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暗い暗いその部屋に、灰色のコートを着た男が帰ってきた 尾なしの犬を引き連れ、部屋に戻った男は……部屋の中にいた先客に、機嫌悪そうな表情を浮かべる 「……何の用だ」 「つれないですね。私は、あなたの協力者だと言うのに」 その女は、男…朝比奈 秀雄に、楽しげにそう、笑いかけた 白い髪が、ぱさぱさと揺れている H-No.9を名乗る、「組織」の黒服だ もっとも、黒いスーツの上に白衣を纏うと言うやや珍妙な出で立ちのせいで、「組織」の黒服と呼ぶには、やや違和感も覚える しかし、彼女は間違いなく「組織」の黒服であり…朝比奈に、「都市伝説との契約書」を「組織」から持ち出し、与え続けた女である とは言え…最早、その事実は「組織」にバレてしまった 消される前に「組織」を抜け出し、その際に持ち出してきた「都市伝説の契約書」が全て使い尽くされたならば…この女は、朝比奈にとってもはや用無しである こちらの事情を知る相手は出来る限り少ない方がよい 使えなくなった駒は、消すに限るのだ 「用があるのなら、さっさと言え。化け物が」 「まぁまぁ、そう言わずに……どうでしょう?私の契約都市伝説の力、あなたの計画に役立てるよう、使って差し上げましょうか?」 形のいい唇を釣り上げ、重たそうな胸を支えるように腕を組みながら、そう言って来たH-No.9 …確か、この女の能力は… 「…「病は気から」、か」 「そうです。この力を使えば……あなたがその権力を欲する家の今の当主の、三日以内にその命、終わらせる事ができますよ?」 「……余計な事をするな」 低く、そうH-No.9に告げる朝比奈 彼の不機嫌な思考に連動するように、クールトーが唸り声を上げる 「あの男に、今の状態で死なれては困る……翼が、次期当主に着く事を、確定させるまでは」 「他の当主候補を全員殺してしまえばいいのでは?」 「それでは、世間から不審の目を向けられる。それでは意味がない。なりふり構わぬのなら、それでも良いが」 冷酷に、そう口にする朝比奈 目的の為ならば、己の息子すら平気で利用する男だ かつて伴侶にした女の家族すらも、目的の為ならば容赦なく殺せる冷酷さは持っている だが、それでは、目的を達する上で、不都合なのだ だから、まだ殺さない ただ、それだけだ 「こちらの役に立つというのなら、その能力で街に不幸でもばら撒いておけ…ただし、日景の家以外にな」 「そうですか。それならば、そうしましょう」 笑い、H-No.9は部屋を後にしようとする その直前、朝比奈とすれ違い……どこか妖艶に、笑った 「…ところで。いい加減、あなたの三つ目の都市伝説、教えていただいても宜しいのでは?」 「……私が貴様を殺す事になったならば、その瞬間に知る事になるのだから、必要はない」 「………酷い人」 肩をすくめ、部屋を後にしたH-No.9 朝比奈は、忌々しげに彼女が出て行った扉を見つめた 「……化け物が………増長するようだったら、さっさと消してしまうか…?」 …いや あの能力には、まだ使いどころがある あの女が、裏切ったり、敵の手に落ちるようならば、その時に消せばいいだけのことだ 利用価値がある限りは、生かしておいてやってもいいだろう その価値がなくなるまで、使い潰してやればいい 「…しかし、コーク・ロアの兵が増えぬのは不便だな……対策を考えておくか」 兵は多ければ多い方がいい だが、所詮は使い捨てだ 使えば減るのだから、増やす方法も考えねばならぬ さて…どうしようか? 朝比奈は、どこか残酷な笑みを浮かべながら、思考をめぐらせるのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 悪意が嘲う
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【上田明也の協奏曲27~コガネイロウインド、もしくはやる気のない黒服の人にマジ土下座~】 「先ほどお姉さんと言ったが近づいて見てみると俺より年下っぽい外見だった。 雰囲気はお姉さんぽかったんだ。 なんかもうおねえちゃ~ん!って甘えたくなるくらいお姉ちゃんだったんだ。 せめてもの言い訳を皆さんには許して欲しい。」 「何を言っているんですか№6?」 「ああ、すまん。ちょいと独り言。」 「ええと、こちらがY-№0の葉さんです。」 サンジェルマンの言うところの仲の良い組織の人間。 Y-№0 見た目としては女子高生くらい。 街で携帯弄っていてもおかしくないかも。 「お初にお目にかかります、F-№6です。」 「よろしく~。F-№6ねえ……、サンジェルマンも面白いものを……。」 「葉様、この人……!」 「ああ、良いの良いの、こいつは危険じゃないよ。」 「そうなんですか……?」 「少なくともそこの錬金術師よりは安全だ。 とりあえず二人ともさっさと部屋入ってー。」 自然な流れでトリプルテールの少女共々部屋に引っ張りこまれてしまう俺。 なんかやっぱりお姉さんな気がする。 「まあ彼の正体はどうでも良いじゃないですか。 今大事なのは、彼が貴方の模擬戦の相手と言うことですよ。 Y-№13、F-№6、貴方たちには私たちの昼飯をかけて戦って貰います。」 「え、私が葉さんから聞いていたのは模擬戦だって……。」 「俺もだ、お互い怪我しないようにルールを決めて戦うだけと聞いていたぞ。 葉さんとお前の昼飯の件についてはまったく聞いてない。」 「ああ、それはついさっき決めただけです。 今回の勝負とはまったく関係ないので気にしないでください。 じゃあそろそろ時空間移動おっぱじめちゃうんでそこら辺の物に適当に捕まっててくださいねー。」 「え、ちょ、待…………!」 ガタァン! 「キャン!」 大きな音と振動。 危うく舌をかむところだった。 「舌噛んだ~……。」 一人本当に舌を噛んでいた。 「三尾、大丈夫?まったく、お前の移動はいつも荒いなー。」 「少し距離が遠かった物ですから……すいませんね、とりあえずドア開けてみてください。」 葉……さん、が部屋のドアを開ける。 「うおわあああああああああ!?」 「どうしたんですか葉様……? ええええええええええええええええええ!?」 「サンジェルマン、お前まさか転移先ミスったんじゃねえだろうな……。」 葉さんと三尾の少女の悲鳴を聞いた俺は二人を押しのけてドアの向こう側を覗いた。 「なんじゃ、こりゃあ…………。」 金色。 金ぴか。 金襴緞子。 錦繍スペクトル。 草も空気も川も川面も空も太陽も海も山も雲も木々もそれを彩る木の葉さえ 犬も猫も馬も牛も人も魚などは水から跳ねたその瞬間ほとばしる水滴ごと 諸々物々一切合切全て余さず漏らさず生かさず殺さずねがいましては全て併せてつるっとまるっとエブリウェア 全体的に徹底的に根底的に究極的に絶望的に最終的に とにかくとにかくとにかくとにかくとにかくとにかくとにかくとにかくとにもかくにも 世界のありとあらゆる黄金を其処に集めて国を作ったのか 古の愚かな王と同じ呪いを受けた人間をそこに投げ捨てたのか それともその両方かのように、全てが金色。 純金で輝く世界。 眼が痛い。 「いいや、此処で良いんですよ。此処が私の研究所(アトリエ)です。」 そう言うと、サンジェルマンは静かに胸元で十字を切った。 「お前、……こんなの組織のデータにないぞ? いや秘密の研究所くらい有っても良いんだけどこんなみょうちくりんな……。」 「良いじゃないですか、秘密なんだからデザインをまともにする必要はありません。」 「これ全部お前の能力か?」 「報告義務は無いって事で許してください。 二人とも、突っ立ってないで早く着いてきてください。 勝負にちょうど良い場所がありますから。」 サンジェルマンはそう言うと只立ち尽くすばかりだった俺と三尾に手招きをする。 俺たちが彼に従ってしばらく歩いていくと、そこには純金の森林があった。 木の種類は大半が針葉樹、触れば痛いでは済まないだろう。 「ここです。 お二人には此処で模擬戦を行って貰いたいと思います。 ルールは私と葉さんで話し合った結果、次のようになりました。 勝利条件は、お互いの頭に付けられた風船を割り、なおかつ相手の都市伝説の名前を当てることです。 多重契約をしている場合、使う都市伝説は一つまでにしてください。 審判は私と葉さんが行うので私たちの両方に都市伝説の名前を伝える時は、私たち二人に名前を伝えてくださいね。 敗北条件は、相手の身体に攻撃をあてることです。 怪我の程度によらず、ですから注意してください。 ただし故意に攻撃に当たりに行った場合は…… まあお互い自殺願望も勝って得することもないんで多分無いと思いますけどね。 ちなみに自分の身体に向かっている避けられる攻撃を避けなかった場合は、 ……死んでも勝ちたいならどうぞ。 即死じゃない限り治しますけど自分から当たりに行って無事であるとは思えません。」 さらっと怖い事言わないで欲しい物だ。 「そういえば思い出したんだけどさ。」 「どうしたんですかウ……、№6?」 「サンジェルマン、ウって何だウって。其処にいるのは№6じゃないのか?」 「呼び慣れてないんだから仕方ないじゃないですか。」 「お前、自分で呼び慣れてないって認めるなよ!」 「あーもう面倒だなあ、もう組織の中じゃないから良いだろう?はっきり言っちゃえ。」 「えー、じゃあ名前言っちゃっていいですか笛吹さん?」 「もう言っているんじゃねえか!」 「なんだってー、№6の正体はハーメルンの笛吹きとして組織と敵対する笛吹丁だったのかー。」 「くっくっく、バレちまっちゃしょうがないな。 中々良い感しているじゃないか姉ちゃんよぉ。」 「伊達に№0は張ってないさー。」 「ふっ、棒読みだが良い返事だ。DANDAN心惹かれ始めて来たよ。」 「ま、私はとっくに笛吹さんのまぶしい笑顔に心惹かれてマスケド。」 「あ゛ッー!?急に手を握るな!」 「あ、二人ともそういう仲なのね。別に愛には色々な形が有ると思うから私はまったく気にしないよ。」 「ちがああああああああああああああああああああう!」 「貴方たちは一体何漫才してるですか。」 「そういえば三尾ちゃんって眼がクリッとしてて可愛いよね。」 「そして笛吹きは何言っているのですか。」 「おいおい、家の三尾はそう簡単に渡せないぜ?」 「安心してください、笛吹さんは現在浮気発覚→都市伝説に見捨てられ という愉快極まりない状況になっているので本当に女性に手を出すほど元気はありません。」 「そういう事言うなよ!」 困った。 そもそも話そうと思っていたことがまったく話せない。 「そういえば葉さん、家の三尾は渡さないということでしたが……。 俺がもしこの勝負で勝ったら!食事に誘うくらいは認めてくれても、いいや! メールアドレスの交換くらいは許してもらっても良いでしょう!」 「おいおい、私が言った傍からメアド交換希望?不屈ってレベルじゃないですよ? なにそれ、自殺志願?」 「面白そうだ、が。そこらへんはやはり個人の問題だからなあ……。」 「勿論俺が負けた場合はこの、 『ハッピー・ピエロ、夏のゴージャスデザートバイキング無料券』を二人に差し上げましょう! ちなみに探偵としての仕事で報酬として貰ったので家にはあと何枚か余っているぜ!」 「なにぃ、……乗った!」 「葉様、私を無視して決めないでください。」 「安心しろ、三尾。私だって部下をこんな変態にさらさら渡す気はない。」 「会って五分で変態呼ばわり!?」 「F-№関連な時点でもう…………ね。」 「私は変態ではありません!男も女もいけるだけです!」 「ハイ、それアウトオオオオオオ!」 「突っ込みが追いつきません……。」 「そこでだ、良く聞け笛吹。三尾の代わりに私が賭の商品になろう! しかし私が賭けるのはメアドではない! ―――――――――――――――私の履いているパンツだ。」 「「な、なんだってー!!」」 「駄目です葉様!なんていうか色々アウトです!」 「良いだろう、部下の為に身を張るその精神、惚れたぜ! こっちの№0とは大違いだ! 賭の内容はそれでいこう!」 話がどんどんおかしい方向にそれている。 が、この際構うことはあるまい。 可愛い女の子のパンツを貰えるならばそれはそれで有りという物だ。 「それでは勝負は時間無制限一本勝負。 二人とも初期位置に立ってください。」 「うぃーっす。」 「はーい。」 俺と三尾は木を挟んで10m程離れて互いの都市伝説を準備する。 「勝利条件は相手の都市伝説の名前を当てること、 そして相手の頭の上の風船を割ることです。 都市伝説の名前は私たち二人に伝えてくださいね。」 「三尾頑張れ―、さもないと私が変態の毒牙にかかるぞー。」 「毒は毒でも一度溺れたら離れられない麻薬だぜ?」 「馬鹿な事言ってないで始めますよ。」 「用意、」 サンジェルマンが高く手を振り上げる。 「始め!」 合図の声が森の木々の間に響き渡る。 次の瞬間、三尾の姿が消えた。 戦闘の前に俺が今契約している都市伝説の名前を先に明かしておきたい。 その名前とは『ロッズ』あるいは『スカイフィッシュ』である。 300km/hを越える高速で世界中を飛び回る未確認生命体だ。 知能はかなり高いのだがこいつらと人間の言語で会話は出来ない。 言語を操る能力が高いと自負している俺としては、 たとえ犬であれ魚であれ植物であれ知能の高い動物と会話できないというのは我慢できない。 これでもサンジェルマンの飼っているイルカとは会話できたのだ。 と言う訳で 俺はこいつらを操作する時に数字を使ってみることにした。 どんな生き物でもある程度の知能があれば数字を理解することは可能だ。 この実験はそこそこ成功し、 数式を通じてであれば日本語を使ってもそこそこロッズを操ることが出来るようになったのだ。 その上、契約から日にちが経つごとに単なる行動命令なら考えるだけで伝わるようにさえなった。 今では数字を使うことで複雑な命令を集団に出す練習をしているところだった。 さて、話は現在に戻る。 タン! タンッタンッ! 金属に何かがぶつかる大きな音。 一瞬だけ木々の隙間から見える小さな影。 三尾の少女はその身体能力を生かしてモモンガのように木の間を飛び回っているらしい。 彼女の都市伝説は身体能力をあげる系統の物だと見て間違いないだろう。 俺の現在使っている都市伝説の性質上あまり近づけるのは良くない。 「α、β、γ、δ、座標軸俺でX^2+Y^2=3^2の円陣展開、間隔はπ/4 接近した物は全て迎撃せよ。」 俺は自らの都市伝説に命令を下すと、消えてしまった三尾を探す。 その刹那 パチィン! 俺の背後から何かが破裂する音が響く。 どうやら俺の都市伝説の内の一体がやられたらしい。 「其処か! -10<y<-2の赤い物にΣは突撃しろ!」 ―――――――――ッパァン! 真後ろで大気がはぜる。 質量は少ないが時速300㎞/hを超える速度で物体が大量に移動したのだ。 その移動の時も乱気流を生み出しただろうが、 それが移動した後も滅茶苦茶な空気の波を生み出すに決まっている。 「っと、危ないですね。」 案の定風に煽られて三尾が木から落ちてきた。 しかし、それにしては着地が上手い。 どういうことだ? すぐに体勢を立て直した三尾は真っ直ぐに突っ込んでくる。 自動で防御設定にしていたロッズ達が彼女の前に立ちふさがって高速運動する見えない流体の壁を作り出した。 三尾が腕を振る。 ――――――ひぅん ――――――――ひぅん 次の瞬間、ロッズが真っ二つになった。 「何なんですか?透明で見えないけれどもこの辺りに確かに何か居る……。」 「ふっ、俺は鎌鼬の使い手なのさ。」 「それは嘘ですね。」 ――――――ひぅん ――――――――ひぅん まただ、またくる。 風船の近辺にロッズを大量に配置させ、もう一度見えない刃の壁にする。 「ほう、何故断定できるんだ?」 「貴方のそれは、風の流れを邪魔しているじゃないですか。」 ふむ、中々詩的な表現をする少女だ。 きゅんとした。 もう一度、ロッズを使って乱気流を発生させる。 今度は彼女の真後ろで気流を発生させてみよう。 「……爆ぜろ。」 バァン! ……と爆発する筈だった空気が爆発しない。 俺が一瞬動揺した隙に、彼女は一気に距離を詰めてきた。 まずは頭部を狙った手刀。 俺には身体能力がない。 少し余裕を持って回避する為に大きく真後ろに飛んだ。 だが バン! 俺の風船は見事に弾けてしまった。 まあ良い、近づいたついでに相手の風船も割ってしまおう。 俺は少し前に踏み込むと足にロッズを貼り付けて蹴りを繰り出す。 足が折れそうになる痛みを堪えながらもすばやく二撃目三撃目。 器用にも三尾はジャンプしたり、バック宙しながら俺の攻撃を躱す。 一度飛んで、空中に足場が有るかのように真横に移動したり、 足を使わないで真後ろに飛び退いたり。 ノーモーションでの急な移動。 空中における機動力。 間合いの外からの攻撃。 解った、が念のため確認を行うとしよう。 「お前の都市伝説は解ったぜ。」 「――――――――え!?」 「鎌鼬、じゃないかな。」 「なんで解ったんですか?」 「え、それで良かったの?」 「…………騙したんですね!」 「騙したんじゃない、お前がポロッと言ったんだ! 葉さん、サンジェルマン、こいつの都市伝説って鎌鼬だろ?」 「当たりですね。」 「当たりだよ。」 「そんなああああああ!」 済まない三尾の少女よ。 俺は嘘つきなんだ。 「さーて、俺はその風船を破壊するだけで勝利か。 君の上司のパンツは頂きだぜ? 何色かなあ、黒だとお兄さんすっごく嬉しいぜ!」 「くっ、こんな変態に負ける訳には……!」 ロッズを大量に呼び出し、守備を捨てて攻撃に走る。 このゲーム、じつは先に風船を割らせてでも都市伝説の正体に気をつけた方が有利なのだ。 相手に怪我をさせてはならない模擬戦である以上、身体に攻撃は出来ない。 ターゲットである風船さえ割れてしまえば実質無敵状態。 ならばその間に都市伝説の正体を見定め、 その後攻撃できない相手を一気に倒してしまった方が楽という物だ。 「ここで審判団協議の結果、ルール変更でーす。」 「へ?」 「風船を先に割った方は、割られた方に攻撃を仕掛けても反則にならなくなりました。 まあ殺したら反則だけどそこらへんは加減解るし大丈夫ですよね!」 「ちょっと待てええええ!?」 「ほらー、一方的に攻撃するだけだとなんか絵的に面白くないでしょ?」 「そうそう。」 「そうそうじゃねえサンジェルマン! 話が違うぞ! そのルールを聞いていたから俺はこの作戦で戦ってたのに!」 「うるさいですねー、あまり審判団に文句付けてると……掘りますよ?」 「きゃー、男同士の禁断の世界ー。」 「葉さんもにやにや笑ってないでそこのホモ止めて!」 「がんばれよー、私は君を応援しているー。」 解った、こいつらと話しても無駄だ。 俺はさっさと三尾の風船を割るしかないようだ。 「――――――――射殺せ!」 高速で飛翔する矢のような音を立ててロッズが三尾の風船を狙う。 三尾は頭についた風船のひもをたぐりながら絶妙に風船の位置を移動させて躱している。 気流を読んで見えないはずのロッズの動きを捉えているらしい。 一、二体攻撃させた程度では躱されてしまうらしい。 だったら、数で攻める。 「α、β、χ、δ、ε、φ、γ、η、ι…………!」 う゛ぅうぅうううぅぅぅぅぅん う゛ぅぅうぅぅぅぅうううぅうぅん う゛うぅうぅうぅううぅううぅうぅぅん 幾つもの物体が空気を振るわせる音がする。 「1、2、3、4、5、6、7……、数えるのも面倒だ。 一体何処まで増やす気ですか。 そのうえこれ、“群体型”の都市伝説じゃない。 一つ一つ“個別の都市伝説”の気配がする。 貴方は一体幾つの都市伝説と契約してるんですか?」 「…………忘れた。」 これが群体型じゃないことに気付いたか、勘の良い少女だ。 胸が躍る。 「――――――υ、ω、ξ、ψ、ζ、全部隊招集。 最高密度最高速度円陣展開座標軸修正。 あの赤い風船を座標軸として座標軸に向けて集中攻撃。 攻撃行動はx^2+y^2+z^2 0.01に限定。 それと最優先命令、生命反応の有る物は攻撃禁止。」 「くっ、日本語で話してください!」 「Excusez-moiってか。ちなみに意味はマジですいませんでした。 フランス語だよ。」 「しったこっちゃないです!」 「ですよねえ……、今だ射出!」 黄金で出来た木が裂ける。 荒れ狂う風が小枝を折って当たりに撒き散らす。 「うわ、ずるっ!」 褒め言葉である。 空間が歪む。 本来透明なロッズがあまりに集まりすぎてしまった為に光が屈折しているのだ。 それと同時に彼女を中心に風の渦が出来る。 鎌鼬を使った竜巻か? 彼女としてもあれが恐らく模擬戦で出せる全力。 彼女を中心にして巻き起こる突風に俺は簡単に吹き飛ばされてしまった。 「いってぇなあ……。」 黄金にたたきつけられたのだ。 痛くない訳がない。 それでも頑張って立ち上がる、よし、俺偉い。 少し自分を賞賛したい気分である。 しかし立っていたのは俺だけではない。 三尾の少女も、風船を守りきって其処に立っていたのだ。 「はぁ、はぁ、……貴方の都市伝説はもう残ってませんよね?」 「うん、まあ時間が経てば復活するけど……今ので一度に出せる数は限界だ。」 「あと、貴方の都市伝説も解りました。」 三尾の少女がサンジェルマンと葉に叫ぼうとしたその瞬間。 隙だらけになったこの刹那。 パァン! 黄金の木立の中に乾いた音が谺した。 「FN-ファイブセブン、新型弾SS90(後に改良型のSS190)を用いるFN社の自動拳銃。 同社のP90をメインとした場合のサイドアームとして開発されたため、弾丸の共用が可能となっている。 使用弾薬のSS190は、ライフル弾を小型にしたようなボトルネック形状をしており、 弾頭は従来の拳銃弾のようなドングリ形ではなく鋭利な円錐形をしている。 そのため弾丸の初速が速く(秒速650メートル)、クラス3のボディアーマーを撃ち抜く貫通力を持つ。 弾が調達しづらいことを除けば命中精度、威力、速射性、共に素晴らしい銃器だ。 P-90をオタク銃アニメ銃漫画銃と馬鹿にしている馬鹿共を並べてこれでぶち抜いてやりたいよ。 あれはそもそもPDWと呼ばれる新しい発想を元にした銃器であって、 その過程における技術者の様々な創意工夫が詰まっているんだ。 それも知らずに散々馬鹿にしやがってマジ死ね畜生腹立つなあ! ちなみにイギリス陸軍ではP-90が正式採用されたらしい。 銃器も新しい時代に入ったのかもね、たーのしみー。 最近ではMP7がとあるジャンプ漫画で使用されたんだけど、今度から使うとパクリじゃねえかとか笑われるのかな? あれやる前から俺使ってたんだけどマジ腹立つわぁ。 あのMP7はH&K社のサブマシンガンで培った技術を利用して手堅い造りな所が高評価だよね。 マクロスのバルキリーで言えばYF-21とVF-19みたいな感じで対比できるかも。 さて、そんなことはどうでも良い。 すごくどうでも良いんだ。 三尾、君の風船は一体全体どうなっちゃっているかな?」 聞くまでもない。 三尾と呼ばれた鎌鼬の契約者の風船は、俺が拳銃で破壊していた。 「……“都市伝説を二つ使っちゃ駄目”とは言われたが、 “都市伝説以外使っちゃ駄目”とは言われてないもんなあ! あと、いくら名前を叫んでもこの銃声の中じゃあ審判には聞こえなかった筈だ。 違うかお二人さん?」 「まあ……」 「銃声で聞こえなかったよね。」 「そんなあああああああああああああああああああ!?」 「勝者、笛吹さん。」 「そうだね、ずるい気はするが完全に笛吹の勝ちだ。」 「うう、ごめんなさい葉様……。」 「なに、構うことはないよ。」 やったね!女子高生のパンツ、GETだぜ! 「ふふふ……、それでは例の物を渡して貰おうか……!」 「駄目です葉様!」 何故だろう。 まるで俺が悪役みたいな気がしてきたぞ。 「あぁ……、その件なんだが笛吹、少し謝らなければならないことがある。」 「俺はどんな種類のパンツでも漏れなく楽しめる変態だから安心してくれ。」 「いや、そうじゃなくてだな。私、今日はパンツ履いてきてないんだよ。 だからお前に賭けている物を渡せなくてだなあ……。 だって賭けていたのは“私の履いているパンツ”だからなあ。 これじゃあ賭けどころじゃないよなあ?」 「なん……、だと?」 「嘘だと思うんなら確かめても良いけど?」 「おいおい……。 ふふ、あははは…………ははははははは!」 成る程ね。 確かめようがない。 確かめる訳にはいかない、それは俺の美学に反する。 「無粋なんて言ってくれるなよ?」 「いいや、…………履いてないパンツで俺を釣るとはね! 無粋なんてもんじゃない、粋だよ! その心意気に感動した、この食べ放題チケットはあげるよ。 元々そのつもりで持って来たんだ。 縁が合ったらまた会おうぜ。」 「ははっ、そうか。 でも私はあんたみたいな食えない奴はお断りだよ。」 「くっくっく、そりゃあ残念。」 「いやー面白い物が見られました。 葉さん、そして三尾さん、おつきあい頂きありがとうございました。 一旦貴方の部屋に戻ってから、我々はもう帰ろうと思います。」 「ゆっくりしていけよ、茶漬けくらいなら出すぞ?」 「私は食える奴の方がお断りです。」 「そいつぁ残念。」 「普通食えない物を食おうとした方が浪漫有るじゃないですか。 まあつまり女性よりも男性の方が……ってことなんですけど。」 サンジェルマンが俺の方をじっと見る。 三尾に助けを求めてみたが見て見ぬふりされた。 俺の模擬戦はこうしてさんざんな結果で終わったのである。 【上田明也の協奏曲27~コガネイロウインド、もしくはやる気のない黒服の人にマジ土下座~fin】
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あなた方は幸せを望んでいる あなた方は幸せを喜んでいる それだけならば、まだ良いのです 何故、あなた方は誰かの不幸を望むのでしょう 何故、あなた方は誰かの不幸を喜ぶのでしょう 誰かの不幸を望む事で 誰かの不幸を喜ぶ事で その不幸が、あなた方にも帰ってくるかもしれないのに Red Cape きゃいきゃいと、クラスメイトたちが談笑している その輪に適当に加わりながら、私は繁華街を歩いていた 前方を、男子たちも適当に集団になって歩いている …あぁ、もう、道に広がってだらだら歩いて 他の人達の迷惑じゃない そう、ぼんやりと考えながらも…私は、その集団の中の一人をぼんやりと見つめていた 集団の隅で、他の男子たちとは、ほんの少し距離をとって やや、眠たそうに歩いている…彼を 「いいんちょー?どうかしたの?」 「…いえ、何も」 ぼんやりしすぎていただろうか 隣を歩いていた子に話し掛けられた なんでもないの、と曖昧に笑って返す 何を考えているのだろう、私は 確かに、彼には助けてもらった でも、もうそのお礼はしたし …これ以上、彼を気にする必要なんて、ないのに 「なぁ、ゲーセン寄っていかね?」 「俺はやめとく。ゲーセン好きじゃないんだよ」 「え~、なんでだよ」 「電子音が大音量で鳴り響いてて、苦手なんだよ。頭痛くなってくる」 …そうか、彼、ゲームセンターが苦手なんだ ほんの、些細な彼の情報 それがわかっただけで、どこか嬉しい …これが、恋と言う物なのだろうか 私には、よくわからない ただ、少なくとも、彼の方は特にこちらを意識などしてくれていないだろう、ということはわかっていた ただのクラスメイトの一人 そうとしか思われてない その事実が、どこか寂しいと思う 「ねぇねぇ?このワンピース可愛くない?」 「あ、本当。可愛い~!」 ふと、皆の声に、視線を皆と同じ方向に向ける ブティックの店先に展示されているワンピース 今は、あぁいうのが流行っているのだろうか? (……私も) 私も あぁいう服を着れば、少しは可愛くなるのだろうか 少しは、可愛くなれれば …彼に、少しは意識してもらえるのだろうか? ほんの少しの、淡い希望 翌日 学校が休みだったから、私はブティックになど顔を出していた こんな店、来るのは初めてで…緊張してしまう …これだ、この、ワンピース 皆が可愛いと言っていた 私も、可愛いと思う…けど、私なんかに、似合うだろうか 鏡の前で合わせてみるが、ピンと来ない …やっぱり、試着してみないと、わからないか でも……うん 悩んでいた私 試着室に行こうか、どうしようか 悩んでいた…その時 「………!?」 店の、外に 彼の姿が見えた 隣に居るのは…化学の先生だろうか? ちょっと服装のイメージが違うけど、そうだけと思う ど、どうして彼が…!? 別に、彼がこちらを見た訳でもない でも、万が一、彼がこちらを見て、私に気付いたら… それが、なんだか恥ずかしくなって 私は、試着室に逃げ込んだ ほっと、息を吐いて… ……直後 「………え?」 私の視界は、闇に包まれた 気がついたら、真っ暗な部屋だった ここが、どこなのか 思考が、そんな事を考え出した時… 「………っひ!?」 私の思考は、恐怖に支配された 私は、拘束されていた よくわからない台の上で、裸で拘束されている ……そして 私に、近づいてきている、男 ぺたり、足音を響かせて その手に…血塗れの、ノコギリを持って……!! 悲鳴をあげる その悲鳴に、男はニタリ、笑って こちらに、手を伸ばして…… 「………ッ花子さん!!」 …多分、幻聴なのだろう 彼が、誰か…多分、女の人の名前を叫んだ声が、聞こえてきた どぉんっ!!と 轟音が聞こえてきて……っふ、と 私の意識は、再び闇に落ちた 花子さんが操る激流が、扉を押し流す 中にいた男が、ぎょろり、こちらを睨んできた 「…っ委員長!?」 「み?けーやくしゃの知り合い?」 …あぁ、もう、なんでまた委員長が!? 俺は舌打ちして、花子さんと一緒に部屋の中に飛び込んだ 俺達という乱入者に、男はノコギリを構えて警戒態勢をとってくる 試着室で、女性が消える そんな、都市伝説がある 消えた女性は、何者かに誘拐されて売り飛ばされるのだと …そして、その都市伝説と関係がある、とされる都市伝説がある ダルマ女 両手足を切り落とされ、見世物にされていた女 それは、かつて試着室から忽然と姿を消した女だった… 二つの別々の都市伝説 しかし、関係が深そうに見えるが故に、こうやって一つの都市伝説にまとまっている事がある この辺りの店の試着室から、女性が消えた…と言う話を聞いて この辺だと、クラスメイトも利用しそうな店で、クラスメイトが巻き込まれたら目覚めが悪いよな…と思ったのだ だから、退治しようと …そう、思ってはいたが まさか、委員長が捕まっているなんて! ぶっちゃけ、委員長におしゃれとか死ぬほど似合わなそうなのに 本人の前で口にしたら往復ビンタでも喰らいそうなことを考えつつ…俺は、花子さんと共に男を睨みつける べたり、べたり 男は、ゆっくりと、こちらに近づいてくる 「…男はいらぬ。その餓鬼は小さすぎる…どちらも、いらん。解体して捨てるか…」 物騒な事を呟いている 嫌なこだわり持つな、畜生が まぁ、都市伝説は、ある種のこだわりが強い者が多いらしいが 「けーやくしゃをかいたいなんてさせないの!」 花子さんが俺の前に立ち、健気に両手を広げてくれている 俺を護ろうとしてくれているのだろう 相変わらず、いい子だ 「………死ね!!!」 男が、ノコギリを振り上げた 相手は、戦闘向きではないようだし、戦闘慣れもしていないようだ …もし、男が戦闘向きの能力を持っていれば もしくは、少しは俺達のように、戦闘慣れしていれば あの人の気配に、気付けただろうに ばしゃんっ!!と 男が振り上げたノコギリに、茶色い泡立った液体がかかった 直後……ノコギリは、じゅう!と音をたてて融けていく 「………!?」 「マジでこんなもんも溶かせるんですね、そのコーラ」 「うん、そうだよ」 にこにこと笑いながら、不良教師……の、弟さんが、部屋に入ってきた 手に持っているのは、コーラの入ったペットボトル 試着室の都市伝説を探していたら、たまたま、顔を合わせて …相手の潜伏場所に心当たりがあるから、と連れて来てもらったのだ そこで、軽く立てた作戦が、俺たちがハデに中に侵入し…弟さんに、背後から攻撃してもらう、と言う物 まさか、ここまでうまく行くなんて …ごぽ、ごぽ、と 弟さんが持っているペットボトルからは、コーラが溢れ続けている 「さぁ、逃げられないよ?」 「やっつけるの!」 武器を失えば、最早まともに戦う事もできまい 花子さんと、不良教師の弟さんのコーラ 二つの都市伝説に囲まれ…男は、歯軋りをしている 「おのれ……おのれおのれおのれおのれぇえええええ!!」 叫ぶ男 その、足元に 穴が、出現した 「……っ!?」 誰か、他の都市伝説の攻撃能力? いや、違う …逃げるつもりか!? 花子さんが、俺が持ち込んでいたトイレットペーパーを男に放つ 弟さんも、コーラで追撃したが…一歩、遅かった 男は、穴に吸い込まれて、姿を消す …逃げられた! 「大丈夫、僕の知り合いがね、他の契約者を別の潜伏場所に、待機させてるはずだから」 「…そっちで、何とかしてくれると?」 「うん、してくれると思うよ」 にこにこと、弟さんは笑っている …あの不良教師と同じ顔で、こうやってにこにこと笑われると…なんて言うか、凄い違和感が あの不良教師、ほとんど笑った事ないし…と言うか、笑い顔見た事ないし 「だいじょーぶなの?あのおじさん、誰かがやっつけてくれる?」 「うん、そうだよ」 かっくん、首を傾げた花子さんを、弟さんが撫でている …そうか なら、いいか 多分、大丈夫だろう それよりも、委員長を解放してやらないと そう考えて、俺は台に拘束されている委員長に視線をやって… 「…!?」 委員長の、格好を見て 俺は、急いで委員長から視線を外す 「み?けーやくしゃ、どうしたの?」 「あ、いや、別に」 「初心だなぁ」 にこにこ笑ったまま、弟さんがさっさと委員長に近づいて拘束を解いてやっている …大人だなぁ 単に、高校生なんぞに興味が無いだけか? ひとまず、俺は息子を冷静にさせるべく 首をかしげている花子さんの前で、小さく深呼吸したのだった …ずるりっ 男は、先ほどまでいた部屋とほぼ同じ作りの…しかし、かなり離れた位置に存在する部屋に、出現していた おのれ、餓鬼共めが 男にも小便臭い餓鬼にも興味がない 自分が作り上げる作品は、女でなければならないと言うのに…!! 苛立ちながら、男がここに置いてあった予備のノコギリを手にとろうとした、その時 「………め、かごめ」 「…………!?」 どこからか、聞こえてきた歌声 男が辺りを見ますが、誰も居ない 歌声は、続き、続いて ………っざん!!と 男の首は、男の背後に出現した何者かによって、一撃で切り落とされ ごろり、静かに床に転がったのだった 「…お疲れ様でした」 室内に、黒いスーツにサングラスといういでたちの男性は入り込んだ 刀を持った青年に対して、小さく拍手する 「お見事。噂通り、強力な力のようですね」 「お世辞はいりませんよ」 黒服の言葉に、青年は苦笑してきた あの「はないちもんめ」の少女を囮にした事がある、という話を聞いて軽く怒りは湧いていたが …まぁ、いいだろう あの少女には、慰めにケーキなりなんなりを奢ってやるか そんな事を考えながら、黒服は青年と共に、主を失った部屋を後にしたのだった 「ん……」 …意識が、浮上する ここは…病室? 「あ、目、覚ましたか、委員長」 「え………え!?」 え? ど、どうして、彼がここに そして…どうして、私はここに? 「わ、私…どうして」 「ブティックの試着室で倒れてたんだよ。店員さん、焦ってたぞ。 勉強か何かのし過ぎで、寝不足だったのか?」 あれ?…あれ? 私が、倒れていた? ……じゃあ あれは、夢? 「------っ!」 ぞくり 全身を走り抜ける、悪寒 リアルな感覚が、蘇る 夢? あれは、本当に、夢だった? 「うなされてたけど、悪夢でも見てたのか?」 彼が、そう言って来た うなされて……あぁ、そうか 私は、悪夢を見ていたのか 彼の言葉に、私はそう納得する …自分に、そう言い聞かせる そう、あれは夢だったのだ タチの悪い、悪夢 そうに決まっている あれは、悪夢だったのだ あんなことが、現実にありえるはずがない…! 試着室に入ったら、どこかに連れて行かれて そこで、殺されそうになっただなんて そんな事が、現実にあってたまるか……! 「んじゃあ、俺はこれで。委員長の家の方にも連絡しといたから、後で親御さんが来ると思うけど」 「------あ」 立ち去ろうとした、彼の後ろ姿に 私は、声をかける 「……あ、ありがとう」 「ん?…あ、どういたしまして」 私の言葉に、彼はそう返事して…病室を、後にした …一瞬 彼の横に、おかっぱ頭の小さな女の子がいたように、見えたのは 気のせい、だったろうか そう、まるで、「トイレの花子さん」のような姿の… 「……っ」 小さく、首を振る 何を考えているのだ 夢の中で、彼は「花子さん」と叫んでいた その花子さんが、彼の横にいたなんて …そんな事があるはずがないのだ それを、認められるはずが無いのだ それを、認めてしまったら 私は、あの悪夢が現実のものであったのだと、認めてしまう事になるから 私たちはここにいます どうして、気付いてくれないのですか 私たちは、あなたが他のすぐ傍にいます どうして、私たちを見てくれないのですか あなた方が私たちを生み出したというのに どうして、あなた方は私たちを見て見ぬふりをするのでしょう 私たちが血に染まるのも、また、あなた方のせいだと言うのに Red Cape 前ページ次ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
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うーうーうー♪ 少年は、ご機嫌に鼻歌を歌っている 俺はこいつの歩く速度に合わせて、ぶらぶらと歩いていた 将門様の下へ報告に向かう途中、たまたま顔を合わせたのだ 将門様に会いに行くと言ったら、自分も行く!と言って聞かなかった まぁ、いいだろう こいつ、なんだか将門様に気に入られているみたいだし うーうーうー♪ 少年は、ご機嫌に、ご機嫌に、歌っていたが 「……うー?」 …ふと その歌が止まった 「どうした?」 「うー……不吉。不吉の気配。うーうー」 「不吉?」 …他の都市伝説が それも、俺たちに友好的ではない都市伝説が、接近しているのか? こいつは、どうにも霊感的なものが強いらしい 契約した都市伝説の能力とは関係なく、都市伝説の気配を感じ取る事がある (…まずいな) こいつには、戦闘能力はない もし戦闘能力があったとしても、こんな子供を戦わせるなんて嫌である …きっと、あいつだって、そんな事は嫌がるだろうし 何とか、こいつを護りながら戦わないと 「…おびき出すぞ」 「うー!」 人通りの少ない路地へと、足を向ける てちてち、こいつもそれについてきて 「うー!ステーキのおにーちゃん、これあげる!」 「ん?…あぁ、ありがとうな」 渡されたのは、幸せの眉毛コアラ 見つけた者に、食べた者に、ささやかな幸運を 一種の保険でもあるそれを、口に放り込んだ ほのかな甘味が広がる 「……うー…不吉。近い、近い……うーうー!」 っと、こいつは、ますます、警戒しだした …相手の能力の影響下に入ったか? いつ、相手が仕掛けてきてもいいよう、警戒する 毎度思うが、俺の能力は不意打ち相手にはどうにも相性が悪い 発動まで、時間がかかりすぎるのだ 相手の肌がいい具合にこんがり焼けたら…そこからが、本格的な攻撃なのだから こちらから不意打ちする分には効果的なのだが、相手から仕掛けられるのは苦手だ いっそ、他の都市伝説とも契約しちまうかなぁ… …いやいやいや それをやると、都市伝説に飲み込まれやすくなるから駄目だ、と言われている 特に、同じようなタイプの都市伝説ならいざ知らず、まったくタイプの違う都市伝説との多重契約は危険だ、とあいつに釘を押されていた …それは、最後の手段なのだ ………それに……… ……と、その時 俺の隣にいた少年の姿が、消えた 「-----っ!?」 代わりに現れたのは、男 その手に、鉈を持ち…振りかぶった、体勢で こちらに向かって、鉈を振りぬいてくる! 「っと!?」 何とか屈んで、その攻撃をかわした ……っぶな!? あんなもんで切りかかられたら、流石に死ねるぞ!? どう考えても、敵意あり、殺意あり 敵とみなして、問題ないだろう と、言うより …少年はどこに消えた!? 少年を探そうとすると、男が、今度は鉈を脳天に向かって振り下ろしてきて っが、と 俺は、何とかそれを白刃取りして防いだ 「なん……なんだよ……手前は……ッ」 頭カチ割られた死体なんて、そんなジェイソンに殺されたような死体になるのは御免だっ! こちとら、高校の頃からしょっちゅう喧嘩に巻き込まれてきた 鉄パイプやら何やら、色々と頭上に振り下ろされた経験があるのだ これくらい、防いでやらぁ! ……まぁ、一部は幸せの眉毛コアラの効果のお陰もありそうだが ちらり、視界の隅に少年の姿が見えた …良かった、無事なようだ てちてちと、慌ててこちらに駆け寄ってきている …それなら 巻き込まない為にも、さっさと終わらせるべきだ! 男は、懐から何か取り出そうとしていた 予備の武器があるのだろう そんなもん、使わせるかっ! 能力を発動する 対象は、男ではなく…俺が触れている、鉈 別に、対象が人間である必要はない 生物・無生物に問わず、俺が意識すれば、熱する事ができる この大きさの鉈なら、さほど時間はかからない! 俺が触れている事によって、鉈が熱されていく速度は格段に早まる 熱による痛みを感じたのだろう、男が鉈から手を離して飛びのいた じゅう、と金属部分が溶けてきた鉈を投げ捨てる 刃の部分が溶け始めていたから、あれはもう使えないだろう てちてちてち 駆け寄ってきた少年は、俺の背後に隠れた そうだ、これでいい この男に他に味方がいないとも限らない こいつが怪我したら大変だ 「さぁて……形勢逆転だな。覚悟はいいか?」 この男から攻撃してきたのだ 正当防衛というやつである なんら問題はあるまい しかし、男は素早く身を翻し、大通りに向かって走り出した 「っ逃がすか!」 その後ろ姿を、慌てて追いかける …こっちの方がスピードはある 追いつける! ピタリ、男は足を止めた 観念したか、それとも、反撃でもしてくるつもりか? 反撃の隙など、与えるものか 能力を発動しようと、男を睨みつけた瞬間… 「え?」 「へ?」 ……んなっ!? 男の姿は、なぜか買い物袋をたっぷりと持ったおばさんと入れ替わっていた …相手の能力か!? 急いで、そのおばさんから飛びのき、路地に戻る 関係のない人間を巻き込む戦闘なんざ御免だ 「うー?逃げられた?」 「あぁ……くそっ、どう言う能力なんだよ、あのおっさん!?」 「うー……逢魔ヶ刻…うーうー!」 「逢魔ヶ刻?……入れ替わりかよ!?」 タチの悪い能力め! じっと見上げてくる少年に、苦笑した 「カッコ悪いとこ見せちまったな」 「うー!そんな事ない!ステーキのおにーちゃんカッコ良く戦った!うーうー!」 白刃取りー!と真似してくる少年 …勘弁してくれ 照れ隠しに、わしゃわしゃこいつの頭を撫でてやる 「…に、しても、だ。あのおっさんはこっちを襲ってきた訳で…俺達の敵だよな?」 「うー!敵!将門様の敵ー!うーうーうー!」 そう、敵だ 俺達「首塚」組織に、敵対の意思ありと見ていいだろう あの男の事も、将門様に報告しないと そうだ、あいつにも話しておこう 「組織」の人間だったなら、何か話してくれるかもしれないし もしそうじゃなかったら、無差別に能力者を襲う危険な奴がいる、と警告できる あいつの力になれるかもしれないじゃないか そう考えると、少し嬉しくなって 俺は、少年の手を引いて、将門様の下へ急いだのだった 終 前ページ次ページ連載 - 首塚
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夕刻の住宅街を、2人の少女が歩いていた。 中央高校の制服を着た、一卵性の双子の姉妹…姉の天倉紗江と妹の天倉紗奈である。 花を模したヘアピンをつけた大人しそうな少女が紗江で、カチューシャをつけた活発そうな少女が紗奈だ。 ちなみに、紗江の後ろを一匹の黒い大型犬が付いてきているのだが道行く人は誰も気づいていない。この黒犬は紗江の契約した都市伝説『犬神憑き』であり、都市伝説契約者以外には見えないのだ。 学校町という町は、都市伝説で溢れている。都市伝説は都市伝説を引き寄せやすい、という性質から、都市伝説契約者は都市伝説との戦いに巻き込まれやすい。 「…グルルル」 「…紗江ちゃん、下がってて」 前方の電柱の陰の気配を感じ取った犬神がうなり声を上げる。 紗奈が、通学カバンから携帯電話を取り出し、紗江を庇うように前へ出た。 紗奈も『怪人アンサー』と契約している契約者だ。 「私…綺麗?」 その言葉と共に電柱の陰から姿を現したのは、口裂け女だった。質問への返答などどうでもいいかのように手に持った鎌を振り上げ、姉妹に襲い掛かってくる。 「…行って!」 「この…!っがあぁ!!」 紗江が犬神に指示を出す。犬神は口裂け女に飛びかかり、喉に噛みついて動きを封じた。 「貴女に質問。2030年2月18日は何曜日ですか?5秒以内に答えて下さい」 その間に紗奈が口裂け女に質問をする。 …最も、質問に答えようにも、喉を封じられているために声を出すことは不可能なのだが。 「5…4…3…2…1、はい、時間切れ。アンサーさん!」 時間切れを宣告した紗奈が携帯電話に呼びかける。 「我が主君が問い掛けに答えられのうござった代償をば貰い受ける」 エセ武士口調の男性の声が答え、それと同時に携帯電話の液晶画面から巨大な手が出現し、犬神が口裂け女から離れたのと入れ替わるように口裂け女の頭部を掴んだ。 すると、掴まれた頭部が消滅し、それに伴って残りの部位も光の粒になって消えていった。 これは、『怪人アンサー』の「質問に答えられなかった場合、代償として体の一部を持っていかれる」という能力である。 「よーしよしよし」 口裂け女が完全に消滅した後、紗江が犬神を褒め、撫でまくっていた。 とっても幸せそうな表情をしているのは、紗江が小動物(特に犬)好きだからだ。 犬神の方も尻尾をぶんぶん振っていて、まんざらではないようだ。 なぜかムツ○ロウさんみたいになってる、とか突っ込みどころはあるものの、紗江が幸せならそれで満足な紗奈だった。 続く…?
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満月の夜 波の音だけが響き渡る人気のない埠頭に、黒尽くめの集団が現れた 彼等は寂れた倉庫へと足を踏み入れると、そこにはまた黒尽くめの男が一人、立っていた 集団の主要人物らしい男女が自らのフードを取り、前に出て男に歩み寄った 男はそれを確認すると、深々と御辞儀をして彼等を歓迎した 「「亞楼覇」の皆様ですね? お待ちしておりました」 「貴方が“売人”ね?」 「然様に御座います。真に失礼ながら、名前は伏せさせて頂きます」 「構わん。例のブツは何処だ?」 「無論、御用意させて頂いております。こちらに」 売人は何処からともなくアタッシュケースを取り出し、 それを開いてリーダー格らしき男に差し出した 男がそれを受け取り中身を見ると、表情に笑みが浮かんだ 何らかの機械のようなものが、2つ その姿形を敢えて形容するならば、“刃の部位が無いチェーンソー”だ 「……これが……これが『エフェクター』なの?」 「御明察に御座います。御使用方法はその見た目で容易に御判断できるようになっております」 「ほう……これだけか?」 「とんでも御座いません。奥にまだ御用意させて頂いております 御案内致しましょう、こちらへ」 天窓から差す月光しか目の頼りがない、暗黒に包まれた倉庫の奥へと、売人は手を招く 男はアタッシュケースを閉じ、女と手下を侍らせて売人について歩き始めた その瞬間、彼等の足元に、すとん、と何かが突き刺さった 各々が下がり、手下達は男女を庇うように前へ出る それは黒い蝙蝠の形をした物体だった が、すぐにそれは闇に溶けるように消えていった 「その先にはもう何もない。『エフェクター』は回収させて貰った」 聞こえたのは若い声 闇の中から靴の音が響き渡る 「っ……誰? いつからいたの!?」 「お前は自分の影に同じ事が訊けるか?」 嘲るようにウヒヒと嗤う声の主は、月光の下に辿りついてようやく判明した 声の通りまだ若い、顔の右半分が髪で隠れた黒尽くめの少年だった 首に提げられた金色の木の枝のペンダントが、きらりと胸で輝いている 「ちっ、ガキか……いや、「組織」か?」 「だったらどうする?」 「分かっているだろう?……殺せ」 男の指示と共に、周りの手下数人の姿が変化する ハイエナのような怪物となったそれは、涎を垂らして低く唸り始めた 「「グール」か…悪趣味な都市伝説だ」 少年が呟くと、「グール」達の姿が忽然と消えた にやっ、と男が薄く笑った 直後、辺りに血飛沫が飛び散った 腹をばっさりと切り裂かれた「グール」が姿を現し、少年の周りにばたばたと倒れる そこに立っていたのは、血に塗れた黄金の大鎌を持った少年だけだった 「っ!? 「グール」の擬態を見破ったってのか!?」 「都市伝説の力を利用する犯罪集団「亞楼覇」… リーダー格である生須 蹄(ナマス テイ)、及び沢 禰香(サワ デイカ)、以下数十人の組員と売人 『エフェクター』の闇取引の容疑により、「組織」R-No.の名において拘束する」 「R-No.……『Rangers』!」 「とんだ邪魔が入ったようで……私は御暇させて頂きますよ。がっひゃっひゃ……」 「逃がすとでも思って――――」 「貴様の相手はこいつらだ」 先程の倍以上の組員が前に出、その姿が「グール」へと変化する その中の2、3体が、先行して少年に襲い掛かった 「……俺の邪魔をするな」 鎌を下ろし、彼は右腕を伸ばし、掌を広げた すると、彼の影から黒い塊が「グール」と同数飛び出し、蝙蝠の形に変化して、少年の右腕の周りを舞う 「『欠片蝙蝠(ブリックバット)』」 蝙蝠は忍者の投げる手裏剣の如く回転し、「グール」へと放たれる 小気味の良い音と共に突き刺さり、体液を噴き出しながら「グール」は次々と倒れていった 「面倒だ……纏めて消えろ」 さらに動きだそうとする「グール」の群れの足元の影が、ゆらりと蠢いた 小さく波打つ影の表面は、徐々に、徐々に大きくなり、激しさを増す 「グール」達は思わず、その場で立ち止まってしまった 「『欠片蝙蝠-災厄箱(パンドラ・ボックス)』」 ぶわっ!!と「グール」の足元から大量の蝙蝠の刃が溢れ出す 逃げようにも、ここは影の中 影から際限なく溢れる刃から、逃れる事は出来ない あっという間に、「グール」達は血塗れになり、次々と倒れ伏した その場に立っていたのは少年と、生須と沢のみとなった 「売人は逃したか……まぁいい、後はお前達だけだ。今なら痛い目を見る事は無いのだが」 「ほう? 我々に勝てると、そう言いたいのか?」 「どちらにせよ、楽にさせるつもりはない」 「随分な自信ね……じゃあ、早速使わせて貰おうかしら?」 沢が取り出したのは、先程売人から受け取った『エフェクター』と呼ばれる代物 にやりと笑って生須もそれに応え、同じく『エフェクター』を取り出した 「なっ……それを使うのか!?」 「見せてやろう、我々の力を……!」 2人は装置についたリングに指をかけ、 「「『エフェクター』、起動!!」」 リコイルスタータを勢い良く引いた 『エフェクター』は激しいエンジン音を轟かせて振動し始める そして、2人に変化が現れた 生須の身体に包帯が何重にも巻かれ、何処からともなく現れた黄金の棺に収納されて、 黒く禍々しいオーラが棺の手足となって立ち上がる 沢の身体を業火が包み込んだかと思えば、炎が『エフェクター』へと集中し、 炎のチェーンソーを作り上げ、五月蠅く火花を散らした 【ほう……力が漲ってくる……】 「これが『エフェクター』の力……!!」 先に動いたのは沢だった チェーンソーを振り上げ、炎の斬撃を飛ばす 少年は軽く舌を打ち、鎌を横薙ぎに振るって相殺させた 今度は生須が高く跳び上がり、少年の頭上から落ちて押し潰そうとしたが、 寸でのところで回避され、その策は無意味に終わった が、落下点には小規模なクレーターが出来ており、その破壊力を物語っていた 【次は貴様がこうなる番だ】 「…都市伝説を歪めて手に入れたような力で…俺は倒せん」 そもそも『エフェクター』とは、原理や製造法が殆ど解明されていない謎の装置であり、 「組織」の間でも、掴んでいるのはその能力くらいのものだ その能力とは主に2つ 一つは“都市伝説の能力の歪曲” 例えば沢の「パイロキネシス」のように、プラズマ流体である炎を実体化させ、斬撃属性を加える力 一つは“都市伝説の存在の歪曲” 例えば生須の「ツタン・カーメンの呪い」のように、本来姿無き物に形を与える、若しくは本来の姿を変える力 噂に忠実な都市伝説が無理矢理その存在意味を捻じ曲げられれば、どのような危険が及ぶか分からない 生須達のような悪しき心の持ち主が使うとなれば尚更だ 「組織」では、まるで這い寄るが如く静かに増えつつある『エフェクター』による事件にも対応している それはR-No.においても例外ではない 「『レイヴァテイン・ブレイド』」 少年は黄金の鎌を身の丈の倍以上はあろう巨大な両刃の剣に変化させ、 再び突進してくる黄金の棺に向けて振るった がきんっ!と火花を散らして、剣と棺がぶつかり合う 棺を纏う邪悪なオーラが無数の腕を形成して少年を捕らえようと伸びてゆく が、少年の影からも同じく夥しい腕が伸び、それを抑えた 「っ……成程、『エフェクター』も伊達では無いという事か」 【やはりな。貴様、多重契約者か】 「一筋縄では行かずとも、お前等程度なら十分だ」 「あらそう……2対1でも同じことが言えるかしら?」 背後から忍び寄る沢 茫々と燃え盛るチェーンソーを振り上げ、口元を歪めた その笑みは狂気に満ちているようにも見えた 「これで終わりよ!」 「それは生存フラグだ」 再び響く甲高い音 次に上がったのは、沢の驚いた声だった 「えへへ、残念でした♪」 驚くのも無理はない 沢の目の前に突然青い髪の少女が現れ、先端に大きなリング状の装飾のある長い杖で炎の刃を防いでいたのだ そのまま少女は刃を弾き、沢はよろめきながら後退した 「なっ……一体何処から!?」 「ご主人様の後ろを奪おうなんてそうは問屋が卸しませんよ!」 「かなり意味が違って聞こえるぞ」 【ごちゃごちゃと……どういう状況か分からないのか?】 「分カッテイナイノハオ前達ノ方ダ」 突如、棺の真下の影から巨大な拳が現れて棺を押し上げる バランスを崩した棺を、少年は飛び上がって大剣をぶつけた 火花を散らし、勢い良く棺は吹き飛んだが、無数の腕で支えてショックを和らげ態勢を整える 少年の傍に寄り添うように、黒いローブを羽織った影が出現した 【っく………使役系の都市伝説が2体……三重契約か】 「悪いがそれは正答じゃあない」 【何?】 「答え合わせの時間だ……『ギャラルフォン』、ロック解除」 少年はスマートフォンを取り出し、指で画面に“R”の字を書くと、 画面が切り替わって7つのボタンが現れる 彼はその中の4つのボタンをタッチした 《LIM》《WILL》《NAYUTA》《BI-O》 「待ちくたびれただろ? 存分に暴れろ」 腰に煌めくベルトの機械的なバックルにスマートフォンを翳すと、《Inform》という音声が流れ、 彼の周囲に、何の前触れも無く4つの影が現れた 鼻の長い白い獣、赤々と燃える人魂、紫のもやを纏う剣、ドリルや機関銃を装備した巨大な蛇型ロボット 「やぁっと俺様の出番か! 肩が凝って仕方ねぇぜ、なぁ!?」 「うおおおおおお!今日は久々に7人勢揃いでい!!」 『全く暑苦しい……子供じゃあるまいし少し静かにしたまえよ』 《動作安定異常皆無,視界良好,弾丸装填完了……戦闘準備,完了》 【ッ!? 七重契約者だと!?】 「まさか、そんなことって……」 「ウヒヒヒヒヒ…そのリアクションは疾うに聞き飽きた」 少年は黄金の剣を頭上に投げると、 黒いローブの影が変化した漆黒の鎌を右手に構え、紫のオーラを放つ剣を左手に掴んだ そして左足を人魂が包み込んで、黄金の剣が変化して出来た鉤爪を右足に装着した 「お前等に“正義”は無い……行くぞ!」 「了解シタ」「はい、ご主人様!」「OKィ!」「がってんでい!」『仰せの儘に』《Yes,Boss》 少女が獣に飛び乗り杖を構えると、獣は沢に向かって走り出す 沢の燃えるチェーンソーと少女の杖が激しい音を立ててぶつかる 「子供だからって手加減しないわよ!」 「こちらから願い下げです! ビオさん!」 少女が沢から距離を取ると、轟音と共に地中から4基のドリルを持った蛇型ロボットが現れ、 各ユニットに配備された機関砲から弾丸を発射する 軽く舌打ちし、沢は周囲に炎を出現させた 空中に浮かぶ炎が壁となり、弾丸を弾き返す 《全弾命中……標的損害,皆無》 「あはははは! 素晴らしいわ、この力!!」 「ちっ、おいミナワ! 厄介な相手になりそうだぜ!?」 「私に考えがあります。理夢さん、ビオさん、援護をお願いします!」 ミナワと呼ばれた少女は、理夢というらしい獣から飛び降りると、 杖を横向きにしてフルートを吹くように構えた 「あら、何を始めるのか知らないけどそんなことは――――――」 「そっから先は俺様達の台詞だぜぇ!!」 理夢が前足を振り上げて爪を叩きつける 沢は燃え盛る刃でそれを防いで見せた さらにビオと呼ばれたロボットも、ドリルで突撃を試みたが、 それもやはり炎のバリアでものの見事に弾かれてしまった そうしている間に、ミナワは演奏を始めた テンポの速い童謡「シャボン玉」を、エンドレスで奏でる すると、杖の穴から無数の小さなシャボン玉が、ぽぅ、ぽぅ、と膨らみ、拡散する まるで音色に合わせて踊るかのように 《突破不能……》 「くっ、邪魔なペットと玩具ね!」 「だからペットじゃねぇっつってんだろ!? テメェこそ暑苦しい上に面倒な妖術使いやがって!」 「『エフェクター』の力で生まれ変わった「パイロキネシス」よ! この力さえあれば…貴方達だって焼き払えるわ!」 「残念でした、科学的に考えて無理です♪ 『リムーバブル』!」 瞬間、周囲のシャボン玉がくるくると円を描いて回り始めたかと思えば、 沢の作り出した炎の勢いが徐々に弱くなっていった と同時に、彼女の表情が歪み、喉を押さえて苦しみ始めた 「っ……こ…れって………」 「流石に酸素がないと火が点く訳ありませんよね?」 ぼごっ、と鈍い音と共に、沢の腹に重い一撃が入った 短い呻き声をあげ、膝から崩れ落ちる そして無邪気に微笑む青い髪の少女を見たのを最後に、彼女の意識は闇に沈んだ 《任務完了,デアリマス》 「ご主人様ー、こっちは終わりましたー♪」 (危なく殺すところじゃねぇか……女って怖ぇ……) 「御仲間がやられたようだな」 【知るものか】 襲い来る黄金の棺を、黒い鎌と紫炎に包まれた剣で防御する 月光のみが届く倉庫内に、閃光が飛び散る 【この『エフェクター』さえあれば、手駒など幾らでも作れる 今度は貴様等「組織」に捻られるような雑魚では無く、もっとマシな奴等を呼んでな】 「自分だけは強者であると言いたげな台詞だが……甘い」 ふわっと一瞬少年の身体が浮いたかと思えば、 そのまま逆上がりの要領で垂直方向に回り、黄金の爪による蹴りをぶつけた 直撃し、棺はまた勢いを失って無防備になる 「吹っ飛べ……『マキュラ』」 鎌を地面に突き立て、柄を軸に回転し、今度は燃え上がる左足による蹴りを命中させる 宣言通り、棺はサッカーボールのように蹴り飛ばされ、砂埃を撒き散らす 撒きあがった埃の中から無数の黒い腕が伸びるが、 少年の目の前に紫の炎が燃え上がり、腕の進行を妨げた 「『トータラージーク』」 紫炎が掻き消えるや否や、一筋の光条が棺へと伸びる 防御行動に移れる筈も無く、棺は大きく抉れ、中身が露出する 【っ……小僧がぁ!!】 黒い腕を巧みに操り、蜘蛛のように這い寄る生須 その大きさからは考えつかない程のスピードだが、 それでさえも、少年のたった一振りの鎌によって抑えられてしまった 【っぐぅ……何故だ……… 貴様のような若造に……『エフェクター』も持たぬ小僧に何故このような力が……!?】 「お前等には一生分からないだろうな 機械で捻じ曲げる事でしか都市伝説の力を引き出せないような連中には…一生なぁ!!」 黄金の右足を振り上げ、踵落としを棺に叩きつける 響く轟音、そしてコンクリートにめり込んだ棺を鎌で抉じ開け、中にいる生須を包む包帯を切り裂いた 裂け目から生須が見たのは、髪で隠れた右目の大きな傷が夜風に見え隠れしている、 満月をバックに不気味に笑う少年の姿だった 「ッ!! 思い出した……七つの都市伝説、右目の大きな傷跡…… 小僧、貴様の名は確か――――」 「ウヒヒヒヒ……俺の名、か」 生須を嘲るように、少年は笑う 彼には幾つもの名前があった “黄金の甲冑”“黒い影”“青の奏者”“白い騎士”“赤き翼”“紫の閃光”“灰元帥” “小さき死神”“モノクローム”“火と水の魔術師”“シグナルマン”“三刀流” “クィンテット・コンダクター”“隻眼”“邪悪な英雄”“千人殺し”“化物”“ビッグ・ディッパー” しかし、彼に与えられた名はただ一つ 彼の真の名も、また一つ 「俺は…「組織」R-No.所属契約者集団『Rangers』が1人、コードネーム“Rainbow”……“七変化”」 ヒヒッ、と彼は鎌を振り上げて、笑った 「………黄昏 裂邪だ」 ...To be Continued 前ページ次ページ連載 - 夢幻泡影Re
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○月×日 21:37 クラブハウス・武道場 -----くっくっく、と 暗い、暗い笑い声が響く 魔女の一撃の契約者は、ゆっくりと「日焼けマシン」の契約者から、体を離した 「日焼けマシン」の契約者を庇うかのような位置に立ち…低く、呟く 「…あぁ、そうかよ。皆俺の邪魔をするのかよ……皆、そこの黒服のように…俺と、こいつを引き裂くのかよ」 まるで、地の底から響くかのような、暗い声 その声に、かすかに黒服が動揺した ーーー大学受験のあの日、自分が事件に巻き込んだせいで、「日焼けマシン」の契約者と魔女の一撃契約者が共に同じ大学に行く邪魔をしてしまった その自覚が、彼にはある そして、もしかしたら…それが、魔女の一撃の契約者の、今回の行動の理由の一つなのではないか? そう、薄々感じ取ってしまっていたから 「……あぁ、でも、駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!ぜんっぜん駄目だな!!」 ざわり 魔女の一撃契約者から…殺意が、溢れ出した 戦い慣れしていない人間ならば……否、戦い慣れした者でも 殺意を向けられ慣れている者ですら、威圧されかねないほどの、強烈な殺意 押さえ込まれた状態から解放され、逃げ出そうとしていた「日焼けマシン」の契約者が、幼馴染の変貌ぶりに一瞬、動きを止めてしまうほどの 「お前達には!嫉妬も!!覚悟も!!!まったく足りゃしねぇんだよっ!!」 魔女の一撃契約者が、構えた 随分と強気な様子で、まるで、一同を見下しているかのように… 「-----やばっ!?」 全ての感覚が超人的に強化されているが故に…真っ先に、厨2病が、その危険性に気づいた 直後、魔女の一撃契約者は、両拳をあわせて突き出し……その先から、強大な「気」を放つ! 強烈な光を伴って放たれたそれは、畳を抉りながら厨2病に、Tさんに、そして黒服に襲い掛かる ----ぱぁんっ、と 何かが砕ける音がして、瞬間的に結界が張られた それが、辛うじてその攻撃を打ち消す 光が消えた時…そこには、呆然としている「日焼けマシン」の契約者だけが、いて 魔女の一撃の契約者は、どこに? 「………っ」 ぞくり、感じた悪寒 黒服は先ほど使った物と同じパワーストーンの力を発動させた ぱぁんっ、とパワーストーンは即座に砕けて……何時の間にか背後に回っていた魔女の一撃契約者の姿に、ようやく気づく 「-黒服さんだけを避けてくれたら、幸せだっ」 そう呟きながら、Tさんが魔女の一撃契約者に攻撃を放った しかし、幽霊のような構えをとった魔女の一撃契約者の姿は…すぐに、ふっと消えてしまう ばんっ!!と 自分が立っていた畳がひっくり返された事を、黒服は自覚した その衝撃で、体が宙へと放り出される ひっくり返された畳は、Tさんの攻撃を逸らし、その軌道を変えてしまい、魔女の一撃の契約者には届かない 黒服は受身を取りきれずに、その体を強かに畳に打ちつけた その黒服に、魔女の一撃契約者は追撃を加えようとしている まるで、真っ先にこの黒服を殺そうとしているかのように 「俺を無視するんじゃねぇっ!"虚空の弾丸拳"!!」 「っく!?」 がっ!!と 厨2病が繰り出した超高速の拳を、魔女の一撃契約者は受け止めた 通常ならば、人間など受け止めきれぬはずのその技を…両手を使って、受け止めたのだ 「…てめぇから、殺されてぇかぁっ!!」 「うわっ!?」 ぶんっ!と 受け止めたその拳を逆に掴み、魔女の一撃契約者は、厨2病の体を振り回し、畳の上に叩き付けた 先ほどまで、まるで幽霊のように気配が消えていた魔女の一撃契約者 しかし、今度は爆発的に、その気配が強くなる 威圧感すら感じさせる、強烈な気配 だが、それに威圧されている暇は無い 黒服は急いで体勢を立て直し、「日焼けマシン」の契約者に向かって駆けた 己が優先すべきことは、「日焼けマシン」の契約者の身の確保 体を起こし、下着ごとずり下げられていたジーンズを慌てて戻していた「日焼けマシン」の契約者の傍に、ようやく辿り着く 服を破かれた事によって露出している胸元を隠してやるように、己の上着を羽織らせる 「…遅くなってしまって、申し訳ありません」 「……っくろ、ふく」 泣き出しそうな顔で、黒服を見あげる「日焼けマシン」の契約者 羽織らせた上着の間から覗く肌にぽつぽつと浮かぶ赤い痕が、魔女の一撃契約者に何をされていたのかを、生々しく物語っている 「---っそいつから、離れろ!」 「日焼けマシン」の契約者を奪われた事を悟り、魔女の一撃契約者がそちらに向かおうと… 「流星・ブラボー脚!!」 「っ!?」 どごぉんっ!! 何時の間にか武道場に到着していた姫さんの攻撃が魔女の一撃契約者に襲い掛かった ギリギリでその攻撃を避けた魔女の一撃契約者に向かって 「やっちゃえ!!」 ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう はないちもんめの能力で操られた鼠たちが、魔女の一撃契約者に殺到しようとする ----------が 「……うちゅ!?」 「ちゅちゅ!?ちゅちゅちゅっ!?」 「………え?」 鼠は、ある距離まで近づきながらも…しかし、それ以上は魔女の一撃契約者に近づかない 否、近づけない 魔女の一撃契約者の威圧感に、鼠たちは本能的な恐怖から、近づく事すら、できていない 「…あぁ、畜生。邪魔なんだよ、てめぇら。どいつもこいつも…俺が、あいつの隣に立つ邪魔をしてぇのか」 「それが真っ当な手段であるならば、邪魔などしないさ」 武道場前に到着した己の契約者に、危ないから中に入らないよう言いながら、Tさんは魔女の一撃契約者を軽く睨む 「だが、お前さんが選んだ手段は間違っている。間違っている事ならば、正さねばならないだろう」 「……違う、俺は、間違ってなんかいない」 Tさん、厨二病、姫さん 三人に囲まれながらも、魔女の一撃契約者は一歩も引く様子を見せない その表情は、どんどん暗く……狂気を帯びていっている 「あいつを護れるのは俺だけだ、あいつを護っていいのは俺だけだ。あいつを傷つけるのは許さない、悲しませるのは許さない。あいつの隣に立っていたいあいつの隣に立つのが許されるのは俺だけだっ!!」 話す内容が、支離滅裂になってきている 狂気に囚われ、その主張の筋も正当性も、最早意味をなさなくなってきている 己の発言が己の行動と矛盾している事に、彼は気付いていない 「…あんた、チャラい兄ちゃんの友達なんだろ!?大事な親友だって、言ってたじゃねぇか!!」 武道場の入り口からひょこり、顔を出して…Tさんの契約者が、叫んだ …くるり、そちらに狂気に染まった暗い表情を向けて、魔女の一撃契約者は笑う 「……あぁ、そうだよ。俺の大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な、唯一の親友さ」 「じゃあ、どうして…」 「-----先に俺を裏切ったのは、あいつだ!」 魔女の一撃契約者の叫びに、「日焼けマシン」の契約者がぴくり、体を跳ねらせた 己を囲む三人を前に強行突破を試みながら、魔女の一撃契約者は叫ぶ 「あの日…あいつが!俺じゃなくてその黒服を選んだから!!俺の隣から、いなくなったからっ!!」 その両手が、Tさんの喉下を狙う かすかにTさんの体が白い光で覆われて、それを防いだ 「…っあいつが!都市伝説の事を隠し続けていたから!!!俺はあいつの隣に立てなくなったんだ!!」 ふっ、と魔女の一撃契約者の姿が消えて…出現したのは、姫さんの足元 足元を掬い、体勢を崩したそこを強行突破しようとして、しかし、武道場に入り込んだ妹ちゃんの結界能力で拒まれ、舌打ちする 「あいつが……都市伝説の事を話してくれていれば!もっと早く、都市伝説と契約していた!強さであいつに置いていかれることも、負ける事もなかった!!……ずっと」 一瞬 その表情から、狂気が消えて 寂しさを押し殺しているような…そんな、表情になって 「--そうすれば、俺が…あの頃と変わらずに、ずっと、あいつを護ってやれたのに」 しかし、その表情は再び、一瞬で狂気に染まった 暗い眼差しが、一同を見下すように、見回して 「っらぁ!!」 再び放たれた、気の力 しかし、それははじめに放たれたそれよりは小さくて…妹ちゃんの結界に、全てかき消された 「…八つ当たりじゃないですか、ほとんど」 「ガキに、何がわかる!」 「わかりたくもないわね」 私は子供でもないんですが、と呟く妹ちゃんと、鼠を振り回し続けてながらも魔女の一撃契約者を睨むはないちもんめ 魔女の一撃契約者は、完全に包囲されている だが、この絶対的に不利な状況でも、魔女の一撃契約者は戦いをやめようとしない 「日焼けマシン」の契約者を屈服させる、ただ、その目的の為だけに 「あぁ、もう、焦れってぇな!"岩漿の……」 「----っそいつを殺さないでくれ!!」 炎をまとった巨大な槌の子を召喚し、一気に決めようとした厨2病に、「日焼けマシン」の契約者はそう叫んで、制した その言葉に、厨二病の言葉が、止まる 「…おや、嬉しいな……まだ、俺を親友だと思ってくれているのか?」 くっく、と笑いながら、魔女の一撃契約者は「日焼けマシン」の契約者を暗く見つめた 黒服に庇われるように立ちながらも…「日焼けマシン」の契約者は、じっと、魔女の一撃契約者を見つめていた 「お前には…都市伝説に、関わって欲しくなかった」 「まだ……言うか」 ゆらり 魔女の一撃契約者の体が、憎悪に揺れた 小さく首を振りながら、「日焼けマシン」の契約者は続ける 「都市伝説と関わる事は…契約、する事は、特にこの学校町じゃあ、いつ危険に巻き込まれるかわからない、いつ、命を狙われるかもわからない、そう言う事だから。お前に、そんな危険な目にあってほしくなかった!」 「---何を、今更」 くっくっく、と魔女の一撃契約者の笑いは暗く、暗く、どんどんと狂気を濃くしていっている それでも、「日焼けマシン」の契約者は、視線を逸らさない …友を引き戻そうとするかのように、真正面から魔女の一撃契約者を見詰めている 「……?」 …ふと Tさんは、気づいた --っぽ、と 一瞬、魔女の一撃契約者の胸元に…黒い、染みが現れたような…? 「…どうか、教えてくれませんか?何故、あなたはこの子に、裏切られたと感じたのですか?」 黒服も、同じ事に気づいたようだった 銃に手を添えたまま…黒服は、魔女の一撃契約者に尋ねる --どろり 黒い気配が、魔女の一撃契約者の…内側に、生まれる 「そいつが…俺よりも、お前を、黒服を…選んだから。あの時、俺の傍よりも、お前の傍を選んだから」 「あの時、この子はすぐにあなたの元に戻るつもりでしたよ。一緒に、受験を受ける気でいましたよ…はじめは」 「ほら、やっぱり、すぐに俺よりもお前を…」 「あなたを護るために、戻る事ができなくなったんです」 ぴくり 動揺したように、魔女の一撃契約者の体が震えた 黒服は、ゆっくりと、言い聞かせるように続ける 「…三年前。とある大学の受験会場を、凶悪な都市伝説が餌場に選びました。「組織」ではその都市伝説を討伐しようとしたのですが、予想外の強さに手間取り、そのままでは受験会場まで入り込まれようとしていました」 …そこに この、「日焼けマシン」の契約者が来たのだ はじめは、こちらで何とかするから、受験会場に戻るように言った しかし、「日焼けマシン」の契約者は、退こうとはしなかった 『俺のダチも来てるんだ!絶対に会場に入り込ませるかよ!!』 「日焼けマシン」の契約者は、己の受験よりも、親友を護る事を選んだのだ …実際、「日焼けマシン」の契約者が協力してくれたお陰で、その都市伝説の討伐に成功し…受験会場で惨劇が起こる事は、なかった 「あなた達が小学生の頃巻き込まれた事件の時も、この子は、あの事件があなたにとってトラウマにならないよう、記憶を消去するよう頼んできたのです…あなたの、為に」 「………っ」 魔女の一撃契約者の動揺が、大きくなる ---どろり 彼の内側の気配が、強くなる 「ちが、う、そいつは……自分だけ、力を手に入れて……俺を、見下して……っ」 「そうとは思えないけど」 姫さんが、いつでも攻撃できるよう構えつつ、そう口にする 「日焼けマシン」の契約者はこの状態でなお、魔女の一撃契約者を心配しているのだ …都市伝説と関わってしまった親友を気遣っている 「…そいつ、は……俺よりも、その、黒服を選んで…」 「家族として、選んだかもしれん……だが、「日焼けマシン」の青年にとって、親友はお前さんだけのようだぞ」 ----どろり、どろり 黒い気配が大きくなる ぽっ、ぽっ……と、黒い染みが、大きくなっていく 「ほとんど、お前の思い込みと勘違いなんじゃないのか?」 厨2病が、そう疑問の言葉を投げかけて 「----っ」 それ以上、聞きたくないとでも言うように、魔女の一撃契約者は耳をふさいだ どろり、どろり、どろり、どろり 魔女の一撃契約者の胸元に現れた染みは大きく、大きくなり…その場にいる全員がそれに気づくほどになる 「ちが、う、違う違う違う違う違う違う。あいつは俺を裏切って、ち、がう、あいつが俺を裏切るはずが無い。あいつは俺の親友で、あいつも俺を親友と言ってくれて……」 『----イイヤ、オ前ハ裏切ラレタノサ』 誰のものでもない 第三者の声が、響いた 『オ前ハ親友ニ裏切ラレタ。ホラ、憎イダロ?憎タラシイダロ?』 「……にく、い……」 『憎タラシイケド、大切ナンダロウ?ダガ、憎タラシイカラ…負カシタイダロ?屈服サセタイダロ?手ニ入レタイダロ?』 「…屈服させてやる、俺の傍に置いて、ずっと護ってやる……」 ゆらり 響く声に動かされるように、虚ろな眼差しで魔女の一撃契約者は「日焼けマシン」の契約者を、見つめる 「…な、何よ、これ。まさか、多重契約者…」 「いえ…違い、ます」 はないちもんめの疑問の声に…妹ちゃんが、答える 「あれは、あの黒い染みは…都市伝説、ですが、彼と契約してはいません」 どろりどろりどろりどろりどろりどろりどろりどろり 魔女の一撃契約者の内側から染み出た黒い染みが、生き物の形を作り出す それは、真黒な蛇となって……魔女の一撃契約者に、絡みついた 『ホラ、憎インダロ!!アイツヲ屈服サセタインダロウ!!ソレジャア、他ハミンナ邪魔者ダ!!殺セ!殺シテマエ!!』 「---あぁ、そうだ。邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!みんな邪魔なんだよ!!俺があいつの隣に立つ事を邪魔する奴なんざ、みんな死んでしまえっ!!」 狂気と殺意が膨れ上がる 黒い蛇は、どこか楽しげに魔女の一撃契約者に絡みつき、その耳元で囁き続けている 「あれは……彼に、とり憑いています……!」 漆黒の蛇は魔女の一撃契約者の耳元で囁き続ける そう、その囁きは、まるで 『邪魔者ヲ殺セ、アイツヲ屈服サセテヤレ!犯シテ犯シテ犯シ尽クシテ、一生離レラレナクシテヤレ!!』 ーーーー悪魔の囁き、そのものだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
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ニーナ・サプスフォード(Nina・Sapsford) 「教会」所属の契約者。契約都市伝説は「ドッグウッド伝説」 年齢は詳しくは不明だが、推定10歳前後の幼女。 頭があったかいが基本的には善良であり、真面目で頑張り屋。 ただし、何分致命的に頭があったかいので、簡単に騙される。 それでも、神の身心に従って頑張る健気な少女である。 祖父が居たが、数年前に死別。 以降、「教会」に引き取られて生活している。 エイブラハム司祭長の下、「13使徒」の一人にも選ばれている。 今現在、来日し、学校街にてとある淫魔を退治すべく頑張っている。 餓死しかけたりもしたが、優しい人に拾われたのでとりあえず餓死の心配はなくなった。 ドッグウッド伝説 キリストが磔刑に処せられた時代、ドッグウッドはオークなどの森の木と同じような大きな樹でした。 ドッグウッドは大変堅く強かったので、磔刑の十字架用材木として選ばれました。 このような残酷な目的に使われたのでドッグウッドは大いに悩み苦しみました。 イエスは釘付けにされながらもこのことに気がつき、ドッグウッドの悲しみと苦しみを優しく憐み、こう言いました。 「私の受難に対するあなたの悲嘆と哀れみにより、 ドッグウッドの木は今後十字架に使われるほどには成長しないだろう・・・」 それからというもの、木は曲がり、花は二つの長い花びらと短いものが十字架の形となりました。 花びらの縁は釘の錆と血痕で茶色と赤に染まり、その花の中心はいばらの冠を思わせます。 見る人がいつまでも覚えているように・・・。 以上が、語り継がれる「ドッグウッド伝説」の内容である ニーナが契約しているドッグウッド伝説の本体は、ニーナが常に持ち歩いている木の十字架。 ニーナは伝説を拡大解釈し、その十字架の形を巨大化(変形)させ、それを振り回して戦う なお、伝説通りに考えれば、ドッグウッド伝説には意思があるはずだが、ニーナがそれと意思疎通できている様子はない カイン。ディーフェンベーカー(Cain・Diefenbaker) 「教会」所属の契約者。契約都市伝説は「奇跡を起こすサントニーニョ」 今年で22歳になる青年。身長は西洋人男性にしては低めの168㎝。本人も気にしているので触れてあげない方が親切。体型は中肉中背といったところか。特徴的な翡翠色の瞳をしている。 生真面目で、やや朴念仁気味。性的な話題が苦手。 ただ、妖精どころか、悪魔ですら許容すると言う、「教会」所属の人間らしからぬ面ももっている。 孤児院の出身。 姉がいたが、先にどこかへと引き取られ、引き取られ先で死亡。 カインは、姉の死の真相をわからぬままである。 カラミティと言う非常に仲の良い親友がいる他、ヘンリーや「13使徒」のカイザー等とも交流がある。 割と、人脈が広いのかもしれない。 奇跡を起こすサントニーニョ 1987年、フィリピンのカヴィテ市で公務員をしている女性は、誕生日のお祝いに上司からイエス・キリストの像をもらった。この像は高さ43cmで、「サントニーニョ(聖なる子供)」と呼ばれるもので、幼いころのイエス・キリストを形どった像である。 その像は、女性に「立派なものでなくても構わないから、私を祀る祭壇を作りなさい。」とか「病気の子供にオイルを塗ってマッサージしなさい」などと指示を出し、女性を奇跡の代行者として、様々な患者を救わせた。 …カインが契約している都市伝説は、そんな存在である。 逸話通り、治癒の能力を得る事が出来る。拡大解釈により、病気だけでなく毒の解毒や怪我の治療も可能となっている。 制限として、サントニーニョを祭る祭壇を作ったり、サントニーニョ絹のローブを着せてやらなければならない
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前から登場していたの サスガ フルネームは流石 丈(さすが たけし)、コードネームは“オサスナ” 「組織」強硬派所属の中学三年生男子 契約した都市伝説は「校庭に現れる落ち武者の霊」 甘いものが苦手で、食は淡泊 過去に早渡と交戦済み 彼の活躍は以下を参照されたい 早渡と交戦した回(早渡視点) 早渡と交戦した回(サスガ視点) 「偽警官」と交戦した回(“モヒート”と) モヒート 本名は見辺 加賀実(みべ かがみ)、“モヒート”はコードネーム 「組織」強硬派所属の中学一年生女子 契約した都市伝説は「コークロア(_Mod.A)」 彼女も過去に登場済み(詳しくは上記リンクをチェック) 今回初登場の 割烹着の少女 「組織」穏健派所属の女の子 「人肉シチュー」の都市伝説である まるで給食の時間に割烹着を着た小学生の女の子といった容姿をしている 彼女の外見は上記都市伝説からの関連が想定しえない形態だが真相は不明 彼女は今回のように 時折穏健派のオフィスを抜け出しては強硬派所属の彼らに会いに行く 前ページ / 表紙へ / 次ページ
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ああ。これが俺の運命なのか。 友達もできないクラス内透明人間にして臆病者な上に童貞といった駄目人間極まりない俺の。 生きるという事には不条理ってことだ。誰かが確かそう言っていた。 まったく、実にその通りだと思う。しかし。だがしかし。 いかれた暴走車に轢き殺されて死ぬなんて。ましてや無人の。 いくら人生が不条理だからって 「納得いかないいいいいいいいいいい!!!」 叫んで、俺は全力でママチャリをかっ飛ばし田舎道を疾走していた。 すぐ後ろからは中型自動車が猛スピードで迫ってくる。 あんなのに跳ね飛ばされたらひとたまりも無い。即死だって即死! おかしなことにその運転席には人の姿が見られないのだ。 何?何?何なんだ!?何で俺は無人の自動車に追い掛け回されてるんだ? 俺は夜中に少し離れたコンビニへジャンプを買いに行っただけだぞ!? おかしいよ!おかしいって!どっからおかしくなったんだよ! おかしいといえばなんで道に人の姿がまったく無いんだよ! 夜中とはいえ車が凄い勢いで少年をひき殺そうとしてんだぞ!誰か気づくだろ!気づいてよ! てかここまでチャリで車から逃げ切れてる俺もおかしくね?俺こんな体力あったけ!? これが火事場の馬鹿力ってやつか?すごいなっ人体の不思議万歳!! などと混乱した頭で考えながら必死こいて自転車を飛ばしていると、 おもむろにペダルがぶっ飛んだ。 「え?」 自転車の耐久力も俺の体力も、限界だったらしい。 ガシャーン!!盛大な音を立てて、俺は自転車と一緒に地面に叩きつけられた。 その瞬間、視界が二つの目のようなライトで真っ白になった。 死ぬ瞬間、全てのものがスローにみえるって話は本当らしい。 その一瞬の間に俺は色んな事を考えた。 最初は、「あ、死ぬ。」とだけ思った。極度のビビリの俺なのに、不思議と恐怖はない。 次に「こんなヘマで死んでしまうなんて、最後まで俺はダメな奴だなぁ」と思った。 そして「俺が死んだって、世の中は何も変わりはしないんだよなぁ」そんなことを考えた。 「無人自動車にひき殺されるなんて。もしかしたら俺、恐怖のあまり頭がおかしくなったのかもなぁ」、とも思った。 だから、真っ白な光の中、バイクに乗った人影が車に突っ込んで助けてくれたのを見ても、 その時は「あぁやっぱり俺黄色い救急車に乗るべきなんだ」としか思わなかったんだ。 派手な装飾のバイクは車に乗り上げフロントを踏み潰した後、勢いのまま空中で一回転し綺麗に俺の横に着地した。 「貴様!私の出没場所で何をしている!」 男がライトが消えフロントガラスが粉々になった車に向かって叫んだ。 なんて浪々とし、そして響く声。なにゆえこんなに通る声をしてるんだ?俺は疑問に思った。 だってそもそも男の体には首が無かったのだから。 あかん。何だか感覚が麻痺してきた。もう何がおかしくて何がおかしくないのか。 すると男が無い顔をこちらに向けた。 「時に少年、お前は何者だ?ふむそうか。あの当たり屋に狙われてしまった身か」 いや、俺なんも言ってないんだけど勝手に一人で納得しちゃったよ。 「乗るのだ少年。このままでは危険だ」 首の無い男が尻餅をついている俺に手を差し伸べた。 しかし、ここでよーやく俺は今までの実感がじわじわと沸いてきたのだった。恐怖の。 「うっわああああああああああああああああ!?!」 我ながら本当に情けないが、無人の暴走車に首なし男。あまりにも非現実的でホラーなこの状況。 根っからの臆病者でヘタレの俺が叫ばずにいられない。 すると男はおもむろに俺の頬をバシッと叩いた。 い…いたひ。 「落ち着くのだ少年!私はお前に害を与えたりはしない!」 お、落ち着けったってンな状況で首の無い人に言われても… でも少なくとも目の前のこの男は、俺をあの車から助けてくれた。 その時、男の後ろで煙を上げていた車のライトが点滅しながら付いた。 まるで気を失っていた者が目を覚ますように。 「むむっいいから私の後ろに乗るのだ少年!何、腰が抜けただと?貴様、それでも玉がついた男か!」 あ、頭がついてない奴に言われたかないなぁー それにしてもこんな化け物男にさえ喝を入れられるなんて、本当に俺ってダメな奴… おとこは凄い力で俺の腕をグイっと引っ張り、後ろに乗せた。 「しっかりつかまっていろ」 轟音と共にバイクが発進した。 バイクは人通りの無い夜の道路を走り続けていた。 広い背中に遠慮しがちにしがみつき、こっそり俺は前の人をまじまじと見た。 なるべく首の断面図が見えないように。 「何だ。聞きたいことがあるならハッキリといってみるがいい」 「ヒィッ!?な、何でもないです!!」 「臆するな。私はお前を傷つける気など無い」 こ、怖いのは変わんないけど、どうやらこの人は本当にいい人みたいだ。 俺はありったけの勇気を振り絞り質問する。 「…い、色々ありすぎるんだけど…まず始めに、おっさん何者?」 「おっさんだと!?けしからん!私には『首なしライダー』という立派な名がある!」 ヒィィッなんか怒らせちゃったよぉぉぉどうすれば…………ん? 「く、首なしライダーってあの…?」 「ほう、知っていたか。あとでサインをやろう」 あるライダーが事故で首を失ってしまったが、バイクは体を乗せたまま走り続けた。 亡霊となったライダーは夜な夜な道を走っている。という、あの話。 確か俺の地元でもかなりはやった。当時の俺は小便ちびる程その話が怖く、 通学路のその道を通れなかった。おかげでしばらく毎日学校に遅刻してしまった。 「おいスルーをするのではない」 「ん、んじゃ、さっきの車は…?」 「当たり屋ファックスだ。話によっては当たり屋グループともいうがな。知っているか?」 知っている。「○○地方に当たり屋グループが出没しました。 以下のナンバーに注意して下さい」といった内容の回覧板、もしくはファックスが送られてくるといった話。 これも結構はやったなぁ。でも確かファックスが来るだけで車は実在しないはずじゃ… 「で、でも、それは噂話…誰かが回したただの怪談だ」 こんな男を目の前にしているというのに、俺はそんな理屈をこねる。 すると、ライダーが言った。 「そういった噂話が、回りまわって全国に伝わり、言霊という力を持った。そうして存在を得たのが、今お前の目の前に居る私だ」 ― そういえば。さっきこの男が「私の出没場所」と言っていた道。 俺が小学生の時、首なしライダーが出ると噂になった所だ。 俺は首なしライダー名乗る男の顔をまじまじ見ようとする。 しかし首があるはずのそこにはただ夜の真っ暗な空間が存在するだけ。 「お前ら…一体?」 その時俺は、無いはずの口元が不敵な笑みを浮かべた気がした。 「都市伝説だ」 そう言った首なしライダーの声は心なしか得意げだった。 「まったく。しつこい奴だ」 「え?」 「こんな話をしているうちにもう奴が来てしまったようだ」 振り向くと、ずっと後ろの方から二つのライトが迫ってくるのが見えた。 「で、でも普通の乗用車かも…」 「それはない。先ほどから辺りに人の気配が全く無いのには気づいているだろう。 いまやここは奴のテリトリー、いわば結界のようなものだ。 だからここに存在するのは当たり屋と私と、少年。お前だけなのだ。 そして結界を破るためには、その都市伝説の存在が消滅しなければならない」 「そんな…で、でも何で?おっさ…首なしライダーは俺を助けてくれるのに、あいつは…」 「人間の中には、悪い者もいれば良い者もいるだろう。都市伝説もまた然り。私は人間を傷つけないが、あの者は悪の心に捕らわれてしまった都市伝説なのだ」 「そ、それじゃあ俺を助けて!お願いだよ!」 「そうしてやりたいのはやまやまだ。しかし向うの方が数段上と見た。私の力では、奴を一時的なダメージを与えることが出来ても倒す事はできないであろう」 「そんなっ!?じゃ、じゃあ、一体どーすりゃ…」 「私と契約しろ、少年」 「へっ?」 契…約? 突然ライダーの口から出てきた言葉に俺はきょとんとする。 「人間のお前と契約すれば、私は今まで以上の力を持ち、奴を完全に葬ることができよう」 「ほっ本当!?」 「しかし」 突然ライダーは県境の大きな鉄橋の前で、バイクを止めた。 「え、何、どうしたの?」 「少年。お前も契約者として供に戦わなければならない。」 「!?」 な、何いってんだよ… この俺にあの車の化け物と戦えと!?ばっ馬鹿ゆーなって!!! そうしている間に当たり屋ファックスはどんどんこちらに迫って来ている。 「私と契約すれば、少年。お前を救ってやることができる」 「でっでも、無理だよ!!戦うなんて…!」 「可能性の限界など本人が決めるものではない」 「むっ無茶いうなよ!やれるわけないじゃん!」 「無茶をしてこそが真の男だ。己を信じろ!」 当たり屋はもう眼前に迫っていた。 「信じるったって…俺みたいな奴なんかに出来るわけないよ!」 「腹をくくれ少年!都市伝説に遭遇したその瞬間、 お前の平穏な日常は跡形も無く消え去ったのだ!」 なっ…なんつー理不尽な…………でも。 ライダーのその言葉で俺はふと思った。 クラスでは無視され、勉強も運動もろくに出来ず打ち込める事も何も無い こんな冴えない俺の人生、最初からもう終わってるも同然なんだ。 「わかった…!俺、お前と契約する。あの化け物と、た、戦うよ!」 「その言葉が聞きたかった」 瞬間、辺りが神々しい光を放った。 その光が当たり屋のライトだったのか、 はたまたライダーの体が放った光なのか、俺には分からなかった。 気が付くと、俺とライダーを乗せたバイクは鉄橋の入り口に直角にそびえ立っている 巨大な鉄柱を、凄いスピードで駆け上っていた。 「ぬあああぁぁぁあああああぁぁぁぁあqwせdrftgyふじこlp;」 一瞬前に俺たちが立っていたところを、 当たり屋が猛スピードで通過したのを何とか残像で捕らえた。 もしも一瞬でも遅かったらと思うと……ひっひぃぃぃぃっ!!! バイクは鉄柱のてっぺんまで一気に駆け上り、 一瞬夜の空を舞った。そして見事鉄橋の真ん中に着地。衝撃など全く無い。 「なっなんだよ今の動きっ!?てかっ鉄橋には入れないんじゃなかったのか!?」 ゼェッ ゼェッ ゼェッ 「今まで私のバイク技術は人間の身体能力までだったが、契約したことにより 常軌を逸したバイクコースを走ることも可能になったのだ。 そして契約は都市伝説がテリトリーに捕らわれることも無くす」 ば、ばいくぎじゅつ…今のはもう技術ってかもうなんつーか… 「くるぞ、少年。身構えろ」 ライダーの肩越しに、キュキュキュとタイヤのきしむ音を響かせて 当たり屋がこちらに向き直るのが見えた。 「ど、どうやって倒すの?ライダー」 「私が当たり屋の動きを封じる。その間にお前は車に乗り込み、運転席を破壊するのだ」 「ええええええっ何それ!?んなこと出来ないよ!てか破壊って…」 凄いスピードで当たり屋がまた突っ込んでくる。 「や、ヤバイっ来たよ!!」 「しっかり掴まっていろ少年!」 ライダーがそう叫ぶと、またもやバイクは華麗にジャンプし、突っ込んできた車を避ける。 宙に舞ったその瞬間、ライダーが車に手をかざした。 すると突如ライダーの手から幾本もの光る筋が伸び、当たり屋を縛り付けた。 地に着地し、ライダーが叫ぶ。 「今のうちだ!私のワイヤーでくくりつけられた者に 契約者のお前が攻撃を加えれば、大きなダメージとなるのだ! 案ずるな、私の首を切り落とした程のワイヤーだ。簡単にちぎれはしない、 と、言いたい所だが、相手が相手だ。残念なことに長くは持たない! 急げ少年!成すべきことをしろ!」 アクセルのかかる音がひっきりなしにしている車を、 今にも切れそうに張り詰めたワイヤーが押さえつけている。 怖くないといえば嘘だ。しかし。 次の瞬間俺はライダーの後ろから飛び降り、無我夢中で当たり屋に向かって駆け抜けていた。 割れたフロントガラスから運転席に滑り込む。 しかし、破壊するっつったてどうすれば… もたもたしていると、頑丈なはずのワイヤーがきしむ音が聞こえた。 「急げ少年!時間はないぞ!!」 ええいっこのさい適当だっ 焦りと混乱で頭がいっぱいだった俺は、力任せにハンドルを殴った。その瞬間。 ハンドルが、砕けた。 「あ……?」 突然のことに目が点になる俺。ま、まさかこれがライダーが言ってた能力… ライダーのワイヤーでくくりつけられた者を俺が殴ると大ダメージになる…!? その時、ライダーの叫び声が聞こえた。 「逃げろ!!少年!!!」 ブチブチブチッ!! ― え? ワイヤーがぶち切れる音と供に、俺を乗せた車は再び動き出した。 橋の入り口にそびえ立つ、鉄柱に向かって。 「ぎゃあああああああああああああ!!?!?」 半狂乱で俺はシートにつかまって絶叫した。グングンと目の前に巨大な鉄柱が迫る。 「長くは持たないって、全く持たないじゃないかああああああああ!!!」 かなり長い鉄橋だが、激突すんのは時間の問題。 しかもハンドルはさっき俺が破壊してしまったので利かない。 こんな事になるんなら、コンビニなんか行かなきゃよかったーーーー!!! すると、運転席のドアがガゴっとこじ開けられ、後方に飛んでいった。 「無事か少年!!」 「無事じゃないいいいいいいいいいいいいい」 当たり屋の横につき同じスピードでバイクをかっ飛ばすライダー。 彼はこちらに手を差し伸べた。 「早く!!」 「え?」 「こちらに飛び移るのだ!」 とっ飛び移る!?!? 運転席とライダーの間には結構な距離があるのだ。こんなスピードの中飛び移るなんて… 「むっ無理無理無理無理無理無理」 「先ほども言っただろう!たやすく己の可能性を否定するのではない!」 猛スピードの中、叫ぶライダー。しかし。 「でっできるわけないだろっ!俺みたいな臆病なダメな奴に!!」 俺はシートに抱きついて泣き叫んだ。 もうダメだ。これで俺は17年間の短い一生を終えるんだ。 「しかし、お前は私と契約する勇気を持ってくれた。 確かに臆病ではあるかもしれない。しかしこれだけは確かだ。 少年、お前は決してダメな奴などでは無い!!」 振り返り、さっきから無茶な事と説教ばかり言っている、首の無いこの男を見た。 そして差し伸べられた手を見つめた。 俺は…ダメな奴なんかじゃない…? その言葉は不思議と俺に勇気を持たせた。 よ、よーし。や、やってやるっての!やってやろーじゃねーかっ!!! 俺は意を決した。 どっちみち、やらなきゃ死ぬんだ ― !!! 「うわあああああああああああああああああああああああ」 そして。 真夜中の鉄橋を、俺は跳んだ。 それは一瞬の出来事のようで、とても長く感じられた。 ライダーの力強い腕が俺の体を受け止めた。 次の瞬間、数十メートル先で、鉄柱に激突した当たり屋が爆発した。熱風が肌を撫でる。 お、俺…生きてる… 「やったぞ、少年。見事悪の都市伝説を葬ることに……どうしたのだ」 情けないことに、今更になって、体の震えが出てきた。 「う…う…うわああああああ怖かったよおおおおおおおおおおお」 夜空に向かって思いっきり絶叫した。 さっきは無我夢中で何がなんだかって感じだったけど、今思い返すだけで… ヒイイイィィィィィイイイイっっ あかん、こんなんでいたらまたライダーに説教っぽいことを言われ… ― ポンっ 「さぞかし恐ろしかっただろう。よく頑張ったな、少年」 俺は、鉄橋の上で真っ赤に照らされながらライダーの大きな手を頭の上に感じた。 そうすると、不思議と恐怖が薄れ、俺の心は落ち着くのだった。 俺に兄貴は居ないけど、居たらこんな感じなのかな…。 その時、さっきまで感じていた熱風が徐々に感じられなくなった。 振り返り見ると、爆発の炎や当たり屋の残骸が、少しずつ消えていくのが見えた。 も、もう、何があっても驚かないぞ。うん。絶対に。 「奴が消滅した。と言うことは、結界も消えたということだ。 町に戻れば人の姿も見られるだろう。 それにしても、初めての敵からかなりの強敵を相手にしてしまったな。 本当によく頑張ったぞ少年」 …………ん? 「…『初めての』?」 「そうだ。これから私とお前は、様々な都市伝説と戦っていかねばならないのだ」 めまいが、した。 ちょ…今、なんつった…?頭がクラクラする。 「すまない。あの状況下で言うのを忘れてしまった」 あ、ヤバ…本格的にめまいが… 私とお前が契約してしまった今、これからも様々な都市伝説に遭遇するだろう。 しかし、そうやって悪の心に取り付かれてしまった者達を」 バッターン! 多分、今までの疲労感と取り合えず助かったという安堵感と今聞いた事実の衝撃が、一気に来てしまったのだろう。 俺は倒れた。 これからずっとこんな死ぬような怖い思いしなきゃなんないのか? 冗談じゃない。 「おい、しっかりするのだ!少年!少年ーーーーーーーーーーーー!!!!」 薄れていく意識の中で、ライダーの叫び声を聞いた。 生きるということは不条理ということだ。 それは普通の高校生を突如、首の無い男と供に都市伝説と戦うという日常に放り込む程に。 いつの日か、この「不条理」極まりない現実を受け入れて、 そんな毎日を臆することなく過ごせる度胸が、はてして俺に付くのだろうか。 そしてその日は来るのだろうか。 来るといいなぁ 「単発もの」に戻る ページ最上部へ