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夏休みも中盤に差し掛かったころ、『夏だし恒例じゃん!』という泉こなたの提案で、四人は県内にある小学校の旧校舎にやってきた。 十数年も前に校舎は新しく建てられたのだが、予算が厳しいために取り壊しも行われていない。 湿気を伴った風が、彼女達の間を吹き抜けていく。暑苦しい大気が急に冷え込んだような気がした。 「……まるで爆撃のあとね……」 五階建ての校舎を見上げ、柊かがみが言った。 校舎の窓ガラスは全て割れている。壁の色が茶色がかっており、広島の原爆ドームを彷彿とさせる。 その時、青ざめた顔をした柊つかさが、高良みゆきの袖をくいくいと引いた。 「ね、ねぇ……帰ろうよぉ……! ここ、絶対に何かいるよ……!!」 目尻に涙を浮かべ懇願してくる姿を見て、みゆきは少し可哀想な気がしてきた。 つかさはこの話に乗ったわけではない。こなた達に無理矢理連れてこられたようなものだ。 帰りましょうか? と、そう言おうとしたその時、 「せっかくここまで来たんだから行こうよ。赤信号、みんなで渡れば怖くないっ!」 「ふぇぇ!?」 こなたがつかさの手を引っ張って校舎に入っていってしまった。 嫌がっているのだから、つかさだけでも帰した方がいいのではと思ったのだが。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、みゆき。幽霊なんか、いるわけないんだから」 そう言うと、かがみも校舎の中に入っていってしまった。 だが、みゆきは入るのをためらった。この旧校舎について、いくつか怖い噂を耳にしているからだ。 『自殺した女の子の霊が校内を彷徨っている』だの、『踏み込んだ男子数名がそのまま行方不明になっている』だの。 「みゆきー! 置いてくわよー!」 「あ、はい!!」 かがみの声で我に返り、みゆきは駆け出した。 ――何事も起こらなければよいのですが―― / 月光が差し込み、中は比較的明るめだったが、外よりも荒れ果てていた。壁のコンクリートが崩れていて、床もボロボロ。所々に穴が空いていた。 「怖いよぉ……」 「大丈夫よ。みんなが一緒にいるんだから」 「さ、行こっか!」 こなたが先頭を切って進む。その後ろをみゆき、そして柊姉妹と続く。 一階にある音楽室、理科室、各教室を廻っても、特に怪奇現象のようなことは起こらなかった。 四人は一階の探索を終え、階段を上って二階へとあがる。 そしてしばらく進んだところで、かがみが小さく呟いた。 「それにしても、荒れ果ててるわねぇ」 「あ~、こういうとこってさ」 こなたが振り返りもせず、人差し指を立てて言った。 「普通に歩いてるだけでもさ、『床が抜ける』っていうお約束――」 突然、こなたの身体がぐっと沈みこんだ。 「が?」 自分の足下が、崩れていた。 「おわあぁぁぁぁあ!!」 重力に逆らえるはずもなく。 ボロボロのトタンを踏み抜いて、こなたは建材や床板と共に下の階へと転落していった。 「こなた!!」 「こなちゃん!!」 「泉さん!!」 一階に残された三人は穴の縁から階下を覗き込む。 腰のあたりをさすりながらゆっくりと上半身を起こすこなたの姿が、そこにはあった。 「いたた……も~、なんなのさ~……」 自分で言ったことなのだが、まさか現実に起こるとは思ってもみなかったのだろう。 「こなた、無事!?」 「うん、大丈夫……ッ!」 かがみの問いかけに答え、立ち上がろうとしたのだが、そのまま座り込んで左足の足首を両手で押さえた。 「……足、挫いちゃったみたい……」 上を見上げるこなたの顔が、青ざめていた。 こなたもこの旧校舎の噂を聞いていた。それだけに、『何か起きたとしてもすぐに逃げられない』という恐怖が生まれたのだろう。 いつものお気楽な感じが鳴りをひそめていた。 「泉さん、待っていてください。今すぐそちらに向かいますから」 「たく、手間かけさせるわね」 かがみとみゆきは立ち上がり、元来た道へときびすを返す。 だが、つかさはその場に残っていた。『こなたを一人きりにさせる』ことが、逆に怖かったのだ。 「つかさ、早く!」 「う、うん……」 かがみに急かされ、つかさはやむを得ず二人の後を追った。 だが不安は拭えず、途中で何度も何度も後ろを振り向く。こなたが大丈夫か、気になって仕方がないのだ。 階段を目の前にして、ついにつかさは立ち止まった。 「つかさ。こなたなら、大丈夫よ。まごついてたら、逆に助けに行くのが遅くなるじゃない」 「……うん、そうだね」 もう結構な距離を歩いてきた。自分一人だけ戻ることもできない。 だからつかさは、二人の後を追った。それからは一度も振り返らず。 ――そうだ。こなちゃんなら、大丈夫だよね。だから、さっき聞こえたこなちゃんの叫び声は、気のせいなんだよね―― / 一階の廊下は、二階の床板やらが散乱していた。 最初に通った時には天井に穴は開いていなかった。だから、ここがこなたが落下したところなのだろう。 だが、廊下には、こなたの姿は見えなかった。 「こなた、どこ行ったのかしら?」 「近くにいるといいのですが……」 近くの教室を覗き込むが、人影はない。 これはこなたなりのイタズラなのか? そう思った時、気が付いた。 つかさが、先ほどの場所で身体をガタガタと震わせていることに。 「つ、つかさ……?」 「どうされました……?」 「お姉ちゃん……ゆきちゃん……こなちゃんが……こなちゃんが……!!」 つかさは、階段を降りる手前で聞いたこなたの叫び声のことを話した。 やはり二人には聞こえていなかったみたいで、その事実を知った時、霊の類をまったく信じないかがみですら息を呑んだ。 「早く泉さんを捜しましょう!」 「ええ!!」 三人は一階を駆け回った。音楽室、理科室、各教室と――だが、見つからない。 「二人とも、いました!」 みゆきがそう言ったのは、捜索から五分後のことだった。 ドアを開けて中に入ると、その教室には、確かにこなたがいた。 後ろ姿ではあるが、月明かりに照らされた青い髪、てっぺんから出たアホ毛で判断できる。 「こなちゃん……!」 名前を呼んで、つかさが駆け寄ろうとするが……様子が変だ。 『……ねえ、お姉ちゃん達……』 後ろ姿というより、若干斜めになっていると言うべきか。だから、その言葉がこなたの口から発せられたことはわかった。 だが……その声は、いつものこなたの声とは質感がまるで違った。 『鬼ごっこしようよ……。鬼は私で、お姉ちゃん達が逃げるの。捕まったら……』 『コロシテアゲルカラ……』 「――!!!」 振り向いたその姿は、もはや泉こなたのものではなかった。 抑揚のない言葉、蒼白く不気味な顔、虚無に沈み茫洋とした瞳、そして――右手に握り締められた鉄パイプ。 目の前にいる存在が『こなたであってこなたでない』。そう気付くまでに、数秒の時間を要した。 それほどまでに、彼女は変わり果てていたのだ。 「う……うわあぁぁあああぁぁぁああぁぁあ!!」 「つ、つかさ!」 衝撃波が発生しそうなスピードでつかさは教室を飛び出していき、その後をかがみが追う。 だがみゆきは腰を抜かして座り込み、恐怖でその場から動くことすらできなくなっていた。 「ひ……あ……!」 『まず……あなたから殺してあげるね……』 音もなくみゆきの前に忍び寄り、持っていた鉄パイプを掲げ、そして―― みゆきに向かって、勢いよく振り下ろした。 「が……!!」 相当な衝撃がみゆきを襲った。痛みは――あまりの痛みに痛覚が麻痺したのだろう――まったくと言っていいほどなかった。 顔を流れる液体を拭ってみると、掌は真っ赤に染まってしまった。 「い、泉さん……! や、やめてください……! やめ――」 みゆきが抵抗する間も、こなたは容赦なくみゆきを殴打する。 桃色の髪は赤く染まり、美しい顔が恐怖に歪む。 「い……ずみ………さ…………」 その声は届かなかった。反応すらせず、ただひたすらにみゆきを殴打する。 そして、みゆきは遂に動かなくなった。 この部屋に残っている『人』は、みゆきの返り血で全身を赤く染め上げた彼女一人だけ。 『うふふ……あは、あはは……あははははははははははははは!!』 彼女は不気味な笑い声を教室に響かせ、そして呟いた。 『あと二人……ドコニイルノカナ……?』 彼女が歩く後には、鉄パイプから流れ出た血が、ポタポタと音をたてながら床に落ちていった。 ――ねえ、鬼ごっこなんだよ? ――もっとみんな、楽しもうよ ――ほら、逃げる人はこう言わなきゃ オニサンコチラ…… テノナルホウヘ…… / 「はぁっ……はぁっ……」 校内をひたすらに走り、つかさが辿り着いたのは五階の教室だった。 とにかく、こなたから――こなただった存在から逃げ出したかった。 「……こなちゃん、が……」 親友が、幽霊に取り憑かれた。彼女を恐怖で震え上がらせるには充分な出来事だ。 一刻も早くここを出ていきたかった。さっさと家に帰って、温かい飲み物でも飲みたかった。 だが、それはできない。ここから出ていくということは、かがみやみゆき、そしてこなたを置いていくということになる。 「どうしよう……どうしよう……!!」 帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れない、帰りたい、帰れな…… 「そ、そうだ!」 その時、名案がつかさの頭に浮かんだ。 霊に取り憑かれているのなら、お祓いすればいいのだ。 つかさの家は神社、父がお祓いをやっているところを見たことが何回かある。 父を呼んで、こなたをお祓いしてもらおう。 そう思って立ち上がり、教室のドアを開け放つと―― 『み~つけた……』 「ひ!!」 目の前に、こなたがいた。 彼女の髪は、服は、顔は、血液で真っ赤に染まっている。これは、つかさでなくても恐怖を抱くだろう。 「ぁ……う……」 『次は……お姉ちゃんを殺してあげる……』 次は。 つまり、誰かがもうすでに……? 「うわあぁあああぁぁぁぁああああ!!」 その事実に気が付いた時、彼女は教室を走り去っていった。 親友が取り憑かれたという恐怖、誰かが殺されたという恐怖、自分が殺されるかもしれないという恐怖……。 彼女はもう、限界だった。 「ゼェ……ゼェ……! い、いや! 来ないで、来ないでぇ!!」 『あはは……あはは……』 必死に走るつかさを、こなたは邪悪に笑いながら追い掛ける。 そのスピードは、こなたの方が圧倒的に上だった。 それでも、まだ距離はある。教室とかを使って巧みにやり過ごせば、あるいは――! ……だが。 「ゼェ……うそ……行き止まり!?」 目の前にはガラスがあるだけ、教室も階段も何もない、完全な行き止まりだ。 後ろを振り向くと、こなたはもうすぐそばまで来ていた。 「もう……やだ……! 誰か……助けて……!!」 彼女の叫びは、誰にも届かない。 こなたは彼女のすぐそばににじり寄り、赤く染まった鉄パイプを振り上げ―― 『タスケテアゲル……』 「……え……?」 『ソノ……クルシミカラネ……!!』 ガラスごと、彼女を突き飛ばした。 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 叫びながら彼女は地面に落ちていく。 何かが潰れる音が響き――彼女の声は、聞こえなくなった。 『うふふ……あと一人……あと一人……!!』 つかさが落ちていった後を見下ろしながら、こなたは不気味に笑った。 ――どうしてそんなに怯えてるの? ――鬼ごっこしてるのに、楽しくないの? ――私と鬼ごっこするのが、怖いの? ジャア、私ガラクニシテアゲル…… ラクニシテアゲル…… ラクニシテアゲルネ……!! / 「はぁ……はぁ……つ、つかさ……逃げ足だけは早すぎ……」 少し前、つかさの後を追っていたかがみは膝に手をついていた。 必死になってつかさを追ったのだが、追い付くどころか逆に見失ってしまったのだ。 「みゆきなら無事でしょうけど……つかさは怖がりだから……早く見つけてあげなくちゃ……」 そう自分を鼓舞し、かがみはまず階段を上って二階へと向かう。 教室やトイレをひとつひとつ入り、つかさが隠れていないか捜すが、見つからない。 二階にはいないと判断し、かがみは三階へとあがっていく。 ちなみにその三階にはすでにこなたがいたのだが、かがみが教室内に入っているうちに素通りしてくれたために鉢合わせすることはなかった。 「……いないわね……」 三階をくまなく捜したが、つかさはいなかった。 三階から四階へ、かがみは向かう。 突き当たりまで捜したが、四階にもつかさの姿はなかった。 隠れているのではなく、校内を走り回っているのではないか、そう思ってきびすを返した瞬間―― 「きゃあああぁああぁぁあああああぁああああ!!!」 「え……」 後ろから、つかさの叫び声が聞こえてきた。 後ろには窓しかないはずなのに……そう思って振り返ると―― つかさが恐怖で顔を歪ませながら、窓の向こうで落ちていくではないか。 「つか……!!」 駆け寄り、窓の下を除くと、グシャグシャに潰れたつかさの姿が―― 「……うそ……うそよ……そんなの……」 かがみは頭を抱えて力なく地面に崩れ、大粒の涙をポロポロと流した。 「いや……いやーーーーーーーー!!」 小さい頃から共に育ち、互いが互いを必要としあっていた、最愛の妹が逝ってしまった。 そんなの……受け入れられるはずがない。 「えぐ……ひぁ……つ……つかさぁ……」 嗚咽をあげながら、泣き続けるかがみ。 涙を拭こうともせず、ただただ床を見つめていた。 『もう……お姉ちゃんで最後だよ……』 突如、そう声がした。振り返るとそこには、血で真っ赤に染まったこなたが。 「もう……最後ですって……?」 ゆっくりと立ち上がり、呟く。 その声が震えているのは――悲しみのせいではない。 『そうだよ……後の二人は殺してあげた……あとはお姉ちゃんだけ……』 「あんた……つかさだけじゃなく……みゆきまで!!!」 彼女にはもう、怒りの心しかない。 血まみれのこなたに対する恐怖も、みゆきとつかさを失ったという悲しみも、すべてが目の前の存在に対する怒りへと変化していた。 『安心して……スグニアナタモコロシテアゲルカラ……』 かがみにゆっくりとにじみ寄り、鉄パイプを高くかかげる。 だが、邪悪に笑うその顔が、逆にかがみの神経を逆撫でする。 「……死ぬのは……」 振り下ろされた鉄パイプを驚異的なスピードで避け、かがみは鉄パイプを奪い取った。 『な……』 「アンタよ!!!」 奪い取った鉄パイプを、こなたの頭に振り下ろす。 『が……!!』 血しぶきが、かがみの髪を、服を、顔を、真っ赤に染め上げていく。 実体を持たない幽霊の状態なら、鉄パイプは空振りしていたであろう。 だが、今はこなたに取り憑いている。ダメージも直接幽霊に届いているようだ。 もっとも、今のかがみにそれを考えるだけの知能は存在していなかった。 「あはははは! どう!? これがみゆきが!! つかさが!! 味わった恐怖なのよ!! あはははははははははは!!」 かがみは憎しみから、ただひたすらに鉄パイプを振り下ろしていた。 みゆきとつかさを殺した幽霊、それが『泉こなたに取り憑いている』ことも忘れて…… 「殺してやる……殺してやる!!!」 血に染まったその顔は、それこそ『鬼』であるかの如く、怒りに満ちていた。 鉄パイプを両手で高く掲げ、これが最後だと言わんばかりに振り下ろそうとした時―― 「か、かが……み……」 「え……」 かがみは、鉄パイプを落とした。 「こ……こなた……? 正気を取り戻したの……?」 「みたい……だけど……かがみ……これ……やり過ぎ……だよ……」 そこでようやく気が付いた。自分が今、なにをしていたのか。 ただ一心不乱にこなたを殴打し続けていたのだが……こなた自身には、何の罪もないのだ。 何の罪もないのに、かがみは……こなたを殺そうとしていた。 「私……もう……ダメみたい……」 「こなた……ごめん……ごめんね……!!」 「ううん……かがみは……悪く、ないよ……悪い、のは……みんなを誘った、私……」 自分は、なんてことをしてしまったんだろう。かがみの流した涙が、こなたの頬にポタリと落ちる。 だが、今ごろ後悔しても、もう無駄なのだ。後悔しても、起きてしまった出来事は変わらない。 「最期に……かがみと、話せてよかったよ……これで……ちゃんと……サヨナラ、が、言える……」 「イヤぁ……サヨナラなんて……言わないでよぉ……」 こなたはフーっと息を吐くと、先ほどまでとは違う、優しい笑顔をかがみに向けた。 「かがみ……短い、間だったけど……この三、年間……楽し、かったよ……」 「うん……私も……楽しかったよ……」 「今まで……ありがとう……来世で、も……友達、で……いよう……ね……」 「……こなた……?」 その瞬間、こなたの瞳から、光が消えた。 「……イヤ……こなたぁ……」 かがみは、動かなくなったこなたの身体にしがみついて、ただひたすら、涙を流した。 それは、友を失った悲しみの涙なのか、それとも―― / それから数ヶ月後、かがみは自らが通う高校・陵桜学園の屋上にいた。 転落防止のフェンスを乗り越え、ギリギリに立ったところで、天(そら)を仰ぐ。 「みゆき……つかさ……こなた……私、みんながいない世界を生きていくなんて……できないや……」 天に向かって一人呟き、首を縦に振る。 「……わかってる。本当は、みんなの分まで生きなくちゃいけないんだよね。でもね……私、どんどん成績が落ちていってる。しかもこなた以下なのよ?」 グラウンドで、何人かの生徒がかがみを指差して騒いでいた。 それを気にせず、かがみは一人、天に向かって話し続ける。 「それに、私の罪は未だ償われてない。正当防衛が適用されたらしいけど、だからって、私の罪が消えたわけじゃない」 「おい、柊!! お前何やっとんねん!!」 隣の、こなた達のクラス担任・黒井ななこが屋上にやってきた。 だが、それすらも無視して、かがみはひたすらに話し続ける。 「自分勝手でごめんね。だけど、私もう……生きていくのに疲れちゃった。だから今……そっちに逝くね」 「!? お、おい柊! 柊!!」 かがみはトンっとジャンプし、空中に身を預けた。 ――私は……鬼ごっこの鬼なの…… ――死んでしまった友達を追い掛ける…… ――哀れで、寂しがり屋の鬼…… / ――ねえ、鬼ごっこしようよ…… ――鬼なら、私がやるから…… ――みんなは、鬼の私から逃げるの…… ――捕まったら…… 『コロシテアゲル……』
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俺田村さんは諦めた。 うん、正直あの兄さんにはもう会いたくないです。勘弁してください。 再び夕暮れの教室、俺はそわそわしながら女の子を待っている。 岩崎みなみ。成績優秀スポーツ万能おまけにお家はお金もち。普通なら近づき難い高嶺のフラワーだが、俺は敢えて挑む。 だって俺はクールな中に優しさを秘める岩崎に惚れたんだからな! すりガラス越しに見える程よいショートカット。 岩崎みなみは今ドアの前に立っている。そして、開けるか否か躊躇している。そんなとこか。 ゆったりと俺が開けるべきか?いや、彼女の意志に任せよう。 彼女がドアを開かなかったら、それまでってことだ。 あ、開いた。 「………………」 「ごめんな、呼び出したりして」 恥ずかしがってるな…岩崎さん。チラチラこっち見たり目そらしたり。 慣れてないんだなー。俺もだけど。はっきりいって惜しいよな。 岩崎みなみさんはもっと笑えばモテそうなのに。 陰で雪女なんて呼ぶ奴もいるが奴はわかってねえな。こんなにかわいいんだぜ? 「……何?」 息を吸い込んで、堂々と応えた。 「いや、岩崎とちょっと話がしたくて」 「…話?」 「岩崎ってさ、本当に優しいよな。この前も小早川が体育で倒した時、真っ先に駆けつけたよな」 「ゆたかは……友達だから……」 ピュアだ。すっごいピュアなハートだ。 駄目だね。 俺なんかがイタズラしていい相手じゃない。 さらばだ。ショートカットを軽くポニーテールにする野望。 少しのおせっかいをしておさらばするとしよう。 「岩崎さ、かわいいんだからもっと笑ってみたらどうだ?自分に自信持てって」 「……そう……かな?」 夕日の逆光で表情はわからなかった。 俺が呼びつけたんだ。せめてもの償いにジュースをおごって俺は帰った。 正確には、逃げた。 あー、お空が真っ赤だ。 おしまい。
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ゆたか「みなみちゃんってどうしていつもストッキング穿いてるの?」 ひより「きっとかぶって一発芸するためだよ」 みなみ「…ゆたかになら…見せてもいいか…」 なんということでしょう。みなみは教室のまん中でストッキングを脱ぎだしたのです。 当然男子の視線はみなみの脚線美にバナナで打った釘付けになります。俺も1-D行きてえ。 ゆたか「そんな…みなみちゃんのふとももに…分割線が……」 みなみ「私はサイボーグ……」 サイボーグみなみちゃん!コミックワカメで大人気連載中! ゆたか「みなみちゃんは…何のために…?」 いきなりクライマックス的なセリフですよ。 みなみ「ピンク…ワカ…げほっごほっピギャァァ」 ひより「た、大変だ!(まだストッキングもスカートも穿いてないよ)」 みなみ「ごめん…禁じられたワードだった…」 ひより「つぶやいたら最期なんだね」 ゆたか「早く高良先輩倒しに行こうよ」 みなみ「…うん」 ワードを禁じた意味は大してなかったようです。 ひより「早くスカート穿こうよ」 次回!激闘編 東京にそびえるクロガネの城みゆき邸に三人が集いました。 みなみ「正直怖い。膝がガクガクしている」 ゆたか「大丈夫。私達がついてるよ」 パティ「ドントアフレイドみなみ!ユーはナンバーワンサイボーグデー酢」 日本語でおk。 みなみ「私は…高良みゆきを守るために開発されたサイボーグ…それ以外の存在価値は…あるの?」 サイボーグにはありがちなことですよ。 ゆたか「みなみちゃんは…ちゃんとした人間だよ。ピンクワカメのための人形じゃないよ」 パティ「みなみはワタシタチのベストフレンドデー酢!いいからスカート穿いてよ」 みなみ「…うっ…………私も…泣けるんだ…」 みなみの瞳から大粒のキレイビューティフルな涙が溢れました。 パティ「涙をふいて走り出したら高良みゆきをKOしまshow!」 カモンレッツダンスカモンレッツダンスベェイビーッ! ゆたか「頑張ってね…私達はここで見てるから」 みなみ「……うん。この戦争が終わったら私みんなとプリクラ撮りたい」 パティ「…私も付いていくYO☆」 高良邸に待ち構えていたのは以外な人物だった…! パティ「ーーッ!ひよりん!」 ひより「みゆき様最高!みゆき様最高!みゆき様最高!みゆき様最高!」 いろいろとかわいそうなひよりんでした。 パティ「ここは私に任せて先に行きな!あと早くスカート穿いて」 みなみ「すまない」 みゆき「終点が玉座の間とは上出来じゃないか」 みなみ「ここはお墓よ!私とあなたの」 みなみ「くたばれピンクワカメっ!」 みなみのライトアームがガトリング砲に変形し、鉛玉をみゆきに打ち込みます。撃ちまくりみなみちゃんです。BB弾が飛ばせるオモチャが打ってました。 みゆき「甘い!シュガーシュガースイートぐらい甘い!」 パティ「うおお!パティビームR!」 ひより「眼鏡!眼鏡はどこですか!?」 みゆき「マスターに作られた人形如きが私に勝てるとでも…?」 みなみ「…がはっ!」 アスランのセイバーガンダムみたいな姿になったみなみの口から深紅の血が流れます。流れ星になーるーッ! ゆたか「みなみちゃんっ!」 満身創痍のみなみの側にゆたかがしゃがみこみました。外にいたハズじゃね? ゆたか「来ちゃダメ…」 みゆき「三分間待ってやる!いいからスカート穿いて」 みなみ「…私の胸のカバーを開いて…」 ゆたか「…うん。開けるよ」 なんか怪しいスイッチがありました。黄色と黒の縞で囲まれててボタンにはドクロまで描いてあります。ニュークリアとか書いてある気もします。 ゆたか「ーーーーえいっ!」 押しました。 押した刹那、みなみの背中から光の翼が生え、みゆきに向かって突進しました。 みゆき「貴様!何をっ!」 みなみ「平和な世界に私達のような戦闘サイボーグは必要ない…一緒に消えよう…姉さん」 みゆき「ば、ば、ばばば馬鹿な真似は止せっ!ウワアアアアアアア」 みなみはみゆきにしがみついて空高く上昇します。成層圏を遥かに突き抜けたソラまで。 パティ「…キレイな花火だ………」 ゆたか「一緒に…プリクラ撮ろうって…約束したのに…」 ひより「スカート……最期まで穿いてなかった……」 サイボーグみなみちゃん 完 「……ただいま」 「おかえり」 帰ってきたサイボーグみなみちゃん みゆきとの闘いから一週間、すっかり元の日々を取り戻したみなみは人間としての生を謳歌していました。 ゆたか「ここ来るの久しぶりだな~」 みなみ「私は初めて…」 ひより「ここに来るとまさに親友って感じだよねー」 男子禁制のプリクラコーナーです。 同じ建物の中にある決闘の場、格ゲーの筐体とは全く違うこの空気、まさしく男子禁制のエリアです。 ゆたか「えい!」 小さなシールには三人が寄り添ってハピネスな顔があります。 携帯の電池カバーの裏に貼ったりするんでしょうね。多分。 みなみはこっそり胸のカバーの裏に貼りました。 「戦闘サイボーグ風情が…普通の人間のように幸せになれると思うなよ」 ゲーセンを離れ、一人帰路についたみなみの頭上から声が響きました。 みなみ「…Y-1型……ゆかり!」 ゆかりはみゆき、みなみよりも先に作られた試作型戦闘サイボーグです。 妄想の世界では一般的に試作型のほうが強いのです。モビルスーツとか、ゾイドとか。 みなみは脚力を生かして逃亡しようとしましたが、所詮は試作型と量産型、行くてを遮られて絶体絶命です。 ゆかり「サイボーグは私一人で十分なの」 夕暮れの高級住宅街にレーザーの照射と乾いた銃声が交わりました。 ゆかり「……埼玉の都市伝説……トリガーハッピー!」 ゆい「街中でレーザーバラまくような常識知らずには……天誅だよ!」 ゆかりのレーザーはトリガーハッピーの銃弾によってわずかに軌道をそらされ、みなみへの直撃を避けたのです。 ゆかり「生身の人間に性能の劣るサイボーグ。恐れるにたりません」 さあ、ここからが本当の闘いだ! こなた「わー次の巻が楽しみだな~」 ひより「でもその作者今富樫状態っすよ」 こなた「え……」 おしまいおしまいああおしまい
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誰かを傷つけても瞬時に再生されてしまうため、死後の世界では殺人も無く常に平和だった。 しかし、あるとき殺人不可能のルールに例外を見つけた者がいた。 三途の川で溺れ死んだ場合、二度と浮かんでこないのである。 この話は殺人願望を持った死者たちの間に、瞬く間にに広まった。 今まで出来なかったことが可能になったとわかると、試してみたくなるものである。 生前に殺人鬼として名を馳せた者たちは、あの手この手を使って死者を川まで誘い出した。 「あの川を長時間覗き込んでいると、お盆以外の時期でも稀に、あっちの世界が映るらしいぞ」 「本当ですか? 実は、向こうに残してきた家族のことが気になって……」 「川の中間くらいが一番はっきりと見えるらしいからな、俺が船で連れて行ってやるよ」 このようにして、騙された泉かなたも三途の川へと向かい、そこで溺死させられた。 / 「あら?」 息が出来ない苦しさにかなたが目を閉じた後、再び目を開くと明るい世界があった。 呼吸も出来る、そしてあの世には無かった太陽がさんさんと輝いているという事実にかなたは驚いた。 自身の手のひらを見つめ、白いワンピースを着ていることを確かめ、彼女は首をかしげた。 ここはいったいどこなのか。 つい先ほど船から川に突き落とされて死んだはずなのに、どういうわけか生きている。 疑問は尽きることが無かったが、賑やかに歩き回る人たちを見て、かなたは懐かしい気分になった。 かなたが生きていた頃も、こんな風に活気に満ちた人々が街に溢れていた。 「お母さん……?」 「えっ?」 「ごめん、かがみ達は先に帰ってて。ねえ、お母さんなんでしょ?」 ふらふらと彷徨っていたかなたは、ゲームショップの前で自分に声をかけてきた人物を見て目を丸くした。 『ドッペルゲンガー』そんな言葉を思い出すほど、瓜二つな顔がそこにあった。 それは、かなたがお盆に帰ったときにも確認した我が子の姿だった。 予想外の邂逅に、かなたは質問に答えることも忘れて立ち尽くしていた。 こなたに手を引かれ、かなたは何も考えられずに自宅にまで案内される。 死後の世界で殺されて、また現世に戻ってきてしまったかなた。 彼女は未だ、娘に母親だと名乗るべきかわからずにいた。 「わわっ。こなたお姉ちゃんが二人いる!?」 「ゆーちゃん、何言ってるの?」 「私が二人いるなんて、そんなわけないじゃん」 「でも、でも……」 ゆたかの部屋を訪ねた二人は、まるで周りに誰もいないかのように振舞った。 狼狽するゆたかに満足したこなたは、ひとしきりからかった後、自分のそっくりさんを紹介することにした。 「ふふっ、はじめまして。ゆたかちゃん。美水かがみです」 「はじめまして。……あれ? その名前って」 「そうなんだよ。私もあまりの偶然に驚いてて」 名乗り終えた後、かなたは二人が話すのを笑顔で眺めていた。 そうじろうが外出中だと知ったとき、かなたは正体を隠すことに決めた。 死後の世界から簡単に戻ってこられるとわかれば、生命倫理は崩壊する。 しかし、何度でも蘇ることができたとしても命は大切にしてもらいたいと考えたのもあるが、かなたが偽りの素性を告げた理由はもう一つあった。 戻ってきたことの報告は、一番愛する人に最初にしたかったのだ。 こなた達に真実を語るのは、それまで我慢しようとかなたは考えていた。 「ねえ、かがみさん。よかったらウチでご飯を食べていかない?」 「うん。おじさんを吃驚させちゃおうよ」 断る理由は何も無い。自分にとって都合の良い提案をされたかなたは、二つ返事で了承した。 移動中、食べさせてもらうだけでは悪いからと、一品だけでも自分が作るとかなたは言った。 かなたは台所の場所を覚えていたが、怪しまれないようにこなたの後を追って歩く。 成長したこなたのために、母親らしいことをしてやれる。 そのことへの喜びが、かなたを浮かれさせていた。 扉を開き、三人で使うには大きすぎるテーブルの部屋に入ると、物悲しい音楽の音がテレビから流れていた。 電源の切られていなかったテレビはニュースを流しており、そこでは、死んだはずの人間が次々に蘇っていると説明されていた。 復活した故人は混乱を引き起こしただけではなく、殺人などの凶悪犯罪を行なっているケースもあり、注意するようにと呼びかけられている。 知人がすべて死んでしまっている復活者は自殺を、誰かに殺された者は復讐を、あるいは裁かれなかった犯罪者や悪徳政治家に正義の鉄槌をくだそうと考えて事件は起きているのだろうとかなたは想像した。 「死人が蘇るなんてゾンビみたいだね」 食い入るようにテレビを見ていたかなたは、背後のにいるゆたかの呟きにはっとして振り返った。 そして、こなたと目が合う。 『やっぱり本当はお母さんなんでしょう?』 こなたの眼は、そんな期待をかなたに向けていた。 かなたがその問いかけにどう答えるべきか迷っていると、大きな音と共に窓ガラスが砕け散った。 人がひとり通れるだけの穴を斧で開けて現れたのは、こなたとゆたかもニュースで見た覚えのある死刑囚、あの世でかなたを殺した殺人鬼だった。 男は三人の顔を順繰りに見回した後、かなたの顔と服装を確かめて表情を歪めた。 「なんだ。どっかで見た顔だと思ったら、あっちで殺した奴じゃねえか」 その言葉を聞いて自分の推測が外れていないと確信したこなたは、母親を庇うために前に出ようとしたが、かなたはそれを遮って男の前に立ちはだかった。 二人は絶対に自分が守る。かなたはその決意だけで震える身体を支え、男と対峙していた。 だが、どんなに強い願いを持っていても、それだけで狂人を止められるはずもない。 男が斧を振り下ろす瞬間、かなたは窓の外にそうじろうの姿を見たような気がした。
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「ねえかがみ」 「何?」 「何か面白い話して」 「例えば」 「みゆきさんは高校生とは思えないような体型をしているのは何故か」 「却下」 「どうしてゆーちゃんはお母さんと血がつながっているわけでもないのに私よりも背が小さいのか」 「知るか」 「一ページで卒業した私たちは一体どうなってしまうのか」 「私に聞くことじゃないでしょ」 「わがまま」 「せめて私が話せそうなことにしてくれる?」 「じゃあ……よく受かったな。なんてかがみが言ってるつかさがどうしてここを受けたのか」 「何だかいきなりまともな話になったのは気のせいか?」 「理由なんていらないじゃん」 「はいはい……話してあげるわよそれくらいなら……どうせ暇なんだし」 中学の受験なんて気楽なものだ。私は普段から勉強はしていたし、学校生活も特に目立つような素行をした覚えも無い。多分ほとんどの確立で受かるだろう。それくらいの自信はあるつもりだ。 ごく普通の、どこにでも居る少し成績のいい女子。 そんな私が進学校の陵桜を受けることは何の変哲も無く、当たり前のことだと思う。 別に私は友達に付き合って高校を決めるわけでもない。ただ単に自分の行きたい場所にいくだけ。 それでたまたま峰岸と日下部っていうやつらが行く高校が同じだっただけだ。 それにあいつらも誰かについていこうなんて思っていない。 日下部は陸上が強いから、峰岸は自分の学力に合わせて。私とあいつらの関係なんてそんなものだ。 でもあの子は別。正直、確かに一緒に高校へは行きたい。でも無理して同じ高校に行く必要もない。 正直言って今の成績じゃ陵桜に受かるなんて絶望的な数字しかあの子にはないのに。 「陵桜、あんたが?」 家族で食卓を囲んでいるときに私はつい聞き返す。もうすぐ夏休み前で最初の三者面談がある。 三者面談の前にはどこを受けるか位親も知っておいた方がいいだろうということで母が聞いたというわけだ。ちょうどいまここには家族全員居る。 「陵桜なんてやめときなよー、あんたじゃついていけないのがオチだって」 「まあまつり、話くらい聞いてあげなさい。それで、どうして陵桜に?」 「何となく、かな。お父さん」 「そうか……まあ、納得がいくように頑張りなさい。高校は別にあとで変えられるんだからね」 「でもお父さん、私は流石につかさに陵桜は無理かなー、とは思うんだけど」 「まあまあ。まつり姉さんもお母さんも、とにかく一旦つかさのやりたいようにさせてみようよ」 私が一度締めくくってこの話を終わらせてみる。まつり姉さんもお母さんも、別に高校くらい後からでも変えられるんだから今はそっとしておけばいいのに。 でも正直私から見てもつかさが陵桜に受かることは難しい。 実際高校受験なんてやる気さえあれば大抵やり過ごせる。その努力によってはもともとつかさみたいな子でも上位の高校を狙えるようにはなるだろう。 でもつかさはその努力が出来ない。勉強していたら机の上で眠ってしまうような子供だ。 そんな子が一日何時間も勉強して――なんてことが続くわけが無い。 それでも私は応援してみようとは思う。今までもそうしてきたから、あの子が言ったことを潰すようなことはしたくないから。 「で、結局つかさって言うほど勉強してたの?」 「まあそれなりに」 「それはかがみの基準で言ってるの?」 「まあね」 「つかさも不憫だね……」 「あんたの中のあたしのイメージこそ不憫だと思わないか?」 「そういえばかがみのお父さんって凄くいいポジションに居ると思うんだけどそのことについてはどう思う?」 「どんどん話がずれていってないか?」 「まあ話続けてよ」 「……まあ、このことを峰岸と日下部に話してみたんだけどさ――」 「柊の妹って陵桜そんなに厳しいのか?」 「そうみたいね、でもあの子は自分で言ったこと本気でやろうとするから後々少し怖いわ……無理して落ちるなんてことは無いと思うけれど……」 あの子は普段抜けているだけに、何かをやり遂げようとしたら結構強情な一面もある。だからこそ、あの子が落ちたときのことを考えると一層怖い。 「だったら、柊ちゃんが勉強教えて助けてあげればいいじゃない」 「今までのテストもそうしてきたけれど、その結果が今の状態よ……。あの子、勉強の癖っていうのが身についていないからねー。それ含めても受かるのは厳しいと思う……」 実際今までに何度か一緒にテスト勉強をしたこともあるが、いつも私よりあの子の方が早く終わってしまう。いや、むしろ私が勉強していたらいつの間にか船をこいでいるといった方が正しいのか。 「私もそんな癖ついていないけどなー」 「あんたみたいに推薦でどうにかしようと思ってるやつには期待してないわよ……あんたは面接の癖でもつけとけ」 「いや、柊。面接の癖ってなんだ……?」 「でもね、柊ちゃん。妹ちゃんがそんなに厳しいのを無理して入ろうとしているんだったら、なにか理由があるんじゃない? 例えば、柊ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だとか」 「あの子ならありそうだけど……いくらなんでも中学を終わろうとしている奴がそんなこと考えないと思うけどな」 まあ確かに昔にずっと一緒に居ようとかメルヘンチックな考えを持っていた時期もあったが、流石に今もそんな風に思われていたら私としても少し困る。 姉妹でもいつかは、離れ離れになってしまう。それは当然のことだ。 「案外柊が一緒に行こうって言ったのかもな」 「それだったらあんたらにこんな話してないわよ」 「でも……妹ちゃん、落ちて欲しくないわね」 そう、落ちて欲しくはない、だからと言って志望校を無理やり変えて欲しいとは思わない。 どうなるかはわからないが、私は出来る限りあの子の希望通りにさせてあげたいと思っていた。 「そういえばあの二人と腐れ縁って言ってたけど、どれくらいの付き合いなの?」 「確か中二くらいからだっけ」 「でも今かがみはうちのものだというわけだ」 「いや、私は一度たりともそんな風に思ったことは無い」 「いやいやうちのだから」 「いやいやうちのだってヴぁ」 「日下部どっから入ってきた」 「最初からこの三人だったよかがみ」 「なあちびっ子。さっきの話だけどさ、結局一番心配していたのは柊だったんだぜ」 「何で?」 「こいつ自分のことよりずっと妹の心配して勉強とか教えてやってんの。おかげで何に誘っても全然のってくれなくてさー」 「つまりかがみはみさきちのものではなかったというわけだ」 「あー、無限ループになりそうだから続き話すわ。まあ結局冬までつかさは強情でね」 部活が終わった後の学校生活というものは本当に短いもので、なんとなく生活していたらいつの間にか――なんてこともよく聞く話だろう。 私は普段どおりの勉強をし、受験だからといってそこまで気を張ってもいない。 今の調子で行けば確実に合格するというお墨付きまでもらったくらいだから、やはりこのまま淡々とやっていく方が私には向いているのだろう。 でもあの子は違う。 あの子は今でも陵桜に入ろうとしている。そしてその為の努力は一応しているようだ。 何故ならあの子の成績表を見てみると徐々に変わってきていることがわかるから。 でもまだやめておいた方がいいという周囲の考えは変わらない。担任も本人の意思を確認して、普段は受けるべきではない点数でも受けさせることにしたのだ。 「ねえかがみ、つかさってただあんたについていきたいから陵桜受けるわけじゃないよね?」 居間でコタツマジックにより眠りそうな状況のときに、まつり姉さんは私に何の前触れもなく聞いてくる。 この部屋に居るのは私と祭り姉さんのふたりだけ。 「そりゃあ、つかさなりに何か考えているんじゃないの? 自分を変えたい――だとかそんなこと考えているのかもね」 「それは無いんじゃない? つかさならその程度の決意だとすぐ投げ出すと思うんだけど」 まあ確かにそんな気がしないでもない。 「誰か友達がいるとか」 「そういうのだったら別に話してくれると思うんだけどな」 そう、あの子は肝心の「どうして陵桜に行きたいのか」ということを話してくれない。 いつも何となく、だとか下手だけど適当に話をはぐらかして話を終わらせようとする。 「私はね、今でもつかさは陵桜を受けないほうがいいと思う。つかさじゃ無理だよ」 「まあそう思うことも間違っているわけじゃないけど……まだ願書出した訳でもないんだし、別にいいんじゃない?」 「そうねー。でもさ、別につかさが馬鹿だって言いたいわけじゃないよ。ただ、あんたらが揃って笑っていないと、何となく気分が悪くて」 「へえ……まつり姉さんそんな真面目な話できるんだ」 「そんなに私って馬鹿に見える……」 「それなりに」 「大体まつり姉さんこそ大学大丈夫なの?」 「私のことは別に心配しなくてもいいの、大丈夫だから」 「一人暮らしするの?」 「さあね。それよりつかさでしょ、私のことなんかよりさ。……そういえば、滑り止め、受けるつもり?」 「まあ、一応……でもあの子にとっては陵桜に入れなかったら滑り止めなんて受かっても悲しいだけかもね」 「結局陵桜しか見えなくなっちゃってるんだよね。今のつかさは。そういうのって失敗したときの反動厳しいよ?」 「多分、わかってると思うよ」 「何で?」 「姉妹の勘って奴」 「――鳥肌たつようなこと言わないでくれる? しかもそれだと私も入ってるように聞こえるんだけど」 「そんなに間に受けないでよ……でもまあ、そんなこともわからないような人間じゃないでしょ、抜けていてもさ、大切なことは結構つかさ、覚えているから」 「わかっているような口聞くんだね。それも姉妹の勘ってやつ?」 「あー……やっぱそれ無し」 「訂正は出来ないよ、かがみ」 私にはまだ、つかさがどうして陵桜に来ようと思ったのかはわかっていない。 まあ、隠し事なんていうのは誰にでもあるし、別にそれは構わない。 それが隠していても何とかなってしまうことなら。 「そういえばみさきちはかがみの姉さんと話したことある?」 「いや、別に」 「かがみの話し方的に、すごく面白そうな人に見えるんだけれど」 「そうね、イメージ的にはあんたら二人と同じくらい手のかかる人って思っとけばいいわ」 「失礼な」 「ひでえな」 「ちょっとは自覚しろ」 「でもさ。巫女服から受ける感じとは裏にそんなこともあるもんなんだね」 「そうね。私にもあんな一面があるとは思わなかったわ」 「でもさー、やっぱ柊の妹はすげえよ。なんだかんだ言っても最後にはすんなりと合格しちまったんだからな」 「私はつかさが他の高校に行っても道端で外国人から守ってあげたのは間違いない」 「それは守ってあげたとは言えないんじゃなかったか。……また勝ち誇ったような顔をするな!」 「……でもみさきちの言うとおり、つかさって案外凄いところあるよ。かがみと同じだね」 「無理やり話を断ち切るか……まあいいわ。次いくわよ」 その夜私は少し短い夢をみる。 そこに居るのは私とつかさ。それははっきりと覚えている。 ただ夢なので、そこがどこだかははっきりとわからない。起きたときによく覚えていなかった――なんてことはよくあることなんだろう。 私たちはいつものように記憶にも残らないはずの何かを話している。 夢の中でもここからのことは思い出せた。 確かつかさが喋り始めて――。 「ねえお姉ちゃん、わたしが中学で立てた目標、聞いてくれる?」 「いきなり何よ突然……で、目標って?」 「お姉ちゃんと同じ高校に行くこと」 「へえ……私がどこの高校に行きたいか知ってるの?」 「陵桜でしょ? 大体わかるよ」 「あんた、今の自分の学力わかってる?」 「だからこそだよ……でもただ単にお姉ちゃんと一緒がいいなってだけなのかも」 「あんたね……まあいいわ、約束してあげる」 「私は、あんたと一緒に陵桜に行く、これが私の中学での目標で……約束よ」 「――ありがとう、お姉ちゃん」 ――そっか……そういえばそんな話、していたな……。 私、自分であんな優しい言葉かけておいて、自分で忘れてたんだ……。 ……ということは……これはつかさの目標であって私の目標でもあるのか……。 言っちゃったんだな、そんなこと。 ということは……つかさがこれを覚えているんだとしたら……私ってただの白状者なんじゃ……。 …………今度もっと勉強教えてやるか。 いや、そんな白状者とかじゃなくて、純粋につかさを陵桜に行かせたいんだ、きっとそうだ。 …………そう思いたい――――。 「……何でこんなファンタジー要素混じってるの?」 「別に。ただ本当のこと話してるだけよ」 「やっぱり姉妹の力ってやつか? ゲームとかだと結構あるよな」 「あ、みさきちもわかるんだ」 「まあ、少しは」 「というかさー、これがここに来たい理由だったとするとさかがみ。つかさってこんなにピュアだったっけって、疑っちゃうんだけど?」 「いや、これはむしろ天然じゃねえか?」 「……うちの妹をそんな風に無理やりキャラづけしようとするな!」 「でもかがみもすごいよね」 「何が?」 「自分の心境とか物凄く恥ずかしいことを簡単に人に語っちゃってさ」 「――次!」 「ねえつかさ、あんたさ、もしかしてあの約束気にしてたりする?」 翌日。学校からの帰り道で私は今日の夢のことをつかさに話してみる。 今日つかさとこんな約束をした夢を見た、それは確かに現実であったことだと思う。だからもしかしたらつかさはそのことを気にしているんじゃないか。理由なんてそんな簡単なものだ。 理由が簡単なように、つかさにも簡単に答えられてしまう。 今まで答えてくれなかったことは、結局私が忘れているのならそれでいいんだ、ということらしい。 「あんたがあの約束……目標か。そんなに気にしているなんて思わなかったな」 「気にしてるんじゃないよ、ただ、自分で立てた目標なんだから、ちょっとは頑張ってみようかなーなんて」 「そう……でもほどほどにしておきなさいよ。失敗したときに迷惑するのは、あんただけじゃない。例えばまつり姉さんがあんたのことどう思ってるか気付いてるの?」 「……わかってるよ。それでもやってみたいんだ。私がそうしたいんだから。お姉ちゃんはどう思うの?」 「何を?」 「私がこんな風に受かりそうも無い高校受けようとしていること」 「…………」 「ね、どう思う?」 「そうね――それは私の目標でもあるんだから、止めようとは思わないかな。それでなくてもあんたが頑張ると決めたことなんだから、応援するつもりだった」 「本当に?」 「それなりに」 「あ、本音がでた?」 「ばれた?」 「わかるよそれくらい」 「そりゃあ……私もまつり姉さんと同じような気持ちもあるけどね。でも落ちたらどうなるかっての考えときなよ」 「やっぱりお姉ちゃんもそうだよね……。でもそれは心配してくれてるんだよね」 「どうだろうね?」 「違うの?」 「むしろあんたが肝心なところで駄目になりそうな気がして不安」 もしかしたら本当はつかさは何もわかっていないのではないのか、そんな不安が頭をよぎる。 皆つかさを止めたいと思っているけれど、本心では応援していたいのだ。ということを。 そしてつかさはその期待に応えることになる。 「……まさかそれで終わり?」 「終わり」 「だから今のつかさなのか……」 「そうよ。高校入ったら大して勉強もしなくなったつかさは、そういう意味で言うとパソコンとPS2のためにここに来たあんたと同類になったわけ」 「失礼な」 「本当のことじゃない。それともあんたにも何かつかさみたいな簡単な話でもあるの?」 「……ありません。正しくかがみの言うとおりです」 「ま、柊の妹は私と違って頑張ってここに来たわけだ」 「じゃあ、次はみさきちの面接の話が聞きたい」 「へ?」 「そうね、私も聞きたいわ」 「はい、じゃあ次にいくわね」 「……柊もちびっこも、もう次はないってことに気付いてくれ……」
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いつまでも、いっしょだと思ってた ただ、いっしょにいたかった だから、いっしょにいられるように わかってる これは私のわがまま でも聞いて これだけで、いいから 私の望み 最後のわがまま 視界が霞んでる。 なんだろう。ここは・・・どこだろう。 よく見えない。視界は今もぼやけたまま。 夕日で赤く染まった教室に、私はひとりで立っていた。 何かが頬をつたっている。 その何かは止まる気配がない。 わたし―――泣いてるのかな。 「遅刻するわよ!つかさ」 「・・~・・・あと5分・・だ・・け」 「もう!置いてくわよ?」 「ひゃうっ」 いつものように、私はお姉ちゃんにやっとのことで起こされた。 時計を見ると、もう余裕は20分もなさそうだった。 「ったく・・新学期そうそう遅刻じゃ情けないわよ?」 「待って~。すぐ仕度するから~」 今日は新学期1日目。クラス発表も今日やるみたい。 毎年毎年、お姉ちゃんだけ違うクラスだったから、今年こそは一緒になるといいな。 そんなことを考えていると、またお姉ちゃんに怒られた。 「つかさ!ボケ~っとしてないで早く!」 家を出た私たちを、春風が出迎えてくれた。 なんとかお姉ちゃんのおかげで遅刻はしなさそう。 「間に合いそうでよかったわ」 「そうだね。お姉ちゃんありがとう」 そんな話をしていると、学校はすぐ見えてきた。 「そういえば、今日新学期のクラス発表よね」 「そうだね。お姉ちゃん、今年こそは同じクラスになるといいねっ」 1年生の時も、2年生の時も、お姉ちゃんだけ違うクラスだった。 表には出してないけど、内心けっこうショックみたい。 だから、今年こそは・・・。 昇降口を抜けて、クラス発表の掲示場所はすぐ見つけられた。 「すっごい人だね~」 「クラス発表ごときで騒ぎすぎよ全員」 ・・お姉ちゃんも、けっこう気にしてるくせに。 「とりあえず、少し人がひくまで待ちましょ」 たしかにこのままじゃ見ようにも見れないかも。 お姉ちゃんと私は、少し離れた場所で待つことにした。 「おはよー。つかさー、かがみー」 「おはよっ、こなた」 「おはよう、こなちゃん」 「いやー、すごい人だかりだねー」 「そうよねー。騒ぎすぎよね、クラス発表ごときで」 「えー、かがみん。気になってるんでしょー?」 「な、何がよ?」 「毎年かがみだけ違うクラスだもんねー。おー、よしよし。 今年も期待してるよー」 「おいこらてめぇ」 お姉ちゃんがクラスを気にしてるのはまず間違いないけど。 なんだかんだ言って、こなちゃんも気になってるのかな。 いつも予鈴ぎりぎりにくるこなちゃんが、今日はめずらしく早かった。 「そろそろおさまってきたんじゃない?」 「そうね。よし、見に行くわよ」 「ファイト、かがみーん」 「いや、何をよ」」 だいぶ時間をおいたからか、さっきまで賑わっていたこの場所も落ち着きはじめていた。 えーっと・・私はC組か。あ、みゆきちゃんもおんなじだ! 「お姉ちゃん、こなちゃん、どうだった?」 「あっ」 「おおっ」 「?」 「私とこなた、同じB組ね・・」 「いやぁー、よかったねかがみん。一人ぼっちじゃなくて~」 「別に去年もおととしもひとりぼっちじゃないわよっ」 「うれしいけど強がるかがみ萌え~」 「うっさいつ~に~~~」 「あれ?そういえばつかさは?」 「私はC組・・」 「あちゃー。つかさが違うクラスになっちゃったか」 「あ、でもみゆきもC組ね」 「2:2・・これもアリだね」 お姉ちゃんとは、結局一緒のクラスになれなかったな・・ しかもこなちゃんとも違うクラスになっちゃうなんて。 そうこうしている間に、けっこう時間は経っていたみたいで。 「あ、ヤバッ。そろそろ予鈴なるわよ」 「ホントだ。急ごう」 「あぅー。待って~つかさー、かがみー」 「ふぅ。じゃ、お昼にね」 「んじゃねつかさー」 「うんっ」 お姉ちゃんもこなちゃんも、なんだか嬉しそう。 二人を見送ってから、私も急いで教室に駆けこんだ。 「おはようございますつかささん」 「おはよう、ゆきちゃん」 「今学期もよろしくお願いします」 「うんっ。よろしくね」 「いずみさんとかがみさんはお隣のようですね」 「だねー。4人いっしょにはなれなかったね」 「そうですね。でも全員がそれぞれ、ばらばらにならなくてよかったですよね」 「うん。今回はお姉ちゃんも一人じゃないし」 「そういえばつかささん、今日はめずらしく時間ぎりぎりでしたね」 「あ、クラス発表の掲示のとこ、結構混んでたから~~~」 予鈴だ。 ゆきちゃんに手をふって、私は席に着いた。 「かがみんー」 「な、なによっ」 「うれしいんでしょ?」 「何がよ」 「私といっしょでー」 「はぁ!?」 「照れない照れない。素直になりなよかがみ」 「あのね、私は別にあんたと一緒でも~~~」 ガララッ 「おーす。お前ら席に着けーー」 「はいはい。うれしいのは分かるけど、かがみん席に着いた着いたー」 「納得いかねぇ」 「今日から新学期やけどもー。 今年は3年生っちゅうことでー、受験生としてのうんたらかんたら~~」 「ふぅっ」 やっと昼休み。こなちゃんとお姉ちゃんの方はうまくやってるかな・・ 「やほー」 「おーす。来たわよー」 「あ、こなちゃんにお姉ちゃん」 「こんにちわ、いずみさんかがみさん」 「やーやーみゆきさん。今日は早かったみたいだね」 「ええ。新学期一日目ですし、少し気合いが入ってしまいました」 「そうよねー。こういう、事始めって早く目が覚めちゃうのよね~。ね?つかさ?」 「お、お姉ちゃん~!」 「クラスは違いますけど、今学期もよろしくお願いしますね」 「ん~、モチロンだよみゆきさん。よろしくー」 「ん、よろしくねみゆき。あ、つかさのこと頼むわよっ」 「も~。お姉ちゃん、子ども扱いしないでよ」 形だけの反論をしている私の横で、ゆきちゃんが「任せてください」と 言いたげな顔をしている。 この際お世話になろう。 「でもけっこう驚いたわー」 「何が?」 「クラス分けよ。まさか、こんな組み合わせになるなんてね」 「そうだよね。けっこう意外だったかも」 「かがみ、今年は一人じゃなくてよかったねん」 「はいはい、そうね」 「流された・・・」 「今年で高校生活も終わりだし、私たち全員が一緒だったら最高だったのにね」 「そうですね」 「でも、お昼も帰りも私たちけっこう一緒なんだし、クラス同じでも別でも変わらないわよね」 「うんうん、たしかにそうかもね。 去年もおととしも、かがみいつも私たちのクラス来てたし」 「・・・そうね」 「私がいるんだから、もうさみしくないよ~かがみん」 「むしろ一人の方がよかったわね」 「な、なにをぅっ」 「冗談よ、冗談」 キーンコーンカーンコーン 「あ」 「お昼休み、もう終わってしまいましたね。いずみさん、まだ全然食べていないようですが・・」 「じょぶじょぶ。こんなの一瞬で・・ ふぁぶっっ・・!」 今日の話題は新クラスの話で持ちきり。 それは私たちに限らず、周りのどの生徒にもいえそうだった。 あせってコロネをつめこんでむせているこなちゃんの背中をさすって、 私は次の授業の準備を始めた。 「ういー」 「つかさー、帰るわよー」 「あ、はーい」 新学期初日だったからだろうか。 時間はあっという間に過ぎていて、気付くともう放課後だった。 「今日かがみがさ~~~」 「はぁ!?それよりもこなたが~~~」 「えー、かがみんのアレは~~~」 「あはは」 「何言ってんのよ。それはあんたでしょうが」 「~~~」 「~~~」 「あはは」 もう… どっちもどっちだよ。とでかけたけどやめておいた。 なんだか余計にややこしくなりそうだし。 それでもおもしろがって、結局はそんなことを言ってみた。 帰り道、お姉ちゃんの目つきがいつも以上に鋭かったのは、たぶん気のせいじゃないかも。 「今日は災難だったわー」 「えー、なんで?」 「だって、あのこなたとクラス同じなのよ。最悪だわ」 「そうなの?でもお姉ちゃん、けっこう嬉しそうだったよね」 「帰り道といい、あんたもこなたみたいなこと言うのね・・」 「じょ、冗談だよお姉ちゃんっ。あははっ・・」 「まぁ正直、あいつと同じクラスで悪い気はしないけどね」 「やっぱり~」 「こなちゃんも、なんだか嬉しそうだったなぁ・・」 「え?何か言った?」 「あ、ううんっ。何でもないよー」 「なによ、気になるわねー」 「お姉ちゃんもこなちゃんも、素直じゃないよねーってこと」 「だからそれ、私のどこが素直じゃないのよ」 「え、だから~~~」 「つかさー、かがみー、晩ごはんよー!」 「あ、はーい」 説明に時間がかかりそうだし、お姉ちゃんは素直に納得しないだろう。 私はごまかしながらさっさとリビングへと急ぐことにした。 ぶーぶー言いながら後から遅れて来たお姉ちゃんは、晩ごはんの間、始終変な顔してた。 「疲れたねー今日は」 「そうね。変に力が入ったわー」 「今日はぐっすり眠れそう」 「つかさ、それいつもじゃない」 「え・・と、そうかなっ?あははっ・・」 「ぐっすり寝るのはいいけど・・」 「明日はちゃんと起きてよね」 「あ、今日はごめんなさい」 「いいわよ。慣れてるし」 それもどうなんだろう。 「うん。明日はちゃんと起きれるように努力から」 「努力ってのが怖いわね。すごく」 「つかさー、もう時間ないわよー」 「・・ん・・むにゅ・・あ・・と・・50分・・」 「はぁ!?もう・・置いてくわよ?」 「・・はぁぅっっ!」 やっちゃった。 お姉ちゃんの不安通り、私は見事に寝坊した。 怒りながらもどこか冷静で手慣れた感のあるお姉ちゃん。 慣れてるし、はたしかにその通りだった。 「ボサッとしてないで早くしなさい」 「ごめん~」 私、一人暮らしなんてできるのかな。 ふいに浮かんだ疑問は、ぽっと出の割にあまりに壮大だった。 今は時間がないことだし、そんなことよりも準備準備。 なんとか今日も遅れることなく学校に着いた。 「えへへー。ホントにごめんね・・お姉ちゃん」 「まぁいいわよ。なんとかく覚悟してたし」 「あはは・・」 「やほーつかさかがみー」 「おーす」 「おはようこなちゃん」 「あ、じゃああとでね。つかさ」 「ばいにー」 そうだった。もうこなちゃんとは違うクラスだったんだ。 「うん。こなちゃん、お姉ちゃんあとでねー」 その日もいつも通りだった。 お昼にはこなちゃんとお姉ちゃんが私たちのクラスにやってきて、 4人で楽しくお昼ごはん。 帰りもこなちゃんとお姉ちゃんに私、3人でおしゃべりしながら下校。 お姉ちゃんとこなちゃんは昨日よりもいがみあっていて、 昨日よりも嬉しそうで。 二人をほほえましく見る一方。 なんだろう。 私はなにか、 漠然としない何かを感じていた。 新学期初日から、今日でちょうど1週間になった。 1週間もたてば、みんな新しいクラスにも慣れてくる。 いい意味で、パターン化してきている毎日。 安定した日々が続こうとしていた。 「やと終わったネー」 「そだねー。ぽかぽかしてて、眠っちゃいそうだったよ」 「うぁっ。そうだかがみ!明日までだったよねあれ」 「あれ、じゃ分からん」 「宿題だよ」 「あー、そうね。だから?」 「かがみ様」 「な、なによ。気持ち悪いわね」 「宿題を見せてくださいませ」 「・・・ああ、そゆこと」 「お姉ちゃんたちは宿題あるんだ?」 「うん」 「そっか。つかさの方の担当はこっちと違うんだっけ」 「そういうことでかがみん、頼むよ」 「まぁ、別にいいけど」 「じゃあよろしくー」 「ったく。たまには自分でやりなさいよね」 「ごめんごめん。なーんかいつもやる気出なくて」 「そんなんで済むほど社会は甘くないぞ」 「でもまだ私高校生だし」 「いや、だから・・・もういいわ。さっさとしなさいよ」 「ok~。ふんふんふ~ん」 「つかさの方はいいわねー。宿題、ほとんど出してこないんでしょ?」 「うん。めったに出さないって聞いてる」 「こっちの担当は毎週出してくるからねー」 「つまり毎週お世話になるわけだよかがみんっ」 「おいっ」 「あははっ。お姉ちゃんもこなちゃんも大変だね」 「いや、こいつは全然苦労してない」 「そんなー、こんなに一生懸命な私を・・」 「てめえ写すのに必死なだけだろがっ!」 「あ、かがみ。ここ分かんない」 「え?」 「え、ってなにさ」 「あんた・・中身は全然無視でただ写してるのかと思ってたわよ」 「ちゃんと理解はしようとしてるのね!」 「いぁー、ちょっとここの字が黒ずんでて見えな・・」 「前言撤回」 「まあ、せっかくだから教えてもらおかな。かがみせんせー」 「うおっ・・なんだよそれ。教えるのはいいけどそれ気味悪いからやめてくれ」 「はいはい。かがみ様教えてー」 「えーと、そこはねー」 「様はいいんだ・・」 「え?つかさ何か言った?」 「う、ううん。何も」 「そう?あ、ここはね、~~~して~~だから~~」 「な~る」 「こっちは~~~」 「私、あっちで本読んでるね」 「はいよ~。あ、こなた!そこ違うって。だから~~~」 私は一人本を読むことにした。 ただでさえ勉強は苦手なのに、出されてもいない宿題の手助けができるほど、私は優秀じゃない。 お姉ちゃんとこなちゃん、楽しそうだなぁ。 少しだけそんなことが頭をよぎる。 私はすぐに本に没入していった。 「おわたおわた。今日も疲れたー」 「ねーねー。土曜日、アレ見に行かない?」 「あー、××の新作?前作もけっこうおもしろかったしねー」 「うんうん、すごいよねー。こう、しゅばーって。行こう行こう!」 「じゃあ、土曜日○時に~~前で」 「らじゃっ」 「楽しみだね~。明日の映画」 「そうね。つかさ、あのシリーズ大好きだもんね」 「だってすごいかっこいいから~。しゅーって飛ばしてひょいひょーいって。ターザンみたい」 「タ、ターザン。まあたしかにそんな感じだけど、その例えはどうなのよ」 「?」 「あ、もう夜遅いわね。今日はもう寝ましょ」 「そうだね。おやすみなさーい」 「つかさ」 「なに?」 「寝坊するんじゃないわよ?」 「し、しないよ。大丈夫だよっ」 「そう言っていつも寝坊するのがつかさよね~」 「明日は大丈夫!絶対大丈夫だから!」 「まあ、期待してるわよー」 「むぅ~・・」 「つかさー・・・起きなさいよー!!」 「むぅ~・・・あと・・5・・時間~・・・」 「・・はぁ」 「今日はぜんっぜん起きないわね・・」 「まったく・・つかさーーーー!!起きろーー!!」 「・・にゃむ・・・おやす・・・みこすー・・すー・・」 「携帯、洗濯物に入れっぱなしよ。あー、洗濯始まっちゃったー」 「はぁうっっ」 「やっと起きたか」 「携帯はっ?携帯!!」 「冗談よ。そこにあるじゃない」 「あ、ほんとだ」 「なんでもいいけど、時間・・ないわよ?」 「あっっ・・!」 「ごめんお姉ちゃん!すぐに準備するから~」 「はいはい。急ぎなさい」 「うぅ~~」 「やほー」 「おっ、ちょうどね~」 「おはようこなちゃん」 「いやー、私だっていつも遅れるってわけじゃないんだよ」 「やればできるじゃない」 「えっへん」 「褒めてないっつーの」 「ええっっ」 「とりあえず、中に入りましょ」 「うんっ」 「おけ」 「うわー。すっごい混んでるねー」 「さすが××だね。ホントすごい人だー」 「あんたたち、はぐれるんじゃないわよ?」 「ふうっ」 「なんとか座れそうだねー」 「そうね。立ち見はきついからねー。よかったわ」 「かがみはそのほうが運動になっていいんじゃないの?」 「なんか言ったか?」 「いやぁ~。その両手のポップコーン、さすがだなぁ~って」 「くっ・・」 「あはは・・」 お姉ちゃんはなぜかポップコーンを3つ買っていた。 塩1つとキャラメル2つ。 お姉ちゃんいわく、ずっとキャラメルだと飽きるから時々塩でリセットするらしい。 こなちゃんの言うとおり、お姉ちゃんは立ち見でもいい気がちょっとした。 「あ、始まったよ~」 「キター。わくわくっ、わくわくっ」 「・・・・」 お姉ちゃんはポップコーンに夢中だ。がんばって。 「うわー。かっこいー」 「すごーい。わぁ、これどうなってるのー?」 一人興奮する私。 「わっ、危ないっ!」 「あ、ああっ」 「そこっ、いけぇっ」 「やったーー」 上映中、周りのお客さんから変な目で見られていた気がする。 映画館の暗さからいって、ものすごい速さでポップコーンにぱくついていた、 お姉ちゃんに向けたものではないようだった。 「おもしろかったねー」 「そうねー」 「かがみんは、おいしかったーでしょ?」 「そういうあんたは、途中で寝てたじゃない」 「うっ」 「えー。こなちゃん寝てたの?」 「面目ないー」 「とりあえずお昼にしましょ。お腹すいてきたわ」 「なんという消化スピード。ポップコーンあわれなり」 「別バラよ別バラ」 私たちは近くのお店でお昼にすることにした。 二人はそろってあまり映画は見てなかったみたいだし、話題に出せるような状況じゃなかった。 「いやー、これおいしー」 「えー、どれどれー?」 こなちゃんとお姉ちゃんは楽しそうに、それぞれが注文したものをつまみ合っている。 「「つかさのもいただき!!」」 「・・・・・・」 「そういえばかがみ。アレ、どうする?」 「あぁ、アレ?」 突然出てきたアレというのがなんなのか、もちろん私は知らなかった。 「アレって?」 「ん、と。私たちのクラスで、今度研究発表みたいなのがあってね。っていっても簡単なものよ? それで私とこなた、二人でやってるんだけど・・」 「これがなかなか、テーマからして決まらなくて」 「アレってのは、そのテーマのことなのよ」 「え!?じゃあ今日映画見に行ったのまずかったんじゃない?」 「? なんで?」 「え。だって、まだ全然できてないんでしょ?」 「だいじょぶだいじょぶ」 「映画の後、家でコレ、やることにしてたのよ」 「そ、そうだったんだ・・」 「そういうわけで」 「行きますかかがみん」 「まあ待ちなさいよ。デザートにあと何個か~~を・・・」 家に着いてからは、こなちゃんとお姉ちゃんは課題につきっきりだった。 あれこれと話してるけど、私に話がふられることはない。 「私部屋で本読んでるね」 「ほーい」 お姉ちゃんの生返事を聞いて、私は自分の部屋へと向かう。 全然知らなかった。 課題のこととかじゃなく。 クラスが違うだけなのに。 二人の中の私が、どんどん薄くなっていくような。 私だけが取り残されていくような。 今日の映画、二人の中では別にどうでもよかったのかも。 そんなことを考えた私がいやだった。 お姉ちゃんとこなちゃんの楽しそうな笑い声や話し声、言い争いが聞こえてくる。 私は耳をふさぎ、ふとんにもぐりこんだ。 宿題は、クラスが違うことでその内容は大半が違うものだから、 滅多に一緒にやることはなかった。 普段の会話は、お姉ちゃんとこなちゃんの間にクラスでの話が増えて、私はどこか少し蚊帳の外だった。 3人で映画を見に行ったあの時から、特に意識していたのかもしれない。 避けるとか避けられるとか、そういうことではないんだけど。 「どうかなされたんですか?つかささん」 「・・え?」 「最近、あまり元気がないような気がしていまして」 「そ、そんなことないよ。あっ、最近梅雨でじめじめしてるじゃない?それでかな」 「そうですか・・?私の勘違いでしたね。すみません」 「あはは、謝らないでよ。気にかけてくれてありがとうゆきちゃん」 いけない。 はたから見た私は、そんなにもおかしかったのだろうか。 最近、少し考えすぎなのかもしれない。 そうだ。 すべて私の考えすぎなのかも。 形だけの、自分への慰めをよそに。 私の感じていた漠然としない何かは、少しずつ、はっきりとした形になろうとしていた。 寂しさという形に。 「あの、かがみさん。ちょっとよろしいでしょうか」 「? みゆき?」 「どうしたの?休み時間に。めずらしいわね」 「実は、お話したいことがありまして」 「なに?」 「つかささんのことで」 「つかさの?」 「私の思いすごしかもしれないのですが・・」 「最近つかささん、元気がないような気がするんです」 「え?そう?」 「特にそうは見えなかったけど」 「つかささん自身も、もちろん否定はしてらしたんですが」 「考え込んでいる姿を、よく見かけて」 「なにかあったのかと思いまして・・」 「そうだったの・・」 「でも、つかさが元気なくすとか考え込むようなことには、心当たりないわね・・」 「もちろん、最初に言ったとおり、私の思いすごしである可能性もあるのですが」 「・・・。わかった、ありがとうねみゆき。ちょっとつかさの様子、気にしてみるわ」 6月もそろそろ終わろうとしている。 今年の夏は少し長くなるらしい。 私はぼうっと外に目を向けていた。 最近は、外ばかり見ている気がする。 「つかさー!帰るわよー」 「あ、はーい」 「あれ?こなちゃんは?」 「ああ。あいつバイト始めたじゃない?」 「うん」 「今日は臨時で入ったみたいで」 「ふーん」 「帰り、どっか寄っていこうか?」 「え?」 「最近、二人でいること少なかったし」 「いやなら別にいいんだけど」 「ううん。いこっ!」 二人で出かけるなんて、ホントに久しぶり。 お姉ちゃんの手をひいて、私は走り出した。 「最近暑いわねー」 「そうだねー。もうすぐ夏だもんねー」 「今年は梅雨が短かったからねー、~~~」 久しぶりに二人で買い物して、楽しかった。 自然に笑ったのも、久しぶりだったかも。 他愛もない話でも、その一つひとつが。 幸せな一方で、不安な私。 ずっとこのまま。 そうなればいいなと、思っていた。 6月最後の週も今日で終わり、週明けからは7月だ。 夏休みが近いせいか、なんだか周りのテンションも高い。 授業中を除けば。 私は私で、今日も外を見つめている。 不安は現実になっていた。 また、私は蚊帳の外にいる。 それでも。 以前の私よりは、この状況も耐えられていた。 お姉ちゃんが、完全に私を見てくれなくなった訳ではなかったから。 あの日のことは、この時の私にはとても大きなものだった。 「つかささん、先生が呼んでいましたよ。なんでも、二者面談の時間を、少し早めるということで」 「そうなの?ありがとうゆきちゃん。行ってくるね」 私の次はゆきちゃんだから・・・ 振り返りゆきちゃんに手をふって、先生の待つ面談室へ向かった。 進路指導のための二者面談。 この時期は多すぎると言ってもいいくらい入ってくる。 進路が確定していてもしていなくても、この手のものは避けられないからやっかいだ。 そんなことを考え、ふと足を止める。 お姉ちゃんとこなちゃんに言っておかなくちゃ。 B組の教室を後ろからのぞいてみる。 ロングヘアーとツインテール。 お姉ちゃんもこなちゃんも、すぐに見つけることができる。 お姉ちゃん! 私がそう声に出そうとした時。 私の耳に、信じたくない言葉が聞こえてきた。 「明日のこと、つかさには話してないよね?」 「大丈夫よ。私がそんなヘマ、するわけないじゃない」 「絶対ばれちゃダメだよかがみん。つかさが来ちゃったら、台無しなんだから」 「しっつこいわね。分かってるわよ」 私はこの日、二者面談を受けることなく、そのまま家へ帰った。 いつの間にか、私は二人の中で邪魔な存在になっていたのだろうか。 私自身が思っていたより、二人との距離は。 何も考える気力がない。 考えたくない。 考えると、悲しくなるばかりだった。 私はただ、お姉ちゃんと。 今まで通り、お姉ちゃんと。 私はやっと気づいた。 ずっと感じていた「それ」は。 漠然としなかった「何か」は。 寂しさでも。 不安でも。 恐怖でもなくて。 それはただの、嫉妬だった。 次の日、お姉ちゃんは一人で出かけて行った。 私は何も感じない。 二人が何をするのかなんて、どうでもよかった。 どうでも。 私は何もかもが、私自身さえ分からなくなっていた。 「おはようございます。つかささん」 「おはよー。ゆきちゃん」 「明日は七夕ですね」 「そうだね」 結局あの日、お姉ちゃんは何も言ってくれなかった。 今日まで、お姉ちゃんもこなちゃんも何もそのことは言ってこない。 私が聞いたわけでもないし、二人とも、私は何も知らないと思っているんだから、当たり前か。 私が邪魔なら、はっきり言えばいいのに。 「つかささんは、何をお願いするか考えてありますか?」 「………」 お願い…か… 私の…お願い… 「つかささん?」 「つかささんっ」 「え?あ、ごめんゆきちゃん。えーと、何だっけ?」 「………」 「…あの」 「なに?」 「何か、あったのでしょうか。最近つかささん、すごく辛そうに見えるのですが…」 お姉ちゃんとこなちゃんは全く気づかない。 私がそう振る舞ってるから。 その分、教室に入ってからの私は。 「もし悩んでいることがおありでしたら、遠慮なく言ってください」 やさしい言葉をかけられるだけ、今の私には辛かった。 私の異常に、ゆきちゃんは気づいてくれたのに。 「別になんでもないよ」 「つかささん…。あの… 無理はしないでくださいね」 「一人で考えこま…」 「分かったようなこと、言わないで」 「…え?」 「うるさいよ」 「あ…すみません…。私…そんなつもりじゃ…」 「うるさいって言ってるの!いいからあっち行ってよ!」 私は何を言ってるんだろう。 謝り続けるゆきちゃんに、それ以上、私は何の言葉もかけず。 ただ机に伏していた。 帰り際にも、ゆきちゃんは謝ってくれていた。 こんな私に。 でも、私は何も言わない。 そんな態度を取らせる私と、なんでそんな態度を取るのか信じられないでいる私。 ばかばかしい。 もうそんなこと、どうでもいいや。 私は、一つのことだけを考える。 私の願い事。 七夕の、お願い。 「つかさー。明日の放課後、ちょっと残っててほしいんだけど」 なにか用? 「内緒。とりあえず、みんなが帰ったあたりにB組に来てよ」 うん。分かった。 「じゃ、よろしくー」 そうだ。 私のお願いは。 「え?」 ううん、なんでもないよ。おやすみ。 「うん。おやすみ」 放課後――― 私は言われた通り、みんながほぼ下校しただろうという頃に、教室へと入った。 校舎もとい教室は静まりかえっている。 教室の奥の窓際に、お姉ちゃんは立っていた。 私に気づき、にっこりと笑う。 「なに?お姉ちゃん」 「ん、ちょっとね」 「今日。何の日か分かる?」 「今日?」 「えーっと… 七夕?」 「それもそうだけど…」 「嘘だよ。私たちの、誕生日だよね」 「そ。まあ忘れてる訳はないわよね」 「ちょっと、目閉じてて」 「え?」 「いいからほらっ」 言われるがまま目をとじる。 なんだろう。 首のあたりで、何かもぞもぞとやっている。 「まだー?」 「も、もうちょっと待って」 「はいっ、つかさ。目、あけていいわよ」 「……?」 さっき感じた違和感のもと、首元を見てみる。 「あっ…」 何かが付けてある。 それは、とても綺麗なネックレスだった。 「これ…」 私はさらに気付く。 お姉ちゃんも、同じネックレスを付けている。 「私からの、誕生日プレゼント」 「こなたがね。つかさに、それぞれ何かプレゼントしようって言いだして」 「つかさ、いつからか元気なかったじゃない?こなたも気になってたみたいで」 「この前の休みに、二人でいろいろ見に行ってきたのよ」 「私たちそれぞれで、つかさのために考えたのよー」 「で、私からはこのお揃いのネックレス」 「いつでも私がついてると思って、元気出しなさいよね!」 そっか。 あの日の会話は、そういうことだったんだ。 お姉ちゃんもこなちゃんも。 私のことは何も分かっていないけど。 ちゃんと考えては、くれてたんだね。 ありがとう。お姉ちゃん、こなちゃん。 「こなたも来るはずなんだけど、おっそいわねー」 「あいつのプレゼント、すごいわよー。ある意味」 「ねえ、お姉ちゃん」 「なに?」 「今日、何の日か分かる?」 「? 私たちの誕生日でしょ?」 「七夕」 「え?」 「私ね。七夕のお願い、ずっと考えてたの」 「けっこう悩んだよ」 「でも、最初から決まってたのかも」 「お姉ちゃんと、ずっと一緒にいたい。って」 「つかさ……」 「何言ってんのよ。私たちはいつもいっ…」 「………」 「つ…かさ…?」 お姉ちゃんの瞳が、虚ろになっていく。 「なん…で…」 私の刃を受けながら、お姉ちゃんはそれだけを呟いていた。 お姉ちゃんもこなちゃんも、何も分かってない。 すべての原因は、二人にあったのに。 いや、それも違うか。 すべては私が。私自身が。 すでに事切れたお姉ちゃんを、私はゆっくりと抱き起こした。 お姉ちゃんは、確かにここにいる。 でも、お姉ちゃんはもういない。 視界が霞んでいる。 赤く染まった教室に、私はふたりぼっちで立っていた。 何かが頬をつたっていて。 その何かは止まる気配がない。 わたし―――泣いてる。 廊下でぱたぱた走る音。 音はだんだんと近づいてきている。 私は再び、刃を握りしめた。 いつまでも、いっしょだと思ってた ただ、いっしょにいたかった だから、いっしょにいられるように すべては私のわがまま だけど こんなはずじゃなかった 私の望み 最後のわがままは ―終―
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1―1 それから5ヶ月後、少女――泉こなたはアウレ町を歩いていた アウレ町は彼女と彼女の父が住む町。道が石畳で舗装されており、近くの集落の中では一番大きな場所だ 彼女は今、町の図書館を目指して歩いている 彼女の目当ては図書館が貯蔵している魔導書にある 彼女は基本的に勉強が大の苦手だが、魔導書に書かれている文字『魔導言語』を学ぶのは好きな様子 毎日と言っていいほど図書館を訪れていた 「ふふふ、館長さん、今日は封書を読ませてくれるって話だし、楽しみだな~」 彼女は鼻歌を歌いながら道を歩いていく。何が書かれているか気になって仕方がない 封書を早く読みたいがために、足速に通りを歩く 町の武器屋を通り過ぎたあと、近道のために裏路地へと入る 「きゃ!!」 「うわ!!」 裏路地に入ろうとした直前、その裏路地から女の子が出てきた 避けることは出来ず、こなたは女の子とぶつかってしまった こなたはよろめきながらもなんとか倒れることは阻止できた これは彼女が古武術という昔から伝わる武術を習っていた賜物である しかし、ぶつかった女の子はそういうわけにもいかず、石畳に尻餅をついてしまった 「いたた……」 「ごめんね。大丈夫?」 女の子は薄紫色の髪を左右でツインテールにしていて、腰には鞘を差している こなたは女の子に手を差し出すが、その手は払いのけられ、女の子は立ち上がりながらこちらを睨み付けてきた 「あんた、何処見て歩いてんのよ!!」 「ごめんごめん、急いでてさ~」 「……あんた、謝る気ある?」 「あるよ~」 言葉だけで悪びれる素振りも見せないこなたに女の子は大きな溜め息をついた 「……まあいいわ。ところで、『そうじろう』って人はどこに住んでるかわかる?」 「ああ、それなら……」 こなたは裏路地から出て、家々の間にある大きな家を指差した 「あの青い屋根の家に住んでるよ。結構大きいから、すぐにわかると思う」 「わかった、ありがとね」 女の子は裏路地を出て、こなたが指差した方へ歩いていった 「……ん?」 ふと地面を見てみると、そこには光るものがあった それを拾い上げてみると、どうやらそれはロケットペンダントのようだ 「しまった、ぶつかった時に落としちゃったのか……」 女の子が駆けていった方を見るが、もうその姿は見えなくなっていた 「……ま、いっか。家に来てるんだし、帰ってきたら渡してあげよ」 そう言って、こなたはロケットペンダントの中身を見る 中央に先ほどの女の子がいて、両脇に二人の少女がたたずんでいる その中の三人は、笑顔でこちらを向いていた
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最近こなたお姉ちゃんが悩んでいるみたい。話し掛けても、返事をしてくれる回数すら減っていって…… こないだ、かがみ先輩に聞いてみたら、『自分で解決しなきゃいけないから』って言ったらしい。なんで誰にも、相談しようとしないんだろう。 私はもう、こなたお姉ちゃんの辛そうな姿なんか、見たくないのに。 だって、こなたお姉ちゃんは、私の―― 〈fragile ~スミレ~〉 私がこなたお姉ちゃんを好きになったのは、6年くらい前。 こなたお姉ちゃんはもう忘れちゃってるかもしれないけど、私は片時も、忘れはしないよ。 あの時は、病気がちな自分が大嫌いだった。みんなと同じように遊べない、みんなと同じように勉強ができない。 そう思っているうちに、私はいつしか心を閉ざしていた。いつも隣にいてくれた家族にさえ、心を開けないでいた。 あの日――私の、十歳の誕生日までは―― 家には私とゆいお姉ちゃんしかいなかった。お父さんとお母さんは、買い物に行っている。 見慣れすぎた天井を見つめながら、私は思っていた。みんなは今ごろ、元気に遊んでるんだろうなって。 そうは思っても、あの頃の私には友達なんていなかったから、余計に悲しくなるだけ。 窓の向こうを見ながら、たくさんの友達と一緒に走り回る私を空想する。 でもそれは所詮空想。私はベッドに寝ているという事をより実感させるだけ。 目から涙が溢れそうになるのを堪えながら、早く寝ようと試みる。 すると『ピンポン』という無機質な音が、私の部屋にまで届いた。家のチャイムを鳴らす音だ。 チャイムを鳴らすのだから、お父さんでもお母さんでもない。だとすると、誰が来たのだろう。 気まぐれか、もしくは同情心で来たクラスメイトだろうか。 だとしたら、早々に帰って欲しかった。会ったら、余計に具合が悪くなりそうで。いや、クラスメイトじゃなくても、私は誰とも会いたくなかった。 ゆいお姉ちゃんが玄関を開ける音、そして、二人分の足音が聞こえてくる。私の願いは、叶わなかったみたいだった。 『やふー、ゆーちゃん。一週間ぶりー』 『……』 ドアを開ける音と一緒に聞こえてきた声に、私は愕然とした。だって来たのは、あの頃私が一番嫌っていた人物――こなたお姉ちゃんだったから。 こなたお姉ちゃんは、私が体調を崩した時はいつも来てくれる。時間的なことで来れない時もあるけど、来ない時は逆に嬉しかった。 なんでそこまで嫌っていたのか、今じゃもう思い出せないけれど、私は本当にこなたお姉ちゃんが苦手だった。 だから私は、こなたお姉ちゃんが来た時はずっと布団をかぶっていた。あの日も。 『ゆーちゃん……でてきてよー……』 『あっはは、こなたはホントーにゆたかに嫌われちゃってるねー』 『言わないでよー……けっこう気にしてるんだから……』 そう、私にはそれが疑問だった。 私が嫌っていることを、こなたお姉ちゃんは知っている。なのに、なんで私のところにやってくるのか。 『……こなた……お姉ちゃんは、さ……』 聞かずにはいられなかった。だって、嫌がらせとしか思えなかったから。 『なんでいつも……私のところに来るの? 私が嫌いなこと……知ってるでしょ……?』 しばらくの沈黙の後、こなたお姉ちゃんは口を開いた。 『私はね、ゆーちゃんのためにきてるんじゃなくて……私がゆーちゃんにあいたいから来てるんだよ』 『え……』 顔をあげて、とても久しぶりにこなたお姉ちゃんの顔を見た。 こなたお姉ちゃんの優しい笑顔が、そこにあった。 『っはは、久しぶりだね、ゆーちゃんの顔を見るの』 そのこなたお姉ちゃんの顔がとても眩しくて…… 『こなた……お姉ちゃ……! 今まで……ごめんな……さ……!!』 『ふおう!? ゆーちゃん、なかないでよー!』 『ゆたかを泣かせたなー!? いくらこなたでも容赦しないぞー!!』 「こなたお姉ちゃん、覚えてるかな?」 あの時、こなたお姉ちゃんが誕生日プレゼントとして持ってきてくれた、今ではくたびれてしまったリスのぬいぐるみ。今でも、私の部屋に飾ってある。 あの日、私の中でこなたお姉ちゃんに対する感情が180°変わった。 しかも、ただ好きになったわけでなくて……いつしか、恋愛感情でこなたお姉ちゃんを見るようになっていた。 それは、確実に叶わない恋ではあるけれど。 こなたお姉ちゃんの幸せな顔が見れれば、それで良かった。 だから……私は、こなたお姉ちゃんの部屋に向かった。 今みたいな苦しそうな顔じゃなくて、またあの時のような、笑顔が見たいから。 「こなたお姉ちゃん、入ってもいい?」 ドアをノックして、こなたお姉ちゃんの返事を待つ。 「いいよ。何の用?」 こなたお姉ちゃんとは思えないほど、冷たい声。 ドアを開けると、ベッドに腰を掛けたこなたお姉ちゃんが、こっちを向いていた。その瞳に、かつての面影はなかったけど。 私は床に座ってこなたお姉ちゃんを見る。 「こなたお姉ちゃん、何かあったの? 元気がないみたいだけど……」 「……なんでも、ないよ……なんでも……」 「嘘。こなたお姉ちゃん、何か悩んでるんでしょ? 前から溜め息ばっかりだし」 瞳が何度か左右に揺れる。言うべきかどうか、悩んでるんだ。 私は何回も、こなたお姉ちゃんを見てきた。だから、なんとなくわかる。 「言っても、ゆーちゃんにはわからないよ」 「……」 ベッドに横になり、私に背を向けた。あの頃の、私のように。 その反応は、想定の範囲内。こなたお姉ちゃんは、いつも一人で解決しようとする。 だから…… 「確かに、私にはわからない悩みかも知れないけど……一人で抱え込むより、少しは楽になると思うな」 「え……」 横になったまま、顔だけをこちらに向けてくる。その顔は、驚きに満ちていた。 「それに私、こなたお姉ちゃんに頼ってばかりだもん。たまには私を頼って欲しいな」 こなたお姉ちゃんは、そこまで意固地じゃない。私に甘いところもあるから、こう言えば、絶対に言ってきてくれるという自信はあった。 思惑通り、こなたお姉ちゃんはゆっくりと身体を起こして、真剣な眼差しを私に向けてきた。 「ゆーちゃん。今から言うことは、全部本当のことだから、覚悟して聞いてね」 「う、うん……」 何を言われても動じないよう、私は身構えた。 でも…… 「私、かがみのことが……好きなんだ。友達としてじゃなく、恋愛感情で」 「……え……?」 金属バットで殴られたような衝撃が、頭の中に響き渡った。 冗談だと、思いたかった。けど、私はずっとこなたお姉ちゃんを見てきた。だからわかる。わかっちゃう。 これは冗談なんかじゃなくて……本気なんだっていうことを。 「私はかがみが欲しい。かがみとずっと一緒にいたい。だけど、私もかがみも女の子……」 「……」 悔しさと悲しさで、スカートの裾をギュッと握り締めた。 男の子なら、まだ良かったのに。完全に諦め切れるのに。よりによって女の子、しかもかがみ先輩なんて…… でも、仕方がないよね。 誰が誰を好きになろうと、それは個人の自由。 私の想い人には、好きな人がいる。片想い中の私は、それを応援するしかできない。 私にできることは――悔しいけど――それくらいしか、ないんだ。 「私は、かがみに告白したい。でも、かがみは私を友達としか見てくれてない至極まともな女の子。告白したところで、受け入れてくれるはずもない。 断られて、元の生活に戻れるとは思えないし、もしかしたら、私を軽蔑するかもしれない。そうなったら……傍にいることはできない」 それなのに…… 「いくら思ったって、私の恋は、絶対に叶わないんだ。だから諦めようとしてるんだけど……諦め切れないんだよ……」 なんでこなたお姉ちゃんは、こんなにも弱気なの? 「……どうして、諦めなくちゃいけないの? そんなの、会う度に辛くなるだけだよ」 初めてかもしれない。私が誰かに対して、これほどまでの怒りを感じたのは。 「やってもいないのに、なんで諦めてるの? まだわからないじゃない」 「わかるよ。常識的に考えて。同性に恋をするなんて、おかしすぎるじゃない」 「……何を持って常識なんていうの? 同性結婚が認められてる国だってあるんだよ?」 こなたお姉ちゃんは怯えたような目で私を見てきた。当然と言えば当然かな。こんな私を見るのは、初めてなんだから。 でもそんなの、構うもんか。今のこなたお姉ちゃんは、これくらいきつく言わなきゃわからないんだ!! 「芸能人と一般人との結婚もある。日本人とアメリカ人との結婚だってある。だから不可能なんてないんだよ。やろうと思えばなんだってやれる けど、こなたお姉ちゃんは何かしようとした? 何もしてないでしょ? ただ怯えてるだけなのを『常識』っていう言葉のせいにしてるだけでしょ!?」 怒鳴ったせいで、少し頭がクラクラしてきた。小さく深呼吸をして、私が一番伝えたかったことを言った。 「かがみ先輩だって、告白したくらいじゃ軽蔑しないと思うよ。もしそうだったら、友達にだってなってないよ それに……もし何かあったとしても、私はずーっと、こなたお姉ちゃんの味方だから」 こなたお姉ちゃんの瞳に映る景色。その全てが悲しみで滲む時、私はこなたお姉ちゃんを照らす太陽になる。あの時……こなたお姉ちゃんが私の心を照らしてくれたみたいに。 その言葉の真意は、私の本当の思いは、届かないとわかっていたけれど。 刹那、こなたお姉ちゃんが大量の涙を流しながら私に抱きついてきた。 「ひゃわ!?」 「ゆ……ゆーちゃ……あ、あり……が……ああああぁぁ……!」 力が強すぎてちょっと痛かったけど、それ以上に嬉しさが込み上げてきた。 こなたお姉ちゃんがわかってくれたこと。そして、今の状況が……とても嬉しかった。 もう少しこのままでいたかったから、私は優しく、こなたお姉ちゃんの頭を撫でた。 「私、頑張るよ。頑張ってかがみに告白して、かがみと付き合う」 こなたお姉ちゃんは、私の目の前で言ってくれた。 私の言いたかったことがどこまで伝わったのかはわからないけれど、もう大丈夫。こなたお姉ちゃんなら、やってくれる。 「じゃあ、約束だね」 私は左手の小指をこなたお姉ちゃんに差し出した。指切りをするなんて、とても久しぶりだった。 約束なんて言ってるけど、本当はこなたお姉ちゃんと触れ合っていたかったから。 かがみ先輩と付き合い始めたら、私がこなたお姉ちゃんに触れられる時間は極端に減るだろう。 だから……こなたお姉ちゃんのぬくもりを、覚えていたくて。 そんな私の思いを知ってか知らずか、こなたお姉ちゃんは小指を絡ませてきた。あったかい。 『ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら……』 そこで、二人の声が止まった。ただ約束するだけなんて、おもしろくない。 「本当に針千本飲ませるわけにはいかないよね、さすがに」 「何か他にないかな……約束を破った場合……」 「あ、じゃあさ……」 私は、多分頬を紅く染めながら言った。 それは、一筋の望み。私の初恋を叶えるための、最初で最後の悪あがき。 私はまだ……こなたお姉ちゃんを諦めたつもりじゃない。 「私と付き合うっていうの、ダメかな?」 重い。長い沈黙が、とても重い。 口を開けたまま固まったこなたお姉ちゃん。きっと、私の言葉を理解できなかったんだろう。 好きなのに、伝わらない。それが、少し切なかった。 「え、えと、だから、かがみ先輩と付き合えなかったら、私と、付き合うっていうの……ダメかな……//」 うう……恥ずかしいよぉ……多分、耳まで真っ赤になってる…… そんな私の真意にこなたお姉ちゃんは気付いたみたい。『信じられない』っていうような顔をして、哀れむような視線を私に送ってきた。 「いい、の……? だって、もし告白が成功したら……」 やっぱり言ってきた。こなたお姉ちゃんは、自分のことよりも他人のことを優先して考えちゃう。 私は、こなたお姉ちゃんの愛を優先したのに。 「いいの。一番大事なのは、こなたお姉ちゃんの気持ちだから。こなたお姉ちゃんが幸せなら、それでいいから。だって、こなたお姉ちゃんが……好きなんだもん」 それで、こなたお姉ちゃんに笑顔が戻るなら……私はかまわない。 こなたお姉ちゃんが笑っていてくれるのなら、これ以上他になにも要らないから。 「ありがとう、ゆーちゃん……」 言った瞬間、少しだけ視線をさげた。 『ありがとうだけじゃ伝えきれない』って、言葉の不器用さに歯痒さを感じてるのかな。 でも、大丈夫だよ、こなたお姉ちゃん。私はわかってるつもりだから。 「あ……あれ……?」 そう呟いたかと思うと、こなたお姉ちゃんの上瞼がトロンと下がった。 「お姉ちゃん、眠くなっちゃった?」 「う……うん……」 さっき泣いちゃったせいでつかれちゃったのかな。返事をしてすぐ、頭がガクンと落ちた。 床にぶつかる前に私の胸で受け止め、そっと抱き締めた。 「いいよ、ここで寝ても」 というよりも、私の胸の中で、眠って欲しかった。私と……もっと一緒にいて欲しかった。 「ありがと……ゆー……ちゃ……」 目を閉じようとするこなたお姉ちゃんの顔を見て、ふと、思ってしまった。 こなたお姉ちゃんの愛が叶ったとしても、こなたお姉ちゃんの笑顔が私に向けられることはあるのかって。 多分、ない。こなたお姉ちゃんの笑顔は全部、かがみ先輩に行っちゃうんだろうな。 その笑顔は、私に向けられることはない。そう思うと、悔しくて、切なくて、涙が流れそうになった。 最優先しなきゃいけないのは、こなたお姉ちゃんの愛。私の想いは、後回しでいい。 だって私は、こなたお姉ちゃんが好きだから。こなたお姉ちゃんの幸せが、私の幸せ。 「こなたお姉ちゃん……愛してるよ……」 ……諦めたのに『愛してる』なんておかしな話だけど。 それは、こなたお姉ちゃんを想うが故の願い。 絶対に届くことはないと思っていた私の想いは今日、新たな願いに変わった。 だから大丈夫。その恋に、『さよなら』を言う覚悟はできてるから――
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<泉家> 1F ・玄関から入って右にこなた部屋。玄関から真っすぐ行き、十字路があるので右に行くとゆたか部屋。 左はトイレ。そのまま真っすぐは空き部屋。 玄関から左に階段。 2F ・階段を上がり、目の前にはそうじろう部屋。階段を上がり、左に真っすぐでキッチン。キッチンに行く途中、右にリビング、左に風呂。 3F ・そうじろうのコレクションスペース <柊家> 1F ・玄関から右にまつり部屋。玄関から真っすぐ行き、右を曲がって突き当たりにいのり部屋。 玄関から真っすぐで台所。そのまま真っすぐで、ただおみき部屋。いのりの部屋の入口から出て、すぐ右の襖を開けると居間。 2F ・つかさ部屋、かがみ部屋。
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その日つかさは姉のかがみ、親友のこなたとショッピングをしていた。 アニメショップ前を通るときこなたが「予約した漫画があるから」とショップへ入っていった。 すぐ戻るというのでつかさとかがみはショップの前でしばらく待つことになった。 目の前を行き来する人々の半分はオタク。 こなたと知り合う前なら先入観だけで「こんなところにいられるか」と叫んでいたかもしれない。 そんなことをかがみは考え少し微笑した。 こなたが戻ってくる前にカメコがつかさに声をかけたので睨んで追い返した。 談笑しながら洋服や小物を見て回った。 CDショップでお気に入りのアニメの音楽が流れていたと言ってこなたが大はしゃぎした。 マクドナルドで交わした「なんか1人忘れてない?」という疑問はけっきょく誰だったのか結論が出なかった。 まぁ思い出せないのだから大した人ではないでしょ、とかがみがしめた。 帰り道かがみが人とぶつかった。 こっちに落ち度はないけど一応謝ったほうがいいかな、と振り向いたらぶつかってきた人物は走り去ってしまった。 なにか見覚えのある姿・・・さっきのカメコだ。 さっきの腹いせにぶつかって、それで怖かったから逃げたんだ。 こなたはやっぱりオタクの中でもちょっと異質なのかもしれない。 さぁ行こう、とつかさとこなたへ促そうと思ったらなぜだか上手く言葉が出ない。 つかさがなぜか青ざめた表情でこちらを見ていた。 そういえばおなかが熱い。なんだろう。さすってみたら、真赤な血が こなたが涙目でこっちを見ていた。 つかさは大粒の涙をポロポロと零しながらこっちを見ている。 こなたは気づいたようにカメコが走り去った方向を向いて走り出した。 かがみはそっと地面に崩れた。 かがみは助かった。 決して短い期間ではなかったが、長すぎるほどでもない入院を終えてかがみは退院した。 傷跡もほとんど残らなかった。 犯人は見つからない。 どんなに探しても見つからないが、かがみは二度とあのカメコを見たくなかったし命が助かっただけで儲けものだと考えることにした。 入院中つかさとこなたとみゆきがよくお見舞いにきた。 かがみの心配は杞憂に終わった。 てっきりつかさとこなたは塞ぎこんでしまうと思ったが意外に元気そうだった。 それはそれで複雑だなぁ、とかがみは少し苦笑した。 ある邸宅の地下。 繋がれた男がいた。 あらゆる拷問を、あらゆる苦痛を味わった。涙はすっかり枯れてしまった。 またあいつらがくる。 あの3人の少女が。 お・わ・り