約 439,964 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1543.html
キュルケは戸惑っていた。パーティーと言われたからには一応の着飾りはしたが、だからと言って酒を飲んではしゃぐような気分にはなれそうにない。周りを見渡して、彼女はひっそりと溜息をついた。 アルビオン王党派最後の牙城、ニューカッスル城。パーティーはそのホールで行われていた。上座に設置された簡易の玉座に腰掛けて、国王ジェームズ一世は老いた双眸を細めて集った臣下を見守っている。貴族達はまるで園遊会であるかのように豪奢に着飾り、テーブルの上にはこの日の為に取っておかれたと思しき様々な御馳走が並んでいた。キュルケでさえ滅多に御眼にかかれないほど華やかなこのパーティーに、燃え尽きる寸前の蝋燭の炎のような儚さを覚えて、キュルケはたまらなく虚しかった。 しかし、それにも増してキュルケを当惑させたのは、ルイズ達仲間の行動だった。ルイズは悲しげな顔一つ見せず、話し掛けてくる貴族達と微笑んで会話を交わしている。ギーシュは沈鬱な顔をしている女性の元へ駆けて行っては、彼女達を笑わせていた。タバサはいつも通りの無口だが、同好の士であるのか十数人の貴族達と共にはしばみ草のテーブルを囲んで会話に興じている。ワルドも また如才なく笑顔を浮かべて挨拶に回っていた。そしてあのギアッチョまでもが、貴族達に勧められたワインを嫌な顔一つせず飲んでいた。 ――どうしてそんな顔が出来るのよ……! キュルケにはさっぱり理解が出来なかった。貴族達にも、悲痛な顔をしている者は誰一人としていない。悲しんでいるのは自分だけだとでも言うのだろうか。まるで自分だけが仲間外れのようで、キュルケはいたたまれない気持ちになった。 キュルケはもう部屋に戻ってしまおうかと思い始めたが、その時彼女の後ろから声がかかった。 「何やってるのよ、キュルケ」 キュルケは反射的に身体を捻る。腰に手を当てて、困ったような顔でルイズが立っていた。 「一人でどうしたのよ キュルケらしくないじゃない」 「……らしくないって、そりゃこっちの台詞よ」 キュルケは疲れた眼をルイズに向ける。 「揃いも揃ってどうしたのよあなた達 何でそうやって笑っていられるわけ?さっぱり解らないわ!」 無理やりにワインを飲み干して、キュルケは首を振った。 「明日全員死ぬのよ?あなた達それが分かってるの?」 「分かってるわよ」 「だったら……!」 理解出来ないという感情が、キュルケに怒りを感じさせる。珍しく声を荒げるキュルケに、ルイズはどこか優しげな声を掛けた。 「キュルケ」 「……何よ」 「明日全滅するなんてこと皆分かってるわ だけど彼らには死して何かを為す『覚悟』がある だったらわたし達がするべきことは、嘆き悲しむより彼らと一緒に笑うことよ」 わたしはそう思うわ、と静かに言うルイズをキュルケはハッとした顔で見直す。 「――…………そう……よね」 何を勘違いしていたのだろう。彼らの為の涙など、もはや溺れてしまう程に流されているに決まっているではないか。今彼らが 欲しいものは涙か?同情か?答えはきっと違うはずだ。 キュルケはもう一度彼らを見渡す。明日死ぬ身とも思えぬ笑顔で、彼らは穏やかに談笑していた。その笑顔に一片の曇りもないことを、キュルケはようやく理解する。その葛藤も覚悟も理解して、ただ笑って彼らを見送ること。彼らアルビオン王家最後の戦士達が欲しいものは、きっとそれだけなのだ。キュルケは薄く笑って首を振る。 「……まさかあなたに諭されるなんてね」 「しっかりしなさいよ、キュルケ」 キュルケを悪戯っぽく見上げて、ルイズは彼女に応えた。 衣装を整えながら、キュルケは「それにしても」と呟く。 「ルイズ……あなた変わったわね」 「……そう?」 きょとんとした顔をするルイズを見遣って、キュルケは笑う。 「以前のあなただったら、早々にここを抜け出して一人で泣いてたでしょうからね」 「なっ……それはあんたでしょ!肖像画に描かせてやりたいぐらいの顔してたくせに!」 などと言い返しながらも、ルイズは何かを考え込むような仕草をした。 その格好のまま、ルイズはぽつりと口にする。 「…………そう、かも知れないわね」 片手に持ったワインに口をつけて、ルイズはホールに眼を向けた。 中央近くでウェールズと言葉を交わしている男を見つけて、ルイズは嬉しいような困ったようなよく分からない顔をする。 「……感化されたのかしらね あいつに」 「……ギアッチョ、ね……」 キュルケはルイズに習ってホールの中央に眼を向ける。 不思議な男だった。所構わずキレる暴れる、殺人に躊躇すらない無愛想な平民。なのにルイズは、そしてギーシュやタバサまでが彼に何らかの影響を受けているように思う。恋愛感情ではないが、 キュルケもまたギアッチョにどこか惹かれている自分を感じていた。 有体に言えば――友情、だろうか。それとも、 ――友愛……かしらね? キュルケは腕を組んで呟いた。 学院の教師達よりも遥かに頼りになる男。それが彼女達の共通した認識だった。しかしそれでいて、ギアッチョには何故だか危うげな所がある。頼れる仲間であると同時に、キュルケにとってギアッチョはどこか心配になる友人だった。もっとも、友人とはこっちが、というか殆どギーシュが一方的に名乗っているだけの話だったが。 ――やれやれ……こっちのラブコールが届く日は来るのかしらね ギアッチョが自分達に自身のことを話す日は、果たして来るのだろうか。ギアッチョと共にいればいるほど、彼の正体が知りたくなる。 もしもギアッチョが口を開く時が来るのならば、それはきっと自分達を友人として認めてくれた時なのだろうとキュルケは思った。 「……ところで……あの、キュルケ」 「え?あ……何?」 思考に没入していたキュルケは、その声で我に返った。ルイズに眼を遣ると、彼女は何だか不安そうな顔で自分を見ている。 「…………その ラ・ロシェールで…………どうして、助けてくれたの?」 「へ?……え、えーと、それは……」 あまりにストレートなルイズの質問に、キュルケは思わず焦った。 今までのルイズなら、「誰が助けてくれなんて言ったのよ!」で終わりだったはずだ。やっぱりルイズは変わったと、少々混乱気味の頭でキュルケは考えた。 「…………か、考えてみれば ギアッチョを召喚した時も、キュルケが真っ先に……た、助けてくれたじゃない……?フーケの時だって……」 不安げな眼で二十サント近く身長の違うキュルケを見上げて、ルイズはおずおずと問い掛ける。 「……どうして?」 「ど、どうしてって……当たり前でしょ?あなたはと……」 「と?」 友達、と言いかけてキュルケはハッと我に返った。 「う……と……と、当代きってのライバルなんだから!」 ――あ……危ない危ない ギーシュに影響されてたわ…… 初めて自分に向けられたルイズのしおらしい言動に混乱していたキュルケは、何とか自律を取り戻した。心でほっと溜息をついてルイズに向き直ると、彼女は少し俯いているように見える。 「……そうよね わたし達、宿敵だものね……」 ――う………… しん、と二人の間が静まり返る。今まで何度も言ってきた言葉のはずなのに、キュルケは何故だかどうしようもなく胸が痛んだ。 「宿敵」というたった二文字の言葉がこれほどまでに心を抉るものだとは、今まで思いもしなかった。 優しい言葉の一つも掛けてやりたかったが、プライドと家名に邪魔をされて、キュルケは何を言うことも出来なかった。 自分もルイズと同じだということに、キュルケはようやく気付く。 二人を嘲笑うかのように続く静寂が痛い。今すぐそれを打ち消したくて、キュルケは思わず言ってしまった。 「……そうよ、こんなところで死なれちゃあなたの恋人を奪う楽しみがなくなるもの …………さ、私はパーティーを盛り上げて来るとするわ 格の違いを教えてあげるからよく見てることね」 捨て台詞のようにそう言って、キュルケはルイズの返答も聞かずに歩き出した。背中に感じるルイズの視線を振りほどくように、キュルケは足早に去ってゆく。歩きながら、キュルケは思わず胸を抑えていた。いつもと同じ売り言葉のはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろうか。答えに気付かない振りをして、キュルケはパーティーの人ごみに姿を消した。 わたしは馬鹿だ、とルイズは思う。自分は一体キュルケに何を言って欲しかったのだろう。ヴァリエールとツェルプストーとして、同じ一人の人間として今まで散々いがみ合ってきたキュルケに、今更何を言って欲しかったのだろうか。 ――馬鹿よ、わたしは…… わたしとキュルケは永遠に宿敵同士……それ以外に、わたしを助けるどんな理由があるというの? ルイズは俯いて片手のワインに眼を落とす。「宿敵」という言葉の重みを、彼女もまた痛い程感じていた。 ポロン、と澄んだハープの音が響く。耳慣れないその音に、ルイズは思わず顔を上げた。 「……キュルケ」 ジェームズ一世の御前でハープを奏でているのは、他ならぬキュルケであった。己に集う幾百の視線を物ともせずに、キュルケは優雅にハープを弾いている。その旋律の美しさに、ルイズは眼を見張った。普段の彼女からは想像もつかない繊細な手つきで紡がれる音色に、この場の誰もが聞き惚れていた。 「これはなかなか、大したものだね」 隣から見知った声が聞こえて、ルイズはそっちに顔を向ける。 ワインを傾けながら、ワルドがそこに立っていた。 「ワルド」 「彼女にこんな特技があったとはね…… それに面白い弾き方をする静かな曲だというのに、どこか情熱的だ」 ルイズは改めてキュルケを見る。正しくワルドの言う通り、キュルケの演奏には繊細さと情熱が渾然一体となって現れていた。まるでキュルケ自身を表したかのようなその音色に、いつしかルイズも瞳を閉じて聞き惚れていた。 万雷の拍手に包まれて演奏を終えたキュルケを見届けてから、ワルドはルイズに向き直った。 「ルイズ 今、少し話せるかい?」 「ええ……どうしたの?」 ワルドは真剣な顔でルイズの瞳を覗き込む。 「ウェールズ殿下が式を挙げてくれる…… 明日、結婚しよう」 「え…………」 ワルドのプロポーズに、ルイズはワイングラスを取り落としそうになった。何だかんだで結論を先延ばしにしているうちに、ルイズは結婚の話などまだまだ先だといつの間にか思い込んでいたのである。ワルドは既に明日の挙式の媒酌をウェールズに頼んでいるらしい。つまり、これ以上話の先送りは出来ないということになる。 いきなり決断を迫られて、ルイズはしどろもどろで返事をした。 「え…………えっと、その……わ、わたし……」 「いきなりで驚かせてしまったかな しかしどうしてもあの勇敢な皇太子殿に、僕らの婚姻の媒酌をお願いしたくてね」 ワルドはそこで言葉を切って、ルイズの両肩に優しく手を置いた。 「愛しているよ、可愛いルイズ 君は僕を都合のいい男だと罵るかもしれない だけどルイズ、君を前にして自分の気持ちを偽ることなんて僕には出来ないんだ」 ルイズから一瞬たりとも眼を逸らさずに、ワルドは堂々として言う。 「……受けてくれるかい?僕のプロポーズを」 「……ワルド、わたし……」 ルイズは強制的に、思考の海に引き戻された。どうして快諾出来ないのか、どうしてギアッチョが心に引っかかるのか。蓋をしていた疑問が、再びルイズの中で回りだした。自分はワルドが好きではないのだろうか?いや、それは違う。ワルドのことは好きだ。好きなはずだ。 幼い頃からの憧れは、今だって消えてはいないのだから。 ワルドとの婚姻を拒否すれば、父や母は悲しむだろう。しかし結婚してしまえば、ギアッチョはどうなるのだろうか。同じ部屋に暮らすというわけには勿論いかないだろう。それどころか、気軽に会うことさえ出来なくなるかもしれない。未だウェールズと話し合っている彼に、ルイズはちらりと眼を向けた。 ――だけど………………きっと、そのほうがいいんだわ 少し悲しげに眼を伏せて、ルイズは独白する。 この旅で解ったことがある。ギアッチョの心は、未だに暗殺者のものなのだ。彼は常に敵を殺すつもりで戦っている。ワルドとの決闘でさえも、一度はワルドの首を薙ごうとしていた。恐らくそれは、半ば以上に無意識の行動なのだろう。ギアッチョにとっては、敵は殺すものであり、攻撃は命を絶つ為のものに他ならない。そして、ギアッチョはもはやそういうことを意識すらしていないのだ。刃を使うなら首を、臓腑を、腱を断つ。拳を使うなら眼を狙い喉を潰す。 急所以外の場所を狙うという選択肢は、そうする必要がある時初めて現れる。神経、細胞の一つに至るまで、彼の心身は未だ暗殺者のそれに他ならなかった。 しかし、彼はもう暗殺者ではないのだ。いずれイタリアへ送り返す日が来るとしても、その地でさえ彼は暗殺者「だった」男に過ぎない。 ルイズはこれ以上、彼に血に塗れた道を歩かせたくなどなかった。 もう十分じゃない、とルイズは呟く。ギアッチョ自身がそう思っていなくとも、殺人という行為は確実に彼の心を蝕んでいる。 出来ることなら、ギアッチョには平穏に暮らして欲しかった。 だが、自分と一緒にいればまた今回のような事態が起こるかもしれない。自分と――いや、メイジと関わり続ける限り、争いと無関係ではいられないのではないか。ならば、とルイズは思う。 ならば、自分とはもう一緒にいないほうがいいはずだ。ギアッチョにはマルトーやシエスタ達がいる。彼らと共に生きることこそが、ギアッチョにとっての幸福なのではないだろうか。 出来ることなら、ギアッチョにはずっと傍にいて欲しい。しかし、それがギアッチョを殺人へ向かわせるというのなら。 スッと顔を上げて、ルイズははっきりとワルドに答えた。 「……喜んで、受けさせてもらうわ」 パーティーは和やかなムードのまま幕を閉じた。宴の始末をしているメイド達の他には殆ど人のいなくなったホールで、ギアッチョ、キュルケ、タバサの三人は、眼を回して床に倒れているギーシュを呆れた顔で見下ろしていた。 「…………うっぷ……」 どうやら調子に乗って飲みすぎたらしい。ギーシュは真っ青な顔を気持ち悪そうに歪めている。 「あなた船の上から酔いっぱなしじゃない しっかりしなさいよ」 「ふぁい……調子に乗りすぎまひた……っぷぁ……」 キュルケは溜息をついて隣の二人を見遣る。 「……ねぇ、これどうするの?こんなの担いで行きたくないわよ私」 「しょうがねーな……凍らせて転がすか」 「ええっ!?二つ目の選択がそれ!?」 「せめてもっと人間らしい方法を」と言うギーシュと「今のてめーは家畜以下だ」と言うギアッチョ達の間で、結論はなかなか出なかった。 いい加減業を煮やしたギアッチョはもうここに放置していくかと言いかけたが、その時タバサが何かを考え付いたように顔を上げた。 「待ってて」 と短く口にしてどこかへ行ったタバサが持って帰ってきたものは、ご存知はしばみ草のサラダだった。小皿に山のように盛られたそれを、タバサは構えるように掲げ上げる。ギーシュは真っ青な顔から更に血の気を引かせてあとずさった。 「……あはははは……じょ、冗談がキツいねタバサは…… その量は明らかに致死量を超えウボァーーー!!」 タバサの右手に構えられた毒物はギーシュの口に裂帛の気合と共に叩き込まれ、ギーシュは見事な放物線を描いて再び頭から倒れ落ちた。 ウェルギリウスと名乗る男に連れられて辺獄から氷結地獄までたっぷり地獄観光をした後で、ギーシュの意識はようやくハルケギニアへ帰ってきた。 「ハッ!?ハァハァ……こ、ここは一体!?あの悪魔は!?」 冷や汗をダラダラと垂らしながら怯えた様子で周囲を見渡すギーシュに、キュルケはこめかみを押さえてタバサを見た。 「……タバサ」 「何」 「やりすぎ」 「……修行が足りない」 「ところで君達聞いたかい?」 はしばみ草のおかげで酔いと共に抜けてしまった抜けてはいけないものが何とか身体に戻ると、ギーシュは何事もなかったかのように平然と口を開いた。 「何のことよ?」 三人を代表して、ややうんざりした顔でキュルケが問う。 「結婚だよ!さっきそこで子爵がルイズにプロポーズしてたんだ」 「……それホント?」 「本当さ しっかり聞き耳……じゃない、聞こえてきたんだから」 胸を張るギーシュを無視して、キュルケは簡潔に問う。 「ルイズの返事は?」 「……OK、だそうだよ 明日ウェールズ殿下の媒酌で式を上げるらしい」 その言葉に、キュルケは顔を複雑にゆがめた。 「何よそれ…… バカじゃないの?学院やめることになるかも知れないのよ!」 「ぼ、僕に言われても困るよ 本人が決めたことならしょうがないだろう?ねぇギアッチョ」 ギーシュが助けを求めるようにギアッチョに眼を向ける。いつも通りの読めない顔で一言、彼は「まぁな」と呟いた。 「何か悩んでる風ではあったがよォォ~~ それに自分の意思で答えを出したってんならオレ達に文句を言う余地はねーだろ」 ギアッチョは顔色一つ変えずにそう言うと、キュルケが言葉を差し挟む前にパン!と手を鳴らす。 「ほれ、てめーらはとっとと部屋に戻って寝ろ 追って沙汰はあるだろーが、式に出るにしろ出ねーにしろ朝は早くなるからな」 確かに、非戦闘員を乗せる船の出港は早い。睡眠を取っておかなければ、最悪アルビオンに骨を埋めることになるだろう。 まだ不服そうな顔をしているキュルケを促して、ギーシュはホールの出口へ向けて歩き出す。タバサがその後をついていくが、 「タバサ、てめーは残れ」 ギアッチョの言葉で、彼女はぴたりと足を止めた。次いでギーシュとキュルケも彼を振り返る。 「ギ、ギアッチョ まさかとは思うが君、そんな趣味が」 全てを言い終える前に、ギーシュはウインド・ブレイクで扉の外へ消え去った。 「意外と荒っぽいことするわね」 「口は災いの元」 殊ギーシュに関しては正にその通りだと思いながら、キュルケはギアッチョに顔を戻す。 「で、私達がいるのはお邪魔なわけ?」 「そうだ」 即答されてキュルケは少し驚いた顔をしたが、ギアッチョがそう言うなら仕方ないと判断して、少し唇をとがらせながらも頷いた。 「……そう言うならしょうがないわね じゃ、私達は先に戻ってるわ」 片手をひらひらと振って、キュルケはあっさりと歩き去った。 彼女が扉の向こうへ消えたのを確認してから、タバサはギアッチョを見上げて口を開く。 「……何?」 廊下に大の字になって伸びているギーシュを見下ろして、キュルケは溜息をついた。 「なんなのよ、もう……」 「ギアッチョのことかい?」 言いながらギーシュはむくりと起き上がる。 「……ルイズのことよ どうしてこんなに慌てて結婚しなくちゃいけないわけ?退学することになるかもしれないしギアッチョとも疎遠になるじゃない!」 「全くだね 薔薇は多くの人を楽しませる為にあるというのに」 「……あなたが言ってももう何の説得力もないわよ」 造花の杖をキザに構えるギーシュをジト目で睨む。なんだかバカらしくなって、キュルケは更に一つ溜息をついた。そそくさと薔薇の杖をしまうと、ギーシュは急に真面目な顔でキュルケを見る。 「……学院に居たくないということも、あるのかも知れないね」 「……え?」 「だってそうだろう?学院内に自分の味方が誰一人いない状態で、僕はむしろよくルイズがここまで頑張ってこれたと思うよ」 「そ、それは違うわ!」 慌てたように言うキュルケに、ギーシュは困った顔で笑う。 「そう、違うよ。僕達はもういつだって彼女の味方だし、先生にもルイズをなんとかしてやりたいと思っている人だっているはずさ。 だけどルイズは、きっと言わなきゃそれに気付けないんだ」 「……私は――」 「……ねえキュルケ そろそろ素直になるべきじゃないのかい? 両家の確執は僕にも分かるよ だけどルイズはルイズで、君は君だ。そうだろう?」 答えないキュルケの瞳を覗き込んで、ギーシュは続けた。 「これが最後のチャンスかもしれない 彼女に会いにいこう、キュルケ」 キュルケは言葉もなく立ち尽くしている。ギーシュもまた、他に言うことはないという眼で、無言のままキュルケを見つめていた。 重い沈黙が場を支配する。ほんの数秒、しかしキュルケにとっては無限のように感じられた数秒の後、彼女は苦しげな顔を隠すようにギーシュに背を向けた。 「………………私は、あの子の友達なんかじゃないわ」 絞り出されたその言葉に、今度はギーシュが溜息をついた。 「……それが君の答えかい」 「事実を言っただけよ」 素直じゃないのは分かっている。意固地になっているのも理解している。だけど、認めるわけにはいかない。自分達の意思がどうあれ、自分はツェルプストーで彼女はヴァリエール。未来永劫、それだけは変わらないのだから。だから――そう、今自分がここにいるのは、ただの気まぐれなのだ。他に理由などありはしない。それが、キュルケの答えだった。 「……それじゃしょうがないな、この話はおしまいにしよう。僕一人頑張ったところでどうにもならないからね ……僕は寝るとするよ」 「え?ちょ、ちょっとギーシュ……!」 キュルケの声を掻き消すように「おやすみ」と言い放って、ギーシュはマントを翻して去っていった。 「……何よ 一人前に怒ったってわけ……?」 キュルケはその場から動けなかった。後を追うことも怒鳴ることも出来ずに、彼女はまるで叱られた子供のような顔で立ちすくむ。 綺麗な指先で赤い髪を弄って、キュルケは自分の心を誤魔化すように呟いた。 「……つまんない」 「……概ね理解した」 相変わらず小さな声でそう言うタバサを見下ろしてギアッチョは問う。 「頼めるか?」 こくりと頷いて、タバサは了承の意を表した。ついと眼鏡を押し上げて、ギアッチョは「悪ィな」と口にする。 「どうして?」 「見れねーだろ」 「……別にいい あなたが正しいなら、見る意味はない」 「ま……あくまで可能性の話だがな」 そう言うと、ギアッチョは次々に片付けられてゆくテーブルに眼を移す。 「……ここまで深く関わってんだ 任務の詳細ぐれーは教えてやってもいいとは思うんだがよォォ~~」 ままならねーもんだ、と呟くギアッチョを見事な碧眼で見つめて、タバサはふるふると首を振った。 「かまわない あなた達の立場は理解出来る」 その言葉に追従ではないリアルなものを感じて、ギアッチョはタバサに眼を戻す。どうにも不思議な少女だった。 燭台に照らされた廊下を並んで歩きながら、ギアッチョはここでも本を読むタバサを見て一つ知りたかったことを思い出した。 「……学院のよォォ~~ 図書館とやら、ありゃあ誰でも入れるのか?」 タバサは怪訝な顔でギアッチョを見上げる。ギアッチョが読書に勤しむタイプだとは、どう見ても思えなかったのだ。 「……平民は、入れない」 タバサは怒るかと思ったがどうやら予想の範囲内だったらしく、ギアッチョは一言「そうか」とだけ返事をした。 「……調べ物?」 と訊いてから、タバサはハッとした。自分はこんなことを訊く人間だっただろうか。他人に干渉しなければ、干渉されることもない。それが「タバサ」の生き方のはずだった。だというのに、自分は一体どうしてしまったのだろう。そんなタバサの胸中など知らず、ギアッチョは当たり障りのない言葉を返す。 「そんなところだ」 そこでタバサはふと思い出した。そういえば、ギアッチョが召喚されてから程なくして、ルイズが毎日図書館に通うようになったはずだ。 勤勉な彼女は今までも週に数回は勉強の為に足を運んでいたが、日参するようになってからはどうも別のことをしているようだった。 一度彼女に使い魔を送り返す方法を知らないかと訊かれたことがある。その時はギアッチョと喧嘩でもしたのだろうと思っていたが、ひょっとすると何かのっぴきならぬ事情で今もそれを探しているのではないだろうか。そう認識したタバサの理性がストップをかける前に、彼女の口は言葉を紡いでしまっていた。 「……帰りたい?」 言ってから、タバサはしまったと思った。ギアッチョは二重の意味で少し驚いたが、しかし特に追求もせず口を開く。 「――……どうなんだかな」 タバサははぐらかされたのかと思ったが、彼の表情を見るに、どうやら本当によく分からないらしい。自分の推測が当たったことよりも、今のタバサには何故かギアッチョの去就が気になって仕方がなかった。 「ルイズじゃあねーか どこに行ってたんだおめー」 ギアッチョの声で、タバサの思考は中断された。前に眼を遣ると、そこにはルイズがギアッチョに出くわしたことに驚いたような顔で立っている。 「……あ…………」 かと思うと、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり――次の瞬間、ルイズは一言も発さぬままに俯いて駆け出していた。 「ああ?」 ギアッチョが何か問い掛けるより早く、自分達の横を一目散に駆け抜けて、ルイズはそのまま回廊の薄闇に走り去った。 肩越しに後ろを覗き込んで、ギアッチョはやれやれと言わんばかりに首を振った。 「……相変わらず行動の読めねーガキだな。まだ何か悩んでやがるのか?」 パタリと本を閉じて、タバサは呟くように答える。 「……恐らくそう」 自分に眼を落としたギアッチョを見返して、タバサは「でも」と言葉を繋ぐ。 「私の考えが正しいなら、これは彼女自身の問題」 「ほっとけっつーことか?」 「私達が何かを言っても、彼女は頑なになるだけ」 フンと鼻を鳴らして、ギアッチョは再び歩き始めた。 「全然解らんが……ま、てめーがそう言うならほっとくか」 オレにもまだやることがある、と呟くギアッチョをタバサは幾分歩調を速めて追いかけた。 どこをどう走ったのかは全く覚えていない。ギアッチョと眼が合うことだけが恐くて、ルイズはただただ闇雲に廊下を走り回り――気付けば彼女は、いつの間にか自室に辿りついていた。思い切って扉を開くと、ギアッチョはまだ戻ってはいないようだった。服も着替えずにベッドに飛び込み、頭から毛布を被る。煩く鳴り響く心臓を押さえて、ルイズはぎゅっと身体を縮こまらせた。 ――何なのよ………… ルイズは自分が解らなかった。ワルドのプロポーズを受けてから、彼女の脳裏にはずっとギアッチョの姿がちらついている。頭から追い出そうとすればするほど、それは鮮明な像を結んでルイズの心を責め立てた。理由なんて知らない、分からないとルイズは己に言い聞かせるように繰り返す。 しかし、この胸の苦しさだけはどうしても誤魔化せなかった。廊下で偶然ギアッチョと出くわした時、ルイズは思わず何かを叫んでしまいそうで――反射的に、逃げ出してしまった。 ――……最低…… ぽつりと呟いて、ルイズは深く眼を閉じた。 今は眠ろう。明日になれば、きっと忘れられる。だから、今はただ眠ろう。 しかし、意志に反して――彼女は一向に眠れなかった。 屋上の見張り台から、ギアッチョは一人地上を見下ろしていた。 「……流石に冷えるな」 雲の上の更に上を、風が容赦なく吹きすさぶ。チッと舌打ちして、ギアッチョは視線を前方に向けた。双つの月が、見渡す限りの雲海を煌々と照らしている。 「絶景かな、ってぇやつか」 身を投げたくなる程の美しさだった。チームの奴らにも見せてやりたいもんだと考えて、ギアッチョはフッと笑った。 ――あいつらにそんな情緒はありゃしねーか かく言う自分もそうだったが、とギアッチョは思い返す。 イタリアにいた時には、周囲のものを景色として見たことなど殆どなかった。この世界に召喚されて、ギアッチョは初めて物事をあるがままに見ることが出来たのだった。 ――……そこんところは感謝してやってもいいかもな そう考えて幾分自嘲気味に笑った時、背後からギィッと扉の開く音が聞こえた。 「……よーやくおいでなさったか」 雲の海を眺めたまま、ギアッチョは待ち人に声だけを投げかけた。 「待たせたね さて、こんな深夜に一体何の御用かな?二人仲良く月見酒と洒落込もうというわけでもなさそうだが」 風に長髪をなびかせて、背後の男は薄く笑う。フンと退屈そうに鼻を鳴らして、ギアッチョはそこでようやく彼に振り向いた。 「何、大した用件じゃあねーんだがよォォ~~ ちょっと腹割って話でもしようや、ええ?ワルド子爵サマよ」 帽子のつばを杖で押し上げて、ワルドは口の端をつり上げて嘯いた。 「いいだろう こんなに月の美しい晩は、誰かと話もしたくなる」 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1703.html
間章 貴族、平民、そして使い魔 塗りつぶしたような王都トリスタニアの闇空に、青い絵具が一滴こぼれた。 王宮へと近づくにつれて、どんどん大きく形を変えてゆく。やがて 夜目にも分かる程鮮やかに竜の姿を取った時、それはぶわりと中庭へ 降り立った。 突然の闖入者に、宮廷内は騒然となった。王宮警護の当直である 魔法衛士のマンティコア隊員達が、次々と駆けつけては風竜を取り囲む。 「ね、ねえ君・・・これは流石に、目立ちすぎなんじゃ・・・・」 竜の背から飛び降りながら不安げに呟く金髪の少年に、 「一刻を争う事態なんでしょう?お上品にやってる場合じゃないじゃない」 すました顔で赤毛の少女。彼女の後から眼鏡をかけた少女が、そして 同時に剣呑な空気を纏った男が降り立つ。最後にひらりと飛び降りて、 桃色の髪の少女は大きく名乗りを上げた。 「わたしはラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズです アンリエッタ姫殿下に取次ぎ願いたいわ」 「ああ、ルイズ・・・!あなた達!無事に帰って来たのですね!」 何故かヴァリエールの名を恐れたマンティコア隊の隊士達によって、 ルイズ達はあっさり謁見の運びとなった。キュルケ達三名を待合室に 残し、ルイズとギアッチョはアンリエッタの居室で対面する。 「姫さま・・・」 二人はひしと抱き合った。そうしてから、ルイズは旅の顛末を説明 してゆく。キュルケ達との合流、陸と空の賊の襲撃、ウェールズとの 邂逅・・・・・・。 「・・・そう、ですか・・・」 全てを聞き終えて、アンリエッタはぽつりと呟いた。 「・・・やはり 殉じられたのですね・・・ウェールズ様は・・・」 「・・・あ、あの 姫様・・・その、ウェールズ様のことは」 「まさか魔法衛士隊に裏切り者がいるとは・・・護衛達のことは 新たに考え直す必要があるかも知れませんね」 「姫様・・・?」 「この手紙とレコンキスタの情報、確かに受け取りました ルイズ、 本当にありがとう よくぞ我がトリステインを救ってくれました」 「・・・・・・いえ、滅相もございません」 ルイズは胸が痛んだ。アンリエッタは今必死に王女として、 政を司る者として振舞おうとしているのだ。ならば、ルイズが その意志を汲まないわけにはいかなかった。アンリエッタの ように、ルイズもまた務めて無機質に言葉を重ねる。 一通り事務的なやり取りを終えた後、アンリエッタはその表情を 少し柔らかくした。 「あの者・・・ワルドとは、杖を交えたのですか?」 「・・・ええ お陰でこの通り、皆傷だらけですわ」 ルイズは軽口を叩いてみせる。その程度には、心の傷も癒えた らしい。それが分かったようで、アンリエッタもくすりと 笑って言葉を継ぐ。 「重傷を負った者はいないのでしょう?あのワルドをその程度の 代償で退けるとは、あなたのお友達は皆頼もしいのですね」 「・・・はい 自慢の友人達ですから」 花のような笑みで、ルイズはそう答えた。 「それに・・・言いましたでしょう?彼がいれば、どんな任務も きっと達成して御覧にいれますと」 アンリエッタはルイズの後ろに控える男を見る。 「ふふ・・・とても信頼されているのですね、使い魔さん もう一度言わせていただきますわ・・・ありがとうございます」 「やるべきことをしただけだ」 どうでもよさげに、彼は答えた。 「それでも、ですわ 本当に、今回は申し訳ありませんでした まさかあの謹厳実直な男が裏切るなど、夢にも思わなかったのです」 謝意を表すアンリエッタを、ルイズが慌てて止める。 「姫様、とんでもないことでございます・・・!恐れながら、 彼の心は幼少より付き合ってきたこのわたくしにも看破すること 能いませんでした 如何な人物であろうとも、あの者の秘めたる 牙を見抜くことは出来なかったと存じます」 少々大げさだが、ルイズの心は伝わったようだった。静かに 立ち上がって、アンリエッタはくすりと笑う。 「そうですね・・・そうかも知れません さて、此度は重ね重ね 感謝しますわ ゆっくりと身体を休めなさいな オールド・オスマンに 言えば休みもいただけるでしょう」 「もったいないお言葉です」 頷いてから、アンリエッタはギアッチョに向き直った。 「わたくしの大切な友達を・・・頼もしい使い魔さん、どうか これからも守ってあげてくださいな」 そう来るとは思わなかったらしい。刹那の沈黙の後、ギアッチョは ちらりとルイズの後姿に眼を遣る。躊躇いがちに頭を掻いて、 「・・・まあ、な」 彼は短く、そう返した。 「・・・成る程 放蕩三昧たぁいかねーわけか」 待合室へと足を向けながら、ギアッチョは一人ごちる。並んで 歩くルイズがそれに言葉を返した。 「そりゃ、地位が高ければ高い程責任は増すものでしょう?」 「ノブレス・オブリージュってやつか 姫さんと言やぁ 好き放題に遊んで暮らしてるようなイメージしかなかったからな」 「・・・イタリアには、王室はないの?」 「ねーな 五十年程前に廃止されたらしいが、よくは知らねぇ」 「・・・廃止・・・?」 王室の廃止など、トリステインの人間にはさっぱり理解出来ない 話だろう。少し考えてみたが、ルイズにもやはり解らなかった。 そのままどちらともなく会話が途切れ・・・二人の間に聞こえる ものは、かつかつと響く靴の音だけ。 やがて沈黙を打ち破って、ルイズが呟くように口にした。 「・・・ねえ さ、さっきのこと・・・本音だったの?」 「ああ?」 何の話か分からずに、ギアッチョは怪訝な顔をする。 「や、だ・・・だから・・・わ、わたしを守ってくれるって・・・」 正確には曖昧に答えを返していただけだったが、ルイズには それがどうにも嬉しかった。そこで、ギアッチョ本人の口から もう一度ちゃんと聞きたかったのだが、 「・・・さてな」 眼鏡を弄りながら、ギアッチョは適当に返事をするだけだった。 「ちゃ、ちゃんと答えなさいよ!もう!」 「まーまールイズ こう見えても旦那はおくゆかしいんだって たとえ死んでもおめーを守り通そうと思っていても、口にゃあ 中々出せないお人柄なのさ いやぁ旦那にも可愛いとこr」 べらべらと喋るデルフリンガーの声にビキビキという音が重なり、 それきり魔剣は完全に沈黙した。「まぁ、それなら確かに 可愛いんだけど」などと思いつつ、ルイズはそれ以上の問答を 止める。ギアッチョの表情は、相変わらず読み取れなかった。 「遅いわよー、ルイズ!」 正体無くソファに背中を預けていたキュルケが言う。 待合室で雑談に興じていた三人は、その言葉を合図に席を 立った。 「お待たせ 本当、遅くなっちゃったわね」 テーブルの上に置かれた水盆に浮かぶ針に眼を遣って、 ルイズはそう答える。時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。 中庭へ向かいながら、ギーシュが問い掛ける。 「報告はもう済んだのかい?」 「ええ ・・・詳しくは言えないけど、任務は成功よ あんた達のお陰だわ・・・本当にありがとう」 「何言ってんのよ 覚悟してなさいよ?私達が困った時は、 あなたに助けてもらうんだから」 冗談めかして返すキュルケに、 「と、当然でしょ!今に見てなさいよ!」 とルイズが答える。それを聞いて、ギーシュが笑った。 「アッハッハ ルイズ、喧嘩じゃないんだからさ!しかし 長い旅だったね・・・早くモンモランシーに会いたいよ」 「あら、あなたまだ続いてたの?」 「意外」 本に眼を落としながら、タバサはぽつりと呟いた。 「さらりと失礼な・・・僕達の愛は永遠、そして無限なのさ」 「女と見れば口説きに走る男の言うことじゃないわね」 「あんたが言うことでもないと思うけど」 他愛のないことを喋りながら、ルイズ達はシルフィードの 待つ中庭へ到着する。哨戒を続けているマンティコア隊の 隊士に一礼して、彼女達は空へと飛び立った。 居室の窓辺に立って、アンリエッタは飛び去るシルフィードを 物憂げに眺めた。彼女の右腕であり、実質的なトリステインの 首脳でもあるマザリーニ枢機卿に種々の報告と相談、指示を終え、 アンリエッタはようやく一人の少女に戻ることが出来た。 誰も入れないように命じたその部屋で、彼女は力なくソファに 座り込む。 ゆっくりと右手を開くと、そこには美しく輝く風のルビー。 その深い光を見つめながら、アンリエッタは先刻を思い返した。 この部屋を辞する間際にルイズがアンリエッタに差し出したもの、 それが風と水、二つのルビーだった。 片割れである水のルビーは、褒賞としてルイズに下賜した。 文字通り命を賭けた彼女の働きには、それでも足りない程だと アンリエッタは思っている。――そして、風のルビー。 ウェールズの、それは唯一つの形見だった。ルイズは、 ウェールズは勇猛に戦い、そして散ったと言う。最後に一言、 アンリエッタの幸せを願って逝ったとも。 ルビーを両手で握り締め、俯いた額に強く押し当てる。恋人との 思い出が、アンリエッタの心を無数に駆け巡っていた。 「・・・あなたのいないこの世界の、一体どこに幸せがあると 言うのですか・・・・・・?」 万感の悲哀を込めて、アンリエッタはそう呟く。その声はか細く 震えていた。 「・・・・・・ぅ・・・」 耐え切れなかった。押し込めていた悲嘆が、こらえていた涙が、 堰を切って溢れ出す。 「・・う・・・ぅ・・・ううぅうぅぅうぅ・・・・・・ッ! ウェールズさまぁああぁぁ・・・・・・・!!」 誰も踏み入ることの出来ない部屋で一人、少女はいつまでも 泣き続けた。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/605.html
ギーシュを介抱しているモンモランシー達を尻目に、ギアッチョはシエスタと マルトー達の元へ向かっていた。 「・・・よぉ」 マルトーは何を言っていいのか分からないようだった。ギアッチョはメイジ なのか?ならばギアッチョは貴族なのか?それならオレ達の敵なのか・・・? 無数の疑問が彼の頭の中を駆け回っていた。 「ギアッチョさん・・・ ・・・お疲れ様です」 同じく何を言えばいいか分からないらしいシエスタが、とりあえずねぎらいの 言葉をかける。 「・・・ああ 見せたかったのは今の・・・オレの力だ 詳しいことは今度――機会があれば説明するがよォォ~~・・・ オレはこの世界の人間じゃあねえ」 突然のギアッチョの告白に、マルトー達は眼を丸くする。 「この能力は魔法じゃあねえ 「スタンド」っつーオレの世界の力だ 黙っていたことは謝るぜ・・・だが オレをよォォーー 軽蔑する前に一つだけ聞いてくれ オレは『平民』だ 世界が違ってもこれだけは変わらねぇ・・・ 身分の話じゃあねー おめーらと同じ・・・『上』の圧政に立ち向かう人間なんだ」 少々混乱したようだが、シエスタとマルトーは黙って話を聞いていた。 「・・・言いたかったのはそれだけだ こんなことしなくても黙ってりゃあよかったのかもしんねーが・・・ 仲間だと思ってくれてる人間を騙し続ける なんてことだきゃあしたくなかったんでよォォ~~」 そう言い終えると、ギアッチョは咳払いを一つして先を繋いだ。 「・・・ま そーいうわけだ オレを嫌うなら遠慮はいらねー 文句を言うつもりも――」 「何言ってるんですかっ!!」 さえぎったのはシエスタだった。シエスタは一歩前に進み出ると、ギアッチョの手を取って言う。 「ごめんなさい ギアッチョさんの力を見たとき、私も正直あなたを疑ってしまいました・・・でも今こうして話すと分かります 『仲間』を失うリスクを冒して まで自分の力を見せたギアッチョさんの『覚悟』が」 シエスタはマルトーに顔を向ける。マルトーはがしがしと頭を掻くと、 「おおよ!男の『覚悟』に報いねぇのは男じゃねえ・・・そして平民じゃあねえ! 疑ってすまなかった あんたはまさに『我らの剣』だ!なぁ友よ!」 そう言ってばしばしとギアッチョの背中を叩いた。 その様子を、ルイズは遠くから眺めていた。その隣にはキュルケとタバサ。 「・・・なによあなた 何かうれしそうじゃない?」 キュルケがルイズの顔を覗き込む。ルイズは少し照れたようにキュルケを睨みながら、 「当然でしょ 私にも『仲間』が出来たんだから!」 と言う。その綻んだ顔を複雑そうな眼で見ながら、キュルケは呟く。 「・・・あ、そ ・・・・・・まぁ今回は引き下がってあげるわ ギアッチョ」 何か言った?と言うルイズをキュルケは「うかれすぎて耳がおかしくなったんじゃあないの?」とからかい、それにルイズが反論し――きゃいきゃいと騒ぐ二人を、タバサはやれやれといった眼で見つめていた。 青銅のギーシュ―― 己の魔法で倒されるという最も屈辱的な方法で敗北。しかし ケティに殴られたシーンを誰も見ていなかったので二股はバレなかった。そこの ところはラッキーな奴。(再起不能?) ==To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/701.html
ルイズは今夜も夢を見ていた。古ぼけた部屋の中の、かすみがかった人物達の夢。 ルイズはまた自分ではない誰かになっていて、かすみがかった部屋でかすんだ姿の まま、かすんだ男達と音の擦り切れた会話を交わしていた。 あの使い魔、ギアッチョを召喚した時から――いや、正確にはギーシュとの決闘を 終えた日から、ルイズはこの不思議な夢ばかりを見るようになっている。 使い魔となった者は、主人の目となり耳となる能力や人語を解する能力などを手に 入れる。ギアッチョにはそんな力はなかったが、ひょっとするとそれが夢の共有と いう形で発現しているのかもしれないとルイズは考えた。もしそうだとすると、この 夢を決闘の翌日から見るようになったということは――あの決闘を通して、 ギアッチョが自分を少し認めてくれたということなのかもしれない。ならば、と ルイズは思う。日々霧が晴れるように鮮明さを増してゆくこの夢は、彼が徐々に 心を開いていってくれているということなのだろうか。勿論、霧が全て消えれば 信頼度MAXなどというわけではないのだろうが、興味なんてさらさら無いように 見えるギアッチョが日々内心自分に心を開きつつあると思うと、ルイズはなんだか 無性に嬉しかった。 「どこに行くのよ」 ドアに向かって立ち上がったギアッチョにルイズが問いかける。外はもう双月が 煌々と輝いている時間である。 「剣の練習だ」 ギアッチョはそう言って喋る魔剣デルフリンガーを掴む。 「ちょっと待って わたしも行くわ」 そう言ってベッドから跳ね起きるルイズをギアッチョは物珍しげな眼で見る。 「ああ?何しに行くんだよ」 「何しにって・・・こっ、このわたしが見てあげるって言ってるのよ!ありがたく 思いなさい!」 ルイズはそう言うとギアッチョより先にドアを開けて行ってしまった。ギアッチョは その後姿を眺めながら、 「全くコロコロと機嫌の変わるヤローだなァァ あれが女心と秋の空ってヤツか? え?オンボロよォォ~~」 デルフリンガーの柄を鞘からわずか引き抜いて言う。話を振られた魔剣は、 「えっ!?あ、ハ、ハイ そのようでダンナ・・・」 先日ギアッチョにタンカを切った時の威勢のよさは微塵も無くなっていた。 ギアッチョが中庭へ出ると、先に到着していたルイズがキュルケと喧嘩をしていた。 その後ろには心配そうに主人を見守るフレイム。二人をサイドから眺めるような 位置でタバサが本を読んでいる。 「何でてめーらがここにいる?」 ギアッチョが当然の疑問を発すると、 「ちょっと食べすぎちゃったのよ で、運動しようと思ったらこのおチビちゃんが やって来たワケ」 返答にもルイズへの罵倒を織り交ぜるキュルケだった。 「だ、誰がチビよ!このストーカー!」 「ストッ・・・!?」 「ストッ・・・!?」 ルイズの一撃はキュルケの心を見事に刺し貫いた。別に感謝されたくてやって いたわけではないが、それにしたってキュルケの行動は――無論本人は肯定など しないだろうが――ひとえにルイズを心配するが故なのである。そこに気付いて いないとはいえ、ルイズのこの一言は相当なダメージだった。 「・・・ストーカーね・・・ フフフ・・・ストーカーですって・・・」 がっくりと肩を落としてブツブツと呟くキュルケに流石のルイズも異変を感じたのか、 「えっ!?ちょっとわたし何かした!?」とタバサに助けを求めている。 タバサが「どっちもどっち」と呟いたのを合図に、ギアッチョは彼女達から魔剣へと 視線を移す。 「で? どーすりゃあいいんだオンボロ」 「ど、どうするって?」 「剣なんざ扱ったこともねーって言わなかったか?喋れんなら剣の指南ぐれー 出来るだろ 前の持ち主の剣術とかよォォー」 完全に人まかせ、否剣まかせのギアッチョである。 「あっ、あーあーなるほど!だからダンナはわざわざこの俺をお買いになられた わけッスねェー!さすがはギアッチョのダンナ!」 デルフリンガーはなんとかギアッチョの機嫌を損ねまいと頑張っている。 「てめーそのダンナってのはどうにかならねーのか?」 「え・・・いや、相棒ってのもなんか違うし兄貴はもう取られてるし・・・」 よく分からないことを言い出すデル公だった。 「まぁいい で、結局どーすんだ」 「どうするって言われても・・・え、えーと じゃあとりあえず剣を抜いて・・・」 ギアッチョは言われるままに柄に手をかけ、剣を引き抜き―― バッグォォオオン!! 突如として中庭に轟音が鳴り響いた! 「何・・・だァァ~~~?」 ギアッチョが音のしたほうを振り向くと、岩が集まったような巨大な化け物が 本塔の壁を殴りつけているところだった。 「あれも使い魔だってェのか?」 抜きかけた剣を収めてルイズ達と合流したギアッチョが問う。 「あれはゴーレムよ それもとんでもなく大きい・・・!あんなものを練成する なんて・・・少なくともトライアングルクラスのメイジだわ」 どうやらあれは魔法によって作られるものらしい。彼女達の反応を見るに、 相当高度な魔法のようだ。 「なんにしても・・・見過ごすわけにはいかないわね!」 言うが早いかキュルケが走り出し、 「ちょっ、何やってんのよ!」 ルイズがそれを追いかける。タバサはギアッチョにちらりと眼を向けると、 「危険」 一言告げて先の二人を追いかける。ギアッチョは一つ大げさに溜息をつくと、 仕方なく彼女達のあとに続いた。 ゴーレムの肩の上に、黒衣に身を包んだ女性が立っている。彼女――土くれの フーケは、今まさに「仕事」の只中であった。大怪盗の名を持つ彼女の今宵の 目的は、トリステイン魔法学院本塔の宝物庫に秘蔵されている「破壊の杖」で ある。幾重にも封印が施された扉からの侵入を諦めた彼女は、魔法の薄い 外壁のほうを狙っていた。しかし内側よりは防御が甘いとは言え、高レベルの メイジがかけた固定化の魔法はそう簡単に破れるものではない。ゴーレムの 拳に、本塔の外壁は全くこたえた様子を見せなかった。しかしフーケは 慌てない。ぶつぶつと何事か呟くと、ゴーレムの両腕は鋼鉄の塊へと変じた。 フーケのゴーレムはそのまま壁へと突きのラッシュを放ち――何度目かの 突きで、固定されていた壁は見事に爆砕した。 フーケはちらと地面を見下ろす。学院の生徒達が何名かこちらに向かって いるが、彼女はクスリと笑うとそのまま宝物庫へと侵入した。 キュルケは走りながら魔法を唱え、ルイズとタバサがそれに続く。三者三様の 魔法が激突するが、多少の破損が認められるだけでゴーレムは問題なく 動き続ける。小うるさいアリ共を潰すべく、動く岩塊が右腕を打ち下ろし、 「きゃああっ!?」 間一髪逃れた三人に容赦なく左腕が振り下ろされる! 殺られる――!!ルイズは死を覚悟した。 しかし鉄の拳が彼女達を押しつぶす寸前、タバサが魔法を発動させる! バシィィィンッ!! タバサが打ち込んだ風がゴーレムの拳を刹那弾き返し、 「逃げて」 言うや否や二人に杖の先を向ける。 「なッ・・・タバサ!!」 タバサの風に二人はゴーレムの射程外まで吹っ飛び、そして再び呪文を 唱える間も、ましてや逃げる間も少女達の悲鳴が届く間もなく、タバサを 鋼鉄の拳が―― ズンッ!! 圧死の痛みの代わりに誰かに抱きかかえられる感触を感じて、タバサは 閉じていた眼を開いた。少女の眼に最初に飛び込んできたものは、 幾度も眼にしたことのあるボタンの多い服。そして彼女の頭上で、幾度も 耳にした声が響いた。 「てめー・・・シルフィードだったか?なかなかガッツがあるじゃあねーか」 ギアッチョが飛び乗ったシルフィードは、彼が何かを言う前に主人目掛けて 亜音速で飛来し、ゴーレムの拳が地面に激突する一瞬の間隙を縫って 主人を救い、空へと上昇した。タバサを捕まえたのはギアッチョである。 ギアッチョとシルフィード、それぞれが一瞬ですべきことを把握しなければ 出来ない芸当だった。使い魔同士の信じられないコンビネーションに、 破壊の杖を抱えて出てきたフーケを含む誰もが呆然と空を見上げていた。 一瞬あっけに取られていたフーケだったが、目的を果たしたことを思い出すと さっさとこの場から逃げることに決めた。地響きを立てて去ってゆくゴーレムを 見送って、 「大丈夫」 とタバサは一言口にする。それを合図にギアッチョが抱えていた手を離し、 タバサの命で風竜はゆるゆると地上へ向かった。 「――ありがとう」 シルフィードが地面に降り立つ直前、タバサは小さな声で言う。ギアッチョは 一瞬だけタバサに眼を遣ると、フン、と鼻を鳴らした。 「タバサ!!大丈夫!?タバサ!!」 「無事なのあんた達!?」 地上に戻った2人と1匹に、キュルケとルイズが駆け寄る。その顔は今にも 泣き出しそうだった。ギアッチョは3人を見渡して、誰にも怪我がないことを 確認すると、 「てめーらそこに並びな」 彼女達を一列に整列させる。 そしてルイズ達に待っていたのは。 「このッ・・・バカ野郎共がッ!!!」 鬼も裸足で逃げ出さんばかりのギアッチョの怒鳴り声だった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2150.html
『ペルソナ3』の荒垣真次郎を召喚 ゼロのおかあさん-1 ゼロのおかあさん-2 ゼロのおかあさん-3 ゼロのおかあさん-4 ゼロのおかあさん-5 ゼロのおかあさん-6 ゼロのおかあさん-7
https://w.atwiki.jp/rakatonia/pages/38.html
ゼロの英雄奪還日記
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1479.html
軽い自己紹介を終えてから、ルイズとワルド、それにギアッチョはウェールズの 先導で「イーグル」号の船長室にやってきた。ウェールズの対面にルイズと ワルドが腰掛け、ギアッチョは少し離れて壁に背を預ける。キュルケ達が同席 出来ないことに若干の罪悪感を感じながら、ルイズはまずアンリエッタが 自分に預けたウェールズへの手紙を取り出した。しかしウェールズに手紙を 差し出そうとして、ルイズはピタリと動きを止める。 「・・・あ、あの」 「なんだね?」 「・・・無礼を承知でお尋ねしますが、その・・・本当に皇太子様でしょうか」 恐る恐る尋ねるルイズに、ウェールズは笑って答えた。 「その疑問はもっともだ 僕は正真正銘、本物のウェールズ・テューダーだよ ・・・そうだね ラ・ヴァリエール嬢、右手を出してごらん」 言われるままに、ルイズは右手を差し出す。その指に光る指輪は、忠誠に 報いる為にアンリエッタがルイズに与えた「水のルビー」であった。ウェールズは 己の右手に嵌る指輪を外すと、そっとルイズの手を持って指輪同士を近づける。 その瞬間、ウェールズの指輪を飾る宝石と水のルビーの宝石が共鳴を始めた。 二つの宝石から放たれた二色の光は、互いと緩やかに絡み合って世にも美しい 虹色の光を振りまいた。 「・・・・・綺麗・・・」 「この指輪は、我がアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ 君のそれは、 アンリエッタが持っていた『水のルビー』だね?」 柔らかいまなざしで水のルビーを見つめるウェールズに、ルイズはこくりと頷いた。 「水と風は、虹を作る 王家の――そして国家の間に架かる虹さ」 ウェールズはにこりと微笑んで言うと、疑った非礼を詫びるルイズを手で制する。 「いいんだラ・ヴァリエール嬢 このような状況であれば、疑ってかかるのは 大使として当然のことだよ それに、僕達は最後の客人に気を使って欲しくなど ないんだ ラ・ヴァリエール嬢、ワルド子爵・・・そして使い魔の青年、ギアッチョ どうか楽にして欲しい それが――我々への、一番の手向けでもある」 ――戦況が悪いだとかそんなレベルじゃあねーらしいな 壁にもたれたギアッチョは、腕を組んでウェールズを観察する。しかし彼に 怯えた様子は微塵も見当たらなかった。ただのボンボンではないらしい、と ギアッチョは考える。 「姫様からの密書にございます」 ルイズは一礼して、アンリエッタからの手紙をウェールズに渡す。 ウェールズはルイズから手紙を受け取ると、愛おしそうに花押に口づけした。 折り目一つつけないように丁寧に封を開き、便箋を静かに取り出す。 真剣な眼で文字を追って、ウェールズは顔を上げた。 「・・・結婚するのか アンリエッタは・・・私の可愛らしい、従妹は」 その口調にどこか寂しげなものが感じられ、ルイズは何も言えずに頭を 下げた。 最後の一行まで手紙を読み終えて、ウェールズは微笑んだ。 「委細了解した 姫はとある手紙を返して欲しいと従兄の私に告げている 何より大切なアンリエッタからの手紙だが――彼女の望みは私の望みだ 喜んでそのようにさせてもらうよ」 ルイズはほっとしたようなどこか物悲しいような、複雑な表情で顔を上げた。 「しかしながら、あれは今手元にはない ニューカッスルの・・・我ら王国軍の 最後の牙城にあるんだ 姫の手紙を、空賊船などに『連れて来る』わけには いかぬのでね」 ウェールズはそう言って笑うと、手紙にすっと指を滑らせた。 「足労をかけてすまないが、ニューカッスルまで同乗してくれたまえ 何、明日の戦が始まるまでには君達を帰すことが出来るだろう」 少し話があるらしくウェールズと二人で船長室に残ったワルドを置いて、 ルイズとギアッチョは退出した。とりあえずすべきことが終わって、ルイズは 甲板へ向かう通路を歩きながらほっと溜息をつく。大使としての緊張感が 解けて素の自分に戻ったルイズは、そこではっと思い当たった。状況が 状況だったのでさっきの騒動以来ギアッチョと口をきいていなかったが、 ひょっとしてギアッチョは怒っているのではないだろうか。自分達の命も 顧みず、空賊にまるで喧嘩を売るような――というか完全に売っていた ――真似をしてしまったのだ。フーケと戦った時にギアッチョに言われた ことを何一つ理解していないと言われても仕方がないだろう。そして、 ならばギアッチョはきっと自分に説教をするはずだ。今までは空気を 読んで黙っていたのだとすると、ひょっとしてそろそろ―― 「・・・おい」 「は、はいっ!?」 来た。やっぱり来た。思わず敬語が出てしまい、ルイズは軽く自分が 情けなくなった。つーっと冷や汗が流れる。ギアッチョに怒られるのは やっぱり少し・・・いや、かなり恐い。「しっかりしなさいルイズ」と彼女は 心中自分に言い聞かせる。ギアッチョが人間だろうと自分より年上で あろうと、自分は彼の主人なのだ。身分だとか上下関係だといった ものを主張する気など毛頭ないが、しかし主人であるからには使い魔に 対しては毅然とあらねばならないとルイズは思う。魔法を使えない自分 だからこそ、せめて振る舞いだけは堂々としていなければならない。 そうでなくては、自分などに召喚されてしまったギアッチョにも申し訳が 立たない。 己の心に棲みつくどうしようもない劣等感に蓋をして、ルイズは堂々たる 所作でギアッチョを見上げた。例え怒りを受ける身であろうとも、毅然と してそれを迎え入れるべきだとルイズは考える。コホンと一つ咳をして、 「・・・何かしら?」 彼女は極力余裕を持たせてそう言った。 ギアッチョはルイズを見て何かを考え込んでいるようだった。声を掛けて おきながら何も言おうとしないギアッチョにルイズの不安は加速度的に 重さを増してゆく。しかしルイズはギアッチョから眼を離さなかった。 内心の不安を押し隠すべく無理に表情をなくそうとして逆に殆ど睨む ような形になってはいるが、ともかくルイズは退かなかった。「来るなら 来なさいよ!」と、心中まるで戦でもするかのように呟く。こうであると 決めたルイズの意志は、時として鋼よりも固かった。 思考を止めたものか纏めたものか、やがてギアッチョは何だかよく 分からない顔でルイズに向き直った。 ――来た・・・ッ! ルイズはかかってきなさいと言わんばかりにギアッチョを睨む。 ギアッチョはいつも以上に読めない表情でスッと右手を上げると、 わしわしと、ルイズの頭を乱暴に撫でた。 「ふええぇっ!?」 ギアッチョの有り得ない行動に、鋼鉄のはずのルイズの意志はあっさりと 砕け散った。厳然たる言葉を紡ぐはずの口から生まれて初めて出した のではないかというほどに情けない声が飛び出て、頭上の手と己の声の 相乗効果でルイズの顔は湯気が立たんばかりに茹で上がった。 「なッ、な、な、ななな――!?」 動揺ここに極まれり。せめて言葉の一つも出ればまだなんとか取り繕う ことも出来たかもしれないが、現実は非情であった。ルイズはギアッチョに 錯乱でもしたのかと問いたかったが、今この場で一番錯乱しているのは 誰がどう見てもルイズ自身である。ギアッチョはルイズを差し置いて よく分からんといった表情をすると、彼女を見下ろして声を掛けた。 「よくやった」 「・・・へ?」 怒らないどころか自分を褒めるギアッチョに、ルイズは赤くなった顔の ままきょとんとする。ルイズの頭に無造作に手を置いたまま、ギアッチョは 全く褒めているとは思えない顔で続けた。 「言っても解らんガキかと思ってたがよォォ~~ 上出来だぜルイズ 己の命が奪われようと・・・オレやワルドが死ぬことになろうともてめーの 心を貫くという『意志』・・・それが『覚悟』だ」 「え」 「状況に流されたり強制されたりした結果の行動・・・そいつは『覚悟』 なんかじゃあねえ 追い詰められたりどうでもよくなったりしてなりふり 構わずヤケになって突っ込むなんてのは、ただ諦めてるだけだ」 「・・・ギ、ギアッチョ あの・・・わたしさっき空賊のことで頭が一杯で あんたやワルドのことなんてすっかり忘れてて・・・だから」 ギアッチョが言ってるようなことじゃないと否定するルイズを、ギアッチョは 言葉で遮った。 「――『覚悟』は・・・確固たる己の『意志』から生まれる オレ達のことを 覚えていたか忘れていたか、そんなもんはどうだっていいことだ 何がどうであれ、さっきのおめーには間違いなく『覚悟』があった 祝福するぜルイズ 無意識だろーとなんだろーとおめーには覚悟の心が ある 重要なのはそれだけだ」 ギアッチョは抑揚に乏しい、一見無感動に思える口調で、はっきりと そう言った。 「・・・・・・・・・『覚悟』・・・」 心で反芻するように呟いて、ルイズはギアッチョを見上げる。彼は 相変わらず読めない顔でルイズを見ていた。だが、だからこそ、ルイズは 彼を信じることに躊躇はなかった。この無愛想な男が言うのなら、きっと そうなのだと。だからルイズは、ただ一言だけ言葉を返す。 「・・・・・・うん」 それで十分だった。 「・・・・・・ところで、あの」 置き忘れられたかのようにルイズの頭に乗っているギアッチョの手を 指差して、ルイズは疑問をぶつける。 「こ、これ・・・どうしたの?いきなり・・・なんかギアッチョらしくないわよ」 「あー・・・なんだ 一つプロシュートに倣ってみよーと思ったんだがな」 やっぱりこれはオレのキャラじゃあねーな、とギアッチョは両手を上げて 首をすくめた。 「そ、そんなこと・・・」 頭からどけられた手が何故か名残惜しくてルイズは思わずそう言い かけるが、 「あーいたいた おっそいわよあなた達!」 続く言葉は、やってきたキュルケの呼びかけに遮られた。 「キュ、キュルケ!」 「何やってるのよ二人共 もうすぐニューカッスルに着くらしいわよ? 甲板に行きましょうよ」 催促しながら歩いてくるキュルケに眼を向けて、ギアッチョは口を開く。 「あいつらは甲板か」 「ええ、ギーシュは船酔いでフラフラしてるけどね タバサは相変わらず 本を読んでるわ」 そう言って笑うと、キュルケはルイズに眼を向けた。 「あらルイズ?あなた顔が真っ赤だけど何をやってたのかしら?ん?」 「なっ、何もしてないわよ!あんたじゃないんだから!」 楽しそうに笑って顔を近づけるキュルケから眼を逸らしてルイズは 怒鳴る。しかしキュルケは綺麗な笑みを崩さずに、デルフリンガーを見た。 「ねぇデルフ 今二人は何をしてたのかしら?」 「いや、てーしたことじゃねーんだけどよー」 答えようとした魔剣を睨んで、ルイズは「余計なこと言ったら船から投げる わよ!」と凄む。 「・・・てーしたことじゃなさすぎて忘れたわ」 いくらなんでもここから落とされたくはないらしい。デルフはあっさり従った。 ルイズは謝りたかった。何事もなかったかのように甲板上で歓談している 三人に。それが出来ないならば、せめてありがとうと言いたかった。 しかし、どうしても言葉が出ない。喉まで言葉が来ているのに、どうしても それを吐き出すことが出来ない。礼の一つも言えない自分を、ルイズは ブン殴ってやりたかった。打ち沈んだ彼女の心境を知ってか知らずか、 キュルケはルイズに何かを言わせる暇もなく話題を繋ぐ。 「そんなわけでフーケを逃がしちゃったのよ どう思う?ギアッチョ」 「・・・ま、いいんじゃあねーのか てめーの意志で決めたってんならな」 ギアッチョはギーシュに眼を遣って答えた。その言葉に、ギーシュは 青白い顔のまま満面の笑みを浮かべる。 「ほら言った通りじゃないか!ギアッチョなら分かってくれるってさ・・・うぷっ」 「はいはい聞こえたわよ それも『覚悟』ってわけ?さっぱり解らないわ」 キュルケはやれやれといった感じに首を振った。舷側の欄干に背を 預けて、ギアッチョははしゃぐギーシュから眼を外して言う。 「安心しろ てめーの決意で奴を逃がしたってことは責任を取る『覚悟』も 当然出来てるってわけだからな・・・なあオイ」 「えっ!?あ・・・ああ も、勿論さ!当たり前だろう?」 青白い顔を一層青くして答えるギーシュに、キュルケは一つ溜息をつく。 「・・・そっちは?」 話の間隙を縫うようにして、タバサが本から眼を上げて問うた。 珍しく自分から声を掛けるタバサにギアッチョは意外そうに眉を上げる。 「仮面の野郎が追ってきたな」 「本当?あの傭兵達の自白は事実だったわけね・・・怪我は?」 三人を代表したキュルケの質問に、ギアッチョは左手を上げることで 答えた。隙間なく巻かれた包帯に、キュルケ達は息を呑む。 「ちょっ・・・それ大丈夫なのかい!?」 思わず叫ぶギーシュに、ギアッチョはどうでもいいように右手を振って みせた。 「大した怪我じゃあねー こいつが持ってきた軟膏もあるしな」 ギアッチョはそう言って、浮かない顔をしているルイズを見る。 「へぇ あなたもそういう気配りが出来たのねー」 キュルケはわざと皮肉っぽい口調で言うが、ルイズは沈んだ顔のまま 何の反応も返さない。少し唇をとがらせて、キュルケはルイズの顔を 覗き込む。 「ちょっとールイズ!あなた少しは明るい顔を――」 と、キュルケがルイズを叱咤しようとした時、フッと影が彼女達を覆った。 「何・・・?」 彼女達は一斉に空を見上げる。雲の切れ間から、巨大な軍艦がその 姿を覗かせていた。 「うっぷ・・・あ、あれはひょっとして・・・」 ギーシュが眼を見開いて呻く。 「そう」 空を振り仰ぐキュルケ達の後ろから、突然声が投げかけられた。 ワルドと共に船室から出てきたウェールズが、形のいい眉を忌々しげに ひそめて言う。 「叛徒共の、船だ」 巨大な、全く巨大な――禍々しき戦艦であった。優に『イーグル』号の 二倍はある艦体に同じく巨大な帆を何本もはためかせている。かと 思うと、巨艦は無数に並んだその砲門を一斉に開き、大陸に向けて 斉射を開始した。どこに着弾しているのかは大陸を半ば見上げる形で 航行している『イーグル』号からは分からなかったが、ドゴドゴッ!という 砲撃の音と振動はびりびりと伝わってきた。 「かつての我らが旗艦・・・『ロイヤル・ソヴリン』号だ 奴らの手に落ちて からは、『レキシントン』号と名前を変えている 初めて我々から勝利を もぎとった戦地の名だ・・・よほど名誉に感じているらしいね」 ふっと皮肉な笑いを浮かべるウェールズの横で、ギアッチョは 『レキシントン』号を観察する。舷側に並んだ無数の大砲と対を成す ように、艦の周囲ではドラゴンに乗った数多の竜騎士達が哨戒を行って いた。ウェールズ達王党派にとっては、まさに絶望の象徴に他ならない だろうと思われた。 「備砲は両舷合わせて百八門、その上竜騎士まで積んでいる あの戦艦の反乱から、全てが始まった・・・因縁の艦だよ さて、我々はあんな化け物に対抗し得るはずもない そこで雲中を通り、 大陸の下からニューカッスルに近づくというわけさ そこに我々しか 知らない秘密の港があるんだ」 ウェールズはそう言って大陸を見上げた。 大陸の下へと潜り込み、陽の届かないそこを慎重に航行する。 そうするうちに頭上に見えてきた三百メイル程の穴を、『イーグル』号は ゆるゆると上昇してゆく。頭上に薄っすらと見える光は船の上昇につれて 徐々に明るくなってゆき、やがて眩い程に大きくなったかと思うと、船は 静かに停止した。 ウェールズに促されて、ワルドはグリフォンと共にひらりと地面に飛び 降りる。辺りを見渡して、彼はほう、と感嘆の声を上げた。 「これは――素晴らしい」 「驚いたかい?子爵」 いたずらっぽく笑うウェールズを振り返って、ワルドは両手を広げてみせる。 「それはもう ここまでの旅路もさることながら、これ程までに美しい光景は 様々な場所を旅した私にも滅多に御眼にかかれませぬ」 そこは巨大な、そして実に見事な鍾乳洞であった。見事な円錐形の鍾乳 石が大小様々に垂れ下がり、それを覆う発光性のコケが周囲を幻想的に 照らし出している。ルイズ達もまた、息を呑んで立ち尽くしていた。 背の高いメイジの老人がウェールズに近寄り、彼の労をねぎらう。 「おやおや、これはまた大した戦果でございますな 殿下」 老境にあって尚かくしゃくたる彼は、『イーグル』号に続いて鍾乳洞に現れた 船を見て、顔を綻ばせた。 「喜べ、パリー」 ウェールズは手を上げて、洞窟中に響く声で戦利品を報告する。 「積荷は硫黄だ!硫黄を手に入れたぞ!」 その言葉に、主人の帰還を待っていた兵達が一斉に歓声を上げた。 「おお!硫黄ですとな!火の秘薬ではござらぬか!いやはや・・・これぞ まさしく天の配剤と言うべきかも知れませぬな 最後の最後に、我々の 名誉を守る機会を下さるとは!」 パリーは男泣きに泣き始めた。 「先の陛下より御仕えして六十年・・・これほどに嬉しい日はありませぬぞ 彼奴らが反乱を起こしてからというもの、苦渋を舐めっぱなしでありましたが ――何、これほどの硫黄があれば!」 ウェールズは、ニヤリと一つ勇ましく微笑んで後を継いだ。 「ああ、そうだ 我らアルビオン王家の誇りと名誉を、散華のその瞬間まで 叛徒共に示し続けることが出来るだろう」 「おお、おお!この老骨、武者震いがいたしまするぞ!」 ウェールズ達は、心底楽しそうに笑いあった。 「して陛下 御報告なのですが、叛徒共は明日の正午に攻撃を開始する との旨、伝えて参りましたぞ」 「ついに来たか・・・それではやはり、明日こそ我ら王家の最期になると いうわけだな」 怯えた様子一つ見せずに、ウェールズはあっさり言ってのける。その 言葉に動揺を見せる兵士もまた、居りはしなかった。 ――最期って・・・この人達怖くないって言うの? キュルケはルイズ達に困惑した顔を向ける。皆思い思いの表情を 浮かべていたが、その表情はどれも自分とは違うような気がして、 彼女はますます困惑を深めた。 「さて、こちらはトリステインからの客人だ 重要な用件で我が国に 参られた大使殿だよ 丁重にもてなしてさしあげてくれ」 「ほほう、これはこれは大使殿 殿下の侍従をおおせつかって おりまする、パリーでございます このような沈みゆく国へ、ようこそ いらっしゃいました 大したもてなしも出来ませぬが、今夜は ささやかな祝宴が催されます 是非とも御出席くだされ」 老いたメイジは、気品溢れる仕草で一礼した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1046.html
ルイズはまた夢の中だった。今回もあの夢だろうかと彼女は身を固くしたが、今日の夢はどうやらそうではないようだった。 周りを見渡すと、どうやら自分は小舟の上にいるようらしい。ああ、とルイズは思う。ここはヴァリエールの屋敷だ。 そしてここは自分が「秘密の場所」と呼んでいた中庭の池――・・・。 魔法が使えないことで幼い頃から周囲に白眼視されていた彼女は、悲しい時悔しい時、いつもこの小舟の上で毛布を被り、ひっそりと泣いていた。 「泣いているのかい?ルイズ」 頭の上から声がかかる。はっとして顔を上げると、大きな羽帽子にマントを被った立派な貴族がルイズを見下ろしていた。 隣の領地を相続している、憧れの子爵だった。幼いルイズはそんな彼にみっともないところを見られて慌てて顔を隠す。 「子爵さま、いらしてたの?」 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ あのお話のことでね」 その言葉にルイズは紅に染まった頬を更に赤くして俯く。 そんな彼女を見て、子爵はあっはっはと頼れる声で笑った。そして彼はおどけた調子でルイズを元気づける。彼女にとっては大切な、懐かしい夢。 その時ざあっと風が吹き、子爵の帽子をさらっていった。 「へ?」 いつの間にか今の自分に戻っていたルイズは、帽子の下に現れた顔を見てぽかんとした。その顔は、どう見ても己の使い魔――ギアッチョのものだった。 「な、何よあんた どうしてここにいるのよ」 ルイズは当惑して叫ぶ。しかしギアッチョは、相変わらず感情の読めない眼でじっとルイズを見ている。 「何か言いなさいよ!ねえったら!」 しかしルイズの言葉などまるで耳に届いていないかのように、ギアッチョは何も言わず何もせず、ただルイズを見つめている。 そしてそのまま、一言も言葉を発さぬままにギアッチョの姿は掻き消え、そして小舟も、池も、世界も、ルイズも消えた。 廊下から聞こえてくる声で、キュルケは眼を覚ました。外は薄暗く、恐らくはまだ教師達も眠っているであろう時間帯だ。 静謐な学び舎に響く二人分の囁き声をキュルケはまだ半分寝ている頭で聞いていたが、それがルイズとギアッチョの声であること、そして会話のところどころに「姫さま」とか「任務」などという単語が混じっていることに気付いて飛び起きた。 物音を立てないように急いで着替えと支度を済ませると、ルイズ達が門へ向かったのを確認してから彼女はタバサの部屋へ飛び込んだ。 「タバサおはよう!寝てる場合じゃないわよ、面白いことが――」 部屋に入るなり早口にまくし立てるキュルケの言葉は、サイレンスの魔法によってあっという間に掻き消える。ドアの開く音で目覚めた瞬間反射的に杖を取って呪文を唱える、タバサの瞠目すべき早業であった。 無声映画のように身振り手振りを続けるキュルケを寝起き直後の胡乱な眼で眺めると、掴んだ杖もそのままにタバサは再びベッドの中に潜り込んだ。 キュルケはしばらくジェスチャーを続けていたが、タバサが完全にシカトする構えだと知ると、ならばとばかりに両手でタバサの肩を掴んで揺さぶる作戦に移行する。 最初のうちは無視を決め込んでいたタバサだが、キュルケが一行に諦めようとしないので仕方なくサイレンスを解除すると、 「・・・何?」 ウインド・ブレイクを唱えたくなる前に話だけは聞くことにした。 そんなわけで、タバサは今いそいそと支度を済ませている。 アンリエッタからの秘密の任務でギアッチョ達がアルビオンへ向かうらしいというのはキュルケ程ではないにしろタバサの興味を引いた。 それにキュルケも言っていたことだがルイズの身が安全であるという保障はない。 ギアッチョがいるのだから大抵のことは大丈夫だろうが、彼の魔法も万能ではないことはフーケ戦で証明済みである。 一瞬の思案の後、タバサはシルフィードによる尾行――キュルケに言わせると護衛――を承諾したのだった。 ちなみに当のキュルケはと言えば、何か野暮用を済ませてくると言ってどこかに行ってしまった。まぁそのうち戻ってくるだろうなどと考えながら、タバサは制服のボタンを留め始める。 キュルケはタバサの部屋に続き、またしても堂々とアンロックの魔法で部屋に侵入する。薔薇や宝石で派手に飾られた部屋――ギーシュの私室だった。 「ギーシュ!起きなさいってば ギーシュ!」 キュルケは周りの部屋に聞こえない程度の声でギーシュを起こそうとするが、幸せそうによだれを垂らしたまま彼は一向に目覚める気配がない。 キュルケは少し苛立ったような表情を見せると、ギーシュの耳元に口を寄せて一言ぼそりと何かを呟いた。 「うわあああああ!!待って、待ってくれたまえ!やってるから!ちゃんとやってるからマンモーニだけは――ぁああ!?」 効果覿面、その一言でギーシュはうわ言と共に跳ね起きた。「何だ夢か」と呟くとギーシュは息を吐きながら辺りを見回し、 「うわぁ!!」 キュルケと眼が合った。 「やれやれ・・・やっと起きたわね」 「キュ、キュルケ!?こんな夜も明けきらない時間に一体何の用・・・ハッ!? ダ、ダメだキュルケ!僕にはモンモランシーという女性がヘヴンッ!!」 ギーシュが言い終える前に、キュルケのカカト落しがギーシュの脳天に炸裂した。 「寝言は起きる前に言いなさい」 「・・・それで、後をつけるって言うのかい?」 後頭部をさすりながらギーシュが言う。 「失礼ね、護衛と言いなさいよ あなたは行きたがるかと思ったからわざわざ声を掛けてあげたわけ それで?行くの?行かないの?」 腰に手を当ててキュルケは身体を乗り出す。姫さまとか秘密とかヤバいんじゃないのと言ってみるが、キュルケはそれがどうしたという顔でギーシュの返答を待っている。 ギーシュはうーんと唸りながら数秒考えた後に、まあなんとかなるかと実にギーシュらしい結論を下した。 ギアッチョとルイズは馬を駆って学院を出る。正門の先では一人の男が彼らを待ち構えるように待機していた。 「ワルドさま!?」 ルイズが驚きの声を上げると、ワルドと呼ばれた男は人好きのする笑みを浮かべてそれに答えた。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 ワルドはルイズに駆け寄ると、その華奢な身体を抱き上げる。 「お久しぶりでございます」 そう言って恥ずかしげに頬を染めるルイズを見て、ワルドは豪快に笑った。 「まるで羽のようだ! 相変わらず軽いね、君は」 「・・・お恥ずかしいですわ」 睫毛を伏せるルイズを、ワルドは優しげに見つめている。そしてそんなワルドをギアッチョが見つめていた。 「あいつは・・・昨日の護衛じゃあねーか」 ルイズがぼーっと見つめていた男だ。確か魔法衛士隊の隊長だとギーシュが言っていた。 「あのヒゲが従えてるのは、ありゃあグリフォンだね 正真正銘の魔法衛士隊、トリステインじゃあエリート中のエリートだ」 デルフリンガーがそう言って鍔を鳴らす。「妙な偶然もあったもんだな」と呟いてギアッチョは首をすくめた。 ルイズがギアッチョとデルフリンガーを紹介する。ルイズを下ろしたワルドは大げさな身振りで両手を広げると、 「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」 おどけた調子でそう言った。 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「婚約者ァ?」 彼らの意外な関係に、デルフリンガーが妙な声を上げる。ギアッチョはワルドをジロリと遠慮無しに観察すると、 「どういう縁だ?」 とこれまた遠慮無しに疑問をぶつけた。ワルドは帽子を取って被りなおしてから、「幼馴染さ」と答えた。 「領地が隣同士でね、ヴァリエール家とは昔から懇意にさせていただいているのさ」 その縁で、父親達の間でルイズとワルドの婚姻の約束が交わされているのだとワルドは説明した。 ――結婚って・・・いくらなんでも歳が離れすぎてるんじゃあねーのか? ワルドはどう見て二十代後半だ。対するルイズは、とギアッチョは彼女に視線を移す。 「な、何よ」 いきなり眼を向けられてルイズは心臓が飛び跳ねた。「け、結婚なんて小さい頃の約束で」だの「もう何年も会ってなかったし」だの、ルイズの口からは無意識の内に次から次へと言い訳が飛び出すが、肝心のギアッチョは一切聞いていなかった。 ――歳は聞いてなかったが・・・いいとこ十四歳って所だよなァァ 犯罪だろ、とギアッチョは思った。イタリアでは結婚可能な年齢は十八歳からだった。そうでなくても歳が一回り前後は離れていそうな二人である。 もっとも、実際は発育が少々哀れなだけでルイズはもう十六歳を迎えているのだが。 じろじろと自分を見るギアッチョをどう解釈したものか、 「なぁに、任務のことなら心配はいらないさギアッチョ君 こう見えても僕はスクウェアメイジだ 大船に乗った気でいてくれたまえ」 そう言ってワルドは自分の胸を拳で叩いて見せた。 「任務?」 ルイズがきょとんとした顔でワルドを見上げる。 「アンリエッタ姫殿下から直々に拝命したのさ 君達と共にアルビオンへ行かせてもらうよ」 そう言ってワルドはルイズに微笑んだ。 ――ま、確かにこんなガキと平民の使い魔を手放しで信用は出来ねーわな ギアッチョはそう納得して馬に跨る。ワルドはそれを見て、 「さあルイズ、こっちにおいで」 グリフォン隊の象徴であり、彼ら隊士の乗り物でもあるグリフォンを呼び寄せると、それに跨ってルイズを手招きする。 ルイズはちょっと躊躇うようにして俯くと、何故だかギアッチョが気になって横目で彼を見た。ギアッチョはデルフに眼を落として会話をしている。 まるでルイズに全く興味がないと言われているようで、ルイズは軽くショックを覚えながらとぼとぼとワルドの元へ歩き出した。 グリフォンの横まで来るとワルドはひょいとルイズを抱きかかえる。そうして手綱を握り、ギアッチョのほうを見てから杖を掲げて叫んだ。 「さあ諸君!出撃だ!」 その声を合図にグリフォンがばさりと飛び立ち、ギアッチョがそれを追って馬を駆る。 深くけぶる朝もやの中、こうして任務は始まった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3991.html
サモンナイト2からマグナ・クレスメント ゼロの調律者-01
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/122.html
ゼロの使い魔 キャラクター 未整理のご意見 コメント ヤマグチノボル氏によるライトノベル作品。漫画・アニメ・ゲームも展開されている。 キャラクター ピカチュウorサザンドラ♂:サイト(ピカチュウならでんきだま・ボルテッカー&アイアンテール必須) (サザンならハイパーボイスorはかいこうせん アイアンテール必須か) イーブイorブースター♀orマルマイン:ルイズ(性格はいじっぱりかがんばりや推奨) (前2体はやつあたり いばる めざ炎 ゆうわく) (マルマインならだいばくはつ(エクスプロージョン!) いばる やつあたり いやなおと(爆発音)) ユキワラシorキュウコン(アローラのすがた)♀:タバサ(高個体値推奨・こごえるかぜ必須) キュウコン♀:キュルケ(ゆうわく・メロメロ必須) ロズレイド♂:ギーシュ マリルリ♀:モンモン(ちからもち推奨) ゴンベ♂:マリコルヌ(ふきとばし&かみなり必須) サンダース♀:エレオノル(エレオノール) エーフィ♀:カトレア リーフィア♀:カリーヌ ラティアス♀:アンさま ラティオス♂:ウェールズ トゲキッス♀:テファ(おっとり推奨) アブソル♀:マチルダ ウインディ♂:コルベール ニドクイン♀:シュブルズ(シュヴルーズ) ヘルガー♂:メンヌビル(メンヌヴィル) ラプラス♀:シルフィード(イルククゥ、シルフィ) (食べるのが好きがいいかも) ミミロップ♀:シエスタ モルペコ♀:高凪春奈 ダークライ:ウェザリー エルフーン♀:クリス ビッパ♂:ガレット (ミアレガレット必携(名前ネタ)) シャンデラ♀:リーヴル ポッチャマorコオリッポ♂:テクスト 未整理のご意見 ↑なんでここに書いたのか知らんが、クチートにツンデレ形があるぞ。 ↑ゼロの使い魔PTのルイズがイーブイになっているらしい。ブイズだけにルイズか? ↑ああそういうことか、でも当てはまる技無くね?めざパ炎といばると…? ↑普通にツンデレらしくやつあたり・・・やっぱりアニメの断片しか見てない俺にはわからん、原作知ってる人とか頼む ↑やつあたり/いばる/めざ炎/ゆうわく…誰でもできるorz ↑↑↑↑アレだ、ルイズをイーブイにすることでエレオノール達を再現しやすくしてるんだ。 ↑んじゃブースターの方が合ってると思うのは俺だけか?色的にイーブイよりは似てるし、不遇だし。 ↑ブースターだったらめざパ炎いらなくなりそうだが…ゼロのルイズなんだから特殊技抜きの進化前でもよさそうな・・・難しい ↑↑↑↑↑↑↑↑↑ミミロップでシエスタは? ↑全 勝手ながらシエスタにロップ、ルイズにブースター追加しといたよ。 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 キャラクター モルペコ:高凪春奈 ダークライ:ウェザリー エルフーン:クリス ビッパ:ガレット ミアレガレット必携(名前ネタ) シャンデラ:リーヴル ポッチャマorコオリッポ:テクスト ゲームのオリジナルキャラクターを追加してみました。 -- (ユリス) 2020-05-10 17 44 19 サイトは、あれだけひどいことをしたので、サザンドラでもいいですよ。 はかいこうせん(ルイズに対する暴言)必須 -- (名無しさん) 2018-03-23 16 00 40 アローラキュウコンはタバサで -- (名無しさん) 2017-01-13 18 09 47 ルイズならマルマインやビリリダマは? やはり原作通り行くなら大爆発を重要視したいと思う。 技 大爆発(エクスプロージョン!)/いばる/やつあたり/嫌な音(爆発音) 目ざパ炎もありだと思います! -- (名無しさん) 2013-07-30 22 02 38