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第十章 護衛 新しい学校は家から歩いて15分ほどの所にある公立の中高一貫校で、まだ設立してから10年経っていない という話だ。新設立の学校には良くある話らしいが、まだ学校の評価が定まっていないためか、在校している 生徒の質は玉石混合、超難関の学校に挑戦できるような優秀な学業成績を納める奴もいれば、そうでない奴もいるとのこと。 俺と妹はこの学校に馴染めるだろうか。俺はともかく、妹は卒業まで6年間通う学校だから、うまくやって欲しいものだ。 俺たちは今、近所にある全国チェーンのショッピングセンターにいる。俺と妹の制服を買うためだ。 ショッピングセンター内の制服売り場には、近隣の学校の制服がきらびやかに並べられていた。 「あ~~、これだよ、これ!この制服!」 学校側に指定された制服は、男子女子共にブレザータイプで中高共通というものだ。男子の方は北高の制服によく似ている。つか、胸ポケットのマーク以外は色合いまで同じなのは何の因果なのかね?女子の方は、光陽園のブレザーの色違い(ロイヤルグリーンとか言う色だそうだ)といった感じだ。イマイチよくわからんかもしれんが、俺もよくわかっていない。だからあまり突っ込むな。 試着して寸法合わせをしようかと、側にいた店員さんに声を掛けようとして俺は驚いた。 ……何でここに居るんですか、喜緑さん? 「あら、キョン君、お久しぶりですね」 わざわざこんなところまで来て、アルバイトですか。 「ええ」 ふわっとした微笑みは確かに喜緑さんのものだった。あ、もしかして……ってか、おそらくそうなんだろう。 喜緑さんが俺の観測及び護衛に回ったんだな……そこまで考えた俺は、ふと周りを見渡した。 サービスカウンターの向こうから、なにやら眼鏡越しに鋭い視線を向けてくる男が一人。 ……生徒会長だ。あ、いや元・生徒会長だな、今は。 「何で会長まで居るんですか?会長もバイトなんですか?」 「いいえ、彼はこのショッピングセンター重役の御曹司なんですよ。ご実家の方針で、高校卒業後の一年間は現場で社会勉強をするのが決まりなんだそうです」 妹に合いそうなサイズの制服を探しながら、喜緑さんは続けた。 会長の実家が、全国チェーン展開をしている某有名ショッピングセンターの重役様とはね……でもそんな話は在学中にも聞いたこと無いような気がしますが…… 「ええ、ウソですから」 あっけにとられた俺を尻目に喜緑さんは微笑みを絶やさず、妹に合いそうなサイズの制服を選び出す。ああ、どう見ても一番小さいサイズだな、こりゃあ。 「でも、本当の理由は……ご存じですよね?長門さんから連絡が行っていると思いましたが」 は?ああ、じゃあ『機関』の護衛兼監視員ってのは会長のことだったんですか。でも大学どうするんですか? 喜緑さんも一緒なんですよね、確か。 「そこから先は、僕が説明しよう。喜緑くん、妹さんをあちらのスペースへ」 気がつくと、俺のすぐ後ろに会長が居た。 「はい。妹さんは、じゃあこちらへ」 「は~~い」 まるで仲の良い姉妹のように更衣室へ向かう二人を眺めながら、俺は元・会長に疑問をぶつけた。『機関』の仕事も大変ですね。 「ふん、この数年間耐えに耐えてやっと志望の大学に入ったというのに最後にこれだ。困ったものだ、全く」 それより、さっきの話ですが。 「……このショッピングセンターの重役の御曹司という話は、もちろん全くのデタラメだ。それこそ『機関』絡みで、色々と有るわけだがな。ま、そうは言うものの、俺は古泉のような『機関』の正式なメンバーではないから、こちらにもそれなりの旨みがなければこのような話は受けんよ」 この人が生徒会長をやっていたときにも感じたが、相変わらず損得勘定の激しい人だな。 「『機関』から要請があったのさ。一年間、君を護衛してくれとな。俺としても、折角入った大学をいきなり休学してこの仕事に回されても困ると、最後まで駄々をこねたのだ。結局、俺の大学生活中の学費や生活費を全て機関が持ち、学業成績や就職先も有利にする、という条件で了解した」 確かにそれは美味しい。俺にも少し分けて欲しいくらいだ。 「君は何を言っているんだ?俺のような人間に破格の待遇を与えてまで君を護衛させることの意味が分かっていないようだな。君の身に何らかのトラブルが及ぶと言うことは、場合によってはすぐ世界崩壊に繋がると言うことなんだぞ?君は本当に自覚していないようだが」 そう言われましてもねえ。ただ、俺が受験に失敗するとハルヒほどではないにしろ、あちらこちら様々な方に迷惑を掛けると言うことだけは、よく分かりました。 「うむ、それが分かっていれば良い。受験勉強をがんばれよ。それこそ、俺たちのためにな」 そう言って、会長は喜緑さんの方に目を向ける。ちょうど妹が新しい制服を身につけて更衣室から出てきた所だった。 まさか、元・生徒会長にエールを送られるとは思っても見なかったな。 「良くお似合いですよ」 「えへへ~~~」 その場でくるりと回った妹は、俺を見つけると大声で叫んだ。 「キョンく~~ん、似合ってる~~???」 ああ、似合ってるぞ。だから、そんな大声を出すな。躾がなっていない事が周りの人にバレバレだろうが。 さて、4月の上旬。妹は明日が入学式で、俺は明後日から新しい学校に登校することとなる。 両親と一緒に学校にやってきた俺たちは、各々のクラス担任と面談した。 初めて入った中等部の職員室で、妹は最初こそ落ち付かなげな顔をしていたものの、先生と話しているうちにうち解けてきたのか、いつものような人懐こい表情を浮かべていた。 中高一貫校とはいえ中等部と高等部の職員室は別だ。 妹のクラス担任と話し込んでいるお袋と妹を中等部の職員室に残し、俺は親父とともに高等部の職員室へと向かった。 俺の方はなにやらSクラスとやらに編入されるそうだ。まあ、早い話が北高の特進クラスだな。学業成績の優秀な人間や、高ランクの大学を目指す人間ばかりを集めたクラスらしい。正直そんなクラスには入りたくはなかったのだが、ハルヒとの約束があるし、他の人たちにこれ以上迷惑を掛けないためにも、今年一年は勉学に勤しまなければならないからしょうがないと言える。 クラス担任と挨拶を交わし、今後の学校生活を送る上での注意点などを聞いていると後ろから声が掛かった。 「先生、二年次のクラス日誌のまとめ、ここに置いておきますね」 その声の方を何気なく振り向いて、俺は固まってしまった。 何故、おまえがここにいる? それは、情報統合思念体の急進派に属するヒューマノイドインターフェース、朝倉涼子に他ならなかった。 「あれ?キョン君?キョン君じゃない!」 固まったままの俺の手を握り、朝倉はぶんぶか振り回した。 「やっぱりキョン君だ!どうしたの?転校してきたの?もしかして、ここに通うの?いつから?どこのクラスなの?」 満面の笑顔で矢継ぎ早に質問を投げかけてくる朝倉。 しかし俺は、顔面を蒼白にしたまま「ああ」とか「うう」とか、情けない声を上げるばかりだった。そりゃそうだろう。1年以上前とは言え、2度も死にそうになった原因の女が目の前にいて、俺の手を握っているんだからな。 「なんだ朝倉、知り合いか?」 クラス担任が朝倉に問いかけた。 「ええ。前の学校で一緒のクラスだったんです。3ヶ月くらいの短い間でしたけど……」 屈託のない笑顔で応える朝倉。 「そうか。彼も転校先に友人がいるというのは良いことだ。ああ、そうだ。ついでで悪いが朝倉、彼にこの学校を案内してやってくれ」 クラス担任はそう言って、再び俺の方に目を向けた。 「彼女は2年生の時から、Sクラスの委員長をやっているんだ。何でも分からないことがあったら相談すると良いぞ。じゃあ朝倉、頼む」 「あ、じゃあキョンくんも同じクラスなんだ!そっか~。勉強頑張ろうね!」 朝倉に手を引かれ高等部の職員室を出た俺は、まず辺りを見回した。明日始業式とはいえまだ春休みのせいか何人かは視界に入る。おそらく部活の人間だろう。 いくら朝倉とはいえ、こんなところで事は起こさないだろうと考えたが、ナントカ空間に引き込まれたら、俺には手も足も出ない。マズイ。 しばらく廊下を歩いてホールのような所に出たところで、俺は強引に朝倉の手を振りほどき、2・3歩後ずさった。 振りほどかれた手に目をやって、朝倉は振り返った。 「どうしたの?キョン君?あたしが怖いの?」 「……なぜお前がここにいる?」 心臓がダンスを踊っているように、バクバクしている。喉もカラカラだ。粘ついた何かで自分の声のような感じがしない。 「あれ?長門さんから聞いてなかったの?あたしは貴方の護衛をするように言われてるんだけど?」 護衛?ちょっと待て。俺の護衛は喜緑さんじゃなかったのか? 「喜緑さんには長門さんの監視という任務があるから、それは却下されたわ。だから、本来長門さんのバック アップであるあたしが再構成されて、貴方の護衛に回されたの」 だがお前は……俺を2度も殺そうとしたんだぞ。今更「ハイそうですか」と納得できるわけ無いだろう? 正直、お前は俺にとってトラウマになってしまっているんだからな 「う~~ん、その件に関しては本当にごめんなさい。謝るわ。今後はあんな事は起きないと思うから」 思うからってのは何だ?もしかしたら起きるかもしれないって事じゃねーか! 「揚げ足を取らないで。あのね、今のあたしは制限モードでしか動作していないの」 制限モード?そりゃなんだ?パソコンのセーフモードみたいなものか? 「そんなものね。つまりこの星の有機生命体--所謂ヒト--と同じ能力しか持っていないのよ。以前のような情報操作能力には全てロックが掛けられているから」 すると何か?ナントカ空間だの特異な身体能力だのは使えないって事か? 「そう。だから今のあたしはただの人間。安心して」 安心して、と言われてもな。それに、ただの人間でも人を殺すことは出来るんだぜ。例えば大型のナイフとかを使ってな。大体あの時のお前は、俺を殺す気満々だったじゃねーか。 「それなんだけどね、今更言っても言い訳にしかならないけど、聞いてくれる?」 ああ、聞くだけは聞いてやろうじゃねーか。だが、判断するのは俺だ。 「1度目は涼宮さんの情報爆発観測が目的、2度目は長門さんが作った情報改変後の世界を守るために、あなたに刃を向けたわ。でもね、あたしの操り主である『急進派』はあることに気付いたの」 朝倉は俺から目をそらし、ホールのタイルの数を数えるように目を下に向けた。 「情報改変後の世界には、情報統合思念体そのものが存在しなかった。例えそれが、長門さんが涼宮さんの力を借りて作ったかりそめの世界でもね。あの時は元に戻すことが出来たけど、下手すると涼宮さんの一存で情報統合思念体そのものが消滅してしまうかもしれないと言うことに気付いたの。『急進派』は、恐慌状態になったわ」 そう……だな。入院していたときに、俺は長門に同じようなことを言ったことがある。もしお前がどうにかなってしまうなら、ハルヒを焚き付けてでも……ってな。 「情報統合思念体は涼宮さんの動向を静観することにしたわ。確かに情報爆発を起こして進化の可能性を探るのも一つの方法だけど、その見返りに情報統合思念体自身が『無かったこと』にされるのでは、あまりにもリスクが大きいと言うことで、各派閥の意見は一致したわ」そりゃそうだろう。ミイラ取りがミイラに……ってレベルの話じゃない。 「特に、あなたと涼宮さんの間には強固な信頼関係がある。あなたに何かが起きたら、それこそ世界滅亡……引いてはこの宇宙の危機なの。だから、あなたを再び涼宮さんの所に無事に返さなければならない。それが私の新しい任務。私たちヒューマノイドインターフェースは、個々の事象に対してある程度の裁量権を持たされているんだけど、大元の命令に対しては一切反抗できないようになっているの。だから、あなたは安心して良いわ」 なるほど、言いたいことはよく分かった。つまり今のお前は、俺に対して殺意を持ってはいない。身体能力的にも普通の女の子と言うことなんだな? 「そう。私は普通の女子生徒の、朝倉涼子よ」 朝倉は顔を上げ、にっこりと微笑んだ。 ところで、お前がそこまで能力を制限されているって事は、だ。 俺もあまり考えたくはないが、もしも宇宙的事情や未来的事情で、緊急事態になってしまったときはどうするんだ?護衛として役に立たないって事じゃないのか? 「情報統合思念体や他のインターフェースへの連絡回線と、情報データベースにだけはアクセスできるようになっているの。だから、もしもそんな事態になったら他のインターフェースに連絡を取って、制限モードの解除を申請。それが通ればロックは外れる。つまり、長門さんや喜緑さんの許可がなければ、私は全ての力を使えないわ」 他のインターフェースへの連絡回線がどうの、という時点で普通の人間じゃないんじゃないか?という脳内突っ込みは聞かなかったことにした。 なるほどね。お前の言い分は分かった。だが、その話を信用できる確信を得たい。 「長門さんや喜緑さんに確認を取って貰っても、私は一向に構わないわ。だって、本当のことなんだもの」 俺は携帯を取りだし、長門に電話を掛けようとしてふと指が止まった。考えてみれば長門はまだ団活中の時間だし、喜緑さんは連絡先が分からん。どうしようか。 朝倉は相変わらず微笑んだままこちらを見ている。 お前ら情報統合思念体とやらを全面的に信用するつもりはないが……と言いかけて、ふと、周りを見回した。 ホールのど真ん中で、制服を着た朝倉と私服の俺が、傍目から見れば言い争っているような状況を、部活中の他の生徒が物珍しそうに横目で見ながら通り過ぎていく。 うう、転校前からあまり人の目を引きたくはなかったのだが。 「あ、そうそう。私が去年からこの学校にいるというのは長門さんの情報操作だからね。あたしは先週、喜緑さんに再構成されたばかりなの」 人の流れが途切れた頃に、朝倉は付け加えた。 ああ、だから喜緑さんがこっちに居たわけだな。紛らわしい。 谷口曰くAA+の微笑みを俺に向けていた朝倉が、ふと目線を外した。 「あ、お父様が来たみたいね。じゃあ、あたしはここで。またね!」 くるりと踵を返し教室棟に向かった朝倉を見ていると、背後から親父が声を掛けてきた。 「学校案内は終わったか?」 ああ……と、まるで気のない俺の返事に気付いたのかどうか。俺の横に並んで朝倉の去った方向を見ていた親父は、ニヤニヤしながらこちらを向いた。 「えらい美人さんだな。北高で同じクラスだったんだって?」 ああ、そうだな。 「引っ越しの時にお手伝いに来てくれた人も、女性の方が多かったそうじゃないか。しかも、なかなかの美人揃いと母さんから聞いたぞ」 なんのこった。全部友達だ友達。 「お前は俺に似て、美人に好かれる体質かもな?わははは」 そう笑いながら、親父は俺の背中をばんばん叩き、校門に向けて歩き始めた。 ……お前が父親でなければ、この場でぶん殴っているのに。 第十一章 親友へ
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第四章 想い 『もう少しましな伝え様は無かったのですか?』 心底疲れたといった声で、携帯の向こうの古泉が呟く。 『今日の1時限目の授業中に、突然閉鎖空間が複数発生しました。一つ一つの規模や速度はそれほど大きくないのですが、一つを崩壊させるとまたすぐに別の空間が発生するというイタチごっこでして……現在、機関総出で対応していますが、この発生ペースだといずれはまずいことになりそうです』 そうか、本当にすまんな……しかし、あいつの不思議パワーは減少しているんじゃなかったのか? 『確かに、我々の調査結果を見る限り、最近では最盛期の半分程度まで落ちていました。閉鎖空間発生も希な状態になってきていましたしね。しかし、今回のこの閉鎖空間の数は過去最大です。涼宮さんには、まだこれほどの力が残っていたんですね、驚きです』 あいつの力が復活したと言うことなのか? 『それは分かりませんが、今はこの事態を何とか収束させなければなりません。そうでなければ調査すること自体出来なくなりますからね。そこで、あなたの力でなんとか涼宮さんを落ち着かせてくれませんか?』 とは言ってもな。お前も知っての通り、今回の状況は俺の力じゃ何ともならんのだ。 『我々としても、あなたに今回の全ての責任があるとは考えていませんが、貴方でなければ涼宮さんを押さえることが出来ないと言うことも事実なんです。状況は一刻を争います。お願いします……すいません、それではこれで』 そこまで言うと、携帯は切れた。また新しい閉鎖空間が出現したらしい。 放課後となった教室でぼーっとしていても埒があかないので、俺は机に放置されていたハルヒの鞄を持って部室へと向かっていた。学食行って昼飯かっ込む気分じゃなかったしな。その最中古泉からの連絡が入った。それが先ほどの会話というわけだ。 あのバカ、あれから今まで閉鎖空間を出現させっぱなしだと?閉鎖空間連続発生記録にでも挑戦してるのか。 そんなことを考えながら歩いていると、部室棟への渡り廊下で朝比奈さんと長門が待っていた。 「……本日午前9 42から現在まで、閉鎖空間の異常発生を関知している」 ああ、知っている。さっき古泉に聞いた。 「現在まで確認された閉鎖空間は152……153個目の発生を確認」 なんですと??大量発生とは聞いたが、多すぎやしないか、それ? 「情報統合思念体も混乱している。通常、涼宮ハルヒの情報改変能力は『破壊し、創造する』方向、つまり『自分に都合の悪い情報を、都合の良い方に改変する』ことに向けられていた。しかし今回は『破壊』のみに向けられている」 破壊のみってことはつまり……あのバカが世界を滅ぼそうとしているってのか? 「……有り体に言えば、そう」 なんてこった。 「キョンくん、涼宮さんをなだめられるのは貴方しかいないんです。お願いします」 朝比奈さん、そんなに涙をいっぱいに溜めないで下さい。そんな貴女に惚れ直しちゃうじゃないですか。 「……現在部室棟の周りに対情報シールドが展開されている。従って現在部室内の涼宮ハルヒがどのような状況になっているかは、こちらからは確認できない」 対情報……なんだって? 「涼宮さんは、誰にも部室に来て欲しくないと思っているんです」 じゃあ、俺も入れないって事じゃないですか? 「……貴方は別。そもそもこの状態の原因を作ったのは貴方。貴方が現在置かれている状況には同情するが、それでも涼宮ハルヒへの情報伝達時に致命的なミスがあったと思われる。結果としてこの状況が出現した」 長門に同情されるとはな。で、また俺か。てか、事実を伝えるって、あれ以上なんて言えば良いんだ? 「涼宮さんにはどういう風に伝えたんですか?そこに、この状況を解決する鍵があるような気がします。詳しく教えてください」 俺は朝の教室から部室での出来事を包み隠さず二人に話した。 「……朴念仁」 「……それ以外の言葉は見つかりませんねぇ……」 なんだなんだ?何のことだ? ふと長門が虚空を見上げ、珍しく「焦り」の色を瞳に含ませた。 「……164個目の閉鎖空間発生を確認。このままでは古泉一樹らの処理能力を大きく超えてしまう。時間がない」 あわわ、という表現がぴったり似合う言動を行いながら、朝比奈さんが激励を飛ばしてくれた。 「キョンくん!私、信じてますから!キョンくんなら……あなたなら、きっとなんとかしてくれるって!」 「……貴方は涼宮ハルヒの『鍵』。忘れないで」 俺はため息をつき、部室棟へと歩き始めた。 SOS団室のある部室棟に入ると、違和感が体を駆け抜けた。 対情報ナントカのせいか、部室棟には人の気配がない。人の気配どころか、殆ど音が聞こえないのだ。本来なら部活をしている連中やブラスバンドの練習の音が聞こえてくるはずなのに、そんな音も聞こえない。 廊下を歩く俺の足音だけが響く。景色だけならいつもと全く変わりはないが、外界の音だけがしない。 正直、気味が悪い。 そんな静寂の中、さっさと扉をノックしよう……として止めた。文芸部室の中から、微かに音が聞こえる。 まさかこの状況でで心霊現象でもあるまいし、などとアホな考えを頭から追い出した。中にいるのはハルヒで確定なんだが、何やってるんだあいつ。俺は部室の前で聞き耳を立ててみた。 すすり上げるような音、くぐもったような声。 ハルヒ?泣いてるのか? 部室から漏れ聞こえるハルヒの声や涙をすすり上げる音に俺はショックを受けた。 あのハルヒが泣いている? いやそりゃハルヒだって女子高生なんだから泣くことはあるだろう。だが、過去にない規模の閉鎖空間を生み出し、更にわざわざ部室に対情報ナントカを張ってまで、この部室に籠もり、あれからずっと泣いていたのか、こいつは? 部屋の中から聞こえる涙声にちょっと入りづらくなった俺は、どうやってハルヒを落ち着かせようかと、色々考えていたのだが、こういう状況に全く慣れていないため良い考えは浮かんでこない。古泉あたりなら何か良い考えでも浮かぶのかもしれないが、あいにく今ここには居ない。 しょうがない、入るか。 俺は部室のドアをノックした。 「入るぞ」 「う゛ぁっ!キョ、キョン!?ま、ま、ま、待って、ちょっと待って!」 ガタガタ、ばたばたと部室の中から音がする。ドアノブを捻るが、鍵が掛かっていた。 「どうした、着替え中だったか?」 「うっさい!デリカシーのない奴ねあんたは!もうちょっと待ちなさい!」 「へいへい」 部室のドアに背を持たれかけさせて、横暴な団長様の許しが出るまで座って待つ。 結局、ドアの鍵を外す音がしたのは5分以上経ってからだった。 「どうしたんだ、一体」 部室に入ると、いつもの団長席にハルヒはいた。窓側の方を向き、こちらからは表情が伺えないが、右手に濡れタオルを持っているのが分かった。 「うるさい。あたしだって色々やることがあるのよ」 多分、まだ目が腫れているんだろう、こっちの方を向こうとはしない。さっきドタバタしていたのは、濡れタオルを作って目を冷やしていたのか。 「そっか。ああ、ほらこれ。お前の鞄だ」 団長席にハルヒの鞄を置き、いつもの自分の席に着く。 「……中見たりしなかったでしょうね!」 ハルヒはまだそっぽを向いている。どんな表情をしているのか、こちらからはよく見えない。 「人の鞄の中を勝手に見る習慣はない」 「……ふん」 静寂が場を支配する。朝の気まずい雰囲気が再現されたかのようだ。 「……あー、その、何だ。ハルヒ」 「……何よ」 「古泉たちに、例の件を話した」 「……そう」 再び沈黙。空気が重い。 「それと……朝のこと、悪かった」 俺の謝罪の言葉にぴくりと反応したが、返事は帰ってこなかった。 「実は俺もまだ混乱しててさ。一応、表面上は取り繕っているけど、本当は全然落ち着かないんだ。だから、もしかしたらお前を傷つけたかもしれん。謝る。この通りだ」 椅子から立ち上がり、どこぞの執事も真っ青なほど綺麗に、直立不動の状態から頭を下げた。 「……いいわよ、もう。謝られてもしょうがないし」 頭を上げると、ハルヒはこちらを向いていた。少し目が腫れぼったい。 「……あんたが教室に戻ったあと、色々考えたのよ」 俺が椅子に座り直すと、ハルヒはこちらの方を見ないようにして話し始めた。 「あたし、なんでこんなにイライラしてるんだろうって。それこそ中学校の時以来よ、こんなにイライラした気分になったのは。で、今日一日考えてみたの。ずいぶん考えたけどやっと結論が出たわ。あたしは……」 そこで一旦言葉を切って、ハルヒはこっちに向き直った。 「アンタが好き」 ハルヒの射すくめるような視線と考えてもいなかった爆弾発言で、俺はそこでフリーズしてしまった。 ハルヒが俺を好き?何故?WHY? イヤそれは俺だって若い健康な男子高校生であるからして女子からの告白なんぞを受けたいと思ったりもしているのだが何故それを今俺にしかも相手はハルヒだぞ?確かに黙っていれば一美少女女子高生だしスタイルも良いし勉強だって…… 混乱している俺の状態などつゆ知らずか照れ隠しなのか、ハルヒは言葉を続けた。 「そう考えると、辻褄が合うのよ」 その言葉で我に返った。辻褄て。恋愛感情を辻褄の一言で納得するのか。大体、恋愛感情なんて精神病の一種とか以前言ってなかったか? 「……そうね、確かに言ったわ。実際こんなに心が辛いなんて、恋愛はホントに病気の一種だわ……あんたが転校するって聞いてから、何だかもう、何もかも色あせて見え始めた。もうどうでも良くなったわ。それこそこの世界が無くなってしまっても良いって思った」 それで閉鎖空間大発生ですか。ホントに迷惑な奴だ。 「色々なことを考えたわ。今までのSOS団がやってきたことだとか、三年目のSOS団の活動計画とか、大学受験のことだとか。でもね、SOS団の……いえ、あたしの中には必ずアンタが居た。考えてみれば、SOS団設立のきっかけをくれたのもアンタだったわね」 ある意味、俺の中では最大の失策でもあったのだが。 まあ、それが特殊属性を持つ連中との邂逅と非日常への招待券だったと思えば十分おつりが来るさ。 「無人島にも行ったし雪山合宿もした。本当に楽しかったわ。このままずっと、この楽しさが続いていけば良いのにって思った。でも、みくるちゃんが卒業して気付いた。このままずっと続くと思っていたことが、そうでは無いって事に。知っていたけど考えないようにしてた」 ハルヒはふと立ち上がると、窓の方を向いた。 「でも、みくるちゃんは卒業してもこっちの大学だし、時々課外活動でも会えるだろうから、まだ猶予はある、楽しいことはまだまだ続けられるって、そう思った」 「ハルヒ?」 「……でもね」 あふれ出る感情を無理矢理押し殺したような声で、ハルヒは俺の言葉を遮った。 「キョンには、もう会えないかもしれない。もしかしたら終業式で最後になっちゃうかもしれない。そう思ったら……胸の中の何かが……あたしを支えてきてくれたものが、とても大切なものが……えと」 ぐしゅっ、と鼻をすすり上げる音が響く。 「……無くなってしまうことに気付いた」 一瞬の沈黙のあと、ハルヒはこっちを振り向いた。 「そしたら、あたしは、アンタの知っているあたしじゃなくなっちゃった」 いつもの100Wの笑顔ではなく、儚げな、今にも消えてしまいそうな笑み。 そしてその目からは、大粒の涙がぼろぼろとこぼれていた。 「キョン」 心の底から怒濤のような感情の流れが俺を支配する。 「アタシは、アンタが好き」 いつもの勝ち気なハルヒではない……この儚げな笑み。泣きたいのを無理矢理押し殺した、笑み。 こいつにはこの笑みは似合わない。 「優柔不断で」 真夏のヒマワリのような100Wの笑顔。あれこそがハルヒには似合うってのに。 「鈍感で」 抱きしめたい。 「文句が多くて」 守ってあげたい。 「理屈っぽくて」 コイツの側に居てやりたい。 「だらしないヤツだけど」 あの100Wの笑顔をいつもさせてやりたい。 「アタシは」 ハルヒの想いに応えてやりたい。 「アンタが好き」 俺も、ハルヒの事が…… 「ハルヒ、俺は……」 「言わないで」 「は?」 「別に返事を期待したワケじゃないから。ただね、ただキョンには覚えていて欲しい。アンタを大好きだった同級生がいたこと。涼宮ハルヒっていう…あたしがいたことを」 それだけ言うと、涙を拭こうともせずにハルヒはドアに向かって歩き始めた。 コイツ、俺の返事を聞かず、自分の想いだけを告げて別れるつもりか。 だが俺は、石化魔法でも掛けられたように、その場を動けなかった。 ハルヒが近寄ってくる。すれ違いざま、ハルヒは俺の唇にキスをした。 触れるか、触れないかの軽いキス。 ふわっとした香りと柔らかい感触、そして少しの塩辛さが唇に残った。 「さよなら、キョン」 それで石化が解けた。このまま行かせちゃいけない!ハルヒが一直線に気持ちを伝えてくれたんだ。 あんな顔をさせたまま別れちゃいけない!早く俺のこの気持ちも伝えてやりたい! 思わず振り向くと、ハルヒが部室のドアに手を掛けたまま崩れ落ちるのが目に入った。 「ハルヒ!」 慌てて抱き起こすが、そこには「くー、くー」と寝息を立てているハルヒの姿があった。 …………… 「まったく……手の掛かる団長様だぜ」 やれやれだ。 第五章 告白へ
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第二十七章 エピローグ 一般的な日本の常識で花見と言えば、3月中旬から4月中旬にかけてのイベントであることに何の疑問の持たなかった数年前の俺を誰が責められよう。確かに今は4月ではあるのだが、既に日本全国の誰もが待ちわびていた大型連休に突入しており、今日はその2日目だ。桜の花びらが舞い散る中、俺は「新入生歓迎!」とでかでかと書かれた横断幕の花見の席の中にいた。 既に宴が始まって3時間。宴の一部はもう大変な事になっている。 大声で談笑しながら新一年生達のコップに酒を注ぎまくる2年3年の男子学生達。女性が少ない学部だからか女子新入生の周りを、学年を問わず男子学生が取り巻いていた。逆に、その数少ない2年3年の女子学生達は品定めをするように男子新入生を遠巻きに眺めながら、そっちはそっちで盛り上がっていた。 俺はそんな光景を眺めながら喧噪からちょっと離れた場所に座り、ウーロン茶を飲んでいた。 「なに、黄昏れてんのよ、キョン?」 さっきまで向こうでカラオケマイクを離さなかった女子新入生が、こちらにやってきた。もちろんハルヒだ。 「新入生歓迎の宴なんだから、アンタもぱーっとやりなさいよ!」 酒のせいか、ほんのり頬が赤くなったハルヒが俺の鼻先に人差し指を突きつけた。 ……やっぱり酔ってやがる。ふらふらと、その指先が定まらない。 「お前酔ってるだろ?大概にしておけよ。大体お前未成年だろうが」 「酔ってるわけ無いじゃない。それにこの場のノリでちょこっと飲んだだけよ。ビールを3リットルくらい」 ……飲み過ぎだっつーの。いや、これ以上呑ませたらまずいな。 何とかしないと、俺に被害が及んでくるのは確実だ。 「う~ん、キョン!ノリ悪いわよ!こんな無礼講の宴の時はもっとノリが良くなきゃダメ!アンタがイマイチノリが悪いから、アタシも今日はあんまりテンション上がらないんだから」 待て、さっきまでマイクを離さずに、しかも歌いながら完璧なダンスを披露していた2人組の女性は、お前と長門以外の誰だと言うんだ?2年3年はともかく、新入生はドン引きしてたぞ? 「ノリ悪いのよね~~、今年の新入生は」 お前は上級生じゃないだろ?なんだその先輩目線は? ……と突っ込みを入れようとした俺の目に、空中に浮かんだハルヒが映った。 「なっ……」 こちらに飛び込んでくるハルヒを受け止めようとして支えきれず、俺は背にしていた桜の木に、後頭部をしたたかに打ち付けた。痛え。 おい!と少々怒気の孕んだ声が出かけたが、胸元から聞こえるハルヒの声で俺は言葉を飲み込んだ。 「……キョン……本物なんだよね?あたしの夢じゃないよね?……もう、あたしの前から居なくなったりはしないよね?」 ……ああ。俺はずっとお前の側にいるさ。だから、安心しろ。 「……うん。安心した。好き」 ぎゅっと俺を抱きしめてくるハルヒ。俺のハルヒの体に手を回して……と、そこで我に返った。慌てて周りを見回すと、さっきの大騒ぎの宴会はどこへやら、新入生2年生3年生教授連の皆様が、固唾をのんでこちらを見ていた。俺の視線に気づくと、慌てて目を逸らす新入生、にやにや笑っている2年3年生。ヒューヒューと指笛を吹き出す奴もいる。「若いって良いですなあ」と言った感じで生暖かい目で見守る教授陣。 何だってんだ、まったく。 「おい、古泉、長門」 ハルヒが俺に抱きつき、胸に顔を埋めながらうにゃうにゃ何か言っているのをとりあえず無視して、宴の中に鎮座している二人に声を掛けた。かなり呑んでいるのも関わらず顔色一つ変えていない長門と、若干服装が乱れつつも、いつものスマイルを顔に貼り付けた古泉がやってくる。 「これはこれは。涼宮さんの乱れ模様を僕たちに観賞させて頂けるとは。眼福です」 「感情制御部にエラー発生、除去作業開始」 ……何言ってるんだお前ら?それよりもコイツを何とかしてくれ。 「ふふ、判りました。僕と長門さんから幹事の方に言っておきますので、あなた方は先にお帰り下さい」 え?良いのか?でも、この宴会はこの後も続くんだろ?お前ら大丈夫なのか? 「あれから『機関』で鍛えられましたしね。この位は大丈夫ですよ」 「……その辺は旨くやる」 そ、そうか。スマン。いつもお前らには迷惑ばかり掛けてるな。この埋め合わせはきっとするから。 いつの間にか寝てしまったハルヒを背中に乗せ、俺は花見会場を後にした。 「エラー発生、除去作業開始。再びエラー発生、除去作業開始……」 ぶつぶつ何かを呟いていた長門が古泉に引きずられるように宴会会場に戻るのと同時に、その場に再び喧噪が戻った。 「ハルヒ、大丈夫か?」 公園の駐車場に着いた俺は、親父から借りた高級自家用車の助手席にハルヒを降ろし、声を掛けた。急性アル中とかになったらマズイしな。まあ、コイツの場合はそんな心配は無用かもしれんが。 「……ん……」 熟睡していたように見えたハルヒが、突然大きく伸びをしながら目を開けた。ふう、と一息つき、俺の顔を見上げた。 「……作戦成功ってところね」 は?何言ってるんだお前?作戦って何だよ? 「いいから。さっさと車出しなさい」 公園駐車場を抜け出し何となくあたりを流しながら、気になっていたさっきのハルヒの台詞の意味を聞いた。 なあ、作戦って何のことだ? 「……アタシがこの大学に入ってから、何人の男に声掛けられたか知ってる?」 は?いや、判らん。 「2週間で18人よ?全部振ってやったけど」 18人?多すぎだぞ、それ。 「アンタや古泉君や有希と一緒にいるときは近寄ってこないのよ。でも登下校の時とか、何かの拍子に一人になった時は、必ず声掛けられてたわ」 確かにハルヒは美人だ。かつて北高時代「性格さえ良ければ完璧」と言われていたハルヒが、更に数年を経て年相応の色気が追加されているのだ。初めてコイツを見る男どもが、こぞってハルヒに交際を申し込んだとしても不思議ではない……振られた連中の冥福を祈る。 「だからね、もう決着付けたかったのよ」 なるほどね。で、アレが決着ですか。 「そ。皆のいる前で、アタシとアンタが恋人になったって事を見せれば、もうアタシに声掛けてくることはなくなるでしょ?それが今回の作戦よ」 はあ、そうですか。 「古泉君と有希には迷惑掛けちゃったけど……後で謝っておくわ」 いや、多分あいつらは判ってたと思うぜ。何となくだがな。 「ところでキョン。これからどうするの?」 「あー、そうだな。お前の酔いが覚めるまで、適当に流していようかと思ったんだが」 「……あれ?!もしかしてキョン、酔っぱらい運転してるんじゃないでしょうね?」 「ウーロン茶だけで、酒は飲んでない。つーか、呑まないためにわざわざ親父から車を借りてきたんだがな」 「え……呑まないだけなら、何時のもスクーターでも良かったんじゃない?」 「馬鹿たれ。少しは察しろよ」 その言葉をちょっと考えたハルヒは、酔いの赤みとは明らかに違う赤みを頬に加え、バカ、と呟いた。 少しの沈黙の後、ハルヒは俺の大好きな100Wの笑顔でこちらを向いた。 「キョン、これからドライブ行かない?」 「これからか?まあ、元々そのつもりだったからな。で、どこに行きたいんだ?」 「不思議探索!アンタとは暫くやってなかったし、ここでは初めてだわ!きっと不思議も油断しているに違いないわ!」 おいおい、マジかよ……とも思ったが、心底嬉しそうな顔でこんな事を言われたら、な。 「手始めにはまず、ツチノコね!今の時期は冬眠から醒めたばかりのツチノコが、餌を探してきっと山の中に一杯居るに違いないわ!まず手始めにツチノコを探しましょ!」 ……マジで?ツチノコなんて山の奥の奥に行かないと見つけられないんじゃないか? 「こっちじゃバチヘビって言うんだっけ?昔マンガで見たわ。ってことは、県南の山林ね。キョン、目的地は県南!待ってなさいバチヘビ!このあたしが……」 助手席で一人で盛り上がっているハルヒに、心の中で「やれやれ」といつもの台詞を呟きながら俺は、高速道路のインターチェンジにハンドルを切った。高速のチケットを取り、誘導路から本線に向けて加速する。 助手席のハルヒが、俺に向けて100W、いや10000Wの微笑みを投げかけてくる。 そうだな。俺もこの微笑みに答えなきゃな。 こいつは、俺に自分の未来を預けてくれた。だったら、それに答えなきゃならんだろ、男ならな。 これからどうなるかなんて、まだ全然判らない。でも、コイツの泣き顔だけは見たくない。 俺が見たいのは、コイツの10000Wの笑顔なんだ。 だから…… ハルヒ。これからもずっと、よろしくな。 そんな俺の気持ちに答えるように、車は本線に向けて軽々と加速していった。 遠距離恋愛 END
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遠距離恋愛中の恋人の様子がおかしいんですが 1: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 12 28 15 ID kY0o0u59 自分は現在事情があり海外にいます。最近、日本に残してきた恋人の様子が不審です。 ・誰かの為にセーターを作っている→自分ではありませんでした。 ・誰かの為に湯のみを作っている→自分には花瓶が送られてきました。 そしてついさっき電話で今度のバレンタインデーに好きな人の為に泊り掛けでチョコレートを作りに行くと聞かされました。 彼女には何も聞けずに電話を切ってしまいましたが浮気ではないかと心配です(T_T) 2: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 12 50 45 ID 109Sa2ot m9(^Д^)プギャーーーッ 3: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 13 08 22 ID TaCkgikg 投了だな……w 4: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 13 25 42 ID niN3L0wu 残念ですが間違いなく 1に脈はありません 彼女は迷惑がっています、早々に諦めて次の恋を見つけましょう 5: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 13 26 45 ID 109Sa2ot 4 m9(^Д^)プギャーーーッ 6: 1です 投稿日: 2010/02/03(土) 14 15 25 ID kY0o0u59 助言に従い当日宿泊先へ直接行って彼女の真意を確かめてきます。 皆さんありがとうございました。 7: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 14 22 38 ID niN3L0wu ( ゚д゚)エッ 8: 恋人は名無しさん 投稿日: 2010/02/03(土) 14 28 40 ID TaCkgikg 逃げてー彼女(仮)超逃げてー
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第十章 護衛 新しい学校は家から歩いて15分ほどの所にある公立の中高一貫校で、まだ設立してから10年経っていない という話だ。新設立の学校には良くある話らしいが、まだ学校の評価が定まっていないためか、在校している 生徒の質は玉石混合、超難関の学校に挑戦できるような優秀な学業成績を納める奴もいれば、そうでない奴もいるとのこと。 俺と妹はこの学校に馴染めるだろうか。俺はともかく、妹は卒業まで6年間通う学校だから、うまくやって欲しいものだ。 俺たちは今、近所にある全国チェーンのショッピングセンターにいる。俺と妹の制服を買うためだ。 ショッピングセンター内の制服売り場には、近隣の学校の制服がきらびやかに並べられていた。 「あ~~、これだよ、これ!この制服!」 学校側に指定された制服は、男子女子共にブレザータイプで中高共通というものだ。男子の方は北高の制服によく似ている。つか、胸ポケットのマーク以外は色合いまで同じなのは何の因果なのかね?女子の方は、光陽園のブレザーの色違い(ロイヤルグリーンとか言う色だそうだ)といった感じだ。イマイチよくわからんかもしれんが、俺もよくわかっていない。だからあまり突っ込むな。 試着して寸法合わせをしようかと、側にいた店員さんに声を掛けようとして俺は驚いた。 ……何でここに居るんですか、喜緑さん? 「あら、キョン君、お久しぶりですね」 わざわざこんなところまで来て、アルバイトですか。 「ええ」 ふわっとした微笑みは確かに喜緑さんのものだった。あ、もしかして……ってか、おそらくそうなんだろう。 喜緑さんが俺の観測及び護衛に回ったんだな……そこまで考えた俺は、ふと周りを見渡した。 サービスカウンターの向こうから、なにやら眼鏡越しに鋭い視線を向けてくる男が一人。 ……生徒会長だ。あ、いや元・生徒会長だな、今は。 「何で会長まで居るんですか?会長もバイトなんですか?」 「いいえ、彼はこのショッピングセンター重役の御曹司なんですよ。ご実家の方針で、高校卒業後の一年間は現場で社会勉強をするのが決まりなんだそうです」 妹に合いそうなサイズの制服を探しながら、喜緑さんは続けた。 会長の実家が、全国チェーン展開をしている某有名ショッピングセンターの重役様とはね……でもそんな話は在学中にも聞いたこと無いような気がしますが…… 「ええ、ウソですから」 あっけにとられた俺を尻目に喜緑さんは微笑みを絶やさず、妹に合いそうなサイズの制服を選び出す。ああ、どう見ても一番小さいサイズだな、こりゃあ。 「でも、本当の理由は……ご存じですよね?長門さんから連絡が行っていると思いましたが」 は?ああ、じゃあ『機関』の護衛兼監視員ってのは会長のことだったんですか。でも大学どうするんですか? 喜緑さんも一緒なんですよね、確か。 「そこから先は、僕が説明しよう。喜緑くん、妹さんをあちらのスペースへ」 気がつくと、俺のすぐ後ろに会長が居た。 「はい。妹さんは、じゃあこちらへ」 「は~~い」 まるで仲の良い姉妹のように更衣室へ向かう二人を眺めながら、俺は元・会長に疑問をぶつけた。『機関』の仕事も大変ですね。 「ふん、この数年間耐えに耐えてやっと志望の大学に入ったというのに最後にこれだ。困ったものだ、全く」 それより、さっきの話ですが。 「……このショッピングセンターの重役の御曹司という話は、もちろん全くのデタラメだ。それこそ『機関』絡みで、色々と有るわけだがな。ま、そうは言うものの、俺は古泉のような『機関』の正式なメンバーではないから、こちらにもそれなりの旨みがなければこのような話は受けんよ」 この人が生徒会長をやっていたときにも感じたが、相変わらず損得勘定の激しい人だな。 「『機関』から要請があったのさ。一年間、君を護衛してくれとな。俺としても、折角入った大学をいきなり休学してこの仕事に回されても困ると、最後まで駄々をこねたのだ。結局、俺の大学生活中の学費や生活費を全て機関が持ち、学業成績や就職先も有利にする、という条件で了解した」 確かにそれは美味しい。俺にも少し分けて欲しいくらいだ。 「君は何を言っているんだ?俺のような人間に破格の待遇を与えてまで君を護衛させることの意味が分かっていないようだな。君の身に何らかのトラブルが及ぶと言うことは、場合によってはすぐ世界崩壊に繋がると言うことなんだぞ?君は本当に自覚していないようだが」 そう言われましてもねえ。ただ、俺が受験に失敗するとハルヒほどではないにしろ、あちらこちら様々な方に迷惑を掛けると言うことだけは、よく分かりました。 「うむ、それが分かっていれば良い。受験勉強をがんばれよ。それこそ、俺たちのためにな」 そう言って、会長は喜緑さんの方に目を向ける。ちょうど妹が新しい制服を身につけて更衣室から出てきた所だった。 まさか、元・生徒会長にエールを送られるとは思っても見なかったな。 「良くお似合いですよ」 「えへへ~~~」 その場でくるりと回った妹は、俺を見つけると大声で叫んだ。 「キョンく~~ん、似合ってる~~???」 ああ、似合ってるぞ。だから、そんな大声を出すな。躾がなっていない事が周りの人にバレバレだろうが。 さて、4月の上旬。妹は明日が入学式で、俺は明後日から新しい学校に登校することとなる。 両親と一緒に学校にやってきた俺たちは、各々のクラス担任と面談した。 初めて入った中等部の職員室で、妹は最初こそ落ち付かなげな顔をしていたものの、先生と話しているうちにうち解けてきたのか、いつものような人懐こい表情を浮かべていた。 中高一貫校とはいえ中等部と高等部の職員室は別だ。 妹のクラス担任と話し込んでいるお袋と妹を中等部の職員室に残し、俺は親父とともに高等部の職員室へと向かった。 俺の方はなにやらSクラスとやらに編入されるそうだ。まあ、早い話が北高の特進クラスだな。学業成績の優秀な人間や、高ランクの大学を目指す人間ばかりを集めたクラスらしい。正直そんなクラスには入りたくはなかったのだが、ハルヒとの約束があるし、他の人たちにこれ以上迷惑を掛けないためにも、今年一年は勉学に勤しまなければならないからしょうがないと言える。 クラス担任と挨拶を交わし、今後の学校生活を送る上での注意点などを聞いていると後ろから声が掛かった。 「先生、二年次のクラス日誌のまとめ、ここに置いておきますね」 その声の方を何気なく振り向いて、俺は固まってしまった。 何故、おまえがここにいる? それは、情報統合思念体の急進派に属するヒューマノイドインターフェース、朝倉涼子に他ならなかった。 「あれ?キョン君?キョン君じゃない!」 固まったままの俺の手を握り、朝倉はぶんぶか振り回した。 「やっぱりキョン君だ!どうしたの?転校してきたの?もしかして、ここに通うの?いつから?どこのクラスなの?」 満面の笑顔で矢継ぎ早に質問を投げかけてくる朝倉。 しかし俺は、顔面を蒼白にしたまま「ああ」とか「うう」とか、情けない声を上げるばかりだった。そりゃそうだろう。1年以上前とは言え、2度も死にそうになった原因の女が目の前にいて、俺の手を握っているんだからな。 「なんだ朝倉、知り合いか?」 クラス担任が朝倉に問いかけた。 「ええ。前の学校で一緒のクラスだったんです。3ヶ月くらいの短い間でしたけど……」 屈託のない笑顔で応える朝倉。 「そうか。彼も転校先に友人がいるというのは良いことだ。ああ、そうだ。ついでで悪いが朝倉、彼にこの学校を案内してやってくれ」 クラス担任はそう言って、再び俺の方に目を向けた。 「彼女は2年生の時から、Sクラスの委員長をやっているんだ。何でも分からないことがあったら相談すると良いぞ。じゃあ朝倉、頼む」 「あ、じゃあキョンくんも同じクラスなんだ!そっか~。勉強頑張ろうね!」 朝倉に手を引かれ高等部の職員室を出た俺は、まず辺りを見回した。明日始業式とはいえまだ春休みのせいか何人かは視界に入る。おそらく部活の人間だろう。 いくら朝倉とはいえ、こんなところで事は起こさないだろうと考えたが、ナントカ空間に引き込まれたら、俺には手も足も出ない。マズイ。 しばらく廊下を歩いてホールのような所に出たところで、俺は強引に朝倉の手を振りほどき、2・3歩後ずさった。 振りほどかれた手に目をやって、朝倉は振り返った。 「どうしたの?キョン君?あたしが怖いの?」 「……なぜお前がここにいる?」 心臓がダンスを踊っているように、バクバクしている。喉もカラカラだ。粘ついた何かで自分の声のような感じがしない。 「あれ?長門さんから聞いてなかったの?あたしは貴方の護衛をするように言われてるんだけど?」 護衛?ちょっと待て。俺の護衛は喜緑さんじゃなかったのか? 「喜緑さんには長門さんの監視という任務があるから、それは却下されたわ。だから、本来長門さんのバック アップであるあたしが再構成されて、貴方の護衛に回されたの」 だがお前は……俺を2度も殺そうとしたんだぞ。今更「ハイそうですか」と納得できるわけ無いだろう? 正直、お前は俺にとってトラウマになってしまっているんだからな 「う~~ん、その件に関しては本当にごめんなさい。謝るわ。今後はあんな事は起きないと思うから」 思うからってのは何だ?もしかしたら起きるかもしれないって事じゃねーか! 「揚げ足を取らないで。あのね、今のあたしは制限モードでしか動作していないの」 制限モード?そりゃなんだ?パソコンのセーフモードみたいなものか? 「そんなものね。つまりこの星の有機生命体--所謂ヒト--と同じ能力しか持っていないのよ。以前のような情報操作能力には全てロックが掛けられているから」 すると何か?ナントカ空間だの特異な身体能力だのは使えないって事か? 「そう。だから今のあたしはただの人間。安心して」 安心して、と言われてもな。それに、ただの人間でも人を殺すことは出来るんだぜ。例えば大型のナイフとかを使ってな。大体あの時のお前は、俺を殺す気満々だったじゃねーか。 「それなんだけどね、今更言っても言い訳にしかならないけど、聞いてくれる?」 ああ、聞くだけは聞いてやろうじゃねーか。だが、判断するのは俺だ。 「1度目は涼宮さんの情報爆発観測が目的、2度目は長門さんが作った情報改変後の世界を守るために、あなたに刃を向けたわ。でもね、あたしの操り主である『急進派』はあることに気付いたの」 朝倉は俺から目をそらし、ホールのタイルの数を数えるように目を下に向けた。 「情報改変後の世界には、情報統合思念体そのものが存在しなかった。例えそれが、長門さんが涼宮さんの力を借りて作ったかりそめの世界でもね。あの時は元に戻すことが出来たけど、下手すると涼宮さんの一存で情報統合思念体そのものが消滅してしまうかもしれないと言うことに気付いたの。『急進派』は、恐慌状態になったわ」 そう……だな。入院していたときに、俺は長門に同じようなことを言ったことがある。もしお前がどうにかなってしまうなら、ハルヒを焚き付けてでも……ってな。 「情報統合思念体は涼宮さんの動向を静観することにしたわ。確かに情報爆発を起こして進化の可能性を探るのも一つの方法だけど、その見返りに情報統合思念体自身が『無かったこと』にされるのでは、あまりにもリスクが大きいと言うことで、各派閥の意見は一致したわ」そりゃそうだろう。ミイラ取りがミイラに……ってレベルの話じゃない。 「特に、あなたと涼宮さんの間には強固な信頼関係がある。あなたに何かが起きたら、それこそ世界滅亡……引いてはこの宇宙の危機なの。だから、あなたを再び涼宮さんの所に無事に返さなければならない。それが私の新しい任務。私たちヒューマノイドインターフェースは、個々の事象に対してある程度の裁量権を持たされているんだけど、大元の命令に対しては一切反抗できないようになっているの。だから、あなたは安心して良いわ」 なるほど、言いたいことはよく分かった。つまり今のお前は、俺に対して殺意を持ってはいない。身体能力的にも普通の女の子と言うことなんだな? 「そう。私は普通の女子生徒の、朝倉涼子よ」 朝倉は顔を上げ、にっこりと微笑んだ。 ところで、お前がそこまで能力を制限されているって事は、だ。 俺もあまり考えたくはないが、もしも宇宙的事情や未来的事情で、緊急事態になってしまったときはどうするんだ?護衛として役に立たないって事じゃないのか? 「情報統合思念体や他のインターフェースへの連絡回線と、情報データベースにだけはアクセスできるようになっているの。だから、もしもそんな事態になったら他のインターフェースに連絡を取って、制限モードの解除を申請。それが通ればロックは外れる。つまり、長門さんや喜緑さんの許可がなければ、私は全ての力を使えないわ」 他のインターフェースへの連絡回線がどうの、という時点で普通の人間じゃないんじゃないか?という脳内突っ込みは聞かなかったことにした。 なるほどね。お前の言い分は分かった。だが、その話を信用できる確信を得たい。 「長門さんや喜緑さんに確認を取って貰っても、私は一向に構わないわ。だって、本当のことなんだもの」 俺は携帯を取りだし、長門に電話を掛けようとしてふと指が止まった。考えてみれば長門はまだ団活中の時間だし、喜緑さんは連絡先が分からん。どうしようか。 朝倉は相変わらず微笑んだままこちらを見ている。 お前ら情報統合思念体とやらを全面的に信用するつもりはないが……と言いかけて、ふと、周りを見回した。 ホールのど真ん中で、制服を着た朝倉と私服の俺が、傍目から見れば言い争っているような状況を、部活中の他の生徒が物珍しそうに横目で見ながら通り過ぎていく。 うう、転校前からあまり人の目を引きたくはなかったのだが。 「あ、そうそう。私が去年からこの学校にいるというのは長門さんの情報操作だからね。あたしは先週、喜緑さんに再構成されたばかりなの」 人の流れが途切れた頃に、朝倉は付け加えた。 ああ、だから喜緑さんがこっちに居たわけだな。紛らわしい。 谷口曰くAA+の微笑みを俺に向けていた朝倉が、ふと目線を外した。 「あ、お父様が来たみたいね。じゃあ、あたしはここで。またね!」 くるりと踵を返し教室棟に向かった朝倉を見ていると、背後から親父が声を掛けてきた。 「学校案内は終わったか?」 ああ……と、まるで気のない俺の返事に気付いたのかどうか。俺の横に並んで朝倉の去った方向を見ていた親父は、ニヤニヤしながらこちらを向いた。 「えらい美人さんだな。北高で同じクラスだったんだって?」 ああ、そうだな。 「引っ越しの時にお手伝いに来てくれた人も、女性の方が多かったそうじゃないか。しかも、なかなかの美人揃いと母さんから聞いたぞ」 なんのこった。全部友達だ友達。 「お前は俺に似て、美人に好かれる体質かもな?わははは」 そう笑いながら、親父は俺の背中をばんばん叩き、校門に向けて歩き始めた。 ……お前が父親でなければ、この場でぶん殴っているのに。 第十一章 親友へ
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第二章 それぞれの思惑 一通りの説明を聞き終えた古泉は、いつもの0円スマイルを3割減の顔で首肯した。 「そうですか、家庭の事情というわけですね……貴方は宜しいのですか?」 「だから、ここで相談しているんじゃないか。お前らなら、何とかしてくれるんじゃないかと思ってな」 「なるほど、それは常識的な判断です……ふむ……分かりました。少し裏を当たってみましょう。貴方が『下宿できる』『格安な』物件の探査も含めて調べてみますよ」 「手間を掛けてすまない。俺も生まれ育ったこの町から、今更全く知らない土地に引っ越しなんかしたくないし、何よりSOS団を抜けたくはない」 ほう、という表情で古泉が感嘆の言葉を出す。 「……驚きました。貴方がそれほどこのSOS団に……いや、この環境に執着していたとは」 「この2年間色々あったし、おそらくこれからも一生忘れられないような事が起きるだろうしな。それが俺だけ抜きってのは、正直おもしろくない」 破顔一笑して古泉は両手を広げる。 「承知しました。明日にはご連絡できるかと」 「ああ、朝比奈さんと長門にも同じ事を頼みたいんです。引き受けてもらえますか?」 「ふぇ~、分かりましたぁ」 「……承諾した」 この時ほど、こいつらの特殊属性(宇宙人、未来人、超能力者)が嬉しく思った日はなかったね。きっと何とかしてくれる、何とかなるだろうと、俺は何の根拠もなく思っていたからな。 翌日。 「あたし用事があるから、先に行ってて!」という声がドップラー効果を伴って廊下に消えていった放課後。 俺は部室に向かった。 まあ、ハルヒが俺より遅れて部室に到着するのは願ったり叶ったりだ。なんせ連中には昨日の頼み事の件もあったしな。 「……何とも、すみません」 「……ごめんなさい」 「……すまない」 部室に着いて、いきなりの三連コンボだった。 いつものパイプ椅子に腰掛けながら、全員の顔を見渡す。全員が目をそらすが、古泉が意を決したように俺の目を見ながら話し始めたが、その顔にはいつもの笑みが宿ってはいなかった。 「機関で少々調査させて頂いたのですが、貴方のお父様の転勤には、全く不審な点は見あたりませんでした。 むしろ、一般的には『栄転』と呼ばれる類のもののようです」 「まぁ、確かに新規プロジェクトのリーダー、新社長って話だったからな」 「むしろ、貴方のお父様はリーダーに推されることを拒んでいたようです」 「??どういう事だ??」 「貴方や妹さんが一人前になるまで……そうですね、貴方が大学生になり、妹さんが高校生になる位までは、このプロジェクトを引き受けるつもりは無かったようです。 ただ、ライバル会社が同じ市場に目を向け始めたと言う情報が入ったあたりでお父様の心情とは別に、会社の方が動いたようですね」 「そうか」 俺は親父の仕事なんぞにあまり興味はなかったが、実はそんなめんどいことになっていたのか。今後俺が就職したら、この件で親父と飲み交わしてみても良いかもしれない。 「さらに住居の件ですが」 「おお、それを聞きたかった。で、どうだった?」 長門や朝倉のマンションレベルとまでは言わないが、なんならボロアパートでも構わんぞ。 「ありませんでした」 「何??『機関』の力をもってしても見つからなかったというのか?」 「いえ、アパート…と言いますか。一年間住める住居を見つけることは我々には造作もないことなのですが、その……」 「何だ、はっきり言え」 「『機関』からの許可が下りなかったのです」 「なんと……」 「何らかの事情で『機関』はこの件に関しての干渉を避けているようです。そのためマンション、アパートをはじめとする物件の申請の、ことごとくが却下されました。最後の手段として僕が今住んでいるマンションを提供しようと申請したのですが、それも却下されました」 おまえの部屋に住み着くのは、どう考えても却下なのだが……それはいい。 「つまり、どうしようもないって事なのか?」 「お力になれず、すいません」 0円スマイルをさらに値引きしたような顔で古泉が謝った。 「……キョンくん、あの」 朝比奈さんが本当に申し訳なさそうな顔で、俺の顔を覗き込んできた。 「……そちらは何か分かりましたか?」 「ええと……未来は確定していない、でも特定の未来を迎えるには分岐点……私たちの言う【既定事項】がある。これは以前お話したことがありましたよね?」 「以前聞いたことがありますが……それが今回の話と何か関係が?」 「キョンくんのお引っ越しは、この時間平面上の分岐点……それも凄く大事なものなんです。この分岐点は未来の私達に関わってくることなんです」 「どういう意味ですかそれは?俺が今後SOS団の活動に参加できないってのが分岐点なんですか?何故?」 「……【禁則事項】です……ごめんなさい、私にはこれしか言えないんです」 俺の鋭い視線に、びくっと身を震わせる朝比奈さん。 ああ、すいません。そんなつもりではなかったんですよ。本当です。 「……いえ、でもこんな事を言われたら、普通は怒りますよね。でも、今の私にはこれしか……」 大粒の涙をぽろぽろ溢す。ごめんなさい、虐めたつもりではないんです。 最後の望みを掛けて、長門に視線を送る。 しかし、その瞳に覗くのは「陳謝」の感情だった。 「情報統合思念体は、涼宮ハルヒの情報改変能力の減少を関知している。このままでは近い将来その能力が失われてしまう可能性が高い。情報統合思念体は、様々な仮説を立てた。涼宮ハルヒの情報改変能力の減少を食い止める、もしくは拡大させる方法。その中に「情報フレア発現、または収束の鍵となる人間との一時的な離別」も入っていた。その『鍵となる人間』とは、あなた」 「……長門??ちょっと待て。今回の黒幕はおまえのパトロンなのか?」 「違う。先ほどの案は、リスクが大きすぎるとして却下されている。また、この件に関して私は一切の命令を情報統合思念体から受けていない。現在も、この事態に対し情報統合思念体は当惑している」 「……よく分からんが、おまえのパトロンの仕業では無いって事か?」 「そう。もし情報統合思念体がそのような結論を導き出したとしても、私という個体はその決定に対してありとあらゆる抵抗を試みるだろう。しかし、私は現在そのような事態に陥っていない」 俺はため息をついた。 と言うことは、俺のこの引っ越しは『親の都合による引っ越し』であって『宇宙的な陰謀』でも『未来的な都合』でも『組織とやらの仕業』ではないって事だな? 俺は3人から視線を外し、虚空に惑わせた。 そっか、そうなのか。じゃあ、覚悟を決めなきゃな。 「ところで」 いつになく真剣な目をした古泉が言葉を紡いだ。 「涼宮さんにこの件はお話しされたのですか?」 「いや、まだだ。お前らの結論を聞いてからと思っていたからな」 「なるほど。でも」 言葉の端に笑えないほどの真剣さを含んだ言葉を聞いて、俺は古泉の顔をまじまじと見つめた。 「どのようにこの件を涼宮さんにお伝えするのかと思いまして」 「そうなんだよな。それが今の俺の最大の懸念事項なんだよなー。下手を打つと、引っ越し前に貯金がマイナスになりかねん」 「……そういうことではないのですが……」 「あいつにとっては、単に『団員その1』が引っ越すだけだろ?そりゃ不思議探索の財布係がいなくなってしまうんだから、あいつも面白くないだろうさ」 そこで会話が途切れ、ふと辺りを見回す。 「……鈍感」 「……そういう意味じゃないんですよお……」 「……やれやれ、これまでとは」 三人の痛い視線が俺に投げかけられる。 ……待て待て、転校の件は俺が相談している立場なんだぞ?なのに、なんでそんな人を殺せるような視線を全員から投げかけられねばならんのだ? 突然「バァン!」と扉が開き、黄色のカチューシャが揺れる。 「へ~~~い、お~~待ちぃ~~~!!!」 こちらとしてはにっちもさっちもいかない状態だったので、部屋に入ってきた天上天下唯我独尊娘には感謝の言葉を贈呈したいような気分だった。気分だけな。 「……何?妙に場が暗いんだけど??」 「……なんのこった」 「まあいいわ。あ、キョン?あんたそういえば罰ゲームまだ残ってたよね?」 びしっ!と俺に指を突きつけた団長様は、いつも変わらない笑顔で宣言した。 「昨日と今日で、既に準備は整ったからね!春休みに入ったら、早速罰ゲームやってもらうわよ!」 俺以外の三人は、既にいつもの顔に戻っていた。 朝比奈さんは、ハルヒに差し出すためのお茶の用意を始め、長門はもっていた分厚い書籍に目を落とし、古泉はボードゲームの準備を始める。まるで先ほどまでの俺との会話が無かったかのよう。 その日も、長門が本を閉じる音とともに全員が帰り支度を開始、全員で下校。 こうやってSOS団のいつもの日常は過ぎていった。 ただ俺の心の中には、明日ハルヒへ転校の件を告げなければならないという暗雲が渦巻いていたが。 遠距離恋愛 第三章 齟齬へ
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第二章 それぞれの思惑 一通りの説明を聞き終えた古泉は、いつもの0円スマイルを3割減の顔で首肯した。 「そうですか、家庭の事情というわけですね……貴方は宜しいのですか?」 「だから、ここで相談しているんじゃないか。お前らなら、何とかしてくれるんじゃないかと思ってな」 「なるほど、それは常識的な判断です……ふむ……分かりました。少し裏を当たってみましょう。貴方が『下宿できる』『格安な』物件の探査も含めて調べてみますよ」 「手間を掛けてすまない。俺も生まれ育ったこの町から、今更全く知らない土地に引っ越しなんかしたくないし、何よりSOS団を抜けたくはない」 ほう、という表情で古泉が感嘆の言葉を出す。 「……驚きました。貴方がそれほどこのSOS団に……いや、この環境に執着していたとは」 「この2年間色々あったし、おそらくこれからも一生忘れられないような事が起きるだろうしな。それが俺だけ抜きってのは、正直おもしろくない」 破顔一笑して古泉は両手を広げる。 「承知しました。明日にはご連絡できるかと」 「ああ、朝比奈さんと長門にも同じ事を頼みたいんです。引き受けてもらえますか?」 「ふぇ~、分かりましたぁ」 「……承諾した」 この時ほど、こいつらの特殊属性(宇宙人、未来人、超能力者)が嬉しく思った日はなかったね。きっと何とかしてくれる、何とかなるだろうと、俺は何の根拠もなく思っていたからな。 翌日。 「あたし用事があるから、先に行ってて!」という声がドップラー効果を伴って廊下に消えていった放課後。 俺は部室に向かった。 まあ、ハルヒが俺より遅れて部室に到着するのは願ったり叶ったりだ。なんせ連中には昨日の頼み事の件もあったしな。 「……何とも、すみません」 「……ごめんなさい」 「……すまない」 部室に着いて、いきなりの三連コンボだった。 いつものパイプ椅子に腰掛けながら、全員の顔を見渡す。全員が目をそらすが、古泉が意を決したように俺の目を見ながら話し始めたが、その顔にはいつもの笑みが宿ってはいなかった。 「機関で少々調査させて頂いたのですが、貴方のお父様の転勤には、全く不審な点は見あたりませんでした。 むしろ、一般的には『栄転』と呼ばれる類のもののようです」 「まぁ、確かに新規プロジェクトのリーダー、新社長って話だったからな」 「むしろ、貴方のお父様はリーダーに推されることを拒んでいたようです」 「??どういう事だ??」 「貴方や妹さんが一人前になるまで……そうですね、貴方が大学生になり、妹さんが高校生になる位までは、このプロジェクトを引き受けるつもりは無かったようです。 ただ、ライバル会社が同じ市場に目を向け始めたと言う情報が入ったあたりでお父様の心情とは別に、会社の方が動いたようですね」 「そうか」 俺は親父の仕事なんぞにあまり興味はなかったが、実はそんなめんどいことになっていたのか。今後俺が就職したら、この件で親父と飲み交わしてみても良いかもしれない。 「さらに住居の件ですが」 「おお、それを聞きたかった。で、どうだった?」 長門や朝倉のマンションレベルとまでは言わないが、なんならボロアパートでも構わんぞ。 「ありませんでした」 「何??『機関』の力をもってしても見つからなかったというのか?」 「いえ、アパート…と言いますか。一年間住める住居を見つけることは我々には造作もないことなのですが、その……」 「何だ、はっきり言え」 「『機関』からの許可が下りなかったのです」 「なんと……」 「何らかの事情で『機関』はこの件に関しての干渉を避けているようです。そのためマンション、アパートをはじめとする物件の申請の、ことごとくが却下されました。最後の手段として僕が今住んでいるマンションを提供しようと申請したのですが、それも却下されました」 おまえの部屋に住み着くのは、どう考えても却下なのだが……それはいい。 「つまり、どうしようもないって事なのか?」 「お力になれず、すいません」 0円スマイルをさらに値引きしたような顔で古泉が謝った。 「……キョンくん、あの」 朝比奈さんが本当に申し訳なさそうな顔で、俺の顔を覗き込んできた。 「……そちらは何か分かりましたか?」 「ええと……未来は確定していない、でも特定の未来を迎えるには分岐点……私たちの言う【既定事項】がある。これは以前お話したことがありましたよね?」 「以前聞いたことがありますが……それが今回の話と何か関係が?」 「キョンくんのお引っ越しは、この時間平面上の分岐点……それも凄く大事なものなんです。この分岐点は未来の私達に関わってくることなんです」 「どういう意味ですかそれは?俺が今後SOS団の活動に参加できないってのが分岐点なんですか?何故?」 「……【禁則事項】です……ごめんなさい、私にはこれしか言えないんです」 俺の鋭い視線に、びくっと身を震わせる朝比奈さん。 ああ、すいません。そんなつもりではなかったんですよ。本当です。 「……いえ、でもこんな事を言われたら、普通は怒りますよね。でも、今の私にはこれしか……」 大粒の涙をぽろぽろ溢す。ごめんなさい、虐めたつもりではないんです。 最後の望みを掛けて、長門に視線を送る。 しかし、その瞳に覗くのは「陳謝」の感情だった。 「情報統合思念体は、涼宮ハルヒの情報改変能力の減少を関知している。このままでは近い将来その能力が失われてしまう可能性が高い。情報統合思念体は、様々な仮説を立てた。涼宮ハルヒの情報改変能力の減少を食い止める、もしくは拡大させる方法。その中に「情報フレア発現、または収束の鍵となる人間との一時的な離別」も入っていた。その『鍵となる人間』とは、あなた」 「……長門??ちょっと待て。今回の黒幕はおまえのパトロンなのか?」 「違う。先ほどの案は、リスクが大きすぎるとして却下されている。また、この件に関して私は一切の命令を情報統合思念体から受けていない。現在も、この事態に対し情報統合思念体は当惑している」 「……よく分からんが、おまえのパトロンの仕業では無いって事か?」 「そう。もし情報統合思念体がそのような結論を導き出したとしても、私という個体はその決定に対してありとあらゆる抵抗を試みるだろう。しかし、私は現在そのような事態に陥っていない」 俺はため息をついた。 と言うことは、俺のこの引っ越しは『親の都合による引っ越し』であって『宇宙的な陰謀』でも『未来的な都合』でも『組織とやらの仕業』ではないって事だな? 俺は3人から視線を外し、虚空に惑わせた。 そっか、そうなのか。じゃあ、覚悟を決めなきゃな。 「ところで」 いつになく真剣な目をした古泉が言葉を紡いだ。 「涼宮さんにこの件はお話しされたのですか?」 「いや、まだだ。お前らの結論を聞いてからと思っていたからな」 「なるほど。でも」 言葉の端に笑えないほどの真剣さを含んだ言葉を聞いて、俺は古泉の顔をまじまじと見つめた。 「どのようにこの件を涼宮さんにお伝えするのかと思いまして」 「そうなんだよな。それが今の俺の最大の懸念事項なんだよなー。下手を打つと、引っ越し前に貯金がマイナスになりかねん」 「……そういうことではないのですが……」 「あいつにとっては、単に『団員その1』が引っ越すだけだろ?そりゃ不思議探索の財布係がいなくなってしまうんだから、あいつも面白くないだろうさ」 そこで会話が途切れ、ふと辺りを見回す。 「……鈍感」 「……そういう意味じゃないんですよお……」 「……やれやれ、これまでとは」 三人の痛い視線が俺に投げかけられる。 ……待て待て、転校の件は俺が相談している立場なんだぞ?なのに、なんでそんな人を殺せるような視線を全員から投げかけられねばならんのだ? 突然「バァン!」と扉が開き、黄色のカチューシャが揺れる。 「へ~~~い、お~~待ちぃ~~~!!!」 こちらとしてはにっちもさっちもいかない状態だったので、部屋に入ってきた天上天下唯我独尊娘には感謝の言葉を贈呈したいような気分だった。気分だけな。 「……何?妙に場が暗いんだけど??」 「……なんのこった」 「まあいいわ。あ、キョン?あんたそういえば罰ゲームまだ残ってたよね?」 びしっ!と俺に指を突きつけた団長様は、いつも変わらない笑顔で宣言した。 「昨日と今日で、既に準備は整ったからね!春休みに入ったら、早速罰ゲームやってもらうわよ!」 俺以外の三人は、既にいつもの顔に戻っていた。 朝比奈さんは、ハルヒに差し出すためのお茶の用意を始め、長門はもっていた分厚い書籍に目を落とし、古泉はボードゲームの準備を始める。まるで先ほどまでの俺との会話が無かったかのよう。 その日も、長門が本を閉じる音とともに全員が帰り支度を開始、全員で下校。 こうやってSOS団のいつもの日常は過ぎていった。 ただ俺の心の中には、明日ハルヒへ転校の件を告げなければならないという暗雲が渦巻いていたが。 遠距離恋愛 第三章 齟齬へ
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第三章 齟齬 春爛漫なはずのこの季節・3月にしては妙に肌寒い空気の中、俺は北高に至るこのハイキングコースを感慨を噛み締めながら登っていた。4月からは別の場所の、別の学校に通うことになる。そう考えると、俺はこの2年間の思い出を振り返りながら、日頃の運動不足を解消できるハイキングコースも悪くないかもしれない、そう思っていた。 ……なんてな。そんなことあるか。こんな朝っぱらから強制ハイキングなんてない方がいい。当たり前だ。 俺は、見たこともない転校先の学校の通学路にハイキングコースがないことを切望しつつ、教室に入った。 自分の席に近づくと、後ろの席に陣取っている天上天下唯我独尊娘が、そんな俺の憂いの気持ちなど気にも掛けず、100Wの笑顔で話しかけてきた。 「おはよ、キョン!ところで、春休みの団活のことなんだけど……」 嬉々としてSOS団春休みイベント実行計画について話し始めるハルヒに頷きながら、俺は俺で別のことを考えていた。明日には両親が担任の岡部に転校手続きを頼むことになり、少しずつ俺の転校のことが周りにばれ始めるだろう。そんなんで修羅場はイヤだから、ハルヒには今日中に伝えておかないとな。 「なあ、ハルヒ」 「……何よ?団長の話の腰を折るなんて良い度胸じゃない?勿論、それなりのネタはあるんでしょうね?」 ああ、これは多分、お前も腰を抜かすほどのネタだ。おそらくな。 ふと、周りを見渡す。 ……教室の窓際一番後ろの席にハルヒ、その前の席に俺。 一年生の最初の席替えから今までの、俺とハルヒの定位置。来年は、俺のポジションに誰が座るんだろう? 何となく寂しい思いを振り切って、ハルヒと目を合わせる。 「どしたの?キョン?早く言いなさいよ」 ハルヒが俺の顔を覗き込む。もしかして俺はちょっと変な顔をしていたかもしれない。 「実はな、SOS団の活動には参加できなくなった」 「却下」 即答しやがった。ああ、これは言い方がまずかった。 「あー、俺も出来れば参加したいんだが、家の事情でな」 「何それ?……あ~~もしかして期末試験の出来が悪かった?それなら安心しなさい!春休みのSOS団活動内容の中には、あんたの成績向上計画も入っているから!これでアンタの大学受験もバッチリだわ!」 それがどんなものかを聞いてみたい気もしたが、俺はあえて今聞いた話を脳内から押し出した。 「いや、そういう事じゃない。俺は今後SOS団に参加出来なくなるんだ」 ハルヒの顔から笑みが消えた。 「……え?どうして?あ、もしかして塾とか予備校に通うことになったとか?それならあたしが……」 しょうがない、こうなったら単刀直入に事実を告げるしかないか。 俺は、ハルヒに引っ越すことを告げた。 「……え………引っ越す……??」 呆然とするハルヒ。まるでデパートか遊園地で迷子になり、実は親に捨てられたことが判明した子供のような顔をしている。その瞳の中には困惑の感情が見て取れた。 ガタン、と机を揺らしてハルヒが立ち上がった。 既に自分の席に着いていたクラスの連中が一斉に俺たちに視線を投げかけるが、ハルヒには関係ない。 「ちょっと来なさい!」 俺のネクタイをむんずとひっつかみ、教室を出て行こうとする。おい!待て!もうすぐHRが始まるんだぞ! 「関係ないわ。あんたは私に付いてきなさい」 廊下には今にも教室に入ろうとドアに手を掛けた岡部がいた。入れ違いに出て行こうとしたハルヒと俺に、一瞬声を掛けるようなそぶりを見せたが、それを無視してずんずん部室棟の方向に向かうハルヒの表情を見て掛ける言葉を飲み込んでしまったようだ。引きずられていく俺を見て一瞬憐憫の表情を浮かべたが、結局は何も言わずに岡部は教室に入っていった。すいません、俺とハルヒはHR欠席です。 「さぁ、説明してもらいましょうか?」 部室のいつもの席、団長席に落ち着いたハルヒは、俺に説明を要求した。 「説明も何も、さっき言ったとおり引っ越す事になったんだ。その準備やら何やらで春休みが潰れてしまう。あと、今後の活動も参加できなくなるんだ」 じっと俺の顔を見ていたハルヒが、声のトーンを落として問いかけてきた。 「……で、どこに引っ越すの?」 俺が引っ越し先を告げると、ハルヒは蒼白になった。 「……え……じゃあ、転校するって事………?」 「そう……だな」 飛行機使っても片道数時間、電車だと下手すると半日以上かかる場所だからな。さすがに通学って訳にはいかないさ。 「……なんで?なんであんたが転校しちゃうのよ?一人暮らしって道もあったでしょ?なんでこの時期に転校なのよ?しかもあんたも進学希望なんでしょ?この時期に……この大切な時期になんで??ワケわかんないこと言わないでよ?」 いや、ワケわからんのはお前の言動だ。 俺は数日前に両親から聞いた話をそのままハルヒに伝えた。 もちろん長門や朝比奈さん、古泉には昨日のうちに相談していたなんて事は省いたが。 一通り俺の説明を聞いたハルヒは顔を伏せた。 「……そうなんだ。家の事情なのね……」 納得できない、納得したくないが納得しなきゃいけないといった声でハルヒは呟いた。 「で、あんたはそれで良いの?思い残すことはないワケ?」 「良いわけないだろ。俺だって、ここを離れるのはイヤさ。でもな俺、金無いから到底一人暮らしなんか出来ないし」 「そんなことを聞いてるんじゃない!」 ハルヒは団長机を両手で叩いた。 「あんたはそれで良いの?思い残すことはないの?」 2度目の問いかけだが、これは困った。なんと答えれば良いんだ? 「言い換えるわ。あんたは、あたしやSOS団を離れても寂しくないの?」 「さみしいさ。でも、しょうがないんだ。まあ、この2年間色々とあったからなあ。絶対に忘れられないような思い出もできたしな。まあ、それを胸に刻んで新しい所で頑張るさ」 ハルヒは顔を上げ、俺の顔を射るような目で見ている。 「本当にそれで良いのね?あたしやSOS団にも伝えることも思い残すことも、本当に何もないのね?」 そして3度目の質問。 「ああ」 沈黙のまま時間は過ぎていく。空気が重い。 ……もうそろそろ1時限目終わりのチャイムが鳴る頃か。 「……もういい。分かった」 「ハルヒ?」 「あんたは教室に戻りなさい」 「お前はどうするんだよ」 「うるさい!あんたには関係ないでしょ!」 この状態のハルヒは、何を言っても聞く耳持たない。2年間の経験でそれを理解した俺は、ああ分かったとだけ呟いて部室を後にした。 一時限目終了のチャイムとともに教室に戻ると、再びクラス中の視線が一瞬俺に注がれたが、すぐにまた元に戻った。谷口と国木田は何かにやにやした笑いをこちらに向けている。残念ながらお前が想像しているようなことはこれっぽっちもなく、どちらかと言えば真逆に近い状況だったんだがな。 二時限目が始まってもハルヒは戻ってこなかった。当然後ろの席からの攻撃はなく、俺はこれからどうしたらよいものか、思案に暮れていたら、既に放課後となっていた。短縮授業だから昼休みはなく、普通ならばこれから学食行って部室なのだがな……朝のハルヒとの一件もあり、なんとなく部室に行きづらい。 谷口と国木田には、休み時間に転校の件を伝えておいた。友人には、公式発表の前に伝えた方が良いからな。 二人とも根掘り葉掘り事情を聞いてきたが、一通り説明すると家庭の事情ならしょうがないと納得していたようだ。 第四章 想いへ
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第二十七章 エピローグ 一般的な日本の常識で花見と言えば、3月中旬から4月中旬にかけてのイベントであることに何の疑問の持たなかった数年前の俺を誰が責められよう。確かに今は4月ではあるのだが、既に日本全国の誰もが待ちわびていた大型連休に突入しており、今日はその2日目だ。桜の花びらが舞い散る中、俺は「新入生歓迎!」とでかでかと書かれた横断幕の花見の席の中にいた。 既に宴が始まって3時間。宴の一部はもう大変な事になっている。 大声で談笑しながら新一年生達のコップに酒を注ぎまくる2年3年の男子学生達。女性が少ない学部だからか女子新入生の周りを、学年を問わず男子学生が取り巻いていた。逆に、その数少ない2年3年の女子学生達は品定めをするように男子新入生を遠巻きに眺めながら、そっちはそっちで盛り上がっていた。 俺はそんな光景を眺めながら喧噪からちょっと離れた場所に座り、ウーロン茶を飲んでいた。 「なに、黄昏れてんのよ、キョン?」 さっきまで向こうでカラオケマイクを離さなかった女子新入生が、こちらにやってきた。もちろんハルヒだ。 「新入生歓迎の宴なんだから、アンタもぱーっとやりなさいよ!」 酒のせいか、ほんのり頬が赤くなったハルヒが俺の鼻先に人差し指を突きつけた。 ……やっぱり酔ってやがる。ふらふらと、その指先が定まらない。 「お前酔ってるだろ?大概にしておけよ。大体お前未成年だろうが」 「酔ってるわけ無いじゃない。それにこの場のノリでちょこっと飲んだだけよ。ビールを3リットルくらい」 ……飲み過ぎだっつーの。いや、これ以上呑ませたらまずいな。 何とかしないと、俺に被害が及んでくるのは確実だ。 「う~ん、キョン!ノリ悪いわよ!こんな無礼講の宴の時はもっとノリが良くなきゃダメ!アンタがイマイチノリが悪いから、アタシも今日はあんまりテンション上がらないんだから」 待て、さっきまでマイクを離さずに、しかも歌いながら完璧なダンスを披露していた2人組の女性は、お前と長門以外の誰だと言うんだ?2年3年はともかく、新入生はドン引きしてたぞ? 「ノリ悪いのよね~~、今年の新入生は」 お前は上級生じゃないだろ?なんだその先輩目線は? ……と突っ込みを入れようとした俺の目に、空中に浮かんだハルヒが映った。 「なっ……」 こちらに飛び込んでくるハルヒを受け止めようとして支えきれず、俺は背にしていた桜の木に、後頭部をしたたかに打ち付けた。痛え。 おい!と少々怒気の孕んだ声が出かけたが、胸元から聞こえるハルヒの声で俺は言葉を飲み込んだ。 「……キョン……本物なんだよね?あたしの夢じゃないよね?……もう、あたしの前から居なくなったりはしないよね?」 ……ああ。俺はずっとお前の側にいるさ。だから、安心しろ。 「……うん。安心した。好き」 ぎゅっと俺を抱きしめてくるハルヒ。俺のハルヒの体に手を回して……と、そこで我に返った。慌てて周りを見回すと、さっきの大騒ぎの宴会はどこへやら、新入生2年生3年生教授連の皆様が、固唾をのんでこちらを見ていた。俺の視線に気づくと、慌てて目を逸らす新入生、にやにや笑っている2年3年生。ヒューヒューと指笛を吹き出す奴もいる。「若いって良いですなあ」と言った感じで生暖かい目で見守る教授陣。 何だってんだ、まったく。 「おい、古泉、長門」 ハルヒが俺に抱きつき、胸に顔を埋めながらうにゃうにゃ何か言っているのをとりあえず無視して、宴の中に鎮座している二人に声を掛けた。かなり呑んでいるのも関わらず顔色一つ変えていない長門と、若干服装が乱れつつも、いつものスマイルを顔に貼り付けた古泉がやってくる。 「これはこれは。涼宮さんの乱れ模様を僕たちに観賞させて頂けるとは。眼福です」 「感情制御部にエラー発生、除去作業開始」 ……何言ってるんだお前ら?それよりもコイツを何とかしてくれ。 「ふふ、判りました。僕と長門さんから幹事の方に言っておきますので、あなた方は先にお帰り下さい」 え?良いのか?でも、この宴会はこの後も続くんだろ?お前ら大丈夫なのか? 「あれから『機関』で鍛えられましたしね。この位は大丈夫ですよ」 「……その辺は旨くやる」 そ、そうか。スマン。いつもお前らには迷惑ばかり掛けてるな。この埋め合わせはきっとするから。 いつの間にか寝てしまったハルヒを背中に乗せ、俺は花見会場を後にした。 「エラー発生、除去作業開始。再びエラー発生、除去作業開始……」 ぶつぶつ何かを呟いていた長門が古泉に引きずられるように宴会会場に戻るのと同時に、その場に再び喧噪が戻った。 「ハルヒ、大丈夫か?」 公園の駐車場に着いた俺は、親父から借りた高級自家用車の助手席にハルヒを降ろし、声を掛けた。急性アル中とかになったらマズイしな。まあ、コイツの場合はそんな心配は無用かもしれんが。 「……ん……」 熟睡していたように見えたハルヒが、突然大きく伸びをしながら目を開けた。ふう、と一息つき、俺の顔を見上げた。 「……作戦成功ってところね」 は?何言ってるんだお前?作戦って何だよ? 「いいから。さっさと車出しなさい」 公園駐車場を抜け出し何となくあたりを流しながら、気になっていたさっきのハルヒの台詞の意味を聞いた。 なあ、作戦って何のことだ? 「……アタシがこの大学に入ってから、何人の男に声掛けられたか知ってる?」 は?いや、判らん。 「2週間で18人よ?全部振ってやったけど」 18人?多すぎだぞ、それ。 「アンタや古泉君や有希と一緒にいるときは近寄ってこないのよ。でも登下校の時とか、何かの拍子に一人になった時は、必ず声掛けられてたわ」 確かにハルヒは美人だ。かつて北高時代「性格さえ良ければ完璧」と言われていたハルヒが、更に数年を経て年相応の色気が追加されているのだ。初めてコイツを見る男どもが、こぞってハルヒに交際を申し込んだとしても不思議ではない……振られた連中の冥福を祈る。 「だからね、もう決着付けたかったのよ」 なるほどね。で、アレが決着ですか。 「そ。皆のいる前で、アタシとアンタが恋人になったって事を見せれば、もうアタシに声掛けてくることはなくなるでしょ?それが今回の作戦よ」 はあ、そうですか。 「古泉君と有希には迷惑掛けちゃったけど……後で謝っておくわ」 いや、多分あいつらは判ってたと思うぜ。何となくだがな。 「ところでキョン。これからどうするの?」 「あー、そうだな。お前の酔いが覚めるまで、適当に流していようかと思ったんだが」 「……あれ?!もしかしてキョン、酔っぱらい運転してるんじゃないでしょうね?」 「ウーロン茶だけで、酒は飲んでない。つーか、呑まないためにわざわざ親父から車を借りてきたんだがな」 「え……呑まないだけなら、何時のもスクーターでも良かったんじゃない?」 「馬鹿たれ。少しは察しろよ」 その言葉をちょっと考えたハルヒは、酔いの赤みとは明らかに違う赤みを頬に加え、バカ、と呟いた。 少しの沈黙の後、ハルヒは俺の大好きな100Wの笑顔でこちらを向いた。 「キョン、これからドライブ行かない?」 「これからか?まあ、元々そのつもりだったからな。で、どこに行きたいんだ?」 「不思議探索!アンタとは暫くやってなかったし、ここでは初めてだわ!きっと不思議も油断しているに違いないわ!」 おいおい、マジかよ……とも思ったが、心底嬉しそうな顔でこんな事を言われたら、な。 「手始めにはまず、ツチノコね!今の時期は冬眠から醒めたばかりのツチノコが、餌を探してきっと山の中に一杯居るに違いないわ!まず手始めにツチノコを探しましょ!」 ……マジで?ツチノコなんて山の奥の奥に行かないと見つけられないんじゃないか? 「こっちじゃバチヘビって言うんだっけ?昔マンガで見たわ。ってことは、県南の山林ね。キョン、目的地は県南!待ってなさいバチヘビ!このあたしが……」 助手席で一人で盛り上がっているハルヒに、心の中で「やれやれ」といつもの台詞を呟きながら俺は、高速道路のインターチェンジにハンドルを切った。高速のチケットを取り、誘導路から本線に向けて加速する。 助手席のハルヒが、俺に向けて100W、いや10000Wの微笑みを投げかけてくる。 そうだな。俺もこの微笑みに答えなきゃな。 こいつは、俺に自分の未来を預けてくれた。だったら、それに答えなきゃならんだろ、男ならな。 これからどうなるかなんて、まだ全然判らない。でも、コイツの泣き顔だけは見たくない。 俺が見たいのは、コイツの10000Wの笑顔なんだ。 だから…… ハルヒ。これからもずっと、よろしくな。 そんな俺の気持ちに答えるように、車は本線に向けて軽々と加速していった。 遠距離恋愛 END
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第三章 齟齬 春爛漫なはずのこの季節・3月にしては妙に肌寒い空気の中、俺は北高に至るこのハイキングコースを感慨を噛み締めながら登っていた。4月からは別の場所の、別の学校に通うことになる。そう考えると、俺はこの2年間の思い出を振り返りながら、日頃の運動不足を解消できるハイキングコースも悪くないかもしれない、そう思っていた。 ……なんてな。そんなことあるか。こんな朝っぱらから強制ハイキングなんてない方がいい。当たり前だ。 俺は、見たこともない転校先の学校の通学路にハイキングコースがないことを切望しつつ、教室に入った。 自分の席に近づくと、後ろの席に陣取っている天上天下唯我独尊娘が、そんな俺の憂いの気持ちなど気にも掛けず、100Wの笑顔で話しかけてきた。 「おはよ、キョン!ところで、春休みの団活のことなんだけど……」 嬉々としてSOS団春休みイベント実行計画について話し始めるハルヒに頷きながら、俺は俺で別のことを考えていた。明日には両親が担任の岡部に転校手続きを頼むことになり、少しずつ俺の転校のことが周りにばれ始めるだろう。そんなんで修羅場はイヤだから、ハルヒには今日中に伝えておかないとな。 「なあ、ハルヒ」 「……何よ?団長の話の腰を折るなんて良い度胸じゃない?勿論、それなりのネタはあるんでしょうね?」 ああ、これは多分、お前も腰を抜かすほどのネタだ。おそらくな。 ふと、周りを見渡す。 ……教室の窓際一番後ろの席にハルヒ、その前の席に俺。 一年生の最初の席替えから今までの、俺とハルヒの定位置。来年は、俺のポジションに誰が座るんだろう? 何となく寂しい思いを振り切って、ハルヒと目を合わせる。 「どしたの?キョン?早く言いなさいよ」 ハルヒが俺の顔を覗き込む。もしかして俺はちょっと変な顔をしていたかもしれない。 「実はな、SOS団の活動には参加できなくなった」 「却下」 即答しやがった。ああ、これは言い方がまずかった。 「あー、俺も出来れば参加したいんだが、家の事情でな」 「何それ?……あ~~もしかして期末試験の出来が悪かった?それなら安心しなさい!春休みのSOS団活動内容の中には、あんたの成績向上計画も入っているから!これでアンタの大学受験もバッチリだわ!」 それがどんなものかを聞いてみたい気もしたが、俺はあえて今聞いた話を脳内から押し出した。 「いや、そういう事じゃない。俺は今後SOS団に参加出来なくなるんだ」 ハルヒの顔から笑みが消えた。 「……え?どうして?あ、もしかして塾とか予備校に通うことになったとか?それならあたしが……」 しょうがない、こうなったら単刀直入に事実を告げるしかないか。 俺は、ハルヒに引っ越すことを告げた。 「……え………引っ越す……??」 呆然とするハルヒ。まるでデパートか遊園地で迷子になり、実は親に捨てられたことが判明した子供のような顔をしている。その瞳の中には困惑の感情が見て取れた。 ガタン、と机を揺らしてハルヒが立ち上がった。 既に自分の席に着いていたクラスの連中が一斉に俺たちに視線を投げかけるが、ハルヒには関係ない。 「ちょっと来なさい!」 俺のネクタイをむんずとひっつかみ、教室を出て行こうとする。おい!待て!もうすぐHRが始まるんだぞ! 「関係ないわ。あんたは私に付いてきなさい」 廊下には今にも教室に入ろうとドアに手を掛けた岡部がいた。入れ違いに出て行こうとしたハルヒと俺に、一瞬声を掛けるようなそぶりを見せたが、それを無視してずんずん部室棟の方向に向かうハルヒの表情を見て掛ける言葉を飲み込んでしまったようだ。引きずられていく俺を見て一瞬憐憫の表情を浮かべたが、結局は何も言わずに岡部は教室に入っていった。すいません、俺とハルヒはHR欠席です。 「さぁ、説明してもらいましょうか?」 部室のいつもの席、団長席に落ち着いたハルヒは、俺に説明を要求した。 「説明も何も、さっき言ったとおり引っ越す事になったんだ。その準備やら何やらで春休みが潰れてしまう。あと、今後の活動も参加できなくなるんだ」 じっと俺の顔を見ていたハルヒが、声のトーンを落として問いかけてきた。 「……で、どこに引っ越すの?」 俺が引っ越し先を告げると、ハルヒは蒼白になった。 「……え……じゃあ、転校するって事………?」 「そう……だな」 飛行機使っても片道数時間、電車だと下手すると半日以上かかる場所だからな。さすがに通学って訳にはいかないさ。 「……なんで?なんであんたが転校しちゃうのよ?一人暮らしって道もあったでしょ?なんでこの時期に転校なのよ?しかもあんたも進学希望なんでしょ?この時期に……この大切な時期になんで??ワケわかんないこと言わないでよ?」 いや、ワケわからんのはお前の言動だ。 俺は数日前に両親から聞いた話をそのままハルヒに伝えた。 もちろん長門や朝比奈さん、古泉には昨日のうちに相談していたなんて事は省いたが。 一通り俺の説明を聞いたハルヒは顔を伏せた。 「……そうなんだ。家の事情なのね……」 納得できない、納得したくないが納得しなきゃいけないといった声でハルヒは呟いた。 「で、あんたはそれで良いの?思い残すことはないワケ?」 「良いわけないだろ。俺だって、ここを離れるのはイヤさ。でもな俺、金無いから到底一人暮らしなんか出来ないし」 「そんなことを聞いてるんじゃない!」 ハルヒは団長机を両手で叩いた。 「あんたはそれで良いの?思い残すことはないの?」 2度目の問いかけだが、これは困った。なんと答えれば良いんだ? 「言い換えるわ。あんたは、あたしやSOS団を離れても寂しくないの?」 「さみしいさ。でも、しょうがないんだ。まあ、この2年間色々とあったからなあ。絶対に忘れられないような思い出もできたしな。まあ、それを胸に刻んで新しい所で頑張るさ」 ハルヒは顔を上げ、俺の顔を射るような目で見ている。 「本当にそれで良いのね?あたしやSOS団にも伝えることも思い残すことも、本当に何もないのね?」 そして3度目の質問。 「ああ」 沈黙のまま時間は過ぎていく。空気が重い。 ……もうそろそろ1時限目終わりのチャイムが鳴る頃か。 「……もういい。分かった」 「ハルヒ?」 「あんたは教室に戻りなさい」 「お前はどうするんだよ」 「うるさい!あんたには関係ないでしょ!」 この状態のハルヒは、何を言っても聞く耳持たない。2年間の経験でそれを理解した俺は、ああ分かったとだけ呟いて部室を後にした。 一時限目終了のチャイムとともに教室に戻ると、再びクラス中の視線が一瞬俺に注がれたが、すぐにまた元に戻った。谷口と国木田は何かにやにやした笑いをこちらに向けている。残念ながらお前が想像しているようなことはこれっぽっちもなく、どちらかと言えば真逆に近い状況だったんだがな。 二時限目が始まってもハルヒは戻ってこなかった。当然後ろの席からの攻撃はなく、俺はこれからどうしたらよいものか、思案に暮れていたら、既に放課後となっていた。短縮授業だから昼休みはなく、普通ならばこれから学食行って部室なのだがな……朝のハルヒとの一件もあり、なんとなく部室に行きづらい。 谷口と国木田には、休み時間に転校の件を伝えておいた。友人には、公式発表の前に伝えた方が良いからな。 二人とも根掘り葉掘り事情を聞いてきたが、一通り説明すると家庭の事情ならしょうがないと納得していたようだ。 第四章 想いへ