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第118話 マジックランス 1484年(1944年)2月29日 午前2時 ホウロナ諸島エゲ島 「全員整列!!」 この日の深夜、エゲ島の中心部にあるワイバーン基地に鋭い声音が響き渡った。 松明が、指揮台の周囲で焚かれている。煌々と照らされたその指揮台の前に、第63空中騎士隊の竜騎士、計110人が整列した。 第63空中騎士隊司令官であるフラウスロ・スルファ大佐は、指揮台に上がった後、目の前の竜騎士達に向けて訓示を始めた。 「諸君!いよいよ決戦の時がやって来た!」 スルファ大佐は、芯の通ったような声で語り始めた。 「1時間前、海軍のレンフェラル隊は、ファスコド島から北東約250ゼルドの地点に、空母を中心とするアメリカ機動部隊を発見、 南下しつつあるとの情報を伝えてきた!この敵機動部隊は、27日にスマドクナ並びにレドグナを襲撃した敵と同じ部隊であろう。 軍司令官閣下は、この第63空中騎士隊に出撃を命じられた。この任務は、今まで夜間飛行訓練を専門に、数々の任務をこなしてきた 我々にしか出来ぬ物である!諸君らには、これまでの経験と、新兵器を十二分に生かし、アメリカ機動部隊に対して致命的な一撃を 与えてもらいたい!私からの訓示は以上である!」 空中騎士隊司令の短い訓示が終った。 エゲ島にある第22空中騎士軍司令部は、2月22日に、海軍からアメリカ機動部隊大挙出撃の報告を受け取っていた。 この報告を受け取った第22空中騎士軍は、指揮下の空中騎士隊を直ちに戦闘態勢に移行させた。 いっぽう、第54軍司令部でも、アメリカ機動部隊の来寇は3日以内であろうと判断し、各部隊に厳戒態勢を取らせた。 シホールアンル側は、2月25日にはアメリカ機動部隊が来襲し、最初に航空基地のあるエゲ島やベネング島が空襲を受けるであろうと 判断し、23日早朝から、ありったけの偵察ワイバーンをホウロナ諸島の周囲に飛ばしていた。 ホウロナ諸島に展開する大多数の部隊が緊張を高めていく中、ついに25日を迎えた。 だが、その日は沖合いに船どころか、艦載機の1機すらも飛んでこなかった。 「アメリカ軍は、侵攻予定日を1日ずらしたようだな。」 第54軍司令官は、25日の夕方頃になってそう判断し、明日こそはいよいよアメリカ軍が責めて来るであろうと確信した。 ところが、その翌日も、いつもと変わらぬ平凡な一日を迎え、そのまま時間だけが過ぎていった。 そして、26日もまた、何も起こらないまま終わってしまった。 27日、アメリカ軍はやって来た。 第54軍司令官は、突然舞い込んできた敵来襲すの報告に、 「こんな・・・・馬鹿な事が・・・・・・!」 と、今まで緊張しながら過ごして来た日は何であったのかと本気で思った。 アメリカ軍は襲いかかって来た。 信じられない事に、アメリカ側はホウロナ諸島ではなく、ずっと後方に位置するジャスオ領を襲撃していたのである。 その日の午前7時に第一報が入って以来、ジャスオ領の根拠地であるレヂグナとスマドクナからは断続的に魔法通信が入って来た。 「敵戦爆連合編隊来襲、港湾施設並びに停泊艦船を爆撃す」 「輸送船12隻沈没、港湾施設の被害甚大」 「敵大編隊三度襲来せり、迎撃ワイバーン隊の残存数23騎」 「レドグナの物資運搬船、掃海艇計17隻は全て沈没確実の損害を受けたり」 「スマドクナに来襲する敵編隊、計800機前後なり」 「スマドクナの集積物資、約4割消失。市街地にも敵弾命中、火災発生」 このように、レドグナ、スマドクナから淡々とした報告が届けられてきたが、その内容は、この2つの根拠地が徐々に 壊滅していく様子を克明に伝えていた。 ジャスオ領沿岸の根拠地を、好き放題荒らしまくったアメリカ機動部隊は、夕方になると忽然と姿を消してしまった。 それから丸1日、シホールアンル軍はアメリカ機動部隊を見つけられなかった。 このまま、敵機動部隊を見つけられぬまま、敵の上陸を待つのかと思われた時、海軍のレンフェラルから敵機動部隊発見の報告が届いたのである。 第22空中騎士軍司令部は、敵機動部隊の位置を推定し、直ちに夜間攻撃を仕掛ける事にした。 「かかれ!」 空中騎士隊の飛行隊長が、整列している部下達に向かって、気合の入った声音で命じる。 それに反応した彼らは、素早く相棒の下へ走っていく。 攻撃ワイバーン隊第1中隊を率いるスロウ・タスラウト少佐は、相棒の下へ走り寄ると、その厳つい顔を撫でてやった。 「お前に乗り換えてから初めての実戦になるが、頼りにしているぞ。」 タスラウト少佐の言った事が分かったのであろう、ワイバーンはその姿からしてはどこか愛くるしい鳴き声を発する。 彼は背中に乗り込む前に、胴体に取り付けられている2本の筒を見る。 「こいつをぶっ放したら、アメリカ人共はどんな顔をするかな。」 彼は、この新兵器を目の当たりにして、あわてふためくアメリカ軍将兵の姿を思い浮かべ、一瞬ながら愉快そうな表情を現した。 やがて、飛行隊長から全騎発進の号令がかかり、第63空中騎士隊は1騎、また1騎と、夜空に舞い上がっていった。 午前3時 エゲ島北東沖270マイル地点 第58任務部隊、第2任務群旗艦である正規空母ランドルフのレーダー員が、眠気覚ましのコーヒーを飲みながらPPIスコープと 睨めっこしている時、突如としてレーダーが何かの反応を捉えた。 反応は徐々に増えていき、更にその反応体が北東方面・・・・TG58.2に接近しつつある事も分かった。 その日、TG58.2指揮官のウィリアム・ハリル少将は、旗艦ランドルフの艦橋でうとうとしていた。 彼の浅い眠気は、突如知らされた敵編隊接近の報告によって一気に吹き飛んだ。 「何だって。敵編隊が向かっているだと?」 ハリル少将は、報告を伝えてきた通信参謀に向けて、はっきりしとした口調で聞き返した。 「はい。反応体の進行方向からして、明らかにシホールアンル軍です。敵は、TG58.1を襲ったように、我々に対しても 夜間攻撃を仕掛けて来たようです。」 「くそ・・・・敵は意外と多く用意しているのだな。」 ハリル少将は苦々しい表情を浮かべる。 アメリカ側は、南大陸側のスパイの情報によって、シホールアンル側が夜間攻撃専門の航空部隊を持っている事を知っていたが、 その航空部隊は主に首都方面に配備され、前線には僅か数個空中騎士隊程度。 しかも、重要度の高い拠点防衛に回されていると思い込んでおり、まさか、このような島にまで配備されているであろうとは思わなかった。 だが、シホールアンル軍はホウロナ諸島のような辺境の島にも、夜間飛行という難易度の高い飛行をこなす精鋭部隊を配備していたのだ。 シホールアンル側の夜間攻撃隊の錬度が侮れない事は、先日、TG58.1が身を持って知らせてくれている。 夜間とは言え、ビッグEを大破させ、ヨーキィー(ヨークタウンの愛称)に手傷を負わせたほどの精鋭部隊が、このTG58.2に向かいつつある。 「こちらが出せる戦闘機は何機ある?」 ハリル少将は航空参謀に聞いた。 航空参謀は、どこか暗い表情を浮かべながらも、ハリル少将に返事した。 「24機のみです。」 「24機・・・・・・敵編隊は?」 「大体で90~100ほど。少なめに見積もっても、70騎以上はいます。」 ハリル少将は、思わず頭を抱えたくなった。 TG58.2は、エセックス級正規空母3隻、軽空母2隻の計5隻の空母を主力として編成され、27日のジャスオ領空襲では、 いくらか艦載機が減っているが、それでも200機近いF6Fが使える。 だが、それは昼間に限っての事だ。 TG58.2は、その200機近いF6Fの中に、夜間戦闘機として改造されたF6F-N3をエセックス、ボノム・リシャール、ランドルフに 8機ずつ、計24機搭載している。 昼間になれば、200機ほどという、まさに雲霞のごとき大群のような数のF6Fを防御に回せるのだが、夜間ともなれば、たった24機の 夜間戦闘機で敵大編隊に当たらなければならない。 「敵さんは、俺達の弱点を見事に衝いてきたか。」 ハリル少将は、溜息まじりにそう呟いた。しかし、航空参謀は、ハリル少将がそれほど落胆をしているようには思えなかった。 「戦闘機があてにならん以上、後は艦隊の対空砲火でどれだけやるかだな。」 TG58.2は、なにも5隻の空母だけが航海している訳ではない。空母部隊には、必ず強力な護衛艦艇が居るものだ。 この5隻の空母の周囲には、戦艦サウスダコタを初めとする護衛艦艇がびっしりと取り囲んでいる。 それらの艦艇は、いずれもレーダーを装備し、両用砲にはVT信管付きの砲弾がいつでも装填できるように準備されている。 昨年から、アメリカ機動部隊の対空防御は驚異的なまでに強化されており、シホールアンル側は機動部隊を攻撃するたびに手痛い損害を被り続けている。 「損害は受けるかも知れんが、それは敵とて同じ・・・・・いや、敵のほうが痛い目に合うかも知れないな。これまでと同じように」 ハリル少将は、幾らか自信を取り戻したようだ。 「司令、ひとまず夜間戦闘機を上げましょうか?数は少ないとは言え、戦闘機隊がいるといないとでは大きく違ってくると思います。」 航空参謀はハリルに進言する。 「戦闘機か・・・・・」 使用可能なF6F-N3は24機しかない。TG58.1に応援を頼むにしても、今は別行動を取っているためにTG58.1の応援は望めない。 TG58.2だけで、敵編隊と対応しなければならないのだ。 F6Fは、確かに敵のワイバーンに勝る機体だが、そんな強力な機体も相手と同等の戦力を有して初めて本来の威力を発揮できる。 互いにほぼ同数なら、性能から見てF6Fがやや勝るか、運が良ければ2対1のキルレシオで勝てる。 敵がやや多いか、2倍の数字でも、なんとか五分五分の勝負に持ち込める事が出来るかもしれない。 しかし、敵が3倍以上の数で来れば、勝てるどころか敵を落とすのも難しいであろう。 その事は、2月15日の空襲で如実に表されている。 ハリル少将は、24機のF6F-N3を差し向けても、あたらに失うだけでは無いのか?と思っていた。 「N3のパイロットは、いずれも腕利きです。数は少ないですが、彼らなら敵編隊の数を減らしてくれるはずです。」 航空参謀は、さり気ない口調でハリルに言った。 それを聞いたハリル少将は、迷いを打ち消した。 「わかった。夜間戦闘機を出そう。数が少ないとは言え、有力な戦力である事に変わりないからな。」 それから10分後、エセックス、ランドルフ、ボノム・リシャールから24機のF6F-N3が発艦していった。 午前3時20分 「先頭の偵察ワイバーンより通信!我、前方30ゼルド付近に微弱な生命反応を探知。反応からして敵飛空挺と思われる。」 隊長騎から届けられた魔法通信が、頭の中で聞こえてくる。 (飛空挺・・・・アメリカ軍の夜間専用機か) 攻撃ワイバーン隊第1中隊を率いるタスラウト少佐は、敵が迎撃機を飛ばしているのだろうと思った。 シホールアンル軍が夜間も攻撃できる部隊を保有しているのに対して、アメリカ側も夜間攻撃の出来る部隊を有している事は、 過去の戦歴で明らかになっている。 アメリカ機動部隊が、最初の夜間攻撃を行ったのは、1482年6月に起きたマオンド共和国に対する奇襲作戦の時だ。 アメリカ機動部隊は、昼間のうちに被占領地の根拠地を爆撃したのみに留まらず、マオンド本国の根拠地、グラーズレットに、複葉の夜間専用機で もって空襲を仕掛け、マオンド軍に大損害を与えている。 その1年後の1483年9月には、米機動部隊は海沿いの物資集積所に対して夜間攻撃を仕掛け、これまた無視できない損害を味方に与えている。 アメリカ機動部隊の散発的な夜間攻撃に対抗するために、タスラウト少佐が所属するような精鋭部隊が、本国から前線に送りこまれた。 今、部隊は敵に向かいつつある。偵察ワイバーンが敵の飛空挺搭乗員の生命反応を捉えたと言う事は、もう少し進めば、敵機動部隊と遭遇できるのだ。 「どれぐらいの数の敵機が居るのだろうか?」 タスラウト少佐は、やや不安げな口調で呟いた。 アメリカ軍機は、2月15日の戦闘では、僅か10機前後しか迎撃機を飛ばさなかったようだが、当然、敵も同じ轍を踏まないように警戒しているはずだ。 そのため、敵は以前よりも夜間専用機を増やした可能性がある。もしかしたら、50機程度の迎撃機は用意しているかもしれない。 「無駄に早いと噂されるヘルキャットが50機もいたら、新鋭の戦闘ワイバーンが60騎いても安心できんな。」 恐らく、敵は戦闘ワイバーンの迎撃を突き破って、攻撃ワイバーンに襲って来るかもしれない。 彼は内心でそう確信していたが、それから2分後に、 「敵はヘルキャット!数は約20機前後!」 という魔法通信が届いた時、彼は相手の数が少ない事に拍子抜けした。 「たったの20機か。これなら、戦闘ワイバーン隊で充分押さえ込めるな。」 タスラウト少佐は自然と楽観していた。 戦闘ワイバーン隊が敵戦闘機と接触したのであろう、上空にエンジンの唸りが聞こえて来る。 やや遠くの空で、光弾のカラフルな色がほとばしり、その向こうからは、単一色の線らしき物が注がれる。 早速、敵が仕留められたのであろう、夜目にも鮮やかなオレンジ色の炎が見えた。 「アメリカ軍機をやったか。」 タスラウト少佐は、戦闘ワイバーン隊の挙げた初戦果を見て、緊張していた頬を緩ませる。 そのまま、戦闘ワイバーン隊と敵迎撃機の死闘に見入る。 夜間の戦闘にもかかわらず、空中戦は意外と激しい展開になっているようだ。 戦闘ワイバーンが敵の背後に回ると、ヘルキャットはすぐにスピードを出してワイバーンを振り切っていく。 特に急降下に入られると、ワイバーンは全くといっていいほど追い付けない。 戦闘ワイバーンの竜騎士は、生命反応探知の魔法を使用しながら戦うのだが、相手はレーダー搭載のF6F-N3であるから、 いきなり思いがけぬ方向から攻撃を食らう時がある。 生命反応探知魔法は、前方方面にしか展開されないため、後方に回られると非常に厄介だ。 おまけに夜間ともあって、ヘルキャットがどこからやって来るのかを突き止めるには、いささか時間が掛かった。 幸い、アメリカ軍機は発動機付きの飛空挺であるため、エンジン音さえ聞けば、大抵どこから向かって来るかが分かるのだが、 300レリンク以上の猛速で飛び回るヘルキャット相手ではそれもきつい。 エンジン音が聞こえたら、瞬時にどこへ避けるか判断しなければならない。 そうしなければ、あっという間に蜂の巣にされる。 唐突に、彼の耳にアメリカ軍機特有の音が聞こえて来た。 それも、かなり近い。 (音のする方向は・・・・後ろ!!) すかさず、タスラウト少佐は後ろ上方に顔を振り向ける。 魔法によって、暗視力が付加された目に、それは写っていた。 暗闇の中から、4機のF6F-N3が猛速で接近しつつあった。 「いかん!後ろに敵機だ!」 タスラウト少佐は、魔法通信で攻撃ワイバーン全騎に伝えた。 だが、遅かった。 後続のワイバーン1騎が、音で判断したのであろう、相棒の体を右に捻らせる。 しかし、対艦兵器を搭載しているせいで、ワイバーンの動きは鈍かった。 そのワイバーンに、4機のF6Fは12.7ミリ機銃を放った。24丁の機銃から放たれた火のシャワーが、その攻撃ワイバーンに浴びせられた。 機銃弾が命中した瞬間、ワイバーンの防御結界が発動し、夜闇に鮮やかな赤紫色の光が灯る。 だが、アメリカ軍機はこれでもかとばかりに機銃弾を叩き込む。 防御結界は、殺到して来た12.7ミリ弾の前に、僅か5秒で打ち破られ、竜騎士とワイバーンは無数の機銃弾を浴びてずたずたに引き裂かれた。 「第2中隊長騎被弾!」 「くそ、いつの間に俺達の後方に回り込んでいたんだ!?」 タスラウト少佐は、腹立たしげな口調で叫んだ。 アメリカ軍機は、一旦は編隊の下方に飛び抜けるが、高度2000メートル辺りで再び上昇に転じる。 今度は2機と2機に別れ、編隊の下方から突っかかってきた。 あっという間に2騎の攻撃ワイバーンが、腹を12.7ミリ弾に串刺しにされて墜落し始める。 シホールアンル側のワイバーンは、前年度から汎用性の高い83年型汎用ワイバーン「スレクナルク」に切り替わっている。 このワイバーンは、戦闘用にも攻撃用に使える代物であり、数十年後に登場するFA-18ホーネットのスタイルを先取りした、画期的なワイバーンである。 書面上では、タスラウト少佐の部隊は「攻撃専門」となっているが、爆弾を外せば戦闘ワイバーンとしても活動できる。 速度も防御力も向上した83年型ワイバーンなら、ヘルキャットにも充分対抗できるはずだが、夜間、しかも、重い装備を抱えたままとあっては、 さしもの新鋭ワイバーンも標的機同然である。 一旦は、上方に遠ざかったエンジン音が再び近付いて来る。 音は、今まで聞いた物よりもかなり明瞭だ。 「くそ、こっちが狙われたか!」 タスラウト少佐は、自分が狙われたと思い、相棒に指示を下そうとした。 その瞬間、前方から12騎の戦闘ワイバーンが現れ、急上昇して敵戦闘機に向かって行く。 4機のアメリカ軍機は、流石に敵わないと思ったのか、攻撃ワイバーン隊に近付く事を諦めて別方向に急降下していった。 アメリカ軍機の短いながらも、熾烈な空中戦を戦い抜いた第63空中騎士隊は、やがて目標上空に到達した。 「偵察ワイバーンより報告!前方20ゼルド付近に多数の生命反応を探知!敵機動部隊と認む!」 ついに、宿敵の近くまでやって来た。 「第1中隊!直ちに高度300グレルまで下げろ!」 タスラウト少佐はすかさず命じた。 F6Fとの戦闘で、16騎から15騎に減った第1中隊は、統制の取れた動きで高度を下げていく。 高度300グレルに達すると、第1中隊の各騎は一旦水平飛行に写る。 それから1分後に、高度100グレルまで下げた。 海面すれすれと言っても良い高度を、タスラウト少佐の第1中隊は時速250レリンク以上の猛速で飛行する。 いきなり、前方に無数の光が迸った。 周囲にドン!バァン!という高射砲弾が爆裂する音が木霊する。 輪形陣外輪部に展開する駆逐艦が対空砲火を放ってきたのだ。 「各小隊ごとに別れろ!」 タスラウト少佐は次の指示を下した。指示を受け取った部下達は、一斉に4騎ずつの小編隊に別れる。 彼自信が率いる小隊は、目の前で驀進する駆逐艦2隻を目標に絞っていた。 後方で高射砲弾が爆裂する。その瞬間、彼は部下とそのワイバーンの悲鳴が聞こえたような気がした。 VT信管付きの5インチ砲弾は、彼が率いる4騎のワイバーンのうち、最後尾の1騎の至近で爆裂し、竜騎士とワイバーンを吹き飛ばしていた。 敵駆逐艦との距離が1000グレル、900グレル、800グレルと迫って来る。 敵艦は高射砲のみならず、機銃弾も撃って来た。 その発砲炎で、手の艦影がはっきりと見える。タスラウト少佐は敵駆逐艦の正体を見抜いた。 「フレッチャー級駆逐艦か。」 彼は、米駆逐艦がフレッチャー級であると確信した。 フレッチャー級駆逐艦は、5門の両用砲の他に12丁の機銃を有している。 12丁のうち、半数は左舷用としても、残り半数の機銃が彼らに向けて放たれている。 特に、後部付近から発せられるその光弾は一際太い。 距離が500グレルを切った瞬間、新たに1騎が機銃弾に叩き落される。しかし、彼は動揺しなかった。味方騎の散華に気を配る余裕も無かった。 彼は呪文を唱えていた。 歌っているかのような詠唱・・・・それが6秒ほどで終った時、 「投下!」 彼はすかさず、ワイバーンの胴体に吊り下げられている2本の筒を切り離した。 2本の筒は、切り離された後、10メートル落下した。 切り離されて1秒後、この殺風景な雰囲気には不釣り合いなほど綺麗な緑色の光が、猛速でアメリカ駆逐艦に向かっていった。 数は4つ、うち、2つは何かを捉えたのか、向きを変えてアメリカ駆逐艦の艦橋に突進して行った。 「行け!魔法の槍よ!アメリカ人共を串刺しにして来い!」 タスラウト少佐は興奮したような口調で叫んでいた。 彼は、緑色の光・・・・正式名称「対艦炸裂光弾」が敵艦に突き刺さるまでの瞬間を見たかったが、それまでに撃ち落される危険が高い。 彼は、生き残った部下のワイバーンと共に引き返した。 それから10秒後、米駆逐艦に対艦炸裂光弾が突き刺さった。 第38駆逐隊に所属する駆逐艦ニューコムは、4騎のワイバーンに襲われていたが、対空砲火で1騎を叩き落した。 機銃員や砲員が次の目標を狙おうとした時、いきなり摩訶不思議な物体を放って来た。 「何だあれは!?」 機銃員や砲員達は、突如現れた正体不明の飛行物体を見て、誰もがそう思ったが、同時に、彼らはその緑色の飛行物体が一番の脅威であると判断した。 すぐさま5インチ両用砲、20ミリ機銃、40ミリ機銃がこの緑色の物体に向けて射撃を開始する。 だが、弾がなかなか当たらない。 緑色の飛行物体は、そのスピードが速すぎた。700キロ以上はあろうかという高速力で、ニューコム目掛けて真一文字に突入して来る。 20ミリ機銃弾が、真ん中の物体に突き刺さる。その瞬間、爆発が起こった。 爆発は、その隣を飛行していた同じ緑色の飛行物体も巻き込んで、これを誘爆させた。 更に、1つの飛行物体が40ミリ弾に打ち砕かれた。 しかし、ニューコムの奮闘もここまでだった。 まず、1つ目の緑色の飛行物体が、ニューコムの後部にある第5砲塔に命中した。 次の瞬間、第5砲塔付近から爆発が起きた。緑色の飛行物体は、命中した瞬間に爆発した。 ニューコムの第5砲塔は根元から叩き割られ、中の砲員は全て吹き飛ばされてしまった。 次の1発が、ニューコムの右舷中央に命中。 爆裂光弾は最上甲板を突き破って第2甲板で炸裂し、爆風が周囲の区画をめちゃめちゃに叩き壊した上に、機関部にも損傷が及んだ。 そして、最後の3発目は、あろうことか向きを変えて艦橋に突入した。 この3発目は、本来なら艦首に命中する筈であったが、いきなり向きを変えるや、艦橋に突き刺さった。 爆発は艦長以下の艦橋職員を皆殺しにし、フレッチャー級駆逐艦特有の簡素な艦橋は、窓ガラスの位置から上が完全に吹き飛んでしまった。 「駆逐艦ケニー被弾!艦橋部から火災発生!」 「ニューコムに命中弾!あっ、行き足が鈍りつつあります!」 「ジェレミア・コンバート爆沈!魚雷発射管に誘爆した模様!」 「デヴィット・テイラー被弾!火災発生!」 輪形陣中央部に位置する正規空母エセックスの艦上で、艦長のロロ・ファーガソン大佐は、その思わぬ報告に顔をしかめた。 「おいおい、一気に4隻もやられたのか!?」 「はい!無線交信で、敵ワイバーンは光る飛行物体を放って来たとあります!」 「光る飛行物体だと・・・・」 ファーガソン艦長はそこまで言ってから、シホールアンル側が新兵器を投入してきたのかと思った。 彼はすかさず、輪形陣右側に布陣する護衛艦群に視線を移した。 輪形陣右側には、外輪部には駆逐艦がおり、その少し内側に巡洋艦が布陣している。 輪形陣右側の護衛艦は、インディアナポリスと軽巡サンタ・フェがいる。 もし、敵ワイバーンが、駆逐艦部隊に対してやったように、この2艦に対しても、攻撃を仕掛ければ・・・・ 「こりゃあまずいぞ。」 ファーガソン大佐は、背筋がぞっとなった。 インディアナポリスには、第5艦隊司令部が乗っている。 もしインディアナポリスが被弾すれば、中に乗っている第5艦隊司令部にも犠牲者が出るかもしれない。 その犠牲者の中に、スプルーアンス大将が含まれる可能性もある。 シホールアンル側は図らずして、ホウロナ諸島侵攻部隊の総指揮官を抹殺する機会を得たのである。 新たな敵ワイバーンが接近して来た。既に、輪形陣右側に大穴が開けられているため、敵ワイバーンは輪形陣内部に悠々と突入して来た。 16騎のワイバーンのうち、8騎が、空母群の前方を行くサウスダコタに、8騎がインディアナポリスとサンタ・フェに向かった。 この16騎は、対艦炸裂光弾の他に、150リギル爆弾1発を搭載している。 ちなみに、対艦炸裂光弾とは、シホールアンル側が開発した新兵器である。 全長1メートル80センチほどの円筒形の物体には、特殊加工された魔法石が入っており、内部には術式発動のための触媒となる液体が入っている。 この液体は、シホールアンル軍魔道研究所が開発した物で、術式が発動すれば、推進剤としての役割も果たす。 射程距離は600グレルで、威力は150リギル爆弾に近い。 シホールアンル軍は、強大化するアメリカ機動部隊を打ち破るには、まず、輪形陣外輪部に展開する護衛艦を叩き潰す事が重要と判断し、 1482年の11月頃から開発が始められた。 この対艦爆裂光弾は、撃ちっぱなし式の兵器だが、生命反応を探知すれば反応のある方向に光弾を導き、そこで炸裂する。 後年開発される誘導ミサイルの先駆けともなる新兵器であるが、特殊な素材、そして高価な魔法石を使用している事で、 1発単位の値段だけでもかなりの高額である。 この新兵器開発に携わった魔道士は、 「こりゃ並みの小国なら、1つの村や町の1年分の税収が吹っ飛ぶぞ」 と呟いたほどである。 その町や村の1年分の税収を消費させるだけの高価な新兵器は、高い金を掛けただけあって早速威力を発揮し、 米駆逐艦1隻撃沈確実、3隻撃破の損害を上げている。 この期待通りの戦果に、自然とワイバーン隊の士気も上がった。 尚、この戦法に目を付けたアメリカ海軍も、5インチロット弾を用いて、シホールアンル側が今日やった事をやり返す事になるが、 それはまだ先の話である。 更なる戦果拡大を狙った竜騎士達は、次なる獲物に食らいつこうとしていた。 その獲物に指定された1隻には、戦艦サウスダコタが含まれていた。 8騎のワイバーンが、サウスダコタに接近する。 「貴様を討ち取って、私の昇進の糧になってもらうぞ!」 その小隊長は、目の前を行くサウスダコタ級戦艦に向けてそう言った。 その直後、サウスダコタ級戦艦は、これまで以上に猛烈な対空砲火を撃ち上げた。 VT信管付きの5インチ砲弾が、先ほどの小隊長騎の目の前に近付く。 砲弾の先頭に取り付けられていた小型レーダーは、その反射波が一定量に達した事を信管に伝える。 信管がその本来の仕事を発揮した瞬間、小隊長騎は無数の断片によって、ワイバーンもろともミンチ状態にされた。 サウスダコタは、まさに修羅と化していた。 戦艦サウスダコタはこれまでの改装で、40ミリ4連装機銃60丁、20ミリ機銃78丁、計138丁もの機銃を装備している。 そのうち、半数に当たる69丁の40ミリ機銃、20ミリ機銃が、8門の5インチ両用砲と共に、ワイバーン編隊に向けて火を噴いていた。 あっという間に、3騎のワイバーンが連続して叩き落される。 40ミリ弾を胴体に複数食らったワイバーンは、胴体真っ二つに切断された。 顔面に両用砲弾の破片を食らったワイバーンが一瞬のうちに絶命し、まだ生き残っている竜騎士もろとも海面に突っ込んだ。 サウスダコタの猛反撃に、8騎中6騎までもが叩き落されたが、流石は精鋭ワイバーン隊。 その仕返しもきっちり行っていた。 まず、4発の対艦爆裂光弾がサウスダコタに殺到する。 戦艦は、駆逐艦と比べて人数が多い。そのため、爆裂光弾は容易に生命反応を捉え、サウスダコタに向かって突進した。 サウスダコタの重火力が、4本の対艦爆裂光弾に向けられる。 いかに700キロ以上の高速で疾駆する爆裂光弾とはいえ、8門の両用砲、69丁の機銃から放たれる濃密な弾幕の前に次々と討ち取られる。 だが、弾幕を掻い潜った1発が、サウスダコタの右舷甲板に突き刺さった。 サウスダコタの右舷中央部に、発砲炎とは異なる閃光が煌く。 その追い討ちとばかりに、2発の150リギル爆弾がサウスダコタ目掛けて落下する。 サウスダコタの第3砲塔上に、派手な爆炎が躍り上がる。左舷側には、外れ弾となった150リギル爆弾が至近弾として落下し、 大量の海水がサウスダコタの左舷側甲板を濡らす。 爆裂光弾の洗礼を受けたサウスダコタは、20ミリ機銃座1つが破壊されただけでなんら損害らしい損害を受けていなかった。 光弾はサウスダコタの右舷甲板に命中したが、分厚い装甲版の前には、町や村1年分の税収が消し飛ぶほどの高級品も、単なる豆鉄砲に過ぎず、 砲塔に命中した爆弾も、砲搭上面をすすけさせた程度で、何ら損傷を与えられなかった。 だが、インディアナポリスとサンタ・フェは、サウスダコタのようには行かなかった。 インディアナポリスは爆裂光弾を1発、サンタ・フェは爆裂光弾2発と爆弾1発を受けていた。 インディアナポリスは中央部に被弾していた。 この被弾で、中央部の対空機銃や両用砲が破壊され、対空火力は減少してしまった。 サンタ・フェは、艦橋後部と中央部魔道光弾を受けた他、後部に爆弾1発を被弾。 特に、艦橋部の被弾は致命的で、艦橋職員の大半が死傷した。 「更なる敵編隊接近!数は14!」 CICのレーダー員が、新たな敵の接近を知らせて来る。 敵ワイバーン群が、損傷艦から放たれる高角砲弾を浴びながら、輪形陣に侵入してきた。 「来るぞ。」 ファーガソン艦長は、緊張した表情で呟いた。 インディアナポリスとサンタ・フェ、それにサウスダコタとサンディ・エゴが動員可能な両用砲、機銃を撃ちまくる。 エセックスを始めとする5隻の空母もまた、猛然と射撃を加えた。 敵ワイバーンは、高度600メートルほどから暖降下しながら接近しつつある。 途中、敵編隊は二手に別れた。 「敵ワイバーン7騎、本艦に向かう!」 「ボノム・リシャールに敵7騎、急速接近!」 CICから、レーダー員の緊迫した声が流れて来る。視界の悪い夜間の対空戦闘では、レーダー員の報告が頼りだ。 敵ワイバーンが、徐々に高度を下げながらエセックスに向かう。 斜め単横陣の隊形で接近しつつある敵ワイバーンのうち、最も右に位置していたワイバーンが高角砲弾に吹き飛ばされる。 エセックスから放たれた20ミリ弾、40ミリ弾が、Mk37射撃管制レーダーの支持を元に、夜間にもかかわらず、敵から見たら 驚くほどの正確な射撃を、ワイバーン群に向けて放つ。 投弾コースに乗っていたワイバーンが新たに1騎撃墜される。 無数の機銃弾を受けたワイバーンは、その頑丈ながらも、優美な肢体をギタギタに引き裂かれてしまった。 4騎のワイバーンが、エセックスより距離700に縮まった所で爆弾を投下した。 ファーガソン艦長は、ワイバーン群が爆弾を投下した直後に面舵一杯を命じたが、タイミングが遅かった。 ふと、2騎のワイバーンが対空砲火を掻い潜りながら、エセックスの舷側に接近し、すれ違い様にブレスを放った。 ワイバーンの口から放たれた高温の火炎が、アイランド後部の5インチ連装両用砲や40ミリ、20ミリ機銃座を舐める。 少なからぬ数の機銃員が身を焼かれて、一部は火達磨になりながら海に飛び込んだ。 その報復は、すぐに叩き返された。 10人以上のアメリカ兵を火炙りにした2騎のワイバーンは、左舷側の40ミリ、20ミリ機銃に撃たれた。 戦友を焼殺された機銃員は、敵討ちとばかりに容赦なく機銃弾をぶち込み、2騎のワイバーンは、竜騎士もろとも原型すら留めぬほどまでに 体を破壊された後、幾つもの破片となって海に落下した。 エセックスの艦首が右に振られ始めた時、突然爆発が起こった。 投下された4発の爆弾のうち、最初の1発がエセックスの中央部に命中していた。 命中した300リギル爆弾は、飛行甲板を突き破り、格納甲板をも貫通して第2甲板で爆発した。 爆風が格納甲板に駐機してあった艦載機多数を破壊し、飛行甲板に直径6メートルほどの穴が穿たれる。 1発目の被弾の衝撃から立ち直る暇も無く、2発目がエセックスの前部甲板に命中する。 この命中弾は、前部エレベーターの繋ぎ目に突き刺さり、格納甲板の装甲版に突き当たってから炸裂した。 この爆発によって、前部部分に固まっていたF6F5機が爆砕された。 また、爆風は穴を広げただけではなく、前部エレベーターをも押し上げた。 爆圧によって、前部エレベーターは捻じ曲げられ、飛行甲板からはみ出てしまった。 更に3発目の命中弾が再び中央部に突き刺さった時、ファーガソン艦長はこのエセックスが空母としては使えなくなったなと確信していた。 午前3時40分 TG58.2旗艦である正規空母ランドルフの艦橋では、重苦しい空気が流れていた。 司令官席に座るハリル少将は、悔しさが滲んだ表情で、右舷側に見える2隻の空母を見つめていた。 2隻の空母。去年の夏から、戦友として行動を共にしていた空母エセックスとボノム・リシャールが燃えていた。 「エセックスは被弾3、至近弾1を受けました。ファーガソン艦長からの報告では、飛行甲板の損害状況は予想以上に深刻で、 艦載機の発着は不可能との事です。それから、ボノム・リシャールは被弾2、至近弾2を受けました。クロヴィス艦長からの 報告によりますと、中央部と後部の被弾により飛行甲板は使用不能の他、至近弾によって推進器に損傷を生じており、今の所、 25ノット以上の速力は出せぬと言う事です。」 「これで、TG58.2が使える空母は、このランドルフと軽空母2隻のみ・・・・か。」 ハリル少将は、憂鬱そうな口調で通信参謀に言った。 TG58.2は、序盤の迎激戦では、僅か24機のF6F-N3を巧みに使って、敵ワイバーン12騎を撃墜した他、対空砲火で多数の ワイバーンを撃墜したものの、F6Fは7機が撃墜され、護衛艦艇を撃沈破された挙句、エセックスとボノム・リシャールを傷物にされてしまった。 損害レベルは、共に中破程度であるが、飛行甲板は本格的な修理を施さないと使えぬほど痛めつけられている。 それも、火災を消してからの話だ。2隻の空母は、夜目にもはっきり分かるほど火炎と黒煙を吹き上げている。 格納庫内の艦載機が延焼しているらしく、鎮火には今しばらく時間がかかるだろう。 「緒戦で、正規空母2隻を使用不能にされるとは。これは、手痛い損害だぞ。それよりも、スプルーアンス長官はどうだ?」 ハリル少将は、一番気掛かりな点を質問した。 「インディアナポリスも被弾している。長官は無事か?」 「スプルーアンス長官は、今しがた無事であるとの報告が、直接インディアナポリスから伝えられてきました。」 「そうか。」 その報告に、ハリル少将はやや愁眉を開いた。 この時、通信士官が通信参謀に紙を手渡した。通信参謀は一読すると、ハリル少将に手渡した。 ハリルはその内容を読むなり、憂鬱そうな気分が幾らか解れたような気がした。 午前4時20分 「おいおい・・・・冗談じゃねえぞ。」 タスラウト少佐は、目の前に見えるエゲ島を見るなり、呆れたように言った。 「敵の機動部隊は、他の所にも居たのかよ・・・・」 エゲ島のワイバーン基地が燃えていた。 島の西側にあった宿舎や、ワイバーン休養所が、1つ残らず残骸と化している。 短い滑走路には、満遍なく大穴が穿たれている。 垂直離着陸が可能なワイバーンなら降りれるが、元々、飛空挺の支援を受ける事を前提に作られた滑走路だ。 その滑走路がこの有様では、飛空挺の支援は受けられないであろう。 隣接する第64空中騎士隊のワイバーン基地も火災と黒煙を吹き上げている。 隣のワイバーン基地もまた、敵の空襲によって手酷い損害を受けているのであろう。 彼は知らなかったが、エゲ島のワイバーン基地を壊滅させたのは、正規空母レキシントン、サラトガから発艦した夜間攻撃隊であった。 第63空中騎士隊が飛び立ってから10分後、エゲ島の北西270マイルに進出していた第57任務部隊は、第1任務群から夜間攻撃隊を発艦させていた。 TG57.1のレキシントン、サラトガは、開戦以来前線で活躍して来た精鋭空母であり、乗っている航空隊も、実戦経験豊富なパイロットが数多く揃っていた。 レキシントン、サラトガは、第1次攻撃隊としてSBD19、TBF12、第2次攻撃隊としてSB2C17、TBF15、計63機を発艦させた。 レーダーを持たぬシホールアンル側は、この夜間攻撃隊の接近を事前に知る事が出来ず、気が付いた頃には、既に第1次攻撃隊が島のすぐ側にまでやって来ていた。 第1次、第2次、計63機の攻撃機は、ここぞとばかりに暴れ回り、目に見える物には全て機銃弾を撃ち込んだ。 真っ先に襲われたのは第64空中騎士隊で、未だに健在だったワイバーン達は、そのほとんどが戦わずして討ち取られてしまった。 その次に空の第63空中騎士隊の基地も襲われ、第2次攻撃隊は被撃墜機4機を出すも、このワイバーン基地を好き放題荒らしまくった。 そして、第63空中騎士隊が、敵機動部隊の撃破を声高に宣言した時、彼らの家は別の刺客によって破壊されてしまったのだ。 「これじゃ・・・・俺達のほうが、点数少なめじゃないか・・・・」 タスラウト少佐は、目尻に涙を浮かべながら、燃えるワイバーン基地に向かってそう呟いていた。
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167 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/07/28(火) 00 01 23 ID hErcdyss0 本日分は投下終了です。 次回はユラ神国軍対リンド王国軍の予定です。 186 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/08/04(火) 20 03 05 ID hErcdyss0 169 ソ連との戦いの方が、皇国兵を麻痺させていましたよ。 170 皇国軍では、揚陸艦は全て海軍籍であって、故に艦隊航空隊、あるいは基地航空隊の支援の下で 運用する前提のため、揚陸艦固有の航空機運用能力は必要とされていませんでした。 航空機を搭載して運用するスペースがあるなら、その分多くの上陸用舟艇を積みたいのです。 ただ、F世界の情勢によっては大型の万能強襲揚陸艦も出番があるかもしれません。 空母が気軽に出撃できないため、自前の航空戦力を持ち巡洋艦や駆逐艦の援護の下で作戦する強襲揚陸艦。 搭載機は強風水戦4機に瑞雲水偵4機くらい(航空機のみ輸送の場合は24~32機程度)でしょうかね。 「道がマズー」だから困ってる 陸軍工兵隊は、ブルドーザーも持ってますし、大型の仮設橋なんかも持っています。 こと派遣軍に関しては、何も無い所から早急に飛行場を設営する必要があるので、重機は多めです。 しかし僻地の道幅を広げて舗装して強度を上げる作業は、いくら重機の支援があっても時間がかかります。 必要な資材も、ただ木を切り倒してくれば済む類のものではありませんので、本国からの支援が必要です。 戦争が終わって一段落したらそういう支援もあるかもしれませんが、今現在はそんなことしている余裕はないのです。 171 一応、皇国軍はデモンストレーションとして機関銃や歩兵砲の射撃をユラ武官に見せています。 それと、西大陸での皇国軍の精強さの情報も得ていますので、「これならいける」と思ったでしょう。 172 大河に沿う形で軍を展開させるのがベター 南のユラ神国対北のリンド王国の戦いは、軍は南北に移動しますが、大河の多くは東西に走っているのです。 なので、一部分では河川による軍隊や物資の移動は出来ますが、大部分は馬車に頼るしかないのです。 173 リンド王国は「勝って」いますからね。 それに、国王が止めろと言わない限り止められないのです。 174 国王が講和に応じれば、それで終わりなんですけれどね。 187 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/08/04(火) 20 03 38 ID hErcdyss0 175 176 属国ですか。 「同盟陣営に引き入れる」というのはいいですが、「属国にする」というのは……。 177 攻勢に出る必要性はあるんですよ。 負けてしまった以上、皇国のためにもユラ神国のためにも、「勝つ」必要があります。 178 リンド王国は東大陸北部へ続く玄関口ですので、港を使用出来れば東大陸北部諸国との繋がりも強化できるでしょうね。 179 帳簿上は全ての工兵連隊が、実質は主要な工兵連隊が10両前後のブルドーザーやパワーショベルを配備しています。 180 自動車や重機の運転可能な人材を育成するのは、軍だけでなく国家にとって有益なので、国策になっています。 軍に入ればタダで自動車や重機の運転を習えますし、民間でも政府が援助して 各地方に自動車学校を開設したり、授業料の一部を国が補助しています。 181 なんで勝ってる側が相手の顔を立ててやらないといけないんだ? となりそうで。 182 183 184 185 現実が、F世界で生きていく事を迫りますが、一方で元世界への備えも必要という、 二つの世界のことを考えないといけないという難しい時期ですから。 F世界を発展させる事は、作者としてはその方向性なのですが、 史実日本が台湾を約50年で近代化させていますから、F世界相手でも 50年くらいあれば近代化させられるのかなと、単純に考えています。 分野によっては、数年以内に市場を開拓しないと、 皇国国内産業が死んでしまう可能性もあるので。 本日分少し投下します。
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第122話 ホウロナの楔 1484年(1944年)3月8日 午後3時20分 ホウロナ諸島ファスコド島 シホールアンル陸軍第515歩兵旅団の指揮官であるラフルス・トイカル准将は、たった今、文書に自分の署名を終えた。 「ありがとうございます。」 目の前の変わった軍服を着た男。アメリカ軍第2海兵師団師団長であるジュリアン・スミス少将が礼を言った。 「これで、降伏文書の調印は終わりとなります。あなた方の将兵は、適正な処置の下に後方に送らせて頂きます。」 トイカルはその言葉を聴いても、返事を返そうとはせず、ただ頭を下げた。 アメリカ軍が上陸して4日目となる今日、ファスコド島守備隊は、島の北端部にある野戦病院前の陣地で、最後まで戦っていた。 僅か4日間の地上戦闘であったが、ファスコド島守備隊は勇敢に戦い抜いた。 兵力、火力、航空戦力。 どれもアメリカ軍が圧倒的に勝っていたが、トイカル旅団は力の限り戦い続けた。 トイカル旅団は、事前に構築していた、4重、5重にも及ぶ縦進陣地で持ってアメリカ軍部隊に抵抗を続けた。 特に、2日目の昼頃に起きた324高地の攻防戦では、実に4度も高地の主が変わったほど熾烈な戦いを繰り広げた。 武器も装備もアメリカ側に比べればかなり劣っていたものの、魔法騎士団の残余も加わったトイカル旅団は、勇猛果敢に立ち向かった。 残り少なくなった野砲を有効活用して、前進するアメリカ軍部隊の阻止攻撃や、攻勢にうつる友軍部隊の支援を最後まで行い続けた。 野砲部隊は、3日目の正午までには全ての砲を破壊されたが、最後まで撃ち続けたその砲弾は、第2海兵師団の将兵から“孤高の狙撃手”と 言わしめたほど、米軍を大いに悩ませた。 だが、相次ぐ激戦によって魔道銃の魔法石も切れ、将兵も皆が疲労困憊していた。 食料は大量にあったが、いくら食料があれど、肝心の武器が全く使い物にならなければ、無駄に兵を死なせてしまう。 ならば後退し、休息を取れば良い・・・・と誰もが思うであろう。 しかし、トイカル旅団は、だだっ広い大陸で戦っている訳ではない。 ファスコド島というちっぽけな島で戦っているのである。逃げ場などあろうはずも無く、当然、敵は守備隊に休息を取らせようとはしなかった。 トイカル准将は、守備隊の窮状を見て、もはや限界を超えたと判断していた。 アメリカ軍に勇敢に立ち向かった兵士達だが、損害が大きすぎた。 シホールアンル兵は、アメリカ軍部隊の容赦ない攻撃を受けていた。 少しでも敵を釘付けにすれば、後方から戦車がやって来る。 その戦車が、敵の足止めに貢献している魔道銃陣地を見つけては砲弾を叩き込んで沈黙させる。 野砲が敵の戦車を撃破して、敵を完全に食い止めることが出来ても、どこぞからアメリカ軍機がやって来て、陣地に爆弾を叩き付けて行く。 ひどい時には、空襲の後に沖合いの軍艦から猛烈な射撃が加えられる。 このような状況では、腰抜けの新兵であろうが、敵を軽く殺せるベテラン兵であろうが、陣地もろとも吹き飛ばされてしまう。 白兵戦に移っても、アメリカ兵は小銃や拳銃を使ってシホールアンル兵を次々と打ち倒す。 こちらが出てこなければ、銃眼や洞窟の穴に爆弾を放り投げ、火炎放射器で焼き払う。 アメリカ側の攻撃は、異常なまでに徹底していた。 敵と戦う前には、8912名はいた守備隊は、降伏直前には3018名にまで激減していた。 トイカル旅団は、僅か4日足らずで、4000名の戦死者、並びに捕虜を出し、1000名以上の負傷者を出していた。 ファスコド島守備隊は、事実上壊滅的な被害を受けたのだ。 トイカル准将は決断を迫られていた。 降伏か?それとも最後まで戦うか? 一昔前ならば、間違いなく最後まで戦う方を選んだであろう。 何しろ、偉大なるシホールアンル帝国軍の一員だ。 敵に無様な格好を見せるよりは、華々しく散ってシホールアンル軍将兵の素晴らしさを敵に見せ付けたほうが得策だからだ。 だが、そんな事は、アメリカ軍に全く通じないという事を、トイカル准将は嫌と言うほど思い知らされた。 (俺達は、もう義務を果たした。敵は血に飢えた野獣のように我ら味方将兵の命を貪り食った。だが、私は分かっている。アメリカ軍が特殊な軍隊であることを。) 彼は、もう既に決めていた。 彼としては、装備劣悪な友軍部隊が、陣地の作り方や、魔道銃等の近代兵器を揃える事で、曲がりなりにもアメリカ軍に 対抗出来たことが嬉しかった。 圧倒的不利な状況にもかかわらず、ファスコド島守備隊は良く戦った。 (私は、彼らを無駄死にさせたくない。精一杯戦った部下達に対して、俺が出来る事はせめて、命を救ってやる事ぐらいだ。) トイカル准将は、心中で決断すると、すぐに司令部や生き残りの指揮官達を集め、降伏する事を打ち明けた。 反対する者は、不思議と居なかった。 彼は、すぐさまアメリカ軍側に軍使を送り、降伏の申し出を行いたいと伝えた。 それから1時間余りが経った。 アメリカ軍は、トイカル准将の申し出に応じ、午後3時10分から降伏交渉が始まった。 トイカル准将は、文書にサインを終えた時、これで自分の役割は終わったと思った。 降伏交渉に使われた天幕を出ると、トイカル准将は第515旅団の司令部に戻った。 彼は、全部隊に武装解除を伝えると、ただ1人、自室にこもった。 トイカルは、椅子に座りながら酒を飲んでいた。 今までの思い出が、頭をよぎっていく。 初めて士官学校を見た時の高揚感。初の実戦で、無我夢中に戦っていた若き日の自分。 戦死者の遺族の家に1件ずつ回り、愛した部下の最後の務めを報告した時の、言いようの無い悲しみ。 様々な思いが、脳裏に浮かんだ。 「最後まで、私は優秀な部下と共に戦えた。義務を果たした以上、思い残す事は無い。」 司令部付の魔道士には、今回の戦闘報告を本国に送らせてある。 この情報が、願わくば、偉大なる帝国軍に勝利をもたらしてくれれば・・・・・ トイカルはそう心中で呟くと、杯に入っていた酒を一気にあおった。 「さて、私なりのけじめをつけるとするか。」 彼は、どこか晴れやかな表情を浮かべながらそう言った。彼は、テーブルに置かれていた短剣を手に取った。 1484年(1944年)3月18日 午前8時 エゲ島西50マイル地点 第5艦隊司令長官である、レイモンド・スプルーアンス大将は、作戦室内のテーブルに置かれた地図に、星条旗のついたピンが刺さるのを無表情で見つめていた。 「エゲ島が陥落したか。」 「はい。午前7時30分に、第5水陸両用軍団司令部から報告が入りました。海兵隊が被った損害は、戦死402、負傷2001です。」 情報参謀のアームストロング少佐がスプルーアンスに言った。 「ふむ・・・・・」 スプルーアンスは、側に置いていたカップを手に取り、一口だけ啜った。 「しかし、ホウロナ諸島攻略作戦で、海兵隊は無視できん損害を被ったな。」 「はい。事前に、入念な砲爆撃を行ったのですが、シホールアンル側はこれまでの戦訓を元に入念に防備体制を整えていたようです。」 ファスコド島制圧から始まったホウロナ諸島攻略作戦は、エゲ島のシホールアンル軍部隊が降伏した事で幕を閉じた。 アメリカ軍は、第1海兵師団が戦死390、負傷1420、第2海兵師団が戦死592、負傷2201、 第3海兵師団が戦死482、負傷1700、第4海兵師団が戦死402、負傷2001である。 総計すると、9000名以上の戦死傷が出た事になる。 原因は、シホールアンル側の防御態勢にあった。 ファスコドのシホールアンル軍は、これまでの経験を元に、効果的な防御陣地を構築していた。 だが、このような防御陣地は、515旅団のみならず、ホウロナ諸島に駐留する全部隊が行っていた。 その唯一の例外は、第75魔法騎士師団であったが、それ以外の部隊はずっと陣地に引き篭もり、海兵隊が上陸するまで行われた 事前砲撃に対しても、辛うじて戦力を温存する事が出来た。 これによって、シホールアンル軍は、思い通りとまでは行かなかったが海兵隊を苦しめる事が出来た。 だが、制空権、制海権を完全に握られていては、勝利など出来るはずも無く、圧倒的な火力の前に、ホウロナの島々は次々に陥落していった。 エゲ島が降伏した時、シホールアンル側は戦死者32000、負傷29000の損害を出していた。 無論、残りの負傷者や生存者はアメリカ側の捕虜となるから、シホールアンル側は、第54軍並びに、第22空中騎士軍、その他諸々も含めて、 10万以上の将兵、軍属を丸ごと失う事になった。 シホールアンル側は、それを覚悟の上でファスコド島を見捨てたが、それでも将兵10万の喪失は痛すぎる物であった。 「我々の損害もいささか大きいが、それでも、シホールアンル軍に与えた損害は大きいだろう。彼らは、貴重な戦力を失ったばかりか、 ホウロナ諸島までも失ったのだ。この事は、後の戦局に大きく左右するだろう。」 スプルーアンスは、視線を地図上の1つの島・・・・ファスコド島に移した。 「既に、ファスコド島には飛行場が建設され、第1海兵航空団の航空隊が駐屯を開始している。ファスコド島のみならず、ホウロナ諸島の 全ての島に工兵部隊が上陸する。大部隊の収容が可能な施設が完成すれば、ようやく次のステップに進める。」 「それは、来るべき大上陸作戦の事ですな?」 参謀長のカール・ムーア少将が聞いた。 「そうだ。」 スプルーアンスは、怜悧な口調で返事する。 「その次のステップに進むために、我々第5艦隊はホウロナ諸島を守らねばならない。シホールアンル側が、奪回を企図せぬとも 限らないからな。ひとまず、ホウロナ諸島を制圧した事で、まず一段落したが、この後も気は抜けない。」 「しかし長官、問題もあります。」 作戦参謀のフォレステル大佐が進言する。 「第57、58任務部隊は、攻略作戦開始以来ずっと働き詰めで、艦隊の将兵の疲労はかなりのものです。第5艦隊・・・・ いや、連合軍艦隊の精鋭ともいえる高速機動部隊といえど、疲労には勝てません。」 「その事に関しては、今私も言おうとしていた。」 スプルーアンスは苦笑しながらフォレステルに返事した。 「先に言われるとはな。まぁ、それはいいとして。TF57、58の両艦隊は後方に下げて休養させる。だが、万が一の場合が 起きた時、機動部隊が居なくては困るから、TF57か、TF58のどちらかだけを先に休養させ、後の部隊は、ご苦労だが もう2週間ほど頑張って貰う。ファスコド島には、第1海兵航空団の航空隊200機が配備されているが、もし敵機動部隊が 来襲した時は、この200機ではとても太刀打ちできない。その場合は、必ず機動部隊の助けが居る。だから、TF57か58の どちからは、ホウロナ諸島に近くに張り付いてもらいたいのだ。」 「なるほど、一時的にローテーションを組むのですね。」 幕僚たちが納得した表情を浮かべた。 「長官。では、どの部隊から後方に下げるのです?」 フォレステル大佐がすかさず聞いた。 「TF58を最初に下げよう。」 スプルーアンスは即答する。 「TF58は空母が2隻も欠けている上に、艦載機の出撃回数がTF57より多いからな。ミッチャーに休養を取るように命じよう。 それから、TF58には、後送する捕虜を乗せた輸送船団を護衛してもらおう。」 「分かりました。」 スプルーアンスはその後、一通りの連絡事項を聞き、それに指示を下してから会議を終えた。 「長官。」 会議の終了間際、ムーア参謀長はスプルーアンスに聞いた。 「そういえば、大西洋方面でも、近々大作戦が実行に移されるらしいですね。」 「うむ。そのようだな。」 スプルーアンスは頷いた。 「大作戦と言っても、今度の作戦は島の攻略・・・・いわば、ホウロナ諸島攻略と同じような作戦だ。だが、同時に大事な作戦でもあるな。」 スプルーアンスは知っていた。 大西洋艦隊も同じく、レーフェイル大陸侵攻の準備を進め、手始めに足場となる場所を占領すると言う事を。 「太平洋と大西洋。この二つの戦場で、我々は大きな楔を打つ。もし、大西洋でも作戦が成功すれば、この戦争の行方は完全に決まるだろう。 ミスター・ムーア、合衆国海軍は、これまで以上にないほど忙しくなるぞ。」 「ええ、承知しております。」 ムーア少将もまた、どこか緊張したような表情で返事する。 彼は、途端に悪戯小僧が浮かべるような笑みを見せた。 「最も、長官がもっと働いてくれたら、我々としては大助かりなのですがねぇ。」 その言葉に、スプルーアンスはただ苦笑するだけであった。 1484年(1944年)3月19日 午前8時 バージニア州ノーフォーク その日、ジョン・マッケーン少将は、司令部スタッフと共に内火艇に乗って、今日から新しい仕事場となる軍艦に向かっていた。 ノーフォーク軍港の一角に浮かぶそれは、数ある合衆国海軍の空母の中では、いささか異色の存在であった。 「見るからにごつごつしているな。」 マッケーン少将は、目の前の軍艦を見てからそう呟いた。 彼が赴任する軍艦・・・・第7艦隊所属第72任務部隊第1任務群の旗艦である正規空母イラストリアスは、デザイン33・メジャー10Aの 迷彩塗装が艦体に塗られているが、独特の重厚さはそのまま醸し出されている。 TF72.1の僚艦である正規空母ベニントンや、軽空母ハーミズ、ノーフォークもまた、イラストリアスと同様に迷彩塗装を施されている。 内火艇がイラストリアスの左舷に接舷すると、マッケーンは階段を上がった。 飛行甲板に上がると、イラストリアス艦長のファルク・スレッド大佐が出迎えてくれた。 「初めまして。私は、イラストリアスの艦長を務めます、ファルク・スレッド大佐であります。」 「ジョン・マッケーンだ。出迎えありがとう。」 マッケーン少将とスレッド大佐は、互いに敬礼を送る。 「ようこそ、ジョンブル戦隊へ。ささ、こちらへどうぞ。」 スレッド艦長は、にこやかな笑みを浮かべると、先頭に立って案内してくれた。 マッケーンは、飛行甲板を横切る際に、艦橋のマストに視線を向けた。 マストには、旗がはためいている。 旗は2種類ある。 1つは、見慣れた星条旗だ。その下には、ユニオンジャックが誇らしげにはためいていた。 (ジョンブル戦隊のシンボル・・・か) マッケーンは、心中で呟いた。 第72任務部隊第1任務群を構成する艦は、ほとんどが第26任務部隊・・・・元、イギリス本国艦隊所属第12艦隊のものである。 この艦隊には現在、エセックス級正規空母であるベニントンと、インディペンデンス級軽空母のノーフォーク、並びにアトランタ級軽巡の フレモントと駆逐艦2隻が追加で配備されている。 実を言うと、この追加された艦艇にも、同じようにユニオンジャックがはためいている。 このユニオンジャックは、部隊旗として認められており、TG72・1の艦艇は全てがこの部隊旗を誇らしげにはためかせている。 他のアメリカ海軍将兵は、この旗からもじって、TF26の時期からこの英艦艇群達をジョンブル戦隊と渾名している。 そのシンボルとも言うべきマストのユニオンジャックは、国を失った英海軍兵達の闘志は全く衰えていないと主張しているかのように、 力強くはためいていた。 マッケーンとスタッフ一同は、イラストリアスの艦橋に上がっていった。 彼らはそこで、イラストリアスの主な幹部達と挨拶を交わした。 1時間後、一通り挨拶が終わったマッケーン少将は、司令官公室で身の回り私物の整理を行っていた。 マッケーンは、家族の写真を机に置いてから、それをしばし眺める。 写真に写っている青年は、彼の息子であるジョン・マッケーンジュニアで、同じ合衆国海軍軍人でもある。 マッケーンジュニアは、潜水艦ガンネルの艦長として、太平洋戦線で戦っている。 「やっと、俺も前線に出向く事になったよ。」 マッケーンは、写真の息子に対し、そう語りかけた。 その時、ドアがノックされた。 「おう!」 マッケーンは、やや野太い声音で、ドアの向こう側の人物に言った。 ドアが開かれると、スレッド艦長の姿があった。 「司令、整理は順調に進んでいるようですな。」 「ああ。私物は少なくしたからね。しかし、部屋の質素さは、アメリカ海軍とあまり変わらんな。」 マッケーンは苦笑しながら言った。 「まっ、私としては、別に気にもならないがね。まぁ、立ち話でも何だし、椅子に座って少しばかり雑談でもかわそうかね。」 「ええ、喜んで。」 スレッド大佐は、マッケーンの勧めを快く受けた。 彼は、質素なソファーに腰掛けた。マッケーンは、その反対側に座る。 「従兵に紅茶を持ってこさせましょうか?」 「ああ。ティータイムには若干早いが、ひとまず、1杯もらおう。」 スレッドは、従兵を呼び付けると、紅茶を頼んだ。 「司令。どうですか、このイラストリアスは?」 スレッドは早速、マッケーンから感想を聞き出そうとする。 それに、マッケーンは淀みなく答えた。 「いいフネだよ。特に、装甲を施した飛行甲板は素晴らしい物がある。2年近く前のレーフェイル奇襲で、この艦はかなりの爆弾を 食らったようだが、飛行甲板より下には全く被害が無く、僅か2週間程度の修理で前線復帰出来たと聞いている。あの重防御ぶりなら、 いつぞやに耳にした、あの大げさな例え話もありかな、と思ったよ。」 「はぁ。食らった側としては、いつ大事に至らないかヒヤヒヤ物でしたが。」 イラストリアスは、42年6月後半に行われたレーフェイル大陸急襲作戦の終盤で、マオンド軍のワイバーン隊に多数の爆弾を浴びせられている。 この時、イラストリアスは、500ポンドクラスの爆弾11発を受けて中破したが、目立った損害は、甲板前部の非装甲部に受けた被弾部分だけであり、 装甲に覆われた部分の被弾箇所は、幾ばくかの凸凹が生じていたのみであった。 この様子を見た、あるアメリカ海軍の連絡士官は、 「我々の空母ならば、10発以上の爆弾を受けたら最低でも4ヶ月はドックから出れないだろう。だが、イラストリアスの場合は、 おい水兵、ほうきを、で済んでしまう。」 と、かなり大げさな言葉を漏らしたほど、イラストリアスは異常とも思える強靭ぶりを発揮した。 米正規空母群では、最強の防御力を発揮したイラストリアスに、海軍側は大きな魅力を感じ、しまいにはリプライザル級正規空母の建造ピッチが 急激に上がる事になった。 そのため、リプライザル級正規空母は、1番艦リプライザルが44年12月下旬、2番艦キティホークが44年2月に竣工予定と、本来の予定よりも 3ヶ月、または4ヶ月以上も早まった。 アメリカ軍主力艦の建艦スペースにプラス効果を与えたほど、イラストリアスの奮戦は注目されていた。 だが、あの時、現場に居た人物たちは、かなりヒヤリとなったようだ。 「いくら重装甲空母といえど、無限に爆弾を受け止められる訳ではありませんからね。あの時は、11発の被弾で済みましたが、 あのまま15発・・・・いや、20発と受けていたら、このイラストリアスもどうなっていたか。」 スレッドはそう言うと、やや深いため息を吐いた。 「人間が作った以上、必ずしも壊れん、とは限らないからなぁ。」 マッケーンもまた、同意したかのように呟いた。 従兵が紅茶を運んできた。2人は従兵に礼を言ってから、一口すすった。 「そういえば司令。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか。」 「何だね?」 スレッドの質問に、マッケーンは耳を傾けながら言った。 「どうして、TG72.1の旗艦をこのイラストリアスにしたのです?TG72・1には、このイラストリアスよりも新しいベニントンが 配備されているのに。」 「そうだなぁ・・・・・」 スレッドの質問に、マッケーンは少しばかり考え込んだ。 20秒ほど思考してから、彼は質問に答えた。 「言うなれば、このイラストリアスが打たれ強い、からかな。」 「打たれ強い、ですか。」 「そうだ。」 マッケーンは深く頷いた。 「エセックス級空母は、確かにいい艦だ。搭載機数はもちろん、艦自体の防御力も、性能も申し分無い。だが、欠点もある。」 マッケーンはそう言いながら、紙とコインを取り出した。 「エセックスに関わらず、合衆国海軍の空母は、甲板に爆弾を受けると」 彼はそう言いながら、指を紙に押し込んだ。紙はあっさり突き破られた。 「このように、簡単に穴が開いてしまう。我が合衆国海軍の空母は、全てがこのイラストリアスより装甲が薄く、甲板の表面は 木材しか使っていない。そのため、爆弾を受ければたちまち被害が発生し、穴が開いた空母は、良くても数時間は飛行機を下ろしたり、 上げたり出来ない。だが、このイラストリアスは違う。」 マッケーンは紙を置いて、コインの表面を指先でつつく。 「このコイン同様、イラストリアスは硬い装甲で覆われ、その効果は以前の戦いで実証済みだ。私は、旗艦を置くのならば、 傷付いたら高い確率で後方に下げざるを得ない空母より、多少傷付いても、機能を維持できる空母が良いと考えたのだ。 旗艦となる艦が大破したら、司令官は別の艦に移乗するという面倒な作業も起こる。私はそのことも考え、効率化を図るためにこの イラストリアスを旗艦にしようと思ったのだ。」 「なるほど、いい考えですな。」 スレッドは、マッケーンの言葉に納得した。 「それに、自室の質素さは、エセックス級もイラストリアス級もあまり変わらんからね。だから、私はより安全度の高い方を選んだのさ。」 マッケーンはそう言ってから、ニヤリと笑った。 「頑丈な船は安心できますからな。」 スレッドもまた、微笑みながら言った。 第7艦隊は、機動部隊である第72任務部隊と船団護衛部隊である第73任務部隊、そして、輸送船団である第74、第75任務部隊に別れている。 その中で、主力を成すのが第72任務部隊である。 第7艦隊の司令長官は、歴戦の指揮官であるオーブリー・フィッチ大将が任命されている。 機動部隊指揮官は、意外にもジェームス・サマービル中将が任命された。 当初、機動部隊の指揮は、これもまた歴戦の空母部隊指揮官であるレイ・ノイス中将が選ばれるかと思われていたが、当の本人は大西洋艦隊参謀長に 引っ張られていた。 この他にも、色々な将官が立候補に上がったが、大西洋艦隊司令部は、元TF26司令官であるサマービル中将に機動部隊の指揮権を与えた。 この件では、海軍内で色々と議論が交わされたが、サマービルは、転移前にはタラント空襲作戦等で空母部隊を指揮していた事や、グラーズレット空襲で 敵戦艦撃沈という功績も挙げているため、機動部隊指揮官としても申し分無いと判断され、サマービルは抜擢されたのである。 サマービルの指揮する事になった第72任務部隊は、現在2つの任務群から成っている。 第72.1任務群はマッケーンが指揮官に任命され、正規空母イラストリアス、ベニントン、軽空母ノーフォーク、ハーミズを主力に据えている。 これの護衛には、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レナウン、重巡洋艦カンバーランド、ドーセットシャー、軽巡洋艦ケニア、ナイジェリア、フレモント、 駆逐艦16隻が当たる。 第72.2任務群はジョン・リーブス少将が指揮官に任命され、、正規空母ワスプ、ゲティスバーグ、軽空母ロング・アイランドⅡ、シアトルを主力に、 護衛艦が巡洋戦艦コンスティチューション、重巡洋艦ウィチタ、オレゴンシティ、軽巡洋艦セント・ルイス、ダラス、マイアミ、駆逐艦16隻となっている。 今はまだ編成中ではあるが、早ければ5月。 遅くても6月にはアイオワ級戦艦2隻にエセックス級空母2隻、インディペンデンス級軽空母1隻を主力とした第3任務群が編成される予定である。 「出撃が、確か4月の初旬でしたよね。」 「ああ、その予定だな。」 マッケーンは、さり気ない口調で答えた。 「大西洋艦隊は、まずはレーフェイル大陸の西の海域にある島を奪おうとしているらしい。そのため、陸軍の2個軍が準備中で、うち1個軍は、 命令が下ればすぐに輸送船に乗れるほど、準備が進んでいるようだ。」 「いよいよ、大西洋でも本格的な反攻作戦が始まりますね。」 「うむ。しかし、太平洋戦線と違って、いささか厳しい戦いを強いられるかも知れんぞ。」 「ええ。」 スレッド艦長は、それまで浮かべていた微笑を打ち消し、不安そうな色を滲ませる。 「我々は、ただ一国だけで、レーフェイル大陸に攻めなければいけませんからね。」 太平洋戦線では、アメリカは南大陸という味方と共に、敵と戦っている。 北大陸の攻勢は既にアメリカ軍が主力といっても良い状況で進められているが、それでも南大陸側の協力には大きく助けられている。 それに対して、大西洋戦線では、受けられる支援と言えばレーフェイル大陸に多数侵入したスパイの情報提供だけで、太平洋戦線の南大陸連合軍のような 頼れる味方は、ほとんど居ない。 つまり、アメリカ一国だけで、広大なレーフェイルを収めるマオンド共和国相手に戦わねばならない。 「せめて、大西洋艦隊にも、太平洋艦隊と同じ数の機動部隊が用意出来れば、あっさりとまではいかんが、敵さんの行動を 大きく制限できるのだがなぁ。」 マッケーンは、残念そうな口調で言った。 「せめて、6月になれば、こっちも11隻の高速空母が揃えられるんですが・・・・」 「まぁ、いずれにせよ、4月には前哨戦の開始だ。敵の本陣を襲う作戦ではないから、幾らかは楽に戦いができるだろう。」 「それまでに、何度か訓練をやりたいものですな。錬度低下を防ぐためにも。」 「出撃までには、まだ2週間はあるだろうから、1度か2度は外洋訓練が出来るだろう。次の演習時には、ジョンブル戦隊の腕前を ゆっくり見せてもらうよ。」 「ええ、とくとご覧に入れましょう。」 この時、2人の心中は、出撃まであと2週間はあるという、どこかのんびりとした思いがあった。 そんなのん気な思いをぶち壊しにする出来事が、遠く東のレーフェイル大陸で行われようとしていようとは。 誰一人、知る由も無かった。
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/523.html
792 :303 ◆CFYEo93rhU:2009/05/29(金) 23 10 12 ID MgldbMPc0 励ましの言葉を有り難うございます。 自分のペースで完結を目指したいと思います。 現状では、「西大陸編」の完結で一応の完結。 余力があれば「東大陸編」に手を付けたいと考えています。 783 売却用は50万丁と云う事は三八式でしょうか? 皇国が売却したいのは三八式歩兵銃ですね。銃本体、弾薬、予備部品なども潤沢に備蓄されているので、景気良く売却可能です。 50万丁と大見得切っていますが、実際にはせいぜい数年間での分割購入で数万~10万丁くらいが限度でしょうが(主に値段の問題で)。 最新型の百式小銃の性能が良好で量産体制に入っているので、三八式は今後前線から姿を消しつつ自国民に猟銃として払い下げたり、同盟国、友好国に売却の方向です。 村田銃とか、それよりさらに古い幕末洋式銃などは数がそもそも少なかったり、規格が雑多だったりで、輸出しても不具合の方が多いのではないかと思いまして。 黒色火薬+ペーパーカートリッジの古式銃であれば、F世界側もすんなり導入可能でしょうが、もはや皇国でそんな銃は現役として使われていませんし。 コピーに関しては、分解して仕組みを理解したとしてもそれを製造可能な工場がF世界にはありませんから、すぐにどうこうという事も無いので。 将来的には、「イルフェス国産の連発式ライフル」も出てくるかもしれませんが、その頃には皇国はアサルトライフルを開発している事でしょう。 「整備、指導料込み」ではどうでしょうか。 良いですね。 『訓練や整備、指導料込みで50リルスなら~』で違和感ありませんね。 784 こちらの帝國は売れるものは何でも売るという正しい貿易国家になっておりますなw 手っ取り早く外貨を稼ぐ手段の一つとして、武器輸出は有効ですから。 缶詰製品とかマッチや鉛筆などの各種日用品だとかは有用な輸出品目ですが、やはり単価が低いので数を売ってもそれ程のお金(正貨=金貨、銀貨)にならないんですよね。 くろべえさんの作品にあった、上流階級向けの服飾や化粧品なども行われているのでしょうけれど、二番煎じを書くのも気が引けるので……。 戦艦などの大型艦を見たら 小さな島くらいの「浮かぶ要塞」ですから、「こんなモノ人間が造れるハズが無い! もしや皇国は魔法国家か!?」って事になったりして……。 さすがに、国防上もユーザーサポート的にも戦艦は(前ド級艦であっても)売却不可ですが(笑) 785 その主砲が火を噴かないことには「張子の虎」と認識される可能性があります。 F世界の常識的には「大きすぎる大砲は実用性に欠ける」というものがありますので、金剛級の14インチ砲でも想像を絶するデカさで「張子の虎」認定されるかもしれません。 ただ、皇国軍の浮世離れした火力を見聞きした人にとっては、「あの大砲が火を吹いたら大変な事になる」という考えに到るかもしれません。 どちらにしろ、超弩級艦は燃料事情的に出せないので本国で安置、切り札の秘密兵器的な扱いですから、F世界の人の目に触れる事は近い将来無いでしょう。 786 そんな、あんな美しい船に大砲乗っけるだなんてもったいない! 史実では戦争で本来の仕事とは違った任務に就いたりしていましたが、F世界では願わくば、練習船として生涯を全うしてほしいものです。 787 基本、「大きければ大きいほど強い」のが戦列艦ですからね。 788 旧式軽巡であれば、派遣軍に含まれているのでイルフェス人も見聞きしています。 789 仮に永久機関を積んでいても、水や食糧や乗員の精神が保たなければ意味がありませんし、どのみち船には補給が必要って事には変わりないですよね。 790 「凄い大きな軍艦」という事は理解できても、その具体的な威力は実感湧かないと思います。 F世界最強の戦列艦の大砲と比べても、あらゆる面で桁が違いますから。
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/4.html
ニュース @wikiのwikiモードでは #news(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するニュース一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_174_ja.html たとえば、#news(wiki)と入力すると以下のように表示されます。 ウィキペディアを作ったiMacが箱付きで競売に登場。予想落札価格は約96万円!(ギズモード・ジャパン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース メトロイド ドレッド攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ツムツム攻略Wiki|ゲームエイト - Game8[ゲームエイト] 【グランサガ】リセマラ当たりランキング - グランサガ攻略wiki - Gamerch(ゲーマチ) アイプラ攻略Wiki|アイドリープライド - AppMedia(アップメディア) Among Us攻略Wiki【アマングアス・アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」:時事ドットコム - 時事通信 マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」 - PR TIMES 【Apex Legends】ヴァルキリーの能力と評価【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) モンハンライズ攻略Wiki|MHRise - AppMedia(アップメディア) ポケモンBDSP(ダイパリメイク)攻略wiki - AppMedia(アップメディア) SlackからWikiへ!シームレスな文章作成・共有が可能な「GROWIBot」リリース - アットプレス(プレスリリース) 【ウマ娘】チャンピオンズミーティングの攻略まとめ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ナリタブライアンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ヒシアケボノの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】カレンチャンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】フジキセキの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) ドラゴンクエストけしケシ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【スタオケ】カード一覧【金色のコルダスターライトオーケストラ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【スマブラSP】ソラのコンボと評価【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ブレフロレゾナ】リセマラ当たりランキング【ブレイブフロンティアレゾナ】 - ブレフロR攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトの評価と性能詳細【UNITE】 - Gamerch(ゲーマチ) 仲村トオル、共演者は事前に“Wiki調べ”(オリコン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【ENDER LILIES】攻略チャートと全体マップ【エンダーリリィズ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】あんしん笹針師の選択肢はどれを選ぶべき? 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第60話 新戦力参入 1483年(1943年)4月1日 午前11時 シホールアンル帝国アルブランパ 第24竜母機動艦隊の旗艦であるモルクドの艦上で、リリスティ・モルクンレル中将は入港して来た新鋭艦に見入っていた。 「司令官、ホロウレイグが入港しました。」 魔道将校が彼女に報告して来た。 「ええ、今見てるわ。」 リリスティは淡々とした口調でそう返事した。 彼女が、今注目している竜母ホロウレイグは、シホールアンル帝国が建造した最新鋭の大型正規竜母である。 全長は127グレル(254メートル)、全幅14.8グレル(29.6メートル)、基準排水量は17000ラッグ (24000トン)ほどで、搭載ワイバーン96騎と、これまでの竜母と比べて大型化している。 その大きさで、速度は16リンルという高速性能を誇る。 外見は、これまでの竜母と比べて、やや大型化した右舷に配置された艦橋が艦自体の姿と相まって精悍さを 一層際立たせており、まさに、シホールアンル竜母の集大成とも言えた。 米空母にやや近い艦影を持つその竜母は、旗艦モルクドの右舷に停止した。 「艦長を呼んで。話がしたいわ。」 リリスティは、竜母部隊の新たなメンバーと顔合わせする為に、旗艦に呼びつけるように命じた。 10分後、モルクドの作戦室に待っていたリリスティはドアがノックされる音を聞いた。 「入って!」 その声が聞こえたのか、ドアが開かれた。 室内に入って来た人物を見るや、リリスティは息を呑んだ。 「竜母ホロウレイグ艦長、クリンレ・エルファルフ大佐、只今参りました。」 紫色の髪を持つその男性は、凛とした声でリリスティにそう告げた。 体格は普通そうに見えるが、良く見るとがっしりとしている。 顔つきは若く、双子の兄であるルイクスのように端整で、女性が見れば愛嬌のある顔付きだ。 ただ、ルイクスの左頬には痛々しい傷跡があり、それがいかにも前線指揮官同様の雰囲気を醸し出していた。 「ご苦労、エルファルフ艦長。さあ、座って。」 彼女は、敬礼するエルファルフ艦長に答礼した後、席に座るように勧めた。エルファルフ大佐は恐縮そうに席に座った。 「お久しぶりね、クリンレ。」 「こちらこそ。まさか、リリスティ姉さんに会えるとは思ってもいませんでした。」 途端に、2人は破顔して言い合った。 クリンレとリリスティは、互いにシホールアンルでも有数の名門貴族であり、過去の皇帝の何人かはエルファルフ家と モルクンレル家から出されている。 よくよく、貴族とは互いにいがみ合っているイメージが強いが、エルファルフ家とモルクンレル家は他の貴族とは違い、 互いに交流を深めたりして信頼し合っている。 オールフェスの実家でもあるリリスレイ家とも交流は深く、この3家の子供達は、休日の日に集まるとよく遊び回っていた。 「昔はよく遊んだねぇ。オールフェスも交えて森に探検に言った時は一番面白かったわ。覚えてる?」 「まあ、覚えてはいますけど・・・・」 クリンレは引きつった笑みを浮かべて、目線でこれ以上は言わないでくれと訴えた。 「あら、その眼つきからして、まだ根に持ってるのかな?」 「どちらかといえば・・・・根に持っているか・・・いや、持ってないか・・・・」 答えに窮したクリンレはう~んとしきりに唸って答えを導こうとするが、なかなか見つからない。 それを見たリリスティは思わず吹き出してしまった。 「もう、相変わらず相手と話するのが苦手のようね。それでよくあの新鋭竜母を任されるようになったね。」 「え?あ、いや!別にそういうつもりじゃありませんよ。ただ、答えがなかなか出ないもので・・・ハハハハ。」 クリンレはばつの悪い笑みを浮かべた。 「でも、久しぶりにあなたと会うよね。何年ぶりかしら。」 「かれこれ10年以上経ちますね。」 「年はいくつになったの?」 「3月で30歳になりました。」 「30歳か・・・・人間嫌でも成長するものねぇ。」 「何はともあれ、姉さんとこうして会えるのは嬉しいですよ。去年の10月に、兄貴がリリスティが負傷した! なんて騒いだ物ですから、どれほどの傷を負ったのか心配でした。」 「まー、あれは正直死ぬかと思ったわ。いや、一回心臓止まったからちょっと死んだかな。」 リリスティはさらりと言った。 「相変わらず、自分の事も他人事のように言いますね。ある意味、姉さんの強みでもあるでしょうが。」 内心、リリスティに舌を巻きながら、クリンレはそう言う。 「しかし、ようやく私達の艦隊にも新戦力が来たわ。来月には、2番艦のランフックと小型竜母のリネェングバイも 来るから、ようやく元通りになる。」 「そういえば、アメリカ海軍も、今年辺りから新しい艦を前線に投入すると言っていましたけど、私は去年の11月以来、 ずっとホロウレイグに付き合ってばかりで外の情報が分からなかったのですが、姉さんは何か知っていますか?」 「何か知っているかと言われても、詳しい事は私も知らないね。ここ最近は、スパイの送ってくる情報が断片的に しか入らないの。肝心の敵艦の性能や、弱点になりそうな所は全くないわね。まあ、名前だけなら知ってるわ。」 「名前ですか・・・・どんな名前の艦なのです?」 「確か、新型の正規空母の名前はエセックスと聞いてる。何でも、ヨークタウン級と同等の性能を持つ艦で、これが 何隻が配備されるみたい。」 「正確には何隻ほどなんですか?」 クリンレは間を置かずに質問した。 「それが分かれば、苦労しないんだけど・・・・・情報部では4隻程度か、5隻って言ってるわね。でもね、クリンレ、 あたしとしては正規空母よりも気になる艦があるの。」 途端に、リリスティの表情から笑みが消えた。 「アメリカ海軍にも、モルクドやホロウレイグのような大型空母と、ライル・エグのような小型空母があるのは知ってるよね?」 「ええ、知ってますよ。」 「たしかね、前に何度か、スパイの情報を聞いたのよ。最初の情報では、小型空母1隻がヴィルフレイングに在泊ってあったの。 でもね、その2週間後には小型空母3隻が在泊。その1ヵ月後には小型空母が4隻、その2週間後には6隻在泊とあったの。」 「な、何かやたらに増えていないですか?それに誤認もありえるんじゃ。」 「あたしもそう思ったのよ。でもね、先月20日の報告には8隻の小型空母が、飛空挺を下ろしているという報告がここにも 届いたの。私が言いたい意味は分かる?」 「・・・・・まさか、姉さん。そんな事が有り得るはずが・・・・」 「でも、しっかり報告にはあったわ。話半分でも4隻。最低でも4隻の小型空母がヴィルフレイングにいるのよ? 去年の報告にはこんな報告は全く無かった。小型空母の存在が確認されるようになったのは、今年1月からよ。 あたしの勘では、あの小型空母は短期間に建造された可能性が高いわね。」 「短期間・・・・・」 「オールフェスは、また失敗しちゃったかもね。」 リリスティの一言は、クリンレの心に大きく響いた。 「でも、まだ先は分からないわ。シホールアンルにはまだまだ戦力があるもの。」 「ところで、前線の様子はどうなんでしょうか?」 クリンレはリリスティに聞いた。すると、リリスティは不機嫌そうな表情になった。 「ここ最近は、アメリカ海軍の空母部隊が、南大陸の北部どころか、北大陸の南端部まで荒らし回ってるわ。先月なんか、東海岸だけでも不定期に3回も空襲を受けたわ。いずれも被害は深刻じゃなかったけど、カレアントにいる地上軍の補給はここ数ヶ月で細くなった。全く、あたし達がいないから、あいつらは調子に乗ってるのよ!」 リリスティにしては珍しく、腹立たしげにそう吐き捨てた。 「でも、2週間前にカレアントを襲おうとした敵の機動部隊に陸軍のワイバーン隊が攻撃を仕掛け、ヨークタウン級空母1隻を大破させましたよ。」 「沈まないと駄目。撃沈して初めて戦果が挙がったと言えるわ。大破なんて、あたしからしたら戦果無しと同じよ。でも、来月からは少し変えていくよ。クリンレ、あんたのホロウレイグが来てくれてあたし達も戦力が増えたわ。これからはあんたにも期待してるからね。」 リリスティは凄みのある笑みを浮かべた。クリンレは頷いてから答えた。 「お任せを。不肖エルファルフ、シホールアンル最大の竜母艦長として、あなたの期待に答えましょう。」 「うん、頼りにしてるわ。これで、あとランフックとリネェングバイが来れば、アメリカ人に目に物を見せてやるわ。」 リリスティの自身ありげな顔を見た時、クリンレは彼女が何か企んでいるなと思った。 1483年(1943年)4月1日 午後2時 バルランド王国ヴィルフレイング 「見えました。ヴィルフレイングです。」 正規空母エセックス艦長のドナルド・ダンカン大佐は、副長の言葉を聞くなり、無言で頷いた。 彼は双眼鏡でヴィルフレイングの港を眺めた。 「ついに来たか。未知なる異世界に。」 ダンカン大佐は、やや緊張した面持ちでそう呟いた。 「艦長、そう気負わんでもいいぞ。」 傍にいた、第39任務部隊司令官であるエリオット・バックスマスター少将が彼の肩を叩きながら言った。 「確かに未知の異世界だが、そう悪い所でもないぞ。何よりも珍しい物がいっぱいある。まっ、気楽にやって行こう。」 「流石は司令官ですな。やはりヨークタウンに乗っていた時に慣れましたか?」 「そうだなあ。俺も最初は君と同じような気持ちだったが、自然に慣れてしまってな。正直言って、こうしてまた来る 事になったのは嬉しい事だよ。船も新しいし、責任は重くなったが、むしろやる気が出てくるな。」 彼はどこか気楽な口調でそう言った。 バックスマスター少将は、開戦前から正規空母ヨークタウンの艦長として、大西洋、太平洋で活躍して来た歴戦の空母乗りである。 彼は、12月末にヨークタウンから下艦した後、少将に昇進し、新鋭空母エセックスと、軽空母インディペンデンスを中心とする 第39任務部隊司令官に任命された。 TF39の陣容は、エセックスとインディペンデンスを主力とし、これを新鋭軽巡であるモントピーリアとオークランド、 フレッチャー級駆逐艦12隻が護衛している。 いずれも昨年か、今年に竣工したばかりの新鋭艦であり、これからTF39は、部隊としては初の実戦に臨むことになる。 TF39がヴィルフレイングに入港したのは、午後2時30分であった。 「ここがヴィルフレイングですか・・・・サンディエゴが丸ごと引っ越したみたいですな。」 初めて目にするヴィルフレイングに、ダンカン艦長は拍子抜けするような口調でそう言った。 彼は、ヴィルフレイングが元々、人の余り済まない寒村と聞いていたが、ヴィルフレイングが発展しているとまでは 聞いていなかった。 ダンカン大佐は、少しは発展しただろうとしか思っていなかったが、彼の目から見たヴィルフレイングはアメリカ本土の 軍港と同じように見えていた。 広大なヴィルフレイング港の南側には、ボーグ級、サンガモン級といった護衛空母が6、7隻ほど停泊しており、 飛行甲板に載せているF6F戦闘機やP-47戦闘機をクレーンで下ろしている。 港の中央側には多数の輸送船が桟橋に付けられ、船から軍用車両が降ろされていた。 北側に目を向けると、そこには太平洋艦隊の艦艇郡が停泊していた。 艦艇郡の中には、一際巨大な建造物が浮かんでいた。 アメリカが開発したABSDと呼ばれる浮きドックであり、この浮きドックは大破の被害を受けた艦でも、前線で 修理出来る能力を有している。 現にドックの中では、3月16日のカレアント沖の戦闘で損傷した、空母ヨークタウンが修理を受けている。 「懐かしい奴がドックの世話になっているな。」 バックスマスター少将は、かつて艦長を勤めたヨークタウンを双眼鏡で見つめていた。 「話によると、シホールアンル側のワイバーンによって爆弾7発を浴びたようです。でも、被害の大部分が 格納甲板より上の部分に集中したこと、乗組員の的確なダメージコントロールによって被害の拡大が防げたようです。」 「その話は聞いたよ。しかし、あと2ヶ月近くは、あの“ベッド”から出れないようだ。こうなると、TF38は ビッグEとホーネットの2隻のみだな。」 「TF39よりは、まだ飛行機が多いからいいですよ。こっちはエセックスの110機にインディペンデンスの45機、 計155機しかありません。」 「だが、こっちには新鋭機のF6Fがある。それに、パイロットはどの母艦航空隊よりも多くF6Fに乗っている。 だからさほど心配する事は無い。」 「それに、9月からはカーチスのヘルダイバーが、11月からはブリュースターのハイライダーが加わります。 航空機も、どんどん新しくなりますな。」 「軍艦も、飛行機も進歩する物さ。こいつらを生かしきれるか否かは、乗っている人間にかかっている。俺達も ヘマをしないように気を付けんといかんぞ。」 「そうですな。」 ダンカン艦長は気を引き締めるような気持ちでそう返事した。 エセックスは北側埠頭の割り当てられた区域にまで到達し、そこで停止した。 その場所は、空母エンタープライズから右舷200メートルの所にあった。 「司令官、見て下さい。ビッグEの連中、ずっとこっちを見ていますよ。」 「エセックスは新しい空母だからな。連中は入ってきたばかりの新人が使えるのか見極めているのだろうよ。 それに、こいつが新しい艦だから必然的に目立ってしまうという部分もあるのだろう。」 「いずれにしろ、先輩方に認められるような戦いをしなくちゃいけませんな。」 「ああ全くだ、ミスターダンカン。勝負はこれからだぞ。」 バックスマスター少将は、意気込んだ表情でダンカン艦長にそう言った。 午後3時20分 南太平洋部隊司令部の窓から、チェスター・ニミッツ中将は軍港に停泊している新入りの艦。 エンタープライズに寄り添うように停泊している新鋭空母のエセックスと、インディペンデンスを見つめていた。 その時、ドアがノックされた。 「入れ。」 ニミッツはドアに向かって言った。 すると、ドアが開かれて、TF39司令官に任命された、バックスマスター少将が入って来た。 「第39任務部隊司令官、エリオット・バックスマスター少将。只今を持って南太平洋部隊配属になりました。」 バックスマスター少将は見事な敬礼をしながら、そう申告した。 「ご苦労、バックスマスター少将。さあ掛けたまえ。」 ニミッツは答礼したあと、バックスマスターをソファーに座らせた。 「お久しぶりであります、司令官。」 「本当に久しぶりだな。かれこれ5ヶ月近くになるかね。」 「ええ、そうなりますな。」 「君も立派になったものだな。前までは1空母の艦長だったが、今では立派な機動部隊指揮官となって新鋭空母を 引っ張って来た。空母事情がさほど良いとは言えぬ現在、君のTF39は頼りになるよ。」 「恐縮であります。」 「まあ、そう固くならんでも良い。所で、初めて乗る新鋭艦はどうだね?」 「一言で申して、強力です。着艦誘導灯や舷側エレベーター、新型レーダー等の最新装備は勿論のこと、艦自体も ヨークタウン級より有用性のある物となっています。特に防御に関しては、ヨークタウン級並みか、それ以上に 打たれ強くなっているようです。」 「ほほう、なかなかの良艦のようだな、エセックスは。」 「エセックスは合衆国海軍の空母建造の集大成とも言うべき艦ですよ。このエセックス級や、インディペンデンス級等の 新鋭艦が揃えば、シホールアンル海軍とは互角以上に戦えるでしょう。」 「パイロット達の訓練はどうかね?」 「概ね、順調に進んでいます。特に着艦誘導灯の導入のお陰で、夜間飛行の訓練がやりやすくなった事が大きいです。 今の所、パイロット達の錬度は相当向上しております。」 「なるほど。それなら、TF39を編入させた甲斐があったな。」 ニミッツは満足気に頷いた。 「今は本国やアリューシャン列島で、竣工したイントレピッドやフランクリン、プリンストンの訓練も順調に行って いるようだから、9月までに加わるバンカーヒルとランドルフ、ベローウッドとタラハシー等も加われば、東西両海岸での 妨害活動もより盛んに行えるな。」 「はっ。ようやく、我々も主導権を握りつつありますな。そういえば、聞きたい事があるのですが。」 バックスマスター少将は、最も気がかりな事をニミッツに聞いた。 「私のTF39は、いつ頃実戦に参加するのでしょうか?」 「思ったよりも早いぞ。君の機動部隊には15日付けでヴィルフレイングから出港し、西海岸へ回り、バゼット半島を 経由してエンデルドを叩いてもらう。西海岸地区は、ノイスのTF37がウェンステルの山岳地帯近くの敵補給基地と、 その南にあるルベンゲーブと呼ばれる地域の魔法石精錬工場を叩いた。ハルゼーのようにやり過ぎた攻撃はしていないが、 敵にはかなりの衝撃を与えたかもしれん。」 「魔法石精錬工場ですか・・・・・どうせなら、その工場を潰してしまえばよろしいのではありませんか?」 「あいにくだが、我が機動部隊は、現状では嫌がらせ程度の攻撃しか出来ん。それに、魔法石工場は意外に 規模が大きく、艦載機の反復攻撃を加えなければ破壊できない。かといって、いつまでも陸地の近くをうろちょろ していたら、敵のワイバーンが殺到して来るからな。TF38はたまたま、運が悪かっただけだが、敵も馬鹿ではない。 きっと待ち構えているに違いない。とは言っても、この獲物は我々の手から離れたがね。」 ニミッツは、苦笑しながらそう言った。 「我々の手から離れた、ですと?では、誰にやらせるのですか?」 スパイでは無理でしょうと言いかけたが、その前にニミッツが返事した。 「陸軍さんだ。陸軍はここ最近、新鋭爆撃機のB-24を使って何かをやろうとしているらしい。目標は知らされて いないが、恐らくウェンステル南部の魔法石精錬工場が狙いかも知れん。」 「どうして分かるのです?」 「B-24の行動半径だ。ウェンステル領は、ミスリアル北西部から直線距離で1200キロほどだ。これに対し、 B-24は3トンの爆弾を積んで3000キロ以上を飛行できる。この長大な後続性能を持つB-24によって、 その魔法石精錬工場を爆撃する可能性がある。とは言っても、これは可能性の1つに過ぎんが。」 「そうですか・・・・・」 「いずれにしろ、敵の拠点は、遅かれ早かれ、虱潰しに叩かれていくだろう。」 ニミッツはそう言うなり、ソファーから立ち上がって、窓の傍に歩み寄った。 「なあバックスマスター。一度、あの船見せてもらえんかね?エセックスという船はどういう作りになっているのか、 直に見てみたいのだが。」 「いいですよ。近いうちにご案内しましょう。」 バックスマスター少将はそう言って、ニミッツの要望を受け入れた。 4月16日 バルランド王国クラルトレラ 午前8時 バルランド王国中部にあるクラルトレラは、広大な草原地帯である。 起伏の少ないこの草原地帯は、昔から行商人の交通路として使用されており、今でも草原を行く人や商人達の隊列が散見される。 そのクラルトレラにある豪勢な建物に、ミルセ・ギゴルトは休日を過ごしていた。 休日は5日ほど与えられ、彼はこの5日を、クラルトレラの別荘でのんびり過ごそうと考えていた。 別荘に来て1日目は、のんびりと過ごせた。 しかし、2日目からは、厄介なお客さんがやってきて騒音を撒き散らし続けた。 2日目こそは、ギゴルトは凄いと思いながら、それらに見入っていたが、3日目、4日目にはただのやかましいだけの存在となった。 そして5日目の朝、ギゴルトは不機嫌そうな表情でワインを啜っていた。 「旦那様、ご気分がすぐれぬのでしょうか?」 彼の表情を見て不安になったメイド長が、ギゴルトに聞いてきた。彼はフンと鼻を鳴らす。 「気分は悪くない。ただ、機嫌が悪いのだ。ここ最近はやかまし屋共がわしの屋敷の近くを飛び回る物だから、 せっかくの休日が台無しだよ。」 ギゴルトは腹立ち紛れにそう言った。ふと、何かの音が聞こえて来た。それが何であるか、彼には分かっていた。 「噂をすれば、例のやかまし屋共が来よった。全く、飽きぬ奴らだ!」 ギゴルトはグラスを置き、2階のベランダに出てみた。 すると、彼の苛立ちの原因は、超低空で草原の上を飛行していた。 発動機が4つも装備され、ごつい胴体に尾翼が2つもあると言う不思議な大型機だが、低空での運動性能は良いらしく、 こうして機体を地面にこすりそうな低空で飛行を続けている。 胴体に掛かれている星のマークからして、紛れも無い、アメリカ軍の大型爆撃機である。 しかし、彼が見た事のあるB-17という爆撃機ではない。 ギゴルトはまだ知らなかったが、この爆撃機はB-24リベレーターと呼ばれる物で、最近になって南大陸に派遣された物だ。 その新型爆撃機は2、3機ずつの小編隊を組んだまま、かなりの低高度で草原を横切っていく。 総計で40機以上のB-24が、轟音を上げながらギゴルトの別荘付近を飛び抜けていった。 「全く、なんて迷惑な奴らだ!人がのんびり過ごそうと思っておる時に!」 怒ったギゴルトは、そのまま屋敷の中に引っ込んで行った。 「貴族様の屋敷を通過しました。機長、間も無く投下ポイントです。」 B-24爆撃機の副操縦士であるレスト・ガントナー少尉は、横で同じく、操縦桿を握る機長のラシャルド・ベリヤ中尉にそう言った。 全体的に太った体系で、ソ連の高官と似たような名前、似たような格好、それにロシア系アメリカ人でもあるため、彼は チェーカーというあだ名を頂戴している。 「よし、爆弾倉開け!」 ベリヤ中尉はそう命じ、B-24の胴体爆弾倉が開かれる。 中には、模擬爆弾4発が搭載されており、それを、間も無く見えて来る標的に向けて投下する。 高度は、驚くべき事に高度40メートルという、8000メートルの高みまで上れる4発重爆からすれば、まさに地を這うような低さである。 この40メートルという低高度を、ベリヤ中尉は200マイルの速度で飛行し、それを40分前から維持し続けている。 やがて、標的が見えて来た。標的のある箇所には、既に先頭隊が投下した模擬弾が炸裂し、白煙に覆われている。 「高度を上げる!」 ベリヤ中尉はそう言うと、操縦桿をやや上に上げる。 機首が上向き、高度がぐんぐん上がっていく。ベリヤ中尉は高度が80メートルに上がった所で上昇を止めた。 高度80メートル程度で、速度を200マイルから280マイルに上げて、目標に向けて一気に突っ込んだ。 ベリヤ中尉の後方には、彼の機に習うように、5機のB-24がほぼ同速度で投下地点に向かいつつある。 さほど間を置かずに、彼の機は投下地点に到達した。 「爆弾投下!」 爆撃手がそう叫びながら、投下スイッチを押した。B-24の胴体から4発の模擬弾がバラバラと目標区域に向けて 投下され、それらが地面に突き刺さると、火花が飛び散るように炸裂して、夥しい白煙を出した。 「機長、命中です。」 「命中か、分かった。さて、後は離脱するだけだ。」 ベリヤ中尉はそう言うと、機体を旋回させて、ヴィルフレイングにへと向かわせた。 「今日はあと2回ほど、ここに来そうですね。」 ガントナー少尉はそういった後、前々から気になっていた事をベリヤ中尉に言ってみた。 「しかし機長。自分にはどうも分からんのですが、どうして重爆隊の自分らが、このような訓練を繰り返しているのでしょうか?」 「う~ん、俺にもよく分からんが。恐らく、上の人達はこのB-24を、どっかの要所攻撃が、地上部隊の支援に当たらせようと しているのだろう。高度100メートル以下の雑巾掛けを繰り返しているのだから、恐らく後者のほうが強いのかも知れん。」 「しかし、自分らの機体は高高度から爆弾を投下する目的で作られた物ですよ。このでかぶつが低空攻撃に向いてますかね?」 「爆弾搭載量は、合衆国軍のどの機体よりも一番だからな。大方、爆弾を大量にばら撒いて、シホット共を一気に叩き潰す胎なんだろう。 とは言っても、目的も知らされてねえから、判断に苦しむな。」 ベリヤ中尉は首をひねりながらそう言った。 「まっ、俺達のやる事は、まずこの訓練を目一杯やって、自分の物にするだけだ。今はそれに集中だよ。」 「そうですな。ここんところ、うちの飛行隊長はやかましいですからな。さっさと腕を上げて、飛行隊長を黙らせてやりましょうぜ。」 「勿論さ。」 2人はそう言ってから、再び口を閉じて、機体の操縦に意識を集中した。 彼らと同様に、他のB-24のパイロット達もまた、上層部の意図を知らぬまま、ひたすら猛訓練に励んでいった。
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9月23日 午後10時40分 バーマント公国首都ファルグリン バーマント公国の首都ファルグリンは、公国でも一番人口の多いところであるが、 同時に各種施設の総本部も多い。 その中には当然軍の司令部も含まれている。 陸、海軍の総司令部も、ファルグリンの中枢に集中している。 中方方面軍総司令部は、その中枢部からはやや離れた東部地区にある。 細長の2階建ての建物で、よく待ち合わせの目印にもなっている。 その2階の一室。中央方面軍司令官室で、クライスク・アーサー騎士元帥は窓の外の風景をじっと見据えていた。 町は静寂そのものである。9月始めに起きたアメリカ軍機の来襲以来、首都には厳重な灯火管制がしかれている。 その前までは、首都の建物はあちらこちらから明かりが灯っていたが、今では見事なまでに真っ暗になっている。 (現皇帝陛下の心情を表しているみたいだな) アーサー元帥はそう思った。 その時、ドアの向こうからノックする音が聞こえた。 「入れ!」 彼はドアの向こうの気配にそう言う。 失礼します、と声がしてドアが開かれ、人が入ってくる。 彼の参謀長であるネオロ・ウラルーシ少将が入室してきた。 細長で痩せていて、黒い髪を短く刈り上げている。一目で見ると、どこぞの教師を思わせる風貌である。 「参謀長か。」 アーサーは振り返る。 「最終確認をしようか。まず、皇帝陛下はどうだ?」 「皇帝陛下は宮殿におられます。」 「内務大臣のネリレイギは?」 「内務省で残業を行っております。」 「宣伝長官のワンスバイルは?」 「自宅に帰りました。」 アーサーは、これから逮捕する予定の安否を確かめた。 バーマント公国には8つの省庁がある。 8つの省庁のうち、革命勢力に加わる大臣は軍需省のマルホルン大臣、警務庁のヘルレイズ長官の2名である。 この他にも、陸、海のトップや他の重要人物の安否がウラルーシ少将から確認された。 「ふむ。最後にだが、エリラ第4皇女は?」 「エリラ皇女は現在、西部のマリアナの視察から首都に戻られている途中で、間もなく首都に到達するとの事です。」 「・・・・エリラ。あの女は少々危険だな。逮捕したらカルリア監獄に放り込んでやろう。」 アーサー元帥は顎鬚を撫でながらそう呟いた。 「閣下。各部隊、準備は出来ております。」 「時間は・・・・・」 彼は時計を見た。10時54分。決行まであと6分である。 「そろそろ、カルリア監獄に現地の決起軍が突入する時刻ですな。」 「成功してくれる事を祈ろう。さあ、我らも行動を起こすぞ。」 アーサー元帥は意を決した表情で、ウラルーシ少将を伴って足早に司令官執務室から出て行った。 9月24日 午前11時8分 公国宮殿 ドンドンドン! 寝室のドアが激しく叩かれる。 眠っていたグルアロス・バーマント皇帝はドアから響くノックの音に目を覚ました。 (こんな時間になんだ?うっとおしい!!) 彼は苛立ちながら、毛布をはいでベッドから起き上がった。 「何事か!?」 「陛下、緊急事態でございます!!」 その声は、侍従長のベンティだ。何やらやけに慌てた口調だ。 「・・・・入ってまいれ。」 バーマント皇は横柄な口調でそう言うと、ドアが開かれ、禿頭のベンティ侍従長があたふたと入ってきた。 「貴様!今何時だと思っておるか!?」 「申し訳ありません。ご就寝の時に起こしてしまいまして。」 「緊急事態とは何か?報告せよ。」 「はい。実は、魔道師からこのような報告を受け取りました。」 ベンティ侍従長は懐から1枚の紙を取り出した。それをバーマント皇はひったくる。 「緊急、カルリア監獄司令官 カルリア監獄に1万規模の反乱軍が襲撃せり。」 「反乱軍だと!?」 バーマント皇は仰天した。カルリア監獄と言えば、投獄したグリフィンが収監されている。 (もしや、この反乱軍はあのグリフィンめを釈放させ、担ぎ上げるつもりなのだな。 それならば・・・・・・・) バーマント皇はすぐに思い立った。そしてベンティに伝えた。 「魔道師にこの文を伝えよ。現地のカルリア監獄の魔道師に向けてだ。こう遅れ。 直ちに叛徒グリフィンを処刑せよ。以上だ!」 彼の言葉に、ベンティは驚いた。 「ほ、本当に」 「処刑だ!!つべこべ抜かさず、さっさと魔道師に送らせろ!!!」 彼は有無を言わさぬ口調で釘を刺した。ベンティは慌てて一礼すると、寝室から出て行った。 ベンティと入れ替わりに、今度は直属将官の1人であるベンデレル騎士中将が寝室に入ってきた。 「何用か!」 「報告に参りました!」 ベンデレル騎士中将の表情は真っ青である。 「言うてみよ。」 「ハッ。さきほど、首都周辺で中央方面軍の2個軍団が一斉に叛乱を起こしました!」 「叛乱だと!?」 バーマント皇は最初、その言葉が嘘のように聞こえた。 「ハッハッハッ!貴様、何を言うか。中央方面軍は我が公国主力部隊。その軍が」 「現に起こしているのです!」 いつもは小心な彼が珍しく、バーマント皇の言葉をさえぎった。 「貴様!わしの言葉をさえぎるとは何事か!?貴様も監獄に放り込まれたいのか?」 「私の処罰は後です。この寝室のベランダを開けてもらえば分かります!」 「ふむ・・・・では開けてみるか。」 バーマント皇は理解できなかった。なぜ中央方面軍が叛乱を? 彼らは他の部隊に比べて公国側に対する忠誠度が高い。 バーマント皇はとりあえず、寝室のベランダのドアを開けてみた。 ガチャッ、と、音が鳴り、鍵が開けられる。ついで、ドアが外側に開き、首都を一望できるベランダに出てみた。 首都の状況は・・・・・・革命軍が焚いたかがり火によって、既に3分の1が埋まっている。 彼は知らなかったが、決行5分前に革命軍の構成員が住民を叩き起こした。 官憲は当然その構成員を見つけ、怪しんだが、見張り役の別の構成員に気絶させられる。 そして各所で熱弁を交えた演説を行った。 話はわずか5,6分ほどの短いものであったが、首都の住民達は革命軍の話を理解した。 そして住民達も、それぞれの武器を取って革命軍と共に蜂起したのである。 最初、東側だけだったかがり火の集団が、ふと、ぽつりと西部にも現れ始めた。 それに触発されたかのように、次々とかがり火が増えていく。 「あああ・・・・・・・い・・・・・一体・・・・・一体・・・・いっ・・・たい」 余りにも突然の出来事にうまくしゃべれない。 かがり火の集団の中に、べつの火が現れた。それはやがて大きくなり、わずか2,3分で炎が建物全体を嘗め尽くした。 それは、内務省のある施設。別名、市民監視省の施設だった。 「一体、どういうことだ!?」 バーマント皇は凄い剣幕でベンデレル騎士中将を睨み据えた。ベンデレルはたちまち縮み上がってしまった。 「それは、小官にも理解しかねます・・・・と、とりあえず、時間が経てば、情報も入るかと。」 「何が、時間が経てば分かるだあ?馬鹿者!役立たず!貴様はこの宮殿から追放だ!!」 バーマント皇は顔を真っ赤にしてそう喚き散らした。 彼はベランダから離れ、寝室から出た。宮殿内が何か騒がしい。 (騒がしいな。) 彼はイラついた表情で周りを見回した。すると、階段から完全武装の宮殿警護軍の将兵がドッと津波のように現れた。 その先頭には、直属将官のアートル中将がいる。 「おお、アートル君か。」 バーマント皇はぶっきらぼうな口調でそう言う。 警護軍の将兵は、皇帝を見つけると、その足を止めた。いずれも、頑丈な甲冑を身につけ、手には小銃を携えている。 (外は革命軍がいっぱいだが、宮殿内には精兵ぞろいの宮殿警護軍がいる。 こやつらが時間を稼いでいる間に、わしは脱出できるだろう) バーマント皇はそう思った。彼は知らなかったが、首都の各所では宮殿警護軍の第2親衛師団、 第9親衛師団が革命軍を辛うじて食い止めており、宮殿から直径300メートルの地域はまだ侵入を許していない。 しかし、数は革命軍のほうが上である。いずれ押し潰されるのは目に見えている。 その前に、隠れ通路から西部へ抜けて、革命軍が来る前に首都を抜け出さなければならない。 「革命軍はかなり多いようだな。それに対し、こちらは宮殿警護軍の2個師団しかおらん。 前線は兵力が少ない。そこで、この宮殿の警護兵も一部を残して、革命軍と戦わせたほうがいいと思うのだが、どう思うかね?」 「確かに。前線では兵力が少ない。いいでしょう。その案でいきます。皇帝陛下は我々が叛徒どもを食い止めている間に、 お逃げになってください。」 (私には、このように忠誠を尽くすものも残っている。) バーマント皇はそう思うと、いくらか自信が戻ってきた。 「と、言いたいところですね。」 アートルはそう言って笑みを浮かべた。 「?????アートル君。意味が分からんのだが?」 「意味でありますか?陛下ともあろうお方が分からないとは。」 アートルはわざとらしい口調でそう言う。 「アートル!こんな時にふざけとる場合か!!」 「いえ、ふざけてなどいません。」 アートルはあごでしゃくった。その時、彼の後ろにいた2人の兵士がバーマント皇に飛び掛った。 あっという間にバーマント皇は両腕を後手に捻り上げられてしまった。 「な、何をするか!?わしは皇帝であるぞ!き、貴様ら、全員斬首に処すぞ!」 「皇帝陛下、理解できませんか?」 「な、何をだ?」 「今の状況を、ですよ。」 バーマント皇はしばらく黙った。そしてやっと理解できた。宮殿内の警護軍は・・・・・ 自らの手を離れたのだ! そう確信した瞬間、バーマント皇は愕然とした。 「な、なぜ。このような事ができたのだ?叛徒の貴様が、なぜ部下を率いる事が出来た?」 「そうならしめたのは・・・・・陛下。あなたですよ。」 実は、現皇帝の政策に不満を感じていたのは現地軍や市民だけではなかった。 この宮殿警護軍も、元々は国民の軍隊である。 その兵士達は、一般部隊以上に皇帝の忠誠心は厚かった。そのはずだった。 だが、バーマント皇の政策に疑問を抱くものも多かった。 それを、日々の仕事をこなす事で、警護軍の将兵は紛らわせてきた。 バーマントが勝ち戦を続けている間はなんら問題ではなかった。 しかし、突如現れたアメリカ軍が、彼らの本当の気持ちを呼び覚ましたのである。 そして、その気持ちが一気に爆発するきっかけとなったのが、 9月始めの空襲と、B-24が行ったビラ撒き作戦だった。 それでも、皇帝に中世を誓うものは多かったが、内心では皇帝をも限ったものもかなりの数に上った。 人の口には戸は立てられない。不満を持つものは、影でバーマント皇の政策を批判していた。 そこを、アートルが話しに加わり、革命軍に加わらせたのである。 30000の宮殿警護軍のうち、4000の将兵が革命軍に加わった。 そして決行の日まで、バーマント皇の忠実なる僕を演じていたのである。 その4000の兵は、革命が決行されると、すぐに皇帝の下に駆けつけた。 彼らが疑われる事はなく、難なく皇帝のお膝元に辿り着いたのである。 そして、この思わぬ伏兵によって、バーマント皇は革命側の手に落ちてしまったのである。 「あなたは、私達や国民全てが忠実なる僕である、と、以前おっしゃっておりましたね?」 アートル中将がバーマント皇を睨みつけながら、彼に問いかける。 バーマント皇はうなだれたまま、うんともスンとも言わない。 「確かに忠実なる僕も多くいました。しかし、あなたは目先の事ばかり気にして我々の気持ちを 全く知ろうとしなかった。」 アートルの言葉1つ1つが、バーマント皇に重くのしかかる。 「これは・・・・・起こるべくして起きた事態です。」 「起こる・・・・べくして・・・・・」 バーマント皇は喉から搾り出すような声音でそう呟いた。 「わ・・・・私は・・・・・私は・・・・・・・・・・国の事を思って・・・・ 国民の事を思って・・・・一生懸命、努力した。」 グルアロスは、震えた声で、言葉を紡ぐ。 「わしの・・・・努力を・・・・貴様らが・・・・・貴様らが!!!」 顔を上げたバーマント皇はアートル、いや、その後ろの警護軍だった兵士達を睨みつける。 だが、それに対して返されるものは、それぞれの冷たい視線。 「貴様らが・・・・・・・」 バーマント皇、いや、皇帝だったその男はその言葉を言ったきり、押し黙った。 体が熱病にかかったかのように痙攣し、顔を腕の中にうずめ、泣き出してしまった。 9月24日 午前0時20分 首都ファルグリン 宮殿警護軍の守備地域は、圧倒的多数の革命軍と、蜂起した市民の攻勢を受けた。 最初はよく粘っていたが、午前0時35分に西地区の一部が突破されてしまった。 宮殿警護軍の司令官は直ちに全部隊を後方100メートルまで下げ、新たに防衛線を引いて革命軍に対抗した。 午後11時50分、宮殿内で、革命側に寝返った警護軍の部隊がバーマント皇を捕らえたとの情報が入った。 この報告が皇帝側の警護軍の士気をどん底まで叩き落してしまった。 午後11時52分、突如、警護軍が武器を捨てて革命軍に投降してきた。 さらに午前0時55分、東部地区のカルリアでも決起軍が監獄を制圧、 危うく処刑されそうになったグリフィン第3皇子を救出したとの情報が入った。 この情報は、革命軍と、蜂起した市民を大いに勇気付け、首都ファルグリンには 新生バーマント誕生万歳が、あちらこちらで歓呼された。 周りの兵士、市民が肩を抱き合って歌い合っている。 とある市民が歓喜の表情を浮かべ、アーサー元帥に握手を求めてくる。 「革命万歳!」 「国民を騙した皇帝は監獄に放り込みましょう!」 「これで無意味な拡大戦争が終わる!」 握手を交わしたもの達は口々にそう言ってきた。 「閣下、第18航空軍の司令官です。」 目の前の人ごみを掻き分けて、2人の人物が現れた。 1人は第18航空軍のギリアール中将、もう1人はアーサーの幕僚である。 「閣下、我々の空中騎士団も、革命軍に加わらせていただきます。」 「ありがとう。空中騎士団がいれば百人力だよ。」 第18航空軍は第23、第24、第25の空中騎士団から成っている。 駐屯地はファルグリンの東北東100キロで、2個空中騎士団が先日編成されたばかり、 1個空中騎士団が8月編成で、まだまだ新米の航空軍である。 それぞれが90機を保有しており、合計で270機の飛空挺を保有している。 革命決行の午前12時に、第18航空軍は突如革命宣言を発し、革命軍に加わると宣言した。 まだ技量未熟の部隊で、今では旧式化したBA-2しか配備されていないが、 万が一、公国側が軍を差し向けてもそれに対応できる。 「まだ西部や西北部に駐屯している軍が、革命宣言を出していないのが気がかりですな。」 右隣にいるウラルーシ少将が不安げな表情で言ってきた。 「う~む、確かにそうであるな。特に西北部は厄介だからな。それに海軍部隊の動向も気になるな。 彼女はちゃんと説得できただろうか?」 周りの市民は革命成功に沸き立っているが、まだ問題が残っている。 西北部は別の高級将官が説得に当たっているが、決行から1時間経っても蜂起したとの報告が入っていない。 「きっと大丈夫です。現皇帝、いや、前皇帝の不満は全体的にかなりくすぶっていました。 グルアロス帝が捕らえられたと聞けば、我々革命軍に同調するでしょう。」 幕僚の1人がそう言ってくる。 「そうだな。」 そう聞くと、アーサーも不安な気持ちが大分晴れた。革命は成功しつつある。 こうしている間にも、各地から次々と蜂起の報告が入ってきている。 国民はようやく、立ち上がりつつあった。 午前0時10分 エリオンドルフ 港が燃えていた。赤く赤く燃えていた。その炎は、暗闇を打ち消さんばかりに猛り狂っていた。 「く・・・そ。なんで、こんな事に。」 第4艦隊司令官、エルマスター大将は、横目で炎上している大小の艦船を眺めていた。 窓から移るその光景は断末魔の状況を挺している。 その炎上艦から離れた沖合いに、10隻以上の軍艦が遊弋している。 それは、第5、第6艦隊の艨艟達である。 「なんで、こんな事に、ですって?」 前から不敵な口調で言ってくる人物がいる。 それはゆっくりと、部屋の中を行き来している。 「あたしが、やれと命じたから。納得したかしら?」 エルマスター大将に顔を近づける。その表情は、明らかに彼を馬鹿にしていた。 「くっくっく。本当に人ってのは弱いものよねえ。」 懐から写真を取り出す。 「たかが、妻や子供のために、簡単に裏切ってしまうんだから。もっとも、本人は妻子の所へ召されちゃったけどね。」 ツインテールの戦闘服姿の女性、エリラ・バーマントはわざとらしく、悲しいふりをする。 「こんの、薄汚いメス犬が!!」 エルマスター大将の隣に立たされているレラ・アルファール中佐が、憎悪をむき出しにしてそう叫んだ。 「あらら、美しいレディが、なんて汚い言葉を。」 「あんたにならいくらでも言えるわよ!」 レラはそうはき捨てた。 午後11時 第4艦隊司令部でとある取り決めが行われていた。 「決起軍は蜂起した模様です。」 第4艦隊司令部がある陸の宿舎に、通信兵が慌しく入ってきた。 「長官、ご決断を!」 作戦副参謀であるレラは、未だに渋るエルマスター大将に決断を促した。既に、第4艦隊では革命軍に同調していた。 後はエルマスター大将の決断で全てが決まろうとしている。彼は両腕を組んで黙っていた。そして・・・・・ 「分かった。これからは、新しい祖国に尽くすとしよう。」 彼の腹は決まった。 「既に艦隊は出動準備ができております。」 「よし。直ちに出動だ。魔道参謀、ファルグリンの革命軍司令部に送れ、第4艦隊は、 今より新しい祖国の指揮下に入る。」 全員が腹を決め、宿舎から出ようとしたとき。突然、軍港の沖合いに第5、第6艦隊が姿を現した。 最初、第4艦隊の将兵は、それらが革命側についたのだなと確信した。 だが、その確信は、午前11時15分に始まった突然の砲撃によって消し飛んでしまった。 まだ停船中であった第4艦隊の艦艇は滅多撃ちに合った。 第4艦隊には重武装戦列艦のウエンディール、シンファニー、ファンボルの3主力艦。 中型戦列艦のオールスレイグ級4隻、小型戦列艦のEA-21を始めとする7隻。 計14隻で編成されている。 これに対し、軍港に現れたのは第5艦隊、第6艦隊の8隻の重武装戦列艦を始めとする合計47隻の大艦隊である。 これらは停泊中の第4艦隊の艦船群に対して容赦ない射撃を加えた。 第4艦隊側も反撃し、小型戦列艦1隻を大破させ、重武装戦列艦ゲルオールを小破させた。 だが、第4艦隊の戦果はそれだけであり、砲戦開始から40分後、14隻全艦がたたきのめされてしまった。 そして、たたきのめされた艦船は、その不運を悔やんでいるかのように、高々と夜空に向かって炎を上げていた。 第4艦隊の駐屯地には、エリラ自らが率いた軍が突入し、第4艦隊側の抵抗を蹴散らし、次々と要所を占領した。 司令部に突入したのは午後11時55分ごろで、その際、8人いた参謀のうち6人が射殺されるか、斬殺されている。 残ったのは、腕を負傷したエルマスター大将と、レラのみである。 「まあ、あの砲術参謀さんはよくやってくれたわ。 あたしが皇帝なら、今頃勲章を授与してるわね。本当、勉強になったわ。」 エリラは薄笑いを浮かべながら、倒れている死体、砲術参謀の遺体に持っていた写真を置いた。 「貴様、革命軍を相手にして勝てるとでも思っているのか!?」 エルマスターはそう喚いた。 「もちろん、勝てる。魔法都市マリアナで召喚儀式を行えば、 今のような態勢はあっという間に無くなるわ。そして・・・・・私が大陸を統一するの。」 彼女は胸に右手をかざしてそう言う。 「父よりももっと手っ取り早く、そして確実な方法でね。」 「召喚儀式・・・・・まさか、エリラ、あなたは!」 「ん?気が付いたの?流石は名家の出のお嬢様、色々学んでいるのね。」 「もしかして・・・・・エンシェントドラゴンを召喚しようとしているのか!?」 エルマスターの顔がみるみる内に青くなっていく。 「ご名答。マリアナは既に私の一派が抑えているわ。今頃、決起軍はあちこちで包囲されている頃ね。」 エリラが笑みを浮かべながらそう言う。その美貌は恐ろしいまでに自身に満ち、目は悪魔的な輝きを放っている。 「1000年前の過ちを犯すつもりなの!?あれはやるべきじゃないわ!!」 「レラ、あなた馬鹿?魔法技術は1000年前と比べて遥かに進歩しているのよ? たった2、3国潰して自爆するようなエンシェントドラゴンを召喚しようとしてる訳ではないのよ。 と言っても、今からやって2週間近くはかかるけどね。」 それを聞いた時、レラは絶句した。もう既に準備に取り掛かっている!! 「仕事の速くこなすことが、私の生きがいなのよ。さて、あなた方にはもう消えてもらうわ。」 そう言うと、彼女は後ろで待機していた兵士から小銃を受け取った。 その直後、エルマスターの胸に1発の銃弾を撃ち込んだ。エルマスター大将は心臓を撃ち抜かれて即死だった。 「ひ・・・・ひどい・・・・・そこまでして、あなたは国を統一したいの!?」 レラはそう喚いた。 「だからこうやって行動してるのよ。」 彼女はそっけなく返事した。銃口が縛られているレラに向けられる。 2人の部下の兵士が暴れないように両肩を掴む。 「じゃあね。」 そう言って引き金に指をかけた。 「く・・・・・バーマントの未来に・・・・・栄光あれ!!」 乾いた銃声が響いた。レラの胸の真ん中に穴が開き、背中から銃弾が突き抜け、血と肉片が飛び散った。 この日の午前0時40分 魔法都市マリアナでワイバーンロードを生贄に使用した、エンシェントドラゴン の召喚儀式が始まった。 儀式が終わるまで、あと2週間近くはかかると見積もられていた。
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11 名前:名無し三等楽士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 12 40 25 [ r9DJpMoo ] 投下乙です 陸で殲滅され、空で殲滅され、次は海ですか。 大協約軍の災難は続く… 13-B型弾。 それは、 対艦用魔法の槍 でも、最大のものだった。 威力は500kg級。 射程は70km。 速度は600km/h(終末段階では800km/hに到達)。 F世界版シルクワームみたいなものですね。 これで飽和攻撃とかされたら流石に洒落になりませんが、たったの16発ですか…これが精一杯なのでしょうが、ショボい… ああそうそう、前スレのTu-95のくだりでふと気付いたのですが、戦略爆撃機の計画は無いのですか? 12 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 13 56 19 [ TBxgfmvU ] 投下お疲れ様 500kg級ですか・・・ でもそれって旧軍の爆弾換算と見ていいのかな? それでも装甲の薄い現用艦艇では、食らったらきついか 一応海自の艦艇は、対艦ミサイル1発ならまだまだ戦える、2発なら自力で航行できる、3発で総員退艦。という設計されてるらしいですが・・・ 実際にそれだけの耐久力があるかどうかは謎です しかしそれも艦まで辿り着けたらの話ですね この時代だと19DDが竣工してるだろうし、イージスには弾道ミサイル迎撃システムが搭載されてる可能性がある 速度600km/hじゃ、XRIM-4(AAM-4をベースにした艦対空ミサイル、SAMはRIM-7Mからこれに置き換わってると仮定しています)の実戦的な実験になる程度かな? それから細かいことだけど、ちょっと気になったので指摘を フリゲートはそれだけで艦種を表す名称です 従って、「艦」を付けてフリゲート艦としてしまうと、少々おかしなことになります 判りやすく日本の艦種を例に挙げて説明すると、戦艦艦・巡洋艦艦・駆逐艦艦等のように「艦」の二度付けになってしまうのです 14 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 14 31 23 [ RpxFCjzQ ] 大協約軍の場合は種死のブルコスばりの洗脳脳筋馬鹿と ジブリールのようなどれだけ被害が出ても直接自分に 影響が無きゃ動かないようなチキンばかりに思える。 ただし極力早く徹底殲滅できずに中途半端に 追い詰めると信じられない暴走をしてくれそうだが・・・ 15 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 16 47 38 [ XpD6KBxY ] 11 世界中で100発無いってことはこちらの世界の核ミサイルより貴重ってことですしねえ… 17 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 17 18 51 [ MsAR/znU ] 帝國がいなくなった世界でもこんな金食い虫を生産、維持、保管していた 協約軍の執念には驚かされるな 逆をいえばこの金食い虫こそが協約海軍の精神的支柱だろうから イージス艦にあっさり打ち落とされたら艦長は発狂しかねんなw 18 名前:大本営発表 ◆F2.iwy/iJk 投稿日:2006/09/29(金) 17 34 52 [ ToMVwDhk ] 107氏、投下乙~ 激突必須でつな。 19 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/29(金) 19 57 08 [ ltqrOq2I ] 射程70km 実質的な射程ですか?それとも最大射程ですか?最大射程ならば実質的な発射距離はどのくらいでしょうか。 誘導弾の最大射程って全然あてになりませんからね。数が少なくて外せないならなおさらですが。 26 名前:171 ◆XksB4AwhxU 投稿日:2006/09/29(金) 23 24 02 [ vfr.33Fk ] 終了。ジパングが通じるのは中世まで。それ以後は中身の無いものは売れないと思います 10 全くもって乙です メクレンブルクの港湾へと突入 これはレイテのN提督、S提督、K提督のいずれかのフラグ? オラ、なんだかワクワクしてきたぞ! 40 名前:長崎県人 投稿日:2006/09/30(土) 05 11 00 [ PX2g/hVY ] 107氏投下乙です! しかし射程が七十キロ、遠距離で放つと下手すると対応時間が長くなって対艦魔法の槍が被撃墜くらうのを嫌い、無理に接近してくる可能性もありますね(対扶桑戦でワイバーン搭載型に実際にやらかした馬鹿でつ) 他にも一方向から攻撃しすぎて対応が簡単になり対艦(ry・・・とか どんな風になってくれるか正座してwktkして待ってます! 43 名前:くろべえ ◆7dmdXxLH3w 投稿日:2006/09/30(土) 11 39 23 [ yq9lkYzY ] 107様、投稿乙です。 7キロって、駆逐艦の主砲ですら…… う~ん、旧帝國海軍の戦艦群と戦った記録は無いのだろうか? まあ殆どが、空母機動部隊との戦闘なんだろうなあ。 44 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/30(土) 11 55 04 [ MsAR/znU ] 書き忘れてた 107氏、投下乙 7キロが射程…云々は生きて帰れた船舶が駆逐艦との戦闘から得られた戦訓で 駆逐艦以上の艦だと見敵必殺でろくに情報も持ち帰れず藻屑と化していったのかも あとは時が経過するほど信じたくない情報は眉唾として否定された可能性もありますよね 46 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/30(土) 16 00 02 [ 6YOhojtc ] 射程70km 水平線彼方の敵艦をどうやって補足するのかと。 飛竜からの音声を元に位置入力? 中間誘導は慣性誘導? シースキマーじゃなかったら(でも、だけどさ)まさに七面鳥乱れ撃ちだね。 12 現代の隊艦味噌なんぞマトモに喰らったら一発で戦闘能力完全消失では? 海自はダメコンしっかりしてるから一発轟沈はないと思うけど、 それでも二発喰らったらバラバラじゃないかなあ。 47 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/30(土) 20 59 30 [ RnQrirjQ ] 魔法の槍は、遅延信管やバンカーバスターのような中に入って爆発するタイプの 物でなければ現代の艦艇でもそんなに大ダメージにはならないんじゃないかな? 戦前より直接防御力自体は低くなったけど、装甲の材質やダメコンなんかは 比べ物にならないほど発達したわけだし。 48 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/09/30(土) 21 05 55 [ kabqByHE ] 107氏、投下乙です。 戦列艦の備砲が100門ですか。まだ、数撃ちゃあたるの世界ですね。 射程7kmは黒船レベルの艦砲に魔道砲の技術を組み合わせれば何とかなりそう。 対艦魔法の槍って、AAMや戦闘機で落とせそうですね。確か、直進しかできないし。 70kmはこの世界でも超水平線射撃になるけど、概略位置に向けて発射して、 あとは誘導弾の生命反応センサーまかせでしょうか。 戦法としては、使節を送るとかの口実で接近して、だまし撃ちを。w 52 名前:ここまで読んだ ◆zJ6rFHbX8Q 投稿日:2006/10/01(日) 11 57 42 [ XA/lA57k ] 107氏投下、お疲れ様です。 そういえば皇軍スレで誰かが言っていましたが この転移世界は地球よりも大きい為 水平線までの視認距離が地球の2倍近いそうですね。 地球での視認距離に関するHPです。ご参考になれば幸いです。 ttp //homepage2.nifty.com/arumukos/unnk/vsbldstnc.html 171氏、投下お疲れ様です。 消耗財による市場の独占か、整備による長期の利益か 日本国内の状況を考えると外国での整備は難しいでしょうから やはり、消耗財を売りつける方向に進んでいくのでしょうね 56 名前:名無し屯田兵@F世界 投稿日:2006/10/04(水) 19 47 50 [ eEf9MZjw ] 遅くなましたが107様投下乙です&有難うございます。 鉄竜兵、それは力任せな操縦に求められる逞しい筋肉が汗と煤と車内にぶつけて拵える打ち身とに まみれる男の中の漢の職場。 殺(や)らないか? それはそうと、戦列艦等を斬り込ませるのに対艦用魔法の槍に加え、 三景艦のような巨砲に特化した艦を建造していると 大協約海軍の抱く机上の空論がさらに歪んだものになるのでは、などと妄想しましたw 57 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/10/05(木) 23 13 20 [ CVXSz1AE ] 50 現代では核兵器という絶対的な破壊力を持つ攻撃手段がありますから、装甲による直接防御はコストパフォーマンスがあまりにも悪くなりますからね。 まあ、確かにレーダーなどのセンサーは防御が難しいですからそこを攻撃されれば能力は8割方喪失します。 ただし、近い将来OECでミサイル誘導を僚艦に引き受けてもらうということも不可能ではないでしょうが・・・ でも、決して無防備というわけでもなく構造防御(空間装甲や通路によるスプリンター防御)を主体として沈まないように設計されています。 エグゾゼクラスの対艦ミサイル1~2発ならば沈没する可能性は低いと思われますね。 戦列艦の備砲が百門 積める弾薬に限りがありますから、投射量の増大を狙ったものかと。 恐らく装填機構が未熟で毎分2、3発の射撃しか出来ないから数を増やしたのでは? 有効射程距離と発射速度、命中精度で海自の艦砲が圧倒的な勝利を収めそうな予感。 58 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/10/06(金) 09 49 36 [ nHWSYRyE ] 最近の砲って射程何キロぐらいあるんだろ? 62 名前:107 ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/10/06(金) 10 57 18 [ Nz0LbtT6 ] ※本愚作は、くろべえさんとここまで読んださんの両作品の3次創作です。 政治だけで話しを進める予定でしたが、面倒になりました。 やっぱり戦争だよネ(はぁと 11 この世界的には、ヤッホントとか、そんなグレードです。 ですったらです。 比較の対象が悪すぎるだけで(w >戦略爆撃機 今の所は無いですね。 日本は専守防衛を旨としますので(うそくせー 12 旧軍の爆弾換算ですね。 大協約 は、何だかんだといいながらも“帝國”軍のものさしを利用してますんで。 後、海上自衛隊の船はアレですよ。 装甲による直接防御では無く、細かい水密区画を作ることでの間接防御を徹底しておると言われておりまして。 はい。 太平洋戦争の戦訓は、今だ失われずといった所で……… >19DD 本文中では、ゆきかぜ型として登場してます。 今月の世艦を見ると、FCSにFCS-3を搭載らしいですな。 イージスを積んだ我輩の立場って一体……… >ふりげーと ご指摘感謝ですm(_ _)m 14 権益集団に堕ちてる面がありますんで、はい。 15 もう少し安価な20型シリーズ(廉価版 無論、低威力 短射程)もありますけどね。 “帝國”海軍を相手にと、奮発したんですよ、彼らも………彼らなりに。 17 イージスで迎撃>オーバーキルも良い所です!!1!!111!o( ̄皿 ̄)o 18 脳内で、トップをねらえ! の第6話がリピート中。 問題は、宇宙怪獣側よりも、殴りこみ艦隊の方が鬼と云う事で(お 19 当時の迎撃手段なんかだと、割とイコールかも>最大と実質 だって迎撃手段なんて無いんだし………開発はするでしょうけどね。 26 輸出に関して言えば、手の内がばれ難い、しかも高度技術による高額商品が望ましいんですよねぇ(w >フラグ 可哀そうなN提督エンドに一票。 でも、軍閥化が進んでますんで、その心境はK提督な感じかもしれません(w 40 この程度の射程距離では、発射した時点からバレテ-ラですんで、はたしてどうなりますやら。 と云うか、下手したら直ぐにESSMの射程に入っちゃうから、汎用DDの迎撃も雨霰と喰らうんですよね……… そして更にRIM-4に至ってはアクティブ誘導なんで、あるだけブチマケルと云う鬼攻撃も可能になります。 有無、酷い話ですな(笑 63 名前:107 ◆OZummJyEIo 投稿日:2006/10/06(金) 10 57 53 [ Nz0LbtT6 ] ※本愚作は、くろべえさんとここまで読んださんの両作品の3次創作です。 某スレで、批評されてないのが寂しい辺り、構ってチャンなのかもしれない>中の人 まぁ駄目評価プリーズとか、そんな感じ(マゾカー 43 帆船が、戦艦を相手に喧嘩を売って生き延びれるとは思えませぬ(笑 44 割とそれもありです>信じたくない情報は云々 速力なども、かなり劣化して伝わってますんで(ノノリリ! 46 その為のドラゴンクルーザーです(ひゅぱ >海自 使い勝手が悪い位、水密区画を増設しとるとの事です。 多分、間接防御は凄いかと。 まぁ、重魚雷を喰らうとアウトっぽいですが(苦笑 47 レーダーを失うだけでも、結構キッツいですよ? 48 数は力だ、力は正義だ。よって 大協約 海軍は正義である! 有無、見事な斜め上(爆 >だまし討ち そゆう事をすると、後で更にぼこられるだけかと。 例えば、日本の兵器級プルトニウムの保有量って変態的なんですよね~(遠い目 52 有意義なHPのご教授、有難う御座います。 56 そんな職場やだー(涙 >机上の空論 戦争は無いですからね、変態趣味の軍事技術者にとってはパラダイスかも(w 「こんなもの(ゲテモノ)も必要なのかね?」 「“帝國”に打ち勝つ為には必要です!!」 こうですか(Ry 57 技術力が全然違いますからね。 そもそも、帆船では機動力と射界が狭いので、撃つ前に撃たれまくって終了な予感が(w 58 ズムウォルト級DDXに搭載予定の155㎜AGSなら、RAP弾なら180kmで御座います(笑 技術の進歩って怖いですよねぇ(遠い目
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7月5日午前3時 サイフェルバン沖北20マイル地点 米軍は橋頭堡の守りを固め、夜までに2万4千の将兵が、橋頭堡に上陸した。作戦の第1段階は成功であった。 この日の夜、輸送船団の警戒にあたっていた重巡洋艦サンフランシスコ軽巡洋艦ブルックリン、デンヴァー、モービル、 駆逐艦ルイス・ハンコック ステファン、マグフォード、ドーチ、ガトリングは、サイフェルバンの北20マイル地点で行ったりきたりしていた。 部隊は2部隊に別れ、サンフランシスコ、ブルックリンとルイス・ハンコック、ステファンがAグループ。 デンヴァーとモービル、マグフォード、ドーチ、ガトリングがB部隊に分かれて警戒任務についている。 B部隊の司令官である軽巡洋艦モービル艦長のクルーズ大佐は、艦橋でコーヒーを飲んでいた。 「副長、警戒任務といっても、バーマント軍はまともな艦をもたないだろう?そんな海軍が、装備優秀な艦艇のいる輸送船団に攻撃 を仕掛けるとは思えんのだが。」 副長のロスワード中佐が苦笑する。 「まあ、いいたいことは分かりますよ。しかし、バーマント軍は鉄道も、油で動く船も持っていたそうですよ。予想以上に 科学力が進んでいるようです。ですからそんな国の海軍にも、それ相応の技術が詰め込まれているかもしれません。それに いくら貧相な軍艦が襲ってきても、相手は本気ですから放っておくと危ないですよ。」 「まあ、確かにそうだろうな。だが、敵艦なんて鉄製といってもお粗末なものだろう。到底無茶するはずがないと思うのだがな。」 彼はそう言ってコーヒーをすすった。時間は午前3時。開けられた窓からひんやりとした夜風が、艦橋内に入ってくる。 それが艦長の眠気を加速させた。 (副長にゆずって2時間ほど仮眠するか) 彼がそう思い、副長に言いかけたとき、 「CICより報告!未確認艦発見!」 クルーズ艦長はすぐさまCICに確認の電話を取る。 「未確認艦だと?何隻いる?」 「合計で10隻です。うち6隻は巡洋艦クラス、4隻は駆逐艦クラス。25ノットのスピードで 南下しています。」 「南下・・・・・・もしや、バーマント海軍か?」 バーマント海軍第2艦隊は、時速25ノットのスピードでサイフェルバン沖に向かっていた。 艦隊の先頭を行く高速戦列艦ガスタークの艦上に、艦隊司令官であるデイトル・ワームリング少将 は、じっと前の海域を見つめていた。 バーマント海軍は、ヴァルレキュアの輸送船を、帆船の破壊船で行っていたが、帆船ではスピードが あまり早いとは言えず、せいぜい20ノットまでが限界だった。 それに、最近ではヴァルレキュア海軍が、輸送船に擬した軍艦で破壊船を見つけるや否や、たちまち 撃沈したり、輸送船にも恒常的に大砲が積まれ、破壊船に反撃をしてくる。このため、破壊船の 損失が20隻、損傷が12隻と馬鹿にならない被害を受け、海軍司令官からは、より早く、より頑丈で より大き目の大砲を積んだ船を、と言う性能が求められた。 そこで開発されたのが、ガスターク級高速戦列艦である。1097年に1番艦ガスタークが就役して以来 9隻が建造された。 そして実戦配備されているのが6隻である。14,3センチ砲を防盾式の連装砲にまとめて、 全部に2基、後部に2基配置し、さらに8センチ砲を12門搭載している。 艦の真ん中には小さな艦橋があり、そこで艦長が指揮をとっている。速力は28ノットまで出す ことができ、世界で最速の軍艦である。 一方、後方の小型戦列艦も9センチ砲を4門搭載し、これも28ノットのスピードで航行できる。 この二つの艦種も、バーマントで初めて油を燃料とした軍艦である。その事から、今後の通商 破壊に大きな功績を残すものと期待されている。 そんな中、第8艦隊にサイフェルバン沖の異世界艦隊の攻撃を命じられたのである。 「正直、初めて戦う相手だ。どんな武器を使い、どんな方法で我々に対応してくるのだろうか。」 ワームリング少将は、不安そうにそう呟いた。 「なあに、司令官。この艦はかつてないほどに重装甲で出来ているのです。異世界軍の軍艦 ごときに引けはとりませんよ。」 楽天的な性格である艦長が、笑みを浮かべて彼を励ました。 「そうだな。調子に乗っている蛮族共を叩き殺してやるか。」 彼も獰猛な笑みを浮かべて答えた。その時、右横にいた中年の魔道師が表情を変えた。 「司令官、前方の海域に生体反応があります。」 「何?まだサイフェルバンまで30キロ以上あるぞ?」 「敵の警戒部隊のようです。」 「警戒部隊か。」 彼は腕を組んだ。そこですぐに思い立った。 「警戒部隊は前方遠くにいるのか?」 「はい。およそ20キロほどです。」 「砲の射程外だな。よし、迂回するぞ。」 ワームリング司令官は艦隊進路をいったん南東に向けて、警戒部隊をやり過ごすことにした。」 それから30分後、突如、右舷の海面から何かが光った。それは発砲の閃光だった。 ヒューッという空気を切り裂く音が極大に達した。と思った瞬間、右舷海面に水柱が立ち上がった。 ドーンという音と共に8本の水柱が、ガスタークの右舷600メートル付近で上がる。 「見つかったのか!?」 彼はなぜと思った。夜間なら、ある程度速度を落とし、近寄らず、ひっそりと進めば敵に発見 されずに済んだはずだった。現に何度かこの方法でヴァルレキュアの輸送船を襲って成功して いる。今回も成功するはずだった。だが、彼らの艦隊はあっさり見つかっていたのである。 一方、こちらは軽巡モービル 「敵艦隊、わがB部隊を迂回しようとしています。」 CICからの報告に、クルーズ大佐は眉をひそめた。 「何だと?という事は、敵は我々を見つけたのかな?」 「敵にはレーダーがありませんが、魔道師が乗っているはずです。」 副長が助け舟を出す。 「ああ、魔法使いか。」 「はい。バーマントの魔法使いは、人間の生体反応を感知できるのが居ると聞いています。 おそらく、この魔法使いが、我々のレーダーのような役割を果たしているのでしょう。」 その答えは半ば違っていた。確かに反応は読み取って、数や船が居ることを探れることはできる が、正確に米艦隊の位置を特定できるまではできない。 それに対して、モービルのレーダーは、しっかりとバーマント艦隊を捉えていた。距離はおよそ15マイル。 「もう少し様子を見てみよう。」 そう言いながら、彼はA部隊の旗艦、サンフランシスコに連絡を取った。 距離が10マイルになってもバーマント艦隊は発砲してこなかった。逃げるどころか、速度を 落としてこそこそと逃げるように前進を続けている。 「よし。発砲しよう。左砲戦!」 4基の3連装砲塔が左舷側に向く。砲身が生き物のように動き、狙いを定めている。 目標は、バーマント艦隊だ。 「敵艦の速力、16ノット、距離10マイル。」 CICからの報告が入る。そこへ、 「各砲塔、発射準備良し!」 の報告が入った。 「オープンファイア!」 クルーズ艦長が号令する。それを待っていたかのように、各砲塔の1番砲が火を噴いた。 ドドーン!という腹にこたえる様な音が響き、衝撃が艦橋に叩きつけられる。 後方のデンヴァーも6インチ砲を放った。デンヴァーは2番艦、モービルは1番艦に割り当て を決めた。 「弾着、今!」 4発の砲弾は、全て敵艦の前に落ちた。距離は約800~600付近。 「まあまあかな。」 クルーズ艦長は双眼鏡で眺めながらそう呟いた。その時、敵1番艦に動きがあった。敵艦は 速力を上げ始めた。さすがに発見されたことに気付いたのだろう。 敵艦から光が放たれた。敵も発砲したのである。その時、敵艦の艦影が一瞬ながら見えた。 シルエットは、4つの砲塔らしきものの真ん中に小さな構造物と、3本の煙突である。傍目 では英海軍の巡洋艦に似ている。 その時、米艦隊の上空がぱあっと輝いた。 「照明弾!」 彼は思わずそう叫んだ。見つからないのなら視界を広げればいい。そんな意図が見えたような気がした。 「流石は文明国バーマント。虐殺だけが取り柄ではないようだ。」 その声を掻き消すかのように、2番砲が放たれた。ドーンという音と共に6インチ砲弾が敵艦に向かって 放たれる。 さらに20秒後に3番砲を放った。この間に敵艦も砲弾を撃ってきた。 砲弾特有の甲高い音が聞こえ、それが最も大きくなったとき、音はモービルを飛び越えた。 モービルの右舷側に8本の水柱が立った。距離は1000メートルほど。 「甘いな。」 クルーズ艦長は、敵の照準の甘さに嘲笑を浮かべた。20秒後に1番砲が再び火を噴いた。 そして、1番艦が発砲したとき、敵艦の左右に4本の水柱が立ち上がった。 夾叉弾を得たのだ。これは命中精度が高くなっていることを意味する。 一方、14キロ先の敵艦は8門全てを撃っているが、いっこうに当たらない。 先よりも弾着は近くなっているが、それでも艦を飛び越えたり、艦のはるか手前で空しく水柱を上げている事が多い。 2番砲が発砲された。相変わらずの振動と衝撃が、艦橋をひっぱたく。今度は左舷側に3本、 右舷側に1本の水柱が立ち上がった。 敵艦も負けじと撃ち返す。だが、モービルの優秀な弾着とは対照的に、敵1番艦の射撃はうまい とはいえず、今度も手前の海面に空しく水柱を上げた。 「砲術!もう少しだぞ!!」 クルーズ大佐はそう叫んだ。そして、3番砲が発砲された。砲弾はまっしぐらに敵艦に向けて 落下していく。 次の瞬間、敵艦の中央部に発砲とは異なる閃光がきらめいた。だが、それと同時に薄緑色の 光も混じっていた。 「今のはなんだ?」 彼はふと、混じっていた異なる色が気になった。だが、それを吹き飛ばすかのようにさらに 1番砲が発砲され、交互撃ち方が続けられる。 後方の海域では、分離した駆逐艦と小型戦列艦の砲戦が行われている。戦闘能力が格段に劣る 異世界の軍艦とはいえ、乗っている乗員の錬度は高そうだ。 その証拠に、今に至っても発砲の光がさかんに起こっている。 敵主力艦6隻に対し、こちらは新鋭軽巡とはいえ、わずか2隻。明らかに不利だ。 またもや敵艦の艦上に閃光がきらめいた。今度は2発命中した。だが、今度も先の薄緑色の 光が混じっていた。 (まさか・・・・・・・・いや、この世界ではあり得ないことではない) 彼はある考えを思いついた。それと同時に頃合よし確信した彼は次の指令を下す。 「一斉撃ち方!」 しばらく調整のため、砲撃が止む。彼はその間、発砲を繰り返す敵艦を見つめていた。無い。 火災炎が無い。それに、着弾と同時に破片らしきものも飛び散るはずだが、その艦には目立った 損傷も無ければ火災を起こしたようにも見えない。 敵艦が照明弾を打ち上げる。光に照らされた艦影は、明らかに無傷だった。 (やっぱり・・・・バーマント軍は魔法というものを使っているな。だとすると、あの艦には 魔法使いが乗っているのか、こいつはかなりやばいぞ) 彼はそう思い立つと、背中がぞっとした。バーマント軍も、対応策として、防御強化のために 魔道師を乗せて、その放つ魔力で砲弾の威力を減殺しているのだろう。 (そんな事に頭を使っている暇があったら、さっさとその虐殺好きを直せ、馬鹿野朗) 彼は内心で敵艦を罵った。そしてモービルの12門の6インチ砲が一斉射撃を始めた。 ドドーン!!先の交互撃ち方とは比べものにならない衝撃が艦橋を揺さぶった。そして敵1番艦 の周囲に多数の水柱が吹き上がった。そしてその中に3つの閃光が走った。 後方のデンヴァーも一斉射撃に入ったのだろう。6インチ砲12門の一斉射撃を始めた。 形成は、米側に不利な状態にある。砲戦を行っているのは、バーマント軍の高速戦列艦6隻と、 米大型軽巡2隻、バーマント側は大型軽巡1隻に対し、3隻で砲撃を行っている。 弾着も、最初はお粗末なものであったが、今ではかなり精度を上げている。唯一、発射速度が 30秒に1発という遅さなのが救いである。これに対し、モービルとデンヴァーは20秒に1発 の速さで1分間に4斉射できる。 そして斉射開始から2分、既に敵1番艦には実に10発の6インチ砲弾が命中していた。まさに 連打である。だが、その好成績とは対照的に、敵1番艦は損傷した様子も無ければ火災炎を 上げる様子も無い。 「なんてこった!敵の防御は戦艦並みだぞ!」 クルーズ艦長は、敵の魔法防御の硬さに下を巻いた。距離は8マイルまで下がっていた。 「よし、5インチ砲射撃初め!!」 たまりかねたクルーズ艦長は、5インチ砲の射撃を許可した。艦橋前、後部、右舷の合計 4基の連装両用砲が敵艦に向けられた。そしてその第1弾を発射した直後、右舷側の海面に 3本の水柱が立ち上がった。 「夾叉されました!!」 見張り員の悲痛めいた声が艦橋に聞こえた。 「うろたえるな!!砲の発射速度ではこっちが勝っている!それにA部隊もまもなく来るはずだ。 このまま行けば負けんぞ!!」 彼の言葉を裏付けるかのように、 「CICより報告、A部隊わがB部隊後方10マイルに接近せり。」 「よし。騎兵隊がおいでなすったぞ。」 彼は額にかいた汗を拭った。5インチ砲弾も加わった砲撃は激烈だった。 敵1番艦の艦上には数秒ごとに5インチ砲弾が炸裂し、間断なく閃光が走っている。 そして9斉射目を放ったとき、敵1番艦の艦上に4発が命中した。そしてその閃光 のなかに何かが飛び散るのが見えた。破片だ。 「やったぞ!敵の魔法防御を打ち破ったぞ!!」 その光景に、艦橋内はわあっ!と歓声が上がった。続いて第10斉射目が放たれた。 新たに2発が命中し、敵1番艦の艦首からうっすらと火災煙らしきものが見えた。 「よし、その調子だ!一気に畳み掛けろ!!」 クルーズがそう叫んだとき、シャシャシャシャ!という砲弾特有のうなり声が聞こえた。 それも今度のばかりはかなり強かった。 「来る!」 そう確信したとき、ガーン!という衝撃に艦橋は揺さぶられた。ついに被弾したのだ。 「左舷1番両用砲損傷!40ミリ機銃座1基全壊!!」 被害報告が届けられた。今まで間断なく砲弾を送り続けていた5インチ砲塔が1基やら れた。 「両用砲の兵員はどうなった?」 「2名戦死、3人が負傷しました。」 その答えに彼は眉をひそめた。だが、まだまだ行ける。彼がそう思ったとき、新たな被弾が モービルを襲った。今度は3弾が命中した。1発はモービルの煙突の1本を叩き折った。 残りの2発は中央部で炸裂し、あたりをめちゃくちゃにした。 モービルも敵1番艦に負けじと撃ち返す。敵1番艦に6発が命中した。その時、後部に命中した 閃光が大きくなった。瞬間、猛烈な爆発が起こり、後部2基の砲塔が見えなくなった。 爆炎のなかには、細長いものが何本か吹き上がっていた。 「やった!砲塔を吹き飛ばしたぞ!」 彼は思わず拳を上げて笑みを浮かべた。しかし敵1番艦は相変わらず28ノットのスピードで 航行し、甲板上でいくつもの火災炎を上げながらも前部の砲塔でモービルに向けて撃ちまくっている。 最後の1門まで減っても戦いは絶対に止めない。そんな猛烈な闘志が、直に伝わってくるようだった。 さらに5弾がモービルを打ち据えた。このうち、3弾が後部にまとまって命中した。 そして恐るべき事態が起きた。 「第3砲塔損傷!旋回不能!」 「なんてこった!」 彼は思わず声を上げた。モービルの要とも言うべき6インチ砲が3基使い物にならなくなったのだ。 これで砲戦力の25%を失ったことになる。だが、まだ砲は9門ある。 お返しだ、と言わんばかりに9門の6インチ砲が斉射をし、砲弾を敵1番艦に叩き込んだ。 ズガーン!という衝撃がガスタークを襲った。ワームリング少将は足を踏ん張って耐えた。 既に旗艦ガスタークは魔法防御を破られてから、実に16発もの砲弾を浴びている。 それ以前に、多数の砲弾が艦上で炸裂したばかりに、魔道師の体力に限界が生じて、ついに 倒れてしまった。そもそも敵艦の砲弾の威力が強すぎたばかりに、魔道師の魔力切れを加速 させることとなった。 「諦めるな!見ろ、白星の悪魔の船も傷を負っている。このまま行けば敵艦を叩きのめす ことができるぞ!」 左舷を航行する、スマートで精悍な感じの軍艦が、3連装の頑丈そうな砲塔がガスタークを 向いている。 艦橋と思われる鉄片には、四角の網を思わせるものがある。おそらく装飾のためにつけて いるのだろう。 ガガーン!という衝撃がして、またもや揺さぶられた。その衝撃がやまぬうちに敵艦に対して 前部4門の14.3センチ砲が咆哮する。 砲弾は1発が艦橋の横の甲板に命中した。そして寮艦から放たれた砲弾のうち、6発が敵艦 に対して満遍なく叩きつけられた。 敵艦の火災が一層ひどくなった。特に中央部と、艦首のほうから黒煙が激しく噴出している。 なぜか敵艦は砲撃をしなくなった。 「どうしたんだ?30秒立っても発砲しないとは。」 彼は不思議に思ったとたんふざけるなとばかりに新たな発砲の閃光が走った。 「くそ、またあたるかも知れんな。」 ワームリング司令官はそう思った。だが、意外な事に敵艦の砲弾ははるか左舷海面に着弾し 空しく水柱を上げた。 続いて20秒後に斉射が放たれるが、今度は手前に落下した。先の驚異的な命中率とは えらい違いだ。 「なるほど・・・・・被弾のダメージが蓄積して正確な照準が出来なくなっているな。」 ワームリング司令官はそう確信した。モービルからの射撃は甘いものだった。3斉射目も 遥か手前に落下している。 「ハハハハハ!何が最強の異世界軍だ!いくら強い軍艦でも沈むものは沈むのだ!その事を 思い知るがいい!!」 新たにガスタークから砲弾が発射される。今度も1弾が敵艦の前部の砲塔を叩いた。敵艦 も負けじと打ち返す。 「もうやめろ。貴様はさっさと体を休めていろ。」 彼は突き放したような口調でモービルに向けてそう言い放つ。だが、次の瞬間、既に経験した 6インチ砲弾の衝撃が、再び艦体を叩いた。 瞬間、目の前が真っ赤に染まったと思うと、ダダーン!という轟音が鳴り響いた。猛烈な衝撃に ガスタークは打ち震えた。艦橋内の職員は全員が床を這わされた。 しばらくたって、ワームリング司令官が起き上がった。まず、目に入ったのが、既に沈黙した敵1番艦 であった。4基の砲塔は発砲炎を吹くことも無く。ただガスタークに指向されているだけだ。 機関部に損傷は無いのか、相変わらず高速で突っ走っているが、甲板のあちらこちらから火災が 発生していた。それの黒煙がもうもうとたなびき、モービルの無念を現しているかのようだ。 そしてモービルが”前方へ遠ざかりつつ”あった。 「ふん。思い知ったか。異世界軍め。」 そう思い、前部砲塔を見てみた。そして艦首が消えていた。彼は目を疑った。 「艦首が・・・・・消えた!?」 なんと、艦首がざっくりと切断されているではないか! ガスタークは艦首が切断され、今にも沈没寸前の状態だったのだ。そして、現に沈みつつ あった。彼は知らなかったが、モービルの放った砲弾は、ガスタークの第1砲塔をひき潰し、 艦内の弾火薬庫で炸裂、呼び弾薬が誘爆して、そのパワーが艦首をもぎ取ったのだ。 「俺の最新鋭艦が・・・・・自慢のフネが。」 艦長が放心状態でそう呟いている。その目には、涙が浮かんでいる。 「それよりも総員退去だ。このフネはもう助からない。」 ワームリング司令官は艦長にそう伝えた。艦長は頷くと、艦橋から飛び出していった。 と、突然前方からまばゆい光が発せられた。 その光は、バーマント公国軍の艦列の前方から発せられていた。 モービルとデンヴァーは善戦していた。まず、モービルが敵1番艦を、デンヴァーが2番艦 に多数の5インチ。6インチ砲弾を叩き込んで魔法防御を突き崩すと、敵艦はたちまち猛射 に捉えられ、鉄のぼろと化した。そして敵1番艦が弾薬庫誘爆で艦首を切断され、その場に 停止した。続いて2番艦が真ん中から真っ二つに割れて爆沈した。 デンヴァーとモービルは残された砲で敵3番艦を狙った。だが、この時モービルは6インチ砲 全てが使えなくなり、5インチ砲が3門使用できるのみで、デンヴァーは6インチ砲2門、 5インチ両用砲3基が叩き潰されていた。 特にモービルはレーダーが損傷して使用不能になると言う由々しき事態に陥っていた。 無傷の敵3番艦に猛射を与えているうちに。まずモービルが残りの5インチ砲を全て叩き潰 されてしまった。次いで速力が低下して落伍した。残るはデンヴァー1艦のみとなった。 既に驚異的な猛射で敵3番艦の魔法防御は崩されてており、既に5インチ砲2発、6インチ 砲6発が命中して砲塔1基に煙突1つをなぎ払ったが、すでにデンヴァー自体、満身創痍である。 「畜生、せっかくバーマント野朗を討ち取ったのに、ここでやられるのか・・・・・」 デンヴァー艦長、フェリル・リュート大佐はそう言った。その直後、ガガーン!という被弾音 が鳴り響いた。それも何かが壊れる音。 「第3砲塔損傷!使用不能!」 彼は青ざめた。そして絶望しかけたとき、急に影が敵の間に割って入ってきた艦があった。 それはルイス・ハンコックを初めとする駆逐艦部隊であった。 駆逐艦部隊は、まず2隻が敵の小型船戦列艦相手に激戦を繰り広げた。この戦闘で、マグフォード が大破したものの、増援の3隻の駆逐艦が加わってからは形成が逆転した。 新たにガトリング、ドーチが損傷したものの、4隻の小型戦列艦を撃沈した。そしてその足で 苦境に陥るB部隊に加勢したのである。 37ノットのスピードで、5門の5インチ両用砲を乱射しながら、距離4000で53センチ魚雷 を投下した。 次の瞬間、敵3番艦の横腹に3本の水柱が立ち上がった。3番艦は一瞬、左舷側に仰け反った後、 その後、猛烈に右舷側に傾斜し、あっという間に転覆した。 4番艦は4本の魚雷をまともにくらって、一瞬で轟沈してしまった。5、6番艦はそれぞれ 魚雷1本ずつを食らい、速力が大幅に低下してしまった。 そこへやっと到着した重巡洋艦サンフランシスコ、軽巡洋艦ブルックリンが砲撃を行った。 「フェリル、聞こえるか?」 サンフランシスコ艦長アルア・リットマン大佐の声が聞こえてきた。 「ああ、聞こえるよ。アルア、遅すぎだ。」 彼は苛立ちまぎれにそう返事した。 「遅れてすまなかった。これからは俺達に任せてくれ。」 「もっと早く来てくれりゃあ、こんな酷い目に会わずに済んだのに。まあいい。後で一杯おごれよ。」 「分かった。約束する。」 そう言うと、無線が切られる音がした。リュート艦長は、頑張れよと心の中で声援を送った。 午前4時10分、海戦は終わった。米側は、迎撃に当たった軽巡洋艦モービル、デンヴァー、 駆逐艦マグフォードが大破し、ガトリングが中破、ドーチが小破するという被害を受けた。 またA部隊も重巡サンフランシスコ、軽巡モービルが敵弾を受けて小破した。 一方、バーマント第2艦隊は参加艦艇全てが撃沈されるという事態になった。この海戦で、 バーマント軍の艦艇は、全般的に米軽巡劣ると言うことがハッキリとなった。 逆に米海軍も、バーマント新鋭艦が魔法を使って強靭な防御力を得ていることに衝撃を受けた。。 この海戦は、後にサイフェルバン沖海戦と呼ばれることとなる。
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西暦2021年4月14日 10:23 ゴルソン大陸 グレザール帝国 城塞都市ダルコニア 上空 「地上部隊は敵の攻撃を受けて壊滅!生存者は不明!」 ハッチから地上を監視していた隊員が叫ぶ。 信じがたい報告に思わずパイロットは眼下を見た。 立ち込める土煙。 さっき見た時には、確かにそこに包囲された地上部隊がいたはずである。 「こちらヘリオス74、地上部隊は敵の攻撃を受けて生死不明。上空からは視認できない、以上」 こちら本部、状況を詳しく報告せよ 市街地の外に設けられた野戦指揮所からは冷静な声が返ってくる。 「地上部隊は包囲された後に倒壊させた建造物で押しつぶされたらしい。まるで対戦車戦闘だ。信じられん」 なんだと!?そんなことが『FiFi!ミサイルFiFi!ミサイルFiFi!ミサイル』回避しろ!」 本部からの応答、ミサイル警報、パイロットの絶叫。 それが一瞬の間も置かずに続けられた。 フレアを展開し、エンジン出力を最大へ。 機体が転倒する限界まで操縦桿を倒す。 「どうしてミサイルが!?」 「センサーが移動熱源を探知しただけだ!周辺警戒!」 パイロットとコパイロットが短く会話を行い、急旋回する視界に広がったそれを視認した。 地上から大量に打ち上げられている火の玉。 明らかにこちらへ向けて発射されているが、その軌道はあくまでも真っ直ぐである。 高出力での急旋回で暴れる機体を相手に、彼は必死に操縦を継続した。 誘導兵器以外で回避行動を取るヘリコプターを撃墜する事は大変に難しい。 それはベトナムでもソマリアでもそうだった。 どうしても落としたい時には、地上掃射や降下中、着陸など急旋回が不可能な場面を狙うしかない。 「本部!ヘリオス74攻撃を受けている!ファイヤーボールと思われる!退避中!」 落ち着け、それは誘導は出来ないはずだ 「地上から花火大会みたいに打ち上げてきてるんだよ!これより都市上空を離脱する!」 彼がそこまで報告した時、機体の直ぐ横を燃え盛る火炎が通過した。 衝撃。何かが燃える臭い。 「エンジンが吸い込みやがった!出力落ちます!」 恐怖で引きつった声でコパイロットが報告する。 混乱した思考を機体の制御という難題でねじ伏せつつ彼は思った。 多数の計器が異常値を示している。 あと五分も飛べないだろう。 「こちらヘリオス74、エンジン被弾。 敵は偏差射撃まで使ってやがる!無数に打ち込んできている!ヘリじゃ駄目だ!畜生!落ちる!」 不時着するんだ!広場を探せ!直ぐ左、D2エリアへ降りろ! 無線機の向こうからは狼狽した声で指示が飛んでくる。 「ヘリオス74ダウン!糞ったれ!畜生!落ちる!」 映画のようにスマートに墜落宣言は出来ないものだな。 古今東西の戦争映画を好む彼は、人生の最後にそう内心で呟いた。