約 2,714,828 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3822.html
● 弘蔵が進んで行ったのだろう、斬り倒された都市伝説の屍を辿って行くと、程なく切断された扉が見つかった。扉の前には包丁の柄のようなものが落ちている。 「秋月弘蔵が以前持っていた北谷菜切だな」 Tさんは遠目から呟き、それを聞いた舞が神妙に言う。 「じゃあ、あそこがウィリアムの部屋ってことか?」 「おそらくは」 そう話をしている間に扉の前に辿り付いた。 裁断された扉は壁をそのまま切り裂いたのかと錯覚する程の大きさで、更にその奥、部屋の中はそれこそ人間が何百人でも入れそうな程巨大な空間だった。 部屋の中には様々な実験器具と思しきものが置かれ、更にそれを突き破るかのように地面から半透明の柱が幾本も天へと向かって突き抜けている。そんな空間の中、少女のものと思しき、狂気すら感じさせる悲鳴が木霊していた。 ……これは、モニカの声か? この声が誰のものか、例えひび割れていても認識は出来る。しかしTさんは一瞬、この意味を為していない悲鳴の正体をそれと認める事が出来なかった。あまりにもあの少女の印象からはかけ離れていたのだ。 同じように誰の悲鳴なのかを認識した由実や舞が声の狂気に中てられたように表情に緊張を表し、リカちゃんとケウが身じろぎした。 明るい照明に照らされた室内には、白衣の男と通路で見てきたような都市伝説の群れ、彼等と睨み合っている状態の弘蔵とユーグ。そして白衣の男に人質に取られている格好の、意識があるのか怪しい状態で途切れる事の無い悲鳴を天に向かって上げ続けているモニカの姿があった。 「モニカ!」 由実が呼びかけるがモニカは答えない。ただ長い蜂蜜色の髪を振り乱して絶叫を上げ続けているのみだ。 それらを観察して、Tさんは堅い声で呟いた。 「まずいな……」 「まずいって?」 ≪ケサランパサラン≫の力を駆使してモニカの状態を視ながらTさんは答えた。 「都市伝説の力が暴走している……」 モニカを苛んでいる力の正体を見抜こうとしたTさんの視界の中では、モニカを中心にして尋常ではない力が荒れ狂っているのが視えていた。 それらは天へと、柱を伝って上昇している。 ……この感じ、暴走している都市伝説の力の出どころはモニカ自身か……。 「無理に都市伝説と契約させてこの有様ということもあるまい。普通はこうなる前に都市伝説に飲みこまれて事態は沈静化する……おそらく、この状態こそがモニカが持つ価値、そして狙われる理由だ」 「んだよそりゃ? このままモニカをほっといたらまずいんだよな?」 「ああ、このままではどうなるのか分からない……下手をすれば周囲一帯にこの柱が出現する事になる」 そう舞に答えた所で、白衣の男がTさん達の方を向いた。 顔に神経を逆なでするような笑みを浮かべる。 「おや、君はT、だったね? それにその契約者のマイにチトセの飼っている白い獣、それにモニカ嬢の保護者じゃないか」 「ウィリアム……」 由実が低い声で言うのを聞いて、Tさんはあれがウィリアムかと了解する。 ……どうにも嫌悪感を植え付けられる男だ。 こちらを無遠慮に値踏みするような視線、その中にどこかしら狂気に似た色を感じる。そうTさんがウィリアムに感想を抱いていると、ウィリアムが問いかけてきた。 「隠し通路を見抜く力でも持っているのかね? 特にマイやユミ、君達だ。弘蔵と合流した君達があまりにも早くにワタシのいる部屋へと迫っていたせいでワタシも少し焦ってしまったよ?」 「私なの!」 リカちゃんが舞の頭の上で手を上げる。 あまりそういう事はばらさない方が良いのだが……。 内心で苦笑しながらTさんはさりげなく場所を移動して背に舞とリカちゃんを庇うように移動した。興味深そうにウィリアムは頷く。 「ほう、人形……チャッキーのようなものかな?」 「リカちゃんはそれほど趣味の悪い存在ではない」 ウィリアムが挙げたアメリカ製の殺人人形に対してTさんはそう言い返し、彼からも問いを投げかけた。 「この施設に唐突に起こっている柱の出現、この現象の大元はモニカか?」 ウィリアムはどこか嬉し気に答える。 「流石に分かるかね? そう、モニカの≪杞憂≫がこの現象の原因だ!」 「≪杞憂≫……?」 舞が訝しげに首を傾げた。 「杞憂ってーと……ほら、あれだ。国語の授業で出てくる、お空が落っこちてくるっていう噂が広がったけど、結局空は落ちてきませんでしたよーっていう、アレ?」 「故事の説明としてはそのような感じだね。もっともこの≪杞憂≫は杞国で噂されたその憂いを実際のものとして呼び起こすのだが」 ウィリアムはそう言って天へと絶叫を上げ続けるモニカを示す。 「モニカ嬢は都市伝説に飲まれる事のないよう調整された個体だ。その彼女に世界を崩壊させる都市伝説を契約させて暴走させる。その結果はどんなものなのか。楽しみにならないかね?」 都市伝説に飲まれないよう調整だと……? Tさんは都市伝説達の軍団と向き合っているユーグへと目線を向ける。騎兵を喚んでウィリアムがモニカを放す機会を窺っているユーグは小さく首肯した。 「本当だ。お嬢様はテンプル騎士団の血筋、我々のような≪テンプル騎士団≫の都市伝説に引きずられて都市伝説に飲まれづらい体質をお持ちだ。ウィリアムはそれをどうあっても飲まれない段階にまで調整した。 オルコット様の目的ではモニカお嬢様には二つの都市伝説を契約させる予定だった。その内のもう一つは調整が別に必要なため、先に一つ、≪杞憂≫を契約させておられたのだ」 「その契約の記憶も、契約されていた≪杞憂≫も、レニーとトリシアがモニカの奥深くへと封印してしまっていたけれどね」 ウィリアムは決してモニカの傍から離れようとしない。それがユーグと秋月に行動を躊躇わせる事を把握しているのだ。彼はその気になればすぐさまモニカの首を絞められる位置で語り続ける。 「≪杞憂≫の契約にしても半ばモルモットに対する投薬実験のようなものだったのだけれどね。この目的の為に調整を受け続けてきたモニカ嬢という器が、≪太平天国≫の天帝が後生大事に抱えていた、≪杞憂≫の都市伝説を封じた契約用の術式を封じた符。これによる契約をモニカ嬢が受け容れられなければ、モニカ嬢も数ある実験体と同じく廃棄される運びだったのだよ」 ひどいものだね? と楽しそうにウィリアムは言う。 「そう言えばその頃だったかな? リデル夫妻がワタシ達に叛意を見せるようになったのは」 「モニカの両親が?」 由実が反応した。 「元々あの二人は過激な実験には賛同しない人間だったのだがね、それが顕著になった。モニカ嬢の安全を確保する為にとエルマー・リデルがモニカ嬢に仕込もうとした発信機の件も反対していたね。ワタシの≪心霊手術≫の腕前は分かっているだろうに、あらゆる実験にまず自分達の身体を検体として差し出してきてね。ワタシとしてはテンプル騎士団の血筋の者のデータが増えて嬉しい限りだったが、どうにも理解できないね?」 ともあれ、とモニカの首筋を撫でる。 「これこそモニカ嬢の本分! ≪神智学協会≫、オルコットの目的の為に振るわれる力の一端だ。この力の為の器であったモニカ嬢も見事に力を発現できて満足だろう」 「器ですって?」 由実が低く呟いた。 「そう、それこそがモニカ嬢の存在理由だというやつだね。彼女は人ではなく器だよ。実験動物として、そして壊してはならない至高の器として、ずっとそのように扱われて来た娘だ」 ● 「それは違う!」 ユーグはウィリアムの言葉に反駁した。 意図しない、反射的なものだ。それを自覚した上で彼は言葉を連ねる。 「レニーもトリシアも、モニカお嬢様を娘として心配していた」 ……そしてそれはおそらく、最期の瞬間のエルマーも。 己の心に浮かんだ情景に彼はそう思う。 「間違いなくモニカお嬢様にとって彼等に一人の人間として愛されていた。自らを破壊するような真似はやめるんだ」 「少なくともその情をモニカ嬢は感じてはいなかったようだよ。今となってはモニカ嬢に対してユーグ、君の声が届いているのか、それも怪しいものだ」 ウィリアムは叫び続けるモニカを撫でる。と、時を同じくして部屋の内部に突き出ていた幾本もの柱に亀裂が生じた。≪杞憂≫が憂いを満たして崩壊しようとしているのだ。モニカの叫びは、すなわち憂いで悲嘆で絶望だ。それが彼女ごと世界を滅ぼそうとする。 ……私が言えた口ではないが……しかし、 このままモニカに壊れてほしくはない。モニカの両親をこの手で殺し、彼女の憂いの最たるものとなっておきながら今更だとは思うが、ユーグもこのような結末は望んでいない。 ……なんとかしてモニカ嬢をこちらの手元に……。そして精神の破壊ではなく永遠の安楽な眠りを―― そうユーグが方策を練り始めた時、少女の問いかけが聞こえた。 舞だ。 ● 舞は挑みかかるような口調でウィリアムにその目的を問いかける。 「ウィリアム、あんたモニカをそのまま暴走させてさ、何すんのが目的なんだ? ≪杞憂≫で世界でもぶっ壊そうって腹か?」 そうだね、とウィリアムが舞に答える。 「モニカの憂いが暴走するままに任せておけばそれも可能かもしれないけど、残念ながら力の発現のしかたが歪んでいるようでね、このままでは≪杞憂≫がその力を及ぼす範囲を広げていく過程で、天を支える柱の方が耐えきれずに自壊してしまうだろうねぇ。 元々もう一つの都市伝説と組み合わせてバランスをとるような代物だったのだからこの状態は仕方の無い事なのだけど、まあ残念と言えば残念だ」 そうどこか達成感に浸っているような口調で語るウィリアム。 「そのもう一つの都市伝説って何なんだよ?」 それは、とウィリアムが話しかけたところ、亀裂が入っていた幾本かの柱が限界を迎えた。 ガラスの破砕音にも似た個体が粉々に飛沫く音が室内に響いて、モニカの上げる悲鳴と不協和音を奏でる。 「え、なんだ!?」 「舞、こっちに来い!」 突然の異音に驚愕する舞の手をTさんがとる。そのすぐ近くへと破砕した半透明の柱の残骸が落下し、床を穿つ。 「まずいな、ユーグ」 「ああ……奴の時間稼ぎが成功している今の状況、あまり長引かせられん」 微かに焦りの色を浮かべながら秋月へとユーグは頷きを返す。 彼等にはこの現象の意味が分かっていた。それゆえに歯噛みをする。 「このままでは、憂いが現実となる……」 ≪杞憂≫の、天を支える柱の崩壊が起こり始めたのだ。このままではやがて柱に支えられていた天蓋が落下する事になるだろう。 前ページ次ページ連載 - Tさん、エピローグに至るまで
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3172.html
2学期が始まって暫く経ったある日のことだ (裂邪 ハァ・・・やっと1日が終わった・・・ (シェイド ダルソウダナ (裂邪 ったりめーだろ?楽しく学校なんて来てられっかよ!俺は一刻も早くミナワとだな (先生 黄昏 と、俺を呼ぶ声がした 俺のクラスの担任の、未央 幽(ミオウ カスカ)先生だ 今年の4月に来たばかりだが、容姿の所為か、男子からの人気は絶大 ・・・ま、俺はロリ専だけど (裂邪 俺に何か用すか? (幽 ・・・用はあるが、まずやる事がある 先生はメモ帳と赤ペンを取り出した まずい、「アレ」をやられる (幽 教師に対して「俺」と名乗ると同時に軽々しい口調を叩く、マイナス15点 右手のボタンが1つ外れている、マイナス5点 ズボンのポケットの中にカッターナイフと裁ちバサミが入っている、マイナス10点 己の契約都市伝説と校内で堂々と会話している、マイナス20点 これでお前の持ち点は残り50点だぞ (裂邪 御戯れをなさらないで下さいませんか!? 次回の定期テストは全身全霊で努力致しますので、今日の所はお許しお願い申し上げつかまつる候! (幽 鬱陶しい、マイナス5点 俺にどうしろとorz ・・・あぁ、この先生も契約者だ 「0点取ったら死刑」・・・なんて物騒な都市伝説と契約してる 俺がそれを知ったのは1学期、この学校で「赤い手白い手」が出ると聞いて調べに行ったら、 この先生が既に始末した後だった。 これはなかなか頼りになりそうな先生だと、一瞬そう思ったよ 授業中に、生徒の点数下げてる光景を目にしたのを思い出さなければな! (幽 ・・・まぁ、努力に免じてプラス15点やろう (裂邪 ありがたき幸せにござりまするorz ところで私めに何かご用が御ありなのでは? (幽 あぁそうだ、お前の弟を探しているのだが、何処か知らないか? ・・・正義? (裂邪 私の弟でしたら、今頃は恐らくクラブ活動を行なっていると思われますが・・・ (幽 それが誰もいなくてな・・・仕方が無い、機会を改めるとしよう。呼び止めて済まなかったな (裂邪 とんでもございません。 この黄昏裂邪、いつでも貴方様のお力になりますので、何なりとお申し付け下さいませ (幽 プラスマイナス0 (裂邪 なにゆえに!? (幽 ナンパっぽい だからロリしか興味ねぇっつぅの!! (幽 何か言ったか? (裂邪 いいえ滅相も無い (幽 ふん、まぁいい・・・家に帰ったらしっかり勉強しろよ? (裂邪 仰せのままに そして先生は足早に、その場を離れていった (裂邪 うにゅーん、ちかれたよー (シェイド サァ、帰ッテ勉強シロヨ? (裂邪 うるちゃいシェイドのバカー 俺は帰ってCOAするんだーい!『囲炉裏の会』の皆様と騒ぐんだーい! しかし・・・正義に何のようだったんだろうか そういや、あいつのいた「都市研」って顧問がいなかったようn―――可哀想に ...END 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2534.html
「嫉妬少年のその後」 ウーウー… 消防車のサイレンが響き渡る。その様子を小さく震えながら眺める少年、妬見女疾風 「一体何があったんだい?」 そう聞かれる疾風。都市伝説の力で爆発した、なんて言っても信じてもらえる訳がない 疾風「車…を見てたら…突然…爆発…して…」 震えながら声を絞り出すように答える疾風。これでいくらか誤魔化せたはずだ 帰り道 疾風「…「あるお方」に協力、ね…どうするかなー」 『美味シイ思イガデキルッテンナラ、協力シテモイーンジャネェノ?』 疾風「でもなーリア充だって言ってたからなぁ…。妬ましいし…」 『ソウカ…マァ好キニスリャイーンジャネーノ?』 疾風「そう。それじゃあ協力すんのはやめとこうかな。全リア充は僕の敵だし」 『ジャア敵対スンノカ? オソラクアイツニ狙ワレルゼ』 疾風「うーん…あの人は同志だからね…まぁ僕はリア充を爆破していくよ」 どうやら協力する気はないようだ。リア充は今までどうり爆破するようだが そして、帰り道の途中…部員に出会った 蒼介「ゴホゴホ…あ、疾風君」 疾風「あ…蒼介君」 同じ部員で帰る方向も同じだったので、一緒に帰ることにした 不幸「へぇ…同じ都市伝説の契約者と出会ったんだ…」 疾風「うん。何か協力しないかって言われたんだ」 幽夜「へぇ…それで君はどうするんだい?」 疾風「誘いには応じないことにしたよ」 こんな会話をしていた。すると… <着メロ> 蒼介「ゴホ…メールだ。差出人不明?」 564219 蒼介「!!? みんな、やばい。都市伝説に狙われた…ゲホッ」 「「「!?」」」 すると蒼介の背後に包丁を持った男が現れ、…刺した 蒼介「ゲホッ…ゴホッ」 蒼介を襲ったのは『564219』。ポケベルに564219という数字が出て…という都市伝説である 不幸「ちょ…蒼介君大丈夫? 生きてる?」 蒼介「大丈夫…傷はやばいけど、死なないから…ゴホ」 蒼介は新しい都市伝説と契約していた。それは『病弱は生存フラグ』。彼が何らかの病気にかかっている間、彼は死なない 蒼介「おそらくコイツは『564219』。契約してる可能性があるから気をつけて…ゲホッ」 不幸「フフフフフフ…それじゃ…僕らで何とかしますか…」 疾風「どこからともなく現れて攻撃できる能力…妬ましい」 幽夜「夜じゃないと戦いづらいけど…がんばるかぁ…」 3人が臨戦体制に入る。 不幸「…『564219』の契約者は僕たちとの戦いが終わったら、結婚…するんだ」 不幸が今使ったのは『一級フラグ建設士』の能力。対象者に自由にフラグを立て、回収したり折ったり出来る。これで『564219』の契約者に死亡フラグが立った そして、幽夜がピューと口笛を吹く 幽夜「まだ夕方だからこれくらいしか出ないかぁ…」 そういって鬼火を呼び出す 疾風「ああ…妬ましい。爆発しろ」 『564219』を爆破する疾風 だが、契約者がなかなか見つからない すると… トゥルルルルルルルルルルルルル… 蒼介の携帯に電話がかかってきた 蒼介「知らない番号…? いや、どこかで見たような…ケホ」ピッ 「もしもし、私メリーさん。貴方達がずいぶん困ってるみたいだから、加勢してあげるわ。あ!勘違いしないで。あの時の借りを返すだけだから」 蒼介「ああ、うん。ありがと」 蒼介「皆、朗報だよ…ゲホ。『メリーさん』がべ○ータ的な理由で一時的に加勢してくれるらしい」 疾風「ベ○ータ? ああ、ツンデレか。…妬ましい」 疾風は少し嫉妬するが、何とか抑えた メリー「まぁ、私に任せなさい! 『564219』の契約者を探してるんでしょ?」 そういうと、メリーさんは電話をかける メリーさん「もしもし、私メリーさん。今、私“達”貴方の後ろに居るの」 メリーさんがそういうと、疾風たちは男の背後にワープしていた 不幸「フフフフ…見つけた。それじゃ、『フラグ回収』」 不幸がそういうと、車が走ってきて…『564219』の契約者が…轢かれた 疾風「え? 倒した? それじゃあ救急車を」 疾風が救急車を呼び、皆はもう帰ることにした こうして、初めての契約者もちの都市伝説との勝負は、幕を閉じるのであった… つづく
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4980.html
ゲーム王国編 第七話 【濃力解放】 始まりは早かった。 全くの偶然。たまたま出会った江良井と錨野。 顔を合わせた瞬間に、それが当たり前であり至極当然ともいうように、お互いに場所も時間も指定したわけでもなく――始まった。 走り出したのは両者とも同じタイミング。 勢いを殺さずにそのままぶつかりあう両者。 二度、三度、四度。肉が肉を打つ音が聞こえ、五度目の音が鳴ってからようやく距離を取るふたり。 「さすが江良井くんだ。あの頃よりも強い」 「……お前もな」 「やれること考えられること全てやった結果さ。『ゲーム脳』奪還に敗れたままで終わるのを由とするほど諦めがいいわけじゃないからね。いつか君に会うため、君と戦うため、君を殺すため、君を見下ろすため、君に勝つために鍛えたのさ」 「俺ごときのためによくもそこまで無駄な労力をかけることだ」 「君だからこそ、ぼくがこれだけの労力をかけるのさ」 離れた距離を一足でゼロにし、打ち込む掌底。 反射的に出した手から伝わる衝撃を感じるや否や衝撃が向かう方向へと身体を流す。 掌底のダメージは逃がした。だが、わずかに遅れて放たれていた蹴りが錨野の右肩を強く打った。 賞賛すべきはあえて遅らせた攻撃を放った江良井ではなく、攻撃を受けても眉ひとつ動かさずに反撃を試みた錨野の方であろう。今の江良井の攻撃を食らえば下手な都市伝説であれば再起不能になっていたはずだ。 都市伝説の力で強化された江良井同様、錨野もまた都市伝説の力で何らかの強化をされているのだろうか。 「〈地獄の帝王〉は呼ばないのかい?」 「お前の敵は俺だ。奴の力を借りる必要はない」 「へえ、ぼくはてっきり呼べないのかと思ってたよ。呼べば呼ぶほど寿命を縮める都市伝説――君が己に課した制約は都市伝説の力を十全に使うためではなく、君への身体の負担を減らすためのものだろう?」 「……」 「君の心の器――常人よりも少ないからこそ、常人よりも小さいからこそ、制約を課しているんだろう? 都市伝説に飲まれないために」 数多の拳を放ち、防ぎながら錨野は笑う。 江良井は何も答えない。 「あの当時、君の制約は拡大解釈をするために必要なのかと思っていた。雁字搦めに縛りつけ、より強固な力を出せるようにとね。君を知る多くの人間は〈組織〉の連中も含めてそう思ってるはずだ。でもね、制約をつけることで契約者の負担も減ることを知ったのさ。ぼくの都市伝説の場合はそれほどでもないが、君のような次々と新作が出る類のゲーム系都市伝説なら常に最新版も取り入れなければならないだろう?」 「取り入れる必要はないがな」 「だが君は取り入れている。常に最新版にバージョンアップしている。ナンバリング、外伝問わずに新作が出る度に、だ。常人なら、もしくはぼくらなら平気かもしれない。制約をつけざるを得ないにしろ、そこまで強固な――死を絡めるような制約は必要ではないのかもしれない。この『学校町』には多重契約者がごまんといるそうだ。彼らなら余裕だろう。何事もなく、君のようにひとつの都市伝説で多くの能力が使えるだろう。生命力や寿命を削らずに、心の器にヒビひとつ入れることすらなく、特化した能力をね」 「……」 「さて、君はどうだい? エスタークの契約者、江良井卓くん。エスタークを呼び出す度に君の寿命は――生命は、削られていってるんじゃないのか?」 一、召喚前に二十面体ダイスを投げ、出た目を「ターン数」として敵に宣言 一、上記の行動を行なわない場合、契約は強制解除 一、×ターン以内に斃された場合、契約は強制解除 一、契約が強制解除された場合、契約者は死亡 彼がエスタークを呼ぶ際にかけた制約。 自らの生命を賭けることで「飲まれる」ことを防いでいる。 ただ、これはあくまでも都市伝説を使う際の制約であり、拡大解釈のものとは違う。 一般的な契約者はエスタークを召喚する――契約者にとって当たり前のたったそれだけのことだが、江良井にとっては制約が必要なのだ。 一、ゲーム中で捨てられない物は使用不可 一、同一の道具装備の複数所持は不可 一、攻撃系の呪文特技は最大で三メートルの範囲内限定 一、回復系の呪文特技は最大で一メートルの範囲内限定 一、補助系の呪文特技は最大で二メートルの範囲内限定 江良井が拡大解釈をした場合、召喚時ほど制限はないが制約が存在する。 契約者が都市伝説の能力を使用する場合、多くは拡大解釈という形を取る。 程度の差はあるが、多くの契約者は拡大解釈の時に身体への負担は少ない。――ただ、江良井卓は数少ない悪い意味での例外であった。 都市伝説の能力を使用するだけで限界を超えている江良井には当然のごとく拡大解釈の場合でも制約が必要になった。 唯一の救いは都市伝説の使用であるエスタークの召喚に際して生命をかけた制約をかけたおかげで拡大解釈にはそこまで強固な制約は必要なかったことだ。 「君が能力を使用するのは一対多の時くらいかと思うんだがどうかな? ま、君なら数人相手にひとりで戦いそうな気もするけど」 「……この状況は一対一だ」 「その通り、君が都市伝説にかける制約の意味を解説したからといってどうということはない。――でもね」 錨野が両掌を合わせる。拝むように。 「以前、君との戦いで制約というものを知ったからこそ、ぼくは知れた。ぼくにもできる、とね」 合わせた掌をゆっくりと開いていく。 その中心にくるくると回転しながら板状の何かが現れた。 鉛色に鈍い輝きを放つそれは、江良井にとっては見慣れたものであり、かつて苦戦したものであった。 「バキュラか……」 「ご名答」 かつてのシューティングゲームで敵キャラとして登場する『バキュラは256発撃ち込むと撃破できる』と噂が流れた。 縦回転を繰り返し直進する敵キャラはどう足掻いても破壊不可能ではあるのだが、二百五十五発を越える二百五十六発目を撃ち込めば破壊できるとの噂である。 当時発刊されていた雑誌にも記載されていたために全国的に広まり、挑戦する者が後を絶たなかった。 公式で否定されるのみならず、インターネット上に実際に挑戦した人々の動画も数多く出回り、実際に不可能との認識は広まってはいるのだが、ゲーム系の都市伝説として広く流布している。 二百五十六発撃ち込むと撃破できるとは、二百五十五発撃ち込まれても大丈夫ということ。 「前は出して飛ばすだけだった。でも、君の制約を知ったおかげで様々なバリエーションを生み出すことができた」 合わさっていた掌が離れるにつれ、バキュラも大きくなり回転も激しさを増す。 肩幅よりも広く開かれた掌の中で回転するそれは、錨野が軽く押し出すと回転をしながら宙に浮いた。 「大きさも自由自在。こんな風に連続で出すことも」 ぱん、と掌を閉じて軽く開くと大きさの異なるバキュラが最初に出されたものと同じように宙に浮かび、その回転が止まることはない。 錨野が手を叩くたびに次々にバキュラが形成されていく。 数はわずか十前後だが、ひとつひとつの大きさが大きく、江良井の姿がほぼ隠れてしまう。 「勿論、射出も速度も自由自在さ!」 くるくると回転しつつ高速で飛来するバキュラに、江良井はわずかに後方に下がり、助走をつけて走り出す。 バキュラと地面のわずかな隙間を滑り込むように疾走。 「甘い!」 その程度のことは当たり前とでもいうように、江良井の疾走にあわせてバキュラを隙間に飛ばす。 「――メラ」 指先から放たれた火炎の弾丸がバキュラに命中するも飛散する。 その都市伝説通りだとすると、二百五十六発を撃ち込まねば砕くことはできない。 新作が出るたびに増える呪文や特技。全てのシリーズを紐解いても二百五十六発を打ち出す特技は存在しない。 「何だ?」 錨野の位置からは無数のバキュラに隠れてしまい見えないが、江良井の放った火炎の弾丸がバキュラに当たり飛散したことは江良井の唱えた呪文とわずかに散った炎とバキュラに当たった衝撃音で想像がつく。 だが、一度撃たれて散った炎はすぐに消える。音も一度きりのはずだ。 それがどうして二度も三度も――否、それ以上に聞こえてくる? 「江良井くん、何をしている?」 江良井は答えない。 ただ、放たれては飛散する火炎の揺らめきと衝撃音が答えるのみだ。 江良井の放つ魔法はゲームの通り、「呪文を唱える」という行為なしでは決して発動しない――はずだ。 連続で唱えることはできるかもしれない。だが、それもそう長く続くはずがない。都市伝説で強化された心肺機能があったとしてもだ。 「何をしている!」 ぱん、と掌を強く叩くと火炎が撃ち込まれているバキュラを除き、無数のバキュラが消えた。 江良井の指先からは炎の弾が絶え間なく撃ち出されている。 小声で唱えている様子も新たな能力を使っている様子もない。 二百五十六発撃ち込まれたのだろう、残っていたバキュラが消滅して初めて江良井は右手を下ろした。 「……何をした?」 「使う、エルフの飲み薬」 きらきらと身体が光り、呪文によって失われた魔法力の補充が終えた江良井は懐からひとつの機器――mp3プレイヤーを取り出した。 「まさか……」 「そのまさかだ」 パソコンに自らの声――呪文を取り込み、呪文と呪文のわずかな空白を消す作業を行なった上でリピート再生。 もしかしたら二百五十六発分、呪文を繋げたのかもしれない。 声は江良井のもの。使う魔力も江良井のもの。ならば魔法が発動しない道理はない。 「お前と対するにあたって、一番の難関はバキュラだった。知っての通り、前は苦汁を舐めさせられたからな」 だから用意した。 錨野蝶助が敵対した日に。 「そんな破り方が……?」 錨野からしてみればわずかな間。 しかし、江良井にしてみればその間は隙以外の何物でもなかった。 まさに一瞬で間合いを詰め、がら空きの胸元に一撃。 「……くっ……」 わずかに後方へそれたおかげで致命傷とはならなかったが、次の行動に反応できる余裕はない。 それを見逃すほど江良井も甘くはなかった。 次々に打ち込まれる連撃。 骨は折られ、肉が抉られる。 錨野が死を覚悟した瞬間、江良井の追撃が止まった。 「……?」 かつて、錨野は江良井に言った。 敵と認識した時点で、老若男女問わず言葉通り赤子でも長年付き合ってきた無二の親友でもこの世にたったひとりの親兄弟でも一切躊躇せず懊悩せず顔色ひとつ変えずに殺せる、と。 とどめを刺すのに躊躇うはずもない。はっきりと敵対宣言をした以上なおさらだ。 無論、江良井もとどめを刺すつもりだったし仮に錨野が土下座をしても殺していただろう。 江良井の視線は錨野を越え、背後に注がれていた。 錨野の背後――そこには土管が生えていた。 「イイイイイイイイヤヤヤヤッフウウウウウウウウウ!!」 何の前触れもなく突如生えてきた土管。 奇声と共に現れたのは――否、飛び出てきたのは。 「イツミー! メールィオオゥ!! マンマミーヤ! イヤッハー!」 ――バカだった。 続 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4407.html
少女は、目を怪我した少年と保健室にいた。 「……悪かった」 「自分は十分真面目でしたが、少しふざけていた部分もあるので、お互い様です」 目を怪我少年――――雄介は、少女――――DKGこと薫に目の手当てをしてもらっていた。 薫が投げつけた教卓が雄介の顔から落ちると、雄介の目から血が流れていた。 もちろん薫が教卓を投げつけた事にも教室内の人間も驚いていたが、雄介の惨状にはもっと驚いた。 中には驚いてはいるが落ちついている者もいたが、それでもパニックは止まらず、教室中は大騒ぎだった。 責任ある薫が保健室に連れて行くことで混乱は免れたが、それでも雄介の目の痛々しさは変わらなかった。 「……本当に悪かった……。本当に、本当に……っ」 「いやー、失明していないので大丈夫ですよ」 思わず泣きそうになってしまった薫に、怪我を負わせた薫に、優しく励ますように接する雄介。 どうしてこの男はここまでしても愛想を突かないのだろうか? こんな事になってしまったのは、アメリカにいたころの片っ端から殺していた癖が出てしまったのだろうか? 確か昨日の晩もキッチンからベランダの外に投げるという、よく考えなくてもとても危険な事だったのだ。 前に学生生活を送った時はこんなことは無かった。 もしかしたら、契約した事により力が大きくなった反動で、本能の部分も大きくなってしまったのだろうか? (いや、そんな事を考えて逃げる事はよそう) 今は雄介に対する謝罪しかない。 「というか謝らないで下さいよ。許すといっているんですから、それ以上はいりませんよ」 「……だけど」 「それでもというなら、キスを御所望します! 口に! 唇にっ!」 「…………」 雄介はいつものようにおちゃらけモードに入ったが、その言葉を真剣に考える。 (……本当に悪いことしたしな、流石に口は抵抗があるが、頬ぐらいならしてやっても良いか? ……いや、こいつは俺のせいでこうなってるんだ。口にしてやるべきか……) 「え? あの怒ってるんですか? それとも真剣にお考えに? え、あ、いや! まだいいです! 冗談ですから! まだこちらも心の準備ができていませんでして!!」 真剣な顔つきで悩んでいる薫を見て慌てて撤回する雄介だが、その声は薫の耳には届いていない。 だが、二人は何やら不穏な視線を感じ、サッと保健室の扉の隙間を見る。 覗いていた何か達は、覗いていた事がばれたのに気が付き、廊下をドタバタ走って逃げて行った。 「……今のは都市伝説か?」 「ええ、この中央高校はかなり契約者がいるんです。その為、ここには人を困らせるような都市伝説はいません」 「今思い切り覗いてたぞ」 「人間だってこういう事普通にします」 「そうか……、じゃあ俺みたいに普通に学校に通う都市伝説もいるのか」 はーそうなのかそうなのか、と感心しているように頷いている薫に対し、今度は雄介が深く考え込んでいる。 「……あれ? 純粋な都市伝説がこの学校を通うって、初めてなんじゃ……」 「・・・Really?」 よほど驚いたのか、母国語で聞き返してしまった薫。 「ええ、いや、そもそも学校に通う都市伝説って、いたっけかな……?」 「……おいおい、何気に例がない事やってるのかよ俺達」 「……そう、なりますね」 何やら、先ほどとは違う意味で喰う気が重くなってきた。 「すごいプレッシャーで倒れそうなんだが……」 「大丈夫です安心してください。私が支えますから」 「今はお前が怪我してるんだから、俺に任せとけ」 「いえいえ私が」 「いや、そこは俺が」 …………。 「私が」 「俺が」 「私」 「俺」 「私!」 「俺!」 いつの間にか何の言い合いになっているかも忘れ、二人はムキになってしゃー! と睨み合う。 「うぅるっさい! ここは若者がずっこんばっこんする場所じゃねーよ自重しやがれ!」 シャー! と保健室の角のカーテンが開かれ、探しても見つからなかった保険の先生がいた。 保険の先生はショートカットで、それなりに美人だ。 だが、胸はとても寂しく、薫と比べると……保険の先生をいじめる事になるのでやめておこう。 「ずっこんばっこん? それは何だ?」 「聞かない聞かない。はしたない言葉だから覚えないように」 「ガキじゃあるまいし、ブルーフィルムなら大丈夫だ」 雄介は薫がいったブルーフィルムが何なのかとても気になったが、保険の先生の睨みが厳しい。 顔が赤いので、また朝から飲みでもしたのだろうか? 理科だったかの不良教師といい、よくPTAに訴えられないものである。(花子さんとかの人に土下座) 「おるぁあ! カップルは出てけ出てけ! あー人肌が恋しいよー!」 そっちの方が自重してほしいのだが、もうそんな話をするのも面倒くさくなってきた。 「それでは、嫁と一緒に退散します」 「嫁じゃない」 ペシッ、と薫に頭を叩かれ、二人はいそいそと保健室から出て行った。 教室に戻ると、ムードは険悪だった。 そりゃそうだろう。ただの上から目線で物を言う美少女かと思いきや、教卓を投げて怪我をさせたのである。 授業は淡々と続けられたが、授業の合間の休み時間は教室中がピリピリとしており、薫としては今すぐ帰りたい気分だ。 そんな事を繰り返して昼休み、薫は今まで誰とも話す事無く過ごし、さらには転校生というアドバンテージが裏目に出てしまった。 (……教卓なんて投げなければ……。ちくしょうっ!) 「かーおーるさーん! 一緒におーべんとたーべましょおー!」 ぴょーんとウサギの様に跳ねながらやってくるのは、誰でもない雄介である。 目の怪我は完全に完治しており、周りからは、どんな体してるんだお前!? と驚かれていたが、雄介は愛の力だの薫の魔法の力だのと言い、はぐらかしていた。 「……お前は友達と食べてろ」 「恋人と食べますのでご安心を」 「ほう、お前に恋人なんていたのか」 「ええ、目の前にいるとても可愛い人です」 「ん? お前の目の前には世界一の美少女しかいないはずだが?」 「もう照れなくていいですよぅ。薫、あなたしかいないよ」 「気色悪い。そんな関係じゃないだろ俺達」 「ではどんな関係で?」 「名字が一緒なだけだ」 「ああ!」 「納得したか?」 「もう、遠まわしに嫁だなんて……恥ずかしいっ!」 「して無い! 捏造スンナ!」 「そんな!? もうあの暑い夜の日を忘れたと!?」 「いつの話だ!?」 「……あれは、そう。あなたと初めて会った日の事」 「ああ、お前が勝手に家にずかずか入って来て……」 「激しかったですよね」 「ああ、お前の刀がぶっ刺さった時は、もう……ってしまった!?」 薫はようやく周りを見渡し、クラスメイト達がこっちの話を喉をならしながら、堂々と聞いている。 二人はサッ、と顔を近くによせ、他の人間にも都市伝説にも聞こえないように囁きあう。 「(……しまった、またドジったちくしょう! 激しかったとか刀とか、もう不穏すぎるだろ)」 「(……いえ、多分ピンクの意味で勘違いしてます。ほら、あそこの生徒前屈みになっているでしょう?)」 「(……ピンクと前屈み、どういう関連性があるんだよ)」 「(……まあ、わからないなら私にお任せあれ)」 雄介は薫の頬を両手で挟み、更に顔を近づける。 結果からいうと、二人は教室で堂々とキスしていた。 「――――ッ!?」 「「「オォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」 薫はファーストキスを奪われ顔を赤くし、教室はあまりの急展開に男女関係無く歓声をあげる。 リア充爆発しろとよくいわれるが、他人の恋路ほど面白いイベントは無いのだ。 顔を赤くした薫はというと、また怒って机を投げつけないように、冷静に考える。 (……そういえば、さっきキスしろとか言ってたな。キス位であの怪我を許してくれるのはありがたいが、まさか大勢の目の前ってのは、流石に恥ずかしすぎるだろ) 雄介は顔をゆっくりと離し、にっこりと笑う。 だが薫はまず周りの誤解を解くことにし、 「言っておくけどな、これはさっきのお詫びであって、恋人とかのキスじゃないからな」 天然の爆弾を落とした。 「「「イェえええええええええええええええええええええ!!」」」 「何でさっきよりも盛り上がってるんだよ!?」 「もう、このツンデレさんめー☆」 「「「めー☆」」」 このクラス、随分とノリがいいらしく、めー☆ を見事に合唱していた。 「まてまて! ツンデレってなんだよ!? 意味はよくわからないが否定した方がいいニュアンス!? ええい、違うぞ! 俺はツンデレじゃないからな!!」 「「「フォ――――――――!!」」」 「俺の話を聞けぇぇええええええええええええええ!!」 もう誰も、薫を怖がる者はおらず、皆笑っていた。 薫だけは、苦笑いだったが、幸せそうに見えたのは、気のせいではない。 つ・づ・けっ!
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4321.html
ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 28 【スカイフィッシュの少女】 私を殺した、でも直ぐに自分の仲間になれば私を生き返らせると約束してきた変な奴。 最初は大嫌いだった、でも短い間だったけれど一緒に暮らす内に いつの間にか、私の中でアイツの存在がどんどん大きくなっていた。 アイツとご先祖ちゃんと私、途中から太郎さんも加わって、 みんなで一緒の目標に向かって計画を立てて、たまに息抜きに馬鹿やって そんな風に、私に初めて「家族」を教えてくれたアイツが 私の目の前で、黒服の振るう禍々しい凶刃に胸を貫かれ倒れた。 目の前に広がる赤、まるで人形の様に動かなくなった私の大切な人 頭がクラクラする、視界が真っ白になり、耳に何も届かない 気がつけば限界まで開いた私の口が何かを叫んでいた でも自分が何を叫んでいるのか分からない、聞こえない。 ただコマ送りのように、ゆっくりに動く視界の中で、 私の心に反応するように、凄まじい速度で黒服へと向かっていくスカイフィッシュ でも、そんなスカイフィッシュの一撃を軽々と、手に持った刀で受け止めると 黒服は、口を小さく歪め、何かを言ったように――――衝撃。 側頭部への激痛と共に世界が急転していくのを眺めながら、私は地面を数度転がる。 痛みに、呻きながら視線を上げると、至近距離に黒服の女。 反応するよりも先に胸を踏み抜かれ、衝撃で喉から込み上げたものを吐き出してしまう。 自分の口から広がる深紅に顔を汚し、あまりの痛みと悔しさに流れ出る涙に顔を濡らす。 それでも尚、敵意を漲らせ、相手の顔を睨み付け――涙? 私を打ちのめし、今なお私の身体を足蹴にする彼女の顔は、 とても冷徹で冷血で冷淡な無表情、でもその瞳からは、音もなくただ涙だけを流している。 どうして泣くの? 何が悲しいの? あんたはアイツを裏切ったんでしょ、あんたは心を無くした人形なんでしょ? その問いかけは声に出ず、開いた口から出るのはただ赤く染まった嗚咽だけ。 結局何も口に出す事もできず、私の意識は闇に飲まれていった。 【B-No.001】 目の前に倒れる二人の侵入者の姿に口元をつり上げ嗤う。 最初にして最後の邪魔者を消去し、ついに計画は最終段階へと移行した。 実際には現在も、まだ「人型」を潰しては無駄な努力をしている侵入者達が居るが、その損害も微々たるもの この学校町の総人口の十倍の数、約百万体の「人型」をこの短時間で破壊するのはまず不可能であろう。 既に、返された砂時計の砂は最後の一粒のみを残すのみである。 私は、驚喜に逸る胸の高鳴りを押さえながら、手に持った「エペタム」を振り上げた。 カタカタカタカタと、まるで歓喜に震えるかのように、妖刀の刃鳴りが響き渡る。 それに反応するように、いや実際に呼応して、周りに立ち並ぶ、「人型」の目が開かれ 口を開き、狂気に震えながら狂乱に塗れながら狂信の赴くままに狂声を上げていく。 カプセル状の機器の中から、神々しい白い光が、彼らの歌声と共に発せられる。 それは、まるで私という名の指揮者に合わせて歌う聖歌隊のようでもあった。 狂信的な殉教者たちに讃えられるように、私は自らの分身を振り上げる。 「さあ、今こそ「鮫島事件」よ! 我々を、心などという不要物の存在しない完成されし世界へと誘うがいい!」 狂笑を浮かべ、世界を包みこむ狂想曲の中で、私は宣言する。 その言葉と共に、侵入者による強襲によって止まっていた、B-No.002の能力「鮫島事件」が動き出す。 「A-No.1000000までのレスポンスを全て収得しました総合接続ライン数1101192、最終フラグチェックに移行します、……10%…30%……60%……90%……100%…フラグチェック完了、「鮫島事件」への肯定的レスポンス率91%……」 口々にB-No.002より紡がれる甘美な調べを聞き酔いしれる様に私は天を仰ぐ。 全ては、全ては整った、我が産まれ出でて因りの命題、今こそ成就せん! 「都市伝説「鮫島事件」を発動せよ」 「了解、都市伝説「鮫島事件」に―――」 「重大なエラーが発生しました」 …………なん……だと? 【B-No.002】 B-No.001が途方に暮れたように、此方を見ている。 惚けたようなその表情はまるで、長い間、欲しかった玩具がやっと手に入ると思った、その直前に、 何ものかに横からそれを掻っ攫われてしまった子供のようにも見えた。 しかし、そんな彼の姿を視界に入れながらも私は淡々と口を開く。 冷徹に、冷血に、冷淡に、そう在るべしと作り替えられたその姿のまま無情に声を上げる。 「都市伝説「鮫島事件」へ、外部より予期せぬラインの接続を確認しました、その数、不明……これよりアンノウンの解析開始します …1000、10000、100000、1000000、10000000、100000000、1000000000、10000000000、100000000000、1000000000000…… 「鮫島事件」の処理限界を突破しました、プログラムファイルの一部に破損を確認、修復開始………ファイルの修復に失敗しました これにより予期せぬ致命的なエラーが発生しました、安全の為、セーフティ機能を起動、アンノウンへの解析プログラムを強制終了します 総合接続ライン数∞、最終フラグチェックに移行します……10%…30%……60%……90%……100%…フラグチェック完了、「鮫島事件」への否定的レスポンス率99%……」 私の口から紡がれる言葉の羅列を聞き、私の前で混乱の極地にあったB-No.001の眼が驚愕によって極限まで開かれる。 「無限だと? 馬鹿な!まさか「首塚」か「表層部」……いや「同盟」の仕業か!? いや、しかし「鮫島事件」に対抗しうる強大な都市伝説は全て監視済みのはず ではなんだ? 我々の情報網をすり抜ける程の「何か」がこの学校町に存在したという事だというのか、まさか、そんな事がっ!? くっ……しまった、まて、このままでは「鮫島事件」が!? 発動を中断し――!?」 「……そのまま「鮫島事件」を発動しろ」 突如、自らの胸を貫いた、鈍光りする刃に声を途切れさせるB-No.001。 その背後には、私の大切な人、記憶には無いが、心が覚えている。 例え、人を止め、「組織」の繰り人形と化した今となっても、彼への想いは忘れる事はない。 口から流す赤い液体を、床に吐き捨て、B-No.001の背から胸にかけて貫通させた妖刀を傷口を抉るように捻りながら抜く彼の言葉に応えるように、最後の言葉を紡ぐ。 「「鮫島事件」発動しました、「第10724世界線」からのレスポンスを確認しました、 ――以下、世界にかわりまして鮫島事件がお送りします、「釣り乙」――以上、都市伝説「鮫島事件」の展開を終了します」 これで、全てが終わりました、そして、あなたの望みも終わりですB-No.001――いえ、お兄ちゃん。 【ギザ十】 黒服の身体から籠釣瓶を引き抜くと、まるで其れを待っていたかのように彼の身体から鮮血が噴き出す。 明らかに致命傷を負っているであろう、彼はしかし幽鬼のように振り向くと、自身もまた満身創痍である俺に問いかけてくる 「馬鹿な……確実に心臓を貫いた……はずです……何故、生きて……いるのです?」 ゴボゴボと吐血しながらも心底不思議そうに首を傾げる黒服、その顔を隠すサングラスが落ちる。 そうか……やっぱり、あんただったのか…… 嘗ての俺の大切な宝物の一つ、大切な人の兄であり、俺自身にとっても大切な友人だった、彼。 十数年前に、都市伝説「鮫島事件」によって失われた、俺の大切なものの片割れ…… 「これだよ……そうだな月並みな言い方だが……こいつが胸ポケットに入れていなければ即死だった」 盛大に俺の血に塗れ真っ赤に染まり、斬撃によって歪な形に変形してしまった「ギザ十」を取り出し見せる。 胸ポケットに仕舞っていた十円玉のお陰で、飛来した妖刀の軌道が逸れ、辛うじて致命傷には至らなかったのだ。 「そ……んな……矮小な都市伝説に……私の……エペタムが……」 「確かに、矮小で、最弱で、ショボ過ぎる都市伝説だがな……こいつには、あんたが否定した「人の心」が詰まっている、「俺の想い」が籠もってる、 あんたが不要だと、必要ないと切り捨てた存在が、あんたの計画を最後の最後で狂わせたんだ……」 静かに、子供に言い聞かせるように、語る俺の言葉に、彼は顔を歪ませ嘲るように嗤う。 「ふ……ふふ……そんなもの……私はただの甘い幻想と……思っていましたが……ね」 そうかもしれない、それは只の俺の妄想で、只単に運が俺に傾いたと言うだけなのかもしれない。 だが…… 「だが、俺はそんな甘い幻想を信じている、あんたの妹に教えて貰ったオマジナイの幻想を」 「私の……妹……?」 心底、心底不思議そうに呟く彼のその姿は、まるで大切なものを無くした迷子の子供のようで。 「覚えて…無いのか…」 先ほどから彼の側で涙を流し続ける人形の様な彼女の手を、彼の元へと優しく導く。 「昔、昔、遠い昔に小さな女の子が言いだした、俺たち三人だけの小さな秘密の都市伝説……覚えてないか?」 視線を彷徨わせ死に向かう彼は、不思議そうに首を傾げた後、小さく頷いた。 「ああ、思い出した、確か「 」が俺たちに教えてくれたオマジナイ、『勇気が出ない時にコインを弾いて、もし表が出れば必ず良い結果になる』」 「『もし裏が出たらどうすれば?』」 「『そんなの、表が出るまで何度でも弾けばいいだろう?』」 咳き込みながら、血塗れの二人の口から渇いた小さな笑い声が漏れる。 「俺は、何度も弾いたよ、ここに来るまでに、何度も何度も、表が出るまで」 「そうか……だったら、私が負けてしまったのも……仕方が……ない……な……」 苦しそうに咳き込みながらも、まるで昔に戻ったような微笑を浮かべる彼。 「なぁ……どうして、こんな事を……したんだ……」 「さぁどうなのだろう……ただ私は忘れたかったのかもしれない…辛い現実の中では、 心の中にしか存在しない色褪せた幸せは、辛すぎる…だからかもしれない……だから私は…全てを…」 彼と彼の妹の手を包み込むように握り問いかける俺に、返す彼の呟く言葉は儚く、徐々に小さくなり途切れる。 彼は嘗ての俺たちを見ていたのだろうか、視線を何処か遠くに映しながら語っていた。 学校町の人々を脅かした「暗部」の怪人は、自身の妹と、嘗ての友人の手の中で静かに逝った。 前ページ次ページ連載 - ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1539.html
Sombre Dimancheより あいつがどう言う思いで任務についているのか、俺はわかっているつもりだ だから、なるべくあいつに仕事を回したくない あいつは、俺に頼られていないと思っているのかもしれないが …俺は、俺なりにあいつのことを考えて、そうしているつもりだ 俺は俺自身がロクでもない存在である事は自覚しているつもりだ そんな俺なんかに担当されちまった不幸なあいつに、せめて辛い思いはして欲しくなかった …だから 今回の仕事も、俺一人で充分だ 「相手を自殺させちまう、ってのも殺人の一環なんだぜ?知ってるか?」 「…そうだったんですか?」 暗闇の中、声が響く …またか、と彼女はため息をついた 何故、そんな言いがかりをつけてくるのだろう? 私は、悪い事なんてしていない ただ、音楽を馬鹿にした相手を自殺させて そして、濡れ衣を着せられて殺されそうになったのだから、自身の身を護っただけなのに 「でも、あなたのお仲間に関しては、私、正当防衛ですよ?」 「うん、間違いなく正当防衛だな。疑いようもなく」 暗闇の中、相手の姿は見えないが、何か納得したように頷いた事だけはわかった だから 「…それでは、帰ってもいいですか?」 「いや、それは困るんだよな。俺も仕事で来た訳だから」 ………しゅるり 地面を、何かが這って近づいてくる 黒い、触手のような……違う、髪の毛? 「そう言う訳なんで、悪いけど死んでくれや?俺としては、美人のねーちゃん殺すのは勿体無いから嫌なんだけどな」 …あぁ、またか、と彼女はやはり、ため息をつく ゆっくりと近づいてくる触手から、数歩離れ、歌いだす 「♪ ~ Sombre dimanche Les bras ~ ♪」 歌には、音楽には、力がある 歌は、音楽は、人の心を動かす 人だけじゃない、動物、植物……命ある者、全て その全ての心を動かす事ができる だから、私は歌うのだ 「…「暗い日曜日」、だったか?自殺者がたっぷり出た呪われた歌」 --------え?と 歌う事はやめず、しかし、彼女は確かに、途惑った 相手は、歌を聞いているはずだ しかし…聞こえてくる声に、相手の様子に、変化はない 「俺が担当してる契約者も…あぁ、今日は連れて来てねぇぞ?そいつも、な、お前と似たようなタイプの都市伝説と契約してるんだよ。呪われた歌。その歌を聴いた相手を問答無用で呪い殺す、そんな都市伝説」 …しゅるるるる、と 髪が彼女に迫るスピードが、速まる 「そいつなぁ、歌が好きなんだよ。歌うのが好きなんだよ。多分、あんたも音楽g明日きなんだろうが、それよりもずっとずっと、あいつは歌うのが好きなんだ」 しゅるり とうとう、髪の先が、彼女を捕えた 「だからよ、俺はあいつに仕事させたくねぇんだよ」 しゅるしゅると 脚を伝い、髪は彼女を束縛せんと絡みつく 歌う事はやめず、その髪から逃れようとするが…髪は彼女の皮膚に食い込み、逃さない ……何故!? 何故、私がこの歌を歌っているのに…相手は、心が動かない!? 彼女の困惑など知らぬ様子で、相手は一方的に話し続けている 「あいつは、歌が好きだから。歌うのが好きだから………だから、あいつの大好きな歌で、あいつが歌う事によって誰かを殺させるなんて、俺はさせたうねぇ。あいつは、歌を愛しているからな」 じゃり、と 暗闇から、それは姿を現した 黒服の男、その髪が伸びて、伸びて…伸び続けて、彼女を束縛していた 全身を締め付けるように絡み、絡み…しかし、何故か喉だけは締め付けず、他の箇所だけを締め付け続けていた 喉を絞めれば、もう声はでなくなると言うのに しかし、その喉だけを残し、束縛を続けてくる 「…あんたも、音楽は好きらしいな?音楽を馬鹿にしたって理由で、相手を殺すくらいだ………だが、な」 サングラスの下から、黒服が彼女を見つめる ……その視線は、蔑んだものだった 「あんたは、その大好きな音楽で、人殺しをしたんだよ。音楽を愛する資格なんて、ないんじゃねぇの?」 「---------っ、して」 とうとう、歌うのをやめて 全身を締め付け、食い込む髪の痛みを感じつつ…彼女は疑問の言葉を口にする 「何故……っ私の歌で、心が動かないの……!?」 「ん?……あ~、それか」 彼女の疑問の声に、その黒服はこの場にそぐわぬ笑みを浮かべた …一瞬、その笑みが悲しげに見えたのは、気のせいだったか? 「悪いな。俺の心って奴は、とっくの昔に壊れてんだ。どんなに他人の心を動かせる歌でも……俺には、なんともねぇや」 …ぎりっ、と とうとう、髪が喉にも、絡みつく 「俺は、二回死んでんだよ。一度は人間として死んで、この黒服になってからも一回死んで………だから、もう死ぬなんざぁ、御免だしな。あんたの歌にゃあ、俺は殺されねぇよ」 全身に、髪が絡みつく それは、皮膚に食い込み、どろどろと彼女を出血させ始めていた 「…音楽が大好きなあんたが歌う歌だ。それで自殺なんてしちゃあ、失礼だしな?」 その言葉が、彼女が聞いた、最後の言葉だった 次の瞬間、彼女の体に食い込んだ黒服の髪の毛は、一斉に彼女の体をバラバラに引き裂いた 最早、人の原型すら残す事も許されずに……彼女は、その短い生涯に幕を下ろした 髪を元に戻しておく 残されたのは肉片、血溜まり 濃い血の匂いが、辺りを染め上げる 「…あ~、後始末面倒だな…」 髪についた血を軽く払いつつ、黒服Hはぼやく …勿体なかったな、と思う なかなかの美人だったのだが 「綺麗な声してたしなぁ」 自分が担当している「呪われた歌」の契約者の彼女も綺麗な声をしているが…さっきの女も、良い声だった それはもう、いい勢いで髪が伸びるくらい 「でも、まぁ…歌で殺すことに戸惑い持ってなかったし、やっぱ彼女とは違うよな」 「呪われた歌」の契約者には、その声で他者を殺すことに戸惑いがある …その行為に、悲しみを感じている だから、自分は彼女に仕事をやりたくない 今回の仕事は特に、だ …歌で他人を殺す事に戸惑いのない奴を、彼女に合わせたくなかった 「さぁて、とっとと後始末して帰るか…」 …途惑っていたな、あの女 そんな事を考える 確かに、あの歌を聴いたら、普通は自殺するのだろう どこまでも憂鬱になり、どこまでも自分と言う存在が嫌で嫌で仕方なくなって……生きる事に、絶望して 自殺してしまうのだろう、普通は だが、彼にそれは通用しない 何故ならば……彼は、とっくに絶望しきっているからだ 自分自身に、世界そのものに…とっくの昔に、絶望している だから今更、あの程度の絶望で自殺したりはしないし ……彼の心は、とっくの昔に壊れている それもまた、事実なのだから 黒服Hが立ち去った後には、肉片も、血溜まりも残っていなかった …ただ、かすかに、血の匂いだけが、その場を染め上げているのだった fin 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4839.html
僕のお父さんとお母さんは殺された あの日から暫く経ったある日、黒服さんと出会い、都市伝説の事を知った お父さんとお母さんを殺した犯人も、都市伝説の契約者だったという事も 僕は黒服さんに頼みこんで、都市伝説と契約し、「組織」に入った 2人の仇を取る為に 2人を殺した犯人を、この手で殺す為に そして、とうとうその犯人を見つけ出した なのに―――――― 「げほっ、ごほっ……!」 「ゲラッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァ!! どぉしたんですかぁ??まっさかそんなモンじゃな~いよねぇ~??」 僕が胃の中の酸い物を吐き出す姿を、あの野郎はピエロみたいなふざけた顔で楽しそうに笑っていた 白塗りに赤や緑の派手な化粧、明るい色の縞模様、水玉模様、星模様が不断にあしらわれた派手な衣装 風にマントを靡かせてけらけらと笑いながら、そいつは足元で動かなくなった黒服さんを何度も踏みつけた 「やめろ………やめろぉ!!」 ひゅう、という音と共に、空から白い塊が落ちてくる 標的は勿論、目の前のピエロ野郎 僕が契約した都市伝説は「オルタニング現象」 雲を氷のような固体にして地上へ落とす、地味だけど強力な都市伝説だ 地上数千メートルの場所から落下したものが人間の頭に当たれば、一溜まりも無い 当たれば、だけど 「おぉやおやぁ、そーいうのを馬鹿の一つ覚えっていうの御存知ですかー?」 小馬鹿にしたように笑い、ピエロ野郎はひらりとマントを手に取って、 空に向けて煽ぐように翻した 「タネも仕掛けもあぁりまっせーん!!」 その瞬間、あと少しの所まで落ちてきていた雲が、一瞬にして消えてしまった さっきまでもそうだった 僕も、黒服さんも、あいつに攻撃はするけれど いつも、あいつはそれを無力化し続ける 黒服さんが殺された時、心の何処かでぽつりと呟いた――――――――――――――――勝てない、って でも、僕は 「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」 負ける訳には行かなかった 1つ、2つ、幾つも幾つも、空から雲を落とし続ける 「ゲラッヒャヒャヒャヒャ!! ぁタ~ネも仕ッ掛け~もごじゃいましぇ~ん♪」 ぱちんっ、ぱちんっ、とピエロ野郎はステップを踏みながら指を鳴らす 同時に、奴に命中しそうだった雲は火を噴きながら爆発した 構わず何度も何度も、何度も何度も何度も雲を落とし続けた 当たらない。一発でも当たれば良いのに、その一発すらも当たらない 次第に息が切れ始め、身体がふらついた 「っはぁ………はぁ…………く、そ…………」 「しぃぶとい坊やですねぇん、一体ボクがキミにどんな悪い事をしちゃったのかな?」 「だま、れ……お前は…僕のお父さんとお母さんを殺した………!!」 「はあ?」 「だから、僕は…………お前を、この手で―――――――」 「ゲラッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! あぁっは~ぁ、そーゆーことで御座いましたかぁ おい糞餓鬼、一遍周りを見てみやがれ!!」 突如声色の変わったピエロ野郎の言葉を聞いて、不意に僕は周囲を見渡した 気がつかなかったが、酷い惨状だった ぐしゃぐしゃになった家、家、家………原因は、僕が落とし続けた雲だ 中には燃えている瓦礫もあり、また、中には真っ赤な手が見えて――――――手? 「こ、これは……………!?」 「御覧なさい。これは全て君がやった事だ。お父さんの為に?お母さんの為に? 君が大勢の人々を殺す事が、君の両親の願いだったのか?」 「違う!僕は―――――」 「だったらこれは何だ!? 俺一人殺すくらいなら良い! 関係の無い人間を殺してまで仇を討つ必要があったのか!? 今の貴様のように、誰かが貴様を殺しに来る可能性を考えた事があったか!?」 「っ………」 「…隠していて悪かったがね、君の御両親はとても悪い人だったんだ 幼い子供達ばかりを狙って殺していた快楽殺人鬼……まさかその間に子供がいるとは思わなかったが」 「う、嘘だ!お父さんとお母さんがそんなこと!!」 「今からでも遅くはない。僕は君を許そう。もう、人を殺そうなんて馬鹿な真似は止すんだ」 色んな事が頭の中に浮かんでくる お父さんが笑ってる お母さんが笑ってる ピエロが泣いている 雲が降ってくる 家が潰れてる ピエロが笑ってる 黒服さんが笑ってる 人が潰れてる ピエロが笑ってる お父さんが呼んでいる ピエロが呼んでいる お母さんが嗤ってる 黒服さんが潰れてる 人が哂ってる ピエロがワラってる 「さぁて、何処から真っ赤っかーなウソだったんでしょうね~♪」 急にお腹に重い衝撃が走った 直後に感じたのは、熱く湿った感触と、ぽっかりと穴の空いたような空虚感 目の前のピエロ野郎は、真っ紅に染まった槍を持ってニタニタと楽しそうに笑っていた 思えば、あいつしか狙ってなかったのに他の家が潰れる訳が無かった 一瞬でも、僕はお父さんとお母さんを疑ってしまった 「ケフッ………嘘…………吐、き…………」 「はぁ?……この世の中に、真実(タネ)も善意(シカケ)も在りはしないのさ」 おとうさん、おかあさん、ごめんなs 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/newgen/pages/2.html
メニュー トップページ 抹消済 メニュー リンク 本スレ Wikipedia - 都市伝説
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1332.html
マッドガッサーと愉快な仲間たち 12 「毎度、いつもありがとうよ」 「………けけけっ」 路地裏の奥の、その店とすら呼べぬその店で、「爆発する携帯電話」の契約者は、大量の携帯電話を購入していた …以前の使用者の個人データが入ったままの、中古携帯電話だ 水に落としたりなどして、壊れてしまった携帯電話 店に修理に持っていったがデータの修復は不可能などと言われて、壊れたそれを店に引き取ってもらった経験をした事がある者もいるだろう ……想像できるだろうか? 本当は、その携帯のデータはまだ生きていて…修理されたそれが、こうやって路地裏で取り引きされている、などと もっとも、「爆発する携帯電話」の契約者は、そんな個人データには興味はない 彼は単に攻撃用の携帯電話を大量に購入しても怪しまれないからこそ、ここを利用しているだけだ …何分、値段もかなり安いし そんな訳で今日も大量に携帯電話を購入し、「爆発する携帯電話」の契約者は路地裏を後にしようとしていた 帰りに、ジャッカロープのためにウィスキーでも買って帰ろうか そう、ぼんやりと考えていて 「けけっ」 「おぉっと」 もふんっ 路地を出た瞬間、障害物にぶつかった …おや この、覚えのある感触は 「大丈夫ですか?……おや、あなたは」 ばいーん 見事な、見事な巨乳 以前も、ぶつかってしまった事のある巨乳だ 以前と同じで恐らくシャツ一枚で、その下には下着もつけていないようで… 「…………けけっ」 ぶふぉっ!!! 前回と同じように、「爆発する携帯電話」の契約者は、盛大に鼻血を拭いて倒れた この男、相変わらず女性に対する免疫が低い きゅう、と、彼はそのまま、出血多量で気絶したのだった * 「オーナー、どうした……って、その人」 ちょっと離れた隙に、一体何が 「人肉料理店」と契約しているその少年は、自分が契約しているオーナーの前で、また誰か鼻血を噴いた様子を見て駆け寄り その姿に、激しく見覚えがあった 「確か、その人…」 「何らかの都市伝説と契約しているらしい人です……どうしたんでしょうね、また」 胸だろ 多分、その胸のせいだろ 心の中で突っ込みを入れる少年 えぇい、このオーナーは自覚もなしに いや、自覚もたれても困るが、元々男なんだし 「…とにかく、休ませた方がいいですね」 道の端に、その気絶した男性を壁に寄りかからせ、鼻血を拭く …結構な出血多量に見えるが、大丈夫なのだろうか あー、もってた鞄も血で濡れて… (…それにしても、随分重たい鞄だな…?) 中から、ガチャガチャ音がするし …何が入っているんだろう? 少年が、そう首をかしげていると 「………おや?どうしました?」 背後から、声をかけられた 突然背後に生まれた気配に、慌てて振り返り…しかし、すぐに警戒を解く そこにいたのは、人の良さそうな司祭だったからだ 恐らく、西洋人なのだろう、ブロンドの綺麗な髪、ブルーアイ めがねをかけた温和そうな表情をしていて、このところ寒いからか、肩にヴェールをかけている …そのヴェールは女性物のようにも見えたが、不思議とその司祭によく似合っていた 「それが、この人が急に鼻血を拭いてしまいまして」 「おや、彼は………またですか」 鼻血を拭いた男性の知り合いだったのか、司祭は困ったように苦笑する 「お知り合いですか?」 「えぇ、まぁ」 オーナーに頷き、司祭はゆっくりと、近づいてくる ぺちぺち、と軽く男性の頬を叩いた 「けけ……?」 「ほら、大丈夫ですか?帰りますよ」 「…けけけ、お前か………わかった」 目を覚ました男性 司祭に声をかけられ、こくこくと頷いている 「…それでは、ご迷惑をかけました」 「………すまない………けけっ」 「いえ、お気になさらず」 男性は、司祭とともに夜の街へと消えていく …なんだか、妙な組み合わせだなぁ、と少年は考えた 何となく、浮いていると言うか、知り合い同士と言うのが一瞬、ピンと来ない関係と言うか… 「…あ、どんな都市伝説と契約してるか、聞いてとくべきだったか?」 「う~ん…あの司祭さんも都市伝説のようでしたし……案外、あの司祭さんと契約しているのかもしれませんね」 「へ!?あの人も都市伝説!?」 司祭の姿の都市伝説なんてのもいるんだなぁ… 少年はこの日、一つ学習して 彼らが、自分たちを女性の姿に変えたマッドガッサーの仲間であると、気づかぬままだった * 「…まったく、いい加減、女性に慣れたらどうです?」 「けけ………ほっとけ」 マリ・ヴェリテに連れられて、街を歩く「爆発する携帯電話」の契約者 幼女姿では警戒されるようになったからか、街中を歩くのにも、時折、この司祭の顔を使うようになったようだ 一応、この姿では、争いは起こさないつもりだろう 流石に、この顔までバレるとヤバイ 「武器の調達はできましたか?」 「…問題、ない…………くけけけっ」 「それなら良かった…あぁ、ついでですし、夕食の買い物もしていきましょうか」 …つまりは、肉を買えと言う事か グラムいくらの肉をお望みだと言うのか ……まぁ、いい マリは、一番前線に立って戦っているのだ それくらい、いいだろう そう考え、「爆発する携帯電話」の契約者は、マリ・ヴェリテと共に夜の街に消えていくのだった 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち