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丘 (4) 『放て』 シルディール連隊長の命じる声と共に、ルキアニスは魔力を放つ。それが魔道兵の任だから。 気を薙ぐ手より振りまいた炎は、打ち倒された人と馬とに押し寄せ、舐めてゆく。白の三の魔力では、何もかもを吹き飛ばすことなどできない。それがたとえ十騎やそこらであっても、全てを焼き払うことなどできない。少ない魔力のぬるい火で、炙り殺すようにしてゆくのがやっとだ。倒れたものら、まだ息のあったものも、そうでなかったものも、みな同じに焼けて、白く黒く煙を上げる。 「・・・・・・」 いやないやなにおいの煙と、低い炎の向こうに、先の白い獣は立つ。背の男は騎兵帽の短いつばに軽く手をやり、顔を上げた。口元を引き締め、強いまなざしでこちらを見る。 ルキアニスにもわかった。見たことも無い人だけれど、間違いない。あの人がヴァルトシュタイン将軍だ。乗っている白い獣は、教会から遣わされた魔獣なのだと聞かされていた。白く、美しい獣だった。長くつややかな毛並で、しかもそれはゆらゆらと炎のように自ら揺らめいている。四肢で地に立つけれど、四肢の先はいずれも細い指で、地に軽く触れているようにしか見えない。馬ではない。犬でもない。しかしそのいずれにも少しずつ似ている。教会はそれを聖獣と呼ぶと聞かされた。教会が至高とする神々から、教会の信徒、その教えを賭けた戦いに下される手助けなのだという。それはヴァルトシュタイン将軍のみを背に許し、ひと飛びで百碼を、矢よりも早く飛びぬけるという。その様子は先にも見た。本当に飛び、地を蹴るようにして抜刀の刃をかいくぐった。 白の魔獣は身構える。その獣の瞳でこちらを見据えたまま、その頭をわずかに低くする。ルキアニスも気付いた。シルディール連隊長だ。 気付いたときには連隊長機は動いていた。踏み込み、ひとつながりの、美しいとすら言えるしぐさで、物見鑓を投げ放つ。薄青い魔力の光の尾を引いて物見鑓は飛んだ。 白い獣が跳ねる。 入れ違うように、地に物見鑓が突き刺さる。逃れ得た、わけじゃない。物見鑓から光がほとばしる。 込められていた魔力が、稲妻となって放たれる。はじめから、鑓を投じた程度では白の獣を倒せなどしないとわかっていたかのように。吹き上がる魔力の青い稲妻の狭間を、白い獣は駆けるように飛んだ。むしろたわむれるように跳ねる。吹き上がる稲妻の柱の間を、自ら巡るように飛び駆ける。背のヴァルトシュタイン将軍は騎兵帽を押さえながら、獣の首にしがみついている。 稲妻の魔術が途切れる頃、白の獣は宙を大きく退いて舞い下りる。ふわりと、まるで羽毛のように。そうして白の獣は顔を上げる。背のヴァルトシュタイン将軍も身を起こし、それから少しの笑みを見せる。苦笑なのか、違うのか、ルキアニスには良く判らない。 遠い間合いに、もはや魔術は届かない。そうと知って退いたのだ。それは彼らの騎兵らもまた同じだった。先までの襲撃横隊は、いまやただの一塊になっていた。それでも壊走せずに集結し、再び森へと踏み込もうとしている。 ヴァルトシュタイン将軍は、森へ分け入る騎兵群を見やり、もういちどこちらへ目をやる。もちろんルキアニスにでなくて、連隊長へ向けてだろう。 一瞥を残し、白の獣は地を蹴った。風のように森を飛びゆく。彼の騎兵らも、森へと駆け込みゆく。 「・・・・・・」 どうするのだろう、ルキアニスは思い、シルディール連隊長をそっと窺い見る。連隊長機は、腰の剣に手をかけてはいた。けれどもう兵法魔術の届かぬ間合いへ、さらに森へと敵の騎兵は駆けてゆく。 遺体はあきらめたらしい。ルキアニスが焼かねば、彼らは留まっただろうか。彼らを退かせるために、連隊長は焼かせたのだろうか。焼く事など、別にどうとは思わない。やらなければ、あちらがやるだけだ。 「・・・・・・」 その時だった。背後、遠くから何かが響く。 すぐにわかった。爆発だ。近くは無い。振り返って確かめたいけれど、敵は目の前にある。 『前方村落に爆発』 報せに続いて、ざらついたざわめきが風の魔法陣をちらつかせる。ルキアニスはそっとシルディール連隊長をうかがった。連隊長機は振り返り、その村の方を見やっているようだった。 「・・・・・・」 村が焼かれている。たぶん初めから仕掛けてあったのだろう。爆発は火薬のものだ。敵は、あの村に連隊を追いこんで、火攻めにかける気だったのだ。今も、一つ、二つと、遠く大きく弾ける音が聞こえる。シルディール連隊長は、いつごろ罠に気づいたのだろう。気付いたからこそ村には向かわず踏みとどまり、ここで敵を迎え撃った。 シルディール連隊長の声が魔術で響く。 『敵を追撃する』 連隊長の声には、一つの迷いもない。そして命令を受ければ、それが正しく思える。前の村に仕掛けをして、そこに誘い込もうとしていたなら、周囲はやはり罠だらけのはずだ。敵が撤退する道ならば、その罠は動かせない。今、敵が村を焼くのは、連隊が村を使えないようにするためだ。敵の領域は、この村よりさらに奥にあるはずだ。 『機卒は戦闘態勢を解け。段列は移動準備。ただし待て。機装甲第二、第三小隊は現位置待機。第一小隊は連隊長に着け。後衛騎兵、乗馬せよ。その他の騎兵は現在地に待機。現在地は最先任士官に任せる』 シルディール連隊長の言葉に少しの間が開いた。風水晶の魔法陣の交信能を使って、ルキアニスたちには聞こえないように、指揮権の確認をしているのだと思った。少しして再び魔術で言葉が聞こえてくる。 『魔道兵。先導せよ』 連隊長の命令は続く。 『連隊長は追撃を指揮する。機装甲第一小隊、後衛騎兵は連隊長に着け』 「アモニス了解」 続く命令も、来るべきものだと思っていた。だからルキアニスはマルクス機を見て言う。 「僕が前衛。マルクス、君が後衛」 『了解。アモニス機が前衛。レオニダス機が後衛で先導を実施する。先導機、前進する』 ルキアニスは軽く地を蹴った。焼かれる者らを横目に進む。あとからマルクスの声と、機が追いかけてくる。 『無理するなよ。針路不確定で敵任せだ。足を取られて擱座なんかしたら、投擲爆雷で袋叩きに会うかもしれん』 「わかってる」 敵騎兵のほとんどはすでに森へと入り込んでいて、残っているのは、警戒後衛の十騎ほどだ。それらも、ルキアニスらを見て、森へと退こうとしている。森での敵の近接攻撃に対しては、随伴騎兵の援護を得ることになっている。マルクスも言う。 『いつもの騎兵分隊が足元を守ってくれるわけじゃないんだ』 「・・・・・・わかってる」 『魔力消耗してることも忘れるな』 「・・・・・・」 『大丈夫か』 「うん」 頷いて、ルキアニスは続けた。 「君が後ろにいるし」 ルキアニスは歩きつつ振り向く。マルクスの機だけでなく、連隊も続く。援護の騎兵分隊が駆けてくる。いつもの分隊と違うから、あまり近づいてくるのは怖い。 さらにその後ろには房飾りをつけた連隊長機がある。投げ放ってしまった物見鑓の換えを、警衛機から受け取っている。 「行こうか」 『了解。援護騎兵は先導後衛機、本機の後ろに着いてくれ。ルキアニス、後衛ならびに騎兵、準備よし』 ルキアニスは応じる。 「前衛機、準備良し」 『先導隊より連隊本部へ。前進準備良し』 『先導せよ。前へ』 尻切れで消化不良が気になって仕方なかったんだけど、結局払しょくできなかった>< 見た瞬間、これが宿敵と理解するのは良いんだけど、だからと言ってそれがまっすぐバトルにはならないわけで。 まあ、出来の悪いのはいつものことで、改善は将来的にということで一つ><
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二 高地に開設された指揮所には天幕が張られ、中には何枚もの黒板が立ててある。その黒板の中でも一番大きいものには、指揮所を意味する記号と、野砲を意味する記号、目標を意味する記号らが記され、そしてそれらの記号は直線によって結ばれ、多くの三角形が形作られていた。他に何枚もの黒板が並べられ、それらには多くの数値で構成されている表が書き込まれている。 クラウディウス・ワッロは、黒板の前に据えられた折り畳み椅子に座ると、じっとそれらの黒板に見入り、そして命令を下した。 「一番砲台、目標第五標的、方向〇一七、円弾、射距離七六〇」 ルイ・フランシスの傍らに控えていた従士が復唱し、それに合わせて指揮所の外で待機していた従士が、手旗信号で命令を一番砲台に送る。同時に指揮所の黒板の横に控えていた兵卒が、図表に新たに数値を書き込んでゆく。 手旗信号が送り終わって少し経ってから、野砲の発射音が指揮所に響いた。そして、方向盤で弾着点を確認した士官が数値を叫び、それを横の兵卒が指揮所に向かって叫び、ワッロ連隊長の傍らの従士が復唱する。図表に弾着点が記され、新たな数値が書き込まれる。 「二番砲台、目標第五標的、方向三一四、円弾、射距離八二〇」 じっと黒板の数値を見つめ続けつつ、額に汗を浮かべながら、ワッロ連隊長は、次の命令を下した。彼の頭蓋骨の内側では、最初の諸元と弾着点とのずれが数値として把握され、そのずれを修正するための計算がなされていた。 ルイ・フランシスが下す命令と、弾着観測を担当する士官が方向盤で確認する数値のやり取りがひたすら繰り返される。そして、三つの砲台の射撃が三巡目に入ったところで、二番砲台から命中弾が出た旨の報告が届いた。 即座に一番砲台と三番砲台に、修正された数値が伝達され、それぞれの砲台からも命中弾が出たとの報告が来る。 「撃ち方、止め」 クラウディウス・ワッロは最後の命令を下すと、上衣のポケットから引っ張り出したハンケチで額の汗をぬぐった。 「ご苦労さん。見事な射撃だったねい」 それまでじっと黙ったまま射撃指揮を見ていたサウル・カダフ将軍が、楽しげな声でそう褒めた。 「ありがとうございます、閣下」 「ワシが連隊長やっていた時は、一門でも多くの砲車を放列に布置するのが仕事だったんだな。目標選定と射撃指揮は大隊長の仕事で」 サウル・カダフ将軍は、砲兵科出身である。かつて東方辺境と国境を接していたエドキナ大公領へ、当時東方辺境候であったレイヒルフトが指揮する東方辺境軍が侵攻した時、砲兵連隊長として従軍していた事があった。 「黒板上の座標で射撃指揮ができるなら、連隊単位で統制射撃が可能になるね」 「はい。閣下」 「まあ、射撃法としては、まだまだ未完成だけれどもねい」 のんびりとした声ではあったが、しかしルイ・フランシスには、サウル・カダフの言わんとする事が理解できた。 今の射撃は、指揮所と各砲台、目標の位置を測地し、それぞれを直線で結んで三角形を作り、同じ様に指揮所と各砲台、弾着点の位置を測地して三角形を作り、目標と弾着点のズレを修正しつつ命中弾を出してゆく射撃法である。だからこそ、クラウディウス・ワッロが直接自分の目で弾着点を観測しなくても、目標と弾着点の方位角の観測だけで命中弾を出せたのだ。 だがそのためには、方位角と上下角から砲台と目標と弾着点の位置を計算し、それぞれのズレを修正するよう方位角と射撃距離を計算しなくてはならない。それを暗算だけでできるようにするには、どれだけの訓練が必要になるのか、まったく見当もつかない難事である。 「あと、戦列の全面に放列を敷く野砲には、いらないだろうね。砲側で照準した方が確実に早いだろうからねい」 「はい。閣下。仰る通りです。そのための新型砲です」 「うん。施条式砲身の、榴弾射撃用の野砲だそうだね」 「はい。閣下。目標に直撃させずとも至近弾でも効果が見込めますから、統制射撃による効果は大きなものとなります」 うん、と肯いたサウル・カダフは、その豊かな口髭をいじった。 「じゃあ、次は新型野砲の射撃だね」 轟音とともにもうもうと爆煙があたりを覆った。 風が黒煙をのかせたあとには、六個の大穴と、なぎ倒されたいくつもの標的の群れが見える。 「六門中隊の斉射で、一〇〇呎四方が制圧できるのか」 「はい。閣下。中隊五斉射、復行同数で、大隊戦列を制圧できるものと想定しています」 「一門あたりの携行弾数は?」 「砲側二〇発、大隊段列四〇発を予定しています」 「六目標か」 サウル・カダフは、うーんとうなると、顎に右手をあてて難しい顔をした。 帝國軍における野砲の携行弾数は、それぞれの野砲を挽馬で牽引する際に砲車につなげる前車に乗せる弾薬箱に三〇発、大隊段列の輜重車が運ぶ弾薬箱に一門あたり六〇発の予備弾が定数である。つまり新型野砲の携行弾数は、既存の野砲の半分になってしまうという事である。 「軽野砲の砲弾が六听、重野砲の砲弾が一二听に対して、新型野砲は三六听になります。挽馬編成ではこれが限界です」 「それで?」 「砲兵として真面目の砲戦をするには、攻撃準備射撃に一門あたり三〇発、同復行。戦列前進支援に六〇発、同復行。敵の反撃阻止に三〇発、同復行。追撃支援に三〇発、同復行。以上最低でも一五〇発は必要です。これは、曝露状態の歩兵と騎兵の大隊の制圧に三〇発、機装甲中隊と陣地を相手に六〇発として計算しています」 新型野砲の方列から八〇〇〇フィート彼方でなぎ倒された数十個の標的が、多数の榴弾による一斉射撃の威力を如実に示している。 「予備弾を含めると、前車の他に弾薬車が三台いるねい。中隊六門、大隊一二門編成だったね」 「はい。閣下」 「行軍長径が長くなりすぎるねえ。実質連隊規模になるか」 一二听砲弾を発射する重野砲の牽引には、通常六頭の挽馬が必要とされる。この他に大隊段列が輸送する弾薬車に挽馬が六頭。さらに、指揮官が跨乗する乗馬や、糧秣その他を輸送する輜重車など、野砲以外にも多くの馬匹が必要なのである。帝國軍の編成では、重野砲大隊には一二听野砲八門が配備される事になっているが、行軍時の部隊の列の長さは、機装甲中隊よりも長くなるのだ。 「そこで閣下にご相談したいのですが」 難しい顔をしているサウル・カダフに向かって、ルイ・フランシスは、背筋を伸ばし意気込んだ表情になった。 「馬匹は乗馬用のみとし、砲車、及び輜重車は、機卒牽引としたいのです」 サウル・カダフは、黙ったままワッロの顔を見つめ返した。この砲兵士官としては大先輩に向かって、ルイ・フランシスは、気圧されまいと声を張り上げた。 「砲車に一台、弾薬車に二台、中隊段列に六台、大隊段列に一二台の機卒があれば、輸送量は必要量を満たしてなお余力を持てます。さらに馬糧の必要量がかなり減りますから、連隊全体の機動力も格段に上がります」 「機卒も整備修理のために相当の規模の段列が必要になるよ?」 「はい。閣下。その分も計算に入れての段列規模です。連隊全体で一八〇台の機卒を配当していただければ、確実に歩兵に随伴する事が可能になります。そもそも新型野砲は、これまでの野砲が戦列の攻撃前進時に火力支援を行いえないという問題を解決するために開発されました。榴弾射撃をもっぱらとし、曲射弾道で射撃を行い、砲側照準に頼らずとも射撃を可能としたのは、戦列の運動中も火力支援をとぎれさせないためです。そのためにも、歩兵や機装甲に確実に随伴するための機動力の確保は、絶対に必要であると判断します」 ここが正念場とばかりに、クラウディウス・ワッロ連隊長は、その鳶色の瞳に気迫を込めてとうとうまくしたてた。なにしろ第二一旅団は編成されたばかりで、装備や編成の変更の余地は十分にある。 しばらく目を泳がせながら考え込んでいたサウル・カダフは、ふうと一息溜息をつくと、観念したように口を開いた。 「まず二個中隊分だね」 「ありがとうございます、閣下!」 ルイ・フランシスは、頬を上気させて満面の笑みを浮かべると、腰を深々と折って最敬礼した。
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展開の断章 (5) 重い足音が連なって響く。 ルキアニスの第三小隊は普段なら一番後ろだが、今は、中隊戦列の最前列を進む。 中隊戦列のさらに前を中隊長機が進んでいるから、それに合わせて進めば良いのだけれど、中隊戦列の統制はルキアニスの小隊にかかっている。それは見るものが見れば、兵の錬度をそのまま示す。部下を信頼はしているけれど、やっぱり気は揉める。 連隊まるごとの戦列で前進するのはどれくらいぶりだろう。中隊戦列を並べ、騎兵大隊も乗馬のままで連隊戦列は進んでゆく。 日差しはもうかなり傾いて、向かい合う丘の上にある。すでに陰り始めた斜面に敵の姿がある。 一番近い敵も騎兵だ。13連隊の正面には敵の騎兵が集結している。そうとうな数だ。四倍と聞かされていたけれど、そこまで多くは無い。別に少しも救いではない。三倍半と四倍の違いなど大したものではない。軽機装甲もあったけれど、それはこちらほど、13連隊ほど多くは無い。集結した騎兵の前に、互いの間合いを大きく取って、横に並んでいる。散兵線というやつだ。 騎兵の背後には、一個機甲方陣がまるごと待機している。機卒の横隊を多段に重ねて方陣とし、その両脇を機装甲の隊列で守っている。百機方陣と聞くほどではないけれど、やはり七、八十はいる。 ルキアニスたちは歩調を取って進み続ける。停止の命令はまだ下されない。もちろん判っている。何を行うかはシルディール連隊長のその口から説かれている。 連隊長機は夕暮れの風に徽章をなびかせながら、連隊戦列の正面、先頭を歩いていた。常に付き従う警衛も変わりない。 その姿は歩調を取って進み続け、やがて正面丘前を横切る街道へと至る。 『連隊止まれー、今!』 命令から二歩で戦列は止まる。揃う鉄の足もとを、それまで追いかけてきていた砂塵が吹き抜けてゆく。敵散兵線まで半哩を少し越えたくらいの間合いだ。戦端を開く前にこれほど近づくのは珍しい。もちろん訳もある。 敵騎兵の行動を抑え込むためだ。これほど近づき、また右手には川がある。大部隊の騎兵が一斉に動くにはもう遅い。 日没まであと一刻を切っている。人と機体の足音が切れ目なく連なってどろどろと響き続ける。 旅団の中で最も早くに動き、最も早く配置についた今、旅団の他の部隊がどう動くかは見えない。戦列では余所見は許されない。それでも他の部隊がどう動くのかは聞かされている。 連なる足音は背後で聞こえる。第8連隊が第13連隊の背後を横切って左手へと移動してゆく。規律正しくて、親切で、果敢で、献身的で、しかも敬虔な人たちだ。軍帽の脇から角をのぞかせている人がいることを除けば、どの帝國軍部隊とも変わりない。 いや、とルキアニスは思った。たぶんどこの部隊よりも帝國軍らしいかもしれない。第8連隊は第13連隊の前進した背後を通って、その左手へ向かってゆく。丘をよけて左へめぐってゆく街道の、すこし背後をだ。そこで第8連隊は連隊戦列を成して、街道のすぐ後ろまで進み出ることになっている。その第8連隊のさらに左側には、第7連隊が同じく戦列を成す。 それで終わりではない。そこからがサウル・カダフ将軍の戦争術の始まりだ。 前に立つシルディール連隊長機のもとへ、騎馬が駆け寄ってゆく。 そして連隊長機はくるりと回れ右をした。正面丘の斜面に沿うようにして差し込んでくる日差しと、敵とに背を向けて、魔導の双眸でルキアニスたちを見る。 『行くぞ諸君』 連隊長の声が魔術によって届けられる。 『前衛大隊、回れ右!』 『回れー右!』 命令とともに片足を引き、一動作でくるりと背を向ける。もちろん逃げるためではない。回れ右をしたのは、ルキアニスたち連隊の左翼半分だけだ。連隊長機はその半分の脇を通って、戦列の背後へと歩いてゆく。 『前衛大隊、連隊長に続け。前へ!』 『前衛大隊前へー!』 歩みだす連隊長機の後を追って、連隊左翼は進み始める。敵に背を向けて。ルキアニスたちの第三小隊は、こんどは最後尾になる。 『後衛大隊、副連隊長へ続け。前へ!』 『後衛大隊前へー!』 一つの連隊は二つに分かれてゆく。一つはルキアニスたちのように連隊長機に従って背後へ。一つは副連隊長の機影とともに歩調を取って前へ。 後衛大隊とて無茶はしない。百歩ほど進んで、敵騎兵との間合いを詰めるだけだ。半分の戦力でこれまで同様、敵騎兵を押さえ続けるために。 後衛大隊を残して、前衛大隊は連隊長機に従って、旅団戦列の後ろへと回り込む。連隊長機は、第8連隊の背後で南へと向きを変える。第8連隊戦列の背後を、戦列に沿って進む。 そう、先に斥候で行き来した斜面をそのまま進むように。 第8連隊の戦列の背後を通り過ぎ、あのときサウル・カダフ将軍と立った斥候陣地跡を越えて、第7連隊の戦列の背後を進む。彼らの巻き立てた砂埃を、13連隊前衛大隊は押し割るように進む。砂塵に横なぎの日差しと、第7連隊の機装甲列の影が差しこむ。正面丘の影から、丘の南へと抜け出してゆく。 第7連隊の戦列のさらに左、旅団の一番南へとだ。三哩ほどの回り道も、機装甲の足なら十分とかからない。その背後にはもちろん騎兵が続いてくる。 そして再び何者の影もない夕陽の中へと踏み出してゆく。戦列背後の大返しだ。 『前衛大隊、止まれー!今!』 今や敵の丘は右手斜め前にある。先に斥候で前進したときよりもずっと右手に見える。その分、南へと下ってきている。 『大隊展開前進。統制線は街道とする。機装甲第一小隊は中央前へ。第二小隊は最左翼。第三小隊は右翼と成す。機装甲中隊の展開爾後、騎兵中隊の展開をはかる。かかれ!』 「第三小隊、小隊長に続け。横隊、前へ!」 ルキアニスは命じて進みはじめる。正面の丘には、敵機甲方陣が見える。もっともあれの敵はルキアニスたちではなく、右隣の第7連隊だ。 踏み崩された街道を前にルキアニスは足を止め、小隊に展開するようにと手振りで示す。 「小隊、現地点で待て」 疎な横隊で、小隊の緑の三はその場で片膝をつく。小隊の右手には千呎ほど離れて第一小隊と中隊本部が陣取る。さらに離れてもっとも左翼にマルクスの第二小隊が位置する。機装甲中隊の背後を騎兵たちが駆けてゆく。小隊間を閉塞するためだ。 「第三小隊長は降機の上、陣地確認を行う。第三小隊先任は小隊指揮を代行せよ」 『先任了解』 応答を聞いてから、ルキアニスは機体との同期を解いて仮面を脱いだ。操縦席から這い出して甲蓋を開く。砂交じりの夕暮れの風が吹く。 どろどろと低い足音は続いている。ルキアニスは機体の肩に腰掛けて振り返った。 背後の丘の斜面は夕日に明るく照らされ、そこを一つの連隊が進んでいる。第9砲兵連隊だ。第9連隊を阻むものはない。敵の丘との間には第13連隊が布陣し、そこには緑の三だけでなく、連隊配属の黒の二の姿もある。 第9連隊の下の斜面を、さらに黒の二の姿が進んでくる。第901重機甲兵大隊の黒の二だ。鑓ではなく、それぞれの得物を携えた機影はすぐにわかる。 先に斥候のために陣取った斜面も見える。今は旅団旗とアル・カディア王太子旗が翻っている。 サウル・カダフ将軍はあの時に言った通り、王太子殿下をつれてきたのだと思った。あそこから見下ろす風景はまるで違ったものになっているだろう。 「すべては過ぎ去る。明日が我らの日となろうとなるまいと」 将軍はそう言っていた。 北にはサキス副連隊長の指揮する第13連隊後衛大隊がいて、その左翼に第8連隊の戦列が並ぶ。つづいて第7連隊の戦列が見える。機装甲大隊の高い鑓の列と、歩兵戦列の低い列と、さらに砲兵とが、交互にずらりと並んでいる。さらにルキアニスたちの小隊がいて、第13連隊前衛大隊の警戒陣地が展開する。 ルキアニスは振り返る。連隊長徽章を風になびかせる連隊長機はすぐにわかる。夕日の中に片膝をついて、その肩には連隊長の姿も見える。 陽は落ちかかり、空は茜色に染まりつつある。その風の中に一本束ねに結った黒髪が揺れている。 英雄の愉悦 ルキアニスはその言葉もまた、思い出していた。
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展開の断章 (3) 『先導隊長、降機せよ』 不意の命令にルキアニスは少し驚いた。 驚いたけれど、それは副連隊長の命令だ。 『先導隊長了解。第三小隊先任、指揮を代行せよ』 了解の応答を受けてから、ルキアニスは機体に片膝をつかせる。それから機体との同期を解いた。仮面をとると急に暑く感じる。 甲蓋を開き、這い出せば、夕暮れ近くだというのに強い日差しが差しつけてくる。風には砂埃の匂いが強い。いくさ場はいつもそうだ。兵が地を踏み荒らす。 サキス副連隊長の姿はすぐにわかった。副連隊長副官と馬とともにある。それだけじゃない。副連隊長と何事か話し合っている人がいる。あの砂色の髪と髭の人は、旅団長だ。サウル・カダフ将軍だ。 ルキアニスはあわてて駆けた。とはいえ、戦場では敬礼を禁じられている。 「おー、君だったか。元気だったかね」 相変わらず気楽というか、楽しそうにサウル・カダフ将軍は言う。そういう時にどう答えればいいのか、ルキアニスは少し迷う。 「おかげさまで元気であります」 「そいつは良かった。体には気を付けないと」 将軍は、いくさ場らしくない励ましを言う。 「アモニス小隊長、前方状況報告を」 サキス副連隊長は、これまた変わらぬ冷たいくらいの声で言う。ルキアニスは答えた。 現在、連隊正面に敵斥候分隊が活動中であること、我が方の斥候小隊は街道沿い南斜面に進出していること。連隊長は斥候小隊位置へ前進していること、そして斥候小隊の伝信報告についてだ。 「まあ、この辺で遭遇するとは思ってたけどね」 サウル・カダフ旅団長は言う。 「ここまで進出していながら、決戦を意図してなかったとすると、敵さんも少々勝ち疲れておるのかもしれんな」 「敵騎兵の活動は活発とは言えません」 サキス副連隊長が応じると、サウル・カダフ将軍は笑った。 「そりゃ君があの騎兵を預かっていれば、今頃強襲の一つもかけていようさ」 サウル・カダフ旅団長はそうとう物騒なことをへらへらと楽しげに言う。サキス副連隊長はそれほどでもなくわずかに口元をゆるめる。 「強襲はかけません。だがこちらの戦術機動を阻むようには動かしたでしょう」 「それじゃ、前に出て見るなら今のうちということか」 旅団長は腰に手をやり、たんとんと叩いたり、早駆けは腰に悪いんだがなあ、とぼやいたりする。 「ここで儂が落馬してとっつかまったりしたら、帝國史に残る不祥事だよ」 「アモニス小隊長」 サキス副連隊長は言う。 「君ともう一機で旅団長を護衛せよ。何があっても連れ帰ってこい」 どこまで本気で、どこまで冗談なのか、ルキアニスにはわからない。だが命令は命令だ。 「アモニスは、旅団長を護衛し、必ず旅団長とともに帰還します」 「いざって時は、美少女の介錯か、昂ぶるねえ」 へらへらとサウル・カダフ将軍は言う。 「・・・・・・介錯?」 「そうだ。無事に帰ってきたら無事を祝ってお茶を御馳走しよう」 「それは戦闘終了後に」 サキス副連隊長が言う。すぐに将軍は応じる。 「よし決まった。それじゃ儂は君んとこの連隊長のところに行ってくるから。その間に旅団参謀と、連隊長たちを集めておいて。あんまり集めると敵が動き出しちゃうから。あくまでさりげなく、さりげなーくね」 「了解しました」 「それじゃ、行ってくるから」 将軍は連れ来られた馬の鞍に這い上がる。もちろん旅団長にも警衛の騎兵はつく。 「アモニス上騎、任務にかかります」 とにかくルキアニスはそう言って、己の機体へと駆け出した。 小隊はここに置いてゆかねばならないから、指揮は先任に任せるしかない。将軍の護衛となると、その次くらいのものを伴いたいけれど、そうすると小隊の阻止線の機能が弱まる。 どうしようかしらと考えあぐねて、結局、小隊で中ほどの者を伴うこととした。 走り出すサウル・カダフ将軍の馬と、続く警衛騎兵に追従して思った。警衛騎兵がいるなら、介錯は警衛騎兵の任じゃないかと。 やっぱり旅団長の冗談なのだろうか。旅団長なら言いかねないと、ルキアニスは駆けながら少し思い、その思いを振り払う。 旅団長は、馬は苦手だと言いながら、それなりに馬を駆けさせている。ルキアニスも合わせて駆ける。 すぐに気づいた。敵の騎兵が追いかけてくる。敵影を見ながらルキアニスは駆け足を合わせて、旅団長の姿を隠すように走る。敵が無理押ししてきたらどうするか。いや、炎の一発もぶちこんでやるつもりではいたけれど。 馬の足なら、二哩もほんのわずかだ。敵騎兵も、機装甲を見れば無理押しはしてこない。とはいえ、もし本当にサウル・カダフ将軍が落馬していたらどうなったかはわからない。 右手には敵の丘が大きく見える。砂塵が低く起きているのは、マルクスが言ってきたように機甲方陣が動いたかららしい。その数も三つあった。敵方の丘の斜面は緩やかに下りながらやがて丘を避けて回り込む街道へといたる。街道を南に越えると再び緩やかに上るようになる。 こちら側の、つまり南の丘の斜面の中に小さな小さな機装甲陣がある。四方を一機ずつが警戒し、残りがその中にある四方陣だ。 機を降りた何人かの姿も見える。その中の連隊長の姿は遠目にもよく分かる。一本束ねに結った黒髪が揺れる。 軽く腕組みをしてこちらをみているようだった。 将軍の馬がたどりつくと、連隊長は自ら轡をとる。鞍を降りた将軍はいつも通りに楽しげで、何やら言いながら笑っている。連隊長は振り返り、ルキアニスの機を見上げて言うのだ。 『アモニス小隊長、降機のうえ、警衛任務を継続せよ』と。 ルキアニスが機をおりると、マルクスがルキアニスを見て、片方の眉を上げている。マルクスの眉毛語は全部はわからない。全部はわからないが、何か余計なことをしたんだろう、というようなことを言ってるのはわかる。いや、ルキアニスは余計なことなどしていない、と思う。 「さて」 サウル・カダフ将軍は言う。 見やる先には丘と、丘に布陣する軍勢がある。マルクスの言ったとおり、機甲方陣が三つあり、いずれもが北東側にある帝國軍に備えようとしているらしい。騎兵は丘の一番北東側の斜面に集まっている。 「アル・ディオラシス陛下、御尊顔拝し奉り光栄の至り」
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ルキアニスの中隊長 動きはじめれば何とかなるもので、白の六からなる一個中隊は立ち上がり、行軍体系で前進を始めていた。 重い足音の連なりは、もう懐かしいと言えるくらい遠ざかっていたものだった。今のルキアニスは機装甲中隊長だ。 聞かされた時にはただ驚きばかりだった。 ウェルキン将軍は、ルキアニスを呼び出し、いつものような笑顔で言った。 「そうだ。一年間を予定している。その間にできるだけ実務経験を獲得してきてくれ。もちろん、実戦も含む」 実戦は、それはあるだろうとルキアニスも思っていた。南方戦争は終わり、すべての王国は失われ、その封土であったところには帝國軍が駐屯している。帝國の統治に表だって歯向かう力を持つものはもういない。 けれど安定したとも言えない。反乱が起きないこと、騒乱が起きないこと、それだけではこの南方戦争は終わりにはならない。安定がもたらされねばならない。 安定とは、魔族大公領がそうであったように、王国領域がそれぞれにそれぞれの形で帝國に参画することだ。その参画があるゆえにこそ「帝國」は帝國と言う。 「戦争が終わったら、退役かと思っていました」 「君は退役の希望を提出していないだろう?」 「提出していたら考慮されたのでしょうか」 「提出されたなら考慮はする。君は退役を望むのか」 ルキアニスには答えもない。 退役を望むというより、帝國にとっての非常時期が終われば、ルキアニスなどお役御免になると思っていただけだ。思っていたというより、願っていたのかもしれない。願っていたけれど考えを持っていたわけではなく、退役したとして、その先のことなど何一つ思い浮かばなかった。 いちおう、年金は出たっけ?などといまさら考える。考えたところでどうなるわけでもなく、どう生きるか、そこからまるで思いつかない。 「話を続けよう、アモニス騎士長」 ウェルキン将軍の言葉はいつも明晰だ。 近衛騎士団に所属していても、ルキアニスの軍籍は抹消されていない。軍歴上のルキアニスは小隊長資格を持っている。そして建前の上では、小隊長資格者は状況に応じて中隊長へ任命されうる。そうなる前にルキアニスは黒騎士大隊へ、そして901大隊へ転籍し、同時に近衛騎士としての身分をも与えられた。 そのルキアニスを部隊で中隊長に任ずることがあるのだろうか。 「君を中隊長に選任する連隊長と、901大隊の人事上の都合が一致すればいい」 ウェルキン将軍は言う。近衛騎士としての小隊長勤務記録の一部を、先の連隊長が評価した。もってルキアニスは連隊外からの中隊長候補者として、選任者表に掲載されることとなった。 「連隊、ですか?」 「XX連隊、キュエリエ連隊長だ」 ルキアニスは少し驚いた。久しぶりに聞く名だった。連隊長をしているまでは知らなかった。ルキアニスを覚えていてくれたことにも、評価してくれていることにも。 「では、自分は軍に戻るのですか」 「一時的にね。中隊長として実務経験を積んだうえで近衛騎士団に復帰する。近衛騎士団の今後の体制は未定だが、軍との共同行動は増えるだろう。現場で軍の部隊を指揮できる者の必要性は高まる」 つまり、近衛騎士団も軍も、すなわち帝國はルキアニスを当分、退役させてなどくれないらしい。そのことにルキアニスは少し安堵してもいた。 「キュエリエ連隊長は喜んでいたよ。我が大隊も、また近衛騎士団も誇りを持って君を推薦する。期待に応えてほしい」 己に中隊長となりえる資質があるとは思えなかった。だが抗命は許されない。軍隊とはそういうところだ。また責任は、そのものの負える限り重くなる。 ルキアニスにとっては、機装甲中隊長というのは、機神小隊長より不向きで、難しいものに思える。 二十名近くの騎士にどう相対すればよいのだろう。さらに多くの従士従卒も率いて、中隊というものの戦力を維持しなければならない。 ルキアニスの統率力について、キュエリエ連隊長は承知しているのだろうか。魔道課程のときからずいぶん時が過ぎている。懐かしさはあったけれど、会うのは少し怖かった。ルキアニスはもうあのころのルキアニスじゃない。 けれど、キュエリエ連隊長は、最後にルキアニスを送り出してくれた時のままだった。連隊本部、そして連隊長公室にルキアニスが出頭すると、キュエリエ連隊長は自ら立ち上がって迎えてくれた。 「アモニス、久しぶりだ」 古人は歳を取らないと言われるが、人を見るとそう思う。キュエリエ連隊長は教官と言われたころと少しも変わらなかった。黒髪は魔道学校教官であったときと同じように一本束ねに揺ってあるし、隻眼なのも昔のままだ。迫力だけは昔より強くなった気がする。 「キュエリエ教官もお変わりなく」 「活躍は聞いている。まさか私の連隊に呼べるとは思わなかった」 それからキュエリエ連隊長は片目の黒の瞳を軽くつむって見せる。 「それともあちらで御しかねる何かをやらかして放り出されたか?」 「ええ、そんなところです」 キュエリエ連隊長は昔と変わらぬ様子で呵呵と笑う。 「わかった聞かないでおこう」 ルキアニスの肩を叩く、キュエリエ連隊長の薬指には、指輪が光っていた。 人はそうやって少しずつ進んでゆくのだと、ルキアニスは思った。 なんでここにすっ飛んだかというと、僕の中にある僕にしか理解できないようなリンケージがあっちを突っつき、こっちを押して、そっちをああして、こっちがこうなって、これが出力されたのです。 でも、根はもちろん、学院から始まっています。学院の影響を受けたからこそ、ノイナやマル子が僕の中で動いて、オードリーが動いて、ベアル太夫も動いて、ココが動いちゃった。 もう何が何だかわからないけど、 ごめんw シリーズとしては、ある闇系列。 その前の部分だから、黄昏 だから題名に意味はない。 で、何がしたかったかというと、 オードリーとマル子の裏面で動く部隊のルキ。 機神部隊ではなく、一般部隊で、という感じ なんでここになっちゃったのかはもう、よくわからない><
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キャラって本当に強いなw 手続きだけだったはずなのに、キャラに完全に乗っ取られた 良くあることなんだけどw そこから統制を取り戻すことは、つまりもとの支配力の下に従属することなんだ、と思ったんだ。 それだけのことだよ、ああ、もう。 パンツで理性喪失 「マルクス・ケイロニウス・レオニダス上級騎士以下二名、原隊復帰を申告します」 踵をあわせ、左胸にこぶしをあてる正規の敬礼をしつつ、マルクスはそう申告した。 答礼とともに申告を受領したシルディール連隊長は、楽にするようにと言う。マルクスとルキアニスは休めの姿勢をとった。 「終了証ならびに成績報告書です」 二つの書類挟みを受け取り、シルディール連隊長はふたたび連隊長席へとつく。彼女はそれを開き、迷うことなく銀の封切小刀で封印を切った。 軍隊では士卒それぞれの本人に知らされない評価がある。ふつうはそういったものを本人の前で開いたり見たりはしない。限られたものしか見られないことになっているし、それ以外のものの目に触れるところに置いても、見えるように開いてもいけないことになっていたはずだ。 シルディール連隊長は、ルキアニスとマルクスには見えないように書類挟みを傾けて開き、それを見つめた。まずはマルクスのものを。それを閉じて、つづいてルキアニスのものを開く。 「・・・・・・」 課程学生に通知される成績は概略のものだ。ルキアニスに通知された成績表には、甲評価が並んでいて、受け取ったときにはほっとしたものだ。けれどすぐにマルクスが打ち消した。 『魔道初級課程の基準は常人だぜ?』 常人をものさしに古人の力をはかれば、成績は常に甲となる。それは士学のときも同じだった。士学の時には良く怒鳴られた。常人と並んでいてどうするつもりだ、と。千人に一人しか生まれない古人の中で、千人に一人しか生まれないような薄のろか、と。悔しいというよりも怖かった。古人であるから、どうあらねばならない、などと言われても良くわからなかった。今だって、本当のところは良くわからない。 今、連隊長が見ている成績表には何が書かれているのだろう。担当のキュエリエ教官と、筆頭のヴィルケ教官はどう書いたのだろう。 キュエリエ教官なら、眉をひそめてルキアニスを見たはずだ。そして自信が無いなら自信を持ってことにあたれるようになるまで繰り返し鍛錬すべきだ、と言う気がする。 教官はきっと隻眼に笑みを見せて言うのだ。「そのときになって、後悔しても遅いぞ」と。どうすればいいかわからないほど困っているのならわたしが見てやろう練習着に着替えてこい、と言うかもしれない。 ヴィルケ教官なら、くすくすわらって赤毛を掻き撫でて言ったろう。評価の一言一句に困るのは教官だけでいいわ、と。軍が学生に求めているのは、打開の術として、魔道を扱えるようになることよ、と。 魔道兵術とはつまるところ、打開の術としての技をまとめたものだ。魔道兵に求められているのは、その兵術の求めるとおりに魔道の力を放つことだ。だから、余計なことを心配しないで、目の前にあることを一つ一つこなしてゆきなさい、と。 それからルキアニスは己に驚いてもいた。いつの間にか、まぶたに教官たちを見て、彼女らがどのように言うかまで思い浮かべるようになっていることに。 ぱたん、と革の書類挟みが閉じられる音がした。 「お疲れ様です」 顔を上げた連隊長はそう言った。顔にはいつものような微笑が浮かんでいる。 ルキアニスはそっと息をついた。連隊長は少なくとも、不満足ではないらしい。教官たちがどんな風に励ましてくれたとしても、連隊長に評価されなければ、何の意味も無い。 「一つの連隊に、二人もの魔道兵が配属されることは異例のことです。連隊には、それだけの期待が帝國よりかけられています。諸君にはこれまでどおり、これからも、その期待にこたえてほしいと思います」 「はい、連隊長殿」 ルキアニスとマルクスは声を合わせて応える。シルディール連隊長は続ける。 「両名には元の配置に復帰してもらいます。配置における任務については、各隊長より指導を受けるように」 シルディール連隊長は面を改める。 「辞令を申し渡す」 ルキアニスとマルクスはかかとをあわせ、姿勢を改める。 「レオニダス上級騎士、アモニス上級騎士は、本日付をもって機甲兵大隊第一中隊第一小隊に配属するものとする。以上」
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共和国の部隊。 西方大陸戦争初期から参戦していて、主に偵察哨戒戦を任務とする。連隊長はグレイ・A・ヘンダーソン
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帝國軍の役職 むしろ階級と役職の一致のほうが重要な情報に思えて、まとめて見ました。 もちろん、不完全なものです。 将官 中央 軍中央の役職は、皇帝(ならびに副帝)に対して提言し、また要求を受けることが任務です。 元帥級役職、 軍事参議官:セルベニア・イル・ベリサリウス 皇帝軍事諮問機関 軍事参議会長 査閲監:アスラン・シリヤスクス・ガイユス 査閲総監部 帝國軍総参謀長:カメリア・シリヤスクス・シルディール 参謀本部の長 将軍級役職 機甲兵総監:キュリロス 各兵科総監 部隊 元帥級役職 帝國中央軍司令官:ディエゴ 剣匠 魔族エドギナ大公領駐留軍 兼務東部軍司令官:ゼノン・シリヤスクス・ガイユス 北部軍司令官:カリナス・アドルファス・アレクシス辺境候 元帥役務将軍 南部軍司令官:フェルヌス・ユリウス・マクシムス辺境公 元帥役務将軍 将軍級役職 親輔職(軍団長級以上) 近衛軍団長:オキクィルム 第1軍団長:アレクサンドロス・ポンペイウス・マグヌス 第2軍団長:ザカリアス・シュネルマヌス・トペリウス 東方貴族 第3軍団長:ユハヌス・カストレウス・グリペンベリウス 東方貴族 第4軍団長:ルキウス・オクタヴィウス・マルケルス 中央貴族 第5軍団長:エティエンヌ・デュ・ランヌ 西方人 第6軍団長:アルシエル 魔族 第11軍団長:ウェルヌス・コルネリウス・バブルス 南方貴族 第12軍団長:カリウス・アドルファス・ゲミニウス 北方貴族 将軍級役職 非親輔職 師団長 旅団長 独立第21旅団長(未来):サウル・カダフ 参謀長 参謀本部勤務 准将級役職 旅団長 旅団長に準じる職責の役職 機神大隊長 独立近衛第901重機甲兵大隊長:アンリエッタ・ヴァンパ 部隊副官 部隊参謀長 部隊参謀 参謀本部勤務 上級騎士隊長級役職 大隊結節を持つ連隊の連隊長 独立近衛機甲第十三連隊長(後):シルフィス・シリヤスクス・シルディール 独立近衛歩兵第七連隊長(後):アドニス・ケイロニウス・アキレイウス 連隊長に順ずる職責の役職 機神大隊長 独立近衛第901重機甲兵大隊長(未来):モハンマド・レザ・シャー 第977歩兵大隊長(特殊部隊):ハンイリッヒ・ヴェルナー・フォン・アインツブルグ 部隊副官 部隊参謀長 部隊参謀 参謀本部勤務 騎士隊長級役職=カーネル 大隊結節を持たない連隊の連隊長 独立近衛機甲第十三連隊長:シルフィス・シリヤスクス・シルディール 独立近衛歩兵第七連隊長:アドニス・ケイロニウス・アキレイウス 連隊長に順ずる職責の役職 機神中隊長 第901大隊第2中隊中隊長兼第765教育隊長:ナタリア・グラックス・バジリア 部隊副官 部隊参謀長 部隊参謀 参謀本部勤務 騎士長(キャプテン相当≒大尉) 大隊長? 中隊長 大隊副官? 中隊副官 部隊参謀長 大隊参謀長 部隊参謀 連隊参謀 大隊参謀 上級騎士(ルテナン相当≒中尉) 上級騎士課程で、複数兵科調整戦術を教育される 中隊級副官 小隊長 小隊先任騎士 騎士(ヨーマン程度) 機装甲搭乗員 騎士補(おそらく見習い士官?) 従士(下士官)、 (各部隊)先任従士長 連隊先任従士長となると、兵隊の将軍のようなもの。 従士長 従士 兵士が、 兵長 古参兵 新兵 参考: 138 名前: 【army 1563】 名無しロサ・カニーナ ◆HiIyB3Xw.2 [ sage] 投稿日:2009/07/30(木) 00 44 50 神 ID ??? 102 ケイレイたん シル子 まあ、平騎士が大学出の正社員で、上級騎士で主任、騎士長で係長、で、現場の人達で、 騎士隊長で次長か営業所の所長、上級騎士隊長で部長か支店長、あたりの管理職。 准将から取締役が付いて、将軍が、常務取締役、元帥が専務取締役、 大元帥こと中田副帝が代表取締役社長で、皇帝のリランディアが、会長、と、こんな感じですかねー
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展開の断章 (11) 銃声が重なり合って轟き、白煙が列となって連なる。 馬たちの流れの中で、いくつもの騎影が崩折れた。流れの中の石に削られるようにしながら、それでも馬群は白煙の中に飛び込んでゆく。 だが、そこまでだった。 白煙の壁を前に騎群は押しとどめられていた。あるものは棹立ちになり、あるものは白煙の中で尾を振り、激しく足踏みしておびえる。砂塵と白煙が入り混じって流れる中に、銃剣の列がきらめく。さらに吐息のように白煙が噴き出す。間近から吹きつけるような銃撃に人馬がまとめて打倒される。そして生まれた狭間を埋めるかのように、新たな騎影が飛び込んでゆく。だがそれらも白煙の壁を越えられなかった。馬たちの流れは見る見るうちに滞ってゆく。 つぎつぎに白煙が吹き出し、間近の騎影へと吹き付ける。騎影は次々と撃ち倒され、さらに砂煙を巻き上げる。 滞ってしまえば、騎兵は持つ力を振るえない。おびえる馬を急き立てて、銃兵の列を押し割ろうにも、銃剣の列が激しく応じる。その後列から絶え間なく銃煙が噴き出して、人馬の区別なく、次々と撃ち倒す。 銃兵列を前に、騎群は滞り、行き場さえ失ってゆく。抜け道を求めて回り込もうと駆ける騎影らもある。銃兵列の切れ目から、側面へ、背後へと回り込むために。 だが、切れ目と信じて飛び込んだところには、すでに小方陣が待ち受けていた。それは銃撃ではなかった。駆ける騎影に向けて擲弾が礫の群れのように投げつけられる。白煙を上げて弾けて、人馬をなぎ倒す。 そうして帝國軍は、戦列を閉じつつあった。騎兵の突撃も、機卒や機装甲の方陣もすべて阻み、跳ねつけていた。擲弾が投じられ弾けるたびに、銃兵が撃ち放つたび、青の三が長鑓を繰り出すたびに、砲が吠えるたびに、目前の敵をなぎ倒す。 『13連隊左翼大隊、前進陣形、楔成せ』 連隊長の声が魔法陣によって響く。いつもの連隊長の声の響きに似て、けれどいつもとは少し違う。声の気配には、どこか甘い響きすら伴われていたようにルキアニスには思える。 「第三小隊、小隊長の元へ集合せよ」 ルキアニスは命じた。 小隊にとってもはや敵なる姿は無い。先まで押し寄せていた騎兵の流れは、今や背後に過ぎ去っていた。過ぎ去って、押しとどめられて、じわじわと討ち削られてゆく。ほんの半刻前まで、13連隊を圧するほどあった敵騎兵群は、もはや進むも退くも叶わなくなった、ただの群れとなりつつあった。連隊の正面にただ在るのみの群れと、今やルキアニスたちの背後で撃ち減らされつつある群れと。 第三小隊の四機は、横隊を組んで進み来る。そしてルキアニスの背後にぴたりと並ぶ。 『第三小隊、集合』 小隊先任の声が響く。 「第三小隊、小隊長に追従せよ。前へ」 楔陣形の先頭には連隊長が立つ。今も風に連隊長旗章がなびかせて立つ。その左右には常に連隊長機とともにある警衛機が立つ。けれどそれらは、自ら戦うためではない。戦えばシルディール連隊長は連隊の誰よりもおそらく強いけれど、連隊長の任は自ら戦うことではない。 連隊長機の左右には、黒騎士小隊が横隊に並んでいる。小隊三機ずつは、いかにも少なくはあるけれど、その力は先に嫌というほど見せつけられていた。先の黒の二の小隊はすでに一番右翼に並んでいる。 連隊の部隊は、その背後だった。連隊長の背後には、第一小隊が戦列を組む。ルキアニスの第三小隊は、かなり間をおいて右翼につく。ちょうど黒騎士小隊の疎な横隊ほどの間をおいてだ。 『左翼、黒騎士小隊、第二小隊、位置前増せ、さらに二つ』 第二小隊はマルクスの小隊だ。連隊の一番左翼、横目で見てもずっと遠い。彼の小隊は並足で進み始める。命令に言う前が、一つ前なら、連隊長に並ぶところへ。二つ増せは、さらに前へ。すなわち全体を左翼を前に押し出した斜め陣形にするということだ。機装甲列のさらに背後には、騎兵が横隊を成している。乗馬し、手には銃を携えていた。 シルディール連隊長が命じる。 『連隊前進、常歩前へ!』 「第三小隊、前へ!」 ルキアニスも続いて命じた。命令とともに踏み出す。連隊全体が進み始める。命令の常歩は、騎兵ならではのものだ。騎兵には速歩も駈歩も襲歩もある。白の三も緑の三もそのすべてをともにできる。けれど今はそうせずともいい。連隊の前に群れていた騎兵は、もう留まることすらできずにいた。 気圧されるように退き、やがて砂煙を蹴立てて散り散りに逃げてゆく。彼らの前にはすでに果てたものらが転がっていた。 連隊は進みゆく。鉄の足が焼けた草を踏み、焼けた砂を踏み、さらに焼けた人馬を蹴る。先に黒騎士が魔術によって敵を薙ぎ払った野だ。今が、敵の騎兵が、本当に崩れ去った時だった。 敵の騎兵はもはや連隊を阻止するところを占めることができず、そのあったところを連隊は進む。 だが敵のすべてが打ち払われたわけではない。連隊から三分の二哩ほどのところに敵の集団がある。大きな旗印を掲げ、日差しの中にもきらびやかな装備をつけている。方陣の前には軽機装甲の散兵線があり、方陣の左右には、重機装甲の隊列もがある。 ルキアニスもにもわかっていた。それは敵軍にとっても特別な部隊だ。本陣近くに控え置かれるのは、勝敗の決め手の時に送り込まれるべき部隊だからだ。その敵とて知っているはずだ。突撃した騎兵がどうなったのかを。それでも連隊を阻止するために、自ら前進してくる。 方陣の前に並ぶ軽機装甲が前進し始める。さらに方陣の左右にあった重機装甲が隊列を組みかえ、方陣を守るように方陣の前に列を成す。 ルキアニスにもわかる。それは軽機装甲散兵線の活動で敵火力発揮を妨げ、続いて重機装甲の突撃によって、13連隊の機装甲を、黒の二を阻むつもりだ。 ルキアニスはシルディール連隊長機をうかがい見た。連隊長旗章を風になびかせ、変わらず進み続けている。何ら変える要すら無いというように。 敵も進み来る。やがて半哩を切り、半哩が四分の一哩となる。 そして軽装甲散兵が駆けはじめる。携えた投槍を投じるために。あるいは身を挺して続く重機装甲を守るために。 地を蹴り、砂煙をあげて駆けながら、彼らは一斉に投槍を放った。 しかしそれらは、ただの一本たりとも、連隊に届くことは無かった。
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パンツで理性喪失 (4) 時系列自体は、前後してるんだが構わないよなw そして、シル子が手出しできなかった人事が二人分だけあった。 と、前振りしておく。 「連隊諸君」 給仕が終わり、従兵たちもそれぞれの席に戻った頃、シルディール連隊長は静かに立ち上がり言った。 「今日、教育派遣中であった人員が原隊に復帰し、連隊は完全編成となりました」 ルキアニスはちらりと隣のマルクスを見た。彼は片方の眉をすこし上げてみせる。明らかにルキアニスとマルクスのことだけれど連隊長が食前の祈りの前にこんな風に話し始めるほどとは思わなかった。シルディール連隊長は続ける。 「親衛軍への配属、帝都管区への移動、人員の再配置、新機の受領とそれに伴う新戦技の獲得と、諸君にとっても気の休まることのない日々であったことでしょう。しかしながら、連隊は重大な事故を起こすことなく、欠員を生むことなく、ここに到りました」 シルディール連隊長が置いたわずかな間合いに、連隊長の言葉が染み入ってゆくようだった。声にならないわずかな、ほんのわずかなざわめきが連隊食堂の中に広がってゆく。 「しかしながら、これは目的ではありません。連隊は帝國が求めるところへようやく到ったに過ぎません。今日までがそうであったように、今日からも、諸君には力を見せて欲しいと願っています」 連隊長は、ただ静かに続けた。 「諸君らは一人残らず、わたしが選びました。諸君らの一人一人は、この連隊にあるべくしてあります。そしてわたくしは帝國に求るままに、いかなる障害であろうと踏み越えてゆくつもりでいます。諸君らと共に。諸君、杯を」 連隊長は磨き上げられた銀の酒盃を手にする。皆が己の前の錫の酒盃を手にした。ルキアニスもだ。 「帝國に栄光あらんことを。その栄光と共に我が連隊のあらんことを。敵が我らの名を思い起こすとき、二度と忘れられぬ恐怖と教訓とともにあらんことを」 連隊長は銀の酒盃を高く掲げる。 「皇帝陛下と第十三連隊に乾杯!」 「乾杯!」 唱和が連隊食堂一杯に響く。ルキアニスもそうした。皆が一息に杯をあおり、そしてみんなして杯を置く。飲み込む酒と入れ替わりに、熱い息を吐くことも同じだった。ニコルさえそうだった。 皆が、高ぶっていた。何かが変わっていた。何かが始まろうとしていた。何も示されてはいないけれど、どこかに向かうことがわかっていた。どこに向かうかなど、ずっと前から決まっているくせに、最後まで知らされることはない。軍隊とはそういうものだと、ずっと前からわかっていた。だからなのか、なのになのか、ルキアニスはすこし恐ろしかった。皆は喋り、また食べた。つぎつぎに酒盃に葡萄酒が注がれる。 「どうしたんだよ?」 マルクスがそっと肩を寄せて言う。ルキアニスは頭を振った。 「なんでもないよ」 「お前ら二人が帝都に行ってる間、大変だったんだぞ」 卓の向かいから、ヴラーヌス次席小隊先任がぼそりと言う。笑い声も起きた。ヴラーヌス次席の隣に座っている、アルヴィヌス先任だ。 「お前の下に上級騎士が入って、楽ができるはずだったな」 「そんなこと、言ってませんよ」 「若いうちは苦労しないと駄目だ」 言ってアルヴィヌス先任は笑った。 「お前はまだ若い。その若さで上級騎士なら、まだまだ上だってうかがえる」 けれどヴラーヌス次席は、煮物をつつきながらぼそぼそというのだ。 「でも、小隊長教育課程に出してくれるわけじゃないんでしょう?」 「まだ経験が足りないな」 「内戦上がりが山ほどいるのに、求められるのが経験じゃ、どうしようもないじゃないですか」 ヴラーヌス次席は、いらいらと煮物の芋を潰している。そんな風に苛立つヴラーヌス次席を見たことが無かった。いつも妙にゆとりがあって、ルキアニスのことを値踏みしているように見ているとばかり思っていた。 「古人ばっかり教育派遣されて、俺達は西方のときもこっちに来てからも、全然機会がもらえない」 ルキアニスの隣で、マルクスが何かを言いかける。言いかけるけれど、そのままだった。マルクスが何も言わなかったのは、アルヴィヌス先任が静かに、けれど制するようにマルクスを見ていたからだった。アルヴィヌス先任はつづける。 「今の連隊にそんなにゆとりは無いぞ。それに新機部隊は機会じゃないのか?」 「それは・・・・・・」 「新機の最初の部隊に、使えない奴は置けない。それに新機部隊が一つだけで終わるはずも無い。連隊長も言ってただろう。ここにいるのは選ばれたからだ」 ルキアニスはそっと遠くの席のシルディール連隊長をうかがった。連隊長は幕僚と何かしら談笑しながら食事を続けている。ここでどんな話が進んでいるのか、知るはずもない。ルキアニスも選ばれたのだろうかと思った。 違うんじゃないかとも思った。でも、選んでもらえたんじゃないかとも思えた。古人は少ないけれど、帝國軍ほど大きな器ならば、その器の大きさに見合った数の古人がいる。魔道初級課程にはルキアニスと同じ年頃の古人が六人もいた。マルクスを入れれば七人だ。その誰もが第十三連隊に入りえたはずだ。そして思った。マルクスを入れて、七人だったんだと。 「ぼく、がんばります」 言って、ルキアニスは顔を上げた。アルヴィヌス先任はじっとルキアニスを見ている。ルキアニスは言った。 「だって、連隊長が選んでくれたなら」 「お前は単純でいいよ」 マルクスが横合いから言う。だからルキアニスはこたえた。 「いいんだよ、ぼくは、いまのままでいられるなら」 「そうか」 アルヴィヌス先任が静かに言う。ヴラーヌス次席は聞こえなかったようにさっきまで潰していたじゃが芋をもぐもぐと食べているだけだ。 古人を古人だからと許している社会風潮はデフォルトであるんだけど、それぞれの人のスタンスはそれぞれにあるんだろうと思っていた。 ミノール=マルクスと、ヴラーヌスの二人は、古人だから何なんだよ、というほうの態度の人にしてある。実は、片目の教官もそのほうがいいかと思っていた。書いているうちに違ってきちゃったけれど。 何か、そういうことを考えていた。だから何年かぶりのアイデアの回収だったりする。