約 2,714,828 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2726.html
【上田明也の探偵倶楽部22~宴の準備~】 ~前回までのあらすじ~ 殺人鬼「拝戸直」との激戦を経て自らの異常性に気づいた上田明也。 朝比奈秀雄との戦いで受けた傷もほとんど治癒し、彼は探偵業務を再開したのであった。 そんな彼にスポンサーであるサンジェルマンからの依頼が入る。 ~前回までのあらすじ、終わり~ 「だから言ってやった訳よ、お前それでも人間か!ってさあ。」 「アハハハハハハハ!」 「笛吹さんたらもう、何言ってるのよぉ!」 こんにちわ、私立探偵の笛吹丁だ。 只今事務所のお金を使って綺麗なお姉さんが居る店で豪遊中である。 単に遊んでいるだけのように見えるがこれも立派な仕事の一環だ。 「あ、俺用にウイスキーと……この子達にドンペリ適当にお願い。」 「おやおや笛吹さん、今日は飛ばしますねえ。」 「いやぁ、良いことがあったからね。」 「成る程、それは良かった。ところで今日は私立探偵殿に一件依頼をお願いしたい。」 「それは良いんだけどさ、事務所の帳簿ごまかしてる分、後で建て替えておいてね? 飲みに出たのばれると事務所の女性陣が怖いから。」 俺の前で佇むダンディでヨーロピアンな髭紳士はサンジェルマン伯爵という男だ。 彼は世界中の貴重な都市伝説をコレクションしては人間に配布して回るという妙な趣味を持っている。 ちなみに普段は金髪碧眼の優男なのだが今回は自らの力で姿を変えているらしい。 この姿の時はロイド=マスタングと名乗っているそうだ。 「ありがとうございます。 報酬はいつも通り貴方の口座に振り込んでおきましょう。 依頼の内容を話したいので少し女性陣には席を……。」 「えー、やだー! 普段俺もてないんだからー! こういう時くらいは美人の皆様に囲まれる至福の時間を楽しみたいのー! もうちょっとだけ頼むって!」 「はいはい、後で好きなだけ時間取ってあげますから。 それでは皆さん少々…………。」 「くそーぅ!リンちゃんメアド交換してくれー!」 「笛吹さんたらすぐに新入りの女の子に声かけるんだから!」 「またお話聞かせてね笛吹さん!はいこれメアド!」 「あ、抜け駆けしないでよー!」 「じゃあ私もあげちゃうもん!」 「私も笛吹さんと遊びに行きたーい!」 「ロイドさん、今度はお酒も頼んでね!」 ああ、綺麗なお姉さん達が別の席へ……。 まあ興味ないから別に良いのだけどさ。 「…………で、お仕事って何よ?」 「ええ、もうそろそろ朝比奈秀雄が倒されるらしいんですよ。」 「朝比奈秀雄?俺が戦った竜男かい?」 「そうです、偶然貴方が彼に接触したのがラッキーでした。 そのおかげで橙さんの情報網にもかからない“教会”の情報が手に入った。」 「ふぅん、その情報で朝比奈が倒されるって解ったの?」 「いいえ、それとは別です。」 「別なのかよ!」 まったく、困った奴だ。 人に物を話す時は要点をまとめろというものだ。 「私が確認したのは朝比奈秀雄が契約した都市伝説です。 なんと彼は“教会”が封印していた複数の『竜』の都市伝説と契約していたのですよ。」 「そりゃあ俺だって知ってるよ。俺自身が戦ったんだもの。 まあ複数だったのは俺も知らなかったけどさ。」 「今回大事なのは教会が封印していた竜達だということです。」 俺は少し考え込む。 ……ああ、そういうことか。 俺にはサンジェルマンの言いたいことがよくわかった。 教会が封印していたってことはサンジェルマンには手が出せない。 しかし今、朝比奈秀雄が敗北することになれば……。 「朝比奈秀雄の敗北時に朝比奈が手放すであろう竜を俺が確保すれば良いんだな?」 「その通りです。『組織』に籍を置く私の友人によれば、 Dナンバーの黒服が契約を解除させる類の都市伝説を持ち出しているようです。 おそらくそれで竜は朝比奈秀雄の制御を外れます。」 「成る程、そいつぁ素敵だね。誰も知らないところで暗躍する訳か。中々かっくいいな。」 「でしょう?」 「で、お前のにらむその戦闘の日って何時よ?」 「それについては橙さんがすでに予測を出しています。 三日後、ですね。貴方に確保して頂きたい竜は実はすでに決まっています。」 「いつもながら良い仕事だ。完璧な情報有っての完璧な仕事だよ。」 「才能にも相性が有りますからね。 橙さんの能力で前もって情報を得られていれば、貴方の交渉能力や作戦立案能力は何倍にも輝く。」 「ちなみに確保して欲しい竜の種類は?」 「タラスクス、亀です。詳しいことはまた後から教えましょう。 とりあえず今はまだ飲みたいんでしょう?」 「いや、良い。残りは帰ってからだ。ネタバレなんてあまり面白くないだろう?」 俺はサンジェルマンに会計を任せてさっさと家に帰ることにしよう。 こういう店の雰囲気は苦手だし…… 正直言って大人の女性というのは近くに居るだけで嫌なのだ。 「そういえば気になってたんだけどさ。」 「どうしたんですか?」 「朝比奈秀雄って、本当に悪い奴なのか?」 「……どういうことでしょうか?」 「いや、俺が戦った限りでは確かに悪い奴っぽかったけどさ。 なんていうか、違うんだよなあ? あいつが悪い奴ならもっと楽しようと思うはずなんだよ。 あれじゃあまるで、『組織』が憎いみたいじゃないか。」 「私の頭では貴方の話が理解出来ないようです。」 「いや、悪いことするだけなら『組織』を敵に回さなくたって良い。 俺みたいに自分の我が儘で動くんなら仕方がないけどさ。 ―――――――違うかい?」 「まぁ、別に悪いことだけが目的ならばそもそもこの町に来る必要はない。 というのは正しいですね。」 「じゃあ彼は何をしに来たんだろうか?ここで俺は面白い仮説を一つ立てた。」 「聞かせてもらいましょうか…………。」 「あいつは単に家族が欲しいだけなんじゃないかなあ?」 「え?」 「第一に、家族の為じゃなければ人間にあんな非道な真似はできない。 第二に、家族の為じゃなければそもそもこの町にこだわる必要はない。 第三に、家族、乃至大切な人の為じゃなければ大量の竜との契約など無茶な行為は出来ない。 違うかな?」 「それは………………。」 まあ答え合わせはどうでも良い。 思いつくままに話しただけだ。 サンジェルマンに会計を押しつけると俺は綺麗なお姉さんの居る店を出ることにした。 プルルルルルル プルルルルルルル 電話だ。 明日恋路からの物のようだった。 おおかた明日真の身に何かあったのだろう。 と、なると黒服Hも出張ってきたか? 「はい、こちら笛吹探偵事務所。」 「やぁ所長、これから……」 「これからあまり事務所に行けなくなりそうだ。 何故なら組織、というか黒服Hに止められたから。 違うか?」 「正解。なんで解ったの?」 「声の調子で解る、人間心理なんて所詮パターンだ。 心は無限に変化するなんて綺麗事、俺には通用しないぜ。」 「そうですか、じゃあ理由もわかりますね?」 「おう、お前の主が『組織』と対立せざるを得なくなったら俺に電話しろ。 その時は面白い物を貸してやる。」 「え?」 「俺が只のフリーの契約者だと思うなよっつー話だよん。 これから忙しいから切るぜ、じゃあな。」 通話は早々に切った。 組織が今の通話を利用して俺の位置を特定してくる可能性もある。 俺はとりあえず急いで事務所に帰ることにした。 「組織、教会勢力、首塚、朝比奈秀雄、あと呂布、この町は問題を抱えすぎている。 まあ町なんてどこだって問題を抱えているだろうが……。 いくら何でも多すぎる。 何かに誘われているんじゃないか?」 「さぁて、それはどうでしょう?」 「……誰だお前。」 俺の隣をいつの間にか黒服の女が歩いていた。 とりあえず村正で斬りつけてみる。 見事に直撃。 豊かな胸から鮮血を吹き出して彼女はその場に倒れた。 「まあこれ喰らっちゃえば死ぬんだけどさ。」 「ハーメルンの笛吹きから得た悪魔の能力ですか? 一瞬で心臓を抜き取るなんてそんなことされたら “私死んじゃう”じゃないですかぁー。」 むくりと起き上がる。 黒服の少女はあっけらかんと笑っていた。 「誰だお前?」 「私は『組織』の中でも貴方を快く思っていない人間です。」 「こいつは愉快だ、『組織』に俺を快く思っている人間が居るのか?」 「あはっ、良いこと言いますね!」 「俺は良いことしか言わない、そんなの知っているよ。ついでにお前の能力も知っている。」 「それは嘘ですよー。」 「良いのか?嘘だ、なんて言っちゃって。」 正直に言うと当たりはついているが詳しくは知らない。 今解っているのは『言葉』が発動条件。 そして直接攻撃は出来ないということ。 おそらく何かしらの制限をもうけたタイプの都市伝説で言葉を交わさなければ俺を倒せない。 “私死んじゃう”の所だけ微妙に緊張していた所から推理すると 自分が出した言葉を現実に変える能力だろうか? 「嘘なんて、つくもんじゃないだろう? そういう能力の持ち主ならばなおのことだ。 言葉は選んで使わなきゃ、嘘なんてものも意味はない。 虚しいだけだ。」 キョトンとした顔でこちらを見つめる黒服。 恐ろしい物でも見たかのように顔が引きつっている。 馬鹿め、お前の気持ちなんて丸っとするっとお見通しだ。 「さしずめ黒服になる前に近親者を俺に殺されたってところか。」 黒服の顎に手を当てて顔を傍に引き寄せる。 中学生、高校生、少なくとも二十歳を超えているとは思えない。 「いいや、お前が被害者だったのかもしれないな? 覚えがあるぞ、お前の顔には。 そうだ、あのクラブだったかなあ? 俺が殺戮した少女Aだったかもしれないね。」 「さあどうでしょうかー? そもそも私が元・人間の黒服かどうかさえ…………。」 「純粋な黒服に言葉を介して発動する複雑な都市伝説の発動はできない。」 黒服が腰から銃を抜き放つ。 俺は村正でそれを真っ二つにして彼女の腹を割く。 「駄目だな、暴力で俺に勝てる訳がない。」 「それは、“嘘でしょう”。それにその刀じゃもう私は傷つかないですよー。」 次の瞬間、黒服はすごい勢いで俺を組み伏せた。 さっきまでの子供の何処にこんな力が有ったのだろうか? だがこれで推理は徐々に確信に近づく。 あと少しで、完璧にこいつの正体がわかる。 「お前、沢山の黒服と一緒に来ていたりするんじゃないか?」 「へ?何言ってるんですかー? 憎い仇相手なんだから自分でぶっ殺したいじゃないですかー。」 「そうか、このまま俺は殺される訳か?」 「いやいや、ゆっくり苦しんでから死んでもらいますよ。」 解った。 こいつの能力は嘘を現実にする能力ではない。 現実を嘘にする能力だ。 唯の能力に似ているがネタが割れれば対処しやすい能力だ。 黒服の手が首に掛かる。 「お前の能力、自らの言葉を嘘に出来るわけじゃないな。 俺の言葉しか嘘に出来ていない。 さっきから俺の言ったことが次々覆されている。 更に気になるのが今の俺の台詞は覆せるのか? 出来ないはずだ。 俺の言葉の中で俺とお前の間でだけ成り立つような物のみが現実になる。 まだ使いこなしていないみたいだな、それ。」 袖から取り出した小型の拳銃で黒服を撃つ。 小さな身体が道の中央に転がった。 「こんな攻撃で死ぬなんて……、嘘だ!」 少女の傷が一気にふさがる。 どうやら先ほど俺は余計なことを言ってしまったようだ。 まだつかいこなしていない、などと言えばそれを嘘にすれば彼女がレベルアップする。 あくまで俺との戦いの間だけ、しかもそれなりに代償は払ったのだろうが……。 今だけは彼女は嘘に出来る範囲が広がったらしい。 現実を少しばかりいじれるようになったみたいだ。 だが都市伝説の能力の拡張には限界があると考えて良いだろう。 今の彼女は恐らく自分に関わることならば嘘に出来るに違いない。 「本当に、嘘かな?」 「え?」 「俺には解らないな。」 「えっと……」 「それは事実かもしれないんじゃないか?」 曖昧なことは嘘に出来ない。 疑問は嘘に出来ない。 疑問から暗に込められた真意を読み取るのは人間だ、都市伝説じゃない。 こうすれば、都市伝説による無効化は不可能だ。 黒服の動きが止まる。 攻めるなら今だ。 「俺には解らない。 そして君にさえ解らない。 君が言ったことは本当に嘘なのだろうか? 幸いなのか不幸にしてか此処には君と俺以外誰もいない。 それはすなわち君と俺しか今此処で起きたことに真偽の判定が出来る人間は居ないってことだ。 しかしその二人が解らないのだ。 君が怪我しているかは俺たちに解っているんだろうか? 明快じゃないね、まったく訳がわからないように感じられる。 ところでだ、君とは明日真の居たクラブで出会ったらしいが、君はどうやって俺に殺されたんだ? ワラのように?屑のように?塵芥のようにかな? 惨殺か、斬殺か、銃殺か、重殺か。 一度死んだのに、一度殺されたのに、まだ俺とやりあおうだなんてずいぶん頑張り屋サンだ。 おいおい何か話せよ、君の能力はそういうものだろう?」 ジワリと黒服の傷口から血がにじむ。 少しずつ集中力がそがれているようだ。 物事を嘘にし続けるには集中力が必要らしい。 「そして次にお前はこんな弱い自分は嘘だ、と自己否定を始める。」 「こんな弱い自分は……嘘だ! ――――――!?」 「君は俺を倒すには力が足りないと思ったね? ところで俺に見越されていた程度の自己強化で俺にとどめを刺せると思うかい? 君の乱れた集中力で、君の『あぎょうさん』はどこまで保つんだい?」 黒服はジワジワと後ろに引き下がり始める。逃げ出す気だ。 恐らく俺の言った都市伝説は完全に当たりだったのだろう。 「おい、待てよ。」 黙ってこちらに背を向けて逃げ出す黒服。 仕方がない。 「仕方ないなあ……。」 息を大きく吸ってよく通る声で彼女に語りかける。 否、命令する。 「 ひ れ ふ せ 。」 ベタコーン! 彼女はまるでひれ伏すかのように頭を地面にたたきつけた。 「足がもつれた……?」 「驚いただろう?俺の特技だ。 俺は人間の意志を操ることが出来るんだよ。 元々人と会話する能力に長けていたからね、 少し操作系の都市伝説の影響を受けただけでもここまで特技が強化されたんだろうな。」 「そ、そんなの『組織』でも聞いていない!」 「そりゃあそうだろうさ、俺が独自に見つけた技術なんだから。 都市伝説は人間が本来持っている才能を磨き上げる能力があるのさ。」 俺はゆっくりと地面にひれ伏す黒服に近づく。 まるで自分が王者か何かでもあるように。 「顔をあげて良いぞ。」 再び逃げようとする黒服。 同じことをしても無駄だというのに。 「ひ れ ふ せ 。」 ベチコーン! 再び彼女は頭を打ち付けた。 「誰が逃げて良いと言った?」 「ひ、ひぃ……!」 脅えた少女の目。 良いぞ、ゾクゾクする。 「安心しろ、お前は殺さない、これから一晩かけて俺の話を聞いてもらう。」 まだこの年ならばハーメルンの笛吹きの能力も効くだろう。 契約者、特に黒服といえど此処まで心を折られたならもはや俺の操り人形だ。 俺のような操作系もそうだがこの手の事象に直接干渉する都市伝説は高度な集中力を要する。 もう彼女は俺に抵抗できない。 ところで先ほどの「ひれふせ」だが当然嘘である。 さっき組み伏せられた時、彼女の服の裾などにワイヤーを少し仕込んだだけだ。 それを彼女が逃げだそうとした時にひっぱって転ばせただけである。 無論、彼女は自分が操られていると錯覚したようだがそんなことはない。 言葉をかけるだけで相手を操れるなんて化け物の所行だ。 「一晩かけて俺の話を聞けば多分だけど俺を憎むことは出来なくなるだろうな。 安心しろ、退屈はさせないし殺しもしない。 ただ一瞬だけ、俺の下僕になってもらえるように丁寧にハーメルンの笛吹きの能力で後催眠をかけるだけだ。 まず、組織で俺を討伐する場合積極的に志願すること。 次にお前の目の前で俺を殺そうとした奴をお前がその腰の銃で撃つ。 ただそれだけの行動をお前の精神に嫌と言うほど刻み込んでやる。 お前は俺の下僕になるんだよ。 黒服になったんなら俺に関わらずに生きていれば良かったのにな! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! フフフハハハハハハハハハハハハ!」 さて、これで少し娯楽が増えそうだ。 ドラゴン退治の前に少しばかり楽しいおもちゃが出来た。 自我を失うまで調教してやることにしよう。 【上田明也の探偵倶楽部22~宴の準備~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4575.html
ゲーム王国編 第四話 【逝存競争】 「さて、今日はこんなところで勘弁してやっか」 「……ありがとうございまし、た……」 「だらしないぞ」 「んなこと言われたって仕方ないだろ。こっちだって逃げるのに必死なんだよ」 至村さんに都市伝説の説明を受けた翌日は都市伝説の能力の判別方法を教えてもらった。 その翌日は都市伝説や契約者との戦い方における注意点を。 さらにその翌日は契約していない非能力者との戦い方を。 そして今日は――実戦。 その辺に落ちていた棒切れを手渡され、ひたすら打ち込まれた。 体中血だらけ痣だらけになったが、至村さんに首筋を叩かれると不思議と痛みも痣も消えた。 「素質も無けりゃも才能も無い。後は鍛錬次第だな」 「どれだけやればいいの?」 「そいつは決まってるだろ、どれだけもこれだけもねえよ。――そうさな、都市伝説と関わらずに過ごしたいなら脚力を鍛えて逃げまくるしかないだろうな」 「そんなあ……そうだ、引きこもるってのは?」 「家の中も危険だけどな。『隙間女』や『ベッドの下の男』、ネットをやってりゃ『赤い部屋』なんてのもいるし。部屋の中で逃げ切れるか?」 「うう……」 「いつも通り生活して危ないのには関わらないってのが上策だろうな」 「逃げる前提の話か」 「あったりまえだろ! 怖いもん! 超怖いもん!」 「都市伝説と都市伝説は惹かれ合うって言ってな。これから先都市伝説に関わらず生活するなんてのは無理な話だぞ」 「マジで?」 「超マジ。『人面犬』、お前さんもここで野良やってたんなら聞いたことくらいあるだろ?」 「ああ。一説によるとこの町が契約している都市伝説って話もあるな」 「ちなみに契約解除して都市伝説の記憶もなくなった人間が再度都市伝説と関わる確率は六割だそうだ。この数字を多いと感じるか少ないと感じるかはお前さん次第だ」 「それは信用できる話なの?」 「さあな、うちのリーダーが言ってた」 「リーダー? そう言えば〈ゲーム王国〉とやらを造ると前に言っていたな」 「俺らのリーダーさ。昔〈組織〉とやりあったらしくてな。その時に聞いた話らしい」 「……〈組織〉とやりあっただと?」 至村さんの言葉に『人面犬』が眉を顰める。 見た目おっさんなのに犬って良く考えればシュールだよなあ。 いつの間にか慣れてしまった自分にもビックリだ。 今でこそ慣れたけど、都市伝説が実在して知らないところで戦ってるって話は眉唾もんだ。もしかしたら同じ工業高校の奴の中にも契約者がいたりして。……流石にそんなことになってたら契約者のバーゲーンセールになっちゃうか。 でもなあ、都市伝説がこんなにメジャーだったとは知らなかった。もしかして妖怪とかも都市伝説の括りに入ってんじゃないの? んなわけないよなあ……いや待て、そう言えば前に『人面犬』がそれっぽい話しをしていたような。 つーか、『人面犬』と契約してまだ六日目だってのにいつの間にか馴染んじゃってるのはどうなんだろう。 「ちょうど良く北海道に転勤になったから〈組織〉の眼を逃れたって聞いたな」 「そいつは運のいい話だな。連中に一度目をつけられたら逃げることはまず難しい」 「〈組織〉と何かあったのか?」 「……昔、少しな」 どうでもいいことを考えていると話は進んでしまっていたらしい。 なんだかシリアスな雰囲気を醸し出してる『人面犬』を意外そうに見る至村さん。 至村さんも謎が多いけどそれ以上に『人面犬』も謎が多い。 謎というか存在自体が不思議世界の住人だけど。 「おい」 「ん?」 「前にてめえを襲った黒服――〈組織〉には関わるなよ」 ◆ □ ◆ □ ◆ 「いつかは関わるとは思ってたけどこんなに早くなるとはね」 「戯けたことを」 A-№103が飛ばす苦無を避けながら錨野が笑う。 雨霰の如く彼らに降りかかる苦無の数、およそ五十。 錨野同様に高城も避け、残りのふたりはその場から動かない。 「――イリアス」 「出番だよ、シルビア!」 嘉藤の背後から現れた鋼鉄の剣を握る優男が、いつの間にか中元の隣に立っていた妙齢の美女が、飛んできた苦無を全て弾き落とす。 「こやつらは敵か?」 「ああ。ぶっ殺してかまわねえぜ、イリアス」 「楽しませてもらおう。いつぞやの黒服のようにすぐに死んでくれるなよ?」 「どうせ『NINJA』あたりだろうが、そんなことはどうでもいい。遠慮も容赦もしなくていいと言われてるんだ。その通りやらせてもらうぜ」 イリアスと呼ばれた男がA-№103へと白刃を振り下ろした瞬間、四人の黒服の中で一番大柄なA-№102が間に割って入る。 白刃を防いだのは成人男性の身長ほどもある大太刀。 「我の剣を防ぐか」 「太郎太刀に防げぬものは無い」 イリアスの鋼鉄の剣を防いだA-№102が笑う。 大太刀の長さをものともせずに振り払い、イリアスとの距離を取る。 その隙にすでにA-№103は後方へと退避を終えている。 「太郎太刀……? 真柄直澄、いや、真柄直隆か?」 「ほお、私を知る者がいるとはな」 「同一人物説か!」 「如何にも。『真柄直隆・真柄直澄同一人物説』。私は真柄直隆でもあり真柄直澄でもある。――さて、イリアスとやら、貴殿はどんな都市伝説だ?」 イリアスから視線を逸らさずにA-№102――朝倉義景が家臣、たったひとりの真柄兄弟は口元に笑みを浮かべる。 袈裟懸けに襲いかかる巨大な太刀の軌道を力任せに剣で逸らし、口から吐き出すは灼熱の炎。 炎に包まれんとするA-№102を救ったのは突如巻き起こった一陣の風。 A-№104の起こした風はA-№102を救うのみならず、鋭利な風の刃となりシルビアと中元を襲う。 シルビアは動じる様子無く、緩慢な動きで上下に開いた両の掌底を風の刃に当て、くるりと時計回りに一回転。 たったそれだけの動きなのに風の刃は霧散した。 中国拳法がひとつ、太極拳の動きである。 中元はその様子を横目で見つつ、忍者刀を持つA-№103に向かう。 逆にシルビアに見向きもせずに走り出したのは嘉藤だ。 狙いはひとつ――動く様子のないA-№109。 「イリアス、武器を貸せ!」 嘉藤の言葉に呼応するかのように嘉藤の足元から赤い刀身の剣が出現した。 走る勢いを殺さず剣を引き抜き、A-№109へと殺到する。 A-№109も落ち着いた様子で懐から玩具のような銃――黒服の標準装備のひとつである光線銃を取り出し乱射する。 右へ左へ避け、一閃。 A-№109の体は両断される――はずであった。 「大体わかりました」 傷ひとつないそのままの姿で静かに告げるA-№109。 「イリアスとシルビアどちらもゲーム系の都市伝説です」 「ゲーム系?」 イリアスの乱撃を大太刀ひとつで振り切ったA-№102が問う。 「一度本部に戻りデータベースで照合する必要がありますが恐らくはガセネタとして扱われていた都市伝説です」 「江良井卓と同種か」 江良井卓の契約している都市伝説『×ターン以内に斃せばエスタークが仲間になる』はゲーム発売後に子供達の間で広まったガセネタである。 能力はその名前通り、エスタークの召喚。 江良井卓との同種。――ゲームのキャラであるイリアスとシルビアの召喚。 「ネタが割れてもどうでもいい」 「バレたからって困ることじゃないしね」 A-№109の指摘に驚く様子も見せず、嘉藤と中元が並ぶ。 その横には契約した都市伝説のイリアスとシルビア。 「俺の契約都市伝説は『ドラクエ8のラスボスは主人公の兄イリアス』」 「こっちは『スパルタンXを24周クリアするとシルビアが襲ってくる』って都市伝説さ」 「能力はイリアスの召喚とシルビアの召喚。それがバレたからといって何ら不都合は無い」 どちらも能力ありきの都市伝説ならば己の契約する都市伝説が割れてしまうと戦闘が不利になるだろう。 だが、どちらの能力もゲームキャラの召喚。 江良井の能力と同じく、戦闘に不利はない。 「そっちは『同一人物説』と『NINJA』がふたり。君は『ラプラスの魔』や『アカシックレコード』ではなさそうだけど検索や知覚に特化した都市伝説っぽいね」 「否」 A-№104の体が闇の中に消える。 同時にA-№103が流水のような動きで中元に迫る。 「遅い!」 A-№104の姿が消失した辺りより左側に剣を突き立てるイリアス。 どこからか聞こえてきた鈍い金属音は剣を防いだ音だろう。 「闇に属する我に闇の攻撃が通じると思うな」 「中国四千年の歴史に流れ水くらいじゃあ勝てると思わないでほしいな」 同じく、左手で忍者刀を防いだ中元。 愉快そうに、子供のように錨野が笑う。 「〈ゲーム王国〉が建国したら王国内に〈日光江戸村〉を造ろう。どうだい、君達も〈組織〉なんか辞めて僕らの仲間にならないか?」 そうすることが当たり前のことのように、勧誘の手を差し伸べる。 嘉藤も、高城も、中元もこの勧誘に手を握り返した。 ある時は喧騒賑わう喫茶店で。 ある時は誰もいない夜道で。 またある時は血に塗れた一室で。 手を握り返さなかったのは江良井卓――ただひとりだけ。 不思議な男だとA-№102は考える。 彼は元人間ではなく都市伝説そのものだ。 彼らA-№100からA-№110までは、A-№100を頭とし、独自に動いている集団だ。 その誰もが元人間ではなく都市伝説そのもの。 『真柄直隆・真柄直澄同一人物説』であるA-№102はもとより、A-№103は『忍者服部半蔵』、A-№104は『忍者猿飛佐助』。 それぞれ元は別のナンバーに所属していたがA-№100が引き抜いてきた。 だからといって忠誠心がないかと言われると答えは否である。 彼らがA-№100に引き抜かれた最大の理由、それはA-№0への絶対の忠誠にある。 まだ誰も顔を見たことがないと言われる〈組織〉のトップであるA-№0――全てはA-№0のために。 総ての都市伝説を〈組織〉の管理下に。 総ての契約者を〈組織〉の力に。 総てを〈組織〉に。 全てはA-№0のためだけに。 非人道的な人体実験も人道的な支援も〈組織〉のために行なう。 A-№0の考えではなく、A-№0のために尽くす。それが全て。 無私。 A-№0のためなら彼らは何も持たない。 主義も主張も時間も空間も。己の姓名も他の生命も。 もしも彼らを分類するなら過激派よりも狂信派と呼ぶに相応しい。 その彼らに対し、仲間になれなどという勧誘。 今まで敵対してきた者達の中にも勧誘してきた者はいた。 命乞いのひとつとして、断わられるであろうことを予想しての勧誘だった。 だが、眼前に立つこの男は。 本気で言っている。 仲間にならないかと。 だが――A-№102の答えはひとつ。 今までの誰にも返した答えを。 「否」 この一言を口にする。 「そうか……残念だよ」 首を振りながら溜息を吐くと、彼らを見据える。 先刻までの愉快そうな笑みは無い。その眼はどこまでも冷酷に、残酷に。 「みんな」 一言一言を静かに。 「彼らを」 告げる。 「殺せ」 イリアスの右手に業火の塊が浮かぶ。 「メラ――ガイアー!」 A-№102へと振り下ろすと同時に立ち昇る狂炎の柱。 先刻と同じくA-№104から起こる突風を防いだのはシルビアの回す両の掌。 突風はきれいな太極図を描き、掻き消えた。 A-№103の手から放たれた苦無をイオで回避し、そのままA-№103へと殺到。 身を躱すべく足に力を入れた瞬間、中元の拳が膝をありえぬ方向へと折る。 そのまま左腕を絡め取り、横へ。 体制を崩したA-№103の右手を槍を手にした嘉藤が貫き、地面に縫いつける。 「まずは一殺」 バイキルトで強化されたイリアスの豪腕がA-№103の身体を――喰らう。 「次はどいつだ?」 地面から引き抜いた槍をそのままA-№103の額に突き刺して動かぬことを確認した嘉藤がA-№102を睨む。 睨まれた当人は眉ひとつ動かさずにまだ手にしていた光線銃を構えて撃ちだす。 「次はてめえか――!」 嘉藤が動くよりも走り出したA-№102。 巨大な刀を二刀――太郎太刀と次郎太刀。 重量をものともせず二刀を構え、そのままイリアスへと斬りかかる。 一刀は防いだが、もう一刀はイリアスの肩を割った。 「グッ……」 思わずイリアスが落とした剣を拾い上げたのは中元。苦し紛れに吐いたイリアスの炎をその剣に纏わせて逆袈裟に一閃。 闇の中から現れたA-№104がその身に棒手裏剣を連射する。 棒手裏剣を受けて威力を失った燃える剣は難なく弾かれ、飛び込んでいったシルビアの行く手を防ぐべく太郎太刀が迫る。 分身の術により嘉藤も行く手を遮られるも、イリアスは左肩を押さえてどうにか距離を取る。 「〈ゲーム王国〉建国者のあなたは動かないのですか?」 「んー、きみが動かないからね。きみ達も聞いての通り、高城くんは今回大事な任務があるから動けない。彼らはあの三人を相手してるし、もしきみが動いたらきみの相手をするのはこの僕ってワケさ」 「あなたが動かないのなら好都合です」 「そんなことよりいいの? きみのお仲間は殺られちゃったよ」 「そうですね」 顔色ひとつ変えず、A-№109はA-№102に呼びかける。 撤退です――と。 「ここいらが潮時か。――退くぞ」 「御意」 「逃げられると思ってるのかよ!」 「無論」 懐から取り出したのは記憶消去装置。 一般人相手にならばその名の通り記憶を消す。 都市伝説、契約者相手には意味をなさないそれを躊躇わず作動。 赤光は目眩ましとなり、彼ら〈ゲーム王国〉の面々の網膜を焼く。 視力が戻ってきた彼らが見たものは地面に突き刺さる苦無と棒手裏剣。そして戦闘の跡を色濃く残す血溜りであった。 「うーん、実に鮮やかな撤退だね」 ◆ □ ◆ □ ◆ 戦闘が行なわれていたのと同刻。 〈ゲーム王国〉建国のメンバーである新居忠は公園にいた。 場所は四日前に高城が江良井と黒服を閉じ込めた場所である。 彼が戦闘に参加しなかった理由――幽閉した異界出入口の監視。 一度能力が発動してしまえば高城には『アメリカ村』で何が起きているかを知ることはできない。せいぜいが出入口が開いたか閉じたかがわかる程度だ。 自らの意思で出入口の開閉は可能だが、開けた場合に江良井が生きていたら出てくる可能性がある。 高城は現実世界の一日が『アメリカ村』内で三年過ぎるように設定した。 幽閉されてから四日。単純に十二年の時を江良井は過ごしていることになる。 都市伝説も封じられ、十二年の月日を異界で過ごせるとは思えないが、万が一ということもある。 江良井卓と相対した者ならば感じる不安――生きて戻るという可能性を完全に否定できない。 とはいえ、すでに四日。 見えぬ異界に何ら変化はない。 ――所詮は杞憂に過ぎないか。 異変が起きたのはそう考えた時である。 空気が――震えた。 どこからか聞こえる何かを叩く音。 頬を振動する空気が叩く。 「まずい!」 そう叫ぶと同時――宙が割れた。 紙を破いたような亀裂。 この世界と異界との裂け目。 「ここは……あの公園か?」 江良井卓が十二年の時を越え、四日振りに学校町の地を踏みしめた。 「ど……どうやって……」 信じられぬものを見た眼で新井が震える。 「あそこに行った時に初めて見たポケモンがホウオウで助かった」 「どういう……」 「『アメリカ村』か『アジア村』か知らんが、あれはレアなポケモンが出てくるという都市伝説――ガセネタだ。ホウオウが飛び立つのを見た俺は、ここなら空間を破る力を持つポケモンがいると踏んだ。お前の年齢ならポケモンは子供のゲームとしか認識していないだろうな。パルキアと呼ばれるポケモンの名を聞いたことはないか? そいつが持つわざ、あくうせつだん――亜空切断。空間を切り裂く技だ。異空間を斬り裂くくらいは容易なことだろう?」 「だが、そう簡単に……」 「時間はかかったがな。見つけてしまえば後は捕らえるだけ。理には適っているはずだ」 あるモンスターが老教授のメガネケースの中に入り込んだことから、衰弱時に縮小して狭いところに隠れるという本能が発見された。そこから試行錯誤の上製作されたのがモンスターボール。また、地方によってはぼんぐりという木の実で捕獲していたこともあり、ぼんぐりをボールに加工する職人も存在する――というのがゲームの設定である。 ゲームの中に入り込んだ江良井は、ゲームの設定に則ってモンスターと徒手空拳で戦い、捕らえることに成功した。 そこから先は異界を切り裂くモンスターを探すだけである。 江良井にとって幸いだったのが高城の都市伝説が子供達の間で伝えられた通りだったことだ。 レアなモンスターが出てくる――子供達の間では何匹までという制限は無い。 伝説と呼ばれるゲーム上では一体しか手に入らないレアなモンスター。それらが一体ではなく数体存在していた。 パルキア以外の伝説クラスのモンスターとも数え切れないほど遭遇している。 正式なモンスターボールを有していない江良井は自生している木の実を加工し、簡易的なボールを作成。数え切れないほどの失敗を繰り返した上、ようやく目的のモンスターの捕獲に成功した。 「捕獲後に行なったことは空間の境界がどこかを見極めることだった。あの世界は延々と広い空間のように見せかけているだけで、ある一点でループしている。もっとも、気がつけたのは偶然だがな」 「だからといって……そんなことできるはずがない!」 「時間は無限にあった。戦うための力を得ることすらもな」 「……力を得る?」 「あれはポケモン同士を戦わせて経験値を得て強くするゲームでもある。何も捕らえるだけがゲームの楽しみだけじゃないということだ。次から次に出てくる仕様のせいで実戦には事欠かなかった。お蔭様で多種多様の敵への攻略法も編み出すことができた」 十二年であり、四日間の時は江良井を強くするための時間となった。 逆境を糧に。 言葉にするのは簡単だが生半可な精神力でできることではない。 「説明はこれで終わりだ。次は俺が質問させてもらおうか。見たところ俺が閉じ込められてからそう時間は経っていないようだが、今は何年の何月何日だ?」 「……今は平成二十三年の――」 問いに答える新居だが、ふと違和感を抱いた。 江良井が過ごした時は年数にして十二年。四日前、彼は三十代だったはずだ。高城の設定通りなら目の前に立つ江良井は少なくとも四十代でなければおかしい。 それなのに、今いる江良井はどう見ても四十代には見えない。 それどころか以前一度だけだが見た時よりも若々しく、まるで二十代のような精悍さではないか。 「その若さは一体……?」 新居は知らない。 一千年に一度目覚め、三つの願いを叶えるモンスターがいることを。 高城の空間を破る直前に江良井が叶えてもらった願い――亜空切断に異界を破る力を与えること、今の記憶をそのままに二十年前の肉体に戻すこと、捕らえたモンスター全てを逃がすこと。 かくして願いは叶えられ、江良井は無事に戻った。 十二年の記憶と技術をそのままに、江良井が二十代の頃の肉体を取り戻して。 「説明は終わりと言ったはずだ。俺からの最後の質問をさせてもらう――お前は敵か?」 諦めたような笑みを口元に浮かべ、問いに応えるように新居は静かに構えた。 江良井への敵対を禁じていた錨野に侘びることはできないだろうとの覚悟を決めて。 続 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1539.html
Sombre Dimancheより あいつがどう言う思いで任務についているのか、俺はわかっているつもりだ だから、なるべくあいつに仕事を回したくない あいつは、俺に頼られていないと思っているのかもしれないが …俺は、俺なりにあいつのことを考えて、そうしているつもりだ 俺は俺自身がロクでもない存在である事は自覚しているつもりだ そんな俺なんかに担当されちまった不幸なあいつに、せめて辛い思いはして欲しくなかった …だから 今回の仕事も、俺一人で充分だ 「相手を自殺させちまう、ってのも殺人の一環なんだぜ?知ってるか?」 「…そうだったんですか?」 暗闇の中、声が響く …またか、と彼女はため息をついた 何故、そんな言いがかりをつけてくるのだろう? 私は、悪い事なんてしていない ただ、音楽を馬鹿にした相手を自殺させて そして、濡れ衣を着せられて殺されそうになったのだから、自身の身を護っただけなのに 「でも、あなたのお仲間に関しては、私、正当防衛ですよ?」 「うん、間違いなく正当防衛だな。疑いようもなく」 暗闇の中、相手の姿は見えないが、何か納得したように頷いた事だけはわかった だから 「…それでは、帰ってもいいですか?」 「いや、それは困るんだよな。俺も仕事で来た訳だから」 ………しゅるり 地面を、何かが這って近づいてくる 黒い、触手のような……違う、髪の毛? 「そう言う訳なんで、悪いけど死んでくれや?俺としては、美人のねーちゃん殺すのは勿体無いから嫌なんだけどな」 …あぁ、またか、と彼女はやはり、ため息をつく ゆっくりと近づいてくる触手から、数歩離れ、歌いだす 「♪ ~ Sombre dimanche Les bras ~ ♪」 歌には、音楽には、力がある 歌は、音楽は、人の心を動かす 人だけじゃない、動物、植物……命ある者、全て その全ての心を動かす事ができる だから、私は歌うのだ 「…「暗い日曜日」、だったか?自殺者がたっぷり出た呪われた歌」 --------え?と 歌う事はやめず、しかし、彼女は確かに、途惑った 相手は、歌を聞いているはずだ しかし…聞こえてくる声に、相手の様子に、変化はない 「俺が担当してる契約者も…あぁ、今日は連れて来てねぇぞ?そいつも、な、お前と似たようなタイプの都市伝説と契約してるんだよ。呪われた歌。その歌を聴いた相手を問答無用で呪い殺す、そんな都市伝説」 …しゅるるるる、と 髪が彼女に迫るスピードが、速まる 「そいつなぁ、歌が好きなんだよ。歌うのが好きなんだよ。多分、あんたも音楽g明日きなんだろうが、それよりもずっとずっと、あいつは歌うのが好きなんだ」 しゅるり とうとう、髪の先が、彼女を捕えた 「だからよ、俺はあいつに仕事させたくねぇんだよ」 しゅるしゅると 脚を伝い、髪は彼女を束縛せんと絡みつく 歌う事はやめず、その髪から逃れようとするが…髪は彼女の皮膚に食い込み、逃さない ……何故!? 何故、私がこの歌を歌っているのに…相手は、心が動かない!? 彼女の困惑など知らぬ様子で、相手は一方的に話し続けている 「あいつは、歌が好きだから。歌うのが好きだから………だから、あいつの大好きな歌で、あいつが歌う事によって誰かを殺させるなんて、俺はさせたうねぇ。あいつは、歌を愛しているからな」 じゃり、と 暗闇から、それは姿を現した 黒服の男、その髪が伸びて、伸びて…伸び続けて、彼女を束縛していた 全身を締め付けるように絡み、絡み…しかし、何故か喉だけは締め付けず、他の箇所だけを締め付け続けていた 喉を絞めれば、もう声はでなくなると言うのに しかし、その喉だけを残し、束縛を続けてくる 「…あんたも、音楽は好きらしいな?音楽を馬鹿にしたって理由で、相手を殺すくらいだ………だが、な」 サングラスの下から、黒服が彼女を見つめる ……その視線は、蔑んだものだった 「あんたは、その大好きな音楽で、人殺しをしたんだよ。音楽を愛する資格なんて、ないんじゃねぇの?」 「---------っ、して」 とうとう、歌うのをやめて 全身を締め付け、食い込む髪の痛みを感じつつ…彼女は疑問の言葉を口にする 「何故……っ私の歌で、心が動かないの……!?」 「ん?……あ~、それか」 彼女の疑問の声に、その黒服はこの場にそぐわぬ笑みを浮かべた …一瞬、その笑みが悲しげに見えたのは、気のせいだったか? 「悪いな。俺の心って奴は、とっくの昔に壊れてんだ。どんなに他人の心を動かせる歌でも……俺には、なんともねぇや」 …ぎりっ、と とうとう、髪が喉にも、絡みつく 「俺は、二回死んでんだよ。一度は人間として死んで、この黒服になってからも一回死んで………だから、もう死ぬなんざぁ、御免だしな。あんたの歌にゃあ、俺は殺されねぇよ」 全身に、髪が絡みつく それは、皮膚に食い込み、どろどろと彼女を出血させ始めていた 「…音楽が大好きなあんたが歌う歌だ。それで自殺なんてしちゃあ、失礼だしな?」 その言葉が、彼女が聞いた、最後の言葉だった 次の瞬間、彼女の体に食い込んだ黒服の髪の毛は、一斉に彼女の体をバラバラに引き裂いた 最早、人の原型すら残す事も許されずに……彼女は、その短い生涯に幕を下ろした 髪を元に戻しておく 残されたのは肉片、血溜まり 濃い血の匂いが、辺りを染め上げる 「…あ~、後始末面倒だな…」 髪についた血を軽く払いつつ、黒服Hはぼやく …勿体なかったな、と思う なかなかの美人だったのだが 「綺麗な声してたしなぁ」 自分が担当している「呪われた歌」の契約者の彼女も綺麗な声をしているが…さっきの女も、良い声だった それはもう、いい勢いで髪が伸びるくらい 「でも、まぁ…歌で殺すことに戸惑い持ってなかったし、やっぱ彼女とは違うよな」 「呪われた歌」の契約者には、その声で他者を殺すことに戸惑いがある …その行為に、悲しみを感じている だから、自分は彼女に仕事をやりたくない 今回の仕事は特に、だ …歌で他人を殺す事に戸惑いのない奴を、彼女に合わせたくなかった 「さぁて、とっとと後始末して帰るか…」 …途惑っていたな、あの女 そんな事を考える 確かに、あの歌を聴いたら、普通は自殺するのだろう どこまでも憂鬱になり、どこまでも自分と言う存在が嫌で嫌で仕方なくなって……生きる事に、絶望して 自殺してしまうのだろう、普通は だが、彼にそれは通用しない 何故ならば……彼は、とっくに絶望しきっているからだ 自分自身に、世界そのものに…とっくの昔に、絶望している だから今更、あの程度の絶望で自殺したりはしないし ……彼の心は、とっくの昔に壊れている それもまた、事実なのだから 黒服Hが立ち去った後には、肉片も、血溜まりも残っていなかった …ただ、かすかに、血の匂いだけが、その場を染め上げているのだった fin 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3301.html
「司祭と小鳥と少年」より * ケモノツキ_12_公園のベンチにて 「…ならば、悠司。俺に、この国の都市伝説を、教えてくれないか?」 「え…僕が、ですか?」 「あぁ。迷惑でなければ、だが。」 公園のベンチに並んで腰掛ける、カインと悠司。 カインの瞳が、悠司をじっと見つめる。 悠司は一瞬悩む。 僕なんかが人にものを教えるなんてできるのか、と。 目を伏せながら、カインに言葉を返す。 「迷惑だなんて…むしろ、嬉しいです。」 だが、一瞬で改める。 カインさんは、僕を頼ってくれた。 なら僕は、その気持ちに精一杯答えよう。 悠司は顔を上げ、カインの瞳を見つめながら、言葉をつむぐ。 「僕に出来ることなら、なんでもします。」 「…ありがとう、悠司。」 お礼の言葉と共に、カインは悠司に微笑む。 その微笑につられるように、悠司もまた、微笑んだ。 ・ ・ ・ 「えっと…まずは何から説明したらいいのか…。」 『んなもん適当でいいんだよ。』 『それでも問題ないとは思いますが、危険度や知名度が高いものから…が妥当でしょうか。』 『んーっと、町中で遭遇する奴で危険度No.1っていえば…兄貴?』 『……否定できませんね。』 あれは色々な意味で危険だ。色々な意味で危険だ。 悠司自身は「色々な意味」については理解していないが、危険な都市伝説だということは把握している。 「じゃあまずは、危険度が高くて遭遇しやすい、「兄貴」という都市伝説を。」 「アニキ?Brotherのアニキか?」 「名前のいわれはちょっと僕にはわからないです…。ただ、そう呼ばれているので。」 「いや、気にする必要はない。その「アニキ」は、何が危険なんだ?」 「えっと、まず、筋力がとても強いです。それと、ピンクのオーラみたいなものを出してパワーアップする…とも聞いています。」 「ピンクのオーラ…東洋に語られる”気”のようなものか。」 「詳しくはわかってないんですが、似たようなものらしいです。」 「なるほど、気をつけるとしよう。その「アニキ」はどのような姿をしてるんだ?」 「あ、すみません。見た目は体の大きいボディービルダーで…服を脱いでることが、多いです。」 「…この町では、ピンクに光るボディービルダーが裸で町中を歩いているのか?」 「え、えっと、アレは特例というかなんというか…。」 どう説明したものかと、しどろもどろになる悠司。 このままでは、学校町に対して間違った印象を持たれかねない。 ――――あながち間違っているともいえないが。 『あいつらは変態だから仕方ないよねー。』 「あいつらは変態なので仕方な……あっ。」 「ヘンタイ?それはどういうものだ、悠司?」 「あ、う…えーっと……。」 再びしどろもどろになる悠司。 『主、話題を変えましょう。他の情報を。』 「そ、それより、危険な理由がもう一つあって!主に…というか9割以上、男性しか襲わないらしいです。なので、本当に気をつけてください。」 「なるほど、男しか襲わない裸のボディービルダーで、ヘンタイか…。」 「最後のは忘れてくださいっ!?」 『おい、お前のせいで変な言葉覚えてんぞ。』 『ま、まぁいいじゃない。いぶんかこーりゅーって大事よ?』 『変態を文化としてとらえるのはどうかと思いますが…。』 「凄く…やっちゃいけないことをしてしまったような気が…。」 うなだれて頭を抱える悠司を、不思議そうに見つめるカイン。 「…落ち込んでるようだが、俺が何かしたのだろうか?」 「い、いえ!カインさんは何も!僕が迂闊だったといいますか…事故といいますか…。」 「そうか…。何があったのか知らないが、俺は何も気にしてないぞ。」 むしろ気にされたら申し訳なさすぎます! と心の中で叫びつつ、変態という言葉を忘れてくれるよう全力で祈る悠司。 「…それより、この町には他にも多くの都市伝説がいるのだろう?続けてくれると、ありがたいのだが…。」 「は、はい!すみません!」 そうだ、当初の目的を忘れちゃいけない。 たとえ変態という言葉を覚えてしまったとしても、それで警戒心が強まるなら、なんら問題はないのだ。 と、自分を無理矢理納得させ、顔を上げて再びカインに向き直る。 「えっと、有名で目撃件数が多いものから…で、いいですか?」 「ああ、悠司のやりやすい方法でかまわない。」 「ありがとうございます。じゃあ、一番目撃件数が多い「口裂け女」という都市伝説から…。見た目は赤い服で……」 ・ ・ ・ 公園のベンチに並んで語り合う、カインと悠司。 その光景を、金の瞳をした小鳥が近くの木の上からじっと見つめていたが、 悠司がその視線に気付くことは、なかった。 【ケモノツキ_12_公園のベンチにて】 終 「続・司祭と小鳥と少年」へ続く 前ページ次ページ連載 - ケモノツキ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1394.html
永久の力 01 ―その日、ついに存在し得なかったモノの存在が確認された。 その名は― 俺、坂上俊也は現在進行形で危機に直面していた。 人通りの少ない裏路地、近道だからとこんな所を通らなくてもよかったぜ… で、何が危機かというと、 「ガルァッ!!!」 …はい、思いっきり獣に襲われかけてます。2本足の狼、人狼って奴です。 「あんましこいつを使いたくはなかったけどな…」 俺がそう呟いてる間に、人狼の方は俺に向かってくる。そして俺の体を斬り裂こうというのか、鋭い爪の伸びた腕を振りかぶるが― 「ギャイン!!!」 人狼は俺とは反対方向に飛んでいく。 振りかぶった瞬間に、俺は懐から拳銃を取り出して狼野郎にぶっ放した。 ただし、これは普通の銃ではない。 "超電磁砲"(レールガン)。これが俺の契約した都市伝説だ。一応"~ガン"と付いているので、拳銃を媒体として使っている。 レールガンは、電磁誘導による反発を利用して物体を前に押し出す兵器の事だ。 分からない人の為に要約すると、リニアモーターカーとか、どっかのロボットアニメに出てくるリニアカタパルトとかそんな感じである。 細かい事は、"とある科学の超電磁砲"か"とある魔術の禁書目録"でも読んでくれ。 理論的には実現可能なのだが、現代の科学力では常温超伝導技術等がまだ未発達のため実現不可能なのだ。 もし実現したら、という一種のifが都市伝説"超電磁砲"を生みだしたのかもしれない。 おっと、長ったらしい説明の間に狼野郎が起きだした。 間髪いれずに俺は"超電磁砲"を連射する。 しかし、当たる前に避けられてしまう。当たった場所はクレーターやら風穴になっていた。外すとこうなるから俺は嫌だったのだ。 「…チッ!やっぱし素早いな、狼だけあって」 決定打を当てられぬままただ時間だけが過ぎていく。 ちなみにこの"超電磁砲"、電力消費が激しい。しかも、消費する電力は今の所は俺自身の摂取カロリーなので、不謹慎ながら腹減った… 体力が限界になりかけて、狼野郎が俺に襲いかかる!その時― 狼野郎に閃光が走る。ヤツの眼前で"超電磁砲"をぶっ放したのだ。黒焦げになり、そして消えゆく人狼。 一度は尽きかけた俺の体力だったが、もう一つの都市伝説の発動で事なきを得た。 ―都市伝説"永久機関"。俺の契約する2つ目の都市伝説だ。 能力としては大きく分けて2種類ある。 1つは"第一種永久機関"、即ち「仕事」や熱量の受け取り無しに無限にエネルギーを生成し続ける、というものである。 もう1つは"第二種永久機関"、即ち熱効率100%の熱機関の生成。 かなり噛み砕いて要約すれば、「仕事」によって得られたエネルギーをそっくりそのまま回収するというものだ。 しかし、この"永久機関"は、物理学の観念からいえば存在するはずのないものである。 エネルギーを全て仕事に変える、という事は即ち、低温状態の物質が外的要因なしに高温状態へと遷移する、と言うことである。 これはトムソンの法則やクラジウスの法則等において不可能とされている。 つまり、"第二種永久機関"は実在する事はない。また、"第一種永久機関"はエネルギーの保存則が成り立たないために存在しない。 そう、本来は"永久機関"など存在しないのだ。 これもまた、もしも存在したらというifがこの都市伝説を生みだしたのかもしれない。 先程は"第一種永久機関"を発動して得たエネルギーを電力に変換して"超電磁砲"をぶっ放した。 「…相手が悪かったな、狼さんよ。」 そう言って俺はその場から立ち去る。 前ページ次ページ連載 - 永久の力
https://w.atwiki.jp/legends/pages/703.html
これは、少し昔の話 まだ、「首塚」組織が出来る前の話…… 「ん……------」 目の前で酩酊状態の少年を前に、店主はほくそえんだ 本人は高校生だ…と言い張っていたが、まだ中学生だろう 年齢を偽ってバイトの面接に来た時点で、訳アリに決まっている だから…たとえ、この少年が行方不明になったとしても、周囲はさほど騒ぎ立てないだろう いや、騒ぎ立てたところで、彼はそれを問題とはしないのだが -----ねぇ、知ってる? あのお店のバイトの子って、しょっちゅう入れ替わるでしょ? あれって、どっかの国に売られてるからなんだって どうして売られるかって? そりゃあ、エッチなお仕事につかされるためらしいよ? 面接の時点で、既に選別されるんだって そこで選ばれると…売られちゃうんだって そんな噂があった そんな都市伝説があった 店主は、その都市伝説と契約していた …いや、そもそも、彼には「契約した」と言う自覚はない 自覚などないままに、彼はその仕事を行っていた 面接にきた、主に女性を相手に、水に能力で作り出した特殊な液体を混ぜて飲ませ、今のこの少年のような状態にして そして、じっくり、じっくりと選別して 売り物になりそうだったら、売り払う その相手がどうなるのか、彼は知らないし興味がない ただ、対象の初物を得られるのが楽しくて、彼はそれを続けていた 彼は気付いていない 無意識に都市伝説と契約してしまった時点で、彼は既に都市伝説に飲み込まれかけていた 彼の器は、あまりにも小さかったのだ 都市伝説を受け入れる器が、あまりにも小さすぎた だから、すぐに飲み込まれかけてしまった 既に彼は、彼自身が半ば都市伝説となりかけている 「…さぁて、男相手は久々だが…」 相手は、まだ中学生だ …この年頃で、まさか後ろの経験なんぞある訳ないだろう あったらむしろ驚く その手の才能が、あるかどうか じっくりと、選別させてもらおうか 「------んん」 するり シャツの下に、手を滑り込ませる 少年特有のきめ細やかな肌の感触を堪能しようと…… 「---そこまでです」 「っ!?」 駆けられた声に、慌てて振り返る 彼の能力が発動し、誰も入り込めないはずの部屋 …その部屋の入り口に、何時の間にか、黒服の男が立っていた 彼に銃を向け、静かに告げてくる 「…その少年から、離れなさい」 「っく……「組織」か!?」 都市伝説の知識などほぼないはずの彼であったが、なぜか「組織」の事は知っていた その理由を、彼は知らない 彼の以前にこの都市伝説と契約し、「組織」に消された人間がいるなど…そんな事実を、彼は知る良しもないし だからこそ、その知識を自分が受け継いでいるのだ、と言う事実など知らない ただ、彼がいますべき事は あの黒服を、どうにかする事だ 幸い、ひょろりとした体格で弱そうだ 不意さえ打つ事ができれば… そう考えて、彼はそれを発生させた 己の体から、人間だけではなく、都市伝説相手すら効果のある薬を生み出す それが、彼の力 薬の効果は、彼の思いのままに作り上げられる 睡眠薬なり媚薬なり、毒殺できるような薬こそ作れないが、他人を思いのままにできる薬を作り出せる その、応用だ 体内で睡眠薬を合成し、彼は体中から発生させる 霧状になったそれは、部屋を包み込み… ----しかし、黒服に、変化はない 「…対策を打たずに来るとお思いますか?」 「っち……」 眠らせてやろうと思ったのだが…中和剤か何かでも飲んできたか!? 薬が効かないとなると、不味い あの銃で一発でも撃たれたら、彼は死ねる 彼自身の肉体は、強化などされていないのだから 「…く、くそっ!」 少年は惜しいが、仕方ない 彼は急いで部屋の奥へと走り、隠し扉の奥へと逃げ込んだ そのまま、外へと…… 「おぉっと、残念」 ……しゅるんっ 何かが、彼に巻きついた 「逃走経路はとっくに把握済みなんだわ、これは」 先程の黒服の声よりは、幾分かは感情豊かな声が…まるで死刑宣告のように、彼に突きつけられた 「大丈夫ですか?しっかりしてください」 「……ん」 …駄目だ 睡眠薬の類でも、摂取させられたようだ 意識が定まっていないのだろう、ぼんやりとしていて…こちらの声も、聞こえているかどうか 黒服は、すぐに「ユニコーンの角の粉末」を鞄から取り出した 少年に、飲ませようとするが… 「………」 …口を、空けてくれない 水は…コップに入ってる分は問題外だ。鞄にミネラルウォーターが入っているから、それを使えばいい ただ、どちらにせよ口をあけてくれない事には… 「…仕方ありませんね」 強引にでも、飲ませなければ そう考えながら、黒服はミネラルウォーターのペットボトルを、あけた 「悪いねぇ、お前さんに恨みはないんだけどよ……むしろ、女の子相手にエロエロする。それに関しては羨ましいと思うよ」 しゅるしゅるしゅるしゅる その黒服の伸びる髪が、店主を束縛する 全身を髪の毛で覆われ、店主は苦しそうにもがき苦しんでいた …それだけ、ではない 全身を締め付けられ、呼吸など最早できていないはずだ 「でも、まぁ、こっちは黒服成り立てでよ……上の信頼を得なきゃいけないだわ、これが」 困ったように笑いながら、黒服はそう言って …そして、残酷に言い切った 「だから、悪いけど死んでくれや。俺が上から信頼を得るために」 ぶちんっ!! 店主の首を、髪で引きちぎる ぽい、と、なるでボールのように投げられたそれは、壁にぶつかり、ごろん、と床を転がった 「うっし、終わりー!」 ぐぐぅ、と背伸びする黒服 とてもじゃないが、たった今、人殺しをしたようには見えない …と、携帯が着信を告げて、黒服はすぐに応対した 「あ、はいはい……あぁ、始末したぞ………ん?あぁ、被害者がいたのか……まぁ、未遂かどうかは割りとどうでもい…あ~、わかったわかった。そう責めないでくれよ。とりあえず、そいつ、送ってやるのな?……わかった」 …やれやれ なんとも、優しい同僚がいたものだ 黒服に優しさなど、必要なのか? …この黒服には、その必要性がわからない 「ま、いいか」 後始末は任せられた ……すなわち! 「店のどこかにいるかもしれない、囚われのおねーちゃんたちの扱いは俺に任せられた、という事だな!!」 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!! 物凄い勢いで、髪を伸ばし この黒服はスキップなどしつつ、店内へと入っていったのだった 「………あれ?」 「あぁ、目が覚めましたか?」 少年を背負って、店を出た …薬の効果が切れたのだろう 少年が、意識を取り戻した 「…あれ…俺…」 「あまり、無理に喋らなくてもいいですよ…とにかく、家に送りますから」 「家………嫌だ……」 ふるふると 少年は、小さく首を振る 「…あんな所……もう、戻らねぇ…」 ……また、家出だろうか? 一瞬、そう考えたのだが…少年の声から感じられたのは、「家には絶対に帰らない」と言う、はっきりとした強い意志 今までの家出とは、明らかに違う もう二度と、家には戻らない…あの両親に対する、はっきりとした拒絶を感じ取れた 「…それでは、どちらにお帰りになられるので?」 「…………」 …返事はない ほぼ無計画で家を飛び出したのだろう 全く、困ったものだ ……しかし、少年の考えもわからなくはない あの家は…この少年には、酷すぎる環境だから 「わかりました、今夜は、ホテルに送りますから…家から、私物は持ち出しているのですか?」 「…きょーかしょとか、着替えとかは……ダチの家に…」 「わかりました。明日、その友人に連絡するのですよ?」 わかった、とそう頷いてきて 少年はこてん……と、力尽きて、寝息を立て始めた 小さく、ため息をつく この少年は、まだ中学3年 生活費を稼ぐ為に、アルバイトをしようとしたのだろうが… …あぁ言う都市伝説に引っかかってしまうようでは、危ない せめて、安全なアルバイト先を見極められるようになるまでは、自分が援助してやらないと 黒服はそう考えながら、少年を背負い、夜の街を歩き続けたのだった fin 前ページ次ページ連載 - 首塚
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2396.html
酒には、不思議な力がある 適度に飲めば薬であり、しかし、度を過ぎれば毒となるそれ 心を開放的にし、普段口にできぬ悩みすらも、見ず知らずの人間に相談してしまうような事態にすら、物事を進めてしまう 彼、五十嵐にとって、酒の力に流された事は、不幸でしかなかった しかし、少なくともこの日、彼は幸運であったと、そう感じたのだ 「…それはそれは。大変な体験だったようで」 「……はい…まったく…」 ぐでんぐでんに酔っ払っている五十嵐 辺湖市新町の隣町である学校町 そこのとあるバーで、彼は飲んでいた そして、見事に出来上がっていた もう、飲まなきゃやってられない気分だったのである 何が悲しくて、初めてがマッスルな校長でなければならないのだ いっそ、死にたい 彼にとって人生の汚点とも言えるそれを、見事に酔ってしまっていた彼は、たまたま隣の席に座った中年男性に、ぼろぼろと話してしまっていた 恐らく、翌朝覚えていれば、後悔するであろう行為 しかし、この瞬間、己の中に溜め込むのではなく吐き出す事で、彼の心は多少なりとも、軽くなっていた …そして そんな、話されてもどう対応したら良いのかわからない、いっそ引くようなその話を 灰色のコートを着たその中年男性は、静かに聞いていてくれていて 話し終わった五十嵐を見つめ……問い掛けてくる 「…それで。君は、どうしたんだ?」 「え?」 「そんな、パワーハラスメントを受けたんだ。訴えようとか、そう言う方向に考えは及ばないのか?」 言われて、五十嵐は視線を沈ませる …訴える? それこそ、彼にはそんな勇気はなかった 人生の汚点とも言える、禍々しい行為 それを、裁判所に訴えるなど、恐ろしくて、恐ろしくて とてもじゃないが、できない それを、正直に話すと…ふむ、と中年男性は、ゆっくりと続けてくる 「…復讐したいと、そう思わないか?」 「復讐…?」 「君に、そんな行為を行ってきた、その男を。社会的なりなんなり、抹殺したいと……そうは、思わないか?」 酷く、物騒な事を話される それは、と五十嵐は視線を彷徨わせて……悩む それが、できるならば……と、一瞬 ほんの一瞬、考えてしまって その瞬間 ぱりんっ、と 五十嵐の中で…何か、卵が割れたような そんな、錯覚を感じた 『復讐シチマエヨォ、憎インダロォ?』 「--------っ!?」 己の中に、響いた声を 五十嵐は、確かに聞いた 「…どうした?」 「い、いえ、何も」 中年男性に不審がられないよう、慌てて返事をする 何だ? 飲みすぎて、幻聴が聞こえるようになったか? 『殺シテェダロォ?テメェヲ汚シタソノ野郎、メッタメタノギッタギタニシテヤリテェダロォ?』 声が、楽しげに誘惑してくる 酷く、酷く、誘惑的なその声 破壊的なことを行えと、それは楽しげに誘ってくる 何が起きているのか 酔った思考が、混乱する その混乱に、拍車をかけるように…中年男性は、笑って、五十嵐に提案をしてくる 「…都市伝説と、契約して見ないか?」 「都市……伝説……?」 そう言えば、あのおぞましい行為を行っていたとき 校長が、そんな単語を発していたような気がした 「そうすれば、君は新たな扉を開く事ができるだろう……君に、おぞましい行為を行ったその人物を。ありとあらゆる意味で抹殺できるだけの力。それが、手に入るかもしれない」 「…力、が」 『ソウダゼェ!!ホラホラホラホラホラホラホラァ!契約シチマエヨォ!!!』 中年男性の言葉を後押しするように、内なる声が誘う 都市伝説と、契約 そうすれば…力が、手に入る? あの校長に……復讐、できる? 悩む五十嵐の前に…中年男性は、す、と 一枚の紙を、見せてくる 「それは…」 「都市伝説との、契約書だ。君に相応しい都市伝説の名を、既に記入している……後は、君がサインをすれば。君はこの都市伝説と契約できる」 『ホラホラホラホラァ!!目ノ前ニ力ガアルゾォ!受け取トッチマエ!!力ヲ手ニ入レチマエヨォオオオオ!!!!』 二つの声が誘う 契約しろ、と誘惑してくる あまりにも魅力的な、その誘い ……酔って混乱した思考 いや、この瞬間、もしかしたら、酔いが覚めて、冷静になっていたかも、しれないが この夜、彼は悪魔の囁きに乗ってしまった ……帰り道 雪が舞い散る道を、彼は一人、歩いていた 何だか、気分が随分と軽い 一体、自分は何故、あんなにも思い悩んでいたのか それが、何だか馬鹿らしくなってきた 一人帰る、彼の前に 「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」 響き渡る、笑い声 やせいの あにきが てんからまいおりてきた !!! 全裸のマッスル兄貴が、天から降りてきた それは、某最強マッスル禿から生まれた野生の兄貴 男を「ッアー!?」の道へと誘う存在 その、マッスルな姿に おぞましい存在を思い出し、五十嵐は眉を顰める 「OK,そこのお兄さん、Meと熱い夜を…………ん?都市伝説の気配…」 ……あぁ、そうだ 丁度いい 五十嵐は、ニタリと笑う たっぷりの、たっぷりの邪悪が篭った笑顔 彼の携帯が、着信を告げる 五十嵐は、迷う事なく、その電話に出た 『23時15分。私はどこ?くすくすくす』 向こう側から聞こえて来たのは、愛らしい幼女の声 その声に、五十嵐は愛情を込めて、答える 「君は、全裸の変態の背後にいるよ」 「む……!?」 咄嗟に、背後に振り返る兄貴 ……振り返った体制での、その、背後に 彼女は、姿を現した どすっ、と 兄貴の体に、ナイフが突き刺さる 「が……っ!?この……-----!?」 『23時16分。私はどこ?くすくすくす』 「その変態の、足元だよ」 振り返ったとき、それはもう、そこにいない 代わりに、全裸兄貴の足元に…現れて すぱりっ、その足が切り裂かれる 「------っ」 がくり、膝をつく兄貴 五十嵐は、その姿を……汚い物を見下ろすように、笑った 『23時18分。私はどこ?くすくすくす』 「変態の真上だよ……止めを刺してくれ」 『はぁい。くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす………!!』 響き渡る、幼女の笑い声 それを最後に……全裸兄貴の意識は途絶え、その命は学校町から消えた 『えらい?私、えらい??くすくすくす』 「あぁ、偉いよ……質問女」 『褒められた、褒められた!くすくすくすくすくす』 傍らを歩きながら、しかし携帯電話で話してくるその幼女 都市伝説 質問女と手を繋ぎ…五十嵐は、至福の表情だった あぁ、自分は素晴らしい力を手に入れた 素晴らしいパートナーを手に入れた この力があれば……! 「…あぁ、そうだ……今度、あの人に礼を言わないと……」 携帯の番号は手に入れている 後で、礼をしなければ この、素晴らしい力を与えてくれた彼に……恩返しをしなければ 家への帰り道、質問女とて繋いで帰っていきながら 五十嵐は、悪意を滲ませた笑みを、浮かべ続けていたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1664.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ ある魔術師の物語 * ♪LiVE / EViL (試験運用中) * ── これは、誰にも語られることの無いはずの物語 ── 俺は平凡な人生を歩んできた 他人からは、誰からも真面目な人間と評される様な生き方だった だが、勇気は無かった 良い事をするのにも、恥ずかしさが先に立つ そんな平凡で気弱な男だ 高校、大学も地元 それなりの学力 それなりの体力 就職も親に勧められるままに、地元の市役所へ なんの面白みもない男 与えられた仕事をこなすだけの日々 だが、ある日……気付いた 俺が生まれた町は、子供の行方不明・事故が多すぎる 最初は、何が起こっているのか判らなかった そして唐突に 俺は魔法を使える様になった 俺を取り巻く世界は変わる 都市伝説の存在を知った今、子供達が行方不明になる理由が分かっていた この都市には、人外の化け物──都市伝説──がいる それからは戦いの日々 悪しき存在を滅ぼし、子供達を救った 都市伝説を狩りつくした翌年には、子供達が消える割合が全国と比べ差異のない値となる この時、間違いなく……俺は、正義だった それは今、冷静に考えても変わらない事実 * しかし、いつの間にか俺は 敵──都市伝説──を探して歩く様になっていた それが俺の役目だと信じていた 都市伝説は敵、悪しき存在 人間を守る為、俺は戦っている 疑う事など何一つなかった 次第にエスカレートする戦い、嗜虐性を増す俺 そして事件は起こった 起こるべくして起こった事件 ある喫茶店の善良な男を殺した 殺してしまった 俺は、混乱する 何故だ、何故こんなことになった…… 都市伝説がいけない……ヤツらが存在するからこんな事が起こる 俺は都市伝説を憎んだ これまで以上に憎悪を燃やした 都市伝説どもが俺を狙う 何度も死にかけた きっと俺の存在が邪魔なのだろう 俺はいずれ都市伝説のすべてを滅ぼすからだ そう思った……そう思っていた * そして山荘へ退避する 白痴の娘がいた どうしようもなく愚かな娘だった ある日、尿を飲まされる 洗面所へと走り、吐き出す 鏡を見た ひどい顔をしていた ───他人からは、誰からも真面目な人間と評される そんな面影は何処にも無い 魔法を使い、自分のステータスを確認する 絶句した 何故なら……俺は……都市伝説に脳を犯されていたのだから ── ゲーム脳 ── ゲーム脳とは ゲームを長時間やることにより、人間の脳の前頭前野という場所のはたらきが低下してしまった状態 物忘れが激しくなる、すぐ感情を爆発させる、無気力になる、などの悪い影響が起こると言われている それが俺を蝕んでいた都市伝説だった 正義の名の下に都市伝説を狩る これはゲームだった……俺にとって、本当にゲームだったのだ いつの間にとり憑かれていたのだろうか、今となっては永遠に闇の中だ だが、その時……ゲーム脳は消え始めていた 桃娘の力のせいだった あの尿には不老長寿の効果、不治の病を治す効果があったからだ 何度も聖水を飲み、ゲーム脳は消え 俺は自分自身を取り戻す しかし、時は既に遅かった 俺はもう、戻れないところまで来ていたのだから…… * 不幸は重なっていく 桃娘が倒れたのだ もともと成人出来る様な食生活ではない 都市伝説によって生かされている状態だった 聖水──尿──は徐々に甘くなっていた 腎臓や血管はどうしようもない程に傷み、糖は尿に漏れ出していた 今にして思えば、網膜も傷んで視力もあまりなかったのだろう あの桃の種を埋めた……あの場所から見える爽快な景色も 桃娘には見えていなかったと思うと、胸が苦しくなる 癒しの魔法をかける だが、一向に回復はしない 俺の魔法ではこの病魔には勝てなかった 桃娘の都市伝説が消えかけていたのだ そういう寿命を背負った都市伝説だったのかもしれない このまま消えてしまえば…… 都市伝説によって生かされている状態の桃娘は生きることが出来ない だが、俺には何も出来なかった そして、ある夜に桃娘は死んだ あんなに元気だった桃娘が…… 俺は悲しみを感じていた こんなに感情が溢れたのは、いつ以来だろう * 魔法──術式──を構築する 死んだものを生き返らせる魔法 詠唱する 徐々に命が戻っていく少女 だが、俺の体は魔法に耐えられない あまりにも高度な術式 急いで創り上げた術式に、バグがあったのだ 皮膚が裂け、血が噴出す それでも詠唱は止めない、止められるはずがない 眼を開く少女 意識が戻っていく 血まみれの俺を見て、口を開く ぃたぃの……ぃたぃの……とんでれぇ お前は何を言っているんだ 自分の置かれた状況が分からないのか 俺の傷のことなど後でいい 俺の為に泣くな 俺にはそんな価値は無い ぃたぃの……ぃたぃの……とんでれぇ お前は馬鹿なのか 嗚呼、そうだ……お前は白痴だったんだな どうしようもなく愚かで……どうしようもなく純粋な娘だった * 俺は詠唱を止める この魔法では、この娘を助けられない 死ぬ直前に戻すだけの魔法では、この娘を助けられない だから、俺は別の魔法を詠唱する 俺の組んだ術式の中で 最も短く、最も効果が弱く、最もダサい詠唱魔法 効果は肉体の再生……掌に収まる程度の傷を癒す術式 最も暖かい響きを持ち 最も優しい心から生まれた詠唱魔法 とんでれ 桃娘の口に合わせて呟く、何度も……何度も…… 癒される傷 笑う桃娘 何を……俺は何をやっているんだ…… 桃娘の遺体の前で俺は自失する * 朝がやって来た……運命の朝だった 問いかける声 嗚呼、そうだな……俺が殺した様なものだ 少年と対峙する だが、少年を殺すつもりなど最初からなかった 戦う意味などなかったが 手ごたえが無さ過ぎるのも、少年にとっては良く無いだろう 少年には、考えた上で……納得した上で殺して欲しかった しかし、少年は俺を殺せない 仕方ない、俺はあの魔法を使う 少年の契約者を殺した魔法 上手く避けろよ……そして、仇を討て だが、再び邪魔が入る 華奢な女 己を犠牲に他人を救う 馬鹿なことを考える人間がここにも居たか ダメだ、少女を避けられない 斬り落とされる右腕 驚愕……そして、安堵 助けられた、また命を奪うところだった しかし何故、俺は生きている 生きている価値など無いのに どいつもこいつも、甘すぎる * これはゲームだ ただし、主人公は俺ではない 主人公は少年、俺は悪い魔法使い 役割を演じる だが、これは誰でもない俺自身が選んだ役割 俺は倒された 悪い魔法使いは倒された ならば、世界は平和にならなくてはならない 物語の結末はいつだってハッピーエンドであるべきだ 俺が子供の頃に夢見た冒険の結末は、いつも幸福に包まれていた 世界が無理でも、少年は幸せを手に入れなければならない これが、このゲームのルールだ 俺は魔法を詠唱する バグを取り除いての詠唱 だが、この術式では足りない もう魔力が足りない 人の命を操作するには出力が足りない 術式に新たな一文を加える 天より降りしは水……命の水……我が命の水…… 俺の生命力を流し込む 桃娘からもらった長寿の力を全て注ぎ込む 今度は巧く組めた 疲れた もう、休もう アイツの遺体がある、あの場所で眠ろう 都市伝説が現実に存在するのだから、死後の世界もあるのかもしれない だが、アイツは天国で……俺は地獄…… もう二度と会えはしない * 俺は都市伝説が嫌いだ 都市伝説がなければ…… 俺はこんなにも苦しまずに済んだはずだ あの娘も自然に生きることが出来たはずだ あの少年の大切な人の命を奪わずに済んだはずだ 多くの者達を傷つけずに済んだはずだ 都市伝説などこの世に必要ない 俺は都市伝説が嫌いだ これは誰も知らない物語 語られるべきではない物語 語られた物語は都市伝説となるかもしれない こんな物語を元に都市伝説を生んではいけない だから、誰にも語らない ── これは、誰にも語られることの無いはずの物語 ── * 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
https://w.atwiki.jp/wiki5_meda/pages/9.html
赤マント (日本) 放課後、一人の女の子が学校のトイレに入った。 鍵をかけると、どこからか「赤いマントはいらんかね?」という声が聞こえてくる。 「いる」と答えるとナイフが降ってきて、服が血で真っ赤に染まる。 まるで、赤いマントを着ているかのように・・・。 昭和の初め頃にあらわれた都市伝説。 他に、赤と青のマントを選ばせてくる場合もあり、 青を選ぶと体中の血を抜かれて肌の色が青色になる。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4403.html
【不思議少女シルバームーン第九話 第二章「薫風」】 「やるじゃない、人間にしてはそこそこ頑張った方だわ。」 「はぁ、はぁ、化物め!」 「名前は……紅瀬だったかしら?覚えておいてあげる。」 スバルが去った後、紅瀬とヨツバは激闘を続けていた。 大量の使い魔を以て物量作戦で攻めるヨツバに対して、 能力で劣る紅瀬縁は現代兵器を駆使して対抗していた。 だがその戦力差は圧倒的、ものの数分で紅瀬は彼女に追い詰められていた。 「奢るな化物!」 紅瀬は懐から拳銃を取り出してヨツバに向けて引き金を引く。 弾丸はヨツバを守る大量の使い魔を貫通してヨツバの目の前まで届くが…… 「白紙の呪詛(ホワイト・アルバム)」 空中で静止する。 「動け!動け!動けよ!今動けなきゃ何のために力を得たのか解らない! 動いてよ私の身体!まだ終わるわけにはいかないのよ!」 「美しいわねえ……。必死であがき、生にしがみつく人の姿は。 使い魔共に食わせるのも勿体無いわ。」 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」 「氷漬けにして葬ってあげる……。」 ヨツバは使い魔を左右に引かせて、右手を冷気で輝かせながら紅瀬の元に歩み寄る。 「痛みは無いわ、せめてもの慈悲よ。」 「魔女に慈悲があるなんてね。」 「命乞いでもしてみたら?もしかしたら私が気まぐれを起こすかも。」 手を伸ばせば届く距離までヨツバが迫る。 彼女の持っている杖が紅瀬の首筋に触れた。 勝利を確信してヨツバは微笑む。 「遠慮するわ、魔女の慈悲には人間の悪意で報いることにしているの。」 だがしかし、紅瀬もまたこの瞬間勝利を確信していた。 ヨツバが最後の瞬間見たのは紅瀬の右手に握られたスイッチ。 「―――――――スイッチ、オン」 それと同時に彼らの視界は真っ赤に染まった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 遠のきかけていた意識。 その中でも誰かが彼女を呼んでいる。 「おい!おいあんた!大丈夫か!」 「あんたって何よ!この方は業界でも有名な魔女なのよ! いくら貴方でもそんなあんただなんて気安く……。」 聞こえてきた声にヨツバは目を開ける。 「あら、明也くんじゃないの?それにカイトちゃん。」 「え?なんで……」 「ヨツバさん、この人は明尊くんって言って上田さんの息子さんだそうです。」 常人であれば肺を焼かれる温度にまで熱せられたフロア。 半人半魔の明尊はこの程度なんのダメージもないし、カイトもまた然りである。 彼らは迷うこと無くこの階に突入し、そこでヨツバを見つけた。 紅瀬の捨て身の自爆によってヨツバは瀕死の重傷を負っていた。 「あらそう……、貴方がね。お父様に似て中々いい男だこと。 でもちょっと可愛らしすぎるわね、ワイルドなタイプの男が好みなの。」 「ヨツバさん!あまり喋ると怪我に障ります。 お腹に穴あいてますし……頭以外ほとんど火傷でひどいことになってます!」 「顔は女の命ですもの、咄嗟の魔法で最低限守ったわよ。」 「もう……とにかく薬を!」 「薬は良いわ、貴方達が使いなさい。」 「でも!」 「死にはしないわ。それよりも私より先に一人上に行った子が居るの。 彼を助けてあげて。」 「怪我は治すから!貴方が行ってください!」 「駄目よ、こんなみっともない姿、恥ずかしくて見せられないわ。」 「でも……!」 「カイト、行こう。」 「物分りが良いわね、偉いわ。」 「よく言われる。魔女とやら、後で俺の親父との関係を聞かせろ。」 「あら傲慢ね、考えておくわ。」 礼を言う、と短く答えてから明尊は振り返らずに階段を登り始めた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「貴方の話を聞いた限りでは、今の義兄さんの装備が戦いに耐えうるとは思えません。」 「そうよね、明尊ちゃんったらお父さんから預かった刀しか持ってない筈なのよ。」 「都市伝説だそうですけどあの人と武器系の都市伝説の適合率は低かった筈ですよ。」 「らしいわね。」 「そんな装備でジャックと戦えるとは思えません……。」 無線でルルと会話する霙。 彼女はエレベーターが通る穴をゆっくりと登っていた。 このルートならば簡単に最上階まで到達できるのである。 「ハローおまえら。」 「橙さん何やってるんですか。」 「東南アジアの空の下で優雅にバカンスだ。」 「あ、そっち制圧終わったんですか。」 「うん、ゲリラ戦なんて優秀な探知系が敵にいれば各個撃破の餌を提供するみたいなもんだからな。」 「それで、どうしたんです?」 「いやそれがなあ……F-No.の都市伝説保管庫から貴重な都市伝説が無くなっているんだ。」 「え?」 「監視カメラに明尊がバッチリ写っていてだなあ……。」 「後でこってり叱られる感じじゃないですか。」 「実は私が手引きしていてだなあ……」 「減給何ヶ月ですか。」 「数えたくない。」 「またお前も昔は真面目な娘だったのに!とか所長が泣くんだ。」 「兎にも角にもオペレーションは私がまたやるよ。ルル、お前のやるべきことは解っているな!」 「解ってますよ、つまり……どういうことだってばよ。」 「このすっとこどっこい!お前も今からアジト行って霙とかと合流しろ!」 「はーい。」 「え、ルルさんもこっち来るんですか。」 「きちゃいかんのか。」 「いえ、むしろ歓迎したいんですけど……」 「安心しろ、こいつだって戦闘機能は有る。」 「有ったの私に!?」 「霙、最上階まであと何キロォ?」 「えーっと、0.01キロくらいです。」 「意外と近いな。」 「ええ。」 「―――――――――じゃあ、そろそろか。」 橙は不敵に笑う。 「え?」 その瞬間、霙の真下から一陣の風が吹き上がってきた。 「まずはお前らに任せる、霙には最終兵器を持たせて行くからそれまで時間を稼いでいろ。」 風の正体を視認して霙は顔を輝かせる。 「任せてください!」 風は霙の手をとってエレベーターのドアをぶちやぶり最上階へと降り立った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「まだ……まだ終わる訳にはいかない。」 黒く焦げた肉片のようなものが這いずっている。 ギリギリ、人の形を保っていると言えなくもない。 「私には……まだやることがある。」 崩れ落ちるようにしながら階段を降りてそれはとある場所へ向かう。 「あと少し……。」 それが向かう先は彼女の部屋。 「確か、引き出しに……。」 一枚の写真。 それを手で握って植物へと変える。 花の名は蒲公英。 その綿毛を絶えかけた息で吹き飛ばす。 「……花、咲けばいいなあ」 そう行って、それはその場に崩れ落ちた。 【不思議少女シルバームーン第九話 第二章「薫風」】