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555 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 14 05 ID KgIpHWOW ――あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ。 何の変哲も無い、いつもの朝方の教室でのことだった。 ホームルーム前の教室は相変わらず賑やかで、あちらこちらと会話が生まれ、正に談論風発としている。 そんな中、私は彼等の輪の中に入ろうという気も起きず、深海魚のようにじっと座って、ぼんやりと何処か遠くを眺めていた。 そんな風にしていたのがいけなかったのかもしれない。 不意に昨日の言葉が頭を過り、私は顔をしかめたのだった。 ハァと、恋する乙女のような物憂げな溜め息をしてから、眉間の辺りを指で揉む。気分は一向に良くならない。 久しぶりの斎藤ヨシヱとの邂逅は、私にとってはもはや消し去りたい過去のひとつになっていた。 昨日のことは、何度思い出しても恥ずかしくなる。柄にも無く感情的になって、自分の内面の一角を安々とさらけ出してしまった。あのことは確実に、私の黒歴史の一ページに刻まれたことだろう。 ああ、駄目だ。 考えれば考えるほど、心がむずむずとこそばゆくなる。しかし逆に彼女のことを考えないように意識すると、より一層濃く残滓するのだ。 まるで呪いだな、と私はうんざりした。 斎藤ヨシヱと会った後は、いつもこうだった。 彼女はいつも、私の仮面の下の素顔を暴こうと何らかの揺さ振りをかけてくる。 しかも嫌らしいことに、彼女ならそんな仮面簡単に剥がせる筈だろうに、あえてそうしないのだ。じわりじわりと私を追い詰め、いつもギリギリのところで手を引く。 そういう人を手玉に取っているような行動は、はっきり言って腹が立つものだった。自分が道化のような気がしてならないからだ。 あのサディストめ、と私は心中毒づいたが、懲りずに茶道室へと通い続ける私も、またマゾヒストなのかもしれないと思い直し、再び苦い気持ちになる。 とにかく、昨日のことは早く忘れるが吉だ。 私はいやいやするように、軽く頭を振るのと同時に雑念をも振り払った。 そして、何気なく前を見る。 と。 そこに、見覚えのある背中を見つけた。 小動物を思わせる雰囲気を纏ったその背中は、間違いなく彼女だろう。 田中キリエ。 確か、昨日は風邪を患わって休んでいた筈だが、どうやら無事に回復したらしい。 本人は、身体が弱く欠席することが多いと言っていたけれど、あまり病を長引かせるタイプでもないみたいだ。 556 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 15 15 ID KgIpHWOW それにしても。 たった一日会わなかっただけというのに、彼女を見るのも随分と久しい気がする。 そう思えるということは、田中キリエは私が想像しているよりもずっと大きい存在になっているのかもしれない。 私が無意識にじぃと見つめていたせいだろうか。 突然、彼女が後ろを振り返った。 必然と目が合う。 そのまま目を逸らすのもアレなので、私はニコリと微笑んで会釈した。 すると、田中キリエもはにかみながら会釈を返してくれる。その笑顔に病の余韻は伺えない。 よかった、ちゃんと治ったみたいだ。 私は安心し、それで朝の挨拶も終わりだと思ったのだが―― あれ? 何故か、彼女はまだ私のことを見つめていた。 何かを期待するような、もしくは示唆するような、そんな視線を私に寄越し続けている。 どうしたのかしら。 不思議に思って私も目を離せずにいた中、ガラガラとしたローラー音と共に教室のドアが開いた。 担任が入って来た。 早く席に着け、という鶴の一声によって散らばっていた生徒達も自分の席へと戻っていく。 私も田中キリエもそこで視線を離した。 それから、朝のホームルームが始まったのだが、 「…………」 まだ、見てる。 彼女は、担任の目を盗んではチラチラと私の方を見ていた。 もしや、私の顔に何かついているのか。 そう思って自分の顔をぺたぺたと触ってみたけれど、特に変わったものはついていないように思えた。ついているものといえば、馴れ親しんだ形の悪い目や鼻や口ぐらいだ。 うーん。 私は困ったように頬を掻く。というか実際困っていた。 しばしの思案の後、結論を出す。 無視しよう。 正直、自分からわざわざ、一体全体どうしたのですかと聞きに行くのも面倒臭いし、それに彼女だって子供じゃないんだから、用があるのなら自分から言ってくるだろう。大して気にすることでもない筈だ。 なので、私は担任の話に集中することにした。 なんの面白みの無い平板な声が耳に届く。 期末テストが近いせいか、担任の話は全てテスト関連の話だった。テスト対策や日程について、しつこく生徒達に聞かせている。少しでもクラスの平均点を上げたいのだろう。 私はテストの杞憂よりもむしろ、もうそんな時期になるのか、という時の流れについて驚いていた。 557 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 16 46 ID KgIpHWOW 中間テストをやったのもついさっきのような気がしているのに、もう期末が始まってしまう。まるで私だけが流行に乗り遅れてしまったみたいで、妙な孤独感を感じた。 私は、おもむろに窓の外に目を向ける。 夏の間は緑色に繁っていた桜の木も、今では木の葉ひとつ無かった。 時間は、たしかに流れていっているのだ。 期末テストが終われば、冬休みが始まし。冬休みが終われば、新学期が始まるし。そして新学期が終わる頃、卒業式が行われる。 そして卒業式が終われば――上級生である斎藤ヨシヱは、この学校を去っていく。 そんなことを考えている時。私はなんとも言えない複雑な気持ちになる。 私と彼女の関係は、一言で表せない程に目茶苦茶なものだ。 一応、友人関係ということになってはいるが、実際はポケットにつっこんだイヤホンのコードみたいに、私達の関係はこんがらがっている。 なので私には、彼女が卒業するのは悲しいことであるのと同時に、嬉しいことでもあるのだ。矛盾した言い方であるが、他に適した表現も見つからないので仕方ない。 そういえば、斎藤ヨシヱは進路はどうするのだろうか。 無難なのはやはり進学だが、彼女が大学生っていうのもなんだかイメージが湧かない。そもそも、高校生である今でも違和感を感じているというのに。斎藤ヨシヱは、あの達観している態度のせいかやけに年上に見えるのだ。 まあ、いいか。 今度まとめて聞いておこう、と私は思った。 そんな中でも、視線の矢は未だに私を捉え続けていた。 結論から言えば、無視出来なくなった。 田中キリエは、一限目の数学の時も、二限目の日本史の時も、三限目の現代文の時も、ずっとずっと私のことを見続けていた。 しかも彼女の見方の巧みなことやら。 田中キリエの座る最前列の廊下側という位置上、後列にいる私を見るためには否が応でも後ろを振り向かなくてならないのだが 彼女は周囲の人間が気をそらしたその瞬間を見計らって後ろを振り返るという高度な技術を駆使しているため、私以外の人間は気付いた風ではないのだ。 そんな状況に、思わず私も眉根を寄せる。 こうも見られてしまっては、全く授業に集中出来なかった。 ここまでくると、もはや盗み見というより、むしろ監視だ。気分はまるで看守と囚人。 558 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 17 47 ID KgIpHWOW 正直、ウザい。 ノートも中途半端にしかまとめられてないし、言いたいことでもあるのなら、さっさと言ってしまえばいいのに――と。 そこで漸く、私は気付く。 そうか。したくても、出来ないのか。 田中キリエの恥ずかしがり屋、常に一歩引く控え目な性格を考えると、クラスメイトの目がある教室内で異性の私に話し掛けるなど、到底出来ることではない。 あまり付き合っていることを公言したいような子にも見えないし、むしろひた隠しにしたいタイプだろう。変に話しかけたりして、私達の仲を疑われるのは避けたいはずだ。 まあ、そうとわかれば話は早い。 人目がある所が駄目ならば、人目が無い所に行けばいいまでだ。 私は三時間目が終了すると、ひとり教室を出た。 後ろを見てみると案の定、田中キリエがひょこりと顔を出していた。それから、距離を置いてトコトコとついて来る。 どうやら私の予想は当たっていたらしい。珍しく、今日は冴えている。 私は、彼女がついてきてるかどうかを確認しつつ、非常階段を目指した。 学内で人気が無いとこといえば、あそこぐらいしか思い付かないし、ここ最近は中々の頻度でお世話になっているため、へんな愛着が沸いてるからだ。 そして暫く歩いていると、非常階段前に着いた。 想定通り、周りには私以外誰も居なかった。遠くから生徒の騒ぐ声が辛うじて聞こえるくらいで、後は静かなものだ。この場所なら、彼女も気兼ねなく用件を話すことが出来るだろう。 田中キリエは遅れてやって来た。 「あの、なんだかすいません。気を使わせちゃったみたいで」 彼女はぺこりと頭を下げる。 「いえいえ、気にしないでください。それよりも、何か私に言いたいことがあるのでしょう?」 「うっ、うん」 私がそう聞くと、田中キリエは急に顔を赤らめたり指を弄ったりと、もじもじし始めた。 こうなってしまうと彼女が長いことは、今までの経験から知っていた。 のんびりと話を切り出してくるのを待つことにする。 「あの、よかったら……」 蚊の鳴くような声で、彼女は切り出した。 「よかったら、お昼ごはん一緒に食べませんか……?」 「お昼ごはんですか?」 「はい。鳥島くんがよかったらでいいんだけど」 「いや、全然大丈夫です。うん、そうですね。お昼ごはん、一緒に食べましょう」 559 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 19 28 ID KgIpHWOW 私がそう言うと、田中キリエの顔が太陽みたいにパーっと明るくなった。それからありがとう、と言って身体をくの字に曲げる。 昼食ぐらいで大袈裟な人だ。 それにしても、そんなことが言いたいがために授業中あんなに見ていたのか。 「それじゃあ、場所は――」 と、田中キリエが言いかけたところで予鈴が鳴った。 時計を見れば、もうそろそろ戻らないとマズイ時間だ。 「教室に戻りましょうか。昼休みになったら、またここで落ち合いましょう。場所についてはその時に教えてください」 こくりと頷き、了承してくれた。 「後、それと」 私はポケットから携帯電話を取り出すと、苦笑混じりに言った。 「これからは何か言いたいことがあったら、メールにしてくれると嬉しいです。その、授業中にあんなに見られると、あまり落ち着かないので」 私の進言に彼女は、あっと目を開いて赤面した。そして、呟くようにゴメンナサイと言う。 やはり、メールをするという発想には至らなかったみたいだ。 そんな田中キリエを見て、可愛いらしい人だな、と私は頬を緩ませた。 昼休みになって、私は購買部へ赴き昼食を購入した。 残念なことにカレーパンは残っていなかったので、メロンパンとコーヒー牛乳を代替品にする。 購入品の入ったビニール袋を片手に引っ提げて、私は足早に階段を登っていった。 いつもならそのまま教室に向かうのだが、今日はちょっとだけ進路を変えてみる。 自分の教室がある階をさらに飛ばして、私はさらに上へと昇って行った。 目指す先は、屋上だ。 「お昼は屋上で食べませんか?」 四時間目が終わった後。 非常階段の前で再び田中キリエと落ち合うと、彼女は迷わず屋上を指定した。 我が校では、他の高校と比べ珍しく、一般の生徒に屋上が開放されている。 そのため、春や秋などの屋外ですごしやすい季節には、沢山の生徒が屋上で食事をしたり、お喋りをしたり、告白をしたりと中々の賑わいをみせる場所なのだが、生憎今の季節は冬だ。おそらく、屋上には人っ子ひとり居ないことだろう。 確かに人気は無い。 屋上ならば、彼女も気兼ね無く私と共に昼休みを過ごせることだろう。 確かに人気は無い。無いけど。 560 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 20 39 ID KgIpHWOW 「屋上ですか……」 正直、彼女の提案は私としてはかなり頷き難いものであった。 前々から言っていることなのだが、私は根っからの寒がりなのである。 この季節に屋上など行ったら、ヘタしたら凍死してしまうかもしれない。 ということなので、さすがの私も反論を試みようと口を開いたが、何故か肝心の言葉が何も出てこない。屋上以外に昼食をとれる場所が何も思い付かないのだ。 結局、私は渋々承諾することになった。渋々と言っても、もちろん顔や態度には出していないけれど。 そして話し合いの結果、弁当持参の田中キリエは先に屋上で待ち、私は購買部で昼食を購入してから屋上に向かうということになったのだった。 階段を昇り終え、踊り場に辿り着いた。 踊り場に田中キリエの姿は無かった。 此処に居ないということは、おそらく先に屋上で待っているのだろう。 というか、いっそこの踊り場で食事をしてもいいんじゃないのか、と私は思った。 埃っぽいのさえ我慢すれば、問題など全く無いのに。わざわざ屋外で食べる意味がわからない。 けど、そんな文句を言ったって仕方がない。 私は、屋上へと通じる重い鉄製の扉を押し開けた。 開け放たれた扉の隙間から、しんしんと冷え込んだ空気が漏れ出してくる。それだけで嫌になる。 そして、屋上に足を踏み入れた。 「寒い……」 思わず呟く。 わかってはいたことだけど、やはり屋上は寒かった。 寝る時に湯たんぽが欠かせないような自分には、この寒さは中々厳しい。 私はぶるぶると震えながら、辺りを見回した。 春や秋には賑わう此処も、今では誰も居なかった。檻のように囲んでいる転落防止のフェンスと、落書きだらけのベンチが数個設置されているだけだ。 周囲に田中キリエの姿は見えない。 「あっ、鳥島くん。こっちこっち」 と、聞こえてくる声は後ろからだった。 振り向くと、田中キリエは屋上内の隅にある貯水タンクの辺りでちょこんと座っていた。 なんでそんな所に、と私は疑問に思ったが、理由はすぐにわかった。 暖かい。 そこは、ぽっこりと突き出た踊り場の壁と、貯水タンク等がうまい具合に風を遮って、まるでかまくらのような暖かさがあったのだ。 助かった、と私は胸を撫で下ろす。ここならまだ我慢出来ない程ではない。 それにしても、田中キリエも事前に調べていたみたいに良い場所を知っている。 561 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 22 19 ID KgIpHWOW 私は彼女の側に歩み寄ると、その隣に腰を下ろした。 その時、田中キリエがさりげなくハンカチを敷いて、私のズボンが汚れないようにしてくれた。気が利く子だな、と感心した。 「それじゃあご飯にしよっか」 と言って、カバンの中から弁当箱を取り出し、さあ昼食だとなる筈だったのだが、彼女が突然あっと悲鳴を漏らした。 「どうしたんですか?」 「水筒、教室に忘れてきちゃったみたい……」 弁当箱は持ってきているのに水筒を忘れるなんて……。彼女も案外マヌケなことをする。 朝の睨めつけの一件もそうだけど、田中キリエは意外とドジをやらかす娘なのかもしれない。 「今から水筒取ってくるんで、先に食べててください」 彼女はそう言い残すと、すくっと立ち上がり、お尻をはたいてから慌だたしく駆けて行った。 そんな田中キリエの背中を見送る。 「それじゃあ、先に食べるかな……」 お腹も空いていたので、私は彼女の言葉に甘えることにする。 ビニール袋からメロンパンを取り出し封を開けようとしたのだが、その時ふと彼女の学生カバンが目に入った。 チャックが開いたままのカバンの中からは、携帯電話が覗いている。もう何世代か前の、既に型落ちしてしまったスライド型の機種だ。 「…………」 ふと閃く、ある考え。 私は、意味ありげにその携帯電話見つめる。 そして幾らかの逡巡の後、私はその携帯電話を利用することにした。 学生カバンの中に手を突っ込み、そのままの状態で携帯電話を操作する。これなら、田中キリエが戻ってきても直ぐにごまかせるだろう。 他人の携帯電話の慣れない操作に戸惑いながらも、私はなんとかメニュー画面を開いた。 あった。 私は画面に映るアドレス帳の項目を見つけると、迷わずそこをクリックした。 田中キリエは意外と早く帰ってきた。 右手には忘れ物であろうピンク色の水筒が握られていて、急いできたせいか軽く肩を上下させている。 「先に食べてて良かったのに……」 田中キリエは、手中にある封の切られていないメロンパンを見て、申し訳なさそうに言った。 「まあ、そういうわけにもいかないと思いまして」 私は曖昧に笑ってごまかす。 「食事は一人で摂っても美味しくないものですよ。それに、せっかく屋上まで来たんだから一緒に食べたいじゃないですか」 なんていい感じに締めて、私は横に座るよう促した。 562 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 23 39 ID KgIpHWOW 田中キリエは水筒を地面に置いて腰を下ろした。 「それじゃあ、今度こそお昼だね」 彼女はそう言って、学生カバンを膝上に乗せた。そして、弁当箱を取り出そうとカバンの中に手を伸ばしたのだが――不意に動きが止まった。 「どうしたんですか?」 コーヒー牛乳にストローを挿しこみながら、何気なく聞いてみる。 「鳥島くん、もしかして私のカバンいじった?」 「カバン、ですか?」 私はきょとんとした表情で田中キリエを見た。 「いえ、特に何もしていませんけど……。どうかしたんですか?」 「そう、だよね……。ううん。別に気にしないで。多分、私の気のせいだと思うから……」 そうは言うけれど、彼女は中々会得がいかない様子であった。訝し気にカバンの中を覗き続けている。 それから漸く諦めたのか、やがてカバンから弁当箱を取り出した。それは彼女の身体に比例した、とても小さな弁当箱だった。 「お弁当は自分でつくっているんですか?」 「うん、一応」 「すごいですね」 「そんなことないよ。お弁当をつくるなんてことぐらい、みんなやってることだし」 と言いながら、彼女は弁当箱を開けた。 私も自然と視線を移す。 「へぇ」 思わず感嘆の息が漏れた。 田中キリエの弁当は凄く美味しそうだった。 油物と野菜のバランスがいい上に、見た目の色合いもきちんと考えられていて、一目見てそれが美味しいということがわかるような、料理のお手本みたいな弁当だった。高校生の弁当にありがちな、冷凍食品の類も見当たらない。 「料理、上手なんですね」 お世辞とか抜きに、心からそう思った。 「そんなことないよ」 しかし、田中キリエは困ったように謙遜する。人に褒められるのが苦手なのか、早くその話題から逸れてほしそうに見受けられた。 「そういう鳥島くんは、いつもお昼は購買部で買ってるよね」 「そうですね」 「お弁当にはしないの? 家族の人につくってもらうとか」 「出来ればつくって貰いたいんですけど。残念ながら、家族はみんな朝忙しいんで、弁当をつくる暇なんてとてもとても」 と言いながら、私は妹の鳥島リンのことを考えた。 そういえば、リンちゃんは昼食はどうしているのだろうか。彼女も結構器用な人だし、案外自分で弁当をつくっているのかもしれない。 563 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 24 54 ID KgIpHWOW 「それならさ」 と、田中キリエがもじもじと太股を擦り合わせながら言った。 「……よかったら、私が鳥島くんのお弁当つくってこよっか?」 「えっ?」 思わぬ提案に、私は目をパチクリとさせる。 「そんな、悪いですよ」 まず口から出たのは遠慮だった。 弁当をつくって貰うこと自体は、私としては願ってもない提案ではあったが、朝一番から彼女にそんな労苦をいとわせるのはさすがに気が引けた。 「全っ然っ悪くなんかないよっ!」 しかし田中キリエは即座に否定する。 「私のお弁当をつくるついでだしさ、手間とか全然かからないから全然平気。というか、鳥島くんはそんなの全然気にしなくていいよ。本当、全然全然」 全然を連呼する彼女である。 「ああ、でも、その代わり私と同じメニューになっちゃうけど、それでも大丈夫かな?」 どうやら弁当をつくること自体は、もう決定事項らしい。 「そんなそんな。いやあ、嬉しいなあ。それじゃあ、お願いしてもいいですかね?」 「うんっ」 田中キリエは、満面の笑みで快諾した。 私も嬉しくなって、思わず鼻歌でも歌いたくなった。 誰かにご飯をつくってもらうなんて随分と久しぶりだ。彼女の料理の腕は目の前の弁当で証明済みだし、これから昼食は楽しみになるぞ。 ニコニコと微笑みながら、メロンパンをかじる。 恋人を持つのも、そんなに悪くないかもしれないな。 私は初めて田中キリエの存在に感謝した。 それから、私達は弁当をつつきながら談笑に勤しんだ。 私にとって意外だったのは、田中キリエとの会話が弾んだことだった。 私はどちらかと言えば口ベタなほうなので、正直気まずい雰囲気になるんじゃないかと危惧していたのだが、それもどうやら杞憂に終わったらしい。 彼女はかなりの聞き上手だったのだ。 私の何でもない話にも丁寧に相槌を打ち、それに聞くばかりではなく、自分の意見も織り交ぜて返答するので自然と話が続く。それこそ、会話はボールのようにポンポンと弾んだ。 自分にとって、彼女との会話の持続が一番の懸念材料だったのだけに、私はひどく安心した。 そのせいか、多少気が緩んでいたのかもしれない。 気が付けば、彼女のことを話に持ち出していた。 564 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 26 38 ID KgIpHWOW 「そういえば田中さんって、マエダさんと仲が良いんですよね」 「えっ?」 私の口からマエダカンコの名前が出たのが意外だったのか、田中キリエはただでさえ大きい瞳をさらに大きくさせる。 「マエダさんって、もしかしてカンコちゃんのこと?」 彼女の問いに私が首肯してみせると、田中キリエは嬉しそうに破顔させた。 「うん、カンコちゃんとは凄く仲が良いよ。私にとって、一番の仲良しさんじゃないかな」 一番の仲良しときたか、と私は思った。 実を言うと私は、田中キリエとマエダカンコが本当に友人関係なのかを疑っていた。 二人は見ての通り全くタイプの異なる人間だし、マエダカンコの異常愛もあるから、マエダカンコが一方的に田中キリエに好意を寄せているというセンもあったが、今の証言でそれも消滅した。 「マエダカンコって、漢字ではどう書くんですか?」 いい機会だと思って聞いてみる。 すると、田中キリエは空中に人差し指を掲げて、まるで虚空に浮かぶ用紙にでも書くように、つらつらと文字を連ねていく。ちゃんと鏡文字になっていないあたりの配慮が、実に彼女らしい。 やがて、文字を書き終えた。 “前田かん子” 空中に刻まれたその文字を、私はじっくりと見つめる。 その時初めて、本当の意味で彼女の名を知った気がした。 「彼女とは、何時からの付き合いで?」 私はさらに質問を重ねていく。 「えーっと、かん子ちゃんとは中学校からの付き合いになるのかな。て言っても、最初は全然話したりしなかったんだけどね。けど、あることがきっかけでそれから凄く仲が良くなったんだ」 「そのあることとは具体的に?」 私は身を乗り出すようにして、さらに質問する。 我ながら多少強引過ぎるとも思うが、しかし前田かん子の情報はよく聞いておきたかった。 これから、彼女の存在は嫌でも大きなものになっていく。 けれど、私は前田かん子のことをあまりに知らない。知っていることと言えばせいぜい、田中キリエに抱いている異常なまでの愛情と、胸が大きいことぐらいだ。 クラスの人間に聞くという選択肢もあるが、それでは些か信憑性に欠けた。 噂というのはたいてい何かしらの脚色がされて、妙な尾ヒレがついているからだ。 それに比べ、田中キリエから得られる情報は確実である。 なんせ、前田かん子の一番の友人を自負しているのだ。彼女からなら何の誇張表現の無い、ありのままの情報が得られる筈だ。 565 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 27 48 ID KgIpHWOW 「鳥島くん」 と、耳に届いたか細い声で我に返る。 少しがっつき過ぎたか。 そう思って、すいませんと謝りながら後ろへ身を引いたのだが――今度は逆に、田中キリエが私の方に身を乗り出してきた。 あまりに突然のことだったので、私はそのまま体勢を崩し仰向けに倒れた。彼女はその上に乗っかるような体勢をとって私を見下ろし―― 「ねえ、鳥島くん。どうしてそんなに、かん子ちゃんのことを知りたがるの?」 ――静かに詰問した。 思わず、戦慄する。 田中キリエの顔からはいつの間にか、およそ表情と呼べるものがごっそりと抜け落ちていた。のっぺら坊のような無機質な顔で私を見つめる。 人間ってこんな顔も出来るんだな、と少し感心した。 「大して深い意味はないですよ」 しかし私の態度に変化は無い。 「ただ、前田さんってこの学校じゃ凄い有名人じゃないですか。だから、どんな人なのかなってちょっと気になっただけで他意は無いですよ」 田中キリエは私を見下ろしながら、そうなんだ、と短く言った。そのくせ、彼女はこれっぽっちも納得していないように見えた。 「でも、おかしいなあ」 わざとらしく小首を傾げてみせる。 「どうして鳥島くんは私とかん子ちゃんが友達だってことを知っているのかな?」 「それは――」 この時、私は何故かこの質問に対して妙な間を置いてはいけないと思ってしまった。いや、思わされてしまった。 そうしなければ怪しまれるぞ、と。 なので、気がつけば私の舌は私の意思とは無関係に、自分勝手に言葉を紡ぎだしていた。 「それは、クラスの人達が話しているのを小耳に挟んだんですよ。前田さんと田中さんは仲が良いって――」 あっ。やっべ。 言ってから気付く。今の発言はマズった。 私は慌てて口を塞いだが、もう遅い。 田中キリエも勿論、今の失言を見過ごす訳が無く 「おかしいなあ」 とまた呟いた。 「……何がおかしいんでしょうか?」 私は半ば諦め気味に彼女に問いた。 566 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 29 02 ID KgIpHWOW 「だって私、この学校では私とかん子ちゃんが友達だってことを誰にも言ったことが無いんだもの。だから、クラスの人達がそんな話をしている筈が無いんだけどなあ。 「しかも私、かん子ちゃんに学校で話したことも一度も無いんだよね。かん子ちゃん学校で話しかけられるのスゴイ嫌がるから。だから、もし会っても無視しろってきつく言われてるんだ。 「もちろん、かん子ちゃんのことは鳥島くんにも話したことないよね。ねぇ、鳥島くん。なのに、なんであなたは誰も知らないことを知っているのかな?」 思わず、溜め息を漏らしそうになる。 さあて、どうするかな。 「でもそれって、あくまで田中さんが話していないだけですよね」 意味無いとはわかっているが、一応形ばかりの反論をしてみる。 「あなたたちの話をしていたその生徒が、偶然街中で二人でいるところを目撃したのかもしれないし、それとも中学時代のことを知っていたのかもしれない。例え田中さんが話していなくたって、二人の仲を知る可能性はいくらでもありますよ」 「うん。そうだね」 田中キリエはあっさりと同意してみせる。 「確かにその可能性もあるけど、それだと話がますますおかしくなるんだよね。さっき鳥島くんも言ったように、かん子ちゃんってこの学校じゃスゴイ有名人なんだ。学校の皆が、かん子ちゃんの一挙一動に注目してる。 そんな注目を浴びてるかん子ちゃんに友人が居ることが、しかも同じ学校に通っていることが判明して、何も起こらないと思う? 普通は何らかのアクションが起こる筈だよね。 まず起こるのは、間違いなく話の伝播。話は人から人へとどんどん伝わっていって、やがて学校中に広まる。そうなったら、私も今頃はかん子ちゃん並の有名人になってる筈だよ。あの前田かん子の親友の田中キリエだー、ってね。 「けど、もちろん私は今有名人なんかじゃないし、誰かにかん子ちゃんのことを聞かれたこともない。ということはイコール私とかん子ちゃんが友人だってことは、学校の誰も知らないってことになる。そうだよね?」 だーよね。私もそう思います。 ああ、本当どうしようかな。 「ねぇ、鳥島くん」 彼女に呼ばれて視線を上げる。 眼鏡の奥の田中キリエの瞳は、マジックで塗り潰したみたいに真っ黒で、光が無い。 567 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 31 11 ID KgIpHWOW 「答えてよ。どうして私とかん子ちゃんのことを知っていたのかを」 「…………」 「ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。何か言ってよ」 「…………」 「鳥島くん。黙ってたら私、なーんにもわかんないよ」 「…………」 「どうして? どうして? どうして知ってたの? 鳥島くん?」 「…………」 「何で? 何故? どうして? どのようにして? 何処で? 何時知ったの? 鳥島くん?」 「…………」 「ねぇ、鳥島くん。言ってくれないなら、私――」 「……放課後」 「えっ?」 「放課後、一緒に帰りましょうか」 「ほうかご?」 「はい。放課後です。実を言うと私、一度でいいから女の子と一緒に下校してみたかったんですよ。いやぁ嬉しいなぁ、やっと長年の夢が叶うのかぁ。長かったなぁ」 「鳥島くんっ! 私は――」 「それとも」 私は有無を言わせぬ鋭い瞳で、田中キリエを捉える。 「もしかして、私と一緒に帰るのが嫌だったりします?」 「そっ、そんなことないよ! 私も鳥島くんと一緒に帰りたい!」 「それなら、良かった」 私は安堵したように、ふぅと息を吐いた。 と、そこで屋上に設置されているスピーカーからチャイムの音が鳴った。古くなっているせいか、不自然に音が割れていた。 「チャイムも鳴ったみたいですし、そろそろ教室に戻りましょうか。田中さんは先に帰っていてください。一緒に帰っているところを、誰かに見られるのは不本意でしょう?」 「へっ?あっ、うん。わかった」 「放課後については、後でメールしておきます。それでいいですね?」 「うっ、うん」 「それでは、また放課後に」 私は片手を上げて、ひらひらと手を振った。田中キリエに余計なことを言わせる暇は与えなかった。 彼女は学生カバンを肩に引っ提げると、足早に屋上を出て行った。 と思ったが、最後にドアの前で立ち止まり、私のことを見た。 田中キリエは何も言わない。 私も何も言わない。 私達は黙って見つめ合う。 そして、彼女はやおら屋上を出て行った。 568 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 32 44 ID KgIpHWOW 田中キリエが行ったのを確認してから、私は忌ま忌まし気に言葉を吐き捨てる。 「最悪だ」 本当に最悪だった。 どうして私はあの時、たまたま二人のことをクラスで聞いたなんて変な嘘をついてしまったのだろうか。私があそこで嘘をつく必要など、これっぽっちも無かったのに。 そもそも、私と前田かん子の間に面識があるのはもはや周知の事実なのだ。 田中キリエは学校を休んでいたから知らないだろうけど、前田かん子は一昨日、昼休みに私を拉致したり、放課後に堂々と教室に登場したりと、もはやクラスどころか学校中の人間が私達の関係を認知している。 だから私はあの時、ありのままのことを言っておけばよかったのである。私と前田かん子の関係について。なのに変に焦ってしまった揚句、失言した。こんなくだらないミスをするのは、本当に私らしくなかった。 ミスの原因はわかっていた。 彼女のせいだ。全部あの茶道室の魔女のせいなのだ。彼女に会ってからの私は、本当におかしい。まるで平均台の上を歩いているみたいに、精神が安定しない。 私は腕時計の針を気にしながら、今後のことを考えた。 今回のことで、田中キリエの中に私に対する猜疑心が生まれたのはまず間違いないだろう。 問題はその猜疑心が今後どう動き、私にどのような影響を与えるかである。まあ、上手い方向には動かないと思うけど。とにかく、そのことについては用心しておくに越したことはない。 私はそこで大きく伸びをした。 それなら、さっさと切り替えよう。幸い、覆水盆に返らずって程の失敗でもないし、私ならいくらでも軌道修正出来るさ。次だ次。 反省終了。 私は教室に帰ろうと立ち上がった。 その時。 ポツリ、とコンクリートの地面に黒い染みが出来た。 雨かしら、と思って空を見上げたが、頭上には雲ひとつ無い冬晴れの空が広がっている。 どうやら、地面に落ちたのは私の汗のようだった。 569 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/10/20(水) 12 33 50 ID KgIpHWOW 「おかしいな……なんで汗かいてんだろ」 冬なのに。私は根っからの寒がりだというのに。なのに、どうして汗なんか。 制服の袖で額の汗を拭うが、汗は一向にひかない。 もしかして恐れているのだろうか、と私は思った。 けれど、何に? 最初に思い浮かんだのは、やはり田中キリエだったが、私は直ぐに思いなおす。 彼女だけは有り得ない。 確かに、先程の田中キリエの勢いには目を見張るものがあったが、突き止めてしまえばあんなもの只の嫉妬でしかない。 そりゃ、自分の恋人が他の女のことを聞いたりしてたら、不快になるに決まっている。しかも聞いている相手が他ならぬ恋人自身なのだ。田中キリエが怒るのも無理ないだろう。 だったら、なんだ? なんで、私はこんなに震えているんだ? 「あっ」 そして、私はこの感覚が初めてじゃないことに気づき、さらに震えた。 なんで、今さら? 高校に入ってからはめっきりなくなったじゃないか。もう、終わったと思ったのに。 “やっと、わかったと思ったのに――” くらり、と湯あたりをしたみたいに視界が廻る。そのまま倒れるんじゃないかと思ったが、なんとか踏ん張ってくれた。 私はかぶりを振る。 いや、落ち着け。呑まれるな。 こんなの、気のせいだ。少し考え過ぎてるだけだ。汗をかいてるのだってきっと、さっきのやりとりで疲れただけだ。 だから、落ち着け。私はもう、わかってるんだ。 私は一度深呼吸をしてから、今度こそ屋上を出て行った。その足どりに、不安は見えない。 なのに、教室へ帰る間ずっと、汗は拭っても拭っても際限なく溢れてきた。
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31代目スレ 2010/4/8 ■ ミズル・グレーデンは思わず聞き返した。 「だから」 エマーン人の女の子が触覚をもじもじさせながら呟く。 放課後の、校舎裏だった。半分眠りながら校門の掃除をしていたミズルは、突然わけも わからずここに連れてこられると、「好きです」と告白された。 「え、誰かと間違えてない?」 「ううん、ミズルくんなの。ミズルくんがいいの」 「えぇ~と」 「イヤなら、断ってくれていいから」 「べつに、ヤじゃないけどさあ」 エマーン人の子がぱっと顔を輝かせた。 「じゃ、いいのね!」 ミズルはわけもわからずカクカクと頷いた。 ■ マーくんの事務所は、いつも薄暗い。ブラインドからわずかに差し込む日光が、棚に ずらりと並べられた金メッキのオモチャに反射してキラキラしていた。そういう、少し インモラルな香りがするこの空間を、ミズルは結構気に入っていた。 「は、コクハクされた?」 「うん、そうなんだよ」 「なに、ミズッちゃん、そのコになんかいいことでもしたの?」 「や、覚えはないんだけど」 「ワナだね」 ビジネスロボットのマーくんは3歳にもなっていないのに、考えることがシビアだ。 宇宙で作られて、この町に流れ着くまでなにかとあったのだろう。いったいなにがあった のかミズルは訊いたことがないし、マーくんも語ろうとしない。勉強が苦手なミズルと 違ってマーくんは賢いから、きっと聞いてもわからないだろう。 「罠かな」 「そーだよ。だって、なんもしてねーのに好かれるなんざー、 そんな都合のいーことあるわけねーじゃん。 ミズッちゃんの絵に金銭的価値があることに気付いて、青田刈りするつもりなんだよー」 「やっぱそうかな」 いわれてみれば、あのエマーン人の子に好かれる理由なんてひとつも思いつかない。 「罠だね」 携帯ゲーム機を血走った目で見つめながら呟いたのは、ミツハル・イスルギさんだった。 ミツハルさんはまだ若いのに社長で偉いのに、ミズルが見るときには常に携帯ゲーム をやっている。ここ最近は口を開けば『ラブプラス+』の話しかしない。 「ラブレターもらったと思って浮かれて校舎裏に行ってみたら、 クラスメイトが全員ニヤニヤしながら待ちかまえてる。 僕が5、6回引っかかった手さ」 「なに5回も6回も引っかかってんだよー、そんな手に」 「あのね、ラブレターじゃなくて直にいわれたの」 「それは新しいパターンだね」 ミツハルさんもマーくんも、懐疑的な視線を崩そうとしなかった。 「まー、ケイカイシンは解かねーことだよ」 「クラスメイトがニヤニヤしてる現場を発見したら僕らにいいたまえ。 イスルギの縄張りで経済活動出来ないようにしてやるから」 「ミズッちゃんをいじめるよーなヤツぁー、おれが許さねーよ」 「うん、まあ、気を付けるよ」 ミズルは釈然としない気持ちのままマーくんの事務所を後にした。 ■ マーくんもミツハルさんもああいっていたけれど、クラスメイトがニヤニヤしている 現場に会うことはなかった。 あの日から、ミズルは毎日エマーン人の子と一緒に下校することになった。 「ミズルくんは、なにが好き?」 「ええと、カレーライスかな」 「じゃあ、あたしも」 マーくんたちのいうような罠はないようだけれど、ミズルにとっては落ち着かない時間 だった。女の子相手にどんな話をしたらいいのか、皆目見当も付かない。こんなことなら マーくんと一緒にゲームをしている方がずっと楽だし面白かった。 「ねえ、ミズルくん」 ぴとと、ミズルの指先に生温かいものが触れる。 「ひゃっ」 ミズルはとっさに手を引いた。 すると、どういうわけかむくれたエマーン人の子の姿がそこにあった。 「もうっ!」 「なに?」 「ミズルくん、全然楽しそうじゃない!」 「えぇと」 そりゃあ、実際楽しくないんだから仕方がない。でもそのことを言ってしまうと今度は 本当に怒らせてしまいそうで怖かった。 「ミズルくん、全然あたしのこと好きじゃない!」 「えぇっとぉ」 「もういい! ミズルくんなんて大嫌い!」 たったっ、とエマーン人の子は駆け去ってしまう。 ミズルは「ありゃまあ」というしかなかった。 ■ わけもわからず告白されてわかもわからず付き合う羽目になったと思ったら、わけも わからずフラれてしまった。 「なんだったんだろう、あれはいったい」 「だから、ワナだよ、ワナ。ミズッちゃんはモテアソばれたんだよー」 「遊んだにしても、楽しそうじゃなさそうだったけどなあ」 「いーじゃん、ミズッちゃんにゃーおれがいるんだからさー。 いーからおれと遊んでよーよ」 「まあ、おれはその方が楽しいからいいんだけど」 「だろー?」 ニカッと、マーくんが笑う。 ■ 次の日学校に行くと、エマーン人の子は昨日と変わらない笑顔で「おはよう」と挨拶を してきた。 女の子ってわからない。 自分はやっぱり、当分彼氏とか彼女とかそういうのはいいやとミズルは思うのであった。
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771 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 33 29 ID l.6o34l6 [1/11] ヘビセンと呼ばれるショッピングモールがある。 設立されたのは今から一年前と比較的新しい、大規模な商業施設だ。郊外にある広大な土地を使った複合型のモールで、その規模は非常に大きく、他県から訪れる人も少なくないと聞いている。 元は市主導で自然公園をつくるはずの土地だったらしいが、重役の献金問題等で話がこじれ、結局は頓挫してしまったという背景を持つ。 しかしながら、ここら周辺にも大きな自然公園はあるので、市民としては公園よりもショッピングモールができたほうがありがたかったのかもしれない。 モールの外観は近代ヨーロッパをモチーフにしており、レンガ敷きの遊歩道、ガス灯をイメージした街灯など、精巧な小道具で場を盛り上げている。 そのためか、買い物をせずともぶらぶらと歩いているだけでもそれなりに楽しめてしまうので、金銭の乏しい学生にも大変な人気があった。我が校の生徒も例外に漏れず、平日休日問わず多くの生徒がヘビセンを訪れていた。 ところで、ヘビセンというのはあくまで非公式の愛称であり、実際にはもっと長ったらしい正式名称が存在しているということにも触れておこう。なら、何故このモールはヘビセンなどと呼ばれ始めたのか。それは、モールの全体図を見れば一目瞭然である。 先端にある円形の映画館に、ぐにゃぐにゃとくねり曲がった遊歩道。その姿が、ちょうどヘビのように見えるからだ。ヘビのようなショッピングセンター。略してヘビセン。どうも、そういう由来らしい。私自身、人づてに聞いたことなので確証はないが。 それが製作者の意図してつくったものなのか、そうでないのかはわからないし知らない。とにかく、そういう風変わりな名前のショッピングモールがあるのだということを覚えて欲しい。 さて。前置きが長くなったが、私は今、そのヘビセンの中にある、とある喫茶店にいた。ヘビの姿になぞらえると、ちょうど尻尾の一番先の辺り。その客の足取りが最も悪いであろう場所に位置する喫茶店で、私はひとりコーヒーを啜っていた。 昨夜の前田かん子との通話時に、私は本日の会合場所を此処に指定した。この喫茶店が、自分にとって慣れ親しんだホームグラウンドであり、少ないとはいえ一応は人の目があることが、此処を選んだ理由だ。 いや、実をいうと、もっと大きな理由がある。自分の住む街からはそこそこ遠いヘビセンを、わざわざ選んだ理由が。 「…………」 ぼんやりと、窓に映る自分の冴えない顔を見つめた。 そういえば、結局、昨夜は彼女からはハッキリとした返事はもらえなかったな、と思い出す。 今日はちゃんと来てくれるかしら。ちょっと不安になってくる。予定の時間は刻一刻と迫ってきていた。といっても、どちらにせよ私には待つことしか出来ないのだが。 772 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 35 10 ID l.6o34l6 [2/11] 珍しく緊張していたのか、肩のこりがひどい。私は丹念にこりをほぐしながら、店内の様子を再度顧みた。 落ち着いた、と言えば響きはいいが、実際はただ寂れただけの喫茶店。店内にはモダン・ジャズが気にならない程度の音量で流れ、雰囲気を出す為か、照明はわざと薄暗くしていた。 来店している客は、私を含め五人。皆どこか気だるげな空気を醸していて、それが店の活気のなさに拍車をかけている。 日曜日だというのに、どうしてこうも客が少ないのだろうか。他人事ながら、私は少し心配になってきた。 この店も、端っことはいえヘビセン内に含まれているのだから、立地条件としては申しぶんないはずなのに。しかし、ヘビセンのフードコートには全国にチェーン展開しているコーヒー店もあるし、それも仕方ないかもしれないけど。 この喫茶店はサイドメニューの数が極端に少なく、しかも肝心のコーヒーが値段のわりに美味しくないときているので、そもそもフードコートの店とは勝負にすらなっていなかった。というか、店側に張り合う気力が見られない。 けど、私はそんなやる気のない店の態度を気に入っていた。それが、此処を贔屓に利用する要因なのかもしれない。客層は見ての通り、疲れた人々ばかりでとても静かだし、勉強や考え事をするのには最適といえよう。 店内を一通り見渡し終えると、私は窓の外を眺めた。現在、私は窓際の二人席を陣取っているので、外の様子はよく見て取れた。 今朝の天気予報でも言っていたのだが、どうやら本日は午後から雨が降るらしく、雲行きが怪しかった。曇天が広がる空には、こぼれる日差しが一筋もなく、昼間にも関わらず辺りは夕方のように薄暗い。そのせいか、街灯にはさっそく灯がともっていた。 いつもなら、行きかう人々で溢れている街道も、普段よりは淋しく感じた。通行人がぽつぽつとしか見受けられない。そして、その手には皆折りたたまれて細くなった傘を握られていて、今にも降り出しそうな雨に備えている。 「…………」 良くない流れだな、と思う。正直、私は焦りを感じていた。このままでは、計画に支障をきたすかもしれない。窓に映る自分の顔も、不安そうに複雑に歪んでいた。 「うまくいけばいいけど……」 ぽつりと、そんな弱音のような独り言を吐き出した時だった。突然、目の前の窓がカタカタと音を立てて震え始めたのは。 地震だろうか、そう思って瞬時に身構えたのだが、どうも地震とは勝手が違う気がした。ハッキリ言えば、もっと人工的な匂いがする。 その振動に気付いたのは、どうやら私だけではないらしく、店内に居座る客も何事かと顔を上げていた。気だるげな空気が幾分か引き締まり、ささいな緊張が発生する。 773 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 36 56 ID l.6o34l6 [3/11] 音だ。加えて音も聞こえ始めた。まるで牛の鳴き声のような。いや、牛といっても闘牛だ。闘争心を抱えた、低い唸り声。その音はどんどんと激しさを増していき、それに比例して窓の震えも大きくなっていた。 店内の視線は、全て窓の外に集中していた。何かが現れる。皆、そんな予感を感じていたからだろう。かくいう私も同じ気持ちだった。何かが来訪するのを、恐れと共に待っていた。 そして、振動と音が頂点に達した時、遂にそれは現れた。 轟音を轟かせながら、突如横合いから飛び出してきた真っ黒な物体。それは店の前で大きく旋回すると、摩擦による白い煙を巻き上げながら急停止した。どっどっどっ、と耳をつんざくような重低音が周囲に響き渡る。 それは、素人目から見ても明らかに違法改造だとわかる無骨な形をしたバイクだった。黒のメタリックボディが眩い光沢を放っている。跨るライダーもバイク同様に黒尽くめで、黒のフルフェイスヘルメットにライダースーツ。そしてブーツを履いていた。 ヘビセンは、自転車等での進入を禁じている。ましてや、目の前で唸っているような巨大なバイクなどはもってのほかだ。本来なら、きちんと所定の駐輪場で駐車しなければならない。 けれど目の前のライダーは、そんなルールは与り知らぬとばかりに、白昼堂々と違法行為をやってのけていた。そして、私はこんなことを平然としてみせる人物を一人知っていた。 エンジンが切られた。すると、先程までの騒音はなんだったのか、水を打ったような静けさが取り戻される。 騎乗するライダーが、バイクから降りた。続けて、装着するフルフェイスヘルメットに手をかける。 砂金の如き金髪が、中空を舞う。 ヘルメットの下から現れた端正な容姿をした女性は、私の予期していた通り、前田かん子その人ならなかった。 その映画のワンシーンみたいな光景に目を奪われたのは、私だけでなく、店内にいる人間全員も同じであっただろう。尤も、薔薇の茎にひそむ棘のように、感じ取ったのは美しさばかりではないと思うが。 彼女はそのまま店の前でバイクを停めると、大股で出入り口まで歩いていき、乱暴にドアを開けた。付属するベルが、ガチャガチャと汚い音を奏でる。 「い、いらっしゃいませ……」 店員さん(おそらく大学生のバイトだろう。温和そうな笑顔が特徴的だ)の震える笑顔を無視して、前田かん子はぎろりと視線を一周させた。 客達は、その視線上に入ることを恐れ、亀のごとく首を引っ込めていた。そして彼女は窓際に座る私を見つけ出すと、カツカツとブーツを鳴らして接近してきた。 私はいつもの柔和な笑みを浮かべて、片手を上げながら挨拶する。 「こんにちは前田さん。今日はわざわざ貴重な休日に・・」 バン、と前田かん子がテーブルを思い切り叩いた。机上のコーヒーカップが、怯えて一跳ねする。 「なぜ私を呼び出した」 今となっては聞き慣れてきたハスキーボイスで、短くそう告げる。 どうやら、機嫌は見ての通りあまりよろしくないらしい。といっても、私は機嫌のよい彼女なぞ見たことがないのだけど。 774 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 39 41 ID HRoXok2Y [4/11] 「わけは話しますよ。ですからまず、席に着いたらどうでしょうか?」 「私はお前とお喋りしに来たんじゃない」 提示した提案を、即座に突っぱねる。金剛像のような仁王立ちが、お前とは一秒でも顔を合わせていたくないと暗に告げていた。 やれやれ、とさしもの私も肩をすくめるしかない。まさか、ここまできっぱり拒絶されるとは。 さっきから気付いていることではあるが、店の雰囲気が剣呑なものに取り替わっていて、非常に居心地が悪くなっていた。普段とは大違いだ。店内にいる客も、そわそわと落ち着きなく身体を揺らしていた。 なんだか悪いことをしてしまったな。ひどく罪悪感を感じる。せっかくの日曜日なのに、これでは店にも客にも迷惑をかけてしまう。関係のない人を巻き込みたくはなかった。なんとかしなくてはならない。 それなら、と私は意気込む。空気が張り詰めているのなら、解きほぐしてやればいい。私は場の空気を和ませてやろうと、とっておきのジョークを口にした。 「いやはや、これは手厳しいですね。会っていきなりこれでは、まさに取り付く島も無いといったところですかね・・鳥島だけに」 そう言い終えると、したり顔で前田かん子を見た。けど、 「…………」 彼女には何の変化も見て取れなかった。相変わらず、刃物のような鋭い視線で私を見ているだけだ。それに店の空気も全然弛緩していなかった。むしろ嫌な感じが増しているような……。 「あの、今のわからなかったですかね? 取り付く島と、自分の名前の鳥島をかけたダジャレだったのですが、あの、面白かったですよね?」 「…………」 「あ、いや、やっぱりなんでもないです。なんか、すいませんでした」 私はゆるゆると頭を下げた。そして顔を上げようとしたのだが、ショックが大きすぎたのか、動きはかなり緩慢になった。 数少ない持ちネタが不発だったことにより、私は決して少なくないダメージを負っていた。というか、重傷だ。割と本気に傷ついている。深夜寝る前とかに必死で考えてニヤニヤしていたのに……死にたくなる。 切り替えよう。 ふぅ、と息を吐き、今の出来事なんて無かったとばかりに、私は冷静に続けた。 「非常に言い難いことなんですが、今日前田さんを呼び出したのは、そのお喋りをするためなんですよ」 何か突っ込まれないうちに、素早く言葉を継ぎ足す。 「といっても、なにも世間話をしようってわけじゃありません。私がしようとしているのは、もっと有意義な話です」 慎重に、本題へ切り出した。 「前田さんには、田中キリエに関する情報を話して欲しい」 775 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 41 22 ID HRoXok2Y [5/11] そこで初めて、前田かん子の態度に変化が現れた。仏頂面に少し、ヒビが入る。 「鳥島タロウ。私が初めてお前と会ったときに言った言葉を、もう忘れたのか?」 「忘れちゃいませんよ。お互いのことを知らないなら、付き合ってからお互いのことを知っていけばいい、でしたよね? 前田さんのその言葉には全面的に同意します。だけど、今回は状況が状況でして、どうしても前田さんの力が必要になるんですよ。どうか、協力していただけませんか?」 少しでも誠意を見せようと、深々と頭を垂れてみせる。 しかし、前田かん子は付き合ってられないとばかりに渇いた笑いを漏らした。 「くだらない。お前が何を言おうと、私は前言を撤回する気は無い。その程度の用で呼び出したというのなら、帰る」 そう言うやいなや、彼女は一度も席に着くことなく、くるりと踵を返して、宣言通り出入り口へと戻っていく。説得は失敗した。このままでは、彼女は本当に帰ってしまうだろう。 仕方がない、か。私は下唇を噛む。目的の為だ。やはり多少のリスクは負わざるを得ないだろう。 一歩、二歩、三歩と進んだところで、私は遠のいていく前田かん子の背中に、言葉をひとつ投げかけた。縫い針を指に指したように小さい、ちょっとした傷を負わせる程度の切れ味を備えて。 「あまり調子に乗るなよ、前田かん子」 ぴたり、とまるで影を楔で止めたかのように、前田かん子の足が止まった。そして、ゆっくりと首だけを動かし、横顔をこちらに見せる。 「おい、お前、いま、なんて言った?」 全身の肌が粟立った。明らかな殺意の宿る隻眼が、容赦なく私を射抜く。殺される、と思わされてしまうほどの凶暴性。片目でこれなのだ。もし両目で睨みつけられていたら、私は失禁していたかもしれない。 「無責任なんですよ」 しかし、こちらも怯まない。なるべく感情のない顔をつくって、悠然と言い返す。 「先程の台詞、そっくりそのまま返させていただきましょう。あなたこそ、自分が言ったことをお忘れになっているんじゃありませんか? もし田中キリエを悲しませたのなら、私を殺す。あの時、たしかに前田さんはそう言いましたよね?」 「ああ、言ったよ」 「それが無責任なんですよ。あなただって、もうとっくに気付いているのでしょう? 私が他人の心情を慮るのを非常に不得手にしているのは。いい機会ですからハッキリ言っておきますが、このままでは私は、百パーセント田中さんのことを悲しませますよ」 舌がカラカラに渇いているのに気付く。コーヒーで口内を湿らせようかと思ったが、カップの中は空っぽだった。しょうがないので、そのまま続ける。 776 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 43 36 ID HRoXok2Y [6/11] 「田中さんのことを知らないのなら、本人に訊けばいい。ええ、大いに結構ですよ。しかし私は、彼女の触れられて欲しくない領域にズケズケと踏み込んでいきますよ、間違いなく。 私には田中さんの心の機微を感じ取るなんて器用な真似はおそらく出来ないでしょう。平気な顔して、彼女の心を蹂躙してしまう。嫌な思いをさせてしまう。 そんな地雷原の中を全力疾走で進んでいくような行為を、あなたは望んでいるのですか? 少なくとも私は御免ですね。攻略本どころか、説明書も無しにワンコインクリアをするようなものですよ」 返事はない。もう少し畳み掛ける必要があるか。 「私が田中さんの告白を断ったのは、自分のそういう性分をよく理解していたからです。言うならば、彼女のことを想ってこその結果だった。だけれど、それを無理矢理つなぎ合わせたのは他ならぬあなたですよ、前田さん。 あなたには、私に情報を与える義務がある。田中さんのことを悲しませないために、わたしには彼女の基礎知識を教える必要がある。そしてその義務を放棄するということは、畢竟、前田さんが田中さんを傷つけるのと同義です」 「私がキリエを傷つけているって言うのか? お前は」 「はい。このままでは前田さんは間接的に田中さんを傷つけることになります。私、鳥島タロウが田中さんを傷つけることを十二分に知りつつも放置するのだから、当然でしょう? おかしなことは言っちゃいませんよ」 前田かん子は揺らいでいた。まさか自分が田中キリエの傷害に加担しているとは思ってもいなかったのだろう。ぶっちゃけた話、私はそうとうにズルイこじ付けを言っているのだが、前田かん子は気付かない。こと田中キリエのことになると、正常な考えが出来ないことは知っていた。 いけるな、とここで私は確信する。後はちょっと、ほんの少し背中を押すだけ。 「私は前田さんに殺されたくない。前田さんは田中さんを悲しませたくない。互いの利益は一致しています。なにも悩むことはないでしょう。ここで意固地になるのは、あまり得策とはいえませんよ。 さて。これで、私の言いたいことは全て終わりです。後は、前田さん次第ですよ」 私は一仕事を終えた後のように大きく息を吐き、腕を組んで、椅子にもたれかかった。コーヒーを飲みたかったが、中身が空なので我慢する。 前田かん子はしばらく私を見つめていた。ここまで説得されておきながら 、なお決めあぐねているらしい。 おそらく、私の提案にそのまま乗っかるのが気に喰わないのだろう。彼女はものすごく私のことを嫌っている。けど、結果はわかっていた。 777 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 45 43 ID HRoXok2Y [7/11] 「…………」 前田かん子は、帰りかけていた足を元に戻すと、無言のまま私の対面の席に腰掛けた。 「わかって貰えたようで嬉しいです」 とりあえず、これで第一関門は突破。今日こなさなくてはならなかった最低限のミッションは達成した。彼女が交渉のテーブルにつかずあのまま帰っていたら、一番困っていたのは私だっただろう。 前田かん子は、投げやりな口調で言う。 「御託はいい。さっさと訊きたいことを訊け」 「まあまあ、そう急かさずに。せっかく店に来たのですから、まずは注文しないと。私も、ちょうどコーヒーのおかわりを頼もうとしていたんです」 横に立て掛けられていたメニュー表を彼女に向かって差し出したが、前田かん子は受け取ろうともしなかった。仕方がないので、見えるようにしてテーブルに置いておく。 いやあ、嫌われてるなあ、とことん。まあ、わかってはいることだけどさ。 自分としては、出来ればもっと仲良くなりたいと思っているので、なんとか今日その糸口を掴めればなと密かに考えていた。 前田かん子はメニューに一応目を通しているらしく、眼球が上下左右に動いていた。そしてその動きが停止した頃を見計らって、私は未だびくびくと怯えている女性店員さんを呼んだ。オーダーを告げる。前田かん子は結局、私と同じコーヒーをたのんだ。 それからは互いに無言だった。なんとなく、注文の品が到着してから話そうという空気が出来あがっていた。なので、私も黙ってそれにならっていた。 そして私は、ここぞとばかりに、前田かん子のことを改めて観察した。考えてみれば、彼女のことを仔細に見るのは初めてかもしれない。私達が会うときは、大抵が穏やかでない。 まじまじと無遠慮に見つめる。彼女は、本当に綺麗な人だった。お人形さんみたいだな、とありふれた決まり文句しか頭に浮かばない。 長い睫毛に、日本人にしては高い鼻、そして決め細やかな白い肌。一番の特徴である軽く巻いた金髪は、オレンジ色の照明に照らされてきらきらと光っている。 一見すると、その髪は天然物のようにしか見えない。もしかしたら本物かもしれなかった。彼女には異国の血が混じっているのかしら。 そのまま視線はずるずると下がっていき、最終的には首の下、彼女の豊かな乳房の辺りにとまった。 思わず、感嘆の息を漏らしそうになる。 大きい。前田かん子の胸は、とにかく大きかった。こんなに大きな胸を、私は画像や動画等の媒体以外では一度だって見たことがなかった。 ピッタリとしたライダースーツを着ているせいか、形のよさがくっきりと表れていて、その存在を更に強調していた。張りも弾力も中々ありそうで、対の張り上がった球体は、みずみずしい西瓜を連想させた。 後はもう少し、首元まで上げたジッパーを、後もう少しだけ下げてくれたのなら……。 778 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 47 40 ID HRoXok2Y [8/11] 「なに見てんだよ」 突如、向かいから飛んできた声に、私はひどく混乱してしまった。あ、え、と訳のわからぬ言語を吐き出した後に、慌てて自己弁護をする。 「あ、ええとですね、思わず感心してしまって、大きいなあって」 「大きい? なにがだよ」 「おっぱいがです」 「…………」 「あっと、違うんです。今のは本当に違うんです。言葉のあやというか、なんというか、いや、でもおっぱいが大きいのは事実ですし……。 そ、そうですっ。私は褒めているんです。だって、滅多にいないじゃないですか、そこまで胸の大きい人って。いやあ、いいなあ。セックスアピールとしては申し分ないですし、得することも多いんでしょうねえ。ははは……」 「…………」 「ですから、別に決していやらしい意味で言ったんじゃ……」 「…………」 駄目だ。これまでの経験則から推測するに、私はまたやってしまったのだろう。いつもの空気の読めていない発言を。前田かん子の目は言葉を重ねるごとに険しくなっていくし、とんでもないヘマをやらかしてしまったのだ。 というわけで、大人しく口をつぐむことにした。これ以上、藪をつついてヘビを出すわけにはいかない。いま居るところが、ヘビセンだけにね。 二人の間に、再び沈黙が訪れる。今度は多大な気まずさを抱えて。 落ち着かなくって、視線を横に逸らす。そして、おや、と気付く。いつの間にか店内の空気が穏やかになっていた。 もともと、他人に無関心なへんてこな人間しか集まらない店なのだ。徐々に前田かん子への耐性がついてきたのだろう。全くをもって、たくましい人達である。もはや尊敬の念すら抱いてしまう。こっちは未だ、これっぽっちも慣れていないというのに。 「話に入る前に、ひとつだけ訊きたいことがある」 沈黙を打ち破ったのは、意外なことに前田かん子からだった。それに、何か訊きたいことがあるという。 まさか、彼女から何か質問してくるとは思わなかったので、一瞬、呆気にとられてしまった。が、この気まずい沈黙を打破したかった私は、渡りに船だとばかりに飛びついた。 「ぜひぜひ、ひとつと言わずに、どうぞ何度だって訊いてください。どうせ、後ほどは質問責めになるのでしょうし、情報は出し惜しみしませんよ」 私は笑顔で受け入れた。すると、 「そ、そうか……」 コホン、とわざとらしい空咳きして、前田かん子は頬を赤らめた。 779 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 49 12 ID HRoXok2Y [9/11] 頬を赤らめた? 私は疑問に思う。何故、彼女の頬は上気しているのだろうか。もしかして、店内の暖房がきついのかしら。それなら、自分が店側に言うのだけれど……。 コホン、と彼女は空咳きをもうひとつ挟み、 「えーと、だな……お前らは……実際のところ、どこまでいったんだ?」 ぼそぼそと小さな声で話すので、聞き取るのに苦労した。私は尋ね返す。 「どこまで、とはどういう意味でしょうか? すいません。そういうの察するの苦手なんで、もっとはっきり言ってもらえると助かります」 「だから、あれだよ。あるだろう、恋愛の、AとかBとかCとかさ。私が訊きたいのは、そういうことだよ」 「えっ」 いつもより半音高い、素っ頓狂な声をあげてしまう。今、前田かん子はなんて言ったのだ? 恋愛のABC? 「なんだよ。別におかしなことは訊いていないだろう」 「はい。まあ、おかしくはないですが……」 なんというかすごく意外だ。意外なのは質問の内容ではなくて、彼女の態度だった。どう見ても、恥ずかしがっているようにしか見えない。 うーん。頬が赤いのは暑いからではなく、単に恥ずかしかったからなのか。まさか恋愛関係の質問に躊躇してしまういじらしさを持つとは。普段のイメージと差がありすぎて。なんていうか、頬が自然と緩んでしまう。 前田かん子は一見すると、恋愛経験がとても豊富そうな外見をしている。けれど、もしや実際は違ったりするのかもしれない。意外と中身は乙女乙女しているのだろうか。 でも、もしそうだとしたら、あれだよね、外見とのギャップで、なんかこう、くるものがあるよね。すごくグッとくる。 頬と一緒に、きっと心まで緩んでしまったのだろう。抑えとけばいいのに、悪戯心がわいてしまった。私は正直には返答せず、冗談を言ってみることにする。尤も、その数秒後に、私はひどく後悔することになるのだが。 「どこまで進んだか、でしたよね」 私は一拍おき、 「田中さんにはもう受精させましたよ」 すぐだった。私がそう言った瞬間、否、言い終える前に、前田かん子が肉食獣のような俊敏さで飛び掛ってきた。 780 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 50 51 ID HRoXok2Y [10/11] 動物的な本能が警鐘を鳴らす。殺される。私はそう思って、ほぼ反射的に椅子を後ろに引いた。が、寸でのところで遅かったらしい。彼女の右手は私の後頭部をしっかりとホールドし、もう片方の手で右目に何かを突きつけた。 視界に見えるは、三つの黒い点。フォークだ、と気付いた。テーブルの横に備え付けられていたフォークを、私の右目のすぐそこに向けているのだ。 近い。眼球とフォークとの距離は、おそろしく近かった。緊張のせいか、鼻の頭にぽつぽつと汗の玉が浮かび始める。もし少しでも頭を動かしたら……。そんな想像をしてしまうと、怖くなって瞬きすら出来ない。 「確認する」 冷え切った声で、前田かん子は言った。 「いま言ったのは、事実か?」 「冗談です」 私は即答した。 「今のは、味気のない会話に彩りを与えようとした、ただのジョークですよ。実際には、まだ手すら繋いじゃいません。私は、プラトニック・ラブを信条としているので」 「…………」 「な、なんなら、田中さんに電話で訊いてみたらいかがですか? 彼女はそんなことはしていないと即座に否定するでしょう。断言できます」 「…………」 「ですから、いい加減に、手、放してもらえませんかね。フォーク。このままじゃ、眼球を傷つけてしまいますよ。そんなの、シャレになりません」 「…………」 「それに、店内の注目もすごい集めちゃってますし、ほら、せっかく店員さんが注文の品を持ってきてくれたのに、そこで盆を持ったまま怯えて固まっていますよ」 「…………」 「そもそも、今日はこんなことをするために来たのではないでしょう。私達は話し合いをするはずです。ですから、もっと、穏便にいきましょうよ、穏便に」 「…………」 「それに、私の身体に傷がついて悲しむのは、私だけでなく田中さんもですよ。あなたは彼女に、負わせる必要のない不要な心労を負わせるつもりなのですか?」 「……ちっ」 田中キリエの名を出し、彼女の暴走は漸く止まった。忌々しい舌打ちを返事代わりにして、私を解放してくれる。 私は即座に安全な距離をとった。高鳴っている鼓動をしずませる。けど、しずまらない。背中にかいている汗は、決して暖房のせいではないだろう。腋の下にも汗をかいていた。 781 :私は人がわからない:2012/08/07(火) 08 52 29 ID HRoXok2Y [11/11] なんというやつだ。私は驚愕してしまう。 あれほどのささいなことで怒るのか、という点に関してはまだいい。そっちのほうは想定内だ。田中キリエ関連のこととなると前田かん子が杓子定規になるのは、自分だってよく知っていた。 私が驚いたのは、人体を破壊するときに生じる心理的抵抗が、彼女から全く感じられなかったことだった。 普通、人は激しい感情に身を任せてでもいない限り、他者を攻撃するのに大きな抵抗を感じる。だが、前田かん子はあくまで冷静に、些か冷静すぎるほどに私を破壊しようとした。これは驚くべき事実である。 今のだって、もし私が選択をとり間違えていたら、彼女は本当にフォークで眼球をえぐっていたかもしれない。いや、間違いなくえぐっていただろう。私は危うく、右目を失っていたのだ。 気をつけなくてはならない。己に言い聞かせる。脅しと本気との境界線が曖昧すぎて、そう自由には動けない。もっと、もっと慎重に進まなくては。 「ご、ご、ご注文の品を、お持ちしました……」 私達の傍らで事の成り行きを見届けていた店員さんが、恐怖に駆られながらも己の職務を全うしてくれた。 店員さんは私と前田かん子の前に恐る恐るコーヒーを置くと(ソーサーを持つ手が震えていたので、中身が少しこぼれていた)脱兎のごとくキッチンへと避難してしまった。 その姿を見て、私は苦笑してしまう。可能ならば、自分も彼女のように、さっさとこの場所から逃げ出してしまいたいものだ。 けど、そんなわけにもいかない。私にはやるべきことがあるのだ。筋書き通りに物事を進めるためには、少しでも前田かん子と長く居る必要がある。 果たして今日は、この会談を五体満足で終わらせることが出来るのだろうか。カビのようにしつこくこびりついた不安を胸に感じつつも、私は必死でポーカーフェイスを装い、ブラックのコーヒーをのんびりと啜ったのだった。
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135 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 43 29.34 ID lcwKyq+5 [2/8] 田中キリエの回想(一) 足を引っ掛けられて、私は転んでしまいました。 妙な浮遊感と共に迫ってくる地面に対して、咄嗟に手が出たのは僥倖だったと思います。前みたいに顔から倒れたりしたら、また眼鏡を割ってしまいますから。 「うぐっ」 しかし、枯れ枝のように細い私の腕では転倒の勢いを完全に殺せません。私はしたたかに身体を打ち付けてしまって、苦悶の声を漏らします。 そして、間髪入れずに次が来ました。 突如、背中にかかった強い圧力。唐突な負荷によって、肺にたまっていた空気が一気に抜け出しました。苦しい。どうやら誰かに足で踏まれているみたいです。 「あー、ごめんね。葛籠木さん」 頭上から降ってくる声には、言動とは裏腹に謝罪の念が全く感じられません。現に、踏みつけている足をどかす気配もなく、むしろぐりぐりと力を込めていました。 やめてください、と私は懇願を申し入れようとしたのですが、背中を踏まれているので上手く発声が出来ませんでした。 結局、出たのは踏まれた蛙のような奇妙な声で、「何を言っているの?」と馬鹿にした声が上から降ってきます。それは一人二人ではなくって、沢山の声でした。 くすくすくすくすくすくす。 せせら笑いが四方から降ってきます。私の視界には先程から床しかうつっていないのですが、教室内の様子は容易に想像出来ました。 クラスメイト全員が、私を見て笑っているのです。恐ろしいことに、憐憫や同情の想いは全く感じられない、冷たい目をして。 おそらく、当然のことだと考えられているのだとおもいます。私、葛籠木キリエがイジメられるのは正当な行為であると捉えているのでしょう。 毛虫や蛾を無条件に気持ち悪がるのと同様に、そこにさしたるバックボーンはない気がします。 ただイジメたいからイジメる。それだけなのです。 じわり、と視界が水気を帯び始めます。私は、どうしようもなく悲しくなってしまいました。 「……やめてください」 今度は、きちんと発音できました。そのせいかは知りませんが、背中にかかっていた圧力がフッと消えて、楽になります。どうやら、足をどけてくれたみたいです。 私は両腕に力を込めて立ち上がろうとしたのですが、再び背中を強く踏まれて、地面に伏せてしまいます。 瞬間、眉間に鋭い痛みが走りました。「ああ、やってしまったな」と、思った時には遅かったのです。 地面に伏した私の側には、フレームの歪んだ眼鏡が転がっていました。どうやら、眼鏡は壊してしまったみたいです。 「葛籠木って、なんかウザい」 次は頭を蹴られていました。 眼前に白い閃光が爆ぜ、一瞬、思考が止まります。 口の中にピリッとした痛みが走りました。口内を切ったのでしょうか。 次いで、コーヒーカップに乗った時のような酩酊感がじわじわと襲いかかってきました。油断すれば、そのまま嘔吐してしまいそうです。 私は耐えられなくなって、防御に備えるために身体を丸くしました。それを見て取ったのか、雨のように蹴りが降ってきます。 私は亀のようにして、ひたすら耐えました。 すんでのところで堪えていた激情が決壊して、ボロボロと涙が零れます。 それでも、嗚咽だけは押し殺しました。それが、私、葛籠木キリエの最後の矜持だったのでしょう。 136 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 47 59.07 ID lcwKyq+5 [3/8] 私への攻撃は、次の授業の開始を告げるチャイムによって止まりました。 今だ。 私は素早く立ち上がると、脱兎の如く駆け出します。くらくらと再び嘔吐感が襲ってきましたが、それに耐えつつ、無我夢中で走りました。 背後から上がる嘲笑。逃げ出した私を蔑む声。 それを聞きたくなくって、私は両手で耳を塞いだ不格好な姿勢で走りました。 「あ」 しばらく廊下を走っていると、曲がり角のところで担任の教師と出くわしました。 定年間際の初老である彼は、最初こそ廊下を走る私を諌めようとしましたが、その生徒が私、葛籠木キリエであるとわかると途端に閉口しました。 担任は無言で、そそくさと横を通り過ぎます。次の授業が始まろうとしているのですが、担任は何も言いません。私が授業に参加しようかしまいが、あまり関係ないようです。 私は走るのを止めて、遠ざかっていく担任の背中を、教室に入るまでじっと見つめていた。 目元に溜まった涙を拭ってから、私は考え始めます。 これから、どうしましょうか。 今更、ノコノコと教室に戻る気にはなれませんでした。かといって、校内をうろついていても他の教師に咎められてしまうでしょうし……。 ウーム、としばらく悩んだ末に、私は屋上に向かうことにしました。 屋上は、平時なら閉鎖されていて重い錠がかかっているのですが、最近は卒業生のアルバム作成に使用しているらしく、その錠が取り除かれているのです。 それでも、屋上に立ち入るのはいけないことです。 朝のホームルームでも先生が言っていました。「絶対に屋上には入るなよ」と。もし屋上に侵入したのがバレたら、私はこっぴどく叱られてしまうでしょう。 でも、構うもんか。 珍しく、今の私はやけっぱちになっているようです。バレたところでかまやしないさ、と破れかぶれな心境でした。 私は他のクラスの授業を邪魔しないように、こそこそと忍び足で歩きながら、密かに屋上を目指します。 道すがら、脳内にリフレインするのは先程の光景でした。 どうして、こんなことになったのでしょうか。 胸を占める想いは、それだけでした。 少し前までは、こんな風ではなかったのです。私はクラスでもあまり目立たないほうで、いつも教室の隅っこで読書をしている暗い子でした。 それでも、決してイジメられたりはしなかったのです。それどころか、少なくはあったけれど、友人と呼べる者さえいたのです。 けれど、ある日突然、何かが違ってしまいました。 今思えば、兆候はあったのです。 最初は、クラスメイトの何人かの言動に小さな棘を感じるくらいでした。それがどんどん肥大していって、今ではこの有様です。 言葉の暴力だけなら、まだマシなのです。なんとか耐えることが出来ます。しかし、肉体への暴力はキツイです。 心の傷のほうが肉体の傷よりも重い、という風潮が世間にはありますが、それは間違っていると思います。やっぱり、殴る蹴るなどのプリミティブな暴力が最も恐ろしいです。 心への攻撃なら、まだ耐えられます。確かに、心を強くするのは難しいですが、心を麻痺させるのは比較的容易いからです。 徹底的に我を殺し、自分自身を俯瞰するような視点を持てばいいのです。 当事者だけど、他人事。それを金科玉条にしていれば、まだ耐えられるのです。自分を殺せるのです。 しかし、肉体のほうはどうしようもありません。身体を強くするといっても、細身で病弱な私にはやはり限界があります。やり返す気概だって持ち合わせていません。 137 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 50 08.44 ID lcwKyq+5 [4/8] そもそも、私は暴力の類はてんで苦手なのです。 仮に、彼等に対し自由にやり返してもよいという状況が生まれたとしても、きっと私は黙って俯いてしまうでしょう。 暴力は恐ろしいのです。現在進行形でイジメられている私だからこそ、多少の説得力があると思います。 でも、私が最も恐ろしいのは暴力じゃない。 いい機会ですから、私は件のイジメについてとても恥ずかしい告白をしようと思います。もし誰かが聞いていたら、失笑を禁じ得ないような、とても恥ずかしい告白です。 その告白とは、以下のことです。 “私がクラスメイト全員にイジメているという事実”です。 嗚呼、ダメです、ダメです。考えただけで、赤面してしまいます。きっと今の告白を誰かが聞いていたりしたら、きっとこう言うでしょう。 「被害妄想も大概にしろよ。クラスメイト全員が、お前をイジメているはずがないだろ。被害者意識が大きすぎる」と。 ええ、ええ。全く以ってその通りです。世に遍在する通常のイジメであれば、加害者はせいぜい四、五人。クラス規模のイジメでは、その人数が限界なのです。 そもそも、一クラス単位の人間が、皆同じように、たった一人の人間に対し悪意を抱くなど不可能なのです。人の気持ちは十人十色、文字通りバラバラなのですから。 イジメに達するほどまで人を嫌うには、それなりのプロセスがあります。降って湧いたように、自然発生的にイジメが生まれるはずがないのです。 はい、はい、言いたいことはわかります。声の大きなオピニオンリーダーに従わざるをえず、不本意ながらイジメに加担するというケースだってあるだろうと言いたいのでしょう。 だけど、それならそういう空気を発するものなのです。自分は本当はこんなことしたくないんだ、という空気がどうしても漏れ出てしまうのです。 そして、イジメを受ける張本人がそれに気づかないはずがありません。ああ、この人はそんなに乗り気ではないんだな、と加害者の心の機微を感じ取れるのは自明です。 ――嗚呼、もう、いいです。ヤケクソです。羞恥心なんかはあさっての方向にでも投げて、私はあえてもう一度いいましょう。 “私、葛籠木キリエはクラスメイト全員から、等しく悪意を持って、等しくイジメられている。そこに強制の気配は皆無である。彼等はあくまで自発的に、自らが進んでイジメを行なっている” 屋上に着きました。 人が入ることを想定されていないためでしょう、屋上にフェンスの類はありません。背の低い縁が周囲を囲っているだけでした。 私は顔を上に向けます。空模様は、生憎よろしくありませんでした。梅雨時というのもあるのでしょうが、厚い雲が空を覆っていて太陽の姿すら視認できません。 でも、気分は悪くありませんでした。曇天模様の空が、現在の私の心境を現しているようで、なんとなく嬉しくなったからです。 空という非生物的な存在ではありますが、やはり自分に同調してくれるというのは嬉しいものです。 私は屋上の中心まで歩いていき、その場に腰を下ろしました。 六月の生温い風が、髪を揺らします。グラウンドからは下級生と思しき幼い声が、元気に発せられています。気の早いアブラゼミが、控え目にミンミンと鳴いています。 心地のよい時間です。久しぶりに訪れた平穏でした。 そのためでしょうか。私の心はいい塩梅に緩んでしまって、気づかぬ間にハラハラと落涙していたのです。 最近は、改めて意識することがありませんでしたが、私は、葛籠木キリエは、とても、辛かったのです。 正直に申し上げますと、私はクラスの人たちを恨んでいませんでした。 別に聖人君子を気取っているわけじゃありません。これは偽りのない、本心からの言葉です。 原因は全くわからないけれど、私はたぶん彼等を不快にさせるような行いをしてしまったのでしょう。でなければ、そもそもイジメなどが起こるはずがありません。 なら、仕方がないのです。そのような結果が生じるようなことをしたのは紛れもなく私なのですから。それでクラスメイトを憎んでいい道理にならないでしょう。そこだけは決して履き違えてはなりません。 だけど、ただ教えて欲しかったのです。私の何がいけなかったのかを。何が悪かったのかを。 実際に、彼等に問うたこともありました。が、クラスメイト達は侮蔑の表情を私に向けるだけで、何も教えてはくれなかったのです。 問題点がわからなければ、それを正すことは出来ません。 私はそれからも必死にイジメの原因を探っていますが、未だにそれは見つかっていません。 私は、どうしてイジメられるようになったのでしょうか――? そんなことを考えながら、鳥のさえずりに耳を傾け、瞼を下ろしました。 138 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 52 31.28 ID lcwKyq+5 [5/8] いつの間にか、眠っていたみたいです。 空はすっかり紫色を帯びて、夜を迎えようとしています。校内の喧騒も、もう聞こえて来ません。完全下校時刻を過ぎてしまってるのでしょう。 こんなに長く授業をサボタージュしたのは初めてでした。破れかぶれな心境も鳴りを潜めていたので、さすがに罪悪感がわきます。 ですが、今日はもうイジメを受けることがないという事実にもホッとしました。 今日も、なんとか乗り越えることが出来た。 そんな小さな達成感に、私は安堵の息を漏らしてしまうのです。 その時でした。異変を感じ取ったのは。 先の集団暴力で眼鏡を壊してしまったので、私の視界は依然ボヤケています。必然、鮮明に物を見ることが出来ません。 しかし、その朧気な視界の中でも、しっかりと捉えることが出来たのです。 屋上の縁に立つ、男子生徒の姿は。 息を呑みました。 脳裏にチラつくのは自殺の二文字です。彼はもしかして、今から死のうとしているのでは――。 そう思い立った途端、ダメだ、と強く思いました。 私自身、イジメを受けていると死にたくなることがあります。 暴力に身を曝されている時、「このまま死んでしまえたら、どれだけ楽なのだろう」と、絶望に身を委ねかけてしまうこともあります。 けど、ダメなのです。死ぬのは、ダメなのです。 どうしてダメなのかを、論理的に説明することは出来ません。が、自殺だけは絶対にダメなのです。人は、生きるのを諦めてはいけません。 もしかしたら、その道のほんのさきに幸福が転がっているかもしれないじゃないですか。この先には絶望しか有りえないと、誰が証明出来ましょうか。 だから、イジメを受けている私だからこそ、男子生徒を止めなくてはならないと思い立ちました。 そうとなれば行動に移しましょう。 本当は今すぐにでも声をかけたかったのですが、そうしたら彼は驚いてしまって、それで転落してしまうかもしれません。 だから私は、自分の存在を誇示するためにわざと大きく足を鳴らして、男子生徒に近づいていきました。 距離が縮まるにつれ、男子生徒の姿も鮮明になってきます。 男子生徒は私に背を向けるようにして立っているので、表情は伺えません。私に見えるのは、わりかし細い彼の背中だけです。 「……!」 だけど、その後ろ姿だけで十分でした。彼の発する不安定な雰囲気を察するのには。 私は足を止めました。なんといいますか、よくわからなくなったのです。 男子生徒が死ぬ気でないのは、すぐにわかりました。 彼からは自殺者特有の(私自身もよく発してしまうのですが)厭世感のようなものが感じられませんでした。 どうやら自殺云々については、私の思い違いだったみたいです。 だけど。 男子生徒は、とにかく危うかったのです。 下手な喩えで申し訳ないのですが、歩き始めたばかりの子供に交通量の多い道路を横断させるのを強制的に見せつけられるような、しかもその道路には信号すら備え付けられていなくって、そのうえ、走行するのは大型の車ばかりで……。 ああ、いけません。我ながら支離滅裂ですね。 不思議なことに、彼を見ているとどうしても思考が固まらないのです。思考が散漫になって、不安定になってしまう。 不安定。そう、彼はとにかく不安定でした。 私は、当初の目的すら忘れて硬直していました。 すると、背後にいる人物の気配に気づいたのでしょう。男子生徒はやおら振り向きました。 「あっ……」 そこで私はようやく、目の前の男子生徒が自分と同じクラスメイトということを知ったのです。 139 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 56 20.73 ID lcwKyq+5 [6/8] 「鳥島くん……」 鳥島タロウくん。 彼は私と同じクラスで、いえ、クラスだけじゃなくって、この市立N小学校で一位二位を争う有名人でした。 鳥島くんはとても明るくて、男女の区別や学年の差異などもお構いなしに、誰にでも話しかける太陽のような人なのです。 N小学校の誰もが彼のことを慕っていて、それこそ教師さえも含めて、頼りにしているのです。 ――いえ、この場合は「でした」と言い換えたほうがよいのかもしれませんね。 振り向いた鳥島くんの表情は想定通り無機質で、目は虚と見間違えるほどに虚ろでした。 「…………」 鳥島くんの無言に、私はアッと乾いた息を漏らしてしまいます。 やはり、鳥島くんを見ていると心がざわつくのです。彼に気圧されてしまい、訳の分からない焦燥感に駆られました。 とにかく何か話さなくてはと思い、 「あ、の、こんなところで、どうしているんですか?」 当たり障りのない質問を投げかけましたが、返ってきた反応は無でした。 彼は私をチラリと見やっただけで、興味も湧かないのか、そのままフラフラと不安定な足取りで屋上を出ていきました。 ギイィバタン、と金属が軋む音と共にドアが閉まりました。 それと同時に、私は溜め込んでいた空気を一気に吐き出します。額には、じんわりと脂汗が滲み出ていました。 「こわかった……」 思わず、声に出してしまいます。それほど、さっきの鳥島くんの視線は怖かったのです。 上手く、言葉では言い表せないかもしれません。 鳥島くんの視線は、一言でいえば徹底的な黙殺。ひたすら私を見ないようにしているようでした。 それだけなら、只のシカトで済むのですが、彼の場合は違いました。シカトなんて生易しいレベルではありません。まるで人を人と捉えていないみたいな、病的なまでの無視でした。少なくとも同じ人間に向ける視線ではないでしょう。 あのような視線をぶつけられて動揺しない人間がいましょうか? 間違いなくいないと断言できます。それほどまでに、彼の視線は異常だったのです。 しかしながら、不思議です。 確かに、先程の鳥島くんは非常に機械的で非人間的な様相を成していましたが、瞳だけは少し違っていたのです。 向ける視線こそは別格でしたが、その根源にある瞳は、何故かとても人間らしかったのです。 そして、ソレは私もよく知っているもので、よく慣れ親しんでいる感情なのでした。 だけど、ソレが何かがいまいちピンときません。喉に小骨が刺さったようなもどかしさに、私は苛まれてしまいます。 ――鳥島くんは何を思って、あのような視線を人に向けるのだろう? と、私が思考を更に展開させようとした、その時でした。 私はボヤケた視界の中で、ある物を見つけます。 手帳です。 量販店ならどこにでも置いてありそうな安っぽい手帳が、縁の近くに落ちていたのです。位置からして、どうやら鳥島くんが落としていった物みたいでした。 私は恐る恐る縁まで近づいて、手帳を拾い上げます。 それなりに使い込まれているようでしたが、それ以外にはなんの変哲もない手帳でした。 しかし、そのなんの変哲もない手帳が、どうしようもなく私の好奇心をくすぐるのです。 ――ある日、突然豹変してしまった鳥島くん。その謎が、ここにあるのではないかしら? 私はゴクリと喉を鳴らしてから、辺りを見回します。 当然、自分以外に誰もいません。屋上にいるのは、正真正銘私一人です。 悪いと思う気持ちはありました。ですけど、それ以上にこの手帳が気になってしまったのです。 私はしばらく逡巡した後に、思い切ってエイッと手帳を開きました。 私が鳥島くんの謎を解明してみせよう、そう息巻きながら開帳したのですが…… 「全然、読めないよ……」 結論からいえば、手帳を読むことは出来ませんでした。 ページを満たしている文字の全部がとても癖が強く、どう頑張っても解読が出来なかったからです。 自分さえ理解出来れば構わないといった感じの、他人が読むことを全く想定していないような文字。 鳥島くんはいつもこんな字を書いているのか、と少し新鮮な気持ちになりました。 140 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 14 58 37.50 ID lcwKyq+5 [7/8] でも、もしかしたら――。 と、私は少し見解の幅を広げてみます。 これは、もしかして“あえて”こういう文字にしているのではないのだろうか、と私は推察したのです。 たとえば、こうやって“誰かに拾われたとしても中身を読まれないように”と。 「……さすがに穿ち過ぎかしら」 自分の極端な推理に呆れて、私は肩をすくめてしまいます。 それからも、パラパラと惰性でページを捲っていたのです、最後の書き込みがしてあるところで手を止めました。 「ここ、読めるかも……」 ページの下部にある書き殴り。そこだけは唯一、辛うじて理解出来る文字列を成していました。 私は必死にそこだけを注視し、声に出しながら解読を試みます。 「そろそ、ろ……か、んさつを……さい、かいす、るべき……だろう……?」 『そろそろ観察を再開するべきだろう』 ページには、そう書いてあったのです。 「?」 しかし、文字は読めても事情の読めない私には、何が何だかわかりません。 結局、この手帳を呼んで得たものは鳥島くんに対する罪悪感だけで、彼に関することは何もわからなかったのです。 「手帳、明日ちゃんと返してあげなくちゃな……。それと、勝手に中を見たこともキチンと謝ろう」 私は手帳のシンプルな表紙をぼんやりと眺めながら、明日の予定を決めました。 「それにしても、鳥島くんか……」 私は彼の不安定な姿を思い出し、若干の身震いをします。 鳥島くんは、変わってしまいました。 彼は、昔はこうじゃありませんでした。絶対に、あんな怖い視線を向けるような人じゃなかったのです。 鳥島くんはある日突然、己の有していた幅広い交友関係を全て断ち切りました。そして、自ら進んで独りになったのです。 最初こそは、親しい友人たちも鳥島くんを心配して、彼に積極的に関わろうとしていました。 が、誰もが彼の普通でない様子に恐れをなして、誰もが離れていきました。 今では、誰も鳥島くんに話しかけたりしません。彼は、恐怖の対象なのです。 それに、鳥島くんは己が意図してそうしているのかはわからないのですが、存在感がとても希薄なのです。気をつけて観察していても、何処にいるのかわからなくなる時があるほどです。 さっきだって、幽霊のようにいつの間にか屋上に居ましたし……。こういう言い方をすると、悪口みたいになってあまり好かないのですが……私は以前の彼ならまだしも、今の彼はどうしても好きになれませんでした。 鳥島くんは、とても怖い人なのです。 「あ……」 しかしその時、私はある重要な事に気がついて、瞳を目一杯に広げたのです。それは非常に大きなショックを伴っていて、思わずよろけてしまいます。 どうして、どうして私は今まで、こんな大事なことに気が付かなかったのでしょう。 灯台下暗し、とは正にこのようなことを言うのだと殊更に実感しました。 だって、こんな事実を見落としていいはずがない。 141 名前:私は人がわからない[sage] 投稿日:2013/08/24(土) 15 00 44.90 ID lcwKyq+5 [8/8] ――彼は、鳥島くんだけは、 「鳥島くんだけは、私をイジメない……」 恥の上塗りだとは重々承知しているのですが、前述したように私は現在“クラスメイト全員にイジメられています”。 しかし、鳥島くんだけは違ったのです。 勿論、彼自身が腫れ物扱いされているというのもあるのでしょうが、鳥島くんだけは私をイジメたことが只の一度もありません。 ナイフのように冷たい暴言を吐いたことも、私の身体に青アザをつけたことも無かったのです。 その事実に気づいた時、フッと心が軽くなりました。 まるで重荷を一つ置いていったような、縛る鎖が一つ無くなったような、そんな開放感に包まれたのです。 尤も、鳥島くんが私を助けてくれた訳でもありません。それこそ、同情さえもしたことがないでしょう。 彼からすれば、私の存在など路傍の石に過ぎないのです。それどころか、彼の無関心さを考えれば、私がクラスでイジメられているという事実さえ知りえないかもしれません。 だけど、 「それでも、やっぱり嬉しいな……」 私の顔は、自然と綻んでしまうのです。 闇に差し込む、ほんのちょっと光明。それが、私にとっての鳥島くんなのかもしれません。自分の置かれている立場が完全な闇でないというのがわかるだけでも、私にとっては大きな救いに成り得るのです。 それが、嬉しかった。 私の中にある鳥島くんに対する恐怖は相変わらず消えませんが、それでも感謝の念だけは湧きました。 私は大きく伸びをして、空を見上げます。 空は、本格的に夜を向かい入れようとしていました。夕日は隅に追いやられ、光る星はあちこちに散在しています。 普段よりも、幾らかマシな気分でした。イジメによる傷の重い痛みも、今はあまりきになりません。 明日もまた頑張ろう、素直にそう思えました。 ――けど、本当にそれだけだったのです。 今日は鳥島タロウくんという微かな光を再確認しただけで、私の周囲は真実、何も変わっていませんでした。 現在、晴れやかになっている私は、鎮痛剤によって一時的な逃避をしているだけに過ぎません。 私、葛籠木キリエの現状はこれっぽっちも、どうしようもないほどに、これっぽっちも変わっていなかったのです。 それは、そう遠くない未来に、すぐに思い知ることになりました。
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70 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 14 57 07 ID GnfQ6JQS 熱い夏の日だった。 空には入道雲が浮かび、その中で輝く白い太陽はジリジリ地面を照り付けている。コンクリートの道路はまるで鉄板のように焼き上がっていた。 遠くには陽炎も出来ていて、街路樹が並ぶ街道をゆらゆらと揺らしている。 アブラゼミがミンミンと騒ぎ、それは何かを急き立てるように感じた。 そんなありふれた七月の光景。 その上を、弾丸のように駆けて行く少年が一人。 彼は溢れ出てくる汗をシャツの袖で拭い、タッタッタッと小気味好く地面を蹴りつけて、ひたすらに走っている。 呼吸は不規則で、息もままならないといった風ではあるが、その顔は決して苦しそうなのものではない。 むしろ、愉快そうに口元を歪めていて、苦楽を共にしたような奇妙な笑みを浮かべていた。 額に張り付く髪の毛が気になっているようだが、走る速度は決して下げない。 少年はただ一心不乱に、前へ前へと歩を進めて行く。 その日は土曜日だった。 土曜日の学校というものは平日とは違い、時間割も短縮されてしまい、時計の針が十二を越えることなく、さっさと下校時間となってしまう。 少年は土曜日の学校が嫌いだった。 授業は道徳や総合などの微妙なものばかりであるし、昼休みになると必ず行うドッジボールも出来ない上、楽しみの給食も出ないからだ。 彼は帰りのホームルームが終わるまで、ずっと唇を尖らして過ごしていた。 そして、放課後。 全ての時限を終え、学校も終了なるのだが、遊び盛りの少年がこのまま一日を終わらせる筈がない。 彼はクラスの男子達を集め、皆の予定がないのを確認すると、昼から遊ばないかと提案した。 男子達はそれを快諾し、各自昼食を摂った後、学校のグラウンドで野球をしようということになったのだ。 71 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 14 58 05 ID GnfQ6JQS 少年は、いつもクラスの中心にいた。 彼は頭も良く、運動神経にも優れ、授業中にはいつもくだらない冗談を言ってはクラスを沸かしていた。 加えて責任感も十分にあるので、学校の行事等を行う時は率先してクラスをまとめ上げていた。 友人も多く、人望もある。そんな少年だった。 自宅が見えてくると、少年はより一層走るスピードを上げ、ただいまも言わずに玄関の扉を開けた。 勢いそのままに階段を駈け登り、バットとグローブがある自室を目指す。 しかし、疲れ知らずに稼働していた彼の足が、まるで電源が切れてしまったかのように、突然ピタリと止まってしまった。 微かに開いた隣りの部屋から、しくしくと啜り泣きが聞こえたからだ。 そこは彼の妹の部屋だった。 少年は狂ったように脈打つ心臓を静め、額に浮かぶ汗を拭うと、扉の前で耳をすませる。 自身の口から漏れ出る息がうるさかったが、部屋の中からは確かに泣き声が聞こえた。 少年はそっと扉を開けて中を覗き込む。 部屋の中に、妹は居た。 彼女は部屋の隅で膝を丸く屈めて、溢れる涙を両手で擦りながら静かに泣いている。 彼女のその姿を見て、少年は堪らず声を掛けた。 「リンちゃん」 少年の声を聞いて、妹は顔を上げる。 そして、その瞳一杯の涙を溜めこんで彼に飛び付いた。 「うわっ」 受け止める準備をしていなかった少年は体勢を崩し、二人して倒れこんでしまう。 妹は少年の胸の辺りを掴み、お兄ちゃんお兄ちゃんと連呼した。 スカートがだらしなく捲り上がり、下着が見えてしまっていたので、さり気なくそれを直してやり、その涙やら鼻水やらでくしゃくしゃになった顔を汗まみれのシャツで拭いてやった。 そしてしばらく背中を撫でていると、徐々に妹の落涙も落ち着いてきた。 「どうしたの?」 頃合いだと思って少年がそう聞くと、思い出してしまったのか、妹の目に再び涙が溜まり始める。 それから、しゃくり混じりの声で言った。 「あのね、あのね。トラが……ひっく……トラが苦しそうなの……」 「トラ?」 72 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 14 59 01 ID GnfQ6JQS トラというのは、一年程前から妹が飼い始めているジャンガリアンハムスターの名前であった。 ハムスターのくせに虎とはやけに強そうな名前をしているなと、少年は前々から思っていた。 「トラに何かあったの?」 そう聞いてみたが、妹は少年の質問には答えず、ぐいぐいと彼の腕を引っ張った。 そして、トラの住むケージの前にまで移動させられた。妹が中を見るように促したので、少年はケージの中を覗きこむ。 いつもなら元気よく滑車を回し、せまいケージ内をこれでもかと言うぐらいに駆け回っているトラであったが、そんな元気一杯の姿も今は見る影無く、ケージ内の丁度真ん中辺りでぐったりと横たわっていた。 少年は一目見て、トラの異常を察した。 「トラにエサをあげてから、ずっとこうなの」 事の継起を説明する妹の顔は、不安と動揺に震えている。 そんな彼女とは対照的に、少年は涼しげな顔でふむふむと頷いていた。 実を言えば彼自身も、目の前で起きている突然の事態に、中々に動揺していたのだが、妹の手前うろたえるわけにもいかず、精一杯の平静を試みていた。 せめて妹の前ぐらいはカッコつけたいのが、兄というものだ。 少年は、その小さな頭で考えた。 どうして、トラはこのような状態になってしまったのだろうか。 妹は、エサをやってからトラの容体がおかしくなったと言っていた。 と言うことは、やはりエサが原因でこうなってしまったのか、はたまたもっと別のことが原因なのか。 少年は色々と考えてみたが、結局わかったのは、これが自身の手に負える問題ではないということだった。 時計を見ると、時刻はもうそろそろ一時を回る頃になっていた。もう野球には間に合わないだろう。 頼りになる母は仕事に出かけていた。帰って来るのはよくて夕方、悪ければ深夜になるだろう。 頼りになるのは少年一人。ここでしっかりしなくちゃいけないのは自分なのだと、少年は自身に言い聞かせた。 とにかく、こういう時はまず病院だ。それも人間のではなく、動物の。 少年は脳内で地図を広げ、近くに動物病院があるかを探した。 目を瞑って、さらに集中する。 しかし、いくら探しても見つからない。 ただの病院ならともかく、普段特別注視する訳でもない動物病院など、例えあったとしても、少なくとも少年は覚えていなかった。 73 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 14 59 49 ID GnfQ6JQS 「トラ、すごく苦しそう……早く楽にしてあげたいな」 妹が横で呟いた。 少年はそこで一度目を開け、ケージ内のトラを見つめた。 トラは相変わらずの虫の息で、その小さな鼻をひくつかせ、びくびくと痙攣していた。 少年はその姿を見て、顔をしかめた。 なんたる脆弱な姿なのだろうか。あまりに弱々しく、本当に今にでも死んでしまいそうだ。 少年はいつの間にか、トラから目が離せなくなっていた。 とり憑かれたように、ケージ内のただ一点を見据える。 その虚弱な姿態を見ていると、頭の中が妙にクリアになっていく気がした。濁り一つない水面のように、思考が透き通っていく。 そんな、やけに判然とした意識の中で、少年はトラを見つめ続けていた。 その時だった。 パチン、と指を鳴らす音が室内に響いた。それと共に、思い切り後頭部を殴られたような、そんな衝撃が、少年を襲う。 そしてその衝撃は消えることなく、彼の体を蝕んだ。 身体中の神経が薄れていくような奇妙な感覚。 眠っているような、起きているような境界の曖昧さ。 すとん、と彼の顔から表情が落ちた。 「……お兄ちゃん?」 妹が不思議そうに少年を見上げていたが、彼は全然気にする様子でない。 少年はあまりにも自然な動作で、ケージの入口を開け、既に息絶え絶えのトラを手のひらの上に乗せた。 トラの体はまだ暖かかった。これはまだしっかりと生きているのだ。 手のひらを通して伝わる、微かに光る命の灯。 それを感じながら、少年は少しずつ指に力を込めていく。 徐々に力を強めていき、最後には指が白くなる程の力で、手中の小動物を握り締める。 やがて、ポキリと枯れ枝が折れるような音が、耳に届いた。 「えっ?」 そこで、暗示がかかったように動いていた少年の顔に表情が戻る。 眠っていたような意識が、一気に現実に引き戻された。 そして、今起きた出来事を頭が受け入れ始めると、少年の顔はみるみると青ざめていった。 どうして、自分はこのような行動に至ってしまったのだろうか? それが、少年にはわからなかった。まるで何者かに操られていたかのように、自分の意志とは全く無関係に、気がつけばトラを殺していた。 異様なまでの現実感の無さがあった。 しかし、手のひらの上に乗るソレが、今のが決して夢でないことを物語っている。 74 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 00 49 ID GnfQ6JQS 「……お兄……ちゃん」 妹の一声で、少年は混乱から立ち直った。 彼はハッとして顔を上げる。 先程までシャツの裾を掴んでべったりとくっついていた妹が、いつの間にか遠くに居た。 「なんで……そんな……」 妹はいやいやとかぶりを振りながら、兄を見る。 「えっ……?」 少年は驚愕した。 妹の瞳が、兄を見つめるその瞳が、いつもの敬虔な光を携えていなかった。 いや、それどころか彼女の目はまるで得体の知れないモノでも見るかのような、そう、まるで、異常者でも見るかのように少年を見ていた。 彼はそんな妹を見て、知らず口を開いていた。 「だって、リンちゃんが言ったんだろ。トラを楽にしてあげたいって」 少年は続ける。 「そうだよ。だから、僕は悪くない。これっぽっちも悪くない。だって僕はリンちゃんのお願いを聞いてあげただけなんだから」 だから、だから。 「そんな目で僕を見るなよっ!」 少年は叫んだ。 顎の先から汗が一粒落ち、カーペットに滲む。 妹は一歩、一歩と後退り、部屋を出る最後に、こう言った。 「お兄ちゃん、普通じゃないよ」 母が帰宅してきた後、少年はトラについての一連の騒動を説明した。 母ならわかってくれると思った。自分が悪くないということを。自分はただ妹の願いを聞いてあげただけに過ぎないのだと。 しかし、話を進めていくうちに、母の顔が怪訝なものへと変わっていった。 そして、話を終える頃には、母の瞳にも妹と同じ光を携えていた。 母もそれから、少年を忌避するようになった。 それからというもの、少年は時々人々から奇異な視線で見られることがあった。 その視線で見られる度に、少年は自身の異常性が浮き彫りにされるような気がして、怖くなった。 自分が普通でないと、嫌でも認識させられてしまうのだ。 結局、少年は少しクラスメイト達と距離を置くことにした。 不用意に近付きすぎると、悟られてしまうと思った。 少年は、普通になりたかった。 異常者から脱却したかった。 彼はただ、また以前のような日々を過ごしたいだけなのだ。それ以上のものは何も望んでいない。 そうして急に孤独になってしまった少年は、普通になるための模索を始める。 何が普通で、何が異常かを見極めるのだ。そうすれば、いつか普通になれると信じていた。 けれど、少年は心の隅ではわかっていたのだ。 自分が一生このままであることを。 75 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 01 32 ID GnfQ6JQS 翌朝、朝食を摂るために階段を降りていると、玄関で妹の鳥島リンと鉢合わせた。 セーラー服姿の妹は、いつものように髪を結い上げ、その眩しいうなじを惜し気もなく晒していた。 昨日のこともあるので、そのまま無視していくのも気まずいと思い、私は片手を上げて挨拶する。 「やあ、おはようリンちゃん。今から朝練?」 と、軽い質問も織り交ぜて聞いてみるが、妹はそんな私に一瞥もくれず、黙々と青のスポーツバックを背負い、ローファーを履くと「行ってきます」と言って出て行ってしまった。 今の行ってきますは、当然私に向けられたものではないだろう。 虚しく空中をさ迷っていた片手は力無く下がり、私は閉まってしまったドアを名残惜しく見つめた。 昨日の、数年振りに交わした妹との会話が蘇る。 ――兄さんみたいな人間が、誰かと付き合えるはずがないじゃない。 あの言葉には肉親に対する親愛の情など全く無くて、あったのは私に対する畏怖と軽蔑と、ほんの少しの心配だった。まあ、その心配も田中キリエに向けられたものだけど。 でも、それでもいい。 私はそう思った。 どんな形であれ、昨日久しぶりに妹と会話が出来たのは紛れも無い事実なのだ。 今までの彼女との関係を考えれば、昨日行われたささやかな会話だって、とてつもない進歩と言える。 これを契機に、彼女と仲良くなっていくことだって出来るかもしれない。何もそう全てを悲観してしまうこともないだろう。 元々、私は根っからのオプティミストなのだ。昨日のこともプラスに考えて、直ぐに切りかえるとしよう。 私はうんうんとひとり頷いた。 そんな楽観的な心持ちでリビングに入ると、今度は今まさに出かけんとする母と出くわした。 「あら、おはよう」 何かのついでのように母が挨拶する。 おはようございます、と私も挨拶を返した。 「もう、行くんですか?」 「ええ、最近はどうも忙しくてね。しばらくはこんな調子が続くと思うからよろしく」 「わかりました」 「朝ご飯は、いつもみたく適当に自分で用意しといて。後、家の戸締まりとガス栓のチェックはしっかりやっといてね。それじゃ」 わかりました、と返事をする頃には母の姿はもう無く、扉の閉まる音だけが耳に届いた。 母は私の背中の壁ばかり見ていて、最後まで目を合わせようとしなかった。 76 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 02 20 ID GnfQ6JQS 念のため玄関の扉の鍵を閉めてから、キッチンに向かい、コーヒーをいれて椅子に座った。 テーブルの上に置かれた買い置きのパンをかじりながら、テレビの電源をつける。 テレビからは突然、陰欝なBGMが流れ始めた。 ブラウン管に映る女性アナウンサーが、沈痛な表情でニュースを伝えている。 画面の右上には“とある一家を襲った放火事件。同一犯の可能性か!?”と四角い枠で囲まれたテロップが浮かんでいた。 どうやら、最近隣り町で頻繁に起きている連続放火事件のことらしい。 普段は寡聞な私も、この連続放火だけはよく知っていた。 私は黙ってコーヒーを啜る。 女性アナウンサーが手元の資料を見ながら、事件の概要を話し始めた。 昨夜、深夜二時頃。隣り街に住むある一家に魔の手が襲った。 被害者は、何処にでも居そうな平凡な四人家族で、家族構成は両親二人に小学校に上がったばかりの兄弟が二人だった。 火元が一階のキッチン付近であったため、階下で寝ていた父親と母親は、早急に家宅の異変に気付き、幸いにも素早く避難することが出来た。 しかし、二階で寝ていた兄弟二人が気付いた時には既に遅く、二人は燃え盛る家宅の中に取り残されてしまう。 そこで、救助隊の到着を待ち切れなかった父親は、勇敢にも二人の息子を助けに再び火の中へと飛び込んで行ったのだ。 けれど、現実とはいつも非情なものである。 結果、消防隊により鎮火された家の中からは、三人の焼死体が発見された。 不謹慎な物言いではあるが、正にミイラ取りがミイラになると言ったところであろう。 「父親、か……」 私は画面に映る、父親という二文字を見つめた。 私には父親が居なかった。 いや、生物学的な観点から見ればそんなことは有り得ないので、存在することには存在するのだろう。 けれど、鳥島家にはいない。 私には父親に関する記憶は全く無いので、父は少なくとも私の物心がつく前には居なくなってしまったことになる。 私は幼い頃、よく父のことを知りたがった。が、母はあまりその事を話したがらなかった。 77 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 03 15 ID GnfQ6JQS ただ、ずっと昔に死んでしまったとだけ聞かされている。 しかし私は大して、父がいないことを寂しく思わなかった。 鳥島タロウにとって、自分の家に父親がいないことが普通であったからだ。 けれど、妹は少し違った。 彼女は時たま、父の不在を嘆くことがあった。 「どうして私の家にはお父さんが居ないの?」と私は幼い彼女によく聞かれたものだ。 そんな家庭状況なので、私は母によくこう言われていた。 「タロウはお兄ちゃんなんだから、しっかりとリンちゃんのことを守ってあげるのよ」 母は毎日ことあるごとにそう言い、私はそう言われる度に誇らしい気持ちになった。 任せておくれよと言って、胸を張ったものだ。 けれど、いつしか母は私にその言葉を言わなくなった。 最後に言われたのは何時だっただろうか。 そんなことを考えて、少し淋しくなった。 朝食を済まして、私は登校の支度を始めた。 洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直してから自室へ向かい制服に着替える。 ワイシャツのボタンを閉め、厚手のセーターを着込んでから、ハンガーにかかったブレザーに手を伸ばした。 「んっ?」 その時、小さな違和感を感じた。 うまく言えないけれど、なんだかブレザーが少しおかしい気がする。 けれども、何がおかしいのかはわからない。何とも形容し難い、まるで靴の中に小石が入っているような、そんな違和感。 「気のせいかな……」 私はしばしブレザーを睨んでいたが、そんなことを気にしていては学校に遅刻してしまうので、さっさとブレザーを着込んで準備を再開した。 そして、学生カバンに教科書やノートを詰め込むと、早足で家を出た。 そして、鍵を閉める時。 ふと、今朝の放火事件のことが頭をよぎった。 家族構成は四人で死者数は三人。 生き残ったのは、確か母親であったはずだ。 愛する夫と幼い子供に先立たれてしまい、ただ一人とり残されてしまった母親は、一体どんな心境なのだろう。 私は少し気になりながら、鍵を閉めた。 78 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 03 57 ID GnfQ6JQS いつも通り、ホームルーム開始五分前に学校に到着する。 私はあまり朝は強くないので、普通に登校すると大抵この時間帯に学校に着くのだ。 下駄箱で靴を履き変えてから、冷え切った廊下を抜けて、教室のドアを開けた。 「あっ、タロウ!」 そしてドアを開けるやいなや、クラスメイト達が一斉に私に駆け寄って来た。 ここ最近は、ドアを開ける度に皆に集まられている気がする。 勘違いだとはわかっているが、まるで自分が人気者になったみたいで、少し嬉しい。 「タロウ、お前昨日結局どうなったんだよ?」 クラスメイトの一人が口を開く。 質問内容は予想通り、マエダカンコに関することだった。 何時の時代でも、人間のゴシップ好きとは変わらないものだ。 「えーと……」 昨日のことをそのまま話す訳にもいかないと思い、私は適当に話をごまかすことにした。 ただ彼女が、普通の人間には手の負えない、物凄く恐ろしい怪物だということを懇切丁寧に教えてあげた。 話を聞いたクラスメイト達は震え上がり、そして無事生還した私を不思議そうに見た。 そんな質疑応答を繰り返していると、黒板側のドアを開けて担任が入って来た。気がつけば始業のチャイムも既に鳴っている。 それを契機に、クラスメイト達は散り散りに自分の席へと戻り、遅れたホームルームが始まる。 担任の点呼が始まった。 次々と生徒の名前が呼ばれていく中、私はあれ?と首を傾げる。何故か田中キリエの名前が呼ばれていない。 見れば、最前列の廊下側の席がぽっかりと空いている。あそこは確か、彼女の席だった筈だ。 今日は欠席なのだろうか?昨日はあんなに元気そうだったのに。 私は田中キリエの柔和な笑顔と、無骨な形をした金づちを思い出した。 何はともあれ、こういう時は本人に聞くのが一番であろう。 私は朝のホームルームが終わると、携帯電話を開き、彼女にメールを送ってみることにした。 昨日の内にアドレスは交換している。 私の数少ないアドレス帳の中には、きちんと田中キリエの名前が入力されていた。 メールを送るのは随分と久しぶりの事だったので、多少操作を忘れているところもあったが、なんとか無事送信することが出来た。 よし、それでは次の授業の準備を始めようと思って、私が携帯電話をポケットにしまおうとした時、手中のそれが突然震え出した。 79 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/05(土) 15 04 57 ID GnfQ6JQS 誰かからメールが届いたようだ。 迷惑メールかしら、と思って携帯電話を開くと、驚くべきことに届いているのは田中キリエからの返信メールであった。 早い。相当に早い。いくらなんでも早過ぎる。 私は、彼女の返信の早さに脱帽した。 まだ送ってから数分も経って居ないのに……。 到着時刻を見てみると、なんと受信時間と送信時間とが同分であった。メールの受信から返信までが一分も経っていない。 まるで一日中携帯電話を握りしめてたかのような早さだった。 もしかしたら、彼女は昨日からずっと私のメールを心待ちにしていたのだろうか?まあ、そんなことは有り得ないか。 メール内容を確認する。 どうやら田中キリエは風邪をひいてしまったらしい。 元々あまり身体が強くないので、時たまこうして休むことがあるのだということが、絵文字を交えて丁寧に語られていた。 私はメールを返す。 てっきり生理で休んだんだと思っていました、と送信すると、再び一分足らずで返事が返ってきた。 自分は生理痛で休んだのではないということが、句読点を交えて克明に語られていた。 私はとりあえず、今日はしっかりと自宅で療養して早く学校に復帰してほしいという意のメールを送り、彼女のそれに対する感謝のメールを確認してから、今度こそ携帯電話をポケットにしまった。 ふぅ、と一息ついて窓の外を眺める。 なんだか、急に暇になってしまった気がした。 私は、今日から田中キリエとの甘く切ない恋人生活が始まるのだと意気込んでいたので、どうも肩透かしをくらった感は否めない。 突然、異動命令を出されてしまったサラリーマンのような気持ちだ。 それなら、放課後はどうしよう。 ここは彼氏らしく、恋人を気遣ってお見舞いにでも行ったほうがいいのだろうか。 だけれど彼女の性格を考えれば、私が訪ねてしまっては、何よりも当の本人の気が休められない気がする。 やはり、ここは大人しく帰ることにするべきか。 私がそう思っていると、ふと学校内の隅にある部活棟が目に入った。 頭をよぎるのは、茶道室の住人。 そういえば、少し前まではそれなりの頻度で会っていたけれど、最近は忙しかったせいもあってか、彼女とも久しく会っていなかった。 そうだな。 放課後の予定が決まる。 どうせ、これから忙しくなるのだ。最後くらいに一度、斎藤ヨシヱと会っておこう。
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右手を見ても 左手を見ても 僕の手には何もない 空気のような感触が 僕の手に残ってる ぐっと握った手のひらを 開いてみれば少し温かい もう、こんなに痛く 解っているのは痛みだけ 限りないのは夢ばかり 僕は理想の夢ばかり あなたを側に置いてみて 空気のように通ってみる あなたを側に置いてみて 前だけ向いて歩いてみる あなたを側に置いてみて 知ったかぶりだけしてみる あなたの側に僕はいない 世界のどん底の方に 米粒が光ってて 床に這いつくばった僕がいる 世界の天井の方に 小指が光っていて 背を伸ばしてもとどかない 僕の思いってなんだろう? ハテナとハテナを逢わせても ハテナイ空に消えるだけ 空いている席に座るんだろうか? この席は安全だろうか? 何かに満足して 何かに嘘をついて 何をするためだけに、あなたを側に置いてみる 傲慢ちきなチキショウが 僕の中で 僕の僕の中で 僕の僕の僕の…中で 絶え間なく笑ってる 笑顔で手をふってやろう それでもあいつはあきないだろう わからないという恐怖 わからないという絶望 わからないという幸福 わからない それだけが僕の問題 それだけで世界を消化しつくせる そう、僕はわからない
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769 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2008/11/01(土) 17 54 15 ID ??? 上映や元ネタといえば。 昔鳥取でオレがメインでGMやってるとき、 PLの一人が「こんなシナリオを作れっ」 てエスカフローネとかいうアニメのクライマックスを、 一話だけみんなの前で上映してな。 正直その行為の意味がわからなくて苦しんだ。 いまもわからん。 スレ205
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2527.html
809 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 54 16 ID /4kh.2c. [1/12] 遂に、ぽつぽつと雨が降ってきた。 徐々に雨量を増していく雨は、雨脚こそはまだ弱いが、これから激しくなっていくだろう予感を感じさせる、たしかな力強さを持っていた。降りしきる雨粒は遊歩道に黒い染みをつくり、通行人たちは慌てて傘を広げている。 私はコーヒーカップをソーサーに戻すと、ぼんやりと雨に見入った。 「何を見ているんだ?」 前田かん子が、角砂糖をコーヒーに入れながら問うた。 「いや、雨、降っちゃったなって」 「雨?」 怪訝そうに目を細めてから、彼女も外を見やった。雨粒は窓を軽くノックし、水滴を張り付かせては落ちていく。 「雨が降ると、なにか不都合なのか」 「不都合。そうですね、不都合といえば不都合です。実は今日、傘を持ってくるのを忘れちゃいまして。このままじゃ濡れて帰ることになるなと危惧していたわけです」 「嘘だな」 即座に否定されて、びっくりして対面を見返す。前田かん子はじっと私を睨みつけていた。嘘吐きを見る目だった。 「今のお前の返答は、通常よりも幾らか早かった。あらかじめ私がこの質問をするのに備えていたんだ。本当はもっと別の理由があるんじゃないか。雨が降るとマズくなる、別の理由が」 「……さすがに穿ちすぎですよ。別の理由なんてあるはずないじゃないですか」 ゆるゆると首を振る。 「前田さんが私のことを嫌っているのはわかっています。ですが、そう何度も突っかかられるのは困りますよ。とても疲れてしまいます。お願いですから、多少の不快には目を瞑ってもらえませんか」 「嫌っているのはわかっている、ねえ……」 角砂糖をコーヒーに入れながら、前田かん子は面白そうに笑う。 「ああ。たしかに私はお前を嫌っているさ。それもかなり。私はお前が嫌いで嫌いで仕方がない。鳥島タロウの全てが気に喰わない。特に、その喋り方。そのとってつけたような丁寧語は気に入らん。一人称が私の男子高校生だなんて、今まで見たことがないぞ」 まさか口調を指摘されると思っていなかったので、少々面をくらう。しかしまあ、言われてみると確かに珍しいかもしれない。妙齢の男性でもないくせに一人称が私だというのは。だが、これはもう癖みたいなもので、すっかり馴染んでしまって今更どうこう出来る物ではなかった。 「すいません。言葉遣いに関しては、我慢してもらうしかありません。長年染み付いてしまったものなので、矯正は難しいかと」 私がそう言うと、前田かん子は、チッと舌を鳴らして視線を外した。耳についているシルバーピアスが、オレンジ色の照明に照らされて鈍い光を放つ。 810 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 56 18 ID /4kh.2c.[2/12] 「なら、さっさと本題に入れ。キリエについて訊きたいことがあるのだろう?」 すわ本題か。私は居住まいをなおし、腕を組んでしばし考え込むと、やおら口を開く。 「そうですね……じゃあ、まずは田中さんの簡単な個人情報、プロフィールを教えてもらえますか?」 「プロフィール……内容云々は、私の自己判断で構わないのか?」 「構いません」 「そうか。了解した」 前田かん子は角砂糖をコーヒーに入れると、瞑想する時のように瞼を下ろした。どのようなことから話すべきかを考えているみたいだ。 五分程度経つと、彼女はフゥと息を吐き、目を閉じたままの状態で滔々と話を始めた。 「氏名、田中キリエ。現在は父親と継母の三人暮らしで、兄弟はいない。ペットなども飼ってないが、唯一自室でサボテンを育てている。現在三年目。継母からの贈り物と聞いている。 身長は百四十二・三センチで、体重は三十六・二キログラム・・いや、訂正だ。体重は三日前に二百グラム増えたから、正確には三十六・四キログラムだ。それと足のサイズは二十一・五センチ。 性格は引っ込み思案かつ人見知り。けど、細かいところに目が届き気配りは上手。だから、キリエのことを悪く思うやつは一人だっていないはずだ。キリエは優しくて可愛いからな。アイツの陰口を叩いてる人間なんかいたら、殺してやるさ。 利き手は左だが、書き物をするときや食事などでは右手を使う。まあ、スポーツ等以外では左手を使わないから、実質右利きと言ってもいいのかもしれない。 好きな食べ物は宇治金時で、嫌いな食べ物はトマト。趣味は料理に手芸。料理のほうは言うまでもなく絶品。小さい頃かずっと包丁を握っていたからな。経験だって豊富だ。休日にはお菓子なんかもつくったりする。 手芸のほうは、大体冬が近づくととマフラーや手袋なんかを編み始める。キリエが今年つけているピンク色のマフラーも、自分で編んだものだ。キリエはピンクが好きだから、毛糸も必ずピンク色のものを使用する。ふふっ、ほんとうに愛らしい。 それと、風呂に入ったときに最初に洗う箇所は左足の甲で次は・・」 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」 堪らず声を上げてしまった。身を乗り出すようにして話を遮る。前田かん子は急に話の腰を折られたためか、不機嫌そうに此方を睨みつけていた。 「なんだよ、急に」 「あ、いえ、いきなり話を中断させて申し訳ないとは思うのですか……あの、いくらなんでも詳しすぎやしませんか?」 「はあ?」 何を言っているのかわからない、といった風で首を傾げる。その態度があまりにも自然なものだったので、一瞬、間違っているのはこちらなのではと考えてしまう。けど、まさかそんなはずはないだろう。 811 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 10 58 16 ID /4kh.2c.[3/12] 「ですから、ちょっと田中さんについて仔細に知りすぎていますよ。身長や体重を小数点以下まで把握しているなんて、忌憚なく言わせてもらうとかなり異常です。ましてや、入浴時云々なんて言うまでもないかと……」 そう指摘すると、前田かん子は呆れ顔になって、 「なあ、鳥島タロウ。お前には、親友と呼べる人間はいるか?」 「親友、ですか? いえ、お恥ずかしながら……」 前田かん子は、やはりそうか、とでも言いたげにやれやれと首を振った。 「なら、理解できなくても仕方がないか。無知蒙昧なお前に教えてやろう。普通、親友ってのは相手のことをとてもよく理解しているものなんだ。とてもよく、だ。 親友のいないお前にはイマイチ理解出来ないのかもしれんが、これしきの基礎知識、親友なら知ってて当然なんだよ」 「そ、そうなんですか」 衝撃の事実だった。これまで私の考えていた親友像と、前田かん子の説明する親友像には、大きな隔たりがあった。まさか、親友なるものの心の距離感がここまで近いとは……。もはや密着と言っても差し障りがないではないか。 ぶっちゃけ、今言った親友の定義は違っているのではと疑ったりもした。が、実際に親友を持つ者の言葉にはやはり重みがあった。白黒つけるまでもない。恐るべし親友。自分にもいつか、そんな存在が出来たらなと願う。 ふむふむ、と感慨深く頷く。これでまた私はひとつ賢くなった。 「それで、次に訊きたいことはなんだ」 「次、ですか……次はですね、えと」 「どうした? 随分と考えあぐねているじゃないか」 返答に窮していると、ここぞとばかりに攻撃してくる。意地悪な小姑のように、ネチネチと陰湿に。 「今日は訊きたい事が山ほどあったから私を呼び出したんだろう? なのに、質問内容をぽんぽんと繰り出せない今の状況はおかしいな。私にはとても奇異に見える」 「ですから」 難癖をつけるのも大概にしてほしい。私は多少声を荒げて啖呵を切る。 「前田さんは疑りすぎなんですよ。ちょっとの間、言葉に詰まっていただけでしょう。それをなんですか。まるで私に腹蔵があるみたいに言うのは。そう気を揉まなくても、なんの裏もありゃしませんよ。 今はただ、ほら、バイキング料理と一緒です。目の前にずらりと料理が並べられていると、どれから手に取ろうか悩んでしまうでしょう? そんな感じで、質問を決められずにいたのです」 「本当にそうかな」 それでも揶揄する前田かん子に、身体の温度が上昇しかけるが、ハッと気付く。身に覚えがあった。こうやって、わざと私を苛立たせ、本性を暴こうとする手口には。 812 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 00 14 ID /4kh.2c.[4/12] なるほど。冷静に観察してみれば、彼女からは明らかに作為的な雰囲気を感じる。私の本音を白日の下に曝すために、意図的に因縁をつけているのだ。つまるところ、彼女と同じことをしている。茶道室に居座る、あの魔女と同じことを。 そうとわかれば話は早い。 「さあ、どうですかね」 一息入れ、道化のように肩をすくめてみせる。こういう相手に真面目に取り掛かってしまうのは逆効果でしかないのを知っていた。 こちとら長いあいだ斎藤ヨシヱに煮え湯を飲まされ続けているのだ。この手の対応には、抜かりがない。 前田かん子もこれ以上の揺さぶりは詮無しと悟ったのだろう。そうかい、と呟いたきりあっさりと身を退いて、変に突っかかるのをやめた。黙って角砂糖をコーヒーに入れ、訊きたいことは決まったかと再度訊ねる。 「それでは、田中さんの男性遍歴について訊かせてもらえますかね」 私と付き合う以前、田中キリエがどんな恋愛をしてどんな別れ方をしていったかが気になっていた。 「ないよ」 「えっ?」 「キリエが男と付き合ったことは、今まで一度だってない。曲解されぬ内に言っておくが、女ともだぞ」 「へぇ、意外ですね。彼女って、中々モテるんじゃないですか? 容姿については問題ないですし、性格だっていいでしょう」 「ああ、モテたさ。キリエはクラスでもあまり目立つほうではないが、そのぶん密かなファンは多い。中学時代は言わずもがな、高校でだって何度か告白されている」 「なのに、どうして誰ともお付き合いを?」 「さあね。どっかの誰かさんを長年想い慕っていたからじゃないのか」 挑戦的な瞳で私を見る。こういう言われ方をされてしまっては、何も言い返すことが出来ない。愚者を気取ってわからないフリをし、遠くを眺める。 「どうして、なんだろうな」 急に、前田かん子が独白する。田中キリエの趣向は理解し難いとでも言いたげに、眉根を寄せていた。 「容姿はよくない。体格も華奢で頼りない。いつもへらへら笑ってて何を考えているかわからない。見てて不愉快だし、男性らしい魅力も皆無。少なくとも私には、ただの下賎な男にしか感じられない。なのに、なぜ、キリエはコイツに失望しなかった……」 角砂糖をコーヒーに入れながら、何か考え込んでいる御様子。私を貶める発言が鼻につくが、それは寛容な心をもって流しといてやろう。 813 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 02 34 ID Lfmv7T16[5/12] それよりも、 「前田さん。いい加減、口を挟んでもいいですかね」 彼女は私にちらりと目をやって、訊ね返した。 「口を挟むって、なににだよ」 「コーヒーです」 私は、およそ液体らしい動きを獲得していないコーヒーを指差した。 「いくらなんでも砂糖を入れすぎでしょう。あまりにも量が多いもんだから、溶解しきってないじゃないですか。ものすごくじゃりじゃりしてそうです。というか、こんなの飲んだら血糖値がとんでもないことになりますよ」 「うん? 普通、砂糖はこれくらい入れるもんだろう。じゃないと苦いじゃないか」 「……いや、まあ、苦いかもしれませんけど」 コーヒーとはその苦味を味わうものではないのか、と心中で突っ込む。 前田かん子は小首を傾げながらも更に角砂糖を追加していたが、シュガーポットが空になったところで漸く手を止めた。そしてコーヒー(?)を口に含むが、どこか不満気な顔をしている。 まさか、まだ砂糖を入れ足りないのだろうか。勘弁して欲しい。こちとら見ているだけで胸焼けを起こしそうだというのに。 私は目の前の光景から目を逸らし、己のブラックコーヒーを口に含んだ。ねちゃねちゃとした甘ったるさを感じるのは、間違いなく錯覚だろう。 私は豆の苦味を十全に味わう為に、咥内の液体をぐるりと掻き回したのだった。 それから、私達はぽつぽつと言葉を交わした。 会話の主な内容は、もちろん田中キリエについて。彼女の情報を取り入れる度、重要な情報、不要な情報を取捨選択し、頭の中のメモ帳に書き連ねていく。そうすることで、あやふやだった田中キリエ像に肉付けがされ、実体を伴っていく。 前田かん子は面倒臭そうながらも、割りと誠実に質問に答えてくれた。やはり根は義理堅いのだろう。質問と返答の応酬は、滞りなく進んでいく。 話の途中、彼女はライダースーツのポケットから煙草を取り出した。 「ここ、全席禁煙ですよ」 無理だろうなと確信しつつも、控えめに諫言する。 うるせーちくしょーそんなルール私にゃ関係ねーんだよバーカ、ってな感じで素っ気なく跳ね除けられると大方予測していたのだが、存外、彼女は普通に従った。手中の煙草を、再びポケットに戻す。 意外と規則は守る人なのかしら、と危うくギャップ萌えで好感度が急上昇しそうになるが、軒下に違法駐車されている無骨なバイクを見て正気に戻る。 814 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 04 10 ID Lfmv7T16[6/12] 結局のところ、どこにでもあるただのダブルスタンダードだった。あれはいいけど、これはだめ。前田かん子の中にも、独自の線引きがあるのだろう。あぶないあぶない。危うく好きになってしまうところだった。 そんなやりとりがあり、また質問を数個加えたところで、話が潰えた。 ざあざあ、と力強さを露にした雨音を聞きながら、私達は同じ沈黙を共有する。彼女のコーヒーカップは既に空になっていた。私も残り少ないコーヒーを一気に煽って、同じく空にする。 スッキリしないな、とカップの底をじいと見つめながら思った。 違和感。そう、言うならば私は前田かん子に対し違和感を感じていた。田中キリエについて話す時の彼女は、その、何かが違うのだ。具体的にどう違うのかと訊かれたら困るのだが、とにかく、前田かん子は田中キリエ対し、特殊な感情を抱いているように見える。 だから、私は訊ねていた。 「前田さんは、どうしてそんなに田中さんに傾倒しているのですか?」 正直、返答は期待していなかった。私達は依然敵対関係を継続させているし、なにより前田かん子はプライベートな質問には答えないだろう。彼女が果たすべき義務は、あくまで田中キリエ関連の事のみなのだから。 だから前田かん子が、わかったと言って小さく頷いた時には、私は心底驚いていたのであった。新種の生物でも発見したときのような、物珍しい感動を覚えていた。 「私とキリエが初めて会ったのは、中学校からだ」 腕を組みじっと椅子にもたれたまま、彼女は小さいけれど、しかしはっきりとした声で己について語り始める。 この時、言ってしまえば私は心構えが出来ていなかったのである。どこか異国にでも観光に来たような、いわばお客様のような気楽さで話に耳を傾けていた。だから、次に発せられた発言には、掛け値なしに仰天することになる。 「当時、私はイジメられていた」 「はっ?」 横っ面を引っ叩かれたような衝撃。手にしていたコーヒーカップを落としそうになり、テーブルが硬質な音を立てる。 待て。待ってくれ。彼女は今、前田かん子は今、なんと言ったのだ? イジメられていた? バカな、そんな、まさか。 「冗談でしょう?」 今の発言が信じられなくて、若干、茶化すような口調で問いなおした。が、寄越された鋭利な視線で今のが嘘でないと確信する。 ほとほと信じられない話ではあるが、彼女は過去、本当にイジメられていたらしい。現在の恐ろしい風体からでは、到底考え付かないことである。 「私は昔から、孤独を恐れていた」 前田かん子は、静かに回顧を始める。 815 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 05 46 ID Lfmv7T16[7/12] 「とにかく独りになるのが怖かったんだ。周りに誰もいないという環境を異常なまでに厭い、沈黙ではなく喧騒を愛した。私はそんな人間だった。だから、学校ではいつも寄生虫のように特定のグループにくっつき、下手な相槌と愛想笑いを振りまいてコミュニティに媚を売っていた。 今となっては反吐が出そうな毎日だったが、当時の私はそれなりに幸せだった。私にとって一番マズイ事態というのが孤独。極端な話、孤独さえ遠ざかっていれば全部満足だったんだよ。 けど、まあ。そんな日常が続くはずもなかった。私はとてもつまらない人間だった。付和雷同をよしとし、常にイエスしか言わない人間。主体性も個性も欠陥した、大量消費品みたいな人間。そんな人間が、まず面白いはずがない。私は次第に疎まれ、イジメられていった。 イジメが始まったときは、文字通り地獄だったよ。今まで散々イジメられないように生きてきたんだ。それが突然、独りぼっちに。嗚呼、まさに発狂もんだったね。最悪ってのは、ああいうのを言うんだろうな。 そして、次第に私は自殺を考えるようになった。辛い日常に疲れていたんだ。目の前でちらつく死が、とても甘美な麻薬のように思えた。だから、死ぬことにしたんだ。 死に場所は学校の屋上を選んだ。学校の屋上飛び降り自殺。そっちのほうが、自宅で首を吊ってるよりもセンセーショナルな事件になると思ったからだ。 自分の死によって、アイツらに少しでも罪悪感を感じさせれれば、そんな復讐も兼ねていたのかもしれない。笑っちまうよな。加害者が被害者に対して申し訳なかったと思うことなんて、ありえないのに。 そして、私は恨み辛みを書いた遺書を持って、屋上に行ったんだ。ちょうど、今ぐらいの季節だった。寒い寒い冬の日。そこで、出会ったんだ。キリエに。田中キリエに。 夕日をバックにして立っていたキリエは、なんというか、ひどく非現実的な人物に見えた。まるで異世界に足を踏み入れてしまったような錯覚に陥った。我ながら陳腐な表現ではあるが、そのときは本当にそんな気がしたんだ。 私は驚いてしまって、何も口にすることが出来なかった。キリエも同じで、突然の来訪者に驚いているみたいだった。互いに顔を見合って、妙な牽制をしあっていた。 こんにちは、と機先を制したのはキリエだった。アイツは柔らかい笑みを浮かべて、こう訊ねてきたんだ。どうして屋上に来たのって。 悲劇のヒロインに酔っていた私は、無粋な部外者に水を差された気がして、とても気分が悪かった。別に貴女には関係がないでしょ、とか、つっけんどんなことを言った気がする。 けど、キリエはあくまで柔和に、優しくのんびりと接してくれた。久しぶりの温かい気遣いに、じんわりと胸に心地よいものが広がるのがわかった。私達は初対面だったが、自然とキリエに愁眉を開いていった。 816 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 08 53 ID gEXkxocY[8/12] キリエは、夕日を見に来たのだと言った。学校の屋上から見る夕焼けはとても綺麗で、だからたまに此処へやってくるのだと。そして、よければ貴女も一緒に見ないかと誘われた。断るはずがなかった。私は黙ってキリエの横に並んで、夕日を見た。 綺麗だった。赤い夕日、紫色の千切れ雲、微かに光る星屑。空なんて今までに飽きるほど見てきたけど、私はあんなに美しい夕日を見たことがなかった。感動で胸中がぐちゃぐちゃになって、気付けば泣き出していた。 そして、全てを吐き出していた。孤独が怖いこと、イジメられて悲しいこと、屋上には自殺しに来たこと。私が吐露したモノを、キリエはそっくりそのまま受け入れてくれた。私の全部を受け入れてくれた。話を終えた後、アイツは私にそっと言ってくれたんだ。 なら、私と友達になりましょうって。それなら前田さんは独りじゃないでしょうって。 世界が変わった気がしたよ。喩えるなら、灰色だった世界に色がついたんだ。息苦しかった空気が爽やかなものになって、身体がとても軽くなっていた。生きているっていう実感が、初めて沸いたんだ。 でさ、触れたんだよ私は。私は真理に触れたんだ。キリエさえ居れば、他のことなんてどうでもいいんだっていう、至極簡単な真理に触れたんだよ。私にとっての世界は、キリエと、その他の有象無象なんだってことがわかったんだ。 大衆など必要ない。賑やかのなんていらない。私にはキリエ。ただ隣りにキリエさえいればいい。それなら孤独だって怖くないって。キリエさえいれば、世界なんて滅んだっていいんだって」 前田かん子は、私がいることなど忘れてしまったかのように、機械的に話しを続ける。口元は歪に曲がり、時折哄笑を漏らす。瞳は暗く濁り、此処ではない遠い世界を見据えている。 話はまだ終わっていないようだったが、もう十分だった。私はトリップしてしまった彼女を、冷ややかな視点で見ている。 違和感の正体にやっと気付いた。というか、気付くのが遅すぎたくらいだ。やはり自分は感情の推し量りが不得手なのだなと、つくづく実感する。 私はずっと、前田かん子が田中キリエに対して抱いているのは友情だと思っていた。けど、違うのだ。それは友情とは程遠いものだった。 彼女が抱いていたのは、ただただ歪曲し、狂気すら宿した、愚にもつかない愛情。おぞましさすら感じてしまう、井戸の底のように暗い感情だった。 気持ち悪い。私は対面に座る前田かん子を見て、そう思った。気持ち悪い、と。 「以上で、私とキリエの話は終わりだ」 話が終わると、彼女の瞳にも漸く光が戻ってきた。放棄していた正気を手繰り寄せつつあるのだろう。怖気立つような不快な感じが、徐々にではあるが消えていく。 ホッと胸を撫で下ろした。あの気持ち悪い前田かん子には、二度と会いたくないと思った。 817 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 10 36 ID gEXkxocY[9/12] 「いやぁ、そんな過去があったのですね。色々と意外な事実も露呈して、とても興味深く話が聞けました」 話をしてもらった礼儀として、質問をひとつする。 「ところで、結局イジメはどうなったのでしょうか?」 「ああ、あれからイジメていた奴等全員、学校に来れなくした」 「へぇ……」 具体的なことは訊かずにおこう。 と、不意に、フラッシュを焚いた時のように窓の外がピカリと光った。数秒して、ゴロゴロと天が唸り声を上げる。 私と前田かん子は、ほぼ同時に通りに目をやった。いつの間にか、外はとても暗くなっていて、通行人はものの見事に一人もいない。店内の客も全て消えていて、カウンターの店員さんだけが、ちらちらとこちらを盗み見ていた。 「…………」 もう頃合いだなと、これより先のことは断念する。内心、満足していない部分もかなりあったが、人事は全うしたのだ。後は、天啓を待つのみなのだろう。 「最後の質問です」 前田かん子を見据えて、言葉を続ける。 「どうして、田中さんは私のことが好きなのですか?」 これだ。何があろうと、最後にこれだけは訊いておこうと決めていた。長年の疑問。田中キリエが、なぜ鳥島タロウを好いているのか。 「あなたの口ぶりだと、田中さんが私を好きになったのは、どうやらもっと昔のことのようです。しかし、私と田中さんが初めて出会ったのは、高校からのはずだ。少なくとも私はそう認識しています。 なのに何故、田中さんは私に恋心を抱いていたのか。ずっと疑問だったんです。前田さん、教えてもらえますか?」 また雷が落ちた。前田かん子の顔が、青白い光に照らされる。轟音で窓が震え、キシキシと嫌な音を立てる。彼女はコツコツ、と人差し指でテーブルを叩いている。 「私も詳しく聞いたわけじゃない」 と、前田かん子はあらかじめ前置きをした。私は首肯して、先を促す。今から事の真相が、暴かれる。 「キリエは昔、市立N小学校に通っていた」 市立N小学校という単語を聞き、心臓がどきりと跳ね上がる。 「市立N小学校って……」 「そうだ。キリエはお前と同じ小学校に通っていたんだ」 818 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 12 15 ID gEXkxocY [9/12] 要は私と同じだよ、と自嘲的な響きを含めて、彼女は説明する。 「当時、たしか小学五年生だったか。キリエはイジメに会っていた。原因はわからない。アイツは優しい人間だから、自分からは絶対にイジメの原因を作り出していないはずだ。ほぼ一方的に危害を加えられたに違いない。 それだけでなく、家でもかなりの不和を抱えていたと聞く。さっき家族構成を説明した時、私は母親でなく継母だと言ったよな。アイツの実の母親は、もう既に亡くなっているんだ。自殺だったらしい。 キリエ自身が、特に母親のことは話したがらないから、これはあくまで憶測なんだが、おそらくキリエは実母から虐待を受けていたように思う。言葉の端々から、なんとなくそんな匂いがした。少なくとも、母親とは決して良好な関係ではなかったはずだ。 つまり、内でも外でも、キリエの世界はボロボロだったんだよ。嗚呼、可哀想に。キリエは、あの時が人生で一番辛かった時期だと言っていた。とても、ひとりで耐えられるものではなかったと」 ふっと、彼女の顔から憐憫の念が消え、憤怒に取って代わった。 「だけど、だ。憎たらしいことに、私にとって、最も不快な事実があったんだ」 激情をおさえきれなかったのだろう。彼女は唐突に握りこぶしでテーブルを叩いた。身体はやるせなさで震え、歯をぎりぎりと噛み締めている。羨望と憎悪が混ざり合った瞳の先には、当然のように私がいた。 「そんな絶望のさなかにいたキリエを救ったのが、鳥島タロウだという事実だ」 今にも噛み付かんばかりの表情で、最後を締めくくった。 かちり、と頭の中で歯車が動き出した。私は剣呑な様子の前田かん子には意にも介さずに、じっと考え込む。 そうだ。私は知っていた。小学五年生の時に、そのような少女がいたのを知っていた。かちかちと、歯車が噛み合わさっていくのを感じる。だが、何かが足りない。ジグソーパズルのワンピース。後一つ、最後にそれが埋まりさえすれば全て思い出せるのに。 「前田さん」 私は目を閉じて、眉間の辺りを強く揉んだ。かちかちかちかち。歯車が回る。 「当時、田中さんは苗字が違ったんじゃないですか? 田中キリエでない、もっと難しい名前だったはずだ。そうだ。私はその少女を知っている。けど、田中キリエではなかった。もっと違う。違う名前」 おぼろげながらも、少女の姿が浮かんでくる。しっかりと意識を向けなければ消えてしまうほどの儚い幻想だったけれど、確かに私の中に少女はいた。 そうだよ、と未だ興奮の抜けぬ声色で前田かん子は言う。 「アイツの親父は婿入りだったから、離婚時に苗字が変わっている。小学生の時、キリエは田中キリエでなかった。当時のアイツの苗字は・・」 819 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 13 47 ID gEXkxocY [10/12] 最後のピースを手渡してくれた。 「葛篭木だ。小学生の時のアイツの名前は、葛篭木キリエだ」 「ツヅラギ、キリエ・・」 かちり。全ての歯車が噛み合わさり、からくりは動き出す。フラッシュバックする情景。ストロボをたいた時のように、眩い閃光と共に記憶が浮かび上がっていく。 雨。校舎。昇降口。たたずむ少女。弱い。死んでしまいそうな。傘。失くした物。探索。結果。帰り道。水溜り。虹。そして、少女の瞳に宿る……。 靄が晴れていくように、さっと疑念がきえていくのがわかった。心に一陣の風が吹き、清涼剤の如き爽やかな気分が胸中を占める。やっとだ。わからないという気持ちの悪い状態から、やっと解放されたのだ。 葛篭木キリエ、いや、田中キリエはあの時の少女だったのだ。 「ありがとうございます」 テーブルに手をついて、深々と頭を下げた。自分にしては珍しく、それは正真正銘の心からの感謝だった。 「質問はこれで全て終わりました。前田さんのおかげで、これからうまくやれそうです。本日は御協力、誠に感謝いたします」 「ふん」 前田かん子はつまらなそうに鼻を鳴らしてから、すっと腰を上げた。自分の責務は果たした言わんばかりに、きっかりと私への関心を無くす。そして、ポケットの中から小銭入れを取り出した。 「支払いは結構です。今日は私が払いますよ。そもそも呼び出したのは此方ですし、そこまでしてもらうわけにはいきません」 「断る。お前に妙な借りはつくっておきたくない」 そうして乱暴に硬貨を投げる。三百十五円。ブレンドコーヒーちょうどの値段だった。 「それと鳥島タロウ。携帯電話を貸せ」 「携帯電話?」 誰かに連絡をとるつもりなのかしら、と疑問に思いつつも、私は古びた携帯電話を彼女に差し出した。すると、パキン。携帯電話が真っ二つに折られた。そしてそのままテーブルの上に放り投げられる。 「これからは二度と私に連絡をとろうとするな。わかったな」 「……はい」 意気消沈の返事をしながら、二つに分離した携帯電話を左右それぞれの手で拾い上げる。断面から赤いコードが、内臓のようにだらしなくはみ出していてグロテスクだった。 まあ、前々から機種変更をしようと思ってたし、別にいいんだけどさ。けどさ、そんなの口で言えば済むことじゃない。なにも物理的破壊に躍り出なくたって……まあ、いいんだけどさ。本当に気にしてないんだけどさ。別に、携帯電話くらい、いいんだけどさ。 はあ、と溜め息を一つ。携帯電話をテーブルに置き、つんつんと指でいじる。 820 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 15 04 ID gEXkxocY [11/12] と、それで立ち去るだろうと思っていた前田かん子が、なぜかまだ前方に立っていた。 「まだ何か?」 点燈することのない液晶画面を覗き込みながら、いじけた口調で訊ねる。が、返事は返ってこない。 これは本格的におかしいぞ、と不安を感じながら顔を上げると、彼女は今まで見たことのない、なにやら難しい顔をして私を見下ろしていた。 「まだ、言わないつもりなのか」 低い、しわがれたハスキーボイスでそう言った。 はてなにやら。こちらとしては首を傾げるしかない。 「言わないもなにも、今日は訊きたいこと全て訊けましたし、私にはもう言うことはありませんけど」 「違うっ」 即座に言い返される。まだ惚ける気なのか、と前田かん子は詰問調で口火を切った。 「あまり私を舐めるなよ。気付いていないとでも思っていたのか。今日、お前は私と会ってからずっとそうだ。何を言うにも、薄皮一枚挟んだような嘘くさい物言いばっかしやがって。 違うんだろう、鳥島タロウ。お前の本当の目的は、キリエの情報を訊くことではない。そうなんだろう」 「…………」 「言えよ。なにが狙いだ。電話でなく、わざわざこんなショッピングモールの喫茶店にまで呼び出して、私とくだらない会話を交わした理由はなんだ。なにを企んでいるんだ。吐けよ、洗いざらい吐けよ。気味が悪いんだよ、お前」 「……くくく」 自然と、笑い声が漏れ出ていた。いやいや驚いた。前田かん子、コイツは私が思っているよりも、よっぽど鋭かった。野生の勘などではなく、冷静に私を観察しての結論なのだろう。彼女に対する評価を、改めなくてはならない。 「ええ、その通りです」 私はお手上げだとばかりに万歳して、降参の意を表した。 「たしかに、私が前田さんを呼び出したのは、田中さんのことを訊くだけではありません。それはあくまで名目上の理由です。隠された、真実の目的があります」 一呼吸置いて、十分な間をつくって空気を張り詰めた。そして、あくまで慇懃な口調で、ゆっくりと真意を告げた。 821 :私は人がわからない:2012/08/22(水) 11 16 25 ID gEXkxocY [12/12] 「私が前田さんを呼び出したのは、ひとえに言って好感度を上げるためです。田中さんとの個別ルートを進めつつ、前田さんとも親密になり、そしてゆくゆくは両手に華エンドという壮大な目的が・・」 雨音に負けないほどの乱暴な騒音。いつの間にか目の前から前田かん子は消えていて、出入り口のドアに付随していたベルが床に落ちた。店員さんは仰け反るようにして、恐怖でブルブルと震えている。 エンジン音がして、外に目を移すと、彼女はちょうどフルフェイスヘルメットを被っているところであった。そして前田かん子は私を一度も見ることなく、大雨の中をバイクで駆け抜けて行った。目を見張るほどの猛スピード。事故らなきゃいいけど、と不必要な心配をする。 猛獣の唸り声が遠ざかっていき、完全に消滅したところで、私は漸く身体の緊張を解いた。 「……怖かったなあ」 呟く。正直、かなり怖かった。身体中が間断なく震えている。終始わざと余裕な態度をつくっていただけに反動が凄い。深い呼吸を何度か繰り返し、私はなんとか平常心を取り戻した。 さて、今日の計画はうまくいったのだろうか。残念ながら、それはわからない。百点満点とは云えないだろうが、それでも及第点ぐらいは取れたはず。少なくとも赤点は免れた。 まあ、詳しいことは何も判明していないけど、今はそれでよしとしよう。 それよりも、 「まさか、田中キリエが葛篭木キリエだったとはねぇ……」 合縁奇縁。人の繋がりとは妙なものであると、殊更に実感する。いや、中々どうして。忘れていたフラグを今になって回収するとは、自分も結構主人公やってるじゃないか。笑ってしまう。 「…………」 これから、どうしよう。私はぽつねんと残された店内で一人、呆けたように座っている。 店の外では、相変わらず強い雨が地面を跳ねていた。冬本番のこの季節。この雨の中に出て行ったら、間違いなく風邪をひいてしまうだろう。明日からまた学校だし、体調を崩してしまうのは得でない。 「ふむ」 少し悩んだ末、私はまだカウンターで怯えている店員さんを呼んで、コーヒーのおかわりを注文した。雨脚が弱まるまで、もうちょっと店内で粘ろうと思ったからだ。 その時だった。 ・・君さ、傘持ってる? 不意に、まだ幼い頃の己の声が再生されて、私は思わず苦笑したのだった。 そうだ。葛篭木キリエと初めて話したあの日。あの日も私はこうして傘を忘れて、雨が止むのを待っていた。
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ダウンロード情報:違いがわかる男のゴールドブレンド ダウンロード情報:違いがわかる男のゴールドブレンド 解説 OCGの「GOLD SERIES」に収録された事のあるカードのみで構成されたデッキ。 デッキ名はネスカフェゴールドブレンドのCMから。 合計40枚+14枚+15枚 上級10枚 炎帝テスタロス カオス・ソーサラー カオス・ソルジャー -開闢の使者- サイバー・ドラゴン×3 ダーク・アームド・ドラゴン 氷帝メビウス 風帝ライザー 雷帝ザボルグ 下級12枚 オネスト クリッター 魂を削る死霊 ダンディライオン マシュマロン 魔導戦士 ブレイカー×3 メタモルポット ライトロード・ハンター ライコウ×3 魔法09枚 エネミーコントローラー 大嵐 強制転移 強欲で謙虚な壺×2 サイクロン×2 死者蘇生 月の書 罠09枚 神の宣告 激流葬 次元幽閉 スターライト・ロード 聖なるバリア-ミラーフォース- 奈落の落とし穴×2 リビングデッドの呼び声×2 エクストラ14枚 キメラテック・フォートレス・ドラゴン×3 A・O・J カタストル×3 スターダスト・ドラゴン×3 氷結界の龍 グングニール×3 氷結界の龍 トリシューラ 氷結界の龍 ブリューナク サイド15枚 昇霊術師 ジョウゲン×3 人造人間-サイコ・ショッカー×2 D.D.クロウ×3 王家の眠る谷-ネクロバレー×3 抹殺の使徒×2 王宮のお触れ×2
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(この操作説明はver.5.5に対応しています。適宜加筆・削除お願いします) 遊び方がわからない方へ はじめてプレイ!いつまでも楽しく! 「遊び方がわからない!なにもわからない!助けて!!!」と怒るあなたへ、 安心してください。このページはあなたのためにあるのです。 ゲーム内にチュートリアルシナリオがあるので、それをクリックしてみましょう!もちろんEasy modeで遊ぶことをおすすめします。 +左の+ボタンを押してください Vahren.exeをダブルクリックするとゲームが起動します。顔グラおっさん化.batなどの.batをダブルクリックしてもゲームが起動します。好きなのをクリックしましょうね Easy modeではじめましょう! シナリオがたくさんありますね。「チュートリアル」シナリオを選びます。 領地をクリックしましょう では、「チュートリアル」シナリオをクリアしてみましょう ユニット「ローヴェレ」さんを領地Bに移動するやり方 領地Aをクリックしましょうね すると、領地Aの領地ウィンドウが出てきます。(右クリックで閉じます) ローヴェレを右ドラッグで領地Bに移しましょう ターン終了はこのボタンをクリックします 新しい一般ユニットを雇用するやり方 手下の一般ユニットを雇用するために、まず領地Bのローヴェレをクリック 出てきたローヴェレの「ユニットウィンドウ」の雇用ボタンを押します 左クリックで一人づつ雇えます。右クリックで一部隊づつ雇えます。右クリック押しまくりましょう imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (tu12.PNG) 雇いまくったらターン終了しましょう 頼れる仲間、人材ユニットを雇用するやり方 人材ユニットの雇用は必ずこのボタンをクリックしてできます 人材ユニットの雇用後、領地Aにいる二人に手下の一般ユニットを雇用させましょう 二人の部隊を右ドラッグで領地Bに移動させて、ターン終了しましょう 戦争の仕方 ついに戦いです。中立の領地を右クリックしましょう 領地Bの領地ウィンドウから右ドラッグで出撃部隊を選択します 出撃ボタンで出撃しましょう 戦いは、初めはただの正面突撃でもかまいません。まずは慣れることです。詳細な操作方法は戦術モードでの画面説明をどうぞ 戦いに勝利できましたか?もし、勝利できたら機能ボタンでタイトルに戻ります このページの一番上へ チュートリアルシナリオをクリアできましたか? クリアしたあなたは、この「光の目」というゲームが、シューティングゲーム・恋愛シミュレーションゲームではないことがわかったでしょう。 それだけわかれば十分です!さあ、本編シナリオに突入しましょう。 ついに、あなたの手で大勢力vs大勢力の一大決戦が行われようとしています。わくわくしてきますね! +左の+ボタンを押してください Easy modeでプレイしましょう! 一番古い歴史【SC1】アエネアスの王土シナリオをクリック たくさんの国がありますね。いろいろ見て廻ったら「アルビオン・ツンフトソビエト」という勢力で遊びましょうここからあなたは歴史の奔流に飲み込まれるのです! このページの一番上へ 歴史がはじまりました さあ、思いっきり楽しみましょう。「アルビオン・ツンフトソビエト」という勢力は初心者にぴったりです。 なぜなら、この勢力はとても強く賢い勢力ですから。たとえ、戦術に慣れないあなたでも簡単に「勝つことの喜び」・「敵を蹂躙するイケナイ爽快感」を味わえます。 効率や戦術を考える前に、まずは楽しむことが大切です。 「アルビオン・ツンフトソビエト」では、まず、西方の王国や魔領と仲良く同盟を組み、東方の弱小国家を最新兵器で倒し領土拡大するのがおススメです。 ニコニコ動画では多くの先達者がスーパープレイを披露しています。是非参考にしましょう。 リアムス・コーンウォリスなどのキャラクター特別ページを時々覗いてみてくださいね。 良ければ編集してください。彼ら彼女らにあった戦術を書きこんでいただけると、これからの人たちが助かります。 戦略モードでの画面説明 戦略モードの基本操作 左クリック→開く 右クリック→閉じる (*領地ウィンドウの場合は一番上の部分を右クリックする必要があります。下に説明するユニット移動操作の際に、領地ウィンドウ内で右クリックを用いる為です。) 右クリックでユニットを選択した状態でドラッグ→ユニットを移動 マウスホイール→ウィンドウ内のスクロール ①領地ウィンドウ マップ上の領地を左クリックすると表示されます。その領地の経済値、部隊数、駐屯しているユニットを確認する事が出来ます。 駐屯しているユニットを左クリックする事で、更にユニットウィンドウを表示する事が出来ます。 F・Bは戦術モードでの前衛後衛の設定です。左クリックで変更する事が出来ます。例えば騎兵を突撃戦力として使用しない場合は、前衛に設定し直した方が良いかもしれません。 ②ユニットウィンドウ(おまけ) 人材ユニットにカーソルを合わせると自動で右上に表示されます。 一般ユニットにカーソルを合わせても表示されません。 ③ユニットウィンドウ 領地ウィンドウ内のユニットを左クリックすると表示されます。 そのユニットのクラス情報、能力値、所有スキル、耐性が表示されます。 解雇ボタンを左クリックする事で、そのユニットを解雇する事が出来ます。一般ユニットなら消滅し、人材ユニットなら放浪します。 雇用ボタンを左クリックする事で、雇用ウィンドウを開き、他のユニットを雇用する事が出来ます。 ④雇用ウィンドウ そのユニットが雇用する事の出来るクラスの一覧が表示されます。 左クリックで雇用する事が出来ます。 雇用されたユニットは、雇用したユニットの配下に配備されますが、配下が既に7人いて満員の場合、新規部隊の隊長になります。 この場合は、勢力ごとに設定された「隊長になれる一般ユニット」以外は雇用出来ません。 ちなみに、その領地に放浪しているする人材も表示され、雇用する事が出来ます。 ⑤メンバー範囲ウィンドウ ユニットにカーソルを合わせると自動で左上に表示されます。 そのユニットの配下に出来るクラスを確認する事が出来ます。 人材ユニットだけでなく、一般ユニットでも表示されますが、一般ユニットは基本的に自分と同じクラスしか配下に出来ません。 ⑥内政ウィンドウ 内政と傭兵雇用を行う事が出来ます。 内政は主に内政値を消費し、傭兵雇用は資金を消費します。 詳細は光の目テキスト類フォルダの中の内政解説と傭兵団解説を読んでください。 ちなみにおまけみたいなものなので、別に使用しなくてもクリア出来ます。 ⑦勢力ウィンドウ 勢力の情報、勢力マスターの御尊顔を確認出来、 主にターン終了、人材雇用、外交、機能設定(オプション)を行う事が出来ます。ターン委任と静観は忘れていいです。 人材雇用ボタンをクリックすると、人材雇用ウィンドウが表示されます。 人材雇用タブでは、左側に自軍人材一覧、右側に放浪人材一覧が表示されます。 自軍人材にカーソルを合わせると、カーソルを合わせたユニットのメンバー範囲に含まれるクラスの放浪人材(ここでは八仙)がクリック可能状態になります。 含まれないクラス(水軍士官)はクリック不可能のままですので、左側の一覧の上でカーソルを移動させ、水軍士官が雇用できる他の自軍人材を探しましょう。 アクティブになった人材をクリックする事で、人材を雇用する事が出来ます。 外交ボタンをクリックすると、外交ウィンドウが表示されます 黄色が同盟中の勢力、白が交戦中の勢力です。 友好度は0から100まであり、0は宿敵で一切交渉に応じてくれません。 親睦ボタンをクリックする事で他勢力との友好度を上昇させる事が出来ます。 同盟ボタンをクリックする事で他勢力に同盟を打診出来ます。 同盟中の勢力に対してのみ、共闘ボタンをクリックする事で、同盟相手に集中的に攻撃してほしい勢力を打診する事が出来ます。 戦闘(合戦)を一度する度に、その国との友好度は10下がります。友好度が高い勢力に攻め込むと、信用度が下がります。 自国の戦力値が他国に比べて、突出して非常に大きいと全ての外交コマンドは拒否される可能性があります。しかし、それぐらい強い頃には外交に頼ることをないでしょう。 機能設定では戦闘の自動化について設定出来ます。 自国の戦闘を選択をクリックする事で、自勢力の戦闘を自動化する事が出来ます。 また、他国の戦闘を選択をクリックする事で、他勢力同士の戦闘を観戦するかどうか選択する事が出来ます。 配下に出来るユニットと雇用出来るユニットについて ユニットのメンバー範囲ウィンドウに含まれるクラスと、そのユニットが雇用出来るクラスは異なります。 メンバー範囲に含まれるクラスは、「そのユニットが配下に出来るクラス」です。配下に出来るからといってその場で雇用できるとは限りません。 「雇用主のメンバー範囲に含まれるクラス」と「勢力に設定されたクラス、または領地に設定されたクラス」 が一致した場合のみ、雇用が可能です。 ただし、雇用主と同じクラスは原則的に無条件で雇用可能です。 例えば、画面にある⑤のメンバー範囲ウィンドウをご覧ください。ここに含まれているイェニチェリと巫女は、コーンウォリスが配下に出来るクラスです。 しかし、この場でイェニチェリと巫女を雇用する事は出来ません。 なぜなら、ETPC勢力に設定されたクラスが、「コロニアルガード・胸甲騎兵・竜騎兵・重装象兵・悪魔崇拝者・マイソール式初期型ロケット砲」で、 駐屯するチャルディラーンに設定されたクラスが、「キズィルバーシュ・悪魔崇拝者・リッチー・拝火教神秘主義者」なので、イェニチェリと巫女が含まれていない為です。 なので、この場でコーンウォリスが雇用出来るクラスは、雇用主のメンバー範囲に含まれるクラスの中でも 条件の一致した「コロニアルガード・竜騎兵・マイソール式初期型ロケット砲・重装象兵・悪魔崇拝者・キズィルバーシュ」のみになります。 雇用ウィンドウの中で胸甲騎兵が雇用不可能のは、勢力に設定されたクラスに含まれるものの、雇用主のメンバー範囲に含まれない為、雇用出来ないからです。 ちなみにこのシナリオでは初期レベルが15なのクラスが雇用時に既にランクアップしており、表示が異なりますが、レベル1のクラスが基幹クラスとしてメンバー範囲ウィンドウに表示されます。 例・胸甲騎兵→ユサール、竜騎兵→ライター騎兵。分からない時は光の目テキスト類フォルダの中のユニットリストを参考にして下さい。 巫女が雇いたければ「領地に設定されたクラス」に巫女が含まれる領地(安土等)に、 イェニチェリが雇いたければ「領地に設定されたクラス」にイェニチェリが含まれる領地(魔都ダマスカス等)に駐屯すれば可能です。 他には、オプティマトン魔王統治領勢力は「勢力に設定されたクラス」にイェニチェリが含まれるので、この勢力に所属したコーンウォリスならイェニチェリを雇えます。 ここで注意したいのは、人材を雇用する時には「雇用主のメンバー範囲に含まれるクラス」をそのまま雇えるという事です。 つまり、コーンウォリスではイェニチェリは雇用できませんが、クラスがイェニチェリである人材、イスファハーンを雇用する事が出来ます。 イスファハーンは雇用主と同じクラスとしてイェニチェリを雇用出来、このイェニチェリをコーンウォリスに右クリックドラッグで配備する事が出来ます。 どうしても配下にしたいのに雇用出来ないクラスがあり、そのクラスが雇用出来そうな領地が遠い場合は、人材を狙ってみるといいでしょう。 戦術モードでの画面説明 戦術モードの基本操作 ユニットを左クリック→ユニットを選択 ユニットを左クリックでダブルクリック→ユニットの所属する部隊を選択 地点を左クリック→攻撃指定(クリックした先に下図のような矢印が表示され、選択中のユニットがその矢印の地点を目標として攻撃するようになります。) 地点を左クリックで選択した状態でドラッグ→その地点を頂点とした四角い枠を作成し、枠の中の部隊を複数選択可能 ユニットを選択した状態で右クリック→移動 上記の状態で右クリックしたままドラッグ→ドラッグした方向に矢印を作成し、その矢印の向きに陣形を整える。(下図のような矢印と陣形マーカーが表示されます。) マウスホイール→視点変更 スペースキー→ポーズ ①スキルウィンドウ 戦術モードで最も重要なウィンドウです。上に方針ボタンが並び、下に選択したユニットが持つスキルが列挙されています。 左クリックしたスキルあるいは方針を優先的に使用するようになります。右クリックする事で、そのスキルを使用禁止に出来ます。 (スキル使用禁止は使いようによっては非常に有効です。例えば「ブリザード」と「装填」を持つユニットがいた場合、それ以外のスキルを禁止すればブリザードを連射出来ます。) ……方針ボタン 自動・手動・固定→ユニットの移動方針を3つのどれかから選択します。 自動を選ぶと、ユニットの移動をCPUに委任出来ます。逃げる敵を追撃する時などに有効です。 手動を選ぶと自分で移動させる事になります。通常は手動状態にしておきましょう。 固定はその場で動かなくなりますので、待ち伏せに有効です。 横列・密集→ユニットの隊形をいずれかから選択します。但し自動を選択していた場合はどちらを選んでも同じです。 横列は横一列の隊形で、基本はこれです。オーソドックスな隊形です。 密集は一か所に固まる陣形で、高い火力を発揮できますが、範囲攻撃に弱くなります。 推奨は「手動」「横列」 火力重視の時は「固定」「密集」 待ち伏せの時は「固定」「横列」 敵追撃時は「自動」 をそれぞれ状況に合わせて選択するのが良いでしょう 標準・必殺・禁止・剣・弓・魔・治・復・召→ユニットのスキル使用方針を「*部隊単位で(重要)」選択できます。但し該当するスキルを所持していないユニットには方針命令が出せません。 標準→全てのスキルを使用します。複数スキルがある場合は、戦略モードのユニットウィンドウのスキル一覧で左側にあるスキルが優先して使用されます。 必殺→必殺技を自動で使用します。必殺技の内容に関わらず(それが魔法であれ召喚であれ)、必殺技を自動で発動出来るのはこれだけです。必殺技を使用し終わると解除されます。 禁止→攻撃を禁止します。スキルを使用すると多くの場合移動速度が遅くなるので、囮として駆け回る場合はスキル使用を禁止するのが良いかもしれません。 剣→使いません。このゲームでは、近接スキルを持つユニットは、近接した場合は必ず近接スキルを使用するように設定されています。 弓→使いません。ちなみに弓とありますがアーチ状の攻撃の事なので、弓じゃないものも選択されたりします。混乱の元なのでやめたほうがいいでしょう。 魔→魔法を使用します。魔法とありますがMP消費の攻撃の事です。銃なども含まれます。銃はリロードする必要があるので、使わない方がいいでしょう。追記します。 治→HP回復魔法を使用します。MP回復魔法(リロードを含む)や状態異常回復魔法は含まれません。これは非常に重要です。激戦で被害が出てきたら是非使用しましょう。 復→状態異常回復魔法を使用します。特定の場面で役に立ちますが、基本的に使いません。 召→召喚を使用します。非常に重要です。日常的にこのボタンをクリックする事になるでしょう。召喚可能な数(ユニットウィンドウで確認可能)を召喚し終わると解除されます。 追記、魔について→デフォルトのヴァーレントゥーガでは、MP消費の攻撃は単純に魔法攻撃でしたが、このゲームではユニットの攻撃間隔を調整するためにMP消費を多用しています。 例えば、MP自動回復20、つまり攻撃機会が来るたびにMPが20回復するユニットにMP消費100の攻撃AとMP消費0の攻撃Bを持たせ、 消費100の攻撃を優先的に使用するように設定し、攻撃A1回と攻撃B4回をループするようにしていたり、 MP自動回復0のユニットにMPを消費する攻撃(例・銃撃)とMPを回復するスキル(例・リロード)を持たせ、MPが尽きたら回復するようにしていたりします。 よって、MPを消費する攻撃を指定すると、多くのユニットが「攻撃を殆ど行わない、最悪の場合攻撃を全く行えなくなる」可能性が高いのです。なので、魔は使用しないでください。 本ゲームにおける標準以外のスキル方針命令は以下の通りです。 必殺技☆☆☆(投擲等の「必殺持ち一般ユニット」の部隊運用に最適、人材の強力な必殺技は手動で発動を推奨) 禁止☆☆(囮として駆け回る時に重要な場合も) 剣×(無意味) 弓×(混乱の元) 魔×(選択してはいけない) 治☆☆☆☆(超重要) 複☆☆(ただし敵軍に仲の皇女がいた場合☆7つくらい) 召☆☆☆☆☆(超重要) ②部隊ウィンドウ 隊長ユニットのアイコンが表示されているので、それをクリックする事でその部隊を選択する事が出来ます。 ごちゃごちゃに密集していてドラッグで選択しにくい時に主に使用する事になるでしょう。 赤いボタンは前衛選択、青いボタンは後衛選択です。そして一番左の砂時計のアイコンが全部隊選択です。 このゲームでは全軍を同時にぶつけるような集団戦闘が基本なので、全部隊選択ボタンは日常的に使用する事になります。 ③ユニットHPウィンドウ 各ユニットのHPを確認する事が出来ます。 HPバーを左クリックする事でそのユニットを選択、左クリックでダブルクリックする事でそのユニットに視点を移動出来ます。 どう頑張っても戦場とのマルチタスクになるので、このウィンドウはスペースキーでポーズしてから確認するのが基本になります。 ピンチのユニットが出てきたら後方に下げ自然回復させたり、回復ユニットがいる場合はスキルウィンドウの治ボタンをクリックしましょう。 ④速度変更ウィンドウ スペースキーを押すと出てくるウィンドウです。ゲームスピードを変更できます。主に戦闘が片付き、後は自動ボタンをクリックして追撃するだけの時に使用します。 加速する事しか出来ないので、操作が忙しい方はポーズしている最中に命令を出し、少し進めてからまたポーズを繰り返しましょう。 ⑤残HP基準部隊選択ウィンドウ 残りHPの割合でユニットを選択出来ます。例えばバーを動かして50に設定して数字部分をクリックすると、残りHPが半分以下のユニットを選択できます。 基本的にこのゲームは銃兵や魔術師等、射程が長く攻撃力が高い一方で、攻撃を受けるとすぐに死ぬようなユニットが多く、余り使用しません。 ⑥部隊登録ウィンドウ 枠を右クリックで現在選択中の部隊を登録し、その枠を左クリックで同部隊を選択出来ます。 枠は4つまでありますので、4つの部隊を登録できます。全軍同時移動、同時攻撃が基本なので、余り使用しないと思います。