約 769,922 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2443.html
『でいぶのおねーさんGO機嫌DO』 10KB いじめ ギャグ パロディ いたづら 痴女さんは出ません 二行作 その生放送は終盤に差し掛かっていた。 壁にはポップかつカラフルな字体で『でいぶのおねーさんGO機嫌DO!?』と書かれている。 「またみてねー。ぜったいでいいよー!」 ステージの中央で、でいぶが身をくねらせながら舞っていた。スタジオのカメラは全て、踊るゆっくりに向けられている。 しかし、その表情に一般的でいぶのような傲慢さはない。むしろ必死さ懸命さが伝わって痛々しいほどだ。 変わっているのは中央の大饅頭だけではない。よく見れば華やかであるべきTVセット等も混沌とした有様である。 床はいっそ清々しいまでに汚らしかった。割れもせずに転がっているくす玉、夥しい小道具、そしてうんうん。ゆっくりのそれであることがせめてもの慰めだ。 周囲も甘い香りが漂う机やら、背後に佇むゆゆこの等ゆん大パネルやら、さらには何か動物の鳴き声まで聞こえてくる放埓ぶりであった。 「はい、オッケーでーす」 スタッフの合図と共にカメラのランプが消え、でいぶがその場に屈み込む。あるはずもない肩で息をしながら、しばらく動けずに苦しんでいるようだった。 しばしの時を挟み、太い饅頭が上半身を起こしながら呼びかける。 「すたっふさん、だいっしゅうごうっ」 その声に呼ばれ、わらわらと人間が集まってくる。今、スタジオ内にはセンターにいるでいぶ以外にゆっくりはいない。 人を集めた紅饅頭は、何故か若干良い匂いを漂わせている。 「ねえ、すたっふさん。でいぶ、きょうはちゃんとしようねって、いったよね」 「あー」 「あー、じゃないよ! さも、なっとくしたようないいかたしないでね! きょうも、ごらんのありさまだったよ! まず、でいぶのおかざりさん。きょうは、とくべつきれいなおかざりつけましょうねって、いってくれたね。うれしかったよ。 でもね」 でいぶが、ぴょこっともみあげを上げる。 もみあげに巻かれた色鮮やかな飾りから細い金属が飛び出しており、毛と頬の間できらめいていた。 「まちばりさんが、ついたままだよ」 「あー」 「あーですませないでね! しかも、ごていねいにりょうほう、まちばりさんがついてたよ! ほんばんちゅう、みぎをむくたび、はりさんがぷっすぷす。ひだりむくたび、はりさんがぷっすぷす。 おかげで、でいぶのりょうほうのほっぺたさんはあなだらけ。びーしーじーちゅーしゃさんのあとみたいになってるよ!」 「あはははは」 「わらいごとじゃないよ! それだけじゃないんだよ! このくすだまさんをみてね。でいぶがひもさんをひっぱったら、ふつう、ぱかっとわれるものでしょ? なんで、われずに、くすだまさんがおちてくるの」 「あー」 「あーじゃないよ。さいわい、おちてくるくすだまさんが、でいぶにちょくげきっしたからよかったようなもののだよ。 でなきゃ、このばんぐみさんが、すべっておおやけどしてるところだよ」 「あー」 「……あと、このゆかにさんらんっしている、うんうんはなに?」 「あー」 「それしかいえないの?」 「あはははは」 「わらってごまかさないでね! なんで、ゆかにてんてんっと、うんうんがあるの? そして、どーして、げすとがいるせきにまで、うんうんがのってるのぉぉぉお!?」 ちょっと洋菓子を思わせるような薄い茶色の台には、ゲストを紹介するパネルも乗せられていた。 『ばかまりさ』と『かしこいぱちぇ』という直球な名札が一つづつ置いてあったのだが、ちょうどその間に細長い餡子も鎮座している。 「これじゃ、みぎから、ばかまりさ・うんうん・かしこいぱちぇで、うんうんまでげすとみたいでしぉぉおおお?」 「あはははは」 「あははじゃないんだよ! ぱちぇはずーっとうんうんのにおいで、えれえれしつづけたんだよ。 なんか、もう、げすとせきさんが、くりーむさんやあんこさんで、わるふざけでつくったでっかいけーきさんみたいになってるよ」 「あー」 「あーじゃないって、いってるでしょぉお! しかも、これなぁに?」 でいぶが片あんよを上げて、ステージ前方を指し示した。 床うんうん点在地帯の手前、まるでブービートラップのように、白い糸がピンと張ってある。 「なんでここに、てぐすさんがあるの? つまづいちゃったでしょ? とっさにあたまひいちゃったでしょ? あおむけにたおれちゃったでしょ? うしろにうんうんついちゃったでしょぉぉおおお?」 「あー」 「あーじゃない! あーなんかじゃなぃぃいい!」 当然の帰結として、キレ出す糞付き饅頭。 感情のままに、片方のあんよを上げて2回地団駄を踏んだ。 その拍子にもみあげが揺れ、待ち針も頬に刺さったりする。 「いだっ! いだっ!」 くすぶる怒りを携えたまま、でいぶはステージの隅にあったホワイトボードを乱暴に押し出してきた。 白い板には、『飼い主さんと飼いゆっくりの健康』と題した情報番組然としたものが表されている。 しかも、大事なところはシールで隠されているというベタさだ。 「ほんとうに、きょうはね、きかくはよかったんだよ、きかくは! なのに、すたっふさんのおしごとのおかげで、だいなしだよ!」 「あー」 「はんせいしているの? なっとくしてるの? だったらにどと、こんなたかさにしないでね!」 明らかに成人男性に合わせてあるボードの足元で、でいぶが怒鳴り続けている。 「これじゃ、とどかないでしょ、しーるさんめくれないでしょ? でいぶ、いがいとがんばったよ? げすとといっしょに、げすとせきさんをおして、ふみだいさんにしようとしたんだよ。 がっちり、こていされていたけどね! しょうがないから、まりさのうえにれいむがのって、れいむのうえにぱちぇをのせて、みんなでのーびのーびしたよ。 なんでそのあいだに、しーえむさんいっちゃうのぉぉぉおお?」 「あはははは」 「わらわないでね! わらわせるべきなのは、しちょうしゃさんでしょ!」 「あー」 「わかってるの? あと、あの、ばんぐみたいとるさんに、あんなことかいたのだれ?」 始まりから終わりまで、背後で番組を見守り続けている『でいぶのおねーさんGO機嫌DO!?』のロゴ。 よくよく見ると、『でいぶ』の文字の左上に、実に可愛らしい字体で『糞たれ』と追加されているのが分かる。 「……なんで、むかしのことほりかえすの? いっかいだけ、やっちゃっただけだよ」 「あー」 「これじゃ、ゆかさんとか、げすとせきさんのうんうんも、でいぶがやったっておもわれちゃうよね」 「あー」 「……もう、いいよ。 ああ、それと、ずーっとふしぎだったことがあるんだよ。あそこにおいてある、ゆゆこのぱねるさんは、なに?」 「あー」 「ほんばんちゅう、でいぶはかくごしてたんだよ。ああもしかして、ゆゆこが、とくべつげすとさんでとうじょうっするのかなって。 そしたら、でいぶもたべられちゃうのかなって。それでも、それでも、ばんぐみがもりあがるならって! …………ほんばんおわちゃったけど、けっきょく、なーんにもないよね」 「あー」 「そうそう、げすとさんでおもいだしたよ。 そこのえーでぃーさんが、かんぺさんで『ここでとくべつげすと、こいしちゃん!』っていうから、でいぶもしょうかいしたんだよ」 司会饅頭がトボトボとどこかへ歩いて行き、そしてトレイをくわえながら戻ってくる。 銀色の安っぽいそれを、そっと床に置き、溜息を洩らした。盆の中央には小さいものが転がっている。 「それででてきたのが、これだよ。ゆっくりこいしじゃなくて、みちばたにある、たんなるこいしさんだよね。 いまどき、だじゃれでこんなものもってこられても、もう、ふぉろーのしようもないよ」 「あー」 「しかたないから、ごーいんに『うーん、こまーしゃるっ☆』ていったから、しーえむさんにはいれたんだよ。 せめて、かんしゃしてね……」 「あー」 「あーじゃないよ! ほんとにきょうは、かんぺさんにもひどいめにあったよ。ちょっと、かんぺさんだしてね」 ADの差し出したスケッチブックを、ゆっくり特有の口遣いで一枚一枚とめくり上げていくでいぶ。 そこには、順番に、 『でいぶ、だいじょうぶか?』 『ほんとうに、だいじょうぶなのか?』 『ほんとうに、ほんとうに、だいじょうぶなのか?』 『いいから、おたべなさいって、いえ!』 と記されている。 「なんで、なにげなく、でいぶをしなせようとするの? あと、でいぶはことばだけで、ぱっくりわれたりしないから。もうにどと、こんなわけのわからないしじ、しないでね」 「あはははは」 「ぜんぜん、わらうところじゃないでしょ! とくにそこのえーでぃーさん、はをみせてわらわないでね! くろいものが、びっしりついてるんだよ!」 カンペを出すADは、常にステージの手前に座って指示を出している。 そのADが座っていただろう場所に、お客様にお出しする際に使われるようなお菓子皿があり、黒いビスケットが満載されていた。 「なんで、おれおさんつまみながら、かんぺさんだすのぉぉおおお!? まっくろなたべかすさらしながら、おしごとしないでね! ばかまりさがほんばんちゅう、ずーっとおれおさん、ちらちらみてるし。うっとーしかったよ!」 「あー」 「それしかいえないの? ……みんな、こっちきてね」 でいぶとスタッフ達がぞろぞろとスタジオ内を移動する。 ステージセットの側には、ゆっくりサイズのキッチンセットがあり、番組内容の幅広さと節操の無さが伺える造りとなっていた。 炊飯器や電気コンロ、流し台などが所狭しと並べられた一角にでいぶが収まる。 「いいたいことが、つきないよ。 『かいゆっくりにもできる、おりょうりきょうしつ』 きょうは、ちゃーはんさんだったよね」 「あー」 「ちゃーはんさんといえば、まずたまごさん。これは、ちゃんとあるね。 あとはおやさいさん、べーこんさん、なによりごはんさんだよね」 小さな炊飯器を、司会饅頭が舌で開ける。 「なんで、なまごめさんがぎっしりつまってるの?」 「あー」 「なまごめさんつかうのは、ぱえりあさんでしょ! それともなに、たくの? いちからたくの? うっかりまねしたかいゆっくりが、すいはんきにおちて、いっしょにむしあがったらどうするの? あらすてきな、おはぎさんのできあがり。いってるばあいじゃないでしょぉぉおおお!?」 「あはははは」 「くれーむさんはこわいんだよ!」 流し場から、太れいむが袋をくわえて掲げて見せる。 「やさいさんも、ふくろからだしてないね」 「あー」 「もう、このくらいゆっくりしてることにおもえてきたよ。だって、べーこんさんなんか」 そう言ってでいぶは流し台から降りて、キッチンセットの裏側に向かって歩き出す。 大人しく付き従う人間達と共に至った場所には、一匹の豚が紐で繋がれていた。 家畜の爪先には、やたら大きい包丁が放置されている。 「なんなの、これ?」 「あー」 豚の腹には赤いペンで綺麗な楕円が描かれている。 丸の中心には親切にも『ベーコン』と明記されていた。ちなみに明朝体で。 「もしかして、さばくの? でいぶが、かいたいっするの? それを、なまちゅうけいするの? できたとしても、ぐろすぎるでしょぉぉぉおおお? おひるのばんぐみなんだよ! ばかなの? しぬよ? ぶたさんが!」 「あはははは」 「……おねがいだから、ちゃんとしようよ。 もうなにひとつ、おちゃのまにおとどけできないよ。 ほんばんちゅうも、しょうがないから、とりあえずふらいぱんさんだけふるまねだけして、えあちゃーはんしようとしたよね。 ……ふらいぱんさんに、だれかつきおとしたよね」 「あー」 「ひとごとみたいにいわないでね! ちょっと、こうばしくやけちゃったんだよ! おれおばっかりみていた、ばかまりさが、とたんにしせんを、こっちにむけたよ! もうすこしで、ともぐいたいかいっになるところだったんだよ! ぎゃくたいばんぐみになるでしょぉぉおおお?」 「あはははは」 でいぶが、頭の上の方を振った。 お飾りに付きっぱなしの待ち針がその度刺さったが、もうそれを痛がる気力もないようだった。 「まあね、こんなこといってもね、けっきょくさいごにいうことは。 らいしゅうも、よろしくおねがいしますって、ことなんだよ」 「あー」 「ほんとうにね、らいしゅうは、らいしゅうはちゃんとしようね。 じゃあ、ゆっくりおつかれさまでした」 ゆっくりらしからぬ哀愁を漂わせながら、司会でいぶはスタジオから姿を消した。家路に着くのだろう。 スタッフも1人また1人と出口の方へと吸い込まれていく。 ある1人が豚を引いていき、最後の1人が電気を消すと、その部屋は漆黒の中に閉ざされる。 うんうんまみれのスタジオを片づけていくものは、誰一人としていなかった。 (終) ネタ元:HITOSI MATUMOTO「ピー助 其の1・其の2」 感想板:http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1274852937/ 過去作:http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/392.html
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/324.html
※駄文、稚拙な表現注意 ※俺設定注意 「きいてるのにんげんさん!!かわいそうなしんぐるまざーのれいむにあまあまちょうだいね!!かわいそうなゆっくりをたすけてあげるのが、ひとのみちってもんだよ!!」 「はぁ・・・どうしてこうなったんだか・・・」 俺は大きくため息をついた。 なんのことはない。休みに買い物に出かけたらこのゆっくりれいむに絡まれた。 それだけのことだ。 薄汚い体にバッジなし。その上ブヨブヨに醜く太った体。 どう見てもでいぶです。本当にありがとうございました、である。 とてもかわいそうなでいぶ 作、長月 「ゆゆっ!!れいむのかわいそうなみのうえばなしさんをきいてごうっきゅうっしてね!!」 そう言ってれいむは聞きもしない自分の過去を話し始めた。 どうでもいい話で時間の無駄だったので割愛させてもらうが、簡単に言えば「つがいのまりさを失くし、その身を削るようにして子供を育てていたがおちびちゃんたちも次々に死んでしまい、今日も食うや食わずの生活をしている悲劇のヒロイン(笑)れいむ」だそうだ。 まぁどうせ餡子脳内で捏造した都合のいい記憶なのが見え見えなのだが、本ゆんだけは気づいていない。だいたいそんだけ苦労したんならどうしてなすび型に太っているのか。 「さぁ、れいむのひっげきってきなおはなしきいたらあまあまちょうだいね!!ただぎきはだめだよ!!」 なおもギャーギャーと騒ぎ立てるれいむ。 その様の醜いこと、醜いこと。せっかくの休日なのに犬の糞でも踏んでしまったような嫌な気分だ。 「まぁ・・・確かにかわいそうな奴かもな・・・お前・・・」 とはいえ俺も鬼や悪魔ではないし、ゆっくり嫌いというわけでもない。むしろゆっくりは好きで、今日買い物出たのも、うちで飼っているてんことさなえの餌がなくなったからである。 ここで会ったのも何かの縁だ。できるかぎりのことはしてやろう。 こいつもかわいそうな奴なのだから。 俺はポケットの中から体温で溶けかけた箱入りキャラメルをれいむにほおってやる。 どうせ食べきれず捨てる予定だったのだ。野良ゆっくりにやっても惜しくない。 「はふはふっ!!うめっうめっ!!」 外の包み紙ごと貪るれいむ。その食いざまは品性のかけらも感じられない。 「うまいか、れいむ?」 「うん、だからもっとちょーだいね!!たくさんでいい・・・」 「じゃあ死ね。」 「ゆべっ!!!」 俺はれいむを踏みつけ、徐々に力を入れていく。 「やべろぉおおおおお!!!くそじじいいいいいいいいい!!!!」 何かれいむが言っているが無視して踏みつけ続ける。最初は威勢良く俺を罵っていたれいむだが徐々にそれも弱弱しいものへ変わっていく。 「やめてぇええええええ!!!れいむが・・れいむがわるかったから・・・」 無視して踏みつけ続ける。どうせ鳴き声だろう。 「おねがいします・・・やべでくだざい・・・れいむわるいこでした・・・なんのうたがいもなくじぶんのすべてがせいぎだとおもっている・・・・かくしんはんってきであり・・・もはや、かいしんっもむずかしく、めいわくきわまりないでいぶでした・・・」 無視する。 「はんせいしました・・・じぶんのあくぎょうをりかいし・・・つみをじかくしました・・・れいむのかんぜんっ・・・はいぼくっ・・・です・・・だから・・・ゆべっ!!」 潰れた。 餡子脳を振り絞って考えただろうれいむの命乞いは完全に無視され、そこにはひしゃげた饅頭だけが残った。 「これでよし・・・と。」 俺はれいむの死骸を近くの公園にあるゆっくり専用のゴミ箱に入れ一息ついた。 えっ!?なんでれいむを殺したのかって。 言っておくが僕がゆっくり好きと言ったのは嘘じゃないし、かわいそうだとおもったのも本当だ。 好きだからこそ、かわいそうだと感じたからこそ潰してやったのだ。 どうせこの手のでいぶは絶対にゆっくりなどできない。只でさえ脆弱極まりないゆっくりでありながら、あの頭の悪さでは死亡フラグと不幸フラグが体中に突き刺さったウニのようなものだ。 善良で賢いゆっくりなら拾われる可能性もなくはないが、あんな汚饅頭、誰も飼おうとは思わんだろうし。 仮にゆっくりできたとしたら、それは他の善良なゆっくりや人間に迷惑をかけた結果であり、その報復で惨たらしく死ぬのがオチだろう。 だったらせめてこれ以上苦しまないうちに、そして罪を重ねる前に潰してやるのが優しさと言うものではないだろうか。 一見、冷たく非情な人間に思われるかもしれないが、本当に冷たい人間と言うのは奇麗事ばかり言う癖に自分では何もしない傍観者のことである。 ちなみに時間をかけて踏み潰したのも、れいむをいたぶるのが目的ではなく、餡子を飛び散らせない為だ。一気に踏み潰すと靴が汚れる上撒き散らした餡子の掃除が大変だ。 ゆっくりの死体や中身はきちんと処理しないと町の景観を損なう上、交通事故や子供や老人が転倒する恐れがある。近頃はゆっくりを潰した後、ちゃんと片付けずそのまま道路に放置する奴が多いが、全くけしからん話だと思う。 「おっと・・・もうこんな時間か。」 そろそろ、ゆっくりショップに行かなきゃな。さなえとてんこにゆっくりフード「ミラクルフルーツ味」と「ハバネロ辛さ20倍界王拳倍率ドン更に倍味」を買ってやらねばならないのだ。 「全く・・・かわいそうな奴だよな、でいぶって・・・低脳で、脆弱で、下品で、その割りに妙な自信とプライドだけは人一倍で・・・どう考えても碌な死に方できやしないんだから・・・」 俺は公園を後にした。 後書き コンペに出したかったネタ。これなら絶対にレギュレーション違反にならない・・・あっ鳴き声だから無理か(笑) コンペが終わってからエンジンがかかりだしました。今頃かかっても遅いのに・・・次のコンペまだかな・・・ 今まで書いた作品 anko259 ゆっくりちるのの生態(前編) anko268 選ばれしゆっくり anko279 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 anko292 ゆっくり見ていってね anko304 またにてゐ う詐欺師てゐの日々 anko313 VS最強のゆっくり 史上最低の戦い anko333 夢と現実のはざまで anko350 あるまりさの一生 anko385 ゆっくりを拾ってきた anko425 ゆっくり Change the World(出題編) anko448 ゆっくり Change the World(出題編2) anko484 ゆっくり Change the World(解答編) anko497 あるゆっくりできない2匹の一生 anko542 てんこがゆっくりするSSさん anko558 あるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ anko577「餡子ンペ09」ゆっくりを愛でてみた anko613「餡子ンペ09」れいむと幸せを呼ぶ金バッジ anko633「餡子ンペ09」としあき博士のれいぱーありす矯正計画 anko735「餡子ンペ09」あるてんこの一生 メスブタの群れ anko764「餡子ンペ09」あるさなえの一生 ゆっくりは皆それぞれ(前編) anko791「餡子ンペ09」あるさなえの一生 ゆっくりは皆それぞれ(後編) anko932 誰も救われない話 anko1022 あるババ・・お姉さんの結婚 anko1057 もらうぞ anko1127 めすぶた祭り anko1224 あるちるのの一生 ずっと続いていく物語 anko1500 ある愛でお兄さんの午後 anko1530 どうして・・・
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/286.html
『でいぶは人の手に負えない』 「なぁ、今回ばかりは許さんぞ。」 「なにいっでるのぉおお!?でいぶにおせっきょうなんて、なにさまなの!?このくそどれい!!」 「いや、飼い主様なんだけど。」 我が家の庭では、真昼間から俺とれいむの怒鳴り合う声が響き渡っていた。 俺はこのでいぶ化してしまった、醜く太ったれいむの飼い主だ。 一応、飼いゆっくり登録証の銀色のバッジからもわかるように、 ゆっくりショップでしっかり躾済みだったれいむなのだが。 こう言っちゃなんだが、こいつの性格がここまで悪くなったのは、 全部俺が甘やかしたせいだという自覚はある。 俺は甘い。 「・・・とは言ってもな。お隣のちぇんをいじめたのは許せん。」 「くそちぇんがなんだっていうのぉおお!?このかわいいでいぶに、おもちゃをかしてくれなかったんだよ!? あんなげす、せいっさいされてとうぜんでしょぉおお!?」 「だからって、怪我させちゃダメだろ。」 まあ、とっくに諦めているので、今さら俺に対して暴言を吐いたりワガママを言ったりはかまわない。 だが、お隣の子ちぇんに怪我させたとなると話は別だ。 飼いゆっくりは立派な財産なので、こういった事が続くと近所づきあい云々どころか裁判にもなりかねない。 下手するとれいむも、殺処分されることだってありえる。 可愛いペットとは言え、今日という今日は説教させてもらうぞ。 --------------------------------------------------------- 「でいぶはかわいいんだよ!せかいいちゆっくりできるんだよ!だから、ゆっくりさせなきゃだめでしょぉおお!?」 「いや、お前はハッキリ言って不細工だ。そんなことはどうでもいいから、話を」 その瞬間、でいぶは飼い主である俺の言葉を遮って叫んだ。 「ゆぁぁああ!?なにいっでるのぉおお!?でいぶはかわいいにきまってるでしょぉおお!?」 「はぁ。そんなのありえないだろ。だからそんな事はいいから話を聞け。今日は許さ」 「ゆぎぃいいいい!?わげのわがらないごどいうなぁぁあああ!!」 やれやれ。 「何言ってるんだ。お前みたいに不細工なゆっくり、野良でもお目にかかった事無いぞ。そんなわかりきった事を・・・」 「ゆぴぃいいいいい!!くそどれいぃいい!!くびにされたいのぉおお!?」 「クビ?はぁ、いいか、れいむ。お前は醜い。心身ともにだ。俺はマニアックな趣味だからお前を可愛がってるが、 この町中にお前を可愛がってくれるような人間、いや、ゆっくりもだが、ひとりたりとも居やしない。 そんな当たり前の事、今はどうだっていいだろ。それよりお隣の子ちぇんの事を・・・」 「ゆがぁぁあああ!?ゆっぐぢりがいできるかぁぁああああ!!」 話は平行線をたどる一方だった。 「はぁ、しょうがねぇなぁ。」 さすがにこのままでは会話にならないと思い、どうしたものかと頭を捻っていたところ、 ちょうどその時、生け垣の向こう、道路の方から、俺をを呼ぶ声が聞こえてきた。 「おにーさん!ゆっくりしていってね!」 「ん?ああ、まりさか。・・・ちょうどいい所に来たな。こっちに来てくれー!」 「ゆぅ?」 しばらくして、玄関の門に回り込み庭に入ってきたのは一匹の野良まりさ。 「ああ、ちょっと頼みがあってな。」 「ゆぅ?まりさにできること?」 「ああ。」 ちなみにこの野良まりさは、野良にしてはなかなか小奇麗で、目もくりくりとして非常に可愛らしく、 マナー違反だとはわかっているのだが、ちょくちょく餌を与えてしまっている野良ゆっくりである。 まあ餌とは言っても残飯とか、れいむの食い残した古い餌とかなんだが。 実は密かに、お隣でもお向かいでも餌付けしているようなので、性格も要領もなかなかいいようだ。 「・・・このれいむ、どう思う?」 「ゆ・・・おにーさんのかいゆっくりだよ?」 「じゃなくて、ゆっくりできるか?」 ・・・・・・。 俺の質問が発せられた後、我が家の庭は、そよ風の音がハッキリと聞こえるほどに静まり返った。 ふいっ。 野良まりさは、冷や汗をかきながら俺とれいむから視線をそらし、言葉を選びながら答える。 「ゆ、ゆぅ。ま、まりさはのらだから、にんげんさんのかんじかたとか、よくわからないよ・・・」 「いや。お前の感じた通りでいいんだ。俺もれいむも怒らないし酷い事もしない。」 「ゆふぅん!しょうじきにいっていいんだよ!それとも、れいむのびぼうにこえもでないの? まぶしくってみていられないなら、あまあまをもってきてもいいんだよ!とくべつにうけとってあげるよ!」 「ゆ・・・」 野良まりさは視線が定まらないまましばらく逡巡していたが、 俺の真剣なまなざしに耐えられなくなったのか、意を決したように口を開いた。 「しょ・・・しょうじきいって、ぜんぜんこのみじゃないよ・・・。」 ・・・・・・。 「ゆ、ゆ、ゆぁぁあああああ!?なにいってるの?のらのおめめはくさってるんだね! でいぶのびぼうがりかいできないなんて、あんこにかびがはえちゃったのぉぉおお!?」 野良まりさはれいむの剣幕に脂汗をかきながら、それでも必死に弁解する。 「ご、ごめんね、れいむ!でも、まりさはにんげんさんにうそなんてつけないよ!ゆっくりりかいしてね!」 「ほら、やっぱり。」 「ゆぎぃいいいい!!ゆっぐぢざぜろぉおお!!ゆっぐぢ、ゆっぐぢぃいいいい!!」 俺の想いと裏腹に、れいむは、事実を突き付けられた事に我慢ならなかったのか、 ますます話を聞いてくれなくなってしまった。 もはや、なだめる言葉も聞いてくれない。 しまいには、バタンバタンと庭にぶよぶよの体を叩きつけるように転げまわりながら、 俺に向かって絶縁宣言に近い事まで言い始めたのであった。 「このくそどれいぃいいい!!もうゆるさないよ!じじいはもうくびにするよ!! にどとあいたくないよ!!とっととでていけぇぇええ!!」 「いや、俺の家だし。出ていくなられいむだろ。」 「ゆがぁああああ!!ゆっぐぢいいがげんにじろぉおおお!!もうこんなおうち、でいぶからねがいさげだよぉおお!!」 すると、野良まりさがこの不毛な口論に割って入ってきた。 「ま、まってね!れいむ、そんなのゆっくりできないよ!!」 「ゆぎいいいい!!くちをはさむなぁぁあああ!!」 「ん?まりさ。」 まりさは怒り心頭のれいむに、それでも慎重に言葉を選びながら話を聞かせようとする。 「おにーさんのおうちからでていったら、のらになっちゃうんだよ!のらはたいへんなんだよ! ごはんもじぶんでさがすんだよ!おうちもじぶんでまもるんだよ!あめさんも、かぜさんもこわいこわいだよ!」 それは、野良生活を実体験しているまりさからの、精一杯の忠告だった。 だが、野良生活どころか庭から外に出た事もないれいむには、そんな言葉は伝わらなかった。 「ほら。まりさもああ言ってくれてるぞ。」 「くそまりさぁぁあ!!ゆっくりしたでいぶが、ひとりでいきていけないわけないでしょぉおお!! それに、かわいいでいぶなら、ほかのにんげんさんもゆっくりも、みんなでみついでくれるにきまってるでしょぉおお!!」 どうやら未だに理解できていないらしい。 そのれいむに対し、野良まりさはなおも忠告する。 「そんなのむりだよ。のらのゆっくりは、みんなたいへんなんだよ。れいむをゆっくりさせてあげるなんてできないよ。」 「そうだそうだ。れいむ。大体お前・・・そうだな。この庭で、ゆっくりしたご飯見つけられるか?」 「ゆゆっ!?」 俺の突然の言葉に、れいむはいったん怒りを引っ込め、庭を見まわした。 「・・・どこにもごはんなんてないでしょぉおおお!!」 「まりさ。ご飯を取ってきてくれ。」 「ゆっくりりかいしたよ!!」 数分後、まりさは我が家の庭に生えていた雑草やそれに近い花、虫やらミミズやらを集めて持ってきた。 やはりこのまりさは優秀らしい。 「・・・これがごはんさんなわけないでしょぉおお!?まりさはばかなの?しぬのぉっ!?」 「れいむ。そいつが野良のゴチソウだ。」 「ゆゆっ!?」 まりさも心配そうな表情になって、れいむを諭す。 「れいむ。もうあやまろうよぉ。のらは、だれもまもってくれないんだよ。 れいむみたいなぜいたくなゆっくりは、だれもまんぞくさせてあげられないんだよ。」 「な、もうやめろよ。れいむ。お前には野良なんて無理だって。俺の所にいる以外生きる道なんて無いんだって。」 ・・・結論から言うと、残念ながら、俺のこの言葉が最後の引き金を引いてしまった。 「そんなめでみるなぁぁああああ!!でいぶはでていくよ!とめてもむだだよぉおおお!! じじいもまりさも、ぜったいこうかいさせてやるぅううううう!!」 結局れいむは、俺達の引きとめる声も届くことなく、家出してしまったのであった。 はぁ。やはり俺には荷が重かった。 そうだよなぁ。そんな簡単に躾けれたら、でいぶになんてなってないよなぁ。 ゆっくりの躾けって難しい。 ・・・まあ、どっちにしてもこうなる事はわかっていた。計算通りだ。 「・・・ところでまりさ。」 「ゆぅ?」 「お前いい子だな。」 「ゆ!ゆっくりありがとー。」 「・・・ウチで飼ってやろうか?」 「・・・ゆゆ!?」 --------------------------------------------------------- その日の夕方。 ガチャ。 「さーて、そろそろ夕飯買いに行くか。ん?」 「ゆ・・・くち・・・」 俺が買い物に行こうと玄関の扉を開けると、 扉の外側に寄りかかっていたのか、スイカ大の饅頭がゴロリと転がった。 「おお、れいむ。お帰り。」 「ゆ・・・ぐぢ・・・」 戻ってきたれいむの全身には、焼き鳥の竹串であろう細い串が、 まるで巨大なウニにしか見えないほどびっしり全身に突き刺されていた。 それこそ眼球の黒目部分とリボン、あんよを除いた全身にびっしりと。 ・・・れいむの家出は、わずか2時間少々で終わりを迎えた事になる。 「ご・・・べん・・・ざい・・」 「おお。よく謝れたな。今治療してやるからな。」 れいむはすっかり素直になって帰ってきたのであった。 「ゆぁぁああああ!!ごべんなざい、ごべんなざいぃいいい!!でいぶがゆっぐぢぢでながったんでずぅうう!!」 「もういいから。泣きやめよ。」 「おにいざん、ゆっぐぢぢでないでいぶで、ごべんなざいぃいいい!!」 「しょうがねえなぁ。今度はえらく甘えん坊になっちゃって。」 その姿をみて、我が家の庭に住み着く事になったまりさも、苦笑気味である。 「よかったね。れいむもおにーさんもゆっくりしてね!」 「・・・お前、ホントにいいゆっくりだな。」 「ゆっくりありがとー!」 この町近辺の野良ゆっくりは、まあ大半はまりさのように大人しいものなのだが、 一部すこぶる荒っぽい者達がいるらしい。 とりわけ元飼いゆっくり、要するに捨てられたゲス達には苛烈な攻撃を行うようで、 以前も捨てられたレイパーありす3匹を、野良子まりさが一匹で、返り討ちにした揚句去勢までしてしまったという。 そんな連中がうろついている町なのだから、れいむもさぞかし恐ろしい目に会った事だろう。 そんな土地柄のため、町の住民達が出した結論は『でいぶ・れいぱーの再調教は野良にやらせるに限る』だ。 荒っぽい野良達とはいっても、むしろそうだからこそかもしれないが、 手加減というヤツはそこらの人間よりはるかに上手い。 たとえば、今まで飼いでいぶをうまく誘導して家出させ、自分達の無力さを暴力で叩きこんでもらった飼い主は数多いが、 その中で飼いでいぶが死亡したケースはゼロだ。 致命傷どころか、発狂もさせず根性を叩きなおす手腕は脱帽である。 同じ躾を人間の調教師に頼むと、数週間の時間と○○万円の費用が費やされる事を思えば、 ゆっくり同士だからこそわかるコツ、と言うものがあるのだろう。 「いやいや、よかった。」 「ゆーん。にんげんさんも、れいむもゆっくりできたから、まりさしあわせーだよ!」 「いい子だなぁ。すーりすーり。」 「ゆぅーん!それに、のらのおともだちも、みんなゆっくりできるよ!」 「ん?そうなの?俺らはともかく、野良からすればなんか物騒な気がするし、まりさも外は怖かったんじゃね?」 「ゆっくりしてないでいぶがいると、のらのおちびちゃんとか、ゆっくりしたゆっくりもこわいこわいだよ。 みんななかよく、ゆっくりできるのがいちばんしあわせーだよ!」 「へー。れいむを痛めつけた野良も、やっぱ色々考えてんのかな?」 「きっとそうだよ!ゆっくりー。」 --------------------------------------------------------- ちなみにまりさは、その後も正式に我が家の飼いゆっくりとして、 一緒にゆっくりと暮らす事になった。 「まりさはのらそだちだから、おそとのほうがゆっくりできるよ!」 とか言って、今も庭で外飼いなのだが、まあ、一匹一匹の好みを尊重するのもいいだろう。 れいむはアレ以来外を怖がるようになり、庭にも出れなくなってしまったので、住み分けができて良かったかもしれない。 ところであのまりさなのだが、生け垣の向こうの野良ゆっくりとヒソヒソ話している姿を見かけることが多い。 その時のまりさは、普段私に見せる朗らかな笑顔がなりを潜め、ゆっくりらしからぬ鋭い表情を見せる。 ・・・あの時話をしている野良達は、友達なのだろうか?
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/377.html
―8― 一週間前までは、二匹一緒に幸せだった。 れいむとまりさはそれぞれの両親と、友人のありす、そして群の長に正式につがいとなったことを 宣言して回った。 そしてまりさが見つけた――と、れいむは信じ込んでいる――ウサギの巣穴で、二匹一緒におうち 宣言をした。 「ここは、れいむとまりさのおうちだよ~っ♪」 勿論、誰からの反論もなく、晴れてその巣穴は二匹のおうちとなった。 枝分かれする暗い通路に光る苔を擦りつけ、奥まった場所にあった広い空間の一つに天日に干した ふかふかの干し草を敷き詰めた。湿気が少なく、風も通っている場所を見つけて食料庫と決めた頃に は日が暮れていた。 そしてその夜、まりさはれいむとの仔作りを求めた。一人っ仔だったまりさの、たくさんの家族へ の強い憧れからきた欲求だった。 この場所に住み始めた初日であり、食料の蓄えも無い状態であることを理由にれいむは何度も制止 したが、最終的にまりさに押し切られる形で二匹は仔を成した。 駄目だ駄目だとまりさを止めてはいたものの、できてしまえば産まれる前から我が子はかわいい。 ぽっこりふくらんだお腹に、れいむは優しく愛おしげに語りかける。 「おちびちゃん、ゆっくり育ってね。れいむのお腹の中でゆっくりゆっくりしていってね……」 ぽっこりふくらんだお腹に、まりさは明るく楽しげに語りかける。 「まりさもおちびちゃんといっしょにゆっくりしたいよっ! おちびちゃんはゆっくりしないでうま れてきてねっ!」 「……………………ゆ?」 にこにこしていたれいむの笑顔が一拍を置いて引きつった。 そんなれいむの様子は気にせず、まりさは軽妙に歌う、 「ゆっくりしないででておいで~♪ じゃないとゆっくりできないよ~♪」 「……なっ!? なんてこと言うの、まりさっ! おちびちゃんはまだまだれいむのお腹の中でゆっ くりしなきゃいけないんだよ? それなのになんでっ!?」 「ゆん? どうしたの、れいむ?」 気分良く歌っていたところを血相を変えたれいむに邪魔されて、まりさはぷくっと頬を膨らませる。 まりさには、れいむが何故怒っているか解らない。 何でれいむはまりさのお歌を邪魔すんだろう。おちびちゃんは、ゆっくりしないで産まれてこない といけないのに。 あ、そっか。れいむはこんな簡単なことが解らなかったんだね。なら教えて上げよう。 だって、 「れいむのおなかのなかにいたら、まりさがおちびちゃんとゆっくりできないでしょ?」 「……ま……りさ。本気で言ってる……の?」 「しつれーなこといわないでね! まりさはいつだってほんきだよっ!!」 「………………」 目をまん丸にして口を開けっぱなしにした、れいむのちょっと間抜けな顔を不思議そうに眺めてい たまりさだったが、れいむが凍り付いたように動かないことを良いことに、れいむのお腹をポコポコ 突っつきながら歌を再開した。 「で~ておいで~、でっておいで~♪ ゆっくりしないででておいで~♪ じゃないとゆっくりでき ないよ~♪ まりさがゆっくりできないよ~♪」 「……ゅ?……ゆぎぃっ!?」 「ゆっ!? どうしたのれいむ、だいじょうぶ?」 突然鋭く呻いたかと思ったら、表情の無かったれいむが一転して真っ青な顔になったことに気付き、 まりさは歌と軽い体当たりを中止すると心配そうにれいむに寄り添う。 だが次の瞬間、今まで見たこともない形相で、聞いたこともないような声で、れいむが叫び声を上 げた。 「……ゆっ!?……う゛ぁあああああ!!」 「ゆひぁっ!?」 「あッ!? アぁっ!? だめっ……だよおちびちゃん! まだれいむのお腹の中でゆっくりしてな きゃあ゛ッ!? ぎ……だめっ! だめッ! だ……ゆう゛ぁあアあァァッ!!」 れいむの大きく膨らんだお腹がビクリ、ビクリと激しく蠢動する。歯を食いしばり、口の端から泡 を零しながらもれいむは懸命にお腹の中に語りかけるものの、ついには身を裂くような激痛に耐えか ねて意識の手綱を手放した。 焦点を失った双眸をカッと見開き、吼えるように叫び続けるれいむ。 最初の叫びの時点で怖くなったまりさはれいむに背を向け、おへやの隅で帽子を深くかぶって震え ていた。 れいむの絶叫が高くなる度に、固く目を閉じていたまりさだったが、不意に水っぽい音が響いたこ とでうっすらと目を開いた。 いつしかれいむの叫びも止まっている。 恐る恐る振り向けば、パンパンに膨らんだお腹を上にして、ぐったりとしたれいむの姿があった。 先程までの激しい蠢動は見られないが、そのお腹は時折捻れるようにうねる。その度にれいむは力 無く呻き、内側より押し広げられたまむまむから黒い物がどろりと零れ落ちた。 べしゃっ、と床に広がる黒い物。 その上に、小さな丸く白い物が乗っていた。 まりさは引き寄せられるようにそれを覗き込むが、一体それが何なのか、皆目見当もつかなかった。 本来あるべき場所に無く、本来あるべき物がなければ、それが何であるかを想像するのも難しい。 しかし、膨らんだれいむのお腹に何が入っていたのかを認識していれば、想像するのは難しくない はずなのだが、 「……ゆん。さっぱりわからないよー?」 結局それが黒目のない目玉だと気付くことなく、まりさは小さな白い玉から興味を無くした。 その次の瞬間、 「……ゆう゛……う゛っ!」 れいむの呻きが間近くから聞こえてきたかと思ったら、まりさの大事な帽子がぽすっという音とと もに後ろへ飛んでいってしまった。 「おぼうしっ!?」 白い玉に吸い寄せられたまりさは無意識の内にれいむの前に立っていた。帽子を目深に被っていた せいでまったく気付かなかったが、揺れる帽子の先端の真正面にれいむのまむまむが口を開いていた。 そしてれいむが呻くと同時にれいむのお腹が一際大きくうねると、何かが勢い良く飛び出した。何 かは当たった帽子にくるまると、そのまま帽子ごと飛んでいったのである。 「まって、まってね! まりさのおぼうしさんっ!」 「……ゆ……ぅ……?」 そんな頭上の展開など知る由もないまりさは、訳も分からず飛んでいった帽子を追いかける。一際 大きい痛みと、それ以降の痛みが無くなったことでれいむが薄ぼんやりと意識を取り戻したことも気 付いていない。 背後の壁際まで飛んでいった帽子に辿り着いて安堵の溜息を吐いたまりさは、そこで自分の帽子に めり込んでいる何かを見つけた。 最初は黒い帽子に埋もれて解らなかったが、もぞもぞと動く、まりさと同じ黒いとんがり帽子をか ぶった小さな姿がそこにあった。 「ゆっ!? もしかして、まりさのおちびちゃ……ん?」 歓喜の声は急速に萎んだ。 確かに帽子はまりさに良く似た黒くてとんがった帽子。髪型も三つ編みが両側にあるものの、輪郭 だけを見ればその子はまりさに良く似ている。しかし髪の色は帽子に負けない艶やかな黒で、帽子に 結ばれたリボンは鮮やかな赤色、三つ編みを結わえたリボンは白色だった。 それはまりさの帽子から抜け出すのに四苦八苦していたが、暫くして帽子の縁の上まで転がり出る ことに成功した。 そしてまりさに良く似た瞳で見上げると、元気の良い第一声を放った。 「ゆーっ!」 「……………………ゆっくりしてないゆっくりがいるよ?」 まりさは上にゆっくりしてないゆっくりが乗っているのにも関わらず、おもむろに自分の帽子を引 っ張った。当然、それはころころと転がり落ちる。ただ、落ちたときの衝撃は大したことがなかった らしく軽く目を回す程度で済んでいた。 帽子についた皺を引っ張ったり軽く踏んだりして念入りに伸ばし、叩いてゴミを落とす。綺麗な状 態に戻ったことを確認して、まりさは大事な帽子を頭の上に戻した。その間、周りをゆっくりしてな いゆっくりが、何やらぐずつきながらうろうろしていたが一瞥もしなかった。 目を向けたのは、そいつが大声で泣き出してからだった。 「ゆぅーっ! ゆぅーっ!!」 「うるさいよ……!」 「ゆぴゅっ!?」 苛立たしげに吐き捨てると、まとわりついてくるそいつをお下げで振り払った。己の全幅と大差の ない幅の三つ編みの直撃を喰らったそいつは声もなく空を舞う。落下先がふかふかの寝床でなければ、 地面に叩きつけられた衝撃で爆ぜていたかも知れない。 むしろ、何故爆ぜなかったのかとまりさは思った。 震えながら身を起こそうとするそいつを寝床から引っぱり出し、涙を流して見上げてくるそいつを 冷たく見下しながら、まりさはあんよをゆっくりと持ち上げた。 覆い被さるように迫るまりさのあんよを、そいつはただ震えながら見上げていた。頭の上に触れた ときには、おずおずと頬をすり寄せてすーりすーりまでしてきた。 徐々に圧されて行く中で、何故こんな事をされるのか理解できなかっただろう。だからまりさは冷 淡に教えて上げた。 「ゆっくりできないゆっくりはいらないよ。ゆっくりしないでつぶれてね?」 「ゆ……ぅ?」 「まりさぁあああぁぁっ!!」 「ゆべぇっ!?」 そいつが潰れる寸前、意識を取り戻したれいむが横から体当たりをしてまりさを吹き飛ばした。 軽く餡子を吐いて転がるまりさ。そんなまりさと辛うじて命を繋いだそいつとの間に、憤怒の形相 のれいむが立ちはだかる。 「この仔はれいむとまりさのおちびちゃんでしょっ! なんでこんな酷いことするのっ!?」 「ゆ……ゆぐ……れ、れいむこそなんでまりさにいたいことするの!? だいいちそんなゆっくりし てないのなんか、まりさのおちびちゃんじゃないよっ!」 「……ゆ?」 「まりさをゆっくりさせてくれるのがまりさのおちびちゃんなんだよ? ゆっくりできないゆっくり が、まりさのおちびちゃんなわけないでしょぉっ!!」 「……」 れいむの形相に後ずさりはしながらも激しくまくし立てるまりさの台詞に、れいむは表情を消して 押し黙った。 漸く納得してくれたと思ったまりさは、笑顔を浮かべて歩み寄る。 「おおごえだしちゃってごめんね? ね、れいむ。あんなのはゆっくりしないでつぶしちゃって、つ ぎこそはゆっくりできるおちびちゃんをつくろうねぶっ!?」 言い切ったところで顔の中央に鈍い衝撃が走った。 軽く伸び上がってからの振り下ろすような頭突きを叩き込んでまりさを地面に打ち付けたれいむか ら、奥歯をギリギリと噛み締める音が聞こえてくる。 俯いた姿から、その表情を窺うことはできない。 ただ淡々とした声だけが、れいむから絞り出された。 「……まりさ。この仔がゆっくりできない姿で産まれちゃったのは、お腹の中でゆっくりしてなきゃ いけない時にまりさがゆっくりしないで産まれてきてねって、せっついたからなんだよ? にんっし んしたれいむのお腹を突っつき回すなんて何考えてるの? 産まれる前に永遠にゆっくりしちゃった おちびちゃんもいたの、わかってるの?」 「……ぎゅ……?」 「それなのに、またれいむにおちびちゃんを作れっていうの? それでまたお腹の中におちびちゃん が産まれたら同じ事になるよね……そんなのれいむは御免だよ」 「……ゆぶ……ばはぁっ!? ゆはぁ……ゆはぁ……」 言いたいことを言いきると、れいむはまりさから興味を失ったかのようにあっさりと身を離した。 放置されていた赤ちゃんゆっくりに寄り添い、今まで親の暴力に晒されていた影響で怯える赤ちゃん ゆっくりに優しく頬をすり寄せた。 「おちびちゃん、すーりすーりしようね。すーりすーり……」 「ゆっ!? ……ゆぅ……ゆうううぅぅ!!」 初めはおずおずと、やがて涙を流してしがみつくかのように頬をすり合わせる赤ちゃんゆっくりの 姿に、れいむは一滴の涙を流しながら微笑む。 そして赤ちゃんが疲れて寝入ってしまうまで頬を合わせていたれいむは、赤ちゃんを起こさないよ うにそっと身を起こし、凹んだ顔に四苦八苦しながら舌を這わせていたまりさに声をかけた。 「……まりさ、この仔はれいむが育てるよ。まりさにも責任をとって手伝ってもらうよ。ゆっくり理 解してね」 「ゆん? なんでそんなことまりさがしなきゃいけないの? ふざけないでね!」 「ふざけてるのはまりさでしょうがぁあああああ!!」 「ゆぎゃぁあああああ!?」 さも当然とばかりに即答で断るまりさに、れいむは辛うじて保っていた堪忍袋の緒を引き千切った。 それから暫く、余りの騒ぎに赤ちゃんが泣き出すまでの間、れいむは産後で体力を消耗していると は思えない怒濤の勢いでまりさを折檻した。 まりさがそいつに感謝したのは、それが最初で最後だった。 ―9― 「れいむ? それともまりさ?」 「ゆー?」 「ゆーん……。それじゃ、れいさ、れりさ、まりむ……」 「ゆぅ?」 「まいむ」 「ゆー!」 「ゆん、おちびちゃんはまいむなんだね。まいむ、ゆっくりしていってね!」 「ゆぅ~♪」 れいむとまりさの仔は、胎内にできた直後にまりさに脅かされ揺さぶられて、まったくゆっくりす ることなく母のお腹から産まれてしまった影響なのか、れいむとまりさの特徴を混ぜたような姿をし ていた。 その上、言葉を話すことができなかった。「ゆっくりしていってね」すら言えず、ただ「ゆーゆー」 と鳴くか泣くだけで会話など成り立たない。 しかし、喋ることができないだけで話を聞くことと理解することはできると解ったれいむは、根気 強く語りかけては仔の反応をつぶさに観察することで何とかコミニュケーションを成立させた。この れいむかまりさかも解らない仔の気に入る名を付けることができたのはその最たる成果だろう。 見た目が変わっていることと、言葉を話すことができないこと。その二つに目を瞑ればまいむはと ても素直で聞き分けの良い仔だった。 だが、まりさにはその二つがどうしても無視できなかった。 れいむの目を盗んでまいむを殺そうとしたことも一度や二度ではない。その度にれいむから折檻を 受け、ついには寝室からも追い出されてしまった。 それでもおうちから追い出さなかったのは、食料の調達ができるのがまりさしか居なかったからだ った。 れいむは出産後で体力が落ちていたし、まりさとまいむを一緒に残していくことはまいむの命に関 わると悟っていたために、懇々とまりさに頼み込んだ。 まりさも最初から一家の大黒柱になるつもりがあったために食料調達を気安く請け負った。そこに はまりさから離れたれいむの心を引き戻そうとする下心もあったかも知れない。 「ゆっくりかえったよ! すごいでしょ、れいむ! まりさはこんなにたくさんごはんをとってきた よっ!」 「……まりさ?」 「ゆん? なに、れいむ」 意気揚々と出かけたまりさは、ほんの十数分で帽子をパンパンに膨らませて帰宅した。そして満面 の笑みで収穫を見せびらかしたところで、れいむが冷めた半眼で見据えていることに気付いた。 「……どうしたの? なんでそんなおめめでまりさのことみるの……?」 「まりさはれいむに狩りは得意だって言ってたよね……。たくさんたくさんの木の実さんや果物さん をれいむのおうちに持ってきて、『まりさはこんなにかりがじょうずなんだよっ!』っていってたよ ね……?」 「ゆ……っ!? そ、そうだよ、まりさはかりがじょうずなんだよっ! それがどうかしたの!?」 かつてれいむにプロポーズするために両親に頼んでかき集めてもらったご馳走のことを思い出し て、まりさの声が裏返った。総てまりさ独りで集めたということにしていたので、その話をされると そこはかとなく後ろめたい気分になる。 そんなまりさの挙動不審には目もくれず、れいむはまりさの収穫から一束の草を抜き取った。 「それ、食べてね」 「ゆっ! いいの!? ゆぅ~ん、つかれてかえってきたまりさにいちばんにごはんさんをくれるな んて、れいむはやっぱりよくできたおくさんだね♪ それじゃ、ゆっくりいただきまーす」 れいむが割と雑に投げ捨てた草は、まりさの目にはこの上ないご馳走として映った。 不慣れな狩りで疲れ、お腹が空いていたこともあり、まりさは飛びつくようにしてれいむが投げた 草を貪った。 「むーしゃーむーしゃー! むっちゃうぇっこれどぐばいでるっ!?」 「……はぁ。それは食べたらすっごく気分が悪くなっちゃう草さんだって、ぱちゅりーに習わなかっ たの? れいむは小さいときに群のがっこうで教えてもらったよ?」 「ばりざぞんなごどじらない……うぇ……」 「おちびちゃんくらいのゆっくりだと永遠にゆっくりしちゃうこともあるけど、おとなのゆっくりな ら気分が悪くなるくらいだって言ってたよ。しばらくすれば治るから、ゆっくり大人しくしていてね」 「ゆぅ……ぅ……」 笑顔で食らい付き笑いながら吐餡したまりさを冷ややかに一瞥し、れいむはまりさの収穫を黙々と 選り分けた。あの草を見つけたときには、まいむの毒殺を企んだのかと訝しんだれいむだったが、何 の躊躇も無く笑って毒草を食べたところを見てその認識が間違っていることを知った。 というか、まりさへの認識がそもそも間違っていたことに、れいむはそろそろ気付いていた。 まりさの採ってきた草はおうちの周辺に繁茂する、毒こそ無いが固くて味気のない草が大半を占め ていた。少し森の奥へ行かないと取れない木の実や、日当たりの良い丘まで行けば取れる甘い香りの 花などのご馳走は微塵も見あたらない。時期的に青虫なども多いはずだがそれも無い。 要するに、まりさの狩りは家を出た所に群生していた草を手当たり次第に採ってきただけだった。 未熟児として産まれたまいむは消化機能が極めて弱く、そういった堅い草はれいむがどれだけ噛み 砕いたとしても食べることができなかった。そんなまいむが食べることのできそうな柔らかくて口当 たりの良い草が、数本でも混じっていたのは不幸中の幸いと言ったところだろうか。 つがいになる前に見せた狩りの成果は嘘で、今目の前にある適当な草の山がまりさ本来の実力。思 い返せば、れいむが群のゆっくりたちと狩りの勉強に励んでいる時にまりさの姿を見た覚えがない。 一緒に居て楽しいところばかり見ていて、こんなあからさまな嘘を見抜けなかった。 その結果がまいむであり、産まれることなく永遠にゆっくりしてしまった子供だ。 「……むーしゃむーしゃ……ゆぶっ……んぐ。むーしゃ……」 選り分けた草の山を口にする。 堅い草、苦い草、棘のある草、えぐい草、時々混じる毒のある草。絶え間なく口内に迫り上がる餡 ごとゆっくりできない草の山を飲み下す。とにかく食べて、出産で失った餡と体力を――そしてこれ から先、一人でまいむを育てていくための力を蓄えなければならなかった。 まいむを見てゆっくりできないと言うのはまりさだけではない。ゆっくりなら多かれ少なかれそう いった感情を抱くだろうことは、れいむにだって理解できている。だから頼れる者は自分しかいない。 残したのは柔らかくて口当たりの良い草と、堅くて味気ないけど不味くはない草。 前者は当然まいむの為に。そして後者はまりさの為に残してあった。 「ゆーっ!? れいむ、なんでごはんさんひとりでむーしゃむーしゃしちゃったのぉっ!?」 「……まりさの分はそこに置いてあるでしょ。それを食べたらまた狩りにいってね。ゆっぷ……沢山 で、良いよ」 れいむは想う。美味しい食べ物を見分けることができないなら、せめて手当たり次第に集めてきて もらおう。 その中で、美味しい物をまいむに。不味い物はれいむに。余った物をまりさに。 まいむには育ってもらわないといけないから。れいむは力を蓄えなければならないから。まりさに は働いてもらわないといけないから。 「ゆー……これっぽっちじゃ、おなかいっぱいしあわせーってできないよ……。ゆっ!? そっちに おいしそうなくささんがあるよっ! まりさがたぺっ!?」 言うことを聞かないときには、ゆっくりできないけれど暴力に頼ろう。 気弱で臆病なまりさは少し脅すだけでも言うことを聞くだろうから。 「まりさの分は食べたでしょっ! れいむが取り分けたごはんさん以外を盗み食いしたら、お仕置き するからね! ゆっくり理解してねっ!」 「ゆひぃっ!? わかりましたぁあああああ!!」 れいむはお母さんだから、おちびちゃんをゆっくりさせるために思いつく限りのことをやろうと、 静かに覚悟を決めた。 その日から、れいむとまりさは一緒にゆっくりすることが無くなった。 それでもれいむは、まいむとの生活にささやかなゆっくりを味わっていた。 まりさに先導された群のゆっくりたちに、その命が打ち砕かれるその日までは―― ―10― ぱちゅりー、ありす、そして群のゆっくりたち。 その場にいる総てのゆっくりの視線がまりさに収束し、焦点のまりさは救いを探して右往左往して いる最中。まりむは誰の目に留まることもなく、母だったものの成れの果てに辿り着いた。 「ゆー……ゆっく……! ゆっくぃ……!」 頬を寄せ、舌で舐め、乏しい語彙で懸命に呼びかける小さな姿。「ゆっくりしていってね」と言え ば応えてくれるとでも思ったか、自由に動かない口で必死に挑んでいた。 その声は群のゆっくりたちにも届いている。 だがその姿を見ようとするゆっくりは一匹としていない。 まいむを見ようとすれば、自分たちが寄って集ってなぶり殺しにしたれいむの姿も目に入れること になる。 まりさの話を総て聞けば、れいむを殺めてしまったのはあまりにも筋違いだったと理解できてしま う。今更れいむを直視できるゆっくりなど、この群に一匹も居なかった。 だからその視線は、怒りと後ろめたさを孕んでまりさに突き刺さる。 そしてまりさは、この期に及んでも何故自分がそんな目で見られるのかが解っていなかった。 「ゆー……。ゆっくりできないおちびがいたことをだまってたのはわるかったとおもってるよ。けど、 こんなゆっくりできないのをれいむがしゅっさんっしたなんて、まりさははずかしくっていえなかっ たんだよ……?」 それなりに考えた挙げ句に思いついた怒られている理由は、ゆっくりできない仔がいることをみん なに黙っていたから、だった。 確かにゆっくりは奇形を殊更に嫌う。顕著な例では、ゆっくりが一番大切にする飾りに傷が付いて いるだけでも侮蔑し、無くしたら殺意を以て排斥するほどである。 れいむとまりさの特徴をまぜこぜにした容姿のまいむの事を秘密にしておきたい気持ちは、普通の ゆっくりなら共感できる。まいむを一息に殺してしまうことを積極的に容認するゆっくりも少なくは ないだろう。 だから、事の要点はそこではない。 「まりさ……」 ぱちゅりーが詰問した、れいむと暮らしたまりさの一週間。 まりさは覚えている限りの日々を包み隠さず、誇張も歪曲も無しに語った。 そしてこう言った。「れいむはまりさのことをゆっくりさせてくれない、ひどいゆっくりだったん だよっ!」と。 「あなたは……あなたが、『でいぶ』よ」 「ゆ……? まりさはまりさだよ? でいぶはれいむでしょ? まりさじゃないよ?」 「むきゅ、そうじゃないのよ」 困惑の表情を浮かべるまりさに、ぱちゅりーは悲しげな表情でゆるゆると首を振る。その悲しみは まりさの無知に向けたものか、それともれいむへの悔悟か。 それも一拍瞑目した後には綺麗に拭い去られていた。 群の長の顔に戻ったぱちゅりーは淡々とまりさに教える。 「でいぶっていうのはね、自分のゆっくりのためなら悪意無く他者のゆっくりを踏みにじる『ゆっく り』のことをそう呼ぶの。それがしんぐるまざーのれいむに多いから、れいむたちの悪口みたいにな っているけどね」 「ゆ……ゆ?」 「ぱちぇは間違ってれいむにも言ってしまったけど……まりさにも言うわね」 まりさの上目遣いで縋るような目を、傲然と躯を反らしたぱちゅりーの冷たい目が明確に拒絶する。 「ぱちぇの群にでいぶはいらないっ! まりさはぱちぇの群から追放するわっ!!」 「ゆ……」 ぱちゅりーの宣言を聞いて、目を点にしたまりさは暫く凍り付いたように制止していた。それも徐 々に言葉の意味が理解できるに連れてふるふると震えだし、目は潤み口が戦慄く。 「そんな……そんなのゆっくりできないよ……?」 右を向く。幼なじみのありすが、涙に濡れた目に敵意を込めて睨んでいた。 「まりさはゆっくりしたかっただけだよ? まりさはゆっくりしないといけないんだよ?」 左を向く。れいむの家族が、殺意に歪んだ表情で歯を軋ませていた。 「わるいのはれいむでしょ? まりさをぜんっぜんゆっくりさせてくれなかった、とってもひどいゆ っくりだったんだよ?」 周囲を見回す。だが一匹としてまりさに同情的なゆっくりはいない。 「わるいのはゆっくりできないあいつでしょ? れいむがあんなのをうんだからまりさはゆっくりで きなくなったんだよ? みんなもあれをみてゆっくりできないでしょ!? ねぇ!? ねぇ!!」 まりさを助けてくれそうなゆっくりを探す。 だが、こんな状況でも味方をしてくれたであろう優しい両親は、まりさとれいむがつがったその日 に永遠にゆっくりしていた。過労だったがまりさに知る由はない。 「やだ……やじゃ……やじゃやじゃいやじゃぁああああああ!!」 後はもう言葉にならない。 大声で喚き散らしておうちへ逃げ込もうとするまりさだったが、周囲のゆっくりに簡単に取り押さ えられた。彼らの頭上に担ぎ上げられたまりさは、泣き叫びながら群の外へと運ばれてゆく。 途中、何度も脱走を繰り返すがその度に手酷く痛め付けられるだけで逃げることはできなかった。 この時、最も苛烈に攻撃を加えていたのはありすだったという。 自発的に出ていかないゆっくりは岩場の崖から放り捨てるのがこの群の掟だった。まりさもその例 に倣って、遙かな高みから堅い岩の上に落とされた。 ゆっくりの命を奪うほどの落差ではないから、まりさはまだ生きている。 しかし群のゆっくりたちから受けた暴行の痕に、岩に叩きつけられた際に爆ぜた傷。重傷のまりさ はこの場から動くことも出来ず、静かに衰弱していくことだろう。 「まりさ……ただ……ゆっくり……したかっただけな……のに……」 その声を聞く者は、もう居ない。 ―11― まりさを担いでいった一団とは別に、その場に残ったゆっくりたちがいた。 先のれいむとの激戦で消耗しているゆっくりが大半だが、その中にぱちゅりーも残っていた。 まりさのことは、ありすたちに任せておけば問題はない。あそこまで怒りに燃えていれば余計な手 心を加える心配もない。 だからぱちゅりーはその間に後始末をするつもりだった。 一つはれいむの遺骸の埋葬。 野晒しにしたままでは可哀想だし、誤解で殺してしまった群のゆっくりたちの慰めにもなるだろう。 そしてもう一つはゆっくりできないものの排除。 「ゆっくぃ! ゆっくひ! ゆっく……ゆぅ?」 「ごめんなさいね」 「ゆきゅ!?」 未だに声を上げ続けていたまいむの背後に忍び寄り、気付かれたときには既にあんよで踏みつけて いる。後は体重をかければ一息で潰れることだろう。 「ぱちぇの群にゆっくり出来ないゆっくりは要らないの」 総てはぱちゅりーの群がよりゆっくりするために、 「ゆっくりできないゆっくりは大人しく潰れてちょうだい」 「――おカしィね?」 「……む……きゅ……?」 まいむを潰すために重心を前に移しかけたぱちゅりーの耳に、聞き覚えはあるけど不明瞭な声が聞 こえた。 その声は、明らかに聞こえるはずのない声。聞こえてはいけない声。 目を剥いて声の主を見やれば、片方だけの瞳と目が合った。 ミシリと口内の枝をへし折って屍が口を動かす。 ポトリと舌の端が零れ落ちるが発音は却って明瞭になっていった。 「こんナところに身勝手ナゆっくりのためにれいむのおちびちゃんヲを踏みにじろうとする、でいぶ がいるヨ?」 「むきゅ……ぅ、れ、れ、れいむぅっ!?」 「ねェ、ぱちゅりぃ……?」 ぱちゅりーはただでさえ白い肌を真っ白にして震えた。 何これ何これ何これ何なのこれは!? ぱちゅりーの口はガチガチガチガチ歯を打ち鳴らすことに忙しくて言葉が出ない。だからせめて心 の中で叫ぶ。 れいむは永遠にゆっくりしちゃったんでしょ? 何で動いてるの? 生きてたの? あんなに沢山 枝を突き刺されていたのに? 生きていられるわけないでしょ? 何で生きてるの? 何で近付いてくるの!? れいむのゆっくりできないおちびちゃんはまだ潰してないでしょ!? ほら、おちびちゃんは返してあげたでしょ? こっちこないでね、ゆっくりできないれいむはゆっ くりできないおちびちゃんと一緒にぱちぇの群の外で勝手にゆっくりしていってね、こっちこないで ね、お願いだからゆっくりしないで出てって…… 「むぎゅうぅぅ! おねがいだがらごわいでいぶばばぢぇにぢがづがないでえええええ!」 「れいむのおちびちゃんを、まいむをゆっくりさせないゆっくりは……」 ただ震えるだけのぱちゅりーにゆっくりゆっくりと近付いたれいむは、頬が触れるほどに身を寄せ て囁く。 その声は、不思議とその場にいた総てのゆっくりの耳に届いていた。 「れいむが……ぜぇえええぇぇったいにぃ許さないからねぇえええぇぇっ!!」 「ゆぎゃあああああっ!!」 まりさを捨てて戻ってきたありすが見たものは、泡や餡を吹いて卒倒したぱちゅりーたちの姿。 そして、ぱちゅりーの横で半ば崩れたれいむの姿と、 「ゆっくり! ゆっくりぃーっ!!」 母の躯に、漸く言えるようになった「ゆっくり」を贈り続けるまいむの姿だった。 ―12― 森のとある群に、子供を躾けるときの脅し文句にされる一つの言い伝えがある。 その群のゆっくりたちの餡に深く刻まれた恐怖と共に、永くこの群に伝えられる言い伝え。 「こらっ! みがってなゆっくりをしていると、でいぶがくるよ!」 「ぴぎゃあああああ!? でいぶこわいよおおおおお!!」 この言い伝えがあるお陰か、この群は森で一番のゆっくりしていたという。 その群の長は赤いリボンを巻いた黒い帽子を被っていたというが、真偽は定かではない。 ―終わり― 挿絵:我慢あき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/328.html
・俺設定あり。 ・天然あきのほかの作品と関連あり。 天然あき 「おいじじい!!!」 男の会社への帰り道、一匹のでいぶが話し掛けてきた。 「ん、何かな?」 でいぶの出合い頭の暴言に眉一つ動かさず笑顔で反応する。 すると、 「でいぶはおちびちゃんがしんじゃってかわいぞうなんだよ!!だからやさしくしなくちゃいけないんだよ!!!」 でいぶはでいぶとしてはあまりにテンプレな発言をしながら持ち主のいなくなった小さい帽子とリボンを見せる。 ここで普通の人間ならば無視、虐待お兄さんならヒャッハーと言って虐待する所だがこの男はそのどちらとも違う行動をした。 「それは可哀相に…こんな物でいいならどうぞ」 そう言って鞄の中にある潰れた菓子パンをプレゼントする。 男は菓子パンは常に常備しているのだ。 「ゆ、ゆううううううう!!? はやくよこしてね!ゆっくりしないでよこしてね!!」 それを見た途端でいぶは目を開いてよだれを垂れ流す。 「はいどうぞ」 男は迷いなくそれをでいぶに渡した。 「うっめ!これめっちゃうめ!!」 瞬く間にジャムパンを食い尽くすでいぶ。 するとふてぶてしい顔で男の方へ向き、 「こんなんじゃぜんぜんたりないよ!!!はやくかわいいでいぶにもっとたくさんあまあまもってきてね!!!」 と更に催促して来た。 男はそれに戸惑いの顔を浮かべた。 それはもう菓子パンを持っていないからではない。 「でいぶってかわいいの?」 でいぶが可愛いと言った事に関してだった。 すると、 「とうぜんでじょお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!でいぶはうちゅういぢがわいいんだよお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!みればわがるでじょお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」 自身のプライドを傷つけられたでいぶは半狂乱で叫ぶ。 だが男はそんなでいぶの様子を気にも留めておらず、 「それじゃあかわいいってゆっくりできる事だよね?」 「あたりばえでじょお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」 「そっか…ならかわいそうじゃないね」 「ゆ!!?」 可哀相じゃない。 その言葉にでいぶは反応する。 「なにいってるの!?でいぶはかわいぞうなんだよお゛お゛お゛お゛!!!」 でいぶは叫ぶ。 自分は可哀相だから優しくされなければならないという固定観念があるでいぶからすればアイデンティティが崩壊すると同義であった。 「でも可愛いんでしょ。可愛いって事はいい事だよね。 いい事ってことはゆっくり出来るって事だね。 だったら可愛いって事はゆっくり出来るって事だよね。 ならやっぱり可哀相じゃないじゃん」 「ゆゆゆううう!!?」 でいぶには訳がわからない。 でいぶはおちびちゃんをうしなってかわいそうなのにかわいいからかわいそうじゃない? でいぶは混乱をどんどん深めていく。 本来ならば可愛いから可哀相じゃないという訳ではないのだが、短絡思考のゆっくりではその結論には辿り着けない。 ゆっくりには100か0かしかない。 特にでいぶ等のタイプにはそれは顕著だ。 だから本来ならば穴だらけの男の言葉も論破できないでいた。 「ゆぐ…でいぶはがわいぞうなんだよ…でもがわいいんだよ…」 でいぶは苦し紛れに言う。 「うん、だからね。可愛いならゆっくり出来るよね?かわいそうじゃないよね? それとも本当は可愛くないの?そうじゃなきゃ可愛いって事は本当はゆっくり出来ないのかな?」 だが男はまるで子供のようにでいぶを責め立てる。 そこに悪意はない。 この男は本気でそう思っているのだ。 人間にそのルールが適応するとは思っていなかったが、かつて男と出会ったゆっくりれいむは可愛いから大事にされるべきとか言うゆっくりと会ってる為、可愛さがゆっくりにとっては一番大事と思い込んでいたのだ。 だからこんな事を言っているのだ。 一方そんな事も露知らずでいぶは混乱の色をどんどん強めていった。 「でいぶは…かわいぞう…がわいい…?」 同じ言葉を何度も繰り返すでいぶ。 こういう場合ゆっくりは自分に都合よく解釈していく。 でいぶは…かわいそう…かわいい…かわいそう…かわいい…かわいい…かわいそう…かわいくて…かわいそう…かわいくてかわいそう!! でいぶが覚醒する。 「ん?」 でいぶの自信の満ちた表情に男も気付く。 そんな男に向けてでいぶは叫んだ。 「でいぶはかわいくってかわいそうなんだよ!!だからじじいはさっさとあまあまもってきてね!!!」 「!!?」 その言葉によって男の身体に電流が走る。 でいぶはそれを自分の聡明さに驚愕してると思い込んだ。 「ゆっふーん。でいぶのせかいさいこうほうのあんこさんにおどろくのはむりはないけど…」 でいぶは男にあまあまの提出の催促をしようとするがその言葉の途中で遮られた。 「…そんなに自分を卑下しなくって…いいんだよ…」 男の言葉によって…。 「ゆゆ!?」 でいぶは自分の言葉を止められた不快さよりも男の異様な状態に驚いた。 男は号泣しながら微笑んでいた。 でいぶには訳がわからない。 その訳の分からなさはでいぶに恐怖を抱かせた。 だが男はそんなでいぶの様子を気にもせず涙を流しながら告げた。 「可愛い事は決して可哀相な事じゃないよ…だからそこまで自分を追い詰めなくていいんだよ…」 男はでいぶを両手に掴んで持ち上げる。 「ゆうううう!!?おぞらをとんでるみだい゛い゛い゛い゛い゛!!?じゃなぐで!ぎだないでべざばぶなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 でいぶは叫ぶ。 今まで馬鹿にしてた男に掴まれ何も出来ないのだ。 その屈辱は大きなものだった。 だがそんな叫びも男の耳には入らない。入っても認識しない。 「君は悪くない…けど…もしそれでも可哀相だって言うのなら…」 「はなぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! でいぶはがわいぞうなんだあ゛あ゛あ゛あ゛!!!だからやざじぐじろお゛お゛お゛お゛お゛!!!」 互いに話を聞いていないようだ。 だが、 「…そうか…わかった…それが君の答えだね…なら…」 でいぶの言葉を聞いた途端男が悲しそうな表情に変わり、 「俺が責任を持って可愛くなくしてあげるよ」 「ゆびゅう゛ぅ!!?」 男の宣言と同時に地面に叩き付けられるでいぶ。 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いぢゃい゛い゛い゛い゛い゛!!?」 でいぶの泣き叫ぶ声が響く。 「まだ愛嬌っぽさがありそうな感じがするね…」 そう言って男はでいぶの揉み上げを掴む。 「ゆぎい゛い゛い゛!!?」 遠慮なくひきちぎった。 「うーん…なんていうかキモカワイイとかも言われそうだな…」 男はそう言いながら揉み上げを投げて器用にごみ箱に捨てた。 「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? でいぶのぷりでぃでぴゅあぴゅあなおりぼんざんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 れいむ種にとって揉み上げはリボン程とは言わないまでも大事なアイデンティティの一つだ。 わさわさしたり手の代用品として使うのもいる。 それを奪われたのだ、泣き叫ぶのも無理はない。 だが男はそれを知らない。 「前も思ったけどやっぱり目が可愛いと結構補えちゃうな…よし取ろう」 「ゆゆううう!!?」 でいぶはその言葉に衝撃が走る。 男がどうしてでいぶの目を取ろうと考えたのかわからないがでいぶ自身に危機が 訪れているのを本能的にでいぶは理解した。 「ゆっぐりじないででいぶはにげ…はなじぇええええええ!!?」 だが逃げようとするとそれよりも早くでいぶは男に捕まった。 「それじゃこれから目を取るけど左右どっちがいい?」 「ゆぎい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛はなぜぐぞじじい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 生殺与奪を握られているのにも気付かず暴れ続けるでいぶ。 しかし男はそんなでいぶの為に本気で考えていた。 「う~ん…出来れば自分で選んでほしかったんだけど…仕方ない、左にしよう」 男はそう言ってあまりにあっさりとでいぶの左目に指を突き刺し左目の眼球を引っこ抜いた。 スポーンと景気よく。 「ゆ…?」 あまりにもさりげなく、そして素早い行動に左目が二度と使い物にならなくなった事もわからずでいぶは呆然としていた。 そして一拍おいた後、 「でいぶのおつきさまよりまるぐでたいようみだいにかがやぐおめめがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 滑稽な悲鳴が響き渡った。 「ほいっと」 男はまたでいぶの一部を放り投げごみ箱に投げ捨てる。 ごみ箱の中で何か弾けた音がしたが気にしない。 「あともう少し…かな?」 男はでいぶを見て呟く。 「ゆ゛…ゆ゛う゛ぅ…!?」 それにでいぶは戦慄し、恐怖し、絶望する。 この世の全ての頂点に立つという妄想を現実と思い込むでいぶが初めて感じる自身ではどうしようもない脅威。 この瞬間でいぶのアイデンティティは音を立てて壊れた。 言葉でも手段でもなくただただ純粋な善意と力によって。 「ど…どうじで…」 男を自分とは違う領域の生物としかでいぶは思えなかった。 人間とゆっくりの差ではない。 もっと違う何かを男から感じた。 だから尋ねた。 本当にこの男が何者なのかを見極める為に…。 いやそこまででいぶは考えてなかったのかもしれない。 質問すれば男は答えてくれる。 悪いと思ってしている訳ではないのだから。 そうでなくても理由がわからないまま蹂躙されるのを良しとする者はいない。 だから自分の窮状を訴えかけるのは当然と言えば当然だ。 もっとも、理由がわかっても蹂躙されるのを良しとなんてしないだろうが。 「どうじ…べ…ごんなごどずぶの…?」 「ん…?」 でいぶが尋ねた言葉に男は怪訝な顔をする。 男からすればでいぶがこうなる理由等わかりきってるも同然だったのだから。 「何って可愛くなくしてあげてるんだよ」 男は満面の笑みで告げた。 「…ゆ?」 あまりにも明るい口調で告げられたその言葉にでいぶはまた呆然とする。 そんなでいぶの反応を尻目に男は話を続ける。 「だってれいむは“可愛く”って可哀相なんだよね?なら、可愛くなくなれば可哀相じゃなくなるよね?だから俺が可愛くなくしてあげるよ」 つまりはでいぶからすればかわいい+かわいそう=かわいくてかわいそうが男にはかわいい=かわいそうと認識されてしまったのだ。 「ゆう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!?」 でいぶは混乱した。 男の言っている言葉の意味がわからない。 けどこのまま何もしなければゆっくり出来なくなるのはわかりきっていた。 何として逃げようと足掻く。 だがそれは無駄でしかない。 「ご、ごべんなざい!!あやばりばずがだやべでぐばはい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?」 でいぶは必死に懇願する。 しかしそれも男には通じなかった。 「何言ってるんだい? 君が謝る事なんて何も無いんだよ」 男は笑う。優しげに。 だがその笑みはでいぶにとって絶望しか感じられなかった。 「それじゃ…次はリボンを破かせてもらうよ」 「ゆ、ゆう゛う゛う゛う゛どお゛じでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」 「可愛いから」 でいぶの疑問に男は即答する。 男の顔からは慈愛の笑みが浮かべられていた。 そこにあるのは純然たる善意だけだった。 でいぶは理解した。 彼は虐待お兄さんや保健所のようなゆっくり出来ない人間じゃない。 もっとおぞましい何かだ。 でいぶは後悔した。何でこんな化け物に話し掛けてしまったのだろうかと…。 「やだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛はなじでえ゛ええ゛え゛え゛え゛え!!?」 あらん限りの叫び声を上げた。 このままでは可愛くなくなる。 それはでいぶにとって死にも等しいものだ。 一片の迷いもなく男はでいぶを可愛くなくす。 それに抗う術をでいぶは持ち合わせていない。 助けてくれる者等いない。 かつてつがいだったまりさはごはんももってこれないゲスだったからせいっさいした。 おちびちゃんはおなかがすいたしゲスだったからせいっさいした。 だからもうでいぶを助けてくれる者なんていない。 「それじゃいくよ」 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 明るい声と悲痛に満ちた声が響き渡ったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ゆぴィ…ゆひぃ…」 ボロボロにされたでいぶだと思われる物体はずーりずーりしながら夜の公園を這う。 リボンは裂けてダメージジーンズみたいな変な味が生まれ、左目は潰れ、そこから変に切り傷っぽいものも付けられて死線を越えたような風格を生み出していた。 だが中身は何も変わらずでいぶのままだ。 「ゆぎ…ゆぐぅ…」 でいぶはボロボロ涙を流す。 どうして可愛かった自分がこんな目に遭うのかわからない。 男に対しては既に天災のようなどうしようもないもの的な考えだった。 復讐する気にすらならない。 完全に屈服、萎縮してしまっていた。 「もう…やば…」 ずりずりと這っていく。 その後には垂れ流されているしーしーか涙かわからない砂糖水が道となっている。 「おう゛ぢ…がえぶ…」 でいぶはおうちへ帰ろうと動く。 ゆっくり出来る場所である我が家に帰ろうと向かっている。 だが、 「なかなかとかいはなおうちね!!」 「そうなんだぜ!まりさがみつけたおうちなんだぜ!!」 でいぶが住んでいた段ボールのお家には会った事もないゆっくりが占領していた。 ほぼ半日以上いなかったのだ。 ゆっくりが住み着かない方がおかしい。 「ゆ゛…ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」 だがそんな事もわからないでいぶは思わず叫び声を上げる。 その声はでいぶのお家を占領していたありすとまりさの家族にも届いた。 「ゆ?なんだかゆっくりしてないいなかものがいるわ!!? あんなのがそばにいたらとかいはなありすのおちびちゃんのきょういくにわるいわ!!」 そう言いながらありすは自分の下腹部を背を向けて隠す。 「そのとおりだぜ!いままりさがせいっさいするからありすはそこでゆっくりしてるんだぜ!!」 にんっしん中らしいありすの前でいいところを見せようとまりさはでいぶに向かっていく。 「ぞごはでいぶのおうぢだあ゛あ゛あ゛!!!」 お家を奪われた怒りで自分のダメージも忘れてでいぶはまりさに体当たりをしようとする。 しかし、 「ごちゃごちゃうるさいんだぜ!!!」 「ゆんびゅう゛う゛!!?」 傷だらけの身体でまりさに勝てる訳もなく吹き飛ばされる。 「ここはまりさのおうちなんだぜ!!」 「ゆ…ぎぃ…ぞごは…でいぶのおう…」 「まだわからないかなんだぜ。このでいぶはばかなんだぜ!!」 まりさはそんなでいぶに向けて踏み付けを行う。 「ゆぎぃ!?げびい!?ごびい!?」 一撃で満身創痍となったでいぶにまりさは容赦なく踏み付けを何度も行う。 「…ゅ…」 「ようやくしんだんだぜ」 何回かの踏みつけの後、まりさはでいぶが踏み付けても反応しなくなったようなのでようやく攻撃をやめる。 「あそこはまりさのおうちなんだぜ。ばかなでいぶはゆっくりりかいするんだぜ」 そう言ってまりさは去って行った。 「ゆ…ごぉ…」 でいぶの口から呻き声が漏れる。 どうやらまだ生きていたようだ。 だが言葉を話す事ももう出来ない。意識があるだけだ。 「ゆ…ぃ…」 でいぶはそれに気付かない。 身体は潰れ、中の餡子は漏れ、もうすぐ死ぬ状況だ。 「…ゃ…だ…」 だがそれでもでいぶの生への執着は並々ならぬものであった。 だがそんなでいぶに対して近付いて来る者達がいた。 「ゅ…!?」 でいぶにちくりと痛みが走る。 するとそれを起因に様々な部位から鋭い痛みが走る。 「………!?」 動く事すら出来ないでいぶにはそれを確認する術はない。 『いだい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?』 でいぶの叫びはでいぶの中にしか響かない。 そうして音も無いままでいぶに攻撃してくる存在。 それはゆっくりにとっての天敵、蟻だった。 蟻は瞬く間にでいぶを埋め尽くし、黒い塊に変貌させる。 目や口、傷口からどんどん侵入していく蟻達。 それを拒否する術はでいぶにはない。 「…………!!?」 動く事すら叶わないでいぶはそのまま蟻の栄養源という大役を担っていく。 生きたまま蟻の餌食となっていくでいぶ。 その姿は可愛くはないがある意味では可哀相ではあった…。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「おちびちゃんたち!きょうはおひっこしをするわよ!!」 「「「ゆっきゅりりきゃいしちゃよ!!」」」 でいぶの家を占領していたありすとまりさのつがいがその家を後にし、街中を跳ねている。。 三匹の子供が生まれた二匹は段ボールの家では手狭だと判断して引っ越す事に決めたのだ。 「こんどはもっとゆっくりしたおうちをみつけるんだぜ!!」 そう言うまりさの頭の中には人間のお家を奪う考えしかなかった。 「ゆゆ~んおひっきょしたのしみじゃにぇ!!」 「おひっきょししちゃらときゃいはにゃこーでぃにぇーちょしようね!!」 新たに誕生したありす達は新しいお家に思いを馳せていた。 すると、 「ゆ!あんなところにちょうどいいいりぐちがあるんだぜ!!」 すると窓が割れて侵入が容易となった家を発見した。 その近くには踏み台となる粗大ごみがあり、簡単に侵入できそうだ。 「ちょうどいいんだぜ!あそこをあたらしいおうちにするんだぜ!!」 「なかなかとかいはなおうちね! とかいはなこーでぃねーとができそうだわ!!」 「はやきゅはいりょうね!」 「ゆっきゅりゆっきゅり!!」 家族からの同意も得、まりさ達は人間の家に侵入する事に決定した。 まりさとありすはおちびちゃんを口に入れて家へと難無く侵入した。 部屋の中はカーペットが敷かれておりなかなか住みやすそうだった。 まりさ達は口に入れていたおちびちゃん達を出してお家宣言した。 「なかなかゆっくりできそうなへやなんだぜ!」 「きょきょにゃらゆっきゅちちちぇにゃいきゃじぇしゃんみょきょないね!!」 「さすがありすのだーりんね!!」 「あちょはきょのいえにょにんげんをどりぇいにちゅればきゃんぺきだにぇ!!」 「ときゃいはにはどりぇいがひちゅじゅひんにぇ!!」 散々騒ぎ立てるゆっくり一家。 だがまりさ達はそれで満足しない。 人間のお家はこんなもんじゃないと元飼いゆっくりであった親ありすは知っていた。 「おちびちゃんたち!!これでまんぞくするようじゃとかいはとはいえないわ!! あのどあさんのむこうにもっととかいはなおへやがあるはずよ!!」 親であるありすは何の根拠も無く断言する。 だが子供達はその言葉を疑いもせずに信じる。 「ゆーそれはときゃいはじゃわ!!」 「はやきゅいきましょ!ときゃいはなおへやぎゃみちゃいわ!!」 「それじゃおとうさんがせんとうにたつんだぜ!! ばかなにんげんがおちびちゃんにおそいかかってたくさんがいちけがでもしたらたいへんなのぜ!!!」 「ゆゆう!さすがとかいはありすのだーりんね!とってもとかいはよ!!」 親であるまりさがそう言ってドアの前に立つ。 そして、 「じゃまなまどさんはゆっくりしないでさっさとどくんだぜ!!」 とドアに命令した。 木製のドアに音声で開くように命令するのは流石に無茶である。開く訳が無い。 しかしそれに対して怒り出すまりさ。 「まりさのめいれいをむじするなああああああ!!!」 まりさは叫ぶ。 だがドアは動かない。 「ゆぎいいいいいい!!!まりさのいうこときかないどあはせいっざいするんだぜ!!!」 まりさは叫ぶ。だが当然通じない。 それに湯葉並に脆いまりさの堪忍袋の緒は簡単に切れた。 「もういいんだぜ!!さっさとじゃまなどあはしぬんだぜ!!」 そう叫んでドアに体当たりを始めるまりさ。 「ゆゆう、まりしゃみょやりゅよ!!」 それにつられて体当たりをしだす子供の中で唯一のまりさ種である赤まりさ。 「とかいはすぎるのにもほどがあるわまりざぁ!!!」 「ときゃいは!ときゃいは!」 その後ろで騒ぐありす共。 何度か体当たりするとその思いが通じたのかドアが開かれた。 だが体当たりに夢中になっているまりさ二匹はそれに気付かず動いたドアに体当たりを仕掛けようとし、 「おわぁッ!!?」 素っ頓狂な声と共にその声の主である男の持つトウガラシスプレーをまりさ二匹は全身で浴びたのだった。 その結果、 「ゆごお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?」 目が飛び出そうな位見開き、大粒の涙を滝のように流す。 そして、口から餡子を滝のように吐き出した。 「ゆぎゅえ゛え゛え゛え゛え゛……」 赤まりさはあっという間に中身と皮の二つに分かれ死んだ。 何が起きたか理解する暇も無かっただろう。 親まりさは原形を保ったままだが長くは無いだろう。 そんな中、 「またやっちゃったよ…」 と数日前にでいぶを可愛く無くした人物と同一の男が憂鬱げに呟いた。 この時点で生き残ったありす達の末路はロクなものにならないと決まったようなものものだった……。 END あとがき 最初の頃の感じを出したかったのに変な方向へ向かってしまった。 今回の話も他の天然あきの書いたSSと関連しているのでそれも見てもらえると 幸いです。 それでは、今回このSSを読んで頂き誠にありがとうございました。 過去に作ったSS anko379 『おかざりがないとゆくりできないよ!』 anko400 『きゃわいきゅってぎょめんにぇ!!』 anko436『れいむはしんぐるまざーでかわいそうなんだよ!!』 anko492『大好きだよ』 anko548『おきゃあしゃんのおうちゃはゆっきゅちできりゅね!』 anko624『元銀バッジまりさの末路 上』 anko649『元銀バッジまりさの末路 中』 anko741 『かいゆっくりじゃなくてごめんね!! 上』 anko742 『かいゆっくりじゃなくてごめんね!! 下』 anko780 『おうちのなかでかわれなくてごめんね!!』 anko789 『元銀バッジまりさの末路 下 』 anko864 『あまあまおいてさっさとでてってね!!』 anko918 『雨の日はゆっくり遊ぼう』 anko998 『すっきりしたいわあああああ!!』 anko1037 『元銀バッジまりさの末路 終の1』 anko1038 『元銀バッジまりさの末路 終の2』 anko1067 『切断マジック(?) 』 anko1096 『ゆっくり祭『どんど焼き』』 anko1132 『すないぱーうどんげ養成所の最終試験』 anko1154 『すないぱーうどんげ養成所の最終試験 その2』 anko1177 『犬小屋と殺虫剤』 anko1205 『あみゃあみゃもっちぇきょいくちょじじい!!』 anko1286 『ゆっくりをハサミで切るだけの話』 anko1318 『必然の死』 anko1385 『からだのしんからあったまろうね!!』 anko1412 『しゃんはいとほーらいとその子供』
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/69.html
―8― 一週間前までは、二匹一緒に幸せだった。 れいむとまりさはそれぞれの両親と、友人のありす、そして群の長に正式につがいとなったことを 宣言して回った。 そしてまりさが見つけた――と、れいむは信じ込んでいる――ウサギの巣穴で、二匹一緒におうち 宣言をした。 「ここは、れいむとまりさのおうちだよ~っ♪」 勿論、誰からの反論もなく、晴れてその巣穴は二匹のおうちとなった。 枝分かれする暗い通路に光る苔を擦りつけ、奥まった場所にあった広い空間の一つに天日に干した ふかふかの干し草を敷き詰めた。湿気が少なく、風も通っている場所を見つけて食料庫と決めた頃に は日が暮れていた。 そしてその夜、まりさはれいむとの仔作りを求めた。一人っ仔だったまりさの、たくさんの家族へ の強い憧れからきた欲求だった。 この場所に住み始めた初日であり、食料の蓄えも無い状態であることを理由にれいむは何度も制止 したが、最終的にまりさに押し切られる形で二匹は仔を成した。 駄目だ駄目だとまりさを止めてはいたものの、できてしまえば産まれる前から我が子はかわいい。 ぽっこりふくらんだお腹に、れいむは優しく愛おしげに語りかける。 「おちびちゃん、ゆっくり育ってね。れいむのお腹の中でゆっくりゆっくりしていってね……」 ぽっこりふくらんだお腹に、まりさは明るく楽しげに語りかける。 「まりさもおちびちゃんといっしょにゆっくりしたいよっ! おちびちゃんはゆっくりしないでうま れてきてねっ!」 「……………………ゆ?」 にこにこしていたれいむの笑顔が一拍を置いて引きつった。 そんなれいむの様子は気にせず、まりさは軽妙に歌う、 「ゆっくりしないででておいで~♪ じゃないとゆっくりできないよ~♪」 「……なっ!? なんてこと言うの、まりさっ! おちびちゃんはまだまだれいむのお腹の中でゆっ くりしなきゃいけないんだよ? それなのになんでっ!?」 「ゆん? どうしたの、れいむ?」 気分良く歌っていたところを血相を変えたれいむに邪魔されて、まりさはぷくっと頬を膨らませる。 まりさには、れいむが何故怒っているか解らない。 何でれいむはまりさのお歌を邪魔すんだろう。おちびちゃんは、ゆっくりしないで産まれてこない といけないのに。 あ、そっか。れいむはこんな簡単なことが解らなかったんだね。なら教えて上げよう。 だって、 「れいむのおなかのなかにいたら、まりさがおちびちゃんとゆっくりできないでしょ?」 「……ま……りさ。本気で言ってる……の?」 「しつれーなこといわないでね! まりさはいつだってほんきだよっ!!」 「………………」 目をまん丸にして口を開けっぱなしにした、れいむのちょっと間抜けな顔を不思議そうに眺めてい たまりさだったが、れいむが凍り付いたように動かないことを良いことに、れいむのお腹をポコポコ 突っつきながら歌を再開した。 「で~ておいで~、でっておいで~♪ ゆっくりしないででておいで~♪ じゃないとゆっくりでき ないよ~♪ まりさがゆっくりできないよ~♪」 「……ゅ?……ゆぎぃっ!?」 「ゆっ!? どうしたのれいむ、だいじょうぶ?」 突然鋭く呻いたかと思ったら、表情の無かったれいむが一転して真っ青な顔になったことに気付き、 まりさは歌と軽い体当たりを中止すると心配そうにれいむに寄り添う。 だが次の瞬間、今まで見たこともない形相で、聞いたこともないような声で、れいむが叫び声を上 げた。 「……ゆっ!?……う゛ぁあああああ!!」 「ゆひぁっ!?」 「あッ!? アぁっ!? だめっ……だよおちびちゃん! まだれいむのお腹の中でゆっくりしてな きゃあ゛ッ!? ぎ……だめっ! だめッ! だ……ゆう゛ぁあアあァァッ!!」 れいむの大きく膨らんだお腹がビクリ、ビクリと激しく蠢動する。歯を食いしばり、口の端から泡 を零しながらもれいむは懸命にお腹の中に語りかけるものの、ついには身を裂くような激痛に耐えか ねて意識の手綱を手放した。 焦点を失った双眸をカッと見開き、吼えるように叫び続けるれいむ。 最初の叫びの時点で怖くなったまりさはれいむに背を向け、おへやの隅で帽子を深くかぶって震え ていた。 れいむの絶叫が高くなる度に、固く目を閉じていたまりさだったが、不意に水っぽい音が響いたこ とでうっすらと目を開いた。 いつしかれいむの叫びも止まっている。 恐る恐る振り向けば、パンパンに膨らんだお腹を上にして、ぐったりとしたれいむの姿があった。 先程までの激しい蠢動は見られないが、そのお腹は時折捻れるようにうねる。その度にれいむは力 無く呻き、内側より押し広げられたまむまむから黒い物がどろりと零れ落ちた。 べしゃっ、と床に広がる黒い物。 その上に、小さな丸く白い物が乗っていた。 まりさは引き寄せられるようにそれを覗き込むが、一体それが何なのか、皆目見当もつかなかった。 本来あるべき場所に無く、本来あるべき物がなければ、それが何であるかを想像するのも難しい。 しかし、膨らんだれいむのお腹に何が入っていたのかを認識していれば、想像するのは難しくない はずなのだが、 「……ゆん。さっぱりわからないよー?」 結局それが黒目のない目玉だと気付くことなく、まりさは小さな白い玉から興味を無くした。 その次の瞬間、 「……ゆう゛……う゛っ!」 れいむの呻きが間近くから聞こえてきたかと思ったら、まりさの大事な帽子がぽすっという音とと もに後ろへ飛んでいってしまった。 「おぼうしっ!?」 白い玉に吸い寄せられたまりさは無意識の内にれいむの前に立っていた。帽子を目深に被っていた せいでまったく気付かなかったが、揺れる帽子の先端の真正面にれいむのまむまむが口を開いていた。 そしてれいむが呻くと同時にれいむのお腹が一際大きくうねると、何かが勢い良く飛び出した。何 かは当たった帽子にくるまると、そのまま帽子ごと飛んでいったのである。 「まって、まってね! まりさのおぼうしさんっ!」 「……ゆ……ぅ……?」 そんな頭上の展開など知る由もないまりさは、訳も分からず飛んでいった帽子を追いかける。一際 大きい痛みと、それ以降の痛みが無くなったことでれいむが薄ぼんやりと意識を取り戻したことも気 付いていない。 背後の壁際まで飛んでいった帽子に辿り着いて安堵の溜息を吐いたまりさは、そこで自分の帽子に めり込んでいる何かを見つけた。 最初は黒い帽子に埋もれて解らなかったが、もぞもぞと動く、まりさと同じ黒いとんがり帽子をか ぶった小さな姿がそこにあった。 「ゆっ!? もしかして、まりさのおちびちゃ……ん?」 歓喜の声は急速に萎んだ。 確かに帽子はまりさに良く似た黒くてとんがった帽子。髪型も三つ編みが両側にあるものの、輪郭 だけを見ればその子はまりさに良く似ている。しかし髪の色は帽子に負けない艶やかな黒で、帽子に 結ばれたリボンは鮮やかな赤色、三つ編みを結わえたリボンは白色だった。 それはまりさの帽子から抜け出すのに四苦八苦していたが、暫くして帽子の縁の上まで転がり出る ことに成功した。 そしてまりさに良く似た瞳で見上げると、元気の良い第一声を放った。 「ゆーっ!」 「……………………ゆっくりしてないゆっくりがいるよ?」 まりさは上にゆっくりしてないゆっくりが乗っているのにも関わらず、おもむろに自分の帽子を引 っ張った。当然、それはころころと転がり落ちる。ただ、落ちたときの衝撃は大したことがなかった らしく軽く目を回す程度で済んでいた。 帽子についた皺を引っ張ったり軽く踏んだりして念入りに伸ばし、叩いてゴミを落とす。綺麗な状 態に戻ったことを確認して、まりさは大事な帽子を頭の上に戻した。その間、周りをゆっくりしてな いゆっくりが、何やらぐずつきながらうろうろしていたが一瞥もしなかった。 目を向けたのは、そいつが大声で泣き出してからだった。 「ゆぅーっ! ゆぅーっ!!」 「うるさいよ……!」 「ゆぴゅっ!?」 苛立たしげに吐き捨てると、まとわりついてくるそいつをお下げで振り払った。己の全幅と大差の ない幅の三つ編みの直撃を喰らったそいつは声もなく空を舞う。落下先がふかふかの寝床でなければ、 地面に叩きつけられた衝撃で爆ぜていたかも知れない。 むしろ、何故爆ぜなかったのかとまりさは思った。 震えながら身を起こそうとするそいつを寝床から引っぱり出し、涙を流して見上げてくるそいつを 冷たく見下しながら、まりさはあんよをゆっくりと持ち上げた。 覆い被さるように迫るまりさのあんよを、そいつはただ震えながら見上げていた。頭の上に触れた ときには、おずおずと頬をすり寄せてすーりすーりまでしてきた。 徐々に圧されて行く中で、何故こんな事をされるのか理解できなかっただろう。だからまりさは冷 淡に教えて上げた。 「ゆっくりできないゆっくりはいらないよ。ゆっくりしないでつぶれてね?」 「ゆ……ぅ?」 「まりさぁあああぁぁっ!!」 「ゆべぇっ!?」 そいつが潰れる寸前、意識を取り戻したれいむが横から体当たりをしてまりさを吹き飛ばした。 軽く餡子を吐いて転がるまりさ。そんなまりさと辛うじて命を繋いだそいつとの間に、憤怒の形相 のれいむが立ちはだかる。 「この仔はれいむとまりさのおちびちゃんでしょっ! なんでこんな酷いことするのっ!?」 「ゆ……ゆぐ……れ、れいむこそなんでまりさにいたいことするの!? だいいちそんなゆっくりし てないのなんか、まりさのおちびちゃんじゃないよっ!」 「……ゆ?」 「まりさをゆっくりさせてくれるのがまりさのおちびちゃんなんだよ? ゆっくりできないゆっくり が、まりさのおちびちゃんなわけないでしょぉっ!!」 「……」 れいむの形相に後ずさりはしながらも激しくまくし立てるまりさの台詞に、れいむは表情を消して 押し黙った。 漸く納得してくれたと思ったまりさは、笑顔を浮かべて歩み寄る。 「おおごえだしちゃってごめんね? ね、れいむ。あんなのはゆっくりしないでつぶしちゃって、つ ぎこそはゆっくりできるおちびちゃんをつくろうねぶっ!?」 言い切ったところで顔の中央に鈍い衝撃が走った。 軽く伸び上がってからの振り下ろすような頭突きを叩き込んでまりさを地面に打ち付けたれいむか ら、奥歯をギリギリと噛み締める音が聞こえてくる。 俯いた姿から、その表情を窺うことはできない。 ただ淡々とした声だけが、れいむから絞り出された。 「……まりさ。この仔がゆっくりできない姿で産まれちゃったのは、お腹の中でゆっくりしてなきゃ いけない時にまりさがゆっくりしないで産まれてきてねって、せっついたからなんだよ? にんっし んしたれいむのお腹を突っつき回すなんて何考えてるの? 産まれる前に永遠にゆっくりしちゃった おちびちゃんもいたの、わかってるの?」 「……ぎゅ……?」 「それなのに、またれいむにおちびちゃんを作れっていうの? それでまたお腹の中におちびちゃん が産まれたら同じ事になるよね……そんなのれいむは御免だよ」 「……ゆぶ……ばはぁっ!? ゆはぁ……ゆはぁ……」 言いたいことを言いきると、れいむはまりさから興味を失ったかのようにあっさりと身を離した。 放置されていた赤ちゃんゆっくりに寄り添い、今まで親の暴力に晒されていた影響で怯える赤ちゃん ゆっくりに優しく頬をすり寄せた。 「おちびちゃん、すーりすーりしようね。すーりすーり……」 「ゆっ!? ……ゆぅ……ゆうううぅぅ!!」 初めはおずおずと、やがて涙を流してしがみつくかのように頬をすり合わせる赤ちゃんゆっくりの 姿に、れいむは一滴の涙を流しながら微笑む。 そして赤ちゃんが疲れて寝入ってしまうまで頬を合わせていたれいむは、赤ちゃんを起こさないよ うにそっと身を起こし、凹んだ顔に四苦八苦しながら舌を這わせていたまりさに声をかけた。 「……まりさ、この仔はれいむが育てるよ。まりさにも責任をとって手伝ってもらうよ。ゆっくり理 解してね」 「ゆん? なんでそんなことまりさがしなきゃいけないの? ふざけないでね!」 「ふざけてるのはまりさでしょうがぁあああああ!!」 「ゆぎゃぁあああああ!?」 さも当然とばかりに即答で断るまりさに、れいむは辛うじて保っていた堪忍袋の緒を引き千切った。 それから暫く、余りの騒ぎに赤ちゃんが泣き出すまでの間、れいむは産後で体力を消耗していると は思えない怒濤の勢いでまりさを折檻した。 まりさがそいつに感謝したのは、それが最初で最後だった。 ―9― 「れいむ? それともまりさ?」 「ゆー?」 「ゆーん……。それじゃ、れいさ、れりさ、まりむ……」 「ゆぅ?」 「まいむ」 「ゆー!」 「ゆん、おちびちゃんはまいむなんだね。まいむ、ゆっくりしていってね!」 「ゆぅ~♪」 れいむとまりさの仔は、胎内にできた直後にまりさに脅かされ揺さぶられて、まったくゆっくりす ることなく母のお腹から産まれてしまった影響なのか、れいむとまりさの特徴を混ぜたような姿をし ていた。 その上、言葉を話すことができなかった。「ゆっくりしていってね」すら言えず、ただ「ゆーゆー」 と鳴くか泣くだけで会話など成り立たない。 しかし、喋ることができないだけで話を聞くことと理解することはできると解ったれいむは、根気 強く語りかけては仔の反応をつぶさに観察することで何とかコミニュケーションを成立させた。この れいむかまりさかも解らない仔の気に入る名を付けることができたのはその最たる成果だろう。 見た目が変わっていることと、言葉を話すことができないこと。その二つに目を瞑ればまいむはと ても素直で聞き分けの良い仔だった。 だが、まりさにはその二つがどうしても無視できなかった。 れいむの目を盗んでまいむを殺そうとしたことも一度や二度ではない。その度にれいむから折檻を 受け、ついには寝室からも追い出されてしまった。 それでもおうちから追い出さなかったのは、食料の調達ができるのがまりさしか居なかったからだ った。 れいむは出産後で体力が落ちていたし、まりさとまいむを一緒に残していくことはまいむの命に関 わると悟っていたために、懇々とまりさに頼み込んだ。 まりさも最初から一家の大黒柱になるつもりがあったために食料調達を気安く請け負った。そこに はまりさから離れたれいむの心を引き戻そうとする下心もあったかも知れない。 「ゆっくりかえったよ! すごいでしょ、れいむ! まりさはこんなにたくさんごはんをとってきた よっ!」 「……まりさ?」 「ゆん? なに、れいむ」 意気揚々と出かけたまりさは、ほんの十数分で帽子をパンパンに膨らませて帰宅した。そして満面 の笑みで収穫を見せびらかしたところで、れいむが冷めた半眼で見据えていることに気付いた。 「……どうしたの? なんでそんなおめめでまりさのことみるの……?」 「まりさはれいむに狩りは得意だって言ってたよね……。たくさんたくさんの木の実さんや果物さん をれいむのおうちに持ってきて、『まりさはこんなにかりがじょうずなんだよっ!』っていってたよ ね……?」 「ゆ……っ!? そ、そうだよ、まりさはかりがじょうずなんだよっ! それがどうかしたの!?」 かつてれいむにプロポーズするために両親に頼んでかき集めてもらったご馳走のことを思い出し て、まりさの声が裏返った。総てまりさ独りで集めたということにしていたので、その話をされると そこはかとなく後ろめたい気分になる。 そんなまりさの挙動不審には目もくれず、れいむはまりさの収穫から一束の草を抜き取った。 「それ、食べてね」 「ゆっ! いいの!? ゆぅ~ん、つかれてかえってきたまりさにいちばんにごはんさんをくれるな んて、れいむはやっぱりよくできたおくさんだね♪ それじゃ、ゆっくりいただきまーす」 れいむが割と雑に投げ捨てた草は、まりさの目にはこの上ないご馳走として映った。 不慣れな狩りで疲れ、お腹が空いていたこともあり、まりさは飛びつくようにしてれいむが投げた 草を貪った。 「むーしゃーむーしゃー! むっちゃうぇっこれどぐばいでるっ!?」 「……はぁ。それは食べたらすっごく気分が悪くなっちゃう草さんだって、ぱちゅりーに習わなかっ たの? れいむは小さいときに群のがっこうで教えてもらったよ?」 「ばりざぞんなごどじらない……うぇ……」 「おちびちゃんくらいのゆっくりだと永遠にゆっくりしちゃうこともあるけど、おとなのゆっくりな ら気分が悪くなるくらいだって言ってたよ。しばらくすれば治るから、ゆっくり大人しくしていてね」 「ゆぅ……ぅ……」 笑顔で食らい付き笑いながら吐餡したまりさを冷ややかに一瞥し、れいむはまりさの収穫を黙々と 選り分けた。あの草を見つけたときには、まいむの毒殺を企んだのかと訝しんだれいむだったが、何 の躊躇も無く笑って毒草を食べたところを見てその認識が間違っていることを知った。 というか、まりさへの認識がそもそも間違っていたことに、れいむはそろそろ気付いていた。 まりさの採ってきた草はおうちの周辺に繁茂する、毒こそ無いが固くて味気のない草が大半を占め ていた。少し森の奥へ行かないと取れない木の実や、日当たりの良い丘まで行けば取れる甘い香りの 花などのご馳走は微塵も見あたらない。時期的に青虫なども多いはずだがそれも無い。 要するに、まりさの狩りは家を出た所に群生していた草を手当たり次第に採ってきただけだった。 未熟児として産まれたまいむは消化機能が極めて弱く、そういった堅い草はれいむがどれだけ噛み 砕いたとしても食べることができなかった。そんなまいむが食べることのできそうな柔らかくて口当 たりの良い草が、数本でも混じっていたのは不幸中の幸いと言ったところだろうか。 つがいになる前に見せた狩りの成果は嘘で、今目の前にある適当な草の山がまりさ本来の実力。思 い返せば、れいむが群のゆっくりたちと狩りの勉強に励んでいる時にまりさの姿を見た覚えがない。 一緒に居て楽しいところばかり見ていて、こんなあからさまな嘘を見抜けなかった。 その結果がまいむであり、産まれることなく永遠にゆっくりしてしまった子供だ。 「……むーしゃむーしゃ……ゆぶっ……んぐ。むーしゃ……」 選り分けた草の山を口にする。 堅い草、苦い草、棘のある草、えぐい草、時々混じる毒のある草。絶え間なく口内に迫り上がる餡 ごとゆっくりできない草の山を飲み下す。とにかく食べて、出産で失った餡と体力を――そしてこれ から先、一人でまいむを育てていくための力を蓄えなければならなかった。 まいむを見てゆっくりできないと言うのはまりさだけではない。ゆっくりなら多かれ少なかれそう いった感情を抱くだろうことは、れいむにだって理解できている。だから頼れる者は自分しかいない。 残したのは柔らかくて口当たりの良い草と、堅くて味気ないけど不味くはない草。 前者は当然まいむの為に。そして後者はまりさの為に残してあった。 「ゆーっ!? れいむ、なんでごはんさんひとりでむーしゃむーしゃしちゃったのぉっ!?」 「……まりさの分はそこに置いてあるでしょ。それを食べたらまた狩りにいってね。ゆっぷ……沢山 で、良いよ」 れいむは想う。美味しい食べ物を見分けることができないなら、せめて手当たり次第に集めてきて もらおう。 その中で、美味しい物をまいむに。不味い物はれいむに。余った物をまりさに。 まいむには育ってもらわないといけないから。れいむは力を蓄えなければならないから。まりさに は働いてもらわないといけないから。 「ゆー……これっぽっちじゃ、おなかいっぱいしあわせーってできないよ……。ゆっ!? そっちに おいしそうなくささんがあるよっ! まりさがたぺっ!?」 言うことを聞かないときには、ゆっくりできないけれど暴力に頼ろう。 気弱で臆病なまりさは少し脅すだけでも言うことを聞くだろうから。 「まりさの分は食べたでしょっ! れいむが取り分けたごはんさん以外を盗み食いしたら、お仕置き するからね! ゆっくり理解してねっ!」 「ゆひぃっ!? わかりましたぁあああああ!!」 れいむはお母さんだから、おちびちゃんをゆっくりさせるために思いつく限りのことをやろうと、 静かに覚悟を決めた。 その日から、れいむとまりさは一緒にゆっくりすることが無くなった。 それでもれいむは、まいむとの生活にささやかなゆっくりを味わっていた。 まりさに先導された群のゆっくりたちに、その命が打ち砕かれるその日までは―― ―10― ぱちゅりー、ありす、そして群のゆっくりたち。 その場にいる総てのゆっくりの視線がまりさに収束し、焦点のまりさは救いを探して右往左往して いる最中。まりむは誰の目に留まることもなく、母だったものの成れの果てに辿り着いた。 「ゆー……ゆっく……! ゆっくぃ……!」 頬を寄せ、舌で舐め、乏しい語彙で懸命に呼びかける小さな姿。「ゆっくりしていってね」と言え ば応えてくれるとでも思ったか、自由に動かない口で必死に挑んでいた。 その声は群のゆっくりたちにも届いている。 だがその姿を見ようとするゆっくりは一匹としていない。 まいむを見ようとすれば、自分たちが寄って集ってなぶり殺しにしたれいむの姿も目に入れること になる。 まりさの話を総て聞けば、れいむを殺めてしまったのはあまりにも筋違いだったと理解できてしま う。今更れいむを直視できるゆっくりなど、この群に一匹も居なかった。 だからその視線は、怒りと後ろめたさを孕んでまりさに突き刺さる。 そしてまりさは、この期に及んでも何故自分がそんな目で見られるのかが解っていなかった。 「ゆー……。ゆっくりできないおちびがいたことをだまってたのはわるかったとおもってるよ。けど、 こんなゆっくりできないのをれいむがしゅっさんっしたなんて、まりさははずかしくっていえなかっ たんだよ……?」 それなりに考えた挙げ句に思いついた怒られている理由は、ゆっくりできない仔がいることをみん なに黙っていたから、だった。 確かにゆっくりは奇形を殊更に嫌う。顕著な例では、ゆっくりが一番大切にする飾りに傷が付いて いるだけでも侮蔑し、無くしたら殺意を以て排斥するほどである。 れいむとまりさの特徴をまぜこぜにした容姿のまいむの事を秘密にしておきたい気持ちは、普通の ゆっくりなら共感できる。まいむを一息に殺してしまうことを積極的に容認するゆっくりも少なくは ないだろう。 だから、事の要点はそこではない。 「まりさ……」 ぱちゅりーが詰問した、れいむと暮らしたまりさの一週間。 まりさは覚えている限りの日々を包み隠さず、誇張も歪曲も無しに語った。 そしてこう言った。「れいむはまりさのことをゆっくりさせてくれない、ひどいゆっくりだったん だよっ!」と。 「あなたは……あなたが、『でいぶ』よ」 「ゆ……? まりさはまりさだよ? でいぶはれいむでしょ? まりさじゃないよ?」 「むきゅ、そうじゃないのよ」 困惑の表情を浮かべるまりさに、ぱちゅりーは悲しげな表情でゆるゆると首を振る。その悲しみは まりさの無知に向けたものか、それともれいむへの悔悟か。 それも一拍瞑目した後には綺麗に拭い去られていた。 群の長の顔に戻ったぱちゅりーは淡々とまりさに教える。 「でいぶっていうのはね、自分のゆっくりのためなら悪意無く他者のゆっくりを踏みにじる『ゆっく り』のことをそう呼ぶの。それがしんぐるまざーのれいむに多いから、れいむたちの悪口みたいにな っているけどね」 「ゆ……ゆ?」 「ぱちぇは間違ってれいむにも言ってしまったけど……まりさにも言うわね」 まりさの上目遣いで縋るような目を、傲然と躯を反らしたぱちゅりーの冷たい目が明確に拒絶する。 「ぱちぇの群にでいぶはいらないっ! まりさはぱちぇの群から追放するわっ!!」 「ゆ……」 ぱちゅりーの宣言を聞いて、目を点にしたまりさは暫く凍り付いたように制止していた。それも徐 々に言葉の意味が理解できるに連れてふるふると震えだし、目は潤み口が戦慄く。 「そんな……そんなのゆっくりできないよ……?」 右を向く。幼なじみのありすが、涙に濡れた目に敵意を込めて睨んでいた。 「まりさはゆっくりしたかっただけだよ? まりさはゆっくりしないといけないんだよ?」 左を向く。れいむの家族が、殺意に歪んだ表情で歯を軋ませていた。 「わるいのはれいむでしょ? まりさをぜんっぜんゆっくりさせてくれなかった、とってもひどいゆ っくりだったんだよ?」 周囲を見回す。だが一匹としてまりさに同情的なゆっくりはいない。 「わるいのはゆっくりできないあいつでしょ? れいむがあんなのをうんだからまりさはゆっくりで きなくなったんだよ? みんなもあれをみてゆっくりできないでしょ!? ねぇ!? ねぇ!!」 まりさを助けてくれそうなゆっくりを探す。 だが、こんな状況でも味方をしてくれたであろう優しい両親は、まりさとれいむがつがったその日 に永遠にゆっくりしていた。過労だったがまりさに知る由はない。 「やだ……やじゃ……やじゃやじゃいやじゃぁああああああ!!」 後はもう言葉にならない。 大声で喚き散らしておうちへ逃げ込もうとするまりさだったが、周囲のゆっくりに簡単に取り押さ えられた。彼らの頭上に担ぎ上げられたまりさは、泣き叫びながら群の外へと運ばれてゆく。 途中、何度も脱走を繰り返すがその度に手酷く痛め付けられるだけで逃げることはできなかった。 この時、最も苛烈に攻撃を加えていたのはありすだったという。 自発的に出ていかないゆっくりは岩場の崖から放り捨てるのがこの群の掟だった。まりさもその例 に倣って、遙かな高みから堅い岩の上に落とされた。 ゆっくりの命を奪うほどの落差ではないから、まりさはまだ生きている。 しかし群のゆっくりたちから受けた暴行の痕に、岩に叩きつけられた際に爆ぜた傷。重傷のまりさ はこの場から動くことも出来ず、静かに衰弱していくことだろう。 「まりさ……ただ……ゆっくり……したかっただけな……のに……」 その声を聞く者は、もう居ない。 ―11― まりさを担いでいった一団とは別に、その場に残ったゆっくりたちがいた。 先のれいむとの激戦で消耗しているゆっくりが大半だが、その中にぱちゅりーも残っていた。 まりさのことは、ありすたちに任せておけば問題はない。あそこまで怒りに燃えていれば余計な手 心を加える心配もない。 だからぱちゅりーはその間に後始末をするつもりだった。 一つはれいむの遺骸の埋葬。 野晒しにしたままでは可哀想だし、誤解で殺してしまった群のゆっくりたちの慰めにもなるだろう。 そしてもう一つはゆっくりできないものの排除。 「ゆっくぃ! ゆっくひ! ゆっく……ゆぅ?」 「ごめんなさいね」 「ゆきゅ!?」 未だに声を上げ続けていたまいむの背後に忍び寄り、気付かれたときには既にあんよで踏みつけて いる。後は体重をかければ一息で潰れることだろう。 「ぱちぇの群にゆっくり出来ないゆっくりは要らないの」 総てはぱちゅりーの群がよりゆっくりするために、 「ゆっくりできないゆっくりは大人しく潰れてちょうだい」 「――おカしィね?」 「……む……きゅ……?」 まいむを潰すために重心を前に移しかけたぱちゅりーの耳に、聞き覚えはあるけど不明瞭な声が聞 こえた。 その声は、明らかに聞こえるはずのない声。聞こえてはいけない声。 目を剥いて声の主を見やれば、片方だけの瞳と目が合った。 ミシリと口内の枝をへし折って屍が口を動かす。 ポトリと舌の端が零れ落ちるが発音は却って明瞭になっていった。 「こんナところに身勝手ナゆっくりのためにれいむのおちびちゃんヲを踏みにじろうとする、でいぶ がいるヨ?」 「むきゅ……ぅ、れ、れ、れいむぅっ!?」 「ねェ、ぱちゅりぃ……?」 ぱちゅりーはただでさえ白い肌を真っ白にして震えた。 何これ何これ何これ何なのこれは!? ぱちゅりーの口はガチガチガチガチ歯を打ち鳴らすことに忙しくて言葉が出ない。だからせめて心 の中で叫ぶ。 れいむは永遠にゆっくりしちゃったんでしょ? 何で動いてるの? 生きてたの? あんなに沢山 枝を突き刺されていたのに? 生きていられるわけないでしょ? 何で生きてるの? 何で近付いてくるの!? れいむのゆっくりできないおちびちゃんはまだ潰してないでしょ!? ほら、おちびちゃんは返してあげたでしょ? こっちこないでね、ゆっくりできないれいむはゆっ くりできないおちびちゃんと一緒にぱちぇの群の外で勝手にゆっくりしていってね、こっちこないで ね、お願いだからゆっくりしないで出てって…… 「むぎゅうぅぅ! おねがいだがらごわいでいぶばばぢぇにぢがづがないでえええええ!」 「れいむのおちびちゃんを、まいむをゆっくりさせないゆっくりは……」 ただ震えるだけのぱちゅりーにゆっくりゆっくりと近付いたれいむは、頬が触れるほどに身を寄せ て囁く。 その声は、不思議とその場にいた総てのゆっくりの耳に届いていた。 「れいむが……ぜぇえええぇぇったいにぃ許さないからねぇえええぇぇっ!!」 「ゆぎゃあああああっ!!」 まりさを捨てて戻ってきたありすが見たものは、泡や餡を吹いて卒倒したぱちゅりーたちの姿。 そして、ぱちゅりーの横で半ば崩れたれいむの姿と、 「ゆっくり! ゆっくりぃーっ!!」 母の躯に、漸く言えるようになった「ゆっくり」を贈り続けるまいむの姿だった。 ―12― 森のとある群に、子供を躾けるときの脅し文句にされる一つの言い伝えがある。 その群のゆっくりたちの餡に深く刻まれた恐怖と共に、永くこの群に伝えられる言い伝え。 「こらっ! みがってなゆっくりをしていると、でいぶがくるよ!」 「ぴぎゃあああああ!? でいぶこわいよおおおおお!!」 この言い伝えがあるお陰か、この群は森で一番のゆっくりしていたという。 その群の長は赤いリボンを巻いた黒い帽子を被っていたというが、真偽は定かではない。 ―終わり―
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1483.html
※今度はれいむと戯れます ※現代の何処かの公園です ※野良の家族と人間さんが出ます。 1. 都内の某公園。 隣接した通りでは複数車線の交通網が激しく行き来している。 そんな都会のド真ん中でも、豊かな緑に囲まれるこの公園まで喧騒は届いていなかった。 「こーそ! こーそ!」 それは物陰から誰にも気づかれない様、慎重に様子を伺っていた。 自動販売機の裏から怪しい瞳を灯らせて。 「こーそ! こーそ!ゆふふ…」 その視線の先。 ずーりずーり…。 公園を這っているのは野良の子ありすだ。 周りには姉妹も親も見当たらない。一匹だけだ。 本来金髪である頭は鈍く色あせている。 そして疲れきったその表情から、子ありすが孤児であるのは誰にでも分かった。 この厳しい都会の中で生きる野良ゆっくりの中では特に珍しいことでもない。 「…」 子ありすは当てもなく公園の敷地を這っていた。 親を探しているのだろうか? それともゆっくり出来る場所を探しているのだろうか? 真夏のコンクリートに這い擦るミミズの様に消えかかる命が何処かへ向かう。 人間…青年がいた。 ベンチのゴミ箱の前に立っていた青年がありすの目に入ると 足元までゆっくりと這い寄り、そして弱々しく話しかけた。 「おにいしゃん…それ…すてちゃうの?」 『ん? 野良のゆっくりか…ああ、ちょっと甘すぎてな、食えないんだ』 青年が捨てようとしていたのは 粉砂糖を満遍なく振り掛けたとても甘そうな菓子パンだ。 「ゆぅ…」 青年の話をちゃんと聞いているのかは分からない。 子ありすは青年の手元をただじっと見つめていた。 『ん? 食うか? 食べ掛けでいいならやるぞ?』 思いもよらない持ち掛けに曇っていたありすの顔が喜びに変わった。 「ほんちょう!? ありしゅに くれりゅの?」 青年は菓子パンを小さく千切ると、少しずつ子ありすに食べさせてあげた。 子ありすはかぶりつきもせずに青年が千切り渡すパン切れを何度もお礼を言いながら咀嚼した。 「むーちゃ!むーちゃ! ちあわしぇえ~♪」 笑顔を取り戻した子ありすは、宝物だと言うコインを青年に渡して何処かへ跳ねていった。 青年は手のひらの500円玉を見つめると、なんだか悪い気がしつつも財布に収めた。 2. そんな一部始終を物陰から見ていたのは、先ほどの怪しいゆっくり。 自販機の陰には物々しく黒くて丸いシルエットがいた。 そいつは誰にも聞かれない様に、考えている事を心の中で反復していた。 「ゆゆっ! にんげんさんは ゆっくりできないくずだと おもってたんだけど あんなくずれいぱーの いいなりになっちゃうなんて よわむしだったんだね! ゆふふ れいむも あまあま むーしゃむーしゃして しあわせーするよ!!!!」 と大声で叫ぶと 辺りを用心深く観察してから成体の野良れいむが自販機の裏からのっそり出てきた。 すると黒い帽子を被った同じくらいのゆっくりと 大きな二匹に良く似た小さいゆっくり達も続いて這い出てきた。 「まりさ! ちびちゃんたち! わかってるね!」 大きなれいむが声をかけると、大きなまりさと子供達が返事をした。 「わかってるんだぜ! まりさに まかせるんだぜ!」 「まりしゃも あみゃあみゃを たべちゃいんだじぇ!」」 「れいみゅも あみゃあみゃ!あみゃあみゃ!」 子供達はひらっきぱなしの口から排泄口まで涎をだらだらと垂れ流し 短いモミアゲと三つ編みを振り乱しつつ小躍りをしている。 「ゆっへっへ… いうこときかなかったら まりさが げふんと いわせてやるのぜ!」 「まりさ まかせたよ!!! れいむは おちびちゃんを つれていくよ!!! こんどこそ あまあまを れいむに たべさせてね!!!」 そして父親であるまりさが準備を整えると、野良の家族は青年の元まで跳ねて行った。 「ゆふふ……」 れいむは青年の所へ跳ねながらも、にじみ出る笑みを堪え切れなかった。 あまあま、それは野良ゆっくりが同族で殺しあうほどの至高の宝物だ。 野良の口にする食べ物と言えば、腐った生ゴミや店の残飯などが殆どだ。 草や木の実を食べている山のゆっくりと比べたら、一見豪華なのではと思われるが ゴミ箱で手に入れられる人間の食べ物は しょっぱかったり辛かったり、下手すると死んでしまう恐ろしい劇物なのだ。 しかし生きていく為には例え吐いてでも、それらを沢山食べなければならない。 もちろんそんな味の濃い生活に慣れてしまった野良ゆっくり達は もう苦いだけの草花などは食べられなくなってしまっていた。 そんな地獄のような暮らしの中で手に入れられる甘い食べ物は、もはやドラッグに近い存在となっていた。 殺伐とした食料と住居事情の中で「しあわせー」と言える瞬間。 それは本能が欲っする"ゆっくりする事"を取り戻せる唯一の娯楽だ。 たった一個の飴玉で殺し合いが始まり、地面に溶け行くアイスクリームを取り合い 実の親子の縁がなくなる場合もある。 そんな熾烈な奪い合いの中でれいむは育ち、そして親を失くしたのだ。 れいむはあまあまを拾った親の目を盗んで、一度だけ食べた事があった。 それは普通の野良からしたら、飼いゆっくりに拾われるような貴重で幸せな事だった。 子供のれいむには衝撃的な甘さだった。れいむはその味を忘れることが出来ず 毎日の不味い食事の中で、美味しいあまあまを食べたい、しあわせーしたい衝動に狂おしく悩まされていた。 あまあまを沢山手に入れる事、それがれいむのゆん生を捧げる絶対の夢だったのだ。 そんな苦しみの毎日も今日で終わる。 あの弱虫で、お人好しそうな人間から奪…貰えばいいのだ。 3. 『おや?』 青年は食後のコーヒー牛乳を堪能していると 再び現れた野良のゆっくり達に囲まれた。 先ほどの孤児とは違い随分イキがいい。 大きくて赤いのが体を揺らして喋る。 「かわいい れいむたちに おいしい あまあまを よこしてね! いますぐにだよ! なにしてるの? はやくしてね!」 『え? ええ!?』 同じ形のミニサイズ達は 「はやきゅ れいみゅに よこしぇ!」 「まりしゃに よこしゅんだぜ! いちばんしゃき だじぇ!」 『な、なんだ こいつら…』 親れいむ、親まりさ、子れいむ、子まりさ。 いかにも醜悪な見た目と汚らしい言動を放つ野良ゆっくり達が青年の足元で飛び跳ねていた。 「れいむのいっていることが わからないの? ばかなの? しぬの? しぬなら はやくしんでね! でも あまあまを れいむによこしてから しんでね! ゆっくりしなくていいよ!」 「ゆっくちちないで ちね!」 「にんげんは ばきゃなの?」 ある程度はテレビの番組などで いわゆるゲスな野良ゆっくりがどんなモノかは知ってはいたが 青年は予想以上の生々しい姿と暴言の嵐に面食らってしまっていた。 『お前らは なんて口が悪いんだ… そんな奴らには 甘々なんて一つもやれねーよ!!! 早くどっかいけ! シッシッ!』 青年は足で纏わり尽くゆっくり達を払うが、親れいむと親まりさは全然動じる様子はない。 あんな小さなれいぱーの言う事を聞いてしまう人間なんか何一つ怖くはないし くれと言えば食べ物を寄こす、お人良しなのだと思っていた。 「だから あまあまが ほしいって いってるんだよ! じじいは あたまが ざんねんな にんげんなの? きっと こそだてが へたな おやに そだてられたんだね! ゆぷぷっ」 「つべこべいわないで あまあまをよこすんだぜ! いたいめにあわないと わかんないのかぜ? ばかなの? し― グ シ ャ リ 親まりさは定型句も言えずに果てた。 4. 「ゆ?……ゆゆ? ばでぃざああああああああああ!!!!!!」 「おとうしゃんんんんん!?」「ゆぴぃいいい!!!!」 まりさは一瞬で丸型からピザ生地の成り損ないのような形状へと潰れ ぶち破れた穴から餡子を勢いよく噴出した。 とても綺麗な黒い花を咲かせたまりさの亡骸に家族は寄りすがった。 「ゆがぁあああああ!!! よくも かわいい れいむの まり…さ…を…………ゆっくりしていってね!」 れいむが見上げると青年の表情は、さっきの子ありすに向けた顔とは全く別物だった。 出会ってはいけないタイプの人間と同じ恐ろしいツラをしている事に気がついた。 見誤った?殺されるか?いいや、まりさの態度が悪かったんだ。 あんなありすに施す弱虫だと思っていたが、やはり人間は人間だった。 けれど自分達を皆殺しにはしないし、やはりれいむのまりさに問題があったのだ。 『で、なんだっけ? 甘い食べ物がほしいんだっけか?』 青年はベンチに腰掛けると足を組んだ。 れいむは足を組む時に振り上げられた靴底にビクッとするが 正しい対処法が瞬時に思い浮かばず硬直していた。 『あーあ… そんな口の利き方じゃなければ たーくさん甘々をプレゼントしてあげたんだどなぁ~ お兄さんは さっきのお前達の暴言で機嫌がわるくなってきたよ…イーライーラ♪』 「た、たくさん!? あまあま たくさん れいむに くれるの!?」 青年は持っていた夜食用の菓子パンを揺らし、わざとらしく袋を鳴らした。 その音から親れいむはふんわりして美味しそうな菓子パンを想像して涎を飲み込んだ。 「れ、れいむに あま―」 「あみゃあみゃ!?」「あみゃあみゃ!?」 即座にくれくれ宣言しそうになったが、先ほどの子ありすのやり取りと まりさの死体、そして人間の強さを踏まえ れいむは言葉を飲み込んで堪えた。 野良で家族を持てるほど生きた賢い自分だ。まだ焦る時間じゃない。 馬鹿な人間の同じ"程度"に合わせてあげて、全てのあまあまを奪いとらなければ。 「じじ……お、おにいさん? れいむの あまあまを ゆっくりしないで くださりやがれ?」 『丁寧なんだか脅しているんだか、どっちだよ』 「ありすにだって あまあまを あげたでしょ!」 『ありす? ああ、だからか』 「なんでもいいから れいむにも ちょうだいね! おちびちゃんたちも ほしがってるよ!」 「れいみゅに ちょーらいね!」「まりしゃに いちばん いっぱい ちょーらいね!」 父親の無残な姿も甘い食べ物の前では全てが上書きされたのか 先ほどのように親れいむの傍で跳ね踊っていた。 「はやく れいむに あまあま よこしてね! むーしゃ!むーしゃ!させてね!!!」 『んー つかさー…』 可愛い子供達がいるなら勝てる!そう踏んだ親れいむだったが… 『俺は、まりさってヤツが大嫌いでさ、見てると虫唾が走るんだ』 「ゆ?」 『だからまりさを潰したんだよ、あーあ胸糞悪かった』 青年は嫌そーな眼で れいむ達に視線を向けている。 『ほらだってお前、ふてぶてしい面構えの子まりさなんかいるじゃんか そんなまりさの子供がいる れいむになんか 甘くて美味しい食べ物なんて絶対にあげたくないな』 「ゆゆ!?」 「まりしゃは かわいいんだよ! おめめがくさっちぇる じじいはちね! あちょ あみゃあみゃは まりしゃにだけ ちょーらいにぇ!」 驚くれいむの傍では子まりさが怒り喚いて跳ねている。 そして子れいむはニヤニヤと姉まりさに視線を送り、美味しいあまあまの想像に舌なめずりをし始めていた。 『あーあ…こんなに美味しいのにさー きっと一生食べれないで れいむは子供と一緒に雑草とか食べて飢えて死ぬんだろうなぁ 可哀想だなー』 「ゆ………ゆぐぐ……」 まりさを殺されて、ここで引き下がっては無駄死にだ。 とにもかくにもあまあまを食べたい。 まりさはあまあまを毎日獲ってきてくれると言い可愛いれいむと一緒になったが、結果はどうだ。 なんだかんだ息を巻いても人間に潰されただけだ。 まりさはいつも口だけで本当に役立たずだ。 やっぱりまりさというのは駄目なんだ。 狩りが上手い?笑わさせてくれる。全然ゆっくりさせてくれないクズだ。 「まりしゃの あみゃあみゃを はやきゃよこしちぇね! ばかづらしにゃいで はやくしちぇね!」 親れいむは自分の子まりさを見た。 親のまりさが殺されたと言うのに 可愛い自分の相方が殺されたと言うのに どうしてこの子まりさは、人間に向かって暴言を吐き続けているのか? 人間の機嫌が悪いのが分からないのか?。 こんなお人よしでも意地悪をされたら 持っている全てのあまあまを手に入れられなくなるじゃないか。 れいむのまりさもクズなら、まりさそっくりのコイツも同じだ。 こんなのにれいむのあまあまを分けてやるなんてありえない。 もう、まりさは、いらない。 いらない。いらない。 『あの子ありすも 独りぼっちで寂しそうだったけどさ 野良では絶対食べれない甘くて美味しいご飯を食べれたから きっと誰よりも幸せだったろうなあ… ああーしっかし お前の子供はうるさいな 早く連れて帰れよ 俺は帰って甘いパンを食べるんだよ』 「ゆ…」 「おかーしゃん! くそじじいなんか ぼこぼこにしちぇ まりしゃに あまあまを ちょうらいにぇ!」 親れいむは大いに悩んだ。 『あー うるせー イライラする あまあまなんてやらねーよ どっかいけよお前ら』 「はやく まりしゃに あまあま よこしゃないと おかあしゃんが じじいにゃんか ぼっこぼ― 悩みは終わった。 ガ ブ ゥ ! ! ! ! ! ! ! 親れいむは子まりさを全力で食いちぎった。 「ゆぴぃいいいいいいいいいい!!!!! なにちちぇるのお!? おかあしゃん まりしゃを かぶがぶしにゃいでええええ!!!!」 子まりさの破けた部位からは、とめどなく黒い中身が漏れ出した。 親れいむは子まりさの叫びも聞かずに高く咥え上げると グリングリンと円を描いて振り回した。 「ゆぴぃいいいいいい!!!!ゆぴぃいいいいいい!!!!」 スプリンクラーの様に餡子がれいむの周りに飛び散っていく。 「やめじぇええええ!! ゆんやぁああああ!!! もう おうちかえるぅぅううう!!!!!」 作業は子まりさがペラペラになることで終わった。 そして親れいむは何事もなかった様に青年へ向き直った。 5. 親れいむは割とすっきりした顔で青年と向き合った。 さっきまではしゃいでいた子れいむは いくらなんでも予想だにしなかった母親の凶行に身をこわばらせていた。 「れいむに まりさの おちびちゃんなんて いないよ? さあ おにいさん! かわいい れいむに あまあまを ちょうだいね!」 「まりしゃ おねえしゃんは わ、わりゅいこだったの? れれれれれれいみゅはいいこだよ!?」 子れいむは突然の親の暴行を理解できていなかった。 ただ人間が言っていた事と容赦ないお仕置きを見て ひたすら謝ればいいと青年と親の顔色を何度もうかがっていた。 『おやおや? ゆっくりれいむだけになったか いやー まりさは大の大嫌いだったんだよな!』 青年は晴れ晴れとした顔で喜んだ。 「まりさなんて どこにもいないよ! あまあまだよ! れいむに はやくちょうだいね! いっぱいちょうだいね!」 『でもなぁ』 「…ゆ?」 『やっぱりなー…』 「ゆっ…がああああ!!! くさいくちを ひらくまえに さっさとあまあまを― つっかかるれいむを無視して、青年は渋い顔で子れいむを見た。 『お前ってば 小さい子供が いるじゃないか 子供がいるなら どんなに辛くても生きていけるだろ? 可愛い子供がいればゆっくりできるって よく言うじゃんお前達ってさ』 「ゆ?ゆゆ?れいむの おちびちゃんは すんごく かわいいよ! すーりすーりすると とっても ゆっくりできるよ!」 「おきゃーしゃん れいみゅは いいこにゃの? いちゃいことしにゃい?」 『だろう?』 「で でもっ もっとゆっくりしたいんだよ?」 可愛いれいむの子れいむが、飛び切り可愛いのは当たり前だ。 しかしそれだけではゆっくり出来ない。 あまあまを手に入れる。それがれいむの生きがいだ。 「おちびちゃんが なんなの? かわいくてごめんね! だから あまあま― 『んー… 子供もいない独り身だったらさ 可哀想だから思わず甘々をいーーーーっぱい あげたんだけどなぁ』 「……ゆ?…………………いっ………ぱ…………い?」 『お前は独りぼっちじゃないもんなぁ…』 親れいむは子れいむを見た。 子れいむは親の考えている事を見抜いたわけではないが 「それはぜんぜんゆっくりできなくなる」 そんな本能からくる警報を受け取って小さい体で駆け始めた。 そしてゆっくりしない全速力で遠くへ逃げ始めた。 青年は子供を追い掛け回す親れいむをしばらく眺めていた。 「おがあじゃん ごっぢごなぃでぇええええええええ!!!!!!」 「までぇぇぇええええええええ!!!! にげるなぁあああああああああああ!!!!」 親れいむは後ろから子れいむを捕まえると 大きなあんよでがっちりと体重を掛けて押さえ込んだ。 「ゆぁあああああ!!! ゆんやぁあああああ!!! れいみゅ もっと ゆっくちちたいぃいいいい!!!」 子れいむは親れいむの足から なんとかはみ出た上半身を前後左右へ必死に振っている。 「ゆぴっ!?」 おもむろに子れいむの頭に噛み付いた親れいむは お飾りの赤いちっちゃなリボンを引き千切った 「れ、れいみゅのおりぼんしゃん!?ゆぁぁぁ!!ゆわぁぁああああ!!!!」 本来自分の頭についているはずのリボンが 地面にビリビリに引き裂かれて落ちている。 子れいむから流れる涙は地面を濡らし続けていた。 「おりぼんしゃん れいみゅの ところに もどっっっっっっっっぴょぴょぴょぴょぴょ!!!!」 なんとか親れいむから抜け出そうと 一生懸命に自分のリボンが落とされた場所へ体を伸ばしていたが 親れいむが子れいむの脳天に噛り付くやいなや、ズゾゾゾゾゾと中身を吸い始めた。 「おぴょぴょぴょぴょぴょぴょ!!…ぴょぴょぴょ!…ぴょぴょ!…ぴょ!………………………………ゅ…」 子れいむの大事な部分は、ものの数秒で親れいむの頬に溜まった。 親れいむは子れいむが動かなくなるのを確認すると押さえつけるのを止めて 口内に溜めていた液体を「ゆっぺ!!」子れいむの皮だけの死体の上に吐き出した。 「れいむは…あまあまを…たべるんだよ…ゆっくりするんだよ…ゆふふふふふ…れいむだけの…あまあま…ゆふふふふふふ…」 6. 「こどもも いなくて ひとりぼっちで さびしい れいむに おいしい あまあまを ちょうだいね!」 親れいむの口元は餡子でべったりと汚していた。 そして満面の笑顔と期待を込めた瞳を青年に向けている。 『たしかに一匹だけどさ お前見たところ、結構元気じゃないか ちゃんと餌とか自分で取れそうだ だったら俺が恵んであげなくても大丈夫なんじゃないか?』 と青年は告げた。 子れいむを制裁し、もうコレであまあまは全部 自分の物だと確信していたれいむはうろたえた。 「れいむは ごはんを みつけられるよ!? で、でも あまあまさんは みつけられないよ! あまあまさんは にんげんさんにしか かりができないんだよ!!」 『まあ、おちつけ』 「もうなんでもいいから ゆっくりしないで あまあまを れいむに ちょうだいね! いいかげんにしないと れいむ おこるよ ぷくー!!!!」 れいむは頬を膨らまして拗ねた表情だ。 『怒るくらい元気だったら 甘々なんていらないだろう?』 「なにいってるの? いるよ! たくさん いるんだよ!! あまあまがないと ゆっくりできないよ!」 『でもなー 必要なさそうだしなー』 「れいむは ひとりものだよ! さびしいよ! あまあまを もらわないといけないんだよ!!!」 『いやもっと…そう、ボロボロで傷ついた可哀想なゆっくりだったら… お兄さんは思わずクッキーでもケーキでもクリームパンでもなんでもあげちゃうかもなー こんなに甘くて美味しいお菓子を、野良ゆっくりが食べたらゆっくりしすぎて天国に行っちゃうかもっ』 野良の間では伝説とも言われるあまあまの名前達。 れいむは餡子の芯から来る衝動に震えた。 「あまあまぁああ! あまあまぁああああ! れいむに たべさせてぇええええ!! あまあまぁあああ!!!!」 『でも だってさー れいむはものすごい勢いでx何処かへ跳ねていった。 7. 「お、おにいさん! れいむは ひとりぼっちで さ、さびしいれいむだよ! し、しかも おめめも はんぶんみえなくて と、とっても かわいそうだよ! だから あ、あまあま!あまあま!あまあま!あまままま!!!!!!」 片目が無残に潰れた野良れいむが青年にたかっている。 残った眼は真っ赤に血走り、口元からは涎が絶え間なく流れ続けている。 『おやまあ、そんな姿じゃ生きていくのも大変そうだな』 「かわいそうな れいむに はやく あまあまを あまあましてねぇぇえええ!!!!」 『でも』 「あまま!?」 『お前はあんよもしっかりしているし飾りも立派でさ 俺じゃなくても仲間のゆっくりが ご飯くらい助けてくれるんじゃないか?」 「いいがら あまあまを だせぇええええええええ!!!!!!!!」 『うん 大丈夫だ それだけ元気な お前ならさ 自分で素敵な甘々をいつか見つけられるさ この甘々はもっと不幸そうなゆっくり達にあげるとするかな』 れいむは一心不乱に青年の足に体を擦り付ける。 それは甘えでも暴力でもなく甘々への執着から来たもので もはや禁断症状とも言っていい現われだ。 『くっつくな 騒ぐな 纏わりつくな 駄目だって そんなに我侭を言っても上げないぞ 人間はお前たちよりも強いし、ましてや仲間でもないんだ お前の気持ちだけでは俺は動かないぞ?』 8. リボンは木に何度も擦り付けたせいで破れている。 前歯は石を噛み砕いたせいで所々なくなっている。 噴水に出たり入ったりした底部は変な形に固まっている。 髪の毛はグシャグシャ、モミアゲは足りない、肌は泥だらけだ。 それでも辛うじてれいむ種と分かる野良れいむが青年の前にいた。 『うっわ キモ! 本当にみすぼらしいゆっくりだなあ だいぶ苦労して生きてきたって感じだ』 「れ、れいむ…は つらい…んだよ ふしあわ…せなんだ…よ だから…れいむに…あま…あま…ちょうだい…ね いっぱい…あっても…いいよ…はやく…ゆっくり…させて…ね」 蝿でもたかりそうな赤黒いのが懇願する。 『でもなぁ』 「あ あ あ あ あ あ あ あ あまあまを よごぜぇええええええ!!!!!」 と声を荒げるが 底部が気味悪く変形してしまったれいむには、もう青年に突っかかる事も出来ない。 『…うーん』 「ゆっぐりざぜろぉおおお!!! かわいぞうな でいぶは やざじぐじないど いげないんだぁああああああ!!!!」 涎なのか汗なのか泥水なのか、何か触りたくない者を振り乱しつつ薄汚れた物体が喚いている。 『でもさー』 「ゆっがぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 『俺は ありすだけが 好きなんだよ』 「……………………………………………………ゆ?」 『お前がれいむじゃなかったら 甘々なんてすぐにいくらでもあげたんだけどね~ 別にれいむなんてコレっぽちも興味ないしさ』 「…」 『ん?どうした? お前がれいむじゃなかったら 甘いお菓子でも甘いジュースでも上げるって言ってるんだが? お前はありすか? 違うだろ? な、れいむ』 「れいぶぅう! でいぶは でいぶだびょおお!!! !!!!」 『見れば分かるって』 「でいぶは かわいぞうで ひとりぼっじで こどもがいなくで ぜんぜんゆっぐりできでないんだよぉおおおお!!!!」 『そうか、がんばれ、じゃあな』 「あまあまぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」 9. ボロれいむが喚きながらスライムみたいにクネクネしていると 青年の近くの茂みから野良ゆっくりの家族が出てきた。 「おかあしゃん ないてる れいみゅ いたよ!」 「ゆ? ゆっくりしていってね にんげんさん…」 親れいむ、親まりさ、子れいむ、子まりさ。 薄汚れた体と弱弱しい声で野良ゆっくりが青年の足元を通る。 「じゃまして ごめんなさい…れいむたちは すぐにどこかへいくね」 ボロれいむの声を聞いて助けに来たのだろうか。 しかし人間が関わっていると知って、この場を直ぐに離れようとしていた。 『ちょっと待てお前ら…』 「れ、れいむたち なにか わるいことしたの にんげんさん? もしも にんげんさんを おこらせたなら どうか おちびちゃんたちだけは みのがしてください…おねがいします」 「ま、まりさが わるいんだよ! にんげんさん まりさが ここにのこるから どうか れいむたちを…」 『うんうん 仲の良さそうな家族だな ほら美味しいあまあまだ 全部持っていっていいぞ! 元気に暮らせよ! 』 青年は夜食の菓子パンを袋ごと親れいむに渡した。 親れいむは親まりさに渡すと大事に三角帽子に収めた。 そして親も子供達も揃って頭を下げて青年に感謝を告げた。 「あ、ありがとう にんげんさん! れいむたち これで ゆっくりできるよ!」 「まりさも いっぱいかんしゃするよ! にんげんさん ゆっくりしていってね!」 『じゃあなー 盗られないように 今晩全部食べとけよー』 何度も振り返ってお礼を言う野良の家族は、公園の奥へと消えていった。 「…ゆ?」 そして理解が尽いていけず、でいぶは何も言えなかった。 『ん どうした? 俺は【れいむなんて大嫌い】だが 【物を欲しがらないれいむ】には あまあまを上げたりするんだ』 青年はベンチに腰をかけて煙草を取り出した。 「ゆ…ゆへへ…ゆへへへへへへ…」 ベンチで一服する青年の元まで、ずーりずーりと汚いものが這う。 そして媚びへつらう笑顔を作って話しかけた。 「で、でいぶも あまあま なんて ほしくないよ!!!」 『あっそ じゃあやらねーよ じゃあな』 青年は煙草の火をれいむのつむじで擦り消すと公園を後にした。 「…あ…あま…あま…」 れいむの傍には もちろんあまあまなどは、ない。 あまあまを拾って来ないといつも叱っていたのに、それでも自分を愛してくれたまりさは、いない。 人間に取り入るために産んでみたが育ててみれば可愛かった子供達も、いない。 れいむには、あまあまがない 赤くて素敵なおリボンも 丸くて綺麗な瞳も もちもちの肌も 何もかも ない。 by キーガー・フレテール 挿絵:M1
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/1153.html
「ふたば系ゆっくりいじめ 545 対決!? あかばえでいぶ/コメントログ」 hahaha... -- 2010-06-15 00 08 35 ヒャハッハ。でいぶざまぁwwwwwwww -- 2010-06-17 15 33 35 最高の結末だぜ!何もかも失って手に入れたものは無し!ざまぁw -- 2010-06-25 22 01 49 超面白かったです!! -- 2010-06-29 19 59 35 でいぶの末路はこんなもんですよねー -- 2010-07-04 01 55 13 不覚・・・俺は鬼意惨失格だ、最初のアリスが凄く飼いたい、謙虚なゆっくりは可愛いじゃないか・・・ そしてゲスでいぶwざまぁwざまぁwテラざまぁwwwヒャッハー!!強欲は罪なんだよwバーカwすっきりー♪ -- 2010-07-04 03 18 48 最初のありしゅは愛でお兄さんに拾われると良いな。でいぶざまぁw みじめみじめ -- 2010-07-04 11 34 47 おお、でいぶでいぶ。 -- 2010-07-20 13 10 07 とてつもなくゆっくりできるSSだったぜーーー!! -- 2010-08-09 01 15 28 道徳の時間ですね 最高に面白い -- 2010-08-09 05 12 44 キガフレさんのSSは毎回教訓的で面白い。 -- 2010-09-13 23 42 21 善良なありすはホンと可愛いな -- 2010-09-15 18 32 03 道徳的だなあ このお兄さん、神として何代か後のゆっくりに崇拝されるんじゃないだろうかw -- 2010-09-22 15 57 09 これ道徳の教科書に載っててもおかしくないくらいの話だなww 今道徳なんて授業あるかどうかわからないけど -- 2010-09-25 08 49 04 道徳的だなぁ。良い話だ -- 2010-10-14 21 49 56 まあゲスはゲスだったってことだ -- 2010-10-15 16 36 58 可哀想な子ありすがいたら助けたくなるのに それが子まりさや子れいむだったら じゃあもっと地獄を見せてやるよヒャッハー!てなるのはなんでだろうw -- 2010-12-23 16 50 31 ↓俺は…ありすでもなる -- 2011-01-27 08 05 51 ありすがんばれYO -- 2011-03-01 01 55 13 ↓×5ありますよ道徳 by鼻水垂れ小僧 -- 2011-04-22 01 30 28 ↓18 得たものあるよ 絶望 -- 2012-01-09 00 14 33 ありすかわいいよありす -- 2012-03-25 20 13 11 すげえ面白かった -- 2012-05-19 20 57 52 ゆうか可愛い最高 -- 2012-07-28 19 34 40 クソデイブもゲスも、はたまた 善良もそれぞれに需要があってなによりだ。 -- 2012-08-18 00 03 24 お兄さんいい意味で意地悪www -- 2012-12-09 15 41 59 お兄さん上手いなwww -- 2019-03-13 12 23 21
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3156.html
『ゲスとでいぶのあったか家族』 35KB 観察 ゲス 自然界 主要キャラは死にません 『ゲスとでいぶのあったか家族』 D.O ここは、人はおろか人工物の姿さえ見えない、広い広い、とある森。 さほど危険も無く、小さなゆっくりの群れが無数に点在する、そんな森の中だ。 この森には、さほど賢くは無いが善良なぱちゅりーを長とした、 成体だけで100匹ほどがいる、そこそこの大きさの群れがあった。 そして、まりさとれいむは、そんな普通の群れの、普通では無い夫婦であった。 ******************************** 「ゆふぅ~ん!おちびちゃん、れいむそっくりのびーなすさんみたいなねがおだよぉ~! ゆっくりはやくうまれてね!ゆゆ?…でもゆっくりゆっくりうまれてね~!」 大きな樹の根元を掘った、ゆっくりにしては広めのおうちの中では、 一匹のれいむが、とてもゆっくりした顔で自分の額から伸びる茎を眺めていた。 いや、正確には茎にぶら下がる、4匹の可愛らしいおちびちゃん達を。 と、そこにつがいであるまりさが帰ってきた。 「ゆぅ~。狩りから帰ったのぜ~」 「ねぇねぇ!まりさ!きょうもおちびちゃんが、とってもゆっくりしてるよ!!」 狩りから帰ってきたまりさに、弾むような声で話しかけるれいむ。 だが、まりさの反応はつれないものだった。 「…どうでもいいから、そのでかい図体をとっととどかすのぜ。おうちに入れないのぜ」 「な、なにいっでるのぉぉおおお!でいぶは、かりすまもでるさんもしっとにくるう、 きせきのすれんだーぼでぃのもちぬしなんだよぉぉおお!」 「はいはい、ゆっくりゆっくりなのぜ」 「ゆぎぃいいいいい!!」 と、ここまで会話を聞いているだけなら、冷たい態度のまりさが悪いように感じるだろうが、 実際のところ、そんなことはない。 「ゆ、ゆっぎぃぃいいいい!ばりざは、でいぶをもっどゆっぐぢざぜろぉぉおお!」 「…ふぅ。鬱陶しいのぜぇ」 なぜなら、 「そのぶよぶよのお腹をさっさとどかすのぜ」 「ゆばぁぉあああああ!!」 実際れいむの図体は無駄にでかく、まりさがおうちに入るのを邪魔していたからである。 れいむは、いわゆる『でいぶ』と呼ばれる、ゆっくり社会では忌み嫌われる駄ゆっくりであった。 その主な症状は、盲目的な自信過剰・ご都合主義・凶暴性、 そして自分と自分のおちびちゃんの幸せのためなら、他ゆっくりの命すらゴミ扱いする驚異の利己主義。 はっきり言って迷惑な存在である。 しかも外観がまた、暴食による肥満、知性を感じさせない表情、うるさい大声と、 まったくもって好感を持てない風貌ときては、好かれるはずもないであろう。 当然ながら難ありゆっくりなれいむは、群れの厄介者扱いだったのだが、 この群れ、長ぱちゅりーが変な平等主義に目覚めたせいで独身を原則禁止されており、 こんなれいむにも、つがいが必ずあてがわれる残念な群れだった。 しかも離婚の際には、群れ幹部達の過半数の許可が必要と言う徹底ぶりである。 だがその結果は、過去3度の離婚であった。 しかも3度目に至っては、れいむのつがいであったみょんが長ぱちゅりーに、 土下座を通り越して、額を地面に押し付けたまま逆立ちまでして、 『ころせみょぉぉおおん!りこんさせないなら、みょんをころせみょぉぉおおん!』 と叫ばせるほどであったという。 みょんとつがいだった頃のれいむと言えば、 おうちの中で食っちゃ寝を繰り返して外にも出ず、 みょんの集めた食料はみょんが口に入れる前に全部食べつくし、 疲労困憊で眠ろうとするみょんに、そのだらしない図体で子作りを求め続けるという 地獄のような毒妻っぷりだったそうな。 みょんが発狂寸前になるのも当然である。 せめてもの救いは、れいむ自身が自分の狩りの下手さだけは自覚していたため、 つがいがいなければ自分は生きていけない、という程度の事を理解していたことだろうか。 だからこそ、群れのルールを破ったり、殺ゆっくり・盗みなどに手を出さずにすんだのだろう。 で、そんなれいむのつがいとなったまりさなのだが、 こちらも当然ながら普通のゆっくりではなかったのだった。 「ゆがぁぁああ!あやばれ!どげざじであやばれぇぇええ!」 「…れいむ」 「ゆがぁぁあああぁぁぁ・ぁ・あ?」 「にんっしんしてるからって、何にもされないと思ってるのぜ?」 「ゆ・ゆ?ゆわ、や、やべで…」 やれやれと言った表情をしていたまりさは、 眉ひとつ動かさずに手近に転がっていた木の枝を加えると、 ずぼっ! 「ゆ、ゆびゃぁあぁあああ!ごべんなざい!ごべんなざいぃぃいいい!」 「しばらく反省しとくのぜ」 その木の枝をためらいなくれいむの眼窩にねじ込んだのであった。 「ぬいぢぇ!でいぶはんぜいじでまず!ゆっぐぢじまずぅぅぅううう!」 「うるさいからちょっと黙るのぜ」 「……っ!」 まりさは、いわゆるゲスだったのである。 れいむの眼球を傷つけず、木の枝を眼窩にねじ込む。 虐待お兄さん顔負けのことを表情一つ変えずに行うまりさは、当然ながら普通のゆっくりではない。 いわゆる『ゲス』と呼ばれる、ゆっくり社会では恐れられ、敬遠されるゆっくりであった。 ずる賢く打算的で、『ゆっくり』を共有するのではなく独り占めすることを好み、 自分の利益と生命のためには他ゆっくりなど平気で打ち捨てる冷徹さをもつという、 ゆっくりしていないゆっくりの代表格のような存在であった。 そんなまりさだが、その計算高さゆえに群れで暮らす利点を理解していたため、 群れのルールを破ったり、殺ゆっくり・盗みなどに手を出さずにすんでいた。 ただし、危険な雰囲気漂うまりさを好き好んでつがいに選ぶゆっくりも少なく、 結局売れ残りとなってしまっていたわけである。 2匹は別に、相性が良かったからつがいになったわけではない。 群れのルールだからというのが表向きの理由だが実際は、 れいむは狩りの得意なつがいを必要としていたからであり、 まりさに至っては、れいむのまむまむの具合が極上だったというだけの理由であった。 そうは言っても、ゆっくりは一度すっきり―すればにんっしん、 その後は最低2~3カ月にわたって子育てに追われ、すっきりーはご無沙汰になる、 と言う事を考えると、まりさには不利な取引だったと言えるだろう。 その辺はしょせんまりさもゆっくりだったということであった。 「ごべんね…ごべんね、まりさ…」 「次騒いだら、こんな優しくは済まないのぜ」 「ゆ、ひ、ひぃぃぃ…」 ちなみに2匹の結婚初日は、れいむが華麗にまりさを奴隷呼ばわりしたと同時に、 まりさが渾身の体当たりでれいむの奥歯3本をへし折り、 そのまま悶絶するれいむの口をこじ開けると、奥歯が折れた歯茎部分に、 ささくれ立った木の枝をねじ込んで追い打ちをかけるという、 まりさにしては大変優しい『しつけ』で終わった。 そんな『しつけ』が一日最低5回は続けられた結果、 現在ではさすがのでいぶも、表向きは従順なゆっくりに調教されていたのである。 たまにボロが出るが、まりさは気にもしていない様子であった。 そんなあったか家族に、今新しい命が誕生しようとしていた。 ******************************** れいむの頭上に実る4つの実ゆっくりが、 今母体から離れるため、ぷるぷると震える。 ぷるぷるぷるっ…ぷちっ …ぽてんっ 「ゅぅ・・・ゆ・・・・ゆっ・・・」 そして、落下の衝撃に涙ぐみながらも、母の頭上にぶら下がりながら夢の中でずっと練習していた、 生まれて初めての両親とのご挨拶を、赤まりさは元気いっぱいに発したのだった。 「ゆっきゅちちちぇっちぇにぇっ!!!!!」 新しい命、キラキラと希望に輝く瞳を両親に向ける一匹の赤まりさは、 この瞬間、厳しく、どこまでも広がる未知の世界へと羽ばたきはじめたのである。 そして、れいむとまりさはこの瞬間、母れいむと父まりさとなった。 だが… 「ゆっふぅぅうううん!れいむのおちびちゃぁあああん!ぺーろぺーろ、ゆっぐりぃぃいいい!」 「おきゃーしゃん、ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 「……」 「おとーしゃ…ゆぅ?」 父まりさは誕生のあいさつも交わさず、赤まりさの顔をまじまじと眺めていたが、 やがでボツリと最初の感想を述べた。 「れいむそっくりで、頭の悪そうな奴なのぜ。早死にするのぜ」 「ゆ、ゆっぴゃぁぁぁああああん!?」 「まりさぁぁああ!なにいっでるのぉぉおおお!?」 父まりさは嫌そうな表情でさらに続ける。 「こういう単純そうな顔した奴は、真っ先に死ぬのぜ。はぁ、育てるの大変そうなのぜ」 「どうしちぇしょんなこというのじぇぇぇえええ!」 赤まりさは、生まれて早々父から浴びせられる暴言に、 光り輝いていたはずの未来がどんどん薄暗く陰っていくのを感じていた。 そしてその間も赤まりさの姉妹達は、次々と生まれていく。 ぷちっ!ぽとり。 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 「ゆっくりしていってね!ゆわぁああ!れいむそっくりの、とってもゆっくりしたおちびちゃんだよぉぉお!」 「さっきのより頭悪そうなのぜ。もう絶望しか見えないのぜ。はぁ」 「ゆぴぃぃいいい!?」 ぷちっ!ぽとり。 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 「ゆっくりしていってね!ゆわぁああ!このこも、れいむそっくりだよ!」 「れいむそっくりの不細工なのぜ。性格だけでもマシなことを祈るのぜ」 「どうしちぇぇぇえ!?」 ぷちっ!ぽとり。 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 「ゆっくりしていってね!ゆわぁああ!このこは、まりさそっくりだね!かっこいいよぉぉお!」 「こんなのと一緒にされたくないのぜ。上の三人よりはマシだけど、性格悪そうなのぜ」 「しょんなぁぁあああ!?」 「ゆっぐ…ゆぴぃ…」 「ゆっくち、させちぇえ…」 「めそめそすんななのぜ。生まれていきなり辛気臭えのぜ」 「まりさのせいでしょぉぉおおおお!!」 すっかり意気消沈した4匹のおちびちゃん達。 今回ばかりは極めて珍しいことに、母れいむの方が正しかった。 「まりさぁあああ!ゆぎぎ…もういいよ!はやくれいむのくきさんをぬいて、 おちびちゃんたちにたべさせてあげてね!」 「はいはいなのぜ」 「たべちゃだめだよ!」 「わかってるのぜ。まったく」 ぷちっ! 「「「「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー!!」」」」 母体と実ゆっくり達がつながっていた茎は、生まれた赤ゆっくりの最初のごはんになる。 適度に甘く苦く、シャキシャキとした食感のこの茎は、 赤ゆっくり達の味覚を野生生活に調整する、大切な食べ物である。 これを食べる事で、草花や虫など、自然界の食料を美味しく食べることが出来るようになるのだ。 しかもこの茎は、母体の持つカビや雑菌、虫等への免疫を赤ゆっくりに与える、大切な薬でもある。 この茎を食べなかった赤ゆっくりは、虫に襲われたり、カビが生えて数日で死んでしまう。 さすがの父まりさも邪魔出来ない、大切で神聖な儀式なのであった。 …ただし、余計な事は言う。 「「「「ちあわちぇー!ちあわちぇー!」」」」 「泣いたと思ったらもう笑ってるのぜ。こんなのんきじゃ、長生きできないのぜ」 「「「「どうしちぇそんなこというにょぉぉおおお!」」」」 「まりさぁぁああああ!!」 「わ、悪かったのぜ。うるさいからもう怒るななのぜ」 父まりさは平然としていたが、 赤ゆっくり達にとっては、まことに前途多難な出発であった。 ******************************** おちびちゃん誕生から、数日が経った。 「じゃあ狩りに行ってくるのぜ」 「ゆっくりいってらっしゃい!」 「「「「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!」」」」 まりさが狩りに出発すると、おうちの中は母れいむと、おちびちゃん達だけの世界となる。 なんと言ってもまだまだおちびちゃんは生まれたての赤ゆっくり。 不器用なれいむの代わりにまりさがちょいちょいと作った、 干草だけでなく鳥の羽や綿まで編み込まれたフカフカおちびちゃん用ベッドは、 4匹のおちびちゃん達を、体だけでなく心まで暖めてくれる素晴らしいものだった。 父まりさは自分用のベッドのついでに作っただけなので、断固否定するところだが、 子供たちの方はこの快適なベッドこそが親の愛の証だと信じ、ゆっくりした気持ちを取り戻していた。 ただし… 「そのべっどさんはね、おかーさんがおちびちゃんのために、いっしょうけんめいつくったんだよ!」 「「「「おきゃーしゃんは、ゆっくちできりゅにぇ!」」」」 手柄は横取りされていたが。 母れいむには、父まりさに秘密の大きな企みがあった。 「おちびちゃん、これからは、おかーさんがせんせいだからね!」 「「「「ゆっ!!」」」」 「おちびちゃんたちが、ゆっくりしたゆっくりになれるように、いろいろおしえるからね!」 「「「「ゆっくちりかいしゅるよ!!」」」」 それは、夫婦分業のゆっくり家庭に置いて、母役だけが持つ特権をフルに活用することであった。 すなわち、おちびちゃん達への教育権である。 「おちびちゃんたち!おとーさんはゆっくりできた?」 「ゆっくちできにゃいのじぇ!」 「そうだよね!おかーさんもゆっくりできないよ!」 「でも、それならどうしちぇ…」 「おかーさんはね!おとーさんにだまされたんだよ!」 「ゆゆっ!?」 「うそついちゃの!?」 「そうなんだよ!おかーさんのびぼうをてにいれたくて、 おとーさんはおかーさんをゆっくりさせてくれる、っていってけっこんしたんだよ!でもね…」 「おとーしゃんは、ゆっくちしちぇにゃいよ!」 「しょーだにぇ!ゆっくちしちぇにゃいにぇ!」 「うしょつきおとーしゃんは、ゆっくちちね!」 父まりさ自体が実際ゆっくりしてないゆっくりなため、母れいむの誘導は実にうまくいく。 そう、母れいむはこうやっておちびちゃん達を自分の味方に引き入れ、 いずれは自分を養ってもらおうと甘い考えを持っていたのだった。 実際は、ゆっくりは核家族が基本なのでそうはいかないものなのだが、 母れいむとしては父まりさの亭主関白な家庭生活に、大いに不満なのである。 親としての権利を最大限主張し、子供の中で一番優秀そうな者に寄生して生きようという考えだった。 「はい!おかーさんはゆっくりさせる!」 「「「「おきゃーしゃんは、ゆっくちさせりゅ!」」」」 「おとーさんは、ゆっくりしね!」 「「「「おとー…」」」」 「ゆゆっ!?だめだよ、おかーさんのまねしないと!もういちど…」 「誰が死ぬのぜ?」 母れいむの背後には、随分前から父まりさが立っていた。 わざわざ気づかれないように、そっとおうちの中に入って全ての内容を聞いていたのである。 なお、母れいむの教育内容は、その大声のおかげで群れ中に筒抜けであったので、 父まりさの勘が鈍かったとしても、どうせ隠しおおせるはずもなかったのだが。 「ゆびゃぁぁあああああ!?ゆるじじぇぇぇええええ!」 「れいむは今日はご飯抜きなのぜ。おちび達はこのにがにがな草でも食っとくのぜ」 「「「「おとーしゃぁぁあん!ごめんにゃしゃいぃぃいい!」」」」 「まりさはイモムシさんをいただくのぜ。むーしゃむーしゃ、しあわせー!」 「「「「「ごべんなさいぃぃいいいい!!」」」」」 「…おとーしゃんはゆっくちできにゃいよ!」 「ゆっくちのくじゅだよ!ゆっくちちにぇ!」 そんなわけで、結局母れいむの画策とは全く無関係に、父まりさはおちびちゃん達から嫌われまくり、 その関係は最悪の状態へとなったのであった。 ******************************** そしてそれからさらに2週間ほどが経った。 父まりさとおちびちゃん達との関係は相変わらず最悪だったが、 その分おちびちゃん達は母れいむから甘やかされまくる事で、 心のバランスを取ることに成功していた。 「きょうこそ、おとーしゃんをやっつけるのじぇ!ゆっくちちにぇぇぇえええ!」 ぽにゅんっ! 「それは何なのぜ?体当たりのつもりなのぜ?」 「どうしちぇたおせないのじぇぇええ!まりしゃはさいっきょうなはずなのじぇ!!」 「その程度で最強とか、笑い死にさせる気なのぜ!?ゆっへっへぇ……」 と、 ニタニタと嫌な笑みを浮かべながら、我が子の反逆を叩き潰していた父まりさだったが、 急にひらめいた!といった表情になっておちびちゃん達に宣言した。 「そうなのぜ!今日は、おちびちゃん達も一緒に狩りに行くのぜ!」 「「「「ゆゆっ!?」」」」 母れいむは、面倒くさがって同行しなかったが、 おちびちゃん達は生まれて初めて、家族5匹での狩りに出る事になったのであった。 だが、おちびちゃん達は生後20日も経過していない。 サイズで言えばキウイフルーツ程度であり、子ゆっくりと呼ばれるサイズに届くのはもう少し先である。 それは、あまりにも早い狩りデビューであった。 「まりしゃは、けんっきゃくをいかしちぇ、ばったしゃんをつかまえるのじぇ!」 「好きにするのぜ」 「ゆぅ~…れいみゅは、やわらかいくさしゃんをあつめるにぇ!」 「がんばるのぜ」 「れ、れいみゅはにぇ!おはなしゃんをあつめりゅよ!」 「せいぜい気を付けるのぜ」 「まりしゃにぇ!まりしゃ、みみずしゃんをつかまえりゅよ!」 「行ってこいなのぜ」 4匹のおちびちゃんは、ほとんど初めて見る広大な草原の中を、 目標とする大好物の獲物を目指して、縦横無尽に駆け回った。 もちろん、おうちから遠く離れた、危険な未知の土地だと思っているのはおちびちゃん達だけであり、 ここは父まりさが普段から使っている狩り場の中でも、一番安全な場所である。 父まりさ他、数匹の成体ゆっくり達が、狩りの間ケガをしたりしないように、 小石や尖った木の枝を丹念にどかして作った、目隠ししていてもケガをしない、平らな草原なのである。 まあさすがに、赤ゆっくりが跳ねまわれば擦り傷くらいは作るだろうが。 「ばったしゃん!まりしゃにつかまえられちぇにぇ!」 ぴょーんっ! 「ゆっぴゃぁぁああん!どうしちぇにげりゅのぉぉおお!?」 長女まりさは、姉妹で一番の健脚を自慢としていたが、所詮は赤ゆっくり。 ジャンプ一回で数センチしか跳ねられない赤まりさが、バッタさんを捕まえられるはずもなかった。 「まっちぇにぇ!」 ぽよんっ!…びょーんっ! 「まつのじぇぇええ!」 ぽよんっ!…びょーーんっ! 「ゆひぃ、ゆぴ…どうしちぇぇぇええ!」 びょーーーんっバクッ!! 「ゆぴっ!?」 「お父さんがいただいていくのぜ」 「ゆ?ゆゆ?」 だが、長女まりさが何度跳ねても届く事のなかったバッタさんが、 一瞬目を離した瞬間に、なぜか父まりさの口の中に収まっていた。 「ど、どうやっちゃの・・・?」 「さいっきょうのおちびちゃんが、ゲスでクズなお父さんに教わるのぜ?」 「ゆ、ゆぴ…」 それは、足の遅いゆっくりが虫を捕まえる際に使う、基本的な戦術、 いわゆる待ち伏せであった。 なんのことはない。長女まりさが虫を追っているのを見て、 虫が追い立てられる方向に伏せて隠れていただけだ。 そして、ジャンプ一回で届く距離に近づいたところで、ぱくっ!ということである。 「むーしゃむーしゃ!ゆふふ!さいっきょうのおちびちゃんから奪ったバッタさんは、最強にに美味いのぜぇ!」 「ゆぴゃぁあぁああん!まりしゃのばったしゃんがぁぁああ!」 なお、そのバッタを長女まりさにあげるほど、父まりさは優しくなかった。 というより、最初からこれが目的で狩りに連れてきているのであるが。 次女れいむの方は、やわらかそうでいい香りの草を、ブチブチと集めていた。 「ゆぁあん?何なのぜ?それ」 「ゆゆっ!?おとーしゃんはあっちにいっちぇにぇ!」 「やっぱりれいむの子はれいむなのぜ。そんな草さんしか集まらないのぜ?」 「いじわるいわにゃいでにぇ!」 父まりさは、次女れいむの言うとおりに意地悪な表情をして言った。 「その草さん。むーしゃむーしゃできるのぜ?」 「できりゅよ!むーちゃむ…にぎゃいぃいいい!!」 次女れいむは、少量の餡子と一緒に食べた草をまとめて吐き出した。 とても苦くて食えたものではなかったのだった。 「ゆっふっふ。いつも食べてるご飯がどれかもわかんないのぜ?やっぱり母親そっくりなのぜ」 「ゆっぴゃぁぁああん!!」 その後も、 三女れいむは花を手に入れようとしたが、赤ゆっくりのジャンプで届く高さの花が無く、 収獲ゼロで帰る羽目になった。 実際はその花が生えている茎の根元をかじり切ればいいだけなのだが、 赤ゆっくりの知力ではそこまで考えが及ばなかったようである。 末っ子まりさに至っては、ミミズがどこにいるのか最後までわからず、 草原のど真ん中で泣き続けて一日が終わった。 結局4姉妹の初めての狩りは、自分達の無力を全力で思い知らされる、苦い記憶となったのであった。 「さあ、楽しませてもらったし、そろそろ帰るのぜ!」 「「「「ゆ…ゆっくち…」」」」 ちなみに、他の一般的なゆっくり一家の中にあって生後2週間と言うと、 おうちからお外に踏み出してもいいかな?ということをそろそろ両親が考える時期なのである。 赤まりさ達がどれほどの才能を秘めていたとしても、とても狩りなど行える段階では無い。 父まりさは100も承知で狩りに引っ張りだしたのであった。 自分に敵意を向ける生意気な子供達に、自分の力を見せつけるだけのために。 おちびちゃん達は、結局それから数週間にわたって狩りに同行したが、 結局父まりさ以上の収穫を集めるどころか、毎日体力を使い果たして食事をモリモリ食べる分、 父まりさの負担を増やしただけに終わったのであった。 「「「「むーちゃむーちゃ!ち、あ、わ、ちぇー!」」」」 「た、食べ過ぎなのぜぇぇぇええ!!」 「れいむももっと、むーしゃむーしゃするよ!」 「お前は動いてないのに食い過ぎなのぜぇぇええ!」 このあたり、父まりさも詰めが甘いところである。 ちなみに、調子に乗っておちびちゃん達並に暴食を繰り返していた母れいむは、 木の枝をあにゃるに捻じ込み、うんうんが出せず腹痛に苦しむという 『うんうん地獄』なる『しつけ』を父まりさから与えられたのであった。 ******************************** その後も、主に父まりさの態度が(心底ゲスなのでしょうがないが)原因で、 親子関係は悪い状態のまま数週間が経過した。 この時期になると、おちびちゃん達ももう赤ゆっくりを完全に抜け出し、 野球の硬球並の大きさにまで成長して、いわゆる子ゆっくりと呼ばれる頃合いになっていた。 おちびちゃん達の同世代達も狩りデビューを果たし、 家族以外のゆっくり達、特に自分の同世代の子ゆっくり達と頻繁に会うようになっていく。 お友達グループを作って一緒に遊ぶようになるのもこの時期だ。 それは、次世代の群れの環境を形作る、非常に大事なコミュニケーションの時期でもあった。 「ゆぁ~ん、わからにゃいよぉ~!ばったしゃん、ちぇんにつかまっちぇよ~!」 「ゆっ!」 パクッ! 「わ、わきゃるよー!まりしゃはかりがじょうずだにぇー!」 「ゆぅ、そ、それほどでもあるのじぇ~」 そんな若いというよりはまだ幼い子ゆっくり中で、次世代の群れの主力を担うであろう輝きを放っていたのは、 意外にも、ゲスまりさとでいぶの子供たちである、あの4姉妹であった。 「どれがときゃいはなくさしゃんか、わきゃらないわ~」 「ゆゆっ!れいみゅにまかせてにぇ!」 「と、ときゃいはね!れいみゅ、ありがとう!」 4姉妹は、子ゆっくり達の集団にあって類まれな早熟さを示し、 食べられる草花の知識や狩りの方法、おうちの作り方や安全な場所の選定など、 成体顔負けの幅広い技能を習得していたのである。 原因は、当然と言えば当然だが、赤ゆっくりの時期に父まりさの嫌がらせで行わされた狩りである。 あの一件以降、父まりさと4姉妹の不仲は過去最悪のものになっていたが、 それとは別に、4姉妹の反逆精神と自立心がプラスの方向にも働いたのであった。 長女まりさは、父まりさをこっそり尾行して、狩りの仕方をしっかり見学するようになった。 次女れいむ達も自分達が食べている草花やキノコの種類を、食べながら必死に憶えるようになった。 これらはいずれも、4姉妹のプライドをズタズタにする父親に対して、雪辱を果たすために行っていた努力であり、 なおかつ、4姉妹がゲスな親から一刻も早く離れたいと思っての努力でもあった。 父まりさ自信は特に教育熱心なわけでもないはずなのだが、 子育てという意味では良い影響が出たわけである。 しかも、ゆっくりに限っては人間と異なり、早熟=有能、有能=早熟、と断定してよい。 ゆっくりの最も記憶力が高い、それゆえに能力が向上しやすい時期は、 普通の家族だとひたすら甘やかされているであろう、赤ゆっくり期~子ゆっくり初期なのである。 大抵のおちびちゃんが『怠惰にゆっくり過ごす事=至高のゆっくり』と言う事をみっちり学んでいる間に、 4姉妹は一生懸命、一流の生活力を持つゆっくりから指導を受けてきたのであった。 その生涯のしょっぱなでついた能力差は、順調に生きれば一生縮まることはない。 ゲスまりさ流英才教育が、ここに完成を見たわけである。 「むきゅーん!あのれいむとまりさのおちびちゃん達、凄いわ!」 長ぱちゅりーとしても大喜びである。 あの何を考えているかわからないまりさと、厄介者そのもののれいむから、 次世代の群れをしょって立つかもしれない有望な子供達が育っているのだから。 なので長ぱちゅりーは、自分が考えた掟『群れ全員明るい家族化計画』が上手くいったと本気で思っていた。 まあ、結果は良い方向に向かっている以上、間違いだったとも言えないのだが。 そして、4姉妹を見る周囲の目が変わったのと時を同じくして、 4姉妹が父まりさを見る目も変わりつつあった。 「まりしゃって、とってもゆっくちしたかりじょうずにぇ!」 「ゆ!?あ、ありがとうなのじぇ!」 「れいみゅって、ものしりさんだにぇー」 「ゆ、ゆっくちそんなこと…」 「れいみゅ!いっしょにおはなしゃん、むーしゃむーしゃしましょう!」 「ゆ、ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 「まりしゃー!みみずしゃんのつかまえかた、みょんにもおしえてみょーん!」 「ゆっくちおしえりゅよ!」 ……。 「ゆぅ…まりしゃ、おとーさんのまねしてるだけなのじぇ…」 「みんな、しゅっごいほめてくれるにぇ…」 「ゆっくち…お、おとーしゃんのおかげなのかにゃ?」 「ゆん……」 何せ4姉妹は父まりさからバカにされて育ってきており、 しかも未だに、父まりさとの差が縮まっているような実感はまるでない。 どうやら自分達の親が(性格はともかく)非常に優れたゆっくりであることを、 4姉妹も薄々感じざるをえなくなってきていたのである。 そして、もうひとつの事にも… 「おちびちゃん、おかーさんはね。おとーさんにだまされたんだよ」 「ゆぅ…」 「おとーさんはゆっくりできないでしょ?」 「……」 「ゆっくりきいてる?おちびちゃん」 「ゆん…」 それは、母れいむの方はどうやら相当な駄ゆっくりであるという事である。 母れいむは、自分の仕事は子育てとおうちを守ることと言っているが、 新しいベッドを作ったり、食糧庫の整頓をしたり、 おトイレの掃除をしたり、おうちの入り口の閉じまりをしたり、 子供達の水浴びや、日光浴まで含め、 何のかんのと言いつつも全部父まりさがやってくれているのだ。 それは皮肉な事に、父まりさを越えようと執念深く観察していた長女まりさが特にひしひしと理解していた。 父まりさはその上狩りまでやっているのだから、 ハッキリ言って母れいむの仕事は 子供たちに念仏のように父まりさを貶める台詞を聞かせ続けることくらいである。 母への折檻の激しさや吐き捨てる言葉の辛辣さは未だにゆっくりできるものではないが、 少なくともやる事をやって、群れの掟は守りつつの振る舞いである以上、 十分評価に値するものであった。 なにより、こんなことに気づくことが出来たという時点で、 4姉妹は群れでも群を抜いて賢いゆっくりに育ちつつあったのである。 ******************************** パタ…パタパタ…パタパタ… 「「「「ゆ?」」」」 「しねー」 そんな恨みと尊敬の気持ちの間の葛藤で、4姉妹がゆっくりできない思いを抱き続けていた時、 群れに突然巨大な厄災が降りかかってきたのであった。 「ふ、ふふ、ふらんだぁぁああああああ!!」 それは、群れのゆっくりプレイスに突然舞い降りた捕食種、ゆっくりふらんであった。 「うっうー!しね!しね!」 「ゆびゃぁぁああああ!!」 「うー!」 「ゆぴぴぴぴ…ありすのかすたーどさん…すわない、で…」 胴付きではない。 胴無しのふらんが一匹、それもようやく成体になったかという若い個体であった。 本来夜行性のふらんが真昼間のゆっくりぷれいすの、しかもど真ん中に現れるなど、 そうそう起こりえる事では無い。 まさに事故、という他ない不幸であった。 「「「みょーん!みょんたちがあいてだみょん!」」」 「うー!しね!しねー!!」 「みょぉぉおおおん!やべでぇぇええええ!!」 「あ、ありすのみょんに、ひどいことしない『べしんっ!』ゆびぇっ!?」 「うーうー!!しね!しねー!!」 群れは大騒動になった。 群れと長ぱちゅりーの防衛を任されている近衛ゆっくり達が、各々木の棒を口に咥え、 10数匹掛かりでふらんを迎撃しているが、一匹づつ軽々と葬りさられていく。 さらにはその近衛ゆっくり達のつがい達も、伴侶に対して行われる処刑をおうちの前で見せつけられて、 我慢できずおうちから飛び出したところを捕まえられては、夫婦そろって餡子を吸われていった。 そうして夫婦そろって食い散らかされていった一家には、さらに総仕上げが待つ。 「「「ゆぁ~ん!みゃみゃ~、たちゅけちぇぇぇえ!」」」 「うー!!あまあまー!!」 「ふらんしゃん、ゆっくちしちぇにぇ!ゆっくちは、ゆっくちしにゃいとちんじゃうのよ!」 「うー!しね!しねー!!」 「「ゆっぴゃぁぁああん!ゆっくちさせちぇぇぇええ!!」」 むーしゃむーしゃ…げろまずー ぽいっ!べちゃ… 「ぴぇ……」 近衛隊の父ゆっくりが死に、母ゆっくりがおうちを飛び出したまま帰らないなら、 そのおうちの中は無防備と言う事だ。 これはすなわち、おちびちゃんまでふらんに捧げることに他ならなかった。 このふらんは、若くて力も経験も不足しているなりに頭を働かせて、 大好物である群れのおちびちゃん達を、根こそぎ食いつくそうとしていた。 群れは今、存亡の危機に立たされたのである。 ところでその頃。 群れのゆっくりが、成体も、生まれたてのおちびちゃん達ももれなく遊び尽くされ、 食いつくされていこうとしている中、あのゲスまりさとでいぶの一家はと言うと…… 「「「「ゆっぴゃぁぁあああん!おともだちのみょんも、ちぇんもたべられちゃぁぁぁあ!!」」」」 「ゆひぃ、ゆひぃぃいいい!ふらんごわいぃぃいいい!お、おぢびぢゃんだち!」 「「「「お、おきゃあしゃん!?」」」」 「みんな、おとりになってね!そのあいだにでいぶはにげるがらね!」 「「「「なにいっちぇるのぉぉおおおお!?」」」」 一匹を除いて、おうちの中で大混乱に陥っていた。 その騒ぎの中で一匹平然としているのは、例によって父まりさである。 「ゆっふっふ~ん。ふふ~ん」 というか、鼻歌交じりでおうちの倉庫内をゴソゴソと漁っていた。 「「「「おとーしゃぁぁああん!!」」」」 「何なのぜ~。うるさいのぜ」 「ばりざぁぁあああ!でいぶをだずげでね!でいぶのだんなざんでぢょぉぉおお!!」 「狩りの準備してるんだから、ゆーゆー泣くななのぜ。まったく」 「ゆわぁぁあああ!?ばりざが、ふらんがごわずぎで、おがじくなっじゃっだぁぁああああ!!」 あいかわらず鼻歌交じりの父まりさを、突き飛ばさんばかりの勢いでおうちの一番奥に飛び込んだれいむは、 おちびちゃん達が寄り添って泣いているところよりもさらに奥、貯蔵食糧の山に全身を押し込めると、 がたがたと震えるだけのデブ饅頭と化してしまった。 「ゆぁ~。まったく。ご飯の管理してるの、誰だと思ってるのぜ。後片付けが大変なのぜ」 「「「「おとーしゃぁん…ゆっくちしっかりしちぇぇ…」」」」 「……」 父まりさはため息を一つつくと、もう家族にいちいち構うのをやめて、一本の木の棒を取りだした。 それは、普段まりさが持ち歩いているオール兼武器の棒より、一回り長い。 そして父まりさは、悠々とおうちの入り口に向かうと、 母れいむが不器用なりに木の枝やらなんやらで固めたバリケード、いわゆるけっかいをどかしていった。 まるで今から本当に、いつも通りの狩りに出ると言った雰囲気で。 「お、おとーしゃん!」 「ゆあん?なんなのぜ?」 「おうちのそとにでちぇ、ふらんとたたかうのじぇ?」 長女まりさは、英雄を見るのに近い視線を父まりさに向けていた。 だがしかし、父まりさの返事は斜め上を行くものであった。 「なにいってるのぜ?狩りだって言ってるのぜ」 「ゆ…ゆぅ?」 そう言うと父まりさは、おうちのけっかいを完全に外して入り口を丸見えな状態にし、 そのままおうちの奥まで戻って来てしまった。 「ゆ…ゆ?おとーしゃん!」 「ゆん?何なのぜぇ、もう。まりさは忙しいのぜ」 「だ、だっちぇ、けっかいしゃん、どかしちぇ…」 「ああ。これからここにふらんが来るから、おちびちゃん達みんな食べられちゃうのぜ」 ……。 「「「「な、なにいっちぇるのぉぉおおおおお!!」」」」 その叫び声は、ゆっくりプレイスのど真ん中で殺戮を繰り広げているふらんまで、はっきりと届いた。 「「「「(ゆあーん!たべられちゃくにゃいぃぃいいい!!たしゅけちぇぇぇえええ!)」」」」 それは、ふらんが最も好物としている子ゆっくり達の声。 赤ゆっくりのようにフレッシュだが酸味がある餡子でもなく、 成体ゆっくりのようにパサパサした餡子でもない。 程よい風味が舌をとろけさせる、好物中の大好物であった。 「うっうー!しね!しねー!!」 ふらんはその声に誘われるまま空に飛び上がると、けっかいすらされていないガラ空きのおうちを見つけ、 そこから子ゆっくり達の叫び声が発せられている事を確認した。 「う~、じゅるり」 もはやふらんに躊躇や我慢の必要などない。 おうちに飛び込み、大好物を思うままに食い荒らすのだ。 そしてふらんははるか上空から一気におうちの入り口に降下し、体当たりするかのようにおうちへと飛び込んでいった。 中に見えるのは子ゆっくり、赤リボンと黒ぼうしが2匹づつ。そして… それが、ふらんの見た最後の光景だった。 太く長い木の棒で眉間を、そして中枢餡を貫かれたふらんは、 よだれを垂らした満面の笑みのまま絶命していた。 この木の棒、ただの一突きでふらんを『狩った』のは、もちろんあの父まりさである。 恐怖と、それからの解放の連続で茫然としている4姉妹の前で、 父まりさはまた理解不能な事をしゃべっていた。 「ちょうどいい所に獲物が来てくれたのぜ。これでしばらくゆっくり暮らせるのぜ~」 「お、おとうしゃん?」 「ゆっゆ~ん!…ゆん?何なのぜ、まりさは献立を考えるのに忙しいのぜ」 「…たべりゅの?」 「当たり前なのぜ。ふらんは大好物なのぜ」 「……ほかにもたべたことありゅの?」 父まりさは特に自慢するでもなくうなずく。 「れみりゃも美味しいけど、やっぱりふらんの方が口に合うのぜ。 でも、家族ができちゃったからふらんを狩りに行けなくなったのぜ。 まったく。ふらんをさがすのは大変なのぜ。 太陽さんがたくさん出て沈むまでかかっても、見つからない時もあるのぜ」 この話を聞いていたゆっくり達は、群れの全員、長ぱちゅりーも含めて全員が口をポカンと開けたまま、 しばらく一言も発することができなかった。 と、そんな話を父まりさ達がおうちの入り口でしていると、 そこに子ゆっくりが飛び出してきた。 それは先ほどのふらんとの戦いで両親と姉妹全員を失った、 4姉妹達とも友達である、子みょんであった。 子みょんは父まりさの横を抜け、ふらんの死体までたどり着くと、 その死体の上でジャンプし、思い切り踏みつけ始めた。 「みょぉぉおおん!おとーしゃんを!おきゃーしゃんをぉぉおお!かえしぇ!かえしぇぇぇぇええ!!」 「おぢびぢゃん…」 「かわいそうだねー…わからないよー…」 その悲痛な叫びに、長ぱちゅりーを始め周囲の全員が涙を流し、ともに嗚咽を漏らした。 ただし一匹を除いて。 例によって父まりさである。 「なあにやってるのぜぇぇえええ!!」 べちんっ!! 「みょっ!!?」 父まりさの本気の体当たりが子みょんに炸裂した。 周囲の群れのゆっくり達が茫然としているなか、父まりさによる子みょんへの折檻は続く。 「ひとさまのごはんを踏みつけて台無しにしようとするなんて、とんだゲスなのぜ! お仕置きしてやるから覚悟するのぜぇぇええ!」 「みょ、みょん…?」 「む、むきゅ、待って、まり」 「邪魔すんななのぜ」 「むきゅぅん…」 長ぱちゅりーは、もはや何も言えなかった。 その後、子みょんは父まりさによって、下半身(下膨れ)を地面に埋められたあげく、 延々半日にわたってお下げで顔をくすぐられ続けるという拷問まがいの折檻を受けた。 子みょんはそのせいで精神を病んでしまい、 この後2カ月以上もの間、介護無しではご飯も食べられない状態になったのであった。 もちろん、世話をさせられたのは長ぱちゅりーである。 ちなみに母れいむはと言うと… 「れいむもふらんをたべていいよね!ぐるめでごめんね!」 「…やるわけないのぜ。おちびちゃん達はいい餌になってくれたから、羽だけ食べさせてやるのぜ」 「「「「ゆわーい!ゆっくちー!!」」」」 ちなみにふらんの体は、あんまんである。 自分達を襲う心配さえなければ、大好物なのだ。 「どうぢででいぶはたべぢゃだめなのぉぉおおお!?」 「役に立ってない奴にあまあまはやらないのぜ」 「そ、それじゃあ、でいぶだってけんりあるでしょぉぉおおお!」 「……何言ってるのぜ?」 「だ、だって、だって、でいぶがおぢびぢゃんをうんだんだよぉぉおお!」 ……。 結局、母れいむには、ふらんの胃(正確には胃っぽい体内の空洞部分)の内容物を与えられた。 チョコやら生クリームやらカスタードやらが混ざった液体だったので、母れいむも大喜びだったようである。 ちなみに父まりさは、この日の夜にこんな事を4姉妹に教えている。 「ふらんが来たからお外に出て戦うなんて、馬鹿もいい所なのぜ。 あのみょん達もしょうがない奴らなのぜ」 「でも、でも、むれのみんなをたしゅけないといけないのじぇ!」 「ゆぁ~ん?なぁに言ってるのぜ。自分も助けられない奴らが、誰を守るのぜ?」 「ゆ、ゆぅ…」 長女まりさも他の3姉妹も、怯えきって叫んでいただけだったので、何も言えない。 父まりさは長女まりさが黙ったのを満足げに見て、話を続けた。 「だいたい、ふらんがきたらおうちに隠れて剣構えて、ガタガタ震えてりゃいいのぜ」 「「「「ゆゆっ!?」」」」 「おうちに飛び込んできたら、ふらんなんて目の前からしかこれないのぜ。 剣で一突きなのぜ。なんのためにおうちがあるのか、誰もわかっちゃいないのぜ」 「「「「ゆ、ゆっくち…」」」」 「それに、このおうちは裏側にも出口を作ってるのぜ。 剣で相手出来ないくらい強いふらんなら、中に誘いこんでまりさ達だけ外に出て、 群れのみんなで生き埋めにしてやる事も出来るのぜ」 「「「「ゆ、ゆひぇ~」」」」 「…だから、そんなこともわからないゆっくりなんて、どうなっても知ったこっちゃないのぜ」 「「「「・・・・・・」」」」 つくづく、一言余計であった。 ただし、その暴言がもはや4姉妹の、父まりさへの見方に影響を与える事はなかった。 ******************************** そして時は流れ、ついにあのまりさとれいむのおちびちゃん達も、独立の時を迎えた。 もはやおちびちゃんとは呼べないだろう。 その体格は今では父まりさと同じくらい、母れいむの6割程度にまで育っている。 それはもう、立派な成体ゆっくりであり、子供達もまた、父や母になってよい時期であることを示していた。 「そろそろいくのぜ…」 「れいむもじゅんびできたよ」 「ゆっくりしゅっぱつだね」 「ゆぅ…さびしいよ…」 「おぢびぢゃっ!おぢびぢゃぁぁあああん!おがあざんをずでるのぉおおお!ゆっぐぢいが、いぎぎっ!」 「ようやく出ていくのぜ~。ついでにれいむも連れて行って欲しいのぜ」 さすがに巣立ちの時はしんみりきそうなものだったが、 母れいむはともかく父まりさは相変わらずである。 これでツンデレ親父なのなら可愛げもあるのだが、何気に本心から出ている発言なのは残念なことであった。 「おぢびぢゃ…ぎぎぎ…ぶべぇ」 「泣きすぎて餡子吐いてるのぜ。まあ、ちょっとは痩せた方がいいのぜ」 「「「「おとうさん…」」」」 「ああ、もういいからさっさと行くのぜ。どうせ群れの中なのぜ?また毎日会うのぜ」 それは事実である。 どうせ明日以降も毎日どこかで顔を合わせるだろう。 新しいつがいができたら、その数分後には群れ全体に情報が伝わるほどの狭い世界である。 だが、それはそれ、これはこれなのだ。 少なくとも、真っ当でない両親から生まれ、育てられながら、 これ以上なく真っ当に育ってしまった子供たちにとっては。 「「「「おとうさん……いままでありがとう!!」」」」 「ふぅん。お礼じゃ腹は膨れないのぜ」 「ゆぅ~。おとうさんはあいかわらずだよ~」 「わかってるんなら、今度来るときはお土産でも持ってくるのぜ。あまあまでいいのぜ」 「ゆんっ!ゆっくりりかいしたよ!」 最後の別れは、ゆっくりらしく元気いっぱいに、いつもの挨拶。 「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」 「ゆぶぇっ!…っぐぢぃ……」 母れいむ以外で。 ……。 子供達は、自分達のためのおうちと、家族だけの小さな小さなゆっくりプレイスを求めて去っていった。 どうせ明日以降も、狩り場やら群れの集会やらでいくらでも出会うだろう。 それは間違いないが、今日と言う日はやはり、長い間手塩にかけて育てたおちびちゃん達が、 一人前に育って旅だった記念の日なのだ。 そんな事を考えていると、餡子の奥にじんわりと熱いものを感じ、 母れいむは、深い達成感に包まれたのであった。 一方、父まりさは、子供たちのお土産にちょっとだけ期待しつつ、 これで久しぶりに母れいむの極上まむまむを使えるかと思い、にんまりしたのであった。 挿絵:D.O
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/68.html
―1― 木の根本に開いた穴は、元々は野ウサギの巣であった。 それを多少の拡張と補強を施して利用しているのは、最近つがいになったばかりの二匹のゆっくり だった。 野ウサギの巣には、ゆっくり自身が掘ったものとは比較にならないほどの奥行きがある。そのため、 奥の方で大声で騒いだところで出入り口から聞こえるのは、ほんの僅かな不明瞭な声。 そんな微かな声でも会話の雰囲気を掴むことが出来る。 大きな怒声と小さな悲鳴。 それはどう聞いても険悪な雰囲気であった。 「むきゅ……。上手くいってないのかしらね、あのふたり……」 おうちの奥から聞こえてきた声に何の気無しに耳を澄ませていた通りすがりのぱちゅりーは、溜息 を一つ吐いてその場を後にした。 一方その頃、おうちの奥ではぱちゅりーが懸念した通りの夫婦喧嘩が展開されていた。 もっとも、それはかなり一方的な展開であった。 「これはいったい何なの、まりさっ!」 「ゆひぃっ!? そ、そんなこわいおかおでどならないでね……」 「まりさがれいむをおこらせるようなことするからでしょっ!! これは! いったい! 何なのっ て! 聞いてるんだよぉっ!!」 「ゆ、ゆわぁっ!?」 野生動物が作り上げた頑丈な巣穴が、れいむがあんよを踏み鳴らす度にパラパラと砂埃を落とす。 れいむの体躯は、一般サイズのゆっくりであるまりさより一回りか二回りほど大きい。さらにまり さは気迫負けして縮こまっているので殊更大きく見える。当のまりさの視点ともなると、れいむの姿 はドスをも超える巨体に映っていた。 そんなれいむが物凄い形相で見下ろしている。 荒い呼気が頬を撫でた時点でまりさの恐怖は臨界を超えて、チョロチョロと水音と共に下から溢れ 出した。れいむの地団駄が続いていなければ、その音と振動が絶えずまりさを揺さぶっていなければ とっくに気を失っていた事だろう。 気絶できれば少しはゆっくり出来たかも知れない。 しかし現実に逃避が出来ない以上、まりさは大人しく応えるしかなかった。 「それ……それは、ごはんさん……だよ?」 まりさとれいむの丁度中間にこんもりと草が積んである。まりさが集めて持って帰ったお帽子一杯 に詰め込んできたそれが、れいむの火種となっていた。 狩りと称する野草の採取から帰り、笑顔で収穫をひけらかしたところで何故だかれいむの怒りが爆 発してしまったのである。折角ごはんをあつめてきたというのに何故れいむが怒っているのか、まり さには解らない。 解らないから鍔広の帽子の陰からこそこそとれいむの顔色を伺いながら、なるべく刺激しないよう に小さな声で返答する。 そんなまりさの顔に、れいむの蹴り飛ばした草が浴びせられた。 更に罵声まで飛んできた。 「ごはんさんは柔らかくって、にがにがの少ない草さんを集めてきてねって言ったでしょうがぁっ! どぉしてこんなに堅い草さんばっかり集めてくるのっ!」 「ゆひっ!? しらないよっ!? まりさそんなことしらないよっ!?」 「まりさがれいむのお話を聞いてないだけでしょぉっ!!」 「ゆぎゃんっ!」 聞き覚えのないことは知らないとしか言いようがない。涙を流しての訴えは、しかし軽い体当たり によって却下された。 れいむとまりさの体格差からすれば相当加減された体当たりだったが、痛みに弱く挫け易いゆっく りからすれば耐え難い激痛に感じられた。まりさは瞬く間に目に涙を溜めて大泣きの準備に入った。 「ゆびぇ……え?」 「――まりさ、ゆっくり泣いてるひまがあるなら」 そんなまりさの目前――それこそ目と目が触れ合いそうなくらい近くに、無表情に目を見開いたれ いむの貌があった。 ゆっくりにあるまじき迫力に涙も声も引っ込んでしまったまりさにできたのは、かみ合わない歯を ガチガチと鳴らしながら静かにれいむの言葉を聞くことだけだった。 そんなまりさの様子に満足したのか、れいむの黒目がついっと動いて出入り口を見やった。 「ゆっくりしないでごはんさんを集めてきてね? 柔らかくって、にがにがさんじゃない草さんで良 いんだよ? たくさんでいいよ? 今度こそ、わかった?」 「ゆ、ゆっ、ゆひぃっ!? わかりましたぁっ! まりさはかりにいくよぉおおおおお……っ!!」 無言で語られた『さっさと行け!』のアイコンタクトに従い、まりさはゆっくりらしからぬ勢いで 巣穴を飛び出していった。 外の風に当たったまりさは不意に思う。 どうしてこうなったのだろうか、と。 だが何はさておき、れいむの機嫌を治すために美味しい食べ物をかき集めなければならない。 あまあまな空気に満ちたから恋人時代から、まったく以てゆっくりできないものへと激変した新婚 生活に涙しながら、まりさは跳ねた。 ―2― 一週間前までは、まりさは幸せの絶頂期にあった。 両親によって何不自由なく育てられたまりさは、狩りの練習に出かけた先でれいむと出会った。お うちの奥で大事に大事に育てられてきた一人っ仔のまりさにとって、それは同世代のゆっくりとの初 めての出会い。 れいむはとてもゆっくりした、美しいゆっくりだった。髪の艶、肌の張り、飾りの鮮やかさ、どれ をとってもその後出会ったどのゆっくりより抜きんでいた。 一目で惚れ込んだまりさは即座にれいむにプロポーズをするのだが、その時は一言で断られた。『れ いむはまりさのことを知らないから』というのがその理由。 それでもまりさは諦めず、懸命に自分をアピールし続けた。 甘やかされてきただけに狩りの要領こそ悪いまりさだったが、頻繁に出会い、話し、そして運良く 見つけたこのおうちと、がんばって集めた食料の備蓄を見せたことで、漸くれいむはまりさを受け入 れてくれた。この時、まりさの両親の尽力があったことは、れいむには秘密である。 おうちを構えて伴侶を得、順風満帆に滑り出したまりさの新生活。これからおちびちゃんを沢山作 り、れいむと一緒に賑やかで幸せな家庭を築く。そんなまりさの薔薇色の将来設計は、一晩明けたと きには崩れ去っていた。 とても優しかったれいむの豹変。 まりさが一生懸命集めてきたごはんに、「堅い」「苦い」とケチを付ける。何とかして柔らかくて 口当たりの良いご馳走をかき集めてもまりさの口には入らない。 肌をすり合わせて一緒に眠ろうとしても、おうちの一番奥にある一番広い部屋からつまみ出される。 寄り添って眠った記憶は、正式につがいとなる前のひなたぼっこにまで戻らないと見あたらなかった。 抗議の声を上げたこともある。しかし、かつての優しかったれいむからは想像もつかないほどの迫 力で以て打ちのめされた。それ以降、まりさはただ従順にれいむに従っている。 日が昇ってから青空に朱色が混じる頃まで、ただひたすらにごはんを集めることで過ぎていく。そ して独りっきりで眠る夜。 まりさの一日にはゆっくりできる時がなかった。 こんなにゆっくりできない生活がしたいわけではなかった。 群一番のゆっくりしたお嫁さんをもらい、たくさんの子供をつくり、幸せな家庭を自らの手で築き 上げることで親の庇護の下で暮らしていた日々よりも、たくさんたくさんゆっくりする。 そんな夢を見てれいむにプロポーズしたはずなのに、現実には夢の欠片さえ視ることができないで いた。 「……ゆっくりしたいよ……」 美味しそうに見える草をむしり採りながらまりさは溜息をもらす。 そこはおうちから少し離れた所にある、背の高い草が生い茂る小さな広場。群の居住地からは少し 離れたところに住み着いているだけに、ここはまりさの狩り場として独り占めできていた。 だから狩り自体に大した労力は必要ない。 ぶちぶち草をむしりながら悩むだけの余裕が持てる。ぶちぶちと草を抜きながらぶつぶつと愚痴を 漏らす。 「なんでれいむはまりさをゆっくりさせてくれないんだろ……? いっしょにゆっくりしようねっ! て、いっしょにいったのになぁ……」 引き抜いた草がある程度の山と成ったところで帽子を下ろし、収穫を詰め込んでゆく。 詰めてみると容量に少し余裕があったので、もう少し草むしりに勤しむことにした。自然と愚痴も 続く。 まりさの中で「何故」と「どうして」が空回りしていた。 しかしながら、ぼんやりとしたまりさの疑問を、ぼんやりとしたまりさの頭で解決することなどで きはしない。 「ゆっ、まりさじゃない! おひさしぶり、ゆっくりしていってね!」 「ゆ……? ありす……?」 底なし沼に踏み込んだ者を助けるには、他者の助けが必要なのだから。 ―3― ごはんを求めてこの草むらまで遠出してきたありすは、幸いまりさの幼なじみだった。 既知の仲と言うこともあって、暗い顔をしていたまりさから遠慮なく悩みを聞き出したありすは、 その話の内容に怒りの余り憤然とここには居ないれいむをなじる。 「なんてひどいのれいむ……っ! いいえ、そんなれいむなんて、もうでいぶよ、でいぶっ! せっ かくありすがまりさからみをひいたっていうのに……っ。ゆっ、いえそれはともかく、ふたりでいっ しょにゆっくりすることもできないだなんて、とんだいなかものだったようねっ!!」 「あ、ありす、おちついてね……?」 その剣幕には暗い顔で相談したまりさも若干引き気味である。怯えて引きつった表情のまりさを見 たことで冷静さを取り戻したありすは、しばらく深呼吸をして冷静さを取り戻した。 「まりさ、おさにそうだんしましょう!」 「……ゆ?」 「ざんねんだけど、ありすがいくらかんがえてもまりさをゆっくしさせてあげられるほうほうはおも いつかないわ。だけど、おさならきっととってもゆっくりできるほうほうをかんがえてくれるはずよ っ!」 他人任せとは言え、ありすは目と目を合わせて力強く断言する。それほどまでに憔悴したまりさの 姿は見ていられなかったのだ。 ありすの記憶の中にあるまりさの姿は、何時だって見ている方も釣られて元気になってしまいそう な程に、明るく活発だった。 こんなお帽子の陰に隠れるようにして相手を窺うような、おどおどとした暗いゆっくりなどありす の知っているまりさではない。 「れいむからとりもどしましょう、まりさのゆっくりを!」 「まりさの……ゆっくり……っ!」 ありすの力強い言葉に、地面ばかりを見ていたまりさの顔が上向く。 ゆっくりしたい、という願望はゆっくりの根幹を為す命題とも言える。だが今のまりさはまるでゆ っくりできていない。 それは何故か。 考えるまでもない。まりさのゆっくりが理不尽にもれいむに踏みにじられているからだ。 そこまで思い至ったことで、れいむへの恐れから思考停止に陥っていたまりさの餡が、熱を持って 巡り始めた。 「……ゆっくりしたい。まりさだってゆっくりしたいんだよぉおおおおおっっ!!」 これまでれいむによって押さえつけられてきたまりさの思いが、叫びとなって一気に爆発する。大 声を張り上げたのは一体何時振りだろうか。 そしてありすとまりさは群の長の下へと赴き、まりさの窮状を訴えた。 まりさの涙混じりの嘆願を静かに聞き終えた群の長ぱちゅりーは、しばし瞑目した。 「……むきゅぅ。最近あなた達のおうちの近くを通ると喧嘩しているようなおこえが聞こえるから気 にしてはいたのだけど……そんなことになっていたなんて気付かなかったわ」 友達から恋人として仲良くやっていた二匹が、つがいになった途端に激しい喧嘩をするようになる ということは、ぱちゅりーが群の長を引き受けてからも数回あった。 夫婦喧嘩をすること自体は珍しいことではない。 ただ、新婚一週間で――否、話を聞くに新婚初日から不協和音を響かせたつがいは初めてのことだ った。 しかしながら、驚きはしたもののやることに変わりはない。 ぱちゅりーはありすを少し離れさせると、まりさと向き合って訊ねた。 「ね、まりさ。まりさはどうすればゆっくりできるのかしら?」 「ゆ? どうすればって……どういうこと?」 「れいむと仲直りすればゆっくりできる? それともれいむと別れたらゆっくりできる?」 「ゆ……? ゆぅぅ……」 「ちょ、ちょっとおさっ!」 「ありすはちょっと黙っていてちょうだい。ぱちぇはまりさに聞いているのよ」 目を白黒させて悩みだしたまりさをありすが庇おうとするが、ぱちゅりーは一言の下にありすを黙 らせた。 仲直りしたいと言うのであれば、れいむとまりさ、双方の話を聞きながらじっくりと解決策を練る 必要がある。時間と手間は掛かるだろうが、れいむが豹変した理由さえはっきりすれば元の鞘に納め ることも不可能ではないとぱちゅりーは考えていた。 別れたいというのであれば、話はより簡単になる。 「まりさは……まりさは、あんなれいむとはもう、おわかれしたいよ」 「むきゅ……わかったわ」 一つ一つの言葉を噛み締めるようにして告げるまりさの姿に、その覚悟は堅いと見て取れた。 一つ頷き、ぱちゅりーはおうちの外へとあんよを向ける。 突然移動を始めたぱちゅりーを慌てて追いかけてきたまりさとありすに、顔は正面を向いたままで ぱちゅりーは告げた。 「まりさ、ありす。群のみんなをまりさのおうちの前まで集めてきてちょうだい。最後にぱちぇがれ いむと話をしてみて、それから決定を下すわ」 ―4― そして日の傾いた夕暮れ時。 まりさとれいむのおうちの前には群のゆっくりたちの姿があった。幼い赤子とそれを見守る母親以 外が勢揃いしたその数は、五十に近い。 それはまりさとれいむの絶縁の立ち会いゆっくりであり、ぱちゅりーの用意した、いざというとき の用心だった。 その先頭に立つ長、ぱちゅりーがしんと静まり返った群を代表して大声で呼びかけた。 「れいむ! ご用があるから出ていらっしゃい!」 「……ぱちゅりー? こんな時間に何のご用なの?」 暫くしておうちの奥からのっそりとれいむが現れた。 おうちの出入り口に頭を軽くこする程の巨体に群れのゆっくりたちは目を剥いて驚く。一週間ほど 前までは群でも小柄な部類に入っていたれいむが、自分たちを大きく上回る巨体になっていては驚く のも無理はない。 れいむもまた、おうちを出た途端に群のみんなが大挙して取り囲んでいる状況に目を丸くした。 双方が膠着した中、ただ一匹平然としていたぱちゅりーが口を開いた。 「むきゅ、ゆっくりしていってね。お久しぶり、れいむ」 「ゆっ!? ゆっくりしていってね! ゆん、久しぶりだね、ぱちゅりー」 声をかけられたことで我に返ったれいむも、にこやかに挨拶を返す。 しかし周りの異様な状況に、にこやかな表情は瞬く間に訝しげなものに取って代わる。次いでぱち ゅりーの陰に隠れるようにしてまりさが小さくなっているのに気付くと、表情は苛立たし気なものへ 変化した。その隣で怯えるまりさを支えているありすの姿があったが、それもれいむの気分を害した。 「みんなして何のご用なの? そこでまりさは何をしてるの? 今日はお帰りが遅いから何処まで狩 りに行ったのかって思っていたけど、ごはんさんはどうしたの? ありすとなにをしていたの?」 「ゆ……ゆひッ!?」 「むっきゅん! まりさに質問する前に、ぱちゅがれいむに聞きたいことがあるの。いいかしら?」 まりさに向かいかけたれいむだったが、ぱちゅりーの咳払いで機先を制された。先刻の気勢もれい むの前に来ただけで吹き飛んでいたまりさは、それ幸いとぱちゅりーの後ろで縮こまる。 ぱちゅりーの話を聞く前に、まりさを詰問して今日の分の食料を取り立てたかったが、相手は長ら くお世話になっている群の長であるし、周囲には馴染みの顔も多い。苛立ちは収まらないが、れいむ はとりあえずまりさから視線を引き剥がした。 そうして改めてぱちゅりーと向かい合う。 「……ゆふぅ。ゆっくりわかったよ。ぱちゅりーは何が聞きたいの?」 「ありがとう、れいむ。まりさに聞いたのだけれど、まりさをゆっくりさせないで一日中狩りに行か せてるって本当?」 「本当だよ。けど、柔らかくて美味しいごはんさんを採ってこれないまりさが悪いんだよ!」 「けっこんしてからは、すーりすーりもしないし、一緒にすーやすーやする事もないって本当?」 「本当だよ。まりさとはもう二度とすーりすーりも、すーやすーやも、してあげるつもりはないよ!」 「それじゃあ最後に、そんなれいむの態度に文句を言ったまりさに暴力を振るったって、本当?」 「それがどうかしたの? れいむの言うことを聞いてくれないまりさが悪いんだよ! 何もかも、ぜ ーんぶまりさが悪いんだよっ!」 「むきゅ、解ったわ……」 ぱちゅりーは嘆息と共に目を閉じる。 そして再び目を開いたとき、その瞳には確固たる決意が宿っていた。 「れいむのゆっくりの為に、あんなにゆっくりしていたまりさをまったくゆっくりさせなかった。大 切にしなきゃいけないつがいを、こんなにボロボロになるまで扱き使うようなゆっくりは『でいぶ』 よ。でいぶはいずれ群のゆっくりにも害となるわ」 「……ゆ? なにいってるの……?」 「ぱちぇの群にでいぶはいらない。今ここに、ぱちぇはれいむを群から追放することを宣言するわ!」 突然何を言い出したのか即座に理解できずにキョトンとしているれいむを余所に、ぱちゅりーの台 詞は続く。 「まりさもれいむとお別れしたいってぱちぇに伝えているわ。だかられいむは独りで、ゆっくりしな いでぱちぇの群からでていきなさい!」 「なにを……なに言ってるのぉっ!!」 「大人しく出ていかないのなら……」 理解が追いついたれいむが激昂するのと、ぱちゅりーとれいむの間に群でも屈強なゆっくりたちが 割り込んでくるのはほぼ同時だった。れいむが暴れ出したときに巻き込まれないくらいの距離を取り ながらも、ぱちゅりーはれいむを真っ直ぐに見据えていた。 「手荒な手段を執ってでも出て行ってもらうことになるわ。例え、れいむがゆっくりできない怪我を 負うことになっても、ね。幼い頃から貴女を知っているぱちぇは、できればそんな乱暴な手段は執り たくないの。大人しく群から出て行ってちょうだい」 「……けるな、ふざけるな! ふざけるなぁあああああっ!!」 取り囲む尖った木の枝や棒をくわえたゆっくりたちの姿は、怒り狂ったれいむの目にはもはや映っ ていなかった。 視線だけでゆっくりが殺せそうな形相で、ぱちゅりーを――否、その後ろでしーしーを漏らして震 えているまりさだけを睨みつける。 「れいむの言うことをぜんっぜんッ聞きやしないまりさも、そんなまりさの言うことなんかを真に受 けるぱちゅりーも! そんなぱちゅりーに考え無しに従ってるだけのみんなもっ! みんなみんな永 遠にゆっくりしてしまえぇえええええっ!!」 「むぎゃっ!?」 間に入ったゆっくりたちを事もなく蹴散らして、れいむはまりさに向かって猛進する。 屈強なゆっくりとは言っても、それは戦い慣れしているのではなく、単に体力やあんよの早さが他 のゆっくりに比べれば優れていると言うだけの話。憤怒の形相で迫るれいむの正面に居たゆっくりた ちは、その余りの怖ろしさにぱちゅりーの命令を無視して逃げ出していた。動かないゆっくりも居た が、それらは完全に気を呑まれて竦んでおり、鎧袖一触で吹き飛ばされた。 ぱちゅりーの顔色がここに来て初めて変わる。 ぱちゅりーとれいむの間を阻むゆっくりが総て居なくなった瞬間、ぱちゅりーの餡は突進を喰らっ て容易く弾け飛ぶ自分の姿を幻視した。 だが、そうはならなかった。 れいむ正面のゆっくりたちこそ逃げ出していたが、左右と背後に陣取っていたゆっくりたちが懸命 に追いすがっていた。 体当たりをしかけて髪に噛み付き、棒を振りかざしてれいむの動きを封じようと殺到するゆっくり の群。目の前に尖った枝を突きつけたり、頬を軽く切り裂いたりしてれいむの気勢を挫こうと試みる が、激怒のれいむは歯牙にもかけない。 突き出された枝に躊躇無く飛び込み、突き刺さった枝をへし折りながらもただ前へ。瞬きを忘れた れいむの双眸は、ただひたすらにまりさだけを捉えていた。 それでも進む速度は遅くなっていた。お陰でれいむから距離を置くことができたぱちゅりーは呼吸 を整えながら、ゆっくりを蹴散らして徐々に近付いてくるれいむの姿を見据えた。 「むきゅぅ……むきゅぅ………むきゅ。できればお話で済ませたかったわ、れいむ……」 距離を置いたと言っても、愚直に突き進むれいむが肉薄するのに大して時間は掛からないだろう。 だから、ぱちゅりーは穏便な手段を諦めた。 「このままじゃ、みんなれいむに永遠にゆっくりさせられてしまうわ! その前に、れいむを倒すの よ! 手加減はもう考えなくていいわっ!!」 れいむの怒声を上回る咆哮がゆっくりたちから上がる。 途端に牽制で頬を引っかけていた程度の枝が、れいむに深々と突き立てられた。れいむの前にかざ された枝も、どれだけれいむが近付こうとも引く気配がない。 れいむには何の変化もない。痛みなど何処かに忘れ去ったかのように、髪など引き抜かれるに任せ、 頬に穴を開けた枝を噛み砕き、瞳に突き刺さった枝をくわえていたゆっくりを跳ね飛ばして突き進む。 双方、死に物狂いとなったこの戦いは、それから少しして終結した。 ―5― 「ありがとう、ありがとう! みんな、まりさのためにありがとうねっ!!」 激戦の跡から立ち去る群のゆっくりたちに、まりさが涙を流して感謝を捧げてから暫くして、まり さのおうちの周りはいつもの静寂を取り戻しつつあった。 いつもと違うのは、時折呻き声や泣き声が遠くから聞こえてくること。 たった一匹のれいむが相手だったとはいえ、激戦を終えた時、群のゆっくりたちの殆どが大小様々 な傷を負っていた。永遠のゆっくりへと旅立ったゆっくりも少なくはない。 怪我に呻くゆっくり。死者を嘆くゆっくり。その声は各自が自らのおうちへ帰った今もなお聞こえ てくるほどだった。群で被害にあっていないゆっくりは居ないから群のある森全体が悲しみに包まれ ていると言っても過言ではない。この声は数日は聞こえてくるのだろう。 そんな沈痛な空気が流れる中、数少ない無傷のゆっくりであるまりさは満面の笑顔でおうちの周囲 を飛び跳ねていた。 そして入り口でピタリと止まると、ピョンと飛び跳ね、大声で叫んだ。 「ここはっ、まりさのおうちだよっ! まりさだけのおうちだよーっ!!」 ここは元々まりさのおうちではあったが、実質はれいむに占有されていただけに自分のおうちとい う実感がまりさには乏しかった。だからこその再おうち宣言であった。 空中で全力のおうち宣言を行ったまりさは、着地して暫く静かに耳を澄ませた。 聞こえてくるのは群のゆっくりの暗い声ばかりで、おうち宣言への異議は聞こえてこない。 その結果に満足したまりさは帽子の鍔を跳ね上げて笑う。 「ゆん! それじゃ、まりさはしんっきょのおそうじをするよ!」 足取りも軽く、まりさはおうちの中へと消えてゆく。 まりさは自覚しているだろうか。 おうちの周りを跳ね回っている時も、おうち宣言をした後に周囲を見回しながら耳を澄ませていた ときも、ある一角だけは努めて見ようとしなかったことに。 そこに、れいむの姿がある。 両のもみあげは千切れ、片目は潰れ、総身どこから見ても深々と突き刺さった木の枝や大きく開い た傷が見て取れる。大口を開けた口内にすら木の枝は突き刺さっていた。 だがそんな傷を負いながらも、れいむは静かにそこに在った。 泣くことも喚くこともしない。残された片目は瞬きもせずに中空をぼうっと眺め、開いた口からボ ロボロになった舌が零れだしている。 どう見たって死んでいる。 そんなれいむの姿を、まりさは努めて意識から排除していた。 ―6― 果実や木の実を大きめの葉に包む。 中身別に分けた数個の包みを長めのツタで縛って纏め上げると、まとめて頭の上にひょいと乗せた。 ちょっと重いけれど、ありすは気にすることなく外へと飛び出した。 「さて、いままでゆっくりできなかったぶんまで、まりさをうんとゆっくりさせてあげなくっちゃ!」 あんよも軽く、頭上の荷物の重さも感じないほどに軽やかに飛び跳ねてありすは進む。ツタの端を しっかりくわえているので、うっかり落として無くす心配もない。 ありすにとって、まりさもれいむも友達であることに違いはなかった。 だから、れいむの豹変には驚いたし結局殺されてしまったことが悲しくもある。しかしそれでも、 まりさをあれほどボロボロになるまで扱き使っていたれいむの非道を思えば、罪悪感はさほど感じな かった。 今はとにかく、ゆっくりできない状況から解放されたまりさと一緒にご馳走でも食べて、あんなれ いむの事などゆっくりらしい忘却力で餡子の片隅に追いやってしまおうと考えていた。 そのための大荷物である。重いと感じるはずもない。 それなりに離れたところにあるまりさのおうちも、不思議と長い道程とは感じなかった。 同じ頃、同じようにまりさのおうちを目指しているゆっくりが居た。 長のぱちゅりーと、成体のゆっくりが数匹。 ありすが元気一杯に飛び跳ねているのに比べて、此方は雰囲気からして暗く、いかにもゆっくりし ていない様子が見て取れた。 「むきゅぅ……困ったわね。まりさはぱちぇのお願いを聞いてくれるかしら?」 「きいてくれないとこまるんだねー、わかるよー」 「そもそもまりさをたすけるために、みんなゆっくりできなくなっちゃったんだみょん。まりさがむ れをたすけるのはとうぜんみょん」 悩みの種は、群の働き手である体力に優れたゆっくりたちが軒並み傷付くか、最悪、永遠にゆっく りしてしまったことにあった。 今回の激戦で最前線に投入された精強なゆっくりたちは、みんな食料調達に優れていた。それだけ に、自分以外のゆっくりを養っているゆっくりが多かった。 つがいを永遠に失ったものや、怪我を負った大黒柱を抱え込むことになった一家など、これから先 の生活を悲観する家庭は少なくない。 ぱちゅりーは長として、彼らのこれからを考えないわけにはいかなかった。 そこで考えついたのが次の春が来るまで、群全体が集まって暮らすという案だった。 そうすれば、狩りに行けるゆっくりは憂い無く出かけられるし、重傷の怪我ゆっくりや孤児ゆっく りの面倒だって、子守で残っているゆっくりたちなどで見ることもできる。 その案を実現させるためにも、狩りのできる元気のあるゆっくりは一匹でも多く参加してもらいた かった。 特に、今回の発端でもあるまりさには是が非でも先頭に立って欲しい。 みんなが傷付いている時にぱちゅりーの陰に隠れていただけのまりさに対して、群のゆっくりたち の視線が厳しくなっている。それを鋭敏に感じ取ったぱちゅりーは、まりさがこれからも群の一員と してゆっくりしていくためにも、まりさの協力を期待していた。 しかし、一抹の不安がある。 ぱちゅりーはまりさの言動の何処かに、朧気ながらゆっくりできないものを感じていた。 それがぱちゅりーの表情に影を落とし、一行の雰囲気を暗くしていた。 「……それも確認してみないと解らないわね。むきゅ……」 自らに言い聞かせるように呟き、ぱちゅりーはあんよを進めた。 だが、何も持っていない身軽な身体は、不思議なほどに重く感じられた。 ―7― その頃、まりさのおうちの前には雑多な物が積み上げられていた。 それはれいむが寝ていた干し草であり、ありすかられいむに送られた蔦草のばっぐであり、れいむ が集めていた綺麗な小石などの宝物であった。 まりさはあれから、巣穴の奥深くかられいむが愛用していた品々を引っぱり出しては捨てていた。 まだ十分に使えそうな物ばかりなのに捨てているのは、それだけれいむが憎かったからだろうか。 そんなまりさの心情をおもんばかり、ありすはますます自分がまりさを元気付けねばと気合いを入 れ直した。 「……けど、ちょっともったいないわね。つかえるものはつかうのがとかいはなんだけど……」 などと、少なからず後ろ髪を引かれながらありすはおうちの出入り口に近付いた。 そして大きく息を吸い込むと、おうちの奥へ大声を放った。まりさのおうちは元は野生動物が作っ た巣穴だけに奥が深く少し入り組んでいるので、考え無しに踏み込むよりは出入り口で声をかけた方 が効率が良かった。 「ゆっくりしていってねーっ! まりさっ! いるかしらー!?」 「……ゅ……ゅ…………」 「ゆっくりしていってねーっ! ゆ、あんなところにかくれてたんだねっ!! ありす、ゆっくりま っててねー!」 「……ゆ?」 目を点にしたありすの頭が傾く。 聞き間違いでなければ、今ありすの挨拶に応えた声は二つあった。一つは間違いなく聞き慣れたま りさの声。しかし、もう一つの声に聞き覚えはない。 社交的な生活を送っているありすは群の殆どのゆっくりと話した覚えがある。それ故に一度会話し た相手であれば、それが誰かは解らなくても、少なくとも聞き覚えくらいはあるはずだった。 どこかから流れてきたゆっくりがまりさのおうちに迷い込んだのか? しかし、聞こえてきたのは幼い感じの声。 「まいご……かしらね?」 頭を傾げるありすだったが、答えはおうちから出てきたまりさが口にくわえていた。 黒いとんがり帽子。三つ編みは二つあるけど髪型と、ハシバミ色の瞳はまりさと良く似ている。 帽子に巻いているのと、三つ編みを束ねているリボン。そして艶やかな黒髪にはれいむの面影があ った。 れいむとまりさの面影を併せ持つその幼いゆっくりを、まりさは無造作におうちの外に投げ捨てた。 顔面から地面に叩きつけられた幼いゆっくりは痛みを堪えるかのようにしばらく平ぺったくなって 震えていたが、ぐずつきながらも身体を起こし、ぎこちなくても笑顔を作るとまりさに向けた。 「ゆぅっ!? ゆっ……ゆっく……ゆ、ゆーゆぅー?」 「うるさいよっ! おまえなんかがいるとまりさはゆっくりできないんだよ! ゆっくりりかいして ね。りかいしたらゆっくりつぶされてねっ!」 「ゆ……? ゆっ!? ま、まちなさいまりさっ!!」 躊躇無く幼いゆっくりの真上に跳躍したまりさに、我に返ったありすが大慌てで横から飛びつく。 辛うじて幼いゆっくりの横にまりさを押しのくことができたありすに、柳眉を逆立てたまりさの顔 が迫った。 「ちょっとありす! なんでまりさのじゃまをするのっ!?」 「ゆっ!? ごめんなさ……じゃないわよっ!! なんなの、このこはっ!」 「ゆ……っ!?」 一端引いたものの、まりさ以上の剣幕で詰め寄るありすにまりさの意気は一瞬で消し飛んだ。そこ にいるのはありすが良く見知った、明るく元気で、でもとっても臆病なゆっくりまりさの姿だった。 瞬く間に涙目になったまりさに少し躊躇しながらも、ありすは強い口調で問いつめた。 「このこがなにをしたかはしらないけれど、いきなりえいえんにゆっくりさせようとするだなんて、 ぜんっぜんとかいはじゃないわっ! それにこのこ、まりさやれいむににているけど、ひょっとして ……」 「ゆっ!? ちがうよ、ちがうよっ! そんなのまりさのちびちゃんなんかじゃないよ! そんなゆ っくりしてないのなんか、まりさはしらないよっ!」 「……あいかわらず、うそがへたね。まりさ……」 「しらないしらない、しらないったらしらないよぉーっ!!」 何時しか静かな口調となったありすの言葉を、まりさは顔を激しく振って否定する。 あまりにゆっくりできない勢いで顔を振るのでありすは一歩引いた。振り回されたお下げが当たり かけて、更に一歩。 下がった刹那にまりさは飛び出していた。 「あ……っ!」 「おまえなんかしらない、しらないゆっくりはつぶれちゃえぇえええええっ!!」 愕然とするありすの横をすり抜けたまりさは、再び幼いゆっくりの頭上へと舞い上がる。 着地した直後のありすは動けない。 成体のゆっくりに踏みつぶされる幼い仔の姿を想像して、ありすはギュッと堅く目を閉じた。 だから見逃した。 「そこまでよっ!!」 「ゆぎゅっ!?」 突如響き渡るぱちゅりーの声。同時に飛び出した二匹のゆっくりが正面から飛びかかり、まりさを 迎撃した。 恐る恐る目を開いたありすの視界に飛び込んできたのは、ゆーゆー泣き始めた幼いゆっくりと、頭 から墜落してじたばたと足掻くまりさの姿だった。 そこへゆっくりと、ぱちゅりーがまりさの元へと歩み寄る。 「本当はまりさにお願いがあって来たのだけど……。まりさ、ぱちぇはあの仔の事は何も聞いてない わ。改めてまりさのお話が聞きたいの。ゆっくりと詳しく、今度は正直に全部、話してくれるわね?」 「ゆ……ゆぅ……ゆっくりりかいしたよ……」 滅多に見られない群の長としての威厳を前にして、まりさはがっくりと項垂れたのだった。 ―続く―