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前ページ次ページご立派な使い魔 「すみません、やはり馬車で行くということで」 「そ、そうよ。馬車でいいじゃない馬車で」 外にでるや否やルイズ達を乗せようとしているマーラに向かっての言葉である。 なお、ロングビルもこの捜索に参加することになったので、こうして一緒にいる。 が、彼女もマーラに乗るのには抵抗があるらしかった。 「わたくしも女性ですし、こんなのに乗っているところを誰かに見られたら生きていけません」 「……生きていけないわよね」 ルイズがへこんだ。 ロングビルはそれに気づかないのか、無視しているのか。ともあれ続ける。 「フーケもきっと、こんなに早く見つけられるとは思っていないことでしょう。 ですから下手に急いで体力を消耗するよりも、落ち着いて確実に追い詰めた方が……」 「ほほう、女。ワシを一発や二発で萎えるような小物と考えておるのかな」 「そういう意味では……その、急いだとしても女性として社会的な死を迎えるのは困ると……」 「……わたし、社会的に死んでるんだ」 ルイズがますますへこむ。 ロングビルに悪気は多分ない、と思う。きっと。あの日、外に出ていたかどうかは不明なのだし。 悪気はなくても、ロングビルも必死なのだ。 だって恥ずかしいし。 「拙速に勝る巧遅なしじゃぞ。賊に逃げられでもしたら大変じゃろうに」 「それはわかっていますが、馬車でも十分速いのですから。 ミス・ヴァリエールは慣れているのかもしれませんが、わたくしはそうでないのですから」 「わたしだって慣れてないのに……」 ルイズが底にまで辿り着いた。 デルフリンガーは何と声をかけていいのか分からないので、黙っている。 「あの帰り道はなぁ……確かにそりゃ終わってるよな」 「思い出させないでぇぇぇ……」 たおやかに見えるロングビルだが、その実芯の強い女性らしい。 何しろ、こうしてマーラを押し問答をすること30分。一歩も退かないでいられるのだから。 「お主も頑固じゃのう。多少の羞恥くらい、よい刺激であろうに」 「そういう趣味はありません……! わたくしはノーマルです! ミス・ヴァリエールではあるまいし、進んで露出する趣味などありません!」 「なんの、なんの。ワシから言わせてもらえればじゃな」 くずおれていたルイズが立ち上がる。 その目には、奇妙な陰がねじれこんでいた。 「娘ッ子……だ、駄目だ! そっちに進んじゃ……おめ、本当に……」 「こ、こ、ここまで言われて黙ってはいられないわ。 デルフ……女には負けると分かっていても戦わないといけない時があるの」 「だからって! あれをまたやったら、今度こそ……(社会的に)死ぬぞ!」 「こ、こ、この際、もう……や、やってやるわ。や、やってやろうじゃない。 いい、デルフ。わたしの生き様しっかり見ていて。そして後世に……それは伝えなくていいから」 「娘ッ子ぉ……そこまで、そこまでして……くぅ、手も足も出ない俺が情けねぇ!」 そして、ルイズは息を大きく吸い込むと、堂々と己の使い魔に命令を下す。 「マーラ! 急がないといけないわ、ミス・ロングビルもしっかり! しぃぃぃっかり! 触手で捕まえて抑えてあげて!」 「おう、珍しいのう。ならばやるしかないわな」 「え!? ミス・ヴァリエール、そんな、馬車……馬車、馬車ぁ!?」 ロングビルがマーラの触手に捕まる。 そのまま持ち上げられて、背中にひょっこりと乗せられた。 一方ルイズは、そそくさと後ろの方にまたがる。 「わたしは後ろだからそんなに目立たない! ……まあ、それでも見られちゃうんだろうけど」 「娘ッ子ォ……それは死の道だぞ」 「や、やめてくださいミス・ヴァリエール! ってかやめろっ……きゃあ!?」 マーラが動き始める。 ルイズは、とにかく自分の顔を隠そうと、思いっきりうつむいた。 ロングビルは……触手でしっかりと固定されており、落ちる心配も、顔が見られない心配もない。 なお触手で固定されてはいるが、安全ベルトのようなイメージである。 期待してはいけません。 「では出発進行といくかの。グワッハッハッハ!」 「やめろって言ってんだろ……お、お願いだからやめ……ミス・ヴァリエール、やめて止めてやめ……とめった」 ロングビルはくずおれていた。 ルイズもくずおれている。 二人揃って。目的地についたというのに、その表情は完全に絶望のそれだ。 「合計54人に……見られてしまうなんて……」 怜悧な美貌から、とめどなく涙が零れ落ちている。 時折、 「こんな汚れた私を許して……」 だとか。 「身体は汚れたけど心までは……ええ、それでも私は……」 だとか。何か悲痛なことを呟いているようだった。 一方、こうなることをある程度覚悟していたルイズまでくずおれているのには、理由がある。 率直に言うと、気まずそうな顔で二人を見下ろしている、キュルケとタバサの存在だ。 「いや、あの……ルイズ。あたしはまあ……貴方にそういう趣味があっても偏見の目では……」 「ツツツツェルプストー以下じゃないのよこれぇ……」 「あたし以下って言われてもね。まだ羞恥プレイは手出してないわよ」 「うわあぁぁぁぁ!」 涙というのは、尽きたと思っていても溢れ続けるものなのか。 ルイズは、このまま自分が涙になって、消えてなくなってしまえばいいと、そう思う。 「……ああ、娘ッ子。お前はさ、ちょいと焦りすぎたんだよ。 志はきっと間違っちゃいなかった……だが、もう少し人を、未来を信じればよかったんだよ……」 「うわぁぁぁぁぁ! あああああ!」 バッチリ、キュルケに目撃されてしまった訳である。 マーラに両足開いてまたがっているその姿を。 それは……まあ。デルフリンガーも、どう言えばいいのかわからなかった。 つうか自業自得だもんな。 「それにしてもお主らはどうしてここに来たんじゃ。小娘が心配にでもなったか」 「違いましてよ、殿方。あたしは貴方のそのご立派なモノと是非一手、手合わせ願いたく……」 そう言うキュルケを、タバサが掴んで止める。 「入らない。死ぬ」 「……わかってるわよ。でもそこをあえてやるのが乙女の本懐でしょう」 タバサは、首を振ってたしなめた。 「無駄死に」 「ああ……そう。そうね、貴方がそう言うんなら……もう、仕方ないわね」 ふむ、とマーラは頷いた。 タバサの反応を見てのことである。 「なるほどのう。そちらの青い小娘が昨夜現れおったのは、ワシを値踏みするためであったか」 「え? そうなの、タバサ?」 タバサはこくりと頷いた。 昨日のあのルイズの狂宴の最中、不意に現れたのには、そういう理由があったのだ。 近頃友人のキュルケがご執心の、あのルイズの使い魔。 それがどれほどのモノか、己の目で見極める為に。 「まあ、無難な結論じゃな。赤毛の小娘よ、お主では確かにワシのモノは受け入れきれまいぞ」 「もう……残念ね」 ようやくキュルケが身を引いたのを確認して、タバサは明らかに安堵のため息を漏らした。 友人がズタズタに引き裂かれるのを目撃せずにすんだ。それは、喜んでいいことなのだろう。 マーラは遠い目で語る。 「そもワシを受け入れきれるモノなど、いまだあやつしか知らぬわ」 「あやつ? それは、一体……?」 キュルケはその姿を見て、どことなく陰があって素敵、などと考えている。 絶対に節穴だ。 「うむ。我が同胞、アリオク……奴だけじゃったのう。ワシと互角であったのは」 「それはどんな方?」 「大きかったぞ。何より大きかった。いや、懐かしい思い出じゃ」 「郷里に思い人を残していらっしゃるのね、殿方」 タバサは、友人とマーラの姿にため息をついた。 きっと、よくはわからないけれど、多分。なんか違う。噛みあってない。 「そんなことより……もうさっさとフーケを捕まえましょう」 ようやく立ち直ったらしいロングビルが、眼鏡を直しながらやってきた。 「あたし達は別に、フーケの退治に来た訳ではありませんけど」 「……そんなことは言わないで。せっかくですからお二人ともフーケの捜索を手伝ってください」 ロングビルは、泣きはらしたせいですっかり目を赤く充血させているのだが、その目が妙に怪しく光っている。 キュルケとタバサの二人、この目撃者二人を決して逃すまいとするかのように。 「ミス・タバサは騎士の称号を持っておられるのでしょう? それにミス・ツェルプストーも並ぶもののない火の使い手とか。 確かにあの、ミス・ヴァリエールの使い魔の方だけでも十分過ぎるでしょうが、人手は多いに越したことはありませんわ」 説得力のある言であって、キュルケもタバサも頷かざるを得ない。 ただ、同時にロングビルが、小声で 「まとめて……まとめて始末……目撃者は減らさないと、減らさないと」 などと言っていたのが、まあ、致命的に黒く見えたが。 破壊の戦車はそれはもう、あっさりと見つかった。 というか、フーケが潜んでいるらしい小屋の、外においてあったのだから見つからない訳がない。 なんでそんな無防備かといえば、まあ、それはわかりやすい。 大きすぎるのだ、これは。 「これじゃあ小屋には入らないわね。でも確かに以前宝物庫で見た通りの破壊の戦車だわ」 キュルケが頷いていると、マーラが目を見開いた。 「なんと。これがここにあるとはのう」 「あら殿方。これをご存知なの?」 「ご存知も何もな。これは元々、ワシの愛車じゃぞ」 「ええ?」 マーラは、するすると動いて破壊の戦車の上に載った。 凶暴そうな装飾のついた、いかにも怪しい戦車であったのだが、マーラが乗ると、なんと。 これはどういう魔法であろうか。凄まじいフィット感により、あたかも一億年前から一つであるように見えてきた。 「なんて……ピッタリなの」 キュルケも驚く。圧倒的なピッタリぶりである。 「うむうむ。やっぱりこれだわな。 三十年ばかり前、部下の不始末で失っておったが、ここにあったとはのう……」 「殿方……部下もいらっしゃるのね。その部下の方はご立派で?」 「あやつは鼻が立派なくらいじゃな。ワシには及ばぬわ」 「素敵な部下ですこと」 うっとりとマーラに身をすりよせるキュルケに、タバサは眉をひそめた。 が、同時に頬を赤く染める。 やはり、このマーラの姿を正面から見るのは刺激が大きいものだ。 タバサの使い魔、シルフィードなどはマーラの姿を見てパニックになったように騒いでいたものだったが…… それはさておき、マーラ、キュルケ、タバサの三人が後ろを振り向く。 すると、そこには。巨大な影と……そして。 「さあ土くれのフーケ! マーラを倒すのよ!」 「そーだ! やっちめぇ! 今度こそ、今度こそだぜ!」 巨大なゴーレムの後ろから、声援を送っているルイズの姿があった。 「なっ……ルイズ! あんた何考えてるのよ!?」 「ついでに色ボケのツェルプストーも始末なさい、フーケ!」 「そーだそーだ! まあ、フーケが聞いてるのか知らねえけどな!」 どうもこれは……なんというべきだろうか。 マーラ達が破壊の戦車を手にした直後に、突如ゴーレムが出現したのだが。 それを見た瞬間、ルイズの顔が喜びに染まったのだ。 「凄いゴーレム……! これならきっと!」 後は見ての通りである。 間違いなくフーケの仕業と見たルイズは、もうほとんど無意識のまま応援を開始していたのだ。 ギーシュのワルキューレとは比べ物にならないゴーレムである。 これならば、あれほど夢見ていたことが叶うかもしれないと。 「ルイズ……あんたそこまで……」 「追い詰められてたから」 タバサの冷静な分析に、キュルケはふんと鼻を鳴らした。 「あんなご立派な使い魔がいて追い詰められる方がおかしいでしょ」 「人それぞれ」 その二人の少女に、マーラはゆるやかに声をかけた。 「お主らは後ろに下がっておるがよいぞ。ワシが片付けるからのう」 「まあ、殿方……お一人で大丈夫?」 「なに、どうということもなし。それに小娘の照れ屋ぶりは慣れておるから気にする必要はないわ」 「本当にご立派ね、殿方」 「無論じゃわな。さあ、お主らはじっと見ておれ」 そして、マーラとゴーレムは対峙する。 大きさを比べるなら、マーラの分が悪い。そのように見えた。 無言でゴーレムが近づく。 マーラも無言で近づいた。 そして、互いの距離が接近すると。 殴る。 頭突きをする。 殴る。 頭突きをする。 ノーガードでの打ち合いが始まったのだ。 一撃一撃が、周囲に衝撃となって走り抜ける。 巨大なモノ同士の戦いは、大地を揺らがせていく。 「殿方……本当に大丈夫かしら……」 「…………」 こればかりは、タバサも判断を下すのが難しいようだ。 固唾を呑んで勝負の行方を見守っている。 「くっ……マーラ、なかなかやるじゃない。でも、フーケなら……フーケならやってくれるわ」 「俺達に残された希望だもんな……頼むぜフーケ、おい」 ルイズもデルフリンガーも。 今は、見守ることしか出来ないのだ。 一撃一撃が、大地を、身体を揺らすこの戦場の中で。 気づけば、一人として言葉を発さなくなっていた。 まさに重量級の、偉大なる打ち合いは、延々と続いていく。 やがて、マーラの頭突きがあたった場所が、ぼろりと崩れ落ちた。 これにはルイズも思わず悲鳴をあげようとして、思いとどまる。 崩れ落ちたそばから再生していくのだ。 「そんな! あれじゃあ、殿方の勝ち目なんてないじゃない!」 「…………」 反対にキュルケは悲鳴をあげた。タバサは、難しい顔をしたままだ。 その一方、物陰からゴーレムを操るフーケだけは、うっすらと笑いを浮かべていた。 「ご立派なんて言ってもだらしないわね。これくらいならこっちの再生が上よ」 そう言いながら、同時にうつむく。 「……あんな恥ずかしい姿をさせられるなんて…… まったくご立派も何も……ああ、まったく……」 色々盗賊も思い悩むところはあるのだろう。 それから、また顔を上げると、マーラが乗っている戦車に目をやった。 「……結局あれ、魔法も何もないんじゃない。ただの戦車。 まさかあの立派の乗り物とは思わなかったけど、どっちにしても私の獲物じゃないね……」 そう思うと、ますます疲労が溜まってきたようにフーケには思えた。 それでも首を振って、その悪夢を振り払う。 今は魔法に集中しなければ。ここが瀬戸際なのだ。 「ふん、それにしても粘るわね。あんな単調な頭突きばかりで……」 マーラの頭突きは大地を揺らす。 その振動はフーケにも伝わっていた。 深く浅く。深く深く浅く。 どうも……一定のリズムを刻んでいる、ような。 「……え? 待って、このリズム……」 そのリズムに、フーケは気づいた。 そうだ、このリズム。あのマーラの頭突きのリズムは、これは…… 「そんな、まさか……見抜いたっていうの? 私の……私の……」 フーケは、それに気づいてしまった時に、最早敗北していた。 マーラの技は一体どこまで立派だというのだろう。 今や振動は全身に伝わってきている。……そうだ、これは。 「……私に一番効く……じゃない、の……」 「あら」 「あ」 キュルケとタバサが同時に声をあげた。 なんと、唐突にゴーレムが消滅してしまったのだ。 「ええ、そんな!?」 「な、何が起こりやがったんだ!?」 ルイズとデルフリンガーも悲鳴をあげる。 優勢に見えていたのだが、呆気ない時は呆気ないものか。 「そんなぁ……トライアングルでも勝てないなんて……」 「くそぅ……せめて使い手さえいればよぅ……」 嘆くルイズとその剣だったが、そこにキュルケがやってくる。 そして、一発頭をぽかりと叩いた。 「な、何よ!」 「敵を応援するんじゃないわよ」 「……う。で、でも、せっかくのチャンスが……」 「チャンスも何もないわ。貴方ね、あたしも怒るわよ?」 「だ、だって!」 「まあまあ、仲良くせんといかぬぞ、小娘よ」 割って入ったマーラに。 「だ、だからなんでそんなに強いのよ、あんたはぁ! いい加減、サモン・サーヴァントのやりなおしをさせてよぉぉ!」 「なんのなんの。小娘の照れ屋具合も堂に入ってきたものよな」 「照れてないって言ってるでしょうがぁ!」 結局、いつも通りになってしまった。 ルイズの夢は砕かれたのである。 その後、フーケことロングビルが、近くの木陰で気絶しているのが発見された。 何故か痙攣していたが、どうしてそのようになったかは定かではない。 「きっとあの地面の揺れ方がミス・ロングビル……フーケのツボにはまったから」 タバサはそう言っていたが。ツボとはなんのことやら。 「肩こりとかにきくツボ」 だそうである。なるほど。 それ以上の意味は決してない。のだ。 「なるほどねえ。あたしもあれにはウットリしちゃったものね」 これはキュルケの言だが、追求すると問題がありそうなので追及してはならない。 「フーケ……出会い方が違っていれば、友達になれたのかしら?」 「かも、な……」 ルイズとデルフリンガーは黄昏ていた。これも理由は不明である。 前ページ次ページご立派な使い魔
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前ページ次ページご立派な使い魔 オスマンはただじっと黙って、報告を受けていた。 秘書として雇ったロングビルが、まさかフーケだったというこの事実を扱いかねているのだろうか。 重々しい雰囲気を放つこの老人から、ルイズやキュルケらの若い者達は目が離せない。 「なるほどのう。うむ、了解した」 が、意外にも、オスマンはフーケのことについてはあまり触れようとはせず、すぐに穏やかな顔に戻る。 「ミス・ロングビルを雇い入れたのは私の失敗だったようじゃな。反省するとしよう」 「は……はあ」 コルベールもいささか首を傾げた。 見ている限りでは、オスマンのロングビルへのセクハラぶりも相当なものだったと思うのだが。 それが失われたというのに妙な落ち着きぶりである。 そういうコルベール自身が、それなりに懸命に彼女を口説いていたということもあって、ますます不思議に思える。 「その、オールド・オスマン。フーケについてはそれだけですか?」 「いずれにせよ終わってしまったことじゃ。後からどうこうと言っても仕方ないわい」 「はあ……」 「ま、そんなことよりもミス・ヴァリエール。ミス・ツェルプストー。ミス・タバサ。 君たちにはシュヴァリエの爵位が送られるよう、申請を出しておいた。 ミス・タバサはもう持っておるからの、精霊勲章の方じゃが」 「光栄ですわ」 キュルケが優雅に一礼する。 その一方、ルイズはぶつぶつと何事か呟いて、オスマンの言葉には答えなかった。 「ん? どうしたんじゃ、ミス・ヴァリエール。 そちらの使い魔どのについては、使い魔ということもあってシュヴァリエは……」 「あ……いいえ。その。……使い魔はどうでもいいんです。ただ結局フーケも」 「フーケも?」 「いえ……なんでもありません」 フーケですら敵わなかったということに、ルイズは少なからずショックを受けていたのだ。 そのせいで今でも気もそぞろである。 学院長の言葉を、聞き流してしまうほど。 「どうでもいいって薄情ね。マーラ様が気の毒でしょうに」 「グワッハッハ。たかが人界の称号なぞ、ワシには何の意味も持たんわな。 男たるモノ、わざわざ地位や名誉にこだわらなくとも己のモノだけで十分じゃ」 「いやはや……聞きしに勝るご立派ぶりですね」 コルベールも冷や汗をかいているようだ。 すると、そこでオスマンがごほんと咳払いをする。 「さて、今日はフリッグの舞踏会じゃ。その準備もあるじゃろうし、若い子とコルベール君は行った行った」 「はあ。なんだか唐突に感じますが」 「唐突でもなんでもいいんじゃよ。あ、使い魔どのは残っとくれ」 追い散らかすようにオスマンが手をひらひらと振る。 その態度にいささか釈然としないものを感じながらも、コルベールにキュルケ、タバサは部屋を出て行った。 ルイズはそれでもまだ考えていたようだが、やがて姿を消す。 そして、学院長室には、今やオスマンと、そしてマーラだけが残った。 「さささささ早速じゃが使い魔どの!」 「ふむ、やはりのう。これを待ちわびていたという訳かな」 「そ、そ、その通りじゃ! 実は使い魔どのを見送ってからずっと期待が大きすぎてどうにも出来ず……」 オスマンは、ずずいと身を乗り出した。 それはもう、マーラに顔がくっつく程である。 ここからもオスマンの期待ぶりが窺えるというものだ。 「た、頼む! いかに魔法を極めようとてどうにもならぬ部分が……」 「そう焦るでないわ。初めにじゃな……」 そして。 そのしばらく後、学院長室から 「よっしゃああああああああ!」 という叫び声が聞こえたというが、学院長本人は黙して語らなかったためその原因は不明である。 ただそのことをコルベールが問い詰めた時、オスマンは不気味なほど自信に満ちた表情を浮かべていたというのが、 唯一残された意味のある証言となっている。 女を口説いて回るオスマンの姿が目立つ舞踏会は、つつがなく行われている。 ただ今年の舞踏会は妙なことに、会場の中央に幕のかけられた大きなオブジェが設置されていた。 宴もたけなわというところで、ある少年が声をあげる。 「では、お集まりの皆様! ここで、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが錬金にて作り出した彫像をお目にかける!」 それはギーシュの声だった。 何事かと思い、誰もが彼に注目すると、ニヤリと笑って応える。 「この彫像の造形には、オールド・オスマン、そしてコック長マルトー氏の協力も頂いたことを申し上げておきたい。 お二人のアドヴァイスで、完成度はますます高まったと自負しているものさ」 「なんだなんだ、ギーシュの奴」 「どうしたんだ?」 まことに不思議そうにギーシュを見る生徒達だが、会場で働く平民や…… そしてオスマン、あるいはシュヴルーズ等一部教師は頼もしげにギーシュを見ている。 「本来ならば僕の如き者よりも、もっとこの序幕を行うのに相応しい人物はいるだろう、と思う。 しかし光栄なことに、僕はあのお方の弟子ということでこの大役を仰せつかった訳だ。 その重責に恥じぬだけのモノを作り上げた、と僕は自負する……ともあれ、御託は不要だ。 ただモノを持って判断すべし、というのが道を歩むものの気概だからね。 では……お見せしよう。この学院の新たなるシンボルだ……」 会場の片隅でうなだれていたルイズが、そこでよろよろと顔を上げる。 傍らには、抜き身のデルフリンガーが一振り。 「娘ッ子、なんだと思う?」 「ギーシュの作るものなんてどうでもいいわよ…… それよりわたしはどうしたら……残された方法はどこにあるのか……」 「んーむ……あんまり思いつめるのもどうかと思……」 そこで。 ついに、ギーシュが手に持った糸を引き抜こうとする。 「それでは! 幕を貫通しよう!」 「うむ! 頼むぞ!」 「おう! やってくれい!」 ギーシュの声に、何故かオスマンとマルトーの二人が声援を送った。 その幕が引き下ろされ、現れたモノとは。 太く、長い青銅の柱だ。 しかしただの柱ではない。 先端が丸みを帯びて……その。 まあ、つまり。 なんだ。 マーラの頭部に似た形、と言えばいいのか。 「これこそ新たなるシンボルの姿さ! ただご立派なる方の姿を彫像にするだけでは、本物を見ればいいということになるからね! その象徴ともいうべき場所のみをこうして形にした、入魂のオブジェだよ!」 会場が騒然となった。 無論当惑している者が多いのだ、が。 ……ルイズはその人々を見て、心底やるせない気持ちになる。 喜んでる連中もいる。しかもそれなりの数が。 「オ、オールド・オスマン! こ、これをシンボルって! 正気ですか!?」 当惑している者の代表、コルベールがそう学院長に食ってかかった。 しかしオスマンはピュ―と口笛を吹くばかりだ。 「ええんじゃねえの? いいじゃん格好良くて。本塔直すついでに固定化かける予定じゃし」 「何考えてるんですかあんたは!」 「まあまあミスタ・コルベール。こういうものは昔っから信仰の対象としてな」 「どうして貴方まで意気投合してるんですかマルトーさん!?」 ルイズは、デルフと顔を見合わせて、盛大にため息をつく。 「……侵食が進んでるわね。どうしよう、デルフ」 「やっぱ俺達で何とかするしかねーのかなぁ……」 「セクシーなオブジェね。ギーシュにしてはセンスいいわ」 「理解できない」 「ふふ」 キュルケも喜んでいる連中の一部のようだ。タバサは、まあ、そうでもないようだが。 というか。なんだろう、この状況。 「素敵ですね」 シエスタは相変わらずヤバい目つきで褒め称える。 「ははは、僕もこの素晴らしいプロジェクトに参加できて光栄の至りだよ! このオブジェがあれば、朝な夕なにご立派の元にあると実感できる! きっと、みんなも学業ますますはかどるはずさ!」 調子に乗って語り続けているギーシュだったが、そこに。 左右から、痛烈な飛び蹴りが飛んできた。 「ぐふあっ!?」 「だからいい加減にしろって言ってるでしょギーシュ!」 「大概にしてくださいギーシュさま!」 モンモランシーとケティだが、随分といい連携を見せるようになったものだ。 そのまま気絶したギーシュを引きずって会場を去っていく。 結構、仲良くなったらしい。 「っていうか……何この状況。カオスにも程があるわ」 「カオスだよなぁ……どうするよ娘ッ子」 「今のわたし達にはどうすることも出来ないわ。悔しいけど……」 「……くそったれ」 もうすっかりカオスな状況となったパーティ会場である。 が、そこに更なるカオスをもたらす、混沌の具現が出現する。 悠然と会場の中央に進み出でたるは、あのルイズの使い魔。魔王マーラだ。 ギーシュの後に入場する予定だったのだが、そのギーシュが倒されたのでこうして繰上げとなった。 今まで騒然としていた会場も、この姿にはたちまち静まり返る。 コルベールも、 「くっ……やはり実物はご立派な……」 その勢いを弱めてしまったほどだ。 そしてそのマーラは、しばらく会場を見渡すと。 ゆらゆらと、その身を揺らし始めた。 「おお……」 「なんという動きだ……」 「ご立派な中に色気がある……」 観衆はたちまちのうちに呑み込まれて行く。 その揺れる姿は、神話を切り取ったかのような幻想的な姿なのだ。 元々あのオブジェに喜んでいた者は当然として、騒いでいた者までその姿に見入っていく。 しかし……ルイズは気づいていた。この踊り……これは。 「……セ、セクシーダンス……」 効果は全体魅了である。 マーラはそんな特技覚えなかったはずだが。合体事故か何かか。 「おでれーた……ここまでカオスな使い魔、はじめて見たぜ…… 俺も娘ッ子も、あと学院も終わったな」 デルフリンガーが絶望のため息をもらした。 この日、トリステイン魔法学院にある一つの組織が生まれた。 いや、まだ組織というには繋がりは強くなかったのだが、しかし、ある理念のもとにまとまっていたのは事実である。 オスマンやマルトー、ギーシュを中心として人望を集めたその組織。 それはこう呼ばれる…… 『ガイア教』と。 そしてこの日の出来事を、後の世の人々はこう呼んだ。 『ガイアの夜明け』と。 前ページ次ページご立派な使い魔
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前ページ次ページご立派な使い魔 武器を買いに行く。 ルイズが唐突にそう言い出したのは、虚無の曜日の朝だった。 「武器よ。武器が必要なのよ」 「ほう、小娘。随分唐突じゃな」 「……唐突でもなんでも武器が必要なのよ」 マーラをじと目で睨みながら、ルイズは続ける。 「早急に武器を買わないといけないわ。だから今日、早速武器屋にいかなきゃいけないの」 「まあ、小娘が行きたいというんならそれもよいわな」 「……マーラ。あんたもついてくるのよ」 「ほうほう」 「そうよ、武器よ……武器なのよ……」 別に誘惑の霧をかけられた訳でもないのに、ルイズの目つきは危ない。 ただこれは、連日の睡眠不足とストレスによるものなので、シエスタのそれとは違っているが。 いずれにせよ、ルイズはそのまま外に出て、馬に乗ろうとした。と、そこで。 「そんなもんに乗る必要なぞあるまいて」 「え?」 「ワシに乗ればよかろう。馬なんぞより速いぞ」 速いと言われても。 乗れって? 「のののの乗れる訳ないでしょ。何言ってるのよ?」 「乗り心地は悪くないと評判なんじゃぞ。リリムあたりとかにのう」 「い、いや……乗り心地とかそういう問題じゃ……」 モノがにじりよってくる。 ルイズは後ろに下がるが、たちまち壁に行き当たった。 「ちょ、やめ……」 「グワッハッハッハ! 相変わらず遠慮しよるわ、小娘め!」 「ち……違っ……やめてってばぁぁぁぁ!?」 本当に乗り心地は悪くなかった。 しかもスピードは馬を相手にしないほど速かった。 揺れもなかったし、快適極まりない旅だった、が…… 「何人くらい……見られたのかしら……」 「ワシが数えていた限りでは、238人くらいじゃの」 「か、数えるなぁぁぁ!」 学院から城下町まで。 マーラにまたがって爆走する魔法使いを目撃した人数、実に238人である。 これが何を意味するかというと、まあ、考える必要すらない。 「も、もう、もうおしまいよ。何度おしまいになったかわからないけど。 あ、あんたに乗った姿なんて……ど、どう見ても痴女じゃない……」 「グワッハッハ。悪くあるまい!」 「悪いわよ!」 しかも現在進行形で嫌なのが、こうしてマーラと街を歩いているとやたらに拝む連中がいるというものだ。 いつも混雑しているはずの通りが、何故か今日に限って広々と空いている。 かといって人がいないのかというとそうではない。 通りの脇や、路地。建物の窓など、あらゆる場所からルイズとマーラを注視しているのだ。 そして時折、手を合わせて祈るようなポーズをとっている者までいる始末だから恐ろしい。 「なんというご立派……一目見ただけで確信した、あのご立派は間違いなく霊験あらたか」 「ありがたや、ありがたや」 「あれが噂の『ご立派なルイズ』か……」 ここにまで名前が広がっているらしい。 「やめて見ないでそんな有難い視線を注がないで……あああああああ、もう……」 「どう見ても賞賛と畏敬の視線ばかりではないか。嫌がることなどあるまいに」 「喜べるか!」 治安の悪い通りのはずだったのだが、この辺りは。 それがこんなにも広々として。札付きの悪党どもまで、ルイズに尊敬の視線を注いでいる。 それが、ああ、それが……こんなにも破滅的な気分を醸し出すものとは。ルイズは知らなかった。 「やめてぇぇぇぇ……もうほんと、見ないでぇぇぇ……」 そしてようやく武器屋に辿り着く頃には、またしてもルイズは疲れきっていた。 今まで、侮蔑と冷笑の視線は浴びなれてきたと思っていたルイズである。 が、その逆の憧れの視線がこんなにも辛いものとは、知らなかったことだ。 「しかしのう。そういえば、小娘よ」 「何よ」 「何故に武器を欲しがるのかね。メイジは武器なぞ持たぬものじゃろうに」 「理由は……すぐに教えてあげるわ」 それでも目的地には辿り着けたのだ。 こうなれば目的を果たすまでだと、ルイズは気合を入れ直す。 入れ直して、武器屋に突入した。 当然、マーラも一緒についてくる。 その気配を感じ取った主人が顔をあげて、ルイズとマーラを見るや否や。 「申し訳ありやせん! そちらの旦那以上に立派な武器はうちに一本もありませんや!」 直立不動で立ち上がり、そんなことを言うのだ。 「だ……誰もそんなの聞いてないわよ!」 「へ? それじゃあ、どんなご用件で?」 一応、ルイズが貴族だということにも気づいたらしい。 それなりにへつらっている、が、その視線はマーラに向いていた。 武器を扱うものとして、この姿からは目が離せないようだ。 「いやしかし、旦那ときたら実にご立派ですなぁ。 うちも長いこと剣を売っていやすがね。いや……まったく惚れ惚れとしまさぁ」 「そっちはいいから! 用件があるのは、私!」 「はあ……で、どんなご用件で?」 「こやつを殺せる武器を頂戴」 指でマーラを示す。示されたマーラは、そう言われてもいつも通りのままだ。 「小娘は照れ屋じゃからのう」 「誰も照れてないって何度言ったらわかるのよ」 それで。 「はあ……まあそりゃあ、用立てられるってんならうちは何でも売りますがね。 ですがそちらの旦那……こりゃあ無理でさ。うちの武器じゃ足元にも届きませんや」 「どういうことよ」 そう問われた店主は、一度奥に引っ込んで、しばらく何かごそごそとやっている。 そして戻ってくると、その腕の中に恐ろしく無骨で凶悪そうな剣を抱いていた。 「装飾なんか気にかけず、徹底的に破壊力にこだわって作られた一本なんですがね」 「へえ……見た目は悪いけど、なかなか強そうじゃない」 「しかしねえ、若奥さま。確かにこいつは、一見すると強そうでさ。 だがそちらの旦那と並べて御覧なさい」 言われた通りに、その剣をマーラと並べてみる。 すると、たちまち違いが明らかになった。 大きくて太い剣だから、これなら……と思っていたルイズも、いささか戸惑う。 「ご覧の通り。旦那と比べたら……いやはや、お恥ずかしい限りでさ」 「そこらの剣なんぞでワシに並ぼうとは、片腹痛いわな」 「いやまったく! 旦那にゃあ敵わねえや!」 店主とマーラは声を揃えて笑う。 なんというか、マーラと比べてしまうと、大きくて太い剣も貧相で粗末なモノにしか見えない。 「笑わないで! ……も、もっと大きくて太いのはないの?」 「へえ、まあ、純粋に値段だけなら高いのは何本かありやすがね。 ですが大きさ太さ硬度となるとこれは……こいつが、旦那には及びもしなかったこいつが一番の業物なんでさ」 「そう。……やっぱりね」 落胆の色を隠せないルイズであったが、しかし同時に当然だろうとも思う。 まがりなりにもメイジであるギーシュを打ち破ったマーラなのだ。 こんな武器屋に売っている程度の武器で倒せるなら、苦労などしない。 それでもひょっとしたら、という思いで来てみたものの、やはり予想を覆すことは出来なかったらしい。 「期待はしてなかったからいいけど。でもこうなると道中のあの恥ずかしさが全部無駄になっちゃったわ……」 結局無駄足だったという事実がますますルイズの気持ちを落ち込ませる。 対して店主はマーラをうっとりと眺め続けているようだ。 「それにしても、こうして旦那を拝めるだけで若返った気分になりますな。 どうでしょう、旦那。旦那に比べちゃ貧相なモノしかありませんがね、うちのをお一ついかがで」 「折角じゃがな、ワシは武器なぞ使わぬ。己のモノだけで勝負するわな」 「でしょうねえ……旦那ほどとなると、それが何よりでしょうからねえ……」 なんだかその光景が不愉快で、ルイズはさっさとここを引き払おうと決めた。 くるりと振り向いて、出て行こうと歩き始めたその瞬間。 思わず、乱雑に積まれた剣にぶつかってしまう。 「きゃっ」 「あでっ」 床に、ぶちまけられた剣が広がる。 が、今確かに、その剣の中から妙な音が聞こえたように思えた。 「え? 今悲鳴が……」 「ああ。そういや今日は妙に静かだな……おいデル公、珍しいじゃねえか」 店主がその剣に向かって声をかける。 どうしたんだろう、とルイズは見守ってみる。 「おいデル公。おい。おいってんだよ! ……ったく、どうしたってんだ。いつもならあんなにうるせえのに」 店主は、その剣の一本を拾い上げると、難しい顔で見つめた。 錆の浮いている、あまりよい剣とも見えないモノだが。 「ほほう。面白い剣じゃのう、店主」 「へ!? ああ、お分かりになりますかい、旦那。流石ですな」 「な、な、何? その剣、どうしたの?」 「へえ、若奥さま。こいつはですね、インテリジェンスソードなんでさ。 まあやかましいだけでろくに売れもしねえ……デル公! おい! 聞いてんのか! まったく……黙り込みやがって」 「喋るの? その剣」 「喋るはずなんですがねえ。どうしちまったんだ? こいつは」 不審げにその剣をぶんぶんと振り回す店主である。しかしやはり、剣はうんともすんとも言わない。 「どれ、ならばワシが使こうてみせようかの」 「お、旦那、やってみますかい?」 そう言って、マーラがにじり寄ろうとする。……すると。 「や、やめて……さ、触らんで、頼むから」 本当に喋った。だが、妙に弱弱しいのが気にかかる。 「何言ってやがんでえ。こちらのご立派な旦那が、お前みたいなのを使ってくれようってんだぞ」 「ば、バカ野郎。ご立派って、そりゃどう見ても……」 「どう見てもなんだよ」 「い、言えるか! んなこと!」 この剣。どうやら、マーラの姿に怯んでいるようだ。 そのやりとりを聞いて、ルイズはじっと剣を見つめる。 「グワッハッハ。奥ゆかしい剣じゃのう」 「へえ、まったく、剣の分際で妙に恥ずかしがりやがって……」 「構わんわな。どれ、握り心地を試してみようではないか」 「や、やめろ! 触るな! 俺に近寄るなってんだよ!」 あの態度。今まで誰からもご立派ご立派と言われ、うんざりしていたルイズだったが…… こういう反応をする人、この場合は剣か……それは、意外と新しいんじゃないだろうか。 「なに、嫌よ嫌よも好きのうちというてな。ワシの手にかかれば最終的には同じことよ」 「いやぁご立派だ!」 「な、納得するなこの野郎! やめろ! やめてくれ! その……アレで俺に触るな! やめ…… やめっ……やめろ、やめ……いやああああああ!」 マーラがしっかりとその剣を握り締めた。 しばらく剣は悲鳴をあげていたが、やがてぐったりしたように言葉を無くす。 「汚された……俺、汚されちまったよ……もう、綺麗な身体じゃねえよ……」 「握りは悪くないわな。じゃがやはりワシが使うものではないわ」 「ま、そうでしょうな。しかしデル公め、生娘でもねえってのにみっともねえ」 しくしくと泣いている剣を、店主はマーラから受け取る。 そのまま元の山に戻そうとするが、そこに。 「待って。その剣、私が買うわ」 「若奥さまが……ですかい?」 「そうよ。おいくら?」 「新金貨100……あ、いや。ここはご立派な旦那のご主人ですから、ただで構いませんや」 それは、正直なところ助かるルイズである。 剣というのはこれで結構高いから、無料というのは嬉しい。 それに、この剣なら。今の自分の境遇だって、わかってくれるはず。 「娘ッ子……もう俺は清い体じゃなくなっちまったよ。それを買うってのかい……?」 「ええ。私だって、もう……」 「そっか。娘ッ子、おめえもか……」 この瞬間、確かにルイズと剣の心は通じ合った。 「貴方、名前は?」 「デルフリンガー。娘ッ子……おめえは?」 「ルイズよ」 ルイズは、その剣、デルフリンガーを胸に抱きしめた。 あの使い魔を呼び出した時から狂ったようなこの世界の中で、唯一信じられるモノを見つけた気分だった。 「仲良きことは美しきかな。グワッハッハッハ」 「なんだか知らねえがまったくですなぁ」 前ページ次ページご立派な使い魔
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前ページ次ページご立派な使い魔 ラ・ロシェール。山間のこの町の、荒くれ者の集う酒場に、女が一人。 いかさま不自然なようにも見えるが、女の横顔はその違和感を消す刺々しさを備えていた。 ただし今はわりとそうでもない。 酒をちびちびとやりながら、頬杖をついてため息をついている様は、ある種の色気を感じさせる。 それこそこんな荒くれどもの酒場では、男の二十や三十は軽く引っ掛けられるような色気だ。 なのに女が一人で飲んでいられるのは、周りの荒くれがすっかり怯えているからとなっている。 「それで、俺たちを雇うってのは……」 「詳しい話は後から来る奴に聞いて。とにかく雇われるって意志表示だけしてくれればいいわ」 「はあ……」 男どもは首をかしげている。 女、つまるところのフーケは、それに目もやらずに酒を飲み続ける。 「……やれやれ、私もまったく……ああ……もう…… ……珍しい経験だったわよそれは」 悩んでいるらしい。 その独り言は、後からやってきた白仮面の男によって荒くれどもに説明が行われても、続く。 「感心しないな。こんなところで自棄酒かね」 「仕方ないでしょ。牢屋の中じゃウサ晴らしも出来やしない」 「やることをやってくれれば、文句はないが……」 「だったら放っておきなさいよ。女にはね、男に理解できない悲しみってのがあるの」 「やれやれ」 白仮面は肩をすくめる。 フーケの荒れようについていけない、と言いたいようだ。 「ちゃんとその時が来たら仕事くらいするさ。 ……ただね、正直なところアレの相手はどうにも……」 「それについては俺の方で手を考えている。問題はない」 「だといいけどね……」 また一杯、フーケは酒をあおった。 ワルドにしっかりしがみつきながら、ルイズは本当に久しぶりに開放感を味わっていた。 このグリフォンの速度は相当のものだし、これでマーラを引き離すことが出来れば完璧なのだが…… しかし残念なことに、地上を見ると実に余裕の表情でマーラは疾走している。 戦車を手に入れたことで、安定性、スピード、ともに更なる向上が図られているのだ。 しかも恐ろしいことには、ギーシュがいつの間にやらマーラの頭の上に立ち、やたらに格好いいポーズで決めている始末。 「あれは何をしているのかしら……」 「あそこまでやると清々しいな。見たくはねーけど」 そっちを気にしても不快になるばかりだ。 デルフリンガーの言葉にも一理あるが、そんなものに理があろうとなかろうとどうでもいい。 ルイズは、見なかったことにしてワルドの背に頬を寄せる。 広い背中だ。こういうものを頼りになるというのだ。 「ルイズ? その、いくら久しぶりでも少しくっつきすぎじゃあ……」 「いいえ、ワルド。わたし、もう、あなたしかこうして頼れる人がいないの……」 「はは、大げさだな。学院で辛い目にでもあっているのかい?」 「それは……その、まあ……」 学院というか。 今のままだと、人生どこにいっても辛い目しかない。 「とにかく! こうしてワルドが来てくれたお陰でわたし、本当に救われたの」 「なんだか照れくさいな。僕の小さなルイズ、こんなに積極的だったかい、君は」 「せ……積極的にならざるをえなかった、というかね……」 ニ、三、言葉を交わした時点で、ルイズは口調を崩していた。 ワルドがそうしてくれ、と言ったのも大きいが、なんといっても安心したのだ。 「しかしこの調子だとラ・ロシェールにはそれなりに早く辿り着けそうだな…… 君の使い魔どのの速度は相当なモノだ」 「や、やめて! あれの話はしないで!」 「あ、ああ……君が嫌がるんなら、それはやめておくが……」 そう言いつつもワルドは地表を眺める。 相も変わらず爆走するマーラと、その上に立って格好よく決めているギーシュの姿である。 「本当に君は凄いよ、ルイズ。あんなご……」 「やめてぇ! ご立派って言葉は聴きたくないのぉ!」 「そ、そうかい……」 ギーシュは実に格好よいポーズで、マーラの上に立っていた。 念のために言っておくが別に全裸ではない。マーラの上に立っているからって脱いだりはしないのだ。 脱ぐのは、もっと大事な時である。マーラほどではないギーシュは、溜め込んでおくのが重要なのだ。 さておきバランスが崩れそうなポーズだが、まったく揺らごうとしていない。 「ああ……風を浴びるこの姿勢がこれほどに素晴らしいものとは…… 先生、感謝いたします。僕にこのような光栄な場を与えてくださるだなんて」 「お主の近頃の精進はなかなかのものじゃからの。なに、この程度容易きことよ」 「恐れ入ります」 道行く人々は、マーラとその上に立つギーシュを見て、みなぎょっとしていた。 やはり、その中には有難そうに拝む人もいる。 中には、 「いよ! ご立派!」 「そして夜の帝王!」 などと囃す者もいた。意味はよくわからない。 ギーシュはそれらの声援に、薔薇を振って応える。 「しかしそれにしても先生。ミス・ヴァリエールに婚約者がいたとは初耳です」 「ワシも聞いたことはなかったからのう。意外と言えば意外かもしれぬが、小娘は公爵家と聞く。 で、あるならば、無理からぬことではあるわな」 「確かに。それが魔法衛士の隊長ということが、いささか珍しいことですが」 そう言いながら、ギーシュは声援を送った人々に向けて薔薇を振る。 すると道端に、ミニサイズの例の尖塔が生み出された。 「おお! こいつは……」 「ご立派からの贈り物だ!」 「ありがたや、ありがたや」 集まってくる人々を見て、ギーシュは僅かに微笑んだ。 「この程度のサービスはよろしいでしょうか、先生」 「うむ。乱発せんのならば、気の利いた行いであることよ」 「はい。乱発しないよう心に刻んでおきましょう」 なおこの後、ご立派の使いが生んだご立派の塔として、このオブジェは地元の信仰を集めていく。 ラ・ロシェールの町に着いたのは、日も落ちようとしている黄昏時だった。 予想よりは大分早く到着したものだ、とワルドは感心する。 「これというのも君の……あ、いや。今日はよく休めそうだね、ルイズ」 「そうね、ワルド……あ、宿についてなんだけど」 「宿? そうだね、それは……」 などと、のんびり話をしていると、ワルドの目に騒ぎが入ってきた。 地表のマーラと、その上のギーシュに向けて、無数の矢が飛んできたのだ。 「これは……どうやら奇襲のようだね」 「奇襲ですって! ……あ、でも、きっと無事よ。アレは」 「かもしれないけれど……君の学友もいるのだろう? 助けないとね」 「……ギーシュもこの際一緒に処分してくれてもわたしは……」 「はは、こんな時でもユーモアを忘れないとは可愛いものさ。はっ!」 グリフォンを駆るワルドにしがみつきながら、ルイズは地表の戦いを見つめる。 マーラの動きはないようだが……さて。 「でもあの程度の戦力では…… 敵の戦力も把握していないだなんて、この敵はせいぜいが物取りか、でなければ斥候といったところね」 「ルイズ、なかなか物を見る目があるじゃないか」 「わたしもその……色々鍛えられて」 タフでなければ生き残れない世界だったとルイズは述懐している。 生き残れないというのは語弊もあるのだがまあ……いいとして。 ギーシュは、格好いいポーズを維持したままマーラから飛び降りた。 そして飛び交う矢を見て、振り向かずに言う。 「先生。ここは僕にお任せを」 「よかろう。任せるぞ」 「はい。僕の鍛錬成果をお見せいたしましょう」 矢の勢いをものともせずに、ギーシュは薔薇を振るった。 七枚の花びらが散り、舞って落ちていく……すると、たちまち花びらは姿を変えた。 お馴染み、女戦士の彫像。ワルキューレである。 「さて、まずはあの無粋な矢を防ぐとしようか」 薔薇を振るその手振りは、まるで交響楽を指揮する名指揮者のようだ。 自分自身にも矢は降り注いでいるというのに、ギーシュはまったくものともしない。 そしてワルキューレが動き出すと、青銅のボディはたちまち降り注ぐ矢を止めた。 「この程度ではまったく余裕だね……」 などと調子に乗っていたら、一本頭に刺さった。 「……ははは、この程度僕の愛の前には無力だよ」 血が結構流れているのだが、わりと気にしない。なかなかギーシュもさるものである。 そうしているうちに、矢の勢いが弱まってきた。 矢玉が尽きたのか、様子を見ているのか。 いずれにせよまだ油断は出来ないと、ギーシュは注意深く辺りをうかがう。 弓矢を射掛けてきたのは、どうにも崖上のようなので、易々と追撃はできないが。 次の一手はどうしたものかと考えていると、不意にばさばさという羽音が聞こえる。 ギーシュが空を見上げると、そこには風竜の姿があった。 「おや、あれは……確か、ミス・タバサの」 「青い小娘の仲魔、竜であったかのう」 シルフィード、という名であったはずだ。 その竜から風が飛び、弓の射手を叩き落していく。 「流石にやるものだね、ミス・タバサは。彼女を愛するのは容易ではないかな……」 「あの手の小娘には、日頃からの積み重ねが肝要なるぞ」 「ミス・ツェルプストーはその手で射止めたという訳ですか。なるほど……」 などとやっているうちに、ワルドのグリフォンも、タバサのシルフィードも降りてきた。 かくして一同集結する。 話題の中心はギーシュだった。 ワルドもてっきりマーラが片付けてしまうと踏んでいたし、それはルイズも例外ではなかったのだが。 「ギーシュ、あんた結構やるのね」 「なに、僕は愛の道を歩んでいるからね。戦闘もすなわち愛さ」 「愛とはもっとも掛け離れた行為でしょ」 「そうでもないのさ。愛と死は表裏一体、先生はその愛と死を司っておられる」 「……意味わかんないわよ」 反撃こそ出来なかったが、ワルキューレを操る腕は結構な上手に見えた。 これはまあ、褒めてやってもいいと、ルイズも少し表情を緩める。 頭に刺さった矢も痛々しいし。 「っていうか、それは大丈夫なの?」 「これが大丈夫なのさ。僕の愛しのモンモランシーから、特製の秘薬を貰っているからね」 「へえ……フラれたんじゃなかったっけ?」 やけに余裕のある仕草で、ギーシュはふふんと笑う。 「粘り強く交渉を続けた結果、今は雨降って地固まるといったところさ」 「嘘!」 「無論ケティとも付き合いは続けているよ」 予想外であった。まさかそう展開してくるとは…… 「そういえば舞踏会でも二人からツッコミ受けてたけど…… 考えてみれば、本気で嫌われてたらあんな真似しないわよね」 「そういう訳さ」 道理で、妙な自信がついていると思った。 ルイズは感心したが、同時にその自信の源や、自信を生み出すギーシュの思想を思い、寒気を感じる。 確かに凄い。が、あまり歓迎したくない凄さだ。 「こいつはもう手遅れにしても、広がる前になんとかしなきゃ……」 ますますルイズは決意を深めた。 「ははは、不可能はないのさ、今の僕には。ワルキューレだって改良している」 「正直なとこ、あんたのその交友関係の進化が予想外すぎたけど……改良?」 ギーシュはもう一度薔薇を振る。 ワルキューレが整列したが、その姿は以前とあまり変わっているようには見えない。 「……どこを改良したのよ?」 「わからないかな。もう少し、目線を下に向けてみたまえ」 「下って……」 そこで。 ルイズはこのバカを見直したのが間違いだったと痛感する。 美しいワルキューレの像の、その股間部分。 そこが、もっこりと盛り上がって…… 「……あああああああんた……このバカ! この大バカ! バカギーシュ! 底抜けのバカかあんたはぁぁぁ!」 「はははは、やはり形から入らないとね!」 「何の形よぉ!」 涙目になりながらギーシュを打ち据えるルイズの姿に、ワルドは声をかけられなかったという。 あと、キュルケとタバサも。口を出すタイミングを失って困っていた。 前ページ次ページご立派な使い魔
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前ページ次ページご立派な使い魔 そして時は少しだけ流れて、ようやく授業となった。 どの生徒も、呼び出したばかりの使い魔を連れて、誇らしげな表情である。 自らの系統を証明するものだし、何より自分ともっとも繋がりの深いものなのだから、そう思うのも自然と言える。 やがて、ルイズがその使い魔とともに教室に入ってくる。すると。 「あ……ル、ルイズだ」 「やっぱり、あの使い魔……」 「朝も早くからあんなに立派に……」 意外というべきか。嘲りや軽蔑の視線はひとつもなかった。 それどころか、畏怖と尊敬の視線を感じる。 「なのにちっとも嬉しくないだなんて」 こうなる日を、夢見ていなかったと言えば嘘になる。 誰もが恐れるような凄い使い魔を召喚して、もう二度とゼロのルイズなんて呼ばれなくて…… この間までは、そんな夢を見てもいたのだ。 その夢は、こうして叶ってはいる。いるのだが…… 何故よりにもよってコレなのか。 コレで尊敬されてどうするというのか。誰か! 誰か、助けてください。 教室の中心で叫びつつルイズは席につく。 「授業中は静かにしててよ。あと、揺れるとか、屈伸とか、硬直するとか、そういうのしないでよ卑猥なんだから」 「無茶を言いよるわ。じゃあどんな体勢をしていれば良いのかのう」 「……し、しなびてなさい」 すると、マーラは全身から力を抜いて、ぐにゃりと床に広がった。 いきりたってはいないのだが、この姿はこの姿で非常にナニだ。 「……普通にしてて、普通に」 「まったくわがままな主だわな」 教師のシュヴルーズが入室してくる。 珍しく、私語がひとつもない教室の様子に気圧されたが、すぐ立ち直って生徒の方を向いた。 「皆さん、春の使い魔召喚は性こ……もとい成功したようですね」 主にルイズの方を見ての言葉である。 シュヴルーズはもう若くないお年頃だが、それでも女なのには違いはない。 ルイズの隣でたっているモノを見てしまったら、気が逸れるのも当然だった。 「中にはその……非常にご立派な使い魔を召喚した方もいるようですが」 ぽ、とシュヴルーズの頬が赤く染まった。 いい年なのだから自重しろ、と生徒達は思う。 「それにしても皆さん今日は静かで非常によろしいですね。 普段からこうでないといけませんよ。……では、授業を始めましょう」 「んがー」 シュヴルーズが感心するほど静かな教室だったので、突然響き渡る声に皆が気づいた。 一部のものはその声の隣に注目していたので、ますます知れ渡る。 「はい、どなたですか? 授業開始と同時に眠るような人は?」 朝から限界まで疲れていたルイズであった。 普段の彼女であれば到底考えられないことではあるが、しかし無理もない。 ほとんど一睡も出来ず、また朝から寮内を駆け巡っていたのだ。 それで起きていろというのも酷といえるだろう。 まあ、そんな事情はこの場にいる誰も知らないのだが。 「ミス・ヴァリエール……いくらご立派な使い魔と契約したからといって居眠りとは……」 「先生、ルイズはどうせ一晩中使い魔で」 ガラガラ声で囃すその声に、風邪っぴきじじゅう! クラスメイトは皆そう思った。あまりのセクハラに、周囲の生徒もドン引きだ。 「そういう発言は場末の酒場でやりなさい」 シュヴルーズが赤土をマリコルヌに叩き込む。 ついでに大口を開けていびきをかいていたルイズにも叩き込んで、改めて授業を再開した。 「では復習から……」 授業をほとんど聞き流しながら、マーラはぶらぶらと揺れている。 ルイズは眠っているので、どんなポーズをするのも自由なのだ。 シュヴルーズの授業など右の耳から左の耳で、ぶらんぶらん揺れたり、上下に身体を伸ばしたりしてみる。 暇な時のマーラのクセだが、そんなことをしていると近くの子らもあてられて顔が赤くなっていく。 妙に息の荒い生徒も出始めているようで、その一角が異様な雰囲気に包まれ始めた。 「授業中にピンク色の空気を振りまくのはやめなさい! ミス・ヴァリエール! 使い魔の管理はしっかりしないといけませんよ!」 シュヴルーズの一喝でマーラが動きを止める。 それによって、生徒達に生まれかけていた空気も飛び散って、後にはまだぼんやりとした寝起きのルイズだけが残った。 「は……え……はい?」 「ミス・ヴァリエール。目は覚めましたか?」 「はあ……がぶぁっ」 慌てて起き上がったルイズは、口の中に残っていた赤土をうっかり呑み込んでしまい、少し暴れる。 暴れ終わってから、涙目で立ち上がった。 「も、申し訳ありません、ミセス・シュヴルーズ」 「では目覚まし代わりに、こちらに来て錬金をやってみなさい」 途端、今まで静かだった教室にざわざわとした喧騒が発生する。 無論、そのほとんどはルイズの魔法の失敗による被害を恐れてのものなのだが、しかし一部にはそうでない論調もあった。 サモン・サーヴァントであれほどのモノを呼び出したルイズなのだから、あるいは錬金も、と。 そう心のどこかで思っているのは、例えばキュルケなどであるが、まあ、これは本人にそうなのかと聞いても否定されるだろう。 ともあれ、あのゼロのルイズがいよいよ成功するのでは、と、そう願う人々は確実に存在していた。 ただし。 こういう前向きな期待があれば、その裏にそうでない期待もある。 「サモン・サーヴァントであんなご立派なモノを召喚したルイズだ…… 錬金をやったらきっと大人の金属が出てくるに違いない!」 「なんだってー!?」 そういう声もある。 いわゆる、エロのルイズに期待する人々であった。 それは、あんな使い魔を召喚した以上は避けられぬ評判ではあるのだけれど。 ともあれ、普段なら全力で止めるクラスメイト達も、今回ばかりは不安と期待の入り混じった目でルイズを見ている。 (嫌な視線を感じるわね……) そのルイズは、後者のエロのルイズ期待視線に肌を粟立てていた。 実際、彼女自身、そうなったらどうしようと悩んでいる。 (もしかして、私、エロの系統に目覚めちゃったとか? そんな系統伝説にだってないけど、でも、使い魔が……) アレである。 今でも、ぶらぶら揺れているアレだ。 おとなしくしていろと言ったのに、またぶらぶらし始めている。 (最悪だわ……) 見ているだけで気が滅入ってくる。 このままでは一生エロのルイズの烙印は免れまい。 (せめてゼロに戻りたい……せめてゼロ、ゼロ、ゼロ……) 妄念じみた目つきで、ルイズは杖を振り上げる。 この錬金の結果によっては、心底破滅的な人生が待っていることだろう。 失敗は許されない。……ではなくて、いつも通りの失敗をしなければならない。 そして振り上げられた杖が、一気呵成に下ろされて。 「や、やったわ……私、やったんだわ……」 爆煙と悲鳴、喧騒の中で、ルイズは感激の涙を零している。 周囲には、散乱する瓦礫と倒れた人々の群れがあった。 つまりこれは、いつも通りの失敗という訳だ。 「失敗よ! 失敗しちゃったのよ! 私……失敗したんだわ!」 今まで生きてきた中で、こんなにも失敗を喜んだことはない。 やはり、マーラの召喚は何かの間違いで、自分はあくまでゼロのルイズなのだ。 「私はエロのルイズじゃない! ゼロよ! ゼロなのよ!」 大喜びで杖を振り回すルイズをよそに、教室の人々は惨事に逃げ惑っている。 失敗して喜んでいるルイズは珍しかったが、他のものにはそれどころではなかった。 特に一部の、エロのルイズに期待していた者達は無惨である。 身を乗り出してでもいたのか、別方向で十八禁のような姿となっている輩までいた。 自業自得と言ってもこれはグロいので、大層な騒ぎとなっている。 「ほー、小娘め。あれはメギドに近い術と見たが、なかなか使うわな」 結構核心っぽいことを言うマーラ。でも誰も聞いていなかったので、これは特に意味がない。 マーラにも爆風はいくらか飛んできていたが、その程度で動じるような粗末なモノではないのだ。 この喧騒の中でも悠然と構え、主とその周囲を睥睨している。 むしろ騒ぎが起きてからはいつも以上にそびえ立っており、何かのランドマークタワーにすら見えた。 「ゼロ、ゼロゼロゼロ♪ 私はゼロのルイズ♪」 教室の片付けを命じられてもルイズは上機嫌のままだった。 隣にいる使い魔の姿がまるで見えないかの如くである。 「エロじゃない♪ 私はエロのルイズなんかじゃない♪ だからあの使い魔もただの幻覚♪」 「それは無いのう」 一気に現実に引き戻された。 「……あんたも一緒に吹き飛んでればよかったのに」 「グハハ、あの程度でワシをどうにかしようとは片腹痛いわな。 小娘の魔力如きでは天使もイゴールも降りてこぬぞ」 「また意味の分からないことを……」 そんなことより今は片付けだ。 魔法の失敗で生まれたこの瓦礫を片付けてしまわないといけない。 失敗が原因の瓦礫を。 失敗。 (……って、ゼロはゼロで心底嫌なのよね) 一時の熱狂が冷めると冷静な自分が帰ってくる。 マーラのお陰で忘れていたが、そっちの方が深刻なのに。 とするなら、ひょっとして、マーラのお陰でこのトラウマを一時でも忘れさせてもらえたと…… 「……こういうの良かった探しって言うんだっけ。実際のとこ、意味ないわね……」 無理やりいい思い出にするのには、理性が邪魔をして失敗した。 どっちにしても、喜ぶようなことでもない。 とにかく、瓦礫をどかして……と、ルイズはそこでマーラを見た。 「ちょっと。あんたも手伝いなさいよ」 「ほほう。構わぬのか?」 「構わないも何も、私だけでこんなの掃除しきれる訳……」 「ではヤるか」 言うが早いか、マーラは頭を床に叩きつけ、左右にぶんぶんと振り始めた。 勢い激しく、床上の瓦礫はたちまち吹き飛ばされていく、が。 これはひどい。 「て、手! 手使いなさいよ! なんでそこで掃除するのよ!?」 「こっちの方が広いからのう! 一気に片付けるにはこれが一番よ! グワッハッハッハ!」 「ば、ばばば馬鹿! こ、この教室使えなくなるでしょ、そんなことしたら!」 床に、マーラの頭が万遍なくこすりつけられた教室。 ぶっちゃけた話、そんなとこ誰も入りたくもないだろう。 「なぁに、かえって身体に良いわな! 仕上げに水の壁でも一張り! グワハハハ!」 「やめてぇぇぇ!」 本当に、誰にも見られてなくてよかった。 前ページ次ページご立派な使い魔
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モガのありふれた特産品。ケルビから採れる丈夫な毛皮。交易に使うには量が必要。
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前ページ次ページご立派な使い魔 キュルケがルイズの部屋の鍵をアンロックで開けた時、中には誰もいなかった。 「あら?」 もう夜も遅い時間だし、少なくともルイズはいるだろうと思ったのだが。 どうもルイズはマーラを扱いかねている節があったので、マーラがいないというのは一応想定の範囲内ではある。 が、ルイズもいないというのはいささか珍しい気もするのだ。 「せっかくあの御方と一手、手合わせを願おうかと思ったのに。無駄足になってしまったわ」 とうとうやってみる気になっていたらしい。 「入るか入らないかではないわ。入れるのよ。……って、思っていたのだけれど」 ある意味潔いというか。なかなか思いつかない発想だろう。 いずれにせよ思惑が外れて、考え込むキュルケである。 「それともやっぱりそういう無茶はやめろって、運命が言っているのかしら」 運命以前に人間として厳しいところがあるのだが、キュルケは情熱の人だ。 これは少し慎重にならないといけないと、そのまま唇に指をあてて考え込む。 それにしても、 「ルイズとあの御方はどこに行ったのかしらね?」 本当に。 もう夜も遅いのだが、主従揃ってどうしたのやら。 まさかとうとう、ルイズがあの使い魔に手を出したとでも…… 「まあ、それは無いでしょうね。あたしですら厳しいものを、あのルイズでは……」 文字通りバラバラになってしまうのは確実だ。 しかし、さて、実際どうなのやら。 「うああああ! このバカチ……バカマーラ!」 「今日の小娘は元気がよいのう」 そのルイズとマーラは、本塔の傍にいた。 ルイズが杖をぶんぶんと振り回すと、マーラのすぐ近くで爆発が起こる。 「やれ、やっちまえ娘ッ子ォ! 俺たちの悪夢の源を消しちめえ!」 「やる、やるわよやってやるわ! やああ!」 「おうおう、もっとよう狙わんと当たらぬわな」 自らの魔法が必ず爆発を生むと知って、それでも魔法を唱えるルイズの姿である。 何故そんなことをしているのかというと、つまりはアレだ。 「あ、あんたを殺して新しい使い魔を呼ぶ! 呼ぶのよ!」 「そんときゃまともに剣握れる使い魔にしてくれい、娘ッ子!」 いよいよ使い魔を正常なものにしようと、ルイズは攻撃を開始したのだ。 実のところ、最初はデルフリンガーでマーラを成敗しようとしていたのだが、所詮ルイズは剣を握ったことなどない。 ふらつくばかりだったし、それに当のデルフリンガーが、 「あ、駄目。俺、あれ斬るの本気で嫌だ……」 「気持ちは……わかるわ」 と。そう言い出したので、他にマーラを倒す手段を模索して、この結果である。 もう使えるものなら何でも使ってやれと、嫌っていたゼロの証すら振るうルイズだった。 「もうゼロでもなんでもいい! 立派なんて呼び名からさよならよ!」 「若さの発露じゃのう。ほれ、まだまだ」 後ろに本塔があることも忘れ、ルイズは杖を振るう。振るい続ける。 どかんどかんと爆発して、なかなか壮絶な有様だった。 「ま……まだよ、まだ……まだわたしのターンは終了してないわ……」 「娘ッ子、もういい、お前はよく頑張ったよ……だから、もう……」 「なんじゃ、もう終わりかのう。これでは準備も整わんわな」 あれから数時間。ひたすら魔法を使い、マーラを爆破しようとしていたルイズだったが、哀れである。 何十、何百回と爆発を浴びせたはずなのに、あのご立派なモノはずっとそそり立ったままで、萎える様子もないのだ。 「小娘程度の魔力では、メギドを何発撃ったところでこんなモノよ。 未熟よのう、小娘。精進せねばならぬぞ」 「う、うるさいわよぉ……こ、この絶倫……」 「褒め言葉じゃのう。グワッハッハッハ」 それでも意地だけでルイズが杖を振り上げると、それを止める手があった。 ふと気づけば、後ろに青みがかった髪の女の子が立っていた。 その子が、ルイズの腕を押さえているのだ。 「だ、誰よ貴方……?」 「キュルケの友達。タバサ」 「キュルケの……?」 「それ以上はよくない」 淡々と告げるその声に戸惑うルイズだったが、タバサが指差した先を見つめて…… 一気に青ざめた。 マーラのたっていた場所は本塔のすぐ近くであって、そこに爆発を集中させたのだから、それはもう。 「あ……やば」 スクウェアクラスのメイジ数名がかけたであろう固定化の魔法も、今となっては面影もない。 壁には巨大な穴が空き、随分風通しもよさそうになっているではないか。 「うむ。ワシもこれは気になっておったが、小娘がいかにも必死じゃったからな。 あえて口にはせんかったが。しかしワシには無傷でもこの威力、やりおるのう小娘」 「ほ……褒められても嬉しくない……わよ……」 顔が青くなっただけではない。脂汗まで浮かび始める。 その一方、ルイズを止めたタバサはじっとマーラを見る。 それに応えるかのように、マーラはぶらぶらと揺れた。 するとタバサは、顔を背けて、そのまま立ち去ってしまう。 どことなく頬を赤らめていたようにも見えたが。 「ありゃ一目ぼれかね、娘ッ子」 「そんな訳ないでしょ。誰があんなモノに惚れるのよ」 「だよなぁ。……まあ、あんなモノ見たら普通は逃げるよなぁ。俺たちゃ、それを相手にしてるんだよなぁ」 自分達の相手にしているモノの強大さを、ここでも実感するルイズとデルフリンガーである。 翌日、学院の教師達は騒然としていた。 本塔が破壊されたのもそうだが、なんとその本塔の中、宝物庫にとんでもないメッセージが残されていたのだ。 「破壊の戦車、確かに領収いたしました。土くれのフーケ、とな。 見事にやられてしまったもんじゃのう」 「まさか本塔を破壊するとは、フーケは想像以上の手練のようですな」 最近巷を騒がせる怪盗、フーケの犯行声明だったのだ。 その言葉通り、宝物庫からはある宝が消えてしまっていた。 教師達は顔を見合わせてざわめいている。 今の言葉通り、あの本塔の破壊などそう簡単に出来るものではないはずなのだが。 「フーケはトライアングルと考えられていましたが、これはスクウェアにも匹敵するのでは……」 「あの壊れ方からして、どうも錬金で壁を壊したという訳ではないようですね」 この議論を聞いて、教師の一人、ギトーが不快そうに呟く。 「当直の貴族は誰だったんだね。あんなに大げさな破壊活動をされて気づかないとは」 その当直をつとめていたシュヴルーズは、何故か真っ赤な顔をして縮こまっていた。 眠りこけていたという失態を演じたのも事実なのだが、更にあのヴァリエールの使い魔…… 「まあまあ、過ぎたことを責めても仕方ないわい。何にせよこの失態はどうにかせねばならん。 そうじゃろう、ミスタ、ええと……キ……」 「ギトーです」 「そうじゃったな。キト」 「ギトーです!」 「ああ、キト」 「ギトーですと何度言えばわかるのですか! しかも何ですか、キって! 何故ギから濁音を抜くのですか!」 「いやだって」 オスマンは、後ろの方に控えているモノをちらりと見た。 昨夜あのあたりにいたという、目撃者の生徒。ルイズとその使い魔である。 その使い魔の頭の部分を見て、オスマンはギトーの名前を間違えている。 「ギトーっちゅうか……アレを見るとどうしてもキ……」 「もう結構です! 結構! それ以上は言わないでくださいオールド・オスマン!」 「まあそんなことは置いておいてじゃ。ミス・ヴァリエール、目撃したことを話してもらえんかな」 「は、はい……それは、あの……」 ルイズの目が泳いでいる。 うっかり破壊してしまったので、昨日は慌てて逃げたのだが、フーケがいたとは気づかなかった。 ただ中庭から部屋に逃げるところを誰か教師に目撃されていたようで、こうして呼び出されてしまったのだ。 「フ、フーケは……あの、その、ええと、きょ、強力な……」 「強力な?」 「恐ろしく強力で……凶悪な……ええと、あの……」 と、そこでマーラが一歩進み出た。 「その盗賊とやらは、巨大なモノで壁を破壊したようじゃな」 「ほう、巨大と……」 教師の目がマーラに集まる。 巨大。 「大した突撃力だったようだわな。壁を打ち砕く程じゃ」 「打ち砕く……」 マーラを、見る。 「ついに壁は貫通されて、中を貫かれてしまったようじゃのう」 「貫通……」 マーラ。 「これではいかに頑強な守りも敵わず。呆気なく、中を蹂躙されてしまった訳じゃな」 「中を……」 ごくり。 シュヴルーズ他、数名が唾を呑み込んだ。 「無論、これら一連の動作、全てこのワシには及ばぬがな!」 「確かに」 一同は納得した。 なんか重要なことを見逃した気もするが、アレを見ていたらそんなん、どうでもいいじゃん。 そんな感じである。マーラの言葉にすっかり惑わされてしまったのだ。 「皆さん、フーケの居場所が……」 何故か空気が淀み始めたこの部屋に、新しい声が入ってきた。 オスマンの秘書ロングビルであるが、彼女も入ってきた途端、そこにあるマーラを見て少し固まる。 「……い、居場所が判明しました」 「ほう! 居場所が!」 「近くの森の廃屋のようです」 そこで、再び教師達は相談を始めた。 衛士隊に知らせるべきか、いいやそんな手段ではまどろっこしい。 しかもこの失態を広く知らせるなどと、学院の恥である。 ならば身内で追っ手を出すべし。しかし誰が追っ手となるのだ。 「フーケほどの相手となると、そう簡単には……スクウェアクラスにも匹敵するのですよ」 実力については誤解なのだが。 「捜索隊に志願するものは誰もおらんのかね」 オスマンはそう言うが、やはり誰もがしり込みしているようだ。 その様子を見て、ルイズはピンとひらめくものがあった。 (先生達でも恐れるくらいの相手……それなら、ひょっとしたら……) 剣では、不可能だった。ゼロの自分でも駄目だった。ドットのギーシュも勝てなかった。 しかしフーケという、怪盗の実力なら、あるいは……このマーラを倒すことも、可能なのではないか? 「わ、わたしが志願致します!」 咄嗟に杖を掲げる。 その姿に、教師陣は皆、注意しようとして。 マーラの姿に同時に気づき、声をつぐんだ。 「うむ。ミス・ヴァリエールとその使い魔なら容易いことじゃろう。 どうやら、気概においてもその使い魔どのを越える程のモノは、教師にもおらんようじゃからのう」 オスマンの言葉に、教師、特に男性陣が頭を下げた。 叱責の言葉だが、確かにマーラには敵うものではない。 「まったく……私がもう30年若ければ、この使い魔どのとも張り合ったものを……」 オスマンの呟きに教師達はおお、とどよめいた。 マーラと、言葉だけでも対抗しようとするものなど初めてである。 「30年前は本当に凄かったんじゃぞ。私とて、こう、老いさえなければ今でも……」 「グワッハッハッハ!」 自慢を始めたオスマンの声を、そのマーラが遮る。 「笑止なり、ご老体!」 「笑止じゃと……」 「男たるモノ、齢を幾つ重ねようともご立派であるべし! 己のモノを歳のせいにして誤魔化すなどと、不甲斐なしにも程があるわ!」 「ぬ……ぬう!」 オスマンが悶えた。 「他のものを笑えんわな。30年程度……何ゆえに、己の気合で持たせようとせなんだか。 ご立派の道は他者に与えられるモノにあらず、己のモノで掴み取るべし! それを怠って他者を叱責するとは、ご老体。それこそが老いではないか!」 「い、言わせておけば……! 私とて衰えるモノをどうにかしようと色々やったんじゃ! じゃが、寄る年波には……」 「喝!」 マーラがずい、と身を乗り出した。 「ワシの見たところでは……ご老体、お主もまだまだご立派への道を歩める余地がある!」 「な、なんと!?」 今度はオスマンが身を乗り出した。 「尽きぬ性欲がその証よ。……む、しかし詳しい話をするにはいささか時間がかかるのう。 主よ、さっさとその賊とやらを捕獲しに行こうではないか」 「え。あー。はい」 学院長とマーラのやりとりはすっかりうんざりして聞き流していたルイズなので、急に話を振られても困る。 が、ルイズのそのだらしない返事には、オスマンも誰も気にしなかったようだ。 「で、では、使い魔どの、帰ってきたら……」 「たっぷりと伝授してくれようぞ。グワッハッハッハ!」 オスマンの目は、まるで少年のようにキラキラと輝いていたという。 前ページ次ページご立派な使い魔
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前ページご立派な使い魔 知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった…… アルカナの示す旅路を巡り、未来に淡い希望を託して。 「え? 今の何?」 きょろきょろとルイズは辺りを見渡すが、特に変わった様子はない。 いや様子は大変に変わっているといえばいるのだが。 五人のワルドと大きなゴーレムが、マーラの前に並んでいる。 「し……子爵。今、フーケという名前が聞こえたようだが。 フーケといえば、あの世間を騒がせた盗賊……」 「フーケなどという人物はこの場にはいませんが」 「いや、でも……」 ウェールズが疑問を抱くのはもっともである。 ワルドの乗騎たるグリフォンが滞空しており、そこに乗っている女性は、 「どう見てもフーケよね?」 「間違いない」 キュルケとタバサが太鼓判を押すように、フーケ以外には見えないが。 「彼女はフーケではありません。通りすがりのおマチさんです」 「ちょ、それ、半分本名……!」 女性、というか。間違いなくフーケなのだが。 おマチさん、と呼ばれた女性は、頭を抱えてグリフォンに突っ伏した。 「親切な通りすがりのおマチさんが僕に手を貸してくれているのです」 「いやそんな、無茶な……」 「とにかく! 親切なおマチさんの力も借りて僕は戦う!」 無理やり誤魔化そうとするワルドだが、流石にこれは、と一同が思った時、別方向から応援が来る。 「そ……そうよ! みんなで力を合わせて魔王を倒す! それが決闘ってものよ!」 ルイズだった。これまた無茶な意見と言えるだろう。 「決闘は貴族が全存在を賭けて戦うんだから、どんな手を使ってもそれは認められるの! たまたま通りすがりのおマチさんって人がいて、ちょっとゴーレムを呼んだくらい、大したことじゃないわ!」 むきー、とでも効果音が聞こえてきそうなほど、ルイズは叫ぶ。 正念場だけに彼女もやれるだけのことはやるつもりなのだ。 「おマチさんって言われてもねえ……」 「なかなかの美女じゃないか。おマチさんの助力、僕は認めても構わないかな」 「おマチ……」 級友三人は意見がバラバラだった。もっとも、タバサのはあまり意見とは呼べない。 そうなると、後は当事者であるマーラの態度次第だが。 「なんの、ならば今一度味わわせてやるだけだわな。 何人でもまとめて相手をしてくれるわ」 頼もしい限りである。 それを受けて、ワルドはフー……おマチさんに問う。 「だそうだ。遠慮なくやってくれ、おマチさん」 「……おマチって呼ぶのやめてぇ」 頭を抑えながら、おマチさんは杖を振るう。 そして、ずしりと重い音を立てて、ゴーレムが動き始めた。 とりあえずもう、戦うことにしたようだ。 同時に、5人のワルドが高速で散らばり、マーラを包囲する形を取る。 「ワルド! おマチさん!」 ルイズのその応援とともに。 ゴーレムは拳を振り上げ、ワルド達は杖を振るう。 戦いの火蓋は切って落とされたのだ。 「ウィンドブレイクウィンドブレイクウィンドブレイク!」 「エアハンマーエアハンマーエアハンマーエアハンマー!」 遍在が、それはもう物凄い勢いで風の魔法を乱射する。 というか、いくらなんでもこんな詠唱速度はないんじゃないかと思う程である。 閃光ってレベルじゃない。 「たっぷりと補給した精力のお陰さウィンドブレイク! むしろ使わないと暴発しそうなくらいさエアハンマー!」 精力と精神力はあまり関係ないんじゃないかと思われるが、まあ、ワルドの気の持ちようということだろうか。 この猛烈な突風の連打により、マーラはぶるぶると震えている。 一見するとあまり堪えていないように見えるくらいだ。 「いいや効いていないはずがない! 確かに玉に比べれば痛みは少ない部分だが! それでも、叩かれて痛まないはずがないのだ!」 「む……」 「ぐむむ」 自信満々のワルドの発言に、ウェールズとギーシュがそれぞれ股間を押さえた。 ちょっと痛い想像をしてしまったようだ。 あと玉とは何か。それについては、ここで語るべきことではない。 「おマチさん! しっかり動かしてくれよ!」 「だからおマチはやめてよぉ……」 弱弱しい声だが、おマチさんは依頼どおりにゴーレムを動かす。 マーラの目線が、遍在に向かないように、たくみにけん制する構えだ。 つまるところはこうである。 「ゴーレムで先生の攻撃をひきつけ、遍在がその隙に遠距離から攻撃する…… 攻防において隙がない、流石は魔法衛士隊長……!」 以上、ギーシュの解説であった。 そこで、マーラも動き始める。 ゴーレムに向けて頭を繰り出し、突撃を行うのだ。 その光景は、以前見たものとよく似ている。 「げっ」 おマチさんが悲鳴をあげた。 あの時と同じ攻撃ということは、これを受ければまた…… 「安心したまえ! そこまで振動は届かないウィンドブレイク!」 「そ、そうだね……」 注意深く、ゴーレムでその突撃を受け流す。 確かにこのマーラの攻撃は、おマチさんの弱点を突くモノだが…… こうして見ているだけなら、それほどでもない。 「……ったく、本当にやたらに立派で……」 ゴーレムが拳を振り下ろした。 ぷるんとマーラは震えるが、足元の戦車は安定している。 むしろこの衝撃を利用して、反動のようにたくましい突き上げを繰り出す。 それは、丁度ゴーレムの下腹部に突き刺さり、一撃を与えた。 「くうっ!?」 おマチさんの全身に痺れが走る。 視覚情報だけで、そのような衝撃が走ったように錯覚してしまったのだ。 「な、なんてこと……」 そうやって驚いたのがいけない。 ゴーレムが怯んだ途端、マーラはあのリズムはそのままに、更なる強烈な突きを出してくる。 「あ、だめ、ちょ、それは、だめだって……」 「落ち着けエアハンマー! それはただの錯覚だウィンドブレイク!」 「そ、そういっても……」 ゴーレムの動きが怪しくなってきた。 それを見越して、ワルドの魔法も勢いを増す。 相変わらずマーラは黙々とゴーレムを突いているのだが、流石にぷるぷる震える速度が速くなってきた。 「もう少しだウィンドブレイク! あと少し持ちこたえてくれればいいウィンドブレイク!」 「だ、そう、いわれ、ても……」 そして。 吹き荒れる暴風が、ついにマーラの戦車を傾かせたのと。 「あ……はうっ」 「おマチさんウィンドハン……ウィンドブレイク……!?」 おマチさんがグリフォンに倒れこみ、同時にゴーレムが崩れ去ったのは。 まったく……同時であった。 すぐにグリフォンは降りてきて、ワルドの隣におマチさんを下ろす。 彼女は案の定痙攣しながら気絶しているようだ。 「……すまないなおマチさんエアハンマー。しかし……十分だウィンドブレイク」 おマチさんは倒されたが、同時にマーラもぷるぷると震えている。 このような反応を示したのは、今までの戦いの中ではなかった。 つまり。 「先生がダメージを受けているのか……」 「殿方も決して無敵ではないのね」 一応、衝撃は有効であるのだ。マーラの耐性的に。 「なかなか面白い戦い方をするものよ、ワルド。 されど最早盾はなし。これよりは真正面よりのぶつかり合いとなろうぞ」 「……承知している」 遍在が消され、ワルド本体も貫かれるのが先か。 あるいはマーラが崩れるのが先か。 ワルドの耐久力はマーラとは比べ物にはなるまい。故に、それぞれの遍在が一撃にて倒されるはず。 つまり、五撃の猶予があるということだ。 一方のマーラの耐久力は窺い知れないが、如何せん一体であるので、攻撃を集中させればあるいは…… 「……ワルド」 ルイズは両手を握り締めて、じっと婚約者を見つめる。 ここでワルドが倒れるようなことになれば、最早…… 「ワルド! お願い! ……わたし、出来ることなら何でもする! だから……勝って! お願いよ、ワルド……!」 「ルイズ……ああ」 遍在が一斉に呪文の詠唱に入った。 一斉攻撃をかけようというのだろうか。 「ぬうう!」 そして、やはり同時に五発もの魔法が飛ぶ。 瞬間に強烈な威力を叩き込まれて、マーラが大きく揺れた。 「ぬう! ふん! はぁっ!」 それだけで終わるはずもない。 一斉射撃が、絶え間なく続いていく。 マーラは受けるだけで、ゆれ具合が増していくだけに見える。 (……勝てる!) そう、ワルドが確信した。次の瞬間。 「……子爵は」 ギーシュが、切ないような、悲しいような声で呟く。 「先生に対して子爵はあれほどの振動を与えてきた訳だ。 それが何を意味するか、子爵は理解していない……」 薔薇の花びらが、儚く散って落ちる。 「先生に対してあのような攻撃。 それはすなわち、先生を『しごく』ということに……なる。 先生をあれだけしごけば一体、何が起こるだろう?」 マーラをしごく。……そう。それは。 「子爵は……気の毒だが」 ギーシュの目から一滴、涙が零れ落ちた。 そして決定的な言葉を捧げる。 「知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった…… アルカナの示す旅路を巡り、未来に淡い希望を抱く…… しかし、アルカナは示すんだ……」 すなわち。 「死を乗り越え、節制を尽くし、悪魔の誘惑にも負けず…… そして辿り着いた先には、ご立派な塔が待ち受けていることを」 それは、16番目の象徴である。 「いかなるモノの行き着く先も…… ご立派な塔だということを!」 「グワッハッハッハ!」 「な……なぜ笑える!?」 ワルドの猛烈な攻撃によりぶるんぶるんと盛大に揺れていたマーラが、大音声で笑い声をあげる。 「お主が風の使い手であったことが運の尽きよ! お陰で十分に溜めさせてもらったわな!」 「ど、どういう……ことだ!」 ぴくぴくと震えるマーラが、一際大きくなった……そんな錯覚を覚えて、ワルドは動きを止める。 そして。マーラの先端が…… 「マララギダイン!」 先端から。 どろりとした、緑色の……炎が。 取り囲む遍在、そしてワルドに向けて飛び掛る! 「ぬっ……ぐっ……!?」 べちゃりとした質感の炎。それは矛盾した存在にも思えるが。 だが確実に燃え盛る、どろっとした炎が、ついに遍在と、ワルドを…… 「ぐ……ぐう……っ……!?」 包み込む。 「ぐわアッー!?」 火炎が、場を支配した。 遍在が燃え尽きていく。 風はどこにでもあるが、同時にどこにもない。 たちまち、それは消え去ってしまった。 そして残った本体も。 「ぐあ、アッ……」 全身を包む炎に悶えるばかりだ。 無惨な光景に、場の誰もが目をそらした。 「勝負あったか……」 ウェールズはぽつりと漏らしたが、これも誰もが思ったことだろう。 あの圧倒的な火炎の前に、ワルドは既に手遅れである。 ……いや。 ただ一人、まだ諦めきれないモノがいた。 「ワルド! ワルドぉ!」 燃え尽きようとするワルドに駆け寄り、彼の手を…… 炎に包まれたその手を握る、ルイズである。 「ワルド! わたし、わたし……そんな、こんなの……!」 「う……ル、ルイズ……」 その声に、ワルドは目を開ける。 「こんな、こんなの……」 「ルイズ……ルイズか……」 ルイズが、ワルドの頭を抱きしめ、その薄い胸に抱えた。 ……すると。なんという奇跡だろうか? 「ルイズ……おお、ルイズ!」 炎に呑み込まれたワルドが、たちまち起き上がったのだ。 そして全身に風がまとわりついたかと思うと、すぐさま炎は消え、むしろ以前よりも輝かしい姿となる。 「ルイズ……君の声がある限り、僕は……僕は何度でもたちあがるさ」 「ワ、ワルド……!」 優しい目で、ワルドはルイズを見る。 「ああ……そのひらべったい胸の感触。 お陰で僕はこうしておきあがることができた」 「え」 神々しささえ感じさせる迫力で、ワルドはゆっくりと杖を持ち上げ、マーラに向ける。 「何度でも発射してくるがいい。しかし何度受けようとも、僕は萎えない! 何故なら、ルイズがここにいるからだ!」 「え。ワルド、何言ってるの?」 もう一度、ワルドはルイズを見つめる。 なんか、ねっとりしていた。 「ここに最高のネタがある。ならば僕は萎えない! 何度でもたちあがるさ! マーラどの。貴方がどれだけご立派でも、僕は永遠に維持できる!」 「ほう……」 どうもきなくさくなってきた。 ルイズは、ちょっと嫌な予感を覚えて、ワルドを見上げる。 「な、何を言っているのワルド?」 「ルイズ。君のお陰だよ。僕はどうやら…… 君がいる限り、決して萎えない体になったのだ」 「……え。ちょ。……なんか嫌な感じよ?」 瞳を閉じて、ワルドは語る。 「思えば……思えば本当は、君を利用するだけのつもりだったんだ。 君の力は虚無のはずだからそれを手に入れれば……とね。 その為に、婚約者の立場を利用しようとしていた」 「え。え。え」 「しかし……この旅。この旅は驚いたよ、ルイズ。 君があんなにも無防備に、僕にすがりついてくるのだから…… 利用することしか考えていなかった僕は、君のそのギャップに……」 ここは照れくさそうに、ワルドば帽子で目を隠す。 「その可愛さにすっかりほだされてしまったのさ。 ……趣味まで変わってしまうくらいね」 「えー」 「ルイズ。……ああ、君の全てが愛らしい。 その、まったくふくらみのない身体の全てが」 「……えー」 要するに。 「僕はロリコンになってしまったのさ!」 「……ワルドぉ……」 つまり、なんだ。どういうことかというと。 「つまりだね、子爵はこの旅で、ルイズから思いっきり慕われていた訳だけれどもね」 「無防備に自分にすがってくる娘。それはまあ、好意を抱くのも無理はないわね」 「そう。ルイズは無意識に子爵を誘惑していたんだね」 「で、子爵はそれにコロっと参っちゃって……」 「……ああなったという訳だね。いや、男殺しだねミス・ヴァリエール」 と、いうことらしい。 「わ、わたしの自爆……?」 唖然とするルイズ。なんだ、この展開。 「そうさ! 認めよう、僕はすっかりロリコンだ! だからルイズの為に命を賭けよう! 野心も大義も知ったことか! 僕はそのために今、生きている!」 人生の転換具合も凄まじいものがある。 男らしく言うべき発言でもないだろうに、なかなかワルドもやるものだ。 「己の心の赴くままに! 虚無の真理なんて、可愛い女の子の前に意味もあるものか! ……違うかい、マーラどの!」 「うむ!」 マーラが大きく笑う。 「よくぞ境涯に辿り着いたな、ワルドよ!」 「その通り! 故に僕は倒れない! 貴方を倒すまで、決して……!」 もう一度杖を構えるワルドだったが、しかし。 割ってはいる声がある。 「そこまで! 勝負あった!」 見ると、涙を流しているウェールズがいた。 「この勝負は子爵の勝ちだ! 異論はなかろう、使い魔どの!」 「あろうはずもないわな」 ニヤリと笑うマーラと、そして、やはり……と頷くほかの者達。 いや、気づけば礼拝堂の入り口には、城の者二百名が皆集まっているではないか。 「素晴らしい勝負でしたぞ!」 「お見事でした、ワルド子爵!」 「人間の誇りを見せてもらいました……!」 盛大な拍手が飛び交う。誰もが、涙を流していた。 「僕の……勝ち……?」 「そうだ、子爵。君は今、人生の勝者となった! 誇りたまえ! これほどの勇気、私も一度たりとて見たことはない!」 「勝者……はは。そうか……僕は……」 ワルドも泣いていた。 そして駆け寄ってきたウェールズと、ひしと抱き合う。 「子爵、お陰で……私も、自分に正直になろうと思えたよ」 「それは……どういうことです、殿下」 「ああ。……決心したんだ。誇り、名誉。それはとても大事なものだが、しかし…… しかし。……しかし!」 かっと目を見開いて、ウェールズは叫ぶ。 「アンリエッタとすげぇニャンニャンしてえ!」 「ニャンニャン!?」 「ニャンニャン!!」 ギーシュも駆け寄ってきた。 ワルド、ウェールズ、ギーシュと、三人で抱き合い、盛大に泣く。 「上から下から!」 「上から下から!?」 「上から下から!!」 三人、すなわちガイア教のギーシュとロリコンのワルド、それからウェールズ。 ろくでもないことを叫んでいる。 「前から後ろから!」 「前から後ろから!?」 「前から後ろから!!」 ひどいにも程があった。 「つまり、私の可愛いアンリエッタに色々したいので! 死んだら無理である以上! 私は生きる! 生き延びて、ついでにアルビオンを奪回する!」 「おお……!」 「殿下!」 城内の者どもも、こぞって涙を流す。 ただ気になったこともあるので、ルイズはおずおずとウェールズに言う。 「で、でも……姫さまはもうすぐ結婚するんですよ? そのためにここに来たんですが……」 「ということは……」 ウェールズは、更に笑顔を浮かべる。 「人妻じゃないか!」 「人妻……!」 「素晴らしいですぞ、殿下!」 もうこいつらは駄目らしい。 「……何よこれ。もうどうなってるのよ。 マーラは……もう、どうしようもないの?」 「否」 ところが…… 絶望のあまり漏れたルイズの呟きを、否定したのは。 なんと、マーラ本人ではないか。 いやこうして見ると、なんとマーラの身体がうっすらと透き通ってきている。 「……え? マーラ、あんた、どうしたの?」 「いよいよ時間が来たということだわな」 「じ、時間? 何がどうなってるの?」 そうこうしているうちにも、マーラの身体はどんどん透けてくる。 これは何事と、他のものも集まってきた。 「小娘よ。実は、ワシはこの世界の住人ではない」 「え……ええ!? そ、そうなの!?」 「なんと……確かに、この世界にあるまじき御姿とは思っていたが……」 「まさか、先生が異世界の住人だったとは……」 誰も気づいていなかったようである。 「異世界の存在であるため、この世界に存在を続けるにはマグネタイトを定期的に補充せねばならなかったのじゃ。 ワシは、それをお主の肉体から受け取っておったが……」 「そ、そういえば以前にそんなこと言ってたような……でも、マグネタイトって何なのよ?」 「簡単に言えば人の心のうねりだわな。怒り、喜び、悲しみ、苦しみ。その動きが生み出す代物よ」 使い手の力の源みてーだな、とデルフリンガーが呟いた。 「小娘。お主はそのマグネタイトを、他者よりも豊富に持っておった。 だからこそ、ワシはこれほど長く存在できたのじゃ。 ワシのような魔王は、本来であればマグネタイトの消費激しく、たちまち枯渇するものというにな……」 「そ……そうだったの。でも、じゃあ、どうして急に透けて……」 「……いかに小娘のマグネタイトが豊富であったというても限りがある。 すなわちついに、小娘のマグネタイトが枯渇しようとしておるのじゃ」 「こ、枯渇したら……どうなるの?」 「小娘が死ぬ」 「……な、なんですってぇぇ!?」 「あとワシもスライムになる」 唐突に死亡宣言である。 ルイズも、これは慌てるしかない。 「あ、あとどれくらい!? どれくらいで枯渇するの!?」 「あと三分だわな」 口から凄い勢いでルイズが噴出した。 ここのところ、急展開の度が過ぎる。 「これを防ぐ方法は二つ。ワシと小娘が合体し、小娘が悪魔人間となること」 「あ……あんたと合体?」 つまり文字通りご立派なルイズになることか。 「悪くないんじゃないだろうか。ミス・ヴァリエール」 「いや、それは僕は駄目だな。やはりついているのはちょっと……」 下らないことを言う野郎二人はさておいて。 ルイズは必死でマーラを揺さぶる。 「もう一つは!? もう一つは何なの!?」 「ワシがこうして消え去るか、じゃ」 「そっち! どう考えてもそっち!」 「だからこうして消えかかっておる」 ほっと胸を撫で下ろすルイズである。 と、マーラのもとにギーシュやキュルケが駆け寄ってきた。 「先生! これでおさらばなのですか……」 「うむ。お主へ伝授したことはまだまだ中途なれど致し方ないことよ」 「……いえ。これ以上は、僕自身の手で極めましょう」 「ならばよし。赤毛の小娘は……お主にワシの一撃を食らわすことは敵わなんだな」 「いいえ、殿方。あたしも、あたしだけのご立派を見つけてみせますわ」 「ほほう……頼もしき子らよ」 別れの光景。しかし涙を流す者はいない。 ご立派に触れたものは自らもご立派を目指す。 ならば泣いている暇などない。ただ、道を進むだけだ。 「……もういいから消えてほしいわ」 「グワッハッハ。小娘の照れ屋は終わらんのう」 「違う……わよぉ」 「しかし覚えておくがよいぞ、小娘よ。 人は頼るモノ、すがるモノがなければ生きてはいけぬ。 お主が使い魔を召喚しようとて、人がいる限り、人が求める限り宇宙の意志は何度でもナニを生み出すであろう…… では、さらばじゃ! グワッハッハッハ!」 マーラの身体は白い霧のようなものになって、玉座の間に広がっていく。 それがまとわりついたタバサとルイズは、不快な顔でぶんぶんと振り払った。 「先生、おさらばです。必ずやハルケギニアは僕の手で、ガイアに染めましょう」 「さらば、我が生涯に唯一の強敵よ。ルイズに捧げる愛でそれに応えよう」 「アンリエッタの色んな声を、私のご立派でもって貴方に届けてみせよう」 野郎どもの最低な送る言葉である。 キュルケはぱちぱちと拍手しているが。心底最低だ。 特にウェールズ。 このままでは、トリステインとアルビオン王家間での一大スキャンダルは間違いない。 ともあれ。 こうしてマーラは完全に消滅し、その名残も消え去った。 途端、ルイズは身体がふっと軽くなるのを感じる。 「ジャスト、二分五十九秒」 「……あ、危なかったのね」 タバサはカウントしていたらしい。 その言葉を信じるなら、まさに辛うじてルイズは救われた訳だ。 「これで、めでたしめでたしなのかしら……?」 マーラは消滅し、ルイズのあらゆる危機は去った。 「終わってみればいい思い出……でもないけれど」 ウェールズは生きる気力をみなぎらせているし、ワルドもレコン・キスタからすっかり足を洗うつもりのようだ。 その理由が自分というのが、彼のカミングアウトのお陰でちょっと……その、アレだが。 でも、まあ…… 誰も死ななかったのは、いいことなのだろう。きっとそうだ。 そうと思わなければ、ルイズはなんかやるせなかった。 マーラの消滅によってご立派は失われたが自由が残った 無論ご立派を求める自由もある 我らを縛るものはもう何もない さあ、行こう。何者の支配も無くなった世界へ…… その後…… アルビオン王家にまんまと逃げられたレコン・キスタは、トリステインへの圧力を強めていく。 しかし地下に潜り、執拗なゲリラ活動を続けるウェールズらによって、レコン・キスタもそう簡単には動けない。 アンリエッタに色々したいという一念のウェールズは、実に巧妙なゲリラ活動を行ったのだ。 一方、トリステインでは…… ワルドからレコンキスタの情報を聞いて、アンリエッタはただちに防備を固めるよう命令を下した。 何しろ中枢に近いところにいたワルドの情報なので、このアドバンテージは大きい。 ゲリラ戦によって地味に戦力を削られるレコン・キスタに対して、トリステインはより確実な防御を得ていく。 やがて、レコンキスタは、挽回のためトリステインに攻撃を仕掛ける。 しかし相次ぐゲリラ活動で士気が低下し、内部引き締めのための粛清が行われたレコン・キスタの人材は枯渇しており…… また、戦力の要の飛竜隊は、獅子奮迅の働きを見せたワルドのグリフォン部隊によって散々に打ち破られた。 更にはレキシントンの内部に忍び込んでいたウェールズの一派による工作で、旗艦が失われ…… ついに、正面からの戦いでレコン・キスタは敗北してしまったのである。 この戦いの後、戦女神としてアンリエッタは称えられ、更に亡国の王子にして英雄、ウェールズとの結婚が発表された。 必ずアルビオンを奪回するという意志のもとであるが、愛する人が隣にいるのである。 アンリエッタは、その幸せを噛み締めつつ、着実な内政を行うと決意したようだ。 この幸せはまさに魔法学院のあのオブジェの効果なりと、アンリエッタはガイア教に支援を開始したとも伝えられるが、定かではない。 ただ、この時からガイア教がますます隆盛を見せ、初のガイア神殿が魔法学院に作られたとのみ歴史には記されている。 後の世に伝えられる名は以下の通り。 ガイア大司教、グレートギーシュ。 ガイア三司教が一、ロリコンのワルド。 ガイア三司教がニ、姫フェチのウェールズ。 ガイア三司教が三、老いてますますお盛んのオスマン。 ガイアの巫女、口で色々とアレだったアンリエッタ。 ガイア司祭、精力絶倫料理のマルトー。 これらの人物がガイア教をおおいに栄えさせ、後々まで伝えていく。 そして……我らのご立派なルイズは…… (嫌な……嫌な期待を感じるわ) 何しろ使い魔を失った訳で、待ちに待った再召喚の時である。 これくらいは落ち着いてやろうかと思っていたのだが、どこでどう聞きつけたものか。 「ミス・ヴァリエール、頑張ってくださいね」 なんか、目つきのおかしい平民のメイドはいるし。 「先生と比肩しうるような使い魔を頼むよ」 「僕はルイズを見ているだけで幸せだなぁ」 例の変質者二人はいるし。なお、ワルドとの婚約はお預けになった。 実質マーラを倒したという訳でもないし……それに、ちょっと、その。アレだし。 「ルイズ、次も凄いの一発頼むわよ」 「……卑猥」 キュルケとタバサがいるのは……まあ、この二人はいても当たり前か。 「期待しています! ミス・ヴァリエール!」 「うむ。やはりこう、私もじゃな」 学院の教師は皆集まってきているし。シュヴルーズは本当にいい加減自重しろ。 「アンリエッタ、次はどんなのが来るのだろうね」 「ルイズですもの、きっととても素晴らしいモノを呼び出しますわ」 例の王家の二人はいるし。 何もたかが一生徒の使い魔召喚に、皆で集まってくることもないと思うのだが…… (エロのルイズなんかには、ご立派なルイズなんかにはならない。 きっと、きっとまともな使い魔を呼び出すんだから) そして、詠唱を開始する。 「宇宙の果ての地球の日本にいるわたしのシモベよ。 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ……本当に! 心から! もう何でもするから! いきなり下着洗えとか言わないし、ご飯も美味しいもの食べさせてあげるから! 多少は他の人に色目使っても……ちょっとくらいなら見逃してあげるし! でも巨乳に色目使ったら怒るけど! それでもなんでも……とにかく……お願いだから! 我が導きに、答えなさい!」 切実な詠唱である。しかもやけに地域が具体的だ。どうやって知ったのやら。 しかし効果は確かにあったようだ、あの時と同じように爆煙が現れて…… 結論から言おう。 確かにルイズのサモン・サーヴァントは狙い通りの効果をあげた。 地域まで指定するくらいだからまったく大したものだ。 ただし。 地球の日本、まではよかったのだ。 なのだが。 東京、ではなかった。 ちょっとばかりずれてしまって、長野に狙いが届いてしまったのだ。 東京ではなく、長野。この結果として…… 「ほえほえ……わしゃあ邪神ミシャグジさまじゃあ…… 今後ともよろしゅう頼むぞよ……」 またしてもチン○です。本当にありがとうございました。 「あ”---------!?」 ご立派な使い魔 完 めでたし、めでたし 前ページご立派な使い魔
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前ページ次ページご立派な使い魔 「マーラさん!」 「うむ?」 後片付けが終わった途端、ルイズは残りの授業を全て欠席すると決め、自室に帰った。 肉体的、精神的疲労が限界まで蓄積されており、やむにやまれぬ処置だと本人は語っている。 しかしそれは同時に、彼女の使い魔が学院内に何の枷も無く放たれたことを意味するのだ。 まあルイズがいても実質フリーダムだが。 そんなことより、そうして自由になったマーラは、ぶらぶらと学院のあちこちを散策していた。 このぶらぶらと、という形容詞は、通常使われるものとは意味合いが…それはどうでもいいとして。 ぶらぶらしていたマーラは、呼び止められて顔を向ける。 そこにはにこにことした顔のシエスタがたたずんでいた。 「お主は今朝方世話になった娘じゃったな。何用かのう」 「はい、あの後、コック長のマルトーさんにマーラさんのことをお話してみたんです。 そうしたら、ぜひとも会ってみたいって」 「ほう。コック長とな」 人界の食べ物などに心引かれるマーラではないが、どうせ今は暇をしている身だ。 無目的にぶらぶらするよりは、そういうところに行くのもよかろう。 「丁度良いわ。案内してもらおうかの」 「ありがとうございます! きっとマルトーさんも喜びますよ!」 なお、シエスタの目つきは相変わらずヤバい状態のままだ。 CHARMがずっと解除されていないということであって、本当に彼女に明日があるのかどうか。 疑わしくもなってくる。 その頃厨房では、マルトー他コック達が顔をつき合わせて相談していた。 議題はシエスタについてである。 「やはりあの目つきはどう考えても……だからな。 その、ヴァリエールの使い魔とやらに何かされたとしか思えん」 朝からシエスタの調子がおかしかったので、彼ら厨房の一同は誰もが心配していたのだ。 貴族という奴は、戯れで平民を弄ぶことも多いようだし、ひょっとしたら……と。 「あの子は悪い子じゃねえんだ。もしロクでもない目にあわされたってんなら、俺たちも……」 「マルトーさん! マーラさんを案内してきました!」 「! ……来たか」 とりあえず手持ちの武器となりうるもの、包丁や麺棒を持って一同は構える。 そしてシエスタに案内され、厨房に入ってきたそのモノは。 「お……」 「マーラさん、こちらがコック長のマルトーさんです」 「ふむ、ここがのう」 悠然として入り込んでくるそのモノとは。 マルトーが、ここ数年朝起きた時に勢いがいささか衰えており、悩みつつあったその、モノを思い出す姿であって。 「おおお……シ、シエスタ、こ、このお方が?」 「はい、マーラさんです」 コック達は、マーラの姿とマルトーを交互に見ている。 叩きのめしてやろうかと思っていたのだが、この姿は…… 「お、おおおお……これが……このお方が……」 マルトーの手から包丁が落ちた。 更に意味のない呻きを零しながら、ゆっくりとマーラに近づいていく。 「おおお……おお、おお……」 じわじわとマルトーの目に涙が溜まっていく。 そしてついにマーラの傍に寄り、頭の脇に手をそっと伸ばしたところで、決壊した。 大粒の涙を零しながら、ゆっくりと撫でさする。 「おお……ありがてえ! ありがてえ!」 「……? マルトーさん、どうしたんですか?」 「どうしたもこうしたもない! こんな……こんな有難いお姿が……!」 あふれ出る涙を抑えもせずに、マルトーはマーラをさすり続ける。 「ほう……如何したのかな、人の子よ」 「ま……マーラ様。実は、ここ数年朝が……弱くて、それで、こうしていれば若さが戻るかと思って……」 「そうか、そうか。ワシをさすりそのような加護が得られると思うならば、存分にやるがよいわな」 「あ……ありがてえ!」 他のコック達もマーラの傍に寄ってきた。 そして各自が必死の思いを込めて、その頭を撫でさする。 「なんてご利益のありそうなお姿なんだ……」 「こんなご立派な人が悪い人のはずがない!」 「ああ、この方こそ『我らのせがれ』だ!」 「『我らのせがれ』万歳!」 「万歳!」 厨房のものが皆、感涙しながらマーラにすがっている。 それを見て、シエスタは相変わらずラリったまま、嬉しそうに微笑む。 「すっかりマルトーさんにも気に入られたみたいですね、マーラさん」 「うむうむ。己の願望に忠実な人間は良いわな」 食堂である。 昼食を終えたギーシュとその友人は、デザートがさっぱり出てこないことに首を傾げながら、雑談に興じていた。 プレイボーイを自認する少年である。話題は自然とそこに行き着いた。 「それで、誰と付き合っているんだ、ギーシュ?」 「何度も言うように僕に特定の女性はいないと言っているだろう。薔薇は、多くの人を楽しませる為に咲くのだよ」 「そんなことを言って……」 まあ、年頃の少年達の、年相応の下らない話題である。 日々繰り返されることなので、ギーシュのポケットから瓶が落ちたことには、誰も気づかなかった。 気づかないまま、雑談を続ける。 「しかしモンモランシーと付き合っているなんて噂もあるじゃないか」 「それはだね、彼女は無論魅力的ではあるけれど……それにしてもデザートが出てこないな?」 「話をそらすなよ、ギーシュ!」 「そらした訳じゃない。……本当にデザートが出てこないじゃないか」 厨房でちょっとした騒ぎがあったため、デザートが出てこない、ということは、生徒達には伝わっていない。 「おかしいな。何か事件でもあったのかもしれない」 「だから、モンモランシーはどうなったんだよ?」 「君もしつこいな。それはだね……」 と、その時、ギーシュの近くから、ことりと音がした。 どうやら、瓶状の何かが置かれたらしい。 「お……おい、ギーシュ。お前……」 「だからどうしたと言うんだい?」 「いや、その……お前……」 急に調子が変わった友人に不審を覚えながら、ギーシュは脇目で今置かれた瓶を見た。 この形状はモンモランシーの特有のモノである。 どうも察するに、ポケットに入れていた瓶を落としてしまい、それを誰かが拾ったようだ。 (おいおい、ここでこんなものが出てきたらモンモランシーとの仲が露見してしまうじゃないか。 誰だ、こんな時に置いた奴は……) 「い、いいのか、ギーシュ。そ、その瓶……」 「瓶? 何のことかわからないね。そんなことよりデザートが」 「だ、だからお前……」 「一体どうしたというんだ君たち。さっきから様子がおかしいじゃないか」 ギーシュの後ろを見て、友人達はびくびくとしているらしい。 何がどうなっているんだか、と、少年は後ろを振り向く。 そして腰を抜かした。 「小僧。この瓶はお主のモノじゃな?」 「は……はうっ」 そこには、巨大なナニがそびえ立っているではないか。 いかにギーシュといっても、これには驚く。 「どうなんじゃ。お主のモノではないのか?」 「ぼ……僕のモノであります」 思わず返答がおかしくなった。 なんというか、答えを誤ったら殺される。 いや、殺されるだけならともかく、この形状だと…… 「やはりお主のモノか。落とすとは不注意だわな」 「ふ……不注意でした、気をつけます」 そういえば、ルイズの使い魔がその、ご立派だって噂もあったな。 腰を抜かす自分とは別の、頭の中にいる奇妙に冷静な自分が他人事のようにそう思い出していた。 「この瓶は、お主の愛人より渡されたものかな」 「あ……愛人のものであります」 「しかし、愛人と言っても他にも意中の者がいる。そう見えるが……」 「はい、その通りです!」 うっかり致命的なことを叫んでしまった。 この威圧感が悪いのだが、それにしても何故そんなことを聞いてくるのだろう、このアレは。 「ギーシュ様……?」 「は、ケ、ケティ!?」 そのご立派なモノの後ろで、ギーシュのガールフレンドの一人、ケティが口を抑えている。 こんなモノを見たせいで気分でも悪くなっているのだろうか。……そうでないのは確実だが。 今の致命的な言葉を聞かれているのは間違いなく、つまりそういう理由で口を抑えているのだろう。 「小僧。お主は一人の女に縛られず、自由に行動したいと思うておる……違いないな?」 「そ、それは……」 理解不能である。何故こんな詰問を受けているのか? ギーシュは完全にパニックになっていたが、どうにか世間体をはばかった声を出す。 「そ、そんなことはありません」 「自由に行動すればよいではないか……」 「そ、それは、しかし」 「欲望のままに行動しても、誰にはばかることなどあるまいぞ」 「あ……あが、が……」 マーラの眼がぎらりと光った。 この魔王、カーマ・マーラとも言い、愛欲と死を司るとされている。 その愛欲の部分をここで試しているのだろうか…… 「ぼ、僕は、そんなことはな、ない……」 「心の底からそう思うておるのかね」 ケティが不安そうにこちらを見ている。 更に、向こうからモンモランシーまでやってきた。 迂闊な答えは彼女達からの死を招くが、しかしマーラからも死を与えられかねない。 「む、無論だ。僕はせ、誠実で……」 「複数の女子を愛したいと思っているのであろう……」 慌てて首を振ろうとしたギーシュである。 しかし、その意志とは裏腹に、何故か身体は頷いてしまった。 マーラの魔力で強制的に頷かされてしまったのだ。 「ギーシュ様……やっぱり」 「お前最低だな……」 「鬼畜だなギーシュ」 「ち、違う! 違うんだ、これは! これは僕の意志じゃない!」 「自分に正直になるがよいぞ、小僧」 進退窮まったギーシュは、意志を振り絞り、なんとその状態から首を振った。 「ぼ、僕は! あ、あくまで! せ、誠実に人を愛する男だ!」 「ほほう……」 「き、君は……ル、ルイズの使い魔だったな。こ、こんなことをするのは、ゆ、許されることではないと知りたまえ」 こうなったら、最早。 勢いで押し切るしか、ギーシュの生きる道はない。 「け、けけけ決闘だ! 僕におかしなことをしたその報いを受けるのだ!」 「ギーシュ様!?」 「ギーシュ!?」 ケティとモンモランシーが、悲鳴にも似た叫びをあげる。 「面白いのう、小僧。このワシに決闘を挑むか」 「そ、そうだ! 決闘だ! ふ、二人のレディと! そして僕自身の名誉のため! ぼ、僕は決して! 君のそのモノには負けていないのだ! 大きさは、及ばないが!」 そうか、ケティだけじゃなく、モンモランシーまでいたのか。 これはもう、逃げられないな。 ギーシュはそう思う。 更に食堂にいた他の生徒達も騒ぎ始めた。 「お、おいギーシュ! 死ぬ気か!?」 「相手はこんなにご立派なんだぞ! 「お前のその粗末なモノじゃ相手にならないぞ!」 「ギーシュ!」 「死ぬな、ギーシュ!」 「ギィィィィィシュ!」 本気で心配している声だ。 ああ、みんな。本当にありがとう。 心から思いながら、ギーシュは遠くを見つめ続けていた。 そうだ、この戦いが終わったら、モンモランシーに告白しよう。 あとこんな殺人犯のいる部屋には一緒にいられない! 僕は自分の部屋に帰るぞ! 混乱したギーシュの頭脳は、そんな言葉を紡いでいたという。 前ページ次ページご立派な使い魔
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クエスト名 必要QR 難易度 必要条件 達成条件 目的地 報酬 コカトリスの討伐 4 ☆☆ なし コカトリスの討伐(5匹) 飛竜の谷 経験値 8000 950H