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ある日、富士の裾野に所在する陸上自衛隊西富士駐屯地が、忽然と姿を消した。 突然の異常事態に日本国内は騒然となり、『日本陸軍キャンプが消失!』などというテロップで、海外でも特番が組まれるほどの大騒動になった。 情報収集や事態の確認に右往左往する日本政府と自衛隊、チャンスとばかりに与党の責任問題を追及しようと目論む野党、オカルト的な騒動を引き起こすカルト教団などで国内の混乱は最高潮に達し、あわや、非常事態宣言が発動されるのではといった矢先のことだった。 件の陸上自衛隊駐屯地は、何事も無かったかのように、以前と変わらぬ姿で、全く同じ場所に再び姿を現したのだ。 異世界の住人と、異世界へと繋がる恒久的な門と共に。 行方不明になっている間、駐屯していた陸上自衛隊の部隊は、異世界の住民と平和的に接触して友好関係を築くことに成功しており、門の向こうの住人達は非常に友好的だった。 その異世界の住人達というのが、狼の耳に酷似した動物の耳と尻尾を持っていたということが、騒動に拍車をかけることになったが、彼らのメンタリティーや生活様式が驚くほど日本人に似通っていたため、国民には意外なほどすんなりと受け入れられた。 日頃から日本人が慣れ親しんでいるサブカルチャーの影響も大きかったかもしれない。 異世界へ繋がる門は、再出現した駐屯地の営庭に出現しており、その存在は世界的な大ニュースとなった。 どの国もこぞって門の先に存在する新天地に食指を伸ばそうと試み、日本政府に大小様々な圧力をかけてきた。 同盟国ヅラして、まるで当然の如く一枚噛もうとする国、国連の名の下に管理しようなどと言い出して、自国軍を日本に駐留させようとする国、日本国内の「平和主義者」を煽動して、門の管理を息のかかったNGO団体に委ねさせようと画策する国、何故か謝罪と賠償を要求してくる国など、挙げればキリが無い。 日本政府は、お得意の玉虫色の対応で、ハイエナのように群がる各国からの攻勢をのらりくらりと躱しながら、門の先にある異世界との交流に注力していた。 「自衛隊の異世界に対する武力行使はんたーい!」 「自衛隊は、今すぐ異世界を開放しろー!」 西富士駐屯地へと続く公道の脇では、目に痛い原色の幟を掲げた「平和主義者」達がデモを行っていた。 人数自体は大した事は無く、60代以上の老人が十数人程度、といったところだ。 炎天下の中、自衛隊の車列に向かって、盛んにシュプレヒコールを上げている。 どうやら、自衛隊の車両が通りがかるたびにやっているらしい。 「このクソ熱い中で、よくやるもんだ」 73式小型トラックの助手席から一瞥し、長良二尉は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 横断幕の中に「ヘイトスピーチ反対!」だとか「反原発」などと明らかに無関係なものが混じっている事については、苦笑するしかない。 「これでも、ちょっと前に比べれば、随分と大人しくなったもんですけどね」 ハンドルを握っている橘三曹が暢気に答えた。 「まあな。俺達が戻ってきてすぐの頃は、もっと酷かった」 陸上自衛隊駐屯地の消失と帰還。そして、開かれた異世界への門。 それらの熱狂がある程度収まると、今度は門の向こうで自衛隊が何をやっていたのかに焦点が向けられた。 当時、訓練の関係で西富士駐屯地を訪れていた長良と橘は、所属する普通科中隊と共に、異世界への転移と帰還を体験していた。 異世界は巨大化した虫が人間の生活を脅かす異質な世界だった。 不測の事態に直面した駐屯地司令は、自分たちの身を守るため、そして偵察によって近くに存在することが判明した村を守るため、災害派遣の害獣駆除名目で武器使用を許可した。 自衛隊の活躍で、隊員にも現地の人々にも奇跡的に死傷者が出なかったのだが、自衛隊が武器使用を行ったということで、その手の団体が騒ぎ始めたのだ。 自衛隊が害獣駆除目的で武器を使用したことは、多くは無いが過去にも事例がある。 しかし、たかが虫退治のために、武器を使用したとは何事か、というわけだ。 その虫というのが、全長が成人男性の身長にも匹敵する大きさの、食肉性の強い巨大ダンゴムシだったとしてもだ。 一時期、駐屯地前は、往来が困難なほどに抗議デモを行う市民団体が押し寄せ、更にそれにカウンターを加える保守系市民団体や民族系右翼などで溢れかえり、双方から逮捕者を出すほどの騒ぎになったりもした。 そんな混乱の最中、いくつかの国々で、日本に出現したものと同じような、異世界への門が現れ始めた。 突如、自国内に現れた新天地への入り口にどの国も躍起になり、日本に構っているどころではなくなったのだ。 国土だけは広い隣国も同様で、なんと国内に複数の異世界への門が出現したのだ。 その前後から、何故か「平和主義者」によるデモの数と規模が目に見えて激減したのだが、偶然の一致なのだろうと、長良は皮肉っぽく考えていた。 橘が運転する73式小型トラックは、罵声を浴びせたり中指を立てたりするデモ隊の前を悠然と通過し、正門より駐屯地内に入った。 車体側面には、『第5次外地派遣隊』の横断幕が掲げられている。 「外地」とは、政府が設定した異世界に対する呼び名だ。 元々は、大日本帝國時代の海外統治領を指す言葉であったため、「異世界を植民地化するのか!」などという批判が野党から起きたりもしたが、内閣は「日本国外にある土地という意味でしかない」という答弁で一蹴していた。 「いつ見ても奇妙なもんだな」 営庭に出来た門を眺め、長良は嘆息した。 駐屯地が異世界から戻ってきた直後に形成された異世界への門は、営庭のど真ん中にぽっかりと口を空けている。 その様子は、空間に穴が開いているとしか表現のしようがなく、どの方向から見ても、全く同じ大きさ・形に見えるのだから不思議だ。 門の大きさは、横幅約4メートル、高さ約3メートル程度の大きさで、10式戦車一両が何とか通れるくらいと、あまり大きくは無い。 横幅はともかく高さが意外と低く、外地への装備の持込には意外と手間取った。 何しろ、陸自のワークホースである3.5t大型トラック(新型)でさえ、幌がつかえてしまうのだ。 外せば何とか通過できるので、然程問題にはならなかったが、問題は他の装備についてだ。 どうしても必要なものについては、分解して門をくぐり、向こうで組み立てるなどして持ち込む必要があった。 ヘリなどはその最たるもので、OH-6程度の小型ヘリであれば、ローターを外せば、台車に乗せて搬入することが出来たが、UH-1クラスになると、そうもいかない。 門を取り囲むように設置された検問所では、行き来する車両や人員の検閲が行われており、小型トラックは、そんな車列の最後尾に着いた。 転移当時、中隊付幹部の三尉として害獣駆除に参加していた長良は、部隊間の調整業務に従事し、直接戦闘には参加していない。 長良は、自分達のやることを現地の人々に分りやすく伝えるためということで、総合火力演習的な演出をしてみてはどうかと上申した。 これならば一目瞭然だし、あまり協力的ではない年寄り連中を黙らせることが出来ると考えたからだ。 そして、発言者の常として、その演出とやらのお膳立てを一任されてしまった。 長良は、本番の総合火力演習用にと用意されていたオーロラビジョンを、村からよく見える位置に設置した。 FFRS(無人偵察機システム)からの偵察映像をオーロラビジョンに中継して放映するためだ。 更に、見た目も威力も派手な99式155mm自走榴弾砲4両を、同じく目立ちそうな置に配置した。 状況が開始されたあとは、彼自らがトラメガを手に、興味深そうに見守る村人達に向かって、司会進行の役もやってのけた。 これがことのほか現地の人々――特に若い世代に好評を博し、その後の良好な協力関係に少なからず影響を与えた。 その功績から二尉に昇進した長良は、現在では外地派遣隊の司令部付隊に身を置き、日本・異世界間の調整役として、新たに付けられた部下の橘と共に、日本と異世界を忙しなく行き来している。 ちなみに、この時に使用された4両の15榴については、日本側に戻すことが困難なため、虫対策として現地に配備されることになった。 長良の任務は、主に外地派遣隊の定時報告や需品の調達、現地での民生支援・宣撫工作、思想調査など多岐に渡っていた。 思いがけず昇進してしまったことについては素直に嬉しかったが、こんなわけのわからない異世界なんぞとオサラバして、通常の部隊勤務に戻りたいというのが彼の本音だった。 こんなことになるなら、あの時余計な口を挟むんじゃなかったと、若干後悔もしていた。 ふと、運転席の橘に目をやると、車列が進まないのをよいことに、スマートフォンを弄り始めていた。 橘も長良同様、転移から帰還した後に、陸士長から三曹に昇進している。 長良の下につくまでは、普通科小隊の一員で、96式装輪装甲車の銃手として害獣駆除に参加していた。 物怖じしない性格で、悪く言えばお調子者なのだが、現地の人々ともすぐに打ち解ける柔軟性を持ち合わせていた。 長良とは対照的に、彼は外地での任務を彼なりに楽しんでいるクチだ。 「どうです、二尉。この子、可愛いでしょ?」 長良の視線に気付いた橘は、人懐っこい笑みを浮かべながら、スマートフォンの画面をこちらに向けてきた。 そこには、自撮り撮影と思われる画像があった。 一人は橘で、その隣には、和服に似た服装の狼耳の少女が、はにかむような笑顔で映っている。 「セツコちゃんって言うんです。とっても良い子ですよ。料理も上手なんです」 友人に彼女を紹介するような橘の口調に、長良は僅かに眉を顰めた。 外地で仲良くなった少女なのだろうが、明らかに未成年だ。 友好関係を築くのはいいが、無闇に深入りするのは感心できない。 「……どうでもいいけど、警務隊の厄介になるような真似はするなよ」 「やだなぁ、大丈夫ですってば……おっと」 前の車両が移動を始め、橘はあわててスマートフォンを仕舞うと、車を前進させた。 「あ、そういえば、二尉。海のほうでも、門が見つかったって話、知っています?」 「ああ、海自の哨戒機が見つけたって話だろ。勘弁して欲しいよな」 「そうすか? 俺は面白いと思うんですけどねえ」 お気楽そのものの橘に、長良は軽い頭痛を覚えた。
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黒田軍の捕虜となった自衛隊員たちは石垣の基礎の上に木造の建造物を置いた小規模な城に監禁されていた。 頑丈そうな木材で壁や格子の作られた地下牢は、窓なども無く明かりは蝋燭だけと薄暗い。 が、湿度も温度も不快というわけではなく、床も畳が敷かれてどちらかといえば座敷牢に近い物になっている。 この地下牢に自衛隊員たちは数名ずつに分けてそれぞれの牢に入れられていた。 食事は質素ながら一日二回出ている…とはいえ、牢といい食事といい、これが最低基準以下なのかどうか正確な判断は付かない。 ただ分かるのは、麦飯が茶碗一杯と味噌汁のようなものと、副菜に焼いた魚か野菜の煮た物が どちらか一品という献立からすると食べ物は日本と似た文化であるらしい。 一部の詳しい隊員をして驚かせたのは、出された味噌汁にどうみてもじゃが芋やタマネギとしか思えないような物が入っていた時だ。 日本史ではじゃが芋が日本に入ってきたのは1600年代、タマネギは江戸時代に入ってからとなっている。 番兵にこれはなんだ、と尋ねると馬鈴薯と葱頭(タマネギの古い呼び方)だと答えたので、じゃがいも・タマネギと見て 間違いはないだろうが、そうだとするとこの日本の戦国時代風の奇妙な世界は少なくとも史実の日本でいう 16~17世紀ぐらいに相当する状態と思われる。 が、もっと昔から輸入されていたり元々この世界の”日本”では自生していた可能性も一概に否定できない。 また、自分達の知る日本の歴史よりももっと長く戦国時代が続いているのかもしれない。 何にせよ、この世界には謎ばかりが多かった。 情報不足は自分達のおかれた状況と、これから先の展望を不透明にさせ、彼ら一人一人を不安にさせた。 佐野3尉や鹿嶋3尉は既に自分達が指揮官と補佐だと名乗っているので、ここ二日ほど何度か侍たちに呼ばれ取調べを受けている。 今のところは拷問などの危害を加えられそうな様子は無い。 負傷者も必要な手当てなどは施されている。 だが、武器を取り上げられ行動の自由もままならない状態では、明日にも殺されかねないという恐怖は牢内全体に蔓延していた。 既に、この昔の日本に似た奇妙な世界に迷い込んだ直後に殉職者を出している。 家族の写真などを取り出しては見つめ、声を殺して涙を流す者も少なくなかった。 伊庭1曹もこの二日間、膝を抱えて家族や恋人の事ばかりを考えていた。 伊庭は3人兄弟の次男として生まれ、我がままで暴君的な兄と勉学のできて優秀な弟に挟まれて育った。 腕力では兄に、頭の出来では弟に適わず、自分に取り立てて長所といえるものはない、そう思い込んで 幼少期を凄した伊庭は、内向的でで無口な少年に成長する。 高校の3年生の夏ごろになっても自分の未来というものに自信をもてず、兄は既に就職し、 弟は有名大学の付属高校に入学したのと対照的に伊庭はいまだ進路すら決めかねていた。 自分はどうせ兄にも弟にも適わない。 自分に良いところは何もなく、何かをしたくても、挑んだところで兄弟に差を見せ付けられるし、両親は 常に自分と兄弟を比較して「お前も頑張りなさい」と言う。 自分が存在している意義が見出せない。 自分がいなくても、両親には兄と弟がいるからそれでいいんじゃないかと思う。 兄と弟という超えられない壁、挑む前に見えている結果と実らない努力。 思春期らしく迷い、逡巡していた伊庭に未来を指し示したのは、ふとしたことで出会った地連の主任広報官だった。 強く誘われて入った自衛隊で、伊庭は自分の居場所らしきものを見つけた。 ここには誰にも比較されない自分がある。 ありのままの自分が試され、そして必要とされる。 一人一人が自分の果たすべき事を要求され、それを果たし、そして一種の結束、連帯感がそこにある。 厳しい訓練の毎日だったが、充実した生き方がそこにあった。 入隊して1年後には恋人もできた。 飲食店でウェイトレスをやっている千春という、いかにも今風といった感じの娘だった。 隊の先輩や同僚達と行った店でたまたま千春が働いていたのが知り合ったきっかけだった。 付き合ってもう何年にもなるが、そろそろ結婚しようかという話が出たことは無い。 ただ、指輪を贈った事があった。 そして千春はそれを婚約指輪だと思っている節はあった。 ふと伊庭は、自分の携帯のメールの着信音が鳴った様な幻聴にとらわれた。 ポケットから取り出してみてみるが、当然の如く着信などない。 圏外表示のままだ。 千春は、心配しているだろうか。 演習などで連絡が取れない時などは事前にそれを伝えるようにしているから、まる二日何の予定も断りも無しに メールのやり取りをしていないから当然、千春は自分に何かあったのかと思っているだろう。 すまない。 もう帰れないかも知れない。 伊庭は待ち受け画像の中の二人でとった写真のなかの千春を見つめ、目頭が熱くなるのを感じた。 その時、ちょうど地下牢に下りてくる階段の方で複数の足音が聞こえた。 牢の前にやって来た侍はいつもと違う人間だった。 「ジエイタイの大将、若殿がおよびじゃ、でませい」 いつもの取調べの時間ではないはずなのをいぶかしがりながら、佐野3尉が牢から出される。 侍は付いてまいられよ若殿が話があると申される、とだけ言って階段へ向かう。 佐野3尉も素直にそれに従い、後に続いた。 なにか、事態に変化があったのか。 勘の良い隊員の数名は空気の変化を微妙に感じ取った者もいた。 牢に再び鍵がかけられ、侍たちが去った後も一部の隊員は格子にすがり付いて体調の安否を気遣うように薄暗い通路の向こう側を見つめていた。 佐野が通された部屋は屏風など室内の模様が今まで取調べを受けていた部屋よりも幾分か豪華で、客間のような雰囲気があった。 部屋の中に先にいて座っていたのは身なりの良さそうな10代半ばに見える少年で、両脇に近侍の者を座らせている。 若殿、というところから佐野は身分の高い人物の子息だろうかと推測した。 「佐野、と申したか。 俺は黒田家の跡取りで、黒田上総介憲長という。 まあ座られよ」 胡坐をかいて座りふてぶてしく頬杖をつく少年の口から発せられた声は澄んだよく通る声だった。 声の調子からすればだいぶ活発で物怖じしない性格という印象を受ける。 少年の表情も明るく、自信に満ち溢れたものとなっていた。 佐野は勧められるままに、一礼してから少年と向き合うように正座で座った。 「柴田が問いただしたところによると…お主らはニホンという国の兵だそうじゃな」 「兵士、兵隊という呼び方はしておりませんが、そうなります」 ふむ、と少年は頷いた。 少年の言葉の中に出てきた柴田というのはここ二日ほど佐野たちを取り調べていた侍で、彼らを待ち伏せして捕らえたのも柴田である。 あの時、佐野たち部隊は黒田と浅野(と、それぞれ後に分かった)の両勢力の合戦場を避けて道を選んだつもりだったが、 それは合戦場から黒田領内の後方基地のある城へと続く道だったのだ。 加えて黒田勢は斥候を放って浅野の部隊の動向をいちいち掴んでおり、浅野の偵察部隊と自衛隊が接触した事も、 自衛隊が追われる様に黒田領内に入ってきた事も斥候を通じて監視済みだったのである。 そして、追跡と待ち伏せをした上で黒田の兵士は自衛隊に気づかれないように周囲を包囲し、奇襲で持って彼らを制圧し捕虜にしたのだった。 ちなみに、自衛隊が浅野の部隊に襲撃を受けた理由は浅野勢が戦場を迂回して黒田の後方に奇襲をかけようとして、 その先行偵察隊とたまたまそこにいた自衛隊が遭遇してしまったからという事らしかった。 まったく不運と、選択の迂闊さが重なったものである。 少年は続けて問うた。 「兵ではあるが、軍ではないそうじゃな」 「わが国の法制度上、軍隊ではないということになっています。」 今度は少年は上手く理解出来ていなさそうな、奇妙だ、というような表情で、ふうん、と答えた。 「…つまりは百姓農民が身を守る為に武器を持って集まったのと同じか」 「民間の組織する自警団、のようなものとは少し違います。 我々は国家によって正式に組織された特別国家公務員です」 少年はますますわからないという顔を露骨にしだした。 これは佐野の説明のしかたがあまりにも型通りすぎるし、少年やこの世界の人間には「時代的に無い言葉」は 特にわかりづらいからというのもある。 こういうのは鹿嶋3尉の方が、かいつまんで分かり易く説明するのが得意なのだが、と佐野は思った。 つまり佐野は不得手なのである。 現代日本的な言い方をどう言い直して彼らに説明すればいいかわからない。 「まあそれは置いておくとして、お主らの主君は何年かごとに代わるそうじゃな」 「制度上の最高指揮官は任期が過ぎれば退任します。 それ以前に辞職することもありますが」 「つまり特定の主君がいるわけではないのじゃな」 少年は特定のはない、の部分を強く確認するように言った。 佐野がはい、と答えると我が意を得たり、というように笑顔を浮かべた。 「どこかの譜代の家臣でもなく、主君が代わればそれに従う軍…なるほどなるほど」 少年はどこか面白そうに笑った。 佐野はなんとなく、答えを誘導されたような、あるいは相手の都合よく解釈できる解答を引き出されたような 気がしたが、他に答えようも無い、と思ったのでそのままにした。 訂正を重ねたところで、正確に自衛隊や日本の法制度の仕組みを相手に理解させる自信もなかったからだ。 なにより、民主主義という概念からして少年や他の侍たちに理解できるものなのかどうか。 この世界が日本とほぼ同じような歴史をたどり、同じような社会制度の変遷をなぞっているならば、戦国期の日本は つまり封建制度であり、そんな時代の人間に平成日本という世界は随分特殊に写るだろうことは想像だに難くない。 会話にある程度の齟齬や誤解が生じる事になるだろうが、どうしようもない。 せめて自衛隊の不利にならないように都合よく誤解してくれる事を祈るばかりだ。 「ところで、話は変わるが…折り入ってお主らに相談がある」 少年は部屋を移し、武器蔵へと佐野を案内した。 近侍の者も下がらせ、人払いをした上である。 武器蔵には黒田勢に取り上げられた自衛隊の装備や戦車を始めとした車両が全て安置されている。 佐野は寸鉄一つ身につけていないが、特に拘束されてもいない。 ここに置いてある装備や車両を使って脱走、あるいは重要人物の子息らしい少年に危害を加えたり人質にとって 部下の解放を要求したりという疑いは抱かないのか?と疑念に感じたが、隠れた監視ぐらいは残しているのだろう、と結論付けた。 「お主らの乗ってきた、車のような物…牛や馬に牽かせずとも動くそうじゃな。 ”業隷武”の一種か?」 佐野にはごうれいむ、と聞こえた。 この世界の独自の言葉なのか、昔の日本にもあった古語なのか、佐野にはわからない。 黙ったままでいると、答えたくないなら良い、と少年は言って、話を続けた。 「お主らの使っておる武器らしきもの、これは噂にのみ耳にしたことがある。 鉄砲というものであろう?」 そういって少年は床に並べられてある89式小銃の一丁を手に取った。 佐野が目で確認すると、安全装置はかけられている。 武装解除の際に自衛隊員自らの手で弾倉は取りはずされ弾丸も入っていないはずだが、もし万が一弾丸が 装填されたまま残っていても暴発の危険性は無いだろう。 それにしても、少年が鉄砲の存在を知っていて、自衛隊の装備を鉄砲であると理解するとは。 いや、戦国期の日本にも鉄砲はあり、後に当時で世界有数の鉄砲保有国となったこともあるそうだから、こちらの 世界でも同じように鉄砲は存在しててもおかしくは無いのだろう。 「鉄砲は大陸で作られた”火槍”という武器を基に改良されてこの国で作られた。 だが…お主らの鉄砲は伝え聞くわが国の鉄砲とは随分違う」 「鉄砲がこの国で?」 意外そうな佐野の驚きを他所に、少年は続ける。 「火縄も火蓋もない。 握るところと肩に付ける所が別々にある。 使っている鉄は随分上質なものじゃ。 加えて…何で作っておるのか皆目見当もつかん部分がある」 少年が言ったのは、89式小銃のプラスチックでできている部分の事だ。 樹脂製の部品はいくらなんでもこの世界の文明レベルでは存在しないだろう。 未知の材質とわかっただけでも相当な物だが。 「なによりじゃ。 鉄砲は一発撃つたびに弾込めをせんといかん。 もう一度撃てるまでに時間がかかるという。 だが斥候の見たお主らの鉄砲は、何発でも撃てるそうじゃな。 このフソウにそのような鉄砲を作れる人間も 作ったという話も聞かぬ。 恐ろしい事よ、お主らのニホンという国は」 少年は小銃を抱えながらあちこち触って見回しながら、微妙に畏怖の混じった声で言った。 彼は自分達の世界と現代日本との間に横たわるいくつもの技術の世代の差を感じ取り、それが意味するところをほぼ正確に理解したのだ。 15歳、現代日本なら中学から高校に上がるくらいでしかない年若い身にしては随分と発達した理解力である。 そして、黒田憲長の理解力はそれで留まらなかった。 「真に恐ろしいのは…これだけの物を作れる鉄砲鍛冶がおる国ならば、これだけの武器を使って戦をすることにも長けておるじゃろうのう?」 そう、武器の発達はつまりは戦術の発達である。 自動小銃ひとつにさえ、それまでの技術の発展と共に蓄積してきた戦術、戦争の積み重ねがある。 武器は一世代違えば、それだけ発展し洗練された戦いの技術を習得しているという証明になるのだ。 それを理解できるのは、この静かな武器蔵という狭い場の中にはたった二人。 佐野と、自衛隊の装備を見て触っただけで尋常ならざる理解力を示したこの少年だけである。 少年は佐野の方を、その内心を窺うような視線でねめつけてきている。 佐野は背中を冷たいものが流れ落ちるような感覚に囚われた。 そして、憲長がこれから切り出そうとする話の本題に、とても不安な予感がするのを強く自覚していた。
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544 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/01/26(火) 16 04 10.99 ID SSjyzBtv ブリタニア海軍 タイド型給油艦 『タイドスプリングス』 ブリタニアとは、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの在日住民や訪日同国人、彼等の配偶者となった日本人が建設した大陸の都市である。 英国系一万九千人、カナダ系一万三千人、オーストラリア系一万三千人、ニュージーランド系四千人、その他合わせての約五万人の人口を有している。 海軍が中心でありANZAC級フリゲート2隻を保有している。 空軍も組織されAP-3C対潜哨戒機1機やエアバス A400M中型輸送機アトラス1機を保有している。 何れも日本に来日、或いは近海を航行中に転移に巻き込まれた兵器と乗員達である。 今回新造された給油艦『タイドスプリングス』は、2012年に英国が韓国・大宇造船海洋に発注した新型給油艦4隻のうちの1隻である。 2016年より順次就役するはずだったが日本とともに転移した巨済島の巨済市大宇重工業玉浦造船所で一番艦として建造されていた。 転移による混乱と資源不足を得て放置状態となっていたが十年近くの遅れをえてようやく就役したばかりの艦だ。 二重底構造の軍用タンカーである。 海上保安庁から旅客船『いしかり』の護衛の要請を受けたが、艦長のチャールズ・ブロートン中佐は困惑していた。 状況を確認の為に艦を停止させていた。 「普通、海賊からの護衛任務とかを給油艦に振るか? 海上保安庁はこんな無茶苦茶な要請をしてくるところだったか?」 「大陸の海軍や海賊の船ならこの艦の武装でも十分に対処可能ですからね。 まあ、行くしか無いでしょう。」 幸いタンクに油は積んでいない。 急ぎの任務もありはしない。 副長の言葉に頷き、ブロートン中佐は命令を下す。 「機関再始動だ。」 「両舷始動!」 「両舷始動ー!」 「針路、速度そのまま、旅客船『いしかり』とのランデブーポイントを目指す。」 旅客船『いしかり』 「レーダーに船影、多いぞ。」 レーダーのディスプレイには19隻の輝点が表示されている。 「海保や海自の艦じゃないのか?」 平塚船長がレーダー担当の航海士に確認をとる。 「南西2-2―0から向かって来ます。 海賊の船団です!!」 「全船員に通達。 海賊船団をレーダーに捉えた。 だが今の速度なら十分に逃げられる。 各員、乗客を不安にさせないようにベストを尽くせ。」 放送では乗客にも聞こえてしまう。 メモを取った大谷副長が各部署を回るのだ。 だがそれより早く船は捕捉されていた。 私掠船『食材の使者』 ドーラク船長は窓穴から顔を出して、頭上に広がる海面を確認する。 目標の日本の船舶がこちらに向かっているのが目視出来る。 海底に視線を移して、程よい浅さなのに満足する。 「来たな・・・、歩脚を海底に固定、第一脚・・・、鋏め!!」 ドーラク船長の号令のもと、『食材の使者』号は第2・第3の対の脚を海底に挿し込み固定させる。 そして、海面に向けて放たれた第一脚の対をなす鋏が『いしかり』の船底を挟み、錨代りにその動きを大幅に制限し減速させる。 通常の錨は海底土砂に食い込み、海底面を擦ることで成立する。 だが『食材の使者』号も減速どころか加速させていた『いしかり』の重さと馬力に引き摺られている。 揺れる船内に船員達は船壁の手摺りに掴まって対処している。 「なんというパワーと固さだ。 木造船なら完全に船底を切り裂いているものを・・・、こちらが引き摺られているか? だがこれで船団が追い付ける。」 旅客船『いしかり』 突然の船底からの衝撃と強制減速に船員や乗客達は身を投げ出されていた。 「海底に何かいます!!」 「馬鹿な、なんだというんだ。」 相手が海底にいる為にその姿を確認することが出来ない。 だが複数の船影が目視で確認出来る位置まで近づいていた。 「速度低下、24・・・、23・・・22・・・」 「距離6海里といったところか?」 平塚船長は助け起こしてくれた男に命令する。 「無賃乗船を拒否する。 丁重にお引き取り願え、高嶋隊長。」 「参ったなあ、隊員は銃を持たせただけの警備員なんですがね。」 船に乗船している武装警備員は七名。 隊長の高嶋こそ元自衛官だが他の隊員は警備会社の社員に過ぎない。 隊員達に実戦の経験は無い。 弾薬の浪費を会社が嫌がって射撃訓練も年2回の研修の時にしか出来ない。 高嶋は勝田駐屯地に勤務していた際に大洗町海賊襲撃事件で実戦を経験して負傷している。 家族の要望で退役し、大手警備会社に雇用された。 この当時、自衛隊、海保、警察を初めとする各武装機関の増員により、過去に除隊、退役した退職自衛官を大幅に復帰、採用させた。 転移当時警備業者約9,200社、警備員約53万人を擁していた警備業界は6万人近くの人員を失い、新たに一般人の雇用を創出した。 だが警備業界が考えていた新世界に対応する為の武装警備員の構想は大幅に後退した。 そんな中、自衛官から業界に入社した高嶋のような人材は重宝された。 政府は民間の武装組織の存在に眉をひそめたが、現実問題日本の長い海岸線や輸送ルートの防衛を現行の自衛隊や警察力だけでは不可能と判断した。 だが試験的な段階であり、信頼のおける業界第二位の会社に創設を許可した。 まだ、危険の少ない船舶の警備から訓練を終えた隊員とともに高嶋は隊長として乗り込んでいたが隊員達の練度は自衛官や警察官には及んでいない。 この船に保管されている武器はベレッタM92拳銃、SKB MJ-5散弾銃が隊員の人数分ある程度だ。 弾薬は予備の弾倉が人数分ワンセットだけだ。 「速度17まで低下、以後安定!!」 「後続より1隻早いの来ます!!」 「四の五の言ってる場合じゃないな。 わかった隊員を配置させる。」 海賊船団 旗艦『漆黒の翼』 「よし、『食材の使者』の連中がやってくれたか、それでも早いな。 安心しきってるだろうな日本の船は・・・、船首に大砲を用意!!」 これまでの帝国が使用してきた大砲は、鋳造の青銅製前装式滑腔砲である。 開発責任者だった人物の名前をとって、ライヒワイン砲と呼んでいた。 だが船首に台車に乗って運び込まれた大砲は施条後装砲である。 日本をはじめとする地球系都市国家からかき集めた情報をもとに帝国でも再現可能な技術で完成させた試作品である。 この一門を造り上げるのに五年の歳月を掛けた。 最大射程はこれまでの十倍、有効射程は六倍にまで飛躍した。 ピョートル船長は『いしかり』まで、5海里の距離までに近付くと、この新型砲の発射命令を出した。 「当てる必要は無い。 連中に大砲が届くと認識させることが出来れば十分だ。」 発射された砲弾は『いしかり』の前方3キロの地点に着弾した。 『いしかり』は驚いたのか回避の為にジグザグに動きだし、さらに距離が縮まっていく。 「素晴らしい!! この大砲をピョートル砲と命名する!!」 気をよくしたピョートル船長はそのまま命名の経緯を書いた手紙を伝書鳩をアジトに向けて飛ばさせた。 「しかし、これでも連中に取っては200年も前の技術とは・・・」 副船長は新型砲の威力に驚愕しつつ、海自の艦船の大砲やミサイルとの差を痛感している。 「まったく、たった200年の間にどれだけ技術を発展させてきたんだろうな。 おかしいだろあいつら・・・ まあいい、こんな機会はそうそう無いんだ。 接舷攻撃用意と露払いの射撃開始!!」 右舷に集まった船員達が小銃で射撃を始めた。 『いしかり』からも武装警備員達が発砲して反撃してくる。 同時に『漆黒の翼』からバリスタに鎖が括りつけられた鉤爪が複数発射されて、『いしかり』の船縁に引っ掛かる。 鎖は『漆黒の翼』に固定されていて、船自体が重りになっていく。 船体が軽い『漆黒の翼』は曳航される形になるが激しい揺れが襲う。 そのまま『いしかり』の真後ろまで流されて行くが、離されなければ十分だった。 そして、『漆黒の翼』の両側から海賊船団でも『漆黒の翼』に次ぐ船脚を持つ『生より出でし蒼白の武神』号と『正義を操りし月夜の咎人』号が『漆黒の翼』を追い抜き、『いしかり』の両舷の船縁にバリスタから鉤爪の付いた鎖や網を打ち出している。 残りの16隻も追い付いて来ているが、突如として最後尾にいた『理に牙剥く不死の双子』号が爆発炎上した。 「なんだ?」 ピョートル船長が望遠鏡で確認をとると、忌まわしき飛行機械が大空を飛び回っていた。 「ヘリか? くそっ、こんな時に」 旅客船『いしかり』 その光景は苦戦中の『いしかり』からも確認出来た。 「船長、ヘリから通信!! あの機体はブリタニカ海軍の給油艦『タイドスプリングス』所属機、コールサイン、ハンター3です。」 「救援に感謝すると伝えろ。 給油艦だと?」 なぜ給油艦が救援に来たのか平塚船長は困惑していた。 3隻の海賊船から網や鎖を伝って乗り移ろうとしてくる海賊達を武装警備員達は懸命に撃退していた。 銃弾の弾丸だけではじり貧になると、消火ホースを持ち出して放水で網や鎖にしがみつく海賊達を海に叩き落としていく。 一分間に2,000リットル、送水圧5キロの放水は容易に人間を吹き飛ばす。 おまけに海水をポンプで組み上げて転用できるので無尽蔵に防水が可能だ。 「ポンプで汲み上げている間だけ銃器で対処しろ。」 マニュアルどうりに今のところ対応できている。 武装警備員と言っても所詮は民間人。 いきなり人間を射殺する覚悟などあるはずがない。 放水による迎撃は意外にいいアイデアかもと高嶋は思えた。 「苦肉の策だったんだがな。 普通は1隻相手に十数隻もこないから、銃弾もそんなに支給されなかったからな。」 海賊の数が想定を越えていたから考えた策だった。 後方の海賊船団に目をやると、爆発する海賊船の姿が飛び込んできた。 「騎兵隊のお出ましか、もう一踏ん張りだぞ、お前ら。」 ブリタニア海軍 対潜哨戒ヘリ 三菱 SH-60K『ハンター3』 SH-60Kは海上自衛隊がSH-60Jを基にして、三菱と防衛庁で独自に、哨戒能力の向上を目指した哨戒ヘリコプターである。 転移後も少数ながら生産され、ブリタニア海軍の『タイドスプリングス』の搭載機として配備された1号機である。 最後尾にいた『理に牙剥く不死の双子』をAGM-114M ヘルファイアIIを直撃させて葬ったところだった。 「次、2隻目!!」 いっきに船団を飛び越えて、『いしかり』に接近中の先頭の船に二発目のヘルファイアIIを発射して命中させる。 これでヘルファイアIIは使いきったが船団はまだ17隻もいる。 炎上する海賊船を避けるように船団は左右に分かれていく。 SH-60Kは、浮上して斜めに傾くとのスライドドアが開く。 ベルトで体を固定した射撃手が74式車載7.62mm機関銃がドアガンとして発砲を開始する。 銃弾の雨に晒された海賊船は甲板から降り注ぎ、床を貫通して二つ下のデッキまで血で染め上げる。 各海賊船からも矢や小銃がSH-60Kに向けて放たれるが、海上を舞う機体に当てることも出来ていない。 2隻目も血祭りに上げるが弾薬が不足してきた。 「こちらハンター3。 弾薬が尽きた、一旦母艦に戻るがなんとか持ちこたえくれよ。」 『了解、早く戻ってきてくれよ。』 海賊船『漆黒の翼』 ブリタニアのヘリが去ったことにより、ピョートル船長は胸を撫で下ろした。 「やっと行ってくれたか・・・、被害報告!!」 「『理に牙剥く不死の双子』、『暗黒の支配者』、炎上!! 『残虐非道の歌姫』、『黒薔薇を持つ悪女』沈黙、航行不能の模様!!」 船の名前を聞いてピョートル船長は頭痛がしてくる。 「4隻もやられたか・・・ しかし、どうして海賊の連中は船の名前を豪華に飾り立てるのだろうな? 「まあ、色々と拗らせやすい職業ですから」 副船長はピョートルも同類だと思っていたが言葉にはしなかった。 「まあ、いいヘリが引き揚げたから当分は戻ってこない。 今のうちに」 「ヘリが戻ってきました!!」 言い終わらないうちにヘリがこちらに向かってくる光景が目にうつる。 その新たに現れた同型のヘリの胴体には『海上自衛隊』と書かれていた。 その後方の水平線の彼方からはつゆき型護衛艦の『いそゆき』が姿を見せていた。
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125 名前:DD122はつゆき ◆MRcHkgpJ.ZGl [sagesage] 投稿日:2016/07/24(日) 09 13 50.80 ID Dq9qgxwu 「うおー、マジっすか! ロボットっすね、ロボット!」 例の写真を見せてやったところ、橘は長良の予想通りの反応を示した。 まるで子供のように目を輝かせながら大はしゃぎだ。 「そのロボットとやりあうことになるかもしれん」 「ってことは、倒して鹵獲したら、そのロボットは俺らのものってことですよね!」 「倒せたらな」 鹵獲できれば、研究用として接収することにはなるだろう。 もしそうなれば、防衛装備庁は大喜びするに違いない。 いずれにしろ、そのロボットらしき巨大甲冑がどういう原理で動いているのかは分らない以上、 無闇にやりあうのは得策だとは思えない。 出来ることなら、穏便に済ませたいところではあった。 何にせよ、まずは知っていそうな人間に聞いてみるのが一番だ。 「橘。タケヒロさんのところに行く」 「あー、あの頑固爺さんに聞いてみるんですね。了解です」 橘は小型トラックを発進させた。 日本が外地と呼んでいるこの世界において、「人間」は、どのような進化を辿ったのか、獣の耳と尻尾を持っている。 地球人の耳があるのと同じ場所には、獣のような体毛に覆われた、三角形の狼の耳が飛び出しており、 腰の辺りには、狼や狐を思わせる毛筆の毛先のような尻尾が着いている。 これが、この外地における普通の人間だ。 そんな彼らから見れば、尻尾を持たず、耳の形状が丸みを帯びていて体毛の無い日本人の姿は奇異に映った。 自衛隊を含めた日本人に対する「マルミミビト」という呼称はそこから来ていた。 外地における自衛隊や政府による民生支援は概ね好評で、特に鉄製の農器具のほか、軍手や足袋などが喜ばれた。 「最初は奇妙な連中だと思ったけど、付き合ってみると意外と気のいい連中だよな」 「この肥料……堆肥だっけ?」 そう言って、農夫の一人が傍に堆く積まれた「畑の香水」の元に目をやった。 「それを使ってみると、作物の味がまるで違うよな!」 「だよな。あと、サイレージとかいうやつ?」 もう一人が、肩に掛けた手拭で汗を拭きながら、少し離れたところに幾つも転がっているロール状のラップサイロを眺めた。 「あれで作った牧草だと、牛が良く食うんだよなぁ」 「そうそう。うちの母ちゃんが、乳の出が良くなったって喜んでたぜ」 堆肥やサイレージの製法は、始めの頃こそ奇異に思われていたが、効果が目に見えてくるようになると、 どの農家も積極的に受け入れるようになっていた。 「丸蟲を退治してくれるのも有り難いよな」 「ああ、それはあるな。さっき飛んでった斑色のタマゴも、蟲が来ないように見張ってるんだってな」 「音がうるせえから、牛が怯えるのが玉に瑕だけどな。ハハハ!」 何よりも歓迎されたのが、丸蟲から受ける被害が大きく減ったことだった。 成人男性の身長ほどもある硬い外殻に覆われた丸蟲を倒すには、屈強な戦士が数人が上手く連携し、 槍や細剣などで、硬い外殻の隙間や間接部分を狙い倒すしかなかったからだ。 それをマルミミビトの兵隊――自衛隊は、魔法の杖を使って、たった一人でいとも簡単に屠ってしまう。 自衛隊は、外に働きに出ることが多い若年から中年層を中心に、大きな支持を集めていた。 「お、噂をすれば、マルミミビトの魔法馬車だ!」 丁度、駐屯地から村へと続く舗装された道を、側面に日の丸を張ったオリーブドラブ色の 小型トラックが通過しようとしていた。 「おおーい!」 二人の農夫は、トラックに向かって大きく手を振った。 それに連動するかのように、彼らの尻尾も大きく左右に振られていた。 「あ、二尉。お百姓さんが手を振ってるっすよ」 こちらに向かって手を振る外地人を確認した橘は、小型トラックのスピードを落として徐行させた。 仏頂面で自分の考えに沈んでいた長良は、すぐさま顔を上げると、 笑顔で二人の農夫らしき外地人に向かって手を振り返した。 外地派遣隊では、現地の人に出会ったら、笑顔で挨拶することが励行されている。 イラク復興支援でサマワに派遣された自衛隊が行っていたウグイス嬢作戦を、そのまま真似たものだ。 サマワに派遣された陸上自衛隊の復興支援部隊は、あえて砂漠地帯では悪目立ちする オリーブドラブ一色で車両の塗装を統一し、車体の側面に目立つように日の丸を描いた。 そして、他国の軍隊がゲリラの襲撃などを恐れて猛スピードで市街地を通過するのとは対照的に、 わざと速度を落とし、そして、選挙のウグイス嬢よろしく、現地の人々に出会うたびに、笑顔で挨拶し いついかなるときも笑顔を絶やさないことで、敵意が無いことを強く印象付けたのだ。 それが、一人の死者を出すことも無く、任務を完遂した一助になっていたことは間違いない。 それを、この外地でも実践することとなり、その効果は抜群だった。 ちなみに、ウグイス嬢作戦を提案したのも、長良自身だったりする。 農夫達の姿が見えなくなると、長良は途端に先程までの仏頂面に立ち戻った。 その様子を横目に、ハンドルを握る橘は僅かに笑みを浮かべた。 「……なんだ?」 気付いた長良が、怪訝な表情で橘を見た。 「いやあ、二尉の演技力に感心してただけっすよ」 「うるせえ。黙って運転してろ」 「あいた! 蹴らないでくださいよ~」 良好な関係を維持しているとはいえ、自衛隊が全ての外地人から諸手を挙げて歓迎されているのかといえば、 当然そんなことは無い。 これから長良が会いに行くのは、その急先鋒ともいえる村の長老の一人だ。 村の人々が住む住居は、一昔前の日本の農村にあるような、茅葺屋根の家屋がほとんどだが、 有力者である長老が暮らす家は、かつての庄屋や地主のような屋敷に住んでいる。 橘の運転する小型トラックは、タケヒロという老人が暮らす屋敷の門前で停車した。 「それじゃ、ここで待ってますね」 「ああ」 車を降りた長良は、門をくぐり屋敷へと向かった。 「お前達マルミミは、いつになったら、余所へ行ってくれるんだ?」 散々待たせた挙句に会ってくれたタケヒロ老は、不機嫌さを隠そうともせず、開口一番に言った。 長良には、タケヒロ老を始めとする村の長老達の気持ちは分らないでもない。 彼らには彼らなりのやり方で、これまで村を導いてきたという自負があったに違いない。 そこへ、突如として、得体の知れない余所者である自衛隊が現れたのだ。 警戒するなというほうが無理な話だ。 その得体の知れない連中が、彼らのこれまで築き上げてきたであろう村人からの信頼を 民生支援や災害派遣の名の下に、一瞬して奪い取ってしまったのだ。 意図してのことではないとはいえ、結果的にそうなってしまったことに違いは無い。 しかし、多少の同情があるとはいえ、余計な無駄話で時間を浪費する気は更々無かった。 「あの門の閉じ方がわかれば、すぐにでも」 涼しげな笑顔で即座に切り返し、タケヒロ老の無駄口を封じた。 もちろんこれは、日本政府の方針とは異なる。 口うるさい年寄りを黙らせるための方便だ。 ……長良個人の本音ではあるが。 「これをご覧いただけますか」 老人が二の句を継げないでいるうちに、すかさず例のロボットらしきものが写っている写真を見せた。 「もしご存知であれば、これが何か教えていただけますでしょうか」 「何かと思えば……」 見せられた写真の鮮明さに驚きつつも、タケヒロ老は、マルミミビトの無知をせせら笑った。 「これは元老院の騎士が操る魔操冑機だ」 「まそう……ちゅうき、ですか」 魔法で操る甲冑という意味だろうか。 「それは、いったいどういうものなのでしょう」 「そんなことも知らんのかね?」 「我々の世界には存在しないものですので」 小馬鹿にするようなタケヒロ老に、長良はすまし顔で答えた。 やたらと回りくどいタケヒロ老の話を整理すると、この魔操冑機は、その名のとおり、 魔力を原動力とするロボットということが分った。 動力源となる魔力コアのようなものが機体の中枢に設置されいるらしい。 操縦は人が乗り込んで行うもので、専門の訓練は必要となるが、操作方法を知っていれば、 誰でも動かす程度のことは出来るらしい。 ただし、魔力の高い人間が操作すれば、機体の限界性能は上がるようだ。 「お見せした写真に写っている三体の魔操冑機は、この村に向かってきています」 「それがどうした? 騎士団の巡察任務だろう」 巡察任務について尋ねると、丸蟲のような害虫や、辺境地域の治安維持のため、 騎士団が定期的に行っている巡回任務のことらしい。 確かに、写真の中には丸蟲を倒しているものもあった。 「行商人らしき馬車を襲っている写真もあるようですが、それも騎士団の任務ですか?」 「あぁ? 騎士団がそんなことをするか。大方、野盗の類が行商人に変装していたのだろう」 それを見抜いた騎士団が討伐したのだ、とタケヒロ老は即座に切り捨てた。 「だが、知らせてくれた事には礼を言っておく」 ご苦労だったとばかりに、タカヒロ老は鷹揚に頷いて見せた。 「こうしてはいられん。騎士団の方々をもてなす宴の準備をしなくてはな」 「我々も騎士団の方々にご挨拶がしたいのですが」 日本政府の当初の目的は、外地の中央政府との交渉だ。 もし、タケヒロ老の言うような騎士団とやらであれば当然のことだが、 それ以外の連中だった場合には、それ以外の方法で対応をする必要があるからだ。 「お前達のような得体の知れない連中を、中央の方々に会わせるわけにはいかん」 「だからこそ、お会いしてきちんとお話をさせていただきたいのです」 長良は、根気強く説得を続けたが、タカヒロ老はまったく聞く耳を持ってくれなかった。 「もう用事済んだろう? さっさと帰ってくれんかね」 「……分りました。お手間を取らせました」 これ以上に説得は不可能と感じた長良は、タケヒロ老に頭を下げると、その場を後にした。
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471 名前:月影 投稿日:2006/11/15(水) 06 02 13 [ wetx2aOg ] 投稿終了~ ええと、総統は計算高い人へと変貌していきます。 某新○○の艦隊に出てくる転生者並みに(?) さて、次回は違うけど戦争の始まりですね。 ここからが大変だ(書き手として)なんとか頑張っていくけど、週一ペース維持できるか不安です。 全面攻勢はポーランド侵攻軍並みの予定です。 え、大丈夫かって? いや、なんだか総統のお考えらしくて(?) 472 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 06 41 36 [ h2hMGuBY ] 月影さん、投下乙です! 総統閣下、大激怒w シーバン連盟諸国テラアワレ( ノ∀`) 473 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 11 07 13 [ Dm6MuUIE ] プリッツクリークの最初の犠牲者決定w 474 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 11 15 46 [ qjNkgkNQ ] 投下乙。 しかし、敵国のインフラがソ連並みでない事を祈る。 475 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 12 53 18 [ SDXUWyVY ] よりにもよって第三帝国に侵攻するとは。 総統嫌いな国防軍の面々も、やる気満々になってしまうw そしてやる気満々のドイツ人を止められる者などこの世にはいない… 476 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 13 56 32 [ Dm6MuUIE ] 投下乙です。 475氏の言うとおりですな。 しかもコレは純然たる「防衛戦争」。先に宣戦布告もせずに領土と帝國人に被害を与えた以上、報復の刃を奮わない理由は全くないし、国防軍もドイツ国民も戦争を支持するでしょう。殴られたら殴り返す。ある種の鉄則出しね 477 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 17 24 52 [ erwdinVA ] 投下お疲れさまでした。 これ以上ないほど完璧な戦争理由ができてしまいましたねえ。 国内の体制を整える意味でも、大義名分の勢いでも一番ベストの状況での侵攻ですから……まあ、南無、とw 478 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 20 38 38 [ 7FqL.Nek ] 日本帝國召喚とは同一の世界ではないのは承知の上で、 ルーデル対辻ーん 史上最大の決戦 キボンヌ 479 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 21 13 11 [ KU8QS5YM ] 478 日本帝國召喚とは同一の世界ではないのは承知の上で、 辻ーんはあらゆる時空に同時に存在しうるので無問題 480 名前:名無しさん 投稿日:2006/11/15(水) 21 23 07 [ gDEE0rbE ] 、--‐冖 ⌒ ̄ ̄`ー-、 /⌒` 三ミヽー-ヘ,_ __,{ ;;,, ミミ i ´Z, ゝ 〃//,,, ,,..`ミミ、_ノリ}j; f彡 _) 〃///, ,;彡 rffッ、ィ彡 ノ从iノ彡 ;;,, ノ丿川j !川|; .`7ラ公 了 第三帝国が召喚された? _く彡川f゙ノ ノノ ノ_ノノノイシノ| }. 〈八ミ、、;.) ヽ. . . . . .;=、彡/‐-ニ _ー<、{_,ノ -一ヾ`~;.;.;) 辻ーんの活躍が読みたい? く . . . . . !ハ.Yイ ぇ 无テ,`ヽ}}}ィt于 `|ィ"~ ) . . . . |.Y } ! `二´/ ; |丶ニ ノノ 逆に考えるんだ ) . ト、リ !ヾ 、 丶 ; | ゙ イ } { . . l { } ` ,.__(__,} /ノ 「辻ーんが召喚されたからこそF世界に第三帝国が召喚された」と ヽ ! ` ゙! ,.,,.`三 ゙、,_ /´ ,/´{ ミ l /゙, -…-~、 ) | 考えるんだ ,r{ \ ミ \ ` ≡≡ " ノ __ノ ヽ \ ヽ\ 彡 ,イ_ \ \ ヽ 丶. ノ!|ヽ`ヽ、 \ \ヽ `¨¨¨¨´/ |l ト、 ` ー-、__ \ ` ー-、 // / . .} ` ー、_ `、\ /⌒ヽ /! . .| `、 \ /ヽLf___ハ/ { 481 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/15(水) 21 27 07 [ tS3LHk/c ] 辻ーんの活躍 元世界で時空犯罪者の介入があって辻ーんが駐独武官として飛ばされてる、という設定にすr(ry 482 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/16(木) 05 51 03 [ J2M00pZI ] 投下乙です 調べるための一当てのつもりが地獄の門を開いちゃいましたねw あと条約は終結じゃなくて締結だと思 483 名前:くろべえ ◆7dmdXxLH3w 投稿日:2006/11/16(木) 06 30 34 [ ccXtmzTc ] 月影様、投稿乙です。 新生ドイツ軍の初陣だ。電撃作戦だ。 ……この世界の軍隊は、機動戦についていけないだろうなあ。 とはいえ、この一連の戦いで史実のポーランド侵攻程度の戦訓は得られないと困るから、ある程度は頑張ってもらわないと。 484 名前:月影 投稿日:2006/11/16(木) 13 34 27 [ wetx2aOg ] 472様 大激怒です。 それはもう、血管が滲み出るぐらいに(笑) 473様 最初の犠牲者決定ですね。 さて、これからどうなるのだろうか? 474様 インフラか~そういえばどんな設定だっけ(え? 475様 国防軍も民衆もこの事をすぐに知らされて、やる気満々ですよ。 怒りに燃える彼らと、SSが何も起こさないことを祈るばかりですね。 476様 防衛戦争。 報復の刃はどれほどの切れ味なのか? そして、その刃は二次三次的な損害拡大にならないかが心配です。 485 名前:月影 投稿日:2006/11/16(木) 13 34 59 [ wetx2aOg ] 477様 完璧な理由~ これから国内や軍備をちゃっちゃかと整えるでしょうね。 まぁ、粛清などはしないと思うけど。 478様 ガチンコバトル? しかも、強情で融通の利かない人だし。 479様 無問題なんですか!? これはまた、何時か自分か他の方にドイツとの話を書かないといけないのか?! 480様 >辻ーんが召喚されたからこそF世界に第三帝国が召喚された アハハハハ!、笑ってしまいました。 凄い人気ですね、辻ーんは。 之は考えないといけないのか? 本気に。 486 名前:月影 投稿日:2006/11/16(木) 13 35 54 [ wetx2aOg ] 481様 駐独武官か~ じゃ、史実のお話をオリジナル化して、東部戦線の危機だ!と、かってに軍を辞めて、義勇兵としてルーデルの航空隊を補佐する陸軍を指揮したりとかはどうですか?(もはや、突貫戦法のみで! 482様 地獄の門ひらいちゃいました。 しかも、自分もひらいてしまうなんて(汗 指摘ありがとうございます! くろべえ様 初陣ですね。 そうか、機動戦なんて知らないんですね。 戦訓は、まぁ。 敵の将軍の采配一つですから。 それと、482様の指摘部分を掲載時に修整お願いします。 それか、サイトにてお知らせいたしますので。 487 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/11/16(木) 23 04 36 [ Q4jQ9cdU ] ところで月影氏、マーチン・ファン・クレフェルトの「補給戦」は読まれました? 中世といわず、あらゆる時代の軍隊の補給に対応出来る本だと思いますよこの本は。 489 名前:キリエ 投稿日:2006/11/17(金) 10 57 37 [ 5eQOL8CI ] 月影様投下乙です。 病気治っちゃいましたね。正常な判断力が戻ってきてるし。……むしろいつも御贔屓だったお医者様が問題だったのかしらん。 彼がユダヤ人やシンティロマの虐殺は単純に好き嫌いの問題だったろうから、いきなりこんな侵略なんかやっちまった国はえらいことですね。 あとF世界だと総統閣下が最後の最後まで憧れた、一個大隊で百万と一人の軍集団が実現しそう。 そしてこの話の流れだと大隊指揮官は……やめろ辻ーん! でも総統閣下の妙な日本好きならやりかねん。 589 名前:月影 投稿日:2006/11/23(木) 13 04 10 [ wetx2aOg ] 遅くなりましたが返信レスを。 487様 読んだことありません(汗 しかも、少し情報収集してみると見ごたえある内容だとか? 今度お金が貯まったら(今現在の財政が…え?)アマゾンかどこかで購入します。 キリエ様 あはは、あの薮医者なんて忘れていたとか(汗 まぁ、結果的にはこのような流れを考えていたのでOK!と、言う事で。 まぁ、軍集団はどうなるかな? 師団の編成やら今後を考えると、これだけの戦闘力保持を目指して欲しいですね。 592 名前:月影 投稿日:2006/11/23(木) 13 22 31 [ wetx2aOg ] 第三帝国召喚 04を投下します。
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第四話「初戦」 「距離は?」艦長が聞く。 「一番近いもので、約40km。時速約600km/hで真っ直ぐ本艦にむかって移動中です。方向は九時。……スタンダードを使いますか?」 三日月が答える。 RIM-66 SM-2MR スタンダード対空ミサイル……射程は約70km。 あれはレシプロ機より少し早い程度。 外れる事はないだろう。しかし……。 「いや、この程度なら、Mk 45 とファランクスで何とかなるだろう。ミサイルは後のために取っておこう。対空戦闘準備、気を抜くなよ」 「……了解」 たしかに、この程度ならスタンダードを使わなくても大丈夫かもしれない。 しかし、ここでその考えが通用するか……。 そして、たかおに向かっているドラゴンの数は40羽以上に膨れ上がっている。 だが、今更反対意見を言っても聞き入れてくれないだろう。 やるしかない。 大丈夫かな……。 敵の能力はわからないが、40機(もしくは40騎、40羽)に一斉に襲いかかれてらまずいだろう。 私たちの常識がここで当てはまるとは思えない。 例のご一行はさっきから深刻そうに私たちにはわからない言葉で話している。 けれど、レイオンとシェリーの口げんかに見えなくもない。 そんな事を考えているときだった。 ビシャ ポタポタ さっき、あいつらに入れてやったぬるいお茶がかかった。 「すまない」トカゲ人間。 「ごめんねー」自称魔女。 ……殺してぇ。 「すまんな……あいつらは生まれたときから喧嘩ばかりだ。何度首が飛ぶと思ったか……」 芳野さんがハンカチを貸してくれる。やはりまともですね。ここの同僚より。 「まったくどこで教育を間違ったんだか……」 「親子なんですか?あなたとシェリーさん」 「いや、孫娘と祖父の関係だ」 「そうなんですか、それにしては若く見えますけど」 「まあ、魔法を使って40歳のときに肉体を維持してるからな」 「不老不死って奴ですか」 「いや、殺したり、寿命が尽きれば死ぬ。それに、私より吸血鬼の方が長生きだ。番人には創設期の生まれだし。 ……まあ、この程度では長生きとも言わないな」 「いつ、この世界に来たんです?ここの出身じゃないみたいですけど」 「察しのとおり、私はこの世界の出身ではない。真珠湾の2、3ヶ月後だったな。召喚されたのは」 「へぇ、聞きたいですか?戦争の結果」 「別に、私は純粋な日本人ではないし、ここの方が好きだし」 「ふーん、そうこうする内に始まったみたいですね」Mk45の砲撃音が響く。 「だな」 「目標A・B・C撃墜」 「緒戦は好調だな。残りは38羽、このままいくぞ」伊吹、言わなくてもそうするさ。 「D撃墜、E撃墜、F撃墜……」 Mk45 mod4 はこんごう型のOTOメララ127mm速射砲よりは、連射速度は悪いがその分射程と命中精度に優れている。 予想より多く撃墜できたな……。 できることなら、このままいって欲しい。 淡々とドラゴンを海へと叩き落していく。しかし、 「目標Wがファランクスの射程に入りました!!」 「オートで攻撃を開始しろ!!」 数の暴力でここまで接近を許してしまう。 5in砲弾も落とせるファランクスが落とせないはず無くいっきに10羽も落とすことができた。 が、しかし―― 「火災発生!!」 「なっ何だって!?」 「落ち着け、どこで起こった?」ドラゴンから攻撃があったようには見えない。しかし、火災は起こった。 「ヘリ甲板と航空機格納庫上部です!! 現在消火中です」 「艦長!! 後部のファランクスが破損しました!!」 「くっ!!」やばい、やばいぞ。 「艦長!! 西北西より新たな編隊を確認!! 数は200以上!!」 まずいな……もし、何度も攻撃を受け続ければ、レーダー等の電子機器が集中的に配置される艦橋に当たるかも知れない。もしそうなったら戦闘能力は大きく下がる。いや、VLSや90式艦対艦誘導弾の発射機に当たれば誘爆で沈むかもしれない……。 戦術的に考えるとこちらが有利だが、戦略的に考えるとこちらが不利だ。 「距離は!?」三日月が聞く。 「約300kmです。内70以上がこちらに向かっています」 300以上の距離のたかおが見えるのか? いや、考えても仕方が無い。 ここでは私たちの常識は当てはまらない。そう考えるべきだろう。 「艦長、今度は主砲とファランクスだけでは難しいと思います。スタンダードも使いましょう」 「ああ、わかった。今度はスタンダードも使う。本気でいくぞ」 「うわー、大丈夫かな……」艦内の様子があわただしい。どうやらドラゴンから思わぬ反撃を受けたらしい。 「対魔法魔法が無いからな……撃たれたらやばいだろうな……」 「とういうか、現実のドラゴンは魔法が使えたんですか?」 「いや、ごく最近出てきた種類だ……。炎系や氷系がメインだな」 「一番怖いのは?」 「やはり、高威力の〈オルターヌ〉だな、誘導能力もないし、連射もきかんが、威力が高い。 その次に氷系の〈パルクス〉、誘導能力付きだ。 〈フェルルール〉は連射もできるし誘導できる。でも射程は短いし、威力も低い。 あと普通のブレスもあるがこちらは射程が短いし大丈夫だろう」
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341 :reden:2012/04/04(水) 20 03 54 ID wlaiBnjM0 327-331さん モラヴィア側としては認めたくないでしょうね。 国土に大ダメージを与えるような大魔術使って呼び出した相手に滅ぼされかけてるわけですから。 といいますか、ソ連を召喚して先制攻撃を仕掛けた時点で既に詰んでたり… 陸士長さん 338-339さん 質・量ともに兼ね備えたドイツ陸軍が仮想敵ですから……ファンタジーの魔法王国には流石に荷が勝ちすぎましたね。 たぶん本国が事態を把握する頃には属領の大半に赤い旗が翻っているかと。 333さん 捕虜となった魔術師についても少し書こうかと思います。 閑話という形で……って本編が牛歩の如き進み具合なのに閑話とか(ry 334-337さん 初戦で下手な勝ち方をしたせいで一部の軍人は未だに赤軍の能力を軽視しています。 特に、魔術師や魔道軍が幅をきかせるこの世界で魔道技術を持っていないというのはそれだけで文明国とは看做されませんから。 ネウストリアの場合、最初の接触で下手な魔術より優れた技術力を見せつけられた為に、高圧的な態度で交渉に臨むことはありませんでしたが。 340さん 王侯貴族のいない国も一応この世界にはありますので、現時点では思想面でそこまで脅威は抱いていません。 とはいえ、この世界にあるのは富裕階層による寡頭制の商業都市国家とかですから……ソ連の来歴や革命の輸出云々について知ったら皇帝卒倒するかも。
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某年 某月某日 木曜日 何てこった、また3時に目が覚めた。一体どうなっているんだ。 こんな暗いところで読書ばかりしていても目を悪くする。いっそ新聞配達のアルバイトに応募するか。 倍率も高いし職もある、どうせ落ちるだろうが。 朝一でデータのチェックをもう一度やってみたが、間違いは無い。こんなに能率が上がってしまうと 元に戻った時が心配だ。先方へは、いつもよりやや早い時刻に引き渡した。あまり早くに提出でもしたら 次以降の納期を縮められかねない。 仕事が終わって帰ろうとしたら自転車が無かった。盗まれたらしい。防犯登録してあるので しまい際の警察に駆け込んで届けを出してきた。5年前に買った古き良き交通の足である。 何が何でも取り戻したい。今の圧縮強化木フレームとセラミックギアとベアリングでは重くて仕方がない。 おまけにセラミックのギアはよく欠けると、もっぱらの評判だ。強化木のシャフトも割れる事があるらしい。 安全性の審査基準は未だに凍結されたままである。あんな代物、命がいくつあっても足りるものか。 アオダモフレームがどうのと広告でも宣伝しているが、金属製に比べれば大同小異だ。 飛脚自転車便で使ってるのだって金属フレームじゃないか。 帰りは臨時の貸し自転車に乗って帰った。古い型だったから快適だったが、その分痛い出費となった。 昔はあれほど放置自転車が溢れていたのが夢のようだ。鍵も掛けたのだが、なぜ盗られたのだろうか。 夕方のニュースで、昨日出港した船団に敵対勢力が攻撃を仕掛けてきたと言っていた。 敵は大型船5隻、飛行隊母船1隻で、嵐に紛れて接近されたらしい。木製部分が多いから レーダーには映りにくいのだというお決まりの文句。航跡の反射波とかで分かるんじゃないかと思うのだが、 波が高いと識別にも苦労するのだろうか。撃退したが、我が方にも負傷者を出したそうだ。 詳細な情報は明日以降だろう。この先1週間はこの話題がニュースを賑わすはずだ。 昨日地面に描かれていた模様はなくなっていた。どうも気になる。まるでおとぎ話の世界に 迷い込んだみたいだ。近いうちに知り合いにファンタジーの世界観について尋ねてみるか。 某年 某月某日 金曜日 4半期に1度のボーナスが支給された。 船団が襲撃されたので次のボーナスに響くかもしれない。民間船に被害が無ければ良いのだが。 沈没までには至らないものの、損害を受けるというケースは結構ある。仕事の成果が水の泡なんてのは困る。 配給キップ1枚で食えるのは玄米0.7合に漬物20g。1日3枚、21枚綴りで毎週届く。 これだけでは生きていけないのはお上も認めている。だから皆、稼いだ金の大部分を食糧確保に費やす。 このあたりは気候が温暖だから農業も活発なんだが、土地が足りないから食糧価格はどうしても高止まりする。 北海道では今年に入ってから餓死者が50人を超えたそうだ。肥料の不足は深刻なようである。 物が溢れる東京が羨ましい、そんな時代は過ぎ去った。人口が多いから食糧不足は深刻で、 餓死者も100人を越えたらしい。都知事の口減らし政策は道半ば、転職政策も思うように進まないようだ。 素人考えでも、証券マンや保険の営業員をいきなり農家にするのは難しいと思う。それに土地も足りない。 町工場の職人不足も深刻らしい。80代以上の大ベテランとキャリア5年未満の新人が7割以上というのは どう考えてもいびつな構造である。 自衛官が3年連続で人気の職業の第1位になった。第2位は農業。以下、林業・製鉄・食品加工業と続く。 漁業は上位から消えた。怪物に襲われたり敵の襲撃を受けたりしたから、敬遠する動きが広がったのだろう。 自分のいる電子部品産業は今のところ堅調である。材料価格の高騰はあるが、政府の進める 「エコ製品置き換え運動」の後押しもあって、既存の電子部品を回収して省資源の製品に作り変える活動が 継続中だからだ。もっとも自衛隊向けの需要が落ち着き、置き換え運動もあと2~3年で完了するから 先行き不安は隠せないのだが。今の内に軍需産業のクチを探しておいた方が良いのだろうか。 先週の試作品が改良されてまた持ち込まれた。午後に入ってからだったので納期は火曜の午後。 多少の余裕が見込めそうだ。自転車はまだ見つからない。貸し出し期間を1日延長する。 明日は高校時代の友人に電話をして、あの変な模様について尋ねてみる事にする。 風の噂では外務省官僚になったと聞く。勉強の出来る奴だったが、あのオタクがよくもまあ偉くなったものだ。 某年 某月某日 土曜日 警察から吉報。一昨日盗まれた自転車が見つかった。 借りた自転車を返した足で警察署に向かい、自転車を受け取る。受け渡し所に係官がいて、 資源の有効利用のために今の自転車を買い換えてはどうかと言われた。もはや定型句だ。 今市場に出回っている奴の安全性が確認されてから買い換えると答えたら、黙って返してくれた。 このやり方も何時まで通用するか……資源の確保は外交官の手腕にかかっている。 ファンタジーの世界観について、東京にいる知り合いに電話をして尋ねてみる。 予想以上の情報量だった。高校を出てから更に知識を蓄えていたらしい。いつまで経っても終わらない。 まるで歩くファンタジー専門の図書館だ。もうよせ、充分すぎるほど分かったよ、田中。 大事な客が来ているとか言う割には長電話じゃないか。 電話口にいる奴の後ろで子供の声が聞こえる。その割に喋り方は子供っぽくない。 お気に入りの萌えアニメでも見ていたのか。コミケが中止になった一昨年は奴にとって地獄だったに違いない。 奴の話を総合すると、あの模様は「魔方陣」と思われるが、「ダークエルフ」は滅多に魔法を使わないそうだ。 考えられるのは「エルフ」だが、そんな街中では活動できないとの事。「魔導士」の可能性もあるが、 国内に潜入しているとは考えにくいらしい。奴に聞いて分からなかったのだから、誰に聞いても無駄だろう。 船団襲撃事件の続報。敵ガレー船を1隻撃沈、4隻に損害を与え撃破。飛行隊の母船は取り逃がした。 基本的に主砲による砲撃で攻撃を行ったため、「ひのき」の活躍が目立ったようである。 さすが、76mm砲3門の威力は伊達じゃない。艦載ヘリは時化のため飛行できず。 敵は時化に紛れて飛行隊で我が船団を偵察、何らかの方法で探索を逃れて本隊も接近。 波間から突然現れた5隻の敵艦隊に我が方の攻撃は遅れた。バリスタとみられる攻撃を受けて帆走貨物船 「第6高戸丸」が被弾、乗員2名が重症、5人が軽傷を負った。護衛艦3隻は同船の被弾後ただちに 正当防衛射撃を開始、1隻の船腹に大穴を開けて撃沈。他の4隻の帆走設備などに甚大な被害を与えた。 やっぱこうなるよな…… 詳細な戦闘経過は明日か明後日にでも発表される事だろう。帆走設備は遠くからでも目立つから、 船団に加わっていると攻撃されやすいという問題がある。燃料の節約と低視認性、難しい問題だと思う。 某年 某月某日 日曜日 ここのところ雨続きで夜明け空が見えない。せっかくの新習慣も天気に振り回されっぱなしだ。 まあ雨が降れば水遣りの手間が省けるし安上がりだから降ってくれた方が有難いのだが。 ペンのインクを買いに出かける。 店頭に並んでいるのはクラーケン印のバイオインクのみ。何てこった。値が張るのを我慢して 買い続けてきた人工インクも遂にメーカーが倒産と相成ったそうだ。この先ずっとイカ墨インクとは気が重い。 帰宅してからはプランターの手入れに精を出す。タンポポは当然順調、フキはそろそろ終わりだろう。 サツマイモはそこそこ育っている。出窓を補強した甲斐があったというものだ。たとえそれが 紐で吊っただけのものでも、である。太陽コンロの出番はまだまだありそうだ。少々嵩張るが実に頼もしい。 先週の日記を読み返して、記憶に無い箇所を発見。 光る石だの速く動けただの、まるでSFだ。自分にこんな事が起こったら強烈な記憶になるだろうに。 呑み過ぎたくても酒は無し、猫を紙b……じゃない、幻覚を見たにしては仕事で問題を起こしていない。 白昼夢でも見ていたんだろうか。最近の睡眠時間が短いのと関係があるんだかないんだか…… 船団襲撃事件に関して新情報は無し。役所も基本的には休みだし仕方が無いか。 夕方のニュースで船団が東京に到着した映像を放送していた。負傷者の命に別状は無く、重傷の2名は 病院に搬送された。積荷は石炭だったが、バリスタ弾は発火しないので大きな損害はなかったようだ。 それにしても大きな杭が刺さった帆走貨物船というのはなかなか奇妙な姿である。 子供の頃にプラモデルの船に花火を仕掛けて池に浮かべたのを思い出した。 今あの残骸はどうなっているだろうか。朽ち果てる事も無く、地中のどこかで眠っているのだろうか。
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あらすじ。 2019年も終わりに近づいたある日、日本列島は異世界へと召喚された。 北は北方領土、南は沖ノ鳥島、東は硫黄島、西は日本海上の自衛艦隊、上は日本上空にいた人工衛星を頂点とする全てごとであった。 唯一の例外として、かつて日本を動かしてきた政治家たちは、元も含めて全員が行方不明となっている。 このような異常事態に官僚機構はなすすべを知らず、結果として、統合幕僚長を代表とする救国防衛会議が結成された。 彼らは従来の国会に相当する機関であり、絶大な権力を有している。 しかしながら、酒池肉林の日々を彼らが味わう事はなかった。 日本国の現状は、そのような贅沢をいつまでも続けられるほど生易しいものではなかったのだ。 食糧問題、国内の経済状態、国民感情。 元の世界からの孤立を起因とする、あらゆる災厄が彼らによる解決を待っていたのだ。 それらに対し、救国防衛会議が出した回答は、武力による海外進出。 友誼や親愛の念でどうにかなるほど、日本には時間も余裕もなかったのである。 付近の大陸に基地を設けた彼らは、原住民である『エルフ』と交戦。 その場は切り抜けたものの、使用されている技術からして、この大陸への本格的な武力侵攻を決意する。 続く夜に、襲撃を受ける『ダークエルフ』を人道的見地という名目で救出、大陸最大の国家である『連合王国』に対し、積極的な平和維持活動を開始した。 在日米軍艦隊および海兵隊まで動員しての強引な首都攻略は成功し、日本人たちは自分たちのための穀倉地帯を確保する。 同時に、彼らは支配下に置いた地域から油田を入手し、エネルギー面での崩壊からも脱出する。 この時点で、当面の問題は解決しつつあった。 抵抗は、勿論あった。 ゴルソン大陸と呼ばれる日本列島の隣の大陸には、連合王国と呼ばれる巨大な大陸国家があった。 ダークエルフ救出作戦で一部戦力を撃破した自衛隊は、続く波状攻撃にも全力で反撃した。 結果として敵戦力をすりつぶす事に成功した彼らは、連合王国首都を奇襲、王を始めとする首脳陣を抹殺した。 もちろんそれ以外にもこの惑星には国家が存在したが、取り急ぎ最寄の一国は滅ぼされたのである。 その後、原住民であるエルフの一部族『第三氏族』は日本国に対しテロ攻撃を開始する。 それはこの世界特有の技術である魔法を用いたものだった。 人間の生命を動力源とする爆弾のような石。 ドラゴンをそそのかし(結果として彼の自由意志によるものだったが)襲撃を行わせる。 どこにでもいる人間を、普通科一個小隊でも対抗できない化け物に変える呪文。 人間をゾンビに変える邪法、それを使役する強大な存在の召喚。 どれもが日本人たちを苦しめた、傷つけた。 自衛隊は容赦のない反撃を実施した。 第三氏族たちの拠点は空爆で焼き尽くした。 魔法の石を使った自爆テロは、長距離からの攻撃で打ち倒した。 一族を率いて飛び掛ったドラゴンたちは、前線に作り上げられた防空システムが叩き落した。 東京で暴れまわる化け物に変えられた女子高生は、付近一帯の重火器や艦艇や航空機を呼び出して殲滅した。 ゾンビの大群は機甲科と特科、近接航空支援により踏み潰し、そして強大なはずの存在は、勇敢な普通科隊員たちによって滅された。 残る第三氏族たちは地下に潜り、組織的な抵抗は消えた。 日本国は、本来の領土に加え、大陸を一つ手に入れたのだ。 だが、ここに来て国内の膿が噴き出した。 広域指定暴力団である極道会は、この世界の麻薬などを入手するために、対価として書籍の密輸を試みた。 それは地球の歴史であったり、日本に関する資料であったり、基礎的な工業技術に関する入門書であった。 全ては、地球人類が2000年以上の年月をかけて作り上げた、この世界の人間にとっては人命よりも黄金よりも価値のある物である。 日本海上の不審船撃沈によりその情報を入手した救国防衛会議は、直ちに本土中の自衛隊と警察に、極道会の強制捜査と殲滅を指示した。 誰も阻止し得ない武力を持つ彼らは、全国で一斉に検挙作戦を実施、少なからぬ犠牲は出たが、それにも成功した。 「この物語は、そんな世界で活躍し続ける、現代の生み出した英雄佐藤一等陸佐(予定)の物語である」 「佐藤一尉殿、あなたは一体何やってるんですか?」 最後の一節を呟きながら書き込んだ佐藤に、いつの間にか隣に現れた二曹が声を掛けた。 もちろん、その声音は厭きれ返っている。 「二曹、誰にでも、他人を踏み込ませたくない領域があるのだ。わかるな?」 「はい、わかります。それで、何をやっていたのですか?」 二曹はわかってくれなかった。 つまり、後半部分からは自分で自分を英雄と表記したノートについて、説明しなければならない。 どうしても回答しなければならない、言い訳のしようがない沈黙が続き、そのうち佐藤は考えるのをやめた。 「この世界に来てからのダイジェストをまとめておこうと思ってな」 彼は往生際が悪かった。 それは今までの連戦の中で彼と彼の部下たちを救ってきたが、この場ではみっともないだけだった。 「ようするに、勤務時間中に自伝を書いていたわけですね」 二曹の言葉に容赦はない。 確かに勤務時間中に勤しむ事ではないのだから無理もない。 「いや、ほら、今までとは違う世界に来るなんていう異常事態を経験したわけだから、経緯を詳しく記録する必要があるじゃないか。 つまりこれは、特別職国家公務員である私が勤務中にやっていたとしてもおかしくはないわけだな、うん」 もちろん、彼のいい訳には正統性の欠片もない。 確かにこの世界に来てからの佐藤は、常に最前線で戦ってきた歴史の生き証人である。 ゴルソン大陸の土を最初に踏んだ部隊の一員であり、初めてのエルフとの交戦を指揮した。 ダークエルフ救出作戦に従事し、連合王国との戦闘も経験している。 グレザール帝國という、この世界でもっとも強大な帝國の軍隊とも交戦した事があり、ドラゴンやゾンビや悪霊、その他化け物とも交戦している。 本土での休養中には東京事件と呼ばれる化け物との死闘に巻き込まれ、大きな事件ではないが礼文島にて上級精霊とでも呼ぶべき存在と接触した。 大陸に戻ってからはゾンビの大群を掻き分けて進む部隊の先陣を切り、古代遺跡の地下では瀕死の重傷を負いつつも、強大で邪悪な存在を滅した。 「俺たちの関わってきた事を考えれば、英雄といっても問題ないよな?」 「そうですね、確かに一尉と自分たちが経験してきた事を思えば、我々は英雄と称されても過大評価にはならないでしょう」 二曹は、その点だけは素直に同意する。 外見は見麗しい美人で巨乳で性同一性障害の二等陸曹だが、彼らが戦い続け、勝利し続けたおかげで日本が残っているといっても過言ではない。 しかし、それと勤務時間中に自伝を書く事には何の関係もない。 「勤務時間外に存分にお書きください」 「そうだな、君の言うとおりだ。二曹、進言を受け入れよう」 将校としての威厳を持った声で佐藤は答えた。 「しかしまあ、ご自身の事を自分自身で英雄と書いたり一等陸佐(予定)と書く事には感心しませんね。 何かの間違えで出版されたとしても、全国規模で失笑をされるのがオチですよ」 二曹の指摘は佐藤の心に突き刺さり、それを粉砕した。 それから12時間の間、佐藤は首を傾け、うつろな目で口を開いたまま書類仕事を続けた。
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511 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 10 43 03 [ Ig.2UjFk ] 107さん、投下ご苦労様です。 緊迫感が増してきましたね~。 続きが気になります。 512 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 12 58 52 [ qolO/Z6Q ] 投下乙でつ…。 ちょwwwファントム無頼wwwww 513 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 14 06 01 [ rdf/Xkk6 ] 投下乙であります。 >後はあちらの善行二佐に任せましょう。 ちょwwwGPMwww 514 名前:名無し三等楽士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 16 44 40 [ r9DJpMoo ] 投下乙であります …うーむ、そりゃまあ戦えば人を殺す事になるのですから、抵抗感はあるでしょうね。 口に出した彼だけではなく、部隊の全員が。 何度もこういう事を繰り返すうちに、目が兵隊の目に変わっていくのでしょう。 515 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 17 10 52 [ 2gQOHOqY ] 投下お疲れ様です。 海自は出てこないけど、バレンバン方面でも艦砲射撃は届きませんか。 DD(X)搭載に搭載している155mm砲は便利そう。あれはロケットアシスト弾で射程180km以上ありますから。 いよいよ戦闘ですね。 516 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/02(日) 21 36 05 [ b1p8NKJk ] 投下乙です。 なんというか、盛り上げるの上手い!自分が猪になりそうw しかし、自衛隊が初戦から殺す気マンマンで向かうシチュエーションというのが 今までのSSではあまり前例がなかっただけに、対面する側の心中たるや察するに・・・ というか正気保てないだろうな・・・。 518 名前:くろべえ ◆7dmdXxLH3w 投稿日:2006/07/03(月) 11 20 27 [ Hh0aSyyE ] 107様、投下乙です。 いよいよ戦闘開始ですね。 自衛隊初の戦争、しかもマスコミ監視の中! 或る意味、マスコミに対してのほうが緊張するだろうなあ。 敵軍にはMLRSが一番効果的かな? 519 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/03(月) 18 45 27 [ JDSJbg36 ] この世界の平均寿命はどのくらいを想定しているでしょうか? 60年も経てば当時の戦闘を経験した者はすでに現場にいないでしょうし、亡くなっている者も多いでしょう。 伝聞でしか帝国との戦闘を知らない者がさらに苛烈な現代の戦場に立たされたとしたら…… 524 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/04(火) 01 58 29 [ 00K6S0Ec ] F-2が待機しているということは、クラスター爆弾を使うのかな? MLRSとどちらがコストが低いんだろう? 529 名前:ここまで読んだ ◆zJ6rFHbX8Q 投稿日:2006/07/04(火) 20 50 12 [ XA/lA57k ] 遅れましたが107さん、投下お疲れ様です _ ∩ ( ゚∀゚)彡 カンクリ!カンクリ!鬼善行!鬼善行! ( ⊂彡 いや、今回はこれに尽きるなぁw 殺る気みなぎってる自衛隊、でも初実戦。変なところで自失点を起こさない事を祈りつつ 次回の投下を待たせていただきます。 >マナ濃度 かつての帝國拠点に関しては 大協約軍から見れば『帝國の呪い』、自衛隊から見れば『帝國の遺産』ともいえる 地形効果ですねw 544 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/09(日) 06 43 00 [ ltqrOq2I ] しかし今の専守防衛体制で外に出て行くのはいくらなんでも無謀というもの。 徴兵復活&陸軍大軍拡をして一気に大陸へなだれ込むしか生き残る道はないんじゃあ・・・? 活発に活動すると少ない資源がますます細っていくけど・・・。 「欲しがりません勝つまでは」のポスターが日本中に貼られることになったりとか。 545 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/09(日) 06 49 06 [ y7wVsCxk ] だけど徴兵制復活しても今度は社会を回す人員が足りなくなる罠。 不況の影響で志願制でも自衛官は狭き門なんだから、予算が付けば ちょっと門を広くしてやるだけで頭数は足りると思いますよ。 546 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/09(日) 09 18 17 [ jzagufPw ] マホメットは剣とコーランで征服を行った。 スペインのコンキスタドーレは聖書と剣だ。 更に、米国は「アメリカ式の生活」を日本に持ち込むことで日本を安定させた。 武力だけではどうにもならんよ。 港の背後を押さえて後は現地民政権に日本の文明を与え、食糧生産技術を与え 場合によっては入植して、深入りはしない。これで十分だろ。 補給もないのに総力戦をしようなんて考えること自体、間違ってる。 どっちみち石油がなけりゃ何もできずに餓死者続出だがね。 流通網さえ麻痺しないなら日本国内+αで自活できるんだがなぁ。 548 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/10(月) 20 44 03 [ 3ZY5UC.I ] 107氏の作品はまだかな? 551 名前:名無し三等楽士@F世界 投稿日:2006/07/11(火) 18 48 41 [ r9DJpMoo ] 549 帝國時代には使えた天皇崇拝は使えない…というか、今の日本人が既に持っていない概念を広める事は不可能。 だからと言って、封建社会のF世界人に自由経済やら民主主義やらの概念を教えるのは難しいでしょうね。 …創価学会にでも頑張ってもらう?(マテ) 553 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/11(火) 23 31 43 [ n15IpVDU ] 民主党と朝日新聞、そのたもろもろのロクデナシ連中をまとめて始末すれば大丈夫。 連中さえ喚かなければ「まあ、そんなもんか」とみんな思って政府に従うでしょ。 560 名前:名無し屯田兵@F世界 投稿日:2006/07/12(水) 21 24 57 [ S7QdwHnQ ] くろべえ様、ここまで読んだ様、107様。 数えて何と四次創作の500字駄文を例によって脈絡なく投下。 「防人の本分」 いまや日本の最高意思決定機関たる「会合」、G対策を扱うその一分会はさながら魔宴と化していた。 内なる狂気を望んで喚起し、かつ統制するという行程からは、さながらどころか現代魔術的には悪魔召喚そのものと言えよう。 「要するに」 疲労を、隈と皮脂と無精髭を顔に浮かばせた座長が、その惨状の収拾を試みた。 「原子力ターボプロップでリフトファンと可変ノズルを駆動、プラス円盤翼でVSTOL機動、 核の大出力によるペイロードで護衛艦並みの砲力と戦車並みの装甲を備えたガンシップ。 発展的には超電導発電機で指向性エネルギー兵器運用も狙う、と」 気色悪く喜色満面たる技術者を座長は労らった。 「何そのスーパーXのようなもの。メディーック!技官が壊れた。メディーック!!」 まあある意味、如何なる防衛対象国よりも我々自衛隊が真に戦力を発揮すべき相手ではあるが。 屈強な隊員に引きずられる技官の食糧事情を無視した肥満体と、 大協約諸国が呼ぶところの「竜王」、帝國の消滅へと調律されたこの世界の諸力が具象化した存在、 会合内の通称「ゴジラ」の無駄に精巧な模型を視野から追い出しつつ、座長は溜息と休会の宣言を吐き出した。 すいません最初にゴジラとか口走った 326は自分なんです 585 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/07/17(月) 08 06 57 [ tS3LHk/c ] 征途世界の日本(南北両方)がF世界に召還されました ……ただし、「やまと」は湾岸に出払った直後です。 592 名前:107 投稿日:2006/07/17(月) 13 31 25 [ Nz0LbtT6 ] ※本愚作は、くろべえさんとここまで読んださんの両作品の3次創作です。 チョッピリとそれ以外の要素も混入してますが、まぁ無視してくださいまし。 511 遅くなってすんません。 データが飛んで、やる気が壊滅して……… 512 うぃ~ いや、だってホラ、自衛隊ですし(なぞ 513 指揮官名は結構遊んでます(自爆 514 人間慣れますしね……… 悲しい話ではありますが。 ええ。 食うためには戦わないといけませんので。 515 海上自衛隊は、流石にあゆう化け物は装備してませんでする>DD(X)な155㎜ 戦闘場面は、チョイと端折ったかなとか思いますが、面白ければ嬉しいです(汗 516 正気も何も、正面からだと死んでしまいます。 アレです。 『出会った時が死ぬときだ(by某空飛ぶ島宮殿の皇帝)』 518 マスコミのネタは、次でチョイと入れます。 お待ちあれ。 >MLRS 彼我の距離が近かったんで、今回は使用してません。 全部、FH-70です。 大量に弾を備蓄してますんで、割と気楽に使えますので。 はい。 519 寿命は、お金持ちなら魔法のアシストを受けられて、90くらいまで生きられても良いんじゃねーかと思ってます。 が、庶民は50とか60とか、そこら辺じゃないですかね? >伝聞でしかしらない 彼らなりには警戒してたんですけどね(遠い目 524 派手にばらまきました(はぁと 593 名前:107 投稿日:2006/07/17(月) 13 32 01 [ Nz0LbtT6 ] ※本愚作は、くろべえさんとここまで読んださんの両作品の3次創作です。 529 >カンクリ&鬼善行 いや~ 結構ご好評で嬉しい限り(自爆 何とか失点なしで、乗り切った感じです。 が、次は第1421歩兵大隊の主力相手ですんで、チョイと大変かなと。 >地形効果 防御側には有難いものですな。 544 徴兵制は取りません。 若年人口の減少があるなかで、そんな事をしてしまいますと、影響は甚大ですんで。 後、コストも問題ですし。 一人の民間人を一人前にするには、相当な時間と金がかかります。 チョイと、今の日本ではつらいです。 545 ソレぐらいが丁度良いだろうなとか思いますね。 自衛隊の規模自体は拡大しますが、徴兵制となると、ね。 546 文化的な侵略とかもありかなとか思ったり。 まぁ些事加減が難しいですけども。 日本としては、“帝國”と同様に大陸の直接支配なんて面倒ごとは御免蒙ると言うのが本音ですし。 同盟(&商売相手)か敵かしか周辺諸国は分類しないかと。 548 お待たせいたしました。 551 ヤメテー(w 553 民主主義の看板は下ろせません。 下ろす訳にはいきません。 『私はあなたの意見には反対だが、あなたの言論の自由は絶対に護る』 どの様なレベルであれ、批判者を始末する様な国家では未来は暗いですんで。 吊るしたい相手は多いですけどね(苦笑 560 続き続き♪ いや、こゆうのは大好きですんで(自爆 585 やまとの無い征途に何の喜びがあろうや!!1!!111!o( ̄皿 ̄)o