約 68,563 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/330.html
ショウトラ(招杜羅大将) 仏教の武神。 ジュウニシンショウ(十二神将)の一人。 別名: ショウトウラ (昭頭羅) シヤトラ (招杜羅大将) ショウトラタイショウ (招杜羅大将) シヤトラタイショウ (招杜羅大将) ショウズラ (招住羅) ショウズラタイショウ (招住羅大将) チャトゥラ チャウンドゥラ
https://w.atwiki.jp/orbiscountry/pages/67.html
基本情報 運営者 Ferrovia Brasileira 開業および全通年 2005年 路線情報 起点駅 連邦区ブラジリアブラジリア駅 終点駅 サンパウロ州サンパウロサンパウロ駅 路線図 https //railway.chi-zu.net/148146.html 駅数 10駅 最高速度 320km/h 路線距離 919.5km 軌間 1435mm 概要 サンパウロ高速線はブラジル連邦共和国の首都であるブラジリアから最大都市であるサンパウロを結ぶ全長919.5kmの路線である。毎年の利用客数は1億人にも上り、我が国の大動脈となっている路線である。 歴史 元々のブラジリアーサンパウロ間の鉄道輸送はサンパウロ線が行っていたが年々の乗客増加によって徐々に過密輸送となった。これを解決するために当時の運輸担当大臣は全線通しの需要が大きいことに気づき1995年の閣議に建設法案を提出。これが認可され実行され1998年に建設が開始された。2005年に開通。当初は300㎞/hが最高速度であったが2010年に320km/hが最高速度となった。 ダイヤ 全区間で毎時最低8本は用意されている。また、ウベルランディアより先の区間では最低12本もの列車が設定されている。 運行状況 最速種別はリミタッド、速達種別はアーピッド、各駅停車の種別はウズラーメルテとなっている。 停車駅案内 各駅概要 ブラジリア駅 2面4線の島式ホーム駅。リオ・デ・ジャネイロ高速線に乗り換えづらいが、これは不正乗車を減らすためのものである。もちろん全種別停車 ルジアニア駅 中2線が通過線の相対式ホーム駅。この駅でリミタッドは300㎞程のスピードで通過していく。 アーピッドまで停車する。 カタラン駅 2面3線の相対式ホーム駅。ウズラーメルテのみ停車する。 ウベルランディア駅 2面4線の島式ホーム駅である。この駅から終点のサンパウロ迄の区間は毎時4本追加される。また、最速種別のリミタッドはこの駅でウズラーメルテと接続することが多い。 ウベラバ駅 1面2線の島式ホーム駅である。この駅ではウズラーメルテしか停車しないが、ウベルランディアあるいはリベイランプレートにて退避が行われるため通過線もない状況である。 リベイランプレート駅 ルジアニア駅と同様に中二線が通過線の相対式ホーム駅。アーピッド迄の種別が停車。 サン・カルロス駅 2面3線の相対式ホームの駅。時間帯によってはこの駅とリベイランプレート駅で二度退避する列車がある。ウズラーメルテのみ停車。 リオ・クラロ駅 この駅からすぐそこにクラロパークがあるため需要が非常に大きい。土休日の夕方以降は一部アーピッドが臨時停車をするが基本的にはウズラーメルテのみ停車。2面4線の島式ホーム駅。 カンピナス駅 この駅は2面2線の相対式ホーム駅で全種別が停車している。 サンパウロ駅 終点であり、頭端式ホームとなっている。パタゴニア方面とリオデジャネイロ方面の湾岸線の乗り換えは非常に便利。終点なのでもちろん全種別停車。 車両 使用車両はFB3000系が使用されている。
https://w.atwiki.jp/alternativemind/pages/320.html
「行くよ、ステラちゃん!」 「あいあーい…」 前を飛んでいく特殊タンク型ACの後ろを、ブーストを吹かしながら追いかけていく。 目標は、旧アーキバス基地跡地。 少し前に起きた解放戦線の反抗作戦によって破壊された施設の一つだが、最近になって残骸漁りが行われているらしい。そのデータが持ってかれる前に潰せと。 作戦にアサインされたのは、ウズラマとV.N ステラだった。 元来これはそこまで重要な作戦ではないが、その基地に残されていたデータは重要なものではないとはいえ基地の配置などのデータなどあまり敵の手に渡るべきでないものが残されていた。 しかしこの作戦は、それ以外にあるもう一つの目的を持っていた。 それは、そこそこの実力を持つとは判断されてたが、単独での作戦遂行に難を抱えていたウズラマ。 その司令塔、補佐の役割として新しく配属されたステラが使えるか。 それを判断するための作戦だった。 「見つけたよ!敵戦力は……MTが12機、おっきいの(四脚型MT)が2機、あと…ACがいるみたい。」 高性能な頭部を付けているウズラマが、遠距離から識別した敵戦力を報告する。 「…こんな端っこにしては数が多いな…。まぁ、いいか。行くよ…」 目標地点上空辺りまで到達したので、ブーストを切り自由落下に移る。 今回の作戦は高高度からの奇襲だ。 そして、ACの戦闘モードに火を付けた。 独立傭兵ジョージ.Nは、懇意にしているファーロンからの依頼でこの作戦を受けた。 自身に特段の戦闘力がない事は自覚していたため、選ぶ依頼は身の丈にあったものを厳選していたが、今回はファーロンからだったというのでこの依頼を受けた。 しかし何だか胡散臭い。 廃施設からデータを回収するのを護衛するといった任務だが、どうにも物々しい。 戦場なので物々しいのは当然なのかもしれないが、たかだか廃工場からのデータ回収とは思えないほど、自分以外の戦力が充実しているのだ。 特に四脚が二体もいることには驚いた。 ファーロンはルビコンには自社戦力を持たない筈だが、これはどういう繋がりなのだろうか。 そんなことを考えていた時。 上空からの所属不明機接近警報が機内に響いた。 「…!?」 反射的に機体を移動させる。 と、一筋の光が上空から降り注ぎ――爆発した。 「な、何だ!?あの機体――AC!?」 機体の姿勢を整えつつ、相手の方を向き、視界にとらえる。基本はできている。 今の爆発でMTの2機がやられた。 「ウズラマ、MTを…。私は…、生きのいい方をやる。」 ステラは機動力に優れる自機が敵ACの相手をし、その間に火力に優れるウズラマにそれ以外の敵機を排除してもらう算段で挑んだ。 「クソッ…、何だあの機体は…!?見たことねぇ…!」 「それはどうも、最近だからね」と言うと挨拶代わりに右腕の高出力ライフルが発射される。 「うおっ…!?」 流石に牽制もなにもなしに撃った一発は回避される。 「女…!?」 と聞こえてきた声に反応しつつも反撃として、ジョージも手に装備したミサイルを交互に発射する。 回避を難しくするための、常套だが有効である戦術だが。 ステラの機体はABを点火し、連続で横にQBを繰り返しつつ距離を大回りに大きく取る事で弾を回避した。 「速ぇ…っ!」 「"女"…ね、…まぁそうだけど…」 と言うと同時に、右肩の装備から、ドローンを射出した。 ドローンはただでさえ扱える人の少ない特殊な装備であるため、低ランクのしがない独立傭兵なジョージにとっては初めて見る武装だった。 「なっ、ミサイルか…!?ファーロンのじゃない…!」 と言いながら、横に大きく動く。 流石に全身の武装をミサイルで固めるだけはああるミサイルマニア。 ミサイルの回避の軌道としては完璧な避け方の順序だった。 ミサイルだったならば。 しかし射出された物体は機体の周りで動きを止め、そこからレーザーを発射した。 「何っ!?」 QBで切り返す準備はしていたので反射的なクイックブーストで最初の数発は避けたが、完全にそっち(ドローン)に気を取られた。 ステラは背後のハンガーから、これまた低ランクランカーには接点の無い光波ブレードを取り出した。 とりあえずの連続クイックブーストで致命傷をなんとか避けてるジョージだが、ステラの機体の動きにまで気を配れなかった。 そしてチャージされ横一列の光の波がジョージを襲う。 ドローンを回避した視界にはいっぱいの光波。 機体はそれをモロに受けた。両断こそされなかったが、かなりの痛手とACS負荷の蓄積だ。 「―畜生……、なんだってんだよ一体―!」 それでも距離を撮り続け、ミサイルを発射する。 しかし、ミサイルというものは避け方さえ覚えれば避けれないことはなく、特殊なモデルでなければ機体に致命傷を与える威力もない。 敵機は止まらず、接近してくる。 光波ブレードはハンドガンと持ち替えられている。 その機体は、最新型の双身レーザーライフルをしっかり捉え、発射する。 その射撃はコアを捉え、彼の死を一歩近づける。 「―ワケわかんねぇ機体がいきなり現れて、殺されるのか―!?」 それでも彼は死への恐怖を抱きつつ、必死の抵抗をやめない。 しかしABを点火し距離を詰めた機体は、左腕のハンドガンを機体に向け乱射する。 「―クソ、やってらんねぇよ……やってらんねぇ……―」 そして遂に、光波の直撃で溜まったACS負荷が限界に達した。 機体が止まる。 そして敵機もその機体の前で静止し― 「ごめんね、これも仕事だから―。」 チャージをしたレーザーライフルをコアに突きつけ 「―……あぁ、せめて……最期に母ちゃんの……ミートパイ……また……」 その引き金を引いた。 「ウズラマ、そっちの首尾はどう?」 正直、先進開発局のパーツを使ったウズラマの機体が苦戦するような相手ではないのだが、彼女の不安定さもあり、フォローは欠かさない。 「やったよ!ねこさんのおともだちがたくさんふえた!おはながちっちゃったけどしかたないよね!」 ステラは大きく溜息をつく。 今でも慣れたとは言わない…が、割り切りこそしたが、やはりこれは聞いていて悲しくなる。 生身よりACの時の方が壊れている気がするのは、気のせいだろうか。 始めにあった時はエヴァレットが『戦闘時には発生しない』と言っていたが、数日前からこうなようだ。 とりあえずウズラマの方の敵影をスキャンする。 既に四脚は両方とも、MTも半数以を撃墜している。 流石にタンクの重火力だ。 ウズラマの様子には問題しかないが、任務に問題はないだろう。 今回の任務も、結果は大成功だ。 レポートの様子をまとめて、エヴァレットにウズラマの調整の予約を入れておかなければ… + ファーロン上層部の通信 ファーロン・ダイナミクスの上層部の通信ログ 通常の社内回線ではなく、暗号化された回線だ。 『何…?データ回収に向かった解放戦線の部隊が 全滅…? 彼は… …そうか、いくらウチと解放戦線の関係がバレる 訳にはいかないとはいえ、彼には申し訳ないことを した…。 …ああ、遺族には最大限の謝意と補償をしてやれ』 登場キャラクター V.N ステラ ウズラマ ジョージ.N
https://w.atwiki.jp/huguri/pages/162.html
http //www18.atwiki.jp/familiar/pages/4130.html 夜明け前の寒々とした空気の中、二人は冷気と心痛を払おうとするかのようにひしと抱き合った。 この二人が手紙をあらためて読み直し、最後のほうに慌てたようにくっつけられた一文を意識にとどめ、首をかしげつつも応えるのはもう少し後である。 【ただ一つのみ乞う、料理人数名を至急派遣されたし】 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\ 日が一巡し、山頂はまたしも夕方。洞窟の中。 獣脂を使っているらしきランプが、いやな臭いを発して燃えている。 タバサにあてられた岩室の中で、チェスの決着が間近だった。 怪竜と向き合い、石の卓上のボードを見つめるタバサ。その冷たい瞳の奥で、膨大な量の思考の火を燃やしている。 汗が額ににじんでいた。 タバサがときには数時間かけて一手を考えるのに対し、怪竜は無造作に打って、しかも優位に立っているのだった。 一手打たれては、考える。一手打っては――考える間もなく、打たれる。実力の差は明らかであった。チェスの優劣には経験の差も加わるので、いかんともしがたい。 思索の激突を横から見守る三名は、それぞれに追い詰められた表情であった。 才人とギーシュは手に汗をにぎって、タバサの勝ちを祈っている。彼ら二人も、この一日を必死に戦ったのであった。 シャッフル、ポーカー、ルーレットに始まり、縄跳び、鬼ごっこ、水面石飛ばし、メンコ、コマ回し、双六と続き、ついにジャンケン、くじ引きまで手を出した。 傍からみると遊んでいるだけだが、本人たちはある意味命をかけるより真剣に行っていた。が、すべて敗北。 もはやタバサの策にすがるのみ、と二人は思いさだめていた。 いっぽう、シルフィードも別の意味で追いつめられていた。さすがに昨夜からは布を体に巻きつけている彼女は、空腹のあまり野生に帰りかけている目である。 またタバサが打ち、即座に打ち返されて考えこむ。局面はまさに終盤にさしかかっており、言うまでもなくタバサの敗勢が濃い。 と、タバサがなにかを思い切ったように顔をあげて、ぴしっと一手打った。 それが決着になった。怪竜が自分の駒をつまみあげて置く。 《チェックメイト》 「ああ……」 頭をかかえる才人たち。たった今タバサの敗北が決定したのである。 《うむ、なかなか筋がよかったと言っておこう》 シーハーと楊枝で歯についた夕食の食べカスをせせり、実に憎たらしい態度の怪竜。 タバサは無言で横の本を取りあげ、読み始めている。 暗澹たる気分だったが、ふと気になったのかギーシュが怪竜にささやいた。 「きみ男色趣味じゃなかったかね? 彼女は女性だぞ、代償なんて払いようもあるまい」 《基本はそうだが、選り好みはしない。 というよりここに住み着いて以来、いままで挑戦者に女はいなくてね。たまにはゲテモノを食するのも悪くない》 30 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01 57 55 ID 5gmiWgR4 いろいろ最悪なアイコンタクトが帰ってきた。 ちらりと見ていたのか、広げた本の上部からのぞいているタバサの頭がわずかに動いた。 《それに彼女の体は起伏が無いので少年に見えなくもないからな。まあ許容範囲だ。 韻竜のほうは、あそこまで起伏があるとどうしようもないので放っておく》 何がイヤって、悪意ではなく本気でそう思っているらしいことである。 才人はタバサをじっと観察した。本の上から見えている青い頭はもう動かない。 ただ、岩室の夜気がいっそう冷えこんだような気がする。やはり怒っているのだろうか。 と、どのような超感覚か、怪竜が何かに気づいた目をした。 《うむ? また誰かふもとのシールドに近づいたな。これはしたり、昨日の騎士ではないか。ほか数名を竜に乗せている》 才人とギーシュに顔を向けてくる。二人はあわてて手をふった。 「援軍なんて頼んでないぞ!」 「そ、そう、あの騎士さんが連れてるのはたぶん料理人だ!」 《料理人?》 怪竜が疑わしげに首をかしげる。 タバサが本をかたわらにおき、霜がおりそうな声音で言った。 「あなたに次の勝負を申しこむ。明日の昼。 こちらはこの四人が一チームで」 《ほう。別にかまわんぞ。して種目は? 実力行使かね?》 自然な余裕をたたえている怪竜に、タバサは冷然とした瞳を向けて言い放つ。 「大食い勝負」 ………………………… ……………… …… さらに翌日の正午。 初冬の空は今日も晴れ、わずかに群雲が出ている。 物言わぬ岩だけのさびしい山頂は、今までにはなかったであろう活況を呈していた。 タバサの提案をのんだ怪竜が、昨夜のうちにふもとに連絡をつけたのである。 31 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01 58 31 ID 5gmiWgR4 けっきょくふもとで泊まった料理人たちが、大量の食材を人足に運ばせて朝からえっちらおっちら山頂まで歩いてきた。 勝負に必要な人員、ということで彼らの分の入山料はさすがに要求されず、勝負の結果いかんにかかわらず自由に帰っていいことになっている。 どうやってか知らないが、怪竜の意思によってシールドとやらは通す通さないを決められるのであった。 朝から組まれたいくつもの石の炉には大鍋や網がかけられ、地元で屠られた山羊や豚、鶏やウズラが野菜やハーブとともに、種々の調味料で料理されている。 「はやくそれをシルフィに食わせるのねぇぇぇッ!!! もう生でいいのね!」 「シルフィ! おいこらコックさんに襲いかかるんじゃない! タバサこいつを止めろ!」 一昨日を最後になにも食べていないシルフィードが、血に飢えた竜と化している。人型ではあるが。 つかみかかろうとするかのように指を鉤にまげて即席の調理場に突進し、それを才人が正面から必死に食い止めている。 そんな騒ぎをよそにギーシュがうんうんとうなずいた。 「双方一枚ずつ同数の皿を空けていき、食い倒れるまで続けられる大食い勝負か……これなら勝てそうだな。 四対一という差を確実に反映できるし、くわえてこっちは一昨日で持参の食物が尽きて飢えきっているわけだし」 さらにタバサの指示で朝早くに起きて、最後に残ったビスケット二枚を、人間三人で分け合って食べている。 早いうちに小量の朝ごはんを食べておくと、消化器官がしっかり目覚めて昼になおさら詰めこめるのである。また、絶食の後いきなり大量につめこむと胃が驚くので、それを避けるためでもある。 タバサは直接答えず、怪竜をすっと指差した。かれは調理場に入ってコックたちにメニューを訊いている。 《うむ、熱いカラメルソースをドーナツにかけたものがデザートか。寒い日にはありがたいな。 私のそれは最後に出してくれ、勝負が終わった直後にお茶とともに落ち着いて味わいたい》 完全に余裕ぶっこいている。沈黙するギーシュに、タバサははっきり言った。 「楽観は禁物。死ぬ気で食べること」 やがて太陽が西にかたむき始めたころ、泉のほとりの(料理人たちは知る由もなかったが、事情を知る者には実にいやな場所だった)巨大な平べったい岩の上に、料理の皿が並べられだした。 岩のテーブルの両端に、向かい合って座るために手ごろな石が二つ置かれる。 最初に才人が座った。その反対側に怪竜が腰かけ、律儀にナプキンを首にまいてナイフとフォークを手にする。 《車がかりで一人ずつ戦おうというわけかね》 「ああ、卑怯とかいうなよ。さっさと食い倒れやがれ」 《残念だが、君たちが私の倒れる姿を見ることはないだろう。 よしんば来るとしても、それは君たち全員が地面に這う前にはありえない》 32 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 01 59 21 ID 5gmiWgR4 軽く応酬したあと、一皿目に取り掛かる。まずはクレソンとチコリと生ハムのサラダ。 二皿目はタマネギとウズラの串焼き、岩塩と粗びきの胡椒で味をつけたもの。 三皿目は子牛のコンソメスープ、ごろごろと茸を入れて。 正式なコース料理というわけでもなく、そこからはわりと乱雑に、野趣あふれる肉料理主体の皿が並ぶのだった。 四皿目。鴨肉のコンフィを直火でパリッと焼き上げたもの。 五皿目。子羊の骨付き肉。クローブと蜂蜜のソースがかかっている。 六皿目。同じくラム肉。薄切りにしてさっとあぶったもの。大皿に敷きつめられて出てきた。 七皿目。カラメルソースを添えた子豚のフランベ。 「ぐ、うぷっ……」 キツい。 才人は胃をおさえてうめいた。 皿は大きくて、一皿の量が結構ある。それは大食い勝負ゆえ当然なのだが、加えて肉ばかりでちょっと重い。 怪竜は動じる風もなくぺろりと平らげている。 八皿目。ヤツメウナギのパイ。 九皿目。ここで果物。白ワインで煮た梨。 十皿目。鳩の蒸し焼きが一羽丸ごと。 十一皿目。大麦と山羊肉のシチュー。 十二皿目。またパイ。濃厚なクリームシチューのパイ、若鶏と蕪が具。 ……そこで才人は倒れた。 いつのまにかワインなど傾けている怪竜が、平然として確認した。 《一人目リタイアかね?》 「次はぼくだ! さあ、サイトさっさと卓から離れたまえ!」 33 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 00 09 ID 5gmiWgR4 飢狼のような勢いで、ギーシュがナイフとフォークを取る。 しょせん飢えた人間は、目の前で見せられても、食いすぎている人間のつらさを理解できないものである。 ………………………… ……………… …… 二十六皿目。腸詰めとチーズ各種を盛り合わせたもの。 臭いの強い山羊のチーズをどうにか平らげた後、半死人の態でギーシュが才人の横に転がった。 「ぐ、ぐおお……胸焼けが……死ぬ……」 「アホめ、毎年詰めこみすぎで死ぬ貴族が何人か出るという話を忘れて、ろくに噛まずがっつきやがって……ゲプ、ざまあみろ」 転がって力なくののしりあう二人に、タバサがぼそぼそと言った。 「噛めばはやく満腹してしまうから、この際は丸のみしてくれたのがありがたかった」 じゅるじゅるよだれを滝と流しながら、麻縄で縛られて転がされているシルフィードが絶叫した。 「お姉さま、つぎはシルフィなのね! 早く今すぐ即刻これをほどけこのちびすけ! 今なら皿まで食ってやるッ!」 《次はどちらかね?》 「わたし」 「キサマァァァァッ!?」 淡々とナイフとフォークを手に卓についたタバサに、シルフィードがすさまじい怨念のこもった声をなげつけた。 丸い腹をかかえて地面を転がっている才人が、おそるおそるなだめる。 「お、落ち着けよシルフィ……それ主に向ける目じゃねえぞ」 「ガフッ……ガフッ……グルルルルゥ……」 使い魔の殺意さえこもった視線をガン無視し、もぐもぐ咀嚼している青髪の少女。 意外にタバサは健啖である。 黙々と食べ、ひたすらに食べ、一定の速さであごを動かしつづける。 34 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 01 03 ID 5gmiWgR4 怪竜のほうは。 《次のメニューは鶏胸肉のソテーか。では今度はそちらの白ワインをもらおうか。 いや、たまにはこういうのも悪くないな。自分でも料理はそれなりにたしなむのだが、田舎に隠遁していると手に入る食材の種類がどうしても限られてね》 上機嫌で料理人と目で会話していた。 やがてタバサの無表情に、わずかながら苦しげな色が混ざりだす。 少しずつ、食物を口にはこび咀嚼し嚥下する、という一連の動作が遅くなっていく。 腹部が膨満していく。 最初から数えて三十八皿目。腹がまん丸になったところで、タバサはナイフとフォークを置いた。 《ふむ、それで終わりかね?》 顔色も変えていない怪竜の問いかけに、静かに口を押さえてうなずく。 立ち上がって下がろうとして――ばったり才人とギーシュの間に倒れ伏せた。 子ダヌキのごとく膨満した腹は、シャツをはちきれんばかりに押し上げてへそが露出している。 あぶら汗を流しながら、タバサはつぶやいた。 「シルフィード。行け」 「だったら今すぐほどけえええええ! ふざけんじゃないのねお前いっぺん本気で噛むのね! とにかく誰でもいいからほどきにこい、そしたら毒でも人でも食ってやるッ!」 「ひ……人はやめようぜ……」 才人がよろよろと立ち上がり、シルフィードの縄をほどいてやった。 瞬間、青い閃光がはしって卓についた。 「キュィィィィ! ニク! ニク!」 ど、どうぞ……と怯えながら、給仕役もつとめる料理人の一人が皿をシルフィードの前に置こうとした。ちなみにメニューは牛のカツレツである。 が、皿がテーブルに置かれたとき、すでにそれは跡形もなく韻竜の胃袋に消えている。 《はしたなくがっつくな、韻竜よ。同じ竜族として恥ずかしいぞ》 「やかましい! 自分だけさんざっぱら食っといて、客に食事も提供しない没義道なやつに言われたくないのね!」 というわけで最終戦。竜VS竜。 35 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 02 07 ID 5gmiWgR4 タバサの指示により、料理人たちはかなり量が多く大雑把な肉料理をかたっぱしから急ペースで出していく。 ソーセージと卵を炒めたもの。 牛の腰肉ぶつ切り塩胡椒まぶし焼き。 鶏のコンフィをそのまま冷やし肉として提供。 豚の塩漬けをキャベツと一緒に煮て出す。 羽をむしったウズラをまるまるパン粉で頭から揚げる (適当)。 どう見ても生焼けの子豚丸焼き(時間足らず)。 山羊の後ろ脚を一本まるごと火であぶったもの(超適当)。 シルフィードは食べた。すべてを平らげた。皿まで舐めんばかりにして余さず胃におさめていった。 骨まで食うなアホ、とタバサから注意が入ったくらいである。 怪竜もさすがに腹がふくれてきたのか、軽口を叩くこともなく先ほどのタバサのように黙って食べている。 ようよう立ち上がった三人は、この熾烈な食物消費戦を見ている。 食卓の二匹が向かいあってから今までに片づけた肉だけで、三人の胃袋の最大容量総計を軽く上回っている。 才人が感心したようにつぶやいた。 「シルフィよく食うなあ……タバサ、お前これいつから考えてたんだ? あいつを徹底的に飢えさせて、ここでも順番を最後にまわすことで食欲を最大限に刺激させて」 これで負けたらさすがにもう思いつかない。 しかし、それからの展開は三人にとって目を覆いたくなるものとなっていった。 むろん常人にはおよびもつかない領域まで食い散らかした後ではあるが、日が沈んでゆくのにあわせるように、シルフィードのペースが着実に落ちていった。 時折ゲップをして深呼吸し、また皿にとりかかるという具合である。 一方、怪竜のペースは安定していた。 「ま、まずくないか……」 だんだん手を止めて空をあおぐことが多くなっていったシルフィードを見つつ、ギーシュが懸念のつぶやきをもらす。 その顔色が悪いのは、寒いからではないだろう。 夕日の光に照らされながら、才人は自分の顔色も青いことを確信しつつ、あえて答えない。 36 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 03 21 ID 5gmiWgR4 シルフィードのために言っておくと、彼女は彼女なりに食欲だけでなく、主たちに勝利をもたらすために意志をもって限界まで戦ったのである。 その意志も、ついにやぶれるときがきた。 「も、もう、なんだかダメっぽいのね……」 いまにも石の椅子からすべり落ちそうにのけぞって、シルフィードはギブアップを口にした。 ひいいいい、と才人とギーシュが地面で頭を抱えている。 と、タバサが口を出した。 「まだ頑張れるはず」 「ムリ……お姉さまのために、ゲプ、頑張ってみたけれど、もう食道まで詰まってる気がするのね……」 《あ、そこの君、頼んだデザートの調理に取りかかってくれたまえ。お茶もな》 怪竜がさっそくデザートを注文している。 それをちらと横目で見て、タバサは言った。 「そこの肉は全部あなたの、向こう三ヶ月分の食材」 きゅい? とシルフィードが首をひねった。 意味を反すうするように、えーっと……と宙を見ながら考え出す。 その体が、だんだん震えてきた。 才人たちに負けないほど蒼白な顔で、シルフィードはおのれの主に問いただした。 「まさかこれを最後に、三ヶ月肉抜きって意味?」 タバサはうなずいた。 「ちょっ――どういうことなのね、それ!?」 恐慌をきたした使い魔に、彼女は説明する。 「今日のためサイトたちから借りてまで食材を買い占めた。 取っておいたあなたの食費は、全部そのテーブルの上」 「い……今までバカスカみんなが食ってたこれが、シルフィのごはん……?」 タバサはうん、と再度首肯し、とどめに卓上を指差した。 「今のうちにいっぱい食べる」 37 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 04 13 ID 5gmiWgR4 「お、おおおおお……覚えてるがいいのねーーーッ! 絶対ろくな死に方しないのね! そのうち匿名で使い魔保護協会に告発してやる!」 「勝てば食費が手に入る。たぶん」 ぐああああッ! とシルフィードはテーブルに覆いかぶさった。 怪竜がはじめて、気を呑まれたような様子を見せ、目で問いかけた。 《……続行するのか?》 「黙るのね! シルフィのお肉さんざん食べやがって! みんなあの冷血ご主人と貴様のせいなのね!」 滂沱の涙を流しながら、仇のようにふたたび料理をがっつきだす。 今までは手づかみで食べていたのが、もはや口を直接つっこんでがつがつと竜食いしている。 かきたてられた気力。 もって数皿分ではあったろうが、それは奇跡を起こした。 やむなくシルフィードにつきあって食べ始めた怪竜の腹のあたりで、ビリ……となにかが裂ける音がひびいた。 む、と怪竜は手をやすめ、腹をおさえた。 《……いかんな。物理的に限界が来た。 伸縮性が劣化していることを考えていなかった》 「つまり表皮が破れたんだな、それでなければまだ食えるってどんだけ胃袋のほうは伸びるんだよ……」 「なあサイト、突っ込みどころはそこか? しつこいかもしれんがあれはどう考えても着ぐるみじゃないのか?」 《やむをえまい。決闘は勝敗いかんにかかわらず優雅に、がモットーなのだ。 皮が破れて見苦しくなるくらいなら、いさぎよく引き下がろう。 そろそろ皮も古くなって脱皮するべき時がきたようだしな、考えてみれば住まいを離れるいい機会だ》 「どうあっても竜で押し通すつもりのようだぜ」 「さっき突っ込んでおいてなんだがね、ぼくはもう気にしないことにするよ……とにかく勝ったらしいから」 ………………………… ……………… …… 次の日。 38 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 05 14 ID 5gmiWgR4 約束どおりシールドを解除し、怪竜は去った。 風呂敷包みにこまごましたものを入れ、徒歩でいずこかへ。 才人たちの手に残ったものは土地の権利書、洞窟の中にあった調度品と何がなんだかわからないガラクタ類。 「どこに宝があるんだ」と才人たちが文句を言ったとき、怪竜は洞窟外の泉を指差した。 《美しい泉だろう》 「……それが?」 《宝の価値はある》 「おいてめえ…………」 《もぐってみたまえ。ではさらばだ》 「だ、だからここはキサマの……!」 そんなてん末。 何があるにせよ、さすがに今すぐ自分たちでもぐる気はおきない。少なくともある程度の時がたち、湧き水によって泉の水が入れ替わらないうちは。 そして今、竜が追い払われたと聞いて山頂にやってきた男、この地の領主からの使いを、彼らは相手しているのだった。 「岩山の権利書は、この山に勝手にすみついたあの悪竜が、討伐に向かった数代前のご領主さまを捕らえて身代金がわりに強奪したものなのです。 したがって、それはこちらに返却されるべきでしょう」 賞金だけで満足しなさい欲深なガキ共が、とその使いの目が語っている。 「冗談じゃない。こっちは危険を冒してたんだ、そうだろうサイト」 「ああ、たぶんあんたらの想像以上にな」 少年たちの横で、タバサが使いの目をみて言った。 「観光事業?」 39 :才人とギーシュの借金返済記(白い百合の下で・番外編……?):2007/11/01(木) 02 05 56 ID 5gmiWgR4 な、なにを馬鹿な、と男が思い切り狼狽した。おそらく図星であろう。 かつての竜のすみかとして観光地にする。 ありそうなことではある。皮肉なことに、今後もこの岩山を訪れるものは金を払うことになりそうだった。 才人が鼻を鳴らした。 「悪いが、こっちも金は入り用なんでな……この岩山はどこかの物好きに売って、二組で分配するつもりだ」 「そ、それはなりません。ええい、このがめつい奴らが。 しょうがありませんな、賞金の額を引き上げるよう領主さまに口をきいてみましょう」 「どのくらい? 十倍?」 「気でも狂いましたか? いいとこ二倍」 「じゃ、別のところに売る」 「チッ……三倍」 まだまだもう一声、と喧々諤々の値段交渉が続く。 それを空から竜態にもどったシルフィードが見下ろして、人間の浅ましさをやれやれと嘆くのだった。 さんざん交渉した後で、忌々しそうながらも領主の使いは目を光らせた。 「まったく、あなたがたのような連中は、貪欲の大罪によって始祖ブリミルに裁かれますよ。 それはともかく、そんなに金がほしいなら、ひとついい話があるんですがね。 じつはここから離れた沼地に、長年、別の種族不明の竜が住みついていて賞金が――」 「「「絶対やらない」」」
https://w.atwiki.jp/alternativemind/pages/284.html
エヴァレットの職務室にて、三人の女性が話をしていた。 「エリカ。あなたはもう少し落ち着きを得る必要があるわ。」 とエヴァレットが言う。 この"注意"の原因は、先日やってきたばかりの新人、ステラに対するエリカの敵意剥ぎだしの対応が原因であった。 彼女は敬愛する"お嬢様"から自分が叱られているという事実をしかめ面で… 尚且つ"わざわざしっかり叱ってくれている"ということを半分上機嫌でしっかりと聞いていたが、彼女も思うことはあるようで言葉を返す。 「……。 お言葉ですが…。 あの女…いや男? …あの者はお嬢様の信望するアーキバスを、 お嬢様のアーキバスへの忠誠心を疑い、愚弄し、侮辱しました。 …とても許すことなど…。」 しかしエヴァレットはその言葉をしっかり聞き、自分の考えを返した。 「…エリカ。あなたの言いたいことは分かります。 確かに彼女は、このアーキバスで働けるというのに、忠義の一つも口にしない。 …しかし、それで怒り、排斥してしまっては駄目なのです。」 と語る。 「私と、エリカと、それからウズラマ。 私達と彼女で決定的に違うこと…。 それは、この栄えあるアーキバスについてどれだけ学んできたか。 彼は…いえ、今のヴェスパ―部隊といい、このアーキバスで働いているというのに、 この栄えある企業の素晴らしさを知らず、軽視している人が多すぎるのです」 と言った。 そう、今自分が自身の人生をこのアーキバスに捧げられることの素晴らしさが分かるのは、 あまり尊敬できるところが多いとはいえない親の数少ない意義のあった教育の賜物なのだ。 「彼女は悲しいことにこのアーキバスについてをまったく知っていません。 しかし、なればこそ。私たちの元に派遣されたのも天命です。 私達がアーキバスの素晴らしさを…! 彼女に…」 一人の何の思想も持たない暇を持て余した独立傭兵を、"私達"が立派なアーキバスの社員の一人に仕上げる。 名目だけとはいえ"監視役"に対してやることでは全くないのだが、そのことを考えるだけで自分の行動の素晴らしさに自分で胸が震える。 「…しかし、あの者はアーキバスの本当の良さを理解するのでしょうか? 所詮は独立傭兵上がりです。」 と、エリカはついこの前までエヴァレットが思っていたことを口にする。 しかしエヴァレットは涼しい顔で 「独立傭兵一人導けない者がこの会社を導けるはずもないでしょう。」 と答えた。 「ということで、ウズラマ。エリカ。」 「はいっ」 「はい?」 「暇な時は、しっかり彼女に付き合って、好意的な関係を保ちつつ"アーキバスの素晴らしさ"を伝えることを命じます。 特にエリカ。 気持ちは分かりますが、一緒に仕事をする仲な以上、関係を悪くしないように」 エヴァレットの言った言葉は確かに彼女の本心であり、理屈にも合っていた。 しかし単純に自分がどこの馬の骨とも知れない独立傭兵如きに手ずから教育することが馬鹿らしかったこと、 そしてそんなことをしてられるキャパシティが既になかっただけな事に二人は気付かなかった。 しかし気付かなかったからこそ二人は敬愛する"姉"から任された一仕事と、それぞれやる気をみなぎらせるのであった。 話を終えた後、二人はそろって部屋を出た。 ウズラマはやる気に満ち溢れた顔だが、エリカは神妙な顔だった。 「エリカちゃん…そんなステラさん苦手なの?」 とウズラマは尋ねる。 「…苦手…ええ、苦手ですね。 お嬢様も、お嬢様があれだけ尽くしているアーキバスをも愚弄する。 好きになれる訳がありません。 逆にウズラマ、あなたは好きになれると言うのですか?」 と問い返すも 「私…お姉様の言う通りだと思うの。 アーキバスについての教育を、私やお姉様のように受けられなかったからだって…。 それに、悪い子にはどうしても見えないわ。 これから仲良くしていけば、そういうことも分かるんじゃないかって…。」 「…相変わらず甘いですね」 と、エリカはそう短く返した。 * その時はまだ来たばかりだからということで非番だったステラは、私服で誰もいない公共フロアに一人、 椅子に座りタブレット端末を眺めていた。 半袖のTシャツに半ズボンといった"私服"然としすぎたラフな格好。 「あ、いたいた。ステラさん~!」 と声が聞こえそちらを振り向くと、見知った顔が。 一応自分の"監視対象"の筈の一人、ウズラマである。 ウズラマが何やら笑顔でこちらに寄ってくる。 「や、やぁ…ウズラマさん。何か?」 と、ステラは若干気おくれしつつ返事を返しながら、席を立つ。 「あ、いえ!座ってていいですよ!それに、私のことは敬語ではなく、呼び捨てでいいです」 と続く。 ステラは促された通り座りなおしつつ、こちらを見てくるウズラマを無意識にまじまじと眺め返す。 年齢は知らないが、多分相当に若いのだろう。 おっとりした顔つきをしていて、手術跡さえなければ中々美人だ。 身長は普通くらいだろうか。そして胸だけはおっとりした身体の中でも主張を… 「…ラさん…、ステラさん?聞こえます?」 「…あ、ごめんなさい、ちょっと考え事…してまして…」 「…考え事?」 彼女本人はそこまで見られたことに気付いてないようだが、 流石にこちらとしては気まずく視線を泳がせる。。 「ぁ、はい、ちょっと…」 「ふぅん…。で、敬語じゃなくてもいいですよ。多分あなたの方が年上の筈なので…!」 「…じゃあ、そっちも好きな呼び方でいいよ。 その方がお互い気楽に行けそうだし。」 と言うと、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。かわいい 「…で、私になんの用?」 この身体になってからも当然口調を変えたことはないのだが、 この口調は女だと普通以上に女っぽさが出てしまう気がするのが少し憎らしい。 「ねぇ、ステラ"ちゃん"…」 『どう呼んでもいい』とは言ったものの、流石に"ちゃん"呼びされるとは思わず面食らう しかし彼女はそんなこと意にも介さない様子で、こちらに近寄って来る。 「えっ、ちょっ…何!?」 椅子に座ったまま後ろに圧に押されるが彼女はそのまま近づいてくる。 先程までの笑顔はいつのまにやら消え去り、真顔でこちらにくる。 と、急に。座ってるこちらに対し、すこし身体を屈め、 キスでもするのかといtった勢いで顔を近付けてきて、顔を遠慮なく眺めてくる。 「(ちょっ、近い……近いって…!)」 すると、今まではずっと優し気だったウズラマから、比較的に低めな声が漏れる。 「ステラちゃん……」 「はっ、はいッ!」 「……すっぴんでしょ?」 「はいっ?」 …すっぴん?何のことだろうか? 「すっぴん…でしょ?」 「…すっぴん…とは…?」 目の前に口づけをかわすほどの距離で存在するウズラマの顔の圧と、 その鼻息で意識が逸れそうになるのを必死に堪え、そう返答する。 「…最初から気になってたの…。お化粧、した?」 「お、お化粧…?」 化粧…そんなこと考えてもいなかったし、もちろんしてもいなかった。 というかするわけがなかった。 生まれた時から女だったり、美容に気を使ったりする美男子だったなら縁があったかもしれないが、 あいにく独り身の傭兵。そんな物とは縁もなにもなかった。 「…ぇ、えと、いや、してない…けど…」 と、目の前に顔を近づけてくるウズラマに対して、ギリギリそう答えるのがいっぱいだった。 「ステラちゃんは…元々、男だったんだよね?メイクとかしたことない?」 と、満面の笑顔で訪ねてくる。 「い、いや~したことはないな…。」 「なら私が、メイクの仕方教えてあげますよ!!」と、さらに目をキラキラさせたまま聞いてくる。 だがしかし、こちらとしてはメイクなどとさらに女らしいことに手など出したくない。 「で、でも!あまりそういう?人と合う仕事はしないし?今のままでもまぁ…」 「ダメです、すっぴんなんて!女の子はメイクをしてこそその魅力が120%引き出されるの!企業の人間たるもの、身だしなみにも気を付けないと!」 「い、いや本当…」 「駄ぁー目!!!道具まで持ってきてあげたから!!」 そこからは、一進一退の攻防だった。 その場から逃げようとするステラと、それを阻止しようとするウズラマ。 ステラは立ち上がり、一目散に逃げようとするのだが…、やる気になったウズラマはそれを易々とは許さなかった。 逃げ出そうとするステラを羽交い絞めにする。 「なっ、ちょっ!」 「逃げないで大人しくしてください~…、悪いようにはしませんから~!」 「ちょ、くっ、離せぇ!」 「駄目です~!!!」 「(ちょっ、こんな見た目して力強いな…!!それに背中、背中に当たってる…!)」 * 「ふぃ~……ステラちゃん…力…つよすぎ…」 「そ、そっちのほうが…」 強化人間同士の引っ張り合いは拮抗し、お互いが余力を使い果たしその場にぶっ倒れて終わった。 …が 「…こんなところで二人で何をやっているのだ? えーと、…エヴァレットの…そうそう、ウズラマと……えーと…もう一人は…」 偶然そこに通りかかった一人の人物がいた。 声変わり前の幼い声、長く伸ばされた白髪に、胸こそ出ていないものの尻は出ており、 男とも女ともとれる子供が、そこにいた。 「……ス、ステラ…です…、ついこの前、来ま…した…」 「ああそうそう、ステラだ!ここ数日少し忙しくてな! 挨拶が遅れはしたが、ようこそアーキバスへ。先輩として歓迎しよう」 アーキバスの"隊員"として働き始めてからはまだ日が浅いイレヴンにとっても、 先輩風を吹かせる相手は物珍しいのか、多少気取った挨拶を決めた。 (…が、いつも誰にでもこんな感じなのでそこまで変わらないが) 「…で、二人して何をやっているのだ?」 と、少し考え事をしてたウズラマが声を発した。 「イレヴンさん…、ステラちゃんを捕まえてください!」 「ええっ!?」 「捕まえる…って何でだ?」 「ステラちゃんが…、お化粧から逃げようとするのです!」 「…お化粧…?ああ、女性が身だしなみを整えるときにするというアレか。 この前ジュスマイヤーもやっていたな。 ただ、そこまでする必要があるのかよく分からなかったが…」 「あります!!あるんです!!企業の女に生まれた以上!!!身だしなみを整える義務が!!!」 「女に生まれてないよぉ!!!!!」 廊下で騒ぐ二人だが、イレヴン以外に人はいないので誰も気にはかけない。 「…よくわからないが、私よりは長く企業にいる……ウ…ズラマが言うんならそうなんだろう! …で、捕まえてどうすればいいのだ?」 「…ちょっと今のままじゃ出来る程の元気がないから… イレヴンさん、この後って空いてます?」 三人中二人が突っ伏してるという異様な光景だがたゆまず会話は続く。 「ああ、空いてるぞ。少し大きな案件が片付いた(*1)んだ。だから、今日はもう休んでいいらしい。」 「では、ステラちゃんを見張って、午後5時に部屋へ連れてきてください!」 「なるほど、分かった!」 「えっ、ちょっ…えっ…?イレヴン…さん?」 「…化粧や身だしなみといったものはよくわからないが、 企業に詳しい人がそうと言うのならそうなのだろう!何が心配なのかはよくわからないが、 しっかりお化粧をした方がいいと思うぞ!ジュスマイヤ―もやってたし!」 「ああああああああ」 つっぷしたステラのうめき声だけがあたりに虚しく響いたのでした。 めでたしめでたし 次回、化粧とさらっとまた他の人との関係を作る回! 世間知らず 企業知らず ※イレヴン君はステラの出自を知ってるのか?: よくわかってないと思う…けどどうだ?というかステラ個人にはそこまで興味はないけど、文中通り「後輩だ!」程度には思ってるかもしれない(推測)
https://w.atwiki.jp/satoschi/pages/1032.html
Wuzlam【udl】 ウズラム語 00 Afro-Asiatic 01 Chadic 02 Biu-Mandara 03 A 04 A.5 Latin script【Latn】 《現》living language カメルーン【CM】 言語名別称 alternate names Mizlime Ouldeme ウズレメ語◆三省堂「言語学大辞典」全文データベース Ouldémé Udlam ウズラム語◆三省堂「言語学大辞典」全文データベース Uldeme ウズレメ語◆三省堂「言語学大辞典」全文データベース Uzam Uzlam 方言名 dialect names 表記法 writing Latin script【Latn】 参考文献 references WEB ISO 639-3 Registration Authority - SIL International LINGUIST List Ethnologue Wikipedia
https://w.atwiki.jp/gods/pages/21262.html
ウズザ ヘブライ伝説の堕天使の一。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/77470.html
ウズナ ウシュナハの別名。
https://w.atwiki.jp/alternativemind/pages/244.html
+ 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌01 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌01 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 父に呼ばれ、母とウズラマ夫妻とで食事会に参加した。 その折、ウズラマ家より、被験体の供出の申し出があった。 一人娘が、その対象だという。 以前から私の両親とウズラマ家は親交があったのは、母から聞かされている。 今回の人選は、その誼もあるのだろう。 両親自らではなく娘を差し出したのは少しばかり気に食わないが、頭では理解しているつもりだ。 若い個体のほうが、何かと融通が利く。 それに、ウズラマ家夫妻によれば、娘が自ら望んで立候補したという。 どうせ決定事項だ。 今更その発言の真偽を検証しても無意味だろう。 父も、娘に疑いの目を向けられれば気を悪くする。 私は私にできる事をするだけだ。 ……私の母方の家系には、こんな家訓がある。 命は、余す所なく使え。 そして私の父方の家系には、こんな家訓がある。 30歳までに、他人に誇れる結果を出せ。さもなくば死んだも同然だ。 私には時間が無い。 必ず、成し遂げねばならない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌02 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌02 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 報告書によれば、対象の術後経過は問題なし。 まずは基本的な情報を口頭で伝達していく。 しっかりメモを取っていく姿勢は高評価だが、ただのポーズで終わらないよう後追いは必要。 父から、対象を無駄死にさせないよう、基本的な技術は全て教えるよう言われた。 そのような事、私が考えていないとでも? 外面だけはよくできた父の事だ。 どうせ、ウズラマ家の顔を立てたいのだろう。 言われずとも、実験サンプルの無駄遣いは控える。 ろくにデータも取れないようであれば、アーキバスへの貢献にならない。 研究予算の数倍の成果を以て返礼すべく、私も死力を尽くすつもりだ。 娘を生贄に捧げた臆病者共のチャチな面子など、知った事か! 万一失敗しても、その時は死体が一つできあがるだけだ! ACパイロットという花形は、一流の歌手にも等しい栄誉! その貴重な経験を、有り難く思うがいい! + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌03 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌03 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 対象から「お姉様と呼ばせていただいても、よろしいでしょうか?」と頼まれた。 ここ数日ずっと態度が妙だなと思ったら、私に好意的な感情を持っていたらしい。 まったく、ふざけている。 家族ごっこなど、業務の妨げになるだけだ。 公私混同も甚だしい。 思い返すだけで腹が立つから詳細はここに書かないが、指導はした。 このような些事で再教育センターの手を煩わせる事すら、馬鹿馬鹿しい。 まだ泣いているなどと部下から報告を受けたが、知った事ではない。 私は8歳になる頃から、ずっと泣いていない。 それを、成人してなお泣くとは情けない。 私達は企業だ。 私情に流され業務を疎かにするなど、断じてあってはならない。 社内恋愛すら傍目に見て吐き気がする。 システムによる解析の結果として 遺伝子レベルで最適なパートナーを見出したならともかく。 職場に私情を持ち込む事それ自体、企業への背信行為にほかならない。 私達は数字という結果を出しに来ているのではなかったのか。 遊びで給料は出せない。 泣き虫のグズめ、まだ聞こえてくる! さっさと頭を冷やして、自覚を持て! + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌04 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌04 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 対象の実践投入が早まった。 戦況が一向に好転しない事と、対象の術後経過が想定より良好なためだ。 これに伴い、諸々の処置も早めるという。 専用機の受領は手配完了済み。 あの日以降、泣いている様子は見られなかった。 指導がきっちり効いて、心を入れ替えたのだろう。 とはいえ、AC配備の事もあって少し調子に乗っているようだから、釘を刺しておいた。 まだ計画書の5%も進んではいない。 この程度で満足されても困る。 企業は学校ではない。かかる金額の桁が違う。 それと……相も変わらず「お姉様」などと呼んでくる。 そのほうが成果を出せるなら、もういっそ呼ばせてやるとしよう。 まったく、手のかかる妹だこと。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌05 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌05 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 この戦況を少しでも良くするためには、即戦力が必要だ。 かねてより開発中だった戦闘補助AIのインプラントを、今月中には実行に移す。 当然、あの子の脳に入れる。 まずは素の状態をサンプリングする必要があるため、実戦を何度か経験させねばならない。 もっとも、わざわざ教えてやる必要も無いだろう。 近頃はますます成長して、実戦に向けた知識を貪欲に取り入れているようだ。 ウズラマ家夫妻からは、素直で良い子だと聞いていたが、単なる親馬鹿な過大評価ではないらしい。 とはいえ、強化手術を「待ち遠しい」と言える感性は流石に面食らった。 妙な所が豪胆だ。 できて当然な部分を敢えて褒めてやる理由は無いから、 他にはない強みを褒めた。 こうする事で、教育相手の行動にある程度の指向性を持たせる事が可能だと母から教わった。 「私が尊敬する指導者が褒めてくれた。これを伸ばしていこう」と無意識に考えるのだとか。 なぜ、指導対象が指導者へ好意的である事が前提なのかは、さておこう。 来週の実務研修について伝えた。 ベイラム製新型パーツ試作品の輸送を阻止するという内容だ。 これはあの子には言わないが……もちろん、カバーストーリーだ。 その手の重要な作戦に、 いきなり素人を参加させるほど人手は不足していない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌06 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌06 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あの子を実戦に投入した。 私は監視も兼ねての随伴。 内容は、ごくシンプルだ。 泳がせておいた武装勢力に、業績の悪い基地を襲撃させ、壊滅した基地から持ち出している最中を、今度はこちらから襲う。 ……というものだ。 護衛にACがいたところで、特に支障はない。 本作戦の成否は、戦略上なんら影響を及ぼさない。 目的はあくまでも実戦のサンプリングだ。 これも、あの子には伝えない。 あの子は真面目だから、自分から手を抜こうとは考えないだろう。 それでも、神経伝達物質までは、その影響を免れ得ない。 とはいえ、改善点は伝えねばならない。 一切の忖度はしない。あの子のためにも。 どれだけ辛口評価と周囲に言われようとも、私は甘やかさない。 いつも一言多いとサリエリに言われたが、 私に言わせてもらえばあの男の指導はひと押しが足りない。 現状の評価を自認して受け入れたなら、 後に成長して振り返る時、どれだけ伸びたかを知る。 いずれAIを埋め込んでも、記憶は処理しないから、 振り返って成長を実感してくれるだろう。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌07 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌76 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 ヴァージニアから、 「あの子、お茶にでも誘ってあげたら?」と提案された。 一対一でじっくり話し合う事が必要だとか。 ヴェスパー・オフシュートのSランクが言うのだから、間違いないだろう。 でも、やり方がわからない。 私は今までで一度も、誰からも、そんな事をしてもらっていない。 アーカイブを一通り見ても、おすすめの茶とかそういう記述ばかりで要領を得ない。 ヴァージニアに詳しく聞き直そうにも、彼女は長期出撃で多忙だ。 かく言う私も、これ以上は時間を割けない。 ろくに準備もできないまま、その日は来た。 普通、こういう場を目上が設けたら、 どうすれば成績が上がるのか、などの前向きな話を用意してくれるものなのでは? なのに、あの子ときたら、甘ったれた愚痴ばかり! 事前告知をしない私に落ち度があったかもしれないが、 常に企業の求める回答を頭の中で用意してこそ、人間たり得る。 咄嗟に聞かれて出てこないならば、何も考えていない猿共と同じだ! 企業に身を置く者としての自覚が足りていないようだから、指導した。 努力とは、自発的に結果を出す事で初めて努力として認められるのだ。 期待されていないと動けないなどと受け身でいられては困る。 乞食を養う金などない。 アーキバスのエリートの家に生まれたなら、その役目を果たしてもらわねば。 スネイル閣下が御存命ならば、速やかに解決していただろうに。 閣下。どうすればあの子を導けるのでしょうか…… 父が私にそうしたみたいに、 あの子の私物を机に5つ並べて 1秒ごとに拳銃で撃ち抜きながら返答させる指導も考えてはいた。 良い場所は無いかとバルデスに相談したら、 「大した英才教育ですね。親からの直伝ですか?」と、目も合わせず嫌味を言われた。 あんな憎まれ口しか叩けないから、あいつは仕事仲間に恵まれないのだ。 あのクソ野郎。さっさと過労死でもしてしまえ。 企業に命を捧げる。結構な事じゃないか。 私もここ数日間は、睡眠時間が長くても3時間。 どちらが先に過労死する? 見ものだ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌08 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌08 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 ウズラマへの戦闘補助AIのインプラント手術は無事に完了した。 これにより、最適な行動を無意識下で実行できる。 また、神経伝達物質の調整で、任務の妨げになる感情を排除する。 あの子は、その影響もあってか、企業に身を置く者としての自覚が芽生えてきたようだ。 いい傾向だ。私の妹を名乗る以上は、それくらいできなくては。 情動に多少の異常が見られるが、あの子の担当医から対処法も聞いている。 調整の作業に時間を取られるのは、この際必要経費と割り切ろう。 テスト結果でも戦闘中は正常に稼働しているから、些細な問題だろう。 それに、母から次の被験体の話も来ている。 来週と告げられた。 いいかげん、母のそういう悪癖には慣れっこだ。 それは別にいい。 いくつもある実験体のうち一つが手元で観察する事になるだけだ。 それに後輩ができれば、ウズラマも更にしっかりしてくるだろう。 いくつかサンプリングを済ませたら、いずれは私もインプラント手術を受ける。 よかったね、ウズラマ。 あなたの姉と、お揃いだよ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌09 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌09 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 本日付でE413-K09を受領した。 ウズラマに比べると幾らかおとなしい。 それもその筈。 素体は元々使い捨てる予定だったものを再利用していて、 実験の過程で廃人になったものをAIで動かしている、生き人形にすぎない。 私を『お嬢様』と呼び慕うのは問題だ。 解析を急ぐ。 ウズラマから、彼女に『エリカ』と名付けたと報告を受けた。 「実験体は、いずれも型番での呼称が通例だが、 いかんせん数が多い。 いちいち覚えるよりは、通称を用いたほうが手っ取り早い」 との理由。 私もそれには同意だ。 利便性を鑑みて、私もその呼称で呼ぶとしよう。 エリカに配備されるACは、 フレームは私やウズラマのものと共通になる。 整備性の面で便利だし、先進開発局のパーツは何かと融通が利く。 あの子はお揃いだのと喜んでいるが、放っておこう。 業務に悪影響が無い限りは、言わせておけばいい。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌10 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌10 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 ウズラマの動作に問題の発生していた箇所を特定し、 アップデートを施した。 情動面ではなく、言語野がAIと干渉していた。 また、不必要な部分を幾らか削った。 あとは経過観察だ。 それにしても、ウズラマの化粧品の知識は私よりもずっと多い。 ウズラマは「身だしなみを整えて、どこに行くにも恥ずかしくないように」と言っていたが…… 私は、あんなに優しくは教えてもらっていない。 母にひと通りの工程を伝えられ、その通りにやって、 修正点を聞かされるだけだ。 時間に余裕のある人達の、なんと羨ましい事か。 ライスリングにそれとなく愚痴をこぼしたら、 「生き残るための理由があれば、生存率が上がるそうですわ」などと言っていた。 あいつの大好きなサリエリの受け売りなのだろう。 報われるかもわからないのに、ご苦労な事だ。 あんな恋愛脳でも、業務には真面目に取り組んでいる。 企業にとっては必要な人材だ。 慕情か。 恐怖と焦燥感でしか育てられなかった私こそが、人間のなり損ないなのか? + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌11 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌11 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 またしてもウズラマが故障した。 モニタリング用の新機能のテストが悪影響を及ぼしたらしい。 調整台に乗せている間、うわごとのように、 「エリカちゃんのお母さんがいっぱい」 「お出かけして楽しかった」 などと呟いていた。 エリカに接続した生体コンピューターは一台だけだったが、 どうやら今まで廃棄した分の生体コンピューターの履歴が、 エリカに残っており、 加えてウズラマと使用している技術系統が異なるため、 エリカからウズラマへの接続と変換の過程で不具合が生じたのだろう。 念のためウズラマから履歴を削除して、しばらくは他の被験体で実験する。 この分では、私へのAIおよびモニタリング機能の埋め込みは、まだ先になりそうだ。 本社のサーバーを経由する方法も考案していたが、 セキュリティやタイムラグの懸念から却下された。 まったく、手間のかかる妹だ。 ただ、手間の分だけ見返りは貰っている。 すなわち、データだ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌12 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌12 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あの子は自機の特性や課題点を分析できるようにまで学習した。 AIが上手く脳に馴染んできている証拠だ。 日常動作は相変わらず頻繁に不具合を起こしているが、 戦闘中は何ら問題なく稼働している。 都度調整をかけてやればしばらくは安定するのだから、 動作安定化のアップデートはそこまで優先せずとも良いだろう。 企業にとって優先すべき事でないならば、先送りにすべきだ。 同情、憐憫……私が棄てるべき感情だ。 母の危惧した事態が現実になってはならない。断じて、絶対に! スネイル閣下…… 一瞬でも情に流されそうになった私をお叱りください。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌13 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌13 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今日の不具合。 あの子に、自社の保有するクラウドのアーカイブから戦闘ログをバックグラウンドでインストールしたところ、 強化された肺活量と嫌な噛み合い方をして、独り言が止まらなくなった。 こちらの呼びかけにも全く反応しない。 そのまま放っておけば治まるかと思ったが、 過負荷で鼻血を出し始めた。 やむを得ずエリカをウズラマと接続、 ナノマシンを介した強制停止機能で眠らせた。 解析班にモニタリングをさせたが、 原因は特定できているにもかかわらず、 調整では直せないという。 暫定措置として、インストール前の状態までロールバック。 懸念事項である短期記憶への影響はこの際、無視だ。 前回の件で倒れた際、エリカに用いられた技術を基にウズラマの人格再現データを作成している。 万一、廃人になっても一応の体裁は保てる筈だ。 それは……もはや、元のウズラマとは同一ではなくなる事も意味する。 この再現データはある程度の加工ができる。 条件付けを行えば、記憶をも捏造できてしまう。 文字通りの人形だ。 こんなもの、使うのは最終手段だろう。 母からの通信があった折、私のほうから「私兵を集めていると疑われる」と懸念を伝えたばかりだ。 私の手元に、私個人への忠誠を口にする被験者がいては、いらぬ疑念を生みかねない。 ウズラマは素直だったが、エリカが思いのほか頑固で、 教育も調整も書き換えも通じなかった。 ウズラマのバックアップデータの転写で、 エリカと同じ事が起きないとも限らない。 ……父は、口癖のように言っていた。 自身の価値を裁定するのは他人にしかできないが、 自身の価値を証明するのは自身の責務だと。 私はまだ、アーキバスへの奉仕が足りていない。 結果を出すまでは、あらぬ疑いをかけられて中断させる訳には行かないのだ。 私が何らかの形で処分されるのは、その後がいい。 せめて、結果だけでも。 証明する。貢献を……私の、私とあの子たちの、価値を…… + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌14 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌14 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 演習の内容は予想通りだ。 私は他の部隊員と総当たり戦。 ウズラマはヴァージニアと。 エリカはサリエリと。 それぞれ単機同士での戦闘だった。 運用方法やパイロットの傾向および 各タイプとの相性の洗い出しが目的だ。 ウズラマへの戦闘ログのインストールは諦めていない。 自身の目で見た記憶からAIを通し、適切な対処法を分析する。 この方式で学習を進めていけば、アーカイブからのインストールも円滑に進む。 傾向の近いデータをクラウドから目星をつけていたら、 エリカからトラブルの報告を受けた。 ウズラマが他の隊員にフィードバックを聞きに行っているさなか、 ライスリングから話を聞いている間に泣き出したという。 ライスリングは自身の怪力を扱いきれないという欠点はあるが、 その性格上、指導に熱が入りすぎて、という線は薄いだろう。 周囲はライスリングについて誤解をしているようだが、当人らで解決すればいい。 ウズラマをエリカに運ばせて調整した。 今日はもう、起動させないほうがいいだろう。 こちらが対応に苦慮している真っ最中に、名前も思い出したくないクソ野郎から、 「卿はまるで、アーキバスを最強の男に見立てて、 そこに奉仕する己も強いのだと周りに誇示しているように見える。 人形遊びをその自己顕示欲の道具にしているのも、正視に耐えかねる」 などと侮辱された。 サリエリが間に入ってきたせいで、うやむやになったのも腹立たしい。 直属の部下だったならすぐにでも再教育センター送りにしてやったのに。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌15 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌15 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今までにない不具合だ。 ウズラマは情緒不安定で、明らかに苛立っている。 最低限の業務はこなしているものの、 精度が低く、粗雑で、集中力が欠如している。 あの子は何とか取り繕おうとしていたが、 日頃からいい子にしていたのだから、 手抜きなどではない事くらい、私にもわかる。 この日に限って他の被験体や隊員らで調整台が予約で埋まっており、 18 00まで休ませるしかなかった。 脳波の計測値の履歴を手術前まで遡り照らし合わせたが、 月経前症候群に近い状態だ。 そんな馬鹿な! 卵巣は摘出したし、ホルモン分泌は機械的に管理している筈。 今回ばかりは原因が特定できず、解析班も頭を抱えていた。 せっかく、少し前までは良好な推移だったのに。 調整の最中、エリカにウズラマの部屋の片付けを手伝わせたが、 報告書に添付のあった写真は酷い有様だった。 ベッドの骨組みは少し変形していたし、シーツと毛布は引きちぎられていた。 備品も幾つかは交換が必要だろう。 血痕もそこかしこにある。 実際、ウズラマの全身を確認したら、自傷行為と思しき外傷が幾つも見受けられた。 本人から特に報告は受けなかったが……もしかして、気付いていないのか? 抱きしめてあげたら良かったのか? ……私が? あり得ない。 今までの接し方から変える事をあの子は受け入れられるか? 却って互いの負担になるだけだ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌16 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌16 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あの子は、まだ情緒不安定。 今日も、ずっと引きつった笑顔で、 時折、妙な歌を口ずさむなどしていた。 会話の最中も、突然話題が飛ぶし、誰もいない方角に顔を向けるなど、 異常行動がエスカレートしている。 エリカに定期的に観察するよう命じているが、 この前のような自傷行為はひとまず落ち着いているという。 それと、本社から安定化手術の打診について回答があった。 「もともと使い捨てる予定だったから、その必要はない」 「戦闘補助AIが完成すれば少ないコストでいくらでも増員できる」 という内容だ。 あの子宛てにはその内容を伏せたメールが別に届いていて、そちらには、 「調整の優先度を上げて構わない」 とあった。 ……本社の決定は絶対だ。 私にそれを覆す権限はない。 企業への奉仕は大変な栄誉。 それを、気の迷いで誰かを特別扱いなど、 企業に身を置く者として間違っている。 何度も両親から教えられてきただろう、 エヴェリン・ヘムウィック・オブライエン。 全てはアーキバスのために。 私情は捨てる。 あの子自身の、資産としての価値を企業に証明できるなら、 つまり使い続ける価値があると証明できるなら、 少なくとも肉体は保存されるだろう。 その頃に、あの子があの子のままでいられるかは、私にもわからない。 母の伝手で手配してもらった監視役は、近日中に着任する。 表向きは増員という形だが、なんであれ構わない。 私兵による造反などないという証明ができるなら。 他ならぬ私が証明する。 してみせる。 私達が企業のために生きているという、絶対の事実を。 忠義を見せる時が来た。 今は、それだけを考えねば。 私達の生まれてきた意味を、私達が損ねてはならない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌17 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌17 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 監視役のステラが着任した。 ウズラマの人当たりの良さが好影響なのか、 早々に打ち解けたようだ。 着任の挨拶を終えてから考えてみたが、 元独立傭兵を監視役として選定した本社は、 私達を現時点では脅威になり得ないと判断したのかもしれない。 それを問いただすすべを持たないし、 元よりそのつもりもない。 結果を出して、許しを得るだけだ。 ステラが私を邪教の司祭がごとく見做しているのは気に入らなかったが…… そのほうが私の忠義を、企業への愛を、 生きる価値についての私の見解を、 客観的に評価した上で報告してくれる筈だ。 ここまで書き終えたところで、 件のステラが早速の洗礼を受けたらしい。 ウズラマを置いて、顔面蒼白で駆けつけてきた。 その後、エリカから報告を受けた内容によれば、 ウズラマは支離滅裂な内容を口にしながら、壁に頭を打ち付けていたという。 不具合発生中の自傷行為は、既に初の事例ではない。 エリカへは、ウズラマの不具合発生時はすぐに調整カプセルへ運ぶように指示を出してある。 幸いこのヴェスパー・オフシュートには、 しらふでも問題行動を起こす面白い馬鹿共がそれなりにいる。 当面の間は、奴らを隠れ蓑にさせてもらおう。 大丈夫。 ウズラマもエリカも、私の次くらいには企業への忠義に篤い。 愛しの妹達。企業の未来を照らす者達。 誰にも、潰させはしない。 たとえ私が死んだとしても。 スネイル閣下。 私をお導きください。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌18 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌18 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 ウズラマとエリカに、新機能を追加した。 五感の拡張と、AIとデータベースの連携した分析機能。 ACおよびMTの武装と対応を複数パターンから分析が可能になる。 そして、これは生身の人間にもある程度は適用される。 馴染んでくると、歩幅や足音、二酸化炭素排出量を検知して、 誰が近くにいるか判るようになってくる。 ただ、副作用についてウズラマから報告を受けた。 本日の不具合発生後、しばらくしてからの事だった。 近頃は口頭だけではなく文章と図解まで用意し、 私が求めている情報を的確に報告してくれるようになった。 そのウズラマの報告によると、 今回の機能拡張の副作用で、 不具合発生の予兆を知覚できるようになり、 また不具合発生中の記憶もある程度明晰になったという。 ……そのような機能はプログラムしていない筈だ。 あの子の証言から、左脳に何かしらの損傷と それに伴う脳出血があるのではと解析班に脳をスキャンさせたが、 特に異常は見られなかった。 損傷も、病変も。 ……発見できない病巣は、取り除けない。 エリカに無くて、ウズラマにはあるもの。 生来の身体が保有する人格。 ではエリカにあって、ウズラマには無いものは? AI搭載前に、自我を喪失するほど身体を加工された経験だ。 今は、現時点でできる事をしていくしかない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌19 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌19 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 いよいよ、危惧していた事態となった。 テストとはいえ、戦闘中に不具合が発生した。 今まではACに接続してさえいれば、正常に作動していたのに。 それでも本社からは 「次はこの機能を実装しろ」 「要求する水準を引き上げる」 といったメールが次から次へとやってくる。 現在最も長持ちしている被験体である、 ウズラマを指名して、だ。 これで使い物にならなくなったと本社から判断されれば、 あの子は廃棄処分になる。 そんな事があってはならない。 開発中の新型ナノマシンをあの子の脳に投与した。 このナノマシンは少し曲者で、 適合するまでは発熱と倦怠感、喉の痛みなどがあるだろう。 それから、記憶の混濁も。 ファクトリーの在庫を幾つか潰して、短期間に何度もテストをして、安全レベルを上げた。 本当はもっと治験を重ねたかったが、 そう悠長に構えてもいられない。 このナノマシンは、 次の段階への鍵となる。 治療医からは関係者全員含め、ただの風邪だと説明させた。 事実を知っているのは僅かでいい。 ただでさえ、あの子は気が滅入っている。 不安がらせて悪影響が出てはならない。 うなされているあの子の手を握ったら、 あの子は何と言ったと思う? うわごとで「不出来なモルモットでごめんなさい」とこぼしていた! それに……「お使えできなくなるのは寂しいけれど、不要になったら、すぐにでも私を捨ててください」とも。 震える声で。 震える手で、握り返しながら。 あの子は、ずっと、覚悟を決めていた。 ……あの子の忠義と覚悟に、私も返礼しよう。 ヴェスパー・インプレメント部門には協力をしてもらうよう話を付けた。 より高度な疑似人格を作成可能な部門だ。 次の段階。 それは、ウズラマの脳に、もう一つAIを増やす事。 不具合発生中の動作をサブAIに肩代わりさせれば、戦闘中の動作は保証される。 強化の段階も進んでいる今の彼女なら、 きっと耐えきってくれる筈。 待っててね、ウズラマ。 企業はきっと、貴女を欠かせない存在だと認めてくれる。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌20 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌20 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 明日の予定を前倒しにすべきだったかもしれない。 被験体管理部門から苦情に近い報告を受けた。 ウズラマがシャワーの最中に不具合発生。 裸体で歌いながら、喫煙所まで徘徊していたという。 エリカに回収させてリセットコードを打ち込んだあとも、 ひどく憔悴した様子だった。 無理もない。 他にケアできる者もいなかった。 ヴァージニアは出撃中。 ステラは定期調整中。 現場に居合わせていたバーンズは……あれで気の回る男だが、 評判を鑑みるに彼の言葉では何ら慰めにならないだろう。 サリエリから、アーカイブに認知症患者の介護に関する書籍があるから参考にしてはとの提案を受けた。 かつての私だったら余計なお世話と切り捨てていたかもしれない。 今は違う。使える物は何でも利用させてもらう。 礼を言いそびれたのが心残りだ。 明日は、ロジック再修正のためのインストールを実施する。 不具合発生の際に、身体の制御を別のAIに切り替えるというものだ。 インプレメント部門の協力を得て、ウズラマ本来の人格に限りなく近づけた。 ただし、多数の被験体を使ってテストした結果は、 精神面ではなく、あくまでその『行動』をなぞるだけ。 主任研究員からの報告では、 対象の『精神』を何度も切り替えると、 いずれAIに何もかも乗っ取られて別人になるという。 だから、そこはオミットせざるを得なかった。 これにより、直前まで実行中だった動作を完了させるよう動かす。 そこから予測される、次の最適な行動を自動で実行に移すようになる。 その間の記憶が残ってしまう事と支離滅裂な言動まではカバーできない。 少なくとも日常生活は破綻しないだろうが…… 奇行に走る確率が劇的に減らせるとはいえ、 勝手に身体が動く事への精神的負担は想像に難くない。 本当は「自分でそう選択した」と錯覚できれば一番だが…… それと、私とエリカも、遠隔のリセットコード送信機を搭載した。 万一の事態でも、ウズラマの尊厳は守られる。 加えて、ウズラマにAIが馴染むまでは、エリカと同室してもらう。 いずれも、安定化とは異なる。 暫定的な措置だ。 開発予算が下りていない研究は進められない。 付加機能として、並行して作っていくしかない。 ウズラマ、ごめんね。 今の私には、これが精一杯だ。 それでも。 たとえどんな犠牲を払ってでも、貴女とエリカの価値を認めさせてみせる。 歪みも矛盾も、 省みる段階はとうに過ぎているのだ。 私達は企業だ。 価値さえあれば、認められる。 忠義とは、価値の評価基準における一つの軸だ。 来月の発表会までには、完璧に仕上げてみせよう。 愛しの我が妹も、きっとそれを望んでいる。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌21 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌21 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 インプラントは無事に完了した。 部屋へ様子を見に行くと、あの子は声を上げて泣き出した。 最初、怖い夢でも見ていたのだろうと思っていた。 けれど、すぐに 「ありがとうございます」 「大好きです」という言葉を耳にして、 それが嬉し涙なのだと気付いた。 私はヴァージニアに教えられた通り 抱き締めようとしたけど、やめた。 私にその資格などない。 AIが『慕え、愛せよ』と命じれば脳の常駐ナノマシンは、 いとも簡単に脳内物質を電気信号で誘導してしまう。 もうとっくのとうに、あの子は本来の感情を保つ機会を失っている。 最初に私を『お姉様』と呼んでくれたのだって、 本当は、私への恐怖感を少しでも軽減したかったのではないか。 だから……私なんかが、愛されていい筈がない。 あの子は私のため息を、呆れだと思っただろうか。 そのほうが、都合がいい。 こんな情けない葛藤、あの子に知られたくない。 結局、定例会議の時間ギリギリまで頭を撫でてあげた。 それだけなら、私は自分自身を赦せる。 あの子との同室をエリカにさせて正解だった。 かつての私ならともかく、 今の私では、もう耐えられそうにない。 まったく、笑えてくる。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌22 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌22 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 AI増設から、あの子は不具合発生の間隔が短くなった。 一日一回は、私かエリカのどちらかがリセットコードを送信している。 だが、体液を垂れ流して徘徊するような事態は、 あれから一度も発生していない! 凡百の木偶人形どもでは、 こうも上手くは行くまい。 なるほど、ウズラマの両親はあの子を供出するまでに、 よほど気を配っていたものと見える。 やはり土台が違う。 しかし受領後にここまで辿り着いたのは、 私の功績と、何よりあの子の努力ゆえだ。 それより、ライヘンバッハみたいな名前のクソ野郎は、 よくもまあ相変わらず、ああも多彩に悪態をつけるものだ。 事前に辞書でも引いて調べて練習してきたのか? なまじ手は動かしているだけに、 余計に始末が悪い。 私は無視しているが、それでも効率は落ちる。 殺気立つエリカを抑えねばならないためだ。 あのライトスタンドめ。 アドミン部門のヴェインに来て貰ったほうがまだマシだ。 その場合はドラクロワが騒がしいだろうが。 あの馬鹿共はイグレシアを見習ったらいい。 イグレシアは口でこそ反抗的だが、 こちらの邪魔だけは絶対にしない。 いっそ、私の部下に加えたいくらいだ。 ウズラマならきっと友達になってくれるだろう。 バルデスに言ったら、 「あの男なりにウズラマとエリカを案じている」だと! 見え透いた嘘で私の神経を逆撫でするなよ、クソ虫が! 過労死しない程度に雑務をそれとなく押し付けてやる! + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌23 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌23 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 安全が保証されているアリーナで、 なおかつ独立傭兵の雑魚が相手とはいえ、 単機でこれほどの成果を叩き出してくれるとは。 初出撃の頃とは雲泥の差だ。 思わず立ち上がって歓声を上げてしまった。 あいにく現地へ試合を見に行く暇がないから、 中継での視聴だ。 近くで同じ中継を観ていたバーンズが目を丸くして、 何があったのかとしきりに聞いてきた。 どうもこうもない。 この子は一生に一人会えるとも知れぬ、逸材の中の逸材! 我らアーキバスの、希望の光! 今後は単機での出撃も視野に入れよう! ステラには悪いが、見せ場はうちの子に譲ってもらう。 ……けれど、ふと疑念が浮かんだ。 私が愛しているのは……あの子自体? それとも、あの子の生み出した成果? 今までは、それらが同一のものかどうか疑ってすらいなかった。 今は……それを混同するまいと奮闘している。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌24 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌24 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今日はうちの子の話で持ちきりだ。 いけ好かない女狐が、よりにもよって うちの子の華々しきデビュー戦を面白おかしく書いた記事を メールであちこちに送りつけていたのだ。 バーンズも便乗して変なあだ名を吹聴して回るし、 その『モルモット令嬢』なるあだ名を、 うちの子がまんざらでもなさそうにしているのも面白くない。 私が口を差し挟むほどの事でもないが。 夜、ウズラマからメールで不具合の自己診断報告が来た。 発生時刻、周囲の状況、その時の感覚、直前までの行動が 正確に記載された、完璧な報告書だった。 でかした、愛しの妹よ! 解析が進めば、不具合の発生自体を防止できるかもしれない! 上手く行ったら、来週の発表会では ウズラマとエリカの二人にも スピーチとプレゼンテーションをしてもらおう。 練習などは不要だ。 不具合発生の防止が叶えば、あとは原稿さえ作れば何とでもなる。 発表時に緊張していても、 それは人間らしさを残している証拠だ。 その程度で本社も見限りはしないだろう。 気掛かりなのは、 私の両親も発表会を見に来ると言い出した事だ。 ウズラマとエリカへ抱く私の感情を、 悟られなければ良いのだが…… + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌25 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌25 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 発表会の結果について両親からメッセージを貰った。 いつもと大して変わらない内容だった。 今回に限り、ひとまず「後日確認します」の文字でだけ返して終わらせた。 ここに添付だけしておく。 + ボイスメッセージ アデーラ・オブライエン アデーラ 忙しいので手短に。 エヴェリン・ヘムウィック・オブライエン。 貴女が子供の頃、私は貴女にやらせた習い事の全てに「忙しくて見に行けないから結果だけ伝えなさい」と言ってきました。 今回も、そうすれば良かった。 僅かな余暇をもなげうってまで、見るには値しなかった。 イグレシアなどの他プロジェクトに比べて業績がぱっとしないのは、 ひとえに貴女が本気を出していないからです。 まさか人形遊びをするために、あれを作ったのですか? 今までに貴女を教育するにあたり、 どれだけの金額をつぎ込んだと思っているの? ACに乗っているから何だというの? 貴女がCランクで、他の二人がD? 三人集まって、その程度なの? これでは機体を他の誰かに譲ったほうがマシです。 高いおもちゃで遊ぶだけなら、今まで貴女に使った費用を全額回収しますからね。 たまには「流石は私達の子です」と言わせてみなさい。 当然、本メッセージに対して如何なる反論も許可しません。 + ボイスメッセージ シモン・オブライエン シモン 馬鹿娘! よくもまあ、あんなにも口ばかり達者で頭の回らない馬鹿女に育ちやがったな! あんなガキの作文を、したり顔で読み上げやがって! 俺達の面子が丸潰れだ! ウズラマ家のご両親に申し訳ないと思わなかったのか? 今回は晴れ舞台という事で、特別に最初の10分間のところだけ文字起こしして、指摘を書き加えた物を添付してやった。 俺は忙しいから、残りはどこがダメだったか自分で考えろ。 3時間以内に返信が無いなら、やる気が無いと見なす。 もうガキじゃないなら、わかっているよな? それと「慰安任務のノウハウはインプット済みか?」という質問は、うちの課長からだ。 よりにもよってお前は、仏頂面で「そのような運用は想定しておりませんので」と答えたな。 あの質問の意図を理解していないようだから教えてやる。 あれは「現状その程度の価値しか見出せない」という意味だ! 相手の言葉の裏にある意味を常日頃から考える癖を付けろと言ったのは、 お前が5歳の頃から、これで通算1373回目だ! 俺の記憶容量をこれ以上圧迫するなら、お前の不細工な顔に「生まれてきてごめんなさい」ってタトゥーを入れてやる! 反省しろ! 愚図! 夜になっても通知が鳴り止まないが、 それどころではない。 そんな事より、ウズラマの件だ。 診断結果が予想外だった。 今私達の接しているウズラマが、実はAIで作られた疑似人格とは。 思えば、意味不明な言語はともかくとして、 機能追加の際に想定とは異なる別の機能も付随していた事があったのは、 この素体人格が表に出ようとして、 プログラムを内側から新しく組み立てたのだろう。 早めに判明していたら、無駄な手間を省けた。 それこそ、あの子はAランクまで到達できていたかもしれないのに。 ショックを受けているのはあの子も同じだ。 実は作り物だったなんて、受け入れがたいに決まっている。 ステラに至っては取り乱して「私の中に共存させられませんか?」などという提案をしてきた。 何のための監視か。 職務への理解が薄すぎる。 ……とにかく、これからの事を考えよう。 AIと素体の作業効率の差は如何程か? どちらかを消去した際、予測される不具合は? 少し時間をかけて、AI人格と素体人格を同時にアクティヴにさせて、私と対話させてみよう。 それと……企業にとってあまり重要ではないが、一つ気掛かりな事がある。 いつから成り代わっていた? 私の記録では、AIのインプラントは20回目の手術から。 ……私を姉と慕ってくれたのは、かなり初めのほうからだ。 あの頃から既に、あの子の両親が手を加えてAI人格だったとしたら? それを思うと、私情を交えず判断できる自信がない。 研究に捧げてきた生贄という点では、 あの子も例外ではないというのに。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌26 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌26 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あれから一睡も出来ないまま翌日の朝になる。 あの子は、まだ部屋を開けてくれなかった。 そんな折に、本社から査察が来るという連絡を受けた。 ……抜き打ち調査だ。 出入口はライスリングに突破させ、 部屋の隅でうずくまるあの子を、エリカに叩き起こさせた。 すっかり参っていたあの子に、私は何もできなかった。 今回の査察は施設全体に及ぶから、 事細かに時間を掛けていられない。 あの子の日記も、端末をマスター権限で開かされる。 中身の確認には私も立ち会った。 下書きのまま放置されていた物も含めると、 あの子はほぼ毎日のように日記を付けていた事になる。 何となく、私とあの子は同じ時間を生きていないような気がした。 ちなみに、一部の作戦の内容が記載された部分は削除した。 本社の指示で、これから私は、あの子の廃棄処分を撤回して貰えるよう、 レポートを作成せねばならない。 当然、あの子と話す機会も与えられなかった。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌27 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌27 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 レポート提出後、本社から回答があった。 ヴァージニアとサリエリが嘆願書をしたためてくれたが、 それらは本社の決定に何ら寄与しなかったと言われた。 廃棄処分の撤回について、提示された条件を、 ここにも書き記しておく。 アリーナランクA以上の者による定時報告 指定した期日までに、下記要件を満たす 素体の耐久テスト アリーナにおけるBランクへの昇格 指定要項の教育完了 強化技術部門の技術試験への全面的協力 想定外の新機能が『生まれた』場合は全て報告する ……今までと、そう多くは変わらない。 何も問題ない筈だ。 恒久的な廃棄処分免除は、 これらの条件をクリアしていると本社が判断してから、 改めて条件の提示がなされる。 私が今できる事は限られている。 忠誠を示し、価値を証明せねば。 あの子への面談は、エリカに代行してもらった。 結果は報告書にまとめてもらったが、 要領を得ない回答が多くて心配だ。 本来あの子の仕上がり具合であれば、明瞭に答えられる筈なのに。 ただ一つ明白な事実は、どちらの人格も、 私を慕ってくれているという事。 ああ、よかった! ずっと悩み続けてきたけど、 これで終止符を打てる! いつも頑張っているあの子には、 そろそろプレゼントをしてあげないと。 きっと、喜んでくれる筈。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌28 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌28 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 何人かは勘づいていたとしても、 もう、終わらせた事だ。 本来の素体人格に戻した、というのは嘘だ。 暴れて右の義眼を破損したというのも。 実際の処置は、乖離性同一性障害の治療と同じ。 つまり『統合』だ。 幸い、素体人格とAI人格には、それほどの差異は無い。 強制的に統合した影響で両者の人格が滅茶苦茶に混じり合っても、 表面上は今までと変わらず、 一日のうち何時間か、おかしな事を言い出すだけの、 とびきり優秀な部下として生きていく。 植物状態から疑似人格で動いているエリカに比べると、 土台がある分、定着も早いだろう。 トリガーになり得る右眼も、 摘出して試作品の接続デバイスに入れ替えてある。 加えて、特定条件下でセロトニン、ドーパミン、 オキシトシンの分泌を促すプログラムもインストールした。 私の両目にも、プログラム起動のコード発信器を追加している。 そして万一の事態にも対応済み。 従来のリセットコードに加えて、 少しでもアーキバスや私への敵意を抱いたら、 すぐにベイラムや解放戦線への敵意に 転化するようにしてあげた。 これなら、お互い余計な事なんて考えなくていい! これからも新機能をたくさん追加しよう。 以前は失敗した、アーカイヴの戦闘データも、 今後は全部まとめてインストールする。 細胞の一つ一つにまで、企業に尽くせる歓びを教えてあげる。 耳をつんざくほどの、産声が聞こえてくる。 一生懸命、脳に馴染ませているのだろう。 常人では耐えがたい苦痛にも、 きっと乗り越えてくれるよね? ……やっぱり私は、企業のために頑張る貴女が好き。 妹分に名前を付けてあげた貴女が。 ガレージで様々なパーツを悩む貴女が。 アリーナで、はにかみながら「アーキバスをよろしくお願いします」と言ってくれた貴女が。 新しい貴女も、私の好きな 頑張り屋さんのウズラマでいてね? たとえ、怪物に成り果てたとしても! ……愛しているよ。 私の可愛い、可愛い、妹。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌29 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌29 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今日は、記念すべき日だ。 産声を上げて、新たなるウズラマが誕生した。 頑張って、頑張って、汚くなっちゃったから、 綺麗に洗ってあげた。 汚れを落としたら、白髪が目立った。 とってもつらかったね。 でも、私は何も間違ってはいない。 結果を出せないという病を、 私は治療してあげたのだから。 なのに泣きながら「どうしてこんな事したんですか!」と責められた。 おかしなウズラマ。 貴女が望んだ事なのにね? 素体人格とAI人格が手を取り合い、 一つに溶け合い、共通の目的へ向けて頑張れるように、 私はこれだけたくさんのお手伝いをしてあげたよ? 他のカスみたいな雑魚実験体どもには、 いくら金を積まれても絶対にやってあげない破格の待遇だよ? 拒むなんて、許せない。 絶対に許さない。 私はこんなにも悩んだのに。 再教育センターで用いられているスタンバトンで、 私の熱意を何度も焼きつけてあげた。 旧世代型の技術も使いようだ。 脳以外の部位なら、こんなにも有効活用できる。 火傷だらけになっても回復が早い。 お仕置きのあとは、 時間をかけて愛を深め合った。 信頼関係が上質な仕事を生み出す。 私は馬鹿だから、今更になって気付いた。 ねえ、仔猫ちゃん。 貴女は初めて? 私は初めて。 よくわからないから、予習したよ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌30 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌30 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 愛し子をアリーナへ。 今回の相手は私と同じCランク。 とはいえ、私の育てた愛しい妹の手に掛かれば、 ものの十数秒でスクラップだ。 それもその筈。 あの子には今、ロックスミスを始めとして、 様々なACの戦闘データをインストールしてある。 ほんの一部分とはいえ、あの独立傭兵レイヴンのデータも。 さておき。 エリカから報告を受けた。 なんでも、ウズラマから有事の際を頼まれたとか。 ああ、可愛いウズラマ! 高みを目指すプレッシャーが今更怖くて、 よりにもよって私の手足であるエリカに内緒話とは! もちろん、私からはバレているとは言わない。 隠されても探し当てるのは不可能ではないが、 それで余計な手間を増やされては困る。 20回目の手術で貴女にインプラントした戦闘補助AIは本来、 神経伝達物質の調整で、任務の妨げになる感情を排除する筈だった。 せっかく余計な事を考えないようにしてあげたのに、 貴女の脳の中身が喧嘩したせいで、 何もかも台無しになってしまったのを忘れていない? しょうがないな。 明日もう一度してあげよう。 今度は上手く行く。 大丈夫。アップグレードした自己診断プログラムが、 足りないところを補ってあげる。 心にぽっかり空いた穴。 私の声で、埋め尽くしてあげるからね。 一緒に頑張ろうね! ふと目が合えば、あの子は笑顔になってくれる。 でも、ふいに見せる横顔は違う。 なんだかとっても悲しそう。 調整が足りないのかな? + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌31 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌31 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今日はあの子に、ナノマシンの皮下注射をした。 このナノマシンの役目は自己修復機能と伝達回路の強化だ。 副作用としては体重が1.5倍になり、 肌はエリカよりも青白くなった。 お人形さんみたいで可愛い。 あと、浮き出ていた骨董品みたいな回路を撤去した。 今更だけど臓器もエリカとお揃いにして、 素体臓器は研究費用の足しにした。 あれらは、もういらない。 今までより少食になってしまったけど、 エネルギー効率向上には代えられない。 今後は骨格も新機軸のコーラル合金に置換する。 私を「狂っている」などと糾弾する声を聞いた。 では訊かせてもらうが…… お前達は、お前達の愛する誰かの成功が約束されている輝かしき道から目を背けるなどという怠惰に堪えられるというのか? 私なら、そのような愚行、舌を噛んででも思い留まる。況してや、見ろ! ウズラマは最高だ! これ程までの、可能性を望み、全てを捧げる聖女を、凡俗で凡庸な凡百の道へと引きずり落とす事を、それがどれだけ罪深い愚行か解らないというのか。バーンズ……お前は馬鹿だ。バルデスも、ヴァージニアも、サリエリも、何故、彼女の望みを理解しない? あの子が死にたくないと望んだ。使い捨てで終わらせないためには、こうするしかなかった! 私に手抜かりがあれば、あの子は廃棄処分になるところだった! やっとの事で、私は撤回の約束を取り付けたのに! 栄えある宇宙唯一の企業アーキバスと無限の可能性に愛された最高傑作であるあの子は私と共に価値と忠義を示し続けるのだ。誰にも否定させはしない。結局何の助けにならないなら初めから手を差し伸べてなどくれなければいいのにどうしてどいつもこいつも私に僅かな希望を見せてそのすぐあとに失望させるんだ。そんなの、あんまりだ。企業と、ウズラマとエリカだけが、私に希望をくれる。その他の凡愚共も、何が全てを捧げるに値するかを、そろそろ真剣に考えたほうがいい。 適合までの間、いつものように妹を膝に乗せて、 頭を撫でながら、そういう話をしていた。 あの子は曖昧に笑うだけで、何も答えてはくれなかった。 なんで? 新しいパイロットスーツが気に入らなかった? エリカとお揃いにしてあげた上に、 貴女のACに色も合わせてあげたのに。 今までのダボダボな、何十世代も前の 宇宙服みたいなパイロットスーツが良かった? 体液でガビガビになっちゃった私服とか、そんなに大事だったのかな? でも捨てちゃったよ。これからは、そのパイロットスーツしか着ないから。 貴女のご両親は、愛はあるけどセンスがない。 今後は私が、貴女の私物を全部管理してあげる。 貴女は時々忘れっぽいところがあるみたいだし、 ログを私の端末で受け取ってあげよう。 内緒で送っているお手紙もね。 私に任せれば大丈夫。企業に評価されるよう、 ビシバシ教育してあげるからね。 私も、今までのを捨てて貴方達とお揃いにしようかな。 休みを程々に切り上げさせて、 他の有象無象の人とか物とかを 処理するのを手伝ってもらった。 私が「いらない」と言ったら捨てるだけの、簡単な仕事だ。 その時に、廃棄処分免除の件などを伝えた。 貴女に使った技術の全てが必ずしも継承されるわけではない事。 それでも、あらゆる技術試験を貴女に施す事。 そして、貴女がその価値を認められ、 今後はアーキバスの一員として、 廃棄処分にはせず、私達と共に在り続けられるようになった事。 包み隠さず全部、伝えてあげた。 あの子は、泣いた。 「ありがとうございます」だってさ。 今度はとっても、嬉しそう。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌32 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌32 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あの子のほうから抱きついて頬擦りまでしてくれるようになった。 素直になってくれて嬉しい。 おかげで、アリーナの会場へもデートに行くようだった。 業務は真面目にやっているのだから、 移動の待ち時間くらいは、互いの愛を確かめ合ったっていいじゃないか。 格上を優先的に倒せば配当金も多めに入る。 私は母のように徴収したりなどしない。 他で見返りをすでにたくさん貰っているのだし、 あの子が稼いできたお金だから、当然あの子に使わせてあげる。 何に使うのかな。 今度、聞いてみよう。 さて今回の相手はBランクだった。 処理は10秒で完了。 新記録! 素晴らしい。 流石は私の見込んだ愛し子だ。 いっそ、私ごときが姉と名乗るのもおこがましいほどだ。 当然、私は報告し、 本社からさっそく回答があった。 要約すると、こう。 「更なる戦果を」 凡百の馬鹿どもは「またか」と宣うだけで 欠片も理解しないだろうが、私は理解している。 平和とは完膚なきまでの制圧からしか生まれないのだ。 愛しの聖女に次のプレゼントを用意した。 流石に右目が空白のままなのは、そろそろ可哀想だからね。 試作品の真っ黒な義眼は、 テスト用のホルダーに組み込むと、 虹彩の部位が鈍い金色に光り、 天使の輪が幾重にも重なったよう。 この義眼はAC接続時に裏返ってアダプターとして機能する。 加えて左目に比べ処理能力が250%も高い。 暗視センサーも標準搭載だから、 白兵戦にも対応できる。 それから人格に不具合があれば、 予兆の段階から第三者にも視覚的に判別できるよう、 右目の色が変わるようになっている。 心配しないで。 これもゆくゆくは量産体制を整えるから。 それと! 両手の骨を新開発のコーラル合金に置換して、 触れた相手を制圧するための小型スタンバトンの機能を付加する。 生半可なボロいパイロットスーツでは防ぎきれない代物だ。 反動でウズラマの指の皮膚も焼けるし、 出力か連続作動時間が限界を超えると発火するが、 作動中はナノマシンがアドレナリンとドーパミンを強制的に過剰分泌させるから、 ウズラマ自身は痛みどころか快楽しか感じない。 貴女に手を出す悪い虫が コックピットを開けて油断したら、お仕置きしようね! Aランクを倒したら、今度は……ヴァージニアとの再戦も視野に入れよう。 今度は演習ではなく、アリーナで。 V.O ヴァージニア。 かつて私の心の支えの一つであった、 今や、うちの子達の成長の礎に過ぎない、 そして私と同じく歯車の一つでしかないながらも、 強く在り続けてきたがためにいくつもの風穴を胸に空けた、 悲しき古強者の、ヴァージニア。 新しく生まれ変わった、うちの子をよろしくね。 あの子は私によく似て努力家なんだよ。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌33 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌33 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 ついに、あの子がAランクに昇格した! 私の理論が! 私達の価値が証明された! ようやく結果を一つ残す事ができた! よくやった! 流石は愛しい妹…… 処理速度向上、耐久力向上のアップグレードが特に効いた。 今までより動きの無茶が利くようになったのは大きい。 当然、父と母に報告。 父からは「お前ならもっと早くやれただろう」と前置きしつつも褒められた。 それと愛しの天使は、発表会の折に投げかけられた、 慰安業務云々の質問をまだ気にしていたらしい。 以前に受け取ったメッセージによると、 あの質問を投げかけたのは父の上司だ。 父へは、報告ついでに発言の訂正を求めたが、 父から「上司も俺も忙しいから無理だ」突き返された。 仕方ない。諦めよう。 いちいちこんな事を気にして時間を割くのも馬鹿らしい。 母の返信は期待しない。 この前「しばらく忙しくて返事できなくなるが、報告は定期的に行うように」とだけ残し、 それきり何も送ってこなくなった。 昔から結果ばかり気にして他人の事情にはお構いなしだから、 得には期待しない。 あの子のご両親は、祝福してくれているのだろうか。 きっとそうに違いない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌34 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌34 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 あの子は「棒で叩かれても平気」などと日記に書いていた! Aランクに上がったからと調子に乗っているようだから、 お望み通り立場をわからせてあげた! だいたい、後ろ向きな夢日記なども気に入らない! こんな非現実的な空想、一体何の足しになるというのか! 積み重ねたログからの将来予測ならともかく、エリカが二人いるなどという 非科学的な妄想を垂れ流される身にもなってみろ。 当然、念入りに殴らないと駄目なレベルだ。 そもそも不安物質の分泌量をナノマシンで制御していた筈。 また機能停止か? 冗談じゃない! しばらくは再調整を控えるよう本社から通達を受けたばかりだというのに、さっそくご覧の有様だ! 手間のかかる妹は健在か? いつまでお前のケツに付いたクソを拭わせるつもりだ! マンネリ化で気力不足になっているなら、 今後のスケジュールを増やしてあげよう! 評価される機会が増えれば、活躍が皆の目に留まる! それとも、そろそろ家族を増やしたほうがいいのか? ステラが来て以降ご無沙汰だ。次は何を仕入れようか。 有象無象どもではペットにすらならない。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌35 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌35 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 今日は指導の一環で、あの腰抜けを部屋で逆さ吊りにしてやった!! 任務中格上が複数人とはいえ一人も倒さず撤退だなんて手抜きを学習させた覚えはないあんな鉄屑軽くひねり潰してしまえばいいやればできるのに何を怖じ気づいているの況してや口答えとは貴女らしくもない私の言うとおりにしてさえいればSランク昇格だって遠くないし実際こうして折角認められたのだからこれからもたくさん価値を証明してもらわないとここでゴールと思われてはたまったものではない今回の手抜きは到底受け入れがたい。 ロープが安物だったから途中で千切れて、ウズラマは2メートルの高さから背中を打った。 痛覚の自動調整機能があるのだから、別に平気だよね? しばらく仰向けになっていじけていた。軟弱者か!? 私はこのように両親から教育を受けて成長した。 結果の出る教育方法を実践するのは当然! これも愛! 忙しくてゆっくり確認できなかったが、 あれから、サボらずちゃんと業務に戻ったかな? 再調整が解禁されたら、他の有象無象で実験しておいた新機能も盛り込もうね! ウズラマから同系統技術を用いた他の教科人間へ、脳波を直接送って指示を出すというもの。 本社から要望のあったいくつかの機能のうち一つだ。 そろそろあの子には部隊長クラスの働き方も覚えてもらわないと。 単体の群れよりも統率されたチームのほうがいい。 イレヴンなどの単機での運用以外が考慮されていない跳ねっ返りなど、 いずれは限界が見えてくる。 その点、イグレシアの脳波制御が大いに参考となった。 ラインハルトはともかくとしてオーベルシュタインはいやに協力的だったが、 社内コンペで勝ち残る確信があっての、あの余裕だというのか? こちらとしても足の引っ張り合いには付き合いきれないから、ありがたくもあるが…… 念のため、貴女とエリカは警戒しておいたほうがいい。 上手く行っている時こそ、誰かに背中を狙われる。 私の父の言葉。これもあの子に教えてあげよう! そういえば、父も連絡が取れなくなった。 今までも至急の案件で連絡をしても私のメッセージだけは 平気で無視をするような人だから、大方何かしら立て込んでいるのだろう。 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌36 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌36 残骸から抜き取った文章データ アーキバスの強化人間手術被験者の観察日誌のようだ エヴェリン・ヘムウィック・オブライエンと署名されている ---------- oo月xx日 謹慎中だから端末はオフラインだ。 日誌だけはつける。 ウズラマに裏切られた。 話があると会議室に呼び出してきたかと思えば、 ついに私への明確な叛意を示した。 それだけではない。 私に恭順を誓いながら、裏でこそこそと…… 信頼できない語り手とは、この事か。 創作論など何の役にも立たないからと捨て置いたが、 まさか、こんなところで仇になるとは。 数日前ウズラマからの告発を聞き届けたヴァージニアが、 バルデスと結託してウズラマの義眼に記録された映像データを本社に届けたそうだ。 それも『アーキバス社員のウズラマへのハラスメント行為』として。 ウズラマは、いつの間にかアーキバスの備品ではなく社員として登録されていた。 更には義眼の不具合アラート機能を逆手に取り、 不具合を欺瞞させる信号を発信して各所に暗号化メッセージを送っていた。 神経伝達物質調整を初めとする幾つかの機能も、いつの間にか除去されていた。 私が自室で謹慎中、それを知ったのは、 他ならぬバルデスからそれを聞かされたからだ。 ウズラマの担当医のみならず、バーンズやオーベルシュタインも一枚噛んでいたという。 バルデスは相変わらず仏頂面で「これほどまで多数を巻き込む求心力は評価に値しますね」などと皮肉を言ってきた。 あのクソみたいな顔面に何か投げつけたかったのに、投げる物がなかった。 どいつもこいつも私を騙して…… ライバルを蹴落とすために、横から成果を奪うとは。 あまりにも卑劣だ。こんなのあんまりだ! 私は強化技術の進歩に貢献したという点から再教育センター送りは免除されたが、降格処分。 以降は当面の間、バルデスが研究所を引き継ぐという。 急遽決定のため私の沙汰は追って知らされる、と言われた。 本社の決定だ。 どうあっても覆せない。 ……私の価値は、完全に失われた。 もう取り戻せなくなった。 それもこれも、元を正せばウズラマ…… どうして私を裏切ったの? 私は、こんなにも貴女を愛していたのに。 貴女の成長と成功のために、私はあらゆる手を尽くしたのに。 数多の有象無象の被験体とは違うと証明するには、 相応の理由が求められるって、 どうして理解できないの? 貴女を管理する事は、今や決して苦ではなかった。 むしろ、成果を出している貴女のそばにいられる事を嬉しく思っていたのに。 なんで、どうしてあんな言い方したの? 私が何を間違えたというの? 忠義と価値と愛だけが私を救ってくれると思っていたのに! 尽くして、捧げて、その果てがこれとは! もういい。 これからはヴァージニアの妹として、せいぜい頑張りなさい。 私には、枕元に隠し持っていた、このナノマシンアンプルがある。 本来は出先で手駒を手早く確保するための物だが、 あの子が死んだ時のために、 インプットしたプログラムや配合したナノマシンを あの子に投与した物と同等にした特別仕様を 秘密裏に予備を一つ確保しておいたのだ。 疑似人格データもウズラマと同じ。 今までの処置の殆どを早回しで実行するから、 身体にどんな影響が出るかはわからない。 でも、別に構わない。 今、アンプルを打ち込んだ。 頸動脈を通じて、ウズラマが私の脳へ流れ込んでくる。 神経細胞の隅々まで、あの子と同じ形へと変わっていく。 魂が、一つになるのを感じる。 やっと、ウズラマと一つになれる。 私の元から去って行ったあいつではなく、 私を愛し続けてくれる、最高傑作の妹と。 確かに、私は馬鹿だったね。 初めからこうすべきだった。 何もかも台無しにして失う前に、私がウズラマになれば良かった。 一人になる苦しみを味わうくらいなら、 私は私として生まれたくなどなかった。 貴女も、私の事など忘れてしまえばいい。 ヴァージニアは、私よりずっと上手くやるだろうから。 このナノマシン、回る 早い ぜぜ ぜんぜんぜんぜんぜんぜ全身 いた 一旦、保存、 + 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌37 文章データ:被験体番号E128-YL2経過観察日誌37 NO DATA → 文章データ:被験体番号L404-EN4の日記 登場人物 V.O エヴァレット ウズラマ E413-K09 -エリカ- V.N ステラ V.O ヴァージニア V.O バルデス V.O ライスリング エヴァレットいわく名前も思い出したくないクソ野郎 V.O サリエリ V.Oイグレシア V.V バーンズ V.A ヴェイン V.O ドラクロワ V.V ジュスマイヤー 関連項目 情報ログ -文章データ:鶉丸小夜の日記- 文章データ:被験体番号L404-EN4の日記 投稿者 冬塚おんぜ
https://w.atwiki.jp/faren_ency/pages/1548.html
ウズメ 登場シナリオ:オリゾンテ大陸 種別:放浪人材(顔絵なし・設定なし) エルフ系の放浪人材。アメノミハシラ系の巫女人材。 水C光Aでヒールプラス持ち。 名前 コメント