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三つの鍵は姫君らの手に (11) 封印 3 屋敷の中は少しずつざわめきはじめていた。 ナディアはすこし早足にあるく。 なにしろついてくるマルキシアは目立ちすぎる。背が高いし、そもそも屋敷のものには見慣れない顔立ちだし、その上その顔立ちは、街ですれちがったら振り返るくらいの美人だから。ナディアは振り返って手招きする。 「こっち」 それは用人のための扉だ。目立たないようにつくられたそれを押し開き、マルキシアを招き入れて閉じる。 「おい、大丈夫かよ?」 「ここから入るのがいちばん目立たないの」 実のところナディアは奥所のことは良く知らない。子供達の入ってはならないところだ。ただ同じ屋敷の中であるから、子供達は冒険や探検のつもりで奥所に入り込んでは叱られていた。さすがに今となっては、問答無用に叱られるということは無いけれど、それでも見つかれば何の用なのか、誰への用なのか、やんわり、けれど逃れられぬように問いただされ、たいていは追い返される。 用人口を使えば、それをすこしだけ遅らせられる。用人たちはナディアたちが、奥所や、そこにやってくるお客様を知りたがって覗きに来る事に、見てみぬ振りをしてくれているようだった。今といえば用人口の奥にある用人控所にあまり人影は無い。溜まり部屋にもあまり人影が無くて、ナディアはほっと息をついた。 「でもね、マルキシア」 ナディアは振り返った。 「奥所のどこにナディアがいるかは、わからないの。それに、あたしは奥所のことは良く知らないし・・・・・・」 「だから、俺は女じゃないってば。マルクスだ」 黒髪をいらいらと掻き撫でてマルキシアは言う。 「で、父上が来たということは、どこかの部屋に通されてるはずだ。そこにノイナを伴い続けると思うか?」 「どうかな・・・・・・」 「ノイナは絶対に奥所にいる。屋敷の中で大騒ぎさせるわけには行かないはずだ」 そういわれても、ナディアは頭を振るしかない。 「どこにいるかまでは・・・・・・」 「当たって砕けろだ。父上の居そうなところの他は、全部見る」 「・・・・・・うん」 危うい気がするけれど、もう他に手がなさそうだ。 「わかった。ついてきて」 うなずき、意を決して、ナディアは用人控から奥所へと繋がる扉を開いた。 奥所に満ちる気はしんと静まり返ってどことなく重くすら思える。敷き詰められた厚い絨毯を踏んで、ナディアはそっと歩き始めた。奥所は、公爵家のまつりごとを行うところだ。公爵家のこと、領地のこと、宗家として他の一族とのかかわりのことを行うところで、大事なお客様を招いたり、話し合いをもったりするところだ。絨毯には塵ひとつ落ちていないし、壁にも染みひとつ無い。昔は奥所への入り口には衛士が立てられていたと聞いたことがある。 「・・・・・・どうすりゃいいんだ、ここ」 マルキシアがつぶやく。ナディアは振り返る。進み入った先の廊下には、いくつも重々しげな扉がある。けれどその扉が何の部屋のものかさっぱりわからない。 「ここは奥所の中でも、お客様を迎えるところなの。あっちのほうには謁見の間があって、お客様ではない人たちとお会いするところがあるの」 「じゃあ、ここのどこかに父上がいるのか」 「まだいらっしゃるなら」 「ノイナはどこだろう」 「わからない・・・・・・」 ナディアは握り締めた手指を口元に寄せる。来客があれば用人の出入りもある。ここでまごまごしていたら誰かに見つかってしまう。ナディア一人なら少々叱られて済むけれど、マルキシアはそういうわけには行かない。 「・・・・・・やばい」 ふいにマルキシアが言う。ナディアも振り返った。開く音と共に扉のひとつから人影が姿を見せる。 「ユーリア?」 ナディアがつぶやいたそのとき、マルキシアが滑るように駆けた。厚い絨毯は足音も立てない。 気配にユーリアが振り返った時、マルキシアは手を伸ばす。 人ごみを進めるように、ユーリアの背中を押していた。押しながらマルキシアもその扉へ駆け込む。 「ナディア!」 肩越しにマルキシアが呼ぶまで、ナディアは動けずにいた。 声と共に駆け出せたのも、扉に滑り込めたのも、その扉を後ろ手に閉じられたのもただの勢いだった。扉を閉じた時の音で、胸から心の臓が飛び出しそうだった。 「誰です!」 部屋の中ですこし遅れて、ユーリアが声を上げる。ユーリアもまた、何が起きているのか判らないらしい。 「マルクス?」 もう一人の声もした。すぐにわかった。 「ナディアも?どうして!」 ノイナの声だった。涙声なのは、すでに叱責されていたからだと思った。ノイナの頬には涙の跡がある。それをノイナは拳でぬぐい、そしてナディアを見た。彼女が部屋を抜け出したのは朝食の刻限のすぐあとくらいだったし、いまはまだ夕刻前でしかない。けれどそれよりもずっとずっと長い旅から戻ってきたようにナディアには思えた。涙跡と涙声のとおりに、きっと何度も辛い目にあったと思うとそのままにしておけなかった。だからナディアは駆け寄ってその肩をきゅっと抱き寄せた。 「大丈夫?」 うん、とノイナはうなずき、マルキシアへと振り向く。 「何で君がここにいるの、マルクス」 「鍵を開きに来たに決まってるだろう」 マルキシアがすぐに応じる。ユーリアの背を突き押した手をそのまま開いて、腕は真っ直ぐにユーリアへと向けたままだ。そうやって動くこと逃げることを押さえるように。 「マルクス?」 その手を向けられたまま、ユーリアは低く問う。 「古人のマルクス?候家のマルクスがどうして?まさか、侯爵と謀ったの!」 「それは違う」 ノイナが応じる。 「僕が願ったんだ。鍵を開きたい。だから鍵を渡してくれって。来てくれるなんて思わなかった・・・・・・」 ノイナは、もう一度、拳で目元をぬぐう。 「ありがとう」 「鍵ですって?」 ユーリアはノイナへと振り向いた 「あなたたち、何をするつもりなの」 「・・・・・・」 ノイナはひとつ、息を吸い込んだ。それから顔を上げて、真っ直ぐにユーリアを見る。 「機神を封じる鍵を開く」 「そんなことが、許されると思っているの・・・・・・」 「判ってる、ユーリア姉。でも僕は、今のままではいられない」 「判っていないわ!」 強くユーリアは言う。 「今、レイヒルフトに隙を見せることが、どれほど危ういことなのか、あなたたちにはわかっていない!」 おもわずナディアはノイナの肩を抱き寄せていた。ユーリアの口から出た名は、呼び捨てにするには、あまりにもふさわしくない名だった。マルクスすら驚いた風だった。 レイヒルフト。レイヒフルト・シリヤスクス・アキレイウス。東方辺境候にして皇帝陛下伴侶、さらには副帝陛下。ゆえにその名を口にするときには、陛下の尊称を奉られるべき人の名だった。 けれど構わずユーリアは言う。 「ナディア、あなただってわかっているでしょう。帝國に叛いたかどうかが問題じゃない。レイヒルフトがどう見るかが、物事を決めるの」 ゆえに、その力に取り潰され消え去った貴族や聖職者は数限りない。ナディアもそれくらいのことは知っていた。マヨールからの手紙に記されていたのは、それらと同じ力に公家が捉えられそうになったことのあらましだった。 「今、家に騒動を起こすわけには行かないわ。ましてや、宗家と、もっとも有力な分家が合一して、力を増すことをレイヒルフトが許すはずが無い。わかるでしょう、ナディア。あなたの父上様が、命を賭して守ったものが、あなたたちの軽挙で失われようとしているの」 それに、とユーリアはノイナを見た。 「あなたの父上様が命をかけて守ってきたものを、今、あなたが壊そうとしているの。公家がそうやって見せる、皇帝陛下への揺るぎない忠義が、レイヒルフトの思惑を退けてこの家を守ってきたの」 わかるわね、とユーリアはもう一度、言う。 「マルクス、候家が今まで無事でいられたのは、公候の両家が注意深く、力を抑えてきたからよ。両家が命がけでやってきた事を、いま壊してしまうことだけはしないで」 「じゃあ、どうしてマヨールは鍵を俺たちに残したんだ」 マルキシアは言った。 「あなたの言ったことはきっと正しい。でも、だからって、俺たちが間違っているってことにはならないはずだ」 「屁理屈を言うものじゃないわ。マヨールは十年も前に亡くなられているのよ。今の事が判っていたはずがないわ」 「内戦が始まったのは、それよりも前じゃないか・・・・・・」 マルキシアは言い、ふと口をつぐむ。 まるで何かを思い出したように、かすかに目を伏せ、長いまつげが一つ、二つと瞬かせる。そうして瞳を伏せたまま、マルキシアは言う。 「・・・・・・いくさがはじまったのは、俺が、生まれるか、生まれないかの頃だろう」と。 ユーリアを押し留めるように向けていた手を、静かに下ろす。 「もうすこし、早く生まれていればよかったってことだよな」 マルキシアの言葉が何を示しているのか、ナディアには良くわからなかった。けれどマルキシアはユーリアを見つめて言う。 「マヨールの手紙には書いてあったんだ。家の男らを、守るべきものを守るために送り出した。叶うことなら帰れ、と。それから、いつか、それを俺も負って行う事を信じるって」 ごめん、とマルキシアは言った。 「マヨールは、待っていたんだ。俺が大人になるのを。本当は、もっと早くに生まれていればとも、きっと思っていた。そうしたら・・・・・・」 ユーリアはかぶりを振る。 「そんな事を言ってるんじゃないわ」 「あなたにも、ノイナにも間に合わなかったけれど、でも・・・・・・」 「あなたの詫び言なんかいらない!」 声を上げ、髪を振ってユーリアは叫んだ。叫んでうつむき、両手で顔を覆う。うめくような声が漏れてくる。 「ずるいわ、お爺様・・・・・・それじゃ、まるで、ただ時を稼ぎ引き伸ばすために・・・・・・」 うつむき、肩を落とし、ユーリアは今にも崩折れてしまいそうに見える。長い黒髪の影から、軋るような呟きが漏れる。 「こんな子ひとり・・・・・・」 いつものユーリアからは、けっして聞かれることの無い、心削るようなかすれた声だった。でもナディアにもわかっていた。ユーリアは口にしなかっただけだ。ナディアには近寄ることも慰めることもできなかった。それはユーリアがいつも己の役割のように、皆に向かってしていたことだ。 いつも強くて、きれいなユーリア姉は、立ち尽くしたままうつむいて、両手で顔を覆い肩を震わせている。けっして涙に暮れているのではないことはわかる。 「一人じゃないよ、ユーリア姉」 けれどノイナが言う。 「僕がマルクスに言ったんだ。鍵を渡せって。鍵だけじゃなくて機神に乗って戦ってくれって。僕が言ったんだ。ナディアに鍵をちょうだいって」 そして、とナディアは力強く続ける。 「僕らは鍵を開くよ。今のまま、留まり続けることなんてできない。だから力を貸して」 けれどユーリアは、うつむき、顔を覆ったまま首を振る。一度だけでなく、二度、三度と。長い黒髪が揺れ、激しく揺れる。 その動きはふいに止まり、それからユーリアは崩れるように座り込んだ。手を差し伸ばすこともできぬうちだった。そしてユーリアはつぶやいた。 「・・・・・・勝手になさい」 床に手をつき、うつむいて、面をあらわすこともない。 「何でもすればいい。何でも開いてみればいい・・・・・・いまさら、誰も帰って来はしないんだから」
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人型兵器: マシンと読む。この世界における人型兵器の総称。 乗用車や救急車やバス等をまとめて「車」と呼ぶのと同じニュアンスなので、細かな派生先にはそれぞれ別の呼称が存在する。 警備用人型兵器: ガードマシンと読むが、一般的にはガードで通っている。一般企業向けに量産された、一般人には最も馴染があり、値段で言えば恐らく最も安価な人型兵器。 企業によってOSやカスタムの程度は違うが、あくまでも人型兵器での犯罪対策用であり、ソコまで高い性能は有していない。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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UnrealEdチュートリアル 基礎用語 基本操作 ボタンの説明 マップの基本を作る 人や物の設置 通路を作る ムーバーの作成 トリガーの作成 パスの配置 スタティックメッシュ作成 Pawnの外観を変える Pawnを生成する ライトの設定 ドアの作成 窓の作成 地形の作成 空の作成 霧を作る 効果音の設置 テレポーターの設置 各種ボリュームの説明 足音、速度、水の空間 ゾーンに分ける 回転し続ける物の作成 爆発できる車の設置 ムービーの作成 テクスチャのインポート サウンドのインポート 店を作る 草を生やす アクションスクリプトの作成 共通のプロパティ Pawnのプロパティ エミッターの作成 AWP用人に置き換え 頂点を自由に移動させる デモ隊やバンド隊の作成 トラブルシューティング
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■スペース三国志■ ファルコ シャープなシルエットが特徴的な同盟軍の宇宙用人型機動兵器 背部のY字に展開する宙間機動ユニット、ウイングスラスターを装備する 頭部両サイドのアンテナや指揮官機のトサカ、足首のアンカークロー バックパックの翼のイメージなどから「ファルコ」と名づけられた レールガンのアサルトライフルや、単分子ワイヤを巡らせた長剣 収束プラズマミサイルの弾頭に柄をつけたグレネードなどが主な武装となる 通常の操縦でも十分に高機動な機体だが、脳内に特殊な素子を移植した専用パイロットが コックピット内で座禅を組んで機体とリンクする事で人機一体の帝国兵のような戦闘能力を発揮する この機能の副産物として、周囲の思念を受信、放射、中継する現象が何度か確認されている
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【作品名】ゴーゴー♪こちら私立華咲探偵事務所。 【ジャンル】漫画 【名前】佳名芝由緋withブラウニー 【属性】陸戦用人型汎用兵器 【大きさ】26m前後 【攻撃力】大きさ相応 【防御力】大きさ相応 【素早さ】大きさ相応 【長所】悪質な債権者を踏み潰す 【短所】40代のおじさんの目をしたガンダム(外見) 【備考】借金を返さない主人公達を踏み潰しに来た 1スレ目 469 名前: 格無しさん [sage] 投稿日: 2008/12/06(土) 21 32 50 ブラウニー考察 ○ザク 大きさ勝ち ○ドロイディカ 先に攻撃されても数発なら大きさ的に耐えられる ×ジュド ビーム負け ×ロビン 攻防負け ジュド>ブラウニー>ドロイディカ
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【名称】アンティキティラ【分類】空戦用人型兵器 【全高】7.5m【重量】22.5t 【武器】 AMビームガン ビーム兵器による射撃で、胴部から放たれる 奇襲からの一撃に特化した近距離仕様で、そのぶんエネルギーも高い 中距離レーザーガン 左右の手に備えた銃器。牽制からとどめの一撃まで幅広く使える安心と実績を持つ 【備考】 普通の人型兵器の頭部に戦闘機を装着したような機体。地上への着陸が容易で、歩行も出来るが得意ではない 翼には飛行用の部品が詰まっており、胴部と腕に武器が詰まっている AMビームガンのAMってなんの略なのかー? (2010-11-21 04 43 00) コメント このページを編集する
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自立移動型長距離砲撃用アンドロイドSH-6 ソレグレイユ兵器開発部門によって開発された人型巨大アンドロイド。 第二次文明戦争以前にソレグレイユで開発が進んでいた対D2兵器、その原型となった平地戦用人型兵器の改修機。 四足歩行で動きは遅いが、背部に装備された5000kmを超える射程距離を持つ魔法素砲で、 自国領からユグドラシル領目掛けての砲撃が可能。 装甲は並の魔術を物ともしない程に頑丈。 頭部のメインカメラで外部の状況を把握し、接近された際には事前に装備される実弾による迎撃が行われる。 戦時下にあるera3現在では、過去の技術を基に遠距離砲撃技術、後方支援能力の向上を目指しながら今尚改修を続けている。 era3 ソレグレイユ 兵器
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身内用人狼のwikiです。 参加者希望者さんはついったーで@lickxme宛にどうぞ。管理してます。 必ず確認 村の作成方法 参加方法 ゲーム画面 プレイのヒント ・固定概念、セオリーに囚われず人の数だけプレイ方法があるということを理解しておく。 ・制限時間がある場合、時間切れだと突然死になります。注意! ・プレイ中よそでお話しない。御法度です。 ・昼間のログは読み返せないので、各自メモ帳などにコピペ推奨 ・遺言は書くことなくてもできるだけ残しておく。 ・大事な発言の場合は大声で発言。 ・初心者発言は基本的に禁止。分からない単語や理解できない展開はがんがん聞いて良し。 ・ゲームログは全て残るので残って恥ずかしいことはしないほうがいいです^^
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『じぞうさわ うめのじょう』 薫桜ノ皇国の皇に仕える家の出であり、御側御用人を務めるペディー族の男性。 狐のような吊り上がった目が特徴で、水色の髪を後ろで一つ結びにしている。 年齢は百二十五歳。 先代皇の時代に筆頭家老として就任し、その敏腕ぶりを発揮した。 同時に今代皇の養育係も務めあげ、彼の良き理解者として今でも二人の時は爺と呼ばれているようだ。 だがその手腕の一方、高齢ながら重度の色好きとして有名。 時間が出来る度に枝垂花街通いをする為、泰斗から程々にするよう注意される事も。 だが彼曰く、若くある為に必要な事らしい。 関連 薫桜ノ皇国 ペディー族 櫻華 楽道 櫻華 泰斗 現在の皇 枝垂花街 目次に戻る
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目を覚ますまで、その声が己を呼んでいるのだと気づかなかった。 若旦那様、と呼びかける声が伝声管からする。そんな仕掛けが、この馬車には作られている。 「何か」と問い返しつつ、なぜ起こされたのかもう判っていた。窓の外を流れる風景には、それまでとは違う地のうねりが見える。公爵領地に入ったからだ。地のうねりといっても、西方で見るようなものとはもちろん違う。帝國中央にある丘は緩やかなものだ。 豊かな森と丘は、皇帝陛下の御料地から特に選ばれて下されたのだと聞いている。そのときにはこの領地は丘と森ばかりであったらしい。道も荘園も十分には開かれておらず、開いたのは歴代のレオニダス公爵でもある。その石畳の道を、馬車は走ってゆく。マルクスはすこし顔をぬぐい、髪を整え、軍装のしわを伸ばす。やがて馬車は公爵領地屋敷へと至るのだから。 塀のほかに守りなどなく、門も仕切りに過ぎない。そして馬車はひと時も止まることなく、開かれた門を通り、門番の深々とした礼を受けながら走ってゆく。屋敷前の敷地は、かつては公爵軍を集めたところでもある。内戦も終わり、これより後はそのような役は果たさないだろう。さらに進み、二つ目の門を通って内屋敷の敷地へと入る。 屋敷前の馬回しを大きく回りこんで、玄関前へと至る。 ぴたりと止まれば、屋敷付のものがすぐに踏み台を置き、馬車の扉を開く。 その先に、ノイナの姿が立っていた。 軽い室内着で、いつもの好みの筒裾だ。一週間ぶりに見る姿だけれど、彼女は軽く腕組みしている。あまり機嫌の良くないときのくせだ。だが落ち込んでいるよりまだいい。 踏み台を踏んで馬車を降りながらマルクスは言った。 「ただいま、女公爵様」 「お帰りなさい、旦那様」 それでも腕を解いてノイナは言う。いつもの戯言に、いつもの返しをするくらいの元気はあるらしい。いつもならその寄せた眉の真ん中をつついてやるところだが、そうもゆかない。 なにしろ玄関脇にも、開かれた大扉の向こうの広間にも、公爵領地屋敷用人が総出で並んでいる。そうして公爵伴侶たるマルクスの帰宅を迎えているのだ。 「荷物はいつものところへ頼む」 「はい、若旦那様」 マルクスがそう命じれば、すかさず女用人がおうじる。 「じゃあ、女公爵様、つもる話は部屋で伺いましょうか」 屋敷用人総出の出迎えに、手を上げ、またねぎらいの言葉とともに通り過ぎ、マルクスとノイナは屋敷を歩いた。黙って歩くノイナであるけれど、もちろんマルクス相手に怒っているのではない。 世襲どおりの新公爵とはいえ、新しく地位についたものが新しいやり方をするときには、いつも波風は立つものだ。 たとえそれが明らかにミノール=マルクスの思惑であったとしてもだ。むしろミノールの裏切りとみなされたかもしれない。ミノールは隠居の折に、郎党重臣を巻き込んで隠居に追いやっていた。 だが新しい公爵のノイナと、隠居したはずのミノールが二人三脚であることも明らかだ。そしてレオニダス公領には内戦功労者も功労者遺族も多く、声は大きい。内戦のときにあれほど尽くさせておいて、いくさが終われば孫娘を盾に切り捨てるのかと言われれば、誰でもその心は察する。 また、あながち思い込みでもない。あの内戦での功労に報いることは、レオニダス公家にはもはやできないのだから。たとえ鑓の機神が復活しようが、公爵軍が内戦のころのような形を成すことはない。 うすうす悟られていたとしても、誰の口からも漏れてはならない。ゆえに領地公爵屋敷奥所でも口にされることは無い。たとえそこが公爵の部屋であっても。 「お茶をたのむ」 その公爵居室の扉を閉じた侍女に、マルクスは命じた。居室といっても前部屋があり、奥にもう一部屋あり、さらに寝室もある。前部屋に接して用人部屋もある。 「はい、若旦那様」 応じた侍女は退く。そしてノイナはマルクスへと振り返る。先よりは和んだ顔だけれど、それでもやはり眉尻は上がり気味で、眉根は寄っている。だからマルクスは一歩近づき、間近からその眉根を人差し指で触れた。 「・・・・・・」 ノイナが何か言う前に、マルクスは言う。 「人相悪くなるぞ?」 「・・・・・・いいの。もう結婚しちゃったから」 マルクスの思っていたよりも、ずっと妙即なこたえだった。思わず笑みが漏れる。 「ってことは、俺は一生、その顔を見なきゃいけないのか」 「美人は三日で飽きるっていうでしょ」 「でも俺は可愛い奥さんでいてほしい」 マルクスとしても何事か思って言った言葉ではなかった。けれどノイナは少し黙り込む。 すこしして彼女は息をついた。 「しょうがないな」 人差し指で眉根を押されたまま、ノイナは笑みを見せる。 「旦那さんにいわれたら、ね」 「悪いとは思ってる」 マルクスも人差し指を下ろす。 「こうも不在じゃ何の役にも立たない」 「君はただの公爵伴侶じゃない。我が家が誇りを持って皇帝陛下に供し奉る近衛騎士だよ。そして帝國軍の軍人さんだもの」 そこにいるのは一週間前と変わらないノイナの笑みだった。左から右へ流した前髪を払って、間近からマルクスを見上げる。 「うちのことはわたしとお爺様でなんとかする。それが君を迎えた我が家の信義だもの」 「あら、お二人で仲のおよろしいことで」 そのとき、別の声がした。誰の声か、すぐにわかった。マルクスは声のした使用人口へと振り向く。立っているのはもちろん使用人ではない。 「お久しぶりです若旦那様」 長い金髪の女官は、長裾をつまんで膝を軽く折る淑女の礼をしてみせる。 「久しぶり、ドロテア嬢」 「お二人があまりにむつまじくあられて、お茶が冷めそうでしたのよ?」 ドロテアはそういって笑みを見せる。その後ろで、侍女が居心地悪げに茶道具を乗せた盆を抱え立っている。マルクスは息をついて応じた。 「たしかに、俺がお茶を入れてくれって言ったな」 「フロリア、こっちにお願い」 ノイナは侍女へと言いながら、部屋の組椅子のほうへと歩いてゆく。公爵居室前部屋にふさわしい作りと飾りの椅子たちで、真ん中の小卓と、二つの長椅子、二つの一人掛けの椅子で組となったものだ。侍女も茶道具の盆を抱えてそそくさと入りきて、組椅子の真ん中の卓に茶道具を置き、いそいそと用意を行いはじめる。 ドロテアもまた、当たり前のように部屋を横切り、組椅子の脇に立つ。 「わたくしは眼福でございましたけど」 「いつもながら面白いことを言う」 憮然と言うマルクスに、ドロテアは口元に手をやりくすくす笑って応ずる。 「あら?麗しいものが嫌いな女子がおりまして?」 「女子の心は計りかねるね」 話の妙な雲行きに、侍女はおろおろしているようだ。 「淹れてくれたら、そこに置いてかまわないから」 「はい、奥様」 フロリアはノイナの言いつけにほっとしたように応じ、頭を垂れて退いてゆく。彼女の姿が使用人口に消えたあとで、ノイナは組椅子のひとつに座り、冷たくドロテアを見る。 「みんなをからかって楽しむのはやめてくれる?」 「あら、わたくしはおかしなことを申し上げました?」 ドロテアはぬけぬけと言い切り、組椅子の一つの長椅子へと腰掛ける。 彼女は侍女ではない。彼女自身は郎党重臣に縁のものであるけれど、郎党でもない。公爵家女官というかたちで遇されているが宮城の女官とは違う。あえていえば公爵家の貴婦人たるノイナの、貴婦人としての側用人と言っていい。もっともドロテアが入ることができ、口をさしはさむことができるのは女当主の私事に限られているけれど。 「フロリアには、お二人はご夫婦なのだから、お部屋で親しく身を寄せ合って当たり前でしょう、というようなことは言いましたけど」 「と、いうようなこと?」 思わず繰り返したマルクスへ、ドロテアは肩越しに目をやる。 「ええ、それだけですのよ?」 その声はごく明るい。 だがマルクスは、以前からドロテアが苦手なのだ。 彼女のゆかりの郎党重臣が、かつての公爵家老中筆頭でなかったとしても。