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【ストリート】STAGE 試合SSその1 0 魔人覚醒が張本の場合 「――お義父さん! 彼女を……無粍亜(ナイミリア)を私にください!」 床に手をつき、男は切実に訴えた。 対する、お義父さんと呼ばれた壮年の男は、腕を組んだまま憮然とした表情を浮かべている。 「駄目だ。娘はキミにはやれんよ、負切洲くん」 「何故ですか! 私に何か問題があるというのですか!?」 「いいや。キミが全裸で股間にウシガエルを貼りつけた変態だからじゃない」 首を振り、壮年の男は言葉を続ける。 「それは、無粍亜が――――」 男の言葉を、あの日の負切洲はうまく呑み込めなかった。 ただ、頭の中をひとつの疑問が埋め尽くしていた。 何故わかってくれないのだ。 お義父さんが挙げる問題など些末なもののはず。 そこに『愛』があれば、どんなことだって乗り越えていけるんだ。 そうだ。 『愛』を訴えよう。 自分たちの間にある愛を納得してもらえれば。 絶対に認めてもらえるはずだ。 お義父さんだけでなく、それ以外の、すべての――どんな人間であれ、必ず。 「では……お義父さん。お聞きください」 目の前の男の雰囲気が変わったことを、壮年の男は感じ取った。 あるいは彼が感じ取ったのは、この世界の『ルール』に、新たなものが加わったことだったのかもしれない。 「私と無粍亜の間にある、『愛』を」 男の股間のウシガエルが、怪しく目を光らせた。 1 事案発生 陰気な場所ね、とパルフェは一笑した。 壁一面に描かれたグラフィティ・アートは育ちの悪さの表明でしかなく。 うち捨てられたスプレー缶やバスケットボール、その他のガラクタからも、何らの知性も感じない。 『ストリート』と呼ばれるその場所は、現代日本におけるどん底の一つには違いなかった。 「……こんなとこ、少しだって居たくないからさ」 地面に転がったバスケットボールに足を置き、ぐにぐにと踏みしめる。 しばらくそうしていたかと思えば、その場でくるりと反転。 踏んづけたバスケットボールを、思い切り蹴りだした。 「ぶっ飛びなさい!!」 バスケットボールは真っすぐに、おそるべき威圧感を伴って飛んだ。 廃材の詰まったコンテナにぶつかったかと思えば爆砕――だが、バスケットボールの勢いは些かも衰えぬ。 牝垣パルフェの魔人能力『Never Dirty』は、踏みつけた相手に命令を遵守させる能力だ。 ぐにぐにと濃厚調教されたバスケットボールは今や、大筒から放たれた砲弾にも等しい忠実さで『ぶっ飛びなさい』という命令をこなそうとしていた。 吹き飛ばしたコンテナの先にあった影に当たらんとした次の瞬間。 バスケットボールはスパッと両断され、ストリートに転がる廃品の列に戻されていた。 「おやおや。これは少々、足癖の悪いお嬢さんのようだ」 コンテナからもうもうと立ち上る土煙にぼんやりとしたシルエットが浮かび上がり、パルフェは目をすがめた。 最初から、そこに誰かがいる気配は感じていた。 初弾で倒せていれば楽な話だったが、少しは骨のある輩らしい。 (ま、寿命がちょっとくらい伸びただけよ) パルフェの余裕は崩れない。 平生通りの冷ややかな表情のまま、ゆっくりと近づく足音を聞いている。 (どうせこいつも、大したことないザコに決まって……) そして、人影が姿を現した。 黒と灰に満ちたストリートに降り立った天使が如き、一面の輝く白き肌。 その股間に鎮座する、知性と博愛の精神をこの上なく表現するウシガエル。 両の手には、先刻バスケットボールを切り裂いたと思しき2本のナイフがあった。 「ごきげんよう、お嬢さん。私の名は張本負切洲――ラブマゲドンを制せし、」 「へ」 悠々たる自己紹介の言葉は、しかし。 「変態だーーーーーッッ!?!?!?」 ストリートに轟いた絶叫に掻き消された――。 2 路上の夢 「待ってくれ、お嬢さん! 話を聞いてくれっ!」 「うっさい、バカ! 寄んな変態!!」 追いかけっこは続いていた。 逃げるは少女・牝垣パルフェ。 追うは変態・張本負切洲。 「なんなのアレ!? さすがにあんなの、頭オカシイでしょ!?」 パルフェは優れた容貌の持ち主であり、それゆえにそこそこ知られた読モであった。 さまざまな人間から好奇の視線を浴び続け、それを歯牙にもかけず生きてきた。 変質者と呼ばれる類の人間に絡まれたことも、一度や二度ではない。 成人男性の全裸にだって、ぶっちゃけ慣れたもんである。 それにしたって――だ。 「……ウッ」 ちらりと振り返った視界に映るのは。 全身に汗としたキラキラを纏い、走るたびに股間のウシガエルの足がブラブラと揺れる。 ダンジョンの入り口で遭遇した名もなきシスコン太郎などとは比べ物にもならない、マジモンの変態だった。 「ありえないでしょーーーーがっ!!」 キレながら、さらに走る。走る。走る! マラソン大会でも上位に入る子ども体力に飽かせて、たまに落ちてるものを蹴っ飛ばして反撃しつつ、ひたすらに逃げ続けていた。 (――ああ。ありえないぞ、これは……!) 同じ言葉を、負切洲も思っていた。 彼の能力『ガエルを持つ私に逆らうのか!』は、奇しくもパルフェと同じ操作系の能力だった。 愛を説き、それに納得してしまった人間に命令を下す、弁舌をトリガーとしたタイプ。 足蹴にするタイプのパルフェとの差が、彼に能力を使うチャンスを逸させていた。 「お嬢さん! 話せばわかるはずだ! まずは、そう、名前を――」 「名前聞かれた! 通報! 絶対に豚箱にブチ込んでやるからっ!!」 聞く耳を持ってくれない! 一体何故なのか!? 飛んできた鉄パイプをナイフで両断しながら、負切洲は焦っていた。 このままでは、どちらかの体力が先に尽きるのを待つばかり。 体術自体はそれなりの水準にありつつも、負切洲は26歳無職の男。絶賛伸び盛りの少女と比べ、体力で勝っていると断言はできなかった。 「何か打開策は――、はっ!」 視界の端に映った物体に、負切洲は飛びついた。 うまくいけば、少女の足を止めさせるだけでなく自身の能力にも嵌められる。 一石二鳥の逆転の策。もはや、これに賭けるしかない! 「お嬢さん! 何をそんなにも恐れ、逃げているのか!」 ぴく、とパルフェの小さな耳が動いた。 ゆっくりと歩みが止まる。刺さった、と負切洲は確信した。 「……誰が、何を恐れるって?」 パルフェが振り返る。汗ばんだ額に、うっすらと前髪が張り付いている。 聞き捨てならなかったのは、負切洲の言葉が図星を突いていたからだ。 これまでの10数年の人生でも出会ったことのない変態に、悔しいが恐怖している。そのことが、自分でも許せなかった。 「フッ、落ち着きたまえ。キミは年端も行かぬ少女で、私は精悍なる男性。恐れるのも無理はない」 「そこじゃないっつの! ってか、別に恐れてない……」 「故に! 直接の戦闘では私に有利すぎる! 対等なる決闘を演じるには――」 パルフェの抗議を遮りながら、負切洲は路上の隅からソレを持ち上げた。 手にあったのは、路上にうち捨てられていた古びたラジカセ。 何なの?と疑問符を浮かべたパルフェに構わずスイッチを入れれば、雑音を紛れさせながらも、たしかにズクズクと重低音が吐き出される。 「年齢差も、性差も関係ない! 言葉と言葉、愛と愛をぶつけ合う、ストリートに相応しい戦い――MCバトルと洒落こもうじゃないか!」 鳴りだすビートは、ZEEBRAの名曲『Street Dreams』。 夢を抱いて路上へと迷い込んだ二人には似合いの曲だった。 「……フン。愛とか、そんなんはどーでもいいけど」 キッと眉を吊り上げ、とうとうパルフェは完全に足を止めた。 そうさせたのは、生意気盛りである彼女の負けず嫌いな性格ゆえか。 あるいは、伝説的楽曲とストリートに渦巻く闘争の気風が合わさり生まれた、異様な高揚感によるものか。 いずれにせよこの場には、「のるなパルフェ! 戻れ!」と叫んでくれるイゾウさんはいない まあ結局いても戻らんのだが、ともかくとして! 視線をバチッとぶつけ合う、2人のMCの姿!! 「結果は同じよ! コテンパンにしてやるから!」 「いいだろう! 先攻は私が行こう!」 負切洲は股間のウシガエルを剥ぎ取り口元へ! ラジカセはあったが、廃品の中にマイクは見つからなかったからだ。 苦肉の策ではあったものの、カエルの持つ『合唱』の特性がなんかこうイイ感じに発揮されているのか――声がハウリングする! イケる!! 「私がNo.1 SSLoveドリーム! 不可能を可能にした日本人!」 1バース目からサンプリング! リスペクト溢れる滑り出しだ! 自身をラブニカ・アイエルの化身と嘯く彼にとって、自分が日本人かどうかは少々デリケートな問題ではあろうが、ともかく良し! そもそもSSLoveには参加すらできていないのでNo.1もクソもないが、こういうのはノリが大事! 分かったな!!! 「剥き出しの身で、語ろう(・・・)『愛(・)』。争いから目を覚まそうか(・・・・・)!」 自己のプレゼンテーションと共に、話題を『愛』に照準する。 MCバトルにおいて有利なのは後攻と言われているが、先攻には「話題を選択できる」というメリットが存在する。 それを活かし、自分の得意なジャンルに縛ってくるとは――この男、バトル巧者! 「愛は世界に平和をもたらす! それ伝えるのが私の使命! MCマッケー、akaラブニカ・アイエル! キミの『愛』を、聞かせておくれ!」 負切洲あらためMCマッケーの1ターン目が終わる。メッセージに重きを置いたラップであった。 ここで相手からの『愛』に対するアンサーを引き出し、それを論破することで能力の条件を満たす―― あまりにも巧みな戦略だった。 MCマッケーが投げ渡したカエルを、パルフェは律儀にキャッチする。 ぐにょりとした触感に一瞬眉をひそめるも、バトル用に調整されたビートはスクラッチ音を響かせる。 後攻1ターン目が始まる――パルフェが小さな口を開く! 「あっそ? 悪いけど興味ない(・・・・)!」 ――話題に乗らない! パルフェがMCマッケーの能力を看破していたわけではない。 偶然にも、相手の言葉を否定しマウントを取りたがるメスガキとしての習性が功を奏していた。 「あたしは望みを通したい(・・・・)! 実現するとき超期待(・・・)! こいつがあんたの掃除代(・・・)!!」 そのうえで、韻(ライム)を踏んでくる! 韻踏みはMCバトルにおける攻めの常套手段だが、ラップ経験などないだろうパルフェが自然体で行えている。 4バース目では、その辺に落ちてたどっかの国のボロボロの硬貨を蹴り飛ばしてくる始末。 まさしく、『踏みつけのクソガキ』パルフェらしいバトルスタイルだった。 そして迎える後半のバース。 刹那――パルフェは闘争心に満ちた表情を、フッと嘲笑的にゆがめた。 「ていうか、何? 負切洲? 自分から『敗者』を名乗ってるやつが勝てると思ってんの~~~!?」 おそるべきDIS!! MCバトルの軸は大きく2つ。『自分をILL(スゴイ)と思わせる』か、『相手をWACK(ザコ)と思わせる』かだ。 リスペクトの表明や韻踏みは前者での攻め方。そして、後者での攻め方がDISである! これにはMCマッケーもグッとたじろぐしかない。 攻め時と見るや、パルフェはカエルを強く握り込む! 「あんたは変態(・・)! 逮捕よ絶対(・・)! これっぽっちも効かないわ恋愛(・・)!」 怒涛の韻踏みで締めくくる! カエルを投げ返す表情も、渾身のドヤ顔! これは勝負あったか――観客がいれば、そう断じていたかもしれない窮地。 にもかかわらず、MCマッケーは嗤った。 「『効かない恋愛』? それは違うね」 MCマッケーが打ち出した『愛』という話題を、最初はガン無視していた。それこそが彼女にとって最も賢い選択だった。 だが、最後に「あ、『変態』と『恋愛』で踏めるじゃん」と思った瞬間に、話題に戻ってしまっていた。 遅れ、パルフェもハッと気づく。詰めが甘かった――痛恨の失策である。 「目を背けるほど育つのが『愛』さ。 キミにもいるだろ? 気になる相手。恥ずかしがらずに言ってごらんよ。 クラスのイケメン? サッカーのヒーロー? もしや、おバカなお調子者クン?」 開いた僅かな突破口にすがりつく! 静かながらもたしかな口調で、パルフェの『愛』の形を探っていく。 対するパルフェは緊張感のある表情を浮かべつつも、大きく動じることはない! 残るバースは少ない。 正解はなんだ――乾坤一擲の思いでMCマッケーは叫んだ。 「先生! じゃなけりゃ、『――――』!」 MCマッケーが『それ』にたどり着いた、次の瞬間。 ボッ、と音を立てるかのように、パルフェの顔が真っ赤に染まった。 「見つけたキミの、真っ赤なウソ!!」 ギリギリでパンチラインを滑り込ませ、MCマッケーの2バース目が終わる。 やり切った笑みで投げ渡すカエルを、パルフェはしどろもどろになりながらキャッチする。 明らかに動揺が見て取れる! それで後攻2バース目、はたして戦えるのか――!? 「なっ……バ、バカ! 何言ってるのか、全然、わっかんないんだけど!?」 クソザコじゃねーか!! 「ていうかそんな、しぇく、セクハラよ! バーカ! この変態! バカバカバーカ!!」 呂律は回らず言葉も噛み噛み。 内容もまた支離滅裂で、単なる罵倒を並べるだけ。 それだけでなく、足元もダンダンと地団駄を踏む始末。キレ散らかすクソガキそのもの。 完全に、一発敗北(クリティカルヒット)コースだった。 「通報するから! ってか訴えるから! 覚悟の準備をしなさい!!」 そして――いつの間にか。 パルフェの瞳が、グルグルと渦を巻いたように虚ろになっている。 我々はこの眼差しを知っている。DLsiteとかでよく見ているこれは――。 「それからっ……」 「フ……フフ。ようやく、か。手こずらせてくれるじゃないか、お嬢さん」 最後の言葉は聞きとれぬほどにか細く消え去り、バースも終わる。 ついに稼働限界を迎えたラジカセが静かに息を引き取り、パルフェの動きも止まる。 一転して静寂が訪れたストリートで―― 「だが」 MCマッケー改め、張本負切洲が髪をかき上げた。 「洗脳完了だ」 3 change! 要請を受けてから、ダンジョンにたどり着くまで。 あるいは張本負切洲が魔人として覚醒してから今に至るまで―― 彼の異様な風体を咎める者を、すべて言いくるめて生きてきた。 言葉を操り、時に自分を良く見せ、時に相手の矛盾を突き。 それはすなわち、MCバトルと共に生きてきたということである。 (首から上の顔面は)一見高貴に映る彼に、何故そのような『路上』の資質があったのか。 その過去は誰にも知ることは叶わないが―― 「さて。戦いに勝つだけならば、洗脳された彼女を如何様にすることも容易いが」 「ハァ~~?」 負切洲の言葉に、パルフェは心外だとでもばかりに声を上げる。 「誰が洗脳されてるって!? されるわけないじゃん! 洗脳なんかに負けないっつの!」 捲し立てる少女の目は、やはりグルグルと渦を巻く虚ろな有り様。 やはりどう見ても洗脳されていた。 「……『彼女』と同じくらいの歳、か」 負切洲の脳裏に浮かぶのは、可憐な少女の姿。 どんな困難もふたりなら超えていけると、将来を誓い合った相手だった。 しかし、今は――。 「…………」 負切洲はそっとパルフェに歩み寄り、握り締めていたウシガエルを取り上げ股間に再装着する。 その様も、パルフェはグルグルの瞳でされるがままに見送っていた。 「問おう。キミたち『少女』にとって……」 ビカリ、と股間のガエルの目が赤く光る。 「『――――』の存在は、そんなにも大きいものか?」 張本負切洲の能力『ガエルを持つ私に逆らうのか!』――! 恋愛論にて言いくるめた相手を洗脳し、1度の言いくるめにつき1回、どんな命令でも聞かせられる能力。 能力トリガーである『論破』の判定は、先のMCバトルの勝敗で満たされている。 「っ……」 洗脳下にあるパルフェの口がハクハクと動き、それから小さな動きで手招きした。 「……先ほどの反応からして、彼女に『――――』に対する強い想いがあるのは明らか。やはり問い質さねばならん」 独り言ちながら、負切洲はパルフェの口元にそっと耳を寄せる。 彼にとってダンジョン踏破と同等に、あるいはそれ以上に大事な、ある『正解』への道。 (――待て) それが、彼の目を曇らせた一因だった。 (『イエス・ユア・ハイネス!』――我が能力に操られているならば、その言葉を) 「……誰が」 渦を巻いた瞳のまま、パルフェの足が動いた。 「教えるかってのッ!!」 小さな足を振り上げての上段回し蹴り。 こめかみを撃ち抜く軌道で放たれた攻撃を、負切洲はギリギリで身を躱す。 蹴り足が額を掠り、血が流れだす。視界は損ねるがダメージは軽微だ。 「いや――それ以上に。何故、私の命令に従わない!」 負切洲は狼狽する。 たしかに言い負かした。故に、能力自体は効いているはずだ。 ならば何故抗える? 「今まで、誰一人としてガエルの威光にひれ伏さぬものはいなかった……!」 通行人も、警官も。 結婚を認めなかった、彼女の父も。親友でもあった、彼女の兄も。 そして、誤解を解こうと言葉を尽くした末に、『彼女』自身も――。 「私はっ……真にラブニカとなるのだ! そうすれば、皆、認めてくれるはずだ!」 負切洲が吠え、手をかざす。彼が夢想した英雄の姿をなぞるように。 「お嬢さん! キミの答えを、どうか聞かせてくれ!」 「ぜーったい言わない!」 飛ぶ蹴撃! 躱す負切洲! 「そう言わずに! ホントはちょっとくらい話聞いてほしいとか思ってるだろう!?」 「くどいっ! 仮にそうでもあんただけには言わない!」 廃材シュート! ナイフ切断マッケー! 「ええいままよ! この際なんで能力が効かないのか教えてくれ!!」 「いくらなんでも言うわけないでしょ! 本末転倒っていうのよそういうの! 知ってるんだから、このバカ!!」 「どうすればいいんだ~~~っ!!」 攻めに転じたパルフェに対し、頭を抱えて後退しつづける負切洲。 洗脳下に置き絶対有利を敷いたはずなのに、それが機能していない動揺が大きいのだろう。 困惑に支配された頭を必死に動かし、活路を見出す。 (おおおお落ち着いて整理しよう! 私の能力は効いている! 効果がないのはなぜか――) あまりにも変態な風体で誤解しがちだが、負切洲は知略に長けた男だ。 相手を言いくるめる頭の回転の速さ、ウィークポイントを見逃さぬ洞察力。 それらを総動員すれば、きっとなんでか分かるはず! がんばれ!! (無効化能力者であれば、あんな風にお目目グルグルしないはず。 というか彼女は、おそらく強化型の能力者だ。最初のバスケットボールを強化して蹴りだしたのもそうだし。 ならば精神力や抵抗力を強化して能力に耐えている? いや、やはりありえない。操作能力は『絶対』の力だ。耐えようとして耐えられるものではない) チラと後ろを振り返る。 憤怒の形相で追いかけてくるパルフェは、やはりお目目グルグル。洗脳状態のはずだ。 (そうだ。操作能力は絶対。彼女は洗脳にかかっている。 解かれていないのは、『1回の洗脳で1個の命令』が実現していないから。すべて命令は届いたうえで、無視されているんだ。 ありえるのは――別の操作能力で上書きしている?) そこまで至り、ハッと気づく。 (――『ぶっ飛びなさい』? ただの発声だと思っていたが、あれは『命令』だった? 彼女もまた操作能力者で、自分自身に能力を行使した? いつだ? そんなタイミングもアクションもなかったはずだ。 足癖の悪さが素なだけじゃなければ、キックがトリガーのはず――) 次いで脳裏をよぎるのは、パルフェが醜態を曝していた後攻2ターン目のラスト。 パルフェはキレたクソガキそのもののように地団駄を踏んでいた。 その足は、よくよく思い返してみれば地面ではなく、自分の足を踏んでいなかったか? (聞こえなかった最後の言葉は、悪態ではなく自分への命令! 自分の身体に置きつつある変調を、同じ操作系能力者として察知したのか! おそらく、『敵の行動に逆らえ』とでも命令したのだろう――!) そういうことである!! 牝垣パルフェの魔人能力『Never Dirty』は、踏みつけた相手に命令を遵守させる能力だ。 その踏みつけが濃ければ濃いほど、命令を聞かせる『強度』も増す。 パンプスの下、足の甲が赤く腫れるほどの怒りに任せた地団駄。 消え入った『あんたの言うこと全部逆らってやるから!』の言葉も、無理のない行動どころか、むしろパルフェ自身のクソガキ体質に噛み合った命令だ。 負切洲の洗脳をプールした状態で反撃が可能な、最悪の天邪鬼の降臨だった。 弱点があるとすれば。 「フ。驚かされたが――種が割れればこちらのものだ」 負切洲はくるりと振り返り、パルフェに向き合う。 息を吸い込み、ナイフを投げ捨て、勝機を確信して指をビシッと突きつけ、高らかに宣言した。 「そんなに拒否するということは、キミの想いは所詮その程度だったわけだ!」 ――逆張り! 「ならばもはや聞く価値なし! キミの真実の想いなど、一生胸に秘めておくがいいさ!」 そう、裏の裏は表。 相手がすべての行動を逆らうというなら、初めから逆を言えばいい。 「ハァ? バカにすんじゃないわよ! たしかに、すっごい小さい時だったけど――」 言葉はパルフェの意志では止まらない。 自分の能力の洗脳下にある彼女は、与えられた命令通りに、負切洲の命令の逆を行く。 「あの時は本当に、『パパと結婚する』って言ったんだから!!」 3.5 魔人覚醒がパルフェの場合 牝垣家は普通の家庭だった。 金持ちでも貧乏でもなく、東京の端っこの方にファミリーマンションの一室を借りて住まう。 父と、母と、一人娘のパルフェ。 母親に似て美しく生まれた娘を特に父は溺愛し、目に入れても痛くないとばかりに甘やかし―― 「パパ! あたし、この洋服ほしいんだけど!」 「ええ~? まったく、仕方ないなぁ」 「やったぁ! パパだいすき! あたし、おっきくなったらパパと結婚する~!」 「ハハハ、本当かー? パパ嬉しいなあ」 パルフェもまた、父に懐いていた。 幼かった時分から『こう言えば喜んでくれる』と打算的な思考を持ちつつも、優しくしてくれる父に好意を抱いていたのは間違いなかった。 「ちょっとパルフェ? パパはママと結婚してるんだから、あげないからねー? パパもパパで、そんなに甘やかさないで。お財布ペラペラになっちゃうわよ」 「ううーん、そう言われると確かになあ」 苦言をこぼす母に、困ったように笑う父。 不利を悟ったパルフェは、その時ピン!と思いついた。 「じゃあ、あたしパパのマッサージするわ! そしたらパパ、いっぱいお仕事がんばれるよね!」 そう言って、パルフェは父にカーペット上に寝転ぶようにせがんだ。 背中を向けて身体を横たえた父の上に、パルフェはスリッパを脱いで登る。 腰を念入りに踏みながら、再度望みを口にする。 「えいっ、えいっ! どう、パパ? 気持ちいい?」 「ああ……そうだなあ……」 「ねっ、ねっ。これで買ってくれるよね? パパも可愛いあたし、見たいもんね?」 「ああ……そうだなぁ、マッサージしてくれてるからなぁ」 「もう、パパったら。本当にパルフェに甘いんだから」 「やった! ふふ!」 ぎゅっと拳を握り破顔したパルフェは思った――否。『認識』した。 この世界は、すべて自分の思い通りになる。 抱いた願いはすべて聞き入れられる。 たとえ、その前に壁が立ちはだかろうとも。 こうして踏みつけられて、逆らえるモノはいないのだ――と。 4 約束 「…………」 自分の発言内容を、一拍遅れて自覚し。 今度こそ、パルフェの顔はボンッと音を立てて真っ赤になった。 「ち、違う! 違うわ今のは!」 目をグルグルとさせたまま、手をブンブンと振って否定の言葉を連ねる。 「いやたしかに言ったけど! でもあれはもっとガキの頃で、今はそんなこと全然ないから! 最近はもう、『昔はパパと結婚するって言ってくれたのになあ』ってしつこく言ってくるから、ホントうざくって! 去年からお風呂も一緒に入ってないのよ!? それなのに、そんな……バカじゃない!? あーヤダヤダ! パパが好きとかホンット、ガキ! あたしみたいなレディには似合わないってーーのっ!!」 言えば言うほど墓穴を掘っていくクソザコぶり。 そんなキャンキャンと喧しい声を聴きながら、負切洲は突きつけた指もそのままに、ツゥと一筋の涙を流した。 「そうか……そうだったのか」 負切洲の脳裏に、あの日の光景がよみがえる。 愛を説き、彼女のお義父さんに結婚を『許してもらえた』。 そのことを報告した親友にして彼女の兄は怒り、初めての本気の口論になった。 その親友にも最終的に『許してもらえた』ことを愛しの無粍亜に伝えた時、彼女だけは、無垢なる祝福をくれると思っていたのに―― 豪邸のような家には今も、大切だったはずの者たちが目をグルグルにして残されている。 きっと、自分の愛が足りなかった。より大きな愛を得れば、真の理解を得られるはず。 そう――あの、ラブマゲドンを制した、伝説のラブニカ・アイエルになれれば。 「私は、間違っていた。間違え続けていたのか」 陶然として語る負切洲を、少し落ち着いたパルフェが怪訝そうに見ている。 自分に抗い続けた、小さな悪魔。 その姿に眩しさをおぼえ、負切洲は眇めた。 「私は……愛は、たったひとつだと。男女の『恋愛』。それだけが真実(LOVE)だとばかり、思っていた」 指の先が震える。 その愛の形は、幼き負切洲には与えられていなかったもので。 「『家族愛』。キミが気づかせてくれたんだ……私に欠けていたものを」 ダンジョンを出たら、義父にも親友にも謝ろう。 そして、もう一度。これからゆっくりと、家族になっていこう。 憑き物が落ちたような晴れやかな表情を浮かべ、負切洲はパルフェに笑いかけた。 「ありがとう、お嬢さん。キミがお父さんと結婚できることを、私も祈っているよ」 「ッ……だから!」 「ほら、この通り股間のガエルもキミのことを祝福して――」 「違うっつーーーーーの!!!」 ズゴーーーン!!!!と破壊的な音を響かせ、パルフェの前蹴りが負切洲の股間を撃ち抜いた。 巻き添えになったガエル様はぶぎゅっと潰れ、その向こう側にあった一輪の希望のはな(フリージア)をも粉砕。 負切洲の口から痛みとも快感ともつかぬ声が漏れた。 「……ふ、フフ。お嬢、さん」 どこか遠くに視線を投げながら、負切洲は最後の言葉を口にする。 フラフラと進み、その身体がゆっくりと前に傾げていく。 しかし、ずっと変わらず伸ばしていた人差し指が、進むべき道を示していた。 「止まるんじゃねぇぞ……!!」 「それは、別のキャラでしょうが!!!」 ストリートに突っ伏した頭をトドメとばかりに踏み潰し。 ひとつの伝説が、ここに幕を下ろした。 敗者:張本負切洲 ラブニカ・アイエルの呪縛から解放。 ダンジョンを出た後、改めて暴動院(ぼーどうぃん)家に結婚を申し込みに行く。 勝者:牝垣パルフェ ダンジョンの次のステージへ。 ダンジョンを出たら、もう自分の服とパパのパンツを一緒に洗濯するのをやめるようママに言いに行くつもり。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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海鳴市、八神家―――03 54 p.m. 雄介はキッチンで包丁を握り、はやてはお茶を啜りながらテレビを見つめ。 ヴィータは二画面の携帯ゲーム機を操りながら、脚を伸ばしてソファでだらける。 シャマルは夕飯の買いだしの最中で、シグナムは剣道の道場に行っている最中。 ザフィーラは何をするでもなく、子犬の姿のままでリビングで横たわって居た。 それは何処の家庭にもある、日常的な午後の光景であった。 「雄介ー」 「んー?」 不意にヴィータが、ゲーム画面から目を逸らした。 「今何してんだ?」 「ああ、最近暑くなって来たから冷ややっこ作ろうと思って」 「おおー、冷ややっこか! 食べる食べる!」 嬉々として返事を返した。 子供らしく脚をばたつかせるヴィータを見て、雄介も笑顔になる。 雄介が今言った通り、最近は夏に向かって徐々に暑くなってきている。 初夏なのにこれ程暑いのは、雄介の世界でも懸念されていた地球温暖化による為か。 何はともあれ、はやての言い付けで真夏になるまでクーラーの使用は禁止されている。 それ故に、少しでも暑さを紛らわせようと雄介が考えたのが、冷ややっこという手段であった。 「確かに、最近は急に暑くなってきた気ぃするなぁ」 テーブルの上に誰かが放置した団扇を手に取り、はやてが言った。 恐らくシャマルあたりが使ったのであろう、駅前で配られている団扇であった。 団扇で軽くぱたぱたと仰ぎながら、気だるげに告げるはやてに雄介が返す。 「聞いた話じゃ、このままだといつか日本も夏と冬だけになっちゃうらしいですしね」 「そうなのか!? それって大変な事なんじゃないのかよ!?」 「うーん、確かに夏と冬しかないって国も結構あるんだけど…… 春夏秋冬は日本の特徴の一つだから、それが無くなっちゃうのは、やっぱり寂しいよね」 その言葉に、はやてとヴィータが項垂れた。 豆腐に包丁を入れながら、そんな光景を眺める。 人為的な事件ならまだしも、環境問題は流石にどうしようもない。 一人一人が地球の環境の事を考えて、少しでもエコを心がけるくらいしかないのだ。 雄介も極力気を配っては居るが、こればかりはすぐに変わる事柄でもない。 そんな時であった。 はやてが見ていたワイドショーで、司会が話題を変えた。 今最も話題になっている、未確認生命体による殺人事件についてであった。 実際には話題の原因となった42号は雄介が倒したのだが、そんな情報が公開される訳もない。 それ故に世間では42号はまだ何処かに潜伏していると考えられており、今でも警戒は解かれて居なかった。 雄介もテレビ画面に視線を移し、現在の話題に耳を傾ける。 『――相次ぐ未確認生命体による殺人事件に対し、警察庁は未確認生命体対策本部を設立し――』 この世界でもこうなってしまったのか、と雄介は思う。 雄介が元々居た世界でも、人を殺して回る未確認生命体に対処する為、警視庁が動き出した。 社会的に危険な存在と認識されたのであればそうなるのは当然なのだが、やはり素直に喜べない。 未確認が居ない、平和な世界だと思っていたこの世界は、ふとした事で大きく変わってしまった。 最早この世界も雄介の居た世界と大きな変わりは無い、未確認事件が発生する世界となってしまったのだ。 ただ違うのは、46号はこの世界では第1号。42号が目撃情報から、第2号として認識されている、という事だが。 幸いクウガが戦ったのは結界の中であった為に、未だ世間にその存在を知られてはいない。 そうこうしていると、不意に呼び鈴の音がリビングに鳴り響いた。 包丁を握る手を休め、どうするべきかを考える。目の前に居るのははやてとヴィータ。 大人がいない現状、来客を出迎えるのは否応なしに大人である自分になるだろう。 「あ、冷ややっこは私がやるから、雄介君出てきてくれる?」 その言葉に軽く返答し、雄介は身に着けていたエプロンを外した。 入れ違いにはやてがキッチンへと入り、雄介が置いたクウガマークのエプロンを身につける。 はやてははやてで、冷ややっこを食べた後で、少しだけ外出する予定がある。 故に、早い所冷ややっこを食べてしまいたいと思っていたのだろう。 合理的な判断であった。 EPISODE.22 消失 海鳴市、月村邸―――04 00 p.m. 42号との戦いが終わってから数日後、ある日の放課後の出来事。 場所はアリサ・バニングスが住まう豪邸に勝るとも劣らぬ大豪邸――月村邸。 アリサとすずかがテーブルに向かい合って、柔らかな微笑みを浮かべて談笑していた。 そんな中、月村家のメイドであるノエルがテーブルに並んだカップに紅茶を注いでゆく。 二人の少女は、ノエルに軽く礼を告げて、そのまま後方へと下がらせた。 「やっぱりノエルさんの紅茶は美味しいわね」 と、アリサ。 友人に仕えるメイドを、まるで自分の事の様に誇らしげに告げた。 そもそもメイドや使用人を雇っている家など、海鳴市でもアリサとすずかの二件だけだ。 アリサも普段自分の家で仕えるメイドを見慣れているし、それ故に使用人を評価することも慣れている。 褒められたノエルは後方で、僅かに微笑みを浮かべ、一礼。感謝の気持ちを体現した。 「それで本題なんだけど、未確認生命体はアリサちゃんにかけらを渡せって言ったの?」 「うん、一応なのは達にも伝えたんだけど」 ことん、と音を立て、テーブルに金色の物体を置いた。 照明の光を受けて黄金に輝くそれは、何処か禍々しく思える。 今となっては、欠片を見るアリサの視線も、何処か不安げであった。 「私もね、あの未確認に言われて、暫くの間は何の事だかわかんなかったのよ。 けど、なのは達の話を聞いて、心当たりがあるならやっぱりこれかなって思って」 「うーん……私はこういうの見ても、何にもわかんないけど、何かあったら大変だもんね」 力になれない事を申し訳なく思い、すずかは僅かに俯いた。 だけど、なのは達も、その欠片は危ないかもしれないと言っていた。 と言っても、42号が起こした殺人事件の影響で、今現在学校は「未確認」という言葉に敏感になっている。 表向きには42号が死んだという情報も公表されて居ない(というよりも出来ない)為に、未だ脅える子供もいるのだ。 そんな生徒が大勢居る学校で不用意に未確認の話も出来ず、放課後もう一度集まろうという事になった。 以上の経緯があって、二人は今なのは達魔道師組を待って居た所だ。 「「あ」」 不意に、すずかとアリサが呟いた。 二人のポケットの中で、携帯電話が振動していたのだ。 二人揃って携帯を取り出し、同時に送られてきたメールを読む。 それから一拍の間をおいて、アリサとすずかは向き合った。 『ごめん、みんな! 私もみんなと一緒にすずかちゃんの家に行きたかってんけど、 さっき家に警察の人が来て、私は暫く家から出られへん感じになってもうたんよ。 だから未確認の欠片の話はなのはちゃんとフェイトちゃんに任せる形になるけど、 話が纏まったら私にも教えてな。今日はほんまにごめんな~……』 との事であった。 差出人は言うまでもなく八神はやて。 送信先はアリサ、すずか、なのは、フェイトの四人。 一斉送信だった。 「警察って……はやての奴、今度は何やらかしたのよ」 「今度はって……誤解される様な事言っちゃ駄目だよ、アリサちゃん?」 すずかのツッコミに、アリサはにししと笑った。 軽い冗談を交えて、二人の間に再び笑顔が戻ってゆく。 とりあえず、はやては今日来れなくなってしまったらしい。 何故家に警察が来たのかは明日聞くとして、今日は四人での集会だ。 一応「はやてを責める気はないから気にしないで」、とのメールを返しておく。 ぱたん、と音を立てて携帯を閉じると、気付けば足元に一匹の猫が寄り添っていた。 グレーの毛並みのその猫は、この屋敷に住まう大量の猫の中で、最もすずかとの付き合いが長い。 幼少の頃に初めて両親に買って貰ったブリティッシュショートヘアの猫の名を呼び、両手を広げる。 「ミック、おいで」 「にゃあ~」 可愛らしい泣き声と共に、ミックがすずかの膝に跳び乗った。 グレーの美しい毛並みは「永遠の傑作」とも呼ばれるブリティッシュブルーの証。 当然安い買い物では無い品種であるが、富豪である月村家からすればそれ程問題では無い。 初めてのペットであるミックを、すずかは家族のように愛していた。 「その子、最初は全然私に懐いてくれなかったのよね~」 「あはは、でも今ではアリサちゃんも、ミックのお友達だもんね」 「まあね。ほら、ミックー?」 名を呼んで、アリサがお茶菓子のスプーンを数度振った。 それを見届けたミックはすたっと跳び下りて、アリサの足元にお座りした。 今し方アリサが見せたのは、きちんとしつけられたミックだからこそ出来る儀式。 ミックに特別なご褒美を与える時にこの仕種をすれば、ミックは大人しく従うのだ。 指示に従ったミックを褒めながら、アリサはお茶菓子を一つ、ミックに与えた。 「もう、あんまり与え過ぎないでね? 太ったら色んな病気の原因になるんだから」 「わかってるわかってる、たまにしか会えないんだから、ちょっと遊んでみただけよ」 すずかの家には、このミックを筆頭に、拾って来た大量の猫が居る。 それというのもすずかが大の猫好きで、捨て猫を見付ける度に拾って来るからなのだが。 拾うだけなら誰でも出来る。凄いのは、大量の猫全てをきちんとしつけ、栄養管理も怠らないことだ。 猫の飼い方に関してはこだわりがあるらしく、すずかとしてもそれだけは譲れないらしい。 それこそが、すずかの猫への愛情の現れであった。 それから三十分程の時間が経過して―― 不意に、屋敷の中へと呼び鈴の音が鳴り響いた。 すずかとアリサ、二人の目線が交差して、たちまち笑顔になる。 玄関へと向かおうとするノエルを引き止めて、二人が席を立った。 「迎えに行こっか、アリサちゃん」 「そうね、折角来てくれたんだから、私達がお出迎えしないと」 友達が来てくれたのに、出迎えをメイドに任せきりというのも酷い話だ。 笑顔で立ち上がった二人の意思を汲み取ったノエルは、部屋を後にする二人に追随。 一応メイドたるもの、仕事を何もしないというのも問題なのだろう。 友達を迎えに行ったアリサ達と共に、ノエルはこの部屋を出た。 「にゃあ~……」 誰も居なくなった部屋で、泣き声が響いた。 確かにこの部屋に人はもう居ないが、正確には誰も居なくなった訳ではない。 その場に残されたミックが、眠そうな目でテーブルの上に飛び乗った。 ミックの目を引いたのは、テーブルの上に置かれた金色の何か。 光ものだからか、本能的にそれに興味を惹かれたミックは、それへと手を伸ばし―― 次の瞬間には金の欠片を口に咥え、何処かへと走り去っていた。 ◆ 海鳴市、八神家―――04 02 p.m. 八神家の玄関先で、五代雄介は一人の人間と対峙していた。 黒のスーツをきちっと着こなす長身の男。髪の毛は黒の長髪。 慣れた手付きで警察手帳を差し出す男が醸し出すは、出来る男の空気。 エリート風のイメージを抱かせる、若手の刑事であった。 「突然お邪魔してすみません。私は未確認生命体対策本部の氷川と申す者ですが」 差し出された名刺を受取って、雄介は否応なしに一人の男を思い出す。 元の世界で、未確認生命体合同捜査本部に所属していた、最も信頼出来る相棒。 市民を守る警察官として、エリートの道を歩んで来た、若手の刑事――一条薫。 氷川誠と名乗った男は、図らずも雄介にあの戦いの日々を思い出させた。 黙ってしまった雄介を心配したのか、氷川が顔を覗き込み、告げる。 「あのー……どうかしましたか?」 「あ、いえいえ! 何でもないですよ。で、今日はどうしたんですか、刑事さん」 慌てて返す雄介に、氷川は気を取り直した様子で続けた。 「未確認生命体が小学生を連続で殺害した事件に関しては、当然ご存知ですよね」 「ええまぁ……ご存じ、ですねぇ」 「それについてなんですが、またいつ第2号が現れるか解ったものではありません。 幸い今のところ八神さんのお子さんは無事の様なので、本人から当時の状況を窺いたいのですが」 「あぁ、なるほど……えーっと……」 暫しの沈黙が流れて、 「……あっ! 無論、強制はしません! 事件が事件ですし、拒否する家庭も少なくありませんので」 慌てて氷川が付け足した。 それはそうだ。未だに42号に脅えて暮らしている子供だって少なくないのだ。 友達を殺された子供のトラウマを抉るような真似をする訳には行かない。 それ故に、事情聴取を断った家庭に関しては、それ以上の関与はしない。 警察たるもの、当然と言えば当然の措置であった。 「目撃情報とか、当時の話とか、何でもいいんです」 真摯な態度で雄介に訴える氷川。 この態度を見るに、氷川誠というは人間はよっぽど真面目なのだろう。 初対面の雄介がそう思う程、氷川の視線は熱意に満ちていた。 しかし、そんな雄介のイメージが壊れるのは、次の瞬間。 ――ぐぅ~。 と、鳴り響いたのは、腹の虫。 雄介の胃袋が鳴らした訳ではない。 となると、その犯人は目の前にいる男のみ。 雄介の眼前、氷川が恥ずかしそうに俯いていた。 「ほな、話ついでに、うちで冷ややっこ食べて行きます?」 「え?」 気付けば雄介の背後、はやてが微笑みを浮かべていた。 海鳴市、八神家―――04 12 p.m. テーブルを囲むのは、向かい合って座るはやてと氷川に、ヴィータと雄介。 四人の前に小さな取り皿が置かれて、氷川が申し訳なさそうに視線を落とす。 ここまで氷川ははやてと二人で事件当時の話をしていたのだが、当然有益な情報など聞き出せる訳もなく。 はやてははやてで、魔法やクウガの事など説明も出来ないので、ただ知らないと言う事しか出来なかった。 成果が無いだけでなく、ここまで気を遣わせた事に気を落としているであろう氷川を気遣って、雄介が笑顔で告げた。 「はい、氷川さん。お腹は膨れないかも知れないけど、美味しいですよ、冷ややっこ!」 ごとり、と音を立てて、冷ややっこがテーブルに出された。 綺麗な四角に切られた豆腐は、空腹時にはより食欲を刺激する。 だが、氷川の事を事を考えた雄介の笑顔も、氷川にとっては素直に喜べる事では無く。 「いえ、私は勤務中の身であって、決してこの冷ややっこを食べたいなどとは――」 ――ぐぅ~。 言葉を遮り、鳴り響く腹の虫。 次いでごくりと、生唾を飲み込む音が聞こえた。 「ま、まぁまぁ……難しい話だけっていうのも何ですし、折角なんやし、遠慮せずに!」 「……仕方ありませんね。八神さんがそこまで言うなら、頂く事も吝かではありません」 「素直に食いたいって言えよ、面倒くさい奴だな」 ぽつりと呟いたヴィータに、 「こらヴィータ、刑事さんにそんな事言うたら逮捕されるよ」 「えー!?」 はやての言葉を信じたヴィータが絶叫した。 そんな光景に、氷川は何も言わずに顔を顰める。 それから箸を取り、両手を合わせて短く合掌。 氷川は黙々と冷ややっこへと手を伸ばした。 「「「頂きまーす」」」 雄介とはやて、ヴィータの声が揃った。 それぞれが自分の箸で、自分の分の豆腐を掴む。 口に運んで、ひんやりと触感を楽しみ……笑顔になる。 「美味しい! やっぱり夏はこれやなぁ~」 と、笑顔ではやて。 黙々と豆腐を頬張るヴィータも満面の笑みであった。 それを見ている雄介も、自ずと笑顔になってゆく。 そこで不意に思いだしたように、 「あ、どうですか氷川さん、美味しいでしょ――ッ!!!」 言いかけて、止まった。 雄介の眼前に広がって居たのは、酷く無惨な光景。 豆腐は一口たりとも氷川の口へと運ばれてはいない。 そこに居るのは難しい表情で箸を握る氷川と―― 「うわ……豆腐がぐちゃぐちゃ」 思わずヴィータが呟いた。 そこにあるのは、箸で掴み切れず、細かく挟み千切れた豆腐。 何度も豆腐を落とした事で、撥ねた水がテーブルを濡らしていた。 それを見るはやての表情は――笑顔。どう見ても、笑いを堪えていた。 流石に気まずくなった雄介は、笑いを堪えながら告げた。 「あぁ~、もう、駄目ですよ氷川さん、無駄な力入れちゃ」 「無駄な……力……?」 「ほら、俺が取りますから」 「! 余計な御世話はやめてください!」 氷川が声を荒げた。 軽く箸を雄介に向けて、 「君は、黙って見てればいいんだ」 もう一度、冷ややっこを箸で掴んだ。 今度は慎重に、ゆっくり、ゆっくりと。 少しずつ箸が豆腐に食い込んで、徐々に持ち上げてゆく。 緊迫の空気が流れ――次の瞬間には、冷ややっこを自分の取り皿へと移す事に成功していた。 一つの難題を成し遂げた事による満足感か、氷川の表情に浮かぶは満面の笑み。 それはまさに一つの事柄をやり遂げた、男のそれであった。 「どうです。まさに、完っ璧だ!」 「……甘いなぁ~」 腕を組み、やれやれとばかりに告げたのは雄介。 困惑した様子で、氷川は雄介を見遣った。 「あ、甘い? 何が……」 「これは木綿豆腐だから上手く行ったんです」 「も、もめっ!?」 うろたえる氷川に、 「「木綿。」」 ヴィータとはやてが声を揃えた。 次いで雄介が、豆腐を指差して、笑顔のまま告げる。 「今の手付きじゃあ、絹ごし豆腐は取れませんよ」 何の他意も無い雄介の言葉。 されど、それは氷川という人間に火を付けるには十分であった。 氷川誠という人間は、目の前の敵から“逃げ出す”という事を絶対にしない。 そこに壁があるなら、どんなに困難であろうと努力を重ね、やがて乗り越える。 それが氷川誠の生き様であり、絶対に譲れないポリシーであった。 周囲の視線から、乗り越えるべき壁がそこにあると判断。 一拍の間を置いて、氷川は声を荒げる。 「では、絹ごし豆腐を出して下さい!」 「いえ、うちにはありませんけど……」 困惑した様子で告げる雄介に、 「わかりました!」 箸を勢いよくテーブルに叩き付けた。 これは試練だ。自分に課された、試練の壁だ。 乗り越えずして何とする。氷川誠は、絶対に逃げない男なのだ。 故に―― 「買ってきましょう!!!」 怒涛の勢いで立ち上がり、急ぎ足で部屋を出て行った。 最早自分を見る周囲の目が“呆れ”に変わって居る事など、気にも留めずに。 そうだ。周囲の目など関係無い。他者から押し付けられた価値観など、知った事じゃない。 例えどんな目で見られようと、自分は自分だけの道を貫き、どんな無理も己が力でこじ開ける。 氷川誠は、紛れもない漢であった。 海鳴市、八神家―――04 57 p.m. ここに再び、氷川誠という一人の男の戦いが始まった。 テーブルを囲むは、雄介とはやて、ヴィータにシャマル。 先程よりもギャラリーが増えた事で、氷川にも自ずと熱意が込もる。 目の前に置かれた皿。そこに顕在する強敵「絹ごし豆腐」。 これを攻略してこそ、自分の威厳が保たれるのだ。 「ねぇちょっとヴィータちゃん、この人何してるの……?」 「こいつ、刑事の癖に豆腐を箸で掴めねーんだってよ」 「黙りたまえ。豆腐を掴めない事と刑事である事は何の関係もない」 周囲の雑音などシャットアウトしてしまえばいい。 そうだ。今は全ての雑念を忘れ、目の前の豆腐に集中するのだ。 黙々と箸を掴み、皿の上に置かれた絹ごし豆腐へと手を伸ばす。 ゆっくりと掴み―― 「あっ」 次の瞬間には、箸が豆腐をねじ切っていた。 だが、豆腐はまだある。たかが一つの失敗で、立ち止まりはしない。 続けて二つ目の豆腐へと箸を伸ばし、 「あっ」 二つ目の豆腐が無惨に千切れた。 それから先は、同じ事の繰り返しであった。 掴もうとすれば掴もうとする程に、豆腐は小さくなってゆく。 氷川が箸で掴む度、箸によって挟みきられた豆腐の残骸が皿へ落下する。 その結果、撥ねた水がテーブルを汚して、最早氷川以外の人間は嘆息するしか出来なかった。 「これは……酷いわね」 「やっぱりなぁ~……」 シャマルとはやてが、呆れた様に続ける。 そもそも氷川に絹ごし豆腐が掴めないと言うのは、最初に雄介が指摘した事だ。 最初からこの場に居る誰しもが、どうせ掴めないだろうとは思っていた事。 それ故に驚きもしないし、ただただ呆れる事しか出来なかった。 頭を抱えてうろたえる氷川を嘲笑う様に、ヴィータが言う。 「お前本当に刑事かよ。豆腐くらいあたしだって掴めるぞ」 「……ちょっと待って下さい!!!」 ばしっ! と音を立てて、箸をテーブルに叩きつけた。 先程家を出た時と同じ勢いで椅子から立ち上がり、氷川がヴィータを指差す。 「豆腐を取れないから私は刑事ではないと言うんですか! 納得出来ません!」 それから、先程までの鬱憤を晴らすかの様に、 「第一っ……! 何ですか豆腐なんて!! こんな物は、スプーンで掬えばいい話だ!!!」 無惨に千切れた豆腐を指差し、絶叫した。 これには流石の雄介含む八神家一同も呆れるしか無く。 「氷川さんがやろうって言いだしたんじゃないですか」 雄介を筆頭に、八神家一同が微妙な視線で氷川を見る。 雄介とはやては苦笑い。シャマルはどうしていいものかと困惑した瞳で。 ヴィータに至っては最早笑いを堪える気すら無く、堂々と氷川を笑っていた。 流石に居心地が悪くなってきた氷川を救うのは、携帯電話の着信音。 失礼、と一言告げ、ポケットの中で鳴り響く携帯を手に取る。 「どうしました、北条さん……? はい……はい……解りました、すぐそちらに向かいます」 それだけ言って、氷川は携帯電話を再びポケットにしまった。 黙ってリビングの入り口まで歩を進めると、一度振り返り、 「まだ第2号の脅威が無くなった訳ではありません。くれぐれも気をつけて、何かあればすぐに連絡してください」 そう言って、軽く一礼しようとした――その刹那。 両手を後頭部で組んで座っていたヴィータが、 「第2号って、もうクウガに倒されたんじゃねーのかよ?」 何の気無しにそう告げた。 瞬間、周囲の空気が緊迫する。 クウガの存在は、この世界ではまだ誰も知らない。 それ故に警察は未だ第42号(=第2号)の件で動き回っているのだ。 いけない、忘れていた、と。ヴィータもすぐに自分の失言に気付き、自ら口を塞ぐ。 されど、当然の事ながら刑事たる氷川がその言葉を聞き逃す訳も無く。 「クウガ? 何ですか、それは」 「あ、いや、今のはあたしの勘違いっていうか……」 「こらヴィータ、またゲームの話ばっかりして、刑事さんを困らせたらあかんよ」 「そ、そうそう……あたしが今やってるゲーム話なんだよ。ごめん、はやて」 はやての機転に救われた。 上手く話を合わせたヴィータが、恐る恐る氷川の表情を見る。 二人のやり取りを見た氷川は、その答えに安心した様子であった。 どうやらただの子供達のゲーム話だと信じてくれたらしい。 胸を撫で下ろすはやて達をよそに、氷川は一礼した。 「それでは、私はこれで失礼します」 こうして一人の刑事が八神家を後にした。 幸い、今回は相手がすんなりと話を信じてくれたから良かったものの。 もしも勘の鋭い、切れ者の刑事が相手だったなら、何か勘付かれて居たかも知れない。 そういう反省も込めて、この後ヴィータは、はやてとシャマルに軽く説教される事となった。 ――そんな中、八神家のテーブルの上、一つの皿の中身。 説教にかまけている間、どう触れていいものか解らなかったそれが……。 小さく千切られた豆腐の残骸が、この日の夕飯時までずっと残って居たという。 同刻、海鳴市、月村邸。 先程までアリサとすずかが談笑していた一室で、少女達が所せましと駆け回る。 慌てた様子で、テーブルの下や家具の物影、ありとあらゆる場所を覗いて回るアリサ。 同様に、なのはやフェイトも、慌てた様子で部屋中あらゆる場所を物色する。 そんな中で、アリサが珍しく冷や汗を浮かべ、絶叫した。 「ない! ない! 何処にもない!」 テーブルの上に置いた筈の物体が、無くなった。 つい先程まですずかと一緒に話題にしていた筈のものが。 そう。第42号が求めていた、金色の欠片が。 この部屋から、消え去っていたのだ。 「落ち着いて、アリサちゃん。本当にこのテーブルに置いたの?」 「それは間違いないよ。私もここに欠片が置かれてるのを見たから」 なのはの問いに、すずかが答える。 確かにこのテーブルの上に、金の欠片は置かれていたのだ。 それなのに、なのはとフェイトを迎えに行ったほんの数分の間に、それは消えた。 正確な時間は計っていないものの、時間にして五分も経過していなかった筈だ。 何の気無しにテーブルの上に置いたものが、こんなにも短時間で消え去るなどと、誰が想像出来ようか。 こんな事なら最初から自分で持って居れば良かった、とアリサは酷く後悔する。 だけど、今更そんな事を言っても始まらず―― とにかく今は、欠片を探すしか無かった。 戻る 目次へ 次へ
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Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns 悪夢(タタリ)は去った。 初めての戦い、聖杯戦争の一幕を神崎蘭子とランサーは超えた。 真昼に沸いた陽炎。演目の合間に差し込まれた短い即興劇だとしても、行われたのは確かに殺し合いだった。 サーヴァントの戦い。伝説に残る英雄譚の再現……それとは反転した、恐怖劇。 一人の少女を象徴とした真昼の幻影は、光の幻想の前に虚偽を暴かれ、神威の焔に貫かれ蒸散した。 残るものは確かな実数。生き残ったマスターである蘭子と、そのサーヴァントであるランサー、カルナの二人だけだ。 「近づいてくる気配が複数ある。火の騒ぎを聞きつけて集まってきたようだな。このままでは人目につくのも時間の問題か。 マスター、動けるか」 「……うん、なんとか」 膝を折って倒れていた蘭子に傍らのランサーが声をかける。よろよろと、緩慢ながらも立ち上がって答える。 一気に体力を奪い取られた倦怠感も、悪夢を目にした震えも今は喉元を過ぎて治まりつつある。 発汗で背筋にじっとりと張り付いた服が、少し気持ち悪い。着替えるか、シャワーでも浴びれば気持ちよくなれるだろうか。 そんな風に、どこか現実逃避気味に考えを巡らせる程度には、精神も安定を見せていた。 「ぅ―――――」 思わず口を塞ぐ。一瞬、鼻をつく臭気に吐き気がこみ上げた。 そこは戦場跡。切り取られた区画に吹く風に、溶けたゴム素材特有の悪臭が乗っている。 ランサーの放出した炎で黒一色に染め上げられた、スタジオ裏の空き地だ。 最後の一合以外は最大限加減された出力だったのだが、それでも元あったバスケットコートのラインも見えなくなるほど黒く焼け焦げていた。 ブスブスと焦げ付く地面から昇る煙が、鉛色をした天に繋がれて消えていく。 毒と害を生産し続ける黒い染み。底の見えない、深い洞穴に繋がっているように蘭子の目には映る。陽の光を浴びれぬ、影に潜み血を啜る怪物がねぐらにするような。 恐怖の空想をトリガーにして、数分前の記憶が紐解かれる。堕ちた天使のイメージが蘭子の脳内で踊る。グロテスクな情景が脳髄をくすぐる。 磨き上げた武技や練り上げた魔法。天界や魔界、本来なら在り得ぬ世界に生きた住人。 一般人の常識の枠に留まらない超越した者達。 黄金に貪欲な魔物を屠り財宝を手に入れた勇者のような、救国の為に立ち上がった聖女のような、幾多の困難を踏破する冒険譚。 そんな綺羅星の如く眩い物語の主題となる誇りある英雄達が一同に集い、互いに鎬を削る絢爛たる光景。 それが神崎蘭子の想像だった。会場の外から見ているだけで高揚するような、迫力と鮮烈さに満ちた舞踏会。 いつも脳裏に思い描いている幻想。輝きを持った生命の飛翔だった。 まったく、違っていた。 先程まで自分に迫って来ていたモノは、そんな幻想とは遠すぎる、埒外にあたる存在だ。 戦いとは即ち殺人だ。 名高き英雄であるほどに、奪った命の数は数多に登り、手に担う剣には常に血が滴っている。 英雄など殺戮者の偽称。獣の醜さを覆い隠し華美に彩ったに過ぎない欺瞞。 血潮を見せつけ、希望を手折り、絶望を顔に突きつけ、殺すという意思に耐えられなくなり、器が割れるまで注ぎ込む。 今更語るまでもない。人は人を殺す。人類史は人間の死で溢れている。 蘭子が直視を避けてきた、当たり前の現実(リアル)。 その、血なまぐさい酸鼻な現実を、都市に流布された恐怖(フォークロア)で脚色した劇が―――あの姿だった。 初めての殺意との遭遇。恨み呪いをぶつけられる経験。 邪神の神秘。恐怖の噂の具現。自分自身の悪夢。 有無を言わさず流れ込んだ数多の忌まわしき情報は、蘭子の純真無垢な精神に禍々しい爪を立て、疵をつけた。 それがアーカムで行われる聖杯戦争のルール。英霊と宝具を認識する事で発症する精神汚染。 今まで受ける事のなかったあまりに濃い恐怖の形は、アイドルになるより以前から持っていた蘭子の期待を、嘲り笑いながら破壊していった。 何枚も自分の想いを込めて描いた絵をまとめて、大事に抱えていたお気に入りのスケッチブックを、目の前で破り裂かれたのにも等しい。 疵というのなら、それが一番の疵痕だ。アイドルとして壇上で歌いファンから声援をもらうようになって、久しく忘れていた寂しさ。 今までの自分の趣味を、ひいては人生そのものを否定される。それはどんな怪異よりも蘭子の心を壊す恐怖となる。 「やはり、調子が優れないようだな」 狂想に駆られていた心が、現実に引き戻される。 顔を上げると、頭一つ分上から蘭子を窺う翠の瞳と目が合った。 無表情であるが、こちらを気遣うようなランサーの眼差しに暫し見入る。 白昼の悪夢に蘭子が囚われずこうして生きていられるのは、全てランサーのおかげだ。 一人では為す術なく殺されていた。孤独では縋れず耐えられなかった。 体も心も死ぬ以外ない闇中から救い出してくれたのは、容赦なく敵を討つ烈火の激しさと、寒さから守る焚き火の暖かさを兼ね備えた、炎のようなひとだった。 "いいや、この勝利は我がマスターに捧げられるものだ。 彼女の求心力(ひかり)がお前の虚飾(カゲ)を払った。オレはそこに槍を刺しただけにすぎん" 幕間の終わりの間際、ランサーはそう影の魔王に宣告した。 彼を傷つけたものはマスターの噂が生み出した影だ。言ってみれば自分が傷つけたようなもの。 それを前にして命を危機に晒されていながら、ランサーは蘭子を責める事もなく、その輝きを肯定した。 己が背負う太陽に劣らぬ眩き光だと。闇に打ち克ったのは彼女の功績だと華を添えたのだ。 黄金の鎧を纏った体は命を守り、誠実な言葉は心を救ってくれた。 恐怖から解放された蘭子の胸の中に残るのは、ささやかな、華開く前の蕾のような誇らしさだ。 それだけで何も変わらない。現実に何かを起こす事もない。けれどそれは背中を小さく押して前に進む力をくれる。 家の窓を開いて外の世界に足を踏み入れた時のように。アイドルとして成功した蘭子はその力を信じていた。 「……ククク、案ずるな我が友よ。この身の翼はいまだもがれてはおらぬ。片翼の天使へと堕ちはしないわ!」 片方の手を突き出し、もう一方の手で顔を覆う。蘭子にとってのいつものポーズ。アイドルとして受け入れられ、求められた形。 プロデューサーがアイドルの魅力を引き出し、アイドルはプロデューサーの期待に応える。 今の自分を通すのが、称賛してくれた彼に対する一番の礼儀だ。 「本来我とは相容れぬ属性。されど光と闇は同時に隣り合い、高め合う運命を背負っている……。 比翼たる貴方がいる限り、たとえ嵐に見舞われようとも、共に羽撃き空を舞う時を待っているわ……!」 ややぎこちなく不敵な表情を形作る蘭子を、ランサーはじっと見てどこか感心したように頷いた。 「……そうか、なるほど。虚勢でも口に出せるうちは正常の範囲だ。その迂遠な言葉回しもまさしくいつものお前だ。安心したぞ」 「う、迂遠……?あ、我が友こそ、その体は壮健か?」 「傷なら問題はない。既に治癒は済んでいる」 「おお、さすがは金色の羽衣……あらゆる魔を弾く神の真結界ね……」 申告どおり、ランサーの肉体にはあれほどあった傷は跡形もなく消えていた。 傷の殆どは鎧の内側の肉体にあったものなのだから正しく装着している今見えないのは当然でもあったが、それを抜きにしても健全な状態にまで治癒されている。 何者をも弾く黄金の鎧、伝承に疑わぬ姿の英霊カルナは元の万夫不当さも完全に取り戻していた。 裏路地に細く差す日差しの温もりと別の、心の凍えを解かす存在感。 これこそが太陽の具現。生まれた頃より神に賜った日輪の具足。 日常を照らす象徴に護られているという感覚が、底に溜まった澱を焼却していく。 「時に主よ、話を戻すがこの場をどうやって離脱するつもりだ?じきに駆けつけてくる、この街の救急隊員とやらに保護を願うのなら、それも手だが」 「そ、それは困る……ンンッ、今は我らの神秘を衆目の民に晒すわけにはいかぬ。急ぎ翼を羽撃かせ退かねば……」 人気のない場での火事騒ぎなど、まずアイドルが関わっていてはいけない状況だ。 付近には蘭子が所属しているプロダクションも入っているスタジオもある。 プロデューサーや仲間のアイドルにも迷惑をかけてしまう。……聖杯戦争には無用の配慮だが、アイドルの目線でいえば自然な対応だ。 「神秘の漏洩は魔術師の禁忌と聞くが、お前にもそのような気構えがあったとはな。 しかし翔ぶか。ふむ、確かに上に逃げるならまず一般人には目につくまい」 「え?」 そしてランサーは何か、見当違いの方向で納得した風に、蘭子の細い手首を軽く掴んだ。 「ふぇ、ぅぇ!?な、何故我が手を取って……!?」 青ざめていた顔が一瞬で赤くなる。引いていた熱がまた上がっていく。 ゆるりと伸ばされた蘭子の華奢な腕を誤って壊さないように慎重に手に取るランサー。 見る構図によっては、場所さえ考えなければダンスを踊る二人の男女、と捉えられなくもない。 ……ランサーは一切感じていないし、蘭子にもいつもの口調を保つ余裕もなかったが。 「案ずるな、お前から魔力を貰う必要もないぞ。オレが担ぎ上げるだけで事足りる」 「そ、そうじゃなくてぇ……」 「……?ここを離れるのではなかったのか?」 「あぁぅぅ……」 ちぐはぐとした、噛み合わない会話。 死線を共にし、互いに確かな信頼が通っているのにどうしてか、こうした普段にするような会話の時二人の意見は奇妙なまでにすれ違うのだった。 「え?」 急に手を放してランサーが背後へ振り返る。マスターである蘭子を背にして、彼女を庇う位置に回る。 緩やかさを取り戻していた空気が凍りつく。警戒と殺気を表層に出してビル影の奥を睨む。 「――――何者だ」 暗い、ビル影の向こう側。 そこには、闇があった。 闇が固形となって光の下を謳歌している、そんな混沌の具現のような存在。 この大英雄をして、今の今まで気配すら悟らせずにいつの間にかそこにいた、男のような闇が佇んでいた。 「おや、お邪魔だったかな?これは失敬。 仲睦まじき事で実に結構。マスターとサーヴァント、互いの奉仕と信頼こそ聖杯戦争の華だ」 ずるり、と闇が這い出てきた。 赤い衣に身を包んだ、神父風の男だった。 風、としたのはあくまで見た蘭子がイメージした中で一番近しいと思ったのが、神父の衣装というだけでしかない。 鮮血を想起させるほど毒々しい赤に濡れた装束を纏う聖職者が実際にいるかなどは、蘭子には想像もつかない。 嫌でも目につく派手な服装は、しかし男の持つより強烈な特徴で印象を塗りつぶされていた。 真昼の空において、一点だけ破り裂けられたような夜の色。 空間に孔が空いていると錯覚してしまう黒。 人種だけでは到底説明がつかないほど濃く染まった肌が、男の不気味な存在感を決定づけている。 衣装と相まってよりイメージを収束させる。蘭子がいつも心の中で思い描く物語に登場する、『悪の魔法使い』そのものだった。 火を見て駆けつけた住民、と考えるはずもなかった。 コレはとっくに、日常に含まれる範囲を逸脱している。蘭子にもそれは理解できていた。 マスター。サーヴァント。アーカムに紛れる自分達の間でしか意味の伝わらない力を持った言霊。 唇までも黒い口から、既に呪いの言葉は吐かれている。 「聖杯戦争の監督役か」 「如何にも」 薄い笑み。 「私は呼び声を聞き遂げて現れた者。大いなる日の降誕を待ち望む者。 魔女の流刑地、アーカムにて執り行われる儀式。血の陣の上に贄を乗せ開かれるサバト。 此度の聖杯戦争の名を見届ける者。名をナイ神父という。 以後お見知りおきを。灰かぶりの姫。そして太陽の子よ」 恭しく頭を垂れる、ナイと名乗った男。 恐ろしい容貌とは裏腹に語りかける口調は穏やかなものだ。 それが逆に誤魔化しの利かない齟齬になって、よりおぞましさが増している。蘭子にはそんな気がした。 対してランサーは恐れを感じた様子は微塵も見せず、臆せずナイへと尋ねた。 「それで、用件はなんだ?ただマスターに顔を見せるためにこの場に現れたわけでもあるまい。 ここでの損壊を責めるというのなら、それは確かにオレの落ち度だ。叱責があれば甘んじて受けよう」 目を見開いて、ナイは白の手袋をはめた手を出して破顔した。 「落ち度?叱責?まさか!私は罰する者などではない。私は見届けるだけのものだ。それに君の手際は完璧だったとも。 襲い来る敵を滅ぼし、己がマスターを守護する。なおかつ外の往来を歩く有象無象の市民への被害にも配慮した。 残留した神秘の残り香に誘われてそのまま精神を焼かれる者はいるだろうが、まあそれは自己責任さ」 ランサーの言葉が心底意外だと言わんばかりに説明を施す。 「私が来たのはその始末のためでもある。単なる火消しだよ。儀式は序盤に入ったばかり。神秘の漏洩はまだ避けるべきだからね。 ああそれと、そこのお嬢さんの顔見せの意図も含めているよ」 そこまで言って、ナイは口を止めた。赤く濡れた、蛇のように艶めかしい視線が妖しく光る。 ランサーの後ろでおっかなびっくり顔を覗かせていた蘭子は生理的嫌悪を覚えた。 「どうかね。お楽しみ戴けているかな?聖杯戦争は」 「―――!」 心臓が裏返りそうになった。 ただ見られただけで身が竦む。気持ちの悪さが肉の底から這い上がってくる。 見ることは原始の魔術である。目は口ほどに物を言う、と言われるように視線にはある種の意思が宿る。 邪視。魔眼。言葉が発達するより前から人は視線に力を見出していた。 今蘭子が感じているのもそれだ。見てはならない断崖の淵。底から覗く眼を見てしまった。 「ふふ」 神父はずっと、言葉を投げかけるランサーに注視しているとばかり思っていた。 監督役といえど、サーヴァントと正面で相対するのなら警戒は怠るまいと勘違いしていた。 実際は違う。視線の焦点が当たってるのはひとつのみだ。ランサーはその射線上にいただけでその実眼中に入っていない。 現れた最初の時から、ナイの眼球はたった一点、一人にぴったりと張り付いて見ていたのだ。 「そのご様子では、あまりお気に召されてはいないようだ。意外ではあるね。 是非再び神秘を目の当たりにした喜びと興奮の感想を聞かせてもらいたかったのだが―――」 「そんなの、わ、我は―――私は、このような儀式など、求めていないわ」 「ほう?」 神父の眼が細められる。震えながら自らに拒否の言葉を返してきた少女に、大きく関心を寄せられていた。 「求めてない?何故? 神秘との遭遇、魔と幻想の体験は君の念願であった筈だろう?」 故に的確に、嘲笑を以て少女に刃を突き刺した。 「ぁ……―――――――」 蘭子の心臓に痛みが襲う。攻撃ではない。物理の刃、魔的な呪詛であれば傍にいる英霊が弾く。 しかし幻痛は、言霊の重みは耳を塞いで何も聞かない限り防げるものではない。 「此処には在るのだよ。魔術も、英霊も、君が求めしかし掴めなかった神秘の全てが。 このアーカムでなら君はそれを目にする事も、手に取る事もできる。自ら使役し、行使する事だってできる。 かつて君が夢見た空の世界、再びその神秘を着飾れる舞踏会場に招かれた。それなのに、どうして快楽の海に耽溺しないのかね?」 ―――痛みの次は、胸が穿たれたような空虚。 翼を生やし、手の内から魔法を放ち魔獣を討つ。蘭子が思い出した、冒険の日々の記憶。 楽しかった。歓喜に満ちていて、嬉しくて、その後のことなんて忘れてしまって。 ずっとこんな時間が続けばいい。永遠に愛したものと幸福に包まれていたい。そんな駄々をこねたこともあった。 忘れていた記憶を思い出して、もう一度行きたいと願っていた。条理の外を超えてもう一度彼らに会いたい、流れ星に願う小さな欠片。 その結果、辿り着いたのがこの世界。 一握りの奇跡を追い求める殺し合い。 酸鼻な殺撃を広げるのみに狂信する怪物。化物。 それは違う。そんな世界は求めていない。けれど――― あの世界でも、陽の当たらない裏では同じような地獄が起きていたのだろうか?目を逸した向こう側には、怨嗟が沼のように沈んでいたのか。 これが、自分の楽しんできたものの正体―――? 神父の言葉の意味を問い返す余裕も、今の蘭子にはない。 胃の内容物どころか、内蔵もろとも体の中から排出したくなるような拒絶感が体内で暴れまわっていた。 まるで腹腔の奥の奥にイキモノが棲みついてるよう。自分の体を内側から食い破って出て来る怪物の姿が浮かぶ上がる。 いっそ、吐き出してしまえ。黒い誰かが耳元で囁く。 ああそれはなんて甘い誘い。極めて堕落。安易な失楽。 喉に手を肩まで突っ込んで引き摺り出す。するとほら、出て来るのはこんなに綺麗で艶めかしい君の■■が――― 「―――――――――」 不意に、上を見た。高い空にではなく、すぐ隣に佇む金色の太陽を。 伸びた前髪から見え隠れする瞳は、鮮やか色で自分を見返している。濁りのない、吸い込まれるような色に、暫し蘭子は恐怖を忘れた。 ランサーは静かに、ただそこにいるだけ。主に慰めの言葉ひとつ授けずに、何も語らず黙している。 それが無関心からくる放棄の沈黙ではないと、もう蘭子は知っている。 英雄であり、けれど少し不器用で人に伝える事が苦手な所がある、温かな性根があると知っている。 だって、彼はそこにいる。 そこに、いてくれているのだ。 一人では耐えられなかった。誰かに傍にいて欲しかった。 サーヴァントはマスターに従うもの。そんな、ルール上に記載されているだけの理由だとしても、傍を離れないでいた。 ならば他に、ここで何を望むというのだろう。それだけで蘭子は救われているのに。 彼は待っている。蘭子が口を開くのを。 自身への命令であれ、目の前にいる神父への返答であれ、選んで取るのは蘭子の意思。彼女にしか背負えない役目であると理解している。 そっと、鎧の上からでも細い腕に手を乗せた。振り払いもせず青年は受け入れる。 硬い、金属質の触感。けれど冷え切っていた指先には暖かさが戻ってくる。 「は、ぁ―――――――」 暗転しそうな意識を懸命に保つ。えづきそうになりながらようやく重い息を吐き出す。それで、気持ちの悪さは一旦引いてくれた。 「でも……私が行きたい世界は、ここじゃないから」 喉には唾液がからみつき、心臓の鼓動は不穏に高鳴っている。 「ならば君は、何処を目指す?」 声は掠れ掠れて、歌声なんて聴かせられないぐらいみっともない。 「もっと綺麗で、輝いていて、皆に声を届けられる場所」 今にも崩れ落ちそうな体を支え、泣きそうな顔を抑えて、それでも言葉は断ち切れる事なく、 弱々しくも、こう告げた。 「―――星みたいな、煌めく舞台を、昇っていきたい」 「ああ――――――素晴らしい」 黒肌の男は目を閉ざして顔を上向け、まるで聖歌に聴き入ってるかのように深く頷いた。 胸に当てられた手が震えている。感動か、はたまた別種の感情か。 「そうだ。そうだとも。そうでなくては意味がない。 自身の『願望』のため、生きて、考え、動き、戦い、呼吸し、走り、足掻き、傷つき、泣き、笑い、叫び、奪い、失い、築き、壊し、血を流し、怒り、這いずり、狂い、死に、蘇る……。 君のような愛しい人間が足掻くからこそ、定命の華は美しく咲き誇るのだ」 やがて目を見開いたナイの顔には、変わらぬ微笑が張り付いていた。 分け隔てなく振り撒かれる慈愛の如く、しかし全てを見透かし睥睨する薄っぺらい笑み。 「やはり、聖杯戦争とは面白い。私も監督など暇な役職(ロール)でなくいっそ参加者として関わりたかったが……いや、言うまい。 『私』という可能性は遍在する。思い至った時点で、既に別の『私』が実行に移しているだろう。 それに相応しい英雄の仮面(ペルソナ)も、あることだしね。知っているかね?全ての人には心の闇に潜む普遍的無意識の住人が―――」 本人にしか意味のない言葉を呟いて、再び蘭子へ向き直ったナイが冒涜的な真実を並び立てようとした時、焼き焦がす熱気に次の句を遮られた。 「悪いが、そこまでにしてもらおうか。それ以上は害意ある干渉と見做さざるを得ん」 主の意思を聞き届けたランサーが口を開く。 周囲に炎の翼が舞い降りたかと思う火の熱は、しかし現実には火の粉の一片も舞ってはいなかった。 今のはあくまでランサーの視線の威。太陽神の子たるカルナとなれば、眼力だけでも燃焼の現象を齎す。魔力ではなく単純な覇気としてもだ。 「用向きが済んだのならば疾く去るがいい暗黒。蘭子はオレの主人だ。監督役といえど手を出さない訳にはいかない。 それこそお前の中立としての立場も揺らぎ出すぞ」 マスターの許可なく戦闘力を開放する軽率さは持ち合わせてない。翻せば、命令さえ下ればカルナの槍は音速で神父に迫りくるだろう。 ナイはその間合いに入っていた。物理的な距離にも、蘭子の精神の許容量においてもだ。 「それは怖い。生ける炎が如し君を相手にしては、私のような影は消えるしか他ないな。……確かに、些かからかいが過ぎたようだ。少し『貌』が覗いてしまった」 白い手袋をはめた手で表情を覆い隠し、さっと身を引くナイ。 そこに口にするほど、ランサーの炎を畏れている風には見受けられない 「これでは叱責を受けてしまうのは私の方だな。望み通り素直に立ち去るとしよう」 するすると遠ざかっていく様子は波が引いていく様子にも似ていた。 「しかし、覚えておきたまえ施しの英雄。人はいずれ、太陽(きみ)にも手が届く時が来る。 かのアインシュタイン、オッペンハイマーが発明し、アンブローズ・デクスターが推し進めた滅びの兵器。終末の時計の針はいつ進んでもおかしくはないのだから」 「警句、感謝する。有難く受け取っておこう」 皮肉を交えていたらしきナイの言葉にも至極真面目に取り合う。ナイもさして不快にした気もなく笑みのまま流した。 路地裏にまで引き込み、そのまま影の中に溶け込んでしまいそうな段になって、思い出したように言い残した。 「……ああ、そうそう。隔離の為この辺りの時間を少しかしいであるが、君達が去るまでは解除しないでおこう。 何処へ向かおうと、君達のその過程が他人に捉えられる事はないだろう」 時間を取らせたお詫び代わりだよ、と付け足して、今度こそ神父の姿は路地の奥に吸い込まれて完全に消失した。 影から生じた闇が元の影に戻り、今度こそ世界は色を取り戻す。 『ではさようなら、暗雲に覆われしアーカムで、なお輝きを見失わぬ少女よ。汝に星の智慧があらんことを』 なのに、声だけが明瞭なほど耳に反響して、去る最後まで跡を濁していった。 アーカムという水面に投げ入れられた小石。広がる波紋は次なる波の呼び水になり、より大きな波を作る。 この邂逅は、その流れのうちのどれに値するのか。 暗黒の神父に脆く決意を宣言した少女の行為に、如何なる意味を持つのか。 真実は暗雲に包まれている。正答は仄暗い海の底に沈み落ちていく。 全ては闇の中にあり、闇もただ黒い笑みを浮かべるのみ――――――。 神崎蘭子の緒戦。聖杯戦争ではありきたりの一幕はこうして下ろされた。 【商業区域・スタジオビル裏/一日目 午前】 【神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]魔力の消費による疲労、ストレスにより若干体調が優れない [精神]大きなストレス(聖杯ルール、恐怖、流血目視、魔王ブリュンヒル登場によるショック)、ナイ神父との接触により症状持続 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]なし [所持金]中学生としては多め [思考・状況] 基本行動方針:友に恥じぬ、自分でありたい 0.…… 1.我と共に歩める「瞳」の持ち主との邂逅を望む。 2.我が友と魂の同調を高めん! 3.聖杯戦争は怖いです。 4.私が欲しいのは――― [備考] タタリを脅威として認識しました。 商業区域・スタジオビル裏にて、ナイ神父と接触しました。 【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】 [状態] [精神]正常 [装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する。 1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。 2.今後の安全を鑑みれば、あの怪異を生むサーヴァントとマスターは放置できまい。 3.だが、どこにでも現れるのであれば尚更マスターより離れるわけにはいかない [備考] タタリを脅威として認識しました。 タタリの本体が三代目か初代のどちらかだと思っています。 【アーカム市内?/一日目 午前】 【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】 [状態]? [精神]? [装備]? [道具]? [所持金]? [思考・状況] 基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける 1.? [備考] [全体の備考] ナイ神父の措置により、現在位置を離れるまで、蘭子達が一般人に発見される事はありません。 BACK NEXT 022 吊るしビトのマクガフィン 投下順 023 Libra ribrary 022 吊るしビトのマクガフィン 時系列順 024 Libra ribrary BACK 登場キャラ NEXT 014 Arkham Ghul Alptraum(前編) 神崎蘭子&ランサー(カルナ) 025 Shining effect 012 鉛毒の空の下 ナイ神父 026 The Keeper of Arcane Lore(後編)
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「その手に掴むもの」Ⅲ 北国特有の寒風が吹きすさぶ。 地中海の街から見ると比較的若い建都となる街の一角で、コウヒエは今自分が置かれている状況に陥った理由を一つずつ考えていた。 事の起こりは1ヶ月前のセビリアまで遡る。 普段どおりの入港を果たした街中はどこか余所余所しい影を見せながらコウヒエを迎え入れた。 船倉は遠路を事無く運び終えた貴重な香辛料と宝石が満載されている、降り立ってまずは交易所へと足を向けたく思うのが商人としての性ともいえる所だったが、この日に限ってコウヒエはなぜかそれを後回しにしてギルドへと向かった。途中、交易所の前を通り過ぎる時、わずかにその足の動きが止まる。しかし、彼は「まぁ、良いか…」と一言呟くと不思議な引力に引き寄せられるように再び進路を変えずに歩き出した。 コウヒエにとってギルドに特別な用がある訳でも、戻れば報告をする義務もなかったが、今日のコウヒエは迷う事無く歩いていた。 大きな樽の看板が緩やかな風に揺られている。 交易ギルドの建物はセビリアの中央広場から少し東へ向かった所にある数多くの公的機関が密集する通りに一際高くそびえている。 隣国のポルトガルにインド東周り航路の開拓で先を越されてその隆盛は一時より一歩後退したものの、火器類の交易における拠点を押さえた国の方針が更に水をあける事を許さじとその威風たるや堂々と権力を誇示するように通りの真ん中に腰を据えている。 その正面には一切の情報の遮断と力なき者の立ち入りを阻む事を思わせるように黒く大きな扉がしっかりと閉められている。 コウヒエは慣れたように幾人もの手で幾千回、幾万回と開け閉めされて動きのぎこちない扉を開けて建物の中へと入った、途端に商売仲間の誰かに名前を呼ばれた。 「おぉ、コウヒエじゃないか。」 右手を上げて呼びかけに応えて、手招きしているその商売仲間の方へと歩いてゆく。 「久しぶりだな、いつ戻ったんだ?昨日か?今日か?次はいつ出る予定だ?」 「おいおい、何を聞きたいんだ。一つずつにしてくれ。」 一気呵成に押し寄せる仲間の質問に軽く両手を挙げるような格好で宥めようとする。 景気の良い笑い声とともにコウヒエの肩を叩きながら、その男は返答があるなしに関係なく話を進めていく。 「様子から察するに帰ってきてまだ間もないな?」 「そりゃそうだ、つい今しがた入ってきたからな。」 「よしよし、ちょうど良い仕事があるんだ。」 コウヒエは少し面食らっていた、今話しかけてくる男は昔から知っていたが、こんなに忙しい性格をした人物ではなかったからである。 「おいおい。他をあたってくれ、船員達にも俺にも今大切なのはゆっくり休むことさ。」 「お前みたく腕の良い商人じゃないと務まらないものなんだ。」 「なにを煽ててやがる、そういうお前こそぶらぶらしてるなら都合良いじゃないか。」 「そうしたい所なんだがな、俺には先約が入ってるからな。」 「まぁ、ともかくだ。他をあたってくれ…」 「つれない事を言うなよ。働けるうちに働く、儲けられるうちに儲ける。これが俺たちの大鉄則だろ?」 商売仲間の口調は滑らかで、押しの一手でコウヒエに迫ってくる。 ただ、コウヒエも商人としての性かこれまでの経験がそうさせるのか、簡単にうんと首を縦に振る事はなかった。 しかし、同じ商売仲間からの押し売りにも似た頼みに首を横に振ることもせず、曖昧な返事ではぐらかそうと静かな火花がギルドの一角で繰り広げられている。 「ともかくだ、休養をさせてくれ。話はそれからだ。」 「そうか、分かった。酒でも飲みながら話そうじゃないか。」 「なんでそうなるんだ?」 「お前にしかできないからさ。」 「古い殺し文句を使ってきやがって…」 「堅いこと言うなよ。」 そう言って、コウヒエの両肩を持ってくるりとその向きを変えると、何を急ぐのか足早に外へ連れて行こうと背中を押しながら大きな扉へと歩いてゆく。 「あぁ、さっきの話だけど。このコウヒエに置いといてくれ、こいつならきっとやってくれるから。」 背中から予想にない声が聞こえてくる。 「なに?おぃ、まてっ!」 「はいはい。続きは酒場でな。」 コウヒエが発した抗議の言葉は開かれた扉の錆びた音と重なりながらセビリアの街中へと消えていった。 「いったいどういうつもりだ。」 胸の前で組んでいる腕の指が不快感を明らかに示すようにとんとんと二の腕を叩いている。 表情はまだ穏やかなものの、普段に見る口元の笑みは表情から消えている。 そんなコウヒエの様相を意に介さない素振りで商売仲間の男は通りがかりの酒場娘へ注文を次げている。 「そう、肉だ。鶏肉の美味いやつがあっただろう。あぁ、それだ。それからウィスキーを持ってきてくれ。2本が良いな。」 コウヒエはその様子を身じろぎせずじっと見つめている。 注文を終えた男は酒場娘へ愛想を振りまいているが、手馴れた娘はそれをさらりとかわして厨房の方へと消えてゆく。 「ははは、ふられちまったか。」 どこの酒場でも居る陽気な酒飲みのように振舞いながら男はゆっくりと椅子に座りなおす。 「さてさて、なんだったかな。」 あくまでも自分の調子を変えずにようやく2人は向き合った。 「いくらお前でも、アレはやりすぎだろう。」 コウヒエの言葉は冷静を装いながらも語気が荒く聞こえる。 しかし、その言葉が向けられているはずの男はまったく動じることなく口を開いた。 「いやぁ、これはお前にとっても美味しい話なんだ。」 甘く感じる言葉に騙されまいとしてコウヒエは男の言葉を半分疑いながら聞いている。 「そう目くじらを立てるなよ、もしアレならさ、断っても良いんだぜ。」 「あの状況からこの状況で断る事ができるなら、そうしてたさ。」 「お前なら乗ってくれると信じてたさ。」 「今日は殺し文句の安売りか?」 「安く売って損しないなら切れるまで売ってみせるさ。」 男はテーブルに届けられた肉料理を口へ運びながら調子よく打っては響く答弁を続ける。そして、指に残ったソースを味わいながら続けて届いた酒を勢い良く流し込む。 「ふん。で、どんな内容なんだ?」 「それがな…」 汚れた手をナプキンで拭きつつ、男の表情が一変した。 先ほどまでの陽気さは露ほどにも感じさせず、その雰囲気はコウヒエの知る普段の姿だった。 男は一言ずつはっきりした口調で話し続けた。 「ここまで来て言うのも変なのだが、今ここが断る最後のチャンスだ。これから先、俺が口を開けば依頼を受けたとなるぜ。」 「なに…」 「そしてそれは時間にも猶予がない、恐らくお前が経験してきた中で一番辛いものになるかも知れん。」 真偽を確かめようとするコウヒエの視線に負けることなく互いが互いを直視している。 「遠路を越える旅よりも辛い仕事だと?」 「その通りだ。俺はお前の実力を知っているつもりだが、それでも成し遂げられるかは五分と言ったところか、本当に嫌ならこのまま席を立ってくれても結構だが…。」 そこまで聞いてコウヒエは口を噤んだ。 そして、今までの流れを頭の中で整理する。 この男が無理に陽気な振りをしてまで自分をここまで持ってきた事を察するに、事はかなり深刻な事態なのだと理解できる。 それ自体は自分が協力できるなら手を差し伸べたいとも思っているが、ただ、男の口車にのるような今の形が癪に障るようですっきりと返事をできないでいた。 周囲の雑音が消えてしまうぐらいの冷たい静寂がテーブルの上を支配している。 コウヒエは空になっていたグラスにウィスキーを注ぐと、一気に飲み干した。 「東回りの先を越され今こそ自力を見せなければならないイスパニア商人がそこまで言われて易々と引き下がっては名が廃る。面白い、その依頼引き受けてやろうじゃないか。」 我ながら陳腐な口上だと内心呆れ心が溜息をついている。 格好いい言葉を投げてやろうとしたコウヒエのささやかな反抗は平凡なものに終わってしまっていた。 しかし、その言葉を聞いた男は険しい表情を崩さず、コウヒエへ釘を刺す。 「安請け合いと後悔するなよ。」 「受けたからには達成してみせるさ。で、依頼主は誰だ?」 「今はそれを明かすことが出来ない。」 「おいおい、なんだそれは。商売ってのは信頼が基本だろう。」 コウヒエの言葉はどこの誰が聞いても通る理論だった。 交易はもとより、海事にせよ冒険稼業にせよ何につけてもコウヒエの言う信頼という2文字が成り立たなければ何も成しえることができないことは揺るぎない共通事項である。 「決してお前を信用していない訳ではないんだが、先方の方針でな。」 「それで納得しろと?」 憮然とした表情のコウヒエは心の内にある疑問を視線に含ませて相手を睨んでいる。 「しかし、これを受けてくれたという事であらゆる準備はギルドの名で最優先させるから我慢してくれ。」 まだ視線の度合いを戻さないコウヒエ。顎鬚に手をやり再び考えに沈む。 「それは何よりも俺の船を優先させることができるのか?」 「あぁ、ギルドから手を回しておくから大丈夫だ。」 その言葉を聞いてコウヒエの脳裏に一筋の閃光が走る。 「なるほど…そういう訳か。」 難解なパズルを解いたように、掌を打つ。 「どうせ経緯を聞いたとしても返事は同じだろうな。」 問いかける声にはある種の期待が含まれていた。 そして商売仲間の男はコウヒエの期待通りの言葉で返事する。 「まぁな。それより内容なんだがな。」 男の言葉を手で遮るように突き出すと身を乗り出すようにして口を開いた。 「それよりも、酒をもう1本だ。」 険しい表情のままで自らの部屋に閉じこもるコウヒエ。 航路図にコンパスあてながら日数を数えている、しかし試算を何度繰り返しても余裕という文字は生まれそうになかった。 「ふぅ。」 顎に当てた手に蓄えている髭のざりざりとした触感が伝わってくる。 余った片方の手は指を折っては戻す動作を繰り返している。 「やはり安請け合いだったか。」 ギルドの全面的なバックアップの元で2日という異例の準備時間の短さでセビリアを後にしたものの、受けた依頼内容を考えるとスムーズに事が運んで戻ってこれるのが期日前日になる予想に気の晴れる時間はどこにもなかった。 「厳しいってモンじゃないな。お偉方は何を基準にしてんだか…」 コウヒエは自分以外は誰も居ない部屋に居ながらも、問いかけるような口調で小さな愚痴を零す。 彼の頭の中では最終決断が迫っていることに少々の焦りが生じている。 「ベルゲンかオスロか…どちらにせよ期日ぎりぎりか。」 受けた依頼内容は『3ヶ月以内に800の船建材を仕入れてくること』だった。 木材の産地としては北欧がつとに有名で、この依頼を聞けば誰しもが北へ航路を取る事を考えるのが必定で、コウヒエ自身もその一人だった。 ただ、ベルゲンとオスロでは産量が異なり日数的に近いベルゲンはオスロと比べ産出量が少なく仕入れに時間が掛かりそうだった。反対にオスロはどうかと言うと建都して歴史の浅い街ながらもその発展振りは著しく木材の流通に関してはベルゲンを遥かに凌ぐ量を仕入れることができるが、ユトランド半島が作り上げる複雑な海流と東からの強烈な向かい風に到着するまでに日数を要する街だった。 3ヶ月という無理難題に近い内容を無事に達成させるにはどちらへ向かう事が良案であるか出航してから思案しつつも結論を出せず悪戯に時間が過ぎ、船はどんどん北へ進んでいる。 「いっそ今回の場合は間に合わせる事を最優先させると考えて、最良かつ最善はオスロか…。いぁ、もし嵐にでも遭おうなら…。」 手で頭を掻く素振りがだんだんと荒々しくなり、積もる苛々感が度合いを増していることを示している。 「コウヒエ君、ちょっと良いかな?」 若い女性の声がドアの外から聞こえてくる。 「ん?あぁ、どうぞ。」 中へ入ってきた女性はコウヒエを見るなりくすくすと笑いだした。 「なにそれ、寝起きじゃあるまいし不精にも程があるぐらいのぼさぼさ頭じゃない。」 掻いていた手で髪の様子を探るコウヒエ、確かに言われた通り全体があらぬ方向へ飛び跳ねている。 「どうせ、ベルゲンかオスロかなんて悩んでたんでしょう。」 女は腕組みした格好で目の前の茶番劇のような光景を分析している。 「そう。まさしくその通り。」 くるりと身軽に振り返ると勢い良く女性へ向けて指差すようなポーズを決める。 コウヒエのそんな様子を女は薄っすらと笑いを浮かべたまま黙って見ている。 例えようのない静かさが2人の微妙な距離の間に流れている。 この静けさに耐えられないようにコウヒエは無意味な咳払いを2・3度繰り返すと女に背を向けた。 女の足は一定のリズムで床を叩いている。その音がコウヒエへ緩やかな圧力となってのしかかって来る。そして更に追い討ちをかけるように女は口を開いた。 「…まだ余裕のようね。この船の一番偉い人は貴方なんだから、しっかり決断して頂戴ね。」 「フィゲレー、そんなにプレッシャーを掛けるなって。一国の浮沈が掛かる依頼だけにこれほどおもしろい仕事はないんだぜ。」 「はいはい、楽しむのも結構だけどね。私の出番がなくなるのだけはご免よ。」 「精々頑張らせてもらうさ。」 コウヒエは現実を目の当たりにする航路図を片付け始めた。 いくら図面を見たところで船足が速くなる訳もないと多くの地図が収められている箱の中へと投げ入れる。 「そうそう、本題を忘れてたんだけど。」 フィゲレーは組んでいた腕を腰に当てている。 「そろそろ、皆のご機嫌取った方が良いんじゃない。」 「かなりキてるか。」 「優秀な船員ばかりね。黙ってはいるけど腹に抱えてる物はありそうな雰囲気が充満してるわよ。」 原因を作ったのは貴方でしょうと言わんばかりの視線を投げかけるフィゲレー。 その視線を感じていないようにコウヒエは小さくお手上げだという手振りをする、そして、体格に見合った足音と共に扉へと近づく。 「おーい、誰か居るかーい。」 通路に響く声に機敏に反応したのは副官だった。 ばたばたという足音と共に駆け寄ってくる。 「今日は同行してくれてるフィゲレー提督の誕生日だそうだ。倉庫に上等の酒があっただろう。そう、アレだ。今晩はそれを使って盛大にやろうと皆に伝えておいてくれ。」 景気の良い話に副官の返事も勢いが良く、通路を戻る足取りもテンポが速い。 部屋へ戻るコウヒエ。 「宴会か、妥当な解決策を選んだわね。」 「気晴らしには酒が一番さ、どんちゃん騒ぎすればすっきりするだろう。」 「ただし…」 不敵な笑みを浮かべるフィゲレー。 「私の誕生日を変えた代償は高いわよ。」 「ははは、細かい事を気にするな。遅いか早いかの違いじゃないか。」 「その遅い早いが重要なのっ。」 フィゲレーが踏み蹴った床がどんと大きな音を響かせる。 その音に肩を竦めてコウヒエは部屋を出ようとする。 「そういや、副官へ言い忘れた事が…」 「こらっ!まてっ!」 船はヒホン沖を通り過ぎまもなくビスケー湾へ入ろうとしていた。 街へ降り立った一行は無言で同じ場所を目指していた。 その中には引きつった笑いを浮かべた者もいたが、唯一人を除いて余裕を見せる者は居なかった。 比較的穏やかな気候の地中海や1ヤード先でさえ陽炎で揺られそうな灼熱のインドなど暑さに関わる地域での生活が長かったコウヒエ率いる一行の予想を超えた寒さが彼等を襲っていた。 「親父、この店で一番暖かい服をくれっ。」 口々に同じ言葉を発しているが、ノルド語が堪能なのはフィゲレーだけであった為、彼女は街へ降りて早々に本職と関係のない仕事に追われる羽目となっていた。 全ての船員が満足する服装を買い終えるには到底1軒の店で終わるはずもなく、フィゲレーが率いるコウヒエ一行は町中にある防寒着を扱う店へ入っては我先にと服を買い求め、夕刻になってようやくフィゲレーの第一任務は終了した。 「いやはや、フィゲレーが居てくれて助かったな。」 コウヒエは幾重にも防寒着を重ね着し、万全の寒さ対策が整った事に満足し満面の笑みでフィゲレーへ感謝の言葉を述べる、しかし、その口調にフィゲレーが食いついた。 「着いて早々にこの無駄な時間は何なのかしら。遊ぶ時間なんてないんでしょ?」 「さすがに北国は寒いね、こうやって着込まないと上手く商売できないだろ。」 「そういう事じゃなくて、なんで用意しておかなかったのと言ってるの!」 「いや…まぁ…急いでたしな。」 元来大きな体格に加え買い求めた防寒着で着膨れた体格を小さくしている。 「大体ねぇ。アンタは計画性ってものがないのよ!こっちへ来るってのに軽装だし。」 コウヒエはフィゲレーへ背を向け、肩を竦めている。彼女からは見られないことを幸いにと口をへの字に結び浴びせられる小言を聞き流そうとしている。 「やれやれ、これなら洋上の嵐を耐える方が随分とましだな…。」 ぼそりとコウヒエの口が呟く。 「なぁに?なんて言ったの?」 「あ…いぁ…なんでもないですよ。」 「なによ、言いたいことがあるならちゃんと言いなさいっ!」 「いぇいぇ、有りがたいお言葉ですね。」 「そもそも今回の件だって、なんの目処があって引き受けたわけ?」 「いぁ~はいはい、フィゲレー様のご尽力は痛み入りますっ。」 いきなりコウヒエは声を張ってフィゲレーの言葉を遮った。 「今は長旅でおつかれでしょう。ささ、景気付けと依頼を完遂できるようにと腹ごなしでも向かいましょう。」 くるりと向きを変えフィゲレーの両肩を後ろから押すように移動し始める。 「ちょっと、どこ行くの?私の話を聞いてるの?」 「ええ、ご高説ごもっとも。それより空腹では戦に勝てないからね、続きはその時に拝聴させていただきます。さ、行こう。」 真新しいファーブーツが路面を踏みしめる、コウヒエはその歩みを留める事無く服探しをしていた最中に見かけた酒場へと向かう。しかし、それまでの道中もフィゲレーの小言が止まることはなく、行き交う人々は聞きなれぬスペイン語に奇異な物をみるような視線を投げかけるのだった。 鮭やトナカイの切り身をバターで炒めることによりこの地方で飲まれるアクアビットのあてとしては最高の料理に変わっている。ただでさえ南ヨーロッパでは出会うことが少ない珍味ともあり、2人が飲み干した酒量は思いのほか早い段階に適量以上へと達していた。 それに酒量が増える度にフィゲレーの機嫌は徐々に回復し、店へ入る前の尖った雰囲気は今は鳴りを潜めている。 「アンタ、良く食べるわねぇ。」 出てくる料理全てが見るに新鮮でコウヒエの食欲はその手をとめどなく動かしている。 「食べないの?これ美味いよ?」 コウヒエの食べっぷりを改めて目の当たりにしては自らの食欲さえもコウヒエの胃袋へ押し込まれてしまったかのような錯覚に陥り、フィゲレーの手はグラスを持つだけになっている。 「相変わらず旺盛な事ね…」 椅子へ斜めに座るようにし、細く伸びた足を組みながらも上体はテーブルに向けている。 頬杖をついて、目の前で繰り広げられる光景をただただ感嘆の眼差しで眺めるフィゲレーはかつて知人に聞いた牛には胃袋が4つあるという話を思い出していた。 「でも、目の前に居るのは人だものねぇ。」 見る見るうちに消えていく皿に盛られた料理の数を数えながら、まだ信じられない光景がいつもより多く飲んでいる酒が見せる幻でないことを自分に言い聞かせている。 ただ、彼女には目の前に座る大食漢に聞いておかなければならない事があり、軽くなったテーブルの上へ再び料理が届く合間を見計らって口を開いた。 「ところで、仕入れ自体はどういう風に考えてるの?」 「なにを?」 「仕入れよ、し・い・れっ!ここまで来て当たって砕けろな計画じゃないでしょうね?」 フィゲレーは大きく身を乗り出し、コウヒエに迫っている。その右手にサラダフォークが握られているのがコウヒエには見えている。 「テ、テーブルマナーは守った方が…ははは」 「その様子を見る限り、また鉄砲状態かしら?」 手に持ったフォークをくるくると回しながら呆れ顔をするフィゲレー。 しかし、コウヒエには仕入れに対する不安を感じさせない表情でグラスを手に持ち、アクアビットをごくごくと大きな音を立てて飲み干した。 フィゲレーはアルコール度数が40度を越える酒を軽く一気のみする様に再び目を疑ったが気を取り直して今後の予定を質問する。 「仕入れにかけられる時間はどれくらいなの?」 コウヒエは人差し指で天井を指すように立てた。 「これだけ。」 「まさか…1日?」 「いぁいぁ、それは無謀の範疇を越えて不可能の領域だ。1週間だな、1週間。」 「で、算段はついてるの?」 「ないと言えばない。あると言えばある。ここの人たちがどれだけ商人か次第だな。」 「なによそれ、結局はなにもないように聞こえるわよ。」 にこやかな表情を崩さずコウヒエは新たに登場した料理へ手をつける。 「どうにかなるだろ。明日に向けてちゃんと食べて英気を養っておこうか。」 「まだ食べる…のね。」 コウヒエは口の中に広がる幸せを感じてにこやかさを越えて満面の笑みへと変わっている。 歯切れの悪いコウヒエの回答が更にフィゲレーの食指が鈍っている。 宵の口が過ぎ、夜の帳が街を覆ってから1時間程が経過した頃、2人は酒場を出た。 ひゅうひゅうと鳴く風があらわになっている手や顔の肌に刺さるように吹き付ける。買ったばかりの防寒着の生地はまだ硬く深々と手を突っ込んだポケットさえも硬い布地が温かみを奪っていくような錯覚を覚える。 フィゲレーと道すがらに別れ白く伸びる吐息を引き連れて宿へと続く道を辿るコウヒエ。 「確固たる勝算はない、しかし負ける算段はさらに持ち合わせてないさ…」 街へ着いた翌朝から行動を開始したコウヒエはフィゲレーを伴い、木材を卸す組合本部へと乗り込み、用意していた口上と共に1つの案件を提示した。 『南地中海で大型の宗教建造物を建造するに当たり上質の木材を求めにきた。容易ならざる事態が押し迫った昨今、我々が求めるのはこれから生きてゆく糧と子々孫々までの安寧であり、主のお導きを得るため各国が国境を越えた協力をしている中、当組合も協力を要請するものである。ただし、脅威は目の前まで到来しておりこれを実現する為に残された時間は数えて少ない状況である。ただ多方面での協力を得ている我々には相応の手段をもってこれに協力をしたいと思い、次の案件を用意した。』 『当日収める分には3倍、以降翌日には2倍、3日より先は1.5倍を持って支払いをその場で行う。』 通訳をしていたフィゲレーはその内容を聞き同じ商人として我が耳を疑った。 だからこそこの提示の効果は覿面だった。 組合の面々は色めき立ちこの案件に飛びつこうとしていた。 ただ、組合のトップはこの美味し過ぎる条件に何か裏があるのではないかと疑いを持っていた。その様子を見たコウヒエはさらに条件を加える。 『もしこの件にご協力を賜れるのであれば、当船への卸値を5%上昇させてもらいたい。』 再びフィゲレーの声が詰まる。 売り交渉ならともかく仕入れ単価の値上げ提示など「安く買って高く売る」商人の鉄則に反するような行為である。ちらりとコウヒエの様子を窺うと、そこにはまるで獲物を仕留めるために身を低く構えるアフリカの肉食獣のような静かな殺気にも似た雰囲気を発しながら周囲の反応を静かに見定めるている。 その条件が意味することを察した組合長は一瞬動揺を見せたが、首を縦に振らなかった。しかし、周囲は組合長の判断にあからさまな不満を見せていた。そして更にそこへつけ込むようにコウヒエは用意していた最後の条件を出した。 『当船はあくまでも木材の用意にあり、協力くださる人全てに当てはまると一言申し上げておきます。』 その場に居た全てが先ほどまでのざわめきを捨てている。組合が立たなくても個人で納品した場合は提示された金額で卸すことができる、コウヒエの言葉はそれを意味していた。つまり生産者はどっちに転がっても儲けが出るという事だった。 居並ぶ面々は組合長がどんな判断を下すのかと視線を集中させている。例えようのない沈黙が部屋を包んでいる。その静寂の中コウヒエは静かに席を立った。 「なかなか結論が出ないようですね。私は伝えねばならない事を全て申し上げたので先に船にてお待ちしておりますが最後にもうひとつだけ。私はこの地の美しさが木々と共にあるということを知っています、なのでこの件については予定している量に達した時点もしくは5日後の日没に失効する事を申し上げておきます。もっともその時点までこの街にいるかどうかは定かでないですが…確かベルゲンも上質の木材が出ると聞いております。」 そう言ってコウヒエとフィゲレーは部屋を出た。 「通訳ありがとうな。」 先ほどとは打って変わっていつもの緩やかな雰囲気に戻ったコウヒエ。 「まさか、買値を上げる交渉なんて…大丈夫なの?」 「逆転の発想だな。」 「私達商人よ。大鉄則を逆転させちゃ駄目だと思うけど。」 「まあな、いつもいつも使える手じゃないな。」 そう答えるとコウヒエは歩いている通りに響くほどの声で笑った。 「ちょっと…声が大きいって…」 「ん?あぁ、すまんすまん…打つ手は打ったし後はのんびりと船で待つか。」 「上手くいくかしら?」 「大丈夫さ。」 意気揚々と港へと進む2人、南ヨーロッパで育った2人には南中を迎えた時刻にもまだ上りきらないように見える日差しに時間の経過感覚を狂わされている。時刻は正午を過ぎ昼支度の為に僅かながら街中に静寂が訪れ、淡く薄雲に化粧された空が寒々しさを一層引き立てている。 「うぅ寒い…。できれば今回だけにしたいもんだな。」 コウヒエが肩を狭めて零す。 「なによ。さっきまでふんぞり返ってたのに、格好悪いシャキッとしなさい!」 フィゲレーに背中を叩かれ慌てて背筋を伸ばすコウヒエ、しかし、路地へ風が吹き抜けると防寒着に首を引っ込めてしまい、再び体を丸くするのだった。 (その手に掴むもの Ⅲ 完)
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FateMINASABA 23th 00ver とりあえず、一筋の希望は見えた。 イリヤともう一度、今夜捜索する前に彼女ともう一度会わなければ。 公園での話で聞いた郊外の森に、日が暮れる前に赴かなければいけない。 慎二「へえ、アンタの意志じゃなく仕事ってワケね。それで僕たちを呼びつけたって事か。 いいね、ビジネスライク大いに結構。安っぽい正義感より何倍もいい。 ……で、そのアインツベルンが何も知らなかったらどうするんだ? お茶でも飲んで帰るのか?」 唐突に今まで沈黙を保っていた慎二は口を開いて言峰に問いただす。 言峰「仮に、彼女が手段を持ち合わせておらずとも、手はある。だが半々というところだ。 聖杯が降臨すれば、間桐桜という人格は消え去るだろう。 だが、聖杯から放たれる呪いに彼女の精神が少しでも耐えられるのなら―――その僅かな時間が希望になる おそらく、保って数秒。 その合間に聖杯を制御し、その力を以って彼女の内部に巣食うものを排除する。 要は力ずくだ。間桐桜を蝕む刻印虫も、彼女の肉体を依り代にするモノも、聖杯の力で『殺して』しまえばよい。 汚染されたとは言え、聖杯は願望機としての機能を保っている。 その用途が『殺害』に関する事ならば、それこそ殺せぬ命はない」 士郎「――――結局聖杯(それ)か。初めから、この戦いは」 言峰「そう、聖杯を手に入れる事に集約される。 だが注意しろ。聖杯の力を聖杯そのものに向けるのだ。 並大抵の魔術師では魔力を制御できず、しくじれば十年前の惨劇を繰り返す事になる。 それだけではない。わずか数秒で聖杯を制御するなど狂気の沙汰だ。 おまえ一人では、どうあっても成しえない奇跡だぞ」 士郎「……ふん。けどそれしかないんだろう。ならやってやるさ。それにそういう事なら、こっちだって少しはアテがある」 言峰「なるほど、おまえには凛とキャスターがいたな。 凛は間桐桜の姉だ。妹の精神に同調し、聖杯からの反動を和らげる事も容易だろうし、 キャスターがつくとあれば、成功の確率もあながち悲観するほどではないだろう」 凛 「分が悪い賭けになるでしょうけど、他に手はない、か……。 キャスター、契約を一方的に破る事になってしまうかもしれないけど…… それでも力を貸してくれるかしら?」 「――――――――」 キャスターは聖杯を手に入れる事だけを目的にして戦ってきた。 その迷い、未練は、そう簡単に断ち切れる物じゃない。 それでも、 キャスター「―――承知。 聖杯が貴様の言う通りの物ならば、それはこの世にあってはならない物だ」 そう、自らの願いを殺して頷いてくれた。 やるべき事は決まっている。 桜を追う。 桜を連れ戻す。 好きな相手を守りきる。 闘いはまだ終わっていない。 俺にはまだ戦う力が残っている。 言峰「ふむ。では場所はわかるか? ―――結構、では諸君らの健闘に期待する。」 士郎「―――――よし!」 椅子から腰を上げる。 時間がない。 家に戻って武器を見繕う時間も惜しい。 すぐにここを発って郊外の森のイリヤの下へ行かないと――― 士郎「あっ――と、そうだ慎二、」 そうだ。 ずっと疑問を残したままだったが、慎二もマスターとしてこの教会に召集されてここにいるのだった。 魔術師としては衰退している家系で、その直系の慎二は魔術回路を持たない、一般人と変わらない 普通の人間で、マスターとしての資格はないだろうと遠坂から聞いていたが 現にこうしているのだ。 本来ならば敵同士だが、先の話から共同戦線を張ることができ、無用な争いは控えることができる。 ましてや、桜は大切な妹だ。 普段はあまり良い当たりをしていないようだが、今回は彼女のために力を貸してくれることだろう。 慎二「……なんだよ、その露骨な物乞い顔は。言いたい事があるならはっきり言えよ。」 士郎「その、慎二がマスターだったなんて正直驚いた。 慎二がなにを願って聖杯を求めてるか知らないけど、さっきの話を聞いたろ? 俺たちじゃ厳しいかもしれない。桜を助けるって事は、 ……情けないのはわかってる。けどなりふり構っていられない。 俺に出来る事は少なくて、その中で一番いい方法がこれなんだと思う。 だから慎二と敵同士にはなれない。 ―――慎二とは休戦するんじゃなくて、協力者として助力してほしいんだ」 慎二「ぼ…ぼくを引き込めば…ぼくが協力すれば…ほ…ほんとに…桜の「命」…は…助けてくれるのか?」 士郎「…?あ、ああ。当たり前だろ。俺たちは桜を助けるために闘っているんだ。 慎二……それじゃあ、力を貸して……!」 慎二「だが断る」 慎二「―――なんだよ、何か文句あるのかよ、おまえ」 士郎「ああ、その、いいさ。 それで、慎二、俺たちと一緒に―――」 慎二「だから断るって言ってるだろ。 正直、あの愚図が無闇やたらと人喰らいを行っているのには憤りを感じているけど だからといってお前たちと組む理由にはならない」 士郎「なっ!?どうしてだよ慎二!? 俺たちの事が信用できないってことなのか?」 慎二「それもあるけど、衛宮たちとは第一に目的が食い違っている。 そっちは桜を救うためと言ってたが、こっちはそんな事はどうでもいい。 あいつはただの予備臓器にすぎないし、魔術は秘蹟しなければならない鉄則を侵し続けている。 ……ったく。あんなトロい女は正しい魔道を進むなんてことこれっぽっちも念頭に置いちゃいない。 これほどの愚行を行っているんだ、もう間桐への損害は致命的になっちまった。 しかし、僕にも魔術師としての矜持がある。 身内の悪行は自身の手で片付けなければならない。 いっそこの手で引導を渡してやるのが慈悲、と……そう思う僕は、やはり悪鬼なのかい?」 「――――――――」 反論したい言葉を呑み込む。 ……俺には理解できないが、遠坂のように魔術師としての鉄則(ルール)に則って行動しようとしている。 だけど 士郎「そんなの駄目だ慎二。 だって桜はたった一人の妹だろう?まだ助けられるかもしれないのに諦めちゃいけない。」 慎二「ふーん。なら、もし万が一、桜を救えたとしよう。 だが、おまえはそれでいいのかな衛宮。桜が人喰いでなくなったとしても、 あいつが既に“人喰い”である事に変わりはない。その罪人を、おまえは擁護するっていうの?」 「――――――――」 止まった。 今度こそ、心臓が凍りついた。 慎二「耐えられないのはおまえたちだけじゃない。 あの愚図は多くの人間を殺してる。桜自身、そんな自分を許容できるとは思えないけど」 士郎「――――――それは」 慎二「罪を犯して、償えぬまま生き続けるのは辛いぜ?だったら一思いに殺してやった方が幸せなんじゃない? その方が楽だし、奪われた者たちや遺された遺族への謝罪にもなる」 士郎「――――――――」 ……そうだ。 連鎖はそれで終わる。 本人の意思でなかろうと関係ない。 どんな理由があろうと、加害者は罰せられなくてはならない。 命を奪ったのなら―――それと等価のモノを返さなければ、奪われた者は静まらない。 だから殺せと。 失われた者にすまないという気持ちがあるのなら、当事者である桜を殺せと、あらゆる常識が訴え続ける。 それだけじゃない。 結局桜を救えず、桜が怪物になってしまえば、もう歯止めは効かなくなる。 今よりもっと、何十倍もの命が失われる。 あの日と同じ。 無関係な人間が、死の意味も判らぬまま、一方的に死んでいくのだ。 せり上がった胃液を飲み下す。 充血する眼。 眼球から血液さえこぼれだしそう。 ―――その圧迫を、それこそ、何千という剣で切り殺して、 士郎「――――ああ。けど、それは償いじゃない 全ての咎は、桜と共に背負い続ける」 それでも、桜を守ると告白した。 その言葉に、なにを感じたのかはわからないけど 慎二は少し眩しそうに目を細めると 慎二「―――ふざけんな。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなこの――――!」 気が違ったように、友人である少年を殴り始めた。 士郎「がっ!?慎二なにを!?」 頬を殴られた士郎は、突然の蛮行に驚き戸惑い たまらず、セイバーとキャスターが慎二の前に立ちふさがり、ランサーが主を守るために彼らの前に立つ。 慎二「諦めるな……!? 背負い続ける……!? 勘違いするな、おまえにそんな権利なんかない! 何も知らない癖に偽善者ぶった口を叩くな……!」 手加減などしない。 つい先ほど、自分の苦悩、今までの人生を根底から覆された男には、まともな理性など残ってはいない。 ランサーに押し留められながらも、なお掴みかかろうと息を荒く拳をあげる。 凛 「ちょっと、さっきからなんなのよ。あったまくるわね、 何に憤ってるのか知らないけどここは中立域の教会よ、殺し合いたいなら外に出なさい。 その癇に障るにやけ面、恥ずかしくて外に出られないように歪ませてあげるから。」 その瞳は強い意志を以って、圧し掛かろうとする男を咎めている。 「っ……!」 それが最後のスイッチを押した。 少年の言葉があまりにも憎たらしかった。 少女の目があまりにも腹だたしかった。 自分をまっすぐに見つめてくる目がイヤだった。 だから、 慎二「―――そうかよ。そんなに助けたいんなら好きにしろ。 ……けどさあ衛宮。それなら、あいつは本当に助けてやるほどの価値なんかあるのかな?」 少女たちが一番触れられたくないコトを、何もかも明かしてやる事にした。 慎二「あいつはお前が思っているほど良い子ちゃんなんかじゃないぜ。 知ってるか?あの淫売は男を見ると途端に発情してケツを振るふしだらな女だ。 そっちの家で談笑して家に帰れば、淫らにアヘ顔晒して蟲を咥えこんでキマってるんだぜ?」 凛 「慎二、アンタ……!」 睨み付ける声。 慎二「いや、何があったかしらないけどさ、あんな不気味な姿に変貌しちゃってさ よっぽどバカ喰いしたのか目もイッてて、今では冬木を恐怖のどん底に陥れる怪人になっちまった。 はーあ。死ぬなら迷惑かけないで目の届かない遠くで逝ってくれよな。 タンスの裏で薄汚い蛆虫が潰れてるとか、くくっ、ホント最悪だよ」 士郎「慎二!おまえ!!」 それに反応したのか。 士郎は怒声をあげて、前に出る。 凛 「―――言い訳はきかないわよ。アンタが言った事の代償は、修正して払わせてやるから」 慎二に詰め寄ろうとする遠坂。 それを 慎二「ふん。いい顔つきになったじゃん。 そうだ、“僕たち”を哀れむなんて絶対に許さない。偽善じみた博愛なんて不快すぎて吐き気がする。」 慎二は破顔して答えた。 士郎「―――慎二?」 慎二「お前たちと組む気になんかなれないが、あの愚図が癇癪を起こしている内は けしかけないでいてやる。まあ、せいぜい……」 がんばれよ、と告げて踵を返して入り口へと去っていく。 そして、ランサーも警戒を解くと、やれやれだ、なんて言いながら後について二人は去っていった。 士郎 「あいつ……」 凛 「まったくなんなのかしら彼? 分相応な力を得て舞い上がってるのか、命の奪い合いに竦みあがって気が触れ始めてるのかしら?」 キャスター「……ふむ。生まれつきの強者である君には理解できないのかもしれないな」 凛の言葉に呼応して、キャスターはそう言った。 凛 「え……? どういう事?」 キャスター「―――なに、天才には凡人の悩みは判らない、というヤツだ。 凛は優等生すぎるから、落ちこぼれである彼の苦悩に気がつかない。 まあ、彼自身も偏屈な変わり者のようだから、あまり気にすることではないだろう」 あの短いやり取りに何を見たのか、意味ありげに呟くと いや、なんでもないと言いながら首を横に振る。 士郎「……、慎二……。」 居なくなった相手に向かって、ぼそりと文句を言う。 答えなど返ってこない。 やけに頭に残る慎二の言葉を反芻しながら、俺たちも入り口に向かっていく。 言峰「待て。私からも一つ訊きたい事がある」 士郎「――――――――」 去ろうとした足を止める。 士郎「なんだよ。手短に済ませてくれ」 言峰「先ほどの彼に対して言った言葉は本当か? 多くの罪なき人々を殺めた少女一人を救うというのは? 彼女の罪も全て背負い、擁護するのか?」 士郎「―――ああ。もう決めたことだ」 言峰「―――そうか。衛宮切嗣の跡は継がないという訳か」 淡々とした声。 話を聞いていた神父は失望したように、つまらなげに俺を見る。 士郎「切嗣(オヤジ)の、跡だと……?」 言峰「そうだ。おまえの父親は、人間を愛していた。 より高く、より遠く、より広く。際限なく自らの限界を切り開く人間を愛し、その為に、自身を絶対の悪とした。 あの男ならば――――やはり、間桐桜を殺していただろう。 ヤツは正義とやらの為に、人間らしい感情を切り捨てた男だからな」 士郎「……それは、アンタとは違うのか。 正義の為に―――多くの幸福の為に、一人の人間の幸福を切り捨てると」 言峰「―――いや。おまえたちが幸福と呼ぶものでは、私に喜びを与えなかった」 士郎「え……?」 返答になっていない。 いや、そもそも。 淡々と語る神父は、俺を見てさえいなかった。 言峰「そう、違ったな。 ヤツは初めからあったモノを切り捨て、私には初めから、切り捨てられるモノがなかった。 結果は同じながら、その過程があまりにも違ったのだ。 ヤツの存在はあまりにも不愉快だった。ヤツの苦悩は明らかに不快だった。 そこまでして切り捨てるというのなら、初めから持たねばよい。だというのにヤツは苦悩を持ち、 切り捨てた後でさえ拾い上げた。それが人間の正しい営みだというように」 独白は続く。 言峰「その違いこそが決定的だった。そう。初めから持ち得ないのなら。何故、私はこの世に生を受けたのか」 神父の独白は、誰に宛てられたものでもない。 ……ただ、今の言葉には怒りがあった。 この男にはないと思っていた、本当の感情が込められていた。 言峰「……ふん。それを思えば、おまえに切嗣の跡など継げる筈もなかった。 ヤツは切り捨てる事で実行したが、おまえは両立する事しか実行できない。 おまえと私は似ている。 おまえは一度死に、蘇生する時に故障した。後天的ではあるが、私と同じ“生まれついての欠陥品”だ」 士郎「な……故障って、どこが壊れてるっていうんだ」 言峰「気付いていないだけだ。 おまえには自分という概念がない。だがそのおまえが、まさか一つの命に拘るとはな。いや、それとも―――」 多くの命に拘る、のではなく。 一つの命に拘るが如く、全ての命に拘ったのか。 ――――そう。 どこか羨むように、言峰綺礼は独白した。 言峰「―――まあいい。その上で間桐桜だけを救うのなら止めはしない。背負いたいだけ罪業を背負うがいい。 最後に忠告をしよう。 これは私見だがな。間桐桜の精神は存外に強く、聖杯の“呪い”に適合しすぎている。 凛が陽性だとしたらアレは陰性なのだろう。間桐臓硯に落ち度があったとしたらそこだ。 あの黒い影は、臓硯の予想を超えて間桐桜を成長させてしまった。 臓硯(アレ)がおまえに手を出してきたのはその為だろう。 ―――間桐桜を守るがいい。 羽化に耐えられるのであらば、母胎とて死にはすまい」 言葉は返さず、頷くだけで応える。 士郎「言っとくが、アンタの出番はない。そんな得体の知れないモノを羽化なんてさせるものか」 言峰「その意気だ。決して、間桐桜は殺すな。」 ふん、と鼻を鳴らして背を向ける。 ―――この場所に用はない。 早く、イリヤの元に行かないと。 ◇◇◇ 客人は去った。 礼拝堂は元の静寂に戻り、神父はただ一人偶像を見上げる。 ??「――――いいのかね、彼らを逃がして」 その声は背後から。 今まで何処に潜んでいたのか、茶髪の男は愉しむように神父へ問い掛ける。 言峰「かまわん。初めから執着があった訳ではない。彼らが聖杯を求めるのなら止めはしない」 ??「そうだったな。もとより私に望みはない――――その言(げん)が偽りでないのなら、彼らを押し止めるのは道理に合わない」 くつくつと男は笑う。 神父の言葉。 望みはない、と告げた言葉をからかうように。 「――――――――」 無論、それは偽りではない。 もとよりこの男に望みなどないのだ。 聖杯の力など、真実、言峰綺礼は必要としない。 彼にあるのは、ただ徹底した快楽への“追究”のみ。 聖杯は己が望みに応えるだけのもの。 自らに生じる疑問に、自らが良しとする答えしか生み出さない願望機だ。 そのような“自分が望んだ答え”になど、果たして何の意味があるのか。 言峰 「“アサシン”そういうお前こそ、前キャスターや間桐兄妹への干渉など、直接動いているとは 消極的なおまえにしてはらしくないな」 アサシン「雇い主への配慮だ。不確定要素により事が大きくなっていくのは、私としても好ましくない。 君に雇われた側として、悪評を立てないよう努力したつもりだが」 言峰 「それは礼を述べなければならないな。 ……だが、そうなると先の要請については悪いことをしたな。 お前はアレに興味を抱いていたが」 アサシン「ああ。だがそれはもういい。 聖杯のサンプルとして生きたまま捕まえたかったが、 少しばかり特殊すぎる。扱いやすいサンプルとは言えないし ―――憎しみにかられて、いずれは手に負えなくなる 破壊によって生まれた人間は、憎しみを武器とし、 私と君の虚ろさは、それに焼き尽くされる結末を迎えるだろうからな。」 それは発端を同じくするもの。 一つの地より生まれ、一つの解を得て、まったく違うものに別れた蛇。 血の繋がりはない、だが誰よりも虚ろな欠陥を共有する者たち。 憎しみはない。 聖杯に託す願望もない。 だが、それより強い快楽のために立ち上がる。 言峰 「10年前からの求道に新たな答えがこの闘いの果てに得られるかもしれん。 それが一体どのようなものなのか……問わねばならん。探さねばならん。 この命を費やして、私はそれを理解しなければ」 残滓のような微笑の兆しは綺礼の顔に張り付いたまま残った。 それは己と世界の有り様を受け入れ、それを是とする者だけが浮かべうる、悠然たる悟道の笑みだった。 アサシン「ふっ、……それでいい。神すら侮蔑してしまいかねん君の愉悦の解は、 この私、ギュゲースが最後まで見届けてやろう」 歪んだ笑みを顔に貼りつかせたまま、アサシンは神父と共に眼前の偶像を眺めていた。 ◇◇◇ ランサー「お前さ、さっきから変だぜ」 ランサーはフェンスを乗り越えながら、フェンスの手前で待つ慎二に言った。 昼はとうに過ぎていた。 ランサー「ほら」 ランサーはフェンスの上から下にいる慎二に手を差し出す。慎二がその手を掴むと軽々と引き上げられる。 ランサー「軽いな、お前」 フェンスを乗り越えると、慎二はランサーの手を払う。 ランサー「なんだよ」 慎二 「ほっとけよ」 慎二が先に立って歩きだす。 ランサー「あーあ、やっちまったなぁ」 そう言って慎二の顔を見る。 ランサー「まあ、あれだけ言われりゃ、手も出るけどな。まっ、このままほっといてもあのヘボパンチだ。気にはしねぇだろ」 慎二は、ようやく自分が何をしたのか理解した。 肩にぽんと手が置かれる。 慎二は思わず、その手を振り払う。見ると、驚いたランサーの顔があった。 ランサー「なんだよ、人が心配してやってるってのに」 慎二 「ほっといてくれよっ」 ランサー「なんだよ、むかつくなあ。お前さ、自分の置かれてる立場考えてみろよ。 マスター殴ったら、よくて交戦、悪けりや土に御帰りだ。お前、友達いないんだろ。 だったら明日にでも謝って、闘っても見逃してもらえるように仲直り――」 慎二 「お前に僕がわかるわけないだろ」 慎二はランサーの言葉を遮り強く拒絶し、家への帰路を歩く。 部屋に戻るなり、明かりも点けずに慎二はベッドに横たわり、天井をただじっと見つめる。 ――最悪だ。 この苛立ちの原因が何なのか、わからないでいた。 夢酔いのせいで気分が悪いからそうなるのか。 衛宮の馴れ馴れしさがそう思わせるのか。 遠坂の威張りくさった態度に腹が立つのか。 教会で、あの怪しい男に会ってしまったことが原因なのか。 間桐家に適応できなかった自分の過去が、そう思わせるのか。 沸々と沸きだす感情に慎二は身悶える。 消えてしまいたい。 慎二はそう思う。 目に飛び込むすべての視覚情報が邪魔だった。 耳に飛び込むすべての聴覚情報が邪魔だった。 匂いも、味も、触感も、すべてが今の自分には必要ないものだった。 目を閉じてみる。 耳を塞いでみる。 息を止めてみる。 心を閉ざしてしまいたかった。 慎二は感覚神経のボリュームを絞るイメージを思い描く。 次第にすべての器官が痺れるようで、どこか深いところに体が沈んでいく感覚があった。 どこまでも沈んでいく感覚。 ひたすら深い海の底へと沈んでいく――そうした感触に似ていると思った。 事実、そうしたことを体感したことはないのだが、なぜかそう思うことで納得できたのだ。 二度と浮かび上がれないような恐怖が訪れ、そこでボリュームを絞るのを止めた。 代わりに頭の中に思い浮かんだのは、夢の中に現れた青年だった。 確かに、あの青年だった。 そう慎二は確信していた。 青年は慎二に手を差し伸べている。手を伸ばせばすぐにでも届きそうに思えた。 青年のいる世界が眩しく感じられる。堅く目を閉じているのに、さらに目を閉じようとする。 瞼に力が入り、眉間に痛みを覚える。 これは夢なのだ。記憶の中の心象にすぎないのだ――と慎二の理性が叫ぶ。 だがあの世界に行きたいと、慎二の意識が叫んでいた。 慎二はどこかでこうした体験をした記憶があるのを感じていた。 届きそうで届かないもの。 彼の記憶の底に沈めてあるはずの記憶が浮上し始める。 ――ああ、これはあのときの夢の続きなんだ。 ただ荒れ果てた草地を延々と長い歳月進んで行く。 セツリ酋長たちはとうとう軍隊を返して、 低い地方の旅へと上り、一年の月日も終わろうという頃、 大平野を真下に見下ろすとある山脈へと来た。 広々とした大平原のここかしこにトウモロコシ畑に囲まれた大きな町々が見え、 幾千幾万の牡牛が低い丘の上で啼いている声を聞き、喜び騒ぐ全軍を押し鎮めて、 町からは見えない、とある大きな谷間に陣取る。 「酋長、酋長どちらへおられますか?」 そこは、簡素な陣の中だった。 谷間に吹きすさぶ風が声なき咆吼を放ち、掛け棚には様々な武器が雄渾に躍る。 かそけき明かりすら電気ではなく、松明に火を灯す灯である。 内装から調度品といったものは一切ない、その陣は必要最低限な物で統一されていた。 藁の隙間から忍び込むのは、はるか頂上たる山を渡って届いた風。 だが運び込まれたその夜気は、火煙と炭の匂いを孕み、過ぎし日の開豁(かいかつ)な爽気はない。 「酋長、酋長どちらへおられるんですか? 出てきてくださーい。ううっ、早く見つけないと…… 私、怒られてしまいますよ~。ひーん。」 そこをあちらこちらと探しているのは、まだ幼さを残す見目麗しい少女だ。 外を歩けば、血気盛んな男たちの目を惹きつけるその可愛らしい顔も 今はどうしたことか不安そうに目を潤ませ曇っている。 「酋長、うえーん。どこなんですか~。 ほんとにほんとに泣いちゃいますよ。うう、また怒られちゃう~。 ぐすっ、ひっく。」 今にも泣き出しそうなこの子は、酋長の身の回りの世話を任されている一人である。 といっても、別に大した仕事はしていない。 普段は部隊の食事の炊き出しや、装備の手入れといった仕事をこなしている。 男は狩りと戦を、女は食事作りと雑事といった役割分担が主な基本であり この子もその例に漏れない。 ただ、かなりのドジで、度々失敗をしては皆に怒られ煙たがられてしまっており、 それを見かねた酋長がこうして自分の側に置いて、別の仕事も兼用させるという建前を作って面倒を見ているという訳だ。 「うわああああああんわんわん!うええええええんえんえん!!」 「あー、ここだここだ。泣くな泣くな」 とうとうガチ泣きしはじめた子を見かねて、セツリは声をかける。 「どこですか?どこ?いないです!わあああああああああんわんわん」 「はあ、わかったわかった、いま姿を現すから、泣き止んでくれ」 すると陣の奥からにじみ出るようにセツリが姿を現し、今だ泣き続ける女の子の頭を撫で付ける。 「あれ?ひっく、酋長どこにいたんですか? 私、鳥のように辺りをくまなく見渡し捜していたんですけど、ぐすっ、全然見つからなかったですよ?」 「ああ、そうだろうな。これを飲んでいたからお前の目には映らなかっただろうよ」 そう話すと、セツリは右手から小さな木でできた容器を彼女の前に見せる。 「ぐすっ、これはなんですか?」 「姿を見えなくする薬だ。 兄君が新しく作った魔法の薬でな、斥候の調査用に調合したものなのだ。 俺も試しに使って、薬の効用を確かめていたんだが、どうやら効果はバッチリのようだな」 くくくっと喉を鳴らし、満足げに笑みを浮かべて女の子をあやす姿は 遊び戯れる父と子のような仲睦まじさである。 「ぐすっ、ひどいですよ~。またいじわるするなんて」 「はははっ悪い悪い。で、どうした?急ぎの用でも俺にあったのか?」 「あっ、そうなんです!なんか斥候さんが帰ってきて至急お伝えしたいことがあります~って みんな捜してたんですよ酋長!」 「ほう?そうか、わかった。急ぎ此処に来るよう伝えに行ってきてくれ」 「あっはい!わかりましたです!」 ほにゃっと笑顔を見せて小走りで、その場を女の子は後にする。 「やれやれ、慌しいヤツだまったく」 ため息をつきながら、酋長の座に腰を下ろし斥候を待っていると 程なくして息を切らせた男たちが、どかどかと酋長の陣の中に入ってくる。 「はあ……捜しましたぞ酋長……」 「うむ、ご苦労だったな。で、なにがあった?」 威厳を込めて、色青ざめた男に聞きただすと 息を整えぬまま男は早口で話し始める。 「た、たいへんです酋長!町が……町の人々が魔物にやられてしまいました!」
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登場人物&能力一覧(第135話) 第136話 第134話 ※登場人物は名前が作品中に明記されておらず 類推に拠るものも含みます ※能力名は作品中のものではなくテンプレのものに統一してあります (135)69「祈りの夜」 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-69 ☆野中美希:空間編纂 ☆小田さくら (135)89「春水ッキーニ」 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-89 ★保田圭:時間停止 ☆尾形春水:発火 (135)128 モーニング戦隊リゾナンター’16 『ムキダシで向き合って』(Promotion Edit) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-128 ☆譜久村聖 ☆飯窪春菜:五感占拠 ☆工藤遥:大神 ☆佐藤優樹:振動操作 ☆生田衣梨奈 ☆石田亜佑美 (135)138 名無し保全中。。。(構成員は狼住民?) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-138 ★ダークネス構成員A ★ダークネス構成員B ★ダークネス構成員C (135)143 聖、許しませんわ 第一話「衣梨奈 孤独の青春」 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-143 ☆譜久村聖:接触感応 ☆飯窪春菜 ☆石田亜佑美 ☆生田衣梨奈 ☆尾形春水 (135)167 聖、許しませんわ 第二話「ワイルド7」 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-167 ☆譜久村聖 ☆飯窪春菜 ☆石田亜佑美 ☆鞘師里保 ☆その他リゾナンターたち (135)200 聖、許しませんわ 第三話「残酷なまーちゃんのテーゼ」 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-200 ☆譜久村聖 ☆石田亜佑美:幻想の獣 ☆佐藤優樹:振動操作 ☆その他リゾナンターたち ★変態野郎:人体標本 (135)222『the new WIND―――共鳴の果てに』 最初から読む http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-222 ☆田中れいな ☆道重さゆみ ☆久住小春 ☆ジュンジュン ☆リンリン ★黒衣の男 (135)247『Chelsy』44 最初から読む http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-247 ※野中美希 ※ジョニー ※班長 (135)304 聖、許しませんわ 第四話「ゴールドフィンガー」(自主規制ver) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-304 ☆譜久村聖:接触感応 ☆工藤遥:大神 ☆佐藤優樹:振動操作 ☆野中美希:空気調律 ☆飯窪春菜:五感占拠 ☆石田亜佑美:幻想の獣 ☆小田さくら:時間編輯 ※ゴッドフィンガータカ:指に纏わる様々な能力 (135)331『死神』 http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-331 ★金澤朋子:幻想の獣 ★矢島舞美:無限回廊 ★萩原舞:慣性歪曲 ★中島早貴 ★高木紗友希 ★鈴木愛理:聞こえない歌 ★宮本佳林 ★岡井千聖 ★植村あかり ★宮崎由加 ★紺野あさ美 ★松浦亜弥 (135)355 名無し保全中。。。(ジョジョ飯窪) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-355 ☆飯窪春菜 ★刺客 (135)365 名無し保全中。。。(怪獣アヤゴン) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-365 ★和田彩花 ★相川茉穂:催眠 (135)369 名無し保全中。。。(天使の涙の幻獣遣い) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-369 ★笠原桃奈:幻想の獣 ※暴力組織の男たち (135)374『Chelsy』45 最初から読む http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-374 ※野中美希 ※ジョニー:磁力操作 ※班長 (135)409 名無し保全中。。。(みちしげさいせ○) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-409 ★ダークネス構成員A ★ダークネス構成員B ★ダークネス構成員C (135)423『the new WIND―――共鳴の果てに』 最初から読む http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-423 ☆田中れいな ☆道重さゆみ ☆亀井絵里 ☆久住小春 ☆ジュンジュン ☆リンリン ☆光井愛佳 ☆新垣里沙 ☆高橋愛 (135)442 名無し保全中。。。(みちしげさいせい) http //resonant4.cloud-line.com/resonant4/logmap/135/135-442 ★ダークネス構成員A ★ダークネス構成員B ★ダークネス構成員C
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【コンセンサス】×、△、○、◎で記入をお願いします。( )内はPCコンセンサスとなります。 [純愛]◎(◎)[妊娠]○(×)[強姦]○(×)[寝取られ]×(×)[同性愛]◎(◎)[異性愛]◎(◎) [異種姦]○(○)[獣姦]○(○)[尿意]○(○) [便意]×(×) [SM]△(△) [グロ]×(×) 【特筆欄】 このPCを動かす上での留意事項(上のコンセンサスの詳細等)を記入してください。 例:痕、後遺症が残るのはNG 寝取られ、強姦、強制などの精神的ショックをうけるものNG スカNG(小はへいき) 過度なSM(痕、精神/肉体に後遺症が残るもの、グロや切断)はNG 【ガープス・魔物娘図鑑キャラクターシート】 キャラクター名:ヴァルディーナ プレイヤー名 : 種族 :竜族 性別 :女性 実年齢 :210 外見年齢 :7 出身地 : 使用合計CP :579.0 残余 :13 名誉点 :160 容貌 :かわいい 異種への感情 :中立 【能力値】 "体力": 修正 :現在値: CP : : : 13: 30:(巨大化時:85) "敏捷" : : 13: 30: "知力" : : 15: 60: "生命" : : 13: 30:114/114 基本移動力:修正値:移動力: 6.25: 0: 6.25: 【荷重】 無荷:軽荷:並荷:重荷:超重荷: : : : : : 【基本戦闘力】 《基本殺傷力》 突き :振り : :2d6-1: 《基本能動防御》 避け:受け:止め: : : : 【武器と装備】 名称 :攻撃 :致傷力:射程:受け: LV :詳細: 両手剣 :振り/切り: 2d+28: 0C: 00: 00: : : : : 0C: : : : 【防御判定系】注:能動防御、防御判定の欄には合計値を記入してください 防具名称 :受動防御:能動防御:防御判定: : :避け:00: 00: : :受け:00: 00: : :止め: : : : : : : 【防護点系】 防具名称 : 点 :詳細: 防護点 : 00: : : : : 《合計》 : 00: : 【特徴や癖、及び妖力】 名称 : CP :参照: 《必須の特徴》 : : : ・魔王の加護 : 30: : ・人間への感情:中立 : -5: : ・容貌:かわいい : 15: : ・特殊な背景:魔物である : 20 ・敵:主神(稀) : -10 ・長命 : 5 ・名声:反応修正-3 :-7.5 ↑主神の信者:大集団:必ず気づく ・アクティブソナー : 25 ・魔法の素質3Lv :35 ・巨大化(ドラゴン化)2Lv : 24:瞬間(20%) ドラゴン娘特徴 容貌:畏怖なる美/名声:ドラゴンを知っている人に対して反応修正が+6 ・追加防護点(10Lv) : 40(10点) ・追加防護点(無属性限定5Lv) : 10(5点) ・追加防護点(炎限定10Lv) : 10(10点) ・追加HP :50.5(101点) ・追加体力(85) : 86:巨大化時のみ:(-20%) 疲労消費(-30%)(6点/1分) 疲労点:40 突き:9D+2 振り:11D+2 ・牙 : 5: :『突-2、切り』 レベル1(DMG+1) ●牙 必要CP:5CP/L この妖力を1レベル獲得すると噛み付きによる攻撃のダメージが『突-2、切り』になります。 さらに5CP消費することでダメージの型を『突-2、刺し』にできます。 レベルごとにダメージを+1します(ただし武器の手と同様に体力と同数までとなります。) ・鉤爪 : 12: :ダメージ+2 飛行時のみ(-20%) ・武器の手(分離) : 47.5:26:両手持ち(0%)充電:1時間(-30%)飛行時のみ(-20%) ・翼での飛行 : 30: ・カリスマ(1Lv) : 5: ・妖術抵抗(5Lv) : 15: : ・我慢強さ : 10: : ・直情 : -10: : ・放火魔 : -5: : ・親友や仲間に対する義務感 : -15: : ・朴訥 : -10: : ・高慢 : -5: : ・性欲過多 2LV : -4: : ・気前が良い : -5: : ・お祭り好き : -5: : ・怠惰 : -10: : ・弱点:精を一ヶ月に一度摂取が必要(発情期):-20 癖 おもらし(尻尾弄り):-01: : 癖 素直になれない :-01: : 癖 どこでも寝る :-01: : 癖 よく拗ねる :-01: : 癖 一定時期発情する :-01: : : : : 《総計》 +CP : 625.5: : -CP :-116.5: : 合計CP : 509.0: : 【技能及び妖術、呪文】 名称 : Lv :威力: CP : PG : ・高位魔物語 : 12: : 1: ・竜語(母国語) : 15: : 2: ・巨人語 : 12: : 1: ・エルフ語 : 12: : 1: ・ドワーフ語 : 12: : 1: ・妖精語 : 12: : 1: ・神秘学 : 12: : 1: ・考古学 : 12: : 2: ・歴史 : 12: : 2: ・歌唱 : 13: : 1: ・探索 : 14: : 4: ・格闘 : 15: : 4: ・武器の手/両手剣 : 15: : 8: ・ブレス(炎) : 12: 5: 33:瞬間(20%)扇形2L(20%)巨大化時のみ:(-20%) 疲労消費(-30%)(6点) ・妖術:精吸収 : : 1: 3.5:威力レベル:1 精度レベル:生命力-4 ・技能:性的魅力 : 12: :0.5 ・呪文:体力賦与 : 16: :1.0: : ・呪文:生命力賦与 : 16: :1.0: : ・呪文:小治癒 : 16: :1.0: : ・呪文:大治癒 : 15: :1.0: : : : : : : 《総計》 : : : : : +CP : 70: : : : -CP : : : : : 合計CP : 70: : : : 【所持品】 名称 :金額: 重量: 携帯食 : 50: 5kg:25個 必需品セット : 5: : ロープ : 5:0.7kg:30m 金額15、重さ2.1kg リュックサック : 60:1.5kg:20kgまではいる リュックサック : 60:1.5kg:20kgまではいる 水袋 : 10: :4リットル 毛布 : 20: :3 寝袋 : 100: :3 夏服 : 20: 1kg: 冬服 : 60:2.5kg: エッチな服 嗅覚判定に+1 ヴァルの体臭を増幅させる効果 エッチなブラ アルナへのお土産 1500G相当 水着2着 : : : 夏用高級ワンピース : : : ドラゴン種用茶っぱ1kg分 ≪淫魔の鎧≫ : : : ≪服従の首輪≫ : : : ≪禁欲の輪≫ : : : 《総計》 : : : 【所持金】 85857$ 【キャラ設定】 成長予定メモ [妖力] ・追加体力(50) : 155:疲労点:37 突き:5D+2 振り:8D-1 武器の手 1~26レベルまで(無属性(0) 火(10) 冷気(10) 電撃(10) 光(10)) 27~40レベルまで(無属性(0) 光(10) 叩きへ変化(‐30)) [技能] 【セッション履歴】 ●まとめ 1/10 【商人護衛任務】 GM REID メンバー ソール(きゅうび) ユキ(笛原光紀) ヴァルディーナ(SIX) ササラ(マヤ) 獲得CP 6 報酬 一人2250G ○まとめ 「天使の襲撃」 GM 龍の音 メンバー:ヴァル(SIX)フォーヴス(レイド)フォウミ(くろ)ユキ(みつき) 取得CP 6 報酬:一人1500G ●2011/01/19 【孤島の神殿跡】 GM:clo 参加者:ヴァイス(ZIN)、ヴァル(SIX)、ソール(きゅうび)、ロメリア(龍の音) 獲得CP:6点 報酬:一人1950G+5点分のパワーストーン(売値600G) ○まとめ 【常闇島の探索】 GM:龍の音 メンバー:レチュリー(西)ソール(キュウビ)ヴァルディーナ(SIX)ユーディット(くろ) 取得CP 6 報酬:一人2750G ●2011/01/21 【くらいばしょ?】 GM:clo 参加者:イム(龍の音)、ヴァル(SIX)、和耶(手塚あき)、フォーブス(レイド) 獲得CP:6点 報酬:一人200G+マナの大樹の枝(売値4000G)×2、マナの大樹の葉(売り値1000G)×2 ●まとめ 【常闇島/森2】 GM 龍の音 メンバー:フォーヴス(レイド)ソール(きゅうび)アシズ(くろ)ヴァルディーナ(SIX) 取得CP 6 報酬:一人2029G+北を向く杖(教団印) ★オリジナルアイテム【虜の果実】 概要:ハートの形をした果実 重量:200g この実を食べると一週間の間精吸収のさいに疲労しなくなる。 食べたのが男性の場合、その男性に精吸収を仕掛けた魔物娘も疲労しない。 フレーバーとして発情効果がある。 また、とても美味。 ★北を向く杖 概要:木で出来た普通の杖 重量:2kg 魔法《方向計》がかかった魔化アイテム 命令すると北に倒れる、家を指し示すように命令すると遙か遠くの教会を指す。 また、主神印が付いているので新魔物国では売る事ができない。 この主神印を見られると新魔物国では主神の手の者と勘違いされる可能性アリ。 主神印を消すと魔法は失われる。 01/23 シナリオ名:ふんわりチョコ雪見だいふく GM:きゅうび 報酬:2500G 経験点:6CP ●2011/01/25 【灼熱の冬】 GM:clo 参加者:アルナ(シエル)、ヴァル(SIX)、レチュリー(にし)、ユキ(みつき) 獲得CP:6点 報酬:一人2000G ●2011/01/26 「廃墟探索」 参加者:斑鳩(zin) シノノメ(Librarian) アルナ(C_CieL) GM :SIX 獲得CP:6 報酬 :1600G ●2011/01/27 「河童の温泉」 参加者:フォーブス・ロメリア・レチェリー・ヴァル・アルナ GM :ジン 獲得CP:6 報酬 :1500G+温泉無料券20枚 ●2011/01/28 【ある日の冬の森で】 GM:clo 参加者:和耶(手塚あき)、ヴァル(SIX)、フォーヴス(レイド)、レチュリー(西) 獲得CP:6点 報酬:一人2200G ●まとめ 1/30 【選ばれし者とは】 GM REID メンバー 和耶(手塚あき) ソール(きゅうび) カウス(西) ヴァル(SIX) 獲得CP 6 報酬 一人2000G 治癒のエリクサ×5 ○まやさんGM 6cp、1300G GM:龍の音 メンバー:早世(S-doll)イルム(九尾)ヴァルディーナ(SIX)レチュリー(西)ユキ(みつき)アルナスル(しえる) 取得CP 6 報酬:一人1つ『幸運』のエリクサ ●シナリオ「幻の美女」 参加者:ディラック(REID) 早世(S-Doll) ライラ(しえる) ユキ(みつき) GM SIX 獲得CP:6 報酬:1600G ●2011/02/02 【ほしのこえ】 GM:clo 参加者:フォーブス(レイド)、ソール(九尾)、ヴァル(SIX)、レチュリー(にし) 獲得CP:6点 報酬:一人250G+黒剣座の宝珠(20点分のパワーストーンと装飾。売却価格10000G相当) ○まとめ 2011/2/5 【常闇島final】 GM 龍の音 メンバー:ユーディット(くろ)フォーヴス(レイド)シノノメ(司書)ヴァルディーナ(SIX) 取得CP:7 報酬:一人10000G+黄金のティアラ(非売品) ●黄金のティアラ 概要:魅入られるほどに美しい黄金のティアラ 重量:軽量 効果 このティアラに知的生物の血をふりかけると5分の間、装着者の知力、体力、生命力、敏捷が+1されます。 ただし、1Tにつき最大HPの10%が吸い取られます。これによって失った最大HPは一日の休息以外の手段で回復することはできません 失った最大HPは1日の休息につき20%回復していきます。この休息は分けてとることができません。 この効果によって死亡した場合はどのような種族であろうとヴァンパイアとして復活します。 ヴァンパイアはこのティアラを使用することができません。 また、売却することは可能ですが、売却すると世界中のヴァンパイアから敵視され、抹殺されます。 売却した場合、その売却したキャラがロストとなります。 ●2011/02/18 【ぎんいろ?】 GM:clo 参加者:ヴァル(SIX)、エイス(みつき)、カウス(西)、アルナ(シエル)、ソール(きゅうび) 獲得CP:6点 報酬:一人1700G ○まとめ シナリオ:ESL(えいぎすせくしゃるらんど) 参加者 :キキリ(アルカ)、ユキ(みつき) GM :SIX 獲得CP:6 報酬:各自1500G+25枚のESL優待券 ●2011/03/01 【心の在り処】 GM Librarian 獲得CP:6点 参加者:J.R.フォーヴス(REID)、フォウミ(clo_)、ヴァルディーナ(SIX_) 報酬:一人1500G+パワーストーン各種(合計2400G)+ ☆《ごちそう》の机 ●まとめ 2011/3/29 「不思議のダンジョン3」 GM 龍の音 メンバー:フォウミ(くろ)マクベス(レイド)シノノメ(司書)ヴァルディーナ(SIX) 取得CP 6 報酬:全部売り+ゴブリンからのお礼:1500G ●まとめ 4/23 【おかしなダンジョン】 GM REID メンバー フォウゼ(手塚あき) フォウミ(clo) イム(龍の音) ヴァルディーナ(SIX) 獲得CP 6 報酬 2500G+『カメレオン・ロリポップ』(4000GをPTに支払い、フォウゼが取得) ●まとめ 2011/4/26 【魔物娘の日常】 GM 龍の音 メンバー:フォウゼ(手塚)ソール(きゅうび)ヴァルディーナ(SIX) 取得CP 6 報酬:0 購入アイテム詳細下記 ●フォウゼ 水着 黒に白レースのゴスロリ服 ☆オリジナルアイテム【幽体ロリータ服】 概要:大きなポケットが前側についた半透明の可愛らしい子ども服 重量:0g 効果: この服は幽体で出来ていて、幽体でない者は触る事ができない。 ポケットには1.5kgまでの実体の物体が入る、1.5kgまでなら大きさは問わない。 ●ソール ヴァルへのプレゼントの背中とお尻が半分くらいまで開いているパレオ(腰の後ろまで隠れるデザイン) ヴァルへのプレゼントの涼しげな色のワンピース ☆オリジナルアイテム【隠しマント】 概要:かなり大きな革製マント、体を包み込むことも可能。 重量:1kg 効果: このマントで体を包み込むと、中でナニが起こっていても外からはただ着用者1人が体を包んでいるようにみえる。 この効果は幻覚であり、音や匂い、触感などをごまかすことはできない。 マント盛り上がっていても盛り上がって居ないように見えるが、外から透明になっているだけでその場所に人が通りかかれば普通にぶつかる。 ☆オリジナルアイテム【敏感パンツ】 概要:ただの下着に見える魔法のパンツ 重量:僅か 効果: このパンツを着用していると全身が敏感になり、全ての知覚判定に+1のボーナスを得ることができる。 ペニスの感覚も例外ではないが、完全に脱いでしまっては効果がない。 ●ヴァル お土産ケーキ アルナへのプレゼントのきわどいブラジャー ☆オリジナルアイテム【勝負服】 概要:ヴァルディーナオーダーメイドの勝負服、採寸した覚えもないのにヴァルにぴったりサイズ 重量:2kg 効果: 目の粗い、完全に透ける白いレースの紐パン。 更に薄いレースのパレオ、留め金は金。 ブラは乳首だけをギリギリ隠すレース。 縦割れがあって乳首だけ少し露出していて、腕には二の腕の真ん中からふわふわに膨れ気味のピンクの肩だしの袖。 そんなヴァル注文のオーダーメイド品 着用していると嗅覚に+1のボーナスが得られ、さらに着用者の香りを周囲に拡散する効果がある。 着用者は常に清潔にしていることが求められる一品。 ●まとめ 5/13 【テクノロジー・ディギング Ⅳ】 GM REID メンバー 鎬(Liblarian) フォウミ(clo) レイシア(龍の音) ヴァル(SIX) ソール(きゅうび) 獲得CP 6 報酬 一人6000G+★先駆者のナイフ ●まとめ 5/25 【アルタード・プラント】 GM REID メンバー 鎬(Liblarian) ベスパ(West_117) フォウミ(clo) ヴァル(SIX) 和耶(手塚あき) 獲得CP 6 報酬 一人2500G+★寄生樹の核 ★素材アイテム【寄生樹の核】 動物に寄生し、凶暴化させる寄生樹の中から発見された、毒々しい紫色の物体。 ●まとめ 2011/6/4 GM 龍の音 メンバー:マクベス(レイド)フォウミ(くろ)ヴァルディーナ(SIX)カウス(西)ルミ(みか) 取得CP 6 報酬:10000G 千里眼、トカゲの肉2t、トカゲの皮1t(2000G) ●2011/08/16 【ぎんいろのもり(3)】 GM:clo 参加者:マクベス(レイド)、イム(龍の音)、ソール(きゅうび)、ヴァル(SIX) 獲得CP:6点 報酬:一人2500G(マクベスは★2つのパーツと★黄金の林檎(売値10000G)買取) ●2012/2/25 【不落城の落城】 GM 龍の音 メンバー:ヴァルディーナ(SIX)フォウミ(クロ)ソール(九尾)ボード(めがねまん) 取得CP 6 報酬 一人1750G フォウミ(幸運の扇入手) ★幸運の扇 外観:綺麗な金装飾が施された扇 重量:軽い 巨大な城の付喪神の内部にあった扇。 初めの娘のモチーフとなった殿の娘の所持品だった。 所有者のファンブルを一回打ち消すことができる。 日付:05/25 タイトル:ダイアとエメラルド GM:きゅうび 経験値:6CP 報酬:1000G+生命のダイアモンド+美のエメラルド 参加PC:ヴァルディーナ(SIX)、フォウミ(くろ)、ユキ(みつき)、マーテル(西) 日付:06/02 タイトル:勇気のルビーと幸運のトパーズ GM:きゅうび 経験値:6CP 報酬:1500G+宝玉 参加PC:フォウミ(くろ)、マーテル(西)、ヴァルディーナ(SIX) ●2012/9/25 【飛竜の谷】 GM タツノオト メンバー ソール(きゅうび)ヴァルディーナ(SIX) 取得CP 6 報酬 各1500G+ヴァルディーナにドラゴン種用茶っぱ1kg分 ●まとめ 2014/10/25 【灰迷宮】 GM SIX メンバー:アシズ(clo)蛟(龍の音)イルム(九尾) ササラ(マヤ) トリミー(みつき) とらのん(ゆうやん) 取得CP 12 取得アイテム:赤い灰(さまざまな遺骸からでた灰、生命力の残滓を元に発揮される媚薬効果あり) 名誉点:30 報酬 1200G ●まとめ 2014/12/25 【クリスマスパーティ!】 GM tatunooto メンバー:アシズ、フィアンマ、フォウミ(clo)トリミー、ユキ(ミツキ)ソール、イルム(きゅうび)ササラ、ルルル(マヤ)ミスティ、システィ、ヴァルディーナ、ゼクス、エリス、アルス(SIX)マーテル、ベスパ、フォルス(西)シノノメ、雪花、クゥ(司書)ラピスラズリ、ラズライト、アレイヤ、レイ(じゅね)スイ(bell) 取得CP 15 注意:このセッションでのCPは出演したPCの中で自由に配分できます。成長の時、明記してください。 取得名声 0 報酬 クリスマスの思い出、-300G(パーティ代はCPを配分したキャラが300G支払う、例えば二人に1CPと14CP配分しても各キャラが300Gづつ支払う) ミスティ 3 システィ 2 ヴァルディーナ 2 ゼクス 3 エリス 2 アルス 3 ●2015/05/20 【古の竜の神殿】 GM:clo 参加者:ヴァルディーナ(SIX) 獲得CP:12点 報酬:0G+≪禁欲の輪≫≪服従の首輪≫≪オルガリズム≫≪淫魔の鎧≫(各アイテムは手元に残す場合、1000Gを支払う事。 売却は出来ない。以降、装備した場合、装備解除にはシナリオ間に1000Gを支払う必要がある。) 名誉点:30点 ≪禁欲の輪≫ ▼外見:飾り気のない指輪の様な形状をした金属の輪 ▼効果:指輪に似ているが指輪ではなく男性器に装着するモノであり、他人に装備させなければ効果が無く、装着させた者にしか外せない。 装着している間、威力レベル10以下に相当する<精気奪取><生気吸収>或いはそれに類した、能力値や生命力、疲労点などを吸収する能力は、装備者には本来の効果を現さない。 代わりにそれらの能力は、対象の<性欲過多>を発動させる(持っていない場合、1レベルと見なして効果が発動する)。 既に性欲過多の影響が発動している場合、その段階が+1される。上限はない。 装備中は<性欲過多>を初めとした発情を引き起こしたりそれに付随した効果は終了せず、解除も出来なくなる。 ≪服従の首輪≫ ▼外見:真っ黒な革で造られた首輪と、付随した黒い鎖 ▼効果:抵抗する意志のない他者につけた場合、効果が発動する。相手が抵抗の意志を持っていたり、自分自身につけた場合は何の効果ももたらさない。 これを装着している者は、威力レベル10以下に相当する<魅了><憑依>を初めとした<意志を捻じ曲げる><乗っ取る>タイプの能力の影響を受けなくなる(自動的に無効化される)。 その代り、首輪を嵌めた相手の命令には一切逆らえなくなる。このアイテムは一度効果を発揮し始めると、嵌めた者以外には外せなくなる。 ≪オルガリズム≫ ▼外見:緑色の透き通った水晶の欠片 ▼効果:これは、ある特殊な触手生物の<休眠状態>にある姿である。この結晶は、何らかの<衣装>を纏った魔物やインキュバスが触れると休眠状態から覚醒する。 目覚めた触手生物は、即座に相手の<衣装>に取り付き、同化・侵食してしまう。 侵食された衣装は、外観上は普段と同じ、或いは僅かな変化しか認めないが、その内側に媚薬や粘液を分泌する無数の絨毛を備えた≪生物≫へと変化してしまっている。 それは着用者が完全に破壊しない限り幾度でも再生し、不定期に蠢動しながら着用者を責め苛みながら精気や魔力を吸収する。 使い手は何らかの判定を行う際に常に+1のボーナスを得るが、代わりに1点の疲労点を装束に吸収される。 この効果は制御する事は出来ず、判定を行う場合は必ず発動してしまう。 ≪淫魔の鎧≫ ▼外見:手足と肩だけを覆い、本来隠すはずの胴体の大部分、特に秘所や股間などを全く隠していない、淫らで扇情的な甲冑装束 ▼効果:装着者の潜在能力とかその他色々を開放するとされる魔法装束。一度装備すると、衣装として固定され、完全に破壊するか呪い破りを行うまで脱げない。 この装束を装備すると、熱属性の直接攻撃妖術が与えるダメージが+1d6される。しかし、この装束を装備して該当する妖術を唱えた場合、即座に<性欲過多>の効果が発動する。 元々性欲過多を持たない場合も、1レベル取得していると見なし影響を受ける。 この効果は通常の方法で回復する事が出来る。しかし、回復しても再び該当する妖術を使用すれば、何度でも再発動する。 http //www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium illust_id=11726094 淫魔の鎧 ●2020/05/05 【北部・混沌領域での戦い】 GM:clo 参加者:ヴァルディーナ(SIX) 獲得CP:12点 報酬:5000G+<魔眼封じ(下記参照)>+<ぼやけた杖(自分にだけ”ぼやけ+5”の魔法が掛けられる杖。売値6250G)> 名誉点:20点 <魔眼封じ> ▼外見:真っ黒な布に目を意匠化したような紋章が描かれた目隠し ▼説明:視覚を封じ、羞恥心を増幅して心の力を高める中二病アイテム ▼効果:装備中は視覚を封じられるが、妖術の精度レベルが+2される。脱着に10秒かかる。 ●2020/05/09 【混沌の荒れ野:龍娘とメイドと冒険家の場合】 GM:clo 参加者:ヴァルディーナ(SIX)ジーン(にし)トリシャ(めがねまん) 獲得CP:12点 報酬:一人3000G 名誉点:30点 ●2020/05/09 【ランダムトラップダンジョン:世界各地の旅】 GM:clo 参加者:ヴァルディーナ(SIX) アザリー(ゆうやん) ロメリア(龍の音)トリシャ(めがねまん) 獲得CP:12点 報酬:0G+(ヴァル100G)+レンのガラス(小さなダイヤモンドが握られていた。それは覗き込むと、時にこの世、この時間ならざる不思議な光景を映し出す。……もしかすると、向こうからも見られているのかもしれないが、確認しない方が幸せかもしれない。売却価格10000G) 名誉点:20点 ●2021/11/30 【ヴァルのアポクリファ探索録、第一巻】 GM:clo 参加者:ヴァルディーナ(SIX) 獲得CP:12点 報酬:18000G+<素材:竜の皮膜の欠片>+<ほうちょう> 名誉点:30
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前ページ次ページゼロの魔王伝 ずんずんと風を切ってルイズは歩く。 小さな肩をいからせ、つい、と右の人差し指を立てて、講釈する教師の様に足と口を休まず動かしながら、キュルケの生家であるフォン・ツェルプストーの家系とキュルケがどんなにはしたなく、非常識であるかをDに語り聞かせていた。 聞かされる方のDは、聞いているのかいないのか、いや九割九分九厘聞き流しているのだろう。 ルイズに一瞥を向ける事もなく、早朝の光の中に落とされた闇の異端分子の様に黙々と足を動かしていた。 ルイズの歩調に合わせた速度で並んで歩いている。時折すれ違う生徒や教師達が旅人帽の下に在る美貌を認識した瞬間腰砕けになってその場に座り込む事が何度か続いた。中には何を考えているのか両手を組み、敬虔な信者の様にDに祈りを捧げる連中もいる。 後に学院でDの顔を見た者達を“信奉者”と呼ぶようになるのだが、その理由がこの祈りを捧げる者達の姿が多く見られた事だった。 その途中、Dが足を止める。ルイズは先ほどから絶え間なく口を開いており、Dが足を止めたのに気付いていない。 「でね! キュルケのひいひいひいひいおじいさんの……」 「ここが食堂か?」 「え? あ、うん、ここが食堂よ。通り過ぎちゃうところだったわね。でも初めて来たのに良く分かったわね」 「食べ物の匂いと騒がしさじゃな。朝からずいぶんな馳走を口にしとるようじゃの」 「ねえ、D」 ちら、と黒瞳をルイズに向け、Dが先を促す。う、とかすかにルイズがたじろぐが、ごくり、と生唾を飲み込んで自分を激励する。 がんばれ、私! 負けるな、挫けるな、私! 言うのよ、さあ! と脳裏に描いた小さい自分達からの声援を受けて、ルイズは深呼吸を二回ほどしてからDにこう言った。 「私、その声だけはあんまり良くないと思うのよ。いえ、別にあなたのセンスが悪いとか言っているわけじゃないのよ。でもやっぱりそんなお爺さんの声は似合わないわ」 言い終えるやぐっと歯を噛んでDを見つめる。一秒、あ、なんだか虹色の霞がかかってきた、二秒、三秒……う、そ、そろそろ意識が……四秒、Dの美貌を真正面から見つめ意識が朦朧としはじめたルイズをDの声が繋ぎとめる。 「おれもそう思う」 「つれない奴じゃの」 「腹話術なの、それ?」 「さて、お楽しみは後に取っとくものじゃ」 「答えになっていないじゃない」 Kukuku、と意地の悪い声が下の方から聞こえてくる事に、ルイズは眉をひそめたがDがそれ以上口を開こうとしないので追及を諦めた。どうにもこの使い魔は対人コミュニケーションに欠陥があるらしい。 いつか、その声をやめさせようと心に誓いつつ、ルイズは食堂の扉を開いて足を踏み入れた。 学院の敷地内にある五つの塔の内、中心の最も大きな塔の中に在るアルヴィーズの食堂は、広い空間に百人は優に座れる長いテーブルを三列並べたものだ。 左から順に学年ごとに並び、紫色のマントを身につけた三年生が左端、真ん中にルイズやキュルケら黒いマントの二年生、一番右は茶色のマントを身につけた一年生達となる。 これら約三百名前後の生徒達に加えて教師達もまたすべてメイジであるわけだから、三百数十にも及ぶメイジ達がこの学院に居るのだろう。 一階の上にあるロフトで教師達が歓談しながら朝食をとっている。教師も生徒もここで食事を取るようだ。 勉学の場につくもの全てが貴族であるこの学院に相応しく、長テーブルも壁も椅子も、何もかもが精緻な飾りで埋め尽くされ、豪奢なそれらは眼をくらますほどの絢爛さであった。 技量のみならず美意識もまた高いメイジか職人達の手によるものだろう食堂の装飾は、その豪華さゆえにすぐにも飽きを覚えてもおかしくはなさそうだ。 けれど、精密な計算で持って配置されたテーブルの上の食器や籠、壁を飾る石造りの花や木々、目にも鮮やかな色彩の絵画らが訪れるたびに新しい発見をもたらし、毎日利用しても食堂に来る事を作業として感じてしまう事を防いでいた。 あまり関心の無さそうなDの様子に、ルイズは平民だったら驚くわよね、とやっぱり普通じゃないのかしらと疑惑の念を強めていた。 「ふむ。豪華絢爛さではわしらの知悉しておる貴族共に遠く及ばぬが、なかなかのものじゃ。八十点といった所かの。おい、そこらの食器か燭台のひとつでもガメておけ。先立つ物はあるに越したことはない」 「……」 「なにをぶつぶつ言っているの?」 「なんでもない」 「ふぅん?」 Dはともかく、あの左手は信用できないわねぇとルイズ。と、ふいにずわわ、とうなじの辺りからなにか冷たいモノが駆けのぼってくるのに気づき、食堂の方を振り返り 「ひゃっ!?」 自分の傍らの使い魔に集中している三百人以上の視線に気づき、可愛らしく悲鳴を挙げた。物理的な圧力さえ備えているような視線が、針の様にルイズの肌に突き刺さる。 本当に血を噴いているのではないかという錯覚に気が遠くなり、ふっと倒れ掛かるルイズを、逞しい右腕が支えた。Dである。 きゃあ、うおぉ!? と男女織り交ぜた悲鳴と怒号が重なった。Dの腕の中に倒れ込んだルイズへの嫉妬と羨望が憎悪の渦に巻かれて食堂の中に充ち溢れた。空気をどす黒い色に染めそうなほどに濃い。 感情を物質に変えられたなら、食堂どころか学院の敷地内を埋め尽くす事だろう。きゅう、とDの腕の中で目を回すルイズを一目見てから、Dが食堂の中の全員を見回した。 操り糸を斬られた人形のように、次々と食堂の中の生徒達が倒れ伏しはじめた。倒れる人々が波の様に続いてゆく。 Dの視線にさらされた至福の歓喜によって興奮の余り失神したものはまだ幸福であった。そうでない者達は、さざ波のようにDの影から四方へと放たれた気に打たれて昏倒していた。 明確な殺意を込めれば、常人の心臓など容易く止める超常現象じみたDの殺気であった。桶に這った水に一滴垂らされた墨汁の様に薄く薄く広がるそれが、食堂の中を静かに満たしてゆく。 そろりと頬を撫で、首筋をさすり、目に見えぬ気配は生徒達の心臓を握りしめ、脳髄を貫き、容赦なく意識を絶っていた。 がちゃん、がちゃん、と食器を取り落とし、目の前の皿に頭を突っ込む音が重なり、落ちかけたルイズの意識を覚まさせた。うう、とむずがる様な声を上げてDの右腕に支えられたルイズがぱっちりと目を開いた。 ルイズが意識をはっきりとさせるよりも早く、Dはルイズを支えていた腕を離した。ルイズは、ぽけ、と立ち尽くしていたが、食堂に来た目的を思い出して自分の席を目指して歩きはじめた。 自分が意識を失いかけていた数秒の間に、なぜか生徒の大多数が倒れ伏してテーブルに頭を打ちつけているのを不思議そうに眺めている。 隣の席の太っちょのマリコルヌが唇の端から涎を垂らして幸せそうに気を失っているのを、気味悪げに見てからルイズがようやく自分の席に着く。 目の前には鱒の形のパイやら、ローストしたチキンやら、テリーヌ、と朝から肉も魚も野菜も何もかもが盛りだくさんに並び、一口ずつ食べるだけでも満腹になってしまうだろう。 始祖ブリミルへの祈りをささげようとしたルイズが、はたと気付いて固まった。傍らに立ったDの方へ、錆びついたブリキ人形を思わせる動きで首を向ける。ぎぎぎ、と骨が鳴っていたかもしれない。 「D……」 「なんだ」 「どうしよう。あなたの朝食を用意するよう厨房に言うのを、忘れてた」 顔面蒼白のルイズである。Dを刺激する事をいささか過剰に恐れているようだ。対してDは相も変わらずの万年顔面神経痛の表情なので、気にしているのかどうかさえ判別機でない。 「使い魔は別の所で食事を摂るのだろう。別にかまわん」 「そ、そう? あ、そうだこのマリコルヌの席を使ったら? 料理もまだ手を着けてないみたいだし!」 どげし、とマリコルヌを蹴り飛ばしてルイズがにこやかにDに提案したが、とうのDは聞いている素振りも見せずに食堂の外へ出ようとしていた。蹴られたマリコルヌは幸せそうな笑みを浮かべたまま気絶している。 「結構」 「じゃ、じゃあ、食堂の入口――はまずいからまた私の部屋で待っていてね?」 返事はなく、Dは食堂の外へと足を向けていた。その背が見えなくなるのを見送ってから、ルイズはぶはあ、と朝からため込んでいた疲労の息を盛大に吐き出した。 Dの意図した事ではないだろうが、一緒に居ると神経が参ってしまうような緊張感を強いられる青年だ。ルイズの心労はかつてないほど重かった。 「Dと一緒に居ると疲れるわ。……でも、ようやくわたしの魔法が成功したのよ。Dみたいなのを呼べたんだから、これからはどんどん魔法も使えるようになるわ」 体の中に鉛を入れたみたいに精神的な疲労は溜まっていたが、それを上回る高揚感を、ルイズはゆっくりと噛み締めていた。 コモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも成功した。しかも呼び出して契約した相手がアレだ。平民か貴族かさえも分からないが、絶対に普通ではない。 やたらと怖い雰囲気が滲みでてはいるが、今のところ理不尽な事を言わない限りはある程度こちらの意を汲んでくれている。 ルイズには未来は明るい薔薇の色に輝いているように見えた。数ヶ月後には、鮮血の赤に変わる薔薇の色であった。 Dは、食堂の外に出てから厨房の裏口に回った。水の一杯でも失敬しようと思ったらしい。だったらルイズに水だけでも貰えばよかったのだが、自分があそこに留まる事で及ぼす影響を考えたのかもしれない。 ルイズの身を案じたというよりは、いちいち生徒達を恫喝する手間を省きたかったのだろう。 厨房の裏口をノックして対応を待った。ここらへん、割と常識的な人である。 は~い、と明るい声がしてドアが開いた。食堂と違いDを目視していないから、厨房の中は今も騒がしい。 メイド服を着こんだ黒髪の少女が顔を覗かせた。朗らかな雰囲気の、親しみやすそうな女の子だ。 開いたドアの向こうに居たDの顔を見つめて、ぽかんと口を開く。精神は虹色に輝く夢の世界へと旅立っている事だろう。 「ふむ、美醜感覚はやはり同じか」 とDの左手から嫌に真面目な皺くちゃの声が聞こえた。勤勉な学者の様な呟きであったがどこか面白がるニュアンスを否定する事は出来ない。 「あ、の……」 ようやく口を開いたシエスタに、Dが短く告げた。 「水をもらえるか?」 「た、ただいま!!」 骨格から蕩け出していたようなメイドが、急に背筋を伸ばして全速力で厨房の中へと駆け戻った。 目の前の男に頼まれ事をしたという事実が、かつてない使命感と奉仕への喜びを少女の胸の中に燃えたぎっていた。 行き交う人々と山と盛られた食材で狭い厨房を、全速力で駆け抜けた少女は、すぐに銀盆に水の入ったグラスを乗せてDの元へと戻ってきた。 頬を染める色は桜の花びらを思わせた。 うっとり、蕩けた視線をDの白皙の美貌に向けすぐに逸らした。意識を維持するためにはこの青年の顔を直視してはいけないと本能が悟ったのだろう。 「どうぞ」 「ありがとう。グラスは後で返す」 「あ、はい。あの、私、シエスタと言います。お名前を伺ってもいいですか」 「Dという」 「Dさん、あのどうしてこの学院に? 衛兵の方には見えないですけれど」 「ヴァリエール家の息女の使い魔だ」 「え、あ。ミス・ヴァリエールの? 噂になっていましたわ! ミス・ヴァリエールが人間とは思えない人間を使い魔にしたって! 人間とは思えないという理由が今わかりました」 確かに人間とは思えない。美しすぎて、だ。瞳の中に星を煌めかせて自分を見つめるシエスタにそれ以上声をかける事もなく、Dは踵を返した。 水一杯飲むのにも人の目を気にする理由でもあるのだろうか。 適当な木陰に入り、腰の戦闘用ベルトに括りつけたパウチの一つから錠剤入りの瓶を一つ手に取り、真っ赤な錠剤を一粒だけグラスの中に落とした。 瞬く間にグラスの中の水は溶けだした錠剤によって真紅に染まり、風には血の匂いがたちこみ始める。錠剤のラベルには乾燥血漿と書かれていた。 言葉通り血漿を特殊な製法で乾燥させて錠剤の形に固形化したものだ。グラス一杯に一粒落とせば等量の血液に変わる。Dの居た“辺境”では闇医者や闇市に行けばいくらでも手に入る代物だ。 この場合、その血へと変わったグラスの中身をDがどうするかの方が、世界の耳目を集めるだろう。 グラスは優雅に傾けられ、血の色を刷いたDの唇に縁を触れさせた。グラスは身悶えさえしていたことだろう。 やがて、グラスの中の血液がDの口腔へと流れ込み、食道を通って胃の腑へと染み渡る。一息に飲み干し、血の一滴も残さずDは自らの体内へと血液を取り込んだ。 陽光を嫌い、血を飲む――すなわち吸血鬼の代表的な特徴であった。血の気が引いた様な青白い肌も、そこだけは赤い唇も、そのあり得ざる美貌も、すべては体に流れる吸血鬼の血の賜物であったろうか。 吸血鬼ハンターD、その身に吸血鬼と人間の血を宿す光と闇の落とし子――ダンピールと呼ばれる存在であった。 飲み干した血の影響か、活性化する吸血鬼=貴族の細胞を感じ取りながら、Dの左手に宿った老人が、ぐりっと左手首を捩じってDの顔を見上げて口を開いた。 「どうにも妙な所じゃ。日の光が地球と同じようにお前の体に作用しておる。通常、太陽の光は地球上でのみ貴族を焼く筈なのじゃが」 Dの居た世界で、地球の覇者となった貴族は太陽系に留まらず銀河系、外宇宙にまで進出し、宇宙の各地でエイリアン達と星を吹き飛ばし、銀河図を書き換える死闘を繰り広げた。 太陽の光の前には灰と変わる貴族達が、宇宙へと進出できたのは、その天敵たる太陽の光があくまで地球上でしか彼らの身に作用しなかった事による。 つまり月面や静止軌道上に建造された浮遊城郭、宇宙戦艦の艦橋でいくら太陽の光を浴びようとも貴族達の体はささいな苦痛も、灰に変わる恐怖も味わう事がなかったのである。 宇宙は、貴族達にとって太陽の光を忌む必要も、避ける必要もない真の自由の世界だったのだ。だが、その太陽の光がこのハルケギニアでは地球と同様に作用し、Dの体の中を流れる貴族の血を苛んでいると左手は言う。 「ひょっとしたらどこかの次元隔壁が常時地球と繋がっておるのかもしれん。肝に銘じておけ、太陽の光の下ではダンピールは本来の戦闘能力を四割かそこらしか発揮できんぞ。お前は特別製じゃからもうすこしマシだがの」 左手の言葉を聞いているのかいないのか、Dはまた歩きはじめた。厨房へと向かっている。グラスを返すつもりらしかった。 朝食の後、自室で授業で使う教科書や参考書、筆記用具を準備していたルイズと合流し、教室を訪れた。ここでも食堂同様の出来事が起きたが、流石に一度Dの鬼気を浴びて本能的な恐怖を植え付けられた所為か、ルイズへと殺到する無言の憎悪は薄い。 その後、教師が入室し、この世界の魔法に関しての講義が続き――Dを見た教師のミセス・シュヴルーズは授業中半分蕩け掛けていた。放っておけば丸一日は夢心地のままだろう――が、どこかぼんやりとした顔でルイズを指名したのが事の始まりだった。 杖を振るだけで机の上に石ころを生み出し、さらにその石ころを真鍮に変えたシュヴルーズの『錬金』の魔法に、Dの左手から感心した声が零れる。 「分子変換かの? ふぅむ、わしらの知っとる貴族共の魔術でも容易くできる芸当ではないぞ。ちとこちらの世界の評価を改めるべきかな」 その錬金の魔法を、ルイズが行う様に、と指名を受けたのである。Dの横顔に視線を集中させてはへたり込んでいた生徒達の間が、はっと意識を取り戻して悲鳴に近い声をあげる。 なにやらルイズが魔法を行うと大変よろしくない事が起きるらしいのだが、シュヴルーズはそんな声を聞き流し、というか耳に入ってこない様子で、ルイズに魔法の行使を促した。 中年を過ぎた女性がうっとりと頬を朱に染めながら、あらぬ方向を見やっているので、ルイズからすればあまり気持ちの良いものではなかったが、せっかくの指名であり、さらにDの見ている前という事もあり、俄然闘志を燃やしていた。 召喚と契約は成功したのだ。ならば、一年生の内に使える様になる者もいる錬金の魔法位は成功させる! 短いルーンの詠唱の終わりと同時に机の上の石ころが盛大に爆発した。机の下に避難していた生徒達は眼を瞑って耳を塞ぎ、その爆発をやり過ごしていたが、ルイズとその傍に居たシュヴルーズはもろに爆発の影響を受けていた。 二人揃って吹き飛ばされて黒板に叩きつけられている。突然の爆発に教室の中の使い魔達が暴れ出す中を、Dは爆発の前と全く変わらぬ様子で椅子に腰かけたままだった。ルイズの起こした爆発に動じていないあたり、流石に肝が太い。 というよりはこの程度でいちいち騒いでいてはいられない環境で、生涯を過ごしてきたのも大きいだろう。 なにやら自分の左手に声をかけた。 「どうだ?」 「ふむ。地・水・風・火の四大要素ではないの。もっと物理的に細かい、分子か原子へ働きかける類かの。 浮遊分子やイオン、塵なんかを操作して不死身の兵士を作り上げる技術があったじゃろ? 比較的そっちよりのエネルギーが働いておった。ほっほっほ、破壊力はなかなかのものじゃ」 「殺傷力はそうでもないようだがな」 吹き飛んだ机や割れたガラスに反し、直接の被害を被ったシュヴルーズとルイズに、さしたる外傷が無いことを見てとり、単なる爆発という現象を起こしているわけではないと、Dが左手に言外に告げた。 「科学も魔術も下の連中かと思うとったが、いやいや、なかなか見所のある事じゃ」 けらけらと愉快気な笑い声をあげる左手を無視して、Dは煤まみれの顔を起こしたルイズを見た。傍らのシュヴルーズは頭を強打したらしく、時折痙攣しながら気を失っている。 それとて、黒板に強かに頭を打ったからなのであって、爆発に晒された体の前面部に目立った外傷はない。なんとも奇妙なルイズの爆発である。 爆発の影響でスカートやブラウスが裂け、不条理な暴力にさらされた後みたいな無残な格好になったルイズが、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した教室を見回して一言 「ちょっと失敗みたいね」 頬についた煤をハンカチで拭きとりながら、である。余ほど慣れているか、肝が相当太いに違いない。周囲の生徒達からの猛反撃はとどまる事を知らなかった。 「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 ハルケギニアに召喚されてはじめて、Dはルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれている事を知った。 浴びせられる罵詈雑言を、つんと澄まして聞き流していたルイズが、自分を見ているDに気づき、鳶色の瞳に恐れと不安の影を揺らめかせた。魔法が使えないというコンプレックスが、もはや血肉と化すまでに植え付け、常にルイズの胸の中で渦を巻く感情。 自分が呼び出した使い魔が、こんな無様な姿を見て失望してはいないかと、ルイズはただそれだけが恐ろしく、不安であった。 同刻、ラ・ヴァリエール領。 ルイズには二人の姉がいる。十一歳年上の長姉エレオノールと、八歳年上の次姉カトレアである。エレオノールは小さな頃からその秀才ぶりを発揮し、今では王立アカデミーの研究員として活躍し、生家を出ている。 次女カトレアは温和な人柄と見目麗しい容貌に、メイジとしてもすぐれた実力を有し、将来を渇望された才女であったが、生来体が弱く大人になるまで生きられないと、多くの医者に匙を投げられていた。 高価な水の秘薬をいくら使っても、どこかを直せば、またどこかが悪くなるという循環を繰り返し、カトレアは生まれてから一度もヴァリエールの領地を出た事がなかった。 カトレアの自室にはあちこちで拾った傷ついた動物たちが走り回ったり、寝転がったりしている。 天井から下げられた籠の中には何羽もの鳥がおり、子犬や子猫が仲良く追いかけっこをしている。様々な種類の草花が植えられた鉢植があちこちに在り、幾重にも折り重なった芳醇な香りが部屋を満たしていた。 可愛がっている妹のルイズに、進学している魔法学院で使い魔召喚の儀式を行うと、送られてきた手紙に書いてあったのが、ちょっとしたきっかけだった。 体が芯から悪く、簡単な魔法の行使でも体調を崩しかねないカトレアは、使い魔の召喚を父母や周囲から禁じられていたが、今度ルイズが帰省してきた時に、お互いの使い魔を紹介しあえたらきっと楽しいわね、と考えたカトレアは杖を取っていた。 ルイズとおなじ桃色のブロンドに、目元は柔らかく常に浮かべた微笑は宗教画に描かれる聖母のものと比べても何の遜色もない。 ゆったりとした部屋着に包まれた肢体は、ルイズと比べて母性を形にしたように曲線を描いていたが、透けるように白い肌が病弱な雰囲気とあいまって、手に取ろうとしたら誤って潰してしまいそうな、可憐な花のようだった。 そよ風にさえ散ってしまう小さな花びらを思わせる唇は、よどみなく召喚のルーンを唱え始めた。 カトレアの部屋の中の動物たちが、鳴き止み、時が止まった様な静寂が訪れた部屋の中で、カトレアの声だけが朗々と紡がれる。荘厳な、一種の宗教的儀式にも通ずる神聖ささえ感じられる。 やがて、カトレアの目の前に大きな銀色に輝く鏡が現れた。 いかにして彼らはハルケギニアに召喚されたか――――???の場合。 一人の青年が、血煙と共にどう、と倒れ伏した。その青年を見下ろすもう一人の人影に、倒れた青年が口を開いた。左右の肋骨の真ん中から脊椎までを割られ、さらに脳天から顎までを斬られている。視界はすでに朱に染まっていた。 「出来……不出来は……仕様が……ねえ」 なんということか倒れた青年も斬った青年も同じ顔をしていた。双子の兄弟であろうか? 自分と同じ顔の二人が互いを見ていた。 「だがよ……愛は……平等を……モットーにしたかった……ぜ……やっぱ……愛されていたのは……おまえか。なあ……せめて……おれと同じ目には遭うな……よ。おれの分…………ま…………」 で、と言い切るのと同時に倒れた青年の意識は暗黒の彼方へと飲み込まれていった。最後まで握りしめていた長剣も、胸元で揺れる青いペンダントも、黒髪を抑えていたつば広の旅人帽も、意識に従う様にして世界から姿を消していた。 永遠の闇の中へと埋没したはずの意識が、海底から長い時を掛けて浮上する様に、どこか漫然としたまま目を開く。途端に走る痛みは割られた顔面と、断たれた脊髄が齎すものだろう。 口中に溢れる血潮を飲み下し、体内の吸血鬼の血肉が歓喜して肉体の治癒を促した。右手には握り締めていた長剣の感覚がある。また体の前面には柔らかい触感があった。硬質の床の上に被せられた分厚い絨毯であった。 自らの体から流れる血潮で汚れるそれを、うっすらと開いた黒い瞳で見つめ、青年は、弁償を要求されなきゃいいが、とどこか場違いな事を考えていた。 浮き沈みする意識が、こちらに向かって近づいてくる気配を感じた。残った力を振り絞れば、右手の長剣に音の壁を破り、超合金製の扉を真っ二つにするくらいの威力を与える事は出来る。 状況の把握は出来ないが、自分の命を取るつもりなら道連れにしてくれると、青年は腹をくくった。しかし、近づいてきた影がうつぶせの青年の体を動かし、その傷の凄惨さに息を飲んでも長剣はピクリとも動かなかった。 こちらを害そうという気配が露ほども感じられないのである。かろうじて開いた視界を桃色が埋め尽くしている。それから、顔面蒼白になってなにやら口を動かしている女の顔があった。 「……大丈夫ですか!? 今お医者様を呼んでいます」 どうやら自分の怪我を心配してくれているらしい。地獄にも親切な奴がいるもんだと、妙に感心した。 「ああ、こんなに血が出て。一体どうしてこんな傷を」 「…………なに…………ちょ……と、兄弟……喧……嘩を……した……だけさ」 「喋ってはいけません。生きているのが不思議なくらいの大怪我なのですよ」 そんなのはおれが一番分かっているよ、と思いつつ、青年が瞼を閉じた。なんだか良い匂いがした。血の匂いとは違う、安らぐような優しい匂い。それに暖かくて柔らかいものに包まれているような感覚。 このまま死ぬのも悪かねえ、と青年は思いながら、再び意識を暗黒の底へと沈めていった。 前ページ次ページゼロの魔王伝
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「ジャック・ザ・リッパーは二人いるのよ」 キャスターは、そう言った。 その意味が、わたしにはよく解らない。 彼女曰く、この殺戮都市の支配者はジャック・ザ・リッパーだという。 これから会いに行くジャックは、わたしの知っているアサシンの方だとも言っていた。 「そもそもね。"ジャック・ザ・リッパー"という存在自体が、無限の可能性を秘めているの。 召喚するマスター、土地、或いはクラス。 ほんの僅かに条件が変わるだけで、全く別な可能性のジャックが召喚されることもある……言ってしまえば、"ジャック・ザ・リッパー"という概念には正解がないってことね。 俗っぽく言うなら迷宮入り。どれが本物でどれがフェイクか、もうどこの誰にも解らない」 「へえー……ってことは、此処を支配してるジャックはばいんなお姉さんだったりするの?」 「んー。それが、ちょっと特殊でね」 ――ジャック・ザ・リッパーというサーヴァントについてわたしが知っていることはあまり多くない。 第四特異点で戦った時はそこまで深く関わったわけじゃないし、カルデアには彼女は居なかった筈だ。 だからわたしは、キャスターの語る全てが初耳だった。 そもそも切り裂きジャックの事件自体公的に解決されておらず、今日に至っても有力説から珍説まで様々な仮説が論じられ続けているほどだ。 そんな英霊だから必然、召喚の可能性も分岐していくのだろう。……合っているかどうかは自信がないけれど。 「殺戮都市のジャックは、あなたの知ってる可能性のジャック"の"別可能性なんだ。 特定の可能性の存在を前提としている……って言ってピンと来る?」 「うーん。正直微妙だけど、すごく特殊だってことは解ったよ」 「ならよし。自分で言っててこんがらがってくるくらいにはややこい話だから、フィーリングでこう、ばーん!! って理解しておいてくれればおっけーよ」 可能性がどうとかいうと途端に面倒臭く聞こえ始めるが、要はクー・フーリンのようなものだろう。 キャスターのクー・フーリンとバーサーカーのクー・フーリンのような違いがジャックで生じている、それだけのこと。 とはいえ、あの子がバーサーカーで召喚されたらどうなるかなんて想像も付かない。 倫敦で難儀させられた情報抹消のスキルが狂戦士のしっちゃかめっちゃかな破壊と組み合わさったなら、その時はまさに悪夢だ。 自分で想像しておきながら、そのあまりの恐ろしさに背筋がちょっと冷えた。頼むから杞憂であってほしい。 「でも、キャスター以外にもサーヴァントの協力が得られるとなると少し気が楽になるなあ。 こんなおっかない特異点で二人旅だなんて、いくら何でも無茶が過ぎるってもんだしね」 「だねー。まあ、あっちは多分まだ話の通じる方だと思うし……」 ――ん? 今このロリ娘、"話の通じる方だと思う"と言ったか? 「あの。キャスターさん」 「どしたの改まって」 「つかぬことをお聞きしますが、アサシンのジャックと面識は?」 「ないよ? ……いだっ!? ちょ、無表情でチョップするのやめて!? こわいんだけど!!」 出会ってから一時間も経ってない相手だけど、よく解った。 このキャスター、確かに情報は沢山持っているのだろうが、根っこの部分が向こう見ずの直進思考なんだ。 言葉からありとあらゆるオブラートを取り払うと、頭がよく見える馬鹿なんだ、こいつ。 さも面識があり、協力を得られるのが確実みたいに話を進めていたのに、なんと彼女がジャックを一方的に捕捉していただけらしい。 その何が不味いかなんて、改めて語るまでもない。相手はジャック・ザ・リッパー。稀代の殺人鬼である。 倫敦の時はモードレッドがいた。マシュもいた。彼女と戦えるだけの戦力があった。 しかし今はそれがない。戦闘に発展したなら、自分とキャスターだけで彼女を退けなければならないのだ。 無言でチョップを落とし続けられて涙目になりながら、キャスターは抗議の声をあげた。 「だ、大丈夫だって! わたしは作家の中でもこう、割と武闘派な方だから!! ジャックなんてこう、ちょちょいのちょいといけちゃうし!? もうキャスターちゃん最強って感じで!!」 威勢のいい台詞の後に「……たぶん」と明らかに自信なさげな声が続いたのを、わたしは聞き逃さなかった。 全くもって頭が痛くなってくるが、冷静に考えてみると、ジャックの懐柔に賭ける以外に選択肢はないのも確かだ。 三都市の制覇。伏魔殿の攻略。それを成し遂げる上で、安心して戦える戦力の存在は必要不可欠といっていい。 キャスターの言を信じるならば、彼女はそこそこ出来るみたいだけど――その辺りを確かめる上でも、一度戦闘を経ておくのは悪い話ではない。 もちろんジャックが素直に協力してくれるなら万々歳だし、此処は一つ、図太く挑んでみるのも手かもしれない。 ……ただ、それを口にするとキャスターが調子に乗りそうなので言わないことにした。 彼女にはもうしばらく、藤丸立香怒りのチョップ攻撃に怯えていて貰おう。ふふふ。 そんなやり取りを交わしつつ、わたし達はジャックが根城にしているという警察署へ向かって歩き続ける。 例のバーサーカーと出くわさないかという不安はあったが、キャスター曰く、「あれと遭遇するかどうかは完全に運みたいなものだから気にするだけ無駄」とのことだった。 程なくして見えてきたのは、また見覚えのある建物。 確か、名前は――そうだ、スコットランドヤード。 辺りには、やっぱり死体が山のように散らばっている。 但しその量は、これまでに通ったどの道よりも多い。 バーサーカー……もとい、ジャック・ザ・リッパーにとって此処は何か因縁のある場所なのだろうか。 こういう時、カルデアとの通信が生きていればすかさず教えてくれるんだけどな。 聞き慣れた彼女達の声がしないことに一抹の寂しさを覚えながら、わたしは更に足を進めていく。 正門を通り、血の匂いを抜けて建物内部へ。 死体と臓物の山は中まで続いていたが、数は僅かに目減りしている。 数だけでなく、鮮度も外と若干違っていた。 具体的に言うと、死骸が古い。 乾いて水気が消え、強烈な腐敗臭を放っている。 ……流石に顔を顰めそうになるが、我慢、我慢だ。 「ジャック、本当に此処にいるの?」 「しっ」 キャスターが、鼻の前で人差し指を立てる。 「此処はもう、あの子の巣なんだよ」 霧夜の殺人者。 ロンディニウムの悪夢。 その猛威は、第四特異点・魔霧都市でしっかりこの目で見ている。 此処に潜んでいるのは、前と状況は少し違うとはいえ、"あの"ジャック・ザ・リッパーなんだ。 確かに、ちょっと気を抜きすぎだったかもしれない。 カルデアの知識もサポートもない、少なくとも現状は、キャスター以外のサーヴァントの助けも期待できない状況。 そのことをちゃんと理解していなければ、容易く命を落としてしまうことにもなりかねないのだ。 おまけに此処は、キャスター曰く異形の特異点。 もっと、気持ちをしっかり引き締めておかなきゃ。 そんな風に、自分の中で少し反省して―― 「――くえすちょん」 聞き覚えのある、けれど親しみのある相手ではない、子供の声がした。 前からでも隣からでもなく、その声は、わたしの後ろから響いていた。 そう、後ろだ。ずっと前に向かって歩いていた筈で、誰かに尾けられていたなんてこともない。 つまり声の主は前進するキャスターとわたしの横を――わたし達に気付かれることなく通り抜けて、後ろに回った訳だ。 そんなこと、当たり前だけど、あるスキルを持ったサーヴァント以外には不可能だ。 その名は、"気配遮断"。 夜陰に乗じて命を断つ、アサシンのクラスのサーヴァント。 後ろの子供の真名を、わたし達は知っている。 「立香!!」 「キャスター!!」 わたし達は全く同時に互いのことを呼ぶ。 背後から銀の一閃が迫っているのが、見てもいないのにはっきりと解った。 人間のわたしじゃ、どうやっても避けきれない。 だから、サーヴァント(かのじょ)に頼る。 今日会ったばかりで、まだ真名も戦い方も知らない相手だけど――そんなのは慣れてるんだ、こっちは。 「わたしごと(・・・・・)、吹き飛ばして!!」 「――りょーかいッ!」 キャスターは作家らしい。 アンデルセンやシェイクスピアの例を見るに、作家系サーヴァント達は基本、あまり火力の高い英霊ではない。 だから魔術礼装を起動させ、"瞬間強化"……今まで何十回と使ってきた十八番の強化(バフ)をかける。 狙いは、襲撃者の攻撃への対処と同時に、わたし自身も吹き飛ばして距離を取ることだ。 そうなると無論、強化されたサーヴァントの攻撃は、わたし自身にも結構なダメージとなってしまう。 そう、これはある種のギャンブル。 信用の置けない相手には絶対出来ない、命をチップにした博打。 それをわたしが躊躇なく選択出来たのは、こういう事態に慣れているからという理由もあるものの……正直なところ、説明しろと言われたら困ってしまう。 よく解らないし、自分でも流石に安易な判断すぎるとは思う。 でも、何となく"彼女なら大丈夫だ"という確信があるのだ。 今は――それを信じるしかない。 臆病風に吹かれて何もしなければ、此処まで散々見てきた惨殺死体の一個に成り果てるだけなんだから。 「"迅剛(・・)なる飴色の風"――!」 迅く、剛い。 キャスターが吹かせたのは、二つの概念を併せ持った突風だった。 風は飴色……比喩ではなく、本当に飴みたいなきれいな色を薄っすら帯びている。 それはわたしのオーダー通り、わたしと、そして襲撃者の彼女を吹き飛ばすことに成功する。 乱暴に廻る視界の中、わたしが見たその顔は、やっぱり予想通りのもの。 「あなたたちは、なにしにきたの?」 ジャック。 アサシンの方の、彼女。 その姿を見た時――思わずぎょっとする。 第四で会った時のそれとは比べ物にならないほど、今のジャックは弱々しく見えたから。 胴体に何箇所か酷い傷があり、手足からも血が滴っている。 顔も明らかに憔悴の色に染まっていて、その傷が浅くないことを物語っていた。 いや……これは多分、浅くない、なんて次元じゃない。 わたしみたいな木っ端魔術師でも解る。 今のジャックは、消滅寸前だ。 霊核こそ無事のようだけど、それ以外の傷が深すぎる。 今すぐにでも回復をしないと、あっさり消えてしまいそうなくらい。 そんな状態にありながら、けれど彼女の目には確かな戦意が灯っていた。 「勘違いしないで、ジャック……! あなたも知ってるでしょ、この子はカルデアのマスターだよ! わたしが呼んだの――だからもう、ひとりで頑張る必要はないの!!」 「……そんなの、どうでもいい」 キャスターの説得も虚しく、ジャックは引き続きナイフを構える。 その動作はあまりにも淀みないもので、少なくとも無血開城は絶対に不可能だということが一発で理解出来た。 ……前に会った時とは、随分雰囲気が違う。 まるで何か、焦ってるみたいだ。 「"あの子"を殺すのはわたしたち。あなたたちのちからなんて、いらない」 絞り出すような声に、キャスターの顔が曇る。 「やっぱり、あなた……バーサーカーと戦ったのね」 「…………」 「いや、"まだ戦ってる"というべきかしら」 こくんと、ジャックは小さく頷いた。 わたしにも、段々話が見えてくる。 要は彼女は――この街を支配する狂戦士のジャックを殺したい、その為に行動しているらしい。 で、戦った結果あんな酷い傷を負う羽目になったという経緯のようだ。 アサシンとしての戦い方に徹したなら、霧都のジャックはとんでもない性能を誇る。 そんなこの子がこんなにボロボロにされたなんて、件のバーサーカーはよっぽど強いのだろう。 いや、それとも……ジャックにとってバーサーカーは、冷静に戦えないような相手なのか。 その答えは彼女しか知らないけれど、きっと両方だろう。なんとなく、そんな気がする。 「とりあえず手当てをさせて。そうしないと、ほんとに消えちゃうわ」 「いらない」 「ジャック――」 何しろ、あんな状態なのだ。 彼女自身、キャスターの言う通りなのは解っている筈。 それでもこうまで頑ななのは、やはり譲れないものがあるからなのか。 「そこまで言うならわたし達は邪魔しないよ、ジャック」 「ちょっ、マスター!」 「でもキャスターの言う通り、このままじゃきみが消えちゃう。 だから――ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから信用してくれないかな?」 確かに、前は敵だった。 今も味方ではないけど、でも今回は前みたいに"絶対に手を取り合えない"訳じゃない。 そんな相手が、無念のまま目の前で消えていくのは……わたしは、嫌だ。 どうにもならないこと、止められないものが世の中にはある。それは知っている。 ……それでも、結末をよくするために働きかけることは出来るんだから。 「……やだ」 そしてそれは何も、彼女の為だけじゃない。 わたしと、キャスターの為でもある。 伏魔殿攻略――ひいては殺戮都市のバーサーカー打倒。 それを成し遂げる上で、彼女の力があるのとないのとでは大違いなのだ。 ナイフを下ろさないジャックに、わたしは怯まない。 「キャスター」と傍らの彼女に呼びかければ、キャスターは力強く頷いた。 まるで何年も一緒に過ごした相棒みたいに、意思の伝達が完了する。 そう、此処からは身勝手な武力行使。力づくで、アサシンのジャックを助けてみせる。 「"粘滑なるゼラチンの小川"!」 キャスターの、呪文とも詩ともつかない詠唱が響くや否や、今度はゼラチン質の濁流がジャックへ襲いかかった。 粘らか且つ滑らかという不思議な特性を持った波は、物理攻撃で迎撃すれば肌や武器に貼り付く"戦術殺し"。 そういった事実がすらすらと頭に入ってくる。これも、彼女の行使する魔術の特性なのだろうか。 とはいえ、ジャックもその程度のことは一目で見抜いたのか、接触すらせず署内のオブジェクトを利用して回避する。 ひゅんひゅんと足場とすら言えないような物々の上を跳び回る姿は、まるで身軽な兎か何かのようだ。 「まだまだ行くよ! "煌冷たる野苺の星"!!」 攻勢には入らせぬとばかりに、キャスターが追撃する。 今度出現したのは、苺の形をした真っ赤に波打つ手のひらサイズの太陽だ。 それは薄暗いスコットランドヤードの廊下を向こう側まで照らしてしまえるほど、眩しい。 なのに発せられているのは熱気ではなく冷気だ。 本物の太陽ほどの勢いではないにしろ、猛吹雪の日に外を歩いているくらいの寒さはある。 そして無論、野苺の星が持つ効果はこれだけではなく。 「はねなさい!」 プロミネンス――太陽が日常的に発生させている天体現象。 またの名を紅炎とも呼ぶそれを、キャスターの創った赤星も有していた。 ただ、それは炎ではなく……冷気。 周囲に見境なく発している極寒を一点に凝縮させたような、指向性を持った極小の寒波。 意思を持った蛇のようにジャックに襲い掛かっていくそれは、一本や二本ではない。 全部で三十六本。虚空で煌めく野苺の太陽から、色合いや輝きとは対照的な冷たさを撒き散らしながら、哀しい殺人鬼の少女を絡め取らんと迫る。 アンデルセンやシェイクスピアといった、わたしの知る前例(作家)と違い、彼女の戦いは攻撃的だった。 エンチャントではなく多種多様な詠唱から、現実離れした光景を作り出しての中距離戦。 それがキャスター……ハートステッキの彼女のスタイルであるらしい。 流石に威力はこれまで見てきた強者達に一歩劣るものの、あの手数の多さは純粋にかなりの強みと言えるだろう。 中でも特に妙なのは、その独特な詠唱だ。 幻想的で非現実じみた内容を実現させるそれの先頭には、最初のときも今回も、二文字の耳慣れない言葉が付いていた。 詠唱の終わりと共に放たれた魔術はどれも、その言葉にちなんだ特性を宿している。 剛く、迅い風。 粘らかで、滑らかな水流。 煌めく、冷たい星。 キャスターの紡ぐ魔術は、まるでおとぎ話の一ページ。 彼女のスキルなのか、或いは宝具なのか。 そこまでは判然としないけれど、あれは普通に行使された魔術ではないと(ほぼ)素人目にも解る。 誰でも手順次第であんな魔術が使えるなら、とっくに科学と魔法の地位は逆転している筈だ。 絵面的には、派手な攻撃の釣瓶撃ちでキャスターが追い立てているように見える。 しかしその実、ジャックはあの状態にありながら、一撃たりとも被弾していなかった。 堅実に回避し、捌けるものは捌き、反撃の好機を待ち兼ねている。 多分、キャスターの戦いは見た目こそ派手だけど、それを扱う彼女自身があまり戦い慣れていないんだ。 その証拠に、彼女の愛らしい顔立ちが、ちょこまかと動き回るジャックに対しての戸惑いの色を湛え始めている。 あれは間違いなく、戦い慣れした人物の浮かべる表情じゃない。 そして、それは心の中で浮かべるならまだしも、戦いの中で相手に見せてはいけない顔。 ジャックはキャスターが思い通りに攻められていない様子を目敏く察知し、高い敏捷性を活かして一気に接近していく。 「――解体するよっ」 「わっ!? ちょ、ちょっとタイム!! タイムって言ってるじゃん!!!」 そんな懇願が聞き入れられる筈もなく、一閃、振るわれたナイフがキャスターの肩口を切り裂く。 斬られた箇所から上等なドレスにじわりと血が滲むのがわたしには見えて、思わず声をあげていた。 「大丈夫、キャスター!?」 「いったあ~~~っ……な、なんとか! まだやれるよ!」 傷は浅いようだが、脅威は依然として去っちゃいない。 ジャックは近接戦、それも相手の動けない間合いでこそ輝くサーヴァントだ。 特に攻撃にも防御にも詠唱というプロセスを挟まねばならず、接近戦の心得などあるわけのないキャスターにとって、この間合いは鬼門以外の何物でもない。 ……かくなる上は! わたしは、礼装に秘められた第二の機能、もう一つの十八番を迷わず切った。 「……あの時とおんなじ」 第四特異点での出来事を思い返してか、ジャックはつまらなそうな声を漏らす。 無理もないだろう。 彼女の刃は今、絶対に当たる筈の間合いで、完全に無反応のキャスターへと放たれたにも関わらず、空を切ったのだ。 キャスター自身の力による回避ではない。 今のは、魔術礼装・カルデアによる緊急回避機能。 瞬間強化と同じく一戦に一度が限度なものの、使い所によっては絶大な効果を発揮出来る虎の子だ。 斯くしてキャスターはマジシャンの脱出ショーさながら、絶体絶命の窮地を脱することに成功した。 自身の無事を確認するや否や、反撃の為にその桜色の唇が動く。幻想の世界を取り出すための、奇妙な詠唱が紡がれる。 「もう怒ったんだから――今度はうんと意地悪にやったげる! "迅粘な白クモの巣"!!」 ふわっとキャスターのドレスがたくし上げられたかと思えば、そこから勢いよく飛び出したのは蜘蛛の巣。 目にも留まらぬ速さで出現したそれを前に、今度ばかりはジャックが近距離の間合いに居たことが仇となった。 その手や足に、蜘蛛糸がべっとりと絡み付いていく。 余程触感が気持ち悪いのか、不快そうにジャックは顔を歪めていた。 「さ、これでもう動けないでしょ? 観念しなさいっ」 「……しつこい」 が、ジャックはまだ終わらない。 彼女の背後から猛烈な勢いで溢れてくる、霧。 見ればいつ出現したのか、廊下の隅にランタンが灯されている。 あれを起点として、この霧が放出されているのは間違いないようだ。 第四特異点の魔霧に限りなく近い性質を持つ霧の前に、折角結び付けた蜘蛛糸が解けていく。 この霧は高濃度の硫酸を含んでいる、幾ら粘り気が強かろうが、蜘蛛糸程度ならば簡単に溶解させられるらしい。 「えっ――」 「おしまいだよ、キャスター」 兎にも角にも、これはまずい。 まずい、展開だった。 まさかジャックが霧をああやって出してくるとは思わなかったのか、キャスターは完全に虚を突かれた様子だ。 ……表情を隠すのが下手すぎる! あまりにもどかしくて、思わず声に出てしまう。 そうこうしている間にもジャックは再び、今度こそ確実にキャスターを殺(と)る為に駆け出している。 どうする。回避も強化も品切れだ。マシュの助けも今はない。 まずい。まずい。このままでは、キャスターが死んでしまう。殺されて、しまう。 それだけは回避しなければならない。どうする。どうにかして。あの子を助ける、手段を。 自分でも不自然なくらいに、この時わたしは、キャスターを助けなければと焦っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それ以外の何もかもを全部忘れ去って、頭を必死に回していた。 わたしの今纏っている礼装にはもう一つ機能がある。 応急手当――本格的な治癒魔術には大分劣るけれど、サーヴァントの傷を素早く回復出来る優れもの。 ただ、それを今キャスターに使ったとして、ジャックの攻撃に彼女が耐えられるだろうか。 この機能では、攻撃そのものをどうにかすることは出来ない。 攻撃を受ける、ないしは受けた前提で、被害を軽くする為のものである。 それでも、ないよりはマシだ――! わたしは魔力を集中させ、礼装の補助で練り上げ、キャスターに回復を飛ばそうとして……そこでふと、あることを思い付いた。 ……うまくいく確率は、すごく低い。 根拠も全くないし、勘に基づいた一手もいいところだ。 でももしかしたら、そのほんの僅かな確率で――うまくいくかもしれない。 うまくいかなかったらその時は、わたしもキャスターも終わり。 けれどそれは、定石通りの手を打っても殆ど同じ……そんな状況なんだ、今は。 だったらわたしは、藤丸立香は、たとえリスキーでも最高の結果を得られるかもしれない方を選ぶ。 一瞬の逡巡の後、わたしは意を決して応急手当を視界の端のサーヴァントに向けて行使した。 ――壊れかけの身体で必死に戦っている、ジャック・ザ・リッパーに。 「「……え?」」 声と声が重なる。 キャスターとジャックの、驚きの声。 驚くのは当たり前だろう。 彼女達にしてみれば、今わたしがやったことは奇行もいいところだ。 追い詰められている自分のサーヴァントを無視して、ボロボロの敵を回復させる。 裏切りにしても唐突すぎるし、悲観の果てにヤケになったと言われても何も文句は言えない。 そう理解した上で、わたしは賭けに出たわけだったが……案の定、キャスターはわなわなと肩を震わしていた。 「な、な、な――なんてことするのよーーーーーーーっ!! わ、わたし、頑張って戦ってたのにっ!! ちょ、ちょっと追い込まれたからって、そんなあっさり見捨てるなんてひどいじゃんっ!! マスターのばかあああああああーーーーーっ!!!!」 「どうどう。落ち着いて落ち着いて」 地団駄を踏みながら抗議してくるキャスターを宥めつつ、わたしはジャックの方に視線を移す。 応急手当が効いてか、傷だらけの身体は幾らかマシになり、重傷一歩手前くらいまでは回復しているようだった。 あの様子なら、自然に消滅するということはないだろう。 そしてその顔は、理解できない、とでも言いたげな困惑に染まっていた。 「……どうして?」 「さっきキャスターも言ったけど、わたし達は別に、ジャックと戦いたいわけじゃないんだ」 「………」 「むしろ、出来れば協力したいと思ってる。それに――」 あのまま行動を続けていたら、ジャックは遠くない内に力尽きてしまっていただろう。 ひとりきりで傷付きながら戦って、最後まで誰も味方がいないままひっそりと消えてしまう。 それはとても、悲しいことだ。サーヴァントとはいえ幼い女の子がそんな目に遭うなんて、決していい気分じゃない。 キャスターのことも心配だったけど、わたしがそういう意味で彼女に思うところがなかったと言えば、嘘になる。 あんなことが思い付いたのは、それも手伝ってのことだったのかもしれない。 「助けたいと思ったんだ。わたし、きみのこと」 「――わたしたち、を?」 きょとんとした様子のジャック。 彼女とわたしを交互に見て、キャスターは溜息をついていた。 しかしその顔には確かに笑みが浮かんでいて、「それでこそあなたよ」と言われているような気分になる。 「別に、信用してくれなくてもいいよ。 でも、少しだけ手伝わせてくれないかな。わたしと、キャスターに」 ――アサシンのジャック・ザ・リッパーは悪意には残酷に応じるが、好意には脆い。 そんな情報を、この時のわたしは知らなかった。 一切の打算抜きで、とんでもない大博打に打って出たのだ。 わたしがキャスターでも怒るし、わたしがジャックでも、答えはどうあれ呆れて硬直してしまうのは間違いないだろう。 「とと、返事の前に傷は治させてね。なんだか見てるこっちまで痛くなってきちゃうし。キャスター、お願い」 「ねえもっとなにか言うことがあるんじゃない」 「もう、まだ怒ってるの? ごめんごめん。だから、ね?」 「ふん」 ふいっ、とそっぽを向きながらも、キャスターはジャックの返事を聞くことなく、治癒魔術を施していく。 応急手当では治しきれなかった負傷が、優しい春風の若草色に包まれて少しずつ、だが確かに消えていく。 ジャックはそんな自分の身体を、何が何だか解らない、といった様子で見つめていた。 やがて治療が終わると、彼女はおずおずとわたしの顔を見上げる。 その顔にはまだ、戸惑いと疑問の色が残っていたが。 「へんなの。全然、意味わかんないよ」 「あはは、よく言われる」 「でも――」 ジャックは、そっとその場に座り込んだ。 張り詰めていた糸が切れたみたいだと思った。 そして、初めて。 「……ちょっと、うれしかった、かも」 そう言って、表情を綻ばせてくれた。 その顔を見て、ようやく、わたしは「勝ったんだ」と心から思うことが出来た。 BACK TOP NEXT 第一節:赫讐の伏魔殿(1) 特異点トップ 第一節:赫讐の伏魔殿(3)
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国主 国是 概要 政治・産業 文化 技術形態 召喚の傾向 国内施設繁華区 海浜区 平山区 関係キャラクター フレーバーアイテムフレーバーアイテムとは三湯巡りスタンプ帳 黒釜温泉スタンプ 紅岩温泉スタンプ 木透温泉スタンプ 特別記念ビー玉 ふえんまんじゅう 温泉蒸しプリン このページについて 国主 「ようこそおいでくださいました。我が歩煙を楽しんでいってください」 ───"煙様火様"弓削上総守保松 国是 「白煙の下を歩く国。死する地に賑わいを」 概要 内湾をゆく船から見て、山から立ち上る噴煙が歩く人影ように見えたことから「歩き煙りの方」などと呼ばれるようになり、いつしか歩煙の地と呼ばれるようになった。 日本列島でいうところの上総(千葉の南房総)の位置に相当する小国。 ジパング内でも有名な観光地を抱えており、その観光産業で切り盛りしている国家だ。 国の中心部に「天狗山」と呼ばれる、さほど標高の無い活火山が鎮座している。 歩煙の名は500年以上前の古くからあるが、国として成立したのはジパング歴710年。 当時の流行り病の流行により、この地へ湯治に訪れる者が増え、財源が確立した。 国として成り立つ前、この地は飢えと渇きに満ちていたが、国が成立して民たちは日々食う事には困らなくなったそうだ。 観光業による財源で国が左右されるため、この地はどこの国にも併合せず、門戸を広く開いて客を迎え入れる。 しかしその一方で、ジパングが天下統一されることがあればその国の属国として下る約束を各地とかわしているらしい。 政治・産業 多彩な泉質と豊富な湯量を誇る湯治の国として知られる。 近在する国柱の影響で常に東への風が吹いており、火山の噴煙を流すとともに西からの航路を半島の腕で拾う形になっている。 その為ジパング東部の中では、西の大国【MGMにお願いしよう】との政治的な結びつきが強い。 戦乱の東北地方よりは西からの富裕層相手の商売が多いため、西の空気を感じたければ歩煙へ行けともいわれる。 ジパング東部の諸国家の中では柾良国、紫苑国や辰浪之国と交流が盛んだ。 (紫苑国の国主がグランドロンに交代して以来、紫苑との国交は断絶している) 特に辰浪之国は交易的結びつき、またジパング東北部の列強へのにらみを利かせる意味合いで、国主保松は辰浪の姫君を正室として迎え入れた経緯がある。 『敵になりえないし味方にする意味もない』というある種の共通認識が出来上がっており、東西の歩調を合わせる場合や、外様の地で行いたくない時にこの国で会談を設けるも多い。 それ故、屋根裏を覗けば間諜がいると冗談めかして言われる事もある。これは冗句の類だが、"米を齧らない鼠"は多い。 国を治める弓削氏は猫好きで有名で、物音がしたら大抵は猫が原因だ。 そういう事に、なっている。 文化 半島の西側は緩い坂道が多く、自然の傾斜を利用した劇場や客席が多く設けられており、港には各地の贅を凝らした食材が荷揚げされ、とても過ごしやすい。 西日も噴煙に遮られやや肌寒い程度だが、温泉で火照った体にはちょうどよく、酒と劇を楽しむに不足はない。 漫才、寄席、喜劇、歌劇、歌舞伎と一通りそろっており、勧善懲悪な全身鎧を用いた英傑ものが人気。 滞在する間は楽しく平和に過ごすことができる。 一方で東側は降り積もった火山灰により土は塩基性に傾き、溶岩の冷えかたまった傾斜地は水はけが良すぎるため農業には不向き。 川の水は温泉の流れ込みにより赤く染まっていて魚はいない。海に出れば豊富に取れるが不用意に沖に出れば風に流されて戻ってこないこともある。 総じて、客地以外の生活は厳しい。客をもてなす金があれば飯にしたいところだが、客をもてなせなければ飯も食えない。 技術形態 緩く幅広の火山からは硫黄が良く取れるため、一時期は関東近辺に流通する黒色火薬の元締めとして名をはせていたが、中津陽による天下平定の折に火薬作成を禁じられ、観光産業への転向を余儀なくされた。 この弾圧は文字通り、玉薬の製造所を爆破することで始められ、そのクレーターは最大の温泉池として名所になっている。 名産として火山灰を溶かしたビィドロを売り込もうとしているが、此れもかつて玉薬を作っていた職人を再雇用してのことだ。 中津陽の締め付けが緩んでも、潜在的な恐怖は残っており火薬作りは再興しない。そこまで回す余力がないともいう。 召喚の傾向 根本的な問題として歩煙国は非常に貧しい国であり、軍を維持することができない。 そのためこの国は積極的な召喚を行わず、現国主保松もその方針に沿っている。 だが一方で、天狗山の鎮静の儀の際、補助として火や大地の幻想種を異界から呼び込む。特別観光区の発展のために異世界の文化に優れた有識者を呼び込む。…等の利用で召喚術は使われているようだ。 歩煙が扱う召喚術は古く、約500年前からほとんど形を変えていない。 これは歩煙が軍事力を持てない理由があったことや、国として成立するまでこの地に技術が流入してこなかったこと、加えて厳しい地であるがゆえに異世界人を喚んだとしても彼らと強く手を取り合って生き延びてきた歴史的背景などが理由として挙げられる。 そのような経緯もあり、歩煙の施設は異世界人もジパング人も分け隔てなく「客」として迎え入れる。 国内施設 特別観光区 歩煙には特別観光区という、国に定められた特別地区が三か所存在する。 この特別観光区は歩煙国の財源の元となる重要なエリアだ。 各地区ではそれぞれ異なる泉質・効能の温泉がわき出しており、各々異なる観光地として売り出しを行っている。 だがその一方で、この三区以外は火山灰に覆われた極めて貧しい村々がぽつぽつと広がっている。 繁華区 歩煙国で一番賑わっている土地。 大通りは人込みでごった返しており、劇場や飲食店で溢れかえっている。 観光客向けに和風の景観を保っているが、店の中はあらゆる文化が広がる。 通りを抜け、大橋を渡ると見上げるほどの大温泉旅館が観光客を迎えてくれる。 tips 千と千尋の神隠し、油屋イメージ 施設名 概説 作成者 歩煙繁華大通り 繁華区、ひいては歩煙国の目玉となる観光大通り。見渡す限りのエンターテインメントや飲食店が並んでおり、観光客を退屈させない。一日中人で溢れかえっており、この通りを駆けることは不可能と言われている。 ラウニー 黒釜旅館 歩煙繁華大通りを超えた大橋の先に構えた、近代和風建築の大温泉旅館。圧巻される全貌だが、宿泊料金は良心的な価格で、プランを選べば旅の浪人だって利用できる。いくつもの内湯や露天風呂、館内も見て回る場所がいっぱいで、一日旅館に引きこもっても退屈しないだろう。歩煙の国には城が無く、この旅館に国主保松は住んでいる。彼は国主であると同時にこの旅館の最高責任者でもある。保松は最上階の私室から、賑わう大通りを眺めている。 ラウニー 黒釜温泉 露天、鎌倉、ローマ、岩窟風呂などのたくさんのデザインの内風呂。電気風呂や炭酸泉、ジェットバスにサウナなど、スーパー銭湯に負けない設備の充実。さらに貸切露天風呂なんてサービスだってあり、あらゆる客層のニーズに応えていく。泉質は「含アルミニウム泉」で、どろりとした赤黒いお湯が特徴。浴用効果は筋肉痛、関節痛、美肌効果、慢性皮膚疾患、貧血、眼病、高血圧症となっている。 ラウニー 三湯巡りスタンプラリー受付所 「歩煙観光センター」とも呼ばれる。歩煙のありとあらゆる観光情報を発信し、観光客への手厚いサポートを行っている。また、歩煙の三大温泉を巡る「三湯巡りスタンプ帳」というスタンプ帳付きガイドブックを無料配布している。スタンプを集めきると、歩煙名産のガラス細工職人によって作られた記念品をもらうことができる。 ラウニー 歩煙演芸ホール 寄席、落語、歌舞伎に能。コントもある。あらゆる芸能を毎日披露している大型の劇場。無名からベテランまで幅広い芸能者が活動しており、ジパングで名を上げたい芸者はまずこの場所を目指す、聖地にて登竜門。難点は余りにプログラムを詰め込み過ぎて、幕間の休憩時間があまりにも短いことだ。 ラウニー シアター『ジーロッソ』 やっぱヒーローにはコレが必要でしょ!と召喚者によって建造されたステージ魔法、異能を用いたド派手なヒーローショーは、少年少女、大きなお友達を問わず熱中させる。"シアター『ジーロッソ』で僕と握手!"が合言葉。 ロミアス 星光劇場 異世界から召喚された一部の文化人達によって作られた劇場。音響施設が特に優れており、ミュージカルやオペラが人気の演目。ジパング由来の劇から、異世界より持ち込まれた演目まで、演じられる劇は多岐にわたる。 FEマン 懐石料理『雀屋』 港から水揚げされる豊富で新鮮な食材・調味料や召喚者が齎した各種料理を一通り揃えている。メニューに載ってない料理は、追加料金の支払いと作り方が分かれば召喚された者の故郷の料理をオーダー通り作り上げる。その評判からこの地に訪れた召喚された者は故郷の料理を注文しにわざわざ訪れる者もいるようだ。 スイカ 満漢全席『アベレージ・ワン』 港から水揚げされる豊富で新鮮な食材・調味料を多く消費する宮廷料理を出す店。一階と二階に分かれておりまた、出入り口も完全に分けられている。一階部分は大衆向けの値段設定で二階で利用された食材の端材や等級の落ちる部位を利用する事により、何とか一般人が手が届くレベルの値段にしている。二階部分は高級食材や希少部位をふんだんに利用した富裕層向けに改装してある。 スイカ イタリア料理『ピアット・デル・ジョルノ』 BAR『コブウェッブ』が一緒に入っている商業施設の一階を使用しているイタリア料理店。医食同源の思想の元に修練を積んだ末に魔法で治療したかの様な薬膳効果効果を発揮するようになった。通常の治療では治らない患者が最後の望みを賭け、この料理を食べる為にこの国に訪れる人も多くいる。 スイカ バーガーショップ『ダグダの大釜』 豊富に輸入されている食料を間に業者を通さずに船から直で購入する事とメニューの数を少なくし、作業工程を単純化する事により美味しく安い食事を提供する事に成功したファーストフード店。支配人はどこかの国の姫らしいという噂はあるが真実か定かではない。 スイカ BAR『コブウェッブ』 イタリア料理店アット・デル・ジョルノが一緒に入っている商業施設の地下にある地下BAR。カウンターとテーブルがある広間、防音素材の仕切りで作られた半個室や重厚な木製扉に偽造された強固な対魔法処理がなされた金属製扉で守られており脱出路も用意されている個室。その性質上から大名クラスや将クラスのお忍びで楽しんだり、機密が生じる依頼や密約等表に出せない事を取り扱う場所の一つになっている。また小型のエレベーターがあり、通常より割高だがイタリア料理店が営業していれば本格イタリア料理を食べれる。 スイカ ルナルド・ムーン 大通りにある猫カフェ。防音設備が完璧で、外界の賑わいとは隔絶されたにゃんことのゆったりとした至福のひと時が味わえる。店主が猫の幻想種で、彼自身もこの店の人気の一要素。彼との「肉球握手」を求めるファンが後を絶たない。 ラウニー 木刀屋 歩煙国で一番人気のお土産屋。レトロな雰囲気だが決してぼろではない店構えだ。地上2階、地下5階の広さに対し、雑多な商品陳列で冒険心をくすぐるレイアウト。2階部分は茶屋になっている。名産のガラス細工を多く取り扱っているが、名前の通り『歩煙国』の文字が彫られた木刀もここの目玉だ。 ラウニー 海浜区 歩煙西部の海岸線に沿って存在している白灰砂丘を中心に発達した土地。 夏は海水浴場としての賑わいを見せる。 交易港では紫苑から授かった技術で動く動力船が、柾良からの旅行者を多く受け入れる。 また、海と砂丘を見渡せる十字教の教会があり、ジパングでは珍しい洋式の結婚式を挙げることができる。梅雨晴れの時期は特に人気。 tips 青森県、不老ふ死温泉イメージ 施設名 概説 作成者 白灰砂丘海水浴場 灰のように白い砂浜だが、ここに広がっている砂は火山灰ではない。ただの砂丘ではなく観光地としてしっかり開発されている。海の家や海水浴に面した旅館、岩場の奥の旅館の私有地には、海にじかに注ぐ天然温泉がある。シーズン外でもサーフィンや海釣りを楽しむ者もいる。 ラウニー 紅岩旅館 海水浴場の目の前にある旅館。裏手の敷地から海を一望しながら浸かれると天風呂がある。水着や浮き輪などの遊具の販売、屋外シャワーなど海水浴に必要な施設が充実している。 ラウニー 紅岩温泉 海岸ぎりぎり近くにあるオーシャンビューの温泉。夕方や夜に来ると潮風が冷たいが、湯温は42~44度と熱めの温度だ。泉質は「硫酸塩泉」で、透明度の全然ない濃い赤黄色の湯だ。浴用効果は脳卒中、動脈硬化、肝臓、胆石、胃腸病、肥満、高血圧となっている。 ラウニー 海の家「アイスクリームアイランド」 不夜城と言われる24時間営業の海の家。交易港で仕入れられた各地の食材を使ったメニューは美味。アルコール類の取り扱いや、水着や浮き輪、サーフボードに日焼け止めなどの海水浴グッズを販売しており、海を楽しむ者に嬉しい品ぞろえが充実している。 ラウニー 歩煙交易港 歩煙の海の玄関口。偏西風の影響で、歩煙西部からからやってくる海路を使って訪れやすい。柾良とは、紫苑産の魔道蒸気機関を積んだ定期船が運航しており、日帰りの観光も可能。お土産店も豊富で、またこの場所でも『三湯巡りスタンプ帳』と記念品の交換ができる。 ラウニー 白灰十字教教会 渡来したとされる一神教の教会 乙 チェリーランド ■エリア1みんな大好き夢の国、娯楽内戦国世界でガッポガッポ儲けている特徴的なごみ箱ばかり並べられた二つの広場を除けば大体普通の遊園地売店からよくある遊園地にあるアトラクションまでエリア1で事足りる リリ夫 ■エリア2チェリーランドの目玉の一つでかいホラーな森がある中にはゾンビに扮した従業員がいるがたまに本物のゾンビが混ざっておりその度に閉鎖され柾良の武将に掃除を依頼している 白壁の鍾乳洞 鍾乳石と呼ばれる、つららのように垂れ下がった石が広がる鍾乳洞。洞窟の天井から染み出る地下水が小さな水たまりをいくつも作り、幻想的な光景を見せている。あまり人はいない穴場スポット。 ラウニー 平山区 平山とは「あまり高くない山」という意味がある。 歩煙の象徴である「天狗山」を中心とした山間部温泉地帯のエリアだ。 なにより特徴的なのは、川底から温泉が湧き出ている「仙湯川」。 ジパングでも特に珍しい温泉で、観光客以外にも地質学者が訪れたりする。 落着きのある自然が観光客に人気。 歩煙の名産、火山灰から作られるガラス細工もこの地が盛んだ。 tips 三重県、熊野川湯温泉イメージ 施設名 概説 作成者 天狗山 低い山ではあるが活火山。歩煙国の象徴であり、諸悪の根源。この火山の影響でこの地は作物は育たず、川は死の川となっている。しかし国民からは敬意の念をもって慕われているので不思議な霊山だ。近隣の国柱による影響で、噴煙の大班は東側に流れている。 ラウニー 木透旅館 仙湯川からの中流域、仙湯滝のすぐ近くに建てられた温泉。生い茂る樹々の中にひっそりと佇む木造和風建築は風情と趣がある。都会の喧騒と切り離された静寂が、訪れた客の身も心も解してゆく。 ラウニー 木透温泉 木透旅館の抱える温泉。露天風呂から仙湯滝をを眺めることができる。川の流れを肌で感じ、滝の音を耳で味わうことのできる風流な温泉。泉質は「硫黄泉」で、無色透明だが独特な香りがある。浴用効果は切傷・刀傷、高血圧症、痛風、便秘、痔、糖尿病となっている。 ラウニー 仙湯川 平山区に流れている河川。川原を掘ればたちどころにお湯が湧く、ジパング内でも非常に珍しい川。川底から絶えず湧き出す70度以上の源泉に上流から流れてくる水が混ざり合い、程良い温泉が出来上がる。川全体の水温は夏で35度、冬で25度ほど。川の水(湯)は無色透明だが、泉質に硫黄を含んでいることから死の川となっている。旅館に行かずとも、岩を動かして自分だけの温泉を作って遊ぶことができる。野生の猿や幻想種を稀に目撃できる。 ラウニー 歩煙硝子細工工房 歩煙の名産のガラス細工を多く扱っている。一日に午前と午後に一回ずつガラス細工体験(有料)を受けることができる。この国のガラス細工の文化はここから発生しており、たまに店主が古い品物を紹介してくれたりするが、それも販売品だ。 ラウニー 仙湯滝 天狗山山間部上流域から中流の仙湯川に流れ込む滝。「仙湯川」とは、この滝より先の下流のことを指す。滝自体はそんな大きくなく、かなり近くまで近づくことが可能。滝壺近辺は川の水もよく冷えており、匂いも少ない。水遊びもできる。 ラウニー 天狗山展望台 天狗山の山頂。あまり標高は高くない山頂だが、ここからは歩煙西側に広がる繁華区と海浜区を一望することができる。火口付近は一般人の立ち入りは禁じられている。 ラウニー 平山高原牧場 天狗山の麓に広がる小規模な牧場。多くの牧草を育てられず、酪農はあまり活発ではない。だが、少ない家畜を丁寧に育てており、この牧場で取れる牛乳やバターは絶品。売店で頂けるソフトクリームも合わせて是非。 ラウニー 天狗山自然公園 天狗山のふもとにある自然公園。管理された庭園と、四季折々の美しい草花が迎える。日本庭園エリアと西洋庭園があり、散歩コースをぐるりと一周するだけで両方とも楽しむことが可能。温室があり、入室料を支払うことで、ジパング中の珍しい草花を見ることができる。 ラウニー たまご茶屋 歩煙の流行の原点とも言える茶屋。温泉を利用した絶品の料理やスイーツを提供している。温泉饅頭と温泉プリンが特に有名。この店は「お土産として持ち帰ってもらう」ことを大切にしており、全体的に日持ちする商品が多い。ここの商品が口コミで広がっていき、今では柾良の情報雑誌に載るまでに至った。 ラウニー 黒色火薬工房跡地 歩煙がまだ国として成立するずっと昔。かつて火薬産業が盛んだった土地であることの名残。今はちゃっかり観光地として、観覧料を払えばガイド付きで内部を見学できる。奥には一般人立ち入り禁止エリアがあり、"伝統を失わせないため"に、"今でもごく少量の火薬を生産している"そうだ。 ラウニー 関係キャラクター 名前 概要 外見イメージ 作成者 弓削上総守保松 歩煙国国主。『黒釜旅館』の最上階に居を構えている。バツイチ。 日本(ヘタリア) ラウニー グレンニンジャー シアター『ジーロッソ』で活動している覆面ヒーロー。炎魔法に長けるニンジャであり、登場時の背景の爆発は自前で起こしている。【集中】[精神]の判定に+2される。 クリムゾンシャドー(遊戯王) ロミアス チェリー 園長 武将適正はないがカリスマがEXぐらいある 花京院ちえり(Vtuber) リリ夫 燈(とう) 基本的にはホールで客の対応をしている稀に厨房で料理を作っており、その際に出てくる料理は絶品という噂がある【専門】[料理]に関係した[情報収集]の判定に+2Dされる。 紅閻魔(Fate/GrandOrder) スイカ 小坂恋(こさかれん) アベレージ・ワンのオーナー金にがめつい事が珠に傷だが基本には全てを完璧にこなす凄い人異世界の電化製品との相性が悪いという噂がある【直感】[感知]の判定に+3される。 遠坂凛(Fate/stay night) スイカ ジョルノ・トニオ 他国からこの料理を目当てに来る凄腕料理人余命が僅かとされていた病人が料理を食べて快方に向かい完治したという噂がある【制作】[器用]の判定に+3される。 トニオ・トラサルディー(ジョジョの奇妙な冒険) スイカ 八坂麻(やさか あさ) 歩煙国で大成功したファーストフードを起業した敏腕経営者既に滅びて亡くなった国の姫だったという噂がある【知恵】[知力]の判定に+3される。 黒王(Fate/GrandOrder) スイカ クロノス 蜘蛛の糸の様に張り巡らされた諜報網を持つフィクサー契約していた誰かの縁を伝いこの世界に辿り着いたという噂がある【情報】[情報収集]の判定に+1Dされる。 【捜査】[探索]の判定に+1Dされる。 モリアーティ(Fate/GrandOrder) スイカ シスター・エガミ 白灰十字教のシスター シスタークレア(Vtuber) 乙 フレーバーアイテム フレーバーアイテムとは フレーバーアイテムとは、データを持たないアイテムである。 ここにあるアイテムはセッション内で効果のある利用を行うことはできない。すると怒られる。 特定施設を訪れた際に入手ができる。 他のPCに自慢したり、後で見返してご満悦になるためのものだ。 ドラマ中などで特定施設を舞台にした時に集めてみよう。 三湯巡りスタンプ帳 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 このアイテムは一つまでしか所持できない。 [三湯巡りスタンプ帳(0)]ように記載し、 入手したスタンプの数によって括弧内の数値が増加する。 施設『三湯巡りスタンプラリー受付所』、『歩煙交易港』で入手可能。 歩煙国のウリのひとつ。 特別観光区の各区によって特色の違う温泉を巡る観光パンフレットと、各旅館でもらえるスタンプをまとめるスタンプ帳となっている。 しかもこの冊子は無料で、三カ所のスタンプを集めると、観光センターや交易港で特別記念品と交換できるらしい。 旅行の思い出にスタンプを集めてみてはいかがだろうか? 黒釜温泉スタンプ 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 このアイテムは一つまでしか所持できない。 [三湯巡りスタンプ帳]のスタンプ数を+1する。 施設『黒釜旅館』で入手可能。 繁華区の黒釜旅館で手に入るスタンプ。 繁華区は、大通りの賑わいと趣ある大旅館の【賑わい】が魅力。 黒釜旅館の上階から眺める通りの景色は素晴らしい。 紅岩温泉スタンプ 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 このアイテムは一つまでしか所持できない。 [三湯巡りスタンプ帳]のスタンプ数を+1する。 施設『紅岩旅館』で入手可能。 海浜区の紅岩旅館で手に入るスタンプ。 海浜区は美しい砂丘の景色と、コバルトブルーの海の【解放感】が魅力。 やはり一番盛り上がるのは夏で、夏祭りなんかも行われているそうだ。 木透温泉スタンプ 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 このアイテムは一つまでしか所持できない。 [三湯巡りスタンプ帳]のスタンプ数を+1する。 施設『木透旅館』で入手可能。 平山区の木透旅館で手に入るスタンプ。 平山区は、生い茂った緑と川のせせらぎの中の【落着き】が魅力。 騒がしさから離れて休みたい層に人気で、旅館の予約を取るのは大変だ。 特別記念ビー玉 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 施設『三湯巡りスタンプラリー受付所』で、 [三湯巡りスタンプ帳(3)]と交換することで入手可能。 歩煙国の特産品、火山灰から作られるガラス細工のビー玉だ。 光を当てるといくつもの幻想的な色に煌く。 ポケットに入る大きさで、旅行の素敵な思い出になるだろう。 ふえんまんじゅう 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 施設『木刀屋』『たまご茶屋』で入手可能。 "歩煙饅頭"ではなく"ふえんまんじゅう" この国が観光でやっていくとなって一番最初に製作した温泉饅頭。王道的おいしさ。 あらゆる年齢層に楽しんでもらいたいと、漢字表記ではなくひらがな表記の商品名にした。 株式会社P○KEM○Nに怒られないだろうか? 大丈夫と信じて買おう。 温泉蒸しプリン 種別:フレーバー 重量:0 価格:非売品 施設『木刀屋』『たまご茶屋』で入手可能。 現在歩煙で一番人気のお土産。 温泉の蒸気を使って蒸したプリン。 濃厚な味わいと、口の中に入れた途端蕩けるような触感が魅力。 このページについて 歩煙国について、項目やNPC登録・PCとの関連性等の加筆を全面的に許可しています。 ただし、歩煙国は小国家の一つです。 ・開始からおよそ二ヶ月以内(詳細な締切は別途連絡)に柾良の属国となる描写が確定しています。 加筆時にはそのことにご注意ください。