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デパート1階の中央部には駅前商店街がそのままある。幅10mほどあるゆったりした通りの両側にインテリアショップや 古美術商、本屋に服屋にCD屋さん。総て個人経営。大手デパートと地元産業が共存しているのは全国でも珍しい。事実 最近、ここは貴重なモデルケースとしてとみに注目を帯びている。 銀成市初の名誉市民は2代目市長だった。杉本某氏という、どこか防人衛に似た名市長は、戦後荒廃する故郷を立て 直すため数々の手を打った。 銀成市南部のサツマイモ畑が広がる平野に大きな幹線道路を造り交通の便を良くしたのもその一環であり。 引退間際の最後の一策こそこのデパートと商店街の……共存。 全国チェーンのデパートでありながら地元産業に密着した収益形態は平成不況の冷風を凌ぐ傘としていまも銀成市を守 っているのだ。 デパート内の商店街は吹き抜けになっており、少し首をあげれば6階まで一望できる。さらにその上には丸いドーム状の 天井が広がっていた。半透明で、天気のいい日は日光が仄かに注ぐ。蔦のように天蓋へ絡みつく無数の支柱は水色で、 明るさと爽やかさを一層際立たせている。 1階の、通路の中央にはぽつり、ぽつりと木製の長椅子や観葉植物が置かれているが……。 灰色の雑踏すりぬけ歩く無銘の顔は浮かない。 肩に三国志の武将みたいな飾りをつける鳩尾無銘は忍びだし物言いもどこか時代がかっているから、現代社会に取り残 される古いタイプと思われがちだ。実際好みは古いもの──信楽焼きのタヌキや忍者刀の錆びた鍔など──で、最先端の 情報端末にとっぷり浸かるのは好まない。とはいえまったく社会情勢に疎い訳ではなく耳は早いほうだ。忍びとは情勢を いちはやく掴み自分ないしは依頼主を利する存在。で、あるからして現代の、一般的な少年少女の慣習は基礎知識として 一通り知っている。(チワワ時代、人間形態になれたらすぐ潜入活動できるよう自ら叩き込んだ)。 デート。心相通ずる男女が同行し飲食や買い物や娯楽を嗜む行為。 小札に命じられた鐶の『慰労』はまったくそれに該当する。 するが、意識するとマズい。忍びほど倫理と任務の間で苦悩する職業は無い。心を殺し問いかける。 「……で、貴様の行きたい場所は?」 とにかく「ただ食事し」「ただどこかに寄る」。それだけ意識する。任務なのだ。小札から帯びた。私情はない、ない筈だ。 少年忍者の苦悩は濃い。 さて、彼が懊悩する間、鐶は無表情ながらに大変うずうずしていた。口をのたくったミミズのような形にして期待いっぱい に前往く無銘を見ていた。意外に太く浅黒い首筋にドキドキしていた。最近人間形態になったばかりなのに、もうタコや潰れ たマメに堅く引き締まる拳の感触を、彼らしいひたむきな努力の痕を、掴まれている、自分の、細い左腕から目いっぱい感じ ていた。 そしたら無銘が急に振り返ってきた。行きたい場所を問われた。 急なコトでどう答えていいかわからず、テンパった。 「わわわわし、無銘くんのおいでる所ならドコでもかまんぞなもし!」 (おいでる → 行かれる かまんぞな → 構わないです) 目を、やや垂れ気味の三本線に細め右手をブンブン振る。普段とはかけ離れたアクティブでコミカルな仕草だった。拳が 落書きのような丸と化し、腕ときたら線画の残影だ。顔は赤い。あと体の投身が戯画的にやや縮みしかもクネクネしている。 「ほうよ! わし、ついにおおれるならええんよー!!」 (ついに → 一緒に おおれる → 居られる) 声も闊達。元気一杯、弾みに弾んでいる。 鐶光は伊予の出身である。 厳密に言えば母親が、わざわざ郷里に里帰りして出産した。(育ちは義姉と同じ地域)。ただ快く思わないリバースが『躾け た』ため、普段は標準語を用いている。翻訳には手間取るらしい。途切れ途切れのボソボソ喋りなのはそのせいだ。 なので起きぬけや混乱時はつい未翻訳のままとなる。簡単に言えば”地”が出る。 「……おい」 「はっ!」 半眼の無銘にやっと混線具合に気付いた鐶、 「なななななんちゃない!!(何でもない!)」 バっと5m駆けそして隠れた。『銀成市で3番目に旨いコーヒー』そんな看板──高さ1mあるかどうかどうかの──の影に。 しゃがんだのだろう。横から、ちょろりチョロリと顔を覗かすのは、例えば子犬ならかわいい仕草だが、目がまったく虚ろな ため心霊写真かというぐらい怖かった。「うおおっ!?」。現に道行く人の何人かなどは霊障を見たと真剣に勘違いし慄いて いる。主婦はネギの飛び出た白いビニール袋を取り落とし、若いカップルは揃って硬直。アイスを口につけたままアカホエ ザルより真赤な顔で泣くのは小さな男の子。驚きすっ転ぶ男子高校生は逆に幸運だった。鐶が、肉ある少女と気づけるの だから。 (遁げた者たぶん信じ続けるぞ。怨霊見たと……) 瞳が年相応に大きくパチクリしているから却って負の無限力に満ちている。ビタリと止まり看板のヘリに手を掛けじつと凝 視してくる鐶。照れ隠しか半笑いになった。ガチガチに強張ってるせいか正気に見えず、だから無銘は総毛立つ。 「怖い。本当怖い。戻ってこい周りに迷惑。あと貴様が行きたい場所を言え」 鐶はゆらり伸びあがって(緩慢ながら残像が出るほど滑らかだった。それが強さの証なのだが無銘に言わせればキモかった) トテトテ駆けより手を伸ばす。 「んっ……です」 無銘に何かを渡しUターン。元の看板の影に。今度は仄かに赤い顔で無銘を眺めている。それで可愛くなればいいのだが、 今度は瞳孔がキュウっと開いたのでますます怖い。イッちゃってる覗き魔のようなカオだった。「いい加減帰ってくれないかなぁ このコ……」。ボヤくコーヒーショップの店主に心底何遍も謝りながら拳を見る無銘。渡されたのは紙片であるに4つ 折りされたそれを広げる。デパートの見取り図が現れた。 先生が答案用紙に振るような赤い丸で囲まれていたその店は……やはりというか何というか。 「ドーナツだな。ドーナツのお店でいいんだな」 「ん゛っ! ん゛っ!」。無表情が2度強く頷いた。真赤な三つ編みが元気よく跳ねた。 鐶の示したドーナツのお店は平日でも行列ができるほどの有名処だが、運良くふたりは並ぶことなく買い物ができた。 「お客さん。何がよろしいですか?」 「プレーンシュガーで」 3階。憩いの広場。合成樹脂製のマットが敷き詰められた空間は、未就学児童たちの天国だ。買い物に疲れた主婦たち が我が子を放流し一息つく空間。「実家のサツマイモ畑に変な全身フードがうろついていた」だの「最近できた病院にはとん でもない名医がいる」だの「ありふれた日々の素晴らしさに気付くまでに2人はただいたずらに時を重ねて過ごしたね」とか、 他愛もない会話が飛び交っている。 そこからちょっと離れたところに丸テーブル×1と椅子×3のセットが5つほどある。若者たちが歓談する席もある。サラリー マン風の男が座りノートPCを広げると、きょうび珍しく気遣ったのか、若人たちは声のトーンを落とした。それよりさらに小さな 声を漏らしたのは鐶だ。 「さすが……おいひい……でふ…………」 先ほど買ったドーナツをもぐもぐ食べている。チョコに色とりどりの粒がまぶされたオシャレな奴だ。どうもプレーンシュガー だけでないらしい。訝る無銘に「うふふ……。ドーナツなだけにプレーンシュガーです。プレーンシュガー……プレーンシュガー。 うふふ……ドーナツなだけに…………」などと意味不明な供述をしておりイヌのお巡りさんは追求を諦めた。 「といふか…………無銘くん…………どうしふぇ……コーヒーでふか…………?」 いつもは飲まないのに。問いかけに苦い顔をしたのは味のせいではない。 (貴様が!! 看板に隠れたせい! だろうが!!) わずかな時間とはいえ客足は確かに減少した。悪霊に憑かれていると勘違いした人が何人か、舳先を曲げ去っていくのを 無銘は確かに見た。その分の売り上げぐらいテイクアウトで補填せねば気が済まぬ無銘なのだ。 (しかし味わってみればこのコーシーとかいう奴。……おいしいな。コーシーは普段飲まぬが旨いぞ。うむ) 無銘は犬型である。一般流通のミルクを飲むとお腹が壊れる。でも山羊ミルクなら平気だ。件の店に取り扱いの有無を 聞いたところ、あっさりと出てきた。無銘は輝きを感じた。たとえるなら翡翠の朱と碧だ。店主の「俺通だろ!」みたいなサム ズアップに少なからず友情を感じた無銘だ。 (とにかくいいな。大人だ。大人の味がするぞコーシー。匂いがつくゆえ敬遠していたがコーシーはスゴイ。山羊ミルクもいい。 力がみなぎる。フハハ。今の我は魔犬よ。ブルドーザーぐらいの魔犬よ!) 「あの…………無銘くん?」 「おっとあやうくオッドアイになるところだった。クク。危ない危ない」 「はい!?」 「ククク……。古人に云う。我が名はヒスイ…………。変貌の歴史より乖離せしただ1頭の! 魔犬!」 「む、無銘くんがようたんぼーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」(ようたんぼ → 酔っ払い) なんだか地鳴りを秘めているようなタダならぬ様子に声をかけた鐶だが、却って訳の分らぬことを言われ混乱した。 「古人に云う。疲労回復にはミルク入りのコーヒーがいい。本来カフェインは交感神経を刺激し、興奮作用をもたらすが、少 量の摂取ならば排泄反射を促し、副交感神経が優位になり、リラックスする! ミルクを入れた場合、脂肪がその時間を延長 する!!」 「落ちついとらんよ無銘くん! ああああとコーシーちゃーう! コーヒーぞなコーヒー!!」 モズが溺れたようなギシギシ声をあげ。鐶は目を真白にしながら立ち上がった。椅子が倒れ派手な音を立てた。若人や サラリーマンが何事かと目を向けた。 「フヒャヒャアヘハハハ見える見える前世が見えるー! 一人称我輩のウッソつきがー!! 我を大変強くしたー!!!」 無銘は出来上がっているらしい。瞳をグルグルしながら意味不明なコトを抜かしている。 初めて飲んだおいしいコーヒーに興奮しているらしい。 鐶は説得を諦めた。自然回復を待つか総角か小札を呼ぶぐらいしか手は無い。とりあえずイチゴチョコのドーナツを食べる。 「むぐむぐ……むぐむぐ……」 「フフフ。ハーッハッハ!!」 変な食卓だった。 警備室。 「とりあえず普段混雑するお店に誰も行かないようしてみやした」 『みやした……って。簡単に言うけど普通できないよね?』 ”してしまう”のがブレイクだ。リバースはいくつかあるモニターの中で、本来いないはずの朋輩2人が歩いているのを認める。 きっと異変に気付いているであろう彼らに、ブレイクは、『禁止能力の一環です』とだけ言って誤魔化すのだろう。 外でバタバタと足音がした。続いて乱暴に開くドア。濃紺の服をきた一団は警備員ズで、先頭が、ブレイクとリバースを見て あっと息を呑んだ。「何者だ君たち」とか「どうしてここに」とか月並みな声を漏らす彼らにリバースはただ微笑を向けた。 ブレイクだけが少し大儀そうに立ち上がり……。 稲光とともに具現するハルベルドを、躊躇なく、彼らに向かって振りおろした。 「……?」 鐶は瞬きをして天井を見る。デパートは中央通りを境に西ブロックと東ブロックに別れている。こちらは細い通路の両側に 全国チェーンの薬局や和菓子屋が居並ぶありふれた内装だ。ショーケースの中でマネキンが服を着ている。 白い床に白い天井。明るく清潔感のある照明がどこまでも降り注いでいる。 ……。 何かが、おかしい。 景色に名状しがたい違和感を覚えた鐶が天井の電球の1つと睨み合いをしていると、引きずっていた無銘がやっと目を 覚ました。彼は、足首を掴まれゴミのように引き摺られる待遇に一瞬泣きそうな顔をしたが何事もなかったように戒めを解 き立ち上がる。何事もなかったコトにするため黙々と歩き出す。遅れまいと歩調を上げる鐶の頭上を電球が通り過ぎる。首 を捻じ曲げながら尚も凝視した電球。外観上は特筆すべき異常はない。 ただ光が、ごく僅か、本当にごく僅かだけ紫がかって見えた。 青みがかった紫。 鐶の知る照明の色と微妙に食い違う色。 ……虚ろな瞳に茫洋と浮かぶ電球型の蛍光灯。 何かが、おかしい。 微かにフラッシュバックした光景は総角。かつて在った霧の中の対峙。微細なる違和感のカテゴライズ。 鳥の視覚は4原色の入り混じりだ。人間より1つ多い。光の波長を”より正確に”捉える。 歩みを止めそっと蛍光灯に手を伸ばし──… 「あ! ひかるんだ!!」 思わぬ声に硬直する。 「むっむーもいるよ。ナニナニひょっとしてデート!?」 腕を上げたままようやく首だけを声に向ける。 居たのは少女ふたり。 髪が栗色で背中まで伸びているのは武藤まひろ。 思わぬ遭遇が嬉しいのか駆けてくる。髪やスカートや、鐶に余裕勝ちしている身体部分を揺らして。元気いっぱいに。 その後ろで、パーを口元に当てやや下世話な赤面笑いを浮かべているのは河合沙織。 やや黄味のかかった髪を両端で結んでいる。 ……鐶が一時期姿を借りていた少女だ。厳密に言えば監禁した挙句、何食わぬカオで成りすましていた。普通に考えれば おぞましい行為。貴信同様、後ろめたさを感じている。スローペースな鐶にしては珍しく慌てて居住まいを正し向き直った。 制服姿の2人を見た瞬間、照明に感じた違和感が褪せた。それでもまだどこかに引っかかっていた。 よく調べれば、鋭い鐶は、仮説程度の疑念は抱けたのだ。 『なぜ日ごろ混雑している人気のドーナツショップが今日に限って空いていたのか』。 一見ただの幸運に見える出来事の裏に何が潜んでいるか……少しだけ、考えられたのだ。 「あら光ちゃん。……と無銘君にまひろちゃんに沙織ちゃん」 後ろから来たのは早坂桜花。恐るべきタイミングの良さで、だから青紫の光は意識から消し飛ぶ。 『2人きりのデートなのに他の人呼んじゃうの?』 「乱数調整す。まーまー見ていて下せえや。楽しいデートを演出いたしやす」 「おめでとうございまーす!! 1等の超高級ビーフジャーキー1年分です!!」 ハンドベルの輝かしい音の中、鐶はコロコロ転がる黄色い玉を眺めていた。 「よくやった鐶お前よくやった!! 偉いぞスゴいぞ神だぞ貴様イズゴッド!! 貴様イズゴッドだ!!」 肩が痛いのは後ろの無銘はバンバンと叩いてくるからだ。何も言わないうちからこの少年はご相伴に預かれると思って いるらしい。やや図々しい反応にしかし鐶は苦笑いしつつ「あげます……から、ね」。振り返って約束する。 「あー。もっと後ろに並べば良かったねまっぴー」 「でもさーちゃん缶詰もらえたよ缶詰!!」 後でちーちんやびっきーと食べよう。4等にも関わらずまひろは幸せそうだ。 合流後しばらく歩いた一行は福引抽選所に遭遇した。館内総ての店舗の買い物レシート3000円分につき1回引ける という。(引くというが実際は八角形の筺体を、2度直角に曲がった真鍮製の取っ手で回す。いわゆる”ガラガラ”だった) レシートなら幾らでも持っている鐶だ。何しろ買出しに来ている。3回は引けるだろう、そう目算をつけたがしかし買出し は部費で行ったものだ。いわばガラガラの抽選券を学校の公費で買ったようなもの……。無銘とほぼ同時に気付いた鐶 は「いいのかなあ」という顔をした。 「大丈夫大丈夫。私が話をつけておくから」 茶目っ気たっぷりに笑ったのは生徒会長。桜花だ。もし学校全体で使えそうな物が出たら、還元というコトでみんなの物に。 あまり高くない、ハズレな物品が出たら、それはもう買出しのお駄賃として貰っておく。……まったく清濁併せ呑む見事な大岡 捌きにまひろと沙織は色めきたった。「流石だ」「頼りになる!」。 とはいえ、かつて銀成学園を襲撃し、校庭にいた生徒や剣道部、先生たちを悉く胎児にした鐶だ。それが学校のお金で 役得を得るのはやはり悪い気がした。無銘もそういう所には厳しい。 とりあえず買出しのレシートは桜花に預けた。 まひろや沙織は流石地元民というか、この日に合わせて沢山のお菓子と僅かな学用品をまとめ買いしていた。デパート に来たのはそのせいだという。 鐶は先ほど買ったドーナツの、無銘は同じくコーヒーのレシートで。 ジャンケンの結果、桜花、沙織、まひろ、鐶、無銘の順番でガラガラを引いた。 「……」 桜花の手にはティッシュが3個。狡いコトを目論んだ罰であろう。 「えー……。何に使えばいいのコレ」 泣き笑う沙織。当てたのは般若の面。江戸時代中期の名工が創り上げた逸品で特賞だった。 「やた! おやつが増えたよ!!」 喜色満面のまひろが高々と掲げるのは前述通り4等のフルーツ缶。 で、鐶は超高級ビーフージャーキー1年分(販売価格365万円。懸賞の法律的にどうなのだコレは)を当てたが、表情は どこか浮かない。 「どしたのひかるん。1等だよ1等。もっと喜ばなきゃ」 声をかけてきたのは沙織だ。鐶は答える代わり、彼女の所有物をじつと眺めた。 「そりゃ特等だけど……特等だけど」 沙織はベソをかいた。般若が腕の中で爛々と目を光らせている。 「こんなの喜ぶ人いないよ絶対」 「いいなあソレ!! 欲しい!」 「居たーーーーーーー!?」 思わぬ声に振り返る。無銘がハッハと息せききって眺めている。 「それは幕末の御庭番衆も愛用した由緒ある逸品なのだ!!」 「……忍者が愛用品知られちゃおしまいじゃない?」 能力知られそうだし。きわめて現実的な意見を述べる桜花の顔色は悪い。 (生徒会長なのに……3回も引いたのに…………なんで私だけ外れなの…………) ちなみに桜花、この日が福引初体験である。まがりなりにもテストや会長選挙といった学内競争は元よりL・X・Eでの生存 競争を勝ち抜いてきた自負がある。福引だろうと勝てる、そんなやや大人気ない、しかし年相応の少女らしい自信を以て 臨んだのだが、見事に打ち砕かれた。 「あの……大丈夫……ですか?」 ええちょっとヘコんでいるだけ。鐶に軽く答えると桜花は微笑む。気落ちなど無かったような美しい笑顔に鐶はお姉ちゃん 分が補充されるのを感じ──… ガリッ カメラ越しに、警備室で、その表情を見たリバース。周囲で嫌な音がした。 「本当はアレ欲しかったんでしょ、アレ」 桜花の指差す先を見てうなずく鐶。2等はバラエティ豊かだった。高級腕時計もあれば化粧品の詰め合わせもある。加湿 器にコーヒーメーカーに銀の装丁が施された食器たち……その中に紛れてプラモのセットがあった。箱にはいかにもヒーロー チックなロボが描かれている。カラーリングも形状もまちまちなそれが20個。鐶曰く同じシリーズのロボットらしい。定価で買えば 約12万円かかるとも。 鐶はひとつひとつ名前を挙げてどういう機体か説明したが桜花は半分も分からなかった。女性なのだ。ロボットには疎い。 とにかくだ。 鐶は目当てを外した。後ろには無銘がいる。 これで盛り上がらずにいられないのがまひろと沙織だ。 「頑張ってむっむー!!」 「ひかるんにいいトコ見せるチャンスだよ!!」 無銘は何か言いたげにグッと唇を尖らせたが、「反論すればますますつけ上がる」とばかり顔を引き締め一歩踏み出す。 「まあいい」 鐶の頭を軽く撫で、通り過ぎる。 「ちょうど気に食わなかったところだ。タダでビーフージャーキー得るのは施されてるようでつまらん」 レシートが係員の眼前に滑り込む。少年は腕まくりしガラガラに臨む。 「それにフハハ!! 今日の我はコーシーのせいか負ける気がせん!」 「むっむーが燃えている!」 「その意気だよ頑張って!!」 「クク、2等など軽く当ててくれるわ!!!!!」 腕まくりして取っ手を掴む。やがて波打ち際のような音立て廻る八卦の函。 沙織、まひろ、桜花、そして鐶が固唾を呑んで見守るなか飛び出た玉のその色は──… 無銘は正座した。正座したまま成果の前でうなだれる。 沈黙して5分が経った。空気は重かった。紫に着色されてもいた。黒い戯画的太陽がいくつもピヨピヨと旋回した。 ポケットティッシュの、周りで。 「お、落ち込まないでむっむー! ほ、ほら私のオレンジあげるから!」 「ゴメン……。悪いのは私たちだよ。ヘンに盛り上げたから」 「そ、そうよ。私なんか3回連続だし…………。むしろ普通よ普通」 こんなところで運を使わないほうがいい。人生は長いのだ、いつか今の不運分の幸福が訪れる。 などという慰めは届かない。ハズレはハズレ。厳然たるハズレ。 無銘は何もしゃべらない。答える代わり膝を抱えた。洟をすする音がした。 「泣いてる……辛いんだねむっむー」 「あー。その、そこまで悲しまなくてもいいんじゃないかあ」 沙織は顔を引き攣らせた。むしろ泣きたいのは自分だともいった。せっかく特等当てたのに来たのは般若だ。 「恥ずかしいのよ。いろいろ大口叩いたから」 三者三様の反応を見せる女性陣。その鼓膜を「ぶふっ」という奇怪音が叩いた。 出所をみる。口元を押さえた鐶がいた。ぷるぷると震え目の下の皮膚が充血している。 「ハズレ……。ハズレ……って……。普通ココで引きますか…………。面白い、です。お腹痛い、です。運なさすぎ……です」 紫の空間が一転燃え盛るのを桜花たちは目撃した。吹き抜けし一陣の黒い颶風は少年忍者。殺到という言葉 はこの時編み出されたのではないかと思えるほど速く、鐶に詰め寄っていた。 「貴っ様あ!! 人の!! 人の不幸をっ!! 笑うなああああああああああああああああああ!!!」 「『それにフハハ今日の我はコーシーのせいか負ける気がせんクク2等など軽く当ててくれるわ』……でした……っけ?w」 「声真似もやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 怒号と悲涙を撒き散らしながら無銘は少女を揺する。顔はいろんな意味で真赤だった。 「ティッシュは2等でしたっけ……? ティッシュは2等でしたっけ……?」 揺すられる中、壊れたカラクリ人形のように、無表情を、カタカタ上下させる鐶。どうやら爆笑しているらしい。 「うぜえ!! 鐶貴様、本当うぜえ!!!」 「1等の……1等の……ビーフジャーキー……食べます……?」 「1等強調するなあ!! 笑いながら聞くなあ!!」 怒りの無銘だが鐶が何か喋るたびどんどんどんどん失速していく。それがおかしかったのだろう。とうとう桜花までもが 噴き出した。この場における年長者が堰を切ったのだ。もはや止める者はいない。沙織はクスクス笑い、まひろも微苦笑 した。 「二度と外さんからな!! 今度こういう大事な局面が来たら絶対当てるからな!!」 「はい……期待して……期待して……います」 「だから笑うなあ!! プラモは結局当たらなかったが、無銘たちと過ごす和やかなひとときは決して悪くなかった。 虚ろな瞳をしながらも、鐶は、束の間の幸福を味わった。 警備室。10数分前かけつけた警備員たちだが今はふらふらと去っていく。 まったくの部外者2人にセキュリティ総てを掌握されたにも関わらず。 「乱数調整す。光っちの『枠』的にこの展開が一番おもしれえので並び順変えてみやした」 『5回』。鐶より先にそれだけ回せばこうなるのは分かっていた……そうブレイクは述べる。 「ま、買い出しのレシートは使わないでしょう。でも桜花っちがいれば、生徒会長権限と枠にかけて全部消化しやす。まひろっ ちと沙織っちだけじゃきっと躊躇ったでしょうからね。このお三方を誘導させて頂きました」 軽く言うが一体どうやったというのか。彼は警備室にいる。そこから一歩も動かぬまままひろたちを意のままにしたのだ。 ガラガラの中身を知りえた理由も分からない。 リバースは喋らない。もともと寡黙だが、お馴染みのスケッチブックでの『お喋り』さえしない。 モニターの中で、桜花が、鐶に何か話しかけた。鐶は恋する乙女のようにはにかんだ。 リバースはそれを、笑いながら、見た。 黒く染まった白目の中で血膿ほど濁った虹彩を爛々と輝かせて。 口は鉤状に裂けていた。手近な壁には無数の爪痕。低い声で呪詛を漏らしながらギリギリと引っ掻いている。 「おお怖」 ブレイクは肩を竦めて苦笑した。「でも可愛い」、蕩けそうな声を付け足して。
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「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 時系列不明。 坂口照星に振りかかった一つの出来事をここに記す。 まず目覚めた彼の眼前に一人の女性が居たという所からそれは始まった。 年の頃は20前後だろうか。肢体は細く優雅に椅子へ腰かけている。 彼女は照星の覚醒を認めると白磁のティーカップから口を離し、静かな笑顔で今一度問い かけた。傍らのテーブルにはソーサーがあり、そこにカップがカチリと小気味よく乗った。 「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 その問いかけを照星が半ば無視したのは彼自身の置かれている状況にある。 彼はシーツの匂いもまだ瑞々しいベッドに寝かされていたようだ。 ただ不思議なコトに掛け布団は二枚あった。上にあるのはシーツを掛けられた薄手の羽毛 布団。だが下にあるのは……つまり照星に密着するよう敷かれているのは古びた毛布である。 ひどく気だるい。熱が出ているようだ。毛布が熱く思えるのはせいか。 熱に浮かされながらも彼の思考は少しずつまとまっていく。 (やはり……誘拐されたようです。一体どれだけの時間が経っているコトやら) ムーンフェイスを事情聴取するべく出向いた先で何者かの襲撃を受けた所までは覚えてい る。いうまでもないが護衛の戦士が次々と倒されるのをただ見ていた照星ではない。 錬金戦団最強の呼び名が高い身長57メートル、体重550トンの全身甲冑(フルプレートア ーマー)の武装錬金を発動しようとした。 (しかしその瞬間──…) 周囲の空間が歪んだ。 切り取られた、というべきであろうか。光の直線が全身甲冑を取り囲むように何本も何本も 走り、やがて巨大な直方体を形成するや照星もバスターバロンも漆黒の空間に呑まれたので ある。 「まさかあれだけの巨体をいとも簡単に無力化するとは……。大戦士長ともあろう者がとんだ 不覚を取りました」 照星は上体を起こすと悠然とサングラスのノーズパッドに手を当てた。 頭痛がする。腰痛もする。外傷によらざる体調不良特有のズキズキとした痛みが全身へと 広がっているような感じがする。 「バスターバロンのコトでしたらできて当然ですわよ。ウィルのインフィニティホープは一都市 まるっと覆えちゃいますもん。まあ、引き込まれた後に30分ほど抵抗できただけでも大した物。 ウィルがあそこまで手を焼いているのを見たのは彼の初体験以来久々よん」 「そして私を連れ去った……という訳ですね」 サングラスのレンズが割れているのに気づいた照星はやれやれと微苦笑を浮かべた。 「どうやら傷は治っているようですが、道中大分キミのお仲間にいたぶられたコトは覚えてい ます。まさかこの年齢(トシ)になって躾けられる立場になるとは思ってもみませんでした」 まずは現状把握を優先した照星は、ひび割れた眼鏡越しに周囲を見渡した。 洋風の木造建築。まるでログハウスの内部のような造りだ。暖炉があり白いテーブルクロス を掛けられた一本足の机があり、その横に謎めいた女性が座る椅子がある。 ドアの横の衣服掛けには愛用のコートと帽子が掛けられているがどちらも破れてほつれ、と ころどころに黒く変色した血がまだらを描いている。 (まったく、今の私を火渡が見たら喜ぶでしょうね) 平素聞き分けのない部下達を鉄拳制裁している照星が、かかる目に遭うのも皮肉だろう。 体に傷はないが、消耗によって高熱が出ているらしい。少なくても照星自身はそう解釈した。 「あなた相当のサドみたいですわね。フツーの殿方なら『ここはどこ? お前たちは誰だ?』 なぁーんて涙声で問うところですケド」 質問を無視されたしかしさほど気分を害した様子ではなく、むしろ照星を気に入った様子で ある。 「サドかどうかは分かりませんが、まがりなりにも戦団では戦闘部門の最高責任者ですからね。 ホムンクルスに拉致された程度で動じていては部下達に示しが付きません。大体、聞いたと ころで部下達を殺した挙句に私をさらうような者たちが素直に答えるとは到底思えません」 「おやん? ワタクシたちがホムンクルスだってどうしてご存じなのかしら? ひょっとしたらた だの身代金目的の人間のテロリストかも知れませんわよ?」 「いいえ。それはありません。私は見ました。キミが片手に持った『何か』で私の部下達を軽々 と殴り殺していくのを。……流石の私でも火渡にああはできません。物理的にも精神的にも」 「ナルホド。物理的に強く精神的にエグいから断定しましたのね。ま、正解ですケド、呆気なさ すぎてつまんないですわね。もっと焦らして焦らされるヨロコビを教えて差し上げたかったのに」 「それともう一つ。キミはただのホムンクルスではありませんね? 恐らくは調整体。それもDr. バタフライが作ったような精度の低い物ではなく、複数の動植物の精神を制御できるタイプ。 100年前ならいざ知らず、今となっては文献でしかお目に掛かれない高度な調整体とみまし たが……当たらずとも遠からずといったところでしょう」 照星は初めて眼前の女性をじっと眺めた。 うら若い外国の美女というところだろうか。 肩の辺りで縦ロールにしたジンジャーの赤茶髪が印象的である。 前髪はオールバック気味に跳ね上げ、白いヘアバンドで抑えている。良く見るとヘアバンドの 中央には赤い十字が、左端は黒い鞭のような飾りがそれぞれ付いている。 それを除けば取り立てて奇矯な格好でもないところに照星は驚かされた。 胸元が少し開いた黒いワイシャツの上に少々汚れの目立つ白衣を羽織り、灰色のタイトス カートから覗くしなやかな足をストッキングで包んでいる所など、戦団の研究室を探せば一人 や二人はすぐにでも見つかりそうなファッションだ。靴も踵が太く低い黒革のプレーンパンプス と実に飾り気がない。その癖彼女がきらめくような美貌を誇っているのは、生来の端正な顔つ きにも拠るが、メイクの上手さがそれをより引き立たせているのだろう。化粧についてそこそこ の造詣を持つ照星だからこそ不覚にも見とれかけた。そんな機微を察したのか女性は口紅で 赤くなった唇から象牙のように白い歯をくすくすと覗かせている。 やがて吊りあがり気味で魅惑的なキツネ目がすぅっと笑みに細まった。 「そう。ワタクシは調整体。人間を基盤(ベース)にゴリラとカモシカの能力を移植されたタイプ ですのよ。何しろワタクシの武装錬金ときたらまるで戦闘に不向きですから、腕引き千切って ひたすら力を込めてブン殴るぐらいしかできませんの。素手で殴るとお肌荒れちゃいますし」 「だから直接的な攻撃力を高めるために、ゴリラの腕力とカモシカの脚力を用いている……そ ういう訳ですね?」 「ええ。ところでワタクシの名前ですけど」 女性は足を組み替え、照星は沈黙を経て言葉を紡いだ。 「グレイズィング=メディック。……思い出しました。確かキミの名はグレイズィング」 「まあ。覚えていて下さったのね! 光栄だわ!」 女性──いや、グレイズィングはわざとらしく胸の前で手を組むと、透き通るような笑みを浮」 かべた。 「キミの武装錬金は随分特殊でしたからね。戦団でも自動人形の講習の際には必ず引き合 いに出させて頂いてます。あれだけ嬲られた私がいまこうして無傷なのも例の特性のせい……。 しかし確かキミは10年前死んだ筈では?」 「ええ。『人間型ホムンクルス』としてはね。まあその辺りの事情は後でイオイソゴかサブマシン ガンオタクの無口ちゃんから聞いて下さいまし。とにかくワタクシ、階級は以前変わらずマレフィッ クビーナスで毎日権限をカサに殺りたい放題犯りたい放題ですの♪ 充実したリョナライフで お肌つやつや頭蓋ぐにゃぐにゃ。んふふ」 「……マレフィック、ですか。『凶星』を意味する肩書が未だ健在であり、イオイソゴも生き延びて いるとなれば、私を誘拐させた黒幕は『彼』とみていい訳ですね?」 「そのとーりですわよ。おかげ様で10年前に天王星と海王星と冥王星、それから月の担当が いなくなっちゃいましたけど、大部分は残ってますの。ちょぉっとばかり面子は変わっちゃいま したけど、一人でそこらの共同体ぐらい楽勝でブッ潰せる粒揃いなのも相変わらず」 「そしてそのマレフィック達に私をどうさせるつもりですか?」 サングラスの奥で端正な瞳が細まるのを認めたグレイズィングはおどけた。 「うふふ。安心して結構ですわよ? 何があろうとワタクシだけはあなたを治して差し上げます から。だってぇ、これでも人間だった頃はちょっぴりHだけど優しく腕のいい女医さんでしたもん」 グレイズィングは微笑しながら十数枚の写真をベッドの上にバラまいた。 「ま、戦団のお馬鹿さんたちがつまらないちょっかい出してくるまで限定でしたけど」 照星の片眉が跳ね上がったのもむべなるかな。写真は酸鼻を極めている。 顔面が陥没し目玉をどろりと流す戦士の死体。 獣の爪で腹を抉られ、辛うじて皮一枚で上半身と下半身が繋がっている戦士の死体。 腰を万力のような物でぐちゃぐちゃに潰れされた死体。 明らかに毒物を注射されたとみえる疱瘡まみれの紫死体。 その他ひどい物が5~6体。 いずれも照星を護衛していた戦士たちの成れの果てである。 「悪趣味ですね。復讐のつもりですか?」 「ノンノン♪ 単なる適応機制でしてよ」 ぽっと桃色に染まった頬に両手を当てながら、グレイズィングは身をくねらせ始めた。 「ワタクシったら人を治してると壊したくなっちゃうんですもの! ああでもダメ! ワタクシはお 医者さん……! いけないのいけないの壊したりしちゃいけないの! なのに銅の腕を握り 締めた腕は動いちゃう。や、ダメ! そんなところ殴っちゃお脳が豆腐みたいにこぼれちゃう! ダメ、ダメぇぇぇっ! とか葛藤して喘ぎ喘ぎ戦士さんブチ殺すのって実にふしだら。ワタクシっ ていけない女医さん。ああ、いけない女医さんって響きもまた甘美でス・テ・キ。ん……ああっ」 絹を裂くような甘い声が部屋に響き渡る中、照星は何も感じていないような表情で写真を一 か所にまとめ握りつぶした。 「で、でもワタクシ、マグロじゃありませんわよ! 感度の良さには定評ありますし拙くてもイケ ますの! 演技とかしたコトありませんもん! どんな愛撫だって高まってあげるのが殿方へ の礼儀だって信じてますもの! でしょ? でしょ? 真実の愛ってそういうモノでしょ!?」 「キミがそう信じたければ信じなさい。ただし私は決してキミが人を愛するコトは認めません」 「でででもワタクシ病気とか持ってませんわよ? そこはちゃんと毎週チェックして治してますの」 戸惑ったような申し訳なさそうな顔で弁解するグレイズィングである。 「…………」 照星は黙り込んだ。もし火渡がこの場に居れば火炎同化でも何でもして即刻この場を立ち 去るかも知れない。普段優しげな表情は粛然と引き締まり恐ろしげな気配を漂わせている。 気配を察した赤茶髪の元女医はぺろりと舌を出した。 「やーん。いいすぎちゃった。睦言もほどほどにしないと冷静気取りのウィルに怒られちゃう。 ちなみにウィルが上手いのは部屋のセッティングだけ☆ 生身のプレイは前→後→前の天丼 ばっかでつまんなーい♪ 親子丼やろうにもウィルは親ブチ殺してるから無理ですし。んふふ」 ぱしっと小気味よい音を左拳に立てながら、グレイズィングは艶然と照星を見返した。 彼の拳はグレイズィングの手中にある。つまり殴りかかったが呆気なく受け止められている という訳である。流石の照星も浅くため息をつき、サングラスに手をやった。 「核鉄だけは没収しているようですね」 「有ったとしても果たして勝てるかしらん? ワタクシはともかく……『水星』や『太陽』に」 断わっておくが照星の拳が弱いという訳ではない。むしろ火渡赤馬や武藤カズキといった戦 士でさえ反撃不能になるまで叩き伏せられる程度には強い。だがグレイズィングは平然とそれ を受け止めたままゆっくりと身を乗り出した。照星の拳はぴくりとも動かない。それを握る拳は ホムンクルスの高出力を超えた高出力を発揮しているようだった。みるみると細腕が肥大し、 うらぶれた白衣越しでさえ野太い血管や筋肉の隆起が見えた。にも拘わらず着衣は破れず、 拳を握っていない右腕は柳のごときしなやかさで照星の髪を優しげに撫でている。 「強い殿方は……好きですわよ」 うっとりとした調子で囁きながらグレイズィングは照星の唇に自らのそれを当てた。 そしてすぐに口紅より真赤な液体を口からぼとぼととこぼしながら、くすぐったそうに顔を離し て照れくさそうに笑った。 「やぁん。舌挿れたら咬み切られちゃったあ」 唾棄とは正に照星の行動をいうのだろう。彼は血まみれの肉塊とも金属部品ともつかぬ物 体を丸めた写真めがけてべっと吐き出した。血がその表面を伝い、真新しい純白のシーツが 赤く汚れていく。下の毛布さえ汚れていくような気がした。 「その程度の傷、私の部下達に比べれば些細な物でしょう。それでも気に入らなければあな たの武装錬金でさっさと治してみせたらどうです? 別に私は止めません」 汚物にするような手つきで唇を拭った照星に、グレイズィングはニンマリ笑った。 瞳には怒りも屈辱もない。ただただ更なる汚辱を期待する光が蕩け波打ち、甘い吐息を早 めているだけである。肥大した腕がしぼみ、指が愛おしげに口の中をかき回す。 「衛生兵の武装錬金・ハズオブラブですわね。んふふ。通称は『愛のため息』! メルス…… おっと失言かしらん。ど・な・た・様・かの! クローンな金髪コピー剣士さんにパクられちゃい ましたけど、ワタクシのは本家本元だけに高・性・能!」 言葉とともにまるで人間のような武装錬金が彼女の傍らに現れいでた。 一言でいうなら丈の短いスカートを履いた気弱そうなナースである。その腕がグレイズィング の口に伸びるとたちまちに舌が再生した。と照星が認めれたのは彼女が口をあんぐりと開けて 見せつけていたせいである。 「どなたでも何度でも怪我を治療できますし、病気だって治せちゃう! ワクチンだって作れま すし点滴その他各種薬剤も調合可能! 5年前に欠けた歯も10年前に失くした膝の軟骨も 再生できる治せちゃう! そ・の・う・え! 死後24時間以内なら蘇生だってできますの! 災 害現場で黒いトリアージを見てしょんぼりするコトなどワタクシには皆無!」 ハズオブラブの腕は照星にも伸びた。 「だって助けられない方々いたら楽しく顔面叩き潰して回りますもん。苦痛を終わらして差し上 げるのもワタクシの社会的責任ですし♪」 照星は身じろぎもせず身体の異変を受け入れた。 (歯を治したようですね) ホムンクルスの舌を噛み切るという暴挙によって損壊したエメナル質や象牙質がすっかり治 癒しているのは屈辱以外の何物でもない。 同時に照星は全身を貫く悪寒に思わず身を丸めた。 (……どういうコトです?) 疑問が浮かぶ。 (どうして彼女はこの体調不良だけ残しているのです? ただの嫌がらせ? それとも──…) 「こんな感じで今からあなたを治して差し上げますわよ。来たのはその御挨拶」 グレイズィングの背後でドアが開いた。 「そう。治して差し上げますわよ。ちょうどマレフィックの方々が御到着されましたし」 照星は見た。ぞろぞろと入室する様々な男女の影を。 ますます高くなる熱のせいで視界が眩みはっきりとは見えなかったが、小柄な影が居れば両 手にサブマシンガンを握る少女らしきシルエットも居た。中肉中背も居れば背の高い者もいる。 かと思えば人間とは思えぬ異形の造詣もそこに佇み──…月のような顔を抱く男も居た。 (おやおや。何ともひどいコトになりそうだね) ムーンフェイスがため息をつくほどに男女の影は隠しようもない殺気と妖気を漂わせ、じっと 照星を睨んでいる。しかもムーンフェイスの見るところ、ドアの外にはまだそういう者がいるらし い。闇に紛れて数は分からない。同質の負の感情が混ざって溶けあい数人かはたまた数百人 かと思えるほどに異様な気配が充満している。 腐臭と血膿と錆の香りがたっぷり乗った魔風さえドアから流れ込む中、グレイズィングは歌 うように笑いだした。 「そう。腕が切断されようと」 「顔面が溶かされ失明しても」 「煮えたぎる鉄を飲まされよーと」 「肋骨がぜーんぶ折れて肺挫傷をきたそうと」 「背中が蜂の巣になって骨ごと脊髄が食い破られても」 「ちゃんと治して差し上げますから頑張って下さいね! ワタクシも頑張って必ず快方に向か わせて差し上げますからね! どんな拷問されてもちゃんと助かりますから、諦めないで!! あはは。あははは!! あはははははは!!!」 端正な美貌は言葉を発するたびにだらしなく歪んでいき、笑い声はやがて快美に噎び泣くよ うな喘ぎを交え出す。 やがてグレイズィングは涎をまき散らしながら目を剥いた。 照星が顔を背けずにはいられないほどの見苦しい言葉が更に幾つも飛び出し、聞くに堪え ぬ淫らな声が響き渡る。影達からも侮蔑の視線が仄かに漂う。 やがて沈静したグレイズィング、銅の髪の螺旋の果てをくっと噛みしめ肩震わせつつ息も絶 え絶えに囁いた。 「あぁん……。気持ちイイ……。そ、そうそう。舌を噛み切って自害しても無駄……ですから。 さっきもいいましたけど、死後24時間以内なら、蘇生、させれますのよ……ワタクシ」 豊かな肢体はビクビクと痙攣をし、今にも何事かが再燃しそうな勢いがある。 「だってえ、10年前の恨みもそれ以前の恨みも、今さらあなたの自害なんかで晴れそうにな いですもん。やっぱり死んだ人より生きた人にこそリビドーをブッかけるべきですもの。エロい 事もグロい事も相手の歪んだ顔とかうめき声とかケイレンありき……! 反応あってこそ歓び を味わえるのですわよ! プレゼントした時のくすぐったそうな顔とかいいでしょ? ワタクシに とって苦痛がそれっていうだけだからちっともおかしくありませんわよね! ええ、ワタクシは正 常! 精神も健康状態も体位も正常が大好きな女医さん! あははははははっ!!!」 椅子から立ち上がったグレイズィングの足がもつれた。自ら想像する快美によって脱力した らしい。彼女はそのまま傍らのテーブルを巻きこみつつ転んだ。机上のカップやソーサーが派 手な音を立てて割れ砕ける中、彼女自身もまた床に顔面を打ちつけた。 無様としかいいようがない。 にも関わらずグレイズィングは床に伏したまま顔だけを前に向けると、鼻腔から垂れる血液 を拭おうともせず笑い始めた。いったい何がおかしいのかケタケタと哄笑を上げた。 自動人形は創造者の一面を映すという。ならば彼女を抱き起しにかかった衛生兵はわずか に残る理性の証だろうか? 軽い戦慄とともに照星が推測する中、ハズオブラブは鼻の粘膜 を治療した。 「……クス。死体相手はナンセンス。お相手の葛藤とかタブーとか尊厳をブチ壊してこそ楽しい んですもの。命はそれの源だから、簡単に切り捨てちゃ勿体ないから……癒しますのよ。命あ る限り癒して癒して癒し続けますの。たまに死んじゃったり精神ブッ壊れて死体以下のクズに なる方もいますけど、あなたは楽しませてくれそうだから久々にドキドキしてますわ」 ハズオブラブに肩を貸されたグレイズィングがドアに向かう。 手の甲で鼻血を拭った彼女は恍惚とそれを眺め…… 「あ、そうそう。さっきいったインディアンを効率良ーく殺す方法ですけど」 息を荒げながらむしゃぶり付くように舐めはじめた。 しばし部屋には耳をふさぎたくなる水音が響き──… 「1763年のポンティアック戦争ですわよ。インディアンに包囲されたイギリス軍士官が素敵な 素敵なプレゼントを送って包囲網を突破しようとしましたの」 照星の頬に1cmほどの隆起が生まれた。 白い豆を張り付けたような膨らみだ。照星が思わず手を伸ばしてそれを触る頃には、周囲の 真皮が次から次へと肥厚してボツボツとした豆状の丘疹(きゅうしん)を形成し、頬一面から顔 面、そして首筋から全身へと広がっていく。 「そう。天然痘ウイルスのたっぷり染み込んだ毛布をね」 人類が初めて撲滅した感染症。それが照星の全身をいま蝕み始めている。 「お喋りしたのはコレを待つための時間稼ぎですの。ワタクシ拷問が趣味の一つですから、ちょっ と天然痘ウイルスをイジくってみましたのよ。良かったですわね。人類最後の感染者になれる かも知れませんわよ?」 照星は理解した。二枚目の掛け布団が毛布だった意味も自分を蝕んでいた高熱や頭痛の意 味もグレイズィングがそれらを治さなかった意味も。 「まあ、実際はせいぜい数百人殺した程度ってお話ですし、それ以前からも天然痘は流行し ていたようですけれど……素敵じゃないかしら? 自分たちが侵略しておいて反撃されたら 天然痘で都合よく一方的に相手を殺そうってその態度。まるで貴方たち錬金戦団みたいじゃ なくて? 弱いくせに利益を貪ろうと他の方へ手を出して、反撃喰らって壊滅しそうになったら 卑劣な手段で揺さぶりにかかる。だからコレから色々と素敵な目にあっちゃう。インディアンを 殺した白人がしばらく梅毒に苦しんだように……楽しい楽しい時間がもうすぐ始まりますの」 ハズオブラブを消したグレイズィングが、多くの影をすり抜けドアの外に出た。 ……どこからか、刀が床を突き刺すような音がした。 何故照星が『刀』をその音に関連付けたかは分からない。 ただそれを合図にグレイズィングがパンプスの踵を軸にくるりと振り返り、ウィンクしつつノブ に手を当てた。 「それではしばし、ごきげんよう」 ドアがゆっくりと閉じられ──… 呼吸困難に苦しむ坂口照星目がけ影達がゆっくりと歩き出した。 第一章 完
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part22 304 まっとうな性交ではなく脚コキネタありますので苦手な方注意。 ※エロに移行する前、グロ描写があります。 駄目な人は最初のほうはすっとばして下さい。 ――果たして、魔女は幾度にわたって無慈悲な賽を転がし、 幾人が豪雨の孤島の中、むごたらしい最期を遂げたのか…… 「ぎゃああああああああッ! いや、嫌ッ、殺さないで黄金の魔女、殺さないで……! お願い、ベアトリーチェ、黄金郷へ連れて行って、黄金郷へ、 おうごん――ぴぎゃっ。」 「――やっと最後の一人がくたばったか。 『うみねこのなく頃に生き残れた者はなし』…… ……ふぅ、幾度目かのう、これをつぶやいたのも」 黄金郷へ辿りつきかけていた最後の一人の鮮血がべっとりと滴る手で、 ベアトリーチェは愛用している長煙管を口元へ運んだ。 閉鎖された孤島の中、繰り返される残酷な惨劇。 すべてはベアトリーチェの思うががま、賽の導きと碑文の伝承にしたがって、 幾多の人間が物言わぬ屍と化していった…… ベアトリーチェは苦み走った顔つきで煙管の縁を噛む。 完全犯罪を成し遂げたというのに、心のうちには妙な空虚感がたゆたっていた。 ――聡明な魔女は、本当は分かっているのだ。 このような血の惨劇を幾度繰り返したとて、自分の中に打ち広がる 虚ろは埋められないということに。 右代宮家の人間を皆殺しにし、復讐を成し遂げたとて…… 魔女が求める『愛』はどこにもない、いつまでたっても得られない。 (どいつもこいつも真実に気づけぬウスノロばかり。 妾の手の内でくたばるばかりの愚かな生贄の羊たち! ああ、誰か一人でもいい、碑文の真実を暴き、本当の『黄金郷』を見つけ出せる猛者はおらぬのか。 妾を永劫の眠り、永久の安らぎのうちに休ませてくれる者は! ……それとも、もう、おらぬのか。 妾の、妾の本当の願いを、叶えてくれる者は、もうどこにも……ッ) 思慮が沈んだそのときだった。ごすっ、という、西瓜が床に落下した時のような、重くて鈍い音が場に響き渡ったのは。 「いやぁだ、また壊れちゃった」 続いて少女の甲高い声。ベアトリーチェはけだるいしぐさで後方を振り向いた。 場はすでに悲劇の六軒島ではなく、目もあやな豪奢な調度をちりばめた魔女の談話室へと変化している。 「ベアトリーチェ様ァ、これ、また壊れちゃいましたァ! なおして、なおしてぇ」 猫足のドレスチェアに座りこみ、優美に足を組む幼い少女は、ベアトリーチェ配下のひとり。 煉獄の七姉妹・色欲のアスモデウスその人だった。 まだローティーンのおもざしに妙にコケティッシュな艶をにじませ、語尾を甘くのばす舌足らずな口調で、 彼女は手の内に持っている『あるもの』をベアトリーチェに掲げで見せた。……小ぶりな西瓜ほどの大きさの、それは人の生首だった。何か万力のごとき力で引きちぎられたであろう切断面からぼとぼとと血膿が床上に滴っては、赤黒いミルククラウンを描く。 「これ、アスモデウス、お前はまた性懲りもなく壊したのか。 玩具とはいえ妾が差し出したものだぞ。 壊すなとは言わぬが……せめてもう少し丁寧に扱えぬものか?」 「だってぇ、いつもは姉さんたちがこれを独り占めしちゃうからぁ」 アスモデウスは唇を尖らせて生首をぶんぶんと振り回す。 美少女の白い指が鷲づかんでいる髪の毛がぶちぶちを嫌な音をたてた。 「あああ、わかったわかった、元に戻してやるからそれを床に置け」 「はァい♪ ベアトリーチェ様、大好きィ」 アスモデウスは無邪気な笑顔で生首を床にたたきつける。 衝撃で、ぶしゃぶしゃと脳漿をまき散らした残骸に、ベアトリーチェは笑いかけた。 「ほっほう、見事なまでに血まみれでバラバラで血だるまでぐしゃぐしゃだの。 ――おや、ハラワタも少々引きずり出されて……ふむ、ラムダデルタが喜びそうだな…… ま、そんなことはどうでもよいか。 ――さぁあ、そなたが本当はどんな姿をしていたか、思い出してごらんなさい、可愛い妾の愚かな玩具。 そうそう、その調子、もっともっと思い出してごらん、そなたの本当の姿を……!」 魔女が力ある言葉を放つごと、床上に散らばった残骸に変化が起きる。 ちぎれた細胞が近くの細胞とくっつきあって肥大化し、折れた骨が次々に組み合わさって『人』の形状に戻っていく。 飛び出た脳髄、引き出された胃袋が頭部へ胴体へ自然に戻り、ずたずたになった皮膚がつなぎ合わさって―― そして、幾度も幾度も繰り返される絶望のループの中、黄金の魔女へただ一人挑む男・右代宮戦人が目を覚ました。 「う……痛ててててっ! ちくしょう、生首で手鞠、胴体で綱引き、ハラワタで蝶々結びなんぞして遊んでくれやがって、このフトモモむきだしのエロ魔女が!」 「きゃあ、生き返った、生き返ったァ♪ あん、遊ぼ、またいっぱいイケナイ遊びをしようよォ!」 「だめだ、アスモデウス。 お前は十分この玩具と遊んだろ? 妾と交代だ」 瞳をうっとりと甘く潤ませるアスモデウスをベアトリーチェは鋭く制す。 ベアトリーチェは、残念そうに表情をゆがませ闇の中に掻き消えていく色欲の権化を見つめおえると、ゆっくりと戦人へ視線を移行させた。 「さァて、お前の推理は今回も的外れの大外れ。 大事な家族も使用人も真犯人も、無敵の魔女の前に哀れにも惨殺されてしまったが…… どうするね戦人、まだ屁理屈をこねまわして妾に挑むか?」 「当然だ! 今回もわけわかんねぇ密室こしらえやがって…… 大体、六人があの場所にいる状況がおかしすぎるんだよ! 二日目の夜のあの出来事だって、まだ検討の余地があるし、あいつのあの行動も怪しい! ヘリクツって馬鹿にするんじゃねえぞ、お前のすべては俺の推理で覆せー―ッ、痛てててっ……!」 口角泡を飛ばす勢いで推理を展開しようとした戦人は、突如腹部をおさえてその場にうずくまった。 彼の纏うホワイトベージュのスーツの前身ごろを、鮮血がべっとりと濡らしている。 おや、とベアトリーチェは愁眉を寄せる。 「おやおや。 縫合がうまくいかなんだか、よほどアスモデウスに内臓をぐしゃぐしゃに弄られたと見える。 ああ、わかった、暴れるな。強い魔法をかけてやる、その程度の怪我、すぐ治してやるとも。 ……うん、大丈夫だ、吐きたければ戻すがいい、あとで山羊に始末させる」 激痛のあまりに吐瀉する戦人に、慈母めいた甘く優しい声音で語りかけ、ベアトリーチェは魔力を帯びた呪文を口ずさむ。 乱舞する蝶のさなか、溢れ出す金色の力で、戦人の体から痛みが引いていく。 「ついでだ。脆くて弱いお前の体、もう少し強くしようかの。 七姉妹にいじくられるたびに徐々に弱まってきている、耐性をつけねばいずれ本当に死んで壊れる可能性がある」 ベアトリーチェは囁いて、言の葉に込める魔力を強めた。 まどろみの中にあるような、適温の風呂に肩まで浸かっているような、心地よい安堵感が戦人の全身を緩く包む。 ああ、と、感嘆の声が我知らず漏れた。――だが。 ――ずくん。 「……!?」 癒しの時間は突然断ち切れた。 腹の底からのど元に向かって、こみ上げてくる『何か』がある。 嘔吐感ではない。どちらかというとのどの渇きに似たものが、体の奥底から戦人を突き動かす。 否、飢餓ではない、枯渇ではない、これは、これは―― 「うああああ! ベアト、ベアトリーチェ、もう、やめろ!」 体内から体を突き破らん勢いで『あふれ出すもの』にこらえきれず、戦人は頭を振って叫んだ。 突如絶叫し再び床に伏した戦人の姿に、魔女は再度眉を寄せる。 馬鹿な。細胞を活性化させ、傷ついた組織を再生し、生命力を増すという『良い魔法』を使ったのだ。 戦人が苦しむはずはない。そんなのはおかしい、魔術より不条理だ。 「なぜだ戦人、なぜ癒されて苦しむ!?」 「ち、違うんだ、お前、たぶん、俺の体を活性化させすぎた―― ッあ、あァ、くそ、ベアト、お前今すぐどこか行け、ここにいるな! お前、さえ、いなかったら……っあ、ぁ、おれ、たぶん一人で始末できる、ぅあ……」 荒い呼気の中で戦人はあえいでいる風である。 尋常ならざるその様子に、ベアトリーチェは困惑し、もしや腹部にまた異常があったのではあるまいかと戦人の下腿に目をやって――息をのんだ。 彼の着こんだ上等のスーツ、その両足の付け根のあたりの生地が……不自然な形に張っている。 ベアトリーチェはまごうことなき女性である、男性の生理現象には詳しくない。 だが、風説では知っている、男性は性的に興奮状態に陥ると、下半身の一部が充血・硬起してこのような状態になるのだとかなんだとか。 そこでようやく腑に落ちた。 おそらく、魔女たちの無情にして非情な拷問に耐え切れるよう、人間の脆い体を魔力でちょちょいと頑健にしてやろうという魔法が裏目に出たのだ。 彼の生命力を刺激しすぎて、オスの生命力までむやみやたらに増加させてしまった。 ゆえに戦人は急激に訪れた欲情に苦しみ、うずくまった、と――こういうわけだ。 「た、頼むから席はずせ、俺のアレが突っ張ってじんじん疼いてテント張って痛ェぐらいだぜ畜生! ああもう、あとでヒィヒィいわせてやるからなこの阿呆魔女が……っ」 戦人をおもんばかって踵を返してやろうと思った足が、その一言でぴたりと止まった。 今は人間と推理合戦を繰り広げていようとも、自分は無限の時空を生き黄金の力を行使する魔女の中の大魔女ベアトリーチェ。 そのすさまじい魔力を奴隷どもに称賛されることはあれど、ただの玩具風情に阿呆といわれる筋合いはない! 「--なァにがヒィヒィ言わすだァ? 処女みてぇにヒィヒィ泣きながら言うセリフじゃねぇぜぇえええ、聞いてるのか阿呆愚図ウスノロ戦人ァア?」 ノロウェに『下品ですよ、お嬢様』とたしなめられる乱暴な口ぶりを全開にして、ベアトリーチェは先ほどまでアスモデウスが使っていた瀟洒なドレスチェアにどかりと腰を落とした。 同時に優美に足を組むと、ビロウドのドレスとレースのペチコートの折り重なる波間から、つぅいっ、と、魔女の靴があらわになる。 ベアトリーチェの体格にしてはやや華奢な足を覆うのは、顔が映りそうなくらい磨きこまれた漆黒のエナメルの、プラットフォーム・シューズ。 これでよく歩けるというほどの傾斜の高さ、ヒールの細さは針のよう。 くるぶしの折れんばかりの細さも相まって、靴フェチが見たら狂喜して頬を擦り寄せかねぬ、非常にフェティッシュな足先だった。 警戒して身をこわばらす戦人は驚愕した。 腹部を抑える自らの手が急に痙攣し、見えない力にひねりあげられるように後ろ手に回ったのである。魔女の魔法に相違なかった。 「て、てめぇ、ベアト、なにしやがる!」 「はっ。痴れたこと! ソコが疼いてたまらないかわいそうなお前のため、『ナニ』するに決まってんだろうが」 ベアトリーチェはにやにや笑いを深めると、美しく尖った靴前部分を、戦人の両足の合間へ差し入れた。 かたく張りつめたテント部をやわりと押しつぶされ、戦人の唇から大きな喘ぎとも小さな叫びともつかぬ濁った声が漏れる。 「っ、あ、ベアトリーチェ、ベアト、やめ、ちょっと!」 「止・め・ぬ。妾を阿呆扱いした罪は重い。 それに痛みばかりの拷問続きで、おまえも随分とくたびれていただろ? 人間の肉の睦み合いの作法はとんと知らぬが、ここをいじればお前は心地よく楽になるのであろう? ――だったら、やってやる。 妾が手すがらじきお前の欲情を開放してやるよォオ、妾の目の前でヒィヒィ鳴かせてやるよ戦人ァアア!」 イヤイヤイヤ手すがらじゃねぇだろ、足でヤってんだろテメェ。サウンドノベルなんだから日本語は正しく使えってんだよ! と声を大にしてツッコミたかった戦人であるが、女王様ならぬ魔女サマの靴で股間をなぞり上げられる快楽に声も出せない。 びくびくと震えながら、喘ぎを噛み殺し噛み殺し、前傾の姿勢をとるほか術がなかった。 「は、無様なモノだな右代宮戦人。 御自慢の推理はおろか、下半身の快楽に翻弄されて声も出ぬか? え? まったく人間とは滑稽で愚かな俗なる種族よ!」 ひじ掛けに肘を置き、手を顎の下へ添えて。 ベアトリーチェは優雅なしぐさをとりながら、細い声で喘ぎ、わななく戦人の欲望の象徴をなおも強く慰撫する。 細い細いヒール部分で敏感な先端を突くように弄られ、喉の奥からしゃくりあげるような声が出た。 くつくつと鳩のようなベアトリーチェの薄笑いも届かない。耳を聾するのは自らの激しい心臓の鼓動だけ。それが破裂しそうな下半身の鼓動と重なりあう。 女主人の前にひざまずく奴婢の如き恰好を強いられ、男の一番大事な部位を脚先で弄われて嘲笑われる。 倒錯的で屈辱的な状況に、怒りとも興奮ともつかぬ感情が胸の奥から沸き起こる。 敏感になりすぎた部位からあふれだす甘狂おしい疼痛に、戦人はくらくらと目眩がした。 「やめ……ベアトリーチェ、ベアト! ひ、ひ……っ、やめろ、ヒールで押すな……っあ、ァ、駄目だ、俺の体、なんだかおかしい……っ! これ以上、弄るな、お願いだから、頼む、おねがいだから、おねがい、っ」 舌足らずな語調で戦人は懇願し、眼前の魔女を仰ぎ見た。 「……ほぉう?」 その面付きに魔女は小さく息をのむ。 いつもは飄々と、推理を突き付けるときは決然とベアトリーチェを見据える戦人の瞳。 彼のアイスブルーの瞳が、こみあげる快楽に焦点を喪って甘くぼやけている。 形良いまなじりにほんのりと涙が光り、頬は高熱を帯びた人の如き薄朱色。 半端に開いた唇が、再び『おねがいだから』と、切れ切れに訴えるのを見とめた時、魔女の心臓は妙な調子に脈打った。 果汁100パーセントのクランベリー・ジュースを干した時のような、甘酸っぱい情感がじわりと胸郭いっぱいに打ち広がったのである。 (む、胸が熱い……!? こ、この気持ちは一体……何だ……!? 妾は唯この玩具を弄んでいるだけだというにっ、この甘酸っぱいような情感は…… ――う、うううっ、なんだと、妾が惑うだと、正体不明の思いに翻弄されて、この大魔女サマが困惑するだとォオオオオ!? 冗談じゃないそんな不条理認めないっ、玩具のせいで、奴隷で玩具の戦人如きのせいで妾がまどうなんてありえてはならないんだよォオオオオオオ!) 異変の正体に思いを巡らせて、ベアトリーチェは激しい怒りにとらわれた。 大量殺戮さえ笑顔で成し遂げるこの黄金の魔女に、戸惑いなどといった甘っちょろい乙女のような情感は似つかわしくない! 「冗談じゃぁなァアアアアアアいっ! 畜生めっ、なんだかよくわからないがこのような汚らわしいことはさっさと終わらすに限る! ――さぁ戦人、いけっ、いっちまえっ! 妾の目の前で妾の脚で×××弄られて無様な醜態さらしちまえってんだよォオオオオっ!」 唇を噛み、暴言をまきちらして、魔女は玩具の股間を根元から先端まで一気になぞり上げる。 「っひっ!?」 性感に爪を立てて裂かれるような強烈な刺激に、目尻にたまった涙が玉となって戦人の頬を伝い落ちた。 貞節を破られた処女の如き裏返った悲鳴を放つと、戦人は前傾姿勢をとることもできぬまま全身を痙攣させて精を放った。ホワイトベージュのパンツスーツの前身ごろが、見る間に暗く色を変える。 「っあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! イったか!? 妾のハイヒールで弄られて、いっぱいでちまったのかよォ戦人ちゃんよォオオ!」 そのさまを見て、魔女は天井を仰いで大っ笑した。 足の刺激一つで翻弄されて精を放つなど、まったく人間とは無様で滑稽で無力でおぞましく、なんと可愛らしいもの! こんな非力な格下のイキモノ相手に、魔女が魔力を使う必要すらない。 「うひゃひゃひゃっ、存外、かァわいい声を出して達したなぁ。 うん、なんだ、妾の脚がそんなに良かったかァ? そういやぁ、妾達の世界に招いてずいぶんの時間がたったものなぁ! お前も人間のオス、たまるもんはたまっていたってぇことかよ、ええ? うひゃ――」 ひゃひゃひゃ、とつなげようとした笑い声は、発する前に途切れた。 肩を落として荒い呼吸を繰り返していた戦人の顔が、急にキッと持ちあがった。 同時に彼は目にもとまらぬ速さで両腕を動かし、油断していたベアトリーチェの膝に縋り付く。 たっぷりとしたドレスの裾を持ち上げようとしたところで、ベアトリーチェは異常に気づいて両足をばたつかせた。 「な!? なっ、なッ、なにして、ちょっとこらなにしてんだよ戦人ォオオオッ!?」 「うるせぇんだよこのクソ下品な女王様気取りのエロ魔女…… 靴だけで我慢できるか、足見せろ足ィ! どうせ足コキすんだったら足裏か太ももにべったりみっちり擦りつけさせろってんだよそれが王道だろうがゴルァアアアア!!!!」 狼狽した声を発すベアトリーチェの両足をホールドし、戦人はそう力の限りに叫ぶ。 先ほどまで淫らに濡れていたアイスブルーの瞳が完全にすわっていた。焦点の奥には燃え上がる炎すら感じ取れる。 (な、なんだこれ、なんだこの馬鹿力……!? 人間ごときに魔女を抑え込める力なんてあるはずない――魔法の介添えでもないかぎり、あるはず、ない…… ――ああっ! も、もしかして、妾が戦人を頑健にしようと生命力を活性化させすぎたあの魔法! 同時に性欲増大したから戦人は身動きが取れなかった。ってことは、射精させたことで性欲のほうはひとまず落ち着いて―― 魔女に匹敵するくらい、異様に頑健になっちまったってことかァア!? ち、ちくしょう、どこのご都合主義の二次創作だよ! 妾はそんなの認めない、この助平野郎をとっとと蹴り倒して奴隷の烙印を押して七姉妹に引き渡した後、直々に八つ裂きに――) 「――むぐぅっ!?」 混乱する頭でそこまで考え、力ある魔術の言葉を口にしようとしたところで、魔女の口内に何かが突っ込まれた。 「おっとっと! 危ねぇ危ねぇ。お得意の魔法を使われちゃ、いくらこの戦人様だってたまらねぇ。 さぁあてぇえ、滅茶苦茶にかわいがってやるからおとなしくしてろよ魔女サマよぉ、ひっひっひ!」 「ん、んんんんんんッ!?」 唇の両極を吊り上げて意地悪く笑い、戦人はベアトリーチェの口の中になおも自らのネクタイを吐き出すのが不可能な位置まで突っ込みつづける。 いつネクタイを解いたのか、魔女の視力にも全く視えない瞬殺の早業だった。 ついでに戦人は素早く背広を脱ぎ棄て、その両腕の部分を利用して、もがく魔女の両腕を後ろ手にした。 余った生地はチェアの背もたれにくくりつける。粗暴な結び方だが、結び目は凝っていて異様に硬い。 縄目の屈辱にベアトリーチェはかぶりを振り、椅子を思いきり軋ませて猛獣のように暴れた。 「おうおう、かわいい恰好じゃねぇかよ、ベアト。 ネクタイなんぞ噛みやがって、いつもの高慢ちきな顔つきが台無しだぜぇ? ――さぁて……先ほどの続きだァ。 御自慢のお御足拝見と行くぜぇ、魔女サマよぉ!」 「んんんんんんんーっ!」 ――股間を湿らせたままでよく言うわ、このグズッ! 解き放ちたかった言葉は、ただの聞き取りづらい籠もったうめきにしかなりえない。 戦人は男前に飄然とした笑みを浮かべて、憤慨するベアトリーチェの眼前にひざまずいた。 (妾が好きにされるかよっ、馬ァ鹿! 顎を蹴り砕いてやるよッ、このエロ馬鹿ウスノロ人間風情ッ!) 激怒した魔女は思い切り右脚を閃かせる。 硬いプラットフォームシューズの靴底が、戦人の顎を割り砕く――はず、だった。 「おおっと、危ない危ない―― はっ、役得だな。 いい格好だぜ魔女サマよ、美味しそうな絶景をどうもありがとさん」 戦人がこともなげに掲げた手に、必殺のはずの一撃はあっさりと押さえ込まれた。のみならず、彼は細い足首をがっと掴んで、ベアトリーチェの両足を割り開く。 「んんっ……! んぐぅっ!」 ドレスはおろかペチコートの下までもを、他者に――見下している人間風情に見られる恥辱に、気高き魔女の胸中が激怒で燃え滾った。 「――ヒュゥ♪ これはこれは! 予想以上に美味しそうだな」 激昂する魔女とは裏腹に、戦人は余裕の表情で小さく口笛を吹く。 幾重にも折り重なる豪奢なフリルの波間に隠されていたのは、それほどの美しい絶景だった。 戦人がとらえている、ベアトリーチェの少女のごとき細い足首の先には、まずはうっすらと肉付きを増し、美しい輪郭線が張られた脹脛がある。 まるい膝頭は傷一つなく、日頃どこかにぶつけたりこすったりしていないのだろう、色合いも人間の女のそれのようにくすんでいない。 さらに膝をそこを越して続く腿の白さと来たら! 色白の紗音のメイド服の合間からチラ見えする太ももも健康的でじつに美味しそうだったが、驚くことに、程よくたゆんと脂肪を乗せたベアトリーチェの腿は十代の乙女のものよりも遙かに色素が薄いのだ。 ベアトリーチェの呼吸に連動してゆるく蠕動するその脚、柔らかそうな内腿のあたりなど、青白い静脈がうっすらと透けて見えるほどだ。 「下着は黒か。はっは、レースにリボンが可愛いぜぇ黄金の魔女サマよぉ。 ガーターベルトもついでにつけといてくれよ、あんたみたいな性悪女には娼婦めいた格好がよく似合うぜ」 唾をのみたいのをすんでのところで堪え、さっきのお返しとばかりに口をきわめて嘲笑しつつ、戦人はベアトリーチェのスカートの下をつくづくと観察する。 ペチコート・フリルの襞をかき分けた先、魅惑的な腿の次には当然両足の付け根があり、下腹の陰部は小さな漆黒の下着で覆われていた。 レース使いも精緻なGストリングは非常にコケティッシュで戦人の好むところである。側面は両方とも紐状で、正面に小さなリボンがついているのが予想外に可愛らしかった。 「んー! んふぅっ、んんんー!」 「おいこら暴れるなよ魔女サマよ。 こんなに高そうな椅子が折れたらどうするんだ! ……ま、あんたならこっちの家具も魔法で直せるんだろうけどよ」 秘密の下着までしっかりばっちり目撃され、ベアトリーチェは顔から湯気がほとばしらん勢いでうめき声をあげた。 戦人は見当はずれの言葉を返して、それからおもむろに自らのズボンのジッパーを引き下ろした。 響き渡る金属音。それを聞いて、ようやく魔女は気づいた。戦人がナニをしようとしているか。 スカートの下をつくづくと覗き込み、普段高圧的な女をがっちり捕縛し抑え込んで、人の男が次にとる行動は、といえば――ひとつっきゃない。 「んん!? んんんん!」 ベアトリーチェは盛大に瞬きを繰り返し、瞳を白黒とさせてぶんぶんと全身をゆすぶった。拘束はゆるまず、椅子が魔女に負けじと軋んだ悲鳴を上げまくる。 「っあーもー、本当に暴れるなよ…… あんたのお綺麗な腿にこすりつけてこの暴れん坊を何とかしてやろうと思ってんだ。 そうだなあ、ベアトが大暴れしたら、弾みでそのかわいい下着ひん剥いちまうかもしれねぇぜぇえ? そのあとはどうなるかわかってんだろうなァ、血まみれの惨劇より怖いことが起きちまうぜ、いっひっひ!」 口辺をサディスティックに歪め、玩具でしかなかったはずの男は絶対者の雄の表情をむき出しにして笑う。 対する無敵無敗の魔女は、さながら生贄の祭壇にくくりつけられた可憐な処女の如く、コバルトブルーの瞳を恐怖に揺らめかせたのだった―― to be continue……? この続きが見たい -- (名無しさん) 2009-10-01 21 51 43 続きマダー? -- (名無しさん) 2010-04-23 00 21 36 ドSだ・・・ 戦人www -- (XI) 2010-06-06 15 35 51 ベアトのときめくタイミングがおかしいw -- (名無しさん) 2010-08-14 00 53 53 戦人ハァハァ -- (名無しさん) 2012-09-30 06 29 52 戦人が途中から鬼畜に… 続きが見たい… -- (名無しさん) 2014-03-27 04 57 07 名前 コメント すべてのコメントを見る
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歌ネタ 演奏ネタ2 ■八雲 紫 - JUST OLDER / BON JOVI ,.--、_,,....,,__,. -- 、 ,.- '"// ⌒ヽヽ //⌒l | ♪ / l | ___ ___',',nイk___,// ヽ, ,' ヽ_rゝゝ-' ー',.-、- 、イ、 i i ,.へ_トー'"____,.ィ ! ハ、___ イヽ、イ マ=ミ\ r'⌒ r´γ /__,.i i / V__ハ ゝ マ=// \\ ♪ 〈_,.イ イ ,ィ´ レ´ `!ヽ! ハ マ=// ,/=マ i i .レイl' rr=-, r=;ァ ! ハ/ヽ / . '=マ 〉. i i ' 〃 ̄  ̄"从 ( / / i /〈 lヽ, 'ー=-' ,.イノ Y/ / 今使ってるベッドが好きなの ノ イ /ヽ、| i>r--r,=´/ _/(ミヽ、 まるで私みたいに使い込んでるのよ ,' ) i,.-イ⌒ヾく´./ヽ二ン`X ,ヘ__ノi でも古い訳じゃないわ――ちょっと歳を取っただけ i / ./,'´´ Y Vヽヽノト/ / / この私の身体だって ハ !/ /ヽ/ヽ/| ./ / ̄/ / / お気に入りのダメージデニムみたいに私は気に入ってるの ! 〈 / ー-- _/ / /|─ー'´ でも古い訳じゃないわ――ちょっと歳を取っただけなのよ/ i ヽゝ___∠/`Tつ´ 入_, / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/ ヘ \\ ヽo) / ヘ /\\__ノ 'ヽ ノ .λ .( ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■聖 白蓮 - 星は光りて / 創価学会 白蓮グループ __ , --'. ', ---- 、 ♪ / --- ヽ ノノ ノ ヽ ヽ_ マ=ミ\ / / ノ ノ ノi 人 | } .マ=// \\ ♪ { ( ( / / ゝ,ノ ノノ /)) ノ ) マ=// ,/=マ 人 . .ノ ( (ヒ_] ヒ_ン/ . .ノ / . '=マ ( )( 人''' ,___, '' ノ ) ( ( / / ふじの花手に ひとみ清らか 心美しく 地涌の友まつ ) )ノ . .) ヽ _ン ( ノ . ノ/ / 優しく強く 人と人との とびゆく蝶は けなげに舞わん ノ ( ) (>.., ______ ._イ /(ミヽ、 (' ィ´ ヾゝ====i ノ X ,ヘ__ノi 白ゆりを胸に 姿りりしく 疲れたる友に さわやかな声 ヽ i i i ノト/ / / 星は光りて 月は語りぬ ああ この汗に 満ちたるかんばせ / ./ 二 /| / / ̄/ / /. ノ ./ ー-- _/ / /|─ー'´ 白蓮の華は 幸の香りも しずかに流れゆく 城と城をば. ( ゝ ∠/`Tつ´ 入_, 涙の人をも 喜びゆかんと 晴れの姿を 見おくる姫らは )人 .?/ /?? (( (_.'-ァ ___ノ )/ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/'. . . . .\ \\ ヽo) /ヽ. .. .. . . . \ / . \\__ノ \. .. .. . . . . . \ ノ /ノ |'´| λ. .. .. .. .. .. .. .( ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■ナズーリン - そうかがっかり… / H-MAN .,. -‐─- , / _ ', .,. -─- , ./ /´ ', |-─‐- .,, / , - , ', .| ! / ノ.  ̄\/ | | \ ` ./ ̄ \ ノ / お金が無いから神頼み お金が欲しくて神懸かり そんなに欲しいか神なのに 本当はただの紙なのに `.i/ `Y マ=ミ\ 儲かる宗教探してる 儲かる宗教なら入る 上に行くほど金になる だけどやっぱり上には上がいる ,' / / i , i ,! | マ=// \\ ♪ なんて被害者気分でいるうちに 善人 気取りで偉そうに ドデカイ仏壇神棚に 自分の事さえ棚に上げ | ! .| ,ノ‐‐'ハ_/j_人ト-iノ|ノ|ノ マ=// ,/=マ 乗っけて のぼせて いるくせに 結局 最後は人のせい ちっとは働け祈る前 他力は自力の後だって 八/i_人,イ ( ヒ_] ヒ_ン) i ヽ / . '=マ ノ ゝi .ノ "" ,___, "" !,ハ) iヽ/ / 神様 誰だ あちらこちら 神様だらけで なんだかな 神様 名乗れば 神様か? アーッ!神様 神様 仏様 / / | ( , ヽ _ン .八 / / 悪魔は悪魔と名乗るのか? 悪魔といったら昔から あくまで神だと言うもんだ 本当ちょろいもんだな人間はッ!! / ,| ヽ ヽ ン、 ,.イ /(ミヽ、 折伏折伏大行進 着服着服 する法人 宗教法人このとうり 大手を振ってる大通り \人|\ルゝ _ノ ` -rr<´ヘX ,ヘ__ノi 信じているのか本当に 信者を増やして適当に 先祖供養をするように 祟りが当たりで大弱り `Y´ Y Vヽヽノト/ / / / /| / / ̄/ / / なんだか変だな大変だ アヘンか宗教中毒者 一度はまればドロ沼に どっぷりつかって いつの間に / ー-- _/ / /|─ー'´ 出れなく抜けなくなっていく やめたら地獄と脅される 金を出したら救われる つもりで足元すくわれる ゝ___∠/`Tつ´ 入_, 政治の世界の透明度 ドロドロ見えない同盟を 自由で民主で共産で 社会の事など知らん顔 / / (( (_.'-ァ ___ノ 公明正大です 選挙 甘くておいしいコンペイ糖 欲しがる群がる他の政党 レンコン ダイコンばかりかよ ィ (o、/ /゚、。/ ヽ ♪ j | \x/ \/ ヘ そーかがっかり やっぱりか そーかうっかり だまされた \\ ヽo) / ヘ そーかがっかり やっぱりか そーかすっかり ばかされた /\\__ノ 'ヽ ノ~~~~ ~~~7~~ λ~~~~~~( 生き神か 生き仏 池田 誰だそりゃ そんな大それた ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 生き神が 生き仏 池田 大層な それは話だな 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■寅丸 星 - 一輪の花 / HIGH and MIGHTY COLOR ,ヽ/{ }ヽノヽ ノ ノ ' ヽ / ) } , 'ヽi ')ヽ oOo ノ /{ V} ''V 'o. '''' .oノ ノ ノ / '' ' -' 'ヽ__ノ.- '' ' ヽ 、_/. '' r '{ { \.. ' . ヽ; ;{ヽ, マ=ミ\ . -{./ / 人 ヽ ヽ ヽヽヽ} (ソ、 マ=// \\ ♪ .,.' ノ( ( (; ;ノ -ー)ノ '')/''-- 、ノ 人 ヽ マ=// ,/=マ 君は君だけしかいないよ 代わりなんて他にいないんだ ,' ,ノノ ); ; ) (ヒ_] ヒ_ンヽ; ;)ヽ ', / . '=マ 枯れないで一輪の花 i i ノノ; ;i; ;| '" ,___, "'|; ;入 i / / { { .)/'''人. ヽ _ン 人レノ / / 光がまともに差し込まない君はまるで日陰に咲いた花の様 ゝ ゝ、. Yノ>.、____ ,.イY /(ミヽ、 望んだはずじゃ無かった場所に根をはらされて動けずにいるんだね `ー、, `ー,.'´.ヽ \ ヽ、_ン´ノ7X ,ヘ__ノi 閉じかけた気持ち吐き出せばいい ヽλ .ト `{>・<} / / / / /| 〈_/ / ̄/ / / 痛みも苦しみも全てを受け止めるよ だから泣かないで / ー-- _/ / /|─ー'´ 笑っていて 一輪の花 ゝ___∠/`Tつ´ 入_, ./ / (( (_.'-ァ ___ノ 今にも枯れてしまいそうな君の無邪気な姿がもう一度見たくて ィ (o、/ /゚、。/ヽ 君の力になりたいんだ j | \x/ \/ -ヽ \\ ヽo) /二二二ゝ. ♪ / \\__ノ ヽ ノ ( 君は君だけしかいないよ 今までもこれから先にも ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 例え君以外の全ての人を敵にまわす時が来ても君の事守りぬくから 」 !ヘ、,./ 負けないで一輪の花 [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■寅丸 星 - ママが僕を捨ててパパが僕を犯した日 / cali≠gari ,ヽ/{ }ヽノヽ 日差しが叫ぶ公園で家族をしてる馬鹿がいる。パパ、ママ、ボクの三人で絵に描いたように腐れてる。 ノ ノ ' ヽ / ) } , つたない動きでキャッチボール。天才!天才!五月蝿くて、親馬鹿なのはいいですが、野球選手でも作るんですか? 'ヽi ')ヽ oOo ノ /{ V} ママの顔が浮かんでくる。「元気でね。」 ママは僕をそっと抱いた。泣きながら。 ''V 'o. '''' .oノ ノ ノ / '' ' -' 'ヽ__ノ.- '' ' ヽ 日差しが叫ぶ公園で家族をしてる馬鹿がいる。パパ、ママ、ボクの三人で絵に描いたように腐れてる。 、_/. '' r '{ { \.. ' . ヽ; ;{ヽ, マ=ミ\ 走って転んですりむいて、強い!強い!と誤魔化され、大人の都合でコントロール。しつけが良くできた犬ですね。 . -{./ / 人 ヽ ヽ ヽヽヽ} (ソ、 マ=// \\ ♪ パパの顔が浮かんでくる。「行かないで。」 パパは僕をぎゅっと抱いた。鳴きながら。 .,.' ノ( ( (; ;ノ -ー)ノ '')/''-- 、ノ 人 ヽ マ=// ,/=マ ,' ,ノノ ); ; )( >//////< )ヽ; ;)ヽ ', / . '=マ ママが僕をすててパパが僕をおかした日は、すべてが青空でした。 i i ノノ; ;i; ;.| | | ,___, | | |; ;入 i / / 雲一つ見えないあの空の向こう側に、いつか救いが見えたんです。 { { .)/'''人| | 'ー⌒ー' | |人レノ / / ゝ ゝ、. Yノ>.、____ ,.イY /(ミヽ、 僕が生きて、僕が死んで、それでもこの青空が変わらないければいいねと、ただ、それだけを僕は願う。僕は願う―――。 `ー、, `ー,.'´.ヽ \ ヽ、_ン´ノ7X ,ヘ__ノi ヽλ .ト `{>・<} / / / 多かれ少なかれ人は変わるものなんです。だからこそ人は憧れるんです。 / /| 〈_/ / ̄/ / / 悔しいくらいに変わらない青空の強さに、僕は泣きました。 / ー-- _/ / /|─ー'´ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, ママが僕をすててパパが僕をおかした日は、すべてが青空でした。 ./ / (( (_.'-ァ ___ノ 雲一つ見えないあの空の向こう側に、いつか救いが見えたんです。 ィ (o、/ /゚、。/ヽ j | \x/ \/ -ヽ どんなにか酷いことが僕に笑いかけたとしても、まぁ、僕は空を見てるのでしょう。 \\ ヽo) /二二二ゝ. ♪ / \\__ノ ヽ ママが僕をすててパパが僕をおかした日に、あぁ、僕はだめになりました―――? ノ ( ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 僕が生きて、僕が死んで、それでもあの青空が変わらなければいいねと、ただ、それだけを僕は願う。 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ 僕は願う――――。 .| ,.-≠、く. L____)ン ■村紗 水蜜 - 宙船 / TOKIO ,- 、 .--- . ) キヽ-、... ...... ♪ // ̄\\ ノ '-' ) ). --、 っ つ /\ | | | | ノ ノ .ノ =-、 っ \\/ \_// / // } = , マ=ミ\ /'---' ウ -'' ) = =/) =人 = ) マ=// \\. ♪ ( = = \/ ノ/ '. / マ=// ,/= \/ ,ノ /,__, ,___, ノ7 ( / . '=マ フ !"" ,___, "" i / ヽ / / フ 人u ヽ/ _) u 人 )/ / ノフ >.., ____,, ._イ ノ/(ミヽ、 そぉぉぉのふねぇを イ⌒ヾー\ /ノ/ ,ヘ__ノi こぉいでいけぇぇえええ ( ) \\// / / ==== ''' / / / おぉぅまえの手で / /_ _/ /|─ー'´ こぉいでいけぇえええ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, / / (( (_.'-ァ ___ノ おまえぇぇ~が消えて 喜ぶ者に ィ (o、/ /゚、。/ヽ j | \x/ / 人 ヘ おまぇのオォルをまぁっか"っせぇるなぁあ \\ ヽo)/ ∠ \ ヘ /\\____ノノ ̄_」ヘ ノ===\__/======== ( ~' ̄ ̄ ̄i' ̄7~/ フ'' ̄~ 」 ̄ !ヘ、,./ | |}.、_/ .| ̄ ̄≠、く. L____)ン ■封獣 ぬえ - バリバリ最強NO.1 / FEEL SO BAD ノノ この世は分からない ことがたくさんある ,.- 、 y´⌒ヾ、⌒゛ー-´ く≦ どんな風が吹いても 負けない人になろう_______」 .O `;,' ; '; '; ; ヾヘ`゙'ー- ., ,. -i ! ; '; '; ', ) ) ;ス それでも悪いやつ かならずいるもんだ. `゙'ー-7 / !ソ ;ノメ;;,、 ソ ンノヾ;' ' ;ノ) 守ってあげましょう それが強さなんだ. , ' / ノ」 ノゝ、 ヾノ / ヌリ ' ;ソ /ミ=マ ./ 鵺 イ (ヒ_] ヒ_ン ).レ; } 今日から一番かっこいいのだ♪// ゙i゙i=マ )イ|"" ,___, "" ,ノ ノ お待たせしました すごいヤツ マ=\, ゙i゙i=マ .,ヘ、_,.ノ ', ヽ _ン イ ノ マ=' . \ ヾ、 ヽ、 ,ノ / 今日から一番 たくましいのだ`゙ー-、__\ \ `ー-≧;;;;`ンー--─ ´;;;;∠_ バリバリ最強ナンバー1―- 、 \ \- 、_,,-‐イ 、==イζ゙ ヽ、  ̄`゙ー-、、,r'ミ)\ ,' ; `~iス‐r''´〈 7 ゙i.\ なるほど ( ヘ, \ ;' ス|・|ヘ_人 ! l `ー―――- 、 ほんと 今日から 一番 一番だ 一番 /\ \ \ {|・|{ | ,.' <二 ̄ ̄`ヽ ヘ ,.-‐´ ,.-\ \ \ ゙̄i|} 「 ̄`.,' ;、 ,.`二ミ,ヽ、i | / / `'ー─|\ \ ゙i_ ー―- / ̄\\. / / | |_,.-‐" ,.-‐" 、_入 `とT´\___ノ | | | | | | _/ !、___ ァ-'._) )) ゙i ゙i | | | | | |-‐" ,r' \。、゚\ \、o) ヘ. | | | | | | / ゙i/ \x/ | ,j,. | | | | | | / ゙i (o,r' //ヘ、 | | | | 、| レ, / λ__l 」!、__// ;.'~ | | 、| レ, ', o .,' ' ̄T `゙ァ/| | ̄ ̄´ .、| レ, .', o .,' )ノ ヽ く 7 〈 ', o .,' )ノ \ ヽ.! | )ノ \ | | ン、∞-、 | く(_____l ■パチュリー・ノーレッジ - EROTIC HERETIC / ALI PROJECT ♪ __,,,.....,,,,__ / _,. -''"" `ヽ、r'⌒L ,. '" ___ ___ノi ヽ/ 」 lく\「'l-、r__ニ..-─-rゝ、_ノ__イ__,. マ=ミ\ ゝ,.>'" ̄ ___ i `ヽ、 ン」 マ=// \\ ♪ (イ ,' i イrfー-!,」ハ i , i | マ=// ,/=マ | Lハ_」 (ヒ_] ヒ_ン-f ハ_」 / . '=マ .| i ハi ,___, ハi l | / / 誰の教えも聞く耳持たず 書物とペンで夜を計ってた | | i |、 ヽ _ン 人 |./ / 暮らす部屋の名前は ”夢” | i .| .| |> 、...,,,. イ |/(ミヽ、 .| / ! i |../ヽ二ン`X ,ヘ__ノi 咲くだけ咲いて散りそこなって いつか乾いた薔薇になるよりも |,'´´ Y Vヽヽノト/ / / いっそ毒草に実る赤い実<ベリー> / /| ./ / ̄/ / / / ー-- _/ / /|─ー'´ きれいに着飾って歩けばわたしはわたしだけを映す鏡になるのよ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, あなたのためじゃない / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/ | ヘ \\ ヽo) / | ヘ Fanatic Heretic /\\__ノ | 'ヽ 我を失くして溺れきるLOVEならば 貰ってもいいけどね ノ / | .( Erotic Heretic ´~~~i~ 7~/~フ~~` 触れられるより まだ未知のこの胸の奥をひとり覗いてたいの 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■橙 - VENOM STRIKE / ANTHEM _,..-‐''"´ ̄ ̄ `ヽ、 ,..-ァ ,. '"´ / '´ /_)____,rイ、_ヽ____,.へ、____,.へ__/,イヽ; /!オ、、 ヽ、r-、__>-r-‐、'" i i;イゝ マ=ミ\ ヽ、ヽ ! i i i i | _!_ ! ハ イ | マ=// \\ ♪ 〈Σ>イ ハ__,.! レ'!ハレ、!__ハ ,! ! | マ=// ,/=マ | i i rr=-, r=;ァ .| l| | | / . '=マ ! i |'"  ̄  ̄ "ハ リ / / / ! ハ !、 'ー=-' ,.イ / ル / / レ'i ハ |.>,、 _____ ,.イ レ'i ハ/(ミヽ、 レ' ヽヽ/ 7イ、_!__ン i | X ,ヘ__ノi I'll drive you crazy 夜が明けるまで `Y´ Y r/ムヽ-ヽ/ / / この熱い力で 俺に操らせておくれ / /| 〈_/ / ̄/ / / All night, in city lights / ー-- _/ / /|─ー'´ Drive me more 果てしなく ゝ___∠/`Tつ´ 入_, そう嵐のように俺に聴かせておくれよ Screamin' sound / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ _ _ _ ゝ ♪ j | \x/ \/ ヘ \\ ヽo) / ヘ Ah, show me your venom strike /\\__ノ 'ヽ Ah, tell me the passion tales ノ~~~~ ~~~7~~ λ~~~~~~( Ah, show me your venom strike ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` There will be no more sleepless night 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■レミリア・スカーレット - Vocalise e'tude / Olivier Euge`ne Charles Prosper Messiaen .,. -───-- 、_ ♪ ,r-< `ヽ、./ _i」 i _ゝへ__rへ__ ノ_, `l く `レ ゝ-'ー' ̄ ̄`ヽ_ト-、__イ マ=ミ\ \ ゝ´,イ,.イノヽ! レ ヽ,_`ヽ_ マ=// \\ ♪ ハ ト、´!´ ⌒ ,___, ⌒ `y゛,ィ マ=// ,/=マ ,' ハ ! /// ヽ_ ノ /// .! ヽ / . '=マ ノ (,ハ lヽ ヘ. / / 〈 i ハ i 〉 ,.ィ' ヘ./ / ヽヘハノ∨\ト`>...,,_____,.、.ィiノ^ /(ミヽ、 うーーーーーーー _,,,... -‐ ''"二' ーレ' ヽヽ/ 7 ハ_,,.イ i | X ,ヘ__ノi ..,,_ ーーーーーーーー♩ ,. '",.r‐''"´ ̄フ r ̄`Y´ Y !ムイ -ヽ/ / /'''ー、ヽ. // -‐''"/ / / /| 〈_/ / ̄/ / / `ヽ、____`ヽ、 うーーーうーーー♫ /_,,,.....,,,_ / __! / ー-- _/ / /|─ー'´⌒ヽ、 (  ̄ `´ ` -‐'" '⌒ヽゝ___∠/`Tつ´ 入_, `ー'- うーーーーーーーー♪ / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ | ♪ j | \x/ \/ ̄ヘ ヘ \\ ヽo) / ', ヘ うーうー♬ /\\__ノ ハ ヽ rく' ' ' ~~' ' ' ' ~ λ' ' ' ' イン ~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■十六夜 咲夜 - MACHINE MADE DOG / ANTHEM _,,.. -─- 、..,,_ ♪ / _r'" ̄`Yヽ`ヽ_ / / r‐'´ >‐-、>‐-く ハ / /ヽ/ / ,ハ Y/ マ=ミ\ ,' ∨/ ./_/| / 」__ 八ゝ マ=// \\ ♪ | // ア'___/ レ' _」_イ| \ マ=// ,/=マ |. <∠ イヽヒ_i ヒ_,!7ハ/| ̄ / . '=マ / /(_| ハ'" ,___, "'| / / / OH, あいつが叫ぶ TO BE A MACHINE ,' ! .∧{メト、 ヽ _ン ,.イ ハ / / OH, 渇ききっちゃいないぜ HOT BLOOD .〈 |/ {イト>r -r-く{メ{ /(ミヽ、 `ヽ/| _r/ ̄ヽ `>rri_/ -‐X ,ヘ__ノi NO, I DON'T WANNA BE .Y^ヽ、__Y ヽ. ∧/ / / MACHIME MADE DOG, MACHINE MADE DOG /` \_/ / ̄/ / / LOOK AROUND YOU, IT'S HERE TO STAY / ー-- _/ / /|─ー'´ MACHIME MADE DOG, MACHINE MADE DOG ゝ ∠/`Tつ´ 入_, NO, I DON'T WANNA BE MACHINE / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/ .| ヘ \\ ヽo) / .| ヘ /\\__ノ .| 'ヽ ノ └─────゙ ( ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■レティ・ホワイトロック - 芋虫 / 人間椅子 ___ ,. -''"´ `' 、 ♪ ,'´ ,. -‐ァ'" ̄`ヽー 、`ヽ / // `ヽ`フ / .,' /! /! ! ハ ! ', マ=ミ\ ( ! ノ-!‐ノ ! ノ|/ー!、!ノ ,.ゝ マ=// \\ ♪ ヘ ノレ' rr=-, r=;ァir /! ノ マ=// ,/=マ ひねもす隠れ ひねもす食らう ( ノ ! /// /// ! ヘ( / . '=マ 何も判らず 何も遺さず 何も... 何も... ) ,.ハ ''" 'ー=-' " '! ',ヽ. / / ) '! ト.、 ,.イ i .ノ/ / 俺は芋虫 貪るだけの ノヽ,! i`>r--‐ i´レヘ /(ミヽ、 俺は芋虫 肥えてゆくだけの イ⌒ヾく´./ヽ二ン`X ,ヘ__ノi ,'´´ Y Vヽヽノト/ / / 闇に蠢き 闇に悶える /、____/| / / ̄/ / / 何も得られず 何も叶わず 何も... 何も... / ー-- _/ / /|─ー'´ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, 俺は芋虫 醜いだけの / / (( (_.'-ァ ___ノ 俺は芋虫 卑しいだけの ィ (o、/ /゚、。/ヽ 俺は芋虫 嫌らしいだけの j | \x/ \/ ヘ ♪ \\ ヽo) / ヘ ヘ ああ ずるずると血膿のぬめる肉塊 /\\__ノ ヘ 'ヽ ああ どろどろとはらわた腐る肉塊 ノ ノ / λ ( ああ 朽ちてゆく 朽ちてゆく 朽ちてゆく ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~ 」 !ヘ、,./ ああ ぐつぐつと煮えくり返る肉欲 [二二}.、_/ ああ どろどろと虚しくよどむ肉欲 .| ,.-≠、く. ああ 堕ちてゆく 堕ちてゆく 堕ちてゆく L____)ン ■博麗 霊夢 - お金をください / 青森最後の詩人ひろやー ___ _____ ______. ♪ ネ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ、_''. / 、ン 'r ´ ヽ、 マ=ミ\ i ,'==─- -─==',. マ=// \\ ♪ | i./イル_\イ人レン/i イ i. マ=// ,/=マ ||. i、|. | . (ヒ_] ヒ_ン).iイリj / . '=マ | iヽ「 ! "" ,___, "" !Y!. / / .| |ヽ L」 ヽ _ン ,.'」 / / お金をください ジュースが買えるだけ ヽ |イ|| |ヽ、 ,イ|| | /(ミヽ、 100円だけでもいいですよ 10円だけでもいいですよ レ レル. `.ー--一 ´ルX ,ヘ__ノi お金をください 心から Ah, ah... `Y´ Y Vヽヽノト/ / / / /| / / ̄/ / / お金をください ジュースが買えるだけ / ー-- _/ / /|─ー'´ 100円だけでもいいですよ 10円だけでもいいですよ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, お金をください 心から / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/o##ヘ Ah お腹空いたよ パンが食べたい沢山 \\ ヽo) /#o###ヘ お腹空いて死にそうな子供たち沢山 /\\__ノ##o###'ヽ Ah お腹空いたよ パンが食べたい心から ノ######λ@##( 一昨日は草を食べた 昨日は土を…… ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 君も死ぬ気になれれば何だって食べれる 」 !ヘ、,./ Oh , oh... 経済大国日本 Oh , oh... [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン ■ZUN - ブラウン管の花嫁 / 人間椅子 ___ 、, ___ _ / ; ζ \ / ∧ ヽ マ=ミ\ i /__,ヽ i マ=// \\ ♪ i /__ \__ _ _ フ マ=// ,/=マ i _ /-'[ィ赱]-[// ]| i / . '=マ L×N 二次元の舞台 名も無い少女は ヽ f ! '" ̄ ̄ , ̄"| / / 都会の虚空 300Ωの御輿に揺られて ヽヽ_ 'ー=- / / / 時計が止まりそうだ 六月の…… ` ,、_____ ,イ /(ミヽ、 涙がこぼれそうだ 六月の花嫁 .イ⌒ヾく´./ヽ二ン`X ,ヘ__ノi ,'´´ Y Vヽヽノト/ / / 午前三時の画面に一輪 白百合活けよう / /| ./ / ̄/ / / 花の言葉は純潔 あなたは儚過ぎるから / ー-- _/ / /|─ー'´ どこにも逃げないで 僕だけの…… ゝ___∠/`Tつ´ 入_, そこから行かないで 僕だけの花嫁 / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/、 ♪ j | \x/ \/ ; 瞼の奥で微笑んだ 三原色の残像 \\ ヽo) / ; そのまま 冷たいくちづけ \\__ノ| i i__ くi ノ 巻き戻しした走査線の上 あなたは泳いで | ! / 取り戻せない暦をめくって 僕は眠るのさ ゝ、,.____、ノ'、,./ テレビの箱の中の花嫁に…… [二二}.、_/ ガラスの国の中の花嫁に幸あれ .| ,.-≠、く. L____)ン ■ZUN - 酔って候 / 柳ジョージ&レイニーウッド ___ 、, ___ _ / ; ζ \ / ∧ ヽ マ=ミ\ i /__,ヽ i マ=// \\ ♪ i /__ \__ _ _ フ マ=// ,/=マ i _ /-'[ ]-[ ]| i / . '=マ 土佐の鯨は大虎で 腕と度胸の男伊達 ヽ f ! "",___,"" | / / いつでも 酔って候 ヽヽ_ ヽ _ン / / / 酒と女が大好きで 粋な詩も雪見詩 ` ,、_____ ,イ /(ミヽ、 いつでも 酔って候 .イ⌒ヾく´./ヽ二ン`X ,ヘ__ノi ,'´´ Y Vヽヽノト/ / /(鯨海酔侯) 無頼酒 (鯨海酔侯) 噂の容堂 / /| ./ / ̄/ / / / ー-- _/ / /|─ー'´ 二升入りの瓢箪で 公家を脅かす無頼酒 ゝ___∠/`Tつ´ 入_, いつでも 酔って候 / / (( (_.'-ァ ___ノ 歯が疼き 目も眩み 耳鳴りしようとも ィ (o、/ /゚、。/、 いつでも 酔って候 j | \x/ \/ ; (鯨海酔侯) 無頼酒 (鯨海酔侯) 噂の容堂 \\ ヽo) / ; \\__ノ| i 新橋 両国 柳橋 世の明けるまで飲み続け i__ くi ノ いつでも 酔って候 | ! / every day every night ゝ、,.____、ノ'、,./ every day every night [二二}.、_/ Yeah… .| ,.-≠、く. L____)ン ■多々良 小傘 - 雨傘 / TOKIO , ------ヽ ,--、__ ♪ / -ヽ-⌒-' ヽ'ヽ / / / ) -─= == ヽ) マ=ミ\ i / / 人 〉 マ=// \\ ♪ 待って ノ)( ヽノ --ノ,ノ..ノ --ヽ (_ マ=// ,,/=マ 鼻を利かせなよ ( ( 'ヽレ' ,__, ,__,|ヽ (. / . '=マ 今宵は雨だろう .)' 'ヽ 人 "" ,___, "'i ( 'ヽ / / 傘くらい携えて行け (´( ''' ヽ ヽ _ン ノ((''/ / 恐いことは流されること ヽ∧ ) (Y>.., ____,, ._イ((/(ミヽ、 五官が有るだろう. , '⌒ヽ \__Y_ノ X ,ヘ__ノi なにより頼れば良いのに 〈 ! ┿〉 / / / / /{ / / ̄/ / / お前の瞳が暗く翳っている瞬間(とき)は何時も. / ー- _/ / /|─ー'´ 気圧の所為にして忘れているんだ ゝ___∠/`Tつ´ 入_, / / (( (_.'-ァ ___ノ 思い起こせ生命(いのち) ィ (o、/ /゚、。/丶 ♪ 自分の道具を持て余すくらいなら濡れて帰れよ j |. \x/ \/ ヽ \\ ヽo) / ∂ / \\__ノ♀、_ρ' `i ノ ( `ヽ、_,r'⌒入_,χーイ⌒´ l ! / / | |´ / ( _,-y 、 ( [_lニニl_ン l_l_l__l ■四季映姫・ヤマザナドゥ - ROCK IS DEAD / MAR1LYN MAN5ON ,.-、 //ヽ ̄ ヽ _,,. -‐| | 閻 l |、 , |\_,. ‐''" i l 魔 l | ヽ/ i ♪ | \ _r-ァイニ7二ハ二ヽ_ | / | _r- -''7'´ / / i ; ヽ/!_ ! マ=ミ\ r'ア二7-/ /! i /| ハ ヽ ン、 マ=// \\ ♪ く\i - '/ / / ,.!/レ' |/ ! iヽ/<] マ=// ,/=マ Yi/ ノレ' ヘ/ > < レ ! / / . '=マ 1000もの母親達がその為に祈ってるわ // i Y ! /// ,___, // iハリハ / / だから私達は希望に満ちながらも イ ;' /! ハ ヽ _ン 人 |/ / / 実際のところ糞にまみれてるの . ! / ; イ_;イ>,、 _____, ,.イ/ノ/(ミヽ、 癒しと欺きの為の新しい神様を造って イヘ/>く王ノ \\ !王i 、.ノ X ,ヘ__ノi 私達にまがい物で飾り立てた 本物の偽物を売りつけるって訳よ . ヽ!'´ ヽ、 ヽ、二ン i/ / / . / ヽ! ./ / ̄/ / / 依存出来るならなんだって良いってコト♪ 〈 、_,.ァ'- ー-- _/ / /|─ー'´ ヽ、! ゝ___∠/`Tつ´ 入_, ロックは死よりも死んでるものよ / / (( (_.'-ァ ___ノ あんた達にはショックだとしか感じられないでしょ ィ (o、/ /゚、。/ヽ 私達に与えられたのは あんた達のセックスとクスリだけ j | \x/ \/ i '、. それならあんた達の主張なんて糞食らえよ 全部ベッドに放ってしまうわ /\\ ヽo) / ! ヽ. く \\__ノ ; ! ;ゝ 神様はテレビの中にこそ在るの♪ ヾ/ / / ! / ヾ / ノ ;.ィ´ `7''‐--,‐─ィ ''´ノi ,'` ー-/ | ̄ i / / ! ! 人 ___/ |、___,,.! { ヾ_ノ! { l__j ', '、 i ヽ i `ー‐' `ー''´ ■秋 静葉 - 秋の華 (悪の華 / BUCK-TICK) __,,,...,,,__ ___,∧"´ ト-、∧‐ァ 7`>ゝ ,ゝ/ヽ、ノ V _」∠ 7ァ_>ァ、 ♪ ., 'ィiヽ' _>''"´  ̄ `ヽ!, / / キア'" `フ ,イ / / ', 、Y '、!,イ ,' ,ハ! / ! ! i ! ノ マ=ミ\ ノ ', レ、 !/\ ! i ハ ノ/ハ/( マ=// \ ♪ ( ソ'´ V!ァ´ノ\ノレ' レ'/ `Yヘノ' マ=// ,/=マ 遊びはここで終わりにしようぜ 息の根止めてBreaking down y'´ ! !' ttテュ; ;rェzァ'ノノハ / . '=マ その手を貸せよ 全て捨てるのさ 狂ったピエロBad Blood ,' ! , ヽ、_,ゝ'" ̄ ,rェェェ、  ̄"'',ハ ! / / '、 ゝ、ノ )ハゝ、, |r--、| ,.イノ / / 燃える血を忘れた訳じゃない 甘いぬくもりが 目にしみただけ `ヽ(ゝ/)ヽ,ノイ` `ニニ´ 'ノ /(ミヽ、 .イ\!ヾく´./ヽ二ン`X ,ヘ__ノi 指のスキマで この季節が終わる 熱くキラメク ナイフ 胸に抱きしめ ,' Y Vヽヽノト/ / / Lonely days あふれる太陽 蒼い孤独を手に入れたAutumn-Leaf-God / /| / / ̄/ / / Lonely nights 凍える冬に叫び続ける 狂いだせAutumn-Leaf-God / ー-- _/ / /|─ー'´ Lonely days あふれる太陽 蒼い孤独をたたきつぶせLeaf-God ゝ ∠/`Tつ´ 入_, Lonely nights 凍える冬に叫び続ける 狂いだしたLeaf-God / / (( (_.'-ァ ___ノ ィ (o、/ /゚、。/ヽ ♪ j | \x/ \/ ヘ \\ ヽo) / ヘ /\\__ノ 'ヽ ノ λ ( ´~~'~~i'~~~7~/ フ~~~~` 」 !ヘ、,./ [二二}.、_/ .| ,.-≠、く. L____)ン 歌ネタ 演奏ネタ2
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*注 この文章には流血とやや残酷な表現、あるいはそれを連想させる表現が含まれます。苦手なひとはご注意ください。 お茶会の翌日、矯邑は冷泉と空多川を連れて、イーストヤードの外れにある依頼主の家を訪ねていた。小振りながらも日本風に整えられた家屋は、屋敷と言うには小さいが、同じくイーストヤードにある矯邑の家よりは十分大きい。藺草の匂いも新しい客間へ案内され、冷泉は思わずぼやいた。 「いいなあ、広い家。最近品物が多すぎて店が手狭になってきたから、羨ましい」 普段からアジア風の服を身に纏うことの多い冷泉は、今日も古代紫の色をしたチャイナ風ロングスカートを翻している。落ち着いた緑の畳と白の障子に、東洋の服はよく映えた。 「でもここ私の家と同じ借家だよ。こっちは〈神風〉から貸し出されてるやつだけど」 矯邑は小声でさらりと言ってのけると、主人を呼ぶために下がっていった使用人の少女を思い起こす。地味な着物姿をしていた彼女もまた、〈神風〉から派遣されている人員だ。細々とした雑用をこなすために雇われているのだろう。 湯気の立つ緑茶を眺めながら、矯邑は篭森の欠席を残念に思った。〈ダイナソアオーガン〉は、矯邑に依頼メールを奪われたことになっている。篭森は、知らんぷりを決め込むためにも、この件に対しては関わることが出来ない。代わりに何か思惑があるのか、朝からどこかに出かけていた。同様に村崎も、誕生日会に使う食材の調達へと出かけている。 用心棒としてなら空多川が居るが、玉九朗の不在はやはり辛いものがある。精神的に、だ。慣れない肩の軽さに、矯邑は少しばかり憂鬱になった。 「来る」 空多川は一言だけ口にすると、つうっと顔を上げた。廊下を進む足音が、だんだん大きくなる。つられて二人がそちらの方を向くと同時に、閉じられていた襖がおもむろに開いた。 「やあやあ、お待たせしてしまって申し訳ない」 入ってきたのは、二十代前半の軽薄そうな男だった。染めているのか、陽に透けると痛んでいる様がはっきりと解る茶髪に、真っ白な狩衣を着ている。空多川は一瞬、神職なのかと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。彼女達の前に、どっかとあぐらをかいて座り込んだ青年は、どこまでも俗物めいていた。人払いはしておきましたから、と告げつつ投げかけられた、値踏みするような視線すら好色に感じ、空多川は嫌悪感を丸出しにして眉を顰め、威嚇体制に入る。 「わざわざ〈ダイナソアオーガン〉の、それもこんな綺麗どころの方に三人も来ていただけるなんて、有り難いことです。私は―――」 にやついた男が名乗るよりも早く、矯邑は彼の言葉を遮って言い放つ。 「あ、私達〈ダイナソアオーガン〉の人間じゃないですから」 「え?」 青年は驚いたように目を見開いた。でも、メールが、と混乱する彼を尻目に、矯邑は端的に事情を説明し、用件を告げる。 「貴方が〈ダイナソアオーガン〉に送ったメールを、私が個人的に拝借しました。あちらはそんなメールがあったことも知らないでしょうね。貴方に届いた返信も、私が〈ダイナソアオーガン〉の名前を借りて送ったものです。さ、そんなことより本題に入りましょう」 青年の目前に、ずいっと一枚の写真が押しつけられる。依頼メールに添付してあった着物の画像を印刷したものだ。 「この着物、私達に譲っていただけません?」 にっこりという効果音が聞こえそうなほどに良い笑顔を浮かべ、矯邑は迫る。青年は言われた意味が解らなかったのか、暫く写真と矯邑の顔をぼけっと交互に見ていたが、やがて彼女が自分の宝を奪おうとしていることを悟り、一転して憤怒の表情を浮かべ叫びかけた。しかし、その声は発されない。いつの間にか彼の懐に飛び込んでいた空多川が、深紅のマニキュアで染まった右手人差し指を彼の喉元に突きつけていた。 「……さあ答えろ。降伏か死か! なんてね。あ、おねえちゃん割と本気だから」 たかが人差し指、と青年は身を捩ろうとするが、彼の肉体は微動だにしなかった。空多川の放つ殺気は、声どころか身体の主導権も奪っている。助け船を出すかのように、冷泉がやんわりと空多川を咎めた。 「契ちゃん、殺しちゃったら着物の場所が解らなくなるよ」 口調は柔らかだが、言っていることはさりげなく酷い。空多川は冷泉の意見に納得し、それもそうかと身を引いた。喉元に刀を突きつけられたかのような圧迫感が失せたことで、男はへにゃへにゃとその場に崩れ落ちそうになるが、すんでの所で気を持ち直す。安堵したとたんに怒りが湧いてきたのか、彼は矯邑に罵声を浴びせかけた。 「な、何を勝手なことを!! この着物が、花京院様から賜ったものと知ってのことか! 貴様ら〈神風〉を敵に回してただで済むと―――」 「だから、取引しないかって言ってるんです。あなたがその〈神風〉に処分されないようにね」 青年の発言を再び強制的に断ち切って、矯邑はビジネスマンが使うような黒の鞄から、いくつかの束になった書類を取り出して広げ、男の目の前に突き出して見せた。書類は、送信日時順に並べられた携帯メールの文面で、びっしりと埋め尽くされている。冷泉と空多川は何も知らされていなかったのか、きょとんとした顔で矯邑の背と横顔を眺めていた。男だけが、さあっと顔を青ざめさせて、書類に向かって飛びかかる。が、距離を詰めてきた空多川が容赦なく後頭部を掴んで垂直に叩き付けたため、顔面を畳に擦り付る土下座のような体勢となっただけだった。 「か、返せっ!! それをどこで手に入れた!?」 真っ赤になった鼻を押さえ、空多川に頭を捕まれたまま男は吠える。動じることなく、矯邑は広げた書類を纏め、丁寧に揃えながら空とぼけた。 「さあ? どうだっていいでしょう。それより、私は貴方が着物を譲って下さらないのなら、これを〈神風〉に匿名で送りつけるつもりです。あ、貴方の名前はもちろん出しますけどね。こんな下らない偽名じゃなくて、〈神風〉に登録されている本名の方でですよ」 矯邑の言葉に、青年はぐうっと臍をかんだ。怒りのためか身体は小刻みに震えている。書類には、とある純日系ではない少女に対して、彼が執拗なまでに送り続けたメールが詳細に記されていた。〈神風〉であることを隠すために偽名まで使用し送られているメールの数は、常軌を逸している。件数は、朝昼晩併せて一日最低でも二十通は超えていた。 「〈神風〉の構成員が、純日系以外の女性につきまとい多量のメールを送りつけているなんて、恥以外の何物でもない。〈神風〉の流儀は、〈神風〉の貴方が一番よくご存じだと思いますけれど?」 純日系を尊びそれ以外を悉く見下す〈神風〉は、身内が純日系以外と接することを何よりも嫌っている。軽い会話程度ならまだしも、矯邑の言うようなストーカーレベルの行為があったとすれば、良くて制裁普通も制裁、悪ければ抹殺ということもある。 黙りこくって、噛み締めた歯の間から息を漏らすだけになった男を、軽蔑したように小突きながら空多川は呟く。 「虫の分際で女の子に粉かけてんじゃねえよ、死ねこのチャバネゴキブリ」 「駄目だよ契ちゃん、もっと柔らかく言ってあげないと」 空多川の低い声を聞き取った冷泉が、わざとピントを外したフォローをした。彼女もまた、唐突に判明した青年の行為に静かに怒っているのだろう。冷泉の言葉を聞き入れて、空多川は男を逃がさないよう、彼の背に腰を下ろしながら言い直す。 「草葉の陰に隠れてろこのヤマトゴキブリ」 「純日系だからって日本風に言えばいいってもんじゃないだろ!」 言い方を変えただけで内容は変わっていないと、矯邑は思わず敬語をやめて突っ込んだ。楽しくなってきたのか、冷泉はふむふむと考えこむ姿勢に入る。 「うーん、もう少し丁寧で婉曲な言い方にしてみたら?」 「紫雲に乗った仏様に迎えに来て貰いませんかサツマゴキブリ」 「仏教とは限りません! 神道だったらどうするんだ!!」 「もっと間接的に言ってみようよ」 「ここに塩素系洗剤と酸性洗剤、密閉された狭い部屋がありますワモンゴキブリ」 「混ぜるな危険!!」 放っておくといつまでも続きそうな二人の会話を、矯邑は突っ込みで終了させ、男の様子を伺う。このやりとりで気勢を削がれたのか、彼はすっかり大人しくなっていた。 「で、どうするの?」 男は矯邑と目線を合わせないようにしながら、ぐちぐちと言い訳を始める。 「……でも、そのメールが垂れ込まれずに済んだとしても、何の理由も無しに花京院様の着物が無くなれば、怪しまれることに変わりはないじゃないか……」 「ウジ虫ちゃん、おねえちゃんが良いこと教えてあげる」 どうにかして付け入る隙を見つけ出そうと、口先だけでも足掻く男の顔を、空多川は前髪を引っ張って持ち上げ覗き込む。底の知れない暗い笑みに、青年は顔を引きつらせた。 「ウジ虫ちゃんはねえ、アンダーヤードで無理矢理非合法賭博に参加させられたあげく、負けが込んで所持金じゃとても払えない額の借金を背負うことになっちゃったの。イカサマだって叫んでも、誰も助けてくれない。そのうち借金の取り立てに〈デスインランド〉の人間がやってきて、現金の代わりにと、ウジ虫ちゃんの大事な大事な着物を奪っていった。ほら、辻褄が合ったねえ。これならまだリンクから追い出されるだけで、お仕置きはされないんじゃない? 良かったねえ」 異様に甘ったるい声で囁かれた〈神風〉への弁解に、男は逃げ道がないことを察し、背筋に氷を突っ込まれたような冷たさを感じた。綺麗に仕組まれた罠だった。血が出るほどに唇を噛み締めながら、彼は取引に応じる。他に道はなかった。 「……解った、着物を取ってくる」 男の敗北宣言を聞いて、空多川はその背から腰を上げ、代わりにと彼の片腕を捻りあげる。逃亡防止のために同行するつもりのようだ。いってきまーすと間延びした声を上げ、男に先導させる空多川に、いってらっしゃいと矯邑も手を振り返して応える。二人の姿が襖の向こうに消えたのを見て、冷泉と矯邑は、ぺちりと手を合わせ作戦の成功を祝った。 すっかり冷め切った緑茶を流し込み、矯邑は人心地つく。普段から他人の生活を、悪言い方をすれば監視している彼女だが、それはあくまで仕事と割り切った行為だ。今回のように、自己のために利用することは少ない。上に虚偽の報告をすれば、自分のポイントが下がる。解っていて危ない橋を渡る馬鹿は居ない、と矯邑は心の中でだけ呟いた。自分が約束したのは〈神風〉へ情報を流さないということだけだ。学校へ通達するか否かは、こちらが決める。 「我ながらあくどいなあ」 矯邑の独り言を聞きつけたのか、同じく茶で口を潤していた冷泉が首を動かし、視線がかち合った。微妙な間が開くことを危惧したのか、冷泉は思いついたように尋ねる。 「ねえ、そう言えば。さっきの紙の束、メールだっけ? あれいつの間に手に入れたの」 ある程度予想はしていた質問だったが、痛いところを突かれることには変わりなく、矯邑は困ったように言葉を濁した。 「別件でね、まさかこんな事に使うとは思ってもみなかったよ」 触れられたくない話題なのだと察した冷泉は、深くは問い詰めず、別の話題を出す。 「ところで、あの着物手に入ったら、どうしようか。流石にそのままだと〈神風〉に目をつけられそうだから、どうにか仕立て直さないと。何がいい?」 「何って…何が良いんだろうね……。玉九朗さんだろ?」 考えあぐねかける二人だったが、沈黙はすぐに破られた。どたどたと乱暴な足音が伝わり、襖が勢いよく開けられる。遅れて外から、突き飛ばされる形で男が畳に倒れ込んだ。 「只今。持ってきたよー」 「あ。おかえり」 はやかったねと声を掛けられた空多川は、微笑みながら小脇に抱えた畳紙の包みを、男に対する扱いとは雲泥の差と言ってもいいほど丁寧に、矯邑達に差し出した。早速中身の確認をと、冷泉が畳紙の紐を解いていく。男は何とか起き上がりながらも、ふてくされ余所に視線をやっていた。 「これでいいだろ……さっさとさっきの書類を置いて、帰ってくれ!」 白い和紙の中に紺色の布地が見えたことで、矯邑は納得し鞄に手を掛ける。だが、彼女の動きを制するように、やんわりとした声が上がった。 「それで、本物はどこですか?」 発したのは冷泉だった。青年は一瞬目を大きく見開くと、努めて冷静に聞き返す。 「本物……って、何の話だ? それを持って早く帰れと―――」 「これ合成繊維ですよね、恐らく制作されたのは最近。この種類の糸は西暦には無かった。花京院さんほどの人に渡されるはずだったものが、正絹じゃないなんてのもあり得ない」 取り出した着物を広げながら、冷泉はつらつらと続ける。紺の布地には、メールに添付されていた画像と一見同じ模様が描かれている。しかし彼女の瞳には、双方は全くの別物として映っていた。否、冷泉の経験と知識が、目の前の着物が西暦に作られた『西陣織』とは異なる代物だと告げていたのだ。 「『西陣』の基本は先染め、でもこれはどう見ても後染めの着物ね。密度が違うわ。しぼも無いし色も紺色。写真のはもう少し明るい藍色だったでしょう。他にも色々あるけど、何より『西陣』の本しぼ織は、手作業を含めた職人芸。どう見ても機械で織ったこれとは違うのよ」 フェイクはいらないわと敬語を捨て去った冷泉は、それでも手に持った着物を、丁寧に敬意を払い仕舞い直した。 「さ、本物のお召しはどこにあるの?」 冷泉に小賢しい企みを看破されたことで、青年は落ち着きをなくす。指摘された通り、彼女達に差し出された着物は偽物である。空多川に連れられて部屋を出た後、万が一を考えて用意してあったこれの存在を思い出し、彼は勝利を確信した、はずだった。相手はどうせ純日系ではないのだ、着物の価値や違いなど解るまい。二束三文のフェイクだろうが、嬉々として持ち帰るはず。 そんな甘い予想はあっさりと外れた。冷泉の持つ鑑定眼は、世界に通用するほどにハイレベルである。これが安物のフェイクでなく、本物と寸分違わぬほどに価値のある偽物だったとしても、容易に見抜いたであろうことは想像に難くない。青年にとって不運だったのは、彼女が目立たないよう表に出ることの少ないトップランカーだったことだ。その名やエイリアスと顔が一致さえしていれば、彼は下手な賭けに出ることもせず、今以上の苦痛を被ることもなかっただろう。 「わ、わからない!! 俺が受け取ったときからそうだったは、ず……」 三者三様の鋭い眼光に睨まれて、男は語尾を小さくしていく。これ以上どんなに取り繕うとも、自分の発言はもう相手にはされない。頭の中が真っ白になり、やけくその怒りだけが満ちていく。 「ちくしょうッ!!」 男の手が矯邑の鞄に伸びた。チャックは半開きのままで、資料の束が見えている。慌てて矯邑は取っ手をわし掴むが、一足遅く綱引きのような取り合い状態になり、ばっとチャックが全開になる。空多川が冷静に男を引き剥がしたが、勢いは止まらず鞄は大きく跳ね、部屋一面に白い紙が舞い散った。 「返せッ!!! 返せ返せ返せ!!!!! 俺の、俺のだッ!!!!!!」 醜い抵抗を続ける青年の咽を締め上げながら、空多川はひらひらと落ちてきた資料を受け止める。冷泉も、床に散らばった紙を集めてまとめていた。面倒な手間を増やしやがってと毒を吐きながらも、手に持った一枚を矯邑に返そうとして、空多川は動きを止める。見覚えのある名前。まじまじと資料のメール文面を読み始めた空多川を見て、矯邑はたらりと嫌な汗を流した。危険だ。本能がそう告げていた。 「………………………………………繍のおねえちゃん。なんでここに村崎ちゃんの名前があるの?」 空多川の指摘に、冷泉も驚き資料に目を通して青ざめる。なってほしくなかった状況に陥っちゃったなあと、矯邑は額に手を当てて眉の間を揉んだ。 男につきまとわれていたのは、他の誰でもない彼女達の後輩、村崎だった。 村崎はその愛らしく清楚な容姿もさることながら、誰にでも優しい気立ての良さや料理の上手さ、さりげない天然ぶりから、非常にモテる女生徒の一人である。現に毎年校内男子生徒の間で密やかに行われている『嫁にしたいランカーランキング』では、癖のある上位ランカー陣を押しのけての常連組だ。だが、そこにはもちろんこの青年のような弊害も生まれてくる。押しが弱く他人の考えに敏感な彼女は、強く迫られるとNOと言えない。男もまた強引にアタックした一人で、村崎のボディガード二匹をかいくぐり、メールアドレスを交換するまでに至った。その結果がこれである。 矯邑は以前、村崎から彼についての相談を受けていた。相談と言うよりは、話題のついでにと彼女がぽろりと漏らした「熱心な方で一日に二十通以上のメール」に反応し、明らかに異常だと指摘したというのが正しい。以来、届いたメールは矯邑に転送するようにと言い含めていたのだが、まさか相手が今回のはっちゃけ男と同一人物だったとは、予想もしていなかった。 依頼メールに記載されていた生徒名と顔写真入り学内名簿を照らし合わせている最中に、村崎が「あ、この依頼されてる方、私にメール下さっている人ですね」と、何でもないことのように言わなければ、気付くことすらなかっただろう。慌てて権限を利用して調べてみれば確かに、男の携帯から村崎の携帯に、幾度となくメールが送られていた。ずらりと並ぶ通信履歴と、偽名だったんですねえと変なところに感心する村崎に、矯邑は気が遠くなりそうだった。 矯邑はこの事実を脅迫材料にはしても、他の友人に話すつもりはなかった。ただでさえ可愛い後輩である、不用意に話を広めて気を遣わせるのも良くない。何より、ストーカー被害などという話をすれば、確実に切れる者が一人居る。だからこそ、資料は加害者の男のみが読めるよう配慮したのだが、こうなっては全てが水の泡だ。ご愁傷様、と矯邑は心の中で手を合わせる。 「あーーーーーー、うん。ごめん。こいつが粘着してたの、ゆき子ちゃん、なんだよね」 矯邑は恐る恐る告白し、おびえるように背を丸くした。背後を伺うと、冷泉も男への怒りより友人から放たれる圧迫感による恐怖が優先したらしく、顔を背け資料を鞄に詰めている。 肌に針が刺さり続けているような、痛い空気に耐えきれなかったのか、男はそれこそ茶色い害虫のように地面を這いつくばって逃げだそうとした。だが、あともう少し手を伸ばせば襖に届くという所で、つんのめるかのように動きが止まる。立ち上がろうと膝に力を入れたところで、彼は服の裾が何かによって畳に縫い付けられていることに気がついた。なにが、と混乱する間もなく、ひゅうっと二筋目の白銀が足首を掠める。男は理解できなかったが、それは空多川が投げた細身の彫刻刀だった。必死に身体を捻って体勢を立て直そうとする青年を、今までとは比べものにならない汚泥のように濁った瞳で見下し、彼女はどこからか金属製のビットギャグを取り出す。 「ゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫がゴミ虫が」 唇が裂け歯が折れるのも構わず、空多川は男の口にギャグを押し込み締め上げた。ぶしゃあと、鼻水が噴き出す。暴れるのがうざったかったのか、一撃顔面に食らわせて鼻骨をへし折ると、流れる鼻血も気にせず着実に関節を外していった。両肩両肘両股関節両膝と、順序よく外して動けなくさせると、空多川は一仕事終えたと言わんばかりに息を吐いて、笑顔で振り返る。矯邑と冷泉は、鼻血とはいえ赤錆に塗れた空多川の拳を見て、びくりと身構えた。 「悪いけど、本物探しに行ってくれる?」 流血沙汰に慣れていない二人への配慮を込めた欲求に、矯邑は一にも二にも無く頷いた。冷泉もまた、こくこくと首を縦に振っている。空多川は笑顔のまま襖に向かって倒れていた男を蹴り倒し、引き抜いた彫刻刀をちらつかせながら反対方向の壁へと追い詰め、二人が通れる道を作った。 「あは、レッドカーペット出来てる」 上機嫌で発された笑えない冗談に、矯邑はだから知られたくなかったんだと独りごちた。後悔してももう遅いが、空多川に友人を慮るだけの冷静さが残っていたことだけが救いだ。矯邑も冷泉も、流石に生でスナッフビデオ撮影現場に居合わせるだけの神経は持ち合わせていない。 「……じゃあ、見つかったら戻ってくるから」 「うん、私はそれまでこの乱歩ごっこ中の芋虫と遊んでるから、頑張ってね」 襖をきつく閉め、矯邑は冷泉と目を合わる。冷泉も青ざめた顔で矯邑を見た。二人の意志が重なる。 「行くか」 「行こう」 彼女達は、嫌な音が聞こえてくる前にと全力で廊下を駆けていった。 矯邑と冷泉の気配が完全に去ったのを確認して、空多川はくるくると指の間で回していた彫刻刀を投げ捨てる。子供が飽きた玩具を放るような無造作な仕草だったというのに、刃は寸分の違いなく、仰向けに横たわる男の眦を掠めていた。あと少し狙いがずれていたら、間違いなく血の涙が流れている。 「むきゅー。それにしても、怒ったのがおねえちゃんで良かったねえ」 青年と視線を合わせるためにしゃがみ込み、微笑みかける彼女の口調は、いつの間にか柔和なものに戻っている。 「ここにいないおねえちゃんの友達が相手だったら、今頃ウジ虫ちゃんは死にはしなくても人間としての形が無くなってたよ。ハンバーグ用の挽肉レベルだね」 空多川が言う友達とは、篭森珠月のことだ。怒り心頭に発した篭森が行う拷問は、見ている者が恐怖で心臓を止めてもおかしくはないほどに過酷で残酷、それでいて決して標的の正気は失わせることなく命も奪わない、玄人の技である。空多川はその域までは達していないし、達するつもりもない。 青年は限界まで見開いた目をぎょろつかせながら、声にならない声を張り上げる。壊れたスプリンクラーのように、鼻血が飛び散った。 「ま、おねえちゃんはどう足掻いてもおねえちゃんみたいにはなれないから、自分らしく行きましょうか」 景気づけのように、しゃがんだことでむっちりとふくらんでいる自らの太ももを叩いて、彼女はガーターに挟んでいた二本の試験管を取り出した。一本には真っ赤な液体が、もう一本には毛虫のように棘だらけの鉄色の棒が入っている。空多川は両者への対策として、これまたスカートの中から取りだした、指先を覆う形状の金属製指貫と半透明の手術用ゴム手袋を着けた。指貫は右手に、ゴム手袋は左手に。親指と人差し指・中指を守る指貫は、先端を獣の爪のように尖らせており、それだけでも十分な武器と言えた。 空多川はゴム手袋を着けた左手で液体が詰まっている試験管を掴み、男の目の前で振ってみせる。 「さて、ウジ虫ちゃんはこれが何か解るかなー? 解らないよね解っても答えられないしね。うい、正解はホットソースなのですよ。普通のとはちょーっと違うけど。千六百万スコヴィルくらいには」 試験管の中で揺れる血のように真っ赤な液体は、唐辛子を使った一般的なホットソースとは異なる禍々しさを秘めている。タバスコなど、殆どが料理に辛みを加えるための調味料として使われているホットソースだが、一部には凶器になり得るものもある。唐辛子の辛さを量る単位「スコヴィル」は、タバスコなら二千強、激辛で有名なハバネロでも三十万程度だ。西暦の頃に販売されていた七百十万スコヴィルのとあるソースは、皮膚に触れると皮が剥け火傷に似た状態を引き起こしたという。彼女が取り出したのは、それの倍以上、もはや純粋カプサイシンを詰め込んだだけの代物だ。 「……強化ガラス製っていっても、やっぱ持ち歩くのはちょっと怖いよね」 劇薬を身に着けていたことに今更恐怖を感じ、空多川は眉根を寄せる。肌に付着しないよう細心の注意を払いながら、試験管を密封していた蝋を彫刻刀でこそげ落とすと、辺りに刺激臭が広がった。目に痛みが走ったのか、空多川は涙を滲ませながら顔を背ける。うあー、と嫌そうな声を上げながら、彼女はもう片方の試験管の口も指貫つきの片手で器用に開け、金属棒を摘み出した。シャープペンシルほどの長さと太さを持つ逆刺だらけの棒は、よく見ると加工した五寸釘だった。鬼の持つ金棒を小さくしたような釘の頭を器用に摘んで、片手で持っていた試験管ソースの中に漬け込む。釘全体に真っ赤な粘液が絡まるように掻き回すと、ぬっちゃにっちゃと水音が立った。 「ごっすんごっすん五寸釘~……おねえちゃんはどっちかというと知識と日陰の少女派ですが。んー…最初はね、これ、この金属製の爪に塗って使うつもりだったんだよねー。蠍座の形になるよう身体に刺していって、リアルスカーレットニードル! ってやりたかったんですよ。けど、ゴミ虫ちゃんみたいなアリンコには蠍の印なんて勿体ないよなーって思い直したから、こっちね」 空多川は血の色に染まった釘を、男の視界に映るよう大げさに引き抜いては押し込む。絡まる液体がどのようなものか、先程の説明だけでは想像のつかなかった青年だが、漂う臭気に鼻と目をやられたことで、限りなく危険なものだと悟る。止まりかけていた鼻血が再び鼻水とともに流れ出し、涙もぼろぼろと溢れる。ぐちゅりぐちゅり、音は止まらない。 「発情レイパーには去勢が一番っと。うゆ? 虫でも去勢って言うのかな? まあいっか。ぶっすり差し込んだ後はきっちり釘の頭をライターで炙って止血してあげるのです。感謝してね」 彼女がどこに釘をねじ込もうとしているのか、男は察してしまった。あんなものが刺されば想像を絶する痛みが訪れ、ショックで死んでしまう事は間違いない。万が一死なずに済んだとしても、それは幸運ではなく最悪の不運だ。篭森とは異なる、特定箇所の破壊を専門とした空多川の拷問。外側だけならば何処にも傷は残らないが、内側と精神は砕け散る。想像しただけで発狂しそうになりながら、男はギャグの奥で長い悲鳴を上げた。こぼれ落ちそうなほど見開かれた目が白く濁りつつあるのを見て、空多川は急にふっと慈愛に満ちた笑みを浮かべ、細い細い蜘蛛の糸を垂らす。おかしくなる前にこれだけ、と前置きをして、彼女は青年に問いかけた。 「純日系に一度聞いてみたかったことがあるんだよね。あのさ、日本語の表現に『蛇蝎のごとく嫌う』とか『蛇蝎視』って言葉、あるよね? 日本人ってみんな、蛇とか蠍が嫌いなの? この際蛇はどうでも良いよ、蛇遣いは天に還っててください。で、どうなの? 蠍、嫌いなの?」 一縷の望みをかけて、男は必死に首を横に振る。蠍が意味するものが何かなどはさっぱり解らなかったが、彼女にとって大事なものだということは、直前の独り言からも推察できる。自分は蠍に好意的なのだと示すことができれば、拷問の手を緩めてくれるかもしれない。じゃあ好き? と尋ねられ、青年は首がもげるほど激しく縦に振り、好きですとくぐもった声で叫ぶ。そんな彼の様子を見て、空多川は幸せそうに喜色満面の笑みを浮かべた。救われた、男は安堵し知らず知らず身体から力を抜く。 「そうだよね蠍を嫌いになる人なんていないよねみんな蠍のこと大好きだよね蠍は可愛いから蠍は素敵だから蠍は愛しいからだから嫌われるはずなんてない蠍は愛されて当然なのそういうことでしょうでもねそれをどうして―――お前が言うの?」 空多川は、初めこそ興奮した面持ちで矢継ぎ早に愛の言葉を告げていたが、やがて甘い囁きは病みを帯びたものへと変わる。男の選択は間違っていた。いや、そもそも彼女の質問には正解など無い、答えを欲してもいない。切れることが前提の、救いのない蜘蛛の糸。 「蠍は可愛いよでもねその可愛さを知っているのは私だけで良いの他の誰も蠍の可愛さには気付かなくて良い蠍は嫌われて当然なの嫌われて疎まれて誰からも愛されない蠍だから私が愛するの可愛い蠍私の蠍貴方は惨めに捨てられて恨まれて消え去っても誰も悲しまないほどに卑屈で後ろ指を指されるほど矮小なの血膿に溺れながらも立ち続ける盾を私が犯して侵して冒して突き崩す二度と立ち上がれないように私だけを憎み見つめ殺意を持って縋り付くように愛しい愛しいの殺して私を殺してそうして私の死体を眺めながら怨み憾み恨み憎み悪み全てを捧げた相手がこの世から消えたことに絶望するが良いこれで一生も来世も全てが私のもの私の蠍私の蠍何処へも逃がさない捕らえてみせるなんて素敵なのさあ契りを籠みましょう血と性と死と私の名において貴方の名においてうふふふふあはははははああああああ―――だから貴様みたいな屑が私の蠍を語るんじゃあないッ!」 釘が勢いよく男の服を切り裂いた。白い布にソースがべったりと付着し、血飛沫のように跳ねる。空多川は、激しい上げ落としに精神がついて行けず痙攣するだけとなった青年の上に跨り、肩を震わせ哄笑する。どちらの瞳にも、最早正気はなかった。
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天馬産業の第3工場は何を造っているのかは誰も知らなかった。従業員達は車の部品だと聞いていたが、本当に車の部品かははっきりしていなかった。自衛隊の秘密兵器の部品ではないか、という噂も流れていた。 また、企業の怠慢というやつで、この何を作っているかわからない工場からの廃液は地下パイプを通り、そのまま近くの川に一切の浄化作業も行われずに流れ込んでいるのは今も昔も変わっていなかったが、それを気に留める住人もいなかった。 また、この第3工場は昼夜を問わず近辺に轟音を撒き散らし続けているが、近隣住人は文句こそ言えど抗議活動はしなかった。 なぜなら彼らを活かしているのは天馬産業だからであり、もし天馬産業の逆鱗に触れたら何をされるかわからなかったからだ。 住人達の間では、第3工場の出す騒音に堪えきれずに爆弾を仕掛けた者がいて、その住人は翌日から姿が見えなくなっただの、どこかの工場のトイレで首吊り自殺した工員は前日に備品を盗んでいた、だの根も葉も無い噂が流れていた。 ただ、工場の近辺で数人が失踪している事は事実であった。 4月22日 19時になると、第8工場はすっかり静かになり、動きを止める。ここの従業員は子供がいる親が主で、腹を空かせた子供達の為に早く仕事を終える必要があった。 2年ほど前に共働きの親達がそのことで苦労しているのに気付いた天馬産業は、彼ら全員を第8工場に異動させ、彼らの勤務時間を減らしたのだ。元々第8工場は会社にとってさほど重要でない「靴べら」の生産を行っていたため大した損害は発生しないからだ。 ここで働いている美奈子はトイレのためにバスを乗り過ごしてしまい、工場の玄関を背にひとり寂しく次のバスを待っていた。 美奈子の住んでいる家は商業・居住区の中でも工場からかなり離れた場所にある。バスに乗らずに徒歩で帰るのは非常に時間がかかる。故に工場の前でバスを待った方が早く帰ることができた。 月は雲に隠れていた。工場の前は外灯の明かりがひとつ、ぼうっと辺りを照らしているだけだった。かなり心細かったが、6歳になる息子の事を想うとなんとか寂しさを紛らわすことができた。 美奈子が腕時計を見ると、19時20分だった。バスはあと7分で到着するはずだ。 腕時計から顔を上げると、外灯の下に太った男がいた。男は黒髪を肩まで伸ばし、Tシャツにジーパンを履いていた。少なくとも、ここの従業員ではないことは確かだった。美奈子と男の距離は約5メートルだった。 美奈子は不気味に思ったが、相手が何もしてこない限りこのままでいることにした。もし、体を触ってきたら護身用にポケットに忍ばせた折り畳みナイフで切りつけてやろうと思った。 男に気付かれないように、俯きながら視線を男に向ける。同時に右手をズボンのポケットに突っ込み、鍵を探すふりをしてナイフを確かめた。 その時、男は突然美奈子に向かって走り出した。全身に付いた肉が揺れている。ナイフを取り出そうとするが予想以上に男のスピードが早い。 右手がポケットに入ったまま男に押し倒され、扉に倒れ込んだ。扉はふたりの体に押される形で開いた。美奈子は男に向き合う形になった。頭を強く玄関のコンクリートに打ち付け、視界が歪んだ。朦朧とした意識でナイフを取り出そうとするが、両腕は男に押さえ付けられていた。 逆光になっているが、近くで見ると男の顔がいかに醜いかよくわかる。顔全体にゴマを散らしたような酷いニキビ面で、その中に軽く失敗した福笑いがあった。厚ぼったい唇は数字の3のように飛び出し、鼻は豚、左右の目の位置が明らかに上下でズレていた。 美奈子の顔に至近距離から臭い息がかかる。豚の鳴き声のような音が男の口から洩れていた。何日も掃除していないザリガニの水槽の臭いがした。美奈子は顔をしかめた。男の白く汚れた舌が伸び、美奈子の鼻を嘗めた。糊を思わせる粘性の涎が柔肌を覆い、舌が鼻から離れると共に糸を引いた。 美奈子の目から涙がこぼれ落ちた。男はそれを見て息を荒げた。 「ちょっと、ボクのネコちゃんは無事だろうね?」 声は美奈子の真後ろから聞こえた。真後ろに、扉の奥の闇に視線を向けた。 暗闇の中から巨大な逆さまの電球がじわじわ現れるところだった。電球は肌色だったが、掘られたようなヘソが見えたので、それがとてつもない巨漢だというのがわかった。外灯に照らされてその巨大な体が明らかになる。 美奈子は声も出なかった。男への怒りと犯される悲しみでいっぱいだった彼女の心は、驚愕と恐怖に塗り替えられた。 まずその大きさに驚いた。天井に頭が届くほど背が高く、3m近くあるように見えた。 美奈子の遥か上、天と地ほどの高さから、丸ぶち眼鏡を掛けた角刈りの丸っこい顔が彼女を見下ろしていた。 問題はその下だった。まばらにヒゲが生え、脂肪でたるんだ顎の下から肩までが壺のように滑らかで、いかに男が太っているかを主張していた。腹は電球のように凄まじい程に膨らんでおり、腰を完全に隠してしまっていた。腹から直接生えているように見える足は、ドラム缶をふたつ並べたようで、裸足だった。不思議なことに左腕には殆んど脂肪がついておらず、指先が床に届くほど長い。 だが、その容姿に加え、彼女が最も恐怖したことは、奇妙な形状をした右手だった。その体格に不釣り合いに細く長い右腕の先の右手はあるべきはずの5本の指はなく、たったひとつ、肌色の蛇の頭のような肉塊が生えていた。肉塊全体をてらてらした粘液が覆っていて、その口に見える部分からは白い牙が覗いていた。 「春樹、そこをどいて。」 明太子を思わせる唇が開いて、ねちっこい声を出した。隙間からは白く平たい歯が除いていた。 春樹と呼ばれた男はいそいそと美奈子の上から退いて、背後の闇に消えた。 美奈子は男から解放された安心感でこわばっていた体がほぐれたが、恐怖はまだ消えなかった。 美奈子は眼鏡の男とふたりきりになった。 眼鏡の男は黙って美奈子を見つめていた。ただ息が荒かった。 突然左腕が伸び、美奈子の肩を掴んだ。美奈子は暴れたが、思った以上に力は強く、指は離れない。獲物を逃すまいと更に指が肩に食い込んだ。腕は美奈子を掴んだまま上に伸び、彼女は無理矢理立たされる形となった。途中で髪が堅い肉に触れたのがわかった。 眼鏡の男は美奈子を立たせたところで一息ついた。温かく湿った息が髪をなびかせた。春樹の息と同じ臭いだった。 眼鏡の男は素早く肩の手を脇腹に移し、掴んだ。美奈子の内臓が音を立てた。次に大型トラックのタイヤのような膝を曲げ、勢いをつけて彼女を空中に持ち上げた。 反動で美奈子の頭が激しく揺さぶられ、耳鳴りがした。 眼鏡の男はおもむろに右手を使い、美奈子のズボンを下ろしに掛かった。大きな牙で器用にベルトを掴み、緩めもせずに一気に引きずり下ろす。パンツごと引きずり下ろされ、白い肌があらわになった。 長時間服で温まっていた肌が4月の外気に晒されたので、美奈子は身震いした。これから自分の身に起こるだろう事を想像すると自然と涙が溢れだし、深いため息が出た。 眼鏡の男は右手を美奈子の下に動かすと低く唸り、先程にも増してに息を荒くした。「我慢してね、ネコちゃん。すぐに楽になれるからね。」 美奈子は全身に力を込め、男の攻撃を防ごうとした。 だが、男が言い終わるのとどちらが早いか、右腕が美奈子の後ろの穴にぶちこまれた。先端でも大人の膝くらいの大きさを持つそれは、必死の防御もお構いなしに美奈子の尻の筋を引き裂きながら奥に進んだ。 美奈子は凄まじい痛みに絶叫した。まるでぱっくり開いた傷口に何か尖ったものが当たった時の痛みを数百倍にしたような激痛。 右腕はお構い無しに突き進み、大腸の奥で止まった。進路が曲がりくねっているので一気に、というわけには行かないようだった。男は右手の蛇を使い、肉を食いちぎった。分断された肉片は、呑み込まれることはなく、そこに放置された。排水孔に似たゴボゴボという音と共に、無理矢理腸を真っ直ぐな肉管にしながら、イチモツは奥へ奥へと進み、胃袋に到着した。胃酸は蛇を溶かそうとしたが、ブツの表面を覆っている粘膜を侵すことが出来ず、代わりに付着していた糞便を溶かすことにした。 一方、美奈子は喉までせり上がってきた蕎麦をどうにかしなければならなかった。昼食に食べたとろろ蕎麦が、半ば溶けかけた状態で胃酸と糞便にまみれて喉でのたうっていた。 男は更に突き入れる。美奈子の目がひっくり返った。顎が乾いた音と共に外れ、蕎麦が口から飛び出した。激痛とが美奈子の全身を覆い尽くすのと共に彼女の意識は途絶えた。 男は何かに満足すると蛇から死体を引っこ抜き、地面に投げ捨てた。死体は1回バウンドすると、地面に赤い染みを作り、へたれた。 男は暗がりから部下を呼び、死体の片付けと、地面の掃除を命じた。 再び、月が雲に隠れた。 地区をとり囲んでいる環状の森はかなり広く、複雑な地形をしているせいか死体やら自殺死体やら他殺死体が次々に発見されている。そんなもんだからこの森の名前は正確には「端の森」というんだが、この町の住人に「魔の森」と呼ばれている。 この森には地区外から東西南北から地区の中心に向かって高速みたいに幅が広い巨大な十字の道路が通っている。町の中心部から地区外の北の山の麓に向かうには車に1時間くらい乗らなければならない。 噂によると、北の山に向かう人の中は、端の森の途中で道路脇に乗り物を止め、ふらふらと森の奥に踏み行ってしまうやつがいるそうだ。しばしば、この道路の脇に車が乗り捨ててあるのが見えるのはそういうことらしい。道路脇の木々の影から手招きをされた、という噂話も町の住人の間でまことしやかに囁かれている。 町から北の山に向かう人は滅多にいない。だから道端の車が見つかった頃には、その車の持ち主は飢えや寒さやケガが原因で死んでいるか、既に首を吊って死んでいるか、犯罪者に殺されている。どのみち死んでいるってことだ。 この森からは死体が絶え間無く雑草みたいににょきにょきと生えてくるんじゃないかと思うペースで死体が見つかるので、俺は独自に「死体畑」と呼んでいる。 また、この森は深緑の吐き出す土臭さと大量の死体が放つガスとがブレンドされた、独特の息詰まるような空気を持っている。狂人などの一部の犯罪者どもはこの異様な空気に引き寄せられるので、周3回のペースで見回って処刑しなければならないかった。 この地道なパトロールはかなり効果を挙げていて、今までに死体を85体、死にたがりを92人、犯罪者を26人見つけた。死体は放置し、死にたがりは意識を飛ばし道路に放り捨て、犯罪者には有無を言わさず処刑を執行した。死体をそのままにするのは理由があって、非犯罪者の死体を回収するのは警察の仕事で、俺の役目じゃないからだ。問題は、ただでさえ怠け者の多い警察が、地区の端までパトロールするかどうかだった。 5月14日 今日は日曜日にもかかわらず8時に覚醒したので、「死体畑」の見回りをすることにした。ぼんやりしている頭を抱えてベッドから這い出し、毒針射出装置を手にしたところで、朝食を摂っていないことに気付いた。 冷凍庫にあった大根をかじって朝食をすますと、コスチュームを着込む。消防士なんかはコスチュームを着ると覚悟が決まるって言うが、俺はそんなことはなかった。 家の外の隠し通路を通って、死体畑に最も近いマンホールから顔を出す。ここまでで起きてから結構な時間が経っているはずだったが、悠久の時間を流れる俺の下水道は教えてくれなかった。ひどいことだ。 辺りに人がいないのを確認すると、目の前に広がる広大な死体畑と向き合い、アスファルトに降り立つ。ここは死体畑北部の真ん中を通る道路脇で、ただでさえ車通りが少ないのに加え、日曜日の朝だということで本当に誰もいない。正面の木々から視線を下ろすと、ひび割れて土が露出している箇所が見える。住宅街では道路の補修をしている業者らしき人々を見たことがあるが、死体畑ではそんな光景は一度も見たことがなかった。 早速死体畑の中に分け入ろうとしたが、一旦足を止めて、長靴の先をじっと観察する。アスファルトの隣の土に靴跡が見えた。ひょうたんを引き伸ばしたような楕円の中に等間隔に線が引かれてるのを考えると、足跡の主は女物ブーツのブーツを履いているようだ。 相手は女か、ニューハーフ。他に足跡が無いってことはコイツは精神異常者か、自殺志願者だろう。どのみちこの死体畑から引きずり出さなきゃならない。ひとりきりでここにいるのはアサルトライフルでもなけりゃ危険すぎた。 そう思った瞬間、超局所的にわか雨が俺に降り注いだ。やたらに勢いがあって、防護スーツ越しに雨の当たった箇所が痛んだ。そこでアサルトライフルから植木ばさみに変えると、突然雨が止んだ。 俺はずぶ濡れになっていたが別に気にすることじゃなかった。防護服がカッパの役目をはたしていたからだ。水気ではなく痛みが残った。痛いのには慣れていた。 俺はひとつ息を吐いて、俺は道路脇に広がる広大な森の中に駆け出した。ほんの一匹だったが、頭の中で蜂が暴れ始めた。 ぬかるんだ土に足を捕られ速度が鈍る。結構疲れているはずだが俺は足を動かし続ける。どうやら今日は運が悪いらしい。 足跡を追いかけると、開けた場所に出た。公園くらいの広さで、地面には湿った落ち葉と草が敷き詰められていた。真ん中に池があって、その近くに足跡の主がいた。濡れた土に刻印されていた足跡は、泥の後に変わっていた。木の陰に隠れて様子を伺った。離れててもわかった。そいつは人間だった。 こういう時は犯罪者かどうか見分けることが大事だ。うっかりすれば意味も無く非犯罪者の前に姿を晒してしまう事となる。私的に自警をする人間、ましてや俺のように犯罪者に処刑を加えるマトモな奴ら全てに言えることだが、警察の世話にならないことは非常に大事なことだ。世間では俺みたいなのは日陰者らしく、警察に捕まれば確実に死刑を喰らう。 普通、俺のようなコスチュームをした奴が突然非犯罪者の目の前に飛び出して来た場合、反応はだいたい3パターンに分かれる。驚くか、逃げ出すか、はたまたわけもわからずに突然襲いかかってくるか、だ。 ニュースにこそならないが、たまにポッと出のヒーロー気取りが大抵はこれが原因で警察にパクられているものだと俺は信じてる。彼らアマチュアは非犯罪者に口封じする暇も与えられずに通報されて警察を呼ばれて大事になってしまうだろう。そして警察に捕まって酷い拷問を受けた挙げ句、覗きの罪で投獄される。本名も公開され、守るべき市民からは嫌われ、そのうち狂って自殺する。 俺は発狂して自分のノコギリで挽くのは御免だから、そんな場面に遭遇した時には速やかに正しい対処をしなければならなかった。たしか駆け出しの頃に結構あったはずだ。1番目のパターンの時は、素早く近づいて胸ポケットから注射器を取り出し、注入してやる。どこでもいいが、出来るだけ首筋に射ったほうがいい。すると、非犯罪者は意識と一時的な記憶を失い、俺にその辺の道端まで引きずられる。2番目のパターンも同様だ。違う点といえば、俺が走る位だ。厄介なのが3番目のパターンだ。襲いかかってきたやつに注射器で薬を打ち込むのは難しい。殴りかかってきた非犯罪者の攻撃をなんとか避けて、腹に渾身の力を込めた右フックをぶちこんむ。するとどういう訳か気絶するので、1番目と2番目と同じく薬を打ち込んでやる。他に非犯罪者がいた時は、側でブルってる奴も同じ処置を施し、やっぱり道路脇に座らせておいてやる。まあ、どのみち薬を打って道路の近くに移動させるということだ。 犯罪者以外を傷つけるのは性に合わないが、身を守る為なら躊躇はしない。死ぬのだけは御免だ。まだまだ俺はやりたいことが山のようにあるから、自分を最優先で守らなくちゃいけない。 太い木の脇からよく目を凝らすと、その女は切り株に座って本を読んでいた。文庫本をきれいな手で包み、ただ静かにじっくり読んでいた。さすがに何を読んでいるかまではわからない。 もっと全体に視点を当てると、腰まで届く長い黒髪でメガネを掛けているのがわかった。春だっていうのに白いセーターに長い黒のスカート。靴を見たところ、俺の予想通りだ。女もののブーツ。 総評としては、きれいな女ってところだ。見た目からは切り株にスイカを乗せて左手首で叩き割るような女には見えない。実際、スイカなんかどこにもなかった。 確かに蜂の数は6匹に増えていたが、こいつが犯罪者だという判断を下すのはまだ早い。犯罪者でなく、精神異常者である、という可能性もある。経験上、精神異常者の中にはじっとしてられない奴とか、全く動かずにボーッとしてる奴とか、妙な癖を持った奴がいる。この女が精神異常者だった場合、この女は後者だ。 まあ、犯罪者だろうが非犯罪者だろうが、備えあれば憂いなし。とりあえず木に登ることにした。犯罪者とわかったが最後、頭上から襲い掛かってやるのがいいだろう。俺は両腕の毒針を出し、片方ずつ木に突き刺しながら上へ上へと登っていった。毒の残滓が残ってないか心配だったが、日々の手入れが行き届いているようで、この木が立ち腐るようなことは無かった。フードにポツポツ何かが垂れるのが気になっていた。一旦登るのを止め、フードに手をやると黒い汁が手袋に付いた。気にせず再び登ることにした。 四方に伸びる枝の中で最も太い枝を選び腰掛ける。尻のゴツゴツした感触が気持ち悪いが、仕方ない。 視界の左端に黒いモノが見えたので顔を向けると、首吊りがいた。そいつは今にも千切れそうな縄にぶら下がっいて、口から飛び出した舌の先に、得体の知れない甲虫が口吻を突き立て、汁を吸っている。かなり時間が経っているようで、全身が黒く腐っていた。崩れ、所定の場所から転げ落ちた鼻が意外にもそれほど汚れていない服に引っ掛かっていた。目玉は鳥に喰われたか両方とも無かった。 何故こんな高いところで死のうと思ったかは知らないが、そのおかげで眼下の女にアダ名を付けることができた。死体はメガ、つまり大きく腐っていた。それと女の容姿。メガネを掛けているので「メガ子」にした。 死体に感謝しつつ、メガ子を見下ろしてみる。遥か下、5メートル下方にメガ子の左耳が見える。 木に登る前からポーズは全く変わっていない。驚くべき集中力。鳥の鳴き声や木々の折れる音が聞こえるっていうのにだ。メガ子がページを捲る。捲る。捲る。なかなか早いスピード。でも、狂ってる奴が捲っているようには見えない。別に精神異常者じゃないらしいから、安心した。 突然、蜂が増え始めた。俺が安心したのが悪かったのか、本命が現れるのか。 腰掛けた足を引っ張りあげ、枝にしゃがむ。いつでも犯罪者に飛び掛かる準備は出来た。 ちょうどその時、メガ子が振り返った。俺が視線の先を追うと、メガ子の真後ろの木がふたつに折れる所だった。折れた木の向こうに何かあったが、それより木が倒れる先が気になっていた。 メガ子に木の影が重なる。避けないとまずいことになりそうだ。 俺の脳ミソの裏側にはひでえ情景が浮かんだ。メガ子の頭が木の下敷きになって、切り株に挟まれる。そして破裂し、豆腐が飛び散り視界が暗転。 トンでもないものを見せられたもんだ。現実に目をやると、なんとか助かったらしい。メガ子はギリギリで倒木を避け、切り株の横に座り込んでいた。髪は乱れ、眼鏡の向こうの目玉が潤んでいた。 それでもメガ子は、本を胸に抱いていた。どうしても傷付けたくないらしい。 俺は安心していた。女はビックリした途端に涙目になる奴が多いので、メガ子もそんな奴だと思ったが、左腕を怪我したのが原因らしい。枝で切ったのか、白いセーターに血が滲んでいた。 腹の中に眠っていた興奮が頭に昇って、口から漏れた。自然にフゥーッと息を吐いていた。俺の目玉が、すぐに木をへし折った主を見つけた。 奴はメガ子の数メートル先にいた。 俺はメガ子のカワイイ顔より、そいつの凄まじい姿に釘付けになった。 「うふふ、痛かったの?ごめんね。でもそれくらいボクは君に会いたかったんだ。ふふっ。」 ヘドが出るほど甘い台詞だったが、イケメン野郎なら幾らか様になったはずだ。それを吐いていたのは、多分人間じゃない。恐ろしい程のデブだった。 灰色のタンクトップと巨大な半ズボンだけを着たデブは、遠目には巨大な鶏の卵に見えそうな狂った体型で、腹から胸にかけてはゾウガメを抱えているんじゃないかと思うくらい大きく、膨らんでいた。臨月の妊婦なんて大きさじゃない。巨大な腹に半ば隠れている泥だらけの生足は、その腹を支えるためかワイン樽のように太い。あの足で木を蹴りつけ、へし折ったに違いない。下半身に栄養が全て行ってしまったのかと思えるほど頭は驚くほど小さく見えた。おまけに顔は幼稚園児がこねた粘土細工を更に10倍酷くした出来で、アメリカ人なら鏡を見た瞬間に拳銃自殺をしていまうような、酷い出来だった。腕は引っ張られたらしく足まで伸びている。先には不釣り合いにデカイ掌がくっついていた。 メガネを掛けた忌々しいデブはメガ子に大きく一歩、近づいた。ただ歩いただけなのに、木が揺れる。足が滑りそうになるのを、腕に力を込め防ぐ。一体メガネデブはどれほど重いのだろうか。さっきまで奴の接近で地震が起きなかったのは、泥が衝撃を吸収していたからか? 「あらあら、血が出てるねぇ~。ボクのお汁で血を止めようね。」 メガネデブの右腕が蠢くと、肌色の大蛇が鎌首をもたげた。 大蛇はまるで本物の蛇のようにうねると、メガ子の顔に向かって素早く突き出た。 大蛇はメガ子の鼻先で止まった。長さが足りないらしい。 俺はデブが次に何をするか見当がついた。それだけは避けなきゃいけない。奴の大蛇は震え始めていた。 枝の上に立つと、急いで左側の首吊りのロープに手を伸ばす。ロープを逆手で握り、こちらに引くと簡単に千切れた。水分を吸っているらしく、少し重い。木の束縛から逃れた首吊りはなんだか嬉しそうだった。 ハンマー投げのように真横に腕を振り、首吊りを放り投げた。目標はデブの頭だ。 ロープが揺れる。首吊りのローキックがデブの左のこめかみに直撃。ビンゴ。 首吊りは衝撃に耐えられず体が崩壊、腐肉汁が飛び散った。頭が青々とした草地に叩きつけられ、灰色の豆腐を撒き散らす。片腕は枯葉ごと地面に突き刺さり、指は天を差す。デブはうろたえ、大蛇の頭を標的から大きく逸らす。大蛇の口から放たれた茶色い粘液は池の向こう側の大木に命中。メガ子は後退り、這った後に死体のロープが飛んできた。俺はデブに命中するのを確認すると同時に、大きく跳ぶ。枝が揺れ、葉が舞い落ちる。 うまくデブに取り付いた俺は、同時にデブの左の二の腕に右ストレートとともに毒針を突き刺す。が、感触がおかしい。どうやら勢いが良すぎて骨を貫いて、向こう側に飛び出したらしい。毒液を注入しない代わりに右腕の毒針と肉の間の摩擦だけでぶら下がる。四肢は宙ぶらりんだ。 「ひぎぃぃぃぃ!」 トンでもない悲鳴を上げるデブ。無理もない。大人ひとり分の体重のかかった三本の金属管が骨をゴリゴリ押し削っているからだ。湾曲しているわけでもないのに毒針は外れない。曲がらない。 普通ならば、メガ子に「今のうちに逃げろ!」とかいうものだが、敢えて言わなかった。こんなデカブツを処刑するのは初めてだったし、被害者に直接処刑を見せたかったからだ。だから俺は、メガ子に体を向けると言った。 「今はそこで見ていろ。メガ子の代わりに俺が復讐をしてやるから、とにかくそこで待ってろ。俺はホーネット。」 「………」 口が聞けないのかもしれなかったが、代わりに小さく頷いた。意志の疎通は出来るみたいだ。とりあえず安心した。 それから、俺のおかげで絶叫しているデブにも言った。 「俺はホーネット。お前の名前はなんだ。」 答えないので両足を振り子のように前後に振って、振動を起こす。これで更に激痛を与えることが出来た。デブの腕が痙攣し、だんだん毒針が抜けてくる。 チャンスとばかりに俺は反動で前方に飛び降りる。毒針が二の腕から抜け、俺は地面に着地した。 メガ子に切り株に腰掛けるように言うと、デブに向き直る。デブの胸は激しく動いていた。左腕は血を垂れ流しながら痙攣していた。大蛇は縮こまって、ふたつの樽の間に収まっていた。 「さっさと言えよ。言わないなら俺がアダ名を決める。」 「……ナ、ナウ…」 「うん?」 正直驚いた。今までに骨をやられた犯罪者は、皆塩をかけられたナメクジのようにのたうち回ってヘドを吐いていた。どうみても口をきけるような状態じゃなかった。このデブは相当タフらしい。 更にデブは言った。 「ナ、ナウマンゾウ……」 俺は拍手した。ナウマンゾウは初めて、俺に自分から名前を言った犯罪者だった。 「わかった。ナウマンゾウ、お前の左腕が痛いのはお前自身のせいだ。ナウマンがメガ子に木をぶつけようとして、怪我をさせた。更に、メガ子にゲロをぶちまけようとした。こいつは女にとって右足を引きちぎられるのと同じくらい辛いことだ。わかったか、ナウマン?」 「ひぃー、ひぃー……」 答える代わりに喘いでいる。痛みが心地いいのか。 「わかったわかった。もっと気持ちよくしてやるよ。だが、快感の向こう側には痛みがあるらしいから、そこまでトばしてやるよ。気持ちいいんじゃ処刑にならないからな。あと、その不気味な呼吸を止めろ。鳥肌が立ちそうだ。」 俺は毒針を構えた。毒液を飛ばしてナウマンゾウの腹を虫食い状態にしてやろうとした時、顎にひどい打撃を受けた。 マスク型ヘルメットは並大抵のことでは割れたりはしないが、ある程度の衝撃は伝えてしまう。今の衝撃は、常人なら顎の骨を折っていたレベルの衝撃だったかもしれない。 俺は後方に吹っ飛ばされ、切り株で頭を打った。 いくらか視界がぐらついているが、気にせずにそのままの体勢でナウマンゾウを見る。ナウマンゾウの右腕から再び大蛇が元気に飛び出していた。やはり気持ちよかったか。それとも触手のように操れるのか。 「うふふ、痛いなぁ。ボクには君が何をいってるのか、さっぱりだよ。ボクはマゾじゃないし。人の楽しみを邪魔して、ただで済むと思ってるの?」 「どう済ませるつもりだ?俺で興奮を沈めるのか?」 「何言ってるの?君を殺すんだよ。」 ナウマンゾウの大蛇が横なぎに粘液を吐く。強靭かつ柔軟な右腕には容易い芸当だった。 俺は切り株に座っているメガ子の前に重なるように立ち、前方のゲロに毒液を放った。 毒液はゲロとぶつかり合い、相殺した。消化中のタンパク質が溶ける妙な臭いが立ち上った。後のゲロは地面に付着し、枯葉を張り付けた。 続いて両腕の毒針から放つ。ナウマンゾウも再び粘液で応戦した。 ナウマンゾウはどうやらいくらでも粘液を吐き出せるらしい。奴の胃袋は豆タンクサイズか? このままではきりがない。接近戦に持ち込むべきか? 俺が大蛇の頭に毒針を突き刺そうと一歩踏み出すのと同時に、ナウマンゾウが走り出した。 まずい。俺はすでにもう片方の足で地を蹴っていた。急には止まれない。リーチはあちらが遥かに上だ。 しかもナウマンゾウは動けるデブというやつか、貯水槽のような体躯のくせに足を動かすのが早い。さすがゾウというだけある。それにしてもナウマンゾウってのはアダ名なのだろうか?奴の本名は何だ。イジメで付いたアダ名を気に入っ 「ぐぶっ。」 横っ腹を大蛇が薙ぎ、俺は地面に転がった。左足に痛みが走った。捻挫かもしれない。いまの捻挫は、ナウマンゾウについて考えすぎたのが悪い。今のは俺が悪い。 「死ぬぇ!」 ナウマンゾウは間髪入れずに俺を踏み潰そうと足を振り上げた。俺は右に転がって避けようとするが、捻挫のためか、どうも動きが悪い。 その結果、右足と揃って転がるはずの左足が思うように動かず、引きずられるかたちとなった。そして残念なことに俺の左足はナウマンゾウの足の裏に押し潰された。 腹の中で包丁が転げまわっているかのような激痛が、左足を襲った。 「がああぁぁぁぁ」 立て付けの悪いドアのような声が俺の喉から絞り出された。 何が起こったか知りたかったので、頭を上げて様子を見ると、思わず息が止まった。 左足は膝から下を文字通り踏み潰され、マンガみたいにペチャンコになっていた。ナウマンゾウの足がそれほど大きかったってことだ。ただマンガどおりにはいかずに、鋭く割れた骨が皮膚を突き破って濃厚な死体畑の臭気に触れていた。ナウマンゾウが足を上げると、奴の足の裏に俺の左足がくっいていた。雑巾から垂れ落ちる水のように赤い血がボタボタ垂れていた。ナウマンゾウはチラシをひっぺがすように足を数回振ると、べチャリと血飛沫を立てて落下した。 このままでは痛みで気が狂うと思ったが、だんだん痛みが引いてきた。脳内麻薬の分泌が始まったようだ。 しかしまあ、被害者のメガ子は切り株にちょこんと座って、涙目になりながらもこの一大ゴアショーを悲鳴も上げずに見物しているのが驚きだ。 相当ソッチの耐性があるようだ。強い女。 「おふふ、次は右足だぁ。」 ナウマンゾウが調子に乗ってきやがった。 左足のだいぶ痛みが引いた。あちらに大事な大事な右足を好きにさせるわけにはいかない。 ナウマンゾウがゆっくりと足を振り上げる。恐怖を味あわせるつもりだろう。ナウマンゾウは、俺が痛みで動けないものと思っているらしい。 これなら振り下ろすまでに数秒のタイムラグが生まれるはずだ。俺はそれを狙った。 右腕の毒針は出っぱなしのはずだ。素早く左手と右足を地面に立て、思い切り全身を跳ね上げる。同時に右腕も思い切り突き上げる。大蛇の位置は丁度いい。 ナウマンゾウが足を限界まで振り上げた時だった。 毒針はナウマンゾウの大蛇の顎に深々と突き刺さった。 「ぶきぃ!」 ナウマンゾウが悲鳴を上げ、口角から唾液を散らした。 俺は突き刺すだけでは処刑にならないことをわかっていた。 右手を強く握り、大量の毒液を流し込む。 そろそろかな、と考えた時、ナウマンゾウが大きく揺れた。奴のもう片方の足が地面からだんだん離れていくのが見えた。毒針が肉から自然に抜けた。ナウマンゾウは池に向かって倒れ始めていた。 まるで、俺の目には、映画の見せ場のようにナウマンゾウがスローモーションに見えていた。 毒針の穴から黒い血がぴゅっ、ぴゅっと吹き出している。それと同じテンポでナウマンゾウの大蛇が、内側で固い泡がたつようにボコボコと膨らむ。それの先端からは茶色から灰色に変わった粘液が噴水みたいに吹き出していた。それは俺の全身に血膿を浴びせた。そのころには、落ちる途中で半回転したナウマンゾウは大蛇を残して池に沈んでいた。池の緑色の水があっという間に黒い脂で埋まった。ナウマンゾウの大蛇は放射能で突然変異を起こしたウナギのように、池に垂直に立っていた。 そして、風景は元のスピードに戻った。ナウマンゾウの大蛇はパンパンに膨張していた。俺とメガ子はじっとことの成り行きを見守った。 静寂に包まれた森の中で、肉汁袋と化した右腕が、爆ぜた。 「おい、まだ痛むか?」 メガ子はまだ口を聞こうとしない。 俺と向かい合ったメガ子は、切り株に座り、俺を見下ろしていた。左足がまた痛み始めたので、立つことが出来なかったからだ。 俺がナウマンゾウの血肉にまみれたままでいるので、ドン引きしているのかもしれない。さすがにマナー違反か。 そんな俺とは対照的に、メガ子は何故か綺麗なままで、汚れているとすればケガした部分だけだった。 「まあいい。犯罪者は死んだ。メガ子は助かった。万々歳だ。今からメガ子の記憶を消す。」 「……どうして。」 初めての声は、なかなかいいもんだった。 「俺の事を覚えていられると厄介だからだ。しゃべれるなら、何で早くしゃべらなかった。」 胸ポケットから注射器を出そうと手を突っ込んだが、どういう訳か全て割れていた。舌打ちをする。 「クソッ………仕方ない、絶対に他人には言うんじゃない。わかったか。拷問に掛けられようが、墓場まで今日のことは隠し持ってろ。わかったか?」 メガ子は答えなかった。俺はそれをイエスと受け取った。 そして、これからどうやって家まで帰るかを考え始めた。 3分考えたが、どうにもいい案が浮かばない。仕方ないのでメガ子に意見を求めることにした。メガ子はずっと俺を見つめていた。 「なあ、俺はどうやって家に帰ればいいと思う?何かいい提案はあるか?」 メガ子は右手の人差し指を顎に添え、少し上を向き、困ったような表情になった。これがメガ子の考え方らしい。 それは十秒間続いた。 メガ子は立ち上がると、俺の左足の真横にしゃがんだ。引き抜くのかと思っていると、メガ子は左手に本を抱え、右手を俺の左足に当てた。 メガ子の右手が核爆発を起こしたのかと思った。それほど眩しかった。目を開けると、メガ子はそのままでいて、俺の左足も潰れたままだった。 「いまの光で俺の左足が直ったのか?よく見ろ、薄いままだ。失敗か?」 俺はメガ子の顔をじっと見た。 「……ほら、治ってきた。」 うん、と俺の左足に視線を戻すと、恐ろしいことが起こっていた。 潰れた左足が、だんだん膨れてきていた。よく見ると、地面に染み込んだ俺の血を骨で破れた長靴の穴から吸収していた。次に突き出た骨がズズッと中に引っ込んで、俺の左足は元通りに戻った。 信じられなかった。恐る恐る足首を曲げると、すんなり曲がった。 「おい、今は何だ。」 自分でも声が震えているのがわかった。 だが、メガ子は何にも言わなかった。ただ、俺に微笑みかけているだけだった。 俺は急にメガ子を恐ろしく感じた。俺は顔をメガ子から逸らし、俯いた。 メガ子に毒針を叩き込みたくならないうちに、、ひとつだけ、聞きたくなった。 「なあメガ子、お前の本当の名前は何だ。」 顔をメガ子に向けたはずだった。そこには誰もいなかった。 喉が乾き、目玉が揺れた。 池を見る。黒い脂が浮いている。左足を見る。防護スーツに穴が空いている。 おかしい。遂に狂ったか、ホーネット。 俺は2本の足で草地に立ち、さっきまでメガ子が座っていたはずの切り株を眺めた。 よく見ると、ほんの少しだけ血が着いていた。俺のじゃない。俺は狂っちゃいない。 俺は日が沈むまで、そこに立ち尽くしていた。 淫魔の泉 完
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狗国見聞録 第5話(前編) ――いかに沢山の矢が束になって【賢者】に射られようとも、それはさして問題ではない。 なぜなら【賢者】は誰にも射抜かれないからである。 ――【賢者】は、一般人が恥とか哀れとか思うような事柄は何一つ顧慮しない。 彼は民衆の行く道を行かず、ちょうど諸々の星々が天空の反対の軌道を運行するように、 万人の意見に反して、ただの独りでも歩んで行く事ができる。 ――【賢者】以外の全ての人間には熟慮などなく、故に真理の存在余地はない。 あるのはただ欺瞞であり、反逆であり、精神の錯乱した衝動……すなわち幻影でしかなく、 よって【賢者】はこれらを偶発事項のうちに数え、寛大な慈笑でもって相対する。 ――他人からの軽蔑以上に酷いものはないと思うのは、心の弱さであり貧しさだ。 【賢者】はそれを知るが故に、軽蔑を意に介さず、むしろ笑う事でもってそれらに返す。 自分の方から笑う心を持つ限り、他人の嘲笑がその者を傷つける事はない。 ――いかな秩序、社会、国家の手でもってしても征服し難い人物が存在し、 また自然や万物の精霊、星天でさえもどうすることも出来ない人物が存在するという事が、 ひいては人類全体の、世界全体の利益となるのである。 ~ セネカ (落ちて来た『落ち物』の小本より) ~ ※ ※ ※ < 1 > ※ ※ ※ 「あっははははははははははははははははは!!!!」 びゅんびゅんびゅんびゅんと音を立てての、石礫、雷球、氷柱、鎌鼬に火球の嵐。 「いいねぇ、いいねぇ、秒間4個でも完璧に捌くか!」 身を守る灼熱の壁――勝手に増殖し周囲を舞い飛ぶ『炎の蝶』達に囲まれながら。 「…じゃあ次は、秒間6個、…行くよ?」 笑う子供の語尾に混じって、あたしの背後で爆発する火の玉の音を聞いた時には、 もう次の大小様々の石礫が浮かび上がってる。 ……それは恐ろしく早く、呪文を唱える様子すらない余裕めいた姿で。 だけど、雑巾が。 「――+**%* #**$/**=」 水平に剣を構え、あたしの前に仁王立ちになった雑巾が、 何か聞き取れないくらいの低い声、口中に小さく何かを含め呟くその周りでは。 …かくん、と軌跡を変えて飛んでいく火球に、足元に突き刺さる氷の矢。 形を崩されてただの突風になるカマイタチに、頭上スレスレに飛んでいく雷の球。 …その全部が、どうやってか完璧に「逸らされて」いるらしいのも、 また同じくらい信じられない、けど紛れも無く確かな目の前の事実だった。 一度など、逸らしすらしないで。明らかに顔面に飛んできた拳大ほどの石を顔の手前、 触れもしないのに砕いてみせるという芸当まで見せてくれてたりもする。 …それは魔法や魔術なんかさっぱりのあたしには、ちいとも原理の分からない、 同じくらい凄くて、同じくらい異常なはずの光景だったんだけど。 「…おっと、《破幻》ッ!」 そんな合間にも、乾いた響音を響かせて幾度目か空に突き立てられる杖に。 「無駄だよぉっ、こっそりアドバンテージを稼ごうったってね!」 宙に浮かび、氷柱、鎌鼬を作りながら、余裕で指をチッチと振るのは笑う猫耳少年。 「そんなちゃちい小細工、他はともかく、このボクには効かないッ♪」 荒い息を吐いて、汗を流しながら、それでも攻撃を捌き続けるのは雑巾の方だ。 小さなツララ、小さな火の玉、小さな雷、小さなカマイタチ、小石を持ち上げて飛ばす魔法。 一つ一つは素人目にも簡単そうな、初歩っぽい攻撃の為の魔法の数々で、 ……だけど『数』と『速さ』が、明らかに異常。 まるで昔どっかのゲーセンで見た激ムズシューティングゲームの弾幕のそれで、 しかもじわじわと数を増やされ、頻度を増されていくそれらの火氷石風雷の洪水に、 ――なぶり殺し―― そんな相手の目論見が、魔法チンプンカンプンのあたしにだって検討がついた。 実際、流石に完全に防戦一方で。 額に冷や汗を浮かべ、そうやって受け逸らすだけで精一杯な事を示す雑巾の様子は、 いくらこいつが凄くても、でも目の前の『化け物』と比べてはそれでもまだ人中、 …常識の、一般の範囲に収まる強さでしかない事を如実に物語っていて。 ――『何も分からないうちに即死だなんて、つまんないでしょ?』―― …逆に言われなくても顔に書いてあるのが判る、そんな表情でニヤニヤ笑う相手の表情に、 あたしは身の内の怒りを抑えることができず。 「……なんなの?」 無駄な事とは分かっていても。 「なんなの!? あんたはっ!!」 それでもあたしには、そう叫ばずにはいられなかった。 「なんでここまでの事が出来るッ!?」 何も出来ず、守られる身の自分が、そんな事吼えられた義理じゃないんだろうけど。 「なんでここまで、踏み躙って、弄んで、嘲笑って、ためらわないなんて事が出来るわけッ!?」 それでもせめて、あいつの気を逸らして隙を作れでもしたならばと。 ほんの少しでも、こいつの助けになれる事はないかと。 「『同族』でしょ? 『命』でしょう? 『人生』でしょう!? 『二度と直せないもの』でしょうッ!?」 何よりも、もうあたし自身、抑え切れなかった。 ごくごく普通の弱い人間に生まれた身として、初めて腹の底から沸くのを感じたその怒りを。 何かが狂い、何かがおかしいその理不尽さへの、本能的・根源的な所から来るこの怒りを。 「いくら『強い』からって! なのにどうして、どうしてそこまでためらいもなく踏み潰せるっ!? みんなの『一生懸命』を、『哀しみ』を踏み躙って! どうしてそこまで笑ってられ―― 「――じゃあ聞くけどお姉ちゃん」 ふわりと。 「どうして『優しさ』は、美徳なの?」 両手を広げて、事も無げに屈託ない猫耳少年が訊ねた、 …その広げられた両の手に、だけどしっかりと集まるのは紫色の光。 「自分の心の中に生まれる痛みに耐え切れないだけの『弱さ』が、なんで美徳?」 「なっ……」 「 だ っ て そ う じ ゃ ん 」 思わず上げた声を。 ……だけど振り払われた相手の左手、はじける紫の光に押し潰された。 パン という軽快な音と共にあたしの周囲、雑巾の構えた剣を中心にした一帯で、 『何か』を受けて跳ね飛び上がる地面のチリや埃、……折れ潰れる木の小枝。 ――重力の魔法か、衝撃波の魔法か。 「お姉ちゃんが耐えられないだけでしょ?」 ぎしり、と歪んだ雑巾の剣、かすかに呻き声を上げたこいつとあたしとを見比べながら、 くすくすと笑って、燐光の蝶群の中にいる『もの』が猫の耳を揺らす。 「自分が毎日食べ物に困らず贅沢してる、でもそのせいで飢え苦しむ者がいるかもしれない、 そう考えた時に生まれる罪悪感に、痛む心に『耐えられないだけ』」 一本指を立てて、すい と振った左腕を戻せば、無数の光球が飛んでくる。 「あの時無視した転んでたお婆さん、でもあの後ああなってたら、こうなってたらどうしよう。 そんな自分の胸の中に生まれちゃって、モヤモヤモヤモヤ、何か気になって嫌な気分、 …そんなどうでもいい事で『いちいち後から嫌な気分になりたくない』、だから露払いするだけ」 くるりとその場で一回転して見せれば、たちまち真空の渦が生まれ出す。 「優しくしなかった時の、周囲からの蔑みや罵りに耐えられないから、優しくするんでしょ? 傲慢不遜な行動を取った時の、周りからの白い目が怖いから、優しくするんでしょ? 何より自分が耐えられない、自分がこの胸の痛みに耐えられない、だから優しくする」 天高く杖を掲げれば、ぼこんと周囲から浮かび上がるのは無数の礫岩。 「苦しみたくないもんね、辛くなりたくないもんね、痛くなりたくないもんね――…」 ゆらり と振られた指先は、良く見れば二指を立てられて、親指と薬指が輪を作った組印。 それが指揮者がタクトを振るかのように…… 「…――『自分が』、さ」 だん、という耳を打つ轟音。 周りに降り注いだのは、石か、火球か、ツララの雨か。 「違うッ!」 その爆音にも負けないで、それでもあたしは叫んでいる。 「違う、違う、違うッ!!」 立てない足、両手を濡雪の上について身を起こし、それでも大声で叫んでいる。 ――『優しさ』は、自分の心の中に生まれる痛みに耐え切れないだけの弱さ? ――自分が痛く、苦しく、辛くなりたくないだけだからする行為? 「………だったらどうして、人間は…他の人の痛みも、感じられるのさ……?」 だったらあの、蛇のお姉さんの、最後に皆の為にしようとした行為は。 「自分の…痛みが…分かるから…、他人の…痛みも……」 『ごめんな』『怖かったよな』と泣きそうな顔で謝ってきた、雑巾のあの行為は。 『おれは汚いだろ?』と、哀しそうな顔で笑った雑巾のあの顔は。 ――どこから生まれて、どこに消える?―― 「…助けたくて…何とかしたくて…でもそんな資格なんか最初っから無くって……」 ――あの全てが、ただ自分の為に? 「…迷って…怯えて…それでも必死で手ぇ伸ばすような、バカ共がいるんだよ…」 ――自分の心を守る為だけになされた行為だった? 「…無駄な事だって…偽善者だって…大海の一滴、何の根本的解決にもなってない、 どうにもならない事をどうにかしようと足掻いてるって、嘲り笑われて、後ろ指さされても! それでも何とかしようと、手を伸ばそうとしないではいられないバカ共のっ!!」 目の前の萌え萌えな猫耳ッ子は、だけどあたしの一番嫌いなタイプ。 「それすらもエゴだとか、偽善だとか、自己防衛だって一言で捨てんのかよッ!」 ボロボロの体、血膿の園たる地べたに座り込んで、違うと。 汚れた黒の軍用外套、血塗れの剣を持って立ち続けるこいつの背中に掛けて、違うと。 「知ったかぶり、エリート思想のナマジャリが!! 何様だよてめえはあぁっ!!!」 肉体を駆け巡るこの現実の痛みと、心をじくませるこの現実の哀しみ、 その全てを怒りと叫び声に変えて―― 「――かみさま《シェキナ》だよ」 りん と音を立てて右手の杖を掲げ。 「……言ったでしょ? 劇場の神様《デウスエクスマキーナ》だって」 返されたのは、躊躇いもせずのただ一言。 あまりのあっけらかんとした様子に、逆に思わずあっけにとられるあたしに対し。 「『違う』? …はは、じゃあ聞こうかお姉ちゃん」 ギャンッ、という耳障りな音、杖を虚空に捻り立て。 幾度目かに雑巾が積んだ賽の河原の積み石――たぶん幻術の構築を突き崩しながら。 …気がつけば、いつの間にか雑巾が投げてたらしい、 三本のダガーナイフを指先で押し留め、さっきと同じようにくるくると回し。 「……その 『 他 人 の 痛 み 』 とやらは、 『 何 処』にあった?」 ―― がぁんっ!! と再び、金属が擦れるきな臭い音、飛び散る青い火花。 「 ど こ で 感 じ たの? 目で見た? 耳に聞いた? 鼻? 舌? それとも肌?」 「……っ!」 恐ろしい勢い、目にチカチカする速さで、左右に分かれ弾けた銀の光。 …だけどあたしが呻いたのは、決してその光と音だけのせいじゃなく。 「…ああ、ひょっとしてお姉ちゃんは、ヒトの癖にテレパシスト《読心術者》?」 ニヤニヤと笑う目の前の猫耳野朗の。 「人の心を暴き立てて、笑顔の裏側や隠し事も全て手に取るように判る? そりゃすごい!」 パチパチとわざとらしく拍手をするこいつが、何を言いたいのかに。 「…感じ、たんだよ、…確かに、あたしは」 たかだか15年間に培ったつたない語彙の中から必死に言葉を探す、 …だけどあたしの胸には、さっきのあの。 「あのお姉さんの土人形に掴まれた時に、頭の中に、哀しみの――」 「――それが哀しみだったっていう、明確な物的根拠は?」 「……ッ!」 苦痛の、呻き。 「自分の思い込み、勘違いじゃない、紛れも無く哀しみだったって、断言できる?」 舞い飛ぶ生きた火の粉に囲まれて、かざされた手から奇跡のように雷光が迸る。 …でもそんな中に呻き声を混ぜたのは、今度はあたしの声ではなく。 ぽたん、と。 外面だけは無害そうな子供の顔、不可視の力の渦を作る、ディンスレイフを目前に置いて。 機械のように無機質だった雑巾の声が、初めて生のそれを含み。 ――雑巾が投げつけたらしい、回っていたダガーナイフは全部で三本。 ――左右に分かれて飛んでいった光は、だけど二条。 ガランッ 「……っ…ッ!」 ……ぐっと引き抜いて、肩に突き刺さるダガーナイフを投げ捨てたそこに、 初めて無感情じゃない、ナマの苦痛の色が混じり加わった。 みぞれになった雪水の上に、刃にぬるりとこびり付いたものが、じわりと広がる。 「ぞうきっ――「「…ね? 『錯覚』なんだよ、それは」」 パパパパパンッ、と爆竹のように。 叫ぶ声を遮ったのは、盛大な炸裂音を上げながら降り注ぐ緋色の光、針の雨。 「今だってお姉ちゃんは、このお兄さんが呻き声を上げるまで、『痛み』に気が付かなかった」 地面に着弾し、いくつもの小爆発を起こすそれら赤い針の向こうで。 「お姉ちゃんの心に生まれた、でもその痛みを感じた心は、『誰の心』だったの?」 それは聞き分けの悪い愚かな子供に、しつこく言い含める大人のように。 「お姉さんが感じた哀しみは、あのヘビのおばちゃんの心から湧き出た哀しみだったの? もしくはこのお兄さんの心から湧き出た哀しみ? それともボクの心から湧き出た?」 くるりと杖を一回転させて、背後から二つの小竜巻を繰り出しながら。 あくまで宙から、高みから。…見下ろす視点での、笑みを浮かべる者が居る。 「……違うでしょう? 全部、全て、た だ お 姉 ち ゃんの 心 の 中 だ け の 事 」 ゆらゆらと舞う、幻想的な炎の蝶の群中に佇んで。 それは弁論の得意な、論争の勝者たる者に特有の、自分に浸ったうっとりとした笑み。 ――違う!とか、 ――そんな事ない!とか、 …飛び出して然るべきのそんな言葉は、だけどとうとうあたしの口からは漏れ出でる事なく。 「『お前に俺の何が分かるっ!』、…追い詰められた三流悪役の決まり文句だよね? …悪と見せかけて、でも本当は不幸な元善人でした、なんて良くあるパターンの、さ」 挟み迫ってくる二つの小竜巻の向こう、淀むこと無きお高い講釈を続けるディンスレイフに。 「**$/***=+**%* #* !!!!」 雑巾が、急ぎ地面に剣を突き刺して、更に早口で何事かを呟く。 ……それにほんの少し、竜巻の軌道が動いて。 「っははははは、ば っ か だ よ ね え ? 分 か る わけ無 い じ ゃ ん 、他人の心なんか♪」 砂や小枝の舞い上がる旋風の向こうで、カッと猫目を開いて、ディンスレイフが笑った。 暴風の唸り声よりも、高く、高く、なお高く。 「理解できるだなんて言う奴はさ、でも結局 『 分 か った気 に な っ て る だ け 』 じゃん ? 読めるのかな? その人は心を? 凄腕のテレパシスト? 本を読むみたいに心も読める?」 直撃は避けれても、その余波たる風のあおりやぴしぴし顔に当たる細かい砂までは。 思わず目を閉じて顔を伏せるあたしには、ただただその哄笑を黙って聞くしかできない。 掠めるように交差して過ぎていく竜巻に―― 「……みんな【一人】なんだよ、生まれた時から、死ぬまでずっと」 ――そうして、ふいに響いた静かな声。 「『客観的』なんて、『共感』なんて無いのさ。…あるのはただ自分の心と、そして『錯覚』だけ」 背後に砕け霧散した竜巻、つかの間止んだ魔法の嵐に。 空の月を見上げ、吟遊詩人が詩をそらんじるように純白の外套が歌う。 「……主観、主観、また主観。全ては自分の心に始まって、ただ自分の心にだけ完結する」 その姿は儚げなようでいて、しかし瞳に宿る光は強い。 狂気に身を浸しているように見えて、だけど瞳の光は真っ直ぐだ。 「本当は『心を交し合って』なんかいないんだ。…ただ『交わし合ったように見える』だけで。 …あるいはもしかして、『自分達は心を交し合えている』って、信じたいだけなのかな?」 ふっと顔を戻して、小首を傾げてこちらの方を見てくるその顔に。 嘲笑(あざけり)はあっても、だけど諦観(あきらめ)の色は無い。 「人が人の心を読めない以上、行き交うのはただただ錯誤と錯覚、思い込み……」 詭弁使いめ、ニヒリストめと。 こいつ以外の人間が語ったならば、即座にそう言われて相手にされないであろう論旨主張を。 「虫や、魚や、野の獣達を見てご覧よ? 実 際 み ん なそう じ ゃ ん か ? 」 狂ってもいないのに滔々と唱え。 「 【 独 り 】 で 生 ま れ て 、【 独 り 】 で 死 ぬ んだ。 誰 も が 、み ん な 。」 周囲の罵倒や非難を押しのけて、ただの一人で、皆とは逆の考え方を突き進める者。 「……でも、それに耐えられない弱い奴らが」 ひゅん、と右袈裟斬りに振り下ろした蛇杖、石打の雨が降り注ぎ。 「【独り】に耐えられなかった弱い奴らが、【永遠の一人】に耐えられなかった弱い奴らが、 それに耐え切れなくなって作った、ごまかし、まぼろし、おためごかし……」 返した手首、横一文字に降られた杖、紫の光、今一度叩きつけられるプレッシャー。 見えない力に雑巾が押されて、勝手に体が後ろにめり込み、苦しそうな声が上がり。 「……それが『おままごと』だよ、人間社会とか、集団社会とかっていう名前のね」 …肩口から零れる血、構えた剣が、ぎしりと軋む。 ※ ※ ※ < 2 > ※ ※ ※ 「おまま、ごと…?」 「まま、ごと、だと」 奇しくも二人、同時にブリキが擦れるみたいに漏らした言葉に。 「そう、『おままごと』」 にこりと笑っての、ディンスレイフの言葉。 「…幼年学校の、保護者に見せる為に開かれる稚拙なお遊戯会の劇と、何にも変わらない」 最早、いくら精巧でも作り物だとバレバレの、無知を装った無邪気な笑顔に。 「これを『ままごと』、これを愉快だと称さずして、何を『ままごと』、何を愉快だと?」 そうして三度振った杖、ぴしぴし と。 今度は無数のツララが、その描いた軌跡の跡へと連なり出すのが見えた。 ……それですら、先程のオオカミの頭目が放った物よりも大きさは小さいとは言え、数は倍。 「愛し合ってた二人の、些細なすれ違いからの破滅。永遠の友情の、勘違いからの崩壊。 偽りの愛と友に騙される者、あるいは相手の本心にも関わらず、愛と友を信じられない者。 騙されている事を知った上で信じ続ける愚か者に、それを知らずに騙し続ける哀れな者。 夫を疑い、妻を疑い、親を疑い、子を疑い、友を疑い、兄弟を疑い、愛を疑い、信を疑い、 主人を疑い、召使いを疑い、…そうしてそれを失ってから、初めて自分の愚かさに気がつく」 胡乱な笑顔、くいっと指をもたげた動作に、宙に浮かんだ体がクンッと後退し。 同時にバンッ――という炸裂音を立てて、ショットガンみたいに一帯にツララが突き刺さった。 立ち昇る霜の冷気に、周囲の気温がさらに数度下がったような気さえして。 「……ね? 『分かり合える』んなら、どうしてこんな事が起こるのかな?」 笑って、四度振り上げられた杖、ドンッとあたし達のすぐ傍、大きな雷が落ちる。 「深く愛し合い、心を交し合っていると言った者達にも、こんな事が起こるのは、どうして?」 笑って。小首を傾げて。 さらにもう一振り、地面に焦げ目を作って、もう一発。 「分かり合えるんだよねぇ、群れ合い暮らす、皆さんの言葉を聞く限りでは?」 さらに一発。 「心を一つに、手を取り合ってご覧よ? 出来るんでしょ? 社会に暮らす全体の皆さんなら!」 もう一発。 「ほーら、お兄ちゃんお姉ちゃん、言い当てて見せろよ、今お互いが思ってる事を! 社会を作り、心を通わせ合える、それが『獣』じゃない、『人間』の証なんだろぉ!?」 一発。 「…そうして、その割には世界がこんなに愉快で『喜劇』と『悲劇』だらけなのは、どうしてかな?」 一発。 「愚かで、滑稽で、哀れな寸劇に、満ち満ち溢れているのは……」 ひゅん、ひゅんと振られる度に。 「すれ違い、勘違い、信じられず、誤解したまま死んでく連中ばっかなのは、何故かなあっ!?」 ドン、ドンと落ちる落雷。 「説明してよっ、『国家』の下僕らしいお兄さんにっ、『優しさ』を信じるお姉さんっ」 飛び散る火花に、舞い飛ぶ炎の蝶。 「愛とか、友情とか、優しさとか! 人が持ち、心から生まれ、交わされ合うらしいそれが!」 それまでは防げず、吹き荒れる土埃と爆風と。 「滑稽な『演劇』の産物じゃ! 肉の牢獄、羽ばたけぬ心から生まれた思い込みじゃない!」 焦ったように、歯軋りして口中の呟きを早める雑巾に。 「個人と個人の『演技』の産物、織り成された劇の台詞でなしに、確かに在るものだってっ!」 それにただただ、しがみ付くしかできないあたし。 「人は心を交し合えるなんていう『まやかし』の下、『永遠の独り』に耐え切れなかった者同士が、 それでも縋らずにはいられなかった、愚かで哀れな幻なんかじゃないって!」 邪な哄笑と共に、ディンスレイフが投げつけて地面に突き立てた杖。 「馴れ合い群れ合いのおままごとじゃない、世界は舞台じゃないって、証明して見せろよぉっ!」 ドンッッッ、と。 耳を劈くような轟音と共に、周囲に突き立ったのは三つの落雷。 「っははははははははははっ!」 目元に手を当てての、おかしくて堪らないといった様子の哄笑が、一帯に、響き。 …飛び交う炎に氷、風に石礫、そして今の雷撃に火を吹き、抉れ、または凍りつく木々の中。 鉄や肉の焦げ煙る匂いと共に、やたらめったらに吹き荒れる爆風。 やはり翻る黒衣に顔を埋めて、目に飛び込もうとする砂や火花を避けるしかないあたしに。 「……ね? 『劇』でしょう?」 土煙の向こう、バタバタと風に翻る白衣の音。 「常に周囲からの『まぼろしの非難』、『幻影の白い目』、『罪悪感なんて名の錯覚』に怯え、 『みんな』からの村八分、仲間外れに、いつもビクビクしながら暮らしてる《よわきもの》に」 刺された視線、心の中にまで侵入してくるような冷たい声に、ビクリとあたしの体が震え竦む。 「所属集団――国家・社会という名の絶対的上位普遍の概念存在に完全帰属・従属する事で、 誰が正しくて、何が間違ってるのか、何に従ったらいいのか判らない不安からの逃避を謀り、 思考の放棄、遭遇事例に対しての当不当の判断責任の、最も安易な棄却を達成すると共に、 一番安価で簡便なアイデンティティの確立、自己の防衛・保存を図ってるだけの、《臆病犬》」 瞳を翻して、自分の方へと向けられる視線にも、雑巾は視線を反らす事無く。 …ただ、ほんの少しだけ血に濡れた肩を震わせて、差し向けられた言葉に大きく息を吐いた。 「…自壊への渇望に捕われながら、それでもなお身に課せられた地位と使命、そして滅びヘの 願いを上回る憎悪の劫火に囚われて、多数に背く、殺戮人形に成り果てるは、《抜殻の孤狼》」 一帯に撒き散らされた死体を前にして、紡がれるのは詩人の言葉。 「…過去の栄華に縋りつき、くだらぬ矜持を捨てられず、殺めた命は星の数、戻れぬ我が身、 けれど愚か者達に手品を見せ、愚昧な賞賛に身を浸しながら、泥に夢見る《愚かな老蛇》」 この光景の中でただ一人汚れる事無く、宙に浮かんで場違いに。 「そして注されず、目される事無く、凡人凡才、散り花にしかなれぬ、十把一絡の《エキストラ》。 なれど危ぶむな、十を持ってしてしか一花になれぬ、その哀れさにその他大勢の真髄はあり」 全てを――それこそ正真正銘、『人の心の中』までも盗み見て覗き見れる語り部のごとく。 「飢えるが故に奪う者、震えるが故に乾く者、飢餓故に、人を食い裂く鬼と変じた《優しき者》。 力・魔・美の、いずれも持たず、結果代償行為として金に走り、金に溺れるは《哀れな亡者》」 バサリと翻された白衣の裾。 「元の世界を捨て去れず、今の世界を受け入れられず、今日も天を仰ぐはしがらむ《落ち物》。 一瞬にして全てを失う《不幸の者》に、逆に一瞬にして全てを得、なれど故に破滅す《愚か者》」 演技がかって持ち上げられた左手。 「80と650、決して埋まらぬ時と種の差に、だけど本気で愛を育もうとする物好き達もいて。 贖罪からの愛を捧げる者が、憐憫からの愛を捧げる者が、憎悪からの愛を捧げる者がいる」 誰を歌ったのかは知らないが。 「過去のトラウマから逃げる為に。地位や身分でしか自分を見ない周囲の目から逃げる為に。 全てを失った亡国の王族が、弱く卑しいはずの従者に寄りかからずにはいられずに抱く愛も」 しゃらりと袖口、布地を擦る音を立てて、長い睫毛、半眼を開いて言う言葉は。 「 … ね ? 愉 快 で し ょ ? こ れ 以 上 笑 え て バカみ た い な 劇 が 、ど こ に ? 」 ――ボーイソプラノが、テノールに。 ――…ふいにぶわりと、辺りの空気が重くなったのは気のせいか。 ぞっとする程の賎視と侮蔑に満ちた、その打って変わって低い声色と強い気迫。 ある程度予想していたとは言え、それでもあまりの鬼気に固まったあたしの空白を突くよう。 ――つっと先端を差し向けた杖に沿って。 ――杖軸の周囲を伝い回るようにしながら、身の周りを舞うだけだった、『蝶』が一匹。 「 ど う し て こ こ ま で 愉 快 に 踊 れ る ん だか、それだけはボクもお前らを尊敬するよ」 ――それにまた少し、辺りの空気が重くなった気がした。 戦慄が走ったのは、その薄笑いに対してか、あるいは忘れようもない先刻の凄まじい威力、 ひらひらと、だけど一直線に飛んでくる『炎の蝶』に対してだったのか。 「+*$*%** **%=#*/*@ !!!!」 すかさず半身を引いて構えられた雑巾の剣先の、刃先に添えられた左手指先に。 途中で妨害・迎撃されたか、ポンッと軽い音を立てて火の粉に戻り撃墜される炎の蝶。 ……だけど。 「…肉の檻、羽ばたけぬ心に、『愛し合う』『信じ合う』という愚かな幻想、思い込みを抱く者」 二つ。 三つ。 「ただ痛みに耐えられぬだけの己の心の弱さを、優しさやら、慈愛の心やら、罪悪感といった 修辞に飾った挙句、『他人の痛みが』『世界の痛みが』だなんて戯言をのたまう臆病な奴ら」 四つ。 五つ。 「―― 『 弱 い 』 、 『 弱 い 』 、 実 に 『 弱 い 』ね、 お 前 ら は 」 その言葉と共に、今度は気のせいじゃなく。 確かに周囲の空気、圧し掛かる大気の重圧が、ずしりと密度を増したのをあたしは感じた。 …真面目な話、冗談抜きで体が重く、肺から息を吐くのにさえ力がいって。 じっとり、ねっとりとした妙なプレッシャー。 雑巾の足にぺたんと縋りついて、それでも辛うじて顔をもたげる先には。 「… そ の 程 度 の 孤 独 、 そ の 程 度 の 痛 み に すら耐 え ら れ な い か ? 」 ……雑巾が垣間見せたそれや、あのオオカミの頭目が放っていたそれとも違う。 …重たい、重たい、とにかく重たくて湿っぽい、淀んだ空気、息苦しい重圧。 中心に居るのは、さっきまでは確かに、宙に舞う羽毛のような。 ……でも今は、まるで白く脈打つ肉塊のごとき、歪んだ空気の向こうの薄笑いの少年。 「 ど こ ま で も 周 囲 を 気 に し て さ 。 だ か ら お前ら は 『 弱 者 』 な ん だ」 指し伸ばされた階(きざはし)から、次々と飛び立ち向かってくる炎の蝶に。 必死で口の中に口訣を唱えて、飛んでくる中途でそれを迎撃する雑巾の姿を、 隠しもせずに嘲笑うその笑みには……だけどやっぱり、狂気の色は無くて。 「…… で も 、 ボ ク は 違 う 。 ボ ク は 『 強 い』」 笑って、ゆらりと動かした手。 たぁん、とボタンに留められた純白のコートの襟元を叩いた、 ただそれだけで、周囲の空気に波紋を広げる……それほどの、圧倒的な力の塊。 「【独り】じゃ生きていけず。…社会と集団――弱さが生み出した偽りの幻霧の中に埋没し、 繰り返される遠慮と妥協と諦めの果てに、自分が本当は何をしたかったか、何を求めて、 何の為に生きようとしていたのか忘れてしまった、哀 れな君 達 と は 根 本 的 に 違 う 」 ――それはまるで、瀕死のネズミをいたぶる猫のそれ。 「誰があわっ……「「――では聞こうか、ヒトの娘」」 それに思わず上げようとした反声も、だけど舞い飛ぶ火蝶、差し向けられた杖に遮られる。 途端、流れを変え、叩きつけられた力の奔流に。 睨まれただけで感じる、心臓が握り掴まれるような圧迫に、思わず背筋すらのけぞって。 蛇に睨まれた蛙のように、獅子に睨まれた兎のように。 「――お前は『だれ』だ?」 強い力。 「――お前は『どこ』にいる?」 強い瞳。 「――お前はどうして、何の資格があって、今此処にいる?」 答えられない。 「――何を為せた?」 それをあたしは、答えられない。 「――何の為に生きている? お前の生きる意味は、価値は何か、答えてみせよ、女」 知らない、判らない、答えられない。 ……『嫌が応にも己の矮小さを思い知らされる』とは、きっとこういう事を言うんだな、と。 そう思う、否、そう思わずにはいられない、それだけの視線。 …震えて、圧倒されて、喉から言葉が出ず。 そしてそんな相手と、だけど雑巾は必死に相対して火蝶を叩き落しているというのに、 じゃあその背後、守られるしかできない自分は何なんだろうとも。 「 …… ほ ら ね ? 答 え ら れ な い 」 そんなあたしを嘲笑うかのように、歪む空気の向こうでゆらりと杖を振りかざした姿。 高く、星天を突き刺した垂直の杖に。 「そんな誤魔化しに誤魔化し、妥協に妥協を重ねての、嘘だらけの幻の人生なんか送るから…」 ざわざわと集まっていくのは、周囲を無軌道に漂っていたはずの残りの火蝶。 杖の先端、双蛇を迎えた翼ある宝珠に、まるで収束するかのように集まったそれら、 ――1羽でもヒトを殺せ、1羽ずつでも迎撃に苦労する高密度の炎の魔力の塊が。 「 … こ ん な 簡 単 な 質 問 に も 、 答 え ら れ な くなる ん だ 」 ひゅん、と空を切り裂き音を立てられて振られた杖に。 ――鎖付き鉄球のそれのように、火蝶の塊がまとめて固めて投げつけられた。 「―― 生 き て て 楽 し い ? そ ん な 人 生 ? 」 視界いっぱいに迫り来る赤の光群の奥。 ごぅん、と音を立てて拡散し、炎の壁となってあたしらを飲み込むその直前。 ――陽炎の向こうに映ったのは、 圧倒的な強さを持つ者にのみ許される、絶対的な自負の笑い。 ……ごおごおと、鼓膜を揺らし震わす獄炎の音。 巨大なドーム、球を描いて渦巻き燃え盛る爆心点を見つめながら。 「優しさ、労わり、慈しみ。心の痛みに心苦しさ、寂しさ、切なさ、孤独感。愛に友情、信じる心」 片手に襟元を弄び、それでも少年は、笑みを浮かべた。 「肌寒い、温もりが欲しいと称しては肌を重ね。妬みや罪悪感といった、負のそれも……か?」 そうして宙に浮かんだまま杖を引き寄せて、ゆっくりとそれに凭れ掛かる。 「…ただ【弱さ】という言葉を言い換えるだけの『修辞』を、よくもまあこれだけ捻り作ったものだ」 魔法に耐性の少ない、ヒトや幾つかの種族などは、それだけで『魔力あたり』を起こして 息苦しさや眩暈を覚えるだろう、桁外れの魔力を解放しながら、ゆらゆらと。 「そうして【独り】を恐れ、弱きを正当化し、幻夢に貪るは惰眠、真理から遠ざかる事甚だしく。 必要と愛を求め続け、自分の存在価値を誰かに肯定して貰えなければ生きてすら行けず…」 瞳を閉じて、宙に漂いながら額に伸ばす手、 「……だが、だからこそか」 しかし フッ、と猫がやるように鼻で笑う姿は、およそ子供らしさとはかけ離れた高慢さ。 「だからこそこのディンスレイフには、それを無駄、無意味だと、罵り謗るつもりは毛頭ない」 器用にも空中に頬杖をついて―― 「種の保存という本能からくる一連の生殖行為を『愛』という言葉で飾りたがるお前らを、 結局は自己中心と自己主張、自己同一性の保持に終極する、様々な美辞麗句で飾られた お前らの行為様態行動を、無駄だと言うつもりはないし、無意味だと定するつもりもない。 …世界は醜いのだと気がついたばかりの、年端も行かない小僧共がそうするように、な」 ――独り言めいた言葉を呟きながら、ぼうっと遠く、しかし力を失わず焦点を合わせる両眼。 見つめる先にあるのは、踊り燃え盛る炎の塊で…… 「なぜならば、だからこそお前らは愉快で滑稽であり……」 垂れた前髪を弄びながら。 「……この私を、こんなにも退屈させずに、今日もまた愉しませてくれるのだから」 尾をくねらかせて、ネコの少年の姿をした者は薄っすらと笑う。 …それは踊る火の粉をして、『蝶』という形に見立て組み上げられた、芸術的なまでの『呪』。 他の魔法使いが見れば、感嘆と共に己の才知の至らなさを歯軋りするだろうその魔法だが。 …しかしこうやって『呪』を解き綻ばせてしまえば、それはただの地獄の業火の塊でしかない。 『蝶』とするにはこの世界と同じよう、誰かが『飾り』『彩って』やらねばならぬ。 「―― 出 て こ い よ 、 こ れ で く た ば っ ち ゃ なんか 、 い な い は ず だ 」 言って杖を握り、見つめるのはごうごうと、未だ渦巻き続ける炎球の芯。 「―― 踊 れ よ 」 生き物であれば、決して生きてはいられぬだろう炎熱の央。 「―― 踊 っ て こ の ボ ク を 、 強 き 者 共 の 目 を愉し ま せ ろ 」 …だが真球を描いていたそれがたわんで歪み。 「――それだけが貴様らの取り柄だろう? …なあイリュージョニスト、幻想使い」 線が一本、炎球の中点を通るようにして斜めに走った時。 ……でも確かに彼は、子供のように笑ったのだった。 まるで面白い映画、興奮する劇、ワクワクドキドキする物語を読んだ時の、子供のように。 「……大丈夫だよ」 肺を焼く熱波の中で、だけどあたしは確かに聞いた。 「……大丈夫、怖くない」 熱くて目がチリチリして開けてられない熱の中で、確かに声を。 「何とかなる、…オレが、何とかしてみせる」 そういって、すぐ「できるよ!」と言って、だけどいつも料理も洗濯も大失敗なのに。 優しくて、だけどいつものように簡単に安請け合いする、後先の考えなしの。 「…死んでも、お前だけは助けるから」 バカみたいで、だけど時々こっちがドキッとしてしまうような、とんでもない言葉。 ――口を開こうとしても、入ってきた熱と火の粉、むせた咳しか出なかった。 斬り裂かれたゴムボールがそうなるみたく、歪んだお椀型になった炎塊が二つ。 斬り払われて飛び、背後の木々に激突して、大量の酸素を飲み込みながら。 ドン、という炸裂音と共に荒れ狂う火流。 半分山火事めいてきた光景の中で、ぶすぶすと煙を上げて煤を撒き。 「――なら、貴様は『だれ』だ?」 それでも五体満足、片膝をついて、泥だらけのコートの下にヒトの女を庇いながら。 「――だったら貴様は、『どこ』にいるッ!?」 だいぶ良い顔、良い台詞を吐くようになって来た、イヌが一匹。 「ははは……」 裂帛の眼差しでねめつけられて。 「 よ く ぞ 聞 い た !」 だけど喜悦を滲ませて、ディンスレイフは虚空に杖を突き立て胸を張る。 「我が名はディンスレイフ! 猫国生まれが大魔法使い、ディンスレイフ・ダークネ!!」 ――楽しい。 「ただの【独り】にて凛然と、しかし小揺るぐ事無く錘の頂点に立ちたる、いと《つよきもの》!」 ――楽しい楽しい楽しい。 「【社会】という名の幻霧に潜む貴様らと違い、【独り】という名の真理の園に住まう者だ!」 ――よもやここまで楽しませてもらえるとは、正直に予想外だったと告白しよう。 くるりと翻して杖を突きつけてやれば、背後に隠れたヒトの女がビクリと怯える。 …まぁ『ヒト』だったら、ただそれだけで頭痛や吐き気を覚えるような、高密度・高濃度の 魔力を叩きつけているわけなのだから、それも当然といえば当然なのだったが。 …しかしそれを庇い出るように体を動かす、この目の前の愚かにも分不相応な二流イヌの。 「…『優しさ』? どうしてこのボクが、他人の痛苦の為に痛みを感じてやらなきゃいけない?」 見下してやった視線の先、その目が堪らない。 「他人が何人泣こうが死のうが叫ぼうが、でもそれはボクが苦しいわけじゃないのにだよ?」 弱いくせに、無力のくせに。 「『世界の痛み』? 山が死ぬ? 川が汚れる? 海が泣く? …はは 、 知 っ た 事 か!」 必死に抗い、無駄な抵抗しようとするその生意気な目が。 「たかだか世界の寿命が、5000年10000年縮むだけでしょ? なんでそれ位耐えられないの? 無力の癖に、そんな事にまでいちいち心を削ぎ悩む、 だから お 前 ら は 弱 い ん だ よ 」 劣等種であるはずのヒトと、先進優等種であるはずのイヌの。 揃いも揃っての、震えながらの必死な眼差しが、愉快で愉快で堪らない。 ――大好きだ。 ――愛しているとさえ言っていい。 ――……そう、愛して。 ――愛して、愛して。 ――愛して愛して、かれはこの世界を、人間という生き物を、愛していて。 「――秒間12発もの初等魔術に、連続21発のライトニング、あまつこのボクの《火蝶陣》まで」 口より出された言葉の中には、だからこそ「ねぎらい」と「いたわり」があった。 「……良く耐えたね。素晴らしいアンチ・マジック《魔術妨害》、そしてディフレクション《偏向》だ」 『保護者』であるからこそ、『羊飼い』であるからこそ、彼は「いたわり」を忘れなかった。 「…ああ、うん、非礼を詫びようか。…さっき散々、『二流』呼ばわりしちゃった事をさ」 ……ディンスレイフ・ダークネは、強かった。 ……とてもとても、強かった。 「認めるよ、お兄さんは断じて『二流』なんかじゃない。その心意気と健闘に敬意を表し――」 【力】に、【魔】に、【頭】に、【美】に、あまつ驚嘆すべきには、【心】にさえも。 強く、強く、とてもとても、とてもとてもとても強く…… 「――認 定 し よ う 、 お 兄 さ ん は 立 派な『似非(えせ)一流』 、 『一流モドキ』 だ 」 ……そして少々、ほんの少しばかり、『強過ぎ』た。 「C+(シープラス)でなく、B-(ビーマイナー)」 誰にも必要としてもらえずとも、存在を肯定してもらわずとも。 「…誇っていいよ? このボクにB認定をもらえる人間だなんて、そうそう居ないんだから」 ただ自分【独り】でだけで、自分の存在を肯定できる、それ程までに強く。 「――誇り、光栄に思い、そして後悔し、せいぜい絶望に沈むがいい」 芝居がかった口調に還りながら、杖を握る手に力を込める。 「…初等の中、うた《詠唱》無き内に死ねていれば、まだ楽に死ぬことも出来ただろうに。 このディンスレイフにうた《詠唱》まで歌わせた、その中途半端な力量と賢しさを恨むのだな」 ――彼は叙事詩《サーガ》や歌劇《オペラ》、観劇《シネマ》が大好きである。 幼き頃、全てを持ち判るその退屈の中に、ただその人の心、人の想像力の翼にのみ感嘆し、 そして弱き存在が、生命の危機、必死になってもがき苦しみあがく様に感動し―― 「畏怖より生まれし『揮奏者ディンスレイフ』――『奏で操る者ディンスレイフ』の二つ名の意味…」 ―― だ か ら 楽 し い 人 生 を 謳 歌 す る 為 、 ただこ の 道 を 選 ん だ 。 世界を奏で操る脚本家にして舞台監督、指揮者、支配者、『コンダクター』としての道のりを、 嘘と幻と欺瞞に満ちた、劇場なのに劇場でないと言い張るこの世界を、より美しく彩る為。 「『本物の魔法使い』の力の程、死出への土産、存分に耳へと焼き付けて行け」 魔力の集積と術式の構築の傍ら。 …だから少年は、今日も笑う。
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狗国見聞録 第5話(前編) ――いかに沢山の矢が束になって【賢者】に射られようとも、それはさして問題ではない。 なぜなら【賢者】は誰にも射抜かれないからである。 ――【賢者】は、一般人が恥とか哀れとか思うような事柄は何一つ顧慮しない。 彼は民衆の行く道を行かず、ちょうど諸々の星々が天空の反対の軌道を運行するように、 万人の意見に反して、ただの独りでも歩んで行く事ができる。 ――【賢者】以外の全ての人間には熟慮などなく、故に真理の存在余地はない。 あるのはただ欺瞞であり、反逆であり、精神の錯乱した衝動……すなわち幻影でしかなく、 よって【賢者】はこれらを偶発事項のうちに数え、寛大な慈笑でもって相対する。 ――他人からの軽蔑以上に酷いものはないと思うのは、心の弱さであり貧しさだ。 【賢者】はそれを知るが故に、軽蔑を意に介さず、むしろ笑う事でもってそれらに返す。 自分の方から笑う心を持つ限り、他人の嘲笑がその者を傷つける事はない。 ――いかな秩序、社会、国家の手でもってしても征服し難い人物が存在し、 また自然や万物の精霊、星天でさえもどうすることも出来ない人物が存在するという事が、 ひいては人類全体の、世界全体の利益となるのである。 ~ セネカ (落ちて来た『落ち物』の小本より) ~ ※ ※ ※ < 1 > ※ ※ ※ 「あっははははははははははははははははは!!!!」 びゅんびゅんびゅんびゅんと音を立てての、石礫、雷球、氷柱、鎌鼬に火球の嵐。 「いいねぇ、いいねぇ、秒間4個でも完璧に捌くか!」 身を守る灼熱の壁――勝手に増殖し周囲を舞い飛ぶ『炎の蝶』達に囲まれながら。 「…じゃあ次は、秒間6個、…行くよ?」 笑う子供の語尾に混じって、あたしの背後で爆発する火の玉の音を聞いた時には、 もう次の大小様々の石礫が浮かび上がってる。 ……それは恐ろしく早く、呪文を唱える様子すらない余裕めいた姿で。 だけど、雑巾が。 「――+**%* #**$/**=」 水平に剣を構え、あたしの前に仁王立ちになった雑巾が、 何か聞き取れないくらいの低い声、口中に小さく何かを含め呟くその周りでは。 …かくん、と軌跡を変えて飛んでいく火球に、足元に突き刺さる氷の矢。 形を崩されてただの突風になるカマイタチに、頭上スレスレに飛んでいく雷の球。 …その全部が、どうやってか完璧に「逸らされて」いるらしいのも、 また同じくらい信じられない、けど紛れも無く確かな目の前の事実だった。 一度など、逸らしすらしないで。明らかに顔面に飛んできた拳大ほどの石を顔の手前、 触れもしないのに砕いてみせるという芸当まで見せてくれてたりもする。 …それは魔法や魔術なんかさっぱりのあたしには、ちいとも原理の分からない、 同じくらい凄くて、同じくらい異常なはずの光景だったんだけど。 「…おっと、《破幻》ッ!」 そんな合間にも、乾いた響音を響かせて幾度目か空に突き立てられる杖に。 「無駄だよぉっ、こっそりアドバンテージを稼ごうったってね!」 宙に浮かび、氷柱、鎌鼬を作りながら、余裕で指をチッチと振るのは笑う猫耳少年。 「そんなちゃちい小細工、他はともかく、このボクには効かないッ♪」 荒い息を吐いて、汗を流しながら、それでも攻撃を捌き続けるのは雑巾の方だ。 小さなツララ、小さな火の玉、小さな雷、小さなカマイタチ、小石を持ち上げて飛ばす魔法。 一つ一つは素人目にも簡単そうな、初歩っぽい攻撃の為の魔法の数々で、 ……だけど『数』と『速さ』が、明らかに異常。 まるで昔どっかのゲーセンで見た激ムズシューティングゲームの弾幕のそれで、 しかもじわじわと数を増やされ、頻度を増されていくそれらの火氷石風雷の洪水に、 ――なぶり殺し―― そんな相手の目論見が、魔法チンプンカンプンのあたしにだって検討がついた。 実際、流石に完全に防戦一方で。 額に冷や汗を浮かべ、そうやって受け逸らすだけで精一杯な事を示す雑巾の様子は、 いくらこいつが凄くても、でも目の前の『化け物』と比べてはそれでもまだ人中、 …常識の、一般の範囲に収まる強さでしかない事を如実に物語っていて。 ――『何も分からないうちに即死だなんて、つまんないでしょ?』―― …逆に言われなくても顔に書いてあるのが判る、そんな表情でニヤニヤ笑う相手の表情に、 あたしは身の内の怒りを抑えることができず。 「……なんなの?」 無駄な事とは分かっていても。 「なんなの!? あんたはっ!!」 それでもあたしには、そう叫ばずにはいられなかった。 「なんでここまでの事が出来るッ!?」 何も出来ず、守られる身の自分が、そんな事吼えられた義理じゃないんだろうけど。 「なんでここまで、踏み躙って、弄んで、嘲笑って、ためらわないなんて事が出来るわけッ!?」 それでもせめて、あいつの気を逸らして隙を作れでもしたならばと。 ほんの少しでも、こいつの助けになれる事はないかと。 「『同族』でしょ? 『命』でしょう? 『人生』でしょう!? 『二度と直せないもの』でしょうッ!?」 何よりも、もうあたし自身、抑え切れなかった。 ごくごく普通の弱い人間に生まれた身として、初めて腹の底から沸くのを感じたその怒りを。 何かが狂い、何かがおかしいその理不尽さへの、本能的・根源的な所から来るこの怒りを。 「いくら『強い』からって! なのにどうして、どうしてそこまでためらいもなく踏み潰せるっ!? みんなの『一生懸命』を、『哀しみ』を踏み躙って! どうしてそこまで笑ってられ―― 「――じゃあ聞くけどお姉ちゃん」 ふわりと。 「どうして『優しさ』は、美徳なの?」 両手を広げて、事も無げに屈託ない猫耳少年が訊ねた、 …その広げられた両の手に、だけどしっかりと集まるのは紫色の光。 「自分の心の中に生まれる痛みに耐え切れないだけの『弱さ』が、なんで美徳?」 「なっ……」 「 だ っ て そ う じ ゃ ん 」 思わず上げた声を。 ……だけど振り払われた相手の左手、はじける紫の光に押し潰された。 パン という軽快な音と共にあたしの周囲、雑巾の構えた剣を中心にした一帯で、 『何か』を受けて跳ね飛び上がる地面のチリや埃、……折れ潰れる木の小枝。 ――重力の魔法か、衝撃波の魔法か。 「お姉ちゃんが耐えられないだけでしょ?」 ぎしり、と歪んだ雑巾の剣、かすかに呻き声を上げたこいつとあたしとを見比べながら、 くすくすと笑って、燐光の蝶群の中にいる『もの』が猫の耳を揺らす。 「自分が毎日食べ物に困らず贅沢してる、でもそのせいで飢え苦しむ者がいるかもしれない、 そう考えた時に生まれる罪悪感に、痛む心に『耐えられないだけ』」 一本指を立てて、すい と振った左腕を戻せば、無数の光球が飛んでくる。 「あの時無視した転んでたお婆さん、でもあの後ああなってたら、こうなってたらどうしよう。 そんな自分の胸の中に生まれちゃって、モヤモヤモヤモヤ、何か気になって嫌な気分、 …そんなどうでもいい事で『いちいち後から嫌な気分になりたくない』、だから露払いするだけ」 くるりとその場で一回転して見せれば、たちまち真空の渦が生まれ出す。 「優しくしなかった時の、周囲からの蔑みや罵りに耐えられないから、優しくするんでしょ? 傲慢不遜な行動を取った時の、周りからの白い目が怖いから、優しくするんでしょ? 何より自分が耐えられない、自分がこの胸の痛みに耐えられない、だから優しくする」 天高く杖を掲げれば、ぼこんと周囲から浮かび上がるのは無数の礫岩。 「苦しみたくないもんね、辛くなりたくないもんね、痛くなりたくないもんね――…」 ゆらり と振られた指先は、良く見れば二指を立てられて、親指と薬指が輪を作った組印。 それが指揮者がタクトを振るかのように…… 「…――『自分が』、さ」 だん、という耳を打つ轟音。 周りに降り注いだのは、石か、火球か、ツララの雨か。 「違うッ!」 その爆音にも負けないで、それでもあたしは叫んでいる。 「違う、違う、違うッ!!」 立てない足、両手を濡雪の上について身を起こし、それでも大声で叫んでいる。 ――『優しさ』は、自分の心の中に生まれる痛みに耐え切れないだけの弱さ? ――自分が痛く、苦しく、辛くなりたくないだけだからする行為? 「………だったらどうして、人間は…他の人の痛みも、感じられるのさ……?」 だったらあの、蛇のお姉さんの、最後に皆の為にしようとした行為は。 「自分の…痛みが…分かるから…、他人の…痛みも……」 『ごめんな』『怖かったよな』と泣きそうな顔で謝ってきた、雑巾のあの行為は。 『おれは汚いだろ?』と、哀しそうな顔で笑った雑巾のあの顔は。 ――どこから生まれて、どこに消える?―― 「…助けたくて…何とかしたくて…でもそんな資格なんか最初っから無くって……」 ――あの全てが、ただ自分の為に? 「…迷って…怯えて…それでも必死で手ぇ伸ばすような、バカ共がいるんだよ…」 ――自分の心を守る為だけになされた行為だった? 「…無駄な事だって…偽善者だって…大海の一滴、何の根本的解決にもなってない、 どうにもならない事をどうにかしようと足掻いてるって、嘲り笑われて、後ろ指さされても! それでも何とかしようと、手を伸ばそうとしないではいられないバカ共のっ!!」 目の前の萌え萌えな猫耳ッ子は、だけどあたしの一番嫌いなタイプ。 「それすらもエゴだとか、偽善だとか、自己防衛だって一言で捨てんのかよッ!」 ボロボロの体、血膿の園たる地べたに座り込んで、違うと。 汚れた黒の軍用外套、血塗れの剣を持って立ち続けるこいつの背中に掛けて、違うと。 「知ったかぶり、エリート思想のナマジャリが!! 何様だよてめえはあぁっ!!!」 肉体を駆け巡るこの現実の痛みと、心をじくませるこの現実の哀しみ、 その全てを怒りと叫び声に変えて―― 「――かみさま《シェキナ》だよ」 りん と音を立てて右手の杖を掲げ。 「……言ったでしょ? 劇場の神様《デウスエクスマキーナ》だって」 返されたのは、躊躇いもせずのただ一言。 あまりのあっけらかんとした様子に、逆に思わずあっけにとられるあたしに対し。 「『違う』? …はは、じゃあ聞こうかお姉ちゃん」 ギャンッ、という耳障りな音、杖を虚空に捻り立て。 幾度目かに雑巾が積んだ賽の河原の積み石――たぶん幻術の構築を突き崩しながら。 …気がつけば、いつの間にか雑巾が投げてたらしい、 三本のダガーナイフを指先で押し留め、さっきと同じようにくるくると回し。 「……その 『 他 人 の 痛 み 』 とやらは、 『 何 処』にあった?」 ―― がぁんっ!! と再び、金属が擦れるきな臭い音、飛び散る青い火花。 「 ど こ で 感 じ たの? 目で見た? 耳に聞いた? 鼻? 舌? それとも肌?」 「……っ!」 恐ろしい勢い、目にチカチカする速さで、左右に分かれ弾けた銀の光。 …だけどあたしが呻いたのは、決してその光と音だけのせいじゃなく。 「…ああ、ひょっとしてお姉ちゃんは、ヒトの癖にテレパシスト《読心術者》?」 ニヤニヤと笑う目の前の猫耳野朗の。 「人の心を暴き立てて、笑顔の裏側や隠し事も全て手に取るように判る? そりゃすごい!」 パチパチとわざとらしく拍手をするこいつが、何を言いたいのかに。 「…感じ、たんだよ、…確かに、あたしは」 たかだか15年間に培ったつたない語彙の中から必死に言葉を探す、 …だけどあたしの胸には、さっきのあの。 「あのお姉さんの土人形に掴まれた時に、頭の中に、哀しみの――」 「――それが哀しみだったっていう、明確な物的根拠は?」 「……ッ!」 苦痛の、呻き。 「自分の思い込み、勘違いじゃない、紛れも無く哀しみだったって、断言できる?」 舞い飛ぶ生きた火の粉に囲まれて、かざされた手から奇跡のように雷光が迸る。 …でもそんな中に呻き声を混ぜたのは、今度はあたしの声ではなく。 ぽたん、と。 外面だけは無害そうな子供の顔、不可視の力の渦を作る、ディンスレイフを目前に置いて。 機械のように無機質だった雑巾の声が、初めて生のそれを含み。 ――雑巾が投げつけたらしい、回っていたダガーナイフは全部で三本。 ――左右に分かれて飛んでいった光は、だけど二条。 ガランッ 「……っ…ッ!」 ……ぐっと引き抜いて、肩に突き刺さるダガーナイフを投げ捨てたそこに、 初めて無感情じゃない、ナマの苦痛の色が混じり加わった。 みぞれになった雪水の上に、刃にぬるりとこびり付いたものが、じわりと広がる。 「ぞうきっ――「「…ね? 『錯覚』なんだよ、それは」」 パパパパパンッ、と爆竹のように。 叫ぶ声を遮ったのは、盛大な炸裂音を上げながら降り注ぐ緋色の光、針の雨。 「今だってお姉ちゃんは、このお兄さんが呻き声を上げるまで、『痛み』に気が付かなかった」 地面に着弾し、いくつもの小爆発を起こすそれら赤い針の向こうで。 「お姉ちゃんの心に生まれた、でもその痛みを感じた心は、『誰の心』だったの?」 それは聞き分けの悪い愚かな子供に、しつこく言い含める大人のように。 「お姉さんが感じた哀しみは、あのヘビのおばちゃんの心から湧き出た哀しみだったの? もしくはこのお兄さんの心から湧き出た哀しみ? それともボクの心から湧き出た?」 くるりと杖を一回転させて、背後から二つの小竜巻を繰り出しながら。 あくまで宙から、高みから。…見下ろす視点での、笑みを浮かべる者が居る。 「……違うでしょう? 全部、全て、た だ お 姉 ち ゃんの 心 の 中 だ け の 事 」 ゆらゆらと舞う、幻想的な炎の蝶の群中に佇んで。 それは弁論の得意な、論争の勝者たる者に特有の、自分に浸ったうっとりとした笑み。 ――違う!とか、 ――そんな事ない!とか、 …飛び出して然るべきのそんな言葉は、だけどとうとうあたしの口からは漏れ出でる事なく。 「『お前に俺の何が分かるっ!』、…追い詰められた三流悪役の決まり文句だよね? …悪と見せかけて、でも本当は不幸な元善人でした、なんて良くあるパターンの、さ」 挟み迫ってくる二つの小竜巻の向こう、淀むこと無きお高い講釈を続けるディンスレイフに。 「**$/***=+**%* #* !!!!」 雑巾が、急ぎ地面に剣を突き刺して、更に早口で何事かを呟く。 ……それにほんの少し、竜巻の軌道が動いて。 「っははははは、ば っ か だ よ ね え ? 分 か る わけ無 い じ ゃ ん 、他人の心なんか♪」 砂や小枝の舞い上がる旋風の向こうで、カッと猫目を開いて、ディンスレイフが笑った。 暴風の唸り声よりも、高く、高く、なお高く。 「理解できるだなんて言う奴はさ、でも結局 『 分 か った気 に な っ て る だ け 』 じゃん ? 読めるのかな? その人は心を? 凄腕のテレパシスト? 本を読むみたいに心も読める?」 直撃は避けれても、その余波たる風のあおりやぴしぴし顔に当たる細かい砂までは。 思わず目を閉じて顔を伏せるあたしには、ただただその哄笑を黙って聞くしかできない。 掠めるように交差して過ぎていく竜巻に―― 「……みんな【一人】なんだよ、生まれた時から、死ぬまでずっと」 ――そうして、ふいに響いた静かな声。 「『客観的』なんて、『共感』なんて無いのさ。…あるのはただ自分の心と、そして『錯覚』だけ」 背後に砕け霧散した竜巻、つかの間止んだ魔法の嵐に。 空の月を見上げ、吟遊詩人が詩をそらんじるように純白の外套が歌う。 「……主観、主観、また主観。全ては自分の心に始まって、ただ自分の心にだけ完結する」 その姿は儚げなようでいて、しかし瞳に宿る光は強い。 狂気に身を浸しているように見えて、だけど瞳の光は真っ直ぐだ。 「本当は『心を交し合って』なんかいないんだ。…ただ『交わし合ったように見える』だけで。 …あるいはもしかして、『自分達は心を交し合えている』って、信じたいだけなのかな?」 ふっと顔を戻して、小首を傾げてこちらの方を見てくるその顔に。 嘲笑(あざけり)はあっても、だけど諦観(あきらめ)の色は無い。 「人が人の心を読めない以上、行き交うのはただただ錯誤と錯覚、思い込み……」 詭弁使いめ、ニヒリストめと。 こいつ以外の人間が語ったならば、即座にそう言われて相手にされないであろう論旨主張を。 「虫や、魚や、野の獣達を見てご覧よ? 実 際 み ん なそう じ ゃ ん か ? 」 狂ってもいないのに滔々と唱え。 「 【 独 り 】 で 生 ま れ て 、【 独 り 】 で 死 ぬ んだ。 誰 も が 、み ん な 。」 周囲の罵倒や非難を押しのけて、ただの一人で、皆とは逆の考え方を突き進める者。 「……でも、それに耐えられない弱い奴らが」 ひゅん、と右袈裟斬りに振り下ろした蛇杖、石打の雨が降り注ぎ。 「【独り】に耐えられなかった弱い奴らが、【永遠の一人】に耐えられなかった弱い奴らが、 それに耐え切れなくなって作った、ごまかし、まぼろし、おためごかし……」 返した手首、横一文字に降られた杖、紫の光、今一度叩きつけられるプレッシャー。 見えない力に雑巾が押されて、勝手に体が後ろにめり込み、苦しそうな声が上がり。 「……それが『おままごと』だよ、人間社会とか、集団社会とかっていう名前のね」 …肩口から零れる血、構えた剣が、ぎしりと軋む。 ※ ※ ※ < 2 > ※ ※ ※ 「おまま、ごと…?」 「まま、ごと、だと」 奇しくも二人、同時にブリキが擦れるみたいに漏らした言葉に。 「そう、『おままごと』」 にこりと笑っての、ディンスレイフの言葉。 「…幼年学校の、保護者に見せる為に開かれる稚拙なお遊戯会の劇と、何にも変わらない」 最早、いくら精巧でも作り物だとバレバレの、無知を装った無邪気な笑顔に。 「これを『ままごと』、これを愉快だと称さずして、何を『ままごと』、何を愉快だと?」 そうして三度振った杖、ぴしぴし と。 今度は無数のツララが、その描いた軌跡の跡へと連なり出すのが見えた。 ……それですら、先程のオオカミの頭目が放った物よりも大きさは小さいとは言え、数は倍。 「愛し合ってた二人の、些細なすれ違いからの破滅。永遠の友情の、勘違いからの崩壊。 偽りの愛と友に騙される者、あるいは相手の本心にも関わらず、愛と友を信じられない者。 騙されている事を知った上で信じ続ける愚か者に、それを知らずに騙し続ける哀れな者。 夫を疑い、妻を疑い、親を疑い、子を疑い、友を疑い、兄弟を疑い、愛を疑い、信を疑い、 主人を疑い、召使いを疑い、…そうしてそれを失ってから、初めて自分の愚かさに気がつく」 胡乱な笑顔、くいっと指をもたげた動作に、宙に浮かんだ体がクンッと後退し。 同時にバンッ――という炸裂音を立てて、ショットガンみたいに一帯にツララが突き刺さった。 立ち昇る霜の冷気に、周囲の気温がさらに数度下がったような気さえして。 「……ね? 『分かり合える』んなら、どうしてこんな事が起こるのかな?」 笑って、四度振り上げられた杖、ドンッとあたし達のすぐ傍、大きな雷が落ちる。 「深く愛し合い、心を交し合っていると言った者達にも、こんな事が起こるのは、どうして?」 笑って。小首を傾げて。 さらにもう一振り、地面に焦げ目を作って、もう一発。 「分かり合えるんだよねぇ、群れ合い暮らす、皆さんの言葉を聞く限りでは?」 さらに一発。 「心を一つに、手を取り合ってご覧よ? 出来るんでしょ? 社会に暮らす全体の皆さんなら!」 もう一発。 「ほーら、お兄ちゃんお姉ちゃん、言い当てて見せろよ、今お互いが思ってる事を! 社会を作り、心を通わせ合える、それが『獣』じゃない、『人間』の証なんだろぉ!?」 一発。 「…そうして、その割には世界がこんなに愉快で『喜劇』と『悲劇』だらけなのは、どうしてかな?」 一発。 「愚かで、滑稽で、哀れな寸劇に、満ち満ち溢れているのは……」 ひゅん、ひゅんと振られる度に。 「すれ違い、勘違い、信じられず、誤解したまま死んでく連中ばっかなのは、何故かなあっ!?」 ドン、ドンと落ちる落雷。 「説明してよっ、『国家』の下僕らしいお兄さんにっ、『優しさ』を信じるお姉さんっ」 飛び散る火花に、舞い飛ぶ炎の蝶。 「愛とか、友情とか、優しさとか! 人が持ち、心から生まれ、交わされ合うらしいそれが!」 それまでは防げず、吹き荒れる土埃と爆風と。 「滑稽な『演劇』の産物じゃ! 肉の牢獄、羽ばたけぬ心から生まれた思い込みじゃない!」 焦ったように、歯軋りして口中の呟きを早める雑巾に。 「個人と個人の『演技』の産物、織り成された劇の台詞でなしに、確かに在るものだってっ!」 それにただただ、しがみ付くしかできないあたし。 「人は心を交し合えるなんていう『まやかし』の下、『永遠の独り』に耐え切れなかった者同士が、 それでも縋らずにはいられなかった、愚かで哀れな幻なんかじゃないって!」 邪な哄笑と共に、ディンスレイフが投げつけて地面に突き立てた杖。 「馴れ合い群れ合いのおままごとじゃない、世界は舞台じゃないって、証明して見せろよぉっ!」 ドンッッッ、と。 耳を劈くような轟音と共に、周囲に突き立ったのは三つの落雷。 「っははははははははははっ!」 目元に手を当てての、おかしくて堪らないといった様子の哄笑が、一帯に、響き。 …飛び交う炎に氷、風に石礫、そして今の雷撃に火を吹き、抉れ、または凍りつく木々の中。 鉄や肉の焦げ煙る匂いと共に、やたらめったらに吹き荒れる爆風。 やはり翻る黒衣に顔を埋めて、目に飛び込もうとする砂や火花を避けるしかないあたしに。 「……ね? 『劇』でしょう?」 土煙の向こう、バタバタと風に翻る白衣の音。 「常に周囲からの『まぼろしの非難』、『幻影の白い目』、『罪悪感なんて名の錯覚』に怯え、 『みんな』からの村八分、仲間外れに、いつもビクビクしながら暮らしてる《よわきもの》に」 刺された視線、心の中にまで侵入してくるような冷たい声に、ビクリとあたしの体が震え竦む。 「所属集団――国家・社会という名の絶対的上位普遍の概念存在に完全帰属・従属する事で、 誰が正しくて、何が間違ってるのか、何に従ったらいいのか判らない不安からの逃避を謀り、 思考の放棄、遭遇事例に対しての当不当の判断責任の、最も安易な棄却を達成すると共に、 一番安価で簡便なアイデンティティの確立、自己の防衛・保存を図ってるだけの、《臆病犬》」 瞳を翻して、自分の方へと向けられる視線にも、雑巾は視線を反らす事無く。 …ただ、ほんの少しだけ血に濡れた肩を震わせて、差し向けられた言葉に大きく息を吐いた。 「…自壊への渇望に捕われながら、それでもなお身に課せられた地位と使命、そして滅びヘの 願いを上回る憎悪の劫火に囚われて、多数に背く、殺戮人形に成り果てるは、《抜殻の孤狼》」 一帯に撒き散らされた死体を前にして、紡がれるのは詩人の言葉。 「…過去の栄華に縋りつき、くだらぬ矜持を捨てられず、殺めた命は星の数、戻れぬ我が身、 けれど愚か者達に手品を見せ、愚昧な賞賛に身を浸しながら、泥に夢見る《愚かな老蛇》」 この光景の中でただ一人汚れる事無く、宙に浮かんで場違いに。 「そして注されず、目される事無く、凡人凡才、散り花にしかなれぬ、十把一絡の《エキストラ》。 なれど危ぶむな、十を持ってしてしか一花になれぬ、その哀れさにその他大勢の真髄はあり」 全てを――それこそ正真正銘、『人の心の中』までも盗み見て覗き見れる語り部のごとく。 「飢えるが故に奪う者、震えるが故に乾く者、飢餓故に、人を食い裂く鬼と変じた《優しき者》。 力・魔・美の、いずれも持たず、結果代償行為として金に走り、金に溺れるは《哀れな亡者》」 バサリと翻された白衣の裾。 「元の世界を捨て去れず、今の世界を受け入れられず、今日も天を仰ぐはしがらむ《落ち物》。 一瞬にして全てを失う《不幸の者》に、逆に一瞬にして全てを得、なれど故に破滅す《愚か者》」 演技がかって持ち上げられた左手。 「80と650、決して埋まらぬ時と種の差に、だけど本気で愛を育もうとする物好き達もいて。 贖罪からの愛を捧げる者が、憐憫からの愛を捧げる者が、憎悪からの愛を捧げる者がいる」 誰を歌ったのかは知らないが。 「過去のトラウマから逃げる為に。地位や身分でしか自分を見ない周囲の目から逃げる為に。 全てを失った亡国の王族が、弱く卑しいはずの従者に寄りかからずにはいられずに抱く愛も」 しゃらりと袖口、布地を擦る音を立てて、長い睫毛、半眼を開いて言う言葉は。 「 … ね ? 愉 快 で し ょ ? こ れ 以 上 笑 え て バカみ た い な 劇 が 、ど こ に ? 」 ――ボーイソプラノが、テノールに。 ――…ふいにぶわりと、辺りの空気が重くなったのは気のせいか。 ぞっとする程の賎視と侮蔑に満ちた、その打って変わって低い声色と強い気迫。 ある程度予想していたとは言え、それでもあまりの鬼気に固まったあたしの空白を突くよう。 ――つっと先端を差し向けた杖に沿って。 ――杖軸の周囲を伝い回るようにしながら、身の周りを舞うだけだった、『蝶』が一匹。 「 ど う し て こ こ ま で 愉 快 に 踊 れ る ん だか、それだけはボクもお前らを尊敬するよ」 ――それにまた少し、辺りの空気が重くなった気がした。 戦慄が走ったのは、その薄笑いに対してか、あるいは忘れようもない先刻の凄まじい威力、 ひらひらと、だけど一直線に飛んでくる『炎の蝶』に対してだったのか。 「+*$*%** **%=#*/*@ !!!!」 すかさず半身を引いて構えられた雑巾の剣先の、刃先に添えられた左手指先に。 途中で妨害・迎撃されたか、ポンッと軽い音を立てて火の粉に戻り撃墜される炎の蝶。 ……だけど。 「…肉の檻、羽ばたけぬ心に、『愛し合う』『信じ合う』という愚かな幻想、思い込みを抱く者」 二つ。 三つ。 「ただ痛みに耐えられぬだけの己の心の弱さを、優しさやら、慈愛の心やら、罪悪感といった 修辞に飾った挙句、『他人の痛みが』『世界の痛みが』だなんて戯言をのたまう臆病な奴ら」 四つ。 五つ。 「―― 『 弱 い 』 、 『 弱 い 』 、 実 に 『 弱 い 』ね、 お 前 ら は 」 その言葉と共に、今度は気のせいじゃなく。 確かに周囲の空気、圧し掛かる大気の重圧が、ずしりと密度を増したのをあたしは感じた。 …真面目な話、冗談抜きで体が重く、肺から息を吐くのにさえ力がいって。 じっとり、ねっとりとした妙なプレッシャー。 雑巾の足にぺたんと縋りついて、それでも辛うじて顔をもたげる先には。 「… そ の 程 度 の 孤 独 、 そ の 程 度 の 痛 み に すら耐 え ら れ な い か ? 」 ……雑巾が垣間見せたそれや、あのオオカミの頭目が放っていたそれとも違う。 …重たい、重たい、とにかく重たくて湿っぽい、淀んだ空気、息苦しい重圧。 中心に居るのは、さっきまでは確かに、宙に舞う羽毛のような。 ……でも今は、まるで白く脈打つ肉塊のごとき、歪んだ空気の向こうの薄笑いの少年。 「 ど こ ま で も 周 囲 を 気 に し て さ 。 だ か ら お前ら は 『 弱 者 』 な ん だ」 指し伸ばされた階(きざはし)から、次々と飛び立ち向かってくる炎の蝶に。 必死で口の中に口訣を唱えて、飛んでくる中途でそれを迎撃する雑巾の姿を、 隠しもせずに嘲笑うその笑みには……だけどやっぱり、狂気の色は無くて。 「…… で も 、 ボ ク は 違 う 。 ボ ク は 『 強 い』」 笑って、ゆらりと動かした手。 たぁん、とボタンに留められた純白のコートの襟元を叩いた、 ただそれだけで、周囲の空気に波紋を広げる……それほどの、圧倒的な力の塊。 「【独り】じゃ生きていけず。…社会と集団――弱さが生み出した偽りの幻霧の中に埋没し、 繰り返される遠慮と妥協と諦めの果てに、自分が本当は何をしたかったか、何を求めて、 何の為に生きようとしていたのか忘れてしまった、哀 れな君 達 と は 根 本 的 に 違 う 」 ――それはまるで、瀕死のネズミをいたぶる猫のそれ。 「誰があわっ……「「――では聞こうか、ヒトの娘」」 それに思わず上げようとした反声も、だけど舞い飛ぶ火蝶、差し向けられた杖に遮られる。 途端、流れを変え、叩きつけられた力の奔流に。 睨まれただけで感じる、心臓が握り掴まれるような圧迫に、思わず背筋すらのけぞって。 蛇に睨まれた蛙のように、獅子に睨まれた兎のように。 「――お前は『だれ』だ?」 強い力。 「――お前は『どこ』にいる?」 強い瞳。 「――お前はどうして、何の資格があって、今此処にいる?」 答えられない。 「――何を為せた?」 それをあたしは、答えられない。 「――何の為に生きている? お前の生きる意味は、価値は何か、答えてみせよ、女」 知らない、判らない、答えられない。 ……『嫌が応にも己の矮小さを思い知らされる』とは、きっとこういう事を言うんだな、と。 そう思う、否、そう思わずにはいられない、それだけの視線。 …震えて、圧倒されて、喉から言葉が出ず。 そしてそんな相手と、だけど雑巾は必死に相対して火蝶を叩き落しているというのに、 じゃあその背後、守られるしかできない自分は何なんだろうとも。 「 …… ほ ら ね ? 答 え ら れ な い 」 そんなあたしを嘲笑うかのように、歪む空気の向こうでゆらりと杖を振りかざした姿。 高く、星天を突き刺した垂直の杖に。 「そんな誤魔化しに誤魔化し、妥協に妥協を重ねての、嘘だらけの幻の人生なんか送るから…」 ざわざわと集まっていくのは、周囲を無軌道に漂っていたはずの残りの火蝶。 杖の先端、双蛇を迎えた翼ある宝珠に、まるで収束するかのように集まったそれら、 ――1羽でもヒトを殺せ、1羽ずつでも迎撃に苦労する高密度の炎の魔力の塊が。 「 … こ ん な 簡 単 な 質 問 に も 、 答 え ら れ な くなる ん だ 」 ひゅん、と空を切り裂き音を立てられて振られた杖に。 ――鎖付き鉄球のそれのように、火蝶の塊がまとめて固めて投げつけられた。 「―― 生 き て て 楽 し い ? そ ん な 人 生 ? 」 視界いっぱいに迫り来る赤の光群の奥。 ごぅん、と音を立てて拡散し、炎の壁となってあたしらを飲み込むその直前。 ――陽炎の向こうに映ったのは、 圧倒的な強さを持つ者にのみ許される、絶対的な自負の笑い。 ……ごおごおと、鼓膜を揺らし震わす獄炎の音。 巨大なドーム、球を描いて渦巻き燃え盛る爆心点を見つめながら。 「優しさ、労わり、慈しみ。心の痛みに心苦しさ、寂しさ、切なさ、孤独感。愛に友情、信じる心」 片手に襟元を弄び、それでも少年は、笑みを浮かべた。 「肌寒い、温もりが欲しいと称しては肌を重ね。妬みや罪悪感といった、負のそれも……か?」 そうして宙に浮かんだまま杖を引き寄せて、ゆっくりとそれに凭れ掛かる。 「…ただ【弱さ】という言葉を言い換えるだけの『修辞』を、よくもまあこれだけ捻り作ったものだ」 魔法に耐性の少ない、ヒトや幾つかの種族などは、それだけで『魔力あたり』を起こして 息苦しさや眩暈を覚えるだろう、桁外れの魔力を解放しながら、ゆらゆらと。 「そうして【独り】を恐れ、弱きを正当化し、幻夢に貪るは惰眠、真理から遠ざかる事甚だしく。 必要と愛を求め続け、自分の存在価値を誰かに肯定して貰えなければ生きてすら行けず…」 瞳を閉じて、宙に漂いながら額に伸ばす手、 「……だが、だからこそか」 しかし フッ、と猫がやるように鼻で笑う姿は、およそ子供らしさとはかけ離れた高慢さ。 「だからこそこのディンスレイフには、それを無駄、無意味だと、罵り謗るつもりは毛頭ない」 器用にも空中に頬杖をついて―― 「種の保存という本能からくる一連の生殖行為を『愛』という言葉で飾りたがるお前らを、 結局は自己中心と自己主張、自己同一性の保持に終極する、様々な美辞麗句で飾られた お前らの行為様態行動を、無駄だと言うつもりはないし、無意味だと定するつもりもない。 …世界は醜いのだと気がついたばかりの、年端も行かない小僧共がそうするように、な」 ――独り言めいた言葉を呟きながら、ぼうっと遠く、しかし力を失わず焦点を合わせる両眼。 見つめる先にあるのは、踊り燃え盛る炎の塊で…… 「なぜならば、だからこそお前らは愉快で滑稽であり……」 垂れた前髪を弄びながら。 「……この私を、こんなにも退屈させずに、今日もまた愉しませてくれるのだから」 尾をくねらかせて、ネコの少年の姿をした者は薄っすらと笑う。 …それは踊る火の粉をして、『蝶』という形に見立て組み上げられた、芸術的なまでの『呪』。 他の魔法使いが見れば、感嘆と共に己の才知の至らなさを歯軋りするだろうその魔法だが。 …しかしこうやって『呪』を解き綻ばせてしまえば、それはただの地獄の業火の塊でしかない。 『蝶』とするにはこの世界と同じよう、誰かが『飾り』『彩って』やらねばならぬ。 「―― 出 て こ い よ 、 こ れ で く た ば っ ち ゃ なんか 、 い な い は ず だ 」 言って杖を握り、見つめるのはごうごうと、未だ渦巻き続ける炎球の芯。 「―― 踊 れ よ 」 生き物であれば、決して生きてはいられぬだろう炎熱の央。 「―― 踊 っ て こ の ボ ク を 、 強 き 者 共 の 目 を愉し ま せ ろ 」 …だが真球を描いていたそれがたわんで歪み。 「――それだけが貴様らの取り柄だろう? …なあイリュージョニスト、幻想使い」 線が一本、炎球の中点を通るようにして斜めに走った時。 ……でも確かに彼は、子供のように笑ったのだった。 まるで面白い映画、興奮する劇、ワクワクドキドキする物語を読んだ時の、子供のように。 「……大丈夫だよ」 肺を焼く熱波の中で、だけどあたしは確かに聞いた。 「……大丈夫、怖くない」 熱くて目がチリチリして開けてられない熱の中で、確かに声を。 「何とかなる、…オレが、何とかしてみせる」 そういって、すぐ「できるよ!」と言って、だけどいつも料理も洗濯も大失敗なのに。 優しくて、だけどいつものように簡単に安請け合いする、後先の考えなしの。 「…死んでも、お前だけは助けるから」 バカみたいで、だけど時々こっちがドキッとしてしまうような、とんでもない言葉。 ――口を開こうとしても、入ってきた熱と火の粉、むせた咳しか出なかった。 斬り裂かれたゴムボールがそうなるみたく、歪んだお椀型になった炎塊が二つ。 斬り払われて飛び、背後の木々に激突して、大量の酸素を飲み込みながら。 ドン、という炸裂音と共に荒れ狂う火流。 半分山火事めいてきた光景の中で、ぶすぶすと煙を上げて煤を撒き。 「――なら、貴様は『だれ』だ?」 それでも五体満足、片膝をついて、泥だらけのコートの下にヒトの女を庇いながら。 「――だったら貴様は、『どこ』にいるッ!?」 だいぶ良い顔、良い台詞を吐くようになって来た、イヌが一匹。 「ははは……」 裂帛の眼差しでねめつけられて。 「 よ く ぞ 聞 い た !」 だけど喜悦を滲ませて、ディンスレイフは虚空に杖を突き立て胸を張る。 「我が名はディンスレイフ! 猫国生まれが大魔法使い、ディンスレイフ・ダークネ!!」 ――楽しい。 「ただの【独り】にて凛然と、しかし小揺るぐ事無く錘の頂点に立ちたる、いと《つよきもの》!」 ――楽しい楽しい楽しい。 「【社会】という名の幻霧に潜む貴様らと違い、【独り】という名の真理の園に住まう者だ!」 ――よもやここまで楽しませてもらえるとは、正直に予想外だったと告白しよう。 くるりと翻して杖を突きつけてやれば、背後に隠れたヒトの女がビクリと怯える。 …まぁ『ヒト』だったら、ただそれだけで頭痛や吐き気を覚えるような、高密度・高濃度の 魔力を叩きつけているわけなのだから、それも当然といえば当然なのだったが。 …しかしそれを庇い出るように体を動かす、この目の前の愚かにも分不相応な二流イヌの。 「…『優しさ』? どうしてこのボクが、他人の痛苦の為に痛みを感じてやらなきゃいけない?」 見下してやった視線の先、その目が堪らない。 「他人が何人泣こうが死のうが叫ぼうが、でもそれはボクが苦しいわけじゃないのにだよ?」 弱いくせに、無力のくせに。 「『世界の痛み』? 山が死ぬ? 川が汚れる? 海が泣く? …はは 、 知 っ た 事 か!」 必死に抗い、無駄な抵抗しようとするその生意気な目が。 「たかだか世界の寿命が、5000年10000年縮むだけでしょ? なんでそれ位耐えられないの? 無力の癖に、そんな事にまでいちいち心を削ぎ悩む、 だから お 前 ら は 弱 い ん だ よ 」 劣等種であるはずのヒトと、先進優等種であるはずのイヌの。 揃いも揃っての、震えながらの必死な眼差しが、愉快で愉快で堪らない。 ――大好きだ。 ――愛しているとさえ言っていい。 ――……そう、愛して。 ――愛して、愛して。 ――愛して愛して、かれはこの世界を、人間という生き物を、愛していて。 「――秒間12発もの初等魔術に、連続21発のライトニング、あまつこのボクの《火蝶陣》まで」 口より出された言葉の中には、だからこそ「ねぎらい」と「いたわり」があった。 「……良く耐えたね。素晴らしいアンチ・マジック《魔術妨害》、そしてディフレクション《偏向》だ」 『保護者』であるからこそ、『羊飼い』であるからこそ、彼は「いたわり」を忘れなかった。 「…ああ、うん、非礼を詫びようか。…さっき散々、『二流』呼ばわりしちゃった事をさ」 ……ディンスレイフ・ダークネは、強かった。 ……とてもとても、強かった。 「認めるよ、お兄さんは断じて『二流』なんかじゃない。その心意気と健闘に敬意を表し――」 【力】に、【魔】に、【頭】に、【美】に、あまつ驚嘆すべきには、【心】にさえも。 強く、強く、とてもとても、とてもとてもとても強く…… 「――認 定 し よ う 、 お 兄 さ ん は 立 派な『似非(えせ)一流』 、 『一流モドキ』 だ 」 ……そして少々、ほんの少しばかり、『強過ぎ』た。 「C+(シープラス)でなく、B-(ビーマイナー)」 誰にも必要としてもらえずとも、存在を肯定してもらわずとも。 「…誇っていいよ? このボクにB認定をもらえる人間だなんて、そうそう居ないんだから」 ただ自分【独り】でだけで、自分の存在を肯定できる、それ程までに強く。 「――誇り、光栄に思い、そして後悔し、せいぜい絶望に沈むがいい」 芝居がかった口調に還りながら、杖を握る手に力を込める。 「…初等の中、うた《詠唱》無き内に死ねていれば、まだ楽に死ぬことも出来ただろうに。 このディンスレイフにうた《詠唱》まで歌わせた、その中途半端な力量と賢しさを恨むのだな」 ――彼は叙事詩《サーガ》や歌劇《オペラ》、観劇《シネマ》が大好きである。 幼き頃、全てを持ち判るその退屈の中に、ただその人の心、人の想像力の翼にのみ感嘆し、 そして弱き存在が、生命の危機、必死になってもがき苦しみあがく様に感動し―― 「畏怖より生まれし『揮奏者ディンスレイフ』――『奏で操る者ディンスレイフ』の二つ名の意味…」 ―― だ か ら 楽 し い 人 生 を 謳 歌 す る 為 、 ただこ の 道 を 選 ん だ 。 世界を奏で操る脚本家にして舞台監督、指揮者、支配者、『コンダクター』としての道のりを、 嘘と幻と欺瞞に満ちた、劇場なのに劇場でないと言い張るこの世界を、より美しく彩る為。 「『本物の魔法使い』の力の程、死出への土産、存分に耳へと焼き付けて行け」 魔力の集積と術式の構築の傍ら。 …だから少年は、今日も笑う。
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東洋大学-第78話 「中間レポート~自主休講の報い~」 201 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 02 11 34 ID aiQhvP9j0 多分日大とかにも書いたんだろうなと思ったけどスレ無いのね 202 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 04 21 18 ID fv/afsg2O 196 やっぱりレポート出さなきゃ単位取れないんですか? 前期はとりあえず単位取れたけど・・・ 203 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 06 20 06 ID XORMNu9T0 ___ \ 全世界のもてない男たちを / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /L, | \ \ 救済するため作り上げた / /⌒ヽ | クリスマスとは ./ ト、└L, | jJヽ \ 秘密結社!! / | ▽| ∠ そもそも ハ | \ しlv┘/|! \ その名もステキ / ノ⌒ヽ/ | なんであるか | ゝ\__ l / ノ| \ 『 し っ と 団 』 / , -/ , 、_ `‐-‐、 | 杉野!! /| ⌒~-イl、`ー ´(| \ / / ´ { 、 ヽ \______ / .| , `¨⌒/ ∧∧∧∧∧ ノ ヾ | ,ハ` 〈 / |ヽ. , ∠-―- 、 < し > ( 人 } イト、 ) / ||\__,/__, <__ >ー< 予 っ > ヽ、ヽ| j ハ 〈 ──────────────<. と >─────────────────── ,人,ノヽ 〈与えねばなるまい< 感 団 > ゝ しイ \ そう!!これは 人ノ ,. ! 〉 アベックどもに ..< > ___|__ _) て <天に代わって悪を討つ ,ノ / | (| \ 天罰を!! <. !!!. の > || っ h ´__ / 正義のわざ! ,/,/l ! ム|  ̄`――――/ ∨∨∨∨∨ \ ||l l l \咢)P!  ̄|/\/\/\/\/ /,/ / | (_,| / ワレらの \ / ,ゝ__r┘ < 決して私怨から /゚ / / /| / 目標わ!! \ 」 )‐ \ < でわない!! ´三 / フ| / Xマスイブ12月24日! \ 厂丁ト、l_ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨∨  ̄ ̄ <, | / 悪のアベックどもに \ 〉 | | | ト、 _|\/\/\/\ へ(⌒ヽ厂 | /正義の鉄槌を下し 根だやしにすること!!\ } } ハ 〉{_7、\ 聖 戦 だ ! ! 204 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 11 11 23 ID YoP9v/LeO 小学校のときは素直に笑えてたのにな… しっと団 今となってはリアルすぎて笑えねえ 205 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 15 01 40 ID igpn8JXvO 欧米課 欧米化 欧米可 欧米科 欧米蚊 欧米不可 206 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 15 39 31 ID pXeTsNx50 202 テストだけでも取ることは出来るみたいだけど、相当いい点 とらないとダメっぽい 207 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 15 55 26 ID fv/afsg2O 206 そうでしたか・・・ 情報ありがとうございます。 全力で頑張ってみます 208 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 16 06 54 ID Og8U/N8NO 千石前の交番に警視庁のパトカーや覆面が10台くらいと 警部みたいなのと警官20人くらいが集まってたな なんかあったんか? 209 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 16 31 06 ID 2NM2okMc0 朝鮮総連関係じゃね? 210 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 17 39 18 ID c5cZLOpw0 女子高生コンクリート詰め殺人事件(本スレ)105 http //tmp6.2ch.net/test/read.cgi/youth/1165239667/ ◆アルバイト帰りの女子高生を誘拐しての不良仲間4人で輪姦 ◆不良仲間の家に監禁し暴走族仲間十数人で輪姦、左記を知る関係者は100人に及ぶ ◆陰毛を剃り、陰部にマッチの軸木を挿入して火をつける。 ◆全裸にしてディスコの曲に合わせて踊らせ、自慰行為を強要。 ◆性器や肛門に鉄棒、ビンなどを挿入。 ◆性器や肛門に入れたビンに釘を打ち肛門内、性器内で割った。 ◆両鼓膜が激しく傷ついており、最後のほうはほとんど音が聞こえていなかった。 ◆小指の生爪を剥がす。 ◆殴打された顔面が腫れ上がり変形したのを見て「でけえ顔になった」と笑う。 ◆度重なる暴行に耐えかねて、「もう殺して」と哀願することもあった。 ◆左乳首はペンチのようなもので潰す。 ◆顔面に蝋を垂らして顔一面を蝋で覆いつくし、両眼瞼に火のついたままの短くなった蝋燭を立てる。 ◆衰弱して自力で階下の便所へ行くこともできず飲料パックにした尿をストローで飲ませる。 ◆鼻口部から出血し、崩れた火傷の傷から血膿が出、室内に飛び散るなど凄惨な状況となった。 ◆素手では、血で手が汚れると考え、ビニール袋で拳を覆い、腹部、肩などを力まかせに数十回強打。 ◆1.74kgのキックボクシング練習器で、ゴルフスイングの要領で力まかせに多数回殴打。 ◆ダンベルを1メートル以上の高さから腹部に向けて落とす。 ◆揮発性の高いジッポオイルなどを太腿部等に注ぎ、ライターで火を点ける。 ◆あまりの恐怖に脳が縮小していた。 ◆最初は手で火を消そうとするしぐさをしたものの、 やがて、ほとんど反応を示すこともなくなり、ぐったりとして横臥したままになった。 ◆死んだのでコンクリート詰めにして放置。 ◆遺体の乳房には数本の裁縫針が入っていた。 ◆腸壁にも傷があった。 ◆固まった血で鼻が詰まり、口呼吸しかできなかった。 ◆歯茎にまともに付いている歯は一本もなかった。 ◆あまりのストレスに生前頭髪が抜け落ちていた。 211 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 18 05 57 ID aiQhvP9j0 短パン着てる奴いるけどなんなのアレ 212 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 18 51 56 ID G7l4CLenO 体育会だろ もしくは大学に紛れ込んだ小学生 213 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 19 25 01 ID a8K282JK0 短パンマンだよ!!!!! 214 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 19 28 19 ID 5ppd5nc90 何そのショタ戦士 215 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 19 31 51 ID DivUGrD20 短パンからショタを連想する 214 つくづく同じ水域にいるよナ―― 216 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 21 21 07 ID DUcdoXcTO なにこの大学スレ。変態しかいないの? 217 名前:学生さんは名前がない:2006/12/05(火) 22 51 10 ID jXZY0uRX0 余所の大学のスレも見て回ることをお勧めする。 大差無いから。 218 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 00 27 12 ID Fzo73yY30 aaa就活したくね――――――っ!!! 219 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 00 30 24 ID 1Y4ch4Ss0 218 ニートという素敵な路がありますよ 220 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 00 36 13 ID +343FxjW0 道だけでしょ 221 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 01 01 50 ID ZG2ISBr80 218 そういやAAAって微妙だよね、無駄に人数多いし 222 名前:絶倫お塩大先生 ◆OSIO/WprxU:2006/12/06(水) 02 50 37 ID Xxhqs4MQ0 ウンコした後、前からケツを拭くのか後ろから拭くのかハッキリしようぜ。 223 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 03 20 16 ID nAtIZOrtO 女は後ろから拭いた方がいいらしいぜ 224 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 06 16 51 ID rqMk5UGT0 今いるお塩は本物なの?偽者? 225 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 10 23 22 ID J81uKGNoO 今のお塩は三人目 塩「私が死んでも代わりがいりもの…」 226 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 10 26 08 ID ss8bu/LEO 偽物。だいたい俺こんな低レベルな話をここに持ち込んだ事ないしな。偽物はよっぽどの低学歴だろ(´_ゝ`)もしあれなら偽物さんにお塩先生の本名を聞いてみなされ。それで分かるから 227 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 11 25 55 ID jrS15g/AO 226 改行くらいしろカス 228 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 11 34 41 ID 83GX8RJM0 低学歴が低学歴に向かって何を言うか 229 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 12 17 15 ID LYHxJI8tO やばい咳止まらん 230 名前:絶倫お塩大先生 ◆OSIO/WprxU:2006/12/06(水) 12 17 59 ID 6IbhhF7C0 ``‐‐ i i .∧_∧ .| | (´Д` ) ___ ヽヽ ) ( /\__\ ,r ,ニ`/´ ヽ \/(◎) _,,,,--/ /_,、 .| .|゙、 `、 `´ _,,,,-- { {_二ノ.ヽ ヽ \ .{ `‐〉 .}、 . | .`r.、__ ノ_ノ l、 .\ ` | .|\`¨´ \- \ \_).\ヽ、 _)! .\ `-.ニ-‐ \ 231 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 15 40 27 ID AZefIX0hO 本物だろうが偽物だろうがウザいという点では変わり無い。 232 名前:慶應義塾大生:2006/12/06(水) 21 13 10 ID vUE/jvKMO お前らゴミは日本の恥さらしだ! 233 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 21 38 11 ID EphBDnvt0 お塩お前マジでぼっちだな(´;ω;`)ブワッ 234 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 21 52 12 ID QRrFOXci0 とある教室の机に「準にゃんのかわいさは異常」って書き殴ってあったんだけどお前らいいかげんにしろよ 235 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 22 18 47 ID twHpgXSy0 やるおのAAを机に書いたの誰だよw 次の日みたら消されてたけどなw ショボーンやドクオのAAは机によく書いてあるよな 236 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 22 53 08 ID X2/pGEIm0 234 渡良瀬なら心当たりがある 237 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 22 53 54 ID hqlJ8ftQ0 ここROMってるやつかなりいそうだよな 書き込むのに勇気がないのかな 238 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 22 56 04 ID BbET194g0 サイレントマジョリティと言ってだな 239 名前:学生さんは名前がない:2006/12/06(水) 23 34 25 ID ZG2ISBr80 だってぇー、ここってぇー、オタクしかいないしぃー 240 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 00 06 29 ID 0kx8FAmS0 そういや今年のミスコンってどうなったんだ? 241 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 01 18 24 ID cSx3ywdj0 いつもどおりですよ 242 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 01 50 41 ID +tyfVEtm0 卒業生です。2000年のシラバスのコピーが必要になったのですが 図書館か教務課に昔のシラバスって置いてあるでしょうか? 243 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 03 23 33 ID EdPI03Rb0 知るか。教務課に聞け。 244 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 10 09 56 ID PR4KtLxYO あー、誰か。セックスして 245 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 10 30 27 ID mwD7aZypO しょうがないな、オレの処女をやるよ つ * 246 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 10 57 16 ID A4OEYcWn0 アッー! 247 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 13 22 11 ID hksSUkwj0 もう寒いから冬休みでいいよ 248 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 16 47 51 ID KUfPq76U0 そしてそのまま春休みへ 249 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 16 52 43 ID dpnkmWMG0 毎日がエブリデイ\(^o^)/ 250 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 17 16 11 ID nN6NiOIwO しっかしみんな 千石自慢好きだよな 251 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 17 34 54 ID mR+zQU4e0 千石?うちは十万石饅頭だぜ? 252 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 17 52 36 ID A3b6VQm3O 福島県民乙 かくいう俺もだが 253 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 18 05 48 ID yiTewMKF0 252 252 252 252 252 254 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 18 10 22 ID nN6NiOIwO 251 うまいうますぎるやつだろ 255 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 18 30 24 ID QUlsrFLBO 埼玉銘菓だこのやろう 256 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 18 50 09 ID lvr9cXBy0 じゅうべーもいいよね 257 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 19 03 53 ID OayMfO7J0 さて本気で単位がヤバイんだが、文学部って一年→二年は誰でも自動昇格できるんだっけ? 258 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 19 58 39 ID Vd9utw0P0 自分で調べろその程度 259 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 21 17 58 ID kwIes3C30 残り17時間少々の卒論提出期限までにあと2万字と少し。 頑張れ、俺 260 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 21 54 23 ID EAev3Lhc0 学校にねらー多すぎだろ 今日も机にAAが書いてあった 今度のはフッジサーンAAが書いてあった 261 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 22 01 32 ID yfStlUl90 私2ch無しでは生きられないって普通に話してた女子がいたから浸透率は高いような気がする。 262 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 22 38 00 ID WMO/7Pln0 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 江頭2 50、次はトークで伝説を残す!! 「江頭2 50のピーピーピーするぞ!」 出演:江頭2:50、早川亜希 「TFM+」にて毎週木曜 16:00より放送中! ※オンデマンドで過去の放送をいつでも見れます http //www.tfmplus.com/pgm/ppp/index.html 次回収録日決定!! 12月8日(金)13 00~ @渋谷スペイン坂 みんなで番組を盛り上げてください!! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 263 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 22 50 01 ID l8EKBm7hO 259 文字数なんか厳密には見られないからあんまり気にしなくていいぞ。あまりに少な過ぎるとヤバいけど。 うちの学部は上限3万字だが、俺は4万字越えたのを提出して何も言われなかった。 264 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 22 50 30 ID WGD7jwxb0 259 卒論って何字必要なの? 265 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 23 24 13 ID hksSUkwj0 机に落書きしてるのは大体同じ奴なんじゃないか? 266 名前:学生さんは名前がない:2006/12/07(木) 23 51 02 ID L6Mgip3X0 白山前にある文京堂って一日で製本できるっけ? 267 名前:たかし:2006/12/07(木) 23 58 35 ID wAAoZ4hdO じゅーべーのラーメンうますぎる 268 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 01 34 45 ID xjmvC1fr0 寺畑戦略論のレポートやらなきゃならないのに、連ザ2にはまってしまった… 269 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 02 24 34 ID VuAyGIpz0 266 できるよ 部数によるだろうけど 270 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 05 12 05 ID 0vM4qP9k0 卒論テラウザス 271 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 08 04 06 ID MAcOHmewO 腐女子が背後で会話してた 「キャラの名前と斬迫刀名前を覚えるのたいへーん」 「ていうか新しいキャラ達萌えない」 とかどうとか 272 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 09 20 25 ID ynoca0DK0 俺は卒論ダメ出しくらっちゃった・・・ 今から方向性変えるとかもうだめぽ(´・ω・`) 273 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 15 37 14 ID /Y/4ibH9O あーーマジで殺してーーーー 274 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 15 42 59 ID VuAyGIpz0 あーマジしにてえ… 275 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 15 51 31 ID 4B4d5YGi0 お前らの分も俺が生きるよ 276 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 16 30 17 ID YR9uV0w20 ttp //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061208-00000015-jij-spo 同じ東洋生でもアジア大会でメダル取ってるやつもいるのに、 お前らときたら… 277 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 16 35 08 ID qTSwxqBR0 276 童貞なら俺たちと同じレベルだよ 278 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 17 02 10 ID Pb+v/z6zO でも俺童貞じゃねーし 279 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 17 17 25 ID ImEJ8KhzO おれもおれも 280 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 17 40 29 ID tx4pL70eO 私も私も 281 名前:あげます:2006/12/08(金) 18 15 31 ID FP1oZo7lO 俺は童貞 282 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 18 55 16 ID uIsfPGTC0 童貞でもどうってぃことないだろ 283 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 19 35 06 ID qTSwxqBR0 282 カエリマスヨ[ー。ー;]っ *´w`) 284 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 21 35 33 ID ImEJ8KhzO でも俺処女じゃねーし 285 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 22 22 17 ID fF5LtV2Y0 アッー 286 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 22 29 52 ID PRSlbXu20 ちょwwwwヘルプwwww オロナミンCのビンをアナルに出し入れして遊んでたら取れなくなったwwww どうしよwwwwwふんばったけどむりwww 287 名前:絶倫お塩大先生 ◆OSIO/WprxU:2006/12/08(金) 22 33 57 ID 0L9JBQJI0 VIPで死ね 288 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 22 49 02 ID 4B4d5YGi0 オマエモナー 289 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 22 59 39 ID fgadoipXO 東洋って2chに時間裂いて勉強おろそかになったやつ多そう 同レベルの大学に比べておとなしめの人間が多いし 290 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 23 21 08 ID DmVe1nAo0 おとなしいやつと騒がしい奴とで二極化してる希ガス 291 名前:学生さんは名前がない:2006/12/08(金) 23 59 13 ID oM+VAbDo0 おとなしいやつと付属校で二極化だな 292 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 00 35 48 ID +UPMLK7V0 リア充氏ね 293 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 02 16 31 ID uNu+Cwkx0 ぼくもみんなみたいになりたい 294 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 05 31 58 ID GKPBUhcU0 やめとけ 今ならまだ引き返せる 295 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 12 19 38 ID OaDPHNrV0 レポート字数無制限なんていうから2万字弱一気に書いてみたらなんというかキツイ。 脳汁出そうだ まー好きなことを適当にかいただけだから内容は実質2,000字分くらいしかないな 296 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 13 37 46 ID eWCRxX3S0 くりすぅぅますぅぅぅが・・・やって・・・くる・・・ 297 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 13 40 49 ID L+STug900 成人式どうしよう・・・ 地元の友達からもう何ヶ月も連絡ないし行っても虚しいだけの悪寒 298 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 14 30 25 ID NFeAWmgW0 297 いかなくておk 俺は大学で1人暮らししてから 成人式までに30キロほど 太ってしまってとてもみんなに顔を合わせられなくなったw 今はなんとか元に戻したけど いかなくても問題なかったと思ってる 299 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 16 26 18 ID qAD9VEOW0 流石に30kg増は病気だと思うのだが 300 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 17 24 12 ID PKZ2HQ13O 俺は15キロ痩せた 301 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 21 14 11 ID 0HplmB4PO 今日の会計に出たヤシいる? 302 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 22 08 24 ID g0zi7tuBO 最近大学内でいちゃついてるヤシが増えてないか? 俺はそういうバカップルを見つけたらとりあえず羨ましがる。 303 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 22 12 27 ID DpbPHXk00 302 クリスマス近いからねぇ 一年のサイクルを考えるとカップル成立が多そうな時期だし。 304 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 23 03 35 ID NUCOlb/C0 今年もクリスマス前に早々と実家帰ろうぜ、みんな 305 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 23 47 43 ID uNu+Cwkx0 クリスマスに親といると申し訳ないから一人で過ごす 306 名前:学生さんは名前がない:2006/12/09(土) 23 57 16 ID g0zi7tuBO 305 じゃあ俺と一緒に(ry 307 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 00 09 08 ID SzHT1aP20 306 じゃあ俺も 308 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 00 09 53 ID U920nciQ0 アッー! 309 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 00 16 38 ID UpHWjHl30 オッフ! 310 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 00 57 46 ID 9asZXvQq0 地球の科学うぜー 311 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 01 14 37 ID K3kx9iXg0 310 授業は退屈だけど、テストはノートがあれば簡単でしょ? 312 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 01 38 49 ID 9asZXvQq0 計算はなんとかなるけど論述らしいじゃん。。出てても全然わからねー 313 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 01 46 53 ID Cf+5Uh280 春も受けてたけど、そんなにたいしたこと書かなかったよ。 一応ノート見返しておけば大丈夫と思う。 314 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 03 20 52 ID sCzbWgcL0 テスト直前の授業でしっかり聞いとけばなんとかなるよ 315 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 04 44 51 ID XAqP2mBD0 地球の科学は神だったな 全然出席せず、テストも出なかったけどBくれたよ 316 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 11 54 17 ID 3ZNNwiA9O いかに楽勝般教を見つけるかどうかが大学生活においては重要になってくる。 317 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 12 07 40 ID K6UeraNz0 地球の科学って 木曜5間のやつ? テストって言ってるから 俺が取ってるのと違う先生のかな? あと今はどうかは知らないけど 内藤先生がやってた宗教学は 神だったぞ 最初の授業で全員にCあげますとかいって 俺は授業1回もでないで テストも感想だけ書いて 白紙でだしたらCもらったよ 318 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 12 52 38 ID uBFvzkt8O 山岡って人の生物も簡単だったな、出席もせずにテストうけたけど持ち込みありで全部選択とか 319 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 14 32 32 ID wuNaWSyp0 来年受講者増えたりしてw 320 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 17 00 15 ID 3ZNNwiA9O 増えるでしょ、確実に。つか4月に人大杉な般教はほぼそういう神講義だと思って間違いない。 その手の情報はネット時代になる遥か以前から受け継がれていってるもんだし。 321 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 18 25 40 ID gMmso/us0 取った奴が サークルの後輩に教えるんだよなw それでその後輩が友達に教えてくってかんじで うわさが広がってくんだよな 322 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 19 09 45 ID s2qtPv8mO 龍が如く2がおもしろいので一足お先に冬休みに入らせてもらいます 323 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 19 48 25 ID lqDtLLkmO 連ザⅡがおもしろいので一足お先に冬休みに入らせてもらいます 324 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 20 23 16 ID Rdi4UHRG0 図書館日曜も開けてくれ 325 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 20 39 59 ID PPMru+IA0 火曜4限の大杉八郎先生の経済学の試験っていつかわかる? 今月行けてないからこわひ><; 326 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 20 55 17 ID U920nciQ0 325 ここで聞くな ここで聞け ◆東洋大学【試験情報・講義内容】教えあうスレ◆ http //school5.2ch.net/test/read.cgi/student/1151922307/ 327 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 21 56 51 ID uT+H719V0 デリカフェのグラタン、パスタとかいうから隣の残りでも入っているのかと思っていたけど、 普通のマカロニだった。しかもすげーうめー。 大勝軒の後釜はデリ2号店でいいだろこれはもはや。 328 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 23 06 44 ID wuNaWSyp0 土曜 月曜 日曜 ∧_∧ .・, ∧_∧;,. ∧_∧ (´・ω・)=つ≡つ);;)ω(;;(⊂≡⊂=(・ω・`) (っ ≡つ=つ (っ ⊂) ⊂=⊂≡ ⊂) / ) ババババ | x | ババババ ( \ ( / ̄∪ ∪ ̄ ∪ ∪ ̄\ ) 329 名前:学生さんは名前がない:2006/12/10(日) 23 16 03 ID 3ZNNwiA9O 327 実質ドマーニ3号店だけどな。 330 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 00 13 06 ID T6Xwuu+o0 ラストサムライ ヤバスwwwwwwww 331 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 00 16 37 ID YFnvwYF/0 来年度の演習の選択を後から大後悔してるのは俺だけだろうか 提出した後で自分に見合った講義がどれかに気づく奴は他にも多そう 不便だよな人間の脳みそは・・・定員漏れしたらいいのに 332 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 01 12 16 ID dLLf1hUD0 327 最初のパスタはスパゲッティの麺が入ってたよ。 あれはあれで美味しかった。次にペンネが入って、 今はマカロニ、という流れ。 一時カレー風味の時があったが、あれは不味かった。 難点は味付けにムラがあることかな。 333 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 03 25 45 ID KRvGdwMV0 東京タワー 334 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 10 50 25 ID 3pi8Ar+/O 書き込み無し 335 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 11 40 55 ID eW5beWwDO お塩がいじめられてた 336 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 12 22 49 ID Spfsvv690 許す 337 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 12 55 40 ID km99m6550 俺も 338 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 13 40 12 ID Un3XJJgRO 相変わらず社会学だりーな 339 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 13 57 06 ID a55HeJpKO ktkr! こっちもだるぃょ 340 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 18 00 17 ID UtyxwVmuO グラタン食ってきた。なかなかうまい つーかいいかげんスエヒロのオムライスに巡り合いたい 341 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 18 14 41 ID QUtWE+GJ0 学校から巣鴨駅までの道で「流石だよな俺たち」って書いてあるステッカー貼ってあるバイクが止まってた ちょっとほしかった 342 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 22 22 19 ID 3pi8Ar+/O アキバのオタショップやネットで売ってるぜそういうの。 343 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 22 34 22 ID +jnR1vWjO 今日白山の松屋で昼時にご飯が切れて実質入店禁止だったよ\(^0^)/ 344 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 23 10 22 ID UWA4syXJ0 ご飯がないならパンを盛ればいいじゃない 345 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 23 23 39 ID km99m6550 場所が無いなら便所で食え 346 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 23 40 17 ID 8emSKXDm0 人間はパンのみで生きるものではない 347 名前:学生さんは名前がない:2006/12/11(月) 23 48 10 ID ojuut8IOO おまえは今まで食べたパンの数を覚えているのか? 348 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 00 20 23 ID 8SpHTnqc0 13枚 私は和食派ですわ 349 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 00 26 33 ID uzy1IgVC0 6号館トイレでパン食ってる奴誰よ つーかゴミ放置すんなって 350 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 00 28 29 ID BOwgqp4t0 ごめんそれおれ 351 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 00 48 05 ID 033lBtysO 天文学のレポート意味ワカンネ 352 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 00 55 59 ID 2/p0n2kHO 351 本当意味分かんないよな とりあえずグラフをかくしかない 353 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 01 01 11 ID 033lBtysO スーパー適当にグラフ書いたまではいいんだけどグラフ上で逆行衛星と順行衛星を分類しろってのが全くワカンネ 354 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 01 03 28 ID 2/p0n2kHO 353 もう終盤じゃないか。適当にやってしまえ 355 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 02 28 51 ID 0go+dN9zO たぶん神様もそういう風に世界を作ったんだろうな 356 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 02 53 02 ID t4Cy8ip/0 神は15で捨てた 357 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 08 16 14 ID m08VnZot0 16で友達を捨てた 358 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 08 59 55 ID hH3FB8UVO 17で童貞を 359 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 09 09 40 ID T7X8xQVKO 18で現実を捨てた 360 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 09 13 04 ID Ac5lOH4F0 そして伝説へ 361 名前:うどん屋:2006/12/12(火) 09 47 31 ID Ia3VFpQ50 362 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 10 41 24 ID E+95QX7vO 昼休みキャンパスプラザ集合! 363 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 11 30 47 ID u/MePz8sO 箱根駅伝壮行会か。見に行くよ。 今年は東洋史上最強メンバーと言われてるがどうなるかねぇ。 俺が在学してるあいだに一回くらい優勝争いに絡んでほしいもんだ。 364 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 13 20 29 ID GtfMK9I0O 今東さん曰く今年は強いから去年みたいに10位は絶対にない! だそうだ。とりあえず何位でもいいからテレビに映らなきゃ…いつも計ったようにテレビに映らない順位を選んでるとしか思えない 西海らーめんってあれはスープは何になるんだ?醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもないよね 海鮮? 365 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 13 43 58 ID u/MePz8sO 看板には「とんこつ!!」とはっきり書いてあるが。 366 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 14 12 29 ID WKlTIf1Z0 来週の月曜日って木曜の振り替え授業だよね? 367 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 14 40 41 ID 2Gcr+7XTO 西海…美味いか?デザートは好きだったが。 368 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 16 05 49 ID fUR0XVAbO 地球黒板以外から出しすぎオワタ 369 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 16 40 21 ID j8eoH8Ev0 ドラクエ9はDSだってよ 370 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 17 32 10 ID Na8NUpZ8O 369 ゲームなんかやらんだろう 371 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 17 51 41 ID i1mjD4rj0 西海ラーメンって東京競馬場の中に ある店と同じやつか? よく府中で食べてたんだが。 372 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 18 38 32 ID 0go+dN9zO クリスマスとか死ねばいいのに 373 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 19 18 27 ID EA902S2g0 ☆ + . . /⌒ヽ ..,, 。 + . . ... . / `O.. +, o;; ・;, ⊂ニニニ⊃ . . . . . ;; ・,, ;ゞ;;o;* . / 彡ミ゛ヽ;)ー、 . ,,;;; ;+ ;;。* ,,;;ゞ;; .. / /ヽ/ヽ、ヽ i . . . . ;;;*;;;〇;ゞ;* ;; ;;;*; ;ゞ;;o; / /;; 。 ヽ ヽ l . . . ;;;;〇;ゞ;* o,ゞ ;*;;;;*ゞ;* o  ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ;;;*;;;〇;ゞ;* ;;;;;*ゞ;* o, 〇;;; * llllllll 田田田 374 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 20 35 46 ID WKlTIf1Z0 またこのAAの時期かww 375 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 20 35 47 ID t4Cy8ip/0 俺が死ぬよ 376 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 20 36 58 ID WKlTIf1Z0 いやいや、俺が! 377 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 20 56 28 ID BOSn/eiB0 いやいや、俺が! 378 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 21 20 20 ID u/MePz8sO どうぞどうぞ 379 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 21 20 28 ID vzBFPStY0 375-377 死ね( ^ω^) 380 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 22 43 03 ID /Mk9JDtl0 ( ;∀;)イイハナシダナー 381 名前:学生さんは名前がない:2006/12/12(火) 23 58 51 ID b7Mf9TXY0 368 地球白紙多すぎて糞ワロタw そして俺オワタwww 382 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 00 28 23 ID LIUagWXo0 さて、24,5日はどうしたものか 383 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 00 40 29 ID M4YcntGq0 クリスマスなんて飾りですよ、エロイひとには(ry 384 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 02 17 14 ID dlp2tY0T0 六号館の渡り廊下を渡りたくない 385 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 03 40 42 ID Mk7k7MYTO 流れてる曲はどうでもいいが、 あの寒々しい写真見るとこっちまで寒くなってくるので俺も通りたくない。 何も真冬に雪山の写真貼らんでも。 そしてTCOM規制発動でパソから書き込めん。 386 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 07 04 00 ID 39d4emD0O スパルタンXとか流してくれないかな 387 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 08 36 57 ID 7FjnWKZK0 http //www.asahi.com/national/update/1212/TKY200612120429.html ちょwwこの教授について法学部の奴kwsk 388 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 10 01 17 ID 2P3qj5ijO 387 ケータイから見れないからなんとも… 帰ったらレスする 389 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 11 35 38 ID wzZG04/dO 今、先に約束した奴と卒業旅行行くからこっちとは行かないって言われた。 残された二人で「二人じゃあ…ねえ…」って感じで、結局オジャン。 断る以前に迷ってるんじゃねーよ 今までパンフ見たり他の誘い断った俺が馬鹿みたいじゃないか… 390 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 11 46 21 ID Mk7k7MYTO 4年にもなってsageることすらできない携帯厨 391 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 11 51 38 ID FrkJAQEX0 2人で行けばいいじゃん 俺なんか男同士2人きりで行くぜ! 392 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 11 52 33 ID i8bTUu8l0 387 あいつかな~って調べてたら当たってた。 393 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 12 58 45 ID bygJsI8qO 民法とか法学、超適当にやってたのは、本業があったのね。H教授 394 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 14 27 09 ID K0QPWQnM0 何か言及するとは思えんが俄然明後日が楽しみに。 395 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 14 27 53 ID i8bTUu8l0 今日、行われる7限の林田教授の商法Ⅳのテスト範囲おしえてくださいorz=3 396 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 14 33 14 ID ZXPxhtDA0 ◆東洋大学【試験情報・講義内容】教えあうスレ◆ http //school5.2ch.net/test/read.cgi/student/1151922307/ 397 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 14 40 27 ID 9r3FIfzwO 395 診療報酬不正受給問題について 398 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 15 00 18 ID ZjozF4aD0 林田、こんな状況で講義できんのか? 399 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 15 52 25 ID EtRR+u/P0 いつも代打が講義やってるから問題なし。 400 名前:学生さんは名前がない:2006/12/13(水) 16 46 34 ID U8q8MPti0 388 新聞にもでかでかと載ってるぜ
https://w.atwiki.jp/amizako/pages/569.html
1 アッと思う間に、相手は、まるでどうでこしらえた人形がくずれでもするように、グナリと、前の机の上に平たくなった。顔は鼻柱がくだけはしないかと思われるほど、ベッタリとまっ正面に、机におしつけられていた。そして、その顔の黄色い皮膚と、机掛けの青い織り物とのあいだから、ツバキのようにまっかな液体が、ドクドクと吹き出していた。 今の騒ぎでテツビンがくつがえり、大きなキリの角ヒバチからは、噴火山のように灰神楽《はいかぐら》が立ち昇って、それがピストルの煙といっしょに、まるで濃霧のように部屋の中をとじ込めていた。 のぞき・からくりの絵板が、カタリと落ちたように、一せつなに世界が変わってしまった。庄太郎はいっそう不思議な気がした。 「こりゃ まあ、どうしたことだ」 彼は胸の中で、さものんきそうに、そんなことを言っていた。 しかし、数秒の後には、彼は右の手先が重いのを意識した。見ると、芳、こには、相手の奥村一郎所有の小型ピストルが光っていた。 「おれが殺したんだ」ギョクンと、のどがつかえたような気がした。胸のところがガランドウになって、心臓がいやに上のほうへ浮き上がって来た。そして、あごの筋肉がツーンとしびれて、やがて歯の根がガクガクと動きはじめた。 意識の回復した彼が第一に考えたことは、いうまでもなく、「銃声」についてであった。彼自身には、ただ変な手ごたえのほか、なんの物音も聞こえなかったけれど、ピストルが発射された以上、「銃声」が響かぬはずはなく、それを聞きつけて、だけかがここへやって来はしないかという心配であった。 彼はいきなり立ち上がって、グルグルと部屋の中を歩きまわった。時々立ち止まっては、耳をすました。 隣りの部屋には階段の降り口があった。だが庄太郎には、そこへ近づく勇気がなかった。今にもヌッと人の頭が、そこへ現われそうな気がした。彼は階段のほうへ行きかけては引き返した。しかし、しばらくそうしていても、だれも来る気配がなかった。一方では、時間がたつにつれて、庄太郎の記憶力がよみがえって来た。「何をこわがっているのだ。階下《した》にはだれもいなかったはずじゃないか」奥村の細君は里へ帰っているのだし、ばあやは彼の来る以前に、かなり遠方へ使いに出されたというではないか。 「だが、待てよ、もしや近所の人が……」 ようやく冷静を取り返した庄太郎は、死人のすぐ前にあけ放された障子から、そっと半面を出してのぞいて見た。広い庭を隔てて左右に、隣家の二階が見えた。一方は不在らしく、雨戸がしまっているし、もう一方はガランとあけ放した座敷に、人影もなかった。正面は茂った木立《こだち》ちを通して塀の向こうに広っぱがあり、そこに、数名の青年が球投《たまな》げをやっているのがチラチラと見えていた。彼らは何も知らないらしく、夢中になって遊んでいた。秋の空に、球《たま》を打つバットの音がさえて響いた。 彼は、これほどの大事件を知らぬ顔に、静まり返っている世間が、不思議でたまらなかった。 「ひょっとしたら、おれは夢を見ているのではないか」そんなことを考えてみたりした。しかし振りかえると、拓、こには血に染まった死人が、不気味《ぶきみ》な人形のように黙していた。その様子が明ぎらかに夢ではなかった。 やがて、彼はふと、あることに気づいた。ちょうど稲の取入れ時で、付近の田畑には、烏おどしから鉄砲《てつぽ》があちこちで鳴り響いていた。さっき奥村との対談中、あんなに激している際にも、彼は時々その音を聞いた。今彼が奥村を撃ち殺した銃声も、遠方の人々には、その鳥おどしの銃声と区別がつかなかったに相違ない。 家にはだれもいない、銃声は疑われなかった、とすると、うまく行けば彼は助かるかもしれないのである。 「早く、早く、早く」 耳の奥で半鐘《はんしよう》のようなものが、ガンガンと鳴りだした。 彼はその時まだ手にしていたピストルを、死人のそばへ投げ出すと、ソロソロと階段のほうへ行こうとした。そして、一歩足を踏み出した時である。庭のほうでバサッというひどい音がして、木の枝がザワザワと鳴った。 「人?」 彼は吐《は》き気《け》のようなものを感じて、そのほうを振り向いた。だが、そこには彼の予期したようた人影はなかった。今の物音はいったい何事であったろう。彼は判断を下しかねて、むしろ判断なしようともせず、一瞬間そこに立往生《たちおうじよう》していた。 「庭の中だよ」 すると、外《そと》の広っぱのほうから、そんな声が聞こえて来た。 「中かい。じゃ、おれが取って来よう」 それは聞き覚えのある、奥村の弟の中学生の声であった。彼はさっき広っぱのほうをのぞいた時に、その奥村二郎がバヅトを振りまわしているのを、頭のすみで認めていたことを思い出した。 やがて、快活な足音と、バタンと裏木戸のあく音とが聞こえ、それから、ガサガサと植込みのあのいだを歩きまわる様子が、二郎の激しい息づかいまで、手に取るように感じられるのであった。庄太郎にはことさらそう思われたのかもしれぬけれど、ボールを捜すのはかなり手間取った。二郎は、さものんきそうに口笛など吹きながら、いつまでもゴソゴソという音をやめなかった。 「あったよう」 やっとしてから、二郎の突拍子《とつぴようし》もない大声が、庄太郎を飛び上がらせた。そして、彼はそのまま、二階のほうなど見向きもしないで、外《そと》の広っぱへと駆け出して行く様子であった。 「あいつは、きっと知っているのだ。この部屋で何かがあったことを知っているのだ。それを、わざとそしらぬ振りでボールを捜すような顔をして、その実は、二階の様子をうかがいに来たのだ」 庄太郎はふと、そんなことを考えた。 「だが、あいつは、たとい銃声を疑ったとしても、おれがこの家《うち》へ来ていることは知るはずがない。あいつはおれが来る以前から、あすこで遊んでいたのだ。この部屋の様子は広っぱのほうからは杉の木立ちがじゃまになって、よくは見えないし、たとい見えたところで、遠方のことだから、おれの顔まで見分けられるはずはない」 彼は一方では、そんなふうにも考えた。そして、その疑いを確かめるために、障子から半面を出して、広っぱのほうをのぞいてみた。そこには木立ちのすきまから、パットを振り振り走って行く、二郎のうしろ姿がながめられた。彼は元の位置に帰ると、すぐなにごともなかったように打球《だきゆう》の遊戯を始めるのであった。 「だいじょうぶ、だいじょうぶ、あいつはなんにも知らないのだ」 庄太郎は、さっきのおろかな邪推を笑うどころではなく、しいて自分自身を安心させるように、だいじょうぶ、だいじょうぶと繰り返した。 しかし、もうぐずぐずしてはいられない。第二の難関が待っているのだ。彼が無事に門の外へ出るまでに、使いに出されたばあやが帰って来るか、それともほかの来客とぶつかるか、そんなことがないと、どうして断言できよう。彼は今さらそこへ気がついたように、あわてふためいて階段をおりかけた。途中で足がいうことをきかなくなって、ひどい音を立ててすべり落ちたけれど、彼はそんなことをほとんど意識しなかった。そして、まるでわざとのように、玄関の格子《こう 》をガタピシいわせて、やっとのことで門のところまでたどることができた。 が、門を出ようとして、彼はハッと立ち止まった。ある重大な手抜かりに気づいたのだ。あのような際に、よくもそこまで考えまわすことができたと、彼はあとになって、しばしば不思議に思った。 仮は日ごろ、新聞の三面記事などで、指紋というものの重大さを学んでいた。むしろ実際以上に誇張して考えていたほどである。今まで握っていたあのピストルには、彼の指紋が残っているに相違ない。ほかの万事が好つこうに運んでも、あの指紋たった一つによって、犯罪が露見するのだ。そう思うと、彼はどうしても、そのまま立ち去ることはできなかった。もう一度二階へもどるというのは、その際の彼にとって、ほとんど不可能に近い事柄ではあったサれど、彼は死にもの狂いの気力をふるって、さらに家の中へ取って返した。両足が義足のようにしびれて、歩くたびごとに、ひざがしらがガクリガクリと折れた。 どうして二階へ上がったか、どうしてピストルをふき清めたか、それからどうして門前へ出て来たか、あとで考えると少しも記憶に残っていなかった。 門の外にはさいわい人通りがなかった。その辺は郊外のことで、住宅といっては、庭の広い一軒がまばらに建っているばかりで、昼間でも往来はとだえがちなのだ。,ほとんど思考力を失った庄太郎ほ、そのいなか道をフラフラと歩いて行った。早く、早く、早く、という声が、時計のセコンドのように、絶え間なく耳もとに聞こえていた。それにもかかわらず、彼の歩調はいっこう速くな弘川った。外見《そとみ》はのんきな郊外散歩者とも見えたであろう。その実、彼はまるで夢遊病者《むゆうぴようしや》のように、今歩いているということすら、ほとんど意識していないのであった。 2 どうしてピストルを撃つようなことになったのか、時のはずみとはいえ、あまりに意外なできごとであった。庄太郎は、彼自身が恐ろしい人殺しなどとは、まるでうそのような話で、ほとんど信じかねるほどであった。 庄太郎と奥村一郎とが、ひとりの女性を中心に、激しい反感を抱き合っていたことは事実である。その感情が互いに反発《はんぱつ》して、加速度に高まりつつあったことも事実である。そして、おりにつけ、つまらないほかの議論が、ふたりを異常に興奮せしめた。彼らは双方とも、決して問題の中心に触れようとはしなかった。 そのかわりに、問題外のごくささいな事柄が、いつも議論の対象となり、ほとんど狂的にまでいがみ合うのであった。 その上、いっそういけないのは、庄太郎にとっては、一郎がある意味のバトロンであったことだ。貧乏絵かきの庄太郎は、一郎の補助なしには生きて行くことができなかった。彼は、言いがたき不快をおさえて、しばしば恋敵《こいがたき》の門をくぐることを余儀なくされた。 今度の事件も、事の起こりはやはりそれであった。その時、一郎はいつになくキッパリと、庄太郎の借金の申し込みを拒絶した。このあからさまな敵意に会って、庄太郎はカッとのぼせ上がった。恋敵の前に頭を下げて、物請いをしている自分自身が、この上もなくみじめに見えた。それと同時に、その心持ちをじゅうぶん知っていながら、自己の有利な立ち場を利用して、あらゆるところに敵意を見せる相手が、ジリジリするほどしゃくにさわった。一郎のほうでは、何も借金の申し込みに応ずる義理はない、と言い張った。庄太郎のほうでは、これまでパトロンのようにふるまっておきながら、そして暗黙のうちに物質的援助を予期させておきながら、今さら金が貸せないといわれては困る、と主張した。 争いはだんだん激しくなって行った。問題が焦点《しようてん》をそれていることが、そのかわりに、野卑《やひ》な侖立銭上の事柄にまで、こうしていがみ合わなければならぬという意識が、いっそう二人をたまらなくした。しかし、もしその時、一郎の机の上にあのピストルが出ていなかったら、まさかこんなことにもならなかったであろうが、悪《わる》いことには、一郎は日ごろから銃器類に興味を持っていて、ちょうど当時・その付近にしばしば強盗ザ灘があったものだから、護身の意味で瀞寿まで込めて、机の上に置いてあったのである。それを庄太郎が手に取って、つい相手を撃ち殺してしまったのだ。 それにしても、どうしてあのピストルを取ったか、そして、ひきがねに指をかけたか、庄太郎にはそのきっかけが、少しも思い出せないのだった。ふだんの庄太郎であったら、いかに口論をすればとて、相手を撃ち殺そうなどとは、考えさえもしなかったであろう。時のはずみというか、魔がさしたというか、ほとんど常識では判断もできないような事件である。 だが、庄太郎が人殺しだということは、もはやどうすることもできない事実であった。この上はいさぎよく自首して出るか、それとも、あくまでそ知らぬ振りをしているか、二つの方法しかない。そして、庄太郎はそのいずれの道をとったか。彼は、読者もすでに推察されたように、いうまでもなく後者を選んだのである。これがもし、彼が犯人だと知れるような証拠が、少しでも残っているのだったら、まさか、彼とてもそんな野望《やぼう》を抱きはしなかったであろう。だが、そこにはなん川の証拠もないのだ。指紋すらも残ってはいないのだ。彼は下宿に帰ってから、一晩じゆうそのことばかりを繰り返し考え続けた。そして結局、あくまでも知らぬ体《てい》を装うことに決心した。 うまくいけば、一郎は自殺したものと判断されるかもしれない。かりに一歩を譲って、他殺の疑いがかかったとしても、何を証拠に庄太郎を犯人だときめることができるのだ。現場にはなんの証跡も残ってはいない。そればかりか、その時分庄太郎が一郎の部屋にいたということすら、だれも知らないではないか。 「なに、心配することがあるものか。おれはいつでも運がいいのだ。これまでとても、犯罪に近い悪事を、しばしばやっているではないか、そしてそれが少しも発覚しなかったではないか」 やがて彼はそんな気安めを考えうるほどになっていた。そうして一安心すると、そこへ、人殺しとはまるで違ったはなやかな人生が浮き上がって来た。考えてみれば、彼はあの殺人によって、はからずも二人で争っていた恋人を独占したわけであった。社会的地位と物質とのために、いくらか一郎のほうへ傾いていた彼女も、もはやその対象を失ったのである。 「おお、おれはなんという幸運児であろう」 夜、寝床の中では、昼間とは打って変わって楽天的になる庄太郎であった。彼はせんべいぶと.んにくるまって、天井《てんじよう》の節穴《ふしあな》をながめながら、恋しい人の上を思った。なんとも形容のできない、はなやかな色彩と、快いかおりと、やわらかな音響が、彼の心をしめた。 3 だが、彼のこの安心も、ひっきょう寝床の中だけのものであった。翌朝、ほとんど一睡もしなかった彼の前に第一に来たものは、恐ろしい記事をのせた新聞であった。そして、その記事の内容は、たちまち彼の心臓を軽くした。そこには二段抜きの大見出しで、奥村一郎の残死が報道さーれていた。検死の模様も簡単にしるされてあった。 「……前額《ぜんがく》の中央に弾痕《だんこん》のある点、ピストルの落ちていた位置などをもって見るも、自殺とは考えられぬ。その筋では他殺の見込みをもって、すでに犯人捜索に着手した」 そういう意味の二、三行が、ギラギラと、庄太郎の目に焼きついた。彼はそれを読むと、何か急用でも)思いついたかのように、いきなりガバと、ふとんから起き上がった。だが、起き上がってどうしようというのだ。彼は思いなおして、また、ふとんの中へもぐり込んだ。そして、すぐそばにこわいものでもあるように、頭からふとんをかぶると、身を縮めてじっとしていた。 一時間ばかりの後(そのあいだ彼がどんな地獄を味わったかは読者の想像に任せる)彼はそそくさと起き上がると、着物を着替えて外《そと》へ出た。茶の間を通る時、宿のおかみが声をかけたけれど、彼は聞こえぬのか返事もしなかった。 彼は何かに引きつけられるように、恋人のところへ急いだ。今会っておかなければ、もう永久に顔を見る機会がないような気がするのだ。ところが、一里の道を電車にゆられて、彼女をたずねた結果はどうであったか。そこにもまた、恐ろしい疑いの目が彼を待っていたのだ。彼女はむろん事件を知っていた。そして、日ごろの事情から推して、当然庄太郎に一種の疑いを抱いていた。実はそうではなかったのかもしれないけれど、すねに傷持つ庄太郎には、そうとしか考えられなかつた。第一に、追いつめられた野獣のような庄太郎の様子が、相手を驚かせた。それを見ると、彼女のほうでも青ざめた。 せっかく会いは会いながら、二人はろくろく話をかわすこともできなかった。庄太郎は相手の目に疑惑の色を読むと、その上じっとしてはいられなかった。座敷に通ったかと思うと、もういとまを告げていた。そして今度はどこという当てもなく、フラフラと街《まち》から街をさまよった。どこまで逃げても、たった五尺のからだを隠す場所がなかった。 4 日の暮れがたになって、ヘトヘトに疲れきった庄太郎は、やっぱり自分の宿へ帰るほかはなかった。宿の主婦はわずか一日のあいだに、大病人のようにやせ衰えた彼を、不思議そうにながめた。そして、気違いのような彼の目つきに、おずおずしながら、一枚の名刺を差し出した。その名刺の主《ぬし》が、彼の不在中にたずねて来たというのだ。そこには『○○警察署刑事○○○○』と印刷されてあった。 「ああ、刑事ですね。ぼくのところへ刑事がたずねて来るなんて、こいつは大笑いですね、ハハハ」 思わずそんな無意味なことばが、彼の口をついて出た。彼はそうしてゲラゲラと笑いだした。だが、口だけバカ笑いをしても、彼の顔つきは少しもおかしそうには見えなかった。その異様な態度が、さらに主婦を驚かせた。 その晩おそくまで、彼はほとんど放心状態でいた。考えようにも考えることがないような、あるいはあまりにありすぎて、どれを考えていいのかわからないような、一種異様の気持ちであった。が、やがて、いつもの『夜の楽観』が、彼をおとずれた。そして、いくらか思考力を取り返すことができた。 「おれはいったい、何を恐れていたのだろう」 考えてみれば、昼間の焦燥は無意味であった。たとい奥村一郎の死が他殺と断定されようと、恋人が彼に疑惑の目を向けようと、あるいはまた刑事探偵がたずねて来ようと、なにも彼が有罪ときまったわけではないのだ。彼らには一つも証拠というものがないではないか。それは単に疑惑にすぎぬ。いや、ひょっとしたら彼自身の疑心暗鬼《ぎしんあんき》かもしれないのだ。 だが、 決して安心することはできぬ。なるほど、額《ひたい》のまん中を撃って自殺するやつもなかろうから、警察が他殺と判断したのは無理はない。とすると、そこには下手人《げしゆにん》が必要だ。現場になんの証拠もなければ、警察は被害者の死を願うような立ち場にある人物を捜すに相違ない。奥村一郎は日ごろ敵を持たぬ男だった。庄太郎をほかにして.そんな立ち場の人物が存在するであろうか。それに悪いことには、弟の奥村二郎が、彼らのあいだの恋の葛藤《かつとう》をよく知っていたことである。二郎の口から、それが警察にもれないと、どうしていえよう。現にきょうの刑事とても、二郎の話を聞いた上で、じゅうぶん疑いを持ってやって来たのかもしれないではないか。 考えるにしたがって、やっぱりのがれるみちはないような気がする。だが、はたして絶体絶命であろうか。何かしらこの難関を切り抜ける方法がないものであろうか。それから一晩のあいだ、庄太郎は知恵をしぼり尽して考えた。異常の興奮が、彼の頭脳をこの上もなく鋭敏にした。ありとあらゆる場合が、彼の目の前に浮かんでは消えた。 あるせつな、彼は殺人現場の幻《まぼろし》を描いていた。そこには額《ひたい》の穴から血膿《ちうみ》を流して倒れている奥村一郎の姿があった。キラキラ光るピストルがあった。煙があった。キリのヒバチの五徳の上に半ば湯をこぼした鉄ビンがあった。もうもうと立ちこめた灰神楽《はいかぐら》があった。 「灰神楽、灰神楽」 彼は心の中でこんなことばを繰り返した。そこに何かの暗示を含んでいるような気がするのだ。 「灰神楽……キリの大ヒバチ……ヒバチの中の灰」 そして、彼はハタとあることに思い及んだ。あんたんたるやみの中に一縷《る》の光明が燃えはじめた。それは、犯罪者のしばしば陥るばかばかしい妄想《もうそう》であったかもしれない。第三者から見れば一顧の価値もない愚挙であったかもしれない。しかし、この際の庄太郎にとっては、その考えが、天来《てんらい》の福音《ふくいん》のごとくありがたいものに思われるのだった。そして、考えに考えたあげく、結局彼はその計画を実行してみることに腹をきめた。 そう事がきまると、二昼夜にわたる不眠が、彼を恐ろしい熟睡に誘った。翌日の昼ごろまで、彼は何も知らないで、どろのように眠った。 4 さて、その翌日、いよいよ実行となると、彼はまたしても二の足を踏まなければならなかった。.表の往来から聞こえて来る威勢のいい玄米パンの呼び声、自動車の警笛、自転車のベル、そして、障子を照らすまぶしい白日の光り、どれもこれも、彼のあんたんたる計画に比べては、なん.ど健康にさえわたっていることであろう。この快活な、あけっぱなしな世界で、はたしてあの異様な考えが実現できるものであろうか。 「だが、へこたれてはいけない。ゆうべあんなにも考えたあげく、堅く堅く決心した計画ではないか。そのほかにどんな方法があるというのだ。ちゅうちょしている時ではない。これを実行しなかったら、おまえには絞首台《こうしゆだい》があるばかりだ。たとい失敗したところで、もともとではないか。実行だ、実行だ」 彼は奮然として起き上がった。ゆっくりと手水《ちようず》を使って食事を済ませると、わざとのんきらしく、ひとわたり新聞に目を通し、ふだん散歩に出るのと同じ調子で、口笛さえ吹きながら、ブラブラと宿を出た。 それから一時間ばかりのあいだ、彼がどこへ行って何をしたか、それは後になって自然読者にわかることだから、ここには説明をはぶいて、彼が奥村二郎を訪問したところから話を進めるのが便宜である。 さて、奥村二郎の家の、殺人の行なわれたその同じ部屋で、庄太郎と死者の弟の二郎とが相対、していた。 「で、讐察では加害者の見当がついているのかい」 ひとわたり悔《くや》みのあいさつが取りかわされてから、庄太郎はこんなふうに切り出すのであった。 「さあ、どうだか」中学上級生の二郎は、あらわなる敵意をもって、相手の顔をじろじろながめながら答えた。「たぶんだめだろうと思う。だって、証拠が一つもないんだからね。たとい疑わしい人間があるとしても、どうすることもできないさ」 「他殺は疑う余地がないらしいね」 「警察ではそういっている」 「証拠が残っていないという話だが、この部屋はじゅうぶん調べたのかしら」 「そりゃむろんだよ」 「だれかの本で読んだことがあるが、証拠というものは、どんな場合にでも残らないはずはないそうだ。ただ、それが人間の目で発見できるかできないかが問題なのだ。たとえば、一人の男がこの部屋へはいって、何一つ品物を動かさないで出て行ったとする。そんな場合にも、少なくと・も畳の上のほこりには、なんらかの変化が起こっていたはずだ。だから、とその本の著者がいうのだよ、綿密《めんみつ》なる科学的検査によれば、どのような巧妙な犯罪をも発見するてとができるって」「 」「それからまた、こういうこともある。人間というものは、何かを捜す場合、なるべく目につかいようなところ、部屋のすみずみとか、物の陰とかに注意を奪われて、すぐ鼻の先にほうり出してある大きな品物なぞを、見のがすことがある。これはおもしろい心理だよ。だから、最もじようずな隠し場所は、ある場合には、最も人目につきやすいところへ露出しておくことなんだよ」 「だからどうだっていうのだい。ぼくらにしてみれば、そんなのんきらしい理屈をいっている場合ではないんだが」 「だからさ、たとえばだね」庄太郎は考え深そうに続けた。「このヒパチだってそうだ。こいつは部屋の中で最も目につきやすい中央にある。このヒバチを、だれかが調べたかね。ことに、中の灰に注意した人があるかね」 「そんな物を調べた人はないようだね」 「そうだろう。ヒバチの灰なんてことは、だれしも閑却《かんきやく》しやすいものだ。ところで、きみはさっ.き、にいさんが殺された時には、このヒバチのところに一面に灰がこぼれていたといったね。む うんそれは、ここにかけてあった鉄ビンが傾いて、灰神楽が立ったからだろう。問題は何がその鉄ビンを傾けたか、という点だよ。実はね、ぼくはさっき、きみがここへ来るまでに、変なものを発見したのだ。ソラ、これを見たまえ」 庄太郎はそういうと、火パシを持って、グルグル灰の中をかぎ捜していたが、やがて、一つのよごれたボールをつまみ出した。 「これだよ。この球《たま》がどうして灰の中に隠れていたか。きみは変だとは思わないかね」 それーを見ると、二郎は驚きの目を見張った。そして、彼の額《ひたい》には、少しばかり不安らしい色が浮かん蹄だ。 「変だね。どうしてそんなところヘボールがはいったのだろう」 「変だろう。ぼくはさっきから、一つの推理を組み立ててみたのだがね。にいさんの死んだ時、、ここの障子はすっかりしまっていたかしら」 「いや、ちょうどこの机の前のところが一枚開いていたよ」 「ではね、こういうことは言えないかしら。にいさんを殺した犯人──そんなものがあったと仮定すればだよーその犯人の手が触れて鉄ビンの湯がこぼれたと見るζとができるけれど、またもう一つは、そこの障子の外から何かが飛んで来て、この鉄ビンにぶっつかったと考えることもできそうだね。そして、あとの場合のほうが、なんとなく自然に見えやしないかい」 「じゃ、このボールが外《そと》から飛んで来たというのか」 「そうだよ。灰の中にボールが落ちていた以上、そう考えるのが当然ではないだろうか。ところで、きみはよくこの裏の広っぱで球《たま》投げをやるね。その日はどうだったい。にいさんの死んだ日には」 「やっていたよ」二郎はますます不安を感じながら答えた。「だが、ここまでボールを飛ばしたはずはない。もっとも、一度そこの塀を越したことはあるけれど、杉の木に当たって、下へ落ちたよ。ぼくはちゃんとそれを拾ったのだから、まちがいはない。たまは一つもなくなってやしないんだよ」「そうかい、塀を越したことがあるのかい。むろんバットで打ったのだろうね。だが、その時下人落ちたと思ったのはまちがいで、実は杉の木をかすって、ここまで飛んで来たのではないだろうか。きみは何か思い違いをしてやしないかい」 「そんなことはないよ。ちゃんと、そこのいちばん大きい杉の木の根元のところで、たまを拾ったんだもの。そのほかには、一度だって塀を越したことなぞありゃしない」 「じゃ、そのボールに何か目印でもつけてあったのかい」 「いや、そんなものはないけれど、たまが塀を越して、捜してみると庭の中に落ちていたんだから、まちがいっこないよ」 「しかし、こういうことも考えうるね.きみが拾ったボールは、実燮、の時打ったやつではなくて、以削からそこに落ちていたボールであった、ということもね」 「そりゃそうだけれど、だっておかしいよ」 「でも、そう考えるほかに方法がないじゃないか。このヒパチの中にボールがある以上は、そして、ちようどその時鉄ビンのくつがえったという一致がある以上は。きみは時々この庭の中ヘボールを打月ち込みはしないかい。そして、ひょっとして、その時捜しても、植込みが茂っていたりして、わからないままになってしまったようなことはないだろうか」 「それけはわからないけれど……」 「で、これが最も肝要な点なのだが、そのボールが塀を越したという時間だね、それがもしや、にいさんの死んだ時と一致してやしないかい?」 その瞬間、二郎はハッとしたように、顔の色を変えた。そして、しばらく言いしぶったあとで、やっとこう答えた。 「考えてみると、それが偶然一致しているんだ。変だな、変だな」 そうしで、彼はにわかにそわそわと落ちつかぬ様子を示した。 「偶然ではないよ。そんなに偶然がいくつも重なるということはないよ」庄太郎は勝ちほこって言った。「まず灰神楽だ。灰の中のボールだ。それから、きみたちの打ったたまが塀を越した時間だ。それがことごとく、にいさんの死んだ時と前後しているじゃないか。偶然にしては、あまり そろいすぎているよ」 二郎はじっと一つところを見つめて、何かに考えふけっていた。顔は青ざめ、鼻の頭にはアワ粒のような汗の玉が浮かんでいた。庄太郎はひそかに計画の奏効を喜んだ。彼はその問題のボールの打者が、ほかならぬ二郎自身であったことを知っていたのだ。 「きみはもう、ぼくが何を言おうとしているかを推察しただろう。その時ボールが、杉の木を通り越してここの障子のあいだから、にいさんの前へ飛んで来たのだよ。そして、ちょうどその時にいさんは、きみも知っているとおり、ピストルをいじることの好きなにいさんは、たまを込め,たそれを、顔の前でもてあそんでいたのだよ。偶然指がひきがねにかかっていたのだね。ボールがにいさんの手を打った拍子に、ピストルを発射したのだ。そして、にいさんは自分の手で自分の額を打ったのだよ。ぼくはそれに似た事件を、外国の雑誌で読んだことがある。それから、そとで一度はずんだボールは、その余勢で鉄ビンをくつがえして、灰の中へ落ち込んだのだ。勢いがついているから、ボールはむろん灰の中へもぐってしまう。これはすべて仮定にすぎない。だが、非常にプロバビリティのある仮定ではないだろうか。先にも言ったとおり、偶然としてはあまりそろいすぎたさまざまの一致が、この解釈を裏書きしてはいないだろうか。警察のいうように、これから先、犯人が出ればともかく、いつまでもそれがわからないようなら、ぼくのこの推定を事実と見るほかはないのだ。ネ、きみはそうば思わないかい」 二郎は返事をしようともしなかった。さっきからの姿勢を少しもくずさないで、じつと一つところを見つめていた。彼の顔には恐ろしい苦悶《くもん》の色が現われていた。 「とこうで、二郎君」庄太郎はここぞと、取って置きの質問を発した。「その時、塀を越したボールを打つたのは、いったいだれだい。ぎみの友だちかい。その男は、考えてみれば、罪の深いことをしたものだね」 二郎はそれでも答えなかった。見ると、彼の大きく見張った目じりから、ギラギラと涙がわき上がっていた。 「だがきみ、何もそう心配することはないよ」庄太郎はもうこれでじゅうぶんだと思った。「もし、ぼくの考えが当たっていたとしても、それは過失にすぎないのだ。ひょっとして、あのボールを打ったのがきみ自身であったところが、それはどうもしかたのないことだ。決してその人がにいさんを殺したわけではない。ああ、ぼくはつまらないことを言い出したね。きみ、気をわるくしてはいけないよ。じゃね、ぼくはこれから下へ行って、ねえさんにお悔みをいって来るから、もうきみは何も考えないことにしたまえ」 そして彼は、かつてぶざまにすべり落ちたあの梯子段《はしごだん》を、意気揚々と下って行くのであった。 5 庄太郎の突拍子《とつぴようし》もない計画は、まんまと成功したのである。あの調子なら、二郎は今にたまらなくなって、彼が事実だと信じている事柄を、警察に申し出るに相違ない。よしその以前に、庄太郎が嫌疑者として捕われるようなことがあっても、二郎の申し出さえあれば、わけなく疑いを晴らすことができる。彼の捏造《ねつぞう》した推理には、単なる事情推定による嫌疑者を釈放するには、じゅうぶんすぎるほどの真実味があるのだ。のみならず、それが自分の過失から兄を殺したと信じている二郎の口によって述べられる時は、いっそうの迫真性が加わるわけでもあった。 庄太郎はもはやじゅうぶん安心することができた。そして、きのうの刑事が、いずれまたやって来るであろうが、彼が来た時にはああしてこうしてと、手落ちなくはかりごとをめぐらすのであのった。 その次ぎの日の昼過ぎに、案の定○○警察署刑事○○○○氏が庄太郎の下宿をおとずれた。宿の主婦がささやき声で、 「また、このあいだの人が来ましたよ」 といって、その名剌を彼の机の上に置いた時にも、彼は決してさわがなかった。 「そうですか。なに、いいんですよ、ここへ通してください」 すると、やがて階段に刑事の上がって来る足音が聞こえた。だが、妙なことには、それが一人の足音で昏はなく、二人、三人のそれらしく感じられるのだ。「おかしいな」と思いながら待っている目の辿削に、まず刑事らしい男の顔が現われ、そのうしろから、意外にも奥村二郎の顔がひょいとのぞいた。 「さては、先生もうあのことを警察に知らせたのだな」 庄太郎はふとほほえみそうになったのを、やっとこらえた。 だが、あれはいったい何者であろう、二郎の次ぎに現われた商人体の男は。庄太郎はその男を、どっかで見たような気がした。しかし、いくら考えてみても、どうした知り合いであるか、少しも思りい出せないのだ。 「きみが河合庄太郎か」刑事がおおへいな調子でいった。「オイ、番頭さん、この人だろうね」 すると、番頭さんと呼ばれた商人体の男は、即座にうなずいて見せて、 「ええ、まちがいございません」 というのだ。それを聞くと、庄太郎はハッとして、思わず立ち上がった。彼には一瞬間に、いっさいの事情がわかった.もはや運のつきなのだ。それにしても、どうしてこうも手早く彼の計画が破れたのであろう。二郎がそれを見破ろうとは、どうしても考えられない。彼はボールを打った本人である。時間も一致すれば、おあつらえ向きに障子があいていたばかりか、鉄ビンさえくつがえっていたのだ。この真に迫ったトリックを、どうして彼が気づくものか。それはきっと何か庄太郎自身に、錯誤《さくご》があったものに相違ない。だが、それはいったいどのような錯誤であったろう。 「きみは実際ひどい男だね。ぼくはうっかり、だまされてしまうところだった」二郎が腹立たしげにどなった。「だが、きのどくだけれど、きみはあんな小刀細工をやったばかりに、もう動きのとれない証拠を作ってしまったのだよ。あの時には、ぼくも気がつかなかったけれど、あすこにあったヒバチは、あれは兄が殺された時に、同じ場所に置いてあったのとは、別のヒバチなのだよ。きみは灰神楽のことをやかましく言っていたが、どうしてそこへ気づかなかったのだろうね。これが天罰というものだよ。灰神楽のために灰がすっかり固まってしまって、使えなくなったものだから、ばあやが別の新しいヒバチと、取り替えておいたのだよ。それは灰を入れてから一度も使わぬ分だから、ボールなんぞ落ち込む道理がないのだ。きみはぼくの家に、同じキリのヒバチが一つしかないとでも思っているのかい。ゆうべはじめて、そのことがわかった。ぼくはきみの悪だくみに、ほとほと感心してしまったよ。よくもあんな空ごとを考え出したもんだね。ぼくは当時あの部屋になかったヒバチに、ボールが落ちているとはおかしいと思って、よく考えてみると、どうも、きみの話し方に腑《ふ》に落ちないところがある。で、とにかく、きょう早朝刑事さんに話してみたのだ」 「運動具を売つている家はこの町にもたくさんはないから、すぐわかったよ。きみはこの番頭さんを覚えていないかね。きのうの昼ごろ、きみはこの人からボールを一個買い取ったではないか。そして、それをどろでよごして、さも古い品のように見せかけて、奥村さんのところのヒバチへ入れたのじゃないか」 刑事が吐き出すようにいった。 「自分で入れておいて、自分で捜し出すのだから、わけないや」 二郎が大きな声で笑いだした。 庄太郎こそは、まさに御念の入った『犯罪者の愚挙』を演じたものに相違なかった。 (『大衆文芸』大正十五年三月号)