した例の最新型パソコンじゃないか。 あるべき場所にあると違うように見えるもんだな。 不審げな視線を送ってくる部長氏を無視しながら、俺は言葉を選んで話し始めた。 The Day Of SagittariusuⅢには、チートモードがある。 俺の言い終えるのと同時、部室の中に響いていた無機質なタイプ音が瞬時に止まる。 「……な、何の事だい?」 声は笑っていても、モニターに写ってる顔が笑ってないぜ?部長さん。 索敵モード、オフ。 続く俺の言葉で、部員の間に緊張が走るのがわかる。そして何より部長氏の顔は引き攣っていた。 さらにワープ機能。 「ど、どうやって調べたんだ?配布版には編集機能は無いし、何よりロックしてあるプログラムを解析できるなんてただの高校生とは思えない……君、名前は?」 急に熱意に満ちた目で見つめてくる部長氏に、俺は何て答えればいいのか? ここで答えるべき名前はこれしかないだろう、ある意味俺には魔法の言葉だ。 ただの一般人でしかない俺に、ほんのちょっとの勇気をくれる名前。 ……待ってろよ?ハルヒ。 俺は久しぶりに胸を張って口を開いた。 聞きたいのはハンドルネームですよね?俺はジョン・スミスです。 それから俺は部長氏にSOS団の事を聞いた。まさか知って無いだろうと思ったのだが、 「ああ、知ってるよ。僕のお気に入りにいつのまにか登録してあったんだ。カウンターとTOPページがあるだけのHPで何なのかわからないんだけど、 何故か消去する気になれないんだ」 一気に道が開けたのかと期待した俺だったが、残念ながら部長氏が知っているのはそのサイトだけで、長門や古泉、そしてあんな事があった朝比奈さんと ハルヒの事も知らなかった。 それにしてもあいつの痕跡が何故この世界に残れたのか? 俺に正確な答えが出せるとは思えないが、あのサイトはハルヒが指示して、俺が作った物だ。 つまりこのサイトは、シンボルマークを除けばパソコンに向かう俺の後ろでがなってた指示だけしかハルヒは関わっていない事になる。 ここで正確な事がわかるはずもないが、とにかく俺はみんなとの繋がりを見つけた事に喜んでいた。 部長氏のパソコンでさっそくそのサイトを見せてもらうと、そこにはあの長門改編による「ZOZ」団のロゴが現れる。 カウンターは一万を超えたままだ、数日前に見たはずなのに懐かしさがこみ上げてくるのを止められないぜ。 URLに数行足して、編集者モードに入りログインパスワードを入れる。 「これってあんたのサイトなのか?」 パスワードは正確に認知され、画面は編集画面へと切り替わった。よかった、間違いなくこれは俺が作ったサイトらしい。 まあそんなもんです。 「もしかして……他人のパソコンのお気に入りに自動登録させるウイルスか何かなのかい?凄い技術じゃないか!」 変な方向へ勘違いしてくれている部長氏は無視したまま、俺はブラウザを閉じて、次の行動に移った。 スタート、検索、対象はドライブ全部で形式はJPG・・ 「ちょ、ちょっと待ってくれ?」 ああ。そうか、高校生のパソコンに見られたらまずいものがないわけないよな。 検索対象を変更、フォルダ名mikuruを検索。 ……だめか。 検索結果は0件が表示されている。 朝比奈さんの存在が無かった事になってるのに、画像が残ってるわけないか。 「い、今のはなんだったんだい?もしかして君のプログラムの痕跡を探してみたとか?」 適当な言い訳を考えるまでも無い、部長氏は勝手に勘違いを継続してくれているようだ。 まあそんな所です。 少なくともこれで、実は俺は精神障害者で今までの出来事は全て妄想に過ぎなかったなんて事はなかったわけだ。 だからといって状況が好転しているって事でもないけどな。 部長氏にパソコンを明け渡し、また来ますとだけ言い残して俺はコンピ研の部室を後にした。 う~寒い。 そう自然に口から出るほどに、いつの間にか外の気温は下がっていた。 地球温暖化の影響って奴かは知らないが、日中と気温の差がありすぎるんだよな。 防寒面でまるで役に立たない冬制服を恨みつつ足早に校門を出て、そのままいつもの下り坂を降りていく。 すでに周りに生徒の姿はない、まあ街灯がついてるような時間だから当然といえば当然だ。 寒さを振り払うように自然と速度を上げて歩いて行くと、次の目的地である女子校が見えてきた。 自然に思い出されるのは髪の長いあの世界のハルヒと、思いっきり足を蹴られた時のあの痛みだな。 ふと、女子高の前に誰かが立っているのが見える。 それは腰辺りまで伸びた長い髪に、黄色いカチューシャをして……って。 寒さに震えていた体がさらに温度を下げた気がしたのに、それは不快な寒さではなかったというかなんとも説明しようがないね。 気のせいでなければ、その人影もどうやらこちらを見ているようだ。 距離にして30メートル程度しか離れていないから、顔までは見えないだろうけど俺の姿は確認できていると思う。が、何のリアクションもない。 気がつけば止まっていた足を何とか前に踏み出す。 何故俺はびびってるんだ? あれがもし、「あの時のハルヒ」だとしても、俺が恐れなくちゃいけない理由なんて何もないはずだ。 それに俺は女子高があの時みたいに共学に変わっていて、ハルヒが居る事を望んでいたはずだろ? だからこうしてここに居るのに、無駄に激しい胸の動悸は治まりそうにもない。 そして残り10メートル程の距離まで来た、……すかさず漏れる溜息。 おいおい、俺はどうあって欲しかったってんだよ。 そこに居たのはハルヒでも、そしてあの時のハルヒでもない――ただの知らない女生徒だった。 近づいてきた俺が自分を見ているのに気づいて、女生徒は小さく会釈しながら不審げな眼をしている。 まあそうだろうな、通りすがりの男子高生が自分を見ていきなり溜息をついてんだから。 俺も適当に会釈のような素振りをして、足早にその場を通り過ぎた。 横目に見た女子高はどう見てもいつもと同じ校舎のまま、これまたよく見れば女生徒の制服もいつもの女子高の物のままだった。 軽い失望と不思議な安堵感と共に次に俺が向かったのは……。 手慣れた操作でタッチパネルを操作していくと、安っぽい電子音とともに自動扉は開いていく。 覚えていた暗証番号が使える、って事は少しは期待できるかもしれないな。 公園を出て例のマンションへとやって来た俺は、久しぶりに自信に満ちた顔でさっそく長門の部屋へと向かった。 しかし現実って奴は厳しい。 708号室の前に取り付けられたインターホンはいくら鳴らしてもなんの反応もなく、当然オートロックで守られた扉は固く閉ざされている。 留守……って可能性もなくはないが、あいつが部室とマンション以外で行きそうな場所となると図書館くらいしか思いつかない。 その図書館だってこんな時間じゃもう閉まってるよな。 違う人が出てこなかっただけまだ救いはあるが、それだけで喜べるほどプラス思考にはなれそうにないぜ。 他の三人の家なんて知らないし、覚えていた携帯番号も全員そろって使われていないのガイダンスが流れてくる。 何をしていいのかわからない時間が、確実にやる気のゲージを削り取っていく。 ……これからどうすればいいんだ? ドアに背を向けてもたれると、視界にはネオンに彩られた夜の街がどこまでも広がっている。 長門の世界で時間制限をかけられてた時の方がまだよかったよな。 あの時は制限があったからこそ可能性もあるんだって思えていたが、今回みたいに何のヒントも何の手がかりも……というよりも、 可能性すら感じられない状況では期待し続ける事が難しい。 見知らぬ上級生になっていた朝比奈さんも、転校して来なかった古泉も、文芸部で一人過ごしていた長門も居ない。 そして、ハルヒも。 もうあきらめろよ? そう、自分の中の理性が言っているのがわかる。徒労感が味方しているのか今度の理性はやけに強気だ。 ただ、平凡な日常に戻るだけだろ?それに慣れるように努力した方が前向き。違うかい? ……そうかもな。 今の言葉、本気で思ってるか?考えてもみろ、これから進路だテストだって忙しくなる。そうなった時に今までみたいな事をしてたら後で後悔するぜ? そう考えたら、今の状況は悪くない。やっと周りの連中と同じに戻れただけじゃないか。俺の言葉に反論できるんならしてみろって。 ……。 何事もな、済んでしまったら寂しくなるんだよ。ゲームが終わってもアニメが終わっても恋愛が終わってもな。そうなった時に未練たらしく思い続ける よりも、他にやるべき事を見つけて努力する事が人生において最も大切であってだな。 黙れ。 思わず声が出た自分に驚きながらも、俺は急いで左右を見回した。 ……よかった、誰もいないか。 末期症状だな。いくら突っ込む相手が居ないからって、自分で自分に突っ込んでどうするんだよ? 突然、静かな廊下に携帯の着信音が鳴り響く。 コンクリートの壁に反射されたそれが響き渡る中、俺は急いで携帯を取り出して相手も確認しないまま受話ボタンを押した。 「あ、キョン君?今日は遅いね!どうしたの?」 甲高い妹の声を聞きながら小さくため息をつく、そういえば連絡してなかったな。 悪い、今日は遅くなるから夕飯は要らないって伝えておいてくれ。 「おかーさーん。キョン君ごはんいらないってー…………うん…………お母さんが何時に帰ってくるのって?」 わからん。 「わからんってー」 妹がおそらく母親へ向かって叫んでいるのであろう無駄にでかい声を聞きながら、俺は通話終了のボタンを押した。 そしてそのままマナーモードに設定して携帯をしまう。 これからどうすりゃいいのかも、もうわかんねーよ。 それからしばらくの間、無音で振動を続ける携帯を無視したままで俺は変わらない様で変わっていく夜の街並みを眺める事にした。 ――どれくらいそうしていたんだろう。 いつの間にか冷たかったはずのドアは俺の体温でそれなりの温度に上昇していて、代わりに夜の外気にさらされていた俺の体は冷え切っていた。 うわ、もうこんな時間かよ? やれやれ……結局4日連続で日付を超えるまで起きてる事になるな。 取り出した携帯の時間にため息をつきながら、俺はエレベーターへと向かって戻り始めた。 安全の為か常時照明がついているエレベーターのフロアに辿り着くと、階数表示のパネルの数字がゆっくり増えて行くところだった。 なんとなく下を押すのが躊躇われて待っていると、階数表示はそのまま数字を増やしていきやがて俺が居る階。つまりは7階にたどり着いて止まった。 エレベーターの扉が開くとそこには……。 「お久しぶり。……何よ、そんな不思議そうな顔をして」 そいつは当たり前の様に俺の手を掴んでエレベーターへと招き入れると、そのまま5階のボタンを押した。 7階に用があったんじゃないのか? 「久しぶりに帰ってきたクラスメイトに、そんな冷たい態度はないんじゃない?」 そいつは無邪気な様で邪気たっぷりにしか見えない顔で俺の顔を見ながら笑っている。 つい先日刺されたばかりの俺が間違えようもない――そいつはどうみても朝倉涼子だった。 エレベーターの中には何故か大量の荷物が山積みに置かれていて、しかも朝倉はこの寒さの中でどうみても夏向きな半袖の服を着ている。 「何でこんな格好なのか気になる?」 別に。 お前が男装をしていようがメイド服を着ていようが知ったこっちゃねーよ。 「無理しないの。貴方の力になる為に戻ってきてあげたんだから」 俺の力に?お前が? 台詞が終わるのを待っていたかのようにエレベーターは下降を止め、扉が開いていく。 「荷物を運ぶの手伝ってもらえるかな?重くて大変だったの」 嘘つけよ。どう考えても普通の女一人で運べるような荷物の量じゃないが、お前が普通じゃないって事ぐらい覚えてるぞ。 と、言いたかったのだが。俺は素直に朝倉の部屋まで荷物を運んでやることにした。 やっと見つけた手がかりだ、たとえ自分を2度も殺そうとした相手だからって嬉しくないわけじゃないしな。 朝倉の部屋、505室の中は長門の部屋と同じ間取りなのだが壁紙もカーテンも無く長門の部屋以上に殺風景だった。 「一人暮らしの女の子の部屋に入れたからって、変な事考えちゃダメだからね?」 馬鹿な事を。 変な事ってなんだ、情報連結の解除か? 俺の言葉に、朝倉は驚いたような嬉しそうな表情を浮かべた。 「ふ~ん……って事は君は全部覚えてるんだ。やっぱりね」 エレベーターと部屋を十数回往復してやっと荷物を運び終えた俺がソファーに座っている回りを、朝倉は楽しそうに歩いては次々と荷物を開封していく。 ふと目についた荷物のタグには、見慣れない英単語が並んでいた。 まあ見慣れた英単語なんて無いんだが。 朝倉、お前どこか外国へ行ってたのか? 「私がどこへ行ってたのかは知ってるでしょ?」 紐で縛られた食器を運びながら朝倉は笑っている、俺が知っているだって? 俺が知っているお前は長門に消滅させられて、建前上カナダへ行った事になり。その後、俺を殺そうとしてだな。 「今言ったじゃない」 なんのことだ? 「私は建前上、カナダへ行ったのよね」 そうだな。お前が消えちまった事を長門がそうやってごまかしてくれたんだろうよ。 「ヒント、涼宮さんが思った事はいったいどうなりますか?」 何を突然……。 「いいから答えてよ」 ハルヒが思った事はその通りになっちまう。これでいいか? 「正解!長門さんが私の情報連結を解除した事を涼宮さんは知らない。そして私はカナダへ行ったと聞いた……」 思いつくまでに数秒かかった。 ……まさか! 驚く俺を見て、朝倉は嬉しそうに笑っている。 ハルヒは朝倉が転校したと本気で思ってる、なんせ実際にここまできて探しまくったんだからな。 だから本当は消えてしまった朝倉は、ハルヒの思い込みのせいで本当にカナダに行った事になったってのかよ? 「長門さんも私がカナダに再構築されてた事には気づかなかったみたいね。……でもそれって、気にしてなかったからチェックもしなかったって事だから ちょっとショックだけど……そのおかげで助かったんだから、結果オーライって所かな」 それで?何で帰ってきたんだ。3度目の正直で俺を殺したくてか? 1度目はナイフが掠っただけ、2回目は奇跡的に致命傷にはならなかったがしっかり突き刺してくれた。次はなんだ? 「3度目?」 覚えていないというよりも本当に知らないらしく、朝倉は不思議そうな顔で俺を見ている。 ああ、あの時の事は知らないのか。気にするな。 「気になるから教えてよ?それに涼宮さんが居なくなった今、私は貴方に殺意なんて持ってないから安心して?」 その言葉に俺は少なからず、いやかなり動揺した。 何でハルヒが居ない事を知ってるんだ?いや、それよりハルヒが居ないのを知ってるならなんでここに来たんだよ? 「そんなに一度に質問しないで、それに私が先に質問してるの。質問に質問で返すなんていけないよ?まずはそうね……涼宮さんの居なくなった時の話がいいな」 そう言って俺が座るビニールに包まれたままのソファーの向かいにあった、まだ封を開けていない段ボールの上に朝倉は座った。 どうやら話を聞くまでは何も教えるつもりは無いらしい。 終始嬉しそうな顔をしている朝倉相手に、俺はこれまでの事を話し始めた。 俺は昨日の事は一生誰にも話せないだろうと思っていたが、本当はやっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしない。 一度開いた口は止まらず、聞き役に徹している朝倉相手に俺はゆっくりと事の顛末を話していった……。 3日目 「ねえキョン」 なんだ? 「なんだかさ、休日の校舎って不思議な感じよね」 そう聞いてくるハルヒは、極上のスマイルに少しの緊張をブレンドした顔で……惚気でしがないが、俺はそれを素直に可愛いと思った。 もちろん今日もハルヒはポニーテール、三日連続だが一向に飽きる気がしないね。 あの日。 結局、一日俺の部屋で過ごした俺とハルヒなのだが。 ハルヒのポニーテールを触っている時に妹が乱入してきてからは特に何事もなく、妹相手にハルヒが暴れまわって何故か料理大会にゲーム大会と続いて いつの間にか日付が変わっていた……とまあそんな感じだった。 つまりは、朝比奈さん(大人)が言うような展開も何一つ起こらなかった訳で、俺は密かに危険は回避できたと思っている。 ハルヒと、その、なんだ。表現する事に制限がかかるような展開があってみんな消えるって奴の事だ。 少なくとも、俺とハルヒの間にそんな出来事はなかった断言できるぞ。 「朝比奈みくるの異時間同位体が知っている知識は、これから起こるはずであった選択肢の一つ」 ハルヒが帰った後、これでもう大丈夫なのか?と長門へ送ったメールの返事がこれだ。 なんとも素敵にわかりにくいが、なんとなく意味は通じる気がする。 でも、朝比奈さん(大人)が言う歴史通りにはならない可能性もあるんだよな? と聞いてみると。 「絶対の歴史はどこにも存在しない」 という何とも頼りがいのある返答が返ってきた。 「何にやけてんの?」 ん、いやなんでもない。 「変なキョン」 にやにやしている俺に疑いの眼差しで見つめるハルヒだが、流石に今の俺の心境までは見通せないだろうよ。 静かな部室棟を俺達二人は歩いて行く、目的はもちろんSOS団の部室だ。 部室のドアの前で俺はふと足を止めた。 「何見てるの?」 ん?ああ、これだ。 俺が指さしたのは、文芸部の看板に張られたハルヒ直筆のSOS団と書かれた元A4紙だ。 「ああ、これね。ちゃんとした看板の方がいいのかな」 隣に立ってハルヒも看板を見上げる。 そうじゃなくて、俺はSOS団が解散したなら文芸部に部室を明け渡すべきじゃないかと思ったんだが……まあいいか。 俺はお前が書いたこれも好きだけどな。 そういって俺は部室の扉を開けたのだが、何故かハルヒに背中を叩かれた。 何故だ? さて、どうして俺達がわざわざ休日の部室棟なんて所に居るのか?と思っている人も居るかもしれないな。 それにはちゃんとした訳がある、つまりは俺とハルヒの関係は結果的に彼氏彼女、俗に言う恋人って状態になったわけだ。 だが、さっきも言ったが朝比奈さん(大人)の予言には続きがある。 あの時は思わず流してしまったのだが、予言によればハルヒの告白、付き合いだす、そして……なんというかまあ、二人ははじめて結ばれるとあのお方は 仰ったわけだ。 この予言を回避する為に、俺はハルヒに明日は部室へ行こうと提案してみた。 いくらなんでも学校でそんな展開にはならないだろうし、部室ならいくらでも遊びようがあるからな。 それに、テスト明けの休日にわざわざ学校へ来るような向学心溢れる生徒は北校には一人も居ないだろう。 休日の最終日に部室へ行こうと言った俺をハルヒは不思議がっていたが、説得するまでもなくあっさりと承諾した。 「はい」 そう言って差し出されたお茶を手に取ると、 「み、みくるちゃんには敵わないと思うけど」 と、ハルヒはあわてて付け加えた。 まだ何も言ってないぞ、それにな。 「それに……なによ」 美味しいぞ、これ。 「ばっ!……ありがとう」 一瞬お盆を振り上げたハルヒは、そのまま後ろを向いてしまった。 本来、礼を言うのは俺の方なんじゃないだろうか?とも思ったがハルヒは嬉しそうにお盆を片づけに行く。 熱いお茶が心も体も温める感覚に酔いしれる、お茶はいいねえ。 二人っきりの部室は妙に広く感じて、なんとなく俺は長門の世界に迷い込んだ時の事を思い出していた。 静かな部室で、一人本を読んでいた眼鏡をかけた長門。 そういえばあいつは向こうの世界では何か小説を書いてたんだっけ? 結局読めなかったな。 鶴屋さんと仲良く、ごくごく普通の高校生活を送っていた朝比奈さん。 ……残念だが、俺の事は間違いなく不審者という認識で終わっているだろう。 不機嫌オーラ全開でぶつけようのない力を持て余してたハルヒと、そんなハルヒに好意を寄せる古泉。 二人は俺が居なかったらどうなるんだろうか?実らぬ恋で終わる……いや、案外うまくいくのかもしれない。 あいつらはみんな居なかった事になったんだろうか? それとも、俺にはわからないどこかでまだ続いているんだろうか? ――俺の居ないSOS団として。 「ね、ねえ」 ん? いつもの団長席に座ったばかりのハルヒが、パソコンの隣からこちらをちらちら見ている。 「そっちに行ってもいい?」 いいも何も朝比奈さんは今日は居ないし、お前の好きな所へ座ればいいだろ? と、思わず言いそうになったがここはそんな事を言うべきじゃないよな。 俺が黙って隣にあるパイプ椅子を手前に引くのにあわせて、ハルヒ顔に笑顔が浮かんだ。 少し赤面したハルヒが俺の隣に大人しく座っている。 それはそれで可愛いと思うんだが、何も話しかけてこないハルヒ相手に俺はどうしていいのかわからなかった。 誰に頼まれた訳でもないのに、不定期にとびっきりの面倒事を持ち込んできたハルヒが急に大人しくなってるんだ。無理もないだろ? だからといってこのまま病院の待合室のごとく並んで座っているのもなんなので、俺はなんとなくハルヒの手を握ってみると。 倒れるパイプ椅子と脊髄反射的に立ち上がるハルヒ。 「なんで離すの?」 お前は何を言ってるんだ? 手を振り払って立ち上がったのはお前じゃないか。 それに、お前が立とうとしてるのにそのまま掴んでたら倒れるだろ? 「ご、ごめん」 そういって座りなおしたハルヒは、おずおずと手を伸ばしてきた。どうやら握ってもいいという事らしい。 俺はそっとその手を掴んでみる。一瞬ハルヒの体がびくっとなったが、今度は逃げられなかった。 軽く握っている俺の手にハルヒの指がゆっくりと触れてくる。 うつむいているからよくわからないが、前髪の間から見えるその顔は真っ赤になっていた。 キスは無理やり奪えても、ハルヒにとっては髪を触られたり手を握られるのは恥ずかしい物なのかもしれん。 いつも俺を連れまわしてる時は、襟首だのネクタイだの好き勝手に掴んでたのに何で今日は恥ずかしそうなんだ? 「あれは!その、まだ団長と団員の関係だった時の事じゃない。今は違うから、これも違うの」 そうなのか。 「そうなの」 嬉しそうに言い切るハルヒを見ていると、俺も何故か嬉しかった。 この感情を文字にするなら多分、好きって言葉がすんなりと当てはまるはずなんだが、それを言葉にするのは恥ずかしいというか躊躇われるのは何故だろうね? 相手がその言葉を望んでいるだろうと思って、自分も伝えたいのに言葉にできない。そんなもどかしい感情を人は…… 「何考えてるの?」 いつの間にか多少顔色を平常に戻していたハルヒが俺の顔を見つめていた。 ハルヒな目に俺の緊張した顔が写っている、おいおい俺はこれからどうするつもりなんだ? ハルヒ。 俺の呼びかけをどう取ったのかわからないが、ハルヒは俺を見上げたまま目を閉じる。 これはつまり、その……。 昨日しておいて今日出来ないって事もないのだろうが、 「えええ!」 突然の大声は俺達の背後、隣の部屋から聞こえてきた。 それは残念ながらというか可憐な女子生徒といった声ではなく、男子生徒の狼狽したような声にしか聞こえない。 続いて聞こえてくるドアを開ける音、それに続く小さな足音とあわただしい足音。 「ま、待ってくれ?君が居なくなるってどういう事なんだい?」 入口のドアにある窓越しに見えた人影と、聞こえてくる声にも聞き覚えがある、あれはコンピ研の 「部長?」 俺とハルヒの声が重なった。 そっとドアを開けてみると、そこにはいかにもインドアそうな華奢な体つきの部長氏が、その体ですら隠せてしまうような小さな長門の肩を掴んでいた。 そんなに力強く揺さぶっているんじゃないのだろうが、長門はまるでマネキンの様に前後に揺さぶられるがままになっている。 「詳しく説明してくれないか?もうここには来れないってどんな意味なんだい?いや、それはまあ君のレベルから見れば僕らと一緒にいる時間に意味なんて 微塵もないんだろうけど……ってそうじゃない、居なくなるってどういう事なんだい?」 廊下に顔を出した俺と、困った様なそうでもないような顔で揺さぶられるままだった長門と視線が合う、 その目には、ありえないはずだが驚きといった感じの感情が浮かんでいるような気がした。 「ちょっとあんた!有希に乱暴するなんて何考えてるのよ!」 言葉と同じ速度ではないかと思う速さでハルヒが部室を飛び出していく。 以前、部長氏に問答無用で飛び蹴りを入れたお前が言うのもどうかと思うが、言ってることは正論だな。 でもお前が言うと不思議な気持ちになるのは何故だろう。 見ているだけに耐えかねたのだろう、言葉だけでなくハルヒが部長氏に掴みかかっていく。当然肩などではなく、襟だ。しかも片手で持ち上げてやがる。 それを乱暴と呼ぼう。 酸欠で弁論する機会を酸素的に奪われている部長氏には悪いが、先に長門だな。 まるで当事者ではないかのごとく平然とした顔で立つ長門に駆け寄った、急がないと部長氏が危ない。 長門、お前居なくなるって本当か?それってどういう事なんだ? 例の件はフラグ的に回避してる気がするから多分大丈夫だぞ? なんてハルヒの前では言えないが。 そう聞かれた長門は、ただじっと俺の顔を見ていて……不思議なことにそのまま視線を下へと向けてしまった。 俺にだけ聞こえる小さな声で長門は呟く。 「涼宮ハルヒは私にこの部室に居て欲しいと望んだ、だから私はここに居る。しかし同時に貴方と二人きりで居たいとも望んでいる。貴方達が部室に 近づいて来たのを感じてコンピ研の部室に隠れていた」 なんだそりゃ?っていうか居なくなるって話と関係なくないか? 「原因は不明。ここ数日、涼宮ハルヒの力は徐々に弱まってきていた。でも今は、これまでで最も大きい力を感じる。恐らく、彼女が望む事は 殆ど全てが現実になってしまう位に」 相変わらず長門の話は俺には理解できないのだが、俺を見つめる長門の眼からはある種の緊張のような物が感じられた。 「有希」 いつの間にかハルヒは部長氏を開放して、俺と長門の顔を交互に見つめていた。 その顔が怒っていたのならまだよかった。 俺は思わず息を飲み、言葉を無くす。 何故ならその時のハルヒの顔は、どう見ても不安そうだったのだ。 俺達の間に訪れる沈黙、静かな廊下には足元で荒い息をする部長氏の声だけが響いていた。 そんな中、遠くから誰かが階段を上ってくる足音が聞こえてくる。 「あ」 「これは」 その足音と声は。 「みくるちゃん、古泉君」 ハルヒ、これもお前が望んだからなのか? 解散したはずのSOS団のメンバーが、召集された訳でもないのに何故か揃ってしまったわけだ。 しかも人気のない、休日の部室棟に。 古泉、お前どうしてここへ? 俺の言葉に古泉は困った笑顔を浮かべる。 「どうして、と言われると困りますが。休日に他に行く当てがなかったもので」 嘘だ、それは俺でも即座にわかるレベルの嘘だった。 俺に視線を向ける古泉は、笑顔の中で必死に何かを訴えかけてきている。しかしそれが何を意味しているのかは俺にはわからない。 「みくるちゃんはどうしてここに?」 「え?あ、あの。お洋服を返す前にクリーニングに出そうかと思って……」 朝比奈さんの言葉を聞いてハルヒは口を閉ざす、どうやら思い出してしまった様だ。 俺達はもう、SOS団ではないという事に。 誰も口を開けない中。 「……なんだか知らないけど部室に入ったら? ここじゃ寒いだろう」 廊下に座ったままの部長氏が不思議そうな顔で提案してきた。 長門さんの事を後で教えてくれないか?彼女には色々勉強させてもらったから、もしも何か事情があって転校するとかなら僕達も何かしたいんだ。 そう俺に告げて部長氏はコンピ研に戻って行き、俺達は誰からともなく元SOS団の部室に入っていった。 長門がいつもの様に本棚から本を取り窓際へ向かい、朝比奈さんも迷う事無くポットへと歩いて行く。 俺は古泉の向かいに座って、ハルヒはいつもの団長席に座る。 いつもと同じSOS団にしか見えない光景、ただ俺達の間に流れる空気はいつものそれとはまったく違う物になっていた。 「はい。どうぞ」 もうSOS団はないのに、朝比奈さんはいつもの様にお茶を淹れてくれる。 その心づかいが今は何よりありがたいです。 お盆の上に並ぶ湯呑の数はいつもと同じ五人分、俺はさっきハルヒのお茶を飲んだばかりだったが小さく会釈して湯呑を受け取った。 習慣というものなのだろうか、古泉は決着間際で終わっていたボードゲームを取り出そうとしていた。 が、俺の視線を感じてその手を止める。 お前がそんな余裕のない顔をするなんてな。 一目でわかるほど、古泉の笑顔にいつもの余裕はなかった。 ハルヒはと言えば誰に視線を向けるでもなく、なんとなくパソコンを立ち上げたり窓の外を見てみたりと落ち着きがない。 誰も口を開かない中で、ハルヒのその行動はいつもとは違う意味で目立って見える。 そんな中でも長門はいつも通り無音の読書を続けていて、その部分だけ切り取ってみればいつものSOS団だと言えなくもない。 ……でも、SOS団が無かった時も長門は一人そうしていたんだろうな。 文芸部の部室で、一人読書をしていた眼鏡をかけたあの世界の長門と同じ様に。 古泉。 「え、あ。はい」 そんなに動揺するな。話にくいだろ。 何も予定がなくてここに来たんだろ?これからみんなでどこかに遊びに行くか? そうすれば朝比奈さん(大)の予言はまず間違いなく回避できるんだ。 だが、俺の思考はどうやら古泉には伝わらなかったらしい。 「いいですね。と、言いたい所ですがお邪魔になってはいけませんし。どうぞ僕の事は気にしないでください」 それは……無理だろう。 自分でもどうすればいいのかわからないのか、古泉はあいかわらず視線で何かを訴えかけている。 そうしている間も、朝比奈さんは黙々とハルヒに押し付けられた衣装をハンガーから外していき、袋の中へと詰め込んでいく。 どの衣装にも思い入れがあるのだろうか、ハンガーから外すたびに朝比奈さんは服を広げて固まったまま無言で見つめている。 「キョン」 ハルヒのたった一言の言葉に、部室の時間が止まった気がした。 団長席に座ったハルヒは、俺に向かって色々と思いつめた顔を向けている。 困ったような苦しいような、悲しいようなそんな顔で。 「……正直に言って? キョンは……」 続く言葉を選んでいるのか、ハルヒの口は言葉を紡がないまま弱弱しく動く。 古泉が何かを言おうとする気配を感じたが、俺はハルヒから視線が外せなかった。 ……なんだ?顔が動かない? 視線を外せないというのは比喩表現でもなんでもなく、俺の体は俺の意志に従って動くことを辞めてしまったかのようにピクリとも動かなくなっていた。 何が起きてるんだ? 突然の出来事に戸惑う余裕もない、表情すら変えられなくなった俺に向かってハルヒはようやく言葉を繋げる。 一度、窓際で読書をしている長門に視線を向けてから、 「あたしと一緒にいるより。ゆ……みんなと一緒に居た方が楽しい?」 まるでその言葉が合図だったかのように、俺の体は自由を取り戻す。 が、今度はハルヒへの返答を迫られた状態でやはり俺はハルヒから視線を外せなかった。 視線を向けないままだが、今古泉が俺に対して向けている視線ならすぐに意味が理解できる。 涼宮さんを選んでください。だろ? よくみれば、いつのまにか読書を辞めていた長門も俺を見つめていた。 その視線にはなんの感情もない様にしか見えないが、今は何かを訴えかけてきているように感じられる。 朝比奈さんは俺の後ろに居たので顔色を確認する事はできないが、あわあわとしている雰囲気だけはなんとなく感じられた。 数秒が数時間にも感じられる中、俺が口を開こうとすると。 「……みんな、何を隠してるの?」 俺を見つめるハルヒの顔から、表情が消えていた。 『恐らく、彼女が望む事は殆ど現実になってしまう位に』 長門の言葉が思い出された瞬間、俺は即座に後悔した。 何故なら俺は連想してしまったのだ、もしここでハルヒに知られたら最も困る事は何か、を。 「嘘でしょ」 目を見開いたハルヒが突然立ち上がり、古泉、朝比奈さん、長門へと視線を向けていく。 「キョン今のなんなの? え? ……嘘。古泉君、みくるちゃん嘘でしょ? ねえ。有希……有希? そんな、そんな事あるわけない。そんなの嫌!」 ハルヒ! 全員の視線が集まる中で、ハルヒは何かを否定するように首を振る。 「そんなの……居るはずないじゃない!」 錯乱して叫ぶハルヒに俺が駆け寄ろうとした瞬間、俺は信じられない物を見てしまった。 古泉が、朝比奈さんが、長門が。 ハルヒの叫んだ言葉に合わせて、三人とも消えてしまったのだ。 嫌な程の静寂が部室に戻る。 嘘……だろ? それは僅か数秒の間の出来事だったのに、俺は何もできなかった。 古泉が居たパイプ椅子は無人のままテーブルから少し離れた位置に置かれていて、窓際の長門の椅子には開いたままの本が置かれている。 朝比奈さんがまとめていた服が入った袋は、支える人がいなくなった事で音をたててゆっくりと崩れ、中に入っていた服がいくつかはみ出して止まった。 俺はハルヒに駆け寄ろうとしたままの姿勢で固まっている。 何が起きたのかなんて考えたくない、考えなくてもわかってしまったがそれを認めたくない。 「なんなの……なんで?キョンやみんなの思ってる事が聞こえてきて、どうして?なんでみんな消えちゃったの?」 震えるハルヒの声に、俺はなんて答えてやればいいのかわからなかった。 どうすればいい? 何かあるはずだ! あれから三日もあったのに俺は何を考えてきたんだ? 背中を伝う嫌な汗が止まらない。 なんとか自分を奮い立たせて、俺は呆然として立ち尽くすハルヒに近寄る。 ハルヒ。 「キョン、どうして?なんでみんな」 脅えが浮かぶその目をじっと見つめる。 ハルヒ、俺が今から言う言葉をそのまま言ってくれ。できれば心からそう思って言ってくれるといい。 「何それ、キョン。顔、怖いよ?ねえ」 怯えるハルヒの肩に手をのせると、ハルヒの体は大げさな程に震えた。 頼むぜハルヒ。もうこの状況を何とかできるやつはお前しか居ないんだ。 小さく息をついて、俺は言葉を選ぶ。頼む、奇跡って奴があるなら今ここで起きてくれ! 宇宙人、未来人、超能力者は私の所に来なさい。以上だ。 何言ってるの? と言い返しそうな顔をしたハルヒだったが、俺の顔が本気なのを見てぽつぽつと呟いた。 「宇宙人、未来人、超能力者は私の所にきなさい……これでいいの?」 疑いながらも素直に俺の言葉通りに呟くハルヒだったが、振り向いた俺の視界に入ったのは無人の部室だった。 嘘だろ? なんでだ? 今更だが俺の体も震えだす、それはみんなが居なくなってしまった事へのショックもある。 だがそれ以上に、この事態を招いてしまったのはハルヒの力による物だという事を知られたくなかったからだったのだが……。 「キョン」 最悪だ。 再び俺が視線を戻した時、ハルヒは声を殺して泣いていた。 最悪で大馬鹿野郎だ。 俺に何か言おうと口を開くが、ハルヒは何も言えないまま両手で顔を覆ってしまう。 最悪で大馬鹿野郎で救いようのないカマドウマ以下の糞野郎だ。 涙が流れるのも気にせずに、ハルヒは部室が震えるほどの大声で叫んだ。 「宇宙人も未来人も超能力者も居る! 居るの! だからみんな帰ってきて? 有希! みくるちゃん……古泉君……お願い……お願いするから。キョン、 あたし願ってるの! 本当よ? ……なんでダメなの? みんな……みんな。キョン、全部私のせいなんだよね?」 何故、ハルヒが願ってもみんなは元に戻れなかったのか? それは俺にはわからない。 俺にわかるのは、ハルヒに最も教えてはいけない事。 全ての原因は願望を実現するハルヒの力だという事を思い浮かべてしまった俺が、救いようのない馬鹿野郎だって事だけだ。 ただ泣きじゃくるハルヒを見ていた俺は、この上最悪の言葉まで思い出してしまう。 その言葉が思い出されるのを押しとどめようと思わず頭を振った瞬間。 「見ないで」 ハルヒの声が聞こえたと思った時、そこにはもう、ハルヒは居なかった。 机の上にはさっきまで確かにあった団長とかかれた三角錐もパソコンは無く、振り向けばそこに朝比奈さんの衣装もない。 本棚を確認する頃には俺の心は既にあきらめていた、そして思い出されるあの言葉。 ――俺だけが、残る。 古泉の呼び出しからはじまった今回の出来事で、相談した全員が出したその答え。 けだるい体を動かし、なんとか俺はパイプ椅子に体を預ける。 人事も尽くさなかった俺には天命を待つ資格すらない。 物音一つしない部室の中、俺だけが残ってしまった。 その日どうやって家に帰ったのか、果たして夕食は食べたのか。どうやって登校してきたのかも覚えていない。 ただ覚えているのは暗い自分の部屋で布団にもぐり――またハルヒにあの閉鎖空間へ呼び出さるのをじっと待っていた事だけだ。 「なるほどね」 話が終わった所で、朝倉は気を使っているのかことさら明るくそう答えた。 俺は長門がIFの世界に作り変えた事と、その世界を元に戻そうとした時に朝倉が俺を殺そうとした事も一緒に話したのだが朝倉はその話には あまり興味が無いようだった。 どうやら本当に知らないみたいだな、あの時の事は古泉も知らなかったし本当に別の世界の出来事なのかもしれない。 今度はそっちの番だろ。 俺の言葉に、朝倉は少し寂しそうな笑顔を浮かべる。 「そうね。でも最初に言っておくけど、私が全てを元に戻すことができる。なんて期待だけはしないでね?」 恐らくそれは嘘ではないんだろう、その時何故だか知らないが俺はそう思った。 「あの日貴方を殺しそこねた私は、長門さんに情報連結を解除された。そして最初に言ったように涼宮さんの認識によってカナダに再構成されたの。 何の力もない、ただの女子高校生としてね。涼宮さんにとって、私は宇宙人じゃなかったんだから仕方なかった事だとは思うけど最初は大変だったわよ。 でもまあ、貴方の話によれば宇宙人だと認識されていたら私も消えてしまってたんだろうし、これも運命って感じかしら」 軽く話す朝倉だが、俺にはそんな外国で一人取り残されても生存能力はない自信があるぞ。 よく無事だったな。 「無事とは言えないわね、だってすぐに警察に捕まってパスポートも無い私は不法入国って事になってしばらく拘束されてたんだもん…… まあ、合法的に入国してないのは確かだから文句は言えないけどね。強制送還されるかな?って思ってたんだけど、初犯だし未成年だから 保釈金さえ払えばいいって言われてそれからは自由の身。現地の領事館でパスポートも作ったし、すぐに日本に戻って良かったんだけど 特に戻る理由がなかったからカナダでのんびりしてたわ」 朝倉、お前英語が話せるのか?それとよくそんなにお金があったな。 「ああ、人間の通貨は涼宮さんを観察する上で一般生活を不自然なく過ごす為に必要だから、銀行のデータをいじってあらかじめ準備してあったの。 それに人間の使う言語なら一通り知ってるわよ、もちろん長門さんも私と同じ」 俺には、長門が流暢に外国語を話す姿ってのはどうしても想像できない。 「それで、ここからが本題ね。涼宮さんの存在が消えた時、それを私も感じたの。どうしてわかったのかなんて言われても困るけど、 多分私が涼宮さんの創造物だからじゃないかな。あの時、涼宮さんは人外の存在を否定した。だから貴方はここに残っている事ができて、私も残れた。 そして再び出会った二人、これってアダムとイヴみたいじゃない?」 大違いだ。 そう言いながらも俺は落胆を隠せなかった。何故なら、だ。 朝倉の話通りなら、この世界にはもう宇宙人、未来人、超能力者は存在しないって事になるんだろ?。 みんなを取り戻す為に必要なのは正にそんな存在だったのに、その可能性すらも残ってないのかよ?……まったく、溜息しか出ないぜ。 古泉、お前の理論は外れたな。 最後まで俺が残れたから俺が特別なんじゃなくて、俺はただの人間だから取り残されちまっただけみたいだ。 「今日はもう遅いし、続きはまた明日学校で話しましょう。また同じクラスに編入できるかどうかわからないけど、仲良くして欲しいな。あ、結局荷物も 殆ど貴方一人に運んでもらっちゃったし、なんだったら今日は泊っていってもいいよ?」 返事をする気にもなれない。 俯いたままソファーに座っている俺の横に朝倉が近づいてくる、それを無視していると朝倉はそのまま俺の隣に座った。 そのまま俺に体重を預けてくる朝倉の体温が、腕越しに伝わってくる。 「取り残された者同士仲良くするのっていけない?どうせなら、全てを知ってる人同士の方が長続きすると思うんだけどな。私と一緒に居れば、いつか涼宮さん 達を取り戻すチャンスが巡ってくるかもしれないし」 そうだな、はいはい。 ――付き合いきれん。ソファーから立ち上がろうとする俺を手を朝倉は掴んでくる、そして俺に寂しそうな視線を向けて来ていた。 そこには夕陽の校舎の中で俺にナイフを向けてきた時に見せた機械的な笑顔も、早朝の校門前で俺にナイフを刺してくれたあの時の狂気の顔もなく、 ただ寂しいと伝えてくる同級生の顔がある。 「……ねえ、キョン君」 朝倉は軽く俺の手を握っているだけで、振り払おうと思えばその手は簡単に振り払えてしまうだろう。 考えてみればいくらお金があって知識があっても、今の朝倉はただの人間なんだ。 それが外国で一人取り残されて、辛くないわけがないよな。 誰にも連絡を取らず、日本に戻らなかったのも再び自分が消されてしまうかもしれないなら当然だ。 朝倉の瞳が潤んできたのが見えた時、俺はその手を―― 乱暴に振り払った。 そっと振り払った。
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言霊というものをご存知だろうか? 自分の言った言葉に精霊が宿るという霊的なアレである 祝詞を奏上する時には絶対に誤読がないようにされるほど、日本古来から伝わるものだ それほど言葉を発する際には注意しなければならないというのを、改めて実感した 事の発端はいつもの部室でのやりとりである 「コラー! 逃げ回らないでさっさと新作ミニスカメイド服に着替えるのよ! 「ひえぇ~ それはいくらなんでも嫌ですぅ~」 ……いつものやりとりである 「ハルヒ、仮にも女子高生なんだからもうちょっとおしとやかにしたらどうなんだ」 あえてコスチュームについては言及しない 「高校生だからなのよ! あんたももっと体動かしたらどうなの 最近体なまってるんじゃない」 ……処置ナシ、言っても無駄か 「小さい子供がはしゃぎまわってたら、少しは可愛いと思うけどな」 ここでスタンドが宿った 多分自動操縦型だろう 「へぇ、そう……」 ん? ちょっと待て何考えてやがる と、声に出す前に、長門の本が閉じられ、部活が終わり いつもの道を下って、家で何時間か過ごした後、就寝によって俺の一日は終了した ───のバカ!─さっさと起きな──バカキョン!─── 明らかに妹のものではない怒鳴り声で、目が覚めた 「……誰もいない?」 見慣れた部屋を見渡しても、発言元は見当たらなかった 夢にまでズカズカ入り込むなんてどこまで横暴なんだお前は…… と、まだ大分余裕がある時間であることに気づき、再び枕に顔を埋めようと── 「下よ下! 灯台下暗しにもほどがあるわよ!」 ……ん? 声のトーンは高くなってるがこの声はいつも俺が聞いているアイツの…… 「……って! ハルヒ!? なんでお前がここに!? いやそれよりも何だそりゃ!?」 俺の目に映ったのは枕の横に佇む直径10cmほどのハルヒだった 俺の疑問にハルヒは少し鬱陶しそうに 「知らないわよ! あたしが目覚めたらあんたの枕の横にいたのよ!」 と答えた しかしこうして親指姫サイズとなったハルヒは少しクルものがあるな…… 性格は540度くらいひねくれてるが 「全く、夢にしてもやりすぎよ! ほんの少し小さくなりたいと思っただけ…… ってうっさい!!何でもない!」 最近はそういうノリツッコミが流行ってるのか? と思いつつ 不思議現象に詳しい○○大学の名誉教授に……ではなく 「あーもしもし長門か?少し複雑な事が起こってな……」 いつもの仕事人に依頼の電話をかけた 「分かってる」 とだけ返ってきたとなれば、多分もうすでに歩く攻略本と化しているだろう 「涼宮ハルヒの願いが微弱であったため、半日もしないうちに元に戻る」 それを聞いて安心したぜ ついでに古泉と朝比奈さんに今日の町内探索は中止と言ってくれ 「了解した」 これでまずは、一安心……と思い振り返るといるはずのハルヒがいない 「んー?おかしいわね。 健康的な高校男子生徒はベットの下にアレの一つや二つは……」 ベットの下からそんな声が聞こえてきた ちょっと待て今日は俺の部屋探索か 「ちょっとキョン!さっさとアレの場所を吐きなさい! どうせ持ってんでしょ!」 ひでえ言われようだ あいにくそんな俗物で済ませる俺じゃないさ たまにお前の姿を……ゲフンゲフンッ! 今日は久々に不思議な事が起こったから頭が変になってるだけさ、きっとそうさ やはり思考中というのは感覚が鈍るらしい 俺が部屋に闖入してきたものに気づかなかったのもそれが原因さ 「あら、シャミじゃない」 と、ここでようやく俺の背後にいたシャミセンに気が付いた まずい、この頃シャミは少し不機嫌で物に当たりやす─── そう気が付いたのは、俺の脚の間を通り抜けたシャミが一直線にハルヒに向かっているところだった 「えっ?きゃっ、ちょっと!?」 やばい、猫といえど今のハルヒにとってはライオン以上の猛獣だ、下手したら死──! ぱくっ ……どうやら杞憂に終わったようだ 俺の目に映ってるのは、子猫を運ぶように口で服の襟をくわえられ 目をパチクリさせながらぶら下がっているハルヒだった 「なっ……ちょっと!降ろしなさいシャミ!」 顔を真っ赤にして手足をジタバタさせているハルヒは、どこか微笑ましかった 「キョン!あんたも笑ってないで助けなさい!」 より一層暴れだしたハルヒ出したのが原因なのか、シャミが急に体を振り始めた きゃあ、とか やああ、 とか今後二度と聞かないだろうハルヒの声を聞きながらも あれで壁とかに飛んでいったりしたら……ケガどころじゃ済まねぇだろ! と危機感を感じ、シャミを取り押さえようと手を伸ばした瞬間 ぱっ 俺の目が捉えたものは─── 「ハルヒッ!!」 ───ハルヒがやや低く弧を描きながら宙を舞った姿だった ───や、ばい! 間に合え! 必死の覚悟で落下地点に両手を伸ばそうとして…… 手を止めた ぼすっ ……よく考えれば、あいつはそんな簡単に死なないよな…… ため息をつきながら、部屋を出て行くシャミを横目で見送った後 (──もがー! キョン!早く助けなさい!) 狙ったように頭からベットの上の枕の下へ潜り込んだハルヒをどうするか考えた …さてどうしよう、結構深く潜り込んだらしいので自分からは抜け出せないだろう ここでハルヒが「ぷーさんでーしゅ!ぷーさんでーしゅ!」 「はちみつがたべたいでしゅー!」 「うわあー!穴から頭が抜けなくなっちゃったでしゅー!」 とか言えば何かを見出せるかもしれんな だがこうしたままでは流石に窒息死の可能性もないとは言えないので 素直に抜いてやることにした コラッ、暴れるなっ 「ぷはっ! ちょっと!団長様が困ってんだから早く助けなさいこのバカキョン!」 原因はお前の些細な願望だろうが 「はぁ……疲れたわ、降ろしてちょうだい」 流石に暴れすぎて少し疲れたようだ ちょこんと手にハルヒを乗せてゆっくりとベットの上に落としてやった 「ん……眠たいから少しばかり寝る。 変なことしたらぶっとばすわよ……」 この年でお人形ごっこはしねえよ ハルヒの眠気が俺にも感染したのか、急に眠たくなりベットに顔を埋めた 「次は……みんな……で、来るわ……よ……」 その声を最後に俺の意識は消失した 本日二度目の驚きは目覚めた瞬間やってきた 「ふえぇっ? な、なんでわたしこんなところにいるんですかぁ?」 「やあ、僕は確か街を歩いていたはずなのですか。 何故こんな状況になっているのでしょう」 「……シンプル」 目の前の小人は、俺の部屋を見渡しながら口々に喋っていた 「さあ!今度は皆で探すわよ! 絶対何かの1つや2つは出てくるはずよ!」 ……頼むから、勘弁してくれ
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Ⅱ 「最近、涼宮さんとはどうなんですか?」 「どうって、何がどうなんだ」 「とぼけないでくださいよ、仲がよろしいそうじゃないですか。僕としても、とても助かります」 別段、仲良くしてるつもりはない。ハルヒはいつも通りだし、俺もいつも通りだ。しかし古泉曰く、最近は閉鎖空間もほとんど発生しなくなったし、発生したとしても小規模なもので、神人もそんなに強くないという。これは涼宮ハルヒの精神がとても穏やかなことを意味してるんだそうだ。 「特に良かったのは、涼宮さんが悪夢を見なくなったことです。おかげでこちらの睡眠が妨げられるなんてこと、もう無いですよ。全くね」 ハルヒの開催した読書大会週間終了まで今日含めてあと1日。つまり今日終わるわけだが、俺は部室でパソコンをいじりながら昼飯を食っていた。インターネットから哲学書を読んで、どう思ったかを載せている人から、そういった感想文を参考にしようと思ったからだ。 「それは参考ではなく、丸写しです」 黙れ古泉。こちとら切羽詰まってるんだよ。 「というより、なんでお前までここにいるんだ」 「ふふ、一応貴方に近況報告をしておこうと思いましてね。多分感想文を1枚も書いていないでしょうから、きっとここに来るだろうと」 やっぱりお前は嫌な奴だ。そんなんだから俺の中でのお前の株がどんどん下落していくんだよ。どこかの航空会社のようにな。 俺と古泉が話している最中、長門は部室で科学の本を読んでいた。長門はもう昼食が済んだのか、あるいは宇宙人は昼食べなくても平気なのか。でもこんな細い体をしながら、案外大盛りカレーを3人前くらいペロリと食べてしまうかもしれない。まあ、さすがにそれはないか。 「長門、今何冊目だ?」 「72冊目」 なんかもう長門だけ別の大会開いてないかこれ。1日10冊読んでも達しないぞ。 「長門も本を読みすぎて、ハルヒみたいにならないようにな」 「‥‥‥‥」 ハルヒは本の読みすぎで、睡眠不足まで陥った。でもあの部室での快眠以来、家でもちゃんと寝てるようだ。目のクマはもうないし、元気だってバリバリだ。いつも通りのハルヒに戻ったというわけだ。塩をかけられて干からびそうなナメクジのようなハルヒもそう見られるようなものじゃないが、やはりこちらの方がハルヒらしい。 「いつも通りのハルヒ‥‥か」 「ん? どうかなさいましたか?」 「いんや。お前は大人しく弁当を食ってろ」 フフ、とにこやかに弁当を食べている古泉にも、3度の飯より本、といった長門にもまだ言ってないが、ハルヒは少しだけ何か変わった気がする。具体的に何、とは言えないし、その変化も顕微鏡で覗いても分かるか分からないかの微々たる物なんだが、何故だかハルヒは何かが変わったと確信を俺は持っていた。 性格、ではない。ハルヒとのやり取り、でもない。いつも通りのハルヒなんだが、何かが違う。 その答えは結局、有難い哲学の本を読んだ感想文を写している間にも出なかった。ハルヒがあの日素直に感謝を述べたというのがどうもむずかゆいのだ。何故だ。 「コイですかね」 「なんだって?」 「いえ、この魚はコイかな‥‥って」 紛らわしいことを言う奴だ。だからお前はいつまでたっても平均株価30円なんだよ。 パタンと長門が本を閉じ、もうそろそろ昼休み終了の合図5分前だ。書けた感想文は2枚。これはもう駄目かもしれんね。 「ではまた後で」 「‥‥‥‥」 長門も古泉も自分のクラスへと向かい、俺もクラスへと戻ることにした。さてさて読書感想文どうするかな。国木田とかそういう本を読んだ経験とかないだろうか‥‥‥。 健全たる高校生が悟りの境地に入り、ましてや俺の友人の中にそのような人物が紛れこんでいるなんてことはなく、俺は授業中の時間を削って読んでもいない哲学書の感想文を書こうとしたがやはりペンは進まず、あれから全然進んでいない形でハルヒに提出することになった。 「補習よ!!」 団長がいつの間にか図書管理職に変わっており、管理職様は俺にそう言い渡した。ハルヒ、俺が言うのもなんだが、10冊しか読んでいないお前は、あれからさらに1冊読み計73冊を読破した長門に図書管理職の座を引き渡すべきじゃないか? 「みくるちゃん12冊! 古泉君10冊! 有希は73冊! で、あたしが10冊!!分かる、キョン? 皆ノルマの2倍は読んでるのにあんただけ0冊よ!」 ちょっと待て。よく見ろハルヒ。感想文は2枚出してるじゃないか。俺としては上出来な方だぞ。 しかしハルヒは俺の感想文をまじまじと見つめ、 「キョンがこんな知的溢れる文章を書けるわけないでしょ」 と、一言。至極ごもっともだが、それを他人に言われると腹立つのは何故だ。ホワイ? 「大体な、俺に哲学なんてはなから無理なんだよ。せめて物語とかにしてくれ」 小説だって無理だろうが、一応の抗議だ。まあ哲学書よりはページは進むだろう。 「クジ引きで決めたことなんだから、それに従いなさい! キョンは放課後、必ず哲学書を毎日ここで読んでいくこと! 10冊!!」 「10冊!?」 俺の記憶が宇宙人に改造されてなければ、ノルマは5冊のはずだが。 「当然でしょ。皆2桁読んでるんだから。有希なんて、あと3日あれば100冊なんてあっというまよ。だからあんたは10冊読みなさい! 延滞料よ!」 延滞料ってなんの延滞料だ。1週間で5冊読まないと10冊に増える延滞料なんて初耳だ。延滞量の間違いだろ。 しかし抗議したところで、もはや最後の審判を下し終わったかのようなハルヒの耳には届かず、俺は古泉とボードゲームをする時間を毎日削って本を読む羽目となった。 「相手がいないと寂しいものですね」 こんなことを言い、俺が死ぬような思いで哲学書を読んでいる隣で朝比奈さんとオセロをやってる奴の平均株価は、30円から0へと下落していった。 喜べ。もう何倍しても0だぞ。 長門が本を閉じても、補習は終わることはなかった。長門、いつもなら下校時刻30分前に本を閉じるのに、最近はやたら閉じるのが早くなったな。頼むからチャイムが鳴るギリギリまで読んでくれよ。でないと‥‥‥ 「お先に失礼します」 「頑張ってね、キョン君」 「‥‥‥‥」 「ほら、キョン! まだ半分以上あるわよ!」 ハルヒと2人きりになってしまうだろうが‥‥‥。 「なあ、ハルヒ。俺が苦しんで本を読む様はそんなに面白いか?」 「頭良くなるには苦痛が必要なのよ。アホになりたいなら楽すればいいわ。一瞬でそうなるから」 俺はこの時ほど一生アホのままでもいいと思った瞬間はない。 しかしハルヒも暇な奴だ。長門達が帰り、秋だからか日が落ちるのが早くなってきたこの時間帯に、わざわざ電気つけて俺の隣で一緒に本を読んでやがる。団長席はあっちだぞ、ハルヒ。 「うるさいわね。席なんてどこでもいいじゃないの」 そう言って、でも一応か席を立ち、団長と書かれている三角錘を持ってきて、机の上にバンと大きな音を立てて置いた。 「あたしがルールよ」 なんとまあ利己主義なルールだ。よく地球はまともに回転してるな。 「ハルヒ」 「何よ。本読みなさい」 「悩みは解消したか?」 「悩み?」 「ほら、いつだか言ってたろ。1週間前だったか、それぐらいの時に。人の中の人が表にどうやらこうやらってやつだ」 「‥‥‥‥」 ハルヒは考えるように、手で顎をなぞり、うーんと唸った。まあ無理もないか。あの時ハルヒは睡眠不足で頭が働いていなかったようだし、多分自分でも何を言ってるのか分からなかったんだろう。 「‥‥‥あー、あれ。解決したわよ」 「そうかい。そりゃ良かった」 「ねえ、キョン」 「ん?」 「その時、あたし他に何か言ってた?」 「いや。他には特に何も言ってなかったと思うが」 「そう」 もうそろそろチャイムが鳴るかと思って時計を見ると、まだ下校時刻まで40分以上あった。全然時間経ってないじゃないか‥‥‥。 「こら、キョン! よそ見してる暇はないわよ! 」 俺は情けないが、まだ1冊も読破していない。読んだ振りをして済めばいいが、感想文を書かなきゃならん。でたらめを書こうにも、どういうわけだが先にハルヒがこの本を読んでしまっているから、的はずれな内容は書けないのだ。 「あと35分よ! 今日こそ1冊読破だからね」 ハルヒが毎回そう意気込むが、結局今回も読破出来なかったのは言うまでもない。 「しかし、キョン。お前もよくやるなー」 「なんのことだ?」 「何って、最近あの涼宮とラブラブらしいじゃねーか。一体どんな手を使ったんだ?」 「へえ、キョン凄いなあ。たったの半年ちょいで、そこまで関係を進めていたなんて」 そう話をする相手は谷口と国木田だ。3人で机を囲み、弁当を食いあっている時の話題で必ずこういった話が出てくるものだが、まさか俺の番がくるとはな。谷口、一体誰がそんなことを言ってるんだ? 「オレも人づてに聞いただけだから曖昧なとこもあるけどよー、なんでも、涼宮のあの変な部活をやっている最中にキョンと涼宮以外の奴が途中で帰っちまうだとかなんとか。他にも、ここ最近ほぼ毎日一緒に帰ってるんだろ? 2人で。そういうの見てるのって結構多いんだぜ」 しかしあの涼宮とキョンが、プススと気色悪い笑い声を出しながらニヤニヤしてる谷口もあれだが、健全な顔をしながらも興味がかなりありそうな国木田が 「もう付き合ってるの?」 と聞いてくるのも頂けない。でもここ最近2人で帰っていたのは事実だ。だからそんな噂が立つのも無理ないかもしれん。 「なあなあ、どこまでいったんだ? Aか? Bか?お前まさか、スィー‥‥」 「いっとくがな、谷口と国木田。俺はあそこで本を読んでるだけだぞ。しかも哲学書だ。おかけでもう5冊目に突入している」 哲学書と聞いて谷口はさらに笑い出し、どんなシチュエーションだよ、さすが2人とも変わってるだけのことはある、と妙に声を張り上げて周りのクラスメイトから不審者を見るような目付きで谷口が見られていたことは、俺の心の中の1つのストレス解消となっていた。 しかし、そうか。噂になってるとはな。涼宮の変人ぶりは入学1ヶ月でかなり広まり、校長の名前を知らなくても涼宮ハルヒの名を知らぬ者はいないとされるほどだ。そんなハルヒと、訳の分からん部活を行なっている部室内で2人きりでここ最近ずっと居て、挙句の果てに一緒に帰っているのだ。手こそ繋いでないものの、それを目撃した人や聞いた者は 「ああ、なるほど」 と、自分勝手に解釈し、妄想を広げているかもしれない。谷口のように。 「というわけなんだが、誰が噂を広げたか分からないか?」 「不明」 だよな。大体、知った所でどうするわけでもない。 「貴方の思っている不明と私の言ってる不明には解釈に齟齬がある」 「‥‥どういうことだ?」 「噂を広げている人間を確認するのは容易。でも、今回の貴方と涼宮ハルヒの噂は、自然発生し各個人の視覚、聴覚を司る脳の部分にダイレクトに植え付けられたもの。誰かが噂話を流し、全員が信じたわけではない」 「‥‥‥えーと、それは長門。どういうことだ?」 「全員が貴方と涼宮ハルヒが相互良関係に務めていると勝手に解釈をした。直接見たわけでも、聞いたわけでもない」 つまりだ。 普通噂は、誰かが目撃したものを知人、あるいは先輩後輩に話したりするわけだ。その聞いたものがまた同じことを別の人間に繰り返し、その情報が広がっていくというのが本来の在り方だ。しかし長門が言うのを聞いてると、誰も俺とハルヒが一緒に部活をしてたり、下校してたりするのを見ていないのにも関わらず噂が広まったということになる。まるでその噂を最初から知っていたみたいに。 「誰も見てない、言ってないのに噂を皆が知ってるなんてあり得ないじゃないか」 「そう。起こりえない状況。」 「じゃあ‥‥なんでそんなことが‥‥」 俺が長門にそう聞くと、ようやく長門は俺を見上げるような形で視線を向けた。 「最も高い可能性として‥‥」 そう前置きを置いた。そして無機質な瞳とは裏腹に、出てきた言葉は俺を驚愕させるものだった。 「‥‥涼宮ハルヒがそう望んだから」 「さあ、今日もSOS団活動するわよ!キョン、あんたは読書だからね!!」 ハルヒの何かが違う、と強く思っていたが、ここ最近それは気のせいだろうと思ってた。 だが今再び俺はひどくそう痛感している。 「なあ、ハルヒ」 「何よ」 「これでもう5冊目だな」 「そうね」 「もう大健闘したんだ。これ読んだらもう勘弁してくれ」 「却下よ」 ですよねー。 何故ハルヒは、そんな噂が広まることを望んだのだろう。まさかハルヒが俺に好意を抱いてるとは考えにくい。いや、しかし、じゃないと理由が‥‥ 「何1人で赤くなってるの。そんなにヤハウェが良かったの?」 「答えはきっと、イエスですよ涼宮さん」 「キリストだけにかっ! って上手いわね古泉君。さすが副団長だけのことはあるわ」 ハルヒと古泉がしょうもないギャグで笑い合い、朝比奈さんはちらちらとこちらを窺い、長門はおそらく200冊目くらいの本を読んでいると思われる中、俺は苦悩していた。あのハルヒが!あり得ないだろ! しかし実際噂は広まっている。ハルヒが来る前、部室に来て朝比奈さんに会ったら 「あ‥‥良かったですね」 と言われてしまった。朝比奈さん、貴方はここでの事情を知っているじゃないですか。なのに何故そんな言葉を‥‥。 「さあキョン! あと少しで完結ね。そしたらようやく半分か。まだまだ道は長いわね」 なあ、頼むからそう嬉しそうに言わないでくれ。どう反応していいか分からんくなるだろうが。 いや、変に意識してるのは俺の方じゃないか。見ろ、あのハルヒを。いつも通り豪快に、身勝手な行動をしているじゃないか。それにさっきの言い方だって思い出してみろ。別に嬉しそうじゃなかったろ。いつも通り、いつも通りだ。あれがハルヒボイス。モチベーションを一切崩さない団長様の声は、常にあんな感じだっただろ?そうだろ俺? 本は全然進んでないのに、長門がパタンと本を閉じる時間はもうやってきた。今日の長門は遅い方だ。何故なら下校時刻まであと1時間だからな。そう‥‥あと1時間も‥‥。 「では、お先に失礼しま‥‥」 「古泉、3回‥‥いや、1回でいい。久しぶりに五目並べしないか」 「キョン! 何言ってるのよ。まだ本は残ってるの。そういうのは、読み終えてからやりなさい!」 お前はどっかの母ちゃんか。 「貴方から誘いを受けるなんて、珍しいこともあるもんです。ですが、僕は今日用事がありまして、またの機会ということでよろしいですか?」 お前、用事なんてないだろ。用事がある奴はな、用事なんて言わずに、その用事の具体名を言い出すもんなんだよ。パーティー行かなあかんねん、みたいなのをな。 「では失礼します」 「キョン君、涼宮さんと仲良くね?」 「‥‥‥‥」 バタン、と扉が閉まり。 「さあ、今日も気合い入れて読むわよ! いいわね!」 俺はいつもより読むスピードが愕然と落ちながら、愛の神とはなんぞやを本とチャイムがなるまで語りあっていった。 「頼む、長門! こんことを頼めるのはお前しかいない!!」 俺はハルヒと別れた後、長門の家に来ていた。噂話のこともあってか、最近のハルヒは以前と何かが違うということを、俺はプロレスラーが技をくらう時に信じられないくらいでかい声を出すくらいのオーバーさに捲し立てて説明した。その話を聞いていた長門も、俺にお茶を出しはしたものの、俺が話している間は何も反応はしてくれなかった。 話し終わった後、長門はこうポツリと言葉を漏らした。 「貴方は、涼宮ハルヒが貴方について何を考えているのかを知りたいということになる」 「‥‥‥そ、そうなる‥‥のか?」 「出来る」 「本当か長門!?」 「でもしない」 「‥‥ハルヒの精神を脅かしちまうからか?」 「それもある。でも私がそれをしないのは、もっと別にある」 「それは‥‥‥一体」 「私はしない。貴方のためにも、彼女のためにも」 そう最後に言った時の長門の目は、何故だか無機質色ではなかった。ほんの少し口調もちょっと強かったな。気のせいではない。 結局、俺は万能宇宙人の力を借りれぬまますごすごと帰路に立たなければならなかった。まあ、そりゃそうだろう。 家につき、 「キョン君おかえり~」 と言ってくる妹をよそに、俺は考えなければならなかった。いや、考えなければならない義務などない。しかしどうしたことか、俺に限ってそんなことはないだろうと思うのだが、そういった考えとは裏腹に勝手に考えてしまうのだ。いつも大して頭を使わないのに、どうしてこんな時ばかり活発に脳とやらは動くのか。俺はベッドに腰かけ、その後仰向けになる形で天井を見つめた。そして、ようやく、避けられないパターンの考えを考慮にいれなければならない羽目となった。長々と喋ってきたが、つまりだ、そのだな‥‥。 俺がハルヒに更なる好意を抱 「キョン君~、ご飯だよ~」 ……ナイスだ。ナイスだ妹よ。いつもくだらない用事でしか俺にちょっかいをかけないが、今回ばかりは最優秀妨害賞にノミネートするくらいの素晴らしいことをやってくれた。危なかった。俺はなんてことを考えていたんだ。危うく1人で悩み苦しみ、悶絶するところだった。そうだ、飯だ飯。俺にとって大事なことってなんだ? ハルヒのことについて考えることか?己が思考を深く追求することか? 違う。断じて違う。俺の最優先事項は飯を食うことだ。そう、そのために生まれてきた。多分、空腹だからさっきのような訳の分からない考えをしそうになったんだろう。危ない危ない。いや、というよりさっきの思考ってなんだ。別に特別なこと考えてないし。谷口の話す自分のモテ度や、他人の話す夢の話やペットの自慢と並んでどーでもいいことを考えていたんだ。そうだろ、俺?今はともかく飯だ。飯を食べよう。今日のご飯は何かな~っと。‥‥‥ 「‥‥どうしたんだ、キョン。なんか目の下にクマがついてるぜ?」 「いや、放っておいとくれ谷口。いやいやいや、やっぱり放っておくな谷口」 「何言ってるんだ、キョン。ボケたか?」 結局夕飯をたらふく胃にぶちこんでも、俺の脳は何かと働き続けていた。ベッドで寝たのは11時のはずだったが、おそらく実際に寝たのは3時間にも満たないんじゃないかと思うくらい、俺は思惑していた。 教室に着き、なるべくハルヒの方を見ないようにして席を着いたのにもかかわらず 「どうしたの、キョン? なんかクマがあるわよ」 と心配そうに声をかけてきた。心配そうに? ハルヒに限ってそれはない。いつも通りの音域でそう聞いてきた。 「まさか哲学書読んでた、なんて言わないでしょうね。あんただとしたら最高にアホ。アホよ。体壊したら、SOS団に参加出来ないじゃない!ま、無理にでも参加させるけど」 本を読みすぎて寝不足の体験をしたお前には言われたくないがな、ハルヒ。 しかし俺は心でそう突っ込んでおきながら、あることに気付いた。 今のこの俺の状況、前のハルヒの状況と似てないか? 実はハルヒの寝不足の原因も、本のせいじゃないのではなかろうか。確か長門が、ハルヒの睡眠不足の原因は‘人格と精神’の熟読と言っていたが、あれはあくまで推察だ。記憶を読もうとしても深くは読めないから、実際のところ本のことなんて関係ないかもしれない。今の俺だからこそ分かることがある。もしかしたらハルヒも何か考え事をしていたのかもしれない。何を?何をだハルヒ? 「多分、恋ですよ」 「なんだと!?」 「あ、いえ‥‥‥貴方の食べているお弁当のその魚、きっとコイですよっていう意味です」 谷口達と食べると、また噂話について聞かれるかと思い、ここでひっそり食べようかと思っていたら、先客が2名いた。1名は無論長門だ。もう1人はこいつだ。 にしても、そういう意味ですってなんだよ古泉。普通そんなこといちいち付け加えないぞ。 「と、言われましても‥‥そういう意味なんですから。貴方が誤解しないように、ね」 「誤解ってなんだ。まさかお前まで例の噂を信じてるわけじゃないだろうな」 フフと誤魔化し笑みを浮かべる古泉は、今回は弁当を持っていない。お前、今度は何しに来たんだ。 「今回は貴方が来るだろうと思ってここに来たわません。長門さんに話を聞いてもらいたかったのです」 「長門に?」 ええ、と頷く古泉に対し、長門はいつものように本を読んでいる。長門とは昨日の一件があってか、少し話しかけ辛いように俺は思えた。長門は無表情だから、そんな風に思ってるかどうかがさっぱり分からんのだが。 「最近、また閉鎖空間が発生していましたね」 「‥‥いつものことだろ」 「いえ、それが妙なんです」 古泉は俺と長門を交互に見てから、ハルヒの席を見た。そして目をしっかりと開き、いつもの微笑みを消してからこう続けた。 「閉鎖空間の規模が、どんどん大きくなってきてるんです」 それは、ハルヒがストレスをまた溜めているということか? 「ええ。でも、今まではこんなことありませんでした。閉鎖空間は涼宮さんの精神が不安定になると発生するものです。つまり、あの神人や空間は、涼宮さんのイライラそのものなんですよ。だとしたら、毎回僕達が必死で神人や空間を食い止め、倒し、元通りにしているのですから、閉鎖空間発生後はそうそうストレスが堪らないわけです。しかし‥‥」 古泉は俺の方をじっと見据えた後 「どういうわけだが、閉鎖空間の規模が回数を増す度に膨れ上がっていくのです」 「なんだ、その目は。まさか俺が原因か?」 待てよ古泉。俺はハルヒに嫌だ嫌だいいながらも、ちゃんとここまで付き合ってきたはずだ。読書の件のことだぞ。おかげでハルヒの機嫌も最近良いし、俺が原因となるようなことはしていない。 「おさらいしてみましょう」 古泉は微笑みを浮かべてから、そう口にした。 「涼宮さんは本が読みたかった」 そうだな。 「医学の本が読みたかった」 そうだな。 「そして読書大会なるものを開き、それを終え、今に至る」 まさしくそうだ。ハルヒが医学の本が読みたいがために、こんな読書キャンペーンまがいなのをする羽目になったんだろ。 「でもそれはおかしくないでしょうか?」 「何がだ」 「医学の本を読みたかったら、自分で勝手に読めばいいということですよ」 「独りで読むのが嫌だったんだろ。だからSOS団を巻き込んで、俺はこんな羽目に」 俺がそう言うと、古泉の俺の顔に人差し指を向けた。ズビシッ、と音が出るような勢いで。 「それですよ」 「何がだ」 「SOS団を巻き込んで、がポイントなんです」 古泉は推理小説で、読んでる最中に犯人が分かった読者のような顔をしていた。いつものうっとうしさが200%増しだぞ古泉。 「僕たち、どうやって本を選びましたか」 「クジだろ」 「涼宮さんは自分の神がかり的な能力に気づいていらっしゃいません。ここが大事なんです。涼宮さんが医学の本に当たる確率は5分の1。涼宮さん自身、人の精神なるものに興味を持ったのに、それが読みたくても読めない確率が8割なんです。いくら涼宮さんがSOS団を巻き込みたかったといっても、あまりに非効率すぎはしませんか?」 「確かにそうだが‥‥じゃあ、ハルヒはなんでこんなことを言い出したんだ?」 「真相が違ったんです」 真相なんて言葉、薬で小さくなった小学生探偵の番組以外で聞いたことないぞ。 「涼宮さんは人間の精神が学びたかったのではないんです。この読書大会は、貴方に本を読ませる環境を作り出すのが目的だったのです」 「なっ‥‥古泉。どういう意味だ」 「簡単ですよ」 長門も興味があるのか、活字から目を離して古泉を見つめている。 「涼宮さんはテレビで医学関係の番組をやっているのを見て、ふと思いついたのです。読書大会を開くことをね」 「関係ないだろ」 「大ありなんですよ。何故なら、その番組を見て、医学というのは何て難しいのだろうと涼宮さんは感じとった。そして、もしこれを本で貴方に読ませたらどうなるだろうと」 読めるわけないだろ、そんなもん。 「その通りです。あ、いえ、その通りというのは失礼でしたね。でも涼宮さんはそう思ったわけです。そして、ある作戦を思いついた」 「もったいぶらずに早く言え」 「了解しました」 「涼宮さんはSOS団を巻き込んだ読書大会を開きました。1週間に5冊という、2日に1冊読んでも間に合わない若干無理な条件でね。読む本は自由ではなく、選択式。医学、科学、哲学、エッセイ、小説。ちなみに聞きますが、貴方はこの中のどれだったら1週間で5冊いけそうです?」 「いや‥‥どれも無理だな」 「涼宮さんもそう目論んだ。そして涼宮さん内心、きっと貴方に哲学か医学か科学に当たることを願ったのです。そして願い通り、貴方は哲学に当たった」 ‥‥‥おい、まさか。 「当然貴方は読めるはずもなく、補習を言い渡されます。僕らが全員2桁以上読んでいるので、貴方も2桁読めと、最も納得いきそうな理由で、貴方は10冊読むことに決定した。仮に僕が5冊でも、貴方は10冊読むはめになっていたでしょう。延滞料で」 「じゃあ‥‥なんだ。それだとまるで、最初からハルヒは俺と2人きりになりたかったみたいじゃないか」 ニヤニヤと笑った古泉は 「その通りです」 と自信満々に言った。まさか‥‥そんなことはないだろ‥‥。 「長門さんが例えチャイムギリギリになって本を閉じることをしていても、貴方は残されていたでしょう。居残りで」 「な、なんでハルヒはそんなことをするんだ‥‥?」 我ながら情けない声色になっていたが、ハルヒがここにいないというのに、心臓は激しくビートを刻んでいた。静まれ、俺のビート! 「さあ‥‥何故でしょうね?」 古泉はトドメと言わんばかりにウインクを俺にした。止めろ、気持ち悪い。 「涼宮さんは貴方と2人きりになることを望んだ。証拠は貴方もご存知の通り、例の噂ですよ。涼宮さん自身が、そういった噂が広がればいいのにと望んだあの噂です」 俺はまだ弁当を半分しか食べていないのに、もう胃はギブを宣言していた。むしろ逆に、胃の中のものが外に出そうといわんばかりに俺は緊張していた。まさかハルヒが‥‥‥。 「待て待て。ハルヒが睡眠不足なのはなんでだ!?」 「それは、貴方に示しがつかないからでしょう。どんなに難しい医学の本でも、ノルマの倍はいっておいた方が、補習の際に説得力増しますし」 「確かあの時、閉鎖空間が発生してなかったな。あれはどうなんだっ!」 「閉鎖空間は精神の不安定からきます。だが、あの時の彼女は不安などなかった。確実に貴方なら読んでこないだろうという自信があったのですよ。眠いのも我慢したのも、全て自分で分かってのことです」 「じゃあ、じゃあだな‥‥‥」 そう口にして、何も出てこなかった俺はようやく痛感した。なんてことだ。まさか、古泉の推察に反論出来ない日が来ようとは。 「問題は、ここからなんですよ」 俺が独り悶絶していた矢先、古泉は声色を変えて長門を見据えた。顔からもいつの間にか、微笑みが消えていた。 「先ほども申しましたように、閉鎖空間はここ毎日発生しています。大きさを重ねてね。我々が四苦八苦して止めているのに、涼宮さんのイライラは増すばかり。今までの話を聞いて、長門さん、どう思いますか?」 「涼宮ハルヒは待っている。彼はそう言いたい」 長門、頼むから俺を見ながら言うのを止めてくれ。大体待つって、何をだ。ハルヒは何を待っているというんだ。 「決まってるじゃないですか」 古泉は真剣な表情を崩して、また笑みを浮かべながら 「告白を、です」 と言った。お前も表情をコロコロ変えて世話忙しい奴だな。 それにしても、長門。昨日はそう意味なのか。俺やハルヒのためにもって、そういう意味なのか? 「世界は、貴方が言うか言わないかにかかってます」 古泉がそう言った際、俺は何て口にすればいいか分からなかった。嫌だ? 分かった? 黙れ? 「嘘じゃありません。このままの規模でいったら、世界が飲み込まれるのもそう時間はありませんよ。あと‥‥そうですね、約1週間です」 ……読書の時もそうだったが、今度の1週間はもっと酷になりそうだ。 「でも、貴方は涼宮さんのことそんなに嫌いではないのでしょう? むしろ最近は、好」 「うるさい!!」 何を切れてんだ、俺。 あれから気まずい雰囲気となり、チャイムが鳴るまで俺は弁当箱を眺めていた。まだ中身はあるが、とても胃に入りそうにない。 ‥‥しかし、ハルヒもハルヒだ。何故こういう時ばかり状況だけを作って、あとは受け身モードなんだ。あの閉鎖空間での出来事もそう。キスの次は告白か。順序が逆で、笑えるぞ。 予鈴が鳴り、古泉達は部室から出て行ったが、俺は出て行かなかった。というより、足が動かない。 もし俺がハルヒに対して何の感情も抱いていなかったから、逆にあっさりと告白をしていたかもしれない。いや、でもやはり最終的にハルヒの心を傷つけるようなことをしたくはないから、古泉達になんとかしろと言っていただろう。 あの閉鎖空間の中での出来事は、ちょっとした強制でもあったのだ。世界が滅亡する瞬間に急に呼び出され、さあ早くしないと皆消えるぞという時だった。でも全く好きじゃなかったら、俺はしていただろうか?やっぱり答えはさっきと一緒で、きっとしていない。 「昔からキョンは変な女が好きだからねぇ」 いつだったかの国木田の言葉が思い出される。国木田、お前は佐々木のことを言っているのか? だとしたらハズレだ。やっぱり俺は、佐々木も好きかどうか分からなかったからな。 一緒に居て楽しい。 ハルヒも佐々木も、そういった部分で重なり合う。 「お待たせー!! 皆揃ってるわね。キョン、あんたなんで5時間目サボったのよ!」 「青春のサボタージュだ。多めに見てくれ」 「何よそれ。変なの。でもSOS団には来てるから、死刑じゃなくて罰金にしといてあげるわ! 今度の活動の時は、あんたが1番に来ても払うのよ。いいわね!」 このハルヒのどこがストレスが爆発しそうなんだ。どこからどう見たって健康良子だろうが。古泉の推理が外れてるという可能性は多いにあるぞ。 だが俺はそれを口に挟まず、黙って哲学書を読むことにした。今更になってだが、この本の言っていることが、それこそ遮光メガネを通して見た太陽のように明瞭に、頭に文字が入りこんでくる。この人達も考えて考えて考えて考えて、考えすぎてこうなったのだろう。今の俺とおんなじだな、預言者さんよ。 俺が食い入るように本を読んでいると、ふと誰かが横に立った気がした。目線を上げれば、そこにはメイド姿の朝比奈さんがいた。 「あ‥‥き、キョン君。お茶をどうぞ」 「すいません朝比奈さん‥‥って、ん?」 お茶の受け皿を見ると、何か紙が折り畳んである。ハルヒの方をそっと窺うと、今はパソコンに夢中らしい。朝比奈さんの様子から見ても、これは早く隠した方がよさそうだ。 「‥‥‥おいしいです。ありがとうございます」 「いえいえ」 お茶は本当に上手い。そして、この手紙をくれたことにはありがとうだ。俺は手紙をブレザーのポケットに閉まった。 紙には場所が指定されていた。俺はハルヒと踏切で別れた後、真っ先にその地へと向かった。夏に朝比奈さんの膝でぐっすりと眠ってたあのベンチだ。 「キョン君、良かった。思ったより早く来れたんですね」 その場所にはすでに未来人が待機していて、制服姿のまま俺を待っていてくれていた。長門の話を聞き、古泉の話を聞き‥‥。 朝比奈さんは、一体俺に何を伝えようとしているのだろうか。電灯の明かり以外何も照らすものがないその元へ、俺は駆け寄った。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅲへ
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《BK(バーニングナックラー) スイッチヒッター》 効果モンスター 星4/炎属性/戦士族/攻 1500/守 1400 このカードを「BK」と名のついたモンスターエクシーズのエクシーズ素材とする場合、 1体で2体分の素材とする事ができる。 使用キャラクター アリト タグ一覧 バーニングナックラー 効果モンスター
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【種別】 都市伝説 【初出】 とある科学の超電磁砲 PSPゲーム版 第二章 【解説】 学園都市の一部で噂されている都市伝説。 内容としては、 猫用の玩具をつくっているネコミチという企業は、ネコを貶める発言をした人を呪う。 というもの。 『制裁指導』の調査を進める御坂美琴達が推理の方向性を間違えると、 佐天涙子が愛読誌『うわさ話専科・ザラシュストラ』の廃刊を知った際、 先週号で「黒猫は不吉」という特集をしていた為に、この都市伝説のせいに違いないと言いだす。
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5日間熱心に勉学に励んだ後に訪れる束の間の休息。そんな貴重な休日に我々SOS団がどこにいるのかというと── ハルヒが福引で一発で引き当てた温泉旅館に来ている。 開催初日に引き当ててしまったことにより、客引き要素が70%減となってしまったその抽選会はもう悲惨だとしか言いようがなかったが。古泉に言わせれば 「涼宮さんがそう願ったんでしょうね」 とのことで、まぁそれについては初っ端から特賞を引き当てる確率と、 また都合よく5名様のご招待と書かれているその券を見て考えるとと妥当な推測ではある。 普通ならこんなものは家族で行くものだろうと思うのだが、ハルヒは家族に対しては長門が当てたもの (長門が一人暮らしとの説明も踏まえた上で)と言って誤魔化したらしい。 全く、そんな人生に1度、当たるかどうかも分からないような宝くじに匹敵する旅行券を、わざわざ団員で使おうとは。なんて独り言を漏らしたら、 「・・・・・・鈍感」 と後ろから雪融け水のように冷たな長門の声が耳に入った。 さて、旅館やホテルに着くと予想外に子供心というか、とにかく何かが湧き上がってきてウキウキしてくるのは何故だろう。 「探検しに行こう」と言ったのがハルヒではなく俺の口から発せられたものだから他3名は冷蔵庫にあったプリンが食べてみると実は卵豆腐だった、 なんてような顔になっている。まぁ、確かに俺も言い終わった後で多少しまった!とは思ったが。 「あたしが言う台詞でしょうが!キョンはヒラなんだから──」とそれはもう予想していたハルヒの言葉を軽くいなしながら他3名の意見を聞いた。 朝比奈さんはハルヒの機嫌を損ねないような言葉を選ぼうとしどろもどろで、長門はいつもの通り分厚い本を開いて物語の世界へ。 「僕達は・・・遠慮しておきます、2人で行った方が大勢で行くよりも隅々まで探検できるかと」 棄権なんてこのハルヒが認めるはずが無いだろうと思った瞬間 「じゃあいいわ、キョンと2人で行ってくるから、みんなは体を休めてなさい」・・・なんですと? ハルヒ、お前新幹線の中でなにか変なもの食べたんじゃないか、というかお前が一番疲れてるんじゃないかと聞こうとしたがもうすでに握られた手は そのへんの運動部よりも凄い力で引っ張られていき、こうして旅館探索が始まったのだった。 探索、とは言うものの。商店街が用意したような旅館、流石にそれほど広くもなく。地下の遊戯施設に立ち入っては「温泉浸かったら後でみんなで遊びに来ましょう」だとか、 開いてないレストランの前まで来ては「ここ、朝はバイキング形式で食べられるレストランなんだって」とか、つまり極一般的な会話に終わる探検だったわけで。 下見、という言葉の方がしっくりくるなと思うと同時に我が口から「探検しよう」なんて子供のような言葉が出てしまったことを再度後悔していた。 ふと握られたままだった手を見ながら、こんな風にハルヒと2人一緒だったあの日を思い出す。 当時こそ俺はその出来事を考えるたびに、手の届く範囲に拳銃がありさえすれば!なんて思っていたが。 今ではそんなことを考えていた頭の中の自分に鉛玉を撃ち込んでやりたいね。 俺は意外にもハルヒと共にいる時間を楽しいと思えるような性格を手に入れたらしい。と言えば遠まわしだろうか? 流石に俺でも自分の事を一端の健全な男子高校生だと思っているし、女子に全く興味が無いなんて今時の僧侶でも言わない事を、俺が言うわけが無い。 それがこの手を取っているハルヒなのかはまた別として。・・・だがまぁ、一緒にいて楽しい以上俺はハルヒを嫌いではないと自覚している。 「そういえばハルヒ・・・お前1年前と大分変わったよな」・・・1年前は毎日「退屈」、「暇」の言葉を製造し続ける特注機械だったのにな。 「なんか馬鹿にしてる?」っと、心を読まれかねないから少し控えておかないとな。 とはいえ、今でも毎週1回は「退屈」もしくは「暇」と呟きはするのだが。しかし古泉は「今年は例年に比べて本当に閉鎖空間が発生しなくて済んでますよ」と言っていた。 確か最後に発生したのはこの間のゴキブリ騒動の時だったとも言っていたな・・・ このゴキブリ騒動については家庭科の担任教師が入院の為2週間ほど学校を休んでいて・・・ で、それに伴って調理実習室の部屋が2週間閉鎖され、その後「調理実習室から異臭がする」との噂が囁かれはじめてから どういうわけか「調理実習室を調べて対処して欲しい」という話が悩み相談窓口から入ってきたんだよな。それも生徒会から。 生徒会長曰く、「こんな訳の分からない部を黙認させているのだから、たまにはそれに応じた働きも見せてみろ」だとさ。 便利屋じゃあるまいし。とは言うものの「対処してくれればSOS団の正式な承認を前向きに検討する」とのことなので 俺なりにハルヒを説得してさっさとこんな厄介事を片付けようと息巻いていたのだが。 調理実習室前に着くや、漏れ出てくる異臭。マスクを用意していて正解だったと他団員を見回し・・・ 涙を薄っすら浮かべている朝比奈さんに渡し、流石のパーフェクト宇宙人も若干眉を顰めているが・・・長門にも渡し 「ちょっと用事が・・・という訳にはいかないんでしょうね」当たり前だ、古泉。こいつにも渡し 口数が一瞬で0になって少々顔を引きつらせている我らが団長様にもマスクを渡し。 士気が下がりきってしまう前にさっさと開錠してドアを開け──そこから人間の女子2名の記憶は無いようだ。 惨状と言うべきか。2人が床に衝突するのを避ける為に両手が塞がった俺の目の前に表れた光景。 コンセントが外れ、ドアは半開きの冷蔵庫から飛び回る蝿。外からの空気が入ったことによって蜘蛛の子を散らしたように逃げていったがそれでも十数匹は目視できるゴキブリの集団。 長門がいなければこの惨状はあと数週間は惨状のままだったかもしれない。 高速言語を放つと同時にこの閉鎖(されていた)空間にいたゴキブリ、蝿、異臭、異臭元と思われる腐った食材etc・・・は亜空の彼方に消えていったらしい。 「・・・・・・任務遂行完了」マスク姿の長門がそういい終わると同時に鳴り響く古泉の携帯。 「申し訳ございません。・・・久々のバイトのようです・・・」 さて話を戻そう。 確かに四六時中一緒にいて、こいつの機嫌が手に取るように分かるようになった多大な能力を得てしまった俺が見ても、ハルヒは性格が丸くなったと言える。 が、しかしSOS団の活動意義が発足当時から不変であることも分かっているし、それならば何故ハルヒは閉鎖空間を発生させないような性格を得たのか不思議でならない。 「なぁ、毎日楽しいか?」ふと、答えを聞けば全ての疑問が解決される質問をハルヒに聞いてみた。 「あんたはどうなの?キョン」と返されたのは想定外だった。俺か?俺が毎日楽しいかどうかだって? 「・・・まぁ、楽しいと言えば楽しい、かな?」 「じゃあ、そんなもんなんじゃない?」うーむ。ハルヒらしからぬ答えだ。てっきりここで“退屈で暇でどうしようもないことくらいわかるでしょー! そんな質問をする前にあんたが楽しみを提供するよう頑張るのが有意義よー!”なんて罵倒されて、それに対して俺はそれでこそハルヒだと一人感慨にふける展開を考えていたのに。 そんな話を入浴中に古泉に話してみた。こいつならば涼宮の言わんとしていることを俺に分かりやすく教えてくれることだろう。 「それは・・・その通りの意味ですよ」・・・前言撤回。こいつに話したところで俺の脳は疑問を解決することはできなかった。 「フフ、失礼。しかし今まで常に自分の意見を押し通してきた彼女が、あなたに答えを任せた。それがヒントですかね・・・?」 ヒントなんざ言うくらいならとっとと正解を教えろってもんだ。俺はクイズバラエティーで分かりそうも無い難題を吹っかけられて反応を笑われる芸人じゃあない。 なんて言おうとしたがそれはハルヒによって阻まれた。 「お前!ハルヒ!なんで男湯覗いてんだ!」 「おや、体を洗った後で良かったですね、僕達」そういう問題じゃないだろ。 「ふふん、あんたがこっちを覗かないように監視してるのよっ!」俺は紳士だ、見るわけ無いだろうが。 どーだか、とからかうハルヒを俺もついからかいたくなって自分の胸を指差し 「見えてるぞ。」うそっ、という声と同時に崩れる椅子の音。 「あぁ、嘘だ。」 数秒してから返ってくるハルヒの怒声。久々にハルヒの口から「バカキョン」の言葉を聞いた気がするな。 部屋に着くなり用意されていた豪勢な夕食。ガイドブックや旅番組で見るようなまさにそれと全く同じ光景が目の前に広がっていた。 一番乗りで座布団に座ったのは意外にも長門。おそらく初めて見るんだろうな。生まれてまだ・・・4年しか経ってないんだから当然か。 急かすように他メンバーをじっ、と見つめ、全員が座るまでに要した時間は数秒。 ちなみに、長机を2人と3人で挟むように座布団が敷かれ、3人の方に長門、古泉、朝比奈さんの順で座ってしまったので必然的にもう片方には俺とハルヒが並んで座ることに。 長門は火をつけられた小鍋をまじまじと見続けている。分かるぞ、小学生のときの修学旅行で同じ気持ちを味わったもんだ。 ハルヒのいただきますの号令で料理を堪能・・・相変わらず長門の箸は速いな・・・なんて上の空になっていたら。 「ほら、ご飯粒ついてる」・・・まるで長門以外の時間が停止したようだった・・・漫画さながら、俺の頬に付いていたご飯を手に取り食べてしまったのだから。 「フフ。まるで夫婦のようですね」との古泉の声にハッと向こうに顔をやるハルヒ、耳が真っ赤だ。俺も顔が熱い・・・ さっさと食べて遊戯室行くわよ、と話をそらし、急いで飯をかっ込むハルヒ。・・・と俺。結局料理の味を楽しめなかった・・・ 温泉に浸かって腹ごしらえもして。もう快適な睡眠の安全装置は解除されいつでも引き金を引ける状態である。 適度な運動なんてしたらもう完璧に睡魔と書かれた銃弾は俺の頭を貫くね。 「馬鹿なことを言ってないで、次あんたの番よ!」と言うことで、古泉からラケットを受け取り俺なりに奮闘してみたのだが。 こいつはスポーツの神様が背後霊じゃないのかと思える試合だったな。なんで去年の孤島のときよりさらに強いんだよ・・・ ともあれ、何周かすると流石に全員に睡魔と書かれた銃弾は行き渡ったようで、最下位だった俺の奢りのコーヒー牛乳を振舞いつつ、部屋に戻ることとなった。 さて、人間という生き物は不思議なものであり、眠るという目的が別の事象によってなしくずしになる、なんてことはごくありふれた光景である。 この場合の事象とはトランプのことであり、いくつものメチャクチャなローカルルールが絡み合ってしまったそれはもはや大富豪と言えないゲームだったが。 罰ゲームに酒がハルヒの口から提案されたが、流石に高校生だけで来てるのに酒を飲んだ後の領収書を見られたら学校に通報されるかもしれない、 という説得の末これまたお決まりの奢りジュース。もちろんお決まりで俺の奢り・・・ どういう経緯で全員が睡眠という2文字に負けたのかは定かではない。遊びながらそのまま寝られるように放射状に布団を敷きなおしていたから、最後に電気を消した人間でないと知りようがない。 と、考えているのはつまり自分が起きているからである。変なジュースを罰ゲームで飲まされたからだな・・・キュウリ味のサイダーだっけな、うっ、思い出しただけで吐きそうだ。 暗闇にだんだん目が慣れてくると隣の布団が空になっていたのに気づいた。ハルヒだ。 トイレに行ってるのだろうか?という考えはそのまま5分過ぎたところで否定された。外に出て涼んでいるのかもしれない、が、ひょっとしたら。そう考えると既に俺は部屋を出ていた。 何故ハルヒがいないとこうも落ち着かないのだろうか。・・・そういえば世界が改変されていた時も。 まだ20年すら生きていない俺がこんなに1人の女子で心が不安になるのか?生意気すぎるにも程がないか。いや──俺は俺を誤魔化している・・・のか。 ぴたりと足が止まった。 「俺は、ハルヒのことが──好きなのかな」 がたたんとなにかに躓く音。振り返るとハルヒがソファーに尻餅を付いていて、弱々しい非常灯に照らされたその顔はかすかに赤くなっていた。・・・まさか。 「い、今の聞いてたり・・・?」 無言で頷くハルヒ。 「聞かなかったことにしてくれたりは・・・?」 無言で首を振るハルヒ。 ああ、俺の人生はここで終わったな。明日になれば団員全員に、月曜日になれば学校の笑い話のレパートリーに1話追加されるわけだ。 「あ、あたしも・・・同じ」 やれやれ。こういう話で笑われるのは男だけと相場が決まっているな。古泉あたりの端正な顔立ちの奴なら逆に七不思議に追加されそうだがな。 こんな普通さしか取り得の無い男子学生なら普通という項目が異常という項目に書き換えられて別のファイルに入れられるだけだ。 「あたしも・・・好き」 ・・・え?何?今幻聴が聞こえたような・・・ 「あんたのことが大好きって言ってんで・・・モガモガ」 幻聴じゃなかった・・・いや、危なかった。こんな大声を他の宿泊客に聞かれたら即追い出される。・・・しかし。 「これ夢か?」 スッ、と手が伸びて頬を抓る。古典的だが、確かに現実のようである。 「夢じゃない?」 コクコクと頷くハルヒ。ここでいまだに口を塞いだままであったことに気づく。 「おわっ、す、すまん・・・」 「まったく、部下が団長の口を塞ぐなんて、団員にあるまじき行為よ!」・・・まことに仰るとおりでございます。 「塞ぐならこっちでしょうが!」 ・・・俺の唇は、ハルヒの唇で塞がれた。 次に意識を取り戻したのは布団の中だった。あれは夢だったのだろうか。 時計に目をやるとまだ6時半で、みんな熟睡しているようだ。もちろんハルヒも。 ・・・閉鎖空間?いや、あの時俺の隣(ハルヒと逆)には古泉がいたのは確か・・・って、古泉はそれの専門家だからこれじゃ決め手にならん。 しかしその疑問はすぐに解決された。なぜなら、ハルヒの手と俺の手が握られていたことに気づいたからだ。 ・・・その手を離そうとしたがやめておいた。 ハルヒに夢で終わらせたく無かったから。 なぁ、あの時お前はいつから起きていたんだ? 「フフ。やはり気づいていましたか。」 古泉によると今回の件も特殊だというらしい。 神人が存在しない閉鎖空間だったとか、極めて感知するのが難しい空間だったとか、初めから近くにいたことで偶然入り込むことが出来たようだとか 言っていたが、閉鎖空間内での光景がフラッシュバックして大半は頭に入っていなかった。 「あの閉鎖空間の発生で何か世界に困ったことは?」 「起きていないですね。あ、困ったことではないのですがただ一つだけ変化が。」・・・何だ? 「あなたと涼宮さんの絆がより深いものへと変化したようです。」 そのまた次の週。不思議探索の日にまたも俺とハルヒ以外欠席となった。古泉の根回しだろうか。 ハルヒは特に非難することもなく、俺の奢りの缶コーヒーを飲みながら歩いている。 「あ、そうそう。商店街の福引券がまた1回分集まったのよね」と、いつのまにか丁度福引所の前に着いていた。 開幕と同時に特賞を失った福引と言うものはまるで全く弾まないバスケットボールのようである。 弾まないバスケットボールで観客を沸かす試合が出来ないことは商店街の方が一番よく分かっている。 そう、つまり特例として特賞をもう1本入れて客引きを図っていたのである。・・・が、ハルヒが来てしまったものだから大変。 流石に彼らの頭にも一般的な確率論が入っているはずだろうからそんな事態が起きることはまず予想しないであろう。 しかしそれでも“もしかしたら”が同じ比率で彼らの頭を蝕んでいるようであり、またそれが顔色を悪くさせる要因のであることが俺にも分かってしまった。 ここは俺が助けの手を差し伸べてやらなければなるまい。とまたも自分を誤魔化しつつハルヒに耳打ちする。 「3等の映画鑑賞券が当たったら丁度2人で行けるな」
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前 「チアキちゃん?」 2人は一斉にドアの方を向いた。ハルカに至っては驚きのあまりなのか、声すら出していない。 チアキは藤岡の声で我に帰ったものの、何て言えばいいかわからない。 「あ…。」 2人の視線を浴びてしまい、言いたいことを上手く言葉として表せない。 ハルカに藤岡を奪われた、いや、藤岡にハルカを奪われたとも言い換えることもできるのか。 とにかく、こうしてあってほしくない現実を突きつけられているのは確かである。 しかし、大好きな2人を憎めるわけがなく、ただ悲しみで涙が溢れていた。 「ハルカ姉さまぁ…、藤岡ぁ…。」 2人の名を呼んでも、より悲しみが増すばかり。それに比例して涙の量も増えていく。 藤岡は泣きじゃくるチアキをただ見ることしかできなかった。 「…ごめんね、チアキ。」 体を起こし、体に着いたものをティッシュで拭き取ると、ハルカがチアキに歩み寄ってきた。 チアキは逃げ出すことを考えるが、足が言うことを聞いてくれない。 「そんな、…謝らないでください。」 謝られると余計に惨めな思いになるから、止してほしかった。 しかし、ハルカは立ち止まることなくチアキに近づき、その体を引き寄せ、抱きしめた。 「!!」 抱きしめられても引き離す所か、ロクに抵抗する気も起きない。 チアキは例え裏切られたとしても、この姉のことが好きで、嫌いになれないのだ。 「うっ……、うっ…。」 抵抗することなく、抱きしめられたまま、ハルカの胸で泣き崩れるのだった。 「落ち着いた?」 チアキが泣き止むのを確認すると、ハルカは優しく声をかけた。 「…はい。」 その返答に偽りはなく、胸の中の蟠りが大分減っていた。 ハルカもそれがわかったのか、チアキを自分から離し、自分の部屋のドアを閉めた。 「カナ、起きちゃったかしら? でも、起きてここに来ないってことは大丈夫よね。」 今更である心配を焦ることなく口にし、ハルカは再びチアキの方に笑顔を向ける。 「さっきも言ったけど、ごめんね、チアキ。 私、最近自分のことばかりで、チアキのことをちゃんと見てあげられなかったわね。」 「いえ、そんな…。」 改めて謝られると妙にくすぐったくなり、照れくさくなる。 「私、チアキがこの部屋に入ってくるまで、全然気づかなかった。姉として恥ずかしいわ。」 そっとチアキの頭を撫で、ちらっと藤岡の方を見た。 「チアキも藤岡君のこと、好きだったのね?」 「「!!」」 チアキはハルカに気づかれたことに体を震わし、藤岡はチアキも自分に惚れていたことに驚愕した。 ハルカは驚愕している藤岡を見て、やっぱりと言うような表情で言い出した。 「藤岡君、私が言うのも何だけど、気づかなかったの?」 ハルカの時も言われるまでは気づかなかったぐらいだから、当然といえば当然なのかもしれない。 「…あ、いや、てっきりオレがハルカさんを取っちゃったからだと思いました。 チアキちゃん、ハルカさんのこと本当に慕ってますし…。」 「あっ、そっか。そうだったわね…、チアキは私のこと、大切にしてくれるものね…。 バカね、私。そんなこと、わかっていたはずなのに。」 藤岡に言われて、思い出したかのような顔をし、ハルカは少し悲しそうにしながら笑みを浮かべた。 「そんな! ハルカ姉さまはちゃんと私の気持ちに気づいてくれたじゃありませんか。 それでいいんです、十分です。」 ハルカも藤岡も自分のことを完全にわかっているわけではない。 しかし、2人がそれぞれ自分なりに自分をちゃんと考えてくれたことは嬉しく思った。 それに、藤岡が気づかなかったことをハルカが、ハルカが気づかなかったことを藤岡が気づいてくれたという お互いが気づかなかった点を補い合う形になったのが不思議と嬉しさに拍車をかけていた。 「ありがとう、チアキ。私も藤岡君もあなたから離れたりはしないわ。ずっと側にいる。」 「はい、ハルカ姉さま!」 ハルカは再びチアキを抱きしめ、チアキもまたハルカに応えるように抱きしめた。 藤岡はその様子を微笑みながら見守っていた。それで今回は無事解決となるはずだった。 「…藤岡、頼みがあるんだ。」 チアキはハルカから身を離すと、今度は藤岡の方を向いた。何やら1つの決意をしているように見える。 「何だい?」 「私にも、…その、ハルカ姉さまと同じ事をしてくれないか?」 「え!?」 チアキの頼みごとに思わず戸惑ってしまい、返答に困ってしまう。 困った顔をした藤岡を見て、チアキは上目遣いで悲しそうに見つめてきた。 「…ダメか?」 「そうは言っても…、オレにはハルカさんがいるし…。」 「私は、別にいいと思う。」 藤岡にとって、今日は本当に驚きの連続だ。しかし、おそらくこれ以上に驚くことはもうないだろう。 よりによって、ハルカがそんな二股行為を許すとは思いもしなかった。 しかも、その相手が小学生で、しかもハルカの妹であるチアキだから尚更だ。 藤岡が驚きで固まっていると、ハルカはそれがおかしかったのか、少し笑い出した。 「やっぱり驚くよね。確かに私もさっきまではそんな考え、思いもしなかった。 チアキには、そういうこと知るのも教育上まだ早いとも思っていたわ…。」 「ハルカ姉さま…。」 「でもね、さっきのチアキ見て考えたんだけど、教育上良くないとか倫理がどうとかって考えでチアキを 縛り付けるのも良くないって思ったの。それでチアキが納得なんてできるとは思えないから。」 言っていることは明らかに道徳に反しているが、ハルカなりにチアキのことを考えたのだろう。 藤岡もハルカの言うことには異論はない。 「…私の意見はここまで。藤岡君に強制はできないし、後は藤岡君がどうするかね。」 「藤岡…。」 チアキはまだ藤岡を不安そうに見つめている。ハルカはチアキを抱くことを了承し、チアキもそれを望んでいる。 この2人のことを考えれば、断る理由はなかった。 「……ごめん、チアキちゃん。…やっぱりオレにはできない。」 だが、藤岡の抵抗はそれでも拭えなかった。チアキはショックを受けながらも、疑問を投げかけた。 「どうしてだ?」 「…チアキちゃんを抱くと言うことは、ハルカさんと同じように見るということになるから。」 チアキは少しわけがわからないというような顔をしているが、藤岡はそのまま続けた。 「勿論チアキちゃんのことは好きだよ。だけど、それはハルカさんに対するものとは違うし、 オレにはチアキちゃんとハルカさんを同じように見るなんてことできないんだ。 それなのにチアキちゃんとそんなことするわけにもいかないよ。」 「…つまり、私を恋人として見ることはできないというわけか?」 チアキに言いたいことが伝わったとわかると、藤岡は無言で頷いた。 「藤岡、お前は少し勘違いをしているぞ。」 このチアキの一言を藤岡は意外に思った。意外そうにした藤岡の様子を見て、 チアキは少し笑い出した。先程のハルカを彷彿させる。 「本音を言えば、確かに私はお前の彼女に、この際愛人でもいいからなりたいと思ってるぞ。 ハルカ姉さまもそれを許してくれるだろうけど、ハルカ姉さまの彼氏とそんな関係にはなれるわけないだろ。 私はハルカ姉さまのことも大好きなんだからな。」 これはハルカにとっても予想外の台詞であるが、やはり後を引くものがあるのだろう。 「けど、それでも、こんな我侭を言ったのは、はっきり私の記憶として欲しいからなんだ。 私が、お前のことが大好きだったという証明できるものを。」 チアキは藤岡の目を見つめてきた。その瞳からは意思の強さを感じさせた。 「…何より、お前に感じてほしい。私が、お前が大好きなことを。だから、ダメか…?」 それでも、やはり拒絶に対する恐怖なのか、語尾の方の声が小さくなった。 そこまで言って中々引いてくれないチアキに、藤岡は根負けしてしまった。 「…わかったよ、チアキちゃん。けど、本当にオレでいいの?」 「今更何を言ってるんだよ、だから藤岡に頼んだんだろ?」 「そうだね。ただし、チアキちゃんとはこれが最初で最後だからね。」 チアキは藤岡の念押しに頷き、ハルカに断りを入れた。 「…すみません、ハルカ姉さま。本当はこんなこと許されるはずがないのに…。」 「いいのよ。逆の立場だったら、私もチアキと同じ事を考えたと思うから。」 ハルカの笑顔での了承を確認すると微笑みだし、藤岡の方に顔を向けた。 そして、藤岡に飛び込み、自分の唇を藤岡の唇に押し当てたのだった。 「…それから、どうすればいいんだ?」 唇を離した後、チアキが質問をしてきた。性知識に関しては全くの無知とも言えるので、当然の質問ではある。 「そうねぇ、藤岡君にはベッドに座ってもらった方がいいんじゃない? ほら、…その、まず藤岡君には大きくしてもらわなきゃいけないし……。」 次
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