約 187,605 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/408.html
ある里の近くで、ゆっくり霊夢の一家が住んでいました。 一家は皆キチンとしており、人間の畑も荒らさずにゆっくりと暮らしていました。 「おかーさん、おそびにいええくるよ!!!」 「ゆっくりあそんできてね!! くらくなるまえにもどってきてね!!!」 「おねーしゃんいってらっちゃい!!!!」 「いってきます!! ゆっくりしてくるね!!!」 勢いよくお家から飛び出すゆっくり霊夢。 今日は魔理沙たちと遊ぶ約束を強いています。 こちらの魔理沙一家もキチンとしていて、他の魔理沙のように他人の家に上がりこむことはしません。 二人でくたくたになるまで遊んだ後、霊夢は暗くなる前に魔理沙とさよならして、お家に向かいました。 ……。 「ゆゆ!! おにーさん!! それなぁに?」 俺が近くの永遠亭から一本の竹を貰って帰る途中、一匹のゆっくり霊夢が飛び出してきた。 「これかい? これは七夕に使う竹だよ」 「ゆ? たなばた? それってゆっくりできるの?」 「あぁ、この笹に願い事を書いて吊るすと願いが叶うって言われてるんだ」 「ゆゆ!! おにーさん!! れいむもおねがいしたい!! れいむもおねがいしたい」 「ちょうどいいな、……よし一緒においで!!」 「ゆ♪」 ゆっくり霊夢と連れ立って家路を急ぐ、なんたって今日は七夕だからな。 「ほら、ここが俺の家だ」 「はいっていいの?」 「ああ。遠慮するなよ!」 「ゆ! ゆっくりおじゃまするね!!!」 まぁ、普通のゆっくりよりは礼儀正しいみたいだ。 「おじさんありがとうね!! れいむはゆっくりおねがいしたよ!!」 そうだった、こいつは何かお願いしたいことがあってここまで来たんだっけ。 「それじゃあ、今から飾りつけするから手伝ってくれるかい?」 「ゆゆ!! おてつだいするよ!! だかられいむもおねがいさせてね!!!」 「ああ。いいとも」 何て純粋なゆっくりなんだろうか。 これが並大抵のゆっくりだったら、早く飾り付けしてね!!、って叫ぶ所だと言うのに。 「それじゃあ、これを引っ掛けてくれるかな?」 渡したのは七夕飾り、器用に口にくわえ、俺に抱っこされて笹にかけていく。 「ゆゆ!! おにーさんかけおわったよ!!」 「よし、こっちもお願いね」 「うん♪」 暫く一人と一匹で仲良く飾り付けをしていった、一人でするより大分賑やかだ。 ……うん、なかなか良い出来だ。 「それじゃあ、短冊を書こうか」 「ゆ~? たんざくってなぁに?」 短冊が分からない霊夢に一枚の短冊を見せて説明する。 「これの事さ。ここにお願いを書いて竹に飾るんだよ。さて、文字は分からないだろうから代わりに書いてあげようか?」 筆を持ち直しゆっくりの方へ向き直る。 が、霊夢はなんだか不満そうだ。 「ゆゆ!!! おにーさん!! れいむもじぶんでかきたいよ!!」 「自分で書けるか?」 「うん!! おにーさんそれかしてちょーだい!!」 意気揚々と俺から筆を受け取ったゆっくり霊夢は口にくわえてブッ格好な丸を沢山書きだした。 「何だこの丸? まんじゅうか?」 「ちがうよーー!! れいむのかぞくだよ!! この大きいのがお母さんだよ!!」 別にどっちでも変わらん気がするが、見れば確かに目や口のようなものと髪の毛にリボンが書かれている。 「ふーん。で、これはどういうお願いなんだ?」 「ゆ? !! れーむとおかあさんと、おねーちゃんといもうとたちがずっとゆっくりできますようにっておねがいしたんだよ!!」 ほー家族ね。コイツラらしい。 「あっ! そうだ!! おにーさん!! たんざくもういちまいもらっていい?」 遠慮がちに聞いてくる、別にこんなもん何枚でもくれてやるが。 「良いけど、今度は何をお願いするんだ?」 「おともだちのまりさのかぞくもゆっくりできますようにってだよ!!」 くーー!! 泣かせるじゃねーか! 「家族や友達思いの良いゆっくりだな!! よし、後でおにーさんが食べ物を持って言ってやろう。両方のお家の場所は分かるか?」 「うん、ここから…………」 ほうほう、結構近くだな。 「よし! 分かった。それと、きちんとお願いが叶うようにおにーさんが文字でそのお願いを書いてやるよ」 「ゆゆ!! おにーさんありがとーー!! これでれいむたちはゆっくりできるね!!」 「そうだな、良い子にしてたらきっと叶うぞ」 「ゆゆ!! れーみたちもまりさたちもかってににんげんのおうちにははいらないよ!! はたけのおやさいだって、かってにたべないよ!!!」 どうやら、自分たちがそういう事をしてると思われたと思ったんだろうな。 それにしても、なかなか真面目なゆっくりだな。 「分かってるよ! ……っと、よしかけた。それじゃあ、飾りにいこうか」 「ゆゆ!!」 無邪気に笑う霊夢を抱えて再び庭へ。 霊夢に自分の短冊を下げさせた後、俺も自分の短冊を上の方へ下げた。 「ゆゆ!! おにーさんはどんなおねがいしたの?」 下げる前に、霊夢がそんな事を聞いてきたので短冊を見せてやったら喜んでた。 文字は読めないのにな。 「これでよし。全部終わりだ」 「ゆ! おじさんのおねがいもれーむのおねがいもちゃんとかなうといいね!!」 「そうだな。お前はこれからどうする? なんなら夕飯でも食っていくか?」 「んーん。おかーさんがしんぱいするといけないから、おうちにかえってゆっくりするよ!!!」 そうか。 それじゃあ俺も夕飯の準備に取り掛かろう。 「ゆ!! おにーさんどうしたの!!」 ゆっくり霊夢を抱きかかえる。 既に帰ろうと背を向けていた霊夢は少し驚いたようだ。 「んー? これから夕飯にしようと思ってな」 「? れーむはおうちにかえるよ? おにーさんのごはんのじゃまはしないからゆっくりたべてね!!」 「そぉい!!」 「ゆぶっちゃら!!!!」 真横に図太い荒縄を通して竹へ吊るす。 「ゆゆ!!! れーむのおながにぃ!! おにーざん!! はやぐどってぇーー!!!!」 このために、わざわざ永遠亭まで言って綺麗なウサギさんと一緒に丁度良い竹を探し回ったんだ。 あぁ、今度は怪我をして行ってみようかな……。 「ゆ!! いだいよ!!! おにーさん!! ゆっくりおろしてね!!! ゆっくりおろじてねーー!!!」 痛みに苦しみながら、こっちを見つめる霊夢。 残念だけど、俺はこれから夕食の準備をしないといけないんだ。 「それじゃあ、そこでゆっくりしていってね!!!」 「ゆっぐりーーー!!!!!!」 さてと、ビールビール!! ……。 「うっう~♪ あうあう♪」 暫くビール片手に家の中で待っていると、漸くゆっくりれみりゃがやって来た。 「う~? ぷっでぃ~んどごぉ~? ぷっでぃ~ん!!!」 もちろん唯のれみりゃじゃない、紅魔館にすんでいる最高級れみりゃだ。 「ゆ!! おにーさん!!! れみりゃだよ!! ゆっくりできないよ!!!」 そんなに大きな声で呼ばなくたって分かってるよ、コイツをおびき出すためにお前を吊るしてたんだから。 「うっう~た~べちゃうぞ~♪」 「ゆ!! ゆーーっぐりたすげでね!!! れーむはおいしくないよ!!!」 馬鹿かお前? 大馬鹿な紅魔館れみりゃにそんなこと分かるはずないだろ? 「う~♪ がぶっ♪ !!!……うー!! ぷっでぃ~んじゃないー!!!」 やっぱコイツ馬鹿だ。 「うーーー!! ぽいっ、するのぽい!!!」 勢いに任せて、霊夢をズタズタに千切っていくれみりゃ。 そろそろ頃合か? 「おい肉まん! こっちにぷっでぃ~んがあるぞ!!」 「う!! ぷっでぃ~んだべどぅ~♪」 「そうか、食べるか。ぷっでぃーんはこっちだよ!!」 「うーー!! ぷっでぃーんじゃないの!! ぷっでぃ~んなの!!」 テコテコと座敷に上がってくるれみりゃ。 ニコニコしながら俺の前に近づいて両手を差し出してきた。 「う~♪ はやぐぷっでぃ~んくれないと、さぐやにいいつげるどぉ~♪」 はいはい、ぷっでぃ~んね。 「こぁ!!」 「うー? !!! いだい!! いだいどぉーーーーー!!!!!」 そりゃ、柱に磔にされたら痛いわな。 「うーーー!!! ざぁぐやーー!!! ぷっでぃーんはどごーー!!!!」 ……、おい! 「ぷっでぃーんじゃなくて、ぷっでぃ~んだろ?」 まずは、この羽からいってみよう。 「!!! いだいどぉーー!!!! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!!!」 うん、これはビールに合うな! 「そればれみりゃのーー!!! れみりゃはだべものじゃないどぉーーー!!!!!」 そういえば黒ビールも有ったな、今度はそれで食べてみるか。 「うあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」 ……。 ふー、食った食った。 そういえば、あの霊夢はまだ生きてるのかな? 「おーい霊夢! 生きてるか?」 「ゆー。 !! おにーさん!! れいむはゆっくりできるよ!! れみりゃをおいはらってくれてありがとうね!!!」 おお! 生きてた、すげーな!! 「でもこの縄を早く外してね!! そうしたら、こんなことしたのをゆるしてあげるよ!!!」 へいへい。 「ほら、外してやるよ。別に悪気があった訳じゃないんだ。ただ自分を吊るすと願いが叶い易くなるんだよ」 霊夢の縄を抜いて地面に降ろしてやる。 縄の抜けた体を満足そうに見た後、目を輝かせて俺に尋ねてきた。 「ゆゆ!! ほんとう!! だったられーむたちのかぞくとまりさのかぞくは、ぜったいにゆっくりできるね!!!」 「U☆SO☆DA☆YO☆ そぉい!!!」 「ふんじゃられったりーーー!!!!!!」 死なない程度に踏みつけて籠に入れておく、明日の朝には元気になってるだろう。 「じゃあな。明日は家族仲良く加工場に行こうな。願い通り、死ぬまでゆっくりできるぞ!!」 「!! かごうじょーーはやだーーー!! ゆっぐりできないよーーー!!!!」 ……。 「れいむ、きのかえってこなかったね」 「きっとまりさといっしょにゆっくりしてたんだよ!!」 「やぁ、君達が霊夢の家族かな?」 「!! おじさん!! れーむをしってるの?」 「れーむはどこにいるの!!」 「うん、霊夢は君の家族と魔理沙の家族がゆっくりできるようにってお祈りしてたんだよ。俺は、それに感動して君らもゆっくりさせてあげようと思ってね。魔理沙の家族は、今一緒にいるから君達もおにーさんのお家へおいでよ!!」 「れーむもおにーさんのおうちにおじゃましようよ!!!」 「!! うん、みんなでゆっくりできるね!! おにーさん!! どうもありがとーー!!」 「いいよいいよ! 俺も願いが叶って嬉しいから……」 翌日、親子共々籠に入れて、願いどおり加工場でゆっくりしてもらうことにした。 専用の安全な檻に入れられた両方の一家が、嬉しそうに涙を流して喜んでいたのが印象的だった。 俺の願い? 高級なゆっくりれみりゃを食べたい事と、纏まった金が欲しい事さ。 ……。 昨夜、紅魔館。 「れみりゃさまーー!! 食後のプディングをお持ちしましたよ!! ……またお出かけかしら?」 「あ、咲夜さん。れみりゃさんなら、さっきお散歩に行きましたよ♪」 「そう。 ……このプリン食べる?」 「良いんですか? 頂きます♪」 「涎垂らしながら見つめてたでしょ。それより、貴方も短冊に何か書いたの?」 「おいしーです♪ ……あっ、はい! 嫌いな食べ物を見なくて済みますようにって書きました♪」
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2759.html
竹取り男とゆっくり 幻想郷のある山の上に男が一人住んでいた。 野山に入って竹を取りつつ、よろずのことに使っていた。 男のもとには週に一度のペースで商人が竹を買いに訪れ、男はこの商人から食料を買って生計を 立てていた。 ある日のこと…。 いつも来るはずの商人が、この日はやって来なかった。 なにか都合があったのだろう…… 男は家の裏の納屋からホコリをかぶった荷車を引き出し、山のように竹を積んで自ら街におりて いった。 男の竹材は飛ぶように売れて、荷車は早くも空になる。 荷車の重みは男の財布の重みに変わった。 たまには美味しいものでも食べようと甘味屋通りに入ったところである。 「ゆっくりしていってね!!」 突然大きな声をかけられ、男が声のほうへ振り向くと、ガラスケースに入れられた生首が鎮座し ていた。 「なんじゃこりゃあぁぁっ!?」 男が絶叫すると、店主が中から出てきた。 店主は『ゆっくりまんじゅうの商品化』を知らない男を瞬時に"おのぼりさん"だと見抜き、丁寧に 説明した。 街にゆっくり加工場ができたこと。 まんじゅうの餡子には小豆よりゆっくりを使ったほうが安価で、味も変わらないこと。 男は次第に納得していった。 「おひとついかがですか?」 と勧める店主が出してきたのは、小さなプチトマトほどのゆっくりの赤ちゃんだった。 男が受け取ると、赤ゆっくりと目が合った。 「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」 まだ生まれたばかりの赤ゆっくりは手のひらの上でフワフワと上下に揺れ、ミニチュアサイズの 赤いリボンもユラユラ揺れた。 どうやらジャンプしているつもりらしい。 うにうにとした感触が気持ち悪かった。 「食えるの? これ。てか俺食うの?」 「中の餡子もやわらかくておいしいですよ。召し上がってみてください」 「ゆーっ! ゆーっ! おじしゃん、りぇいみゅをゆっくちさせちぇにぇ!」 この赤ゆっくりはまだ幼すぎて、自分が食べられる対象だということが分かっていないようだ。 キラキラと目を輝かせて男を見上げ、けたたましく『ゆっくり』を繰り返した。 う~ん…と唸りながらも、男は意を決すると一息に口に放り込んで、歯ですり潰した。 「ゆぎゅ…っ」 一瞬だけ赤ゆっくりの断末魔が響いたが、すぐに独特の風味が口いっぱいに広がった。 「ウマー」 「気にいっていただけましたか? 今のは今朝うまれたばかりの赤ちゃんで、皮も餡子もやわらかく どなたにも気に入っていただけるんですよ」 「うめぇ! 3ダースくれよ!」 実は、男は大の餡子好きだった。 これまでたくさんの饅頭や羊羹を食してきたが、このゆっくり饅頭は格別だった。 「お客さま、実はこんな商品が……」 十分な手ごたえを感じた店主は、男に対しておもむろに話を持ちかけた 男が山の自宅に帰ったとき、すでに陽は落ちていた。 空の荷車を納屋におさめると、先ほど甘味屋で買った商品をテーブルにおいて一息ついた。 商品は紙袋につつまれて中は見えず、またかなり重かった。 「店主に勧められるままに買っちまったけど、いやに重いな。 …まぁ安かったからいいが」 事実、今日稼いだ金額にくらべれば、この商品ぐらいいくらでも買える値段だった。 店主は中身は秘密だと言った。が、必ず満足いただけるに違いないとも付け加えた。 「試食のゆっくりに大満足だったから信用して買ったが、あの店主やるな…」 週に一度しか商売しない自分とは手練手管が違っていた。 「ではさっそく」 男は気を取り直して包み紙を破った。 すると、中から出てきたのは透明のケース。そして直径20センチほどのゆっくりが二体、 ケースの中にぎゅうぎゅうにおさまってぐっすり寝ていた。 「でか…」 昼間の赤ちゃんがこれほど育つのか、と男は感心した。 実際にはもっと大きくなるが、男はまだゆっくりについてよく知らなかった。 右側には昼間見た赤いリボンをしたゆっくり。 左側には金髪に黒いとんがり帽子のゆっくり。 どちらも大きな口からよだれを垂らし鼻ちょうちんをふくらませた醜悪な寝顔だった。 そうして視線を移していくと、ケースの左横からテープが出ていて 『これを引いて起こしてください』 と書いてある。男は素直にそのテープを引いてみた。 すると、ゆっくりたちの床がスライドして、とんがり帽子のゆっくりが下の床に落ちた。 デンッ! 「ゆ゙っ!?」 とんがり帽子のゆっくりは落ちた衝撃で目覚めた。 「な~る♪」 男は仕組みを理解し、さらにテープを引いてスライドを抜き取った。 デンッ! つづいて赤リボンのゆっくりが落ちたが、こちらはまだ眠っていた。 「鈍感な奴だなぁ…」 「ゆうぅ……ゆっ?」 男があきれていると、先に目覚めたとんがり帽子が男に気がついた。 「ゆっくりしていってね!」 昼間、甘味屋通りに足を踏み入れた瞬間に言われたのと同じセリフ。 こいつらのあいさつ文句かと思い、男も同じセリフを返した。 「ゆっくりしていってネ!」 …返した後で、なにも声まで真似ることもなかったと後悔した。 「おじさんだれ? まりさ、おじさんのことしらないよ?」 こいつ"まりさ"って名前か。 「俺は今日お前らを買ってきたんだよ。まぁ飼い主みたいなもんかなぁ…」 「かいぬし? かいぬしってなんだかしらないけど、おじさんはゆっくりしてるひと?」 「んー、まぁゆっくりしてるかな」 こいつの『ゆっくり』という言葉の使い方に疑問を感じたが、適当に流しておいた。 「じゃあ、おじさんはまりさもゆっくりさせてね。ここせまいよ! ここじゃせまくて まりさゆっくりできないよ! おじさんははやくまりさをここからだして、ゆっくりさせてね!!」 なんだこいつら!(怒) 確かにこのサイズのゆっくりにこのケースは狭いと思うが、この偉そうな口調はなんだ。 しかもこの顔。 自信に満ちあふれて命令してくるこの憎たらしい顔! 「どうしたの? なんでだまってるの? おじさんばかなの?」 「むか!」 頭に血がのぼった瞬間、まりさの声にもう一体のゆっくりが目を覚ました。 「うー、うゆぅ…。 ……ゆ? まりさ、ゆっくりしていってね!」 「ゆ! れいむおきたんだね! れいむもゆっくりしていってね!」 まりさはそれまでのやり取りをすっかり忘れたような様子で、目覚めた隣のゆっくりとあいさつを 交わしていた。 え~と、この鈍感なのがれいむ…と。 俺は怒りをおさめ、れいむというゆっくりがどんな奴なのか観察することにした。 れいむとまりさは『ゆっくりしていってね』を何度か繰り返すと、お互いに頬擦りし始めた。 「きめぇ!」 だが、ちゃんと頬を擦りつける動作をするには、このケースが狭すぎた。 「ゆ? まりさ、ここせまいよ。これじゃゆっくりできないよ」 「そうだよれいむ。このおじさんがまりさたちをこんなところにおしこめたんだよ。おじさん、 ゆっくりしてないではやくまりさたちをここからだしてよ!」 「そうだよ、はやくだしてよ」 「どうしてつったってるの? ことばがわからないの? ばかなの?」 「ばかなの? おじさんばかなの?」 憤慨した!!! 「うらあっ」 押し込めたのは俺じゃねぇ! 俺はバカじゃねぇ! 男はちゃぶ台をひっくり返すようにケースを投げ上げた。 「ゆぶっ」 「ゆ゙あ゙あ゙ああぁ」 ケースは空中で勢いよく8回転した後、木製の床に落ちて盛大な音を立てた。 「こんのクソ饅頭がッ」 男の怒りはそれだけでおさまらず、大股にケースに近づいた。 「ゆぐっ…! おじさん…どうしてこんなことするの…ゆっくりやめてね…?」 ケースのふたが壊れて外に投げ出されたまりさは、男の形相に怯えて震える声でうったえた。 「おじさん、まりさとゆっくりし…」 だが、男はまりさの体をむんずと掴み上げると、思いきりぶん殴った。 「ゆぎゃんっ!!」 まりさの体は壁に叩きつけられて平べったくひしゃげ、ボタリと床に落ちた。 衝撃で頬の皮が破け、中の餡子が露出している。 「ゆ…ゆぶぅぅぅぅ……」 まりさがよろよろと起き上がると、破れた傷口から餡子が飛び出てしまった。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ばり゙ざのあ゙んごがあ゙あ゙ぁぁ!! どぼじでごんなごどずるの゙お゙お゙お゙」 まりさは涙や涎にまみれながら、歯茎をむき出してむせび泣いた。 「まりさ! まりさ! …おじさん、おねがいだから、まりさをゆっくりゆるしてあげてね!」 ふたの開いたケースから這い出たれいむは、さっきまで一緒に悪態をついていたことも忘れて まりさの命乞いを始めた。 だが、まりさは自分の命乞いをしてくれるれいむの気持ちを反故にするような言葉を発し始める。 「れいぶがわるいんだよぉおじさん! れいぶが…ゆっくりできないのはおじさんがばかだからって そういったんだよおぉぉ!」 このままでは殺されると感じたまりさは、すぐそれとわかるような嘘で男の注意をれいむに向け ようとした。 「ゆ!? ゆゆう!!?」 れいむのほうは、あまりに唐突なありすの言葉に、餡子脳が混乱して絶句してしまった。 「ゆぐっ、ぞうだよ、れいぶがわるいんだよ! ばりざはおじざんのごど、ごれっぼっぢもばがなん…」 「おら゙ぁ!」 「ゆがあ゙あ゙あ゙あぁぁぁ…ぶびゃ!!!」 まりさは男に蹴り上げられ、壁に叩きつけられて餡子を撒き散らした。 今度は打ちどころが悪かったようだ。 「ぐぽぇ…」 ボトボトボト。 口から大量の餡子を吐き出したまりさは、焦点の定まらない目をぐるんぐるんと回して倒れた。 男はおとなしくなったまりさをつまみ上げた。 「ごぷっ…ゆぐ…ゆぐ…ゆっぐじ…ざぜで…………ゆっぐじ…じだい…」 まりさはでろでろと餡子を垂れ流しながら、うわ言のようにつぶやいた。 口や傷から流れる餡子から、むあぁ…と甘ったるい臭気が上がる。 まりさの姿に、男もここへきて落ち着きを取り戻しつつあった。 「だんでぼ…ずる゙がら゙………ゆ゙る゙じでえ……ごろ゙ざな゙いでえ……」 「…もう悪態ついたりしないか?」 懇願するまりさを見て、男は念を押した。 「じばぜん…じばぜん…ゆ゙る゙じで……ゆ゙っぐじじだい゙……」 「…お前もしないか?」 さっきまでケースの中で一緒だったまりさに裏切られたり、そのまりさが殴られて蹴られて 瀕死の重傷を負わされる様子を見ていたれいむは恐怖と混乱で固まっていたが、急に男が自分を 振り向いたのであわてて我に返った。 「ゆ…ゆぇ!?」 「もう悪態ついたりしないか!?」 「ひぃっ! もうしません! ここでゆっくりしたいですうぅぅぅぅぅ!!」 「よし、じゃあ許してやる」 男はそう言って、涙やら涎やら傷口の餡子やらでぐちゃぐちゃになったまりさの体をつまみ上げ、 ケースを持ち上げてテーブルの上に据えなおした。 「ゆうぅ…ゆうぅ…」 いまだむせび泣いているボロボロのまりさと、震えているれいむの体をケースの隣に並べて置くと、 男は首をひねった。 「たしかにこのケース、小さいよなぁ」 男はケースと二体のゆっくりの大きさを見比べながらつぶやいた。 もはやゆっくりたちも狭いと文句を言うことはなく、言われるとおりにします、といった様子で うなだれている。 ふたも壊れちまったしなぁ…直るかな…?」 男は割れたふたをケースの上部に置いて、下から接着面を見上げた。 その時だった! まりさはそれまでの様子からは想像できない機敏さで、れいむの体を突き飛ばした。 ぐにゅ! 「うわっ!」 「ゆゆっ!?」 突き飛ばされたれいむは、ちょうどテーブルと同じ高さにあった男の顔面に衝突した。 体が饅頭でできているためか、れいむは男の顔面に張りついたままだった。 「こんなところじゃゆっくりできないよ! らんぼうでばかなおじさんはれいむといっしょに ゆっくりしねばいいよ!!」 なんと、今までの惨めな姿はすべてまりさの演技だったのだ。 傷は深かったが、体全体の餡子の量は致死量に至るほど失われてはいなかったのである。 こうして男がまりさを許して隙を見せるまで、まりさは演技を続けていたのだった。 「じゃあね! ばかなおじさんと、ばかなれいむ! まりさはもっとゆっくりできるところにいって ゆっくりいきていくよ!」 「ぐうぅ…」 「ゆっくりしね! れいむといっしょにゆっくりしね!」 すぐに逃げればいいものを、ご丁寧に口上を述べてからまりさはゆっくり逃げ出した。 「このやろう!!!」 男は顔かられいむを引き剥がすと、まりさを追って駆け出した。 小さなゆっくりと、大きな人間と。 まともに走って、どうして逃げられることがありよう。 男は簡単にまりさの逃げ道に立ちはだかった。 「このクソ饅頭…もう許さねぇ…」 「ゆぐ…ぐ……」 あれほど強気だったまりさは、恐怖のあまり再び泣き出した。 「ゆあ゙あ゙ぁぁぁんゆ゙る゙じでえ゙ぇぇぇぇ!! だだゆ゙っぐじじだい゙だげだっだの゙お゙お゙お゙」 まりさは歯茎を剥き出しにして、家も揺れんばかりな泣き声を上げた。 「ばじざはでいぶどい゙る゙の゙がい゙や゙だっだだげな゙の゙お゙お゙お゙!!! お゙じざんがでいぶを゙ お゙い゙だじでぐでだらい゙っじょに゙ゆ゙っぐじ…」 男はまりさを両手で持ち上げると、 「ふん!」 と両手の親指でまりさの体をぱっくり割った。 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙な゙んでえ゙ぇ!? な゙んでごどずる゙の゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」 まりさは足のあたりを真っ二つに裂かれ、黒々とした甘そうな粒餡を露出した。 「い゙だい゙よ゙おっ!! でい゙ぶぅ!! でい゙ぶぅ!! だずげでえ゙え゙ぇぇえ゙ぇぇぇ!!!!!」 どれほど汚いのか。 二度も裏切られたれいむが助けに来るはずもなく、遠くでこの惨状を眺めているだけだった。 誰も助けてくれないまりさはぐちゃぐちゃに顔をゆがめながら絶望を味わった。 男は湯気でも吹きそうなくらいホクホクとしたまりさの餡子に顔を近づけた。 「ゆ゙ががあ゙あ゙あぁぁぶばああっぁぁぁぁあ゙っ!!!!」 途端にまりさは断末魔のような叫びを上げた。 「ずわ゙な゙いでっ! だめ゙えぇぇぇえぇばでぃざのあ゙んごずっぢゃだべえ゙え゙ぇぇ!!!!」 生きたままジュルジュルと体内の餡子を吸い出されていくおぞましい感触。 命の源の餡子を断続的に吸われるたびに、まりさは激しい苦しみに襲われた。 吸い出せる餡子が少なくなってくると、男は舌を伸ばしてまりさの体の中を舐め上げた。 「うゔっ…うぎゅゔっ! ……ぐ…ぶっ…! ぶゅぐっ…ぎゃびゅ! ………」 遠のいていく意識の中、男の舌で皮の内側を舐め上げられるたび、痛いような、くすぐったいよう な感覚が全身を走った。 9割ほどの餡子を男に食べられたまりさは、だらんと舌を垂らして白目を剥き出したまま ビクンビクンと痙攣を繰り返した。 「ぷはぁ…!」 男は真っ二つに裂かれたまりさの切り口から顔を上げた。 性格は言い表せる言葉も見つからないようなド腐れ外道だったが、餡子の味はなかなかのもの だった。 皮の外側のまりさの顔を見ると、白目を剥いたまま昇天していた。 カタカタカタカタカタカタ…… なにか硬質のものが打ち合わされる音がしたので見てみると、れいむが男を見上げたまま歯を 鳴らして震えていた。 「ああ…俺な…餡子が好きなんだよ。餡子"だけ"が好きで好きでたまらないんだよ…。もしも ナマ言ったり逃げたりしたら、お前もこいつみたいに中身だけ食い荒らすぞ」 男はヒラヒラと、ゆっくりまりさだったものの皮を振って見せると、それを生ゴミ入れに乱暴に 投げ捨てた。 「ゆぶぇ…」 れいむはその瞬間、恐怖のあまり口から一握りの餡子を吐き出して失神してしまった。 男はれいむをつまみ上げるとケースの中に入れた。 壊れたふたは、もう必要ないので捨てた。 終 続編 ~あとがき~ なんか目覚めたので書いてみた。 関連スレに感想くれたら嬉しい。 「虐待厨氏ね!」でもべつにかまわんよ。 耐性ついてるしガードも堅いから。 読んでくれた人、ありがとな。 ではまた~。 ~追記~ 一部に誤表記があったので訂正。 あと、アク禁で書き込めなかったのでここで。 感想と訂正箇所教えてくれたみんなサンクス。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1185.html
(満月の夜) 夜。小高い丘の大樹の根元。月の灯りに照らされた小さな影が五つ。 影の正体はゆっくり。車座に座り仲間の帰りを待っていた。 「ちーんぽっ!ちーんぽっ!」 「れいむとぱちゅりーがかえってきたんだね!わかるよー!」 「うー!おかえりーだどー!」 「・・・・・・」 「ただいまー!ゆっくりかえったよ!」 「おそかったんだぜ!それより『やまのぬし』とのはなしあいはうまくいったのか?」 「ええ、ばっちりよ。『やまのぬし』ゆっくりかなこは、わたしたちのだしたじょうけんをのんだわ。」 「それはよかったぜ!じゃあいよいよあしたからさくせんかいしだぜ!」 丘の上に集った七匹のゆっくり。彼女達は流れ者のゆっくりだった。 ある目的の為にこの地にやって来た。それぞれ餡子の繋がりは無いが、親子より深い絆で結ばれていた。 一般的な成体のゆっくりより一回り大きい、まりさ、れいむ、ありす、みょん。 大きさこそ平均的だがどのゆっくりよりも知恵が回る、今回の計画の立案者ぱちゅりー。 他の六匹と同じ年に生まれたにもかかわらず、子ゆっくりほどの大きさしかないちぇん。 そしてこの地方には生息していない希少種、他のゆっくりを捕食する体付きのれみりゃ。 七匹は円陣を組むと自分達の作戦の成功を祈り、出陣の儀式を始めた。 「じゃあいつものをやるぜ!このまんげつにちかう!わたしたちななひきのゆっくりは!」 「たとえうんでくれたおかあさんがちがっても!」 「きょうだいのちぎりをむすんだからには、こころをおなじくして。」 「おたがいたすけあうんだどー!」 「そして、ゆっくりするときはななひきいっしょにゆっくりするんだね!わかるよー!」 「ちーーーーんぽっ!」 「・・・・・・」 「「「「「いっしょにゆっくりしようね!!!」」」」」 (翌日 人間の里に隣接するゆっくりのコロニー) 七匹の仲間のぱちゅりーとありすは、この一帯の森と平原を支配するゆっくりぱちゅりーの元へ向かった。 この群れのボスであるぱちゅりーは身長が1m以上ある巨大ぱちゅりーだった。 その体躯もさる事ながら、ぱちゅりー種特有の知識をもって周りの信頼を集め、 千を超える配下のゆっくりからは『もりのけんじゃ』と讃えられていた。 「みなれないゆっくりだね!ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね。わたしとこのありすはたびのゆっくりなの。 たびのとちゅう『もりのけんじゃ』のうわさをきいてね。あいさつをしにきたのよ。」 「あんないするよ!ゆっくりついてきてね!」 「おはつにおめにかかります『もりのけんじゃ』。ぱちゅりーともうします。 たびのとちゅうにあなたのうわさをきき、あいさつにまいりました。」 「よくきてくれたわね。ゆっくりしていってね!ところでそちらのゆっくりは・・・?」 「このこはわたしのつれのありすです。うまれつきめがみえず、くちがきけないのです。」 「・・・・・・」 「そうだったの。」 「じつはおねがいがあってきたのです。ながたびのつかれでわたしもありすもからだがまいってしまいました。 しばらくのあいだこのむれにおいてもらえないでしょうか? ゆっくりから『もりのけんじゃ』とたたえられるあなたなら、きゃくじんをむげにはあつかわないはずです。」 「もちろんしごとはいたします。わたしもありすもかりはにがてですが、こどものせわくらいはできます。 みなさんがかりにいくあいだ、こどもたちのめんどうはわたしがみましょう。 そのかわり、ねどことごはんをていきょうしていただきたいのです。」 「おやすいごようだわ。きょうからよろしくね!ぱちゅりー、ありす!」 「さすがは『もりのけんじゃ』ありがとうございます。」 「・・・・・・」 (同日 森の小道) 七匹の仲間のまりさは道の真中で居眠りをするふりをして、ゆっくりが通りかかるのを待っていた。 そこへ狩りに出かけた森のゆっくり達がやって来た。 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」 「あれ?こんなところでねてるゆっくりがいるよ!ゆっくりしていってね!」 「ゆ!ゆっくりしていってね!ふぅ。おなかがいっぱいだったんで、ついいねむりしちゃったんだぜ。」 「ゆ?そんなにおなかいっぱいたべたの?れいむたちにもごはんがあるばしょをおしえてね!」 「おお、おやすいごようだぜ!まりさのあとについてくるんだぜ!」 ゆっくり達はまりさに連れられて人間の里に向かう。ゆっくりが畑の作物を食べ始めたのを確認すると まりさは森に戻り、またゆっくりが通りかかるのを居眠りのふりをしながら待つ。 畑でむーしゃむーしゃとやっていたゆっくり達は当然畑の持ち主に殺される。 元々森のゆっくり達は人間の畑を襲ったりはしていなかった。 ゆっくり達のテリトリーである森や草原には食料が豊富にあり、危険を冒して人里に出る必要が無かったからだ。 人間もそれを知っていたので畑の周りに何の対策もせず、さらにゆっくり撃退に関する知識も不足していた。 突然畑を荒らすようになったゆっくりに、里の人間達は頭を痛めた。 (数日後 人間の里) 人々は里の集会所に集まり、近頃畑を荒らす様になったゆっくりにどう対処するか相談していた。 里全体を板塀で囲おう。→それだけ大量の木材をどうやって調達する?それに手間が掛かり過ぎる。 罠を仕掛けたらどうだ?→どんな罠が有効なのか。そもそも罠だけですべてのゆっくりを捕まえるのは無理。 巣を叩き全滅させよう。→ゆっくりが森からやって来るのは解っているが、巣が何処にあるかはわからん。 ゆっくりについての知識がまるで無い人々の会議は、踊るばかりで一向に進まない。 そこへ七匹の仲間のれいむ、みょん、ちぇん、れみりゃがやって来た。 「おじゃまします!ゆっくりしていってね!!!れいむたちがおてつだいするよ!」 「なんだお前ら?わざわざ殺されに来たのか?」 「ちがうよ!れいむたちはひとにめいわくをかけるゆっくりをたいじする、いいゆっくりだよ!」 「へー。ゆっくりには良いゆっくりや悪いゆっくりがいるのか?」 「そうだよ!れいむがわるいゆっくりをたいじするほうほうをおしえるよ! まかせて!ゆっくりのことはゆっくりがいちばんよくしってるよ!」 「まぁ確かにそれは一理あるが・・・いったい何が狙いなんだ?」 「れいむたちはたびのとちゅうだよ!でもちょっとたびにつかれちゃったの! しばらくのあいだここでやすませてね!たべものはもりでとってくるからしんぱいないよ!」 「ふーん。まぁ畑の物に手を出さないって言うなら里の中に置いてやってもいいよ。 今は使ってない物置が一つあるから、そこで休むといい。」 「ありがとうおじさん!じゃあ『わるいゆっくりのげきたいほう』をおしえるよ!」 「ごーにょ、ごーにょ、ごーにょ・・・」 「はぁ?そんな事でいいのか?それくらいなら今日中に準備できるが・・・」 「うん!それだけやってくれたらだいじょうぶだよ!あとはれいむたちにまかせてね!」 (翌朝 里のはずれの畑) れいむ達が出した指示は実に簡単なものだった。 まず畑の周りをロープで囲う。数mおきに杭を打ちロープで囲っただけ。 板塀で全体を囲うより遥かに経済的だが、もちろん下を潜ったり上を飛び越えたりできる。 こんなもので本当に撃退できるのかと、里の人々は不安に思った。 次に森から近い所に一か所、ロープで囲っていない偽の畑を造る。これには今年作物を植えなかった畑を使った。 そして適当に雑草を刈り、食べ残しの大根の葉を植えていく。 人間の目から見たら一目で解る簡単な偽装。これにゆっくりが引っかかるのだろうか。人々の不安は尽きない。 最後に深さ1m奥行き1mの堀を造る。里全体を囲うのではなく、偽の畑の近くに10m掘っただけ。 底には30cmほど水を貯めておく。これが一体なんの役に立つんだ? 人々は疑問に思いながらもすべての準備を済ませた。 昨日のうちに準備されたこれらの設備に満足したれいむ達は、それぞれ配置に就く。 ちぇんは森の入口に。残りは農機具をしまう小屋の陰に隠れる。 後は奴らが来るのをゆっくりと待つだけ。 (同刻 ゆっくりの群れ) 群れのボスの巨大ぱちゅりーが何やら深刻な顔で考え事をしている。 そこへやって来る七匹の仲間のぱちゅりー。 「どうしたんです?ゆくえふめいのゆっくりたちのことをかんがえているんですか?」 「そう・・・あのこたちどこへいってしまったのかしら?かりにいったこたちがかえってこない。 きのうまでにいなくなったぐるーぷは5つ。ぜんぶで25ひき。みんなまいごになったとはかんがえにくいわ。」 「そうさくたいをだすべきですね。いなくなったぐるーぷがたんとうしていたばしょをちゅうしんに。」 「いなくなったこたちは、にんげんのさとのちかくをたんとうしていたのよ。」 「だったらにんげんにきいたらなにかわかるかもしれません。さとにそうさくたいをはけんすべきです。 ねんのため、ふくすうのぐるーぷをいっしょにこうどうさせて。」 「そうね。とりあえず、4ぐるーぷではけんしてみるわ。ありがとうぱちゅりー。そうだんにのってくれて。」 「どういたしまして。(ふぅ・・・まったくおばかさんね。まぁ、そのほうがたすかるのだけど。)」 (数刻後 里のはずれ) 物見に出ていたちぇんが帰って来た。他のゆっくりとは比べ物にならない速さでぴょんぴょん跳ねてくる。 「みんなー!やつらがきたよー!せんとうじゅんびだね!わかるよー!」 「ゆゆっ!きたね!みょん、れみりゃ、じゅんびはいい?」 「ちーんぽっ!」 「うーー!まかせろだどー!」 自分達を退治する為にれいむ達が待ち構えている事など、まったく知らない捜索隊はゆっくりと近づいてきた。 「おーい!みんなどこにいるのー!」 「れいむー!まりさー!いたらへんじしてー!」 「むかえにきたよー!いっしょにゆっくりかえろう!」 「ゆ!あそこにおいしそうなたべものがあるよ!」 「ほんとだ!ちょっとよっていこうよ!」 「そうだね!あるきすぎておなかがすいたよ!」 「ゆゆっ!たべもののまわりにかこいがしてあるよ!だれかいじわるなひとがいるね!」 「だいじょうぶだよ!あそこはかこいがしてないよ!」 「ゆー!まりさがいちばんにたべるよ!いただきまー・・・」 「そこまでだよ!」 「!」 「ひとのはたけをあらすのはよくないよ!そんなゆっくりはれいむがゆるさないよ! さとのはたけをまもる(ほんとはちがうけど)ため、ゆっくりしんでいってね!!!」 「なにをいってるの?ばかなの?」 「これはまりさたちがみつけたんだからまりさたちのものだよ!」 「20ぴきのゆっくりをあいてにひとりでなにをするつもり?じさつしがんしゃなの?」 「ふふふ・・・みょん!でばんだよ!」 森のゆっくり達がれいむを罵倒するのに夢中になっている隙に、みょんはゆっくり達の背後に忍び寄っていた。 その口にくわえられているのは肥後守。里の人間から借りたものだ。 スパッ!スパッ!スパッ!立て続けに三匹のれいむのリボンを切り落とす。 「ゆーーー!れいむのりぼんがあああ!!なにするのおおおおお!!!」 「ゆ?」「ゆ?」「ゆ?」「ゆ?」 「ゆ?みんななにしてるの!れいむのりぼんきられちゃったよ!みんなであいつをやっつけるよ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「ゆぶっ!やめっ!やめてえええ!!!どうじでぞんなごどずるのおおおおおおお!!!!」 「ゆげっ・・・どう・・・し・・て・・・」 「ゆ~?いったいなにをやってるの?じぶんのなかまをころすなんて。ばかなの?」 「ゆーーーーーー!!!まりさたちいったいなにしてたのおおおおおお!!!!」 「れいむ!しっかりして!れいむーーーーー!」 「どうじでこんなごどにいいいいいいいいい!」 「おお、おろかおろか!さっきまでのいせいはどこへいったの? そっちがこないならこっちからいくよ!れみりゃ!でばんだよ!」 「うーーーーーー!!!たーべちゃーうぞーーーーーー!!!」 混乱しているゆっくり達に向かって、れみりゃがドスドスと駆け寄っていく。 初めて見る体付きのゆっくりに怯え、ゆっくり達はれみりゃと反対の方へ逃げ出す。 そこで待っていたのはちぇん。 「みんなー!こっちだよー!いそいでにげるよついてきてー!」 水が張ってある堀の方へ誘導するちぇん。堀の前まで来るとぴょーんと堀を飛び越える。 1mを超える跳躍などちぇん種の中でもこのちぇんにしか出来ない芸当だ。 しかしそんな事を知らないゆっくり達は、次々と堀を飛び越えようとして失敗する。 「ゆーーー!どうしてとびこえられないのおおおお!!!」 「ゆっ!たいへん!みずだ!れいむたちみずのなかにいるよ!!!」 「ああああ!!!からだがとけちゃうううう!!!だれがだずげでええええええ!!!!」 20匹で編成された捜索隊は全滅した。しかし、これで終わりでは無かった。 次の日も、次の日も、捜索隊はやって来て前の隊と同じ道を辿る。 知恵者のぱちゅりーにいい様に利用されている無能な巨大ぱちゅりーのせいで。 (小望月 人間の里、れいむ達が住む物置小屋) 「ちーんぽっ!ちーんぽっ!」 「まりさがきたんだねー!わかるよー!」 「うー!まりさー!こっちだどー!」 「おお、ひさしぶりだぜ!どうやらじゅんちょうにいってるみたいだな!」 「うん!まりさのほうはどう?『やまのぬし』のむれはちゃんとじゅんびしてた?」 「ああ!いまひっこしのじゅんびをしてる。それにやくそくどおりごはんをたくさんあつめてたぜ!」 「まあ、ごはんをあつめるのはどうでもいいんだけどね!てまがはぶけるのはいいことだけどね!」 「かえりにぱちゅりーにもこっそりあってきた。むこうもじゅんちょうだっていってたぜ! いよいよあしたがやくそくのひ。すべてけいかくどおりだぜ!」 「いよいよあした、いや、あさってになったらすべてがてにはいるね!」 「ああそうだぜ!ちぇん、あしたはがんばるんだぜ!すべてはちぇんのえんぎりょくにかかってるんだぜ!」 「わかるよー!あしたはまかせてよー!」 「うー!がんばるんだどーーーー!」 「ちーーーーーんぽっ!」 (約束の日の朝 巨大ぱちゅりーの群れ) ちぇんが走って来る。七匹の仲間のちぇんだ。体中に擦り傷を付けて叫びながら駆けて来る。 「たすけてー!たすけてよー!」 「ゆ?どうしたの?ゆっくりしていってね!!!」 「たいへんなんだよー!『もりのけんじゃ』にあわせてほしいんだよー!」 「いまあんないするよ!ゆっくりついてきてね!」 「ゆ?どうしたの?そんなにあわてて。それにからだがきずだらけじゃないの。」 「にんげんにつかまってたんだよー!みんながきょうりょくしてにがしてくれたんだよー! そして『もりのけんじゃ』にたすけをもとめるようにいわれてきたんだよー!」 「みんな?」 「このもりにすんでるゆっくりだって、『もりのけんじゃ』のいちぞくだっていってたよー! みんなにんげんにつかまってるんだよー!はやくたすけてあげてー!」 「いなくなったこたちはみんな、にんげんにつかまっていたのね。 どうするの『もりのけんじゃ』?とうぜんたすけにいくわよね?」 「ゆーーーーーー!!!とうぜんよ!!!なかまをさらったにんげんはゆるせないよ!!!」 「にんげんはてごわいあいてよ。おとなのゆっくりぜんいんでいったほうがいいわね。 こどもたちのことはわたしとありす、それにこのきずだらけのゆっくりにまかせてくれたらいいわ。」 「ゆ!ありがとうねぱちゅりー。」 「どういたしまして。わたしたちはたたかえないもの。これくらいのことはしないと。 こどもたちのことはしんぱいしなくていいわ。(すぐにあとをおわせてあげるから・・・)」 巨大ぱちゅりーはすべての大人ゆっくりを集めるとこう言った。 「みんな!せんそうよ!!にんげんをたおしてつかまっているなかまをたすけるよ!!!」 「ゆーーー!!!にんげんをやっつけるよ!!!」 「まっててねみんな!いまたすけにいくからね!!!」 「にんげんなんかまりさがみんなやっつけてやるよ!!!」 いなくなった仲間たちがまだ生きている、そして人間に捕まっている、と勘違いをした森のゆっくり達。 気勢を上げ人間の里に向かって行くゆっくり達を眺めるぱちゅりーとちぇん。 「ふぅ・・・そろいもそろってばかばっかり・・・いなくなってくれてせいせいするわ。」 「わかるよー!あいつらのあいてをするのにつかれたんだねー!」 「まぁしかたないんだけどね。これがわたしのやくわりだったし。 さあ、ありすをむかえにいきましょう。さいごのしごとがのこってる。」 「わかるよー!ありすのしごとがいちばんらくだよねー!」 「そんなこといわないの。かのじょにしかできないしごとなんだから。」 (人間の里のはずれ) 「ちーんぽっ!ちーんぽっ!」 「ん?どうしたの?みょん。ぐあいでもわるいの?」 「うー・・・ちぇんがいないとなにいってるかよくわからないどー。」 「ちんぽっ!ちんぽっ!ちんぽっ!」 その時地響きを立てながら『もりのけんじゃ』の群れが里のはずれに到着した。 「ああ、『やつらがきた!』っていいたかったんだね!」 「ちーーーーーんぽっ!」 「ごめんだどー。わからなかったんだどー。」 「じゃあれいむはにんげんにしらせてくるね!ここはまかせたよ!こんやあのおかでしゅうごうだよ! てきとうにたたかったらはやくにげてね!しんじゃだめだからね!」 「ちんぽーーーーーー!」 「まかせるんだどー!れみりゃとみょんがくんだらつよいんだどー!」 「ゆっ!あなたたちここでなにしてるの?あなたたちもにんげんからにげてきたの?」 「うー?なにいってるんだどー?れみりゃとみょんはにんげんのみかただどー! あいてになってやるからさっさとかかってくるんだどー!」 「ちんぽっ!」 「ゆー!!!ゆっくりなのににんげんにみかたするなんて!みんなこいつらからやっつけるよ!!!」 戦闘が始まる。みょんがれいむ種のリボンを切って混乱を起こし、 れみりゃはゆっくり達を掴むと堀のなかにぽーいと投げ捨てていく。 初めのうちこそ優勢に闘っていたれみりゃとみょんだが、やはり多勢に無勢。しだいに追い詰められる。 「うー。このままじゃまずいどー!」 「ちんぽ~」 「おーい!ゆっくり達!加勢に来たぞー!遅れてすまない!」 手に手に棒やクワをもった男達が駆け付けた。男達は手に持った武器や足で次々にゆっくりを潰していく。 森のゆっくり達も仲間を助けるため人間に襲いかかる。こうなればゆっくり達が全滅するのは時間の問題。 自分達の仕事が終わったれみりゃとみょんは、混乱の隙をついてさっさと逃げ出した。 (同刻 巨大ぱちゅりーの巣) 「みんなおちついて。ありすのまわりにゆっくりあつまるのよ。にんげんがくるかもしれないわ。」 「ゆー。こわいよー。」 「だいじょうぶ。わたしがにんげんからまもってあげるわ。(ありすからはまもってあげないけどね・・・)」 「こどもはみんなあつまったみたいだよー!これでぜんぶだよー!」 「そう。じゃあこれでわたしとちぇんのしごとはおしまいね。あとはありすのしごと。 ありす、もういいわよ。つかれたでしょう。めがみえずくちがきけないふりをするのは。 もうがまんすることないわ。ぞんぶんにやっちゃって。 わたしたちはちょくせつゆっくりをころすことができない。これはあなたにしかできないしごとだわ。」 「・・・・・・」 「あら?どうしたの?」 「うっひょおおおおお!!!!もうがまんできねえええええええええ!!!!!!!! ちっちゃいゆっくりもかわいいよおおおおおおおおおお!!!!!! いっしょにすっきりしようねえええええええええええええ!!!!!!!!」 「うわ・・・」 「わかるよー。がまんしすぎてすこしこわれちゃったんだねー。ちょっとこわいよー・・・」 「ゆーーー!!!やめてええええ!!!ありすおねえちゃん!!!やめてええええええ!!!!」 「いやーーー!!!!すっきりしたくないいいいいい!!!!しんじゃうううううう!!!!」 「やめちぇね!ゆっきゅりやめちぇね!れいみゅはまだしゅっきりしたくにゃいよー!」 「いきましょうかちぇん・・・ここにいたらわたしたちもあぶないかも・・・」 「そうだねー・・・ありす!こんやあのおかでしゅうごうだよ!まってるからね!」 「いぃぃぃぃやっほおおおおおおおおおおう!!!!!!!!!! すっきりーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」 (満月の夜) 夜。小高い丘の大樹の根元。月の灯りに照らされた小さな影が六つ。 影の正体はゆっくり。車座に座り仲間の帰りを待っていた。 「おそいぜありす。どこほっつきあるいてたんだ?」 「ああごめんなさい。ひさしぶりにすっきりしたものだから・・・ こうふんをしずめるためにゆっくりしてたのよ。あら?もしかしてあなたもわたしとすっきりしたかった?」 「い、いや。それはえんりょしとくぜ。」 「でしょう?だからおちつくまでひとりでいたのよ。」 「ゆー。ありすはあいかわらずだね!」 「そうだよー!ちょっとこわかったんだよー!」 「ふふふ。だいじょうぶよ。わたしたちはこのよにたったななひきだけのなかまじゃないの。 おやはちがっても、ゆいいつのかぞく。かぞくとむりやりすっきりしようなんておもわないわ。」 「うー!そうだどー!みんなだいじなかぞくだどー!」 「ちーーーーーーーーーーんぽっ!」 「まぁこんかいもうまくいったわね。ところでれいむ『やまのぬし』は?もうひっこしはすんだの?」 「ゆ?もんだいないよ。いまごろかなこのむれは、ひっこしいわいのえんかいのさいちゅうだよ。」 「そう。よるおそくまでえんかいをして、あしたはきっとひるすぎまでおきてこないわね。 あとはあさいちににんげんたちにやつらのすのばしょをおしえるだけ。 それでここらへんのゆっくりはすべてきえる・・・ もりも、そうげんも、やまも、このへんにあるたべものは、すべてわたしたちのもの・・・」 「さすがぱちゅりーがかんがえたけいかくね。すべてうまくいったわ。」 「れいむ、にんげんのほうはどうなんだ?まりさたちのことをかんぜんにしんようしたのか?」 「だいじょうぶだよ!ひとつきちかくはたけをまもったからね! やさいをわけてあげるからいつでもあそびにおいで、っていってたよ! れみりゃとみょんがしにものぐるいではたけをまもってるところをみせたからね!」 「そうだどー!がんばったんだどー!」 「ちーーーんーーーぽっ!!!」 「それはよかったぜ。まえのところではゆっくりをぜんめつさせるのはせいこうしたけど、 そのあとにんげんにおいだされてしまったからな。こんかいはだいじょうぶだな!」 「ええ。これでこころおきなくゆっくりできるわ。たくさんたべて、たくさんゆっくりして。 わたしはもっとかしこくなるわ。」 「まりさとれいむ、ありす、みょんはもっとおおきくなるぜ!」 「うー!れみりゃももっとつよくなるんだどー!」 「ちぇんはもっとすばやくうごけるようになるんだねー!わかるよー!」 「そうね。わたしたちもっとつよくならないと。あいつらにふくしゅうするため・・・」 「ゆ!そうだよ!れいむたちをおいだしたあいつらにふくしゅうしないと!!!」 「そう。あいつらだけはにんげんのてをかりず、ちょくせつやらないときがすまないわ。」 「さぁ、けついもあらたにしたところでいつものやつをやるぜ!」 「このまんげつにちかう!わたしたちななひきのゆっくりは!」 「たとえうんでくれたおかあさんがちがっても!」 「きょうだいのちぎりをむすんだからには、こころをおなじくして。」 「おたがいたすけあうんだどー!」 「そして、ゆっくりするときはななひきいっしょにゆっくりするんだね!わかるよー!」 「ちーーーーんぽっ!」 「そしていつか、わたしたちをおいだしたやつらを・・・ははのかたきをかならずころす・・・」 「「「「「「いっしょにゆっくりしようね!!!」」」」」」 end 作者名 ツェ 今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」 「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2218.html
ここに文字を入力注意書き: 某4コママンガを参考にしています。詳細は文末に示します。 秋も深まり、山々はすっかり紅葉で覆われ、少し肌寒い風が吹き抜けていく。 そんな日々、市場で買い物を終え自宅へ向かう途中のこと、 獣道を歩く僕の前に一匹のゆっくりれいむが立ちはだかった。 高さ40cm余り、横幅は60cmにもなるかなり成長した個体のようだ。 この獣道、普段は殆ど人が通らない場所で、言ってみれば秘密の近道ってとこかな。 「ゆゆ!おにいさん?こっからさきはれいむのおうちだよ! とおるにはゆっくりつうこうりょうをはらっていってね!!!」 「通行料?具体的には何が欲しいのかな?」 「ゆ、ゆーん… れ、れいむにおいしいおはなさんをおいていってね!!!」 「なんだ…花か。ほれよ。」 「ゆゆゆ?むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 相手するのも面倒だったので、僕は買い物袋の中からハーブをれいむに差し出すと、 足早に先へ進もうとした。なぜか右足が重い。 「そ、そこからさきにはゆっくりすすまないでね!!! こ、これだけじゃつうこうりょうがたりないよ!ゆっくりはらっていってね!!!」 なんと右足にれいむがしがみついて来たのだ。 ゆっくりにしては珍しい行動だったので再び問いかける。 「今度は何が欲しいと言うのかね?」 「ゆ!? ゆーん… ゆっくりあまあまのおさとうをちょうだいね!!!」 「なんだ…砂糖か。ほれよ。」 「ゆぐっ…! むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「じゃあ僕は先に進むからね。」 僕は買い物袋から角砂糖とカリン糖を十数個差し出し、この場を後にしようとした。 再び右足に荷重がかかる。 「そ、そこからさきにはゆっくりすすまないでね!!! ま、まだつうこうりょうがたりないよ!!!ゆっくりはらっていってね!!!」 いくらゆっくりとは言え欲張りな行動である。 「今度は一体何が欲しいと言うのかな?」 「ゆゆ!? ゆーんゆーん… れいむにゆっくりはちみつさんをちょうだいね!!! もしはちみつさんがないのならゆっくりひきかえしてね!!!」 「蜂蜜か…。ほれよ。」 「ゆゆゆ!?どおじておにいさんはちみつさんなんかもってるの!!!」 「れいむがくれっていったんだろ?」 「ゆぐっ…! むーじゃ、むーじゃ、じあわぜー!」 「今度こそ僕は先に進むからね。」 再び重くなる左足。何か他に理由があると言うのか…? 「ぞ、ぞごがらざぎにはゆっぐじずずまないでね!!! ま゙、まだまだづうごおりょおがたりないよ!!!ゆっぐじはらっでいっでね!!!」 「欲張りなれいむだね。今度は何が欲しいのかい?」 「ゆがっ・・!?ゆう・・・ゆーん・・・ れ、れいむにゆっくりあまあまなくりーむをちょうだいね!!! もしもっていないのならゆっくりひきかえしてね!!!」 「クリームか…。ほれよ。」 僕は買い物袋の中からコンデンスミルクを取り出すと、れいむの口に注ぎ込んでやった。 甘ければいい。細かいことはわからないだろう。 「ゆがっ!?どぼじでおに゙いざんぐぢーむなんがも゙っでるの!!!」 「れいむがちょうだいっていったんだろ?」 「ゆががっ…! むーじゃ、むーじゃ、じあ゙わ゙ぜーー!!!」 とは言いつつも両目からぼろぼろと大粒の涙をこぼしている。 気にせず先に進もうとすると 「だ、だべなんだがらね!!!ごのざぎにはゆっぐじずずまないでね!!! ゆっぐじひぎがえじでいっでね!!!」 またしても右足にしがみつくれいむ。食べ物が目的じゃないとすると、 この先には相当大事なものでもあるというのか? 「こっち行かないとお兄さんは帰れないんだけどなぁ?」 「ざ、ざぎにずずむならゆっぐじでいぶにづうごおりょおをはらっでいっでね!!!」 「でいぶのお遊びに付き合ってる暇なんか無いんだけどなぁ…。ゆっくりどいていってね!!!」 「ゆがっ!? でいぶにゆっぐじおでんじじゅーずをぢょおだいね!!! ないならゆっぐじひぎがえじでいっでね!!!」 「お兄さんのおうちにはオレンジジュースがたくさんあるよ? 通してくれたらでいぶに分けてあげてもいいけど?」 「や、やっぱりだべだよ!!!ゆっぐじひぎがえじでね!!!ゆっぐじひぎがえじでね!!! ごごがらはでいぶのおうぢだよ!!!ゆっぐじごっぢごな゙いでね!!!」 もう「でいぶ」に構うのも飽きたので、無視して歩みを進める。 すると前方の草むらの中、木の根元の穴から伸びるオレンジ色の塊が姿を現した。 ゆっくりの卵である。 握り拳よりやや小さいゼリー状の塊が蛇のように連なり、見えているだけでも数百は下らない。 恐らくは巣の中で卵を産みつけていたが収まりきらず、外まではみ出したってところだ。 一つ一つの形状は縦に長く昆虫の卵のようでもあり、長く長く連なる様子は蛙のそれを彷彿とさせる。 よく見ると内部に非常に小さいながらもゆっくりらしき姿が見て取れた。 「ははぁー…こういう訳だったのかぁ。」 「やべでね!ゆっぐじやべでね!!!でいぶのかわいいごどもにでをだざないでね!!!」 「ふーん…」 それだけ言うと僕は、卵の群れの一角に塩を振りかけ始めた。 浸透圧により見る見るうちに卵がしぼんでゆく。 「やべでえええええ!!!でいぶのおぢびぢゃんになにずるのおおおおおお!!! ゆっぐじやべでいっでね!!!ゆっぐじやべでえええええええ!!!」 れいむは卵の前に立ちはだかり、塩をこれ以上子供たちに浴びせまいと大きく口を広げた。 「ゆっぎゃあああ!!!でいぶのおめめがっ!いだいよ゙おおおおおおおおお!!! でいぶのおぐぢがぁああああああああ!!!ゆっぐじやべでえええええ!!!」 目や口などの粘膜に塩がかかるたび、れいむは悲痛な叫びを上げた。 体が大きめなだけあってその叫びも一段と大きい。余計に敵を呼び寄せてもおかしくはない。 「ほーら、今度はこっちだ。おいしいお塩をあげるからねー♪」 オレンジ色のゼリーは塩と触れると直ちに縮み始め、こげ茶色の塊へと変貌していく。 「やべで、やべでよおおおおおお!!! でいぶのおぢびちゃんはおじおなんでいだないぼおおおおおお!!!」 れいむは満身創痍ながら卵の前で塩を受けとめようと必死にかけずり回る。 「でいぶのおぐぢが、おぐぢがゆっぐじでぎないよ゙おおぉぉおおおおおお!!! おにいざんはゆっぐじやべでね、ゆっぐじやべでいっでね!!!」 両目から滝のように涙を流しているが、それでも諦めようとはしなかった。 ふと視界に蜂蜜色の物体が飛び込んだ。 近寄ってみると息を荒げるゆっくりありすであった。面白いことを思いついたぞ…! 「ゆふー、ゆふー、れいむのこえがきこえるわ!!!どこなのお? ありずがずっぎりざぜであげるよおおおおおおおお!!!」 「やぁやぁとかいはのありすちゃん。」 「ゆゆ?とかいはのありすはいまいそがしーのよぉ?おにいさんはてみじかによーをすませなさいよ?」 「そのれいむのとこにつれてってあげようとおもってさ。」 「ゆほっ!?べ、べつにありすはれいむのことなんてどおでもいいのよ? でもおにいさんがつれてってくれるっていうならのってあげてもいいわよ?」 ありすは顔を赤らめ涎を垂らしながら答える。その顔、本心がわかりやすく見て取れる。 僕ももちろんそのつもりだ。 ありすを抱きかかえ足早にれいむの元へと向かう。 「ゆっほおおおおおお!?れいむのかわいいたまごがたくさんあるわ!!! みてるだけですっきりしちゃうわあああああ!!!すっきりー♪」 ありすから放たれた乳白色の粘液に卵の一角が覆われていく。 「やべでええええ!!!すきなひとじゃないとあかちゃんのもとかけちゃだべえええええ!!!」 「ありすのためにこんなにたくさんよういしてくれたのね!!! れいむってつんでれねえええええ!!!」 「だべえええええ!!!れいむのだいすきなまりさじゃないとだべええええ!!! ゆっぐじやべでいっでね!ゆっぐじやべでええええええ!!!」 「そのまりさってのは、こいつの事かな?」 「ゆがっ!?ま゙、ま゙、ま゙り゙ざぁあああああぁああああ!!!」 数十分前のことだ。市場を後にし藪森へ歩みを進めようとした頃―― 「こっからはまりさのてりとりーなんだぜ!!!おにいさんはゆっくりあっちへいけだぜ!!!」 「ここをとおらないとお兄さんおうちに帰れないんだけどなあ?」 目の前にこれまた60cmもあろうかという大きなゆっくりまりさが立ちはだかった。 無視して先へ進もうとすると… どかっ! 尻に鈍い痛みが走る。まりさの体当たりだ。 重さも相当なため思わずよろけてしまう。 「まりさのたいあたりなのぜ!これにこりたらゆっくりむこうへいけなのぜ!!!」 まりさは僕の前に回り込んで自慢げに語りだす。 「ほぉおお? 向こうへ行かなかったらどうするのかなぁ?」 「ゆがっ!?と、とにかくこっからはすすませないだぜええええええ!」 まりさが再び体当たりを仕掛けてくる。 一歩横によけてみる。ゆっくりにしては速いがかすりもしない。 案の定まりさの勢いは止まらず向こう側の木に突進し、盛大に全身を打ち付ける。 「ゆがっ…!ゆ・・・ゆぐぅ・・・」 「おーい?いきてるかー?」 まりさは白目を向き天を仰いでいる。もっとも枝葉に覆われ空を拝むことはできないのだが。 「あーあ、見事に伸びちまったなぁ。しゃーない、持って帰ってやるとするか。」 僕は背負っていた篭にまりさを放り込み、その場を後にした。 「ゆ…ゆーん・・・ ゆゆっ!?ここはどこなのぜ?」 「ま、まりさ!?きがついたのね!!! みてみて!!!れいむね、いっぱいおちびちゃんうんだんだよおおおお!!!」 「れ、れいむううううう!!!よくがんばっただぜえええ!!!」 「でもこのありすとそのおにいさんがゆっくりできないんだよ!!!」 「ゆゆゆ!?ゆっくりできないおにいさんとありすはゆるさないのぜええええ!!!」 まりさは近くにいたありすに体当たりを仕掛ける。 発情ありすとはいえ体格差は歴然であり、放物線を描き地面に叩きつけられる。 「ああああっ!? まりさってとんだえすえむぷれいなんだからぁああああ!?」 程なくして気を失った。 「さっきはよくも、よくもおおおおおお!!! でいぶまでいじべで、ま゙り゙ざぼおゆるざな゙いのぜええええ!ゆっぐじじねええええぇぇええええ!!!」 再びまりさが僕に突進を仕掛ける。僕は手近にあった太い枝を拾い上げると、 一歩左に下がり野球の打者の要領で勢いよく振りぬいた。 「ゆべっ!? ゆびぶべぼばびぶべぼゆびゃぁああぁああああああああああぁぁぁぁ!!?」 真っ二つに裂かれたまりさは壮大な断末魔を上げると、物言わぬ餡子の塊と化した。 「ど、ど…、どぼじでごんな゙ごどずる゙の゙おおぉぉおおおおお!!?」 「いや…、どぼじでって言われてもなぁ…。れいむ達から仕掛けてきたんだろ?僕はそれに応じただけさ。」 「でいぶのおぢびぢゃんがえじでええええええ!!!ばでぃざをがえじでよおおおおおおぉおおおお!!!」 「卵ならまだ全滅しちゃいないだろーよ。」 「すきなひどにあがぢゃんのもどかげでもらわないとうま゙でないよ゙おおおぉおおぉおお!!! ゆっぐじがえじで、ばでぃざをがえじで、でいぶのあがぢゃん、がえじでよぉおおおおぉおおおおお!!!」 「んなこと言われてもなぁ…。」 「ど、どぼじで…、どぼじでな゙の゙ぉぉおおおおぉおおお!!! ばでぃざ・・・、あがぢゃん・・・、がえじで、がえじで… がえじでぇぇええええぇぇ・・・」 その大きな饅頭は、大粒の涙をぼろぼろとこぼし、悲痛と怒りの余り泣き叫んでいた。 溢れる涙は「彼女」の足元に水溜りを作り始めていた。 僕はただ家に帰りたかったがためにやっただけ。 道を邪魔をした挙句そんな剣幕で問い詰められても困るのだ。 絶望に打ちひしがれる「でいぶ」を目の前にして、僕はどうしていいかわからなかった。 「んほっ!?なみだによだれにぐっちょぐちょのれいむもかあいいのよぉおおおおお!!!」 「ゆがっ!?ゆっぐじごっぢにこないでね!ゆっぐじやべでね!!!」 途方に暮れているうちにありすが気を取り戻した。すぐさまれいむに一直線。何という見上げた根性・・・。 塩攻めにされ、愛するまりさを失ったショックを受け、泣き疲れたれいむにもはや策は残されていなかった。 ありすの為すがままになるしかない。 「んっほおおぉおおおぉおおお!ぐっちょぐちょのれいむぎもぢいよおおおおおお!!! あらてのろおしょんなのねえええええええ!!!すっきりー♪」 「やべでぇええええぇええ!ずっぎじー!」 「めをそむけなくていいのよおおおおおおお!!!れいむったらつんでれね!!! すっきりー♪」 「ゆっぐじやべで、ゆっぐじやべでね!!!ずっぎじー!」 「れいむのろおしょん、れいむのろおしょんあまじょっぱくておいしいいいいいいいいいい!!! もっとちょおだい、もっとちょおだいねええええええええええ!!!」 「でいぶおいじぐないぼおおおおおお!!!」 「ひていしなくていいのよ?れいむったらつんでれなんだからああああ!!!すっきりー♪」 「やだぼおおお、やだぼおおおおおおおお!!!すっぎじー!」 「もっと、もっとありすにあいをちょおだいねええええええ!!!」 「ゆっぐじやべでね!ゆっぐじ・・・ゆ・・・ゆっぐ・・・」 この状況を打破してくれたありすには感謝しなければならないのかも知れない。 そんな僕の内を余所に、ありすの勢いは止まることを知らなかった。 「れいむ?ねちゃったのぉおお?とかいはのありすのてくがきもちよすぎたのねええええ! うぶなれいむもかぁいいよぉおおおおおおお!!!」 れいむは気絶か、腹上死でもしたのか、とにかく動かなくなった。 いずれにせよその額からは緑色の突起が数多く現れ始めており、運命は決まったも同然である。 「あら…?たまごがたくさんあるじゃなあああい! ありすのためによおいしておいてくれたのねええええ!!!すっきりー♪ みてるだけですっきりしちゃったわ!!!すっきりー♪ れいむっておませさんなんだからああああああああ!!!すっきりー♪ ゆっほおおおおぉおおおおおおおお……」 この後どうなるかは想像に容易い。 夥しい数の卵を貪るうちにありすは干からび、万が一孵化できたとしても誰が育てると言うのだろうか。 冬が近いこの季節、子供たちだけで生き抜くには絶望的である。 オレンジ色の卵達が徐々に乳白色に染まっていくのを見届けていた僕は、 追われる様にして我が家への道を急いだ---- 終われ その後...塩がかからずにありすの精子餡を受けたたまごたちは、「ゆっくりしていってね!」という声で生まれてきたが、そこには朽ち果てたありすとれいむがいたこの子達がこの後どうなるかは一目瞭然だろう。加工所にみつかり研究され尽くされるか、餓死するか、死ぬのも生ぬるい地獄を虐待鬼威山に見せられるかだろう愛でおにいさんに見つかろうとも、 親のいないゆん生を歩むには難しいだろう ほんとに終わり Ref. 1) 東方アクロバティカより ttp //flat-racing.sakura.ne.jp/oretoumi/hp/touhou44.jpg あとがき 昆虫型と名付けたのは、蛙のように外側が粘膜で覆われていないためです。 交尾してなくても卵生むの? 充分に成長し時期が来たら大量の卵を産みます。 それでいて本体は交尾するとにんっしんしてしまうという破天荒な設定です。 by まりさつむりの人 他に書いたもの ゆっくりいじめ系800-802 まりさつむりの記憶 ゆっくりいじめ系854 ゆっくりバイブレーション1 アリス×ゆっくり系16 アリスのゆっくり水爆弾 白玉楼×ゆっくり系5 みょんとの出会い ゆっくりいじめ系932 愛しのありす ゆっくりいじめ系1024 嘘つき少女の悲劇 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1186.html
人間じゃない生き物が主人公です。 そいつの独白とかはありませんが、それでも難点があるでしょう。 「ハチにそんな知能あるのかよwwww」とか「成長はええwwwwww」とか「毒は?wwww」とかですね……。 気になる方は多いと思われます。若干胸を悪くするような描写もあります。 また昆虫嫌いの方にはお勧めいたしません。それでもよろしければ、 色々と見逃しつつお楽しみください。 そのハチは困惑していた。そろそろ産卵しようと決めていたが、 未来の子供達のための、あたたかな寝床を見つけあぐねていたのだ。 ようやくしつこい雨があがって、涼やかな秋の風が吹き始めたため、 『彼女』はようやく、ねぐらを抜け出したのだった。 幻想郷の森にも、多様なハチが生息している。 大きなクマンバチから、猛毒を持つスズメバチまで。 一般にハチの巣というと、見慣れたあの形を思い起こすだろう。 人家や、樹木にぶら下がるようにしてある、球形のアレである。 しかし、このハチの場合は少し違っていた。 壮大な巣を地道につくりあげていくのではなく、 自らより弱い生き物をとらえ、毒を注射し、そこに産卵するのだ。 犠牲者はすなわち、幼虫達の寝床であり、食料でもあるのだった。 神経毒によって麻痺した獲物は、ハチの住処に引き摺りこまれ、 じわじわと、生殺しにされるというわけである。 体長2cmほどの小さなハチではあったが、捕食者としての能力には、 並外れたものがあると言ってよいだろう。 そして、そのハチ――ジガバチは、どこからともなく漏れ聞こえてくる、 ハチにとっても「間抜け」に思われる、珍妙なリズムを感じ取った。 「ゆっゆっゆ~♪ゆっゆゆ ゆっゆ ゆっゆ~♪」 「「「わぁおかあさん、おうたがじょうず!!!」」」 それはどうやら、巷で噂の「ゆっくり」の家族であるらしい。 『彼女』はたぐるようにして、いびつな調べの発生源へと向ってゆく。 あくまで静かなその様子は、まるでステルス戦闘機のようである。 「ゆっ!そろそろおゆうはんのじかんだね! ゆっくりごはんにしようね!!」 「「「ゆっ! おゆうはん!おゆうはん!」」」 『彼女』がたどりついたのは、大樹の根元にかまえられた、ゆっくり一家のねぐらである。 遠巻きに、一家団欒の様子をながめ、家族構成を調べる。 親れいむとまりさが一匹ずつ、子れいむとまりさがそれぞれ三匹ずつ。 計八匹の、中規模のゆっくり家族であることがわかる。 「きょうのごはんは そとにころがってた むしさんだよ! まるまるふとっておいしそうだね! ゆっくりあじわってね!!」 「「「ゆ~っ!おいしそう!!!」」」 「うっめ!これメッチャうっめ!」 「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせ~~~!!」 ゆっくりたちの晩餐がはじまる。あたりかまわず、食いかすをまき散らし、げっぷを連発。 小さな子供たちはまだしも、親である二匹まで、この有様である。しかし。 何より『彼女』の神経を逆撫でしたのは、昆虫にとってもクズに等しい「ゆっくり」どもに、 『彼女』の眷属たる、ハチや、たっぷりミツを湛えたミツアリたちが、既に絶命しているとは言え、 むさぼり食われ、はずかしめられているという事実であった。 にわかに『彼女』の心の中に、「こいつらに産み付ければ一石二鳥」という名案が浮かぶ。 普段狙いをつける動物よりも、その図体は何倍も大きいというリスクこそあったが、 連中は何より、理想的な栄養源たる、餡子のかたまりなのである。 動きは極めて鈍く、昆虫に対する警戒心も果てしなく薄い。思考力も乏しい。 むしろ、いつもより「ゆっくりとした」狩りになるのではないか。 『彼女』は、見苦しい食事を続ける一家の巣穴へ、ふわりと舞い込んでいった。 「ゆっ!? おかあさん、はちさんがはいってきたよ!!」 「ゆゆゆっ、ほんとう!こんなおそくに、まよっちゃったのかな?」 「はちさん、ゆっくりしていってね!!」 『彼女』の侵入に気付いた子まりさが、驚きの叫び声をあげる。 しかしながら、そこはゆっくりブレインである。まずはお決まりの文句をぶつけた。 「ゆぅ~っ、おうちをまちがえてるね!!」 暢気なゆっくりたちは、どうやら揃って満腹したようで、『彼女』を捕らえるつもりはないらしい。 むしろ、一人合点して、心配する素振りをさえ見せ始める。 「はちさん、こんやはまりさたちのおうちでゆっくりしてもいいんだぜ!」 「ゆっ、そうだね!ここはれいむたちのじまんのおうちだからね!!」 「「ゆっ!おきゃくさん!まりさたちのおうちにゆっくりとまっていってね!!」」 一日精一杯ゆっくりして、あたたかい巣に帰り、腹もふくれ、すっかり安心しきっているのだろう。 連中の言葉でいえば、まさしく「ゆっくりしている」状態だった。この状況を『彼女』は冷静に分析する。 「油断しきっているな」と。 「ゆっ、そろそろねるじかんだね!こどもたちはゆっくりおへやにもどってね!」 「ゆ~~っ、もっとはちさんとあそびたいよ!!」 だだをこねる子ゆっくりたち。しかし、遊び疲れた様子で、渋々自室へかえってゆく。 部屋といっても、扉などない、わずかなくぼみに過ぎないものではあった。 「ゆぅぅ~っ、すりすり♪れいむのほっぺはあったかいね!!とてもゆっくりできるよ!!」 「まりさだってとってもゆっくりしてるよ!!いっしょにゆっくりできるね!!」 そんな、あたたかいお部屋のなかで、ほっぺたをすり合わせ、今日一日の楽しかったできごとを反芻する。 こうしたスキンシップや回想も、ゆっくりたちにとって重要な作業なのである。 次第に夜はふけてゆき、まどろみ始めるゆっくり一家。 空高くにきらめく星たちが、一層輝きを増す頃、一家は完全なるノンレム睡眠のさなかにあった。 そして、狩人の時間が代わりに訪れる。積まれた枯れ枝の陰に息を潜めていた『彼女』が、静かに舞い上がる。 翌朝。小鳥たちの騒ぐ声で、いつものように、一番最初に目覚めたのは、母れいむだった。 数日前の悪天候もどこへやら、外はすっかり、爽やかな秋のムードに包まれているようだ。 ――だが。同時に母れいむは、自らの後頭部(?)に、言いようのない異物感をも感じていた。 「ゆっ!みんな、ゆっくりおきてね!きょうもはれたから、ぴくにっくにいくよ!!」 「…ゆぅ~っ」 「…ゆっ!ぴくにっく!」 「ゆゆっ、まだゆっくりねてたいよ…」 奇妙な感覚を忘れ去ろうとするかのように、母れいむは夫と子供たちを起こしにかかる。 その反応は様々だったが、「ぴくにっく」という、とてもゆっくりした単語を耳にし、むくり、むくりと起きはじめる。 母れいむが、夢心地の子供たちを引率し、おうちの外に連れ出していく。 しかし、「おへや」の隅にむこうを向いて寝転がったまま、ぴくりとも動かない、末っ子れいむに気付く。 「ゆっ?れいむ、どうしたの?ゆっくりおきてね!おいていっちゃうよ!!」 親まりさの呼び掛けにも、微動だにせず、眠りこける子れいむ。その後も、親の呼び掛けは続いたが、 一向に目覚める気配がない。痺れを切らせた親まりさが、子れいむに近付き、リボンをぐいぐいとひっぱり始めた。 「ふぇいふ!ふゃっふゃひょほひはいほほいへふほ!(れいむ!さっさとおきないとおいてくよ!) 親まりさが子れいむのリボンを引っ張った為、自然、ぐるりと体の向きが入れ替わる。 しあわせな夢を見て、実にゆっくりとした表情で眠っているのであろう。 いくばくかの微笑みを湛えて、わが子の安らかな寝顔を想像していた親まりさ。――しかし。 「れいむ、はやくおきな―――ゆ゛っっ゛!?れいむ゛?れ゛いぶっっ!??」 ごろん、と、力なく転がり、こちらを向いた子れいむの表情は、「安らかさ」とはかけ離れたものだった。 白目をむき、その目を見開き、歯茎をむきだしにしつつ、歯を食いしばっている。 よく見れば、その歯と歯のすきまからは、餡子色をした泡をさえ吹き出し、にじませているではないか。 いくら知能が低く、状況を認識・把握する能力を欠いたゆっくりでさえ、この、常識外れの苦しみを味わい尽くし、 地獄の大鍋の鍋底をさえ舐め尽したとでもいうような、苦悶の表情をうかべるわが子の様子からは、 異変を感じ取らざるを得なかった。 「でい゛ぶ!!!でい゛ぶぅぅぅぅっ゛!!!どぼぢだの゛おぉぉぉおっっっ゛!!!べんじじでよ゛ぼぉぉぉ゛っっ゛!!」 巣穴の奥からの、けたたましい悲鳴に驚いたのは、ピクニックの準備をすませ、 おうちの前で、ゆっくりと母と姉妹を待っていた、残りのゆっくり家族たちだった。 「ゆっ!?おかあさんのこえだよ!!」 「ゆぅっ、ふつうのこえじゃないよ!!なにかあったの!?」 にわかに、騒ぎ始める子ゆっくりたち。それを制する母れいむ。 「ゆっ、みんな、おかあさんはなかのようすをみてくるよ!おうちのいりぐちで、ゆっくりじっとしててね!!」 「「「ゆっくりみてきてね!!!」」」 いったい、何があったというのだろう。まりさは普段、とても温厚で、声を荒げたことなど一度もなかった。 「これからもずっと、ゆっくりとして生きていきたい」という思いに、影を落とすような不安を振り払うかのように、 母れいむは懸命に跳ね飛び、大きな、立派なおうちの奥、こどもべやを目指して駆けた。 そこで繰り広げられていたのは、想像を絶する惨状だった。 大切な、大切な子供たちの、ちょっと手狭で、寄り集まってゆっくりするには最高のおへやのなかでは、 同じくらい大切な、配偶者のまりさが、見たこともない泣き顔で、喉も裂けよと言わんばかりの声を張り上げ、 わんわん泣いていた。そのかたわらに転がっていたのは、すっかり冷たくなった、わが子の亡き骸であった。 見れば、尋常ではない表情を浮かべているではないか。急速に、母れいむのゆっくりブレインに、 「泣きわめきたい」という衝動がわきあがってくるが、家族のためを思い、必死にそれを制する。 「ばり゛ざ!!どう゛じだの゛!どう゛じでれい゛むのこどもがじんじゃったの!!!ゆ゛っぐり゛せつめ゛いじでね!!!」 「ゆっ…ゆ゛っ…ば…ばがら゛な゛びよおお゛ぉほぉぉっ!!!!い゛づまでもねてるから゛、ゆっぐりおごじだだげなぼびぃぃいっ!!!」 駄目だ、とても会話ができる状況ではない。母れいむは、こみ上げる涙に潤んだ瞳で、わが子を見つめる。 つい昨日までは、みんなで仲良く飛び跳ねて、とてもゆっくりと暮らしていたはずだったのに。どうして。どうして。 母れいむの頭のなかにぎっしり詰まった餡子の分だけ、この末っ子との思い出も詰まっている。 ゆっくりという種族は、記憶力が乏しいとは言え、家族間の絆は、極めて強固なのである。 母れいむの餡子脳が、楽しかった思い出を求めて、ぐるぐると回り始める。どうして。どうして…! 「ゆ゛うぅ゛っ……!!…………ゆ゛っ??」 泣きわめいていた母まりさが、しゃくり上げると同時に、ぴたりと泣き止んだ。死んでしまったとばかり思っていた、 子れいむの体が、ぴくりぴくり、とうごめきだしたからである。母れいむのほうも、空想に耽るのをやめて、 わが子に駆け寄った。 「れいむ!れいむ!!まだいきてたのね゛!!!よがっだ!!!」 「よ゛がっだあああぁぁあぁ!!でい゛ぶううっっ゛っ!!!」 助かった。子れいむは助かったんだ。二匹の心やさしい親ゆっくりは、ない胸を撫で下ろしたい気持だった。ところが、である。 ぴくぴくと、子れいむは、確かに動いているようである。しかし、おかしいのは、浮かべた苦しみの表情にまるで変化がなく、 自発的に「動いている」というよりは、むしろ誰かに「動かされている」という感じなのだ。訝しげな両親。 「ゆぅぅっ…れいむ、どうしちゃったの……」 もっと近くで、と母まりさが子れいむに近づいた、その時。母まりさは、わが子の皮膚の下でうごめく「何か」を見て取った。 「ゆ゛っ゛っっ!!?」 「ど、どうしたの、まりさ!!!ゆっくりれいむにもみせてね!!」 母れいむが飛び跳ねて、近寄り、うごめく「何か」凝視する。それは―― まさしく、子れいむの中に詰まった、餡子をむさぼるっていた。しきりに、もぞもぞと動いていた。 「ゆっぎゃぎゃああああああ゛あ゛あ゛ああああああああああああ゛ああああ゛!!?」 奇声ともいえる、珍奇な悲鳴を、大音声をあげる両親の目の前で、子れいむは何かに「食われて」いた。 それがいる部分の皮膚が大きく盛り上がって、そこから、音がしそうなほどの勢いで、ベコン、ベコンと、 愛しい娘の餡子が吸い取られ、むさぼられていた。丸々と肥えて、元気なゆっくりに育ちつつあった愛娘は、 見る見るうちに、皮とリボンと、つやのない髪を残して、その存在を消し去られてしまった。 「でい゛ぶの゛ごどぼ!!!!だびじな゛ごども゛があ゛あ゛ああああ゛あ!!がら゛っぼに゛な゛っじゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「でい゛ぶ!でびぶぶぶっっぽおおおお゛おお゛がががあががががが!!!」 堰を切ったように、両親の目から涙があふれ出した。さながら滝のようである。こどもべやをマイナスイオンが満たしてゆく。 「ゆ゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!でびぶぼごどぼ!!!でびぶのあ゛がじゃ゛ん゛!!!」 「ばびざぼごどぼ!!!!ゆ゛がががああがががが!!!!どぼじでええええぇぇえ!!!」 泣き叫ぶゆっくりたちを尻目に、成果を見届けた『彼女』は子供部屋を後にする。 そう、『彼女』は、油断しきったゆっくりたちが爆睡していた真夜中に、一匹一匹、ゆっくりと、麻酔を注射し、産卵していったのだ。 そうした卵は、遅かれ早かれ、数日と経たぬうち、孵化して、中から獲物を食い破ってゆくのである。 今回は、一晩で、一匹だけが犠牲となった。若干のタイムラグは、致し方ない。――そうこうしているうちに。 「おかあさんたちおそいね!ゆっくりしすぎだよ!!」 「ほんとだね!!まりさたちまちくたびれちゃったよ!!」 「…ゆぅっ…ゆぅっ……」 「おうちのいりぐち」で、待ちぼうけを食らっていた子供たち。中には、退屈してしまい、先刻の夢の中へ舞い戻っているものもある。 そんな子ゆっくりたちにも、むろん、分け隔てなく、卵は産み付けられているわけである。現在進行形で、卵は孵化しつつあるのだ。 「おうたでもうたおうね!!!」 「ゆっくりうたおう!!」 「「「ゆ~ゆ~ゆ~♪ゆっゆ~ゆっゆゆっゆ♪」」」 「ゆ~ゆ~……ゆごぺっ!!?」 突如、一匹の子まりさが、ゆっくりの生命にも等しい餡子を、もりもりと吐き戻しはじめた。顔面蒼白、餡子色の涙を流して。 「ゆっ!?お゛ねえぢゃん、あ゛んごはいじぢゃだめ゛えええ゛ぇぇ゛っ゛!!!!」 「ゆぅぅっ!?どうぢだの゛!!!!!????」 「ゆ゛ぎっ!!ごわい゛よ゛おぉぉおおっ゛!!!!」 泣き叫ぶ姉妹をよそに、子まりさは痙攣しながら餡子を吐き出し続ける。僅かだった体内の異物感が、ある瞬間を境目に、 爆発的に膨れ上がる、おぞましい感覚。猛スピードで、体内の餡子を食い荒らされて、ものの数分で、子まりさは息絶えた。 「ゆ゛あ゛っ゛!!ぼね゛い゛ぢゃん゛がじんじゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 「ゆぐぐっ゛!!!ごわ゛いごわ゛いごわ゛いごわ゛いいいい゛いいい゛!!!」 当然のように姉妹たちは泣き叫ぶが、既に、それぞれの体にも、致命的な変化が起こり始めていた。 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!ぼね゛え゛ぢゃ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!…ゆ゛!!ぶっ゛!???」 「ゆぎゃぴゆぴぃ゛ぃゅ゛ぃぃ゛!!!!!ぎゃ゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!…ゆっく ぶびびるっ!!!!??」 「ゆ゛ぴっ!?ぶべるびばぼごぺっっっっっ!!!!!!ぶり゛ゅりゃ゛っ゛!!!!」 「おうちのいりぐち」は、もはや阿鼻地獄、叫喚地獄の様相を呈していた。子ゆっくりたちは皆、餡子を噴き出して、 滝のような涙を流し、思い思いに泣き叫び、両親の名前を呼び続けた。無慈悲に、ジガバチの幼虫たちが、 子ゆっくりたちを食べ尽くし、いりぐちは静まり返っていた。 「ゆ゛っ゛…ゆ゛っ゛…ゆ゛…お゛があ゛ざん、でい゛ぶを゛ゆ゛っぐり゛だずげで…!!!」 虫の息の子れいむが、両親のいるはずの、こどもべやへと這いずっていた。 どうやら、体内の幼虫の数が少なく、致命傷には至っていない様子である。その懸命さは、ゆっくりにあるまじきものだった。 こどもべやについたら、おかあさんたちに、きもちわるい虫を取って貰おう。 そして、おいしいごはんを沢山もらって、いっぱいほおずりをしてもらって、傷がなおるまで、 ずっとずっと、ずっとゆっくりしていよう。 子れいむの餡子脳の奥に、母と言う名の希望の光が燃えていた。 その輝きを原動力に、満身創痍で、ボロ雑巾のような体で這いずってゆく。 おへやの直前の角を曲がった、子れいむの目に飛び込んできた光景は―― 餡子脳が凍りつく、恐ろしいものを見たかのような、驚愕の表情を浮かべた、姉れいむの残骸と、 「ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!……」と、餡子のつまった頭部をむき出しにし、 うわごとのように、意味をなさない言葉を繰り返し続ける、母まりさの姿。 床には、餡子の海が広がっており、その中央には、既に絶命し、苦痛に歪んだ顔をした、母れいむの死骸が転がっていた。 あまりの惨状に、言葉を失った子れいむ。 小刻みに震え、白目を剥いてうわ言を繰り返す、母まりさの頭頂部から、すぽん、と音を立てて、丸々と肥えた、 『彼女』のいとし子が、勢いよく顔をだした。 ある意味滑稽なその音は、絶望の淵にいた子れいむを一押しして、地獄の底へと転げ落ちさせるのには、十分すぎるものだった。 母まりさのうわ言が断絶し、完全な沈黙が、幸福だったゆっくり一家の「おうち」の支配者になり代わる。 『彼女』は満足げな羽音を立てて、最良の繁殖法を見出したことを、喜ばしく思った。 若干、ゆっくりどものせりふが少なかったと後悔しています。 至らないことばかりで、申し訳ありません。 お読みいただいて、ありがとうございました。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2305.html
注意書き: 某4コママンガを参考にしています。詳細は文末に示します。 秋も深まり、山々はすっかり紅葉で覆われ、少し肌寒い風が吹き抜けていく。 そんな日々、市場で買い物を終え自宅へ向かう途中のこと、 獣道を歩く僕の前に一匹のゆっくりれいむが立ちはだかった。 高さ40cm余り、横幅は60cmにもなるかなり成長した個体のようだ。 この獣道、普段は殆ど人が通らない場所で、言ってみれば秘密の近道ってとこかな。 「ゆゆ!おにいさん?こっからさきはれいむのおうちだよ! とおるにはゆっくりつうこうりょうをはらっていってね!!!」 「通行料?具体的には何が欲しいのかな?」 「ゆ、ゆーん… れ、れいむにおいしいおはなさんをおいていってね!!!」 「なんだ…花か。ほれよ。」 「ゆゆゆ?むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 相手するのも面倒だったので、僕は買い物袋の中からハーブをれいむに差し出すと、 足早に先へ進もうとした。なぜか右足が重い。 「そ、そこからさきにはゆっくりすすまないでね!!! こ、これだけじゃつうこうりょうがたりないよ!ゆっくりはらっていってね!!!」 なんと右足にれいむがしがみついて来たのだ。 ゆっくりにしては珍しい行動だったので再び問いかける。 「今度は何が欲しいと言うのかね?」 「ゆ!? ゆーん… ゆっくりあまあまのおさとうをちょうだいね!!!」 「なんだ…砂糖か。ほれよ。」 「ゆぐっ…! むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「じゃあ僕は先に進むからね。」 僕は買い物袋から角砂糖とカリン糖を十数個差し出し、この場を後にしようとした。 再び右足に荷重がかかる。 「そ、そこからさきにはゆっくりすすまないでね!!! ま、まだつうこうりょうがたりないよ!!!ゆっくりはらっていってね!!!」 再び左足にれいむがしがみついて来た。 いくらゆっくりとは言え欲張りな行動である。 「今度は一体何が欲しいと言うのかな?」 「ゆゆ!? ゆーんゆーん… れいむにゆっくりはちみつさんをちょうだいね!!! もしはちみつさんがないのならゆっくりひきかえしてね!!!」 「蜂蜜か…。ほれよ。」 「ゆゆゆ!?どおじておにいさんはちみつさんなんかもってるの!!!」 「れいむがくれっていったんだろ?」 「ゆぐっ…! むーじゃ、むーじゃ、じあわぜー!」 「今度こそ僕は先に進むからね。」 再び重くなる左足。何か他に理由があると言うのか…? 「ぞ、ぞごがらざぎにはゆっぐじずずまないでね!!! ま゙、まだまだづうごおりょおがたりないよ!!!ゆっぐじはらっでいっでね!!!」 「欲張りなれいむだね。今度は何が欲しいのかい?」 「ゆがっ・・!?ゆう・・・ゆーん・・・ れ、れいむにゆっくりあまあまなくりーむをちょうだいね!!! もしもっていないのならゆっくりひきかえしてね!!!」 「クリームか…。ほれよ。」 僕は買い物袋の中からコンデンスミルクを取り出すと、れいむの口に注ぎ込んでやった。 甘ければいい。細かいことはわからないだろう。 「ゆがっ!?どぼじでおに゙いざんぐぢーむなんがも゙っでるの!!!」 「れいむがちょうだいっていったんだろ?」 「ゆががっ…! むーじゃ、むーじゃ、じあ゙わ゙ぜーー!!!」 とは言いつつも両目からぼろぼろと大粒の涙を流している。 気にせず先に進もうとすると 「だ、だべなんだがらね!!!ごのざぎにはゆっぐじずずまないでね!!! ゆっぐじひぎがえじでいっでね!!!」 再び右足にしがみつくれいむ。食べ物が目的じゃないとすると、 この先には相当大事なものでもあるのだろうか? 「こっち行かないとお兄さんは帰れないんだけどなぁ」 「ざ、ざぎにずずむならゆっぐじでいぶにづうごおりょおをはらっでいっでね!!!」 「でいぶのお遊びに付き合ってる暇なんか無いんだけどなぁ…。ゆっくりどいていってね!!!」 「ゆがっ!? でいぶにゆっぐじおでんじじゅーずをぢょおだいね!!! ないならゆっぐじひぎがえじでいっでね!!!」 「お兄さんのおうちにはオレンジジュースがたくさんあるよ? 通してくれたらでいぶに分けてあげてもいいけど?」 「や、やっぱりだべだよ!!!ゆっぐじひぎがえじでね!!!ゆっぐじひぎがえじでね!!! ごごがらはでいぶのおうぢだよ!!!ゆっぐじごっぢごな゙いでね!!!」 もう「でいぶ」に構うのも飽きたので、無視して歩みを進める。 すると前方の草むらの中、木の根元の穴から伸びるオレンジ色の塊が姿を現した。 ゆっくりの卵である。 握り拳よりやや小さいゼリー状の塊が蛇のように連なり、見えているだけでも数百は下らない。 巣の中で卵を産みつけていたが収まりきらず、外まではみ出した結果だと思われる。 形態は縦に長く昆虫の卵のようでもあり、長く長く連なる様子は蛙のそれを彷彿とさせる。 よく見ると内部に非常に小さいながらもゆっくりらしき顔が見て取れた。 「ははぁー…こういう訳だったのかぁ。」 「やべでね!ゆっぐじやべでね!!!でいぶのかわいいごどもにでをだざないでね!!!」 「ふーん…」 それだけ言うと僕は、卵の群れの一角に塩を振りかけ始めた。 浸透圧により見る見るうちに卵がしぼんでゆく。 「やべでえええええ!!!でいぶのおぢびぢゃんになにずるのおおおおおお!!! ゆっぐじやべでいっでね!!!ゆっぐじやべでえええええええ!!!」 れいむは卵の前に立ちはだかり、塩をこれ以上子供たちに浴びせまいと大きく口を広げた。 「ゆっぎゃあああ!!!でいぶのおめめがっ!いだいよ゙おおおおおおおおお!!! でいぶのおぐぢがぁああああああああ!!!ゆっぐじやべでえええええ!!!」 目や口などの粘膜に覆われる部位に塩がかかるたび、れいむは悲痛な叫びを上げた。 体が大きめなだけあってその叫びも一段と大きい。余計に敵を呼び寄せてもおかしくはない。 「ほーら、今度はこっちだ。おいしいお塩をあげるからねー♪」 オレンジ色のゼリーは塩と触れると直ちに縮みこげ茶色の塊へと変貌していくのだった。 「やべで、やべでよおおおおおお!!! でいぶのおぢびちゃんはおじおなんでいだないぼおおおおおお!!!」 れいむは満身創痍ながら卵の前で塩を受けとめようと必死にかけずり回る。 「でいぶのおぐぢが、おぐぢがゆっぐじでぎないよ゙おおぉぉおおおおおお!!! おにいざんはゆっぐじやべでね、ゆっぐじやべでいっでね!!!」 両目から滝のように涙を流しているが、それでも諦めようとしない。 ふと視界に蜂蜜色の物体が入り込んだ。 近寄ってみると息を荒げるゆっくりありすであった。面白いことを思いついたぞ…! 「ゆふー、ゆふー、れいむのこえがきこえるわ!!!どこなのお? ありずがずっぎりざぜであげるよおおおおおおおお!!!」 「やぁやぁとかいはのありすちゃん。」 「ゆゆ?とかいはのありすはいまいそがしーんだよぉ?おにいさんはてみじかによーをすませなさいよ?」 「そのれいむのとこにつれてってあげようとおもってさ。」 「ゆほっ!?べ、べつにありすはれいむのことなんてどおでもいいのよ? でもおにいさんがつれてってくれるっていうならのってあげてもいいわよ?」 ありすは顔を赤らめ涎を垂らしながら答える。その顔、本心がわかりやすく見て取れる。 僕ももちろんそのつもりだ。 ありすを抱きかかえれいむの元へ向かう。 「ゆっほおおおおおお!?れいむのかわいいたまごがたくさんあるわ!!! みてるだけですっきりしちゃうわあああああ!!!すっきりー♪」 ありすから放たれた乳白色の粘液に卵の一角が覆われていく。 「やべでええええ!!!すきなひとじゃないとあかちゃんのもとかけちゃだべえええええ!!!」 1) 「ありすのためにこんなにたくさんよういしてくれたのね!!! れいむってつんでれねえええええ!!!」 「だべえええええ!!!れいむのだいすきなまりさじゃないとだべええええ!!! ゆっぐじやべで!ゆっぐじやべでええええええ!」 「そのまりさってのは、こいつの事かな?」 「ゆがっ!?ま゙、ま゙、ま゙り゙ざぁあああああぁああああ!!!」 数十分前のことだ。市場を後にし藪森へ歩みを進めようとした頃―― 「こっからはまりさのてりとりーなんだぜ!!!おにいさんはゆっくりあっちへいけだぜ!!!」 「ここをとおらないとお兄さんおうちに帰れないんだけどなあ?」 目の前にこれまた60cmもあろうかという大きなゆっくりまりさが立ちはだかった。 無視して先へ進もうとすると… どかっ! 尻に鈍い痛みが走る。まりさの体当たりだ。 重さも相当なため思わずよろけてしまう。 「まりさのたいあたりなのぜ!これにこりたらゆっくりむこうへいけなのぜ!!!」 まりさは僕の前に回り込んで自慢げに語りだす。 「ほぉおお? むこうへ行かなかったらどうするのかなぁ?」 「ゆがっ!?と、とにかくこっからはすすませないだぜええええええ!」 まりさが再び体当たりを仕掛けてくる。 一歩横によけてみる。ゆっくりにしては速いがかすりもしない。 案の定まりさの勢いは止まらず向こう側の木に突進し、盛大に全身を打ち付ける。 「おーい?いきてるかー?」 まりさは白目を向き天を仰いでいる。もっとも枝葉に覆われ空を拝むことはできないのだが。 「あーあ、見事に伸びちまったなぁ。しゃーない、持って帰ってやるとするか。」 僕は背負っていた篭にまりさを放り込み、その場を後にした。 「ゆゆっ!?ここはどこなのぜ?」 「まりさ!?きがついたのね!!!みてみて!!!れいむね、いっぱいおちびちゃんうんだんだよおおおお!!!」 「れ、れいむううううう!!!よくがんばっただぜえええ!!!」 「でもこのありすとそのおにいさんがゆっくりできないんだよ!!!」 「ゆゆゆ!?ゆっくりできないおにいさんとありすはゆるさないのぜええええ!!!」 まりさは近くにいたありすに体当たりを仕掛ける。 発情ありすとはいえ体格差は歴然であり、放物線を描き地面に叩きつけられる。 「ああああっ!? まりさってとんだえすえむぷれいなんだからぁああああ!?」 程なくして気を失った。 「さっきはよくも、よくもおおおおおお!!!」 再びまりさが僕に突進を仕掛ける。僕は手近にあった太い枝を拾い上げると、 一歩左に下がり野球の打者の要領で勢いよく振りぬいた。 「ゆべっ!?ゆびぶべぼばびぶべぼゆびゃぁああぁああああ!!?」 まりさは壮大な断末魔を上げると、物言わぬ2つの餡子の塊と化した。 「どぼじでごんな゙ごどずる゙の゙おおぉぉおおお!!?」 「いや…、どぼじでって言われてもなぁ…。れいむ達から仕掛けてきたんだろ?僕はそれに応じただけだ。」 「でいぶのおぢびぢゃんがえじでええええええ!!!ばでぃざをがえじでよおおおおおおぉおおおお!!!」 「まだ卵なら全滅しちゃいないだろーよ」 「すきなひどにあがじゃんのもどかげでもらわないとうま゙でないよ゙おおおぉおおぉおお!!! ゆっぐじがえじで、ばでぃざをがえじで、でいぶのあがぢゃん、がえじでよぉおおおおぉおおおおお!!!」 「んなこと言われてもなぁ…。」 僕はただ家に帰りたかったがためにやっただけ。 道を邪魔をした挙句そんな剣幕で問い詰められても困るのだ。 とは言え絶望に打ちひしがれる「でいぶ」をすぐさま叩き潰すほどの気力が無いのも確かだ。 「んほっ!?なみだによだれにぐちょぐちょのれいむもかあいいのよぉおおおおお!!!」 「ゆがっ!?ゆっぐじごっぢにこないでね!ゆっぐじやべでね!!!」 ありすが気を取り戻した。すぐさまれいむに一直線。何という見上げた根性・・・。 塩攻めにされ、愛するまりさを失ったショックを受け、泣き疲れたれいむにもはや策は残されていなかった。 ありすの為すがままになるしかない。 「んっほおおぉおおおぉおおお!ぐっちょぐちょのれいむぎもぢいよおおおおおお!!! あらてのろおしょんなのねえええええええ!!!すっきりー♪」 「やべでぇええええぇええ!ずっぎじー!」 「めをそむけなくていいのよおおおおおおお!!!れいむったらつんでれね!!! すっきりー♪」 「ゆっぐじやべで、ゆっぐじやべでね!!!ずっぎじー!」 「れいむのろおしょん、れいむのろおしょんあまじょっぱくておいしいいいいいいいいいい!!! もっとちょおだい、もっとちょおだいねええええええええええ!!!」 「でいぶおいじぐないぼおおおおおお!!!」 「ひていしなくていいのよ?れいむったらつんでれなんだからああああ!!!すっきりー♪」 「やだぼおおお、やだぼおおおおおおおお!!!すっぎじー!」 「もっと、もっとありすにあいをちょおだいねええええええ!!!」 「ゆ・・・ゆぐ・・・」 「れいむ?ねちゃったのぉおお?とかいはのありすのてくがきもちよすぎたのねええええ! うぶなれいむもかぁいいよぉおおおおおおお!!!」 れいむは気絶か、腹上死でもしたのか、とにかく動かなくなった。 いずれにせよその額からは緑色の突起が数多く現れ始めており、運命は決まったも同然である。 「あら…?たまごがたくさんあるじゃなあああい! ありすのためによういしておいてくれたのねええええ!!!すっきりー♪ みてるだけですっきりしちゃったわ!!!すっきりー♪ れいむっておませさんなんだからああああああああ!!!すっきりー♪ ゆっほおおおおぉおおおおおおおお……」 この後どうなるかは想像に容易い。 夥しい数の卵をうちにありすは干からび、万が一子供が産まれたとしても誰が育てると言うのだろうか。 オレンジ色の卵達が徐々に乳白色のゼリーに覆われていくのを見届けた僕は、我が家への道を急いだ。 おしまい♪ Ref. 1)東方アクロバティカ ttp //flat-racing.sakura.ne.jp/oretoumi/hp/touhou44.jpg あとがき 昆虫型と名付けたのは、蛙のように外側が粘膜で覆われていないためです。 交尾してなくても卵生むの? 充分に成長し時期が来たら大量の卵を産みます。 それでいて本体は交尾するとにんっしんしてしまうという破天荒な設定です。 by まりさつむりの人 P. S. ケロちゃんが卵を産む4コママンガを参考にしました。引用元を書いていなくてすみません。 しかし、産卵ネタ初出のSSや設定関連は読んでいませんし、参考にもしていません。 ここまで叱られてしまうとなると、wikiの内容を全て把握した上 関連するSS等全て挙げないとならないのでしょうか。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/908.html
社員ゆっくり ※現在の地球とは少しだけ軸がずれたパラレルワールドだと思ってください ※ゆる虐待は多少ありますが、愚鈍で高慢なゆっくりをボコボコにしたい方には合わないと思います。箸休めにどうぞ。 ※お兄さんと劇中の飼われゆっくりは仲が良いです ※作品中に登場する会社名等は実在のものとは一切関係がありません ゆっくりが出現して20年程、元々は野山に住んでいたゆっくりは徐々に人里に下りていき、街へも進出しだした。 当初はゴミを荒らし、住居に侵入したりとやりたい放題であったが、当然ながらそういったゆっくりは人間によって即処分される。 その結果、(ゆっくりにしては)頭がよく賢い、それでいて比較的気性の穏やかなゆっくりが残り、そして繁殖を繰り返した。 頭がが良く穏やかなゆっくりであれば当然人間に迷惑をかけることも少ない。となると殺されることも少なくなる。 街ゆっくりは今では人間の(それなりに)良きパートナーとして生き残っていた。 「ただいま」 男がそう言い玄関の戸を開けるとまりさが廊下をぴょんぴょん跳ねながらやってきた。 「ゆっくりおかえり!!」 このまりさはもう1年ほど前から男が飼っているゆっくりだ。野良犬に襲われていた横を通りがかっただけなのだが なぜか犬がそのまま逃げてしまいまりさは男のおかげだと泣きながら感謝し、それから懐いてしまったのだ。 どうやら飼いゆっくりだったらしいのだが、飼い主の事情で捨てられてしまったらしい。 変に媚びることもなく淡々と語るまりさを見て最初は「まぁいいか」くらいの気持ちでペットにしたのだが、 実際は一人暮らしの寂しさを紛らわせたかったのだ。 今となってはペットというよりは居候といった感じだが。 「ゆっ!おつかれさま!おみやげは?おみやげは?」 「あ?別に出張でもないし特に何もないぞ。つうかおまえ毎日それだな!」 「ゆぐっ・・・だってまいにちひまだし・・・おにいさんおかねくれないからあそびにもいけないし・・・」 そう言ってまりさは口をとんがらせてすねていた。 人間の社会に入り込んだゆっくりは貨幣の概念を理解している。ゆっくり用のグッズを販売する店や ゆっくり用のレジャー施設も存在し、ゆっくりだけで買い物に行っても極普通に対応してもらえるので お小遣いを与えられたラッキーなゆっくりでいつもごった返していた。 「働かざるもの食うべからずという言葉を知っているか。」 「ゆぅ・・・おにーさんからなんどもきかされたからしってるよ・・・」 「ならそういうことだ。三食屋根付きなだけでもありがたいと思うように。」 この社会にも野良ゆっくりは存在する。昔に比べて賢いゆっくりが増えた分人間もそれ相応の対策はとってある。 ゴミ捨て場などもカラスはもとよりゆっくりにも破られないようにいろいろ改良がなされている。 となるとそこらの雑草や花を食べるしかない。だが賢くなったゆっくりは人間の所有する整備された花や植物を 勝手に食べるとどうなるかは知っていた。よほど危機的な状況ならば分からないが、まずそういった愚挙は犯さない。 まりさはそういった行為をしでかした野良ゆっくりが目の前で潰されたり保健所に連れて行かれた場面を何度か見ている。 そんな生活はごめんだった。 中には人通りの多い場所で物乞いをするゆっくりもいたが、同情を誘うためか酷く汚れていたり、自ら片目を潰したり するゆっくりが大半だ。まりさにはとてもそんなことはできない。 家に置いてもらい食事まで頂戴していることはありがたいとは思っていたが、ゆっくりはゆっくりなりに欲もある。 雑誌を見たりテレビをつければゆっくり用おもちゃの広告やらなんやらでその欲求を無駄に刺激するのだった。 食事を済ませ風呂から上がりパンツ一丁の男はまりさと居間でテレビを見ながらゴロゴロしている。 おやつの笛ラムネを口にしたまりさはピープー音をたてていたので「うるさい」と言われ男に足で軽く蹴られた。 「ゆっくり王国」 まりさが一番好きな番組だ。色々なゆっくりやその生活を取り上げる番組だ。 オープニングタイトルが消えた後スタジオには中に人間が入っている巨大れいむとまりさのきぐるみがドスンドスンと 飛び跳ねている。 その中のコーナーの一つ「ゆっくりお宅拝見!」が始まった。 さまざまなゆっくりが人間の家で暮らしている様子を映し出している。 「この貧乏芸人の家で飼われてるれいむは悲惨だなぁ・・・おい見ろよなんだあの尋常じゃない色の布団のしみは」 「ゆぐ・・・あんなところでねたらかゆいかゆいだね」 「このゆっくり腹話術ってれいむの下から手つっこんでないか?」 「かんぜんにいっちゃってるね!このれいむはもうはいじんだよ!おおこわいこわい」 どうでもいいような話をしながらだらだらする一人と一匹。まりさは笛ラムネを歯で縦に割りバリバリと食べていた。 ボフッ 男が寝たまま放った屁をまともにくらい、「ゆぎゃあ!」と叫び後ろにのけぞるまりさ。 バシンバシンとまりさが尻に体当たりを始める。 「ブーブーはむこうむいてしてっていったでしょ!!!」 ゆっへっへとふざけて笑った男が再びまりさが体当たりしてきたタイミングでブッともう一発おみまいした。 「ゆぎゃぎゃぎゃ!!!」 ごろんごろんと転がるまりさ。 「へこきれみりゃはしね!」 鉢植えの土に敷いていた小石を口に含み男の尻めがけて吹き付ける。さすがに尻への体当たりは危険度が大きいことに気づいたようだ 「こらー散らばすなー、って、おいそんなことよりこのまりさすごいぞ。見ろ見ろ。」 テレビでは既に違うゆっくりが紹介されている。 大金持ちに飼われているゆっくりだった。 お城のような家で飼われているまりさがそこにいた。髪の毛の艶もすばらしく、肌の張りもステキだ。 まりさはテレビを見ながらボーっとして咥えていた小石をぽとりと落としてしまう。 「すごいゆっくりだね・・・まりさのようなしょみんとはべつじげんだよ・・・」 「庶民で悪かったな」 男は貧しいわけではない。むしろ普通より多く稼いでいた。ただ、贅沢を好まない性格なので飾り立てたり 無駄遣いをしないだけだった。単にケチというだけかもしれないが。 ただそれでもまりさ専用の部屋を用意するなどしているあたり余裕がある証でもあるのだが。 テレビの中のまりさは贅沢な装飾品を身に着けたり、高そうな食事を与えられたりしていた。 特注で作らせたゆっくり用天蓋付ベッドでくつろぐ金持ちまりさは優雅に「ゆふふふ」と笑っていた。 「おにーさん!まりさもあんなべっどほしい!!ほしい!!」 まりさは屁のことなどすっかり忘れて飛び跳ねて男に懇願している。 「おまえのベッドで充分だろが、いつも気持ちよさそうに寝てるだろ」 「ゆぐぐぐ!あのくっしょんはおにーさんがすわってぶーぶーするからくさいよ!あんなべっどのほうがいいよ!」 「だめだだめだ、そんなに欲しかったら自分で稼いだ金で買え」 「ゆぎぎぎぎ!」 歯軋りするまりさを無視して男は尻をかきつつテレビを見ている。 お宅拝見のコーナーが終わり次のコーナーへと移っていた。どこかの会社のオフィスらしい。 仕事をしている社員の後ろをゆっくりが歩いていた。 『こちらの会社では社員の癒しを目的としてゆっくりを導入しているそうです。このゆっくりれいむのお仕事は 社員を和ませること。そして簡単な雑務ならこなしちゃうんですよ~すごいですね~広報としてパンフレットにも 登場しちゃったりしています』 レポーターがそう言うと穏やかな顔つきのれいむが 「れいむのおしごとはみんなをゆっくりさせることです!ゆっくりしていってね!」 そう元気よく叫んだ。 場面が変わって休息室でコーヒーを飲んでいる社員がゆっくりの頭をなでている場面が映る。 また別のゆっくりはゆっくり用の台に乗ってコピーまで取っているではないか。 更に別のゆっくりに至っては受付に鎮座し来客に「いらっしゃいませ!」と挨拶をしている。 プレゼン資料を客の数だけまとめてホチキスで留めているゆっくりまでいた。 ひらがなくらいしか読めないゆっくりだが、同じ図柄の紙をそれぞれまとめる程度は出来るようだ。 そのゆっくりはなぜか眼鏡をかけていた。 『なんと!このゆっくり達はこの会社の社員なんです!みてくださいこの社員証を』 リボンについた社員証がアップになり、そこには「れいむ025」と書かれていた。 「このゆっくりは偉いなぁ~ちゃんと働いてるんだね~」 男は少し意地悪くそう呟く。 『しかもこの社員ゆっくりにはちゃんとお給料も出るそうなんです。すごいですね~』 男の意地悪い発言に苦虫を噛み潰したような表情をしていたまりさは「お給料」という単語に反応し、 これだっ!という顔をして叫ぶ。 「ゆゆゆゆゆ!!!!まりさもはたらく!はたらいておかねもちになる!!!」 「おまえが働く?馬鹿言うんじゃないよ。おまえ働くってどういう事かわかってるのか?あ~ん?」 足の先でまりさの頭をぐりぐりしながらからかう男。 「しつれいだね!まりさははたらきたいんだよ!おかねをかせいでおにーさんをたべさせてあげるんだから!」 「ウヒャヒャヒャ!いいねぇ~ゆっくりのヒモかぁ~やれるもんならやってみな~」 相変わらずまりさをからかい続ける男はニヤニヤと笑っていた。 ぷくーっと膨れたまりさはこう続ける。 「やってみなっていったね!?まりさほんきだよ!ほんきなんだからね!!」 男はたわごとだろうと高を括りニヤニヤしたままだった。 「あとおにーさん!ぱんつのすきまからたまたまがまるみえだよ!ぷぷっ!」 まりさの顔に真正面から蹴りが入った。 翌朝 騒がしい音がして男が目を覚ます。 「なんだこんな朝早くから・・・うるせぇな・・・」 眠い目を擦り音のする方を見るとまりさが大量の新聞紙やらちらしを広げて何やらやっている。 「・・・おまえ何やってんだ?」 「ゆっ!おはようおにーさん!まりさはおしごとのれんしゅうしてるんだよ!」 見ると顔の中央に男の足型がうっすらと残ったままのまりさが回収に出そうと部屋の隅に積んでいた新聞とチラシの山を解き、 社会面、スポーツ面、経済面、そして同じような色合いのチラシごとにそれぞれまとめていた。 「きのうのてれびであのこがやってたのとおなじことできたよ!すごいでしょ!」 まりさは腹(?)を突き出すようにしながらフガフガと鼻息を荒くしている。 「ほっほー・・・おまえなかなかやるなぁ。つうか本気で働きたいのか?」 「ゆっきーーー!!ほんきだっていったでしょ!」 体を膨らませ抗議の意を表すまりさ。朝からかなりテンションが上がっている。 「ふうむ・・・よしわかった。そこまで言うなら試してみるか。ただしやるからには本気でやれよ」 まりさの熱意に男が折れた。あっさりと男が働くことを許可したせいかまりさは一瞬ぽかんと口を開けたままで 男を見つめていたが、その意味を理解し次の瞬間パァァと顔が明るくなり、体を縦に伸ばしてクネクネとねじり始める。 「ゆっきゃあああ!!これでまりさもおかねもちだね!!」 どうやら喜びの意思表示らしい。 その様子は少しキモかった。 「さて、んでどこで働くつもりなんだ?」 「ゆっ、きのうてれびでやってたところがいいよ!」 「昨日の?どこだっけ・・・ああ、日本ミラクルか。確か最近青山に自社ビル建てたんだっけかな・・・青山なら通勤途中だし まぁいいか・・・どれどれ」 PCを起動しブラウザから会社のサイトを開き「採用情報」をクリックする。 新卒採用、中途採用、障がい者採用・・・・ゆっくり採用 思わず飲んでいたお茶をブッと噴出す。 わかっていて開いたページだが改めて「ゆっくり採用」などと書かれていると滑稽で仕方が無い。 「ゆっくり採用専用ページ」をクリックすると、微笑んだまりさとれいむが「ゆっくりはたらこうね!」という台詞と 共に表示された。 「ゆっーー!!!すごくゆっくりしてそうだよ!おにーさんはやくはやく!」 いつのまにか机の上に上り一緒にモニタを見ていたまりさが興奮気味に男をせかす。 【職務内容】 社員に対する福利厚生を目的とした活動全般 広報活動へのサポート 平易な雑務(能力による) 【応募資格】 年齢:成体ゆっくり 経験:問わず(労働経験あれば尚可) その他:飼いゆっくり登録済み、穏やかな気性、協調性必須、ありす種は去勢済みであること 【語学力】 ひらがなの読解力(漢字、英語の読解力があれば尚可) 【勤務時間】 3日~5日/週 9 00-17 30 【待遇】 15,000円~/月(昇給あり) 契約社員 「うわぁ、割と本格的だな・・・ところで英語を話せるゆっくりはいるのだろうか・・・?」 「おにーさん!どうなの?まりさだいじょうぶ?」 モニタの横でぼよんぼよんと跳ねながらはしゃぐまりさ。 うるさいので頭を手でぎゅうと押し付けながら詳細を確認する。 「ふうむ・・・一応おまえは条件的にはクリアはしているな。おい、おまえ協調性あるのか?」 「ぐむむびゅ・・・ぎょーぢょーぜいでなあに」 押さえつけられたままのまりさが半分潰れたまま質問する。いつもならこんなことするとすぐに怒り出すまりさだったが 今は希望に満ちているのか気にもとめてないようだった。 「ああ、すまんすまん、ええと他のゆっくりや人間と一緒に仲良くしたり、いう事聞いたりできるのか?」 「もちろんだよ!まりさはともだちのれいむやぱちゅりーとなかよくしてるよ!それにおにーさんみたいな いじめっこのいうこともちゃんときいて・・・」 再び手で押さえつけられてむぎゅうと言って黙る。 「まぁ確かにそうだな、おまえは他のゆっくりとも喧嘩しないし大丈夫かなぁ~って、あ・・・」 【今期のゆっくり採用の募集は終了しました】 「ハイ残念でした・・・・もう募集は終わったってさ。」 「ゆがーん・・・!!!」 ショックでそのまま机の上からぼたっと床に落ちる。 「ゆっくりした結果がこれだったな。」 落胆したまりさはしばらくふてくされて横になり、ぐでっと溶けたアイスクリームみたいになっていたが のそりと起きると男に向かって口の端をゆがめてこう言った。 「・・・はたらいたらまけかなっておもってるよ・・・」 おしまい 続く(のか?) =============== あとがき 虐待らしい虐待がありませんでしたが、まぁこういうのもいいかなと思いました。 斬新な虐待方法が浮かばなかったというのもありますが。 飛び散る餡子を望んでいた方々申し訳ない。 これまでに書いたもの うんうんの報い ゆっくり罠地獄その1 by ゆっくりジェントルマン このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1775.html
博麗神社にお参りに行った帰り、林道を歩いていると妙な祠を発見した。 太い木の枝や葉っぱを組み合わせて作った小屋に、ゆっくりれいむが一匹収まっている。 そしてその前には、格子状の蓋のついた木箱。 ゆっくりに複雑な工作など出来るわけないから、人間の作り損じでも拾ってきたのだろうか。 手前には枝を組んで作られた小さな鳥居?があり、ゆっくりがくぐれる程度の大きさだ。 祠に収まっているれいむと目が合うと、得意げな笑みを浮かべながら話しかけてきた。 「おにいさん!!とってもありがたいゆっくりじんじゃだよ!! ゆっくりしていってね!!おさいせんをゆっくりちょうだいね!!」 こんなことを言い出す。神社の巫女さんを模したゆっくりであることは解っていたが、 本物の真似事まで始めるとは。しかしゆっくりを崇めてもありがたいどころか、運気を吸われそうな気がするぞ。 でもまあ、ゆっくりがこんなことをしているのは何だか珍しかったので、 少しぐらいお賽銭をやっても良いだろう。人間に奪われそうな気もするが。 狭い鳥居をくぐろうとすると体がぶつかり、固定の甘かった鳥居はあっさり崩れてしまった。 れいむは「なにするの!!」と言って少し悲しそうな顔をしたが、それほど怒った様子も無いので気にしないでおいた。 そしてお賽銭箱に面白半分に木箱に小銭を入れてやる。さっき本物の博麗神社に投じた額の1/10ほどだが。 「ゆゆ~!!おにいさんありがとう!!おねがいごとをしてね!!」 うるさい巫女だな……いや、神主なのか? よく解らない。でもお参りは静かにさせてほしい。 作法に則り、手を叩いて願い事を念じる。それが済んで立ち去ろうとすると、 れいむは膨れっ面でこっちをにらんでいた。 「おにいさん!!おねがいごとをゆっくりいってね!!だまってちゃわからないよ!!」 え~……そういうもんなの? というか、お前が願い事を知ったところでどうする。 まあもう少し付き合ってやるか。 「今度資格試験を受けるんだよね。それで仕事がもらえるかどうか決まる大事なやつでさ。 もちろん勉強も頑張ってるけど、一応ゲンかつぎに神頼みもしとこうかな~ってことで。 勉強がうまくいって、試験に合格できますよーに!」 もう一度手を合わせて祈る格好をする。ゆっくりに祈るのも何かムカつくけど、まあごっこ遊びだし。 「ゆっ!ゆっくりききとどけたよ!!おにいさんはきっとごうかくできるよ!!」 お前が聞き届けるのかよ。こいつは神主兼巫女兼神様なのか? しかしたとえゆっくり相手と言えど、励ましの言葉をもらえるのは悪いものではない。 俺は少しだけ機嫌を良くすると、れいむに手を振って帰路についた。 その夜。寝る前に机に向かって勉強をしていると、窓をドンドンと叩くものがあった。 何だろうと思って開けてみると、そこには一匹のゆっくりぱちゅりーが。 「むきゅ~!!おにいさんがべんきょうのことでこまっていそうなけはいがしたから、おしえにきてあげたわ」 ……何だこいつ。あ、もしかしてゆっくり神社の差し金か? 学問成就を願った俺のところにゆっくりの中では頭の良いぱちゅりーを派遣し、勉強を手伝わせる。 それによって願いを叶えさせ、ご利益の評判を高めてお賽銭をもっと集める……と。 「お前、ゆっくり神社から来たのか?」 「むきゅ!?な、なんのことかしら?ぱちゅりーはそんなれいむ、ぜんぜんしらないわね!」 れいむなんて一言も言ってないのに……まあこれで間違い無さそうだ。 しかし人を助けて対価を貰おうというのは、ゆっくりにしてはなんとも殊勝な考えだ。 「むきゅ!とってもかしこいぱちゅりーがばかなおにいさんをかしこくしてあげるわ!ゆっくりなんでもきいてね!」 しかしもうちょっと口の悪くない奴を派遣出来なかったものか…… ぱちゅりーは文房具に混じって、机の上に鎮座している。気が散って邪魔だ。 ぱちゅりーの頭が実のところそんなに良くないことは知っているので、追い返しても良い。 しかし受験勉強でストレスの溜まっていた俺は、ちょっとだけ悪戯をしてみた。 「ふーん、じゃあここの問題がちょっと解らないんだけど。答え教えてくれないかな?」 「むきゅ!ぱちゅにおまかせよ!」 俺は使っていた問題集の中で一番簡単な問題をぱちゅりーに見せてみた。 五秒後 「むっきゅー!!むじゅむじゅーー!!」 何か変な声を出し始めた。それでも問題集にかじりつくように向き合うぱちゅりー。 しかし人間様の問題をゆっくりに解けというのは難儀な話だ。 「むっきゅーー!!むじゅむじゅーーー!!」 ぱちゅりーはそのまま溶けていった。知恵熱でも起こしたんだろうか。 机の一角に広がったぱちゅりー液を指ですくって舐める。甘い。 これは勉強で疲れた頭を癒すには良いかも知れない。少しは役に立ったな。 ◇ 後日、試験に無事合格した俺は、息抜きに林道を散歩していた。 博麗神社に学問成就のお礼をしにいったのだが、ゆっくりの方にもついでに寄ってやることにする。 ゆっくり神社にさしかかると、おばあさんがお賽銭を入れていた。遠くから様子を見てみる。 「おばあさん!!おねがいごとをいってね!!」 「そうねぇ……うちの畑が今年も豊作で、おいしい野菜が沢山売れますように」 「ゆっくりききとどけたよ!!おばあさんはおいしいおやさいをいっぱいとれるよ!!」 「あらあら、嬉しいねぇ」 おばあさんは朗らかに微笑みながら、れいむに手を振ってゆっくり神社を後にする。 ゆっくりは子供っぽいところがあるから、ああいうのは年寄りに受けが良いのかもな。 おばあさんの姿が見えなくなると、れいむの仲間らしきゆっくりが数匹周りから飛び出て来た。 「みんなおばあさんのおねがいきいた?」 「はたけをてつだうんだねー!!わかるよー!!」 「きっとちからしごとだからまりさがてきにんね!」 「ゆっ!ゆっくりまかせるんだぜ!!」 「ちーんぽ!!」 この件を一任されたまりさは、おばあさんの帰っていった方角に向けて走っていった。 ああやって参拝者の住居を特定してるんだな。 その仕事ぶりを見るため、俺はまりさに二重尾行を仕掛ける。 やがて林を抜け、まりさはおばあさんの家に着いた。おじいさんと二人暮らしをしているらしい。 二人とも家の中にいるのを確認すると、まりさはさっそく畑に侵入する。青々と茂った根菜はもう収穫寸前らしい。 しばらくゆーゆー言いながら物色するまりさ。農作業のやり方なんて知ってるのだろうか。 そう思ってみていると、突然大根を掘り返して食べ始めた。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 何してんだ、あいつは……初めからこれが目的だったのか? いや、おそらく神社のれいむの目的は、こらしめられるリスクを負わずに人間の食べ物を手に入れること。 お賽銭を使って経済に参加することで、人間に疎外されない社会性を獲得しようとしたのだ。 まあ、現実的に可能かどうかは別として。 しかしアホのまりさには、そんな(ゆっくり的に)遠大な計画は理解出来ないし、面倒臭い。 それより目の前に広がるごちそうの山を目の前にして、今すぐしあわせになることを選んだのだろう。 「ゆっゆっ!これめっちゃうめ!さいしょからこうすればてっとりばやいんだぜ!!れいむはばかだぜ!!」 バカがどちらかは一目瞭然だが。 俺は畑の被害が大きくならない内に現場に踏み込み、まりさを取り押さえた。 「ゆっ!?おにいさんなんなんだぜ!?ゆっくりはなすんだぜ!!」 「人の野菜を食う悪いゆっくりを見過ごすわけにはいかないな」 「ゆべえぇっ!しらないんだぜ!ここはまりさがみつけたからおやさいはまりさのなんだぜ!!」 ぎゅうぎゅうと両手で地面に押さえつける。 跳ねようとするまりさの力が伝わって来るが、人間の腕力からすれば大したものではない。 餡子を口からぶりぶりと吐き出し、悲鳴を上げながらしなびていく。 あんまりまりさがうるさかったからか、住居からおじいさんが出てきた。 「コラーッ、わしの畑で何の騒ぎだ!?」 「あ、すいません。害獣が畑を荒らしていたものですから、咄嗟に……」 「ああ、ゆっくりか。すまんね兄ちゃん、うちも畑の周りに柵を作らないといかんのぉ。 そのゆっくりはうちが引き取るから置いていってくれ。良い肥料になるんじゃよ」 ほう、それは知らなかった。最近の農家はゆっくりを肥料にしているのか。 潰れて動けなくなったまりさをおじいさんに引渡し、俺は林道へと引き返す。 まりさの餡子によって畑の土壌は更に充実し、立派な野菜が収穫されることだろう。 ◇ 引き返した俺は、再びゆっくり神社へと赴く。 れいむが「ゆっくりしていってね!!」と言うので、「はいはいゆっくりゆっくり」と返す。 「ゆっ!!このあいだのおにいさん!!」 「やあ。おかげさまで試験にも合格出来たよ」 「よかったね!おともだちにもゆっくりじんじゃをしょうかいしていいよ!! ところでおにいさん、とってもかしこいぱちゅりーをみかけなかった?」 「ん? いや、見てないな。見てたとしても、見ただけじゃ賢いかどうかなんて解らないよ」 「ゆー、そうなの・・・」 まさかぱちゅりーは家で死にましたとも言えまい。余計な誤解と揉め事が起きそうだ。 しかしれいむもこっそりと仲間を派遣している手前、大っぴらに「お前の家に行ったはず」などとは聞けないらしい。 ご利益要員が欠けたのは痛いだろうが、またどっかから補充すれば良いだろう。ゆっくりなんて幾らでも沸いて出る。 「おにいさんきょうもおさいせんちょうだいね!!」 「いや、今日は良いよ。特に願い事も無いし」 「そんなことないでしょ!!なにかあるはずだよ!!おさいせんいれてね!!」 「醜い神社だなぁ……ん?」 傷付いた顔の子供がとぼとぼと歩いてきた。俺は道を開けてやる。 れいむが子供に「ゆっくりじんじゃだよ!!ゆっくりしていってね!!」と声をかける。 子供は賽銭箱に小銭を投げ入れ、手を叩いて願い事を言った。 「村のいじめっこがぶっ倒れますよーに!!」 どうやら虐められて怪我をしてるらしい。身体も大きくないし喧嘩では勝てないんだろう。 賽銭入れて祈るなら博麗神社の方が……と思ったが、確かに博麗神社までの道のりは少し険しくて子供の足では辛い。 とはいえゆっくりにも縋る気持ちなのだろうか。 「ゆっくりききとどけたよ!!あくはせいぎにやっつけられるうんめいなんだよ!!」 「うん……ありがとう……」 れいむの言葉を気休めと受け取って力なく笑うと、少年はトボトボと村に帰っていった。 助けてやりたい気もするが、子供の喧嘩に大人が出て行くってのもね。 周囲の茂みがガサガサと揺れた。仲間ゆっくり登場かと思ったが、出てこない。俺がいるからか。 「おにいさん!!ようがないならさっさとどっかいってね!!」 れいむが体を膨らませて怒鳴ってくる。俺ははいはいと答えてれいむの視界から消え、近くの茂みに隠れて様子を見る。 俺の姿が見えなくなったのを確認すると、何匹かのゆっくりが茂みから出てきた。 「こんかいはわるものたいじだよ!!」 「わかるよー!みょんとちぇんがいくんだねー!」 「ちーんぽ!ちーんぽ!」 「ふたりにかかればにんげんなんていちころね!!」 「ゆっくりいってらっしゃい!!」 子供の帰っていった方に走っていくみょんとちぇん。 俺も気付かれないようにその後ろをこっそりついていく。暇な奴だな、俺も。 結構歩いて村に辿り着く。こそこそと住人の様子を見て回っているゆっくり二匹。 やがて、いかにもいじめっ子ですといった風貌の、体格の大きな子供を見つける。 「あいつなんだねー!わかるよー!」 「ちーんぽ!」 「ちぇんがうしろからきしゅうするから、みょんがとどめだよ!」 「でかまら!」 気合の掛け声だろうか。 打ち合わせをするやいなや、ボサっと道を歩いていたいじめっ子の後頭部に向けてちぇんが苛烈な体当たり。 「いだっ」と呻いたいじめっ子は軽い脳震盪でも起こしたのか、その場に手をついてしまう。 そしてみょんが追撃。背中の上でぼふぼふ跳ね始める。 「ちーんぽ!ちーんぽ!」 「痛いっ、痛い! な、何なんだお前ら!?」 「ゆっくりしぬんだねー!わかるよー!!」 ゆっくり達の猛攻は続く……が、最初の一撃以外はあんまり効いてるとは思えない。 肩甲骨の間あたりで飛び跳ね攻撃を繰り返していたちぇんが、しっぽを掴まれて地面に叩きつけられる。 「ゆべっ!!なにずるのー!!ゆっくりやめてよー!!」 「はぁ? お前らが先に喧嘩売ってきたんだろうが。何やったってセイトーボーエイだぜ」 「ち、ちーんぽ!?」 みょんを払いのけ、立ち上がる少年。その瞳には苛立ちと、面白いおもちゃを手に入れたという好奇の光が輝いている。 ちぇんはしっぽを掴まれたまま、「ぎにゃあああああああ!!」と叫びながら振り回されている。 目からあふれ出る涙が周囲に飛散する。隠れているこっちにも飛んで来たので、顔についたのを指で取って舐める。甘い。 その勢いでびたーんびたーんと地面に叩きつけられるちぇん。その度に餡子を吐き出し、地面に放射状の餡痕が残る。 少年は鞭のようにちぇんを振ると、近くでおろおろしていたみょんを横に薙ぎ払った。 「ぺにずっ!?」 「ぎゃはははは! 弱っちいゆっくりごときがおれさまに勝とうなんて、百年早いんだよ!」 「やめでねー!!たずげでねー!!わからないよーー!!!」 吹っ飛ばされたみょんが、俺の隠れている近くの茂みに突っ込む。ギクッとしたが、何とかばれなかったようだ。 ちぇんは餡子を吐き出して少し軽くなり、速度を増して引き続きひゅんひゅんと振り回されている。 「やめてねええええーーー!!わからないよぉぉぉぉーーー!!!」 「あははは、これ面白いな。そうだ、お前うちの飼い猫の遊び相手にしてやろうか。 何か見た目も猫っぽいことだし、あいつもきっと喜ぶぞ。楽しみだな!」 「ゆぅぅぅうーーー!ちぇんおうちかえりたいよーーー!!!」 言葉とは裏腹に残酷そうに笑う少年の顔を見て、飼い猫もきっと彼に似て大きくて乱暴なんだろうなと思った。 その時、茂みに埋まっていたみょんが颯爽と飛び出す。その口には折れた枝がくわえられている。 ちぇんを振り回して遊ぶ少年の足元に、あっという間に駆けていき……そのまま枝の尖った折れ口で、少年の足を突き刺した。 「ちぃーーーーんぽ!!」 「い゛っ……痛っでえぇぇぇぇぇーー!!」 「みょーん!たすけてくれたんだね!!わかるよーー!!」 「ちんぽちんぽちーんぽ!」 足の痛みに、思わずちぇんを離してしまう少年。地面に落ちたちぇんは、嬉しそうにみょんの元に擦り寄る。 少年の足を見てみると、結構傷が深いみたいで血がどくどく溢れ出ている。あれは跡が残りそうだな。 ……っていうか、ちょっと洒落にならなくなってないか? 見てていいんだろうか? 血まみれの枝をくわえてなおも戦闘態勢のみょんを、泣きそうな顔で見ている少年。 やがて足を引きずりつつも、全速力で泣きながら逃げていく。 「いでぇ、いでぇよぉぉぉぉーーー!! お父ちゃーーーん!!」 「やったねーー!!ちぇんたちがかったんだよ!!わかるよーーー!!」 「ちーんぽ!!」 手負いの二匹はぴょんぴょん跳ねて勝ち鬨を上げている。 確かにあの怪我では、いじめっ子もしばらくは他の子供達に乱暴など出来ないだろう。 だがしばらくもしない内に、先ほどのいじめっ子など比べるべくもない屈強な男が現れる。 「てめえらか、うちの坊主に怪我させたゆっくりは!!」 「ちんぽ?」 「またわるものとうじょうなんだねー!わかるよー!でもちぇんとみょんならまけないんだよーー!!」 いじめっ子を撃退して自信をつけたのか、勢いよく突進していく二匹。 しかし大人の男に勝てるはずもなく、木の枝を突き刺す前に順々に蹴り飛ばされてしまう。 「ぢんっ!?」 「ゆびゅっ!なんでえええーーー!わからないよぉーーー!!」 「饅頭ふぜいが、人間様を傷付けやがって……あの世で後悔しやがれ!!」 男は少年のように甚振ることなどなく、躊躇せず二匹のゆっくりを確実に踏み潰していく。 始末を終えた男は、村の広場に大人たちを集め、何やら話し合いをしていた。 「ゆっくりが人間を襲っただって? 信じられないなあ」 「しかし現に、うちの坊主が木の枝で足を刺されてるんだ。あれじゃ当分は田んぼにも入れねえ」 「うーん、確かに子供や年寄りなら怪我をさせられることもあるかもな」 「どうする? 人間に勝てると思い込んだゆっくりが人を襲い始めたら……」 「そんな危険な饅頭がいたんじゃ、弱い者はおちおち村を出歩けもしない!」 「仕方ない、このあたりのゆっくり一斉駆除しよう。決行は明日の午後、子供や老人には外出を控えさせよう」 さあ、大事になってまいりました。まあ当然の成り行きですけどね。 ゆっくり神社のおかげで大量のゆっくりが死ぬことになってしまった。 まあ神社自体はこの村から離れた所にあるから、そこまで駆除の手が及ぶことはないだろうが。 しかし酷い話だ。俺は家に帰った。 ◇ 数日後。ゆっくり神社は人員の欠損と補充を繰り返しながら、 俺のような珍しいもの好きの人間相手にそこそこ繁盛してるみたいだった。 何度か様子を伺ってみたが、神社の運営を担当するれいむに、周囲の仲間がごはんを運んでくるらしい。 その見返りに、お賽銭が溜まった暁にはれいむがおいしいお菓子を振る舞うという筋書きだろう。 そしてついに、充分なお賽銭が溜まったとれいむが判断したらしい。 れいむは達成感に満ちた笑顔で、お堂から出てきて賽銭箱にすりすりしている。 「おかしをかいにいくよ!!ゆっくりはこをあけるよ!!」 ゆっゆっと言いながら、箱の周りを何週かするれいむ。何をやっているのか。 「どうやっであげるのおぉぉぉおおおぉぉぉぉ!?」 考えてなかったんかい。神社の巫女さんがやってるんだから何とかなるだろうぐらいの気持ちだったんだろうな。 引っ繰り返そうと体当たりをするが、元々が高さがなく横に広い形状であった上、 皮肉にも小銭が溜まって重量を増した箱はそう簡単に倒れない。 ゆぐゆぐと泣いているれいむ。開けてやろうかしらと思い始めた頃、性悪そうな一人の青年が参拝にやってきた。 れいむを無視して賽銭箱に小銭を投げ入れると、ぱんぱんと手を叩く。 「もっといっぱい虐待できますよーに!!」 「ゆ!?おにいざん!このはこをあげでね!!!」 巫女としての務めも忘れ、泣き声で参拝客に懇願するれいむ。 青年はにっこりとれいむに微笑みかける。 「いいよ、お安い御用さ。でもタダでは引き受けられないなあ」 「ゆ゛!?」 「お願い事をする時は何が必要なんだっけ?」 「ゆ・・・おさいせん・・・でもおさいせんはそのなかだよ」 「じゃあ僕が箱を開けたら、僕にお賽銭をくれるのかい?」 「いいよ゛!!はやぐゆっぐりあげでねぇ!!!」 箱を開けることしか考えていないれいむ。青年は手に力を込め、固く閉められていた箱の蓋を外す。 れいむは感激の涙を流す。 「ゆぅ~~!!おにいさんありがとう!!」 「じゃあ約束どおり、お賽銭はもらっていくね」 「ゆ?」 持参した袋に箱の中身の小銭をじゃらじゃら流し込んでいく青年。 感激の表情のまま、呆然と眺めているれいむ。 「じゃあね!」 「ゆ゛う゛ぅぅぅぅぅ!!おにいざんなにずるの゛おおぉぉぉぉぉ!!! れいぶのあづめだおざいぜんがああぁぁぁぁぁ!!」 「大丈夫、これはちゃんと里の自然保護基金に寄付しておくよ。 買い物しようなんてらしくないこと考えず、森の中でゆっくりしていってね!」 疾風のように去っていく青年を、れいむは追いかけることも出来ない。 俺が捕まえるべき? いや、別にれいむの肩持つ気無いし。 それにあの青年は、本当に森のためにお金を使うことだろう。私利私欲のためではなく、 ただゆっくりを絶望に突き落とすことだけを目的に行動する人種のようだから。 まあ自然保護活動にとっちゃ、微々たるものだろうけどね。あんなはした金。 「ゆぐっ・・・ゆぐっ・・・なんでぇ・・・れいぶのおさいせん・・・」 ゆっくり神社の境内でれいむが泣いていると、周囲から仲間のゆっくりが怒った表情で飛び出して来た。 れいむだけのお賽銭じゃないんだよね。 「ちょっと!どういうことなのれいむ!!」 「はこをあけるためにおさいせんをあげちゃうなんてばかなの?しぬの?」 「ゆ゛っ!?ちがうよ、れいむは・・・」 「ちがわないんだねー!わかるよー!」 「にんげんのたべものをいっぱいくれるってやくそくはうそだったんだね!!」 「いままでまりさたちをだましてごはんをはこばせてたんだぜ!!ゆるせないんだぜ!!」 「にんげんのおねがいにつきあわされてゆっくりできなかったわ!」 「れいむはぜんぜんゆっくりできないゆっくりだね!!」 「このうすぎたないばかゆっくり!!いきてるかちないよ!!」 「「「「「「ゆっくりしね!!!」」」」」 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」 何匹ものゆっくりから袋叩きに遭うれいむ。 参拝客に気に入ってもらうために綺麗にしていた髪や肌もボロボロになっていく。 暴行に参加していないゆっくりは、れいむの収まっていた手作り小屋に体当たりして破壊し、 屋根に使われていた葉っぱや草をむーしゃむーしゃとやっている。 やめでぇぇぇというれいむの声も、罵声と悲鳴の中に掻き消える。 十数分に渡る暴行が続いた後、完全に神社を破壊しつくしたゆっくり達は、それぞれ周囲に散っていった。 残ったのはゆっくり神社本堂のわずかな建材(食べられない部分)と空っぽの賽銭箱、 ボロ雑巾のようになった虫の息のれいむだけだった。 リボンも解けていてかわいそうだったので、俺は出て行って結んでやった。めんどくさいから固結びだけど。 「ゆ・・・・おにいさん・・・・・・」 「やあれいむ。お賽銭いるかい?」 「いらないよ・・・・・もうおかねはいやだよ・・・・・」 「あ、そう」 清貧ってやつかな。本物の方の巫女にも見せてやりたいぜ。 俺はれいむの前に立って、手をパンパンと叩く。 「早いとこ給料上がりますよーに!」 そして一礼すると、ゆっくり神社跡に背を向け、家に帰る。 饅頭には神も仏もいないよね。 おしまい このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2753.html
「おにいさん!れいむたちのおしごとのおてつだいをさせてね!」 「・・・・・・は?」 ある初夏の晴れた日のこと。 俺はいつも通り田吾作さんの畑のわりと近くにある自分の畑で仕事をしていた。 すると、人里のゆっくり対策の進んだ最近では珍しい山から下りてきたゆっくりの一家がやって来て、そんな事を言いやがった。 他所の地域では虫取りや他の害獣を追い払うのに役立てることもあるらしいが、ここではそんな習慣はない。 そもそも、人間の役に立とうという殊勝なゆっくり自体が極めてまれな存在だ。 「・・・農作業の手伝いって、お前らに何が出来るんだ?」 「れいむたちはむしさんやはっぱさんをむーしゃむーしゃできるよ!」 「野菜と雑草の区別はつくのか?」 「あたりまえなんだぜ!」 そう言って、ゆっくり一家の両親はゆへんと偉そうに胸(下あご?)を張った。 両親はれいむ種とまりさ種で子どもは親と同じ種族の赤ん坊サイズのものが2匹ずつ。 いわゆるオーソドックスファミリーだ。 「子どもが勝手に食ったりしないだろうな?」 「「「「しょんなことちなにゃいよ、ぴゅんぴゅん!」」」」 俺の言葉に反応した子ども達は反論の後、一斉に頬を膨らませた。 さて、どうしたものか・・・。 さっきの応答や言動・態度を見る限りにおいて、ゲスっぽい気配は無い。 それどころか家族揃ってゆっくりにしてはかなり聡明なようだ。 「ん~・・・」 「おにーさぁん・・・おねがいだよ!」 「・・・で、何が目当てなんだ?」 「ゆゆっ!・・・すごいぜ、れいむ!まりさたちのもくてきはばればれだぜ!」 「ほんとうだね!さすがにんげんさんだね!」 「「「「ゆっきゅちしゅごいよ!」」」」 珍しく殊勝な奴らだと思えばやっぱり見返り目当てだったが、それでも勝手に畑の野菜を食い漁るよりはずっと賢明だろう。 物珍しさにも後押しされ、俺は大根4本と交換で一家の申し出を受け入れることにしてみた。 野菜と雑草の区別が出来ていることを確認してから、柵の中に招き入れ、一家のためにそこそこの大きさの小屋と水飲み場を設置してやる。 こうして、俺とゆっくり一家の共同作業が始まった。 結論から言えばこの一家はいつも俺の予想をいい方向に裏切ってくれた。 ちゃんと雑草と野菜を区別して雑草だけを抜き取ってくれるし、虫の駆除もほぼ完璧。 流石にそれ以上のことは殆ど出来なかったが、虫害をどうにかしてくれるだけでも本当に助かる。 一度だけ子まりさが野菜に口をつけようとした事もあったが、その時には自分の子どもをちゃんと叱りつけていた。 なるほど、これだけ出来のよい個体であればゆっくりであってもそれなりに役に立つ。 それに・・・・・・ 「「ゆゆっ!おにーさん、ゆっくりしていってね!」」 「「「「ゆっくちちていってね!」」」」 「仕事があるからゆっくり出来ないっつーの」 「「じゃあゆっくりおしごとがんばってね!」」 「「「「ゆっくちがんばってね!」」」」 何より、間違ってもおうち宣言のようなこっちの神経を逆なでするようなことは言わなかった。 それどころか、仕事の合間の休憩時間の話し相手としても活躍してくれた。 柵では対処しきれない鳥類が作物を荒らそうとしたときには大声で俺を呼んだ。 とにかく、ゆっくり一家は十分すぎるほどに役に立ってくれた。 「れいむぅ・・・とってもゆっくりしてるね~」 「そうだね、まりさ」 「つぎのおにさんはれいむだよ!」 「「「ゆっくちにげるよ!」」」 また、柵と小屋に守られた畑で安全に食料を確保できるこの状況は一家にとって、とてもゆっくりできる環境だったらしい。 子ども達は赤ゆっくりから子ゆっくりへと成長し、餌を食べ終えた後に畑の周辺でよく鬼ごっこをしていた。 好奇心旺盛で俺に人間のことをあれこれ聞いてきたりもした。 「おにーしゃん!どうちでにんげんさんはむしさんをたべないの?」 「いや、食べられることは食べられるし、食べることもあるぞ」 「でも、おにーしゃんはたべないね!」 「虫はなぁ・・・人間には小さすぎるんだよ。あと、見た目がグロい」 「どうちて?おいちいのに?」 「人間の好みじゃないんだよ。さて、仕事に戻るからもう話しかけんなよ?」 「「「「ゆっくちりかいちたよ!」」」」 と、まあ、こんな具合に鬱陶しくも愛嬌のある奴らだった。 たまに引っ掴んで持ち上げてやるだけで「おしょらをとんでりゅみたーい!」と大喜びするので、散歩いらずな分犬よりも手間がかからない。 「おにーしゃん!いもうとたちにもおしょらちてあげてね!」 「「れーみゅもおしょらとびちゃいよ!」」 「「まりしゃもぶれいじんぐしゅたーちちゃいよ!」」 そうそう、そういえば相当ゆっくり出来たせいか、夏の間に家族が4匹ほど増えていたりする。 れいむ種とまりさ種が2匹ずつ。まだ生まれて間もない赤ん坊だが、にんっしんっで産まれたので結構大きい。 1回のにんっしんっで産まれたのは2匹で両種が1匹ずつ。 まずはれいむが産み、その次にまりさが産んだ。 そんなわけでいつの間にかこの一家は両親2匹に子ども8匹と言うかなりの大家族になっていた。 勿論、新しく出来た家族も親や俺の言うことをきちんと守って、虫や雑草を駆除してくれた。 おかげさまで、今年はいつもよりもずっと収穫が多かった。 そして収穫を終えた日の夜。 翌朝には一家に約束の大根を渡し、野に返してやらねばならない。 俺は前々から読者にも伏線すら提示せずに考えていたある計画を実行に移した。 そろーりそろーりと連中の小屋に忍び込むと、夏に生まれた子どもを各種族1匹ずつ捕まえ、いったん自分の部屋へ戻った。 それから、今までは常時開放されていた小屋の出入り口に扉を取り付け、しっかりと施錠も出来るようにした。 仕上げに、残った家族をこいつらの本能に刻み込まれた言葉で叩き起こした。 「ゆっくりしていってね!」 「「ゆゆっ!ゆっくりしていってね!」」 「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」 いとも容易く目を覚ました一家はしばらくのん気に「おにーさん、どうしたの?」などと言っていた。 が、やがて家族が減っていることに気づくと顔を真っ青にして右往左往し始めた。 「おにーさん!れいむのおちびちゃんがいないよおおおおお!?」 「そりゃそうだ。俺が預かったんだからな」 「どうしてそんなことするんだぜ!?」 「それはね!お前達との取引を無効にしたいからだよ!」 「「「「「「「「ゆゆっ!?」」」」」」」」 俺の突然の宣言に「びっくりー!」とでも言わんばかりに目を見開いて驚くゆっくり一家。 今までそれなりに仲良くしてきただけに、その信頼の全てを根底から覆す言葉が信じられないのだろう。 その証拠に、しばらく唖然していたれいむは我にかえるや否や、頬を膨らませてこう言った。 「おにーさん、じょうだんはやめてね!ゆっくりできないよ、ぷんぷん!」 初めて俺に出会った日から数えると、なんと100日以上もの付き合いがあるのだ。 流石に俺がそんなことをするとは思えない、或いは思いたくないらしい。 しかし、残念ながら全て事実であり、目をそらしても変わることの無い真実。 そのことをれいむ達に理解してもらうために、俺は近くにいた、親に連れられてここに来た1匹の子まりさを踏み潰してやった。 「「「「「・・・・・・ゆゆっ!?」」」」」 「これで分かっただろ?俺は本気だよ」 「ゆああああああああああああああああああああ!?」 「でいぶのおぢびぢゃんがあああああああああああああ!?」 「「「「「ばりぢゃあああああああああああああ!?」」」」」 家族が1匹踏み潰されたことでようやく事態の深刻さを認識した一家は恐怖と絶望に顔を歪め、彼女らの双眸からは涙が溢れ出している。 が、泣き止むまで待つのも億劫なので「ゆっくりしていってね!」を利用して半ば強引に泣き止ませると、即座に用件を伝えた。 「さっき言ったとおり大根はやらん。嫌なら全員殺す・・・理解したか?」 「「ゆぐっ・・・・・・ゆっくりりかいしたよ!」」 「「「ゆえーん!」」」 「おにーしゃんひどいよ!やくそくをやぶりゅなんてゆっくちしてないよ!」 「しょーだよ!ゆっくちできないよ!」 残り7匹のうち、5匹は自分の立場をしっかりと弁えてくれたようだが、2匹だけそうでないものがいた。 1匹は両親に連れられてきた子まりさで、もう一匹は夏に生まれた子まりさだった。 彼女らは「ゆっくりさせてね!」などとのたまいながら、成体一歩手前の体を思いっきり跳躍させて俺に体当たりを仕掛けてくる。 が、悲しいほどに痛くもかゆくもないのでしばらく黙ってその攻撃を喰らってやる。 最初はいい気になって「ゆっくりこうさんしてね!」などと言っていたが、やがて息が上がり、冷静になった頃には己の無力を理解した。 「「どほぢでじぇんじぇんぎがにゃいのおおおおおお!?」」 泣き叫ぶ2匹の呼吸は荒く、また体当たりを繰り返したせいでところどころ青あざが出来ていた。 ぼろぼろになりながら、己の無力をかみ締める姿は可哀想でどこか哀れみを誘うものがあるが、容赦することなくお仕置きを加えてやった。 「うりゃ!」 「―――――――――――――ッ!!?」 サミング、いわゆる目潰しを食らわして子まりさの目玉を両方とも抉り出すと、悲鳴にもならない金切り声が子多重に響き渡った。 両親はガタガタと震えながらも「やめてあげてね!いたがってるよ!」と俺に許しを請う。 その傍では素直に言う事を聞いた殊勝な子ども達が両親にへばりついて泣きながら、歯をガチガチと鳴らして震えている。 そして、当の子まりさは目のあった場所から餡子を漏らしながら床を転げまわっていた。 「ゆっくりにげりゅよ!そろーりそろーり・・・」 「ハイ残念、もう見つかった!」 「ゆゆっ!?やめてね!こっちこないでね!?」 子まりさの惨状を目の当たりにした子れいむもまた涙で頬をぬらしながら、必死に逃げ回っていた。 しかし、普段は開けっ放しの出入り口は閉まっており、この小屋には隠れられるような場所も無く、逃げ場所なんて何処にもなかった。 それでも子れいむは俺から逃げ続けた。俺がわざと泳がせていることにも気づかずに一心不乱に逃げ続けた。 そして、疲労が限界に達し、一歩も動くことが出来なくなった瞬間に彼女は俺によって光を奪われた。 俺は一家に食料の代わりに安全に越冬できる巣、以前から使用していたあの小屋を貸してやることにした。 ただし、扉はしっかりと施錠されているし、他の場所から外に出ることもできない。 勿論、食料をやるつもりは微塵も無いので、このままでは何も食べることは出来ず、飢え死にするのを待つだけである。 「そこで、赤ゆっくりのできる蔦やそれに成っている赤ゆっくりと大根を交換してやろうと思う。嫌なら飢えて死ね!」 「ゆゆっ!・・・お、おにーさんはあがぢゃんをあづめでどうずるの・・・?」 「いい質問だ。俺の家に連れて行ったお前らの子どもに食べさせる。ちなみにそれ以外の餌は与えない」 「「「そ、そんなひどいことちないでよ!?ゆっくちできないよ!」」」 自分たちの立場を理解しているとは言え、流石にこの提案ばかりは呑めないらしい。 必死の形相で抗議し、何とか俺から妥協を得ようと一生懸命媚びへつらったり、泣き落とそうとしたりしている。 が、やっぱり何の意味も無い。 「お仕置きされたいか?」 「「ゆゆっ!おしおきはやだよ!ゆっくりできないよ!?」」 「「「おしおきごわいよぉ~!」」」 「「ゆぎぃ!?お、おぢごぎいやあああああああああああああああああ!?」」 どんなに頑張ってもたった一言ですべてが消し飛んでしまう。 両親は子をかばい、子は両親にすがりつき、既にお仕置きを受けたものは気が狂ったかのように喚いていた。 そんなどうしようもなく無力な一家に向かって更に話を続ける。 「ちなみに家のほうの子どもの食事は君たちと交換した蔦や赤ちゃんだけだからね。ゆっくり理解しろよ?」 「「ゆぐっ・・・ゆ、ゆっくりりかいしたよ・・・」」 それから交換レートについても話し合い、蔦1本=大根の葉っぱ10g,赤ゆ1匹=大根の葉っぱ3gという相場に決定した。 ちなみに、うちで取れる大根1本の重さが1000gの可食部分が900g程度であるから蔦1本に赤ゆが5匹なると仮定して1本=25gである。 つまり、40本の蔦を手渡してようやく1kgの食料を得られるのだ。 一家はその分量を示されたときに少なすぎるとゴネたが、手近な成体間近の子れいむにお仕置きをしてやったら快く同意してくれた。 植物型であっても自分が生きたまま子どもを産めるだけの大きさに達しているのは両親と最初からいた4匹の計6匹。 ただし、子どものほうは蔦を3本も生やせば命に関わるだろうし、連続出産なんてとてもじゃないが出来ない。 勿論、いくら十分成熟している両親と言えど5本以上蔦を生やすと流石に危ないのは言うまでもない。 現在生き残っているゆっくりは7匹。 両親のれいむとまりさ、成体間近の子れいむが2匹と子まりさが1匹。 子ども達に関しては1匹のれいむを除いて全員お仕置きによって目を失ってしまっている。 そして、夏に生まれた子れいむと子まりさが1匹ずつ。 こちらは子まりさの方だけがお仕置きによって目を失ってしまっていた。 「ゆっぐ・・・ほどぢでごんなごどになっだのぉ・・・」 「ゆっぐぢでぎないよぉ~・・・」 「「ゆっぐちちだいよ~・・・」」 「くらいよ~・・・ゆっくちでいないよぉ・・・」 そんな絶望的な境遇の中で苦しみにあえぐ一家を眺めながら俺は小屋の出入り口へと向かっていく。 そして、たった一つだけ希望を与えて小屋を後にした。 「俺の部屋の子ども達は来年の農作業用だから餌以外は最高の環境でゆっくりしているぞ」 れいむとまりさは本当に賢い個体だった。 男の言葉を聞いて、意味するところを、男の意図をきわめて正確に把握していた。 また、ゆっくり特有の希望的観測をせずに自分たちの末路を理解した。 「れいむ・・・ごべんね。まりさがにんげんさんのおでつだいしようなんていったせいで・・・」 「ちがうよ、まりさ!れいむもさんせいしたんだよ!」 「「「ゆっくりできないよぉ~」」」 「もうやだ、おうちかえる!」 「おちびちゃんたち、ゆっくりがまんしてね!はるになったらおうちにかえれるよ!」 勿論、嘘だ。男は「部屋の子ども達は来年の農作業用」だと言っていた。 つまり、来年には子ども達がこの小屋で寝泊りをして虫や雑草の駆除に従事することになる。 その時、自分たちが生きていると余計なことを吹き込んでしまう恐れがある。 「きょうはゆっくりやすもうね!」 「あしたになったらきっとおにーさんもゆっくりできるようになってるよ!」 「「「「「ゆっくりりかいしたよ・・・」」」」」 しかし、その事実を伝えるのはあまりに酷だと判断した両親は何も言わず、ゆっくりすることを提案した。 両親の言うことを聞いて痛みや恐怖を堪えながら、そしてそれらから逃げるように子ども達は眠りについた。 彼女達はそれがこの世界で最後のゆっくりになることを知るはずがなかった。 「そろーりそろーり・・・れいむ、ゆっせーので、でいくよ?」 「ゆっくりりかいしたよ。ゆっせのーで」 あっという間に眠りについた子ども達を起こさないように静かに傍まで這いずって行った両親は掛け声と同時に子れいむに噛み付いた。 その子れいむは夏に生まれたばかりの子どもで、まだ小さく成体2匹にいきなり噛みつかれてはひとたまりも無い。 一瞬にして大量の餡子を失った子れいむは断末魔を残して終らないゆっくりへと旅立って行った。 「・・・もっと、ゆっくちちたかったよ・・・」 「「む~しゃむ~しゃ・・・ごべんねぇ・・・」」 そうして子れいむの亡骸を食べ終えた両親は次に両目を失った子まりさを食い殺した。 言うまでも無いことだが、出来ればこんなことはしたくないのだろう。 悲しみの色に染まった双眸からは涙が溢れ出し、水に弱い頬をふやけさせてしまっている。 夏に生まれた子まりさも同じように殺すと、その亡骸を両目を失った成体間近の子まりさ2匹の口にねじ込んだ。 舌を使って器用に口の奥へと運び、何とかこぼれ落ちないようにする。 その後、両親は我が子に頬をこすりつけていわゆるゆっくりにとっての交尾“すっきりー”をした。 途中で子どもが目を覚まし、「ゆっくりできないよー!」と泣いていたが、それでも無理矢理最後までやり遂げた。 「ごべんねぇ・・・」 「「も、もっと、ゆっくちしたかったよぉ・・・」」 「おぢびぢゃんだち・・・ごべんねぇ」 翌朝、唯一生き残った成体間近の子れいむが目を覚ましたとき、部屋には3本の蔦を頭に生やした両親しかいなかった。 それ以外のものは見慣れた壁と床と、わずかばかりの黒いかたまり、そして、10本の蔦を生やしている黒ずんだ大きな塊だけ。 朝早くにやってきた男は、以前のようにゆっくりしていることは無く、その蔦を全部引っこ抜くと足早に小屋を後にした。 「ねぇ、おかーさん・・・いもうとたちは?」 「れいむ、ゆっくりきいてね!」 「ゆっ・・・ゆっくりきくよ!」 神妙な面持ちの親れいむのただならぬ気配を察知した子れいむも真剣な表情になる。 「れいむのいもうとたちはね・・・・・・おかーさんたちがころしたんだよ!」 「ゆゆっ!?う、うそいわないでね!おこるよ、ぷんぷん!」 「ほんとうなんだぜ。いっぱいいてもごはんがへるだけだからころしたんだぜ!」 「ど、どほぢでぞんなごどずるのおおおおおおおおおお!?」 その残酷な言葉を聞かされた子れいむは泣きじゃくり、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら両親に怒りをぶつける。 が、両親は「しかたなかったんだぜ!」とか「れいむのためだよ!」などと言うばかりで、何一つ納得のいく言葉を口にしてくれない。 やがて我慢の限界に達した子れいむは親れいむに飛び掛るがあっさりと弾き飛ばされ、まりさに取り押さえられてしまった。 「おがーざんのばがああああああああ!?」 「しかたないんだよ!こうしないとゆっくりできなくなっちゃうんだよ!」 「ぞんなのぢらないよ゛!ゆっぐぢでぎないおがあざんなんでゆっぐぢぢね!!」 厳しい自然の中で仲間を失った経験の無いこの子れいむにとって、生存のためでも仲間を切り捨てるなんてことは考えられない。 だから、親の気持ちも知らずに泣きつかれて眠るまでただひたすら呪詛を吐き続けた。 「ゆっくりしね・・・だって」 「おお、こわいこわい」 本来ならふてぶてしい表情で言うはずのこの言葉を、今ばかりは悲しみに満ちた表情で口走る。 ここにいてもいつか殺されるだけなら、いつか脱走を試みなければならない。 そして、そのためにはまず生き延びなくてはならないし、脱走の際に足手まといにしかならないものを生かしても仕方が無い。 そんな個体はよしんば逃げ延びても冬の野原や森で生き残ることなどまず不可能なのだから。 ならばさっさと間引いて一番逃げ延びる可能性のあるれいむだけでも救いたい。 また、きちんと蔦を提供することで、男の部屋の子ども達も何とか生き延びることができるかもしれない。 それが子どもが決して知ることの無い両親の想いだった。 頬を涙でぬらしながらも安らかな表情で眠る我が子の傍で2匹は再び6度に渡ってすっきりを繰り返した。 それが終わるとタイミング良く男がやって来て、さっきの分の餌(大根の葉っぱ650g)を床に置き、再び蔦を引き抜いていった。 結論から言えば両親は、餌には一切手をつけずに命を削って20本近い蔦を提供したが、子どもを逃がす機会を手にすることは出来なかった。 子れいむは両親の本心を理解しせず、度重なるすっきりで疲弊しているところを彼女に襲われたのが両親の死因となった。 小屋に残されたのは世間知らずで、両親ほど賢くもなかった1匹の成体間近の子れいむとおよそ1000g分の大根。 3ヶ月ばかり続く長い冬の間、最初の数日は両親の教えに反発するように適量以上を食べ続け、その後数日は妙な臭いを発する両親の死体で飢えをしのいだ。 が、やがてそれも尽き、2,3週間かけて子れいむはゆっくりゆっくりと飢えて、やせ衰えて、死んでいった。 「もっと・・・ゆっくり、したかったよ・・・」 おわり 善良なゆっくりは心理的な抵抗とは別の次元でも虐待しにくい気がする。 ちなみに、男の部屋の子ゆっくりは男が餌を管理してくれたおかげで無事生き延びました。 で、畑仕事を手伝いながら、10匹の子ゆっくりを授かり、冬には(以下略 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4087.html
※俺設定注意 ドスまりさの目の前でゆっくり達は全滅した。 泣き喚くもの、状況を理解せずに脅しつけるもの、命乞いをするもの。 人間はそんなゆっくり達を差別しない。 全て平等に、踏み潰し、切り裂き、引き千切り、殺す。 親ゆっくりも子ゆっくりも赤ゆっくりも老ゆっくりもすべてみんな殺されてゆく。 もちろん、ドスまりさもその殺戮の範疇にいた。 体は切り裂かれ、脳天に杭を打ち込まれているドスまりさの意識はない。 やがて処刑は終わる。 里の広場という処刑場にあるのは餡子。餡子。餡子の海。 気付けば日も暮れ始め、人間達はそれぞれの家に帰る。満身創痍のドスまりさを置いて。 だが、ここで奇跡が起こる。 ドスまりさの意識が目覚める。 本来ならば有り得えない。いくらドスとて、これほどの傷を負えばそのまま死ぬはずだった。 やがてドスまりさは地面にうち捨てられた帽子を拾い、ゆっくりと這い出す。 まただ。また、やってしまった。 ドスまりさはゆっくりと這う。おうちへと帰るのだ。 今回で何度目だ?一体、いくら死なせれば気が済むのだ? ドスまりさの胸中に浮かぶものは後悔。 ドスまりさは今まで何度も群れの全滅を見てきた。 ある時は突然の大雨。ある時はれみりゃの大群。そして、今回は人間の里に手を出してしまった。 他にも例をあげればきりが無い。 それほどまでにゆっくりは死にやすい。 今度こそ。今度こそこの群れは、立派にゆっくりさせてみせる。 そんな想いを何度も抱き、何度も打ち砕かれた。 この世はゆっくりできないものが多すぎる。そうだ。そうなのだ。 人間もれみりゃもふらんも山犬も雨も風も自然も何もかも、すべてがゆっくりできない。 もう解った。ゆっくりできないものには近づかない。近づきたくない。 だから次の群れは。次の群れこそはゆっくりさせてみせる。 ドスまりさは傷を庇うようにゆっくり這っていく。 その脳天には、いまだに杭が打ち込まれたままになっていた。 人間が立ち入ろうともしないような森の奥。 ここはゆっくりの理想郷。 ここのゆっくりは皆ゆっくりと、しあわせに暮らしている。 ゆっくりできないものなど無い。すべてがゆっくりしている。 ドスまりさは全てのゆっくりがしあわせー!になれるように、この理想郷を「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」と名づけた。 ゆっくりぱらのいあ 日の光が射しこむ朝。木の下に掘ったおうちの中で、まりさはゆっくり目覚める。 遂にこの日がやってきてしまった。 朝日の下、憂鬱な気分を紛らわすように溜息を吐く。 まりさの属する群れには、あるひとつの掟があった。 成人を迎えたゆっくりは、定期的に”お仕事”に就かねばならない。 まりさはこの春大人の仲間入りをした。今日初めて”お仕事”に就く。 これが普通の狩りや家事ならば、喜んでやろう。 まりさは本来そういう仕事に憧れていたし、その能力もあった。 だが違う。これからやる”お仕事”はどう考えても喜べるものではない。 ”お仕事”を放棄することは出来ない。 そんなことをすれば群れの長が黙っては居ない。 良くて追放、悪ければ・・・・・・まりさは考えるのを止める。 こんなことを考えても仕方が無い。 今日”お仕事”を済ませれば、当分の間は大丈夫。この群れに大人のゆっくりは数多くいる。 ゆっくり特有の前向き思考で、まりさは現状の問題を棚上げする。 こんな時はお兄さんと遊んだときのことを思い出そう。 まりさの話を聞いてくれて、まりさにいろんなことを教えてくれたとってもいい人。 今度はいつ会えるのだろう?また会って遊んでほしい。 楽しいことを思い浮かべるけれどもやっぱり憂鬱。 まりさはそんな気分で、森の広場へと向かっていった。 森の広場。 そこだけ木が切り取られたような広い空間に、巨大な饅頭が鎮座している。 この群れの長、ドスまりさだ。 「まりさ。まりさはゆっくりしてる?」 「もちろんだよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』だよ」 嘘だ。本当はゆっくりなどしていない。 だが嘘をつく。そうでなければ殺されてしまうから。 このドスまりさは狂っていた。 ドスまりさはこの群れ、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」をゆっくりにとっての理想郷だと信じ込んでいる。 ドスまりさは森の外は、ゆっくりできないものがうようよしていると信じている。 彼らは「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」の破壊を目的にしているのだ。 そのためドスまりさは、こんな森の奥に引っ込み、手出しができないようにした。 さらにドスまりさは、群れのゆっくりの中にも反逆者が混じっている、と信じている。 彼らはゆっくりできないもの、例えば人間と通じており、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」の破壊を目論んでいる。 彼らは忠実な群れのゆっくりに化けている。探し出し、処刑しなくてはならない。 ここのゆっくりは、皆ゆっくりしている。何故ならば、ドスが皆にゆっくりを提供しているから。 ドスはみんなの友達であり、ドスはみんなのことを常に考えている、ドスまりさは自分でそう信じている。 従って、群れのゆっくりは皆ゆっくりとしていなければならない。 もしゆっくりとしていないならば、それこそ反逆者である証拠だ。 「れいむ。れいむはゆっくりしてる?」 「もちろんだよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』だよ」 「ありす。ありすはゆっくりしてる?」 「もちろんよドス。ゆっくりしてるのはとかいはの『ぎむ』だわ」 「ぱちゅりー。ぱちゅりーはゆっくりしてる?」 「むきゅ、もちろんよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』よ」 「ちぇん。ちぇんはゆっくりしてる?」 「もちろんだよー。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』なんだねー」 今日集められたゆっくりは5匹。 れいむ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、そしてまりさ。 この中で”お仕事”が初めてなのはまりさとぱちゅりー。 2匹は幼馴染みだった。 「今日はあつまってくれてありがとう。さっそく”お仕事”の説明をするよ」 一通り挨拶し終えたドスは話を切り出す。 「この前、ゆっくりできないれみりゃを見かけたという報告があったよ」 「れみりゃはゆっくりできない。ゆっくりできないものはこの森にいてはいけない」 「ドスはそう考えたよ。だからみんなに集まってもらった」 「みんなの”お仕事”は、そのれみりゃを永遠にゆっくりさせること」 「もちろん、反逆者がいたら報告してね。場合によってはその場で処刑してもいいよ」 きた。これだ。まったくゆっくりできない。 両親から聞いた話の通り過ぎて、まりさはさらに憂鬱になる。 「全てのれみりゃ・ふらん・その他捕食種はゆっくりできないよ」 「この森に住むゆっくりたちは全てゆっくりしており、この「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」は そうした完璧なゆっくりのみに許されたゆーとぴあだよ」 「ゆっくりしていない外見、中身、その他もろもろを持ったゆっくりは見つけ出され、根絶しなければならないよ」 知っている。 この森には飾りを無くしたゆっくりなんて者は居ない。 この森にはドスに逆らうゆっくりなんて居ない。 なぜなら飾りを無くせばドスに殺されるから。ドスに歯向かえば殺されるから。 最低のディストピアだ。 「ドスに内緒のお話・行動をしているゆっくりは反逆者だよ」 「ドスが知らない、認めていない組織に参加しているゆっくり。ドスが知らないということはその組織は秘密組織であり、 それに参加する者はドスや、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」に危害を加えようとしているものと判断するよ」 「そんな反逆者は、狩りだして処刑されねばならないよ」 それも知っている。 秘密の狩りに出かけたもの。隠れてすっきりをしたもの。 彼らは全てドスに殺された。 この群れには密告というルールがある。 不穏な行動を取るゆっくりをドスに密告し、その報酬として安全を約束される。 自分の保身のために他のゆっくりを売る。 お陰でこの森から逃げる算段をつけることすらも難しい。 「ドスは君達の力量を考え、十分な装備を提供し、適切な任務を与えるよ」 「つまり、君達の任務成功率は100%だとドスは確信しているよ」 嘘だ。 ただのゆっくりがたった五人で、れみりゃに敵うと思っているのか。 それにこの森にれみりゃなんて居ない。 とっくの昔にドスまりさが狩りつくしてしまった。 報告というのもどうせ誰かの口から出任せ。 居ないものをどうやって捜せというのか。 つまり、まりさ達の任務成功率は0%だ。 ドスまりさの傍からゆっくりにとりが顔を出す。 このにとりも狂っていた。 まりさ達に手渡されるのは複雑に変形した棒のような何か。 おそらくはドスまりさの話を聞いて作った何かの模造品。これが「十分な装備」とは、恐れ入る。 「もし任務が失敗してしまうようならば、ドスはそれを反逆者の陰謀だと判断するよ」 まりさ達は任務の失敗を言い繕うために、反逆者を捜し出す。 別に反逆者である必要はない。誰かをそう仕立て上げれば良いだけのこと。 これからまりさたちが行うのは、自分達の命をかけた騙し合いだった。 「それからもう一つ!もし人間さんを見つけたら、必ず報告してね!」 「人間さんはゆっくりできないよ!人間さんはゆっくりできないよ!人間さんはゆっくりできないよ!」 壊れたようにドスまりさは繰り返す。 過去に何かあっただろう。それほどまでにドスまりさは人間を恐れている。 だがまりさは報告しない。 そんなことをすれば殺されてしまう。 ドスからすれば人間と会っているゆっくり=反逆者だからだ。 馬鹿正直に話をして、ドスまりさに反逆者と思われたら元も子もない。 「それじゃあみんな、頑張ってきてね!ドスはここで皆のことを応援してるよ!」 まりさ達5匹は、れみりゃが居たと報告された場所へ向かって歩き出す。 これから居もしないれみりゃを捜し出して、5匹の中の誰かを反逆者にするのだ。 まったくもって非生産的な”お仕事”。 楽しすぎて涙が出る。 そういえば、まりさは本当に反逆者なんだっけ。 ドスに内緒で人間さんと出会い、遊んだ。殺されるには十分な理由。 それだけのことで死んでたまるか。誰を犠牲にしてでも、絶対に生き延びてやる。 まりさはそう決意し、森の中を跳ねていった。 広場から遠く離れた森の何処か。 今まりさはひとり、森の中をぶらついていた。 当然のように、れみりゃはいなかった。 報告があったという洞穴。どこを探そうとれみりゃの影も形も見当たらない。 それでも一応、どこかに居るかもしれないという理由でまりさ達は分散して捜索を続けることにした。 死体は自分の無実を証明できない。 だから、まず先に殺してから相手に罪を被せることのほうが楽だ。 五人全員一緒に居ていつ誰から襲われるともわからない状況より、ひとりの方が気が楽だった。 このままでは任務は失敗に終わる。 その前に誰かに反逆者になってもらわねば。誰がいいだろうか?れいむあたりがいいかもしれない。 当然、相手も同じ事を考えている。殺るか殺られるか。 そう考えながら、まりさは周囲を捜索する振りを続ける。 突如。 目の前の茂みから、がさがさと音が鳴る。 まりさは驚愕する。 誰だ。れいむかありすかちぇんか。誰がまりさを殺しに来た。 いや、まさか。もしかしたられみりゃかもしれない。 もし本当にれみりゃが居たとしたら、今まりさはひとり。殺される。 あらゆる可能性が頭の中を駆け抜け、まりさを青褪めさせる。 しまった。いくら危険でも、全員で固まっていた方が良かったのかもしれない。 ここでまりさは殺され、後の4匹はまりさを反逆者ということにして生き延びる。 嫌だ。絶対に嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…… もうまりさが何を後悔しても遅い。茂みをかき分け、出てきたのは――― 「お、いたいた。まりさ、ゆっくりしていってね」 まりさの不安は外れた。茂みから出てきたのは、人間さん。 そう、まりさと一緒に遊んでくれたお兄さんだ。 安心とともに地面にふにゃりとへたれ込むまりさ。 「ゆ、ゆぅぅ……。びっくりさせないでね、おにいさん」 「?」 お兄さんが首をかしげている。一体何のことかわからないのだろう。 お兄さんに説明してあげなきゃ。まりさはゆっくりと、今の状況を説明し始めた。 「ふーん……成る程ね。難儀だな、お前も」 「ゆぅ……ゆっくりりかいしてくれて、うれしいよ……」 大体の説明を終え、お兄さんはまりさを励ましている。 こんな異常な話に理解を示してくれたお兄さんに、まりさはさらに好感を持った。 「お前んとこの長が狂ってて、今お前は誰に殺されるかわからない状況だと……すごい話だな」 「ゆ……そうなんだよ」 普通ならばこんな話は信じられない。少なくとも、まりさは信じない。 でもお兄さんは信じてくれている。人間さんはとってもゆっくりできるとまりさは思った。 「俺にはどうすることも出来ないけど……とりあえずこれ、食べるか?」 「ゆゆっ?それ、なぁに?」 懐から真っ赤な丸いものを取り出すお兄さん。 初めて見るそれに、まりさは疑問を呈する。 「見たこと無いのか?トマトっていうんだ。美味しいぞ」 「ゆっ……?」 日の光を浴びて輝くトマト。言われてみればとても美味しそうに見える。 まりさはふらふらとお兄さんに近寄り、トマトを一口かじる。 「おっ……おいしぃ~!!しあわせぇ~!!!」 思わず涙が出てしまう。 それくらいに美味しい。ほんのりとした酸味と甘さのコラボレーション。まるで太陽の味。 まりさは脇目も振らず、トマトを平らげる。 「おにいさん!ありがとう!おいしかったよ!」 「どういたしまして。傷物でよかったらまだまだあるよ」 更に懐からトマトを取り出すお兄さん。まりさはトマトにかぶりつく。 ああ、こんなに美味しいものをくれるだなんて。やっぱりお兄さんは良い人だ。人間さんはゆっくりできる。 ドスは何であそこまで人間さんを恐れるのだろう?こんなに人間さんはゆっくりできるのに。 赤い果実を食みながら、まりさはそんなことを思った。 もう日が高く昇っている。 お兄さんと別れ、まりさは歩き出す。 トマトのお陰でおなかは満腹。気力も充実。 今ならば誰にも負ける気がしない。生き残るには最高のコンディションだ。 そろそろ洞穴の前に戻るべきか。 このまま一人で居続けたならば、いつの間にか反逆者に仕立て上げられ、逃亡したということになりかねない。 そうなればドスまりさの山狩りが始まる。逃げ切れるとは思えない。 まりさは急いで元来た道へと引き返す。 「ゆっくり!ゆっくりいそぐよ!……ゆっ!?」 何か声がする。 ゆっくりしていない罵声。何か争うような音。洞穴の前で誰かが戦っている。 まりさは木の陰に隠れ、様子を伺う。 「まっででねおぢびぢゃん!!今がらままがおぢびぢゃんのがだぎをうづがらね!!」 「ゆあ゛っ、ぐるな゛、ぐるな゛ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」 ゆっくりありすとゆっくりれいむ。 恐怖を顔に貼り付けながら逃げるれいむを、修羅もかくやという表情のありすが追っている。 「までっ、までえええええぇぇぇぁぁぁああああ!!!!おぢびぢゃんのがだぎいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」 「ゆひいいいぃぃぃぃ!!!!ごなっ、ごないでえええぇぇぇぇぇぇぁぁぁああ!!!!」 すでに両者はぼろぼろだ。まりさが到着する前からふたりは戦っていたのだろう。 「じねえええええええええええええぇぇぇぇえええ!!!!!」 「ゆびゅぇっ!!!」 ありすの体当たりが炸裂する。吹っ飛ぶれいむ。 「じねっ!じね、じねえええええぇぇぇ!!!」 「ゆびゅっ!!!ぶっ、ぼぉっ!!!」 すかさずれいむに圧し掛かるありす。 そのままれいむを踏みつけだした。 「おまえのっ、ぜいでっ!!まりざがっ、おぢびぢゃんがっ、じんだっ、んだっ!!」 「げびゅっ!!ぶびょっ!!びょぶっ!!ぼびっ!!ぶぽっ!!」 ありすの踏みつけは終わらない。 どんどん餡子を吐き出し小さくなっていくれいむ。 「おばえざえっ、おばえざえいながっだら、ありずはっ!!」 「びょっ!ぶっ!ぼぇっ!」 おそらく、ありすの家族はれいむの密告によって反逆者として処刑された。 偶然にもれいむと”お仕事”をすることになったありすは、仇を討とうとしたのだ。 こんな光景は珍しくない。密告によって家族を失うゆっくりは大勢いた。 「までぃざどっ!!!おぢびぢゃんどっ!!!いっじょにっ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ありすは止まらない。 れいむが皮だけになっても、まだ跳ね続けている。 「ありずは・・・・・・じあわぜに・・・・・・」 ようやくありすは止まる。 れいむだった饅頭皮に顔をうずめ、泣き始めた。 まりさは隠れるのをやめた。 そっとありすの傍に近寄る。 「ありす・・・・・・」 「ゆ・・・・・・?ま、まりさ・・・・・・?」 ありすは顔を上げる。涙と泥と餡子でぐちゃぐちゃの顔。 「まりさだ・・・・・・まりさ・・・・・・まりさ・・・・・・」 何度もまりさの名前を呼ぶありす。様子がおかしい。 「ゆふ、ゆふふ・・・・・・!あのれいむをやっつけたから、まりさがかえってきた!」 何を言ってる・・・・・・そう言おうとして、まりさはやめた。 このありすは狂った。長年の仇を討ち、復讐という精神の拠り所を失ったのだ。 「まりさが、まりさがかえってきた!」 れいむを殺しても、まりさとおちびちゃんは帰ってこない。 わかっていたはずの現実から逃避し、ありすは楽しい夢の世界へといった。 「あれ?まりさはかえってきたけど、おちびちゃんがいないわね?」 きょろきょろと周囲を振り返るありす。 その瞳に正気の色は無い。 「おちびちゃんったらいったいどこにいったのかしら・・・・・・まりさ、しってる?」 まりさに子供の居場所を尋ねるありす。 まりさは首を振り、わからないと言った。 まりさにあの世の場所などわかるはずも無い。 「もう、おちびちゃんったら!ままにこんなしんぱいさせて、いけないこね!」 言葉では怒りつつも、その顔は満面の笑顔で満たされている。 きっとおちびちゃんがいた頃のありすはこんな感じだったのだろう。 慈愛に満ちた、優しいママ。 「まりさはそこにいてね!ありすはおちびちゃんをさがしてくるわ!」 まりさを洞穴に残し、ふらふらとありすは歩いていく。 見つかるはずの無いおちびちゃんを捜しに行くのだ。 「おちびちゃん~♪かくれてないででておいで~♪」 少しずつありすの姿は遠く、小さくなっていく。 おちびちゃんを呼ぶ声は、本当に楽しそうだった。 やがて、ありすの姿は見えなくなった。 でも、あの声は。 楽しそうにおちびちゃんを呼ぶ声はいつまでも消えずに、まりさに届いていた。 それからすぐに、ちぇんとぱちゅりーは戻ってきた。 まりさはれいむが反逆者であったこと、自分がそれを倒したことを伝えた。 ありすはれいむに食われたことにした。 生きていると知られるよりも、死んでいると思われたほうがあのありすにとって幸せだと思えたのだ。 結局、任務は失敗に終わった。 邪悪なる反逆者・れいむがその命を以ってまりさたちを阻んだのだ、ということにした。 森の広場で、ドスまりさに報告を行う。 「―――というわけで、にんむはしっぱいしちゃったよ、ドス」 「ゆうう!!反逆者がいたなら、仕方ないね!!」 まりさの言い訳に納得するドス。 任務は失敗だが、反逆者を見つけたことで満足したようだ。 「それじゃあ皆、お疲れ様。今回の任務はおしまい―――」 任務の終了を言い渡そうとするドス。 れいむという犠牲を払って生き延びられたというまりさの安心を――― 「まってねドス!はんぎゃくしゃはまだこのなかにいるんだよ!わかってねー!」 ―――ちぇんの叫びが、阻んだ。 「ゆ?どういうこと、ちぇん?」 「わかるよー!まりさははんぎゃくしゃだったんだよー!」 まりさの息が詰まる。 一体どういうことだ。このまま行けば任務は完了するはずだったのに。 「ちぇんはみたんだよー!まりさがにんげんさんといっしょにいるところを! まりさはにんげんさんからなにかあかいたべものをもらっていたよー! たのしそうにおしゃべりしてたよー!きっとまえからにんげんさんをしっていたんだねー!」 ちぇんは見ていたのだ。まりさが人間さんと出会った一部始終を。 それだけならばまだ良かったかもしれない。その後ちぇんはまりさを見失った。 そして洞穴に戻ってみればまりさと、れいむの死体があった。 きっとまりさは人間さんの手下として、れいむを殺したに違いない。 ありすがれいむに喰われたというのも嘘だ。きっとまりさがありすを殺して、食ったんだ。 なにも知らぬちぇんが、そう思ったのも不思議ではない。 本当の反逆者を告発するのに一片の躊躇もない。 「まりさのいってたことはうそだよー!きっとれいむとありすはまりさにころされたんだよー!」 「・・・・・・本当なの?まりさ」 能面のような無表情でドスまりさが問う。 やばい。やばいやばいやばい。殺される。何とかしてこの場を切り抜けなければ―――! 「ちっ、ちがうよ!ドス!そのちぇんのいってることはうそだよ!」 咄嗟にそんな言葉が口から出る。 こうなったら、ちぇんを反逆者にしてしまおう。そうでなければ、自分がそうなる。 まりさは覚悟を決め、嘘を並べる。 「まりさはそんなことしらないよ!きっとちぇんがにんげんさんのてしたなんだよ! まりさをはんぎゃくしゃにして、ころそうとしているにちがないよ! どす!だまされちゃだめだよ!このちぇんのほうこそはんぎゃくしゃだよ!」 「ちがうよー!まりさがはんぎゃくしゃだよー!わかってねー!」 「・・・・・・ゆうううぅぅぅぅ・・・・・・」 ドスまりさは悩む。 両者の言っていることは正反対。どちらかが反逆者だという明らかな証拠が無い。 はたして本当のことを言っているのはちぇんか。まりさか。 「まりさはしょうにんがいるよ!まりさはぱちゅりーといっしょにいたよ!」 「むきゅっ!?」 突然話を振られ、うろたえるぱちゅりー。 ドスまりさがパチュリーの方を向き、訊ねる。 「本当なの、ぱちゅりー?」 「む、むきゅううううううう・・・・・・」 おろおろしているぱちゅりーを見ながら、ちぇんは哂う。 何を言っているんだ、あのまりさは。 あの時まりさはひとりで、ぱちゅりーなどいなかった。まりさは自分の首を絞めたようなものだ。 虚偽の告発は、それも反逆だ。あの反逆者まりさは、処刑されるのだ。 「・・・・・・ほ、ほんとうよ。ぱちゅはまりさとずっといっしょにいたわ!」 「にゃあ!?」 ぱちゅりーの言葉に驚くちぇん。 そんな。どうして。何故そんな嘘を。 ちぇんはぱちゅりーの言っていることがわからない。 「ぱちゅはまりさといっしょにいたけど、にんげんさんなんてみなかったわ!ちぇんのいってることはうそよ! きっとちぇんがにんげんさんにあって、まりさをはんぎゃくしゃにするよういわれたにちがいないわ!」 ちぇんは知らなかった。 このぱちゅりーはまりさの幼馴染みだということを。 日々互いが密告をする群れの中で、2匹は信頼しあっていたということを。 ぱちゅりーは何も知らない。 まりさが人間さんと出会っていたことなど知らない。 まりさの言っていたことは嘘だということも知らない。 ただ、まりさのため。そのためだけに今こうして口裏を合わせている。 「いだいなちせいをもったドスならわかるでしょう!ちぇんははんぎゃくしゃよ!」 「ちっちがうよおおおおおおおお!!!わがっでねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 今度はちぇんがうろたえる番だった。 まりさは反逆者だったはずなのに、いつのまにか自分が反逆者ということになっている。 しかも相手には証人が居る。2対1。絶体絶命。 「・・・・・・ドスは判断したよ」 ゆっくりと口を開くドスまりさ。 「ドスはちぇんを反逆者だと判断し、これを処刑するよ!」 「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!ぢがうよおおおおお!!!ドズぅ、わがっでよおおおおおお!!!!」 泣きながら自身の潔白を訴えるちぇん。 だが無駄だ。もうドスまりさはちぇんを反逆者と決めている。反逆者の言うことなど聞かない。 ゆっくりと開かれる口。 そこにはちぇんを消し去るための光が満ちる。ドススパークだ。 「反逆者はゆっくりしないで死んでね!!」 閃光。 まりさは見た。ドスの口から放たれる、灼熱の焔を。 小さく引き絞られた口径により、威力を高められた光の槍がちぇんを穿つ。 スパークと言うよりはまるでレーザーのよう。 ドスまりさは少なくとも勤勉だった。 己の身を守るため、群れを人間やれみりゃから救うために研鑽し続けた。 その結果がこのレーザー。このドスまりさだけが編み出した、新たなる武器。 ちぇんの額に穴が開く。 びくびくと痙攣し、白目を剥くちぇん。穴は深く、ちぇんの後頭部まで貫通している。 だがドスまりさはまだ止めない。 二度三度、レーザーを撃つ。次々にちぇんの穴が増えていく。 発射時間を抑え、その代わりに連射を可能にしたこのレーザーに隙は無い。 危なかった。まりさはそう思う。 一歩間違えば、自分がこうなっていたのだ。ドスの恐ろしさを改めて再認識する。 ドスまりさは止まらない。 ドスまりさがレーザーを撃つたび、森にレーザーの発射音が木霊する。 最早ちぇんが蜂の巣と見分けが付かなくなった頃。 ようやくドスまりさはちぇんを撃つのをやめた。 「―――ふぅ。反逆者はゆっくり死んだよ!」 元ちぇんだった穴だらけの何かの前で、ドスまりさは笑顔でそう言った。 最初の一発で死んでいたのに、何故ここまでやる必要があるのか。 やはりドスまりさは狂っているのだ。どうしようもない偏執狂。 「ごめんね、まりさ。ドスはまりさのことを疑ってしまうところだったよ」 まりさに謝るドスまりさ。 疑ってしまうところだった?思い切り疑っていたではないか。今は謝罪より、さっさと開放してくれ。 まりさは心の中で毒突く。 「さぁ、まりさ、ぱちゅりー、ご苦労だったね!"お仕事"は終了だよ!」 今度こそ任務の完了を告げるドス。 ようやく終わった。まりさは安堵する。 このふざけた茶番も終わり。次の"お仕事"がいつかは解らないが、とりあえずそれまではゆっくりできる・・・・・・。 「まりさとぱちゅりーにはご褒美をあげなくっちゃね!」 突然、ドスまりさがそんなことを言い出した。 ご褒美?なんだそれは? 両親の話にも出てこなかったご褒美とやらに、まりさは興味を持つ。 もしかしてまりさ達が優秀だったからご褒美をくれるのかもしれない。 5人の内、2人も反逆者がいたのだ。普通だったら全滅していてもおかしくはない。 生き残った2人は、それだけ優秀だった。ならば一体どんなご褒美が出るのだろう。 もしかして綺麗なたからものかもしれない。 ドスまりさが持っていると言われていたキラキラと輝く石。 そんなものがあれば、まりさは一生他のゆっくりに自慢ができるだろう。 もしかして沢山の食べ物かもしれない。 ドスまりさは群れの食料を管理している。そこからご褒美としてまりさに融通してくれるのでは。 自分の身体が埋まるほどの量の食べ物。一体どれほど幸せだろう。 もしかして。もしかして。もしかして。 まりさの期待は際限なく高まる。 「まりさたちには・・・・・・あの・・・・・・えーと・・・・・・なんだっけ・・・・・・ あの赤くて丸い、とってもおいしいもの。あのほっぺが落ちそうになるあれの名前は・・・・・・」 ああ。それはトマトだ。赤くて丸くて美味しいもの。 あの太陽のような輝きを持った食べ物は、まりさの心の中に刻まれていた。 「ゆっ!ドス、それはとまとさんだよ!」 まりさは指摘する。ドスのご褒美はトマトだったのか。 トマトならばご褒美として申し分ない。さぁ。早くトマトを。トマトをくれ。 まりさがドスに向かってそう言おうとした時。 「・・・・・・まりさ、トマトさんって一体何?トマトさんは人間さんの食べ物だよ」 冷たく重い、ドスまりさの言葉が返ってきた。 「まりさ、まりさは人間さんのことをよく知らないはずなのに、なんでトマトさんのことを知っているの?」 まりさは凍りつく。 やばい。しまった。迂闊だった。何とかしなければ―――。 「まりさは人間さんと出会ったことがないんでしょ?それなのになんでトマトさんのことを知ってるの? 人間さんを知らないのに、トマトさんは知ってる。 もしかして、まりさは人間さんと出会ってるんじゃないの?」 ドスまりさはまりさを騙したのだ。 ちぇんを処刑したとき、ドスまりさはまりさのことも疑っていた。ちぇんの証言は具体的過ぎる。 赤い食べ物とは一体何か。恐らくだが、トマトのことか、苺のことだろう。 ドスまりさはまりさにカマをかけてみたのだ。知らないならば良し、もし知っているならば反逆者。 「まりさはドスに嘘をつき、人間さんと出会っていた。これは立派な反逆行為となるよ! よってドスはまりさを反逆者と見なし、これを処刑するよ!」 まりさの目の前が真っ暗になる。もう駄目だ。まりさは死ぬ。 絶望の涙を流すまりさ。 「それからぱちゅりー!ぱちゅりーはドスに嘘をついていたね! ぱちゅりーはまりさと一緒にいたと言ったけど、それなら人間さんと出会っていることになるよ!」 「む、むきゅ!ドス、じつは、ぱちゅりーは・・・・・・」 「もしぱちゅりーがまりさと一緒じゃなかったなら、それもドスに嘘をついたことになるよ! ぱちゅりーはドスに嘘をついた!これは立派な反逆行為であり、ドスはぱちゅりーを反逆者だと判断するよ!」 「む゛、む゛ぎゅううううううううううう!!!」 ぱちゅりーも反逆者となった。 もうまりさたちに逃げる手段はない。 「ドスはまりさ、ぱちゅりーの両名を反逆者として認め、刑の執行を開始するよ!」 またも口を開くドス。その中には滅びの光。 今度その照準が向けられるのはちぇんではない。狙うのは、まりさ達。 最早まりさたちに希望はない。絶望し、涙を流しながら寄り添う二匹。 一体何のために生まれてきたのか。 自分達はゆっくりするために生まれ、生きてきたはずだ。それが何故、こんなことに。何故こんなことで死ななければならない。 もっとゆっくりしたかった。まりさ達はそう叫ぼうとして。 その叫びは光の中に呑み込まれていった。 「・・・・・・ゆぅ。まさか全員死んでしまうとは思わなかったよ」 「でも次のまりさ達なら。今度のゆっくり達なら、もっとうまくやってくれるよね」 「―――もしもし、○○さんですか?ええ、はい。私です。いつもお世話になってます」 今俺は電話をかけていた。相手は少し離れた里の重役さん。 「はい。いました。きめえ丸が巡回中に見つけたんです。 ・・・・・・ええ、うちのゆっくり園の中に逃げ込んでました。もう群れを作っていますね」 少し前、とあるドスまりさが群れを率いて里にちょっかいを出したらしい。 勿論その群れは潰され、ドスも殺されたはず・・・・・・だった。 「ええ、いえ、いいんですよ。別にうちの商品の価値が下がるというわけでもないし。 こちらとしても貴重なドスがゆっくり園にいるというのは好ましいことですから」 ところがそのドスは満身創痍ながらも逃げ仰せ、今は俺が所有する食用ゆっくりの繁殖地―――「ゆっくり園」に逃げ込んだ。 ここと向こうの里ではかなりの距離があるというのに、大した奴だと思う。 「はい。それに、結構面白い個体ですよ、奴は。どうもそちらでお灸を据え過ぎたようでしてね。 どうやら人間を恐れているようなんです。それも異常なくらいに」 今のドスまりさはとても変わったルールというか、指導方法を群れに課している。 いや、指導方法とは言い方が悪かった。あれではまるで粛清と、独裁だ。本当に変わっている。 「それに他にも面白いところがありまして。"ドススパーク"ってご存知でしょう? あれが少し変わってましてね。まるでレーザーみたいに連射してるんですよ」 毎日毎日誰かを疑っては、殺す。その日々をドスまりさは送っている。 きっとあのレーザーはそんな中で生み出されたものかも。実に興味深い。 「ああ、大丈夫です。連射が効くといっても、相手は人間を恐れているし、危険はありませんよ。 それに、あのレーザー程度じゃ問題にはなりません。駆除しようと思えばいつでもできます」 それに何より面白いのは、ドスがそんな暴君だというのに意外と群れの安定は保たれているということだ。 心優しい名君より、狂った無慈悲な暴君。そっちの方がゆっくりには合っているのかもしれない。 「しばらくは様子を見ようと思っています。あのドスが一体どういう群れを作っていくのかが興味あるので。 ・・・・・・ええ、どうも。ありがとうございます。それでは、また」 受話器を置く。傍らにはゆうかと、きめえ丸が立っていた。 「よし、きめえ丸。お前はもう一度監視に言ってこい」 「おお、了解了解。まったくゆっくり使いの荒いことで」 「ゆうかは俺についてこい。ちょっとあの群れのゆっくりに接触するぞ」 「わかったわ、お兄さん」 はてさてドス。お前は一体、その狂った頭でどんな理想郷を作ろうとしているんだ。 人間が立ち入ろうともしないような森の奥。 いや、正確にはここは私有地。だから誰も立ち入ろうとしない。 ここはゆっくりの理想郷。 ここのゆっくりは皆ゆっくりと、しあわせに暮らしている。 ゆっくりできないものなど無い。すべてがゆっくりしている。 それは嘘だ。全てはドスの妄想。ただドスがそう思っているだけ。 ドスまりさの頭にはいまだ杭が刺さっている。その杭のせいか、はたまたこの世の現実か。そのどちらかが、ドスまりさの心を狂わせた。 ここには幸せなゆっくりなど一匹もいない。ドスまりさは繰り返し滑稽な茶番を行う。 ドスまりさは全てのゆっくりがしあわせー!になれるように、この地獄を「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」と名づけた。 ――――ゆっくり、あなたはゆっくりしてる? ――――ZAP! ――――ZAP! ――――ZAP! おわり ――――― 元ネタはボードゲームの「パラノイア」です。 閉ざされたディストピア。狂った管理者。敵はモンスターではなく、他のプレイヤー。 いかに生き延びるか、あるいは滑稽に死ぬか。 そんな設定に心惹かれました。 といっても元ネタの設定の良さの10分の1すら伝わってないとおもうんだねー、わかるよー! て言うかボードゲームやったことないくせにこんなSS書くなんて身の程知らずだったんだね、わかるよー!! このSSに感想をつける