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最後の宴から一夜明け、アルビオン王党派の滅びの時は刻一刻と近づこうとしていた。 昨夜の内に老王が亡くなったことは誰にも知らされず、最早起き上がることすらままならないと貴族たちには伝えられていた。 貴族達はそれに涙しながら戦の準備を進めている。 亡命した者達を助ける為に落ち延びよと命じられた少数の者達は、ジョルノ達を運んできた船と乗り切らぬものは亀に乗り込み、ここを発とうとしていた。 慌しく王党派の貴族達が行きかう中ジョルノは足を止めていた。 壁に持たれかかって眠る貴族の横で、壁に掛けられた巨大な絵画を見上げている。 壁にもたれかかったまま眠っているのは、昨晩案内を買って出た貴族だった。 城内を粗方散策できたのはいいものの、日は昇りきりもう直ぐに貴族派が攻め込む時間までかかってしまったジョルノの顔色は少し悪い。 波紋呼吸により食事等は必要ない為朝食も辞退していたが、疲労の色は隠せなかった。 勿体無いなと、これから始まる戦の中で略奪や破壊を受けるであろう歴史ある建物や美術品を見て零したジョルノは、礼拝堂へ向けて歩き出した。 礼拝堂では既に、ルイズとワルドの婚儀が始まっているはずだった。 始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。 参列したのは亀とペットショップ。それにサイトだった。 亀の中では、テファ達が興味津々と言った表情で礼拝堂を飽きることなく眺めていたり、浮かれたポルナレフが既に酒宴を始めている。 周りに、他の人間はいない。 皆、戦の準備と脱出の準備でで忙しいのであった。 ウェールズも、すぐに式を終わらせ、アルビオンを脱出するつもりであった。 国王の死はまだ伏せられている。 もう起き上がることも困難になったと偽りを告げ、今はまだ王党派の旗印としての役目を果たしている。 ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた。 王族の象徴である明るい紫のマントとアルビオン王家の象徴である七色の羽がついた帽子を被っている。 これから死地に赴く貴族達の傍らで行われる婚儀に、ステンドグラスを通り抜け青や赤に染まった光で浮かんだ表情には憂いが見えた。 扉が開き、ルイズとワルドが現れた。足取りの軽いワルドと異なりルイズは、呆然と突っ立っている。 ワルドに促され、ウェールズの前に歩み寄っても、それは変わらなかった。 ルイズは戸惑っていた。今朝方早く、いきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだった。 死を覚悟した貴族達がこれから婚儀を行うという二人に暖かい眼差しを送り、去っていくのが、ルイズを激しく落ち込ませていた。 フーケとの戦いの折、勝てないとわかっていても、ポルナレフ達の静止も振り切り巨大なゴーレムに立ち向かった事などルイズはまるきり覚えていなかった。 深く考えず、まだ半分眠ったような状態のルイズの様子に気付いたポルナレフは眉を潜めた。 そこに少し疲れた様子のジョルノが音も立てずに入室し、亀を持ったサイトの隣に腰掛ける。 「おい、遅かったじゃねぇか。何やってたんだ?」 「昨日言ったじゃないですか。逃走経路の確保です…しかし、妙ですね」 「何がだ?」 「…あ、それ俺も思った」とサイトが小声で言う。 「また食堂で正座する気なのかあの人?」 小声で囁かれたものだったが、聞こえていたらしく浮かない顔をしたルイズに「今から結婚式をするんだ」と言って、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せていたワルドの動きが一瞬固まった。 新婦の冠は、魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚なつくりであった。 「ああ、なるほど」 ポルナレフが頷き、まだ少し要領を得ないらしいテファにマチルダが意地悪く口の端を持ち上げて説明をはじめた。 「テファ。ある所に長女がいき遅れて、次女は最近まで嫁の貰い手なんて望めない体だった貴族のおっさんがいた。だけどそのおっさんにはまだ、溺愛してる適齢期間近の三女がいたんだとするよ?」 「う、うん」 「溺愛してなくても普通貴族なら家の酒蔵にはその時に振舞う娘が生まれた年のワインがズラリ。その時に着る服も準備済み。ウェディングドレスとかだってどうするか考えてあるってのは珍しくない話なのさ」 「ええ…」 なんとなくわかってきたのか、苦笑いを浮かべながらテファが頷いた。 「そんなおっさんが愛娘の結婚式を勝手に挙げられたら……」 あぁ怖い怖いとマチルダは自分を抱きしめて体を震わせた。 それにジョルノが補足する。 トリスティンの貴族同士の結婚には家同士の結びつきを強める等の役割があった。 ワルドの出世に、その高い実力だけでなくヴァリエール家の三女と婚約しているという事実が大いに貢献している。 戦う能力だけを見ればトリスティンはおろかハルケギニア中のメイジの中でもワルドは有数の力を持っているだろう。 だが六千年と言う歴史あるこの国には、実力だけでは正しく評価されないこともままあるのだった。 結婚を大々的に公表し、その結びつきが強固なものであることを宣言できれば、ワルドの下にはまた少なからず配慮があるだろう。 ウェールズ殿下にという名誉は得られるかもしれないが、今というタイミングで行うメリットは少ないのだとワルドに聞こえないようにジョルノは耳打ちした。 サイトがステンドグラスで着色された赤や緑の光に照らされるルイズに見惚れながらほーっと何度も頷いた。 会場の片隅で交わされるそうした会話を耳にしながら、ルイズの黒いマントを外しやはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントを…新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントをまとわせるワルドの指先は震えていた。 しかもそのようにワルドの手によって着飾られても、ルイズは無反応だった………ワルドはそんなルイズの様子を、肯定の意思表示と受け取ることにして式を進めた。 始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの前で、ルイズの隣に並んだワルドは一礼した。ワルドはいつもの魔法衛士隊の制服を着ていた。 ウェールズの視線がいつの間にか本当にしていいのかね?と問いかけるものに変わっているのに気付いたワルドは、大きく喉を鳴らした。 「か、構いません」 「では、式を始める」 王子の声が、ルイズの耳に届く。でも、どこか遠くで鳴り響く鐘のように、心もとない響きであった。 ルイズの心には、深い霧のような雲がかかったままだった。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 その視線は近い未来、自分に降りかかる苦難を見据えているのか悲壮な覚悟が見え隠れしていた。 「誓います…!」 おお、とこの後のワルドの運命を確信しているサイト達から余りの紳士らしさに感嘆の声が上がった。 「無茶しやがって…」とサイトが零す中、にこりと笑って領き、トリスティン貴族の立派な姿に感銘を覚えたウェールズは、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読みあげる。 今が、結婚式の最中だということに、ルイズは気づいた。 相手は、憧れていた頼もしいワルド。二人の父が交わした結婚の約束。幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。それが今、現実のものになろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるのだろう。でも、それならばどうして、こんなに気持ちは沈むのだろう。 滅び行く王国を、目にしたから? ルイズも望んでいた立派な貴族としての姿であるはずの王党派貴族達を…死地に向かう彼らを目にしたから? 杖を捧げた者に従い、今生の宴を楽しみ勝つ見込みのない戦いへ向かう誇り高いアルビオン貴族達の姿がルイズの心を揺さぶっていた。 「新婦?」 ウェールズがこっちを見ている。ルイズは慌てて顔を上げた。 式は、自分の与り知らぬところで続いている。ルイズは戸惑った。どうすればいいんだろう? こんな時はどうすればいいんだろう…誰も教えてくれない。 「緊張しているのかい? 仕方がない。初めての時は、ことがなんであれ緊張するものだからね」 にっこりと笑って、ウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」 ルイズは気づいた。誰もこの迷いの答えを、教えてはくれない。 自分で決めねばならぬのだ。 ルイズは深く深呼吸して、決心した。 ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。ルイズは、ワルドに向き直った。 悲しい表情を浮かべ、再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの。ごめんなさい……」 ワルドは安堵のため息をついた。 ため息と共に、いつの間にか浮かんでいた汗に気付いたワルドは額をポケットから取り出したハンカチで拭う。 「日が悪いなら、改めて……」 「ごめんなさい、ワルド。私やっぱりできないわ」 苦笑していたウェールズは首を傾げた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドはそこで、ハッとした。 今ココで何故彼女に結婚を申し込んだのか…これからの方が、もっと、更に結婚なぞ望めない状況にトリスティンが置かれると考えたのではなかったかと自分に問いかけ、居住いを正す。 ウェールズは困ったように、首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。 「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今はわからないわ。こんな気持ちのまま私は…」 するとワルドは、今度はルイズの肩をつかんだ。その目がつりあがる。 表情が、いつもの優しいものでなく、冷たいトカゲか何かを思わせるものに変わった。 熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! その為に君が必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。 「な、何を言っているの? ……わたし、世界なんかいらないわ」 ワルドは両手を広げて、ルイズに詰め寄る。 ポルナレフはそんな友の姿を悲しげに見つめた。 何かを焦っているように、ルイズらより人生を積み重ねたポルナレフの目には映っていた。 「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」 その剣幕に、ルイズは恐れをなした。 優しかったワルドがこんな顔をして、叫ぶように話すなんて、夢にも思わなかったルイズは後退る。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! 君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう! 君は自分で気づいていないだけだ! その才能に!」 「ワルド、あなた……」 ルイズの声が、恐怖で震えた。ルイズの知っているワルドではない。何が彼を、こんな物言いをする人物に変えたのだろう? まだ憧れていた婚約者を信じる気持ちがルイズの頭に疑問を浮かべさせたが、豹変したワルドの表情からはその理由はうかがい知ることはできなかった。 余りにも必死すぎるとワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。 「子爵………、君の覚悟は真に立派だった。だが…残念だが君はフラれたのだ。ここは潔く……」がワルドはその手を撥ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 再びワルドはルイズの手を握った。ルイズはまるでヘビに絡みつかれたように感じた。 「ルイズ! きみの才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」 「だから何度も言っている! 自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」 混乱したルイズはワルドの手を振りほどこうとした。 しかし、物凄い力で握られているために、振りほどくことができない。苦痛に顔をゆがめて、ルイズは言った。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、在りもしない魔法の才能だけ。 ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」 ルイズは暴れた。ウェールズが、ワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。 突き飛ばされたウェールズの顔に、赤みが走る。立ち上がると、杖を抜いた。 「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは、そこでやっとルイズから手を離した。どこまでも優しい笑顔を浮かべる。しかしその笑みは嘘に塗り固められていた。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 ルイズは怒りで震えながら言った。 「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」 ワルドは天を仰いだ。 戦の直前というには奇妙な程周囲は静まり返っていた。 「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」 両手を広げて、ワルドは残念そうに首を振った。 「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ルイズは首をかしげた。どういうつもりだと思った。 ワルドは唇の端をつりあげ、禍々しい笑みを浮かべた。 「そうだ。最早、隠す必要もないかな…この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 「達成? 二つ? どういうこと?」 ルイズは不安に慄きながら、尋ねた。心の中で、考えたくない想像が急激に膨れ上がる。 ワルドは、皮手袋に包まれた右手を掲げると、人差し指を立ててみせた。 「まず一つはきみだ。ルイズ。君を手に入れることだ。トリスティンは混迷を極めていくだろう。そんな中での結婚など、とても難しいだろうからね。しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 次にワルドは、中指を立てた。 「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目……」 ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズが、杖を構えて呪文を詠唱していた。 怒りに燃えるポルナレフが亀の中からマジシャンズ・レッドを出していた。 しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 ワルドは、風のように身を翻らせ、ウェールズの胸を青白く光るその杖で貫いた…………はずだった。 青白く光る杖が突き刺さった大きな虎ほどもある巨大な火トカゲがウェールズを弾き飛ばしていた。 尻尾の炎から火竜山脈のサラマンダー(火トカゲ)だということにルイズは気付いた。 キュルケが使い魔とするサラマンダーと実に良く似ていた。 「な、なんだと…?」 理解し難い出来事にワルドが呟き、「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」 突然出現したサラマンダーに弾き飛ばされて死に損なったウェールズの放ったエアニードルが、呆然としたワルドの頭を貫く。 額を貫かれたワルドの姿が消滅した。 「ゴ、ゴールドエクスペリエンス…!」 ジョルノの代わりに亀の中でポルナレフが呟く。 「ワルド子爵。ポルナレフさんに免じて…今ならまだ性質の悪いジョークとしてあげますよ?」 柱に隠れているワルド本体に流し目を向けて、席から立ち上がったジョルノが言う。 その視線はゾッとするほど冷たく、どこか見下しているように見えた。 「あなたの人生の為に言っておきますが、無駄はやめた方がいい」 ジョルノの視線が向かう先にある柱に、皆の視線が集まっていく。 柱の影から杖を構えた三人のワルドが姿を見せる。 どれが遍在か見分けが付かぬポルナレフはマジシャンズ・レッドの目を世話しなく動かしどれか本体かを見極めようとしていた。 「無駄ではない! 僕には果たさねばならないことがある。これはその為に必要なことだ」 「馬鹿言わないで!姫様を、祖国を裏切ってこんな卑劣な真似をすることのどこが…」 「祖国の為だ!」 ワルドはルイズの非難に目を血走らせ、威圧するような鋭い声で反論した。 打たれたように体を震わせてルイズは困惑した表情を作った。 「祖国の為ですって?」 「そうだ!トリスティンは今…征服されようとしている」 苦虫を噛み潰したように言うワルド。 その表情を見かね、ワルドの行動に怒りとショックを受けたポルナレフが尋ねる。 「ど、どういうことだよ?」 「兄弟、君は『パッショーネ』という名を聞いたことはないか?」 尋ねたポルナレフは、返された質問に絶句した。 知っているも何も、そのパッショーネのボスは他ならぬジョルノであった。 「パッショーネ?」 ルイズの呟きに、ワルドは眉間にしわを寄せたまま頷いた。 「このアルビオン発祥の新興の犯罪組織だ。奴らは、一年にも満たない内に急速に勢力を伸ばしている。 マザリーニ枢機卿はレコンキスタの撃退こそ急務だとお考えだが、僕はそうと思えない。奴らの浸透する速さは、桁が違う。組織を形作るシステムがまず我々より一段も二段も上なんだと僕は感じている」 語りながらもゆっくりと足を動かし、狩をする獣のように機会を狙うワルドの視線がウェールズから逸れる。 「奴らの影響力はもう侮れないものになりつつある…(我々が草の真似事をすること自体異例のことだが)調査を行った僕の部下は運がよければ川で発見された。残りは、今も消息がわからない」 「ふざけてんじゃねぇ!」 そこに、蚊帳の外に置かれようとしていた列席で叫ぶサイトの言葉が響いた。 「ルイズはてめえを信じていたんだぞ! 婚約者のてめえを……、幼い頃の憧れだったてめえを……」 「……何もわからぬ平民如きが口を挟むな! 便所のゴミ虫以下の下郎がトリスティンの置かれた状況を理解しているとでも言うのかッ!?」 憤ったサイトに侮蔑の視線と言葉の刃を突き刺したワルドは息を荒げ、血を吐くような表情でジョルノを睨みつけた。 一方のジョルノは常と涼しげな表情だった。 『そういえばそんなこともありましたね』とでも思ってんじゃねぇだろうなと事情を知るポルナレフ達は疑念の篭った視線を向けていたが、何の動揺もジョルノの態度からは読みとることはできなかった。 「奴らは先日、麻薬を合法的に商う為の法案を通した。伯爵、貴方も他の許可と一緒に申請されたものだ」 「そうなのですか? 服飾や科学等の僕の好奇心を満足させてくれるもの以外は執事達に任せきりですから…ああ、そういえば、薬を商う許可を取ったとか聞きましたが」 しれっと言うジョルノをどう思ったのかは知る由もないが、ワルドの顔は更に険しさを増した。 「既に、! それほどの影響力を持つのだ。奴らは! レコンキスタは…まだ貴族の枠に入る者達だ。その熱狂はわが国の膿を出すのに有効だ」 「その為に忠誠を捨てたの?」 「僕が杖を捧げたのは国家と今は亡き国王陛下だ。決してこの段になってラブレターの回収を命じるような小娘じゃあない!」 「ワルド! その陛下に……申し訳が立たねーと思わないのか!?」 「娘をゲルマニア皇帝の嫁にされトリスティンを盗賊共に蹂躙されるよりはましだ!! これが成れば、姫はあんな下郎に嫁ぐこともなくなるだろう…ルイズ! 君もそれを望んでいるはずではないのか!?」 信じられないと言う顔をするルイズに、苦しげに言うポルナレフに痛いところを突かれたワルドは怒鳴り返す。 痛みを堪えているような、自分を嘲笑うかのような…険しい表情に浮かぶ感情が何か、周囲からは最早伺いしれぬものとなっていた。 「アルビオン貴族共の好きにさせぬ為には、トリスティン貴族たる僕に力と功績が必要なのだ…ウェールズ殿下、我が祖国の為に覚悟を決めてもらおう」 ゲルマニアと同盟を結ぶ為に姫を差し出すことに協力していたルイズの傍らにいるウェールズに、ワルド達は一斉に杖を向ける。 ジョルノに生み出されたサラマンダーがルイズを庇うように前に移動する。 ワルドの言うとおり決裂を望む気持ちと、自分と姫がどれ程の思いでそれを決めたのかと滾る怒りに杖を持った手を震わせて、ルイズは俯いていた。 生き残ったウェールズが凛々しく杖を構えワルドと対決しようとする。 右手を光らせたサイトとポルナレフの意思で、マジシャンズ・レッドがその間へと立ち入ろうとしていた。 本体の杖を大蛇に変えて毒牙で噛み付かせようかようかヤドクカエルを破裂させ毒液塗れにしようか迷いながら、ジョルノも波紋呼吸で徹夜での疲れも癒えつつある体からスタンドを出す。 だがその時、今正に戦いが始まろうとした瞬間に、ポルナレフがルイズの様子が変わったことに気付いた。 「ルイズ?」 俯いていたはずのルイズの体が、いつのまにか力なく揺れていた。 視線も定まっておらず…呼びかけたポルナレフの声も届いていないのか、何の反応も示さずに何事か呟いていた。 戦いが始まろうとしているのか、外から響く大砲の音に紛れて、ルイズの声が礼拝堂に響いた。 「エオルー…スーヌ・フィル……ヤルンサクサ、オス・スーヌ・ウリュ・ル……………ラド」 ハッとして、今正に対決しようとしていたワルドとウェールズも手を止める。 呟くルイズから感じ取れる何か、メイジだからこそ感じ取れるものなのかルイズの姿に畏怖を感じた二人に一瞬遅れてジョルノ達もそれに気付き、ルイズを見る。 ワルドの裏切りによるショックだとか、そんなチャチなもんじゃない。 彼女以外の意思が、彼女を操り杖を振り上げさせた。 城の壁の向こう…敵へと。 「ベオーズス・ユル・…スヴュエル・…カノ・オシェラ。ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル…………エクスプロージョン」 その日、その場にいた全てのメイジが怖れを感じると同時に、アルビオンに一瞬だけ太陽が生まれた。 * 今か今かとその一瞬の太陽を待ち望んでいたプッチは、遠くに見えるその輝きを見て賭けに勝ったことを理解して嬉しそうに目を細めた。 「君との約束どおり、既に私の援助はしておいたよ。ジョルノ・ジョバァーナ。ミス・ヴァリエールの限界ギリギリのエクスプロージョン、受け取ってくれたまえ」 一歩間違えれば死ぬほどの消耗、何万人にも及ぶ虐殺…自分で選ぶ事も出来ずにそれを行うルイズの今後などこれっぽっちも気にしない口調だった。 それもそのはず、プッチにすればこれは、魔法が使えるようになりたいという彼女の願いを叶えただけの…言わば善行であり、一石二鳥とついでにジョルノへの援助をやってもらったに過ぎなかった。 プッチ枢機卿は呟きながら、ガリア王ジョゼフの記憶ディスク、王家の秘宝である香炉とルビーを仕舞ったトランクへと確認するために使用していた望遠鏡を仕舞いこむ。 「アンタの言っていた通りになったな」 若干苦いものを含ませた声に、プッチ枢機卿は笑顔で返した。 「あぁ、賭けではあったがね。予定していた時間通りで何よりだ。ゲルマニアの艦隊はどうかね?」 「トリスティンとの関係もあるから手間取ったが…どうにか来るべきレコンキスタとの戦いに備えた訓練と称して集められた艦隊が既にアルビオン領空内を進んでいる」 スーツに身を包んだミノタウロス…ラルカスが答える。 プッチ枢機卿が他の枢機卿を使って行った裏交渉に応じたゲルマニア皇帝は少数の艦隊をアルビオンへと向かわせていた。 その交渉には留守を預かるラルカス…パッショーネも関わっている。 「ベネ! とでも言ったところかな。この後は『亡命してきた貴婦人達の涙を拭いさることこそ貴族たるものの務め』とでも言ってくれたまえ。彼女らが要請したと言う形が望ましかったが、あいにく未だに王家は生き残っているようだ」 白々しい口調で言うプッチ枢機卿に、ラルカスは頷いた。 この謀をジョルノには伝えることができていない…いや、伝えてはいなかった。 ジョルノが聞けば、激怒するかもしれないとラルカスは報告など考えることを止めていたのだった。 この賭けに勝つことはよりパッショーネの力を強めることになりジョルノの為になると、ラルカスは信じていた。 確認の意味を込めて、もう一度ラルカスは尋ねた。 「プッチ枢機卿、本当に、! 本当にあそこに聖女様がいるのか?」 「勿論だ。あれこそ正しく始祖の起こした奇跡! 我らは敬虔なブリミル教徒として泥沼の戦場を納めて聖女様をお救いしなければならない!」 芝居がかったしかし……信仰心溢れる、熱狂的なブリミル信者達の鏡にでもされそうな程の熱烈な言葉だった。 同じ調子の言葉を、今頃今回の件で表にでるつもりのないプッチ枢機卿の代わりに計画した者として動き回っている哀れな枢機卿も吐いていることだろう。 だがラルカスはそれだけでは納得しなかった。胡散臭そうな表情で再び尋ねる。 「…一つ疑問なんだが、何故聖女様とわかるんだ?」 「それは勿論私がお会いしたからだ。その時のことを他の枢機卿に言った所、間違いないとおっしゃってね。こんな大事になってしまったのだよ」 実際は困ったような顔をするプッチ枢機卿が他の枢機卿を動かしたと言うことを知るラルカスは不満そうに鼻を鳴らした。 この男以外の誰にガリアとロマリアの重い腰をあっさりと上げさせられるというのか。 いつかは敵となるのだろう枢機卿の手回しの早さにラルカスはジョルノに対するモノとはまた別の恐ろしさを感じていた。 内政干渉の誹りを受ける行為を二強国に足並みをそろえて行わせるなど今表舞台で奔走しているグロスター枢機卿には……ラルカスはそれ以上の考えを打ち切り、今は動く時だと判断した。 「では私はこのままガリア、ロマリアの艦隊とアルビオンを攻略する為の手回しを済ませてこよう」 「よろしく頼む。ジョナサンは君のような有能な部下を持って幸せだな」 「世辞はいらん。私は組織の利益になると考えただけだ」 普段ジョルノといる時の本能など全く感じさせぬ乾燥しきった声で答え、ラルカスは部屋を後にする。 見送ったプッチ枢機卿は教徒を呼びつけ2,3アルビオン攻略の為の命令をしてから、熱いコーヒーを用意するように命じた。 教徒が教皇の信頼厚き枢機卿の命を受け、目を輝かせて退室した後、プッチ枢機卿はベッドの上に地図を広げた。 プッチ枢機卿の手回しにより他の枢機卿の名で聖女奪還の為アルビオンへと進行しているロマリア艦隊としてジョゼフの記憶ディスクを置く。 更に要請を受けたという形で動き出しているガリア艦隊とゲルマニア艦隊代わりに、たった今トランクに仕舞った土のルビーと教皇の記憶ディスクを並べて状況を確認する。 「先遣隊の到着までは急がせて一日と言ったところか、あの光を見て本気になったロマリアの艦隊と引きずり込まれたガリアとゲルマニアの総攻撃も遠からず始まる。 ゲルマニアに配慮して何も聞かされていなかったトリスティンが何か行う前に終わらせたい所だが…マザリーニなら軍を動かす準備を終えていても不思議はないか?」 少し考えてどうでも良くなったのか、プッチ枢機卿はそれらを適当にトランクに押し込み、鍵を閉めた。 思えば、プッチ枢機卿にとってはこんなことをしている場合ではなかったのだ。 「ジョナサンなら、憤りつつ退くしかあるまい」 (終生のパートナーである)使い魔まで預け私に相談したルイズの信頼を裏切る行為を行うなどと瞬時には思わぬだろう。 気付いた時には数手遅れている…憤りと共に機を失ったジョナサンは恐らく、ワルドを倒し退くのがいいところだろうな。 ジョナサンにとって貴族派は、ルイズの虚無で何割かを失い、混乱に陥って壊走しようとする腹を突くほど程赦せない相手ではない。 加えてジョナサン自身にも軍を攻撃する手など無い。行おうとしても準備をしている間に敵も逃げるだろう。 「DIOなら、笑って静観するだろう」 DIOにとって小娘一人、アルビオン一国がどうなろうが知ったことではない。 まぁ、そもそもあんなアホ共の所にDIOが行くわけが無いか。 支配するなら戦争なんぞ終ってからでいい。 DIOに傅くのが王族か貴族か、その程度の違いに過ぎないのだ。 二人の男に対する持論を一人呟き、プッチ枢機卿はトランクの中から一枚のディスクを取り出した。 「ジョルノ・ジョバァーナはどうする…? この私の贈り物に一手遅れるのか、元々無関係な話だからと敢えて逃すのか?」 プッチ枢機卿の頭にマリコルヌから奪い去ったディスクがずぶずぶとめり込んでいく。 半ばまで沈み込んだディスクの能力が発動し、プッチ枢機卿に遠く離れた場所を見せる。 マリコルヌの使い魔であるサイトの視界に広がる光景。 あり難いことに、そこにはジョルノ・ジョバァーナの姿がきっちりと映っていた。 「これは運がいい。神は私にこれから起る出来事を見守れと仰せだ」 遠く離れた戦場の光景を眺めるプッチ枢機卿の顔に笑顔が広がる。 彼がDIOの血統か、ジョースターの血統か。この件は一つの判断材料になるはずだとプッチ枢機卿は期待していた。 プッチ枢機卿と…いや、サイトとジョルノの目があった。 偶然ではない。 ポルナレフの亀がルイズの元へと走る中、ワルドらが今だ呆然とする中その視線は、サイトではなく明確にプッチ枢機卿へと注がれていた。 列席から少し歩きだしたところで足を止め、消滅した艦隊の向こうで穂先だけ消えてしまったレキシントン号を見つめていた。 その冷めた眼差しに胸をドキドキさせるプッチ枢機卿の目の前で…ほんのちょっぴり前まで教会の天井だった石材の成れの果てが重力に惹かれるままに落下していく。 サイトが悲鳴を上げて下がるのを鬱陶しく思いながら、プッチ枢機卿はそれを奇妙に思った。 素人考えと言われればそれまでだが、ルイズの魔法の余波で崩れたのなら敵軍に近い壁から崩れる方が自然な気がした。 落下したのはルイズの魔法の範囲の外にある無事な天井だった。 サイトはそんなことには注意を払わずにルイズを心配して駆け出していた。 「サイト、アズーロを呼べ」 有無を言わさぬ口調に、走り出そうとしていたサイトは足を止めた。 反射的にサイトは声の主へと視線を向けるのを避けた。 今命令した相手、ジョルノと視線を合わせれば、気圧されると感じたゆえだった。 だが振り向かずとも、冷水を浴びせかけられたかのようにサイトの頭から血が下がっていた。 「サイト」 一瞬後、もう一度名を呼ばれたサイトは右手の紋章を光らせて、アズーロを呼んだ。 ジョルノの動向を観察したいだけのプッチ枢機卿は、視線が逸れたことに若干不満を感じたが… その代わりに、疑問への答えがサイトの、プッチ枢機卿の前に現れていた。 落下していく石材が、重力に逆らい舞い上がっていく。 空中で細かく分かれて崩れた壁から差す日の光、半分ほど消えてしまったステンドグラスから差す色取り取りの光が一瞬前まで石材であった生き物達を照らしていた。 このアルビオンに生息する毒を秘めた無数の虫達のようにも、地球の虫にも見える。 「プッチがルイズを利用して介入したと言うなら、それはそれで利用すべきだ」 サイトのいる場所が微かに揺れた。 何かが鳴動しはじめ、動揺するサイトが顔を左右に振る。 忌々しく思うプッチ枢機卿の耳に、ジョルノ・ジョバァーナの鋭い言葉が届いた。 「ジョルノ、どうするつもりだ!?」 声が聞こえたのだろう、マジシャンズ・レッドでルイズを抱え上げ、亀の中に仕舞いながらポルナレフが叫んだ。 「この動揺が収まる前に、クロムウェルを始末します」 「なっ…」 その言葉にワルドとウェールズが我に返り、杖を構えた…突如ワルドは悲鳴を上げた。そして、三体の偏在が姿を消す。 何が起きたのかわからぬウェールズは呆然と杖を向けたまま、ワルドが消えた場所を見つめている。 何が起こったのかいち早く理解したポルナレフはジョルノに目を向けた。 「お前、杖を何に変えたんだ?」 「大蛇です。体長は十メートルってところでしょうか」 自分の杖だった大蛇に襲われている裏切り者の姿を想像し、少し同情心が沸いてきたポルナレフが苦笑いを浮かべる。 杖だけを生き物にしたわけでもない、とは言わずに薄く笑みを浮かべたジョルノは近づいてくるアズーロの羽ばたきを耳にして、歩き出す。 「本当はこんなことに使うつもりじゃあなかったんですが…」 サイトの視界にある様々なものが蠢く。 教会のシンボル。無くなった天井を支えていた柱。並んでいた椅子。 全てが生命を持ち空を舞い、ジョルノの意思によって飛び去っていく。 恐らくは、敵軍へと殺到していくのだろうと考えながら、プッチは戦慄いた。 「既に。昨夜一晩かけて…既に、ニューカッスル城へ満遍なく生命エネルギーを叩き込んであります…」 アルビオン王家に最後に残されたニューカッスル城が、百年以上の歳月が生み出した様々な曰くを持つ部屋が。 古き時代に決闘で付けられた傷を残す柱。歴史に名を残す芸術家が生み出した彫刻。絵画。タペストリーが。 今は亡き人々が丁寧に扱ってきた家具が。幾人もの王侯貴族達が婚儀の際に歩いた赤い絨毯が…全て生物へと姿を変えていく。 拘束されたまま目を見開くワルドと、ルイズと同じく亀の中へと収容されながら何事か叫ぶウェールズ。 ウェールズにはこの城に数え切れぬ程の思い出があったかもしれない…だが! それすらも飲み込んで、ジョルノが一晩かけて丹念に叩き込んだ生命エネルギーが、ジョルノのスタンド能力が生命を生み出していく。 ポルナレフもサイトも数え切れぬほどの虫達が蠢く様に恐怖し、足を止める中…ジョルノは言った。 「ほんのちょっぴりだ。この城一つ程度の世界を…僕のゴールド・エクスペリエンスが作り変え、全てが貴族派に襲い掛かる。その隙を突くぞ」 慈悲などの暖かな感情など一切感じられぬ凄みに息を呑みながらサイトはただ頷いて混乱に陥ろうとするアズーロを操り、ジョルノと亀を乗せ羽ばたかせる。 澄み切っていた空では虫の群れでできた帯状の黒雲が、貴族派の船にかかろうとしていた。 To Be Continued...
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国際連盟憲章 国際連盟憲章(こくさいれんめいけんしょう)とは、箱庭暦100年、すなわち2007年11月14日午前0時に、大日本帝國、極東和民国、神聖アルビオン帝国、大東亞帝國、ケンダリ王国の代表によって署名され、正式に発行された国際機構の設立に関する条約である。現在8カ国の加盟国が存在する。 1.条約の内容 条約は、前文と5章36条からなる。 第一章は、総則の規定であり、国際連盟設立の目的と 国際連盟加盟国の守るべき原則が規定されている。 第二条は、国際連盟加盟国の地位と権利義務の規定であり、加盟に際しての規定と脱会の規定、加盟国の地位と権利義務に関する規定が存在する。 第三章は、国際連盟の機関に関する規定である。総会と理事会がある。総会は、国際連盟の加盟国の代表によって構成される国際連盟の最高機関である。理事会は、連盟の常置機関として、連盟の事務を速やかに遂行させるために設置されている。 第四章は、罰則の規定である。国際連盟憲章によって創設された義務違反に対して加盟国に対してどのような処罰が予定されているかが規定されている。 第五章は、改正補足である。改正の際の規定である。 2.原署名国・批准国 原署名国とは、国際連盟憲章に署名した五カ国をいう。 大日本帝國 極東和民国 神聖アルビオン帝国 大東亞帝國 ケンダリ王国 批准国とは、国際連盟憲章に批准している諸国を言い、原署名国とそれ以外の諸国である。現在、5ヵ国+3カ国の8カ国が存在している。 桔梗国 環州共和国 スティルウェル諸島共和国 3.条約正文 国際連盟憲章 大日本帝國天皇陛下、極東和民国首相、神聖アルビオン帝国皇帝陛下、大東亞帝國大元帥、ケンダリ王国国王陛下は、 国際協力を推進し平和と安全保障を達成するためには、 諸国間に公開された正当な名誉ある関係を樹立すること、諸国間の行動への実際的規律として国際法理解を創造すること、そして互いに組織された国民を扱うに際して条約の責務を尊重し正義が維持されることが重要であることを理解し、 ここに、この理念に基づく国際組織を新たに創設することを希望し、 ここに国際連盟憲章を締結することを決し、之が為左の如く其の全権委員を任命せり。 大日本帝國天皇陛下 外務大臣 伯爵小村洋右 極東和民国首相 外務大臣 峰晴 杏 神聖アルビオン帝国皇帝陛下 臨時宰相 ウェールズ皇太子殿下 伯爵 ホ-キンス・クロムウェル 大東亞帝國大元帥 外務大臣 陸奥宗光 ケンダリ王国国王陛下 パフラヌ外交部長 因て各全権委員は、其の良好妥当なりと認められたる委任状を寄託したる後、左の条項を協定し、調印国はここに国際連盟憲章に合意することを高らかに宣言する。 第1章 総則 第1条 国際連盟の目的は、以下の通りである。 一 国際社会における平和と秩序を維持し、そのために、国際連盟はあらゆる国際紛争に、武力を使用せずに解決する方法を斡旋すること 二 国際社会における各国家間の友好関係を発展させ、国際協力を堅固なものにすること 第2条 国際連盟とその加盟国は、第1条の目的を達成するにあたっては、次の原則に従わなければならない。 一 加盟国は主権平等の原則に従い、各国国益を相互に尊重しなければならない 二 加盟国の権利は、公共の福祉に従わなければならず、濫用は許されない 三 加盟国の権利の行使及び義務の履行については信義に従い、誠実に履行しなければならない 第2章 国際連盟加盟国の地位と権利義務 第3条 各国は国際連盟に加入する意思を表示した文書を提出し、この文書が受理され、加盟が承認された時点で国際聯盟の加盟国となる。 2項 国際連盟に加入する各国が提出する文書には、この憲章に定める規則に同意し、この憲章の精神に精神に沿う努力を惜しまないことを誓約する旨の意思表示を含まなければならない。 第4条 前条の文書は、速やかにこの憲章に定める機関が受理し、内容を審理した後に処分文書を公示しなければならない。 第5条 加盟国の地位は対等である。但し、この憲章に定めるところにより、権利の得喪及びその停止を定めることができる。 第6条 前条の規定は、加盟国が各々で定める条約の効力を妨げない。 第7条 加盟国は、この憲章の定めるところにより、憲章によって設立される機関に就任する権利を有する。 第8条 加盟国は、国際連盟を脱会することができる。但し、脱会の時点でこの憲章における義務は全て履行されていなければならない。 第9条 前条の文書は、速やかにこの憲章に定める機関が受理した旨の文書を公示しなければならない。 第3章 国際連盟の機関 第10条 国際連盟は、その運営のため、総会及び理事会を設ける。 第1款 総会 第11条 国際連盟は全ての加盟国からなる総会において国際連盟の取るべき行動の将来への方向を定める。総会は理事長及び理事の発議により、議題と日にちと時間を指定して開催される。 第12条 総会は、加盟国の4分の1以上の要求があれば開催しなければならない。 第13条 国際連盟は、総会に参加することが出来ない加盟国が、総会の開催前に議題に対する賛否及び修正案を提出することを認め、会議に図り、不参加国の一票として採決に計算することを認める。 第14条 総会は、理事会の決定に対して監査権を持ち、決議によって理事会の決定を覆すことができる。 第15条 総会における決定が、可否同数の際は、議長の票をもって決する。 第2款 理事会 第16条 国際連盟は連盟運営のため、加盟国より理事国を複数国選出し、理事会を組織する。 第17条 理事の上限は理事会の決議によってこれを定める。 第18条 理事国への就任には、加盟国の1カ国以上の推薦を必要とする。 第19条 理事国は緊急を要する案件につき理事会における理事国の討議をもって国際連盟の意思を決定することができる権利を有する。但し、理事会決定が総会において覆された場合は将来に向かいその効力を失う。 第20条 理事会の決定が、可否同数の場合は、理事長が案件を決定する。 第4章 罰則 第1款 総則 第21条 この憲章に違反する行為をした国家に対する制裁の決定は、理事会による速やかなるかつ、公正な審判によって行わなければならない。 第22条 制裁は、非難決議、経済制裁、加盟国の持つ権利の停止、加盟国の持つ権利の喪失及び国際連盟からの強制脱会の5種類とする。 第23条 非難決議は、国際連盟の名において公式な議場で書面をもって当該政府に対して、違反したという行為の責任を追及することによって行われる。 第24条 経済制裁は、当該国家の工場、商業ビル、鉱山など経済的価値を有する施設を閉鎖させることによって行われる。 第25条 加盟国の持つ権利の停止は、第2章に定める権利を30日を越えない期間行使できないものとする。 第26条 加盟国の持つ権利の喪失は、第2章に定める権利を剥奪するものとする。 第27条 国際連盟からの強制脱会は、当該国家を国際連盟から除名させ、国際連盟に関する一切の権利義務を剥奪するものとする。 第2款 罰状 第28条 開戦に関する条約に定める以外の方法で開戦した国家は、加盟国の持つ権利の喪失又は国際連盟からの強制脱会とする。 第29条 停戦協定、休戦協定その他これと同様の効果を有する協定等の方法によらず、再戦闘を行った国家は、国際連盟からの強制脱会とする。 第30条 停戦協定、休戦協定その他これと同様の効果を有する協定等を締結した後で、現状に変更を加えた国家は、非難決議、または加盟国の持つ権利の喪失とする。 第31条 制裁対象国家に対して援助をした国家は、非難決議、経済制裁または加盟国の持つ権利を14日以内の日数で停止する。 第32条 制裁対象国家に対して援助をした国家で、他の加盟国に著しい損害を与えた国家は、加盟国の持つ権利を7日以内の日数で停止するか、加盟国の持つ権利を喪失する。 第33条 外交上の文書を隠匿した国家は、非難決議または経済制裁とする。 第34条 外交において、不適当な発言をした国家は、非難決議、経済制裁または加盟国の持つ権利を14日以内の日数で停止とする。 第35条 外交において、著しく不適当な発言をした国家は、加盟国の持つ権利を14日以上の日数で停止、加盟国の持つ権利の喪失または国際連盟からの強制脱会とする。 第5章 改正補則 第36条 将来この憲章を改正するに当たっては、理事会が発議して、総会に付さなくてはならない。 右証拠として、各国の代表たる全権委員は、本憲章の内容を確定し、ここに署名する。 大日本帝國のために; 外務大臣 伯爵小村洋右 極東和民国のために; 外務大臣 峰晴 杏 神聖アルビオン帝国のために; Temporary prime minister Prince of Welsh Earl Hawkins Cromwell 大東亞帝國のために; 外務大臣 陸奥宗光 ケンダリ王国のために; The Secretary of Foreign Affairs Paflane
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第9弾 百式 クィン・マンサ ガンダムサンドロック改 フリーダムガンダム エターナル プロヴィデンスガンダム カラミティガンダム ストライクダガー EI-01 EI-27 EI-28 キングキタン 宇宙怪獣・上陸艇 宇宙怪獣・合体怪獣 ムゲ・ゾルバドス ダリウス大帝 ムーンコンドル オコゼニア 期間限定追加ロボット Zガンダム ZZガンダム キュベレイMk-II(エルピー・プル専用機) νガンダム ジャスティスガンダム ガンバスター ヱルトリウム 試験初号機 仮設5号機 正規実用型2号機 ガウェイン 蜃気楼 斬月 神虎 ランスロット・アルビオン ガイキング ライディーン
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ジム・カスタム 機体名 ジム・カスタム(RGM-79N) 全長 18.0m 主武装 ビームサーベル×2 MSの接近戦用の主武装でビームで出来た剣。 60mmバルカン砲×2 ガンダムについてるのと一緒、ジムが元々ガンダムの簡易量産機なため本機にもついてる。なおUC系のバルカンは大概が60mmだったりする。 ジム・ライフル OVAとかGジェネとかスパロボとか見てるとそのまんまマシンガンだと思う。 特殊装備 ― 特徴がないのが特徴。(つまり無し)精々盾があるぐらい。 移動可能な地形 空中×、陸地○、水中×、地中× 備考 地球連邦軍の汎用量産型MS。外見はジム系にしてはカッコ良くできており、全体的に水色ぽい色である。RGM-79ジムの性能向上型でエースパイロットに配備されており、劇中ではアルビオン隊のベルナルド・モンシア、アルファ・A・ベイト、サウス・バニングが搭乗した。性能としては突出したものがないもののガンダム系MSの技術をフィードバックしており、コストが高く生産数がすくないがバランスの取れた高性能機である。が、ゲーム等では完全なザコ機であり、このロワでもメメメに支給されるも即撃墜された。
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next ~対アルビオン戦争 一日前、早朝 ―――アルビオン軍事施設、ロサイス 朝日に照らされた空軍工廠。 送電線のような鉄塔型桟橋には、ずらりと軍艦が並んでいる。どれも今すぐにでも出航 可能な状態にされている。どの戦艦も、せわしなく出入りする人々、運び込まれる荷物、 整列する貴族と傭兵達で一杯だ。特に旗艦『レキシントン』号の威容は、それを見る人々 全てを圧倒している。 そしてそれ以上に、警備する人間・使い魔の数も桁違いだ。文字通りにアリが入り込む 隙間もない。軍港の内も、外も周囲数リーグに渡って、『どうしてここまで』と頭を捻り たくなるほどの警備をひいている。港に出入りする人も荷物も、これでもかと言うほどし つこく調べられていた。 警備の邪魔になる木々は全て切られ、民家は潰され、野原は灰にされ、港は荒れ地の中 にポツンと取り残されたかのようだ。その中に、様々な使い魔を引き連れたメイジ達と平 民の兵士達が立っていた。 荒れ地の中を巡回する上官に、付近のメイジと兵士が次々と敬礼していく。 「異常は?」 「はいっ!何もありません!」 「そりゃ、そうだろ・・・正直、なんでここまでしなきゃならんのだか」 「やはり、例の噂ではありませんか?」 「ああ、あれか?『ガリア王宮がトリステインの平民使い魔を怒らせて城ごと消された』 てやつか。・・・まさか偉いさん達は、こんなよた話を信じてるのかねぇ?」 「やはり、ただのデマでありますか?」 「当たり前だ。非常識にもほどがある。大方、トリステインのスパイが流した流言の類だ ろ」 「ですが、やはりこの警備は異常としか・・・」 「それは…確かにな。遠征に参加しない陸軍連中の暇つぶし、にしても変だしなぁ」 上官も部下達も、あまりに異例な警備態勢に首を傾げていた。 第五部 第2話 その炎は罪深く アルビオン首都ロンディニウム、王城ハヴィランド宮殿。この宮殿も、非常識なまでの 警備で囲まれ、守れている。 白一色に塗られた荘厳なホワイトホール。16本の円柱が取り囲み天井を支え、白い壁 は傷一つ無く輝いている。ホール中心の円卓には、明日公式に樹立が宣言される神聖アル ビオン共和国の閣僚・将軍達が着席していた。 上座に座り、後ろにシェフィールドを従えたクロムウェルは、シェフィールドから手渡 された報告書に目を通しながら、肉を刺したフォーク片手に閣議を黙って聞いていた。そ の閣議は朝食と共に、ゆったりと和やかな空気の中で進んでいく。 「・・・以上が式典の進行予定表であります」 「うむ、その通りで頼むよ。特に正午の式典最後、出陣式を兼ねた艦隊パレード。これが 一番重要だよ」 「その点は滞りなく手はずは整っております。艦隊は正午のパレードを終え次第、トリス テインへ向かいます」 「トリステイン到着は次の日の昼頃か。地上へ滑空するだけだし、もっと速くいけるかも な」 「ダータルネスからの輸送船等との合流と艦隊編成、それに船足の遅い民間船も多いです ので、昼が限界ですね」 「そうか、まぁ急ぐ事もないか。さて、あちらさんは、どう出るかな?」 「普通に考えればラ・ロシェール前の、タルブ辺りで迎撃というところだな。あそこを押 さえられたら、我らの艦隊に地上補給拠点を与える事になるからだ」 「その時はラ・ロシェールで艦隊戦、別働隊でトリスタニアだ…といっても、この程度は 向こうも考えてるだろうが」 「うむ、そして勝敗は戦う前から決まっている事も、百も承知だろうよ」 「トリステインとしては、どの程度負けた所で白旗をあげて戦力を温存させるか、少しで も有利な講和条約を結ぶか、だな」 「そうだな。正直、ここまで念入りに準備するのは、もはや外道かとすら思える。・・・ 閣下、失礼ながら、本当にこの作戦でよろしいのか?」 閣下、と呼ばれたクロムウェルはフォークも机に置いて、一心不乱に報告書を読み続け ていた。 「あ~、閣下。よろしいでしょうか?」 「…ん?・・・あ、ああ、失礼。なんだったかな?」 「え~、もともと軍事力で天地の差があるトリステインを相手に、ここまでする必要があ るのか、ということです」 「ふむふむ、続けてくれたまえ」 「はい。あまりヤツらに被害を与えると、その後の講和条約締結や占領政策に支障をきた すと思えます。我らレコン・キスタの地上拠点となるのですから、出来る限り無傷で手に 入れるべきでは? それに、この桁外れな警備の件です。この異常な警備態勢に、軍内部のみならず国民か らも不審の声が出ています。例の、トリステインの魔法人形の噂が真実では、と面白おか しく吹聴する者も」 「ふむ、そうだね、そういう噂、だね・・・」 クロムウェルは、再び報告書に視線を落とした。 「まぁ、君の言う事ももっともだ。だが、我らとしても、一刻も早くハルケギニアを統一 し、聖地を奪還しなければならない!そのために一日でも早くトリステインを降伏させ、 我らの力を広く世に知らしめる必要がある!これは、そのための作戦だよ」 「ふむ・・・確かに」 「それと、噂の件。皆、これを見て欲しい」 そう言って、クロムウェルは手に持っていた報告書を隣の席に手渡した。その報告書が 回されると、手に取った将軍と閣僚の顔色が次々と変わっていった。食事を机に置き、食 い入るように読み続ける。 「読んでの通りだ。ガリアの同志からの報告書だよ。・・・全て、真実だ。 かの少年使い魔と魔法人形達は、確かに3日前にヴェルサルテイル宮殿を襲撃。王宮で 散々ふざけた悪戯をして、最後にプチ・トロワを消し飛ばして帰ったらしいよ!誰にも姿 を見られることなく、ね。彼等は、なんと臭いすら残さなかったそうだ!鼻の効く使い魔 が追えなかったと。 唯一手がかりになりそうだった遺留品の懐中時計も、いつの間にか消えてしまったそう だよ。残ったのは落書きやら、ゴミばかり」 「まさか、そんな・・・」「魔法も使えない、平民の、それも子供が?」「これは、すぐ 箝口令を」「ガリアだって箝口令くらいひいていたろう、それでもこの有様・・・」「ガ リアからアルビオンまで、僅か2日で噂が広まるとは」「トリステインのスパイによる情 報操作では?」 先ほどまでの和やかな空気は消えた。円卓は不安と緊張感に塗り替えられている。 バンッと円卓を叩いてクロムウェルが立ち上がった。 「諸君!恐れる事はない!この作戦はもともと、トリステインの秘密兵器をも計算に入れ て立案してある!そのために『レキシントン』号のみならず、多数の民間船を接収して改 造したのだから!」 おお…と円卓に感嘆のどよめきがあがる。 「確かにヤツらは謎だ!恐るべき戦力だ!しかし、所詮は大海に浮かぶ小舟!聖地回復運 動という大きな歴史の流れに、使い魔一匹ごときが逆らえるものか!なんのことはない、 あの使い魔がどこか一つの戦場で暴れ回るというのなら、それ以外の戦場を全てレコン・ キスタの旗で埋め尽くしてしまえばいい!やつらは、しょせん主と使い魔の二人だけでし かないのだから! 無論、艦隊にそれなりの被害は出るだろう。だが、それも聖地回復という大義の前には 些細な事でしかない!! それに、その報告書が正しければ…ヤツらには、致命的弱点があるのだよ!」 円卓を覆おうとしていた暗雲はどこかへ消え去り、閣議は終了した。朝食を追えた一同 はクロムウェルへ一礼し、皆ホールを後にした。 ―――トリステイン魔法学院、昼前。 分厚いカーテンのひかれたルイズの部屋には、キュルケとタバサがいた。二人が見つめ る鏡台の鏡が輝き、真紅・ルイズ・デルフリンガーを背に担いだジュン・翠星石が這い出 してきた。 「おっでれーたなぁ。あんな警備、見た事ないぜぇ」 「ううう、悔しいですぅ~。おんのれぇえ~~おくびょーもの共めぇええ」 「どうなってんの!?どうみても僕らがガリアの宮殿で暴れたのを知ってるとしか思えな いよ!ガリアからアルビオンまで、情報が渡ったぁ!?あっという間にぃ!?」 「そうね。この様子じゃ港や宮殿内部へのルートを見つけてもダメね」 「あー!ムカツクわねえー!あたしのエクスプロージョンで、艦隊丸ごと吹っ飛ばしてや ろうと思ったのにぃー!」 悔しさを露わにするルイズ達に、キュルケとタバサも様子を聞くまでもなく状況は理解 出来た。 話を聞いていたキュルケも腕組みして溜め息を吐く。 「はぁ~…ホントにレコン・キスタの情報網は凄いわねぇ。それかホントに裏でつながっ てるのかしら?とにかく、昼食にしましょ」 「あ、ゴメン。僕、トイレ行ってるから、先に行ってて」 と言って部屋を出ようとしたジュンの襟を、ルイズががしっと捕まえた。顔は笑顔、で も目が笑っていない。 「あの・・・ルイズさん、何?」 「ねぇ~ジュう~ん~、どーこいっくの?」 「だ、だから、トイレ・・・」 「ふぅ~~~~~ん」 真紅と翠星石も、笑顔なのに目が笑ってない。三人に取り囲まれ、ジュンも冷や汗。 キュルケはそんなルイズ達をニヤニヤと笑っている。タバサはやっぱり無表情だが、首 を傾げている。 「スぅイぃ~、ジュンを見張っててくれるかしらぁ~?」 「まっかせるですよー」 「な、なんで!?トイレくらい一人で」 「いーから来るですぅ!お前を一人で行かせるわけにはいかねーですぅ!!」 ジュンは、翠星石を頭に乗っけたままトイレに行かされた。 そんな様子を見て、首を傾げたタバサがキュルケをチラと見上げた。 「ああ、ジュンちゃんったらねぇ~。昨日、警護のオネーサン達やぁ、メイドさんやぁ、 近くの村に避難してきたイケナイお店のお嬢様達とねぇ…とぉ~っても仲良くしてたんで すってぇ!」 「うっさいわよキュルケぇ!」「お黙りなさいっ!」 ルイズと真紅がハモりながら、キュルケを睨み付けるのであった。 「・・・第一、どうしてお前等が昨日の僕の事、そんなに詳しく知ってるんだよぉ!?」 ジュンは頭の上の翠星石にブツブツ文句を言いながら石畳を歩いていた。 「あ、まさかデル公!?」 「ちっちげーよ!俺ッちはンな事いわねーよぉ!」 「ふっふーん!教えてあげるですよぉ~」 翠星石がジュンの頭の上で、腰に手を当ててふんぞり返る。 「かーんたんですぅ!お前の背中にスィドリームつけといたですぅ~」 「なーっ!なんでそんな事をー!」 「あーんなフツーの人間達に、お前の護衛を任せてらんねーからですぅ!そしたら、お前 と来たら、おおまえと来たラあァー!ち、ちちち!チビ人間のクセにぃ!!!」 ポコポコと翠星石が頭を踏みつける。 「ぶぅえっ、べぇっ!別に僕は悪くないだろお!?」 「うっせーコンチキショーですぅっ!お前に悪い虫が付かないようにするのも、あたし達 の役目ですぅーだ!」 「人権侵害だあー!」 ジュンがフトウなタイグウに抗議していると、警備の女性武官数人とすれ違った。皆、 ジュンを見るとニッコリ笑って手を振り、ジュンも少し赤くなってペコリと礼をする。 ぎゅうぅにいいいい~~~ ジュンの頭の上から、翠星石がほっぺたを思いっきりつねりあげる。 「お・ま・え・と…いうやつわぁああああ」 「ひぃっひたひ!ひゃめれえーっ!」 「お・・・おでれーた、女は怖いねぇ」 遠くから眺める女官達も、朝食に向かう女学生達も、二人の姿をクスクス笑っていた。 昼食中、ジュンと真紅と翠星石は、いつものように入り口横のテーブルで食事をしてい た。ただ最近は、ルイズも一緒。 そして少女達三人は、ジトォ~とジュンを睨んでいた。 「あの、さぁ・・・お前ら、いい加減にしろよなぁ」 「そーれはこっちのセリフですぅ!ねー、ルイズ?」 「そーよねー、ジュンったらこう見えて、イロオトコですもん。ねー、シンク?」 「そうね、さすが私のミーディアムね。本当に、誇らしいったらないわ」 アルヴィーズの食堂では、他の生徒も教員も食事している。メイドなどの平民や、警護 もいる。ただし、そのほとんどが女性。男性はほとんどみんな軍へ志願し、残っているの はコルベールやジュンなど、ごく少数。 ジュンはトリステインの戦力としても、数少ない男性としても、目立っていた。なので 周囲の視線も集まってくる。ジュンがちょっと視線をずらせば、自然に周囲の女性と目が 合う。 その度にジュンは、真紅と翠星石にバターやパンを投げつけられ、ルイズに足を踏んづ けられた。 「・・・なんで、こんな目に・・・」 そんなジュンのつぶやきも、冷たく睨み付けてくる三組の目に潰されてしまった…。 ―――夕刻、トリステイン王宮会議室。 「・・・城下の避難、完了致しました」 「艦隊は既に臨戦態勢にあります」 「全軍、予定通りに展開しております。明日には陣の形成を完了致します」 「よろしい。それでは、あとはアルビオン艦隊が来るのを待つばかりですね」 会議室では、上座のマリアンヌと、隣に座るマザリーニが全軍の配置と市民の避難状況 などについて報告を受けていた。 豪華な夕食と貴重な年代物ワインも並べられていく。同時に、扉からはヴァリエール公 爵やラ・ラメー伯爵、その他将軍達も次々と入室し、席に着いていく。その表情は暗くは ない、だが陽気でも無かった。皆、悲壮な決意を秘めてこの晩餐に臨んでいた。 全ての将軍や大臣達が机を囲んだ後、最後に入ってきたのはアンリエッタとウェールズ だ。二人は手を取り合い、末席に肩を寄せ合って着席した。 居並ぶ重臣達を見渡したマリアンヌが、ワインを手に立ち上がった。 「皆、よくぞこれまでトリステインを支えて下さいました。まずその事に感謝します。 そして、このトリステイン存亡の危機に臆することなく、この晩餐にも席を並べて下さっ た事、誇りに思います」 「女王陛下!何を弱気な事を言われますか!?」 そう言って立ち上がったのは、デムリ財務卿だ。 「このデムリ、武官でありませんので前線には立てません。ですが必ずや陛下を、王家を お守り致します!金勘定しか出来ない非力な身ではありますが、なればこそ!軍資金につ いてはお任せ下さい!」 「よくぞ言われた!デムリ殿!」 今度は魔法衛士隊マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが立ち上がる。 「不肖、私も衛士隊隊長として、陛下の盾となる所存にございます。王家に降りかかるあ らゆる魔法から、陛下も姫もお守りして見せましょう」 そんな二人の後に続くように、居並ぶ重臣達も次々とワイン片手に立ち上がり、気勢を 上げる。 「全くですぞ陛下!確かに空軍力では劣りますが、なあに!ヤツらもいずれは地上に降り なければ占領が出来ンのです!そこからが本番ですぞ」 「そうそう!第一、あやつらは聖地回復などと掲げてはおりますが、しょせん烏合の衆! 利権目当てに集まったダニ共に過ぎません!」 「その通り、我らが地上で粘り続ければ、やつらは内部分裂を起こし、瓦解して自滅しま す。我らはその時を待てばよいのです」 「何よりここは我らの国!やつらが土足で踏み込んだ所で、この国の民がヤツらの支配を 良しとはしません。民衆と共に、各地で解放の旗を上げるとしましょう!」 「これこれ諸君、まずは艦隊戦ですぞ。まだ我が艦隊が、負けると決まったわけではあり ません」 そういって苦笑いと共に皆を制したのは、艦隊司令長官ラ・ラメー伯爵だ。 マザリーニが手を挙げて、皆を一旦着席させる。 「・・・諸君、ともかく決戦の時は刻一刻と近づいておる。我らはその時まで牙を研ぎ、 力を蓄えよう。そしてなによりこの一戦において、トリステインは弱国ではないこと、他 国の侵略には一丸となって立ち向かうという意思と誇りと力、何より王家への忠誠を示し ましょうぞ」 おおっ!という喊声と共に、一同はワイングラスを高く掲げた。 そんな晩餐の中、アンリエッタとウェールズは静かに微笑みあっている。 「ウェールズ様…明日、行かれるのですね」 「うむ、アルビオンから来てくれた貴族達も、既に大勢が『イーグル』号に乗り込んでい る。 ニューカッスルで死に損ねたこの身だが、生きて姫と共に過ごして、目が覚めた。アル ビオン王家の誇りを示す、なんて言わない。ただ姫を守るため、明日は全てを賭けて戦う とするよ」 「どうか、どうか生きてお戻り下さい。このアンリエッタを、再び一人にしないで下さい まし」 「分かっている。必ず、必ず生きて帰る。二度とそなたを一人にするものか」 二人は机の下で、固く手を握り合っていた。 ―――シャン・ド・マルス練兵場、深夜。 トリスタニアの中ほどにある、この練兵場には、数多くの連隊が駐屯していた。 戦いを前にたき火を囲んで気勢を上げたり、武器を磨いたり、詠唱の練習をしたり、馬 や使い魔を撫でながら語りかけたり、皆思い思いに夜を迎えている。 そんな練兵場の隅に、若い貴族の姿があった。薔薇の造花をキザッたらしく口にくわえ たギーシュが、じっと地面を見つめて意識を集中している。 ぽこっぼこぼこ 彼の足下の地面が盛り上がり、大きなモグラが顔を出した。 「お疲れ様、僕のヴェルダンデ。本当によく頑張ったねぇ。これで君のお仕事は終わりだ よ。さぁ、遠くへお行き。トリスタニアは危ないからね」 ギーシュは優しく自分の使い魔の頬を撫で、労をねぎらった。だが、遠くへ行けと命じ られたジャイアントモールは、動こうとしない。ただ円らで愛らしい瞳が、主をジッと見 上げている。 「ダメだよ。君はとてもとても素晴らしい使い魔だけど、戦場では役に立たないんだ。君 は、もっと素晴らしい働きを、既にしてくれたんだよ。 さぁ行くんだ!短い間だったけど、君を召喚出来て本当に僕は幸せだったよ!僕は世界 一の幸せ者だったよ!」 それでもモグラは去ろうとしない。潤んだ瞳が、若い主を見上げ続けた。 「ヴェルダンデ・・・ああ、ありがとう!僕の一番の友達よ!」 ギーシュは膝をつき、モグラの頭を抱きしめて涙を流した。 そんな主と使い魔の姿も、城下に駐屯する数万の軍勢の中では、よくあるワンシーンの 一つでしかなかった。 平民も貴族も人間も動物も、等しく夜の闇に包まれる。 アルビオン~トリステイン戦争 開戦初日 アルビオン首都ロンディニウム、ハヴィランド宮殿前大通りは、朝から群衆で埋め尽く されていた。 石造りの整然とした町並みの中に色とりどりの旗が翻っている。楽隊の勇壮な演奏の中 を、人々の歓声を受けて華やかな騎士隊の隊列が進んでいく。宮殿内でオリヴァー・クロ ムウェルの初代神聖皇帝戴冠式も滞りなく、神妙に執り行われていた。 正午、宮殿テラスからクロムウェルが姿を現し、民衆へ手を振る。同時に大歓声がわき 起こり、皇帝自身の口から神聖アルビオン共和国樹立とトリステインへの遠征が宣言され た。 そして宮殿奥、ホワイトホールでは、遠見の鏡から式典の進行を眺める人物の姿があっ た。それは本物のクロムウェルだ。 「ふむ…さすがに影武者で戴冠式をするのはやり過ぎかとも思ったけど、まぁいいか。念 には念を、とも言うしな」 ほどなくして鏡には、上空を悠然と進むアルビオン艦隊が映された。数多くの竜騎兵に 周囲を警護された艦隊は、ゆっくりとトリステインへ船首を向ける。 港町ロサイスとロンディニウムを繋ぐ交通の要衝、サウスゴータ。 そのサウスゴータの森の中、ロサイスから北東に50リーグほど離れたウエストウッド 村には、丸太と漆喰で作られた民家があった。村といっても、ある篤志家の援助で作られ た孤児院みたいなものだったが。 そしてその篤志家と、その友人と、村を運営する女性が、孤児達と共に昼食を囲んでい た。 「あー!見てみてぇー!」 一人の子供が上空を見上げると、アルビオン艦隊が竜騎士を引き連れて通過する所だっ た。 「うわぁー!すっごおーい!」 「今度はどこいくのかなぁ?」 「しらねーのかよ、トリステインだってさ」 子供達は、無邪気に艦隊を珍しがり、その後を追って駆け出した。 「こらあー!みんなー、まだ食事中よー!」 「はーい!」 「ごめんよテファ姉ちゃん!」 テファと呼ばれた耳の長い少女に止められ、子供達はみんな食卓へ戻ってきた。 「まったく、あのティファニアといい、子供達といい、平和なものだな」 そう言って麦酒を口にしたのは、篤志家の友人であるワルドだった。マントを外して衛 士隊の制服も脱ぎ、今はただの村人にしかみえない――その鋭い眼光と鍛え抜かれた肉体 を除いて、だが。 「本当だねぇ・・・内戦直後のトリステイン遠征で、高い税金やら焼け出された民衆やら で貴族への恨みがつのっているって言うのに。 杖で民衆を脅しての戴冠式典に艦隊パレードを兼ねた出陣式、ほ~んとにご苦労なこっ たよ」 ぼやき混じりにパンを頬張っているのは、土くれこと篤志家のフーケ。 「で・・・あんたはどうすんだい?」 「どう、とは?」 「しらばっくれてんじゃないよ。今朝はずっと、あれの横でじぃ~っと考え込んでたじゃ ないか」 そう言ってフーケが指さした先には、体を丸めてうたた寝するグリフォンがいた。その 大きくてフカフカの体の上では、小さな女の子も一緒に昼寝している。 「今の俺は、ただの子守だよ。子供達と遊ぶのに精一杯さ」 「ぬけぬけとまぁ、よく言うねぇ!子育てにグリフォンなんか連れてくるもんか!まった く、あんなでっかくて目立つのをここまで連れてくるのに、どんだけ苦労したと思ってる んだい!?」 「意外だな、お前からそんな事を言ってくるとは。こういう平和で穏やかな生活は嫌い か?」 「そっ!そんなことはないけど、ねぇ・・・って、からかうんじゃないよ!」 「んもぉ~、マチルダ姉さんもワルドさんも、子供達の前でケンカしちゃだめです!」 「いや、別にケンカしてるワケじゃ」「ふふ、すまんなティファニア」 ティファニアに怒られ、二人とも黙って昼食を済ませる事にした。 昼食をモゴモゴと食べながらも、ワルドの目は遠くを見つめていた。 ―――夜、ルイズの部屋 薔薇乙女達がトランクで眠りについた頃、ベッドの上ではルイズが寝返りをうち続けて いた。 ・・・寝れないなぁ・・・ もう何度も何度もコロコロ寝返りをうってるが、目が冴えて全然寝付けない。 ぼんやりと天井を見つめても、いつもの天井があるばかり。 「弱ったなぁ、グッスリ寝なきゃいけないのに」 ふと床を見れば、わら束の上にひいた毛布にくるまるジュンの背が見える。 「おーい」 返事なし。 「こらー、ジューン」 やっぱり返事はない。 「・・・女ったらし」 「…誰がだよ」 「やっぱり起きてるじゃない」 ジュンは背を向けたまま、小声で抗議した。 「ジュンも寝れないの?」 「う…ん、まあね」 「床で寝てるのがまずいんじゃない?」 「もう慣れたよ。他に寝る所なんて無いし」 「あるわよ」 「どこに?」 「ここに」 ヒョイとジュンが頭を上げると、ルイズがベッドの、自分の隣を指さしている。 「・・・冗談はよせよ」 慌てて毛布にくるまりなおすジュンの顔は、一瞬で真っ赤になっていた。 「あら、冗談じゃないわよ」 ルイズは悪戯っぽく微笑みながら、ジュンの背を見つめている。 「明日は大事な日だもの。ぐっすり寝てくれないと、こっちだって困るわ」 「そりゃお互い様。バカ言ってないで、早く寝ようぜ」 「ふーん、来てくれないんだぁ」 「あ、あったり前だろ」 「じゃあ~、オネーサンがジュンのトコに行ったげようかなぁ~?」 「かーっからかうなよ!」 「うふふ、ゴメンね。それじゃ、お休みなさい」 「ああ、お休み」 ルイズはジュンに背を向けて布団にくるまる。 ほどなくして、二人は夢の世界に旅立っていった。 「やれやれまったく…ジュンはやっぱ、まだまだお子様だねぇ・・・」 壁に立てかけられたデルフリンガーの言葉も、聞く者はもういなかった。 back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ ラ・ロシェールでキュルケとギーシュを拾ったタバサは、 そのままトリステインの城へとシルフィードを飛ばし、 ルイズとウェールズ、それから治療が必要なハクオロを下ろすと、 キュルケとギーシュを連れて学園へと戻り、自室のベッドに倒れ込んだ。 酷く疲れていた。 いくら力を得たからといって、休息なしで戦いすぎた。 遍在を倒し、フーケを倒し、ハクオロの看病をし、貴族派と戦い。 それでも充実したものが胸のうちになった。 例え二度と外れぬ首輪をはめられた家畜同然の身でも、 あの方のために尽くせるのは喜びであった。 第18話 忌まわしき契約 アンリエッタはウェールズとの再会に感極まり、彼の胸元を喜びで濡らした。 ウェールズはアンリエッタに貴族派の正体を、 すなわち聖地奪還を掲げながら世界を狙うレコン・キスタの存在を教える。 放置すればトリステインだけでなくハルケギニアすべての国々が侵略される。 それは決して許される事ではない。 だから。 「僕は戦わねばならない。しかし兵を失ってしまった今、頼れるのはトリステインだけだ。 愛しいアンリエッタ、僕を信じて兵を貸してくれ」 他国を巻き込まない事にこだわっていたウェールズだが、今は事情が違った。 彼は戦わねばならない。 護るために。戦うために。 命ある限り。 精神の一番深い部分で拒絶しながらも。 ウェールズ皇太子を正式に受け入れたトリステイン王国は、 神聖アルビオン共和国を名乗るレコン・キスタとの戦争を決意したが、 弱小トリステインに勝ち目は薄く、軍備を整えるまで時間を要した。 そのためアルビオンからの休戦条約を受け入れ、しかし条約を破る機を虎視眈々と待つ。 国内の意見をまとめるための日々の間に、魔法学院に帰ったハクオロの火傷もすっかり癒え、 シエスタの手によって服も元通り縫い直されてもらった。 だが何もかも元通りという訳にはいかず、戦争の噂が学院中に広まり、 従軍を決意する男子達の姿も見られた。 レコン・キスタとの戦争は避けられない。 ならばこちらから先制するため戦争の準備を進めるというのは納得はいったが、 やはり戦争となると心苦しい思いになるハクオロだった。 そんな彼の所に、シエスタが訪ねてくる。 「タルブの村へ帰る?」 「ええ。実は、アブ・カムゥが見つかってしまいそうなんです。 戦争の準備のせいで資材が必要になって、山の木をたくさん切らなくちゃならなくて。 だからアブ・カムゥをもっと山奥へ隠すために動かしてくれって、お父さんが」 「そうか、あれは確かシャクコポル族だけが動かせるのだったな。 母親の血を継ぐシエスタなら一人で動かせるはずだ」 「でも動かし方が解らなくて、ハクオロさんなら知っていらっしゃるかな……と」 アブ・カムゥは使いこなすには技量が必要だが、ただ動かすだけなら簡単なものだ。 中に入りさえすれば、自分の身体を動かすのに近い感覚で動かせる。 説明を終えると、ハクオロは不安げな表情を作る。 「シエスタ。君を不安にさせたくはないのだが、タルブの村は危険だ。 神聖アルビオン共和国との戦争が始まれば、 真っ先に狙われるのは港であるラ・ロシェールだろう。 タルブと距離が近すぎる。攻め込まれたら、戦禍は間違いなくタルブの村を呑み込む。 聞けばアルビオンは空の戦いに長けているという。 アブ・カムゥはアルビオンからも見つからぬよう、空から見えぬように隠すといい。 危険を感じたらすぐ非難するよう、オヤジさんやタルブの人々にも伝えてくれ。 何かあれば私もできる限り力になろう」 「ありがとうございます。ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね」 「ああ、絶対に助けに行くよ」 約束をして、ハクオロはシエスタの頭を優しく撫でてやった。 するとシエスタは頬を染めて嬉しそうに微笑む。 その姿はまるで兄妹や父娘であった。 タバサと確執があったルイズだが、アルビオンへ救助に来てくれた事は感謝していた。 そのためわざわざ部屋までお礼を言いに行くと、タバサから問われた。 「あなたは彼が何者か知っている?」 「彼……って、ハクオロの事?」 恐らく使い魔のルーンを通じて見るハクオロの夢のおかげで、 ルイズはハクオロが未だ語ろうとせぬ彼の過去のいくつかを知っていた。 だがタバサの質問は、もっとハクオロの根源に迫る意味合いを持っているように思える。 「解らないわ。まったく知らないって訳じゃないけど、変なところがいっぱいあって」 「そう」 タバサは、ルイズが質問をはぐらかしたり知らないと嘘をついたりせず、 正直に解らないと答えた事を確認すると、わずかに双眸を細めた。 ルイズはハクオロの事を語れるのだ。 使い魔召喚の際、黒い霧に包まれていたから自分と同類かと思ったが、 どうやらそう簡単な話ではないらしい。 タバサの不審な態度に眉根を寄せながらも、 これ以上話がないようなのでルイズは部屋を出た。 部屋に戻ったルイズは、物憂げな表情のハクオロを見つけた。 「どうしたの?」 「いや、ちょっとな」 何かあったのだろうか。 視覚聴覚をこっそり共有していればよかったと思ったが、 次の瞬間酷く情けない気持ちに襲われてしまった。 いくら使い魔といえどハクオロは人間で、勝手に夢や行動を盗み見るなんて。 恥じ入ったルイズは、とうとう秘密を打ち明けた。 自分が眠っている時、ハクオロの夢を盗み見る事ができた。 自分が眠っている時、ハクオロがシエスタ親子にアブ・カムゥの説明をしている様を盗み見た。 アルビオンでは目を閉じハクオロを思っただけで視覚と聴覚を共有できた。 聞かされて、ハクオロは唖然としていた。 「本当なのか? ルイズ」 「ええ。最初の頃は胸が……ルーンと同じ場所が酷く痛んだけど、 最近はもう痛まないわ。自然に感覚を共有できる。 何て言うか……繋がりが強くなったような気がするの」 「……主の目となり耳となる使い魔もいるのだったな? ならば不思議な事など何もないじゃないか。 ルイズがまた一歩、一人前のメイジに近づいたと思って喜べばいい。 ただしできるなら、緊急時を除いて、今後私の了解なく感覚の共有はしないでもらいたい。 使い魔とはいえ、私も人だからな。覗き見されては困る時もある」 「ええ、そうするわ。本当にごめん」 それから二人は、アルビオンの教会での出来事を話し合った。 ルイズはワルドに気絶させられてからの記憶がない。 遍在に成すすべなくやられてしまったハクオロも同様だ。 ウェールズの負傷が治っていたのも疑問だったし――本人に質問したが答えてくれなかった―― タバサの仕業でもない事は空の上でハクオロが確認を取ってある。 そしてワルドはどこへ消えたのか。 なぜデルフリンガーが、あんなおぞましい滅び方をしたのか。 デルフリンガーは何を言おうとしたのか。 相棒であるハクオロを"そいつ"などと呼び、炎の中に置き去りにするよう言ったのは何故か。 「私は……何者なのだろうな」 「獣の耳と尾を持つ亜人が普通に暮らしている国……。 なぜかは解らないけれど、東方とは違うように思えるの」 「……ルイズ。君は確か、サモン・サーヴァントで呼び出したのは巨大な化物だと言っていたな」 「え、ええ……今では夢か幻のように思えるけれど」 「その化物と契約したはずなのに、ルーンは私の胸に刻まれてしまった。 これはどういう事だ。まさか、君が見た化物というのは……」 「ありえないわ。ハクオロは人間だもの。 きっとあの大きい奴の方が間違いだったのよ……夢だったのよ……」 そう言って、ルイズは自分の言葉にハッと気づいた。 「夢?」 思い出す。夢の話で、またしていない事。 「そうだわ。ハクオロの夢を見る以前は、あの化物の夢を見ていたのよ」 「化物の? もしや、黒くて大きいとか寝言で言っていた……」 「そんな寝言を言ってたの? まあ、いいわ。 夢だからおぼろげにしか覚えてないけど、あの化物の夢で間違いないと思う。 姿形は、寝言から判断すれば、やっぱり黒くて大きい……牙の生えそろった……」 「その化物の正体こそが、私の過去を解き明かす重大な鍵なのかもしれない」 そしてそれが解った時、すべてが終わるのかもしれない。 夜、タバサは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇を見て、思い出す。 漆黒の契約を。 夜、ウェールズは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇を見て、思い出す。 漆黒の契約を。 夜、ルイズは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇でもなく、己の心を見た。 意味の解らぬ言葉のつらなりが脳裏をよぎる。 歌うように言葉をつむぐと、窓の外の景色が変わった。 音はない。声もない。 けれどそこには夢で見た人々がいた。 ハクオロがいる。 犬の耳と尾を生やした娘が入れたお茶をおいしそうに飲んでいる。 犬の耳と尾を生やした女の子に膝枕をしてやり、優しい表情で頭を撫でている。 書簡の山を運んでくる美青年。 そこに駆け込んでくる若い男といかつい男が、何やら言い争いを始める。 その後ろで同じ顔をした二人の美少女が……いや……美少年がオロオロしている。 猫の耳と尾を持つ美女と、白い翼を持つ美女。 そこにハクオロが加わって、ひとつしかない月を肴に酒を飲んでいる。 その隣では鳥の翼のような耳を持つ女が酔いつぶれて眠っていた。 子供のように無邪気な少女がじゃれついてくる。 それを微笑ましい表情で見つめている少女もいた。 二人ともウサギのような長い耳を生やしている。 寝台に横たわる少女がいた。犬の耳をしていて、まぶたを閉じたまま微笑んでいる。 「これは……これはハクオロの……」 黒い翼を生やした銀髪の美少女が、黒い靄のようなものと戯れながら、 水面の上を軽やかに舞って遊んでいる。 その少女がくるりと回転した瞬間、雰囲気が一変する。 彼女の服装は身体にフィットしたものになり、髪型も変わった。 悲しげな眼差しをルイズに向けている。 お と う さ ま 動いた唇を、ルイズは当たり前のように読む事ができた。 ――お父様を眠らせて上げて―― 「ムツミ」 床で眠っていたはずのハクオロがいつの間にか起きていて、 窓の向こうの幻を凝視していた。 ムツミと呼ばれた幻が涙をひとつこぼし、霞のように消え去る。 待ってくれ、と窓に駆け寄ったハクオロだが、すでにそこには夜の学院があるのみだった。 「……ルイズ、これは?」 「イリュージョン……幻影を見せる魔法。 何でだろう。こんな魔法、聞いた事がないし、どんな系統なのかも解らない。 けれど頭の中に浮かぶの、いくつかの魔法が。どうしてかしら……。 ねえハクオロ。いつから見てた?」 「君がそのイリュージョンとやらの魔法を唱えている時、なぜか目が覚めた。 音色のような詠唱で身体が震え、今の今まで身動きができなかった。 しかし……まさかルイズがこんな魔法を成功させるとは」 「どうして急に……」 嬉しさよりも困惑が先に立つ。 教科書に載っているような系統魔法が使えたのなら素直に喜びもできるが、 知識だけは人一倍なルイズでさえ知らぬ謎の魔法。 いつから使えるようになったんだろう? 「ハクオロ、やっぱり何かがおかしい。私……この魔法をずっと昔から知っていた気がする。 ううん、きっと知らなかったはず、でも、なぜか懐かしいの。切なくなる……」 「……私もだ」 ハクオロは胸のルーンを押さえた。 「不思議な気持ちになる……君の詠唱を訊いていると、胸が熱くなって……」 「私達がした契約って、いったい何なのかしら」 「私達の……契約……か」 契約。 本来神聖であるはずのそれは、禍々しく忌まわしい響きがした。 「ルイズ……私達は何かを間違ってしまったのかもしれない。 その間違いが正された時、私達の関係も終わってしまうのかもしれない」 「私とハクオロの関係って?」 「決まってるだろう? ――家族だ」 使い魔は家族も同然。とはいえ厳密には違うけれど、ルイズは「うん」とうなずいた。 もし間違いが正されて家族でなくなってしまうなら、いっそ間違ったままでもいい。 三日後、レコン・キスタが休戦協定を破り港町ラ・ロシェールを奇襲。 裏をかかれたトリステインは、アンリエッタを先頭に蜂起を決意。 アンリエッタの隣では、ウェールズが悲しげに目を伏していた。 「アンリエッタ。大変な事になってしまってすまない……」 「いいえ。ウェールズ様と共にあれば、わたくしは何も怖くはありません。 共に護りましょう。愛する民と、貴族の名誉を」 「すまない……それはできないんだよ、アンリエッタ」 「え?」 ウェールズの声は沈み、口元には自嘲を作っていた。 「私はきっともう、名誉のために戦う事はできないだろう。 私は杖も剣も失い、在るのは魔獣の如き牙と爪。 アンリエッタ達を護るために戦ったとしても、 トリステインに安息をもたらしたとしても、我が身に安息は二度と訪れぬ。 私は命ある限り戦い続けねばならない。 誰かを護るため、誰かを殺し続け、地獄へ行く宿命なのだよ」 「ウェールズ様、わたくしには政治も戦争も解りませぬ。 ですが、貴方を信じております。貴方と共にあると誓っております。 貴方が地獄へ行ってしまわれるのなら、わたくしも共に落ちましょう、地獄に」 「……ありがとう、アンリエッタ。でも、僕が行く地獄は、君の行く地獄とは違うだろう。 私は……そう、私やあの少女達は……未来永劫解放される事はないのだから」 トリステインの軍隊が駆けつける頃には、ラ・ロシェールのすべては陥落していた。 そしてレコン・キスタの軍勢は逗留地を求め、広い草原のあるタルブの村へ侵攻した。 その報は学院に――ハクオロの耳にも届いた。 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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ジョン・コーウェン 番号 階級 NT値 戦艦 航空 車両 MS MA 041 少将 ○ ○ × ランク 指揮 魅力 射撃 格闘 耐久 反応 E D C B 15 13 11 8 10 7 A 16 14 12 9 11 8 S 参入条件: アライメントゲージが大きくLAW寄りで加入 味方会話キャラ: 敵戦闘時会話キャラ: 友好キャラ: 専用機: 寸評: 超有能な指揮官兼艦長で総大将であるブレックスの能力を(魅力を除いて)上回る。 そんな彼の欠点はずばりブレックスの存在感を奪いかねないと言う事。 最低でもアルビオン、出来ればそれ以上の戦艦に乗せて第一線で活躍させたい。
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期間 2013年4月8日11時00分~2013年4月17日23時59分 ※当初発表のイベント期間 チャレンジバトルとは? イベント内でしか入手できない限定パイロットを獲得することが目的。 詳細はチャレンジバトルのページをご参照下さい。 限定パイロット 今回のイベントパイロット ★3レイ・ザ・バレル★3カミーユ・ビダン★4キラ・ヤマト CPUデッキ ランク CPUデッキ名 戦艦 地形 主な搭載機 CPU撃破に必要なデッキ攻 梅 vsディアナ親衛隊の強襲! ディアナ親衛隊のMSを倒せ! マゼラン 宇 竹 赤い彗星の勇姿! 赤い彗星率いる軍団を撃破! アルビオン 宇 松 舞い降りる翼! 4月ガシャ最強軍団とチャレンジバトル! アークエンジェル 地
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「ッ!!」 ガツン、という擬音が聞こえるかのような痛み。 声を上げる暇もない。 突然、視界が黄金色の光に包まれたかと思えば、頭の天辺から足の爪先にまで走る爆音が体を揺らし、貫くような衝撃波が構えていた盾を吹き飛ばした。 続いて現れたのは、燃え盛る炎である。 吹き飛ばされたホル・ホースは、自分と同じように吹き飛ばされてきた人間に体を押し潰されながら異様に明るい光に目を向けて、大勢の人間が天を突くように上る炎に包まれる姿を見た。 「おいおいおいぃ……、どうなってんだこれはよォ!どっかのバカがガスタンクでも吹き飛ばしやがったのか!?」 ハルケギニアにガスタンクなんてものが無いことは分かっているが、目にしている光景はそうとしか思えないものだ。 強力な爆風に薙ぎ倒された人間の体に火が付き、熱さから逃れようとのた打ち回る人間が数え切れないくらいに居る。アメリカ映画の銃撃シーンで銃弾がクルマを打ち抜いたとき、派手に爆発して炎上する場面があるが、そこに逃げ遅れた人間を沢山配置すれば、ちょうど今のような姿になるに違いない。 そう思えるほど、ホル・ホースの見ている光景は現実離れ、いや、TVや映画に慣れた人間に錯覚を起こさせる状態になっていた。 耳を劈くような悲鳴が上がる中、想定していなかった事態にパニックを引き起こした人間の怒声が混じる。戦いを放棄して消火作業に回る者、これを機に突撃を仕掛ける者、トリステインとアルビオンのどちらが起こしたことなのか判別がつかず、様子を見る者。 対応はそれぞれであったが、ホル・ホースは自分で行動を選ぶ前に、強制的に被害者の立場に置かれていた。 「あっちいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」 火が何かの形で飛び火したらしい。巻き起こる炎から逃れようと、自分の上に乗った名も知らない誰かを転がして立ち上がったホル・ホースの尻の部分が、狙ったかのように飛び込んできた火の粉に引火して炎上を始めたのだ。 地獄の釜が開いたかのような惨状の中、ケツを燃やして走り回る男の姿はコメディ映画やアニメでも中々見られない光景である。消火しようと水を用意している者も、助けることを忘れて唖然としている始末であった。 「さっきからなんだってんだ!オレがなにか悪いことしたか!?」 ハルケギニアに来てからだけでも、両手の指に余るほどの人間を殺しているのだから、悪いに決まっている。しかし、都合の悪いことは殆ど忘れるホル・ホースに悪気は無い。 ケツを燃やされる程度なら、積み重ねてきた悪事にしては軽い方だろう。因果応報に正しく従っていたならば、火に飲まれてのたうつ人間と同じことになっても不思議ではないのだ。 仮に神様が居たとしたら、神様に好かれている、とは一概に言い難いが、少なくとも嫌われてはいないであろう程度の優遇は受けているのかもしれない。遊ばれているだけ、という可能性もあるが。 「そこのお前、ちょっと止まれ!いま火を消してやる!」 「止まれといって止まれるかバカヤロウ!あちっ、あちちっ、あっつ!!」 救いの無い火達磨よりも尻を燃やしているだけのホル・ホースを優先的に助けようとしてくれたらしい誰かの声に怒声で返しつつ、ホル・ホースはとりあえず声の方向へと走り寄る。 そこに待っていたのは、水の入った桶を構えた若いのか年を取っているのか分かり辛い外見年齢のおっさんであった。 ホル・ホースの進行方向が反転する。 「男に助けられる趣味はねえ!」 「バカ言ってねえで、ケツを出せ!!」 「男にケツを出す趣味もねえぞ!!」 「そういう意味じゃねえよ!」 変なところで意地を張るホル・ホースに、もう面倒なやり取りなんてしていられないと、男はホル・ホースの足首を蹴って転ばせ、倒れたホル・ホースに持っていた水をぶっ掛けた。 弾ける水に火は吸い込まれるようにして消え、後には焼け焦げて穴の開いたズボンの残骸だ けが残る。幸いにして、根性で形を保っていた下着のお陰で尻の割れ目を晒すことにはならなかったようだ。 「ったく、この忙しいときにバカなことやってんじゃねえ、若造が!」 「いてぇっ!」 日焼けした顔を怒りで更に黒くさせた男は、倒れ伏したホル・ホースの脇腹を蹴って唾を吐き飛ばす。 乱暴な行いに怒りを覚えつつ、ホル・ホースはそのまま痛む脇腹を押さえて咳き込み、痛みが鈍くなるのを待ってから立ち上がる。 「この野郎、人を蹴っ飛ばしておいて、ただで済むと……、なんだおい?」 「いいから持て。ピンピンしてる奴を遊ばしておく余裕なんて、これっぽっちもねえんだ。死なないためにも、金の為にも、しっかり戦え」 不穏な空気を漂わせるホル・ホースに、男は何事も無かったように薪割りに使われるような斧を渡して、自分は剣を握っていた。 わぁ、と声を上げて男とホル・ホースの横を人が駆け抜け、アルビオン軍に突撃を仕掛けている。未だ立ち上る炎も見えていないかのような勢いだ。 「……突撃しろってか?」 「当たり前だろ。それが俺たち、傭兵の仕事だ」 正規兵に見えないホル・ホースを同業者と思ったのか、男はニッと愛嬌の滲む笑みを浮かべてホル・ホースの肩を叩く。そして、信じられないほど強い力で押した。 「よっし、行くぞ。若いの」 「え、ちょ、オレはこういうのは……、うお、うおおおぉぉわあぁぁぁぁぁっ!」 決して貧弱などではないホル・ホースがまるで抵抗できない力の差でもって、男は炎の中に ホル・ホースを投げ込む。足が地面について慌てて振り返っても、もうそこに自分を投げ込んだ男の姿は無く、後から後から駆け込んでくる傭兵達に背中を押されるばかり。もはや、後退は出来そうになかった。 黒く焦げた体を晒す死体の絨毯をふらつきながら走り、追い抜いていく傭兵の姿を目で追いかける。肌に触れる火で汗が浮かんでも、それを拭うだけの気力は無い。 それでも、ホル・ホースは炎と煙の壁の向こうに火を恐れて立ち止まるアルビオンの兵士を見つけると、それ自体の重み以上に重さを感じる斧を振り上げた。 「チクショオオオォォォォッ!ヤられる前にヤったらあああぁぁぁあぁ!!」 そんな鉄砲玉のチンピラ臭い台詞を発して、ホル・ホースは戦場を駆け回るのだった。 ホル・ホースが生きるか死ぬかの戦いを繰り広げている一方で、アニエスら銃士隊やエルザ達もまた戦いの渦中に飲み込まれていた。 トリステインの一部が混乱の中で敵陣に深く進攻するのと同じように、アルビオンの軍勢もトリステイン軍の混乱を機に弓から放たれた矢の如く陣中に戦力を食い込ませようとしている。 そして、その先端の一つとなる地点に居るのが、ちょうどアニエス達の居場所であった。 「ひとーつ!ふたーつ!みーっつ!!」 「数えるのは良いから、こっち来ないようにすることだけ集中しなさい!何匹が零れて来てるじゃないのよ!」 剣を抜いた銃士隊を守るように両刃の戦斧を握った地下水が、近付くアルビオンの兵士達を次々と薙ぎ払っていく。だが、それで全ての敵兵を止めることが出来るはずも無く、ミノタウロスと直接戦うことの愚を察した幾人かが脇を抜けてエルザや銃士隊に向かっていた。 とはいえ、たった数人に対して銃士隊四十名が打ち倒される、なんて奇跡は起きない。盾も鎧も関係なく人体を両断するミノタウロスの戦斧を潜り抜けた者は、漏れなく待ち構えていた銃士隊の剣の錆へと変わっていた。 「数人くらいは我慢してくれよ。こっちも必死なんだぜ?それに、問題行動を起こしてるのはオレじゃなくて、あっちの二人だろ」 叫びながら突進してきたアルビオン兵の一人を胴から真っ二つにしながら、地下水は銃士隊の後ろで言い合いを続けている二人に注意を向けた。 「こういう危険なことをするなら、あらかじめ知らせておけと言っているのだ!樽に細工をしたことまでケチをつけているわけではない!!」 「うるさいねえ!結果的に敵を吹っ飛ばせたんだから良いじゃないさ!あたしだって、コレがこんなに燃えるものだって知らなかったんだよ!!文句があるなら、きちんと説明しなかったスケベバカとバカ禿げに言いな!!」 「液体の性質がどうとかじゃなく、なにかするなら言えと言ってるんだ!それで問題が起きたら、責任を取るのは私なんだぞ!!」 「言ってる暇がなかったんだよ!そもそもだね、あんたがチンタラしてんのがいけないんじゃないさ!優秀な副官が居るみたいだけど、その優秀さに甘えて自分のやること見失ってんじゃないのかい?自分を棚に上げんじゃないよ!」 二人とも、鼻先が触れそうになるほど顔を近づけて睨み合い、耳が痛くなるような声を響かせている。 戦場だ、真面目にやれ、などと言っていたアニエスがこうして怒鳴り散らしているのは、マチルダの手の中にある小さな瓶が原因であった。 極少量の液体が詰められたこの小瓶は、タルブの村に安置されていた零戦のタンクに残っていたガソリンである。マチルダは、地下水が投げていた樽の中に、このガソリンを大量に錬金していたのだ。 樽が一つ壊される度、空中で100リットル近い量のガソリンが戦場にばら撒かれ、空気と交じり合っていたのである。その危険性は、多少なりとも想像できるだろう。 マチルダがやったのは、そこに火種を一つ放り込んだだけ。別のメイジが火の魔法をガソリンのばら撒かれた場所に放っていても、同じことが起きたに違いない。 つまり、ホル・ホースが吹き飛ばされた上にケツまで燃やしたのは、マチルダが原因なのだ。 アニエスが怒っているのは、そういう小細工をするなら味方に被害が及ばないように事前に報せておけという、至極真っ当な意見からであった。状況を忘れて怒鳴り合っているのも、素直に謝らないマチルダのせいで少々ヒートアップしているだけである。 しかし、気の強い女性二人が放つ気迫は、ホイホイと止めに入れるものではない。二人の相性の問題もあるのか、片方が熱を上げるともう片方も感情を昂らせて、終わりの無い感情のぶつけ合いに発展するようである。 上手く噛み合えば無二の親友となれそうな気もするが、今の調子では殺し合いが始まっても仲直りという方向には向きそうになかった。 「……どうすんだ?」 「そうねえ……」 戦いを続けながら、地下水がアニエスとマチルダを眺めるエルザに声をかける。 流石のエルザも、二人の間に入って仲裁をする、なんて命知らずなことは出来ない。迂闊に懐に飛び込めば、その瞬間に剣やら魔法やらで串刺しにされそうなのだ。命は惜しい。 だからといって放っておくわけにもいかない。いや、放っておいてもいいのだが、それはそれで後で煩いことになる。そうなるのも、出来れば回避したい。 なら、直接的に止めるのではなく、遠回しに、しかし二人の反応を得られる方法が望ましいだろう。 そういう分野なら、エルザの得意な所であった。 「じゃあ……」 少し考える仕草をすると、エルザは少しだけ大き目の声を地下水に向けて発した。 「愛し合う二人の邪魔をしちゃいけないわ。わたし達は二人の将来を祈って、生暖かくそっと見守りましょう」 「誰が愛し合ってるか!!」 「捻り潰されたいのかい、このクソガキ!!」 分かり易い引っ掻けは、二人の地獄耳に見事入り込んで反応を得たのであった。 「ほら釣れた」 悪戯に成功した子供のように破顔して、エルザはちろりと舌を出す。 あまりに予想通りの反応に、地下水は呆れて斧を取り落とした。 「姐さん、本当にそんな単純でいいのか……?」 「……っ!あ、こっ、この、やかましいよ!!」 引っ掛けられたことに気付いたマチルダは顔を真っ赤に染める。隣でアニエスも同じ反応を返してしまったことに気付いて、自分の単細胞っぷりに頭を抱えていた。 「うわあぁ、どうしてこんなことに反応を……!というか、戦争中に私はいったい何をしているんだ!?こんな、なんで……、うわあああぁぁぁぁっ!違う、違うんだああぁぁぁ!!」 冷たく突き刺さる部下の視線に本当に我を忘れて弁解するアニエスの姿は、大粒の宝石以上に貴重に違いない。 だが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。 士気の崩れそうな部下を叱咤して、真面目に戦いを継続しようとしているミシェルが声を張り上げる。 「隊長!後悔するのは戦いが終わってからにしてください!こっちに来る敵の数が……!」 斧を取り落とした地下水に、攻めあぐねていたアルビオンの兵士達は絶好のチャンスと見たのだろう。理由は不明でも、敵が油断をしていたらそこを付くのが戦術だ。気が逸れた一瞬を狙って、ミノタウロスの足元を突き崩すように突撃を仕掛けてきていた。 「マズイぜ、コレはッ!」 強靭なミノタウロスの毛皮でも、絶対ではない。 複数人が体重をかけて刃物を突き立てれば、毛は千切れ、肌は貫かれる。地下水に操られる前のミノタウロスなら血流の操作をして皮膚の強度を高められるのだろうが、今の地下水にその技術は無いのだ。 足元に迫った敵兵に向けて慌てて腕を振るったものの、吹き飛ばした後には既に槍の一つが足に深々と突き刺さっていて、少なくない血が流れていた。 「ウェールズ、カステルモール!なにやってんの!ちゃんと援護しなさいよ!!」 自分の所にまで近付いてきていたアルビオン兵の頭に、アニエスから渡された銃を突きつけてゼロ距離で引き金を引くと、エルザは銃士隊の後ろに立って杖を構えている二人に荒々しく声をぶつけた。 「こっちも忙しいんだ!敵の火砲が増えてきている!」 「他の部隊はきちんと戦っているのか!?敵の攻撃が一向に止まないぞ!!」 「この状況で……、なんで!押してるのはトリステイン側でしょ!?」 ウェールズもカステルモールも遊んでいるわけではない。銃士隊の盾となっている地下水や銃士隊そのものを大砲や魔法から守るため、風の魔法で防護膜を張っているのである。しかし、その風の壁にぶつかる大砲と魔法の数は戦いの当初から減る様子が無く、むしろ他の部隊の敗走などで敵が集中することで、勢いを増しているようだった。 エルザの叫び通り、数の優位と地の利、その二つが揃っている以上、トリステインに負けはないし、押しもしている。 それでも敵の攻撃が止まらないのは、偏に敵兵の中に仕組まれた異物にあった。 空から見下ろせば簡単に気付ける異変だが、それに気付いているのは、たった一人。 要塞の上階に立って戦場を見下ろす、マザリーニだけだった。 どういうことだ。とは口にはしない。 小さな窓枠から一歩引いた位置で戦いの行く末を見守っていたマザリーニは、自軍の陣形が分刻みで崩されていく様に顔を顰めるだけで、息を潜めるように佇んでいた。 前衛部隊が崩されたまではいい。それに、謎の爆発や大規模な火災も、敵軍の被害の方が大きいのだから、原因の究明は後回しで良いだろう。しかし、敵軍の先陣がどこまでいっても止まらないのは理解も納得も出来ない。 針のように細く、鋭く攻め入る敵の攻勢は、広く布陣するトリステイン軍の中に深く入り込んで来ている。それは逆に考えれば、敵にとっては味方がついてきている背後以外は敵だらけなのだから、包囲されているようなもの。叩くのは容易なはずだった。 なのに、止まらない。 幾つもの針がトリステインの軍勢の中に突き刺され、その内のいくつかは優秀な兵士達の獅子奮迅活躍で止まってはいるものの、残る数本が全軍の指揮を担当する将軍の下へと一直線に向かっている。 ここまで聞こえてくる将軍の声からして、状況がわかっていて対処をしようとしているようだが、それも敵が仕掛けた種を明かさなければどうにもならないだろう。 天の目、なんて大層なものではないが、高い位置から見ることで見えてくるものもある。 その位置にあるマザリーニの目には、確かにアルビオンの異常性が映っていた。 「一度倒れた兵が、再び立ち上がってきている……?」 死んだ人間が生き返るなどという夢物語を信じるマザリーニではない。熱心な宗教信徒ではあるが、奇跡なんてものは聖書の中にだけあれば良いと言い切れる人間だ。偶然や必然を未知の何かに結び付けるほど、耄碌してはいない。 だが、現実に人間が生き返ってきている。 見下ろした戦場では、飢えた獣のように暴れまわる男達が串刺しにされて人の波に飲まれたかと思うと、少しの時間を置いてまた暴れ始める姿があった。 殺した相手の顔までしっかりと見ている者もいないのだろう。死んだはずの人間が再び暴れているのだと気付いている者は数える程度で、その気付いている者達も自分の目を疑っているようだった。 「これは……、確かめねばならんか」 石の床を踵で叩いて、マザリーニは窓際から離れた。 広くない廊下をゆっくりと歩き、途中で数人の衛兵と擦れ違いながら必要と思うものを一つ一つ指示していく。目に映る人間全てにそうやって指示を与えて遠ざけると、途端に足を早めて、要塞の各所にある階段を下り始めた。 貴族とは、堂々と振る舞い、胸を張って歩かなければならない。廊下を靴を鳴らして歩くのもまた、自身の存在を周知させる作法である。 そうアンリエッタに教えていたマザリーニは、今は足音を消して階段を駆け下りていた。 二階に。一階に。そして、地下へ。 足場が暗くなっても明かりを灯すことなく下り続けたマザリーニは、階段の終わりに差し掛かると、そこで篝火を隣にして重厚な扉の前に立っている衛兵に目を向けた。 「合言葉を」 杖を右手に構えた衛兵の言葉に頷くと、マザリーニは篝火に体を向けて、何も握っていない両手の平を合わせ、放し、奇妙な形に組んだ。 衛兵が頷き、懐から鍵束を取り出す。 合言葉とは万が一に対する偽装で、実際にはこの手の動作こそが衛兵への暗号であった。 「生きているかね?」 「……ええ。衰弱が進んでおりますが」 主語を用いないマザリーニの問いかけに衛兵は無愛想に答えて、扉を開く。そして、束に括られた鍵の一つを渡して、小さく敬礼をした。 「何があっても開くな」 「はっ。承知しております」 昔からの忠実な部下の言葉に、マザリーニは皺だらけの顔に笑みを浮かべた。 蝶番の軋む音を耳の奥に響かせて、扉が閉まる。そして、鍵が重くかけられた。 扉を越えたマザリーニは、湿っぽい空気と汚臭に鼻を押さえると、杖を手にして“明かり”の魔法を唱える。 杖の先に、光が灯った。 石の天井と床が、明かりに照らされて白く濁った。 「……ひどいな」 そう呟かずにはいられないほど、マザリーニの居る場所は汚らしかった。 足下にはゴキブリが這い回り、見たことの無い虫がそれを捕食しようと飛び回っている。色の付いた液体が床を濡らし、部屋の隅にある小さな排水溝へと吸い込まれていた。 正確には部屋ではない。広く、長く伸びた廊下だ。道の左右には鉄格子の嵌った部屋が並んでいて、そこからは生き物の気配が漂っている。 明かりを放つ杖を掲げてみれば、格子の向こうに居る生き物の姿が見えた。 「……見るに耐えんな」 一番近い牢屋の中に入っていたのは、肌を腐敗させた亜人だ。崩れた肉からは骨が見えていて、もはや生きていないことを伝えている。 トロールと呼ばれる種で人間よりも遥かに強力な生命体でも、こうなってはただの肉の塊に過ぎない。虫に群がられて、いずれ土に帰るのだろう。 ラ・ロシェールの近くに突然現れたというこの個体は、要塞を築くに当たって密かに邪魔になっていた。そのため、手の空いている魔法衛士隊が排除しようとしたのだが、何故か付けた傷が次から次へと復元してしまうため、手に負えなくなっていたのである。 とりあえず、頑丈な縄や鎖で動きを止めて、本来作る予定の無かったこの地下牢に閉じ込めたのだが、いつの間にか抵抗を止めていたどころか、死んでいたのだった。 もしかしたら、これがアルビオン軍の死者が蘇生するという謎の現象を解明する鍵を握っていたのかもしれないが、今となってはそれを調べる手立ても無い。戦争が終わってアカデミーに送り込む頃には、体の殆どが骨になっているに違いないだろう。 漂う腐臭から身を守るために袖で鼻を覆ったマザリーニは、トロールの屍骸から目を離して廊下の先を見詰めると、そっと歩みを進めた。 トロールの入っていた牢屋のように、他の牢も良い状態とはいえない。 アルビオン軍のスパイと思われる人間が隅に蹲ってブツブツと何事かを呟いていたり、壁に頭を打ち付けたりしている。近づいて来た虫を貪ったりするのはまだ良い方で、用意された便器に頭を突っ込んで何かを舐めている人間も居た。 吐き気を催す光景ばかりが目に付く中、拷問一つしていないのに、どうしてこんなことになっているのかと、マザリーニは廊下の一番奥にある牢の前で一人の男を見下ろした。 「説明して貰いたい。いったい、アルビオンは何を考えている?」 他の牢と変わらない造りなのに、何故か清潔な印象を受ける牢屋の奥。白いベッドの上に横たわって目を閉じていた男が、瞼の下の錆びた瞳をマザリーニに向けた。 「人にものを訊ねるなら、挨拶くらいあってもいいのではないかな。枢機卿」 気だるげに体を起こした男は、ベッドに座って大きな欠伸をする。 漂う臭いを気にした様子も無い。いや、ずっと臭いに包まれていたために、もう鼻が利かないのだろう。 「生憎とそのような暇は無いのだ、子爵。質問に答えてもらおう」 感情の見えない声色で本題だけを告げるマザリーニに、男は立派な髭を撫で付けて、不敵に笑った。 「まだ爵位が残っていたのか。では、俺は今でもド・ワルドの名を使ってもいいのかな?」 そう言って、ワルドは無くなった左腕の付け根を押さえるのだった。