約 1,390,166 件
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/65.html
爆発の直撃を受けたときも酷い有様だったが、 アグリアスの今の状態は、それにも増してさらに酷い。 全身に力が入らず、腕は剣を満足に支えることが できないほどに震えている。腕の震えにつられて、膝まで笑い出していた。 もはや、自身の体重を支えられないほど体がボロボロに なっている証である。 めまいと吐き気に襲われる中で、少し気を抜けば即座に気絶… 場合によってはそのまま死ぬかも知れないことは、本能的に察しがついた。 揺らぐ視界の中央に立つセリアは、足元に転がる、 血だまりの中に沈むレディの骸を見つめていた。 相変わらず、人形じみたその顔には表情も何も浮かばずに、 彼女の目には、夜の砂漠のように冷たく乾ききった色しか宿っていない。 右手は壊れて使い物にならず、あまつさえ死にかかっている アグリアスが、目の前の万全の状態のセリアに勝つ見込みは、 どう考えても少なすぎる。 両者共に万全の状態で戦えたのなら、剣の地力が上である アグリアスが勝つであろうが、現実は常に非情で過酷だ。 アグリアスが生還できる可能性は、ほぼゼロに近かった。 ならば刺し違えてでも、セリアはここで倒さなくてはならない。 ここでセリアを止められなければ、ラムザが殺される。 自分など、ただの戦闘要員の一人にすぎない。 代わりはいくらでもいるが、隊のリーダーたるラムザは唯一無二の人間。 断じて、失うわけにはいかない。 「(死なば諸共…)」 アグリアスは、左手の剣柄をゆるゆると大きく引き絞り、 切っ先を正眼の高さに構えてセリアをにらみ据える。 アグリアスの採った剣の型は、防御を捨てた、捨て身のカウンター型。 己の死を前提にした、死してもなお敵を殺さんとする執念の剣である。 これから死のうという時にも、アグリアスの心は乱れなかった。 命を捨てる覚悟など、とうの昔に済ませてあるからだ。 ここで死んでも、本望であるとアグリアスは思っていた。 命とは、目的を果たすために使うべきものであり、 ただ生き永らえたところで、目的も目指す場所ももたずに、 死なないために生きているような人生に、意味などない。 セリアを殺して、ラムザを生かす。 その代償が自身の命であるのなら、そう悪い条件ではない。 永く身を投じてきたこの戦いの結末を、この目で見届けられないのは 残念であるが、こればかりは仕方の無いことだった。 セリアも両手の侍刀を構え、アグリアスを殺すべく前傾姿勢をとる。 次の一撃で、決着がつく。 セリアの手に納まった2振りの刀が、薄暗い部屋の中で かがり火の光を映して、妙に白く、眩しく輝いていた。 冷たく光る刀身を、美しいと、なぜかアグリアスはぼんやりと 思っていた。 刀を振りかざし、セリアがアグリアスに迫る。 アグリアスは、生き残ろうとは最初から思っていない。 ここで、セリアを殺せるのなら、死んでも構わなかった。 セリアの繰り出した、風斬りでうなる白刃が、アグリアスを刃圏に捉える。 はなから命を賭した、カウンター狙いのアグリアスは、後手に回って、 セリアを絶命しうる剣戟を見舞う。 ところが、セリアの剣の軌道と、狙った場所は、 アグリアスが予想だにしないものだった。 刹那の驚愕がアグリアスの胸中を駆け抜けたが、 体は自然にセリアの動きに応じ、当初の目的を遂行するために動いた。 生まれた日から背負ってきた全てをのせた刃と刃が交わり、 互いの道程が刹那の間に交錯し、一方のそれが、儚くついえる。 アグリアスとセリア。 2人の血が、床に広がった。 アグリアスの頬に、一筋の斬り傷が刻まれていた。 傷から溢れ出る鮮血が、ぱたぱたと床に零れ落ちる。 女の貌に刀傷など、魂を直接斬り刻まれたようなものであるが、 それでも致命傷には程遠い、軽傷でしかないものであった。 油断無く左手の剣の切っ先をセリアに向け、 残心するアグリアスの頭を一つの疑問が支配していた。 「(何故…こんな真似をした…? 殺そうと思えば、簡単にできたはず……)」 傷を負いながらも生きているアグリアスに対して、 セリアは致命傷となる斬撃を、その身に刻まれていた。 斬られた首からは、とめどなく赤黒い血が噴出している。 あの出血量では、もはや助かる見込みもなかった。 そんな自明の理が、理解できないはずはないのに、 セリアは、まるで全てを悟ったかのように、そこに静かに佇んでいた。 最後の時がもう間近だというのに、セリアの無機質な 表情には、少しの変化もなかった。 暗い目で、アグリアスの顔を…顔の斬り傷をじっと眺めている。 そして、視線を両手の侍刀に移し、少しだけそれを 見つめた後に、すっ…と、2振りの刀を床に落とした。 戦いを、殺し合いを放棄した証だった。 刀は床に落ち、澄んだ音を立てて、動かなくなった。 強い眠気に襲われているかのように、セリアの瞼は勝手にとじて、 その度に、セリアは瞼を上げる。失血死寸前の状態だった。 そしてセリアは、斬り口から吹き出す血に、そっと、右手を添えた。 そこから流れ出す、命の温かみを確かめるかのように。 やわらかく瞼を下ろし、かすかに笑ったような表情をした。 漆黒の夜空に瞬いては儚く消える、流れ星のような微笑みだった。 セリアは最後に、ぽつりと呟く。 「わたしも、ここで君と降りることにする」 そう言い遺して、セリアは両膝を折り、血だまりの中に倒れ付した。 しばらく剣を構えたまま、セリアが本当に死んだことを確認すると、 アグリアスは片膝を床について、荒い呼吸に肩を上下させる。 本当に、死ぬ寸前だった。今こうして生きていられるのは、 奇跡以外の何物でもない。 アグリアスは安堵の息を思わず漏らし、気を抜いた途端、 「………ッッ!!」 おびただしい量の血が、アグリアスの喉をついて吐き出された。 つんのめって吐血を繰り返すアグリアスの傍に、新たな血だまりが 次々と作り出される。 レディに何をされたのか、アグリアスが知ることはもうできないが、 左胸が灼けるように激しく痛む。 無防備な体の内側に、強力な酸をぶちまけられたような感覚である。 「…う…ぐっ…くっ…」 激痛に喘ぐアグリアスは、上半身を支えられなくなり、 床に倒れ付しそうになって、思わず右手で体を支えてしまい、 更なる痛みに全身を蝕まれた。 右手の指のうち、親指、人差し指および中指の骨が砕け、 本来ありえない方向に指が捻じ折れている。 薬指と小指も無事では済まず、傷だらけの上に爪がはがれかかっていた。 指は、人が生きていく上でなくてはならない大切で繊細なものである。 そのため、指は痛みにかなり敏感であるように出来ている。 その性質を利用して、指と爪の間に針を刺し込んだり、 生爪をはいだり、指の骨を折るといった拷問方法が一般に採られる ほどである。 痛み以外の感覚が無い右手の損壊は、影を縫う手裏剣の呪縛から 脱出するために支払った代償である。 高い買い物ではあったが、指が消し飛ばなかったのは僥倖だった。 あの爆発の威力からすれば、そうなってもおかしくなかったが、 指は何とか、5本とも手のひらについている。 骨は折れても、時間をかければ元に戻る。 指自体を失っていれば、もう右手で剣を握ることさえ不可能だった のだから、不幸中の幸いである。 しかし、そんな幸運をも帳消しにするほどの胸の激痛が、 絶え間なくアグリアスを責めさいなむ。 いつ終わるとも知れない吐血を繰り返し、アグリアスの口の中は 血の鉄さびの味で満たされて、それだけで吐き気を催させた。 怪我をするのは、珍しいことではない。 重量級の攻撃を受け流せずに、肋骨が何本か砕けたこともあるし、 腕や脚も何回か折れている。 打撲、擦過傷は日常茶飯事であったし、痛みには慣れている つもりではあったが、今回のように、繊細な手先がグシャグシャに壊れ、 その上内臓系に深刻なダメージを負うというのは、 共に初めての体験であり、両方ともかつてないほどの 苦痛をアグリアスにもたらした。 アグリアスが知る由も無いが、レディが死にぎわに放った息根止は、 アグリアスの心臓を破裂させることこそ叶わなかったものの、 大きな損傷を心臓に与えたのは確かだった。 即死させることはできなくとも、レディが遺した死の刻印は、 じわじわとアグリアスの心臓と命を蝕み続け、このまま放っておけば、 アグリアスはいずれ確実に、心不全で死亡する。 理解を超えた直感が、アグリアスの脳裏を去来し、 まもなく死ぬであろう己の運命を本能的に察知しつつも、 アグリアスは、壊れかかった己の体も顧みず、 左手に持った剣を支えに、震えながらよろよろと立ち上がる。 未だエルムドアと戦っている、ラムザの加勢に向かうために。 エルムドアの異常な膂力によって繰り出される長物の斬撃を、 ラムザはその手の騎士剣で受けるも、威力を殺しきることは叶わず、 後方に体ごと弾き飛ばされ、靴底と床を摩擦させることで体を止める。 「セリア。レディ。 死んだか」 長物を構えながら、エルムドアは何の感慨ももたない様子で呟いた。 ラムザがはっと見やれば、血の海に沈む2人の殺し屋の死体と、 所々が血に汚れたアグリアスが、ふらふらとラムザ達に近寄ってくるのが 見て取れた。 「2人がかりで1人の女も仕留められないとは… 不甲斐ない。 死んで当然だな」 冷徹にそう吐き捨て、懸命に歩み寄るアグリアスを一瞥し、 その美貌に刻まれた傷跡に、エルムドアは憎々しげに歯噛みした。 「女を殺し損ねるのみならず、あまつさえ 命令違反…度し難い醜態だ。 消えろ。 恥晒し者どもめ」 そう言ってエルムドアの剣が仄かな光をまとい、長物を一閃させると、 刀身から放たれた剣気はセリアとレディの屍骸に直撃し、 2人の死体は音も無く崩壊し、砂のようになって、いずこへと消え去った。 「やれやれ。無能な部下をもつと苦労する。 君の仲間は優秀なようだ。羨ましい」 この期に及んで、エルムドアは笑顔を浮かべてラムザと アグリアスの2人に話しかける。 「仕切りなおしが必要なようだ。 私も手駒を2つ失い、彼女もどうやら命が危ないらしい」 アグリアスは努めて平静を装い、健気に剣を構えているが、 見る者が見れば、彼女が著しく消耗しているのは明らかだった。 「彼女の健闘に敬意を表し、ここは私が引くとしよう。 君の仲間を、まとめて連れてきたまえ。 私も全力をもって、それを叩き潰す。 地下で待っている。そこで、決着をつけよう」 エルムドアの手の長物がふっと消え、その直後に、 エルムドア自身もまた、幽霊のように実体がおぼろとなり、 その場から消え去った。 部屋の中からエルムドアの気配が消えたのを確認すると、 アグリアスは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。 心身ともに、もう限界を超えて酷使していたのである。 そもそも、不完全版とはいえ、レディの息根止の直撃を受けて、 その後に立って歩けるアグリアスの体力と精神力が、 常軌を逸していたのである。 ラムザは即座に剣を鞘に納め、アグリアスに駆け寄った。 「アグリアスさん!大丈夫ですか!?」 うつ伏せのまま動かないアグリアスは、上半身がゆるく上下 していることから息はまだあることは伺えるが、危篤状態で あることは、医学の心得がない素人目にもはっきりと見て取れる。 ラムザは細心の注意を払って、うつむけのアグリアスを、 そっとあおむけに起こす。 「…う…あ…ら、ラムザ…?」 薄く目を開けたアグリアスは、喋ることさえも億劫そうにしていた。 口元に血を滲ませ、顔色は蒼白になりつつある。 「アグリアスさん!大丈夫ですか!?」 「…ば、…馬鹿かお前…。み、見て…分からんのか。 死にかけ…なんだ…よ」 そんな皮肉めいた言葉を吐いて、アグリアスが咳き込む。 鮮血の飛沫は、ラムザの衣服にも黒々とした染みを形作った。 アグリアスの顔には痛ましい斬撃の跡が刻まれ、 右手の指は見るも無残に半壊していたものの、 それ以外は目立った外傷もない。 しかし、アグリアスの疲弊具合は尋常ではない。 とにかく、応急処置を施さなくては彼女が死ぬ。 「少しの辛抱です。我慢して下さいよ」 ラムザはそう言って、返事を待たずにアグリアスの肩と 膝の下に両手を差し入れ、そのまま抱き上げた。 意識もおぼろであるはずなのに、アグリアスはこの時だけ なぜか急速に覚醒し、大声を上げた。 「ば…!馬鹿!この馬鹿!な、何をするんだ! あ、歩ける!歩く!自分で歩く!離せっ!」 「何言ってるんですか!死にかけだって、さっき自分で 言ったくせに!」 蒼白だった顔をほんのり紅く染めて、のろのろもたもたと 腕の中で暴れるアグリアスをよそに、ラムザは安全な場所を探す。 エルムドアは地下で決着をつけるなどと言っていたが、 それは嘘で、不意打ちを仕掛けてくる可能性も考えられる。 部屋が一望でき、さらに部屋の入り口をも監視できる 位置が治療場所として望ましい。 その条件に合った場所を見つけ、ラムザはアグリアスを 抱きかかえたままそこに走り、アグリアスをそっと降ろして 背中を壁にもたれかけさせた。 「…ひ、人が、動けないのを…いいことに… や、やりたい放題やって…!ひどい奴…! い、いいかっ!? 誰にも…言うなよ! 誰にも!」 「はいはい。誰にも言いませんよ。 …アグリアスさん、やたら元気ですけれど、 本当に死にそうなんですか…?」 「あ…あ…当たり前だっ…!重症だ…!」 怒りと恥辱で顔を赤くしながらそう言って、 アグリアスは再び咳き込み、わずかに吐血する。 元気なように見えても、重傷を負っているのは間違いない。 「どこを怪我したんですか?右手が酷いのは分かりますが、 それ以外は特にそれらしい怪我は見当たりませんが…」 「…胸…だ。あの殺し屋の片割れに…何かを…された。 左胸が…焼けるように…痛む…」 「アグリアスさんの服には何かの攻撃を受けたような 痕跡が見られませんが…打撲か何かでしょうか?」 「分からない…。首を掴まれて…一瞬…気絶したと思う。 そ、その間に何か…された。打撲かも知れないし… そうで…ないのかも…」 「分かりました。とりあえず、患部を見てみないことには 治療方法が分かりません。 痛む箇所をじかに見せてください」 ラムザはナイフを取り出して、アグリアスの眼前に近寄った。 「……? お、お前…ソレで…何する…つもり…だ…?」 「何って…ナイフでアグリアスさんの服を裂いて、 痛む箇所を見せてもらうつもりですけれど」 「…!!! ば、馬鹿! 何…考えてるんだ!! ふざけるな…! この…変態…!! 犯罪者!」 「ちょっ…お、落ち着いて下さい!暴れると傷が広がります!」 「み、見損なった…!見損なったぞ、ラムザっ…! 動けない女…を…もてあそぶなど…悪趣味にも…程がある! は、恥を知れっ!恥を!」 ボロボロになった右手を振り回し、血を吐きながら じたばたと足掻くアグリアスを見て、「強い人だなぁ」と、 ラムザは半ば呆れながら思っていた。 アグリアスの被害妄想…というよりも思い込みが強いことは いつもの事だったので、ラムザは特にうろたえる様子も見せず、 淡々と応対する。 「誤解ですよ。アグリアスさん。決して変な気持ちで 服を切るわけではありません。 患部を見なければ、対処方法が分からないから やむを得なくさせてもらうのです。 おかしな真似は一切しないと誓います。 ラムザ・ベルオブの名と誇りにかけて、誓いましょう」 ラムザの真摯な態度と眼差し、アグリアスはようやく平静を取り戻す。 すっかり紅く染まった顔をちらりちらりとラムザに向けて、ぽつぽつと アグリアスは応える。 「……ほ、本当…だな…? 変な事をしたら…刺す…ぞ…? お前の…護衛役…辞めるぞ…?」 「本当ですよ。約束は、絶対に守ります」 「……信じてやる…さっさと…済ませろ」 その5へ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/117.html
窓の外を、しとしとと小雨が落ちている。 ライオネル城下に繋がる街道そばの小さな宿場町、さらにその外れの宿にラムザ一行は潜伏していた。 明日には王女オヴェリアが軟禁されているであろう、ライオネル城に潜入を行わなければならない。 既に、ライオネル城下には騎士アグリアスの部下であるアリシアとラヴィアン、そして機工士のムスタディオが潜伏して、侵入の下準備をしている。本命であるラムザとアグリアスは、翌日の陽が落ちてから行動を開始する予定だった。 騎士アグリアスは、割り当てられた部屋で1人王女オヴェリアの無事を神に祈っていた。 近衛として、また忠誠を誓った臣下としても、今、自分やオヴェリアが置かれている状況は看過できないものだ。 (ドラクロワ枢機卿の邪悪な野心に気付かんとは… 近衛騎士としてあるまじき失態だ… オヴェリア様、必ずお救いして差し上げます…!) 何度誓ったか分からない誓いをあらためて胸に刻みこみ、アグリアスは立ち上がってベッドに腰掛けた。 (ラムザ・ベオルブ、か…) 王女オヴェリアの事が頭から離れると、代わって浮かび上がってきたのは、自分たちのリーダーである優しげな表情をした青年の顔だった。 彼がベオルブ家の御曹司であると知ったのは、つい先日のことだった。アグリアスも騎士である。武門の棟梁たるベオルブ家のことは勿論良く知っていたが、出奔した末末弟が彼だとは、夢にも思わなかった。 「しかし、剣の腕は一流、部下を惹きつける魅力もある。なるほど、確かに天騎士の血は引いていると見える」 これまでの戦闘で垣間見た、ラムザの剣士としての強さ、人間としての魅力を思い出して、アグリアスは納得するように頷いた。 「ラムザ・ベオルブ、か…」 今度は口に出してみて、アグリアスは自分でも不思議なくらいラムザのことを考えている自分に驚いた。 なぜ、こうも自分は彼のことが気になるのだろう? 勿論、オヴェリア様をお救いする同志として信頼しているのは確かだ。だが、それにしたって自分は彼のことばかり考えている。 アグリアスが額に手を当てて悩んでいると、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。 顔を上げて誰何の声を出すと、やや躊躇いがちに「僕です、ラムザです…」という声が聞こえた。 悩んでいる本人が尋ねてきたことで、内心かなりドキリとしながらも、アグリアスは快くドアを開けた。育ちの良い彼は戸外に立って用を済まそうとしたが、アグリアスにはそれがひどく違和感のあることに感じられて、渋る彼を強引に部屋に招きいれた。 「すみません、お休みのところを…」 「いや、そんな事は無い、楽にしてくれ。…ところで用件はなんだろう?」 なぜか高鳴る心臓を宥めつつ、アグリアスは努めて冷静に尋ねた。 ラムザは勧められた椅子に腰掛けると、静かに語り始めた。 「一言、お礼を言っておきたかったんです。 あの時、ゴルゴラルダ処刑場での戦闘で僕がベオルブ家の一員だと判ったときに、アグリアスさんは真っ先に僕を信じてくれました。 友と離別し、肉親に欺かれた僕にとって、あの時のアグリアスさんの言葉は、嬉しかった… 力が湧いてきました。 自分を信じてくれる人が居る事が、こんなにも勇気をくれることを始めて知りました… 改めてお礼を言わせてください」 そう言うと、ラムザは深々と頭を下げた。 胸の鼓動が、ドキンと高鳴るのを感じる。 アグリアスは慌ててラムザに駆け寄ると、彼の身体を掴んで無理やり上を向かせた。 「待て、頭を上げてくれ…ッ 礼を言うのは私の方だ。私だけでは、1度たりとは言えオヴェリア様をお救いする事など出来なかった。そして、またこうしてオヴェリア様の為に動く事が出来るのも、ラムザ、貴公のおかげだ。 オヴェリア様を憂う貴公の言葉に、私は心打たれた。同志は1人ではないと、私の方こそ救われたのだ…ッ」 「アグリアスさん…」 ラムザとアグリアスは、瞳を合わせて見詰め合った。今のイヴァリースは、誰もが信じられない世の中になっている。そんな中で、心を許しあう事の出来る相手がいる事が、2人にとって何よりも嬉しかった。 しばらく無言で見詰め合っていたが、ラムザの瞳に写った自分を見て急に恥ずかしくなったアグリアスは、戸惑うように視線を外した。 ラムザもそれに合わせて、慌てて視線を外した。 「ぼ、僕が言いたかった事はそれだけです… 長居しては申し訳有りません、これで失礼を…」 そう言って立ち上がるラムザの腕を、アグリアスが「ま、待てッ」と叫んで掴んだ。 「アグリアスさん…ッ?」 驚いたラムザがアグリアスを見て言うと、アグリアスは頬を真っ赤に染めて俯いた。 「すまない、ラムザ… その、明日は、ライオネル城に潜入せねばならない。恐らく、ガフガリオンも待ち構えている事だろう」 下を向いたままぽつぽつと語るアグリアスに、ラムザは戸惑うながらも「はい…」と返事した。 「もしかして、落ち着いて貴公と話が出来るのも、これで最後かもしれない…ッ」 「そんなことッ!」 「聞いてくれ!」 思わず否定しようとしたラムザを、アグリアスは強く制した。 「そういう風に思ってくれないか…? 今のこの瞬間が、最後かもしれないと… それならば、何をしても許される気がしないか…?」 ラムザはアグリアスが何を望んでいるのかをようやく理解できた。 「一夜だけの契りで良い… 未練を残したくないんだ…」 顔を上げて、再びまっすぐにラムザと視線を合わせると、アグリアスはそっとラムザの肩に手を回した。ラムザも覚悟を決めたようにアグリアスの視線を真っ直ぐに受け止めると、同じ様に肩に手を回して、スッと顔を寄せた。 2人は不器用に口付けを交わすと、縺れるようにベッドに倒れこんだ。 情熱的な口付けを何度も繰り返して、ようやく2人は口唇を離した。 「アグリアスさん…」 愛しそうに呟いて、ラムザがぎゅっとアグリアスの身体を抱きしめると、アグリアスがおずおずと言った口調で告白した。 「ラムザ… その、恥ずかしいのだが。私は、まだ処女なのだ… 優しくしてもらうと、助かる…」 これ以上無いくらい頬を真っ赤に染めたアグリアスが可愛くて、ラムザは優しく微笑んで「大丈夫です…」とアグリアスの髪を撫ぜた。 「痛くないように… 一生懸命がんばります…」 ラムザは逸る身体を何とか抑えて、ゆっくりとアグリアスの服を脱がせ始めた。薄暗い部屋の中に、真っ白なアグリアスの裸体が顕わになった。それは、目が眩みほどの美しさだった。 「綺麗です… アグリアスさんの身体、とても綺麗です…」 完璧すぎるアグリアスの裸体に、ラムザは圧倒された。 金髪面長の凛々しい顔とは裏腹に、アグリアスの肉体は女として成熟しきっていた。 剣技で鍛えられた肉体は美しくも引き締まったボディラインを形作り、にもかかわらず、女性の象徴たる乳房はたわわに実っており、形良い乳首がツンと上を向いていた。 そんな肉質な身体を持った美女が、恥じらいを帯びた表情でベッドに寝ているのだ。男として興奮しないわけが無かった。 「もう、我慢できません…」 ラムザは急いで着ている服を脱ぎ捨てると、押し倒すようにアグリアスい覆いかぶさり、先ほどとは全く違う、吸い付くような口付けを交わした。 「ぢゅ、ぢゅ、ぢゅう…」 「ぢゅぱ、ぷはッ! ラムザ、そんなに吸われると… あッ、そこはッ!」 口唇を離してアグリアスが抗議すると、ラムザは責める場所を変えて、アグリアスの乳首を口に咥えると、ここも激しく吸い上げた。 「そんな、そんな所を…ッ 敏感なんだ、そこは…」 ぞくぞくと背筋を走る快感に、アグリアスは思わず吐息を漏らした。敬虔な女性騎士であるアグリアスは、自慰すらも行った事が無い。突然の異性からの刺激で、未開発の身体が過剰な反応をしていた。 「無理、だ…ッ 早く終わらせてくれ…」 「駄目です。もっと楽しみましょう、アグリアスさん」 あっさりと降参したアグリアスとは正反対に、ラムザのほうは余裕のある口調で答えた。年上の騎士を責める行為は、妖しい支配感となってラムザを動かしていた。 ぢゅ、ぢゅ… ちゅぱ… 子猫がミルクを啜る様に、ラムザはさんざんにアグリアスの乳首を舐めねぶった。アグリアスはもう声すら上げられず、顔を手で押さえて小刻みに震えていた。 「ここも、弄って差し上げますね…」 ラムザがアグリアスの耳元で囁き、なんだろう、とアグリアスが訝しむと、突然、股間にひんやりしたラムザの手が添えられた。 「待ってくれッ」 「待ちません」 ラムザは、処女らしくぴっちりと閉じたアグリアスの女性器を指で丹念になぞると、指をVの字に開いて、痛くないようにゆっくりとアグリアスの女陰を開いていった。 にちゃぁ… 「…アグリアスさん、これは?」 「嫌だ嫌だ嫌だッ!」 アグリアスは恥ずかしさのあまり泣きそうになった。丹念に乳首を刺激されたせいだろうか、アグリアスの秘所は充分過ぎるほどに潤っていた。 「凄い…」 指についた愛液を驚いたように見つめると、ラムザは未だ恥ずかしくて顔を見せられないアグリアスの手をそっとどかすと、赤い顔で睨みつけるアグリアスに優しくキスをした。 「もう、準備は良いみたいです。アグリアスさん、貴女の処女を頂きます…」 「ああ、貴方に捧げる。貰ってくれ…」 アグリアスが覚悟を決めたように目を閉じた。ラムザはもう1度キスをすると、既に痛いくらいにそそり立っている己の男性器をアグリアスの秘所に宛がうと、ゆっくりと腰を進めて沈みこませていった。 「ッ! くぅ…」 「だ、大丈夫ですか、アグリアスさん…!」 未開通の膣道をメリメリと押し開かれ、覚悟していた以上の激痛にアグリアスは思わず声を上げた。 しかし、驚きで動きを止めてしまったラムザに弱々しく微笑みかけると、「大丈夫だ… 全部、全部入れてくれ…」とはっきりと訴えた。 「…わかりました。ゆっくり進めますから、痛いでしょうが、耐えてください…」 ラムザも覚悟を決めると、再びゆっくりと腰を進め始めた。 ズッ、ズッ、と男性器が膣内を蹂躙する痛みを、アグリアスは歯を食いしばって耐えた。痛みは想像以上のものだったが、不思議と耐えることが出来た。自分を貫く力強い男性器が、なぜだか頼もしく、嬉しく感じられた。 ゆっくり進めていたラムザの男性器が、膣内で抵抗を感じて止まった。これが処女膜なのかと理解すると、ラムザは真っ直ぐアグリアスと目を合わせた。そして信頼するようにアグリアスが1つ大きく頷くと、ラムザは一気に腰を打ち付けた。 「あぐ!」 アグリアスが悲鳴を上げておとがいを反らした。結合部から破瓜の血がタラタラと流れ落ちる。 男性器をアグリアス奥深くに挿入したまま、ラムザは優しくアグリアスを抱き寄せてキスをした。口唇を離すと、痛みに堪えてアグリアスがにっこり微笑んだ。 「1つに、なれたんだな…」 「はい、全部入りました…」 「よかった…」 満ち足りたように呟いて、アグリアスはラムザの頬を撫ぜた。 「後は、好きにしてくれ… もう、この身体は貴方のものだ。殿方は果てないと終わらないと聞く。きちんと最後までしてくれ」 「でも、痛みが…」 「気にしないでくれ。むしろ、気にされるが辛い…」 言葉からアグリアスの覚悟か伝わって、ラムザはコクリと頷くと、ためらいがちに腰を動かし始めた。 始めはゆっくりと… しかし、段々早く。アグリアスが慣れるのを待ってから、ラムザは猛然と腰を打ちつけ始めた。 「ああッ ラムザッ 凄い… 激しい…!」 さすがに快感を得てはいないようだが、愛しいラムザに身体を蹂躙されて、アグリアスは支配される悦びに打ち震えた。自分の身体で、あんなにも気持ち良さそうになっている。それだけでアグリアスは充分だった。 一方のラムザも無事ではなかった。全身が強く引き締まっているアグリアスは膣内の締め付けもすばらしく、まれに見る名器だった。一突きする毎にラムザの官能は確実に高まっていき、そろそろ限界が近かった。 「はぁはぁ、アグリアスさん、そろそろ… 外に、出しますから…」 アグリアスの身体を慮ってラムザがそう言うと、アグリアスは長い脚を回してラムザの腰をがっちり固定した。 「ア、アグリアスさん…!」 「外に出すなんて、嫌だ… 膣内に、膣内に出してくれ…」 その瞬間、アグリアスの膣内が恐ろしい勢いでうねった。無意識のその行動にラムザは我慢の限界に達し、諦めたように男性器を膣内深くに突き込んで、己の精を解き放った。 「ああ、わかる、わかるぞ… ラムザがいっぱい出している… こんなに、熱い…」 子宮の上の下腹部を撫ぜながら、アグリアスはうっとりと「ここに、ここに…」と呟いた。 「うッ…」 ラムザがズルズルと男性器を引き抜くと、アグリアスの秘所からとろりと一筋精液が流れ落ちた。 「あッ…」 アグリアスが気付いて指で拭うと、それは破瓜の血が混ざってピンク色をしていた。 「フフ、いっぱい出したんだな…」 アグリアスがからかうように言うと、荒く息を吐いたラムザがばったりとアグリアスの横に倒れこんだ。 「すごく、気持ちよかったです… アグリアスさん…」 呆然とラムザが呟くと、アグリアスの頬がかぁと赤くなった。 「馬鹿者…」 ぷいとそっぽを向くと、いまだ膣内深くにあるラムザの精液を感じた。 「これは、孕んだかもしれんな… こんなにたくさん出すから…」 軽く非難めいたセリフを言ってみたが、ラムザから反応は無かった。むー、と不満げに振り返ると、そこには満ち足りた表情のラムザが、気持ち良さそうに寝ていた。 「おいおい…」 苦笑してラムザの前髪をそっと触ると、くすぐったそうにラムザが呻いた。 「可愛いな、貴方は…」 笑いながら、アグリアスは自分の中にしっかりとした活力が宿ったのを感じた。使命は必ず果たす、騎士の誓いにかけて。 「そして、貴方も守る。この純潔を証として」 そっと呟くと、アグリアスはそっとラムザにキスをした… END
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/142.html
「隊長、これ、落し物みたいですよ」 そう言って白魔が持ってきたのは、だいぶくたびれた人形だった。 布と革、毛糸で作られた、素朴で可愛らしい人形。黄色の毛糸で作られた長い髪は三つ編みになって、 革で作られた服はどうやら騎士服を模しているようだった。 (これって……アグリアスさん?) 「ああ、分かった。これってどこに落ちてたんだい?」 「昨日泊まった宿の部屋です。宿の主人が見つけて届けてくれたんですよ」 「誰の部屋だったか分かるかな」 「アグリアスさんの部屋だったと思います。多分アグリアスさんの物だと思いますけど……」 そこまで言って、白魔はくすっと笑った。 「アグリアスさんにも、可愛いところがあるんですね。こんな可愛い人形を持ってるなんて」 その日の夜、野営のテント。 「アグリアスさん、よろしいですか」 「ん?ああ、ラムザか。構わない。入ってくれ」 「失礼します」 テントに入ってきたラムザが手にしている人形を見て、アグリアスはあっと声を上げた。 「そ、それは!」 「アグリアスさんの物でしょう。昨日泊まった宿に落ちていたそうです」 ラムザは両手で大事そうに人形を持って、アグリアスの前に差し出した。 「ああ、確かに私の物だ……大事な物なんだ。すまない、ありがとう」 アグリアスは壊れ物でも扱うように、そっと人形をラムザから受け取ると、そのままじっと人形を見つめた。 その瞳はキラキラと輝いていた。 「……本当に大事なものなんですね」 「ああ。そうだ。何かのはずみで、荷物の中から落ちてしまったのだろう。 気をつけてはいたのだが、申し訳ないことをした」 アグリアスは、人形についてしまった埃や汚れを丁寧に手で払っていた。 「……この人形は、オヴェリア様のお手製なのだ。私を模して、作って下さった」 オーボンヌ修道院。 「アグリアス、これが何か分かる?」 オヴェリアはにこにこと笑って、手に持った人形をアグリアスに見せた。 「これは……私、ですか」 「ええ、そうよ。アグリアスを作ってみたのよ。今回のは特別に可愛くできたわ」 「……恐れ多いです」 アグリアスは微笑んで、オヴェリアの差し出した人形を見つめていた。 辺境の修道院暮らしの退屈しのぎにと、オヴェリアが始めたのが手芸だった。 編み物、パッチワーク、人形作り。特に熱中したのが人形作りだった。 猫や犬、鳥などの動物、シモン先生やシスター、護衛のナイトたち、そしてアグリアス。 決して上手ではない。けれど、暖かなぬくもりの感じられる作り。 作っているオヴェリアも、作品を貰ったその人も、自然と笑顔になれた。 「……思えば、あの頃はオヴェリア様もよくお笑いになっていた。オヴェリア様にとって、 もっとも安らいでいたのが、あの頃だったのかもしれない」 人形を見つめながら、アグリアスは言った。 「この人形は、そんな思い出のある人形なのだ」 「そうだったんですか……」 「ああ……もう、二度とは返らぬ日々の思い出だ」 ふと、アグリアスの目が遠くを見る目になる。 「……人が、幸せに暮らすことが、何と難しい時代になったことか。 出来得るならば、その闇を払う剣となりたいものだな」 誰に言うともなく、アグリアスは呟いた。 それは権力闘争の渦中にある主、オヴェリアの境遇を嘆いたものだろうか。 「……少し喋りすぎた。感傷的になってしまったな。ともかく、すまなかった。 届けてくれた者に、感謝すると伝えておいてくれないか」 ふっと息を吐いて、アグリアスは微笑んだ。 「分かりました。もう落としたりしないようにしましょう」 ラムザはいたずらっぽく茶化した。 「ふふっ、分かっている」 アグリアスの微笑が苦笑に変わった。 その夜、天幕の中で眠るアグリアスの横には、あの人形があった。 アグリアスの寝顔は、安らかに微笑んでいた。 オヴェリアと過ごしたあの頃の夢でも見ているのだろうか。 おしまい
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/122.html
城内に怒号が飛ぶ。銀髪鬼と恐れられるエルムドアの一撃が、アリシアに致命傷を負わせたためだ。 それを見逃さず彼の部下であるレディが彼女の周りに残る敵を焼き払おうと 魔術の詠唱に入る。 皆がその場を離れ、起死回生を狙うなか、怒りに我を忘れたアリシアの上司が取り残される。 「アグリアスさん!」 彼女の名を呼んだ青年、ラムザが見せた表情をエルムドアは見逃さなかった。 そのままさらなる追撃を仕掛けてくる。 追撃に気がついたアグリアスが剣をふるより早く、エルムドアは彼女に接近すると 右手で剣をなぎ払い、左手で素早くアグリアスの細い首を捕らえた。 常人ならざる力が彼女の首に襲いかかるが、アグリアスは諦めない。 必死に抵抗し腰に隠していたナイフをエルムドアの腕につきたてた。 が、エルムドアは動じない。 脳に酸素を送る主要な血管、気管を封じられ何秒アグリアスがもつか試している。 次第に彼女が青ざめていく事を確認すると胸元からハンカチを取り出しアグリアスの顔に押しつけ、同時に首をしめつけていた左手をゆるめる。 アグリアスがハンカチごしに息を吸うのを待っているのだ。 「彼女を離せッ!」 ラムザが怒号ともにエルムドアに挑むが、その目前を魔法の炎が阻む。 ラムザがとどまって炎が消えた頃にはアグリアスからは力が抜け、だらんと腕がたれさがった頃だった。 「随分この女にご執心だな?」 エルムドアは興味深げに気を失ったアグリアスを眺めると、彼女の腰をもち、腹を肩に背負いあげる。 「こっちには気にも止めなかったのにね。かわいそうに。」 レディはぴくりともしないアリシアを蹴りつけるとエルムドアに歩みより突き刺さったナイフを引き抜く。 「良いことを思いついたよ、ラムザ君。」 エルムドアは大袈裟に手を広げ 「君を私のちょっとした研究所に招待しよう。一人で来い。その方が君のもっといい表情が見れそうだ…。」 と続ける。腕の傷はみるみる塞がり、エルムドアはそれをチラリと確認すると ラムザに見えるようにアグリアスの尻に手を滑らす。 「服を破いたこの女にもお仕置きが必要そうだしな。」 「彼女になにをするつもりだ!」 ラムザの焦りをはらんだ叫びにエルムドアは満足そうに微笑み、 挑発するように柔らかい曲線に指を這わせる。 「そう、その顔だ。そこで君のそんな苦痛に歪んだ顔を見せてくれたまえ!」 エルムドアは満足そうに身を翻すとステンドグラスを突き破り外へ飛び出す。 すかさずレディとがあとを追いエルムドアを支えて空へ飛び立つ。 「待てッ!」 ラムザは追おうとするが駆けつけたアイテム師に咎められ足を止めた。 「隊長!アリシアさんが先です!」 「ッ!…ごめん…。」 ラムザはその場でかぶりをふり 「ごめん、アリシアさん…。僕は…。」 とそのまま言葉を失いうなだれる。 「北だ。やつら北に向かってる。」 ラムザに代わってエルムドアの飛び去った方角をムスタディオが報告しラムザの肩を叩いた。 隊員全員がラムザの心情を理解し、それ以上責める者はいない。 鉛の止め具を失ったステンドグラスが重力に耐え切れずに断続的に落ち、それだけが戦場の余韻を残していた… 娘達の泣くような声でアグリアスは意識を取り戻した。吸わされた薬のせいか 頭痛がしたがそれでも頭をもたげると首に抵抗がかかり、起きあがる事はできない。 首をしめられたからではなく、首を含めた体のいたるところに拘束具がはめられ、寝椅子の様なものに固定されているからだった。 一糸纏わぬ裸体の上から縛り上げられた拘束具はそのままでも息苦しさを伴うものだったが、ただの拘束部屋や拷問部屋にしては不気味な雰囲気を漂わせている。 アグリアスは自分が横たわったような姿勢でその椅子に磔られているのだと気がつくとかろうじて見渡せる範囲で素早く辺りを見回し状況を確認する。 石畳の狭い部屋にはたくさんの小さな扉と鏡が付き、それは天井等にも備え付けられている。アグリアスからみて正面の壁は一面大きな鏡で彼女のあられもない姿を映し出していた。 アグリアスの足は大きく広げた状態で固定され、鏡を使わなくても彼女から自身の折り曲げられた膝がみえるくらいだった。 アグリアスは裸体はもとより誰にも見せた事のない恥部を大映しにする鏡に躊躇したものの、すぐに彼女の意識を取り戻させた娘達声の主を探して鏡に視線を走らせた。 先ほどよりも娘達の声は数が増え、悲鳴のようなものから歓喜の叫びまで様々だったが少しずつアグリアスの方に近づいてきている。 鏡から見える情報から察するに、自分の右手側は一面鉄格子でどうやら螺旋状の地下牢獄らしいとアグリアスは気がついた。 向かいの独房にも小さくだが娘が裸で同じような椅子に固定されているのが見えたからだ。 地下の方から少しずつ娘達の悲鳴とあえぐ息遣いが増え、それはじわじわと近づいてくる。 この声の主の娘達が全員自分と同じように拘束されているのだとしたら…。 アグリアスはそこまで考えると、背筋に走る悪寒と言い知れぬ恐怖に震えながら、 地下牢の底の様子がわからないか伺う。 ずるっ― 自分が固定されているすぐ近くで物音がする。 アグリアスははっとして物音のする方にある、正面の小さな扉を凝視する。 なにかが扉の向こうで作業しているらしい。 かすかにぺち、ぐちゃ、と音をたてている。 スピコデーモンか?アグリアスは戦場で対峙した経験もある、そのイカの化物を思い出す。 彼らは全身が白い粘膜で覆われ、イカ同様吸盤のついた触手を持った生き物でありながら 人と同じように衣服を着、魔法を操るが、醜悪な上に知能はイカよりすこしある、ずるがしこい生き物だ。 アグリアスがそこまで思い出すと、すぐそばから娘の声が上がった。 「嫌ッ!止めて!止めてよ!」 真下の房の娘だろうか、ぎし、ぎしと椅子を揺らしている音やなにかが唸るような音も聞こえる。 「イヤッ!もうやめてぇっ!」 そこまで聞き取ってアグリアスは思わず身を固くした。やはり拷問やただの監禁目的の部屋ではない! アグリアスは鏡を使って向かいの部屋を確認すると大きく広げられた娘の秘部に壁から繰り出され器具が挿しこまれてゆく最中だった。娘に挿し込まれたそれはゆっくりとピストン運動を繰り返しており、娘は必死に抵抗しつつもされるがままにされている。 戦場とは違う種類のおぞましい光景にアグリアスはぞっとして身を固める。 (では、この扉の向こうで行われてる作業は…!?) 「いい声で鳴くだろう?」 不意に声をかけられアグリアスはびくんと体を震わせて辺りをみるとエルムドアが不敵な笑みを浮かべて通路に立っていた。 「ささやかな私のたのしみなのだよ、気に入ったかね?」 エルムドアの頭の先から爪先まで舐めるようにのびる視線にアグリアスは羞恥心で耳まで真っ赤になる。 「な、何をするつもりだ!」 「おや、声に興奮してしまったのか?」 噛み付くように強がるアグリアスをエルムドアは鼻で笑うと格子の外にあるレバーを引く。 がしゃん、という機械音と共にアグリアスは椅子ごとエルムドアの方へ回転してしまう。 ぱたたっと水滴が床に落ちる音がし、エルムドアはそれを一瞥すると格子から手を差しこみ指先でアグリアスの入り口でくりくりと円を描く。 「えっ?ひあッ…?!」アグリアスは未経験の感覚に恐怖を覚え身をよじるが逃げられない。 「もうこんなに手袋が染みているぞ…?」エルムドアが蜜で濡れた手袋で そのまま指先を奥へねじこもうとする。 アグリアスが反射的に体を硬くして目をつぶると指は糸を引いて離れた。 「なんだ?期待したのか?」 エルムドアはそう吐き捨て指先から体液の滴る手袋をちらつかせた。 アグリアスはキラキラと光る糸が手袋と自分の秘部を繋いでいるのを見て自分がどうかしてしまったのではないかと恐怖し、何も言い返せない。 エルムドアの背後では先ほどの娘が身体を弓なりに反らし自ら腰の動きを壁から繰り出されたものに合わせ、うわずった声で喘いでいる。 「はじめる前からよく薬が効いているようだ、心配せずとも君もすぐああなる。」 薬、という単語にアグリアスは毒のようなものを想像するが、おそらくもっと陰湿なものだろう。 意識を失っている間に何をされたのかはわからなかったが、それ以上は考えたくも無かった。 生かされている以上、きっとラムザをおびき出す材料に使われてしまう…。 エルムドアはアグリアスの狼狽を楽しそうに眺めながら、まだ体液で糸を引く手袋をその場に丸めて捨てる。 と、壁の向こうで物音をたてていた何か…スピコデーモンが正面の小さな扉をあけ、顔を覗かせる。 「そろそろヒルをなじませておけ。もうじき開演だ。」 エルムドアはスピコデーモンに指図するともう一度レバーを引きアグリアスをスピコデーモンの方へ向ける。 アグリアスは扉から見えるスピコデーモンとそれが用意している器具を目の前に不本意にもガタガタと震えた。 それは己の手首程の太さの器具で機械特有の唸りをあげて震えており、器具は全体的に凹凸がある上に、先端は鏃のようにくびれたあとまた張る形をしている。 しかも生きているかのようにぴくぴくと動いていた。 アグリアスは動かしうる箇所をばたつかせて少しでも拘束が緩まないかともがくが、そうこうしている内にスピコデーモンはいいつけどおり「なにか」の用意をすすめている。 いくつかある触手の8割は皮袋から巨大なヒルのようなものをつまみ出すのに使われ、 2割はエルムドアが投げ捨てた手袋を拾い上げて、しゃぶるのに使われている。 スピコデーモンはつまみあげたヒルのようなものをアグリアスの胸元に放り投げると、別の場所から 白濁した液体の入った大きなシリンダーを取り出し、器具に取り付け始める。 「嫌だッ!!来るな!!」 アグリアスは体をよじってそのヒルを落とそうとするがヒルは無数の触手を持っており、 振り落とされるどころか、役割があらかじめ決まっていたかのように分かれ、アグリアスの双方の乳房を覆い、触手を絡ませた。 残されたもう1匹も器用に暴れるアグリアスの腹を這うと、下半身の恥丘に覆いかぶさる。 恥丘に至ったヒルの方は遠慮なくその触手でアグリアスの蕾をいたぶると、 反射的にあふれ出る愛液をすすりだした。 「あぅ…っ!?」 ヒル達の陵辱が始まりアグリアスの体は意思とは無関係にがくがくと腰を震わせ、 もうアグリアスが思うようには動かなかった。 スピコデーモンはそのころあいを見計らうと袋の中からひときわ大きいヒルを取り出し、 アグリアスの口に押し込んだ。 「ひぃ…ンッ!!」 ヒルはすばやくアグリアスの口内に触手を這わすと歯や舌にからみつく一方でしきりに喉の奥のほうまで侵入し、何かを冷たいものを流しこむ。 アグリアスはヒルを噛み切ろうと試みたが強い弾力ではじき返され、 結局は流し込まれた何かを吐き出すこともできずにそのまま飲み込まされた。 冷えているはずなのに体内の粘膜に触れると火のように熱いそれを 吐き出さねばと懸命になっているにもかかわらず、拘束された体がそれを許さない。 飲み込まされた「何か」の効果はすでに現れてきていた。 恐怖と反射的な反応しかなかったはずの体が経験したことの無い快感を訴えはじめたのだ。 押し殺しても漏れる甘い声に反論するように いやだ、こんなのは違う、まやかしの感覚だ、とアグリアスの意識は最後までもがいていたが 玉のような汗が吹き出て、次第に視界の焦点があわなくなっていく。 体にこめていた力が抜け、口に収まっていたヒルがアグリアスから離れる。 アグリアスはぼうっと虚空を見つめたまま無抵抗になり、ヒル達だけが活発にアグリアスの体を弄んでいた。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/129.html
誕生日記念 空気なんか読まない 貿易都市ウォージリスのとある宿屋。入り口には、「本日貸切」の札がかかっていた。 一階の食堂から、陽気な笑い声が響いていた。 道行く人も、その陽気な騒がしさに興味を惹かれて立ち止まる人が多かった。 「今日は何かやってるのか?」 「何でも結婚のお祝いらしいよ」 人々は、宿を見上げてそう話すのだった。 夜も更け、宴もひとり、またひとりと酔い潰れて、そろそろお開きとなりかけた頃。 アグリアスはレーゼに連れられて、控え室となっている部屋に入った。 レーゼは手際よくドレスを脱がせ、髪飾りやアクセサリを外すと、 「じゃ、これに着替えて」 と、レースをたっぷりと使った豪勢な白い下着をアグリアスに渡した。 「これを……着るのか……?」 普段から華美なものをあまり身に付けないせいか、アグリアスは下着を手にしてひどく戸惑った。 「着るの」 レーゼはにべもない。 「愛しの王子様に見せるのよ。どこにでもあるようなもので済ませるつもり?そんなのダメよ」 「う、うむ……」 赤面しながら、渡された下着を身に付ける。少し派手すぎはしないだろうか……。 アグリアスから、結婚の話を聞いたとき、本当に嬉しかったのよ。 だって、あんなに大変な戦いの中、それでも信じあって、やっとここまで来れたんですもの。 私たちもそうだったから、あなたたちの思いは良く分かるつもりよ。 だから、私にあなたのお世話をさせてちょうだい。ベイオにもラムザのお世話をさせるわ。 レーゼはこう言って、アグリアスの世話役を買って出たのである。 レーゼに髪を結い上げてもらって、言われるままに深い蒼のナイトガウンをまとったアグリアスは、 普段の彼女の姿からは想像もできないほどの変身ぶりだった。 「うん、これで完璧」 にっこりとレーゼは笑った。これならラムザもイチコロよね。 「何だか……自分で無いような気がする」 恥ずかしそうにもじもじするアグリアス。自分の格好が似合っているのかどうだか分からないようだ。 「とっても素敵よ、アグリアス。でも、ちょっとだけいいかしら」 「何だ」 「その騎士言葉、どうにかならない?」 「こ、これは……もう染み付いてしまっているものだから……その」 「まぁ、あなたらしくていいとは思うけど、ね」 ランプに照らされた部屋の中は、戦友たちから贈られた花や祝いの品でいっぱいだった。 テーブルの上には、上等の葡萄酒とグラスがふたつ。横にはユリの花が飾られていた。 部屋の中には、邪魔にならないほどに香が焚かれていた。 この部屋で、今晩、ラムザと過ごすのだ……。 こんなに緊張したことはない。今すぐにでも逃げ出したいくらいだ……。 「それじゃ、私はここまでよ」 部屋のドアの前で、レーゼが言った。 「あ、ああ……ありがとうレーゼ」 そう言うアグリアスの表情は仮面のように硬い。 「……緊張するのは分かるけど、それじゃラムザも幻滅しちゃうわ」 レーゼはくすくす笑った。 「大丈夫よアグリアス。とっても自然なことなの。何も考えないで、自然に任せてればいいのよ」 「そ、そうか……」 「……今日まで守ってきた純潔を、愛する人に捧げる、女にとって生涯に一度しかない、とても大事な日よ。……頑張ってね」 「あ、ああ……」 アグリアスは首まで真っ赤にしてしまう。レーゼはそんなアグリアスを見て、にっこり笑って部屋を後にした。 私も、初めてベイオと結ばれた日は、あんなだったな……。 部屋の向こうから靴音が近づいてきた。 (来た……!) 身を固くして、アグリアスは身構える。それはまるで戦闘中のようでもある。 ドアがノックされて開き、ベイオウーフに連れられて、ラムザが現れた。 「すみません、お待たせして」 「あっ、ああ……いや、いいんだ……」 ラムザの顔を見たとたんに、頭の中は真っ白になってしまった。 恥ずかしさと緊張で、何を言っていいのか、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。 「では、僕はこれで」 「ありがとう、ベイオウーフさん」 ベイオウーフは一礼して、部屋のドアを閉める。そして、部屋にはラムザとアグリアスのふたりだけになった。 しかし、ふたりともしばらく立ったまま、お互いの出方を窺っていた。これではどうにもならない。 「……座りましょうか」 「あ、ああ……」 ふたりは椅子に座った。ラムザもアグリアスも、緊張で表情が固い。そして、また探りを入れるように黙ってしまう。 ふっと、ラムザが表情を崩して、 「やっぱり、ダメですね。緊張しちゃって、何喋っていいか分からなくて」 と言って笑った。 「綺麗です。アグリアスさん」 「あ、ありがとう……」 嬉しいのと恥ずかしいのとで、真っ赤になってしまうアグリアス。 「……飲みましょう。これ、ムスタディオがランベリーまで行って買ってきてくれたんですよ」 ラムザの笑顔に少し緊張がほぐれて、アグリアスもやっと笑顔を浮かべた。 「それじゃ、乾杯」 「乾杯」 ちん、とグラスを鳴らして、真紅の葡萄酒を飲み干した。 「美味しいですね」 「ランベリー産の葡萄酒は軽くて飲みやすいからな。……お前は弱いんだからあまり飲みすぎるな」 「分かってますよ」 やっぱり、お姉さんみたいなところはそのままなんだな。ラムザはそれがおかしくて笑ってしまった。 「何がおかしい」 「いえ、別に」 僕が好きになった人は、こういう人なんだ。 「……ラムザ」 少しの沈黙の後、アグリアスが緊張した面持ちで言う。 「わ、私を……選んでくれて、本当に嬉しい。ありがとう」 言おう言おうと、何度も練習した言葉だった。やっと、言うことができた。 ラムザは微笑んで、アグリアスの手を握った。 「僕こそ……僕の想いに答えてくれて、嬉しいです。本当にありがとう」 アグリアスもその手を握り返す。 「愛してる……ラムザ」 「愛してます、アグリアス……さん」 そこまで言って、ラムザは急に照れくさそうに笑って言った。 「さん、はもうおかしいですよね」 「……私達らしくていいじゃないか」 アグリアスも笑って言った。私も、当分の間、騎士言葉は捨てられそうにないからな。 見つめあい、吸い寄せられるように、互いの唇を重ねた。 しばしの間の後、唇を離す。アグリアスの甘い吐息がラムザの鼻をくすぐった。 「ラムザ……」 上気したアグリアスの顔は凄絶なほどの色気を放っている。 ラムザは衝動を何とか押さえ込みながら、ガウンにそっと手をかけた。 ガウンが下ろされ、純白の下着姿が現れる。そして、ラムザに抱きかかえられて、ベッドへ誘われた。 「ラ、ラムザ……その……私……初めてだから……」 ラムザは微笑んで、 「なるべく、優しくしますから……」 そう言って、アグリアスに口づける。ラムザの手が、優しくアグリアスの体を抱きしめる。 私はラムザに抱かれ、今夜ひとつになる。 夢のように、幸せなこと。 できれば、この幸せが、このまま終わらないで欲しい―― 「お疲れ様、ベイオ」 食堂に入ってきたベイオウーフに、レーゼは熱いコーヒーを手渡した。 「ああ、ありがとうレーゼ」 宿の食堂は、宴の後の静けさ。そこかしこに、グラスや皿が散乱し、酔い潰れて寝てしまった者が転がっている。 「いい宴だったわね」 「ああ。あのふたりも、とても幸せそうだった。世話役をやってよかったよ」 「私も苦労の甲斐があったわ」 ふたりはコーヒーを飲みながら、時々2階の様子を窺う。 「……あのふたりには、幸せになってもらわないとな」 「私達の恩人だもの、ね」 レーゼはベイオウーフに寄り添った。 「ねぇ、覚えてる?私達が、初めて結ばれた日のこと」 「……覚えてるよ。忘れないさ」 ベイオウーフが少し照れくさそうに答えた。そして、レーゼを抱き寄せて口づけする。 ラムザ達のものとは全く違う、互いが互いをを求める熱く激しい口づけ。 「……あのふたりに当てられちゃったの?」 「そうかもな」 「うふふ。私も、よ」 レーゼはベイオウーフの首に手を回して言った。 鎧戸の隙間から、朝の光が漏れていた。目は覚めていたが、気だるい。 横には、まだ夢の中のラムザがいる。 昨夜を思い出すと、体の奥が痺れて熱くなる。 まだ生々しいその感触を思い出して、アグリアスは赤面した。 ラムザの寝顔はあどけなさがまだ残る、子供のような寝顔だった。 (こんな寝顔をして……) 昨夜のラムザは、いつものラムザとは別人のような「男」だった。 ラムザは、初めてではなかった。 詮無いこと、とは思うけれど、ラムザがどこでこのようなことを覚えたのか、想像しては嫉妬してしまう。 私と出会う前の傭兵時代だろうか。それとも、貴族の子弟として、教育されたのだろうか。 でも、それでもいい。 ラムザは、私を選んでくれた。今日からは、私だけのラムザ、ラムザだけの私となったのだから。 「ん……」 ラムザがうっすらと目を開けた。アグリアスはその顔を覗き込んで、 「おはよう……あなた」 と呼びかけた。それは、アグリアスにだけ許される、ラムザの新しい呼び名。 「ああ……。おはよう……アグリアス」 ラムザは微笑みながら、妻となった人の名を呼んだのだった。 今日から、ふたりで同じ道を歩いて行く。 曲がりくねって、平坦な道ではないかもしれない。けれど―― いつまでも、その道が途切れることなく続きますように。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/22.html
落ち着かない気分のまま、アグリアスは寝室の姿身の前で着ている服を脱ぎ捨てて下着姿になった。 ラムザはベッドの上に腰掛けて頬杖をつき、半ば闇に沈んだ妻の肢体を何だか楽しそうに眺めている。 それを横目で見ながら、やっぱり今日のラムザはおかしいと首をひねるアグリアスがおずおずと 騎士団の制服に手を伸ばすと 「待って下さい。下着も脱いで」 「えっ?」 「全部脱いでから、裸の上に制服を着るんです」 二人が家を出たところで突然、空砲が夜空に轟いた。一瞬びっくりしたアグリアスだったが、 明日がベルベニアの自治権獲得記念日である事をようやく思い出した。そう、前夜祭が始まったのだ。 「さあ、早く行かないとチョコボエッグが売り切れてしまいますよ」 アグリアスの大好物であるチョコボエッグは、こうした祭りの時の出店でないとあまり目にする機会が無い。 また、チョコボエッグは人気の品なので早々に売り切れるのが常だった。 二人して行列に並び、それぞれひとつずつ大きなチョコボエッグを買って頬張るのが毎年のパターンだったが、 三年前の祭りの時に人混みの中で持っていた財布を掏られたアグリアスが激昂してからというもの、 ラムザも誘い辛くなり、それ以降は何となく前夜祭も祭りの当日も家でのんびり過ごす事になっていた。 そんな事情もあってアグリアスはすっかり祭りの事など忘れていたのだが、 そこへ夫からの突然のお誘いに奇妙な頼み事。結婚以来、一番ラムザの事が分からなくなった瞬間だった。 また財布を掏られたら嫌だし、何故この歳になって昔の制服などを着て、しかも言うに事欠いて下着を 身に着けずに人混みの只中へ行かなければならないのかと、にべも無くはねつけたアグリアス。 しかし、何故かいつもと違って強気なラムザはまるで子供の着替えを手伝うかの様にあれよあれよと言う間に アグリアスの下着を脱がし、ジタバタと暴れるのをなだめ抑えつつ半ば無理やりに制服を着せた。 「うーん、やっぱり似合ってますよ。凄くキリッとしてて・・・知り合った頃のアグリアスさんを思い出します」 褒めてくれているのだろうが、アグリアス自身はどうにも落ち着かない。 確かに久々に制服を着てみれば気が引き締まる思いがする一方、その一枚下は全裸。そのギャップに ラムザは興奮しているのだろうか? しかし、そんな嗜好の片鱗すら今まで全く見られなかったのだが・・・ そんな事を取りとめも無く考えている内に、ラムザに手を引かれていつの間にか祭りの会場である 街の中心部まで来ていた。 辺りには威勢のいい掛け声と様々な楽器の音、笑い声や罵声が飛び交い、 ズラリと立ち並ぶ出店と道に広場にと溢れかえる人の群れでまさに混沌としている。 今回は二人ともチョコボエッグと飲み物を買う程度の金しか持って来ていない。 それもラムザが首からかけた小物入れに入っている。 こうすれば掏りに遭う心配をせずに済むからと、渋るアグリアスをラムザが説得した結果だった。 「ほら、あそこ。ああ、もうだいぶ人が並んでますね・・・間に合うかなあ」 ラムザが指差す方向にはチョコボエッグの屋台にズラリと並ぶ人人人。 それでもチョコボエッグの為なら、アグリアスはいつも嬉々として列の最後尾に走ったものだ。 しかし今日のアグリアスは少し浮かない顔。しきりに視線を下げて胸の辺りを気にしている。 制服の厚手の生地のお陰で乳首が浮き出る心配は無かったものの、胸を鎧うプレートが無い為に アグリアスの比較的大きな胸の形がクッキリと浮き出ており、すれ違う男達の視線を吸い寄せているのだ。 こうした好奇の目に晒されるのを嫌ってアグリアスは外出時にはゆったりとした服を着る事が多いのだが、 今日はラムザの妙な強引さに負けて裸の上にタイトな騎士の制服などという格好で出てきてしまった。 下はスカートでは無いので人目に晒される様な心配は無いが、それでも心許無い事には変わりない。 下着を着けずにこんなに大勢の人前に出るなんて考えられない事だったが、夫の熱意(?)に負けて 嫌々ながらも来てしまった自分をアグリアスは恨み、ため息をついた。 恥ずかしさでさっきから顔が火照りっぱなしになっていて、頬がぼうっと熱っぽいのが自分でも分かる。 いかに引退したとはいえ、かつての近衛騎士たる私がこんな変態じみた真似を・・・! 羞恥に赤く染まった顔を隠す様にうつむき、隣にいるラムザの方を見ない様にそっぽを向く。 するとラムザの目には、うっすらと赤みのさした妻のうなじが飛び込んで来た。 妻は口では嫌がりながらも明らかに興奮している。もしかして・・・ 布地越しに左手でアグリアスの尻を撫でると、ビクっと震えて体を固くしたのが手の平から伝わって来る。 傍らのアグリアスは肘でラムザの脇腹を小突くが、ラムザの手は止まらずにそのまま尻の割れ目に沿って 女の最も敏感な部分の方へ滑り込んでいく。アグリアスが必死で身をよじり足を閉じて抵抗するも、 「おとなしくしてないと周りに不審がられますよ」 と囁かれては身を縮こまらせて耐えるほか無い。 ラムザは肩にかけていた大きなカバンで巧みにアグリアスの尻を隠しながら、布越しに秘所に触れた。 思わず声が出そうになるのを、必死でこらえようとしているアグリアスの震えるうなじを見て、 そして指先に伝わる粘液の感触にラムザの理性は吹っ飛びそうになる。 人込みの中でなければ、にちゃりという音がハッキリ聞こえただろう。アグリアスはいつの間にか 蜜を滴らせて股の部分に大きな染みをつくっていたのだ。 「アグリアスさん・・・こんなに濡れてる・・・」 「もうバカッ、こんな所で・・・」 アグリアスは周囲の人に気付かれるのではないかと気が気で無いのだが、興奮したラムザの指の動きは 更に大胆さを増していく。 「あッ」 そのわずかな小声を耳にした通りすがりの中年男が怪訝そうな顔でアグリアスを一瞥した。 もうアグリアスは顔を上げる事が出来ない。快感と羞恥と不安の渦の中で、 ただひたすらに屋台の順番が回って来るのを耐えて待つしかなくなっていた。 順番が来れば、さすがにラムザは財布から金を出す為に手を離してくれるだろう。 その隙にラムザとは距離をおいてこの場を早々に立ち去るのだ。もう二度とこの祭りには来れない。 ようやく順番が回ってきた時もラムザは左手を離してはくれず、アグリアスの目論見はアッサリと外れた。 ラムザは右手で器用に小物入れのフタを開けて1000ギル紙幣を支払うと、釣りは要らないと言って チョコボエッグが二つ入った大きな紙袋を右手だけで受け取り、その間も左手は始終アグリアスの蜜壷をこね回していた。 アグリアスは両手を股の前で組んで必死で股の染みと夫の指を隠す事に懸命になっていたが、 むせ返る蜜の匂いまでは隠せないと思うと、周りの人間達にはもうとっくにバレている気がして涙目になった。 「もうッ いい加減に離してッ」 家への帰り途、さっきからアグリアスはラムザの肩を拳骨で強く叩いているのだが、ラムザはどこ吹く風で 歩きながらアグリアスの敏感なところを布越しに悪戯し続けている。 アグリアスだって、本気で止めて欲しいわけじゃない。本気なら僕は今頃のされている。 そもそもが嫌がりながらもあんな格好で人前に出て、触られてもいない内から濡らしていただなんて・・・ やっぱりアグリアスだって期待していたところはあったんじゃないか。ふふ、可愛いよなあ。 カドモス夫妻に相談した甲斐があったかな、倦怠期の脱出法・・・ その後、あの夜の羞恥プレイがルグリア夫妻の倦怠期を克服するきっかけになったかどうかは定かでは無いが、 夫婦は一年あまり後になってようやく念願の子供を授かったと言う。 }
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/88.html
入院生活が始まってから3週間目・・・ 今、日記をスタンドの明かりを頼りに書いている さて、最近は酷い目にばかり合うみたいだ 先週の直腸検温以来、アグリアス先生はあの行為に新たな世界を見せたようで検診の際は直腸検温をされている そして僕もあの感触によって興奮を覚え始めt・・・ ラムザ「・・・やめよう。こんなことを日記に書いてたのがばれた日には・・・」 ???「ばれた日には?」 ラムザ「特に今はラヴィアンさんやアリシアさんに何されるかわかったもんじゃない」 ラヴィアン&アリシア「私達がどうかしましたか?」 ラムザ「うわあぁぁぁぁぁ!!な、なんで居るんですか、お二人とも!?」 アリシア「見回りですから」 ラヴィアン「上に同じです」 ラムザ「見回りってワザワザ個室に入ってくるもんなんですか!?」 アリシア「いや~、ラムザ隊ty・・・じゃなかったラムザさんが何か書いてたので気になって・・・ね、ラヴィアン♪」 ラヴィアン「そうそう♪さてそれじゃ、早速見せてもらいましょうかねぇ、アリシア♪」 ラムザ「ひゃぁぁぁぁぁぁ・・・」 暫くお待ち下さい・・・-------------------- ・・・それから1時間ほど経ったが僕は未だに解放されては居ない・・・ ラヴィアン「なるほど・・・あの検温にアグリアス先生は大ハマりっと」 アリシア「まぁ、好きな男子が恥らう姿に興奮を覚えると言うのには私も同感だけど・・・」 ラヴィアン「ここまではまるとは・・・ねぇ?」 アリシア「それにラムザさんも満更じゃないみたいですしねぇ~」 ラムザ「そ、そんなことは・・・」 などと言っていると突然個室の天井灯が輝いた ラムザ「あ、アグリアス先生!」 アグリアス「ラヴィアン!アリシア!見回りから戻ってこないと思ったら!」 アリシア「あ、アグリアス先生!丁度良かったです♪」 アグリアス「何が丁度よかったです♪だ!仕事をサボるなとあれほど言っているだろうが!」 そう言ってアグリアス先生は手を振り上げるとゴチーーーーーーーン!!っと音がしそうなくらい痛そうな拳骨がアリシアさんとラヴィアンさんの脳天に落とした ラヴィアン「いたーい」 アリシア「暴力反対です・・・アグリアス隊tyじゃなかったアグリアス先生」 アグリアス「黙れ!もう一発ずつ貰いたくなければさっさと見回り業務にもどれ!」 アリシア&ラヴィアン「「は~~い」」 そうしてとぼとぼと去っていく二人を見送ってから、アグリアス先生はこちらを睨みながらお説教を始めた アグリアス「大体、君はいつも言っているが他人に流され安すぎる!もっと威厳を持て!自分の意思を持て!」 ラムザ「す、すみません・・・」 アグリアス「むっ・・・ま、まぁとにかく私が言いたいのはもうちょっとNOと言えるように努力しろということだ」 ・・・なんでだろう、この人と接しているとアグリアスさんを思い出す アグリアス先生とアグリアスさんは別人のはずなのに・・・失礼だよなぁ などと考えていたら アグリアス「聞いているのか!!」 っと怒鳴られ更に3時間ばかり説教をされた後、額に早く治るおまじないだとキスをしてくれた その柔らかい感触が何だか嬉しくて今夜は良い夢が見られそうだ アリシア「ところでいつになったらラムザ隊長は私達の正体に気づくのかしら?」 ラヴィアン「さぁ?あの方も変なところで鈍いから・・・退院日まで気づかないに「赤チョコボのテリヤキソース和え」かなぁ」 アリシア「じゃぁ、私は退院しても気づかないに「キングベヒーモスのレアステーキマッシュポテト和え」ね」 アグリアス「お前達、私の目の前で賭け事をするとは良い度胸だな・・・?」
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/87.html
僕は戦闘中で起こしてしまったちょっとしたドジから現在入院生活を余儀なくさせられている 通常、入院中は退屈で退屈で死にそうになると言うが僕も最初はそうだった しかし、最近になって楽しみが出来た それは・・・ アリシア「ラムザさん、検温の時間です」 ラヴィアン「ついでにアグリアス先生の献身的な検診で~す」 アグリアス「お、おい!ラヴィアン!わ、私は別にそんな疚しいつもりは!」 ラヴィアン「あ~ら、先生?私はただ親身に看護すると言う意味で言っただけですが?」 アグリアス「#$#$!!」 この3人と過ごす時間だ。 異端者と呼ばれて以来、各地を転戦し続けている僕の部隊に在籍している3人に似た三人組 本人達はかたくなに否定しているから違うみたいだけど・・・ アリシア「ラヴィアン!隊長・・・じゃなかった先生をからかっちゃだめでしょ!」 ラヴィアン「は~い」 ラムザ「あはは、皆さん相変わらず仲がよろしいですね」 アグリアス「こら!ラムザ君!そんなことを言って甘やかしてはだめだ!」 ラムザ「す、すみません」 アグリアス「ラヴィアンも馬鹿なことをしている暇はないぞ!さっさと検診開始だ!アリシア!」 アリシア「はい。ではラムザさん、体温を測りますので・・・」 ラムザ「あ、いつも通り脇に挟めばいいんですね?」 アリシア「いえズボン脱いでください」 ラムザ&アグリアス「「え?」」 突然のアリシアさんの発言に僕とアグリアス先生は固まってしまった あ、ラヴィアンさんはなんかニヤニヤしてる・・・こんな所までそっくりだなぁ・・・ アリシア「あれ?今日は直腸検温するって言ってませんでしたっけ?」 にこやかに言われてもそんなことを言われた記憶がない僕はただ無言で首を横に振った アリシア「あら、じゃぁ伝え忘れちゃったのかしら?」 ラヴィアン「だめじゃない!アリシア!そういう大事なことを伝え忘れちゃ!」 アリシア「てへっ♪」 アグリアス「これはあとでレーゼ局長に報告だな」 アリシア「そ、そんなぁ・・・・」 半泣き状態なアリシアさんを尻目にラヴィアンさんがさらなる爆弾を投下した ラヴィアン「じゃ、アグリアス先生、お願いしますね♪」 アグリアス「なぬ?」 ラヴィアン「私達は次の検査の準備がありますからきちんと計ってそこに記入してくださいね♪」 アリシア「あ、そうだったわね!じゃ、次は間違えないようにちゃんと準備しないと!」 アリシア&ラヴィアン「では、そういうわけなんでどうぞごゆっくりお楽しみ下さい♪」 ラムザ&アグリアス「「ちょ、ちょっと待って!」」 そう言って去っていく二人を食い止めようとしたもののあっさり逃げられてしまった そしてこの個室には僕とアグリアス先生だけとなった 暫くの間、室内を気まずい雰囲気が占めていたが、アグリアス先生は何かぶつぶつ言っている・・・ 僕としては一人で計りたいというか計らせて欲しいんだけど自分でやったことのない直腸検温なので間違えてリテイクさせられても困る どうしようか迷っているとどうやらアグリアス先生の覚悟が決まったようだった。 アグリアス「よし!ラムザ!直腸検温をやるぞ!」 しかし、僕のほうは覚悟を決めていない・・・ ラムザ「え、でも僕一人でも出来ますよ・・・多分ですが・・・」 アグリアス「だめだ!もし間違った検温をしてしまったり、誤って体温計を破壊してしまったらどうするんだ!」 ラムザ「う、で・・・でも・・・」 アグリアス「わ、私だって医者のはしくれだ!これくらいはできる!その、決してラムザの・・・・が見たいわけではない!」 そう宣言すると彼女は体温計を片手に僕にのしかかってきた アグリアス「じたばたするな!男だろう!観念して黙ってうつぶせになれ!」 そう言われながらも何とか抵抗しようとするが、生憎、まだ術後安静してなきゃいけないためにあっけなく僕はうつぶせにさせられた アグリアス「大人しくしていろ。大丈夫、尻の力を抜いてリラックスするんだ」 ラムザ「えっと、アグリアス先生?」 アグリアス「確か、初めてだったな?大丈夫だ、優しくする」 ラムザ「あ、あんまり嬉しくないなぁ」 と言った直後僕は尻から何か異物が入ってくるのを感じた これ以上はやばいのでこれまで! この続きへ
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/135.html
「え~。でもさぁ、彼、ちょっと引っ込み思案じゃない?」 「分かってないなぁ~。だからアタシが何とかしなきゃって思うんでしょ?」 「あ~分かる~!母性本能、だっけ?」 きゃっきゃと楽しそうにお喋りする3人。女3人寄ればかしましい、とはよく言ったもの。 白魔道士のマリアン、話術士のスザンヌ、弓使いのバイオレットだ。 「こら、手が止まっているではないか。そんなことでは日が暮れてしまう」 隣で鎧の手入れをしているアグリアスが見かねて注意する。今日の武具の手入れの当番はこの4人なのだ。 「お喋りするな、とは言わんが、仕事はしっかりこなせ」 「は~い」 「頑張りま~す」 「え~んまだまだ終わんないよ~」 返事も軽い。やれやれ、とアグリアスは鎧に意識を戻す。 「そうだ、アグリアスさんは、恋人とかいます~?」 突然マリアンが質問する。思わず鎧の留め金を掛け違えるアグリアス。 「な、なんだ急に!」 「だってアグリアスさんって素敵だし~。恋人の一人か二人くらい、いるかな~と思って」 「ひ、一人二人……!」 顔を真っ赤にしてアグリアスがうろたえる。もともとこういった話題に全くと言っていいほど免疫がない。 さらにはその超真面目な性格である。 (そ、そもそも、恋人とはひとりだけの存在ではないのか!全てを捧げられる相手こそ、そうではないのかっ!) そう言いたかったが、そう言葉にすること自体が恥ずかしいのである。 「ね~。アグリアスさんって素敵よね~」 マリアンは隣のスザンヌに同意を求める。 「うんうん!女のアタシから見ても、ばっちり合格点よね。ちょっと口惜しいけど」 「アカデミーとかでもモテたんだろうなぁ~。羨ましい~」 横からバイオレットが口を出す。 「知ってます?アグリアスさん。隊でも、アグリアスさんのファンって多いんですよ~」 「親衛隊隊長はムスタディオよね」 「あとはブルーノとかニルソンとかも」 「え~っ!ブルーノってちょっといいなって思ってたのに~。ショック~」 「そうそう、あいつ、ロングヘアの子が好きなんだって」 「そうなの?髪伸ばそうかなぁ~」 だんだん騒がしくなってくる。3人はアグリアスのことなどお構いなしに話を始めてしまった。 アグリアスは真っ赤になって、うつむいて鎧をいじっているしかなかった。 鎧の手入れは全く進まない。 「そういえば、ラムザ隊長って恋人いるのかな?」 バイオレットが言い出す。 びくっとアグリアスが反応する。一番聞きたい話が期せずして飛び出してきたからだ。 うつむいたまま、全身を耳にして3人の話に集中する。 「いないんじゃない?でも、隊長のこと好きな人は多そう」 「カッコイイもんね~。憧れちゃう」 「クールな感じだけど、気配りがすごいのよ~。この前アタシ声かけてもらっちゃった」 (ラムザは人気があるのだな……。しかし、ラムザのことを思う者とは誰なんだ……) 「隊長のこと好きそうな人か~。メリアドールさんとかそうかも。隊長を見る目が違うもの」 「あ~分かる~。普段厳しいのに、隊長の前だとちょっと雰囲気変わるよね~」 (メ、メリアドールか……確かに、最近ラムザのそばにいることが多いな) 「ラファちゃんもじゃない?あの子、隊長と一緒にいること多いのよ~」 「でも隊長の恋人、って言うにはちょっと子供すぎない?」 「一途な感じの子よね。ああいう子にころっと逝っちゃう男も多いかもよ~」 (そ、そうだ。ラファはまだ子供だから、ラムザが特別に気を配っているのだ。ラムザはそういう優しさがあるのだ) 「まぁ、隊長は隊のことで忙しいし、恋人作ってる暇なんてないのかもね」 「そうね。アタシ達で何かお手伝いできればいいんだけど……」 「アタシ達はアタシ達の仕事を頑張ることよ」 (そ、そうだな……ラムザは忙しいのだ。恋などにうつつを抜かしていたりはするまい。私がしっかり支えなければ) 「でもさ~、隊長、時々ぼーっと見てることがあるのよ」 (何をだ……) 「ね~。あれだけ分かりやすいと、ねぇ」 (……?) 「それに、その相手も、ねぇ」 くすくす笑い声がする。 はっとアグリアスが顔を上げると、3人が顔を揃えてアグリアスを見てにやにや笑っていた。 「隊長が見てるのは、アグリアスさん!!!」 3人が声を揃えて叫ぶ。アグリアスの顔がぼん、と真っ赤になる。 3人は、アグリアスが仕事をしているふりをして話を聞いているのを知っていたのだ。 そして、アグリアスがラムザのことを想っていることも。 知っていた上で、ラムザの話を出したのだった。 きゃはははっと笑い声が上がる。 「隊長が好きなのは、多分だけど、アグリアスさん!」 「おめでとう~アグリアスさん!」 「カップル成立~!いやっほう~!」 「ええい!く、くだらないことを言ってる暇があったら仕事をしろっ!」 たまらずアグリアスが裏返った大声を上げる。 「は~い!」 「あ~あ、怒られちゃった」 「うふふっ、照れちゃって~。アグリアスさん可愛い~」 3人は笑いながら仕事に戻る。 だが、頭の中はラムザでいっぱいのアグリアスの仕事は、やっぱりはかどらないのであった。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/91.html
一方そのころ。 「猫がこんなに可愛いなんて思わなかったわ」 「ははは、もうすっかり懐いちゃいましたね」 …アグリアスが陥落していた。メリアドールのされるがままに、ぐったりとしたまま眠りに落ちていた。 名うての剛剣の使い手は、対象の猫の精神も粉々に粉砕するという、剛『指』の使い手でもあったと いうわけだ。ときに御両人、タイタンの地響きもジェニックの絶叫も聞いてなかったんでしょうか。 そんなのんきな二人の元へ向かうマラークとクラウドは、アグリアスを探していた。 「ところでクラウド。アグリアスが何にされていたか、お前知ってるか?」 「……白い…動物だったな。狸やイタチ…じゃないと思うが、その辺りだ」 「白い…」 そう言われて、カエルにされた後遭遇した、白い猫を思い出す。 と、同時に、メリアドールの膝の上で眠る白い猫が目に入る。 「もしかしてあの猫が…アグリアスか!?」 そう言ってマラークがぐったりした猫に駆け寄った。 「…え?」 「すまんラムザ、ちょっとその猫を借りるぞ!」 おおわらわで猫を取り上げるマラークに、なんのことやらと目を丸くするラムザとメリアドール。 「…どうだ!?」 万能薬を振りまくマラークと、きらきら光を振りまきながら人のかたち…アグリアスの姿に変化する猫の 様子に、ラムザとメリアドールが呆気に取られている。 「良かった…助かったよラムザ。彼女を捕まえていてくれてありがとう」 「トードの応用…というか、失敗例だ。他に類を見たことはないが」 ラムザとメリアドールの驚きように老婆心が働いたのか、クラウドが一言呟いた。もっとも、彼らが 言葉を失っている理由はそちらではなく、さっきまでさんざ弄っていた猫がアグリアスだった、という 点なのだが、勿論そんなことはクラウドが知る筈もない。 「おい、しっかりしろ、アグリアス!」 「…?」 マラークに肩をゆすられてアグリアスがゆっくりと目を開けた。しかしその瞳はぼんやりしており、 虚ろというか寝ぼけ眼というか、心ここにあらず、といった雰囲気である。 「ど、どうしたんだアグリアス?」 「…待て、様子が変だ」 揺り起こそうとするマラークをクラウドが制した。 「ア…アグリアスさん?」 ラムザがおそるおそるアグリアスに近づくと、なぁ、と猫なで声を上げてアグリアスがごろりと 身を起こす。その仕草は猫そのもので、近づいてきたラムザを見るなりアグリアスは四つんばいで近づいて、 ラムザの脚に首筋を擦り付けている。 「ど、どういうことだ!? ラムザ、これは一体…!」 「…マラーク。これは俺の推測なんだが」 先ほどから顎に手を当てて考え込んでいたクラウドが口を挟む。 「…確か、相手を鶏に変化させる術があったな?」 「あ、ああ、狐鶏鼠のことか。それがどうかしたのか?」 「たとえ勇敢な人物でも臆病者になる、つまり身も心も鶏のようにする変化の術が存在する…と考えれば、 アグリアスがかけられたのも、身も心も猫にする術、と考えるのはおかしいか?」 「いや、今回は単なるトードの失敗だろう? そんな付加効果があるようには…」 「失敗だからこそ、とも考えられるぞ? 今のアグリアスの状態は…」 クラウドとマラークが取り留めのない推測を論じている傍で、多分自分たちのせいだろう、と 冷や汗混じりに視線を合わせるラムザとメリアドール。アグリアスはなおもラムザの足元をぐるぐる回っている。 「と、とにかく、アグリアスさん、しっかりしてくださ…うわっ!?」 しゃがもうとしてバランスを崩し、ラムザが派手に尻餅をついた。 「痛たた…えっ? う、うわ!?」 ラムザの足元からするりと身をかわしたアグリアスが、今度はラムザの上に覆い被さってすんすんと鼻を 鳴らし始めた。眼前に迫ったアグリアスのうっとりした表情に見惚れてラムザが動けなくなったのもつかの間、 さてはミルクの臭いでも嗅ぎ取ったのだろうか、なんと今度はアグリアスがラムザの口元をちろちろと 嘗め始めたではないか。 「わ、わーーー!?」 流石のラムザもこれには顔を真っ赤にしてアグリアスから逃れようとする。しかし全体重と腕力をもってして 押さえ込もうとするアグリアスが相手では相当に分が悪く、顔は見る見るうちに嘗め尽くされていく。傍らでは メリアドールとマラークが、なんだか見てはいけないものを見てしまったような顔で茫然とし、終始冷静を装う クラウドは依然として表情こそ変えていないが、ごくり、と唾を飲み込んでいる。 「たっ、助けて! メリアドールさーんっ!」 「え…っ? …あ、あっ、アグリアス! しっかりなさいっ!」 ラムザの助けを求める声に我を取り戻したメリアドールが、アグリアスの両肩を掴んでラムザから 引き剥がす。食事の時間を邪魔されたかのように不機嫌そうにアグリアスがうめいていたが、自分を抱えた メリアドールを見るなりその表情が緩んでいく。同時にメリアドールが危険を察知するも、遅かった。 アグリアスはそのままメリアドールに寄りかかり、そのままの体勢でのしかかる。 「きゃああ!?」 派手に転ばされて、今度はメリアドールが悲鳴をあげた。 気が付けば、ラムザと同じように尻餅を付いたメリアドールの両脚の上に、アグリアスが丸くなって すうすうと寝息を立てている。 「ちょっとアグリアスッ!?」 「待った、起こさない方がいい。彼女の意識が猫のままである以上、下手に刺激して逃げられても困る」 常に前線、ゆえに重装備のアグリアスにのしかかられて、悲鳴をあげない女性などいない。 とはいえマラークが言うことも一理ある。しぶしぶメリアドールが押し黙る。 「それにしても、なんでこんなことに」 「それはこっちの台詞よ…ねえラムザ? …ラムザ?」 そのラムザといえば、顔中涎まみれにして涙目のまま茫然自失。まあ、突然迫られて顔を嘗めまくられたら びっくりするというか、ショックで固まるのも無理もないだろう。しかもそれが自分の仕業とあっては尚更か。 「…俺も手遅れだったらトカゲになりきっていたということか…カエルじゃなくて良かった…本当に良かった」 クラウドが恐怖の余り涙するが実際にはそんなことはなかっただろう。少なくともこの部隊にトカゲを 可愛がる趣味の人間がいるとは思えない。 泣きながら真剣に頷くクラウドに、メリアドールが自分の膝の上で幸せそうに熟睡している大きな猫を指差した。 「しみじみ言ってないで、早くアグリアスをなんとかしてよ…」 「とりあえずキャンプへ連れて行こう。皆に報告しないと」 「あ…ちょ、ちょっと待って。とりあえず今回の騒ぎ、アグリアスの件は出来るだけ内密にして」 まさかアグリアスが性格まで猫になった原因が自分たちにあるとあっては、後々どうなるかわかったものでは ない。思わず隠蔽工作に走るメリアドール。 「何故だ」 「えっ? あ…その…ほら、皆に要らない混乱を招く可能性があるし、面白半分でアグリアスをからかったり しない人もいないわけじゃないでしょう? 精神的ダメージなわけだから、悪化させないためにも そっとしておくべきだと思うわ?」 妙に鋭いクラウドの問いにどぎまぎしながら出任せ半分で返す。 「そうなると、アグリアスの看病をするのもメリアドールになるけど、いいのかい?」 「え、ええ。それでいいわ。ラムザにも一緒にいてもらうけど、いい?」 「それはラムザと一緒に決めておいてほしい。さ、行こうクラウド」 それだけ告げて、マラークとアグリアスを背負ったクラウドが歩き出す。 一方のメリアドールは、ラムザを介抱する素振りをしながら二人と距離が出来たのを確認した瞬間。 「ラムザーーーーッ!!」 ラムザの両肩を押さえてがくんがくんとゆすりだした。 「一体どうするのよぉぉぉおお!!」 脳味噌を力の限りシェイクされて、ようやくラムザがこちらの世界に戻ってくる。 「…はっ!? ど、ど、どうしましょうメリアドールさんッ!! ももももしアグリアスさんがああああの ままだったらッ!?」 「うっ…ま、まずは顔を洗った方がいいと思うわ」 錯乱しつつ涎と涙でぐずぐずになったラムザの顔に、メリアドールは一歩二歩と後退りしたのだった。 かちゃかちゃと、メリアドールがテントの中で横たわるアグリアスの鎧をはずす。 「…人の気も知らないで、随分と気持ち良さそうに寝てるのね…」 「…ははは…」 ラムザはコメントに困っている。鎧がはずされ、衣服だけの状態で眠るアグリアス。 「………」 そしてその眠り姫を、食い入るようにじっと見つめる二人。 「ねえ…」 「はい?」 「さっきまで可愛がってた猫が、アグリアスだったってわけよね…」 「え、ええ…そうですね。変な感じですね…」 微妙な沈黙が周囲を支配する。 と、何の前触れもなくメリアドールの手がアグリアスに伸びた。 「?」 どうかしたのかとラムザが訊こうとする前に、メリアドールの指がアグリアスの喉元を撫でていた。 「メ、メリアドールさん!?」 「えっ!? あ、ご、ごめんなさい!?」 慌てて手を引っ込めるメリアドール。喉を撫でられたアグリアスは、んん、と気持ち良さそうにうめき、 顔を緩ませてなお眠り続けている。 「い、一体何をしてるんですかっ!?」 「だって、さっきの猫のイメージが頭から離れなくて…アグリアスの寝顔を見てたら、つい」 「だからってそんなことをしたら、精神がずっと猫のままかもしれないんですよ!?」 「うっ…そ、そうね」 アグリアスを起こさぬよう、ラムザが小声で説教する。 「我慢してください、僕だって我慢してるんですから」 「はい…」 注意されてメリアドールがしゅんと小さくなった。 「でも…我慢してるってことは、触ってみたいってこと?」 「………」 ラムザは答えない。が、耳まで真っ赤なので否定していないようである。 「もー、ラムザも可愛いところがあるのねー。ほらほら」 「や、やめてください! 僕だって猫じゃないんですから! ど、どこ触ってるんですか!?」 そんなやり取りがあって、触るの触らないの、撫でるの撫でないの議論を超えて、夜が明けて。 「ん…っ」 ついにアグリアスが目覚めようとしていた。 「アグリアス!」 「アグリアスさんっ!?」 「?」 しかし、どうも様子が変だ。やはり猫のままなのだろうか? 「しっかりしてください! アグリアスさん!」 「アグリアス!? 私が誰だかわかる!? ねえ、アグリアス!?」 二人の顔は…私を可愛がってくれている…いや、違う。この二人の目は『私』を見ている目だ。 「…な、なんだ? 私はなにをしていたんだ…?」 必死の二人の呼びかけによりアグリアス覚醒。おかえりなさいアグリアス。 「よ、よ、良かった…」 「アグリアスよね? あなたはアグリアスよね!?」 「一体何を言いたいのかわからんが…私がアグリアス以外の誰だと言うんだ?」 その言葉に、メリアドールとラムザがわっと泣きながらアグリアスに抱きついた。 「なんだ!? 何事だ!? いや、それより二人とも、その目の下のくまはどうした!?」 聞きたいことは山ほどある。それよりも、二人に抱きつかれると不思議とあたたかな気持ちになる。 手の感触や、におい…思い出そうとしても、それが何だったのかよく思い出せない。 「…なんだか、不思議な夢を見ていたような気がするな…」 ぼんやりとした思考の中で、アグリアスは夢の中で見たやさしい手のひらを、ふっと思い出すのだった。 「…あ」 とか言ってる間にどうやら全部思い出したらしい。 さて、その後の顛末。 「よおムスタディオ…どうしたんだその石鹸」 「これか? 銃の手入れをしたらちゃんと手を洗えってアグリアスがさ」 「ふーん」 「ところでメリアドールは? 伯が呼んでたんだけど、ラッドは知らないか?」 「ああ、あそこだあそこ。ほら、あの猫の山の真ん中」 「うへえ…どうやって呼んだんだよあのたくさんの猫」 「ちょっ、クアール来てるよクアール! 何のんきに手懐けようとしてんだよメリアドール!」 「危ねえ! 待ってろ、今すぐ誰か呼んでくる!」 「待て…すげえ、ものの3秒で手懐けた」 「マジで!?」 ラヴィアンはあれから一晩ずっと逃げ回っていたようで。 「ったくもー、あたし何か悪いことしたっけ? アグリアス様ったら妙にあたしを避けちゃって…って、 ちょっとそこ行く不審者ラヴィアン! あんたあの後一体何処をほっつき歩いてたのよ!」 「えっ!? んー、ちょっとお散歩がてらに~…あ、ほら、他に増援とか伏兵とかがいないか斥候してたのよ」 「滅多に使わない言葉を使わない! あんたの文章、あからさまに変よ」 ラヴィアンの苦しい言い訳に、アリシアが呆れてため息をつく。 「あの…アリシアさん、夕べは一緒にいてくださってありがとうございました」 その背後から深々と頭を下げるラファに、慌ててアリシアが表情を緩ませる。 「あ、ラファちゃん大丈夫? ごめんねラヴィアンのせいで…」 「はい、多分、もう大丈夫…です。アリシアさんがいて安心しました」 「そう、それなら良かった」 微笑むアリシアに、思い掛けぬラファの一言が放たれた。 「あの…今度から姉さんって呼んでもいいですか?」 「…え゜?」 アリシアが異音を発してフリーズした。 「一緒にいてもらってた間、すごく安心して…まるでお母さんみたいって思ったんだけど、それじゃちょっと 失礼ですし、アリシアさんだったら姉さんかなあ、って」 ちょっと頬を赤くしながら、ラファがもじもじと口を開く。 「いいですよね、姉さん?」 可愛らしい微笑みを浮かべてアリシアに抱きつくラファ。固まったアリシアが顔だけマラークに向き直るも、 「ラファを立ち直らせる方法が…残念ながら思い浮かばなかった」 首を横に振り、そして深々とアリシアに頭をたれるマラーク。 「…妹をよろしくお願いします、義姉上」 魅惑のアリシアお姉さま、ここに爆☆誕!(ナレーション:ラヴィアン) 「ちょっとおおおお!?」 「あーあ、アリシアったらますますアグリアス様に似てきたわねえ」 「…ラヴィアン…あんたが原因でしょーがッ!!」 「オホホホホホホホ」 「だから逃げるなッ! あ、ラファちゃんちょっと放してくれる? …マラーク助けてぇえ!」 メリアドールが猫好きになった一方で、この人は。 「あら、伯、顔色が優れないようですけど、どうしたんですか」 「い、いやあ…その、なんじゃ、ちょっと疲れててな。ず、随分猫に好かれておるようだな」 「ええ。ほら、可愛いですよ」 「ち、ちちち近づけんでくれ! ど、どうも猫は駄目なのだ!」 「え? そ、そうなんですか? …こんなに可愛いのに…というか、伯は苦手でいらしたんですか」 「うむー…」 猫が苦手のはずだったメリアドールに自分の剣を後継させようとしていたシドの目論見はあっさり外れてしまう。 ちなみにシド、勿論本人がその理由を知る由もないが、アグリアスには口もきいてもらっていない。 「この剣術、誰に継承すればいいものか…はぁ」 暗黒剣を覚えたがっていたラッドに伝授しようかのぉ…などと考えるシドであった。 そして肝心のアグリアスは、というと。 「…二人とも、皆と一緒に休憩してきたらどうですか」 「ん? いやいや、俺たちのことは何も気を使わなくていいんだよラムザ」 「そうよ、私たちのことは全然気にしなくていいのよ」 長いすの上でラムザの膝枕で眠るアグリアスを見ながら、その対面に座るベイオウーフとレーゼがにこにこと 笑っている。 「…僕が気になるんです。二人ともそうやってあからさまににやにやして…」 「だって幸せそうなんだもの、こんなにほのぼのしてたら、ずっと眺めていたいっていうのが心情じゃない?」 「そうだぞ、できることなら俺もすぐにでもレーゼを膝枕してあげたいくらいだ」 「あら、膝枕するのは私のほうだと思うわ」 はしゃぐカップルにラムザは人差し指を口に当てて言う。 「あの、お二人とも、騒ぐのでしたら、外に移動をお願いできますか」 「あらあら、体よく追い出されてしまったわ」 「仕方ないな、この場は二人に任せるとしよう」 最後の最後まで二人を冷やかしながら去っていく二人。 「ふう…」 …前はお昼寝なんてするような人じゃなかったのに。 ため息を漏らすと、自然と膝の上で寝息を立てているアグリアスに視線が行く。つん、と頬をつつくと、 くすぐったそうに身じろぎして、また寝息を立てる。 「………」 ぼんやりしながら、こういうのも悪くない…かな、と顔を赤くするラムザ。まんざらでもないようである。 それからクラウド。毎夜毎晩カエルが顔に張り付く夢を見て一週間まともに眠れていないらしい。 「助けてくれ」 「俺に言うなよ」 涙目でクラウドにしがみつかれるムスタディオも困惑気味だ。 そして最後に、似たような状況の人が。 「うーん、うーーーん…はぅっ!?」 真っ暗なテントの中で、黒魔道士が目を覚ます。 「も、も、もういやあああ! なんで日に日に増えてんのよぉぉぉおおおお!!」 そう、あれからジェニックは、毎晩毎晩夢の中でタイタンとの逢瀬を満喫していたのだった。 しかもどうやらタイタンの人数は邂逅のたびに増員されているようである。ビバ・兄貴ラインダンス。イエー。 「ああもぉ最悪! 見なさいよこのクマ! 何日も寝てないのよッ! しんッじらんないッ!!」 闇夜の黒魔道士の目の下のクマなど、ここに誰かがいたとして一体誰が確認できようか。 わしわしと自分の髪を掻き乱し、教会の描いたラムザの似顔絵入り手配書に、帽子を投げつけ怒鳴り散らす。 「それもこれも全部ラムザのせいよッ!! 絶対復讐してやるんだからあああーーーーーーー!!!」 筋違いの逆恨みに、手配書のラムザも心なしか呆れ顔だった。 END