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注:いじめ成分が物凄く薄いです 注:ゆっくりが汚いです(うんうんやしーしー描写じゃ無く、精神的な物でも無く) 注:ゆっくりが現代の町で生きる物です 注:お兄さんは虐待鬼意山じゃないです 注:かといって愛で兄いさんでもないです 注:他の人のSSとネタが被ってる気がします 漫画喫茶から帰る途中、月を見ながら歩いている俺の耳に変な音が聞こえた なんだなんだ?と思って音の発信源に近づいてみる暇人な俺 その俺の目の前のゴミ捨て場に、ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさが居た 中身が散乱したゴミ袋が周囲に散ばる中で何やらもぞもぞしている ゴミ漁りをしているのだろうか?町のゆっくりがするには珍しくも何とも無い行動ではある……のだが 「じゃまなごみさんはいらないよ!」 「そうだね!たべられないごみさんはゆっくりしないでどっかいってね!」 ………カラス以上にゴミを辺りにぶち撒けまくるなぁ しかも、事ある毎に大声で叫びやがる。今何時だと思ってやがるんだあいつら? 夜中の3時。草木も眠る丑三つ時である。寝てる人に迷惑をかけるな 昼にゴミ捨て場に来ると叩き出されるから、人が寝静まった夜に来る程度には知恵が回るみたいだが… 大声出しちゃ意味無いだろと。まあ、これも、町のゆっくりとしては珍しくもない行動ではある ……ゆっくりを対象とする条例を政府の人には作ってもらいたいものだ。ゆっくりに対してだけ非常に厳しい物を と、そんな事をつらつら考えながらゆっくりを離れた所から見ている俺 折角の連休を、こんな無駄な事に費やして良いのかしらん。家で寝てた方が有意義な気がする 「ゆゆっ!?あまあまさんがいっぱいはいってるよ!あかちゃんたちにももってこうね!」 「すごいねまりさ!おうちにかえってゆっくりたべようね!」 仲が良さそうだしあの二匹は夫婦かな?会話の内容から察するに子供も居るようだ ………うん?普通なら妻の方は巣で子供達の世話をしてるんじゃないのか? 巣を空にするとは子供達が危なくないか? と考えていると、疑問に対する答えが当の本人達から都合よく返ってきた 「ゆぅ……れいむ。おうちのあちびちゃんたちだいじょうぶかなぁ?」 「だいじょうぶだよまりさ!ねむってるかわいいおちびちゃんたちはあぶないめになんてあわないよ!」 …相変わらず謎思考全開だ まあ、ゆっくりの基本形の一つだから不思議ではな……ちょっと待てよ!? よく見るとあいつら……昼間にスーパーの前で物乞いして、バイトにぶん殴られたゆっくり達じゃないか! ゴミ漁りすると人間に殴られるから、昼の間は物乞いをする事にしたんだろうかな? しっかしそれにしても、バイトに箒で殴られて追い払われる時に子供も一緒に居たはずだけどなぁ それに、逃げる途中で子供が数匹車に潰されてたはずなのに……起きてる時は危ないけど寝てる時は平気って、どんな妄想力やねんと 一瞬ツッコミの声が出かけるとは…ゆっくりのボケは凄い物があるな 「そうだね!じゃあゆっくりかえろうねれいむ!」 「うん!わかったよまりさ!」 ん。どうやら巣に帰るらしい まりさの帽子の中にあまあまさん(千歩譲っても俺の目には食い物に見えん)を入れると跳ねて行く ぽいんぽいんと…本当に間が抜けた音を立ててるなぁ 生暖かい目で見ながら尾行しようとすると、唐突にゆっくり夫婦が止まった む?もしかして気付かれたか!?と一瞬体が硬くなった俺 だが、そんな事は無かった 「「ゆっくりかえったよ!!ゆっくりしないではやくゆっくりおきてね!」」 ゆっくり夫婦の一際大きい声。静寂な夜気を引き裂きまくりです 離れてる俺の耳もキーンと鳴るぐらい大きい……とても近所迷惑です 「ゆ……ゆゆ」 「ゆーっ…わかったよおかあさん!」 って!?何か出て来た!? 「ゆゆ…おかーしゃん、おかえりゅなさい…」 「おとうさんもおかえりなさい!」 目の前の自販機の裏から這い出てくる。なにかこぎたないの 昼間見た赤ゆっくりと子ゆっくりの生き残りだろうかね。しかしうすぎたない 赤ゆっくりが物凄く眠たそうにしてるのは、やはり赤ん坊だからか。それにしてもきたねーな つか、ゴミ捨て場からメッチャ近っ!ほんとうにきたないさすがきたない 「おかーしゃん…あまあまさんとってきてくれた?」 「かわいいおちびちゃんのためにとってきたよ!ゆっくりたべてね!」 「ゆー、まりさもゆっくりたべたいよ!」 「いっぱいあるからゆっくりたべてもだいじょうぶだよ!」 「ゆ!?それほんとう!?へぶんじょうたい!」 「「「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!!!」」」」 …………もしかして、ここが巣なのか? 自販機の裏だから冬になっても安心快適!なのは分かるし ゴミ捨て場が近くにあるから、餌の心配もしないで良いのは分かるけど…… 「朝になったら保健所に連絡しよう……」 そう心の中で固く誓いながら家に帰る俺であった。あー嫌なもん見ちまった <おわり>
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(前編から) 二十日が過ぎた。二人は綿密な調査を進め、ほぼ完璧なデータを集め終えた。 この森の群れの数は大小合わせて五十四群で、総個体数は三千二百五十頭だった。 一つの群れは平均して十二家族、六十頭の個体からなっていた。 そこから、一家族辺りの縄張りが二百平方メートルという数字が導かれた。わずか十四メートル四方だ。 十四メートルといえば、ゆっくりの歩度でも五十歩かそこらだ。 五十歩四方の中で、居住するだけではなく、運動、捕食、水浴び、排泄などすべてをこなしており、明らかに過密状態だった。 「ここはれいむのゆっくりプレイスだよ! ゆっくりしないでむこうへいってね!」 「ゆぐぐぐ、いくところなんかないよ! まりさはここでゆっくりするからね!」 「ゆ゛ーっ! ゆ゛ーっ!」 「ゆっぐりいいぃ!」 そんなやり取りがたびたび聞かれた。外周網を周回したヤマベは、網に絡まって干からびた死体や、網のすぐ外で小枝に刺さっている死体を見つけた。 逃げようとして無理やり抜けようとした成体ゆっくりや、我慢できなくなって域外へ出て事故にあった赤ゆっくりのようだった。 三千二百五十頭のうち、成体ゆっくりは千三百六十頭。うち二十五パーセント、すなわち四百頭以上が妊娠していた。 冬になる前に食糧不足に至るのは明白だった。 主任とヤマベは写真入りの調査結果を地主と役所に持参し、最終的な処置の契約を結んだ。 その日、二人はいつもの軽トラではなく、マイクロバスで森にやってきた。バスにはアルバイトの学生二十人を乗せていた。 助手席のヤマベに、後席の学生たちの会話が聞こえてきた。 「いくら多いったって、相手はたかがゆっくりでしょう? こんなに人数いるんですかね」 「君、ブリーフィングのときに何を聞いてたんだ。今回は三千二百頭だっていうんだぞ」 「はあ……三千二百ねえ」 「実感ないって顔だな。いいか、普通のゆっくりは大体重さ六キロある。ペットボトル四本分ぐらいだ。 それが三千二百頭、半分は子供だとしても、一千頭以上いるんだぞ。重さは全部でどれぐらいだ?」 「……六千キロとか、一万キロになるんですかね」 「十トンだよ。自家用車十台分だよ。それだけの量の餡子やらクリームやらを前にしても、まだたかがゆっくりなんて言えるか?」 「いや、なんかわかってきたっす……」 経験者と、初心者なのだろう。ヤマベは椅子にもたれて目を閉じた。 森に到着すると、広めの場所を選んで仕込み用のネットとスコップを降ろし、『イベント』の準備を始めようとした。 すると主任が言った。 「ヤマベ、ヤマベ」 「はい、なんですか」 「おまえ、これ行ってこい」 そう言って手渡されたのは、いくつかの座標を書いたメモ用紙だった。ヤマベは驚いて目を見張った。 「私が行っていいんですか?」 「俺が行くわけにもいかない。おまえ一人で学生は仕切れないだろう。行け」 主任が背を向ける。ヤマベは頭を下げ、森のなかへ駆け出した。 だが、すぐに頭をかきながら戻ってきて、登山用の巨大なザックを担いでまた走っていった。 彼女が見えなくなると、主任は学生たちに声をかけた。 「よーし、集まって。作業の説明をするよ。 一班は柱設営だ。『ステージ』を囲むようにぐるりと柱を立てる。 二班はネット掛けね。柱の上に、『ステージ』を覆うネットをかける。このネットは縁のところ以外は絶対触らないで。 三班はデコイの穴掘り。そこらへんを掘って飴玉を埋めていって。 さっきうまいことを言ってた子がいたが、大体ペットボトル四本が入る感じで」 「三千頭分も掘るんですか!?」 「いやいや、デコイ、囮だからね。二十分の一ぐらいでいいよ。百五十箇所だ。 柱立てたら残りのみんなも参加するからね。 あー、長靴? 長靴はあとでいいです。ひとまずバスの横置いといて。 じゃあ僕が外周にライン引きしていきまーす。 大体あの辺までになると思うんで、チャキチャキ働いてください。では、はい」 「うーっす」「いっちょやるかー」 森の中に入ったヤマベは、メモにある座標へ向かった。地形はこの二十日で頭に叩き込んである。 目当ての場所には倒木に隠れた斜めの穴があり、中をのぞくと、薄暗い穴の中でごそごそ動く黒い帽子が見えた。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっ? ゆっくりしていってね!」 声を掛けると、ゆっくりまりさを初めとする一家が現れた。続いて、小さな赤まりさと赤ちぇん。 「あ……」とヤマベはつぶやく。 それは、以前会ったことのある、あの母ちぇんを亡くした一家だった。 「ゆ、ヤマベさんなんだぜ! キツネさんはゆっくりいなくなった?」 「ええ、どうかな」 「まりさはもうそろそろ旅に行きたいよ! おちびたちのごはんも減っちゃったよ!」 ゆーゆーと子供たちが母まりさに頬をすり合わせている。ヤマベは胸が痛くなった。 だが、これも仕事なのだ。――ギュッと歯をかみ締めると、ヤマベはザックを降ろして母まりさを抱き上げた。 「ゆゆっ? なにするんだぜ?」 「いいところへ連れてってあげるね」 「いいところ? ゆっくりできるならいってもいいぜ!」 得意げな顔をするまりさを、ヤマベはザックに入れた。まりさはまだよくわかっていない様子で言う。 「おちびのちぇんが一番さみしがりなんだぜ。ゆっくりいれてあげてね!」 ヤマベはザックの口を縛り、それを背負って立ち上がった。 足もとで小さな赤ゆっくりたちが、ゆーゆー、おかーしゃんまっちぇ、と飛んでいる。 その子たちに、ヤマベはひとことだけ言い捨てた。 「隠れてな」 「ゆっ……?」 子供たちが戸惑って立ち止まる。このままついて行こうか、お留守番しようかと迷っている風だ。 ゆゆっ? と背中からくぐもった声が聞こえた。ぼすんぼすん、と背当てのパッドが叩かれ、叫び声がした。 「ゆっくりまって! ゆっくりとまってね! おちびたちをわすれてるよ!」 「ごめん、まりさ」 ヤマベは硬い顔で言った。 その後三箇所を回って、計四匹のゆっくりでザックを一杯にすると、森の外周へ向かい、網をまたいでさらに百メートルほど離れた。 そして、あらかじめ準備してあったカンバス地のコンテナを地面の上に組み立てた。 風呂桶ほどの大きさになる、蓋付きの容器だ。複数のゆっくりを一時的に害獣から守ることができる。 そこにザックからドサドサと四頭を流し込んだ。 「ゆぶっ!」「ゆべえ!」 つぶれながら落下したゆっくりたちが、すぐに起き上がってゆうゆうと不安そうに周りを見る。 成体のまりさとれいむちぇんが一匹ずつと、やや小さくておとなしそうなアリスが一匹だ。 まりさがヤマベを見上げ、心配そうに叫んだ。 「ゆううう、まりさのおちびたちがいないよ! ゆっくりさがしてね! さびしがってるよ!」 「ごめん」 ヤマベはもう一度言って、ザックを片手にそこを離れた。ゆううう! ゆううう! と閉じ込められたゆっくりたちの悲鳴が追ってきた。 それから二時間ほど後、森の反対の端では、主任たちが準備を終えて『イベント』を始めていた。 「あまあま大会だよー」 「ゆっくりできるよー」 「ゆっくりしていってねー、ゆっくりしていってねー」 スーパーの売り子のように一本調子で叫びながら、間隔の広い横隊で森を進んでいく。 「あまあま」の声に反応して、次々にゆっくりたちが飛び出してきた。 「ゆうっ、あまあま!?」 「あまあまたべたいよ!」 「しゅにんさん、あまあまをくれるんだね! わかるよー!」 顔見知りのゆっくりを見かけると、主任が声を掛ける。 「ゆっくりだね、ちぇん。今日も元気かーい」 「ゆっくりしているよ!」 「あまあまをたくさんたくさん配るから、仲間みんなに声を掛けてねー。一人残らずだよ」 「わかったよー! ゆっくり、ゆっくりーっ!」 ちぇんを始めとする元気のある若いゆっくりたちが、我先にと駆けていく。 やがて森の奥から、赤や黒、緑や金色の色彩が、数え切れないほどぴょんぴょんと跳ねてきた。 無邪気な目をきらきらと輝やかせ、ハァハァと口を開けている。あまあま以前に、皆が食べ物に飢えていたのだ。 そんなゆっくりたちに向かって、人間はメガホンで叫ぶ。 「あまあま大会は森の入り口でおこないまーす」 「ご家族すべて連れてこないと参加できませーん。ゆっくりしていってね!」 「あまあまたいかい!?」 「ゆうううぅ、すごくゆっくりできそうな言葉だよぉ……」 「まりさ、おちびちゃんを乗せてね! れいむはおかあさんをひっぱってくるよ!」 さっさと走り出すもの、妄想が浮かんでその場でうっとりする者、一族郎党を引き連れてくるもの。 山のようなゆっくりたちが、ざわざわ、ごそごそ、もぞもぞ、ぴょんぴょんと湧き出して、流れる川のように森の入り口へ移動していく。 それと入れ違いに人間は森の奥まで進み、外周の網までたどり着くと、また叫びながら引き返し始めた。 「あまあま大会、まもなくはじまりまーす」 「一度きりだよー、来ないとなくなっちゃうよー」 「ほっぺのおちるあまあまだよー」 「ゆんぐぐぐ、やっぱりれいむもいくよー!」 「おかーしゃーん!」「おいちぇかないれー!」 跳ねる親、泣きながら追う子。 「むきゅぅぅ、ぱちぇはもうむりよ。ありすは先に行って……ぜぇぜぇ」 「ひとり占めなんてとかいはじゃないわ。おしてあげるからゆっくりがんばってね!」 助け合うカップルもいる。 置いていかれたものは、残らず抱き上げて聞き取りした。 「ゆっくりしていってね! もう周りにはゆっくりは残っていないかい?」 「みょーん、残ってないみょーん! みんないっちゃったみょーん!」 ざわざわと流れていったゆっくりたちは、やがて渋滞に入ってしまう。 森を囲む網が近づいて、一箇所しかない出口に殺到しているためだ。 「ゆっくりして、ゆっくりしてね!」 「おさないで、おさないでよ!」 「ゆぐぐぐぐ! でいぶつぶれるううう」 「ゆんやあああ! おかーしゃーん、おとーさーん!」 出口のところは駅の改札口のように何列かのゲートにされて、五人のアルバイトが両手の計数機をものすごい勢いでカシャカシャと連打している。 「ゆううう、やっとぬけたわあああ!」 「ゆっくりつぶれちゃったよ!」 「ゆっくり、ゆっくり!」「あまあま! あまあま!」 ゲートを抜けたゆっくりたちが、広い地面に出て勢いよくぴょんぴょんと跳ねていくが、じきに不思議そうに立ち止まる。 森から出たそこも、緑の網で囲まれた行き止まりの土地なのだ。ただし森ほどの広さはなくて、差し渡しは三十メートルほどだ。 そして頭上にも網が張ってある。こちらは外周の網とは違ってキラキラ光る細い網だ。 「ゆゆっ、あまあまがないよ?」 「おにーさん、はやくあまあまをもってきてね!」 「まりさはおなかがすいたよ! ぷくうううう!」 そんな風に膨れて威嚇するゆっくりたちも、後から後から流れ込んでくる仲間たちに押されて、どんどん奥へと運ばれていった。 「あまあま、あまあま!」 「ゆっくりたべるよーっ!」 森から流れ出し、広場に駆け込んでいく、紅白黒緑のざわざわした流れ。 横隊に加わっていた主任がそれを追い越して、爪先立ちでゆっくりを押したり蹴飛ばしたりしながら、一足先に戻ってきた。 「ほい、どいてね。はい、ごめんよ。おーいみんな、カウントどう?」 「僕は三百二十ですね」 「二百八十でーす」 「三百八十一」 「そこ、流れ悪いね。なんだあれ、あいつがふんぞり返ってガーガー言ってるからだ。誰かあのでいぶをステージに放りこんじゃって!」 「うぃーす」 「君君、足速そうだね。もうひとっ走り、外周回ってきてくれる? カウントは僕がやるから」 「えーっ、走るんですかあ?」 「あとで色つけとくからさ」 「わかりましたー」 アルバイトの一人が駆け出して行き、二十分ほどしてから横隊の連中と戻ってきた。 「主任さーん、パーフェクツです」 「穴とかちゃんと見た? テープで目印してあったでしょ?」 「見ましたー。ちゃんと声かけましたよ。残ってたのはアレしてきちゃったけど、いいですよね」 「いいけど、そんなに残ってた?」 「いえ、なんか年取ったれいむと、うつむいてブツブツ言うありすが一匹だけ」 「それはおちんちん取れちゃったやつだよ。ほっといても……」 「ギャー、セクハラ発言キター!」 「おい、真面目にやるよ?」 そうこうしているうちに横隊がカウボーイのように、最後尾のゆっくりを網のうちに追い込み、ゲートを閉じた。 いまや、三十メートル四方の広くもない広場が、ゆっくりでぎゅうぎゅう詰めになって足の踏み場もなくなった。 ゆっくり、ゆっくり、という期待の声と苛立ちの声、泣き声や悲鳴が重なり合って開場前の遊園地のように騒々しい。 カウンターと記録をつき合わせて、ほぼ誤差がないことを確かめてから、主任はハンドマイクを取った。 ガピッ! とハウリングの音をさせてから、盛大に叫び始める。 「えー、それではゆっくりのみなさん。お待たせしました。これよりあまあま大会を開始します」 「ゆっくりーーーー!!!」 「ルールの説明です。この会場には、たくさんのあまあまが地面の下に埋めてあります。 はい、そこのまりささん! あなた、そう帽子のつやのいいあなた。 ちょっとあなたの真下を掘ってもらえませんか」 「ゆゆっ? まりさが掘るのぜ? ざーくざーく……ゆゆゆう、飴さんをみつけたよ!」 「という具合です。みなさん張り切って地面を掘ってください。 なお、飴の数はみなさんよりきもち少なめにしてあるので、掘るのが遅れるとなくなってしまいます。 それでは用意、スタート!」 主任はそう言うと、陸上競技用のピストルをパァン! と鳴らした。 司会進行はメリハリもクソもないグダグダだが、道具の準備だけはいい男だった。 「ゆーっ!」 ゆっくりたちが一斉に足元を掘り始める。 最初は穴掘りの得意なまりさたちががんばっていたが、実際にあちこちから、 「ゆっくりー! あまあまみつけたよー!」 「ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ! おいしいよ、とってもゆっくりできるよ!」 と叫び声が上がると、もたもたしていたれいむもありすもぱちゅりーさえも、必死に掘るようになった。 ほとんどのゆっくりが穴堀りに熱中し始めたのを確かめると、主任はハイドマイクを置いて学生たちに合図した。 「おーい、配置配置。ちゃんと長靴はいた? いいか、焦っちゃだめだからな。焦るなよ!」 二十人の学生が、網で囲まれた穴掘りステージの周囲に陣取る。 三千数百のゆっくりが穴を掘りまくるフィールドでは、砂と土がザクザクと巻き上げられ、もうもうと砂煙が上がっている。 「穴、どう? おーい、そっちは穴どう!?」 「もうちょっとですかねー」 「全部入らなくてもいい、全体入らなくっていいよ! 土、土かけるから!」 「じゃあオッケーです!」 「オッケー? 一班オッケー?」 「オッケー!」 「二班もオッケーでーす!」 「よーし、いいかな? いいかな? じゃあいくぞー、それっ!」 全体と十分アイコンタクトしてから、主任は頭上の網を支える柱を引き倒した。二十人の学生がそれに続いた。 ふわり……と白く薄い網がゆっくりたちの頭上に落ちかかる。 間髪要れずに人間は網の周囲にペグを打ち、一匹たりとも逃さないように固定していく。 すると、穴に半ば埋まって土を放り出していたゆっくりたちが、遅まきながら気づいて顔を上げた。 「ゆゆっ?」 「なにかのってきたよ?」 「しろいふわふわさんだよ! きれいだね!」 「これはゆっくりできるもの? ぺーろぺーろ……ゆぎひゃあああああ!?」 絶叫が上がり始めた。網をなめようとした舌が、すっぱりと切断されたのだ。 「主任さん! これは一体……」 「“カスミアミ”だよ!」 主任が力強い声でそう言った。 カスミアミ――それは絹糸で作られた鳥猟用の網だ。 ほとんど目に見えないほど細いわりに、絹を使っているので強度が高い。 昔は日本の多くの山野で使われていたが、鳥類保護の観点から使用が禁止された。 主任たちの会社ではそれをゆっくり用に使用しているのだった。 鳥が絡まったら抜けられない、細い強靭な網がゆっくりに対して使われるとどうなるか――。 「ゆぎゃっ、ゆぎゃああああ!?」 「切れるううう、まりさのおぼうしが切れちゃううう!?」 「ゆぴゃああ、いちゃいっ、いちゃいよおぉぉ!」 「あびゅっぱ!」 「ひぱれ!?」 「てぷ」 スッ――れいむの額がめくれる。 スッスッ――まりさの頬が削がれる。 サクッ サクサクッ――親の頭にのっていた赤ゆっくりたちが、一文字や十文字に割れる。 バラバラ、ボトボトと地面に落ちる。皮が、あんこが、頭飾りが。たちまち悲鳴と糖臭が立ち込める。 饅頭肌を持つゆっくりにとって、「糸」は大敵だ。くくられたりひっかったりすると、それだけで肌が切れてしまう。 強靭な絹糸の網は、まるで空気そのものが刃物になったかのように、いともあっさりとゆっくりを切り裂いていった。 広場の外周では、アルバイトたちが浮き輪の空気抜きのように網ごとゆっくりを押しつぶしていく。 圧迫されたゆっくりが裂け、弾け、網の合間からトコロテンのようにヌリヌリとこぼれだす。 「ゆぎゃあああ、ぢにだくないい!」 「ゆっ、ゆゆっ? なんなの、どうしたの?」 「ゆっくり! ゆっくりおしえてね!」 それに引き換え、内側のゆっくりたちは何が起こっているのか理解できない。 ただ回り中から悲鳴が沸きあがるのを聞いて、混乱し、恐怖して、ゆっゆっと説明を求めるばかりだ。 「ゆっくりにげるよ、ぴょーん! ……ぷぱっ?」 「まりさもにげるよ! ずーりずーり……んぴっ! びゅあっ、びべばぁー!」 外へ逃げようとしたゆっくりは、ことごとく網にかかって切断される。 勢いのいいものは分割されたままヨウカンのように飛び、着地地点でバラリと解体される。 それほどでもないものは、顔面が割かれたところで痛みにのた打ち回り、後から来る仲間に押されてやはりトコロテンになる。 「だめだよぉー! おしちゃだめだよぉー!」 「ゆいいぃぃ! そとはあぶないよ! ゆっくりできないよ!」 「もどってね、ゆっくりもどってね!」 網が危険だと理解したゆっくりたちは、地下に飛び込む。 今まで自分たちが掘っていた穴に、だ。 飴が埋めてあったのはちょうどゆっくり一体分の深さ。つまりその掘り跡は都合のいい隠れ場になるわけだ。 ゆっくりたちは先を争って穴に逃げ込む。 すぽっ すぽっ ころころ、ずぽんっ! 「ゆっくりかくれるよ!」 「ゆゆーん、ここはれいむにぴったりだよ! れいむのゆっくりプレイスにするね!」 「おちびちゃん、おいでね! おかあさんのおくちにゆっくり入ってね!」 「ゆー、ゆー!」「ゆっくちはいりゅね!」「こーろこーろ!」 穴という穴にゆっくりが入り、下を向いたり横を向いたり上を向いたりした状態で、得意げに叫ぶ。 中にはその場でゆっくりプレイス宣言するものもいるが、そんなのんきなことが許される状況ではない。 「どいてね、おねがいだからゆっくりどいてね!」 「ゆあああ、すぱすぱがくるよお! はやくでてね!」 穴の主に向かって懇願するれいむや、背後をちらちら見ながら泣き喚くまりさがいる。 「れいむのおちびちゃんを助けてあげてね! どいてね!」 「どけっていってるでじょおお゛お゛お゛゛お゛!」 「がーぶがーぶするよ! がぶ! ゆうううう!」 「ゆびゃああああ、ひっばらないでぇぇぇ!」 「だめだよ! おぢびぢゃんだちのだよ! ゆぐぅぅぅ!」 「ゆぎゃああああぁぁ、あばぁ!」 焦りのあまり、穴の主のもみ上げや髪の毛にかみついて、力ずくで引きずり出そうとするものもいる。 その途中で踏ん張りすぎてもみ上げが千切れてしまい、あんこがドバッと噴出したのが見えた。れいむは瀕死で穴の底に落ち、ひっぱっていたれいむは後ろへ吹っ飛んで網に切り裂かれる。 「れいむも入れてね! ゆっくりいれてね!」 「まりさもはいるのぜ! ずーりずーり」 「ちぇんもはいるよー! いれてよー! おねがいだよぉぉ!」 「ゆーっ、ゆめてねやめて、ここはもうはいらないよ! ゆっくりやめて! づぶれるよぉ゛ぉ!」 「あっあっあ゛っだめだぜっ、つぶっ、つぶれるっ、ああああんこ出るあんこ出るまりさでで出ちゃうっ、でちゃうでちゃううっ、ゆああああゆぶびびぅぅっぶば!」 「ぶべっびぁ!」「ばぴゅっふ!」 一つの穴に黒いのや赤いのや緑のが殺到し、ムリムリモリモリと尻を持ち上げて無理やり頭をねじ込んだ挙句、二、三頭が破裂してしまい、派手にあんこを吹き上げているところもある。 そんな狂乱穴埋まり地獄とでもいうべき、ゆっくりたちの阿鼻叫喚を、端から学生たちが網ごとズムズムと踏み潰していく。 「いち・にー、いち・にー」 「よっせ、よっせ」 「長靴ってこれかよー」 麦踏みにも似た光景だが、一歩ごとにブビュッ、ブビュッ、と餡が吹き上がるところが異なる。 主任が外周を回りながら言う。 「穴入ってるやつはできるだけその場で埋めてくださーい。網切れないように気をつけてー」 「はーい」「あいー」 ザッザッ、と餡交じりの土が浴びせられ、ゆっくりが埋められる。 「ゆばばばぁ、やめでよぉ! ゆっくりざぜでぇ!」 空を向いて泣きながら埋められるのもいれば、 「もぉやだああぁぁぁぁ! おうぢがえるぅぅぅぅ!」 「だじでよぉぉ! ぬけないよぉぉぉ!」 「おがあじゃぁーーーん! だずげでぇぇーーー!」 「おぢびぢゃああん! ごめんねぇぇぇ!」 下を向いたり、横を向いたり、大きいのの隙間に小さいのが挟まったりして、身動きできずに号泣しながら埋められていくものもいる。 主任は外周を回りながら地面に目を走らせている。時折、外の地面をぴょんぴょんっと跳ねていく小さな帽子や髪飾りがいる。 親が必死の思いで外へ投げ飛ばした、赤ゆっくりや子ゆっくりだ。涙をこらえて一歩でも遠くへと走っている。 主任はそういうゆっくりを目ざとくつまみあげ、ポイッと広場の真ん中へ放り戻す。 捕まった途端に赤ゆっくりたちは絶望に口を開け、「ゆんやあぁぁぁ!」「いやに゛ゃぁぁぁ!」と悲鳴を上げながら飛ばされていく。 せっかく逃げられたかもしれなかったのに、赤ゆっくりたちの望みはこの冷静な男に断たれてしまうのだ。 混乱しきった網の中では、母親といっしょに死ぬこともままならない。 ただ、「みゃみゃぁぁー!」「おちびぢゃあぁぁぁん!」と叫びあいながら、解体され、潰されていくしかないのだった。 「それっ、それっ! あれー、主任さん潰さないんですか?」 額に汗をかいて楽しそうに潰し歩いていた女子学生が、赤ゆを投げている主任に尋ねる。 「こうすれば同じだからね」 主任はむっつりと答えた。 包囲し始めから四十分ほどたつと、ゆっくりの狂乱もだいぶ静まってきた。広場の中心辺りで、言葉もなくモゾモゾ、ワサワサとうごめいている。 だがこれは落ち着いたのではなく、しゃべる余裕もないほど必死で闘争しているのだ。 外周からは、少しでも死を遅らせようとゆっくりたちが中央へ押し寄せる。 中央では、押し寄せる仲間たちの圧力に負けて、皮の弱い個体から破裂していく。 「ゆぶっ……!」 ズチャンッ 「ばびっ……!」 ドチュンッ 「みゃみゃ……」 プツンッ それらの餡子やクリームが、ときおり間欠泉のように吹き上がる。 数は少ないがしゃべれるほど大きなのもいて、大声でわめいている。 「どぼじでごんな゛ごどずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ! でいぶばがわいいでいぶなんだよぉおおぉぉぉ! ゆっぐりごごがらだぜぇぇ! ゆっぐりざぜろおぉぉおぉ!」 喚きながら大きな図体で暴れるものだから、まわりのゆっくりが巻き添えを食って潰されている。 「っせぇ黙っとけ!」 苛立った学生が穴掘りに使っていたスコップを掲げて、平らな面でバシンバシンとその大きなれいむを叩き始めた。 れいむは口汚く罵っていたが、途中から命乞いを始め、それも通じないとわかると狂ったように泣き喚いた。 それでもなかなか死なず、周りの学生が寄ってたかってパンチとキックを集中させ、頭全体に何十個もの陥没口をあけられて、ようやく死んだ。 皆が思っていた通り、そのれいむの面の皮は恐ろしく厚く、十センチほどもあった。 「あまあま大会」で六割以上のゆっくりが穴を掘っていたため、包囲網が内に近づくにつれ、外周にはゆっくりの埋まった土饅頭が増えていった。 中央部の数少ないまともなゆっくりが、網でキシキシ裂かれていきながら、泣き声で叫んでいた。 「にんげんさん、やめてね! やめてね! れいむなんにもわるいことしてないよ! おねがい、やめてね! ゆっくりしてね! ゆっくりしてよー! いっしょにゆっくりしてー!」 このころになると、最初はハイだった学生たちもやつれた顔になっていて、哀願するれいむから次々と目を逸らした。 人間の顔と声をした生き物をこれほど殺していると、たとえゆっくりであっても消耗するのだ。 「いたいよー、たすけてよー! ゆっくりしていってね!!!」 叫ぶれいむに、主任が大またに歩いていって、力いっぱい長靴で踏みつけた。 ザパッ! と絹網がれいむに深く食い込み、上下・左中右の六つに切り分けた。 その切り方が綺麗だったのかなんなのか、そのれいむは分割されても声を上げた。 「ゆっくりして……ってね」 そしてボロボロと開くように倒れた。 最終的に、中央部のゆっくりは自分たちの圧力でつぶれ、ドロドロした粘体の山と化した。高さ八十センチ、底の差し渡しが三メートルほどの低い山ができた。主任がそれを写真に撮って言った。 「この山一つで二トン半ぐらいかな。……じゃあ、あとはみんなで穴掘って、これ埋めたら終わり」 「二トン半て」 うんざりした顔の学生に、主任は声をかけた。 「残り七トン半は自分らで掘った穴に勝手に埋まってくれたんだ。楽したと思わなきゃ」 「そっスね」 すでに日は傾いていたが、皆は黙々と作業の締めくくりに移った。 携帯電話が鳴った。カンバスコンテナの横でぼーっと座っていたヤマベは、電話に出た。 「はい」 「済んだぞ。そっちは」 「NPです。みんな泣いてますけど」 「離してやれ」 ヤマベはコンテナの中に目を戻した。主任の指示通り、森中からランダムに集めた十頭のゆっくりたちが、不吉な将来を予感したのか、えぐえぐと泣きじゃくり、ゆっくりしようねと慰めあっていた。 いずれも色艶のいい、利発そうな成体ゆっくりたちだ。 ヤマベはコンテナに手をかけ、ごとんと倒した。ころころと出てきたゆっくりたちが、「ゆゆっ?」と辺りを見回した。 その中のまりさが怒った様子でヤマベに詰め寄った。 「ヤマベさん、ゆっくりあやまってね! まりさはこんなにおちびたちからはなれたのははじめてだよ! ゆっくりおちびのところへつれていってね!」 物悲しい目でまりさを見ていたヤマベは、立ち上がった。コンテナを畳んでザックにいれ、歩き出す。 「ゆゆぅ!? むししないでね! ゆっくりはなしをしてね!」 後ろからまりさがピョンピョンとついてきた。ヤマベは黙々と歩き、例の森の外周の網までたどり着くと、それをクルクルと巻き取り始めた。 「行きなよ。こっからさき、あんたたちの森だから」 「ゆっ? くんくん……そういえばこのにおいは知ってるよ! ここはまりさのもりだよ!」 「そうだね」 「これならおちびのところへいけるよ! ゆっくりいそぐよ!」 まりさはヤマベが開けた網の隙間から森へ入っていこうとしたが、ふと不安そうに振り向いた。 「きつねさんは、もういないのぜ?」 「最初っからいなかったのよ。増えすぎたのはあんたたちのほう」 ヤマベは振り向き、様子を伺っている九頭の生き残りにも声をかけた。 「さあ、行っておうちへ帰りなさい。この森はとっても広くなったから、ゆっくりできるわよ」 「ゆゆう……?」「もりがしずかだよ……」「ゆっゆっ……ゆうう?」 おどおどと周りを見回しながら、ゆっくりたちは森へ戻っていった。 まりさは一番最後までヤマベを見ていた。その目に言い知れぬ不安と不信が揺れていた。 ヤマベは何も言わずに網を片付けた。 広場へ戻って合流すると、朝には生き生きとしていた二十人のアルバイトたちが、ぐったりと疲労困憊して座席で待っていた。ヤマベが助手席に入ると、タバコをすっていた主任が「よう」と片手を挙げた。 「どうだった」 「え、普通です。十頭とも元気で森へ戻りましたよ。何が起きたのかわかってないみたいでしたけど」 「まあ死ぬまでわからんだろうな」 ヤマベはタバコを灰皿に押し込み、マイクロバスを転回させた。素人がメチャクチャに畑作業をやったような、荒れた掘削跡がヤマベの目に入った。 「これで何年持つんですかね」 「いいとこ五、六年だろ。ネズミ算だし」 「十頭が一年で三十頭になって、二年で九十頭になって、三年で二百七十、四年で八百十、五年で二千四百……そんなもんですね」 「まあ一概には言えんが。この森はやばいと思って引っ越すかもしれんし、外敵に食われるかもしれん」 「外敵なんかいませんでしたよ、フィールドワーク中に」 「いなけりゃどっかから来るだろ。生態系ってそういうもんだ」 「こんなのでゆっくりを守ったって言えるんですかね?」 ヤマベはとうとう振り向いて主任を見つめた。どういうわけか鼻の奥がツンとしていた。 「森とゆっくりをっ、守るためにっ、仕方ないっていうことですけどっ!」 主任は次のタバコに火をつけながら言った。 「バーカ、そりゃ建前だ」 「……」 「邪魔なゆっくりを根こそぎ滅ぼしますとか言ったら、いろいろ横槍入んだろが」 「……そうなんすか?」 「そうなんじゃねえの。ほんとにゆっくりを守りたかったら、もっと厳密に繁殖管理しなきゃダメだろ。実際そういう会社もあるし」 「……そうなんだ……」 ヤマベは視線を落とした。膝が震えていた。 「そっち就職するべきだったかな……ちっくしょ」 ポタリと膝が濡れた。 ガタガタと揺れながら走っていたバスが、キッと止まった。 ヤマベは顔を上げる。まだ全然山の中だ。というか振り返るとさっきの場所がまだ見えた。地続きで五百メートルも離れていないだろう。 主任が作業服のポケットをあさって、カサカサ動いている紙袋を取り出し、窓から草の上に投げ捨てた。 それから何食わぬ顔で再びバスを出した。 ヤマベはしばらく、呆然と主任の横顔を眺めていた。主任は嫌そうに目を細めてぼそぼそ言った。 「見んなよ」 「主任……」 「言っとくが違反じゃねえぞ。あの森には十頭しか戻すなって言われてるが、今のとこはもう、登記上は別の森だからな」 主任は頑なに前を見つめていた。ヤマベは目頭を拭いた。 「……戻れるといいですね」 「なにが?」 ヤマベはマイクロバスのサイドミラーを見た。 小さな小さな点が三つ、勢いよくはねていったような気がした。 (おわり)
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『一緒にゆっくり遊ぼうね』 周囲の山々の桜が散り始め、景色が日々変化する春の日。 天気も良いので散歩でも出掛けようと家の裏口から外に出た私は二匹の妖精と出会った。 裏庭にある一本の松の木、その木陰にゆっくり二匹が身を寄せ合ってゆっくりと休んでいた。 一匹は紅を基調としたリボンを付けたゆっくりれいむ。 もう一匹は黒いトンガリ帽子を被ったゆっくりまりさだ。 ゆっくりとはこの村の長老いわく饅頭の妖精らしい。 「ゆっくりしていってね!!!」と鳴き、ゆっくりすることを好む大人しい妖精。 山の中ではよく見かけるが、こうして村で見るのは割と珍しかった。それも我が家の裏庭で。 自らの巣の周りで落ち着いていることの多いゆっくりが遠出することは少ない。 しかしこの二匹は見た感じでは子ゆっくりのようだ。 きっと蝶々でも追いかけて遊んでいるうちにここまで来たのだろう。 害は無いし放っておいても良いのだが、その前にちょっと遊ぼうかな。 私が子供のころは山でゆっくりとよく遊んだものだった。 と言う訳で春の陽気でうとうと眠りかけている二匹に近づくと、二匹は私に気付いて顔を上げた。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 これがゆっくり式の挨拶だ。 れいむは眉毛をシャキーンとして、どこか勝気な笑みを浮かべて元気に叫ぶ。 まりさはふてぶてしさを感じさせる表情だけど、一方で親しみも感じる控え目な笑顔で叫んだ。 挨拶の時は二匹の間に一定の距離を取るのがゆっくり式だ。 「ああ、ゆっくりしていってね」 「ゆっ!」 「ゆっくり!」 二匹は私の返事を聞いて満足したのかピョンと垂直に跳ねて短く鳴いた。 その後は再び二匹寄り添って元の位置に戻った。 しかし眠そうだった先程とは違ってニコニコと私を見上げている。 一緒にゆっくりしようと誘っているようだった。 私はそんなれいむを持ち上げる。 バスケットボールぐらいの大きさのれいむはとても軽く、そして柔らかかった。 「ゆゆ? ゆっくりしていってね!!」 私の顔の高さまでれいむを持ち上げて目を合わせると、れいむは元気な鳴き声を上げた。 「ゆ、ゆっー。 まりさもゆっくりしたい!」 まりさは持ち上げられたれいむが羨ましいらしい。 れいむを見上げながら私の足元でピョンピョン跳ねていた。 「まりさは後でな」 私はまりさにそれだけ伝えるとれいむをさらに持ち上げた。 高い高いの要領だ。ゆっくりはこれが好きなのだ。 「おそら! おそらをとんでるみたい!!」 「ゆぅー、まりさも! まりさもとびたいよ!!」 れいむもやはり高い高いが好きなようで、清々しい笑顔を見せる。 まりさもそれを見て羨ましいレベルがMAXだ。 しばらくれいむにお空体験させた後は再び顔の高さまでれいむを下ろす。 「ゆっくりできたよ!!」 頭上で何度も「おそらをとんでるみたい」と言ったのだから報告せずともそれは分かる。 わざわざ報告してくるのはゆっくりなりのお礼かな。 お礼もいいけど今度は私が楽しむとしよう。 私は両手でれいむの両頬を支えるようにれいむを抱えている。 そこから親指で柔らかいれいむの頬をプニプニ突く。 「ゆにゅ?」 プニプニプニ 「ゆゆゆ」 「おお、柔らかい。たまらん」 今度は片腕でれいむを抱えて頬を軽く摘まんでみる。 やはり柔らかい。この柔らかさは女性の乳房を彷彿とさせる。 「ゆー、ゆー」 れいむは大人しくスキンシップを受けていた。 それに私の腕に抱えられて安心できるようで、眠たそうな顔をしていた。 が、ここで不意打ち。強めに頬を抓って見た。 「ゆ"!? いたい!」 ビクーンと体を硬直させて痛みを訴えた。 もがいて私の腕から逃げようとする。 「おっとっと… ごめんよれいむ」 「ゆっ…ゆっくりー!」 謝るとすぐにれいむは落ち着いた。 単純である。 しかし強く抓った時の反応、良かったな。 また見たいと思ってしまうぐらいに。 だけどこれ以上はやめておこう。 感情を抑えきれなくなるかも知れないし。 それよりも今まで無視していたまりさの「まりさもあそんで」という訴えは激しさを増していた。 そろそろ可哀想になってきたし、まりさとも遊ぶとしよう。 なので眠り始めたれいむを地面に降ろす。 「ゆ?」 突然の地面にれいむは驚き、きょとんとしていた。 対してまりさは… 「ゆっくりしていってね!!」 私の腕に飛びついて来た。 よっぽどれいむが羨ましかったのだろう。 キラキラとした瞳は「はやくあそんで」と言っているようだった。 「よーし、次はまりさの番だぞ」 「ゆー!!」 今度はまりさを持ち上げ、れいむと同じように遊んだ。 いや、違うな。 れいむよりも三回ぐらい多く頬をぎゅって摘まんだ。 粒のような涙を浮かべて泣き出しそうになったのでそこで止めたが。 その後はまりさも降ろしてやり、適当な野菜を分け与えた。 二匹は遠慮していたが、目の前に置いてやるともそもそと食べ始めた。 食べ終わればもちろん、 「しあわせー!!」 これである。 二匹の爽やかな笑顔を見ると野菜をあげた甲斐があるというものだ。 「それじゃ出かけるから今日はお終いね」 「ゆ? ゆっくり! いっしょにゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしようよ!!」 どうやら気に入られたみたいだ。 もっと一緒にいてと引き留められた。 「用事があるんだよ。だからまた明日な」 「あしたゆっくりしようね!!」 「しようね!!」 私は二匹に別れを告げると当初の予定通り裏山へ散歩に出かけた。 散歩中、私の頭には抓られたゆっくりの泣きそうな顔が何度もチラついていた。 それからというもの。 毎日れいむとまりさは裏庭の木陰に来るようになった。 山か何処かに巣はあるようだが、日が出ている間はここで過ごしている。 最初の数日は私を見ても遊んで欲しそうにこちらを見ているだけだった。 そんな二匹を放置するのも可哀想なので適当に遊んであげた。 草笛の吹き方を教えてあげたり、ホッペを指で突いたり… 抱っこして一緒に木陰で寝たり、デコピンしたりした。 ちょっと痛がることをしてしまったが私なりの可愛がり方なのだから仕方がない。 それに痛いことをしても謝れば二匹はすぐに笑顔になって許してくれた。 そうやって遊んでいるうちに最近は二匹の方から私を誘うようになった。 まだ扉をノックしたり家の中の私に呼び掛けはしないけど、 私が姿を見せるとピーンッと背筋を伸ばして飛び跳ねてきた。 「ゆっくりしていってね!! きょうもゆっくりしようね!!」 「ゆっくりしていってね!! きょうはおにーさんのぼりしたいよ!!」 「ははは、よしよし」 二匹の頭を軽く撫で、私と二匹の遊びの時間が始まる。 れいむとまりさの要望を聞きつつ、一緒になって遊んでやる。 犬なんかと違って喋るので、ペットというよりも子供と遊んでる気分になる。 これはこれで楽しかった。 楽しいはずなのだが……私は物足りなさを感じるようになっていた。 私が楽しいと感じるのはゆっくりに対して意地悪したときだけなのだ。 例えば頬を何度も突っついて嫌がる顔を眺める。 それでも頬を突っついて涙目になってもまだ続ける。 「や、やめてね…」 「ゆゆ、おにーさんゆっくりしようよー!」 二匹が私の行為に対して拒絶の意を口にしてようやく止める。 気付けばゆっくりの頬が赤く腫れていた。 他にも楽しそうに笑ってるゆっくりを捕まえてデコピンをくらわせた。 思いきり力を込めた渾身のデコピンだ。 「ゆびぃっ!!」 ひと際高い声で叫んだゆっくりはプルプル震え、次第に涙目になる。 そしてとうとう我慢できなかったのかポロポロ涙を流して泣き出してしまった。 「ゆぅぅぅ! ゆぅぅぅぅぅ!!」 「ゆっくりしてね!! ゆっくりしてね!!」 イヤイヤしながら泣き喚くゆっくり。 最高だった。悪いことをしたなと思ったが、心が昂るのを確かに感じた。 このまま思いきり殴ったらどうなるだろうと考えると本気で興奮した。 でも、その日はそれ以上何もせずにデコピンしたゆっくりに謝った。 本当に痛かったらしく、すぐには許してくれなかったが。 しかしこの日、私は自分の心に芽生える気持ちを確かに感じた。 私はゆっくりの泣き顔が好きなんだ。 無邪気に遊んでと跳ね寄ってくる二匹のゆっくり。 その無垢な笑顔をぐしゃぐしゃにしたい。 そんな自分の気持ちに気付いてからは毎日が物足りなかった。 日を追うごとに強くなるこの想い。 「お前たち、楽しいかい?」 「ゆー! おにーさんといっしょ! すごいゆっくりできるよ!!」 「たのしーよ!! あしたもあしたのあしたもずっとゆっくりしようね!!!」 もう、我慢できなかった。 「そうか。 ところでさ。私の家に来ないか? 私の家で遊ぼうよ。なっ?」 「ゆー? でもいーの??」 「もちろんさ。お前たちが来れば嬉しいし、ゆっくり出来るからね。 来てくれるかい? 来てくれるよね?」 「ゆっ、まりさはおにーさんのおうちでゆっくりしたい!!」 「れいむも! れいむもゆっくりするー!!」 私の事を信頼し切った二匹を我が家に誘うのは簡単だった。 裏口の戸を開き、家に入るよう促すと二匹は元気に家の中へと駆けていく。 家に入ると私に振り向いて「ゆ!」と鳴く。 私はそんな二匹に続くと鳴き声の代わりにピシャリと戸を閉める。 「ゆっくりびっくり!」 戸の閉まる音に驚いている二匹を抱えて部屋へと連れて行く。早足だ。 二匹はキョロキョロと部屋の様子を眺めていた。 初めての人間の家には気になる物がたくさんあって目移りしてしまうのだろう。 「さ、ここで遊ぼうな」 「ゆっくりしていくね!!」 家の奥、寝室としている部屋に二匹を連れ込んだ。 襖を閉めれば六畳ほどの閉じられた空間になる。 ここなら存分に私も楽しめるし、二匹は決して逃げることは出来ない。 「ゆっくりあそぼうね!!」 「まりさ、おもしろいのみつけたよ!! それであそびたいよ!!」 「ゆゆ、れいむもみつけたよ! もーいっかいみたいよ!!」 「はは、でもダメだ。 どうしてもやりたい遊びがあってさ」 私は二匹の傍に屈むとまずはまりさに手を伸ばした。 「ゆっくりあそんでね!!」 「ああ、遊ぶとも」 まりさの後頭部を掴んで床に押さえつける。 「ゆ"?」 苦しいようでくぐもった声を上げた。 でも少したりとも逃げようとはしない。 まりさは私を信じてくれている。 意地悪程度ならするけど本当に酷いことはしないって信じてくれてる。 でもごめんねまりさ。 もう自分の心に嘘は付けない。 だから殴るね。 まりさを押さえ付けていない方の手を振り上げ、拳を握る。 狙うのはまりさの頭だ。 何をするんだろうと大人しく待っているまりさの頭に狙いをつける。 帽子があるけど構わない。 気持ちのままに殴りつけるだけだ。 ズンッ 「…っゆ"」 鈍い音と声が部屋に響いた。 泣かせて怯えさせるのが目的だから手加減している。 だがまりさのクッションのような柔らかい頭には私の拳骨がめり込んでいた。 帽子越しでもまりさの体温、震えを拳から感じられる。 「ゆ? ゆゆ? まりさ…?」 呆然としているれいむを余所に私は拳をゆっくりと上げた。 しばらく震えるだけのまりさだったが、間を置いてまりさの泣き声が漏れ始める。 「ひっ…ゆひっ…ひっ……」 おっと忘れちゃいけない。 私はまりさの頭を片手で掴み、顔を私と向き合わせた。 もちろん泣き顔を見るためだ。 だが残念なことに、まりさは私の顔を見ると少し安心したような表情になった。 もしかすると私が殴ったこと気付いてない? だったら仕方ない。 今度はまりさにも良く見えるように目の前で拳を握る。 それからゆっくりと腕を引いて―― 再び殴る。 「………!!!」 顔面中央、人間で言えば鼻の辺りを思い切り殴り付けた。 まりさは悲鳴も出せなかった。 「やめてね! ゆっくりやめてね!!」 れいむは泣きそうな顔で私に縋りついた。 のんびり屋のれいむも私がいつもと違うと気が付いたらしい。 いつもの意地悪と違い、本気で傷つけようとしているということを。 私は縋るれいむに腕を横薙ぎにぶつけて振り払った。 れいむの番はまだ先だ。 「あ"あ"あ"ーっ! いだいよぉぉ!!! ゆ"ーっ!!」 と、これはまりさだ。 殴りつけたショックから立ち直り、後頭部と顔面の痛みにようやく泣き出した。 大粒の涙をボロボロ流し、大口を開けて泣き叫ぶ。 いい顔だ。もっと殴りたくなる。 まりさの目の前に拳を突き出して、再び殴ると意思表示する。 「ひっ、や、やめて…ね。 いたいのやだよぉ。おにーさんやめてよぉぉぉ」 まりさは怯えていた。 意地悪を嫌がるのとは違う。 危害を加える者へ恐怖。それと単純に痛みに対する恐怖だ。 さっきと同じで腕を引くのを見せ付ける。 それを見たまりさはビクリとひと際大きく体を震わせた。 この後どうなるかはついさっき身を持って知ったのだから当然の反応か。 下半身を振って本気で逃げようとする。だが体の構造上、頭を掴まれては逃げようがない。 「や、やあぁぁ!! やだぁぁぁ!! いたいのやだよぉ!! やめてやめでよぉぉぉ!!!」 もはや出来るのは泣き叫ぶことだけだ。 まりさは私に泣き付いて止めてとお願いする。 「ゆっくりじようよ! おにぃさぁん!! いっじょにゆ"っぐりじだいよ! じよう"よ"! ゆっぐりぃぃぃぃ!!」 「ゆっくりしてるさ。 まりさを殴るととってもゆっくり出来るんだ」 そして殴る。 今度は左頬だ。 「あ…ひ…あ"あ"ぁ"ぁ"ーっ!!」 「楽しいなぁ」 また殴る。 今度は右頬。 「あ"あ"ーっ! あ"ぅ"あ"ーっ!!!」 もっと殴る。 「あびぃっ! びいぃぃぃ!!!」 まだ殴る。 「ゆ"や"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!!!!」 まりさが泣くのでさらに殴る。 「あ"びゅっ、びぶっ…あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!!」 殴り続けた。 「ゆっくりしようよぉぉ!! ゆっくりしてってよぉー!!」 れいむは部屋の端で叫んでいる。 私を恐れ、決して近付いては来ない。 そろそろあっちも苛めようかな。 すでにポンコツ顔のまりさを床に投げ捨てる。 「ゆ"…ゆ"ぶ…」 もはや虫の息だ。 れいむに気付いてよかった。 れいむが叫ばなければついつい殺してしまったかも知れない。 「じゃあ今度はれいむの番だね。 お兄さんとゆっくり遊ぼう」 「あ、あそぶの? ゆっくりあそぼうね…?」 本当に言葉通り「遊ぶ」と勘違いしたらしいれいむは少し笑顔が戻る。 このまま油断させて捕まえてもいいが… 「れいむもいっぱい殴ってあげるね。 まりさと同じように痛い思いさせたげる」 「…ゆ? や、やあぁぁ…」 れいむは一転顔を真っ青にすると襖にグイグイと体を押し付けて逃げようとする。 だが襖は押しても開くことは無い。もし開き方を知っていてもれいむの力じゃ襖を動かせない。 「ほーら、捕まえちゃうからね」 「ゆっくりぃぃ… こないで、こないでよぉぉ」 れいむは腰が抜けたのかズリズリと這って私から逃げる。 跳ねても遅いゆっくりが這ってはさらに遅い。 簡単に追いつけるけどあえて追いつかない。 ギリギリれいむが逃げれるスピードで追いかける。 「やだあぁぁっ… ゆっぐりざせでよ"ぉぉ」 まだ殴ってもないのにれいむは泣きじゃくっていた。 よっぽど怖いんだろうなぁ。可愛いなぁ。 でもそろそろいいかな。 ヒョイっとれいむの頭を掴んで持ち上げる。 「あ… あ"あ"あ"あ"あ"!!! はなじでね! ゆっぐりじでね"っ!!」 まりさと同じように下半身を振るれいむだがもちろん逃げられない。 這うほどに愛しい床から離れ、めでたく私とご対面だ。 「やあ、れいむ。逃げるなんてひどいじゃないか。 でもこれでやっと一緒に遊べるね」 「ゆ"う"ー! ゆ"う"ー!」 れいむは滝のような涙を流しながら縮こまっていた。 体を強張らせて私に怯えた瞳を向けている。 「そんなに怖がらないでよ。 さっきのは嘘さ。ほらナデナデしてあげるよ」 「ゆ"あ"あ"……ゆ?」 予想外の言葉に泣き止んできょとんとする。 「怖がらなくて、いいんだよ。 一緒にゆっくりしようね」 「ゆゆ…ほ、ほんと?」 「ごめん嘘だ」 バチンッ れいむが体の力を緩めた瞬間、れいむの左頬に平手打ちをかました。 「あ…ゆ? う"う"ぅ"ぅ"ぅ"!!!」 バシンバシンッ 何度も何度も左頬だけにビンタする。 まりさに対しては握り拳の剛の暴力を、れいむに対しては平手打ちの柔の暴力を与える。 「いだい"っ! い"だい"っ! やぶぇでね"っ!! びぃぃぃ!! うぶっ!!」 泣こうが叫ぼうがビンタを続ける。 れいむの左頬が真っ赤になっても止めない。 ビタンビタンッ 「びゅぶぅぅぶっ! ゆぎゅう"っ!!」 バンッバンッ 「ひぐっ、ひぐっ、ゆ"ぶぅぅっ!!」 何度も何度も叩き続ける。 まりさと同じように飽きるまでずっとビンタを続けた。 止めた頃にはホッペは腫れあがり、張りが出て硬くなっていた。 「あびゅ…ゆびゅぶ…」 顔の左右のバランスがおかしくなったれいむは声もまともに出ないようだ。 涙も枯れたのか、ほとんど涙を流さない。 視線を私から逸らしてこの暴力が終わるのを待っているようだった。 「ふぅ…」 そろそろいいだろう。 私も散々殴って腕が疲れたし、十分すっきり出来た。 れいむをまりさの傍に投げ捨てると、私は壁にもたれ掛かって休むことにした。 さて、あの二匹はこの後どうしようかな。 「れ、れーむ…ゆっくりしてってね…」 なんて考えているとまりさはボコボコの体で痛むだろうにれいむへと擦り寄る。 れいむを苛めている間に多少回復したのだろうけど、それでもその動きは弱々しかった。 「ゆぶ、ゆ"、ゆ"っぐい"…」 対するれいむは息も絶え絶えといった感じだ。 だというのにまりさの言葉に返事をするとは大したものだ。 「れ"い"む"ぅ…れ"い"む"ぅ"… ゆっぐりじでよ"ぉ…」 「ゆ"、ゆ"ぐ…ゆっぐ……」 始めて会った時のように身を寄せ合う二匹。 ただ前とは違って安らぎの要素は何一つ無い。 今私が話しかけたらきっと怯えて悲鳴を上げるだけだ。 そんな二匹を家に置いておいても疲れそうだ。 私は立ち上がると二匹に近づく。 「ゆ、ゆ"、ごないで…」 「あ"あ"…あ"ぁ"ぁ…」 また殴られるのかとビクついて逃げようとする二匹をそれぞれ片手で持ち上げる。 イヤイヤと泣き叫ぶ二匹を外へと連れて行く。 足を使って襖を開き、裏口の戸を開け、二匹を裏庭の松の木の傍へ投げ捨てた。 「あ"、ゆ"、あ"…」 「ゆー、ゆぅぅ…」 二匹は木陰で休むことは無く、ズリズリと這って逃げていく。 巣がある方向に進んでいるのだろう。 少しでも早く安らげる場所へ帰ろうとボロボロの体で這ってゆく。 私はそんな二匹を黙って見送った。 二匹は一度も振り返ることは無く、体の痛みに震えながら茂みの向こうへ姿を消した。 それからあの二匹は裏庭に姿を現すことは無かった。 そりゃそうだろう。顔が変形するぐらいに何度も暴力を振るったのだから。 最後はあんな状態だったし、すでに死んでいてもおかしくない。 やっぱり飼えば良かったかなぁ。 適度に可愛がって適度に虐めれば長持ちしたろうに。 思えば思うほど勿体ないことしたなと思う。 裏庭の松の木もどこか寂しげに見えた。 だが二匹が去ってから十日目。 裏庭の松の木、その木陰にゆっくりがいた。れいむとまりさの二匹だ。 私をじっと見つめている。 しかし何でここに? あんなに痛めつけたというのに。 初めは違うれいむとまりさかと思った。 でもれいむの左頬は右のそれより一回り大きく膨れている。 まりさの顔は所々デコボコで、帽子は凹んでる。 どう見てもあの二匹だ。 二匹は私を警戒しながらも私がどういう行動に出るのか様子を見ていた。 もしやたった十日という短い時間で私を許したのか? それでいて仲直りしようとでも思ってるのか? だとしたら…私も同じ気持ちだ。 仲直りしたかった。 「れいむ、まりさ」 「…ゅ」「ゆ」 私は二匹の名を呼ぶと、今日の散歩の昼飯をそっと取り出した。 れいむとまりさの元へは近付かない。 多分二匹はまだ私を恐れてる。なので無暗に近づかない。 「あの時はごめんよ。 痛かったよな。本当に悪かったって思ってるよ」 私はこれでも本気で謝っていた。 二匹とはまた遊びたい。あの素敵な時間を再び過ごしたい。 だから仲直りしたい。 「ほら、仲直りの印に一緒にご飯食べよう。 その後はゆっくりしような」 「ゆゆ…」 「ゆ? ゆー」 二匹は小さな声で鳴き合っていた。 相談しているようだ。 「もうあんな事したりしないよ。 明日も明後日も、十日後もずっと一緒にゆっくりしよう」 「ゆっ」 「ゆゆ」 れいむとまりさは頷き合うとおずおずと私の元へ歩んできた。 まだ十分に跳ねることが出来ないのか、単に慎重なのかゆっくりと這ってくる。 私は笑顔で、餌を差し出す姿勢のまま二匹を待ち続ける。 「ゆっ…」 「ゆー」 近付いてきた二匹にご飯を手渡して食べさせる。 少し遠慮がちに微笑みながらもぐもぐとお握りを食べてくれた。 私はそんな二匹の頭を撫でようと頭上に手を掲げた。 「ゆ!?」 二匹はビクッと震えたが逃げだすことは無かった。 フルフル震えていたが、ナデナデを続けると震えは徐々に収まった。 「ゆっくり! ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしようね!!!」 そのまましばらく撫で続けるとようやく二匹は満面の笑顔を咲かせ、十日振りの挨拶をしてくれた。 「ああ、ゆっくりしていってね」 「ゆー!! おにーさんゆっくり!」 「ゆっくり! ゆっくりできるよ!!」 ピョンピョンと二匹は飛び跳ねた。 仲直り出来たのが嬉しいのか、二匹は少し涙目になっている。 でも跳ねれるぐらいに元気になったようで何よりだ。 これなら少し強めに暴力を振っても大丈夫だろう。 十日とは言わなくとも数日は我慢したのだ。 今日だってゆっくりを探しに散歩へ出ようとしてたぐらいだ。 でもその必要はもう無い。 きっとしばらくは無いはずだ。 「私の家で遊ぼうな。 れいむとまりさが好きな遊びをしてあげるよ。 その後は…その後はもっと楽しいことをしよう」 「ゆっくりあそぼうね!!」 「ゆっくりたのしみ!!」 私は無邪気に喜ぶ二匹を抱えて我が家へ迎え入れる。 れいむとまりさは幸せで安らげる時間と痛くて苦しい時間を交互に過ごすことになるだろう。 虐めて仲直りして、私を許した所でまた虐めて仲直りする。 あれだけ酷いことをしても十日で許してくれたのだ。 この虐めと仲直りのサイクルは長く続くに違いない。 どこまでもお人好しなこの二匹が真に私を拒絶することはあるのだろうか。 もし私を許してくれなくなった時、それはきっと別れの時だ。 「ゆ? おにーさんゆっくりしてるの?」 「ゆゆ、ゆっくり? まりさもゆっくりするよ!」 考え込んで足が止まっていた私に二匹が声をかけてくる。 「ああ、ごめんごめん。何でもないんだ。 それよりも早く遊ぼうね」 「あそぼうね!!」 「れいむたのしみ!!」 本当に楽しみだ。 可愛いれいむに可愛いまりさ。 これからも一緒にゆっくり遊ぼうね。 終 by 赤福 たまには普通の虐待を。
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前 翌日の朝── 「ゆっゆっゆっ、きょうこそれいむにいっしょにすんでもらうんだぜ」 巣穴から出てきたのはゆっくりまりさ。あの三匹のまりさの内の一匹である。 ちなみに三匹は全員れいむに惚れており、誰が先に自分の伴侶にするか競争しているライバルである。 最も、この三匹はまったくれいむから相手にされていないわけではあるが。 「まずははらごしらえなんだぜ、たべものをさがすんだぜ」 このまりさはゆっくりの中では立派とも言える巣をもっているが、食べ物を保存するという計画性はまったく無かった。 その辺りにある物を食べたり、他のゆっくりから食べ物を無理矢理奪うなど、実にその場しのぎな生活をしていた。 今日もいつもと同じように、食べ物が無いか跳ねながら辺りを見回す。 「ゆっ、なんかあまくていいにおいがするんだぜ」 匂いの元を探して跳ね回ると、さほど離れていない場所に、小さな黒い塊が落ちていた。 どうやら先程の甘い匂いは、この塊から発しているらしい。 まりさは一口丸ごと食べてみる。 「うめぇ!! これめっちゃうめぇ!!」 思わず声に出して叫ぶほど美味しい味がまりさを包んだ。こんな物は食べた事が無い。 この美味しい食べ物がもっと欲しい、まりさは他に同じようなものが無いか辺りを見回す。 すると先程と同じように、黒い塊が点々と落ちていた。 まりさはそれを見るや、点々と落ちている黒い塊を食べながら辿っていく。 道しるべのように点々と落ちていたその先には、大きな黒い塊が落ちていた。 「ゆゆーっ!! これはまりささまのものなんだぜ、だれにもわたさないんだぜ!!」 夢中になってその大きな塊を貪るまりさ。その姿は醜かったが、とても幸せそうだった。 だがそのために気づかなかった。考えもしなかった。 この塊が何でできているかという事に。 この塊が何でここに落ちているかという事に。 自分の家から点々と小さな塊が落ちていたという事に。 いつのまにか、誰かに見られていたという事に。 「がつがつがつがつがつがぶぉぶ!!」 食事中に強い衝撃を受け、黒い塊に突っ込むまりさ。 突然の出来事に思わず吐き出してしまい、吐き出した先に突っ込んでしまった事で、自身の顔がべとべとの黒まみれになってしまう。 食事の邪魔をされたどころか言いようの無い屈辱を受けたまりさは今までに無い怒りを覚えた。 「なにをするんだぜ!! まりささまをおこら……せ……」 後ろを振り向いたまりさは唖然とする。 そこには遠ざかるまりさの姿が見えた。 しかしその帽子には見覚えがある。見間違えることなどない。 まりさは今までに無い怒りを即座に忘れ、さらに強い怒りと焦りを覚える。 「ばがあぁぁぁぁ!!!!! まりざざまのぼうじがえぜええええぇぇぇぇぇ!!!!!」 帽子を奪った相手のスピードはそこまで速くはなく、見失う事は無かった。 しかし追いつくことも無く、一定の間隔以上は離されていた。 それでもまりさは必死になって、自分の帽子を取り戻そうとひた走る。 しばらく走っていると、急に相手のスピードが速くなった。 負けじとまりさも追いつこうとするが、離される一方であり、見えなくなってしまった。 それでも帽子を取り返さなければいけない、ゆっくりできなくなるのは嫌だ。 そんな思いから気力を振り絞って懸命に進む。 そしてその苦労は報われ、先程帽子を奪ったまりさに追いついた。 よくみると、その先にはいつも一緒に行動しているゆっくり仲間がいるではないか。 これで帽子を取り返せると思い、まりさは叫ぶ。 「ごのばがあぁぁぁ、まりざざまのぼうじをざっざどがえじでゆっぐりじねえぇぇぇ!!!!!」 その声にゆっくり達は反応する。 「ゆっ、ゆっくりできないゆっくりがいるよ!!」 「ゆっくりできないゆっくりは、ゆっくりしぬといいんだぜ!!」 「まりささまがころしてやるから、ありがたくおもうんだぜ!!」 まりさは一瞬言っている事が理解できなかった。 仲間達の反応は、自分の考えていた反応とまったく違っていた。 「なにいっでるのおぉぉ!!! ぼうじをうばっだゆっぐりでぎないゆっぐりばあいづだよおぉぉぉ!!!」 「なにねぼけたことをいっているんだぜ? まりささまがぼうしをとられるわけがないんだぜ」 「おお、おろかおろか」 「ゆっくりできないゆっくりはやっぱりばかなんだぜ」 「あんなのがいたらゆっくりできないよ!! みんなあいつをやっつけてね!!」 「「「わかったんだぜ!!!」」」 涙ながらに訴えるが、仲間たちは判ってくれなかった。 それどころか、帽子を奪った犯人と一緒に此方に来るではないか。 「ぢがぶっ!! まりざざまがまりざざまなんだぜえぇぇ!! にぜものはあいぶぅぅぅ!!!」 必死に伝えようとするが、仲間達は聞く耳持たず、それどころか体当たりを仕掛けてきた。 このままでは死んでしまう、そう思ったまりさは一旦逃げることにした。 「まりざざまがまりざざまっでなんでわがっでぐれないんだぜえぇぇぇ!!」 「にがさないんだぜ、ゆっくりしぬといいんだぜ」 「まりささまのなをかたるなんて、しけいなんだぜ」 「まりささまがじきじきにころしてやるから、ありがたくおもうんだぜ」 しばらくまりさは逃げていたが、先程まで全力疾走していたのだ、そう体力も持たなかった。 すぐに三匹のまりさに捕まってしまい、体当たりを受ける事になる。 「ゆぎゃっ、ゆべぇっ、やめるんだぜ、まりざざまばぼんもの゛おぉぉぉ!!」 「うるさいんだぜ、そんなうそにはだまされないんだぜ」 「このごにおよんでうそをつくなんて、おうじょうぎわがわるいんだぜ」 「うそつきのゆっくりはさっさとしぬといいんだぜ」 「ゆぎぃっ、ゆぶっ、ゆげっ、ゆぎゃあぁぁぁ!!!」 最早まりさには体力は残されておらず、ただ三匹のまりさたちのサンドバッグとなる運命しかなかった。 しばらく悲鳴を上げていたが、やがてその声も弱まり、遂にはなんの反応も示さなくなった。 動かなくなったまりさだった物をみて、二匹のまりさはゲラゲラと笑い出す。 「すごくゆっくりしてなかったんだぜ、しんでとうぜんなんだぜ」 「せいぜいあのよでゆっくりするんだぜ」 勝手な事を言って馬鹿笑いをしている二匹に対して、もう一匹のまりさは二匹に聞こえないように呟いた。 「そうだね、おまえたちもいっしょだよね」 「ゆっぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」 「な、な、な、なんなんだぜ!?」 突然悲鳴を上げるまりさに驚き、まりさはそちらを見る。 そこには大きく口を開けて叫ぶまりさの姿が見える。 そしてその後ろにもう一匹、枝を咥えているまりさの姿があった。 「いだいいいぃぃぃ!!! どうじでごんなごどずるんだぜえぇぇえぇぇ!!!!!」 「なにしてるんだぜ!? きがくるったんだぜ?」 背中に枝が突き刺さり、悲鳴を上げるまりさ。 突然の狂った行動に戸惑うまりさ。 状況が理解できていないまりさ達の問いに、枝を咥えているまりさは平然と答える。 「れいむにいわれて、ゆっくりできないまりさをころしているんだぜ。 ゆっくりりかいするんだぜ」 思いもよらない答えにますますわけが判らなくなったまりさ達だったが、痛みでそれどころではないまりさは叫ぶ。 「うぞだあああぁぁぁあぁぁ!!! うぞをいうまりざはゆっぐりじねえぇぇぇええぇぇ!!!」 「うそじゃないんだぜ、ゆっくりしね!!」 「そごのまりざあああぁぁぁあぁぁぁ!! まりざざまをだずげろおぉぉぉおおぉぉぉぉ!!!」 「まりさ、れいむがいってたんだぜ、ゆっくりできないこいつをころすんだぜ!!」 目の前で行われている仲間の行動に頭が追いつかないのは傍観しているまりさだった。 だが目の前の光景や先程言われた言葉、自分の立場を考える。 そして一つの結論を出した。 「ゆっくりしね!!」 「ゆっ!?」 まりさが選択したのは、枝を加えているまりさへの攻撃だった。 枝を加えているまりさは思わず枝を離して攻撃を避ける。 (ちっ、やっぱりうまくはいかないね……でもよそうどおりだよ) 避けたまりさは心を落ち着かせると、体当たりしたまりさを見る。 枝が刺さったまりさは助かったと思い、罵倒を始めだした。 「ゆううぅぅ、たすかったんだぜ!! まりささまをこんなめにあわせたあいつをたおすんだぜ!!」 これであの裏切り者を倒せる、そう怪我をしたまりさは思っていた。だが── 「うるさいんだぜ、まりささまにめいれいするなんて、ひゃくねんはやいんだぜ」 「ゆぶぇ!!」 「……ゆ?」 なんとせっかく助けたまりさを先程体当たりしたまりさは攻撃し始めた。 その行動は完全に予想外であり、身構えていたまりさは唖然としている。 「なにをずるんだぜえぇぇぇ、でぎばあっぢなんだぜえぇぇぇ!!!」 「おまえはれいむにとってじゃまなんだぜ、ゆっくりしね!!」 訳が判らない。傍観者となったまりさはそう思っていた。 だが当事者である二匹には通じているようで── 「あれはあいづのうぞなんだぜえぇぇぇ、れいむばまりざざまのごどがいぢばんずぎなんだぜええぇぇ!!」 「れいむがいちばんすきなのはまりささまなんだぜ、おまえらみたいなくずはゆっくりしぬといいんだぜ!!」 (ああ、そういうことか) 傍観していたまりさは理解した。 こいつは自分にとって都合のいいように解釈しているだけなんだ、 おそらくれいむを取り合うライバルをこの機会に排除しようとしているのだろう。 仮にれいむが排除しようとしてた事が嘘でも、他の二匹の事は嘘を言えばいいと思っているのだろう。 単純な事だった。まりさはそう思った。 「れいむをうばおうとするやつはまりささまがゆるさないんだぜ、ゆっくりしね!!」 最早動かなくなったまりさに対して、執拗にまりさは攻撃し続ける。 その隙を見逃すはずも無く、傍観していたまりさは助走をつけた力一杯の体当たりを仕掛けた。 「ゆぶぎゃっ!!」 全力の体当たりはまりさに大きなダメージを与え、白目をむいて気絶してしまった。 こうなってしまうと後は一方的な展だった。 無傷のまりさは瀕死のまりさから枝を抜き取ると、気絶しているまりさに向かって勢い良く突き立てる。 「ゆっぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!」 痛みで目を覚ますまりさ。しかしまりさは容赦はせずに枝を動かし、抜き差し、揺さぶっていく。 「やめろばがっ!! やめっ、やっ、やめでっ!!」 罵倒する体力も気力も尽きたのか、しだいに懇願するようになっていった。 「やめでぐだざいっ!! おねがいじまずっ!!」 まりさにとって偉大な自分が相手に懇願するなど屈辱だった。 だがだからこそこれは効果がある。そう信じていた。 事実、その言葉を発した事によって、枝の動きは止まったのだ。 「やめてって……おねがいしてるの?」 「そうだよ!! だがらまりざをだずげでね!!」 ちょろいもんだ、まりさはそう思っていた。 相手にまったく感謝の気持ちなど存在してなかった。 まりささまがここまで譲歩してやったのだ、助けるのは当然のことだ。 傷が癒えたら復讐してやる。頭の中はそのことで一杯だった。 しかし、帰ってきた言葉はまりさの望みとはまったく異なる物だった。 「そうしたおねがいをしたゆっくりに……おまえはどうこたえたの……?」 「うるざいっ!! さっさとだずげろごのばがあぁぁぁあぁぁ!!!」 上辺だけの誠意だったのが、本来の口調にもどるまりさ。 それを聞いて枝を咥えたまりさは動きを戻す。 「ゆぎゃあああぁぁ!!! やめでえぇぇええぇぇ!!!」 最早枝の動きは二度と止まってくれることは無かった。 やがてまりさは唯の黒い塊と化した。 まりさが後ろを見ると、瀕死だったまりさがわずかに這って動いた後があった。 だが結局は黒い塊と化していた。 「これで……あとはあいつだけだね……」 「ゆっ、れいむをまたせるなんて、やっぱりあいつらはつかえないね!!」 何時まで経っても帰ってこないまりさ達に、れいむは文句を垂れていた。 ゆっくりできないゆっくりくらいすぐに片付けることができないなんて、なんて役立たずなんだ。 別の使えるゆっくりを探そうか、そう思い始めた頃にまりさが一匹帰ってきた。 「ゆっくりかえったんだぜ!!」 「ゆっくりしすぎだよ!! れいむをまたせないでね!!」 ばかなの?しぬの?と続けたかったところをれいむは抑える。機嫌を損ねることは避けたかった。 次に何を命令しようか考えようとして、他の二匹がいない事に気づいた。 「ゆゆっ? ほかのまりさはどうしたの?」 「ほかのまりさはゆっくりできないゆっくりにやられてしまったんだぜ」 「ゆゆっ!!」 れいむは怒った。ただしそれはゆっくりできないゆっくりに対しての怒りではなかった。 三匹対一匹にもかかわらずやられるようなまりさなんて役立たずにも程がある。 いっそ切り捨てれて良かったかもしれないとまで思い始めた。 このまりさだって本当は逃げてきたのではないのか? そう疑い、まりさを値踏みするように見始めてれいむは気づいた。 (ゆゆっ? まりさがとてもゆっくりしているよ?) 今日のまりさは一段と輝いて見えた。 皮もしっかりしていて艶があり、とても良いゆっくりに見えた。 これなら一緒になってもいいかなとれいむは心揺らぐ。 そんなまりさが突然話をし始めた。 「れいむ、まえにぱちゅりーをおそったときのこと、おぼえてるんだぜ?」 「ゆゆ?」 どうしてそんなことを聞くんだろう。れいむは疑問に思ったが、まりさに心揺らぎ始めてたので素直に答えた。 「ゆっ、おぼえてるよ!!」 「どうしてぱちゅりーをおそったのか、しりたいんだぜ」 「ゆ? あのぱちゅりーはゆっくりできなかったんだよ?」 「そのゆっくりできなかったりゆうってのをしりたいんだぜ」 執拗に理由について聞いてくるまりさに、れいむは嫌悪感を覚えた。 なんだこいつは、このまりさはこんな些細な事を気にするような奴じゃなかったはずだ。 苛立ちながらもれいむは答えた。 「れいむのさがしてたまりさをおいかけていたからだよ!!」 「……そのまりさってどんなまりさ……?」 「まりさがたべものをうばったまりさでしょ!! そんなこともおぼえてないの?」 れいむの答えを聞くたびに、まりさのテンションは下がっていく。 それに対してれいむの怒りによるテンションは上がっていった。 れいむはここまで言って、あることを思い出す。 「そうだよ!! まだあのときのまりさをみつけてないの? さっさとみつけてきてね!!」 自分でもすっかり忘れていたことを棚に上げ、自分の願いを忘れたまりさを怒るれいむ。 だがまりさはまったく動く気配はなく、それを見てれいむはさらに激昂する。 「なにをぼーっとしているの!? れいむがみつけてほしいっていっているんだよ!? さっさとさがしてきてね!! それともいっていることがわからないの? ばかなの? しぬの? れいむをゆっくりさせないまりさなんてさっさと──」 れいむの罵倒の嵐は中断させられる事となる。 まったく動かなかったまりさが突然れいむの眼前に迫り── そのままれいむは空を見上げる形となる。 空は照りつけていた太陽が雲によって遮られていた。 「ゆぐっ!! なにをするの!! れいむにてをだしてただですむとおもってるの!?、ぜったいにまりさをゆる……さ……」 起き上がり、相手を罵倒しようとしたれいむはそれ以上言葉を紡ぐ事ができなかった。 目の前の出来事が夢ではないかと疑ってしまうほど、れいむには衝撃的だった。 「どうして……」 目の前のゆっくりは命の次に大事という黒い三角帽を外しており、枝を咥えて此方に向けている。 先程まで黒い三角帽のあった場所には、別の帽子がつけられている。 そのゆっくりの被っている帽子に、れいむは見覚えがあった。 おかしい、だってあの帽子をしたぱちゅりーは── 「どうじでばぢゅりぃがいぎでるのおぉぉぉぉ!?!?!?!?!?!?」 ぱちゅりーと呼ばれたゆっくりは、枝を構えてれいむに狙いを定める。 恐怖と混乱で動けなくなっているれいむの瞳を見て、静かに言い放った。 「──まりさは、わたさない」 「ゆっぎゃああああああああああ!!!!!」 恐怖で思うように避けることが出来ず、右の頬を枝によって切られてしまう。 致命傷には程遠いが、れいむは大きく悲鳴をあげていた。 これまで自分で手を下さず他のゆっくりに任せていたため、自分が傷つく体験がなく、痛みに悶えているようだ。 「いだいいだいいだいいぃぃぃ!!!!!」 涙を流しながら大きくのたうち回ること数秒、れいむは見苦しくも命乞いを始めだした。 「ごめんなざいごめんなざい、まりざはあぎらめまず、にどどでをだじまぜん」 「れいむはなにもじでまぜん。ぜんぶあのまりざだぢがやっだんでず」 「ぼんどうでず、ゆるじでぐだざい、おねがいじまず」 「いやだああぁぁぁぁぁ、じにだぐないいいぃぃぃぃぃ、もっどゆっぐりじだいいいぃぃぃぃ」 べらべらと喋るれいむを見て、今までに無い程の怒りが込み上げてくる。 なんなんだこいつは、自分では何もせず他の者にやらせ、自分の思い通りに行かないと納得しない。 そのくせ都合が悪くなると簡単に手のひらを返して仲間のせいにする。 今まで見た中で最低のゆっくりだ。 こんなクズのせいで── こんなクズのせいで── こんなクズのせいで── 「ゆぎゅぶぇ!!」 咥えていた枝を離し、ぱちゅりーの帽子を被ったゆっくりはれいむの上に圧し掛かる。 れいむは潰れはしなかったが、圧し掛かられた衝撃で餡子を吐き出す。 そんなれいむにお構いなく、圧し掛かったゆっくりはゆっくりとれいむのリボンを咥えて── ぶちぶちぶちっと音がした。 「ぎゃあぁぁああああぁああぁぁあああああぁぁぁあぁ!!!!!」 リボンを咥えて全力でそのまま飛び跳ねた結果、れいむの髪の毛ごとリボンを奪い取る。 あまりの痛さにれいむの方は失神してしまったようで、白目をむいて倒れていた。 それを見たぱちゅりー帽子を被ったゆっくりは、少しれいむを見た後、振り返り移動する。 奪い取ったリボンは黒い三角帽の中に入れ、そのまま運び出す。 もうれいむに関して興味は無くなっていた。 「ゆぎぃ、いだいっいだいいぃぃぃぃ!!!」 目を覚ましてすぐ、れいむは激痛に襲われていた。 周りを見てもぱちゅりーはいなかった。 れいむはいなくなったぱちゅりーにむかって怒りをぶつける。 「ゆっぎいいぃぃぃ!!! ぱちゅりーめ、れいむをこんなめにあわせるなんて、ぜったいにころしてやるうぅぅ!!!」 怒って叫ぶが痛みがぶり返してきてしばらく黙る。 落ち着いたところで誰かに助けてもらおうと少しずつ動き出す。 そこに都合よく、れいむとまりさの二匹が通りかかった。 「ゆっ、そこのれいむとまりさ!! れいむをたすけてね!!」 その声に反応するれいむとまりさ。これで助かったとれいむは思った。 だが相手の様子がおかしい。見ればこっちを見る目が険しくなっているではないか。 「ゆっ!! ゆっくりできないゆっくりだよ!!」 「れいむのなまえをかたるなんてわるいゆっくりだね、ゆっくりしね!!」 助けてくれると思っていた二匹が、敵意を向けてこちらに来る。 れいむは事情を理解してもらおうと必死になって叫び始めた。 「ゆううううぅぅぅぅ、なにをずるのおぉぉぉ!! れいむばれいむだよぉぉぉぉ!!」 「ゆっ、そんなうそにはだまされないよ、れいむにはりっぱなりぼんがあるんだよ!!」 「うそつきのゆっくりはゆっくりしね!!」 「ぢがううぅぅぅ!! うぞじゃないいいぃぃぃ!!」 二匹に攻撃され、動く体力も残っていないれいむができることは、ただ殺されるのを待つのみだった。 死にたくない、もっとゆっくりしたい、誰でも良い、あのゆっくりできないゆっくりでもいい、助けてくれ。 そう思うが、そのゆっくりの顔を思い出すことは出来ない。何も思い出すことが出来ない。何も── そうしてれいむは永遠に暗闇の中へゆっくりする事になった。 新たな住処となるはずだった穴の中、まりさは佇んでいた。 全てが終わったはずなのに、全然心が晴れない。 むしろ心に空白が出来た感じもする。 復讐に燃えていた頃は、こんな気持ちにならなかったのに。 いや、空白にはなったことがある。目の前で大切な者が死んで、全てが壊れたと思った時だ。 嫌な思い出なのに、今でも鮮明に覚えている。 笑い声の聞こえなくなった広場で、まりさは傷ついた体を引き摺って進んでいた。 その目はただ虚ろに動かなくなった黒い物体と最愛の者を映していた。 幸いにもまりさは体が痛むだけで、命の素である餡子は流出していない。 この雨で死ぬことはなさそうだが、帽子もないため、危険なことには変わりはなかった。 「ぱちゅりー……」 目の前で大切なものが壊れてしまった。 絶望した子まりさにはただ呟くことしか出来なかった。 その時である。 「まりさ……?」 「ぱっぱちゅりー!? まりさだよ、しっかりしてえぇぇぇ!!!」 「まりさ……だいじょうぶそうだね……よかった……」 動くことはないと思っていた子ぱちゅりーが反応した。 慌てて子まりさは子ぱちゅりーの餡子の流出を抑えようとするが、止まる気配はまったくなかった。 それどころか雨により状況は悪化していく一方だった。 「まりさ……ぱちゅりーはもうだめよ……」 「どうじでぞんなごどいうのぉ!? いっじょになろうっでやぐぞぐじだでじょおぉ!?」 「ごめんねまりさ……ぱちゅりーはやくそくまもれないよ……」 「ばぢゅりーっ!! うごいだらだめっ!! ゆっぐりでぎないよ!!」 もはや子ぱちゅりーは手遅れの状態である。そんなことは誰の目に見ても明らかであった。 しかし子まりさは判っていても認めたくないのか、必死に餡子の流出を抑えようと努力していた。 そんなまりさに、ぱちゅりーは声をかける。 「もういいよ、まりさ……ありがとう」 「だめだよ!! じんじゃっだらゆっぐりでぎないよ!!」 「……まりさ、おねがいがあるの……」 「なんでもぎぐよ、だがらじなないでばちゅりいぃぃぃぃ!!!」 もうぱちゅりーは死んでしまうことは理解していた。最後くらい望みを叶えてやりたい。 子まりさはどんな願いでも聞き届けるつもりだった。 「まりさに……このぼうし、もらってほしいの……」 「ゆっ!?」 「もうぱちゅりーはだめだよ……まりさがもらってくれればゆっくりできるよ……」 「で、でも……」 「ぱちゅりーがしんじゃうまえに……はやく……」 「──わかったよ、ぱちゅりー……」 死んだゆっくりの飾りをつけると、ゆっくりの間では死臭を感知すると同属殺しとみなされ、問答無用で殺されてしまう。 しかし、生きているゆっくりの飾りをつけた場合は、殺される心配はない。 子ぱちゅりーが急かす理由はそこにあった。 自分の飾りをつければゆっくりできないゆっくりとして認識されることはない。 もう死んでいく自分には必要の無いものだ。 帽子を無くした子まりさのためにできる恩返しとして思いついたのが、帽子の譲渡であった。 そんな子ぱちゅりーの意思を汲み、子まりさはぱちゅりーの帽子を受け取った。 「ありがとうまりさ……ぱちゅりーのかわりだとおもってね……」 「ぱちゅりー……」 子ぱちゅりーは微笑んでいた。だがその微笑みは苦しそうであり辛そうであり── 子まりさはそんなぱちゅりーをただじっと見ることしか出来なかった。 そして、最期の時が訪れる。 「……まりさ…………ずっと……ゆっくり……して……いっ……て…………ね…………」 その表情は、とても安らかだった。 「ぜんぜんゆっくりできてないよ……ぱちゅりー……」 まりさは自然と呟いていた。 どうしてぱちゅりーは最期に、ゆっくりしていってねと言ったのか。 いや、それ以前から、まりさのことを確認してからずっとまりさの事を気遣っていた。 この帽子だって、帽子を無くしたまりさが、自分の帽子が無くてもゆっくりできるようにと考えてくれたのだろう。 ぱちゅりーは、優しすぎた。まりさはそう思う。 そんなぱちゅりーだからこそ、それを奪った奴らがどうしようもなく憎かった。 どうしても罰を受けさせたかった。苦しめてやりたかった。殺してやりたかった。 きっとぱちゅりーはそんなことを望んでいないのだろう。だからこそまりさはそれが許せなくて── 晴れた空であるにも関わらず、雨が降っていた。 しばらくして雨が止んだところで、まりさは決意する。 ──行こう。 ぱちゅりーはまりさにゆっくりして欲しいことを願った。 まりさはそれに答えるべきだと考えた。 ただし、この辺りでゆっくりするにはあまりにも辛い思い出が多すぎる。 どこか自分の知らない土地に行こう。そう思って歩きだすと── 「ゆ、ぱちゅりーだね、おひさしぶり!!」 「ゆっ!?」 まりさに声をかけるゆっくりが現れた。 そのゆっくりをまりさは知っていた。見間違えるはずなかった。 自分をここまで育ててくれて、あの日巣立ちの別れをしたまりさ唯一の家族。 まりさの生みの親である母まりさだった。 「まりさはげんきかな? ぱちゅりーにめいわくかけてない?」 「ゆっ……まりさはげんきだよっ!! すごくたすかってるよ!!」 どうやら生みの親も自分が本当の子供だとは気づかないらしい。 要らぬ心配をかけるまでもないと思い、適当に合わせる。 「そう、よかったよ……ゆっ? ぱちゅりー?」 「ゆゆっ!?」 気づかれたか!? まりさは内心焦ってしまう。 だが親まりさはまりさにとって思いもしない言葉を話す。 「ぱちゅりー……なんだかまりさのぱちゅりーおかあさんににているね……」 「っ……」 「ぱちゅりーをみてると……なつかしいふんいきがするよ……」 「……」 「おもいだすよ……いろいろと……」 「……」 「ゆっ、ごめんね!! へんなはなししちゃったね!!」 「ゆっ、そ、そんなことないよ!!」 思い出に浸っていた親まりさだったが、目の前のぱちゅりーに気づき慌てて謝罪する。 言われた本人は少しの間呆然としており、親まりさに言われてこちらも慌てて否定する。 何とも言えない雰囲気になり、両者とも退場しようとする。 だが親まりさの方がまりさに声をかける。 「まって、ぱちゅりー!!」 「ゆっ!?」 まりさはなんだろうと思い、振り返る。 親まりさは此方を振り返ったのを確認して話す。 「まりさのこと、よろしくおねがいするね!! あのこのことだから、つらいことがあったらひとりでせおいこむとおもうんだ。 だから、できればむりをしていないか、きづかってあげてくれるとうれしいな。 わがままなおねがいでごめんね!!」 話すのを終えた後、此方を見ていたぱちゅりーは背を向けた。 どうしたんだろう? 親まりさがそう思っていると、返事が返ってくる。 「ゆっぐりりがいじだよ!!」 そう言って、去っていってしまった。 親まりさは不思議に思うが、その後ろ姿を見送り続けた。 そしてその姿が見えなくなりそうになったところで、親まりさは見た。 「ゆ~っ、とってもきれいだよ~!!」 まりさの進む方向に、きらきらと輝く虹が架かっていた。 あとがき 題名が思いつきませんでした。 ただ単に帽子の違うゆっくりが書きたいなとおもった結果がこれだよ!! このSSに感想を付ける
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突撃!隣のゆっくりご飯! 15KB 虐待-いじめ ギャグ パロディ 悲劇 理不尽 越冬 群れ 自然界 現代 独自設定 小ネタです 『突撃!隣のゆっくりご飯!』 カマキリあき 季節は冬。人里から少しだけ離れた山の中。 辺りはすっかり雪に覆われ、動く影など見当たらない。 見渡す限りどこまでも広がる純白の絨毯の下。 雪に埋まったほら穴の中で、それらはゆっくりと過ごしていた。 「ゆー…きょうもさむいね。おとうさん!おかあさん!す~りす~りしようよ…!」 「ゆ!またす~りす~りするの?…ゆふふ、まったくしょうがないおちびちゃんね。さあ、おかあさんたちのそばにきてね…!」 「ゆわーい!す~りす~り、す~りす~り…!ゆふふふっ、おとうさんとおかあさんはとってもあったかいね…!」 「ゆゆっ!おねえちゃんだけずるいよ!まりさもす~りす~りするよ!」 「ゆー、そんなにあわてなくてもおかあさんはどこにもいかないわよ。さあさあ、みんなでいっしょにゆっくりしようね!」 「ゆふふ…!まりさのおちびちゃんはおおきくなってもあまえんぼうさんなのぜ」 「おねえちゃんもおいでよ!いっしょにす~りす~りしてあったまろうよ!」 「ゆっ。もうちょっとしたらいくよ!ゆっくりまっててね!」 お父さんまりさとお母さんありすに一生懸命甘えてすりすりしている仔まりさ達。 離れた所で何かをごそごそと取り出して整理している仔ありすが1匹。 仔といっても、春に生まれ生き残ったこの3匹は既にかなり成長しており、親ゆっくりの半分ほどの背丈になっている。 冬篭りを終えた暁には、恐らく親元を離れ独立する頃合だろう。 巣立つ…と言っても、それなりの規模の群れに所属している彼等には、新しいゆっくりプレイスを探す為の旅に出る必要は無い。 大きな群れに所属している野生ゆっくりが離れて遠くへ旅に出るのは、群れの数が溢れて周囲の餌や住処の確保が困難になった場合のみだ。 ゆっくりの大集団が生活出来る程のゆっくりプレイスをわざわざ離れて、苦労と危険に満ちた旅をする意味など少ないからだ。 時々、自信に満ち溢れた若いゆっくりが未知なる可能性を信じて未開のゆっくりプレイス探しの冒険に旅立つ事がある事はあるのだが…。 この家族のいう親立ちは、せいぜいつがいを探した後、群れのテリトリー内に適当な場所を探し、巣作りをして新しい家庭を持つだけの話だろう。 だが、それでも、大好きな親と一緒に過ごす幸せな時間はこの冬篭りの間だけ…。 仔ゆっくり達は別れをことさら名残惜しみ、ここ最近は理由を見つけてはすりすりしたりぺろぺろしたりする回数が増えた。 甘えん坊の姉妹まりさ達は特にひどく、今日も朝からずっとこの調子だった。 仔ありすも勿論大好きな家族との別れは辛かったが、それと同じ位に春が来るのを待ち望んでいた。 近くの巣にいる仔まりさとは親公認の仲で既に婚約しており、巣立ちと共に一緒に生活している事を約束していたからだ。 冬篭りする前に、巣にする場所も既に見つけている。 春になったら早速2匹一緒に頑張って都会派なおうちを作るのだ。 将来生まれる赤ちゃんの事も考えて、少し広めに掘ろう。 ありすが素敵なコーディネートをして家族全員ゆっくり出来る空間にするのだ。 それから2匹で頑張って狩りをしておいしいごはんさんを沢山集めよう。 子供がいても大丈夫な位、いっぱいご飯を集める事が出来たら、今年中に可愛い赤ちゃんを産む事も出来るかもしれない。 大好きなまりさの為に、ありすのばーじんは大事に取っている。 実は秋に、皆には内緒でふぁーすとちゅっちゅだけした。 まりさの唇と唇が触れ合った瞬間、しあわせーが衝撃となってありすのカスタードを駆け巡った。あの感覚は今でも忘れられない。 好きなゆっくり同士で初めて結ばれる時は、ふぁーすとちゅっちゅとは比べ物にならない位に、とてもとてもゆっくりした幸せな気持ちで満たされるらしい。 あのちゅっちゅより凄いなんて…ありすは一体どうなってしまうのだろう…。 仔ありすはもうすぐ訪れる甘い季節に胸をときめかせていた。 「ゆー?おちびちゃんどうしたの?」 いつまで経っても来ない仔ありすの様子を窺いに、お母さんありすがやって来た。 ありすが整理していたのは、嫁入り道具にと、今まで貯めていたとかいはな宝物の数々。 頑張って作った押し花に、せみの抜け殻、甲虫の羽根。 そして、とても軽くて綺麗なたからものが1つ。 「とってもきれいないしさんね!それってたしか…」 「ゆん!まりさがありすにぷろぽーずするときにくれたたからものよ!」 「ゆーん!とってもとかいはなおくりものね!」 「まりさみたいなびゆっくりといっしょになれるなんて…ありすはしあわせだわ!」 「おかあさんも、あのまりさならあんっしんっね!でも、たまにはおかあさんたちのところへあそびにもどってきてね…!」 「ゆっ…おかあさん…」 「ゆふふふ!さっきからきいてたら、おかあさんもおちびちゃんもきがはやいのぜ。まだまだふゆさんはながいのぜ?」 「そうだよ、おねーちゃん!はやくこっちにきてまりさたちとゆっくりしようね!」 「ゆーゆー!それにそろそろおなかすいてきたよ!みんなでごはんさんむ~しゃむ~しゃしようよ!」 「ゆっ。おとうさんもすいてきたのぜ!みんな、ちょぞうこからごはんさんもってくるのぜ!」 「「ゆわーい!」」 父まりさの言葉に従い、貯蔵庫に向かう。…といっても、単に部屋の端の事だが。 冬篭もりの前に家族総出で集めるだけ集めた餌が葉っぱの上に小山のように積まれている。 「ゆ。きょうはまりさ、いもむしさんにするよ!」 「おとうさんはこのきのこさんにするのぜ!」 「ゆ~ん…このおはなさんもすてがたいね…」 「ありすたちはこのきのみさんにしましょうね!」 「とってもとかいはなおしょくじね!」 皆、思い思いの食べ物を取ると、部屋の真ん中のテーブルに持ち戻る。 「よーし、じゃあみんなでむ~しゃむ~しゃするのぜ!」 「「「ゆわ~い!!!」」」 そして、ゆっくりとご飯を食べようとしたその時。 「突撃いいいいいぃっっ!!!!!!!!!!!!」 ゴシャアア!!! 突然鳴り響いた大声と共におうちを塞いでいた結界さんが吹き飛ぶ。 「隣のぉ!!!!ゆっくりご飯んんんんーーーーー!!!!!!!!」 ズガッ!!!ガシャアッ!!! 結界はおろか、入り口周辺の土を手に持った巨大しゃもじを使い、次々と掘り崩す人間さん。 どうやらこの人間さんが入れるように、穴を広げるつもりらしい。 「「「ゆんやああああああーーーー!!!!!????」」」 「なんなの!?なんなのーー!!!?いったいなんなのおお!!?」 「ゆうううう!!?さぶいいい!!!」 「ゆがあーー!!??やべるのぜーー!!まりさたちがつくったおうちをこわすんじゃないのぜーー!!」 「やめてね!!けっかいさんをこわさないでね!!ゆっくりできなくなるからやめてね!!」 「ゆわああああん!!!ありすたちのゆっくりしたおうちがああああ!!!!」 ようやく大人一人が通れる程度に入り口を拡張した後、しゃもじを持った人間さんがのっそりと入ってくる。 その後ろに続いて、防寒服を来た見慣れないゆっくりが数匹入ってきた。 内、1匹はビデオカメラを持ってパニックになっている家族や部屋の内部を撮影している。 「いやーどうもどうも!冬篭り中の皆さん!来ちゃったのよお~!」 「なにがきたのおおおおおお!!!!???」 「ぐるなああ!!!がえれええええええ!!!!」 「隣のゆっくりご飯!ご存知コメスケです!もうお食事終わっちゃったの?おや、まだみたい。嬉しいねえ~!」 「ばでぃざはぜんぜんうれじぐないいいいい!!!!」 「みなさん、今日は冬篭り中の群れにお邪魔しています! 冬篭りといえば越冬用の食料を貯めているので、これは楽しみですよ~!」 「ぜんぜんたのしくないよおおお!!!」 「ゆええええん!!お、おかあさん…まりさこわい!!!」 「ちょっと奥さん、貯蔵庫ない?貯蔵庫! あらま!見てください、小高く詰まれたゆっくり達のご馳走! 山菜に虫に木の実に草に…これは栗かな? ゆっくりだけにゆっ栗!なんつってね!」 「だまれ!!じね!!」 「さわるなあ!!ばりざだちがくろうしてあつめたごはんさんにざわるなああ!!!」 「ゆうう!!ありすたちのきちょうなごはんさんなのよ!ゆっくりやめてね!!」 慌てて駆け寄ってきたお父さんまりさとお母さんありすを、まあまあまあとなだめながら、動けないようにがっちりと掴むコメスケ。 いかに強い両親でも人間の力で抑え付けられては微動だにできない。 歯を食い縛り、必死に力を込めて抵抗しているのに、コメスケは相変わらずニコニコとしている。まるで相手になってない。 あんなに大きくて強いお母さんやお父さんが全く歯が立たないなんて…!! 聞いた事はあっても、人間さんを見たのはこれが初めてだった姉妹。 仔ありすは姉妹まりさと一緒に部屋の隅へ避難し、ガタガタと震えている事しか出来なかった。 「それじゃ、僕はゆっくりのご飯なんて食べれないので、いつものように代役のゆっくり君!」 「「「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!!」」」 防寒服を付けた3匹のゆっくりが、ぴょんぴょん飛び跳ねながら餌の山へ群がると睨み付けるまりさ一家を尻目に貪り始める。 「「「む~しゃむ~しゃ!」」」 「ゆゆっ!それなり~!」 「ゆー。ありすはぐるめだね!まりさはまあまあおいしいよ!」 「れいむもありすとおなじで、いまいちかな!でも、おしごとだからがまんしてたべてあげようね!」 「ゆがあああああ!!!!やべろおおお!!!ぞれはばりざだちがおちびぢゃんたちとたべるためにひっしにあづめたんだああああーーーーー!!!!!!!!!!!」 父まりさの悲痛な叫びもむなしく、次々と平らげられる貴重な餌の山。 姉まりさの大好きないもむしさんが。 妹まりさの大好きな山菜さんが。 お母さんありすの大好きなどんぐりさんが。 お父さんまりさの大好きなきのこさんが。 ありすが最後まで取っておいた大好物の柿さんが。 大事に大事に少しずつ食べていた貴重な餌が、よりにもよって美味しい物からどんどんと見ず知らずの侵入者に食い荒らされていく。 「あっあっあっあああああああああっ…!!!!」 「やめてえーーーっ!!もうやめてえええ!!!!」 「おねがいします!もうやめてくださいい!!」 「それがないとふゆさんがこせないんだよ!!??まりさたちしんじゃうよお!!!」 「も~ぐも~ぐ!!れいむはしなないからだいじょうぶだよ!!しんぱいしないでね!!」 「こんなのとかいはじゃないわああああ!!!!!」 「む~しゃむ~しゃ!!しんにとかいはなありすにむかってしつれいしちゃうわね!」 「いやあ~!山の恵みをこんなに沢山申し訳ない!!色々とすみませんね~!!」 「ほんとうにすまなすぎるでしょおおおお!!!!???」 「ゆー。それにしても…なんだか、このおへや、さむくなってきたね!」 「それもそうね。なにかもやせるものがないかしら」 「ゆっ!れいむ、らいたーさんをもってるよ!このごみごはんさんをもやしてあったまろうね!」 「ゆゆーん!れいむ、ないすあいであだよー!」 「ゆゆっ!?こんなところにがらくたがあるわ!」 「よーし!それももやしちゃおうね!ごちそうになったおれいに、きみたちのごみそうじをてつだってあげるね!」 ありす達の大事なたからものや、餌の中からあまり美味しくないけど食べられる筈の物等、燃えそうな物を集めだす3匹。 「????」 ライターの存在を知らないまりさ達は何が起こるのか、全く理解できていない。 「それじゃ、てんかするよー!」 れいむは取り出したチャッカマンをおさげを使って器用にスイッチを押して火をつけた。 乾燥していた食材にあっさりと火が灯る。まるでキャンプファイヤーのよう。 「ゆわー。あったかいねー!」 「ゆふふ。きれいね。とってもとかいはね!」 「まずいたべものさんも、むだにしたらばちがあたるからね!」 「そうだね!あいかわらずいいこというね!じゃあどんどんもやしていこうね!」 「「「ゆい、ゆい、おー!」」」 3匹は残った餌や、たからもの等を次々と運んで燃やし始めた。 「あったかいね~!まるでこの部屋だけ春になったようで極楽だね!いやあ、こんな真冬にキャンプファイヤーなんてオツだねほんと!」 「ふざげるなあ!ふざげるなあああああ!!!!!」 「ゆわああああ!!!!まりさのたからものが!!!」 「「ゆぐぐぐうううううう…!!!!もういいかげんにしてえええ!!!!」 このままでは春を待たず一家全滅だ。 もう、怖がってなんかいられない。 3匹の凶行を止める為、3姉妹は飛び出した。 「ゆっ…?れいむたちのおしごとのじゃまをしないでね!」 「あぶないよ!さぎょうのじゃまだからおうちのひとはだまってみてていいからね!」 頭数が同じとはいえ、倍以上の大きさを誇る相手に敵うはずも無く、簡単に弾き飛ばされる姉妹。 振り絞った勇気など何の意味も無かった。 ただただ無駄な体力を使って痛い思いをしただけだ。 何事も無かったかのように鼻歌をうたいながら作業を再開する3匹。 そして…れいむがそれを取り出したのを見て、ありすは泣き叫んだ。 「やめてええええ!!!??それはまりさにもらったたからものなのおお!!!!」 「ゆうっ!!??や、やめてあげてね!!!それはおちびちゃんがこんやくのしるしにもらっただいじないしさんなのよ!!」 「おねがいしますうう!!!あいするまりさからもらっただいじなだいじなおもいでのいしさんなのおおお!!」 「ゆゆ?このきたないぺっとぼとるのふたがどうしたの?」 「ゆー、やれやれ。こんなごみをたからものなんて…。そんなまちのらみたいなこといっちゃだめだよ…!」 れいむ達は泣いて懇願する仔ありす達を鼻で笑い、火の山へ投げ込んだ。 真っ赤な炎の中、まりさから貰った大事なボトルキャップはぐにゃりと溶け曲がり、その姿を変えていった。 「いやあああああああああああ!!!!!」 無力感に苛まれ、涙を流す仔ありす達の前では相変わらずどんどん燃やされていく。 そしてとうとう、巣にあった燃やせる物は全て火の中にくべられてしまった。 「ゆあああああああぁぁぁぁ………」 既に両親は解放されていたが、何も出来ずただ見守る事しかできない。 パチパチと音を立てて燃えさかる炎の中へ突っ込み回収するなど出来るはずも無い。 燃えていく。全てが燃えていく。 今は亡き姉妹と一緒に集めたたからものも。 姉妹まりさと一緒に作った花飾りも。 お母さんと一緒にコーディネートした家具も。 そしてお父さんと一緒に苦労して集めた、冬を越す為に必要な餌も。 先程まで家族で囲んだ大きな枝さんのテーブルも。 今朝まで家族を包み込んでいたふかふかの雑草のベッドも。 全てがメラメラと燃やされていく…。 もはやありす達一家は叫ぶ気力すら無くなり、燃え盛る炎を黙って見つめていた。 ポカンと放心してる家族を残し、人間達はあっさりと立ち去った。 現れた時と変わらぬニコニコとした笑みを浮かべながら、去り際に何やら礼らしき事を言ってたがまるで耳に入らない。 暫くして完全に火が燃え尽きた後、突然、父まりさが奇声をあげ泣き始めた。 「あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 大粒の涙がぼろぼろとこぼれる。 最初から最後まで、結局何も出来なかった。 家族の前で全てが奪われていく間、何ひとつ。 巣の中には何も残されていなかった。 大切な餌も、家具も、思い出の品々も。 そして訪れる筈だった幸せな未来さえも。 お父さんまりさの泣く姿につられお母さんありすも姉妹まりさも、そして仔ありすも家族全員泣き始めた。 ぽっかりと大きく崩された穴からは雪の混じった冷たい風が容赦なく一家に吹き付けていた…。 (終わらない) 「ゆー…きょうもさむいね。おとうさん!おかあさん!す~りす~りしようよ…!」 「ゆ!またす~りす~りするの?…ゆふふ、まったくしょうがないおちびちゃんだね。さあ、おかあさんたちのそばにきてね…!」 「ゆわーい!す~りす~り、す~りす~り…!ゆふふふっ、おとうさんとおかあさんはとってもあったかいね…!」 「ゆゆっ!おねえちゃんだけずるいよ!れいむもす~りす~りするよ!」 「ゆー、そんなにあわてなくてもおかあさんはどこにもいかないよ。さあさあ、みんなでいっしょにゆっくりしようね!」 「ゆふふふ…!まりさのおちびちゃんたちはおおきくなってもあまえんぼうさんだね!」 「おねえちゃんもおいでよ!いっしょにす~りす~りしてあったまろうよ!」 「ゆっ。もうちょっとしたらいくよ!ゆっくりまっててね!」 お父さんまりさとお母さんれいむに一生懸命甘えてすりすりしている仔まりさと仔れいむ。 離れた所で何かをごそごそと取り出して整理している仔まりさが1匹。 冬篭りする直前、群れのみんなと狩りに行った時に見つけたたからものだ。 春になったら婚約者のありすに、この素敵な宝物をプレゼントしよう。 近くの巣にいる仔ありすとは親公認の仲で既に婚約しており、巣立ちと共に一緒に生活している事を約束している。 仔まりさは大好きな家族との別れは辛かったが、それと同じ位に春が来るのを待ち望んでいた。 冬篭りする前に、巣にする場所も既に見つけている。 春になったら早速2匹一緒に頑張っておうちを作るのだ。 将来生まれる赤ちゃんの事も考えて、少し広めに掘ろう。 それから2匹で頑張って狩りをしておいしいごはんさんを沢山集めよう。 子供がいても大丈夫な位、いっぱいご飯を集める事が出来たら、今年中に可愛い赤ちゃんを産ませる事が出来るかもしれない。 仔まりさはもうすぐ訪れる甘い季節に胸を膨らませていた。 「おねえちゃん、いいかげんこっちきてよ。れいむのおうたをいっしょにきこうよ!」 「ゆっくりりかいしたよ!いまいくね!」 「ゆーゆゆ~、ゆっくりしてるね~♪ゆんゆ、ゆーん♪」 「いもうとれいむはおうたがとってもおじょうずになったね!」 「ゆゆ~ん!もうどこへおよめにだしてもはずかしくないね!」 「ゆふふっ!れいむもまりさおねえちゃんみたいにすてきなゆっくりとけっこんっしたいな~!」 「ゆ~ん、そうだね!あんなきれいなありすならおちびちゃんとのあかちゃんもきっとかわいいね!おとうさんもいまからたのしみだよ!」 「ゆゆっ…!?や、やめてよ、なんだかはずかしいよー…!」 「ゆーゆっゆ!おちびちゃんてれることないのに!」 「ゆふふ。たまにはおかあさんたちのところへあそびにもどってきてね…!」 「ゆゆ!?それはそうとまりさ、そろそろおなかすいてきたよ!みんなでごはんさんむ~しゃむ~しゃしようよ!」 「そういえばそうだね!みんな、ちょぞうこからごはんさんもってこようね!」 「よーし、それじゃあみんなでむ~しゃむ~しゃしようね!」 「「「ゆわ~い!!!」」」 そして、ゆっくりとご飯を食べようとしたその時…。 (ひとまず終わり) あとがき 今回から名前付ける事にしました。 なんか保管庫でカマあき(仮)ってなってたんで、カマキリあきでいいやと。 本来食料だけ奪うつもりがいつの間にかこんな話に。 今まで書いたの ふたば系ゆっくりいじめ 533 カマキリさんの卵でゆっくりするよ!! ふたば系ゆっくりいじめ 540 浮浪者とゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 541 静かにゆっくりするよ!! ふたば系ゆっくりいじめ 581 静かにゆっくりできないよ!!(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 586 静かにゆっくりできないよ!!(後編) ふたば系ゆっくりいじめ 588 ピュアな心でゆっくりするよ!! ふたば系ゆっくりいじめ 609 ゆーピー3分クッキング トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る センスのカケラもなし。クソSSだわー -- 2017-02-25 09 57 11 ごめん さすがにないわ 初めてゆっくりがかわいそうだと思った こいつら善良だし センスないよ 君 -- 2015-10-20 14 37 59 アシスタントの3匹に腹立つなんて愚かなks人間だこと -- 2014-02-24 00 56 47 いい理不尽さだ、これは良作 -- 2013-12-17 02 53 11 すごい理不尽だったな。 とにかくアシスタントの三匹にひたすらに腹が立った。 -- 2012-01-29 13 47 53 ↓それはゆっくりできる良い妄想だ。 -- 2012-01-29 00 07 53 アシスタントの3匹にムカついてゆっくりできなかったが 「毎年代替わりしててその時には古い奴らは透明な箱に 入れられて新人が美味しいご飯を食べているのを 見せ付けられながら餓死させられている」 って妄想をしたらとてもゆっくりできた -- 2012-01-27 23 27 32 くそコメワロタ -- 2011-10-27 16 43 48 くそこめんとはゆっくりできないよ!ゆっくりやめてあげてね! -- 2011-10-27 06 56 37 みんな一体誰と戦っているんだw -- 2011-10-02 16 14 32 ゆっくり狩をしないといけない背景とか 虐待鬼意三が虐待しに来た理由とか どう見てもただの遊びだろw 駆除とかの狩りならこんな非効率な事するわけない -- 2011-07-07 20 44 16 もうちょいご飯関係に集中して欲しかったな -- 2011-07-05 22 18 47 見ろ!人がゆっくりのようだ! -- 2011-01-17 00 08 57 SSより糞コメントの方が面白かった -- 2010-12-31 01 56 52 面白かったのに糞コメントどものせいで興醒めした -- 2010-11-20 11 29 47 ほんとうにすまなすぎるでしょおおおお!!!!??? で、超吹いた -- 2010-10-24 18 08 07 このSS最高!!!あと、昔の隣の晩御飯は、ヨネスケが勝手に冷蔵庫を開けて冷蔵庫の残り物を食べたり、ご飯を催促する番組だったよ。 -- 2010-09-09 01 01 31 ↓その発言は詩に対して具体性に欠けるといってるのと同じくらい的外れ -- 2010-09-08 23 07 49 「突撃いいいいいぃっっ!!!!!!!!!!!!」 「隣のぉ!!!!ゆっくりご飯んんんんーーーーー!!!!!!!!」 このセリフが無ければ元ネタわから程パロ部分が少ない ゆっくり狩をしないといけない背景 とか 虐待鬼意三が虐待しに来た理由 とか SS面白くする背景要素を「パロだから」で省いてどうすんだ -- 2010-08-27 06 13 58 最高にワロタw この作品は面白すぎる -- 2010-08-23 23 27 15
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『ふたば系ゆっくりいじめ 581 静かにゆっくりできないよ!!(前編)』の続きです 独自設定と世界観にご留意ください 『静かにゆっくりできないよ!!(後編)』 一大ブームを巻き起こした無声ゆっくりであったが、人の心は移ろいやすいもの。 元々需要があった事はあったのだが、それは少数に限った話である。 本当に必要だった層を除き、人々の関心は薄れていった・・・。 「はあ・・・。お前達、もういいや。やっぱ俺、普通の行儀がいいゆっくりを飼いなおすよ」 「・・・!・・・!!」 「・・・っ!?・・・!?」 大慌てで抗議する親ゆっくり達だが聞こえる訳もなく、飼い主は振り向きもせずその場を立ち去っていく。 無言で蠢く両親とは対照的に仔ゆっくり達は大騒ぎを始める。 「ちょっとまつんだじぇ!!なにわけわかんないこといってんだじぇ!?」 「ふざけたこといってるとせいっさいするよ、このじじい!!」 「かわいいれいみゅのところにとっとともどってきてね!いまならしゅーくりーむでゆるしてあげるにぇ!」 無声ゆっくりから生まれる子供は両親とは違い中枢餡に対する人為的な調整はされていない。 両親の特徴である無声は遺伝されず通常のゆっくりと変わらないのだ。 ぴょんぴょんと後を追うが、所詮ゆっくり。人間の足に追いつく訳もない。 次第と視界から遠ざかっていく人間の背に、揃ってゲス特有の飼いゆっくりらしからぬ罵声を吐きかける。 普通、飼いゆっくりは人間に暴言を吐いた時点で躾を受けて教育されていくものだ。 そして、その教育を受けた親ゆっくりを見て子供は自然と教育されていく。 言葉が通じないのをいい事に今まで生活してきた中で矯正されず横柄になっていた親ゆっくり達。 自然とその姿を見て育つ子供も横柄になる傾向が強かったし、そうなると人間が躾をしても並大抵の努力では矯正できない。 いくら飼い主が躾けようとしても、実の親がゲスな限り、親を信頼している仔が態度を改める事は少ないからだ。 結果、この一家は全員揃って仲良くゲスになってしまっていた。 全ての無声ゆっくり一家がそうとは言わないが、大量に出回っていた安価な無声ゆっくりは大体上記のケースが多い。 餡統がかなり良いか、最初からきちんと教育を受けた金バッジ級のゆっくりならば上記の様な悲劇は少なかったが、甘やかされて育った普通ランクの飼いゆっくりなどそんなものだろう。 結局、流行に乗って飼っただけの人に残されたのはゲスなゆっくり家族だけ。 アッサリと捨てられるのは目に見えた問題と言える。 「ゆびゃあ!おなかすいたぁー!はやぐあまあまたくしゃんもっでごいいいぃ!」 「せっかくせわをさせてあげてたのに!あのくそじじいなめたまねしてくれやがるのじぇ!」 「まりしゃたちのおうちにかえったらせいさいしてやろうね!まりしゃうんうんたべさせてやるじぇ!」 両親達は憤った。 まったく、おちびちゃん達の言うとおりだよ! こんなに可愛いれいむやおちびちゃん達を捨てるなんてあの糞ジジイは死んだほうがいいね! 今すぐ家に帰って制裁してやろう!まりさの手に掛かればイチコロだから、死なない程度に手加減して殺してやる! 今日という今日は、立場の違いってものを分からせないといけないね!! ・・・いや、待てよ。 良く考えたらこんなに可愛く賢い自分達だ。 人通りの多い所に出たら自分達飼いたがる人間など大勢いるだろう。 今から近くの大通りに行って、可愛いおちびちゃんとれいむ達の綺麗な踊りを見せてあまあまを貰おう。 そうして、一番おいしいあまあまを沢山くれた人間に飼われてあげよう。 ・・・いや、よく考えたら飼われてあげるなんて考え自体、そもそも馬鹿らしい。 一番自分達に貢いで来た人間を家来にしてあげよう! そうだ、そもそもこんなにゆっくりしている素晴らしい自分達が飼われるなんて事自体が間違いだったのだ。 あんな冴えないジジイに飼われてやってたなんて、今思えば寛容すぎたのではなかろうか。 ああ、なんて優しくてゆっくりしたゆっくりなんだろう、自分達は! よし、そうと決まれば行動だ。 キリッ!と通りのある方角を見据えると、どちらともなく移動し始めた。 先程まで騒いでた仔ゆっくり達は、 「ゆっ?どっかにいきゅの?あのじじいにせいさいするにょ?」 「たまにはしゅーくりーむしゃんたくさんたべちゃいよ!」 「ゆゆっ!?おかしたべにいくにょ!?まりしゃいくのじぇ!!」 「れいみゅもあまあまたくさんたべてゆっくちしゅるよ!」 等と好き勝手ほざきながらついて行く。 背後に自分達一家の様子を見つめる影があるとも知らずに・・・。 「「ゆっゆっゆ」」 「もうれいみゅつかれちゃったよ!!」 「ゆぅ・・・あんよがいちゃいいちゃいよ!」 どれだけ歩いたろう。 いい加減疲れて不満を漏らしまくっている子供。 おちびちゃん、後少しだよ。ここの裏路地を抜けたら大通りだからね! 元気付けようと両親が振り返ると、そこには薄汚い野良ゆっくり達の姿があった。 3匹はヒソヒソと会話すると、無声ゆっくり達の帽子・・・バッジが毟り取られた跡を確認する。 「ゆっ?おかあしゃん、どうしたの?」 「ゆゆ!なんかきたないのらがいるのじぇ!きちゃないきちゃない!!」 「きたないのらはかいゆっくりのかわいいれいみゅのまえからきえてね!ぷくぅ!」 「ぷぷぷー!きちゃないのらはしーしーしながらにげまわるのじぇ!ぷくぅーーー!」 まったくだよ!れいむたちに臭い匂いが移るでしょお!?野良風情はそんな事もわからないの?死ぬの? 汚くてゲスな野良は、寛大なまりさ様が制裁する前にとっとと尻尾巻いて消えるのぜ!! とか思いつつ、無音ゆっくり一家は日頃馬鹿にしていた野良ゆっくり達に対しぷくぅーをして威嚇する。 野良ゆっくり達は家族を憎悪の込もった目で睨み付けると、笑い始めた。 「ゆげっへっへ。ばかでむのうなこえなしどものぷくーなんてぜんぜんこわくないのぜ」 「わかるよー。まわりをかこんだからくずなこえなしたちはにげられないんだねー」 その言葉に気付き周りを見回すと、ぷくぅーするのに必死だった隙を突かれ、周囲を3匹どころではない無数のゆっくりに囲まれている。 「「「ゆゆゆーーーー!!?」」」 うろたえる無声一家に対して、囲んだ野良達が一斉にぷくうぅぅーーー!!!をお見舞いする。 甘えて育ってきた無声一家のぷくぅーに比べ、今まで厳しい生活を生き抜いてきた野良ゆっくり達のぷくぅーは目を見張るものがあった。 「ゆびいぃぃぃ!!!?」 「きょわいよおおおおお!!?」 「もうまりしゃおうちかえりゅ!!」 ゆひいい!!!っ!こ、こわすぎるよおおおお!!? と親ゆっくり達は心の中で絶叫してがたがた震えだす。 家族全員でおそろしーしーを垂れ流し、それを見た野良達が笑い出した。 「きたないね!しーしーたれながしだよ!なさけないくずだね!」 「ゆふふふ!くずをゆるすわけないでしょ!ばかなの?あほなの?しぬの?」 「ぜったいにがさないよー。いまからりんちだよー。ゆっくりりかいしてねー!!」 「これだからのらになりたてのいなかものはこまるわ!」 「げすなこえなしはゆっくりくるしんでね!!」 一匹の野良れいむが飛び掛り、親れいむが悲鳴もあげる事が出来ず餡子を吐いて苦しむ。 それが合図とばかりに、囲んでいた野良達が一斉に群がった。 「ゆわああああ!!いぢゃいよお!!」 「ゆぎっ!?や、やべでね!?れいびゅのかわいいあんよをかじらないでね!?ひぎゅい!?」 「やじゃあ!いちゃい!いちゃい!」 「えぎゅっ!えぎゅっ!」 「おとうしゃんたちゅけて!」 「・・・・・・・・・っ!」 「・・・っ!・・・!!」 「ゆぎゃっ!ゆぎゃっ!ゆぎゃっ!」 「やべでくだじゃいぃ!あやまりまちゅ!やめ!やめ!」 親達は袋叩きにされ、子供達も死なない程度にいたぶられる。 「・・・よし、とりあえずここまでにしてやるのぜ!」 1匹のまりさの合図と共に、ようやく一家に対する暴行は終わった。 家族全員ボロボロだったが、不思議と死者は出ていない。 「じゃあこいつらぜんいんむれまでつれていくのぜ!」 「とっととあるいてね!にげようとしたらようしゃなくころすからね!」 「いまからありすたちのむれにきてもらうから、いなかものはゆっくりしないでついてきてね!」 抵抗できる体力も気力も残ってなかった。 家族全員泣きながら無理やり連れて行かれる。 そして暫く歩いてこの野良達の群れに着くと、無音家族達は信じられない光景を目の当たりにする事となったのである。 少し話を戻そう。 ブームが去った後、今度は大量に捨てられた無声ゆっくりが街に溢れかえったが、彼らの境遇は悲惨を極めた。 都会のほぼ底辺にいる通常の野良ゆっくり達は無声ゆっくりを『声無し』と蔑み自分達の下の階級と位置付け差別し、迫害した。 叫び声しか出せないという理由でめーりん種でさえ馬鹿にし攻撃する彼らだ。 叫び声さえ出ない声無しを迎え入れる訳が無かった。 否、むしろ必要以上に積極的に攻撃していた。 何故ならば今、街にいる捨て野良の大半は、一連のブームにより捨てられていた先住飼いゆっくりの成れの果てだったからである。 彼らは自分達が捨てられる原因となった声無しを憎悪していた。 同じ野良に落ちてきた声無し達を狂喜と死で持って歓迎したのは至極当然といえるだろう。 無音ゆっくりの子供は通常種と変わらず発音可能だったにも関わらず、同じクズの餡子を引いているからという理由で、親子と分かると共々に迫害された。 そんなこんなで普通の群れにも集落にも入れず、人間はおろか同じゆっくりからも虐待を受けて、捨てられた無声ゆっくり達は全員例外なく嬲り殺されていった。 しかし、途中から無音ゆっくりがゆっくりにそのまま殺される事は減っていった。 勿論、通常の野良ゆっくりが無音ゆっくり達を許した訳では決して無い。 徐々に野良の群れの中で、ある制度が作られ全国的に広まっていったからである。 その制度は人間でもよくあった制度。 否、現在でも存在する制度・・・。 「おまえたちは、いまからむれのどれいだよ!しぬまではたらいてもらうからゆっくりりかいしてね!!」 こうして、無音ゆっくり一家は晴れて群れの奴隷の一員となる事が出来たのである。 群れについた無音一家が見たのは、群れの隅で生活している無音ゆっくり達。 ある者は気分次第で蹴られ怒鳴られ馬鹿にされて、それでも卑屈な笑みを浮かべてゴキゲンを窺っている。 子供の1匹がサッカーボールの代わりに蹴られて遊ばれているが何も文句言えずに黙って見ている家族達。 もう1匹の子供はありすにレイプされて黒ずんでいくが、それも見てみぬ振りをされている。 向こうでは家族同士を戦わせて見世物にされている。 奴隷の食事は群れのみんなのうんうんだ。 雑草と砂を混ぜ、吐きそうになりながらも食らいつく。 皆、一様に傷だらけで痩せこけ、どう見てもしあわせーには見えない。 呆然としながら立っていると、群れに大声が響き渡った。 「いまから、じゅうだいなつみをおかしたどれいをせいさいするよ!みんなひまつぶしにみにきてね!!」 見ると広場に1匹のまりさが引きずり出されている。 まりさはあんよをぐちゃぐちゃに傷つけられて身動きが取れないようだ。 「・・・・・・っ!!?・・・・・・!!!!」 必死に口をパクつかせながら命乞いをするまりさを見下ろすのは、1匹の少し大きめのまりさ。 「こいつのつみは・・・あー、なんだったかな。・・・ああ、まりさのきぶんがわるいときたまたまめにはいったつみなのぜ!!」 「むきゅう!おさのしかいに!それはきょうあくなはんざいね!!」 「とんだげすだね!せいさいされてとうぜんだね!!」 「「「せいさい!せいさい!」」」 無音まりさは目に涙を浮かべて首を振るが、群れの皆からは一斉に制裁コールが起きる。 この場合の制裁は、当然極刑の事だろう。 「ゆっへっへ。きもちのわるいこえなしはゆっくりしぬのぜ!」 長と呼ばれたまりさが合図すると、棒切れやら石ころを持ったゆっくり達が一斉に殴りかかる。 帽子は破かれ、眼球が潰れ、皮膚が破れ餡子がはみ出る。 ぼろ雑巾の様になりながら痙攣している無音まりさに、ゆっくりと近づく長まりさ。 口に咥えた木の枝をズブリと刺し、止めをさす。 「ゆへへへ、たまにはうんどうしておかないと、うでがなまるのぜ」 そこまで言うと、先程戻ってきた一行が捕らえた無音一家に気付く。 「・・・そいつらは、あたらしいどれいなのかぜ?」 「そうだよ、おさ。きょうのらになったばかりのこえなしどもだよ!」 「きょうからしぬまでこきつかうから、くるしんでいってね!」 「「ゆびぇぇぇ!いやじゃああ!!!」」 泣き喚く子供、恐怖と痛みで震える子供。 長まりさは咥えられて捕捉されている子供達を一瞥すると、次に涙を流す親ゆっくり達に視線を這わせる。 「みるからににくたらしいくずなこえなしどもなのぜ」 「ゆゆー、こえなしはみんなそうだよね。はやくぜつめつすればいいのに!」 「まあ、こころのひろいまりささまはおまえらごみくずでもがまんしてどれいにしてやるからかんしゃするのぜ! そいつらにはあすからはたらいてもらうから、とっととどれいべやにおしこんどくのぜ!!」 長の見せた凶悪な笑みに震えながらも、一家は案内された隅の空いたスペースに辿り着いた。 「ゆきゅ?どこにおうちありゅの?」 「れいみゅかよわいから、おふとんさんにゃいとねれにゃいよ!」 まだ立場が理解できない子供を突き飛ばすと、案内役のゆっくりは汚れたコンビニのビニール袋を投げてよこした。 「そのふくろさんのなかが、おまえらのへやなんだぜ!かぞくぜんいんそのなかにはいってねてね!」 最悪だった。 毛布どころか草すら敷かれていない剥き出しの地面の上に放られたビニール袋が一家を嘲るかのようにヒラヒラと揺れている。 一家は泣きながらもそもそとビニール袋の中に入っていく。 元々生ゴミでも入っていたのか、嫌な匂いで充満しており、まったくゆっくり出来ない。 「ゆぐうぅぅ・・・からだがいちゃいよ」 「ゆっぐりねれにゃいよぉ」 昨日まで快適な飼育ケースのお布団の中で寝ていた一家にとって、固く冷たい土の上はゆっくりできない寝床だった。 一家全員泣きながらす~りす~りしあう。 しかし、それでもそのうちどうにか浅い眠りに入り、そして翌日の朝。 「いつまでねてるの!?どれいははやくはたらきにでかけてね!!」 怒号と共に文字通り叩き起こされる。 震えながらビニール袋の中から這い出す一家。 働きに出かける?どういう事だろう。 「しんいりはぐずだねー。いまからまちにでかけてむれのみんなのごはんをあつめてくるんだよー。ゆっくりしないでりかいしてねー」 「あつめてこなかったらせいさいするよ。すくなかったらごはんぬきだからね!」 「なにももってこなかったら、おまえたちがみんなのごはんになるからね!」 「わかるよー。こえなしは、ゆっくりいかのむしさんなみのそんざいだからたべていいきまりになってるからねー」 「おかざりはおいていってね!にげたらやぶいてすてるからゆっくりりかいしてね!」 嫌がって暴れる両親を大勢で囲むとお飾りを取り上げてしまう。 これは奴隷が家族を見捨てて逃亡する事を防ぐ為だ。 「ちびどもはのこしてもいいけど、そのまえにせんれいをうけてもらうよ!」 言うが早いか駆け寄ると、嫌がる子供達を押さえつけてお飾りと髪の毛を食いちぎり始めた。 「ゆびゃぁぁぁん!!おかざりがあああああ!!!」 「いじゃい!いじゃっ!がみさ゛んだべないで!!」 「ゆっぐりできないいいいいいぃぃ!!!!」 どうやら喋れる子供達は通常のゆっくりと区別する為、敢えてお飾りと髪の毛を右半分食い破いてゆっくりさせなくしているらしい。 可愛いかった子供達は全員、みっともないゆっくり出来ない姿になってしまった。 せいぜい個体の認識が出来る程度だ。 もうこんな醜い姿になっては、無事ここから脱出出来たとしても、人間に拾ってもらえる事はないだろう。 「「・・・っ!!!」 親ゆっくり達は悔しさに震えるが、どうする事も出来ない。 泣き叫ぶ子供達を後に、他の奴隷達と一緒に街に出掛けた。 その日は初めての食料探しという事もあり、散々だった。 元々、ゆっくりふーどやら人間の食べ物を与えられるだけで、狩りをする事はおろか、餌を集める術など知らないし、全く思いつかなかったのだ。 途中、何度も人間や野良猫の被害にあいかけながらも2匹はなんとか生き延びていた。 収穫は道に落ちていた潰れたパンの切れ端と吐き出されたガムだけ。 昨日受けた傷も含め、身体中切り傷だらけ。 髪はぼさぼさで、ゴミ箱を漁った時についた汚物の液体がこびり付いている。 2匹の無声ゆっくりは鬱々と心の中で呟く。 一体、何故・・・一昨日までは家族仲良く快適な部屋の中でしあわせーに暮らしていたのに。 これも全部、あのくそじじいのせいだ。 今までまりさやれいむたちの可愛さでゆっくりさせてあげていたのに、よくも!よくも! 「おにいしゃん、このあめしゃんとってもおいちいね!ゆっくりありがちょー!」 「ありしゅたちこんなにゆっくちできて、ちあわせね!ときゃいはなおにいしゃんありがちょう!」 「でも甘いのは1日1回だけだぞ。舌が肥えすぎたらゆっくりできなくなるからな?」 「ゆっ!ゆっくちりかいしゅるね!」 慣れ親しんでいたその声の方を振り向き、2匹の身体が固まった。 今さっきまで憎んでいた人間がそこにいた。 両腕には買ったばかりの仔まりさとありす。 ぶら下げた買い物袋の中には1冊の本。 もし2匹に文字が読めるのであれば題名がこう読めただろう。 『楽しくゆっくりと暮らそう!正しい飼い方教えます』 お兄さんなりに一連のゆっくり達との生活で何か思うところがあったのだろうか。 と、小さい2匹が自分達を見つめている無音ゆっくり達に気付いた。 「ゆゆ?へんなゆっくちがこっちみてりゅよ?」 「・・・おかざりさんがにゃいなんて、かわいしょうね」 「ん?ああ、あれは野良だな。確かに可哀想だけど、野良は凶暴なの多いし近づいちゃ駄目だぞ」 2匹の無声ゆっくりは慌てて駆け寄る。 そのちび達を捨ててまりさたちを飼い直せ! そんなちびよりもれいむ達のおちびちゃん達の方がゆっくりできるでしょ!? ゆっくりさせろ!はやく自分達をゆっくりさせろ! 「なんだ?気持ち悪いな・・・纏わり付いてくるなよ。それにしても汚いやつらだなあ」 お兄さんは演技ではなく本当にこの2匹が昨日捨てた自分の元飼いゆっくりと気付かなかった。 まさか昨日の今日でここまで汚れるとは思っていなかったし、2匹は気付いてなかったがストレスで人相ならぬゆん相も変わり果てていた。 さて、このまま踏み潰しても良いのだが、両腕にいるちび達の教育に悪そうだし怖がるかもしれない。 そう思ったお兄さんは纏わり付く2匹を死なない程度に蹴り飛ばす。 2匹が集めていた残飯が辺りに散らばる。 「野良なんて普通なら殺されても文句言えないからもう来るんじゃないぞ」 「のらさん、ゆっくちさようなら!」 「よし、そんじゃまた寄ってこない内にさっさと帰るか。今日の晩御飯はゆっくりふーどに蒸かし芋刻んで混ぜてやるぞ」 「ゆわぁー!まりしゃおいもしゃんだいちゅき!」 「ありしゅもだいしゅき!」 「その代わり!ご飯の後はマナーのお勉強だぞ」 「ゆうっ!おべんきょうはにがてだけど、ゆっくりがんばる!」 やはりお兄さんは今度はきちんと躾をして育てようと決めたらしい。 新たに飼われたこの2匹はちゃんと躾けられ、幸せなゆん生を過ごしていくだろう。 和やかな雰囲気で去っていく1人と2匹。 蹴り飛ばされた2匹は散らばった残飯を拾い集めるのに必死でそれどころではなかった。 群れに帰り着いたのは夕方。 元飼い主に恨み事を吐きつつ、群れに入っていくと、まず、収穫の少なさに文句がぶちけられた。 やはりクズな声無しは使えない。この無能め。奴隷として使って貰われている恩を忘れるな。でいぶはしんぐ(ry・・・。 暴れだしたい衝動をなんとか堪えていると、突然、口調が柔らかくなる。 「まあ、やさしいれいむはこのへんでゆるしてあげるよ!」 「しんいりのどれいにかんげいのいみできょうだけ、とくべつにあまあまさんをよういしたよ!」 「へやにおいてるからなかよくゆっくりむ~しゃむ~しゃしてね!」 あまあまという言葉に疲れも忘れてぴょんぴょん走り出す2匹。 飼い主が時々くれたあの味を思い出す。 捨てられてたった2日しか経っていないのに、遥か昔の事のように感じた。 ようやく昨日渡されたビニール袋まで辿り着き、ゴソゴソと中に潜り込む。 ゆっ!おかあしゃんたちかえってきたのじぇ! まりしゃたちちゃんといい子にしていたのじぇ! 一緒にあまあまさんをむ~ちゃむ~ちゃしようね! む~ちゃむ~ちゃ、しあわちぇ~!! そんな幸せな光景を想像していた2匹の目に飛び込んできたのは、苦悶の表情を浮かべ死んでいる汚れた我が子達の姿であった。 レイプされて死んでいる1匹は千切られたぺにぺにを無理やり口の中に押し込まれいる。 1匹は炎で炙られたのだろう、全身焼け焦げ香ばしい匂いを漂わせている。 最後の1匹はあにゃるから小石を沢山詰め込まれ、体積が元の3倍ほどに膨らんでいる。 「ーーーーーーー!!!?」 顔の間近で変わり果てた我が子と対面した両親は、何が起きたのか分からず両目からぼろぼろと涙を流しながら全身で悲しみを表現しているのだろうか。 狂ったように身体を地面にバタつかせ続ける。 なんで!?なんで!?なんで!? そんな混乱しきってる両親の目の前に、ゆっくりと長まりさが現れた。 側近のゆっくり達が両親達を地面に押さえつけ、動けなくする。 「ゆっへへへ・・・まりささまからのぷれぜんとはきにいったみたいなのぜ」 2匹は涙を流して長まりさを睨み付ける。 襲い掛かって殺したいが、数匹がかりで押さえつけられてどうしようもない。 「ゆあーん?まだきづかないの?まったく、こえなしはほんとうにあたまがわるくてこまるのぜ」 長まりさは2匹の目と鼻の先まで顔を近づけると、途轍もない凶相を浮かべた。 「まりさは、おまえたちのまえにあのいえでかわれていたまりさなのぜ?」 そう。この長まりさはお兄さんに番のありすを殺され、小学生におちびちゃん達を惨殺されたあのまりさだ。 あの後、野良として生き残り、頭角を現した後、急激に増えていた一帯の野良を纏め上げると大きな群れを形成し、長と呼ばれるまでになっていた。 今は新しい妻、新しい子供も出来ている。 野良ながらも幸せな方だろう。 だが、まりさは片時も忘れなかった。忘れる事が出来なかったのだ。 自分達家族の崩壊の元凶となったあの憎らしい無音ゆっくりどもを。 お兄さんに捨てられる時、ケースから掴み出されて行く自分達を見送ったあのにやけ顔を。 奴等さえいなければ、自分達はあのまま飼いゆっくりとして順風満帆なゆん生を送れたに違いないのだ。 この無音ゆっくりの家族が群れに運ばれたあの時、顔を見て長まりさはすぐ気付いた。 だが、どうやらこいつ等は今の今までまったく気付かなかったようだ。 こいつ等にとって自分や死んでいった家族など、覚える価値もなかったという事か。 まあいい。この群れに来てくれた以上、苦しんで苦しんで死んでいってもらおう。 番を狩りに出した後、長まりさは残された子供達の所に訪れ、仔ゆっくり達を虐待し始めた。 まりさは無声ゆっくり達に受けた仕打ちと屈辱をその子供達に話した。 お前らがこんな痛い思いをするのも全部、お前らの両親が悪いからだよ。 ゆっくり理解して死んでね!と。 延々と続く暴行の中、子供達は泣き叫んだ。 いやだ。いやだ。そんな親のゲスな行いのせいで死にたくない。痛い。苦しい。助けて。気持ち悪い。 そうだ。れいむ達もあんな言葉も喋れない親はゆっくり出来なくて嫌いだったんだよ。 お願いしますお願いしますあんなクズな親はどうなったっていいですからまりさだけは助けてください。 長まりさは勿論、そんな懇願にまったく耳を貸さなかった。 お前達には、自分の子供達が合ったのと同じ地獄を味わってもらおう。 手下が小石、拾ったライター等を次々と運び込んでくる。 いやだ!まだ死にたくない死にたくない!自分達はもっとゆっくり出来るはずだ。間違っている。 あんな口が聞けない出来損ないの親の元に生まれたせいでこんな目にあうなんて。 死ね。死ね死ね。可愛い子供達をゆっくりさせられない原因になったゲスな親はゆっくりしないで死ね。 子供達は全員、両親に対して呪詛を唱えて死んでいった。 「ゆへへへ。まりさたちもこころがいたかったけど、しかたなかったのぜ。やれやれ、おやがげすだとこどももかわいそうなのぜ」 長まりさはへらへら笑いながら子供達の最後の言葉やら、如何にして暴行を加えて殺していったのか詳細に説明をしていった。 「なにふるえてるんだぜ?ああ、こどもがいなくなったからないてるのかぜ? でも、あんしんしていいのぜ?かしこいまりささまはあんなうすぎたないこどもよりももっといいこどもをくれてやるんだぜ?」 長まりさが合図すると、群れの中でも1,2を争う醜いゆっくりが出てくる。 押さえつけられ動けない無音まりさ、れいむの背後に立つと無理やりすっきりーし始めた。 「「!!!!?」」 動けない2人はどうする事も出来ず、 「げはぁはぁはぁ!くずのくせにいいまむまむしてるよお!!うほおっ!」 「ぐげげ!げへげへ!ばりざの・・・ばりざのごどもをにんっしんしでねええええ!!!」 あっさりすっきりー!されてしまうと笑うほどあっけなく胎生にんっしんが完了してしまった。 「ああ、どうでもいいけどくずなこえなしのこどもはうまれたらすぐみんなのおもちゃかごはんになるんだぜ?」 呆然とする妊婦達にげらげらと笑いながら説明する。 声無しどもは家族を含め、通常のゆっくりとは見なされない。 虫以下の存在。ゆっくりの形をした物として扱われる。 「どうせすぐにんっしんさせてやるからえんりょなくうめばいいのぜ?」 にんっしんしていても日課の餌集めが免除になる事など無い。 行動の足枷になるだけで生まれたらすぐ死ぬ運命にある望まれないお腹の子供。 それを恨みながら育て、一生を過ごしていけ。 まあ狩りの最中などですぐ死んでしまうかもしれないが、それはそれでいい。 2匹の表情を覗くと、ゆっくりした幸せさの欠片もない。あるのは絶望だけ。 「それと、そのびにーるぶくろのなかのきたないものを、しっかりたべてえいようをつけるのぜ?のこすとようしゃしないのぜ?」 長まりさは満足気にわらうとその場を後にした・・・。 ・・・さて、全国各地に溢れかえっていた野良ゆっくり達の群れはその規模を拡大していく。 街中を歩けば至る所に野良ゆっくりの集団が見かけられる様になっていた。 野生ならともかく、ゲスが多く個体の入れ替わりが激しい上に、人間のテリトリーである街でこれ程の規模の群れが形成されるのは今まで非常に稀であった。 一連のブームの影響で捨てゆっくりが急増していた事と、奴隷という労働力を獲得したのが要因であろう。 そして、何百何千という仲間を持った野良ゆっくり。 ろくな考えを持つ訳がなかった。 「ゆっへっへっへ。これだけのむれになったからにはにんげんさんなんかいちころなのぜ」 「こんなにつよいまりささまたちがじじいよりよわいわけないのぜ!いまからむれのみんなでふくしゅうにいくのぜ!」 「むきゅ!おにいさん、いのちがおしかったらぱちぇたちにあまあまたくさんもってきてね!」 などと、よりにもよって・・・というか、当たり前のごとく群れの皆で人間に喧嘩を売り始めるものが現れだした。 ゆっくり達は忘れていた。 何故、今まで街中で巨大な群れが存在しなかったのか。 人間のテリトリーの中で邪魔な野良が一箇所に集まったら、どうなるのか。 只でさえ急増した野良ゆっくり達による景観の破壊、衛生問題、食害等の問題に頭を痛めた人間が下した結論は早かった。 『・・・・・・と、いう事で、来週から全国一斉に開始される野良ゆっくりの駆除ですが・・・』 『でも、この駆除にかかる費用も国民の血税で賄われるんですよね? だから私は以前から飼いゆっくりの不法投棄の規制強化についてですね・・・』 『そもそも以前から指摘されるように国民全員のペットに対する意識が欧米先進国と比べ・・・』 『さて、一連のブームにより今までに駆除並びに捨てられたゆっくりの数は無音種と通常種をあわせ推定・・・』 『確か在庫が余ってる無声ゆっくりも処分されるんですよね・・・』 私はTVニュースから流れてくるキャスター達のコメントに耳を傾けながら、食後のコーヒーを飲んでいた。 聞いての通り、来週から行われる野良ゆっくり一斉駆除によって、今存在しているほぼ全ての野良ゆっくり達は地上から消滅してしまう。 元々は人間達の身勝手さで捨てられた何の罪もないゆっくり達なのに・・・。 原因の一端はこちらにあるのに、いくらなんでも可哀想じゃないか! テーブルの対面で同じくコーヒーに口をつけていた友人に、その憤りを訴える。 「・・・んー、まあ、そうな。お前がコンテストに送った企画がそもそもの始まりだからその通りかもな」 全く・・・こいつは何を的外れな事を言っているのか。 そんな事ではなく、私が言いたいのは、もっとこう、飼い側のモラルというかなんというか・・・。 私が懇々と諭すも、友人は適当に頷きながらTV画面を眺めている。 「ショップの余剰品と今までの野良を合わせて推定1000万匹以上だってさ。新記録だな」 一言呟くと、友人は空いたティーカップを片手に台所へと姿を消した。 確かに、この規模の駆除は初めてだから新記録なんだろうな。 来週から消えていくであろう1000万のゆん生に対してそっと黙祷を捧げよう。 番だったまりさは狩りの最中人間に捕まり虐待を受けてあっさりと死んでしまった。 腹を割かれ、中から赤ちゃんのなりかけを引きずり出された姿で放置されていた。 涙も乾いていない苦悶に歪んだ顔。 れいむが身重な状態でここまで生き残れただけでも奇跡といっていいだろう。 しかし、その奇跡は幸運といえるのだろうか? れいむは残った片方の目で膨れ上がった自分のお腹を見つめる。 これで何匹目なのだろうか。 死ぬ気で生き延びて、苦労して産み出して。 『おきゃーしゃん、ゆっくちしていっちぇね!』 そんな挨拶されてもレイプされて出来たあかちゃんなんかに愛情なんて湧く筈もない。 そもそも、産んだその日に食われてしまうのだ。 そもそも、行動の枷とする為に孕まされている子供なのだ。 もう嫌だ。 もう嫌だもう嫌だもう嫌だ。 鬱々とするも、自殺という概念がないゆっくりにその選択は出来ない。 このままいずれやって来る死を待つしかないのだ。 ゆっくりしていない。 こんなゆんせいゆっくりしてないよ。 こんなあかちゃんゆっくりしていないよ…。 (おわり) あとがきとか補足っぽいもの 自分で振ったネタながら台詞を出せない時点でSSだとなかなか話が映えないのもあり四苦八苦。世話無いなあ。 ちなみに、やはりというか作中の世界では無声ゆは鬼意山達に大不評の模様。 理由としては叫び声がないとちょっと・・・ってのと、そもそも口潰せばいいだけじゃんって話で。 金バッジ級のきちんと教育がされた無声ゆならばゲスになりにくいので、この話の後も一定の需要層が存在しています。 という訳で少数生産に絞り込まれているだけなので、前々作のゆっくり達は結局無声ゆを産み続けています。 他に思いついていたネタに、 飼ってきた無声仔ゆ達が留守番中押入れに探検して閉じ込められ発見されず色々して全滅とか、 野生のにんっしん中のゆっくりの赤ちゃん達をこっそり無声に処理してその後の一家を観察していくお兄さん等等。 今となってはそっちの方が分かりやすくてよかったかもと思ったり。 本当はさらっと何も考えずにシンプルでお馬鹿なの書きたいんですけど、どうにも冗長になるなあ。 後、処分されるゆっくりの総数が1000万という数字について。 日本全国の保健所で1年間に処分されている犬猫の総数が確か30万匹以上なのでゆっくりならそれより遥かに多いだろうって事で。 今まで書いたの ふたば系ゆっくりいじめ 533 カマキリさんの卵でゆっくりするよ!! ふたば系ゆっくりいじめ 540 浮浪者とゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 541 静かにゆっくりするよ!! ふたば系ゆっくりいじめ 581 静かにゆっくりできないよ!!(前編)
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てんこがゆっくりするSSさん 4KB ※駄文、稚拙な表現注意。 ※俺設定注意 ※『ふたば系ゆっくりいじめ 440 れいむとまりさとありすとぱちゅりーがゆっくりするSSさん』をリスペクトして作りました。 ※「ふたば系ゆっくりいじめ 440 れいむとまりさとありすとぱちゅりーがゆっくりするSSさん」を先に読むことをお勧めします。 ※短いうえ、メタ視点注意 ※読みづらい文章注意 ※「あるゆっくりできない2匹の一生」のドMてんこが餡庫の「れいむとまりさとありすとぱちゅりーがゆっくりするSSさん」を読んでSSを考えました。 あんまりしつこくてんこが頼むので長月はそれを清書し、パソコンに打ち込み、餡庫にUPしました。 つーか、てんこ、お前は次の作品、ゲスト出演するんだからさっさと戻って来い!! てんこがゆっくりするSSさん 作、長月(てんこ?) 注意事項 てんこが悪い子、または虐待したいとおもったら、コメントで「とくになし」のぼたんさんを押してね。 てんこを虐待できるよ。 『てんこは悪いこです。ちょう悪い子です。 虐待されてもしょうがないぐらい悪い子です。 今日もあきかんさんをポイ捨てしました。あとお年寄りさんに席をゆずりませんでした。 お風呂さんにはいりませんでした。ごはんさんを食べるとき「いただきます」をしませんでした。 てんこは救いようもなく悪い子でした。(注てんこは悪い子)』 さあどくしゃさん。てんこをいじめてね。こめんとさんで「とくになし」をおしてね。 さあはやく。 えっ、どーしてむしするのおおおおお!!! まだわるいことがたりないのおおおおお!!! よーしそれなら。 『てんこは悪いこです。ちょう悪い子です。 ゲスまりさやでいぶ、のーぶるゆっくりが悪いことをするのも全部てんこのせいです。 不況さんも政治家さんの汚職さんも全部てんこがやらせたことです。大悪党です。 てんこは救いようもなく大悪党でした。(注てんこは大悪党)』 さあ、なぐってね。けってね。しばってね。 こめんとさんで「とくになし」をおしてね。 ・・・どーしてまた、むしするのおおおおお!!! てんこもうまちきれないのよおおおおお!!!! 『てんこは悪いこです。ちょう悪い子です。(注てんこは悪い子) 今日はゆうかをいじめました。「このメス豚ゆうかめ!!」とかいっていじめました。(注てんこは悪い子) あとめーりんもいじめました。さくやとさなえもいじめました。(注てんこは悪い子) てんこは悪い子でしかもいじめっこです。(注てんこは悪い子)』 もうじゅうぶんでしょぉおおおお!! ほんとはてんこだっていじめたくないんだよぉおおおお!!! いじめられるほうがいいのよぉおおおおお!!! はやくモヒカンあたまでハーレーにのって、ひやっはーって、てんこをさらってねぇええええ!!! えっまだたりないのぉおお!? じらしすぎよぉおおおお、おにいさん!!! 『てんこは(注てんこは悪い子)悪い(注てんこは悪い子)こです。ちょう(注てんこは悪い子)悪い子です。(注てんこは悪い子) きょうは(注てんこは悪い子)おにいさん(注てんこは悪い子)にぷくーっ(注てんこは悪い子)をしました。(注てんこは悪い子) おうち(注てんこは悪い子)せんげん(注てんこは悪い子)も(注てんこは悪い子)しました。(注てんこは悪い子) て(注てんこは悪い子)ん(注てんこは悪い子)こ(注てんこは悪い子)は(注てんこは悪い子)悪(注てんこは悪い子)い(注てんこは悪い子)子(注てんこは悪い子)で(注てんこは悪い子)す。』 さあ、さぶみりなるこうかさんまでつかったのよぉおおおお!!! はやくてんこをいじめてねぇえええ!!もうてんこ、まむまむがぬれぬれなのよぉぉおお!!(ジョロジョロー) たとえるなら「いんらんだんちづまじょうたいっ!!」なのよぉおおおおお!!! さあ・・・・ 長月よりお詫び SSの途中ですがてんこの行動があまりにきもくなってきたので強制終了させていただきます。 お見苦しいSSを見せてしまったことを深くお詫びいたします。 あとがき 何、書いてるんでしょう俺は。あるドスまりさの一生の続き書いてたはずなのに。 『れいむとまりさとありすとぱちゅりーがゆっくりするSSさん』の作者さん、本当にすいません。 今まで書いた作品 ふたば系ゆっくりいじめ 176 ゆっくりちるのの生態(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 185 選ばれしゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 196 新種ゆっくり誕生秘話 選ばれしゆっくり番外編 ふたば系ゆっくりいじめ 208 ゆっくり見ていってね ふたば系ゆっくりいじめ 218 またにてゐ う詐欺師てゐの日々 ふたば系ゆっくりいじめ 227 VS最強のゆっくり 史上最低の戦い ふたば系ゆっくりいじめ 247 夢と現実のはざまで ふたば系ゆっくりいじめ 264 あるまりさの一生 ふたば系ゆっくりいじめ 298 ゆっくりを拾ってきた ふたば系ゆっくりいじめ 336 ゆっくり Change the World(出題編) ふたば系ゆっくりいじめ 357 ゆっくり Change the World(出題編2) ふたば系ゆっくりいじめ 391 ゆっくり Change the World(解答編) ふたば系ゆっくりいじめ 400 あるゆっくりできない2匹の一生 あるドスまりさの一生 とてもゆっくりした群れ(前編) 長月の作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る とくになし -- 2019-03-07 01 37 27 とくになし -- 2019-03-07 01 34 53 とくになし -- 2017-06-23 14 41 03 tokuninashi -- 2017-02-26 23 59 13 とくになし -- 2017-01-30 06 44 44 はぁはぁ、ドMな鬼意山も虐めてね! -- 2017-01-03 12 45 50 とくになし -- 2017-01-02 16 26 56 とくになし -- 2016-11-02 01 21 46 何これ -- 2016-03-31 01 07 41 特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特にあり特に -- 2016-02-21 23 36 25 トクニナシ -- 2015-12-28 01 48 53 特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし特になし -- 2015-11-29 20 09 49 とくになし -- 2015-07-20 17 36 30 とくになし -- 2015-07-20 17 35 18 とくになし -- 2015-07-12 14 50 58 とくになし -- 2015-04-27 16 41 15 とくになし -- 2014-01-25 00 29 50 とくになし -- 2014-01-16 15 47 45 とくになし -- 2014-01-04 16 47 54 とくになし -- 2013-08-11 20 24 39
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ゆっくり屋敷でゆっくりしていってね! 永遠に! まあ聞くがよいゆっくりどもよ。おまえたちのためになる話じゃて。 おまえたちは人のものを勝手に盗んだり、人の家に勝手に入り込んで荒らしたりととんだたわけどもじゃ。 それらも勘弁しがたいことじゃが、おまえたちは仲間にもむごいことをしおる。 飾がないだの亜種だの畸形だのと馬鹿にしては責め殺してしまうではないか。挙句の果てには同属をも喰らうときている。 よいか、そういうゆっくりには必ずバチが当たるのじゃぞ。神さまはどこにでもおらっしゃる。そして見てらっしゃるのじゃ。 さて、おぬしら外道に当たるバチのひとつについて教えてやろうかの。 あるところに、“ゆっくり屋敷”という屋敷があるそうな。 盗みなどの悪たれを働いた帰りに、ゆっくりは深い霧に遭う。どんなに天気が良くとも、いつの間にか霧に巻かれるのじゃ。 霧の中を闇雲に歩いていると遠くに灯りが見えてくるのだという。おぬしらは愚かゆえにそれを救いの灯だと疑いもせずに駆けていくことじゃろうよ。 灯りに近づいていくと、大きな屋敷が霧のなかからぼうっと浮かび上がってくるという。 屋敷からはかすかにゆっくりゆっくりと楽しげな声が聞こえてくる。 その声に誘われて屋敷の玄関にまでたどり着くと、扉になにか書かれているのがわかるじゃろう。 その文は「どんなゆっくりでも遠慮せずにゆっくりしていってね! おいしい食べ物や楽しい遊びでゆっくり歓迎するよ!」と読める。 おぬしらは一休みさせてもらおうと入るかもしれん。横着にもここを自分の家にしようと思うかもしれん。 まあどのみち屋敷に入るしかあるまい。例えきびすを返して去ろうとも、再び霧の中から屋敷が現れる。もはや逃れられんのじゃ。 屋敷に入り通路を進んでいくと大広間に突き当たる。そこには多種多様おびただしい数のゆっくりたちがゆっくりしておる。 大広間は豪華に飾られており、最上のクッションと椅子、いかにも楽しげな玩具があり、大テーブルの上にはありとあらゆる珍味佳肴が山のように盛られておる。 ゆっくりたちはそこで、食えや飲めや遊べやゆっくりすっきりと、ゆっくりの尽きぬこの世の楽園のように見える。 だがしかし、それはすべて見せかけにすぎぬ! 食物はすべて腐っていて酷い味がし、よくよく見ればすべてゆっくりを調理したものではないか! だが一口でも食せば、果て無き飢えがおぬしらを襲い、喰い続けるしかないのじゃ。喰いすぎで皮が爆ぜ、食べ物が漏れ出してもな。 クッションや椅子は体を乗せたが最後! 鉄線と鉤爪が飛び出し愚かなゆっくりを苦痛と共に拘束し、二度と逃れることはできぬ。 玩具もそうじゃ。これらにはすべて罠が仕掛けられており、触れれば拘束され、恐ろしい拷問を永遠に受け続けることになる。 いたるところですっきりしているゆっくりたちは、おぬしらの眼から見れば微笑ましいものなのじゃろうが、よく見てみればおかしいことに気がつくじゃろう。 終わりがないのじゃ! 延々と延々とすっきりし続けておる。餡を使い果たしミイラのように干からびてもすっきりは終わらせられん。 絶え間なく子が生れ落ちるがそれらはすべておぞましい畸形じゃ。畸形どもは呪われた誕生を祝して跳ね回り親を囃し立てる。 何かに触る前にこの屋敷の本性に気がつけた、多少は賢しいゆっくりも、もはやその運命は窮まっておる。 屋敷から出ようとして、大広間に無数にある扉のどれをくぐっても、待っているのは複雑極まりない迷路じゃ。 その迷路を延々と彷徨った挙句、迷路を徘徊する恐ろしい何物かに食われるか、大広間に逆戻りするかのどちらかじゃ。 そしてこの屋敷の真の恐怖は、ここでは誰も死ぬことができぬということじゃ! そこかしこに腐り果てたゆっくり、引き裂かれたゆっくりを見出すじゃろうが、それらはすべて生きておる。どんな目にあっても死ねぬのじゃ。 また、ここに入ったすべてのゆっくりはゆっくりすっきりむしゃむしゃしあわせせなど、ゆっくりにとって肯定的な言葉しか喋れぬようになる。いかにも楽しげな声でな。 だがその顔は苦痛と恐怖と絶望でひきつっておるのじゃ。 この屋敷を誰が建てたかはわかってはおらぬ。おそらくは妖怪の仕業じゃろうか。もっと恐ろしいものやもしれん。 ゆっくりの身勝手で欲深な性向を嫌う何者かがその生き様を皮肉ってやるために建てたことは間違いあるまいて。 どうじゃ恐ろしいじゃろう? 恐ろしいと思ったのなら今回だけは許してやろう。もう盗みなどしてはいかんぞ! さあ帰った帰った! 「ひどいもうそうだったね!」 「ばかなじじいだったね!」 「かんぜんにだまされていたよね!」 「ちょろいもんだよね!」 「ちーっともこわくなんかないよ!」 「あんなのほんとうなわけないも~ん!」 「かみさまはゆっくりのみかただよ!ゆっくりがいちばんえらいんだよ!」 「ゆっくりのゆっくりをじゃまするにんげんのほうにバチがあたるにきまってるよ!」 「ゆ!なんだがきりがでてきたよ!」 「そういうきせつだからだよ!しぜんげんしょうだよ!」 「はやくゆっくりプレイスにかえろう!」 「ゆ!なんだろうあのあかり……」 このSSに感想を付ける
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代表ゆっくり(前) 帰ってくると、今にゆっくりの一家がいた。 思わず「あっ」と声を出してしまい、奴らはそれに気付いた。 「ゆ!ここはまりさたちのおうちだよ!ゆっくりしていってね!!」 「おなかがすいたよ!!まりさたちにおかしをもってきてね!!」 「おにいさんはゆっくちできりゅひと?ゆっくちちていってね!!」 「ゆっくりできないひとはでていってね!!」 ゆっくりどもは一斉に俺に向き直ると、口々に好き放題抜かした。 大きめのまりさ種が一匹、これは母親らしいがまだ若そうだ。 更に子供らしいのがれいむ二匹、まりさ三匹の五匹。子供たちの中には赤ちゃんサイズのものも混じっている。 どこから入ってきたのかと思って見回すと、窓が開いていた。暑さから窓を開けて過ごしていたので、出る時閉め忘れたようだ。 台所に備蓄してあった食糧は食い荒らされ、大事に飾っていた花瓶は割られて中の花も食べられている。 押入れのふすまも体当たりで破られていた。あ、押入れの中にもう一匹子れいむ発見。ハマって出られなくなっていたんだな。 「ゆ!くらくてこわかったよ!れいむをこんなこわいめにあわせるおにいさんとはゆっくりできないよ!!はやくあやまってね!!」 とか、頬を膨らましながらありえないことをのたまっている。 以前ゆっくり虐待仲間である友人に聞いたのだが、 奴らの“自分の家宣言”は、そこが自分の家だと完璧に思い込んでいるわけでは必ずしもなく、 ゆっくりによっては頭のどこかで「本当はニンゲンのおうちである」と認識しているらしい。 その論拠には、自宅で“自分の家宣言”をしたゆっくりに「ここは誰の家?」と暴行を加えつつ詰問したところ、 「お゛にぃざんのお゛うちでずぅぅぅぅ」と答えた、ということだ。そのあと死んだってさ。 この子れいむは勝手に侵入した人家で勝手に怖い目に陥っておきながら、 それを自分のせいとは決して考えず、「この家が自分を怖い目に遭わせた」というあらぬ方向に考えを曲げ、 あろうことか、この家に現れた本来の持ち主だと思われる俺に責任転嫁してきたのだ。 よって先ほどの友人の論は、少なくともこのれいむ相手に限っては立証されたことになるだろう。殺したい。 しかし、そんなムカつきエピソードはとりあえずどうでもいい。 俺は無断で家に入ってきたゆっくりは全て苦しめながら殺す信条だ。 結果としてこいつらに待っているのは拷問死、それはどう足掻いても変わらない決定事項。 部屋を荒らしたり俺をイラつかせるのは、死際のささやかな抵抗として見守ってあげようじゃないか。 その点、この子れいむは良い線いってると思うよ。苦しむ時間が若干延びたかも知れないけど。 「一応言っておくけど、ここは俺の家であってお前らの家ではないよ!」 「ゆ?おにいさんなにいってるの?ここはまりさたちがさきにみつけたんだよ!!」 「まりさたちのいってることわからないの?ばかなの?」 「ゆっくりできないおじさんはゆっくりしね!」 別に言っても無駄なのは解ってたからどうとも思わない。むしろ素直に聞かれたら俺がびっくりして死ぬ。 とはいえこれで遠慮は要らなくなったので、とりあえず親まりさを蹴り飛ばして俺強いアピールしておく。 強めに蹴ったので、壁に顔面から叩きつけられた親まりさから多量の餡子が飛び散る。染みになっちゃうな。 子ゆっくり達は「ゆ゛ゆ゛っ!?」とか喚いて非難の限りを俺に浴びせてきたが、 親をぶっ飛ばしたことで人間の強さは印象付けられたらしく、同じ目に遭いたいかと問いかけると静かになった。 次に俺は、家に侵入してきた悪いゆっくりは全員殺すこと、子供達をどう潰していくかを宣言しておいた。 死刑宣告にも似た俺の言葉に、静かにしていた子ゆっくり達は泣き出してしまう。 何も知らせないまま虐待した方が新鮮なリアクションが得られるのでは?というご意見もあるだろうが、 俺は泣かせられる時は泣かせておく主義なのだ。それにどうせこんなの、ちょっとしたことでコロッと忘れるし。 閉ざされた居間の中を逃げ惑い始めた子ゆっくりたち。それをゆっくり追い回していると、 今まで俺が経験したこともなく、また思ってもみなかったことが起こった。 怪我をして顔面餡子まみれになった親まりさが俺のところまで這って来てこんなことを言ったのだ。 「ごべんばざい。ごごはおにいざんのおうぢでず。ばりざがみんなをざぞいまじだ。 だがらごろずならばりざだけにじでね。あがちゃんだぢはだずげてね」 おいおい、ピンチとなれば家族をも売ると悪名高いまりさが何を言い出してるんだ? 頭でも打ったのか? 打ったか。 「お前が家族を代表して罰を受けるってことか?」 「ぞうだよ。ばりざがだいひょうだよ」 「何でそんなこと考えた? 家族を売っても助かろうとするお前らまりさが……」 「がぞぐをうっだりじないよ。おにいざんはづよいよ。ざがらっでもむだだよ」 子ゆっくりをビビらせるためにやった俺TUEEアピールが、思わぬ効果を発揮したようだ。 このまりさは強いものに大人しく従うタイプのようだ。森の生活でも辛酸を舐めさせられてきたんだろう。 俺の怒りを鎮めるのが不可能だと悟るや、せめてその怒りを自分だけで全て引き受けようと思ったらしい。 うーむ、餡子頭の饅頭でも母親ということだろうか。惜しむらくは、家に入る前に人間の強さに気付けよ。 しかしその条件を飲むとなると、俺のどんな拷問や虐待もこいつらの美しい親子愛を演出するだけだ。 そんなのは気に食わないし絶対にごめんだ。とはいえ、虐待時のコミュニケーションを重視する俺としては、 まりさからの珍しい提案を全くの無碍にするのも惜しい。どうしたものか…… 「うーん……そうだな、気に入ったぞ! まりさ種にしては珍しい心掛けだ。殺すのは無しにしてあげよう」 「ゆゆっ!?」 「ただし、別のおしおきはするぞ。悪いことしたって解ってるなら、しょうがないって解るよね?」 「ゆ゛っ・・・わがっだよ。でもあがぢゃんだちはたずげでね」 「解ってるよ、お前が家族の代表だからな。お前こそ、その言葉忘れるなよ」 「ゆっ!?れいむたちころされなくてすむの?」 「おかあさんがおにいさんにゆるしてもらったんだよ!!」 「おがあざああぁぁぁぁん!!だずげでぐれでありがどおおぉぉぉぉ!!」 話を聞いていたらしい子ゆっくりたちもいつの間にか集まってきて、歓喜の涙を流している。 これでじぶんたちはたすかるんだ。忘れていた生の喜びを噛み締めている。 こいつらの餡子頭では、どうせまたすぐ忘れるだろうけどね。 でも一つ忘れちゃいけないのは、俺は家に入ってきたゆっくりはみんな殺す信条ってことだ。 たださっきのまりさの勇姿を見て、ちょっと別のことを思いついただけさ。 ーーー 俺は別室に行き、透明な仕切り板を使って、部屋を真ん中から二つに分けた。 一方にはゆっくり飼育道具が一揃い。すべり台やブランコなど、ゆっくり用の大きな玩具もある。 もう一方には今は何も置いておらず、仕切り板は人間にはまたげるがゆっくりに飛び越えるのは不可能な高さだ。 俺は手早く準備を済ませると、居間にいるゆっくり一家のところに戻る。 奴らは傷の癒えてきた親まりさを中心に、早くもゆっくりし始めていた。 手を叩いて注目を集めると、全員に聞こえるように話し出す。 「みんな聞いてね! お母さんまりさの立派で優しい姿に胸打たれた俺は、みんなを叩き潰すのをやめることにしました」 「ゆ!さすがおかあさんだね!!」 「おにいさんもこんなすてきなゆっくりにであえてよかったね!!かんしゃしてね!!」 「はいはい。でも悪いことをしたみんなにはお仕置きが必要だよね!」 「ゆ・・・おしおきいらないよ!れいむたちわるいことしてないよ!!」 「まりさはまりさたちのおうちでゆっくりしてただけだよ!!」 「ド饅頭は黙ってね! それでどんなお仕置きにしようかなって考えたんだけど、恐ろしいお仕置きを思いついちゃったんだ」 「ゆ゛ゆ゛!?もういやだよぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」 「おしおきだめぇぇぇえぇぇぇ!!ゆっぐりでぎないのぉぉぉぉおぉぉ!!」 「まりざもうおうぢがえるぅぅぅぅぅ!!」 「ここがおうちじゃなかったのかよ。まあいいや、とにかく新しく考えたお仕置きを改めて発表します! それは……『ゆっくりさせること』!」 「「「ゆ?」」」 さっきから鬱陶しく表情を二転三転させていた子ゆっくりたちは、俺の言葉に戸惑い、一瞬固まった。 ゆっくりすることが至上の目的であるゆっくりに対し、ゆっくりさせることがお仕置きだとは。確かに意味不明だろう。 「みんな全然大したことないって思ってるだろ? でもそんなことないよ。これは恐ろしいことなんだ。 怖い人間のところで悪さをして、せっかく生き延びて反省する機会を与えられたのに、 君たちはその機会すら生かせず、逆にゆっくりさせられてしまうんだ。 そうするとまた調子に乗って人間のところで悪さをして、今度は殺されちゃうかもしれないよね! ある意味ただ殺すよりも恐ろしい、残酷な制裁行為だね!」 「ゆゆ!ここでずっとゆっくりするからだいじょうぶだよ!!」 「おにいさん、れいむたちをゆっくりさせてね!!おかしいっぱいちょうだいね!!」 「おにいさんもまりさたちのおうちでゆっくりしていっていいよ!!」 「ゆっくちちていってね!」 「ゆっくり~!!」 俺のありがたいお言葉には耳も貸さず、ゆっくりどもはニコニコしながら嬉しそうに跳ねている。 こいつらの脳内ではもう思い思いのゆっくりライフが始まっているらしい。 親まりさは俺の言っていることの意義を一応理解したらしかったが、自分もゆっくりしたいという誘惑には勝てないらしく、 子ゆっくり達と一緒にニコニコして喜んでいる。まったく。まあこんなのは詭弁だから良いんだけどね。 大体「ゆっくり」って何なんだよ、抽象的過ぎるんだよ糞が。それで何か意図が通じるとでも思ってるのかね? そんな良く解らないものを人様に強いるゆっくりどもには、一度同じ苦痛を味わってもらいたい。 「じゃあみんな、お仕置き部屋に移動しようね。覚悟しててね」 俺はゆっくりたちを全員抱きかかえ、先ほど板で仕切った別室へと移動を開始した。 「わーい!おそらをとんでるみたい!!」 「ゆゆ!たのしそうなものがいっぱいみえるよ!!」 「とってもゆっくりできそうだね!れいむきにいったよ!」 「はやくゆっくちちたいよ~~!!」 「おにいさん!はやくあのおもちゃのあるところにおろしてね!まりさのゆっくりスポットにするよ!!」 覚悟しろとやや凄んで言ったにも関わらず、ゆっくり達は能天気なものだった。 部屋に置いてあるおもちゃなどを見て、期待に目を輝かせている。 親まりさもそんな子供達を見て満足そうに微笑んでいた。苦痛に歪ませてやりたかったが、今は我慢した。 さて、子ゆっくりたちを床に降ろしてやる。ゆっくりを抱きかかえたまま身体を低くかがめると、 子供達はゆっくり~!とか奇声を発しながら各々畳の床へとべちょべちょ着地していく。 親まりさも子供達と一緒に飛び出そうとしたが、そこをぐっと押さえつける。「ゆ?」とか言いながら こっちを見上げて来る親まりさだが、俺は視線に構わず、親まりさだけ仕切りのもう一方側へと降ろした。 「おにいさんありがとう!!れいむたちのためにおもちゃをよういしてくれたんだね!!」 「いっぱいゆっくりしてあげるからほめてね!!」 「ゆゆゆ~♪」 すべり台やブランコ、シーソーにアスレチック、ゆっくり用柔らかクッション、涼しげな水場などなど。 さしずめゆっくり用遊園地とでも形容すべきパラダイスに、我先にと飛び込んだのは、好奇心旺盛な赤ちゃんれいむであった。 しかしその楽園への跳躍の途中で、赤れいむは無様に「ぶべっ!」と叫んで床に落ちてしまう。 夢中だった赤れいむはその存在に気付かなかったが、透明な仕切り板にぶつかったのだ。 「ゆゆ?かべがあってとおれないよ!!」 「おにいさん!これじゃれいむたちゆっくりあそべないよ!!」 「はやくかべをどかすか、まりさたちをむこうにはこんでね!!」 「これじゃゆっくちできにゃい~~!!」 ぷくーっと膨らんで怒ってみせる子ゆっくり、泣き出してしまう赤れいむ。 しかし俺はにっこりと優しく微笑んで返す。 「大丈夫だよ、安心してね!」 「あんしんできないよ!ゆっくりはやくしてね!!」 「まあまあ。実は君たちには、お仕置きしなくても良いことになってるんだ」 「ゆ?なにいってるのかわからないよ!ゆっくりせつめいしてね!」 「さっき聞いてた子もいるだろ? 君たちのお母さんが、『まりさがだいひょうになるからこどもたちをたすけてね』って言ったんだ」 「ゆゆ!まりさたちのおかあさんはりっぱだよ!!」 「りっぱなこどものれいむたちもはやくゆっくりさせてね!!」 「だからぁ、君たちはそんなことしなくていいんだって」 「ゆ?」 「君たちのお母さんが代表になって、君たちの分まで『ゆっくり』してくるからね!」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ーーー!!?」 驚愕の表情を隠せない子ゆっくりたち。やがて一匹の子れいむが発見してしまう。 透明な板の仕切りの向こうに一匹だけたたずむ、親まりさの姿を。 「ゆゆゆ!?なんでおかあさんだけそっちにいるの!?」 「ずるいよぉぉぉおぉぉぉ!!れいむだぢもゆっぐりそっぢにづれでってねぇぇぇぇ!!」 「はやくこのかべをゆっくりなんとかしてね!!」 親まりさはおろおろと戸惑った様子で、子供達の方を見ている。 「おにいさん!これはどういうこと!?こどもたちもこっちにつれてきてあげてね!!」 「おいおい、そりゃ無いだろ。お前さっき自分で言ったこと忘れたの? 代表じゃなかったの?」 親まりさの苦情に、俺は親まりさにだけ聞こえるような小声で応えた。 「ゆ゛っ・・・でもこどもたちがゆっくりできないとかわいそうだよね!!ゆっくりはやくしてね!!」 「あのね、さっきの俺の話理解したよね? ここで『ゆっくり』しちゃうのは、子供達のためにならないんだよ。 正しい躾を受けられない子供ほど不幸なものは無いって、お前も親だったら解るよな?」 「ゆぅ~・・・?」 「だからお前が子供達の分まで『ゆっくり』するのは、立派な親の勤め! あいつらを助けることに繋がるんだよ。 むしろこんなところで『ゆっくり』させることは、お前らにとって大きな苦しみになるんだ! ゆっくり理解したか? お前は子供達のために、良いことをしているんだよ!」 「ゆゆっ?まりさ、ゆっくりしたほうがいいの?」 『子供達のため』『良いことをしてる』というフレーズに心が揺れたらしい。 そもそも『ゆっくりさせる刑』なんて意味不明なことを言い出した俺のマッチポンプなんだが、そんな難しい事は餡子には解らない。 ここまで来れば、思いついた通りの展開に持ち込むまでもう一押しだ。 「そうだよ! その板越しにお前らを分けたのは、見せしめのためなんだ。 恐ろしい『ゆっくり刑』を受ける母親を、子供達に見せて反省させるためのね」 『ゆっくりすると反省できず、結果的に恐ろしい』という論理から、 『ゆっくりすること自体が子供にとって恐ろしい』にすり替える。 冷静に考えればおかしな話だが、俺の畳み掛けに親まりさの餡子脳では対応できない。 「ゆ~・・・じゃあまりさ、みんなのためにしょうがなくゆっくりするよ!」 「偉いぞ! お前はまさしく親の鑑、子供達の誇りだな。だからちゃんと、家族の代表として宣言してやれ」 「ゆゆっ!わかったよ!!」 そして親まりさは、仕切り板の向こうでゆーゆーぴーぴー喚く子ゆっくりどもに笑顔で向き直った。 「おーい、お前らの偉大なお母さんから発表があるぞ!」 「みんな!!おかあさんがみんなのぶんまでちゃんとゆっくりしていくからね!! しんぱいしないでね!!ゆっくりしないでね!!」 「「「「ゆ゛ゆ゛!?な゛んでなのぉぉぉぉおおぉぉぉ!!」」」」 親まりさに裏切られ、自分達のゆっくりプレイスを独り占めされたと思った子ゆっくり達は、一斉に悲鳴を上げた。 うーん、親の心子知らずとはこのことか。 「おにいさんありがとう!!まりさ、あのこたちをくるしめるところだったよ!!」 「うんうん、お前も親として一皮剥けたな」 こいつはこいつで、俺の暗示にかかりまくってるしな。お礼まで言ってるよ。 ゆっくりがゆっくり出来ないことのどの辺が良いことなんだろうね。人間の子供の躾じゃないんだから。 親まりさだって、『自分がゆっくりするのが子供達のため』なんて本気で思ってるかどうか怪しいもんだ。 俺のこねた屁理屈の尻馬に乗って、自分がゆっくりする大義名分を得ようとしているんじゃあないのか? 自分がゆっくりするためには、他の全てを正当化する。そういう奴らだから今ここにいるんだ。 まあ仮に反省したとしても、全くもって無駄なことだけどね。それを生かす機会は永遠に来ないのだから。 こうして嘘と欺瞞で二重三重にコーティングされた、俺と親まりさによる躾が始まった。 子ゆっくりどもは真摯に反省する必要もなければ、欺瞞を暴き立てる必要もない。 ただ突きつけられた理不尽な現実に、ゆっくり出来ずに泣いててくれればいいのさ。 ーーー さて、それからゆっくりタイムが始まった。 まずは「おなかがすいたよ!!ゆっくりごはんもってきてね!!」と言う親まりさの要望に応え、 とりあえず棚にしまっておいたお菓子を出してやる。つーか、よくもいきなりここまで図々しくなれるもんだ。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」と癇に障る声を出しながら美味そうに食っている。 それを透明な板の向こうでうらやましそうに眺める子ゆっくりたち。 「おにーさん、れいむたちにもおかしちょうだいね!!」 「ゆゆ!おかーさんばっかりずるいよ!!」 「そう言うなよ。お母さんはお前らの為を思ってゆっくりしてるんだぞ。 良いお母さんだな! お前らはそんなお母さんの思いに応えないとね!」 「そんなことよりゆっくりおかしだしてね!!おもちゃももってきてね!!」 「こんなんじゃゆっくりできないよ!!」 こりゃ押し問答だな。しかし親に対して「そんなこと」は無いだろうに。 大体ゆっくり出来ないってどういう事だ? 針のむしろにいるわけじゃなし、畳の上で充分ゆっくりできるだろ。 極めて限られた条件下でしか『ゆっくり』とやらを出来ないこいつらを、果たしてゆっくりと呼んでいいものか。 「お前ら全然ゆっくり出来てないね! ちゃんとお母さんの想いを受け止めてるんだね。 お母さんがああしておしおきを受けている甲斐があるってもんだね」 「ゆゆ!?あれのどこがおしおきなの!!とってもゆっくりしてるよ!! あとまりさはゆっくりできないゆっくりじゃないよ!!ゆっくりできるよ!!」 おや、それは問題だ。俺はそう言う子まりさの帽子を取り上げた。 「ゆ゛ゆ゛ー!!まりさのぼうしかえして!!それがないとゆっくりできないよ!!」 「それはそれは、良かった良かった。お母さん思いの良い子だよお前は」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ーーー!!ゆっぐりじだいのぉぉぉぉ!!」 俺はしきりに『ゆっくりするのは悪いこと』であると強調していく。 しかし子ゆっくりたちにそんな論理を受け入れられるわけがない。親まりさに苦情を言う子ゆっくりも当然出てくる。 お菓子を食べ終えた親まりさは、すべり台を「ゆ~♪」と滑って子供のように遊んでいる。 子供の分もゆっくりするんだから当然か。 「おかーさん!なんでたすけてくれないでひとりでゆっくりしてるの!!」 「そこにあるおもちゃはまりさたちのだよ!!ひとりじめしないでね!!」 「しょんなおかあしゃんとはゆっくちできにゃいよ~~!!」 「それでいいんだよ!ここでおかあさんがだいひょうとしてゆっくりしてるからみんなはゆっくりしないですむんだよ!! そっちでおかあさんにかんしゃしててね!ゆっくりしないでね!!」 「な゛んでぞんなごどい゛うのお゛ぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!?」 この親まりさの子供に対する態度には、虐待好きの俺も顔負けである。クレイジーだぜ…… つがいや家族の絆を引き裂いて遊ぶ為には、いかにゆっくりの思考を誘導するかが問題になるが、 ここまで俺に追従してくれるとは予想外だ。 一瞬立派かもしれないと思ったが、所詮まりさはまりさだったかな。 そんなことを考えながら、俺は親まりさの乗るブランコを後ろから押してやる。 徐々に振れ幅が大きくなり、勢いを増していくブランコ。前後に振れる度に「ゆっゆっ」と声を出して喜ぶまりさ。 ある高さに達した時、ついに親まりさはぽーんと空中に投げ出される。 「ゆ~ん♪ おそらをとんでるみたい!!」 その様を見つめる子ゆっくりたちの瞳は、親まりさが地面に激突し、怪我をすることへの期待に輝いていた。 一人でゆっくりした罰を受けろ、と。さっきは身を挺して自分達を助けた母親なのにだよ? ひどい話だね。 しかしそんな子供達の様子など視界にも入れず、親まりさはやわらかクッションの上にぽよんと落下し、 そのままクッションの上で気持ち良さそうに転げまわっている。 一人ゆっくりした罰を受けるどころか、ますますゆっくりしてしまっている親まりさ――― その圧倒的ゆっくりっぷりは、まるで運命が味方をしているようにも映っただろう。 あまりに理不尽な現実に、子ゆっくり達は何とも言えない絶妙な表情で固まっている。 「ゆ~!このクッションとってもきもちいいよ!すごくゆっくりできるよ!」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!なんで!!な゛んでなのぉぉぉぉぉ!!!」 「何でって、あれは加工所でも売ってないような高級ゆっくりクッションだからね。 並のゆっくりじゃ一生触れないような代物だよ。そりゃあ気持ちいいだろうなあ」 「ぞんなごどぎいでないぃぃぃぃぃい゛ぃぃぃ!!」 「おがあざんばっがりずるいの゛ぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!れいぶだちのゆっくりどらないでぇぇぇえぇぇぇ!!!」 「ここはあちこちゆっくりできるものだらけの、さいこうのゆっくりプレイスだよ!! みんなこっちにこれなくてよかったね!!そっちでゆっくりしないでみててね!!」 「「「おがあざんのばがぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」 「ゆゆ!みんなのためにやってることだよ!ゆっくりりかいしてね!!」 ホーントにバカですねぇ。 子供に罵倒されたゆっくりが悲しむ様は何度か見てきたが、こいつはゆっくり出来る喜びの方が勝っているようだ。 子供達に見せ付けるように本能の赴くまま、色々なアイテムを使って存分にゆっくりしている。 思えば、ゆっくり特有の人を見下す態度、他が自分のために動くのが当然というような言動。 それも本能なのだとすれば、他者を見下して「よりゆっくりしている自分」を際立たせることにより、 更なるゆっくりを実現するための無意識の働きなのかもしれない、と俺は思った。 つまり「みんなのぶんまでゆっくりする」為には、そういった優越感も親まりさにとっては重要なのだ。 子供達のためという大義名分、最高のゆっくりプレイスという具体的動機。 ゆっくりするのに充分なお膳立てを得たまりさは、もはや全力でゆっくりすることに何の躊躇も無かった。 「ゆゆゆ!おにいさん、おなかがすいたよ!ゆっくりごはんをもってきてね!!」 「ゆ!れいむもおなかすいたよ!!」 「ゆっくちごはんたべゆ~~!!」 「おっと、もうそんな時間か。用意するから待ってろよ」 ゆっくり達全員から催促され、俺は台所に向かう。 ちゃちゃっと晩飯を作り、俺と同じ献立をお盆に載せ、親まりさのところに持っていく。 そう豪華な食事ではないが、野生のゆっくりにとっては人間の食事というだけで至上のごちそうだろう。 よだれをだらだらと垂らした子ゆっくりどもが、飯を催促しながら足にぽんぽんぶつかって来るが無視。 結局、「ゆぅ~・・・」とか言って萎んでいきながら親まりさに食事を運ぶ俺を見送るしかない。 「ゆ!おそいよおにいさん!」 「悪い悪い、ゆっくりしてたもんでな。お前もゆっくりしてたろ?」 「ゆゆ!もちろんゆっくりしてたよ!!まりさはみんなのぶんもゆっくりするよ!!」 「よーし、そんなゆっくり出来るゆっくりまりさにご飯だぞー」 「ゆー!おいしそうなごはんがいっぱいあるよ!!」 「みんなの分もたくさん食べないとな?」 「ゆっ!そうだね、いただきます!はっふ、うっめ!めっちゃうんめ!すごくゆっくりできるごはんだよ!!」 俺達はしきりにゆっくりしていることを確かめ合っていた。 『ゆっくり』が何を指すのかは、未だに全然解らないが。 板の向こうまで美味しそうな匂いが流れていくので、子ゆっくり達は辛抱たまらないだろう。 脱水症状起こすんじゃないかってぐらいよだれを流しながら、爛々と輝く目で親まりさの食事を見つめる子ゆっくりたち。 「ゆゆ!れれれいむたちにもはやくごはんちょうだいね!!」 「ゆっくちはやくたべたいよ~!」 「おなかがへってしにそうだよ!しんだらゆっくりできないよ!!」 「ゆ゛!?まりざあぁぁぁぞんなこといっちゃだめぇぇぇえぇぇぇ!!」 「ゆ゛ゆ゛!!しんだらえいえんにゆっくりしちゃうよ!!!」 子まりさの『ゆっくりできない』発言に反応した子れいむが子まりさを咎める。自浄作用。 ゆっくり出来ないのは良いことだが、死なれてはつまらないので食事を与えるとする。 予め抜いてきた庭の雑草を子ゆっくりたちの前に放り捨てる。サービスで土は付いたままだ。 「ゆ゛ぅぅぅ!!なにごれぇぇぇえぇぇぇ!!」 「きたないよ!!こんなのごはんじゃないよ!!」 「お前らいつもこんなの食ってるだろう」 「お゛があざんだげずるいよ゛ぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」 「こんなまずそうなくさたべられないよ!!おかあさんとおなじごはんをだしてね!!」 「これじゃゆっくちできないよ!!」 「へぇ~、ゆっくり出来ないのかい」 子れいむや子まりさ達はしまったという顔で、失言をした赤れいむを睨んでいる。 赤れいむは何が悪いのか解らず、目に涙を浮かべたまま姉ゆっくり達の視線に震えている。 「ゆ!いまのみんなにとってさいこうのごはんだね!!みんなはずっとそれをたべてね!!」 「「「ゆ゛ぎぃぃぃぃいい゛ぃぃぃぃぃぃ!!」」」 ごはんをべちゃべちゃ食い散らかしながら、親まりさは子供達に向かって笑顔で言い放つ。 子ゆっくり達は涙を流し、ぎりぎりと歯噛みしながら、 何匹かは失言の赤れいむを攻撃し、何匹かは仕切り板にべちゃべちゃ体当たりしている。 何か俺、親まりさと息が合って来た? 人生に二度とない、貴重な体験かもしれない。 しばらく見ていると、最初は文句を言っていた子ゆっくりどもも空腹には勝てないのか、 ごちそうの良い匂いの漂う中、ばらまかれた雑草をもそもそ食べ始めた。 うなぎを焼く匂いだけでご飯一杯いけた人もいたということだし、これはこれでオツなのかもしれないな。 だが「しあわせー♪」などと言い出すゆっくりは一匹もおらず、親まりさと対照的に重苦しい食卓となった。 もっとも、もしも雑草が美味しかったとしてもそれを口に出そうものなら、 俺に……いや、親まりさに咎められ、更に食事のグレードを下げられるだろう。 なぜなら親まりさのゆっくりは、みんなの分のゆっくり。 子供達がゆっくりしてしまっては、自分が存分にゆっくりできないのだ。それもこれも『子供達のため』。 このパラドックスに対してわずかな疑念が浮かんでも、ゆっくりしたいという本能的欲求に掻き消される。 クックック、この状況……いつまで続けようかな? よく考えてなかった。 しかしこの分では限界も近そうだ。ゆっくり見守っていくとするか。 やがてゆっくり達は食事を終え、就寝の時が近付いてきた。 あくびをした親まりさは、先ほどのクッションをベッド代わりにうとうととしていた。 と、そこに俺は小さなタオルケットをかけてやる。 「ゆ?おにいさん、これはなに?」 「掛け布団だよ。寝汗が冷えて風邪でもひいたらゆっくりできないだろ? よく汗を吸うし、風も通すから暑苦しくもならないぞ!」 「ゆ!とってもやわらかくてきもちいいよ!これならゆっくりねむれるよ・・・」 「それからこれもな」 ゆっくり用耳当てを親まりさに見せる。 「ゆ!こんどはなあに?」 「これをつけると静かになって、ぐっすり眠れるようになるよ。 風の音とか犬の鳴き声とかで起こされちゃったらゆっくり出来ないだろ? 朝になったら取ってやるよ。ほうら」 「ゆゆ!すっごくしずかになったよ!ありがとうおにいさん!!」 ゆっくりに耳なんてものがあるのか甚だ疑問だったが、効果は発揮されているようだ。 しかし今の俺って、まるでゆっくり愛でお兄さんだよな。正直気分悪いが、何事も経験だな。 それに後ろの方で苦しんでるゆっくり達もいるわけだし。 俺は親まりさにおやすみと声をかけて頭を撫でると、親まりさは小さく身体を震わせ、すぐに寝息を立て始めた。 親の過剰なゆっくりっぷりに、「ゆ゛!ゆっぐりねるなぁぁぁあぁぁぁ!!」「おがあざんはねむれずにくるしんでね!!」 などと呪詛の声を送っていた堪え性のない子ゆっくり達だったが、耳当てによって何も聞こえなくなったことを悟ると、 さんざん喚き倒して疲れたのか、みんなうとうとと夢の世界に入り始めた。 と、そこで俺が一喝。 「ゆっくりしていってね!」 「「「「「「ゆっ!?ゆっくりしていってね!」」」」」」 俺の挨拶に対し、本能的に子ゆっくり達がお決まりの返事をする。 こればっかりは逆らえないのでしょうがない。たとえゆっくりが何をしている時であっても。 「ゆ!おにいさんなにするの!!やめてね!!」 「まりさたちはつかれたからゆっくりねるんだよ!!」 「ねみゅれないよ~!!」 「え~? だからお母さんの眠った夜中ぐらい、君達にゆっくりしても良いよって言ってるんじゃないか。 ほら、ゆっくりしていってね!」 「「「「「「ゆっくりしていってね!ゆ゛~~!!」」」」」」 ゆっくりって、本当にマヌケな生き物ですねえ。ちなみに親まりさは耳当てをしてるのでぐっすり夢の中だ。 その安眠を保障するためにも、子ゆっくり達をゆっくり眠らせるわけにはいきませんもんねー。 とはいえ、俺も人間なので一晩中ゆっくりに付き合って起きてるわけにはいかない。 そこでこいつの登場だ。河童謹製、蓄音機~。 これは音を記録し、再生できる機械だ。更に自動ループ機能もついている。作業用BGMとか流す時に使える。 まあ作業っつっても主に虐待なんスけどね。 で、今回はゆっくりが「ゆっくりしていってね!」と言った時の音声を記録したものを、一晩中ループさせ続ける。 声は数秒置きに流れる。眠りに落ちつつある子ゆっくりを確実に引きとめ、覚醒させるだろう。 ゆっくりに止められないように高い台に置いて、セット完了だ。 いきなり知らないゆっくりの声が流れ出し、子ゆっくりたちは戸惑いの表情を浮かべた。 《ゆっくりしていってね!》 「「「「「「ゆっ、ゆっくりしていってね!ゆぅ・・・」」」」」」 《ゆっくりしていってね!》 「「「「「「ゆっくりしていってね!ゆ゛があ゛ぁぁぁぁ!!」」」」」」 《ゆっくりしていってね!》 よしよし、ちゃんと動作しているな。 ゆっくりは寝不足が原因で死ぬことはないと噂に聞いたので、実験してみる次第だ。 機械の作動を確認した俺は、「おやすみ~」と小さく声をかけ、部屋を出て自分の寝室に向かった。 寝る時は俺も耳栓をした。子ゆっくりの悲鳴が聞こえてきてうるさいのなんの。 明日に備えて、俺もゆっくり眠らないとね。 続き このSSに感想を付ける
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第3話 ゆっくりたちの、実にゆっくりとした一週間 一日目 天高い秋晴れの空が広がっていた。 小春日和の朗らかな日差しを受けて、二匹のゆっくりたちは今日も元気に跳ねまわる。 ゆっくりまりさに誘われて、ゆっくりれいむは追うように魔法の森へ。 今は二匹連なって仲間睦まじく秋空を飛ぶトンボを、わき目もふらず追いかけっこ。 しっとりと濡れた露草の藪を踏み越えて、たどり着いたのは森の奥の開けた野原だった。 流れ込む肌寒い秋風は、トンボの細い体を宙へ高く吹き上げる。 「ゆー! ゆっくりしていってね!」 ゆっくり二匹の願いもむなしく、トンボは風をとらえて青く高く秋の空へ。 ぴょんぴょんと口を開いて飛び上がる二匹。だが届くわけもない。 トンボを見送るゆっくりまりさはしょげ返った表情。 口寂しいのか、茂みのクコの実をむしゃむしゃとほおばる。 そして、ぷくうと膨れ面。 「おなか空いたよ、おうちかえる!」 ゆっくりまりさの見つめる東の空は深く青みがかり、黄昏の近さを思い出させる。そろそろ暖かなねぐらに替える頃。 けれど、ゆっくりれいむは承知しない。 「まだちょっと早いから、ゆっくりしていこうね!」 遊び足りないと飛び跳ねながら訴ってくる。 まりさの傍へすりよって、その帽子のあたりにすりすりとほっぺをすりつけた。 この上ない友愛の仕草に、とろんと赤みがかるまりさの表情。 「ゆ……ゆっくりする……」 たやすく屈するまりさだった。 こうして始まった、今日最後の遊び場は生い茂るススキの野原。 人の姿も隠れそうなその場所で遊ぶ種目は決まっていた。 そう、かくれんぼ。 「ゆっくり30秒数えてね!」 目をぎゅっと瞑るまりさに声をかけて、ススキに身を沈めこむゆっくりれいむだが。 「みつけた!!!」 あっさりと見つけ出すゆっくりまりさ。 「?」 きょとんとした表情で不思議を表現するれいむにまりさはフと不適な笑い。 隠れる一帯のススキが押し倒されて道となっていることを、まりさは教えようとはしなかった。 鬼が交代となり、今度はれいむが探し回る番。 しかし、れいむの失敗を目のあたりにしたためか、まりさは中々見つからない。 ススキの下、藪の中、木陰。目に入るところを探し回ってもどこにも見当たらなかった。 「まりさ、どこー?」 太陽が山々に姿を隠し、暗がりが降り始めて、急に心細さに襲われるゆっくりれいむ。 日が完全に沈めば、野犬の群れに出くわしかねない。 「ゆっくりしないで、でてきてね!」 ほとんど涙目で森を走り回る。 「れいむ、こうさん?」 すると、意外なところからまりさの声が聞こえてきた。 そこは荒れ果てた家屋。魔法の森に暮らす数人のモノ者好きがいるらしいが、この廃屋は誰かのかつての住処なのだろうか。 廃屋の庭は伸び放題の藪になっており、その草むらから石積みブロックで囲った建造物がにょっきり顔を覗かせていた。 幅は1メートルぐらいだろうか。人が建てたらしい、しっかりとした枠組み。その傍らに一本の柱がのびて、吊り下げられていたのは錆びた滑車。だが、繋がれていただろう綱はすでに朽ち果てて残骸が絡みつくのみだった。近くに底の抜けた大きな桶が転がっているのが目に入るが、ゆっくりたちには木っ端にしか見えない。 そんな残骸よりもゆっくりれいむの興味を占めていたのは、建造物の上で得意げにふんぞり返るゆっくりまりさ。 建造物の上に渡された粗末な板の上から、まりさはニヤと不敵な表情で笑いかけてくる。 「ここを知っているのは、わたしたちだけだよ!」 その言葉に、れいむは素敵な遊び場を見つけ出したことに気づいた。 朽ちた廃屋を恐る恐る探る二匹。ソファの一つでも残っていたら、その上でとびはねて埃を払い、新たなゆっくりスペースにできるかもしれない。 そこはきっと優雅なゆっくりの一時。自分たちだけのゆっくり城。 「うっとりー!」 あらぬ方向へ躍りだした夢に、ゆっくりれいむの表情も緩みがち。 「れいむ! 明日から、ここを探検しようね!」 まりさの言葉を、喜色満面で受け止める。 「うん、やくそくだよ!」 胸躍らせるわくわくに、いてもたってもいられない。 明日からの大冒険に弾む心のまま、れいむはまりさへと弾み寄る。 大きくジャンプ。まりさの元へと飛びのった。 まりさも身を摺り寄せて親友に応える。 「ゆゆゆ……」 「ゆっゆっゆ!」 とろけそうな嬌声で、二匹は芯からの喜びを訴えあう。でも、まだ足りない。この嬉しさをあらわすには、アレしかなかった。 ゆっくり二匹は狭い板の上で、身をかがめる。 引き伸ばされたゴムがはじけるように、この日一番の見事な跳躍。 「ゆっくりしていってね!」 その頂点で放たれたのは、黄昏の秋空に響き渡るゆっくり二匹の美しい唱和だった。 陶酔の表情のまま、二匹は同時に板の上へ落下していく。 どすんと、景気のいい音をたてて板で弾むゆっくりの全身。 途端に体の下で鳴った、くぐもった音。 なんだろう。顔を見合わようとするゆっくり二匹。 だが、視線が合う間もあらばこそ、お互いの顔が大きくぶれだした。 「ゆっ!?」 めきという乾いた音が、へし折られる木の音だと気づいたときにはもう遅い。 二匹は板の下に急激に落ちこんでいく。 ぞわりと総毛立つ感覚。 次の瞬間、慣性に捕らわれた二匹の体は真っさかさまに下へ。 一瞬、見下ろした二匹の目の前には、どこまでも広がる何も無い暗闇。 まりさがのっていた建築物は、塞がれることなく板一枚で封印されていた古井戸だった。 二匹が弾んでへしおったのは、まさにその封印の板。 突き破った二匹の落下を受け止めるものはなにもない。 「ゆ、ゆっくりー!」 遠ざかる絶叫も井戸に吸い込まれて、すぐに何も聞こえなくなる。 後に残されたのは静寂。 やがて太陽はすでに山間に没して、秋の寒々とした夜気が漂いだす。 一斉に鳴き始めるコオロギの声。 何事も無かったかのように深まり行く秋の夕暮れだった。 二日目 「ゆっくり! ゆっくりしていってね!」 必死の呼びかけが、何度もゆっくりれいむを揺さぶった。 ゆっくりまりさのやけに近くからの呼び声。 ようやく目を覚ましつつある、寝ぼけ眼のれいむ。でも、まだ夜中なんだから眠らせて欲しい。 ここは見渡す限りの暗がり。 もっとゆっくりすればいいのに。 「ゆ……? ゆゆゆっ!?」 そんな思いをまりさに伝えようとして、ようやく自分の片頬を圧迫する固い感覚に気づいた。 もう片方の頬に押し付けられていたのは柔らかい感覚。 耳の近くでまりさの息遣いがして、その感触がまりさであることを確信する。 お互いのほっぺたがぴったりくっついてその体温の暖かさが心地いいのだけど、この暗がりはじめじめと蒸していて、べっとりとはりつく感触。ちょっとだけ離れたい。 でも、できなかった。前にも後ろにも動けなかい。跳び上がることも、押し付けられたまりさの圧力に遮られてしまう。 「ゆっくり離れてね!」 ゆっくりれいむのお願いに、ゆっくりまりさの体がわずかに震えた。 「動けない……!」 震えて、泣きそうな声。 どうしたのだろう。悲しそうなまりさを慰めたい。 でも、自分も身動き一つできず、ただ視線だけを走らせる。 れいむの周囲は相変わらずの暗闇だったが、闇に目が慣れてきたのか暗がりにぼうと浮き上がるまりさらしき輪郭。だが、自分を押さえつける石の感触の正体がつかめない。 ようやく視界に変化があったのは、視線を真上に向けたとき。 くっきりと、丸く切り取られた青空がはるか遠くに見えた。 太陽はまだ低いのか光が差し込むことはなく、ただ入り口付近の朧に眩しい。 れいむは、自分がどんなところにいるのかようやく悟った。 井戸という知識はゆっくりにはない。深い穴の途中にひっかかって身動きできない状況を、絶望という言葉で理解できただけだ。同じ方向を見て、ほっぺたをあわせている自分とまりさ。その両側はがっしりとした石積みが押さえ込んで身動きできない。 いや、それは幸運なことだろう。壁につっかえなければ、井戸の底へまっさかさまに落ちていくだけだ。 けれど、石積みの壁は古びているのか、ゆっくりたちが身じろぐとぽろぽろと壁面がこすれて下に落ちていく。 わずかな間に続いて、真下から響いてくる水の音。 「ゆゆゆゆ!」 ゆっくり二匹を恐怖に至らしめたのは、穴のさらなる深さよりも水で満たされているだろう、その奥底だった。 水溜りや少しの雨なら、はしゃいで遊びまわることもできるゆっくり。 だが、長時間全身が水につかれば、皮がぶよぶよにふやけて、やがては中身を水中に吐き散らすはめになる。 だから、雨の日は巣穴で家族とゆっくり過ごすのがゆっくりたちの常識だった。 今は二匹がぴったりと穴につっかえているからいいが、もし外れて水中に落ちた場合、待っているのは緩慢な死、腐敗。 「ゆーっ!」 一際高いゆっくりれいむの泣き声。 だが、果たしてこの井戸から外に届いたかどうか。 井戸の中は雫の落ちるほどが響き渡るほどの、閉ざされた静寂。望みは薄かった。 れいむの絶望が恐怖に変わる。 「いや! いやいやいやいや!」 「おちついて、ゆっくりしてね!」 取り乱したれいむに、ゆっくりまりさの声が届かない。 「ゆっくりしないと落ちるううう!」 とうとう、まりさも涙声。 その切羽詰った叫びとともに、れいむの壁に面した頬が、ずりと壁面を擦った。 ほんのわずかながらも、強烈に肌がざわつく落下の感覚。 「ゆ!」 もはや、身じろぎもできないれいむ。 「ね゛っ。ゆ゛っぐり゛じよう!」 まりさの懇願混じりの声に頷くこともできなかった。 穴の中央付近でひっかかっているこの均衡が、容易く壊れることをようやく理解する。 二匹は、ほぼ平行につっかえているが、実感まりさの方が下がり気味だった。 ただ、壊れかけた石壁が一箇所飛び出して、ゆっくりまりさの顎にぎっちりくいこんでいる。 そこをとっかりに二匹は横からの圧力で落下を免れていた。ごくわずかな幸運。 それでも、ほんの一時だけ死に猶予を与えているだけにしか思えなくて、ゆっくりれいむの喉を悲しみが突き上げる。 「ゆっ、ゆっ……!」 ゆっくりまりさも泣いていた。しゃくりあげることすら許されない、この絶望に。 どれほど悲嘆に暮れていただろう。 れいむは周囲が明るく照らし出されていることに気がついた。 日差しが高くなり、井戸の上空から一直線に差し込む光。 湿って凍えたゆっくり二匹をぽっかぽかに包み込む。 「暖かいね」 「うん」 れいむの呟きに、短いまりさの返事。 「気持ちいいね」 「うん」 相変わらずのまりさの短い返事。でもゆっくりと言葉を交わせたことがれいむは嬉しかった。 ほかほかの日向にほっこりと表情を和らげる二匹。太陽が隠れるまで半刻を要さないだろうが、一時のゆっくりを存分に味わう。 光に照らし出されて周囲の様子が明らかになり、二匹は少しだけ落ち着きを取り戻していた。 概ね、予想通りの井戸の光景。忘れ去られた井戸の中で、ほっぺをひしゃげてよりそう二匹の姿はひどくユーモラス。二匹がへばりつく石積みの壁には、ところどころ穴があいて、広がる光の領域に慌てて逃げこむ蟻やムカデ、イモリの姿があった。 れいむがその壁に向けて精一杯舌をのばす。舌に張り付く数匹の蟻んこたち。 ぺろっと飲み込んで、むーしゃむーしゃと咀嚼する。あんまり幸せな味ではなかったが、食べることができたという事実がれいむにわずかな希望を与えた。 このまま、しのいで張り付いていれば誰か井戸を覗き込む人が現れるかもしれない。そうだ、森に行こうと誘ったのはまりさ。誰かに行き先を教えていれば、家族のゆっくりや仲間が探しにきてくれるかもしれない。言っていなくても、まりさの行動範囲に魔法の森は必ず含まれる。探す目的地の一つとなるだろう。 見つけてもらえば、また存分に太陽の下でゆっくりできる! 「まりさ、あのね!」 その思い付きがもたらした希望、喜びを、ほかならぬまりさと分け合いたかった。 だが、まりさは先ほどまでの日向ぼっこの表情が一変し、またじんわりと涙を流していた。唇をかみ締め、ひっくひっくとえづく。 「まりさ、どうしたの?」 「ゆっ、ゆっぐり゛痛ぐなっでぎだ!」 二匹の重みを受ける石壁のでっぱり。そこに接したまりさの顎にうっすらと走る一筋の線。石壁に擦ってできたわずかな切り傷。 まりさの顔の影になって見えないれいむに、にわかに募る不安。 「だいじょうぶ!」 「……うん、ゆっくりしていれば治る」 実際、日向でのんびりしていれば、一日で薄皮がはって消えるだけの傷。 まりさは気丈な言葉でれいむを安心させてくれる。 それでも、自分たちを助けるために負ったその傷を、なめて労わってあげられないのがれいむには悔しい。 だから、せめて心を労わりたい。 「ここを知っている誰かがきっときてくれるよ、ゆっくり頑張ろうね!」 きっと、森に遊びに言ったことを知った誰かが気づいてくれるよ! そんな、言葉にするのももどかしい想いを口にする。 まりさはどんな表情をしたのだろう。 れいむと同じく希望の取り戻した笑顔を浮かべたのだろうか。 だが、わからない。 ほとんど次の瞬間、井戸は暗闇に沈んでしまっていた。 目蓋に残った光の斑点は、井戸から引き上げていった陽光の残滓。 あまりにも短い日差しの終わりに、わかっていながらもれいむは打ちのめされる。 黙り込んでしまったゆっくり二匹。 「ここを見つけたせいで……ごめんね」 沈黙を破ったのは闇のなかからの、か細いまりさの声。 泣きすがる、哀れみを乞う響き。 れいむは、親友のそんな声を聞きたくなかった。 心が滅入って、ついつい尻馬にのって相手を責めたくなる気持ちを跳ね除けるように叫んでいた。 「違うよ! れいむがもっと遊ぼうといわなければよかったんだよ!」 だが、空元気も、傷を舐めあうことも二人に救いをもたらさない。 それ以上何を言えばいいのかわからず、上を見上げた。 いつか現れるかもしれない仲間の姿を見逃さないよう、ひたすらに空を見ていた。 日暮れの早まる秋の空。 色合いが朱に染まる夕焼け、数刻もしないうちに夜が訪れる。 井戸の中は、すでに光一つない宵闇。 もう、ゆっくりたちが出歩ける時間ではない。 どこから落ちる水滴の音と、カサカサとはいまわる虫たちの音だけが異様に響きわたる。 「ここから出して」 「おうちかえる」 ぽつりと時折こぼれる二匹の呟き。 だが、やがてそのささやかな願いを飲み込むのは圧倒的な暗闇。 嗚咽すらも押しつぶすような静寂に二匹の存在は沈み込む。 三日目 ゆっくりれいむは家族の夢を見ていた。 藪の奥の横穴にひっそりとある暖かな我が家。 姉妹れいむたちと押し合いへし合いして遊んでいると、お母さんれいむが登場。下膨れたした顔で、「ゆっ! ゆっ!」と娘たちを叱る。 渋々寝床に入るゆっくりれいむたち。でも、少しでお母さんれいむの傍に近寄れるように動き出して、再び始まる大騒動。 結局、お母さんれいむにぴったりと全員がよりそって、ぽかぽかの体温を感じながらゆっくりと眠りについた。 ゆっくりお母さんはぷっくり膨らんだほっぺを娘たちに押し当てたまま「ゆー! ゆ-!」といつもの子守唄。娘たちを優しく眠りに導いてくれる。 絶対的な安堵を与えてくれる母親の懐。ゆっくりれいむはただ幸せな夢を見ていればいい。よだれをたらしつつ、存分にまどろみを貪る。 これ以上ゆっくりしようがないほどにゆったりとした心。 幸福に包まれて、れいむは気ままに明日を思う。 明日、目が覚めたら何をして遊ぼうかな。 最近、ゆっくりまりさとばっかり遊んでいたからたまには他の皆も入れて一日中ゆっくりするのもいいかもしれない。 あれこれ考えながら眠りへと落ちていくれいむ。 さあ、次に目を覚ませばいつもの楽しい毎日の始まりだ…… 期待に心を弾ませて目を覚まそうとするゆっくりれいむ。 だが、れいむが感じたのは、ほっぺたをぽつりと濡らす雫だった。 「冷たいよ!」 姉妹か誰かの悪戯かと、寝ぼけ眼で不満を口にした。 だが、顔全体に降り続く雫が急速にゆっくりれいむの眠気を奪い去っていく。 それは、芯まで凍えそうな秋雨だった。 現実を思い知らされる井戸の暗闇。 上を見上げれば、丸く切り取られた空はうんざりするほどに暗い雲の色。 もっとゆっくり夢をみていたかった。恨めしげに天を睨むが、れいむの髪やほっぺを叩くような雨足は弱まることはなかった。石壁からはひっきりなしに伝い落ちる雨だれ。 いつ止むとも知れないどんよりとした空模様だった。 そんな天気を眺めていたれいむは、ふと感じた違和感に小首を傾げる。 井戸の出口まで、少し遠くなったような? 「起きたなら、ふんばってね!」 必死なまりさの声に、違和感の正体に気づく。 濡れてグズグズに緩んだ頬。壁面との抵抗が極端に弱まっていた。 わずかながら、ずり落ちつつある二匹のゆっくり。 「ゆ、ゆっくり!」 青ざめてぎゅっと頬をよせると落下は一端停止する。まだ、さしたる力を込めずともふんばることはできそうだ。 だが、力を完全に抜くとすぐさま底へ落ち込みそう。 数秒足りとも力を緩められない。24時間中続く、無慈悲な義務がここに生まれた。 もはや、さきほどまでのように無防備に寝入ることはできない。 「ああああ! ゆっくりでぎないよお!!!」 ゆっくりまりさの叫びは、今のれいむの悲嘆そのものだった。 二匹、力が弱まらないようにぎゅっと口結んでふんばって、それでもぽろぽろと涙があふれてくる。 だが、これはいつまでも続く地獄ではないと、れいむは信じたい。 昨日から抱いている希望、探しにきてくれる友人や家族のことがれいむの脳裏に浮かぶ。 「まりさ、がんばろうね!」 今頃、お母さんれいむや他のゆっくりまりさたちがこの雨の中を探し回っているのだろう。 この井戸のあるあばら家は魔法の森のほど近く。 うまくいけば一日もたたず探索範囲に入る。 問題は、それまでの数日を耐えられるかどうか。 「だから、もう少しがんばろうね!」 まりさを落ち着かせるための笑顔向けて、れいむの健気な呼びかけ。 だが、まりさの表情はますますクシャクシャの泣き顔になっていく。 「ひっく……っ、がんばっても……どうせ、誰もきてくれないよおおお!」 突然の嗚咽交じりの絶叫に、びくんと震えるれいむの全身。 単なる弱音ではなく、確信をもったまりさの口調にれいむの顔から笑顔が引けていく。 変わってれいむの顔に張り付いたのは不審。 「どうして、そんなことをいうの?」 「だって……」 応えるまりさの顔は、もう雨と涙でどろどろだった。 「だって、皆には霧の湖で遊ぶと言ったんだもん!!!」 「ゆ?」 れいむの脳みそはまりさの言葉を理解しきれず、硬直する。 わかっっていたのは、霧の湖はこことはまるで反対側にあることだけ。 その意味がじんわりとれいむに染み入ってくる。 ガクガク震えだす全身。 どんどん強くなっていく。 止まらない。 体を震わしながらこみ上げてくるのは、得体の知れないふつふつとした感情。怒りか悲しみかもはや形をもたないままに沸点を超えた。 「まっ!! ま゛り゛ざあああ、なんでなの! なんでえええ!!!」 困惑、怒り、やるせなさ、感情のにごりが煮えたぎるれいむの狂乱だった。 「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめ゛んな゛ざいいいいいいい!」 わんわんと声をあげて、しゃくりあげながら謝罪を繰り返すまりさ。 昨日までのれいむなら、親友のそんな様子を見ればそっとよりそって泣き止むのを待っていただろう。 だが、もはやれいむは容赦しない。 「はやく説明してね!!!」 激しい詰問に、ひぃと息を飲むゆっくりまりさ。 「ゆっくりパチュリーやゆっくりアリスたちに邪魔されずに、れいむと一緒に遊びたかったのおお!!!」 その言葉に、れいむはいっつもまりさにくっついて離れない二匹のことを思い出す。 まりさと遊んでいると、ゆっくりパチュリーがどこからともなく這い出して、二人の後をゆっくりとついてくる。そうなれば、弾むように力一杯遊ぶことはできない。パチュリーを中心にして静かに過ごすゆっくり。 ゆっくりアリスはもっと扱いが難しい種。普段は遊びに誘っても嫌がって一緒に遊びにはいかない。だけど、諦めて他のゆっくりと遊んでいると木陰からじっとりと見つめてきて、もう一度誘わない限り一日中続くのだ。結局、お願いして一緒に遊んでもらうことになる。 だが、れいむとまりさは知らなかった。ゆっくりアリスが本当に問題行動を起こす発情期のことを。 発情期を迎えたゆっくりアリスは、無理やりゆっくりまりさと交尾しようと森や平原などいたるところを徘徊し、見つけるなり集団で襲い掛かってくる。お母さんれいむのように成熟しきった個体同士なら普通に交配する限り、時間はかかるが何度でも子を生める。だが、まだ青いゆっくりまりさにとって、無理やりの交尾は極めて危険だった。ある程度の子供が生えるものの、母体のゆっくりまりさはショックのあまりに白目をむいてそのまま朽ち果ててしまう。 凄惨を極めたのが、ゆっくりアリスの群れ全体が発情した三年前。ゆっくりまりさの集落がいくつも全滅して、やがて一斉に生まれてきた子供たちがゆっくりまりさの生息数大爆発を招くことになる。野草や昆虫たちを手当たり次第に 食い尽くすゆっくりまりさたち。ゆっくりまりさと交配しやすい種であるゆっくりれいむも数を増やして、生態系の破壊は広がっていった。その処理策として設立されたのが、ゆっくり加工所だった。 もちろん、ゆっくりたちはそんな事実は知る由も無いが、ゆっくりアリスのどこかただならぬ雰囲気は薄々と察してはいた。 結局、なぜかウマの合うゆっくりまりさとゆっくりれいむで遊ぶのが一番楽しいのだ。 でも、だからといって親友のついた取り返しのつかない嘘を許せすことができない。 大きく膨らんだ希望が、そのまま絶望の重みとなった憤り。 その熱い塊をぶつける対象を目前に見つけて、怒りが爆ぜた。 「嘘つきまりさなんて大っ嫌い!」 憤怒が、井戸の中でぐわんぐわんと鮮烈に反響していた。 「ごめ゛んな゛ざい、ごめ゛んな゛ざい、ごめ゛んな゛ざい……」 念仏のように繰り返すまりさの態度。だが、その惨めさがますますれいむの熱を吹き上げさせる。 後どれだけの時間をここですごせばいいのか。 いや、もはや助けられることすら望み薄だろう。このまま家族にも知られることなく、干乾びて朽ち果てていくゆっくりたち。げっそりと痩せて、やがては水の中へすべり落ちる。 そうなれば運命は決まっていた。ゆっくりたちの皮は水に弱い。ぐにゃぐにゃに膨らんで、皮はいずれ破れるだろう。 まず、中身が水や外気にさらされる。やがてはじまるのは腐敗。自分の体が耐え難い異臭を放ち、中から朽ち果てていく長い長い悪夢。早く意識が途絶えることをひたすらに願いながら、ゆらゆらと汚水を漂う。 おぞましい想像に、れいむの体がぞわりと悪寒に震えた。 れいむはそんな未来など、井戸に落下してから一度たりとも考えたことはなかった。 探し回ってこの家をみつける仲間のゆっくりたち。近づくとかすかなゆっくりの声が聞こえてきて、覗き込んだ先にあったのは仲間の窮地。慌てて集まる沢山のゆっくりたち。探し出されてきた長いロープが井戸にたらされ、中の二匹が ロープを噛みしめるなり一気にひっぱりだされる。外に出られたら、すぐにうち帰ってお母さんれいむを安心させよう。 それが、数分前までれいむが夢想していた未来。もう、消え失せてしまった未来絵図。 それもこれも、このまりさのせいだ。こいつが馬鹿なことを言ったばかりに全部終わってしまった。 こいつのせいで……死ぬ。 「い゛や゛だあっ! ま゛り゛ざのぜいで、じにだぐないいい!」 もうれいむは止まらない。 「ま゛り゛ざの、ばがああっ! ま゛り゛ざだげ、じね!」 「ゆっ! ゆ゛う゛う゛うううううっ!!!」 断末魔のような悲鳴を上げるまりさを黙らせようとするかのように、れいむはぐいぐいとまりさを壁に押し付ける。 「泣いてないで、落ちないようにしてね!」 れいむの棘のこもった言葉に従って、律儀に押し返すまりさ。 もう、何も喋らない二匹。 ゆっくりと、もう泣きたくなるぐらいにゆっくりと時間は過ぎていく。 井戸の中を、妖怪の山から吹き降りてきた風が入り込み、濡れた体をぞくりと振るわせた。 寒い。 隣のまりさの体温がなければ、野宿すら耐えられない季節になりつつあった。 鼻をすすりながら、懸命に押してくるまりさの暖かな全身。 それだけがれいむに温もりを与えてくれた。 だが、耳朶に届くのは嗚咽交じりの侘び。 「ごめ゛んな゛ざあああい……」 泣きすがり、許しを乞う陰鬱な声。 井戸の底とで命を預けあうまりさが繰り返す哀願に、すううと冷えていくれいむの心。 まるで、自分のほうが取り返しのつかないことをしてしまったような痛みが胸を刺す。 今はまりさだけが頼りなのに。 自分と同じ苦しみを背負う相手を一方的に責めて、自分は何がしたかったのだろう。 もう何もかも嫌になる。 「だれかぁ……はやくたすけてえ……」 見上げる井戸の上。 黒ずんだ雨雲に占められた、あいかわらずの代わり映えのない空とその向こうにいるかも知れない神様に、ゆっくりれいむはひたすら祈っていた。 だが、畜生に神はいない。 井戸を覗き込む人影どころか、厚い雲に隠れたまま太陽すら姿を見せないまま、いつしか空は夜の色に沈む。 救いは、ようやく雨足を弱めつつある丸一日降り続いていた雨。 打ちつける雨の粒も、今は優しく降りしきる霧雨だった。 だが、代わって二匹を苛むのは夜半の冷え込みの厳しさ。もはや冬の始まりと大差がない。 「ゆゆゆ……」 れいむの舌の根も凍えて言葉を吐き出せない。 もうじき初霜がおりてもおかしくない秋の日暮れだった。 凍えた体は力が上手く入らない。希望なき奮闘にも関わらず、二匹は少しずつ、井戸の底へと近づいていく。 その都度、腐ったような水の匂いが濃くなって、れいむの喉にまとわりつく。 ぶわあんと、反響するカトンボの羽音がひどく耳障り。 水際に近寄るほど濃厚に漂いはじめる死の気配。 「……い」 れいむの耳がまりさの呟きを拾う。 また「ごめんなさい」だろうか。 朦朧とした口ぶりで繰り返すその言葉に、れいむに湧き上がるのは逆に罪悪感。 「もういいから、謝らないでね!」 精一杯の優しさをこめて呼びかける。 だが、反応は予想外のものだった。 「違うのおお」 それは、半泣きのまりさのうめき。 「かゆいの、かゆいの、すっごくかゆいの……」 しみこんだ水分を枯れ果てるまで流すかのように、だらだらとこぼれ落ちる涙。 余程の痒み襲われているのか、ぶるぶると痙攣のように震えだした。 「傷が、顎のあたりが痒いいい! ジクジク、かゆいいいいい!!!」 みっともなく、幼子のように泣き叫ぶまりさ。 恐らく、患部は最初に井戸を落下したときにおった顎付近の傷。 れいむからはまりさの顔越しの位置になって、傷の様子はわからない。闇の中、懸命に舌を伸ばしている様子のまりさも、患部にまで舌がのびずもどかしい模様。よほど痒いのだろう、なおも舌を伸ばして時折えづく。 「き、きっと傷がカサブタになろうとしているんだよ。痒いけど、我慢だよ!」 少しでも前向きな言葉を口にして、まりさの気を紛らわそうとする。 けれども、まりさを襲う痒みは尋常ではないようだ。 「痒いよう、痒いよう……」 繰り返すまりさの嗚咽を聞きながら、三日目の夜はふけていく。 眠って底に滑落しないよう、唇をぎゅっとかみ締めるだけの夜は、ひたすらに長い。 中編