約 2,714,601 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/762.html
合わせ鏡のアクマ 10 そろそろ日没・・・という時間帯、俺は墓場の方に歩いていた。 「契約者、なんで急に墓場なんて行くのさ?」 「いや、ちょっと聞きたいことがあってな・・・それに都市伝説が発生していないか聞けるしさ」 「熱心ですわね、契約者様も。私が夜に見回りしているからそんなに頑張らなくても」 「いやいや、昼間に出る都市伝説だってあると思うぞ?」 ・・・っと、話してる間に墓場に着いたか。 携帯電話を取り出すと、すぐさまコールがかかる。 『あれ、今日はどうかしたんですか?」 「ああ、聞きたいことがあってな」 『それはいいんですけど、えっとその・・・ちょっとタイミングが悪か(ブツッ』 「・・・ん?おい、どうした」 『声』が突然途切れたかと思うと、携帯電話からノイズ混じりの・・・別の声が聞こえてきた。 『・・だか・・・ピー・・・ぁない・・・・・・・・ガー・・・それはちが・・・・・・・・・・・・だから違うって言ってるでしょ!!』 「うおっ!?」 突然音声がクリアになったかと思うと怒鳴られた。 ・・・ん、あれ?この声って・・・いやそんなまさか。 『あれ、××?』 「・・・やっぱ姫さんか」 『あれ、どうして?私今お父さんと電話してて・・・』 「こっちも同じようなもんだ、いきなり姫さんに怒鳴られたからかなりビックリしたけどな」 『あ、あれはお父さんが変なこと言うから・・・あ、そうだ丁度良かったわ』 「なんか用が?」 『明日、暇でしょ?10時に学校で待ってるから来てくれない?』 「なんでまた、学校に?」 『都市伝説絡みなんだけどね、本当は家に直接来てほしいんだけど・・・』 「ちょっと待て、家?」 『そうよ、だって今回の都市伝説は『のろ(ブツッ』 「・・・またか」 またもや沈黙した携帯電話の画面に、沈む夕日のきつい日差しが反射する。 『・・・・・・あーあー、聞こえてますか?』 * 「おい、今のはいったいなんなんだ?」 問うと、少しばつの悪そうな『声』が返ってきた。 『・・・えっと、今のはですね。『逢魔ヶ刻』です』 「『逢魔ヶ刻』?」 『強い夕日の日差しを浴びて、隣にいた人が本人かが分からなくなる・・・ というところから、その能力は『入れ替わり』が主になっています。ここまではいいですか?』 「・・・ああ」 『厄介なのは、アレがイタズラ好きだってことです・・・今みたいに電話の相手を入れ替えたりとか』 「じゃあ、お前のところには・・・」 『なんか変な男の人の声が聞こえましたけど、無視しました』 ・・・そのひとが姫さんのお父さんなんだろうな。 「それで今日の用件なんだが・・・都市伝説と契約することでの弊害は、どんなことが起こるんだ?」 『・・・起きたんですね?』 「ああ、傷の治りが異常なほど早かった」 『ということは、あなたに今起きているのは『肉体の変化』です。 都市伝説に触れすぎると、その影響を色濃く受けて肉体が常人より頑健になったり、病弱になったりします』 「・・・そして最後には死、あるいは『超人』という都市伝説にでもなるのか?」 『過去にも、似たような例はあります。それらは我々や『組織』によって、 または自分から消えたり・・・当然、都市伝説と化して他の都市伝説と戦ってもいます』 「『組織』ってなんだ?」 『・・・ああ、話してませんでしたか。彼らは主に契約者で占められた・・・大規模な対都市伝説集団です』 「お前達と同じようにか」 『我々・・・便宜上の名前として『怪奇同盟』と銘打っていますけど。我々と彼らはその目的が違います』 「目的?」 『彼らの活動が『都市伝説を広め、害を為す都市伝説を狩る』という積極的なものであるのに対して、 我々『怪奇同盟』の行動目的は『害を為す都市伝説を倒すまたは鎮め、都市伝説の流布を防ぐ』なんです』 「・・・じゃあなにか、悪い都市伝説を倒す以外は性質がまったく逆の勢力なのか?」 『そうなりますね・・・我々はただ、都市伝説なんて存在が忘れ去られて・・・ そして静かに消えてゆくことを望んでいるのです。そのためには、人に危害を加える都市伝説は見過ごせません』 『声』はしっかりとした口調で、話を終えた。 * 俺は黙っていられなかった。 「・・・なんで、消えたいんだ?存在がなくなることは怖くないのか?」 『我々は、結局はどんな形であれ人に恐怖を呼び起こす対象となります。 ・・・つらいんです、都市伝説のせいで人が傷つくのをこれ以上見ているのは』 「でも、消えるだなんて・・・他に方法はないのか?」 『いえ、確かに我々にとって都市伝説が消えることが確かに理想ですけど、 実際にはそれは無理な話なんです・・・当分は消えませんよ、人間がいる限り・・・ね』 「じゃあ」 『安心してください、我々だって楽しんでるんですよ。 まぁ、さっきのが極論だとしても都市伝説はもっと・・・目立たない存在になればとは思っていますよ』 『そうだ、西区に面白い喫茶店があるんですよ?契約者や『組織』御用達だとか』 「いや、西区にはあんまり行かないから・・・」 「え、行かないの!?」 「・・・なに残念そうな顔してるんだ、お前は」 「だって喫茶店なんて面白そうじゃないか!」 『そこではフリーの契約者同士で情報を交換したり、『組織』がそれを監視したりしてるそうですよ』 「・・・俺も顔が割れてるのかな、『組織』とやらに」 『確実に割れてますよ。彼らを侮ってはいけません・・・では』 通話が切れたことを確認して、アクマに向き直る。 「・・・そんなに行きたいのか?」 「行きたい」 「ザクロは?」 「契約者様が行くというなら行きますわ」 「・・・よし、アクマ。お前が1ヶ月の間アイス我慢したら考えてやる」 「そ・・・そんな・・・」 ガクッと崩れ落ちるアクマを見ながら、俺はさっきの通話について考えていた。 ・・・姫さんの家ねぇ。クラスの男子に話せば吊るし上げだろうな。 そんなことを考えつつ、俺は明日の予定に『姫さん宅訪問』と頭の中でメモをした。 前ページ次ページ連載 - 合わせ鏡のアクマ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3609.html
夕暮れの町並みを歩く、一人の青年 カイン・ディーフェンベーカー 「教会」所属の契約者である彼は、同じ「教会」所属の契約者であるニーナ・サプスフォードを探して、この学校町にやってきた だが… 「まいったな…」 未だに、ニーナを見つけられていなかった それらしい目撃情報はいくつか得られたのだが、肝心のニーナ本人は一行に見つからない テント暮らしをしているらしく、住処を点々としているようで…どうにも、すれ違っているようだ 「シスター・ヴァレンタインからも報告がないし…」 …ヴァレンタインが実際はシスターではなくオカマな事実はさておき 生真面目であるが故、そして、ニーナの事を本当に心配しているからこそ、カインは悩んでいた はやく、ニーナと合流し、彼女を支えてやりたいというのに… 己の力不足を痛感するカインを気遣うように、肩に乗っていた小鳥が擦り寄る 大丈夫だ、とでも言うように、小鳥に小さく笑いかけるカイン …日頃、目つきの悪さ(鋭さ)で色々と損をしている彼だが、こうやって微笑んでいる表情は優しい ……もっとも、同時に、いつ、消えうせてもおかしくない儚さも含んでいるのだが (…この街の北区に、教会があると聞いたな。明日はそこに顔を見せてみるか…) ニーナがそこに立ち寄っている可能性もある うまく、情報が手に入るといいのだが… カインが、そう考えながら歩いていると 「あ…カインさん?」 声を、かけられた 肩の小鳥が、驚いたように飛び立つ 「……悠司?」 「お久しぶりです」 ぺこり、頭を下げてきた少年…悠司に カインも、この国の作法に合わせるように、小さく会釈を返してみせた 「…そうですか。ニーナちゃん、まだ、見つかっていないんですね?」 「あぁ」 公園に立ち寄った二人 ベンチに腰掛け、話す 以前、この国の都市伝説に襲われていたところを助けられ、カインは悠司という少年を信用していた 助けられた、という事実以外にも…この少年から感じられる人柄を、カインは信用しているのだ 「僕の方も、これといった情報はなくて……すみません、力になる事ができなくて…」 「悠司が謝る事ではない。協力してもらっているだけでありがたいし、心強い」 謝罪してきた悠司に、そう告げるカイン 自分とヴァレンタインの二人だけで探さなければならないと思っていた状況、悠司が手助けしてくれるだけで、充分にありがたいのだ カインの言葉に、悠司は少し、ほっとしたような表情を浮かべた 「…あ、あの」 「何か?」 「あの、カインさんは、あれ以降、都市伝説に襲われたりしていませんか?」 どこか、心配そうな悠司の言葉に、カインは小さく、笑って見せる」 「今のところは、大丈夫だ」 「そうですか、良かった…」 この街は、本当に都市伝説が多いらしい だからこそ、悠司もこうやって、心配してくるのだろう 都市伝説と都市伝説は引かれ合う ゆえに、都市伝説契約者は、都市伝説と遭遇しやすい カインは都市伝説契約者だが、その能力は癒し、治癒 戦闘向きの能力ではないのだ だから、悠司も余計に心配してくるのだろう 「俺も、一応必要最低限、自分の身を護るくらいは出来る。そこまで気にかけずとも問題ない」 昔、「教会」に拾われるよりも前、姉と共に孤児院にいた頃、流れ着いた旅人から、格闘技を指南された事がある もっとも、「俺の流派は、お前には向いていないらしい」と言われて、一部しか習ってはいないが…それでも、充分に戦える 「でも、この街は本当に都市伝説が多いですから。突然変異の個体とか、時々、恐ろしい戦闘能力を保有している者もいるようですので……」 それに、と 悠司はカインを心配そうに見つめ続ける 「カインさん、日本の都市伝説には、詳しくないのでしょう?」 「……まぁ、確かに」 悠司の指摘通り カインは、日本の都市伝説には、詳しくない だからこそ、警戒せずにひきこさんに声をかけ、襲われてしまったのだ 心配し続ける悠司の様子に、カインはふむ、と考えて 「…ならば、悠司。俺に、この国の都市伝説を、教えてくれないか?」 「え…僕が、ですか?」 「あぁ。迷惑でなければ、だが」 せめて、ニーナの情報を手に入れられず落ち込んでいる悠司に、何か感謝の言葉をかけられる方法を探すように そう、尋ねたカイン もし、教えてもらえたならば、自分は自国の都市伝説や、天使など、「教会」に関わり深い都市伝説について伝えよう、と考えた …二人の様子を、じっと見下ろす小鳥 そのつぶらな瞳は、金色に輝き続けていた to be … ? 前ページ次ページ連載 - 我が願いに踊れ贄共
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3123.html
学園祭に向けて準備が進められているとある放課後、双子の姉妹である「犬神憑き」の契約者、天倉紗江と「怪人アンサー」の契約者、天倉紗奈は家路へと歩いていた。姉妹の後ろを、「犬神憑き」の内の一匹の黒い大型犬がついてきている。 「紗奈ちゃんのクラスの出し物、執事・メイド喫茶だっけ?」 「うん、そうだよ。今、荒神先生にも執事服を着せようってクラスの有志で追いかけてるんだけど…なかなか捕まってくれないんだよねー でも、獄門寺くんや小鳥遊くんも手伝ってくれてるんだもの…絶対に執事服を着せてみせる! 紗江ちゃんのクラスは?」 イベントや行事に対してやる気を見せる紗奈。 今回の場合、やる気に加えて普段白衣を着ている荒神先生の執事服を見たいという好奇心もあり、有志の一人として先生を追いかけていた。追いかけられている先生にとってはたまったものではないだろうが。 「(あ、荒神先生も大変なんだなぁ…) 私のクラスの出し物は『ワクワクトレジャーボックス』だよ。手錠で繋がれた男女1組がペアを組んで、校内に置かれた箱の中から手錠の鍵を探すの。箱には鍵以外にもいろいろ景品が入ってて、空けた人が貰えるんだよ。 執事・メイド喫茶かあ…紗奈ちゃんのメイド服見たいなぁ。見に行ってもいいかな?」 「へぇ…なんか楽しそうだね。休憩時間に顔出しにいくからね。 紗江ちゃんなら大歓迎だよ!来てくれるの楽しみにしてるね」 「君たち…注射をしても…いいかな?」 和やかな空気は、毒々しい色の薬品の入った注射器を持って、ボロボロの黒いコートを着た注射男の登場によって霧散した。 「お断りします!」 「よくないっ!」 即答する紗江と紗奈。注射器の中の液体が都市伝説にも効くのか分からないので、念のため犬神を下がらせておく。 「そんなこと言わずにさあ…注射をさせてくれよぉぉぉ!!」 目を血走らせて姉妹に襲い掛かる注射男の攻撃を左右に分かれて回避。 紗江が注射器を持っている方の手首に手刀を打ち込み、取り落とした注射器を遠くへ蹴飛ばす。 紗奈が注射男の手首を取り、外側に返すようにして注射男の体制を崩して地面に倒した。 犬神が倒れた注射男の喉に噛みつく…首の骨が折れたのか、ごきり、と音がしてそれきり注射男は動かなくなった。 「そちらのお二方、少しよろしいですか?」 注射男を倒した直後、背後から声をかけられた。 二人が振り向くと、いつの間に現れたのか、黒いサングラスを付けて黒いスーツを着た男性が立っていた。 「…どちら様ですか?」 「…何か?」 「失礼いたしました。私は、都市伝説から一般人を守る「組織」という機関に所属している黒服…A-No.666と申します。 先ほどの戦いを拝見させていただいた結果、ぜひとも組織に貴女方のお力を貸して頂きたいと思い、お声を掛けさせていただきました。 私達と共に、悪事を働く都市伝説から罪なき人々を守ってはいただけませんか?」 突然の出来事に、しばらく考えていた二人が口を開いた。 「…わかりました。私達の力で、悪い都市伝説から家族やクラスメートを守れるなら…」 「…わかった。せめて、身近な人達は守りたいから」 こうして、天倉姉妹は組織に加入することになる。 組織の闇も知らないまま… 続く…?
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3490.html
殺さなければ、殺される 自分が殺されなくとも、どこかで誰かが殺される それがわかりきっているならば、放置するなどできるはずもない もう、自分は後戻りなどできないのだから 護るべき者を護る為ならば この手で他者の命を奪う事に、躊躇などしない 「…あれ?翼の兄ちゃん?」 「ん?……あぁ、裂邪、ミナワ」 それは、世間一般の学校の夏休みが、終わりに近づいていた頃の事 「プールの時以来だな。元気だったか?」 「元気だったぜ。な、ミナワ」 「はい!宿題が、ちょっと大変そうですけど…」 「うっ!?…ミ、ミナワ、それは言わない約束だぜ?」 それは、日常の一幕 平和のカケラ 「あぁ、そうか。そろそろ夏休み終わりの時期か…」 「翼の兄ちゃんは?」 「へ?俺、大学通ってる訳でもねぇし、課題とかはねぇけど」 「え?」 「あれ?」 …されど 「…あれ、翼の兄ちゃん、歳は…」 「22」 「既に成人済みだった!?」 「ご、ご主人様、そこまで驚かれなくとも…」 「待て、俺、いくつに見られてたんだよ!?」 その、カケラは あっけなく、砕かれる --ぶぅん 「…ん?」 聞こえてきた小さな羽音に、翼は顔を上げた 裂邪達も、一歩遅れて、その音に気付いたようだ そして 「都市伝説の、気配?」 そう 聞こえてくる羽音は、明らかな都市伝説の気配を纏っていて ……直後 四方八方から現れた黒い蝿の群れが、三人を包み込んだ その小さな、しかし、鋭い牙が、三人の皮膚を破り、その肉を食い荒らそうとして… されど、その牙は三人には届かない ミナワが生み出したしゃぼん玉が、三人を包み護り 翼の「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力が発動し、視界に入り込む蝿を、片っ端から焼き殺していく 「っちょ、何だよいきなりこれはっ!?」 「スパニッシュフライ……じゃ、ねぇな。となると、蝿関係の都市伝説っつーと…」 裂邪とミナワを護るように、襲い掛かってくる蝿達を睨みつけ続ける翼 その黒い蝿達は、焼けこげた姿で飛び回っている訳でもない点から見て、学校街で自然繁殖しやがったスパニッシュフライ、と言う訳ではなさそうだ そもそも、あれは攻撃能力はないはずであるし と、なると、他の蝿絡みの都市伝説は… ……考えている、間に 蝿に混じって、別の生物が混ざりだし、襲い掛かってくる それは…黒い悪魔とも呼ばれる存在 1匹見かけたら30匹はいると思え、キッチンの天敵、ゴキブリだ 蝿達と同じように殺気を纏いながら、都市伝説の影響下にあると思われるそれらは激しく襲い掛かってくる 「……ッ黒いキューピー人形か!?」 「え!?あれって、人襲うタイプの都市伝説なの!?」 翼の言葉に、やや意外そうに口を開く裂邪 確かに、語られている内容には、黒いキューピー人形が人を襲う、と言う話は含まれて居ない だが…いくつものバリエーションが存在する、その話 中には、意図的に置き去りにされた赤ん坊が死亡して…というパターンもない訳ではない そのパターンから生まれた「黒いキューピー人形」であった場合は、恨みから人を襲う存在になっている可能性もある 「ご、ご主人様!契約者の気配もします!」 「!」 「あ、なるほど、契約者持ちか」 ミナワの言葉に、納得した様子の裂邪 契約者が存在する都市伝説ならば…人に攻撃してくる可能性はある そうなると、問題は、何故、自分達が攻撃されているのか? そこに焦点が当たる事となる 「契約者の気配は、一人か?」 「え?あ、はい」 「あぁ。俺と翼のにーちゃん以外、この辺りからは他には一人しか気配を感じねーけど」 そうか、頷く翼 …翼の様子が、変わったように そう、裂邪は感じた 鋭い殺気、警戒感 それが、にじみ出ている …それに…何だか、少し…暑いような… ……翼を、中心として 温度が、あがっているような、錯覚 「そいつ、どこにいる?」 「あ……あっち」 「……わかった」 飛び掛ってくる蝿を、ゴキブリを、睨みつけ続けている翼 …ミナワのバリアから、一歩、踏み出る 「ぁ、危な…」 「…すぐ、終わらせてくるから。そこ、あんまし動くなよ?」 裂邪とミナワに、振り返りもせず、そう告げて 翼は、ミナワの張ったシャボン玉のバリアから飛び出した すかさず飛び掛ってくる黒い群れは、翼の視線で焼かれいって 視線が届かぬ、死角から飛び掛っていった群れも、また……翼に近づいた瞬間、高温に達しているその体温が周囲の温度すらあげていて、それによって焼き殺されていく 裂邪とミナワの視界は、黒い群れによって、あっという間に塗りつぶされてしまって…翼の後姿は、すぐに見えなくなってしまった 真っ白なお包みを抱いた女が、くすくすと笑っている お包みの中にいるのは、赤ん坊…の、形をしたもの 黒い、真っ黒に見える…赤ん坊に、蝿とゴキブリが群がっているかのような、酷くグロテスクな物体 そんな「黒いキューピー人形」の契約者である女は、その能力でもって、自らが抱く「黒いキューピー人形」から無限に湧き出す蝿とゴキブリを操っていた 「さぁ、そろそろ死んだかしら?惨めに無残に残酷に、みっともなく死んだかしら?」 くすくすころころ 黒いキューピー人形を、赤ん坊をあやすようにしながら、女は笑う 攻撃を仕掛けた青年や少年、少女に対し、女は恨みも何ももっちゃいない ただ、見かけたから 殺したいから、殺す ただ、それだけだった この黒いキューピー人形と契約して 女は、自在に人を殺せるようになった それが、楽しくて楽しくて、面白くて仕方なくて 特に、子供を殺すのが、楽しくって仕方ない 怖がる悲鳴を聞いていると、ゾクゾクして、恍惚感すら感じるのだ 「…あら?」 そう言えば 少年少女を襲ったのに 悲鳴が、聞こえなかったような…? 「……てめぇか!!」 聞こえてきた、怒号 え?と振り返ると…そこには、日焼けした肌に金髪、じゃらじゃらとシルバーアクセサリーを身に付けた青年の姿があった 女が、黒いキューピー人形で攻撃を仕掛けたはずの、相手 それが、無傷でそこに立っていた 「あらら?変ね、おかしいわ?どうして無傷なのかしら?惨めに無残に残酷に、見るに絶えない姿で転がっているはずなのに?」 首をかしげながら、女は蝿とゴキブリの群れを、青年にけしかける しかし、それは青年に届かず、全て焼け焦げて死んでいった じゃらり、青年が身に付けているシルバーアクセサリーが音を立てる 腰から下げていたチェーンベルト……そのうちの一本を、青年は何時の間にか、手にとっていて じゃらんっ!!と それが、女の手首に、巻きついてきた じゅぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう 「っぎゃ!?」 悲鳴をあげる女 ぼとん!と黒いキューピー人形を落としてしまった 熱い 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!???? 巻きついてきたチェーンベルトは、激しい高温を伴っていた 溶け落ちないのが不思議なほどの、高温 それが女にの手首に巻きついて、火傷を負わせてくる 「…どっちが、狙いだ?」 「……?」 「俺と、裂邪達…………どっちを狙ってきたんだ?」 火傷の痛みに悶え苦しむ女を、鋭く睨みつけてくる青年 …くすりと女は笑う 「両方、でも、あえて言うなら、子供の方。だって、子供の方が殺す時、怖がってくれて楽しいんですもの」 「………ってめぇ、そんな理由で……!」 「何か悪いの?」 怒りを隠そうともしない青年に、女は笑って見せた そうだ 何が悪いと言うのか? 「子供なんて、世界各地、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日た~~~っくさん死んでるでしょ?一杯一杯殺されてるでしょ?私がちょっとくらい殺したっていいじゃない。性的暴行してないだけいいじゃない??」 自分は悪くないではないか あのネット上で騒がれた、ハーメルンの笛吹きよりはまだ殺してない いいじゃないか、これくらい このストレス社会に、自分は押しつぶされそうなのだ それを発散するために、弱い者をいたぶって何が悪い? こんな状況に陥っていても、女は反省する様子などなかった まだまだ、子供を殺し続けるつもりで一杯だった 今、ちょっと酷い火傷を負ってしまったけれど、大丈夫 黒いキューピー人形を落としてしまったけれど、大丈夫 まだまだ蝿もゴキブリも操れている な~~~んにも、問題ない 火傷をして痛かったから、今日はその鬱憤晴らしに、後でもうちょっと殺そうかな それくらいしか、考えていなかった だから、気付かない 自分が、日焼けしだした事を だから、気付かない もう、手遅れだということを 「っぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!??」 聞こえてきた、断末魔のような絶叫に、裂邪とミナワは顔をあげた 襲い掛かってきていた蝿とゴキブリ達が…わっ、と四方八方に飛び散りだす 統率が、取れなくなったのだ 都市伝説能力影響下から、解放されたように 顔を見合わせ、裂邪とミナワは、契約者の気配を感じていた方向に 翼が駆け出していった方向に、駆け出す 角を曲がった先の、路地裏 そこに 「……翼の、兄ちゃん?」 後姿の翼と 黒い、黒い……人の形をした、炭のような、物体と 真っ白なお包みに包まれた………黒い、キューピー人形の姿があった 「ぁ………ぁ……」 辛うじて、命を保っている、炭と化していく黒いキューピー人形の契約者 しかし、それは静かに力尽き……ただの、炭となった 契約者を失った、黒いキューピー人形が 契約者の死に引きずられて……光の粒子と化していく 「…………」 蝿とゴキブリに群がれた姿 …その、口元が かすかに露出し、言葉を形作る ア リ ガ ト 契約者の狂気に引きずられ、意志に反して殺人の手伝いをさせられていた、黒いキューピー人形は その苦行から解放されて………満足して、消えていく 「…翼の、兄ちゃん…?」 恐る恐る、翼に声をかける、裂邪 ゆっくりと、翼が振り返ってくる 「あ…お前ら、大丈夫か?怪我、してないか?」 裂邪達の姿を確認し、心配そうにそう言ってくる翼 その様子は、プールでの騒動の時、裂邪達を心配してきた、その時の様子と何ら変わりはない つい、先ほど 人一人殺した事実など、まったく、感じさせない 「…こ……殺したん、ですか…?」 怯えた様子のミナワ そんなミナワの様子に、翼は少し、ばつの悪そうな表情を浮かべた 「………あぁ」 だが はっきりと、その事実を認める その事実から、逃げる事はしない 「女子供をいたぶるような奴、「首塚」として見逃す訳にはいかないからな」 「……に、兄ちゃんは…そうやって……契約者も、殺してきたのか?」 「まぁな」 人間も 都市伝説も ……かなり、殺してきた 「…都市伝説と契約した以上、人の道はずれちまった契約者とも、戦わざるをえない状況に陥る事は、ありえるからな」 「…………」 …考え込んでいる様子の、裂邪 ミナワが、心配そうに裂邪を見つめている 「…けどよ」 「……?」 「お前は、まだ、殺した事ないんなら…なるべく、殺さないようやっていけばいいさ」 苦笑して見せる翼 場合によっては、躊躇なく手を下すべきだ それは、わかりきっている けれど 「もし、お前が、殺すしか道がないような、どうしようもない悪党と遭遇しちまったら、俺が代わりに殺してやるから」 「け、けど」 「お前は、まだ殺してないんだったら。後戻りはいくらでもできるからな」 「…けど、兄ちゃんは」 「………俺は、とっくに後戻りなんざ、できないからな」 「日焼けマシンで人間ステーキ」と契約して、すぐの頃 小学校低学年だった頃に……自分は、半ば能力を暴発させるようにして、人間を殺している だから 自分はとっくに、後戻りなどできないのだ …しかし 目の前の少年達が、まだ、人の命を奪ったことがないと言うのなら …その手を、血で汚させたくはないのだと そう、考えずにはいられないのだ fin 前ページ次ページ連載 - 首塚
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2034.html
中央高校での決戦翌日 北区 教会内 「…本当、南米のエルさんが、そちらに迷惑をかけているようで…」 「いや、こちらこそ。そもそも、先にちょっかいを出したのはこちらの南米支部なのだしな」 くー 額に真っ赤な宝石をつけた小動物が、鳴き声をあげる 「薔薇十字団」日本支部代表と、「第三帝国」日本支部代表 本来なら、対立しあっているはずの二人が、同じ空間にいて そして、互いに、互いの身内の事で謝罪しあっていた 「エルさんは、これ以上手を出さなければ多分、これ以上は怒ってこない…と、思います、多分」 「そう願いたいところだ」 互いに、それぞれの所属組織の中では穏健派同士 わりと、苦労がわかりあっているようである ……と 二人がいた部屋の扉が開いて 「すまない、遅くなった」 姿を現したのは……素顔を露にした、マッドガッサー あの決戦の日、盛大に素顔を笑われて……まぁ、ある意味吹っ切れたようである 未だに、その顔がコンプレックスである事に変わりはないのだが 「構わんよ。こちらとしては、直接交渉にでてくれただけ、ありがたい」 「それは、こちらも同感だよ…「薔薇十字団」も、マリ・ヴェリテには嫌われているみたいだから」 「あぁ、正直、マリの説得が一番手間取った」 ぼす、とソファーに腰掛けるマッドガッサー カーバンクルの契約者と総統に、真正面から向かい合う 「…俺達は、今後、あんた達みたいな都市伝説組織として、活動していこうと思う。まぁ、活動っつっても、自分達の身を護るので精一杯だけどな」 「あなた達を、1組織として認めて欲しい…僕らを呼んだのは、そう言う事だね?」 カーバンクル契約者の言葉に、マッドガッサーはあぁ、と頷いた 「「組織」相手は交渉はほぼ無理だったが、幸い「首塚」とは交渉ができそうでな。三つくらいの組織に認めてもらえれば、どうにかなるだろう」 「なるほど、確かにその通りだろう」 マッドガッサーを見つめ返す総統 静かに、彼に告げる 「「第三帝国」は、君達を1組織として認めよう。「アメリカ政府の陰謀論」等に対抗する為に力が必要ならば、同盟を組んでもいい」 「「薔薇十字団」も、同じ考えだよ。あなた達がもう悪事を犯さないのなら、敵対する理由はないからね」 「…信じていいんだな?」 おや、と総統とカーバンクル契約者は、小さく苦笑した ……疑り深いのは、そのままか? いや、今までの彼らの経歴を考えれば、無理もないが… ……二人の、そんな様子に マッドガッサーは、笑ってきた 「冗談だ。認めてもらえるなら、ありがたい。同盟云々は今のところ考えてないが…いざと言う時は、頼もうか」 ……交渉、成立 マッドガッサー達は、この瞬間より、一つの都市伝説組織として、認められたのだ 後は、「首塚」相手の交渉がうまく行くのを待つばかりである 「ところで、こちらの部下のあの状態についてなのだが…」 「あー、あの何やったのか、中途半端に治った状態のだろ?「薔薇十字団」製の解毒剤も効かなかった奴。あれ、ジャッカロープを向かわせたから、多分それで治ると思うぞ」 それでも治らなかったら、諦めてくれ 肩をすくめて、相当の言葉にそう答えたマッドガッサー …いや、本当、どうしてふたなりになっていたのだろう 不思議で仕方ない 穏かに進んでくれた交渉 …仲間達を護る手段が増えた事に、マッドガッサーはほっとしたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3116.html
真紅の星、漆黒の影の別視点 とあるスーパーマーケット――― (ミナワ ・・・ほ、ほんとに買って下さるんですか? (裂邪 もちろんだよ。 嫌いだったか? (ミナワ とっとんでもないです!憧れてましたけど・・・やっぱり恥ずかしい/// (裂邪 お前なぁ・・・女の子なんだから一生に一度はスカートくらい履いてみるもんだぜ? (ミナワ わかってますよ、わかってますけど・・・無防備じゃないですk (裂邪 ヒッハッハ、なんだ不安な点ってそこかよwお前可愛すぎるなチクショウw (ミナワ わ、笑わないで下さいよぉ/// (裂邪 ウヒヒヒ、悪ぃ悪ぃw ・・・ファッションコーナーにて、いつものもげろカップルの姿があった。 どうやらミナワの為にスカートを買いに来たらしく、 2人は水色赤色レモン色、ロングスカートにミニスカート・・・何枚ものスカートを持っていた。 (裂邪 どれが似合うかな~? 俺としてはミニがいいんだけど (ミナワ ここここんなに短いのははは履いて歩けません!/// (裂邪 恐ーれるなー! 誇りをー捨てるなー! I get the Power of Love!!! (ミナワ 何でしたっけそれ? (裂邪 ジャムプロの「GONG!」だよ (ミナワ お好きなんですねJAM Project (裂邪 名歌「シャボン玉」には勝てないけどな (ミナワ もぉ~/// うんもげろ そして彼らは試着室の前で足を止めた。 (ミナワ じ、じゃあ・・・し、試着してきます (裂邪 試着まで緊張しなくてもいいだろw 履いたら呼んでくれよ? 待ってるからさ (ミナワ は、はいご主人様♪ シャッ、とカーテンを閉め・・・ようとした手がぴたりと止まる。 (裂邪 ・・・どうした? (ミナワ ・・・・・・・・・・・・・覗いちゃダメですよ? (裂邪 早く履け!/// (ミナワ ごめんなさい!/// カーテンは完全に閉められた。 (裂邪 全く、日を増すごとに可愛くなるな大好きミナワ (シェイド 貴様・・・少シハ自重シロ! (裂邪 自重って何ですかー食べられるんですかーおいしいですねー (シェイド 後デ影ノ中ニ葬ッテヤルカラ覚悟シテオケ (裂邪 やるかジジイ! 言っておくが俺の攻撃力は、 生存扱いになっている100歳以上の老人の数×1000ポイントだぜ!? (シェイド 私ハ1ターンニ1度ダケ、私ヨリ攻撃力ノ高イモンスターヲゲームカラ除外デキルノダガ? (裂邪 か・・・勝てない・・・orz (シェイド 私ノ言ウ事ヲ聞クカ? (裂邪 へぃへぃ、とりあえずお前の説教は帰ってからたっぷり――――――ッ!? ぞくり、何かを感じ取る2人。 (シェイド ・・・都市伝説ダガ・・・スグニ消エタ (裂邪 ミナワ!!?? 勢いよくカーテンを開ける裂邪。 そこにあったのは、鏡に映る自分と、数枚のスカートだけだった (裂邪 ミ・・・・・ナワ・・・・・? (シェイド 試着室・・・マズイゾ裂邪、コノ都市伝説は・・・ 「試着室の落とし穴」―――そんな話をご存知だろうか 「試着室の向こうには隠し扉があり、拉致されて人身売買の組織に売り渡される」・・・ 「試着室」が殆ど密室であるという「落とし穴」を突いた都市伝説。 主に海外で行われると噂される都市伝説だが、ここは学校町、様々な都市伝説が集まる町 舞台が日本だろうが海外だろうが関係ない 裂邪は怒りに任せてバンッ!と鏡を叩く。 (裂邪 ・・・扉なんて・・・ねぇじゃねぇか!? (シェイド 恐ラク我々ト同ジ異空間系ノ都市伝説・・・瞬時ニ気配ガ消エタノモソノ所為カ・・・ (裂邪 だったら『シャドーダイブ』だ! 影の中から追えるだろ!? (シェイド 無理ダ・・・我々ノ形成スル異空間ト同ジトハ限ラナイ (裂邪 リムとウィルを呼べ! 今すぐこの学校町全部を隈なく探させろ!! (シェイド 落チ着ケ! 怒リハ自分ヲ見失ワセルゾ!? (裂邪 こんな時に落ち着けるかぁ!? ミナワが連れて行かれたんだぞ!? 俺の家族が! かけがえの無い家族が! 今、ここでッ・・・・・・ どさ、と力無く崩れ落ちる (裂邪 助けられなかった・・・こんなに近くにいたのに・・・救えなかった・・・ 俺の事を愛してくれてた人を、守れなかったんだ・・・! 何が「ご主人」だよ・・・何が「世界征服」だよ・・・ たった1人守れないで俺は・・・・俺は・・・・! 床に己の拳を叩きつける。 行き場の無い怒りを込めた、弱々しい拳 ――――――――かつん 背後から靴の音。 涙を拭い、振り返る。 (裂邪 あ・・・ 場面は変わって、古びた倉庫のような場所。 全く人気がなく、隔離されているように閑散としている・・・ そう、ここは異空間。 「試着室の落とし穴」の能力で形成された現世とは別の世界である。 そこに、手を後ろで縛られた青い髪の少女が、二十代くらいの若い男に連れられて入ってきた。 (ミナワ は、離してください! (若人 静かにしろ! クッソ、まさか都市伝説だとは・・・眠り薬がすぐに解けちまった。 おい! 連れてきたぞ!! 男が叫ぶと、倉庫の奥からアジア系の、初老の男性が現れる。 その右手には、薄っすらと血のついた刃の長いのこぎりが握られていた。 そして何より・・・ (ミナワ ッ!都市伝説・・・! (初老 ほぅ・・・なかなかいい娘じゃないか アジア系の初老男性はミナワに歩み寄り、顎をくっと掴む。 (ミナワ ・・・・ッ! (初老 いい目つきだ、これなら高く売れそうだ。早速・・・ 初老男性はのこぎりの刃を、ミナワの目の前に持ってくる (初老 してやろうかぁ、「ダルマ女」に・・・くっくっく (ミナワ ダルマ・・・女・・・? (若人 早い話が、手足をたたっ斬るんだよ! 都市伝説は簡単にゃ死なねぇからな、テメェは一生、見世物として余生を過ごすんだ! (ミナワ そんな・・・! でも大丈夫です、ご主人様がきっと来てくださいますから・・・! (初老 「ご主人」? 契約者の事か? (若人 ハッハー!無駄無駄ァ! ここは「試着室の落とし穴」の能力で作った異空間! 誰も俺達を見つけられねぇし、邪魔もできねぇ! (ミナワ ご主人様にできないことなんてありません! ご主人様は・・・私のご主人様は・・・世界征服を目指してるんですから!! はっきりと、彼女は言い放つ 男達は笑うでもなく、肩をすくめて呆れている (初老 まぁ、仕事は早く済ませた方がいいのには違いない (若人 んじゃ、そういうことで 若い男性も、腰にぶら下げていたナイフを手に取る けたけた、けたけたと、楽しそうに邪悪に笑う男達 ミナワの目には涙が溜まっているが、彼女はそれを流そうとはしなかった 助けが来る事を、信じていたから (ミナワ (ご主人様・・・・・・・!) (初老 さぁ、覚悟はできたk―――― (少年 何の覚悟だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?? ガシャァン!! 倉庫の窓ガラスが破られ、黒衣の少年と、黒いスーツの赤い髪の少女が現れる。 (若人 なっ!? 誰だテメェ等!? 何故ここにいる!? (ミナワ ご主人様!! (裂邪 よくも俺の大切な家族に手ぇ出してくれたな・・・・・・この罪は重いぞ? (赤毛 間に合ってよかったですわ・・・貴方達を、「組織」の名において拘束します (初老 くっ、「組織」まで動き出すとは・・・! (裂邪 え? お嬢さん「組織」だったの? (赤毛 あら、申し遅れましたわ~ 「組織」のR-No.0、ローゼ・ラインハルトですわ (裂邪 ローゼちゃんか、俺は黄昏裂邪・・・ってそんなこと言ってる場合じゃない! ジジイ!俺のミナワを返せ!! (初老 小僧が・・・返せと言われて返す馬鹿がいるものか、という言葉を聞いた事があるか? 初老男性は、ミナワの首筋にのこぎりを押し当てる つぅ・・・と、彼女の首に血が流れる (裂邪 ッ・・・貴様ァ!! (ローゼ はぁっ! ・・・刹那、ローゼの姿が消えた・・・と思うと、ミナワの姿も消える そして男達の遥か後ろに、ミナワを抱えたローゼの姿があった。 (若人 は、早い!? (裂邪 ヒュー・・・流石だなローゼちゃん・・・ さて、人質はいなくなった。 もう思いっきりやっても良いよなぁ? 彼が言い終わると同時に、彼の影から無数の黒い手が伸び、彼の体を掴む。 (初老 何をする気だ・・・? (裂邪 シャドーズ・・・・・アスガルドォ! 黒い手が、彼の体を一気に包み込む。 シェイドの群体の一部が、裂邪と半融合状態となる能力・・・『シャドーズ・アスガルド』。 (若人 何だありゃ!? あんなのありか!? (裂邪 ゴチャゴチャうるせぇ!! 彼は瞬時に飛び掛り、若い男性に怒りを込めた蹴りを喰らわせる。 蹴り飛ばされた男は、遥か先の壁へと叩きつけられた。 (若人 グハ・・・ァ・・・ (裂邪 (・・・軽い・・・妙だな、以前よりも調子が良い・・・?) (シェイド [当然ダロウナ。当時私トミナワト理夢シカ契約シテイナカッタガ、 今ノオ前ハウィルトモ契約シテイル。ソノ為カ、10分程度ナラコノ姿ヲ保テルヨウニナッタゾ] (裂邪 [なるほど。良いニュースやら悪いニュースやら・・・] (シェイド [因ミニ前回ハ同調率72%ダッタガ、今回ハ97.4%マデ上昇シテイル] (裂邪 [わかりやすい表現ありがとう] (初老 目の前で契約者が痛めつけられて黙っているわけが無いだろう? 初老男性がのこぎりを振りかざし、裂邪の背後から襲い掛かる ―――――が、それは赤い光を放つ刃によって防がれた (初老 くっ、また邪魔をするか! (ローゼ 貴方の相手はワタクシです! 裂邪さん、契約者の方はお任せしますわ! (裂邪 ・・・ということだそうだ、仲良くしようや兄ちゃんよぉ! 裂邪は再び契約者の男に襲いかかる。 男は寸でのところで避けたが、数秒前まで彼が倒れていた場所は、既に原型が無かった (若人 ば・・・バケモンが・・・! (裂邪 どっちがだ? 人の家族誘拐する奴の方がバケモン染みてっだろぉ!! 黒く鋭い爪、爪、爪・・・ 男はナイフで応戦するが、所詮は人間・・・ 都市伝説に半分飲まれている状態である今の裂邪に敵う筈も無く、ナイフは高々と弾き飛ばされた そして、爪の色が、紅く染まる (裂邪 あっけねぇ・・・俺のはらわたを煮えくり返らせなきゃ、こうはならなかったのになぁ? (若人 ガ・・・・・・ァ・・・・・・・・オ゙エッ! 腕を大きく振るい、爪に突き刺さったそれを投げ飛ばす 偶然そこにあった木箱に男がぶつかり、木箱が大破する ・・・・・・・ごろん、と何かが転がってくる (裂邪 な・・・・・こ、これは・・・・ 凄惨な光景だった 両腕と両足のない全裸の女性・・・「ダルマ女」が、木箱の中から溢れ出す。 うぅ、うぅ、という呻き声が響く。 まだ、生きている・・・ (若人 ッハハハハ・・・ゲフッ・・・・ガキには刺激が強すぎたかぁ? ・・・そうさ、全部俺達でやったんだ・・・こんだけ集めんのは苦労したぜ・・・? 血を吐きながらも、にたりと笑う男。 (若人 ・・・なんてなぁ、試着室に入ってきた女を掻っ攫うだけだから簡単簡単 あとは手足斬って完成yウゲェッ・・・ゲホッ、ゴホッ ・・・あ゙ぁ、楽しかったぜぇ? 泣きながら「助けて」って懇願してくんのよ! ダルマ女の中には、まだ幼い少女の姿もあった (裂邪 ・・・・・・・・・・・・・か? (若人 あ? (裂邪 貴様・・・・・それでも人間かぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 渦巻く裂邪の影から、さらに無数の・・・否、今までの「無数」とは桁外れの量の腕が、裂邪の黒い体にまとわりつく。 (シェイド [待テ裂邪! コレ以上ハ危険ダz] (裂邪 黙れぇ!! いい加減はらわたどころじゃ済まなくなった!! こうなったら見せてやる・・・・・【黄昏(ラグナロク)】をぉ!!!! どお!と彼の影から何百体ものシャドーマンが現れ、裂邪の体を包んでゆく。 幾重にも幾重にも影が重なり、それはこの倉庫に収まりきらぬほどの、文字通り「化け物」となった 影の黄昏(シャドーズ・ラグナロク) (若人 ァ・・・・・・・・・・ァァ・・・・・・・・・ (裂邪 【ヒハハハハハハハハハハ!!さぁどういう終わり(ラグナロク)を迎えたい? やっぱ貴様が今までやってきたように、ダルマ女にしてやろうかぁ? ・・・・あぁ、ダルマ男だな。ヒハハハハハハハ!!】 狂ったような笑い声が響く。 直後、彼の体中より触手のようなものが男の元へ伸びる。 先端が、男の肌や衣服をさっと掠める。 すぐに切り傷が創り出された。 (若人 ヒッ・・・・た・・・たすけ・・・ (裂邪 【ふざけんなぁ!!!】 触手の内の数本が、男の肩や脚を貫通する。 (若人 ッ!! (裂邪 【貴様みたいなカスを助けるだぁ?笑えんわ!! 今まで散々人の命を弄んできたんだろ?だったら俺にも楽しませろ! 次は何処がいい?首か?頭か?心臓か?安心しろ一気に殺しはしねぇからよぉ!】 (若人 イ・・・・・イヤ・・・・・・・ダ・・・・・・・シニタク・・・・・・・ 声にならないような声で訴えかける男。 彼の目には、既に生気がなかった (裂邪 【・・・・・あ~ぁ、つまんねぇなぁ・・・・ まぁいいや、シャッテン・シュライデェ!】 (ローゼ お止めなさい!! ぴたり 男を刺し殺そうとした幾本もの触手は、少女の一声で止まった どうやら初老の男性とは決着がついていたらしい (裂邪 【何故止める!? こいつは俺の家族に手を出したんだぞ!? それだけじゃない!この人達を見ろ! こんな事をする奴を殺さないでおけるのか!? こいつこそ殺すべきじゃないのか!!??】 (ローゼ 確かに、その男は許されざる行為を行なってきましたわ・・・ でもだからといって、殺していい理由にはなりません! (裂邪 【ッ!?】 (ローゼ 殺人は麻薬ですわ! 1度人を殺してしまえば、歯止めが利かなくなって人を変えてしまう・・・ ワタクシは、そんな人を見ているから・・・・ 貴方はそうなるべきではありません! なって欲しくありません! 貴方はまだ子供だから! それに、貴方には・・・大切な人が、いるのだから・・・ はっと、何かに気づいたように、彼は辺りを見渡す。 そして彼は、大切な人の姿を見つけ出した。 心配そうに、こちらを見つめている、守るべき存在が・・・ (裂邪 【ミ・・・ナ・・・ワ・・・・・・】 ゆっくりと、裂邪を包む黒い塊が、縮んでいく それらが全て裂邪の影の中に戻ると、彼はその場に倒れこんでしまった そして舞台は再びスーパーマーケットへ――――― (ミナワ あ、あの・・・助けてくださってありがとうございました! (裂邪 いやぁ、また世話になっちゃったなローゼちゃん (ローゼ いえいえ、こちらこそご協力感謝しますわ~ (裂邪 今度はもうちょっと別な機会でお会いしたいな・・・もっと平和な時間に (ローゼ ・・・ワタクシも、そんな時に出会える事を願っておりますわ では、ワタクシはこれで。ごきげんよう・・・ 少し頭を下げて、彼女は裂邪達と別れた (ミナワ ・・・優しい方ですね (裂邪 あぁ・・・ 軽く返事をし、俯く裂邪 (ミナワ ・・・ご主人、様? (裂邪 ごめんな・・・俺がついていながら、こんな目に合わせちまって・・・ やっぱり、ご主人に向いてないのかな・・・ (ミナワ ・・・・・・・ご主人様。 ん?と顔を上げた束の間、重なる唇と唇 (裂邪 ・・・・・・・・んにゃ!? ミ、ミナワ? (ミナワ もし本当にご主人様に向いてなかったら・・・私を助けになんて来てくれませんよ? 彼女はにっこりと、笑顔で励ました 込み上げる感情を抑えながら、少し俯き気味で、ミナワの手を引いてレジに急ぐ裂邪であった。 (裂邪 ・・・・・あ、試着まだしてないな (ミナワ あ、そういえば。 今からしてきますね (裂邪 待て、俺も試着室に入る (ミナワ へ!?/// (裂邪 もうお前を1人にはできん!! これからはずっっっっっっっっと俺と一緒にいてもらうぞ!! (ミナワ えぇぇぇぇぇぇ!?・・・・・・・・・・・・・・・はい♪ ...END 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影
https://w.atwiki.jp/legends/pages/412.html
首塚の首領である将門は、あまり首塚本体から動かない 契約者が存在しない都市伝説である彼は、テリトリーである首塚から長時間、離れる事はできないのだ だからと言って、彼は今のところ、契約者を得るつもりはない …都市伝説としてあまりに力が大きすぎる首塚と契約したところで、人間は一瞬で、彼という存在に取り込まれてしまうから そんな将門の元には、大抵、「首塚」組織に所属する者が、傍にいる 将門が退屈しないよう、相手をしてやっている事が多いのだ この日は、以前、○本木ヒルズの呪いで傷を負った少年が、将門の傍にいた あの時の傷は既に癒え、包帯はとれている 「………」 あむあむ 少年は、もぐもぐとお菓子を食べていた まだ幼い少年、将門相手に、うまく会話できる訳でもない 将門も無理に話し掛けはせず、少年の様子を気まぐれに眺めていた 「…………う」 もぐ と、少年の手が止まる 何か、素晴らしい物でも見つけたように、その表情が輝いた てちてちてち 少年は、将門に駆け寄る 「む?どうした?」 「うー、将門様にあげる!」 す、と少年が差し出してきたのは…先ほどまで少年が食べていたお菓子 とある動物をディフォルメしたイラストが描かれたその菓子 一つ一つ、表情などが違うそれ 少年が差し出した、それは 眉毛が描かれた物だった 少年の能力を思い出し、将門は笑ってみせる 「では、ありがたく受け取るとするか」 「うー!将門様にも、幸せがありますように!うーうー!」 無邪気に声をあげてくる少年の頭を、撫でてやりながら 将門はその菓子をぽい、と口に放り込み、しばし、その甘さを楽しんだのだった おしまひ 前ページ次ページ連載 - 首塚
https://w.atwiki.jp/legends/pages/303.html
エンジェルさん 05 誰も居ない隙に…… 秋祭りの会場である神社では、多くの人が準備のためにあわただしく走り回っていた。 かくいう俺も一応準備のためにやって来たのだが。 「すみません、場所を用意してもらっちゃって」 「いえ、これも仕事ですから」 祭りに参加するために、黒服さんに場所を用意してもらったのだ。 というかこの人はいつ休んでいるんだろう。 「ではこれで失礼します」 「あ、たまには休んだ方が良いですよ。他の人も心配してるみたいですから」 この黒服さんは他の契約者からも人気が高い。この人柄があってこそだろうが。 「……大丈夫ですよ、倒れるわけにはいきませんから」 「……そうですか」 まだ心配だが、これ以上引き留めても迷惑だろう。 そのあとすぐに黒服さんは雑踏の中に戻っていった。 「……パレードは2日目か……」 2日目が決戦になるだろう。おそらく俺は役に立てないが。 「おっさん、1つ聞かせろ」 「……なんだ?」 「夢の国から逃げるにはどこに行けば良いですか」 『墓地』 「……また物騒な」 「墓地に居る都市伝説、聞いたことある! ある! 怪奇同盟! 怪奇同盟!」 「怪奇同盟?」 初耳だ。組織のようなものだろうか。 「都市伝説たくさん居る! 居る!」 「……他に知ってることは?」 「ない! ない!」 「……ないのかよ!」 駄目だこいつ、早くなんとかしないと。 「まあ、そう出たってことは安全なんだろう。いざとなったら逃げ込めよ、青年」 「『いざ』となったらな」 なるべく逃げたくはないが、相手が相手だ。逃げる必要もある。 「さて、準備を続けるか」 なんにせよ、祭りの日は忙しくなりそうだ。 前ページ次ページ連載 - エンジェルさん
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2853.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ I 力の賢者/行為とコミュニケーション 気が付くと独り、廊下に倒れていた 広く、長い廊下だった 一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える 「……死ぬかと思った……扉をくぐるのが……転送のキーではないってことか……」 鼓動は速く、ビルから落下する恐怖感がまだ残ったままだ 体に異常がない事を確認、呼吸を整える 振り向くと、予想通り扉があった そして─── I 力の賢者 行為とコミュニケーション ───と刻まれている 「力の賢者?……確か1は……トートでは魔導師……」 ある予感が心を満たし、期待と不安が綯い交ぜになる 扉を押し開くと、隙間から光が漏れ出て…… その眩しい光の中へと身を滑り込ませると、視界が一気に開けた─── * まず見えたのは、至近の地面 舗装されていない、土がむき出しの地面 背中には、強い衝撃の残滓 濡れた地面を転がっていくのを感じながらも考える おそらく、何者かによって突き飛ばされたのだろう 手のひらや膝に擦り傷を生成しつつ体勢を必死に整える 何とか顔を上げると 降り注ぐ雨の中、男が背を向けて立っていた 「クソッ!……なんで……子供がッ!!」 男の声からは、怒りや苛立ちというよりは、焦りが感じられた 辺りを見回すと、ゴミ捨て場の様に 家電やプラスチックの製品が山と積まれている 廃棄物の処理場なのかもしれない 「あの……」 「ん……お前……大丈夫か?……その……突き飛ばして、悪い」 「一応は、大丈夫だけど……何で?」 ただでさえモゴモゴと聞き取り難い話し声を 雨音がより聞き取り辛くしているが、何とか聞き取る 「……それは……こっちが、聞きたい……」 「ボクは、いつの間にかここにいて……どういう状況なのか分からなくて」 「ひきこさん……分からねぇ……かな?」 「ひきこさん?!都市伝説の?!」 「知ってたか……そいつと……」 背を向けたままの男の脇から、ゆらりと横に移動する影が見えた 白いぼろぼろの服を着た、髪の長い……女性に見える 棒の様に細い手足、裂けた様に歪んだ目と口 普段、相手の見た目だけで恐怖を感じることはないが その目と視線がぶつかった時、胃の底から込み上げる様な言い知れぬ恐怖を感じた ひきこさんの顔に浮かぶ、残忍な笑み 見つけたとでも言う様に、悦びを表現するかの様に、嗤う 「今……バトル中……」 ひきこさんが狙うのは子供だ 今、間違いなく 標的は自分に移っている 「子供のいない……追い詰めた……が……」 突然現れた自分を、ひきこさんの手から この男が助けてくれたという事なのだろう 降り続ける雨の中、男は言葉を漏らす 「大地よ……その重き、手で……我が、敵を潰せ」 ひきこさんがベシャっと蛙の様に潰れ、呻きが聞こえた 「魔法?!……じゃあ、やっぱり」 だが、その魔法も僅かな時間を稼いだだけで、ひきこさんは立ち上がり 男には目もくれず、確実にこちらへと脚を運ぶ 「クソッ!……お前、逃げろ……」 振り向いた男の顔は、焦りを隠せないでいて…… 頬のこけた……あの、魔術師の顔 「どうして、ボクを助けて……」 まだ、ゲーム脳に支配される前の魔術師なのだろうか 自分の知っている魔術師と比べ、詠唱はたどたどしい おそらく、魔法使いになったばかりの頃 こちらの驚きに反応する余裕もなく、魔術師は風の魔法で牽制し 「もう止めを……刺すしかないのか……」 言いながらも、距離と時間を稼ぐ 良く見てみれば、彼の服は所々が裂け、ジーンズの右足は膝下から無くなっていた 右足を掴まれ、引き摺られたのだろう ひきこさんに掴まれれば、簡単には離してはくれないという ならば、掴まれた足を切断して離脱、そして再生の魔法を使用したということが想像できる 再生できるとしても、切断の痛みは変わらずある 肉体よりも先に、精神がガリガリと削られていくイメージが浮かんだ 「いくら……酷い扱いを受けて……来たからといって……」 魔術師の言葉には耳も貸さず、ひきこさんは標的を目前にして舌なめずりをする 引き摺るという快楽を想像し、ただそれだけを求める都市伝説 「他人を傷つける……理由には……ならない……だろうが……」 理解しあえない、狂った存在 いや、狂ってなどいない 彼女は都市伝説として正しいのだ そう行動すると語られている、純粋な都市伝説 くつくつと嗤う都市伝説に、体が恐怖で凍りつく 頭は冷静に思考し続けてくれるが、どうしても膝が立たない 「小さき炎の、精霊よ……この者に、宿りて……その心を燃やせ」 すうっと楽になるのを感じ、震えが止まる 魔法の力が、凍えた心に火をともす 「ありがとう……ボク、何も出来なくて……」 役にも立てず、ただの足手纏いでしかない自分 もっと強くいられると思っていたのに……刀がなければ何も出来ない子供だ 情けなくて、悔しかった 「怖いのは……俺も、一緒……気にすることは……ない……その為の魔法」 真面目で、口下手で、優しい一言を言うにも精一杯の勇気が必要な男 かつて、自分の知った彼の記憶は、都合よく歪曲されたものではなく、真実 そして、自分がここにいなければ、間違いなく彼が勝っていたはずの過去だ 「ボクは……逃げれば良いんだよね……全力で、ここから離れれば良いんだ」 「ん……それでいい……あいつは、俺が……必ず、ここで止めてやる」 魔術師の言葉に頷き、立ち上がる 風の魔法に切り刻まれながらも、ひきこさんはジリジリと距離を詰め始めていた 「魔術師さん、ありがとう」 「……行け」 「貴方は正しかった……正しかったとボクは思う」 「ん……そうか……俺は……正しい事を、しているんだよな」 「だから、自分を見失わないで……」 「大丈夫だ……俺は、正しいんだろ?」 「うん!」 ハッキリと言い残し、走り出す 振り向かず、ただひたすらに、廃棄物の山の中を駆け抜け 真夏の生温い雨の中を走り続けた 赤血球から酸素が失われていき、体中に乳酸が溜まる 何度もつまづき、転びながらも走る 瓦礫の山を乗り越え、転がり落ち 体中に痛みを覚える 限界まで、もがく様に体を動かし進む 遠くに見える市街を目指して、前へと 走っているとは言えない様な速度で歩を進め ついには倒れた * 荒い息を吐きながら、何とか仰向けになり体を起こし、瓦礫の山の裾野に座る ガラガラと崩れ落ちるゴミ 息を整えながら、辺りを見回す ひきこさんは追って来ていない ふ、と視線が止まる ゴミの中に懐かしい物があったからだ 白をベースとして、あずき色が配色されたプラスチックの製品 この色合いだけで、懐かしさが込み上げてくる 旧式のゲームハード ゴミの山の中からでも、知っている者であれば、不思議と目が惹き付けられるであろう物 疲れを忘れ、思わず手を伸ばして───ハッとする 「まさか……これが……」 さっきまで一緒にいた魔術師の顔が脳裏をよぎる 先程までは、支配されてはいなかった ならば、この帰りに接触する可能性が高い 見つめていると、触りたくなる様な魅力があった それには間違いなく、何かが宿っている 「……ゲーム脳」 あの悪夢へと続く禍根 「ごめん……」 気力を振り絞り、近くにあったブラウン管のテレビを抱え 勢いを付けて、投げ落とす プラスチックが砕け散り、雨の中にくぐもった音を響かせる 「怨んでくれて構わない」 テレビを抱え上げ、何度も叩き付ける 何度も、何度も、何度も…… 粉々になり、原型が何であったのか判らない程に叩き潰す どこかに埋めるだけでは不安が残ってしまう 破壊しなくてはいけない 「……ごめん、ボクの我侭のせいで……ごめん」 いずれ、人間や都市伝説たちに害をなす存在となるが 今はまだ、何もしていないのだ にもかかわらず、自分はこのゲーム脳を破壊している こんなやり方しか出来ない自分を責める 全ては自分の我侭なのだ 降り続ける雨の中 精神と肉体の疲労が極限まで高まり、意識を失った─── * 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4112.html
【上田明也の探偵倶楽部after.act28~旅行中~】 「いやー大変だったなあ。」 「そうですねー。」 「まさか月宮駅なんて都市伝説があるとは知らなかったよ。」 「お客様、お客様をお訪ねしている方が……」 「あらら、お医者様もういらしたのかしら。」 「サンジェルマンの奴妙に速くないか?」 俺と茜さんは長い電車の旅の末、目的地の数寄屋町にたどり着いていた。 ここに来るまでに“月宮駅”とかいう妙な駅に停まったのである。 そこでF-No.の黒服に出会ったので、 その時襲いかかってきた邪魔な都市伝説を蹴散らしつつ、 黒服から携帯電話を奪い取ってサンジェルマンに今まであったことについて話したところ 「今すぐ行くから旅館で待っててください」 と言われたのだ。 「今来ました!」 「なんだよ、555くんなら何もしてないぞ?」 「違います!桐咲くんです!」 「なに?もしかしてお前のおほもだ……」 「今回は違います!彼は研究対象で!私の研究所を勝手に脱走したんですよ!」 「そうなの?」 「はい。」 「じゃあちょっと待ってて。」 パソコンを取り出す。 画面に手を突っ込んで桐咲くんの脚を掴んで引きずり渡す。 「なぜ脚だけ……。」 「だってこいつ俺に襲いかかってきたんだもん。 また襲われたくないぜ。 あとはお前が引っ張り出せ。」 「はーい。さて筑紫さん、帰りますよー。」 返事がない。 「あれ?もう死んでるんじゃない?」 「良いですよ、死体残ってりゃ老衰以外の死因なら治せますから。」 「やだそれ怖い。」 サンジェルマンがなんとか彼を引きずり出す。 先ほどのショットガンで手足が少々あれなことになっているが…… まあサンジェルマンに任せれば大丈夫だろう。 「いやーわりと死んでるね。」 「死んでますね。」 「やーべっ、吉静ちゃんとの約束破っちゃうかも」 「とりあえず治してきますね。」 「――――まだ、死んでないみたいですよ。」 筑紫少年の身体が俺めがけて跳ね上がる。 茜さんがそれを片手で捕獲。 開いていた窓から彼を投げ捨てたかと思うと、 俺の眼で捉えられない速さで彼女自身も窓から外に出て筑紫少年を捕縛。 地面にめり込むまで殴り始めた。 「なあサンジェルマン」 「なんでしょう。」 「時々思うんだ。」 「はい。」 「子供産まれるのは良いとして親子喧嘩になったら勝てないと思うの。」 「…………良いじゃないですか、親より優秀な子を持てるのは幸福です。 それより夫婦喧嘩は?」 「女性に対していかに上手に負けるかが男の器量を教えてくれるんだぜ。」 筑紫少年が地面に30cm程めり込んだところで茜さんは帰ってきた。 ここが和風の旅館で、しかも離れで、この部屋は一階だったことに心から感謝したい。 「お二人とも油断しすぎです。」 「すまんすまん。」 「いやまさかあの状況でも闘争本能を失わないとは……。」 私って改造の天才ですね、と言いかけたところでサンジェルマンは俺と茜さんのダブルラリアットを喰らった。 「まあとりあえずそいつが一体何者なのかは聞かせてもらうぞ。」 「そうですよ、危険極まりないじゃないですか!」 「解りました解りました……、それでは事情をお話しします。」 サンジェルマンは丁度淹れ終えた緑茶を飲むと話を始めた。 「そもそも私は数千年前から生きています。 だから時間とか有り余るんですよ。 そこでふと思いついたのが人間の進化の限界を確かめる実験でした。 それで世界中の様々な民族の様々な人々の遺伝的な特質をさらに強化する実験をしてたんですよ。 大成功でしたね。 天然物まではいかなくても中々どうして良い契約の器が生まれました。」 「俺はレアだぜ。」 「その実験って組織の人には……」 「あー、一人知ってる同僚が居ますけど……多分言わないでしょう。 うるさ型の同僚が騒ぎだしますしー。今トラブルを起こしている暇無いしー。同意の上で行った非人道的な実験だしー。 文句言われる筋合いは今回みたいな場合を除いてありません。」 「ぶーぶー」 「豚ですか?」 「文句言ってみた。」 「で、この少年が……。」 サンジェルマンは桐咲を地面から引きずり上げると指を鳴らす。 するとあっという間に桐咲は居なくなってしまった。 「他人への戦闘意欲を向上させている家系の人間でして。」 「わー、今の競争社会にぴったり。」 「ええ、適応しています。 そういえば良いお酒持ってきたんですけど飲みます?」 「飲む飲む。」 「私は遠慮しますね。」 俺とサンジェルマンは縁側に座って酒を飲み始める。 それにしてもさっきから飲み物飲み過ぎじゃないだろうか? こいつは腹がタポタポにならないのか? 「ちなみにそういう家は全部植物の名字になってるんです。」 「なんでさ。」 「私が思い出しやすいように。」 「えー…………。」 「ちなみに彼の都市伝説は……なんだっけ。」 「え?」 「ど忘れしちゃいました。なんちゃらの枝って古代神話の武器だったんですけど……。」 「俺が攻撃された時はシャーペンだったぞ?」 「無茶苦茶沢山の説があるせいで形が自在に変化する武器なんです。」 「うわすっげー。」 「明也さん、家族風呂の予約どうするんですか? もうそろそろ行かないと駄目ですよ。」 「あれ?そうだったっけか。」 「じゃあこの話は一旦打ち切りと言うことで。」 「そういえばサンジェルマン、このあたりで面白い観光名所は無いか?」 「そうですね、水族館が新設されたらしいですよ?」 「興味深いね。行ってみるか。部屋出る時は鍵閉めといてくれよ。」 俺は浴衣に着替えてタオルの準備をする。 そして茜さんと一緒に風呂に向かった。 【上田明也の探偵倶楽部after.act28~旅行中~fin】