約 1,871,563 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3007.html
前ページ次ページゼロの夢幻竜 ラティアスはやってしまったという顔をする。 変身の瞬間こそ見られてはいないが、誰もいない内に念動力を使ってさっさと洗濯を終わらせようと思っていたからだ。 目の前にいるメイドは黙っていたが、直ぐに首を傾げてごく当たり前の質問を投げかける。 「あのう、新入りの方ですか?」 新入りという言葉にラティアスはぴんと来た。 どうやらこのメイドは自分をここに着たばかりのメイドと勘違いしたようだ。 いいえと答えたら怪しまれてしまう。 一応調子を合わせる様にラティアスは頷いた。 だがそれがまずかった。メイドはにこにこしながら当然出るであろう質問を口にする。 「そうなんですか!ここでは貴族の方が多いものですから緊張してしまって……私シエスタって言います。あの、あなたのお名前は?」 答えられるわけが無い。 ラティアスとその雄の形態にあたるラティオス一族は、人間に変身する事は出来る。 だが、声帯とそれに準じる発声機能の忠実な模倣は何代続いても不可能だった。 その為ラティアスは人間の外見に姿を変える事は出来ても、音声を使った意思疎通に関してはほぼ無理だった。 目の前にいるシエスタと名乗ったメイドの物腰は柔らかそうで、且つこちらへの敵意は無い。 それでも今、質問に意思疎通形式で答えたら何が起きるか分かったものではない。 しかし答えないままでは状況はより一層悪くなるだけだ。 耐え切れなくなったラティアスは、ままよ、と思い意思疎通を始める。 「嘘吐いてすみません。わたしはルイズ様の使い魔でラティアスといいます。」 瞬間シエスタは狐に摘まれた様な表情をしてその場に棒立ちになった。 何が起こっているのかよく分かっていない表情その物とも言える。 それはそうだ。いきなり自分の心に誰かの声が聞こえてきたのなら誰だって驚く。 ましてや目の前にいる人物が発しているとその本人に言われたって、口が動いていないじゃないかと言われるのがオチだ。 次に彼女は耳に手を当てる。しかし当然の如く何も聞こえない。 説明の為にラティアスはもう一度心の声を口にする。 「今あなたの心に直接話しています。ちょっと理由があって口がきけないのでそうさせてもらっています。それと……ほら、ちゃんと使い魔のルーンもここに。」 そう言ってラティアスは使い魔のルーンが刻まれた左手を相手が見やすいようにさっと掲げた。 シエスタはそれに顔を近づけるがそれでも信じられないといった顔をする。 それに未だに自分の手で耳の辺りをこんこんと叩いていた。 ラティアスは困った顔をし、小さな溜め息を吐いて考える。このままでは埒が開きそうもない。 鬼が出るか蛇が出るか。正にそんな雰囲気だったが至善の策が尽きたなら次善の索を使うまでだ。 「仕方ありませんね……私の本当の姿を見せます。でも絶対に人に言わないで下さいね。」 ……とは言っても実際に見る以外信じて貰えなさそうだが。 そう思いつつラティアスは目を閉じて再び深呼吸をする様なポーズをとる。 そして目も眩む光と共にラティアスは一瞬で元の姿に戻る。 これで信じてもらえるかとラティアスは目を開けたが…… 甘かった。その光景を穴が開きそうなほど見つめていたシエスタは、あまりの出来事に気を失い、ばったりとその場で後ろ向きに倒れてしまった。 やっぱり不味かったか……とラティアスはつい思ってしまうのであった。 彼女の所属する仕事場まで運んでいってやろうかと考えはしたが、何処が彼女の仕事場なのか見当がつかない。 どうにもしようが無いのでラティアスはシエスタを水汲み場の縁にもたれ掛かる形で寝かせる事にした。 さて次は洗濯である。 洗濯といっても洗う為の石鹸や洗濯板を持って来ていなかった。 しかしラティアスはそれでも一向に困る事はない。 服が格段に汚れていない今、石鹸は兎も角として道具に頼る必要は無かったからだ。 ラティアスは先ず、空中に直径2メイル程ある水の玉を作り出す。 そしてその中に洗濯物を入れ、後は目にも止まらぬ高速回転を行う。 その間彼女は体を少しも動かす事は無い。 全ては彼女自身が持つ強力な超能力という力によって起こされている事なのだから。 大きな竜巻の様な形を取っているそれを、ラティアスは時たま横向けにロールした状態で回転させたり、玉の状態に戻して激しく振動させたりする。 誰か見ていたら先ず間違い無く何事かと目を疑うような光景ではある。 5分ほどそれを繰り返すと、元からあまり汚れていなかった事もあるが洗濯物は染み一つ無くなっていた。 ラティアスにとって幸いだったのはその間の光景を人間は誰一人として見ていなかった事だった。 見ているとすればかなり離れた位置からではあるが、昨日召喚された使い魔達ぐらいなものだろうが、彼等の大方がそんな事は何処吹く風といった感じで思い思いの事をしている。 と、その時気を失っていたシエスタが目を覚ましその身を起こす。 「あ、気がつきましたか?と言うより大丈夫ですか?」 屈託の無い笑顔でラティアスは話しかけた。 しかしそれはシエスタにとっては少々パンチの効きすぎた寝覚めの一言だった。 「りゅ、りゅ、竜が喋ったぁあああああ~!!!わあわあわあ!!!」 シエスタは元の姿で宙にふわふわと浮いているラティアスを指差し、腰が抜けた姿勢で絶叫し動転する。 そんな彼女をラティアスは必死で落ち着かせる。 「落ち着いて!落ち着いて下さい!たのみますから落ち着いて下さい!何もしませんから!お願いですから落ち着いて静かにして下さい!」 その言葉に、それまで散々おろおろ喚いて再び気絶しそうだったシエスタは漸くある程度の平静さを取り戻した。 まだ体の隅は小刻みに震えているが、それでも話が通じる様な状態になっただけまだましである。 ラティアスはそれを確認すると一回小さく咳払いをして話を続けた。 「よかった……。私はこういう風にして意思疎通をさせる事が出来ます。あと人間への変身も。 さっき変身していたのは一種の試験です。その……上手く変身できるかどうかの。 ……それで、あの、さっきの姿になっていいですか?もう気絶しないって言うのならやりますけど。」 その質問にシエスタは首をぶんぶんと振って頷く。 許可を貰ったラティアスは竜の姿を掻き消し、メイド姿の似合う少女にする。 最初の内は震えが止まらなかったシエスタも徐々に冷静になり、改めて人間状態のラティアスをぐるりと一周する形で眺める。 「本当に人間の姿になれるんですねえ~。」 「声が出せないのが残念です。本当はご主人様が意思疎通していいって言った人だけに喋っているんですけど、今回は事情が事情でしたから……」 照れ臭そうに俯くラティアスの姿を見てシエスタは先程の事を全て無かった事にし、微笑みながら右手を差し出す。 親愛の印とも言える握手の誘いだ。 「改めまして、ここでメイドをさせてもらっているシエスタです。」 「こちらも改めまして、ルイズ様の使い魔、ラティアスです。」 ラティアスも自身の右手を出して握手しながら挨拶し直す。 やがてどちらからともなく、小さな声を出してくすくす笑い出した。 シエスタは思う。 とんだ一日の始まりとなったが色々と面白い一日になりそうだと。 その模様の一部始終をほんの一瞬も目を離す事無く見つめている物があった。 使い魔の一匹、風竜の幼生であった。 ルイズは『アルヴィーズの食堂』でラティアスを待っていた。 朝食はつい先程始まりを告げたばかりで、テーブルの上にはまだ栄養のしっかり取れそうな料理が幾つも並んでいる。 今来たのならまだ楽しい食事は出来るだろう。 周りを見ると給仕として忙しそうに働くメイド達がいる。 ラティアスの分は彼女達に口利きさせてもらった方が良いかしら? そうルイズが思った時、校門に面した入り口から一人のメイドがそおっと入ってくる。 遅刻したのかしらと、厨房から出入りしていない事を理由に訝しんだ。 が、そのメイドは脇目もふらず真っ直ぐに自分の所に向かってやって来る。 「何か用?」 そう言ってルイズはグラスに入ったワインをほんの一口だけ口にする。 が、次の瞬間聞こえてきた声に危うくそれを思いっきり目の前にある皿やテーブルクロスに向かって盛大に噴き出しかけた。 「只今着きました、ご主人様!」 前ページ次ページゼロの夢幻竜
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1606.html
ギーシュの奇妙な決闘 第十三話 『魂を蝕む毒』 オスマンとズォースイ。二人の貴族から事情を聞かされ、問題のワインを手渡されて。 厨房の責任者であるマルトーが発した答えは、意外なものだった。 「……多分、そういうのは無理ですね」 「なんじゃと?」 「……どういう事だ」 いぶかしむ二人に対して、マルトーは肩をすくめて見せた。 貴族嫌いで知られているマルトーだったが、貴族全部が嫌いというわけではない。学院長とズォースイは、彼が認める数少ない例外の貴族だ。 それ故にオスマンとズォースイもその人物性を信頼して、全ての事情を話したのだが、返事は芳しくない。 「どうしたもこうしたもありませんよ。うちのワインセラーは人の出入りが自由すぎますし、高級ワイン用のセラーも、貴族の悪餓鬼がアンロックで鍵外して持って行っちまう事がよくあるんです。 こういう危険物を置いておくのには、一寸向きませんよ」 「……それは本当か?」 「ええ。シャトーオーブリオンの白なんて、置ける環境じゃありません」 「やれやれ、貴族の餓鬼共は本当に手が負えんのう」 やれやれと肩を竦めるオスマンだった。貴族の子弟のマナーが悪い事は前々から問題になっていたが、まさか学内でこんな事をやらかすとは思っても見なかった。 大方、自分達の学費で買ったものだから、自分達のものだとでも考えているんだろうが…… 「そんなに凄いもんなら、いっその事宝物庫にでも入れたらどうです?」 「それもそうじゃが、そうすると価値が下がる……ものがものだけに、少しもったいなさ過ぎるし……」 「教師が個人で借りられるセラーがあったはずだが」 「そっちはもっと駄目だぜズォースイさん」 ふと、就職時に説明された事を思い出したズォースイに、マルトーは頭を振って、 「あそこは教師専用とはいえ、人の出入りはもっとラフだ。管理状態も個人の良心に任せてるような杜撰なもんだし、これほどのもんとなると」 「つい出来心で手が伸びるかも知れんなぁ……んーむ、難しい話じゃて」 「……どうしたもんですかねえ」 「…………」 三人寄れば文殊の知恵と言うが、今この場合において、文殊の知恵を出すことは難しそうだった。 「とりあえず、当面は高級ワイン用のセラーに入れて、交代で見張らせるってのはどうです?」 「致し方あるまい……しっかし、相手も何を考えてこんな危険なもの送って来たんかのぉ」 (それは、俺の方が聞きたい) ぼやくオスマンの言葉に、ズォースイは内心で答えてから、天を仰いだ。 (どーしてこんな事になったんだろう) 一体、何度目となるのか。 才人は、顔を真っ赤にしながら自問自答し、ここに至る経緯を思い出していた。 デルフリンガーがシエスタを促して、シエスタが何故かノリノリで服を脱ぎだして……一糸纏わぬ妙齢の少女と、湯船を共にすると言う美味しすぎるシチュエーションが実現したわけで。 「はぁー、気持ちいいですねー」 隣で湯船に浸るシエスタの挙動は、堂々としたものだった。 最初のもじもじした態度は何処へやら……一旦開き直ってしまうととことんまで開き直ってしまう性質らしく、混浴が当たり前とばかりに湯船を堪能している。 無残な事になったメイド服は、焚き火の周りで乾燥中だ。泥のほうはどうしようもないが、そちらは何とかしてみるとの事。 濡れたシエスタの肢体から発せられる色気にドギマギしながら、才人は空を見上げる……夕焼けが空を石楠花に染めて、中々幻想的だったが今の才人に楽しむ余裕は無い。 しょーじきぶっちゃけ、空なんかより余程魅力的な芸術品が目の前にあるわけだし。 脱いだら凄いんですなおっぱいとか、柔らかいオッパイとか、白くてたわわなOPPAIとか。 全部同じじゃんと言うなかれ。状況が状況だし、思春期の野郎の脳みその中身なんざ、大体こんなもんである。 いかに欲望の後押しがあるとはいえ、そんなものをまじまじと鑑賞するわけにも行かず、才人は理性を総動員してその芸術作品から視線をそらしていた。 遅い時間帯とはいえ、まだ夕焼けが眩しいぐらいなのだから、見ようとすればそれこそR指定なポイントまで見えてしまう状況だ。 理性が欲望に勝っている事が奇跡的といえる。 (た、耐えろ! 耐えるんだ俺! ここで彼女に手を出したら、俺はご主人様から吹っ飛ばされるぞ! 恐怖の爆発14連鎖だ! れ、連鎖を数えるんだ! 連鎖は俺に事実が連なっている事を教えてくれる! ふぁいやーあいすすとーむだいあきゅーとぶれいんだむどじゅげむばよえーんばよえーんばよえーんばよえーんばよえーん) 落ち着け才人。思考がオチゲーになってるぞ。 「あ、あの……才人さん」 「ひゃ、ひゃいっ。なんでしょう!」 理性の綱引きの最中に声をかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう才人。ガチガチに固まった才人の様子を見て、シエスタはクスリと笑う。 「そんなに照れないでください……私も照れちゃうじゃないですか」 「け、けど……」 「大丈夫ですよ。大事なところはちゃんと隠しますから」 ああ理性のなんと脆い事よ。 他ならぬシエスタ本人からのGOサインに、才人は欲望に忠実かつ勢いに乗ってシエスタの方角を向いた。FODやガンダールヴ状態も真っ青の高速振り向きだ! 開き直ってしまえば、最早裸云々でドギマギする事もないのだが……シエスタの姿を直視した才人は、今度は別の理由で息を呑む。 ……間近で見たシエスタの相貌はとても可愛らしいものだった。 ルイズがもつ可憐さとも、ジョリーンの持つ野生的な魅力とも違う、可愛らしさ……くりくりとした目と、健康的な肌、水に濡れた黒髪が、才人の心臓を加速させる。 シエスタは才人に真正面から向かいあった状態から口を開く。 「才人さんって、何で最近あんなに一生懸命なんですか?」 「え?」 先程は出せなかった問いが、驚くほど自然に口から滑り出した。 「……だって、最近の才人さんって、何かに追い詰められてるみたいで……」 「…………えっと」 ズバリ言い切られて、才人は戸惑った。 言われて始めて考えてみると、特訓を繰り返す自分の心境は、どこか追い詰められた部分があったように思える。 『黄の節制』のような輩が日常的に自分を襲撃する可能性を教えられてから、その恐怖を振り払うように体を動かしてきた……現代日本人である才人が受けた事の無い、圧倒的な害意は、たった一度の接触だけで才人の神経を削り取っていたのだ。 考えても見て欲しい。才人のように、得体の知れない場所で得体の知れない組織から、ストーカーのようにまとわりつかれる……シエスタは、そんな才人の深層心理を見抜いたのだろうか。 「あ……うん。一寸、事情があるんだよ」 「事情、ですか?」 「ああ」 一体何処まで話せばいいのか……そのボーダーラインを引くことが出来ない才人は、それ以上語ることが出来なかった。 (どうする? シエスタに話して、巻き込んだら……) (……やっぱり、聞いちゃいけなかったのかな) 沈黙する才人に、シエスタの方も罪悪感を感じて沈黙してしまい……気まずい静寂が続く。そん中、この状況を作り出した悪魔は、かかかと笑った。 『まぁー、相棒にも色々あるんだよ、メイドの嬢ちゃん』 「……え?」 「デルフ!?」 『ほれ、相棒はここんとこトラブルに巻き込まれっぱなしだったろ? そのせいで、強くならなきゃならねえって思い込んじまってな!』 驚いた事に、デルフが入れた横槍は絶妙なフォローとなって二人の気まずさを打ち払ってしまったのだ。 才人は心の中でその機転に喝采を浴びせながら、うんうんと頷いた。 『それで特訓なんて始めて、医務室のおっさんに止められたって訳だ』 「そ、そうなんですか?」 「い、いやあ……そうなんだよ。けど、恥ずかしくってさあ」 『お嬢ちゃんも相棒に言ってやってくんねえかな? 少しは休めって』 二人の演技の介あって、先程までの才人の様子を、羞恥から言えなかったのだとシエスタは都合よく誤解してくれた。 くすりと、今度はなんら暗い感情を持たない笑顔を浮かべると、 「それじゃあ、お風呂から上がったらすぐに寝なきゃいけませんね♪」 「え、あ、そうしたいなぁーって、思ってるんだけど」 「そういう事なら……お風呂から上がったら、冷たいワインをお持ちしましょうか?」 「え? いいの!?」 「はい。マルトーさんにお願いしてみますね」 にっこりと笑うシエスタに、才人も吊られて笑顔が浮かぶ。 夕焼けに照らされた露天風呂を、二人の和やかな空気が包みこんでいた。 「場所がないじゃと?」 「ええ」 高級ワイン用のセラー、その厳重な扉の前で、マルトーは済まなそうに頭を下げた。 開け放たれた扉の向こう、かび臭い空気と共に鎮座する棚の中では、無数のワインが雁首を並べ……見た限りでは、空白が一つも見当たらなかったのである。 「つい昨日ワイン仕入れたのを、すっかり忘れちまってて……すいません」 「……ふむ。 なんとか、スペースが開けられんかのぉ」 「流石に、捨てるわけにも……ああ、けど丁度処分しなきゃならないのがあったんで、そいつと入れ替えましょう」 「処分とな?」 「ええ、こいつと入れ替えるのに、ぴったりな奴があるんですよ」 相談真っ最中の二人をよそに、ズォースイは無言でセラーの中に入り、並べられたワインを検分していた。 問題のワインはマルトーに預けてあるため、気楽なものである。 フーケが『根こそぎ盗んでくりゃ良かった』と言って後悔した学院のワインがどれ程のものか、確かめたかったのだ。 確かに、酒飲みが涎を垂らして欲しがるヴィンテージばかりだが…… (これだけの量のワインを、全部飲むつもりだったのか?) フーケがワインを盗むのは、金に変えるためではなく自分で飲み干すためだ。少なくとも今まで盗んだワインの中で、彼女の胃袋に納まらなかったワインはない。 これ全部盗み出して、全部飲み干すつもりだったのかと思うと、頭の痛い話だった。むしろ、盗まないでよかったとすら思えてしまう。 (いつからああなってしまったんだろうな……) 少なくとも、出会ったばかりの頃はあんな飲兵衛ではなかった。 純真無垢という言葉が似合う愛らしい女の子だったのに、それが今じゃあ大の男数人がかりで挑んでも勝てない大酒豪。 自分たちの影響とはいえ……気分は不良になってしまった娘のパパである。一人静かに黄昏るズォースイだったが、すぐに現実に引き戻された。 「マルトー料理長!」 「ん? シエスタか……」 小さな足音と、気配。振り返ると、大柄なマルトーに話しかけるメイドの姿が見えた。 名前は確かシエスタといったか……ハルケギニアには珍しい黒髪と瞳のため、印象に残っていた。 今の彼女は少し汚れたメイド服を来て、その特徴である黒髪から湯気を発していた。頬は上気し、今の今まで入浴中であったことが伺える。 「おお、風呂上がりかな……色っぽいのお」 「……オールド・オスマン、自重してください」 仲間と同じようなセクハラ発言ブチかます上司に、思わず同じ勢いで突っ込んでしまうズォースイだった。 よくよく考えたら、平民である彼女が浴場に踏み入れるはずはないのだが…… 「どーしたおめー、その格好は」 「ええ、一寸転んじゃいまして……」 「いや、服もそうなんだが……風呂にでも入ってきたのか?」 「はい! 才人さんの作ったお風呂に!」 「我らが剣の……? おお! あいつ、あの鍋を風呂にしたのか!」 何故か嬉しそうに即答するシエスタに、マルトーは一瞬の間をおいて手を打った。自分の譲った大なべが彼の役に立った事が嬉しく、豪快に笑ってみせる。 鍋、風呂という単語を聞いて、リゾットとオスマンも納得した。少し想像力を働かせれば分かる事である。 「なーるほど! 流石我らが剣だ!」 「あ、あの! その才人さんの事でお願いがあるんですけど……」 「ん? なんだ言ってみろシエスタ! 我らが剣のためなら、どんな事でも聞いてやるぞ!」 「いや、どんな事でも聞かれたら困るんだが」 なんか、問題のシャトーオーブリオンをプレゼントしかねないような豪快な勢いに押され、ズォースイは素で突っ込んだ。 後ろから水を刺されたマルトーは不快な顔もせずに、肩越しに振り返って分かっているとばかりにウインクをしてみせる。 「はい。才人さん、お疲れみたいだから、お風呂上りにワインをご馳走したいなって……」 「おおー! なんだそんな事か! 丁度いいなこりゃ」 『?』 丁度いい。 いかにもな物言いに、マルトー以外の三人は各々反応は違うものの、疑問の意を抱いた。 シエスタは可愛らしく首をかしげ、オスマンはふむと髭をなで上げ、ズォースイは無言で視線を向ける。 三対の視線に晒されたマルトーは、にやりと野太い笑みを浮かべ、 「何。今、ちょいとした理由でワインを一本処分しなきゃならねーんだがな。 そいつをやろう」 「え!? 処分って……ここのですか!」 シエスタは耳を疑った。オスマンとズォースイの二人とこんな場所に居たという事実から、処分するべきワインがここの高級ワインセラーのものだという事は、容易に想像がつく。 学院にいる人間なら、ここのワインがどれ程の価値があるかぐらい誰でも知っている。 就職する際に、『ここのワインを一本でもだめにしたら、一生借金苦に苦しむと思え』と、教育を担当したメイドから忠告を受けた程なのだ。 一番安い奴を給金から差っぴいてもらおうと思っていたのに、タナボタどころの騒ぎではない。 驚いて心臓が止まりそうなシエスタに、マルトーはからから笑ってその驚愕を解しにかかる。 「なぁに心配すんあ。言っただろ? 処分しなきゃならねえって。 捨てるぐらいなら、我らが剣に飲んでもらったほうがワインも幸せだろうよ」 「け、けど……」 「一寸待ってろ」 わたわたと動揺するシエスタを置いてけぼりにして、マルトーはワインセラーに足を踏み入れた。 問題の『シャトー・オーブリオン』を腋の下に挟み、リゾットの正面にあった棚からおもむろに一本のワインを取り出す。 「ほれ、こいつだ」 暗がりから見せられたラベルを見て、シエスタは気絶しそうになった。 蝋燭の明かりが頼りとはいえ、そこにはこう書かれていたのである。 シャトーオーブリオン ロゼ 85年 平民のシエスタでも知っている超高級ワインの伝説の代物である。 とてもじゃあないが、シエスタの給金で払えるようなもんじゃない 今にも倒れそうなほど衝撃を受けるシエスタに、マルトーは苦笑を浮かべてフォローを入れた。 「安心しろシエスタ。こいつは立派な贋もんだよ」 「――へ?」 「確かに」 シエスタの素っ頓狂な声をバックミュージックに、ズォースイは顎に手を当てて、 「俺の記憶する限り、シャトー・オーブリオンがロゼワインを作ったという話は聞かないな」 「そういう事。こいつは俺が若いころ掴まされたもんでな。 当時、なけなしの金で買ったのが贋物ときたもんでが悔しくってなあ……そのときの悔しさを忘れねえために、自戒のつもりでとっといたんだが。 シャトー・オーブリオンより安いとはいえ、中身はそこそこの高級ワインだぜ」 とんとんと、コルクの先端をたたきながら、ウインクしてみせるマルトー。ズォースイはほうと感嘆の声を上げた。 「わかるのか?」 「ああ、口にしたからな……多分、シャトー・トモロ辺りだとは思うが」 「十分いいワインだと思うがのう」 「けど、桁が2つ近く違いますぜ……まあ、そういう事だ。 偽者だし、他ならぬ我らが剣のため……何より、元々俺のワインだったんだ。気にせず持ってけシエスタ」 「あ、あの……御代は……」 「んなもん、無料でいいに決まってんだろ!」 言いにくそうに放たれた問いを一刀両断にしてみせるマルトー。その姿にシエスタは表情を明るくして、 「は、はい! ありがとうございます!」 「ついでに迫って、既成事実作っちまえ!」 「え、えええええ!?」 一瞬で顔を真っ赤にするシエスタに、マルトーは豪快に笑って見せてから、ワインをシエスタに渡そうとして…… 「とっ――!?」 手を、滑らせた。その拍子に脇の拘束までもが緩んで、問題のワインまでも地面に向かって落下していく。 オスマンはとっさに呪文を唱えて、二本のワインボトルの落下を食い止めた。 「ま、マルトー!」 「す、すいません!」 「マルトーさん! 大丈夫ですか!」 叱り飛ばすオスマンと頭を下げるマルトー、心配するシエスタ……まるでコントのような情景に、ズォースイは肩をすくめて視線をワイン棚に戻す。 ……これがいけなかった。 シエスタは宙に浮いたワインを持ち上げると、そのラベルを見て、間違いなく自分に譲られたものである事を確認する。 「ありがとうございます! マルトーさん!」 「いいって事よシエスタ」 ワインを大事そうに抱えてその身を翻し、走り出すメイドの少女を、ほほえましく見送る年長者二人だった。 ただの恩人にワインを届ける顔ではなかった……あれは、好きな人にプレゼントを届ける、恋する乙女の顔だ。 その旨を去来しているであろう甘酸っぱい感触を、二人はとうの昔に忘れてしまったけれども。それに全てをささげる気持ちは理解できた。 「若いってのはいいもんですねえ」 「確かにのう」 苦笑を浮かべあい、二人は改めてワインセラーに踏み込んだ。 「おーい! ズォースイ先生! 保管場所教えるから覚えてくれ!」 「わかった」 興味深げにワイン棚を覗き込んでいたズォースイは、声をかけられると同時に意識を問題の品物へと戻す。 三人は、ワイン棚の空白へと視線を集中させて、 「ここの番号を覚えててくださいよ? 12の……」 マルトーの手から、ワンがその棚に差し込まれる。そうして彼らの目に映るのは、ラベルではなくワインの先端。コルクに焼かれた紋章だ。 自然と、一同はコルクの先端へと視線を集中させ…… 『は?』 マルトーとオスマン、二人の眼が点になる。 コルクの先端、本来なら無傷であるはずの場所に……一つの穴が開いていた。今の彼らの目玉と同じような、穴が。これは、ワインが開封された痕跡である。 勿論、『本物』にそんな痕跡があるわけがない。 「……」 一人平静を保っていたズォースイが、無言で差し込まれたワインを手に取り、ラベルを確認する。 そこにはこう書かれていた。 シャトーオーブリオン ロゼ 85年 ……どう見ても偽者のほうです本当にありがとうございました。 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 「………………………………………………………………………………………………」 長い。 とても長い沈黙が、三人の間に横たわって…… 「い、いっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」 「し、シエスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 悲劇の、幕が開く。 阿鼻叫喚の、悲劇の幕が。 「ただいまー」 才人がルイズの部屋に帰ってきたのは、ワインセラーで絶叫が上がって程なくのことだった。 手にした氷水を入れたワインクーラーには、ででんとワインが鎮座している。逆の手にはワイングラスが一つ。 ようやく帰ってきた己の使い魔の姿を、ルイズは仏頂面で迎える……どうも、使い魔が手にしたワインが気に入らないようだった。 頬を膨らませたルイズに才人は眉を潜めて、 「何仏頂面してんだよ」 「別に」 よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったが、老医師の発言を考慮して自重した。つれない態度に首を傾げつつ、才人はテーブルの上にグラスを置く。 「ちょっと」 「なんだよ」 「……なんでアンタがワインなんて持ってるのよ」 「……シエスタが用意してくれたんだよ」 仏頂面のルイズにつられるように不機嫌になりながら、才人はそのワインの事を口にする。 「確か、シャトー・オーブリオン、85年物」 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅっ!? 「の、贋物だって……何噴出してんだよ」 不意打ち気味のボディーブローとなったワインの銘柄に噴出したルイズを、才人はいぶかしげに眺めやる。 「び、びっくりさせないでよ!」 「シエスタも言ってたけど……そんなにすげーのか? その、シャトー・オーブリオンって」 「ヴァリエール公爵家でも、年に一回飲めるかどうかっていう代物よ!」 ヴァリエール公爵家を知る者ならば、この上なく正確かつ、わかりやすい表現なのだが、才人にはいまいちぴんとこなかった。 「ワインの銘柄って言うのはわかるんだけどさ……」 「確かに、シャトーオーブリオンは有名なブランドだけど、それは別格よ。85年物ともなると、数が少ないしね」 「なんでだよ」 四人は、走る。 オスマンとマルトー、イカシュミ、そして合流し事情を聞いたシエスタ。 先の二人は血相を変えて、イカシュミは歯噛みして、シエスタはぽろぽろと泣きながら、それぞれの面相で寮の廊下を駆け抜ける。 一刻も早く、才人に手渡されたというワインを取り上げるために。 (私のせいだ……! 私のせいで!!) シエスタは、泣きながら己の不注意を責めた。オスマン達から教えられた話の内容は、状況を楽観視させてはくれない。 むしろ、悲観しか抱かせてくれないような凶悪なものであった。 ルイズは述べる。85年の伝説を。 「一寸した伝説があるから。 そのワインが作られた年に、オーブリオンのワイン倉庫に泥棒が入ったのよ。盗み出すのが目的じゃなくて、盗んだ品物を隠すのが目的でね……問題は、その盗んだ品物がご禁制の魔法薬で、その中身が漏れ出してたってこと。事が発覚した時には、ワイン樽の中に流れた薬が染み込んじゃってて、大半のワインが駄目になっちゃったらしくて」 「それで数が少ないのか?」 「ええ。事の真相は兎も角、85年産のワインがほんの僅かしか出回ってない上に、その味が絶妙だって言われているのは確かよ……他の年代ものなら飲んだことがあるけど、85年物は私のお父様も飲んだ事がないんじゃないかしら」 「ほへー」 貴族の当主すら飲んだ経験がない……只でさえ現代日本とはスケールが違う世界なのに、更にスケールの違う表現をされては、才人の認識力が追いつくはずもなく。 とくとくと注がれるワインの色を見て……ルイズはああと納得した。 白ワインにあるまじき、朱色の色合いである。 「成る程、これは贋物ね」 「分かるのかよ」 「わかるわよ。シャトー・オーブリオンがロゼワインを作ったなんて、聞いたこともないわ。多分、何も知らない奴が作ったレベルの低い贋物でしょ」 肩をすくめるルイズに、才人はいたずらっ子の笑みを浮かべて、 「……なあ、これってひょっとして……」 「?」 「お前が言ってた、魔法薬の色とかだったりして」 「……馬鹿犬。そんなわけないでしょ。 さっきも言ったとおり、シャトー・オーブリオンは問題のワインを全部処分したのよ。出回るはずがないわ」 「夢ぐらい見させてくれよ……」 ぶつぶつ言いながら、才人は並々とワインの注がれたグラスを手に取る。 「なあルイズ、お前も飲まないか?」 「はあ?」 「いや、話の種にさ……」 「何の種なんだか」 ルイズは子供みたいな様子の才人に呆れた。昼間自分が抱いていた変なコンプレックスも、この阿呆面を眺めていると馬鹿馬鹿しくなってくる。 軽くなった気持ちあ表すかのように、ルイズは髪を書き上げて、 「まぁ、せっかく使い魔が献上してくれたのを、無碍に断るのもなんだしねえ」 「……飲むんだな」 えらそうな物言いにげっそりしつつも、棚からもう一つグラスを取り出し、同じようにワインで満たす。 「ほら」 「ん……ふーん、においは悪くないじゃない」 手渡されたそれを覗き込み、その価値を図るルイズ。 「わかるのか?」 「勿論、このくらいは貴族のたしなみよ……けど、やっぱり一寸変なにおいがするわね」 「変って……そうか??」 「多分、混ぜ物入りの贋物なんだと思うわ。時々そういうのがあるのよ。凄いのになると、プロでも引っかかるんだけど……まあ、物は試しね」 「黙って飲めよ」 ルイズのほうは心なしか機嫌よさ下だった。才人は、損なルイズに対して不機嫌だった。それぞれが異なる感情を胸に向かい合い…… 「なあ、これ本物だったらどうなるんだ?」 「……薬品成分が発酵してどんな事になってるかわからないから、多分本物だったら即死するわね」 グラスの中身を、煽った。 毒が、巡る。 それは魂を犯す毒。全てを凌辱しつくす毒。 『……ッ!?』 巡った毒が脳と魂を多い尽くして。 この瞬間……ルイズと才人は死んだ。 (才人さん……! お願いです! 無事でいてください!) シエスタの後悔は深かった。 当然といえば当然かもしれない。彼女の犯したミスは、マルトーの恩情を踏みにじり、想い人の命を奪いかねない、文字通り、『命』に『至』るそんなとてつもないものだったのだから。 例え世界中の人間が許したとしても、彼女自身が許せない。そんな類のミスである。 ご禁制の薬品入りのワイン……しかも、何十年という醸造でその毒がどんな風に変質しているのか分からない。 何せ、もともとの薬品すら分からないのだから、口に含んだが最後、治療の当てすらないと言う。 そんなものを、彼女は才人に手渡したのだ。 もし、アレを才人が飲んで、死に至ったとしたら……! それを考えると、嗚咽と涙が止まらない。 「才人さん……っ!」 それでも、シエスタは走るのをやめようとしない。 やめるわけにはいかないのだ。自分が原因となったのならば、それを途中で投げ出すなど出来るはずがない。恋とはかくも女の子を強くするものなのだ。 泣きながら走るシエスタに、他の三人は何も言わない。彼女の気持ちは理解できるし、彼女自身に悪意がないだけに余計に痛ましい。 一同がルイズの部屋の前に辿り着いた時、そこには既に先客がいた。 柔らかい金髪の向こうに包帯の見えるその男は…… 「……ミスタ・グラモン!」 「!? お、おーるど・おすまん!!」 オスマンの上げた声に振り向いたギーシュは、ぎょっと眼をひん剥いた。場所は夜間男子の出入りを禁じる女子寮であり、場所は女子の部屋の前。 どう見ても雷は免れない状況だけに、真っ青になって言い訳を開始する。 「い、いやこれはですね! 才人に明日からの特訓の日程を伝えようと……」 実際は、モンモランシーのところに夜這いに来て追い出され、それを愚痴りにきたのだが。 「そんな事はどうでもいい……! 非常事態だ」 並べ立てられた言葉を切り捨てて、リゾットはギーシュを押しのけて、まず扉を叩く。 「才人……聞こえるか才人。聞こえたら返事をしろ!」 「才人に用事なんですか?」 「うむ。平たく言うと、彼の命の危機じゃ」 状況がつかめないギーシュが間の抜けた質問を発し、オスマンが律儀に答えてから小さく呪文を紡いだ。 アンロック。本来ならば禁止されている呪文だが、非常事態である。かきんと高い音がして、鍵は外されたが……扉が空くことはなかった。 「――っ! マルトー、手伝ってくれ。何かが扉を塞いでいる」 「わかった!」 リゾットに請われて、マルトーは腕まくりをして…… 「その必要はありません」 「!?」 「離れていてください」 変わりに踏み出したギーシュに、その動きを静止される。 「『フェンス・オブ・ディフェンス』」 扉の前に立つギーシュの姿、正確には、その隣に現れた影を見て、オスマンとズォースイは扉から離れた……自分たちが束になってかかるより、早く扉を破壊できるとふんだのである。 状況は分からなかったが、友が命の危機にあると聞かされて、黙っていられるギーシュではなかった。 「シャラララァッ!!!!」 続けざまに高速でぶち込まれたFODの拳は、頑丈に作られた女子寮の扉凹ませ歪ませ……数瞬の間をおいてふっとばした。 「……才人! 無事かい!?」 「才人さん!」 ギーシュ、ついでシエスタが破壊された扉を踏み越えて室内に踏み込む。 無事でいてくれ、そんな願い抱いて。 ……願いは、現実の前には無力である。 この法則が、この場合は完全に合致するだろう。 無事でいてくれという二人の願いも空しく……視界に飛び込んできたのは、変わり果てた二人の姿だったのである。 「才人ぉ……」 「んー? なんだルイズ」 「えっとね、んっとね……もう一度、して?」 「いやー、聞こえないなあ」 「……意地悪しちゃやだぁ」 「悪い悪い。ルイズったら可愛いから、つい苛めたくなっちゃうんだよ」 「本当?」 「本当だってば」 『…………』 部屋に飛び込んだ体制のまま硬直する、二人の眼前で。 才人とルイズは、その代わり果てた姿を晒している。 ベッドの上で、腰掛けた才人の股の間に、ルイズが座り込んで。 いちゃついていらっしゃった。 才人は何故か上半身裸だし、ルイズに至ってはいつも寝る時に着るネグリジェ姿だ。 ルイズはその潤んだ瞳で才人を見上げて、すねたように頬を膨らませている。 「いぢわる。才人なんかきらい」 「……可愛いよ、ルイズ」 「……知らないっ。意地悪する才人なんかしらないもんっ」 「…………やれやれ」 ぷぅっと頬を膨らませるルイズに、才人は肩をすくめて、手にしたワインを口に含む。問題の、シャトーオーブリオンの85年物だった。 才人は、それをめい一杯口に含むと……そのまま、ルイズに口付けた。 「……っ!」 一瞬、驚いたように目を見開くルイズだったが、すぐに目つきを緩め、とろりとした光を瞳に宿らせる。 キスされた瞬間に力が入っていた全身も、同時にだらりと弛緩させて、全てを才人に委ねきっていた。 ……喉が鳴っていることからすると、口移しで飲ませていらっしゃるらすぃ。 二人の喉がなる事数回。お互いの口の中にアルコールが残っていない事を舌で確認し合い、唇を離す。 二人の舌と舌の間に唾液の橋がかかって、名残惜しそうに切れた。 「旨かったかルイズ。俺は旨かった」 「ううううう……さいとのいぢわるぅ」 「嫌いか?」 「……嫌いなわけないよぉ……おねがいだからいぢわるしないで」 「それは無理。だってルイズ死ぬほど可愛いし、今だって食べちゃいたいくらい可愛い」 「ほんと?」 「ほんとほんと。だから一杯いぢわるしちゃう」 「ちょ、ま……ぁん」 たべちゃう! とばかりに、才人の唇がルイズの鎖骨に吸い付き、あえぎ声を上げさせる……アルコールの酔いのせいなのか、乱入してきたギーシュ達には気付いていらっしゃらないようで。 おいおい、それ以上は避難所でもやばいんでないかい? そんなやり取りを、ギーシュは固まったまま全身を紅潮させ、滝汗流しながら眺めていた。 「さ、さいと……いつのまに、そんな大人の階段を……僕も、モンモランシーとあんな事したいぃぃ」 一寸うかつな発言を華麗にスルーして、ズォースイは落ち着いた口調でつぶやく。 「オールド・オスマン」 「何かね?」 「少なくとも、伝説にあるご禁制の薬とやらが、何なのかは分かりましたね」 「惚れ薬じゃな。それも、保存されとるうちに相当強力になっておるようじゃのー」 「えっと、それはどういう……」 「命の危険はなかったちゅー事じゃな。なんにせよ、良かった良かった」 目の前で巻き起こっている濡れ場から必死で眼を逸らしつつ、オスマンはカカと笑う。まるで、その一言で全ての幕を下ろそうとするかのように。 どっこいそうは問屋がおろさない。 『まぁー、今から命の危険に晒されそうなんだけどなー』 「へ?」 聞きなれた声にギーシュが振り向くと、そこには…… 「…………」 般若がいらっしゃりました。 ギーシュの気付かぬうちに、シエスタは放り出されていたデルフリンガーを抜き放ち、空気を鳴動させていた。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨と。 前髪で隠れたその瞳から、どんよりとした光が漏れていてなんともシュール。 異様なプレッシャーを放ちながら、シエスタはデルフをてにどかどかと才人に歩み寄ると、その手から瓶を強奪する。 酔っ払った才人は気付けないのか、ルイズ以外の全てがどうでもいいのか……兎も角、シエスタはそれを据わった眼で見据えて、 「才人さん…… 今、その女狐から助け出してあげます……」 後日、ギーシュはモンモランシーに語った。 『あの時のメイドの目は本気だった』と。 「ちょ、一寸待てシエスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 「お、落ち着きたまぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 「放してくださいぃぃぃぃっ!!!! 世の中は略奪愛なんです!! 冷酷非情なんです!! 私の才人さんを取り返すんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」 「こ、こういう時、敗者は黙って引き下がるものでは――」 「あなたなんかに言われたくありませぇぇぇん! 才人さああああああああんっ!!」 「――君ホントは僕のこと嫌いだろ!?」 ワイン飲んで同じ状態になろうとするシエスタを、慌てて止めにかかるギーシュとマルトー。何気にシエスタが本音炸裂させていた。 「やぁん……食べちゃやだぁ」 「だが断る! だってかわいいんだもん♪」 そんな事は異世界の出来事です、とばかりにいちゃつく才人とルイズ。アルコールの力も借りて、そのバカップルぶりは倍率ドンだ。 正直、こんなカオスな室内の状況を、どうすれば収拾できるのか? しばし。 しばし、部屋の前でたたずんだ後、オスマンはおもむろ口を開く。 「ミス・ロングヒルや。飯はまだかいのぉ」 「現実から逃げないで下さいオールド・オスマン」 呆けた振りして現実から逃げようとしたオスマンに、ズォースイの律儀な突込みが決まった。 今日この日…… アカデミーの手によって、ルイズと才人の二人は死を迎えた。 いろんな意味で。 二人が口にしたのは、魂を犯し蝕む毒だった。 いろんな意味で。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/783.html
故郷! 魂の眠る場所 その① もしも運命というものがあるのなら……まさにこれは運命だった。 承太郎がなぜ、何のために、どんな理由で、ハルケギニアに召喚されたのか? それはまだ誰にも解らない、しかし――。 決まっていたのかもしれない。 承太郎がこの世界に来た瞬間から、それはめぐり合う運命だった。 承太郎が元の世界の情報を求めていたから。 コルベールが伝説や歴史を研究していたから。 シエスタがただの平民でありながら引き継いでいる他とは違う血統が。 彼等が出会ったのは偶然なのか? 彼等が引かれ合ったのは必然なのか? 偶然にしろ必然にしろ、それらはめぐり合った。めぐり合ったのだ。 重要なのはその一点。 運命に導かれた証かもしれない。 何の変哲もない一日のように思えた。 ルイズは詔を考え、キュルケはタバコの銘柄を考え、タバサはタバ茶を考える。 ギーシュはモンモランシーとよりを戻そうと必死だ。 しかし変哲をもたらす者が二人いた。 コルベールは歴史や伝説だけじゃなくエンジンをはじめとする機械の研究をしている、 しかし今日は朝から学院長室に赴き休暇届を提出していた。 シエスタは前々から休暇に帰省する話をしていて今日故郷のタルブの村に出発する。 そして承太郎に挨拶してから行こうと厨房の近くで待ち合わせている。 コルベールとシエスタ。 ハルケギニアから元の世界に帰る可能性の鍵を握っている二人が、 同じ日に行動を起こす事になったのはまさに運命とも言えよう。 「う~ん……う~ん……」 廊下を歩きながら、始祖の祈祷書を抱きしめているルイズ。 いくら考えてもいい詔を思いつけず、気分転換に歩きながら考えてみる事にした。 そして休日の学院の中を歩き回っている。 するとやけに嬉しそうなミスタ・コルベールが廊下の反対側からやって来た。 「おや、ミス・ヴァリエール。よい所で会えた」 「え? あの、何か御用でしょうか?」 詔の事について何か言われてきたらどうしよう、という心配は杞憂に終わる。 「実はジョータロー君を探しているのだよ。ぜひ彼に報告したい事があってね。 彼はミス・ヴァリエールの部屋にいるのかい? そうなら呼んできて欲しいのだが」 「いえ、ジョータローはメイドの見送りに行ってると思います」 「メイド?」 「ジョータローに毎日ご飯を食べさせてるメイドが、 休暇を利用して実家に帰るらしくて、その見送りに行ってるみたいです」 「そうか! ではさっそく会いに行くとしよう」 「あ、あの!」 意気揚々と歩き出すコルベールを、ルイズは呼び止める。 「ジョータローにいったい何の話ですか?」 「ふむ。話してもいいが、できるだけ早く知らせに行きたいのでね。 二度手間になるのも面倒だし、よかったらついてきたまえ」 「はぁ……。では、そういたします」 こうしてルイズはコルベールと一緒に廊下を歩き出した。 いったい何の話だろ? あの『えんじん』とかいう意味不明のおもちゃの話だろうか? もしくは新しい紙タバコができたとか、そんな話かな? たいした話じゃなさそうだと、ルイズは気楽に考えていた。 厨房からやや離れた洗い場のあたりで承太郎とシエスタは歓談をしていた。 「ラ・ロシェールを越えなきゃならねーのか、結構遠いな」 「でも馬で三日程度ですから。もっと遠くから奉公に来ている方もいますし。 草原がとても綺麗で、ジョータローさんにも一度見てもらいたいくらいなんですよ? それから村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうのがあるんです。 とってもおいしくて、村の名物になっているくらいなんですから」 「ほう、そいつはうまそうだ」 「帰ってきたら作って差し上げます。二人分ご用意すればいいかしら? 時々ギーシュ様もご一緒しますし……」 「故郷の名物なんだろ? だったらシエスタも一緒に食えばいい。 三人……いや、四人分用意すりゃ足りるはずだ」 「四人分、ですか?」 「……タバサがまた何か企んでくるかもしれねーからな。 あいつに料理に関して何か頼まれても、絶対に聞く耳持つなよ」 「はぁ……」 タバサを嫌っている訳ではなさそうだが、なぜそうも警戒するのか、 事情を知らないシエスタにはサッパリ解らなかった。 ――と、そこにコルベールがルイズを連れてやって来る。 「やあジョータロー君。よかった、まだいたか」 「コルベール? 何かあったのか」 ルイズが一緒にいたため、何かやっかい事でも起きたのかと承太郎は思った。 しかしコルベールが持ってきたのはやっかい事どころではなかった。 「竜だよ。君が私にエンジンや機械の話をしてくれた時の事を覚えているかい? あの『ガソリン』という血を持っていた竜の居場所を突き止めたのだよ」 「……間違いないのか?」 驚きと緊張を感じながら、承太郎は確かめるように問い返した。 「うむ、今度こそ間違いない。二匹の竜のうち、一匹が舞い降りた地を特定した」 コルベールの言葉を聞き、反応したのは二人だった。 「それはどこだ?」 「タルブの村ですか?」 一同の視線が地名を口にしたシエスタに集中する。 学院の廊下をキュルケとタバサが並んで歩き、その後ろをギーシュが歩いていた。 「お国のために決死の旅に出ていたのに、 モンモランシーは浮気旅行だと勝手に思い込んでるんだ」 「それは日頃の行いのせいじゃない?」 「だから君の口から何とか誤解を解いてもらえないか?」 「あれってアルビオンの王党派と関係あるんでしょ? 皇太子らしき人物がいたし。 正直に話したら結構ヤバいわよ、黙っといた方がいいわね。 それよりダーリンはどこかしら? タバコの銘柄の意見を聞きたいのに。 ところでタバサはどっちがいいと思う? ふたつまではしぼれたのよ。 ツェルプストー・サラマンダーか、ヘル・アンド・ヘヴンか」 「ヘル・アンド・ヘヴン」 ちょっぴり強めにタバサは答えた。どうやらそっちがお気に入りらしい。 ――後に彼女は『煙草王誕生!』という歌の作曲をする事になる。 そんな風に三人が平和を謳歌していると、承太郎の声が聞こえてきた。 「間違いないのか、シエスタ」 三人の視線が洗い場の方に向けられる。 承太郎、ルイズ、コルベール、それからメイド。 いったい何の話だろう、と三人は植木に隠れてこっそり近寄った。 シエスタは少し焦っているような承太郎に戸惑いながらも、 自分の村に伝わる――というか、自分の身内の話をしていた。 「二匹の竜ですよね? 私の村じゃ知らない人は誰一人いません。 一匹は日食の中に消えて、残ったもう一匹の竜に乗っていたのが、 私のお爺ちゃんだったそうです。私が幼い頃亡くなりましたけど」 それを聞き承太郎は珍しく戸惑いを見せた。 竜の正体はガソリンを動力に動く何かだ。 空を飛んでいたという事は飛行機の類だろう。 だが、それに乗っていた人間がこの世界で子供を残し、 そしてまさかシエスタがその血を受け継いでいるとは。 「コルベール。あんたはタルブの村に竜の調査に行くんだな?」 「あ、ああ。そのつもりだが……」 「丁度いい、三人で行こう。シエスタが村につくまでの護衛にもなるしな」 「えっ、ええ!? ジョータローさん、来るんですか? 私の家に!」 驚き喜び大混乱のシエスタ。 一方ルイズは話がハイスピードすぎていまいちついていけてなかった。 いきなり二匹の竜とか、それに人が乗っていたとか、お爺ちゃんとか。 そんな混乱中のルイズにさらに駄目押しの一言。 「という訳で、俺は二人と一緒にタルブの村に行ってくる」 「え、あ、待ちなさい! かか、勝手に出かけるなんて許さないんだから!」 「てめーが何と言おうが、俺は行くぜ」 「あ、その、そうじゃなくって、わ、私も一緒に行くって言ってるの!」 パニックになった頭で言ってから、何でこんな事をと疑問に思う。 ミスタ・コルベールはともかく、メイドと一緒に里帰りだなんて、なんか、その。 理由は解らないけどダメ! 絶対! という訳でルイズ、承太郎、コルベール、シエスタの四人は、 タルブの村へ竜の調査に向かう事となった。だが。 「ちょっと待った!」 キュルケが現れた! タバサが現れた! ギーシュが現れた! 「ダーリンが行くなら私も行くわ! 抜け駆けなんて許さないわよルイズ」 「事情はよく解らないが何やら大変な様子。友として見過ごす訳にはいかないな」 邪魔だ、と承太郎が目で語っていた。 タバサは使い魔を呼んだ! シルフィードが現れた! 「馬より速い」 馬より速いシルフィードに乗せてって上げるから一緒に連れてって、という意味。 それを理解した承太郎は、一刻も早く竜の正体を確かめたい事と、 どうせ断ってもこいつ等は勝手についてくるだろうと予測して、 だったら最初から一緒にシルフィードに乗っていった方がいいと判断した。 「やれやれ……解った。連れてってやる。四十秒で支度してきな」 「短ッ!?」 しかし特に用意する物もないのでみんな四十秒以内にとっととシルフィードに乗った。 シエスタは初めて空を飛ぶ竜に乗るという事で不安がり、 落っこちたりしないようにと承太郎の腕にしがみついていた。 その承太郎の反対側の腕には、シエスタの荷物が入った鞄が握られている。 承太郎の両手をシエスタに占領され、ルイズとキュルケはちょびっとイライラした。 こうしてシルフィードが学院を飛び立った。 が、ちょっと速度が遅い。 「重い」 タバサがシルフィードの気持ちを代弁する。 まだ幼いシルフィードには少々荷が重いようだ。 でも一応ちゃんと飛べているのでタバサは構わず「タルブの村へ」と命令。 「きゅいきゅい~!」 シルフィードの抗議の悲鳴は全員に黙殺された。 そして――タバサは承太郎に見つからないよう、小さな水筒をマントの中に隠していた。
https://w.atwiki.jp/darthvader/pages/29.html
307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 05 54.58 ID TDqUKtty0 五日後の夜……、一行は日中探索した廃寺の中庭で、焚き火を取り囲んでいた。誰も彼も、 疲れ切った顔であった。 「で、今日の秘宝とやらはこれかね」 ボロボロの箱の底に無造作に収められていた数枚の銀貨を、ギーシュが手の中で弄んだ。 「どうやらそうみたいね。あなたにあげるわ、ギーシュ」 キュルケはすでに今日の戦利品に対する興味を失ったようで、焚き火の灯りで次の地図を 検討していた。その態度に、ギーシュがわなわなと震えた。 「なあキュルケ、これで七件目だ! 地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行って みても、見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘宝 なんかカケラもないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」 「うるさいわね。だから言ったじゃない。中には本物もある『かもしれない』って」 一行は学院を離れて四日の内に、七つの地図の探索を終えていた。 見つかったのはどれもこれも、地図に記載されている情報とは似ても似つかぬ、ガラクタ ばかりだった。 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 02 11 11.22 ID TDqUKtty0 ルイズもため息を吐いた。 「こんなことなら、最初からアルバイトにしておけばよかったわ」 キュルケの赤毛が逆立った。 「ちょっと、ヴァリエール! あなたまでそんなこと言うの?」 険悪な空気が辺りを包んだ。 しかしちょうどその時、シエスタの明るい声が、その空気を吹き払った。 「みなさーん、お食事ができましたよー」 シエスタは、焚き火にくべた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。いい匂いが 鼻孔を刺激し、食欲を掻き立てる。 「こりゃうまそうだ! と思ったらほんとにうまいじゃないか!」 まっ先にかき込んだギーシュが舌鼓を打った。 シエスタのシチューは皆に大好評だった。 「これはなんていうシチューなの? ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たことも ない野菜がたくさん入ってるわ」 キュルケは、フォークで見慣れない野菜をつつき回しながら言った。 「わたしの村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんです」 シエスタは、鍋をかき混ぜながら説明した。 310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 15 10.05 ID TDqUKtty0 「おじいちゃんから作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根っこや……。おじい ちゃんは、よく言ってました。これはおじいちゃんのお父さん、つまりわたしのひいおじいちゃん の国の料理だって。自分の体には、半分ひいおじいちゃんの国の血が流れているんだって。 ……よくわかりませんでしたけど」 「ふ~ん。それにしても、あなた器用ね。テントを作ったかと思いきや、今度はこうやって森に あるもので、美味しいものを作っちゃうんだから」 「田舎育ちですから」 シエスタははにかんで言った。 一行が寝床としているテントも、シエスタが学院にあった廃棄予定の布と廃材を適当に見繕っ て持ってきて、組み上げたものである。 すでにテントは焚き火からやや距離を置いて設置され、中からランプの光が漏れていた。 312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 02 19 53.46 ID TDqUKtty0 「でも……ミス・タバサは何をしてらっしゃるんでしょうね?」 シエスタは、一つだけあまった器に視線を落とした。 ここ数日はいつもそうだ。 食事の時間になると、ものを食べることのできないベイダーがテントに引っ込み、タバサも それに従う。そしてタバサは、一時間ほど経って皆が食べ終わった頃にひょっこりやって 来て、冷めかけた残りの料理をかき込むのである。 「食欲が無いんでしょうか。心配ですわ。ちゃんと食べないと大きくならないのに」 シエスタは、豊かな胸の前で両腕を組んだ。 「それ、本人の前で言ったらすごい失礼に当たるわよ……」 ルイズがそんなシエスタをじと目で見つめた。 とは言え、ルイズもまた内心穏やかではない。 胸の中にわだかまるもやもやをかき消そうと、ルイズはシチューの中の野兎の肉を口に放り 込んだ。 314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 02 24 49.23 ID TDqUKtty0 「う~ん、あの使い魔と話し込みたいことでもあるのかしらね。ほら、あの使い魔は妙なこと 色々知ってるじゃない? うーん、それともまさか……ううん、あの子に限ってないと思うけど ……どう思う、ルイズ?」 突然話題を振られたルイズが、頬張っていた肉をぶほっと吹き出した。 「ちょっと、そんなに動揺しなくてもいいなじゃい」 キュルケが呆れた表情を浮かべた。 「ど、どど、動揺なんてしてないわ。べ、ベイダーとタバサが何やってたって、わたしにはかか 関係ないもの」 「へえ、気にならないの?」 「本人が見られたくないみたいなんだし、仕方ないじゃない」 一日目の夜、二人が何をしているのか気になった一行は、とりあえずギーシュを派遣して テントの隙間から様子を窺わせることにした。 その結果は散々なもので、ギーシュはテントの布越しに発動された例の力で金縛り状態に された挙句、焚き火に投げ込まれたのである。 321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 02 30 55.74 ID TDqUKtty0 さすがにそこまでされると、好奇心だけで軽率に突っ走るわけにはいかない。 四人が腕組みして考え込んでいると、テントの中からタバサが出てきた。 「空腹」 そうとだけ言って、焚き火のそばに腰掛ける。 慌ててシエスタが器にシチューをよそった。 黙々とシチューの具を口に運ぶタバサに、ルイズは意を決して尋ねてみることにした。 「ねぇ、タバサ。ベイダーとあんた……」 しかし―― 「コーホー」 突然背後から例の呼吸音が聞こえてきたため、ルイズは残りの言葉を飲み込まざるをえな かった。 珍しくベイダー卿もテントから出てきたのだ。 辺りに緊張がみなぎった。 323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 34 45.91 ID TDqUKtty0 しかしベイダーが歩み寄ったのは、タバサでもルイズでもなく、シエスタの所であった。 「シエスタ、タルブの村はここから遠いのか?」 突然の質問に、シエスタはどぎまぎしながら答えた。 「え、ええと、だいぶ西の方に来てるので、もう馬で一日半くらいです。ミス・タバサの風竜なら すぐですけど……」 ベイダーは腕組みした。 「そうか。なら決まりだ」 夢中でシチューを食べているタバサを除き、その場にいる全員の視線がベイダー卿に集まる。 そして彼らの前で、ベイダー卿はこう宣言した。 「明日はタルブの村にあるという『竜の羽衣』を探しにいく」 326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 02 40 35.89 ID TDqUKtty0 次の日。結局ベイダー卿に押し切られる形で、一行はシルフィードの背に乗りタルブの村を目指していた。 どうせインチキに決まってる、と最初からテンションが下がりっぱなしのギーシュとは対照的 に、シエスタはご機嫌である。 時に鼻歌さえ交えながら、故郷の景色の美しさについてベイダーに語って聞かせていた。 ルイズはなんとなく面白くない。 (何よ、わたしの使い魔のくせに。昨日までタバサとコソコソやってたかと思えば、今度は メイド? 大人しそうな子が好みってわけ? ていうか、大人しそうな子なら誰でもいいてこと? 堅物そうな振りして、ほんと信じられない) だいたい、そのご面相でもてようっていうのが生意気なのよ、ぶつぶつ……、といつの間にか 小さく声に出しているのに気づき、ルイズははっと口を噤んだ。 見れば、前に座るキュルケがニヤニヤしながらこちらを振り返っていた。さらに、唇に軽く手を 当て、「くふ」と笑ってくれさえした。 ルイズの顔が一気に赤く染まった。 331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 46 59.17 ID TDqUKtty0 背後で始まったルイズとキュルケの醜い罵り合いを無視して、タバサは珍しく本ではなく紙片 に書き付けられた文章を読んでいた。 昨晩のレッスンで、ベイダー卿が書いたものだった。 まだ細かい間違いがあるものの、ここ数日の短いレッスンで、ベイダーの文章力は長足の 進歩を遂げていた。 もう自分に教えられることはあまり多くはないのかもしれない――そう思うと、嬉しいような 淋しいような複雑な気持ちになった。 そんなタバサの足元で、シルフィードがきゅいきゅいと鳴いた。 ちょうどそんな折、背後のシエスタが上げたはしゃいだ声が響く。 「あ! 見えました! あの教会の尖塔! タルブの村です!」 タバサも目を凝らすと、たしかに森の木立の切れ間に、なかなか立派な教会建築が見えた。 さらに、その周りの建物も視野に現れる。 タバサはシルフィードをゆっくりと降下させた。 333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 51 44.97 ID TDqUKtty0 「あれ?」 着地したシルフィードの背から真っ先に降りたシエスタが、辺りを見回して素っ頓狂な声を 上げた。 この時間ならもう村人は皆忙しく働いているはずなのに、どっちを向いても人っ子一人見当 たらない。 シエスタは首を傾げながらも、一行を案内し、実家の戸を叩いた。 ここに来た目的は竜の羽衣であったが、とりあえずみんなに休んでもらおうと思ったのである。 しかし、何度ノックしてみても反応は無い。 思い切ってノブを捻ってみたが、しっかり施錠されているようでビクともしなかった。 なんだか嫌な予感がした。 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 02 56 27.32 ID TDqUKtty0 「なんか様子が変ね……」 遠くでシエスタの様子を見守っていたキュルケが呟いた。 「とびっきりの自家製ワインが飲めると聞いていたのに、お預けかね」 ギーシュも疲れた様子でその場にしゃがみ込んだ。 ルイズはベイダー卿の顔を見上げた。 「ベイダー……」 ベイダー卿は頷くと、直立の姿勢で顔をいくらか上げ、そのままの姿勢でしばらく静止した。 ややあって、辺りを見回してから、告げる。 その指は、村の中心にの広場に面した教会に向けられていた。 「あの教会だ。多くの人間がいる」 342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 03 01 13.72 ID TDqUKtty0 一行はシエスタを先頭に、村の中央にある教会に向かった。 教会の入り口は、堅い樫造りのドアでぴたりと閉ざされていたので、シエスタはノッカーに 手を伸ばした。 重々しいノックの音が響いた。 しかし、しばらく待ってみても、中からの反応は無い。 ルイズがベイダーに囁きかけた。 「ねえ、本当にここにいるの?」 「間違いなくいる」 ベイダーは自信を持ってそう告げる。 今度はキュルケが、眉をひそめながらぽつりと漏らした。 「そのドア、変じゃない? 表面にやたらとへこみや引っかき傷があるし……」 ギーシュが後を引き受けた。 「それに、飾り窓には全部内側から板が打ちつけられているぞ」 ゴクッ、と誰かが唾液を嚥下する音が響いた。 そしてやはり誰からともなく、辺りを見回してみる。 344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 03 07 12.09 ID TDqUKtty0 もちろん、一番不安になっているのはシエスタであった。 いつの間にか拳で直接ドアを叩き、叫んでいた。 「お父さん! お母さん! シエスタです! 今帰りました! 中にいるのなら返事してくだ さいっ!!」 ゴンッ! ゴンッ! と、華奢な拳で叩いているとは思えない大きな音が響いた。 見かねてルイズが駆け寄り、その手を押しとどめる。 「ちょっと、手を傷めちゃうわよ。――キュルケ、この扉に『アンロック』をかけて」 キュルケが承知して扉に歩み寄ろうとした時、中からごそごそと音が聞こえてきた。 ルイズとシエスタが、顔を見合わせた。 開錠の音がしてから、ほんのわずかに扉が開けられた。その隙間から覗いた顔を見て、 シエスタの顔が安堵のために崩れた。 懐かしい父の顔だった。 346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 03 10 58.14 ID TDqUKtty0 一行はシエスタの父によって教会の内部に通され、そこで詳しい事情を聞くことが出来た。 タルブの村は、今のトリステインの多くの村がそうであるのと同様、数日前からオーク鬼の 群に襲われていたのである。 その数、十数匹。一匹のオーク鬼の力は、屈強な戦士五人分に相当すると言われている。 村人には抵抗のしようがなかった。 村は完全に包囲され、外部との連絡手段も断たれた。 領主である貴族の元に救援を請う使者も出せぬまま、なす術もなく村人たちは繰り返し襲撃 を受けた。 オーク鬼の怪力の前には一般家屋の耐久性では心許ないため、村人たちは互いに呼びかけて 教会に避難することにしたのだそうだ。 そんな折にシエスタとともにやって来た四人のメイジは、歓呼の声で迎え入れられた。 「すでに五人の村人が犠牲になっています。どうかお願いです、メイジのみなさん。私たちを 助けては下さいませんか」 村長を名乗る老人からそう懇願され、ルイズとギーシュは顔を見合わせた。 349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 03 14 44.06 ID TDqUKtty0 ルイズたちの置かれた境遇では、できれば領主と報酬の契約を結んでから依頼をこなしたい ところなのだが、どうやらそんな暇はないらしい。 苦しんでいる者を見捨てるのは、貴族の取るべき行動ではないのだ。 「わかったわ。わたしたちに任せて」 ルイズが一行を代表して頷いた。 352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/06/05(火) 03 18 28.04 ID TDqUKtty0 それにしても、タルブの村は決して裕福ではなさそうだし、村人から現金を搾り取るわけにも いかないだろう。 ただ働き承知でオーク鬼退治を引き受けようとしたルイズだったが、話がまとまる寸前に、 ベイダーが彼女よりも一歩前に出た。 村人の間にざわめきが起こる。 小さい子供はベイダー卿を見て泣き出した。 ウブな村娘の中には、卒倒してしまう者もいた。 「その化け物どもは退治してやろう。金銭による報酬は不要だ。その代わり、この村に伝わる という竜の羽衣を頂戴したい」 「ちょっ……」 唖然とした表情を浮かべて、ルイズはベイダーを見上げた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2407.html
前ページ次ページユリアゼロ式 ユリアゼロ式TYPE-5「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの憂鬱Ⅴ」 ユリアは走っていた。泣きながら走っていた。 『ユリア100式マニュアル ダッチワイフであるユリア100式は100メートルを23.5秒で走れるのだ!』 後ろから誰かが追ってくる気配は感じなかった。もう自分の事を探していないのかもしれない。 行く当てなどなくいつのまにか誰もいない広い草原のど真ん中にいた。 「はぁ………これからどうしよう。」 地面に座り込んだユリアはどうすればいいのかまったくわからなかった。そこに――― 「あれ? ユリアさんですか?」 夜の散歩をしていたシエスタが現れた。 数分後にシエスタは水筒とコップを持って戻ってきた。 冷水をコップに入れてユリアに渡した。ユリアはそれを両手に持って一口飲むと黙っていたユリアは口を開いた。 「実は……私、ダッチワイフなんです。」 ユリアの告白にシエスタは驚いた表情は浮かべたもののすぐにもとの表情になった。 「驚かないんですか? 私はこの国ではタブーとされている性欲処理器具なんですよ。」 「まあ多少は驚きましたが……なんとなくユリアさんは私達とはちょっと違う人なのかもしれないなーってちょっと思ってましたから…」 「それは……どういう意味なんですか?」 シエスタはコップに入った水を一口で飲みくだし告白した。 「実は、私のおじいさんはダッチワイフを作ろうとしていたんです。」 「私のおじいさんは小さなお人形が好きでそういうのを作っていたんです。 それでよく小さい私にダッチワイフについて熱く語ってくれました。その時によくメイドロボのようなダッチワイフを作りたいとよく言ってたんですよ。」 どうやらシエスタ一家がそういうことに理解があるのはそのおじいさんのせいのようだ。 ユリアの世界ではまだメイドロボというものが普及されていなかったからもっと未来の日本から来たのかもしれなかった。 「でも、ダッチワイフってご主人様の元を逃げ出したのを知られたら大元に強制停止させられるんじゃありませんでしたっけ?」 「………え?」 「いっ、いえ 違うのならそれでいいんです。なんでもないですから。」 シエスタは慌てて手を振って否定した。ユリアは首を傾げるばかりである。 「ユリアさんはこれからどうするおつもりなんですか?」 ユリアははっとした。ただ何も考えもなく飛び出してきて一体どうすればいいのだろうか? 「私なんて廃棄されればいいんです……いや、廃棄しなくちゃいけないんです。」 ユリアはうつむいたままつぶやきつづける。 「だって、私まだバージンでルイズさんとHしたことないばかりか一回もイかせた事なんてないし……私なんて…」 「ユリアさん。これも私のおじいさんから聞いたことなのですが…… 『ダッチワイフは性交渉だけが目的じゃない。 愛することも目的だ』……と私のおじいさんは言っていました。」 ユリアは顔を上げた。シエスタはユリアにこう問いかけた。 「ユリアさん……ご主人様への愛は誰にも負けない自信はありますか?」 「もっ、もちろんです!」 ユリアは胸を張ってそう答えた。 「じゃあもう一度ルイズ様の元へ行きましょう。あの方は優しいお方ですから。」 「はい! ありがとうございます!」 ユリアは涙ぐみながらそう答えた。 部屋に戻ってきたら明かり一つついていなかった。 「おかえり」 「はっ、はい。ただいま帰りました」 緊張していたのかユリアは兵隊口調になっていた。 それを見ておもわずシエスタは笑ってしまったがルイズは顔一つ変えることなく能面のようだった。 「さっきワルドがここに来たわ。」 ルイズは淡々と話し始めた。 「一度君の使い魔と決闘をしてみたい。勝ったほうが私を自由に出来る……そんな提案らしいの。」 途端にシエスタとユリアの顔が青ざめた。 「そっ、そんな! ワルド様はものすごい強いお方じゃ……」 「ものすごいなんてレベルじゃないわ」 ルイズはそう言い放った。ルイズは顔を横に向けて暗闇のどこを見ているのかがよくわからなかった。 「決闘は明日の朝ヴェストリの広場で行われるそうよ。ワルドは私とユリアを見て早急に邪魔者は排除してとっとと結婚することを決めたみたい。」 「そんなこと言わないでください……!」思わずユリアは叫んだ。彼女はまた泣いていた。 「まだ私が負けるって決まったわけじゃないですか! やってみないとそんなこと 「ないわよ! そんな根拠も何もないこと言わないで!!」 ルイズもおもむろに叫んだ。そして彼女もまた泣いていた。 「新しい使い魔を召喚しておけとも言われたわ! これであなたもワルドに殺されて終わりね! ああそうよ!これでいいのよ!これで!」 「……いいんですか?」 シエスタは思わずそう訊ねた。ルイズは泣きながら髪の毛を振り乱して叫び散らした。 「そんなのわかんないわよ! でも、こうでも思い込まないと私どうすればいいのかわからなかったから……! 全部全部あなたのせいなのよ!!」 半狂乱になったルイズをなだめるのにはかなりの時間を要した。終わったことにはルイズは疲れきってしまって泥のように眠ってしまった。 その後、ルイズを寝かせて部屋をきれいに整えたらすっかり真夜中になってしまった。 「すいません……ご迷惑をおかけしてしまって。」 「いえいえ。これも私の仕事ですから。」 シエスタは疲れた顔一つせずに微笑んだ。 「私……やれるところまでやってみようと思います。」 ユリアの決意を聞いたシエスタは何も言わずただユリアを見つめているだけだった。 「確かにワルドさんはルイズさんの特別な人だからルイズさんと一緒に過ごしたいと思うのはわかるんです。 でも、私は………何もせずに身を引くことなんてできません! だって、私にとってもルイズさんは特別な人なのですから……」 それを聞いたシエスタは思わず笑みをこぼした。 「素敵なプロポーズですね。まさかユリアさんがそこまで考えていたなんて女の私でも妬けてきます。」 「えっ、いやその……えっと……あはははは………」 ユリアは思わず赤くなってしまったがもはや苦笑するしかなかった。 「じゃあこれで失礼します。また何かございましたら私に言ってください。」 「はい。おやすみなさい。」 シエスタを見送ってルイズを眺めているとユリアはあっと息を呑んだ。 そこには傷だらけの足元があった。 きっと私のことを探して傷だらけになってこの部屋に戻って今度は心を傷らだけにされたのだろうか……そう思うと胸が熱くなった。 ユリアはルイズの傷だらけの足元にそっと口づけをした。 「おやすみなさい、ルイズさん。」 「「おおお……」」 フェニアのライブラリーから小さな感嘆の声があがった。 その声の主はコルベールとタバサであった。 タバサがユリアの胸元にあった紋章を彼女は記憶していたため、 コルベールはもう一度ユリアに対してセクハラまがいのことをする必要はなくなったのである。 「ガンダールヴ……」 タバサもいつに無く興奮してる。コルベールも同様だった。 タバサと一緒に読んでいたその古書を仕舞い走り出した。 「どこへいくの?」 「まずは学院長に報告しよう。君も一緒に来るといい。」 「でも……」 二人で廊下を走ってると生徒がなにやら歓声を上げているのを見かけた二人はそれをスルーしようとしたのだが 「おーい! 親衛隊長のワルド様とルイズの使い魔が決闘してるぞ!」 それを聞いた二人は互いに顔を見合わせた後頷きあい、決闘が行われている広場へ向かって走り出した。 前ページ次ページユリアゼロ式
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4114.html
サイトは必死で学院に駆け戻った。ルイズが魔物に襲われ重篤だと言うのだ。学院に着くと、ルイズのいる医務室は立入禁止だと言う。だがサイトは制止を振り切って医務室に飛び込んだ。 室内では白衣を着たマリコルヌがルイズを太い鎖で縛り上げて吊そうとしているところだった。控え目なルイズの胸には鎖が食い込み、口には始祖ブリミルの銀の聖具をあしらった革製の猿轡が痛々しい。 「マリコルヌてめえ!」 サイトはデルフリンガーを抜いた。マリコルヌは蒼白な顔で叫ぶ。 「サイト、違うんだ!」 サイトはマリコルヌを跳ね飛ばすと鎖を即座に叩き切る。 「なあ相棒、この鎖なんだが……」 デルフの言葉も無視してサイトはルイズのいましめを全て解いた。 「サイトッ!」 ルイズは泣きながらサイトの胸に飛び込んだ。サイトはルイズをぎゅっと抱き締める。 ルイズはそっとサイトの首筋に口付けて囁いた。 「いっただっきます♪」 かぷり。 ちゅーちゅーと吸う音が聞こえ、サイトは気を失った。 「だから止めたのに」 マリコルヌは憮然としてサイトに説教する。サイトは口の中の牙をつつきながらうなだれた。 ルイズは吸血鬼に襲われたのだ。2次災害を避けるためにルイズを束縛していたところにサイトが飛び込んだのだという。 「でも、何でマリコルヌは大丈夫なんだ?」 サイトのもっともな疑問にルイズは答えた。 「たしかに吸血鬼は処女・童貞の血なら吸うわ。でも私は不味い血を吸うほど卑しくはないわ」 なるほど、サイトとルイズの周りを囲んで障壁を作っているのはコルベール以外の教師とキュルケだ。 と、その輪にシエスタが飛び込んできた。 「サイトさん!」 心配そうなシエスタの顔。途端、サイトは強烈な渇きをおぼえた。なんてシエスタは旨そうなんだ。 「シエスタ、いっただっき……」 「この馬鹿犬っ!」 サイトはいきなりルイズに吹き飛ばされる。ルイズは胸ぐらを掴んで叫ぶ。 「これ以上被害者増やしてどうすんのよ!」 「俺を吸血鬼にしたのはルイズだろ!俺の血で喉を潤しておいて何言ってんだよ!」 ルイズはうっ、と言葉に詰まる。だが再びルイズは強い表情で言った。 「わかってるわよ。それに使い魔の餌ぐらい、ご主人様が面倒みるわ」 その場の全員の目が点になる。だがルイズはサイトの頭を優しく首筋に抱いて言った。 「こここれ以上、被害は出せないし!」 ルイズの髪からふんわりと美味しそうな匂いが立ち上る。サイトはルイズの首筋に噛み付いた。 「ちょっ!そんながっつかないで!そんな吸っちゃ!あ……う…ふぅ…はあっん」 サイトは満足して離れると、惚けた声で言った。 「ルイズ……美味しかった」 「シエスタはいらないわよね?」 サイトは熱にうかされたようにうなずく。ルイズはサイトを再び優しく抱き寄せて言った。 「また喉が渇いてきたけど首筋ばかりじゃ痛いだろうから、違うところから吸うわ」 ルイズはサイトのシャツを捲りあげると乳首に吸い付く。サイトは身を捩らせながらも恍惚とした表情を浮かべた。 「サイト美味しい。全身から吸っちゃいたい」 シエスタの怒号が響く中、ルイズはサイトの両方の乳首をゆったりと賞味し続けた。 この日、お見舞いに来てサイトの姿を目にしたアンリエッタ陛下は、シエスタ謹製のスタミナドリンクを飲みながら自ら徹夜で吸血鬼の血清を完成させたという。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8298.html
前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち ~第6話 最初の朝withメイド~ 「結局、一睡もできなかった……」 朝まで己がロリコン疑惑を検証していた才人は、窓から差し込む朝日を恨めしく見つめた。 その眩さが、寝不足の目を嫌みに突き刺してくる。 「そんなに眠りにくいんだったら、いっそベッドから出ればよかったのに」 顔の傍に浮かびながら、ナビィが呆れた声を掛けてきた。それに対し、才人は顔をしかめて 応える。ナビィの言っていることはもっともだし、才人自身もそうしようかとは何度か思った。 けれど、才人はそれを選べなかった。 「そんなわけにもいくかよ……」 言いながら、才人は腕の中に抱く存在に目を向ける。青い髪をした小さな頭が、小さな寝息を 立てていた。そのタバサの静かな寝顔を見ていると、睡魔に咬まれて痛む頭が少し楽になった 気がする。 「こんなちっこい女の子が泣いてて、ほっとけないだろ……」 昨夜のタバサを思い出す。夢の中で両親を呼びながら、涙を流し続ける姿。とてもか弱く、 今にも壊れてしまいそうな慟哭。女の子のあんな姿を見て、無視できるはずはなかった。 「そうだね……」 ナビィもその気持ちを察してくれたのか、優し気な輝きを湛えて2人を見下ろしてくる。 「でも、そろそろ離してもいいんじゃない?」 「え?」 言われて、もう泣いていない彼女を朝になってまで抱き続けていることはないと気がついた。 慌てて、才人はタバサを離して距離を取る。 途端、どっと眠気が襲いかかってきた。たまらない倦怠感が、脳内を掻きまわす。 「うう、眠い……」 「そりゃそうだよ、一晩中起きてたんでしょ?」 「だって、会ったばっかの女の子と同じベッドで寝て眠れないって」 欠伸交じりに答えてみせる。今までは、腕の中のタバサが気がかりで大して気にならなかった のだが、いざ離してみると自分がいかに寝不足であるかを自覚してしまった。 「せめて、同じ部屋で何日か寝泊りしてからなら眠れると思うんだけど」 「それはそれでどうなんだろ……」 やや呆れた風のナビィに苦笑を返していると、タバサが小さく身じろぎをする。 「んぅ……」 「お、起きたかご主人様」 「おはようございます、タバサ様」 上体をゆっくり起こしたタバサに2名が挨拶すると、彼らの主はじっと才人の方を見てきた。 「な、なに?」 無表情に見つめられて、思わず声が上ずる。 ――もしかして、一晩中抱いてたのばれてるかな? やましい気持ちはなくともやましいことはしただけに、背筋が嫌な汗でぬれていった。そして、 無言の圧力を受け続けること約10秒、やがてタバサが口を開く。 「眼鏡」 「へ?」 言われた意味が判らず、呆けた声が口から出た。 「取って」 「あ、はいはい」 続いた言葉に、ようやく理解する。ベッド脇のテーブルから眼鏡を取り、タバサに手渡した。 やはりやましいところがあるだけに、動作は少し慌て気味で。 「ありがとう。それから、おはよう」 「はは、どういたしまて」 やや引きつた笑みで返事を返しながら、ひとまず安堵の息をつく。どうやら、昨夜のことは ばれていないらしい。 そんな才人に怪訝としたのかしていないのか、タバサは無表情のまま受け取った眼鏡を 掛けた。次いで、彼女は部屋の壁の1点を見やる。 「ムジュラの仮面は?」 「ああ、まだ寝てるみたいだな」 言われて、壁に張り付いたままのムジュラの仮面を見た。瞳の光を消したその姿は、まるで ただの仮面にしか見えない。 「こうしてると、とても動いたり魔法使ったり使わせたりするようなしろもんには見えないな」 近くの椅子に掛けておいたパーカーを着ながら呟けば、タバサがそれに頷く。 「生きてるか死んでるかも判らない」 「大きなお世話だ」 タバサの言葉に反応し、苛立ち混じりの声と抜けるような音とともに、仮面の眼に光が戻った。 続いて、やたらと身体を震わせながら壁から離れていく。 「ヒトがまどろんでるからって、勝手なことを言ってくれるな」 「客観的考察」 悪びれずに言うタバサに、ムジュラの仮面はつまらなそうに鼻――何処にあるのだろうか―― を鳴らした。 そんな遣り取りを見ながら、才人はまたも大きく欠伸する。 「昨日眠れなかった?」 それに気付いたタバサに問われれば、つい眼を泳がせてしまった。 「ああ、まあね」 まさか夜通し彼女が泣かないようにしていたせいとも言えず、言葉に迷う。 「そんなに眠いなら、顔を洗ってきたら? 井戸水は冷たいから、よく目が覚めるよ」 そこで、助け舟というわけではないだろうが、ナビィがそんな提案をした。彼女の言う通り、 眠気覚ましには冷たい洗顔が一番だ。 「そうすっか。タバサ、水場って何処かな?」 首だけタバサに向けて尋ねると、何故か彼女は籠を才人に差し出してくる。その中には、これまた 何故かシャツやら下着やらが入っていた。 「ついで」 「は?」 またも言葉の意味するところが判らず、首を傾げる。昨日から思ってはいたが、どうもこの 少女は喋る時の単語が少なすぎるきらいがあるらしい。 「洗濯」 「あ、そういうこと」 「それぐらい、洗濯物出された時点で気付けよ」 タバサの捕捉に納得すると、ムジュラの仮面に茶々を入れられてしまった。言われてみると、 タバサの言葉足らずは否めないが、自分の察しの悪さもまた確かだ。無口な少女に、洞察力不足な 自分、実に先行きが思いやられる主従である。 しかし、それでも何とかなるかと考えを切り替えるのが才人という男だ。気を取り直して、 タバサから洗濯物を受け取る。 「メイドに渡してくれればいい」 「ん、了解」 「私の洗顔用の水も汲んできて」 「はいはい」 口数の割に意外と注文の多いタバサに、苦笑いが浮かぶ。 「では、被れヒラガ。飛んでいけばすぐだろう」 言いながらムジュラの仮面が裏側を向けて近づいてくるが、才人は首を横に振る。 「いや、眠気覚ましに、歩いて行くよ」 「そうか? まあ、とりあえずついていくかな」 「ワタシも行くわ。学院の構造を少しでも把握しておきたいし」 そして、才人はタバサに水場の場所を確認し、ムジュラの仮面とナビィを伴って水場へ向かうの だった。 魔法学院のメイドの1人、シエスタは洗濯籠を抱えて水場へ向かっていた。トリステインでは 珍しい黒髪に黒い瞳の彼女は、いつも朝早くから仕事を始めなければならない。 なにせ、彼女の奉公すべき学院の生徒たちは貴族、それも精神的に未熟なその子弟たち。貴族は 往々にして傲慢であり、平民のことを顧みない者が大半である。大人の貴族でさえそうなの だから、その子どもとなれば平民への態度は推して知るべきだ。たかが洗濯といえど、遅れたり すればどんな目にあうか知れたものではない。 「よいしょっと」 井戸の傍まで来ると籠をおろし、その付近に備え付けられている洗濯桶と洗濯板を用意する。 「さて、始めますか!」 準備が整うと、袖をまくって洗濯を始めようとした。 「でも、ムジュラで飛んで風を感じるのも、眠気覚ましになったんじゃない?」 そこへ、少女の声が耳に入ってくる。 「まあ、横着はよくないしさ」 「へえ、真面目なんだ」 そちらを見てみれば、桶を持った黒髪の少年と羽の生えた光、怪しげな仮面がこちらに近づいて いた。確か、学院生徒のタバサに召喚された3名だ。 「いや、面倒になってきたらムジュラの世話になるかもだけどさ」 「いい加減だな」 仮面――確かムジュラの仮面と名乗っていたはずだ――が茶化す様に言えば、少年――サイトと いう名前だったと思う――は笑いながら「まあね」と返している。ただでさえ奇妙な組み合わせの 3名が仲良さ気に談笑している姿は、益々奇妙であった。 「あれ? 君、昨日の娘(こ)だよね」 やがて彼らは井戸まで来て、サイトが声を掛けてくる。 「あ、はい。おはようございます、皆様」 立ち上がって礼をすると、光の少女――ナビィと昨日聞いた――が笑い掛けてくる。 「そんなに硬くならないで」 穏やかな輝きを放ちながら彼女は言うものの、シエスタはやはり恐縮してしまう。 「いえ、でも皆様、貴族様の使い魔さんたちですし」 貴族にとって使い魔はパートナーであり、使い魔とメイジは感覚を共有している。魔法学院の メイドであるシエスタは、それを知っていた。使い魔を――貴族の感覚から見て――粗末にした ことで腹を立てられ、職を追われた同僚もいないではないのだ。彼女らの主であるタバサは特に 高慢そうな様子はないが、それでも礼は尽くすべきだとシエスタは考えていた。 「そんなの気にすることないって」 しかし、その当の本人たちの1人にそれは笑い飛ばされる。 「いえ、そういうわけには」 「いいからいいから」 やはり遠慮の声を送ろうとするが、あっさりとサイトはそれを遮ってしまった。 「俺たちだってここの生徒の1人に仕えることになったわけだし、立場的には君と似たような もんだよ」 「そうそう、従う相手が直属か全体かの違いだけだよ」 サイトの言葉にナビィも続き、2名は――ナビィは多分だが――笑みを見せる。その屈託の ない雰囲気に、やっとシエスタも自然に笑えた。 「オレとしては、かしずかれていいんだがな」 「黙れ、性悪」 独りごつムジュラの仮面に、サイトが切れ味のいい眼と言葉を向けるが、向けられた方は 眼ににやついた様な光を浮かべるだけだ。仲がいいのか、悪いのか、よく判らない2名である。 「そういえば、君の名前なんていうの?」 そこで、思い出したようにサイトが訊いてくる。そこで、彼らからはされたにもかかわらず、 自分の紹介をしていなかったことに気がついた。 「あ、はい。私、シエスタっていいます」 「シエスタか。じゃ、改めまして、俺は平賀才人、才人って呼んでくれ」 「ワタシはナビィ、よろしくね」 「ムジュラの仮面だ、ムジュラでいい」 互いの紹介を済ませると、シエスタはサイトの持つ籠に眼がいく。 「サイトさん、それ、ミス・タバサの洗濯物ですか?」 「ん? ああ、そうだけど」 「では、そちらもお預かりしますね」 言いながら、サイトから籠を受け取り、自分の持ってきたものの隣に並べた。 「ありがと、けど、それ全部君が洗濯すんの?」 「はい、そうですよ」 シエスタが答えると、サイトは少し眉をひそめて洗濯物の山を見ていた。 「大変じゃない?」 洗濯籠を指差しながら、心配そうな声を掛けてくれた。なにせ、数十人分の洗濯物が集まって いるのである。基本的に貴族は服を汚すことが少ないとはいえ、人数があるのでその量は莫迦に ならない。 そんな彼の心配を少し嬉しく思いながらも、シエスタは笑って答える。 「大丈夫ですよ、これくらい」 強がりではなかった。確かに勤め始めの頃はその膨大な量に閉口したものだが、今ではすっかり 慣れて、手早く綺麗に終わらせるコツもつかんでいる。なので、特に問題に思わずシエスタは 洗濯を始めようとした。 「あ、ちょっとタンマ!」 なのだが、何故かサイトに制止を受ける。 「お近づきの印、っていうには変だけど、ちょっと手伝うよ」 「え、そんな、いいですよ」 サイトの言葉に、もちろんシエスタは遠慮した。幾ら気さくな雰囲気だとはいえ、貴族の 使い魔たる彼に自分の仕事をさせることはできない。しかし、例によって黒髪の使い魔はそれを 一笑に付する。 「だから気にすんなってば。俺も力使うの慣れておきたいし。なあ、ムジュラ?」 「そうだな。せいぜい慣れてくれよ」 話を振られたムジュラの仮面が、サイトに裏側を向ける。それをサイトがためらいなく被ると、 右腕を洗濯物の山へと向けた。何をしているのかと首を傾げるシエスタをよそに、サイトは何事か 呟く。 「ただイメージすりゃいいんだよな? それっ」 掛け声が早いか、急に籠の中の衣類が浮きあがった。それにシエスタが驚くより早く、今度は 桶に張っていた水が球状になって宙に浮く。次いで、井戸から水が縄のように伸びてきて、その 水の球に給水していき、直径5メイル程の大きさにまで膨らませた。 それから、浮き上がっていた衣類が次々に水の球へと放りこまれていき、最後に洗剤を飲み 込むと、水がすごい勢いで回転を始める。その回転で洗剤が大量の泡を立て、中の衣類が見る見る 泡に覆われていった。 水の球の回転は、時に反転を加えながらも数分続き、やがて洗剤混じりの水が球の形を失って 捨てられる。宙に残った泡だらけの洗濯物は、また井戸から伸びてくる水の綱に作られた新しい 水の球に呑まれてゆすがれていった。そして、それが終わってまた水が捨てられたかと思えば、 今度は温かな旋風が衣類の周りで舞い踊り、洗濯物の水気がどんどん落とされていく。しばしの 後、温風が収まると、衣類が籠の中に戻されていった。 シエスタは、半ば呆然としながらその中身を手に取る。 「乾いてる……それに汚れも完璧に落ちてる……」 自失気味でそれを確認したところで、ようやくシエスタは我に返った。 「すごいです! サイトさんはメイジ様だったんですか!?」 興奮しながら、シエスタはサイトに詰め寄る。目の前の、どう見ても平民にしか見えない 少年が魔法を使って見せたのだ。これは驚くなという方が無理だった。 その当の本人は、ムジュラの仮面を外して苦笑の表情を見せる。 「俺が魔法使えるわけじゃないよ、俺はこいつの力借りてるだけ」 言いながら、サイトが手にしたムジュラの仮面を指差す。指されたムジュラの仮面は、何処か 妖しい声音で言葉を発した。 「なんなら、被ってみるか? オレの力を貸してやるぞ」 そう言うと、ムジュラの仮面はサイトの手を離れ、シエスタへと自身の裏側を向けてくる。 その背面を、シエスタは見つめてみた。 暗い。ただの仮面の裏側、そうであるにもかかわらず、そこは異常に暗かった。まるで果てが ないような、底なしの淵のような、そんな感覚を覚える暗がり。暗黒と呼んで差し支えないそれを 見ていると、何故だか冷たい汗が浮かんでくる。 「いえ、遠慮します」 なので、シエスタは断りの声を上げた。魔法を使えるというのは少し好奇心をくすぐられるが、 それよりもこの得体の知れない仮面への警戒心の方が強い。第一、本人――むしろ本面という べきか――には悪いが、このお世辞にも趣味がいいとはいえない仮面を同年代の少年の前で 被るのは、女の子として何か色々と捨ててしまいそうな気がするし。 「そうか、まあそうだろうな」 ムジュラの仮面は、シエスタの言葉を特に気にした様子もなく、サイトの方に向き直る。 「オレの様な意思のある魔の仮面、なんの警戒も抜きで被る様な能天気、ヒラガくらいのもんだ」 嘲るような調子のムジュラの仮面に、サイトが抗議の声を上げた。 「警戒しなかったわけじゃないだろ、5秒くらいは悩んだろーが」 「十分無警戒だよ……」 呆れを隠さないナビィの声を受け、サイトは何やら拗ね始める。 「なんだよお前ら、俺ってそんなに能天気かよ……」 「うん」 「ちょっとは否定しろって!」 声を合わせて肯定した2名に、サイトは再び抗議した。そんな使い魔たちの遣り取りを見て いると、なんだか可笑しさがこみ上げてくる。 「フフフ、皆さん、仲がいいんですね」 シエスタがそう言うと、サイトたちは互いを見合わせた。 「うーん、おんなじ子に召喚されて契約したせいか、なんとなく気が合ってさ」 「性格は全然違うのにね」 「出身も、種族もな」 サイト、ナビィ、ムジュラの仮面の順に言われるが、最後の台詞に少し引っかかりを感じる。 「そういえば、皆さんってどちらから来られたんですか? 特にサイトさん、服装も名前の 感じも変わってますし」 サイトの着ている服は、シエスタには見たことのないものだった。恐らく、何処か外国のもの なのだろう。今でこそ比較的王都の近くにいるが、シエスタは元々田舎生まれの村育ち。外国の ことはほとんど知らないので、少し興味があったのだ。 しかし、その質問にサイトは寂し気な苦笑で応えてくる。 「遠いところだよ」 「どれだけ遠いかも判らないくらいね」 サイトの言葉に、やはり憂いを帯びた声音のナビィが続いた。 「あの、どうしました?」 いけないことを聞いてしまったのだろうか。何やら落ち込んだ様子の2名に、申し訳ない気分が 湧いてくる。 「いや、こっちのことだよ」 そこで、サイトは気にするなと言わんばかりの笑顔を返してくれた。その優しさに、少し元気が 戻る。 「そんじゃ、俺は顔洗うか」 そう言って、サイトが井戸水を汲もうとした。しかし、その動きはかなりたどたどしく、作業は 難航していた。井戸の水汲みをしたことがないのだろうか、見ていてもどかしくなってくる。 「サイトさん、汲んであげますよ」 とうとう見かねて、シエスタは青い服の少年にそう申し出た。それに、サイトはばつが悪そうに お願いしますとつるべ縄を渡してくる。 「お手本を見せますから、次からは私がやるみたいにして汲んでくださいね」 「あ、うん。ありがとう」 頭を掻きながらのサイトの返事に、小さく笑みが漏れた。先程のいとも簡単に大量の洗濯を 済ませた時とのギャップに、なんだか可笑しくなってくる。 そして汲んであげた水で、サイトは顔を洗いはじめた。 「くぁぁ、つめてえ! 一気に目が覚めるな!」 ただの井戸水に、サイトはいかにも感動したような声を上げる。その新鮮そうな口ぶりに、 シエスタは首を傾げた。井戸の汲み上げに苦労したり、サイトは普段どのように水場を利用して いたのだろうか。 「サイト、そろそろ戻らないと」 「主が水を待ってるぞ」 同僚2名の言葉に、サイトはそっかと頷き、シエスタから手拭いを借りて顔を拭った。 「んじゃ、今度は自分でっと」 言いながら、黒髪の使い魔は先程よりも順調につるべを引き上げ、桶に水を注ぐ。 「あ、そういや洗濯物ももう持っていっていいのか」 言いながら、サイトが自分たちの持ってきた分の洗濯物を見やった。 「けど、洗濯物と水、両方運べる?」 懸念するナビィに対し、サイトはムジュラの仮面を見ながら応える。 「仕方ない。ムジュラ、帰りは頼むよ」 「はいはい」 返答しつつ、ムジュラの仮面はサイトの顔に覆いかぶさる。次いで、サイトが指を鳴らすと、 水の入った桶とタバサの衣類、彼らの持ってきた籠が浮き上がる。衣類が洗濯籠の中に全て 収まると、サイトはシエスタに向き直ってきた。 「それじゃあ、また後でな」 「あ、はい。また朝ごはんの時に会いましょう」 挨拶もそこそこに、サイトたちは宙に浮いた荷物を伴い、学生寮の方へと飛んでいく。その 空飛ぶ背中を眺めながら、シエスタは大事なことを言い忘れていたと気がついた。 「みなさーん!!」 まだ間に合う。口許にメガホン代わりの手をあてがい、3名の使い魔たちへと声を飛ばす。 「洗濯物、ありがとうございましたー!!」 その叫びに、サイトたちは少しだけ振り返って手を振ってくれた。そして、また寮の方へと 宙を舞っていく。 この日、シエスタに初めて使い魔の友達ができたのだった。 「そういえば、サイトさんの名前、感じがひいおじいちゃんに似てるかも」 ~続く~ 前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5668.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 朽ち果てた廃墟に作られた鉄扉がきぃきぃと軋みを上げて揺れていた。 そこは新しい集落を作ろうとした開拓村だった。田畑のない農民、一攫千金を夢見る若者が鋤鍬に大工道具を持って、時の領主の政策に応じてはじめた小さな計画だった。 しかし、その場所はハルケギニアの深い森に生息するデミヒューマン『オーク鬼』のテリトリーに隣接していた。開拓村の人々は出来上がり始めたばかりの自分達の居場所を守る為に武器を取った。また、領主も何度か討伐の手勢を派遣することもあった。 しかし森に潜むオークの数は多く、長引く討伐の中で領主もその地方への関心を無くすと、開拓民の願いも虚しく、村はオーク鬼によって蹂躙された。 そんな話も今は昔。既に開拓村だった場所は小さな寺院を中心にあばら家が点在する廃村となっている。 あばら家の一つからのっそりと大きな影が這い出てきた。不愉快を誘う体色の肌が皮下の厚い脂肪と筋肉で揺れ、その上を粗末なボロ布を巻きつけたオーク鬼が数匹…。 彼らは――オーク鬼の生態は不明である。一説には、彼らは雄しかいないのだという…――ただ無闇に外へ出てきたわけではない。豚によく似た鼻先は、先ほどからニンゲンの匂いをかぎつけていた。 フゴフゴと耳障りな音を立ててオーク鬼数匹が周囲を探索していると、ヒュン、と風を切った小石が鋭く飛んで、うち一匹のオーク鬼の頬に当たった。 「ぷごっ?!」 強かに小石があたり、オーク鬼は石の飛んできた方向を見た。そこには小さなニンゲンがなにやら紐のようなものを振り回している。 ニンゲンは振り回している紐をこちらに向けて振り下ろす。すると再び、鋭く飛んだ小石が顔に当たる。 「ぷごっ!ぴぎぃ!ぴぐぉぉぉぉ!」 単脳なオーク鬼は興奮して小さなニンゲンに向かって走り出した。周りの仲間もそれを見て一緒に走り出し、小さなニンゲンを追いかける。 追われる立場になった小さなニンゲンは、軽やかに走り始め、徐々に木々に囲まれた林へ逃げていく。 オーク鬼達は片手に巨大な棒を振り回し、聞くにおぞましい鳴き声を上げている。 追われる者は軽業師もかくやという身のこなしで木々をすり抜け、時折足を止めては先ほどのように紐を使って石を投げる。 それがオーク鬼達の興奮をさらに高め、オーク鬼達はニンゲンに連れられるままに林の奥へ入っていく。 数度目に立ち止まるニンゲン。その場所は周囲を木々に囲まれた林の中でも開けた場所だった。 興奮の頂点にあったオーク鬼達は、どすどすと足音を鳴らしてニンゲンに向かっていく。 しかし、後一歩でその棍棒がニンゲンに届くだろうという距離に踏み込んだ瞬間、彼らの視界からニンゲンが、消えた。 周囲が土壁に覆われ、さらに身体に痛みを感じる。 興奮のままに暴れるオーク鬼達は、上から降ってきた物に気付きもしない。 数拍の後、オーク鬼達は爆音と共に命を落とした……。 落とし穴を見下ろすギュスターヴの脇で、ギーシュの使い魔のジャイアントモール『ヴェルダンテ』がせっせと穴に土をかけている。 何とはなしにギュスターヴは、この巨大なモグラを撫でてみた。モグラらしい、硬い毛だ。 撫でられたヴェルダンテはモグモグと嬉しそうである。 そう、全ては廃墟に巣食うオーク鬼を退治するための罠である。 手順はこう。まず、人が隠れられるだけの茂みのある開けた場所に落とし穴を掘る。掘った穴のそこには先を斜めに切った棒を何本も立て、 上はそうと見られないように隠す。 後は、頭の悪いオーク鬼達をおびき寄せて穴に落す。最後に投げ込まれたのは、シエスタ特製の手投げ爆弾である。 爆発時の爆風と熱でオーク鬼に止めを刺したのである。 「それにしても、こんな簡単にオーク鬼を退治できるなんて…」 つぶやくギーシュはギュスターヴと同じく落とし穴を覗いていると、脇をキュルケに小突かれる。 「あてっ」 「何他人事のように言ってるのよ。林に潜んで落とし穴に掛かる直前のオークを見て勇んで突撃しようとしたくせに。 ギュスが止めなきゃせっかくの罠が台無しになるところだったじゃない」 「だ、だって戦いは先手必勝というじゃないか」 言い訳がましいギーシュにギュスターヴはちっちっ、と指を振る。 「それは違うぞギーシュ」 「何がだね」 「『先手必勝』というのは先手を取れれば必ず勝てる、という状況のことを言うんだ。先手が取れれば絶対に勝てる、という事じゃない」 「う…」 「まったく、トリステインの貴族はこれだから…」 そうしゃべっている内にヴェルダンテは掘られた穴に土をかけ終わり、もとの開けた空き地に戻った。 「ありがとうヴェルダンテ。戻っていいよ」 主人の声に満足したモグラはずももと地面に帰っていく。 「さて、シエスタ……シエスタ?」 キュルケが声をかけようとしたシエスタは――格好は例の、ディガースタイルである――、錘のついた紐をひゅんひゅんと回して、木の枝に止まっている鳥を見ている。 次の瞬間、シエスタはばっ、と紐を投げる。錘のついた紐は広がって飛び、鳥の身体に絡みつく。もがく鳥は羽ばたこうとするが叶わず地面に落ちた。 「これでお昼ご飯にできますね」 「すごいのね貴女。…正直こんなに役に立ってくれると思わなかったわ」 感心するキュルケにシエスタが手を振る。 「いえいえ、こんな事でよければお役立ててよかったです」 『来る僅かな手懸り』 数日前にキュルケが手に入れた宝の地図。その真贋を確かめようとキュルケはギーシュとタバサ、そしてギュスターヴを誘って探検に出かけたのだ。 本当はルイズも誘うつもりだったのだが、「私は今忙しいのよ!」と言われてやむなく断念した。 ギュスターヴの脳裏に付いていくと言った時のルイズの表情が離れない。 (ちゃんとお土産もって帰らないとな) そしていざ出発、という段になってギュスターヴはある提案を一同にした 「どうせならシエスタも連れて行こう」 「シエスタってあのメイドでしょう?足手まといよ」 キュルケの言葉にタバサとギーシュを頷いた 「そうとは限らないさ」 「そうかしら?」 そういうわけで四人が使用人の寮を尋ねようとしたところ、シエスタはちょうど寮の出入り口から姿を現した。その格好は皮のグローブやブーツに、ソフトレザーの重ねられたジャケット、そして大きな背嚢を背負ったディガーのようなあの格好だった。 「あ、ギュスターヴさん。それに皆様。どうかしましたか?」 「今から外出か?」 「お姫様の結婚式に合わせて使用人にも暇を出してもらってるんです。お土産を取りに行きながら故郷に帰ろうと思いまして」 「故郷ってどこ?」 「タルブですよ」 けろりと言うシエスタに、ギーシュは驚いた。 「馬でも丸2日以上掛かるじゃないか。そこを歩いて帰るって言うのかい」 「だって、駅馬車はお金が掛かりますし、歩いていけばお金も掛かりません。それに野宿もできれば宿代もいらないんですよ」 再びけろりと答えるシエスタ。なんと野宿前提での帰省のようであった。 「ところでシエスタ。ちょっとお願いがあるんだが…」 「はい?」 ギュスターヴが宝探しに出るので一緒に行かないかと言うと、シエスタは首を縦に振ってくれた。 「はい!是非同行させてください。こう見えて私は…」 「私は?」 「いろいろ出来ます!」 ずり、とギーシュがこける。 「い、色々って…」 「でも、料理とかも出来ますから、きっとお役に立って見せますよ。…その代わり、タルブに寄っていただけると嬉しいんですけど…」 「それくらいは大丈夫よね。ね、タバサ?」 これにはタバサも頷いた。多少、荷物があるかもしれないが、長い距離と飛ぶわけではないのだから。 こうしてギュスターヴの提案によって一行に加えられたシエスタは、果たしてキュルケやギーシュの想像以上の働きをしてくれた。 森の中を歩けばあっという間に獣道を見つけ、誰よりもやってくるモンスターや獣の気配に素早く反応する。 遺跡や廃墟に残されたトラップも解除して見せ、逆に何もないところにトラップをしかけ、モンスターを退治して見せる。 結果、当初の予定をはるかに上回る速さで宝の地図の場所を回る事ができた。先ほどの捨てられた寺院で、都合7件目の探索であった。 「…で、結局見つかったのはこれだけか」 焚き火を囲む一同の中でギュスターヴの嘆息が漏れる。七枚の地図が示す先を探索して手に入ったものは、古い銅貨が数枚、さび付いた聖具が数点、そしてラベルが腐食して読めない謎の液体の入ったボトルが数本である。 「モンスターに追いかけられて、トラップに死に掛けて収穫がこれじゃ割に合わない事極まりない」 糾弾されているキュルケは何処吹く風と爪を磨いている。 「まぁ、もともとタダでもらったものだしね。収穫があっただけ良かったかもよ」 「かも知れないがねー…」 火にかけられている鍋からシエスタが腕に汁を注いでタバサに渡す 「出来ましたよ、ミス・タバサ。粗野な料理でお口にあうか判りませんけど…」 腕の汁を食べるタバサ。 鍋に掛けられているのは周囲で取れた野兎の肉だった。そこに食べられる野草とシエスタが持ち歩いている香辛料を使った簡単なもの。 尚、他にも野鳥の肉がが丁寧に捌かれた上で串刺しにされ焚き火に炙られている。 「おいしい」 「そうですか!ありがとうございます」 「それにしてもシエスタ。貴女って本当に何でもできるのね」 「そ、そんな!たまたまこういうのが趣味みたいなものでして…」 「ギュスターヴ、君が同行してもらうと言った時はどうしたものかと思ったけどね」 いい具合に焼けている串肉を齧りながらギーシュが言った。 「前にこの格好で出歩いていたのを知ってたからな」 「でもシエスタ。君のその背負ってる背嚢には一体何が入ってるんだい?」 体健やかな村娘の荷物とはいえ、シエスタの背嚢はかなり大きい。 請われたシエスタは背嚢を一行の前で拡げて見せた。 「えっと…まず、飲み水を入れた皮袋、雨粒を凌ぐ為のポンチョ、炊き付け用の練り炭、ロープ5メイル、ワイヤー15メイル、火口箱、油瓶、香辛料、ナイフ、山刀、保存食料…」 「この箱はなんだい?」 傍に置かれた金属の箱を手に取るギーシュ。 「あっ!それは火薬が入ってるので注意してください」 「火薬?!」 びっくりしたギーシュは箱を落しかけるが、何とか両手に納めなおす。 「鉛の箱に火薬を突き固めて、上から薄い木の板に金属の珠をつめてあるんです。さっきみたいにオーク鬼とかが居そうな森で夜を過さなきゃいけない時は、自分の周りに仕掛けてから寝るんです」 「け、結構物騒なものを持ち歩いてるんだね…」 「他にもありますよ。ええっと…こっちの、紙で包んだ棒状の火薬は先の紐に火をつけて使います。さっきの箱は出っ張りを引っ張ると中の火打石が擦れて着火するようになってます。あと、鈴」 「鈴なんてどうやって使うの?」 「ワイヤーに結って眠る時に周りに張っておくんです。ワイヤーに何かが触れると音がしますからすぐに気付けるんですよ」 はぁ、と感心するキュルケ。つ、とシエスタの視界に空の腕が出される 「おかわり」 「あ、はい!ちょっと待ってください」 周りをささっと片付けてすぐさま取り掛かる辺りがメイドらしい。 「ともかく。結局のところ我々はこの古い地図に踊らされていたということさ」 はぁ、とキュルケとギーシュのため息が漏れる。 ギュスターヴとタバサは黙々として、タバサは腕をギュスターヴを串肉を食べていた。 火の始末をして荷物を片付けるシエスタを見る。 「…それじゃ約束どおり、彼女を送ってあげようじゃないか」 「そうね。結構手伝ってもらったし」 シルフィードが食事の余りに食いついているのをタバサが撫でている。 「早く食べて」 きゅいー、と鳴くシルフィード。 空になった鍋をシエスタが抱え、一同はシルフィードに乗って空に飛び上がった。 一人、徐々に翳っていく陽の入る部屋でルイズがベッドに寝そべり、白紙の祈祷書を広げている。 (……帰ってこなかったな。ギュスターヴ。……まったく、人の使い魔を連れ回すなんてどういうつもりなのかしら。そ、そりゃ、許可は出したわよ。出したけどそこは遠慮とかそういうものが必要でしょ!これだからツェルプストーは…) 目は白紙の祈祷書を追っているが、心が別を向いていた。 ふと視界をずらす。机の上に置かれた『水のルビー』が目に入る。 (……姫殿下。やっぱり嫌なんだろうな。…でも、トリステインだけじゃアルビオンの貴族派に勝てないのよね。……人の上に立つ者には責任があるって、前にギュスターヴが言ってたわ……) 以前なら深い同情だけで見ていたアンリエッタが、今は少し別の角度から見ることが出来そうな気がした。 (…私も責任を果たすわ。メイジとして、貴族として。……ひとまずは、任された巫女として仕事が出来るといいんだけど…) 再び白紙の祈祷書へ向く。 「…はぁ~」 (さっぱり浮かばないわね…) えいっ、とルイズは起き上がって机に置いてある過去の祝詞を集めた冊子を広げてみる。 「えーっと……『水は流れる刻、火が邪を払い、土石の如く変わらぬ想いにて、木々が国へ広がりてこれを護るだろう。命湧き上がりて声になり、民と大地と空を清める歌とせよ』……変なの。どうして火の魔法が災いを払ってくれるのかしらね。…ふーん。この祝詞は2000年も前のものなのね……」 ルイズは冊子を繰り、古い順に祝詞を読んでいく。 「…こうやって、読んでいくと不思議ね。時代が進んでいくと祝詞が段々単純になっていくみたいな…『命に流れる静かなる清水や。大地を借りて民草を包む石くれや。食い広がりて抗うものを打ち倒す火炎や。普く有りて皆を護る旋風や。始祖より下りし四つの気を束ね、汝らはこれを抑え、国を治め行け』……へー、これがもう500年くらい前なんだぁ……」 そうやって耽溺している内に日がすっかり翳っている。 「……そろそろ夕食ね」 一人で部屋を空けるルイズは、静かに淋しいと思った。 (不思議…去年まで、いつも一人で行動してたのに) それがあの、闊達な使い魔が居ないせいだとよく分かっていた。 時間は少し戻り、漸う午後の3時頃。 シルフィードは巡航速度、毎時約80から100リーグで高度約2000メイルを飛んでいた。 鳥瞰できる地平の森が開け、段々と人の気配を見せるものになっていた。 「見えました。あれがタルブです」 初めて乗る竜の背中で、がっしとシルフィードの背びれを掴んでいるシエスタが言う。 トリステイン南西部にあるタルブの村は、温和な領主に見守られた集落だ。 なだらかな盆地を切り拓いて作られ、斜面に濃い緑の縞模様が上空で観察できる。 タルブの特産は主に二つ。一つは水はけの良い斜面で栽培された葡萄で作られるワイン。 タルブ産のワインは7割が平民向け、3割が高給取りの商人や職人そしてそれらを含めた貴族の需要を当て込んで生産されている。特に最上級のブランド『カナリアハート』は五代前の領主夫人が喉を病んだ時に献上され、後に麗らかな声を取り戻したという逸話によって時には遠くガリアからも買い付けがくる。 もう一つ、隠れた特産がある。タルブの外れにある山より切り出される良質の石材である。その肌理細やかな石質から『ユニコーンの皮革』と言われ、こちらもハルケギニアの寺院や宮殿などに供される。もっとも、こちらはワインほどの恩恵を村と領主に与えているわけではなかった。 村の中心から少し外れた場所にシエスタの生家はあった。キュルケやギーシュはてっきり、あの斜面に見えるような葡萄畑を持つ、比較的裕福な農家の娘だろうと思っていた。 しかしシエスタの生家は確かに、並の農家よりも一段半ほど格の上がる家だった。石と土で作った壁、紙と所々にガラスが使われた窓、屋根は腐食を防ぐ緋色の塗料に染められた板葺きだった。全体に横に広く、二階建てのように見えたが、出入り口の様子を見るに半地下状になっているらしく、見た目よりも中は広いのかもしれない。 「ただいまー」 ノックして家へ入るシエスタを先頭にぞろぞろとギュスターヴ達は続いた。 瞬間、ギュスターヴ達はむせた。室内はむん、と植物の青臭い匂いを始めとしたさまざまな臭気が混ざって立ち込めている。 「ん…おかえり。『シエスタ』」 シエスタに答えた男性は秤の置かれた机の上で書き物をしていたが、振り向いてそう応えた。壮年も過ぎ、顔の皺と白髪交じりの頭に柔和な笑顔を湛えている。 「そちらの方達は?」 「学院でお世話になっている貴族様たちと…お友達です」 ギュスターヴは頭を下げた。恐らく父親だろう、目の前の男性とそれほど年の違わぬ者を友達と言ってくれることが、なんともこそばゆい。 「これはこれは。貴族のお嬢様若様方。このような辺鄙な場所へはるばるお越しいただいて、言葉もありません」 物腰柔らかな男性は腰を折って礼をする。 「よろしくてよ。シエスタは学院のメイドだけど、私達には親しい友人ですわ。ね?」 ギーシュとタバサが頷く。 「我が家の娘をそのように言っていただき、勿体無くございます。…申し遅れました。シエスタの父、『エド』と申します。むさ苦しいところではございますが、どうかおくつろぎください」 聞くに、出入り口すぐの場所は父親の仕事場なのだそうだ。 「父は薬師なんです」 ほのかに甘い香りのする薬湯の入ったカップで顎を蒸しながらシエスタは答えた。 「彼はメイジではないのだろう?なんで薬なんか」 「薬と言っても、山野で取れる薬草とかを煎じて、体の悪い人に使うんです。魔法みたいに凄い事はできませんよ」 エド氏は手を振って答えた。 「例えばせき止めの飲み薬。眠れない時に心を落ち着けてくれるお香。農地を荒らす鼠を殺す為の殺鼠薬。それくらいしか出来ませんが、メイジの方々の薬は高くつきますし、村の皆さんには喜んでもらっています」 ギーシュは感心していたが、キュルケは平然としていた。平民の伸張激しいゲルマニアでは魔法の使わない処方薬も出回っているのだ。 「…ところで、親子二人にしては家がやけに広いと思うのだけど…ご家族は?」 「母と兄弟達が居ますよ。今は多分山に居るんだと思います」 「「「山?」」」 「『ユニコーンの皮革』って知りません?あれの取れる山はうちの一家が管理してるんですよ」 「えぇーっ?!」 ギーシュが声を上げる。 「煩いわね。訪問先で」 「だ、だって『ユニコーンの皮革』と言えばものすごい高価な石材じゃないか!」 土メイジのギーシュから見れば石材の管理をしているというのは尊敬に値するのである。 「高価といっても、山の経営と領主様への納税でそんなに利益が上がるわけじゃないんですよ。一家で細々と維持していくのがやっとな位でして」 エド氏は困ったような顔でギーシュの熱い目に答えた。 「高価なのは私達の一族だけで切り出しているからです。タルブの近くの山で良質の石材が取れることを発見したのは私の母でした。母は当時の領主様に掛け合って一定の納税を条件に石材の切り出しと山の管理を任されました。人を雇ってたくさん切り出さないのは、山の環境を変えてしまうからです。母はそれを強く諌めました。あとを継いだ私もそれに習っているのです」 ギーシュは席を立つと、身を正してエド氏に向き直す 「エド氏。僕は土のメイジとして、是非ともその石材の産出現場を見てみたいですどうか許していただけませんか」 「…それは……」 明らかにエド氏の顔に困惑が浮かんでいる。 「どうか、このとおり」 ギーシュはテーブルに手を着いて頭を上げる。額がテーブルに着きそうなほど低い。 「…ギーシュ様、でしたね。どうか頭を上げてください。貴族の若様にそのようにされると、我々はどうしていいかわからなくなります。…『シエスタ』」 「はい」 「彼らを山に案内して差し上げなさい」 「はいっ!皆さん、済みませんが支度をしてきますのでそこで待っていてください」 シエスタはタタタっとかけて階段を上がっていった。 「ありがとうございます。エド氏、いえ、エド殿」 「とんでもございません。娘を友人と言ってくださる方々なら見せてもいいだろうと思ったまでですから」 何処までもエド氏の表情は柔らかい 「…皆は先に学院に帰ってもいいよ」 「どうしてよ?」 「さっきも聞いただろう?石材の切り出し場は彼らの一族が管理しているんだ。そういうところに貴族がぞろぞろと行くものじゃ、ないと思う」 エド氏は首を振る 「いいえ。私は娘の友人に見せるのですよ。決してあなた方が貴族だからとか、そういうつもりはございません。お好きにどうぞ」 かくしてエド氏は朗らかに笑った。 シエスタが着替えて戻ってくると、一同は外に出た。ギュスターヴは少し残って、留守番のエド氏に声をかける。 「…お気遣い感謝します」 こういうのは大人の役割である。 「いえいえ。…貴方は貴族ではないですね」 「はい。…彼らの学友の、召使のようなものです」 流石に使い魔である、というのは少し憚られた。 「いえ、そういう意味ではなく」 「は?」 「なんといいますか…貴方にはこの世に普くあるものが欠けているように思えます」 ギュスターヴの表情が硬くなる。 「かといって、貴方は今目の前に居る。不思議ですな」 以前、デルフにも同じような事を言われたことがある。それは恐らく、自分のアニマを佩びない体質について言っているのだろう。 しかし学院のメイジ達にもそのようなことは言われなかった。手元のデルフ以外で、ハルケギニアに生まれ育ったモノ達は、ギュスターヴを何処にでも居る「ただの人間」としか思っていない。 今この目の前に居る人物を除いて。 「……私に欠けている、世に普くあるものとはなんですか」 無意識の内にギュスターヴの声が、少し硬いものを混じらせていた。 「…これは母が言っていたことでもありますが、世界には普く命の力が宿っています。例えそれが石であっても、火であっても。それが貴方にはない」 エド氏が語る母親の言葉、それはハルケギニアの精霊を指しているというより……サンダイルのアニマを指しているようだった。 「……貴方の母親とは、一体…」 「…私の母の墓も、山にあります。そこに書かれた物が、もし読めるのであればお話しましょう」 「ギュスターヴさーん、行かないんですかー?」 出入り口から聞こえるシエスタの元気な声が呼びかける。 振り返ってもう一度礼をして、ギュスターヴはその場を辞した。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/85.html
参加者 デジュー Mrチキン jinjahime シエスタXX あかみさと ROWLEYS リュファ シキワロス ニセムラサキ Jareky エルレイナ オペこ KT せんこ クベリャーナ すねすき MB ソラモニー 以上18名 役職 狼3 占い 霊媒 狩人 狂人 妖狐 共有2 ルール 狼による村人の捕食と、占い師による妖狐の呪殺アナウンスの統一 注意点 また、主催者側の準備不足のため一部の参加者と連絡が取れなかったため名前を仮名に変更いたしました。 連絡の取れなかった参加者の方には大変申し訳ございませんがご了承ください。 変更点 共有ログをJarekyさんから頂いたので追加いたしました。Jarekyさんありがとうございます。 BBL は すねすき に言った 今回の共有者はあなたです。村人をまとめ勝利へと導きましょう。 BBL は すねすき に言った /chjoin バッテリー Jareky は言った 20年後リアルしずかチャン(未婚? クバリャーナ は言った ガチャッガチャッガチャッ・・・ あかみさと は言った あー ワープしてー オペこ は言った そっどどどっみ らーっみっそー BBL は Jareky に言った 今回の共有者はあなたです。村人をまとめ勝利へと導きましょう。 BBL は Jareky に言った /chjoin バッテリー リュファ は言った テレポートは向こうの空間とこっちの空間を交換するんです。 jinjahime は言った なので、禁書目録のテレポートはワープだとおもう オペこ は言った ほー シキワロス は言った だんだん哲学的な話に・・・ BBL は オペこ に言った 今回の占い師はあなたです。人狼を見つけ出し村を勝利に導きましょう すねすき は BBL に言った 共有了解ですー あかみさと は言った ですの シエスタXX は言った しずかちゃんてまだあの声優さんなの? KT は言った とりあえず私の尿意よどっかにテレポートしてくれ jinjahime は言った かわってるでしょ オペこ は BBL に言った 了解!!!!!!!!!!!!!!!! BBL は デジュー に言った 今回の霊媒師はあなたです。村に真実を伝え勝利に導きましょう。 Jareky は BBL に言った あいや、またですかの シエスタXX は言った くぎゅーに? 1 (BBL村) エルレイナ いってきていいのよ![ガーン] 1 (BBL村) せんこ きたきた デジュー は BBL に言った 霊媒了解 ニセムラサキ は言った KTさんの尿意が30分後のKTさんにテレポートします リュファ は言った かかずゆみさんですよ。 あかみさと は言った コロコロの漫画で便意を人に移すみたいな話あった 1 (BBL村) KT あとどれくらいではじまりますかね BBL は シキワロス に言った 今回の狩人はあなたです。村人を守り村を勝利へと導きましょう。 ニセムラサキ は言った 30分後に地獄が来るのでお楽しみに 1 (BBL村) KT ちょっと雪隠行きたいorz jinjahime は言った あー、ねじめって漫画に、テレポーテーションでUNKを他人に押し付ける話があったな クバリャーナ は言った たしかのびたが BBL は Mrチキン に言った 今回の狂人はあなたです。村人を惑わし狼とともに勝利を目指しましょう。 1 (BBL村) デジュー 行ってきていいよ シキワロス は BBL に言った 了解。任務を遂行します 1 (BBL村) エルレイナ いまのうちにいってきたほうがいいお~ jinjahime は言った 尾玉なみえの すねすき は言った 今ならまだ間に合う! クバリャーナ は言った しずかちゃん(か別の女の子)二尿意を移すの合ったなぁ・・・ BBL は シエスタXX に言った 今回の人狼はあなたです。村人を食べつくしましょう。 1 (BBL村) KT 言ってきます AFK 1 (BBL村) シエスタXX イイノヨ BBL は シエスタXX に言った /chjoin 狼打線 ソラモニー は言った (*_ _)人ゴメンナサイ せんこ は言った ただいまー jinjahime は言った おかもにー ニセムラサキ は言った 筒井康隆の話で便が四次元空間に移動したのを無理矢理復活させた結果ry シエスタXX は BBL に言った えー デジュー は言った 僕もトイレ~ シキワロス は言った オカエリー BBL は エルレイナ に言った 今回の人狼はあなたです。村人を食べつくしましょう。 ROWLEYS は言った おかえりなさーい BBL は エルレイナ に言った /chjoin 狼打線 エルレイナ は言った おかえりなさ~い BBL は jinjahime に言った 今回の人狼はあなたです。村人を食べつくしましょう。 BBL は jinjahime に言った /chjoin 狼打線 ソラモニー は言った ただいまー BBL は せんこ に言った 今回の狐はあなたです。生き残り村を我が物にしましょう。 エルレイナ は BBL に言った ぐあああああ!了解っすw jinjahime は BBL に言った 了解。またか Mrチキン は BBL に言った つまり通常運転でOKか! オペこ は言った どこでもドアは入った者を瞬時にスキャンし、殺す道具である せんこ は BBL に言った ・・・・?[ワーイ] ニセムラサキ は言った それ書いた人 2 (狼打線) jinjahime テストー デジュー は言った タダイマー 2 (狼打線) エルレイナ てすてす~ 2 (狼打線) エルレイナ おおうww リュファ は言った ムラサキさんその話はごはんがたべられなくなるので。 ROWLEYS は言った |ω )おかえりなさーい 2 (狼打線) シエスタXX わおーん 2 (狼打線) jinjahime うわ・・・ 2 (狼打線) エルレイナ わおーん オペこ は言った どこでもドアから出てくるニンゲンは 同じ情報で構成される 同じ記憶を持った また別のニンゲンである 1 (BBL村) KT っただいまです 2 (狼打線) jinjahime わんわんお ニセムラサキ は言った 私の友達なので、是非本を買って売り上げをあげてくれると、 私が美味しいものおごってもらえる 2 (狼打線) シエスタXX うわぁ・・・ 2 (狼打線) エルレイナ 始まってから作戦たてましょっか~ オペこ は言った !?、 2 (狼打線) エルレイナ chもどします~ 2 (狼打線) シエスタXX 濃いーな オペこ は言った 書いてくれてありがとうと伝えておいてください・・・ クバリャーナ は言った その理論って、突き詰めると オペこ は言った アレ大好きです 1 (BBL村) エルレイナ おかえりなさ~い Jareky は言った ドラえもんの道具では、今は推理がすごくなる帽子(名前なんだっけ?)が欲しいです クバリャーナ は言った 人間は寝た瞬間死んでるみたいな話になりそうw 1 (BBL村) ROWLEYS おかえりなさーい 1 (BBL村) シエスタXX おかおか 1 (BBL村) デジュー よっし、頑張るぞー! 2 (狼打線) BBL テスト jinjahime は言った あーSキングの短編でワープにかんする話が 1 (BBL村) クバリャーナ おかえもーん オペこ は言った 寝た瞬間どころか 1秒前の自分と1秒後の自分ですら オペこ は言った 全く別のニンゲンだという人もいますね リュファ は言った どこでもドアは空間自体をつなげてくぐってるだけなので、使う人は安全なはずですよ。 クバリャーナ は言った 哲学だねぃ 2 (狼打線) BBL なんか偏っちゃったね 頑張ってください 2 (狼打線) エルレイナ 配役教えてくださいw Jareky は言った パラレルワールドの定義次第かもね 1 (BBL村) KT シュールストリンミングの猫じゃなくて シキワロス は言った 哲学すぎてどんどん髪の毛が抜けていく 1 (BBL村) せんこ シュレーディンガーじゃないの!? 1 (BBL村) ニセムラサキ くさいだろ、それ オペこ は言った はい どこでもドア本家は確かそういうものだったはず 2 (狼打線) シエスタXX さっきと同じだっけ jinjahime は言った 録画って大体、60FPSなんだけどさ、実際にはそれよりも細分化して連続して時間は 続いてるわけジャン? 1 (BBL村) KT 半分わざと Jareky は言った 物質的には数年たつとほとんど細胞が入れ替わっているのに同一個体ではあるよね。 2 (狼打線) エルレイナ りょうかいっす 1 (BBL村) せんこ 猫を醗酵させたシュールストレミング・・・イヤアアアアアアアアア 1 (BBL村) ニセムラサキ そして正確にはシュールストレミング すねすき は言った 次元の概念って難しいクマー KT は言った 記憶媒体ってすごい 2 (狼打線) シエスタXX 狼3狂占霊狩共有2かな ソラモニー は BBL に言った ソラもやっていいのー? BBL は ソラモニー に言った 人数に入ってます 今回は村人です シエスタXX は言った いつもぼっちで狩言ってる俺には不要だな オペこ は言った Mrチキンさん大丈夫ですか 首折れますよ Mrチキン は言った ん? シエスタXX は言った ヘドバンww ソラモニー は BBL に言った はーい BBL は言った 今日も平和なカーレイ村に、人狼がやって来たとの噂があります ミクかわいい は言った ガンバレー すねすき は言った おーぅ BBL は言った 村人の皆様、人狼をみつけだし、村を平和へ導いてください! BBL は言った ゲームスタートです 1 (BBL村) デジュー おはようございます! 1 (BBL村) せんこ おそよーございまーす 1 (BBL村) エルレイナ おはようございます~ 1 (BBL村) すねすき おはようクマー 1 (BBL村) シエスタXX おはよう諸君! 1 (BBL村) KT おはよーです 1 (BBL村) MB おはようございます 1 (BBL村) シキワロス おはようなのです 1 (BBL村) jinjahime おはおー 1 (BBL村) Mrチキン おはようございます 1 (BBL村) あかみさと おはよう 1 (BBL村) Jareky やっほい 1 (BBL村) オペこ おはようございます 1 (BBL村) ROWLEYS |ω )おはようにょろりーん 1 (BBL村) クバリャーナ おはようございますよー 1 (BBL村) リュファ おはようございますらまっぱぎ。 1 (BBL村) ニセムラサキ あ、はじまってた 1 (BBL村) ソラモニー おはよー 1 (BBL村) エルレイナ 例のごとく明日からは挨拶なしでいきますか~CO見逃したくありませんし 1 (BBL村) デジュー 前世は神だった気がする!! 1 (BBL村) Jareky ナマステ~ 1 (BBL村) すねすき うむ、皆そろってるクマ 1 (BBL村) ROWLEYS 挨拶なし了解です( ∇ ) 1 (BBL村) ニセムラサキ 大ピンチ:既に疲れ気味 1 (BBL村) シキワロス 了解。 1 (BBL村) エルレイナ がんばって! 1 (BBL村) あかみさと タシカニ 1 (BBL村) すねすき 自分もちょっと眠いクマ BBL は言った 時間配分は初日昼3夜3 1 (BBL村) jinjahime 神は英雄に殺されるものさ 1 (BBL村) KT 前世は墓場でうろついてた気がする 1 (BBL村) Jareky 楽にしてあげようか 1 (BBL村) デジュー あいさつなしね了解 1 (BBL村) ニセムラサキ 集合してから56分経過してるぞw 1 (BBL村) エルレイナ ねおち突然死はだめよ!とくに役職なら!! 1 (BBL村) シエスタXX ちなみにシエスタは呼び捨てでおk BBL は言った それ以降は昼7夕方3夜5です 1 (BBL村) シキワロス wwww 1 (BBL村) ROWLEYS |ω )ネジがどっかに飛んでってるワヨー飛ばすワヨー 1 (BBL村) デジュー 寝落ちダメ絶対 1 (BBL村) せんこ まぁLDとかも重なったししょうがないw 1 (BBL村) あかみさと にぇ 1 (BBL村) jinjahime 昼寝さんですね 1 (BBL村) すねすき クマー 1 (BBL村) エルレイナ わたしをエロっていったやつは即吊りな[ムッ] 1 (BBL村) シエスタXX にぇにぇ BBL は言った 野球部に所属するNaviこは春の選抜に向けて猛特訓を開始しました 1 (BBL村) せんこ えむれいなさん・・・ 1 (BBL村) デジュー みんな吊らないと・・・ 1 (BBL村) jinjahime エムレイナ 1 (BBL村) ニセムラサキ 事実は言っちゃ行けない、と…… 1 (BBL村) シキワロス 野球部だったのか・・・ 1 (BBL村) Jareky エロレイナさんエルいよ(でじゃぶ 1 (BBL村) すねすき 青春Navi子 1 (BBL村) クバリャーナ 野球部、だと・・・ 1 (BBL村) エルレイナ 野球の特訓とな 1 (BBL村) KT 美人なエルレイナさん こうですか? わかりかねます 1 (BBL村) あかみさと 弾拾いかな 1 (BBL村) Mrチキン ポジション:ベンチ 1 (BBL村) ROWLEYS |ω )大きく振りかぶったなびこたん 1 (BBL村) オペこ もうすぐ選抜か 1 (BBL村) せんこ 今度いぢめておいてあげよう 1 (BBL村) デジュー 女子野球部? 1 (BBL村) エルレイナ もうKTさん村きめうちで! 1 (BBL村) デジュー マネージャー? 1 (BBL村) ニセムラサキ えろれいなの発案者として、こんなに普及したことは喜ばしい限りですが、 ある意味運命だったと言えるでしょう BBL は言った あと1分 1 (BBL村) KT 千本ノックにやられるのか navi子 1 (BBL村) Jareky 18人?この中に狼が? 1 (BBL村) jinjahime なびこ投げとってんのか? 1 (BBL村) シエスタXX あー俺マネジャーやりたいかも 1 (BBL村) すねすき エロレイナさんとかエロムラサキさんとかいますね 1 (BBL村) エルレイナ 18人でつり8かいで人外5つればいいらすい 1 (BBL村) jinjahime 投げとこんぼうが100? 1 (BBL村) オペこ 多分チアリーダー 1 (BBL村) せんこ えろれいな って最初言ったのじんじゃさんじゃなかったっけ・・・w 1 (BBL村) エルレイナ すねちゃままで! 1 (BBL村) エルレイナ じんじゃさんつるか 1 (BBL村) jinjahime (*´ω`*) 1 (BBL村) リュファ それ以前にレギュラー入りできてるんですか? 1 (BBL村) ニセムラサキ えろむらさきは、えろせんこ+うすむらさき の略だよ?>すねちゃま BBL は言った 20秒前 1 (BBL村) シキワロス なーに。呪殺さえしてくれればなんにでもなるんじゃ 1 (BBL村) すねすき 役職は10人クマねー 1 (BBL村) Mrチキン それ以前に選手人数いるのか?w 1 (BBL村) デジュー ではではよろしくねー BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- BBL は言った 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 1 (BBL村) クバリャーナ なびこ産だけで10人以上いるからなぁ BBL は言った 役職の方は私にTellお願いします 2 (狼打線) BBL -------------------- 2 (狼打線) BBL 会話可能時間スタートです 2 (狼打線) エルレイナ てすてすてす オペこは眠りについた 2 (狼打線) jinjahime エロつりで 2 (狼打線) シエスタXX わおーん 2 (狼打線) エルレイナ おいww 2 (狼打線) jinjahime 誤爆注意 デジュー は言った まだ役職テルはなしよー 2 (狼打線) エルレイナ 騙りはまかせたいかなぁ オペこ は BBL に言った 今日から占いありですか? 2 (狼打線) エルレイナ おらへたなんだよね 2 (狼打線) シエスタXX エルさん占いヘイト高そうだなw 2 (狼打線) jinjahime さぁ、吊られないために出るか? オペこ は BBL に言った あ なしですね OKです 2 (狼打線) エルレイナ 素村だと占われないよw BBL は オペこ に言った なしですよ 2 (狼打線) エルレイナ 狼だとなぜか… オペこ は BBL に言った 了解しました 2 (狼打線) シエスタXX 今日の会話敵にねw 2 (狼打線) エルレイナ 潜伏狼の練習させてください! 2 (狼打線) jinjahime 2-2にして霊ロラさせたいなぁ 2 (狼打線) エルレイナ 前回デジュー君のせいで練習できなかったw 2 (狼打線) jinjahime CO確認で出るか 2 (狼打線) エルレイナ よろすく~~~ 2 (狼打線) エルレイナ わたしはもういつも通りしゃべる 2 (狼打線) シエスタXX jinさんいくの? 2 (狼打線) jinjahime 銃殺対応どうするか 2 (狼打線) エルレイナ 指定されたら霊でるわ 2 (狼打線) エルレイナ それがうまくできないんだよねわたし 2 (狼打線) jinjahime 2CO確認したら霊媒で 1 (BBL村) BBL -------------------- 1 (BBL村) BBL 1日目終了 1 (BBL村) BBL -------------------- 2 (狼打線) シエスタXX そうそう当たらんさ 2 (狼打線) エルレイナ は~い 2 (バッテリー) すねすき 共有FOのタイミングはどうしましょ 2 (狼打線) シエスタXX 霊早くにでるってこと? 2 (狼打線) jinjahime あ、先に指定されたら霊媒で BBL は言った あと1分 2 (狼打線) エルレイナ 指定されたらw 2 (狼打線) エルレイナ 吊りね 2 (狼打線) シエスタXX あーごめん、おkおk 3 (ベンチ裏) ミクかわいい ダイアロス高校野球部 2 (バッテリー) すねすき 流れでなんとかなるかな? 2 (狼打線) jinjahime 霊でる方向になったら霊媒CO、指定されたら霊媒COのどちらかしましょ 2 (バッテリー) Jareky 占いCOの後がいいかな。 3 (ベンチ裏) こるくびん ボールボーイみくかわ 2 (狼打線) エルレイナ 常連組が真なら占われなそうだが… 2 (狼打線) jinjahime なので準備だけしておいてください 2 (バッテリー) Jareky CO求められてからでいいかなと 2 (バッテリー) すねすき ふむー 2 (狼打線) エルレイナ シエスタさん霊たのみたいかなぁ BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- [[2日目へ 2012-3-17 BBL村 Part2]]
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/328.html
「使い魔品評会が開かれます!」 食堂に集まった生徒達は、コルベール先生による使い魔品評会の知らせを聞いて大いに驚いた。 使い魔の品評会は、簡単に言えば使い魔自慢だが、今回はアンリエッタ姫殿下が使い魔の品評を行うという。 アンリエッタ姫殿下はその清楚さと、幼さを見せない凛とした姿に人気があり、国民の憧れの的と言っても過言ではない。 他国からの留学生であるキュルケ、タバサはその逆で、姫には興味がないと言った感じだ。 わいわいと騒ぐ生徒達の中で、ルイズは、本日何度目か解らないため息をついた。 「皆さん静かに! …先ほども言いましたが、品評会は明後日、今日と明日しか猶予はありません。 しかし、トリスティン魔法学院の生徒達は皆、普段から使い魔の能力を熟知し、 パートナーとして最大限の力を活かせるものだと信じております! 尚、今日と明日はオールド・オスマン氏のはからいにより、 授業はすべて中止となります」 授業が中止と聞いて、生徒達は喜び、やった!などと声を上げるものも多かった。 そんな中で、ルイズから向かって右端の方に座っている教師二人が、ボソボソと何かを呟いているのが見えた。 『二学年に、使い魔の居ない人が確か…』 『ヴァリエール侯爵の娘ですよ』 『ああ、そうでしたね』 『欠席は認められないとなれば、魔法学院にとっても恥ではありませんか』 無礼な教師二人の声は、とてもルイズまでは届かない。それどころか最前列に座っている生徒にも聞こえていないだろう。 しかし唇の動きがハッキリと見え、その言葉が頭に流れ込んでくる。 (何よあいつら、聞こえてないと思って好き勝手言って…) ルイズは悔しさに身を震わすばかりで、言葉が見えてしまうことに疑問を感じる暇もなかった。 やがて生徒達は、使い魔にどんな芸をさせようかと思案しながら食堂を出て行く。 後には思い詰めたような顔をしたルイズと、メイドのシエスタが残っており、 メイドは深刻な表情のルイズに声をかけて良いものか迷ったが、意を決して話しかけた。 「あ、あのっ」 「え? あ、この間の…えっと」 「シエスタ、です。この間は私のせいで、貴族様に、その、ご迷惑を」 緊張しているのか、言葉がたどたどしい。ルイズは笑いかけるように言った。 「あれはもう私の問題よ。貴方はメイドとしてちゃんと仕事をしただけじゃない」 「でも…」 「いいの、迷惑だなんて思ってないわよ。それに…」 ”恐怖で人を縛り付けるのはよくない。”と言おうと思ったが、言えなかった。 ルイズの姉エレオノールは威厳と実力を示し、人を従わせるタイプだった。ルイズはその姉が苦手で苦手で仕方がない。 しかし、苦手なエレオノール姉の姿こそ、貴族の理想だと思っていた。 もう一人の姉カトレアは、その穏やかな人柄と、どんな相手にも分け隔て無く接する優しさを持ち、人を従えるのではなく、人が慕ってくるタイプだった。 使い魔召喚に失敗したあの日から見続けている奇妙な夢。 それが、エレオノール姉への憧れを打ち消し、カトレア姉への憧れを強くしていく。 しかし、時には恐怖で人を従わせるエレオノールの振る舞いも貴族のあるべき姿だと思っているのだ。 ルイズは、頭の中の混乱を上手く言葉にすることが出来ない、と感じたのか、余計なことは言わないでおくことにした。 「何でもないわ。それよりも貴方、私のこと貴族様って呼ぶの止めてよ。ルイズでいいわよ」 「は、はい、ルイズ様」 ルイズは少し考えた後。 「様もいらないわよ」 とだけ言って笑いかけ、席を立った。 シエスタは立ち去ろうとするルイズに深々とお辞儀をしてから、 食器の片づけをしようとして、ルイズの席の食器を手に持った。 その時、足下に落ちていた誰かの香水入れを踏みつけ、バランスを崩した。 「!」 この学院で使われる食器は、貴族から見ればそれほどの価値はない。 しかし平民のシエスタにとっては大変なものだ。 もし趣味の悪い貴族に仕えるメイドならば、粗相をしたと言って殺されても不思議ではない。 手の中から滑り落ちる食器の感覚に、この世の終わりのような思いをしたシエスタ。 彼女の耳に食器の割れる音が届くかと思われたが… なぜか食器はテーブルの上に置かれていた。 「ちょっと、どうしたのよ。気をつけなさい…って、それモンモランシーの香水入れじゃない。こんな所にあったら危ないじゃないの」 そういってルイズは香水入れを拾い上げた。 そして、何が起こったか解らず呆然としているシエスタは、少しの思考の後『ルイズ様が魔法で何とかしてくれた』という結論に達し、ルイズに対する尊敬はますます高まっていくのだった。 そして、魔術学院の学生達が待ちに待った、使い魔品評会、その前日の夜。 ルイズはベッドの中で丸まっていた。 どうしよう、どうしよう、と、終わりのない自問自答を繰り返す。 サモン・サーヴァントは一回も成功していない。 このままでは使い魔品評会で恥をかいてしまう。 使い魔を呼び出すサモン・サーヴァントは、成功確率が高い魔法と言われている。 使い魔と主従の契約を交わすコントラクト・サーヴァントの方が難しいこともある。 どんな魔法を使っても爆発、つまりは失敗。 もしかしたら、自分は魔法の才能が無いどころか、メイジですらないのかもしれない。 数え切れないほど失敗を繰り返したルイズの手には火傷の痕が残り、頬にはかすり傷もついていた。 「退学…かな…」 最悪の結果を考えて、ルイズは自分が弱気になっていることに気付いた。 使い魔品評会には、使い魔がいなければ何も出来ない。 ギーシュとの決闘の時、私は魔法を使って勝ったはずだと何度も自分に言い聞かせた。 落ち込むばかりじゃいけない、まだ少しだけ時間がある。 ルイズは寝間着の上にマントを羽織り、杖を持って、最後のチャンスに賭けようと外に出た。 中庭は二つの月に照らされて明るく、神秘的な雰囲気を醸し出していた。 その中央に誰かが立っている。誰だろう?と思い近づいてみると、シエスタが二つの月を見上げていた。 「何やってるのよ、こんな時間に」 「!…ご、ごめんなさ…ルイズ様?」 「様はいいわよ、もう…幽霊でも出たかと思って驚いたじゃない」 「すみません…ちょっと、祖父のことを思い出していたんです」 「お爺さんの?」 「はい。私の髪の色は、ここでは珍しい色です」 そういえば黒い髪なんてあまり居ないわね、と心の中で呟く。 「祖父の生まれた土地では、黒い髪の毛の人しかいなかったそうです」 ルイズは自分の祖父の姿を思い出しながら、シエスタの話を聞いていた。 「…祖父は、遠く東の果てから来たと言っていました。村の人たちは誰も信じません。 でも、祖父はいつも月を見上げては、故郷の月は一つだった…って言っていたんです」 「月が一つ?そんなのどこに行けば見られるのよ」 不意に、ルイズの思考を別の記憶が流れ込む。 私は砂漠の中に立っていた。 昼間の熱気とはうってかわって、極端に寒くなる砂漠の夜。 仲間達と共に月を見上げ、ひとときの休息を味わう。 「村の人は誰も信じません。でも、私には祖父の言葉が嘘だとは思えなかったんです」 「信じるわよ」 「えっ?」 「そんな世界も、どこかにあるかもしれないじゃない」 その時のシエスタの表情は、今までに見たことのない、明るい笑顔だった。 「私も、月が一つの世界に、一度行ってみたいわ」 そう言ってルイズは月を見上げ、記憶をたぐり寄せる。 高速で巡る月。 加速する世界。 娘に降り注ごうとするナイフの雨。 ナイフを弾き、次の瞬間、切り裂かれる自分の体。 「あうっ!」 「え、る、ルイズさん!どうかしたんですか!?」 膝の力が抜け、倒れそうになるルイズを、シエスタが支えた。 「だいじょうぶ、だいじょう、ぶ、ホントに、大丈夫だから…気にしないで」 「でも、お顔が真っ青です。それに、こんなに震えて」 「月明かりのせいよ」 「違います。すぐに治癒の先生の元へお連れしますから」 「大丈夫。本当に大丈夫よ。ちょっと足が震えただけなんだから、部屋で休めばすぐ治るわよ…」 シエスタは口で答えるよりも早くルイズの体を支え、ルイズの部屋へと歩き出した。 夜中なので足音を立てぬよう、静かに歩く。 女子寮に入るのは初めてだったが、ルイズの案内で部屋の前まで来ると、フードを被った不審な人物が、ルイズの部屋の前で立ち往生しているのが見えた。 「ルイズ!ルイズ・フランソワーズ、どうしたの?そんな、辛そうにして…」 フードを被った人物は女性らしい細い声で、ルイズに声を掛けた。 シエスタはフードを被った人物が誰だか分からなかったが、ルイズの体を支えようとしたので、ルイズの友人だろうと判断した。 フードを被った女性はルイズの部屋を開け、シエスタはルイズをベッドに座らせる。 その間にフードを被った女性は扉を閉めて、罠を関知する魔法で安全を確かめ、サイレントの魔法で部屋の音を外に漏らさぬようにした。 「ルイズ…ああ、どうしたことでしょう。顔を真っ青にして…」 そう言いながらフードを外し、アンリエッタ姫殿下ルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」 「…ひ、姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて……」 「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。あなたとわたくしはお友達じゃないの!」 そう言って二人は、ルイズの体の調子を気にしつつも、過去の思い出話に花を咲かせた。 幼い頃、ルイズはアンリエッタ姫の遊び相手をしていた。利欲と陰謀の渦巻く王家と貴族の間で、アンリエッタ姫が唯一心を許せる友達がルイズなのだ。 「あら。ごめんなさい、貴方のことをすっかり忘れていたわ。私の友達を助けてくださったのに…」 さっきから一人放置されていたシエスタは、突然自分に声を掛けられて、それこそ輪切りにされてホルマリン漬けにされる程驚いた。 「あ、あの、ご、ご無礼を、いたしました…」 先ほどのルイズよりもひどく震えながら、アンリエッタ姫の前に土下座するシエスタ。 その態度から、アンリエッタはシエスタが平民だと見抜き、そして寂しそうな表情をした。 「貴方は平民なのですね。そんなに怖がらないで。私の友達を助けてくださったのですから、貴方に感謝することはあれど、罰することはありませんよ」 アンリエッタがそこまで言っても、シエスタは土下座したまま震えている。きっとパニックに陥っているのだろう。 ルイズは無言でシエスタを抱き起こす。シエスタの目にはハッキリと怯えが見えていた。 「…これは、私の至らなさが原因なのです」 ぼつりと、アンリエッタが呟き、そして話が始まった。 アンリエッタが諸侯を視察している時の話だ、道中、外を見ると、アンリエッタを歓迎する貴族と平民達が見える。 皆の喜ぶ顔はアンリエッタにとっても喜びだった。 しかし、その一方で、躾と称して平民を殺す貴族もいる。過剰な拷問を趣味にしたり、平民が貴族に逆らえないのをいいことに、平民の少女でハーレムを作る貴族もいる。 アンリエッタは、それがとても汚らしいものに見えた。 しかしそれを正せるほどの権威は、今の自分には無い。そんなことをすれば貴族達からの反感を買い、クーデターが起こってもおかしくはない。 ルイズという身分違いの友達を得ることで、アンリエッタは自分の本心を見せられる友達のありがたさを知り、身分の差を疎ましく感じるようになった。 それと同時に、自分は籠の中の鳥なのだ。貴族の暴虐を黙認し、その見返りとして貴族に守られなければ、何も出来ない弱者なのだと感じていた。 「それは姫様だけの責任ではありませんわ!貴族全員の…」 「わかっています。ですが、王家の者として、貴族が恐怖の象徴として扱われることに責任を感じているのです」 話を聞いていたシエスタも、少し落ち着いたのか、悲しそうな表情で姫を見た。 それは同情からくるものであり、無礼ではあったが、アンリエッタは数少ない理解者が増えた気がして、その視線に喜びを感じていた。 「あ、あのっ、難しいことはよく分かりませんけど…わたし、アンリエッタ姫様が、今の話で、好きになりました。ですから…あ、あの」 この時代、貴族に、しかも王族に話しかけるという行為すら咎められることがある。勇気を振り絞ったシエスタの言葉を聞き、アンリエッタとルイズは心底嬉しそうに笑った。 しばらく三人で談笑した後、アンリエッタは、 「それでは、明日を楽しみにしています、ルイズ、体をいたわって下さいね」 と言って、シエスタと共に部屋を出て行った。 結局、使い魔の召喚には成功していない、明日恥をかくのはもう避けられない。 けれども別の充実感があった、アンリエッタ姫にまた一人友達が増えたことだ。 一人だけでになり、寂しくなった部屋で、ふと窓の外を見た、 もし、使い魔がいたら、私はどんな名前を付けただろう。 そう考えたルイズの目に、銀よりも強い輝き、白金色の光をまとった流れ星が流れた。 『星 の 白 金』 「スタープラチナ」 ルイズは、小声で呟いた。 翌日朝、使い魔品評会が始まる直前まで、女子達の間では新たに出現した幽霊の話で持ちきりだった。 『月夜に中庭に立つ幽霊』 『廊下で足を引きずって歩く幽霊』 『フードを被った女性の幽霊』 ルイズは冷や汗をかき。 キュルケは呆れ。 タバサの洗濯物は今日も一枚多かった。