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第10話 扉を目指す者 はぁっはぁっはぁっはぁっ! くそっ! 何なのよあいつは! 私は今、 追いかけてくる男から走って逃げている。 ストーカーの類ではない、 都市伝説契約者だ。 仕事帰りの夜道、 男は私の前に静かに現れ、 そして有無を言わさずいきなり攻撃してきた。 辛うじて逃げ出したが、 私はすでに最初の攻撃で傷だらけになっている。 私も都市伝説契約者なのだが、 発動に条件があり今は出すことが出来ない。 だから今こうして走って逃げているのだ。 出来れば、 人のいない所へ。 公園に着いた。 男はすぐ後ろまで追いついて来ている。 夜なので人はいない。 広さも十分にある。 よし、 ここなら存分に戦える。 男が追いついた。 「もう逃げられないぞ」 男は息一つ切らしていない。 「死ね」 男から殺気が発せられる。 っ! 来る、 さっきのアレが! 『1st gate[----]』 剣。 大量の剣が出現し、 自分に向かって飛んでくる。 その数13本。 っ! 避けきれない! その時、 赤い影が私を突き飛ばし、 剣の弾幕からはじき出した。 「すまない。 遅れてしまった!」 赤いマントと青いスーツ、白い歯が眩しい笑顔で現れたその男は、私の契約している都市伝説、『ヒーローは遅れてやって来る』である。 ぎりぎりまで追い詰められないと発動しないので、逃げ場のない公園まで走ってきたわけである。 「私が来たからにはもう大丈夫だ。さあか弱き女性を襲う悪党め、その身に我が正義を刻みつけるがいい!」 いちいち台詞が臭いが、こいつと今まで何十といった人に害なす都市伝説を倒してきたのだ。こいつの強さは信頼できる。 「ハァッ!」 ヒーローは男に蹴りを放つ。 しかし片腕で止められる。 「ハァァァァ!」 畳みかけるヒーロー。 男は紙一重で避けている。 「フンッ、 やるな悪党! ではこれを受けてみろ!」 ヒーローの右手が光り輝く。 「悪を滅する正義の鉄拳! その身に受けよ! シャイニング☆フィs「…3rd gate[---]」 ゾクリ。 男が呟いた瞬間、 今までにない殺気が発せられた。 ヒーローもそれを感じ取り、技を中断して距離をとる。 男は片手を前に翳し、ヒーローに向ける。 「無駄だ…発!」 瞬間、爆音と共に目がくらむような緑の閃光が迸り、私は爆風に吹き飛ばされた。 起き上がり、爆煙が晴れた後には …ヒーローは跡形も無く消えていた。 「あ……そ、 そんな…」 顔を上げると、 目の前に男がいた。 「死ね」 ~ 13の剣に貫かれ、『ヒーローは遅れてやって来る』の契約者が動かなくなったことを確認する。 俺の中で何か変化が起こるのを感じた。 新しい力が沸いてくる。 これで俺は"第4の門"に到達した。 「あと5つか…」 …あと5つ 俺は、 なんとしても"天国の扉"に辿り着く。 そのためならば、 何だって犠牲にしよう。 誰であろうと、 そう、 自分であろうと… 俺は、 決して立ち止まらない… to be…
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それは、エニグマ姉妹がうっかりと誘拐未遂にあってから、数日後 「…先日は、ボクの姉が大変と迷惑をかけたようで。申し訳ない」 帰宅にある診療所を訪れたその青年は、そう口にして 深々と、まるで土下座でもせん勢いで、頭を下げてきたのだった 彼が青年だとわかったのは、そのコートや服装が男物だったせいだ そうでなければ、その中性的な顔立ちや体付き、それに、髪を結ぶ真っ白なリボンのせいで、女性と間違いかねない もっとも、ドクターは彼が男性であると即座に見抜いたのだが、それはドクターだからこそわかったことであり、通常は判断が難しいだろう 「なるほど、可愛いものを見ると見境がなくなる、か……まぁ、気持ちはわからないでもないな」 「同意を得られたのをありがたいととるべきか否か。ただ、やっぱり誘拐は犯罪な訳で」 ドクターの言葉に、青年…仲介者は、表向きは眉一つ動かさず ただ、心中では複雑な気分だった 「どうにも、姉さんは都市伝説や都市伝説契約者相手だと理性のタガが外れやすい。その辺り、もう少ししっかりしてくれるとありがたいのだが…」 「……ふむ?君のお姉さんは、都市伝説や都市伝説契約者を見分ける能力でも持っているのかね?」 「姉さんも契約者だから、その関係でわかるのだろう………まぁ、契約以前から、わりとその辺りの勘は良かったが」 ある意味で、その勘が困った方向に活用されている訳で 問題の人物の弟である仲介者としては、姉をどうにかしなければ、と言う思いはない訳ではなのだが……「自分では無理だ」、ととっくの昔に諦めていて、姉の恋人にその辺りを間か背っきりだからタチが悪い 「…ところで。ケーキはお気に召さなかっただろうか?」 「え?」 「あ、その…」 …診療所の面々 彼女らの前には、ケーキが差し出されていた どれもこれも、可愛らしくデコレーションされた一人用のケーキ 仲介者が、謝罪の気持ちをこめて作ってきたものだ 彼の姉の誘拐未遂の被害者であるエニグマ姉妹達だけではなく、その関係者の分もきっちり作ってきているのが、彼らしい 「…ふむ、そうだな。いただこうか。メアリー、すまないが紅茶を淹れて来てくれないか?」 「あ、はい」 メアリーにそう言って、ドクターは自分の前に出されていたケーキに手を伸ばした フォークをいれ、一口分、口へと運び……じっくりと味わい、ふむ、と頷く 「店で出していても、充分通用するレベルだな」 「美しいレディにそう言われるのは、悪い気がしないな」 ドクターの素直な感想に…仲介者の淡白な顔に、ようやく感情らしい感情が浮かんだ ドクターは笑って、メアリーが運んできた紅茶を受け取った 仲介者は、ほっとしたように、自分が作ったケーキを食べてくれている面々を見つめている 「美味しいであります!……こちらも、一口食べて見たいであります!」 「はいはい。それじゃあ、お姉の分も一口こっちにくださいね……あぁ、ほら、口の周りにクリームをつけて」 仲介者の謝罪相手である、エニグマ姉妹も、ケーキは気に入ってくれたようだった 彼女たちの様子を、仲介者はじっと見詰めて 「…………?」 ……ふ、と その視線が…姉妹の、妹の方へと固定される 「むぐ?……どうかしましたか?」 その視線に気付いて、首をかしげる妹 そんな妹に………そっと 仲介者の細い手が、伸ばされた 「え?」 す、と頬に触れる手 その手は、かすかにひんやりと冷たさを伴っていた じっと、じっと 仲介者の色素の薄い瞳が、眼鏡越しに彼女を見つめる 「あ、あの………?」 「……………あぁ、すまない」 つい、と その指先が、彼女の頬を軽く撫でる 「君の頬にも、クリームがついていたもので」 「は、はぁ…」 な、何だったのだろう? 男性に、あぁまでも至近距離で見つめられるというものは……女性としては、なんとも、鼓動が不可抗力で早くなってしまうもので 若干、頬を赤らめてしまっている妹 「………」 それを、仲介者は静かに見つめていた (………かすか、だが………何らかの、都市伝説の影響……) …ぱらり 仲介者が傍らに置いていた「光輝の書」のページが、勝手にめくれる (…その可能性…………52%………駄目だな。彼女の体に悪影響を及ぼしているかどうかまでは、今の僕では判断できない…) 彼女から感じた、何らかの都市伝説の気配 だが、仲介者には、それが彼女にとって有益なものか、不利益をもたらすものなのか、判断はできず その点を指摘してもいいものか否か、判断に迷うのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 仲介者と追撃者と堕天使と
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アクスレイ 後のトレジャースタッフが開発した、というトリビアを披露される事があるが、スタッフロールで確認できるトレジャースタッフはサブプログラマー1名のみ。 操作に慣性があると言われる事があるが、実際は慣性が付いているのはカメラのみ。 縦スクロールステージの遠近表現はスーパーファミコンの拡大機能を活かした演出、と解説される事があるが、実際にはラスタースクロールの応用。 がんばれゴエモンシリーズ ゆき姫救出絵巻が150万本、奇天烈将軍マッギネスが200万本売れたとするコピペがネットに出回っていたが、資料としてはこれを否定する物しか報告されていない。 https //twitter.com/xnagawax/status/1403941472844410895 クロノトリガー 強くてニューゲームがクロノトリガー発祥という説がネットで広まっていた。実際には正式名がなかっただけで80年代作品にも見られる機能。 真・女神転生 電源を入れた時に1/65536の確率で画面全体に赤文字ですぐに消せすぐに消せ…と表示されるというネット都市伝説。 実際には2chのネタ投稿がニコニコ動画で事実風の説明文で再現動画を作られた事で広まった物。 このため老舗のメガテンサイトなどでは特に取り上げられていない。 仮にこの現象が実在したとして、どうやって正確な確率を知ったのかというツッコミ所もある。 この現象は開発者から否定されているが、パロディー演出として一部作品に逆輸入されている。 アメリカ大使トールマンはアメリカ大統領ハリー・S・トルーマンが由来、という説が常識として語られているが、 開発者のインタビューでは似ているのは出来すぎた偶然とされている。 スーパーダライアスⅡ ゲームカタログに全てのゾーンに専用ボスが配置された、という前作と混同したデマが書かれていた。 スパルタンX 24周目をクリアすると恋人のシルビアが襲ってくる、という架空の仕様が「ファミコンロッキー」に掲載されていた。 ポケットモンスターシリーズ 任天堂最強法務部伝説として、ユリゲラーが起こした裁判に「ではここで超能力を使ってみてください」と機転を利かせて勝訴したとする逸話が出回っていた。 実際にはこのようなやり取りがあった記録は見つかっておらず、賠償請求はユリゲラー敗訴になったとされるものの、 2020年にユリゲラー側が使用禁止要請を解除するまでポケモンカードでユンゲラーが封印カードとなるなど、実際の商品展開に影響を及ぼしている。 https //wiki.xn--rckteqa2e.com/wiki/%E3%83%A6%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%A9%E3%83%BC%E8%A3%81%E5%88%A4 タッチ 卑猥なパスワードを採用したため原作者が激怒したという風説が伝わっていた。 解析によると実際は大抵のパスワードが通るだけだったとされる。 https //triplequotation.web.fc2.com/Analyze/Elucidation/Elucidation.html#Touch ドラゴンクエストⅡ いのりのゆびわは渡しながら使うと壊れない、という情報が流通していたが、実際には壊れる。 掲載サイトの例。http //mtstnzm.sakura.ne.jp/series/dq2/index.html ドラゴンクエストⅣ お告げのほこらで「あすをいきられない」という怖い台詞が流れるというネットコピペが存在する。 大技林などの裏技本で後期版はメタル聖水や8逃げ技が修正されたとされていたが、実際には国内で修正されたバージョンが確認されていない。 ドラゴンクエストⅤ 隠しボスのエスタークを規定ターン内に倒すと仲間になるという噂が全国的に広まっていた。 リメイクでは噂が逆輸入される形で「プチターク」が仲間になるという要素が追加された。 ファイナルファイト2 前作よりキャラが小さいという事実と異なる批判がレビューサイトやゲームカタログに掲載されていた。 ファイナルファンタジーⅣ マルカツスーパーファミコンに「ゼムスキラー」という武器が存在するという誤情報が掲載された。 https //wikiwiki.jp/ffdic/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96/%E3%80%90%E3%82%BC%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%80%91 耐性装備を付けるとバグで弱点が増える、という誤った解説がFF辞典やそれを参照した大手動画で拡散された事がある。 実際はこの現象はアダマンアーマーでのみ起きる、通常プレイの範囲では遭遇しないバグ。 セシルを育てると敵が早くなるという誤った解説をされる事がある 実際はセシルと一定以上スピード差が付いた敵はそれ以上早くならないという 計算式の飽和を突いたテクニックのため、それ以下であれば速さに比例した行動回数で動く。 DS版FF4で主題歌オーディションに不正があったとする誹謗中傷デマを匿名掲示板やFF辞典に書かれていた事がある。毎回異なる内容が投稿されていたが、全てデマだった。 ゲームカタログでは対処法やヒントのあるシーンを理不尽な運ゲーと書き立てたり、 マップやオート機能などのどう考えても無いよりあったほうがいい追加機能を謎の減点法で問題点と書き立てるなどデマの限りを書かれていた。 特に気が狂っていた要素として、召喚演出スキップ機能の存在を隠して 「召喚を使うと入力中の操作が何の意味もなく突然キャンセルされる現象」かのように捻じ曲げたデマが書かれていた。 ファイナルファンタジーⅤ 海底に存在する意味ありげなモアイに何か秘密があると言われていたが、何もなかった。一部リメイクでは隠しダンジョンに使用されている。 ファイナルファンタジーⅦ 隠しマテリアを使うとある人物が生き返る、という噂。 https //wikiwiki.jp/ffdic/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%86%E3%83%A0/%E3%80%90%E6%B0%B4%E4%B8%AD%E5%91%BC%E5%90%B8%E3%83%9E%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%80%91 ファミリーコンピュータ本体 赤を多用したデザインはその色の素材が安かったから、と一時期報じられていたが、その後否定されている。Wikipedia等参照。 名前 コメント すべてのコメントを見る
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これは、[黄昏 正義(たそがれセイギ)]少年が小学6年生になった頃、屋上で起こった出来事だ。 もう少年の安否を見張る必要も無い上、下手に契約者と接触したくないと思い、俺は屋上で座り、瞑想をしていた。 この瞑想というのは俺にとっての回復方法の1つで、 さらに自己の能力の分析をしたり、敵を察知しやすくなったりと都合が良く、時間があれば瞑想をしている。 ―――その次の瞬間、何が起こるかも知らずに――― 不意に都市伝説の気配を察知する。 その気配は、今までの都市伝説とは比べ物にならないほど大きかった。 いつもなら、詳しい位置を調べてから動くのだが、その必要はなかった。 眼を開けると、その都市伝説の居場所が分かった。 そう、真後ろだ。突如真後ろに現れたのだ。そして前には、巨大な鎌が首を斬らんとしていた。 大王「・・・まさか、もう出会う事になるとはな。もう少し心構えができてからにしたかったが。」 ???「私を知っているのか、『Αμαρτωλοσ(アマルトロス)』。」 大王「あぁ、生まれた時からな!絶対に会わない方がいいと教えられた。」 思えば、あの時かすかに震えていた気がする。初めて恐怖を覚えたからであろうか。 それだけ、あの存在は、全てのものが恐れる存在だった。 大王「お会いしたくなかったよ、【Θανατοσ(タナトス)】。」 そう、あの時そこにいたものこそが、神話と呼ばれる都市伝説の1柱【タナトス】だった。 何故か【タナトス】は俺の首にかけていた鎌を下ろす。 タナトス「まさかお前にまで私の名が広まっていたとは思わなかったな、【恐怖の大王】。」 大王「ほぅ、俺こそ光栄だな。神まで俺の名を知っていたとは。都市伝説の死神、【タナトス】。 将来有望の俺を狩りに来たのか?」 タナトス「あぁ。その予定だった。」 大王「『だった』?まさかこの俺の強さに怖気ついたのか?」 あの時はあえてありえない事を言ってみた。 しかしこれが吉となり、色々な情報を引き出す事となろうとは、思いもよらなかった。 タナトス「お前達は私達には絶対に敵わない。お前は『Ταξη(タクシ)』を知っているか?」 大王「『タクシ』?なんだそれは?」 タナトス「まぁ、知らぬものもいるか。都市伝説には強さに応じて『タクシ』、つまり階級がある。」 【タナトス】は鎌を背中のホルダーにかけると、大王に背を向け、教授するかのように話を続ける。 タナトス「『タクシ』はΕ(エプシロン)を最低としてΔ(デルタ)Γ(ガンマ)Β(ベータ) そしてΑ(アルファ)と私達は定めている。」 大王「つまりΑが最高という事か。実に分かりやすいな。」 タナトス「例えば、お前が戦ってきた【ベッドの下の男】はΔ、【口裂け女】【透明警備員】はΓだ。」 どのようなものかと思えば、あっさりと数値が出た。そうなれば当然気になるものがある。 大王「そうか、では俺はどこなんだ?常識ではΓ以上か。」 タナトス「お前は、Αだ。」 【タナトス】が少し溜めてから放った言葉に、流石の俺も驚いた。 まさか神に最高の称号を与えられるとは。だが。 大王「待て、どういう事だ?『敵わない』事についてこの話題を出したなら、お前がΑとなるんじゃないのか?」 タナトス「勘違いするな。私達は、Αではない。」 【タナトス】は振り返り、不敵に笑いながら、こう告げた。 タナトス「その上の、Ω(オメガ)だ。」 大王「ッ!もう一つ、上、だというのか・・・。」 タナトス「都市伝説は信じられ、語られる事によって強さや能力を得る。 なら信仰され、生贄まで捧げられてきた神の方が、 人を怖がらせるためだけに生まれたお前たちより、上だという事だ。」 所詮、神は絶対に越えられない存在だったのであろうか。 次の階級への道の遠さは目の前にある気迫が伝えてくれた。 大王「・・・。それで、改めて訊ねようか。何故俺を狙いに来た?そして何故殺せないんだ?」 タナトス「『Μοιρα(モイラ)』を歪め、悲しませるアマルトロスを消すためだ。」 大王「【モイラ】?神の名か?」 【タナトス】は呆れたかのように溜め息をつき、説明を始める。 タナトス「『モイラ』は『運命』、それを司る神だ。主に人間の運命を定めている。」 大王「人間の運命、そんなものを決めている神を悲しませる?運命を歪める?俺にはそんな事、不可能だ。」 タナトス「いや、可能だ。『モイラ』には元々存在するべきではない都市伝説に関する事は含まれていない。」 大王「それで俺が暴れればその分変わる、か。しかしまだ1人も殺してはいないぞ?念のためか?」 【タナトス】はまた背を向けて、俺に重大な事実を告げた。 タナトス「いいや、お前は歪めた。お前の契約者の『モイラ』を。」 大王「なに、少年の運命?どういう事だ?契約してから少年の寿命が縮んだとでも言うのか?」 タナトス「お前の契約者は、本来とうの昔に死んでいる。死因は自殺だ。」 自殺?ふざけるな!少年がそんな事をする理由は―――その発言を止めたのは自分自身だった。 心当たりがあった。 [心星 奈海(しんぼしナミ)]少女とケンカをした時、あの時なら餓死、あるいは自殺しかねない、そう思ったのだ。 しかし俺は、それを止めた。つまり少年の寿命を延ばした。 それが神に抗うという罪か。 タナトス「さらに、その後を追い自殺するはずだった者も、お前の契約者が生きている所為で生きている。」 大王「あの少女か、確かに少年が死ねばそうなりかねん。 で、このアマルトロス、『罪人』か、何故殺せないんだ?上からの命令か?」 俺はまたありえない事を口にした、つもりだった。 【タナトス】より上があるなどと、その時は思いもしなかった。 タナトス「その通りだ。『お前及びその契約者を殺してはならない』という命令を受けている。」 大王「お前より上がいる、のか?」 タナトス「あぁ、神にもタクシがある。上位達が決めた命令は絶対だ、だが! 急に始まったあの怒りの発言は、何故か鮮明に覚えている。 タナトス「あの餓鬼は悪戯ばかり、格闘馬鹿共は修行に明け暮れ、 誰一人とて神の自覚も無く遊びまわり! 挙句に現最高神は訳の分からない戯言を抜かす!何を考えているんだ!」 【タナトス】のまわりが歪んで見える。 本来なら恐れるべきところだろうか、しかしあの時は、恐れとは別の、『足りない物』を感じた。 タナトス「だが、【モイラ】様は違った。あの方は神の自覚を持ち、人間の運命を、紡ぎ続けていたのだ。」 急に声の調子が変わり、まるで感傷的になった。 しかし次の瞬間にはまた、その眼は威圧するかのように鋭くなった。 タナトス「その【モイラ】様が定めたものを、歪めるものがあるのなら、 この私がそれを狩る。それが私の、使命だ。」 その発言の後、背中に掛けていた鎌を手に取り空を斬る。 すると空間が歪み、言葉では表現できない暗い色をした穴が開いた。 大王「結局、帰るという事か?」 タナトス「『殺さない』という命がある以上、警告が唯一私にできる事だ。」 大王「もし、俺が人を殺したら、どうする気だ?」 タナトス「その時は、奴等の判断と私の判断、どちらが正しかったか分かる時だろう。」 そう言い残し、【タナトス】は自分で開けた穴の中へと入り、穴は何事もなかったかのように閉じた。 残ったものといえば、『神』に関する情報と―――本来沸き起こるはずのない好奇心であった。 【タナトス】については、『鎌の事』『都市伝説狩りをしている事』『死を司る神である事』ぐらいの情報は得ていたが、 この日、新たに『他にも多くの神がいる事』『それは究極の階級を持つ事』 そして『【タナトス】以外は敵意が無いと思われる事』―――。 しかし、得た情報の分、謎も生まれた。『何故俺と少年は生かされているのか?』 そして『何故【モイラ】の定めた運命に都市伝説は干渉しないのか?』―――。 神は謎が多い、本来はそれを恐れるべきなのだろう。 気が付くと、俺の脚はある人物の元へと俺を運んでいた。そこには、俺の契約者である少年がいた。 さらに気付く。俺は少年と共になら神を倒せると思っている事を。 昔の、契約する前の俺だったら、【タナトス】をどうしただろうか。 無闇に戦いを挑み散るか、あの心の不安定さから仲間にしようと試みたか? しかし今では、逆に諦めて逃げるでもなく、むしろ神を超え、自分の限界に挑戦してみたいと思えるようになった。 昔の俺では【口裂け女】を倒せただろうか?【テケトコ】【透明警備員】を倒すための仲間はいただろうか? 少年のおかげで強くなった事は明確だ。 俺は少年に【タナトス】の事を伝えようかと思った。しかし、やめておく事にした。 もし少年が俺のために、いや、これは自意識過剰か。好奇心で神に挑んでしまう可能性があるから、としておこう。 正義「どうしたの?大王、行くよ。」 今日から【タナトス】を越えるほど強くなるまで、修行を積む事にするか。 大王「あぁ。少年、今行く。」 ―――世界征服への道は遠い。 第7話「狙われた日」―完― 前ページ次ページ連載 - 舞い降りた大王
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『私の世界』 前編 夢の内側から夢を観測している。 自分ではない誰かが自分のフリをして外界へと手を伸ばす。 私が消えてしまう、私が死んでしまう。そういった感覚が背骨の上を走る。 足首が痛い。瞼の裏側が熱い。お腹が、子宮が、疼いている。 私にしか聞こえない声で、あの腕は私に囁いた。 ――――お前は人間ではありえない。 第二話『私の世界』 背中側から発せられる軋みの音で薫は目を覚ました。 体全体を倦怠感が包む。薄いシーツを上にかけてるだけにも関わらず体が熱い。 どうやらベッドの上にいるらしい。 蛍光灯一本が薄暗く部屋を照らすこの部屋は自分の記憶にない。 「起きたか」 自分の視界の外から声を掛けられて、薫は体を起こしてそちらを向く。 窓から入る月明かりが、椅子に腰掛ける長髪の女を照らしている。 目は細く吊り上っていて、頬に二本の傷がある。鼻の形がいいおかげが普通以上の顔に見えるがお世辞にも美人とは言えない。 この女は……誰だ。私は……。 頭がぎしりと痛む。 「痛……」 「無理をするな。仮とはいえ契約した直前に戦闘を行ったんだ、あまり動かないほうがいいぜ」 ――――思い出した。 確か家の前の自販機でカタワさんに襲われて、この月に照らされている女に助けられて。 それから、私が、カタワさんを。 「殺した」 「ん? どうした」 私が殺した。カタワさんの頭を、砕いた。 どす黒い塊が喉の奥にツッかえている。あの時の自分は化け物だった。 と同時に自分の居場所があそこにあったと、そうも思う。 怪異を『力』として使役し、何かを壊す快楽。己の奥に快い暗闇が広がる、あの時間。 欲しいものがあった。自分を迎え入れてくれる環境。 小さい頃に失った、誰もが当然のように笑顔でいられる空間。 その輪を外側からしか眺めることが出来なかった。あの笑顔を自分がすることも、誰かに向けられることもない。 だが、今日私は笑顔をした。 ――――これから殺す、獲物に向けて? そして私は笑顔を貰った。 ――――姿も見えない獣の腕に? 「うぅっ……」 頭が痛い。脳髄が沸騰している。頭蓋の中心が、渦を巻いて私の外に飛び出ようとしている。 そういえば、ここはどこなのだろう。 薫は片手で側東部を押さえながら、女に質問をすることにする。 「ここは、どこなんですか?」 「ウチの割り当てられている部屋だ。あの後お前もぶっ倒れたから仲間に連絡して連れてこさせた」 「貴方は、誰なんですか」 そう質問した時、部屋の扉が勢いよく開く。 「いやー、新入りがいるんだって? 猿から聞いたで」 更にその扉の勢いにも負けないくらいの勢いとテンションの持ち主が入ってきた。 顔は十八、九の青年に見えるが服装はスーツだ。短く刈った髪は真紅に燃え、耳にはジャラジャラとピアスを付けている。 目鼻立ちがよく十分に美形と言えるだろう。だがその顔の半分以上に刺青が入れてある。 異様な人物であることは姿もさることながら、部屋に入ってから片時もお喋りを止めていない所からも見て取れる。 「ナナシさぁ、猿を自由にしとくの良くないで。ああ見えてパラドックス共はお喋りや」 「五月蝿いボケ。ウチ指図するなゴミカス」 「口悪っ! 相変わらず口悪っ! 新入りちゃんはこんなならんどいてな」 「ぶっ殺す。それと、こいつは新入りじゃない」 「え、そうなん? じゃあなんでここにいるん?」 「『巻き込んだ』責任がある」 「でも『適合体』ではあるんやろぉ? なら入っちゃった方が安全とちゃうのん?」 完全に薫を置いて話は進んでいく。自分の置かれている状況がますます良く分からなくなる。 判明したのは、女がナナシと呼ばれている事くらいだ。 この二人の話に割り込むべきか否か。 未だやむ気配のない罵り合いなのか情報開示なのか分からないやり取りを見つつ、長考する。 「ナナシちゃん知っとる? 怒るとおっぱいちっちゃくなるんやで?」 「よし、殺す。キーコに頼んで研究棟の多重擬似深淵牢獄に放り込んでやるよカス」 「あんな化け物だらけの空間嫌やぁ。なあ新入りちゃん」 うむむと顎に手を当てて考え事をしていた薫に予想外のボールが投げられる。 もちろん話など欠片も聞いていないので何も答えることが出来ない。 考えあぐねた結果、先の質問をこの男にも投げかけてみることにする。 あの、ここはどこなんですか?」 「ここ? 東京やで。アポトーシス東京支部」 「おいゴミクズ。そこまで教えるんじゃねェ」 「ええやん、いずれにせよそれを言わんと話も進まれへん」 東京……。随分と遠くに連れてこられたものだ。県を五、六個跨いでいるではないか。 それにアポトーシスという、恐らく支部とつくあたりなんらかの組織名と考えられるソレ。 とりあえず自分の大まかな居場所の把握という目的は達成した。次は一個ずつ謎を潰していこう。 「あの、アポトーシスってなんですか?」 「お、やっぱ気になる?」 「ボケカス、教えんな」 「えー、なんでなん? けちんぼさんやな君はホンマに」 「こいつはこのまま日常に戻ったほうがいいんだよ」 「アレを見たからか?」 いつの間にか例の獣の腕がぷかぷかと扉の前に浮いていた。 薫の心臓がゾクリと跳ねた。あの時の、カタワさんの頭を吹き飛ばした時の感覚が蘇る。 と、同時に右足首が痛むことに気がつく。じくじくと熱を持ってそれが主張する。 表情はなくともあの獣の腕の持ち主が楽しそうに笑っているのが分かる。 「初めはただの上級適合体かと思った。けど、『アレ』はあり得ねェ。あり得ちゃいけねェ範疇だ」 「おいおい、穏やかやないなぁ。何を見たん?」 「……」 黙ってしまったナナシに変わって獣の腕が答える。 「喰った」 「喰った? 何をや」 「矛盾、いや還元していたから『エーテル』というべきか」 「ふはは、冗談キツいで猿ちゃん。そんなん無理や」 チャラチャラした男が一気に苦笑いを浮かべる。それに対しナナシはいらついた様子で応答した。 「理論上は可能だろ。無理やり情報を埋めて取り込んじまえばいい」 「高機能干渉……」 「しかもその間意識が無い」 「天敵やんか」 「パラドックスに対してもウチらにとってもな」 男の方は額にじっとりと汗をかき、ナナシは腕を組んで黙ってしまった。 獣の腕も言葉を発さず。静寂が部屋を満たした。 薫は恐らく己に関する発言の数々を反芻するが一つも理解できない。完全に置いてけぼりを食らってしまった。 今更何を話していいかわからず周りと一緒に黙るほか無い。 今まで把握し切れていたと思っていた自分という存在。その自分が異様な集団に異様と称される不安感。 私という存在に対しての懐疑が大きく己の中で膨らむ。 ――――知りたい。知らなければならない。 拠り所を無くした自分だからこそ、さらに己を失う訳には行かない。 痛む右足。軋む頭。こうなった原因を。この静寂の理由を。私は知らなければ。 薫は自分の下半身を覆うシーツをぎゅうと握り締め口を開く。 「あの、教えてください。貴方たちのこと、あの化け物のこと、それに、私のことを」 全員がこちらに意識を向ける。男は苦笑いをし、女は飽きれ、腕は笑う。 この主張が受け入れて貰えるか分からない。そうなったときに私は食い下がるのか、それとも諦めるのか。 はぁ、とため息を付きナナシが口を開く。 「二つ約束しろ。一つ、今から聞くことを他言しない事。二つ、この話を聞いたら『選択』すること」 「はい、約束します」 「お嬢ちゃん。後悔しなさんなや」 「大丈夫です。私、知りたいんです。嫌なんです、自分を疑うのだけは」 薫は過去の自分に対する出来事によって、ある種の閉塞的な自己嫌悪を抱えている。 その嫌悪に相対していたのが過剰なまでの自己愛と他者への拒絶である。 その自己愛の部分が懐疑によって崩落すれば、残るのは事故嫌悪のみとなる。そうなればきっと、自分は消えてしまう。 ソレが怖い。歩んできた道が全て虚構によるものだと考えてしまうのが嫌だ。 だから少なくとももてる限りの情報は得ておきたい。それから全てを判断すればいい。 「おーけー。とりあえず開示できる範疇だけは全部教えてやる」 ナナシは自分の座っていた椅子から立ち上がると、部屋の隅に付属していた冷蔵庫から缶ジュースを三つ取り出す。 そしてソレを、自分、男、薫に配る。 長くなりそうだからな、そういってプルタブを開けた。 「まず、ウチらが所属している組織から話を始める。ウチらはお前も見たように、ああいった化け物を殲滅する役割を担う組織だ。 "Anti Paradox OPerat TOpsyturvydom SItuational Society"通称『APOPTOSIS』、日本語では『対矛盾戦略及び深淵観測協会』という」 「この俺のスーツの襟元についとるのが証明バッチや。かっこええやろ」 「主な活動内容は、先にも述べた化け物の殲滅と研究。それから深淵、まぁロアでもいいがそれの観測だ」 アポトーシス……知っている。自殺細胞の事だ。己を犠牲に他を生かす細胞。その名を配しているということは恐らくそういう組織なのだろう。 それと、カタワさんと対峙したときにも聞いた深淵、ロアという言葉。 「あの、深淵とかロアとかってなんですか?」 答えてくれるのであれば分からないことは何でも質問したほうが得だ。薫はそう判断する。 「深淵、ウチらは便宜的にそう呼称してるが基本はお前も知ってる。『誰もが知っている誰も知らない世界』のことだ」 「つまりは平行世界『パラレルワールド』や」 「パラレルワールド。そんなものが、本当にあるんですか?」 「ない。が、ある」 「はぁ?」 訳が分からない。この人は本当に答える気があるのだろうか疑問に思う。 「あるのは『エーテル』だけだ。それに膨大な意識が結びついて世界が出来る。だから現実には存在してない。人の意識の集合体の中に存在している」 「ソレが外側に現れるのが深淵や。まぁ、嬢ちゃんには難しい話やんなぁ」 「分かりやすく説明してやる。例えば水槽が二つあるとする。片方は水に満たされている水槽。もう片方は黒い布が掛かっていて中が見えない水槽だ。 水に満たされた水槽には魚が住んでいる。黒い方は分からない。魚は夢想する。きっと黒い布の水槽の方も水が満たされていて、魚が住んでいる。 だが現実には布の下は空の水槽だ。だが水に満たされた水槽の中の魚の中では、黒い布の下の世界が存在する。それが、平行世界だ」 ……例えそうだとしても結局中身が空なら実体がないではないか。 しかし薫を襲ったあの化け物も、あの暗闇の世界も本物だ。質感も、匂いも全て覚えている。 「納得いかんって顔しとるで」 「だって、それだと私の身に起こった事が説明付きません」 「それには次の話に移る必要がある。『エーテル』という世界を満たす情報伝達因子の説明だ」 「エーテル……」 これもまた実体のない話だ。過去、世界はエーテルで満たされてるとした学説が存在した。光、音、そういったものを伝播させる性質をもつ物質。 しかし結局その学説は科学の発展とともに淘汰されていった。高校時代に何かの科学本で読んだ覚えがある。 ならば、この人たちがいうエーテルとは一体なんなんだ。 「お前、幽霊と都市伝説の違いが分かるか?」 ナナシから薫へ唐突にそんな質問が投げかけられる。 幽霊と都市伝説の違い。都市伝説の中にも幽霊が関わっているのも存在するが基本は違うはずだ。 幽霊は、どことなく信憑性にかける気がするが、都市伝説にはどこか信じてしまう部分がある。 遠くと近く。そんな違いがあるように薫は考える。 上記の考えをナナシに提示する。 「三十点だな」 「なんも知らん子にキッツぅない?」 なんとなく悔しい。そもそも両者ともに噂程度の記憶の中にしか存在できないような曖昧な存在ではないか。 ソレに対して違いも何もあったもんじゃない。結局は両方とも怪異という括りで済ますことが出来ると考える。 「じゃあ、仮にその両者が存在しているとして、その生成条件はなんだと思う?」 また問題を出される。しかし先の点数による評価で回答する気をなくした薫は早々に白旗を振った。 それに対し小馬鹿にしたような笑みをナナシは浮かべ、話を続ける。 「霊とは単体の情報にエーテルが集合した物で、都市伝説は情報を有したエーテルが複数集まり形を形成したものだ」 そんなの分かる訳ないじゃないか。理不尽を感じながらも、黙っていたほうが早く話が進みそうなので黙っている。 しかしナナシの後ろで含み笑いをしている男を見て若干のイラつきを覚えた。 話は続いている。 「エーテルとは本来ならば現実に存在することの出来ない曖昧で弱い情報ですら収束する伝導体のことだ。氣・魔力・霊子とも呼称される。 人間には松果体という機関が脳にあり、それが普段エーテルを全て漉し取っているので本来知覚することが出来ない。 が、霊媒の家系・魔術師の家系と言った種類の人間たちの松果体は『開いて』おり、故にそれらを知覚ないし使役することが可能とする」 「アポトーシスはそういう『開けてる』人間が雇われて出来とるんや」 「そしてそのエーテルが全てにおいて重要な役割を果たしているんだ」 「じゃあ霊と都市伝説の違いから、我々の敵であるパラドックスの話をしよか。まず霊からや。 人間は死に際強い恨みや念、イコール膨大な情報を放つ場合がある。それにエーテルが急激に収束し形を成す。これが霊の正体や。 エーテルには強い情報には急激に集まる性質があるからなぁ。ソレが起因になっとる。 生前と同じ動きをする幽霊やとか、自縛霊等は、焼きついた情報があまりにも断定的且つ強すぎて、本来霊にはないはずの『設定』が作られてしまってんねや。 霊のいる場所で体が重くなるっちゅーのも、通常の密度を遙かに超えるエーテル量に常人の松果体が異常反応を起こすからや。 ちなみに呪いも全てはエーテルで証明されとる。過度な濃度で収束を続けるとやがてエーテル体は『腐る』。 その腐ったエーテルを取り込むと松果体が異常反応してメラトニンが過剰分泌され、結果死に至るっちゅーわけやな」 「だが、都市伝説は単一からなる霊とは違い複数からなる。エーテルには似た情報と結合する性質も存在する。 この似た情報が寄せ集まって出来るのが都市伝説だ。そこのハゲカスが言ってたように霊は死んだ人間の念が作り出す。 故に上書きが出来ない。霊はその霊以外に変わることがないんだ。だから対処も容易いし、そこらに転がってる似非霊媒師モドキでも消せる場合がある。 けど都市伝説、いやパラドックスは違う。何度でも上書き可能だ。何度でも何度でも人間が噂を付け足す限り際限なく成長を続ける。 それがパラドックスの恐ろしい所だ。まぁ、だから不安定でウチらの世界では具現化出来ないんだけどな」 「唯一の救いやね」 「つまり、エーテルの存在によって並行世界もパラドックスも生まれ得るという訳だ。 だが、松果体が閉じてる人間には知覚すら出来ない。故に、『ない、しかし、ある』とウチは言ったんだ」 ……。 理解が追いつかない。エーテルという魔法みたいなものが世界中に溢れてて、それのせいで化け物や幽霊が生まれる。 御伽噺を聞きにきた訳じゃない。私が、私が知りたいのは。 「理解し難いか。だがお前も襲われたろう。そろそろ諦めて認めろ」 「でも、それじゃあその『開いてる』人間以外がその存在を知覚できないなら、都市伝説――――パラドックスに襲われる人は皆開いてる人間なんですか?」 「それは違う。違うからこそ都市伝説という名前が付いている」 「そや、パラドックスは都市部でのみ、好き勝手に人間を深淵に引きずりこめる」 「だから、『都市伝説』」 「人口がある一定を超えると、それだけ情報の量は増える。奴らパラドックスにとっては活動しやすくなるって訳だ」 「そもそもそれ以外の場所では不安定すぎてすぐに拡散してしまうけどなぁ」 「ウチらはそういった都市に溢れるパラドックスによる被害を防ぐために先手を打って殲滅する。 都市部にて引き起こる平行世界、深淵を観測しパラドックスを見つけ、殺す。それがウチらの仕事」 「……どうしてパラドックスは人を襲うんですか?」 「そういう設定がされてるからや。いや、そういう設定がされてる奴が人を襲うタイプっちゅーか」 「ある化け物が人を襲う、殺すって噂がエーテルと結びついて形を得れば、当然その化け物は人を殺すだろ。 だってそういう情報で出来てんだからさァ」 「じゃあ、私たちは自分の首を自分で絞めてることになるじゃないですか! そんななんにも考えずに発信した噂に殺されるなんて!」 「人間どの時代だって自分の首を絞めて生きるもんやで、まぁそうさせないために俺らが組織されたんやけどな」 「他を生かすために己を犠牲にする。それがアポトーシスだ」 「おややぁ? ナナシちゃんそんな嘘ついてええのん? ホンマは殺したいだけとちゃいますのん?」 「あぁ!? 粉微塵にすんぞハゲカスが!」 「だって、『復讐』のためでもなかったら、あんな危険な都市伝説と契約するかいな」 「猿吉を悪く言うんじゃねぇ! 好きで連れてんだよ。……ってあれ? 猿吉は?」 「さっき出てったわ。ホンマ自由な腕やで」 薫を置いて喧嘩を始める二人。その間薫は今までの情報を整理することにした。 まず、世界にはエーテルという情報と結合する性質を持ったものが存在する。これに嘘は無いだろう。恐らく本当にある。 更にそれが、人間の噂と結びつき寄せ集まることで平行世界が生まれ、更にその中に都市伝説が生まれる。 これはどうだ。なにか重要な部分を隠されている気がする。とりあえず今はこれも信じるほか無い。 次に都市伝説についてだ。奴らは都市部でしか存在できない。理由は一定の人口数がないと情報の結合が弱くて拡散してしまうから。 これは……概ね真実だろう。仮にこの部分が嘘でもあまり問題はない。 最後に、所々に出てくる設定と契約という言葉。これに関してはあえてノータッチなのか、それともこれから説明してくれるのか。 ――――総合して、『話せる部分のみ話している』と判断する。 初めからそういう取り決めだったが、やはりそれらから核心の部分まで推測するのは不可能に近い。 自分の置かれている立場はやはり対等なものではないと足元も再確認させられる。 ふと気が付くと、先ほど姿を消した獣の腕がなにやら紙を持って入ってくるところだった。 「おお、猿吉どこ行ってたんだよ」 「キーコのところだ。どうせお前らには設定の話がうまく出来ないだろうと踏んで、キーコにわかりやすい資料を制作して貰った」 「猿、気が利くやん!」 「まあな。あと、次に猿っていったら殺す」 薫が紙を受け取ると、ベッドの側面に男とナナシが寄ってくる。結果三人で紙を見ることになった。 * 『 キーコのなぜなに都市伝説☆ 【設定】 ※このフリーペーパーは初めて都市伝説を知った初心者ちゃん向けに発行されています! 都市伝説は『噂』という不確定な情報の複合体がエーテルに焼きつくことで生まれる。 しかしながら非常に不安定な存在なので、不確定要素に対し一定水準の確率を常に安定させることの出来る ロア世界でしか存在できない。(強制的にロア世界に引っ張られる) 都市伝説の行動は全て人間の作り出した噂の影響力・浸透率の大小で決定されている。これが設定である ☆例 カタワさんは人間の血を失った部位に塗りつけると、その部位が生えてくるから人間を殺す。 という情報(噂)が存在するとして、 町規模(日数で言うと一週間前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して 恐らく傷が治る程度しか機能しない=その設定は正常に機能していない 都市規模(日数で言うと一ヶ月前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して 恐らく失われているパーツが復元する=設定が正常に機能する 式で表すと 設定=情報の定着量÷事象の大小 が一定の数値を超えると都市伝説に完全に書き込まれる。 事象の大小とは現実世界における影響力の強さであり、 ただ横をすり抜けるだけで危害を加えないという都市伝説の情報よりも、 殺す、呪われるといった影響の強いものほど設定の定着には多くの噂の広がりが必要になる この事象の大小には引きずり込みと呼ばれる、人間をロア世界へ迷い込ませる力にも影響する。 小さい事象ほど小さい範囲で引きずり込みが行われる。 ☆例 車を走らせていると、物凄い速さのババアが隣を走り抜けていった。 ↓ 車の内部ないし人間の体のみこちらに引きずり込めば十分可能。 カタワさんに殺される。 ↓ 町規模で仮想空間としてロア世界を構築しなければ不可能。 人間はその条件や設定が行われるのにもっとも適した範囲でロア世界に引きずり込まれることになる。 殺人などの大きな事象はそれだけ大きな範囲を生成しないと基本的に成り立たない場合が多い 故に複数人で都市伝説に遭遇したり、殺されるシーンや証拠となるシーンを誰も目撃していないというケースが多発する。 基本的な部分は以上! 分かったかな? 』 * こう書いてくれたこうが、会話で教えられるよりも分かりやすいなと薫はうなずく。 隣の二人もしきりに感心して紙を眺めている。 「まぁこの程度のこと知っとったけどな。復習や復習」 「その割には声が上ずってるぜェ足立よぉ」 「はぁ? 何言うてますのん。俺韓国語わかれへんねん」 「テメェ殺す!」 再度二人が喧嘩をし始めた。 と同時に天井付近に付属していたスピーカらしきものから危険を知らせるアラートと、緊急放送が流れ始めた。 【ガガッ――――司令部より緊急放送。研究棟地下実験室よりロアが流出。 AからFまでの隔壁閉鎖。非殲滅部隊は指定の緊急脱出経路より外部へ移行してください。 殲滅部隊壱は脱出経路の警備、殲滅部隊零は地下研究施設にてロアを完全排除してください。】 また、戦いが始まろうとしていた。 To Be Continued… 前ページ連載 - もぐたん
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【上田明也の協奏曲32~月夜に踊る踊る踊る~】 俺の契約する都市伝説にはまだ進化の余地がある。 これから戦いがよりいっそう激しくなることが予知される現在、俺はその進化をせねばならない そう結論した俺は夜中こっそりバイクで事務所を抜け出して特訓をしようとしていた。 努力をしなければ進化なんて、より強くなるなんてありえないからだ。 「…………さて、」 とは言ったものの何をしよう。 真夜中に一人で近所をうろうろするって完全に痛い高校生じゃないか。 夜の散歩で己の影に向かう俺かっこいいーってか? おお寒い寒い。 ――――――――――真面目に考えると 都市伝説の能力でまだ使ってない部分を引き出すか もう使っている部分を更に強化するか 自分がやれることはそのどちらかである。 自分は都市伝説の中でも“操作系”の都市伝説能力の扱いに適正があるらしい。 更に“操作系”に対する飛び抜けた才能から説明のしようがない系統の都市伝説能力も引き出せるそうだ。 逆に何かを“変化”させる能力や 有りもしない物を“作り出す”能力、 そして自らの身体を“強化する”能力も引き出しづらいらしい。 さて自分は都市伝説の“操作する”能力を引き出したが、それ以外には大して何もしていない。 ならば自分は操作系以外の能力を試しに引き出してみれば良いのではないだろうか。 「月の綺麗な晩だなあ……。」 何の気無しに空を見上げると月が綺麗だった。 赤くて黄色くて青くて黒くて白くて明るい丸い月。 さっきまで自分は何を考えていたのだかも忘れてしまいそうだった。 そうだ、俺は月夜の晩に散歩するといつもなにか出会いがある。 今日もそれを待つとしようか。 「イヤアアアアアアアアアアアアア!」 ああ、どこかで誰かが襲われている。 まあとりあえず助けに行ってみるか。 本当に助けるかどうかは襲われている人間見てから決めればいいし。 そもそもあれが今日の俺に与えられた出会いかもしれない。 俺は悲鳴の方向にバイクを走らせた。 俺が見たのは芥子色のセーターを着た女性に襲いかかる首無しライダーだった。 暗くても俺にはよくわかる、あの変態的なファッションセンスを除けば中々好みのタイプだ。 いいやむしろ! 可愛い女の子はちょっと変人なくらいの方が萌える! なぜなら親しみが持てるから! 俺は女性を守るようにその首無しライダーを奴のバイクごと我が愛車IMZ・ウラルwithサイドカー(戦闘仕様)で挽き潰す。 目前の敵の骨を粉砕撃滅するいい音が響いた。 「ライダー!ヴィア・エクスプグナティオ!? 私がマスターにでもなるの?」 何を言っているのだろう、頼むから日本語で話して欲しい。 「……ライダーって、仮面ライダー?」 「え、あ、……何でもないです。ってあれ? よく見たら貴方は…………。」 「お久しぶりです看護婦さん。お変わりありませんか?」 「今は看護師なのです。」 ――――――――――ていうか、知り合いだったのだ。 彼女は俺が先日起こした病院破壊事件で病院の建物が崩落する所に巻き込まれた看護婦だった。 俺が思わず助けてしまった後、精神が錯乱していたので放っておいていたのだが……。 「いやあそれにしても探偵さんには二回も助けられてしまいましたね。」 「なに、趣味でやってるから気にしないでください。 それよりもこの辺りは危ないですから……良ければ送りましょうか?」 「いやいや悪いですよ。 三回もお世話になってちゃ申し訳ないです。」 「それを言ったら俺だって前に病院で迷った時に道案内して貰っていますから。」 「ああ、そうだ! そういえばあの患者さんは今日退院でしたよね!」 「そう……ですね、まあ忙しくて中々あれ以来見舞いにも行けなくて……。」 「それは駄目ですよ、あの子……純ちゃんでしたっけ? 絶対探偵さんのこと好きですよ、罪な人ですねえあんな小さい女の子にまで好かれるなんて。」 「ははは……そうなんですかね?」 「そうですよそれは。」 「なのかなあ?あ、こっちのサイドカーに乗ってください。」 「わぁ、サイドカーなんて始めて乗ります!」 サイドカーに乗り込む看護婦さん。 ところで、サイドカーは運転席より少々低いところにある。 セーターで解らなかったが、上から見ると中々どうしてたゆんとしていらっしゃる。 素晴らしいことだ。 胸は無くても良いが有っても良い。 どちらにせよ均整のとれた麗しい形であれば良いのだ。 でも、この大きさは素晴らしい。それだけで一つの美として認めざるを得ない。 偶然にも立ったこのフラグは大事にせざるを得ないだろう。 修行なんて後回しだ。 友情・努力・勝利とか目の前のおっぱいに比べたら犬の餌なのだ。 「住所は?」 「えっと、北区の外れですね。ハッピーピエロ北区店の近くです。」 「了解。」 バイクは静かに走り出す。 月をかげらせる雲が伸びて辺りは急に暗くなっていた。 「そういえば探偵さん、探偵さんって何者なんですか? ビルを爆破してみたり空飛んでみたり……。」 「え、俺は探偵ですよ。ビル爆破したり空飛ぶだけの。」 「そうですか。」 「そうですね。ところで俺だけ質問されるのもあれなので俺から質問しても良いですか?」 「はい、どうぞ。」 「看護婦さんの名前を教えてください。」 「看護婦さんは看護婦さんです。」 「俺が聞いたのは名前です。」 「そうですか、じゃあ倉光とでも呼んでください。」 「解りました看護婦さん、じゃあそういうことにしておきます。」 「それじゃあ今度は私の質問です。 私をさっき襲った首の無い人は何者だったんですか?」 「都市伝説と呼ばれる物です。あれは首無しライダーかな?」 「なるほどなるほど……。」 何時の間にか質問合戦のようになっている。 面白い、俺と質問合戦しようなんて俺を知る人間は考えない。 だが今俺の前の前にいる彼女は俺をあまり知らないのだ。 ならば良いだろう、どうせだからとことん遊んでやろう。 まずはどれくらい狂っているのかを試すか。 「看護婦さん、あの事件の時に貴方は人命は軽いと言っていましたが……。 本当にそうなんでしょうか?」 「それはそうですよ、だってあんな良い人だった院長先生が死んでしまうんですもの。 だったら人間の一人や二人、簡単に死んでも構いませんよね。」 交互に質問をするというルールを無視してたたみかける。 「人間の一人や二人死んでも良い、それは正しいのでしょうか? 貴方はさっき襲われて悲鳴をあげた。 前に貴方を助けた時も貴方は恐怖だけでなく安堵の色を見せていた。 貴方自身は死にたくないんじゃないですか?」 「それはそうですよ、私はまだ死にたくないです。」 「貴方は人間じゃないですか。」 「ええ、人間です。人間だけどそれ以前に私です。」 「ふぅん……、そうですか。」 「じゃあ私からの質問を……。」 「ああ、【ちょっと待って】ください。」 狂う素質が有るかどうかのテストは及第点だ。 バイクを運転しているくせに隣に座っている彼女の瞳を覗き込んでお願いをする。 決めた、この娘で遊ぼう。 「もう、仕方ない探偵さんですね。」 「ありがとうございます。いや、【貴女に興味が出てきた物ですから】。」 言葉が浸透していく。 俺の言葉が、俺の気持ちが、相手の意志を無視して浸透していく。 相手は内側へ入り込んできた俺の気持ちを何時しか自分の気持ちと取り違える。 そして俺は相手のわずかな言葉から相手の気持ちを想像し、自分の中に取り込む。 勝手に想像して勝手に取り込んだ物を相手の内側にまた流し込む。 フィルターを使って都合の良いものだけを抽出するような作業。 「貴女は人間だけどそれ以前に自分は自分だと言いましたね。 だから人間が死んでも良いけど、自分は死にたくない。 ふむ、そうですよね。 世の中なんて無くなっちまえ、ただし自分除いて。 良くある話だ。 でもね、無くなっちまえとか、死んでも良いとか、 そんなこと考えている時にそう思っている対象って大抵人間全体じゃないんですよ。 むしろ人間ですらないことが多い。 貴女だって本当に無価値に思えたのは人間の命じゃない。」 「じゃあなんなんですか?」 「都市伝説のような非日常ですよ。 貴女が尊敬していた太宰院長の命を、尊い命を容易く奪った非日常。 貴女が非日常と言う言葉にどんな価値を認めていたか私には解らない。 でも心優しい一人の老医師の命をあんな簡単に奪う物ならば、 非日常という存在には価値なんてない。 そんなものただただ陰惨で残酷なだけだ。 そう思って貴女は非日常に絶望した。 でもそれを認めたくないから、貴女は人の命の価値がないと言うことにした。 …………なんて、戯れ言ですよ。探偵って仕事やってるとつい、こんな馬鹿なことを言ってみたくなる。」 自分で言っておいてあれだが自分は何を言っているのだろうか。 非日常の無価値さを認めたくないから、人の命の価値をおとしめて自らの平衡を保った。 だとしたら彼女はどれだけ非日常に夢を抱いているのだ。 「…………じつは、そうなのかもしれません。」 え゛っ? ……えっ? ―――――――ええええ!? どんだけ非日常に夢抱いちゃっているのこの子!? 「私、小さい頃から絵本が大好きだったんです。 お伽噺には何時でも出てくるじゃないですか、白馬の王子様。 ああいうのが何時か自分にも来てくれると信じて生きていたら何時の間にか大人になっていて……。 今も実家に暮らしていて両親に迷惑かけ続けで…… 趣味なんて絵本の代わりに何時の間にか嵌っていたゲームしかなく……。 女子力ダウンってレベルじゃない残念な現実ですよ。 そしてそこから逃げる為にまたゲーム等に逃避して……。」 たゆん 再びチラリと胸を見る。 あなたの女子力はどうみてもMAXです。 完全にカンストどころかオーバーリミットしてメーター振り切れているので安心してください。 「でも看護婦さん。俺思うんですが逃避するって悪いことですかね?」 「えっ?」 「俺なんてそこそこまともな家の生まれだったのですが家業が嫌で逃げ出しました。 商才だけは両親に似たらしくって探偵事務所は切り盛りできているんですけど…… まあこれも逃げですよね。 あと昔付き合っていた女性が最近結婚するらしいんですけど、 その結婚相手が俺のことをある理由から滅茶苦茶恨んでいてデスねえ……、、 なんていうかこのまま放っておくと後々面倒になりそうなんですけど俺は何も出来ていません。 まあこれもまたまた逃げですよええ。 とまあ学校町の名探偵と名高い笛吹さんですらこれですよ。 人間ってのはむしろ逃げない方が難しい。」 「名探偵……?」 「さっきの首無しライダーみたいなの退治して回っているんですよ。 料金は応相談、名刺には書いてませんけどね。 ちなみに暇な時は浮気調査やら失せ物探しやら人探しやらやってます。 都市伝説っていうかそっちの筋ではそこそこ有名なんです、そこそこ。」 「へぇ……。」 「で、まあさっきの逃げる逃げないの話に戻りますけどね。 現実から逃げるのは決して悪くないです。 ただ追いつかれるだけなんですから。 ただ追いつかれた時に痛い目に遭うだけですから。最悪振り切ればいい。 此処で問題なのはまたも貴女の言葉が貴女の心理を正確に表していないことなんです。 あなたは貴女が逃げているのは現実じゃなくて日常です。 ストレスの多い普段の生活から逃げたいと思っているだけです。 でも、貴女が逃げ道にしていた非日常も今回の事件で最低だと解ってしまった。 だから貴女は人の命の価値を切り捨ててまで非日常という自分の為の逃げ場を維持しようとした。」 「探偵さん、気になるんですけど……。」 「なんですか?」 「探偵さんが私を分析したことで私は日常にも非日常にも逃げ場がなくなっちゃったんじゃないですか?」 「いいえ、貴女はこれからも非日常を逃げ場にし続けたらいい。」 「え、だって私がもう非日常にも絶望しているって言ったじゃないですか。」 「ええ、でも日常と非日常は違います。 非日常は自らの意志で変えてしまいやすい。 日常は貴女以外にも沢山の貴女と関係有る人間が干渉してきます。 家族とか友人とか同僚とかですね。 そうするとそれを変えることに遠慮するでしょう? でも非日常ならそんな心配要らない。 なんせ貴女の非日常を知るのは私と貴女だけだ。 貴女は貴女の望むように貴女の非日常を楽しめばいい。 たとえば……、コスプレしてさっきみたいな都市伝説を倒してみるとか。 軽くヒーロー気分ですよ?」 「そんなの無理ですよ、だってあんなお化けみたいなの倒せる訳無いじゃないですか!」 「それが】【貴女の】【思い込みだ。」 なんとなく、遊びが最終段階に入ったと感じる。 あと少し方向性を示すだけで彼女は完全に狂う。 「そもそも都市伝説を倒すなんて簡単だ。 貴女も都市伝説の力を借りればいい。 いいや、それすら必要ない。 たとえば銃弾で眉間をぶち抜く。 もしくは毒薬でこっそりと命を奪う。 あとは俺みたいな人間を騙して都市伝説を無料で倒させても良いかもしれない。 まあ方法は任せますけど。 ありとあらゆる都市伝説について調べ抜いてその攻略法を探求していけば…… 極論ですが、只の人間でも都市伝説は倒せる。 そもそも妖怪だのお化けだの都市伝説の元になったもの達は 『人間に退治される為に生まれた』存在だと言われていますから。 彼等も所詮人間の望みから生まれた以上、人間に消されるのが宿命なんでしょうね。」 「…………なるほど。」 「わかってくれましたか? 只の人間だからって非日常に巻き込まれるだけである必要は無い。 むしろ楽しまないといけません。 物事は何でもハレとケがあります。 非日常を自分の望むように変革すれば、きっと楽しい人生を送れますよ?」 俺は微笑む。 彼女の顔が輝く。 眼と眼があってそこに一瞬の間が生まれた後、彼女は口を開いた。 「なるほどなるほど……そうですね! 最初からそうすれば良かったんだ、ありがとうございます!」 ――――――――――――――ああ、完璧だ。 もともと狂気に陥る素質が有る人間を完璧に堕とすのは何時でも楽しい。 だって彼等が本当に幸せそうにしてくれるから。 俺の作業が終わるとそこから先はたわいもない世間話をした。 お気に入りの中華料理店とか、お気に入りの麻婆豆腐とか。 そうやって話している内に何時の間にか彼女の家の前までついていた。 「困ったことがあったら何時でも言ってください。 これ、私のプライベートの方のメールアドレスと携帯の電話番号ですから。 都市伝説の倒し方までなら無料で教えられますし。」 「わぁ、ありがとうございます! あれ……今携帯もって無いんですか、赤外線通信の方が早いですよ?」 「そういえばそれもそうか。あんまりやったこと無いんだよなあ……。 これで大丈夫ですか?」 「はい、ばっちり登録されました!」 おいおい、白衣の天使のメアドゲットできちゃったよ。 流石俺、流石名探偵俺。 故意……じゃなくて恋の行方も操作……じゃなくて捜査しちゃうぜ!ってか。 「それじゃあ今日はここのところで。」 「はい、今日は本当にありがとうございました。 今度こそお礼させてくださいね、その中華料理店とかでご飯でもごちそうさせてください。」 「良いんですか?嬉しいなあ、無駄遣いして今週ピンチだったんですよ。」 今週ピンチとか当然嘘ですごめんなさい。無駄遣いなんてする性格じゃないです。 自分が持っているビルのテナント代も入っているのでほくほくです。 でもちょっとだらしないところを見せた方が良いじゃないですか、可愛らしく見えて。 心の中で看護婦さんに謝りながら俺はMZ・ウラルで事務所に向けて走り出した。 【上田明也の奇想曲32~月夜に踊る踊る踊る~fin】
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さて、ここはとある住宅街の一角。小学校も近い。 そんなところを俺は今全力疾走している。――ある『爺さん』に追いかけられながら。 その日、俺は散歩をしていた。学校も休みで、正直やることもなく暇だったからだ。 散歩中に旧友にでも会えたならよかったのだろうが。待っていたのは最悪な出会いだった。 ―――――爺さんだ。 その爺さんは、向こうの道から歩いてきた。 傘を持った爺さん。降水確率0%と今日の朝の天気予報で言っていたにもかかわらず傘を持っている。 その傘を持った爺さんとすれ違おうとしたとき、爺さんはその傘を俺の脇腹に当てた。 厳密には、「つついた」のだが、それに反応してしまった俺は、爺さんのほうを向いてしまった。 ―――その瞬間だった。俺の前の地面がへこんだのは。 その爺さんは、傘の一振りでもって俺の前のコンクリートの道路をへこませた。 …ヤバイ。直感的にそう思った俺は走り出した。爺さんから逃げるために。 「ハァッ、ハァッ…なんて運動神経してやがんだ…!あの爺さん!」 10分くらい走っているのだが、さっきから爺さんは疲れる様子は全くない。 それどころか、塀の上を走ったり、電信柱をどんどんと飛び移るという人間離れしたことまでやってのける。 しかし、いくら昼下がりの住宅街といってもなぜ人がいないのか。いてもこんな状況で助けてくれるとも思えんが。 仮に交番へ「傘を持った爺さんが追いかけてくるんです」などと言っても笑われるだけに違いない。 …あの爺さんは、どうやら俺を見失ったらしい。俺の後ろに爺さんはいない。 非現実すぎる現実を頭の中で整理しながら俺はすっかり迷い込んでしまった住宅街から逃げる道を考えてながら住宅街の角をまがった。 「…ッ!」 そこには爺さんがいた。だが、よく見ると傘を持っていない。どうやら一般人らしい。俺は藁にもすがる思いでその爺さんに話しかけた。 「そこの爺さん、ちょっと助けてくれ。道に迷っちまって。」 「…フゥム…ずいぶんと疲れておるようじゃの、若者。」 「ちょっと人に追われててな。…急いでるんだ、早く大通りへの道を教えてくれ」 しかし、その爺さんは道など教えてくれず、違うことを話した。 「かさジジイに襲われたんじゃな…全くあのジジイときたら…」 「えっ!?かさジジイ!?」 「最近このへんに傘を持ったでんぢゃらすなじーさんが現れると聞いてな。そのジジイはわしの昔馴染みじゃからの。 久々に顔を見るついでに成仏させてやろうと思うてのぅ。」 「…成仏!?」 同年代の爺さん相手になんてことを言うのだろう。そんな事を思ったが、傘ジジイという名前に俺は昔の記憶を蘇らせ、それを爺さんにぶつけた。 「…かさジジイ…?あんなに凶暴な爺さんだったか?」 ―――傘ジジイ。晴れの日でも傘を持ってて、通り過ぎる人を傘でつつく。 雨の日にも現れるがなぜか傘を使うことはない。 子供のころ小学校で聞いた都市伝説だ。実際にいるとは思ってなかったが。 「昔は、な。今は傘に取り憑かれたただのもうろくジジイじゃよ。」 「…ところで、あんた一体何m」バコォオオォン! …俺の後ろで爆音が鳴り響いた。後ろに振り替えると、家のブロック塀が粉々になっていた。 そしてそこには傘を持った爺さん――「かさジジイ」が立っていた。 「話しとるひまはないの、若者」そして俺と爺さんは後ろへ走り出した。 「なぁ爺さん、アンタ何者なんだ?」 「この状況から助かりたいか若者!家に帰りたいか若者!」 「質問に答えろおぉぉぉぉぉぉ!」 そんなやり取りのうちにもかさジジイは俺たちに近づいてくる。 「生きたいか若者よ!それとも逝きたいか!」 「爺さんがそういう表現使うんじゃねえよ!生きてえよ!」 「ならば話は早い!わしと契約するんじゃ!そうすればわしがお前さんを手助けする!」 …契約?意味がわからない。どういう契約だよ。が、俺の口からは別の質問が出ていた。 「契約ってどうやんだよ!」「このハンバーグを食べるんじゃ!」 そういって出されたのは何の変哲のないハンバーグ。…食いかけ。 「…こんなん食うだけでいいのか!?そんだけで助けてくれるのか!」「ああ!じゃから早く食え!早くしないと両方とも逝ってしまうぞ!」 だからその表現をryと突っ込む時間もなく、俺はそのハンバークを口に入れた。 ――――ある日、家の車のフロントガラスにあり得ないものが張り付いていた。 それは、「ハンバーグ」。食べかけのハンバーグが張り付いていた。 当時、かさジジイとともに広まっていた伝説。わが町だけの伝説だと知ったのは中学時代に入ってだった。 「ハンバーグジジイ」――――車にハンバーグを張り付ける変な爺さんだ。 …フロントガラスのハンバーグ。俺のとって初めての怪奇現象だった 「お前が俺んちのフロントガラスにつけたのか!あのハンバーグ!」 「ほぅ、お前さんちにも行っていたのか。現役のころの時代がよみがえるわい。ほっほっほっ…」 「なつかしむ前に今はこの状況から助けてくれ!早く!」 正直もう危ない。傘が空を切る音がすぐそこで聞こえる。 「お前さん、ハンバーグを作ったことはあるか?ハンバーグの形を作るような動きをしてみよ。」 「…こうか?」昔調理実習あたりで作った記憶を必死で蘇らせながら手を動かす。 「…いい動きじゃ。…そろそろじゃ…」「…?おおぉぉ!?」 手が光り輝き、一瞬で手にハンバーグが生み出された。「おい!これでどう助かるんだよ!」 「あとはわしに任せい! ぬえぃ!”肉塊移動”!」 「ぶごわぁぇぁぃぅぇ!!?!?!??」 一瞬だった。俺の手からハンバーグか消えたと思ったらそれはかさジジイの顔に直撃していた。 「ほあぅえうおりkfぢうじゃぃ……」「久々じゃの、ジジイ。」 できたてのハンバーグの熱さにのたうちまわるかさジジイ。その横に立つハンバーグジジイ。 「全く…体もボロボロのくせに…無理しおってから…」 そう言いながらかさジジイにハンバーグを食べさせる。…そして、なぜかかさジジイが消えかけていく。 「わしは、まだ逝かん。じゃから、せめて冥土でばあさんと暮らせや。元気での。」 「あ…ぅ……」 そして…かさジジイという名の都市伝説はいま、消滅した。 「…で、爺さんいつまでついてくるんだ?かさジジイには会っただろ。」 「わしとおまえは契約を交わした者同士じゃからな。都市伝説と戦ってゆくことになる」「はぇ!?」 「そういえば話してなかったの。都市伝説と契約したものは悪い都市伝説と戦うことになる、と。」 「……へ?…てかアンタ悪い都市伝説の類じゃないのか?」 「フン、わしゃあまだぬるいもんじゃよ。あのジジイもな。ただあやつは傘に取り憑かれ、凶暴化しただけじゃがな」 「…で、俺にその凶暴な都市伝説と戦えと?」「拒否権はないぞ若者。それにおぬしはわしに借りがあるじゃろう?」 「……わかったよ、爺さん。戦うぜ。爺さんのハンバーグとともにな。」 とまぁ、こんなわけで俺の都市伝説との戦いはある晴れた日から始まった。 前ページ次ページ連載 - わが町のハンバーグ
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とある昼下がり 学校町の繁華街に存在する、ウェイトレスの制服のデザインがちょっとアレな事で有名なファミレス「フェアリー・モート」にて ことん、と 机の上に置かれた小さな子瓶 中には、液体…薬品が入っている 「これが、悪魔の囁きを体外へと排出させる薬かい?」 「あぁ。つっても、深く憑かれた奴には、一発じゃ効かねぇからな。そう言う奴には、数度に渡って投薬するか、投薬前に説得なりなんなりして、悪魔の囁きを少しでもそいつから引き剥がす必要がある」 「第三帝国」所属のドクターと、マッドガッサー一味の1人である広瀬 辰也 この二人はとある理由から協力しあっており、時折、こうやって薬品類の譲渡などを行っている 辰也が、本来はドクターのような研究者の類を毛嫌いしている事を考えれば、随分と異質な光景である 「こっちでは、ひとまず、魔女が精製に成功した。だから、それはそっちで好きに使え」 「あぁ、それでは、そうさせてもらおう」 薬品の入った小瓶を、懐に仕舞うドクター その表情には、やや疲れが滲んでいた 「また、ロクに休んでねーのか、お前は」 「…何せ、沙々耶が襲われてしまったからね。彼女を護る為の対処もしなければならないからな」 「…悪魔の囁き契約者の、口封じか」 ドクターの研究の成果によって、悪魔の囁きから人間になった少女、沙々耶 だが、彼女から、悪魔の囁きであった頃の記憶が消えた訳ではない …契約者であった存在に、彼女はいつ、口封じされてもおかしくないのだ 人間となった今、その気配を探る事もできないであろうから、彼女が過敏に犬を怖がっていなければ、ほぼ、バレなかったはずなのだが 「朝比奈 秀雄。かなり冷酷な人物のようだね」 「…冷酷どころか、人間のカスだ」 ぼそり、低く呟く辰也 朝比奈 秀雄と言う男の経歴その他を調べた結果わかった事実は、ただでさえ、仲間が悪魔の囁きに憑かれて暴走したり、悪魔の囁き憑きに襲われて負傷した事実から彼が抱いていた怒りに、油を注いだ 辰也にとって、朝比奈 秀雄と言う男は、どこまでも憎悪の対象でしかなくなっていた 「相手の戦力その他は、こっちのメモに纏めといた。「第三帝国」が連中に対してどう言う態度に出るかは知らねぇが、使えそうだったら使っとけ」 「ありがたく、その情報も頂こう……こちらとしては、総統が無茶な事をしでかさない事を祈るばかりだよ」 小さく苦笑するドクター …そうなのだ 朝比奈の、クールトーとの契約による、犬を操る能力 それは、「第三帝国」総統日本支部代表にとって、まことに嫌悪すべき能力である 無茶な事をしでかさないでほしい 本当に、祈るばかりである 「…それにしても、これくらいのやり取りなら、診療所で行っても、良かったのではないかね?」 コーヒーを口にしつつ、そう尋ねるドクター まぁ、この店のウェイトレスの制服は、目の保養になるのでこれはこれでいいのだが …ドクターが尋ねたその言葉は、辰也は難しい表情を浮かべた 「……つってもな。診療所にあの餓鬼がいる時は、なるべくこう言う話はしたくねーんだよ」 「エニグマ姉妹の、妹の事かね?」 あぁ、と頷く辰也 あの少女から、何らかの都市伝説の影響を感じて以来、辰也はずっと、彼女を警戒し続けていた なるべく顔を合わせようとせず、彼女の前ではいかなる情報も口にしようとしない 徹底したさけようである 出来うる限り、恵を彼女に会わせないよう努力も忘れていない 「何の都市伝説の影響か、わかったもんじゃないからな。悪魔の囁きの可能性だって捨てきれないし……万が一、「アメリカ政府の陰謀論」の影響なんざ受けてた日にゃ、洒落になんねぇだろ」 「まったく、君は警戒心が強いな……まぁ、悪い事ではないと思うがね」 辰也の生い立ちや今までの経験を考えれば、むしろ、その警戒は当然の事と言えよう 自身の身の安全のためにも、仲間の安全の為にも 彼は、強い警戒心を持って、行動しているのだ …その辺りに関する知識は、恐らく一部…どころか大半が、あの黒服から受け継いだ知識なのかもしれないが 「複数の都市伝説組織と敵対してんだ。警戒は当たり前だろ」 ドクターの予想通り、そう口にする辰也 そうだな、とドクターも頷く 「…君が身につけているピアスが、ミスリル銀製なのも、一部都市伝説の不意打ちを警戒してかい?そのピアスならば、「ピアス穴の白い糸」の効果は受け付けないだろうからね」 「……よくわかったな。これがミスリル銀だって」 ちらり、普段は肩の辺りまで伸ばされた髪に隠れてよく見えない、その耳 そこにつけられた一対のピアスは…確かに、ドクターの言う通り、ミスリル銀製だ その存在自体が都市伝説であるそれは、他の都市伝説の影響を受け付けない 「組織」にいた頃に、黒服Hから渡された物だった ……また、あれに世話になっている事実に気づかされ、辰也はやや、面白くない 「…とにかく。あいつについてる都市伝説、さっさと確認した方がいいんじゃねぇのか?」 「……そうだな。君の言うとおり、「アメリカ政府の陰謀論」の影響を受けていたら…それは、問題だ」 …もっとも、それ以上に問題なのは 彼女についているのが「アメリカ政府の陰謀論」だったとして…それが判明した時、どうするか? それが、非常に重い問題として、存在してしまっている それが、ドクターを憂鬱にさせた 「もしもの時は、こっち経由であの双子の餓鬼の引き取り先、探すぞ?」 「…気持ちだけ受け取っておこう。こちらの問題は、こちらで始末をつけるさ」 …それが、最悪の結果になってしまわないように、努力するだけだ ドクターはそう、口の中で小さく付け足したのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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広がるカオス、阿鼻叫喚 それらを、前に 「くっかかかかか、人の身であのようなものを生み出すとは…さすが、翼の母親よ」 平気で笑っている祟り神がいた 「首塚」首領 平将門である 「うー!すごいー!うーうー!」 きゃっきゃっ、とその将門の傍らで、コアラの絵が描かれたお菓子をもったちみっこも笑っていたりする …何故、ここは平和なのか? あえて言うならば、ここには化死窪喪血が、近づいてこないからだ ……何故、近づいてこないか? それは、将門の霊圧に、化死窪喪血が恐怖を感じて、近づかないからだ 「笑っている場合ですか…そろそろ何とかしないと、不味いでしょう」 はぁ、とため息をつく盟主 なお、盟主も(小言を言うために)将門の傍にいるので、化死窪喪血の被害はこうむっていない 「ふむ、そうだな……では」 杯を、一度下ろして 将門は、蠢く化死窪喪血を……睨みつけた 将門と同様、ほぼ、この被害を受けていない男がいた 朝比奈 秀雄だ 何度か、化死窪喪地が彼に近づこうとしているのだが……ギロリ、一睨みされただけで、逃げていく かつて、大量の黄金伝説のドラゴンを従えた男の覇気に、化死窪喪血は恐怖を感じたのだ …とまれ 秀雄は、このばか騒ぎに加わる気はなかった 己の妻が原因ではあるが、彼女の手料理で都市伝説が何人消滅しようと、彼は気に止めない ……都市伝説嫌いが、治った訳ではないのだ が しかし 「………」 彼の、視界の先で 迫り来る化死窪喪血に、ぎゅう、と角の生えた兎を抱きかかえて、怯えている女性が一人 彼女を庇うように、黒髪を肩まで伸ばし、シルバーのピアスをつけた青年が化死窪喪血を牽制しているが、接近されるのは時間の問題 同時に 己の母親が原因のこれを、どうにかしようとしているのか 化死窪喪血を何とかしようとしている、翼の姿も目に入った が、翼の契約都市伝説では、化死窪喪血を完全に倒せず… 「………」 …二人の子供の、危機を前に 秀雄を中心に………鋭い殺気が、広がった 将門の霊圧と 秀雄の殺気と覇気が、混ざり合って 「ルルイエ!?」 「イアクトヴグァ!?」 「ヒギィラメェ!?」 「レモンハオレノヨメー!?」 「コンヤアツスギルンダヨチクショォオオオオ!!!」 数体の、化死窪喪血が 恐怖におののき…………ぼたぼたと、活動を停止し、落ちた 「…さ、さすが将門公…」 「私達も、もの凄い悪寒を感じたけどね…」 望と詩織とノロイを、パワーストーンの結界で護っていた黒服 ようやく、事態が終結を見せて、ほっと息を吐いた まだ、霊圧と覇気から零れ落ちたのか、少し化死窪喪血が残っていた、が 「さすが、将門様!」 翼が、将門に尊敬の眼差しを送り それに、誠が強烈な嫉妬のオーラを発生させ …そちらにやられて、落ちた 恐るべし、嫉妬心 祟り神の霊圧やかつて覇王になろうとした男の覇気に、負けてない …そんな嫉妬心爆発の男の隣で、平然と料理を食べ続けている直希は、肝が据わっているのか単に鈍いのか とりあえず 「首塚」の花見会場の平和は、どうやら戻ったらしいのだった 同時刻 キング化死窪喪血を相手にしていた、上田 …が 何かが、それに触れた、瞬間 「---っ何!?」 キング化死窪喪血が…一瞬で、破壊された その姿が粉みじんになって、それが姿を現す 「もう、びっくりしちゃった」 ポニーテールが、風に揺れる 明日 晶の能力によって閉じ込められていたはずの、エリカだ 一体、何をしたと言うのか、脱出してきたらしい 「大丈夫?怪我、してない?」 「いや、俺は大丈夫なんだが………晶が…」 「あ、さっきの子?なら、治してあげなくちゃね」 治す? あんな、猛毒を超えた禍々しい物体を口にしたのだ サンジェルマンの薬でもないと… 「ん~、それと。流石に、これも勿体無いわよね」 と、エリカは上田の様子に気付いた様子もなく ひょい、とキング化死窪喪血のカケラを……左手で、拾い上げた 直後 彼女の左手が、光に包まれる 再び、驚愕する上田 エリカの手の中で………化死窪喪血は、普通の柏餅になっていた 「あー、柏餅だったのね。本来は食べ物になるはずだったんだろうな~、ってのはわかったんだけど、何かまではわからなかったのよね」 「……お前、何者だ……?」 警戒する上田 閉じ込められたはずの状態から、脱出してきた事 キング化死窪喪血を、一瞬で破壊した事 そして…その禍々しい物体を、本来あるべき姿に戻した 間違いなく、都市伝説能力 しかし、一体、何の都市伝説だ? 「あら?前に名乗ったでしょ?………「追撃者」よ」 くすくすと、エリカは笑う すぅ、と両腕を広げて見せた 「壊すも治すも、自由自在。それが、私が偶然手に入れた力なの」 一方の手は、創造と再生を もう一方の手は、慈悲なき破壊を それが、玄宗 エリカが契約した都市伝説の能力 マステマとの契約を拒む、人間が契約するには過ぎた力 「それで、晶ちゃんはどこにいるの?早く治してあげなくちゃ」 左手を掲げ、そう言うエリカ …自分は、どうするべきか? 警戒すべき相手を前に、上田は判断を迫られるのだった シリアスぶってるけど所詮ギャグですよと言いつつ続くかどうかわかんね 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う・悪意が消えたその後に
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「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ」 荒い息を吐きながら暦はプラネタリウムを目指す。 エーテルが通話の締めに言っていた事を思い出す。 「……最後に一つだけ。 気をつけろ、今、お前は人と伝説の境界線にいる。 暦のバランスは伝説側に崩れ始めている」 「強すぎる者は、いつの世も、人として生きることを許されず、伝説となる」 「こちらには来るな」 「都市伝説を倒す事を生き方にはするな」 「俺は黒服になってしまった。 怪異を人知れず倒すを目的とした怪異に」 「だから戦友よ。心より忠告する。 都市伝説を殺す手を休め、人として生きろ…… 俺にはそれが出来なかったからな……」 そういって通話は切られた。 含蓄のある言葉だ。 怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。 そういう風に言った哲学者が居たはずだ。 エーテルは恐らく生涯でただ一度転んだのだろう。 人と伝説を分かつ深淵の上で。 都市伝説から人を守る為に都市伝説になってしまうとは なんと言う皮肉だろう。 「言ってる事はよく分かるけど とりあえず此処を切り抜けないと先が無いのよね~!」 怖くは無いけど辛い。 なんとかプラネタリウムに辿り着くと衛悟が出迎えてくれた。 彼は同じ高校に通う友達で組織に務める契約者だ。 「暦!連絡を受けてすっ飛んできたぞ、大丈夫か!?」 「あ、衛悟も来てくれたんだ~。 全然問題ないけどしんどいよー」 「いや、あんな連絡を受けたらほっとけないだろ」 「来てくれてありがと、中の人払いは?」 「ああ、もう既に退避は完了している」 「仕事が速いわねー黒服さんもエーテルさんの薫陶が行き届いてるみたい。 衛悟にもやって欲しいことがあるんだけどいいかな?」 「俺に出来る事なら何でも」 二人して人気の無いプラネタリウムの内部に入る。 内部には先ほど頼んだとおり、ガシャポンの玉やボールなどの 街から集められた球体が山ほど積んであった。 「それじゃ、衛悟はそこと、そこと、そこと…… あそこの入り口以外全部の九十度以下の鋭角を水で包んで」 「分かった」 衛悟の契約している「水の記憶」が発動し プラネタリウム内部が水浸しになる。 壁の皹、人工物の直角が水の幕に覆われていく…… 水が壁の角を消す。ひび割れを埋める。 人工物の直角は包まれて丸くなる。 「……流れる水に鋭角は無いわ、連続体だもの…… 溶解がティンダロスによく効くのもそのせいね。 液体の中に鋭角は存在しない。 ……普通の時間は円、時計の針が廻るように…… 時間の角ってのは針が指し示す区切られた不自然な時間ね。 ティンダロスはそれを物質の角と同一視して如何なる時間にも現れる…… 再出現のインターバルが15分なのも多分その影響」 普通の水は丸い。水滴を落とせば表面張力で自然と球形になる。 連続する流体の表面に鋭角は存在できない。 「衛悟のお陰でプラネタリウム下部の鋭角を切り取る作業をしなくてすんだわ」 プラネタリウム上部の天井は壁に星を写す性質上球形だ。 後は椅子や床にある鋭角を潰してしまえばいい。 「でもあそこの入り口をふさがなくてもいいのか?」 「私は閉じこもる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけじゃないのよ…… もうすぐ十五分ね、さ、ボールとかガシャポンとか入り口に仕掛けるわよ」 唯一残された人工物の角から青黒い煙が立ち昇る。 暦のナイフが閃き、煙の手前でガシャポンの玉が砕けて…… 「捕まえた」 時間を戻されたガシャポンの玉が再び砕かれる前の形に戻った。 ただし、ガシャポンの中には ティンダロスが実体化する前の青黒い煙が封じられている…… 青黒い煙が外に出ようともがくがガシャポンの玉はびくともしない。 「これは!!」 「やっぱり予想通りね。 実体化する前なら即席の結界石代わりのガシャポンでも捕まえられると思ったわ。 完全に出入りを封じて建物を壊されちゃったら堪らないし。 たった一個だけ鋭角を開けておけばそこから入るしかない。 時間を計って待ち伏せておけばどってこと無いわよ」 暦は逃げる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけではない。 迎え撃つ罠を張る為に此処を選んだのだ。 「で、これで衛悟もやり方は分かったでしょ? でも来てくれてほんとに助かったわー、持つべきものは仲間ねー。 実体化する前に水の幕で球を作って閉じ込めちゃえばいいのよ。 交代しながらやれば体力的な心配も無くなるし。 時間を稼いでいる間にもっと応援を呼んだっていいわ」 暦は普通の人間なら怪異に脅えて震えるしか出来ない時間を 待ち構えて怪異に打ち勝つ時間に変えてしまった。 「汝、時間に祈る事無かれ」 暦は煙の詰まったガシャポンの玉を拾い上げると呟く。 「特殊な能力の無い契約者じゃない普通の人だって…… 角にボンドぶちまけるなりくす玉とか用意すれば同じことが出来るかもね。 怪異や都市伝説相手には頑健に抗う意思が何より大事なのよ」 【続く】