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この世界は、白と黒とで創られている。 生まれながらにして、白と黒とに分かれていて どちらに生まれるかによって、 どう生きていくか、決められる。 とまでは、言いすぎか。 うん、でも そういうことだ。 共存はしているけれど 暗黙の了解ってのが、あちこちに散らばっていて。 うん、でも どうでもいいや。 そう思っていたよ。 白いキミに出逢うまでは。 いや、違う、、か。 あの日、まで、だ。 最初から知っていたら、何か違ったかな? もしかすると、違った“結末”だったかもしれない。 『けど、幸せになれなかったよ?』 うん、、、そうだね。 そうなんだけど、さ それでもやっぱ のっちは、悔しいよ。 どうにかしたかったよ。。。 今さら、だけど。
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作品名「白と黒」に関するページです。 公演記録 劇団第五舞台 第18回公演 1999年8月8日 関東信越地区文化発表会にて公演。 会場は長岡高専。 注)文化発表会自体は8月6日から8日
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66巻 > 第258話 第258話 「白と黒のデルモンテ会談!!」 掲載期間:2018年9月3日~2018年9月16日 AAを貼る場合上段のメニュー→「編集」→「このページを編集」。 AAの前に #aa{{ を、AAの後ろに }} をつけてください。 コラを載せる場合上段のメニュー→「編集」→「このページにファイルをアップロード」。 アップロード後に「編集」→「このページを編集」し、 #ref(添付ファイル名) または #ref(ファイルのURL) を記入してください。 エローイ こいつ白いの外面だけだ キッド・・・と何でいるんだロビン 最悪の事実 グレたノック IDを晒すのはもう少し様子を見てからだ 係員ゼブラ なぜバレた 真の黒歴史 delを押さねば チ○ポなんかに負けたりしない! 止まるんじゃねえぞ・・・! クリムゾン・ゼブラ おせーよ! おっぱいモミモミ
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カード一覧 アリス (3.0) 使い魔名 使い魔名 参考 フレーバーテキスト アリス (3.0) 「〈赤の女王〉からあなたを助け出した時 “あの子の夢”はバラバラになってしまったわ。だから私は あの夢をもう一度繋ぎ直さなきゃいけないの。それが〈夢の管理人〉である私の仕事なんだもの」そしてアリスは手を差し出してこう言いました。「その為に、まずは散らばってしまった“皆”を探さなきゃいけないわ。それを あなたにも一緒に手伝ってほしいの。」“もう一人のアリス”は 頬を染めてプイと顔を背けました。 ───『スカーレットテイル』その1 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆ 使い魔 ●●●● ●●●● ●●●● ◆◆◆◆
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【検索用 あかとくろのさいしゅうはくへき 登録タグ NexTone管理曲 VOCALOID あ うと ねじ式 初音ミク 曲 曲あ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:ねじ式 作曲:ねじ式 編曲:ねじ式 イラスト:うと 唄:初音ミク 曲紹介 曲名:『赤と黒の最終爆撃』(あかとくろのさいしゅうばくげき) ねじ式氏の6作目。 歌詞 闇夜を旅立った鳥 行き先も解らぬまま この両翼に抱いた火薬は 帰り道なんて知らないさ あの夜に戻れるのならば 君のぬくもり抱きしめたい 二人歩いた海を越えたら 螺旋のような悪夢へと飛び込め 赤い薔薇の咲く世界泳げ 喰いちぎられる前に 踊れ 黒い魔物が巣食う未来 こじあけたいのさほら 君と見てた未来信じて 終末さえ見えない 血で血を洗うくろがね 君がいるなら生きてみせると 写真の君に誓うんだ あの夜に君がくれたのは 世界を映す首飾り 二人も一度会えたのならば 螺旋のような永遠に飛び込もう 赤い薔薇の咲く世界越えて 君と穏やかに眠る日々 心からいつも願ってるんだよ 叶えたいのはいつも 君と見てた未来それだけ 撃たれた翼 燃え尽きて 海の藻屑と消えるなら 君が住む世界変える そのためだけ悪夢へと飛び込め 赤い薔薇の咲く世界泳げ 喰いちぎられる前に 踊れ 黒い魔物が巣食う未来 こじあけたいのさほら 君と見てた未来信じて コメント 追加おつ! -- 名無しさん (2013-09-20 06 59 20) 題材?テーマ?を察して更に好きになった。イントロからもう好き。 -- 馬刺し (2019-03-17 02 30 17) 名前 コメント
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『白と黒の境界線◆8.XNaVOVVc』 見た目DQN。中身は常識のあるDQN。どちらにしてもDQNなことには変わりはない。 境界線とは法的な意味での境界線らしい。 別名、法律スレスレさん。「スレスレさん」と呼ぼう。 スレスレさん曰く「今話題の脱法ハーブはアウト。」 松本山雅FCのサポ。 決めポーズは「チャリで来た」リクエストするとやってくれるほどサービス精神が豊富で凄い良い人。
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SHIFTING WORLD 白と黒の迷宮 【しふてぃんぐわーるど しろとくろのめいきゅう】 ジャンル 新感覚パズルアクション 対応機種 ニンテンドー3DS メディア 3DSカード 発売元 アークシステムワークス 開発元 Fishing Cactus 発売日 2012年4月26日 定価 3,990円(税5%込) プレイ人数 1人 セーブデータ 3個 レーティング CERO A(全年齢対象) 判定 スルメゲー ポイント 「新感覚」のフレーズは伊達じゃない挫折しかねない複雑さ 概要 ルール ゲーム構造 モード その他 評価点 問題点 賛否両論点 総評 概要 Antony Lavelles作のFlashゲーム「SHIFT」を原作とするアクションパズルゲーム。 白と黒の2色で構成された迷路状のマップを、次元の切り替えなどを駆使して脱出するのが目的となる。 ルール 原作から引き継がれている要素と、本作独自の要素(★マーク付き)が存在する。 本作において名称がついているものについてはその名称も併記。 マップは白と黒の2色。ただし、一部どちら側からでも壁や床となり次元の切り替えもできない縞模様や格子状のブロックも存在する。 同じ色の空間はつながっており、色の異なるところが壁や床となる。 (★)不思議なかがみ - ブロックの床や壁面に穴が開いている場合、そこを通過することでマップの向きはそのままで異なる色の次元に移動する。 ジャンプは幅3ブロック分、高さ1.5ブロック分。1段の段差ならそのまま上れるが、2段以上の段差はそのままでは上れないため、次元のゆかを利用した先で飛び降りて再度反転させるなどの別の方法が必要になる。 次元のゆか - 自分の真下が単色かつ異なる色の場合、R/Lボタンを押すことでそこから次元の切り替えでもう一方の色の側に移動できる。その際は足元に潜り込む形となり、マップが180度回転する。 (★)魔法のゆか - 反転を行った場所の足元に数字が書かれている場合、対応した数字のブロックに関する変化が起こる。その場所で反転を行うたびにON/OFFが変化する。 マップ上には様々なオブジェクトやアイテムが配置されており、それらに触れることでマップの変化などが発生する。 いざないの印 - マップ上に存在する矢印に触れると、その矢印が下向きになるように重力が変化する。マップも触れた矢印が下向きになるように回転する。次元自体は変化しない。 次元のかぎ - マップに落ちている鍵型のアイテムを取るとマップに変化が発生する(鍵マークの壁が消えたり、鍵マークのついたブロックが回転したりして先への道が出現する)。 (★)勇者のかばん - 後半のステージでは背景の2D/3Dを変化させるギミックが登場するが、このギミックが登場して間もない段階のステージではこのアイテムをとることで変化が発生する。 (★)平面化/立体化 - 終盤のマップは、Yボタンを押すとマップを2D化させることができる。 背景で浮遊しているブロックがマップにはめこまれて新たな道ができる、などの変化も。 平面化しているときは魔法のゆかや不思議なかがみは無効化されるため、これらを反応させずに通過するテクニックとしても使われる。 ドアにたどり着けばステージクリア、トゲに触れたらミスとなり最初からやり直し。 体力や残機の概念は存在せず、マップに仕掛けられているトゲに接触したら失敗になり、スタート地点から即リトライとなる。 なお、操作しているキャラがどんな高いところから落下しても失敗ではなく、奈落の底のようなトラップもない。 ゲーム構造 モード アドベンチャーモード メインストーリーも兼ねている。全部50ほどの面からなるパズルからなり、ひとつの面をクリアしていくと、次の面が解放されていく。 ストーリーモードは7つのWorldに分割されており、1つ1つのWorldは8つ程度の面から構成される。 制限時間はなくじっくりと考えながらゴールを探すことができる。 主人公が「デューク」を名乗る人物からの案内状を受け取り、白と黒の異次元世界に招かれるところから物語が始まる。元の世界に戻るためにプレイヤーは奮闘することになる。 タイムアタックモード こちらは記録のタイムが制限時間となり、その時間内に扉にたどり着けなければ問答無用でミスとなる。 アドベンチャーモードをクリアすることで適宜挑戦可能なマップが増えていく。こちらも50ほどのマップが用意されている。 その他 達成率 ストーリーモード、およびタイムアタックの両方のクリア可否が関係。 評価点 シンプルだが奥が深いルール 主人公の能力数値管理やアイテムといった要素はなく、必要な操作もジャンプと反転、そして2次元化くらい。 それでいて、この2,3の一見な簡単なアクションをいつ、どこで、どのように使うかが本作の肝になる。 緻密に作られた地形 特定の区域から出られずに詰むといった事態が全くと言っていいほど発生しない。 特定のギミックばかりをつかう攻略ではクリアできず、いろいろな思考を試みてはじめてクリアできることも多く、実際に先に進めた感動は大きい。 面のグラフィックは3DS対応になっており、主人公の位置によって、ブロックの見える位置や角度も変化していく。 問題点 3DS下画面が殆ど機能していない 3DSの下画面は攻略中のマップの全体像を2Dドット絵形式で映している。しかし特に3DSLLでもない限り、全体像を画面内に収めた図は非常に見づらい。まるでQRコードを見ているかのよう。 マップの一部を拡大したり、スクロールする機能がない。そのため制限時間のないアドベンチャーモードですら、じっくり先の地形をみてどう進むかという計算を立てることができない。 緻密な操作を要求する場面も多いわりに、リスタート地点がない トゲに落下してミスになると、マップの出発地点から問答無用でやり直し。 World7以降は、落下が必要とされる一方でトゲがそこかしこに配置されるといった悪意満載なマップ設計が目立つ。 本作は高いところから落ちる場面が多々ある。さらにその落ちた先に即死トラップのトゲが生えていることもよくある。問題点で挙げたとおり、下画面で先の道を予習するようなプレイはとりにくい。 賛否両論点 複雑に入り組んだマップ 一見小さめのマップではあるのだが、向き、足場と空間を入れ替えてすりぬけたり、時には重力の方向も変えることになるので、実際のボリュームは外見の2倍以上ある。 初心者の鍛錬用と呼べるのは、せいぜいアドベンチャーモードのWorld2まで。それ以降は頭をひねらないと突破口が作れないこともしばしば。 図形に関する数学的センスが問われる 下画面マップではどうしても表記できないような情報も多く、どこに行けばどんなギミックがあったかについて、しっかり頭の中で処理できないと厳しいところがある。 アクションの腕も要求される ギリギリの距離をジャンプで飛び越えさせるケースも日常茶飯事。トゲに落ちないように2D化と3D化を空中で切り替えながら、足場を出し入れするといったなかなか精密な操作を要求してくる場面もある。 ジャンル名にも「アクション」が含まれているため、純粋にパズルでないことはその通りである。 ジャンプは大した距離を移動できない。また空中で出せるわけでもないので、崖でジャンプするタイミングをガバってトゲに落下という事態もありうる。頭を使う場面も多く疲弊している時こそ、こう言ったミスが起こりやすい。 異次元世界に慣れるまでが長い 見た目以上のボリュームを誇るマップ、反転と2D化をまんべんなく有効活用した従来のパズルでもなかなか珍しいシステムなど、本作が本質的に持つオリジナリティやパズルとしてのやりごたえは非常に高い。 しかし、この真価に気付くにはこの独特なシステムを深く理解することが必要不可欠。それまでは頭をひねってよくわからないままクリアしたり、トゲにさいなまれるような難しいゲームに映りがちである。 特に迷うと実質クリアが困難になるタイムアタックでは、見た目以上のボリュームを誇るマップと複数の仕掛けを縦横無尽に駆け抜ける必要があり、それが実際できれば爽快である。 総評 マップの向きの変換・物体のすり抜けといったパズルアクション自体は冒頭に挙げたFlashなどの物を踏襲しており、そこに立体化・平面化といった3DSならではの機能を取り込んで、さらにはこれらを満遍なく融合させることで完成度の高いパズルアクションを作り出すことに成功している。 ただし、下画面のマップといったパズル初心者に対しては、どこかかゆいところに手が届かない印象はある。本作でみせる独特な異次元世界を縦横無尽に動き回るには、本作の特有の異次元世界に慣れることが不可欠。
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540 名前:赤と緑と黒の話 第四話[sage] 投稿日:2010/08/19(木) 21 52 16 ID e+1QZpgx [2/8] 再会は、唐突に訪れる。 今年の12月は雨天が続く。ここ二週間で太陽を拝めた日数は、5本の指で数えられるくらいだ。 こうも雨天が続くと、嫌でも陰欝な気分になりがちだ。それは生徒たちにとっても例外ではないらしく、クラス内は授業中はおろか、休み時間でさえも覇気がない。 俺にとっても、雨は歓迎したくないものだった。何故なら、雨が降るときは大抵何かしらの一悶着があるからだ。 と言っても、29年間で雨が降った全ての日に何かがあった訳ではない。ただ、俺にとって忘れられないであろう出来事があった日は皆、決まって雨が降っていた。 故に、雨が降ると気が抜けない。いつの間にか、そんな精神構造が形成されていたのだろう。 夕方、これから開始される職員会議の内容は毎度同じく、冬季休業の前後の行事予定について。 三期制から二期制に変わり、冬休み前に成績を算出する必要はなくなったものの、各種式典、行事など、まったく忙しくない、というわけでもないのだ。 「えー、それでは」副校長はややもったいぶった口ぶりをした。 「会議を始める前に…先日転勤された持田教員の代わりに、といっては何ですが、本日から我が校へ新たに赴任される方を紹介します。…どうぞ」 副校長の合図と共に、誰か-新しい教員だろうか-が、職員室の裏にある事務室から現れた。全員の注目が、その教員へと集まる。当然俺も、同じ方角へ視線を向けた。 「えー…彼女は樋口 麻梨亜さん。担当教科は数学。担任を受け持つクラスは…」 ---馬鹿な。 樋口麻梨亜。副教頭は確かにそう呼んだ。だがあの栗色の髪をした女性は… 「樋口麻梨亜です。みなさん今日からよろしくお願いします」 耳触りの良い澄んだ声。花のように可憐な笑顔をしたその人は、間違いなく俺の姉さんだった。 何故。もう14年近く消息がわからなかった。両親には「最初からいなかった」と言い聞かされ、それでも決して、俺の記憶の中から消えることはなかった。 湊と出逢い、ようやく記憶の中の束縛から解放されると思ったのに。何故、今になって俺の前に現れる? 541 名前:赤と緑と黒の話 第四話 ◆BaopYMYofQ [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 21 53 52 ID e+1QZpgx [3/8] ****** 「何のためだ、なんて随分なご挨拶ね? 刹那?」 職員会議も終わり、生徒も全員下校した、宵闇の中の校舎に、俺と姉さんはいた。 特に当てはない。月が昇る頃には雨も上がったが、屋上に並んで座って空を見上げても、雲に隠されてさすがに星は見えない。 「14年ぶりに再会したんだからさ、もっと楽しいお話しようよ?」 「そういう姉さんは、14年経っても全然変わらないな」 平静を装う。ただそれだけの事が、今の俺には非常に困難なことだ。 心臓は早鐘を打つかの如く鼓動を刻み、胸の奥が締め付けられるかのような錯覚を覚える。 「でも敢えて言うなら、そうね。風の噂で刹那が教師になったと聞いて、私も教師になった。ただそれだけよ」 随分と簡単に言ってくれる。まるで自分には不可能などないのだと、言っているのか。 だが確かに姉さんは優秀だった。実際、頭脳勝負なら姉さんの右に出る者はそうはいないだろう。 勉強さえ出来ていれば、教師になる事自体はそう難しくはない。だから、姉さんには俺の後を追う事は簡単だったのだろうか。 「こうして二人きりでいると、昔を思い出すわね。水車小屋で過ごした短い日々、とか。 ねえ刹那、貴方はどうなの? 昔と変わっちゃったのかな?」 姉さんの手が、俺の頬に触れる。 「…俺はもう、昔とは違うよ。姉さんがいなくなって、確かに辛かった。でももう、違うんだ。 今の俺には大切なやつがいる。そいつのおかげで、俺は変われたんだ」 俺はそっと姉さんの手をとり、頬から離した。 「………ふぅん。刹那、私が昔貴方に言った言葉、覚えてる?」 声のトーンが少しだけ、下がったように感じた。 「何の話だ」 「---忘れたの? まあ仕方ない、か。何でもないわ」 姉さんはすっ、と立ち上がり、校舎へ戻ろうと振り返る。俺は座ったまま、頭だけ振り向き、姉さんを見る。 「まあ、明日からは同じ職場仲間なんだし、よろしくね。それから、学校では"姉さん"じゃなくて、"樋口麻梨亜先生"、よ?」 おやすみ、と付け加えて姉さんはドアノブに手をかける。 キィ、と古ぼけた音を立てドアは開かれ、姉さんは屋上を後にした。 「………姉さん」 変わった、と思ったのに。姉さんを前にして胸の鼓動が鳴り止まない。未だに俺は、姉さんの掌の上にいるのだろうか? 「誰にも渡さない。刹那は私だけのものなんだから、ね」 542 名前:赤と緑と黒の話 第四話 ◆BaopYMYofQ [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 21 55 39 ID e+1QZpgx [4/8] ****** 部活がない日は退屈で仕方がない。独りで下校する時間も、家で朝を待つ間も。先生がいない時間全てが、空虚。 それでも私は、贅沢なんて言わない。深望みなんてしない。 元々私は誰かに愛されるほどの価値なんかない、汚れた女。 そんな私を愛してくれてるんだもの。これ以上欲張ったら、罰が当たっちゃうよ。 …でも、本当はわかってる。先生が、お姉さんをまだ忘れられてないことを。 先生が私の膝で眠る時、たまに呟く一言。"姉さん"と。 それを聞く度に胸が押し潰されそうになる。惨めで、憎くて、悔しくて。私はいつになったら、先生にとっての唯一になれるのかな? もっと可愛くなる努力をしなきゃ。料理だっていっぱい覚えて、結婚したら毎日作って、喜んでもらうんだ。 お姉さんの髪は栗色だと言った。でも私は黒髪。なら、栗色に染める必要があるかな。 そんな空想をしながら私は一人、夜の帳が落ちた街中を歩く。私は登下校にバスや電車を使わない。 毎日徒歩40分の距離を歩く。徒歩40分程度の距離なんて、大した事ないよ。先生の事を考えていれば、あっという間に過ぎる。 先生はきっと心配するだろうから、内緒にしてるけど。ごめんね、先生。 ふと目が止まったのは、毎日通り過ぎる公園。いや、果たして公園という呼び名は、遊具が一つも無い空間に相応しいのか。 兎に角、入口に"公園"と書かれているのだから公園という扱いなんだろう。 普段は誰もいないその"公園"に、珍しく人がいたから、何となく目が止まってしまった。だけど、暗くて顔がはっきり見えない。 私が視線を送っているのに向こうも気がついたのか、こちらに近づいてくる。 そうして顔がはっきり目視できる距離になって初めて、私は身体が底冷えするような感覚に襲われた。 「……朝霧?」と、男は私の名前を呼んだ。 蛇に睨まれたように。背筋に悪寒が走り、お腹の中がむかむかするよう。なのに足はぴくりとも動かない。 彼の名前は神谷 準。忘れるはずが無い。傷付いた私の心を、完膚なきまでに打ち砕いた人を。 「しかもその制服…あの高校のか? こんな所に越してたんだな」 彼が何故ここにいるのか。彼の住んでいた町は、ここから2、3駅は離れているはず。 「…俺も今度、こっちに越して来たんだ」 そして神谷君は何故。かつて「汚らわしい」と罵った女に対して、こうも平然と話し掛けられるの? 「なあ朝霧、俺-----」 もう堪えられなかった。私は足に目一杯力を込め、脱兎のごとくその場から逃げた。 後ろから何か、声が聞こえる。けど、それを聞き取る余裕なんかなかった。 走る。足ががくがくして、何処をどう来たのかもわからないくらいに。 そうして後から込み上げてきた吐き気にようやく私は足を止めた。 「ごほっ………ぐ、ゔぅっ…はぁ…はぁ…」 震えが、寒気が治まらない。身体中を掻きむしりたい衝動に襲われる。…あの時と同じだ。 『騙しやがって、嘘つき』『俺を騙して遊んでたんだろ、ビッチ』 『信じられるかよ、消えろ』『汚い手で触るな』 彼に吐き捨てられた呪詛が脳裏をよぎり、汚れた身体への激しい嫌悪感が襲う。 「嫌ぁ----------!!」 そこで私の意識は(少なくとも正気は)、途切れた。 543 名前:赤と緑と黒の話 第四話 ◆BaopYMYofQ [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 21 59 21 ID e+1QZpgx [5/8] ****** 「………なんですって、みn…朝霧が?」 俺がその連絡を受けたのは直後、帰宅の準備をしに職員室に戻ってきたときだった。 姉さんの姿はもう無く、一足先に帰ったようで、職員室内には俺を含め三人の教員しかいない。 そんな中にかかってきた電話の内容は、我が校の生徒と思しき女子が、道路に倒れていたというもの。 連絡は、その近隣にある交番からで、現在は仮眠室で落ち着いて眠っているとの事だが… 発見当初はまるで気が触れたかのような有様だったという。 「…ええ、わかりました。ひとまず私が迎えに行きます。…ありがとうございます」 受話器を置き、すぐに俺は車のキーを掴み、駐車場へと走った。 おおよその場所は番地からわかる。あとは足で探せばいい。 エンジンをふかし、アクセルを踏み込む。迅速に、かつ安全に。 大通りから住宅地へと進入し、電柱に記された番地から位置を推測していった。 「…ここか」 交番は、住宅街の端の方にぽつりと建っていた。車を交番の横に停め、車を降りるとると若い駐在員と目が合った。 「お電話いただいた十六夜 刹那です」 「…変わった名前ですね」 「よく言われます。…それで、朝霧は?」 そう言うと駐在は奥の仮眠室へと俺を案内した。 駐在員の話によると、仮眠室というのは俗称で、以前までいた怠惰な警官が勝手にベッドを備え付け、仮眠室としたらしい。 ちなみにその警官は、不祥事を起こしてここを離れたらしいが、ベッドだけは有効利用しているようだ。 「教員の方がいらっしゃいましたよ、先生」 "先生"という呼び名は、俺を指したものではなかった。 仮眠室にはベッドで眠っている湊ともう一人、白衣を着た釣り目の若い女性がいた。 「貴方がこの娘の担任?」 女性は俺を見ると椅子から立ち上がり、簡単に自己紹介を始めた。 「私は大庭 雪子。…この近くの診療所のものだ」 黒と白のコントラスト。湊よりもずっと、いや不自然に長い、膝元まで伸びた黒髪。 しかし大庭先生はその髪がつい今まで床に垂れていたというのに気にする素振りなど微塵も見せず、埃を払おうともしなかった。 「すまないが田辺さん、二人で詳しい事情を話したい。少し外していただけるか?」 「は、はあ」 田辺、と呼ばれた警官は言われるまま、そそくさと席を外した。 「…さて、まずはこの娘の状態を説明しようか」 大庭さんは湊の眠っているベッドに腰掛け、手の所作で俺に、今まで座っていた椅子に座るように促してきた。 俺はそれに倣い、椅子につく。 「…一言で言い表すならば、この娘は"異常"だ。身体中を掻きむしってたんだ。…笑いながらね。 能無し田辺が、私の診療所ではなくこんな煙草臭い場所へ運んできたから、簡単な処置しかできなかった。 それともう一つ…この娘はうわ言で、貴方のことを呼んでいたよ」 「俺の…ことを…?」 「くくく…随分と愛されてるんだな、"センセイ"?」 544 名前:赤と緑と黒の話 第四話 ◆BaopYMYofQ [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 22 00 56 ID e+1QZpgx [6/8] 見抜かれているのか、俺と湊の関係を。大庭さんは不敵な視線を送りながら、にやりと笑った。 「私にはわかるんだよ、センセイ。…この娘、憎たらしいくらいに昔の私に似ているからねぇ」 「………」 「くくく…せいぜい大事にしてやることだね。でないと貴方、殺されるよ? さて、そろそろ移動しようか。 私の診療所へ行こう。私は煙草の匂いが大嫌いなんでね。センセイは車で来たんだろう? 運ぶの、手伝ってもらうぞ?」 大庭さんはそう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。俺に湊を運べ、という意味なのだろう。 俺は今もベッドで眠っている湊を、努めて優しく両腕で抱えた。 「………こんなに包帯が」 包帯は首元から手首まで、ブラウス越しに身体にも巻かれているのがわかる。 「…俺が、守ってやるからな」 ---今度こそ。湊に、あるいは自分に言い聞かせるように、俺は呟いた。 ****** 大庭診療所・待合室。湊の診察は30分以上にわたり行われていた。 …身体に包帯を巻いただけでは済まなかったというのか? と俺は若干の不安を感じながら診察が終わるのを待っていた。 「待たせたね、センセイ。…ほら」 診察室の扉が不意に開かれる。大庭さんは、目を醒ましたらしい湊の手を引きながら現れた。 「………せつn、先生…?」 しかし湊は、動かない。…手と、足が微かに震えている。なんとなくだが、俺は感じた。湊は恐れている。例えば…俺に嫌われる、とか。 そう思った理由は、以前も同じ表情を見たことがあるからだ。…あの茶道部室で。ならば俺は。 湊の不安を消し去るように、優しい表情で努めて両手を差し延べた。 「…おいで、湊」 「………うん……ぐすっ」 ちらちらと見える包帯が痛々しい。けれどそれ以上に、湊の温もりを、呼吸を直に感じられたことで俺は安堵していた。 「…そこで愛し合うのは勝手だがね、うちのベッドは貸さないよ?」 大庭さんの皮肉に、俺ははっ、と視線を戻す。 「診察結果だが…まあ異常なし、だ。安心したまえ。それと一応、塗り薬と湿布、包帯だけ処方しておく。 …次馬鹿な真似をすれば、塩を擦り込んでやるからね?」 大庭さんはぽい、と薬やら何やらが入った紙袋を俺達に向けて放った。 「私はこれでも朝早い仕事なんでね、そろそろ寝させてもらうよ。 鍵は開けっ放しで構わない。うちにはまともに盗めるものなんてないからね」 黒髪を引きずりながら、大庭さんは診療所の奥へ消えていった。 …俺達も帰るとするか。湊の手を優しくリードし、俺達は診療所を出た。 545 名前:赤と緑と黒の話 第四話 ◆BaopYMYofQ [sage] 投稿日:2010/08/19(木) 22 04 14 ID e+1QZpgx [7/8] 外は院内に比べて段違いに寒くなっていた。12月は夜ともなれば、厳しい寒さが待っているものだ。 車に素早く乗り込み、暖房をかける。俺が湊の自宅を割り出そうとカーナビを操作していると、湊はか細い声で呟いた。 「………今日は、先生の傍にいたい」 「…湊? 親御さんが………あ」 言いかけて、思い出す。湊は母親からすらも、言葉を以って傷付けられていた事を。 湊にとっては親すらも、信頼に値しないという事を。 「わかった。今日は俺の家に来い」 「…!」 「その前に…何か食ってから帰ろう。今日は、ゆっくり休んでいいからな?」 「あ、ありがと…刹那!」 笑顔が眩しい。可愛らしくて、純心無垢な笑顔を見て俺は、心が躍るような錯覚を覚える。 …この笑顔の為なら、俺は尽くそう。姉さんにすら抱かなかった新たな感情を胸に、俺は車のアクセルを踏み出した。 ****** 同刻、職員室内。 職員室内にはただ一人、樋口麻梨亜が資料を読みあさっている姿があった。 「…へぇ、朝霧 湊っていうんだ、あの娘」 麻梨亜は資料を読むと同時に、片手でパソコンのキーを叩く。 現在麻梨亜が試みているのは、個人情報の違法入手。言うなればハッキング。 元々優秀な麻梨亜にとってはハッキングなど、教師になるのと同等か、少し易しいくらいに容易なのだった。 「……ふーん、色々あったんだねぇ。可哀相に」 インターネットをさ迷い、ほんの数分で麻梨亜は湊の過去を調べた。 学校裏サイト、近隣病院への通院記録など、情報は、痕跡はいくらでもある。 「…さて、私の可愛い刹那をたぶらかした仔猫ちゃんには、どんな罰が相応しいかしら?」 優秀で美麗、非の打ちようがない麻梨亜がそこまでひとつの事に執心になる理由はただひとつ。 自分の所有物を取り返し、泥棒に罰を与える。ただそれだけだった。
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白と黒の黙示録(夜明けの鐘) ◆7pf62HiyTE 無名 Does not give his name. 森の中を2人の男が進む―― 片方は刀を、もう片方はパンティストッキング、通称パンストを持った―― 名簿上の名は、刀を持った方は志葉丈瑠、パンストを持った方はパンスト太郎―― だが彼等はその名を名乗るつもりは無い―― パンスト太郎にとってその名はあまりにも巫山戯たとしか言い様の無い名でしかないが掟故に変える事が叶わない―― それ故に、それを変える事こそが彼の行動指針となっている――(それならばパンストを持ち歩くなと言いたい方も多いだろうが、そこは敢えて触れないで欲しい) 読者諸兄にしてみれば他の人の行動指針と比べあまりにも巫山戯ている、馬鹿げている、下らない、冗談は所持しているパンストだけにしろ、真面目な行動方針を持った者に失礼とお思いの方も多いだろう。 だが、果たして本当にそうだろうか? もし、貴方が清く正しきうら若き女性だったとしよう。仮に貴方が危機に瀕した時、運良く通りかかった良い人に助けられたとしよう。だがその者の名前がパンスト太郎と名乗ったら―― あまりにも破廉恥きわまりない名前、それ故に幻滅する可能性が大いにあると言えよう。そんな事は無い? 果たして絶対にそれが言い切れるのであろうか? 余程の聖人でない限り、大なり小なり衝撃を受けると考えて良い。 同時に名乗る側としても、そういう名前を自分から口に出す事など容易ではない。 パンスト太郎はその経験を幾度となくしてきたのだ、周囲から見れば下らぬ理由かも知れない。だが彼にとっては死活問題なのだ。故に、名を変える事こそが彼にとっての最優先事項なのだ―― この殺し合いを制し、主催側の技術を使い唯一名前を変える事を許された奴、無差別格闘流創始者八宝斎に―― 「(――必ずじじぃに名前を変えさせてやる――今度こそかっこいい太郎にな――)」 念の為に言っておこう、本人にとってはそれが望みなのだ。その結果がどうなるかともかく、本人の望みである以上現状これ以上とやかく言う必要は無い。 一方の丈瑠――彼にとって志葉は自身の本当の名(この場では姓とでも言う方が正確だろうが)ではない。 丈瑠は志葉家の本当の殿あるいは姫が表舞台に現れるまでの影武者でしかなく、姫が現れた時点でその役目は終わり残ったのは只の抜け殻でしかない。 名簿上では『志葉』とはなっているが最早その名を名乗る事など本来であれば許されない事であろう。 丈瑠は幼少の頃より志葉家の殿の役割を演じ続けてきた、真実を知る僅かな者を除き誰にも――同じシンケンジャーの家臣達にもそれを悟られる事は無かった。 その時が来るまで丈瑠は紛う事無き『殿』以外の何者でもなかった――影であろうとも気付かれなければ本物と何も遜色の無い―― 故に――それが無くなるという事は全てを失うという事と同義なのだ。 丈瑠の中に唯一残っているのは影を演じる中で鍛え続けられた剣の腕だけ――それだけこそが丈瑠の存在意義なのだ。 それを証明すべく丈瑠は殺し合いに乗った。一人の剣士として戦い続ける、それすら失えば本当に何も無くなってしまうのだ―― 「(そう、俺にはもう剣しかない――)」 それが愚かしい選択なのは丈瑠自身が理解しており、決して平坦な道では無い。だが、このままそこにいるだけの抜け殻になるぐらいならば剣士として散りたいと思う――それが外道であってもだ。 奇しくも両名は手を組む事となり森を進んでいる。 だが明確な目的地があるわけではない、それ故にいつの間にか進行方向が変わっているかも知れないし、あるいは変わっていないかも知れないだろう。 その最中、同盟を結んでから殆ど会話の無かった両名だがついにパンスト太郎の方が口を開く。 「おい、侍野郎」 「……何だ?」 丈瑠自身、最早侍とすら言えないと思っている為そう呼ばれる事にすら抵抗はある。だが事情を知らない者に一々説明する気も無かった故特別言及する事は無い。 「確かオカマ野郎に会ったらしいな。俺の事について何か言っていなかったか?」 今更ながらにパンスト太郎は丈瑠が早乙女乱馬と遭遇した事を思い出し、あのオカマ野郎が自分の事――というより本名について話していたのでは無いかと考え問いかけたのだ。 もし奴が自身の本名を話していたら――最早同盟を続けるわけにはいかないだろう。だが、 「一方的に俺の方が頼み事をしただけで何も聞いていない……だが、オカマ野郎とはどういう事だ? そんな風には……」 パンスト太郎は何時もの調子で乱馬の事をオカマ野郎と呼んだが、その事を知らない丈瑠にとっては疑問符が浮かぶ事項だ。故に逆に問いかける事となったのだ。 そう返され内心でパンスト太郎は迂闊な事を言ったと一瞬考えた。それを説明するには自身や乱馬の特異体質を説明する必要が出てくるからだ。 とはいえ、それを話す事については別段困る事でも無く、手を組んでいる以上、最低限の説明はした方が良いだろうと思い直した。上手く名前の話題にさえ誘導しなければ何の問題も無い―― 「ふっ……」 おもむろにデイパックからポットを取り出しそこから一杯の水を―― 「なっ……これは……アヤカシ……」 変貌するパンスト太郎の姿を見て丈瑠は驚愕する。そのままパンスト太郎は上空へと舞い上がりしばし周囲を見回す。 「お前もはぐれ外道だとでもいうのか……?」 そう言う丈瑠を余所にパンスト太郎は地上に戻り別のポットから一杯のお湯を被り元の姿に戻る。 「そのアヤカシやはぐれ外道が何かは知らんがこういう身体なんでな」 そう言いながらも自分達が呪泉郷の水を浴びた事で水を被ればその呪泉郷に応じた動物に、お湯を被れば元の姿に戻る特異体質となった事を説明した。 「水を被る事でアヤカシにか……はぐれアヤカシ……いや、半妖とでも言うべきか……」 「半妖……ぐふっ……悪くはないな」 丈瑠は水を被った時だけアヤカシの姿になる事から半分アヤカシ、つまりは半妖と何気なく呼称したがパンスト太郎はどことなくそれを気に入っていた。 「どうせならかっこいいを付けて欲しかったが……(←小声で)」 「? 何か言ったか? だが……」 しかし丈瑠としては異形へと変貌してしまう体質を憐れに思っていた。もしかすると目の前の男が殺し合いに乗ったのはそれが目的なのではと――そんな心中を察したか、 「……誤解するなよ、オカマ野郎達はどうかは知らんが俺は変身後の強い体は気に入っているんだ」 パンスト太郎は丈瑠にそう応えた。 パンスト太郎が呪泉郷を浴びたのは生後間もなく、産湯という形である。つまり物心つく段階からその巫山戯た体質と付き合わされている事になる。 とはいえ、それ自体は全く気にしてはいない。彼自身が語る通り変身後の身体そのものは非常に強く気に入っているからだ。 むしろ重要なのはじじぃ――八宝斎が産湯を浴びせた事で生じた事が問題なのだ。とはいえ、それについてまで話すつもりはない。 「ならば俺がとやかく言うつもりはないが――」 殺し合いに乗っているのは全く別の理由なのか? 丈瑠は気にはなったものの―― 「いや、これ以上は聞くまい……お前にとっては何よりも大事な事なんだろう」 これ以上の追求は止めた。パンスト太郎にとって重要な事項なのは確かである事に違いは無いだろうし、現状は組んでいるものの何れは敵味方に分かれて死合う以上そこまで互いの事情に踏み入る必要は無い。 だが、一方的にパンスト太郎の事情だけを聞いた事について思う所はある。共闘している事を踏まえても最低限の説明はしておくべきだろう。 「礼というつもりはないが俺からも少し話しておく」 「何をだ?」 「優勝を目指しているんだろう。なら知っておいた方が良い……」 それは優勝するにしろ脱出するにしろ障害となるであろう強敵――丈瑠がシンケンジャーとして戦っていた連中である外道衆、血祭ドウコク、筋殻アクマロ、そして腑破十臓の存在についてだ。 「何故倒した筈のアクマロがいるのかが気になるがこの際どうでも良いだろう。だが奴等は強敵だ、特にドウコクは俺達が束になってかかっても勝てるかどうかわからない相手だ」 「ぐふっ……そいつは良い事を聞いた」 もっとも、丈瑠にとってはアクマロとドウコクの情報は単純に強敵だから気をつけろ以上の情報はない。むしろ重要なのは―― 「それから……十臓には手を出すな。奴とは俺が決着をつける……」 十臓との決着だけは自身の手で着けねばならない。例え他者と組んでこの戦いに望むとはいえどその一点だけは譲るつもりはない。 「そうか……なら、奴がテメェを倒してボロボロになった所に仕掛けるというのは?」 パンスト太郎としては自身が手を出す事無く強敵が倒されるならばそれでも構わない。もし丈瑠が倒されたとしても疲弊した所で仕掛ければ消耗は抑えられる。 「奴との決着が着いた後ならば構わん。奴も外道だからな、卑怯である事を責める事は無い……だが、それでもそう簡単に十臓は倒せるとは思うな……」 「ぐふっ」 そう呟きパンスト太郎は静かに頷いた。それを余所に丈瑠は 「(まだまだ甘いか……)」 丈瑠はかつての家臣である池波流之介、そして幼馴染みであった梅盛源太の事については一切話していなかった。 若干踏み込んだ事情ではあったがシンケンジャーの能力を含めた上で説明すれば有利に進められるのは理解している。 それを語らなかったのは―― 『もしかしてあんた、生身の人間に攻撃すんのに抵抗あるんじゃない?』 先の戦いで暁に指摘された通りの自身の甘さだろう。 頭では幾ら理解し割り切っていても心の何処かでは迷い割り切れていないのだろう。 今両名の事について話さなかったのもきっとそれが理由だろう。 こんな事ではこの殺し合いを戦い抜くことは無論の事、十臓からも死合う価値無しと断じられる可能性だってある。 「(わかっている……だからこそ俺は……その迷いを断ち切る為にも……)」 手元には裏正が握られている、その刃先がほんの一瞬煌めいた気がした。 惨劇が続くのを哀しむかの様に―― その最中、 「そういや、さっきあの姿になったついでに周囲の様子も見ておいた」 「誰かいたのか?」 「ああ、侍野郎……さっきお前が戦ったあの2人だ――」 理由 His reason and her wish. 川の音だけが止む事無く耳を突く――そのすぐ側に立つ木を背にし、暁美ほむらは腰を落としていた。 「はぁ……はぁ……」 身体が言うことを利かない――誰にも見られない様に自身の中枢とも言うべきソウルジェムを確認する。 「もうこんなに……」 本来ならば透明であるそれは最早そんな面影など全くないぐらい濁っていた。 ソウルジェム――魂の宝石とも呼べるそれはほむら達魔法少女にとって生命線そのものであり本体でもある。 魔法少女となった時点で本体はソウルジェムとなり、その特性故に肉体が潰されても決して死ぬ事は無いが、逆を言えばソウルジェムを潰されれば終わりという事になる。 同時にソウルジェムは魔法少女にとって力の源、その力を使い切って限界を超えても同じ事である。ソウルジェムの濁り――あるいは穢れはそれを示すバロメーターと言えよう。 それを解消するには魔女を倒す事で確保できるグリーフシードに穢れを移す事、つまりグリーフシードを確保しなければどうにもならないという事だ。 ほむらの身体は度重なる激闘――森で遭遇したン・ダグバ・ゼバに一瞬で身体の表面を焼かれ、応戦する際に燃え盛る森の炎に炙られ、しまいにはダグバの一撃で全身の筋肉と骨はズタズタに砕かれている。 痛覚そのものをカットしている故に激痛で動けないという事は無い。だが傷を負った状態には違いなくその状態で無理矢理身体を動かせばそれだけで傷が広がるのは当然の帰結だ。 無論、魔法少女の力で傷の回復自体は可能だがダグバへの逃走やその直後に交戦した丈瑠への対処に負われ殆ど回復できていない状態である。 それに加え自身の能力とも言うべき時間停止を連続して使用した事もあり加速度的にソウルジェムの穢れは進行していた。 なんとか丈瑠から逃げる事は出来たとはいえ、最早ほむらの身体はまともに動く事が出来ないぐらい消耗しきっていた。 ソウルジェムを限界まで使ってもギリギリ届くかどうか、仮に届いたとしてもその後は殆ど何も出来ないといっても良い。 つまり、一言で言うなれば追い詰められていたという事だ。大至急グリーフシードを確保しなければ本当にどうにもできなくなると言って良いだろう。 「ほむら、本当に大丈夫か? 病院行った方がいいんじゃないか?」 と、涼村暁が何時もの様に軽い調子で話しかける。 「大丈夫よ……少し休めば動ける様になるわ……」 嘘だ――もう少し休めば済むというレベルでは無い。それでも必要以上に暁をアテにするつもりは無かった故にほむらはそう応えた。 「あのな、最初会った時から思ってたけど、どっか無理しすぎなんだよ。もっと気楽ふんわかいこうぜ、ふんわかとさ、ね♪」 「ふんわかと……ってそんな余裕なんてどこにも無いわ」 そんな真意などお構いなしに暁は軽口を叩く。 「そういえば……貴方の力……アレは一体なんなの?」 今更ながらにシャンゼリオンの力が気に掛かり問いかけた。自分達の様にキュウべぇつまりはインキュベーターと契約して力を得たのだろうか? だが、先の戦いの時、 『俺だって別に好きでやってんじゃないの!』 その言葉から察するにその力は暁自身にとって望まぬ力ではなかったのだろうか? ちなみに言えば本来ならば暁の事情に踏み込むつもりなど全く無かったが、黙っているだけで辛い状態で今後に不安を感じてしまうのだ。それ故に気を多少でも紛らわせる為に敢えてほむら側から話題を振ったのだ。 「あーシャンゼリオンね。いや、俺もあんまり詳しくは知らないんだけどね」 「知っている所だけで良いわ、キュウべぇかその類と無理矢理契約させられたというわけじゃないの?」 そう問いかけるほむらに対し暁は自分達の世界に存在するダークザイドと呼ばれる人類の天敵の怪物について説明し、 それに対抗する為にS.A.I.D.O.Cが開発した新種のエネルギー、クリスタルパワーを偶然浴びた事でシャンゼリオンに変身する力を得てしまった事を説明した。 「そういえばさっき私の事をダークザイドかどうか聞いていたけどそういう事……魔女みたいなものね……で、そのダークザイドと戦ってと言われたわけね」 「運命に選ばれたとか、地球を救う為とか言われてね」 「何処も似た様なものね……」 「ま、俺はそんなことどうだって良いんだけどね。そういうの勝手にやってちょうだいって、俺としてはさ人生を楽しみたいんだよね。速水の奴には俺の身体は俺のものだけじゃないんだぞって熱い事言われたんだけどね」 「一方的に人の人生を奪っておいて随分と勝手な話ね」 暁の人格については今更語るまでも無いぐらいイライラを感じているが境遇そのものについては同情の余地が多少はあると感じている。 自ら望んで契約したわけでもないのに、一方的に戦えと強要するのはある意味インキュベーター並に質が悪い。その一点だけでいうならば暁と同意である。 「まー本当だったらアイツがシャンゼリオンになるはずだったらしいけどね」 「つまり本当ならその速水がシャンゼリオンとなる契約をする筈だったと?」 「平和を守る戦士になる為に血の滲む様な訓練がどうとか言ってその気持ち継いでくれって頼まれたけど、そういう暑苦しいの嫌いなんだよね」 「まったくもってその通りね……」 その速水という奴がどんな奴かなんて別に興味は無い。だが暁の話を聞く限り美樹さやかと似た様なタイプの人物だと感じた。 何も知らずに生半可な覚悟で契約して力を得て、そして救いが無いという真実を知り勝手に絶望し朽ち果てる――そういうのが透けて見えた気がした。 恐らく、速水がシャンゼリオンになっても何も救われる事はないだろう。もしかしたら暁がシャンゼリオンになった方がマシといえるぐらいに―― 「あ、ほむらもそう思う? 俺達ってどっか気が合うと思わない」 「それだけは絶対にないわ」 この男と気が合うなんて事は絶対に思わないし認めたくは無い。 こんな何も考え無しに自分の享楽と欲望のままに生きる奴と気が合うなんて身の毛がよだつ想いだ。 自分の為に――という意味では佐倉杏子を連想するが彼女だってそこまで酷くはない。 というより彼女にしても様々な経験があってそういう考えに至ったであろう(むしろ本心はそうではないだろう)、それ故彼女と一緒にするのは彼女に対する侮辱以外の何者でもない。 「待てよ……もしかしてほむらのその力ってそのキュウべぇって奴と契約したからなのか?」 「……!」 と、暁が話題を切り返しほむら自身について問い始める。 「全く何処にでも勝手な事言う奴はいるんだなー。でもその力があれば好き勝手出来るから超ラッキー♪ って思わない?」 「そんな事思った事なんて一度も無いわ……こんな呪われた魔法少女の力……」 魔法少女の力があるからこそ『彼女』が苦しむ事となり、それを救う為にずっと苦労してきたというのに――理解を求めるつもりはないが苛立ちは募る―― 「おいおい、ちょっと待てって。呪われた力って望んで契約したんじゃないのかよ?」 「騙されたのよ……人間の価値観が通用しないあの悪魔……キュウべぇ……インキュベーターに……」 「つまりこういう事か、そのキュウべぇだかインキュベーターだが知らないがほむら達を騙して一方的に魔法少女の力を与えて何かをやろうって事か」 「ええ、信じられないっていうならそれでも構わないわ」 「別に信じないってわけじゃないって。まぁ銀行から返せない程の金を借りたと思って踏み倒してしまえばいいじゃないの」 暁にしてみれば、返せない程の借金の契約をして苦しんでいる程度のレベルしか感じなかった。 だがそれがほむらの逆鱗に触れていた。 「そんなどうでも良い借金なんかと一緒にしないで! 何も知らないあの子が騙されて苦しんでいるのを救う為にどれだけ……それを踏み倒せば良い借金と一緒にしないで!!」 勿論、自身が馬鹿を見ただけならば暁の言い分もわからないわけではない。だが、ほむらがここまで戦ってきたのは自分の為では無く『彼女』の為なのだ。 何もしなければ『彼女』が苦しむ事となり、救おうとしても未だに救えずにいる。そして今もなお苦しんでいると言うのに―― 「貴方は人の痛みなんてわかりはしない……自分の事しか考えてない脳天気な馬鹿……」 「なっ……」 激昂したほむらのその言葉は―― 「貴方は誰も愛せないし誰からも愛されない……そういう愚かな半端者でしかないわ……そんな貴方が偉そうに私達の事に口を出さないでくれる……」 少し前に暁が速水克彦に言われた言葉に似ていた。それに多少なり思う所はあったのだろうか―― 「……ほむらが魔法少女になったのってその子の為なのか? もしかして捜しているのは……」 「……!」 「あのさ、あの時も言ったけど人捜しだったら俺が協力するって」 「必要ないわ……」 「さっきはともかくそんなまともに動けない状態で捜せるわけないだろ。遠慮しないでさ、ね」 無遠慮にほむらの心に踏み込もうとする暁に対しほむらにも限界が来た。 「それ以上口を開いたら撃つわ」 そう言ってディバイドランチャーを向ける。 「ちょ! 俺を今殺したらそれこそまずいだろ!」 「愚か者が相手なら私は手段を選ばない……警告はしたわ……静かにしてくれる……傷に響くわ……」 「わかったわかった……ていうか最初に話題ふったのほむらじゃないか……まったく……」 そう言いながら暁はほむらに視線を向けたまま距離を取る。 「ふぅ……」 暁に会ってからというもの完全にペースが乱されっぱなしだ。暁にはああ応えたがここで暁と事を構える事が愚行以外の何者でもない事はほむら自身が理解している。 それでもこれ以上、自分と『彼女』の事に首を突っ込んで欲しくは無かった――その最中、 『ほむらが魔法少女になったのってその子の為なのか?』 その暁の問いが強く心に響いた―― 「そんな遠い昔の事なんてもう――」 襲来 The metal raid returns. そんな時だった――あの時と同じ様に刀を持った丈瑠が現れたのは―― 「あんたは……なんだっけ?」 「し……丈瑠だ……」 丈瑠の様子を見てまた自分達を襲うのかと考えほむらはゆっくりと立ち上がり警戒を強める。 「涼村暁だったな……お前の言うとおりだ。俺は心の何処かで未だに迷っていた……だが……」 そう言いながらガイアメモリを作動させ、 ――Metal―― 「その迷いを断ち切る為にもお前達を……斬る!!」 放り投げたメモリは丈瑠の体内へと入りその身体を銀色の怪人メタル・ドーパントへと変貌させる。 「ドーパントメタル、参る!!」 時刻的に既に夜明けというタイミングに――戦いの鐘の音が鳴り響く。 「ちょ、ちょっと待てって……燦然!」 暁の方もその言葉と共にシャンバイザーを装着しシャンゼリオンへと燦然する。 「はぁっ!」 「ぐっ!」 裏正による一撃を腕で弾き間合いを取る。 「シャイニングクロー」 そう言いながら胸部の円盤へとその手をかざし右腕に爪を装着する。 「はぁっ!」 シャンゼリオンがその爪をメタル・ドーパントへと振り下ろす。 しかしメタル・ドーパントは左手に握られたかぎ爪でそれを難なく受け止める。 「なっ……刀以外にも武器があったの?」 そう言いながらシャンゼリオンが動揺する。 そう思うのも無理は無い。先の戦いの時、丈瑠はメタル・ドーパントの元々の武器であるかぎ爪を一切使っていなかった。 先の戦いで裏正だけを使っていたのは侍としての拘りがあったのだろう。 だが―― 「言った筈だ、迷いを断ち切ると――その為ならば――」 手段を選ぶつもりは無かった――それにこれにはもう1つ狙いがある。 「はぁっ!」 自由になっている右手だけで裏正を振るう、その方向にシャンゼリオンがいるというわけではない――が、 「な……」 ディバイドランチャーを向けたまま驚愕しているほむらの姿があった。 僅かに出来た隙を狙いディバイドランチャーを発射したが先の戦いと同様に光線が弾かれたのだ。 やはりこの男相手に生半可な攻撃は通用しない。出し惜しみして勝てる相手ではない。 「おい、俺の事を忘れるなっつーの」 そう言いながら胸部からディスクを出現させ 「ディスク装填」 とシャイニングクローへと装填する。その様子から恐らくは威力を強化するものだと判断し身構えるが。 「はっ!」 メタル・ドーパントの推測に反しクローから出てきたのは光線だった。完全な不意打ち故に直撃を受けてしまいその衝撃で後ろへと後ずさる。 それでもメタル・ドーパントの強靱な肉体故にダメージは殆ど通っていない。 「くっ……」 自身の油断を呪った。それでも幸運にもダメージを殆ど受けなかった。最早油断などない、メタル・ドーパントはそう考えつつ間合いを取る。 「よし、距離さえ取れれば刀は……」 そう言いながら再び胸部に手をかざし 「ガンレーザー」 そう言って光線銃ガンレーザーを出現させ、更に先程同様ディスクを出現させて、 「ディスク装填」 そう言って光線銃を発射する。しかしメタル・ドーパントはかぎ爪を盾代わりにしてそれを弾く。そして再びシャンゼリオンへと向かっていく。 「くっ、このぉっ!」 シャンゼリオンはガンレーザー、そしてシャイニングクローから次々に光線を発射していく。しかしメタル・ドーパントはそれらを全て防いでいく。 時にはかぎ爪を盾にして防ぎ、時には裏正で切り返し、運良く通った光線すらメタル・ドーパントの防御を破る事は出来ず―― 「おい、来るなって!」 そうシャンゼリオンが口走るもののメタル・ドーパントは止まらない。そして遂に裏正の射程内に入りその刃がシャンゼリオンへと―― だがシャンゼリオンも只やられるつもりはない。シャイニングクローを構えその一撃を防ぐ―― しかし次の瞬間、かぎ爪による突きがシャンゼリオンに命中した。裏正に遠く及ばないがその力は強くシャンゼリオンは後方へと飛ばされ木へと叩き付けられる。 「がはっ……」 その衝撃からシャンゼリオンは動けない――その隙を見逃す事無くメタル・ドーパントが迫る。 だが、この場にはもう1人ほむらがいる。ほむらはシャンゼリオンにトドメを刺そうとするメタル・ドーパントに狙いを定めディバイドランチャーを―― しかし、メタル・ドーパントがそれを読んでいないわけがない。すぐさま向き直り放たれた光線を弾き飛ばす。 そしてそのままシャンゼリオンへと裏正を―― 「うわー!」 シャンゼリオンが気の抜けた叫び声を上げる。 その直後衝撃音が走る―― 悪魔 Devil of pantyhose. だが、シャンゼリオンには何の変化も見られない。 「なんだ……」 メタル・ドーパントが仕掛けようとするその直前、何者かがメタル・ドーパントを横から殴り飛ばしたのだ。 「なっ……あれは……」 ほむらが驚きからその声を上げる―― 「おい……なんだコイツは……」 体勢を整えようとするシャンゼリオンの方も現れた『それ』をみて驚愕する―― 『それ』は紛う事なき異形と言えよう―― 「魔女……」 「新手のダークザイド……」 双方が知りうる異形の類いとしか思えない。そう―― 牛の頭部に鶴の羽根、鰻の尻尾を持った雪男など異形の怪物としか言い様が無い―― 「ぐふぅ」 そう声を上げる怪物に対し警戒を一切解こうとしないほむらに対し、 「誰だか知らないが助かったぜ♪ パンスト男」 シャンゼリオンは脳天気にその怪物が何故か所持しているパンストを見てそう口走ったが、 次の瞬間、怪物の一撃がシャンゼリオンに直撃しシャンゼリオンの身体が宙を舞った 「ちょなんで!? 味方じゃないのかよ!?」 「こんな状況で味方だと考えられる方があり得ないわよ! 大体、そうでなくてもいきなりパンスト男だなんて呼んで逆上しない方がどうかしているわ! 貴方だってパンティ男とかブラジャー男なんて言われて良い気はしないでしょ!?」 「ほむら、俺の事そう見ていたのかよ!?」 馬鹿な発言をするシャンゼリオンに思わずほむらもそう返してしまった。 それを余所にパンストの怪物、パンスト怪物の背後にメタル・ドーパントが迫る。 メタル・ドーパントは全力でかぎ爪による突きを繰り出す―― だが、パンスト怪物はその突きを弾き防ぎ空中へと舞い上がる。 「おい、空が飛べるなんて卑怯だぞ!」 パンスト怪物は三者へと狙いを定めたまま空中を舞い続ける。 「どうやら隙を見せた所を仕掛けるみたいね……」 それを余所にメタル・ドーパントが再びシャンゼリオンへと向かっていく。裏正の斬撃をシャイニングクローで何とか防ぐが、 「なぁあんた、ここは一時休戦して3人であのパンストの怪物を倒さないか?」 そう共闘を持ちかけるが。 「そのつもりはない。奴が向かってきたならば返り討ちにするだけだ」 「さっきやられたのは誰だっつーの」 「二度も遅れを取るつもりは無い……それに、そんな余裕などお前にあるのか?」 メタル・ドーパントの猛攻に対し防ぐ事しか出来ないシャンゼリオン。 一方、ディバイドランチャーを構えたままほむらはどうするかを思案する。 「(状況から考えてあの怪物は隙を見せれば容赦なく仕掛けてくる……だったら)」 ほむらが自らの能力を発動し自分だけの時間へと突入する。 パンスト怪物は自身のディバイドランチャーを警戒している。当然至近距離から直撃を受ければ大きなダメージを受けるのは言うまでも無い。 それ故にリスクの大きいほむら自身に仕掛ける可能性は高いとは言えないだろう。 状況から考えて互いの相手への対処に集中しているシャンゼリオンかメタル・ドーパントに仕掛ける可能性が高いだろう。 故に、この状況では自身は完全にフリー。ならば仕掛けるべき好機は今と言えよう。 もし、シャンゼリオンかメタル・ドーパントのどちらかが倒されたならば一転して自身が狙われる可能性が高まる。 シャンゼリオンが倒された場合は強敵2人を単身で相手にせねばならなくなる。だがこれまでのダメージや消耗を踏まえ切り抜ける事は不可能といえる。 一方、メタル・ドーパントが倒された場合は2人でパンスト怪物に応戦できる。しかしメタル・ドーパント戦で疲弊したシャンゼリオン、そして度重なる激闘で消耗しきっている自身で殆ど万全なパンスト怪物に対応出来るだろうか? 何より、メタル・ドーパントが倒されるというのは状況が自分にとって都合良く動いたという前提の上に成り立ったものでしかない。そんな都合の良い話が起こりうるとは思えない。 そして何より――他の誰かに頼り切る事をほむら自身良しとしてはいない―― だからこそ今というタイミングでパンスト怪物を自身の手で仕留める。それがほむらの選択である。 上空目がけてディバイドランチャーを発射する――確実に仕留める為に狙いを定め、一発、また一発―― 何故、奴を仕留めるのか。それは言うまでも無く危険人物を排除し『彼女』の安全を確保する為―― それだけではなく、この殺し合いを脱し元の世界へと戻り『彼女』守る為―― そしてワルプルギスの夜から『彼女』に魔法少女としての契約をさせることなく守り抜く―― もう何度となくそれだけを目的に繰り返し続けてきたのだ、何としてでも―― だが、パンスト怪物は墜ちる事無く時間停止の限界時間を迎えた。 「くっ……」 仕留められなかった原因は3つ、 ディバイドランチャーの威力が抑えられていた事、 パンスト怪物との距離が離れすぎていたが故に思う様に威力が出せなかった事、 そして、パンスト怪物がほむらの想像以上に打たれ強かった事。 とはいえ、これ自体は全く予想していなかったわけではない。パンスト怪物がある程度距離を取っていた事から容易に推測できた事だ。 しかし、次の瞬間にはほむらの眼前にメタル・ドーパントが迫っているのが見えた。 「あ、まさか……」 迂闊だった。先の戦いから何度時間を止めてメタル・ドーパントに仕掛けている? こちらの力がある程度推測される可能性はおおいにあり得る。 それでなくてもパンスト怪物の襲撃を考えるならば周囲への警戒を続けていてもおかしい事は全く無い。 僅かな異変を察知し狙いをこちらに切り替える事など造作も無い事だろう。 「くっ……」 何とか後方へと動きメタル・ドーパントへと距離を取ろうとする。時さえ止める事さえ出来れば至近距離からのディバイドランチャーで仕留めるとまではいかなくてもダメージを与える事は出来る。 だが、メタル・ドーパントもそれを警戒してか身構えながら接近している。防御姿勢さえ取れればある程度はダメージを軽減できるだろう。 「あと少し……」 そう言いながらディバイドランチャーを僅かに動かそうとした。だが、その時、 「ぐっ……」 手に鈍い衝撃が奔った――同時に空中を舞うディバイドランチャー。 メタル・ドーパントはディバイドランチャーによる砲撃を読み、仕掛けられる前に急速に踏み込み限界まで腕を伸ばし裏正の峰でディバイドランチャーをはじき飛ばしたのだ。 そして更に猛攻を―― 「まずい……」 焦るほむらは一瞬だけ時間を止めてその攻撃をかわし更に距離を取る。だが、それでもメタル・ドーパントの猛攻は止まらない。 骸骨 Skeleton soldier. 「おい、俺の事を忘れるなって……ってそれにしてもほむらの奴どうしてあの力使わないんだ?」 シャンゼリオンは自身を放置された事に若干憤りながら、ほむらが自身の力を使う事を渋っている事が妙に気に掛かった。 流石に何度となくその力を目の当たりにしている以上、ほむらの力が時間を止める事だという事はシャンゼリオンこと暁にだって概ね推測は着く。 同時にその力があれば好き放題出来る事だって考えつく。(ちなみに、その力を利用すれば暁も簡単に仕留められてしまうだろうが、暁がそんな事に気付く事は無い) だが、今回の戦いは先の戦いを見てもその力を使う頻度が明らかに減っている様に感じる。いや、先の戦いにしても多用していたわけではなかった。 「まさか……使えないほどに消耗して……まずいんじゃないのこれ?」 もし、消耗しすぎで力が使えないのであれば、彼女は口が悪いだけの只の女の子だ。そんな彼女が無残に惨殺される姿を見る趣味など暁にはない。 「こうなったら……」 と、ガンレーザーを構える。 その時、背後に何者かが迫って来て、 「んー……がばっ!?」 次の瞬間、パンスト怪物の一撃で宙を舞うシャンゼリオンの姿があった。 「だからなんで俺を狙うんだ、あっちの銀ぴか狙えっつーの」 どう考えても隙を作ったシャンゼリオンの方が悪いのだろうが、シャンゼリオンはそんな事など全く考えていない。 一方のパンスト怪物はシャンゼリオンへと猛攻を仕掛ける。流石に猛攻を喰らうつもりは無い為、シャイニングクローを駆使し防いでいく。 「こりゃまずいっ!」 口調こそ軽いもののシャンゼリオンは内心で焦っていた。このままではほむらを助けに向かう事は出来ない。 「どうすりゃいいんだ……待てよ、確か……」 シャンゼリオンはある事を思い出しデイパックからあるものを取り出す。その間にもメタル・ドーパントのかぎ爪による突きがほむらへと迫る。 「ほむら!!」 そう言ってほむらへとあるものを投げつける。それはほむらの腹部へとまっすぐに飛んでいき、腹部に装着された瞬間、ベルトが伸びてほむらの腰へと巻かれ、 ――Skull―― それはかぎ爪による突きとほぼ同時だった。 その音声と共に漆黒の粒子が纏わり付く様にほむらへと付着しその姿を変貌させる。 「今のは……」 「ぐふっ」 突然の出来事にメタル・ドーパントそしてパンスト怪物の動きが一瞬止まる。だが次の瞬間、 漆黒の拳がメタル・ドーパントへと直撃した。 「よっし!」 歓喜の声を挙げるシャンゼリオン、眼前に現れたのは漆黒の服に身を包んだ魔法少女――ではなく、 骸骨の顔を持つ黒と銀の戦士―― 「ドーパント……いや……まさか……」 「これが私の身体……暁……これは何?」 「感謝しろよ、俺の支給品をほむらに貸してやるんだからな……確かなんとかダーって名前だったよな……あ、スカル、そいつはスカルっていうらしいぜ」 今ほむらが変身したのはスカルと呼ばれる戦士である。 「けど……なんだ……俺のシャンゼリオンに比べて随分と弱そうな……がばっ!」 スカルの姿に違和感を覚えている隙をつかれパンスト怪物の一撃を喰らい、またしてもシャンゼリオンの身体が宙を舞った。 「ぐふっ」 「だからなんで俺ばっかり狙うんだっつーの、少しはあっちの方をこのパンスト野郎」 シャンゼリオンは自ら地雷を踏み抜いている事に気付く事無く、パンスト怪物の猛攻に曝されていく。 一方のメタル・ドーパントはスカルを見て身構える。 「……いや、違うな」 「何の話?」 スカルはメタル・ドーパントの謎の反応が気になり問いかける。 「こっちの話だ、参る!」 意を決したメタル・ドーパントは再び右手に裏正、左手にかぎ爪を構えスカルへと向かっていく。 対するスカルは先程とは一転し上手くかぎ爪及び裏正の連続攻撃をいなしていく。 暁に支給されたスカルのガイアメモリに内包されている記憶はその名の通り『骸骨』の記憶、それが示す通り故に骨格を中心に肉体を強化する力を持つ。 そう、スカルに変身した事でほむらの身体能力は強化されメタル・ドーパントの動きに対応するだけの力を得たのである。 更にスカルは間合いを取りつつ携行武器であるスカルマグナムを連射する。格闘能力が強化されたとはいえ、やはりこちらの方が自身には合っている。そう思うスカルであるが、 だが、メタル・ドーパントは裏正振り回し、時にはかぎ爪を盾代わりにして銃弾の殆どを防ぎつつスカルへの間合いを詰めていく。 「思った通りか……」 何の話をしているのだろうか? 気にはなるものの考えている余裕は無い。スカルはメタル・ドーパントの両腕を掴み攻撃を封じようとする。 「ぐっ……」 その時、スカルの胸部の肋骨が開こうとし紫色の光のエネルギーが飛び出そうと―― 「何……」 だが、程なく光は収まった。そして起こった出来事に一瞬躊躇した隙を突きメタル・ドーパントがその拘束を振り払いスカルを投げ飛ばした。 「今のは……」 あの光は何だったのだろうか? そう考えていたが、そんな余裕など与えてくれるわけもなくかぎ爪による突きが迫る。 「ぐっ!」 スカルはなんとかかぎ爪を掴んだ。だが――メタル・ドーパントはそのまま振り回し遠心力に任せてほむらを放り投げた。 そしてその方向にはシャンゼリオンとパンスト怪物がいる。 「わぁぁぁ、なにぃぃぃぃぃ!」 それに驚いたのはパンスト怪物の猛攻を防ぐ事しか出来ないでいるシャンゼリオンだ。だが驚く隙などパンスト怪物が与えるだろうか? 否、断じて否。パンスト怪物はその隙を突きシャンゼリオンを殴り飛ばした――丁度スカルが飛んできた方向に。 するとどうなるであろうか? 答えは簡単だ。 空中で両者は激突する、シンプルな回答だ。 時系列順で読む Back AvengerNext 白と黒の黙示録(暁の決戦) 投下順で読む Back AvengerNext 白と黒の黙示録(暁の決戦) Back ASTRY 暁美ほむら Next 白と黒の黙示録(暁の決戦) Back ASTRY 涼村暁 Next 白と黒の黙示録(暁の決戦) Back ASTRY 志葉丈瑠 Next 白と黒の黙示録(暁の決戦) Back ASTRY パンスト太郎 Next 白と黒の黙示録(暁の決戦)
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698 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 18 18 ID TxU08vCn 「赤ちゃんができたの」 午後6時、誰もいない教室。教卓越しに俺の目の前に立っている、小柄な女子生徒はそう言った。 静寂。正午から降り始め、今はもう土砂降りとなった雨の水音と、俺自身の息を飲む音だけが聞こえる。 「………冗談、だよな?」 俺は静寂を裂き、喉の奥から搾り出すように小さく喋る。 だが背中には冷たい、嫌な汗の感触。心拍数がしだいに上がっていくのがよくわかる。 「本当よ。今、三ヶ月だって」 彼女-朝霧 湊はしかし俺の目を、光を宿していないような瞳でじっと見つめてそう答える。 愛おしそうに自らの腹部をさすり、頬を赤らめながら湊は微笑んだ。 「私、産むよ。先生との子供」 「な、なにを…」 「名前、何がいいかなぁ? 先生も一緒に考えてね?」 その言葉を聞いて俺は、今すぐにこの空間から逃げ出したい気持ちに襲われた。 だが膝が笑って、動けない。湊は教卓に手をつき、つま先立ちになって顔を近づける。 今時珍しい、日本人形のような美しい黒髪。パーツの一つ一つが無駄なく洗練され、思わず背筋がぞくりとしてしまいそうなくらい美しい顔立ち。 体の無駄な部分には脂肪はまったく無い。しかし女性特有の膨らみはしっかりと有しているその身体を、俺はよく知っている。 なぜなら俺は、朝霧 湊の担任であり…同時に、生徒…湊と身体の関係を持ったからに他ならない。 「先生の名前は十六夜 刹那。私は朝霧 湊。…うーん、二人の名前からとるのは、難しいね」 呆然と立ち尽くすだけの俺を残したまま、湊は語る。 「うふ、先生も一緒に考えてね? この子の名前」 冷や汗は掌の中にもかき、体感気温が5度は下がったような感覚だ。 仮にもしあの時、あの瞬間に戻れるなら、俺は全力で俺自身を止めただろう。 だが実際にそれは不可能なわけで、取り返しのつかない事態であることを嫌でも実感させられる。 湊の双眼は限界まで開かれ、食い入るように俺の顔を見つめる。まるで「逃がさない」と言わんばかりに。 なぜだ。どうしてこうなった。…決まっている。出会ってしまったから。 俺と湊との距離が近すぎたから。そして、互いに惹かれあってしまったから。 699 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 19 34 ID TxU08vCn ###### 2009年、9月1日。夏休みも明け、さっそく授業が始まる。学生にとっては憂鬱な日(少なくとも、俺にとっては)だが、教員という職に就いて四年も経ってしまえば、自由気ままに過ごす学生たちを見て懐かしくもあり、うらやましいと思えてしまうものだ。 俺は今年度は1年5組の担任に割り当てられている。相も変わらずガキくさい生徒の集まりであるが、今年度はさらに、本校歴代でもトップクラスの成績を誇る女子生徒が一人。…ただし、授業態度は最悪。 毎時間決まって耳にイヤホンを差して机に突っ伏して眠るそいつは、曜日によって髪型を変えることでも有名だった。 だが提出物、定期テストはすべてパーフェクト。ゆえにケチのつけようがない。 昔とは変わってしまった成績付けのシステムのせいで、関心意欲態度が悪くても他が完璧なら5、最悪4が取れてしまうのだ。これもゆとり教育の賜物か。 それだけでなく、変装して登校している現役アイドル、なんてのもいる。こいつは授業態度も成績も中の上くらいで、才女サマに比べればまだ可愛いげがあるってものだ。 そして9月からは、外部からの編入生が我がクラスにやってくる。そいつこそが朝霧 湊である。 湊は朝早くから職員室に訪れている。今日一日の流れを簡単に説明してやり、ホームルームの時間になったら一緒の教室まで向かう手筈だ。 一応湊には、どの部活動に入りたいか、などと世間話レベルで尋ねてはみた。もし入部するなら、いろいろと根回しをしてやらなければならないからだ。 だが湊はよりにもよって、「茶道部に入りたい」と答えた。 残念ながら茶道部は俺が赴任する直前に廃部になった。しかし、茶道部室はそのままで残っており、十分な清掃、茶葉などがあれば一応は再開できる。 湊は以前までいた高校でも茶道部に属しており、どうしても続けたい、と懇願してきた。さらに面倒なことに、その話を副校長が聞いていたのだ。 副校長はわりと情にもろく、お涙頂戴さえすればイエスマンと化すのは周知の事実、暗黙の了解である。そうなればたとえ部員が湊だけだとしても、茶道部の復活は確定。顧問は…おそらく俺になるのだろう。 頭をぽりぼりと、痒いわけでもないのに掻き、ため息をつく。俺は英語教師だ。なのになぜ日本の和の文化をレクチャーせねばならんのだ。 いや、別にレクチャーをするとは限らないが……まあ担任だし、諦めることにした。 そうしているうちにホームルーム開始のチャイムが鳴る。だがチャイムから5分は遅れて開始されるのはこの学校ではごく当たり前である。 「んじゃ…行くとしますか、朝霧」 「は、はいっ」 5組の1時間目は英語。俺は教材と出席簿を抱え、職員室を後にした。 ホームルーム。 朝霧には廊下で少しだけ待ってもらい、俺はかしましい生徒共に、席につくよう促した。 「こら水城、さっさと座れー。桐島がいいかげん迷惑そうにしてるぞ」 「ちぇっ……真司、また後でねぇ」 我がクラス随一の問題児が渋々と座席に戻ったのを皮切りに、クラスの騒がしさは終息を迎える。これがいつもの風景だ。 「今日はみんなにいい報せだ。今日から転校生が、うちのクラスに仲間入りする」 「せっちゃーん! それ女子か?」 いかにも女好きそうな、軽薄そうな見た目の男子生徒がそう尋ねる。 「まあ見ればわかるだろ。…朝霧、いいぞ」 俺は廊下にいる朝霧にドア越しに声をかける。朝霧はゆっくりとドアをスライドさせ、一歩一歩に緊張の色を見せながら教室内に入ってきた。 同時に男子生徒たちの、息を飲むような声、ため息が聞こえる。さっきの軽薄そうな男子生徒も、言葉を失ったようだ。 それもそうだろう。28年間生きてきて、色んな女を見てきた俺でさえ、思わず眼鏡がずり落ちそうになってしまったのだから。 700 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 20 29 ID TxU08vCn 朝霧 湊は今時にしては珍しい、どこまでも"和"が似合いそうな美少女だった。 その漆黒のビロードのような髪はひとつひとつ、毛先まで美しく、肌は陶磁器のような白さと赤ん坊のようなみずみずしさ。 くっきりとした顔のパーツは一瞬、西洋人形を連想させる。だが柔らかく微笑む姿と、凜とした背筋、姿勢と合わせて全体を見ると、やはりドレスよりも着物が似合いそうだ。 俺でさえついちらちらと目が向かいがちなのに、たかだか10代の男子高校生がカッコつけて口説き文句やジョークを飛ばしたりもできるはずがない。 「私の名前は、朝霧 湊です。みなさん、よろしくお願いします」 ごく普通の挨拶を済ませた湊。ちょうど秋津の後ろの席が空いていたので、ひとまずそこに座るように促した。 うちのクラスには二人、いや三人といない一般女子同士の組み合わせ。ばか共の集まりのクラスで、うまくやってくれればいいが(まあどうせすぐ席替えなわけだが)。 同日、放課後。どうやら朝霧は今日一日の授業をつつがなく終えたようだ。 朝霧はホームルームが終わると生徒たちの好奇の目をなんとか振り切り、俺の元へやってきた。 そのまま俺達は職員室まで戻り、茶道部室の鍵をとって部室へ下見に向かう。 開錠してドアを開けると埃臭い空気が溢れてくる…と思ったのだが、中は意外と綺麗にしてあった。 どうやら本校の事務員は、四角い角を四角く掃くことができるほどの人材のようだ。 上履きを脱ぎ、狭い畳部屋に上がり込む。部屋の隅に置かれている壷のようなものは、湯を入れておくものなのだろう、と素人の俺でもわかる。 その壷でさえぴかぴかと光沢があり、抜目なく磨かれたのだと察した。これなら、簡単な下準備で明日からでも開始できそうだ。 準備の仕方なぞわかるはずもないが、そこは朝霧に教えてもらえばいい。どうせ顧問など、名前だけのポジションなのだから。 「わぁ…すごく落ち着きます」 「そんなに気に入ったのか、この部屋が」 「はいっ。これなら明日にでも、先生に美味しいお茶をお出しできますよ」 朝霧は、邪念など微塵も感じられない、無垢な笑顔で俺にそう言った。 「そうか。それなら、明日が楽しみだな」 701 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 21 32 ID TxU08vCn そうして翌日へと話が飛ぶわけだが。 やはり朝霧はホームルームが終わるとまっすぐ俺のもとへやって来て、茶道部室へと手招きする。 鍵は朝霧に預けたし、朝霧は唯一の部員にして部長。勝手に始めればいいものを、と言ってみたが、 「一人でお茶なんか飲んでも楽しくないですよ」 キッパリと、反論されてしまった。 結局朝霧は俺が職員室に教材と出席簿を置きに行く時でさえついて来て、職員室から出るやいきなり俺の手をとって茶道部室へと小走りで向かった。 そんなに楽しみなのか、茶を飲むのが。と言ったら朝霧は 「先生にも茶道の楽しさを知ってもらいたいんです」 と言い返した。 別に俺はそんなもの…と言いかけたが、あまりにも無邪気に微笑むものだから、口をつむるしかなくなってしまった。 朝霧は茶道部室に入るとすぐ、俺に楽な恰好で座るように促してきた。 正座でなくてもいいのかと尋ねたが、楽な恰好の方が美味しく飲めると言われ、なんとなく納得した。 朝霧は早速、慣れた手つきで準備をする。茶道具と、おそらくお抹茶の入っているであろう筒と、茶菓子らしきものが鞄の中から出した風呂敷から現れる。 例の壷の中を一度、水道の水でさっと洗い、それから2Lペットボトルのミネラルウォーターを鞄から出し、壷の中へどぽどぽと入れる。 壷はどうやら電子ポットのようなものらしかった。数分待ち、朝霧は抹茶を椀に少しだけ入れ、杓で湯を入れて、泡立て器のようなアレでしゃかしゃかと泡立てる。 それが終わると朝霧は椀を畳に置き、すっ、と俺に差し出した。 これは、もう飲めるのか。なにぶん素人なもので、それすらわからない。だが朝霧はただにこにこ笑いながら俺を見つめるだけだ。 沈黙は肯定、と俺は勝手に解釈し、椀を持って口元へ運んでみた。 抹茶の濃い色と、意外と少ない湯の量が、口に含んでもないのに苦味を連想させる。だから俺は、最初のひとくちはがっつかず、少しだけにすることにした。 口の中にはたちまち抹茶のほろ苦さと、良い香りが広がる。なるほど、これは安物のブラックコーヒーなどとは比べものにならないほど、格段に美味い。やはり最初のひとくちの量を抑えたのは正解だった。 ほど好い苦味が口の中に広がると今度は、甘味が欲しくなった。なるほど、この練り菓子はそのためのものか。 多分そのまま食うよりも、抹茶を一口飲んでから食べた方が甘味がより深く広がるだろう。スイカに塩、トマトに砂糖を盛るような感じか。逆の味がするものを少し食べてから、あるいはそれを一緒に食すと味が際立つのと同じだ。 「どうですか、先生?」 朝霧はなおも笑顔を絶やさずに俺に尋ねた。俺は用意された練り菓子のひとつを手に取り、ひとかじりしてこう答えた。 「結構なお手前で、ってやつか?」 それからしばらくは、午後の陽気とほどよく暖かい空間で色々なことを話した。 以前の学校での朝霧のこと。俺のちょっとした昔話。うちの高校について。気がつけばあっという間に5時になっていた。 そろそろ切り上げるか、と俺が持ち掛け、朝霧はそれに同意。部活の日割などの話は結局忘れていたが、明日以降でも構わないだろう。 今日のところは朝霧をさっさと帰すことにした。 702 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 23 03 ID TxU08vCn ###### 茶道部の活動日は毎週水曜に決まった。以前あった茶道部の活動日は月水金だったのだが、なにぶん部員がたった一人。 顧問の俺を入れても二人。それに俺も仕事があり、そんなに暇なわけではないので、週一回にしたのだ。まあこの辺は、部員が増えてから調整してもいいだろう。 と思ったものの、早くも2ヶ月が経とうとしていた現在、部員は相変わらず一人だけだ。 ハロウィンを三日後に控えた水曜日。俺はいつものように湊が立てる抹茶を飲み、和菓子をつまむ。 抹茶を回し飲みする、という事を知った時は少し驚いた。それまで俺は、一人分ずつ煎れるものだと思っていたから。だが、それももう慣れた。 湊はいつも俺に先に飲ませ、それから自分で飲む。それはもはや当たり前の風景となっていた、と思ったのだが、 「そういえばこれって、先生と間接キスしてるんだよね」 などとぬかすものだから、つい眼鏡がずり落ちそうになってしまった。 「こ、高校生にもなって、そんなもんいちいち気にするなよな。俺がガキの頃なんか、ペットボトルの回し飲みなんて当たり前だったぞ」 「嫌、ってわけじゃないんだよ? ただ、前の高校の茶道部は女子生徒しかいなかったから…ちょっと、どきどきしたというか…」 「今"も"女子生徒しかいないだろ?」 「もー、それは言っちゃだめだよ」 湊の話し方は、俺に対してはずいぶんと砕けたものになった。 俺がもともと、敬語を使われるのが苦手だったので、気軽に話せばいい、と湊に言ったのがきっかけだ。 それからは湊の表情はさらに柔らかくなったと思う。堅苦しさも失せ、今みたいにけらけらと笑う姿は、快活でとても好印象だ。 その笑顔につい俺も、目が惹かれてしまう。湊が俺の視線に気づく前に目を反らし、俺は練り菓子を手にとる。 甘味を口に含むと、今度は眠気が襲ってきた。なにしろ、茶道部室の中はほど好い湿気と温度、畳の香りが合わさる癒し空間。眠くなるのも無理はない。 実際、今までに何度か昼寝をしたこともあった。その時は湊が適当な時間で起こしてくれるのだが。 「わり、ちょっと寝るわ」 「うん。あ、膝枕してあげよっか?」 「ありがたい誘いだが、遠慮しとくよ。…おやすみ」 こういう時、畳というものは便利だ。フローリングの床と違って、身体が痛くならないからな。 心地好い温度の中俺は畳に横たわる。そのまま意識が夢の世界に落ちるのには、さほど時間はかからなかった。 703 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 24 06 ID TxU08vCn ###### 石鹸だろうか。良い香りが鼻につく。身体も妙に暖かく、ずしりとなにかの重さがかかっていて、心地好い。 眠りから覚めると部室内はなぜか薄暗かった。窓の外を見ると、太陽は沈んでしまったようだ。 …っておいおい、今何時だよ? 俺はポケットから携帯を取り出し、サブディスプレイで時刻を確認してみる。…7時、だと? 慌てて俺は、身体を起こそうとする。その時ようやく、身体に、特に左腕にかかる重さの正体がわかった。 「…湊?」 なるほど…湊も眠ってしまったのか。まあ仕方ない。俺だけ寝といて、湊に「寝るな」とは言えないからな。 とは言え、湊に起こされるのを期待していたのは確かだ。そこは自業自得か。とりあえず、帰らないとな…。 「あ…先生、おはよ…」 湊が目を覚ましたようだ。むにゃむにゃと眠そうに喋る湊もまた、なかなか可愛らしい。…一応言っておくが、単純に褒めただけだぞ? 「今何時ですかぁ…?」 「7時だ」 「しち、じ…えっ! 先生、大丈夫なの!?」 「あー、気にするな。どうせ運動部の奴らもまだ残ってるだろ」 「そうかぁ…ごめんなさい」 「謝るなって…いてて」 どうやら湊は俺の左腕を枕にして眠っていたようだ。肩から先の感覚が麻痺していて、動かそうとするとじーん、と痺れる。 おいおい、こんなもん枕にしたって、安眠は保証しないぞ? というか、部室内は電気が点いておらず、真っ暗だ。うっすらと湊のシルエットは見えるが、その美しい黒髪は今はステルス機能を発揮している。 「湊こそ大丈夫か? 首、寝違えたりとかしてないか?」 「平気だよ。むしろ、よく眠れた」 「はは…そうかい」 とりあえず俺は部室内の電灯を点けるために立ち上がった。しかし寝起きで眼がぼやけ、暗闇なのもあって、スイッチがなかなか見つからない。 壁にそって手探りすれば見つかるだろう、と俺は考え、壁に近づこうとする。だが… 「っ!?」 何かに蹴っ躓いて、バランスを崩してしまった。 どさっ、と倒れ込む。ぎりぎりで床に手をつき、畳との正面衝突の回避には成功した。 704 :赤と緑と黒の話 第一話 ◆BaopYMYofQ :2010/04/03(土) 23 24 46 ID TxU08vCn いったい何に蹴っ躓いたんだ? 俺は足元をちら、と見てみる。 徐々に暗闇に目が慣れてきた今なら、判別が可能だ。どうやら湊の鞄に蹴っ躓いたようだった。 ふぅ、とため息をつき、右手に力を入れて立ち上がろうとする。左手は未だ麻痺しているため、なるべく右手に意識を集中した。 すると、右手の先につるつるとした感触を覚えた。上質の絹を触ったときのような感覚だ。だがこの部屋にはそんな布はなかったはず。ただひとつだけ、心当たりがあった。 「…先生?」 俺の真下から、俺を呼ぶ声がする。その時俺は、初めて今の状況を把握した。 倒れ込んだとき、ちょうど湊を押し倒したような格好になってしまったのだ。 俺は慌てて、湊の上から離れようとする。だが、ぱっちりと見開かれた湊と、目があってしまう。その瞳の奥に潜む何かに吸い込まれそうな気がした。 ふっ、と湊が優しく微笑んだのがわかった。俺は、無意識のうちにその口元にゆっくりと顔を近づけ…口づけてしまっていた。 「………………………悪い」 謝るくらいなら最初からするなよ、と自分に言いたい気分になった。たぶん、湊もそう思っているのだろう。 そんなことより…俺はいったい何をやってんだ。相手は生徒で俺は教師。しかも半ば強引?にキスするなんて。 「いいよ」 だが湊は笑顔を崩さずに、そう言った。 「嫌じゃなかった。先生だから、いいよ」 「何言ってんだ。そんなのいいわけ---」 「いいの。ねぇ、もう一度…」 …なんだと。誘っているのか、俺を? …いかん、乗ってはいけない。俺は教師だ。そんなこと、してはいけない。 たとえどんなに湊の唇の感触が気持ち良かったとしても、してはいけないんだ。俺は必死にそう自分に言い聞かせ、自制を試みる。 そうしなければ、もう一度口づけてしまいそうだったから。 「…もう帰るぞ」 そう吐き捨てるのが、俺の精一杯だった。 だが今ならはっきりとわかる。俺の、そして湊の人生が変わってしまったのは、紛れもなくこの瞬間なのだと。