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一 「帝國」の雪は深く、初春の雪解けの頃には、どこもかしこも一面の泥濘と化す。道路も例外ではなく、石畳で舗装された主だった街道以外は、膝まで足が沈み靴がとられるような泥道となってしまう。そしてその泥道の中を、十二門の火砲を牽引し、移動している部隊がいた。縦列の最後尾にひるがえる軍旗は、黒地に金色の竜を刺繍した近衛軍団に所属する親衛連隊であることを現し、その兵科章と番号から、砲兵科の第九連隊である事が判った。 「そぉーれっ!」 「そぉーれっ!」 半長靴を泥だらけにしながら兵隊達は砲に群がり、掛け声にあわせて挽馬六頭が牽引する砲車と前車の車輪を回している。馬も泥に足をとられるせいか、中々前に進めないでいた。 空はよく晴れていて、気候も穏やかである。これが雨天であったならば、部隊はろくに前に進めなかったであろう。 「この時期の行軍は、やはり難儀するねえ」 「はい、閣下。ですが連隊は、毎刻二哩弱で推進しています。ほぼ行軍計画通りですから、問題はありません」 部隊の最後尾を馬にまたがってついて行くサウル・カダフ将軍が、のんびりとした声で呟くと、隣を行く士官が即座に反応してみせた。その声は、砲兵士官特有の甲高いものではなく、むしろよく通るボーイズソプラノで、士官自身も見た目は少年とも少女とも見える小柄で美しい容貌をしていた。ピンクブロンドの髪をまとめて軍帽の中にたくし込んでいるせいもあって、今一つ性別がはっきりしない。ただその表情はとても勝気で、とび色の瞳には負けん気があふれかえっていた。 襟の階級章が上級騎士隊長のその士官の反応に、特に気を悪くした様子もなくうんうんとうなずき返すと、サウル・カダフはその豊かな口ヒゲをいじり始めた。 「うん、皆よくやっていると思うよ。今のところ脱落者も出ていないし、小休止ごとに各隊長はお前さんのところまで報告に来るしねい。士官がきちんと部下を掌握できているのは良い事やね」 「ありがとうございます、閣下」 褒められて嬉しそうに頭を下げるあたりは、十分に可愛気がある。子供子供した見た目に反して、この上級騎士隊長は、この連隊を指揮する連隊長であり、そしてその職責を担うことができるくらいに成熟した内面を持っている様子であった。サウル・カダフに反論したのも、部下の努力を認めさせようとしてのことらしい。 「本番も期待しているよ」 「はい、閣下。ご期待に沿えるよう、連隊皆で努力いたします」 「うん」 この独立親衛第九野砲兵連隊の連隊長であるルイ・フランシス・クラウディウス・ワッロ上級騎士隊長は、その細い身体の背筋を伸ばすと、はっきりとした声で、独立第二十一旅団の旅団長であるサウル・カダフ将軍にそう答えた。 独立親衛第九砲兵連隊の各隊が放列を敷いたのは、周囲に森が点在している平原の中ほどであった。砲身の細く長い砲は平地に放列を敷き、砲身の太く短い砲は高地の上に放列を敷いている。平地に展開した野砲は、二門ごとに三つの陣地を構築して横一線に並び、高地に展開した野砲は、六門まとめて横一列に陣地を構築していた。 各隊が砲台を構築し終わり、砲側に弾薬を集積したとの報告を受けた連隊長は、事前の演習計画に従って射撃を開始するように命じた。その命令を受けて、高地に開設された指揮所から伝令が走ると同時に、手旗信号でも同じ内容が伝えられる。 まずは平地に展開した野砲のうち、一番左側の陣地から手旗信号で命令を受けた旨伝えられ、砲台の兵士らが一斉に動き始める。 野砲に取り付いた兵士らが、各野砲の指揮をとる掌砲長の命令に従って、まず袋につまった装薬と砲弾が一体化している弾薬を砲口から装填する。続いて点火孔に錐を刺して装薬のつまった袋に穴をあけると、点火薬を注いで穴一杯にする。そして皆で砲架を持ち上げ車輪を回し、砲口をはるか彼方の目標に向けた。 最後に掌砲長が射撃準備が終了した事を確認すると、兵達は砲から離れて耳をふさぎ、砲手がL字状に曲がった棒の先端に巻きつけられた火縄を点火孔に差し込んだ。 轟音と共に白煙が砲口から盛大に噴出し、野砲は一〇呎近くも後に下がる。 戦砲隊指揮官は、目をこらして砲弾が地面を跳ねてゆきつつ泥をはね飛ばすのを追いながら、目標である的と弾着点が前後左右どれくらいずれているかを確認する。そして二門目の砲に修正した照準を命令すると、射撃準備が終わると同時に射撃を命令した。 砲弾は、最初の射撃では的の左手前で泥をはねさせ、次の射撃では右斜め後ろに着弾する。そして三度目の射撃で的に命中し、これを粉々に破壊した。 平地に設定された各野砲放列は、同様の手順で順番に射撃を行い、それぞれ三回の砲撃で的を破壊してみせた。 「大体四分で命中弾を出せたか。各小隊とも錬度甲と見ていいね」 「はい、閣下」 サウル・カダフは、右手に持った掌大の懐中時計で射撃開始命令が下ってから命中弾が出るまでの時間を計測しつつ、各陣地の兵士達の動きを確認していた。彼とクラウディウス・ワッロ連隊長は、高地の上に設置された指揮所に陣取り、各放列の射撃を見ていたのである。三脚の上に大口径の遠眼鏡をすえつけた方向盤をのぞいている士官が、弾着点の左右上下角を怒鳴り、それを別の士官が黒板に白墨で書き込んでゆく。 ここでサウル・カダフは指摘をしなかったが、この春に連隊の結成式を行ったばかりの部隊であるにもかかわらず、高い錬度を発揮できたのには理由があった。この連隊の兵士らは、近衛軍団の各砲兵連隊から小隊単位で引き抜かれてきており、装備被服こそ新品であるも人員は皆部隊として完成していたのであった。その小隊ごとに射撃を行っているのであるから、高い能力を発揮できるのが当然である。 「次は野砲の統制射撃だね」 「はい、閣下。これより自分は射撃指揮に入ります」 「うん。期待しているよ」
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丘の想定 第一中隊 シル子は、行動で指揮する指揮官であることを忘れそうになりました。 シル子は、行動で指揮する指揮官なのです。 状況把握を、幕僚に任せるはずがありません。 彼女自ら現れ、状況を確認し、考えていた選択肢からとるべきものを選ぶはずです。 ということで、クロトワ参謀であった部分を書き換えました。 そうしたら、あっというまにシル子無双となりました。 帝國SSはいろんな意味で「あっというま」仕様なのですが、ケイレイパートは、そういう意味でのあっというま仕様なのです(謎 トイトブルグの森の遭遇戦で、迅速な前進を見せた13Rですが、迅速すぎて、あっというまに敵本隊と遭遇してしまいました。 そのわりには、純粋な戦闘能力では他の機装甲連隊に劣ります。 敵の軍団の縦列前進に対して突っ込めば、いずれ衝撃力を失ってしまいます。 そもそもそれは13Rの任務ではない。 じゃあ、13Rの任務って何だろう、と考えていたのです。その考えがうまく形になったのが、この丘の想定です。 中隊長は、中隊長の認識で敵前衛を撲滅して、連隊の行動余地を大きくすべく行動しましたが、 連隊長たるシル子は、21Bのみならず、21Bの所属する軍団の行動を容易にすべく行動するはずです。 森にほどちかい独立丘は、良い肩部として、戦闘展開のよりどころになるでしょう。 戦場の地形を、どのように利用するかで、占領して排他的に利用することは、基本的な利用法ですが、より大きな判断と、行動の自由があれば、別の使い方もするでしょう。 シル子は、そうする、という話を書きたかったのです。 で、何が大変って、そりゃ彼女の視点の広さが>< ルキアニスは駆けた。 緩い斜面を一気に下り降り、道を踏み出し、緑の野を駆けた。 その大きな地の盛り上がりを駆け上がる。隣にはマルクスの白の三がともにあって、同じく駆けている。 前には、中隊長の白の三が駆ける。 その背中を追った。駆ける姿の前には、丘の登りと、少し遠く頂と、青空が見える。頂の近くには、先導役だった二機がすでに膝を着き、待っていた。 生身で駆ければあえぐような丘も、白の三によれば、たやすい。やがて頂近くに至り、中隊長は手を上げて止まれと示す。 足を緩め、ルキアニスは頂の少し下で、膝をつき構える。そこからは、丘の左側がよく見えた。ルキアニスたちの使っていた街道は、丘の左側を大きく巡って、丘の向こう側へ伸びてゆく。向こう側を見るには、稜線を越えるか、頂に立つかしかない。頂の間際には、中隊長機が身を低くして、向こうを伺っている。先んじて丘についていたキルリス機とウルキウス機も稜線のこちら側にいる。 『状況は』 中隊長の声が術式ををきらめかせる。キルリスが応じた。 『敵軍主力と思われます。大部隊です。行軍序列で侵攻中』 『落ち着け』 言って、中隊長は頂に機体を立ち上がらせる。 『丘頂上で警戒に入れ』 『立ち上がっても構いませんか』 マルクスの問いかけに、オゼロフ中隊長は笑って応えた。 『ここに何者かがいることがわからんと、敵の騎兵が占拠に来る。味方の展開を見せてやらずとも良いだろう』 丘の頂き近くで、白の三が立ち上がってゆく。先導のままいた、キルリス機、ウルキウス機と、オゼロフ中隊長機、それからマルクス機がいる。ルキアニスをいれても五機の白の三だ。 ルキアニスは振り返った。中隊長の言うとおり、ここからは味方の展開が良く見える。今まで通ってきたところもよく見えた。 この丘は、ほかより一つ高くなっている。あたりには類するほどの高さのものはない。丘のやや後ろには、負の第一と呼ばれた地のうねりがある。その稜線の後ろには、道を挟んでまる一個中隊の白の三が膝をつき、待っている姿が見えた。 伸びる道の右手には、少しはなれて森が始まっている。左手は地のうねりある平野だ。道には、進行中の連隊主力の姿も見えていた。それらは、すでに道の左手の野に踏み出し、駆け始めている。 第十三連隊は、騎兵大隊と機装甲大隊があって、形の上では大きな編成になっている。けれど実際には、四個の騎兵中隊と、二つの機装甲中隊が主力だ。決して、大きくは無い。 そして気づいた、砂埃をかきたてて、駆けてくる機体がある。その姿は、負の一の稜線際で、ひと時とまり、る騎影がある。その姿は、負の一稜線を越えて草原に踏み込み、この丘を駆け上がってくる。魔導の瞳を凝らさなくても、すぐにわかる。連隊長機を示す飾りをつけているから。 シルディール連隊長機だ。それは警衛の機を二機従えて、この丘を駆け上がってくる。 ルキアニスは言った。 「中隊長、連隊長がこの丘に向かってきています。まもなく到着」 『了解』 オゼロフ中隊長は、それほど驚いていないようだった。彼の機は、どうということも無いように振り返る。当然といえば当然のことだ。戦場で迂闊に上級者への礼を示せば、逃さず狙われる。 丘を登っていた白の三たちは、ただの増援か、連絡のように頂の後ろに膝をつく。警衛の二機も同じだった。連隊長機の背中の一角が開き、そこから彼女が姿を見せる。狭い乗込み孔と、そこを守る重い甲蓋のあいだから抜け出して、彼女はいちど、乗込み孔の縁に腰掛ける。 春の風が高く結った一本束ねの髪を揺らせた。 彼女は、乗込み孔から抜け出すときにすら優雅だった。縁に腰掛け、甲蓋の縁に手を添えながら、両膝をそろえて高くあげ、抜け出して足掛けに乗せる。 それから軽い動きで機装甲の背を降り、腰のところから飛び降りる。 束ねた黒髪が跳ねて踊り、すぐに身を起こす。丘に萌える緑の草に、彼女の黒い軍装の姿は良く栄えて、まるで絵姿のようだ。丘の頂を歩いてゆく彼女を、機を降りた警衛の一人が追う。頂きでは中隊長も、機を降りて彼女を待ち受けていた。 青空を背に、何気なく立つだけでも、彼女を見分けることができる。体にあった搭乗服が、彼女ら示唆を浮き立たせるだけだからじゃない。何かが、彼女へと瞳を導く。 彼女は隠しから遠眼鏡を取り出して、丘の向こうを見ていた。 ルキアニスもまた目を向けた。機装甲に乗っていれば、魔道の双眸の力を得ることが出来る。 地平線の地のうねりと、そこから伸びてくる道がかすんで見えた。 道に沿って、揺れ動く不思議な穂の群れも見えた。目を凝らせば、それは穂などではないことが判る。それは鑓を携えた密な人の陣だった。縦長の陣を作って、それらは道沿いに進んでくる。沿って歩く道にあわせて、わずかにうねり、わずかにゆがみながら、それでも陣の形は守りながら、向かってくる。 それは一つではない。細長い穂の陣の前には、さらに一つあり、その前にも一つある。そうやって穂の陣も、道に沿って連なるように続いている。地のうねりに見え隠れしながら進む来る、陣の連なりの前には、人の姿よりずっと大きなものらの陣列があった。 人の高さで、三人分といった背丈だろうか。もちろん、人の姿ではない。歩くときに不器用に揺らす肩は、鉄の造作であったし、それが立てて抱える鑓は、歩くたびに穂先を大きく揺らせる。体は角ばったつくりで、足もずいぶんと短く見える。もう一方の腕には大きな盾を携えている。鑓と盾とを携えて、遠目にはかわいらしくすら見える。 戦列機卒だった。帝國では、すでに戦列に使うことを止めてしまったものらだ。魔導で人のごとく動くものとしては、もっとも低い格の作りだった。 敵の戦列機卒もまた、の長い陣を、列に連ねて歩み来る。 機卒の列はそれで終わりではない。陣列のさらに前にも、機卒らの姿がある。鑓を携えているが、盾は備えていないものらだった。よく見れば、盾のみならず、甲の類もいくらか取り払われている。 ルキアニスにはすぐにわかった。彼らは、ルキアニスたちと同じ任にあたる軽装機卒だ。 「……」 かなりの数がいる。思わず嘆息とともにこぼしそうになって、ルキアニスは口をつぐむ。前にも、うかつな言葉に魔力が載ってしまって、風水晶で広げてしまったことがある。新しい術式は、前よりよく拾うようになったから、気をつけないといけない。今は連隊長が聞いているだろうから。 ルキアニスはそっと息をつく。ふたたび丘の向こうを見やった。 戦列機卒の陣列の、さらに前には、いくつかのかたまりとなって騎影が走っている。数は、連隊の騎兵大隊より多い。連隊くらいの数はある。 先導の騎兵だけで、連隊級をもつ、全体でははるかに大きな、ひょっとしたら帝國の基準で軍団級の戦力かもしれない。 このままでは、いくらもしないうちに前衛騎兵が丘のすぐ前にたどり着く。半時かそこらで、軽歩兵機卒の集団が、投擲距離に来る。その後ろには戦列機卒がいる。 一時かそこらのうちに、敵集団の前衛がこの丘に押し寄せてくる。 連隊長はどうするのだろう。 彼女は、丘の向こうを見やり、振り返って警衛のものに何かしら言い渡している。また中隊長に向かって何かの指示をしていた。警衛士官の開き、何事か書き記していた帳面から、一枚を抜き出し、それを中隊長へと示し渡している。 何かが決まったらしい。 シルディール連隊長は振り返り、そしてこんどは明らかにルキアニスたち機装甲を見上げ、見渡した。 『お疲れ様です』 彼女の声は、風水晶の術式を通しても特別な響きに輝いて聞こえる。 『諸君らに示された中隊長決心は、連隊の行動にあわせて若干の変更がなされました。いささかの困難は伴いますが、諸君なら果たせると期待しています』 見やる彼女の胸元で、風水晶はきらめいた。 『敵をここに吸引します。諸君らには、そのための任を果たしてもらいます。同時に、重要な任を伴います。投擲攻撃能力を持つ、敵軽機卒群の撃破、可能なら組織戦闘能力を剥奪してください。その後、適切な時期を選んで、この丘より離脱、丘を敵に明け渡します。敵にここを固守してもらいます』 シルディール連隊長は、静かな笑みを浮かべる。いつもお、何事にも動じないゆとりの笑みではない何かを。 『細部は中隊長から。中隊長は、ここで直接指揮を取ることを決意されました』
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丘 (2) それは、ルキアニスすら、胸が高鳴る。そう思える。 横薙ぎに差し込む朝日の、薄橙色の光の中で、白の三たちがゆっくりと身を起こし、立ち上がる。機側に立てた物見鑓が、列になって光をはじく。稼働不能機は出さずに済んだ。白の三は、良く出来ていて、しかも軽い。手入れと使いようによっては、数日は動かせるし、部隊でも自前で部品部材を持っている。でもほんとうのところは、誰もがみんな、自機稼働不能と、シルディール連隊長に報告するのが嫌だったからじゃないかと、ルキアニスはひそかに思っている。 機列の引く横なぎの影を押し割って、飾り房をつけた機が進みゆく。連隊長を示す房で、それがシルディール連隊長の機だ。連隊長を示す飾り房は、横なぎの朝日の中でうねって揺れて、シルディール連隊長その人の、一本束ねの黒髪のように思える。その機に続いてさらに二機が歩む。連隊軍旗小隊の警衛機だ。 そのまま連隊長機は機列の先頭へと立った。振り返ることもしなかった。連隊長はすでに命令を終えていた。 連隊は前進し、連隊斥候が確認した街道経路上にある村落へと到達する、と。村のことは、以前から知らされていた。トイトブルグの教会教徒貴族の荘園の一つで、今は、すでに廃村になっていると考えられている。そこに住まっていた教会教徒らがどうなっているのか、知るものはいない。知るためにこの道を進み来たわけでもない。ヴァルトシュタイン将軍の神殿軍と戦い、これを退けるためだ。 シルディール連隊長は言った。敵騎兵は、我が方より多勢であるが、しかしその密度は、我が方と変わりない。なぜなら敵味方とも、馬匹を養う牧場に頼らねばならぬからだ、と。それは敵支配域の奥にあれば良いものではなく、敵の考える戦場の近くにあらねばならない。そうでなければ騎兵を前方に展開できない。それゆえに、私は前進し、敵騎兵の展開基盤を打ち砕く、と。 『連隊前衛梯隊、連隊長に続け。前へ』 命ずる声が魔術によって響く。連隊長機が踏み出し、続いて警衛の軍旗小隊機が行く。さらにルキアニスたち第一小隊の機列が進む。いつも通り、二歩進む前に歩調がそろい、重い機装甲の足音は、一つに重なって響く。 小隊のすぐ後ろには騎兵砲小隊がつく。その後ろには、密集隊形を命じられた機卒と、それが牽く輜重車が来る。それら荷駄の左右は、一個小隊ずつの機装甲が固める。さらに騎兵小荷駄と換え馬の群れがまとめて続き、しんがりは騎兵中隊が担う。しんがりと言っても、騎兵大隊の半分、二百五十騎ちかくいる。 鼻づらに尾が触れるほど詰めあっても、それだけ行軍長径は長くなる。その割に実戦闘力は小さい。連隊の弱点と言われ、ゆえに主導的な行動が、そのために敵情認知の行動が、どれほど重要かと、常のように言われていた。 実際のところは、敵が来た時には、敵の数に押されかかっていたのだけれど。騎兵と言うのは、風が押し寄せるように押しては退き、退いてはふたたび切り返して押しかける、そういう戦い方をするものだという。昨日に相対した敵もそうしていた。騎兵には騎兵の間合いと、戦い方があり、機装甲に合わせるとその柔らかさを失ってしまうのだと。 しかも13連隊の持つ騎兵は限られている。敵騎兵は、五倍から十倍はいるだろうとルキアニスたちは聞かされていた。噂話ではなく21旅団参謀の見積もりとしてそれくらいの数があるという。それだけ多ければ、ひとまとめに使うのは難しくなる。一方で、まとまらずに、いくつもの群に分かれて押しかけては退くのも騎兵の戦い方だ。 ルキアニスたち前衛梯隊は、連隊長の命令通りひとまとまりになって進む。敵はどう攻め寄せてくるのだろう。 「・・・・・・」 鉄の兵の重い足音がそろって響く。道は、街道本道とは違って、せいぜい踏み固められたくらいのものだ。いずれ踏み崩されてしまうだろう。幅は馬車がすれ違うくらいで十五呎も無い。その道の左右は狭い草はらになっている。短ければ道に枝葉が迫るほど、長ければ五十から百呎ほどになる。だいたいは三、四十呎ほどで、その先は森の木々だ。 森そのものは、あまり深くないのだけれど、見通しが効くわけでもない。敵を迎え撃つのは、林縁に敵が姿を見せてから、草はらを突っ切るまでのごくわずかな間しかない。三十呎となると、ほんとうに指呼の間だ。上手い射手なら、頭に当てる。 森を利して近づき、押し割って襲いかかる。それが以前の、トイトブルグの軍勢が好んだやり口だったからだ。今のトイトブルグは、王国としての力はそうとう弱まっていて、もはや各地の勢力を従えることができないでいると聞いていた。それが故に、諸勢力は傭兵を雇い、また神殿本庁は帝國と、教会との戦いを掲げて、トイトブルグに馳せ参じよと触れ廻っているという。 正直、ルキアニスは怖かった。 けれどマルクスは、かつてのトイトブルグとは違うと言っていた。だから案じることは無い、と。21旅団は、帝國が動かせる一級の部隊であり、おまえも、つまりルキアニスも、その一人じゃないかとマルクスは言った。 だからこそ、ヴァルトシュタイン将軍率いる、神殿軍と戦わなければならない。ルキアニスたちは傭兵軍でも、諸侯軍でもない、皇帝陛下の帝國軍が、それに負けるわけにはゆかない。いや、勝たねばならない。 『後方敵勢。騎兵群』 『隊列そのまま、歩調崩すな』 すぐにシルディール連隊長の声が魔術で響く。魔術で伝わる声は、肉声よりもさらに、話すものの心模様を感じることがある。連隊長の声のひびきに、いつものような、あるいはいつも以上の静かで強い自負を感じる。 魔術で伝わってくるのは、連隊長の声だけではない。 『右側面、林中に騎影複数、数不明。十騎以上』 警句の響きと共に、ざらっと耳障りな、砂風に似たものが押し寄せてくる。誰の物とも知れない、心もちだ。恐れではなく、いよいよ来るか、というような、対抗試合の時のような、張りつめた感じがする。道と林縁との間の草はらは、三、四十呎ほどしかない。よそ見をして、歩調を乱すことはできないけれど、それほど離れていない。 『後方、敵騎影さらに増える。数十。三百呎ほど離れて、追従してくる』 『左側面林中にも騎影複数見ゆ』 『構うな』 連隊長の声が響く。 『陣形崩すな。騎兵のみで背後から押し崩すことはできない』 『前方隘路』 見えていた。地形の隘路というより、林縁が左右から道へと迫っている。わずかな登りにもなっていて、隘路の先はうかがえない。待ち伏せには、ちょうどいい。 『連隊とまれ、ようい!』 シルディール連隊長機が、指揮杖を兼ねた物見鑓を振り上げる。機装甲は止まれ今と命じられれば二歩で止まるけれど、騎兵砲や、馬車の軽荷駄はそうはゆかない。 『止まれー、今!』 そしてそれを示す形に振り下ろす。一歩二歩で機装甲列は足を止め、重い足音を追いかけてきていた砂塵が巻き込んで押し寄せてくる。 『騎兵分隊偵察派遣、前方隘路』 『了解。第一分隊前へ!』 すぐに後ろから騎兵分隊が進み出てくる。13連隊の騎兵は、騎銃を携え、それで戦う。敵の騎兵のように槍を持ってはいない。馬上でも撃てないことはないし、実際、撃つ訓練も見てはいるけれど、騎銃は馬上で装填できないから、あまり意味が無い。彼らは並足で、つまり馬にとっては歩くくらいの速さで、進みゆく。一塊の隊形は、やがて横隊に変わってゆく。敵が前に居るのは判っている。 『後方の敵騎兵群、さらに迫る。歩調変わらず、並足』 『騎兵砲小隊は、段列の後方に位置せよ』 シルディール連隊長はさらに、騎兵分隊を一個ずつ、隊列の左右に回すことを命じる。隊列の左右には、それぞれ一個小隊の白の三が射るけれど、それを補強する命令だ。 『隘路正面に村落見えます!』 ルキアニスは顔を上げた。前方に向かっていた騎兵分隊は、すでにその隘路に達している。 『村落前は開豁地。路上、ならびに開豁地に障害物は特に見られず。おそらくここが村の牧場らしい』 いや、と騎兵分隊長の言葉が途切れる。 『村落直前に機影。機装甲です。その数、一つ。村落内に機影は見えず。旧型のようだ』 すぐに別の声が重なる。 『後方敵騎兵群、さらに迫る。横隊展開しつつあり』 ざらざらしたざわめきが、風水晶の魔法陣をちらちらとまたたかせる。 『連隊長了解』 魔術で響く声とともに、ざわめきのちらつきは吸い込まれるように消える。連隊長機はゆっくりと振り返り、魔導の双眸で部隊を見る。 『傾注。連隊は、必ずしも村落に、急ぎ突入はしない』 そう、連隊長は言った。 『ゆえに、ここを戦いの場とする』 村落前の開豁地には、わなを仕掛けてあろう、と連隊長は付け加え、さらに命じるる。 『段列機卒隊』 『はい、連隊長殿!』 『鑓もて。配置は殿軍。戦列を組み、敵の突入を阻止せよ』 『はい、連隊長殿!』 『後衛騎兵、ならびに騎兵砲小隊!』 『はい、連隊長殿!』 『下馬射撃により、後方の敵を阻止せよ。敵は罠のある村落前開豁地へ何としてでも押し出そうとするはずだ。全て撃ち払え』 本当に踏みとどまって戦うつもりなんだ、とルキアニスは思った。連隊長の命令は続く。側面の機装甲小隊を援護する騎兵分隊にも下馬が命じられた。つまりひたすら撃ち続けるということだ。そのために足場の良いところでひたすら再装填と発砲を繰り返せ、と。機装甲らは柵となり盾となって、敵を寄せ付けるな、と。同じことは前衛の第一小隊にも命じられた。第一小隊の背後には、今、前方偵察に出ている騎兵分隊が収容される。 『ただし、第一小隊長を除く魔道兵は、連隊長に着け』 その命令に、ルキアニスは少し驚いた。第一小隊魔道兵とは、ルキアニスとマルクスのことだ。着け、というのは文字通り、連隊長と共に行動し、離れないということだ。 『第一小隊長了解。レオニダス、アモニス、連隊長に着け』 「アモニス了解」 マルクスの応じる声の響きも、風水晶の魔法陣に響く。 『連隊長!後方敵集団に動きあり!』 『了解した』 シルディール連隊長は、ごく静かに応じる。 『突撃の間合いが取れるのは後方のみだ。連隊長と魔道兵が支援する。連隊、かかれ!』 『はい、連隊長殿!』 応じる声が響く。 その響きには、わずかの迷いも聞き取れない。
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帝國軍近衛軍団独立第二十一旅団第十三連隊は、その本部をようやく据えて、再集結を図っていた。 八つの村落を数日の時間差で攻撃し、そこを占拠していた野盗やならず者をことごとく討ち取った。 周囲一帯は、当分の間、荒らすものはいなくなるだろう。そして「街道」を通るものを阻むものはいなくなる。そうすることで、以後の兵站線の維持確保は、ずっと容易になる。以後に計画されていた躍進に備えるため、欠かせない下準備だった。 その「街道」を見下ろす丘に、第十三連隊は本部を据えている。親授の軍旗を収める連隊長幕舎を丘の頂に据え、その両脇には軍旗とともに必ずある警衛の機装甲が膝をつき、傅く。そのあるところが、第十三連隊のあるところだった。 だが連隊長が常にそこにいるとは限らない。 第十三副連隊長サキス・ヴァシュタルスは連隊長に代わって、幕舎でとりまとめをする連隊参謀長と軽く打ち合わせ、そして幕舎を出た。もっとも、従う副連隊長書記と、警衛は、出された水すら飲み終えていない様子だったのだが。 連隊長を見つけようと思えば、幕舎に留まるよりも、連隊長の房飾りを兜につけた連隊長機を探すほうがいい。 統制に手がかかるのはやむを得ない。騎兵大隊は本部を前進させて、部隊の統制にあたっている。一方、機装甲大隊は、連隊本部のより近くに本部を設営している。機装甲の稼動を維持するためには、連絡線の近くにいるほうがいい。連隊のそれぞれの部隊は、細切れにされて投入され、それぞれに刃を交えている。そして機装甲とは、絶えず手入れをしてやらねばならぬものだ。一機一機はそれなりに耐えたとしても、部隊という器で測れば、驚くほど速やかに力を失ってゆく。 サキスは「街道」を見おろした。帝國では見慣れた石畳の大街道であるけれど、この王国では「街道」をはじめとしたごくわずかなところにしかない。帝國軍団の戦時兵站所要を許すほどの道でもある。今は、第十三連隊の兵馬と機装甲の通るだけだが、いずれ第二十一旅団がここを命綱とするだろう。第十三連隊とならぶ三つの連隊、第七歩兵連隊、第八歩兵連隊、第九砲兵連隊、加えていくつもの独立大隊の所要を賄うはずだ。 そしてサキスは、戻り来る機装甲の中に、目当ての印をつけた、機装甲を見つけた。それは警衛の二機を引き連れ「街道」を駆ける。 それらは、この丘へとやってくる。 サキスは振り返り、副連隊長書記と警衛に戻って休むよう伝えた。連隊長のあるところが、この連隊の中枢なのだ。 やがて連隊参謀たちも、連隊長幕舎に集合してくる。その中には旅団の情報参謀の姿もあった。 機体を降りたばかりのシルフィス・シリヤスクス・シルディール連隊長も、何事もなかったかのように幕舎に入り、向けられる敬礼にいつものように微笑と共に答礼する。 第十三連隊は、ほぼ滞りなく展開し、それぞれが予定通りに目標を攻撃した。 抗うであろう所にはあらかじめ黒騎士小隊を当てて容赦なく踏みにじったし、そうでないところであっても、機装甲一個小隊を主幹とした兵力で攻撃を行っている。 問題となったのはむしろ、村を占めていた野盗を逃さないことと、逃さずけれど捕らえることとなった野盗どもを、いかに連れ来るかだった。どのように処断するかはすでに決まっている。ただ、そのときがまだ今ではないだけだ。 人員に限りのある第十三連隊には、手に余るほどの数だった。 「効果的だった、ということですね」 シルフィス・シリヤスクス・シルディール連隊長が将机に広げられた地図を見おろし言う。サキスはそれに続けた。 「損害は軽微です。騎兵は負傷四名。いずれも軽症。部隊行動に参加中。機装甲の損害は、小破一。行動に問題無し」 「小破、一、ですか?」 シルディール連隊長は、かすかに眉をひそめる。サキスはうなずいて応えた。 「第一小隊の三号機です」 「魔道騎士の機体のはずですが」 「敵隠匿火砲の接射を受けたそうです」 「搭乗員は?」 「無傷で復帰しています。機体もです」 「わかりました」 連隊に、特段の消耗は無い。ある意味、それは当然のことだった。敵は互いに十分な連絡をもたない野盗どもだ。情報入手と相互伝達も、帝國軍のようには成さない。だからこそ、短い時間差での攻撃が有効であったのだし、部隊を分散しての各個攻撃でも、圧倒できたのだ。 シルディール連隊長の指が、地図の上の制圧済みの村落を軽く押さえる。「街道」近い村落は、野盗の格好の的であったし、奴らはそこに居座って街道を通る者からの略奪をほしいままにしていた。 もし、彼らを捨て置けば、かならず害を成しただろう。 「今のところ、ほぼ予定通りということになりますね」 第二十一旅団の情報参謀がうなずく。 「ご覧になったとおりの心象で報告してください」 情報参謀はうなずき、シルディール連隊長は散会を告げた。幕僚たちが、それぞれに散ってゆく。 すると、連隊長幕舎は急に静まり返り、がらんとして感じられるのだ。 シルディール連隊長は、幕舎の真ん中に置かれた将机と、その上の地図を見おろしていた。 それから、ゆっくりと顔を上げ、サキスを見る。 「まだ、何か?」 「ただの一休みです」 「そうですか」 シルディール連隊長は、かすかに思う風で、ふたたびサキスへと目を向ける。 「あなたが連隊指揮官なら、どうされましたか」 「この計画の通りに行っただろうと思います。賛成したとおりです」 「しかし、行動検討のときには、違う所感ももたれていたと記憶していますが」 「そのとおりです」 「結果を踏まえてどうお考えですか」 「感想に過ぎませんが」 「お聞きしましょう。参考にさせていただきます」 サキスは静かに将机へと歩み寄った。 「ここで解決のつく問題ではありません。カバーすべき領域に対して、連隊の兵力が少なすぎる。今回は敵の抵抗強度が弱かったために、実質的な損害はありませんでした。だが、どこかで強い抵抗があれば、それもこちらの行動の弱点であれば、被害が連鎖して連隊は大打撃を受けた可能性があった」 「はい」 静かに応じるシルディール連隊長に、サキスも静かに続ける。 「機動力も、質も、数の少なさを補うわけではない。結果として、黒騎士小隊もその能力に見合った使い方をできていない」 「はい」 「もっとも、この手の任務は、第二十一旅団のような部隊に必ずしも適合しているわけではない。逆に、状況を旅団の能力を発揮できるように動かそうとしている。ある種のジレンマです」 「そうですね」 「だがそれでも、第十三連隊は期待されるなりの能力を見せた。今後も、連隊は足の速い便利屋として使われ続けるでしょう」 「それが命令ならば」 「そしてあるとき、思わぬ損害を出し得る。連隊は損害ゆえに、ふいに無力化する。それはありえることです。しかも、われわれがその予兆に気づかないうちに」 シルディールの面は静かなままだった。いつものような静かな微笑とともに応じる。 「では、あなたならどのように指揮されますか?」 「今回のように指揮するでしょう。今回のような分散した行動計画がそれをもたらすだろう、と予測できていても、です」 「なるほど」 シルディール連隊長の口調は変わらない。 「部隊に都合よく命令を解釈せよ、などとは口に出せませんね」 「だが、十三連隊が無力化した途端、上級部隊の行動計画も破綻します。何を重視すべきかは、下級部隊の一存では言えません。どの部隊も、どの指揮官もが、部隊を編成としてまとめて使い、力を発揮したいと考えている。そして上級部隊にその余地を与えるのが前衛部隊です」 「副連隊長のお話は循環しているように思われます」 「上級部隊が縦横に隷下部隊を運用するためには、われわれを活用せざるをえない。上級部隊に与えられた時間的余裕が小さいほど、われわれは賭けにでなければならなくなる」 「はい」 「連隊は、あなたのためなら地獄へでも行くでしょう。わたしも、そのつもりでおります」 シルディール連隊長は応えなかった。いつも絶やさぬその笑みが、ほんのひと時だけ途絶えさせたようにも見えた。 「帝國は、帝國へのその忠誠、忘れはしません」 「はい。連隊長」 サキスはうなずき、応えた。 書き漏らしたことは多かったけど、 こういう話だったのさ! なんというか、1チャンクのまとまりがついた気がするw
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銅刃団どうじんだん / the Brass Blades 砂の都「ウルダハ」の治安を担う警備部隊。 砂蠍衆を中心とする富豪が出資して雇われた傭兵部隊であるため、 実質的な雇い主であるロロリトやテレジ・アデレジの影響力が強い。 ウルダハのグランドカンパニー「不滅隊」とは協力関係にあるものの、傘下に組み込まれている訳ではないようだ。 編成 複数の「連隊」によって構成されている。 「連隊」の下には「大隊」という単位が存在しているようだが、それぞれの規模は不明。 現在判明している連隊は以下のとおり。 連隊 担当 備考 オーキッド連隊 東ザナラーン 連隊長はアーロット。傘下のフンベルクト大隊がハイブリッジを防衛している ローズ連隊 西ザナラーン 連隊長はバルドウィン。後に不正が発覚し、フフルパが連隊長代行に就任する ロータス連隊 南ザナラーン? 連隊長は不明。リュモモという隊員が所属 バルサム連隊 ウルダハ都市内? 連隊長は不明。ココビという隊員が所属 ガーベラ連隊 特別編成 ググレム氏が特別編成した腕利きを集めた部隊
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まだまだメモ状態。 でもこうなってしまうことに気づいた。 機装甲が一列になって、駆ける。 錬兵場の緑を踏み、砂埃を蹴立てて、けれど列を保って駆ける。右手に携えた長鑓のぶんだけ間合いを開き保って駆ける。 先頭を駆ける機が腕を振り上げる。 振るう。 側面に目標を見る。 列の足元に激しく砂埃が舞い上がる。砂埃を蹴立てて、列の機たちは、いっせいに横飛びに地を蹴る。 いっせいに地を蹴って、砂埃を壁のように連ねて残して、機の列は、今度は肩を並べて駆けた。縦から横へ、刹那に向きを変え、駆ける。 いまや正面に見る標的板の列へ、駆ける機装甲の横隊は絞るように向かってゆく。 砂埃と轟音。 いっせいに打たれ、いっせいに砕かれる木々の音。 春の風に砂塵が流れ去った後に、残る機装甲の列。鑓を構えた残心。 それらを見る姿。 シルフィス、サキ、それから教官。 教官の風水晶がきらめく。 『状況終了』 「了解。復帰せよ」 周囲警戒態勢をとり、それから戦列を組みなおす白の三。 「ご覧のとおり、突撃にあたっては二対一の数的優位をもって行います」 教官は言う。 「白の三中隊のうち、二個小隊を突撃横隊に、一個小隊を後衛予備とします。二個小隊からなる突撃横隊は、帝國軍の標準戦列最前列に対して個別に二対一の優位を保ちつつ突撃、戦列最前列の機能を奪います」 「はい。それはうかがっています」 春の風の中で、後れ毛の一筋を耳元へと掻きあげシルディール連隊長は応じる。 その闇色の瞳を上げ、笑みを見せる。 「機装甲学校の教官隊の実演は拝見しています」 「展示のように、第十三連隊の機装甲大隊も同じ能力を獲得します。機装甲戦列に対して有効な打撃を与えうるでしょう」 シルディール連隊長は応えなかった。彼女は穏やかな笑みを浮かべ、かすかにまぶたを伏せる。 「期待しています」 シルディール連隊長は言う。 「副連隊長、何かご質問は?」 「訓練の結果については特にありません。問題は、いつ、どの程度の能力を獲得するかです」 「はい」 教官は慎重に応じる。第十三連隊副長ヴァシュタロスは続ける。 「装備受領がかなり遅れていることが予定を厳しくしています」 部隊としては、とヴァシュタロス副連隊長は続けた。 「部隊戦闘力の礎となる基本戦技の向上を期待したい」 「部隊側の事情は理解しています。機甲学校としても、部隊側の不安を払拭する助けとなりたいと考えています」 「助けでは困る」 ヴァシュタロス副連隊長は冷たく言った.冷たく見据える。 「考えも努力もそれだけでは何の役にも立たない。私は現状にきわめて強い不満を抱いている。二つしかない中隊の六つしか無い小隊の錬度はばらばらだ。その中から高錬度の小隊を二つばかり抜き出して展示されても得るものは無い」 「それは……」 「装備受領の遅延の責めを貴卿らに負わせるつもりはない。その状態にある部隊に行うべき訓練を問うている」 「展示部隊である第一中隊第一小隊、第二中隊第一小隊は、現実には同一戦列で運用することはできない」 「展示並みの能力の獲得は、いずれの小隊、いずれの中隊にも等しくなければならない。それに直接貢献する教練行程でなければならない」 「……改善に努力……」 言いかけて、教官は訂正した。 「改善にご期待ください」 「承知した」 ヴァシュタロス副連隊長はうなずき、シルディール連隊長を見やる。 「以上です、連隊長」 「わかりました」 シルディール連隊長はうなずく。 「わたくしからは特に付け加えるべきことはありません。機甲学校教官諸卿に期待しています」 「ご期待を」 背を向けて帰る。 「中隊で敵機装甲戦列に突撃させることなど考えておられないでしょう、連隊長」 歩きながら、ちらりとサキを見るシルフィス。 「……」 応えは無い。だからサキは続ける。 「だが、あの力は高く評価された」 「ええ」 「機卒の戦列では、白の三の疾走突撃を阻止できない」 応えまでに数歩の間があいた。日差しの中を足跡だけがした。 「そうなるますね」 静かな言葉であったけれど、確かにそう答えた。 シルフィス・シリヤスクス・シルディール第十三連隊長は口元に笑みを浮かべ、春の風の中に顔を上げる。一本束ねの黒髪が揺れる。
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展開の断章 (2) より低い側がより遠くを詳しく見ようとするなら、進むしかない。 マルクスたちの小隊の姿は、密集隊形のまま駆けてゆく。 ルキアニスはその姿を見送るばかりだ。 帝國は、中隊より小さな機装甲部隊を、それだけで戦闘に使わない。中隊より小さな機装甲部隊は、小さな消耗であっという間に戦闘能力を失ってしまうからだ。 それでもいま小戦力を送り出すのは、互いが互いの動きに応じることのできる間合いに入りつつあるからだ。こちらが大きく動けば、あちらも必ず大きく動く。 彼我はともにあたりをかけて、敵の力をはかろうとする。いくさはもう始まっている。いや、ずっと以前から始まっているけれど、ルキアニスたちが実際に干戈交えるいくさのはじまりだ。 ルキアニスの小隊も、今の得物は投擲紐だ。投擲紐を振り回すなりの間合いを開けて、前に三機、後ろに二機の幅広隊形をとっている。 敵の騎兵は踏み込んでこない。小さな部隊で、十騎か二十騎か、帝國軍でいえば半個から一個分隊くらいの大きさのものばかりだ。それぞれの判断で動いているらしく、誘いをかけるように近づいては退いたり、盛んにマルクスたちの背後から追いすがったりする。 もっとも彼ら騎兵の装備で緑の三を撃破できるはずもない。せいぜい嫌がらせくらいだ。 敵の騎兵は13連隊の正面にはやってこない。苛立たしくはあるが、それが騎兵の任でもある。ルキアニスにだってわかっている。 騎兵の任は、敵情を知り、その力を知り、その戦意を知ることだ。正面から押しかかれないなら、脇へと流れて回り込んで隙を見つけようとする。 「・・・・・・」 だがルキアニスはいぶかしくも思っていた。敵、アル・ディオラシス軍の騎兵は帝國軍騎兵の数倍はいて、その戦意は高いと聞いていた。いま見る限りルキアニスの正面にある敵騎兵は分隊規模の物が、せいぜい三つか四つ走り回っているばかりだ。敵の偵察態勢は、まだそれほど本格的ではないのかもしれない。 もっともそれが百騎や二百騎になったところでどうということはない。帝國の騎兵はすべて銃を持っているし、連隊には騎兵砲もある。機装甲は投擲援護も行う。 だが軽機装甲と伴えば話は別になる。軽機装甲とはいえ、騎兵銃では倒せない。機装甲を撃破しうるのは機装甲だけだ。つまり、敵軽機装甲の前進こそが、ルキアニスたち機装甲部隊にとって重く見るべきことではある。 その時は、とルキアニスは思った。 最も危険にさらされるのは、単独少数で前進しているマルクスの小隊なのだけれど。 「・・・・・・」 彼の小隊は、彼の指揮下らしく、慎重に、けれど大胆に進んでいた。街道そのそのものは使わず、街道の左わきの斜面をうまく進んでいる。その斜面は緩やかに遠く上って行って、二つ目の丘の頂まで緩やかにつながっている。気付けば彼の小隊は一哩ほどは進んでいる。生身で走っても、時計の分針で測るくらいの間だ。機装甲の足ならばそれほどはかからない。ただ砲火の中を進むなら、果てしなく遠く思える間合いでもある。 待たなければならないのは辛い。退けないのはわかっている。ならば早く進ませてくれればいいのに。 『先導隊長へ』 騎兵小隊からの報告がある。ルキアニスへの呼びかけだ。 『後方より連隊長機』 少し驚いてルキアニスは振り返る。 連隊長徽章を風になびかせて、白の三がこちらへと歩いてくる。警衛小隊機が常についているのも変わらない。ルキアニスの第三小隊の投擲横隊の背後にその姿は立つ。連隊長はいつも前衛大隊か、それより前にいる。 斥候を出したなら、その斥候に敵がどう応じるかもまた、敵の戦意をはかる大事な目安になる。シルディール連隊長が見逃すはずはない。 だからといって、マルクスの小隊は囮などではない。斥候は行動の自由が大きく認められている。敵情を知り、それを指揮官に伝えることはそれだけ重要な任務だ。騎士斥候は指揮官の求めるものが判る人間として送り出されている。 そのマルクスの小隊の姿が、その左手の斜面の向こうに少しずつ隠れてゆく。その姿を追いかけて、敵の騎兵斥候の一つが駆けてゆく。 『斥候小隊より連隊本部へ』 こんな時にはほっとする。風水晶の魔法陣は、同じ共振陣を持つものに声を届ける。 『街道上に阻止物無し。敵は正面丘に展開している。機卒機装甲塊隊は少なくとも二つは存在する。訂正』 マルクスの声はごく冷静に言う。 『三つ目の機卒機装甲陣が丘の南斜面を東へ向かって移動中。敵機甲方陣は三つ。その他に方陣らしきものはみられない。砲の展開も行われていない。繰り返す。放列展開は見られない』 彼の言葉が少し途切れる。あまり離れすぎると、風水晶の魔法陣では声を届けられなくなる。けれど彼の声は続ける。 『南東丘に敵影は見られない。どうやら正面丘にのみ展開しているらしい。南東丘を偵察するか』 『不要だ。正面丘に対する偵察適地を確保せよ。爾後、連隊長は前進する』 『斥候小隊了解。少し待て』 ルキアニスは連隊長機を見た。連隊長らしいと思った。時には連隊をとどめ置いて、状況把握と指揮の行いやすい場所へ進出する。 実際のところ、シルディール連隊長ならば、どこにいても何の心配も無いと思う。何が起きても、連隊の誰よりもうまく切り抜ける、というより、寄る敵をすべて打ち倒すことだってするだろう。 『斥候小隊準備良し。現在地、歩測で一と四分の三哩。連隊長は前進されたし』 『連隊長了解。副連隊長は連隊の指揮を代行せよ。連隊長は斥候位置へ前進する』 何の逡巡もなく、連隊長機は駆けはじめる。かぶとに着けた連隊長徽章が走る風になびく。 機装甲の動きは乗り手の動きのままだ。連隊長機の駆ける姿は美しく、いつまでも見つめて追い続けたくはなる。 そこに追いつけるかどうかはわからない。 いや、とルキアニスは思った。そんなことができる人がいるのだろうか。
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闇の零 ―帝國歴1095年 工部たちが忙しく立ち回り、時折怒鳴り声も響いてくる。 そうでありながら、焦るな、ちゃんと見ろ、との声も飛ぶ。一度用廃になった機装甲を、使用可能に戻すには、結構な手間がかかる。雨ざらしに放置されていただけにしろ。 甲をはずし、錆を確かめ、収縮帯と継ぎ手をすべて外し、手入れをして再び納める。手入れならそこまでだが、操縦槽や魔力系統も調べられる。 ルキアニスとマルクスにとっては懐かしい機体でもある。 白の三、13連隊が編成されたときに装備された、剽騎兵用機装甲だ。ただルキアニスの元の機体は、トイトブルグで失われてしまった。今ある白の三は、シルディール連隊長が使っていたものだ。白の三は剽騎兵用の機装甲としては、初期の仕様のために、今の白の六とはずいぶん違っている。 今の白の六は、緑の六を基本に作られているが、白の三の時には、すべての剽騎兵機装甲が魔力増幅能を持てるようになっていた。増幅装置が取り付けられるという意味で、増幅装置をすべての機体が持っているわけではなかったけれど。それに、戦列戦を補えるように増甲が取り付けられるようになっていた。その分、白の三の方が重かった気がする。 そして、ルキアニスとマルクスの前に横たわっている二機は、そもそも他の白の三とも違っていた。試作機で、黒の二の仕様が取り入れられている、と。もちろん黒の二の仕様など取り入れたら、機数が揃えられないわけで、そのためほとんどの白の三は、青の三を基準としたものになっている。 その白の三を、今になって生き返らせようとしているのは、その白の三にしかできない任があるからだ。水中に没しても機能を保ち、操縦槽の乗り手の息を保つ、そんな仕掛の増装がある。アル・カディアでも使ったものだ。今すでに、工場に持ち込まれている。大きく膨らんだ形の二対は、機の両肩に取り付ける魔術装置だ。左右に大きく張り出した角を持つ兜甲は、胴体部への留め金をもっていて、角に縄をかけて機体全体を吊るせるようになっている。その他の甲材は、薄くて軽くて細身だ。水底を歩くとき、機体が沈み込まないように軽くなっている。アル・カディアでは連隊の先発として、海岸の確保に使った。今回は、ヴィルミヘ河を遡上して、その沿岸の上陸地点を確保する。 13連隊本隊はすでに先発している。ルキアニスとマルクスは、小隊長の任を解かれ、この白の三とともに追及することになっている。北方辺境都トゥール・レギスで連隊本隊に追いつく予定だ。今の白の三に何か故障が見つからない限りは。 オスミナ、その国の名を、ルキアニスは知らなかった。マルクスは当たり前のように知っていた。帝都の北へ向かって流れるヴィルミヘ河を、そのまま進むと、やがて北方辺境都トゥール・レギスへと至る。皇帝軍が十年の月日をかけてたどり着いた北方の本拠だ。そこからさらに河を北へ向けて進むと、オスミナという国に至るのだ、と。 「オスミナの北に棲む巌族は怖いらしいぞ。白熊の生き胆を食らうとか、な」 などとマルクスは言うのだが、たぶん嘘だ。ルキアニスが知らないと思ってそうやってからかう。だいたいその毛が透き通るように白い大きな熊なんてのがいるのかどうかすら怪しいとルキアニスは思っている。マルクスはにやにやしている。こういう時に、そういう冗談で人をからかうのはやめてほしいと思う。 事態は、にやにやだの白熊だの言ってるどころではないらしい。 そもそも非常呼集で呼び起こされたくらいだ。 あの夜から、休むことなく物事はすすんでいる。 あの時、就寝喇叭の鳴ったあとで、ルキアニスは自室で毛布をかぶって横になっていた。 うとうとしかけたところで、何か鳴ってると思い、慌てて起きたら非常呼集の喇叭だった。寝間着のまま扉を開けば、確かに喇叭が鳴っている。息が白い。冬はもう間近だ。当直騎士が非常呼集を呼びまわる。もっともそれが決まりだから起こしているだけで、当直が何か知っていることはない。 慌てて着替えて、念のためにもう一枚上着を重ねて、格納庫脇の中隊本部に駆けつけた。もちろんオゼロフ中隊長たちも状況を知らないままだった。規定通り機側待機だけが命じられた。機側待機は、即時出動があるかもしれないし、無いかもしれないときの命令だ。だから手入れもできない。ただの待機なら、交代で休めもするし仮眠もできるけれど、機側待機と命じられるとそれもできない。それが規定なのだ。そして連隊は即応準備ではなかったから、全員そろってもいない。ストエル中隊先任もいない。いてもルキアニスをからかってるだけだろうとは思うけれど。 ルキアニスの小隊も、騎士の教育派遣で欠員を出している。ただ予備の騎士がいるから、機体が余ることはない。それに小隊編成は、中隊配属の人員ほど固定的ではない。平時業務の割り振りから、小隊という枠はあるけれど、小隊長から小隊員、従士従卒に至るまでいつ入れ替えがあってもおかしくはない。変わらないのは、小隊従士長くらいだ。その小隊従士長も、何があったんでしょうか、とルキアニスに問うけれど答えようもない。知りたいのはルキアニスも同じで、むしろ何か噂を聞いていないのか、と問い返したいくらいだ。 「小隊長は集合!」 ようやくの命令で向かった会議室には、すでに騎兵たちが集まっていたが、あちらも何も知らないままだった。噂話一つなかった。ようやくそこで顔を合わせたマルクスも、肩をすくめて見せるだけだ。 「連隊長入室!」 声と共に扉が開かれる。皆が一斉に背をただし、かかとをあわせる。 大股に、シルディール連隊長が歩いてくる。珍しく、長く美しい黒髪を束ねていない。そして左の手に剣を下げている。戦地では当たり前だが、帝都の駐屯地ではおどろく。サキス副連や、連隊参謀たちもつづいてくる。 「傾注!」 「おはよう諸君」 シルディール連隊長は言う。たぶん連隊長は少しの冗談を込めて言っている。皆が声をそろえて、おはようございます、連隊長殿、と応じる。 「まず言っておく。連隊は皇帝陛下と最高指揮官陛下の秩序の中にあり、本職はそれを忠実に護るものである。以降、様々な無責任な噂を耳にするかもしれぬが、一切気に掛けることは無い」 そして連隊長は、常の通りに楽にしていいといった。けれど楽になどできない。どうみても訓練でもリハーサルでもない。シルディール連隊長は続ける。 「信頼できる高位の情報源より、騒擾の危険が知らされた。この危険がどの程度のものか、まだわからない。しかし危険が現実のものとなった時、極めて憂慮される状況になると考えられている。現在、我が連隊のみならず、複数の帝國軍部隊と、内務省部隊が、予備的な行動を開始している」 連隊長はわずかに間をおく。そして言った。 「13連隊はその本来の任務を果たすため、皇帝陛下をお守りするために、帝都近傍へ出撃する」 誰もが絶句し、会議室はただ静まり返るだけだった。シルディール連隊長だけがいつも通りだった。連隊長は言った。ただしこれはあくまで予備的な措置である。要を認められなければ、連隊の出動は予備的なものに留まり、命令を待って撤収する、と。命令は当然ながら、最高指揮官陛下を源とする正規の指揮系統より発令される、と。しかしながら、現状では何が起きるか予想がつけられない、とも言った。ゆえに市街戦、機甲戦、魔道戦に備えよ。そのすべての準備成せ、と。 「連隊は第三臨時編成態勢をとる。各中隊、各小隊の人事体制をとれ」 ルキアニスはちらりとマルクスを見た。マルクスと目があった。第三臨時態勢というのは、よくある組み換えの定例一つだ。この場合は、黒騎士小隊とルキアニスとマルクスが臨時編成第二軍旗小隊を編成し、建制の軍旗小隊を第一小隊として、臨時編成連隊本部中隊となって、連隊長に直卒される。シルディール連隊長がその判断で迅速に動くときに、稀に発令される。 「行軍序列通りに前衛大隊、後衛大隊を成せ。機甲騎兵の混成体制とする」 それもよくやる態勢だ。機装甲小隊と半個騎兵分隊が協調する。そして連隊長は静かに言う。 「現在のところ、騒擾の危険が伝えられているのみであり、帝國と帝國軍の秩序は保たれている。状況が流動的なため、連隊には、内務省部隊が同道する。したがって帝都臣民と会話をする必要はない。これを禁じる」 移動先も知らされた。帝都北側のXX帝の大門だ。昔は帝都門外のそこに部隊が集結し、皇帝陛下の激励を受けたという。内戦の時もあったと聞いた。ふと見ると、マルクスがひどく難しい顔をして腕を組みかけ、あわてて下すのが見えた。何か思い当たるらしい。最後に連隊長は言った。 「7、8連隊の行動可能な部隊も我が連隊と同様に行動を開始している。不測の事態が起きるとは限らないが、起きた時こそ、諸君の力が必要になる。成すべきことを成すことと同じように、為さざるべきことを為さぬこともまた必要になろう。常の通りの諸君に期待する。以上」 「解散!」 ルキアニスのまずするべきことは、マルクスとともに中隊からの臨時転出を中隊長に確認することだった。オゼロフ中隊長は、連隊長と一緒ならまあまず間違いはあるまいが、連隊長と一緒なだけに、どこまで行くかもわからん、慌てなくていいぞ、最後のつもりでいろ、と言ってくれた。マルクスと二人で、左胸を打つ敬礼をしたあと、連隊長の方へと向かう。 「本当にやばいのかもしれない」 ぼそりとマルクスがつぶやく。XX門には宮城からの秘密の抜け道があるという噂がある、と。 「なに?」 「13連隊が、皇帝陛下をお迎えに上がらねばならないのかもしれない」 さっきの話では、全然そんなことに触れてなかった。驚いて足を止めかけたルキアニスの背を、マルクスの掌が押す。 「憶測だからな。話すなよ」 「からかったの?」 「そんなわけないだろ」 連隊長のもとには、すでに軍旗小隊と黒騎士小隊が集まっていた。小走りにマルクスと向かい、そして到着を申告する。ルキアニスは黒騎士小隊の人らが苦手だった。特にグラム・エイクル黒騎士が。だからマルクスを挟んで、少し離れたところに立つ。 「よろしい」 連隊長はすぐに言った。 「不測の事態がありえる。騎士は常時帯剣。臨編本部中隊は、これより連隊長とともにXX帝大門前広場に急行する」 そしてシルディール連隊長は、少しの笑みを浮かべた。 「あくまでこれは予備的な行動である。宮城には黒の龍神守りがある。万に一つも皇帝陛下の御身が脅かされることは無い」 ルキアニスはちらりとマルクスを見た。マルクスは器用に目だけそっぽ向いていた。黒の龍神は、機神アウラルム・ドラクデアから直にかたどられたという。それも東方の職人が贅を尽くして拵えたもので、機神と呼ぶにふさわしい力を持つのだ、とルキアニスは聞いていた。そして内戦の終わった今、彼らの主な任は、宮城で皇帝陛下をお守りすることだ、とも。 「連隊長殿、伝令です」 呼びかけに振り向くと、一人の従士が肩で息をしながら踵を合わせ、左胸をこぶしで打つ敬礼をしたところだった。知らない顔だ。それに騎兵でもない。歩兵だ。別の連隊からの者だ。 「7連よりの伝令であります。7連隊長殿より、第13連隊シリヤスクス・シルディール連隊長殿への通信であります」 「聞こう」 「通信文であります」 従士は書類嚢から封筒を取り出す。連隊長は刀子で封を切った。それを開いて読み始めた時のシルディール連隊長の顔は、ルキアニスが見たことがないほどだった。眉を上げた驚きの顔自体がそうであるし、それほど顔色の豊かな人だとは思ってもいなかった。 そして連隊長は額に手をあてた。考え込んでいるのではない、笑っていた。低く、小さく、聞こえぬように。こういう時、ルキアニスはどうすればいいのだろう。もちろんどうすることもできない。やがてシルディール連隊長はルキアニスの目に気づき、笑みを口元に残したまま、近くの参謀と副連隊長へ向き直る。 「7連隊長ケイロニウス・アキレイウス連隊長は、今晩、御母堂とお会いするために不在であると、たった今、連絡が入った。7連隊は出動準備中である」 それから伝令へと振り向く。 「13連隊長より、7連隊指揮官へ。13連隊も出動準備中。13連隊長はこれより先行してXX帝大門へと向かう。今後も部隊間の連絡を密にされたし。以上」 伝令が復唱する。その間に、ルキアニスはそっとマルクスをつついた。 「ねえ、7連隊長って・・・・・・」 「アドニス殿下に決まってるだろ」 「御母堂って母上様のことだよね」 「・・・・・・」 マルクスは片方の眉を上げて見せる。そのしぐさが、そんなことを聞くほど馬鹿なのか、という意味なのはルキアニスにもわかった。アドニス殿下の母上様といえば、聞く必要も、もちろんなかった。リランディア陛下だ。 「副連隊長。連隊長は先発する。内務省部隊との連絡、よろしくたのむ」 シルディール連隊長は言う。サキス副連隊長はすぐに応じる。了解です。お気をつけて、と。 それが、始まりの長い長い夜の、その始まりだった。 お恥ずかしい話だが、SSSS.グリッドマンに┣″はまりしてしまい、一日中OPを口ずさんでるわ、夜ごと街を徘徊してグリッドマングッズはまだかとさ迷うとか、番組開始時アイテムのアクリルキャラキーホルダーのでかいの、それもお望みのアンチ君のを手に入れて逆に俺はこれをどうすればいいんだと途方に暮れていたりする。 ともあれ、これは訓練でもリハーサルで・・・・・・、いやそっちではなくて、久々にドン突きで出てきた話である。 本当は、北方戦で、ガイユス殿下とマル子が冬営陣地の機神部隊の区画をめぐってぐだぐだと言い合う話を書いていたんだが、それが妙なところで詰まってしまい、しかしそれとは別に、ヴェルキン、アレシア、シル子、ルキマルの5人が、オスミナ国境にいたらしいと気づいた。 気づいた所以は、アムリウスがヴェルキンといつ会ったか、に気づいたからで、 ガイユス殿下は、クルル=カリルが引っ張り出してくれた。 だから、やはりあれを書かなければならなかったし、アレを書く以上、どんなにアレでもあの展開しかなかった。 たとえ失敗作でも与えた命には、きっと何かを成せる。それはその命が終わるときには、何かを倒すに値するほどになるといい。 そう思っている。 だから時期と、時系列を転移しながら、また時系列を多分、一部無視しながら、すこしこの辺を掘らせてもらおうと思う。 それにしてもさすがに10年は長く、あの日のアレってなんだっけ、スレッドで何を語ってたっけ、このままでは約束まで消えてしまう、と思ったのは本当。 ただ目を覚ましているかどうかは相変わらずわからない。むしろ悪性の覚醒性昏睡がさらに悪化したんじゃないかと思わなくもない。 ただ今生きてる僕の今の一瞬一瞬は、何かの練習でも準備でもない。 そう、だからこそ、失敗作に救われることがあってもいいんだ。 うん。鈴村のアンチ君、最高によかったんだよ。真綾はいい、鈴村を出せ!って思うほど腐るとは思ってもみなかったよ、俺自身w アンチ君が可愛すぎて生きるのがつらい。 彼が自分の感情さえそのあることにろくに気づいていない、重症で救われないサバイバーだからなのだ、と僕の中にすでに結論めいたものがある。 いいのか、商業であんなことやってて。茜はなぜあそこまで罰されねばならなかったんだ?架空の世界で、彼女が友人として愛でていた立花は、それ自身茜のミラーだったんじゃないのか、とか、いまでもずぶずぶとグリッドマン沼に沈んでいる。 僕はエバサバイバーじゃないんだけどなw
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「十三連隊は働き者だねえ」 ごくのんびりと、サウル・カダフ帝國軍親衛軍団第二十一独立旅団長は言う。 「まさか、こんなに早くとは思わなかったよ」 彼は歩きながら、砂色の髪から伸びた、耳の先をゆびでいじる。獣の耳に似た形のそれは、彼が海を隔てた南の大陸に祖を持つ、獣人の一族だと示している。彼が手を下ろすと、肩掛けに似た、袖なしの外套がふわりと降りる。 「光栄です」 森をゆっくりと歩くサウル・カダフ将軍に付き従って、第十三連隊長シルフィス・シリヤスクス・シルディール上級騎士隊長が歩く。 うん、とサウル・カダフ将軍はうなずいた。 「もう、東方諸侯を吊り上げたんだからなあ。甘藷の子だっけ?」 「レオニダス上級騎士と、アモニス上級騎士の巡察隊です」 「ああ、あのでっかい子か」 どこか遠くで、砲声が一つ轟いた。 サウル・カダフは構わずゆっくりと進み、やがて森の切れ目へと至った。風が押し寄せ、彼の砂色の髪をかき乱す。常の人より長い耳先が、ひくひくと動く。 その先は大きく開け、下っていた。崖とまではゆかないまでも、急な傾きとなって下ってゆく。その先は、疎に密に茂る森の、あるいは高く低く丘が続いてゆく。 先の砲声の名残らしい、白い煙がややまばらな木々の間から流れ出てくる。 「砲まで使ってくるとは、敵さんも、妙にやる気だね」 「確認したのは二門です。それほどの脅威ではありません」 シルディール連隊長が応える。うんうん、とうなずきながら、サウル・カダフ旅団長は腰の物入れから、遠眼鏡を取り出した。目にあて、森を見渡す。その中で白い砲煙の名残が流れていた。その向こうの稜線に機装甲と、機卒と思われる姿が見え隠れする。敵方の守りは、機卒と機装甲のみではない。傾けられた鑓の穂先の群れも見える。歩兵たちだ。歩兵のみでは、機卒も機装甲も支えきれない。だが、歩兵を伴わない機卒も機装甲も長くは攻め手を保てない。 歩兵の鑓の群れの背後にも、機卒の姿が見える。何がしか働いているのはわかる。逆茂木か、杭か、あるいは掘りか、そういったものを作っているようにうかがえた。 「兵を引かせて、集めて使うつもりか」 「こちらから攻め手をかけるつもりでいます」 シルディール連隊長の言葉に、けれどサウル・カダフ連隊長は首を振る。 「今投入されているのは?」 連隊長はうなずき、応えた。 「機装甲大隊第一中隊の三個小隊です。右翼から第一、第三、第二小隊。第一小隊は今は、見えませんが、右翼側から浸透中です。第二、第三小隊は、戦列を構築、待機中です」 敵の陣取る稜線からこちらに下った森の中に、二つの機装甲戦列があった。それが機装甲第一中隊の第二、第三小隊であるのはすぐにわかる。 「加えてさらに、黒騎士小隊と、第二中隊が待機中です。いつでも……」 「うーん……だが、今はもみ潰すには良い頃合ではないんだよな」 サウル・カダフ将軍は腕組みをし、それから砂色の顎鬚をもてあそぶ。 「旅団情報参謀、説明を」 「はい」 サウル・カダフ将軍の呼びかけに、背後からすぐに応えがある。シルディール連隊長は、肩越しに振り向く。 その先には、やはり帝國軍の黒の軍装をつけた者が立っていた。金灰色、というより白髪交じりの波打つ金髪の男だった。しかしそれよりも何よりも、彼の顔を覆う、白金の仮面に目が行く。彼の仮面は、額の半ばほどから下、頬の当たりまで面貌を覆い隠している。額には飾り石をつけ、また目許にも硝子が嵌め込まれている。眼鏡を兼ねた凝ったつくりの仮面だった。 熾烈な内戦で、面貌に傷を受けるものは多く、それを隠す面は、禁じられてはいなかった。ただ、それは温情とともに許されているというたぐいのことで、それを取って顔を明らかにし、誰何に応えよと要求することもできる。そしてそれを拒む権利は与えられていない。 仮面の下の彼の唇が開いた。 「この付近には、カイジ庄の出先砦がある可能性が指摘されていました。前哨砦のたぐいです。十三連隊巡察隊は、おそらく、その間近に至ったのだろうと考えられます。この出先砦は、街道に対する牽制、破壊工作のための出撃拠点たりえますから、これを発見したのは殊勲といえます。十三連隊長の薫陶宜しきと申せますな」 「旅団参謀の評価は、部下に伝えましょう」 シルディール連隊長は、笑みとともに応え、それからサウル・カダフ将軍へと向き直った。 「抵抗は排し、目的も達成できます」 「問題はその結果、敵に抵抗の決意を固めさせ、東方処理を遅延させる可能性があることです」 仮面の情報参謀は言葉を割り込ませる。 「カイジ庄の最大の戦力は、その一子ヨウルスの率いる郎党衆です。おそらく、今、抵抗している勢力もそれでしょう」 「ならば好機でしょう」 「だがな、連隊長」 シルディール連隊長へ応じたのはサウル・カダフ将軍だった。 「ヨウルスを殺せば、カイジ庄主は憎しみとともに、最後まで帝國に歯向かう道を選ぶだろう。それを滅ぼすことは容易いにしても、その後のことがある」 続けて仮面の情報参謀が言う。 「庄主カイジは、窮鼠猫を噛む、そういったたぐいの男だと見られています。三年前の事件の折、彼はシュテルン・クラインの参集に応えるために、第十三軍団のすぐ背後で、街道を横切るような策に出ました。いざとなれば、思い切ったことをするでしょう。そして彼は、子息を害されれば、帝國を敵として、最後まで戦うでしょう」 「それ自体を滅ぼしても構わぬとも言える」 サウル・カダフ将軍は言う。 「だが、わたしに必要なのは、東方の早期安定だ。できれば、われら自身の力を割くことなく、だ。賢いが、ぎりぎりまで物事を決めかねる男は、そのままにしておいたほうがいい」 シルディール連隊長は応えた。 「つまり、ヨウルスを害することなく、カイジ庄の前哨砦を滅ぼせ、と」 「帝國への抵抗を選ばせず、われらの連絡線に干渉する能力を奪え、ということだ。前哨砦機能を滅ぼすかどうかは、連隊長の判断に任せる」 シルディール連隊長はうなずき、サウル・カダフ将軍へと向き直った。 「わかりました閣下。お任せください」 「微妙にして困難な任だが、十三連隊には可能と考えている」 「十三連隊長は良い部下に恵まれておいでだ」 仮面の情報参謀は言う。 「必ずや、良い結果をお見せになるでしょう」 そして仮面の参謀は、うかがえる唯一のところと言っていい口元に笑みを浮かべる。硝子の嵌め込まれた仮面の目元からでは、彼がどのような顔をしているのか、本当のところはわからない。そしてその硝子の瞳を見返す、シルディール連隊長も、いつもの笑みで応えた。 「そうできることを願っております、ルスス参謀」 遠眼鏡を再び目に当てていた、サウル・カダフ旅団長は、とんとん、と己の肩を叩きながら、シルディール連隊長へと振り向く。 「とはいえ、十三連隊長、時の残りはあまりない。第七連隊も予定通りに進んでいる。今後のための行動であることを忘れるな」 「はい。旅団長」 「情報参謀、他の伝達事項があるなら、連隊情報参謀にも送ってやっておいてくれ。わしは帰る」 サウル・カダフ旅団長は、やってきたときと同じ、軽薄なくらいの足取りで道を取って返すのだ。やがて、仮面のルルス参謀も、シルディール連隊長へ一礼をすると、踵を返す。 シルディール連隊長は、何事もなかったかのように、森の切れ目の向こうの敵方へと目を向ける。
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内務操典(Устав внутренней службы) 第1部 軍軍人とその相互関係 第1章 軍人の権利、義務及び責任 総則 軍人の権利 軍人の一般義務 軍人の職務及び特殊義務 軍人の責任 第2章 軍人間の相互関係 総合指導。指揮官(長)と部下。上級者と下級者 命令(指示)、その下達及び遂行秩序。軍人の意見具申 部隊儀礼 指揮官(長)及び監察官(検閲官)への紹介秩序 軍人の部隊儀礼と素行に関して 第3章 指揮官(長)及び連隊(艦艇)の主要責任者の義務 指揮官(長)の一般義務 責任者、兵士及び水兵の義務 連隊長(一等艦艇艦長) 副連隊長 連隊参謀長 教育業務担当副連隊長(一等艦艇副艦長) 兵器(航空技術)担当副連隊長/技術科長 後方担当副連隊長 連隊砲兵科長 連隊防空科長/大隊長 連隊勤務科長 連隊工兵科長 連隊放射線・化学・生物学防護科長 連隊医務科長 連隊会計科長 連隊体育・スポーツ科長 連隊情報科長 連隊通信科長 連隊気象科長 連隊ロケット・砲兵兵器科長 連隊装甲戦車兵科長 連隊自動車兵科長 連隊燃料・潤滑油科長 連隊糧食科長 連隊被服科長 独立大隊長(二等艦艇艦長)、副大隊長及び科長 大隊長(三等艦艇艦長) 副大隊長 大隊参謀長 教育業務担当副大隊長(三等艦艇副艦長) 兵器担当副大隊長(技術科長、大隊自動車兵科長、大隊技師) 後方(補給)担当副大隊長 中隊長(四等艦艇艦長) 副中隊長 教育業務担当副中隊長 兵器担当副中隊長(技術科長、先任技師、中隊技師) 小隊長(グループ長、砲塔長) 中隊先任 副小隊長 分隊長 兵士(水兵)の義務