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その場所の入り口は他の扉と一見すると全く一緒であった。 だが、外部からでも分かるほどの異様な雰囲気が部屋の中からあふれ出ていた。 「ここは?」 おそらく巨大砲の制御室ではないであろう。ましてやクリスタルをいくつも保管している場所であるとは思えない。 そこからあふれ出ていいる空気はどこか禍々しく近寄りがたいものであった。 「……いってみるか」 誰も拒否しなかった。その場所が発する空気は誰もが感じていたのだろう。 後から思えば無視して通り過ぎるという事も出来たはずなのに、何故か素通りする事は出来なかった。 部屋の中は塔内部の他の個室と違って、明かりがついていなかった。詳しく中を確認する為には、目を慣らす時間を要した。 「!」 暗がりに慣れ、おぼろげながら見えてきた光景に目を疑った。 「……にこれ」 部屋中に並べられた大型の培養管。その中に詰められたものは―― 「人間……?」 言葉にしたくない台詞を口にする。 間違いない。それはセシル達となんら変わらない人間。培養管の中、濁った水の様な液体に詰められている。 その者達の表情は誰もが無表情であり、感情を伺いしる事は出来ない。焦点の合わない目は虚ろな様子で空を眺めている。 「まだ生きているぞ……!」 誰もが口を開きたくなかった状況を打ち破ったのはカインだ。 目を逸らしたい気持ちを抑えてじっくりと観察してみると、培養管の人々は体を微動していた。 「でも酷い……」 良かったと手放しに喜べるわけではないが、生きているという事実が眼前の光景を直視する余裕を与えた。 リディアが非難する。 「どうしてこんな事を……!」 それはセシルも同感であった。ゴルベーザ達は各国からクリスタルを奪い、多くの抵抗する民の命も奪ってきた。 だが……このような事をしているとまでは想像する事が出来なかった。 去りゆくもの 残されるもの4
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電脳冬木市にあるとある家屋、そこにある薄暗い地下の部屋。 何者かがその部屋で作業を行っていた。 手術台のようなものに載せられた人間を粛々と解剖していく。 「ァ…ァ…」 「なるほど、なるほど…」 それも死体ではない、生きた人間である。 生かされたまま解剖されているのである。 下手人が加虐趣味なのかと言えばそうではない、正しく解剖対象について観察しながら知識を深めている。 その人間にある身体、特に魔術に関係がある部位を中心に調べていく。 解剖をする男は異様な姿をしていた。 フルフェイスの仮面を身につけ全身をパワードスーツのようなもので覆っている。 ほぼ黒一色に包まれた姿は暗い深淵を彷彿とさせる。 名はボンドルド、元の世界では新しきボンドルドとも呼ばれた男である。 ◆ ◆ ◆ 「黒い羽」により電脳世界の冬木市に招かれた時はさしものボンドルドでも少しばかり面を食らった。 一瞬にしてアビスの外へと転送させられ、精神隷属機(ゾアホリック)の影響下から外れたと思われる場所で問題なく活動できるのは驚きであっただろう。 とはいえかなり特殊な状態であるのは間違いなく、今の自身の状態についてはある程度把握しなければアビスへと帰還した際に不具合が出るとして調査すべきと考えた。 同時にこのような現象をもたらした聖杯に彼は興味を持つ、この力はアビスの解明に大いに役立つものではないかと。 そのままボンドルドは自身のサーヴァントを召喚する。 そこに現れたのは儚げな雰囲気を纏う少女。 一見すると手弱女と感じさせるが、その頭部には二本の角が生えており、真っ当な人間ではないとすぐに分かる。 「サーヴァント、アサシン。召喚の儀に従って来たわ、君が私のマスター…でいいの?」 人外の少女、だがそれは見かけの話。 濃密な死の気配、清廉潔白の類ではないとボンドルドは感じ取る。 「ええ、初めましてアサシン、私はボンドルド。奈落の探窟家『黎明卿』――と人は呼びます」 相対するマスターとサーヴァント。 相手は一筋縄ではいかない相手と理解し、しばらく両者は沈黙する。 そんな状況の中で先にアサシンが沈黙を破り、ボンドルドへと微笑みかける。 「やめようか、このまま立ち尽くすのは時間の無駄だわ。とりあえずお話しましょうか」 「そうですね、構いません。ではまずは貴方の目的を聞かせていただけますか」 あくまで今は敵ではない。 この場で争う意味が全くない事を双方ともに認識し、情報共有を始める。 「私は人類について理解を更に深めるために他の人達とたくさんお話がしたいわ」 「素晴らしい、目指すものが違えど貴方もまた探究者の一人なのですねアサシン」 「ええ。人類の習慣や文化、魔法技術を探究するのが私の研究テーマなの」 そのまま彼らは情報交換と雑談をしながらマスターとサーヴァントとしての関係に落ち着かせていく。 その中でボンドルドは彼女の真名について把握する。 彼女は人類に仇なす種族である魔族、その中でも長い年月を生き、人類には知られなかった大魔族。 無名の大魔族ソリテール、それが彼が召喚したサーヴァントであった。 ◆ ◆ ◆ それからボンドルドとアサシンは調査を行うため、他の陣営と接触もしくは戦闘を行った。 その最中でボンドルドは生き残ったマスターを捕らえ、調査のために様々な実験や調査を行った。 目的としては当初の目的であった自身の状態を確認することもあるのだが、それ以外では令呪や魔力供給といった聖杯戦争に関わる事柄についても検証を重ねていた。 聖杯戦争のマスターとして最低限把握しているが、メカニズムについては無知であり、それらに関する知識を得ることで備えを出来るだけしておきたいと思い立ったからである。 この解剖もまたそのための一環である。 「ありがとうございます、名も知らぬマスター。本当であれば貴方の名前も教えていただきたかったのですが、ともあれおかげで私はまた一歩前へと進むことができます」 死亡すれば消滅するかもしれないと考えたボンドルドは死なないよう細心の注意を払い、生かしたまま解剖している。 そしてそんな所業を行いながら、先ほどまで敵対していても関係なく相手に親しみと感謝を伝えるボンドルド。 常人から見れば異様な光景であり、それを行う彼がまともでないのはすぐに分かるだろう。 だがそんな光景も長くは続かない。 「おや、時間切れですか」 サーヴァントを失ってから一定時間経てば、マスターは強制的に消去され消滅する。 どれだけ死なせないよう手を尽くしても消滅を防ぐことは現状不可能であった。 そんな彼の様子を終始見ていたアサシンが報告しようと近づいてくる。 「それで何か収穫はあった?見ていた感じだとあまり芳しくはなさそうだったけど」 「調査の方はともかく聖杯戦争に合わせてカートリッジに代わる装備を考えているのですが、現状はよろしくありませんね。そちらの作業は終わられたのですか?」 「特筆することもない魔術工房だから特に支障もなくね。私に要する維持魔力くらいは賄えると思うわ」 「素晴らしい。ありがとうございます、アサシン。これで負荷も軽くなります」 今回の解剖結果は有益なものがあったが、聖杯戦争を勝ち抜くための装備品の目処はまだつかない。 ある程度の装備は持参しているとはいえ精神隷属機(ゾアホリック)がない以上、この肉体が滅びればその時点で敗北は確定する。 それ以上に今の自分が死んでしまったら最悪の場合、元の世界にいる祈手(アンブラハンズ)にも悪影響を及ぼす可能性がある。 それ故にボンドルドは万全を期して準備を怠らない。 幸いにもアサシンは魔法などについての知識が深く、魔術方面でボンドルドのサポートをしていた。 無論アサシンもただの善意で協力しているわけではないのだが。 「腰を据える拠点も出来たことだし、そろそろ君のことを教えてくれないかなマスター」 「そのような約束でしたね、構いませんよ。私に答えられるものであればお教えしましょう」 それからボンドルドはアサシンの話し相手として自分がこれまでやってきたこと、そのために力を貸してくれた者たち、愛した家族について語っていった。 アサシン――ソリテールにとってボンドルドという人間は希少な例として興味をそそられる人類であった。 彼の所業は真っ当な人間であれば眉をひそめるものであり、正義感のある人間であれば憤慨するであろう。 極めつけはそれらを悪意なしで為しており、かつ贄として捧げたも同然の子らに本心から愛しているということである。 ある意味、捕食のために人間を殺す魔族よりも性質が悪く度し難い。 初めから人として破綻していたのか、それとも後天的に精神が異常となってしまったのか。 実際どちらなのかは会話からでは読み取れないが、今のところ目の前にいる男の精神はまるで人類と魔族を混ぜ合わせたようなものであるのがソリテールの所感であった。 「真っ当な人間なら魔族(わたし)を召喚するなんてあり得ないもの。君、聖杯から人間扱いされてないんじゃない?」 サーヴァントとして魔族を召喚するマスターなど明らかに何かが外れたものと予想はしていた。 自身と協力関係を組める相手かも見続け、話を聞いた結果からアサシンは感想を述べた。 「なるほど、私を生物として認識しているということですか。思っていたより寛容のようですね聖杯は」 「まるで自分は生物じゃないって認識してるみたいな言い方ね」 「アビスでは我々の精神性を生物ではないと判断されました、心外ですよね」 その言葉には人類を知るアサシンも言葉を失った。 精神が人間であるか以前に生物としてすら見做されない者、人がこれほどまでになる例を見ることなど長い生涯の中でも彼女にはなかっただろう。 そしてそれほどまでになったとしてもやはり魔族とは噛み合わないのだろうとアサシンはボンドルドを見て思う。 「今の君は確かに外れた存在と成り果てたと言っていいかもね。でもその根底はやっぱり人類であったことから来ている。どれだけ変質しても初めから持たない者との間にはどうあっても取り払えない差が存在する」 「貴方にとってそれほどまでに人類と魔族というものは異なっていると思っているのですかアサシン」 「ええ、姿形が似ているだけで人類が言うところの人喰いの化け物よ」 「なんと…」 その言葉に対し、今度はボンドルドの方が言葉を失う。 目の前にいる自分のサーヴァントが抱えていたものを知り、彼は一つの提案をする。 「アサシン、私は魔族だからという理由だけで貴方と敵対するつもりはありません。どうですか、この聖杯戦争を戦い抜いたら私と共にアビスの世界に来ていただけませんか。もちろん来ていただければ相応の待遇はさせていただきます」 ボンドルドはアサシンにアビスへ共に来ないかと勧誘する。 そもそも彼に人類と魔族などといった差別の意識など存在しない、彼にとって全ての命は平等に価値があるものである。 そんなボンドルドを見てアサシンもまた自身の思いを伝える。 「ねえマスター、いえボンドルド。どうして私が君の質問に素直に答えていると思う?私はね、君となら人類との共存も絵空事じゃないって思えるの。ここまで魔族に寄り添ってくれる人間なんていなかったわ、君とならそのきっかけを見つけることができるかもしれない」 「貴方は素晴らしい理想をお持ちなのですね、アサシン。アビスであれば貴方の求めるものが手に入るかもしれません。同じ探究者としてその助けとなれば幸いです」 そう言ってボンドルドはアサシンに手を差し出して、アサシンはその手を握る。 410:深淵を覗くもの ◆p2UW/hG7xY:2023/10/07(土) 20 37 15 ID 7dvYgPtc0 少しの間、沈黙が流れる。 するとアサシンは何がおかしかったのか突如笑いだした。 「面白いね君、本当に悪意を出していない。付いて行ったらそのまま実験されるだけでしょ私」 「おや人間と異なる生物と言ったのは貴方では?」 「ふふっそうね、私のマスターならそうなるわよね」 先のやり取りはアサシンが信頼していると言ってボンドルドがどのような反応をするかを観察しただけである。 今までの観察で並外れた精神の持ち主であることは分かっていたが、アサシンも予想が出来ないほどであった。 まるで同族と会話しているような感覚だったのだ。 対してボンドルドはアサシンに親しみを覚えアビスに来てほしいと思ったのは本心である。 だがそれは丁重にもてなすという意味ではなく、アビスの検証に付き合ってくれる実験体として扱うという意味である。 それを彼は悪意なく、純粋にお願いをしただけにすぎない。 「今回は座にいる「私」にこの聖杯戦争の記憶全てを引き継がせるだけにしておく。受肉はやめておくわ、何されるか分からないし」 そうしてアサシンは此度の聖杯戦争での目的を決める。 最早死んだ身である以上、何かに強く執着する必要もない。 それでも折角の機会だ、様々な人間について知っていくのも悪くない。 「それじゃ改めてよろしくねマスター。互いに実りのある戦争にしよう」 ならば精々楽しませてもらうことにする。 観察に飽きないマスターに当たったことは彼女にとって僥倖だった。 「こちらこそ改めてよろしくお願いしますよ、アサシン」 ならば変わらず夜明けを目指して進むのみ。 聖杯を持ち帰るための良き協力者に出会えたことは彼にとって僥倖だった。 彼らの間に交わる絆はない、彼らの間に残る想いもない。 だが彼らの歩む探求の先だけには通じるものがあるのかもしれない。 【マスター】 ボンドルド@メイドインアビス 【マスターとしての願い】 今の自身の状態をきちんと把握した上で元の世界に聖杯を持ち帰る 【weapon】 『暁に至る天蓋』 探窟・戦闘向けの祈手のためにしつらえた特注の戦闘鎧。 遺物と生物由来の繊維を複雑に組んで作られ、内部に様々な武装を内蔵する。 主な武装として撃ち込むことで上昇負荷を発生させる「呪い針(シェイカー)」、仮面から命中させたい相手を追尾する光線を放つ「明星へ登る(ギャングウェイ)」、極めて強靭で伸縮性にも富み、標的を瞬時に絡め捕ったり移動用のロープ替わりに使用できる「月に触れる(ファーカレス)」、肘から謎めいた高出力のレーザーの刃を形成し触れた物質を分解し消し飛ばす「枢機に還す光(スパラグモス)」などがある。 その他にも複眼やパワーのある尻尾などの武装も搭載されている。 【能力・技能】 探窟ルートの開拓や便利アイテムの開発など、物資とテクノロジーの面から探窟家を支えてきた存在であり、科学・医療技術に精通している。 手段はともかく人類のアビス攻略を一気に推し進めた偉人であり、探窟家の頂点である白笛だけあり戦闘力は一級品。 全身のパワードスーツに無数に搭載した遺物の力とそれらを的確に運用できる冷静で優れた頭脳、豊富な経験から来る対応力はずば抜けて高い。 またその精神はアビスの力場からヒトは愚か生物ですらないと拒絶されるほどであり、精神攻撃は無効化される。 【人物背景】 生ける伝説『白笛』の一人で、二つ名は「黎明卿」「新しきボンドルド」。 普段は深界五層『なきがらの海』にある『前線基地(イドフロント)』に居を構えて活動している。 いつも前面に紫色の光が灯った細い縦スリットが一本入った黒い金属製のフルフェイスの仮面を被っており、素顔は不明。 基本的には非常にポジティブで、物腰が穏やかで腰の低い紳士的な人物。 愛を尊ぶ博愛主義者的な性格は紛れもなく本物であるが、アビスの謎の解明に役立つならばどんなことでも躊躇いなくどれほど残虐な非人道的な所業であろうと、実行するマッドサイエンティスト。 「良き伝統も、探窟家の誇りや矜持も、丸ごと踏みにじって夜明けをもたらす」故に「黎明卿」と呼ばれる。 なおこうした悪行を「より良い発明のため」「自身の知的好奇心を満たすため」に行っており、すべては人類が躍進する結果につながる礎になると信じておりそこに悪意や害意は一切ない。 人道を大きく踏み外したパーソナリティの持ち主ではあるが、同時に彼の裏表のない愛情深さと心の広さもまた本物である。 【方針】 基本は聖杯を取るために手段は選ばない。 他陣営とはその目的のために手を組むこともする。 アビスの謎を解明するのに役立ちそうならマスターやサーヴァントを連れて行きたいと考えてはいる。 【クラス】 アサシン 【真名】 ソリテール@葬送のフリーレン 【属性】 混沌・中庸 【パラメータ】 筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:C 宝具:A 【クラススキル】 気配遮断:D++ サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。 またアサシンの場合、魔力隠蔽がかなりの精度を誇り、潜むアサシンを魔力探知にて探すのは至難と言える。 【固有スキル】 魔族:EX 人類と姿形がよく似た人食いの捕食者である人類の敵。 「人の声真似をするだけの言葉が通じない猛獣」と評され、言葉をもって人を欺き油断させて屠ることを常套手段としている。 飛行の魔法を始めとし、人類と比較して魔法の技量が高いことも特徴として挙げられる。 人類とは思考形態が異なり、人類の感情については共感できず、また人類の精神に作用するものは効きづらい。 その中でもアサシンは魔族の中でも異端と見られる存在であり、多くの魔族が見向きもしない人類の魔法や感情について研究している。 そのため人類の心理について魔族の中でも特に理解が深く、言葉を使って相手を欺いたり動揺を誘うことに長けている。 魔力操作:A+++ 術式を介さずに行う卓越した魔力操作、アサシンのそれは常軌を逸している。 魔力そのものをぶつける術を持ち、その威力は当たれば強い物理的衝撃も受けるほどである。 また防御としても応用でき、耐久の向上及び高ランクの対魔力と同等の効果をもたらし、密度を高めることで盾代わりにすることも可能。 無名の大魔族:EX アサシンは大魔族として長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名」であった。 それは単にアサシンと相対し、生きて帰った人間が存在しなかったという結果によるものである。 人類とそれに属する存在に対して有効な情報抹消スキルであり、対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶からアサシンの能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。 また大魔族である彼女は膨大な魔力を所持した状態で召喚される。 【宝具】 『一人遊びの観測者(ソリティア・オブザーバー)』 ランク:A+ 種別:対人類宝具 レンジ:- 最大捕捉:- 長い年月をかけて人類についての研究を重ねてきたアサシンの成果そのものを体現した宝具。 人類の心理について深く理解した上で動揺を誘う言葉選びが巧みであり、相手を見定めて揺さぶることに長けている。 人類とそれに属する存在に対して使う場合、アサシンの言葉は無視できないものとなり、その言葉に耳を傾けてしまう。 また生前人類の魔法について深く研究していたことから、人が扱う魔法、人類に組み込まれた魔法もしくはそれに類する物への解析・対処が可能となり、時間をかければそれらの術式の解除等も行うことが出来るようになる。 さらに解析した魔術等も対象の取得難易度により変化するが、擬似的に再現可能となる。 ただしこれらは人類に対してのみ有効があり、完全な人外には適用できない。 【weapon】 『魔法』 アサシンが好んで使うのは複数の大剣を出現させて操る魔法であり、直接剣を振るったり同時に複数の大剣を相手に飛ばしたりする。 最もこれはアサシンが「お話し」をするために殺さず痛ぶるのであり、殺す場合には出が早い魔力をぶつける戦法に切り替える。 他にも「人を殺す魔法」に対抗するための防御魔法も使用可能である。 【人物背景】 角が生えた少女のような外見で、人類について研究をしている変わり者の大魔族。 笑顔を絶やさず口調は丁寧で穏やかで、人間に強い興味を持っており、遭遇した相手とはまず「お話し」して相手の生い立ちや感情を知ろうとする。 強大な魔力を持ち、長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名の大魔族」であるがその無名たる所以は、彼女がこれまで遭遇してきた者(人類)を皆殺しにしてきたと推測されている。 人間と「お話し」するために両腕を切り落とすことも躊躇わず、他にも実験として残虐行為を繰り返していたようで彼女もまた極めて危険な魔族であることには変わりない。 【聖杯への願い】 他陣営と「お話し」をしてさらに人間への理解を深めること 最終的にはこの聖杯戦争での記憶を「座」に持ち帰ることを考えている 【方針】 あくまでサーヴァントとして召喚されてるため、変に欲張らず目的を果たす予定。 不必要な敵対関係はしないようにし、殺す場合は効率よく済ませる。 魂喰いについては必要ならば特に控えるつもりはない。
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散りゆくものたち◆/Vb0OgMDJY 和机にうず高く積まれた紙の山。 それは机と言う領域を乗り越え、床の上にまで侵食し、そこに机の上のそれと同等の高さにまで山を築き上げている。 その山の一つが、シャッ、シャッと紙を捲る音と共に、一定の間隔で低くなっていき、その隣に同じ間隔で新しい山が築き上げられる。 その音の発生源は、一人の男。 和机の前に腰を下ろした男が、片方の手で一心不乱に紙の山を減らし、もう片方の手に握った筆で何事かを書きつけ、その横に積み上げる事によって音が奏でられている。 …やがて、一つの山が完全に姿を消し、そこにあった山が隣に同じ大きさの山を築き終わる。 そして、男は間を空けずに、次の山を崩しに掛かる。 男は、その作業を延々と続けていたが、ある時ふと顔を上げた。 ドスドスっという徐々に大きくなる異音が、男の居る部屋へと近づいて来たからである。 その異音、足音の主は部屋の前まで至ると、無遠慮に扉を開いた。 そこに現れたのは、鎧を身に纏った精悍な顔つきの大男。 尖った耳と、顔に刻まれた大きな刀傷が外見を特徴付けている。 「大将、そろそろ時間ですぜ」 大男は、扉を開いた時の無遠慮な態度そのままに、部屋の主に告げる。 「そうですか」 それらの態度には構わず、男は片手に握っていた筆を机に置き、すぐさま立ち上がる。 そうして、僅かにのびをした後、 「行きますよ、クロウ」 とだけ告げて、大男―クロウの返事を待たずに、部屋から出る。 「へいへい」 というクロウの答えが、その後に聞こえた。 ◇ 謁見の間。 国の皇たる相手と会うために使われる大部屋。 その中心に、一人の女性が居た。 その場所に居る以上、この女性こそ今から皇と謁見する相手なのであろう。 長い金の髪、母性の象徴たる豊かな胸、僅かに憂いを秘めた美しい貌。 どれをとっても特徴的ではあるが、それらを差し置いてまず人目を引くのは、女性の背中の、白く美しい翼の存在であろう。 その翼こそ、この大陸において調停者と称される『オンカミヤムカイ国』のオンカミヤリュー族たる証。 そうして、この女性はそのオンカミヤムカイ国の第一皇女、名をウルトリィといった。 女性の表情は険しい。 その表情からでも、この会合は余り友好的なものでは無いと伺える。 その顔は、玉座…ではなく、その横に立つ一人の男へと向けられている。 見ると、本来謁見を行うべき皇の座る筈の玉座には、誰も居ない。 そうして、ウルトリィも、男も、この場にいる全ての人間も、それを当然の事と受け止めている。 「それでは…これでお別れになりますね、ベナウィ様」 長く、意味の無い儀礼が終わり、女性は最後の挨拶を述べる。 そう、『最後』の挨拶。 オンカミヤムカイより大使としてトゥスクルに滞在していたウルトリィ皇女に、帰国の時が訪れたのだ。 「いえ、長きに渡る助力に感謝しております」 男―ベナウィはそう礼を返す。 本来は、皇たるものが返すべき返礼は、ベナウィの口から発せられる。 玉座の傍らに立つベナウィこそ、現在、主不在なトゥスクルをを事実上統べる位置にあるのだ。 ある日、トゥスクル国にて皇たるハクオロ及び重臣数名が失踪。 その中には、ウルトリィの妹であるカミュも含まれていた。 以前に、ウルトリィも含めて数人でナ・トゥンクへと旅立った出来事もあったが、その時とは違い置手紙も存在しておらず、移動手段すら定かでは無い。 懸命の捜索にもかかわらず、手掛りすら掴めていない。 原因不明の現象ではあり、続発する気配の無いものではあったが、それでもオンカミヤムカイの皇女が行方不明になったのは事実。 そのような危険な国に、跡継ぎたるウルトリィを滞在させておく訳にはいかないという判断により、彼女に帰国の命が下ったのだ。 公的には、オンカミヤムカイはトゥスクルに対して、調停者としての立場を崩してはいない。 だが、元より二人の皇女が滞在していたという時点で、ある程度の厚遇であった事は事実。 その恩恵が無くなるどころか、カミュの行方不明によってむしろ不利に扱われる可能性すら存在する。 皇が不在なところに追い討ちにしかならない。 が、その事を理解していても、ウルトリィには他に選択できる道は無い。 ウルトリィとて、カミュや親しい友人達の安否が気がかりであったが、それでも皇女という立場では、残る事など出来る筈も無い。 むしろ、今日までの数日間、トゥスクルに残り続けていたことが彼女の出来うる限りの抵抗であったのだろう。 「少しでも早く、皆様の無事が確認できることを祈っています」 そう、話を締める。 (……しらじらしいですね) 顔には出さず、心の中で呟く。 そう、この会話は無意味なモノでしかない。 少なくとも、ウルトリィ、ベナウィ、そしてクロウの三人にとっては。 ◇ 「失礼…します」 挨拶をして、部屋に入る。 痛いほどの静寂、触れただけで割れてしまいそうなほど透明な空気。 その部屋には、静謐な空気が満ちていた。 「ウルトリィ様…」 部屋の中に居た双子の片割れ―ドリィが、訪問者を見て取り、立ち上がる。 それを片手で制して、ウルトリィは部屋の奥、この部屋の主が伏せる寝台へと移動する。 寝台の少し前に座っていたもう一人、グラァがウルトリィの為に場所を空ける。 その動きに、寝台の端で丸くなっていた白い獣が、僅かに顔を挙げ、ヒクヒクと鼻を鳴らし、そうして再び蹲る。 ここ数日、もはやそこが定位置となった獣の動きに、寝台の主が反応する。 「…ウルトリィ…さま」 僅かに、ウルトリィの方に顔を向けたのは、目を瞑ったままの少女。 「お体はどうですか…ユズハさん」 ウルトリィの訪問に対して、体を起こそうとする少女を制しながら、告げた。 …聞く必要など、無い。 誰の目にも明らかな事実。 少女は、もう、長くは無い。 元より、長くは無い身体。 ソレを永らえさせていた薬師は、この国の主達と共に消え、またその身体を蝕む病を抑える方法も、同時に消えた。 最早、彼女の体を長らえる方法は無い。 だが、彼女の体の急激な衰えは、身体的な物だけでは無い。 彼女の心が、急激に生きる力を喪っていった事が、最も大きな要因だろう。 ユズハを包んでいた世界は、壊れた。 彼女を庇護し続けていた兄も、共に過ごした友人達も、密かな想い人も、全ては消えた。 今残っているのは、兄を慕っていた双子と、友人の匂いが残る獣…いや別の友人のみ。 彼らに責は無い。 現に、ユズハの為に、今も傍にあり続けているのだから。 いや、彼らだけでは無く、ベナウィも、クロウも、ウルトリィ本人も、幾度と無く彼女の元に足を運んでは、元気付けようとした。 だが、それはあくまで残滓でしか無い。 彼女に生きる力を与えていたモノは、今はもう無いのだ。 「夢を…見ました」 少しして、ユズハが弱い声で喋りだす。 最早、彼女には声に力を込めることすら困難なのだ。 「……夢…ですか?」 少女の意図がわからず、ウルトリィは疑問を返す。 そもそも、今回ウルトリィがユズハの元を訪れたのは、彼女が話したい事があると告げられたからだ。 だから、少女の意図は未だわからない。 「カミュちゃんの、夢を見ました」 「え……」 ウルトリィは僅かに大きな声を出してしまう。 夢を見る。 それは、別段おかしな事では無い。 だが、ユズハがわざわざウルトリィに告げるほどの事柄では無い筈だ。 「ハクオロ様は、亡くなられたそうです」 少ししてユズハは、更に小さい声で告げた。 「!……」 ◇ 暖かい間隔に、ふと目を開く。 おかしな事だ。 そもそも、わたしは目を開いた事など無いのに。 けど、何故かその時だけは目を開いた。 見える筈なんて無いのに、何故か見える気がしたから。 そうして、目の前には知らない筈の女の子が立っていた。 そもそも、顔を知っている相手など、一人もいないのだけど、その子の事は知らないと理解できた。 でも、 「カミュ…ちゃん」 見たことも無い、本人とも思えない相手なのに、何故だか自然と声が出た。 それが、正解なんだって、解った。 「ごめん…ユズハちゃん」 カミュちゃんが謝る 表情は変わらないけど、とてもすまなそうな顔だった。 「お兄さん…もう、帰れないんだ」 声の調子も、とても悲しそうだった。 「おじさまも、アルちゃんも、みんな死んじゃったんだ」 カミュちゃんは続ける。 とてもすまなそうに、 「そして、私ももう、帰れない。 姉さまに、御免なさいって言って」 悲しそうに、 悔しそうに、 告げた。 そうして、静寂。 なぜだろう、わたしには、それが本当の事なんだろうって理解できた。 …悲しくは、無かった。 何故か、覚悟は出来ていたから。 そうやって、少しの間静かに向かい合っていて、 「ただ、一つだけ」 また、カミュちゃんが告げる。 「もう、こんな事は起きないから。 お父様が…死んじゃったから」 そうして、カミュちゃんは羽を広げる。 黒い羽が、辺りに舞い散る。 「だから、もう、こんな悲しい出来事はお終い。 何の救いにもならないけど…でも、それだけは確かな事」 そして、飛び立とうとするカミュに 「待って…」 声を掛けた。 ◇ 「兄様は、亡くなられてしまったのですね…」 言葉を無くすウルトリィに構わず、ユズハは続ける。 「ハクオロ様も、アルルゥちゃんも、エルルゥ様も、カルラ様も、トウカ様も」 傍に控えている双子も、何も言えない。 ただ、少女だけが告げる。 「『御免なさい』と、カミュちゃんは言っていました。 ウルトリィ様に伝えて欲しいと」 そうして、ユズハの話は終わった。 ◇ 追憶は、ここで終わる。 その数日後、ユズハは亡くなった。 彼女を見取った双子も、既にこの国には居ない。 獣は、既に森へと帰っていった。 ユズハの告げた内容は、何の根拠も無いもの。 だが、それがおそらく事実なのだということが、何故だか理解できてしまった。 その事実は、既にベナウィ達も承知している。 だからこそ、この会話も、現在も続いている捜索も、全ては無意味な行為でしかないのだ。 それでも、国としてはそのような不確かな事実を認めるわけにはいかない。 だからこそ、彼女は自身の欺瞞を強く感じるのだ。 「それでは、ウィツァルネミテアの加護のあらん事を」 そうして、無意味な会話は終わる。 その言葉が、更に自身の心を削る。 加護など、最早望む事は出来ない。 彼女の考えが正しいのならば、ウィツァルネミテアこそがこの国の皇を、彼女の妹を奪ったのだから。 それでも、彼女はオンカミヤムカイの皇女として、責務を履行する。 感情など表に出さず、ただ大使としてこの国での最後の役割を終えた。 ◇ 和机にうず高く積まれた紙の山。 それは机と言う領域を乗り越え、床の上にまで侵食し、そこに机の上のそれと同等の高さにまで山を築き上げている。 その山の一つが、シャッ、シャッと紙を捲る音と共に、一定の間隔で低くなっていき、その隣に同じ間隔で新しい山が築き上げられる。 その音の発生源は、一人の男。 和机の前に腰を下ろした男が、片方の手で一心不乱に紙の山を減らし、もう片方の手に握った筆で何事かを書きつけ、その横に積み上げる事によって音が奏でられている。 …やがて、一つの山が完全に姿を消し、そこにあった山が隣に同じ大きさの山を築き終わる。 そして、男は間を空けずに、次の山を崩しに掛かる。 男は、その作業を延々と続けていたが、ある時ふと顔を上げた。 ドスドスっという徐々に大きくなる異音が、男の居る部屋へと近づいて来たからである。 (そういえば、ここしばらくクロウの足音でしか、執務を中断することはありませんね) ベナウィはそう思考しながら、副官を、今となっては唯一の友を迎える 「大将! 西が動いたぜ!!」 開口一番、クロウは告げる。 蹴破らんばかりの勢いで扉を開き、部屋中を満たすほどの大声で叫ぶ。 最も、その勢いとは裏腹に、クロウの態度は平静そのものだ。 「…やはり、ですか」 その声を受けるベナウィも、平静そのものだ。 『エルムイがクンネンカムイへと侵攻』 西方の大国であるクンネンカムイへの、武力侵攻。 小国であるエルムイが、単独でそのような無謀な戦を行うはずが無い。 その背後には間違いなくクンネンカムイに並ぶ大国、ノセシェチカの影がある。 この大陸において、三大強国と呼ばれる内の二つの戦いとなれば、それは当事者だけには留まらない。 間違いなく、最後の一つである、シケリペチムも動くだろう。 そして、その目的は、このトゥスクルである可能性が高い。 シケリペチム皇たるノウェは、ハクオロの失踪により興味を失ったとはいえ、トゥスクルとは戦争状態にあったからである。 「直に、軍儀を開かなければなりませんね」 「おう、もう準備は出来ていますぜ!」 立ち上がり移動するベナウィに、クロウが付き従う。 シケリペチムとの戦となれば、トゥスクルの全戦力を動員しなければならないからだ。 そうして急ぐベナウィの背に、 「……大将……」 クロウらしからぬ、弱い声が掛かる。 「その話は何度もした筈です。 それに、今行っても何の意味もありませんよ」 その目的は解っている。 ベナウィに皇位について欲しいと言う懇願である。 この数ヶ月、何度も繰り返された問答である。 「だけどよ、戦争だぜ! 今度ばかりは旗印が居ないとよ!!」 クロウの言い分は正しい。 このトゥスクルという国の安定を考えれば、ベナウィが皇位につき、当面の安定を図るべきなのだ。 だが、元より新興国であるトゥスクルは様々な問題を内外に抱えている。 そうして、ベナウィは、元は圧制を行っていた旧支配者の側の人間であり、彼が国を継げば不満が噴出するのは、ほぼ確実と見られていた。 「……今は、そんな問答を繰り返している暇はありません。 急ぎますよ」 立ち止まったクロウには構わず、ベナウィは先に進む。 それを見て、クロウはしばし立ち止まる。 彼とて理解している。 「ああ、そうだよ。 ……この国の皇は一人しか居ないんだって事ぐらいは解ってるよ」 そう、元よりトゥスクルの皇は一人しか居ないのだ。 ならば (…皇を失った国は……) 不吉な予感にかぶりを振り、クロウはベナウィの後を追った。 ◇ ふと、懐かしい匂いを感じた 彼は、目を開く。 空には、大きな月が輝いている。 本来なら、眠りに就いている時刻。 だが、彼は気まぐれに身を起こし、眠気の残る体で、移動し始める。 夜気に、僅かに体を震えさせながらも、歩みは止まらない。 そうして、徐々に加速しながら、匂いを追う。 森を抜け、平地を駆け、かつて居た場所を通り越し、 やがて、彼が偶に足を運ぶ場所。 丘の上の小さな石の傍に足を運ぶ。 懐かしい匂いは、そこにあった。 「……………」 匂いの主は、何事かを告げる。 だが、元より彼には言葉は通じない。 だから、彼は態度で返す。 懐かしさから、歓喜の感情を込め、彼は吼えた。 高く… 高く…… 空に、彼方に届くように、高く… ◇ (約束…守れたのかな) 最後に残った友達の声を聞きながら、彼女は思考する。 あの時、彼女に告げられた最後の願い。 (帰ってきて…) (私たちの元に…帰って来て。 そして、自分で謝って……。 心配掛けて、御免なさいって) それだけを頼りに、残された僅かな力だけで、帰ろうとした。 少しずつ、這うように、懸命に、歯を食いしばって。 そうして、漸く、この場所まで帰りついた。 もう、長くは持たない。 元より、あの時に消え去ってしまう程度の力しかなかったのだから。 約束を果しに行く時間なんて無い。 だけど、 だから、これだけは言わないと。 「…ただいま」 【ギャルゲロワイヤル うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄 了】 214 手を取り合って飛び立っていこう 投下順に読む 216 今日、この瞬間、この場所から始まる 214 手を取り合って飛び立っていこう 時系列順に読む 216 今日、この瞬間、この場所から始まる
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変わりゆくもの ◆YYVYMNVZTk 医務室へとてくてくと歩いていくのはガロードだ。 甲児とブンドルが基地へ向かったということを比瑪に伝え、返ってきたのは「甲児ったら何やってるのかしら!」と、怒りと呆れの同居した声。 比瑪が言うには、甲児は筆記用具を求めて医務室を飛び出していったらしい。 何故に筆記用具? という疑問には、ずっと気絶していた男が起きて、どうやら負傷で喋れなくなっているようだったので意思伝達の術として、という答え。 そういえば甲児が医務室へと向かったのは、比瑪の助けを聞いたからだったなと合点。 比瑪は甲児の代わりにどちらかにペンと紙を持ってきてほしいと頼んだ。 シャギアとガロードは、どちらからともなく顔を見合せ、視線で互いの考えを伝える。 ガロードとしては、極端な話ではあるが、四六時中シャギアを見張っておきたいとまで考えている。 たとえそれが艦内の移動であったとしても、出来ることならば常に視界の中に入れておきたい。 かつて、世界を破滅で満たそうとしていた兄弟――その片割れ、シャギア=フロスト。 彼自身に多大な力があったわけではない。世界を動かす権力も、支配する武力も、当然の如く財力もだ。 世界を変えるという目的と比べると――彼らは、あくまで『個人』に過ぎない存在だったのだ。 だがしかし、彼らは――その、まるで中学生が考えたかのような夢物語を、現実のものにする『能力』を持っていた。 紛い物と称されるカテゴリーFの力ではない。彼らの真価は、巧妙に世界を動かす力に介入する、暗躍する力。 おそらくは――フリーデン、ティファ=アディール、ガロード=ランという、彼らにとってのイレギュラーさえなければ――事は成っていただろう。 目を離しているうちに、何をしてしまうのか分からない。ガロードがフロスト兄弟が戦ったのは、MS戦という戦争を構成する一面に過ぎない。 だが、手を変え品を変えフリーデンを追い詰めてきたシャギアの実力は、誰よりもガロードが良く知っているのだ。 だから――ここで、どちらが医務室へ向かうのか、或いはどちらも行くのか、或いは比瑪に取りに来させるのか。 ガロードが選んだのは、自らが医務室へ向かうという選択肢。 シャギアを一人にするのは望むところではないが、シャギアを医務室へ向かわせ比瑪たちに良からぬことを吹き込まれたり、皆が医務室に固まっているときに襲撃を受け、反撃が遅れるというような羽目になるよりはマシだと考える。 比瑪をこちらに来させるというのは、寝ているだろうクインシィと素性の知れない男を二人きりにするということで、これもまったく良くない。 結果――紙とペンとを手に持ち、ガロードは医務室へと向かっている。 ふぅ、とシャギアは一人息をつく。 ガロードは、やはり私たち兄弟の最大の障害となる男だと、そう再確認した対面であった。 とはいえ――自分たちのことを良く知っているからこそ、ガロードは自分たちの仲間となれる存在だと言えるだろう。 ガロードの疑念は、全て自分たちの世界――六度の大戦を経た、あの宇宙での諍いから来るものである。 確かにシャギアたちとガロードの属するフリーデンは、幾度となく戦闘を繰り返してきた。 だがそれは、互いの目的が異なるものだったからであり、互いの目的が、脱出という点で一致しているこの場所でまでガロードと戦い続ける理由はない。 ガロードもそれは理解しているだろう。フロスト兄弟は、結果を求めるためならば手段を選ばない――そんな悪役のイメージで固定されているに違いないだろうから。 ならば、ガロードは自分たちと手を組むことが出来る――仲間になれる。 シャギアは、「脱出」というプランについて、こう考える。 たとえ首輪から解き放たれ、この空間から抜け出せたとしても、それは「脱出」ではない。 自分たちがこの場所に召喚されたとき――抵抗出来たか? 出来なかった。 知覚する間もなく、気づけば首輪をはめられ、そして放り出された。 逃げ出しても再び捕まる可能性は決して低くない。ならば、憂いは断っておかなければならない。 あの化け物を倒す。真の意味で「脱出」を成すためには、それが必要だ。 そのためには、更なる力――仲間が必要だ。 そういえばと、シャギアは時計を見る。 オルバから最後の通信があってから、ある程度の時間が経っている。 そろそろ基地へ着いた頃だろうか。 聞けば、オルバは未だテニアを始末していないらしい。 その理由までは聞いてはいないが――オルバには些か感情的なところがある。 恐らくは、テニアの言葉か何かがオルバを刺激したのだろう。始末するのは、十分に痛めつけてからということだろうか。 シャギアはオルバのことを信頼しており、オルバもまた、それに足るだけの能力は持っている。 だが、その感情的すぎる面は、いずれ弟の命取りになるのではないだろうかと、シャギアは密かに危惧していた。 テニアが相手ならば後れを取ることはないだろうが――いずれ修正せねばならない悪癖だな、と思う。 時計の針は9時15分を指している。 シャギアがオルバの最後の声を聞くのは――この数分後。 ◇ 「あ、ようやく来たのね」 「紙とペンと、これで大丈夫か?」 「うん、ありがと。さ、どうぞ」 ガロードが医務室に到着し、筆記用具を手渡し――ようやく、バサラは自分の意思を伝える術を得る。 伝えたいことは山のようにある。多すぎて、逆に何から伝えればいいのか分からないほどに。 落ち着いて、ゆっくりと書き出していく。まずは自分の名前から。 『助けてくれてありがとな。俺の名前は熱気バサラ』 「バサラ……か。身体のほうは大丈夫なのか?」 『声が出ないこと以外は大丈夫』 「なら、あとはゆっくり治せばいいのね。……のど飴とかあるかしら?」 のど飴で治りはしないだろうと、呑気な比瑪の声に思わず苦笑が漏れるが、その笑いもすぐに消える。 自分の声は、再び元通りになってくれるのだろうか? そもそも、どうして声が出なくなったのか――気絶する直前に何があったのか、それを思い出す。 そうだ。俺は、コスモのために歌を歌って、それから白い機体に撃たれて―― 『コスモという名前の男は?』 ガロードと比瑪は顔を見合わせる。 二人はコスモという名前の男を知らない。だが、どこかで聞いた覚えのある名前なのだ。 つい先ほどまで会ったこともない二人が、共通して知る名前といえば――放送で呼ばれた名前に他ならない。 どう切り出せばいいのか戸惑う二人の様子を見たバサラは、コスモが死んだという事実を知る。 『カテジナという女は?』 それもまた、同じ反応。 『アスラン』 駄目だった。 つまり、この殺し合いが始まってから出来た、数少ないバサラの知人は――すべて死んでしまっている。 自分がほんの十数時間ほど寝ている間に、みんないなくなってしまった。 あまりにも実感がなく――だがそれは、きっと事実なのだろう。 二人がかけてくれる慰めの言葉も空空しく聞こえ、何をすればいいのか、何をしたかったのか、頭の中が空っぽになる。 怒りでも悲しみでもなく、占めるのは喪失感。 進むべき道――自分の歌で殺し合いを止めるという選択も、今は選べない。 起きてしまえば浦島太郎。ただただ途方に暮れることしか出来ない。 『俺はどうしたらいい?』 定まらない不安が文字になる。 自主性を捨て他人に身を任せる気楽さに逃げたくなる。 彼本来の性格からすれば、考えられないような行為。 だが――熱気バサラを構成する、もっとも重要なファクターが、歌が、現在の彼からは失われている。 バトルロワイアルという異質な空間において、その負の影響を最も受けた人間であるとも言えよう。 快活さも闘志も失われてしまった瞳を眼前の少女へと向ける。 目を覚ましたその時から、バサラへと優しい態度と言葉を施してくれた少女、宇都宮比瑪。 比瑪ならば――バサラに、道を示してくれるのではないだろうか。 その考え自体がバサラの中の迷いであるということに気付かず、縋るように見つめる。 だが、比瑪の持つ優しさは――相手が望む行動を無条件に行うような、思考停止の愛ではなく。 「私が教えるのは簡単だよ。でも、本当にそれでいいの? 君がやりたいことを私が決めるのは……違うよね。たとえ今どんなに辛くても、それは人に任せちゃいけないことだと思うんだ」 『だけど』 「ゆっくりでいいから。今は大変だろうけど、大丈夫だよ。私たちがついてるんだからさ!」 『歌も歌えない。何も出来ない俺がここにいてもいいのか?』 「いいんだよ。今は何もできなくても、きっと君にしか出来ないことがあるはずだから。 だから、今はその喉を治すことから考えよう! 私も君の歌、聞きたいしね」 そう言って笑う比瑪。 彼女の持つ優しさとは、いつも前へ進もうとするものだ。 今のバサラに足りない部分を補ってくれるものだ。 言われて初めて、熱気バサラが失ってしまったものは声だけではないと気づくことが出来た。 そうだ。 こんな逆境に立たされて――ただ状況に流されて不貞腐れているだけな熱気バサラなど、熱気バサラではない。 こんな時にファイトを燃え上がらせてこその熱気バサラなのだ。 声がいつ戻るのか、バサラ自身にも分からない。 分からないことは考えても無駄なのでやめ。どうにも出来ないことは悩まない。 今は出来ることをやる。 そう考えることが出来るようになっただけで、自分が自分を取り戻せたという実感が湧く。 『ありがとな』 湧きあがる感謝の念は言葉として返す。 出来るのならば歌の一つでも歌いたいところだが――出来ないのならばしょうがないのだろう。 歌えないということをしょうがないの一言で済ませることが出来るようになるとは思ってもいなかったなと、少しばかり苦笑い。 それも、こう考えよう。 熱気バサラは、この苦境をバネに、さらに成長すると。 歌えなくなったことで、歌うという行為がどういうものなのか、どれだけ自分の中で大きな存在だったかを、改めて確認することが出来たのだと。 『寝てる間に汗をかいちまった。シャワー借りてもいいか?』 「もちろん! 一人で行けるかしら? ついていこうか?」 『さすがに一人で大丈夫だ』 そう書いて、比瑪と顔を見合わせて笑う。 まずは一つずつ出来ることを。 座っていたベッドから立ち上がり、大きく伸び。 比瑪にシャワー室の場所だけ聞き、医務室から出ていく。 歩きながら考えた。これから――自分は、何をすればいいのか。 比瑪はゆっくりと考えればいいと言ってくれたが、悠長なことは言ってられない状況だということは、バサラとて分かっている。 だからといって、初志を曲げるつもりもなかった。 あくまでバサラが目指すのは、己の歌で争いを止めること。 シャワー室の扉を開け、更衣室に入るやいなや汗のしみ込んだ服を脱ぎだす。 思いきりひねるとノズルから心地よい熱さの湯が勢いよく飛び出してきてバサラの身体を濡らしていく。 汗と一緒に、身体の中に溜まっていた不純物が流れ出ていくような感覚。 全身がクリアになる。すっきりとしたところで、今度はシャワーノズルを喉にあてる。 ゆっくりと喉を温めていく。必要以上の刺激は与えずに、丁寧に。 まず、バサラがしなければならないこと――それは当然、自分の声を取り戻すことだ。 喉を震わせるために大きく息を吸い、一旦肺に留める。 大丈夫だ。今までさんざんやってきたことだ。それこそ、呼吸するかのように、自然に。 やり方は体が覚えているはずなんだから、何も気負う必要はないんだと自分に言い聞かせる。 呼気が喉の奥から吐き出される。それが声帯を震わそうとするも――音の代わりに生じたのは、疼痛にも似た痺れ。 やはり、自分の声が元に戻ることはないのか? 一瞬、そんな不安に駆られる。 ぶんぶんと首を振り、嫌な考えを頭の中から追い出す。ここで止まってしまえば、さっきまでの自分と何も変わりはしない。 今度はさっきよりも小さな音になろうとも、繊細に、そして声を取り戻すという強い意志を込めて。 「……ぅ、あ……おれ、のうたを……」 ――出せた。 今まで出そうとしても、意味のない音にしかならなかった自分の声が、再び自分のコントロール下に帰ってきた。 歌が、帰ってくる。 そのことがこの上なく嬉しく――頬を伝わる水滴が、少しだけ量を増していたのはバサラだけの秘密だ。 ◇ 「大丈夫かな、あいつ」 「大丈夫だよ、きっと」 バサラの去った医務室で、ガロードと比瑪はそんな話をする。 「バサラって……うん、ちょっとしか話してないけど、本当は頑張れる人だと思うもの。私たちはその手助けをするだけで十分さ」 「ふぅん……そっか、比瑪はあいつのこと、よく見えてるんだな。それに比べて、俺は……シャギアがどんな奴だったのか、よく分からなくなっちゃたんだ」 へへへ、と苦笑交じりに頭をかくガロード。 無理もないことだ。今のシャギアは、ガロードの知るシャギアとは大いに異なる。 時折見せる感情的な面は、確かにガロードたちと敵対したシャギア=フロストのもの。 しかし甲児たちとベタな漫才をするシャギアというものは――少なくとも、ガロードには想像できないものだった。 「ガロードがシャギアさんのことをよく知らなかったってこと? それとも、シャギアさんが変わっちゃったってこと?」 「それも分かんないな。元々、俺たちはそんなに仲が良かったわけじゃないし。俺が誤解してたのかもしれないし、比瑪たちがシャギアを変えたのかもしれない」 「私たちの前では、最初からあんな感じだったよ?」 「そうなのか。……じゃあやっぱり、俺が知らなかったのかもしれないな」 勿論、先ほど見せたニュータイプの呪縛から逃げ出せないシャギアを許すことはできない。 だが――本当は、その一点を除けば、フロスト兄弟と自分たちが敵対することはなかったのではないだろうか。 フロスト兄弟は悪である。その認識そのものが間違っていたのかもしれないと、今は自然とそう思える。 例えば、ティファが世界から拒絶され、迫害されるようなことになってしまえば――ガロードは、世界と戦うことに戸惑いはないだろう。 フロスト兄弟のそれも、同じような理由であるのかもしれない。どうすればいいのか分からず、戦う以外の道を選べなかったのかもしれない。 ならば、フロスト兄弟もまた、犠牲者なのだ。無為な争いのために運命を捻じ曲げられただけの。 しかし、それでも――フロスト兄弟の取った道は間違っている。それだけは正さなければいけない。 「ねぇ、ガロードは、依衣子さんと上手くやれてる?」 思考を遮る突然の質問に面食らう。 依衣子って誰だっけと一瞬戸惑うも、そういえばお姉さんの名前だとか比瑪が話してたなぁということを思い出す。 果たして自分とクインシィは上手くやれていると言えるんだろうか? 思い返してみると……毛布で縛られたり、ことあるごとに怒鳴られている記憶しか出てこないあたり、ガロードとクインシィの関係を物語っているような気もする。 だけど……クインシィが食べさせてくれたシチューは美味しかったし、お姉さんだって俺のことを信用してくれると言ってくれた。 「ま、まぁ仲良くやれてるとは思うけど……いきなり何なんだよ?」 「ん、ちょっとね。私、依衣子さんのこと知ってはいるけど……分かってはないんだよなぁって思ってさ」 「俺にとってのシャギアみたいだってことか?」 「そうなのかも。私の元からの仲間に、勇ってのがいるんだけど、依衣子さんは勇のお姉さんなのよね」 「ああ、それは聞いたな。お姉さんは勇を探してるって」 「勇がここにいるのかどうか、まだ分かんないけどさ。とにかく、私と依衣子さんの繋がりって、勇を通してでしかなくって…… 戦ったこともあるけど、それだけじゃ相手のことを分かることって難しいじゃない?」 ドキリとした。 戦うだけで相手のことを分かったつもりになる――自分がフロスト兄弟に対してしてきたことと、大して変わらないじゃないかと。 「だな。それだけじゃ分かんないってこと、俺も気づいた。……勇ってやつからは、お姉さんの話とか聞かなかったのかい?」 「勇はね、お姉さんのことだけじゃなくって、家族のことを話すのが好きじゃなかったから。一人だけオルファンを出て、オルファンと戦おうとしていたんだから」 「そっか……難しいなぁ」 「もっと仲良くしてほしいなぁと思うんだけどね。それでさ、勇には聞けなかったから、ガロードに聞こうかなって」 「俺がお姉さんのことを話すって?」 「うん。依衣子さんが起きてれば直接話すんだけど、起こしてしまうのも悪いじゃない。だからお願い」 なら仕方ないなと、ガロードはクインシィとの出会いから今までを話しだす。 時に冗談交じりに、時に真剣に語られるガロードの話を聞いていると、依衣子とガロードが良好な関係を築けているということが良く分かる。 私も依衣子さんと仲良くできたらなぁと、そんなことを思う。 気づけば結構な時間が過ぎている。時計を見てみると、針は10時を少し過ぎた頃を指していた。 今頃、テニアとオルバさんもどこかで誰かと仲良くなれていればいいなぁと、そんなことも考える比瑪だった。 ◇ ――助けて、兄さん 続いて襲いかかる、言い表しようのない虚無感。 返事をしろと何度念を送ろうとも、返ってくる念は永久に訪れない。 何故か。理由など、理解している。 だが、たとえ頭では分かっていても、心は納得してくれない。 更に強く念を送る。強く、もっと強く。 「応えろ……応えろオルバッ!」 声を張り上げいくら呼ぼうとも、既に意味など有りはしないのだと認めたくない。 心が必死に否定するそれを――しかし、聡明なシャギアの論理は、それは紛れもなく一つの事実なのだと受け止めている。 亡くしてしまったのだ。己の半身を。 病めるときも健やかなるときも、晴れの日も雨の日も、夏も冬も、常に共に在った唯一無二の存在を。 空虚が心を支配する。はははと、乾いた笑いがこぼれる。 身を引き裂かれるような痛みは、幻想などではない。 伝わるのだ。オルバから。 どれだけ辛く、寂しく、絶望したまま死んでいったのか――伝わってしまうのだ。 逝ってしまったオルバのために――自分が出来ることは、なんなのだろうか。 オルバを――生き返らせる。 当然のように考えたのは、それだった。 異形の甘言を受け、それに乗りかかる。優勝し、願いは勿論「オルバ=フロストを生き返らせる」だ。 冷静に考える。 今現在、シャギアはナデシコの全権を保持しているといっても過言ではない。 本来の艦長であった甲児はナデシコを離れた。ナデシコの力は、おそらくはこの場においてトップクラスのものだ。 この力を有用すれば――勝ち残りは、決して夢物語ではない。 ポイントとなるのは、同じく強力な戦力であるJアークとの交渉だろう。 オルバから伝わった情報。それは、交渉人ロジャー=スミスがナデシコとJアークの話し合いの場を設けるために奔走しているというものだ。 そして、その場所に出来る限りの反抗者たちを集め、結束の場にするつもりだということも聞いている。 もしJアークを中心に徒党を組まれてしまえば、ナデシコだけでは突破することも難しい。 だが――その会合の場において、ナデシコが決定的な裏切りをしてしまえば? その場でJアークを奇襲で落とし――あとは、散り散りになるであろう他参加者を各個撃破していく。 目下の邪魔は、ナデシコに居座るガロードだが――チャンスならばいくらでもある。 だが……あの怪物が、素直に約束を守るだろうか? 願いを一つ叶えるなど、そんな不確定なものに踊らされるのは、シャギア=フロストの為すことではない。 更に言うならば、最後の一人になれたところで、無事に元の世界へ帰れるという保証さえないのだ。 ならばこのまま対主催の立場を貫くほうが、利口ではないだろうか? 理屈では、前者を選ぶべきだと分かっている。 だがそれでも決められない。何故か、心のどこかに引っかかる部分があるのだ。 どうしてこんな時に、甲児君の顔が思い浮かんでくるのか。 比瑪君が手渡してくれた御飯茶碗を思い出すのか。 何故、どうして。戸惑いは増していく。 そもそも――シャギアは、気づいていない。 いつの間にか自分が甲児たちのことを「駒」ではなく、「仲間」と呼び始めていたことに。 演技だけでなく、本当に自分が変わり始めていたということに気付かないままに――シャギアは一人、生まれて初めての孤独を感じていた。 【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α) パイロット状態:深い喪失感、孤独 機体状態:EN55%、各部に損傷 現在位置:B-1東部(ナデシコブリッジ) 第一行動方針:首輪の解析を試みる 第二行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める 第三行動方針:意に沿わぬ人間は排除 最終行動方針:??? 備考1:首輪を所持】 【ガロード・ラン 搭乗機体:なし パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。 機体状況:なし 現在位置:B-1東部(ナデシコ医務室) 第一行動方針:シャギアを見張る 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索 最終行動方針:ティファの元に生還】 【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ) パイロット状態:良好、ナデシコの通信士 機体状態:EN100%、ミサイル90%消耗 現在位置:B-1東部(ナデシコ医務室) 第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行 最終行動方針:主催者と話し合う 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容 備考2:ナデシコ甲板に旧ザク・真ゲッター・ヴァイクラン係留中】 【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23) パイロット状況 神経圧迫により発声に多大の影響あり 機体状況:MS形態 落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障 現在位置:B-1東部(ナデシコシャワー室) 第一行動方針:自分の歌を取り戻す 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる 備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態:気絶中 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中 現在位置:B-1東部(ナデシコ医務室) 第一行動方針:勇の捜索と撃破 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード) パイロット状態:パイロットなし 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている 現在位置:B-1東部(ナデシコ格納庫内)】 【旧ザク(機動戦士ガンダム) パイロット状態:パイロットなし 機体状態:良好 現在位置:B-1東部(ナデシコ甲板) 】 【二日目10 30】 BACK NEXT 揺れる心の錬金術師 投下順 交錯線 獲物の旅 時系列順 交錯線 BACK NEXT 判り合える心も 判り合えない心も シャギア Lonely Soldier Boys &girls 判り合える心も 判り合えない心も 比瑪 Lonely Soldier Boys &girls 判り合える心も 判り合えない心も バサラ Lonely Soldier Boys &girls 判り合える心も 判り合えない心も ガロード Lonely Soldier Boys &girls 判り合える心も 判り合えない心も クインシィ Lonely Soldier Boys &girls
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「逃げるだと……」 追いかけてからどれくらいたったのだろうか。いつの間にか塔のもっと上層まで来ていたらしい。 辺りの様子はいつの間にか迷路のような場所から、中央に空洞を備え、周りに足場を備えたような場所へと変化していた。 中央から下の階が覗きこめるが、何階層も同じような構成が続いてるようで、空洞部分の底を見ることはできない。 その場所でルゲイエはようやく立ち止まり、セシル達の方へと振り返った。 「違うね~今この場所で君たちと戦うのは無意味なだけですよ」 「負け惜しみを!」 「そう思いたいのなら勝手に思っておきなさい、真なる勝利の為に一時の敗北を喫すのはなんら恥じるべきものではありませんからね」 「ぐっ……こいつ……」 ひょうひょうとした態度を崩す様子がないルゲイエに苛立ちを隠せないヤンであったが、謎めく言動の連続に今度は不気味さを感じていた。 「さてと、もうあなた達と話す事はありませんね。そしてこの体にも――」 ルゲイエの視線はセシル達を向いてはいなかった。狂気に満ちた眼は階層の中央部分から見渡すことのできる遥か眼下の闇を見ていた。 「何をする……?」 ゆっくりと闇へと近付くルゲイエにセシルが言葉をかける。 「まさか、飛び降りるつもりか?」 今の状況からしてそう考えるしかなかった。今が塔の何階層かは分からない。だがかなり高いところまで来てるのは確かだ。 その場所から飛び下りれば無事ではすまないだろう。 何故? 咄嗟に疑問を浮かべるがわからない。否、例え彼の口から直接聞きただしても分からないだろう。 「待て巨大砲は何処だ?」 理由を聞くことも、その行為を止める事も出来ないまま見守るしかないと思ったところでヤンが口を挟む。 「我々はこの塔に設置された巨大砲を止めに来た。あれもお前が開発したものなのだろ? ならば言えっ! どこにある」 無視されるものと思ったが、その言葉聞いたルゲイエはぴたっと足を止めて懐から何かを取り出した。 「あれならばもう少し階層を登ったところにある……」 取り出したものは鍵束であった。ルゲイエは振り返る事はせず背を向けたままにそれをセシル達へと放り投げた。 「その鍵を使えば巨大砲の制御室には辿りつけますよ……あとは好きにしなさい。あんなもの作った時点で興味はなくなりましたからね」 「待って――」 用は済んだとばかりに再び歩き出したルゲイエに今度はローザが口を開く。 しかし、その声は消え入るほどに小さいものであり、続くルゲイエの声にかき消されてしまった。 「もう発射の準備は殆ど終わっていますからね~急がないととんでもないことになりますよ~くくくくーーー」 言い終わらぬうちにルゲイエはその体を跳躍しその身を空中へと委ねる。 あっという間にその体は重力に引かれ遥か奈落の底へと姿を消していった。 去りゆくもの 残されるもの10
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「絶望したのだよ……魔法というものにねぇ……」 しかし続く言葉は最前までの狂気の陰りを充分に感じられるものであった。 「白魔法とは傷ついた人を癒す魔法である。だが、所詮はそれだけなのだよ……ほんの少しの痛みしか和らげる事の出来ぬ 気休め程度の魔法。失われてしまったものを完全に再生することなど到底かなわない、出来そこないで不完全なものなんだよ」 答えとは程遠いルゲイエの絶望の叫びが辺りに響き渡った。 「私は可能性を感じていたのだ! 魔法に! 人が新たなる段階に進めるのではないかと!! だから探し求めたのだよ!!! 魔法を使うことで、新しい世界がやってくるのではないか? 全ての人間に幸せを!! 人の誰もが理想通りに生きることが できる万能な世界。素晴らしき世界がやってくるはずだ。 しかし、魔法には限界があった。所詮は昔に生まれた古臭い概念 でしかなかったよ!!」 演説気味に喋るルゲイエに狂気は消えていた。 「知っているかね魔法の起源を? 昔この世界に突如現れた一人の人間によってもたらされたもの 「…………」 ローザは既に言葉を持たない。顔は蒼白気味だ。 「正直に言うとね、ローザ君。君たちに魔法を教えるのは悪い気分ではなかった。しかし、私自身の方に限界が近づいていたのだよ。 魔法という、底の見えたものにしがみつくなど……」 何処か遠い目で過去の感傷に浸るルゲイエ。だが、その時間はほんのわずかであった。 「だから私は求めた新しき力を、科学という力を。機械という未知なる力を。正直、ゴルベーザ様が何を考えているのか、何を成そうと しているのか私には分らない。でもあの御方は私に科学に触れる機会と研究する力をくれた。それだけで十分なのだよ……」 「そんな……」 力を振り絞ってローザはやっと悲観の一声を捻り出した。しかしそれ以上は何も言えない。 「それだけで、あなたは――世界がこんなになっているというのに!」 セシルがローザの気持ちを代弁して言葉を引き継ぐ。 「傲慢極まりないなルゲイエ。魔法で万全たる世界を作り出せると信じていたようだが……その考え自体が 「なんとでもいうがいい……私はもはや何事にも動じる気持ちはない。既に計画は動きだしているのですからね~」 けたたましく笑うルゲイエは激昂した様子をひそめ、元の狂気じみた笑いを浮かべていた。 その顔にはこのような状況にも関らず勝ち誇った様子が伺える。 「何を企んでいる?」 「教えるわけないでしょう。まあいずれは嫌でもわかる事ですよ……」 何か含みがあるのは間違いない。訪ねてみるがルゲイエはセシルの疑問を一蹴して踵を返す。 「待て!」 部屋から退出しようとするルゲイエをヤンが引き留めようとする。しかし、白衣の老人は全く聞く耳を持たぬままに歩みを続ける。 「逃げる気か」 そう言ってヤンが後を追いかける。セシル達も続いて後を追いかける。 去りゆくもの 残されるもの9
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「奴ら……許せん!」 ヤンが怒りを露にする。 「人を操るだけでは満足しないという事か!!」 カインが激昂する。 かつての操られた怒りが他の者以上の怒りを増幅する。 「いえ違うね~」 皆、ありとあらゆる意見が飛び交った。そのどれもが批判的であった。 その言葉に割り込む声が一つ。 感傷的なその場に於いてはあまりに陽気でひょうひょうとした声…… 「あなたは……?」 薄汚れた白衣を着て、白髪の髪を伸ばし放題にした老人。出で立ちからして科学者の類である事は間違いない。 そして、今この場所に入ってきたという事は目先の非人道的光景に関わっている可能性は非常に高い。 「私ですか~ゴルベーザ様のブレインことルゲイエ博士ですよ~あなた方はゴルベーザ達と闘っていると噂の方々ですね~」 この状況であるというのにルゲイエと呼ばれた老人は依然ひょうひょうとした語り口で話し続けている。 「ルゲイエ! 貴様! 許されると思ってるのか!」 カインが当事者を前にして更に怒りを増した声を上げる。 「おや~カイン君じゃないですか~なんですか~? いつの間に私達を裏切ったのですか~」 会話の流れを見るかぎりどうやらカインはルゲイエと呼ばれる人物と面識があるようだ。おそらくは操られゾットにいた時の事であろう。 「違う! 正気に戻ったのだ! それより言え、何故こんな事を!?」 「なんのことですか~」 それは突きつけられた事実にとぼけているわけではない。むしろ問いただされている内容に対し悪意を感じていないようだ。 「悪いと思ってないのか?」 ルゲイエの意図に気づき質問の内容を変える。 「だから~なにがですか~」 「くっ!」 「おじちゃんはなにも思わないの?」 平行線をたどる押し問うにリディアが口を挟む。 「おんや~今度は子供ですか~一体なんです~?」 「だから……こんな……」 ルゲイエの狂気じみた形相がリディアをまじまじと見つめる。 「一体なんです~」 「えっと、だから……人をこんな所にとじ……こめて……酷いことを……して」 そこまで言うのがやっとだった。 去りゆくもの 残されるもの5
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「なんで仲良くできないの? みんなお互いを高める為に集まってるんでしょ?」 その十年を人間という存在はただ一人といえる空間で過ごしてきたリディアは、温室育ちで世間の常識に疎いお嬢様の ようであった。複雑な空間である学校への疑問はつきない。 「……不安だからよ」 そんなリディアに対し、言っていいのかどうか悩んだような表情でローザは言葉を続けた。 「いくら自分に自信がある人だって、一つの道ならば誰にも負けないと自負してる人だって多くの中に交われば、自分が井の中の蛙 であった事を知る。そこからその人はどういう答えを導き出すか? 私が思うに答えは二つ。自分の才能と相手の才能を冷静に比較し、 それを否定する事なく受け入れる。もう一つは他人を否定する事によって自分を肯定する事」 「…………」 「そのどちらが正しいのかは私には分らない。多分頻度の問題ね。前者を白、後者を黒としましょうか。白だったら自分を認めて より一層己を高めることができる。でも完全に白に染まった人はただ自分に自信を無くし相手に迎行しているだけ、自分を失った といえるわ。だったら後者はどうか。相手を認めないで否定すれば、新たな道が見えてくる可能性がある。たとえ遠回りだとしてもね…… でもその考えが行き過ぎると、他人を否定するだけして己を止めてしまう」 「例外があると思うがな」 カインが口を挟む、 「己の道とその場所が合わなかったもの。そいつは別の場所で上手くやるかもしれない。また、学校というものが枠内に収められた空間だとすれば、 当然その枠内に収まりはしないものもいる。ある意味道を示されずとも自らで歩きだせる。天才とでもいえる存在なのかもしれん」 そこまで言ってルゲイエを見た。 「たとえばコリオのようにな……」 「ほう~その者の名には聞き覚えがある~ああ~懐かしいですね~」 「そしてお前もコリオと同類といえるだろう」 「どういうことですかな~」 ルゲイエは答えが分かっているのに態々質問しているかのようであった。 「目の前の事態に絶望し、新たなる道を模索する為にその場所を去ったということでだ」 「ほほう、やはりあの若者もですか。まあ当然ですね。彼も決められた枠内で終わる程の人材ではないと思ってましたからね」 コリオとは地底に行く前に出会ったあの若者の事だ。彼もバロンの学校にいたことがあった。 事実を聞いたルゲイエは妙に納得し得心がいったようであった。 「ルゲイエ……せんせい。教えてください何故あなたはこのような事を……何故此処にいるのかを……」 真実を尋ねるローザの口調は所々たどたどしかった。まだ先生と呼ぶことが自分にとっても相手にとっても許されるのか? 見知った者が人の道に外れた行いとしているという事実を未だに受け入れ切る事が出来ない迷いのせいなのか。 「ああ構わんよ」 かつての教え子に対するルゲイエの言葉はそこだけ聞けば穏やかなものに聞こえた。 去りゆくもの 残されるもの8
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「セシル殿」 ほどなくしてヤンの返答が返ってきた。黒煙が視界を邪魔するこの場所で、現れたヤンは先程セシルの前から 姿を消した時となんら変わった様子はない。 「良かった」 どうやら心配は杞憂に終わったようだ。見たところ大した怪我もしてない。 「いえそれがあまり良くない状況なのです……」 しかし安堵の息を漏らすセシルに比べ、ヤンの表情は暗い。 「どういうこと?」 「ご覧の通りです」 そう言って回りへと視界を促すヤン。 「私がやってきた時には既にこの状態でした……」 つまりあらかじめ制御室は何者かの手によって壊されていたという事か。 それはどういう事を意味するのか? 「どうやら既に巨大砲の発射準備は完了してしまったようです……」 考えを張り巡らしている途中にヤンが口を開いた。 「だったらそれを止めないと――」 台詞の途中で自ら気づく。 「発射準備さえしておけばあとは放置しておけばいい。万が一それを阻止する者がやってきても、制御機械を壊しておけば 止めようがない。そういう事です」 セシルの様子を見てヤンが結論を述べた。 「あのルゲイエという男がここまで計算に入れていたのかは分かりません。しかしこれで我々が巨大砲を止める手段は 無くなった……」 冷静に語るヤンであるが拳は震えていた。打つ手なしといった状況が悔しいのだろう。 去りゆくもの 残されるもの13
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「え……ぐ」 「リディア! もういい!」 今にも泣き出しそうなリディアを慌てて宥め、その口を閉じさせる。 ここで何が行われていたのかを想像するのは容易い。それをわかってルゲイエはリディアに尋ねたのだ。 「あなたって人はっ!」 セシルも怒ったような言葉を向ける。 「あなたもわたしに説教ですか~? やはり私の考えを理解するのは一般人共には無理があるということですかね~」 相次ぐ非難が頭に来たのかどうか知らないが、ルゲイエは急に多弁になった。 「この人たちの事か……これがあなたの結果なのか。ならば教えるんだ。一体ここで何をやっているんだ」 正直、あまり聞きたくはなかったが。これが奴の、ゴルベーザのやりくちなのか確認したかった。 「ふん、それはゴルベーザ様の計画の手助けとしてやったものだ。人と魔物を融合させて、より一層強力で命令に忠実な 手駒をつくるのだ。人間の知恵と魔物の力を兼ね揃えた最強の兵士となるだろう」 「命令されたからやったのか? なら誰がそれを提唱した?」 怒りの気持ちを抑えつつ、疑問点を口に出す。下手に出て怒らせてしまったら、聞き出せなくなる。 それにこのルゲイエという男、怒らせてしまうと何をするのか分からない気がした。 「ああ、考えついたのは私ですね。それをあの御方、ゴルベーザ様に進言したところ、特に止められる事も無かったから勝手に 実行に移させてもらったのですよ」 「やはりあなた自身が……」 間違いない。この男が興味を持ってやった所業だという事だ。 「くそっ! まさかルゲイエ。お前がこんな奴だったとは思わなかったぞ!」 カインが怒りの言葉を再度口にする。 「目的の為には手段を選ばないとでも? それは残念。カイン君、あなたとは似たもの同士と思っていたのですけどね~」 「黙れ! この狂人め!」 「うへへへへーーーーああ~~有難う、アリガトウ!!! 最高の褒め言葉だよ!!!!」 激昂したカインの非難はルゲイエを怒らせるどころか逆に喜ばせているようであった。 「お前は生かしておけん! ここで打ち倒させてもらう!」 「おおっと! 力にものを言わせるのですか!? 悪いとは言いませんが、今のところ私はあなた方と戦うつもりは毛頭ありません やるべき事がありますからね、それでは――」 踵を返し、部屋から退出しようとするルゲイエ。カインは慌てて追いかけようとした、セシルも同じだ。逃がすつもりはなかった。 だが、その前にルゲイエを引きとめる声が一つ。 「どうしてですか……」 それは怒りも悲しみも含まない声であった。 「どうしてあなたがここにいるんですか?」 消え入りそうな声は必死に音量を絞り出していた。 「おや~やっぱりいたんですか~無視されてるのかと思いましたよ~ローザ君?」 ルゲイエも足を止めて、セシル達の方向へと振り返り直した。 「久し振りです、ルゲイエせんせい」 去りゆくもの 残されるもの6