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マサオ、ヴィータと合流し、野原しんのすけを探すことにした立香達は、元々東に進んでいた自分達と、北に進んでいたヴィータ達の間を取り、北東へ進むことにした。 結果、進路を北東にあるH-6 リテイル・ローを目的地とし、彼女達はバギーを走らせる。 余談だが、彼女達が乗るバギー♯9は、本来五人も乗れるほど広い車ではない。 だが五人中二人が子供なので(正確に言うと、一人は子供体系なだけだが)、後ろに少々狭いが三人乗ってもらうことで解決した。 ちなみに内訳は、運転席に立香。助手席にオグリキャップ。そして後ろに運転席側から足柄、マサオ、ヴィータの三人である。 戦闘力のある二人が窓側に座り、有事の際に対処すると同時に真ん中にマサオを置くことで、彼を脅威から守るための席順だ。 だがバギー#9の後部座席に三人が座るには、少々狭かった。 というより、足柄がスペースを取っていた。おかげでマサオは座席ではなく足元に縮こまり、ヴィータは席にこそ座っているものの艦装に圧迫されている。 これは足柄が太いということではなく、彼女の装備が問題だ。 足柄には、彼女の艦装が支給され、装備している。 その艦装は、彼女の左右に主砲を装備し、足には魚雷を装着しているのだ。 戦力として見るなら間違いなく強力だが、端的に言って、場所を食う。 「せめぇよ」 なのでヴィータは不満気に足柄を睨み、マサオも言葉には出さないが少々苦しい。 ヴィータはデバイスを携帯用に戻し、うさぎのぬいぐるみもしまって、車に乗る際にスペースを取らないようにしたのでなおさらだ。 「ご、ごめんね。今しまうから」 そう言って足柄はマサオ側の艦装をしまう。 これで少しスペースができたので、マサオとヴィータは一息ついた。 そこから話は野原しんのすけについてとなる。 探すとなった以上、やはり捜索対象についてよく知ろうとするのは当然の流れだった。 「それでマサオ君、しんのすけ君ってどんな子なのかしら?」 「そういや、あたしもその辺のことは聞いてねえな」 足柄の質問に、ヴィータが乗っかる。 しかし、マサオとしてはこの漠然とした質問に少々困った。 どんな子と聞かれても、しんのすけという少年は少々特徴が多すぎる。 なのでどう答えようかとしどろもどろになっていたが、ここで立香が助け舟を出した。 「足柄さん。それじゃ答えにくいですよ。 マサオ君。しんのすけ君の好きなものって分かるかな?」 「好きなもの? えっと、それならチョコビとアクション仮面と――」 立香の質問に、今度は淀みつつも答えるマサオ。 チョコビやアクション仮面が何か分からなかったものの、聞けばお菓子だったりヒーローものの特撮番組だったりと、五歳児の趣味と考えれば普通だ。 しかし最後に出てきたものに一人を除く女性陣は驚愕する。 「あ、あとキレイなお姉さん!」 「「「え?」」」 マサオの口から出た五歳児とは思えないワードに、マサオとオグリキャップを除く一同の声が一つになる。 ちなみにオグリキャップは、いきなりハモる三人を見て頭に?マークを浮かべていた。 困惑を抑えきれない立香は問う。 「お、お姉さんって何歳くらいの?」 「確か、前に最低でも女子大生って言ってたような……」 「うわぁ、話が合いそうなサーヴァント多そう……」 「どんな五歳児だよ」 どこか呆れ気味な立香と、思わずツッコミを入れるヴィータ。 ちなみに、彼女の周りにいる九歳児も大概年齢離れしているのだが、そんなツッコミを入れてくれそうな存在は、この殺し合いにはいなかった。 それはそれとして、しんのすけについてこれ以上聞きようがないと足柄達は判断し、話は彼の父親ある野原ひろしについて移った。 「野原ひろしがしんのすけ君のお父さんなのは聞いたけど、じゃあこのロボひろしってのは何かしら?」 「えっと、信じてもらえるかな……」 「いいから言ってみろよ」 言い淀むマサオに対し、発言をせかすヴィータ。 しかし、彼の口から飛び出た台詞は、一同を沈黙に追い込むに十分な衝撃を持つものだった。 「実は、前にしんちゃんのおじさんがロボットになったことがあって」 「「「「 」」」」 マサオの発言に声も出ない立香達。 しかし、そこから一番最初に立ち直り、質問をしたのは意外なことにオグリキャップだった。 「友達の父親がロボに、なったのか?」 「う、うん……」 「なぜだ?」 「さぁ……? それに、ちょっとしたら戻ったし」 「……期間限定?」 「バーゲンセールじゃないんだから……」 それから立香達はマサオに色々と質問をするが、大したことは聞けなかった。 そもそも、彼はロボひろしについてほとんど知らない。 彼の目線だと、ひろしはいつの間にかロボになり、ひげが付いたらなぜか性格が変わったので、友達としんのすけに協力して元の性格に戻した後はそれっきりだ。 少ししてからロボひろしはスクラップとなり、残ったのは人間のひろしだけ。 ロボひろしが本物のひろしの記憶をコピーしたロボットであることすら知らないのだ。 だから、マサオから見ればこの殺し合いには二人野原ひろしがいることになる。 これは一体どういうことなのかと、色々考える立香達。 単に同姓同名の別人なのか、はたまた平行世界のひろしなのか。 様々な可能性が浮かぶものの―― 「あぁもうめんどくせぇ! そんなもん、会ってみりゃ分かる話だろーが!!」 ヴィータが叫び、それに対し他の全員も返す言葉が無かったので、ロボひろしについての話は保留とし、一旦終わりにした。 代わりに、ヴィータが立香にあることを尋ねる。 「ところで、さっき平行世界とか言ってたけど、次元世界じゃねぇのか?」 「次元世界?」 ヴィータの質問に、立香がオウム返しに言葉を出す。 それに対し、ヴィータは面倒くさそうにしながらも簡単に説明を始めた。 次元世界とは、平たく言うなら立香の言う平行世界とそれほど違いはない。 強いてあげるなら、世界を管理する管理局の存在に立香が驚いたくらいだ。 だがヴィータの知識では、他の世界を認識し、移動手段もある『管理世界』と、それらが存在しない『管理外世界』の二つがある。 彼女から見れば、僅かではあるが魔力を感じる立香は魔導士で、横にいるオグリキャップは使い魔にしか見えない。 それをやんわりと否定したのは、使い魔扱いされたオグリキャップだ。 「ツカイマが何かは知らないが違う。私はウマ娘だ」 「ウマ娘ってなんだよ」 ヴィータは訝し気に問うが、それに対しオグリキャップは困った顔しかできない。 彼女からすれば、自身は生まれたときからウマ娘であり、世界に当たり前に存在するものでしかない。 それを何かと聞かれるのは、立香やマサオに人間とは何かを問うに等しいことだ。 これに明確な返答ができるのは、この場ではヴォルケンリッター紅の鉄騎 鉄槌の騎士であるヴィータくらいだろう。 一方、話にはロクに入れないマサオだが、ウマ娘の存在は”そういうもの”として受け入れた。 彼は友人の父親がロボになるなど、素っ頓狂な経験なら割とあるので、理解できなくてもありのままを受け入れるのに抵抗は薄い。 それにオグリキャップを見ていると、どこか友人であるボーちゃんを思い出すのも、受け入れられる一因だった。 だがそれはそれとして、ここで足柄がヴィータに問う。 「ヴィータちゃん、一つ聞きたいんだけどいいかしら」 「なんだよ」 「管理局ってのから見て、地球が管理外世界になっているのは聞いたけど、地球っていくつもあったりする?」 「……ハァ? 地球は一個しかねぇだろ」 足柄の質問の意図が分からず、困惑してしまうヴィータ。 対し足柄は、今まで見てきたものや立香達とまとめた情報を元にヴィータの発言を否定する。 なぜなら、立香、足柄、オグリキャップはそれぞれ違う世界の住人であるものの、彼女達の出身地は紛れもなく全員地球、それどころか日本だからだ。 ヴィータの言う管理外世界に地球がいくつもあるなら、立香達の証言は矛盾しない。 だがもし無いというのなら―― 「もうわっかんねー」 ここまで考えて、ヴィータは匙を投げた。彼女は元々そこまで考えるタイプでもないのだ。 それに色々ややこしそうだが、彼女からすれば結局のところ、聞いたことも無い管理外世界の話でしかない。 第一、管理局に見つかっていない管理外世界などいくらでもある。なら立香達の世界もそういうことでしかないだろう、と彼女は結論付けた。 「それよりマサオ、お前今の話分かったか?」 「えっと、難しいことは分からなかったけど、つまり皆別の世界の人ってことだよね」 「分かるのか?」 マサオが別の世界云々を理解していることに対し、未だ平行世界について理解できていないオグリキャップだ。 彼女の眼には紛れもなく驚愕が浮かんでいた。 そんなオグリキャップに対し、マサオはオドオドしながらも過去の経験について話す。 「実は僕、前に映画の世界に閉じ込められたことがあるんだ」 「映画の、世界?」 「なんだそりゃ」 マサオの言葉に困惑を隠せない立香とヴィータ。 そんな二人の視線に圧を感じ、なぜか目を背けながらマサオはその時のことを語った。 ある日、友達と町で遊んでいたら古びた映画館を見つけ、なんとなく入ってみると、そこでは荒野の映像がひたすら流れる映画が映っていた。 それをしばらく見ていると、なぜか映画の中の世界に入ってしまい、マサオ達は仕方なくそこで暮らすことに。 やがて元の世界のことも忘れかけたある時、彼らと同じく映画の中に吸い込まれた人々が、映画を終わらせて脱出することを思いつく。 その為に彼らは一丸となって、その映画の悪役に立ち向かった。 そして最後には悪を倒し映画はハッピーエンド、皆は元の世界に戻れた。 「って感じで……」 「ふーん。で、マサオはなんかしたのか?」 「えぇ〜!? 僕も結構頑張ったんだよ〜!!」 マサオが話し終えた後、ヴィータが彼に返した言葉に彼は泣きそうになる。 事実、彼は尽力した部類なのだが悲しいかな、五歳児の語彙力ではその辺りは全然伝わらなかった。 他三人も凄い話を聞いた、と思っても殺し合いとは関係なさそうだと結論付ける。 ただし―― 「映画の……物語の、世界……?」 立香だけは、関係ないと思いながらも、なぜか小さな引っ掛かりを覚えていた。 それからしばらく後、立香達は目的地であるリテイル・ローに到着した。 ちなみに意識していないが、彼女達が今いるのは西側の市街地である。 ここで一行はバギーを隅に寄せてから一度停止して、車を降りるか、乗ったまま街を進むか話し合おうとしたその時 ヌッ というオノマトペが浮かびそうな程唐突に、建物の陰から三メートルほどの人影が現れた。 黒い生地に白い丸模様を入れたワンピースを着て、髪を二又に分けた少女としか言えないあどけなさを持った人間。 立香達の中に知るものはいないが、誰であろう、シャーロット・リンリンである。 「でけぇ……」 「ヘラクレスより大きい……」 あまりに巨大な”少女”に、辛うじて声が出たヴィータと立香以外は何も言葉が出ず、一行はただ唖然としてリンリンを見つめていた。 しかし、彼女達にそんな時間はなかった。 なんと、リンリンがバギーを掴んだかと思うと 「お菓子……ヨコセ……!!」 お菓子を要求しながら車を揺さぶり始めた。 これにはたまらず、立香達は慌てて車を降りる。 「このヤロー!!」 そしてそのままの勢いでバリアジャケットを展開し、グラーフアイゼンをハンマー状に変形させて戦闘態勢を整えるヴィータ。 続くように足柄も、しまっておいた艦装を再び取り出し、腕に装着し直した。 「待って!!」 しかし戦闘態勢を整えた彼女達に対し、立香は咄嗟にストップを掛ける。 ここで立香が止めに入ったのには、当然の如く理由がある。 まず、彼女の最終目的は殺し合いを止めること。 その為に殺し合いに乗らない仲間を募るのが、彼女の選んだ手段である。 そして目の前の相手、リンリンは立香から見て、殺し合い以前の存在だった。 立香から見てリンリンは、飢えた獣である。 だからこそ、立香は待ったをかけたのだ。 どういう理由か知らないが、リンリンは酷くお腹を空かせている。 だがもし、リンリンが殺し合いに乗っているなら、自分達を問答無用で殺しにかかるのではないか。 殺し合いに乗っているとしても、問答無用ではない。 つまり、説得する隙がある。 ならばここは、リンリンの飢えを満たしてあげれば、こちらの味方につけることができるのではないか、と立香は考えたのだ。 だからこそ、彼女は彼に頼んだ 「マサオ君。グルメテーブルかけを出して」 「ハッ、ハイ!」 リンリンに怯えながらも、マサオはデイバッグから支給されたものを出し、彼女から少し離れた所に広げる。 その名はグルメテーブルかけ。 彼らとは違う世界の22世紀のひみつ道具で、言えばどんな食べ物でも出してくれるテーブルかけという、凄まじい代物である。 ここにたどり着く前に、未だ全ての支給品を確認していなかったマサオとヴィータは、足柄達に言われてデイバッグの中身を検めていたのだ。 それが功を奏した。 一方、リンリンは不機嫌だ。 何か出す素振りを見せるから待ったのに、出てきたのは単なる布。 甘いお菓子はどこにもない。 ならば用はない。こいつらも、さっきの奴と同じように殺してしまおうか。 リンリンの思考が殺意に染まり始めたその瞬間 「いちごのショートケーキをホールで」 立香がお菓子の名前を呟くと同時に、テーブルかけからお菓子が現れた。 ちなみに、ショートケーキのショートとは小さいという意味ではなく、脆いやサクサクした、あるいは短い時間で作れるという意味である。 なのでホール、つまり切り分ける前でもショートケーキと称することに矛盾はなかったりする。 それはそれとして、布からいきなりケーキが現れる光景には思わずリンリンも目の色を変えた。 リンリンの反応を見て、立香は得意気な笑みを浮かべて目の前の相手にテーブルかけの説明を始める。 「これはね、グルメテーブルかけって言って、食べたい料理の名前を言うと、それを出してくれる不思議なテーブルかけなんだ」 「すげぇ!! セムラ! セムラ!! クロカンボッシュ〜!!!」 立香の説明を聞いたリンリンは、目を輝かせてお菓子の名前を連呼する。 彼女の指名に応じてグルメテーブルかけは、オーダー通りにお菓子を次々と出現させていく。 ポコポコポコポコと、まるで泡のように。 「ホットケーキ!」 「ロイヤルプレジレントチョコビ!」 「大和パフェ!」 「ドーナッツ」 ここぞとばかりにヴィータ達もお菓子の名前を言って、リンリンに与えていく。 そうこうしているうちに気づけば、リンリン達が出したお菓子は、彼女の身長、三メートルを超えるほどに積みあがっていた。 「出しといてなんだけど、食いきれんのかよこれ……」 代表してヴィータが呟くが、思いはリンリンを除く五人とも一緒だった。 他のウマ娘の何十倍も食べるオグリキャップも、よく食べるサーヴァントや艦娘を知っている立香や足柄も、目の前のお菓子は大量というほかなかった。 あるいは、別の世界線の足柄なら、これほどの量を食べる艦娘にも心当たりはあったかもしれない。だがそれは別の話である。 一方、当のリンリンは目の前の山に、完全に心を奪われていた。 「いっただっきま〜す!!」 目を爛々とさせながら、お菓子を一つずつ手に取り、口の中に収めていくリンリン。 そのスピードは、さっきまで三メートルを超えていた山が、いつの間にか二メートル間近にまで低まるほどだ。 彼女の余りの健啖さと食べる速さに、立香達は最早言葉もなかった。 ◆ 最初はオレにお菓子をくれない悪い奴らだと思った。 だけどそんなことなかった。 こんなに美味しいお菓子を、オレに山ほどくれるなんて、間違いなくこいつらはいい奴らだ。 幸せすぎて涙が出る。 涙で前が見えやしない。 おれに優しくしてくれたマザーに、大好きな羊の家の皆と一緒だ。 こいつらなら、マザーの夢を手伝ってくれるかもしれない。 そうだ。そうしよう。マザー・カルメルの夢、全ての種族が同じ目線で暮らせる国を一緒に作ろう。 こいつらを従えて、悪い人間は殺して、夢の国を作るんだ。 途中なんだか少しだけ痛かったり、食べた時に苦いものも混じってた気もしたけど、きっと気のせいだ。 気づけば、目の前に合ったお菓子の山はなくなっていた。 もうなくなっちまったのか、と残念だったが、すげーうまかったし、お腹もいっぱいだから文句はない。 とりあえずお礼を言おうと、目の前にいるはずの五人に向き合おうとするリンリン。 しかし様子がおかしい。 まず、お菓子を出していた不思議な布がなくなっている。 次に、目の前にはなぜか四人しかいない。 その内一人、リンリンは名前を知らないが、立香の服はなぜかボロボロになり、体に怪我をして膝をついている。 次に一人、またも知らないが、ヴィータは立ったままリンリンを睨んでいる。 最後にもう二人、こっちも知らないがオグリキャップとマサオは震えていた。 特にマサオは涙を流しながらズボンを湿らせ、明らかに怯えた目でこちらを見ている。 とりあえず、リンリンは一番気になることを尋ねてみた。 「なあ、お前らもう一人いなかったか? どこいったんだ?」 彼女としては何気ない問い。しかしそれは地雷だった。 返答として、ヴィータの怒号が飛ぶ。 「……ふざっけんじゃねえ!!」 あまりの叫びに、リンリンは思わず怯んでしまう。 ひょっとしておれは何かやってしまったのではないか、と。 大丈夫だ。マザーならちゃんと言えば許してくれた。 こいつらだってきっとそうだ。謝れば分かってくれるはずだ。 リンリンはそう信じた。 だが彼女の思い通りにはならない。 「アイツは……足柄は……!」 覚悟しろ。 「てめぇが喰ったんだろうが!!!」 容赦ない現実が、彼女を責め立てる。 ◆ 時間は少しだけ巻き戻る。 お菓子の山が凄まじいスピードで減っていくのを、ただただ眺める立香達。 これなら食べ終われば話を聞いてもらえそうだ。 そう立香が思った直後 ガシッ 「えっ?」 リンリンの左手が、マサオの身体を掴んでいた。 そのままマサオは彼女の口へと、一直線に吸い込まれるように向かっていく。 大きく開いた巨人の口が、少年を今か今かと待ち構えている。 「ひいいいいいいい!! 助けてえええええええええ!!」 「主砲! 撃てー!!」 しかし、それを阻むものは当然いる。 足柄が主砲をリンリンの体に向け発射し、命中させた。 敵の爆砕を知らせるような重巡洋艦の主砲に相応しい爆音が、辺りに響き渡っる。 だがリンリンはマサオを手放す程度の衝撃しか受けておらず、彼女の身体には軽い火傷しか与えていない。 普通の生き物なら、下手をすれば跡形も残らない筈なのに。 「なんて硬さなの……!?」 「はっ!!」 足柄が凄まじい、というより生物にあるまじきリンリンの硬さに驚愕する横で、オグリキャップはひた走る。 そしてリンリンの手から離れたマサオを、地面に落ちる前に受け止め転身、リンリンから距離を取るべく再び走り出した。 同時に、立香とヴィータ、足柄もリンリンから距離を取ろうと移動する。 「っ!?」 しかしここで、足柄の左足の痛みが彼女の動きをせき止める。 この場でなければ、なんてことのない一時硬直。 されど捕食者のいる場で、被食者が足を止めたなら結末は一つ。 ガシッ 今度は足柄がリンリンに掴まれ、先程のマサオが辿りかけた結末へと進んでいく。 しかも彼女の両腕は、リンリンに拘束され主砲を放つこともできない。 艦娘として人間を超える力を持つはずなのに、振りほどくこともできない。 食べられる時間を少し遅らせるのが精一杯だ。 だが彼女には仲間がいる。 「おおおおおおお!」 リンリンから少し距離を取ったヴィータの足元に、橙色の魔法陣が展開されると同時に、彼女はグラーフアイゼンを天に掲げる。 そして体を回していくに合わせ、鎚の柄は何倍にも長さを伸ばし、頭部のサイズは何倍にも膨れ上がった。 この状態になったグラーフアイゼンを、ヴィータはリンリンに向けて全力で振り下ろす。 これがヴィータの魔法。 これぞ、鉄槌の騎士の真骨頂。 あらゆるものを壊す、彼女の全力。 「ギガント、シュラアアアアアアアアアク!!」 ヴィータの振り下ろした鎚の頭部は、リンリンの頭へと落ちていく。 これが命中すれば、さしものリンリンでもただでは済まないだろう。 命中さえすれば。 この瞬間、信じられないことが起こった。 それはこの殺し合いを経ない未来において、四皇となる資質か。 あるいは、食事を邪魔されたくないという人間の嫌悪か。 なんと、リンリンは己の身体を左側に少し逸らした後、逆手でグラーフアイゼンの持ち手を掴み、受け止めたのだ。 「嘘だろオイっ!?」 ヴィータがリンリンの行動に対し僅かに怯んだ刹那、彼女はそのまま鎚を振り回し、持ち手側にいたヴィータを近くの建物へと叩きつける。 リンリンは自身の数十倍の大きさを誇る巨人族の英雄、ヨルルを背負い投げできるほどの胆力を持つ。 ならば、たかが自分より数メートル大きい程度のグラーフアイゼンを受け止められない道理があるか。振り回せない道理があるか。 そんなものはない。彼女ならばそれができる。できてしまう。 「っ!!」 この状況において立香は、いや皆は近寄るのは危険、と判断していた。 だがここまでくればそうも言ってられない。 立香はレターを構えリンリンへと走り、オグリキャップはタスクを全て放つ。 だが砲弾すら大した痛手にならないリンリンに、牙がどれほど食い込むというのか。 事実、彼女には傷一つ負わせていない。それどころか何かされたとすら思っていない。 平時ならば風で飛んできた小さな砂利が当たった位の感覚はあったかもしれないが、お菓子を喰らうことしか意識のない今の彼女には毛ほども感じない。 そして立香も相手にならない。 リンリンが未だ放していない鎚を、今度はさっきの反対側へと振り回す。 それだけで立香は吹き飛ばされ、ヴィータとは反対側の建物へ叩きつけられ、地面へと伏せる。ここでグラーフアイゼンは元の大きさに戻り、リンリンは手放す。 「ぐっ……かはっ……!」 叩きつけられた立香は、意識は朦朧とし、体を震わせながら再び立ち上がろうとするも、血を吐いて止まってしまう。 本来、彼女が受けたダメージはただの人間に耐えられるものではなかった。 装備している悪魔の力があって初めて、かろうじて生きていられる程度のダメージに押さえ込めたのだ。 そんなこと、藤丸立香には関係ない。 目の前で仲間が殺されそうになっているのに、立ち上がれないことが恐ろしい。 自分の判断ミスで足柄が死にそうになっていることが、憎らしくして仕方がない。 だから彼女は己の死力を以って立ち上がろうとする。どれほど無意味なことであったとしても。 一方、何もできない足柄はただ皆を見つめていた。 未だ立ち上がれない立香とヴィータ。 恐怖で動けないマサオと、これ以上何も手立てがないオグリキャップ。 そんな彼女達を、足柄は恨まない。 確かに、彼女がリンリンに食べられるのは、結果論ではあるものの立香のせいと言えなくもない。 だがこんな状況、誰が予想できるというのか。 それに戦場に予想外は付き物だ。 どれだけ念入りに策を練っても、運や他の要因で狂わされるなどよくあること。 今回はたまたま、その結果足柄が犠牲になるだけ。 だから―― 「立香、あなたのせいじゃないわ」 足柄は自責の念で苦しみかねない少女に向けて、言葉を紡ぐ。 これがどれだけ相手に届いているか分からないが、それでも言わずにはいられない。 そうこうしていると、彼女の最期の時がやってくる。 まるで深淵に続く穴倉のような、リンリンの開けた大口に向かって、足柄は意志と無関係に吸い込まれていく。 彼女は願う。 どうか、立香達に勝利を。必ずこの殺し合いを打破して欲しい、と。 けれども―― (勝利だけが……私の誇りだったのに……っ) 皆をそこへ連れていく者が自分じゃないことだけは、たまならなく悔しい。 【足柄@艦隊これくしょん 死亡】 【残り98名】 やがて足柄とお菓子を食べ終えたリンリンは、彼女から見て不可解な現状に疑問を抱いて辺りをキョロキョロ見回す。 自らが起こした惨状に気付いていないその態度が、マサオとオグリキャップにはたまらなく恐ろしかった。 藤丸立香はそれどころではなかった。 やっと立ち上がれたヴィータだけが、リンリンを睨んでいた。 それに構わず、リンリンは四人に尋ねる。 「なあ、お前らもう一人いなかったか? どこいったんだ?」 何を言っている? ヴィータだけではない。立香以外の三人がそう思った。 「……ふざっけんじゃねえ!!」 だが、ここで怒りの堰が切れたのはヴィータだけだ。 「アイツは……足柄は……!」 そんなに知りたいなら教えてやる。 「てめぇが喰ったんだろうが!!!」 お前がやったことを、分かりやすく簡潔に。 そして時は現在に戻る。 「……は?」 ヴィータの返答に、リンリンは何を言われているのか分からなかった。 だが周りの顔色を見て、少なくとも冗談を言っているわけではないとは思った。 けれどそれは、恐ろしい事実を意味する。 人肉食。カニバリズム。 多くの世界で、時代で忌避される禁忌。 リンリンの頭では思いつきさえしない異常。 それを自身が行った。 「…………そだ……」 リンリンの息が荒ぶる。 決して受け入れられない事実を見せつけられ、体が必要以上に空気を求める。 目が血走る。 瞬きを忘れる。 耳が何も受け付けない。 そして―― 「うそだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 三千世界のどんな爆音であろうとも、この叫びには届かないのではないかと思わせるほどの叫びを、リンリンは発しながらその場を全速力で逃げ出した。 リンリンの叫びで起こった風圧に吹き飛ばされ、なすすべなく地面を転がる四人。 この中で一番早く立ち上がれたのは、ヴィータだった。 「クソが……ちくしょう……」 彼女には、リンリンの叫びはただとぼけているようにしか見えなかった。 ふざけんじゃねえ、逃げんじゃねえと、怒りが抑えきれなかった。 「待ちやがれ、このヤロー……絶対、ぶっとばす……!!」 故に彼女はグラーフアイゼンを再び握り、リンリンを追うために空を駆ける。 お前を決して許しはしないと、己の赫怒と決意を籠めて。 一方、未だ立ち上がれない立香の考えはヴィータと異なっていた。 立香は、リンリンが本当に足柄を食べたことを認識していないと思っていたのだ。 なぜなら、彼女は似たような事例を知っていたからだ。 狂化。 それは、サーヴァントが保有するスキルの一つ。 バーサーカーのクラススキルであり、効果はスキルの高さの分だけ理性を奪い、その分サーヴァントのステータスを高めるというもの。 だが高さがEXの場合は事情が異なる。 この場合、喋ることはできても意思疎通が不可能なことが多いのだ。 ダメージを負うたびに幸運判定し、失敗すれば暴走する者。 我が子に関する事柄に関してのみあらゆる制御が通じなくなる者。 特定の相手と相対すると理性が吹っ飛ぶ者。 彼らと同じことが、お菓子に目を奪われたリンリンに起きていると立香は考えたのだ。 だがそんな思考に何の意味があるのか。 短い付き合いであっても大切な仲間をまたも失い、別の仲間がかたき討ちに飛び出した。 そして、立香は生前の足柄の想定通り、自責の念に苦しんでいた。 自分がマサオ君にグルメテーブルかけを出してもらわなければ、足柄は死ななくて済んだのではないか。 苦しくて辛くて、泣き出しそうになる。 だとしても―― 立香はこの後悔(いたみ)から逃げない。 立香はこの喪失(いたみ)を背負って生きていく。 そうでなければ、今まで歩いてきた道が無意味になる。 そんなことは、決してできない。 「ハァ……ハァ……」 だから立香は自身のデイバッグを漁り、和泉守兼定に支給された最後の支給品を取り出す。 それは、とある不思議なダンジョンにおいて、あるギャングのボスが食べると体力を回復させるアイテム。 カエルだった。 これを立香は貪る。 ガツガツと、とても年頃の少女がするものではない振る舞いで、生きたカエルをかみ砕いて胃に流し込む。 決して美味しいものではない。血生臭くて気持ち悪い。 カルデアのキッチンならもっとおいしい調理法を、きっと誰かが披露してくれるだろう。 それでも立香は食べた。 おかげで説明書きの通り、体力はわずかに回復した。 立ち上がるだけなら問題はない。 未だ体はフラフラするが、血を吐くこともないだろう。 ならば十分。バギーに乗ってヴィータちゃんを追い掛けよう。 そう言おうとして、立香はマサオとオグリキャップの方へ顔を向ける。 そこで見た。 「「…………」」 恐怖で顔を固まらせながら、立香をすがるように見つめる二人の姿を。 特にマサオは目で訴えていた。 行かないで、一緒にいて、と。 考えてみれば当たり前だ。 人が目の前で食べられる光景を見て、怯えない一般人なんていない。 そんな人に、一緒に行こうとは言えない。 だから立香は二人にこう声をかけた。 「マサオ君は、近くの建物に隠れてて。 オグリキャップは、マサオ君を守ってあげて」 「……分かった」 「え、立香さんは……?」 立香の言葉に素直に頷くオグリキャップに対し、マサオは懇願するように問いかける。 だがそんな希いを見なかったことにして、立香は強く言い切った。 「私は、ヴィータちゃんを追い掛けるよ。 何ができるか分からないけど、放っておくなんてできないから」 立香の言葉を聞いて、目を見て、二人は悟った。 決して彼女の意志を曲げることはできないと。 だから二人は立香の言葉に従い、近くの建物へと入っていく。 それを見送った立香は、ずっと訴えかけ続ける痛みを無視してバギー#9へ乗り込み、アクセルを踏む。 彼女の運転に、少し前にあったはずのおぼつかなさは最早存在しなかった。 ◆ 一人市街地を疾走するリンリン。 彼女は現実から逃げていた。人を食べたという現実から。 もしここにいるのが六十三年後のリンリンなら、知らないうちにどこの誰とも知らない奴を食べたとしても、気にも留めなかったかもしれない。 だがそうはいかない理由がある。 それは、リンリンにとって数時間前のこと。 マザーと羊の家の皆が、彼女の誕生日を祝ってくれた時のこと。 あの時、彼女は皆が作ってくれたバースデーケーキを夢中で食べていた。 あれは本当に楽しかった。 楽しくて、嬉しくて、思わず前が見えなくなるほど涙が出た。 そして食べ終わった時、皆は居なくなっていた。 これにさっき言われたことを合わせると、恐ろしい想像が浮かんでくる。 例え六十三年後のリンリンだったとしても、目を覆いたくなるような光景が。 もしかすると―― 「そんなわけない…… おれがマザーや、皆を食べるなんて……! そんなこと、あるわけねえ……!!」 大好きな皆を、大切な居場所を、自分自身の手で壊したかもしれない可能性など、考えたくもなかった。 【H-6 リテイル・ロー 市街地/早朝】 【シャーロット・リンリン@ONE PIECE】 [状態]:ダメージ(小)、火傷(小)、満腹、憎悪、絶望(極大)、全力疾走中 [装備]:天逆鉾@呪術廻戦 [道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、輝子のデイパック [思考・状況]基本行動方針:人間は殺す。マザーの夢を叶える。 0:おれがマザーや皆を食べたなんて、そんなはずねえ!! 1:人間は殺しつくす。 [備考] 参戦時期は六歳の誕生日直後、シュトロイゼンに出会う直前より参戦です。 天逆鉾の効果により、ソルソルの実の力が封じられています。 どこに向かって走っているかは次の書き手氏にお任せします 【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態] バリアジャケット展開、ダメージ(中)、リンリンに対しての怒り(大) [装備] グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはA's [道具] 基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、お菓子の類ではない)、うさぎのぬいぐるみ@クレヨンしんちゃん [思考・状況] 基本行動方針 主催をぶっとばす 1:あいつ(リンリン)を追い掛けて、ぶっとばす [備考] 支給品を全て確認しました 【藤丸立香@Fate/Grand Order】 [状態]:悪魔による能力向上状態(支障なし)、ダメージ(大)、無力感、自責の念 [装備]:魔術礼装・カルデア、支援礼装、レター@グランブルーファンタジー、悪魔@大番長、、召喚石『ゴッドガード・ブローディア』(現在使用不可)@グランブルーファンタジー、バギー#9 [道具]:基本支給品×2(自分、兼定分)、クレイジーソルト、和泉守兼定(鞘なし) [思考・状況]基本行動方針:仲間を集めて殺し合いを止め、推測される儀式を防ぐ。 1:あの子(リンリン)とヴィータちゃんを追い掛ける 2:足柄さん、ごめんなさい…… 3:ここから殺し合いに反対の人たちを説得する。 4:恐らく、これは何らかの儀式では? 5:マサオくんを守るのは、オグリキャップに任せる 6:しんのすけという子を探す。その後マシュ、沖田さん、土方さん、『野原ひろし』を探す。ラヴィニアも確認はしたい。 7:ガンマン(ホル・ホース)の説得の考えは分かる。けど…オグリキャップは大丈夫かな。 8:映画の世界という言葉がなぜか引っかかる [備考] ※参戦時期は少なくともセイレム経験済みです。 ※漫画版『英霊剣豪七番勝負』の女性主人公をベースにしてます。 (が、バレー部とかその辺の設定すべてを踏襲はしていません。) ※このバトルロワイアルを英霊剣豪の時のような儀式だと推測しています。 ※彼女のカルデアに誰がいるかは後続の書き手にお任せしますが、大抵はいるかと。 【オグリキャップ@ウマ娘 シンデレラグレイ】 [状態]:疲労(小)、複雑な心境、恐怖(大) [装備]:スタンドDISC『タスク』(現在ACT1のみ)、特別製蹄鉄付シューズ [道具]:基本支給品、ランダム支給品×2(確認済み、お菓子の類ではない) [思考・状況]基本行動方針:とにかく生き残ろう。 1:カネサダ……アシガラ…… 2:マサオを守る 3:目的のために殺す『意思』…それを覚えて大丈夫なのだろうか。けれど…… 4:ヘイコウセカイって何だろう……? 5:あの男が説得された場合、受け入れられるか? [備考] ※参戦時期は西京盃後。 【佐藤マサオ@クレヨンしんちゃん】 [状態] 恐怖(大)、失禁 [装備] ひらりマント@ドラえもん [道具] 基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、お菓子の類ではない) [思考・状況] 基本行動方針 しんのすけ達を探す 1:ヴィータちゃん、立香さん、行かないで…… 2:しんちゃんを探したいけど…… 3:いざとなったらひらりマントで自分の身を守る 4:しんちゃんのパパが二人...? [備考] 支給品を全て確認しました。 ※足柄と彼女の艦装、彼女のデイバッグ(基本支給品、ランダム支給品×1)、グルメテーブルかけ@ドラえもん はシャーロット・リンリンに食べられました。 ※シャーロット・リンリンの絶叫がH-6に響き渡りました。 【支給品紹介】 【グルメテーブルかけ@ドラえもん】 佐藤マサオに支給。 これを広げ、食べたい料理の名前を言うと、その料理が出てくるひみつ道具。 出てきた料理の味は絶品。また、現実に存在しない料理でも出現させることができる。 【カエル@ディアボロの大冒険】 和泉守兼定に支給。 なんてことのないごく普通のカエル。毒もない。 食べるとHPが50回復する。 本ロワでは、食べると少しだけ傷が治る。 059:喪失の果てに 投下順 061:The run-to escape from monsters- 049それは突然の出会いなの! 佐藤マサオ 093 メッセージは唐突に ヴィータ 足柄 GAME OVER オグリキャップ 093 メッセージは唐突に 藤丸立香 037殺し抗え、人であるがために シャーロット・リンリン
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「あったかいなぁ……」 一人ぼっちのお昼ご飯の後、まるでお昼寝中の猫のように陽だまりで丸くなる。 起きたのはついさっき。せっかくの休みだから、ってことで今日はお寝坊さんです。 お父さんは仕事で、ゆーちゃんは……どこ行ったんだろ? まぁ靴はさっき見たところ無かったし、みなみちゃんと遊んでるのかな。 しっかし、あったかいねぇ……。 西の方では桜が咲いたとか咲かないとかニュースになってたけど、まぁ確かに朝は布団から出るのはそれほど億劫でもなくなったし、今だって暖房無しでも十分あったかい。 でも、外は出たくないなぁ……。春一番ってやつ? もう、すっごい風強いし。 ご飯を食べてから30分くらい陽だまりでぐうたらしてると、珍しく手元に持ってきてたケータイがブルブルいっている。かがみんからだ。 「もしもーし」 「あら。あんたが電話に出るなんてひと雨来るかしら」 「むぅ、久々に電話に出たと思えば……」 「まぁいいじゃないの、久々に一発で繋がったんだし」 「で、どしたの?」 「あぁ、そうそう。うちに遊びに来ない?」 「えー……」 「何よその反応」 「だってさ、外絶対寒いじゃん。風強いし」 「あー、んじゃ私行くわ。いい?」 「おや、かがみんそんなに私に会いたいのかい?」 「うーん、まぁなんでもいいや。んじゃ行くから」 「待ってるよー、かーがみんっ♪」 ガチャ 「お邪魔しまーす」 「おかえり、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・tってちょっと反応してよー」 「あぁ、ごめんごめん。何かめんどくさくって」 そう言うとそそくさと靴を脱ぎ家に上がるかがみん。 「お菓子とか持ってくから部屋で待っててー」 「私も持ってきたからあんまりいらないわよ」 「またかがみんダイエット中?」 「うっさいわ!」 お菓子やらジュースやらを持っていくと、いかにも飛び乗ってきて欲しいと言わんばかりにかがみんはゴロゴロとしていた。 「両手がふさがってるからその要求には応えられないなぁ」 「なにがよ」 「抱きついてきて欲しかったんじゃないの?」 「はぁ? 何言ってんのよ」 「まぁまぁ」 そしていつもの感じで雑談モード。いつもより上の空のかがみんが気にはなったけど、きっと体重の事気にしてんだろなー、とか思ってた。 けど、突然かがみんは正座して 「そうそう、あんたに渡すものがあったのよ」 と、さっきよりも少し声を大きくした。 「? 何かマンガ貸してたっけ?」 「いやいや、そんなんじゃないわよ。ほいっ」 そうしてテーブルに置かれたのが手のひら大くらいの淡いピンク色の箱。なんだかやたら春っぽいなぁとか思った。 「なに? おみやげ?」 「今日は何の日?」 「ふっふ~♪」 「み○もんたか。はい、カレンダー見ましょう。今日は何の日ですか?」 「えーと、14日?」 「正解。んじゃ今日は何月?」 「3月」 「正解。んじゃ3月14日は?」 「……土曜日?」 「あんた、気づいてんでしょ? はい、正解はホワイトデーでしたー」 そういって開けた箱の中にはびっしりと生チョコが。ココアの香りがほのかに広がる。 「どしたの、これ?」 「どうしたって、お返しよ。バレンタインデーの」 「だ、誰が作ったの?」 「私に決まってるじゃない」 「だ、だってさ、悪いけどかがみんだよ? こんなにおいしそうなんだよ?」 「いい加減怒るわよ! と、とにかく食べなさいよ!」 そこまで言ってかがみんは俯いた。でも耳は両方とも真っ赤だ。 それにしても綺麗に出来ている。四角だけど不格好でなくて。 「そいじゃ、いっただっきまーす」 ぱくっ おぉ! うまい! 甘すぎないし、くどくないし、口の中でまろやかに溶けていく。 「かがみん、おいしい!」 「ホント? ホントに?」 「うん、ホント! かがみんやれば出来るじゃん!」 「あんたはいっつも一言余計ね。――よかったぁ……」 どうやらかがみん、徹夜してこれを作ったらしい。さらには、一切つかさの助言や手伝いを受けていないとのこと。 「すごいじゃん! いやー、うちの嫁、実はできる子でしたよ」 「……」 ……あれ? いっつもなら『いつアンタの嫁になった』突っ込んでくるんだけども……。 「――ねぇ、こなた? 話があるんだけどさ……」 「なにー?」 真剣に聞いて欲しいの、と前置きした思いつめた顔のかがみん。私の眼をまっすぐと見ている。 「――何でだか分かんないけどさ、このチョコ作ってるときさ、あんたの顔がやたら出てきてさ」 「うん」 「そして、何だかすごく恥ずかしくなった。もう、自分でもわかる位に真っ赤になってたと思う。――それで、気づいたの。やっぱり自分はこなたが好きだって」 「……うん」 「しかも、友達としてじゃなくって……えっと、そういうのじゃなくって……」 「……恋愛対象、として?」 「うん……」 「本当に好きな人としてこなたのことを想ってたんだなぁ、って……」 「……私、こなたが好き。友達としてじゃなく大好きな人として」 「そっか……」 そう言ってお互いに下を向いた。 正直、かがみと恋人同士になるということを全く想像したことが無かった。 もちろん、友達としては誰よりも好きだ。けど…… この沈黙を破ったのはかがみの方だった。 「……ごめんね、でも自分でも分からないの。こなたと付き合いたい、とか今まで思ったこともなかった。けど……」 「……けど?」 「好き。これだけははっきり言える。私はこなたが好き。大好き」 もう、かがみんのバカ。そんな面と向かってはっきりと言われたら……恥ずかしくてかがみのこと直視できないじゃん……。 「引いたならそれでいいよ。悲しいけど、それがあんたの答えなんだと思うし……」 そしてかがみはやりきった感を出しながら深く息を吐いた。 私はそんな一仕事終えたかがみの横に座る。 こんなこと言う前は真っ赤っかになって私の事もろくに見れなかったくせに、今では隣に私がいても堂々としているように見えた。 「……ねぇ、かがみ」 「ん?」 ちゅっ 「っっ!!!?」 私はかがみの唇にキスをした。私は告白を聞いてからずっとそうだったけど、これでかがみも一気に茹でダコみたいになる。 「……ありがとう。全然、引いてなんかないよ? これが私の気持ち」 「!!!?」 「……私もかがみのこと好きだよ。一番好き」 「でも、かがみとの恋人関係を私は今まで望んだことはなかった」 「……告白されてから、自分とちゃんと向き合ってみた。そしたらすぐに答えは出た」 かがみは真っ赤な顔で私の眼を見ていた。私の一言一言を聞き逃さないようにしていた。 「好き、だよ。かがみんのこと……でも、付き合う、っていうのは想像できない。だから、お互い好き同士でこれからありたい」 「……うん」 「そしてお互いが付き合いたいと思えるようになったら……付き合おう?」 「……うん♪」 そうして、お互いに合図があるわけでもなく目を閉じ、唇を重ねた。 ~~~~~ 「かがみんったらいつまでニヤニヤしてんの?」 「そういうあんたもよ。……ふふっ」 「♪ そうそう、バレンタインのお返しなんだけどさー……」 「あんた忘れてたんでしょ? それとも何かあるの?」 「あのー、かがみんの口に付いてるので……ダメ?」 「えっ?」 「あ、あのさっきの私の口にかがみんのチョコ付いててさ、それがチューしたときにかがみんに付いたんだけどさ……」 「……これはココアや」 「――んじゃあ、そのお返し……もうちょっと、欲しいんだけど……」 「……いいよ♪」 コメントフォーム 名前 コメント 甘い甘い話、、、、かがみ好き にはたまらないです。 -- チャムチロ (2012-09-04 21 45 25) いいね、こういう話www -- 名無しさん (2009-09-04 02 35 38) 甘いwww -- 名無しさん (2009-09-03 18 49 58)
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私は裸のままベッドに座った清村さんの傍に跪き、あらためてその物体を凝視して動きを止める。 まるで芋虫のようなフォルム、赤黒い肉が剥き出しになった先端部分、 胴体に浮き出た青く太い静脈。 その全てが見つめる私の体をこわばらせるには十分な威圧感を放っていた。 「無理しなくてもいいぞ」 私と同じく全ての服を脱いだ清村さんが心配そうに私を見下ろす。 だけど私はブンブンと首を左右に振って恐る恐るそれに指先で触れる。 途端、それは生き物のように―――清村さんの一部だから生き物なのは当然なのだけど――― びくりと反り返り私はびっくりして指を引っ込める。 「あ、あの、痛かったですか?」 「いや、痛いとかじゃなくて、メイが触ってるかと思うとなんか興奮して…… って何言わせるんだよ。これ、言葉責め?」 どうやら、痛がっているわけではないみたい。 だけど、どうにも私はそれへ触れるのに抵抗を感じる。 「やっぱ、嫌だろ?その、ホント無理しなくていいから」 それじゃ駄目だ。 何もしなければ、大事な人は自分の前からいなくなってしまうだけなのだから。 そのとき視界に、ひっこめた私の指が映った。 さっき清村さんに舐めてもらった生クリームの残りカスがついた私の指を見た瞬間、 頭の中にあるアイデアが閃く。 「清村さん……冷たくないですか?」 私はこそぎ取ったケーキの生クリームを彼の分身に塗りたくりながら尋ねた。 「ああ…………その、ひんやりして気持ちいいわ、うん」 「そう、ですか」 生クリームで彼のものをコーティングすると、心理的に触れるのが少し楽になる。 (これなら、つまんだり、こすったりするのも、できるかも) 生クリームを塗りこめる指の角度を、それに対して少しずつ直角から平行へと変えていく。 少しずつ、私と彼の触れ合う面積が増えていくように。 摩擦面は生クリームのおかげで滑りやすくなっていて、 私の拙い指の動きでもスムーズに擦らせることが可能になっていた。 そして私の指がスムーズになればなるほど、それの質量と熱量が増していくのを感じる。 (……ああ、これは清村さんが私のことを求めてくれている証なんだ) そう思うと、さらに指の動きが加速する。 裏筋に左手の中指をあてがい、残った4本の指で全体を包み込むようにして 根元のあたりからくびれのあたりまで上下させ、 右手の親指と人差し指で円を作りエラから上の部分をしごくと彼が小さく呻く。 「ちょ……やばい、気持ちよすぎるって!ど、どこでこんなん覚えたんだよ!?」 「あの本です……」 手の動きを止めた私の視線を追った清村さんの顔に汗が浮かぶ。 「あれ……読んだのか?」 部屋の片隅にある茶色いカバーのかけられたその本は、 AV男優の人が書いたセックスについてのハウツー本だった。 「いや、あの、あれはその、俺が買ったじゃなくておんなじ部のやつに無理矢理渡され」 「私も買ったんです……あの本」 「え」 清村さんのあっけに取られた声に、今度は私が汗を浮かべる番だった。 「その、ネット販売で買って、勉強したんです」 「な、なんでそこまで?」 清村さんの驚く顔に私の中の勇気がしぼむ。 「あ、やっぱり女の子がこんなにエッチのこと勉強してるの、変ですか?」 「あ、いや、違う違う!してくれるのは男として嬉しいけど、 その、なんかその、メイのキャラだとそういうの勉強しそうにないし、 なんか意外というか……つか、その、必死な気がして」 「私……中学校からの友達がいたんです」 「……へ?」 唐突で答えになっていない私の昔話に、清村さんの顔にハテナマークが浮かぶ。 でも彼は私の表情を見てすぐに真剣な顔で聞き入り始めた。 ――ねえ、メイちゃんも剣道部入ろうよ、ここ練習緩いらしいし―― 「その子と私は高校で練習が厳しくないってうわさの剣道部に入って…… だけど剣道部は顧問の先生が変わって、思ったより練習が厳しくなったせいで 1年の子はほとんどやめて……」 ――どうしようノゾミちゃん……私もやめようかな…………―― ――ちょっとメイちゃん!あなたまでやめたら1年生あたしひとりになっちゃうじゃない―― 「私はやめたかったけど……私がやめると一年はその子一人になるから、 やめてほしくないってその子は言って……だけど、結局その子は私より先にやめちゃって」 あの日、たった一本の電話で中学から続いた彼女との友情はかき消えてしまった。 そして私はどんなに時間をかけて作り上げた絆も、なくなる時は一瞬だということを知ったのだ。 「あの時みたいに……清村さんも私の前からいなくなってしまう気がして……」 「俺はそんなことしないって……にしてもその友達ひどい奴だな。 お前引き止めておきながら自分が先にやめるなんて」 「違うんです、ノゾミちゃんだけが悪くないんです!……だってあの時、 ノゾミちゃんにやめさせる決心をさせたのは、多分私だから……」 後から知ったことだけど、あの練習試合の当日ノゾミちゃんは風邪をひいていたのだ。 だけど私が最初に彼女へかけた言葉は、とても友人が発する言葉じゃなかった。 ――どこにいるの!?速く来てよノゾミちゃん、始まっちゃうよ!―― 最低だ。全然ノゾミちゃんの心配なんかしていない。 試合に出されるから、負けて林先生に怒られるのが嫌だから速く来てよと言っているような物だ。 私の言葉を聞いた後の、電話越しの重苦しい沈黙が今でも心の中に澱のように残っている。 それから後、私たちは学校で会ってもお互いにぎこちなく目を逸らすだけの関係になってしまった。 ノゾミちゃんは自分ひとり部活をやめた負い目から、 私は彼女の体を気遣わず自分のことしか考えていなかった負い目から、 以前のような友人同士には戻れなくなってしまった。 「だから私……清村さんに対しても、そんな感じだったから…… 嫌なのにちゃんといえなくて……そのくせいざする時になったら 被害者みたいに泣いてばかりで…………」 話しているうちに、どんどん私の心の中に悲しみが蘇っていく。 ノゾミちゃんと疎遠になってしまった悲しみ。 言いたいことがはっきり喋れず、メイプルの前でおばさんに一方的になじられた悲しみ。 清村さんのお姉さんをガールフレンドと思い込み捨てられると勘違いした悲しみ。 それらが混ざり、さっきまで燃え上がっていた私の心をすぐに青く塗り替えていく。 私の独白に聞き入っていた清村さんが口を開く。 「……2週間前のあれは俺が悪かったんだよ。あの時は、その、焦ってて」 「でも私背もちっさいし、スタイル悪いし…………」 どんどん私は卑屈に、悲観的になっていく。 「いやそりゃ関係ないだろ。俺はむしろ派手な体つきしてる姉貴に ガキのころから苛められてたから、メイぐらいのほうがいいんだって」 「でも……部活の先輩とかも、男の人は胸が大きいほうが喜ぶって…… 前に清村さんの部屋にあった雑誌も胸の大きなグラビアアイドルが表紙だったし」 「青年漫画雑誌の表紙なんて皆あんなもんだぞ普通」 「だけど、私が」 「ストップ!そんなにメイばっかり謝ってたら、俺が謝れないだろ」 「清村さんが……謝る?」 清村さんはバツが悪そうに頭をぽりぽりと掻く。 「言っただろ、焦ってたって。で、その焦ってた理由ってのが馬鹿なんだけど、 後輩が先に童貞捨てたっていうくだらない理由なんだよ」 「え……」 「安井っていただろ」 「えーと……花火の時の方ですか?」 「そ、そいつ。あいつがその、部活の時にやたらと童貞捨てたこと自慢しててムカついて……、 で、ちょうどあの時俺のウチ今みたいに誰も家族いないから、 その、焦っちまって、嫌がるメイを無理矢理」 「でも、無理矢理じゃなくてちゃんと清村さんは『いいか』って聞いてくれたから、やっぱり私が」 「いや、だからそれはあんな風にすごめば普通の女の子は断れねーし」 「だけど、やっぱり、私が」 「だから別にメイは……って、俺らなんでお互い謝りあってるんだ?」 なんだろうこの空気。 まるで学校で私とノゾミちゃんが顔を合わせた時みたいだ。 彼女と私のように、私と清村さんの関係もこの後ずっと気まずいままなのだろうか。 そんな考えが頭をよぎった瞬間、雰囲気に耐えられなくなった清村さんがいきなり叫ぶ。 「あーーー、だからさ、難しく考える必要はなくて…… どっちが悪いか、とかそんなの関係ないじゃねえか。 結局、メイはその中学からのツレみたいに俺がいなくなるのが嫌なんだろ」 私はコクンと頷く。 「それはありえねーって俺が言っても、なんかトラウマになって俺の言葉が信じられない、 ってことだろ?」 「多分……そうだと思います」 今は自分で自分の気持ちがよく分からないけど、きっとそうなんだろう。 「じゃ、言葉じゃない方法で伝えりゃいい……って言ってもどうすりゃ……」 しばし腕組みをしていた清村さんは、 漂わせていた視線をケーキに合わせてぽんと手を叩く。 「あ、そうだ」 そこで清村さんは手を伸ばし生クリームを手にする。 そして私の左手の薬指にそれを塗りたくると、眉間に皺を刻みながら何かぶつぶつと呟き始める。 「えーと、…………ときも、…………あとなんだっけ? ま、いいや、ちょっと違っても。とにかく、あれだ。始めるぞ」 何を始めるつもりかわからない私は目を白黒させながら彼に手首を掴まれる。 「俺、清村緒乃は、病めるときも、健やかなるときも、 ともに歩き、死が二人を分かつまでメイの傍に添うことを誓います」 私がぽかんとしていると、まっすぐ私を見ていた清村さんの顔がみるみる真っ赤になっていく。 「うお、やっぱ今のなし、はずい、超はじい!!」 そこでようやく私は左手の薬指にリング状に塗られた生クリームの意味を理解する。 「なんだよさっきの、俺のセリフじゃねーよ、 なんつーか忘れてくださいなかった事にしてくださいマジでマジで」 真っ赤になって悶えている清村さんの指に私はクリームを塗り返す。 「なかったことになんか、できません」 もちろん左手の薬指へ、リング状に。 そしてそっと背を伸ばすと彼に顔を近づけ、唇を重ねた。 「……誓いのキスが、まだですから」 顔を離し呟いた後、私の顔に清村さんの紅が伝染していく。 火が出るくらいに顔へと血が昇っていくのを感じた。 「ちょ……真っ赤になるぐらいなら、やるなよ!」 「き、清村さんこそ!」 赤面して見つめ合った後、私たちは同じタイミングで吹き出した。 吹き出すのと同時に、私の中に清村さんへ対する思いが満ちていく。 清村さんは形にしてくれたのだ。私に対する思いを、私といつまでも一緒にいたいという気持ちを。 たとえそれが『ごっこ』でも、その気持ちの真摯さがノゾミちゃんとの一件でできた 私の心の傷を優しく癒してくれた気がした。 だから今度は、私が彼に対する思いを形にして示す番なのだ。きっと。 「清村さん……ベッドの上、行きませんか?」 「ん?ああ、いいぞ」 ベッドに腰掛けていた清村さんとその前に跪いていた私はゆっくりとベッドの上に移動する。 普通の人が二人乗ればいっぱいいっぱいな面積なのだろうけど、 私の体が小さいおかげか少し動いても結構余裕がある。 体の小ささが役に立って、ちょっと複雑だ。 「あの、足を少し開いてもらえますか?」 「あ、その、お願いします……っておい!」 慌てる清村さんが制止する前に、私は彼のそれの先端に口づけをする。 「おぅ」 調子はずれな彼の声に思わず私は彼の顔を見上げる。 「あ、いや、その、気持ちよくてだな、なんか変な声が」 「……じゃあ、続けてもいいんですか?」 「……いや、メイが嫌じゃなきゃそりゃいいけど……」 私は舌を先端の裏筋のあたりに這わせると、卵形のむき出しになった肉のあたりから ゆっくりと根元へ向かって舐めてあげる。少し苦い気がするけど、 生クリームの甘さのおかげで中和されてあまり嫌悪感が沸いてこないのが救いだった。 「……バナナ、買ったの?」 「あ、は、はい。練習するために」 あの本にはバナナやきゅうりで練習するといいでしょう、と書いてあったので、 私はすぐにスーパーで一房のバナナを買ってきて練習していたのだ。 だけど、バナナにはない硬度と体温と脈動が、私の舌と唇を刺激する。 硬くて熱くて激しいそれは、清村さんの興奮そのものだった。 清村さんが私を求める欲望そのものだった。 そして私が彼のそこについた生クリームを舐めとれば舐めとるほど、 それの硬さと熱さと激しさがより高まっていく。 (私……変なのかな) 本には『最初はフェラが嫌でも、感じている彼を見て回数をこなしていけばそのうち慣れるでしょう』 と書いてあった。でも、最初なのにぜんぜん嫌じゃない。 むしろ、こんな小さな体の私でも清村さんを興奮させることができるのが嬉しくて、 私の恥ずかしい場所も濡れて来るほどだった。 「メイ……だけにやらせる、てのは駄目だよな、彼氏として」 清村さんは体を折り曲げてケーキの方に手を伸ばしてなにかをすると、 体を折り曲げて私の下半身へ顔を近づける。 「ひゃっ」 急に恥ずかしい場所に生じたヌルリとした冷たさに、私も調子外れの声を上げる。 今度は清村さんが、私のそこに生クリームを塗りつけたのだ。 そして生クリームとは比べ物にならない熱い物体がそこを舐め上げる。 「あ……だめ、ですっ……そんなとこ、き、きたないっ」 「おいおい、メイだってしてくれてるじゃねえか。 それに俺だってあの本で『勉強』したんだぜ?少しは披露させてくれよ」 口もアソコも熱くなりすぎて、物が考えられない。 私の舐め上げる回数とスピードが落ちてくると、 余裕のできた清村さんが私のそこを指で広げ中まで舌で嘗め回し始めた。 「あっ……ああぁっ!」 もう、私は69の態勢を保ち彼にしがみつくのが精一杯だった。 そんなときに彼は私の入り口のうえにある皮を右手でクイッと剥き、 空気に触れた小さな突起を舌でつついたのだ。 「っっ!」 その激しい感覚に、私は言葉すら出せず背を反らす。 だけど彼は私のお尻に左腕を回し責めから逃れないようにして その部位を舌で優しく上下に弾き始めたのだ。 「ふぁっ」 そして上下から唇で挟み込むと、柔らかな力でそれを吸い始めた。 『お勉強』をしている時にそこを一人で直に触ったときは痛みすら感じたのだけど、 清村さんの舌と唇は充分に唾液と生クリーム、そして私自身の恥ずかしい液で コーティングされていたので、痛みを感じず気持ちよさだけを感じてしまった。 「やっ、やっ、やぁぁっ!」 まるで下半身の一部が吸い取られるような感覚に、 清村さんへの奉仕など忘れ私は全身に汗を浮かべながら身悶える。 「あ、あ、あっ……ああああぁぁぁっ」 そして、舌の優しい殴打と、唇の柔らかい吸引がそこへ交互に行われると、 もう私は女の子らしい慎みを忘れまるで獣のように叫ぶ生き物にさせられる。 「ひぁっ、ひゃああああぁぁっ」 『お勉強』でも感じたことがない、いや、今まで生きてきた中でも一番強い快感が私の下半身を襲い、 ついに私は生まれて始めての絶頂を味あわされた。 「や、やああああぁぁぁぁっっ、あっ、……ぁぁぁ……ぁっ……」 清村さんの頭を太ももで挟み込みながら、 私は背を反らし嬌声を上げたあとがっくりと力を失った。 1、2分の間うつろな目で清村さんを見上げ続けていると、 舌と唇の疲れが収まった彼は心配そうに尋ねてくる。 「大丈夫か?その……かなりボーッとしてるけど」 「清………………村さん………………『お勉…………強』の…………しすぎ……です……」 「わりい……なんかメイがエロかったから、つい調子に乗っちまった。 疲れたか?今日はもう終わりに」 思わず私はガバッと起き上がる。 「あ、あの、全然……大、丈夫ですから!その、最後までちゃんとしてください!!」 今なら、今の自分なら、2週間前と違って清村さんをしっかりと 受け入れることができる気がするのに、ここに来てやめるだなんて嫌過ぎる。 「おう、じゃあ、ちょっと待っててくれ」 清村さんがベッドから降りようとしたその腕を私は掴んだ。 「メイ?」 「あの……着けずに、してくれませんか?」 「着けずにって……ゴムをか?!」 「あの、今日安全な日ですし……」 それに、今すぐ私はしたいのだ。 私にはわかる。 今の私は少し酔っているのだ。 タマさんが私を褒めてくれた言葉や、清村さんのつけてくれた生クリームのエンゲージリングに。 だけど、その酔いのすぐ向こう側には、あの弱くて情けない自分がいる。 (清村さんは優しいから慰めで嘘を言っているだけ。 本当はスタイルのいい女の子が好きに決まってる……) 弱い自分は私に語りかける。そして私を乗っ取ろうとする。 避妊具を装着するわずかな時間でも、彼女は私の心の主導権を奪ってしまうかもしれない。 「だから清村さん…………早く…………」 しかし清村さんはぽりぽりと後頭部を掻いた後、私の髪を優しく撫でながら首を横に振った。 「悪いな、手際悪くて。そうだよな、あの本に 『ゴムをつける時は素早く、女の子の気持ちが冷めない様に』って書いてあったのに。 まだまだ勉強が足りないな、俺も」 私は首を振り返す。 「違うんです、そうじゃないんです……私は、私はっ!」 「だけどな、メイ。その、生でってのは絶対駄目だ。 安全日なんて結構信用できないし。保健でならったろ?」 清村さんは一度ごほんと咳き込んでからたどたどしく続ける。 「それに、ほら、さっきした、誓い?あれ、本気だから。 でさ、け……結婚するのって、なんつーの、俺らだけで幸せでも意味ないじゃん。 もし学生のうちにメイを妊娠させたら、どんなに責任を取ろうとしてもメイの親に、嫌な気持ち残すし。 だから、その、俺が甲斐性持つまで、生でするのはやめとこーかなと、みたいな」 私がしばらく黙っているのを見て、 清村さんは両腕をぶんぶんと振り回し慌てて弁解し始めた。 「あ、ごめん今のもなし!高校生で結婚とか親とか重いよなほんと!」 「……すごく重いです」 「だよな、だよな!なんかもう今日の俺マジ変だわ」 「すごく重くて……もっと酔っちゃいそうです」 「へ?…………酔う?」 違う。 もうこれは一時的な酔いなんかじゃない。 私は、私の中にいたもう一人の弱い自分が心の奥へ沈んでいくのを感じた。 きっともう、清村さんの前なら彼女が私の心の表面に出てくることもないぐらい深く遠い奥底へ。 だから、もう大丈夫。 「清村さん、わがまま言ってごめんなさい。 着けてください、そしていっぱいしてください……」 ゴムをつけ終わった清村さんが、私の顔を正面から覗き込みつつ問いかける。 「そろそろ、いくぞ」 私は足を広げ彼を正面にいざないながら、コクンと頷く。 一見2週間前と同じ言葉、同じ状況。 でも、決定的に違うのは私の体と心。 清村さんのものと私のものが触れ合った瞬間、くちゅ、と音がした。 それだけそこが濡れているのかと思うと、ますます顔が熱くなる。 でも同時に確信する。 今なら、今の私ならもう涙を流すことなく彼を受け入れることができる、と。 それは私のただの思い込みだったとすぐに思い知らされることになるとは知らず、 私は清村さんの耳元で小さく囁く。 「入れてください」 と。 清村さんが、私の空洞へ入り込む。 私の狭く小さなそこが無理矢理こじ開けられた。 『お勉強』の時の私の指とは比べ物にならない熱量と質量が、 私の中へ進入する。 でもそれは圧迫感を私に与えただけで、あの時のような苦痛を伴ってはいなかった。 きっと『お勉強』と清村さんの今までの愛撫で、 私のそこがほぐれきっていたからだろう。 この時私はようやく清村さんと真の意味で繋がれた気がして、自然と顔をほころばせる。 「大丈夫か、メイ?」 最初は清村さんの問いかけの意味が分からなかった。 だって私は笑っているのに、なぜそんなことを聞くのか皆目見当がつかなかったから。 だけど、彼が私の頬に指を当ててその質問の意味を理解した。 「やっぱりまだ痛かった?今日はやめとくか」 彼の指に光る私の涙を見ながら、彼が再度問いかけてくる。 だけど私は、すぐに首を左右に振った。 「違うんです……痛いから泣いてるんじゃないんです」 きっとそれは、ようやく本当の意味で清村さんと恋人になれたから。 だから私は泣いてしまったんだ。 「だからお願い……そのまま、いっぱい動いてください」 自分で『お勉強』した時もそうだったけど、『中』は『外』に比べて気持ちよくなれない。 それでもいい。清村さんが私の中で動いてくれて、気持ちよくなってくれるのが大事だから。 だから私が気持ちよくなくても、別にいい。 ……最初の2,3分はそう思っていた。 最初に異変に気づいたのは、必死になって腰を動かしている清村さんの顔を見つめながら、 (こんなに一生懸命になるほど気持ちよくなってくれてるんだ) なんてボーッと考えている時だった。 角度を変えながら出し入れされていた清村さんのものが 私の空洞の奥底に押し付けられた時、私のお腹の中を何かが波紋のように広がる。 「ふぁっ」 「メイ……、今のとこ、よかった?」 「ふぇ…………え、ええ。……その、………………」 なんだろう。さっき清村さんに舌で舐められた時とは似ているのに、どこか異質な感覚。 だけど、確かにそれは心地のよい感覚だった。 「気持ち………………」 なぜだろう、私は快いという気持ちを告げるのを少し戸惑ってしまう。 もう痛くも苦しくもなくてむしろいっぱいいっぱいしてほしいとさえ思っているのに。 なのに……まるで何かを怖がっているように私の唇は固まってしまう。 そこで沈黙した私を見つめる清村さんの瞳に、また不安が宿り始めたのを確認した。 このままだと彼は私の体に負担をかけていると勘違いしてしまう 「あ、あの……よかった……です…………」 「そっか。今のがよかったか」 なんでだろう。清村さんは私を気持ちよくさせてくれたのに、それは私の望んだことなのに。 なぜか、清村さんの首の後ろに回した私の両腕には鳥肌が立っている。 そんな私の心を知る由もない清村さんは、さっきの角度を固定させて動きを再開させた。 「ふゎぁ……」 ああ、やっぱり気持ちいい……。でもなんでだろう。気持ちいいのが……不安? なんで?だって私はずっとこんな風に清村さんと繋がりたかったのに。 私の動揺を知らない清村さんは、そのまま私を穿つスピードを際限なく速くしていく。 トントンと押されているような感じだった接触は、次第にズンズンと重く速い衝撃へと変わっていく。 「ふはぁ……あ、ああっ……ぁああっ」 まるでそこと声帯が連動してしまったかのように、最奥を突かれるたびに 私の口からいやらしい、自分のものとは思えない声が漏れる。 浮かべたことのないねっとりとした汗が肌を包む。 そしてまるで内側から体を溶かすような甘く激しい何かが、私のお腹から全身へ伝う。 「ふあぁ……あっ、あっ、あああぁっっ」 まるで自分の体が自分のものじゃないみたいになっていく。 そして私はようやくさっきから自分の胸の中に広がった感情の正体を知る。 「やあ……やだ、やぁ、やめてっ」 それはやはり恐怖だった。 でもそれは苦痛への恐怖じゃない。 未知の感覚を知ることに対する、自分が変えられていくことに対する恐怖。 気持ちいいのが、気持ちよすぎるのが――――怖い。 「やだ、やっ、へんに、へんになるよぉっ」 私は幼児のような舌たらずな声で清村さんに心の中の恐怖を伝える。 だけど、清村さんは唇をかみ締めながら拒否した。 「わりい、メイの中きつくて、きもちよすぎて、もうとめらんねえ」 「そんなぁっ、あふぅっ、ひああぁぁっ」 お腹の中の血や肉が溶けてぐちゃぐちゃに混じりあうような快感に、 気持ちよさが自分の中で膨れ上がって爆発しそうな感覚に私の全身が戦慄き始める。 「や、やぁ、もうだめ、もうだめぇぇっ」 溶けるのは血肉だけじゃなかった。 私の中にある心、精神、倫理観がぐちゃぐちゃに溶けて混じって人間らしさが消え失せて…… ただ獣のように舌を出して淫らに喘ぎまくる。 (このままじゃ………………わたし、わたしっ) 「ひあっ、てっ、てぇっ、ふぇを、てをぉぉっ」 清村さんの首の後ろに回していた手の平を彼の前にかざし、私はけだものの声で懇願する。 ほとんど人の言葉をなしていなかったけど、彼は理解し震える手を握ってくれた。 (ああ………………これで………………だいじょうぶ……………………) 「やだっ……くる、なにかくるぅぅっっ」 だけどもう怖くない。清村さんと指と指を絡めあった瞬間、心の中の恐怖が消えてなくなる。 きっとどれだけ私が溶けても、意識を飛ばされても、肉欲の沼に沈んでしまっても、 清村さんが手を握っている限り、彼がまた元の私に引き戻してくれるから。 そんな風に安心した瞬間、快楽を拒む心の防波堤が崩れ、悦びが全身へと爆ぜる。 「ひあ?……あっ……あぁっ……あ、あっ、ああああぁぁぁぁっっ ………………あああぁっ………………ゃぁっ………………………… ゃ………………………ゃぁ………………………………………………」 清村さんの物を包む薄い膜が膨張したと思った刹那、 私の肉体を絶頂が焼き尽くして、私は全身を弓のように引き絞っびくびくと痙攣させ、 2回目のセックスで気を失ってしまった。 「お疲れ様です、お二人さん。治療は終わりましたか?」 清村さんと一緒に建物を出た私たちは白い箱を二つ持った安藤さんに呼び止められた。 「はー、俺はようやく今日で完治したぜ。メイは?」 「私はあと少し、歯垢のお掃除があるぐらいで……もう通院しなくても大丈夫だそうです」 安藤さんは建物に設置された『馬歯科』と書かれた看板を見上げる。 「それは良かったですねー、……しかし恋人同士だからって 何も二人同時に虫歯にならなくても」 う、と呟いて二人の体が固まる。 私と清村さんが誤解をといて2度目のセックスをしてからもう3ヶ月が過ぎていた。 私達はあの時感じた快楽が忘れられず、お互いの体に練乳や蜂蜜などの甘味料を塗りたくり 舐めあうエッチにはまってしまったのだ。 そしてエッチの後けだるさや心地よさで眠ったりして――私はよく気絶させられたりもするけど―― 口の中に甘味料を残し歯磨きをしないままでいることがよくあり、 やがて二人同時に虫歯ができてしまったのだ。 もちろん安藤さんにはその経緯を話せるわけもないので私達は固まったまま赤面してしまう。 安藤さんはそんな私たちを見ただけでなにか察したようにニマ~と笑う。 「ま、何事もやりすぎはよくないということですね。 全く、見てるこっちまで虫歯になりそうですよ」 「おいおい駄目だぞ優梨、清村さんたちを冷やかしちゃ」 背後から男の人が出てきて、なれなれしく安藤さんの腰に手を回す。 「誰が呼び捨てにしていいって言いました? 名前の後にさんをつけなさいさんを」 とたんに安藤さんはどこからか取り出した木刀で背後の男…… 安井さんをぼっこぼっこにし始めた。 「おい、安井……何で安藤さんと一緒に?」 「ああ、言ってませんでしたっけ?俺達つき合ってるんすよ」 「ふざけんなあああああああああ」 「ええええええええええええええ」 清村さんと私が同時に叫び声を上げる。 「いやーこの人なんか殴りやすいし回復も早いし、サドっ子の私には相性いいんですよ」 しゃべりながらも安藤さんは木刀による打撃を止めようとしない。 しかし殴られている安井さんは流血しながらも輝かんばかりの笑顔を浮かべている。 「ま……お前らがよけりゃ別にいいんだけどよ」 「そんなことよりお二人ともいつもの公園でケーキ食べません? ちょうど治療が終わるころだと思ってケーキは二つ買ってありますけど」 白い二つの箱をかざす安藤さんの提案に、私達は快く同意した。 「ああ、いいねえ。メイも行くだろ?」 「……はい!」 虫歯が治ったばかりの私達は久しぶりにメイプルの特製ショートケーキを公園で食べる。 傍らに清村さんがいる中で食べたケーキは、 今まで食べてきたどんなケーキよりも甘く、とろけるほどおいしく感じられた。 そしてこのおいしさは、私と彼がいっしょにいる限り、いつまでも変わらないままだろう。 完
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「えーとっ、飲み物何がいい?コーラと カルピスウォーターとウーロン茶あるけど」 「ウーロン茶をお願いします」 「ああ……取ってくる」 清村さんが部屋を出た後、私の視線は部屋の片隅にある書籍に注がれる。 書店名が記されたカバーのかけられたそれは、 この前この部屋を訪れたときには存在していなかったものだ。 (あれ……この厚さ…………) 手にとって開き、私は自分の想像が正しかったことを知る。 するとドアの向こうから足音が近づいてきたので 私は急いでその書籍を元の場所に戻し、正座して彼を迎える。 茶色い液体がなみなみと注がれたコップが置かれると、 部屋の主は緊張した面持ちで私の真向かいになるようテーブルに座った。 ウーロン茶を一口だけ飲んだ後、私は気まずい沈黙を破る。 「私……見たんです。清村さんが、女の人といるところを。 身長は清村さんと同じぐらいで、すらっと背が高くて」 「ああ、それは姉貴だよ、姉貴」 「……私、清村さんにお姉さんがいるなんて聞いたこともなかった」 「そういや、言ってなかったな。悪りいな、なんか誤解させて。 その、何でもするから許してくれ」 「食べさせてください、ケーキ」 「え?」 「始めて清村さんと公園ですごした時のように…… 食べさせてください、ケーキ」 「あ、ああ、わかった」 たどたどしい手つきで清村さんはケーキを切り分けると 柔らかいスポンジにフォークを突き刺そうとするが、私はそれを止めさせる。 「フォークじゃ駄目です」 きょとんとした顔の清村さんを正面から見返す。 「手で食べさせてください」 「て?」 「手でじかにケーキを摘んで……食べさせてください」 二人だけの部屋に、ケーキを咀嚼する音だけが響き渡る。 清村さんが手に持ったケーキを、私は口だけを使って噛み締め、飲み込む。 私が少し上目づかいで清村さんの方を見ると、 目の合った清村さんが視線をそらす。 2週間前、清村さんの家を始めて訪れた時の私なら彼のこの態度を見て 自分が避けられていると勘違いしていただろう。 でも、今ならわかる。 ――顔も見せてくれないほど嫌われるってのは、こたえるな―― 怖いのは私だけじゃない。相手が何を考えてるかわからなくて、 辛くて苦しくて押しつぶれそうになっているのは私だけじゃなかった。 ケーキを食べようとする私の唇が、スポンジを支える清村さんの指に触れる。 清村さんの指が離れようとするが、その手首を私が掴み阻止する。 「駄目……逃げたら私が食べられないですよ?」 そしてそのまま、クリームのついた清村さんの長い指を、 自分でもびっくりするほどいやらしい動きでねっとりと舐めあげる。 清村さんは大きく息を吸って私の舌の動きを眺める。 私は、まるで幼児がするように清村さんの左手の小指を第二間接まで 口に含んで音を立てて吸い上げた。 イチゴだけを残してほとんどスポンジを食べ終え、 私の口の周りがクリームだらけになる。 「清村さん、クリーム取ってください」 「…………あ、ああ、ティッシュティッシュ」 私の指の動きで金縛りにあっていたように動かなくなっていた 清村さんがあたふたとティッシュの箱に手を伸ばす。 だけど私は静かに首を横に振る。 「ティッシュは駄目です」 「……ああ、じゃあ」 指で私の口の周りのクリームを拭い取ろうとしたその指を止める。 「口で……舐めとってください」 「な……」 口をあんぐりと開け絶句する清村さんの前に、 私は自分の顔を差し出す。 清村さんがごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。 心臓の音が高鳴って頬が真っ赤になるのがわかる。 いつもの私なら、こんな大胆なことなんて言えなかっただろう、できなかっただろう。 憧れていたタマさんがくれたまさかの褒め言葉に、 私は少し舞い上がってハイになっていたのだ。 「えっとその……いいの?」 「さっさとしてください。『なんでもする』んじゃないんですか?」 恐る恐る清村さんが口を近づけ、私の頬のクリームを舐めとる。 ざらついた舌が這い回るとただでさえ熱い私の頬がさらに高温になり、 頭に血が上りすぎて倒れそうになるほどだ。 だけどまだ足りない。 私はすっと清村さんの舌から顔を離す。 突然私から遠ざかれて清村さんは切なそうな表情を浮かべる。 もっと舐めていたい、彼の顔はそう物語っていた。 男の人の感情をコントロールできることに、私の心が怪しく昂ぶる。 私はスポンジの上に乗っかっていたイチゴを手に取り、 清村さんの口の中へ押し込む。 「……?」 狐につままれたように呆ける清村さんからケーキを取り上げ、 クリームやスポンジのカスにまみれた両手をぺろぺろと舐めあげ綺麗にしてから私はねだった。 「食べさせてください……イチゴ」 さすがにもう、清村さんもどうすればいいのか心得ていた。 彼の目が、2週間前のような熱く激しい獣の瞳に変わる。 だけどもう私は怖くなかった。 彼の目の中に映る私もまた、怪しく滾った眼差しで彼を見つめ返していたのだから。 イチゴを咥えたまま、清村さんが私にキスをする。 そして私と清村さんは、イチゴが砕けてグチャグチャになるまで舌と舌を絡め合わせた。 イチゴがぼろぼろになり、ほとんど原形をとどめなくなっても 私たちのディープキスは終わらなかった。 はぁはぁと息を吐きながら、私たちは口を離す。 「メイ……いいか?」 清村さんが鼻息を荒くしながら私に問いかける。 「今度は……」 私は肩を震わせながら呟く。 でもその震えは、2週間前のときのように恐怖を感じていたからじゃない。 「今度は……」 優しい彼はそんな私の様子に気づき瞳が少し寂しげになっていく。 違う違う違う違う! 怖いんじゃない。 私たちはこれから、本当の意味で結ばれる。 その喜びを抑えられず、私の体は震え続けているだけなのに。 「怖いのなら……やめようか?」 私は飛びつくように身を離そうとした彼の体に寄りかかる。 言わなきゃいけない。 自分の伝えたいことを。 タマさんのような強い心で。 「今度は優しく……優しく抱いてください…………」 次話へ進む
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元スレURL 愛「りなりー知ってる?Switchのソフトって舐めると チョー苦いんだって!」 概要 真偽を確かめるため誰かに舐めさせようとする璃奈だけど… タグ ^しずかすりな ^虹ヶ咲 ^高咲侑 ^短編 ^コメディ 名前 コメント
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【苦い涙でにじむ空】小鳥遊 柚 (三) 最終更新日時 2020/12/18 17 14 24 このページを編集 属性 レア 守備適性 - - - - 〇 - ◎ 〇 - - 〇 キャラ総評 「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」 「リン先生…!!野球がしたいです……」 この場所から、その気持ちからで入手できるサード柚。同属性ショートSSRである【再会は春の訪れと共に】小鳥遊 柚 (遊)と同様すこ7で本領を発揮するタイプだが、イベント産で凸が容易なので、使うまでのハードルは低いと言える。もっとも、同属性サードSSRである【揺るがぬ闘志は砕けない】東雲 龍 (三)を5凸している人にとっては新たな用途はなさそう。 そのほか、UR天草にリンクさせることでサード適性をつけられる。頭ハチナイにとってはこちらがメイン用途かもしれない。 試合評価 * ミート パワー 走 力 守 備 備考 素パラメータ 3016 3639 3066 3197 - 恒常スキル後パラメータ - - - - - 最大バフスキル後パラメータ - - - - - +チームスキル発動条件 チームスキル発動条件 * チームスキル 発動ライン 限界突破数 信頼ランク ミ パ 走 守 胡蝶之夢 走3400 - - 2 - - - - 1 - 6-4 俊足打線・先鋒 走3500 - - 2 - 4-2 超俊足打線・中堅 パ4200 - 2 - - 7-2 俊足打線・殿 ミ3500 2 - - - 5-3 1 - - - 7-4 鉄壁の内野陣 走3500守3800 - - 1 2 7-3 俊足打線・中堅はLvMAXなら凸と信頼度無しで発動する。超俊足打線・先鋒、超俊足打線・殿は2凸8-5でも発動しない。 すこ6以下ではあまり使う意味がないが、すこ7にした途端、パパ走守守で中堅と鉄壁に対応できる有能と化す。 デレスト評価 メニュー ランク カード名 属性 力 速 技 効果 練習メニュー ★★ 短距離走 蝶 9 20 0 - 追加メニュー ★★★ シャトルラン 蝶 - 40 25 - 追加メニュー ★★ 短距離走 蝶 9 20 0 - いつもの。 スキル解説 ランク スキル名 条件 効果 入手可能デレスト1 入手可能デレスト2 ★★ 悔しさをバネにする力 負けているとき 自身のパワーが超大幅に上昇し、ミート・守備が少し上昇する - - ★★★ 豪打の奥義+(条件あり) 打席時 自身のパワーが超バツグンに上昇し、ミートが大幅に上昇する 絆の結晶(極)1個 豪打の奥義を取得済み ★★ 豪打の奥義 打席時 自身のパワーが超大幅に上昇し、ミートが上昇する キャプテン代理 36-5-0 水平線 36-0-0 ★ 後悔しない為に 守備時/サードのとき 自身の守備が少し上昇し、エラー率がわずかに減少する ★ 内野安打の極意 なし 自身の走力が上昇し、ミートが少し上昇する いつもの二人/一本足 小麦色の世界 ★ クセ者の極意 打席時 自身のホームラン率がわずかに減少するが、四球率が大幅に上昇する 練習なくして 一本足 ★ 守備範囲拡大の極意 なし 自身の走力と守備が少し上昇する 楽/清/踏/代/練/い/一/シェ/小 - ★ 起点の心得 打席時/走者がいないとき 自身のミートがわずかに上昇し、走力が少し上昇する ★ 電光石火の心得 打席時/3回まで 自身のミート・走力がわずかに上昇する ★ 快速の心得 なし 自身の走塁・盗塁がわずかに上昇し、走力が少し上昇する いつもの二人 一本足/重なる気持ち ★ 高速守備の心得 なし 自身の走力が少し上昇し、守備がわずかに上昇する ★ 走力の基礎 なし 自身の走力がわずかに上昇する 条件のないものが多く、使いやすい。 才能 才能名 Lv 条件 効果 パワー◎◎ 7 なし 自身のパワーがバツグンに上昇する 内野安打◎ 5 なし 自身のミート・走力が上昇する サード◎ 5 守備時/サードのとき 自身の守備が超大幅に上昇する エラー回避◎ 5 守備時 自身の守備が上昇し、エラー率が超大幅に減少する なんか泣いとるけど、サードもエラーも解決しとるやないか。 セリフ集 +押すと開きます 状況 セリフ ホーム 強くなることを、諦めたくない。私、野球が好きだから! みんなの背中を見て、自分が情けなくなっちゃった。なに勝手に諦めてるんだろう、って…。前を向かなくちゃいけなかったのに… たぶん、諦め癖がついてるんだよね。中学の…男子についていけなくなったあの時から、ずっと… だからリンちゃん…お願い、私の特訓に付き合って。私、自分の殻を破りたい。リンちゃんの分析力で、その手伝いをしてほしいの あはは…さすがリンちゃん、厳しいね…。うん…自分でも分かってるよ、私の才能じゃ難しいかもって… でも…1ミリでも可能性があるなら、諦めたくない! どんな険しい道でも、諦めたくないじゃん! 悔しくても、苦しくても、それでも野球が好きなんだもん! もっと強くなりたい…私、今よりもっと、強くなるから…! …だからお願い、こんな風に泣くのは、今日だけだから―― 試合 試合前 泣いたらスッキリしたっしょ…ううん、なんでもない! 開始 いつまでも、ウジウジしてらんないし! カットイン通常 可能性がある限り…! カットインターニングポイント - 勝利 やっぱり私、野球が好き! もう悔しい思いは、二度としたくないから…! 敗北 好きって気持ちだけじゃ、ダメなのかな… デレスト 特訓 - - コメント ログを開く 夕焼けと涙、かつての本庄さんのシーンを彷彿とさせる - 名無しさん (2020-09-09 23 33 49) スキル欄のとこ、SSRにすると増えるスキル「悔しさをバネにする力」が抜けています - 名無しさん (2020-09-10 02 35 38) スキル「後悔しない為に」を反映させておきました。それと、恒常パラメータ、最大バフスキルパラメータ、計算できる人間がいらっしゃったら、記述(反映)をよろしく御願い申し上げます(柚はツイッターでは好きなキャラに挙げる人間が結構いてる感じですから、なおさら…)。 - 名無しさん (2020-09-11 10 00 35) 名前
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「よお、芽衣」 「おはようございます、清村さん」 いつもと変わらないメイプル前の二人の挨拶。 ただ一つだけ夏休み前から変わっているのは、 清村さんが私のことを下の名前で呼んでくれるようになったこと。 でもこの時すでに、私の気づかない微妙なもう一つの変化が清村さんの中には起こっていた。 「よう……今日も元気だな。服もかわいいし」 「え……あ、はい、これ、一昨日駅前のお店で買ってきたんですけど…… 似合ってますか?」 後頭部をぽりぽりと掻きながら、清村さんは頷いた。 「ああ、すごく似合ってるぜ」 思わず顔が紅く染まる。この日私が着てきたのはホルターネックで膝上10センチと丈の短い白のワンピース。 見立ててもらった安藤さんと比較的財布にやさしい値段に後押しさせられて、 そしてなにより人生初めて恋人ができた事実に浮かれていたので思い切って買ってはみたけれど、 家の鏡の前で改めて着てみた時は肩も太股も予想以上に露出していて思わず一人で赤面してしまった。 でも、買ってよかった。着てみてよかった。 清村さんに褒めてもらえたのだから。 と、そこで私は頭を掻く清村さんを見ていてあることを思い出した。 「そういえばあの時の傷はもう大丈夫ですか?」 清村さんは顔をしかめる。 「あー、あれか。結構血出てたけど、ま、今はすっかり治ったわ」 「ほんと、ゴキブリ並みの生命力ですね~」 私の背後から安藤さんがひょっこりと顔を出した。 いつもと変わらない様子でにやりと笑っている安藤さんを、清村さんはじろりと睨む。 「あんたなあ、ちっとはすまなそうな顔しろよ。 あんたのせいでこっちはひどい目に遭ったんだぞ」 「おやおや男の癖にいつまでも愚痴愚痴と昔のことを。 そんなんじゃ小川さんに捨てられちゃいますよ?ねえ小川さん」 突然こっちに話をパスされて、私は何も言えず口ごもる。 「えぇと、その……」 「芽衣に同意を求めるな!」 そこで、不意に安藤さんの顔から笑みが消える。 「……おやおや、いつにも増してカリカリしてますね? そんなに余裕がないと、『いざという時』ほんとに小川さんに拒否されてしまいますよ?」 一瞬、清村さんがぎくりとして安藤さんの顔を見返す。 「あんた……知ってるのか、その……ええと……」 それだけ呟くと、清村さんは何を言わず口の中でもごもごと言葉を飲み込む。 そんな彼の様子を大きな瞳で観察した後、安藤さんはいつものようににか~と笑う。 「さあて、馬に蹴り殺されるのもなんなので、ここら辺で邪魔者は退散しましょう。 それではお二人ともごゆっくり」 なんだろう、さっきのやり取りの不自然さ。 一つわかることは、あまりに清村さんがらしくない、ということ。 安藤さんが列の後ろに並んだのを見届けて、私は清村さんに問いかけた。 「その……何かあったんですか?」 「いや……別に」 清村さんが、少し視線を外しながら答えた。 なんだろう、全然らしくない。 いつもなら目を合わせないのは私のほうなのに。 「それよかさ、この前貸したアルバム、聞いてくれた?」 「え、あ、はい。3曲目が特に良かったです」 「あー、あのアレンジ昔からのファンの間じゃ評判悪いけど俺は結構好きなんだよな。 でも7曲目も結構よくなかった?あの歌今度隣の県でやる野外フェスで歌うらしいから、 見に行きたいんだけどなー」 「え、あのバンドも出るんですか」 「そーなんだよ、それで……」 そんな感じで、私と清村さんはいつものように他愛のない話をし始めた。 でも私は頷いたり適当に相槌を打ったりするだけで、清村さんが常に口を動かし続けていた。 まるで不安や緊張をごまかすように、彼らしくない饒舌な会話は開店時間がくるまで止まる事はなかった。 公園までの道のりをいつものように二人並んで自転車をこぐ途中、ふと清村さんが呟く。 「さすがに、8月は暑いよな」 「昨日も、熱中症で何人か倒れてるんですよね」 「そうらしいな……」 そこで、清村さんはまた黙る。 やっぱり、今日の清村さんはどこかおかしい。 さっきは違うと言ってたけど、やはり何かあったのかな。 「あの……どうしたんですか」 たっぷり5回は深呼吸できるほど間をおいて、清村さんはしゃべり始めた。 「東屋の下とはいえ……外で食うのは暑いよな、やっぱり」 「はい」 「あんまりさ、外にいるの……よくないよな、熱中症にもなるし」 「そうでしょうね」 信号が赤の交差点前で、私達は片足をついて自転車をとめる。 「どうせならさ、『お茶会』を家の中でやらないか?」 「家の中……?」 それって。 「ちょっと公園より遠いけど、俺んち来ないか?」 清村さんの家。好きな人の家。断る理由があるだろうか? 「あの……行きます!あ……でも」 夏とはいえこの格好は、少し露出が多いと思われるかな? もし家族の人に派手な子と思われて、第一印象悪くなったら嫌だな……。 「でも、何?」 「あの、ちゃんとした格好じゃないと、その…… 家族の人に、変に誤解されちゃうんじゃ……なんて……」 「ちゃんとした格好じゃん。むしろ自慢したいぐらいだけど」 「え……あ、そ、そうですか?」 あまりに手放しに褒められて、煽てられてるとわかっていても顔から湯気が出そうになる。 「それに、いないし」 せみの声がうるさくて、私はその言葉を聞き流しそうになった。 「…………え?」 「今日、うちには誰もいない」 意味を理解するのに時間がかかった。 それって、それって。 思わず清村さんの方を振り向いた私はぎょっとする。 彼の瞳には、熱く鋭い何かがこめられていて。 そしてその激しいまなざしは、まっすぐ私に向けられていて。 心も体も子供なままの発育の遅い私にもその視線の意味が理解できた。 彼が何を求めているのか、私をどうしたいのか感じることができた。 まるで捕食者に追い詰められた小動物のように、私の体が止まる。 「青だぞ、信号」 それだけ呟いて清村さんがまた自転車をこぎ始めた。 私は慌ててその後を追おうとする。だけど私の自転車は左右に頼りなく揺れ、 しばらくの間は自転車に乗りたての人のようにうまく走ることができなかった。 それは私が慌ててペダルをこいだからではない。 交差点の先のアスファルトに呼び水を見つけたからでもない。 さっき見た清村さんの眼に宿った激情が、私の心をかき乱していたから。 手と足が細かに震えて、乗りこなした自転車のハンドルとペダルをうまく扱えない。 それは確信だった。 今日、彼の家で、私達は一線を越える。 「お誘い編」終了 そして若い二人は…… 次話へ進む
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私がいつものお茶会の公園の入り口までたどりつき、そしてまた躊躇う。 これ以上、メイプルのほうへ近づくことができない。 そして、少し後退して公園の脇まで戻り、また前進する。 何をしているんだろう、私。 もうとっくにメイプルの開店時間なんて過ぎているだろうに、 それでも踏ん切りがつかず店へ行くことも帰ることもできずに公園の周囲をうろうろしている。 馬鹿みたい、じゃない。 正真正銘の大馬鹿者だ。 だけど、私は6回目の後退を開始する。 真実を知るのが怖い。 だけど真実を知らないままでいるのは耐えられない。 自分が情けなくて、涙が出そうになる。 その時清村さんがお茶会の公園に入っていくのが遠目に見えた。 隣に女性を連れ立って。 絶望で頭が真っ白になるが、それが見知った女性と分かりわずかに安心し、当惑する。 (なんで安藤さんが清村さんと……?) 理由が知りたい。でも近づきたくない。気づかれたくない。 私は二人に気づかれないよう公園の茂みに分け入り、後をつけ始めた。 東屋に入るなり、安藤さんは清村さんを木刀で叩き伏せた。 あまりのことに私はぽかんと口を開けてただ成り行きを見守る。 「な……何するんだよ!」 「叩かれる謂れがないと胸を張って言える身ですか?」 「そ……それは……」 清村さんが口ごもった。 「こんな女と肩を組んで一緒に仲良く町を練り歩くなんて、 恥知らずにもほどがありますね」 差し出された携帯の画像に目を丸くした清村さんは一瞬言葉を止める。 私も息を飲んで耳を済ませる。 携帯の画像は見えないけど、清村さんと一緒に歩いていた女性とは私の目撃したあの女の人に違いない。 「……これ、姉貴だぐぼぇっ」 「よくもそんな嘘を抜け抜けと」 心底軽蔑した顔で安藤さんが清村さんを見下ろす。 「いや、本とだから!とりあえず木刀で殴るの止めろ! ほら、これ見ろよ、携帯に名前あるだろ」 「……ほんとに?」 「嘘なら戸籍謄本でも何でも調べりゃいいだろ!」 「ま、人間なら誰でも間違いはあるとして」 涼しげに安藤さんは言いきった。 「人を木刀で殴って間違いで済ますな!大体これ、遠いからわかんねえけど 肩組まれてるんじゃなくて首極められて無理矢理連れ回されてるだけだっての」 「ふーん」 「ふーんで済ますな!」 「あたしに謝る気はありませんよ。だってあなたが小川さんを傷つけたのは事実ですから」 急に、清村さんの背中が小さくなった。 「……それは、言い訳しない」 「家族のいないチャンスに焦ったんでしょ。これだから童貞は」 「っていうかなんであの日家族いなかったの知ってるんだよ!」 安藤さんは清村さんの質問に無視して続ける。 「どうせ、嫌がる小川さんを無理矢理押し倒したんでしょ? 彼女が抵抗できないのをいいことに」 「……ああ、ひどいことをしたよ」 それは違う。 だってあの時、清村さんは私に聞いてきたのだ。 『……いいよな?』 そして私はそれを拒否しなかった。 拒否して、清村さんの機嫌を損ねるのが怖かった。 「謝っても償えないのは分かってるさ」 拒めば、彼に捨てられると思ってしまった。 少し考えれば、優しい彼がそれぐらいで私を責めるはずはないと分かるのに。 「でも、顔も見せてくれないほど嫌われるってのは、こたえるな」 寂しそうに清村さんが俯く。 「自業自得です」 違う。違う。確かに清村さんも悪いかもしれない。 でも、私だって悪いんだ。 肝心な時に、肝心な言葉を言えない私にも責任はあるんだ。 あの時ちゃんと自分が感じていた恐怖を告げていれば、 清村さんも私もこんなに傷つかずにすんだんだ。 「へえ、清村が女と公園でデートしてるってのは本当だったんだな」 私が植え込みから出て声を出そうとした瞬間、 清村さんと安藤さんの周りをガラの悪い10人の男の人達が取り囲んだ。 「なんです、この人達?お友達ですか?」 「さあね」 「よ、清村。久しぶりじゃねーか」 ニット帽をかぶった男の人が進み出て話しかけるが清村さんは首を傾げる。 「……誰だっけ?」 たちまちニット帽の男の人が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。 「このくそ野郎が!てめえに歯をへし折ら」 「まあそう熱くなるなよ」 ニット帽の男の人を肩を掴み、二人の木刀を持った人が進み出る。 「俺らがすぐに黙らしてやるからよ、てめらはそれまで後ろでじっくり待っとけって」 「……ああ、頼むぜ、岩佐、外山」 二人が構えるのを見て清村さんの顔が少し険しくなる。 剣道部員の私と安藤さんにも分かった。この人達は剣道経験者だ。 「あんたら結構使えるみたいだな」 清村さんがため息を吐いて安藤さんのほうを振り返る。 「一応さ、武道をやってる人間ならプライドみたいなもんがあるだろ? 女に手出しするのは止めてくれいたぁーーっ」 安藤さんは清村さんの顔に木刀をめり込ませる。 「何ですかその『女に手出しするのは止めてくれ』ってせりふは。 あたしがあなたの彼女と誤解されるでしょうが」 「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」 木刀を持った角ばった輪郭の男の人がニヤニヤしながら隣の少し整った顔立ちの人に問う。 「女は逃がせってよ。どうする外山?」 問われた男の人は、薄ら寒くなるほど不吉な笑みを浮かべる。 「おいおい、そんなことするわけないだろ?。……乱戦中に間違って殴ることはあるかもしれないが、な」 角ばった輪郭の男の人は、低い鼻を震わせてせせら笑った。 「だってよ。わりいな、こいつどサドなもんで」 「ふふふ、サドならこっちも負けませんよ」 なぜか対抗して安藤さんが清村さんの後頭部を殴る。 「いたーーー、だから何でこの状況で俺をしばくんだよ!! 今の状況はあんたもピンチなんだぞ」 そう、今清村さんと安藤さんはピンチの真っ只中だ。 「いやでもしばき安そうな頭だったんでつい」 「ついじゃねーついじゃ」 「昼の公園だとすぐに人も来るしさっさと終わらせろよ。 早くそっちのねーちゃんと遊びてぇし」 だけど私は、一連のやり取りを茂みの中で傍観しているだけ。 「あー思い出した。このニット帽女の子無理矢理暗がりに 連れ込もうとしてたから俺が殴ったんだ」 「あんなの無理矢理じゃねーよ。臍と肩丸出しの女なんてヤられたいから そういう格好してるんだからな」 「……やっぱり友達じゃないんですか? 知能指数の低いところがいかにも清村さんの仲間っぽいですよ?」 親しい人が、恋しい人が危機に陥っているというのに。 「……おい、そこのねーちゃんの顔傷つけるなよ。 可愛がる時痣だらけじゃ楽しめないしな」 「やれやれ、わりいな。なんか巻き込みそうだ」 「大丈夫ですよ。自分の身ぐらい自分で守れます」 変わるんだ。少しでも強くかっこよくなる時はいまなんだ。 「あなた達っ、警察を呼びますよ!」 私は茂みから顔を出し、携帯を掲げながら震える声で叫んだ。 「芽衣!!」 「小川さん!!」 清村さんと安藤さんが私の姿を見て驚く。 二人に絡んできた男の人達もこちらを見て、皆の視線が私に集中する。 その時ふと、私の皮膚に鳥肌が立つ。 まるで品定めするような、粘ついた視線。 それは、どサドと呼ばれた人の恐ろしい眼光だった。 彼は、私と安藤さんを何度も見比べて、最終的に私のほうへ顔を向ける。 「こっちのほうが俺好みだな」 「てめえ、芽衣に手を出したらぶっ殺すぞ!」 今まで聞いたこともないような低い音程で清村さんが叫んだ。 「やれやれ、あたしの時とはえらい違いですねぇ」 「へえ、こっちの方がほんとの彼女みたいだな。遊んでやれよ、外山」 ニヤニヤと笑みを浮かべながらどサドの人がこちらへ一歩踏み出そうとした瞬間、 清村さんが放物線を描くようにしてフォークとナイフをサドの人に投げつけた。 食器とはいえ、凶器であることにかわりはない。 弧を描いて飛んできたそれらを木刀ではじいた瞬間、 がら空きになったどサドの人の懐に清村さんが一気に踏み込みボディブローを放った。 「……くはぁ……」 どサドの人が肺から空気を吐いて倒れると、 連れの人が顔を真っ赤にして清村さんに木刀を振り下ろす。 「てめぇっ」 「清村さん!」 「芽衣は逃げろ!」 すんでの所でかわした清村さんはそれでも私の身を案じる。 「だけど、だけどっ!」 「武器もないあなたがいても清村さんが困るだけです。 それよりも早くどっかから助けを!警察に電話じゃ間に合いそうもないです」 安藤さんがニット帽の男を木刀でぼっこぼこにしながら私に指示する。 確かに、今私にできることは助けを呼ぶことだけだ。 公園内には私たち以外誰もいない。 公園の入り口に向かって走り出す。 背後で、清村さんの呻き声が聞こえた。 涙が滲む。足が震える。 だけど駄目だ。 ここで立ち止まってはいけない。振り向いてはいけない。 その時、涙でモザイクのように歪んだ視界へ、人影が写りこんだ。 「お願いです、私の大事な人が……大事な人が襲われてるんです!!」 突然のことに人影がとまっどっているのが気配で分かる。だけど私は言葉を止めない。 「大勢の悪い人に襲われて……相手は剣道経験者で!だから、どうにか助けてくださ……」 ここで私は言葉を止める。 近づいてきた人影が、私と変わらぬ背格好だったからだ。 性別も年齢もいまだあふれる涙で分からないが、 私と同じぐらいの身長なら暴漢を止める力はまずないはずだ。 慌てて私は言葉を変える。 「あ……あの、近くに交番はありませんか!?」 しかし人影は、私の横を通り過ぎる。 「あ、駄目です!中は今乱闘で、危険です!」 「大丈夫ですよ、……小川さん」 その声の主は、どこかから取り出した棒状の何かを持ったまま公園の中へと駆けていった。 その声の主は私を知っていた。 私もその声の主を知っていた。 思いがけない再会に、私の涙が、思考が止まる。 「あ、駄目です!危険ですってば!!」 しばらく放心していた私は慌てて彼女の後を追った。 清村さん達の所まで引き返した私が見たものは地面の上でのびる不良たちと、 その前で角ばった顔の人から取り上げたであろう木刀を持ちながら 腕の痣をさする清村さんの姿だった。 「ああ、芽衣、無事だったのか!」 「清村さんこそ、そんなに痣だらけで大丈夫なんですか?」 「これは、半分以上こいつにつけられたんだけどな」 清村さんは鼻歌を歌いなが不良の人達を裸に剥いて撮影している安藤さんを木刀で指し示す。 「イヤ~、乱戦ダッタモノデツイ手ガスベッテ」 「思いっきり棒読みじゃねーか!」 「?!それよりも、あなたは……」 安藤さんは、私より少し前にこの場へ駆けつけた彼女を見て目を丸くする。 「ああん?誰だあんた」 全身返り血を浴びて、安藤さんに木刀を突きつけている清村さんが不思議そうに尋ねる。 「……悪い人というのは、あなたですか?」 竹刀を手にした彼女は、ゆっくりと彼に問い返す。 「え、俺?俺は別に」 「ええ、自分の性衝動を押さえつけられず小川さんを泣かせる極悪人、 とりごや高校3年10組清村緒乃とは彼のことですよ」 安藤さんがおどけて清村さんのことを紹介する。 「何で俺のクラスまで知ってんの!?……まあ、前半は事実だから反論できねーが……」 その時、竹刀を持った彼女がボソリと呟いた。 男、年上、経験者、と。 そう、今ここに来たばかりの彼女――川添珠姫から見れば、 清村さんは大勢の男の返り血に染まり安藤さんに竹刀を向ける極悪人。 次の瞬間、タマさんの渾身の突きが清村さんに炸裂する。 清村さんは数メートル先まで吹っ飛び、そのまま白目を剥いて動かなくなった。 私が悲鳴をあげるのと、安藤さんが 「あれは死にましたね」 と楽しげに呟くのはほぼ同時だった。 次話へ進む