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「あっ、霧切さん! ……えっと、おはよう」 「……ええ、おはよう」 顔を合わせるなり、急ぎ足気味に寄って来た苗木君に、少し胸が波立つのを感じた。 思いの外、強い力で抱き締められると、今度は紛れもない動揺を感じてしまった。 結果として、返せたのは様式的な挨拶だけだった。唐突な抱擁に、上手く頭が働かず、数瞬思考が止まってしまう。 何故? どうして? というホワイダニットを繰り返すのは、物心つくころから染み付いた習慣だったが、 ここまで解答への糸口が掴めないのも稀で、巡り巡らせても暖簾に腕押しのように思えた。 「出会い頭に、とんだご挨拶ね」 刺々しさを含んだ語気になってしまったのは、優位性を取り戻そうとしたからかもしれない。 実際の所、彼に翻弄される一方なのは珍しいせいか、慣れない感覚に焦燥を感じてしまうのは確かだった。 「その、つもりだったんだけどね……あの、挨拶というか」 「どういうこと?」 「ほら、霧切さん前に言ってたでしょ、海外での暮らしが長いって。だからこういうのも慣れてるのかなーと思ってさ」 「……そう」 挨拶にしては、力が入りすぎている気がした。苗木君は慣れていないらしい。 そもそもとして、彼はこういう大胆なスキンシップを取ってくるタイプでも無いのに。 勢いのままに身を任せてしまったのだろうか。苗木君の腕のぎこちなさを思うと、そう取るのが正解のように思えた。 「……それで、ね。ふと、考えちゃったんだ。こうしてみたら距離が縮まるのかなぁ、なんて。ごめん、軽率だったし、怒るのも当然だよね」 力無い声だった。私の短い相槌をどう解釈したのかは分からないが、良い様には取っていないらしい。 苗木君は、背中に回していた腕を下ろした。離れてしまうと、縫い付けていた糸が解かれてしまったようで、あまりいい気分がしない。 再び縫い合わせるように、両腕で苗木君の身体を引き寄せた。 「……霧切さん?」 「別に怒ってないわ。そうね、戸惑っていたのは確かだけど」 何となく、焦燥を感じた原因が分かったような気がした。 「こうしていると、警戒心も、心の壁も、全て解いてしまいそうになる……。全てが緩み切ってしまいそうで、少し、焦ってしまったのかもしれないわね。 ……不思議と、心地いいものなのね。人の体温というものは。……それとも、苗木君の体温だから、かしら」 彼の身体から伝わる温度を確かめてみると、安堵を覚えた。 確認出来たのは、ここに苗木君が居て、呼吸をしていて、触れたら温かいという、当たり前の事だけ。 だけどそれだけの事が、何よりも尊い物に思えて、それだけの事で、満たされているように思えた。 腕の力を強めると、彼の身体の感触が鮮明になった。 私よりも小柄で、時々性別も分からなくなるような容姿の苗木君も、やっぱり、男の人だと実感させられる。 少し、私の心拍数が上がったのは、気のせいでは無いかもしれない。 しばらくした後、腕を解いた。名残惜しさはあったが、これ以上この時間に浸る勇気はまだ無かった。 苗木君の肩を掴み、身体を離そうとすると、赤に染まり切った顔が視界に入った。 自分からして来た癖に、される側になると、こうなってしまうのは如何なものだろう。 だけど、私もさっきは同じようなものだったかもしれない。……そう考えると、無性に仕返しがしたくなる。 ふと湧いて来た衝動に身を任せて、苗木君の唇を奪った。ほんの僅かな間触れ合わせるだけだったが、刺激は存外と強い。 そっぽを向く。見なくても、彼の方も呆然しているのが分かった。引き延ばされたような間の後に、何処かずれたことを口にしたのも、そのせいかもしれない。 「え、えっと、さ、これも、挨拶なの?」 「……知らないわよ、したことなんて無いから」
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「なんで苗木君の考えてることがわかるか、ですか?」 ある日、舞園さんと二人で話す機会を得たボクは、前々から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。 「うん。あ、エスパーだからっていうのはナシね」 今にも『エスパーですから』と言われそうな気がして、予め釘を刺しておく。 案の定、口を「エ」の形に開きかけていた舞園さんは、綺麗な眉を寄せて考え込んでしまう。 「う~ん……それじゃ、手力――」 「ミスター栗間に怒られそうだからダメ」 「困りましたね……」 (困るほどのことなんだ……?) 舞園さんは瞑目して考えながら、言葉を選ぶように少しずつ語る。 「そうですね……なんとなく――本当になんとなくなんですけど、時々苗木君が何を言おうとしてるのかわかる事があるんですよ。理由は私にもわからないんですけど、こう、パッと」 「パッと、ね」 時たま舞園さんの言葉はインスピレーション気味になる。 「ふふ、おかしいですよね。苗木君と話すの、ここに来てからが初めてだっていうのに……」 「そうだね……」 「もしかして私たち、前世でも同じことしてたのかもしれませんね」 前世。 前の世界でも、ボクたちはこうして出会って。 そうして、同じような話をして。 ……やっぱり、同じような関係になっていたんだろうか。 「うふふ。そうじゃなかったら、私は苗木君専用のエスパーっていうことでどうですか?」 「せ、専用って……」 その響きは、ちょっと、問題なような……。 「問題なんかありませんよ」 そう言って、舞園さんはにっこりと笑みを浮かべる。ボクも思わず釣られて笑ってしまうような――そんな彼女の特上の笑顔だった。 「エスパーだから、ね」 そういうことにしておこう。 いつか、本当の事がわかるその日までは。
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「うぷぷ…大!せーいかーい!!」 しんとした空気の中、馬鹿みたいに能天気に響く声を、アタシは…いや、アタシたちは茫然と聞いていた。 「栄えある今回のクロは七海千秋さんでしたー!」 「…どうして、だよ……?」 絶望的な声色の呟きを耳にした。 たぶん、他の誰にも聞こえていない。 隣の席にいるアタシだからこそ聞けたんだ。 でも…そんな声、聞きたくなかった。 「ちくしょう…どうなってやがんだよ」 「な、七海さん…」 「…クソが……」 他の皆が思い思いの言葉を口にする。 全員、感じている事、考えている事は同じなんだろう。 アタシも皆と同じ人を…彼女を見つめた。 「皆、ごめんね」 彼女は、千秋ちゃんはわずかに笑う。 仕方がない、という風に。 「なんでよ……」 思わず、声が出た。 一人を除いて、全員の注目がアタシに移る。 反対側にいる彼女は何一つ変わらない仕種で首を傾げる。 「えっと、裏切った理由は悪いけど…」 「そんなんじゃないよッ!!」 大声で叫ぶように言った。 彼女以外は、青ざめた顔でただ状況を見守っている。 ふと、自分も同じような顔色なんだろうか、と思った。 「アタシが言いたいのは、そんな事じゃないよ…」 叫びたかったのに、出たのは絞り切られたようなかすれた声。 そこから先も、出てこなかった。 伝えようとしても口から音が出ない。 おまけに視界がぼやけて、熱い何かが頬を伝った。 そうか、泣いているんだ、アタシ。 「……ごめんね?」 はっきりとした声に我に帰る。 涙を拭って、千秋ちゃんにアタシは向き直る。 そこで初めて、アタシは彼女が困ったような笑顔でいることに気付いた。 「あや…まるなよ……」 隣からした、深い後悔と悲しみのこもった言葉。 大事な誰かを失う時に、人が漂わせる重たい空気。 これまでのコロシアイで散々、見て、聞いて、味わったモノだ。 そして、その人のそれは、アタシが一番見たくないモノだった。 「日向くん……皆…」 胸の辺りを押さえて、千秋ちゃんはうつむく。 その表情はここからじゃ分からない。 …きっと、この場の誰にも。 「ねぇ、もういーい?時間押してるんですけどー?」 かわいらしく、残酷な言葉を抜かすヌイグルミをキッと睨む。 意味なんてなくても、アタシにはこれしかできない。 「あわわ、怖いよー、あの子怖いよー」 反抗期?反抗期なの? と人をイライラさせるポーズに赤音ちゃんが無言で殴りかかろうとしている。 「ダメだよ、終里さん」 スッと千秋ちゃんが前に出た。 どれほど祈っても、もうこれで終わりなんだと、改めて認識する。 「ッ!! な…七海ッ!!」 耐え切れない、と言わんばかりに日向が叫ぶ。 そうして千秋ちゃんの背中に駆け寄ろうとした。 縋るように、祈るように。 そんな光景に、アタシは胸がズキリと傷むのを感じた。 それがどういう意味を持つか、アタシには何故だか分からない。 しかし、千秋ちゃんはそこで日向を手で制した。 それだけで、日向の動きが止まる。 二人の間に明確な境界が生まれてしまった。 「希望を、捨てないでね」 一言、よく通る声を千秋ちゃんは笑って発した。 そこには、どれだけの覚悟があるんだろう。 アタシには、分からない。 モノクマの先導で、千秋ちゃんは『オシオキ』の会場に歩き出す。 日向と、皆とすれ違い、前だけを見て彼女は歩く。 立ち位置上、最後にアタシの前を千秋ちゃんは通った。 同じように振り返りはせず、ただ前を――― 「……皆を、日向くんをよろしくね」 「……………………え?」 「死ぬのは、怖いけど。小泉さんなら、皆のこと任せられるもん」 それじゃあ、と最後まで小さく言って、彼女は進んで――― 「…ま、待ってよ!」 慌てて、アタシは追いかけようとした。 アタシだけに伝わったその声の意味を確かめるために。 でも、もう遅かった。 「では張り切ってまいりましょう! オシオキターイム!!」 「ふぅ…。邪魔なモノミも片付いたことだし、今日は祝勝会だね!」 うぷぷぷぷぷ…アーッハハハハ!! 耳障りな笑い声と共に、モノクマは消えた。 後に残されたアタシたちは、誰一人として動こうとしない。 一言も喋らない。 ソニアちゃんも赤音ちゃんも九頭龍も左右田も…日向も、だ。 アタシも動きたくなかった。喋りたくなかった。 もう、全部嫌になった。 どうすればいいのか分からない。 『……皆を、日向くんをよろしくね』 『死ぬのは、怖いけど。小泉さんなら、皆のこと任せられるもん』 千秋ちゃんの言葉が過ぎる。 どうしてそんなことを言ったのか、もう問いただすことは出来ない。 アタシは、あなたみたいに強くなんかない。 皆の支えとか、無理よ。 …あいつのことだって、出来る訳ないじゃない。 これまで散々見てきたの分かるでしょ? アタシは……アタシには………。 『それは違うよ』 何かが、聞こえた。 いや、聞こえた、と表現するより不意に頭に響いたと言ったほうがいいかもしれない。 誰の言葉か、アタシにはすぐに分かった。 でも、それはありえない。 いない人の声なんだから。 あるとしたら、幻聴だ。 『幻聴なんかじゃないよ』 アタシの心を見透かしたように続けて声が響く。 『私と小泉さんは違うよ。だから、ね』 頑張って。 それで、声は止んだ。 後には、ソニアちゃんの嗚咽が裁判場に響くのが聞こえるだけ。 (アタシは…) 顔を上げて、周りを見る。 皆、暗い表情で下を見ていた。 (…よしっ!!) 思い切り両頬を両手で叩く。 パン、と乾いた音がした。 その音に驚いたのか、一人を除いて全員の視線が集まる。 「小泉さん……?」 眼元に涙を溜めたソニアちゃんが茫然と声を出す。 他の皆は訝しげにアタシを見ていた。 すぅ、と深呼吸をしてぐるりと皆の顔を眺める。 「帰るわよ!!」 出来る限り、大きな声を出そうと心掛けた。 さもないと、負けそうだった。 「帰るっつってもよォ…」 「帰ってどうなるってんだよ……」 「いいから帰るのよ! そうしなきゃ何も始まらないでしょうが!!」 絶望に包まれていた男どもの言葉に必死に返す。 ここで引く訳になんかいかない。 そうしたら、これまでの全部が無駄になってしまう。 皆に、誰よりも千秋ちゃんに申し訳ない。 皆を促して、地上に繋がるエレベーターに乗せる。 渋々とほぼ全員が箱の中に入る。 「さて、と」 気合を入れ直して、最後の一人の方に歩く。 アタシは一呼吸して、そいつに告げる。 「いつまでそこにいるの?さっさと行くわよ」 「放っておいてくれ…」 それだけ返して、日向は立ち尽くす。 「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」 アタシは諦めずに日向の腕を掴んで、無理に引っ張ろうと、 「放っておいてくれって言ってるだろッ!!」 そう叫んだ日向の表情は、怖かった。 憂いと憎しみ、悲しみの混ざり合った顔。 ビクリと体が震えて、思わず手を放した。 「……ご、めん」 結局、強がりの仮面は剥がれてしまった。 限界はあっさりと来てしまった。 アタシはここまでの人間だった。 「………」 アタシの声を無視して、日向はスタスタと箱に行く。 無言で、アタシもそれに付いていく。 全員が乗った時点でエレベーターは動き出す。 希望を求めた裁判で残ったのは、絶望の残り香だけだった。
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「はいアウトー。次いってみようか」 「うー………、映画館、とか」 「ダウト。あのさー、初めてのデートだって言ったじゃん? 二時間も相手の顔見ないでなにが発展すんのさ」 「別に発展させるつもりは」 「言い訳しない。今日はコレ終わるまで解放しないよ。さっさと無い知恵絞る」 「なんでこんなことに……」 イチョウの色も目に鮮やかなある秋の日。1シーズン限りの黄絨毯をスニーカーで踏みしめながら登校したボクは、学校へ着くと真っ先にある人物の許へと向かった。 彼女は珍しく一人だった。つまらなそうに頬杖をつき、窓の外を眺めるその姿はやけに話しかけ辛くて。それでも女の子の集団の中へ突撃をかますよりは随分ラクだろうと、久しぶりに自分の幸運に感謝したのが全ての始まりだった。 幸運はそこで終わった。 「最初の紅葉狩りとかに比べたら大分マシになったけどさー。アンタ平凡代表じゃないの? どの世代の平凡よソレ」 「今年の強羅は一段と紅葉が綺麗だってきいて……」 「強羅って箱根じゃん? もうお泊りじゃんそれ? 大胆なのか趣味が枯れてんのかハッキリしてほしいわ。てか、アンタら結局そういう仲なの?」 「そそそそれは違うよ!?」 「こんな説得力ゼロのやつも初めて見るわ。まあいいやキリキリ考えな。霧切に喜んでほしいんでしょ?」 「………うん。えっと、ありがとう、江ノ島さん」 ホントは女に聞くなんてルール違反なんだからね、と江ノ島さん。キツめの口調に反して真っ白な歯が少し零れて、ボクはようやっと苦笑を返した。 ――そのう。女の子って、どういう所に遊びに行くのが好きなの? ボクの曖昧な物言いに江ノ島さんが怪訝な顔をしたのはほんの数秒で、得心がいったように不敵に微笑んだ彼女はボクの腕を掴み。 「場所変えるよ。ついといで」と腕を掴まれ、やってきたのは食堂のテラスだった。 言うまでもないことであるが、今は授業中である。そろそろ昼休みも近い。 「豪快に授業さぼっちゃったなあ。なんかごめんね、江ノ島さん」 「は? 全然いいって。そんなことよりもー、アタシ的にはアンタに早くデートプラン作って欲しいっていうか」 そう言ってぱたぱたと手を振る江ノ島さん。その寛容さに安堵するも、本題のデートプラン(ボクにそんなつもりは)に一切の妥協はない。 かなり厳しいものの、実際に彼女のアドバイスはかなり的確で頼もしくて、ボクにもどうにかこうにか計画の完成が見えてきた。 「霧切さん喜んでくれるかなあ………」 「まず大丈夫だね。さっきから邪魔が一切入んないもん、本人もまんざらじゃないんでしょ」 「なんのことを言ってるの?」 奇妙な言葉に顔をあげると、江ノ島さんはボクの方を見ていなかった。ボクの斜め後ろあたりに視線を飛ばし、口元にはさっきのような笑みが浮かんでいる。 その視線を追いかけると、 「……霧切さん?」 「………――っ、」 バッチリ目が合った。物陰に隠れるようにしていた霧切さんは不意に立ち上がり、こちらに背を向けて駆け出した。 「相変わらずアンタはラッキーだね。何してんの、早く誘ってきなよ。そんなんじゃ、いつまで経ってもデート出来ないっしょ」 「え、でも計画できてな」 「後は霧切の誘い方考えるだけ。いいから、行ってきな!」 「わ、わかった!」 弾かれたようにボクは立ちあがる。しっかりしなよ苗木、と声援を背中に受ける。 あとでちゃんとお礼を言おうと、それだけを心に刻んでボクは飛び出した。 Next Episode ナエギリ春夏秋冬 最終話『猫を抱いて、炬燵で丸まって』
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霧切さん、一緒に映画観ない? ある日の休日、僕は霧切さんに一緒に映画を観ないかと誘ってみた。 霧切「いいわよ、丁度ヒマだったし、どんな映画なの?」 苗木「新作のホラー映画なんだけど・・・」 霧切「ホラー映画?」 ホラーと聞いて彼女の眉がピクリと反応した。 苗木「もしかして霧切さんは怖いの苦手?」 霧切「・・・いいえ、たかがホラー映画なんかで私が怖がると思うの?」 そう言って彼女は余裕の笑みを浮かべ、クスリと笑った。 苗木「それなら良かった。、じゃあ僕の部屋で観ようよ。 僕は、霧切さんを部屋に誘い、DVDの電源を入れた。 映画の再生が始まり、テレビから不気味な音楽が流れる・・・ それでも霧切さんは余裕の表情を崩さず、こう言った。 霧切「フフ、あなたの怯える様子を見るのが楽しみだわ。」 (残念、実は僕、この映画は一度観ているんだ。) 心の中でそう呟いた。 なぜ一度観た映画をわざわざ二人で観るのかというと・・・ 僕は霧切さんがホラー映画を観たときの反応が見たかった。 普段凛々しい姿の彼女がどんな表情をするのか気になった。 いけないと思いつつも彼女の様子を観察することにした。 _________ 映画が始まって15分経過ー 霧切「・・・」 苗木(少し退屈そうだ、まぁどの映画も序盤はこんなものだ。) 30分経過ー 霧切「・・・」 (そわそわ) 苗木(映画の雰囲気に呑まれてきたのか、しきりに三つ編みをいじったり 足を組み換えたりと落ち着きが無くなってきた。) 45分経過ー TV「キャーー」 霧切(ビクゥッッ) 苗木(突然幽霊が出てくるシーンに驚き、霧切さんの背筋がピーンと伸びる。) 1時間経過ー ガタガタッ 「・・・」 苗木(僕と霧切さんの距離は1m程離れて観ていたのだが、さすがに怖くなったのか さりげなく椅子を僕の近くに寄せてきた。) 彼女の表情はヒドク青ざめ、冷や汗をびっしり掻いていた。 1時間半経過ー 「ギュっっ」 (霧切さんが僕の手を掴む・・・、彼女の手は小刻みに震えていた。) 苗木(なんか・・・、可哀そうな事しちゃったな・・・) 終盤ー とうとう彼女は耐え切れなくなったのか 顔を伏せ、耳を両手で必死に塞いでいた。 それでも映画の内容は気になるのか、時折チラリチラリと視線をTVに向けては 固く目をつぶったりしていた。 苗木(よっぽど怖いんだ、やめておけば良かった。) クライマックス 苗木(ここは一番怖かったシーンだ、霧切さん大丈夫かな・・・) 呪われた廃墟から逃げ延びた主人公たちが安堵して恋人の顔を覗き込むと、 その顔は・・・ 逃げ切ったはずの悪霊の顔に・・・ 霧切「~~~~~~~~~」 今までに聞いたこと無いような悲鳴をあげ、霧切さんが僕の腕にしがみついてきた。 僕の胸に顔をうずめ、ガタガタ震えていた。 これはマズイと即座にビデオの電源を消し、部屋の明かりを点けた。 苗木「霧切さんッ、霧切さんッッ落ち着いてッッ」 「もう大丈夫だからッッ」 ぼくは彼女を必死になだめた。 __________ 「・・・・・・・・」 しばらくして落ち着きを取り戻した彼女は無言で 僕を睨みつけていたが、その眼には涙が溜まっていた。 苗木「ゴメンッッ、まさかそこまで怖がると思わなくて。」 霧切「・・・・・・・」 苗木(ヤバい・・・、相当怒っている。) 霧切「・・・、もう二度とあなたと映画は観ないわ・・・」 絞り出すような声でそう言い放ち、霧切さんは部屋を出て行ってしまった。 苗木(ああ、行ってしまった・・・) 普段、気丈な霧切さんの意外な姿が観れたのは良かったが、 彼女を激しく怒らせてしまった。 とにかく今回の件は謝り、仲直りをしないといけない。 __________ それから数日間、霧切さんは一切口を聞いてくれなかったが、 最終的に彼女の好きな探偵物の映画を観に行くということで なんとか許してもらえた、もちろん僕のオゴリで・・・ 終わり
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「えーと……霧切さん」 「なに」 「その、えっと、ごめん」 苗木誠探偵事務所は、開設以来最大の危機に……ってそんなこと言ってる場合じゃない。 居心地が悪かった。 「どうして謝るの。何か悪いことでもしたのかしら」 「いや、それはその」 「していないのかしら。ならどうして謝るの。謝るのが趣味なの? 面白いわね。面白くもなんともないけど」 「……」 いつもの探偵事務所。いつもの椅子にいつもの二人。いつものように窓から差す夕日が今日はひどく眩しくて、僕は顔を伏せた。 週明けの探偵事務所の仕事は、預かっていた猫を返すことから始まった。申し訳なさそうに、しかし嬉しそうな様子でかきょう(黒猫。メス)を受け取る依頼人には半ば追 い返すような形でお帰り願った。 依頼人の学園生がいる間から霧切さんは一言も喋らずに黙々と文庫本を読んでいて、沈黙に耐えきれなくなった僕が口を開いて今に至る。 霧切さんの機嫌が悪い理由――猫と僕だ。昨日おとといと二日考えて何となくは原因に辿り着いている。 「(……きょうちゃん、か)」 僕がおととい黒猫につけたあだ名。そして不機嫌そうに僕の向かいで読書している女の子は、……霧切、響子さん。 まったくもって迂闊すぎた。 「(自分の名前を猫に付けられたのが気に入らなかった? まさか)」 何か違う。着眼点がズレている気がする。それに、きっと原因はそれだけじゃない。 件の黒猫を思い出す。初対面なのに懐いてきて、僕の膝の上から降りなくて。なのに霧切さんが事務所を飛び出していったらつまらなそうに飛び降りた。 それまでは当て付けのように、 「(……誰に対する、当て付けだ?)」 霧切さんしかいない。いや待て苗木誠。お前は何の行動を指針にして推理を組み立ててるんだ。どうして猫の行動なんかに意味を求めてる? 「(けれどあんな意味ありげな行動、霧切さんがいなくなった途端意味がなくなったように――)」 違う違うそうじゃない。猫の行動に意味なんか求められない。そっちじゃない、逆に考えるんだ。猫の行動に意味があるんじゃない、霧切さんには意味があるように見えた んだ。 「(僕が猫をきょうちゃんって呼んだ。猫が膝の上から離れなかった)」 言葉にすればただそれだけのことだ。けれど霧切さんはそうは思わなかった。ならどう思った? 僕には当て付けに見えた。それで、僕らの週末はどうなった? 「(……事務所、は。苗木誠探偵事務所は、土日は)」 用事がなければ、僕らはそこで日がな一日。それは気まずい時間? ――いいや。 「(そう、か。僕らは、……霧切さんは、毎週、楽しみに)」 「霧切さん」 「なに」 先程と全く同じ反応。続く僕の言葉もそう変わらなくて。けれど僕は決意を込めて。 「ごめん。ごめん、霧切さん。せっかくの週末、台無しにしちゃって。……僕が猫にばっかり構うから、霧切さんを怒らせて――、」 決意を込めて――盛大に失敗した。 これは……ない。この言い方はない。これじゃあまるで、霧切さんが。 「――へえ」 「ひっ?」 地の底から響いてくるような声。ゆらりと霧切さんが立ち上がる。 「それでは貴方はこう云いたい訳ね。私が貴方に、か、構ってもらえなかったから怒って事務所を飛び出したと。そう。そうなの」 「いや、その」「黙りなさい」「はいッ!」 つかつかと僕に歩み寄ってくる。その顔は真っ赤で目元は引きつっていて、それでも何とか無表情に努めようとしているのが何よりも怖かった。 立ち上がろうとして失敗した。そうこうしている間に霧切さんは目前に迫っていて、僕は目をつぶって次に来るであろう衝撃に備えた。 「苗木君――」「ご、ごめんなさいっ!」 ――ぽすん。 「……へ?」 覚悟していた衝撃はいつまでたっても来ない。その代わり、膝の上になにか圧迫感。 恐る恐る目を開けると――眼前いっぱいに、銀色が飛び込んできた。 「……正解よ」 「せ……なに?」 「だから、正解。……拗ねてたのよ。あの畜生に貴方を取られた気になって。貴方がアレの名前を呼ぶ度に憎々しいわ苛々するわで。 挙句の果てに事務所を飛び出して、気まずくて戻るに戻れないし、そのせいで次の日も話なんかできないし」 「……」 霧切さんの表情をうかがうことはできない。彼女の背中が夕日を遮って、けれども僕はまだ目を細めて。 「苗木君……ごめんなさい」 「私が謝らないといけないのに、……本当にごめんなさい」 「ううん、僕の方こそ」 「いいえ、貴方は悪くないわ。……だけど苗木君、お願いがあるの。この事務所の所長である貴方に」 「何かな。僕にできることだったら何でもするよ」 「……最後まで話も聞かずに。そういう言い方、身を滅ぼすわよ。無茶なことだったらどうするの」 今以上の無茶なんてないよとは、勿論言わない。 「まあいいわ。これはお願いだけど、拒否なんてさせないから。あのね、苗木君――」 そう言って、霧切さんは静かに振り返り―― 苗木誠探偵事務所は部室棟二階、階段を上がって左側の奥から二つ目にある。 扉には事務所の名前が入った銀色のプレートが掛けられているだけだったが、最近そこに一枚の張り紙が増えた。 そこにはマジックペンで「生き物、預かりません」と無愛想に書かれている。 ついでに言ってしまうと、部屋の中にも二つほど備品が増えた。一つ目は窓を覆うブラインド。そもそもなんで無かったのかわからない、とは霧切さんの弁だ。 そしてもう一つは、椅子。革張りの立派なもので、長時間座っても疲れない高級品。僕らの椅子……というか、僕の椅子だ。以前山田君たちに もらった回転椅子は部屋の隅に追いやられている。 『苗木誠探偵事務所は貴方が所長なのよ? これぐらいでないと格好がつかないわ』と言ったのはやっぱり霧切さんだけど、それがただの建前であることは、 二人とも知っている。僕は相変わらず、扉に背を向けるようにして座っているしね。 それで、霧切さんは時々、奇妙な行動をとるようになった。文庫本を読んでいたかと思うと急に立ちあがり、ブラインドを全部おろして。 扉の前まで歩いて行って、内側からカギをそっと掛けて。電気まで消して。 そうすると――そうすると、うん。僕は、……本が読めなくなるんだ。 Next Episode こちら苗木誠探偵事務所6
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「えへへ、これからよろしくお願いしますね霧切さん♪」 「ええ、よろしく、こまるさん」 「あっ、これから苗字一緒になるのに旧姓呼びはおかしいですかね?何か考えましょー!」 「え、ええ…//」 苗、…誠と名前が一緒になる、という事実に少し照れを感じ、少し頬を染める。 「やっぱ無難にお義姉さん?いや、ちょっとつまらないな… あ、霧切さ…はお嬢様っぽいし、『響子お義姉さま』はどうでしょー?」 「…ぁ、や、やめてッ!」 おそらくは冗談で言ったであろうその呼び名__ それはあまりになじみ深く、あまりに苦痛な、唯一霧切のトラウマであった。 思い出したのだ、あの日を。 お姉さまと呼び、慕っていた人に裏切られた、あの日見た… 自分の手が焼きただれ、それを眺める彼女の目を。 泣けど叫べど、助けてくれはしない。無邪気な目の面影はない。 響子が、人を信じることができなくなった原因を、思い出したのだ。 響子の額が、じっとりと汗に濡れてゆく。 「ど、どうしたんですか?あ、何か気に障ること言っちゃいました!?ごめんなさい!…大丈夫ですか響子さん?」 急に大声を上げた私に驚いたこまるは、響子の異様な様子に気付いたみたいだった。 「はっ…だ、大丈夫。急に大声上げてごめんなさい。呼び名は今の 響子 でいいわ」 額の汗をぬぐう。 嫌なことを思い出した。急に大きな不安を感じる。 でも__ 彼はきっと、私を裏切ったりしない。 そして私も裏切らない。 「…トラウマにされるなんて、嫌だもの」 誠が向こうから歩いてくる。 そして響子も、歩いて行った。
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指先に付いた甘い蜜を舐め取っている時にふと視線を感じた。 隣からの絡みつくような熱っぽい視線ではなく。――前からの僕の奇行を訝しむ視線だ。 マズイ――ばれたのか? そう思って、急いで指を口から引き抜いた。 まだ全然味わえていないのに……。 いや、それよりも僕と彼女の交歓を見られてしまったのか? 僕が処分を受けるのはいいけど、彼女に迷惑をかけたくない。 不順異性交遊は校則違反――なんてお題目で処分されるのは勘弁して欲しい。今時キス位で……しかも僕らは間接的に唾液を交換し合っただけじゃないか。 それに、僕らは生涯を誓い合った身だ。とやかく言われる筋合いはない。……たとえ責任能力のない未成年だとしても、ただの口約束だとしてもだ。 僕らの愛情表現の仕方は、確かにちょっと過剰かもしれないが、大好きだから仕方ない。抑えようがないんだ。 そう自分に言い聞かせて、先生の目を真っ直ぐに見返した。 「……勘違いしてくれてよかったのかな……?」 結局、授業が終わってから先生の教材運びを手伝わされて、僕の心配は杞憂に終わった。 信じられないことに、僕が指をしゃぶる癖があると思い込んでいたらしい。 ありがたい勘違いだったので、僕もそれに便乗しておいた。 処分におびえる必要はなくなったが、幼児みたいな癖を持った変な生徒という認識を芽生えさせてしまった。 そうして僕は、安いような高いような代償を払って自分の教室に戻ってきた。 真っ先に彼女の姿を求め、自分の席に着いた。 隣に座る彼女はいつものクールなポーカーフェイスではなく、少し俯いて唇をかみ締めていた。どことなく顔色も悪い。何より僕に気付いていないみたいだ。 僕の事を想ってここまで動揺してくれるなんて……胸が熱くなった。やっぱり愛されてる実感は何度味わってもイイ。 堪らなく愛しくなって、わざと彼女の足元に消しゴムを落とし、敢えて背後から近づいて可愛い耳をぺロリと一舐めした。 「っ!?」 ようやく僕に気付いた彼女。さっきまで彼女の口内に在った指が、再び僕の唾液を求めてか、僕が撫でた耳を覆う。 さっきまで色が失われていた頬に朱がさした。 僕はそんな彼女の変化を横目で悠然と眺めつつ、足元から消しゴムを拾う。 そして消しゴムを握り締めると、すっかり朱に染まった顔で僕を睨み付けてくる。――何もかもが可愛い。 本当は耳を舐めるだけにするつもりだったのだけれど、予定変更。 ゆっくりと、机の陰に隠れるようにゆっくりと立ち上がる。怪訝に思って、下を覗き込んでくる彼女の唇を素早く奪った。 攻めるのが得意な分、攻められるのは苦手なんだよね。 「ひひゃいよ……」 僕の頬をつねる可愛い恋人。 まさか授業中ずっとつねるつもりじゃないよね?――そう目で問いかけてみるも、僕と目線を合わそうとしない。 これはいくらなんでも先生も見咎めるだろう。まさか隣の席の人間の頬をつねる癖が、なんて誤解はするはずないし。 だけど幸か不幸か、三限目は自習になってしまった。 僕らのクラスには超高校級の風紀委員が居るお陰で、自習時間といえどそうそう騒いだりはしない。 ――だって下手に羽目を外すとそれ以上に『校則が――』と騒ぎ立てるからだ。わざわざ騒ぐ必要もない。 精々少数で、勉強を教えあっていますよ。といった風を装っておしゃべりする程度だ。 だから仕方ない、こうやって机を合わせて車座になっているのも。 目隠しが全然ないのも、僕らが注目されるのも。 「“苗木君”がヘマをやらかしたから」 と、僕の頬をつねっている理由を答えていた。これはずっとこのままなのかな、結構怒ってるみたいだし……。 わざわざ僕の苗字の部分を強調していたし。皆の前とはいえ、いつもみたいに名前で呼んで欲しいな……。 すると僕の寂寥感が伝わったのか、頬をつねっていた手は離れ、痛みから解放された。……なぜか軽い喪失感を覚えたが。 「……反省してるの?」 そう言いながら彼女が、皆に見えないよう机の下で僕の手を握り締めてきた。 勿論僕はその手を強く握り締めて。 「うん」 と応えた。
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苗木「舞園さん、すごいよね。心理学者になれるんじゃないかな?」 舞園「え?」 苗木「だって毎回僕の考えてる事当てられるんだし」 舞園「エスパーですから」 苗木「いやいやいや」 舞園「とにかく私は心理学者にはなれませんよ」 苗木「そうかな?」 舞園「はい、だって…私が分かるのは苗木君の事だけですから…」 苗木「え?」 舞園「…苗木君の事はいつも見ているんですから分かりますよ…」 苗木「いつも見ているって…僕を?」 舞園「は、はい…」 苗木「何で?」 舞園「え?何でって…」 苗木「いや、僕なんか見てても面白くないんじゃ…」 舞園「むぅぅ……」 苗木「ま、舞園さん?」 舞園「苗木君は私の考えてる事は当ててくれないんですね」 苗木「え?いや、それは…ほら、僕はエスパーじゃないから」 舞園「…………」 苗木「じ、冗談です、すいません」 舞園「宿題です」 苗木「え?」 舞園「もっと私をよく見てください。私の考えてる事を当てられるくらいに」 苗木「えぇ!?」 舞園「宿題です!いいですか!?」 苗木「は、はい!分かりました!」