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モンスター戦利品一覧 スライムセット クモセット マーマンセット マッドドックセット モンセット アンデッドセット ブードゥーセット ウィスプセット ノールセット コウモリセット ヒュイノムセット ゴブリンセット ストーンセット 帝国騎士セット サキュバスセット スライムセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 下水溜りの粘液 汚染されたスライム ヘレナ バウロード ベタベタの粘液 ベタベタのスライム ベリタス セーフウッド クモセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 黒色の甲殻 暗黒グモ べリタス セーフウッド 血痕の破片 吸血グモ ヘレナ スネイルケイブ マーマンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 乾いたウロコ サースティーマーマン ミトス トリアポールズ 新鮮なヒレ ノリノリマーマン ミトス カナルケイブ 水陸水かき 捜索隊マーマン ヘレナ バウロード 上級水陸水かき 上級捜索隊マーマン ヘレナ ザイルウッド 灰色のウロコ ダークマーマン ヒュイソラ ヒュアリレ ツルツルした水かき 待ち伏せしたマーマン ヒュイソラ ヒュアリレ マッドドックセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 傷ついた羽 マッドドック ブラッディマイン グレーキャニオン 硬いクチバシ 鉄クチバシのマッドドック ルフト アペレギオン モンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 割れたカボチャ モン ブラッディマイン グレーキャニオン フア酒 興奮したモン ルフト アペレギオン アンデッドセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 血膿の包帯 アンデッド ヘレナ ペゴトリ 陥没した入れ歯 憎しみのアンデッド ヒュイソラ ヒュイプリジョネ 腐ったアンコウ 地獄のアンデッド サラモビア セイントポート地下2階(電気の部屋) 火葬後の灰 コロセウムの死体 ヒュイソラ フムコロッセオ 曲がった爪 グール ルフト ルフト島の中心部 復讐の爪 復讐の怨霊 サラモビア ドポラク要塞 ブードゥーセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 ブードゥー人形 ブードゥー召喚士 ルフト ルフトタレス 呪われた人形 サーマンマスター サラモビア ドライペイタ 生きている人形 復活の呪術師 サラモビア ドライペイタ ウィスプセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 赤い炎の結晶体 ウィスプ ブラッディマイン 闇の雲海 青い炎の結晶体 神殿のウィスプ ヒュイソラ ハイテムピオ 消えない炎 ブレスウィスプ ルフト ルフト中心部 不吉な炎 呪われたウィスプ サラモビア セイントポート地下2階(水の部屋) クネクネ炎 心臓の炎 サラモビア ドポラク要塞3階 ノールセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 ノールのナックル 戦士ノール ルフト 北部アペレギオン 下級ノールの皮 飢えたノール ヘレナ スネイルケイブ ワイドナックル 暴走したノール サラモビア セイントポート地下2階(水の部屋) 古い金袋 山賊ノール ヒュイソラ ヒポレスタ コウモリセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 コウモリの羽 隻眼コウモリ ミトス カナルケイブ 焦点を失った目 ビホールダー ヘレナ スネイルケイブ ビホールダーの尾 砂ビホールダー ブラッディマイン サンドリバー 破滅の翼 破滅のビホールダー サラモビア セイントポート地下2階(電気の部屋) ヒュイノムセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 折れた剣 ヒュイノム ヒュイソラ ハイハシティ 決意の短刀 決意したヒュイノム サラモビア セイントポート地下1階 影のマント シャドーヒュイノム ヒュイソラ ハイテムピオ 呪いの剣の刃 抵抗のヒュイノム サラモビア セイントポート地下2階(炎の部屋) ゴブリンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 焦げたロウソク 採掘ゴブリン ミトス カナルケイブ 錆びた斧の刃 奴隷ゴブリン ブラッディマイン ブッシュ鉱山 燃える芯 奈落のゴブリン サラモビア セイントポート地下4階 ストーンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 魔力の石 ジャイアントストーン ブラッディマイン サンドリバー 呼吸する石 モスストーン ヒュイソラ ヒポレスタ 破滅の石 狂暴なストーン ルフト アペレギオン北部 暴風の石 砂嵐 サラモビア ドライベイタ 帝国騎士セット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 鋭い槍 帝国騎士 ブラッディマイン ブッシュ鉱山 帝国の紋章 暗黒騎士 ルフト ルフト砂漠 壊れたランス 大公の家来 ルフト アルタルフト神殿 手入れされた槍 大公の残党 サラモビア トデスバルト 悪魔の槍のかけら 残酷な騎士 サラモビア プロバサルラモ 悪魔の銃のカバー 残酷な銃士 サラモビア プロバサルラモ サキュバスセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 闇のしっぽ 魅惑のサキュバス サラモビア ドライペイタ北部 悪魔の角 デビルサキュバス サラモビア トデスバルト
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──どこかで── 「あなたはまだ、破壊への希求を捨てていないようですね」 ひび割れたサングラスの奥。理知的な瞳が捉えるのは、流れるような金髪。 どこまでも綺麗に梳られたそれは、持ち主の目鼻を隠し、表情までもを隠している。 「しかしメルスティーン。ヴィクターの盟友だったあなたはいつどこで、何を、誰を、どう破壊しようとしているのですか?」 「あとどうしてあなたはスカートを穿いているのですか? 確か男性だったと思うのですが」 坂口照星は、眼前に佇む男へ静かに呼びかける。 神父風の衣服は所々が破け、口元や目元に赤黒い血がこびりついているが、口調には何ら消耗が感じられない。 それまで受けてきたであろう凄惨な暴行などなかったように。 まるで戦団の執務室で部下に呼びかけているように。 照星は、静かに呼びかける。 「私を誘拐した真の理由は何ですか?」 「それからどうしてスカートを……?」 すっと立ちすくむ細い影に応える気配はない。まるで女性のような細身だった。 そして確かに照星の指摘通りスカートを穿いていた。ミニスカートだ。しかし男性だというのに脚はバッタのように限りなく 細い。痩せこけているのではなく、引きしまっているという感じで、スポーツ少女のごとき清楚な肉感さえある。暗がりのため 全貌は分からないが、素足と思しき脚は脛毛のなびく気配はない。ツルツルだ。 影の中、唯一さらさらと光る頭髪から流れるえも言われぬ色香に照星は一瞬、円山という部下を想起した。円山円。現在 同輩とともに照星を捜索中の彼は、”彼”であるがあたかも女性のような仕草や思考、顔だちの持ち主で、世俗的な言い方 をすれば『オカマ』である。 ただ、と照星はメルスティーンを見据える。ひどく細身で全体的に柔和な印象の持ち主だが、全身の筋肉は”ある部分”以外 強く、硬く、しなやかだ。まるでありったけ集めた鋼線の束に絶え間なく負荷をかけているかのごとく、筋の端々がみちみちと音を 立てている。かといって逆三角系の筋骨隆々ではなく、ぱっと見何の特徴もない筒型の肉体だ。大戦士長・坂口照星がそう いう体型を必要とする時は大抵、「パッとしない特性の武装錬金を引き当てたばかりに武器その物の使い方に熟練しきった 厄介な人間型」か、「ホムンクルスになれないハンデを既存武術で埋めんと修行し続けてきた信奉者」に梃子摺っている時だ。 要するに、「武器を用いた技術の熟練者(エキスパート)」の体型をメルスティーンは持っていた。 よほど強い者でない限り見抜けぬ「内に向かって濃縮された」、無駄を一切削ぎ落とし研ぎ澄ました、緻密な肉と腱の持ち主だ。 何かにつけ女性的な円山との決定的な違いはそこだろう。 肉体の奥底に秘められた、恐ろしく、激しい、獰猛で加減などカケラも効かせるつもりもないひどく男性的で前向きな気迫もまた、 円山とは違う。 一言でいえば、武人と無頼の二束草鞋ばきだった。武技に自身の何もかもを惜しみなく注ぎこんだ者だけが持つ重厚さ や寛容さがあるかと思えば、今すぐにでも世界の総てに飛びかかっていきそうな危うさもあった。それらはどっちつかずという 様子ではなく、常に同じだけの分量で存在し、柔らかな鋼線の束のような筋肉をみちみちみちみち鳴らし続けている。 「流石ですね。その筋肉はたゆまぬ鍛錬の証。10年前バスターバロンの腕を斬り飛ばしてなお慢心のないその態度。私の 部下達にも見習わせたい程です」 まろやかな笑いが影から立ち上る。一見軽薄そうだが限りなく素直で純粋な、聞く者の心を引きこむ爽やかな笑いだ。 礼をいったらしい。声はまごうことなき男性のものだ。謙遜と謝意を混ぜた丁寧な応対はまるで一流派の開祖のような 「人物」のそれで、だからこそ照星はちょっと頭痛を覚えた。 (円山のような人種でないとすれば、尚のコトどうしてスカートを……?) もちろんスカートは必ずしも女性専用という訳ではない。古代より熱帯地方では男女問わず巻きスカートの要領で腰布を巻いて いたというし、その他の地域でも──例えばスコットランドのキルトに見られるように──スカート状衣類は男女ともに受け入れら れていた。化粧に造詣の深い照星であるからその辺りの事情はおおむね知っている。 じゃあ民族衣装なのかと彼はミニスカートを凝視したが……生地ではなんだかファンシーな動物が犇(ひしめ)きあっている。 照星が民族衣装説を捨てたのは、裾にひらひらとした可愛いフリルを認めた瞬間だ。 彼は、まごうことのない女物のスカートを……穿いていた。そして脚への視線を感じるや、恥ずかしそうにスカートの丈を下に 向かって引いた、 「え。ええと何の話でしたか。……ああ。そうでしたね。なぜ誘拐したか。ご指摘感謝しますよメルスティーン。頬は赤らめないで」 「10年前のような戦団への反抗……という訳ではありませんね? 頬は……赤らめないで下さい」 「私を誘拐したのは、意趣返しでもなければ場当たり的な憂さ晴らしでもない。頬、赤らめないで!!」 「もっと巨大な流れを呼び起こすため誘拐した。そんな気がしてなりません。頬! やめてといってるでしょう! やめなさい!!」 「いま気付いたのですが、そのふわふわしたパーカー……女性用ですよね? まさか、下着も?」 細い影の手の中で核鉄が輝いた。鋭く光る刃が、闇の中で風を切る。 1回。2回。濁った風を淀んだ空気を壊すように荒々しく刃を振り回し、彼は照星へゆっくり近づく。 やがて金色の閃光が照星の正中線すれすれをなぞり──… 床に突き刺さった。順手に持たれた『大刀』がまっすぐに振り下ろされたようだ。 「────」 前髪が舞い散る中、照星はメルスティーンの囁きを確かに聞いた。」 一瞬呆気に取られた彼は、「信じられない」、そんな顔で愕然と反芻する。 「あなたは、自分が最後の1人になるつもりはない…………?」 「そして女装はただの趣味!?」 . 照星は、絶句した。 「あ、いいえ。女装はともかくですね。いずれ幕を開ける決戦。その最初の戦死者になっても構わない……と言ったのですか?」 「今はいない『11人目の幹部』……いずれ呼び起こす『地球』こそ、君が総てを託す相手だと?」 「え? え? 今度私にお化粧を教えて欲しい? いや、構いませんが、その、どうして女装が趣味なのですかあなた」 メルスティーンと呼ばれる影は答えない。ただ、照星がらしくもなくペースを乱されているところをを見ても分かるように、真 面目な回答の端々で出しぬけにしょーもない話題を繰り出す人物のようだ。それが意図的なら掴みどころのない人間だろ う。天然でやっているとするなら、どこかで演劇をやっている栗色髪の元気少女なみの厄介さだ。 やがて彼はちょっとガッツポーズをしてから静かに踵を返し、扉目がけて歩き出した。 (もしいまの言葉が”はぐらかし”とするならば、メルスティーン=ブレイド) これ以上会話しても無駄だと踏んだのか、照星はサングラスにクイと手を当てた。 (やはりこの誘拐には何らかの”ウラ”がある) (……というか、お化粧教える代わりに解放してもらうというのは) 無理でしょうね。照星はため息をついた。 (ただ、戦団に打撃を与えたいのなら、誘拐などせず私を殺せばいい。かといって交渉材料にしている様子もない。私をカード に使うなら、拷問風景かその結果を映像なり画像に収める筈。ですが、その気配が全くない。ふふ。残念ですね火渡。もし 彼らが何らかの交渉をしたならば、キミは私の無様な姿を笑えたでしょうに) 床に散らばる腐った無数の肉片は、言うまでもなく彼の物だった。 元は純白だった床はいまや、膿と血塊の醜いまだら模様に彩られもはや見る影もない。 照星は下を見て困ったように微笑した。 現在のところ彼の両足は膝から先がない。止血処理こそ施されているが膿と熱を持ち絶え間ない痛みをもたらしている。 (やれやれ。例のグレイズィングが居ればこの程度の怪我、すぐ治るものを。もっとも、拷問の痕跡も痛みも何もかも一瞬 で癒されてしまうあの感覚……あまりいいものではありませんが) 昨日辺りから彼女の姿がまったく見えない……その事実にどこか安心している照星だ。 普通に考えるなら、治療役の不在を恨むべき状態だろう。 並の人物なら「治して貰えるならそれでいいじゃないか」と思うだろう。 照星でさえそう思っていなかったとは断言できない。 だが、逆だ。 痛みも傷もすぐ治せる。そんな人物が拷問の指揮を取っているのは、ある意味ただ破壊され続けるより……恐ろしい。 (私でさえ、不覚にも傾きかけてしまいました) 絶叫と激痛の渦中で。 照星は、グレイズィングを見てしまった。 (辛うじて踏みとどまれましたが、心の弱い戦士や新人なら……堕ちていたでしょうね) 治して欲しい。 救ってほしい。 そうしてくれるなら、靴でも何でも舐める。 だから、 ”痛みを取り除いて!” そう懇願するのだ。「あらゆる怪我と苦痛を治せる」衛生兵の武装錬金・ハズオブラブの持ち主に。 痛苦が取り除かれなくなるコトを、状況が一層悪くなるコトを怖れ、媚を売ってでも鎮痛を願うのだ。 (目先の苦痛から逃れたいがために、尊厳を捨て、本来なら戦うべき、絶対に屈してはならない相手に降服してしまう……。 人間ならよくあるコトです。彼らはそれを、弱さゆえに知り抜いている。だからこそ、恐ろしい) では誘拐の理由はそれなのか? 幹部たちは、照星の心を折り、無様に従わせたいがために拷問をしているのだろうか? (いえ。違いますね。あれはただの快楽のための破壊……。戦団への私怨を私個人にぶつける者もいました。八つ当たり は少々困りますが……結果私が折れようと折れまいと、死のうが死ぬまいと……『どっちでもいい』。そんな感じで、楽しげ に……拷問をしていました) 幹部たちの顔ぶれが目に見えて減ったのも気付いている。 減ったのは、グレイズィングが来なくなったのとほぼ同時期だ。 彼女だけが来なくなったのではない。彼女を含む幹部が何人か、来なくなったのだ。 (……何か、動きがあったようですね。まるで私への拷問期間を何かのタイムスケジュールの一部よろしくしっかり決めていて、 それが終了したから”次”に移ったように。しかし、一体彼らの目的は何なのですか?) (なぜ彼らが私の外出を知りえ、誘拐できたのか) (あの盟主が女装好きな理由ともども気になりますが……) 熱を持った体が前へと沈んでいく。辺りは腐肉と血膿びっしりの床、床、床。不衛生な環境だ。きっと脚の切断面から雑菌が 入っている……当たり前で、つまらない思考をしながら照星は体を支えるべく手をつき──気付く。 (腐肉と、血膿?) 掌を返し、じっと見る。視覚的にぞっと不快なネバつくそれらは、間違いなく照星の物だ。 敵の物ではない。武装錬金を取り上げられた照星はずっと抗うコトもできぬまま、嬲られてきた。 だから床は、その痕跡でいっぱいだ。 腐肉と血膿。照星から削られ、或いは排出された体組織たちが、大量に点在している。 床一面を見た照星は息を呑んだ。俄かに思考が高速回転を始める。緊急事態。それへ戦闘部門最高責任者として対処する 時のように、脳細胞があらゆる情報をひっつかみ、速読する。 (まさか) (100年前の彼の専門の1つは──…) (残った幹部の内の1人) (いえ、でも、そうです) (『赤い筒の渦』) (アレキサンドリア。女学院の地下のあなたの源流も、確か) (マズいです) (実利的な理由) (筒はとても強欲) (タイムスケジュール。計画。より大きな流れ) (回収) (核鉄は幾つ?) 一見まったく体系をなしていない単語が脳内を掛け巡る。いよいよ40度に迫る熱の中、照星はただ、自らの一部の腐れ果ての 成れの果てに顔を叩きつけた。むっとする異臭の中、いよいよ意識が遠のいていく。 (大変、です) (この拷問は) (私個人を狙ったものではなく) (戦団全体への、害悪の……為) 「むーん。成程。そういうカラクリ」 血だまりに力なく突っ伏す照星を悠然と見下ろしながら、ムーンフェイスは鋭い顎を撫でた。 「ただ、そうだとしても、もっと穏便にやれたんじゃないかな? 『ウィル君』」 「えー。だって……面倒くさいし……」 いつの間に現れたのか。短い髪の少年が、ムーンフェイスの後ろで大きな生あくびをした。 凄惨な現場には見合わぬ、あどけない少年だ。いろいろな理由で美形とはいいがたいが、ひどく白い肌やなよなよとした体 型はそれだけで女性の保護欲をかきたてる。 「むーん? キミは『大家さん』じゃなかったかな。実験には直接関わらないんじゃ? 穏便な手段をやるのは『研究班』…… ディプレス君とかリバース君だと思ったんだけど」 「だってさぁ。アイツらが拷問抜けて本業に専念したら、ボクの拷問当番が増えるもん……」 寝起き、らしい。肩さえ露骨に出すだぶついた白い服の上で少年は寝ぼけまなこを擦った。よく見るとかなり整った顔立ちだが、 寝ぐせやヨダレのせいですっかり美形らしさをなくしている。代わりといってはなんだが、脇に挟んだ大きなまくらはチャーム ポイントともいえた。 「確かにね。サボったら例の赤い筒……デッド君に叱られる。というか現に私がここまで連れてこさせられた訳だけど」 「あー。デッドで思い出したけどぉ、あのさあ。今日の拷問当番ボクだってアイツ言ったけどお、もう、いいよね」 ムーンフェイスの袖をくいくい引きつつ、ウィルは二度めのあくびをした。やや小柄な少年だ。戦士と比べるなら例の津村 斗貴子が一番近い……月の顔はとりとめもない分析をした。 「この人、気絶しちゃってるしさあ。え。だめ? じゃあ必殺ちょっぷー。とりゃあ。はいコレ拷問とても拷問。だから終わり。あ あ、面倒くさい」 糸目の少年は血だまりに胡坐をかきながら、ポリポリと頭を掻いた。面倒くさい、まったくそんなニュアンスしかなかった。 やがて彼は膝の上で枕に両手を掛け、がくがくと貧乏ゆすりさえ始めた。 「ああ。寝たいー。ダラダラお菓子食べたいー。ぐだぐだニコ動巡回して適当に笑いたいー」 (確か2006年に開設する動画サイトの名前だったね。いま(2005年)それを知っているのは……やはり武装錬金の特性 のせいかな? まったく……) ムーンフェイスはほくそ笑んだ。彼は知っている。ウィルの名の由来を。 未来から来た。だから、「ウィル」なのだ。未来の予定、未来予測……。 「あ。小豆の先物取引で6千万円損してる……まあいいや……取り返すの面倒くさい」 携帯電話を興味なさげにポイ捨てしたウィルは、「まだ8兆円あるし」と両手を上に伸ばし大あくび。ネコのような臆面の なさだ。気だるげな気流が口からあふれた。 「マレフィックもメルスティーンさまもさあ。ボクのいた未来じゃ今から10年前に全滅してたよ? だから正史にいなかった 『マレフィックアース』なんて11人目の幹部探してさー、拷問に見せかけた小細工してさー、ちょっとでも時間稼ぎの足しに しようとしてるよねー。ディプレスたちが銀成市にいるのも……ああなんだっけ。まあいいや、もう喋るのめんどくさい」 一方的に会話を打ち切ったウィルは、何もかもが本当に面倒臭そうだ。持参の枕さえ適当に捨て、そのまま突っ伏した。 ムーンフェイスは思い出す。このやる気のまったくない少年が、なぜ悪の組織にいるかを。 『だってさー、ここにいたら働かなくてもご飯たべさせてくれるっていうしー。人間食べるのってすごく面倒くさいんだよ? amazon で売ってないからさー、わざわざ捕まえて食べなきゃいけないし……。一応さ、どうすれば楽に食べれるか考えた事はあるよー。 宅配ピザ頼んでさ、配達人の方ごちそうさました。らくだった~。なのにさ、ああ面倒くさ。警察とか錬金の戦士がいっぱい来て、 ボク殺そうとするの。仕方ないから株で儲けた5億円あげるから見逃してって小切手みせたらますますキレるし。あー。わけ わかんない。面倒くさい。どうしてみんないつも急にワケの分からないコトで怒るのかなぁ。結局戦うはめになってすごく面倒 くさかったから、マレフィックに入ったよー。ここなら保険未加入でもグレイズィングが病気とか治してくれるしー、戦いはディ プレスたち武闘派が僕への家賃代わりに引き受けてくれるしー』 いつか聞いた自己紹介を思い出し、ムーンフェイスは輝くような笑みを浮かべた。 (面白いね。ホムンクルスとしても史上まれに見る駄目なコだよ。金城とか太とか細の方がまだマシだ) だがその駄目さが彼にとっては、面白い。悠久の、永遠の命を得ておきながら人喰いさえ厭い、怠惰に費やす……まったく あらゆる節理への冒涜だ。ただただ面白い物にだけ飛び付き、浪費し、何も生まないまま生き続けるのだ。 (実はキミこそが総ての人間の、『理想像』という奴かも知れないね) 「ボクこの人のコトどうでもいー。死んだら教えてよムーンフェイスー。適当に時間巻き戻して復活させるからさあ~。という訳 で、おやすみなーさーいー」 腐肉と血膿の中でうつぶせになってくーくー眠るウィル。見下ろす眼は歪んだ興味に満ちている。 「いやはや。乖離が激しいね。誘拐直後に私へ向けた『仕事モード』とはまるで別人。かつて『7色目:禁断の技』をブチかま してきた忌まわしき小札零を殺したい……そう言っていたのがウソのようだよ」 いや、とムーンフェイスは指を弾いた。ムーンフェイスの隣にいるムーンフェイスが。 「もしかすると、その禁断の技とやらの後遺症でこうなってしまったのかもね」 「『領域の中』に限っては」 「時を止め」 「加速させ」 「減速させ」 「結果が気に入らなければ消し飛ばし」 「気に入れば保存し」 「あまつさえ巻き戻すコトさえ可能な武装錬金『インフィニティホープ』(ノゾミのなくならない世界)の持ち主」 うじゃうじゃと意味もなく増殖しつつ、ムーンフェイスは高らかに笑う。 「時空関連では並ぶものなしだよ。メルスティーン君ともどもレティクルエレメンツ最強といっても過言じゃない……」 「常に全力で『仕事モード』なら10年前のようなアクシデントでもない限り、恐らくずっとずっと無敵だろうね」 「だからこそ、かもね」 今は血の”膿”の中に突っ伏しスピースピーと可愛らしい寝息を立てるウィルを見ながら、思う。 「小札零のような善良な少女が勇気と、”らしからぬ悪辣さ”を振りしぼり……あんな技を見舞ったのは」 しかし、不幸なものだよ。30人同時に肩を竦め、嘲笑する。 「彼女は善良すぎるがゆえに自らの選択の結果に恐怖した。そして、つい、傷を癒そうとした」 「して、しまった」 「結果、罪一つ背負うだけで済んだ筈の人生が、大きく狂ってしまった……。絶対に倒すべき恐ろしい敵を生き延びさせると いうオマケ付きでね」 倒れ伏す照星に起きる気配はない。 だが、彼を救う戦いは、着々と近づいていた。 着々と、着々と──…。
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ちく。 布に針先がつと沈み、顔を出す。 ちく。 生地を動かしまた針を沈め、わずかな先から顔を出す。 ちく。 変わりばえのしない反復運動にすがるようにして、少女は必死に針の先端を睨み、繕っている。言葉はない。 その姿と向かい合い、さてどうしたもんかとグシュナサフは息を吐いた。 うまい慰めのかけかたを、彼は知らない。 宿場で見かけた元同僚は、まったくひどい状態だった。 まず自身の足で歩けない。どころか意識も朦朧として、一応の受け答えはあるものの、どこまで判断力があるものやら、杳(よう)として知れない。ここまで馬に乗ってきたらしいが、たどり着いたのが不思議なくらいだ。 少女にたずねると、朝方までは会話ができていたということだったから、急激に悪化したということになる。 よくない兆候だった。 馬留で治療をおっぱじめるわけにもいかない。しようがなしに部屋まで運んだ。抱えあげた同僚の体は、垢じみて、臭くて、目が染みた。 そうして猛烈に熱かった。 一段ずつ階段を踏みしめながら、無性に腹が立って仕方がなかった。お前、もうちょっとなんとか器用にできなかったのか、とかそう言うたぐいの。 床へ横たえ、上着を引きはがす。腕が根元から腫れあがりどうしたって袖が抜けないので、小刀で切り裂いた。 放り投げた上着を緊張しきった面持ちの少女が拾い上げ、そこで一瞬、この彼女の前でいまから患部の手当てをするのか、してもよいものかと思い煩ったが、部屋の外に出すわけにもいかない。 しかたなく、壁際に寄るように指示して、グシュナサフはバラッドへ向き直った。 傷口をあらため、ぱんぱんに膨れた箇所へ小刀を当て無感動に引く。ぶつ、と生き物の皮の切り破ける音と共に、血膿がしぶいた。凝り固まったそれは、血というには黒かった。 顔にいくらか跳ね、しかめる。慣れているとはいえ不快だ。 何度も腕を扱きあげ、あらかた血膿を出し終えると、階下に一度降りて食堂の暖炉の火箸を手に取る。そうして戻ると、かんかんに焼けたそいつを、腕の傷口に押し当てた。 途端意識のないはずの同僚の体が大きくうねる。 勢い、上に圧し掛かり怪我人を保定していたはずの女が、振り落とされた。 莫迦野郎。思わず苛立った声が出る。きちんと押さえていろと言っただろう。 半分は八つ当たりだ。 言いながらグシュナサフ自身も、全力で同僚を押さえにかかる。大の大人が二人がかりで押さえつけても、バラッドはなんとか逃れようと無意識にもがき、身をよじり、呻いた。 グシュナサフにも覚えがある。傷口を焼くこの痛みは熾烈だった。痛いのだから、いっそさっさと気絶してしまえればどれほど楽かと思うのに、どう言うわけだか頭の芯だけはっきりと冴えて、前後不覚に落ちることもできないのだ。 厭だなと思った。戦場で何百と聞いた、だが決して慣れることのない、本能をじりじりと炙る原始的な呻吟。 耳にこびりつく吃音。 ――……これを聞いているのか。 苦々しい気持ちで胸がいっぱいになった。 壁際で、誰にしがみつくこともできずに、ただ一人。目を見開いたきり、まんじりともせずコロカントはいるに違いない。 苦鳴を上げていた体がとうとう限界を超えたのか、押さえつけたバラッドの喉奥からく、く、と笛の音のような音が漏れ、次いでぐたと弛緩する。 「……おい!」 思わず声が漏れ、脈を確認し、首の下へ折り畳んだ荷物を当てがって、気道を確保した。 「……死ぬの」 全力で押さえ込み、汗みずくになった女がおそるおそるグシュナサフへ問う。いいや、と彼は首を振り、同じように滴る汗を乱雑に拭った。 「気絶しただけだ」 「そう」 頷いて女は寝台から滑り降り、だいぶん冷めてしまった桶の湯で手拭いを絞ると、 「はい」 グシュナサフへ差し出した。 「顔、ひどいよ」 「……、ああ」 血膿まみれだと言いたかったのだろう。受けとり顔を拭うと、すこしはましな気持ちになった。 「このひとも拭いていい」 「ああ」 聞かれてまた頷く。 「拭くって言うよか、たわしで擦りたいところだけど……、まあ気持ちの問題だね」 小さく笑って女がバラッドの顔や手足を拭いはじめる。 その女を横目に入れながら、グシュナサフはがりがりと頭を掻き、壁際で大人しくしていたコロカントに向き合った。 おびえ、小さく縮こまっているかと思った彼女は、グシュナサフの意に反して黙々と手を動かしていた。 切り裂かれた上着を膝の上に乗せて、繕っていたのだ。 縫い目を親の仇のように睨みつけ、への字に口を縛って、一心不乱に針先だけを見つめている。 ――困ったな。 本気でとまどった。 雑菌が入り、ただれた患部の手当ての仕方は知っていても、泣くのをこらえ、むきになって繕いものに向かう少女を、どう慰めていいのかは知らない。 毛を逆立てた子猫だなと思う。不用意に近づけば、ますます警戒されてしまう。 助け舟を求めるように思わず女へ視線をやったが、肩をすくめられてしまった。あたしは部外者だし、事情知らないし。女は言う。 自分でどうにかしろということらしい。 「……姫、」 しばらく逡巡したのち、グシュナサフは口を開いた。 「腹減っていませんか」 「いません」 打つように答えが返ってきた。固い声だ。 「水、飲みますか」 「いりません。……おかまいなく。わたしは大丈夫です」 またかぶりを振られる。 「……」 参った。彼は頬を掻く。気落ちした溜め息しか出ない。 きっと本当は、安心させてやれる言葉をかけてやるのがよいのだ。あとは寝ていれば治りますよだとか、もう心配はいりませんだとか。 だが、あの、人間の口が発しているとは思えない苦痛の声を聞き、手足をばたつかせ痙攣する一部始終見ていた彼女へ、安っぽい慰めの言葉はかえって逆効果だと思えた。 溜息をついて横に座る。 同じように押し黙ると、階下の喧騒が、いやに大きく聞こえるような気がした。 しばらくそのまま耳を澄ます。 酔っぱらった客の上げる胴間声、いさかいのやりとり、けたたましい酌婦の嬌声、皿やジョッキの打ち鳴らされる音、合間を縫って聞こえる流しの歌うたいの弦。 弦の音で連想し、グシュナサフがバラッドへ目を流すと、やはり連想したらしい少女が、彼をちらと見た。 それからゆっくりとグシュナサフの方を見やり、また上着へ目を落とす。切り裂いた箇所はあらかた繕われていた。 「……もう一度聞きたい歌があります」 そうしてずいぶん長い間、階下の演奏を聞いていたコロカントが、静かに口を開いた。 窓の外の夜は、いつの間にかだいぶ更けている。 「歌」 「はい。わたしも一度しか聞いたことがなくて、……、それも途中までしか聞いていないので、ほとんど知らないんです。森の奥で、不思議な娘に会った樵の歌です」 「はい」 「不思議な娘に会って樵は恋をして……、恋をして、そうして、森から連れ出そうとするのですね。でも、娘は森から離れては生きていけなくて、……、……、そこまでしか聞いたことがないんです。続きを知らないの。最後はどうなったんだろうって思っていました」 「……、」 「そうして、おかしな話ですが、塔(あそこ)にいたあいだ、頭に回っていた歌は、ずっと同じ。その知らない歌だけだったんです」 「……、」 「続きを知りたかった」 ずっと、言ってコロカントはあらためて顔を上げ、ぐったりと寝台に沈むバラッドを目に入れる。 透明な目の色をしていた。 なにもかも受け入れ、諦めた、透明な目の色をしている。 さびしい色だと思った。 その色を見たときに、ああ、と不意にグシュナサフへ腹に落ちる感情があった。同じように同僚へ目をやる。 ……お前、この物分かりの良さをどうにかしたくて、ばたばた足搔いていたのか。 「歌の娘と同じです。わたしは森を出てはいけなかった」 コロカントは続ける。 「森で、誰ともかかわらずに生きていけばよかったんです。わたしの面倒を見るだけで……、わたしの面倒を見るだけで、誰かに迷惑がかかるもの」 「姫、」 「バラッドの怪我もそう。わたしがぼんやりして、獣に追われたのがいけないの。バラッドひとりだったら、群れに囲まれることもなかったし、怪我することもなかった」 グシュナサフも、言って今度はコロカントは彼自身へ目を向けた。 「グシュナサフのその傷も――、何かわたしに関係があるのでしょう」 指摘されて思わず彼は眉間を擦る。二年は前の傷だ。太刀筋を避けそこねてえぐられた傷が、そこに刻まれている。 「いや、これは、その、そういうのではなくて、ええと、」 「……わたしは、――」 言ってそのまま言葉が途切れ、少女はうなだれる。 うずくまり膝を抱えた彼女へかける言葉はやはり見つからなくて、グシュナサフがしどろもどろとなったところへ、 「ほら、」 グシュナサフとコロカントの両名へ、差しだされた椀がある。 「食いな」 差し出したのは女だ。さんざんな男の慰め方に、見かねたらしい。 「あのね。腹が減ってるとろくな考えにならないの。なんだか複雑な事情みたいだし、わざわざ首突っ込む趣味もないけどさ、……、食いなよ、温まる」 女はぐいとグシュナサフへ器を突きだし、少女へはその指を開いて強引に持たせた。 力なく首を振ろうとした彼女へ、 「甘ったれんじゃないよ、」 女はぴしゃりとした口調になって言った。 「生きてりゃ、お先真っ暗に思えることなんていくらでもあるのよ。いいことばっかりじゃあない。食える気分じゃなくたって、口に無理矢理突っ込むんだよ。飲みこみな。飲みこんでしまえばなんとかなるし、なんとかなりゃあ一日生き延びられるさ」 「……、」 「ほら。冷める前に食う。くよくよ考えるのはその後だ」 脅されて固い表情のまま、コロカントは頷き抱えさせられた椀へ口をつけた。倣ってグシュナサフも手にした椀へ口を寄せる。 よく煮込んだ野菜のスープだった。蕩けた芋とやわらかい葱が喉を流れる。 「うまい」 世辞ではなくうまいと思った。思わず口にすると、でしょう、と女が請け負う。 「宿の親父は顔も態度もいけ好かないけど、飯の味はいいね」 腹にものが入ると、グシュナサフは俄然空腹を思い出した。一気に椀を空け、差しだされた蒸し饅頭をがつがつと喰らう。 「あんたも」 言って女がコロカントへ饅頭を差し出した。差し出す動きを目で追い、そこでグシュナサフは、コロカントがひと口ごくんと飲みこんだあと、ぼろ、と涙をこぼしたことに気がつく。 「姫、」 少女は泣きながら、懸命に椀の中身をすすっている。 ごめんなさい。 とうとうしゃくりあげ、彼女は言った。 「姫、」 「わ、わたしは、わたしは、あなたにもバラッドにも、も、申し訳がなくて、」 椀を両手で抱えていたので、まぶたに手をあてがうこともできず、わっと手放しで少女は泣き出した。 「オゥルは死にました。わたしを助けようとして死んだんです。目の前でオゥルが倒れても、わたしはなにもできなかった。バラッドも同じです。どうしてこんなにぼろぼろになるまで、わたしを助けようとしてくれるのでしょう」 顔をぐしゃぐしゃにして泣くコロカントに、ああそう言えばこの子はまだとても幼いのだと、グシュナサフはあらためて気がついた。 「このまま、バラッドの目が覚めなかったら、わたし、」 「姫、」 「ごめんなさい。どうしてわたしはこんなに力がないのでしょう」 「……あ、ちょっと!」 不意に女の慌てた声がした。つられて振り向くと、先ごろまで意識のなかった同僚がいきなり頭をもたげ、体を起こそうとしている。 「ちょっと、……ちょっと!あんた、見てないで止めなさいよ」 「おい寝てろ、バラッド」 急いでグシュナサフは立ち上がり、寝台へ歩み寄った。 声は聞こえているのだろうか、押さえ付ける彼の腕を鬱陶しそうに振り払おうともがき、同僚は暴れる。 姫。 食いしばった歯の隙間から、絞りだすような声が聞こえた。 「おい、バラッド、」 「姫、」 押しとどめるグシュナサフの手を振り払い、バラッドは少女を探している。 泣き声がした。迷子のような声だった。 ……どうしたのかな。 なにを泣いているのかな。 怖いことでもあったのかな。 大切にしたい主の泣いている声だと思った。 もしかして、うまくまとまらない思考でバラッドは思う。 もしかして、怖い夢でも見たのかな。 そうかもしれない。主の少女と逃げるこの十日足らず、彼女は何度も夜中にうなされていた。 腕の中に抱えていたから、否応なしに気がついた。 それも、手放しで泣くのでなしに、こらえこらえて、小さくすすり泣くのだ。細い悲鳴だった。 ……どうして我慢するんです。 耳元でなだめながら囁いてやる。我慢しなくていいんですよ。泣きたいときは、泣けばいい。 ――それとも泣けなかったのか。 ちり、と胸の奥にひりつく焦れた感情がある。 この四年間。誰が。何をした。 臆病なほど神経質になっていたバラッドだから判る。少女ははじめ、体勢を変える彼の挙動ひとつにすら怯えた。 八つ裂きにしてもし足りない、ひとりの男の顔が浮かぶ。――あいつか。 顔を見せるたび、実に厭な顔で笑っていた。 大丈夫ですよ。あいつはもういません。ここにいるのは自分です。自分はなにもしません。 固く冷えて震える肩を抱き寄せようとしたのに、どこに行ったのか近くにいないのだ。どころかおのれの体がうまく動かせないことにバラッドは気がついた。 ……あれ。 戸惑う。 動かない、どうしてだろう。何があったかな。 そういえば、なんだか焦げた嫌なにおいがしていたな。ああ……、そうか、俺は戦で果てたのだった。 そうしてきっと焼かれたのだ。 納得し、また暗い闇の中に沈もうと思う。死んだ体は動いちゃならない。大人しく葬られる順番を待っていなければ。 ……でも。 でも、声が。 声は泣いていた。泣きじゃくり、おのれの名を呼んだ。 ごめんなさい。ごめんなさい。 ……どうして謝るんです。 大きな声でさえぎりたかった。 言ったでしょう。あなたは何も悪くない。……それどころか、あなたはもっと怒っていいんです。 周りの大人に勝手に持ち上げられて、勝手に見捨てられて。 世間一般の生活もできずに、どこにいても幽閉状態で。 あげくに腱を切られて、まともに歩くこともできなくなって。 いい加減にしろ、てめェらの都合で振り回すなと激怒したっておかしかないんです。すまなく思う理由なんてどこにもないんです。 さえぎりたいのに喉から声が出ない。 ひどく寒くて、そのくせ熱かった。 声が聞こえる。 少女が、怖い夢を見て泣いている。 ――助けて、 細く悲鳴を上げ、飛び起きる彼女の体を抱きしめ、どうしましたとバラッドは言った。 夢です。ぜんぶ夢ですよ。大丈夫。自分はここにおります。必ずお助けしますから、だからどうか、 ――助けてください。 眠るたびにうなされる少女を、何度もバラッドはなだめた。 どうか彼女に穏やかな眠りが訪れるようにと何度も祈った。 ……だのに。 寝るのは怖いと少女は泣いた。寝るときっと、またあの人が来るから、あの人がわたしを連れ戻しに来るから、 ……大丈夫。 ……大丈夫ですよ。 穏やかに言い聞かせながら、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。 殺してやりたいと心の底から思う人間がいる。 泣き声がした。 ……もしかしてあいつが追ってきたのか。そう思った。泣き声は止まない。きっとそうなのだろう。 軋む体を無理矢理突っ張らせて、なんとかうつ伏せになろうともがいた。金縛りにあったような、無駄な努力が要った。 激痛の走る腕を突き、ぐるりと反転させて、頭をもたげる。 ぐらぐらと視界がぶれて前がよく見えない。 ……どこだ。どこで泣いている。 姫、とようやくかすれた声が出た。 「おい寝てろ、バラッド」 端から強引に寝かしつけようとする腕に、よしてくれと首を振った。よせ。焼くのはまだよしてくれ。俺はまだ死んじゃいない。 それに俺を押さえるお前は誰だ? 俺はあの方と二人で逃げていたはずだ。なぜここにいる? 「姫、」 呼ぶと、転げるようにして近くへ膝をついた体がある。涙でぐしゃぐしゃになった顔。……まるで七つの頃のあなただな。思うと薄い笑いになった。 よく見えないから、もうすこし近くに顔を寄せてくれるといいのにと思う。 「バラッド」 「……大丈夫ですよ」 腕を差し伸べる、たったそれだけの動きなのに、満身の力が要りようだった。感覚が遠い。体全部が鉛のようだ。 ……だけどとにかくあなたを安心させてやらなくては。 束の間意識が飛んだようだ。 気がつくと元の向きに寝かし直されていた。目を開けると天井が回っている。……俺はそんなに飲んだかな。 吐き気がこみあげてバラッドは目を閉じた。 「……バラッド」 寄り添うコロカントの声に、一瞬正気を取り戻す。 ひんやりと涼やかな声だ。 彼女の手が、差し伸べたはずのバラッドの手を拾い上げ、ためらいがちに握られる。泣いているな、と思った。 ……泣かないで。 渾身の力でもう一度腕を持ち上げ、彼女の頬にあてた。今度はうまくいったようだ。涙で濡れた彼女の頬を親指の腹で撫ぜ、 「泣かんでください」 バラッドは言葉を絞り出した。 「……自分は姫の笑った顔が好きなんです」 あてがわれた手を両手で包んで、はい、と頷きながらコロカントはまたぼろぼろと泣いた。 ……泣かないで。 何度も何度も彼女の頬を拭う。 「……はい」 自分の言葉へ、律義にその都度頷いて返すコロカントに、ひとがひとを愛おしむ感情がいったいどういうものだったか、バラッドはふと理解したように思った。
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ファイル ベリタス.png 攻略フローチャート Chapter1『リノバティオ』 Chapter2 Chapter3 Chapter4 Chapter5 Chapter6 Chapter1『リノバティオ』 「装備の点検」後に受注出来るもの スライムごときが 内容…スライム6匹倒す 食いしん坊のスライム 内容…ベタベタの粘液x6個 「錬金術師ルーシー」後に受注出来るもの クモは嫌い 内容…暗黒グモ10匹倒す クモの跡 内容…黒色の甲殻x4個 「ドラカの始まり」後に受注出来るもの ボックスを開けて 内容…依頼者から渡されたミステリボックスを開ける 薪が必要であります 内容…「斧に油を塗る」で手に入れた薪用の薪 斧に油を塗る 内容…乾いたウロコx5個 商店のおつかい 内容…小さなビンx3個 大きなビンx2個 「壊れた入り口の鍵」でオシリスに報告後、受注出来るもの 回復ポーション 内容…回復400ポーションx1個 「壊れた運河の装置」の後受注出来るもの きまぐれな顧客 内容…新鮮なヒレx10枚 ノリノリマーマン 内容…ノリノリマーマンx6体倒す 「壊れた入り口の鍵」の後受注出来るもの 焦げたロウソク 内容…焦げたロウソクx10個 装備を溶かしてくれ 内容…プラグマx1個 コレクションメダル 内容…スペシャルブック1でコレクションメダル1を手にし、それを依頼者まで持っていく。 虚弱体質 内容…口パクブナx10匹 二日酔いに効く材料 内容…コウモリの翼x5枚 消えてしまった穀物袋 内容…カナルケイブ入り口の反対側の岸にある穀物袋を拾って持っていく。 足りない鉄鉱石 内容…鉄鉱石x15個 スライムセット クモセット マーマンセット マッドドックセット モンセット アンデッドセット ブードゥーセット ウィスプセット ノールセット コウモリセット ヒュイノムセット ゴブリンセット ストーンセット 帝国騎士セット サキュバスセット スライムセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 下水溜りの粘液 汚染されたスライム ヘレナ バウロード ベタベタの粘液 ベタベタのスライム ベリタス セーフウッド クモセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 黒色の甲殻 暗黒グモ べリタス セーフウッド 血痕の破片 吸血グモ ヘレナ スネイルケイブ マーマンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 乾いたウロコ サースティーマーマン ミトス トリアポールズ 新鮮なヒレ ノリノリマーマン ミトス カナルケイブ 水陸水かき 捜索隊マーマン ヘレナ バウロード 上級水陸水かき 上級捜索隊マーマン ヘレナ ザイルウッド 灰色のウロコ ダークマーマン ヒュイソラ ヒュアリレ ツルツルした水かき 待ち伏せしたマーマン ヒュイソラ ヒュアリレ マッドドックセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 傷ついた羽 マッドドック ブラッディマイン グレートキャニオン 硬いクチバシ 鉄クチバシのマッドドック ルフト アペレギオン モンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 割れたカボチャ モン ブラッディマイン グレートキャニオン フア酒 興奮したモン ルフト アペレギオン アンデッドセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 血膿の包帯 アンデッド ヘレナ ペゴトリ 陥没した入れ歯 憎しみのアンデッド ヒュイソラ ヒュイプリジョネ 腐ったアンコウ 地獄のアンデッド サラモビア セイントポート地下2階(電気の部屋) 火葬後の灰 コロセウムの死体 ヒュイソラ フムコロッセオ 曲がった爪 グール ルフト ルフト島の中心部 復讐の爪 復讐の怨霊 サラモビア ドポラク要塞 ブードゥーセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 ブードゥー人形 ブードゥー召喚士 ルフト ルフトタレス 呪われた人形 サーマンマスター サラモビア ドライペイタ 生きている人形 復活の呪術師 サラモビア ドライペイタ ウィスプセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 赤い炎の結晶体 ウィスプ ブラッディマイン 闇の雲海 青い炎の結晶体 神殿のウィスプ ヒュイソラ ハイテムピオ 消えない炎 ブレスウィスプ ルフト ルフト中心部 不吉な炎 呪われたウィスプ サラモビア セイントポート地下2階(水の部屋) クネクネ炎 心臓の炎 サラモビア ドポラク要塞3階 ノールセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 ノールのナックル 戦士ノール ルフト 北部アペレギオン 下級ノールの皮 飢えたノール ヘレナ スネイルケイブ ワイドナックル 暴走したノール サラモビア セイントポート地下2階(水の部屋) 古い金袋 山賊ノール ヒュイソラ ヒポレスタ コウモリセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 コウモリの羽 隻眼コウモリ ミトス カナルケイブ 焦点を失った目 ビホールダー ヘレナ スネイルケイブ ビホールダーの尾 砂ビホールダー ブラッディマイン サンドリバー 破滅の翼 破滅ののビホールダー サラモビア セイントポート地下2階(電気の部屋) ヒュイノムセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 折れた剣 ヒュイノム ハイハシティ ヒュイソラ 決意の短刀 決意したヒュイノム サラモビア セイントポート地下1階 影のマント シャドーヒュイノム ヒュイソラ ハイテムピオ 呪いの剣の刃 抵抗のヒュイノム サラモビア セイントポート地下2階(炎の部屋) ゴブリンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 焦げたロウソク 採掘ゴブリン ミトス カナルケイブ 錆びた斧の刃 奴隷ゴブリン ブラッディマイン ブッシュ鉱山 燃える芯 奈落のゴブリン サラモビア セイントポート地下4階 ストーンセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 魔力の石 ジャイアントストーン ブラッディマイン サンドリバー 呼吸する石 モスストーン ヒュイソラ ヒポレスタ 破滅の石 狂暴なストーン ルフト アペレギオン北部 暴風の石 砂嵐 サラモビア ドライベイタ 帝国騎士セット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 鋭い槍 帝国騎士 ブラッディマイン ブッシュ鉱山 帝国の紋章 暗黒騎士 ルフト ルフト砂漠 壊れたランス 大公の家来 ルフト アルタルプト神殿 手入れされた槍 大公の残党 サラモビア トデスバルト 悪魔の槍のかけら 残酷な騎士 サラモビア プロバサルラモ 悪魔の銃のカバー 残酷な銃士 サラモビア プロバサルラモ サキュバスセット ドロップアイテム モンスター名 島名 詳しい場所 闇のしっぽ 魅惑のサキュバス サラモビア ドライペイタ北部 悪魔の角 デビルサキュバス サラモビア トデスバルト
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婦警こなた・駐車違反はハッテン場編 駅前には駐車違反が多く、新米婦警・こなたは片っ端から取り締まっていた。 「いや~、大量大量♪」 まだ夕方で、日は沈みかけ。 「お次はこの車~…って。あれ?この車って…あれ?」 シルバーのセダン。…まさかであった。 (これって、やっぱり~!) 何が、やっぱり、だ。 一方… 弁護士のくせに駐車違反をしていた柊かがみは、駅前のコンビニでトイレに行っていた。 (お昼に食べたシメサバ、傷んでたわね…あのシメサバめ!) 昼食に食べたシメサバを恨むかがみであった。 腹痛のため、やむを得ず路駐したかがみ。常備していた正○丸を飲んで、車に戻ろうとする。 (違反駐車しちゃったわね…お巡りさんに怒られちゃったりして…) 車の周りには誰もおらず、安心したかがみはキーを取り出してドアをあける。 が。 「…あれ?」 なぜか車のキーが反応しない。それもそのはず、車のドアは破壊されていた! 「えええ!?なに!?車上荒らしとか!?やだ、なんかとられてる!?」 慌てて車の中に入り、車内をみる。 助手席に置いといた鞄の書類は盗まれたらマズい。これでも一応弁護士なのだ。 「よかった、何もとられてなかった…」 安心して胸をなで下ろす。 破壊されていたドアは鍵がまんまとかからなくなっていて、その道のプロっぽい犯行。 車上荒らしの被害にあったかがみはガッカリしてしまった。 「とりあえず、仕事に戻ろっと…」 「そんなガッカリしないで、かがみん」 「そんなこといったって…て、え?」 後ろをふりむくと。 後部座席に奴がいた。 奴とは無論、日本一適当な婦警である。 「えぇぇえ!?!?」 「嬉しい?私に再会できて…♪」 かがみは驚きながらも口のニヤケが隠せなかった。こいつら。 「あんた、なんで!?!?」 「会いたかったよ~、かがみ……あれから一回も会ってないジャン」 あれとは、例の出会った日のこと。 あの日の夜、2人は会っていた。そして意気投合(出会った時には既にしていたが)、恋人になっていた。…こいつら。 「だって、私仕事が忙しくって……突然だけど…会えて嬉しい…」 シルバーのセダンの中にはピンク色の雰囲気が支配する。…こいつらは! 「…まさかあんたがドアを壊したの?」 「そだよ~」 そういってバールのようなものを見せるこなた。 車上荒らしのその道のプロの犯行は、婦警によるものだった。こなたは婦警である、念の為。 「あ・ん・た・は~~~!!」 流石のかがみも怒る。いくら何でも車上荒らしはいけない。 「よく壊したわね!!」 そう、かがみは怒っている… 「嬉しいじゃないのよ…!そこまでして私に会いたいなんて…!」 怒ってなかった。むしろ喜んでた。 「かがみんに会いたいから…つい、やっちゃったョ」 つい、やっちゃったのだった。 ついにしてはなかなか破壊的である。 「…でも、修理代…かかっちゃうわね」 そりゃそうだ。流石にかがみも払いたくなさそうだ。 「大丈夫!修理代の領収書には署宛てにするから…心配しないで」 大問題である。経費で落とそうというのだ。税金だよ、税金。婦警がやっちゃ、世も末だ。 「そっか…ならいっか」 いいのかよ。まあ、仕方ない。 2人は誰にも止められないのだった。 「そもそもかがみん、ここは停めちゃだめなんだよ」 「…ごめんなさい。実は…」 なぜ停めたか、経緯を話そうとしたがやめるかがみ。 (お昼にシメサバ食べてあたってトイレに行ってたなんて言えないわよ~!) どうでもいいところでかがみは乙女であった。 「実は…なに?」 「な、何でもないわよ」 「?まぁ、かがみだから許してあげる♪」 「…こなた、ありがと…」 恋人には優しいこなた。 「とみせかけつつ、許しません!」 前言撤回。恋人でも厳しかった。 「そ、そんな…」 「でも、かがみんだから一つ条件つけて許したげる♪」 人の車を勝手に破壊した奴に許す権利とかがあるのかは不明である。 「…なに…?」 「…ちう♪」 「…!!」 ちう、とは勿論チュー、つまりキスである。血膿とかの略ではないのであしからず。 こなたは路駐を許す代わりにキスせよと言っているのだ。変態婦警である。 こんなヤらしい婦警を前にした弁護士はというと… (…うっしゃぁ!!) なにが、うっしゃぁ、だ。こっちもまた、変態弁護士であった。 今は夕方の駅前、つまり帰りがけのリーマンとか学生とかがかなりいる。 そんな中で2人はあらぬことをしようとしていた。 …婦警と弁護士なのに! さていよいよキスをしようではないかむははは、なかがみんだったが…1つ大事なことを忘れていた。それは… (私、正○丸飲んでたんだ…!) 何が大事なことかといえば、先ほどかがみは某腹痛薬を飲んでいた。 その薬は、におい、がナカナカのツワモノなのであった。 残念ながらかがみは、ザ・乙女なのでそんな口ではキッスはできないのだった。 「はい、かがみ……して……」 (きゃあきゃあきゃあ、か~わ~い~い~~!!) 確かに頬を赤らめつつ目を瞑るこなたの表情が変態弁護士の心を壊すのは簡単だった。 だがキスしたくてもできない。なんてこった。 (やだ、したいよ…でも、するのはやだ…あぁ、シメサバめ!) やっぱりシメサバだった。 「……かがみ…?」 「…わ、私……」 「………もう、いいよ」 「え?」 シュンとするこなた。 「…いいんだよ、やっぱ私なんて好きじゃなかったんだね…」 こなたは勘違いした。明らかにキスの空気だったのにしないならそうとっても致し方ない。 「…ばいばい、かがみ…ぐすっ」 こなたは車を降りようとする。しかも半泣きである。あーあ。 「こなた…!!!」 突然かがみは降りようとしていたこなたの制服をひっぱり、そして… 「ちゅっ☆」 かがみからの熱いキス。 パアァっと明るくなったこなたはご機嫌になった。単純・純粋なこなたであった。 「ありがと、かがみん♪…でも、さっきのキスの味…」 「い、言うな!私がひたすら隠したかった事実をいうな!」 くすっと笑うこなた。全てを悟ったらしい。単純ながら理解が速いのであった。 「じゃ、かがみ…私仕事に戻らなきゃ」 「…ちょっと待った」 「…?」 「車の修理までつきあいなさいよね!」 かがみはこなたを帰そうとしなかった。 こなたもこなたで嬉しそうな表情。 もう、結婚しちゃえよ。 「…おっけー♪」 2人の恋路は終わらない。 完 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!笑(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-28 14 28 11) 何だこれww -- 名無しさん (2013-02-17 13 13 37) 俺もまぜろーい。 すみません暴走しました。 -- 名無しさん (2010-01-07 02 29 27) ハッテン場行く時はいつもメンパウ使ってます。全身敏感になってトロけそうです。 Love Herb http //kimeseku1.com -- take (2010-01-04 20 02 25) NON STOP!!! -- 名無しさん (2009-11-28 13 08 30) ひゃっほーい♪ 襲っちゃえ! 朝からのノリでした。 -- 名無しさん (2009-11-03 08 12 20) うほーい♪合体しちゃえ☆ 以上夕方のノリでした。 -- 名無しさん (2009-05-17 17 46 47) やっほーい♪渡仏だぁい☆ すいません深夜のノリでした。 -- 名無しさん (2009-05-16 02 50 03) うほーい♪ おっぱいみせろー すいません 調子に乗りました -- 名無しさん (2009-05-14 02 48 30) そうだー結婚しちゃえー♪ -- こなかがは正義ッ! (2009-05-13 12 33 00) いえーい♪結婚しちゃえー♪ …すみません取り乱しました -- 無垢無垢 (2009-05-13 12 31 10) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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炎症性腸疾患 http //www.pmet.or.jp/manual1/con07_04.htm ……画像などはここを参考に 疫学/患者像 クローン病:22395人(2003年) 潰瘍性大腸炎:77571人(2003年) 増加中。日本は欧米より少ない。CDについては西の方が多い。 発症年齢 クローン病:男性20~24歳・女性15~19歳 潰瘍性大腸炎:15~30歳(50~70歳に第2のピーク) ほとんどのIBD患者はほぼ普通の生活を送っている。ADL低下がみられるのはUCの19%・CDの34%。しかし一部の患者は自己信頼の欠如から不適応症状を起こす。患者が欲している情報は仕事・教育・住宅問題など。日本炎症性腸疾患協会や各種患者団体が力になることがある。診療にあたっては医師が直接対診し、患者の価値観をあきらかにすることが重要である。 炎症性腸疾患の診断・評価 問診・診察上重要なこと 主訴→血便が多い。反復する下痢と微熱など。 全身症状:倦怠感など。腸管外合併症検索のため、眼・皮膚・関節・口腔内症状も聞く 便:回数、性状、血液混入の量。いつから症状がありどう変化したのか明らかにする 腹痛:食事や排便との関連を聞く。 体重減少・発熱 放射線照射歴・抗生剤服用歴・海外渡航歴:鑑別上必要 口腔内所見・関節・皮膚所見に注意。場合により結節性紅斑のチェック。 腹部触診、圧痛の有無の確認。 場合によりdigital(出血と痔病変のcheck) 初回外来検査 血液検査:血算(貧血・WBC上昇)、CRP、血沈。その他一般的項目。 腹部X-p:イレウス・穿孔・中毒性巨大結腸症のチェック。 潰瘍性大腸炎診断基準 潰瘍性大腸炎(厚生省下山班改訂案) 次の(1)・(2)のどちらかを満たし、(3)を満たし、下記の疾患が除外できれば確診。 (1) 臨床症状 : 持続性あるいは反復性の粘血・血便。 (2)-(a) 内視鏡検査 : 粘膜はびまん性におかされ、血管透見像消失・粗ぞうまたは細顆粒状を呈する。もろくて易出血性(接触出血)・粘血膿性分泌物付着・多発性のびらん・潰瘍・あるいはポリポーシスを認める。 (2)-(b) 注腸X線検査 : 粗ぞうまたは細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化・多発性のびらん・潰瘍・あるいはポリポーシス・ハウストラの消失(鉛管像)・腸管の狭小/短縮。 (3) 生検組織学的検査 : 活動期には粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少を認める。緩解期には腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側にみられる。 除外すべき疾患 : 感染性腸炎(細菌性赤痢・アメーバ赤痢・サルモネラ腸炎・キャンピロバクタ腸炎・大腸結核など)、クローン病、放射線照射性大腸炎、薬剤性大腸炎、リンパ瀘胞増殖症、虚血性大腸炎、腸型ベーチェットなど。 クローン病の診断基準 クローン病(厚生省武藤班改正案) (1) 主要所見 A 縦走潰瘍 B 敷石像 C 非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫 (2) 副所見 a 縦列する不整形潰瘍またはアフタ b 上部消化管と下部消化管の両者に認められる不整形潰瘍またはアフタ 確診例 : A or B, C+(a or b) 疑診例 : a or b,Cのみ,A or Bを有するが,虚血性大腸炎,潰瘍性大腸炎との鑑別ができない. 内視鏡所見 発赤:出血・充血・血管増生 を明らかにする 浮腫:限局性・びまん性 を明らかにする 血管透見について記述する 出血:自然出血・接触出血(易出血性) を明らかにする 粘液分泌:小黄白色点を伴う発赤した細顆粒状粘膜は潰瘍性大腸炎に特徴的 潰瘍:形態(円形・地図状・不整形・縦走・輪状)・病変部位を把握する ベーチェット/単純性潰瘍 深掘れ傾向 クローン病 縦走潰瘍、縦走アフタ、敷石状病変 潰瘍性大腸炎 連続性、偽ポリープ (Matts内視鏡スコア) Grade1:正常 Grade2:軽度顆粒状粘膜で、軽度の接触出血を伴う Grade3:著明な顆粒状粘膜、浮腫状粘膜で、接触出血と自然出血を伴う Grade4:出血を伴う潰瘍多発 (日本語改変版Matts内視鏡スコア(厚生省版も類似)) Grade1:正常・血管透見像正常、易出血性なし Grade2:軽度・血管透見像なし、易出血性なしかごく軽度、自然出血なし。粘膜発赤軽度、微細顆粒状、膿様粘液なし Grade3:中等度・血管透見像なし、易出血性あり、自然出血あり。粘膜浮腫状、発赤しやや粗造。膿様粘液あり Grade4:高度・易出血性・自然出血著明。膿様粘液あり。腸管拡張不良 病理 クローン病(活動期) 非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫:結核の乾酪壊死と区別される 全層性炎:およびリンパ濾胞の数珠状集簇巣 裂孔・裂孔潰瘍 潰瘍性大腸炎(活動期) 粘膜固有層全層におよぶびまん性高度のリンパ球・形質細胞浸潤:形質細胞浸潤が陰窩底部にもみられる 陰窩杯細胞粘液の減少 陰窩の不整構造 陰窩炎 陰窩膿瘍:大きく拡張した腺管にみられることも多い 初回発作の潰瘍性大腸炎は慢性期の感染性腸炎との鑑別が難しい場合も多い。また寛解期には特異的な所見が少なく、鑑別は難しい。 クローン病 Vienna classification Consensus of the international working party for the world congress of Gastroenterology, Vienna 1998 Age at diagnosis A1 = 40 years A2 40 years Time of histological, surgical, radiological or endoscopical diagnosis, no retrospective time of diagnosis Behavior B1 = Non stricturing, non penetrating (診断時80%→10年後30%) B2 = Stricuring (診断時10%→10年後30%) B3 = Penetrating (診断時10%→10年後30%) Inflammatory masses, abcesses, fistulas, perianal ulcers are defined as penetrating. Postoperative complications are excluded Strictures can be diagnosed radiologically, endoscopically or surgically Location L1 = terminal ileum (診断時50%→10年後40%) L2 = colon (診断時25%→10年後25%) L3 = ileocolon (診断時20%→10年後30%) L4 = upper GI- tract (数%) Maximum extent of the lesions at any time before resection. Aphtous lesions or ulcerations of any size, mucosal erythema is not enough. Further data tob collected Gender F/M Ethnical background caucasian, jewish, asian, black Family history of IBD yes/no First degree relatives? Extraintestinal manifestation yes/no クローン病 CDAI 水様便または軟便の回数(1週間合計) x2 腹痛(1週間平均, 0 なし 1 軽度 2 中等度 3 重度) x5 全身状態(1週間平均, 0 良好 1 良好ではない 2 不調 3 たいへん不調 4 酷い) x7 クローン病関連症状の数 x20 1)関節炎, 関節痛 2)皮膚病変, 口唇病変 (壊疽性膿皮症, 結節性紅斑など) 3)虹彩炎, ぶどう膜炎 4)肛門裂孔, 痔瘻, 肛門周囲膿瘍 5)4以外の消化管瘻孔 (膀胱瘻など) 6)1週間続く37.8度以上の発熱 下痢に対するロペミンかオピアトの処方(0 なし 1 あり) x30 腹部腫瘤の触知 (0 なし 2 疑い 5 明らか) x10 ヘマトクリット (男性 47-Ht値, 女性 42-Ht値) x6 体重 (100-標準体重に対する%値) x1 合計 150以下 寛解, 150~220 軽症, 220~300 中等症, 300~450 重症, 450以上 劇症 関連ページ Advertisings
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「やれやれ。照星君もなかなかしぶといね。あれだけの拷問を受けながらまだまだ理性は残している」 「そろそろ気づいた頃かもな。ウチらの本当の目的に」 「おやデッド君。よくここまで来れたね」 拷問部屋から出るとムーンフェイスは視線を下に移した。 奇妙な来訪者だった。 陳座していたのは1mほどの赤い筒だった。重々しい存在感は視界に入るなり「でん」、無遠慮なる音を立てた。 「ああもう、遅、遅かった。ウィルさぼらんように見に来たけど、あかん、あかん。やっぱウチの武装錬金、めっちゃ重い。 便利で頑丈なんやけど重すぎるさかい、移動、移動、めっちゃしんどい。着くの遅い。しかも通気性悪いから暑い、死ぬ」 息も絶え絶えという調子だ。薄く目を細め廊下を見ると荒れ果てていた。壁のところどこどに爆破の跡があり、更に何か 印刷された紙が焦げも露に散らばっている。床のところどころには何か引きずったと思しき痕跡がある。蒼黒くくすんだ 床板の削られようときたら獣が暴れたといって通じるほどだ。その他、円筒形にくぼんだひび割れなど。 「むーん。爆破の反動で移動してきたらしい。しかしどう反応すべきだろうね。重いなら武装解除したらどうだい……などと いえばキミはきっと傷つくんじゃないかな」 手を銃へとすぼめながら笑いかける。筒の右上に無数の縦線が走った。それがどんよりとした気落ちのエフェクトだとい うのは急転直下湿り果てたソプラノがいやというほど証明していた。 「体が体やっからなあ……」 筒が壁に向かってやや傾いた。人体構造に当てはめれば「俯き」だろうとムーンフェイスは分析した。 「一応慣れとるし下手に気ぃ使われるとそれはそれでアレなんやけど、その、やっぱり言われたら言われたで心にチクリと くる訳やし……ああなんやろこの葛藤」 言い訳がましくボソボソ喋っていたら筒はしかし「いやそーやなくて!」と叫んだ。そしてとてとてと筺体を揺すりながら小刻 みに前身し、ムーンフェイスに体当たりした。 厳密にいえば彼の抱えている、ウィルめがけ赤い表面をブチ当てた。 「起きんかいぼけー! おにーちゃんに手間かけさたらあかんやろーがい!」 「……」 「おま!! いま起きたやろ!! 起きたけどウチと話すのめんどいから寝たフリしとるんやろう!! 見たで!! 見た からな!! 何かビクリなって腑抜けた図体に力入ったん!! 覚醒や!! 目覚めの時や!! あったらしい朝が来た! きーぼーうの朝だーーー!! それやのになにお前やり過ごそうとしとんねん!! きぃー!!」 実に騒がしい筒である。どーん、どーんと叫びながら引切り無しに体当たりを繰り返している。 「だいたいお前ウチより年上やろ!! しゃんとせい!!」 「……前から言ってるけど年下だってばあ。だってこの時代にはまだ生まれてないもんボク」 「屁理屈こねんな!! いまこうして存在しくさっとるお前の肉体年齢はどう見てもウチより上やろが!!」 「えー。分からないよ……。だってデッドいつも筒だし」 「お・ま・え・はー! 昔ウチの素顔とか裸見ておきながらよくもヌケヌケとー!」 「うぅ。無視してもめんどいよデッド。分かった。やるよ。やればいいんでしょ」 ウィルはしくしくと涙を流しながら掌を翻した。 同刻。血膿に突っ伏す照星の遥か上で空間が弾けた。水色の光芒を孕む線が4平方mの正方形を描くや”空間そのも のが”ガラスのように弾け飛び不気味な風切り音が死臭の部屋を突き抜けた。破れた空間から覗いたのは闇だった。この 世のどんな穴よりも深く、底が見えない……直視したが最期、肉体も魂が何もかも引きずり込まれそうな”虚無”だった。そ の左右めがけ肉厚の扉が観音開きになっていたが、その水銀色の輝きさえ位相を歪めダクダクと呑まれていた。 その虚無から節くれだった一本の影が照星に向かって殺到した。影は腕の形をしていた。異形だった。長短さまざまの黒 ずんだ蔦を何万本もより合わせた筋肉のところどころに生臭く輝く鱗や粘膜がこびりついていた。皮がすりむけ薄紅色の 肉を覗かせている部分もあれば虹色の羽毛と薄茶けた体毛が乱雑に入り混じっている部分もある。指は三本でいずれも 形こそ人間のそれだが太さは電柱ほどあった。更に肉など一切なくただただ醜く肥大した骨だけだった。血膿でようやく かろうじての彩りを帯びた指どもに握られたとき照星の全身の骨が絶望的な悲鳴を上げた。意識なき照星の顔が苦悶に 歪みその口から血しぶきが飛ぶ中、腕は帰還した。何も見えぬ虚無の中へ。 ガラスのように舞い散った空間が逆回しのように元へ戻った。 照星の姿は部屋になかった。腕に掴まれていたようだ。腕ごと虚無の中へ消えたようだ。 何かを殴るような巨大な音が部屋を揺るがした。音は響くたび遠ざかっているらしい。5回目の打撃音はとても微かで部 屋はそれきり静寂に包まれた。 「同居人にやらすけどいいでしょー。アイツ制御するの結構骨だし」 しばらく後。ウィルは壁際にへたり込んでいた。 廊下は濃い青の合金で造られている。近未来的な様相を呈しあちこちで四角いライトが白い光を振りまいていた。それ に淡く焙られるウィルの顔つきはひどく疲れ切っていた。薄く目を細め汗ばむ彼はどこか病的な色気があり光の効果も相 まってデッドさえ「お、おお」とたじろぐ様子を見せた。 (同居人、か。そういえば。居たね。確かに) ムーンフェイスは思い出した。照星誘拐後起こった出来事を。 ──突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。 ──「止まれ」 ──ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。 ──そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。 ──神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。 ──胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。 ──「こりゃビックリ」 ──感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。 ──「失礼。少々気性の荒い者が同席していましてね。坂口照星は殺さないよう命じてありますが、 ──それ以外には容赦がなく見物に骨が折れる状態。先に断っておくべきでしたね。申し訳あり ──ません。深くお詫びいたします。戦士を2、3殺したので落ち着いているかと、つい」 「で、あのとき私に攻撃しかけたのは誰なのかな? いや……『何』かと聞くべきかな?」 「誰も何も……」 ウィルはけだるそうに欠伸をしながら立ち上がった。 「あんたの知り合いでしょ? アレ」 「むん?」 「そやな。あのとき攻撃されたんもそのせーかも知れへんでー?」 ムーンフェイスの目が点になった。記憶を探るが当たり前というかああいう異形の存在にやはり見覚えはない。もしかす ると人間時代の知己が改造されああいう姿になっているのかも知れないが……そうだとしても腑に落ちない。 (調べる筈がない。怠惰な少年が米ソ冷戦時代まで……) となると「ホムンクルス・ムーンフェイス」の来歴を聞きかじる程度で──… (把握できる人物。するとL・X・E関係ぐらいしかない訳だけど) 早坂姉弟やパピヨンは健在。爆爵、金城、陣内、太、細は死亡。ヴィクターは月へ。 (一番可能性のあるのは震洋君だがしかし違う。私が襲われたとき彼は逆向君に体を乗っ取られ銀成市に潜伏していた) (じゃあ一体……誰なんだい?) (すげえ) 空皿の山を金髪ピアスは唖然と見た。回収しにきたウェイターたちも同じ感想らしく凄まじい目で少女を見ている。 (俺の記憶が確かなら15回目だぞ。回収) おい急いで作れー!! 厨房の方から騒ぎ声が聞こえてくる。どうやらまだ注文の半分も作れていないらしい。先ほど 店長らしい人間が寝ぼけ眼を緊張に染めながら入ってくるのが見えた。従業員用ではなく顧客用の入口から入って きたのを見るにつけ余程慌てているらしい。焼き肉ポーションが底をついたとかそういう悲壮極まる叫びさえ聞こえて くる。米を使った商品については深夜突如の大量注文のせいか一部お作りできませんがいいですかという急使すら 何度か来た。「ないのか」。そのたび少女は寂しそうな顔で人差し指を咥え瞳を潤ませた。潤ませながらもコクリと 頷き机上の皿へと手を伸ばす。はぐはぐはぐむがむがむがむが……。実に元気よく食べている。ハムスターか何か のようなせわしなさだ。小児性愛者では決してない金髪ピアスさえなんだか「良かったなァ」と和む光景だ。 ひとしきり食べ終わると少女は皿を置き、きらりと金髪ピアスを見上げた。大きな瞳はどこまでも澄みわたり、この 世の総てを信じ切っているようだった。眺めているだけで薄汚れた20代の垢がこそげ落ちる気分だった。 「紹介がまだじゃったの。わしはイオイソゴというものじゃ。本名はイオイソゴ=キシャク」 「イオイソゴ……?」 「おうよ。盟主さまが僕(やつがれ)の一人……木星の幹部じゃ」 . ──「木星、イソゴばーさんwww」 ──「気をつけなwwww 見た目はチビっこい可愛らしい感じだしwwwww」 ──「温和で穏健だからww暴力もエンコ詰めも拷問もしないけどwww」 ──「惚れられたが最後、喰われちまうぜ?」 「……あの、俺イケメンじゃないですし、ダ、大丈夫ですよね?」 「ん? ひょっとして誰かからわしのこと聞いとるのか? なら話が早い」 パスタを啜り終えると彼女はソースまみれの唇を歪めた。「ひひっ」。とてもとても薄暗い笑みだった。 「そーじゃーよ~。わしはこう見えど人を喰ったやつ! わーるーい、やーつーじゃ~」 そういって彼女はバンザイし掌だけ幽霊のように大きく曲げた。どうやら威嚇しているらしい。とはいえ腕をめいっぱい のばしてやっと金髪ピアスの頭に届くかどうかという身長だ。鼻の低い可愛らしい顔つきと相まってまったく怖くない。 「むう。これでもわしの父御はすごいやつなんじゃぞ」 「はぁ。どんな人すか?」 「薬師寺天膳!!! 伊賀の忍びで不死身じゃ!!」 本当か、どうか。それはともかく、 「このやろー!! びびれー!! びびるのじゃー!! がたりと立ち上がったイオイソゴは金髪ピアスをぽかぽか殴り始めた。きゃあきゃあと幼い笑いを立てるさまは殴るという よりじゃれるという方が相応しかった。ポニーテールとフェレットたちがじたばた揺れるさまは金髪ピアスの心を和ませた。 この晩さんざんな目にあってささくれだっていた心が癒されるようだった。子供と笑い合う親という存在どもがどうしてあそこ まで和やかなのか理解できた。 そのうちイオイソゴはじゃれるのに疲れたのか。くたりとその場に座り込み 「だっこ」 唇を尖らせた。 「え?」 聞き返すと小さな顔が露骨にむくれた。拗ねた苛立ち。ぱたぱたする足は割りたての割りばしのようにまっすぐだった。 「もーわしつかれたあー。自力じゃ立てん。だっこ! だっこしてくれじゃ!」 そういって澄んだ大きな瞳を向けてくるイオイソゴはとても保護意欲をかきたてる存在だった。生まれて間もない子猿の ような……髪は漆で湿っているように艶やかで輝かしく、控え目な店内照明のオレンジさえ白く瑞々しく照り返している。 「だ、だっこがダメならその……」 人指し指を咥えながらイオイソゴは瞳を赤く潤ませた。羞恥と躊躇がとても濃い遠慮勝がちな表情だ。 彼女は視線を外し 「な、撫でるだけでもええぞ……?」 それから恐る恐る見上げてきた。 「~♪」 数分後。彼女は金髪ピアスの胸の中にいた。席は変わり一番奥の角のソファーだ。あちこち灰色に捲れ上がった古めかしい 緑の皮張りの上。そこでイオイソゴは抱きかかえられていた。後ろから。太ももの上にちょこりと腰かけている。ころころと喉 を鳴らしていた彼女が振り返る。マンゴーの爽やかな香りが広がった。髪を撫でる。それだけのコトがとても嬉しいらしい。 幼い老女はくるくると心地よさそうに声をもらし瞳を細めた。 そして席を立ち隣へ座り、こつり。頭を金髪ピアスの左肩に当てた。凭(もた)れかかった。 小さな体はやがてススリとソファーを滑り隣の男へ密着した。甘えている。甘えられている。未知の体験。どぎまぎと見返す。 純白の笑いが帰ってきた。いわゆる小児性愛じみた背徳を感じた自分を愧じてやまぬほど真白な笑顔だった。心から人を 信じ心から純粋な好意を差し向けてくれる……子供の笑顔だった。頼りない両腕で大人のそれを抱え込み何か他愛もない── 取りとめのなさがとても子供らしい──呼びかけをひっきりなしにやっている。黒目がちな大きな瞳をきらきらさせる鼻の低い 少女はとても悪の幹部には見えなかった。不明瞭な返答にさえけらけら笑い喜んでくれる彼女はやはり人間としてとてもとても 守りたくなる存在だった。 すみれ色した見事な後ろ髪が垂れた。うち一房が肩にもかかった。その軽さをどうしていいか分からない。そんな顔する 金髪ピアスに 「妹さん? かわいいですね」 でも深夜の外食はほどほどに。カップルが笑いながら通り過ぎた。リヴォルハインはといえば無言で輝くような笑みを浮か べながら金髪ピアスとイオイソゴを交互に眺めている。散歩行くの待ってる柴犬。とは社員の描く社長評。 「とにかくじゃ。来てもらったのは他でもない。ヌシら2人の今後をどうするかという話をしたい」 少女の声が厳かになると同時に金髪ピアスの脳髄に電撃のような感触が走った。 そして、理解した。 .(このコ……500年以上生きてる…………!?) リヴォルハインからの提供らしい。イオイソゴにまつわる様々な情報が脳髄を暴れ狂った。 曰く、武田信玄一派に連なる歩き巫女のまとめ役。 曰く、伊賀の高名な忍者の娘。 曰く、伝説的な忍び。 曰く、大食い。 妊娠中の女性を拉致しチワワの幼体を埋め込んだという情報さえ頭を駆け巡った。 (そして横文字が苦手!) (しかも鼻が低いのを気にしている!!) 「これ。話を聞かんかい」 顎が小突かれた。といっても何が起こっているのか察しているらしい。くの一は笑っていた。 「簡単に事情を説明するとじゃな。りばーす、ぶれいく、ぐれいずぃんぐ、でぃぷれす、くらいまっくす……といった連中はい ま、とある決戦の下準備のため銀成市をうろついておる」 「の、ようですね」 「わしもまたそうなんじゃが……ヌシら2人に関しては彼らほどの企図や方針を持っておらん」 「はい! はい!! 及公は盟主様からちゃんと命令貰ってるのである!!」 「ひひ。盟主様がどれほど気まぐれで場当たり的か知らぬヌシでもあるまい。方策など無きに等しいわ」 「つまり……最年長のあなたの指揮下に入る方が得策。という訳ですか? 確かあなたはまとめ役……他の、アクの強い 連中(マレフィック)たちの調整役……」 察しが早い。ローストチキンを大きく噛み破るとイオイソゴは満足げに頷いた。 「でじゃな。金髪よ。結論からいえばりう゛ぉはわしの手伝いを、ヌシはくらいまっくすとの交代を、それぞれして欲しい」 「クライマックス? あの冴えない女とですか?」 「おうよ。奴はいまでぃぷれすともども隣の市との境界線を巡っておる。おっと理由は聞くな。言われたままやってくれれば 後はまあ母ともども逃がしてやるわい」 逃がす。その単語に唾を呑む。居住地たる銀成市からそうするというコトはつまり──…。 窓から覗く夜景を見る。何の変哲もない街だ。東京辺りと比べれば娯楽も少ない。学生時代はつまらぬ街だと不満を 覚え華やかな都会に憧れたものだ。 目を泳がせる。従えば自分たちの安全”だけ”は保証されるのだ。逆らったとしても勝てる見込みなどあろう筈もない。 今晩出逢った男女のうち誰か一人でも勝てそうな相手がいるだろうか? いない。 そもそも彼らはいったい何を目論んでいるのだろう。 破壊? ただ単純に街を破壊したいだけなのだろうか? (それも何か違う。こいつらの敵意とか悪意というのはもっと奥底に押し込められてるもんだ。目的のためなら何であろうと 平気で壊せる恐ろしさがある。けど、壊すだけじゃ満たされないって嫌な歪みもある。だから耐え凌ぐっていう概念がある。 何のために耐え凌ぐ? 簡単な話だ、いまこのコが自分で言った。もっと大きな解放にたどり着くための……) 下準備。 リバースとブレイク。 グレイズィング。 ディプレスとクライマックス。 そしてイオイソゴ。 彼らはそれぞれ何か思惑を秘めて動いている。 めいめいの好き勝手のためではなく──… (組織の、盟主の理想を叶えるための? 俺はどうすべきなんだ?) (俺は……銀成市が好きだ。危機を知ってやっと気付いた) (なーんもない街だけど……壊されるなんて嫌だ) (じゃあどうすればいい? どうすれば防げる?) (戦うのか? 勝てないのに) . (だったら) (だったら……) (戦士たちに知らせるっていうのが一番良i──…) 破裂音。思考が現実に引き戻される。音は大きかった。店内の密かな喧噪が途絶した。横を見る。厚手のマグカップを 握るイオイソゴがそこにいて、まさにいま叩きつけたばかりという余韻が漂っていた。白いカップの下部はひび割れており、 小さい破片がいくつか床へ落ちる最中だった。 「考えるのは勝手じゃが……やめた方がいいぞ。古来知り過ぎた奴の末路などまったく無残なもの」 子供が力余って叩きつけた程度に解釈したのだろう。店内に喧騒が戻ってきた。明け方近くのささやかな喧噪。それに さえかき消されそうなほど静かな声でイオイソゴは要望を述べた。 「中庸凡庸こそ美徳よ。詮索など全く以て無用。ひひ。無用無用……」 苦み走った笑いを浮かべながらイオイソゴは何かを金髪ピアスを喉笛に突きつけた。黒い舟形をしたそれはとある筍型の 菓子とほぼ同じ大きさだ。それを親指と人差し指で挟み込み軽く揉みねじる少女の顔が近づくズズイ。 声は、一層低い。 「僅かとはいえ我々に叛意を催しているようじゃが無駄な事。ひひ。人間という奴はおかしなものでのう。ふだん堕落を貪り 得手勝手やらかしておる癖にいざ澆季末世(ぎょうきまっせい)……滅びを撒くもの近づかば突然倫理をうるさくしおる」 白い肌と滑らかな髪が眼下で踊る。あどけない少女は相変わらず笑っている。しかし大きな瞳はまったく笑っていない。 「ただなる拒否反応。ひすてりー且つあれるぎーな驢鳴犬吠(ろめいけんばい)を正義とばかり血相を変え唾を飛ばし……ひひ」 ただ射すくめるような光を放っている。声はまったく静かなままだが眼光と同じ清冽(せいれつ)さを孕んでいる。金髪ピアスは 震えた。今まで浴びたあらゆる怒鳴り声より恐ろしかった。彼は悲鳴を喉奥でうろつかせたままただ歯だけをガチガチ打ち 合わせた。それしかできなかった。 「分かるな? 貴様がいま抱きかけている義憤というのはまるで土に根を張っておらん。いや、義憤ですらない。これまでの 腑の抜けた行住坐臥の端々で雇用主なり政治家なり暴力団なりに舌打ちとともに覚えた場当たり極まる怒りじゃ。吹けば 飛ぶ寝ても飛ぶ……小さな、どの対象にも炸裂しなかった庶民の……いいな。理解しろ。貴様はどうしてここにいる? え?」 「ひっ」 「悲鳴などいらんわ。答えろ。え? 今宵さんざ痛苦を味わう羽目になったのは……どうしてじゃ?」 喉笛に黒い舟形──耆著(きしゃく)という忍者が用いる方位磁石の一種──がめり込んだ。肉が溶けた。ジュらジュら とした液状に何かに置き換わった。その感触にぞっとしながら震える声で応答する。 「青っち……あんたの仲間のリバースって奴を襲おうとしたから……」 「ひひっ」 皮肉めいた笑いが漏れた。強姦未遂が少々力を手にした程度で正義面か。尊厳も何もかもせせら笑っていた。 「それもまあ人間らしくて好きではあるが……やめておけ」 イオイソゴは顎をしゃくった。血走った眼を必死に動かし後を追う。見せつけられたのは……2m超の貴族服。 「筒抜けじゃぞ。ひひ。成程やつの武装錬金は叛意をそそるだけの力を与えはしたが、それゆえ貴様の思考や感情など 丸分かり……。奴のところに行くよ。総てな」 「店員さん店員さんチーズケーキひとつー! 旗立ててね旗ー!!」 リヴォルハインは元気よく手を上げチーズケーキを注文した。社員の危機にまるで無関心らしい。そのくせ何もかも知っている。 詰んだ。情けない表情で金髪ピアスは頷いた。あなたの嘲笑は正しい。降伏の肯定だった。 「いいな? 忘れるな。おとなしく従っている限りヌシと母御の安全は保障してやる。一時とはいえ仲間は仲間。尊厳は犯さ ん。れてぃくるの目的は悪だが組織自体の質まで悪であってはならん。助ける、といった以上わしは必ずヌシを守ろう」 ゆっくりと耆著が剥がれた。喉の肉はみるまに再生した。それを凄まじい半目で眺めた彼女は明らかに欲情していた。 涎を垂らし腹を鳴らし……空腹のもたらす動物的本能に心のほとんどを支配されていた。 「…………」 唖然と眺める視線に気づいたのか。からぜ気を一つ打つとイオイソゴは 「わしもちーずけーきひとつー!! 旗立ててくれじゃ旗ー!!」 元気よく手を上げた。声はもう元通り。底抜けに明るかった。今の詰問がウソだったのではないかと思えるほどだ。 (喉も治っているし……夢、か?) そう思いたい自分の世界の中で絶望的な出来事が起こった。何気なく目にしたマグカップ。それ目がけて白い破片が、 ”下”から降ってくるのを。思わず目をこする。床に落ちた幾つかの破片はまさに戻ってくる最中だった。 「ひひ。根来めも斯様な忍法を使っておったかのう」 あたかも割れた過程を逆再生しているように。 やがて破片は陶器の鬆(す。穴)にピタリと合致した。ひび割れもいつしか消滅している。 ただ唖然とその光景を眺めているとカップから耆著が飛び出した。横薙ぎの腕で軽やかにそれを受け止めたイオイソゴ 今度はとても意地の悪い笑みを金髪ピアスに向けた。チロリと舌を出す様子はお茶目な少女という風だがそぞろに戦慄 を禁じ得ない。 「とにかくじゃ。くらいまっくすめは明日から演劇に参加することになったからの。りう゛ぉにもそっちへ行って貰おうと思っとる」 演劇? そんな遊びじみたことのために下準備とやらを放棄するのだろうか? 疑問に気付いたのかイオイソゴはくつくつと薄暗い笑みを浮かべた。 「なぁに。実をいうとじゃな。演劇をやってもらった方がわしの目的に合致する。りう゛ぉの調整体収奪もやりやすい」 「そう!!! 及公が武装錬金を一気かつ目立たず発動させるには演劇こそ一番である!!!」 「…………」 「おっと。気を使わせたかの? すまんすまん。わしの目的について語ってやらねば動き辛かろう」 「人探し、じゃよ」 「人探し?」 「ああ。最後の幹部。マレフィックアースの器となりうる者を……わしは探しておる」
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美希が手に取ったのは淡いクリームイエローのニット。 優しい色合いと、女の子らしい可愛らしいデザイン。 (せつなにはちょっと甘過ぎるかしらね?これはどっちかと言うと………) せつなは色白だから、割りと着る選ばない。こう言う色もいいだろうけど、 どちらかと言えば、せつなの顔立ちにはもう少しはっきりした 色の方が映えそうだ。 それか、淡い色ならデザインはシンプルで甘さを抑えたのが…… つらつらと考えていると、いきなり横からキュッと鼻を摘ままれた。 「!!!っちょっと、何よ!」 「もう、美希。今日は誰の服選ぶのか分かってる?」 軽く腕組みしたせつなが憤慨したようにジトっとねめつける。 勿体付けた仕草で、怒ったポーズだけなのは丸分かりだが、 真剣に選んでいたのに文句を言われる筋合いはないと思うのだが…… 「無意識?気付かずやってるなら大したものよ。」 せつなは美希の持っているニットを指差して苦笑する。 どの店でも最初に手に取るのは、パステルカラーの可愛いデザイン。 そして少し悩んだ後、全然違う感じのヤツを選んで私を呼ぶの、 「せつな、これは?」って。 「そんな事ないわよ。現にこれだって……」 美希は、手に取って悩んでいた事を説明するのだが… 「だからね……」 せつなは相変わらず苦笑いで指摘する。 「イマイチだって分かってるなら、わざわざ手に取って思い悩まなくても いいんじゃないの?」 一度や二度なら分かるけど、何回やってるのよ? 「あー……。」 言われてみれば確かにそうなのだが……。 しかし素直に認めるのも癪に触る、と言うか……。 「ま、いいんだけどね。あぁ、でも可愛いわね。これ。」 ブッキーにすごく似合いそう。 ニヤニヤしながらそんな事を言う。 まったく、せつなも扱い辛くなったものだ。 「何よ、憎たらしいんだから。」 「どして?ブッキーに似合いそうだから、そう言っただけじゃない。」 「だーかーらー、何でそこでニヤニヤするのよ。」 「ブッキーがいなくて残念よねー。」 「だからー、そのニヤニヤはね……」 ずっとこんな調子で軽口を叩き合いながら時間が過ぎる。 からかわれてるのに全然腹が立たないのは何故だろう。 せつなは美希が祈里を想っている事を平気でからかってくる。 美希が祈里を大切にしているのを当たり前の事実として。 それが何だかくすぐったい。くすぐったくて、少し嬉しいと感じてしまう。 本当は、告白どころか気持ちを確かめ合う事すらしてないのに。 せつなには、自分達の姿は恋人同士として映っているのだろうか? それとも、仲の良い友人と言うのはこう言うものだと思っているのだろうか。 何にせよ、美希はそんなせつなといると、まるで祈里と公認の恋人同士 のような気分になる。 付き合い始めの頃のせつなは、異世界育ち故の感覚の違いと、 世間知らずから来る天然っぷりで、かなり美希を慌てさせた。 当初は、また手の掛かるのが増えたもんだと頭を抱えたくなったものだ。 しかしながら、もともと頭の出来は良い上に順応性も高かったのだろう。 まだ大分浮世離れしたところがあるとは言え、かなりこちらの常識に追い付いて来た。 付き合い方が分かって来ると、美希にとってせつなはラブとも祈里とも違う、 気楽な関係でいられる事が分かった。 最大級に格好悪い姿を見られてしまったせいもあるだろう。 せつなといると、自分でも驚くほど肩の力が抜ける。 何となく、せつなにはみっともない姿を見せても平気な気がするのだ。 どんな顔を見せても、「美希にはこんな面もある」、 そう受け入れて貰える安心感があった。 勿論、ラブや祈里だって美希の欠点や弱い面を理解してくれてる。 理解した上で、「完璧でありたい」と、努力する美希を姉のように 頼りにしてくれてる。 長い時間を掛けて、培ってきた3人のポジションだ。 ずっとそれで上手くいっていて、それに満足してきた。 相談に乗ったり、頼られたり。時には叱ったり。 でもせつなとの関係には、そう言った『お約束』が一切通用しない。 あくまで対等で、気を使わない、親友。それが今の美希とせつなだ。 「そう言えば、ブッキー今日は合流出来るかも知れないんでしょ?」 「そうね、ちょっとメールでもしてみる。」 リンクルンを手に取ると、美希は初めて既にメールが来ていた事に気付いた。 直ぐに返信を、と思ったが着信時間を見ると一時間近く経っている。 今さら返信しても忙しい中かえって気を使わせるだけかも知れない。 少し迷ってからリンクルンをしまった。 (帰ってからゆっくりメールするか、電話でもいいわよね。) 「ブッキー、今日は無理だって。忙しいみたいよ。」 「そうなの?」 残念ね。そう呟くせつなを見て、美希は祈里が来ない事に 少しホッとしている自分に気付き、戸惑った。 そしてここに祈里がいたらどうだったかな?と、美希は考える。 たぶん、今とは全然違う表情をしているだろう。 もっと緊張して、神経を張り詰めて。 こんな風に、気楽にせつなと笑い合って過ごせはしなかっただろう。 だから……… チクリ…、と針で突いたような罪悪感に似た痛みを感じる。 せつなに指摘されたように、いつも美希は心のどこかで祈里の事を考えてる。 そして、今日は無意識にそれを忘れようとしていたから。 今朝、美希が待ち合わせ場所に行くとせつなはもう待っていた。 彼女は美希に気付かずメールを打っていた。その顔には柔らかな微笑みが 浮かび、相手はラブだろうと自然に想像出来た。 足音を忍ばせ、そっと後ろからリンクルンを覗き込む。 せつながビクッと振り向く。 「もう!脅かさないでよ、美希!」、そう言うせつなの顔が微かに 紅潮していた。メールを見られたかと焦ったのだろう。 美希に見えたのは、恐らく文末に付け加えたであろう一言だけ。 『私も大好きよ。』 からかってやろうと覗きこんだけど、やっぱり止めた。 何だか、自分が虚しくなりそうだったから。 メールを打ってたせつなの、少しはにかんだ微笑み。 彼女はきっと同じ表情で、そして少し頬を染めながらも 真っ直ぐにラブを見つめて同じ台詞をいつも言っているのだろう。 『私も大好きよ。』 正直、羨ましさに気が遠くなりそうだった。 自分が祈里にそんな風に言われる日なんて来るのだろうか、と。 せつなと別れた後、帰る道すがら祈里にメールした。 祈里が来られなくて残念だった事。 祈里に似合いそうな服を見付けた事。 今度は祈里の服を見に二人で出掛けよう、と締め括った。 家に着くと、シャワーを浴び着替える。 今日は楽しかった。自然と頬が緩む。 リンクルンを見るが、まだ祈里からの返信は無い。 (電話してみよっかな?……でも、まだ手が離せないのかな…?) もう一度、祈里のメールを見直す。 「用事を切り上げられそうにないので、今日は無理みたい。」 一行だけの、絵文字一つ無い素っ気ないとも見えるメール。 少し、祈里らしくないように思えてきた。 合流するかも、と言っておきながら行けなかった。 その事に対して、いつもの祈里なら「ごめんなさい」の一言くらい 入れそうなものだ。 それに、せつなの事に全く触れてない。 せつなには祈里からメールは入らなかった。 それなら、「せつなちゃんによろしく」くらいは書いても良さそうなものなのに。 (……アタシ、ひょっとして、マズった?) そもそも、今日の祈里の用事は何だったのか具体的には聞いてない。 家の事、と言ってたから病院の手伝いかと思っていたけど…。 もしかしたら、用事なんてなかったのでは? でも、なんで?理由が分からない……… 美希は自嘲気味な笑みを漏らす。 既に癖になっている。 祈里の何気無い言葉。ふとした拍子に見せる表情。 その中にある祈里の心を深読みしようとするのが。 祈里が何を言いたがっているのか。 何を求めているのか。 言葉に出来ない言葉。表に現せない思い。 それを砂利の中から砂金を選り分けるように、掬い上げてきた。 祈里の求める美希でいるために。 いつだって、完璧でいるために。 (……考え過ぎよ…ね。) ついつい、どんな何気無い素振りにも意味があるのではないかと 身構えてしまう。 確かに、祈里らしくないメールかも。 でも、考えようによっては忙しい中合間を見付けて送ったから 簡単な文面になってしまった。 本当なら、最初から行けないと言ってたんだから、そのままにしておいても 良いだろう。 それを律儀に再度メールを送ってくるのだから、祈里の気遣いと 取れなくもない。 むしろ、その方が自然だろう。 美希は溜め息を付く。 ふわふわとした心地好い疲れに浸っていた心身が、 一気に現実の重力に引き倒される。 リンクルンを眺めながら、美希はイライラしている自分を自覚した。 このメール、多分祈里は美希に何かを読み取って貰いたがっている。 間違いない、と思う。今まで伊達に神経を使って来た訳じゃないから。 でも、美希はそこで考えるのをやめた。 再度、メールを打とうとしていた指を止め、無造作にリンクルンを 放り出す。 (言いたい事があるなら、ハッキリ言えばいい。) 今日、一緒にいたのがせつなでなかったら、美希はメールに一時間も 気付かずにいること自体なかったろう。 直ぐに電話なりメールなりをして、祈里の真意を探り、求める答えを 与えられるように必死になっていただろう。 でも、今日は楽しかったから。 何も考えず他愛ないお喋りをして、ふざけ合って。 疲れる事を考えたくなかったのだ。 祈里が好き。ずっと好きで、祈里の望みを叶えてあげらるのが嬉しかった。 笑顔が見られるだけでよかった。 自分にだけ見せてくれる我が儘を可愛いと思ってた。 それでも……… いつの間にか、ピンと張り詰めていたはずの心の端っこが 撚れてくたびれていた。 ぷくりと血の玉が膨れる程度の傷。意識しなければ痛みを 忘れている時間の方が長い。 けど、傷の中に残った棘は柔らかな血肉を化膿させ、気付けば ぶよぶよとふやけた皮膚の下に膿を溜め込んでいた。 (ねぇ、祈里。アタシ今まで随分頑張ったと思うの。) あなたは、アタシに何をしてくれた? アタシのために、何かを頑張ってくれた事、ある? 祈里が好き。こんな風に思いたくない。 祈里に見返りを求めた事なんてなかった。 好きで与えてただけ。祈里のサインに上手く答えられるのが 幸せだったはずなのに。 どうして、アタシばっかり…… 胸の傷が疼く。熱を持ち、ほんの少しの刺激で血膿が溢れ出しそうだ。 綺麗に洗い流しても、そこには醜く引きつった傷痕が残るだろう。 せつななら、こんな事しない。 言葉はまるで、相手の気持ちを確かめる謎掛けのよう。 仕草の一つ一つに、まるでバレエのマイムのように意味を持たせる。 (もう、いいじゃない。もう、何も考えたくない。) せつなはラブへの愛情を隠さない。 唇から、指先から、まばたきする瞳から、ふとした瞬間に ラブへの想いが零れるのが見える。 せつなの中はラブで溢れている。 曇りの無い、無垢な想いを躊躇いもなくラブに捧げている。 羨んだって仕方ない。 彼女達は彼女達。自分達は自分達だ。 ずっとそうしてきた。誰のせいでもない。 ねぇ、祈里。またアタシが考えなきゃいけないの? アタシが何も気づかなかったら、あなたどうする? アタシ、もう止めるかもよ?ちょっと、疲れちゃったのよね。 好きよ、祈里。でもね……。 あなたが欲しいモノと、アタシが欲しいモノは、違ってきちゃったのかも。 アタシが何も言わなくなったら、あなたはどうするの? その日、美希は結局それ以上メールも電話もしなかった。 そして、祈里からの返信も朝になっても来なかった。 避-552へ
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第3話 想いの比重 美希が手に取ったのは淡いクリームイエローのニット。 優しい色合いと、女の子らしい可愛らしいデザイン。 (せつなにはちょっと甘過ぎるかしらね?これはどっちかと言うと………) せつなは色白だから、割りと着る選ばない。こう言う色もいいだろうけど、 どちらかと言えば、せつなの顔立ちにはもう少しはっきりした 色の方が映えそうだ。 それか、淡い色ならデザインはシンプルで甘さを抑えたのが…… つらつらと考えていると、いきなり横からキュッと鼻を摘ままれた。 「!!!っちょっと、何よ!」 「もう、美希。今日は誰の服選ぶのか分かってる?」 軽く腕組みしたせつなが憤慨したようにジトっとねめつける。 勿体付けた仕草で、怒ったポーズだけなのは丸分かりだが、 真剣に選んでいたのに文句を言われる筋合いはないと思うのだが…… 「無意識?気付かずやってるなら大したものよ。」 せつなは美希の持っているニットを指差して苦笑する。 どの店でも最初に手に取るのは、パステルカラーの可愛いデザイン。 そして少し悩んだ後、全然違う感じのヤツを選んで私を呼ぶの、 「せつな、これは?」って。 「そんな事ないわよ。現にこれだって……」 美希は、手に取って悩んでいた事を説明するのだが… 「だからね……」 せつなは相変わらず苦笑いで指摘する。 「イマイチだって分かってるなら、わざわざ手に取って思い悩まなくても いいんじゃないの?」 一度や二度なら分かるけど、何回やってるのよ? 「あー……。」 言われてみれば確かにそうなのだが……。 しかし素直に認めるのも癪に触る、と言うか……。 「ま、いいんだけどね。あぁ、でも可愛いわね。これ。」 ブッキーにすごく似合いそう。 ニヤニヤしながらそんな事を言う。 まったく、せつなも扱い辛くなったものだ。 「何よ、憎たらしいんだから。」 「どして?ブッキーに似合いそうだから、そう言っただけじゃない。」 「だーかーらー、何でそこでニヤニヤするのよ。」 「ブッキーがいなくて残念よねー。」 「だからー、そのニヤニヤはね……」 ずっとこんな調子で軽口を叩き合いながら時間が過ぎる。 からかわれてるのに全然腹が立たないのは何故だろう。 せつなは美希が祈里を想っている事を平気でからかってくる。 美希が祈里を大切にしているのを当たり前の事実として。 それが何だかくすぐったい。くすぐったくて、少し嬉しいと感じてしまう。 本当は、告白どころか気持ちを確かめ合う事すらしてないのに。 せつなには、自分達の姿は恋人同士として映っているのだろうか? それとも、仲の良い友人と言うのはこう言うものだと思っているのだろうか。 何にせよ、美希はそんなせつなといると、まるで祈里と公認の恋人同士 のような気分になる。 付き合い始めの頃のせつなは、異世界育ち故の感覚の違いと、 世間知らずから来る天然っぷりで、かなり美希を慌てさせた。 当初は、また手の掛かるのが増えたもんだと頭を抱えたくなったものだ。 しかしながら、もともと頭の出来は良い上に順応性も高かったのだろう。 まだ大分浮世離れしたところがあるとは言え、かなりこちらの常識に追い付いて来た。 付き合い方が分かって来ると、美希にとってせつなはラブとも祈里とも違う、 気楽な関係でいられる事が分かった。 最大級に格好悪い姿を見られてしまったせいもあるだろう。 せつなといると、自分でも驚くほど肩の力が抜ける。 何となく、せつなにはみっともない姿を見せても平気な気がするのだ。 どんな顔を見せても、「美希にはこんな面もある」、 そう受け入れて貰える安心感があった。 勿論、ラブや祈里だって美希の欠点や弱い面を理解してくれてる。 理解した上で、「完璧でありたい」と、努力する美希を姉のように 頼りにしてくれてる。 長い時間を掛けて、培ってきた3人のポジションだ。 ずっとそれで上手くいっていて、それに満足してきた。 相談に乗ったり、頼られたり。時には叱ったり。 でもせつなとの関係には、そう言った『お約束』が一切通用しない。 あくまで対等で、気を使わない、親友。それが今の美希とせつなだ。 「そう言えば、ブッキー今日は合流出来るかも知れないんでしょ?」 「そうね、ちょっとメールでもしてみる。」 リンクルンを手に取ると、美希は初めて既にメールが来ていた事に気付いた。 直ぐに返信を、と思ったが着信時間を見ると一時間近く経っている。 今さら返信しても忙しい中かえって気を使わせるだけかも知れない。 少し迷ってからリンクルンをしまった。 (帰ってからゆっくりメールするか、電話でもいいわよね。) 「ブッキー、今日は無理だって。忙しいみたいよ。」 「そうなの?」 残念ね。そう呟くせつなを見て、美希は祈里が来ない事に 少しホッとしている自分に気付き、戸惑った。 そしてここに祈里がいたらどうだったかな?と、美希は考える。 たぶん、今とは全然違う表情をしているだろう。 もっと緊張して、神経を張り詰めて。 こんな風に、気楽にせつなと笑い合って過ごせはしなかっただろう。 だから……… チクリ…、と針で突いたような罪悪感に似た痛みを感じる。 せつなに指摘されたように、いつも美希は心のどこかで祈里の事を考えてる。 そして、今日は無意識にそれを忘れようとしていたから。 今朝、美希が待ち合わせ場所に行くとせつなはもう待っていた。 彼女は美希に気付かずメールを打っていた。その顔には柔らかな微笑みが 浮かび、相手はラブだろうと自然に想像出来た。 足音を忍ばせ、そっと後ろからリンクルンを覗き込む。 せつながビクッと振り向く。 「もう!脅かさないでよ、美希!」、そう言うせつなの顔が微かに 紅潮していた。メールを見られたかと焦ったのだろう。 美希に見えたのは、恐らく文末に付け加えたであろう一言だけ。 『私も大好きよ。』 からかってやろうと覗きこんだけど、やっぱり止めた。 何だか、自分が虚しくなりそうだったから。 メールを打ってたせつなの、少しはにかんだ微笑み。 彼女はきっと同じ表情で、そして少し頬を染めながらも 真っ直ぐにラブを見つめて同じ台詞をいつも言っているのだろう。 『私も大好きよ。』 正直、羨ましさに気が遠くなりそうだった。 自分が祈里にそんな風に言われる日なんて来るのだろうか、と。 せつなと別れた後、帰る道すがら祈里にメールした。 祈里が来られなくて残念だった事。 祈里に似合いそうな服を見付けた事。 今度は祈里の服を見に二人で出掛けよう、と締め括った。 家に着くと、シャワーを浴び着替える。 今日は楽しかった。自然と頬が緩む。 リンクルンを見るが、まだ祈里からの返信は無い。 (電話してみよっかな?……でも、まだ手が離せないのかな…?) もう一度、祈里のメールを見直す。 「用事を切り上げられそうにないので、今日は無理みたい。」 一行だけの、絵文字一つ無い素っ気ないとも見えるメール。 少し、祈里らしくないように思えてきた。 合流するかも、と言っておきながら行けなかった。 その事に対して、いつもの祈里なら「ごめんなさい」の一言くらい 入れそうなものだ。 それに、せつなの事に全く触れてない。 せつなには祈里からメールは入らなかった。 それなら、「せつなちゃんによろしく」くらいは書いても良さそうなものなのに。 (……アタシ、ひょっとして、マズった?) そもそも、今日の祈里の用事は何だったのか具体的には聞いてない。 家の事、と言ってたから病院の手伝いかと思っていたけど…。 もしかしたら、用事なんてなかったのでは? でも、なんで?理由が分からない……… 美希は自嘲気味な笑みを漏らす。 既に癖になっている。 祈里の何気無い言葉。ふとした拍子に見せる表情。 その中にある祈里の心を深読みしようとするのが。 祈里が何を言いたがっているのか。 何を求めているのか。 言葉に出来ない言葉。表に現せない思い。 それを砂利の中から砂金を選り分けるように、掬い上げてきた。 祈里の求める美希でいるために。 いつだって、完璧でいるために。 (……考え過ぎよ…ね。) ついつい、どんな何気無い素振りにも意味があるのではないかと 身構えてしまう。 確かに、祈里らしくないメールかも。 でも、考えようによっては忙しい中合間を見付けて送ったから 簡単な文面になってしまった。 本当なら、最初から行けないと言ってたんだから、そのままにしておいても 良いだろう。 それを律儀に再度メールを送ってくるのだから、祈里の気遣いと 取れなくもない。 むしろ、その方が自然だろう。 美希は溜め息を付く。 ふわふわとした心地好い疲れに浸っていた心身が、 一気に現実の重力に引き倒される。 リンクルンを眺めながら、美希はイライラしている自分を自覚した。 このメール、多分祈里は美希に何かを読み取って貰いたがっている。 間違いない、と思う。今まで伊達に神経を使って来た訳じゃないから。 でも、美希はそこで考えるのをやめた。 再度、メールを打とうとしていた指を止め、無造作にリンクルンを 放り出す。 (言いたい事があるなら、ハッキリ言えばいい。) 今日、一緒にいたのがせつなでなかったら、美希はメールに一時間も 気付かずにいること自体なかったろう。 直ぐに電話なりメールなりをして、祈里の真意を探り、求める答えを 与えられるように必死になっていただろう。 でも、今日は楽しかったから。 何も考えず他愛ないお喋りをして、ふざけ合って。 疲れる事を考えたくなかったのだ。 祈里が好き。ずっと好きで、祈里の望みを叶えてあげらるのが嬉しかった。 笑顔が見られるだけでよかった。 自分にだけ見せてくれる我が儘を可愛いと思ってた。 それでも……… いつの間にか、ピンと張り詰めていたはずの心の端っこが 撚れてくたびれていた。 ぷくりと血の玉が膨れる程度の傷。意識しなければ痛みを 忘れている時間の方が長い。 けど、傷の中に残った棘は柔らかな血肉を化膿させ、気付けば ぶよぶよとふやけた皮膚の下に膿を溜め込んでいた。 (ねぇ、祈里。アタシ今まで随分頑張ったと思うの。) あなたは、アタシに何をしてくれた? アタシのために、何かを頑張ってくれた事、ある? 祈里が好き。こんな風に思いたくない。 祈里に見返りを求めた事なんてなかった。 好きで与えてただけ。祈里のサインに上手く答えられるのが 幸せだったはずなのに。 どうして、アタシばっかり…… 胸の傷が疼く。熱を持ち、ほんの少しの刺激で血膿が溢れ出しそうだ。 綺麗に洗い流しても、そこには醜く引きつった傷痕が残るだろう。 せつななら、こんな事しない。 言葉はまるで、相手の気持ちを確かめる謎掛けのよう。 仕草の一つ一つに、まるでバレエのマイムのように意味を持たせる。 (もう、いいじゃない。もう、何も考えたくない。) せつなはラブへの愛情を隠さない。 唇から、指先から、まばたきする瞳から、ふとした瞬間に ラブへの想いが零れるのが見える。 せつなの中はラブで溢れている。 曇りの無い、無垢な想いを躊躇いもなくラブに捧げている。 羨んだって仕方ない。 彼女達は彼女達。自分達は自分達だ。 ずっとそうしてきた。誰のせいでもない。 ねぇ、祈里。またアタシが考えなきゃいけないの? アタシが何も気づかなかったら、あなたどうする? アタシ、もう止めるかもよ?ちょっと、疲れちゃったのよね。 好きよ、祈里。でもね……。 あなたが欲しいモノと、アタシが欲しいモノは、違ってきちゃったのかも。 アタシが何も言わなくなったら、あなたはどうするの? その日、美希は結局それ以上メールも電話もしなかった。 そして、祈里からの返信も朝になっても来なかった。 第4話 想いの外側へ続く
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登録日:2009/12/08 Tue 16 10 00 更新日:2024/03/27 Wed 03 25 14NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 さらなる情報収集は他サイトでお願いします コメント欄撤去記事 レイプ 事件 事実 二度とあってはならない 凶悪事件 司法の欠点 女子高生 少年犯罪 拉致 暴力 未成年 東京都 検索してはいけない 死刑希望 殺人 殺人事件 犯罪 猟奇 監禁 胸糞 閲覧注意 警告!! ※この項目は猟奇的・グロテスクな表現を多分に含んでおります。 耐性の無い方は閲覧をご遠慮下さい。 それでも閲覧するのであれば、自己責任でお願いいたします。 事件概要 「女子高生コンクリート詰め殺人事件」とは、1988年11月25日から89年1月4日にかけて日本で実際に起きた猟奇殺人事件の通称。 男4人が女子高生を内1人の自宅の2階に姦淫目的で拉致監禁、その後41日間に渡って女子高生に悲惨なレイプ、暴力、拷問を繰り返し、被害者である女子高生は死亡。 死体の処理に困った男らは死体をコンクリート詰めにして空き地に遺棄した。 翌89年に男達の1人が別の婦女暴行事件を起こし、 その事件で行われた3月29日の取り調べの際に警察官が冗談混じりで放った「人を殺しちゃあ駄目じゃないか」という言葉を男達が真に受けて事件が発覚した。 + 犯行の詳細 ※閲覧注意 足立区綾瀬女子高生誘拐監禁集団リンチ虐殺コンクリート詰め死体遺棄事件の詳細 ◆アルバイト帰りの女子高生を誘拐して不良仲間4人で輪姦 ◆不良仲間の家に監禁し暴走族仲間数十人で輪姦、関係者は100人に及ぶ ◆陰毛を剃り、陰部にマッチの軸木を挿入して火をつける ◆全裸にしてディスコの曲に合わせて踊らせる ◆自慰行為を強要 ◆性器や肛門に鉄棒、瓶等を挿入 ◆殴打された顔面が腫れ上がり変形したのを見て「でけえ顔になった」と笑う ◆20キロの鉄アレイを何度も体の上に落とす ◆真冬のベランダに裸で叩き出して放置し、踊れと強要 ◆揮発性の油を太腿部等に注ぎ、ライターで火を点ける ◆顔面に蝋を垂らして顔一面を蝋で覆いつくし、両眼瞼に火のついたままの短くなった蝋燭を立てる ◆数日ぶりに与えられた食料を食べるが内臓が機能しておらず、吐き出してしまう。床を汚したことに怒った少年らは力任せに殴打し、前歯がすべて折れてしまう ◆衰弱して自力で階下の便所へ行くこともできず飲料パックにした尿をストローで飲ませる ◆鼻口部から出血し、崩れた火傷の傷から血膿が出、室内に飛び散る等凄惨な状況となった ◆素手では、血で手が汚れると考え、ビニール袋で拳を覆い、腹部、肩等を力まかせに数十回強打 ◆1.74kgのキックボクシング練習器で、ゴルフスイングの要領で力まかせに多数回殴打 ◆ある曲のリズムに合わせて飛び蹴りをして笑う ◆度重なる暴行に耐えかねて、被害者は「もう殺して」と哀願 ◆賭け麻雀に負けてイライラしていたので不良仲間で2時間リンチし、死んだのでコンクリート詰めにして放置 ◆遺体の性器には、オロナミンCの瓶が2本突き刺さっていた ◆性器と肛門と顔面は完全に破壊され原型をとどめていなかった ◆腕や足は、重度の火傷で体液が漏れ出していた ◆顔面は両親ですら判別できないほど「人の顔をしていない」状態だった ◆余りの苦痛に細胞が自死を始め、脳が萎縮して小さくなっていた ◆高度の栄養失調状態で、51キロあった体重は35キロまで落ちていた ◆コンクリのように凝り固まった判例主義により、犯人は絶対に死刑にならない 被害者のご冥福をお祈りします。 彼女は当時高校3年生。就職の内定も決まっていた上彼氏もおり、まさに人生これからという時期だったという。その矢先にこれとは……。 さらに彼女が拉致されたのは、家から自転車で5分ほどの距離であった。 被害者の母親はあまりのショックに倒れ、現在も精神科に通っているという。 しかもこの事件の犯人4人、なんと全員当時未成年であった。 また、被害者に凄惨な拷問が行われていたのは犯人の一人の実家の部屋だったのだが、その犯人の両親は犯行に半ば気付きつつ、家庭内暴力の恐ろしさからか気付かないふりをしていた。 その驚愕の事実とむごたらしい内容から当時の社会に大きな影響を与え、今日までの少年教育のあり方を再認識させる契機となった。 事件発覚の前年には未成年中心のグループによってカップルが殺害される事件が起きていて少年事件が大人顔負けの凶悪性を見せていたことは世間も周知していたが、さすがにここまで残忍なことが起きることなど想像もできず、発覚直後は不良少女だったのではないかと勘繰られ、マスコミもあろうことか不良少女として報道し、悲しみに耽る被害者遺族にしつこく通い詰めて心情を聞こうとした挙句、去った後にはタバコの吸い殻が散乱していたのだから呆れてしまう。 流石に裁判所も少年院送致などの少年法による対処はせず、通常の刑事裁判で裁かれた。 一審で主犯格の少年に言い渡された懲役は17年であったが、検察官があまりに軽いと考え控訴。無期懲役を求刑した。 東京高裁は一審判決を改め、少年4人らにはそれぞれ懲役20年、懲役5年以上10年以下、懲役5年以上9年以下、懲役5年以上7年以下の判決が下った。 高裁は少年でも厳罰にすることが社会正義に適うと量刑に理由をつけ、一審の判決を軽すぎるものと批判した。 これでも、「刑が軽すぎる」という意見が被害者遺族などの関係者に限らず未だ多数寄せられている。 とはいえ、被害者が一人であったことから、仮に犯人が大人であったとしても無期懲役や死刑にはならなかったのではないか…と言う意見が強い。事件が起きた当時は裁判員裁判も無かった。尤も導入された現在でも死刑を破棄されるケースが相次いでいるため、仮に今類似事件が起きて裁判員裁判になり死刑判決を出しても破棄されることは目に見えており、司法の杓子定規さが如実に現れた事件でもある。 同年に起きた同じく未成年による凶悪事件では被害者を殺害した主犯格に死刑と無期懲役がそれぞれ一審で言い渡されているが、司法専門家の解説によると、殺害被害者数の違いと明確な殺意か未必の故意かどうかの違いがあるとされた。 実のところ未成年で1人殺害した加害者に死刑が確定したのは本事件の10年前の1978年(事件発生は1969年)を最後に2022年現在まで0であり、その事件についても明確な殺意と非常に計画的な犯行が認められているため未必の故意認定の本事件に死刑適用は不可能に近かったのである。 賠償金については、主犯格の両親が自宅を売却し、5000万円を被害者遺族に支払っている。 当時はまだまだ性犯罪に対する社会の認識は大変軽いもので、「被害者にも隙があった」的な偏見を持つ人も多かった。 あまりの残虐さに、取材を担当したマスコミ各社の記者たちは軒並み怒りで拳を震わせて目を赤くし、報じるニュースキャスターは氷のような表情でニュースを読み上げていた。 犯人は未成年だったので実名は公開されないはずだったが、 一部メディアが「野獣に人権は無い」と断言して公表してしまった。 これは編集長の独断行為ではなく、編集会議での編集長の提案に満場一致で全員が頷いた為とのこと。 また、殺人事件で凄惨な死体など珍しくも無いはずの警察官達も 本件の他に類を見ない惨たらしさには激しい怒りを覚えたようで、 当時の捜査関係者曰く「捜査関係者や地元の署の警察官はみんな殺気立っていた」との事。 ちなみに出所した犯人の1人は、2004年に「俺は人を殺した事があるんだぞ?」とか言いながら再び別の監禁事件を起こし逮捕されている。 また、2013年に主犯格の男が東京・池袋で銀行からお金をおろす振り込め詐欺の「受け子(出し子)」として逮捕されている(こちらは実行犯、主犯など事件の解明ができずに1月31日に不起訴で釈放された)。 さらに、2018年には、自宅を提供していたメンバーが通行人の男性を警棒で殴り、ナイフで刺すという傷害事件を起こしている。 前述の一部メディアが実名公表を決定した際、会議に参加した記者たちは、「あいつらは絶対また(何か事件を)やりますよ」と言い合っていたというが、 それが見事に的中してしまった事になる。 的中しなかったらどれだけ良かった事か… 類似事件 同年、名古屋でも未成年を中心とする男女グループが見ず知らずのアベックを拉致して連れ回し、集団で鉄パイプ等で殴る蹴るの暴行を加えた上、 女性を集団レイプした末に2人ともいたぶりながら惨殺した事件が発生しており、日本中が残虐かつ凶悪化する少年犯罪に恐怖した。 (※ただし、統計的に見ればこうした凶悪事件自体は減っている) こちらも主犯の少年が死刑から無期に、 20歳の暴力員が17年から13年に減刑されており、未成年に対する刑の軽さがうかがえる。 また日本ではないが、1999年の香港でポン引きの男がホステスの女性に違法な利子で借金を負わせ、妊娠中で払えないことを知ると手下2人と共謀して防音処置が施されたアパートに拉致し、本事件とよく似た悲惨なレイプ、暴力、拷問を繰り返し、被害者は死亡。死体を解体している途中に頭部が残り、処理に困った犯人らは頭部を鍋で煮て柔らかくしてぬいぐるみに詰め込んだ事件が起きている。さらに主犯はこの時、「落ち込まないで、君が着飾るのを手伝ってあげるからね」と言いながら彼女の髪の毛を抜き続けるという猟奇的な一面を見せている。そこからおよそ一ヵ月後、犯行グループの内の1人の交際相手である少女が被害者の霊を夢で見たという供述によって事件が発覚した。 こちらは全員が終身刑(無期懲役)判決を受けたのだが、主犯は被害者の死亡時に現場にいなかったことから5年後に懲役18年に減刑と、本事件と同じく軽すぎる判決となってしまった。 日本と同じく香港社会にも衝撃を与え、ショッキングな事件4位に選ばれている。 同様の猟奇事件は1997年4月の台湾や2018年6月-8月のモロッコ、同年9月の中国でも起きている。 被害者の御冥福をお祈りします……。 余談 この事件の主犯と同じ刑務所だった人が、刑期を終え、後に出版した本の記述によると、 普通この手の犯罪者は刑務所内で壮絶なリンチに合うのだが、上手く実力者に取り入って気に入られ、快適に刑務所ライフを過ごしていたようである。 また、犯人のその後をあるニュース番組が取材したが、4人のうち1人は刑務所でいじめにあい出所後ひきこもりとなったという。 2003年にはこの事件をモデルに作られたノンフィクションノベル「十七歳、悪の履歴書」が刊行され、 2004年には更にその映画「コンクリート」が放映された。 しかし、映画は公開前から大きな反感を買い、公開延期になった挙げ句一週間しか公開されなかった。 またほとんどのレンタルビデオショップ側がこの映画のビデオ、DVDの取り扱いを拒否しているというかなりのレア物である。 ただあまりお目にかかれないとはいえ、内容はタブーを扱う話題性と意外性を狙っただけの駄作で、わざわざ探してまで見る価値があるかは微妙なところ。 ちなみにR15指定。 「犯人グループの中の少年の一人が芸人になった」という曖昧なリーク情報から、事件とは無関係なある芸人が犯人と誤解され、 その情報を信じた一般人に謂れのない誹謗中傷を受けた芸人側の告訴によって、バッシングに加わった一部の人間が警察に検挙される事件が発生した。 未来ある善良な一少女を理不尽な理由で嬲りものにし、命まで奪った加害者たちを許せないと思う義憤を持つこと自体は間違いではない。 だが、義憤であることは犯罪行為を正当化しない。 義憤によって無関係な人間を悲しませるのは、悲しませてしまった人間も、そして被害者も望まないことだろう。 自分のしたことに責任を取らない者が犯人に責任をとれと声高に主張する資格などありえないのである。 この事件に関して少しでも義憤・知識のある方は追記・修正をお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- 過激なコメントの多発、警告文の削除など悪質な行動が見られたためコメント欄は撤去しました。 相談所に無断でコメント欄を復活させた場合、IP規制などの措置が取られる可能性がありますのでご了承ください。