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泉どなた ◆Hc5WLMHH4E氏の作品です。 耳にあてがった個人用小型精密機器が、電気信号に変換された音声を受信し、 離れた場所で同じように機器を耳に当てているであろう少女の声を聞かせてくれた。 『今週末、久しぶりに会ってどこへ行くのか?』 その計画を嬉々として語る彼女の声は、少し疲労が感じられるが明るかった。 まぁ疲れが貯まってしまうのも無理はない。 彼女はいつも忙しく、こうして電話をする時間も取れないほどなのだ。 「お買い物に行ってぇー、あと遊園地にも行きたいし水族館も動物園も……」 「おい、そんなの一日が何時間あっても足りないぞ」 「はぁ? アンタねぇ、今度オフになったのはホントたまたまなの! アンタ等と違って週休二日、土日休みなんてこと言ってらんないのよ?」 「まぁ確かにそうだが……」 知らず知らずに広がってしまった溝を埋めるためには、 それだけ大量の土砂がいるし、沢山の時間を費やす必要がある。 普段会えない鬱憤を晴らすには、一分一秒も無駄には出来ない。 撮影、収録、雑誌のインタビュー、ブログの更新、打ち合わせ。 握手会に一日所長に、テレビのレポーターにラジオのナビデーター。 多忙極まるとはまさに彼女の為にこそある言葉なのだろう。 ただ彼女が今置かれている立場において、忙しいことは非常に良い事だ。 それだけ知名度が高いと言えるし、それだけ人気もあるという証拠。 もちろん彼女自身もそれを良く理解しているはずだ。 それとは間逆に位置するというのに、華やかな世界とは誰が言ったのだろう。 確かに俺達がブラウン管や液晶パネルなど、画面ごしに見るその世界は煌びやかであり、 自分達一般人とはかけ離れた生活に、ある種憧れを抱くかもしれない。 ……だが、どの場合においても理想と現実は大きく違う。 その実情がどういったものなのか俺にはよくわからないが、 彼女は華やかさ、煌びやかさを世間に見せるために、皆の憧れの対象となるために、 テレビでは映らない、俺達の知り得ないところで一生懸命努力しているのだろう。 それが現実とは丸っきり正反対で、180度違っていたとしても。 まだ十数年しか生きていない幼い身体で、その重圧に耐えるのは容易ではないだろう。 だからこうして電話で話をしていると、張り詰めていた心が緩んでしまうのか、 明るかったその声が、少しずつ少しずつ暗く悲しい音色へと変化していく。 「私は普通に学校に行って、勉強して、休みの日には好きな人とデートして…… 今みたいに大人達相手に作り笑い浮かべてさぁ、ご機嫌取るなんてバカみたい」 その“大人達”の顔が浮かんでいるのか、吐き捨てるようなその口ぶり。 たしか三歳の頃からすでに活躍していたと聞いたことがある。 そんな彼女は、一般人が憧れを抱くのと同じように、俺達で言う普遍的で変わりばえの無い、 時に面白味に欠けたとさえ感じる平凡な生活に対して強い憧れを持っているのだ。 彼女にとっての華やかな世界は俺達の側にあったのである。 二人の間には川が流れ、時として渡るのが困難なほど氾濫する。 そこには橋も無く、渡し舟さえも存在しない。 俺達は川を隔てて電気信号の送受信をすることでしか、繋がりを維持できない。 しかしそれだけではやはり完全ではないのだ。 「心が離れてしまわないようにって電話してるのに、 声を聞けば聞くほど遠い存在なんだって思い知らされるわ」 恋愛にも多種多様な事情がある中で、遠距離恋愛という言葉をよく耳にする。 これは当然のことながら何メートル以上などと物理的距離が定義されているわけではなく、 当事者がそう感じるのであれば、いくら第三者的に見て距離が近いとされても それはもう遠距離恋愛と呼ぶべき状態なのである。 つまり実質的な距離は殆ど関係なく、 心の距離というか、精神的距離がどうであるかが問題なのだ。 彼女は俺との距離が遠く離れていると感じているのだろう。 「はぁー」 「いつもの気の強いお嬢さんはどこ行ったんだ?」 「だって……」 テレビやラジオでしか彼女を見聞きしていない人は、 恐らくこんなに悲しそうな声を出すことを知らないだろう。 俺だけしかそれを知らないというのは、変な話嬉しいと思う。 しかし言い換えるなら、俺だけしか弱音を吐く姿を目にすることが出来ないということは、 その心を癒してあげる存在も俺しか居ない。 俺にはその義務があるのだ。 もちろん俺だって元気の無い姿を見るのも、溜息混じりの声を聞くのも辛い。 「とにかくあと数日もすれば会えるんだ、それまで頑張るんだぞ」 「……うん」 最初の元気はどこへ行ったのか、すっかり意気消沈といった声。 やはりまだ、彼女は多感な時期の一人の少女なのだ。 いくら一般人とは生活が違うとはいえ、その点では何も変わらない。 電話を切った後、そばにあったリモコンを手に取り、テレビを点けてみた。 画面に映し出される映像、スピーカーから聞こえてくる音声は、 愛くるしい笑顔と、多少ワザとらしく聞こえるカワイイ声だった。 約束の日にはこの姿を見せてもらえると嬉しいのだが、果たして……。 改札を抜けて俺の元へと近づいてくる笑顔がある。 先に到着し待っていた俺に「珍しく早いじゃない」と言ったその声は、 少しくぐもっているようだが明るかった。 口を覆われた状態で声を出せば、そうなるのも当たり前だ。 マスクにグラサンにハンチング帽、こんなに暖かな日だというのに厚着をした姿は、 ひどく紫外線に弱い人かアブナイ変質者、はたまた透明人間のようである。 「逆に目立つんじゃないか? それ」 「でも顔見られるわけにいかないでしょ」 社会には様々な職業があるわけだが、彼女の就いている職業だけはゴメンだ。 いくらオフだとはいえ常に周りの目を気にしていないといけないし、 ひとたび正体が暴かれてしまえば、その人気に応じて町は一時パニックに陥る。 それを防ぐためにこのような格好をしないといけないのだ。 もっともいくら俺がなろうと思ったところで、彼女のように活躍するなどということは、 主にルックス面で不可能なのだと自覚しているが……。 「で、今日はどうするんだ?」 買い物、遊園地、水族館……息継ぎする間もないほどデートプランを語っていたが、 その溢れんばかりの欲求を目一杯積んだ飛行機は、結局どの地点に着陸したのだろう。 「あぁ…もういいわ。 色々考えたんだけど、もう何処でもいい」 となれば……どうすればいいのだ? 正直今日の俺は右へ左へ振り回されるということしか頭になく、すべての主導権を彼女に託していた。 彼女が行きたいと言った場所へ行き、彼女がしたいことをすれば良いと思っていた。 その為、どこへ行くかなんて毛頭考えてはいないのだ。 「……ョンと一緒なら」 「うーん」 「……アレ?」 とりあえず腹ごしらえをする為に、どこかファミレスにでも寄るか。 もしくはそんな時間も惜しんで買い物に出かけるか……。 「ね、ねぇ聞いてんの?」 当ても無くその辺をブラブラするか? それとも家に連れ込んで……いやいや流石にそれはマズイよな。 「おい!」 「あぁスマン、なんだ?」 「ったく」 サングラスを掛けていても良く分かるほど、鋭い視線がチクチクと俺に突き刺さっている。 これは早々に予定を立てなければ、あまり迷っているとさらに刺々しさが増しそうだ。 「どこか行きたいとこ無いか?」 「だから言ってるでしょ! キョンと一緒ならそれでいいって」 「そんなのはいいから、もっとこう具体的に」 「そんなのぉー!?」 「いや、ちがっ」 自慢じゃないが、俺は彼女がどういった性格の女の子かはある程度理解しているつもりだ。 裏表が激しくジキルとハイドのようなもので、少し気に入らないことがあると、 カワイイ外見の奥底にある黒い本性が顔を出し、忽ち東京を崩壊させるほどの大爆発だ。 それは良く分かっているのだが、今のようにちょっとした言葉の綾で導火線に火を点けてしまう。 「あーやだやだ! ほんっとにムードのムの字も無いわね! こっちは恥ずかしい思いしてまで言ってやってんのにさぁー それが何? もっと具体的に? もしかして変なことでも考えて……」 こうなるとある程度時間が経つまで懇々と説教されることになる。 俺はそれも含めて彼女の魅力だと考えているので、今のこの状況もある意味楽しんではいるがな。 しかし声を大にして言いたいことは、なにも彼女の機嫌を損ねるつもりは一切無いということだ。 「もう! せっかく会えたってのに……」 「まぁまぁ、これも息抜きの一つだろ」 「何か腹立つー」 実際のところ俺が言ったのは事実らしく、マスクもサングラスも取ってしまった彼女は 不満そうでありながらも至福に満ちた表情で、楽しそうであった。 「いいのか? 外しても」 「大丈夫よ、私そこまで売れてないし」 「まぁな」 「少しは否定してくんない?」 「冗談だよ、その証拠に……見てみろ」 駅前の電気店にて、地デジうんぬんと謳ったステッカーが貼り付けてある薄型テレビに映るのは、 手がすっぽり隠れてしまうほどダルダルな袖の服を身に纏った姿で、 腕を振り回して『おはらっきー!』と元気に叫ぶ、今をトキメクスーパーアイドル小神あきら。 こうして見ると、俺の隣に立つ少女と同一人物であるとはにわかに信じられない。 「キョンはさ、私がアイドルだから好きなの? 私がこうしてテレビに出てるから付き合ってるの?」 何台ものテレビに映る自身の姿をジッと見つめながら、あきらは呟く。 「答えはわかってるだろ?」 「うん、知ってる」 「だったら何で聞くんだ?」 「いいから答えて」 「アイドルだろうが何だろうが関係ない、それがあきらであればな」 あきらはテレビから俺の顔へと目線をシフトさせた。 多少の不安があったのか、俺の言葉に嘘が無いか確かめているようだ。 ここで目を逸らしでもすれば、忽ち彼女はそれについて追及してくるだろう。 もちろん嘘偽りなど微塵も無い。 神にも仏にも稲尾様にも、もう何にでも誓って。 俺のそうした意志を読み取ってくれたのか、あきらはそっと俺の手をとった。 「どこ行こっか?」 「あきらが決めてくれ」 「んと……お買い物!」 そう言うなり俺の手をグイグイ引っ張って、あきらは歩き出した。 道行く人が俺達を見ているが、素性に気づいたというよりむしろ まだ幼さの残る小柄な少女に手を引かれる俺に対しての好奇の眼差しのようだ。 それにしても今日は荷物を少なめにしておいてよかった。 もし行き着く先で一つまた一つと袋が増えていったとしても、ある程度は持つことができる。 結局あれよあれよと言うまに俺の両手が塞がるようなことは無かった。 代わりに俺の左手は常時あきらの右手と繋がっていたがな。 その手は帰る頃になり、駅に着いたところで名残惜しくも外れてしまった。 「今日は楽しかったか?」 「うん、楽しかった」 楽し“かった”と、故意に語尾を強調させるあきら。 また自分を偽る日々に戻らなくてはならない。 また「小神あきら」を演じなくてはならない。 それがプレッシャーとなって、彼女の両肩にズッシリと乗っかっているのだ。 俺に対しても作り笑いを浮かべ、あきらはこちらに背を向け歩き出した。 その後姿はあまりに寂しそうで、気が付けば俺は改札へ向かうあきらの手を掴んでいた。 厳密に言えば袖を掴んでいたため、手の温もりは伝わってはこなかったが。 「テレビに映る自分とのギャップに悩むのも仕方が無いとは思う。 だがなあきら、俺はお前の気持ちを分かっているつもりだ」 後ろを向いたままで、その表情は分からない。 「それに俺はどちらのあきらも好きだぞ」 「……クサい台詞言っちゃって、恥ずかしくないの?」 やがてあきらは身体をくるりと回転させた後、小さな声でそう言った。 こんなときにもあきら節が返ってくるとは流石スーパーアイドル。 「でもま、ありがと。 少しは気分が軽くなったかも」 今度は何とか作り物でない笑顔を俺に見せて、あきらは自動改札機を抜ける。 しばらくすると、小柄な彼女はすぐに人ごみに紛れ、その姿は見えなくなってしまった。 一度もこちらを振り向かなかったのは、現実からの逃避の念を抱かぬようにする為なのだろうか。 今朝も見た電気店に置かれたテレビ。 やはりテンションの高いあきらの姿がそこにはあった。 その映像は、あきらの抱く葛藤を知る俺に何かを訴えているようだった。 そこに華やかさや煌びやかさなどは感じられない。 誰もが薔薇の花を美しいと言うが、幾多も伸びた鋭い棘に一度でも刺されると、 薔薇を見てもただの棘のある花という印象しか受けないのだ。 次に会う時、また棘に刺されてなければ良いが……。 もし刺さっていたなら、その棘を引き抜き、傷を癒してやらなくてはな。 『それではまた次回、お楽しみに』 『ばいに~』 作品の感想はこちらにどうぞ
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大変お手数ですが、真下から閲覧してください。 戻る 正志「ろっとぉ、半殺しな、グリズリー。本当に殺したら『兄貴』に怒鳴られるからよォ。 とは言ったものの、テメェらみてえな馬鹿どもには一度も会ったことがねえなぁ…?ちょっと痛い目にならないとわからねえぇ~~~よなぁ~~~~??????――――――――半殺しだてめえらァッ!!!!(周囲の不良たちに叫び、セルドに斬りかかる) 」 ヒロ「…さて、ここは繁華街…公園も近くにない。…俺の力を発揮するには……!(金属バットで、足元のコンクリートを叩き割る) 」 メモリア「・・・(こっちには警戒してないのか、それとも・・・どちらにせよチャンスだ、・・・使うとは思ってなかったが、・・・徒手空拳で何とかなるか・・・?)(正志の後方にこっそりと回る) 」 セルド「さあ、本当に泣きを見るのはどっちかな――――(あれだけ街を騒がせた『アリゲーター』の幹部…余裕を装ってはみたが、油断は絶対にするな。こいつはそれ相応の実力を持っているはずだ―――)(ナイフの切っ先を向けられ、両手をフリーにする) 」 グリズリー「…こいつ等、殺す。いいよな、正志。(片手に握った金属バットを振り上げて構える) 」 サングラスをかけた不良青年→正志「大人かなんだかしんねえが恰好つけんじゃねえぞあ゛ぁん!?テメェらは『アリゲーター』の幹部、この寺岡正志(てらおか まさし)の邪魔をしやがったんだぞ?ただで帰れると思うなよ…??(狡猾そうに舌なめずりしながらサバイバルナイフの切っ先をセルドに向ける) 」 ヒロ「…誰が、馬鹿だって?…お前らほど、バカじゃねぇっての(手を離さずに鼻で笑う) 」 セルド「っ、と…!(手を振り払われ、数歩下がる) ………(不良たちに囲まれ、周囲を見る)……子供の間違いを正すのも大人の役目だよな………俺が誰かなのかも、アンタが誰かなんてのもどうでもいい…すぐにここから立ち去るんだ 」 メモリア「・・・。(あまり白衣を汚したら、病院にどやされてしまう、できれば、私の左手を使う事なく、私の身体能力で何とかなる相手だといいが・・・) 」 不良共『おうおう、なんだなんだ? 幹部の二人に喧嘩売ってるぜ、あいつらww はっ、まじかよ。何処の馬鹿だ? ワラワラワラ…(セルドたちを囲むように寄ってくる)』 」 大柄の不良青年→グリズリー「!!?(ヒロにヘッドロックを食らわされ男の体を手放す)…『正志』…オイも見つけた。(ぼんやりとした顔が特徴の大柄な体を持つ不良で、ヒロを見下している) 」 サングラスをかけた不良青年「あ゛?(少年とは思えないいかつい表情でセルドを睨みつける) おいテメェ…何者(なにもん)だ。この俺を…誰だと思ってんだ?バッ(掴まれた手を振り払う)おう、『グリズリー』!!ここに馬鹿がいるぜ!! 」 ヒロ「…はい、そこまで(背後から大柄の不良にヘッドロックを食らわせる)…ちょっとおいたが過ぎたよね(息ができるかできないかのところになるまで力を込める) 」 中年のサラリーマン「ひっ… うあああぁぁーーー!!!(隙を見て逃げ出した) 」 大柄の不良青年「……オイ(一人称)、金、たくさん巻き上げた…。(鼻血を垂らしながら気絶している男性の胸ぐらをつかみながら) 」 メモリア「随分と、手荒な人達だ・・・あまり、穏やかじゃないですね。(左手でアコーディオンのケースを強く握る) 」 セルド「――――――ガッ …お前ら……ッ!!(サラリーマンに突きつけている不良の手を掴み上げる) 働きもせずに金を得ようなんて言語道断だぞ…!!(ギリギリと力を込めていく) 」 中年のサラリーマン「ヒィィィイイイ…ッ…!!! だ、誰か助けてくれぇ!!! 」 サングラスをかけた不良青年「(財布を強引に奪い取り、その中身を確認する)……ケッ… 『汚職』してたったこれだけたぁーなぁー!?もっと隠し持ってんじゃねえのかよぉ!!あ゛あッ!!? 」 中年のサラリーマン「か、金か…!そ、それでいいんだな!?(ぎこちない手つきで財布を取り出す)…ほほほ、ほらっ… 金だ… だ、だから乱暴だけは…!! 」 不良共『ぶっ壊せェーイッ!! ヒャッハァァーーwww 金だ金だァ!!ありったけの金を奪い尽くせェ!!(全員武器を片手に店を荒らし尽くしている)』 」 サングラスをかけた不良青年「(サラリーマンの首元にナイフの刃を突き付けている)痛い思いしたくなかったらよーぉ…金払え、金!ww 」 中年のサラリーマン「ひっ、ひィィ…っ!! な、なあ…助けてくれよお兄ちゃんたち…?ら、乱暴はよくな――――ひィィィイ!!! 」 ガッシャァーーン…ッ!!!(繁華街にて、山積みにされたダンボール箱や店の看板等が何者かによって次々となぎ倒されていく) ――キュラリア・西の繁華街「カルエ」―― 前へ
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▼ ―――初めて乗るバイクはとても大きかった。 ▼ 双葉千帆は小説家を夢見るフツーの女の子だ。 親の愛情をたっぷり受け、のびのびと育ち、温かな家庭で生きる女の子。 家に帰っても母親がいないというのは年頃の女の子に少しだけ辛い事実であるが、父は優しく、時に過保護すぎるほどだった。 そんな家で育ったから千帆は夜遊びなんてめったにしなかったし、バイクに乗るなんてことはもってのほかであった。 彼女にとってバイクとは学校にいる悪い先輩のオモチャ道具、あるいは住宅街でやたら騒音をたてる耳障りなものでしかなかった。 「……お前、運転できるか?」 折りたたまれた最後の支給品を開けば、そこから飛び出て来たのは一台のバイク。 なにが入っているか確認していたとはいえ千帆が想像していた以上にそのバイクは大きかった。 目を丸くする千帆にプロシュートが尋ねる。千帆は黙って首を振った。自転車なら載れますけど、彼女はそう申し訳なさそうに返事をした。 プロシュートはそうか、とだけ言うと何でもないといった感じでバイクに近づき、シートやハンドルを優しく撫でた。 えらく手慣れている感じがした。普段からバイクに乗り慣れているのだろうか。 千帆が見守る中、プロシュートはサッと脚をあげ座席に跨り、メーターをチェック。 ガソリンの量を確認し、ハンドルの感触を手に馴染ませる。なんら異常のない、むしろ手入れが行き届いている良いバイクだった。 手首を返すようにグリップを捻り、バイクのスタンドを蹴りあげる。途端に機械の体に命が宿ったようだった。 腹のそこまで響く様な低音が辺りを包む。ドドド……と唸るバイクはまるで大きな獣のようだ。手懐けられた元気いっぱいの鉄の生き物。 そしてそれに跨るシックなスーツをまとったプロシュート。 凄く『絵になる』風景だな。千帆は状況も忘れ、一人そう思った。 まるで古いハリウッド映画の一コマの様な、そんなことを連想させるワンシーンだった。 「なにしてるんだ、おいていくぞ」 千帆の思考を破ったのはそんな言葉だった。目をパチクリとさせながら見れば、プロシュートが座席の後ろ側を指さしている。 千帆は最初プロシュートが何を言っているのかわからなかった。おいてく、って何が? いまいち状況が飲み込めていない千帆の状況を察し、男が深々と息を吐く。 「お前が持ってた支給品なんだからお前がのらないんでどうするんだ」 だから乗るって……どこに―――? ▼ 「しっかりつかまっておけよ」 改めてみる男の背中は大きかった。千帆は振り落とされないようにその体にしがみつく。 親でも兄妹でも恋人でもない男の人に抱きつくのは初めてのことで千帆は最初、それを躊躇った。 腕越しに伝わる男の体の温もり、スーツ越しでもハッキリとわかるほど鍛え抜かれた肉体。心臓が早鐘を打つ。 お願いだから振り返らないでほしい。誰にいうわけでもなく千帆はそう願った。今の自分は間違いなく赤い顔をしているだろうから。 一台のバイクが街をゆく。ゆるいカーブに千帆は振り落とされないよう、少しだけ腕に込める力を強くした。 プロシュートが気を使ってくれたのだろうか。あるいは乗車中に襲撃されることを考慮したのかもしれない。 バイクはそれほどスピードを出さないで、滑るように道路を進んでいった。音は微かにしか出ず、振動もほとんど感じられない丁寧な運転だった。 最初は緊張に身を固くしていた千帆も、その内運転を楽しむまでになっていた。 頬を撫でる風が心地よい。風景があっとういまに前から後ろへ流れていく。とても新鮮だった。 バイクに乗るってこんな感じなんだと思った。そんな驚きと興奮が彼女の中で湧き上がっていた。 二人の旅は順調に進んでいく。千帆とプロシュートは一度地図の端まで参加者を探しに南下し、ついで禁止エリアの境目を確認する。 そこにはなにもなく、目印も標識も一切なかった。何も変わりない街並みが、ずっと先まで続いている。 それはとっても非現実的な光景だった。日本のただの住宅街なのに、そこには生活の臭いと言うものを感じさせない、居心地の悪い無機質感が漂っていた。 折り返し、今度は病院を左手に北上していく。東から地図に記されている拠点をしらみつぶしに周っていった。 レストラン・トラサルディー、東方家、虹村家、靴のムカデ家、広瀬家、川尻家、岸辺露伴の家……。 そうして幾つものカーブを曲がり、無数の十字路を通り過ぎ、何度か左に右に曲がったころ……。 順調に進んでいたバイクがスピードを落とし始め、遂には完全に止まる。 それはこの旅で一度もなかったことで、突然の停止に千帆は何事かとプロシュートの背中を見つめた。 ひょっとしたら誰か他の参加者を見つけたのかもしれない。それとも何か人がいたと思える痕跡を見つけたのかも。 何も言わないプロシュートの後ろから首を伸ばして道路の先を見る。すると一人の男が立っているのが視界に写った。 どうやら向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。 近づいてくるにつれ、その男の容貌がはっきりとしてきた。ヒゲ面で腰のベルトにナイフを刺した風変りな男だ。 抜き身のまま剥き出しの刃物が怪しく光る。見るからに『危ないヤツ』というを雰囲気を醸し出している。 アウトロー丸出しの、西部劇に出ても違和感なく馴染めそうな浮世離れした男だ。 自然と千帆の腕に力がこもる。プロシュートは何も言わなかった。だが千帆の腕を無理にひきはがすようなこともしなかった。 それが彼女を少しだけ冷静にさせた。 バイクにまたがる二人に近づく男。お互いに顔がわかるぐらいまで近づいたころ、ようやくその男が口を開いた。 思ったよりハッキリとした口調でしゃべるなと千帆は思った。もっとぼそぼそとくぐもった声でしゃべるかと思っていた。 「エシディシという男を知らないか。民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの二メートル近い大男だ。 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて頭にはターバンの様なものも巻いていた。 一度見たら忘れらない様な、強烈なインパクトの男だ」 「……しらねェな、そんなヤツは」 「そうか」 沈黙が辺りを漂った。会話はそれでおしまいのようで、ヒゲ面の男は要は済んだという顔で踵を返し、元来た道を戻り始める。 プロシュートはそんな男を何も言わず、ただ見つめていた。とても険しい顔をしていた。 千帆が話しかけられないほどにプロシュートは鋭い目つきで、その男が見えなくなるまでずっとその後ろ姿を睨んでいた。 男が角を曲がり、ようやくその影も見えなくなる。初めてプロシュートが緊張を解いた。 短い間だったはずなのにずしっりとした疲労感を感じさせる、緊迫した時間だった。 千帆も止めていた息を吐くと、張りつめていた神経を解く。実を言うと千帆はあの男が怖かった。 ギラギラとした眼、亡霊のように力なく揺れる身体。気味が悪かった。エシディシと言う男との間によっぽど何かがあったのだろう。 その底知れない執念というのか、怨念と言うのか。きっとそれは千帆が初めて体験した『生の殺意』だったのかもしれない。 混じり気なしの、ただただ“殺したい”という気持ちが凝縮された感情。 思い出すだけでゾッとした。千帆はそっと鳥肌が立った腕を撫でる。改めて自分がとんでもない場所にいるんだ、と実感する。 早人や露伴先生、プロシュートのような人ばかりでない。あんな恐ろしい男が沢山いるかもしれないのだ。 再び動き出したバイクはさっきより遅くなったように思えた。 滑るように進んでいたその機体はノロノロと住宅街を進む。千帆は少し躊躇ったが口を開いた。 ずっと黙ったままのプロシュートに尋ねる。背中越しにその表情はうかがえない。 二人を包む風に負けないよう、大きめの声で言った。 「あれだけでよかったんですか?」 「あれだけって言うのはどういうことだ」 「だからあれだけですよ。何も聞かなかったじゃないですか。 向こうはエシディシって人のことを聞いたのに何も聞かなかったし、今思えばあの男の人の名前もわからないじゃないですか。 さっき言ってましたよね、仲間と情報が欲しいって」 「……そうだな」 「そうだな、って……」 「千帆、アイツの眼見たか?」 プロシュートがスピードを緩めるとT字路を左に折れた。 こうやって会話を交わしながら、運転しながらでも、プロシュートが辺りをしきりに警戒していることがわかる。 見ることは見ましたけど。千帆は自信なさげにそう返す。だけど見たからなんだというんだ。 千帆は軍人でもないし、心理学者でもないのだ。正直言ってあまりいい印象を持たなかった、としか言いようがない。詳しく聞かれたところでなにも言える自信はない。 プロシュートも彼女の言わんとすることがわかったのか、問い詰めるようなことはしなかった。ただ少し間を開けた後、彼はこう言った。 「病院で話したよな。“最終的には『持っている』人間が生き残る。力の優劣とは、また別の次元の問題だ”って。」 「はい」 「直感でいい、お前から見てアイツはどう思った? あの男は『持ってる』ヤツか? それとも『持ってない』ヤツか? 千帆の眼にはどう映った?」 「…………」 すぐに答えることはできなかった。難しい問いかけだ。 千帆はもう一度さっきの男のことを思い出す。今度は曖昧な記憶を掘り起こすのでなく、しっかりと男の容姿から話し方まで、全部くっきりとイメージする。 話しながらどんなふうに身振りをしていたか。プロシュートを見る時どんな眼をしていたか。千帆を見た時、どういう顔をしていたか。 身長はどれぐらいだ? 癖は何かなかったか? 薄暗い雰囲気をしていた。ならどうしてそう思ったのか。どこがそう思えたのか。 プロシュートは千帆の返事をじっと待っていた。急かすようにするわけでもなく、その間もバイクの運転とあたりの警戒に神経を注いでいる。 やがて長い直線が終わるころになってようやく千帆の中で答えがまとまった。 ハッキリとした声で千帆は言う。まちがってるとか、正解は何だと聞かれてたらこうは答えられなかっただろう。 でもプロシュートが聞いたのはどう映ったか、だ。だから自分の思ったことなら、千帆は自信を持っていうことができる。 「『持ってない』ヤツ、だと思います」 「……なんでそう思った?」 「難しいんですけど、あの人から“死んでも生き残ってやる”って気持ちが伝わってきませんでした。 変な表現なんですけど……というか矛盾してるし、きっと小説でこんな言葉使っちゃいけないんですけど……私にはそう見えたんです。 凄い気持ちがこもってる人だとは思ったし、それが伝わってきたのは確かです。怖かったぐらいです。 でもだからこそ、一度それが壊れたら……脆いんじゃないかなって」 「なるほど」 「エシディシ、って人を探してるみたいで……きっとその人を……殺したがってるみたいなんですけど……。 なんというか、殺したらそれで満足しちゃいそうな気がしました。生き残れって言われてるはずなんですけど、殺したらそれで満足だ、みたいな……。 悲壮な覚悟って言えばいいんですか。特攻隊というか、思いつめてるというか……」 「俺もだいたい同じことを考えてた。俺から見ればアイツは『持ってるものを放り捨てれるヤツ』だと思った。 目的のためなら簡単に飛び移れるやつだ。何かを犠牲にして次のステージに写って、そっからまた次へ……って具合でな。 こうやって言うのは簡単だが、それをするのはなかなか難しい。それにそれがいつだってそれがいい事かと言えばそうでもない」 持ってるものを放り捨てるヤツ。千帆はその言葉を聞いて顔をしかめた。 あまり好きそうになれないタイプだ。繋がりとか積み重ねというものを大切にする千帆にとってはそういう人はなかなか信用できる人ではない。 勿論何かを成し遂げるには何かを犠牲にしなければいけない。小説を書くときに睡眠時間を削ったり、友達の誘いを断ったり。 でもそういうのも普段の積み重ねのうえでの取捨選択だ。100から0に、イエスかノー。切り捨てや立ち切りというものはそう簡単にできるものではない。 逆説的に言えば、それができるほどあの人は強い人でもあるのかもしれないけど。千帆はそう思った。 プロシュートの話は続いた。 「俺が銃の構えを教えた時、何て言った?」 「えっと……引き金を引くことに意識を集中させるんじゃなくて、引き金を『絞る』」 「それ以外は?」 「6発あるからだなんて考えるんじゃなくて、一発で仕留めろ」 プロシュートが大きく頷いたのが筋肉の振動で伝わってきた。 声のトーンが少し変わった。もしかしたらうっすら笑っているのかもしれない。 「そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする? 今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実仕留められるはずだ……ッ! でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。 そう思った時、お前はどうする?」 「…………」 「……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。 そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな」 「逃げていいんですか?」 「勿論逃げちゃいけない時もあるし、逃げられない状況もある。けど逃げが間違いだっていうのは『間違い』だ。 逃げだって選択肢の一つだ。それに時には撃つ時よりも、戦う時よりもよっぽど勇気が必要な『逃げどき』だってある。 忘れるな、逃げることだって立派な選択肢なんだ。進む方向が違うだけで逃げだって前進してる。 イノシシみたいになにがなんでも突っ込めばいいってもんじゃねーんだ。まぁ、その選択が一番難しいってのはあるけどな」 難しい話だ。一発で仕留めなければいけない覚悟が必要なのに、二発目以降も準備しておかなければならない。 歌を歌いながら小説を書けと言われてるのも同然だ。そんなことが自分にできるのだろうか。まだ銃の構えだっておぼろげなのに。 千帆の不安が伝わったのか、プロシュートは更にスピードを緩めながら口を開く。 その口調は確かに柔らかなものになっていた。 「俺が言いたいのはな、さっきの言ったことと矛盾してるみたいだが、一発外したら、はい、そこでお終いなんてことはないってことだ。 そりゃ相手を前に外したら誰だってヤバいって思う。衝撃を受けるのは当然だ。俺だってきっと動揺する。 けど大切なのはそこで敗北感に打ちひしがれないことだ。まだ相手は生きてるし、自分も生きてる。 もしかしたら相手が俺を撃ちぬくことのほうが早いかもしれない。けどもしかしたら相手も慌てていて、俺の二発目が間に合うかもしれない。 俺が逃げ伸びて、次の時にうまく弾丸をぶち込めれるかもしれない。一瞬硬直して、逃げようとしたら背中を撃たれるかもしれない」 「…………」 「つまりだな、千帆、生きることを最優先しろ。生きてればリベンジできる。生きてる限り、銃弾を込めなおすこともできる。 けど死んだらおしまいだ。死んでもやってやるなんて覚悟は『死んだ後』にでも考えておけ。それか『どうあがいても間にあわない』って時にでもとっておけ。 死を賭してでもって覚悟はけっこー諸刃のもんなんだ。少なくとも俺はそう思う」 「…………」 千帆は何も言えなかった。ただ何も言わないのは失礼な感じがして、黙って大きく頷いた。 背中越しでも頷いたことがわかるように少しだけ大袈裟に。プロシュートがどう思ったかはわからない。でも千帆はその言葉に素直にうなずけない自分がいることを自覚した。 自覚したから頷くだけで返事をしなかったのだ。バイクは何事もなく進んでいった。辺りには人影一つ見当たらなかった。 ―――生きること、か。 それは時にものすごく残酷な刃物になる。 悲しみを背負って歩き続けなければいけないことは辛いことだ。それが努力ではどうにでもならないものであればなおさらだ。 だが千帆に逃げる気などさらさらない。死のうだなんて絶対思わないし、さっきプロシュートに言った言葉に偽りはない。 ―――『私、小説を書くんです。元の世界に戻って。絶対に』 絶対に……。絶対に……! 彼女は言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返した。 ああ、そうだとも。生き残ってやる。例えそれが呪われた運命だとしても、それを選んだのは千帆だ。千帆自身だ。 千帆は自分が『何かに巻き込まれた』とは思ってない。千帆がここにいるのはそうする必要があったからだ。 千帆がここにいるのは、千帆である必要があったから。千帆にしかできないこと、千帆が成し遂げるべき何かがあるからだ。 プロシュートが一瞬だけ視線をサイドミラーに移した時、後ろの少女と眼があった。 さっきあった男と正反対の意志が彼女の瞳には宿っていた。誇り高き、強いものの眼だ。プロシュートは彼女のそんなところが気に入った。 再び口を開いた時、プロシュートの口調は元の淡々としたものに戻っていた。 バイクのスピードを落とし、次の角も右に曲がる。まるでそこにある『なにか』がわかっていたかのような感じで、彼はバイクの速度を緩める。 二人の視線の先に一人の男が映っていた。さっきのような怪しい気配剥き出しの男ではなかったが、こちらを警戒しているのが一目でわかる。 身長は平均よりやや高いぐらい。腕や肩のあたりががっちりしていて、それに比べると足や腰はほっそりしている。 バイクの音を聞きつけていたのか、びっくりした様子もなく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。 片方の腕を伸ばし、突きつける様に指さしている。見た感じ武器を持っているようには思えなかったが油断はできない。スタンド能力を持っているのか知れない。 プロシュートはそんな彼の手前、三十メートルほどでバイクを止めると振り向くことなく千帆に言った。 「千帆、お前が説得してみろ」 「え?!」 「さっきのヤツは見るからにヤバいヤツだったから俺が対処した。今度のヤツはまだマシに見える。 いつまでも俺におんぶにだっこってわけにはいかねーだろ。それに俺はお前の眼を信用してる。お前のツキも信用してる」 「そんなこと言われても……」 いいからやってみろって。そう背中を押され、千帆は最後にはやるしかないと覚悟決め、バイクを降りた。 プロシュートが隣に立ってくれていることが彼女を勇気づけた。真正面に立つ青年がそれほど怪しい目つきでないのも彼女を奮い立たせてくれる。 唇を一舐めすると、心臓に手をやりながら口を開いた。なんだか喋ってるのが自分じゃないみたいだ。 千帆は相手に聞こえる様、大きな声ではっきりと話した。 「私は双葉千帆と言います。ある人を探していて、その人のことについて知っているならお話がしたいです。 私は誰も殺したくありませんし、貴方も誰も殺さないというのなら一緒に力を合わせたいと思います。 どうでしょうか、私と協力してくれませんか?」 訪れた沈黙が居心地を悪くする。ジャケットに入れた拳銃がひやりとしていて、その感触がなんだか胃をムカムカさせた。 馬鹿正直に話しすぎだろうか。千帆は少しだけ後悔した。でも彼女は自分の勘を信じていた。 眼の前の青年は決して平和ボケしたような甘ちゃんではないが、誠意をもって話せば話は通じる相手だろうと。 ピンと来たのだ。この人は私と同じだと。私と同じように誰か探している様な気がする。それも堪らなく会いたいと思えるような、大切な人を探してる。 「彼女の後ろに立ってるアンタ……。アンタはスタンド使いか?」 返事は冷たく、固かった。 視線を千帆からゆっくりと外し、プロシュートを睨みながら青年が口を開いた。 プロシュートは唇を捻っただけで何も言わなかった。肯定も否定もしない。初対面でこの反応はいい印象を与えないだろう。 隣に立つ千帆は少しだけ心配だった。自分に説得するようやらせておいて、それはないんじゃないのと思った。 長い沈黙の後、ジョニィが口を開いた。依然指先はこちらを向いている。その鋭い眼光も一向に衰えていない。 「話をするなら……一人ずつにしたい。僕はあなたたちを悪いヤツではないと思ってる。 だけど、まだ完全に信頼することはできない。騙し打ちをする気なんじゃないかって、そう疑う気持ちだってある。 だから話をするならどちらか一人ずつだ。ここじゃないどこかで、一人ずつ話をしたい」 千帆が振り向けばプロシュートは我関せずと言った顔であらぬ方向を向いていた。 話をするかどうかも、全部任されたということだろうか。初めての交渉なのにいきなり投げっぱなしとは信頼されているのか、試されているのか。 少しの間考えてみた。ずっしりとした拳銃の重みが彼女の決断をより一層重大ものにすると訴えている。 そうだ、間違えたら死ぬのだ。眼の前の青年を測り違えたら殺されるのだ。そう簡単にできるものではない。 それでも……再び千帆が動いた時、彼女の中で迷いはなかった。 ジョニィに見える様、彼女は力強く頷いた。その目に一点の躊躇いも持たず、千帆はジョニィ・ジョースターとの対峙を選択した。 ▼ ティッツァーノからもらったタバコを病院に置いてきたのは間違いだったかもしれない。 千帆とジョニィ・ジョースターがひっ込んだ民家の前で座り込み、プロシュートは一人思う。 こんなのんびりとした時間がこうもはやく来るとは流石に予想外だ。病院を一歩出ればそこは戦争で、戦い尽くしの未来だと勝手に思っていた。 スーツについたほこりを叩き、さっきまで乗っていたバイクにもう一度またがる。 千帆の予想に反し、プロシュートはそれほどバイクに乗り慣れているわけではない。どちらかと言えば車のほうが普段からよく使うし、車のほうが好きだ。 座席は柔らかいし、オーディオもいい。風にバタバタ煽られることもなければ、不格好なヘルメットをつける必要もない。 ただどうしてか、プロシュートは昔から何事も飲み込みがよく、バイクだってそのうちの一つでしかなかった。 実際さっきの運転中も見た目以上に神経をすり減らしていたのだ。千帆にそれを悟らせなかったところは流石と言うべきか。 わかっていたことではあるが、キツイ道中になりそうだ。プロシュートは身体を馴染ませるようしばらくの間、バイクに跨り考えにふけっていた。 プロシュートの思考を破ったのは道路の先から聞こえてきた足音だった。 住宅に跳ね返り聞こえてきた靴の音。それほど先を急ぐような音ではなかった。一歩一歩、確実に進んでいくような足取り。 バイクにもたれ何が来るだろうと曲がり角を睨んでいれば、一人の男が現れた。 ナルシソ・アナスイだ。そこに現れたのは愛に生きる一人の男。 プロシュートを最初見た時、彼は露骨に警戒心をあらわにした。だが見敵必殺とばかりに襲いかかってこないことがわかると、少しだけ警戒心を緩めた。 そのまま少しずつプロシュートへと近づいてくる。一歩、そしてまた一歩。その歩き方が少し不自然で、プロシュートはアナスイが怪我を負っていることに気がついた。 見れば服装も汚れ、所々血が付いているの見える。プロシュートはアナスイにばれないよう、後ろのベルトに刺した拳銃に手を伸ばす。 グリップの冷たさが彼の思考をクリアにした。怪我を追っているとはいえ油断はできない。なにかあれば容赦なく、撃ち抜く。 「……ここを誰か通っていかなかったか?」 アナスイが言った。 「人を探してるんだ。男と女の二人組。アンタは見てないか?」 ▼ タロットカード、十三枚目。それは死神。 意味は終末、破滅、決着、死の予兆。しかしひっくり返して逆位置にすれば……その意味は再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。 リンゴォ・ロードアゲイン。双葉千帆、プロシュート。ジョニィ・ジョースター。そして、ナルシソ・アナスイ。 死神に取りつかれ、死神に魅了された五人ははたして死神に呑みこまれずにいられるのか? to be continue...... 【D-7 南西部 民家/1日目 午前】 【プロシュート】 [スタンド] 『グレイトフル・デッド』 [時間軸] ネアポリス駅に張り込んでいた時 [状態] 全身ダメージ(中)、全身疲労(中) [装備] ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60) [道具] 基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具 [思考・状況] 基本行動方針 ターゲットの殺害と元の世界への帰還。 0.目の前の男に対処。 1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。 2.この世界について、少しでも情報が欲しい。 3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。 【ナルシソ・アナスイ】 [スタンド] 『ダイバー・ダウン』 [時間軸] SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前 [状態] 全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中) [装備] なし [道具] 基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済) [思考・状況] 基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。 0.徐倫…… 1.情報を集める。 【備考】 ※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。 【双葉千帆】 [スタンド]:なし [時間軸] 大神照彦を包丁で刺す直前 [状態] 疲労(小) [装備] 万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24) [道具] 基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品 [思考・状況] 基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。 0.ジョニィ・ジョースターと情報交換。 1.プロシュートと共に行動する。 2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。 3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。 4.露伴の分まで、小説が書きたい。 [備考] ※千帆の最後の支給品は 岸辺露伴のバイク@四部・ハイウェイスター戦 でした。 【ジョニィ・ジョースター】 [スタンド] 『牙-タスク-』Act1 [時間軸] SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後 [状態] 疲労(中) [装備] なし [道具] 基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6 予備弾薬残り18発) [思考・状況] 基本行動方針:ジャイロに会いたい。 0.双葉千帆と情報交換。信用はまだできない。 1.ジャイロを探す。 2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く [備考] ※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。 【D-7 南西部/1日目 午前】 【リンゴォ・ロードアゲイン】 [時間軸] JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後 [スタンド] 『マンダム』(現在使用不可能) [状態] 右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望 [装備] DIOの投げナイフ1本 [道具] 基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本) [思考・状況] 基本行動方針:??? 1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。 [備考] ※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。 ※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 前話 登場キャラクター 次話 120 Dream On プロシュート 147 夢見る子供でいつづけれたら 110 石作りの海を越えて行け ナルシソ・アナスイ 147 夢見る子供でいつづけれたら 118 彼の名は名も無きインディアン ジョニィ・ジョースター 147 夢見る子供でいつづけれたら 119 ああ、ロストマン、気付いたろう リンゴォ・ロードアゲイン 143 本当の気持ちと向き合えますか? 120 Dream On 双葉千帆 147 夢見る子供でいつづけれたら
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残された希望 通常魔法 デッキから好きなカードを1枚選択して手札に加える。 その後、選択したカードを除く手札と墓地のカードを全てゲームから除外する。 Part13-60 フィールドには効果が出ないってのがミソ。手札のカードを出しまくって使えばかなり有効だろうね。除外デッキで使ったらどうなるんだろとか思ってしまった。 -- 地竜 (2007-06-12 15 42 43) 名前 コメント
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利用される男【りようされるおとこ】 稜駿、真優香 「ねぇ稜駿は真優香のこと好きー?」 「うん、もちろん好きー。」 俺には真優香というちょー可愛い彼女がいる。 俺がいつものようにスレに来たら、真優香がひょこっと現れて俺は一目ぼれ。 そのまま付き合うことになった。 今が一番幸せ…だと思っていた。 「ねぇ稜駿ーっ」 「ん?」 ある日のことだ。 「あのね、真優香のお母さんが倒れちゃって…お金が必要なんだっ?」 真優香は今にも泣き出しそうになっていた。 だから俺は真優香のためにお金を作って、大金を渡した。 真優香はよろこんでくれた。「ありがとう」って何回も言ってくれた。 俺はそれだけで満足だった。 その日の夜、真優香は俺の家に泊まりにきた。 「じゃあ、わたしお風呂入ってくるね?」 真優香は風呂場へ行った。俺はソファーに寝転がってテレビを見る。 真優香が去ってから3分もしないうちに 机の上に置いてあった携帯電話から着信音が耳を突き抜けるように聴こえた。 真優香の携帯電話だった。 そういえば、今まで真優香は俺の手の届かないところにいつも携帯を置いてたなぁ…。 その後、不定期ではあるが何度も何度も着信音が鳴っていた。 俺はすごく気になってしまい、真優香りの携帯をのぞいてしまった。 そこには無数の男からの受信メールがあった。 俺は疑いながらひとつひとつ大雑把ではあるが読んだ。 中には「愛してる」と書かれているものもあった。 それもショックだったが、俺がもっとショックだったのは 彼女は他の男からもお金をもらっていたことだ。 それは雨がポツポツと降り注ぐ静かな夜に起きた出来事だった。
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残された希望 (輪廻の翼) COMMAND C-010 紫 発生 紫 0-4-0 S (ダメージ判定ステップ) 交戦中の敵軍ユニット1枚に、3ダメージを与える。 破壊 出典 「蒼き流星SPTレイズナー」 1985
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主な登場人物 赤石ヒィ→猫人留学生。好きなスイーツは全部 銀城鋼助→筋肉応援団員。好きな和菓子はおばあちゃんのおはぎ 「いいかぁ鋼助くん、異世界に行けるやつなんて一握りだ。しかも大冒険をして物語の主役になれるのなんて特別なやつだけだ。キミもそんな夢を抱いてるのならとっとと捨てなさい、いいねぇ?」 親類の披露宴に呼ばれたかと思ったら、いつのまにか酔っ払いの相手をさせられていた。 相手は父の従兄弟…らしい。遠方にいて数年に一度会う程度だったので名前までは覚えていない。 相当に酒が回っているらしく、千鳥足の父の従兄弟は半ば妬みとも取られかねない愚痴を俺に語り続ける。 「だいたいねぇ、そんな連中は世間からすれば少数派なんだよぉ。いつか淘汰されなきゃいいけどねぇ…」 門の向こうの亜人が花嫁の宴席でよくそんなことを言えるもんだよ、ったく。 周囲を見ればどうにも触りたがらない空気が感じられた。それを良いことにか彼の言葉は続いている。 正直な事を言えば、腹に一発入れてやりたいがそこはめでたい席なので我慢した。 何より応援団員は紳士でなくてはいけない。力業に出るのはあくまで相手が実力行使に出た時だけだ。 宥めすかして酔いつぶれさせた頃、披露宴が終わって二次会へと流れたのであとの世話を彼の家族に任せて俺は帰ることにした。 『元気ないね、コースケ』 「別に」 『またまたー強がっちゃってー』 なんとなくヒィに電話をしてしまった帰り道。 「そんなことありませんそろそろバイトの休憩終わるでしょ切るぞ」 『あ、待って待って 』 「何だよ」 『……』 電話口の向こうで話す声が聞こえるが内容まではわからない。 「おーい」 『あのね、今日は暇だから早上がりでいいって!』 「本当かよ」 『本当だよ。でねでね!近くの神社でお祭りやってるんだって!一緒に行こうよ!』 「ん…」 『ダメ?』 「あ、いや…ダメじゃないな」 『じゃあ八幡司馬右衛門狸の鳥居の前で待ち合わせね!』 「時間は?」 『三十分後でどうかな』 「わかった。んじゃ」 『うん!』 切れてしまった。ヒィの思いつきは慣れっこだ。 まぁ待ち合わせ場所に行くか。 しかしこの時期にお祭りか…何かあったっけ。 「なんだよお祭りって酉の市か」 参道に並ぶ出店に混じっておかめと熊手があしらわれた看板が見える。 「トリノイチ?ペットショップのお祭り?」 「違う違う、これは…何の祭りだっけ」 「コースケも知らないんじゃん」 「ごめん」 「にゅふふ、謝るなんてコースケらしくないよ?」 「…っ」 「どしたの?」 「……何でもない」 「?」 調子が狂う。披露宴でのことが引っ張っているのだろうか。 「コースケお店いっぱい!すごいすごーい!」 「そりゃお祭りだからな」 テンション上げすぎだ、落ち着けヒィ。 「ねーあれ何?クルクル回って雲みたいのが出てくるよ!」 「あれは綿菓子だよ」 タライのような機械から糸が吐き出される様子に目を奪われている。 「ね!ね!あれはあれは?!」 次に興味を引いたのは… 「えーっと…論争が起こるぞ」 「ドユコト?」 丸くて中にあんこの入っている焼き菓子だ。 「そ、そんなことよりあっちの方が」 「にゅ?」 「ホラただの丸いのより魚の形だぞおいしそうだろヒィも魚好きだよな!」 「もー鯛焼きぐらい知ってるよコースケー」 それ知ってて綿菓子と…アレを知らんのか。 ヒィらしいっちゃらしいかもしれないが。 参道を抜けた境内では熊手を売る出店が所狭しと並んでいる。 異世界と地球が交わってもこういう風景は変わらないんだなー、中には亜人が売り子をしてる店もあるけど。 「ねーコースケ、これ何売ってるの?」 「縁起物の熊手だよ。一年限定の御守りみたいなもん」 「ふーん。コースケも買うの?」 「ま、ここまで来たらな」 「じゃ私も!」 「お前買う必要ないじゃん、ほとんど俺の部屋に居着いてるし」 「にゅふ、認めたねコースケ?」 「んな!?カマかけたのかよ不意打ちとか卑怯だぞ何が狙いだ!?」 「別にー」 自分でもこの狼狽具合はおかしいくらいだ。 むしろ俺はこんなに取り乱せるんだと冷静にわかる自分もいて、混乱しているのがわかった。 「ね、コースケ」 「こここ今度は何だよ」 「元気でた?」 「…」 「どうかな?」 「ん…まぁ、な」 「そっか!良かったー、電話してる時から何だか暗いんだもん」 いつもはただ脳天気なのにこういうとこは聡いんだよなコイツ。 適当に「家内安全」と「無病息災」の札をつけた熊手を買って下宿へ帰る道すがら、いつの間にか雪が降っていた。 ヒィは猫なのに舞う雪にじゃれついていて、その仕草が無邪気で可愛らしい。 猫なら炬燵と相場が決まっているにも関わらず……まぁヒィらしいっちゃらしいな。 そんな彼女に癒やされて、数時間前の嫌な思いもどこ吹く風。 俺も実に簡単な人間だ。 冬来たりなば春遠からじ。 多分俺はヒィがいないと駄目なのかもしれない。 俺はヒィが好きなんだ、当たり前のことを自覚したそんな冬の家路の話。 お題 披露宴 回転 家路 冬 繁殖するですか? 来年の10月になったら家族増えるですか? -- (名無しさん) 2013-12-12 15 41 17 沁みる。無邪気ながら察しのいいヒィが本当にいいキャラ。人間の異種族観とお祭りがとても等身大のイレヴンズゲートでした -- (名無しさん) 2013-12-12 23 07 36 野生児でキャピキャピしている子だと思っていただけに落ち着いて聡明なヒィちゃんに驚き -- (名無しさん) 2013-12-13 23 00 00 「元気でた?」がクリティカルすぎてもーだめですダメダメ。最初に鋼助から電話をかけているというのもポイントだと思うこのカップル自然体 -- (名無しさん) 2017-01-14 18 47 10 世界同士の交流が進んで世間一般はどうなった?という雰囲気が伝わりました。種族が違っても純粋な気持ちで向かい合う人と人というのは良いものですね -- (名無しさん) 2018-10-07 19 13 19 名前 コメント すべてのコメントを見る
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示される世界 覇王の紋章 COMMAND C-S72 白 2-2-0 C (常時):自軍本国の上のカード5枚までを表にし、(表向きのまま)任意の順番に変更し、元の本国の上に戻す。 「表向きのまま」とは、「並べ替えたカードの順番を相手に公開する」という意味である。表向きのままで本国の上に戻るわけでは無い。
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試される…… ◆i7XcZU0oTM (……"私に任せろ"と孔明は言ったが、さて、どのような手を用いるのか……) 表情一つ変えずに良策を練る孔明を、スターリンは黙ったまま観察していた。 孔明は――――使える男なのかどうか。それとも、役に立たぬ者であるのか。 それを見極めんと、目の前の獣……サバンナを如何にして配下に加えるかを観察していた。 しかし孔明は、時折むむむと唸るだけで、今の所、行動を起こしてはいなかった。 だが、そんな孔明に対して、スターリンは何も言わずに、ただ見ているだけであった。 (しかし……つくづく不可解な事ばかリだ……) 自身の知らぬ物ばかりに触れて来たせいか、スターリンの思考対象が孔明から少し離れる。 ……今まで、見たこともないような街並みに、建造物群。 本来ならば、こんな所にいるはずでも、いるべきでもない猛獣。 改めて考えてみれば、奇妙なものだ。 (ライオンはまだ分からなくもない。動物園からでも連れてくれば良いだけのこと。だが……この建物はどうだ? これほどの物を建築するにはかなりの時間と労働力、それと相当な量の金を要するだろう。 果たして、それらはどこから調達してきたのか? 見る限り、あの男にそれらを調達する力は無さそうだが……) しかし、それらの事よりも、不可解な事がスターリンにはあった。 (――――とうの昔に死んでいるはずの孔明が、何故生きている? あの本の記述が正しいのならば、 孔明は1500年以上前の人物と言う事になる……。そのような人間が、現代まで生きているはずもない。 ならば、奴は"孔明"の名を騙る偽物か?) もしそうならば、スターリンは迷わずトカレフの引き金を引くだろう。 だが……それをやるにはいささか早いとも思っていた。 目の前にいる孔明が偽物なのか本物なのか、判別できない以上は……。 「……まだ掛かりそうなのか」 「もう少しお待ち下さい」 表情を崩す事なく、孔明は返した。 「……ならば、その身に付けている奇怪な物を少々私に貸してみろ。暇を潰すのには役に立ちそうだからな」 「分かりました」 孔明からiPodと説明書を受け取り、説明書通りに操作してみる。 曲のタイトルに1つづつ目を通してみるが、どれもスターリンの記憶にはない曲であった。 それもそうだ、入っている曲はどれもスターリンの生きていた時代にはなかった曲なのだから……。 だが、そんな中でも、少しだけスターリンの興味を引いたタイトルがあった。 それは……。 (……"巫女みこナース・愛のテーマ"?) 音楽である以上、聴いてみなければどんな物かは分からない。 誘われるように、スターリンの指が、再生ボタンを押した。 それと同時に、曲が再生されて……。 "皆さーん、元気ですかー!?それではさっそく行ってみよー!" 「――――!? これはッ……!?」 今まで聴いたことのないようなメロディーが、スターリンの耳を、そして心を刺激する。 誰なのかも分からぬ声で歌われる、そこはかとないいやらしさも感じさせる歌詞。 何もかもが初体験の中、スターリンは暫し呆然としながらもその曲を聴いていた。 (ズキズキ恋煩い……きっと変われる素敵な私……愛のリハビリ……セクシャルバイオレット……) 気がつけば、心の中でいくつかのフレーズを、スターリンはくり返していた。 何故なのかは、本人にしか分からない。 だが、気がついた時にはそうしていた。 もしかしたら、存外この曲を気に入ったのかもしれない。 それとも、ただ単に珍しい歌詞を反復しているだけなのか。 そこの所は、やはり本人にしか分からないのだ。 (…………ふむ、なかなか悪くない曲だ……他には何があるのか……) 適当にリスト内に目を通すスターリン。 幾つものタイトルが流れて行く中、スターリンの目に留まったのは。 ("Southern Cross"……南十字星か。何故このタイトルなのか分からないが、聴いてみるとしよう) ――――再生ボタンを押すと、先程の曲とはうってかわって力強い曲調が、スターリンの耳に。 早口故に、先程の曲と違い歌詞をはっきり聞き取れなかったが……。 (別段何かを恐れているわけではないが)スターリンの心に"勇ましさ"を注入してくれた。 (たまには、音楽に耳を傾けるのも悪くはない……さて、そろそろ準備も出来た頃であろう) 「孔明、用意は出来たか」 「ええ」 少し緩んでいたスターリンの目元が、一瞬の内に鋭くなる。 ――――孔明の力量を……いや、本人なのかどうか、見極めようとしているのだ。 「やる前に、内容を聴かせて貰おうか」 「分かりました。それでは、説明いたします」 孔明の計画は、こうだ。 ……まず、眠っているライオンに近づく。もちろん、警戒を怠らずに。 そして、先程手に入れた"黒の教科書に掲載されている毒物"を使う……。 「……その、"黒の教科書に記載されている毒物"とやらは一体何だ」 「仔細は不明ですが、おそらくこれは、嗅いだ者を気絶させるような効能を持つのではないかと思われます ……それで、この薬を用いてライオンを気絶させるのです」 「ふむ……それで、どうする」 「ここに、紐があります。スターリン殿が音楽を聴いている間に、あそこの机より拝借しました。 これで……手足を縛るのです。目覚めた時には……自分の置かれている状況を見て、 "力"の差を理解するでしょう」 ……少しの沈黙の後、スターリンが口を開いた。 「なるほどな。"支配する者"と"される者"を教えてやろうと言うのか……悪くない。ところで、縄はどこだ? 見た所、持っているようには見えないが」 「私の鞄の中に入っております……それでは、さっそく」 「ああ……」 (さて、これからが本番だ……。お前の力を見せてみろ、"孔明"よ……) 瓶を片手に、足音を立てずに。 依然小さないびきをたてて、眠ったままのライオンに近づく孔明。 ……もちろん、いつ目覚めても良いように、もう片方の手には、武器が握られている。 外から入るおぼろげな光が、その刀身を光らせる。 「……」 瓶の口を、ライオンの鼻の近くまで近づける孔明。 そして……一気に、鼻のすぐ下まで近づける! 丁度鼻から息を吸う時であったライオンは……グーッと一気に、空気ごと吸い込んで。 「……エンッ!!」 ~~~~ 「うが……」 ……俺が目を覚ました時には、手足がひものようなもので縛られていた。 おい、これじゃ動けねえじゃねえか。 「しかし、まさかこのライオンにまでこの首輪が嵌められているとは、驚きでしたな」 「うむ。……もしや、このライオンも"参加者"の一人かも知れぬな」 誰だ、こいつら。人間が2人か。 何か俺の方を見て、ベラベラ喋ってるな。 「……スターリン殿、ここに鞄がありますが……」 「ああ、おそらくこやつの物だろう。……役に立つ物があるかもしれんな。調べてみるか」 クソッ、そいつの中にはあの旨そうな肉が入ってるんだ。 勝手に他人の鞄の中身を検めるなんて、非常識だぜ! 「他人の鞄、勝手に開けるとかマジないわー」 ……俺がそう言った途端、2人の人間は鳩が豆鉄砲食らったような顔して、急に黙ってしまった。 「お前ら常識ってもんがねぇのかよ……これだから人間は駄目だわー」 「喋るライオンか……孔明、聴いたことはあるか?」 「まさか」 だが、人間2人はすぐに落ち着きを取り戻した。 ……案外、肝が据わってるわ、こいつら。 「言葉が話せるのか、ならば知能も……よし」 そう言うと、ちょびヒゲの男は、何かを取り出した。 黒光りするそれは……間違いねえ、拳銃だ。 それが、俺の頭に……ゆっくりと、迷う事無く突き付けられた。 「――――私に従うか、ここで斃れるか。話せる程の知能があるならば、"正しい"判断が下せるはずだな」 「……ッ!!」 やべーわ。 ……手足が縛られてなけりゃ……いや、縛られてなくても、この状況じゃキツいわ。 先にこの銃をもった奴を仕留めるにしても、その隙にもう片方の奴にやられるかもしれねえし。逆も然り。 ……流石に、まだまだ死ぬ気はないぜ。 易々と頭下げるのは、俺のプライドが許さねえが……。 手段を選んでちゃ、サバンナじゃ生き延びられねえからな! 「……滅茶苦茶気に食わねーけど、従ってやるよ」 「ならば良し。孔明、こやつの鞄の中身をそこの机の上に出せ」 「かしこまりました」 結局、こいつらに俺の荷物は取られるのか。 まあ、まだ信用しきっていない相手に、武器になりそうな物を持たせるはずもないよな。 「……それは銃か? ライオンには過ぎた物だ」 「この生肉はいかがいたしましょうか」 「おそらく、こやつの食糧か何かだろう。持っていけ。あと、その銃は私が使う……こまごました物は捨てて構わん」 ~~~~ (思いもよらぬ収穫だったな。新しい武器も手に入ったしな) 先頭にサバンナを立たせ、校舎を出る一行。 ……サバンナの背には、スターリンの持つUZIの銃口が向いている。 もしサバンナが妙な行動を起こそうとすれば、その瞬間に……。 それが分かっているからこそ、サバンナも下手な行動を取れずにいたのだ。 もっとも、未だに腕は縛られたままなので、普通の行動すら取りにくくなっているのだが。 (……そう言えば、孔明の力量を上手く図り損ねてしまったな。惜しい事をした) だが、少なくともただの凡人では無い事だけは分かった。 ……いつ目覚めるかも分からぬライオンに近づいた度胸は、確認できたのだから。 「孔明、今は何時か分かるか?」 不意に、スターリンが孔明に声をかける。 その声に反応するように、手早く鞄からPDAを取り出し、時間を確認する孔明。 「丁度、6時でございます」 その返事に、分かったとだけ返事をし、黙ってしまったスターリン。 打倒ファシストを目指すスターリン、それに付き沿う孔明。 そして、嫌々ながらも生きる為に従わされているサバンナ……。 何とも言い難い組み合わせの一行が、何処に向かうのかは……分からない。 【A-1・学校/一日目・朝】 【孔明@三国志・戦国】 [状態]:健康 [装備]:脇差@現実 [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、黒の教科書の毒物@コピペ(現地調達)、ビニール紐@現地調達 ぞぬの肉@AA [思考・状況] 基本:蜀に帰る 1:スターリンに従い、対主催の策を練る。 ※共産主義の素晴らしさを刷り込まれつつあります。 【スターリン@軍事】 [状態]:健康 [装備]:UZI@現実(32/32)、iPod@現実 [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品1~2、トカレフTT-33(7/8)、UZIの予備マガジン [思考・状況] 基本:ファシストを倒す集団のトップに立つ 1:疑わしきものは粛清する。 2:喋るライオンか……暫くは警戒を解かないようにせねばな 3:孔明が本物なのかを見極めたい ※1942年初めあたりの参戦です。日本人はファシストとみなされる可能性があります。 ※図書室で三国志@現実を読みました。孔明の出自をある程度把握しましたが、誇張もあるかもしれないと考えています。 ※死んだはずの人間が生きている事に疑念を抱いているようです。 【サバンナ@AA】 [状態]:健康、屈辱感、手を縛られている [装備]:なし [道具]:なし 基本:生き残る 1:悔しいが、今は従うしか無いわ 2:とっととこいつらから逃げ出したいけど……今は無理だわー ※サバンナの鞄(基本支給品、サバンナのPDA)が、学校の給食室に放置されています ≪支給品・現地調達品紹介≫ 【脇差@現実】 特に変哲のない、ただの脇差。 切れ味はまあまあある。 少なくとも、多少乱暴に扱っても壊れない程の強度はある。 【ビニール紐@現地調達】 普通のビニール紐。 キツく縛れば、解くのは容易な事ではない。 No.74 第一回定時カキコ 時系列順 No.88 ひと時のマターリ No.86 神々の戦い 投下順 No.88 ひと時のマターリ No.58 地面に寝そべる獅子を見た サバンナ No.102 孔明「これがチハちゃんですか」 孔明 スターリン
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このページはこちらに移転しました 吊るされた男 作詞/日本語でおk いつからだろう 時が歩みを止めたのは いつからだろう 僕が歩みを棄てたのは 空は地と繋がれ 海は山へと堕ちる 暮れる日は月に蝕まれ 世界は僕を置いていく 誰の声も 何の色も 僕の息も 全てが狂う 死んだ時が 語りかける 僕の意味を 全てが透明 ここにいる 確かにいる 僕はいない 僕は何処? 僕がいる 確かにいる ここにいない 僕は誰?