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フェイト「フェイトと!」 ザフィーラ「ザフィーラの…」 フ・ザ「「バトロワラジオ~♪」」 フェイト「…はい、というわけで始まりました『フェイトとザフィーラのバトロワラジオ』、 メインパーソナリティーのフェイト=T=ハラオウンです」 ザ「同じく司会のザフィーラだ」 フ「今夜も深夜の墓場から、面白おかしく、楽しい時間をお送りしていきたいと思いま~す♪ …さて! 今夜も早速お便りの方を紹介していきましょう」 ザ「R.N.暗黒勇者王さんからのお便りだ。 『フェイトさん、ザフィーラさん、こんばんは』」 フ「こんばんは~♪」 ザ「『前回の放送も楽しく聴かせていただきました。 さて、先日の北崎とかいう奴の出番で、フェイトさんがとんでもないことになっていましたが、 その件について何かコメントはありますか?』…そういえば、お前はこの回をまだ見ていないんだったな?」 フ「あ、はい。その時はちょうど沙慈君見てましたから」 ザ「ああ、ガンダムか…」 フ「沙慈・クロスロードはいいものだ~!」 ザ「…まあ、ひとまずここにそのSSを用意したから、読んでみろ」 フ「はーい。………」 ザ「………」 フ「…マスカレードォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ敬称略ゥ!」 ザ「予想はしていたが…それはやはり怒るか」 フ「わっ…私の遺体が…上半身がぁ~! 千の風にィィィィ~…!」 ザ「…まあ、死姦●レイとやらにならなかっただけいい方ではないか」 フ「そういう問題じゃないですよぉ~! そっちも嫌だけど…えぐ、えぐっ…」 ザ「なるべく早く復帰しろよ」 フ「はい、それでは今日のゲストをご紹介いたしましょ~う!」 ザ「いやに早いな!」 フ「やだなぁ~早く復帰しろって言ったじゃないですか♪」 ザ「…生前よりも圧倒的にたくましくなっている…色んな意味で」 フ「今日のゲストはこちらっ!」 マサキ「はいどーもっ! 魔装機神 THE BELKA OF MAZICAL主人公・マサキ=アンドーだぜぇ~いぇいっ!」 フ「いぇ~!」(パチパチ) マ「いやー、見事に序盤から死んじまいました!」 フ「死んじゃいましたねぇ~」 マ「俺主人公なのに」 フ「ようこそ主人公さん、バトロワラジオへ(笑)」 マ「どーもー(笑)」 ザ「まぁ、前回来たはんたも主役だからな」 マ「だよなぁ…やっぱバトロワは主役でも油断できないってことだな。気を付けろよ主人公諸君!」 フ「(笑)」 マ「そんじゃ、早速続いてのお便り行ってみよう!」 ザ「R.N.アルザスの竜召喚士さんから。 『フェイトさん、ザフィーラさん、こんばんは』」 フェイト「はいこんばんは♪」 ザ「『いつも楽しく聴いています。 ところで、前のなのはさんのお話で、エリオ君がマサキさんのことを「まだ死んでいない」と言っていましたが、 どうしてそういう風に誤解していたんでしょうか?』」 マ「死んだっつの!(笑)」 フ「これはですねー、エリオの参戦元の『リリカル遊戯王GX』での設定に準ずる考察なんですが、 あの世界では一部の人は殺されても死なず、戦い…原作ではデュエルですね。 とにかく、そういうことのみを追い求める、一種のゾンビみたいな精神状況になっちゃうんです。 よってあの時のエリオは、マサキがゾンビになったんじゃないかと思ってたーっていうのがフェイト学説!」 マ「俺勘違いで殺されてたの!?」 ザ「まぁ、ゾンビになって見苦しい姿を晒すよりはいいだろう」 マ「そりゃまぁそうだけど~、っつうかゾンビって何!?」 フ「荒唐無稽が遊戯王GXクオリティでーす♪」 マ「初代アニメからはえらい違いだな」 フ「ああ~、東映版の」 マ「攻撃! 玉砕!! 大喝采!!!」 フ「出たー!」 マ「いや『出た』ってお前(笑)」 ザ「…まぁ…大体お便りの返事は、そんな感じだ」 マ「しっかしなのはもそうだけど、フェイトもデカくなったなー」 フ「そういえば、魔装機神はA sとのクロスだったね」 マ「StS版だから19だったか?」 フ「あ、私の参戦元は、StS終わった数年後の設定のリリカル遊戯王GXだからね、もう20以上なの」 マ「そうかそうか…ってお前もかよ!?」 フ「ついでにゾンビ化もしちゃった」 マ「したのか?」 フ「しちゃった♪」 マ「見たかったぁぁぁ~!」 フ「やぁだよもぉ~!(笑)」 マ「…で、ザフィーラの方は?」 ザ「FFⅦクロスの『片翼の天使』からだ」 マ「また全然方向性違うなー」 フ「それでも何とかやってけちゃうのが、ロワラジクオリティ」 マ「ロワラジクオリティねぇ(笑)」 フ「…それでは、わーわー言ってるうちにお時間となりました。 今日のゲストはマサキ=アンドーでした!」 マ「どーもー。楽しかったでーす(笑)」 フ「やっぱり明るい人がいると色々盛り上がるよねー」 マ「だなぁ」 フ「そんな感じの明るい番組にしていきたいです。 今日はありがとうございました~♪」 マ「いやいやこっちこそ」 フ「こんど寺田Pに、水樹奈々を、是非是非次回のスパロボにって口添えを…」 マ「まぁ、忘れてなかった時にな」 フ「絶対だよ?」 マ「考えときまーす(笑)」 フ「あざーっす! わーいグリリバ補正もらっちゃったー♪」 マ「グリリバ補正って何だよ(笑)」 フ「…さて! 当ラジオでは、皆様からのお便りを大募集しております。 前回のゲストや死んだキャラへの質問、MCに聞きたいことややってもらいこと、何でも構いません。 適当なキャラを連想させるR.N.を騙って、このスレにどしどし書き込んでください! …それでは! フェイトと…」 ザ「ザフィーラの…」 フ・ザ「「バトロワラジオ!」」 フ「でしたぁ~♪」 ザ「…今回終盤はほとんど喋れなかったな…」 フ「まぁそこはホラ、また次回頑張るってことで(笑)」 目次へ
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Lyrical Magical Stylish Mission 04 Tough Belief 「そのめんどくさいことに、なのはを巻き込んでいる張本人が何を言っているんだか」 「なのはは、傷つけさせません」 背後から聞こえてきた静かな、されど怒りの篭った声に、ダンテは肩をすくめ振り返る。 その先にいたのは、昨日見た管理局の執務官であるクロノと、見たことのない金髪の少女。 なのはの仕返しとは、要するにクロノをダンテにぶつけてやろうということだったのだが、フェイトまで来ているとは考えていなかったようだ。 もっとも、本人は既に学校へ向かって飛んでいってしまったのだが。 「クロノ・ハラウオン執務官」 「フェイト・テスタロッサ……一応民間協力者です」 「やれやれ、お前さんたちも飽きないねぇ。俺様捕まえたってなにもないぜ?」 フェイトと名乗った少女が、自身の杖を鎌に変化させる。その後ろでクロノが援護する態勢を取っている。どうやら、今回は本気でダンテを捕まえようとしているらしい。 「話は後で聞く。今は、質量兵器の携帯及び使用の現行犯だ」 「参ったね、どうも」 ダンテ自身も知っていた。管理局の管轄世界では質量兵器、要するに銃火器の類は厳しく制限されているということを。 ダンテに言わせれば知ったことではないの一言なのだが、そんな理屈が通用するなら管理局はいらないのだ。 そこでピーンと閃いたダンテはニヤニヤ笑いながらクロノに切り返す。 「ん? そーいやここは管轄外世界じゃなかったか?」 「……そうだが」 「管轄外世界でまでそっちの理屈を押し付けられる謂れはねーな」 確かにそうだ。だが、ダンテの子供じみた屁理屈にもクロノは諦めない。管轄外世界だろうと、管轄世界の住人には罰則が適用できる。 しかし、クロノが渋い顔をしながら告げたのは違う事柄だった。 「……この国には銃刀法という法律がある」 「それを言うべきはこの国の警察だろ。お前等じゃない」 「ぐっ……」 そこを突いたダンテの屁理屈に納得してしまい、そこから先が続かなくなりそうだったクロノをフェイトが助ける。 「なのはに何を吹き込んだか知りませんが、彼女を危険に晒した貴方を、私は許さない」 「ヘイヘイヘーイ、事情も知らずに知った口を聞くもんじゃないぜお嬢ちゃん。 というかな、見てたならお前たちも参加すりゃよかったじゃねーか。パーティに飛び入りは付き物だろう?」 「それは……」 結果的になのはたちに加勢しなかったフェイトは、ダンテの発言に言葉を詰まらせる。その間に立ち直ったクロノはそんなフェイトを一瞥し、助け舟を出すかのようにダンテに詰め寄る。 「隔離結界すら張らずに戦闘行為を行う貴様に言われる筋合いはないな。一般人が巻き込まれたらどうするつもりだった」 「さて、ね。そんな仮定の話をされても困るな」 「貴様……」 「怖かったんなら怖かったって素直に言いな。ガキは素直が一番だぜ?」 「貴方という人は……!」 どうやら、ジョークが通じる手合いではないようだ。ダンテの発言に怒った二人が殺気を膨らませるのを見て、ダンテは肩をすくめて言い放った。 ダンテ自身、引くつもりもない。 「やれやれ……ま、好きにしな」 「アルフ!!」 「お?」 フェイトがアルフに声を掛ける。すると、神社の周辺一体が大規模な結界に覆われた。俗に言う隔離結界である。 確かにダンテとなのはは張っていなかったが―――ダンテにそんな魔法知識も技術もない。なのはも結界は管轄外である。 そんな二人に結界を張れと言うのも酷な話であるのだが。 「へぇ、面白いことするな。と言いたいが」 「逃げ場はないぞ」 「逃げる? 冗談キツイぜ」 ダンテの言葉を遮りクロノがデバイスを突きつける。だが、ダンテの余裕は消えない。イフリートの出力を絞り、それでも炎が揺らめく両手足を存分に振るい、己の力を見せ付ける。 ダンテは口に出さなかったが、今この不安定な空間を覆ってしまうことにより、再び悪魔が召喚されるのではないかと危惧していた。 だが、ダンテに結界を解除する力がない以上、とっととこの二人を追っ払うしかない。 「さて、第二幕だ。かかってきな?」 「行くよ、バルディッシュ。アークセイバー!!」 「おおっと!」 フェイトの先制攻撃。滑るように飛んできた魔力の刃をダンテは身を捩って避け、背後に今の魔法が戻ってくるのを感じ、ニヤリと笑う。 「へぇ、俺の技によく似てるな。コイツは面白くなってきた」 ダンテの技、ラウンド・トリップよろしく背後から戻ってきた刃を、刃に相対して後ろに倒れこむことで避けつつ、足を引っ掛ける。 「う、嘘」 「バカな」 「イーヤッホーゥ!! ホゥ、ホーッホッホーゥ!!」 そのまま刃に足を絡め、さながらスノーボードでも駆るかのように刃に乗って空を舞う。フェイトもクロノも、ダンテのぶっ飛んだ発想とそれを実行に移す胆力に目をひん剥く。 だが、アークセイバーの上でダンテは舌打ちしていた。自身の危惧が現実になる、悪魔が出現する慣れた感覚を捉えたのだ。 まあ、この二人なら心配する必要もなさそうであるが、また面倒くさいことになりそうである。 「フェイト」 「分かってる。爆発させ―――クロノ!?」 「―――!?」 それでも、冷静にアークセイバーを爆発させようとしたフェイトは、クロノの背後に迫る謎の影に気付き、慌てて警告する。 クロノも僅かに遅れて禍々しい殺気を感じ取り、振り向くまでは良かったものの既に死神の鎌が眼前へと迫っており――― 「Let s get crazy yeah!!!」 奇声と共に発せられたマズルフラッシュがフェイトとクロノの目を焼く。 同時に迸った二匹の獣、ダンテの駆るエボニー&アイボリーの咆哮が、クロノに迫っていた死神の仮面をズタズタに打ち砕く。 「クロノ、しっかり!」 「分かってる!」 「Show you dance? 踊ろうぜベイビー! ハッハァー!」 ダンテはアークセイバーを操り、またしても現れた悪魔の群を切り刻んでいく。 もちろん、両手に握った愛銃も休む暇もなく弾丸を吐き出し、さながら竜巻のように周囲一体を蹂躙する。 「ホーッホッホゥ!!」 止めとばかりに、アークセイバーを思いっきり蹴り飛ばし、ダンテの背後に現れたデス・シザースの仮面を一撃で破壊。 その反動を利用して、ダンテは背中合わせになって戦っていたフェイト、クロノの間に、これまた背を向けて着地する。 「ホゥッ!」 「……狂っているな」 「ハッハハハ。パーティはまだまだこれからだ。なぁ、なのは?」 「そういうこと。せっかくなんだし、二人とも楽しんでいったら?」 「な、なのは?」 三人の周囲を白光が焼いたかと思うと、欠けた最後の場所になのはが再び舞い降りる。 フェイトは、銃を乱射する見知らぬ男と同じような凶悪な笑みを浮かべ、この異常事態にも平然とジョークを飛ばすなのはに、驚きの声を隠せない。 「ヘイなのは、お前さんの目論見ってのはこいつ等かい?」 「いやいや、さすがにここまでは予想できませんでした。ごめんなさいね? ピザとストロベリーサンデーで手を打ってくれると助かります」 「そんじゃしょうがねーや。ピザは当然オリーブ抜きな」 「分かってますよ」 「……おい」 「あん? それは俺に言ってるのかいボーイ」 「これは何だ」 「ハハハ、何でもかんでも人に聞かないで、たまには自分の頭で考えてみたらどうだい? オツムが悪いならしょうがねーけどよ?」 ダンテの人を小馬鹿にしたような台詞と笑みに、クロノはどうしようもない憤りを覚える。はっきり分かった、僕とこの男は致命的に相性が悪い。 「貴様……!」 「ダンテさん、あんまりクロノ君を挑発しないの」 「ダンテ? 貴様……」 「だから言っただろ、俺はトニーじゃないって。ほれ、テンダーをひっくり返してみな? おお、何とビックリ!」 テンダー。逆さまから読むとダンテ。だが、トニーだと思っていた者にダンテという名を想像しろなんていうのは少々酷だろう。 第二幕が上がろうとしている状況でそんなことを言っているダンテに、なのはは溜息を漏らす。 「……後でじっくり問い詰めさせてもらうぞ」 「イヤだね。デートのお誘いならお断りだ」 「ダンテさん、そーいうこと言ってる場合じゃないでしょ」 「やれやれ……」 四人の包囲網を徐々に徐々に狭めてくる悪魔の群。大量に出現した下っ端連中の奥に、ブレイドやアルケニーといったやや上級の悪魔がちらほら見て取れる。 だが、ダンテにとっては一人でも片手間で十分すぎるほどの敵だった。 「Let s start the Crazy Party!!」 ダンテの楽しそうな叫び声と共に、悪魔たちが一斉に襲い掛かってくる。ダンテはイフリートを構え、自ら進んで檻の中へと飛び込んでいく。 なのはもまた、自分のフィールドである上空に飛び上がり、自身に向かってくる相手を軽くあしらいつつダンテの援護を行う。 事態についていけてないクロノとフェイトであったが、ダンテやなのはよりも先に相手をしなければならないのは理解しているようで、 自身の得物を手に襲い掛かってくる悪魔へと一歩踏み出す。 「ええい、何がどうなっている!」 「分からないけど、やるしかないよ!」 バルディッシュが生む光の鎌が同じ鎌を得物とするヘル・プライドを易々と切り捨てる。 その横で、クロノの放ったスティンガー・レイが、二度目の強襲を仕掛けようとしていたシン・サイズの仮面を粉々に破壊する。 「何、この手ごたえ……」 「分からない。だが、少なくとも我々が知る何かではない」 クロノは戦闘の片手間にアースラへと情報を送り、解析を頼んでいた。だが、情報処理においてはクロノが全面の信頼を置いているエイミィからは未だ解析完了の知らせは来ない。 それどころか、類似する情報すら見つからないと言われている。 「なのは!」 「フェイトちゃん、どうしたの? この程度、フェイトちゃんなら楽勝でしょ?」 「そうじゃなくて……何が起こってるの?」 上空からの爆撃を敢行してるなのはの背後に回り、迫っていた死神を逆に狩り返しながらフェイトは聞く。 なのはの言動からはこの事態に対しての混乱が見られない、ということは、なのはは何かを知っている。 「うーん……まあいいか。フェイトちゃん、こいつ等は悪魔なんだよ」 「悪魔!?」 「そ。私も詳しくは知らないんだけど……」 なのはは一旦言葉を切り、アルケニーの腹へと拳を深く埋め込んでいるため、この瞬間だけは次の攻撃が行えないダンテへの援護射撃を行う。 フェイトは、そんななのはの話を聞こうとなのはの背に自身の背を預ける。 「分かるのは、敵だってこと。私たちの世界を破壊しようとする、絶対に許せない敵だってことぐらいかな」 「……それは、あの男の人から?」 「うん。ダンテさんはそんな悪魔を狩るために海鳴に来たって言ってた。だから、私は一緒に戦うの。この街は、私にとってとてもとても大切な場所だから」 フェイトは、なのはの言葉に思わず声を荒げる。それもそのはず、どう考えてもこの件は管理局の管轄であり、普通に考えたら個人がどうこうという問題ではない。 「だったら! そう」 「言えばいい? 確かにそうだよね。私もそう思う。でも、ダンテさんがそれをしないのにはきっと理由がある」 「……どうして、そこまであの人のことを?」 「よく分からないけど……話を聞く限り、ダンテさんはずっとずっと一人で悪魔と戦ってきた。 誰にも知られることなく、結果として指名手配されることになっても、あの人は立ち止まらなかった。そんな人だから、私はダンテさんを信じようと思ったんだ」 「なのは……」 「だから、私はダンテさんと戦う。決めたんだ。だから、今回はフェイトちゃんたちを手伝えない」 フェイトと戦ったときよりも、プレシアの居城に乗り込んだときよりも、強い決意をその目に宿らせてなのはは高らかに宣言する。 なのはの頑固さを知っているフェイトは、今回に関してはどうしてもこれ以上関われないことを知った。それでも、今このときだけは親友と一緒に戦おう。 近い未来、次世代のエースとなる二人が空中で魔力を爆発させる。雷光と白光が縦横無尽に踊り狂い、触れる悪魔を片っ端から消し飛ばしていく。 最強の悪魔狩人であるダンテ、そしてAAAクラスの能力を保有する三人の魔導師にかかれば、数が多いだけの悪魔など脅威にもなりえなかった。 こうして、第二幕が下りる。 悪魔たちを全て退けた後、結界が解除された境内でなのはは共闘した三人に向かって告げた。 「じゃあ、私今度こそ学校に戻りますね」 「おー。ちなみに、何て言って出てきたんだ?」 「お腹が痛いです」 「ハッハッハ、そりゃ急いで戻ったほうがいいな」 はぁ、と溜息をついて、なのはは空へ舞っていった。それを見送ったダンテは、もうこの場所に用はないと踵を返す。その背にかけられる男の声。 「待てと言っているだろう」 「嫌だね」 ダンテは振り向かず、されど立ち止まって答える。完全無視でもよかったのだが、今後また色々ちょっかいを出されるのも面倒くさい。 だったら、早めに釘を刺すべきだ。管理局の魔導師たちは、隔離結界を張らなければその力を行使できないというのは知っている。 「……話す気はないと」 「ああ。知りたきゃ自分で考えな。管理局のどっかにゃ資料の一つでも残ってんだろ」 「…………」 「…………」 「ああ、そうだ。あの隔離結界だったか? あれを張るのはやめときな。 あんなふうに空間を閉鎖するなんざ、出て来てくださいって言ってるようなもんだ。そんじゃ、忠告はしたからな」 あばよー、と手を振りながらダンテは階段を下りていった。それを見送る形になった二人の表情は険しいが、なんともいえない複雑なものを内包しているように見える。 「……どう思う、フェイト」 「なのはは悪魔って言ってましたけど……」 「悪魔、か。そんなものが実在するのか」 「分かりません……」 それでも、実際自分の目で見た光景を疑うことは出来ない。自分たちは確かに、今この場所で何かと戦ったのだ。禍々しい気配に常識外れの能力、悪魔といわれてみれば納得できないこともない。 「……何が起ころうとしている、この海鳴に」 クロノの呟きは虚空に溶けて消えた。その質問に答えを返せる二人は、だがしかし絶対に答えることはないだろう。 ダンテはともかく、なのはもまた自身の信念を持って今回の件に関わっている。そして、管理局の者として隔離結界を使わないまま戦闘行為を行うことは出来ない。 さらに、ダンテの言が本当かどうかを確かめるのも危険すぎる。事実上、クロノとフェイトは今後ダンテたちの戦闘行為に関われなくなっていた。 徐々に傾きつつある太陽を背に、なのはは隣を歩くダンテに問いかける。 「ダンテさん、悪魔って昼間から出るものなんですか?」 「昼は出ないと思ったか?」 「まあ……イメージ的に、夜のほうが出そうですし」 「ま、間違っちゃいねえがな。夜のほうが出やすいってだけで、真昼間から出る事だってよくあるさ。さっきみたいに、空間を覆っちまえば昼も夜も関係ないしな」 帰り道、なぜか校門に迎えに来ていたダンテと共に、なのはは坂を下っていく。ダンテの姿を見た親友二人が完全に引いていたのは気のせいだと思いたい。 「で、鍛えて欲しいんだっけか」 「ハイ。場所は道場でいいですよね?」 「まあ……お前さんが何を鍛えたいのかにもよるが、魔力だってんなら道場じゃ無理だよな」 「出来れば魔力が一番なんですけど、それ以上に何ていうのか、戦いの空気みたいなのが知りたいですね。いつ何時でも慌てずに対処できるように」 「お前本当に十歳のガキか? 発想がおかしいぜ」 「失礼ですね。まだ九歳ですよ」 「それこそクレイジーだ」 ダンテは嬉しそうに笑って手を叩く。かつて自身が九つだったころ、ここまで強靭な意志を持っていただろうか。なのははとんでもない魔導師になる、ダンテの予感は確信へと変わっていく。 「……今日、フェイトちゃんに言われました」 「フェイト?」 「クロノ君と一緒にいた金髪の子です。何でダンテさんは一人で戦うんだって。 これはれっきとした時空災害だし、管理局に相談なり通報なりすれば必ず動いてくれるのに、って」 ダンテの戦う理由。それは私怨であり、宿命である。悪魔と人間の間に生を受けた者として、決して人任せにして逃げることなどできない戦いなのだ。 だが、そこまで込み入った理由を話すほどダンテとなのはは同じ時を共有してはいなかった。 「……昨日も言ったがな、それに関しては」 「分かってます。言えないんでしょう? でも、言えなくても、ずっと戦い続けるだけの強い理由があるんでしょう?」 「……まーな」 「なら、いいんです。全部終わったら、教えてくださいね?」 「昨日も言ったろ? お前さんが十年後嫁に来るときに教えてやるってよ」 「…………」 二人が家に着いたときはまだ誰もいなかった。組み手をするには絶好のチャンスである。二人はさっそく道場へ向かい、板張りの床の上で向かい合う。 「さて……何を教えたもんか」 「うーん、どうしましょう。あんまり時間もないんですよね?」 「ああ、時間は少ない。そうだな……危険に対する感覚でも磨いとくか」 「?」 頭の上に疑問符を浮かべているなのはに、ダンテは苦笑しながら説明する。 かつて自分が戦った経験からして、なのはがバリアジャケットと防御魔法を併用しても、上級悪魔の攻撃には対応しきれないと踏んだのだ。 「俺は頑丈だからまだいいが、お前さんは上の連中の攻撃をまともに貰ったらそれで終わりそうだからな。 そうならんよう、防御と回避を鍛えるってことだ。そのためには、迫った危険に瞬時に対応できる感覚が必要なんだよ」 「攻撃じゃないんですね……」 「残念か? だが、今朝も言ったが、俺とお前じゃ攻撃スタイルが違いすぎて、教えられることがない。その点防御や回避ならまだなんとかなる」 ダンテの言うことももっともだ。武器と、それに己の魔力を付加する形で戦うダンテにとって、銃はまだしも射撃魔法となると完全に畑違いである。 なのはもまたそんなダンテの話に納得し、方針が決定される。 「と、いうわけでーっと。ホレ」 「わっ、とと……木刀?」 「杖の代わりだ。先っぽは付いてないが」 「はぁ……」 そういうダンテもまた、小太刀を二本持っている。肩に担ぐには長さが足りなすぎるのか、持った両手をだらんと下げている。 「というわけで、今からお前さんを攻撃するから、ひたすら防御に回避だ。頑張れよ」 「……反撃は?」 「出来そうならどうぞ?」 「言いましたね?」 「ああ。そんじゃ、始めようか」 ダンテがゆらりと前に出る。その瞬間、道場に濃密な殺気が溢れ、その全てがなのはに向かって叩きつけられた。 「え……痛っ!」 想像すらしていなかったダンテからの殺気に竦んだ瞬間、なのはの目から火花が飛ぶ。ダンテの小太刀が頭に直撃していた。 「ほれ、ボケッとすんな」 「うー……今のは」 「何言ってやがる、戦う相手に殺気を向けない悪魔なんていねーぞ?」 次行くぞ、とばかりに振るわれるダンテの小太刀。決して早くも力強くもない、ただ持ってるものを軽く振ってるだけの攻撃は、そのくせ一撃一撃に強烈な殺気を纏っている。 「きゃ、ちょっ……痛っ!」 「やれやれ、先が思いやられるな」 またしても頭を軽くであるがはたかれ、さすりながら呻くなのはを見てダンテは肩をすくめる。 恭也や士郎が一般人にしては相当強かったことからなのはもまたそうなのかと思ったが、意外や意外、全くの素人だった。 どうやら、運動に関してはおっとりとした母桃子の血を受け継いでいるらしい。 もっとも、ダンテにとって受けれる受けれない、避けれる避けれないは割とどうでもいいことなのだが。 (とにかく殺気に対する反応だよな。コイツが育たないと、奇襲に対して無防備すぎる) 悪魔にとって、壁や床は障害物ではない。戦ってるときもそうでないときも、いつだって壁や床から飛び出てくる危険性があるのだ。 その際察知の助けになるのが殺気に対する嗅覚であり、危険に対する反応である。なのはは、戦闘力以前にこれが致命的に欠けていた。 どんなに力が強くたって、後ろから刺されたらそれで終わりなのだ。 「そら、どんどん行くぞ」 ダンテ自身、体には殆ど力を入れてない。ゆったりしたコートも相まってモーションを見切って反応するというのは不可能だ。 剣が纏う殺気に反応して受けるなり避けるなりするしかない。速度的に目で追う事も出来るが、そうやって避けていくといずれ避けれなくなるよう計算して攻撃していたりする。 「目で追うな、体で感じろ」 「で、でも……!」 「それが出来なきゃ死ぬぜ?」 それでもなのはは、何度も何度も殴られながらようやくある程度反応が出来るようになっていた。 まだまだ多分に目で追っているし、反応してからの行動がダンテから見れば遅すぎるが、動作が一々緩慢な下っ端連中ならこの程度でも大丈夫だろう。 「げふっ……」 「はぁ……目で追いすぎだって言ってるだろ?」 そして、なのははダンテが何気なく繰り出した蹴りをモロに食らって倒れる。対峙した悪魔がどんな攻撃方法を持っているか、それはその場で見るしかない。 背後から攻撃できる悪魔もいるかもしれないし、周囲一体を攻撃できる悪魔だっているかもしれない。そのたびに食らっていては、命がいくつあっても足りるわけはない。 「ず、ずるい……」 「コイツでしか攻撃しないなんて一言も言ってないな」 「鬼……」 腹を押さえながら恨めしそうに見てくるなのはに、ダンテは肩を竦める。 「ヘイヘイ、勘違いしてんじゃねーか? スポーツの大会に出るんじゃないんだぜ」 一撃でも直撃を貰ったら死ぬ、そんな世界に飛び込もうとしているのだ。 「いいかなのは、覚えとけ。強いやつが勝つんじゃない、勝ったやつが強いんだ」 「…………」 「そして、殺せば勝ちなんだから、相手はどんな手を使ってでもお前を殺しに来る。死んだら卑怯もクソもない」 「わかって、ます……」 「ならいい。そら、休んでる暇はないぜ」 そしてダンテは攻撃を再開する。相変わらず、殺気だけは本物を纏った緩慢な攻撃が続く。 なのはもまた、ダンテの教えようとしていることを理解し、必死になって対応しようとしている。 ダンテは、なのはを直接狙った攻撃にのみ殺気を持たせるというとても器用な真似をしている。どんなに迫っても、フェイントには殺気がない。 「ぐっ……」 「反応は出来てたな。判断が遅いが」 「はぁ……はぁ……」 「ヘイ、いつまで寝てんだ?」 小太刀を突き出すというフェイントに騙され、蹴りを食らう。小太刀の柄で殴ろう、と見せるフェイントに騙され、逆の一撃を貰う。 始まる前は反撃してやると言ったことすら忘れ、なのははひたすらダンテの攻撃を捌こうと動き続ける。 「避けるときは次の状況を考えろ。自分を追い込むような避け方はするな」 「はい!」 「受けるときは勢いに押されないよう、しっかりと止めろ。それが出来ないなら受けるんじゃなくて流せ」 「はい!」 なのはが間違った動きをすれば、その都度その都度ダンテから攻撃を緩めないまま指摘が入る。なのはも必死で食らい付くが、そんな簡単に出来ることでもない。 それでも、ダンテはそう言う。それは、魔界に行くにあたって必須だからだ。そしてまた、小太刀の突きが額に直撃する――― 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 なのはは木刀を握ったまま、道場で大の字になって倒れていた。奇しくも今朝、兄恭也が取っていたのと同じポーズである。 全身から噴出した汗が床を濡らしていくが、そんなことを気にしている元気もなかった。 「大丈夫か?」 「散、々、人の、こと、張り、倒して、おいて、よく、言います、ね」 「ハハハ、そんだけ文句が言えりゃ大丈夫だな。ホレ、水だ」 ダンテはペットボトルをなのはの横に置く。そのまま隣に座り込み、クルクルと愛銃を玩ぶ。 「……ダンテさん」 「何だ?」 「……なんでもないです」 「そうかい」 なのははズキズキと痛む体を無視して立ち上がり、水を飲んでそのままクールダウンを始める。ここまでひたすらやられ続けたのは初めてだった。 まさか一発も反撃できないなんて思ってもいなかったし、途中で意識が刈り取られたときは本当に死んだかと思った。 それでも、その中で徐々に反応できるようになっていっていた自分に、なのはは確かな手応えを感じていた。 時刻はそろそろ五時になろうとしている。二時間ほど、ほぼ休憩無しで動き続けていたのだ。体もいい加減休みを欲している。 それに、恭也や美由希がここに訪れる時間も近付いている。今日はここまでだろう。 「じゃあ……戻りましょう」 「そうだな。やれやれ、動いたら腹減ったぜ」 「全くです」 なのはとダンテ、二人の普通ではない日常も、二日目を終えようとしていた。 前へ 目次へ 次へ
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準決勝戦:試合場【廃村】結果 このページではダンゲロスSS3準決勝戦、廃村の試合結果を公開します。 投票結果 試合SS キャラクター名 得票数 準決勝戦【廃村】SSその1 黄樺地 セニオ 26票 準決勝戦【廃村】SSその2 偽原 光義 5票 コメント 「それでは廃村のナイトメアマッチ・投票状況について、大会実況の私、佐倉光素と」 「解説の埴井きららが紹介するよ!」 「いよいよ大会も準決勝戦!熱い戦いでしたね!」 「どっちも惜しげなくババーンと熱を込めた試合だったね!」 「1万8千字と2万3千字ですからね!」 「コメントも票も、どっちにも来たけど」 「結果は終始、黄樺地選手がリードをし続けました」 「偽原さんには投票期間がだいぶ過ぎてからも票が入っていたけど……」 「今大会のルール上、得票数には含めませんでした」 「みんなにしっかり注目されてたんだね!うん!ほんと凄かった!」 「ということで準決勝戦、廃村の試合を制したのはー」 「「チャラ男×凡人の王!黄樺地セニオ選手です!!!」」 「「おめでとうございまーす!!!」」 黄樺地 セニオ 内容もさることながら、最後の一文が、SS3史上最強の一撃なのではと思わせるほどでした。思わず声を上げてしまった。 オールスター出演からのその破壊という恐るべき絶望、そこからの目覚めるセニオのアツいこと! ブレイクアウトのコピーVSかつての襤褸王を思わせる偽原クライマックスフォームの威容と、非常に燃える展開でした! 決着の救済に到るまで、ノンストップで読ませていただきました! セニオの行く末も含め、決勝が本当に楽しみです! その2も、『中の人対談』という身の毛もよだつ奇策にはかなりグラつきましたが……でも最初にタイマンで2万字書いたバカはたぶんぼくなんだなスマンね。 どちらも途轍もないファントムだったけれど、結末の秀逸さでこちらに。各所に仕込まれたネタもなんとも言えない勢いがあったと思う。 廃村の戦いは、その1その2が奇跡的なシンクロをみせたバトルであったように思います。各所でお互いのSSの肝となる部分に打撃を与え合い、なんとか相手の勝ち筋を上回ろうと工夫が凝らされており、両者とも大変面白く読まさせていただきました。投票の決め手となったのは、最後の最後、SSその2で偽原さんが世界の救済を謳ってしまったことでしょうか。SSその1からSSその2に対しての綺麗なアッパーカットになってしまっています。投票先を迷った際、この一発を無視することはできませんでした。甘いガードを貫く美しい手際は見事です もう…休載してもいいんだよ… どんでん返しにどんでん返し、次々に回収される伏線に能力のフル活用。何よりもチャラ王セニオとファントムの化身偽原をカッコ良く描ききったこの作品に一票。 両者とも難産だった様子が伝わってくるSS。オチの"作者都合により救済"で持っていかれたのでチャラ男に1票wってかマジヤバクネwパナクネーwwハンパナクナクナクナクネーw なんだこれ迷う・・・! 最後がハッピーエンドっぽくなってるから騙されるけど、中盤の残虐シーンがいちばん筆がのってるよね。ハレル……アメちゃん……。こんなのひどいよ……。トリニティを出してくれたらもっと良かったです! 準決勝緒戦は屈指の名勝負。どちらも一回こっきりの切り札を使ってきて、しかもその切り札がちゃんと噛み合っているときた。 さんざん悩んだけれど、努力・友情・勝利というジャンプ三大柱を地でいく展開を見せてくれたSSその1は、だからこそ『ジャンプを上っ面でしか見ていなかったファントムルージュ』に勝つべきだと思ったのでこちらに。 ファントムルージュ被害者(+α)による、偽原光義対 策会議――! ゾルテリア「なんで私呼ばれてないん?」 チャラ男はやっぱりカッコイイ ファントムルージュの恐ろしさを知っているこまねがセニオに力を貸すほうが自然 金の為に世界を的に回るのは某暗殺者くらいなのでは… 面白さでは甲乙付け難かったので、偽原さんが救済されてほしいという願いから此方へ。 文章的にはファントムさんのほうが好きでしたが、世界の敵は自分じゃないという理屈は納得行かなかったし、あの設備をどうやって準備したのかなども引っかかった。一方セニオは要所要所で上手さが光ったので票はこちらに投じさせてもらいます。 心が洗われるような素敵なリョナでした。ごちそうさまです。 ファントムルー……ファッ!? ファーwwwwwwウェーイwwwwwwファントムルージュウェーイwwwwwwwマジガチでテンション超↑↑ウェーイwwww ファントムルージュ被害者の会の勝利だぁー!いや、頼む、どうか勝ってくれ! ウェーイwww 偽原 光義 絶望への道筋がすごい上手く、合理的だった。とても面白かったでゲス どちらも良かったので、判断は減点法にて。その1は偽原が他の参加者を何人も倒しているが、強すぎて説得力が薄い&倒されたキャラの格落ちが感じられた。多対一では勝てないだろうし、一対一の連続でも最後にはぼろぼろの状態で最後の一人と闘い勝利する事になるので。また、『世界最強の能力者』というフレーズを背負うのは能力バトルにおいて非常に重く、マイナス面を感じた。この2点が引っかかった。その2はこまねを始めとする他の参加者協力がややご都合主義に感じられた。ハレルはフェイクではなく本物でも良かったのでは。 ここにきて外道度を軽減してきやがった! 策士! SS1の無自覚で無邪気な世界の敵と迷ったのですがやはりラスボスとしての風格が段違いでしたのでこちらに。
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機動六課所属、グリフィス・ロウランのメモより抜粋、メモにつき敬称略 魔法防御リリカルラッセル ラッセル・バーグマンは機動六課に招かれました! ラッセルはヒリュウ改オクトパス隊で隊長の背をまもる縁の下の力持ちです。 刈り込んだ茶毛髪に、常時こまったようにへの字を描く眉、自信なさげな口もと。 情けない柴犬をみているような気分になるのは――いえ、なんでも。 たとえばこんなときに、ラッセルは役に立ちます! ―― 「スバル!」 「え……!?」 ティアナが『必中』の意思のもとに放った魔力弾の一つがウィングロードをはしるスバルへむかった! 直撃コースだ! 「スバルさん! ここは自分が!」 量産型ゲシュペンストmkⅢが暴走したクロスファイアシュートを受け止めました! ゲシュペンストの装甲が特に固い部分――増加中空装甲『チョバムアーマー』で魔力弾をうけとめ、自機のダメージを最小限におさえつつスバルを守ったのでした! 「ラッセルさん……ポッ」 「ありがとう、ラッセルさん」 「いえ、これが役目なので! そちらもがんばってください!」 ラッセルは『応援』と『激励』をふたりに投げかけ、逃げ回るがジェットドローンにフル改造したマシンガンを叩きつけました。 予断ですが、ラッセルの『応援』と『激励』をもらったふたりは、高出力の魔法を自在に使い、二倍の速さで経験地をかせぎました。これもラッセル効果のひとつです! ―― 「おかしな……どうしちゃったのかな、ふたりとも」 高町なのははレイジングハートをモードリリースし、ティアナの魔力刃とスバルの拳をうけとめました。虚ろな、目線――そばに見なければわからないほどですが、彼女の瞳はうるんでいました。 「わたしは……強くなりたいんです! ファントム・ブレイザー!」 「なのは隊長! あぶない!」 「え? わたしいま迎撃しようと思――!」 突然の援護防御におどろいたなのはは、クロスファイアシュートを発動できませんでした。 逆にティアナはファントム・ブレイザーを完成させました。魔力の奔流がラッセルと量産型ゲシュペンストmkⅡに叩きつけられますが、ラッセルは『ハイブリットアーマー』を盾に砲撃を受けきりました。ついでに『鉄壁』も掛かっていたそうです。 「ラッセルさん……ぽッ!」 高町なのははラッセル・バーグマンに感謝以上の感情を抱きながら、ティアナをやさしく諭し、なのはとティアナの関係は良好なものになったそうです。 ―― ユニゾン・インしたリィンフォースと呼吸をあわせ、騎士ゼストと戦っていたヴィータは、うまく時間をかせぎゼストを撤退にまで追い込んだ。 しかし融合騎アギトはゼストとの融合を解除し、ヴィータの頭上で火球を構成しました! ヴィータはアギトへむかいギガントシュラークをふりかぶりますが、騎士ゼストは彼の槍をフルドライブさせヴィータを撃墜しようと迫りました! 「ヴィータ副隊長! あぶない!」 どう考えても援護が間に合わない状況でも、援護防御にやってきてくれるのがラッセルと量産型ゲシュペンストmkⅡです。 疾風怒濤の勢いで迫るゼストとヴィータの間に割り込み、『オリハルコニウム』が装備された箇所でゼストの槍を受けきりました! いきなり現れたパーソナルトルーパーに度肝を抜かれたゼストは、ヴィータの機転で捕縛され、ルーテシアともどもレジアス中将に保護されました。彼はいま、首都防衛隊の隊長をやっています。 ―― ラッセルの効力について、三つほど上げさせていただきました! どうでしょう、みなさまの部隊にパーソナルトルーパーを配備し、 格闘系/防御重視のパイロットを育てればたとえばこんなことも――。 ―― さて、こうしてラッセルは六課のお嫁さん――否、人気者にになりましたが―― 「ラッセル……はやく戻ってきてくれ……」 ヒリュウ改のコクピットで、カチーナ隊長は涙ながらに言ったそうです。やはり彼女も女の子のようで――(血でよごれて読むことができない) いえ、あのちょっとタコ殴りは――(血でよごれて読むことができない) いや、ですからカチーナさんにもかわいいところがあると――え? ラッセルに言われないとうれしくもなんともない? なんてこ――(血でよごれて読むことができない) ――こうしてラッセル・バーグマンはヒリュウ改にかえっていきましたとさ。めでたしめでたし。(どうやら折れた指で書いたようだ。字が汚い。) 戦史教科書p58 <学習と解説> これが、グリフィスメモとよばれる走り書きの内容である。 ラッセル・バーグマンによって構築された援護防御技術体系を最初に言及したメモとして残っている。 この六課出向後、ラッセル・バーグマンはすさまじいまでの二つ名を持ちえることになる。 パーソナルトルーパーやアーマードモジュールだけではなく、等身大の人間を援護防御したことが、彼の防御才能を大きく開花させたのだ。 偉大なる彼の二つ名は――『管理局の 「あ、そろそろ時間だ」 ヴィヴィオはザンクト・ヒルデ魔法学園支給の教科書をパタン、と閉じた。まったくもう、ぜんぜん興味のない話だった。 母親の所属していた機動六課のなまえがあったから読んでみただけ――。 買い物かばんをもち、学園をでて商店街に入るころには内容を忘れてしまった。 八百屋に寄って朝方なのはに頼まれたキャベツを買う。そこでヴィヴィオは、漫才を食い広げる男女をみつけた。 「あ、こら。そっちのキュウリよりもこっちのキュウリのほうがおいしそうだろ」 「でもそっちは高いので……」 「あぁん?」 「え、あの、すみません……」 「ふん……わかりゃあいんだよ、わかりゃあ」 綺麗なオッド・アイの女性とどこか情けない感じの男性が、手をにぎりながらキュウリを物色していた。スカートが大人っぽくて、化粧の綺麗な女性だった。顔には笑みがこぼれている。男性に悪態をついているとはとても思えない。 男性もまた、どこか自然に女性をエスコートしていた。たとえば、強盗やなにかにおそわれたとしても、男性は『鉄壁』となって、女性を守る気がした。 なんか、いいな。 ふたりの姿をみてヴィヴィオはそうおもった。 しあわせな気分をわけてもらったヴィヴィオは、足取りも軽く自宅へと帰っていった。 ママにもあんな、守ってくれそうな男の人ができたらいいな――犬の人はいやだけど。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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うすい雲がかかったように混濁した意識のなか、状況を見て取ろうと首をめぐらせ、ここが地面から数メートルもはなれた場所だと、フェイトはようやく気がついた。 (あ……そうだ。たしか、妖怪におそわれて……) 魔法がつかえなくなったなのはを庇い、妖怪の前にとびだしたところまでは覚えている。だが――そこから先の記憶がまったく存在していなかった。 手足と胴にからみついた木の蔓が身体をささえているらしい。靴はどこかにおとしてしまっていたが、黒いソックスはそのままだった。脚を捕らえる蔓はソックスの上からまきついていた。 胴回りにかなり巨大な蔓がまきついて、がっしりと身体を支えているため、想像よりも安定感があったが――。 足にからみついた蔓は、彼女の足を大きく広げ下着の色をあらわにしていた。彼女のバリアジャケットの主色とおなじ色の、黒い下着。 (う……) 顔をあからめながら、スカートのすそで下着を隠そうとするものの、腕にまきついた蔓のちからは想像よりもつよく、自由にならない。 (はやく……もどらないと……) もどかしさをかんじつつ、魔法の術式をあたまに思い描く。バルディッシュを破損されていても、ある程度の魔法は使える。魔力弾を形成して、蔓を焼ききる――発動しなかった。 「え……?」 もう一度、頭に浮かんだ数式とリンカー・コアを結びつけて魔法を発動させる。しかし発動の手ごたえがまったく感じられなかった。眉をひそめる。 呼吸を一つ。冷静になってもう一度。結果はおなじだった。 「ど、どうして――?」 何十万回とくりかえした動作が、結果を生まないというあせり。 焦燥にかられ、フェイトは拘束を解こうと手足を振り回した。蔓は軋みの音を立てるだけで決してフェイトをはなさない。 フェイトが格闘している間に、一本の蔓がフェイトの背後から隙をうかがっていた。 蔓の正体が妖怪「木霊」のものだと、フェイトは知らなかった。 妖怪に趣向はあっても主義はない。ただ捕らえた雌を機械的に、そして効率的に生殖の苗床にするだけ。 空中につる下げることで身動きを封じ、ゆっくりと捕食にはいる――。 木霊という妖怪はそんな性質をもっていた。 そして木霊は生殖行動を開始する。フェイトが油断しているうちに、一斉に。 「ひっ!? なっ、なにっ!?」 いきなり数十本におよぶ蔓が視界に飛び込んできた 鹵獲している彼女の脚へ緑色の蔓が殺到する。指先ほどの蔓が脚を先行し、フェイトのスカートのなかに消えていった。 プリーツ・スカートの内側で、蔓はまさに人間の指の器用を発揮し、先端を下着のゴムに先端をひっかけた。行為に邪魔になりそうな布をとりさる行為。下着を徐々に膝元へとずらしていく。 まあるい尻の半ばまで下着をずり下げられ、フェイトはやっと触手の行為を理解した。 「や、あああっ……! なんでっ!」 下着はすでにプリーツ・スカートの裾から露出するほど下げられ、月のような滑らかさをもつ尻部は、抵抗の動きにあわせてたぷたぷとダンスをおどる。 股を閉じて触手の動きを阻害しようとするものの、触手の力にはかなわず、下着はソックスに包まれた膝を越え、足首を超え、最後につま先を抜かれる。 布地にかくされていた部位がすべて暴露される。まだなにものにも進入をゆるしていない、フェイト・T・ハラオウンの秘処が。 「――ッ! み、みないで……! みないでぇ……!」 顔を紅くしながら顔をそむけ全力で股をとじようとするが、それはあまりにも無力な行為だった。 あらたな触手が伸び、その形をフェイトのふとももに刻む。 フェイトの力ではふとももにまきつく蔓をはらいのけることもできない。おもいきり股をひろげられた。 金色の茂みにかこまれた股間に、ひとすじ通った、淡いピンクをにじませた肉の切れ目。股を限界にまでひらかせているというのに、ほころびもせず柔らかに閉じ、彼女の処女をまもっている。 「ひ、ぎぃい……とじ、てぇ……」 股関節や膝が軋むほど、股に力を入れる。ここまでされれば、性に比較的うといフェイトでも、貞操の危機を感じるというものだ。 全身を丸裸にされるような、心細さ。普段意識すらしない部位に空気がふきつけ、勝手にひくひくとうごめいてしまう。 木霊は一つ、いままでくりだしていた蔓とは形の違うモノをフェイトの眼前にさらした。 コブを先端につけ、節くれだった蔓。 中等部の授業で見た男根に似たそれ。いびつなそれはフェイトの全身を硬直させた。 「あ、あ――」 確定した。この蔓の郡は自分を犯そうとしている――。 未知への恐怖がフェイトの精神を汚染していく。奥歯ががちがちとかみあわない。 「や――あ――」 男根蔓は先端をゆっくりと彼女の下腹部に向かって伸びていく。目指す場所は生殖に耐えうる苗床。 フェイトは頬をひきつらせながら男根の行方をみまもっていた。そしてソレは想像通り――スカートの裾の向こうへ見えなくなった。 みせつけるように、触手の一本がスカートをまくりあげた。 恐怖が炸裂する。男根は秘処の向こう、数センチむこうで鎌首をもたげていた。 「いやあああああああッ! やめてっ! 離してぇっ!」 もう対面もなにもなく、髪をふりまわしながら迫る男根をとおざけようと腰を引くだが手足を拘束された状態でできることなどタカが知れている――。 あばれるフェイトを押さえるため、母体により卵をうみつけやすくするため、手首の蔓は、必要最低限フェイトをささえる分量をのこし、後の物は、制服の袖にもぐりこんだ。 敏感な肌の上を蛇のようにのたくりつつ、蔓はブラジャーの肩紐の下をすりぬけ、乳房を囲むカップに忍び込む。 「! な、なに!?」 服の内側でごそごそと蔓がはいまわる。年齢にしては不釣合いに張った双丘を、蔓はなめまわす。 乳房の付け根から乳首のさきまでまきついた蔓は、ふるふると自身を震動させ、くみついたフェイトの乳房をもみほぐす。 「はっ――うぅ――!??」 服のしたでいきなり始まる愛撫に、フェイトは身をすくませた。内側で暴れまわる蔓は、ときどきブラウスと制服の上着を押し上げるだけで、視界にはいってこない。 ただ乳房にまきつき、乳首に触れる蔓が、どうしようもない切なさを与えてくる――。 木霊の巧みな攻めはまだ「快楽」という言葉を知らないフェイトに、着実に性の愉悦を教えこんでいく。 「あ……あぁ……ぁぁ……」 こしゅ、こしゅと乳首への愛撫を続く。蔓は針金のような細さをもつ先端で、生理現象によって充血してきた乳首にまきついた。 まきついた乳首をひねりあげ、さらに引っ張る。 「う――ううう――やだぁ! やめて、よお……」 経験のない刺激が、思考をかすませていく。乳房に感覚の八割が集中し、そこから意識をそらせない。 強制的に精神すら揉み解されていく感覚からのがれるには、フェイトはまだ幼すぎた。 しかし、フェイトは涙でゆがんだ視界の向こうにうごめく、先ほどの男根型蔓を見てしまった――。 ちゅ、く。 すずめの涙ほどもぬれていない秘処に、蔓が男根の頭をあてていた。 なにものも受け入れていない、綺麗な秘唇へのキッス。 「――――ッ!」 声にならない悲鳴を上げるフェイトをよそに、未開地のそこに、ついに植物の蔓が進入した。 けっしてやわらかくない、けば立った蔓の表面が膣道を強引に押し通っていき、子宮へと迫っていく。するどく、はやく。 一瞬にして処女膜を打ち破られ、フェイトは痛みに絶叫した。 「んっ! あ、あああ――!!」 けれど木の蔓はそれに頓着せず、具合を確かめるように動き始めていく。 「あ……ああ……はいっちゃだめぇ……」 抵抗感を失ったフェイトの中に蔓はさらに容赦なく進入していった。 「はあぁ……やっ……いやぁ……」 身をくねらせてところで、木の蔓には何の障害にはならない。 細かい蔓が一本二本と、男根型のあとを続いていった。 「あ……お腹が……あ……痛い……」 すでに十何本もの蔓が入った秘処は、ぎちぎちと軋みをあげそうなほどひろがっていた。 「はぁっ!」 そのフェイトの目がカッと見開かれる。 体内で蔓がうごめきはじめたのだ。 内壁をかき回すもの、さらに深く子宮まで蔓をのばそうとするもの、それら複数の意思がフェイトの体内で自在に動く。 母体となる部分を傷つけないように蔓たちは慎重に動き、自分達を受け入れやすくなるよう愛液を分泌させていく。胸の愛撫もやめない。 それは決してやさしさからではないが、自然、フェイトの痛みは徐々にうすれていった。 変わりに、膣から快楽が引き出され、フェイトの息があらくなる。 「ん……あ……あああっ! あ、あああっ!」 奇妙な感触に、フェイトはおもわず首を後ろにそらそうとした。 まだ外にとどまっていた蔓の何本かが、後ろの穴に伸びはじめたのだ。 (まさか……) けれど菊座をなでまわす何本もの細い蔓たちに、わずかにのこっていたフェイトの正気が警鐘をならした。 フェイトは身体をねじるが、蔓は秘処の愛液を掬い取って後ろの穴に深くすりこませていく。 「や……そ、そっちはぁ……」 梁のように細い蔓が一本、嵌りに入り込んだ。 「んっ!」 細い蔓は、その程度では苦痛にならない。 しかし、精神的には、かなりの打撃をフェイトは受けていた。 ずるり、ずるりと腸壁を刺激しながら、一本一本、蔓が直腸内に伸びていく。 やがて男根とほとんど変わらないほど太く束ねられたか蔓が、フェイトの腸粘膜を圧迫した。 「ああああぁ……」 フェイトには、もう動くことすらできなかった。 だが、代わりに蔓が、膣内と腸内で同時に動いた。 それは人間の男にはできない細かな動きだった。 無数の蔓の先端が、前と後ろの粘膜それぞれをくすぐるようにうごめき、その胴体は波のようにさざめき立った。 「ひあああんっ!」 やがて、構造をつかんだ蔓たちは、連動して内壁をなでるようにうごめき始める。 「や……そ、それだめぇ……!!」 入れる限界まで蔓は伸び、先端で子宮と直腸をなでて回った。 「ひぁっあっ……ああっ……いやぁぁっ……」 拒絶しても強引に快楽が引き出され、肉体は追い詰められる。 愛液を吸収し、蔓は膨張を開始する。 「あ……ひあぁっ……わっ……お、おかしくなっちゃうよぉ……あんっ……ああああっ!!」 それに伴い動きは活性化し、さらにフェイトを高みへと導いていく。 前と後ろを同時にせめられ、フェイトはもうあらがう声もだせない。 「わっ、あっ、ああっああああ!!」 喘ぎ声を漏らしながら、フェイトの腰が激しくゆれうごいた。 蔓は前後運動を繰り返し、そのたびに秘処孔から愛液が噴出して、外の蔓たちに活力を与えていた。 フェイトの膣と括約筋が急速に収縮を開始し、蔓を締め上げる。 「ああああ――っ!」 フェイトの絶叫とともに、ついに蔓たちも種の混じった樹液を膣にぶちまけた。 「ひっ……あっ……いやぁ……いやあああ……」 二つの穴に激しく注がれる液体の感触に、フェイトは弱々しく首を振った。 それはすなわち、フェイトの体内で妖怪の命が芽吹くことを意味していた。 手足を拘束され、フェイトには逃れるすべはない。 おまけに、軽い絶頂をあじあわされたフェイトに抵抗するだけの体力ももはや残っておらず、仲間が助けにくるまでの間、彼女は何度も大量の種をすえつけられることになった。 「いやあ……たすけて……なのはぁっ! ユーノっ! おにいちゃんっ!」 闇をつめこんだ虚空に、フェイトの悲鳴はいつまでも響きわたっていた。 「フェイト……ちゃん……」 となりのなのはが崩れ落ちる音を、クロノはどこか遠いところで聞いた気がした。 見上げるほどの位置にいるフェイトは、裸身を暗闇にさらしている。本人は意識をうしなっているらしい。 四肢をだらりと脱力され――妖怪のされるがままになっていた。束ねられた蔓が、意識のないフェイトを犯し続けている。フェイトの内股や尻には、黒い種子のまざった精液がこびりついていた。 「フェイト――ッ!」 クロノは機能をほとんど停止し、棒きれ程度にしか役に立たなくなったデバイスで木霊に襲い掛かった。 けだるい射精感からかいほうされると、あとに残ったのは罪悪感だけだった。 フェイトが陵辱されている現場をみてしまったクロノは、フェイトがどの箇所に種子をうめつけられているのか知っている。後孔と膣。その両方を犯さなければならない――。 だがどれだけ治療という名目があったとしても、義妹の後孔を犯した事実はかわらないような気がした。 クロノは気息を整えながら、フェイトをみる。 まろいしりを突き出したまま、フェイトは固まっている。布団に顔を押しつけている。 いまさっきまじわったところから白濁液が流れ出て、重力に引かれて下方へながれていき、精液はそのまま下流し、あざやかな花弁をまもる金色の陰毛にひっかかった。 「う――ぐう――」 苦しげにうめくフェイトに、クロノはわずかな違和感を抱いた。 「……?」 覗き見る。 いつからそうしているのだろうか。フェイトは呼吸一つ逃すまいと、シーツを深く噛みしめていた。これでは満足な呼吸はできない。 クロノはフェイトの前へとまわりこんで、両手でゆっくりと頬を押さえた。 「フェイト……そんなことはしなくてもいい。ほら」 「う……ぐす……」 呼吸の不足で真っ赤になった彼女の表情を、クロノは痛々しく思った。 やはり、ユーノに任せるべきだったか――と考え、すぐに打ち消す。クロノを治療の相手にえらんだのは、フェイトだからだ。 体内に産み付けられた妖怪の卵は、男性とのセックスによって治療によって中和することができるという。 『卵をうみつけられた場所に、男性の精液をうちこむ』。 しかもやっかいなことに交合自体が儀式であり、たとえば精液だけをスポイトで流し込んでも効果はえられない。 フェイトを妖怪の残滓から開放するには、これしか手がない。後ろの孔の治療は手早くすんだ。 あとは、秘処部を突いて膣で射精し、卵を中和すればいい。 「ごほ……ごほ……ごめん……でも、聞かれたくなかったから……」 咳き込みながら、うめくように言うフェイトの背を白衣のうえから撫でる。 クロノを治療の相手にえらんだのはフェイトだった。クロノがそれを承諾したのは、一番の被害者であるフェイトが望む方法をとってあげたいと思ったからだ。 フェイトが妖怪に襲われたという事態に、本人以外で一番衝撃をうけていたのは間違いなく、なのはだった。フェイトはなのはを庇った結果、妖怪に連れ去られてしまった。 フェイトの傷ついた姿をみてその場に泣き崩れ、こわれかけのラジオのように「ごめん……ごめんね……フェイトちゃん……」とあやまり続けるなのはの姿が記憶にうかんだ。 フェイトがユーノを選ばなかったのは、なのはに遠慮したからだろう。今日数時間再会しただけでも、なのはがユーノを想う様子はみてとれたし、ユーノがなのはを想っているのは周囲に伝わりきっている。 クロノの義妹フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、どんなに自分が傷ついていようが、他人をおもいやる人間だ。 なのはは想い人――ユーノと親友――フェイトが布団をともにする、という事態に傷つく。おそらくそれを予見して、フェイトはクロノを選んだのだ。 しばらく背を撫で続けていると、フェイトが言った。 「もう、大丈夫だから。クロノも綺麗にしてきて……」 「……ああ」 クロノはほうったらかしになっていた息子に始末をつけるために、部屋のすみにおいてあるティッシュ箱にむかった。 常時は排泄物を出すところにつっこんだモノを、そのまま使う気にはなれなかった。 背をなでていた手が離れた。フェイトは上体をおこしながら、部屋の隅へあるいていくクロノを見送った。 クロノはそのまま、いそいそと背をむける。 「……」 こちらをみていないのを確認して、さきほどクロノの男根をうけいれていた尻孔に指をあててみた。 粘着質な液体が指に触れる。油と軟膏と精液がまじった液体。指にひっついたそれを顔の前にかかげて、月明かりにさらしてみる。 少し時間がたっているからか、指についた液体は透明だった。ほかの油が混ざっているからかもしれない。 クロノとの行為の証明だったが薬品とからんでしまった精液はどこまでがクロノのもので、どこからがそうじゃないのか、もうわからない……。 鼻先にちかづけてみる。 初めて嗅ぐ精液の香りは生くさく、好きになれるたぐいのものではなかったが――。 クロノはまだ、布団にもどってこない。 汗でぬれた白衣と背中を、やさしく撫でてくれたクロノ。 あまりやさしくしないでほしかった。これ以上やさしくされたら、体面もなにもなく、すがりつきそうだった。 これはあくまで治療だし、クロノには婚約者がいる。 治療という行為以外で、彼とまじわってはいけない。いけない――が、フェイトの心は、いまも大きく揺れていた。 覚悟をきめるには、時間が足りなかったから。 たしかに、クロノの予見は半分以上正解している。 流すべき涙は全部、なのはが流してくれた。もしもなのはが男性だったなら、と頭のかたすみで考えてしまうほど、自分のために泣いてくれるなのはがいとおしかった。 自分のために涙してくれるなのは。その想い人に自分の治療――セックス――を頼むなど、できない。 ここまでは、きっとクロノも予想している。なのはとユーノの関係をずっとみまもってきたのだから。 だが、それだけではない。治療の相手にクロノを選んだのは、なのはのためだけではなかったから。 親友――なのは、はやて、アリサ、すずかにも絶対に語らない、秘めるべき心。 フェイトは、クロノのことが好きだった。愛していた。 治療のことを聞いたとき、ずっと胸の奥底にとどめていた感情があふれてくるのを感じた。 さびしかった。妖怪に処女をちらされ、体中をなぶられた。だれかにすがりつきたい気持ちでいっぱいだったのだ。 すがいつきたい相手は、結婚を間近に控えた義兄であり、フェイトが異性としてはじめて愛した、クロノという男性。 もしかしたらなのはとユーノを引き合いにだしたのは、ただのいいわけなのかもしれない。 ただクロノになぐさめてほしい、甘えさせてほしいだけなのかもしれない。 部屋のすみで布ずれの音がした。 クロノの準備が終ったようだ。 どうかこのまま、クロノが何も気がつかず、行為をおえてくれますように。それが一番、関係をこわさない方法だ。 フェイトは表情と感情をとりつくろってから、乱れた袂を整えた。 クロノは息子にこびりついていた精液をすべてぬぐい、白衣の帯をひきしめた。 二戦目をするにはインターバルが足りない気がするが――すでに息子はなすびのような大きさをとりもどしている。 理性とはべつの、美しい女性がもつ優秀な遺伝子を求める本能が、男根をふくらませていた。あらがいがたい快楽をもって。 布団へむかうと、フェイトはすでに身体をよこたえていた。 「フェイト……大丈夫か?」 「うん。はやく、すませたいから」 本人がそういうなら仕方がない。クロノは彼女の脚側にひざむずき、白衣のあわせを開いた。ついで脚をひらかせ、金色の茂みをかきわけて、愛液を光らせる秘処にふれる。 「ひ……んっ……」 フェイトが指のうごきにあわせて震えた。 割れ目をなぞり、指をしめらせてから秘処の間に指をつきいれていく。 異物を排出するために、膣道が指をしめつける。だが粘膜でぬれそぼっているソコは、クロノの指を完全には阻めず、侵入をゆるしていった。 「は……あ……」 フェイトがもらす鼻にかかった息吹を、極力無視しながらクロノは指をすすめ、膣のうちがわをくすぐった。 クロノの男根は平均よりも大きい――らしい。 遊びで購入した張子バイブとクロノのいちもつを膣内で交互に比べたエイミィは、あとでそんな感想をもらしていた。バイブのサイズはMだった。 これを平均的な男根のサイズだとすれば、クロノの男根は平均よりも巨大だということになる。 エイミィ以外の女性を抱いたことはないし、怒張時の男根を他人と比べあう趣味もなかったクロノは、いちもつがどこまで女性に負担で、女性はどこまで男根の大きさに耐えられるのかわからない。 エイミィよりも小柄なフェイトを、エイミィとおなじようにあつかっていいものか――。 ちなみにクロノはしるよしもなかったがクロノのいちもつは、フェイトの秘処を犯した木霊より巨大だった。 「クロノ……?」 ものおもいにふけり、指をとめていた。指をつっこまれたままのフェイトは不安げにクロノをみつめる。 軟膏と油をぬりたくれば安全か、と薬品がつまった小瓶に手をのばした。 指のさきが空をなめた。 「あ……」 先ほど使い切ってしまったのをおもいだした。 「フェイト……すまない。軟膏がきれたようだから、替えをもらってくる……」 「え……?」 「すぐに戻るから」 薬品をつかわない方法がないでもなかったが――。あまり使いたくない方法だった。 フェイトへの負担が大きくなるし、なにより、クロノが行為を治療と――おもえなくなる可能性が大きかった。 もう深夜といえる時間だったが、だれかしら起きているだろう。クロノは膝をおこしてたちあがろうとした。 「ま、まってっ!?」 「うおっと……」 フェイトに袖をひっぱられた。バランスはなんとか立て直せたが、再び布団に膝をついてしまった。 フェイトは上半身をおこして、クロノの袖をにぎったままうつむいている。 「あ、あの……大丈夫だよ、さっきみたいに、その、入らないわけじゃないし……こっちは、そういう風になっているみたいだから――」 「そ、それはそうだが、あまり身体をさわられたくはないだろう? こちらもそちらのほうが安全だ」 「あん……ぜん……? どういうこと?」 「それは……」 頭を片側に傾けながらフェイトが目を瞬いた。 なんと説明しようか迷ったが――聡い子だ。クロノの嘘くらい見破ってしまうだろう。 クロノは素直に話してしまうことにした。 「僕のコレが」 クロノは視線で自分の息子をさした。フェイトの視線がつられてクロノの下半身に向く。 「大きすぎるんだ。君には。いや、フェイトのそこは広がるし、条件を満たせば十分に可能だとはおもうけど……」 「条件って……えっと、さっきの薬みたいにぬれてなきゃいけないってこと……?」 「端的にいえば、そうだ。このままじゃかなりの激痛を伴うはずだ。回避するには……フェイトの身体にふれて、準備をしなきゃいけない。性的なことだ」 「……どんなこと?」 「は? いや、だから性的な――」 「だって、わたし初めてだし……さっきはお尻を触られただけだし……ね。わからないよ、クロノ」 「フェイト……」 「おねがい……。それとも――こんな汚い身体、治療でもさわりたくない?」 そこで初めてクロノは自分の考えが足らないことに気がついた。 「大丈夫だよ――。初めてくらい――治療でも――普通のセックスがしたいよ、クロノ――」 「フェイト――」 フェイトは涙こそ見せなかったが、白衣の下の華奢な肩がふるわせていた。 妖怪と云う怪物に犯されて傷ついた少女をなぐさめたい――。フェイトの目をよく見れば、寂しさが瞳からあふれている。 どうしていままで気がついてやれなかったのか。クロノは体面やらなにやらを気にしていた自分をする。 クロノはいまにもなきだしそうなフェイトをおしたおした。 「クロノ――」 「なにもいわなくていいから」 フェイトの抵抗が消える。 いちど行為に及ぼうとすると、クロノの頭に獣欲がみなぎり、それは堰を切ったダムのように理性を押していった。 エイミィの顔はすでにおもいだせなくなっていた。 視線は目の間にいる少女にはりつけになっていた。フェイトはもう、かわいい義妹ではなくて――。一人の、傷ついた女性にかわっていた。 クロノは、本心からフェイトを抱きたいとおもってしまった。あらん限りの快楽をあたえて、妖怪の記憶を上書きさせたいと。 フェイトを思う理性と、フェイトを求める本能が合致した。 クロノはせかされるように、フェイトの唇をうばった。 「んふっ――!?」 驚くフェイトをほうったまま、舌を口内につきいれていく。控えめに固まっていた彼女の舌をひきだし、からめる。 にちゃにちゃといやらしい水音が二人の口内に響き渡った。 からめているうちに、フェイトもおずおずと舌を蠢かして、クロノのそれとからめていく。 舌感を刺激しあっていくうちに、呼吸があらくなっていく。息ぐるしさを感じたクロノは、一度顔を離した。 「ふは……クロノ……」 めのまえには頬を果実のように瑞々しく高潮させ、陶然とするフェイトがいた。 そのなまめかしい色気におされるように、フェイトの腹部にひっかかっていた帯をとき、袂を開いた。 思わず飲み込みそうになった生唾をがまんする。白衣という薄皮をはがされ、年不相応にみのった二つの果実が顔をだした。 「……はずかしい」 言葉のとおりなのだろう。わずかに身体をひねって、身体を隠そうとするフェイトのいじらしさにそそられて、クロノは胸に手をのばした。 男の身体にはぜったいにないやわらかさを、手のひらでもてあそぶ。しっとりと汗をかいた乳房に、綺麗な桜色の乳輪と乳頭がのっている。まず断言して――美乳といっていい。 充血した乳首はつん、と上をむいていて、色を添える乳輪はバランスがよく、このまま――なんの手をくわえずとも、ヌードモデルができるくらい、美しかった。 フェイトは目じりに涙をためて耐えていた。 「痛くはないか?」 「……平気だけど、ときどきなんていうか。不思議な感じがする」 「それなら大丈夫だ。身体が準備をはじめているだけだから」 「ん……まかせるよ、クロノ」 フェイトは目をとじ、クロノは愛撫を再開した。ぷっくりと充血した乳首を、指の腹でやさしく触れてみる。フェイトはまつげをふるわせるだけで、静止したりはしなかった。 本当に、クロノに全部まかせる気らしい。 乳房を手のひらでつつみ、指と指のあいだに乳首をはさんだ。乳房を上下させる運動にくわえて、指の間隔をせばめる動きを追加する。 「ひあ……あっ……あ……あぅ……」 あまり強くしたつもりはないが、フェイトの声にときどき強いものが混ざり始めた。 「フェイト? 痛かったら我慢せずに」 「き、気にしないで……大丈夫、んっ、だから……」 大丈夫なのはほんとうらしい。 悲鳴には時々、あまやかな悲鳴が混ざっている。それが乳房を揉むタイミングとおなじなら、もう疑う余地はないだろう。 フェイトは感じている。 胸のやわらかさを十分にあじわい、それでも片手で胸の愛撫をつづけながら、クロノはそろそろと手をフェイトの股間にのばしていった。 袂を大きく開かれた白衣は、フェイトの股間を隠すのを放棄している。陰毛が広がっていた。 やわらかく、繊細な、逆三角形に生えた陰毛をかきわけ、再び割れ目にふれる。入り口に指をあてただけでも、そこが濡れそぼっているのがわかった。 「ひ、ん……」 フェイトはうめいた。指先は襞に触れ、第二関節のあたりが陰核にふれていたらしい。 決して嫌がるそぶりはなかった。 クロノは体勢をかえると、そこに唇をつけて、豊かな寒露をすすりこんだ。 フェイトが笛のようなか細い悲鳴を上げる。さらに、木の芽のように尖った桃色の陰核をくちびるの先でくわえて、顔を左右に振るようにすると、フェイトは悲鳴に近いよがり声を発した。 「ひぃ! いや、いやぁ!」 唇と舌と指を駆使して、フェイトのそこを愛撫し、括約筋の緊張を解きほぐしてゆく。 「あいや、あああっ! いやぁぁ、ぁっ、ぁぁぁ――!」 フェイトの悲鳴が一段と大きなものになる。頃合をみはからって、クロノは臨戦態勢になっていた巨砲の先端を、濡れそぼった花園におしあてた。 「いくぞ……フェイト」 腰をすすめて、聖門を一気に貫く。 「――っ!」 思わずのけぞる、フェイトの細く白い喉。そこに唇を押し当てると、クロノは彼女の締め具合をじっくりと味わう。 夫でも恋人でもない男が、初めての相手だ。すまない――と心で詫びながら、ゆっくりと腰を使う。 とろけるような肉壷に、己を突きたてつづけた。 おもったよりも負担はないらしい。突き上げるたびに胸がゆれ無意識なのか、焦点のあわない目でクロノをみあげてくる。 もう喘ぎ声と悲鳴の判断はつかなかった。フェイトはクロノの下で泣き叫ぶ。 「あっ、あっ、いやぁっ、あ、あ、ああああ!!」 もう意識がまわっていなのか、口の端からよだれがこぼれる。 クロノはそれをなめとった。そのまま耳の穴に舌をつきこむ。 「ひ――ッ! やっ! くすぐっ、たいよぉっ!」 泣き叫ぶフェイトの膣道がいっそうクロノしめつけた。 さきほど後孔で精をはなったばかりだが、クロノは強い射精感をかんじた。長くは持たない。 クロノはグラインドを大きなものにかえた。早く、つよく、息子の先端を子宮へおしこんでいく。 「あ――ッ――やぁっ、や、や、やぁ――ッ!」 動きの早まりにしたがって、フェイトの悲鳴がはげしくなった。背中へまわされた片腕が、クロノを強くつかんだ。快楽に耐えているようなしぐさだった。 いつのまにか、フェイトも腰を動かし――おそらく無意識に――クロノの射精をさそっていく。 おもわぬ動きに、クロノの限界がはやまってしまった。 「だすぞ……フェイトッ!」 「あ、へ、なっ、なにを――?」 フェイトの質問にこたえるまえに、クロノはフェイトの膣内に精をまきちらしていた。 妖怪の卵を中和するために、なるべく奥へ精をはなつ――。 「いやあぁぁぁぁ、ぁ、ぁ、ぁ」 最後のひとおしだったのか、フェイトは背をおおきくのけぞらせ、身体をびくびくと痙攣させた。 膣が最後の一滴までのがすまいとするのか、クロノの男根をねじ切るような強さで締め付けた。 なんどか脈動ののち、クロノは射精をおえた。 いまだのけぞったまま、形のいい腹部を天井につきだしていたフェイトも、身体から力をぬいていた。 「っ……と」 クロノは射精の忘我からめざめて、フェイトの様子をみる――。 「……フェイト?」 疲労にまみれた顔がそこにあった。肌は上気し、呼吸はあらい。 だが、目はとじられていた。 「フェイト、フェイト。大丈夫か……?」 答えはなかった。 はじめての絶頂のせいか、フェイトは気をうしなってしまったらしい。 今日一日でフェイトは陵辱を経験し、男性とのセックスまで経験してしまった。 体力的にも、精神的にも限界に近かったのだろう。なんどか呼びかけてみたが、安らかな寝息で答えられてしまった。 「……起こすのも、な」 だが、このままおいていくのもどうだろうか。 クロノはフェイトの白衣を直そうとして、気がついた。フェイトの手が袖を握り締めている。 どうやら交わりをはじめてからずっとつかんでいたらしい。クロノはまったく気がつかなかった。 「……はぁ」 ため息をつきながら、最初の考えとはうらはらに性欲の対象としてフェイトを抱いてしまったことに後悔した。 目の前にエイミィの顔が浮かぶ。だが――。 クロノはフェイトからいちもつを抜いた。膣の内圧によって、自らはきだした精液がとろとろとこぼれてくる。 妖怪の卵を中和した精液は、生殖機能をうしなうためフェイトが妊娠することはない。 クロノが問題にしているのは、量だった。二度目にしては多すぎる。 考えられる理由はフェイトとの相性が抜群によい、とかだ。 そういえば処女をうしなって数時間しかたっていないのに、セックスで絶頂に達したフェイト「も」クロノと相性がいいのかもしれない。 どちらにしろ、フェイト夢中になって抱いたのは確かだった。 「いかんいかん……相手はフェイトだ」 それに自分には愛するエイミィがいる。いる、が――。腰のあたりにのこっている快楽はなんともしがたい。 後始末をおえ、袖をはなしてくれないフェイトの白衣をととのえ、クロノはフェイトのとなりへ横になり、ブランケットと上掛けを肩までひきあげた。 フェイトの安らかな寝顔をみながら、クロノは床についた。 だが、それほど気にする必要はないのかもしれない。もう二度と、フェイトと肌をあわせることなどないし、あってはならない。もちろん、妖怪におそわせる気など、毛頭ない。 寝息を立てるフェイトは、情事をかわしたばかりとは思えない寝顔でとなりにいる。 ふるふると、口ぶるがふるえた。どうやら寝言をいっているらしい。 静かな夜だ。クロノはその小さな本人の自重とは無関係の本音を聞いてしまった。 「クロノ……愛してるよ……」 「ぶっ!?」 おもわず噴出しそうになった 明晰な頭脳は、いまつぶやかれた言葉を安易に反芻する。 クロノ……愛してるよ…… クロノは金魚のように口を上下させた。とんでもない告白に心臓がとびあがりそうだった。 「た、ただの寝言だ……そうだ、寝言……」 フェイトはやすらかな寝息を続けていた。 クロノは目をつむり、睡眠に勤めようとする。頭のなかでは、しつこく、そしてあまく、フェイトの寝言がリピートされていた。 クロノ……愛してるよ…… ごめんね、クロノ。 もう朝も近い時間にフェイトは目をさましてしまい、隣で眠るクロノの髪を梳いていた。 頭のなかに真っ白い空間がひろがって、そのまま意識をうしなってしまったらしい。後頭部が鈍痛をうったえ、四肢がけだるい。 はやてやアリサがいっていた絶頂とか、オルガスムスとかいうものだろうと判断した。とりあえず大事はないはず、だ。 「うっ……でも、どうしよ……」 情事をおもいだすととたんにオロオロと落ち着かなくなる。 結局、フェイトの覚悟は最初のうちしか持たなかった。 クロノが油をとりにいこうとしたとき、耐え難い孤独におそわれ、ついクロノをとめてしまった。胸に穴が開いてしまいそうだった。 クロノをそのままいかせれば、フェイトの意図どおり、無難に治療はおわっていたかもしれないが、あの瞬間かんじた、孤独は本当に耐えがたいものだった。 クロノをさそってしまったのも、その孤独感が原因だった。もっとそばにいてほしい。そんな感情が先にたっていたのだ。 自重という言葉をおもいだしたのは、クロノにおしたおされる少し前までだった。 エイミィの顔をおもいだし、すさまじい罪悪感に顔がひきつったが――責めがはじめると、もうなにもかも忘れてしまっていた。 快楽が我慢できるレベルをこえていたのだ。 妖怪がのこしていったのは卵だけではなく、性感もめざめさせていったらしい。 口内に舌をつきいれられたときは――目の前が白く染まり、 乳房をもまれたときは――せつなの間意識が飛び、 陰核をもてあそばれたときには――もう上下の感覚がなくなっていた。 秘処をつきこまれたときにはすでに、半分意識がなかった。自分がどんな言葉をさけんだのかもわからない。 目の前にあったはずのクロノの顔すらおぼえていないという、ありさまだった。 「クセになったりしない、よね。気持ちよすぎだよ、クロノ……」 エイミィの顔が浮かんだり、消えたりしている。 罪のにおいがたちこめている気がした。まだ成長しきっていない、未熟な心でそれに耐えるのはむずかしかった。 そろそろと、とフェイトは手を下半身におろしていった。 寝息を感じるほど近くにまで顔をよせ、指先で陰核をこすりはじめる。 「んっ、んあっ……クロノ……」 クロノの吐息をすいこみ、クロノの汗のにおいに抱かれながら、フェイトは自分をなぐさめはじめる。 みだらな考えと、頭を痛くさせる問題を忘れるための手段としての。 罪から逃げる手段として――。 フェイトは自慰におぼれていった。 フェイトの初夜は、こうして過ぎ去っていく。 クロノはフェイトの寝言が楔となり、フェイトはクロノへの想いと与えられた快楽が鎖になった。 これがのちのちどういう結果をもたらすかを知るものはいない。 ただ二人の心情を明確に読みとることができる人物はいた。 光の加減によっては緑色に見える長い髪をゆらす女性――音羽葉子。 「あらあら、どうするのかしらね、これから……」 水杜神社の社務所で、音羽葉子はこまったようにわらった。 思いがけず――余人が知ったら間違いなく首をかしげる――葉子は二人の想いを知ってしまった。 葉子としては、いくら治療といっても性行為にはかわらないのだから、たのしめばいいじゃないかと思うのだが。 二人とも生真面目すぎて、その辺の融通がきかないらしい。 ……心配している顔じゃないですよぉ、ぬし様…… 葉子の心情をさとった『誰か』が消え入りそうな声で言った。 そやな。こりゃ、完全に二人がただれた関係になっていくのをたのしんどる顔や。 大体フェイトっちゅうんは、わいの相棒になる子やろ? あんまりいじめんときや 先の声にこたえたのは、これまた『誰か』。アクの強い関西弁で葉子をいさめる。 「まあ、これはわたしが同行しなくっても、ただれていくと思うし……」 葉子は『誰か』にわらいかけた。ちなみに社務所のどこにも人影は存在しない。フェイトをのぞいた住人、居候はそろって眠りの中、だ。 葉子のほかには、社務所のテーブルに置かれた、燃え上がるように紅い刀身をもつ刀と、氷を研いでつくったかのような刀身をもつ薙刀があるだけだった。 「それよりも。わたしとしてはなのはちゃんとユーノ君、幹也さんと音羽姉妹のほうが気になるわ。ま、急場をしのげるくらいには協力しなさい、火嶽、冷軋――」 ま。まかしとき が、がんばりますです 『誰か』の返答に、葉子は満足げにうなずくと、刀と薙刀の刀身を撫でまわした。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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小話メドレーその9『重傷を負ったなのはが入院している時期を紅の豚風にしてみた、の図』 あらゆる騒音を拒む病院私設、だがその中にあって一つだけ騒音の絶えぬ場所がある。――世に言う、リハビリの為の小運動場だ。 「…………っ!」 大部屋の中央に立てられた一対のバー、その間でなのはが転倒した。幼い全身を包帯と重傷で彩る姿は痛ましい。 「なのはちゃんっ!!」 伏す少女へとエイミィが駆け寄ってくる。痛みを与えぬ様に精細な手付きで抱き起こし、 「ねぇ大丈夫っ!?」 焦燥の顔を近づけるエイミィを、なのはは抱き起こされてようやく気付く。 「……ああ、エイミィさん…。うん、大丈夫……程よく痩せたよ」 軽口で答えるなのは、だがカートリッジシステムを操り損ねて傷付いた体はやつれたと言った方が良い。 「――今度あのギンピカロボットを見たら言っておいてよ、また遭おうね、って」 そう言って笑むなのはにエイミィは苛立ちを隠せない。 「……この馬鹿ッ!!」 怒声が大部屋に響きわたる。 「こっちがどれだけ心配してると思ってるの!? どーせなのはちゃんみたいな前衛組は、あたしらなんて後ろから話しかけてくる望遠鏡程度にしか考えてないんでしょう!!」 叫ぶエイミィの表情に、しかし憤怒の情はない。あるのは、君を喪いたくない、という心配の表情だ。 「……そんなんじゃ今にフライドチキンみたいになって死んじゃうんだから。私やだよ、そんな葬式…」 滲み出したエイミィの声がなのはの鼓膜を震わせる。だが、それでも、魔法少女である高町なのはは動じない。 「――飛ばない魔法少女は、ただの少女なの」 小話メドレーその10『“聖王のゆりかご”をインディペンデンスディ風に破壊してみた、の図』 『八神部隊長っ! ヤツ等、主砲を撃つ気です!!』 武装隊員達と共に高空を舞う八神はやてに、アースラからの通信が届いた。聞かされて見る先、“聖王のゆりかご”がその底部を展開し、青白い光を零す主砲を地上に向けていた。 『……やったらその前に撃ち落としたる!』 行動を念話で伝え、はやては近場にいた武装隊員2人と共に主砲へと飛ぶ。だがそんな彼女達の狙いを悟ったのか、周囲のガジェット達が三人を集中砲火する。 「何て数だッ!」 「あかんっ、狙われとるッ!!」 「――がぁっ!?」 はやての忠告も空しく、平行していた武装隊員の一人が撃ち落とされる。その悲鳴にはやては歯を噛み、しかし速度を緩めない。 『部隊長、もう時間がありません!!』 『――射程に入ったで! 照準取って!!』 辛くも飛行と共に充填した魔力、そこへアースラからの支援が届いてはやての砲撃魔法が発動する。 「……フレース・ヴェルグッ!!」 振り抜かれたのは十字の杖、放たれた無数の銀光が“聖王のゆりかご”の主砲に迫った。 果たされた結果は直撃、しかし――、 「あかん、外壁に阻まれたッ!!」 銀光は展開していた“聖王のゆりかご”の底部を根刮ぎ砕くが、肝心の主砲そのものを害するには至らない。 「ぐああ!!」 焦燥するはやての背後で悲鳴が散る。平行していた武装隊員のもう一人が撃ち落とされたのだ。それは追撃の機会を失った事に他ならない。 『駄目です部隊長ッ、逃げて下さい!!』 『……誰か、誰か他におらんのッ!?』 アースラからの通信が、はやての広域念話が届く中、“聖王のゆりかご”の主砲が光を増していき、 『――部隊長ッ!! 私がやります!!!』 凛とした声の念話が返された。それははやてにとってなじみ深い声色だ。 『ギ、ギンガっ!?』 はやてが声の主を呼ぶのと同時、地上から一筋の線が上空に向けられた。藍色のそれは道、ギンガが発動したウィングロードだ。その上を長髪の女性が駆ける。 『私が主砲を撃ち抜きます! その間……周りのガジェット達を抑えて下さい!!』 『……解った! 総員、ナカジマ一等陸士の援護や!! ――これが、最後の勝負やで!!』 はやての指示に返答はない。激化した戦渦と撃ち落とされるガジェットの群がそれを代弁する。破片と炎が舞う中でギンガが主砲に接近し、攻撃が叫ばれた。 『リボルバー……キャノン!!!』 だが、 『!!!?』 攻撃が放たれない。突き出されたギンガの拳は僅かな光さえまとわない。 『――ッ、魔力切れです!!』 『な……ッ!!?』 ギンガの慟哭にはやては絶望を抱く。 ……駄目なんか? もう、どうしようもないんか……ッ!? 嘆きに表情を歪ませ、涙をにじませ、そして、 『――八神部隊長、頼みがあります』 ギンガの呼びかけを聞いた。 『……私の妹と父に、愛してると伝えて下さい』 『――ギンガ? 待ちぃ、ギンガ、何する気や!!?』 はやての言葉を返答はない。返されるのは、聞いた事も無いギンガの罵声だ。 『……この泥船がッ!! そのデカい穴開けたまま待ってなさい!!!』 ギンガの移動速度が、ウィングロードの構築速度が加速する。最早極光を生み出す主砲内部に向かって。 『待ってギン姉! 何する気なのッ!!?』 速度の中でギンガははやて以外の声を聞く。それは自分が愛した家族、護りたい妹。――その為にギンガは、最早止まらない。 「さあ行くわよオンボロ共!!」 発車寸前まで光が強まる中、ギンガの突き出した手が高速で回転する。 そして砲撃は放たれた。それは光の柱とも言うべき巨大さ、過剰な攻撃力の具現だ。だがその中を、ギンガ・ナカジマは突き進む。 『はははははははははははははははッ!! 見えてる、スカリエッティッ!? アンタ達が改造した私の腕がアンタの野望を壊しにッ!!!』 光がギンガの身を削り、その中でギンガが大笑し、――そして貫徹の左腕が突き込まれた。 『――帰って来たわよッ!!!!』 主砲が轟爆、その響きは“聖王のゆりかご”全体を伝う。……ギンガをその内に飲み込んで。 小話メドレーその11『嘘予告をやってみた~大分前に話題に上がった某王国心編~』 (版権的に色々とヤバイので、勝手ながら削除させていただきました) 小話メドレーその12『嘘予告をやってみた~ここんとこマイブームなONEPIECE編~』 その寝耳に水な大事件は、ある日突然発生した。 「――クラウディアが消息不明……? どういう事!?」 「解りません!! 突然連絡がとれなくなって」 「そんな、……クラウディアにはクロノ君が、ううん、今ははやてちゃんやティアナが乗ってるんだよ!!?」 大型艦船が突如消息を立ち、代わりにミッドチルダに降り立ったのは、 「い、一体何が……、状況報告!!」 「雷ですっ! あの艦船が暗雲を吐いて……いきなり無数の落雷がッ!!」 天候を操る正体不明の艦船、そして、 「……ふむ、今ならヴァースを奪い取ったかつての神の気持ちが理解出来るな」 「名前と出身世界を!! 何者ですか!!」 「不届きな娘だ。――我は神!! 神・エネルなるぞ!!!」 月を通り過ぎて、うっかり別の世界に行き着いてしまった男だった!! 「どういう事だ! 我々に次元航行技術はない!! 古代兵器でもなければそんな事はありえん……!!」 「どうする、時空管理局は対応策として我々の世界から戦力提供を言ってきているぞ?」 「我々の最大戦力、CP9は先日潰され、まだ立ち直っていない! ……七武海の一人を向かわせよう」 「否、聞く所によれば敵は“自然系”の能力者、こちらも“自然系”の能力者を送らねば問題視されるぞ!」 「ならば奴を送れば良い。どのみち終身刑、向こうの世界へ放り出せば後の問題もない」 時空管理局からの通信に驚愕する五老星が送り込む海賊は、 「キシシシシシシ、世界政府のクソ爺共から命令!? んなもんテメェらでやれ!!」 「いえご主人様、聞く所によれば向こう側の世界には我等の知りえぬ能力が数多あり、強豪も多いとか。新たなゾンビに丁度良いと思われます」 「別の世界で闘って来い、ねぇ……。はん、どうせ断っても聞かねぇだろうが」 「勝敗に関わらずヤツ等は俺達を捨てる気だろうが、まあ一生牢獄の中よりかはマシだな」 「ジョ~~ダンじゃな――――いわよぉぅっ!! いきなり別の世界とか、アンタ達信じちゃう訳ぇっ!?」 「で――――――――も―――――――――だ―――――――――――」 「おデブちゃん、長過ぎよぉうっ!!」 異形にかしずかれた七武海と、元七武海が率いた秘密結社の上位エージェント達。 「恐らく向こうの世界の政府はまともな戦力を送ってこないわ。恐らく……王下七武海という政府公認の犯罪者達を送ってくるでしょう」 「政府が手を余す程の犯罪者!? そんなの送られてきたらどうなっちゃうんですか!?」 「解ってるわ。だから……私の方のツテで、信用出来る戦力も一緒に来てもらったの」 「……で、俺に白羽の矢が立ったってか。勝手な事しやがって……」 リンディに頼まれてやってきのは、何本もの葉巻を加えた大柄の男。 「……ここ、は……?」 そして異世界の海に落ちたクラウディア。そこでクロノは、ヴェロッサは、はやては、ティアナは、 「おっほ―――! 何だこのでっけぇ船!! 全部鉄で出来てんぞ!!?」 麦わら帽子を被った、その少年と遭遇していた!!! NANOPIECE、始めたくもあり始めたくもないような感じでよろしく!!! 戻る 目次へ 次へ
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Lyrical Magical Stylish Mission 01 First contact 第97管理外世界、通称「地球」の一部である極東地区、そのまた一部である日本のさらに一部である海鳴市。 未来のエースオブエースである高町なのはの住む世界である。 時期といえばちょうどプレシア・テスタロッサ事件、略してPT事件が終了して半月といったところだろうか、 なのはは今日もまた平和な一日を送ろうとして――― 「あれ、クロノ君から着信? なんだろ」 朝目が覚めてみると、深夜二時とかいう小学生にとっては随分非常識な時間に着信があったようだ。 何の用だか見当もつかないけれど、そんな時間に連絡をしてくるとはよっぽど緊急な事態だったのだろうか。 なのはは思いつく限り何があったのか考えながらクロノに折り返しの電話を入れた。 「あ、もしもしクロノ君? 何か不在があったけどどうしたの?」 「なのはか、すまない、非常識だとは思ったんだけどね」 「まあ……結局起きなかったから、大丈夫だよ。それで?」 「ああ、どうも海鳴に第一級広域次元犯罪の重要参考人として指名手配中の男が逃げ込んだようだ」 「え」 広域次元犯罪といえば、管理局の中でも相当の重罪だ。しかも第一級ときている。 プレシアと同レベルで何かやらかした人物がよりにもよって海鳴に来るとは。 「我々も全力を挙げて行方を追っているが、未だ見つかっていない。 なのはに連絡したのはそのためだ」 「私もその人を探せばいいのかな?」 「積極的には探さなくて構わない。日常生活もあるだろうしね。 ただ、見かけるかも知れないからそしたら教えて欲しいんだ」 「分かった。大変だと思うけど頑張ってね」 「ああ。それじゃあ携帯に情報を送っておくから。 くれぐれも自分から接触したりしないようにな」 「大丈夫だって」 では、またな。と言って通話は切れた。 海鳴には何かそういったものを引き寄せる力があるのだろうか、 またしても大事になりそうでなのははゲンナリとした様子で溜息をつく。 それと同時にメールの着信を告げる能天気なメロディーが流れ、なのはは渋々携帯を開く。 「えーっと……Tony・Redgrave、と、とん……読めない……」 出鼻を挫かれて読む気も失せた。簡単な英語ではあるが、小学三年生には早すぎたと言うことだろう。 と同時に携帯の時間を見て慌てて出かける準備をしだす。 PT事件以降、日課となっている早朝訓練の時間になりつつあった。 「いっけない、急がないと。レイジング・ハート、今日も一日頑張ろうね!」 「All Right. Stand by ready」 名前は後で家族の誰かに聞いてみればいいか、と結論付け、なのははダッシュで家を飛び出した。 「トニー・レッドグレイヴ? ああ、あのトニーか。裏渡世の便利屋の。 商売柄、ヤバい奴らならゴマンと見てるが、あの野郎ほどムチャクチャな奴ぁいねぇな。 まず、笑っちまうほど腕が立つ。 この前なんざ、ウージーを持った悪党一ダースを相手に、変な剣一本で楽々と切り抜けやがってよ、 銃弾が鼻先1インチを通っても眉一つ動かしやがらねえんだ。 おまけにとんでもねえ変わり者だ。 依頼が気に入らねえと思ったら100ドル札を天井まで積まれても受けねえクセに、 幽霊狩りだの悪魔払いだのってぇ胡散臭い仕事だとタダみたいな値段でも飛びつきやがる。 奴の体にゃ青い血でも流れてんじゃねえかって噂だぜ。 ま、あんなのに睨まれりゃ、悪魔でも泣き出すだろうね」 ~とある非合法の情報屋より~ クロノ・ハラウオンはアースラにある自身の執務室で、 海鳴に逃げ込んだとされるトニー・レッドグレイヴに関する情報を眺めて溜息をついていた。 トニーに関する情報を集めてみたものの、出てくるのはこういった胡散臭い又聞き話だけで、 本人が直接どうこうという話が殆ど出てこないのだ。 それでも指名手配されているのは、まあ、明確な目撃情報が一応ながらあるわけなのだが。 「マレット島? ああ、あのぶっ飛んじまった島のことか。 は? 何でぶっ飛んだかって? いくらなんでもそこまではしらねーよ。 まあ、トニーの奴がとんでもねぇ別嬪と一緒にその島に行ったのは知ってるけどな。 詳しく知りたきゃ本人に聞きな」 ~同情報屋より~ 「テメンニグル……正直余り思い出したくない話だけどね。 何があった? もう終わったことを今さら穿り返してどうする気? トニー? まあ、いいけど。あの男はどうかしてるとしか思えないわね。 え、アイツがやったのかって? さあね。”塔”に登ったのは私が先だし、気付いたらいたわ。 アイツが答えるかはわかんないけど、これ以上は本人に聞きなさいな。 え、私も捕まえる? 上等、やってみなさいよ。悪いけど、手加減はしてあげないわよ」 ~とある賞金稼ぎより~ 「やれやれ……参ったな」 バサリ、と書類を机に投げ出して大きく伸び。 手ずから入れたブラックコーヒーを飲み、そういえば胃に悪いからミルクを入れろと言われ続けていることを今さら思い出す。 トニーの外見はえらく特徴的だから遠からず見つかるだろうが、どう捕まえたものか。 出てくる話出てくる話、トニーの圧倒的な戦闘力を示唆するものだから、 今の自分でどうこうできるとも思えないし、だからといってなのはやフェイトを危険に晒すわけにも行かないわけで。 「……やっぱり、この情報も送っておくか」 分量が多いから送らなかったけれど、なのはが単独行動でトニーに接触するのはやはり避けなければならない。 クロノはコンソールを引き寄せ、胡散臭い話に何度目になるか分からない溜息をつきながら文章を打ち込むのだった。 「あ、クロノ君だ」 日課の早朝訓練を終え、帰る途中でメールを着信。差出人はクロノである。 トニーには絶対に単独で接触しないように、という注意書きの元、情報屋や賞金稼ぎの胡散臭い証言が並んでいた。 「……トニーさん、っていうんだ。何かとんでもない人みたいだね……」 まあ、海鳴と言っても結構広いわけだし、まさかそんな偶然あるわけないよね、 ということでなのはは携帯を閉じ、家路を急ぐ。まだ朝も早いし、開いているのはコンビニぐらいだ。長く留まってもいいことはない。 「ねえお父さん、これなんて読むの?」 「んー? どれどれ……トニー・レッドグレイブ、かな? グレイヴ、かもしれないけど」 「ふーん、ありがとう」 「誰かの名前かな?」 「あはは……スズカちゃんの家で読んだ漫画に書いてあったの」 そんな会話の後なのはは学校に向かい、その間にクロノからのメールを開く。 一通目、トニーに関する詳細が書かれている例のメールである。 「えーっと……テメンニグル次元断層事件及びマレット島消滅事件の首謀者と目される……何これ」 事件の詳細は書かれていなかったが、どちらの事件も個人が軽々引き起こせるようなレベルではないことが事件名からも分かる。 次元断層を個人レベルで起こそうと思ったらプレシア級の魔力に加えてジュエルシードレベルのロストロギアの力が必要になる。 また、島一つ消滅させたというのは最早個人がどうこうという話ですらない。 「……身体的特徴、190近い長身、銀髪、赤いコート、 大きなギターケース……すんごく分かりやすい気がするんだけど……」 いつ逃げ込んだのかは分からないが、上を見上げながら町を歩けば一発で見つかりそうな特徴である。 管理局というのも案外いい加減なのかもしれない、なんてクロノが知ったら怒りそうなことを考えながら歩いていたらバス停だった。 なのはは携帯を閉じてバスに乗り込み、アリサやすずかと合流。 積極的には関わるな、って言われてるし、二通目は後で見ればいいか、と考えた。 「おはよー!」 「あ、なのは。おはよう」 「おはようなのはちゃん」 こうしてまた、何事もない日常が始まる。 「やれやれ、管理局ってのは相変わらずシツコイぜ。 まあ、俺がいい男過ぎるからしょうがないっちゃあしょうがないんだが。モテル男も楽じゃねーぜ」 海鳴臨海公園のベンチに男が一人。 巨大なギターケースを持った巨大な男が、随分と暖かい季節だというのに真っ赤なロングコートを着て座っていた。 なにやらぼやいているようだが、通行人は遠巻きに眺めては足早に去っていくだけで、男も特に気に留めた様子もない。 「しっかし、腹減ったな……この世界にもピザぐらいあるといいんだが」 ポケットの中の小銭を確認。ピザというのは意外と高価な食べ物であり、男の手持ちで食べれるかどうかは少し怪しい。 よしんば食べれたとしても、一文無しになるのは避けたいところだ。 「……どうしたもんか。まあいい、適当にうろつくか」 追われている身だという自覚があるのかないのか、男は立ち上がり、ギターケースを担ぎ上げて歩き出した。 時刻は午後三時、ちょうどおやつ時でにぎわう商店街あたりに行けば何か格安で食べるものもあるだろう。 「……ストロベリーパフェ。サンデーじゃないのが気になるが……」 ショーケースに飾ってあるのを見る限り、お気に入りのストロベリーサンデーと大差ない。 値段も良心的だし、男はパフェで一日を過ごすことを決めた。 男は頭をぶつけないように扉を潜る。すると、来客を告げるベルが小気味良い音をたてて中から店員がやってきた。 「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」 「ああ。お嬢さんが同席してくれるなら二人だが」 「嫌ですわお客様、ご冗談がお上手ですこと。どうぞこちらへ」 「やれやれ、あっさりスルーされちまったぜ」 店に入っていきなりナンパする男もどうかと思うが、どうやら相手は中々に上手だったようだ。 大して残念そうなそぶりも見せず、男は店員について行き、奥まった席に通された。 「ご注文はお決まりですか?」 「ああ、ストロベリーサンデー……じゃなかった、パフェを一つ」 「ストロベリーパフェ、ですね。少々お待ちください」 店員が行った後、男は今後のことを考える。とりあえず言われるままこの世界に来てみたものの、出る兆候も感じられない。 といっても、出るときは兆候とかおかまいなしに出るのだが。しばらく過ごすのがいいのだろうが、手持ちに加えて管理局の捜査もある。あまりおおっぴらにうろつくわけにも行かない。 「ま、何とかなるか……」 男はそのまま背もたれに寄りかかる。流れているのがロックじゃないのが残念だが、たまにはこういうのもいいだろう。 そんなとき、店の奥では――― 「すっごいカッコいい人が来たのよ! お母さんも見たほうがいいって!!」 「あらあら、美由希がそこまで言うなんて珍しいわね」 「まあね。でもあれは凄いよ。モデルか何かかな?」 「へぇ……じゃあ、パフェは私が持っていこうかしら」 親子の心温まる会話が交わされていたとかいないとか。 そんな会話で盛り上がってる最中、再度来客を告げるベルの音が鳴る。 「あ、お客さんだ。行ってくるね……って、なのはじゃない」 「あはは、ただ今お姉ちゃん。アリサちゃんたちも来てるんだよ」 「それじゃ、今何か飲むもの持って行ってあげるよ。 席は……そうだなのは、スッごくカッコいい人が今来てるんだよ。ぜひ皆で遠目から見てみたらどう?」 「何それ……」 「いや実はナンパされちゃってねー」 「お姉ちゃん……」 なのは、ゲンナリ。だが、ナンパ云々を差し引いても、姉である美由希が人のことをどうこうべた褒めするのは珍しい。 なのはは興味を惹かれ、美由希に教えてもらった奥の席のほうへ歩いていく。 「……え」 そこにいたのは、朝来たメールに書いてあったとおりの男。長身で、銀髪で、赤いコートで、ギターケース。 全てが完璧に当てはまっている。男はボーっと天井を眺めていて、なのはに気付いた様子はない。 なのははもう少し近くで観察しようとして――― 「…………」 「あれなのは? 帰ってたの?」 背後から掛けられた声に思わずビクッとなって、声の主に思い当たり何とか返す。 「あ、お、お母さん。ただ今」 「なになにー? なのはも美由希に言われて見に来たの?」 「ま、まあね」 「でも確かにカッコいい人ね。モデルか何かかっていう美由希の言うことも分かるわ」 「もう……お父さん拗ねちゃうよ?」 「大丈夫大丈夫。それじゃ、私は注文の品を持っていくから、なのはは席で待ってなさい。ジュース持ってってあげるから」 「うん……」 なのはは気が気ではなかった。どんな人かは知らないが、万が一極悪人であればこの店を巻き込んでしまうかもしれない。 大切な家族に大切な友人、近しい人たちが無残に転がる光景がちらついたなのはは慌てて頭を振ってその光景を追い出すと、 親友二人の待つテーブルへと踵を返した。その目に決意の光を宿して。 「ごめんごめん、遅くなっちゃった」 「混んでるの?」 「ううん、今日はこの時間にしては珍しく空いてるよ。お姉ちゃんにちょっと言われてね、奥のテーブルを見てきたんだ」 「ふーん。何言われたの?」 「お姉ちゃんが言うには、モデルか何かと見間違うぐらいカッコいい人がいるから見てきたら、って」 「で、見てきたと」 「うん」 なのはも意外とミーハーなのねぇ、なんて、意地悪そうに笑うアリサと、それを嗜めるすずか。あはは、と照れ笑いを返しながら、 なのはは注文の品が届いて男が再び一人になったであろうときを見計らって男に念話で話し掛けることにした。 (……トニー・レッドグレイヴさん、ですよね?) (……なるほど、感じた強い魔力はお嬢ちゃんかい。さっき俺を随分熱い目で見ていたようだが、惚れたかな?) 返って来たのは想像していたのよりも随分軽い口調。 それでいて、ボケッと天井を眺めていてもなのはが見ていたことに気付いていたことを示唆するあたり、やはり只者ではないのだろう。 (残念ながら。それよりも、お話があります) (やれやれ、ここの世界は皆男を見る目がないようだな。まあいい、話ってのは?) (……トニーさん、今指名手配されているのは……) (長くなりそうだな。俺、念話って得意じゃなくてよ、さっきから聞きづらいと思うんだが) トニーの言うことはそのとおりであった。ユーノやクロノと行う念話と違い、 トニーの声は酷くノイズがかかっていて余り正確に聞き取れない。本人も苦手だと言っているし、どうしたものかとなのはは悩む。 (……じゃあ、一つだけ。今すぐに、何かをしたりしますか?) (偉く漠然としてるが……特に何も。飯を食いに来ただけなんでね) (……信じても) (何を信じて何を信じないか、それはお嬢ちゃんが決めることだぜ) (……分かりました、信じます。それと、今晩にでも話を聞きたいのですけど) (……臨海公園のベンチにいる。好きなときにおいで、気が向いたら話してやるよ) それだけ言って一方的に念話は切れた。なのはがガラス越しに覗いてみると、黙々とパフェを口に運ぶ姿だけが見える。 「なになになのは、そんなにカッコいい人だったの?」 「え、えーっと……確かにカッコよかった、と思うけど」 自分で見た印象であるが、次元断層だのなんだのを引き起こしそうな人物には見えない。 何よりも、魔力を殆ど感じないのだ。だが、トニーかと聞かれて返事をしたことからも、おそらくあの男がトニー本人なのであろう。 「…………」 「なのはー?」 「あ、ゴメンゴメン。ちょっとボーっとしちゃって」 「こりゃ、そのモデルさんに握手でもしてもらったら昇天しちゃうんじゃない?」 「そういうのじゃないってばー」 ともかく、最強の悪魔狩人と、後のエースオブエースの出会いである。 日が沈みかかった夕刻。季節が初夏だけに、時計で言うと五時半を回ったあたりである。 なのはは一人、海鳴臨海公園へとやって来ていた。目的はもちろん、トニーと会うことである。 「ベンチ、って言ってたけど……」 ベンチ多すぎで探すのも一苦労である。それでも、運良く公園を四分の一ほど回ったところで、 なのははやっぱり上を見ながらベンチにもたれかかっているトニーを発見した。 「トニーさん」 「よぉ、お嬢ちゃん。こんな時間に一人で出歩くなんて、悪い子だな」 「あ、あはは……」 呼ばれて顔をなのはに向けたトニーは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて腕を持ち上げ、なのはを隣に座るように促した。 なのはは若干抵抗があったものの、トニーの隣に腰を下ろす。 単独で接触するなというクロノの言いつけを破ったことを頭の中で謝りながら、それでもなのはは見極めたかった。 「えっと……高町なのは、です」 「なのは、ね。十年経ったら口説きに来るから、俺のこと忘れんなよ?」 トニーは器用にウィンクしながらなのはに笑いかける。自分よりふた回り以上大きな、 しかも外人の男ということですこぶる緊張していたなのはは、トニーのあまりの適当さ加減に速攻でゲンナリするも、 いい感じに緊張がほぐれたようで、半眼になってトニーに返す。 「あの……一応真面目な話をしに来たんですけど」 「おっと、ソイツはすまねぇな。ささ、気にせず続けてくれ」 正直言ってトニーの言動は心臓によくない。冗談とも本気ともつかないようなことを平気な顔して言うのだから。 内心一人出来たことを若干後悔しながらも、なのははトニーに対して質問をぶつけていく。 「えっと……テメンニグルもマレット島も、トニーさんがやったことなんですか?」 「これまた答えにくい質問だな……まあ、関わってるのは事実だけどよ」 「何が目的でこんなことを?」 「目的……ま、色々あってな」 ぽりぽりと頭を掻きながらトニーは何事もなかったかのように答える。 次元断層だの島を一つ消し飛ばすだのすれば、どれほどの人に迷惑がかかるのか、それが分からないはずもないのに、 本当にそれがどうしたと言わんばかりのトニーの口調はなのはをいらだたせるには十分すぎた。 「……答える気はない、ということですか」 「あー……どう答えたらいいものか。どっちについても言えるのは、 最初から次元断層だの島ふっとばしだのをするつもりだったわけじゃない、ってことぐらいか」 知らず、口調と目つきが険しくなっていくなのはを見て、トニーは少しだけ気まずげに何とか話せそうなところを話していく。 さすがに自身の出生だの兄弟だのに関する話を、初対面のしかも小さな女の子に話すのは躊躇われたのだ。 別の目的があって、それを果たす過程で結果的にそうなってしまっただけだ、とトニーは言った。 「じゃあ、どうしてそう言わないんですか?」 「言ってどうするのさ。俺のしたことが消えるわけじゃないぜ」 「それは……そうです、けど」 「何を以って罪とするのか。罪に対する罰はどうするのか。そんなのは全部自分で決めるもんだ、少なくとも俺はそう思ってる」 「…………」 トニーがそこで言葉を区切ると、なのはは何て言っていいのか分からずに黙ってしまう。 トニーもまた、知らず話し方が険しくなっていたことに気付き、やはり気まずげに鼻の頭を掻きながらなのはから目をそらし、前方を見つ める。 話が逸れちまったな、悪い。と言って、しばしの沈黙の後、わざと明るめの声でトニーはなのはにさっきの話の続きを促す。 「じゃあ……もう一つ、この海鳴に何をしに来たんですか?」 「……その話はもう少ししたら話そうか」 今までフランクに話をしていたトニーが突然ギターケースを持って立ち上がる。 なのはは驚いてトニーを見上げるが、トニーは今まで見たことの無いような獰猛な笑みを浮かべて周囲を窺っている。 「やれやれ、アイツ情報だけは信頼できるってのが鬱陶しいぜ、ガセだったら慰謝料請求してやろうと思ってたのによ」 この瞬間、トニーの体から業火のような魔力が放出されるのをなのはははっきりと確認していた。 そして、まるであわせたかのように周囲に濃密な魔力が満ち始める。隔離結界とも違う、もっともっと異質な魔力。 なのはが今までに感じたどの波動とも異なったもの。 「これは……」 「お嬢ちゃんにはちょっと刺激が強いかもな。ベンチにうつぶせになってお祈りしてな、すぐに済むさ」 トニーとなのはを押しつぶさんとばかりに濃くなる、禍々しくて悪意に満ちた魔力。それを押し返すかのように吹き荒れるトニーの業炎 のような魔力。 なのはの持つ魔力を純粋なエネルギーとするなら、トニーの魔力は戦闘に特化した火薬、そんな印象さえ与えるほど、 なのはにはトニーの魔力が真紅のコート以上に真っ赤に見えた。 「SYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」 「おいでなすったな!」 突如、魔力の中から得体の知れない”何か”が大量に沸いて出てきた。なのはが知っている物で言うなら人形が最も近いのだろうが、 なのはの知っている人形とはあまりにも違いすぎる。人形は勝手に動かないし、何より人に対して殺気をぶつけることがありえない。 その光景になのはは声すら失ってしまったが、トニーはこれ以上ないくらいに喜色の笑みを浮かべ、ギターケースから神速で”何か”抜 き放った。 「ト、トニーさん……」 「Slow down bebe? 慌てんなよ」 謎の敵らしきものにも驚いたが、トニーの出したものになのははさらに度肝を抜かれる。 190近い身長のトニー、それと同じぐらいの長さの剣がトニーの右手に握られている。 「それ……」 「コイツか? 目の前のゴミ連中を掃除するのにはピッタリだろ?」 これ以上ないというぐらい嬉しそうにトニーは言う。なのはは、これほどまでに異常な事態において、 なお楽しそうに笑うトニーの神経が理解できなかった。だがしかし、一つだけ理解したことがある。 「……一人で、こんな大勢と戦うんですか?」 「ああ。人様の庭を荒らす連中は退治するに限る」 「……分かりました、援護します」 「Huh?」 「レイジングハート!!」 「Stand by ready」 なのはの決意の叫びと共に、周囲を覆っていた闇のドームが吹き飛ばされるくらいのの光が輝く。 突然の極光に思わず目を細めるトニーの前で、なのはは戦闘モードへと移行した。それをポカーンと見つめるトニーと、 杖を構えたポーズのまま固まるなのは、謎の沈黙が二人の間に広がる。 「…………」 「…………」 「…………」 「……あ、あの、トニーさん……そんな風に黙られちゃうと、私としても」 「アーッハッハッハッハッハ!!! コイツはいいや!!!!」 「うぇ!?」 「お嬢ちゃん、お前さん最高だぜ! こんなクレイジーで最高にスタイリッシュなことは中々ねーぞ!」 「あ、あの……ありがとうございます」 周囲も気にせず爆笑するトニーと、そういった反応は始めてのためにどう対応していいのかわからないなのは。 そして空気を読んだ周りの人形連中。周囲に微妙な風が吹く。 「あー笑った笑った。ヘイなのは、お前さん最高にイカしてるぜ」 「どうも……トニーさんこそ」 「ダンテ」 「え?」 「背中を任せる以上、ほんとの名前を教えないとな?」 「あ、あの?」 「俺はダンテ。トニーってのは偽名だよ。ま、ダンテでもダーリンでも好きなように呼んでくれや、クールなマジカルガール」 ぽんぽんと頭を撫で、トニーもといダンテは剣を引っさげて彼が言う庭荒しに向き直る。 呆然としていたなのはも慌ててそれに続いてダンテの背後をカバーするかのようにレイジングハートを構え、先端に魔力を集め戦闘態勢に入る。 「そういえばダンテさん、さっき私のことなのはって……」 「It s showtime!! 派手に行くぜ!」 なのはの声は完全にスルーされ、弾丸と化したダンテが一直線に人形の群へ突っ込んでいく。 なのははそのあまりのスピードに目を剥いたが、自分の役割を思い出すと、毎朝練習しているとっておきの魔法を解き放つ。 「ディバイン・シューター!!」 解き放たれた魔弾が戦場を縦横無尽に駆け巡る。あるときは自分に狙いを定めた人形の首を打ち砕き、 あるときはダンテに背後から切りかかろうとした人形の背を打ち抜く。 放たれた四発の魔弾は、されど一発一発が猛将のような活躍を見せ、人形もどきに付け入る隙を与えない。 二つの魔弾が上空まで人形を打ち上げ粉微塵にしてる最中にも、残りの二発が確実に敵を打ち砕く。 (……派手な変身だけかと思えば、中々どうして強力な援護じゃねえか。こりゃ、負けてらんねーぜ) ダンテからしてみれば、マリオネットの軍団など何体いたところで傷一つ負うものではないが、単純に殲滅速度を上げるという点ではな のはの援護に感謝していた。 銃弾の類は、使用及び携帯が禁止されているこの国ではすこぶる貴重品だし、インフェルノやエアレイドからの雷撃で殲滅、 というのも考えなかったわけではないが、単純に消費がバカにならないという理由で使いたくなかったのだ。 「イーーーヤッツハァァア!!」 手近な一体の首を一撃で刎ね飛ばし、返す刃で胴体を両断。横から振るわれるナイフは見切って目の先一センチを素通りさせ、開いた左 手をがら空きの胴にぶち込んで貫通。 腕を引き抜くと同時に踵を振り上げて背後の一体の顎を粉砕し、一回転する動作の中で肩から袈裟懸けに両断。 その勢いを緩めぬまま三体を同時に切り捨て、僅かに開いた隙間に飛び込んで同時に飛んできたナイフを避ける。 起き上がりと同時に雷光の刺突を眼前の一体にお見舞い、一体を貫いたまま連続突きを繰り出し、三体をさらに剣に団子状態に刺し貫く。 さらに速度を増し、最早分裂して見えるほどになった神速の剣が周囲のマリオネットを根こそぎ粉砕する。 その外から襲おうというマリオネットはなのはの魔法で粉砕され、その中をかいくぐった人形もダンテの体についぞ傷をつけることは出来なかった。 「おっと危ない、っと!」 ディバインシューターの操作に集中していたなのはは、ダンテが撃ちもらした一体が近寄っていたのを確認して、慌てて頭上に飛び上が る。 飛行能力がなく、遠距離攻撃が投げナイフ程度のマリオネットに対して、空を取るというのは圧倒的なリードである。 まして頭上をとったのが、射撃を主とするなのは。後はもう、見るほどのものでもないだろう。 「よくもやってくれたね……本気で行くよ!!」 「ヘイヘイヘイ、レディを狙うたぁ……って、ちょっとおいなのは! 俺まで巻き込む気かよ、ちくしょう! クールじゃねぇか!!」 「ディバイン……バスターーーー!!!」 空を裂き、大地を割る極大の一撃が今なおうごめくマリオネットの群を一瞬にして粉砕する。ダンテは、なのはの魔力の高まりを見た瞬 間逃げるようにその場を退避しており、なのはの一撃の威力にクレイジーを連呼しながら手をたたいて喜んでいた。 「ふぅ……」 「よぉ、大したもんだな」 「あはは……どうもありがとうございます」 「だが、撃つ前に一言あっても良かったんじゃないか?」 「えーっと、ダンテさんを信じてましたから」 その台詞にダンテは面を食らったような表情になり、そしてまた一本取られたとばかりに爆笑する。 なのはも、散々やり込められてたダンテから一本取ったということで自然と笑顔になり、ようやくこの戦いが終わったことを実感していた。 「さて、なんだったっけ?」 「えーっと……ダンテさんの仕事の話です」 「そーだそーだ。まあ、俺の仕事は見ての通りさ」 「……あれは一体何ですか?」 「なのはや友達がベッドの下にいるって思ってる連中さ」 「それは僕も詳しく聞きたいね」 「!!」 「ははは、パーティは終わったぜ、ボーイ?」 突如背後から聞こえてきた新たな声に、なのはは恐る恐る、ダンテは余裕綽々で振り返る。その視線の先には、なのはが思ったとおりの 人物。つまり――― 「時空管理局執務官、クロノ・ハラウオン。トニー・レッドグレイヴ、貴様を逮捕する」 目次へ 次へ
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◆ ACT.19「それぞれの傷」後編 涼しげな波の音が聞こえる砂浜に、なのはとフェイトは居た。 無数のワームに囲まれながら、たった二人で立川を守り抜くために。 「ディバィィィン――……」 高町なのはが、群がるワームの大軍の中心に向かってレイジングハートを構える。 「バスタァァァアアアアアアアアアアアッ!!!」 『Divine Buster.Extension』 そして、レイジングハートの声と同時に、発射。凄まじい威力を誇る砲撃魔法は、ワームの大軍を焼いて行く。 命中したワームは残らず緑の炎に消えるが、それでも数は減らない。 倒しても、倒しても。いくら倒しても、ワームが湧いて来るのだ。 少し油断すれば、安全と思われていた背後からもワームが現れる始末だ。 「何でこんなに……フェイトちゃんっ!」 「うん……わかってる!」 なのはがその名を呼ぶと同時に、一瞬で立川の背後にフェイトが駆け付ける。 そして、手に持つ大剣をワームの群れに構える。 刹那、大剣――バルディッシュザンバーの刀身が巨大化し、稲妻が走る。 自分の身長を遥かに越える剣を大きく振りかぶったフェイトは、それを一気にワームの群れへとぶつけた。 電撃を纏った剣がワームの体を纏めて斬り裂き、後に残るのは緑の炎のみ。 二人が一度の攻撃で倒すワームの量は、通常の出撃時に倒す総数にほぼ等しい。 それ程の数のワームを倒しても倒しても、次から次へと湧いて出るのだ。 そんなワームの中に、二人の人間がいた。一人は黒いローブを身に纏い、眼鏡を掛けた長髪の男。 もう一人は、黒い喪服姿の女性……なのは達も知っているワームの幹部――間宮麗奈だ。 やがて男は、ゆっくりとなのは達の前に歩み出ると、まるで長髪するかのように喋り出した。 「ごきげんよう。魔導師の諸君」 「何……!?」 それに気付いたなのは達が、デバイスを構え、男に視線を飛ばす。 だが男は動じない。確かに彼女らは無数のワームを葬って来たが、男にとっては、デバイスなど恐れるに足りないのだろう。 そう。なのは達人間はただの“餌”でしか無いのだから。餌がいくら強がろうと、何の恐怖も感じないのだ。 「餌にしてはよくやった方だが……がっかりだよ」 言うと同時に男は跳躍し、上空にいたフェイトに並んだ。 「跳んだ……ッ!?」 「まずは君からだ」 刹那、男は凄まじい脚力で飛び上がり、それこそあり得ない程の速度で、力強いパンチを放った。 フェイトは咄嗟にバルディッシュを構え、そのパンチを受け止めるが―― 「嘘……!?」 威力を殺すことは出来ずに、フェイトの体は砂浜にたたき付けられた。 激突の瞬間にバルディッシュが落下の速度を落としてくれた事で、大したダメージにはならなかったが。 着地し、微笑む男。今度は、男を取り囲むように、輝く光弾が現れる。 なのはが放ったアクセルシューターが、男を全包囲から狙っているのだ。 やがてアクセルシューターは男に向かって加速するが―― 「……消えた!?」 それは叶う事無く、アクセルシューターの光弾同士が何も無い場所で激突し、地面に落下する。 そう。男が消えたのだ。なのは達の視界から、一瞬で。 「見えているのだよ。君達の攻撃は」 「……なッ!?」 次の瞬間、なのはの背後に現れた男は、なのはを軽く持ち上げ、投げ飛ばした。 だが、空を飛ぶ事が出来るなのはにとって、投げられる程度ではそれほどの恐怖は感じない。 先程のフェイト同様、落下の直前に足首に翼を展開し、上手く着地。 そのままフェイトと並び、男を睨んだ。 「貴方は……ワームなの!?」 「……フッ」 なのはが問い掛けるが、男は一切答え無い。 ただ微かな笑みを浮かべ、なのは達を見詰めるのみ。 男はなのはの質問に答えるつもりは毛頭無いらしく、逆になのは達を指差し、挑発的に言った。 「魔導師の諸君……君達の目的は、あの男を守る事では無いのかな?」 「何……!?」 「見たまえ」 男が親指で、自分の背後を指差す。そこにいるのは―― 「そ、そんな……!!」 「立川……さん!?」 立川の目の前にいるのは、緑とも麗奈とも違う、別のワーム。 以前、学校で一度倒した事がある、コキリアワームと同タイプのワームだ。 いや、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、コキリアワームの腕の位置。 それは、なのは達にとっては認めたく無い現実。 仲間の腹部に突き刺さる、ワームの腕。 なのは達が見る限り、コキリアワームの腕は見事に立川の体を貫通し、その命を奪ったように見えた。 否、見えただけでは無い。実際に突き刺さっているのだ。 コキリアワームがその腕を引き抜くと同時に、立川はその場に崩れ落ちた。 ただじっと、絶望的な表情で立川を見詰めることしか出来ないなのは達を尻目に、男は言った。 「フン……今回は、我々の勝ちだ。直にZECTの諸君も来るだろう。 ……また会おう、魔導師の諸君」 別れの言葉。それだけ言うと、男は直ぐにこの場所から姿を消した。 男が居なくなったせいか、先程までは無数にいたワームの数も一気に減り、この場に居るのは間宮麗奈と、いつも通りのワームのみとなった。 「残念だったな、高町なのは。フェイト・テスタロッサ」 「間宮……麗奈……ッ!」 嘲笑する麗奈を、フェイトが睨む。こうして相対するのは初めてだが、フェイト達にとっても、この女は許してはいけない存在だと言う事は解る。 やがて麗奈は、白い装甲をその身に纏い、シオマネキと呼ばれるカニ特有の巨大なハサミをなのは達に向けた。 なのははレイジングハートを、フェイトはバルディッシュを。再び構え直し、麗奈――ウカワームと相対する。 「カブトが来る前に、お前達を始末する」 「出来る物なら……!」 ウカワームの言葉に、フェイトが大剣を突き付け、対抗する。 その時だった。 「おっと、そうはいかねぇなぁッ!!」 響きやすい低い声が、なのは達の耳に入った。 なのは達には、この声に確かな聴き覚えがあった。 そう。なのは達の背後に現れたのは―― 「良太郎君っ!?」 最早お馴染み、イマジンに取り付かれた状態の、野上良太郎だ。 良太郎はゆっくりと歩を進め、立川のすぐ側に立ち、横たわった立川へと視線を落とす。 良太郎に取り付いた、名も無きイマジン。 性格こそ破天荒で無茶苦茶ではあるが、人の死を何とも思わないようなイマジンでは無い。 「でん……おう…………」 僅かに目を開け、その名を呼ぶ立川。最早喋る事もままならないらしい。 良太郎は、何処か淋しげな目線を立川に落とした後、静かに言った。 「……もう黙っとけ。これ以上喋るんじゃねぇ おっさんの仇は、あいつらワームは、俺が全部ブッ倒してやるからよぉ」 言うが早いか、良太郎の腰にはデンオウベルトが巻かれていた。リズムの良い電子音が流れる。 「やい、テメェら! もう俺の出番は終わりって言うけどなぁ……! こんなもん、黙って見てられる訳が無ぇに決まってんだろうが……!」 何処からか取り出したライダーパスを握りしめ、良太郎は勢い良くその手を振り上げた。 「だからよ……そこで見てろよ、おっさん。俺のカッコイイ――」 振り上げられた手は、さらに勢い良くベルトに翳された。 同時にベルトは赤く光り輝き、変身終了の合図を告げる。 「――変身をッ!!」 『Sword Form(ソードフォーム)』 「俺……参上ッ!!」 赤いオーラアーマーを纏った電王は、自分の顔に親指を突き立て、派手に手を広げると、高らかに叫んだ。 こちらへ向き直るウカワームを尻目に、電王は腰に装着されたデンガッシャーを組み上げ、ソードモードへと変形を完了させる。 デンガッシャーを構えた電王は、群がるワームへと一直線に走り出した。 ……が、電王が狙う相手はサリスでは無い。 狙うは明らかにボスらしき貫禄を見せているウカワームかコキリアワームのみ。 「行くぜ、カニ野郎ッ!」 電王は、一気にウカワームとの間合いを詰め、力強くデンガッシャーを振り下ろす。 ウカワームはそれを腕の巨大なハサミで受け止め、弾き返す。そして繰り出されるハサミでの一太刀。 電王はその一撃を胸に受けるが、その程度で終わる筈も無く。 「甘いんだよっ!」 ウカワームがハサミを振り抜いた瞬間に、デンガッシャーを頭上に振り下ろした。 「クッ……」 「行くぜ行くぜ行くぜぇっ!!」 油断したウカワームの頭に、ほんの一瞬の隙に何度も何度もデンガッシャーを振り下ろす。 命中する度に火花が散り、ウカワームの硬い殻にダメージを与えていく。だが、やはり致命傷には至らない。 ウカワームはすぐに腕のハサミでデンガッシャーを受け止めると、前蹴りで電王を突き放した。 「うわっ」などと言いながら、後方へと引き下がるする電王。だがバランスは崩さない。 再びデンガッシャーを構え直した電王は、ウカワームにデンガッシャーの刀身を突き付けた。 「やい、カニ野郎! さっきから地味な戦い方しやがって…… 俺に前フリはねぇ! 最初っから最後までクライマックスなんだよッ!!」 「クライマックス、か……そうだな。どうやらお仲間が駆け付けたようだぞ?」 「あん? 仲間だぁ?」 ウカワームの言葉に拍子抜けしながらも、電王もその視線の先を見遣る。 その先にあるものは、二人の男が、何かを叫びながら走って来る姿だった。 それがどうしたと言わんばかりに電王が視線を戻す。 すると、ウカワームの前に3匹のサリスが現れ―― 「あ……おいっ、待ちやがれっ!!」 3人の仮面ライダーと二人の魔導師が相手では流石に不利と感じたのだろう。 電王の叫び声も虚しく、ウカワームはこの場所から姿を消した。 ◆ 「立川ぁーーーーッ!!!」 天道の少し先を走る男……加賀美が、大きな声で名前を叫ぶ。ようやく見付けた立川に追い付く為に。 天道も加賀美の後ろを必死に走るが、暴走したことによる疲労と、ザビーから受けたライダースティングによるダメージは相当のもの。 どうしても本調子という訳には行かない。 それでも、立川という切り札をここで失ってしまう事は、天道にとって最も避けたい事態だ。 やがて先を加賀美の身体は、「変身」の掛け声と共に、銀色のマスクドアーマーに包まれる。 その姿は仮面ライダーガタック・マスクドフォームの物となり―― 両肩のガタックバルカンから発射されるイオンビーム光弾がなのは達に群がるワームを焼いて行く。 天道の視界に映るガタックは、すぐになのは達へと駆け寄って行った。 「なのはちゃん、フェイトちゃん! 大丈夫!?」 「私達は大丈夫……ちょっと魔力使いすぎちゃっただけだから……」 「それより立川さんが……!」 「何だって……?」 フェイトの視線の先を見るガタック。そこにいるのは、力無く横たわった立川その人。 仮面の下で、悔しげな表情を浮かべ、拳を握りしめるガタック。その態度を見るに、よっぽど悔しいのだろう。 だが、ようやく掴んだヒントを手放す天道の悔しさは、ガタックのそれを遥かに上回る。 フェイトの言葉を聞くや否や、直ぐに天道は立川に向かって、全力で走り出した。 「おい……! 立川ッ!! しっかりしろ!!」 直ぐに立川に寄り添った天道は、立川の身体を激しく揺さぶりながら、その名前を叫ぶ。 だが、既に立川の意識は朦朧としており、いくら呼びかけても返事は帰って来ない。 それでも、天道は立川の名前を叫び続けた。まだ立川には聞きたい事が山ほどあるのだ。 「立川! おい! おいッ!!」 強い口調で呼び続ける。 暫らく叫び続けていると、やがて立川の目はゆっくりと開かれた。 「立川……!?」 天道の手も止まり、何かを言おうとしている立川に意識を集中させる。 「皆既日食を……さが……せ…………」 「皆既日食……」 「ひよりさんは……そこ……に……居……」 最後の力を振り絞って、立川は手を差し出した。それを天道はしっかりと握りしめる。 ……が、立川がそれ以上口を聞く事は無かった。 完全に事切れた立川の手は、天道の手からずり落ち、砂浜に落下。 それを見届けた天道は、もう一度立川の肩を揺する。起きて欲しいと願いながら―― 死ぬなと願いながら。 「立川……おい……、立川……立川ッ!? おい! おぉぉぉおおおおおいッ!!」 さらに強く、声を張って叫ぶ。だが、今度こそ、いくら呼ぼうが返事は来ない。 立川が最期に天道に渡したのは、緑に輝く石。 立川の手がずり落ちる間際、立川から直接受け取ったのだ。 「…………」 流れる沈黙。天道はそれ以上何も言わなかった。ただ、黙って受け取った小さな石を眺めるのみ。 冷たい風が天道の頬を撫で、周囲の砂を飛ばしてゆく。 天道の前で横たわる遺体は、既に人間立川大悟では無い。 緑の異形……サリスワームだ。 立川の最期を看取った天道は、受け取った石を強く握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。 目の前で命を散らした立川に、黙祷を捧げて。 ◆ 「天道……さん?」 ただじっと、拳を強く握りしめて立ち尽くす天道に、言いようの無い違和感を感じたフェイトが、小さく呟く。 俯いた天道の背中は、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。 どこか淋しげな、それでいて、深い悲しみのような……そんな感情だ。 「(もしかして天道さん、怒って……る?)」 さほど天道と親しみを持たないフェイトにすら、天道の怒りと悲しみは伝わってきた。 だが、フェイトにはその気持ちが解らない筈が無かった。それは恐らく天道だけが感じている感情では無いのだから。 「なのは……」 「うん、解ってるよ。フェイトちゃん」 親友の名前を呼び、フェイトもゆっくりと立ち上がる。 同じようになのはも立ち上がり、レイジングハートを構え直した。 例え立川の正体がワームであったとしても、立川は紛れも無くなのは達の仲間だったのだ。 その仲間の死に、怒りや悲しみといった感情を抱くのは当然のこと。 なのはは、レイジングハートの切っ先をワームに向け、言った。 「私達も、戦うよ……!」 『マスター、もう戦えるのですか?』 「うん……大丈夫だよレイジングハート」 ◆ 立川の遺体の前で立ち尽くす天道の背後から、コキリアワームが接近する。 コキリアワームは天道のすぐ真後ろにまで迫るが、天道は微動だにしない。 「変身ッ!!」 ……いや、コキリアワームがさらに一歩踏み出した瞬間に、天道は鋭い後ろ回し蹴りを放った。 同時にカブトゼクターをベルトに押し込みながら。 電子音と共に、銀のアーマーに包まれながら。すぐにコキリアワームとの距離を縮め、再びキックを放つ。 コキリアワームはさらに後方へ飛び退き、それを回避。だがカブトの攻撃はまだ終わらない。 ベルトに装着されたカブトゼクターのゼクターホーンを倒し、そのアーマーを弾き飛ばす。 『Change Beetle(チェンジビートル)』 『Change Stag Beetle(チェンジスタッグビートル)』 それに合わせるかのように、ガタックも同様にアーマーをパージ。 二人のライダーは一瞬でライダーフォームへと変化した。 『One,Two,Three!』 直後、一際音階の高い電子音が響いた。最早聞き慣れた電子音――ガタックのライダーキックだ。 ガタックはそのままサリスワームの群れへと突っ込んで行く。そして――跳躍した。 「ライダーキックッ!!」 刹那、ガタックの声を復唱するかのように響いた『Rider Kick』の電子音。 ガタックの右足が青く光り輝き、その蹴りは数匹のワームを纏めて爆散させた。 「ディバィン……バスタァーーーーッ!!!!」 『Divene Buster,Extension』 なのはが叫ぶと同時に、地面をえぐるように発射された桜色の閃光がワームを纏めて消し去る。 その砲撃には多少の怒りも込められているのだろうか。 本日の撃墜数No.1は間違いなくなのはで決定だ。 しかし、なのはは完全に油断していた。 この状況でワーム意外からの襲撃を受ける等とは、夢にも思わなかったのだ。 電王が、ワームの群れに真っ直ぐに突っ込む。 擦れ違い様に、ワームの体をデンガッシャーで斬り付け、そのまま一気に走り抜けて行く。 そしてワームの群れを突破し、何処からか取り出したのは、ライダーパス。 “俺の必殺技”を使う為に重要なキーアイテムだ。 『Full Charge(Fullフルチャージ)』 電王は、ライダーパスをベルトのターミナルバックルにセタッチすると、高らかにその技の名を叫んだ。 「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」 同時に、デンガッシャーから離れたオーラソードが、デンガッシャーの振り抜きに合わせて、空を駆ける。 飛び立った赤き剣は、今しがた自分がダメージを与えた全てのワームの同体を真っ二つに切り裂き、そのまま往復。 一度切り裂いたワームの体を、もう一度切り裂き、巨大な弧を描く。 ――しかし、それはミスだと言う事に、電王はすぐに気付いた。 一気に敵を倒せるのはいいが、動きが大きすぎるのだ。 電王の派手な動きも相俟って、飛び交うオーラソードは、すぐ近くにいたなのはへと、真っ直ぐに加速する。 なのはは完全に油断していた。 この状況で、ワーム意外の襲撃を受ける等とは夢にも思わなかったのだ。 レイジングハートのアラートに、気付いたなのはは、直ぐに右報告を振り向いた。 「ちょ……えぇっ!?」 奇声を上げるなのは。自分目掛けて飛んで来るのは、凄まじい速度で飛来する赤い刃。 「レ、レイジングハート!?」 『Protection,EX』 咄嗟に防御魔法を展開。オーラソードを弾くバリアが現れ、なのはの身を護る。 「きゃっ……!?」 だが、それでも電王のエクストリームスラッシュを完全に防ぎ切る事は出来ずに、なのはの体は地面へとたたき付けられた。 『ちょっと! 何やってるの!?』 電王の中で一部始終を見ていた良太郎が、電王の頭の中に怒鳴り声を響かせる。 まさか自分が味方である筈のなのはに攻撃する羽目になるなどと、誰が想像出来ただろうか。 「う、うるせぇなぁ! ありゃ、あんなところにいたアイツが悪いんだろうが……!?」 ……と、脳内討論が始まろうとした所で、電王は何者かに肩を押された。 「どけ」 「……んだと天道この野郎ッ!?」 そこにいたのは、紛れも無いカブトその人。元々カブトとも戦うつもりであった電王は、カブト相手にデンガッシャーを構える。 だが、電王とは対象的に、カブトには最初から電王と戦うつもり等無いのだ。 故にカブトは電王を無視。カブトゼクターの3つのボタン――フルスロットルを順番に押しながら前進して行く。 行く先にいるのは、最後に残った数匹のサリスワーム。 ワームにトドメを刺すべく、カブトは一撃必殺の必殺技を発動させた。 『Rider Kick(ライダーキック)!!』 ベルトから頭部へと走った電撃は、そのまま右足のライダーストンパーへと集束される。 眩ゆい輝きを放ちながら、カブトはその右足を大きく振り上げた。 狙うはワーム、この一発で纏めて倒す……! 「ライダーキック……!」 そして放たれた回し蹴りは、固まっていたサリスを巻き込み、見事に全て爆発。 カブトがライダーキックによって放った脚を戻し、着地しようとした……その時だった。 カブト、ガタック、電王の間を一陣の風が駆け、そのバランスを崩されてしまう。 そう。最早言うまでも無いだろう、ワームのクロックアップだ。 先程のコキリアワームが、クロックアップ空間の中でカブト、ガタック電王の3人に連続攻撃を仕掛けているのだ。 右から殴られ、左から殴られ、予測不能な攻撃の連続。それを受けたカブトは明らかに体力を消耗していく。 ただでさえ消耗していたというのに、これ以上、攻撃を受け続ける訳には行かないと考えたカブトは、コキリアワームのパンチをワザと受け、地面に転がった。 これこそカブトが狙ったチャンス。どこにでも現われるハイパーゼクターを転がり様にキャッチするのを阻止するなど、ほぼ不可能と言える芸当だからだ。 そうしえ、カブトは起き上がり様に、空間を裂いて現れたハイパーゼクターを掴み取った。 『Hyper Cast off(ハイパーキャストオフ)!!』 ハイパーゼクターをベルトの左側に装着。ハイパーゼクターから発せられた電撃が、カブトの装甲を駆け巡る。 同時にカブトの赤き装甲――ヒヒイロノカネは大型化され、巨大な銀色の装甲――ヒヒイロノオオガネとなる。 最後にカブトの頭部に輝くカブトホーンが、大型化。より巨大なカブトムシを摸した形へと変化することで、フォームチェンジは完了。 カブトがハイパーカブトへと進化した事を告げる電子音が、高らかに鳴り響いた。 『Charge Hyper Beetle(チェンジハイパービートル)!!』 ハイパーフォームへと進化したカブトにとって、最早クロックアップ等恐れるに足り無い。 何故なら、ハイパーカブトにはクロックアップをも凌駕した力が与えられているのだから。 故にハイパーカブトは、左腕でハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込んだ。 「ハイパークロックアップ」 『Hyper Clock Up(ハイパークロックアップ)!!』 同時に、全身に装着されたカブテクターが解放され、背中からは眩ゆい光の翼が姿を表す。 それに伴い、クロックアップの数倍の速度を誇るハイパークロックアップによる空間が周囲に広がる。 周囲の全ての時が停止し、見えざる敵の姿が、限りなく静止画に近い速度にまで減速する。 この世界の何者も追い付く事を許さない、最速の力。 それは、言わばネクストレベルとも言うべき、進化したクロックアップ。 目の前で、クロックアップ空間からガタックと電王に攻撃を仕掛けていたコキリアワームに向き直る。 『Maximum Rider Power(マキシマムライダーパワー)』 再びハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込み、ハイパーカブトの全ての力をカブトゼクターへと送り込む。 それからの動作は、いつもとなんら変わりはない。 いつも通り、フルスロットルを3回押しこみ、その力を発動させるのみ。 『One,Two,Three――』 「ハイパー―――キック……!!」 そしてハイパーカブトは、カブトゼクターのゼクターホーンを先程のライダーキックと同じように、力強く押し倒した。 『Rider Kick(ライダーキック)!!』 ハイパーキック。ライダーキックをも越えた、マキシマムライダーパワーによるハイパーカブトの必殺キックだ。 背中の翼を羽ばたかせ、ハイパーカブトは宙に舞う。 カブトゼクターとハイパーゼクターから送られたタキオン粒子が、ハイパーカブトの右足で渦巻く。 まるでサイクロンの如き旋風を巻き起こしながら、ハイパーカブトの蹴りは真っ直ぐにコキリアワームへと飛んでいく。 一度飛び立てば、例え雲の彼方へでも飛んで行けるであろうハイパーカブトの蹴り足が、凄まじい爆音と共にコキリアワームに減り込む。 時間が止まったままのコキリアワームの身体は、キックにより叩き込まれたタキオン粒子の衝撃に、跡形も無く爆散した。 『Hyper Clock Over(ハイパークロックオーバー)』 「はぁ……はぁ……」 やがて、全身のカブテクターが元の場所に戻り、光の翼も消失。 コキリアワームを倒したハイパーカブトは、力を使い切ったとばかりに地面に膝を付いた。 それでもゆっくりと立ち上がると、ガタックや電王、なのは達が自分に注目しているのが分かった。 「(……立川……)」 放置された立川の遺体に一瞬だけ目を向け、心の中でその名を呼ぶ。 仇は取ったと言いたいのか、それとも別の意味が込められているのか。それは天道自信にしか解りはしない。 だが、疲労とダメージの蓄積したハイパーカブトは……いや、天道は、これ以上自分の意識を保つ事が出来なかった。 これ以上何も考えることが出来なかった。気付けば、吸い寄せられるように地面に倒れ込んでいたからだ。 「天道ぉーーーーーーーーーーーーーッ!!?」 薄れて行く意識の中、友の声がかすかに聞こえた。 ◆ 次に天道が目を覚ました時、そこは見知らぬベッドの上だった。目覚めるや否や見知らぬ天井が広がり―― 「(いや……ここは)」 否。天道には、この場所に心辺りがある。 天井や、周囲の見慣れぬ機械の形状から察するに、ここはあのけったいな戦艦―― アースラの内部だ。 「あ……天道さん、目覚めたみたいやね」 「…………?」 横から聞こえる声に、顔を傾ける。 そこにいるのは、八神はやて。それと、赤い髪の毛を三つ編みに括った少女が一人と、もう一人は―――加賀美だ。 自分が寝てる間、こいつらが看病してくれたのか? と考えるが、天道はすぐにそれを否定した。 何故ならば、ハイパーカブトが意識を失ってからそれほどの時間が経っていないという事は、天道自身がよく分かっているからだ。 「もう……いきなり倒れたっていうから心配してんで?」 「ったく、心配かけさせやがって……目覚めの気分はどうだ? 天道」 横から聞こえる二人の声に、天道はため息混じりに天井へと視線を動かし―― 面倒だが答えてやるか……とばかりに、天道は口を開いた。 寝起きの第一声となる言葉を。 「……腹が減ったな」 「「…………」」 同時に、室内が一気に静まりかえる。 二人の少女はぽかーんと口をあけ、加賀美は安心したとでも言いたげな軽い笑みを浮かべている。 「何だよ、凄い大物って聞いてたから期待して来てみれば……なんか随分と小さそうな奴だなぁ」 「あはは……ヴィータ、そんなん言うたらあかんよ」 天道の第一声を聞いて、大きなため息を落とす少女――ヴィータに、はやてが苦笑気味に返す。 「(ヴィータ……そうか、成る程な)」 天道の中で、合点が行く。ヴィータという名前には聞き覚えがあるからだ。 確か……シグナム、シャマル、ヴィータの3人は、この八神はやてという少女の家族だと聞いた筈だ。 ……あと一人居たような気がするが、あまり話に出て来なかった為に忘れてしまった。 「(確か……ザフィなんとか……? ……まぁいいか)」 少し考えるように目を閉じたが、すぐに考える事を止めた。それほど興味が無いからだ。 ややあって、隣にいたヴィータがその口を開いた。 「何でもいいけどさ、あんま心配かけさせんなよ。はやてはただでさえ心配性なんだからさぁ」 「………………」 その言葉に、天道はヴィータのポジションを何となくにだが理解した。 要するにヴィータもはやてのことが心配なのだろうと。ヴィータ自身も十分に心配性じゃないか、と思いながら、天道は言葉を返す。 「……勘違いするな。心配してくれ等と頼んだ覚えは無い」 「……なっ!? んだとテメ……!?」 「だが――」 憤慨したヴィータの言葉を遮り、天道がゆっくりとヴィータに視線を送る。 「心配してくれたことには素直に感謝“してやる”」 「なっ……“してやる”じゃねーっ!?」 「ま、まぁまぁヴィータ、ちょぉ落ち着き」 ガタン! とイスを倒し立ち上がったヴィータを、宥めるようにはやてが制する。 天道は、微笑みながら一部始終を眺めている加賀美が少し気になったが、まぁ敢えて気にしない事にした。 気にするだけ無駄だと感じたのだ。どうせこのバカには何を言っても無駄だと。 天道は隣で騒ぐはやてやヴィータを、全く以て騒々しい連中だと思いながら、ぼんやりと天井を眺めていた。 すると、先程までヴィータを宥めていたはやてが、「あっ」と口を開いた。 「そうや、天道さん」 「なんだ」 「お腹空いたって言ってたやんな?」 「ああ、言ったな」 「じゃあ私が食堂借りて何か作って来よう思うねんけど……」 「ほう……?」 天道の視線が、再びはやてに向けられる。 この申し出には少しばかり興味がある。 そういえば料理が得意とか言っていたな……と、そんな噂を聞いた記憶があるからだ。 世界のありとあらゆる名店の味を覚えた天道にとって、はやての料理に多少なりとも興味が無いと言えば嘘になる。 ならば、返す言葉は一つだ。 「どうやろ……余計なお世話かな?」 「いや……是非作ってくれ。食べてみたい」 口元で小さな微笑みを作りながら、天道は答えた。久々の、天道の優しい笑顔。 一方のはやても、その言葉を聞いて表情が一気に明るくなる。 もちろん天道の返答が嬉しいのだが、それ以上によっぽどの自信があるのだろう。 「ほな、今から作ってくるから、待っててな。行こ、ヴィータ」 「おう! はやての料理はギガウメーからな!」 立ち上がったはやてに、ヴィータが付いて行く。 天道と加賀美を部屋に残し、二人はこの医務室を後にした。 暫しの間を置いて、先程まで微笑んでいた加賀美が口を開いた。 「珍しいじゃないか、天道。天道が素直に感謝してやるー、だなんて」 「……まぁな」 にやにやと笑う加賀美に、天道は目を反らしながら答える。 別にそれが羞恥等という訳では無いが、嬉しそうな加賀美を見ていると、いつもため息を尽きたくなるからだ。 「天道……お前は一体、どう思ってるんだ? はやてちゃんやなのはちゃん達のこと」 「………………」 加賀美が問うが、天道は何も答えない。何も言わずにただ天井を眺めている。 「俺はさ、いい子達だと思うぞ。あいつらのこと」 「………………」 尚も無言は続く。加賀美が一人で喋り続けるのを、天道は黙って聞くのみ。 どこか幸せそうに、微笑みながら喋る加賀美の声を聞いていると、こんなゆっくりとした時間はいつ以来だろうか……と思えてくる。 思えばひよりが消えてから、天道に心が休まる時など無いに等しかったからだ。 今もひよりが心配なのは変わらないが、管理局と関わるようになってからはさらに落ち着ける余裕など無かった。 そもそも天道にとって時空管理局絡みでいい思い出など何一つ無いのだから。 故に、その時から考えると、今が1番落ち着いている気がした。 「そりゃあ、たまに何するんだこいつら! って思った事だってあったけどさ。天道が捕まった時とか…… でもさ、俺思ったんだよ。ちゃんと話してみたら、何か変わるんじゃ無いかな?って。今のはやてちゃんとか見てたら特にさ」 天道の返答に関わらず、微笑みながら言葉を続ける加賀美。 「だから……まぁ俺にもなんて言ったら良いのかわかんないけどさ、とにかく、信じてみないか? なのはちゃん達のこと……」 「……わかってるさ。俺にだって……」 「え……?」 言葉を遮る天道に驚いた加賀美。 何の話をしているのだろうか? 何についてわかってると言いたいのか? 突然の天道の言葉にそんな疑問を抱きながら、少しだけ身を乗り出す。 「俺だって馬鹿じゃない。奴らが悪い奴じゃないって事くらい、わかってると言ったんだ」 「じゃ、じゃあ……!」 「加賀美」 「…………!?」 これは和解出来るかもしれない。そう考えた加賀美は嬉々とした表情でさらに身を乗り出すが、またしても天道に言葉を遮られる。 何かを言わんとする天道の言葉に、目を輝かせる加賀美。 ……だが、帰って来たのは加賀美が期待した言葉では無かった。 「……さっきは暴走した俺を、よく止めてくれたな。」 「え……? あ、あぁ……それはクロノに言ってくれよ……俺じゃない」 「ああ、そうだな」 言いながら、フッと軽く笑みを零す天道に、加賀美は何故か少しだけ不満を感じたが、まぁ気にしない事にした。 話を反らされたというか……ああは言ったが、一応自分も天道を止める為に戦ったのに……というか。 そんな加賀美の心を知ってか知らずか、天道は続ける。 「加賀美……俺と約束しろ」 「約束……?」 「そうだ。もしも再び暴走スイッチが働き、俺がひよりを殺そうとした時は…… その時は、お前が俺を倒せ」 「な、何言ってんだよ……! そんなこと……」 「ただし……!」 「……ッ!?」 「その逆の場合は、俺がお前を倒す。いいな……?」 ややあって、加賀美は天道の言葉に静かに頷いた。 もしも自分に……ガタックに仕込まれた暴走スイッチが働いた場合は、カブトがガタックを倒す。 そう言われると、反論が出来なかった。自分にだって暴走する可能性はあるのだから。 「それにしても……暴走スイッチか……本当にガタックにもそんなものが…… それに、結局ネイティブが何なのかも、わかんないままになっちゃったな……」 加賀美の言葉に、天道はゆっくりとベッドから立ち上がった。何か言いたい事でもあるのだろう。 立ち上がった天道の顔を見詰めたまま、加賀美が続ける。 「何なんだろうな、ネイティブって。ドレイクに変身したり、カブトゼクターを操ったり…… それに1番解らないのは、ZECTが立川を守れと指令を出したことだ」 「あぁ、俺にはもっとワームを倒せと言いに来た」 「一体何なんだ……ネイティブって」 天道が、ゆっくりと視線を加賀美に向け直すことで、加賀美と天道の視線が合う。 ややあって、天道は非常にゆったりとした口調で、過去の自分に起こった出来事を語り始めた。 「……俺は……以前にもあのタイプのワームを見た事がある」 「何ぃ……!?」 あのタイプのワーム……というのは、通常のサリスからツノを生やした―― つまり、立川が変身していた、通常とは異なるサリスワームの事。 それに対し、加賀美は相変わらず間抜けな表情で答える。 「18年前……俺の両親を殺して擬態したのも、あのタイプだ」 「な……!? ネイティブは人間を傷付けないんじゃないのかよ!?」 「そんなこと俺が知るか」 何処ぞのカブトムシライダーが言っていたような台詞を、天道が口にする。 「……だが、奴は自分の事をネイティブと呼んでいた。恐らく、俺達の知っているワームとは別の種類のワームなんだろう」 「ま、待てよ……! じゃあ、ネイティブは7年前の渋谷隕石どころか、18年前から……いや、もしかしたらもっと前から……!?」 推測する加賀美。確かに、ネイティブと呼ばれる連中が一体いつからこの地球上にいたのかなど、誰も知ることではない。 だが、それ故に現状ではこれ以上いくら考えたところで、所詮は推測にすぎないのだ。 天道はこれ以上、何も言う事は無かった。ただじっと、ポケットに手を入れたまま、天井付近を見上げていた。 ◆ 「ねぇ……なんでなのはちゃんを攻撃したの……?」 「うっせぇなぁ! 何度も言わせんなよ、あんなとこにいたアイツが悪いって何度も言ってんだろうがッ!!」 赤鬼の姿をしたイマジンに、良太郎が詰め寄る。 先程の戦いで、電王の放ったエクストリームスラッシュが、なのはに命中してしまった事についてだ。 幸い大事には至らなかったが、一歩間違えれば、なのはは命を落としていたかもしれないのだ。 それ故に良太郎は、静かにではあるが、激しい怒りを抱いていた。 本当にこのイマジンを信用していいのか? とさえ思えてくる程に、良太郎は怒りを感じていた。 もしもこのままこのイマジンが何の謝罪も無いというのなら―――良太郎にも考えがある。 足を組んだまま、まるで良太郎の言う事を聞こうとはしない赤いイマジン。 イマジンの犯したミスに、激しい憤りを覚えた良太郎。 どちらにせよ、今のままの関係では共に戦う事など、到底不可能な話だ。 ――どうやら二人の繋がりは、まだまだ浅いらしい。 次回予告 ようやく良太郎の体にも電王システムが馴染んで来たみたいだけど…… どうやらやっぱりまだまだみたい。戦う度に凄まじく消耗する良太郎に、電王は――モモタロスは…… ――それより、そろそろ天道総司の罪状が確定する時期!? ついに天道が、管理局から解放される!? そして、ついに現れた、未来からの侵略者。 電王が、カブトが――二人の赤いライダーがその力を解き放つ時、この時空は赤く染まる……! カブト編はいよいよクライマックスへ……! 『ごめんなさぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!』 次回、魔法少女リリカルなのはマスカレード ACT.20「FULL FORCE-ACTION」 に、ドライブ・イグニッション!! スーパーヒーロータイム 「NEXTSTAGE~プロローグ・Ⅳ~」 「ようやく見付けたぞ……プレシア・テスタロッサ……」 遠く離れた道を歩くプレシアを睨みながら、物影から一人の女が姿を現した。 先を歩くプレシアはこちらには気付いていない。だが、それなら好都合だ。 こちらに気付かれ無いうちに仕留める事が出来れば、それに越した事は無いからだ。 ややあって、女が目配せすると、背後に隠れていた緑の怪物が、一歩前へ出た。 今のプレシアを殺すのに、それほどの戦力は必要としないだろう。故に女は命令した。 一言だけ、「行け」と。 男は、とある命令を受けていた。 その命令の内容は、“プレシア・テスタロッサの命を守れ”。 故に男は、プレシアの危機を救うため、走り出した。 背後から迫る緑の怪物を倒す為に。 ベージュのロングコートを翻し、ポケットに忍ばせた箱――カードデッキを握りしめて。 緑の怪物がプレシアにたどり着く前に、男が怪物を蹴り飛ばす。 それに気づいたプレシアが、驚いた表情で自分を見詰める。 その視線に、男は何処か躊躇いを感じたが、迷っている場合では無い。 怪物が突き放された一瞬の隙を見て、近くのビルのガラスに翳したカードデッキ。 「変身ッ!!」 そして、叫んだ。 刹那、茶色い装甲がオーバーラップし、男の体を覆う。 そこにいるのは、さっきまでの男の姿では無い。 そう。それは、鏡の中のモンスターと契約を交わした一人の仮面ライダー―― その名を、仮面ライダーシザースと云った。 戻る 目次へ 次へ
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大海と称すに相応しい光景がそこにあった。 青天と青海が水平線を希薄にし、風景を蒼一色にする。他に色があるとすれば浮かぶ雲の白さだけだろう。 平穏、その一文字のみがそこにあった。 しかし、 『ガァ―――――――――――ッ!!』 怒濤の音響によってそれが破られた。同時に生じるのは海を内側から破る音、水は舞い上がって柱となり、飛沫は雨となって海に落ちる。 そして現出するのは巨大極まりない海蛇と人型ロボットだ。 『オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!』 海蛇は牙の乱立する顎を持ってロボットの肩に食らいついている。……否、海蛇では正しく形容出来ない。その生物の頭部は角と赤い瞳を持ち、全身を鱗で覆い四本の足さえある。最早それは海蛇ではなく、海竜と呼ぶに足る姿だ。 対するロボットは銀の機体を赤、青、黄に彩られた派手な塗装がされている。青の両眼と五指を持つ両手は海竜の頭部を捕らえて離さず、その暴力を正面から受け止める。 だが押さえ切れない。長大な海竜はロボットを捉え、海上を押し進んでいく。明らかなロボットの劣勢だ。 そこでロボットは通信機能を起動させた。だがそれは救助を願うものではない。自分が遂行しなければならない作戦の継続を伝える為だ。 故にロボットは遠方の仲間へ意思を伝えた。己の名前と共に。 『当方ジェットジャガー! ――マンダ現出、作戦段階・移行申請!!』 新暦77年、第97管理外世界、惑星名・地球に一つの災害が発生した。 それはバイオハザード、つまりとある生物によって起こされたものであった。 生物の名は―――ゴジラ。 史上初、『生体ロストロギア』という分類を受けた名実共に最大最強の生命体である。 マンダと称された海竜によってジェットジャガーは海上を高速で押される。 だがそこへ二つの影が迫った。片や白、片や黒のそれらは白雲を貫いて両者を行き過ぎる。影達が着地するのはマンダの鱗の上、……そう、影の正体は人間、それも二十歳程度の女性二人だった。 「行くよ、フェイトちゃん!」 「――うん!」 少女達、なのはとフェイトは得物を出現させる。白の少女は杖、黒の少女は長柄の斧だ。 「レイジングハート・エクセリオン! ――エクセリオンモード!!」 「バルディッシュ・アサルト! ―――ザンバーフォーム!!」 《――了解!!》 命ずるは少女、応じるは得物、生じるのは得物の変形だ。 杖はその先端が細分化されて再構成、槍に似たフォルムとなる。対して斧はその柄を縮ませ、刃が分裂して左右に展開、大きな柄となる。 だが生じた結果はそのだけではない。ば、という雷電の弾ける様な音と共に光を放出、やがて形を作った。槍は桜色の四翼、柄は金色の巨大な刀身だ。 「……はっ!」 黒の少女は大剣と化した得物を逆手に持ち替え、マンダの体に突き立てる。そうして鱗と微量な血が散る向こう、白の少女は翼を伸ばした槍を穂先をやや下げて構える。 そして、 「「あああああああああああああああああッ!!」」 飛んだ。しかし海竜の身から離れるという意味ではない。それは海竜の身をなぞる様な低空飛行、それも攻撃力たる翼と刀身を切迫させたままで、だ。 為した結果は、鱗とは逆剥ぎにマンダの長胴を引き裂くという攻撃。 『ギャァアアアアアアアアアアッ!!!』 胴の中程から始まった切開は首に至った所で終えた。少女達が離れ、一拍遅れて血と鱗の飛沫が飛ぶ。 咆哮によってジェットジャガーはマンダの牙から解き放たれ、少女達と共に海竜を離れる。 (――次! 撹乱、波状攻撃!!) なのはが念話を持って指示を叫ぶ。見る先は自分達が飛び立った場所、定位飛行を続けるストームレイダーだ。開かれた扉は内部を、そこに立つ四人の少女と一人の少年を烈風に晒している。 ゴジラの戦闘力、そして凶暴性は全くの予想外であった。 誰が予想出来ただろう、管理局が全力をかけても勝てない相手を。 誰が予想出来ただろう、数十のアルカンシェル一斉砲撃に耐えきる肉体を。 誰が予想出来ただろう、管理局の最大戦力、ヴォルテールと白天王を虐殺する攻撃力を。 結果は時空管理局の惨敗、実に地球の約1割がゴジラによって焦土と化した。 定位飛行を続けるストームレイダー、開かれた扉の縁にティアナはいた。その両手には双銃となったクロスミラージュが握られ、背後にはキャロが立っている。 白の少女、高町なのはの通信を受けてティアナは、了解、と短く返答する。 「――キャロ、お願い!!」 「はいっ! ケリュケイオン、威力加圧を!!」 『了承しました。……Energy Boost!』 キャロの両手を覆うケリュケイオンが発光、それは威力強化の魔法となってクロスミラージュに届く。 『威力加圧を確認。……マスター、射撃準備を完了しました』 「オッケー! 双砲狙撃、行くわよ!!」 少女と双銃は応え合い、魔法陣を展開する。番の銃口に魔力が蓄積され、ターゲットリングが表示され、 「――ファントムブレイザー!!」 『Twinbarrel Shift』 一対の魔力砲撃が放たれた。JS事件より一年、鍛錬を友とする銃使いは当時よりも早く、多く、正確に、そして強い威力を持って射撃をこなす。 狙う先は、マンダの両眼だ。 「―――――ッ!!?」 裂傷の海竜は音もなく悲鳴をあげる。強靭な怪獣の肉体は眼球ですら屈強だが、しかし激痛とそれによる短時間の失明は免れない。その隙をつくべくティアナの後ろから三つの影が飛び出す。 青髪の姉妹と赤髪の少年、スバルとギンガにエリオだ。 少女達はウイングロード、少年はデューゼンフォルムとなった愛槍ストラーダによって空を駆ける。やがて姉妹は白黒のリボルバーナックルを構え、ストラーダの穂先と共に、 「どっっっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!」 苦悶するマンダの額に打ちつけた。 「オ…………ッ」 長細い舌を嘔吐せんばかりに伸ばしてマンダは唸る。姉妹の打撃も、少年の突撃も、海竜の鱗と頭蓋を抜く事はない。しかし衝撃は伝わり、頭部の内容物を揺すって脳震盪を起こさせたのだ。 目を塞がれ、脳震盪を起こしたマンダは青海をただ突き進む。最早水平線に大地が、そして自分を襲う最後の敵が待つ事も知らずに。 『ルーちゃん、最後だよ!』 『…うん。やるよ、クモンガ』 『――ケキュ』 キャロは最後の仲間に念話、その答えはガス漏れも似た奇怪な鳴き声と共に返された。 地球は滅ぼされる、そう思われた戦況に転機がもたらされた。 無限書庫史書長、ユーノ・スクライアが新型結界を発明したのだ。 次元世界型結界魔法、『妖星ゴラス』は成功、ゴジラを封印した。ゴジラの同種族ミニラと、疑似人間ヴォルケンリッターを媒介として。 しかしミニラやヴォルケンリッターの肉体的耐久力や出力の問題から、その維持は1年が限界であった。 故に時空管理局は、来るゴジラ再臨に備えて一つの計画を打ち立てた。 その名を――『オペレーションFINAL WAS』。 マンダが迫る大地、その岸辺には巨大な影があった。 要約すれば、一匹の蜘蛛である。ただし人間を遥かに超える巨体を持ち、その頭上に一人の少女を乗せる。そういう蜘蛛である。 蜘蛛はクモンガ、その上に乗る少女はルーテシア・アルピーノといった。 両者の関係は、――魔導師と使い魔。 「クモンガ、糸を」 「キュギュッ!」 主の指示にクモンガは応じ、迫るマンダに対してその命令を果たした。 柔軟にして強靭、粘着性をも持つクモンガ特有の糸を放射したのだ。 「―――――!!?」 おそらくマンダは混乱の極地であっただろう。視覚を殺され、脳髄を揺すられ、その果ては強靭な糸を吹きかけられたのだから。黄味を帯びた糸は海竜の長胴を何重にも縛り上げ、前半身に至っては繭と言える程だ。 そうして身動きさえも封じられたマンダは慣性のまま大地に突っ込み、岸に衝突し、轟音をあげて肉体を叩き付けた。打ち上げられた海竜は身をうねらすが、束縛と脳震盪の前に意味をなさない。 巨大な蜘蛛が、少女達を乗せたヘリが、翼の道に乗った姉妹と少年が、鋼鉄の巨人が、そして白黒の女性達が、マンダを取り囲む。それさえも解らない海竜を見下ろしてなのはは一声。 「作戦完了。――マンダの捕獲に、成功」 『オペレーションFINAL WAS』、それは時空管理局が仕掛ける最初で最後の“戦争”。 簡単に言えば、1年後に迫るゴジラ再臨に備えての軍備増強計画である。 各次元世界に生息する強大な怪獣達を――捕縛、屠殺、使い魔の素体とする。 そうして完成するのは怪獣素体の強大な使い魔。 それらに加え、超法規的措置によって仮釈放されたジェイル・スカリエッティ開発の決戦兵器を持って、復活したゴジラを今度こそ抹殺する計画が、『オペレーションFINAL WAS』である。 簡素とも言うべき部屋がそこにある。内部には何もなく、いるのは捕縛されたマンダだけだ。 『ギャァァオオオオオオオオオオ!!!』 陸に上げられた海竜は必死にその身を壁にぶつける。だが生じるのは轟音と衝撃ばかり、対怪獣用に設計された牢獄とも言うべきその部屋はびくともしない。 ――それはある種の予感だったのだろう。直後その身に起こる事についての。 部屋の下方から黄色いガスが溢れ出し、やがてそれは上方へと立ち上っていく。 『オオッ! オオオオオッ!! ――ゴオォォォォォォォォォォオンッ!!!』 マンダは身を伸ばし、天井に対して頭突きを繰り返す。ここから出せ、と言うかの様に。 否、強靭な筈の額から血を流す程に頭突きを繰り返すその様子は、もはや懇願だった。 ――お願いだからここから出して下さい、殺さないで下さい。 流血は目元を横断し、涙の如く頬を伝う。しかしその願いは果たされない。海竜を密室に閉じ込めた時空管理局、その狙いは彼の遺骸なのだから。 遂に黄色いガスが天井まで届き、鳴き叫ぶマンダがそれを吸い込んだ。瞬間、 『――――ゴバァァァァッ!!?』 目から、鼻から、口から、あらゆる穴から血が噴き出した。そして、全身の筋肉が蠢く。 『ギャァァァアアァァアッ!!? ギャン!! ギャァアアアアアアーーーッ!!!』 のたうち回る海竜、喘ぐその呼吸は更にガスを吸い込む結果に繋がる。 黄色いガス、それは肉体強化の作用をもたらす特殊なガスである。ただし、強化の余り対象はそれに耐え切れず必ず死亡するが。 だがこの場合、それは問題ではない。繰り返して言うが、時空管理局の狙いは強靭な遺骸だからだ。 時空管理局は、支配出来ない意思を持つ弱い肉体を望んでいない。文字通り、死ぬ程強い肉体があれば良いのだ。彼等にはその肉体に従順な意思を移植して操る術があるのだから。 『ギョォオオオオオオオオッ!!! ガ……ベヘェェェェェェェェェッ!!!』 牢獄の部屋たる部屋に満ちるのは黄色のガスとマンダの悲鳴。そこには頑強なそれであるが、しかしある一点において苦情が耐えない。 ――防音性に欠いているぞ、という苦情が。 時空管理局本局、そこにマンダの悲鳴が響きわたる。それを聞く局員達の反応はまちまちだ。 煩いぞ、可哀想、仕方ない、黙って死ね、俺が知るか、様々な意思がある。 そして、御免なさい、という意思も。 「―――――――」 高町なのはは震えていた。その両手は耳を塞ぎ、瞼はきつく閉じられている。 しかし消えない。海竜の肉を裂いた感覚が。 しかし消えない。海竜が悶えたあの情景が。 そして閉ざせない。今、自分達の手で捕らえた命が、その遺骸目当てに殺される悲鳴を。 『ギャヒィィィィィィィッ!!』 消えない。 『ヒィィィギィィィィィィィィィッ!!』 消えない。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 消えない。 「――消えない、よぉ……っ」 悲鳴が、罪が、自責が、何もかもが消えず、ただ積もっていく。高町なのはの心の中に。 ――生き延びる為に怪獣達を虐殺し、その遺骸を武器とする管理局。 ―――そこに正義も、大義も、倫理も、何もない。 ――――あるのは、浅ましいまでに生存を望む意思。……ただ、それだけ。 ――『魔法少女リリカルなのは FINAL WARS』、始まります。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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――ここは、ミッドチルダ郊外の、とある自然公園。その、広い広い草原の真っ只中。 ほんの少し前に、運命のいたずらから出会った、魔導師の親子と、奇妙な旅人の一行は、まだそこにいました。 陽は、少し傾き始めたみたいです。 しかし、彼らはまだ離れる気配がありません。 だって、 「ヴィヴィちゃ、ここだよー」 「えっ、何処どこ、ニジュク?」 「ヴィヴィちゃん、こっちだよー」 「えー、どこなの、サンジュぅ?」 子供達が、遊ぶことに夢中だから。 そんな子供達のことを、なのはとクロは、少し離れた所から半ば呆れつつ、でも優しく見守っています。 今、子供達は鬼ごっこの真っ最中。 と言っても、 「こんなに草の背が高いと、二人のこと見つけられないよー」 ヴィヴィオはとうとう、その場にへたり込んでしまいました。少し、ふてくされているみたいです。 確かに、生えている草の背は高いようですが、それでも、最も高いところでもヴィヴィオの膝から下くらいしかありません。 でも、 「ヴィヴィちゃ、あいとー」 「ヴィヴィちゃん、がんばー」 ヴィヴィオからそう離れていないところから、白い双子、――ニジュクとサンジュの声がします。 ただし、姿は見えませんが。 もしかしてあの双子は、透明になる力でもあるのでしょうか。――いえいえ。 「二人とも卑怯だよー。体ちっちゃくして、草の中に隠れるんだもぉん」 ヴィヴィオは口をとがらせて言いました。 そう、あの双子は体を小さく出来るのです。 何故か、着ている物も小さく出来るのですがね。 「えへへー」 「あそびでもしんけんにやれって、センゆってた」 「だから、しんけんに、つかまらないようにするの」 「だからって、卑怯なものは卑怯なのっ!」 ちょっと得意げな双子の声に、ムッとなって叫ぶヴィヴィオです。 「わーい、おにさんおこったー」 「にげろ、にげろー」 双子の声が、ヴィヴィオから離れ始めます。 ガサガサと、音を立てて離れます。 「こらー、ふたりとも逃げるなーっ!」 両腕を振り上げて、ヴィヴィオはまた、ニジュクとサンジュを追いかけ始めました。 そんな子供達の様子を、ベンチくらいの大きさの岩に腰掛けて見守っていた、大人二人。 「やれやれ……」 と、クロは嘆息し、 「三人とも……」 なのはは頬に手を当てて苦笑。 「何で、あそこまで元気に」 「本当、走り回れるんだろう」 ずっと、こんな調子の二人である。 「でも、ま、そうは言うけどよ」 二人の背後から声がした。 「あの三人がここで思いっきり走り回ってるのって、結構幸運で、幸福な事じゃねぇの? 聞けば、ヴィヴィオちゃんもかなりやばいことに巻き込まれてたって話だし、 うちの二匹だって、下手すりゃあの屋敷でミイラになってたかも知れないしな」 それは、まだてるてる坊主にされている、センの声だった。 クロとなのはが、子供達について、その子達を見守りながら話しているのを耳にしての言葉でもあった。 「ものは考えようっていうのかな、俺達は今、結構幸せな光景を、見られてんのかも知れないぜ?」 「……ふむ」 クロは、右手で帽子の鍔を軽くあげ、 「そうかも、知れませんね」 なのはは軽く頷いて、 「センにしては良い事を言うね」 「おいおい、いつものことだろ、クロ?」 「でも、本当にそう思いますよ、クロさん」 「……同感です、実は」 二人と一匹は子供達を、微笑みながら見つめていた。 そんな時です。 不意に、とても強く、風が吹きました。 森が、激しくざわめきます。 「わあっ」 「なになに」 「すごいかぜなの」 思わず、ポンッ、という音を立てて元に戻った、ニジュクとサンジュ。 そして、白いものが舞い上がりました。 それも、たくさん、たくさんです。 「すごい……」 「しろいもの、いっぱい……」 「おそらに、あがってくの……」 思わず、ヴィヴィオとニジュクとサンジュは、空を見上げました。 空に漂う綿毛は、空の蒼さと相まって、子供達にはとても真っ白く見えました――。 【一期一会(作詞・作曲 中島みゆき)】 『見たこともない空の色 見たこともない海の色』 「……タンポポ、かな?」 「えっ、タンポポ?」 「ヴィヴィちゃ?」 「二人とも、初めて見るの?」 「「うんっ」」 『見たこともない野を越えて 見たこともない人に会う』 「タンポポ、ですね」 クロが呟いた。 「クロさんの世界でも、タンポポってあるんですか」 「ええッ。と言うか、この世界でも、これってタンポポなんだ。ちょっとびっくりだな」 『急いで道をゆく人もあり 泣き泣き 道をゆく人も』 「ぽわぽわ、とんでいくね」 「どこまで、とんでくのかな?」 双子はぽーっと見惚れています。 「ねえ、ふたりとも」 「「なに、ヴィヴィちゃ?(ちゃん?)」」 「タンポポ、飛ばしてみようよ」 『忘れないよ遠く離れても 短い日々も 浅い縁(えにし)も』 「そうですね、考えてみればびっくりかも」 「世間は狭いと言うけれど、『世界』も案外狭いのかな」 「うーん、……そう考えると、この世界とクロさんの世界って、意外と隣り合わせとか?」 「ふふッ。お互い、気付いてなかっただけだったり?」 「にゃはは。でも、それならそれで、とても素敵なことかも知れないなぁ……」 『忘れないで私のことより あなたの笑顔を 忘れないで』 「クロちゃ、これ、これぇー」 「しろい、ぽわぽわ、みつけたのー」 「ママ、ねぇ、飛ばしっこしよ、タンポポの」 子供達が、手に手に、小さな小さな綿帽子を持って、ニコニコしながら二人に駆け寄ってきました。 『あなたの笑顔を 忘れないで』 【歌 匿名希望のW・Hさん(女性)】 さて、そろそろ。 旅話の続きを、お話しするといたしましょう――。 「(すうっ)……ふぅ~~」 ニジュクとサンジュの目の前で、ヴィヴィオは綿毛を飛ばすお手本を見せます。 「「うわぁ……」」 ヴィヴィオの吹きかけた息に乗って、タンポポの子供達は舞い上がりました。 風は、まだ少し強めに吹いているので、思った以上に高く、高く、舞い上がっていきます。 先程の光景よりはささやかなものでしたが、ニジュクとサンジュにはやっぱり不思議に満ちた光景です。 「ヴィヴィちゃ、すごぉい」 「しろいぽわぽわ、とんでいくの……」 「えへへ、そうかな♪」 はにかみ笑顔な、ヴィヴィオです。 「 でも、二人にも出来るよ」 「そかな?」 「うん」 「できるかな?」 「簡単だよ、ほら、やってみようよ」 ヴィヴィオは、二人を促します。 「……うんっ」 「わかったの」 覚悟を決めた双子の顔は、真剣そのものです。タンポポを持つ小さな手に、力がこもってます。 「あの、二人とも、そんなに力まなくても、……あはは」 なのははそんな二人の様子に、微笑ましく思いながらも、苦笑いを浮かべ、 「ええっと、リラックスだよ、ニジュク、サンジュ?」 ヴィヴィオはあたふたと双子をなだめます。 「ふふっ、やれやれ」 そして、白い双子のいつもの様子に、黒い旅人はいつものように肩を軽くすくめた。 「じゃあいくよ、せぇの……」 「「「ふぅ~~~……」」」 三人の子供達は、一斉に綿帽子に息を吹きかけました。 「「うわぁ……」」 それに促され、また別のタンポポの子供達が舞い上がります。 その様子に、双子はやっぱり声を上げました。 でも、その大きく見開いた目の色は、今までとはちょっと違うかも。 「できた、できた♪」 「あたしたちにも、できたぁ♪」 「ほら、できたでしょ?」 「「うん♪♪」」 これぞまさしく満面の笑みという笑顔で、ニジュクとサンジュはヴィヴィオにこっくりと頷いたのでした。 でも、ふとニジュクは思いました。 「ねぇ、クロちゃ?」 「んッ、どうしたんだい、ニジュク?」 「どしてタポポって、しろいのかな?」 「えッ、ああ――」 「あっ、それあたしもおもった」 サンジュは、手を挙げて、ぴょんぴょんと跳びはねます。 「サンジュもかい? うーん、どうしてだろうねぇ」 少し困った顔で、クロは眼鏡をかけ直した。 そんなクロに、なのはが助け船を出す。 「じゃあ、色を付けてみようか、ニジュクちゃん、サンジュちゃん」 「「えっ?」」 ヴィヴィオはぽんと手を叩いて、 「そうだよ、二人とも、そういうこと出来るんだし」 「あっ」 「そだった」 そのことを思い出した双子は、傍らにあった綿毛を摘んで、思い思いの色を付けます。 ニジュクは、 「おはなのあおー」 サンジュは、 「はっぱのみどりー」 「捻りが無ぇー」 「「セン、うるさいっっ!!」」 双子の抗議に、今だてるてる坊主のセンは、韜晦して口笛を吹いた。 「いくよ、サンジュ」 「うん。せーの……」 「「ふぅ~~~~……」」 ――おや? 「とばないの……」 「どうしてかな……」 「もっかい、いくよ」 「うん、ニジュク」 「「せぇの、……ふぅ~~~~」」 ――うーん。 「やっぱり、とばない」 「なんでかな……」 双子の顔が、にわかに曇ります。 「「ねぇ、なのちゃ(ちゃん)、なんでかな?」」 二人は、なのはに尋ねました。 「な、なのちゃん……」 なのはの顔が、微かに引きつる。 「ママ、なのちゃん……」 ヴィヴィオは両手で口を押さえて、何かを堪えているみたいです。 「クックク、……おい、クロ、……取り敢えず後で、あの二匹に何か言っとけよ、……クククッ」 センは忍び笑いを漏らしつつ、傍の樹で手をついて笑いを堪えるクロに言った。 「――二人とも、そう言うことだから、この人のことは、 なのは『さん』と呼んであげなさい。それも礼儀というものだから。良いね」 ここしばらく、なのはのお世話になることを、クロは双子に、堪えきってから告げた。 「「あいっっ!!」」 二人は元気よく、手を挙げて答えました。 それから、なのはに、 「それでね、なのちゃ、……ちがった」 「だめだよニジュク。なのさんて、……あっ」 やっぱり、呼びにくいのでしょうか? 「にゃはは、――うん、わたしのことは、『なのさん』で良いよ、二人とも」 「いいの?」 「ほんとに?」 「本当だよ」 「ああ、すみません、なのはさん」 クロは申し訳なさそうに頭を下げた。 「良いんですよ、二人とも色々解ってくれてるみたいだし。で、飛ばないことを尋ねようとしたんだっけ、わたしに?」 「うん」 「なんでだろ」 「うーん、どうしてだろうね……」 なのはは言葉に詰まる。 いや、たぶん色を付けたことが原因の一つであろうことは、容易に想像はつく。 しかし、それだけでは何か今ひとつ説明がつかないような気がする。 色を付けても、綿毛は綿毛らしくあった。今もそうである。 (飛びづらくはなったんだろうけど、でも、あのふわふわした感じは残ってるし。……飛べ無いなんて、やっぱり無いよね) 正直、説明する言葉が見つからない。 (うーん、どう言えば良いんだろう……) 答えに、全く窮してしまった。 そんななのはの様子に、クロは何も言わずに頷いて、 「それは、きっと」 声をかけながら、二人に近づく。 「きっと、色を決められてしまったからじゃ、ないのかな」 「いろを?」 「きめられた?」 「どういうこと?」 ヴィヴィオも興味を持ったようで、身を乗り出してきました。 「うん。もっと正確に言うなら、『勝手に色を決められた』から、と言うべきかも知れない」 クロは、そう言うと足下にあった別の綿帽子をそっと摘んだ。 子供達は、ポカンとした顔で、クロを見つめています。 「ほら、彼らはみんな、このように綿のような真っ白い色をしているね」 「うん」 「そだね」 「それは、たぶん」 クロは、手にした綿帽子を、腫れ物に触るように、優しく撫でた。 「自分で、染まりたい色を見つけたいからじゃないかと、私は思うんだ」 その綿帽子を見つめる目は、限りなく穏やかで、優しい。 「だから、彼らは真っ白でいたいのさ、旅立つその時が来るまでは、ね」 子供達は、その言葉を聞いて、何かに気付きそうな顔です。 「たびを、するの、ぽわぽわ?」 「クロちゃんや、あたしたちや、センみたいに?」 「だから、風に乗って、飛んでいこうとするのさ」 「旅を、する……」 でも、どこかもどかしそうな顔もしているような気がします。 その時、なのはが、あっ、と小さく声を上げた。 「つまり、ニジュクちゃんとサンジュちゃんが色を付けちゃったことで、 二人の持つ綿帽子さんが、ええっと、その、拗ねちゃった、とか?」 クロは、「成る程」と微笑みながら頷いて、 「そう言うのも、あるかも知れませんね」 綿帽子を撫でながら、答えた。 「本当なら、色を決めるのは自分だから」 撫でながら、なのはを見つめた。 「私は、ニジュクとサンジュの綿帽子が、勝手に色を決められたことで悲しんでいるのじゃないか、 と思ったのですけどね」 そして、双子に目を落とす。 「旅に出る理由が無くなったから、ね」 その、クロの言葉に、ニジュクとサンジュはシュンとなりました。 「あたしたちのせい、なんだ」 「ごめんね、ぽわぽわ」 「そこまで気落ちすることもないさ。でも、そうなると、やることは解るよね」 「「うん」」 頷いて、二人はお互いの綿帽子に指を乗せます。 付けられた色が、その指にすうっと吸い込まれ、二人の指がそれぞれ青と緑に染まりました。 それから、二人はクロに綿帽子を預けて、渡されたタオルで手を拭きました。 そして、改めて渡されます。これで綿帽子も指も元通りの色です。 「よかったね、ぽわぽわ」 「ぽわぽわ、またまっしろだね」 風が吹きました。綿毛が飛び出せるほどのものではなく、軽く揺れる程度でしたが。 「何か、タンポポ、嬉しそうに見える……」 それを見て、ヴィヴィオが呟きました。 「気のせいかな?」 「違うよ、ヴィヴィオ」 「ママ?」 「きっと、本当に嬉しいんだよ、この子達は」 「……うん、そうだね、きっとそうだよ」 仲良し親子は、互いに微笑みながら、頷き合いました。 「じゃあ、そろそろ彼らも旅立たせようか」 「うん、そだね」 「たびさせようね」 「ヴィヴィオもやるよぉ」 「ではでは、わたしも……」 一匹を除いて、各々が手に手に綿帽子を持ちます。 「みんなー、準備オッケー?」 「うん、良いよ」 「「あいっっ!!」」 「いつでも、良いですよ」 ちょうどその時、風が吹きました。 遠くまで飛ばすには、良い風です。 「よーし、じゃあ行くよー。せーの……」 「「「「「ふぅ~~~~~……」」」」」 五人は、一斉に息を吹きかけました。 綿毛達が、一斉に飛び立ち、舞い上がって行きます。 「うわぁ……」 それを見て、サンジュが走り出しました。 「おーい、ぽわぽわぁー、げんきでねー」 手をふりふり、綿毛達を追いかけます。 「あっ!」 「あたしもっ!」 つられて、ヴィヴィオとニジュクも駆け出します。 「がんばれぇー、ぽわぽわぁー」 「自分の色、見つけるんだよぉー」 子供達は、手を振りながら、追いかけていきます。 「おーい、みんなー、あんまり遠くまで行っちゃだめだよぉー。もうすぐ帰るんだしぃー」 なのはは、苦笑しながら叫んだ。 「ははッ、やれやれ」 クロは、やはり苦笑しながら、頭を掻いていた。 「それにしても」 不意に、頭を掻く手を止める。 「ここのタンポポ、花の色は」 「えッ、ええ、種類にもよると思いますけど、大体が黄色じゃないか、と」 「ああ、やっぱりそうでしたか……」 ふう、と、クロはため息をついた。 「ほらを、吹いちまったな、クロ」 傍で枝にぶら下げられている、小生意気なてるてる坊主が言った。 「あの、ほら吹き男爵のことを……」 「そのことだけじゃないさセン、私がため息をついたのは」 「あン?」 「もし、仮に、綿毛達の旅が私の言ったような目的のものだったとして、 その行き着く先は、予め決められたものだと知ったら、どう思うのかな、って」 「……成る程。何か、お前らしいや」 「黄色な花しか咲かせられないと知って、彼らは――」 「大丈夫じゃないのかな、思うんですけど」 なのはが、子供達を見つめつつ、明るく言った。 「確かに、落胆したりするかも知れないけど」 そして、クロを見つめた。 「受け入れて、別の決意というか、夢を持ったりするんじゃないかな。えと、例えば――」 「例えば?」 「もっと、明るく、目立つような黄色で、咲いてやろう、とか」 「……ふふッ、そう言えば、ほとんどのタンポポって、とても明るい黄色で咲きますよね」 「だから、大丈夫」 クロに向かって、なのははにっこり笑って、大きく頷いた。 「みんな、そう言う強さを、持っているものだから」 そう言って、なのはは機動六課で過ごした日々を思い出していた。 (あの子達も、頑張ってるよね、今も) そして、クロをしっかりと見据えて言った。 「クロさんも、ですよ」 その言葉に、かぶっている帽子の鍔を持って、表情を隠すクロ。 ようやく見える口元は、微かにふるえているようだった。 やがて、その口元が弓状にしなり、 「なのはさんも、そうなんじゃないですか」 鍔を上げた顔は、にっこりと、優しく笑っていた。 「うーん、どうなんだろ?」 そう答えたなのはも、にっこりと笑っていた。 「ふふふ……」 「にゃはは……」 しばらく、笑いあっていた、二人。 「さて、お疲れでしょうから、そろそろわたし達の家にご案内しますね。でも、くつろげるかどうか、ちょっと解らないけど……」 「野宿よりは全くましですよ。泊めていただけるだけで、とても有難いことです」 「うわあ、何か、逆にありがとうございますって言わなきゃ、って気が……」 「いやいや、そんなことは……」 そして、また笑いあう。 「おーい、そろそろ帰るよー」 なのはが、綿毛達のことを手を振って見送っていた子供達に、叫んで声をかけた。 「はーいっ!」 「「いま、いくのーーっっ!!」」 子供達はなのはに向き直って、手を振って答えました。 「ふふっ、やれやれ」 そう呟いて、クロは樹に立てかけてあった棺桶を背負う。 陽は、傾きを増していたが、まだ、地平線に沈むまでには、至っていなかった――。 旅をする、と言うことは。 常に、希望と絶望が背中合わせのものであることを意識するものなのかも知れません。 しかしながら、それでも人は、旅する者は、それを続ける。 その先に何があるのかを知りたくて、続けるのでしょうか。 それとも、それを敢えて振り切ることが、続ける理由となっているのか。 もしかしたら、……それらに気付くために、旅を続けるのでしょうか。 『棺担ぎのクロ。リリカル旅話』 第二章・了 「あー、取り敢えずこの俺の拘束を解け。話は、それからだ」 あッ、忘れてた。 「ひどッ!」 戻る 目次へ 次へ